| Character | #N/A |
| ミリーナ | ……クス。……イクス ? |
| ミリーナ | イクス聞こえてる ? |
| イクス | ……あ、ああ。聞こえてるよ。ごめん、ちょっと考え事してた。 |
| ミリーナ | なーんだ。急にぼーっとするからびっくりしちゃった。積み荷。それで最後だよ。 |
| イクス | ……これで全部、か。手伝ってくれてありがとな、ミリーナ。 |
| イクス | 1人で遠くの海への漁に出るのは初めてだからどうも、勝手がわからなくて。 |
| ミリーナ | ううん。全然 !──帰ってくるのは4日後だっけ。 |
| イクス | ああ。その予定だ。でもどんなトラブルがあるかわからないもんな。準備しておくに越したことはないよ。 |
| イクス | まずはやっぱり天候か……。大雨や嵐はずっと警戒しておくとして……。逆に、日照りにも注意しないと。 |
| イクス | 水を多く積みたいけど、過積載は船の転覆に繋がる。そこをクラーケンにでも襲われたら全滅だ。クラーケン対策は何か用意していたっけ。 |
| イクス | そうだ ! 暗記はしてるけど一応図鑑を持って行こう。生態を知れば、対策が立てられるからな。 |
| ミリーナ | ふふっ。イクスったら相変わらず心配性なんだから。 |
| ミリーナ | でも大丈夫よ。イクスがそれだけ考えて準備してるんだもの。 |
| ミリーナ | ──自信もっていいんだよ。ね。頑張って ! |
| イクス | ミリーナ、もう子供じゃないんだぜ。手とか、繋がなくていいよ。 |
| ミリーナ | ふふっ。──ごめんごめん。イクスが不安がってるとつい、応援したくなっちゃうの。 |
| ミリーナ | ……それに、4日も会えないと寂しいし。 |
| イクス | 4日なんてすぐだろ ? |
| ミリーナ | そうだけど……。漁、心配だなぁ。私も着いていけたらいいのに。 |
| イクス | ──何の訓練もせずに乗るなんて、それこそ何が起こるかわからないからダメだよ。それに、ミリーナには鏡士の修行もあるだろ ? |
| ミリーナ | ──あ ! そうだ !丁度この間、習った術があるの。 |
| イクス | 術 ? |
| イクス | ──わっ ! 何だそれ ! ? 具現化か ! ? |
| ミリーナ | そうよ。鏡士にしか出来ない秘術──その中でも特別な奴♪ |
| カーリャ | はじめまして、イクスさま。──私、ミリーナさまの鏡精のカーリャだよ ! |
| イクス | あ、ああ……。 |
| ミリーナ | ねぇ、カーリャ ?私の代わりに、イクスに付いていってくれないかな ? |
| カーリャ | ミリーナさま。カーリャは、ミリーナさまから離れすぎると力が出なくなっちゃうんですよぅ。 |
| ミリーナ | そっか……。そうよね……。 |
| イクス | ──凄いな、ミリーナ。こんな事もできるようになったのか。 |
| ミリーナ | イクスだって、もう1人で遠出できるなんて凄いじゃない。頑張ってる証拠だよ。お互い、順調だね ! |
| イクス | ははっ。そうだな。……やっぱり俺は、父さんや母さんとは違って鏡士より、漁師の方が合ってるんだろうな。 |
| イクス | ──あ。しまった。忘れ物したぞ。図鑑もとってこなきゃいけないし一度家に戻らなきゃ。 |
| カーリャ | それじゃあ、カーリャも一旦さよ~なら~。また、いつでも気軽にお呼び出しを~♪ |
| イクス | ……何だか騒がしいやつだな。 |
| ミリーナ | ふふっ。元気な子なの。 |
| | (──うん ? ) |
| | (何だ…… ? 今の音──) |
| Character | #N/A |
| ? ? ? | ──そいつも、命はあるみたいだな。 |
| 男 | ……おい……──おい……。大丈夫か ! ? |
| イクス | ………ミリー……ナ……。 |
| ? ? ? | ……お前が抱えてた女の事だな。そっちも無事だよ。 |
| イクス | ミリーナ ! |
| 男 | さっきお前と同じように目を開けてイクス……って──そのまま寝ちまったよ。 |
| イクス | ……良かっ………た……。 |
| ? ? ? | ──自分たちに何があったのかはわかるか ? |
| イクス | えっと………………。 |
| イクス | ………わから……ない……。 |
| ? ? ? | ……お前ら、オーデンセから流れてきたんじゃねぇかって思うんだが。 |
| イクス | オーデンセは俺たちの住んでる島です……ってここはオーデンセじゃないんですか ? |
| 男 | マークさん、どうします ? |
| マーク | 隠しても仕方ねぇだろ。話してやれ。 |
| | ……遠くだったけど俺たち救世軍の船の上から見えたよ。――オーデンセに火の玉が降るのがな。 |
| イクス | な、何だ……それ……。オーデンセはどうなったんです ! ? |
| マーク | 消えちまったよ。跡形もなく、な。 |
| イクス | そんな……馬鹿な ! ? |
| マーク | 信じられねぇか ? だったら見に行ってみな。ここは王都のあるセールンド島だ。少し船を沖に出せばオーデンセが見える。 |
| マーク | いや……見えた筈、だな。もう吹き飛んじまったんだから。 |
| イクス | ………………。 |
| イクス | 島の……他の人たちは……流されてきてないんですか ? |
| 男 | さてなぁ……。可哀想だがこの辺には死体しか流されてきてないぞ。 |
| 男 | お前たちはたまたま海の上を漂ってたのを俺らの船が見つけただけだからな。 |
| 男 | それよりマークさんに礼の一つでも言えよ、坊主。マークさんがお前らを見つけて荒れた海に飛び込んで引き上げてくれたんだぜ。 |
| イクス | あ……すみません。俺、自分のことばっかりで……。あの……ありがとうございました。ミリーナのことも助けてくれて……。 |
| マーク | 別に礼を言われたくて助けたんじゃねぇよ。気にすんな。 |
| マーク | ルック、お前も余計なことを言うんじゃねぇよ恩着せがましい。 |
| ルック | す、すみません……。 |
| マーク | 生き残りがいないか気になるなら連れが目を覚ましてから王都へ行ってみればいいんじゃないか ? |
| イクス | ……そうですね。すみません。ありがとうございます。 |
| マーク | だったら話は決まりだ。お前はもう少し寝ておけ。何しろさっき目覚めたばかりなんだからな。 |
| イクス | は……はい……。あの……マークさん。 |
| マーク | ……マークさん、ねぇ。むずがゆい。呼び捨てで構わねぇよ。敬語もやめてくれ。 |
| イクス | は、はい。えっと、マークたちは救世軍って言ってたけど……。 |
| マーク | ああ、俺たちは救世軍。魔女からセールンド王国を守るための自警団……みたいなもんだ。 |
| イクス | 魔女…… ? |
| マーク | いずれ、その内にわかるさ。じゃあな、坊主。俺はヤボ用があるから失礼するぜ。ルック、後は頼むぞ。 |
| ルック | わかりました、マークさん ! |
| ルック | ほら、坊主も早いとこ横になれって。オーデンセのことが気になるのはわかるが……まずは自分の体を大事にするんだ。 |
| イクス | はい……。わかりました。 |
| イクス | (明日になったら……王都へ行ってみよう……) |
| | 翌日 |
| ルック | ……よかったな。嬢ちゃんの方も元気になって。 |
| ミリーナ | はい。おかげさまで。色々と良くして下さってありがとうございました。 |
| ルック | オーデンセのことショックだろうけど……気を落とすなよ。 |
| ミリーナ | ……はい。 |
| ルック | 王都までの道はわかるな ? |
| イクス | はい。さっきしっかり地図を頭にたたき込んでおきました。念のため12回見直したんで大丈夫だと思います。 |
| ミリーナ | そこの山道を抜ければ、見えてくるんですよね ? |
| ルック | ああ。そうだ。だが、気を付けろよ。この付近には魔物が出るからな。 |
| イクス | わざわざ忠告されるってことは──すごく危険な道だって事ですか ! ?それじゃあ、色々と対策していかないと。 |
| イクス | どんな攻撃特性をもってるかわからないからな。まずは──解毒薬の準備をして。それと、麻痺対策に、睡眠対策、石化と── |
| ルック | お、おいおい。心配しすぎだって。魔物は出るが、小物ばかりだよ。坊主がそんな心配性とは思わなかった。 |
| ミリーナ | 普通の魔物なら大丈夫です。イクスってこう見えても、漁師の仕事で鍛えてるから意外と逞しいんですよ ! |
| ルック | ……お前、漁師だったのか ?魔鏡をつけてるから、鏡士かと思ったんだがな。オーデンセは鏡士の島なんだろ。 |
| イクス | ……はは。両親は鏡士だったんですけど祖父が鏡士嫌いで。これは、両親の形見だから持ってるだけなんです。 |
| イクス | それに――俺には鏡士の才能は……ないんで。 |
| ルック | 何か悪いこと聞いちまったな。――そうだ。こいつを持っていきな。 |
| ルック | ちょっとした旅道具を入れてある。これも、マークさんが渡してやれってさ。 |
| ミリーナ | 本当に、何から何まで……ありがとうございます。 |
| ルック | 生き残り……見つかるといいな。デミトリアス陛下ならお力になってくれるはずだ。困ったら城に寄ってみろよ。 |
| ルック | オーデンセの生き残りならきっと歓迎してくれる。いいか、謁見するのはデミトリアス様だぞ。今は陛下が一番信じられるお方なんだからな。 |
| イクス | わかりました !それじゃあ失礼します ! |
| ミリーナ | ありがとうございました ! ルックさん ! |
| Character | 5話 【ラクス山道】 |
| イクス | やっと着いたぞ。ここが王都セールンドか。大きな街だな……。オーデンセとは大違いだ。 |
| イクス | 父さんと母さんはこんな街で魔鏡の研究をしてたのか……。 |
| イクス | (俺も【あんなこと】がなければここで魔鏡の勉強をしてたのかな……) |
| ミリーナ | そこの広場の先に見える高い建物がお城……だよね ?すごく大きい……。オーデンセが全部入っちゃうんじゃないかしら……。 |
| 市場の男性 | ……あんたたち、オーデンセって言ったか ?まさかオーデンセから来たのかい ? |
| イクス | え ? は、はい。 |
| 市場の男性 | ちょうどいい。オーデンセに炎の雨が落ちたって噂があるけど本当なのか ? |
| ミリーナ | ……はい。 |
| 市場の男性 | だから港が封鎖されてるのか……。だったらデミトリアス陛下から何かお触れがあってもよさそうなものなのに……。 |
| イクス | あ、あの ! オーデンセから脱出した人が王都に来ていませんか ? |
| 市場の男性 | さぁ……。炎の雨が海の方に落ちてから一週間になるけど、特にそんな人の話は聞かないな。 |
| 市場の男性 | そもそも急に港が封鎖されて、何が何だかわからないでいたら、オーデンセの島影が見えなくなったって噂が流れてきたんだ。 |
| 市場の男性 | ゲフィオン様が非常事態宣言を出されたから俺たちはろくに移動もできないんだよ。 |
| ミリーナ | ……ゲフィオン様 ? |
| 市場の男性 | 知らないのかい ? 宰相のゲフィオン様だよ。ご病気のデミトリアス陛下に代わって政治を取り仕切っておられるんだ。 |
| 市場の男性 | ……でもここだけの話、ゲフィオン様は魔女だって―― |
| セールンド王国軍兵士 | 何の騒ぎだ !不要不急の外出は控えるように言われているだろう。早く家に帰れ ! |
| 市場の男性 | す、すみません ! ちょっと食料の買い出しに……。失礼しました ! |
| セールンド王国軍兵士 | お前たちも――ん ?ちょっと待て。お前たちは魔鏡を持っているな。 |
| セールンド王国軍兵士 | まさか、イクス・ネーヴェとミリーナ・ヴァイスか ?オーデンセ島の生き残りの ! |
| イクス | え ! ? どうして俺たちの名前を知ってるんですか ! ? |
| セールンド王国軍兵士 | ゲフィオン様がお前たちを捜しておられたのだ。2人とも、今すぐ城に来なさい。 |
| イクス | は、はい―― |
| ミリーナ | ……待って、イクス。救世軍のルックさんが言ってたわよね。デミトリアス様に会えって。 |
| イクス | そうだ……。それに……。 |
| マーク | ああ、俺たちは救世軍。魔女からセールンド王国を守るための自警団……みたいなもんだ。 |
| 市場の男性 | ……でもここだけの話、ゲフィオン様は魔女だって―― |
| セールンド王国軍兵士 | ……お前たち、救世軍と言ったな ?あの反乱分子と関係があるとは……まさかお前たちも救世軍の一員なのか ? |
| イクス | いえ、俺たちは救世軍じゃありません。救世軍の人に助けられてセールンドに辿り着いたんです。 |
| セールンド王国軍兵士 | ……まぁ、こんな田舎者が救世軍のシンパとも思えないか。 |
| セールンド王国軍兵士 | しかし救世軍に関わりがあるとなるとますます野放しにはできない。城まで連行する ! |
| 二人 | ! ? |
| イクス | ……まいったな。無理矢理連行されるとは思わなかった。ここは……どこなんだろう ? |
| ミリーナ | お城の中なのよね ?中央に大きな機械があるけれど……。 |
| ミリーナ | あら、この機械、魔鏡機器じゃないかしら。魔鏡を取り付けるソケットがあるわ。 |
| イクス | え ! ? こんな大きな魔鏡機器初めてだ。何をする魔鏡機器なんだろう。 |
| イクス | 魔鏡機器なんだから何かを具現化するんだよな、やっぱり。 |
| ミリーナ | そうね。魔鏡術はキラル分子を使って色々なものを具現化して生み出す術だからこの大きな機械もきっと―― |
| ? ? ? | そう、その通り。それは魔鏡術を増幅し、具現化を安定させるための装置――カレイドスコープだ。 |
| イクス | あ、あなたは……。 |
| ゲフィオン | 私はゲフィオン。デミトリアス様から、宰相としてまたデミトリアス様の代理人としてこのセールンド王国の舵取りを任されている者だ。 |
| ミリーナ | あなたが……ゲフィオン様……。 |
| ゲフィオン | 部下が手荒な真似をしたようだな。すまない。 |
| イクス | いえ……あの……。 |
| ゲフィオン | イクス。ミリーナ。聞きたいことは山のようにあるだろう。だが、まずは私の話を聞いて欲しい。 |
| ゲフィオン | 初めにオーデンセ島のことだ。残念だが――オーデンセ島は消滅した。炎の雨で跡形もなく、な。 |
| 二人 | ! ! |
| ゲフィオン | セールンドにも被害が及ぶところであったが魔術障壁によって何とか事なきを得た。 |
| ゲフィオン | 津波が落ち着いてから、調査船を出したが……近寄ることもかなわない状態だ。恐らく生き残りはいないだろう。お前たちを除いてな。 |
| ミリーナ | そんな…… ! ? |
| イクス | 全滅…… ? 本当に ! ? |
| ミリーナ | 叔母様も……イクスのお祖父様も、村のみんなも…… ?本当に一人も生きていないんですか ! ? |
| ゲフィオン | ――捜索を打ち切った訳ではない。だが……今のところ一人も見つかっていない。残念だが……諦めて欲しい。 |
| ミリーナ | ……………… ! |
| イクス | そんな…… ! 馬鹿な…… ! ! |
| Character | 5話 【ラクス山道】 |
| ゲフィオン | ……少しは落ち着いたか ? |
| イクス | ……はい。まだ……信じられない気分ですけど。 |
| ゲフィオン | だろうな。だがお前たちの気持ちを慮ってはいられないのだ。話を続けさせてもらう。 |
| ミリーナ | ………………。 |
| ゲフィオン | 鏡士たちよ。どうかこの世界を救ってくれまいか。お前たちこそ、世界に残された希望なのだ。 |
| イクス | それはどういうことですか ?急にそんなことを言われても……。 |
| ゲフィオン | この世界――ティル・ナ・ノーグは今、滅びの危機にある。 |
| ゲフィオン | 世界が限界を迎えているのだ。世界の寿命……と捉えてもらってもいい。 |
| イクス | 世界の寿命…… ? 滅び…… ?どうしてそんなことが…… ? |
| ゲフィオン | 宮廷学者たちの計測から導き出した予測だ。その計算式は――今説明しても仕方ないだろう。しかし世界が滅びを迎えているのは紛れもない事実だ。 |
| ゲフィオン | この滅びを食い止めるために、王立研究所は世界を守る盾【アイギス】を造りだした。全てはこの世界を構成するアニマの流出を防ぐ為。 |
| ゲフィオン | アニマが失われれば、世界を構成する物質は砂のような粒子となって消失する。しかしアイギスは……崩壊した。 |
| ゲフィオン | 世界を守る防御壁である筈のアイギスは四散し破片が空から降り注ぐことになってしまった。それがオーデンセを滅ぼした炎の雨の正体だ。 |
| ゲフィオン | そして防御壁であるアイギスが失われたことで滅びの進行は一気に早まり、世界は破壊し尽くされた。 |
| ゲフィオン | 今やこの世界に残されたのはセールンド諸島と周辺海域の島々のみだ。他の大陸は全て消滅してしまったのだ。 |
| 二人 | ! ? |
| ゲフィオン | 信じられぬのもの無理はない。だがこれは純然たる事実だ。 |
| ゲフィオン | このままアイギスが失われたままではセールンド諸島も消滅してしまうだろう。 |
| ゲフィオン | だが、アイギスを修復するためには鏡士の力と膨大なキラル分子が必要だ。 |
| ゲフィオン | しかし……アイギスの消失によって宮廷鏡士のほとんどが命を落とした。鏡士の故郷オーデンセもまた……失われてしまった。 |
| ゲフィオン | キラル分子を確保する方法はあるが、鏡士がいない。鏡士がいなければアイギスを修復できない。 |
| ゲフィオン | そして――お前たちは鏡士だ。お前たちならば、アイギスを修復できる。 |
| ミリーナ | む……無理です。私はまだ見習いだし、イクスは―― |
| イクス | 俺は……鏡士じゃありません。 |
| ゲフィオン | だが、鏡士の血を引いているだろう。鏡士の魔鏡術は血統に依存するもの。 |
| イクス | ……無理……です。俺は……昔、魔鏡術を暴走させたことがあるんです。それでミリーナを傷つけてしまいました。 |
| イクス | 俺には才能がないんです。 |
| ゲフィオン | 御しきれぬ程の強い才能とも言える。 |
| イクス | …………すみません。 |
| ゲフィオン | ……ミリーナ。鏡士の修行をしているのならば鏡士の掟を学んでいるな ? |
| ミリーナ | ……はい。尊き異能である、鏡士の力は我欲の為に振るうのではなく世の為にその力を振るえ──と。 |
| ゲフィオン | 世の為──まさに今がその時なのだ。 |
| イクス | (世の為……。だけど……俺は……) |
| ミリーナ | ――ゲフィオン様 !私が――私がイクスの分も働きます。だからイクスを鏡士の道に追い込まないで下さい ! |
| ゲフィオン | ……そなた一人が背負うにはあまりに荷が勝ちすぎる役目だぞ。命を失うやもしれぬ。それでも良いのだな。 |
| イクス | ! ? |
| ミリーナ | ……それでも、やります。ですからイクスは―― |
| イクス | 待って下さい !そ、そんなに危険な事なんですか ?アイギスの修復っていうのは。 |
| ゲフィオン | 正確にはアイギスの修復を行うのは我々宮廷の人間だ。ミリーナには、キラル分子の充填を頼みたい。 |
| ゲフィオン | キラル分子がエネルギー粒子であることは知っているな ? |
| ミリーナ | はい。魔鏡術の力の源でもあります。 |
| ゲフィオン | そう。この世界は今キラル分子が大幅に不足している。それもまたアイギスが破壊されたためだ。 |
| ゲフィオン | キラル分子はアニマから作られる。だがアイギスが失われた為、アニマが流出しキラル分子が作れなくなっているのだ。 |
| ゲフィオン | これを補うために、異世界からの具現化を行う。 |
| イクス | 異世界からの……具現化 ? 異世界って何ですか ? |
| ゲフィオン | 文字通り、こことは違う世界のことだ。この部屋の中央にあるカレイドスコープは、異世界をこの世界の一部として具現化する力を持っている。 |
| ゲフィオン | このカレイドスコープを使って異世界を具現化しそこからエネルギーを得ることでアイギスの修復が行えるという訳だ。 |
| ゲフィオン | だが、一部とは言え、文字通り世界を具現化するのだ。それを行う鏡士にどのような負担が返ってくるかわからぬ。 |
| ゲフィオン | ……一人よりは二人の方が負担も減り安定するだろうな。 |
| イクス | ……それは……俺みたいな素人でも、ですか ? |
| ミリーナ | イクス ! ? |
| ゲフィオン | 素人であろうと、鏡士の血を引く者ならば変わらぬ。 |
| イクス | だったら……俺も……やってみます。自信はないけど、でも世界がオーデンセみたいに消えるなんて……。そんなの……駄目だ。 |
| ゲフィオン | ……ありがとう。若き鏡士たちよ。私も援助は惜しまぬ。だが事を成せるのはそなたたちだけなのだ。 |
| ゲフィオン | どうか……世界を救って欲しい。 |
| Character | 5話 【ラクス山道】 |
| ミリーナ | ねぇ、イクス。本当に良かったの ?鏡士の力、ずっと嫌だって……。 |
| イクス | 昨日、ゲフィオン様の話を聞いている間ずっとこんな風に思ってた。 |
| イクス | 「鏡士なんて、いきなり言われても俺にはよくわからないよ」 |
| イクス | 「世界を救ってくれなんて想像もつかない程、大きな話……」って。 |
| イクス | でも、何もしないでいて、オーデンセと同じ事が起きてしまうのは、絶対駄目だ。 |
| イクス | それを止められる力が、自分の中にあるなら──やらなくちゃ、って思ったんだ。 |
| イクス | ミリーナ一人で、危険な任務をしなきゃいけないなんてのも、嫌だからさ。──だから、俺、やってみるよ。 |
| ミリーナ | ……イクス、ありがとう。──私、イクスがそう決めたのなら絶対にやれるって思う。 |
| イクス | そう……だといいな。自信は全然無いんだけど。 |
| ミリーナ | ふふっ。鏡士のことだったら、何でも聞いてね。ほら、私、ちょっとだけ先輩だし。 |
| イクス | ありがとな。よろしく頼むよ。ミリーナ。 |
| イクス | それじゃあ、出発前に準備が万全か確認しよう。これから行く場所は未知の場所だからどんな事が起こるかわからない。 |
| イクス | 怖いのは、まずはやっぱり人を襲う魔物だよな。──武器の手入れは大丈夫か ? ミリーナ ? |
| ミリーナ | もちろん。──イクスの剣も、昨日、磨いておいたよ。 |
| イクス | ありがとう。……いや、待てよ。魔物よりも、その土地の性質の方が重大な危険をはらんでいるかもしれない。 |
| イクス | 水はあるのか…… ?そもそも……空気だってあるのかどうか……。確証が無い以上、何か準備をしていくか。 |
| カーリャ | さすがに空気はあるんじゃないですかー ? |
| カーリャ | ミリーナさま。イクスさまってちょっと考えすぎじゃないですかー ? |
| ミリーナ | ふふっ。でもイクスが色々考えるのはみんなを危険な目に遭わせたくないからなのよ。 |
| ミリーナ | イクスはすごく優しくて一生懸命なの。だから、これでいいのよ。 |
| イクス | いつだって、慎重に行動して損はないさ。 |
| カーリャ | ふーむ。まぁ、そういうことにしておきます。 |
| ガロウズ | おーい。お前ら、そろそろ行くぞー。急げよー ! |
| カーリャ | ガロウズさまも呼んでますね。それじゃあ、出発しましょうか ! |
| イクス | よし。俺にどれだけのことができるのかは、わからないけど──やってみるか。 |
| ミリーナ | うん ! 一緒に頑張ろう ! |
| イクス | ──それじゃあ、行こう !昨日、俺たちが具現化した新しい大陸……。【最初の鏡映点】のいる場所へ ! |