Character1話 【5-1 果樹園】
イクスよし。光魔に気をつけつつ、先を急ごう。目的地の街までもうひと踏ん張りだ。
ミリーナその街に鏡映点がいる筈なのよね。今回は黒髪の男の子だったけど、どんな人なのかな。
イクス穏やかそうな印象だったし、本を持ってたから俺と同じで本が好きなのかもしれないぞ。街に着いたらまず図書館から捜してみよう。
ミリーナ見て ! 街が見えてきたわよ !
イクスカーリャ、何か反応はあるか ?
カーリャアァァァァ…………もう、ダメです……。
イクスど、どうしたんだよ。具合でも悪いのか ?
イクスハッ……まさかこの大陸の空気は鏡精にとって毒だったり ! ?
カーリャカーリャは……お腹と背中が……くっつきそうです……。
ミリーナふふっ。お腹がすいただけみたいだね。
イクス……なんだよ。心配して損した。というか、さっきおやつ食べたばっかりだろ。
カーリャあはは~みてくださいよ~。地面にサラダが敷き詰められていますよ~。すごく美味しそうです~。
ミリーナちょっとカーリャ ! それはただの芝生よ !
イクスいくら腹が減っているからってそこらへんに生えているものは食べちゃダメだぞ !それこそ毒があるかもしれないんだからな !
カーリャ毒……ぷ、ぷ……ぷるっ ! !
イクスお、おいおい。そんなに怖がることは――
カーリャち、違いますよ……この反応 !
光魔…ウゥ~…ハルルルルル。
イクス光魔 ! ?
ミリーナ見て ! あそこで誰かが囲まれてる !
イクスあの人……鏡映点じゃないか !なんだか防戦一方で苦戦してるみたいだぞ !はやく助けないと !
ジュードうん……やっぱり。だいぶわかってきた……。
イクスさがって ! ここは俺たちが !
ジュードあなたたちは……。あ、いや……かばってくれてありがとう。けど大丈夫、僕も戦えるから。
イクスえっ……そうなのか ! ?だって武器も持っていないし――
ミリーナ二人とも ! 危ない ! !
イクス――なっ ! !
ジュード――ハッ ! !
イクスす、すごい……。一瞬で光魔をまとめて……格闘術の使い手だったのか。
ジュードあはは……えっと、これは護身術なんだけどね。
イクスそれが護身術 ! ?い、いや……それよりも今は光魔に集中だ !
ジュード光魔……か。うん、わかった。いまはとにかくこいつらを倒そう。
イクスああ ! いくぞ ! !

Character2話 【5-2 果樹園の村】
ジュード……それにしても、消えてしまった大陸を具現化させて、世界を甦らせようとするなんて、大変な旅だね。
イクス具現化して終わりって訳でもないからさ。鏡映点であるジュードと無事に合流できてよかったよ。
ミリーナそれにしてもビックリしたよね。ジュードさんがあんなに強かったなんて。
イクスああ。苦戦しているのかと思って助けに駆けつけたけどむしろ俺たちの方が助けられたもんな。
ジュード誤解させちゃったみたいだね。あれはあえて攻撃せず光魔を観察していたんだ。
イクス光魔を ? いったいどうして ?
ジュード実は……この先の村でお世話になったんだけど自警団の人たちが謎の腹痛で倒れたんだ。
ジュードみんなもう体調はよくなったけど……いまだに原因がわかっていない。
イクスもしかしてその原因が光魔なのか ! ?
ジュードどうだろう。けど、事件が起こる数日前から村周辺に光魔がうろつきはじめたらしい。無関係だとも思えない。
ミリーナつまりジュードさんが光魔を観察していたのはその事件の原因を探るためだったのね。
ジュードうん。まずは光魔の習性や特殊な能力普通の魔物との決定的な違いを分析するところから始めてみようと思ったんだ。
ジュード再発防止のためにも原因は突き止めておきたいからね。
イクス確かに……。もし他の街でも同じようなことが起きたら大変だ。そのうえ運悪く光魔が押し寄せてきたら街が壊滅しかねない !
イクスど、どうしよう……何とかしないと。光魔が関わっているなら俺たちにも責任があるわけだし……。
ミリーナイクス、焦らないで。まずは落ち着こう ?
ジュードねぇ、さっきの話だと、イクスたちは光魔の発生源である\"光魔の鏡\"を発見し破壊する役目が残っているんだよね。
ジュードよければ僕も手伝わせてくれない ?
イクスえっ……いいのか ?
ジュードもちろん。まずは光魔の増殖を防がないと。それに、光魔の鏡を探していれば何か手がかりが掴めるかもしれないからね。
ジュードお互いに今やるべきことは一緒なんだ。せっかくだし協力し合っていこうよ。
イクス……ジュード、ありがとう。やっぱり、さすが鏡映点だな。強いし頼りになるし頭もいいし……尊敬するよ。
ジュードそんな……なんだか照れちゃうな。僕はごく普通の医学生なんだけど。
カーリャさあ ! ! 雑談はそこまでにしてはやく光魔の鏡を探しに行きましょう !カーリャがぷるっと見つけてやりますよ ! !
ジュードうん、頼りにしているね。この広い大陸で闇雲に探すのは得策じゃない。鏡精であるカーリャに光魔の鏡を感知する能力があってよかったよ。
ミリーナけどその前に一度、街に向かわない ?情報収集や買い物もしたいし。
ジュードそうだね。僕が調べたことも共有するよ。食事を取りながら話そう。
イクス食事といえば……カーリャ、やけに元気だな。ついさっきまで腹ペコでへばってたのに。
カーリャ……ギクッ。
イクスまさかそこらへんにあるものを勝手に食べたわけじゃないよな ?
カーリャそ、そそ……そんなことするわけないじゃないですか !美味しそうな木の実が落ちていたからってカーリャは食べたりしませんよ !
ジュード……木の実、食べたんだね。
ミリーナ口の周りにも果肉がついてるよ。いまハンカチで綺麗にしてあげるね。
カーリャんんっ…………ぷはっ !ありがとうございます、ミリーナさま !あっ……けど木の実は食べてないですからね !
イクスはぁ……ひとまず先に進むとするか。
カーリャはい ! 出発です♪

Character2話 【5-2 果樹園の村】
イクスジュードってやっぱり強いよな。けっこう体もがっしりしてるし……。医学生って勉強漬けなのかと思ってたんだけど。
ジュード幼なじみと一緒に武術を教わっていたからだよ。あの頃はよくボコボコにされたなぁ……。
イクスえ ! ? ジュードをボコボコにするって相当な強さだな ! ? 筋肉ムキムキ系とか……。
ジュードはは……女の子なんだけどね……。
イクス筋肉ムキムキの女の子 ! ?
ミリーナちょっと格好いいかも……。私、強い女の人に憧れてるから……。
ジュード二人とも何か誤解してない ! ?
カーリャム……。
ジュードカーリャ ?
カーリャムグゥゥ……お、お腹が……。く、苦しい……です……。
ミリーナカーリャ ! ? 大丈夫 ! ?すごい汗……熱まであるじゃない !
ジュードこの症状……ちょっと診せて !
カーリャ……喉が……渇きました……。お、お水を……。
ミリーナ待ってて、今、飲ませてあげるからね。
ジュードうん……やっぱりだ。この発熱と口渇……村で発生した腹痛の症状と完全に一致する !
イクスそんな ! なんでカーリャが ! ?
ジュード―― !
カーリャム、ぐぐぅ…………うぅ……。
ジュードよし。治癒術が効いてくれた。対症療法だけどこれで痛みは和らぐはず。
カーリャあ、ありがとう……ございます……。
ミリーナよかった……。けど……どうしてカーリャが。
イクスもしかして……。カーリャ、怒らないから話して欲しい。さっき、本当は木の実を拾って食べたんだよな ?
カーリャ……は、はい。
ジュードどんな木の実だった ?
カーリャに……虹色に……きらきらしてる…ブドウみたいな……。
イクスその特徴だと……ダメンジの実だな。
ジュードダメンジの実 ?ごめん、聞いたことがないんだけど……。
ミリーナ私たちの世界にはあるんだけどジュードさんの世界にはないものなんだと思うな。これも恐らく、エンコードの影響。
ミリーナ異世界の物理法則なんかを、そのままこの世界に持ち込むと、色々な問題が発生する可能性が高いの。
ミリーナだから異世界の様々な法則は、この世界の法則に上書きされて具現化されるのよ。
イクスそれに、この大陸の構成要素中に俺たちの世界の構成要素が混ざることもある。ダメンジの実もその一つなんだろうな……。
ジュードエンコードか……。うん、わかったよ。それでダメンジの実っていうのはどんな木の実なの ?
イクスダメンジの実は、見た目は綺麗だし香りも味もいいんだけど毒があるのが特徴なんだ。
イクスカーリャの症状と『絶対に食べてはならないモノ百科』に書いてあったダメンジの実の中毒症状にも一致している。
ジュードということは村の人たちもダメンジの実で腹痛になったのかな……。
イクスあれ、けど……おかしいぞ。このあたりの自然環境でダメンジの実が育つ筈がないのに……。
ミリーナカーリャは落ちてたって言ってたよね。
ジュード何者かがダメンジの実を村の自警団に届けた。その道中に落としたものをカーリャが食べた。これなら説明がつく。
イクスダメンジの実はあまり一般的ではないんだ。普通の人なら毒があるなんて思いもしない筈。机に置かれていたら何の疑いもなく食べるだろうな。
イクスもしこの推測が正しいとしたら一体誰が、何のためにこんなことを……。
ジュードもしかして落ちていたダメンジの実も……。
イクス……ジュード ? どうかしたのか ?
ジュードいや、何でもないよ。それよりもダメンジの実の解毒方法は知ってる ?
イクスごめん、そこまでは……。ただ、俺が読んだ本には書いてなかっただけで解毒方法は解明されている筈だけど……。
ミリーナ街までもう少しだし、きっと図書館もある筈よね。到着したらみんなで調べてみない ?
ジュードそうだね。はやくカーリャを治してあげないと。

Character3話 【5-2 果樹園の村】
ジュード司書の人に事情を話したら図書館を開けてもらえることになったよ。
イクスよかった。これでダメンジの実の解毒方法を調べられるな。
ミリーナそれにしてもここの図書館は大きいね。蔵書もたくさんありそう。
イクスオーデンセの図書館とは比較にならない規模だもんな。ここの図書館だったら蔵書を読み尽くすのも一筋縄ではいかなそうだよ。
ジュードイクス、図書館の本を読み尽くしたことがあるの ! ?凄いじゃない !
イクスそんなことないって。あそこは規模も小さかったし。鏡士の修行を禁止されて、一時期凄く退屈だったんだ。暇つぶしに読んでたら、読み尽くしてたってだけだよ。
イクスそれに、俺、本が好きでさ。文字を追ってるとなんだか落ち着くんだよな。
ジュードあ、それ何だかわかる気がするよ。本を読んでいると知識が増えていくでしょ。その予備知識が安心感に繋がることも多いよね。
イクスそう、そうなんだよ !知識はいくらあっても損することはないしさ。本はやっぱりいいよな。
ミリーナふふっ。二人とも読書好きで気が合うみたいね。
ジュードあっ……司書の人が入っていいって。それじゃあダメンジの実の解毒方法を調べようか。
イクスああ ! カーリャのために !
ミリーナうん、頑張ろう !
イクス見つけた ! ダメンジの実の解毒方法だ !薬草があれば簡単に作れそうだな。
ジュードえっと……必要な薬草はホワイトベルベーヌイエローバジル、ホワイトラベンダーエーテルヴァイスの4つ……みたいだね。
ジュードよし、次はそれぞれの自生地を調べよう。
ミリーナ薬草辞典を持ってきたよ !
イクスどれどれ……ホワイトベルベーヌは寒冷地にあるらしいな。
ジュードとなると雪山の麓あたりなら自生してそうだね。
イクスホワイトラベンダーは、草原を好むみたいだ。この街に来る途中、見晴らしのいい場所があったけど、あの辺りに生えてるかな……。
ミリーナエーテルヴァイスは……山岳地帯で見られるって書いてあるわね。
ジュード――あとはイエローバジル……あった。湿原、それも、日の当たらない場所を好むみたいだね。
イクスよし。これで大体の自生地に目星が付いたな。
ミリーナええ。早く取りに行きましょう。……カーリャ。苦しいと思うけどもう少し辛抱してね。
カーリャはぁいぃ……。

Character4話 【5-7 クルスニク雪山】
イクス……やっと雪山の麓まできたな。ホワイトベルベーヌはどこに生えてるんだろう……。
ミリーナホワイトベルベーヌって白い草よね。雪に紛れてわかりにくいのかも……。
イクスそれらしきものは見当たらないな。ひょっとして、山に入らないとダメなのか ?
ジュード待って、あれを見て !
ミリーナその青い草は ?
イクスブルーベルベーヌだ。けど、ホワイトベルベーヌでしか解毒剤は調合できないはずだけど……。
ジュードホワイトベルベーヌっていうのはブルーベルベーヌの変異体でしょう ?だから、そのあたりにも生えているんじゃないかな。
ジュード自然に発生する変異体は野生種の群生する場所に紛れていることも多いし。
イクス確かにそうかもしれない !四つ葉のクローバーが一般的なクローバーと一緒に生えているのと同じ理屈だな !
イクスさすがジュード !俺なんて、変異体のことまで頭が回らなかったよ。
ジュードそんな……。たまたまだよ。
ミリーナううん、本当に凄いよ。これでホワイトベルベーヌが見つかるといいんだけど。
ジュードうん。ブルーベルベーヌの中にホワイトベルベーヌが紛れていないか探してみよう。
ミリーナ――あった !これがホワイトベルベーヌじゃない ?
ジュードうん ! 間違いないね !
ミリーナよかった…… !とりあえず1つ目の薬草は手に入れられたね。
イクス………… ?
ミリーナイクス、どうかした ?
イクスいや……気のせいかな。誰もいない筈なのに何か気配がするような……。
ジュードいや、僕も同じ気配を感じてる。魔物が近くにいるのかもしれないね。
イクス……俺たちが縄張りに入ったから警戒でもしてるのかな ?
ミリーナ今は、一旦ここを離れて次の薬草を探しに行こうよ。
ミリーナ変な気配からは離れた方がいいと思う。
イクスああ、そうだな。カーリャのためにも急がないと。
カーリャよろしくお願いしますぅ……。

Character5話 【5-9 ギルヴァート平原】
ジュードホワイトラベンダーがあるとしたらこの辺りの草原じゃないかな。
ミリーナ……なんだろう。遠くからかすかに甘い香りがする……バニラみたいな。
イクス甘い香り……そういえば薬草辞典には一般的なラベンダーより甘い香りがするって書いてあったな。
ジュードなら香りを辿ってみよう !
イクス――あったぞ ! 白くて小さな花が付いてる甘い香りの植物。これがホワイトラベンダーで間違いないよ !
イクス確か神経系を沈静化する作用があるんだよな。魔物はこの甘い匂いが苦手で魔物よけにも使われるんだって。
イクス衝撃を与えると香りが強くなって拡散するらしいんだ。だから乾燥させてすりつぶして匂い袋にするといいんだってさ。
ジュードイクス、ずいぶん詳しいね。
イクスえっ……さっき読んだ図鑑に書いてあっただろ ?128ページのコラムのところに。
ミリーナさすがイクス ! 相変わらず凄いね !一度読んだだけでそこまで覚えちゃうんだもん !
イクスあはは……。ミリーナはいつも大げさだな。こんなのみんな大体そうだろ ?……あれ、もしかして俺がおかしいのか ?
ジュード落ち着いて、それは凄い才能だよ。その記憶力のよさは誇っていいと思うな。
イクスそ、そう言ってもらえると嬉しいけど……。ジュード、本当に俺って大丈夫なのか ?頼む、医者としての意見を聞かせて欲しい。
ジュードまだ医者じゃないんだけど……。
ジュードえっと……もちろんデメリットもあるよ。記憶力がいいってことは忘却機能がうまく働いていないとも取れる。
ジュードネガティブな情報が忘却されずそれに振り回されてしまう、とかが記憶力のいい人によくみられる事例だね。
イクスやっぱり……まさに俺じゃないか……。
ジュードけど、人よりも多くの知識を持っているのはイクスの強みであることに間違いはないよ。
イクスああ……今俺はその強みを活かせてるんだよな。知識を活かす知恵が大切だっていうのは本によく書かれているからわかってるんだけど……。
イクスジュード。どうしたらいいと思う ?
ジュードそれは僕には答えられない。最終的にイクス自身がどうしたいかに関わることだからね。
ジュードただアドバイスできることがあるとすれば……自分の意志を大切にすること、かな。
イクス自分の意志……か。いつもやるべきことを見定めてるジュードが言うとその言葉にも重みを感じるな。
ジュード僕の言葉っていうより僕の大切な人の言葉なんだけどね。
ミリーナ大切な人 ?
ジュード実は、その人に出会えたから僕も自分の意志の大切さに気づけたんだ。
ジュードイクスは僕のことを尊敬してくれるけど僕ってそんな凄い人間じゃないんだよ。
ジュード医学生になったのも親が医者だったからだし。旅に出たのも事件に巻き込まれたから。つい最近まで周りに流されてばかりだったからね。
イクスえっ、ジュードもそうだったのか ! ?
ジュード僕もってことは……イクスも ?
イクスえっと、俺さ……鏡士になるって決める前は祖父ちゃんや周りの人たちと同じように漁師になろうって考えてたんだ。
イクス俺に鏡士は向いてない。みんなと同じ漁師でいい。俺は、それでいいんだって……。
ジュード波風が立たない生き方を選んでた ?
イクス…………うん。
イクスけど、故郷の島が消えたり、世界が危ないって知ったり鏡士の力が必要だってゲフィオン様から言われたり避けられない現実を前にして、気付いたんだ……。
イクス俺には――やらなきゃいけない使命があるって。
ジュードうん。僕も似たような感じだった。
イクス俺も……ジュードみたいになれるかな ?
ジュード意志を貫こうとすれば対立は避けられない。相手や周りと違うことが怖くなるときもあると思う。
ジュードそのときは僕がイクスの力になるよ。僕も仲間に助けられてきたからね。
イクスジュード……。
ジュードさあ、先に進もう。

Character6話 【5-12 大湿原(水洞内)】
イクスこのあたりにイエローバジルがある筈なんだけど……。
ミリーナなかなか見つからないね。
ジュード……二人とも。
イクスジュード、どうかしたのか ?
ジュード気配を感じない ?
イクス! ああ、後ろからだよな。また魔物の縄張りに入ったのか……。
ジュードいや……どうもおかしい。足音や気配の数から考えてさっきと同じ魔物の群れだ。
ジュードそれに僕たちの様子を伺っているけどずっと襲ってこないのも気になる……。
イクス何か狙いがあるのかもしれないな。やっぱりただの魔物じゃなさそうだ。なんだか不気味だな……。
ジュードはやく薬草を取ってここを去ろう。ソグド湿原を元に具現化された土地だからかところどころぬかるんでいて足場が悪い。
イクス戦いになるとマズいことになりそうだな……。
ミリーナ二人とも ! あれを見て !イエローバジルじゃない ! ?
イクスああ ! そのとおりだ !さっそく採取して――
ジュード待って ! 魔物がくる !二手に分かれて挟み撃ちする気なんじゃ――
イクスこんな時に……って、この魔物、光魔じゃないか !
ミリーナそれに……どういうこと ! ?挟み撃ちが狙いなのかと思ったけど一方の光魔の群れは反対の方向に――
ジュード……まさか。
イクスイエローバジルを踏みつけ始めたぞ ! ?
ジュードこれが狙いだったみたいだね……。
イクスど、どうしよう……このままじゃ薬草が……。けど今イエローバジルの方に行けば挟み撃ちにされてしまうし……。
イクスあっ……。
ミリーナイクス ? 何か思い浮かんだの ?
イクスえっと……いや、何でもない。それよりこの状況、どうすれば……。
ジュード今は目の前の光魔を倒そう !イエローバジルは後回しだ !
ミリーナジュードさん、何か考えがあるのね ! ?
ジュード説明はあと !急ぐ必要はあるからね !
イクスもしかして……。
イクス――ああ、俺もジュードに賛成だ。よし、いくぞ。

Character7話 【5-13 大湿原(水洞深部)】
イクスはぁ……はぁ……。なんとか光魔は全部倒せたな。
ミリーナけど、酷い……。薬草がみんな泥まみれになってちぎれてる……。
イクスいや、全部じゃない筈だ。
ミリーナえっ……あ、本当だ。このあたりのイエローバジルは無事みたい。
ジュードイエローバジルは葉肉がしっかりしてるのが特徴だからね。全てダメにされることはないと思ったんだ。
ミリーナもしかして……その知識があったからジュードさんは目の前の光魔を優先したの ?
ジュードうん。足場の悪い湿原で挟み撃ちになるリスクの方が高いと思ったからね。賭けの部分もあったから完璧な策ではなかったけど。
イクスいや、それでも凄いよ。俺……実は同じことを思いついたんだけど言い出せなかったんだ。
イクス間違っていたり的はずれな意見だったらどうしようって……。
イクスさっきジュードの話を聞いて俺も頑張ろうって決めたのにやっぱりそう簡単にはいかないな。
ジュード意志を貫くにあたり対立するのは敵だけじゃない。仲間や、仲間になりうる人とも対立することはある。
ジュードけどお互いに悪いことをしているわけじゃない。自分が正しいと思ったから行動してるんだしね。
ジュード仲間なんだから……いや、仲間だからこそちゃんと自分自身に責任を持って意見をぶつけ合うことも大切だと思うな。
イクス……ジュードは強いな。ありがとう。俺、今度からはちゃんと言うようにする。
ジュードうん。イクスも僕が間違っていると思ったら遠慮なく言ってね。
ジュードそして、もし対立することになったときはお互い遠慮なく、精一杯、戦おう。
イクスああ。約束だ。
ジュードうん !
ミリーナあれ……。
イクスミリーナ、どうかしたのか ?
ミリーナこれを見て。もしかしてダメンジの実じゃない ?
イクスなっ ! どうしてこんなところに ! ?
ジュードねぇ……自警団にダメンジの実を届けたのもお腹が空いているカーリャの前にダメンジの実を落としたのも光魔なんじゃないかな ?
イクス確かに、自警団がやられれば、その村に滞在していた鏡映点であるジュードを襲いやすくなる。
イクスそしてカーリャがやられれば光魔の鏡の発見が遅れ光魔は自分たちの勢力を増やすことができる。
イクスまさか、さっきの薬草集めの妨害も……。
ミリーナけど、光魔にそんなことができるの ! ?だって……もしできるなら……。
ジュードうん、これは立派な謀だ。普通の動物や魔物にはそこまでの知能はない。
ジュード全ての光魔がそうとは限らないけどもしこの仮定が正しければ、光魔には知能があるということになる。
ジュードそれも……僕たち人間と、同じレベルの。
イクス待てよ……だったら最後の薬草も狙われるかもしれないぞ ! ?
ジュード僕もそう思う。エーテルヴァイスは希少だし外的刺激にはすごく弱いのが特徴だ。急いだ方がよさそうだね。
イクスああ ! 行こう !

Character8話 【5-16 バラン岩場 中心部】
イクス随分険しい道だったな。思ったより時間がかかっちゃったけどエーテルヴァイスは大丈夫かな……。
ジュード見て。あそこに生えているのがエーテルヴァイスじゃない ?
イクスああ、そうみたいだ。よかった、無事だったみたいだな。さっそく取りに――
カーリャ……ふ、ふぇぇぇぇぇぇ !
ミリーナカーリャ ! ? どうしたの ! ?凄く震えてるけどまさか毒が回ったんじゃ…… ! ?
ミリーナカーリャをこんなに苦しめるなんて絶対に許さない……。光魔……呪うわ…… !
ジュードま、待って ! 落ち着いて。まだ毒が回ったわけではなさそうだよ ?
イクス――あ、もしかして光魔の鏡が近いんじゃないか ! ?
ミリーナまさか、そんな都合のいいことが……。
ジュード静かに。隠れて。
光魔…ウゥ~…ハルルルルル。
ジュードやっぱり。光魔がいる。それに奥で光っているのはもしかして……。
イクス光魔の鏡だ。ここで鏡を封印できれば薬草もジュードも守れて一石二鳥だぞ。
ミリーナけど、このまま戦ったら薬草が駄目になっちゃいそう。なんとか薬草を確保できたとしてもあの数の光魔に囲まれたら……。
ジュードエーテルヴァイスは罠だね。光魔は、薬草を取りに来た僕たちをここで始末する策なんだと思うよ。
イクス薬草を取りに行く前に気づけてよかったけどどう対処すればいいんだろう……。
イクス薬草を取りに行ったら光魔に囲まれてしまう。光魔の鏡や光魔を倒すことを優先すれば薬草が駄目になってしまうし……。
ミリーナ何か手はないかしら……。
イクス――待てよ、いや……けど。
ジュードイクス。何か閃いたんだよね。よければ教えてくれない ?
イクス……わかった。
イクス魔物はホワイトラベンダーの匂いが嫌いだろ。だったら光魔にも効き目がある可能性が高い。
イクスホワイトラベンダーが生えていた場所の近くに光魔は近寄ろうとしなかったのが、その証拠だ。
ミリーナつまり……ホワイトラベンダーを使ってエーテルヴァイスから光魔を遠ざければ……その隙に必要な分だけ摘み取ることができる !
イクスただ……上手くいっても光魔は鏡映点であるジュードを襲ってくる筈なんだ。
イクス一人がエーテルヴァイスを摘むとなると二人だけで一斉に襲いかかってくるであろう光魔を撃退しなくちゃいけない。
イクスそのうえ、エーテルヴァイスを摘んだらすぐその場から離れられるように経路を確保しておく必要もあるんだ。
ミリーナ確かに、ホワイトラベンダーの効果が切れれば採取していた人が光魔に取り囲まれてしまうものね……。
イクスその中でも最善策を考えるとすれば接近戦ができる俺とジュードが戦う役でミリーナがエーテルヴァイスを採取する役が合理的だ。
ミリーナうん。私もそう思う。
イクスただ……二人だけで光魔を防ぎきれるかわからない。そのうえ、ほとんどの光魔は鏡映点であるジュードに襲いかかってくる筈だ。
イクスいくらジュードが強くても危険過ぎる。せめてホワイトラベンダーがもう少しあればジュードを守れるんだけど……。
イクスごめん……。やっぱり俺の作戦じゃうまくいきそうにない。
ジュード……いや、なんとかなるかもしれないよ。
イクスえっ ?
ジュード相手は光魔。普通の魔物と違って知能がある。そこを利用すればいいんだ。
ミリーナどういうこと ?
ジュードまずホワイトラベンダーを投げて、光魔を遠ざけミリーナがエーテルヴァイスを採取する。ここまではイクスの作戦通り進める。
ジュードそうしたら光魔が僕をめがけて襲ってくるはずだ。その光魔に対してホワイトベルベーヌを投げる。
イクスえっ……けど、ホワイトベルベーヌの香りにはホワイトラベンダーと同じような魔物を遠ざける効果はないぞ。
ジュード大丈夫。同じ白い薬草を投げつければ知能のある光魔は、また僕たちがホワイトラベンダーを投げつけたと思って引き下がるはずだ。
イクスそうか…… ! 知能があるってことは人間と同じように学習をする !それを逆手に取るんだな !
ジュードその通り。すぐにバレると思うけどミリーナが採取を終えて戻ってくる程度の時間は稼げるはずだ。二人とも、この作戦はどう思う ?
ミリーナいいと思う !
イクスああ ! 勝算はあると思う。凄いよ、ジュード !
ジュードこれもイクスが元となるアイディアを提案してくれたおかげだよ。
イクスよし、善は急げだ。ミリーナは薬草を頼んだぞ。
ミリーナうん ! そっちは二人に任せるね !
ジュードよし、ホワイトラベンダーの束を石に巻き付けて……と。投げるよ !
ミリーナじゃあ、私も行ってくるね !
イクスジュード、光魔が気づいたみたいだ !こっちに来るぞ !
ジュード次はホワイトベルベーヌを……っと。イクス、投げるよ !
イクスど、どうだ……。
ジュードよし ! うまくいったみたいだ !
ミリーナお待たせ ! 薬草を集めたわ !
光魔…ウゥ~…ハルルルルル ! !
ジュード丁度こっちにも、光魔が戻ってきた。
イクスよし、みんなで迎え撃とう !

Character9話 【5-16 バラン岩場 中心部】
ジュードこれで光魔の鏡を封印できた……んだよね ?
ミリーナはい。これで今後ここから光魔は出現しない……筈です。
ジュードよかった。それじゃあ、ここでダメンジの解毒薬を作っちゃおう。
ジュード――はい、カーリャ。これを飲んでみて。
カーリャふぁい……。
カーリャ――……う、うぎゃぁぁぁあああああ ! ?にっが――――――いいいいいいい ! ?
カーリャ何なんです、これ ! ? まるでピーマンとコーヒー豆とカカオをすりつぶして、フライパンで真っ黒にしたような味がっ ! ?
ミリーナカーリャ ! 元気になったのね ! ?よかった ! !
カーリャにゃあ~……ミリーナさまいい匂い !
ジュード体が小さいから、解毒薬の効きも早かったみたいだね。これだけ元気ならもう大丈夫だよ。
ミリーナありがとう、ジュードさん !
イクスジュードがいなかったらカーリャを助けることができなかったよ。本当にありがとう、ジュード。
ジュードちょ、ちょっと、やめてよ。そんなの気にしないで。みんなでカーリャを助けたんだよ。
ミリーナカーリャ。あなたもお礼を言って ?
カーリャ……ありがとうございました。このご恩は一生忘れません。
カーリャけど……うぅ……苦すぎですよぉ。
ミリーナ良薬は口に苦し、だよ ?それもジュードさんが作ってくれた薬がよかった証拠なんだから。
イクスこれに懲りたら、拾い食いはやめるんだな。
カーリャ拾い食い、ダメ絶対……。はい……ちゃんと覚えておきます。
ミリーナカーリャにとっても今回の冒険はいい経験になったみたい。
イクスああ……もちろん、俺にとっても。知識も大切だけど、それと同じくらい知恵や意志も大切なんだって学べたよ。
ミリーナ私もだよ。やっぱり鏡映点からは学ぶことが多いよね。
ジュードねぇ、二人とも。今後のことについて相談があるんだけど話を聞いてもらってもいい ?
イクスもちろん。それで、相談っていうのは ?
ジュード僕は村の人たちに今回の事件の真相を伝えればひとまずこの大陸でやるべきことは全て成し遂げたことになる。
ジュードだから、その後はイクスたちの旅の手伝いをさせて欲しいんだ。
イクスえっ…… ! むしろお願いしたいくらいだしありがたいけど……すごく危険だぞ。
ジュード鏡映点を保護するのが二人の役目なのはわかってる。でも、ずっと保護されているだけってのも悪いし危険だからこそ戦える人間は貴重だと思うんだ。
ジュード今回のことだけじゃなく今後も、お互いに助け合っていこうよ。
イクスジュード……わかった、ありがとう。それならよろしく頼むよ。こちらからもよろしくな。
ミリーナええ、よろしくね、ジュードさん。
ジュードうん。よろしく !

Character9話 【5-16 バラン岩場 中心部】
イクスゲフィオン様。報告は以上です。
ゲフィオン2人とも、ご苦労だった。
ゲフィオンこの世界から失われた大地が形を変えながらも甦っているのはそなたたちのおかげだ。感謝しているぞ。
イクスいえ、俺は……俺たちは未熟だと痛感させられています。これからも頑張ります。
ゲフィオンそうか……。だが焦るな。そして無理はするな。
ゲフィオンカレイドスコープと魔鏡を扱える鏡士はもはや全滅したに等しい。お前たちが生き続けることも大事な使命なのだ。
イクスありがとうございます。肝に銘じます。
ゲフィオン先ほど報告された光魔の妙な動きに関してはこちらも調査してみよう。
ゲフィオンそれから救世軍が色々と動いているようだ。セールンド軍の重要拠点を次々と攻撃している。
二人! ?
ゲフィオンそれにしても困った。具現化した大陸と交流し新たに生まれた住民たちを守るためには軍の力が不可欠だったのだが……。
ゲフィオンお前たちも救世軍には気を付けるように。
イクス………………。
ゲフィオン……そういえば、その後カーリャは無事か ?
ミリーナは、はい。おかげさまで、今はすっかり……。あの……ここへ呼びましょうか ?
ゲフィオン――いや、結構だ。息災なら何より。
ゲフィオン鏡士と鏡精は特別な繋がりをもつ。カーリャが苦しむことでミリーナに悪影響があっては困る。
ゲフィオン先ほども話した通り、お前たちは替えの利かない存在。くれぐれも自分たちの命を大事にな。
ミリーナわかりました、ゲフィオン様。
イクスお気遣い、ありがとうございます。これからも頑張ります。
ゲフィオンふふ……。期待しているぞ。次の大陸具現化もよろしく頼む。