Character1話【回想】
聞こえる――マスターの悲鳴が。死の砂嵐から世界を守る砂防堤となった苦しみが。
俺は鏡精。鏡士の心が具現化して人格を与えられた、造られた存在。
俺は知っている。俺がこうして存在し続けられる限りマスターもまた生きているのだと――
イクス魔鏡技 !スタック・オーバーレイ ! !
イクスごめん、ミリーナ。みんな。コーキス、後は…頼むぞ…。
コーキス嫌だ ! 嫌だ嫌だ嫌だ !
ミリーナイクス――――っ ! !
カーリャあ ! ?イクスさまの周りに水晶みたいな鏡が… ! ?
ミリーナ……魔鏡結晶 ! ?――う…、何…アニマ酔いが…。
カーリャミリーナさま ! ?
コーキスカーリャ先輩、落ち着け !ミリーナ様は俺が運ぶ。この場所はもう保たない。逃げるぞ !
カーリャコーキス ! ? え ! ? なんで、そんな姿に――
コーキス話は後だ ! 行くぞ !
コーキス……セールンドの街は完全に魔鏡結晶で覆われちまったな。
カーリャコーキス……。どうなってるんですか ?
コーキスこの姿か ?
コーキス俺にもよく分からねぇけどマスターの力を感じるんだ。今までよりずっと強く。
カーリャでもイクスさまは……。
ミリーナ――イクスは ! ?
コーキスミリーナ様……。
ミリーナ――もしかして、コーキス ?
コーキスそ、そうです !
ミリーナ……ということは、イクスとゲフィオンを包み込んだあの魔鏡結晶は、やっぱりイクスの魔鏡暴走で生まれたものなのね。
カーリャどういうことですか ?
ミリーナイクスは……生きているんだわ……。イクスの力が魔鏡結晶で増幅されてそれでコーキスが大人の姿になったのよ。
コーキス……ミリーナ様。魔鏡結晶が広がり続けています。この島にいるのは危険です。
ミリーナわかったわ。ケリュケイオンに戻って――
コーキス駄目なんです。ケリュケイオンも魔鏡結晶に貫かれて動きません。
カーリャどうしましょう。船を探すにしてもかなりの人数を乗せられる船でないと……。
コーキス港は救世軍に抑えられているだろうな。くそっ……。
ミリーナ……鏡界を造るわ。
コーキス鏡界 ? それは一体何ですか ?
ミリーナ想像の魔鏡術の奥義の一つよ。鏡界という仮想空間を造り出して維持するの。そこへみんなで逃げ込みましょう。
ミリーナ私には制御が難しい術だけれど、今の私はゲフィオンの記憶も持っているからやり方はわかるわ。
ミリーナそれにイクスが暴走させた魔鏡の結晶が私の力を補佐してくれる。
ミリーナ仮想鏡界、展開――
――一ヶ月後
鏡界の拠点
カーリャコーキス。見つけましたよ。こんなところで油を売ってる場合ですか ! ?
コーキスうるさいなぁ、先輩は。
カーリャうるさいとはなんですか !カーリャだって頑張ってるんですよ !
カーリャこの鏡界を維持するのもカーリャの仕事だし、ガロウズさんの仕事も代わりにやらなきゃだし !
コーキス……ガロウズさんどこに行っちまったんだろうな。
カーリャですね……。一ヶ月前のあの日――鏡殻変動の時にはぐれたきりで……。
カーリャやっぱりアスガルド帝国か救世軍に捕まってるんでしょうか。
コーキスアスガルド帝国か……。何なんだよ、あれ。いきなりオーデンセのあった場所に新しい島を造ってさ。
コーキス古のアスガルド帝国の復活だとか言い出して――
ミリーナそうね。あのデミトリアス陛下が突然そんなことを言い出すなんて狐につままれた気分だわ。
コーキスミリーナ様 ! ? す、すみません……。掃除さぼって……。
ミリーナあら、さぼっていたの ?
コーキスあ、いや……えっと……。
カーリャミリーナさま……これから私たちどうなっちゃうんでしょう。
カーリャイクスさまの力が暴走してできた魔鏡結晶が世界中に広がってるし、光魔の鏡はないのに何故か光魔は湧き放題です。
カーリャアスガルド帝国は鏡殻変動をミリーナさまのせいだなんて言ってるし……。
ミリーナ私のせい――というのはある意味では正しいわね。
ミリーナゲフィオンの人体万華鏡が機能していればイクスに魔鏡暴走を引き起こさせることもなかった……。
カーリャそんなのミリーナさまのせいじゃありません !
ミリーナ……ありがとう、カーリャ。コーキス、さぼっちゃ駄目よ ?
カーリャミリーナさま、何か用だったんじゃ……。
ミリーナ二人の様子を見に来ただけよ。それじゃあね。
二人………………。

Character1話【回想】
聞こえる――大地の軋む音が。人々の怨嗟の声が。
あの場所は永遠の鏡の檻。イクスと過去の私が死の砂嵐と共に眠る場所。
だけど私は決めている。たとえ世界の全てを敵に回しても必ずあの鏡の檻を打ち破ると。
アスガルド帝国首都イ・ラプセルエリジウム宮殿
ミトス…………。
ミトス(本当に、これで良かったの ? )
???ミトス、やっぱりここにいたんだ。マーテルさんが捜していたよ。
ミトス……ありがとう。フィリップ――じゃなくてジュニアって呼べばいいんだっけ ?
???うん。フィリップって奴が三人もいるから混乱するって、メルクリアが……。
ミトス一人目がフィリップ、二人目がファントム三人目がジュニアか。でもいいの ?自分の名前を変えられて。
ジュニアあはは、まぁ、仕方ないよ。それより体はもう大丈夫 ?幻影融合はアニマを傷つけるから……。
ミトスうん、大丈夫。うかつだったよ。魔鏡術には疎いから、ファントムの計画に気づくのが遅れちゃって。
ミトスこれじゃ、人のドジのことを笑えないね。
ジュニアでも、幻影化が解けた後、チェスターにアニマを分けてあげたんでしょ ? それでミトスたちは回復が遅れたんだし……。
ミトスアニマを ? ―ああ、マナを分ける作業をそう呼ぶのか……。エンコードって便利だけれど困ることも多いね。
ミトス正確にはアニマを分けた訳ではないと思うんだけど……どう説明したらいいのかな。生命力を分けたって感じかもね。
ジュニアそんなことができるなんてミトスの世界の技術はすごいね。
ジュニアそのおかげでチェスターはすぐに動けるようになって僕らに合図を送ってくれた。
ジュニアだからファントムを止められたんだ。本当にありがとう、ミトス。
ミトスううん……。でもあれから大変だったね。
ミトススタック・オーバーレイの余波に巻き込まれてみんなセールンドのお城から逃げ出すので精一杯だった。
ジュニアメルクリアの助けがなかったら危なかったね。
ミトス……メルクリア、か。
ジュニアミトスはメルクリアが嫌いなの ?
ミトス…………。
ミトス(自分を見ているようで……反吐が出るなんて言ったら、ボクはボクであることをやめることになる)
カイウスジュニア ! おっと、ミトスもいたのか。丁度いい。救世軍が動き出したらしい。オレとシングで様子を見てきていいか ?
ミトス――ボクも行こうか。
カイウスお前もかよ。リヒターもアステルが止めてくれなきゃ一緒に来るつもりだったし。
カイウスもう少し休んでた方がいいと思うぞ。ディストの奴を見習ってさ。
ミトスあいつ、一番ぴんぴんしてたのにまだ寝てるの ! ?
カイウス丈夫なんだかひ弱なんだか訳わからないよな。
ジュニア出撃のこと、フレンには伝えた ?
カイウスああ、伝えてある。オレ行くぞ。
ジュニア気をつけて。それから――なるべく相手を傷つけないで。
カイウスああ、わかってるよ。そっちも無理するなよ !
ミトスジュニア。この世界は、これからますます混乱するよ。
ジュニア……そうだね。でも僕は……僕らはメルクリアの元から離れられない。
ミトス……離れた方がもっと混乱を引き起こすから ?
ジュニア…………。
ミトスだから……鏡映点は殺すべきだった、のかも知れないね。
ミトス今考えると、そこまで計算してファントムとフィリップを利用していたのかも知れない。……デミトリアスは。
ジュニア……行こう、ミトス。何をするにしてもまずは傷を癒やさないと。
ジュニアマーテルさんも心配してるよ。それにノイシュもね。
ミトス……うん。

Character1話【回想】
コーキスミリーナ様 !
ミリーナコーキス ! ? どうして……。
コーキスカーリャに言われたんです。ミリーナ様が何かを隠してるって。
コーキスこのところ、ミリーナ様は一人で情報収集に出て行くから今回もそうじゃないかと思って。
ミリーナ……カーリャは私の鏡精ですものね。何を考えているかまではわからなくても心が揺れていることはわかっちゃうのね。
コーキス単独行動はやめて下さい。
コーキスみんな心配してますよ。最近のミリーナ様は一人で思い詰めてるんじゃないかって。
ミリーナそんなことないわ。
ミリーナ……ただ、私たちがこれからどうしていくのかを決めるには情報が必要だと思って。
ミリーナそれに鏡映点の人たちがこの世界で暮らしていくための環境も整えてあげないと……。
コーキスだったらその話をみんなにしてみんなで問題を解決していけばいいじゃないですか !
ミリーナそうね……。でも駄目よ。今から私がやろうとしていることは私のエゴだから。
コーキスえ…… ?
ミリーナ救世軍が動き出したみたいなの。そのおかげでアスガルド帝国の目が救世軍に向いた。
ミリーナ今ならセールンドの守備が手薄になっている筈よ。
コーキスまさか……マスターを助けるつもりですか ! ?
コーキス今魔鏡結晶を破壊したら死の砂嵐が外に流れ出ますよ ! ?
ミリーナそうね……。でも構わないわ。イクスを助けるためなら。
コーキスそんなのミリーナ様じゃない !
ミリーナいいえ。イクスのためなら何でもできるの。イクスはいつだって私を守ろうとして私のせいで命を落としてきた。
ミリーナだから私は、イクスを救いたい。そのためには――
ミリーナ世界だって滅びても構わない。それが【私】だったのよ。
コーキス……嘘だ。それならあの時――マスターを助けるために魔鏡結晶を壊していた筈だ !
ミリーナそのつもりだったわ。でもその前に私は気を失ってあなたに外へ連れ出されてしまった。
ミリーナあれからセールンドはアスガルド帝国に封鎖されて、誰も立ち入ることができなくなってしまったわ。
ミリーナだから私は機会をうかがっていたのよ。
コーキス…………。
コーキスマスター。こんな夜中に何してるんだ ?
イクス……勉強だよ。魔鏡術のこととか、色々さ。
コーキスもしかして最近図書室に閉じこもってるのもその勉強のせいなのか ?
イクスまぁな。最近、ミリーナが何か隠してて……でも俺には話してくれなくてさ。俺じゃ頼りにならないのかなって。
コーキス心配かけたくないからじゃないのか ?
イクスうん、わかってる。だけどミリーナって何でも一人で解決しようとするところがあるんだ。
イクス俺にもそういう所があるけど、それって結局怖いからなんじゃないかなって思うようになって……。
コーキス怖い ? 何が ?
イクス信じることが、かな。信じるって凄いことだと思うんだよ、俺。
イクス誰かや何かを本当に信じることができたとき人は凄い力を出せるんじゃないかって鏡映点の人たちを見て思うようになってさ。
イクスでも誰かに信じて欲しいならまず自分が自分を信じられるようにならなきゃなって。
イクス俺、色々あったから、どうしても自分を素直に信じるのが怖いんだ。だからもっと強くなろうって思ったんだよ。
コーキスそれで勉強かよ ! ?マスターってズレてるな。剣とか練習した方がいいんじゃないか ?
イクスはは、強さにも色々あるんだって。俺は俺のできることをやってるんだ。いざというときのためにさ。
イクスあ、みんなには言うなよ。なんか恥ずかしい……。
コーキス(今になってマスターの言ってたことがわかる気がする。信じるって怖い。でも――)
コーキスミリーナ様。俺も一緒に行かせて下さい。
ミリーナ私の邪魔をするつもりなら……。
コーキス――邪魔はしません。でも、俺はマスターから託されたんです。この世界の未来とみんなを。
コーキスそれにミリーナ様のことも。だから、一緒に行かせて下さい。
ミリーナ……わかったわ。
聞こえる――大地の軋む音が。人々の怨嗟の声が。
ここは永遠の鏡の檻。死の砂嵐をここに【スタック】させるしか今は世界を守る術がない。
でも俺は信じている。【みんな】が未来をたぐり寄せてくれることを――

Character2話【1-1 ひとけのない草原1】
コーキスここはセールンドのどのあたりになるんですか ?
ミリーナセールンドの街から北の街道よ。
ミリーナ街の中に転移できれば良かったんだけど魔鏡結晶の多いところには転移ゲートを作れないの。
コーキス帰る時も同じゲートを使わないといけないんですよね。
ミリーナ基本的にはね。
ミリーナ転移先の安全を確保しなければいけないから好きな場所から行き来する……という訳にはいかないのよ。
コーキス魔鏡通信も使えなくなったんですよね。
ミリーナそうね……。魔鏡結晶と魔鏡通信が干渉してノイズが発生してしまうみたいなの。
ミリーナただ私とカーリャは連絡が取れるからいざというときはそれを使っていくしかないわね。
コーキスカーリャ先輩がむくれてましたよ。自分もミリーナ様と一緒に行きたいって。
コーキス俺も気持ちはわかります。鏡精はマスターのそばにいるのが普通ですし。
ミリーナそうよね……。私もカーリャがいなくて寂しいわ。
ミリーナでも仮想鏡界を維持するためにはカーリャに残っていてもらわないと。
ミリーナコーキスも……イクスと離れていて寂しいわよね。
コーキス……はい。それに不思議な感じです。マスターがそばにいないのに自由に動けるなんて。
コーキスこれも世界中の魔鏡結晶からマスターの力があふれているからですよね。
コーキスマスターが守ってくれてるんだって思います。この世界も俺のことも。
ミリーナ……ええ。イクスの力のおかげよ。
コーキス――ミリーナ様、今の鳴き声は……。
ミリーナ光魔だわ。しかも数が多い……。
コーキスミリーナ様、下がってください。俺が――
ミリーナ大丈夫。戦えるわ。
ヴェイグ――だが、あれだけの数だ。オレたちも協力する。
コーキスヴェイグ様とジュード様それにキール様とメルディ様も ! ?
ジュード話は後だよ。まずは光魔を片付けよう !

Character3話【1-1 ひとけのない草原1】
ミリーナみんな……。どうしてここに……。
ヴェイグオレたちもオレたちなりに鏡殻変動以後の世界情勢を調べていた。
キール情報を精査したところ、アスガルド帝国側にはぐれ鏡映点らしき存在が複数いる可能性が高くなった。
ジュード僕やユーリの仲間もアスガルド帝国にいる可能性が高いんだ。それでイ・ラプセルに潜入しようってことになったんだよ。
ジュードでも、カーリャに転移を頼もうとしたらカーリャの様子がおかしかったからちょっと……問い詰めたんだ。
メルディジェイドとリオン、カーリャ囲んだよ !
コーキスうぇ……。その二人じゃカーリャ先輩なんか太刀打ちできねぇや……。
ジュードア、アハハ……それで手分けすることにしたんだ。イ・ラプセル潜入組とミリーナたちを追いかける組にね。
キールぼくは来るつもりはなかったがメルディが……。
メルディミリーナ、思い詰めてた。みんなすごく心配してる。
ヴェイグああ。イクスの元に行くのなら何故みんなに知らせないんだ ?
ミリーナ……私が自分の我が儘でイクスに会いに行くだけだから。
ジュードミリーナ。君がそんな理由だけでセールンドに行くなんてみんな信じないよ。
ジュードミリーナは頭のいい人だから。
ミリーナ……みんなに迷惑はかけないわ。約束します。必ずいい結果を出すわ。だから……私を一人で行かせて。
キールイクスの代わりになるつもりか。
ミリーナ…………。
ジュードやっぱり……。イクスが自分の代わりに死の砂嵐を防いでくれたと思ってるんだね。
コーキス待ってくれ。ミリーナ様だってマスターがどうしてあの時スタック・オーバーレイを起こしたのかをわかってる筈だ。
ミリーナコーキス……。
メルディコーキスも知ってるか ?イクスがメルディたちに託したモノ。
ミリーナ……え ?
コーキス託したもの…… ?いや、俺はそのことはよく知らないよ。
コーキスでも俺はマスターの鏡精だから、マスターが何を願っていたかはわかる。マスターはミリーナ様を守りたいんだ。
コーキスだから俺もマスターと同じようにミリーナ様を守るし、ミリーナ様も自分を大事にしてくれるって信じてる。
ジュードそうか……。コーキスはイクスの心と繋がっているんだものね。
ジュード僕たちはイクスの心の中まではわからないけど、それでもイクスが何をしてきたのかは突き止めたよ。このメモを見て。
コーキスこれは…… ?難しそうな名前が書いてあるけど……。
ミリーナこれ……魔鏡術の関連書籍のタイトルだわ……。
キールそれはイクスが図書室で読んでいた本だ。
ジュード借りた本を貸し出しノートに記入するルールを作っておいてよかったよ。
ジュードおかげでカノンノがタイトルの関連性に気づいたんだ。
ミリーナこれは……スタック・オーバーレイの制御と統合を学ぼうとしていた…… ?
キールその通りだ。
キールここに書かれていた本を読んでいたならイクスはスタック・オーバーレイの制御と暴走の結果を熟知していた筈だ。
ミリーナそうだとしても――
ジュードイクスはミリーナの身代わりになった ?それは違うよ。
キールあの時、融合の性質を帯びた死の砂嵐を食い止められる可能性が最も高かったのは創造の魔鏡術の血筋であるイクスだった。
ミリーナそれでも私はイクスを魔鏡結晶の外に出してあげたい !今なら準備ができているわ。
ミリーナこの一ヶ月私が組み上げた人体万華鏡の補強術を使えば、死の砂嵐を食い止めてイクスを助け出せる !
コーキスそれは……ミリーナ様もゲフィオン様と同じように魔鏡化して生きながら死ぬってことですか ?
コーキスマスターが命がけでミリーナ様を守ろうとしたのに ?
コーキスゲフィオン様のことでカーリャ先輩がどんな思いをしているのかミリーナ様にも分かっている筈なのに ?
ミリーナ! !
ヴェイグ立場は違うが……ミリーナの気持ちはオレにも察することはできる。
ヴェイグどんなことをしてでも助けたいせめてそばにいたい――そんな気持ちなんじゃないか。
ヴェイグだがミリーナがやろうとしていることは同じ苦しみをイクスに背負わせることに繋がる……。
メルディカーリャも、つらい思いするよ。
ジュードミリーナ。思い出して。イクスは何て言ってた ?
ミリーナ「ごめん、ミリーナ。みんな」って……。
ジュードその後だよ。イクスはこう言ったんだよね。「コーキス、後は頼む」って。
ジュードコーキスはイクスの鏡精だよ。鏡精は鏡士が消えたら一緒に消える。それなのに「後は頼む」って言ったんだ。
ジュードイクスは全部計算していたんだよ。そしてあの場を救える一番成功率の高い方法をはじき出した。
キールイクスはスタック・オーバーレイで魔鏡術を人体が耐えうるギリギリまで重ね合わせた。
キールそして自分が魔鏡になるのではなく魔鏡――魔鏡結晶の中に自分が入ることで死の砂嵐の砂防堤になる選択をした。
キール永久に死の砂嵐を食い止めるならゲフィオンのように自分が魔鏡そのものになれば確実なのに、それを選択しなかった。
コーキス――そうか……。信じてたんだ。俺たちが死の砂嵐を無くす方法を見つけてマスターを助け出すって。
ミリーナ! !
ヴェイグ……だから「ごめん」なんだな。オレたちに面倒な課題を押しつけることになるから。
コーキスすみません、ミリーナ様。
コーキス俺マスターに託されたのに……マスターを信じてたのに、マスターに信じられてるって本当の意味ではわかっていなかった。
ミリーナどうして謝るの……。私……私が……いつまでもイクスのこと守らなきゃいけない存在だって思い込んでて……。
ミリーナ私が私がって……。私はただイクスを助けたいとしか思っていなかった。イクスの気持ちのこと後回しにしてた……。
ミリーナ――イクス……っ !
メルディミリーナとイクスが、本当に心繋がった ?
ミリーナメルディ……。うん……うん……。多分、私、やっとイクスと同じところに来られたんだと思う……。
ミリーナメルディたちと出会った時の私たちはまだ本当の意味でお互いのことをわかっていなかったんだって……。
ミリーナやっと……わかった。

Character4話【1-2 ひとけのない草原2】
ヴェイグ……落ち着いたか ?
ミリーナ……ええ。ごめんなさい。私……涙が止まらなくて……。
ミリーナでももう大丈夫。ちゃんと冷静になってこれからのことを考えなくちゃね。どうやって死の砂嵐を食い止めるか。
ミリーナ私……この一ヶ月、ただイクスを助けることしか頭になかったから。
メルディみんなで考えればきっといい方法見つかる ! へーき !
ジュードうん、そうだね。それじゃあいったん仮想鏡界に戻ろうか。
コーキス…………。
メルディコーキス、どうかしたか ?
コーキスえ ? あ、いや、何でもないよ。俺、まだまだだなって。
コーキスもっとマスターの鏡精……として頑張らないとなって。
ミリーナコーキス。私のことを信じようとしてくれていたのに、騙すような真似をしてごめんなさい。
コーキスいや、そんなことありません。俺がまだまだ未熟なだけです。
コーキス(マスターも言ってた。信じるって難しいって)
コーキス(俺はとりあえずミリーナ様の判断を盲目的に信じて、きっとわかってくれるって簡単に思ってたんだ)
コーキス(違うんだ。信じるって……。でも――)
コーキス(カーリャ先輩もミリーナ様が何をしようとしていたのかはっきりとはわからなかった)
コーキス(ゲフィオン様とミリーナ様が同じ存在だってことも気づかなかった)
コーキス(鏡精はマスターの本当の心を感じ取れると思っていたけど……。マスターは鏡精を【謀れる】んじゃないのか…… ? )
ヴェイグ気をつけろ ! 新手だ !
???……無駄だ。
コーキス誰だ ! ?
???誰でもいい。それより君たちが黒衣の鏡士とそのしもべたちか。
キールおい、いつからぼくたちはしもべになったんだ ! ?
???呼び方など何でもいい。どうせここで潰える運命だ ! 行け、光魔 !
コーキスくそっ ! やらせるか !

Character5話【1-5 草原での連戦3】
メルディなんで ! ?倒してもキリない ! 光魔が増えるよ ! ?
コーキスせめて転移ゲートまで戻れれば……。
ジュード待って !あの金髪の男が右手に持つ石…。あれが光る度に光魔が増えてるみたい。
ミリーナ魔鏡結晶を加工したものかも知れないわ。
ミリーナ光魔の性質上、光魔の鏡のような虚無とこの世界を結ぶ装置があればこちらに出てくるのは簡単な筈よ。
キール大晶霊がいれば…… !セルシウスの力で足止めできるのに。
ヴェイグセルシウスか。確か氷の精霊だったな。それならオレの氷のフォルスで敵を足止めしてみよう。その隙に――
コーキスあの男から光る石を奪うんだな。その役目、俺に任せてくれ !
ジュード僕もフォローする。頼むよ、コーキス。
ヴェイグ――行くぞ !
???――何 ! ?
コーキス今だ !
コーキスな――誰だ ! 邪魔をしたのは ! ?
イクス ?……隊列から離れて余計なことをするな。
コーキスえ…… ! ?
ミリーナイク……ス…… ? 嘘…… ?
イクス ?……退くぞ、チーグル。イリアの輸送隊と合流する。
チーグル黒衣の鏡士を殺さなくていいのかい ?
イクス ?放っておけ。それより行くぞ。
ヴェイグ待てっ !――くっ、光魔が邪魔で追いかけられない !
コーキスいったん光魔を殲滅しよう。あの男がいなければこれ以上光魔は増えない筈だ !

Character6話【1-6 草原での連戦4】
キール何とか光魔を一掃できたな……。それにしても……。
ミリーナ……気を遣わないで。あの人は確かにイクス……にそっくりだったわ。
ヴェイグどういうことだ ? イクスは魔鏡結晶の中にいるんじゃないのか ?
メルディイクス大人っぽかったな ?
ジュードうん。大人びてた……と思う。雰囲気も……それになんとなく背も大きかったような……。
キール過去の具現化ではない……筈だ。イクスは三人目。過去から具現化できるのは二人まで――
キール……いや、待てよ。未来から具現化……したのか ?
ミリーナいえ、それはまだ理論として確立していない筈。
ミリーナ似たようなことはビフレスト皇国の鏡士が技術を開発していたけれど具現化するには至っていないわ。
ジュードねぇ、スレイとリフィル先生が話していたんだ。
ジュードアスガルド帝国はセールンド王国とビフレスト皇国を支配していたって。それは本当なの ?
キール遺跡マニアめ。異世界の歴史にまで興味があるのか。
メルディキール、もう異世界が歴史違うよ。メルディが世界で、キールが世界。
キールそういえばそうか……。まだ実感が沸かないが……。
キール……ん ? そうか、アスガルド帝国がビフレスト皇国の鏡士の技術を研究している可能性もあるってことか。
ジュードうん。もしこの推測が可能ならあのイクスは――。
ミリーナ……いえ、でもイクスじゃない。何か違う……ような気がする。
ヴェイグコーキスはどうなんだ ?
コーキス……わからない。マスターならわかる……のかも知れないけど、でもカーリャ先輩はゲフィオン様のことがわからなかったから。
全員………………。
ミリーナ――ごめんなさい。私、やっぱりセールンドのカレイドスコープの所へ行ってみるわ。イクスがどんな状態なのか調べたいの。
ジュードうん、そうだね。その方がいいと思う。僕たちも一緒に行くよ。また光魔が出ないとも限らないし。
ミリーナええ……。ありがとう。危険かも知れないけど、お願いします。
キールその前に、光魔について教えてくれ。
ミリーナ
キールお前、光魔について何か知ってるんだな ?
キール光魔の特性と言っていたが、誰もまだ光魔の生態や、何故光魔の鏡から現れるのか検証していない。
キールもしかしたらゲフィオンとしての記憶の中に光魔がどんな存在なのか答えがあったんじゃないか ?
ミリーナ……駄目ね。つい口を滑らせちゃった。
コーキスミリーナ様、まだ隠し事が…… ?
ミリーナそう言われても仕方ないわね。でも……死の砂嵐を封じてしまえば関係ないと思っていたから言わなかったの。
ミリーナ光魔は……私――ゲフィオンがカレイドスコープで消滅させたあらゆる生命体が元になって誕生した存在よ。
ミリーナ専門的に言うと難しくなってしまうけど……カレイドスコープでアニマを失った生物はアニムス粒子になって消えてしまうの。
ミリーナ死の砂嵐の金色の光砂はアニムス粒子の塊なのよ。光魔はアニムス粒子がキメラ結合した生物よ。
コーキスそれってつまり……光魔の元はティル・ナ・ノーグに昔存在していた人間や動物の幽霊――みたいなことですか ?
ミリーナええ。ゲフィオンとしての研究ではそうだった……。ごめんなさい。鏡映点を狙う光魔まで私のせいだったのよ。
メルディ違うよ。ミリーナとゲフィオン違う。
ミリーナ……頭ではわかってるの。でもゲフィオンの記憶が私にはある。私のあり得た過去――そして未来がゲフィオンなんだって……。
コーキスミリーナ様は何もかも自分で背負い込むところがあるってマスターも心配してました。
コーキスそういう考え方はやめましょう。
ミリーナ……そうね。ええ、努力する。すぐには無理かも知れないけれど頑張るわ。
キール……こんなところで聞き出して悪かった。ミリーナが大丈夫なら、注意しながらカレイドスコープの所へ急ごう。
キール魔鏡結晶が世界中に出現しているということは光魔が出やすいということだからな。
ミリーナええ。行きましょう。

Character7話【1-15 カレイドスコープ前】
コーキス――マスター。魔鏡結晶の中にいるな。ゲフィオン様を守るみたいに抱き寄せてる……。
ヴェイグ……まるで氷の中に閉じ込められているみたいだ。
ジュードイクスがここにいるってことはさっきのイクスにそっくりな人は……。
メルディ…… ?
キールどうした、メルディ ?さっきから首をかしげて。
メルディイクス……髪伸びたのか ?
キールいや、そんな筈がないぞ。魔鏡結晶の中は――
キール中はどうなってるんだ ?普通に時間が経過するのか ?
キールもしそうだとしたら餓死したりする可能性もある。
キール――いや、内側は虚無と繋がっているんだから、生命活動は停止するのか。
ジュードえ ? でも髪が伸びているなら停止してないんじゃない ?
ミリーナ……違う。なんとなくイクスの姿がぼやけているわ。もしかしたら魔鏡結晶が内側にも何か影響を及ぼしているのかも。
ミリーナ髪は少し伸び始めているけど排泄が行われていない。単に時間が経過しているんじゃないと思う。
ヴェイグこのままにしておいていいのか ! ?
ジュードだけど無理矢理魔鏡結晶を壊せばイクスにも影響があるかも知れないし死の砂嵐も止められないよ。
ミリーナ上手く言えないけれど、この中のイクスに魔鏡に映された未来や過去のイクスが重なって見えているんだと思うわ。
ミリーナさっきも話したけれど、ビフレストの技術にそういうものがあったの。
ミリーナ魔鏡の性質が暴走しているから、イクスの過去と未来が反射して、ぼやけた像が私たちに見えている……のじゃないかしら。
キールなら、イクスは大丈夫なのか ?
ミリーナわからない。いつか鏡に映ったイクスが魔鏡結晶の中のイクスのアニマを喰ってしまうかも……。
ミリーナスタック・オーバーレイで魔鏡の力を高めるってことは、合わせ鏡という危険な手法を制御することだから。
ミリーナせめてガロウズさんかビフレストの魔鏡術に詳しい人がいれば――
???……へぇ、まさかこんな所に黒衣の鏡士がいるなんてね。
コーキス誰だ ! ?
???もう一人の鏡士のお墓参りかい ?
ミリーナイクスは生きているわ !
???あんな状態で生きてる ? 哀れだね。
コーキスてめぇっ ! ミリーナ様に謝れ !
???ギャアギャアとうるさいんだよ、眼帯坊や。海賊ごっこは海でやれば ?
コーキス黙れ !
???あはは、怒ってるの。怒りたいのはこっちの方なんだけどね。
???丁度良い。恨みを晴らさせてもらうよ傲慢な鏡士サマ !

Character8話【1-15 カレイドスコープ前】
シンクこれで終わりだなんて思わないでよね。
コーキスまだ動けるのか ! ?
シンクアカシック――
マークシンク ! ストップだ !俺たちの目的を忘れたのか ! ?
シンク――アンタか。まだあの黒衣の鏡士に傍惚れしてるの ?
マーク傍惚れたぁ、ひでぇ言い種じゃねぇか。こっちにも色々事情があるんだよ。
コーキスマーク ! ?
マークおおっと、コーキスか。でかくなったって噂は本当かよ。
コーキスそのシンクって奴はお前の……救世軍の味方なのか ! ?それにこんなところで何をしてるんだ ! ?
マーク見りゃわかるだろ。仮面の客人を迎えに来たんだよ。
ミリーナマーク。フィルが近くにいるのよね ?会わせて。フィルならイクスの状態がどんなものなのかわかるでしょう ?
マーク悪いな、ミリーナ。こっちは先約があるんだ。フィルと三人のティータイムはまた今度な。
ジュード待って ! アルヴィンも一緒なの ! ?それともアルヴィンもアスガルド帝国に――
マークアルヴィンねぇ……。
マークあの三重スパイくんなら、出ていったぜ。まぁ、色々助けられもしたから恨みはねぇけどな。
ジュード三重スパイって…どういうこと ! ?
マーク別の所にご主人様がいるんだとよ。お前らも知ってるだろ。あの赤い髪のチャラチャラした……。
ミリーナゼロスさんね。
マークそういうこった。こっちも忙しいんでね。あいつらのことはそっちで捜して何とかしてくれ。じゃあな。
コーキスあ、待て ! その仮面の男は置いてけ !
コーキス――って行っちまったか。追いかけますか ?
ミリーナいいえ。あのシンクという人が私を狙ったことより今はイクスのことが心配だわ。
コーキス(何だ…… ? また左目の奥が痛い……)
コーキス(この姿になったときから眼帯がついてて外れないけど俺の左目はどうなってるんだ…… ? )
ミリーナ――そうだ。ユーリさんたちがアスガルド帝国へ向かったのよね ?何とか連絡を取れないかしら。
ミリーナビフレスト皇国の魔鏡技術に関する資料を見たいわ。
ヴェイグ一度仮想鏡界に戻るか ?
ジュードそうだね。それでユーリたちが開いた転移ゲートを確認すれば追いかけることができる。
ミリーナ待って。その前にカーリャに聞いてみるわ。ユーリさんたちがどこに転移ゲートを開いたのか。
カーリャミリーナさま……ごめんなさい。あの眼鏡とマントが怖かったから……。
ミリーナまぁ、カーリャ。それを二人に聞かれたらもっと怖い思いをするわよ。
カーリャはわわわわわ、それは嫌です ! ! ! !
ミリーナそれよりユーリさんたちのことを聞かせて欲しいの。
カーリャユーリさまたちと言えば、ユーリさまたちと一緒に転移したコンウェイさまたちがはぐれ鏡映点の方を連れて戻ってきました。
カーリャえっと……確かルカさまという方です。
ミリーナカーリャ。詳しい話を聞かせて。
カーリャ了解しました。えっとですね――……。
to be continued