| Character | 1話【回想】 |
| | 聞こえる――マスターの悲鳴が。死の砂嵐から世界を守る砂防堤となった苦しみが。 |
| | 俺は鏡精。鏡士の心が具現化して人格を与えられた、造られた存在。 |
| | 俺は知っている。俺がこうして存在し続けられる限りマスターもまた生きているのだと―― |
| イクス | 魔鏡技 !スタック・オーバーレイ ! ! |
| イクス | ごめん、ミリーナ。みんな。コーキス、後は…頼むぞ…。 |
| コーキス | 嫌だ ! 嫌だ嫌だ嫌だ ! |
| ミリーナ | イクス――――っ ! ! |
| カーリャ | あ ! ?イクスさまの周りに水晶みたいな鏡が… ! ? |
| ミリーナ | ……魔鏡結晶 ! ?――う…、何…アニマ酔いが…。 |
| カーリャ | ミリーナさま ! ? |
| コーキス | カーリャ先輩、落ち着け !ミリーナ様は俺が運ぶ。この場所はもう保たない。逃げるぞ ! |
| カーリャ | コーキス ! ? え ! ? なんで、そんな姿に―― |
| コーキス | 話は後だ ! 行くぞ ! |
| コーキス | ……セールンドの街は完全に魔鏡結晶で覆われちまったな。 |
| カーリャ | コーキス……。どうなってるんですか ? |
| コーキス | この姿か ? |
| コーキス | 俺にもよく分からねぇけどマスターの力を感じるんだ。今までよりずっと強く。 |
| カーリャ | でもイクスさまは……。 |
| ミリーナ | ――イクスは ! ? |
| コーキス | ミリーナ様……。 |
| ミリーナ | ――もしかして、コーキス ? |
| コーキス | そ、そうです ! |
| ミリーナ | ……ということは、イクスとゲフィオンを包み込んだあの魔鏡結晶は、やっぱりイクスの魔鏡暴走で生まれたものなのね。 |
| カーリャ | どういうことですか ? |
| ミリーナ | イクスは……生きているんだわ……。イクスの力が魔鏡結晶で増幅されてそれでコーキスが大人の姿になったのよ。 |
| コーキス | ……ミリーナ様。魔鏡結晶が広がり続けています。この島にいるのは危険です。 |
| ミリーナ | わかったわ。ケリュケイオンに戻って―― |
| コーキス | 駄目なんです。ケリュケイオンも魔鏡結晶に貫かれて動きません。 |
| カーリャ | どうしましょう。船を探すにしてもかなりの人数を乗せられる船でないと……。 |
| コーキス | 港は救世軍に抑えられているだろうな。くそっ……。 |
| ミリーナ | ……鏡界を造るわ。 |
| コーキス | 鏡界 ? それは一体何ですか ? |
| ミリーナ | 想像の魔鏡術の奥義の一つよ。鏡界という仮想空間を造り出して維持するの。そこへみんなで逃げ込みましょう。 |
| ミリーナ | 私には制御が難しい術だけれど、今の私はゲフィオンの記憶も持っているからやり方はわかるわ。 |
| ミリーナ | それにイクスが暴走させた魔鏡の結晶が私の力を補佐してくれる。 |
| ミリーナ | 仮想鏡界、展開―― |
| | ――一ヶ月後 |
| | 鏡界の拠点 |
| カーリャ | コーキス。見つけましたよ。こんなところで油を売ってる場合ですか ! ? |
| コーキス | うるさいなぁ、先輩は。 |
| カーリャ | うるさいとはなんですか !カーリャだって頑張ってるんですよ ! |
| カーリャ | この鏡界を維持するのもカーリャの仕事だし、ガロウズさんの仕事も代わりにやらなきゃだし ! |
| コーキス | ……ガロウズさんどこに行っちまったんだろうな。 |
| カーリャ | ですね……。一ヶ月前のあの日――鏡殻変動の時にはぐれたきりで……。 |
| カーリャ | やっぱりアスガルド帝国か救世軍に捕まってるんでしょうか。 |
| コーキス | アスガルド帝国か……。何なんだよ、あれ。いきなりオーデンセのあった場所に新しい島を造ってさ。 |
| コーキス | 古のアスガルド帝国の復活だとか言い出して―― |
| ミリーナ | そうね。あのデミトリアス陛下が突然そんなことを言い出すなんて狐につままれた気分だわ。 |
| コーキス | ミリーナ様 ! ? す、すみません……。掃除さぼって……。 |
| ミリーナ | あら、さぼっていたの ? |
| コーキス | あ、いや……えっと……。 |
| カーリャ | ミリーナさま……これから私たちどうなっちゃうんでしょう。 |
| カーリャ | イクスさまの力が暴走してできた魔鏡結晶が世界中に広がってるし、光魔の鏡はないのに何故か光魔は湧き放題です。 |
| カーリャ | アスガルド帝国は鏡殻変動をミリーナさまのせいだなんて言ってるし……。 |
| ミリーナ | 私のせい――というのはある意味では正しいわね。 |
| ミリーナ | ゲフィオンの人体万華鏡が機能していればイクスに魔鏡暴走を引き起こさせることもなかった……。 |
| カーリャ | そんなのミリーナさまのせいじゃありません ! |
| ミリーナ | ……ありがとう、カーリャ。コーキス、さぼっちゃ駄目よ ? |
| カーリャ | ミリーナさま、何か用だったんじゃ……。 |
| ミリーナ | 二人の様子を見に来ただけよ。それじゃあね。 |
| 二人 | ………………。 |
| Character | 1話【回想】 |
| | 聞こえる――大地の軋む音が。人々の怨嗟の声が。 |
| | あの場所は永遠の鏡の檻。イクスと過去の私が死の砂嵐と共に眠る場所。 |
| | だけど私は決めている。たとえ世界の全てを敵に回しても必ずあの鏡の檻を打ち破ると。 |
| | アスガルド帝国首都イ・ラプセルエリジウム宮殿 |
| ミトス | …………。 |
| ミトス | (本当に、これで良かったの ? ) |
| ??? | ミトス、やっぱりここにいたんだ。マーテルさんが捜していたよ。 |
| ミトス | ……ありがとう。フィリップ――じゃなくてジュニアって呼べばいいんだっけ ? |
| ??? | うん。フィリップって奴が三人もいるから混乱するって、メルクリアが……。 |
| ミトス | 一人目がフィリップ、二人目がファントム三人目がジュニアか。でもいいの ?自分の名前を変えられて。 |
| ジュニア | あはは、まぁ、仕方ないよ。それより体はもう大丈夫 ?幻影融合はアニマを傷つけるから……。 |
| ミトス | うん、大丈夫。うかつだったよ。魔鏡術には疎いから、ファントムの計画に気づくのが遅れちゃって。 |
| ミトス | これじゃ、人のドジのことを笑えないね。 |
| ジュニア | でも、幻影化が解けた後、チェスターにアニマを分けてあげたんでしょ ? それでミトスたちは回復が遅れたんだし……。 |
| ミトス | アニマを ? ―ああ、マナを分ける作業をそう呼ぶのか……。エンコードって便利だけれど困ることも多いね。 |
| ミトス | 正確にはアニマを分けた訳ではないと思うんだけど……どう説明したらいいのかな。生命力を分けたって感じかもね。 |
| ジュニア | そんなことができるなんてミトスの世界の技術はすごいね。 |
| ジュニア | そのおかげでチェスターはすぐに動けるようになって僕らに合図を送ってくれた。 |
| ジュニア | だからファントムを止められたんだ。本当にありがとう、ミトス。 |
| ミトス | ううん……。でもあれから大変だったね。 |
| ミトス | スタック・オーバーレイの余波に巻き込まれてみんなセールンドのお城から逃げ出すので精一杯だった。 |
| ジュニア | メルクリアの助けがなかったら危なかったね。 |
| ミトス | ……メルクリア、か。 |
| ジュニア | ミトスはメルクリアが嫌いなの ? |
| ミトス | …………。 |
| ミトス | (自分を見ているようで……反吐が出るなんて言ったら、ボクはボクであることをやめることになる) |
| カイウス | ジュニア ! おっと、ミトスもいたのか。丁度いい。救世軍が動き出したらしい。オレとシングで様子を見てきていいか ? |
| ミトス | ――ボクも行こうか。 |
| カイウス | お前もかよ。リヒターもアステルが止めてくれなきゃ一緒に来るつもりだったし。 |
| カイウス | もう少し休んでた方がいいと思うぞ。ディストの奴を見習ってさ。 |
| ミトス | あいつ、一番ぴんぴんしてたのにまだ寝てるの ! ? |
| カイウス | 丈夫なんだかひ弱なんだか訳わからないよな。 |
| ジュニア | 出撃のこと、フレンには伝えた ? |
| カイウス | ああ、伝えてある。オレ行くぞ。 |
| ジュニア | 気をつけて。それから――なるべく相手を傷つけないで。 |
| カイウス | ああ、わかってるよ。そっちも無理するなよ ! |
| ミトス | ジュニア。この世界は、これからますます混乱するよ。 |
| ジュニア | ……そうだね。でも僕は……僕らはメルクリアの元から離れられない。 |
| ミトス | ……離れた方がもっと混乱を引き起こすから ? |
| ジュニア | …………。 |
| ミトス | だから……鏡映点は殺すべきだった、のかも知れないね。 |
| ミトス | 今考えると、そこまで計算してファントムとフィリップを利用していたのかも知れない。……デミトリアスは。 |
| ジュニア | ……行こう、ミトス。何をするにしてもまずは傷を癒やさないと。 |
| ジュニア | マーテルさんも心配してるよ。それにノイシュもね。 |
| ミトス | ……うん。 |
| Character | 1話【回想】 |
| コーキス | ミリーナ様 ! |
| ミリーナ | コーキス ! ? どうして……。 |
| コーキス | カーリャに言われたんです。ミリーナ様が何かを隠してるって。 |
| コーキス | このところ、ミリーナ様は一人で情報収集に出て行くから今回もそうじゃないかと思って。 |
| ミリーナ | ……カーリャは私の鏡精ですものね。何を考えているかまではわからなくても心が揺れていることはわかっちゃうのね。 |
| コーキス | 単独行動はやめて下さい。 |
| コーキス | みんな心配してますよ。最近のミリーナ様は一人で思い詰めてるんじゃないかって。 |
| ミリーナ | そんなことないわ。 |
| ミリーナ | ……ただ、私たちがこれからどうしていくのかを決めるには情報が必要だと思って。 |
| ミリーナ | それに鏡映点の人たちがこの世界で暮らしていくための環境も整えてあげないと……。 |
| コーキス | だったらその話をみんなにしてみんなで問題を解決していけばいいじゃないですか ! |
| ミリーナ | そうね……。でも駄目よ。今から私がやろうとしていることは私のエゴだから。 |
| コーキス | え…… ? |
| ミリーナ | 救世軍が動き出したみたいなの。そのおかげでアスガルド帝国の目が救世軍に向いた。 |
| ミリーナ | 今ならセールンドの守備が手薄になっている筈よ。 |
| コーキス | まさか……マスターを助けるつもりですか ! ? |
| コーキス | 今魔鏡結晶を破壊したら死の砂嵐が外に流れ出ますよ ! ? |
| ミリーナ | そうね……。でも構わないわ。イクスを助けるためなら。 |
| コーキス | そんなのミリーナ様じゃない ! |
| ミリーナ | いいえ。イクスのためなら何でもできるの。イクスはいつだって私を守ろうとして私のせいで命を落としてきた。 |
| ミリーナ | だから私は、イクスを救いたい。そのためには―― |
| ミリーナ | 世界だって滅びても構わない。それが【私】だったのよ。 |
| コーキス | ……嘘だ。それならあの時――マスターを助けるために魔鏡結晶を壊していた筈だ ! |
| ミリーナ | そのつもりだったわ。でもその前に私は気を失ってあなたに外へ連れ出されてしまった。 |
| ミリーナ | あれからセールンドはアスガルド帝国に封鎖されて、誰も立ち入ることができなくなってしまったわ。 |
| ミリーナ | だから私は機会をうかがっていたのよ。 |
| コーキス | …………。 |
| コーキス | マスター。こんな夜中に何してるんだ ? |
| イクス | ……勉強だよ。魔鏡術のこととか、色々さ。 |
| コーキス | もしかして最近図書室に閉じこもってるのもその勉強のせいなのか ? |
| イクス | まぁな。最近、ミリーナが何か隠してて……でも俺には話してくれなくてさ。俺じゃ頼りにならないのかなって。 |
| コーキス | 心配かけたくないからじゃないのか ? |
| イクス | うん、わかってる。だけどミリーナって何でも一人で解決しようとするところがあるんだ。 |
| イクス | 俺にもそういう所があるけど、それって結局怖いからなんじゃないかなって思うようになって……。 |
| コーキス | 怖い ? 何が ? |
| イクス | 信じることが、かな。信じるって凄いことだと思うんだよ、俺。 |
| イクス | 誰かや何かを本当に信じることができたとき人は凄い力を出せるんじゃないかって鏡映点の人たちを見て思うようになってさ。 |
| イクス | でも誰かに信じて欲しいならまず自分が自分を信じられるようにならなきゃなって。 |
| イクス | 俺、色々あったから、どうしても自分を素直に信じるのが怖いんだ。だからもっと強くなろうって思ったんだよ。 |
| コーキス | それで勉強かよ ! ?マスターってズレてるな。剣とか練習した方がいいんじゃないか ? |
| イクス | はは、強さにも色々あるんだって。俺は俺のできることをやってるんだ。いざというときのためにさ。 |
| イクス | あ、みんなには言うなよ。なんか恥ずかしい……。 |
| コーキス | (今になってマスターの言ってたことがわかる気がする。信じるって怖い。でも――) |
| コーキス | ミリーナ様。俺も一緒に行かせて下さい。 |
| ミリーナ | 私の邪魔をするつもりなら……。 |
| コーキス | ――邪魔はしません。でも、俺はマスターから託されたんです。この世界の未来とみんなを。 |
| コーキス | それにミリーナ様のことも。だから、一緒に行かせて下さい。 |
| ミリーナ | ……わかったわ。 |
| | 聞こえる――大地の軋む音が。人々の怨嗟の声が。 |
| | ここは永遠の鏡の檻。死の砂嵐をここに【スタック】させるしか今は世界を守る術がない。 |
| | でも俺は信じている。【みんな】が未来をたぐり寄せてくれることを―― |
| Character | 2話【1-1 ひとけのない草原1】 |
| コーキス | ここはセールンドのどのあたりになるんですか ? |
| ミリーナ | セールンドの街から北の街道よ。 |
| ミリーナ | 街の中に転移できれば良かったんだけど魔鏡結晶の多いところには転移ゲートを作れないの。 |
| コーキス | 帰る時も同じゲートを使わないといけないんですよね。 |
| ミリーナ | 基本的にはね。 |
| ミリーナ | 転移先の安全を確保しなければいけないから好きな場所から行き来する……という訳にはいかないのよ。 |
| コーキス | 魔鏡通信も使えなくなったんですよね。 |
| ミリーナ | そうね……。魔鏡結晶と魔鏡通信が干渉してノイズが発生してしまうみたいなの。 |
| ミリーナ | ただ私とカーリャは連絡が取れるからいざというときはそれを使っていくしかないわね。 |
| コーキス | カーリャ先輩がむくれてましたよ。自分もミリーナ様と一緒に行きたいって。 |
| コーキス | 俺も気持ちはわかります。鏡精はマスターのそばにいるのが普通ですし。 |
| ミリーナ | そうよね……。私もカーリャがいなくて寂しいわ。 |
| ミリーナ | でも仮想鏡界を維持するためにはカーリャに残っていてもらわないと。 |
| ミリーナ | コーキスも……イクスと離れていて寂しいわよね。 |
| コーキス | ……はい。それに不思議な感じです。マスターがそばにいないのに自由に動けるなんて。 |
| コーキス | これも世界中の魔鏡結晶からマスターの力があふれているからですよね。 |
| コーキス | マスターが守ってくれてるんだって思います。この世界も俺のことも。 |
| ミリーナ | ……ええ。イクスの力のおかげよ。 |
| コーキス | ――ミリーナ様、今の鳴き声は……。 |
| ミリーナ | 光魔だわ。しかも数が多い……。 |
| コーキス | ミリーナ様、下がってください。俺が―― |
| ミリーナ | 大丈夫。戦えるわ。 |
| ヴェイグ | ――だが、あれだけの数だ。オレたちも協力する。 |
| コーキス | ヴェイグ様とジュード様それにキール様とメルディ様も ! ? |
| ジュード | 話は後だよ。まずは光魔を片付けよう ! |
| Character | 3話【1-1 ひとけのない草原1】 |
| ミリーナ | みんな……。どうしてここに……。 |
| ヴェイグ | オレたちもオレたちなりに鏡殻変動以後の世界情勢を調べていた。 |
| キール | 情報を精査したところ、アスガルド帝国側にはぐれ鏡映点らしき存在が複数いる可能性が高くなった。 |
| ジュード | 僕やユーリの仲間もアスガルド帝国にいる可能性が高いんだ。それでイ・ラプセルに潜入しようってことになったんだよ。 |
| ジュード | でも、カーリャに転移を頼もうとしたらカーリャの様子がおかしかったからちょっと……問い詰めたんだ。 |
| メルディ | ジェイドとリオン、カーリャ囲んだよ ! |
| コーキス | うぇ……。その二人じゃカーリャ先輩なんか太刀打ちできねぇや……。 |
| ジュード | ア、アハハ……それで手分けすることにしたんだ。イ・ラプセル潜入組とミリーナたちを追いかける組にね。 |
| キール | ぼくは来るつもりはなかったがメルディが……。 |
| メルディ | ミリーナ、思い詰めてた。みんなすごく心配してる。 |
| ヴェイグ | ああ。イクスの元に行くのなら何故みんなに知らせないんだ ? |
| ミリーナ | ……私が自分の我が儘でイクスに会いに行くだけだから。 |
| ジュード | ミリーナ。君がそんな理由だけでセールンドに行くなんてみんな信じないよ。 |
| ジュード | ミリーナは頭のいい人だから。 |
| ミリーナ | ……みんなに迷惑はかけないわ。約束します。必ずいい結果を出すわ。だから……私を一人で行かせて。 |
| キール | イクスの代わりになるつもりか。 |
| ミリーナ | …………。 |
| ジュード | やっぱり……。イクスが自分の代わりに死の砂嵐を防いでくれたと思ってるんだね。 |
| コーキス | 待ってくれ。ミリーナ様だってマスターがどうしてあの時スタック・オーバーレイを起こしたのかをわかってる筈だ。 |
| ミリーナ | コーキス……。 |
| メルディ | コーキスも知ってるか ?イクスがメルディたちに託したモノ。 |
| ミリーナ | ……え ? |
| コーキス | 託したもの…… ?いや、俺はそのことはよく知らないよ。 |
| コーキス | でも俺はマスターの鏡精だから、マスターが何を願っていたかはわかる。マスターはミリーナ様を守りたいんだ。 |
| コーキス | だから俺もマスターと同じようにミリーナ様を守るし、ミリーナ様も自分を大事にしてくれるって信じてる。 |
| ジュード | そうか……。コーキスはイクスの心と繋がっているんだものね。 |
| ジュード | 僕たちはイクスの心の中まではわからないけど、それでもイクスが何をしてきたのかは突き止めたよ。このメモを見て。 |
| コーキス | これは…… ?難しそうな名前が書いてあるけど……。 |
| ミリーナ | これ……魔鏡術の関連書籍のタイトルだわ……。 |
| キール | それはイクスが図書室で読んでいた本だ。 |
| ジュード | 借りた本を貸し出しノートに記入するルールを作っておいてよかったよ。 |
| ジュード | おかげでカノンノがタイトルの関連性に気づいたんだ。 |
| ミリーナ | これは……スタック・オーバーレイの制御と統合を学ぼうとしていた…… ? |
| キール | その通りだ。 |
| キール | ここに書かれていた本を読んでいたならイクスはスタック・オーバーレイの制御と暴走の結果を熟知していた筈だ。 |
| ミリーナ | そうだとしても―― |
| ジュード | イクスはミリーナの身代わりになった ?それは違うよ。 |
| キール | あの時、融合の性質を帯びた死の砂嵐を食い止められる可能性が最も高かったのは創造の魔鏡術の血筋であるイクスだった。 |
| ミリーナ | それでも私はイクスを魔鏡結晶の外に出してあげたい !今なら準備ができているわ。 |
| ミリーナ | この一ヶ月私が組み上げた人体万華鏡の補強術を使えば、死の砂嵐を食い止めてイクスを助け出せる ! |
| コーキス | それは……ミリーナ様もゲフィオン様と同じように魔鏡化して生きながら死ぬってことですか ? |
| コーキス | マスターが命がけでミリーナ様を守ろうとしたのに ? |
| コーキス | ゲフィオン様のことでカーリャ先輩がどんな思いをしているのかミリーナ様にも分かっている筈なのに ? |
| ミリーナ | ! ! |
| ヴェイグ | 立場は違うが……ミリーナの気持ちはオレにも察することはできる。 |
| ヴェイグ | どんなことをしてでも助けたいせめてそばにいたい――そんな気持ちなんじゃないか。 |
| ヴェイグ | だがミリーナがやろうとしていることは同じ苦しみをイクスに背負わせることに繋がる……。 |
| メルディ | カーリャも、つらい思いするよ。 |
| ジュード | ミリーナ。思い出して。イクスは何て言ってた ? |
| ミリーナ | 「ごめん、ミリーナ。みんな」って……。 |
| ジュード | その後だよ。イクスはこう言ったんだよね。「コーキス、後は頼む」って。 |
| ジュード | コーキスはイクスの鏡精だよ。鏡精は鏡士が消えたら一緒に消える。それなのに「後は頼む」って言ったんだ。 |
| ジュード | イクスは全部計算していたんだよ。そしてあの場を救える一番成功率の高い方法をはじき出した。 |
| キール | イクスはスタック・オーバーレイで魔鏡術を人体が耐えうるギリギリまで重ね合わせた。 |
| キール | そして自分が魔鏡になるのではなく魔鏡――魔鏡結晶の中に自分が入ることで死の砂嵐の砂防堤になる選択をした。 |
| キール | 永久に死の砂嵐を食い止めるならゲフィオンのように自分が魔鏡そのものになれば確実なのに、それを選択しなかった。 |
| コーキス | ――そうか……。信じてたんだ。俺たちが死の砂嵐を無くす方法を見つけてマスターを助け出すって。 |
| ミリーナ | ! ! |
| ヴェイグ | ……だから「ごめん」なんだな。オレたちに面倒な課題を押しつけることになるから。 |
| コーキス | すみません、ミリーナ様。 |
| コーキス | 俺マスターに託されたのに……マスターを信じてたのに、マスターに信じられてるって本当の意味ではわかっていなかった。 |
| ミリーナ | どうして謝るの……。私……私が……いつまでもイクスのこと守らなきゃいけない存在だって思い込んでて……。 |
| ミリーナ | 私が私がって……。私はただイクスを助けたいとしか思っていなかった。イクスの気持ちのこと後回しにしてた……。 |
| ミリーナ | ――イクス……っ ! |
| メルディ | ミリーナとイクスが、本当に心繋がった ? |
| ミリーナ | メルディ……。うん……うん……。多分、私、やっとイクスと同じところに来られたんだと思う……。 |
| ミリーナ | メルディたちと出会った時の私たちはまだ本当の意味でお互いのことをわかっていなかったんだって……。 |
| ミリーナ | やっと……わかった。 |
| Character | 4話【1-2 ひとけのない草原2】 |
| ヴェイグ | ……落ち着いたか ? |
| ミリーナ | ……ええ。ごめんなさい。私……涙が止まらなくて……。 |
| ミリーナ | でももう大丈夫。ちゃんと冷静になってこれからのことを考えなくちゃね。どうやって死の砂嵐を食い止めるか。 |
| ミリーナ | 私……この一ヶ月、ただイクスを助けることしか頭になかったから。 |
| メルディ | みんなで考えればきっといい方法見つかる ! へーき ! |
| ジュード | うん、そうだね。それじゃあいったん仮想鏡界に戻ろうか。 |
| コーキス | …………。 |
| メルディ | コーキス、どうかしたか ? |
| コーキス | え ? あ、いや、何でもないよ。俺、まだまだだなって。 |
| コーキス | もっとマスターの鏡精……として頑張らないとなって。 |
| ミリーナ | コーキス。私のことを信じようとしてくれていたのに、騙すような真似をしてごめんなさい。 |
| コーキス | いや、そんなことありません。俺がまだまだ未熟なだけです。 |
| コーキス | (マスターも言ってた。信じるって難しいって) |
| コーキス | (俺はとりあえずミリーナ様の判断を盲目的に信じて、きっとわかってくれるって簡単に思ってたんだ) |
| コーキス | (違うんだ。信じるって……。でも――) |
| コーキス | (カーリャ先輩もミリーナ様が何をしようとしていたのかはっきりとはわからなかった) |
| コーキス | (ゲフィオン様とミリーナ様が同じ存在だってことも気づかなかった) |
| コーキス | (鏡精はマスターの本当の心を感じ取れると思っていたけど……。マスターは鏡精を【謀れる】んじゃないのか…… ? ) |
| ヴェイグ | 気をつけろ ! 新手だ ! |
| ??? | ……無駄だ。 |
| コーキス | 誰だ ! ? |
| ??? | 誰でもいい。それより君たちが黒衣の鏡士とそのしもべたちか。 |
| キール | おい、いつからぼくたちはしもべになったんだ ! ? |
| ??? | 呼び方など何でもいい。どうせここで潰える運命だ ! 行け、光魔 ! |
| コーキス | くそっ ! やらせるか ! |
| Character | 6話【1-6 草原での連戦4】 |
| キール | 何とか光魔を一掃できたな……。それにしても……。 |
| ミリーナ | ……気を遣わないで。あの人は確かにイクス……にそっくりだったわ。 |
| ヴェイグ | どういうことだ ? イクスは魔鏡結晶の中にいるんじゃないのか ? |
| メルディ | イクス大人っぽかったな ? |
| ジュード | うん。大人びてた……と思う。雰囲気も……それになんとなく背も大きかったような……。 |
| キール | 過去の具現化ではない……筈だ。イクスは三人目。過去から具現化できるのは二人まで―― |
| キール | ……いや、待てよ。未来から具現化……したのか ? |
| ミリーナ | いえ、それはまだ理論として確立していない筈。 |
| ミリーナ | 似たようなことはビフレスト皇国の鏡士が技術を開発していたけれど具現化するには至っていないわ。 |
| ジュード | ねぇ、スレイとリフィル先生が話していたんだ。 |
| ジュード | アスガルド帝国はセールンド王国とビフレスト皇国を支配していたって。それは本当なの ? |
| キール | 遺跡マニアめ。異世界の歴史にまで興味があるのか。 |
| メルディ | キール、もう異世界が歴史違うよ。メルディが世界で、キールが世界。 |
| キール | そういえばそうか……。まだ実感が沸かないが……。 |
| キール | ……ん ? そうか、アスガルド帝国がビフレスト皇国の鏡士の技術を研究している可能性もあるってことか。 |
| ジュード | うん。もしこの推測が可能ならあのイクスは――。 |
| ミリーナ | ……いえ、でもイクスじゃない。何か違う……ような気がする。 |
| ヴェイグ | コーキスはどうなんだ ? |
| コーキス | ……わからない。マスターならわかる……のかも知れないけど、でもカーリャ先輩はゲフィオン様のことがわからなかったから。 |
| 全員 | ………………。 |
| ミリーナ | ――ごめんなさい。私、やっぱりセールンドのカレイドスコープの所へ行ってみるわ。イクスがどんな状態なのか調べたいの。 |
| ジュード | うん、そうだね。その方がいいと思う。僕たちも一緒に行くよ。また光魔が出ないとも限らないし。 |
| ミリーナ | ええ……。ありがとう。危険かも知れないけど、お願いします。 |
| キール | その前に、光魔について教えてくれ。 |
| ミリーナ | ! |
| キール | お前、光魔について何か知ってるんだな ? |
| キール | 光魔の特性と言っていたが、誰もまだ光魔の生態や、何故光魔の鏡から現れるのか検証していない。 |
| キール | もしかしたらゲフィオンとしての記憶の中に光魔がどんな存在なのか答えがあったんじゃないか ? |
| ミリーナ | ……駄目ね。つい口を滑らせちゃった。 |
| コーキス | ミリーナ様、まだ隠し事が…… ? |
| ミリーナ | そう言われても仕方ないわね。でも……死の砂嵐を封じてしまえば関係ないと思っていたから言わなかったの。 |
| ミリーナ | 光魔は……私――ゲフィオンがカレイドスコープで消滅させたあらゆる生命体が元になって誕生した存在よ。 |
| ミリーナ | 専門的に言うと難しくなってしまうけど……カレイドスコープでアニマを失った生物はアニムス粒子になって消えてしまうの。 |
| ミリーナ | 死の砂嵐の金色の光砂はアニムス粒子の塊なのよ。光魔はアニムス粒子がキメラ結合した生物よ。 |
| コーキス | それってつまり……光魔の元はティル・ナ・ノーグに昔存在していた人間や動物の幽霊――みたいなことですか ? |
| ミリーナ | ええ。ゲフィオンとしての研究ではそうだった……。ごめんなさい。鏡映点を狙う光魔まで私のせいだったのよ。 |
| メルディ | 違うよ。ミリーナとゲフィオン違う。 |
| ミリーナ | ……頭ではわかってるの。でもゲフィオンの記憶が私にはある。私のあり得た過去――そして未来がゲフィオンなんだって……。 |
| コーキス | ミリーナ様は何もかも自分で背負い込むところがあるってマスターも心配してました。 |
| コーキス | そういう考え方はやめましょう。 |
| ミリーナ | ……そうね。ええ、努力する。すぐには無理かも知れないけれど頑張るわ。 |
| キール | ……こんなところで聞き出して悪かった。ミリーナが大丈夫なら、注意しながらカレイドスコープの所へ急ごう。 |
| キール | 魔鏡結晶が世界中に出現しているということは光魔が出やすいということだからな。 |
| ミリーナ | ええ。行きましょう。 |
| Character | 7話【1-15 カレイドスコープ前】 |
| コーキス | ――マスター。魔鏡結晶の中にいるな。ゲフィオン様を守るみたいに抱き寄せてる……。 |
| ヴェイグ | ……まるで氷の中に閉じ込められているみたいだ。 |
| ジュード | イクスがここにいるってことはさっきのイクスにそっくりな人は……。 |
| メルディ | …… ? |
| キール | どうした、メルディ ?さっきから首をかしげて。 |
| メルディ | イクス……髪伸びたのか ? |
| キール | いや、そんな筈がないぞ。魔鏡結晶の中は―― |
| キール | 中はどうなってるんだ ?普通に時間が経過するのか ? |
| キール | もしそうだとしたら餓死したりする可能性もある。 |
| キール | ――いや、内側は虚無と繋がっているんだから、生命活動は停止するのか。 |
| ジュード | え ? でも髪が伸びているなら停止してないんじゃない ? |
| ミリーナ | ……違う。なんとなくイクスの姿がぼやけているわ。もしかしたら魔鏡結晶が内側にも何か影響を及ぼしているのかも。 |
| ミリーナ | 髪は少し伸び始めているけど排泄が行われていない。単に時間が経過しているんじゃないと思う。 |
| ヴェイグ | このままにしておいていいのか ! ? |
| ジュード | だけど無理矢理魔鏡結晶を壊せばイクスにも影響があるかも知れないし死の砂嵐も止められないよ。 |
| ミリーナ | 上手く言えないけれど、この中のイクスに魔鏡に映された未来や過去のイクスが重なって見えているんだと思うわ。 |
| ミリーナ | さっきも話したけれど、ビフレストの技術にそういうものがあったの。 |
| ミリーナ | 魔鏡の性質が暴走しているから、イクスの過去と未来が反射して、ぼやけた像が私たちに見えている……のじゃないかしら。 |
| キール | なら、イクスは大丈夫なのか ? |
| ミリーナ | わからない。いつか鏡に映ったイクスが魔鏡結晶の中のイクスのアニマを喰ってしまうかも……。 |
| ミリーナ | スタック・オーバーレイで魔鏡の力を高めるってことは、合わせ鏡という危険な手法を制御することだから。 |
| ミリーナ | せめてガロウズさんかビフレストの魔鏡術に詳しい人がいれば―― |
| ??? | ……へぇ、まさかこんな所に黒衣の鏡士がいるなんてね。 |
| コーキス | 誰だ ! ? |
| ??? | もう一人の鏡士のお墓参りかい ? |
| ミリーナ | イクスは生きているわ ! |
| ??? | あんな状態で生きてる ? 哀れだね。 |
| コーキス | てめぇっ ! ミリーナ様に謝れ ! |
| ??? | ギャアギャアとうるさいんだよ、眼帯坊や。海賊ごっこは海でやれば ? |
| コーキス | 黙れ ! |
| ??? | あはは、怒ってるの。怒りたいのはこっちの方なんだけどね。 |
| ??? | 丁度良い。恨みを晴らさせてもらうよ傲慢な鏡士サマ ! |
| Character | 8話【1-15 カレイドスコープ前】 |
| シンク | これで終わりだなんて思わないでよね。 |
| コーキス | まだ動けるのか ! ? |
| シンク | アカシック―― |
| マーク | シンク ! ストップだ !俺たちの目的を忘れたのか ! ? |
| シンク | ――アンタか。まだあの黒衣の鏡士に傍惚れしてるの ? |
| マーク | 傍惚れたぁ、ひでぇ言い種じゃねぇか。こっちにも色々事情があるんだよ。 |
| コーキス | マーク ! ? |
| マーク | おおっと、コーキスか。でかくなったって噂は本当かよ。 |
| コーキス | そのシンクって奴はお前の……救世軍の味方なのか ! ?それにこんなところで何をしてるんだ ! ? |
| マーク | 見りゃわかるだろ。仮面の客人を迎えに来たんだよ。 |
| ミリーナ | マーク。フィルが近くにいるのよね ?会わせて。フィルならイクスの状態がどんなものなのかわかるでしょう ? |
| マーク | 悪いな、ミリーナ。こっちは先約があるんだ。フィルと三人のティータイムはまた今度な。 |
| ジュード | 待って ! アルヴィンも一緒なの ! ?それともアルヴィンもアスガルド帝国に―― |
| マーク | アルヴィンねぇ……。 |
| マーク | あの三重スパイくんなら、出ていったぜ。まぁ、色々助けられもしたから恨みはねぇけどな。 |
| ジュード | 三重スパイって…どういうこと ! ? |
| マーク | 別の所にご主人様がいるんだとよ。お前らも知ってるだろ。あの赤い髪のチャラチャラした……。 |
| ミリーナ | ゼロスさんね。 |
| マーク | そういうこった。こっちも忙しいんでね。あいつらのことはそっちで捜して何とかしてくれ。じゃあな。 |
| コーキス | あ、待て ! その仮面の男は置いてけ ! |
| コーキス | ――って行っちまったか。追いかけますか ? |
| ミリーナ | いいえ。あのシンクという人が私を狙ったことより今はイクスのことが心配だわ。 |
| コーキス | (何だ…… ? また左目の奥が痛い……) |
| コーキス | (この姿になったときから眼帯がついてて外れないけど俺の左目はどうなってるんだ…… ? ) |
| ミリーナ | ――そうだ。ユーリさんたちがアスガルド帝国へ向かったのよね ?何とか連絡を取れないかしら。 |
| ミリーナ | ビフレスト皇国の魔鏡技術に関する資料を見たいわ。 |
| ヴェイグ | 一度仮想鏡界に戻るか ? |
| ジュード | そうだね。それでユーリたちが開いた転移ゲートを確認すれば追いかけることができる。 |
| ミリーナ | 待って。その前にカーリャに聞いてみるわ。ユーリさんたちがどこに転移ゲートを開いたのか。 |
| カーリャ | ミリーナさま……ごめんなさい。あの眼鏡とマントが怖かったから……。 |
| ミリーナ | まぁ、カーリャ。それを二人に聞かれたらもっと怖い思いをするわよ。 |
| カーリャ | はわわわわわ、それは嫌です ! ! ! ! |
| ミリーナ | それよりユーリさんたちのことを聞かせて欲しいの。 |
| カーリャ | ユーリさまたちと言えば、ユーリさまたちと一緒に転移したコンウェイさまたちがはぐれ鏡映点の方を連れて戻ってきました。 |
| カーリャ | えっと……確かルカさまという方です。 |
| ミリーナ | カーリャ。詳しい話を聞かせて。 |
| カーリャ | 了解しました。えっとですね――……。 |
| | to be continued |