| Character | 1話【手紙】 |
| ルドガー | よし、これにしよう。……いや、こっちの方がみずみずしいな。でも量が確保できないと……。 |
| ユリウス | ルドガー、そろそろ行かないと遅くなるぞ。買い物は他にもあるんだろう ? |
| エル | エルもあきちゃった。べつのお店が見たいー ! ね、ルル。 |
| ルル | ナァ~。 |
| ルドガー | でも、この店が一番品ぞろえがいいんだよ。それに今じゃ市場に買い出しなんてそう簡単にはこられないだろ。 |
| ルドガー | アジトで待ってるみんなのためにも、なるべく新鮮で、長持ちする食材を選びたいんだ。だから……。 |
| ユリウス | ……仕方ないな。もう少しだけだぞ。 |
| エル | え~、まだ見るの ? メガネのおじさん、あんまりルドガーのこと甘やかしちゃダメなんだからね。 |
| ユリウス | そんなつもりはないんだが……甘やかしてるかな ? |
| エル | してますー ! |
| ユリウス | そうか。それじゃルドガーと同じくらいエルのことも甘やかせば許してもらえるかな ? |
| エル | 大人はずるいなあ。そういうの、取り引きとか、コーカンジョーケンていうんでしょ ?でも、いいよ ! |
| ユリウス | よし、取り引き成立だ。このあとエルの好きなものを買おう。だからルドガーのこと、待ってやってくれ。 |
| エル | わかった !それとルルにも何か買って ? |
| ユリウス | よしよし、ルルには奮発して高級ネコ缶だ。楽しみにしておけよ。 |
| ルル | ナァ~♪ |
| ルドガー | 悪いな。代わりに今日は特別に美味いものを作るよ。――あ、これもいいな。すごく新鮮だ。 |
| エル | え……トマト ! ? |
| ユリウス | 確かにいいトマトだ。今夜はこれをスープにしてくれないか ? |
| エル | ダ、ダメだよ ! そんなことしたらロイドやコンウェイだってきっとウエッてなるし―― |
| ルル | ――ナァ ! |
| エル | ルル、どこ行くの ? |
| シング | ――いた !よかった……見つかって。 |
| エル | ……だれ ? |
| シング | えっと、きみ、黒衣の鏡士の仲間――だろ ? |
| エル | ―― !ルドガー、変な人がいる ! |
| ユリウス | 誰だ ! ! |
| ルドガー | エルに何を…… ! |
| シング | な、何もしてないよ !なんでオレっていつもこうなんだ……。 |
| エル | あのね、この人、こくいのかがみしっていった。エルのこと、仲間だろって。 |
| ユリウス | ……何のつもりで近づいた。場合によっては子どもとはいえ――― |
| シング | そうじゃなくて ! いや、そうなのか…… ?でも、驚かせちゃったならごめんなさい。オレはこれを渡しに来ただけなんだ。 |
| ルドガー | ……手紙 ? |
| シング | これをクレスに渡してほしいんだ。 |
| ユリウス | 君が何者かもわからないのに受け取れるわけがないだろう。先に詳しい話を聞かせてもらおうか。 |
| シング | 時間がないんだ。もう戻らないと……。手紙、ここに置くから。必ず届けて下さい。お願いします ! |
| ユリウス | おい、待て―― |
| ルドガー | クレスに渡せって……知り合いなのか ? |
| ユリウス | 何かの罠かもしれない。ルドガー、エルを連れてアジトへ戻れ。俺は奴の後を追う。 |
| ルドガー | 兄さん ! |
| ユリウス | すぐに戻る。目印を残していくから、万が一の時にはそれをたどれ。お前ならわかるだろう。 |
| エル | 行っちゃった……。一人で大丈夫かな。 |
| ルドガー | 兄さんのことだ。心配はいらないだろうけど……。 |
| エル | そうだよね ! メガネのおじさん、強いもん。それにエルたちは、ほかにやることあるんでしょ ? |
| ルル | ナァ~ ! |
| ルドガー | そうだな。こっちは兄さんに任せて、まずはこの手紙をクレスに届けよう。 |
| Character | 2話【3-1 静かな街】 |
| クレス | ――その青年が僕に手紙を ? |
| ルドガー | ああ。悪いけどすぐに中身を確認してもらえないか ?兄さんが今、そいつを追っているんだ。 |
| クレス | わかった。ごめんロイド。手合わせはまた今度にしてもらえるかな。 |
| ロイド | かまわないぜ。それで、何て書いてあるんだ ? |
| クレス | うん……えっと……。 |
| クレス | ―― ! |
| ロイド | どうしたクレス、顔が怖いぞ。 |
| クレス | ロイド、すぐミリーナを呼んでくれないか。この手紙の内容を説明しないと。ルドガーさんも一緒に聞いて下さい。 |
| ルドガー | あれ ? ミリーナは……。 |
| ロイド | どこ捜してもいねえんだよ。みんなにも声かけたんだけど、知らないみたいでさ。今もコレットに捜してもらってる。 |
| リフィル | 時間もないことだし、ミリーナの代わりに私が話を聞くわ。クレスの事情も承知しているから問題なくてよ。 |
| ルドガー | クレスの…… ? |
| クレス | 僕が説明します。……まずこの手紙だけど、差出人はチェスターなんです。 |
| ロイド | チェスター ! ?鏡殻変動の後にはぐれちまったんだよな ?居場所わかったのか ! |
| クレス | わかったんじゃなくて、わかっていたんだ。……嘘をついてごめん。 |
| クレス | 実は、セールンドの王宮から脱出した時に―― |
| チェスター | なんとか脱出できたな……。大丈夫かクレス ! |
| クレス | ああ。チェスターも無事で良かったよ。すぐにミリーナたちに合流しないと。さあ、行こう。 |
| チェスター | …………。オレはまだ、一緒には行けない。 |
| クレス | ―― !どうして……。 |
| チェスター | ファントムは特異鏡映点を捕らえてた。そいつらの行方を追わないと。それに……。 |
| チェスター | とにかく、オレはもう少し救世軍側に残って探るから、クレスは戻れ。何かおかしな動きがあったら必ず連絡する。 |
| クレス | そんなの危険だ ! この後だって何が起こるかわからないんだぞ。 |
| チェスター | 心配すんなって。今までだってそこそこ上手くやれてただろ ?ま、お前にはバレちまってたみたいだけど。 |
| クレス | 当たり前だろ。どれだけ一緒にいたと思ってるんだ。 |
| チェスター | ハハッ、だよな。でも、そういうお前がいるから、オレは安心してフラフラできるんだけどさ。 |
| クレス | はぁ……、わかった。ただし絶対に無理するなよ。信じてるからな、チェスター。 |
| チェスター | すまねぇクレス。後で謝るなんて言って、またこんなこと……本当に―― |
| クレス | それ以上はいいよ。無事に戻って来たら、全部ひっくるめてちゃんと謝ってもらうからな。 |
| チェスター | ああ、覚悟しとくぜ ! |
| ルドガー | ……そうだったのか。 |
| リフィル | この話は、潜入しているチェスターの安全も考えて、クレスとごく一部の者だけに止めておいたのだけれど……。 |
| リフィル | あちらに何か動きがあったようね。 |
| クレス | はい。チェスターの情報では、鏡殻変動後、救世軍の半数以上が、アスガルド帝国に吸収されたそうです。 |
| クレス | チェスターは帝国側に入り、現在は四幻将という立場で、ビフレスト皇国の生き残りの皇女に仕えていると……。 |
| ロイド | すげえなチェスター。それならいろんな情報が仕入れられるな。 |
| クレス | ああ。それで帝国側には特異鏡映点が複数いることがわかったらしい。その人たちを助けて欲しいって書いてあるんだ。 |
| クレス | 地図も添えてあったよ。これが帝国側への侵入経路だって。 |
| ルドガー | 隠し通路か。建物の内部にまで通じてるな。これなら―― |
| クレス | ルドガーさん、そのことなんですけど、手紙には絶対に帝国に来てはならない人物の名前が書かれていて……。 |
| クレス | それが「ルドガー、ユリウス、エル」の三人だったんです。 |
| ルドガー | 俺たちが…… ? どうして。 |
| クレス | 理由までは書かれていませんでした。でも、ユリウスさんが、この手紙を届けにきた人物を追っているってことは……。 |
| リフィル | チェスターの協力者が戻る場所――つまり帝国側に足を踏み入れる可能性が高いわね。 |
| ルドガー | ―― !まだ間に合うはずだ。俺はすぐに兄さんを追いかける ! |
| エル | エルも行く ! |
| ルドガー | いや……エルはここで待っててくれ。 |
| エル | なんで ! ? エルとルドガーはアイボーでしょ。 |
| ルドガー | 買い物に行くのとは違うんだ。どんな危険があるかわからないんだぞ。 |
| エル | 今までだって、危ない所いっぱい一緒にいったよ ! |
| エル | エルだってメガネのおじさん心配だもん。それに……ルドガーまでどっかいっちゃったら……エルは……。 |
| コレット | ねえロイド、やっぱりミリーナ見つからないよ。――あれ……何かあったの ? |
| ミラ=マクスウェル | どうした。なぜ泣いているんだ、エル。 |
| エル | 別に……泣いてないし ! |
| ミラ=マクスウェル | そうなのか ? 私には不安で泣いているように見えたのだが。 |
| エル | そ……そんなの……。あなたがエルの知ってるミラじゃないから、わかんないんだよ ! |
| ミラ=マクスウェル | ……。 |
| ルドガー | ごめんミラ。これから行く所は危険だから、エルは連れていけないって話をしてたんだ。だからちょっと気が立ってて……。 |
| ミラ=マクスウェル | そうか。……ならば、私が同行しよう。私がエルを守れば問題ないだろう ? |
| エル | ……え ? |
| ミラ=マクスウェル | 私がお前を守るといったのだ。それならルドガーも自由に動けるし、エルも安全だ。ダメか ? |
| エル | ダメ……じゃないけど。 |
| ミラ=マクスウェル | それなら良かった。どうだルドガー。これでエルを連れて行けるんじゃないか ? |
| ルドガー | ……わかった。頼むよ。 |
| エル | ……別にエルは、頼んでないからね。 |
| ミラ=マクスウェル | もちろん。私が私の意志で、お前を守りたいから行くだけだ。 |
| エル | ……。 |
| コレット | ……ねえ。私も一緒に行っていいかな。 |
| ロイド | そうだな。俺もルドガーについて行こうと思ってたんだ。人捜しは多い方がいいだろ ? |
| クレス | じゃあ僕は帝国への侵入経路を調査するよ。場合によっては、そのまま建物内部にも潜入することになると思う。 |
| リフィル | そうね。もしものことを想定して、それ相応の戦力をそろえていった方がいいわ。 |
| クレス | はい。ユーリやセネルにも声をかけてみるつもりです。二人とも、あちら側に知り合いがいる可能性があるようなので。 |
| リフィル | わかりました。それでは各々準備を進めて。あなたたちのことはミリーナに伝えておきます。 |
| ルドガー | ああ。それじゃ俺たちはすぐに出発するよ。エル、行こう。 |
| エル | ……うん。 |
| Character | 3話【3-4 ひとけのない街道】 |
| シング | うわ……、間に合うかな……。 |
| ユリウス | (ここまでわき目もふらず一目散か。あいつ、時間がないと言っていたのは本当だったようだな) |
| シング | ……。 |
| ユリウス | (……止まった。まさか尾行がバレたか ? ) |
| カイウス | シング、こっち ! |
| シング | カイウス ! よかった。オレが抜け出したの、バレてないよな ? |
| カイウス | ああ、大丈夫だ。この後すぐに、救世軍のアジトに襲撃をかけるってさ。 |
| シング | ギリギリか……危なかった……。 |
| ユリウス | (救世軍を襲撃……ということは、奴らはアスガルド帝国軍か) |
| カイウス | それで上手くいったのか ? |
| シング | ああ。もちろん ! ……というか多分だけど。 |
| カイウス | よし、すぐに本隊に戻ろう。怪しまれるとまずい。 |
| ユリウス | (彼らが戻った場所……なるほど、あそこにアスガルド軍が駐留しているのか) |
| ユリウス | さて、どうするか……。 |
| ユリウス | (救世軍には俺自身利用されてしまったが、現時点で皆の敵ではない……) |
| ユリウス | (かといってあの少年も敵とは思いがたい。さっきの様子だと、帝国の意向とは別の目的で動いているようにも見える) |
| ユリウス | (ルドガーたちに手を出すなら容赦しないつもりだったが……) |
| ユリウス | (ここは一度戻るとするか――) |
| ユリウス | ―― ! |
| シンク | にぶいね。くだらないこと考えてないで、もっと背中を気にした方がいいんじゃない ? |
| ユリウス | (シンク ! ?……こいつ、気配がまるでなかった) |
| マーク | おいシンク。もっと普通に声かけろよ。なんでそんなケンカ腰なんだ。 |
| シンク | フン。軍が駐留する場所で背後をとられるなんて、殺して下さいって言ってるのと同じだろ。 |
| シンク | 鈍くさくてイライラするんだよね。 |
| ユリウス | ……とんだご挨拶だな。 |
| マーク | いきなり悪かったな。ここは一つ、こいつなりの不器用な親切ってことで勘弁してくれ。 |
| マーク | 実際、ここに来たのが帝国の人間だったら、間違いなくあんたはここで、ひと悶着起こしていたはずだからな。 |
| ユリウス | ……救世軍のマークか。お前たちこそ、こんな所で油を売っていていいのか。これから帝国軍が―― |
| シンク | 救世軍が潜伏するアジトに襲撃をかける――だろ ?ありがたいね。予定通りさ。 |
| ユリウス | それはどういう意味だ。 |
| マーク | これは陽動作戦なんだよ。あっちで派手にやってもらって、帝国が手薄になっている隙に目的を果たす。 |
| ユリウス | ……随分と口が軽いんだな。目的を聞いても教えてもらえそうだ。 |
| マーク | かまわないぜ。さっき驚かせた詫びに教えてやるさ。帝国に捕らわれている魔鏡技師が俺たちの目的だ。 |
| マーク | そいつはアスガルド帝国から、精霊クロノスの力を研究するように命じられている。そいつを救出して―― |
| ユリウス | 精霊クロノスだと ! ?どういうことなんだ !この世界にもクロノスがいるのか ! ? |
| マーク | 食いつくねえ。だがそういうことは、素人に聞くより専門家に聞いた方がいいんじゃないか ? |
| ユリウス | 専門家……その魔鏡技師のことか。 |
| マーク | ああ。俺じゃ詳しく答えられないからな。一緒に来れば、救出した後にでもじっくり聞けると思うが……。 |
| マーク | どうだ、俺たちと来るかい ? |
| ユリウス | ……ああ、行こう。 |
| Character | 4話【3-6 危険な山岳 折返し】 |
| ルル | ナァ~……。 |
| コレット | ちょっと声に元気がないね。ルルちゃん、疲れちゃったのかな。 |
| ルドガー | エルも疲れてないか ? |
| エル | ……へーきだよ。それより、まだメガネのおじさん見つからない ? |
| ルドガー | 目印どおりにたどってるけど会えないな。兄さん、どこまで行ったんだろう。 |
| ロイド | かなり遠くまで追ってるみたいだな。お、また分かれ道。 |
| ルドガー | ええと……ここを左だ。 |
| ロイド | すげえよな。地面の変な模様や石とかみて、すぐにわかっちまうんだから。 |
| ロイド | それもエージェントっていうやつの知識なのか ? |
| ルドガー | う~ん……半分くらいかな。これは俺たち兄弟だけに通じる目印なんだ。 |
| ルドガー | 子どものころ、兄さんと山で迷子になったことがあってさ。随分と酷い目にあったんだけど……。 |
| ルドガー | その後で、もう迷わないようにっていろんな目印を決めたんだ。 |
| ルドガー | 今思えば、基礎はエージェントの知識だったんだろうけど、子どもの俺でもわかるようにしてくれたんだろうな。 |
| ロイド | そっか。優しいんだな、ユリウスは。 |
| ルドガー | ……ああ。 |
| エル | ……ねえルドガー。エルにも目印のこと教えて ?そうすれば見つけるの手伝えると思うよ。 |
| ルドガー | エル……。 |
| エル | で、でもメガネのおじさんとのヒミツなら別にいーけど。 |
| ルドガー | そうだな。エルにも覚えてもらうか。俺とエルは相棒だもんな。頼むよ。 |
| エル | うん、手伝ってあげる ! |
| ミラ=マクスウェル | 私にも教えてもらえるか ?四大の力を使えば、目印を見つけることも容易くなるかもしれない。 |
| エル | それはダメですー。エルはアイボーだから教えてもらえるんだもん。……でも、どうしても知りたいなら―― |
| ミラ=マクスウェル | いや、無理にとはいわない。 |
| エル | ……こんな時、きっとミラなら「教えて」っていうのに。 |
| ミラ=マクスウェル | ……がっかりさせたようで済まないな。だが私はこうなんだ。エルの知っているミラと同じ反応はできない。 |
| ミラ=マクスウェル | これからも私は、エルの望むミラにはなれないと思う。 |
| エル | …………。 |
| ミラ=マクスウェル | だからどうだろう。私はミラだが、ミラとは別人のミラとしてエルの新たな友人に加えてくれないか ? |
| エル | ミラだけどミラじゃないミラ…… ?なにそれ、ややこしーよ。 |
| コレット | そだね。確かにこんがらがっちゃうけど、これって、名前が同じお友達が増えたってことなんじゃないかな。 |
| エル | 同じ名前……かぁ。でも……。 |
| ロイド | やっぱ悩むよなあ。俺はエルの気持ち、少しだけどわかるよ。 |
| ロイド | 俺の村にいたポールって男の子がさ、この世界で会った時には、全然俺のこと知らない奴になってたんだ。 |
| ロイド | その頃は具現化のことなんてよくわかってなかったから、ちょっとショックだったなあ。 |
| エル | あ、そのちょっとショックっていうのエルと似てる !エルのこと知らないミラだったから……。 |
| エル | だから……あの時はごめんね。でもね、別にこっちのミラも嫌いじゃないんだよ。 |
| ミラ=マクスウェル | そうか。嫌いじゃなくて嬉しいよ。私もエルのことは嫌いじゃないからな。 |
| コレット | な~んだ。二人とも嫌いじゃないなんて、エルとミラは気が合うんだね。 |
| エル | ま、まあね !それに別のミラがいるなら、いつか、本物のミラに会えるかもしれないし ! |
| ミラ=マクスウェル | 本物……か。フフ、そうだな。私も、もう一人の私という存在に興味があるよ。 |
| ミラ=マクスウェル | どこが同じで、どこが違うのか。これもまた、本では得られない経験の一つだからな。 |
| エル | ホント ? ねえねえ知りたい ? ミラのこと。 |
| ミラ=マクスウェル | そうだな。だが本人に会った時の楽しみというものもある。ミラの話は、ヒントくらいにしてもらえるとありがたいな。 |
| エル | わかった !楽しいのがへっちゃうのヤダもんね。 |
| コレット | 心配でついてきちゃったけど、大丈夫だったみたいだね。 |
| ルドガー | ああ。心配してくれてありがとう。 |
| ロイド | よし。早いとこユリウスを見つけようぜ。 |
| Character | 5話【3-7 危険な山岳 出口】 |
| エル | あ、目印またあった ! |
| ルドガー | もう覚えたみたいだな。 |
| エル | ふふーん。このくらいヨユーだよ。 |
| ミラ=マクスウェル | ―― !ルドガー、あれを見ろ。 |
| ルドガー | 煙があがってる…… ? |
| コレット | 私、ちょっと見てくるね ! |
| エル | わ、飛んでる ! すごーい ! |
| コレット | この先の建物から煙があがってる。救世軍と……アスガルド軍、なのかな。戦ってるよ ! |
| ミラ=マクスウェル | エル、目印はどちらを指している ? |
| エル | えっとね、煙とおなじ方向 ! |
| ルドガー | まさか兄さん、巻き込まれたんじゃ…… ! |
| ロイド | このままじゃ状況がわからねえ。近くまで行こう ! |
| ロイド | やっぱり救世軍とアスガルド軍だ。救世軍の方が押されてるな。 |
| ルドガー | ……なんか変じゃないか ?帝国軍の方が押してるっていうより、救世軍がわざと戦線を後退させてる気がする。 |
| ロイド | 押されたふりして戦ってるってことか ? |
| ルドガー | ――シッ、隠れて ! |
| ルドガー | (あれは……手紙を持ってきた奴だ。やっぱり、兄さんはこの戦場にいるのか ? ) |
| シング | リヒターの言った通りだ。これ、救世軍の陽動作戦かもしれない。 |
| カイウス | じゃあ、狙いはイリアか……それともセシリィ ? |
| シング | どっちにしろナーザが近くにいる。状況を伝えた方がいいな。 |
| ミラ=マクスウェル | ……行ったようだ。 |
| ロイド | えっと……なあルドガー結局これってどうなってんだ ? |
| ルドガー | 多分、この戦い自体が救世軍の陽動作戦で帝国側もそれに気が付いた、ってとこかな。 |
| ロイド | あ~……そういう変なかけ引きみたいなの苦手なんだよな。 |
| エル | エルにもよくわかんないよ。結局メガネのおじさんはどこにいるの ? |
| ? ? ? | 僕なら答えてあげられるよ。 |
| ルドガー | ―― ! ? |
| ? ? ? | そのためには、少しだけ君たちの時間をもらうけどいいかな ? |
| ロイド | お前……ファントム ! ? |
| ミラ=マクスウェル | 生きていたのか ! |
| ? ? ? | ファントム……、リーパのことか。君たちにはそう見えても仕方がないね。 |
| ルドガー | もしかして、あなたは……。 |
| フィリップ | 初めまして。鏡映点の方々。僕は第103代目ビクエフィリップ・ビクエ・レストン。 |
| フィリップ | 【最初】のフィリップだ。証は何もないけれど、ね。 |
| ルドガー | 本物のフィリップ……ってことはゲフィオンと幼馴染の…… ? |
| フィリップ | ……ここで長話は危ない。戦場から離れた場所へ行こう。さあ、こっちへ。 |
| Character | 6話【3-9 喧噪渦巻く街道】 |
| フィリップ | さて、この辺りなら大丈夫だろう。 |
| ロイド | なあ、あんたみたいな重要人物がなんでこんな所にいるんだ。今までどこで何をしてたんだよ。 |
| フィリップ | すまないが、それを説明するには少し時間が足りないんだ。君たちにも急いでもらわないといけないからね。 |
| フィリップ | 早速だが、ユリウスはマークたちと共にセールンドの城下町へ向かった。 |
| ルドガー | マークと ? なんでそんなことに。 |
| フィリップ | 精霊クロノスを研究しているセシリィという魔鏡技師を帝国から救い出すためだ。 |
| ルドガー | 精霊クロノス ! ? ここにもいるのか ? |
| フィリップ | ああ。この世界のクロノスが君たちクルスニクの一族にどんな影響を及ぼすのかわからない。 |
| フィリップ | 一刻も早く彼女と会ってすぐに調べた方がいい。 |
| ルドガー | そうか……。兄さんはそれを知ってマークと一緒に……。でもなんで今頃、精霊クロノスなんだ。 |
| ミラ=マクスウェル | クロノスではないが、以前から精霊の気配はあったんだ。私はその気配をたどって火の精霊イフリートと会っている。 |
| コレット | あ、それってクラースさんと出会った時だよね。 |
| ミラ=マクスウェル | そうだ。しかし今目覚めているのはイフリートのみのはずだが……。 |
| ルドガー | 精霊が目覚める ?……いったいどういうことだ。 |
| フィリップ | すでに知識のある者もいるだろうが一応、この世界の精霊について説明をしておこう。 |
| フィリップ | かつて『太陽神ダーナ』は、ティル・ナ・ノーグの滅びを予言した。 |
| フィリップ | その救済のために、来たるべき時に備えてダーナの巫女と精霊たちを眠りにつかせたという。 |
| フィリップ | この巫女が鏡士の始祖たるヨーランド。初代の鏡士と言われるヨウ・ビクエだ。 |
| フィリップ | 精霊はヨーランドの目覚めと共に再び目覚めるはずだったのだが……。 |
| フィリップ | ヨーランドが未だ目覚めていないにもかかわらず、各地で精霊の目覚めの兆しが散見されている。 |
| ミラ=マクスウェル | 確かに、私が会ったイフリートもそんなことを言っていたな。 |
| ルドガー | それじゃ、クロノスも……。 |
| フィリップ | 確実なことはわからない。兆しだからね。目覚めているかどうかは、セシリィが知っているはずだ。 |
| フィリップ | 彼女は今、特異鏡映点亜種と呼ばれる特殊なアニマの持ち主を調べるためにセールンドに連れて来られている。 |
| フィリップ | 帝国がアニマの調査に使用するのはカレイドスコープ跡、もしくはキラル純結晶精製所のどちらかだろう。 |
| フィリップ | 今はカレイドスコープ側にマークら救世軍、精製所にはユリウスが向かっている。 |
| フィリップ | 君たちは精製所に行って、ユリウスと合流するといい。もしもセシリィがそちらにいるのなら、助け出してやってくれ。 |
| ルドガー | わかった。……あなたには、聞きたいことも言いたいことも山ほどあるけど、情報をくれたことには感謝するよ。 |
| フィリップ | こちらの利益も見込んでのことだ。 |
| フィリップ | それにマークがカレイドスコープの元へ向かっているから、僕もこれ以上カレイドスコープからは離れられない。 |
| フィリップ | セシリィを捜して助けるには歴戦の勇士である鏡映点の皆さんに協力を仰ぐしかないんだ。 |
| フィリップ | こちらは兵力を削がれてしまっているからね。期待していますよ。 |
| エル | 話、終わった ? メガネのおじさんがどこにいるかわかったんでしょ ?急ごうよ ! |
| ルドガー | そうだな。行こう ! |
| Character | 7話【3-11 精製所近くの街道1】 |
| ルドガー | ――あれがキラル純結晶の精製所か。 |
| コレット | うん。前にカレイドスコープが故障した時にあの精製所でリタが部品の修理をしたんだって。 |
| ロイド | あの時は大変だったんだぜ。みんなで手分けして材料集めてさ。俺なんて――っと、そんな話より、ユリウス探さなきゃな。 |
| ルドガー | もう建物内部に侵入してる可能性もある。その場合は内部潜入と外で待機の二手で―― |
| エル | ねえ、ルルがいない ! |
| ルドガー | あれ…… ? さっきまでここにいたのに。おい、ルル ? |
| ルドガー | そこにいるのか、ルル ? おいル―― |
| ルル | ナァ~ ! |
| ルドガー | ルル……と、兄さん ! ? |
| ユリウス | ……鳴き声を聞いてまさかとは思ったが、お前、ルルを連れて来たのか。 |
| ルドガー | 兄さん、無事でよかった ! |
| ユリウス | やはり追って来てしまったんだな。……ルドガー、実は少し面倒なことになりそうなんだ。お前は戻って―― |
| エル | あーっ、ルルいた !それにメガネのおじさんも ! |
| ユリウス | エルも一緒なのか ! ? |
| エル | そうだよ。メガネのおじさんいつまでたっても帰ってこないんだもん。だからさがしに来たの。 |
| ユリウス | いや、それにしたってこんな所まで……。ルドガー、これはどういうことだ。 |
| ルドガー | 説明するよ。その後でいいから、兄さんも何があったのかちゃんと話してくれ。 |
| ユリウス | ……わかった。 |
| ユリウス | ――なるほど。それで俺を連れ戻しにきたのか。 |
| ルドガー | ああ。俺たちにアスガルドへくるなって手紙に書いてあったのは、クルスニクの件が絡んでいたからだったのかもしれない。 |
| ユリウス | やはり手紙を持ってきた少年は、敵ではないようだな。それと――君たちにも迷惑をかけた。 |
| ロイド | 俺たちは好きでついてきたんだ。迷惑なんて思っちゃいないよ。 |
| ルドガー | で、今はどういう状況 ?セシリィっていう魔鏡技師はここにいるのか ? |
| ユリウス | 少し前に、少女を連れたアスガルド軍が施設に入っていった。だが彼女が技師なのかどうかはわからない。 |
| ユリウス | ……それと、陣頭指揮を取っていたのは、イクスにそっくりな男だった。信じられないかもしれないがな。 |
| ルドガー | イクス ? だってイクスは……。 |
| ロイド | そうだぜ。あの魔鏡なんとかって奴の中にいるんじゃないのか ? |
| コレット | 魔鏡結晶だよ。だからミリーナ、あんなに悲しんでるんだもん。 |
| ミラ=マクスウェル | 見間違いじゃないのか ? |
| ユリウス | 俺は今まで、似て非なる物を探す仕事を山ほどしてきた。姿だけなら、イクスに間違いないと断言できる。 |
| ユリウス | ただ、あの男にはイクスのような穏やかさがなかった。 |
| ユリウス | ここがティル・ナ・ノーグの分史世界なら、俺は間違いなく彼を『時歪の因子』だと思っただろうな。 |
| ルドガー | …………。 |
| ユリウス | どっちにしろ、中に入らなければ魔鏡技師の所在もその男の正体もわからないということだ。 |
| ルドガー | そうだな。よし、潜入しよう。とりあえず、ミラはエルと一緒に外で待機していてくれるか ? |
| ミラ=マクスウェル | ああ。エルは私が守ると言ったからな。責任は必ず果たそう。 |
| エル | ……ねえ、すぐに帰ってくるよね ? |
| ルドガー | もちろん帰ってくるさ。安心して待っていてくれ。 |
| エル | メガネのおじさんも、ちゃんと返事して。 |
| ユリウス | え…… ? |
| エル | だってエルたちは、メガネのおじさんが心配だから迎えにきたんだよ。だから……いっしょに帰ろ ? |
| ユリウス | ……そうだな。帰るよ。みんな一緒に、だ。 |
| ルドガー | それじゃ、兄さんと俺、ロイドは中に―― |
| ロイド | なんだ、今の音。 |
| ユリウス | ……精製所の裏口からだな。 |
| コレット | 誰か来るよ ! |
| 少女 | ねえ、大丈夫 ? 辛くない ? |
| 金髪の男 | へい……き……だ……。 |
| 少女 | 無理しないで、私が支えるから。ほら、よりかかって ? |
| ルドガー | ……女の子 ?金髪の男は具合が悪そうだな。 |
| ユリウス | ――あれは……さっき連れられて来た子だ ! |
| アスガルド兵 | 貴様ら止まれ !脱走はそれ相応の処罰が下るぞ ! |
| 金髪の男 | う……。 |
| 少女 | ―― !しっかりしてっ ! |
| アスガルド兵 | 馬鹿が、無駄なことをするからだ。手間をかけさせやがって、この―― |
| エル | あぶない ! |
| アスガルド兵 | ――誰だ ! |
| ミラ=マクスウェル | ――シルフ ! |
| アスガルド兵 | うわああっ ! なんだっ、この風は ! |
| ミラ=マクスウェル | ルドガー、すまないが、もう潜入は難しいかもしれないな。彼女たちを見捨てておけなかった。 |
| エル | 違うよ ! エルが声出したからかばってくれたんでしょ ?ごめんなさい……。 |
| ロイド | 気にすんな。ちょうどあの時、俺も飛び出そうと思ってたんだ。 |
| ユリウス | ……仕方ない。行くぞ。この騒ぎだ、すぐに他の兵士が来る。 |
| ルドガー | わかってる。今のうちにあの子たちを助け出そう。 |
| Character | 8話【3-12 精製所近くの街道2】 |
| ルドガー | よし……ここまで来ればいいか。君、ケガは ? |
| 少女 | はい、私は大丈夫です。でも彼が……。 |
| 金髪の男 | ハアッ……ハアッ……くる……し…… |
| ユリウス | これ以上動かすのは危険かも知れないな。 |
| ルドガー | こんな時にジュードがいてくれれば……。 |
| 金髪の男 | うう……。 |
| ルドガー | おい、しっかりしろ ! |
| ユリウス | だめだ、意識がない。 |
| コレット | 少しだけでも休ませてあげたいけど……。難しいよね。この人だけ運ぶのはできるけどみんなと離れるのは危険だと思うし……。 |
| ロイド | 俺、追っ手がこないか様子を見てくるよ。その間だけでも休めるだろ。 |
| ミラ=マクスウェル | 私も行こう。いざという時どちらかが足止めすれば、報せが滞ることもないからな。 |
| ユリウス | そう言えば君、先ほど軍に連行されてきたようだが、中の様子がわかるなら教えてくれないか ? |
| セシリィ | ……はい。それと私、セシリィっていいます。助けてくれてありがとうございました。 |
| ルドガー | セシリィ ! ?君が魔鏡技師のセシリィだったのか ! |
| セシリィ | あの、あなたたちは…… ? |
| ルドガー | 俺はルドガー・ウィル・クルスニク。君には精霊クロノスについて聞きたいことがあるんだ。 |
| セシリィ | じゃあ、あなたがクルスニクの一族…… ! |
| 金髪の男 | ……うう……。 |
| コレット | あ、目が覚めたみたいだよ ! |
| エル | ねえ大丈夫 ? どこか痛い ? |
| 金髪の男 | き、みは……、…………。 |
| エル | なに ? 聞こえな――きゃあっ ! ! |
| コレット | ど、どうしたの ! ? エルを離して ! |
| ルドガー | エル ! ? |
| セシリィ | リチャード……あなた ! |
| エル | はなして ! はーなーしーてーよーっ ! |
| リチャード ? | そう……きみは特異鏡映点だよね。確か『クルスニクの鍵』……だったかな。 |
| ユリウス | ――貴様…… ! |
| ルドガー | エルを返せ ! |
| リチャード ? | 断る。だが代わりにこれをくれてやろう。 |
| ユリウス | 光魔だと ! ?コレット、セシリィを守れ ! |
| コレット | はい ! セシリィこっち ! |
| リチャード ? | それじゃあせいぜい楽しんでくれ。 |
| エル | ルドガー ! ルドガー ! ! |
| ルドガー | エル !――くそっ、なんだこの大量の光魔は !後から後から……これじゃ追えない ! |
| ロイド | ルドガー ! 一体どうなってるんだ ! |
| ルドガー | さっき助けた男にエルをさらわれた ! |
| ミラ=マクスウェル | なんだと ! ?エルは私が守ると約束したのに……。こんな所で足止めをくらうわけには―― |
| マーク | それならさっさと行って来な。 |
| ユリウス | マーク ! シンクもか ! |
| マーク | ここは引き受けた。あんたたちはエルを助けろ ! |
| ユリウス | すまない、恩に着る。 |
| シンク | 言っとくけど好きでやってるわけじゃないからね。目障りだからさっさと消えな ! |
| ユリウス | ルドガー、ここは彼らに任せろ。行くぞ ! |
| ルドガー | エル……絶対に助けるからな ! |
| Character | 9話【3-14 入組んだ街道2】 |
| エル | 痛いよ、はなしてよ !こんなことして、あなたなんてすぐ捕まえられるんだからねっ ! |
| エル | ルドガーだって、メガネのおじさんだってこっちのミラだって !みんなみんな――強いんだから ! |
| リチャード ? | うるさい ! これ以上騒ぐと――……ぐっ……。 |
| リチャード ? | ……こん、な……とき……に……うっ………あああっ ! ! |
| エル | ! ? |
| エル | え…… ? |
| リチャード ? | ………。 |
| エル | ねえ、どうしたの ?さっきみたいにエルを騙そうとしてるんだよね ? |
| リチャード ? | ………。 |
| エル | えっと……誰か呼んでくる ! |
| エル | ――あっ ! |
| ミトス | どこに行くの ?こんな場所、一人だと危ないよ。 |
| エル | ……あなた、だれ ? |
| ミトス | ボクと一緒においで。安全な所へ連れていってあげる。 |
| エル | それよりも、あの人見てあげてよ。具合悪いみたいなの。エルのことはいいから ! |
| ミトス | そう、優しいね。人間の割には。でもちょっと面倒だから――少し眠ってもらうよ。 |
| エル | ……あ……あ、れ ?何だか……ねむ……―― |
| ミトス | さてと。面倒をかけてくれたね、チーグル。おかげで―― |
| ロイド | ルドガー、本当にこっちだったのか ! ? |
| ルドガー | 間違いない。エルの声がした ! |
| ルドガー | エル ! ? |
| ミトス | それ以上近づかない方がいいよ。この子のためにもね。 |
| ロイド | ―― ! お前……ミトス ! |
| ミトス | ……やぁ、ロイド。久しぶり、かな ?異世界でも出会うなんてホント笑っちゃうね。 |
| ロイド | どういうことなんだ ?救世軍に協力していたんだよな ?今もそうなのか ? |
| ロイド | お前は何をしようとしてるんだ ?ここにはハーフエルフへの差別はないんだろ ? |
| ミトス | 別に、お前に話すようなことじゃない。 |
| ロイド | 俺は聞きたいんだ !お前に聞かなきゃならないことは元の世界にいたときからたくさんある。 |
| ミトス | ――おっと。お前の仲間はそうじゃないみたいだけどね ? |
| ユリウス | ――チッ ! ! |
| ミトス | 甘いよ。小賢しいメガネのおじさん ? |
| ユリウス | 小賢しかろうと何だろうと、手段を選んでいられない時があるんでな。その子を返せ ! |
| ミラ=マクスウェル | ……ロイド、お前の知り合いだろうが、私は戦うぞ。エルとの約束を守らねばならない ! |
| ロイド | ……わかってる。 |
| ロイド | ――なぁ、ミトス !話してくれないか ?お前が何をしようとしているのか。 |
| ミトス | ……輝く御名の下、地を這う穢れし魂に裁きの光を雨と降らせん。 |
| ミラ=マクスウェル | ――来るぞ ! |
| ミトス | 安息に眠れ、罪深き者よ。――ジャッジメント ! ! |
| ルドガー | うわあああっ ! |
| ユリウス | ――ぐっ ! |
| ミラ=マクスウェル | くっ、なんだ……この威力は……。 |
| ミトス | さすがにこれ一発で沈むほど弱くはなかったね。続ける ? 異世界のマクスウェル ? |
| ミラ=マクスウェル | ああ、聞くまでもない ! |
| ルドガー | ……くっ、この世界でも【骸殻能力】が使えれば―― |
| セシリィ | ! |
| コレット | ……セシリィ。ここに隠れてて。やっぱり私も行かないと―― |
| セシリィ | ――ううん。私も……私が行かないと飛天のミトスには勝てない。 |
| コレット | セシリィ ! ? 待って ! ? |
| セシリィ | ――ルドガーさん、この魔鏡を試してみて ! |
| ルドガー | これは…… ? |
| セシリィ | この魔鏡はクロノスの力を帯びているの。うまくいけば、クルスニク一族の力を使うことができるはず ! |
| ルドガー | クルスニクの……まさか ! ? |
| ミトス | やぁ、セシリィ。きみはそっちに付くんだね。だったら――残念だけど、さよならだ。 |
| セシリィ | ――ルドガーさん ! 試して !【骸殻】を ! |
| Character | 10話【3-14 入組んだ街道2】 |
| ミトス | へぇ、あれがクルスニクの力、か。 |
| ルドガー | まだ駄目か……。もっと、もっと力が引き出せれば―― |
| ユリウス | 待てルドガー ! |
| ミラ=マクスウェル | ルドガー、エルは取り返したぞ !君が奴を抑えてくれたおかげでな。 |
| ミトス | ……うん、そうだね。きみたちはエルを、ボクは彼――チーグルを回収して手打ちにした方がいい。 |
| ミトス | きみも気づいたんじゃない ?クルスニクの力がボクに対しては上手く作用しないのを。 |
| ルドガー | …… ! |
| ミトス | その能力、エターナルソードの力に似ているね。時間にまつわる力のせいか互いの力を吸収し合ってしまう。 |
| ミトス | だからこそデミトリアスの興味を引いたのかな。 |
| ルドガー | デミトリアス……国王が ? |
| ミトス | 正しくは、お前たちクルスニクのアニマに刻まれた『分史』という概念にね。ボクは興味ないけど。 |
| ロイド | ミトス、お前…… ?どうして俺たちにそんな話を―― |
| ミトス | 痩せた野良犬を見たらエサの一つでもあげたくなるものでしょう ? |
| ミトス | ――さて、チーグルは連れて行くよ。 |
| ロイド | ミトス……。 |
| エル | ん……あ…… ? |
| コレット | あ、エルが目を覚ましたよ ! |
| エル | ルドガー…… ?あれ ? エル、どうなったの ? |
| ルドガー | ミラが助け出してくれたんだよ。みんなもここにいる。体、何ともないか ? |
| エル | うん、大丈夫 !こっちのミラも…あ、ありがと。 |
| ミラ=マクスウェル | 約束だからな。お前が無事でよかった。 |
| ユリウス | ……エル、本当になんともないか ?体の痛みや、違和感や―― |
| エル | へーきだってば。メガネのおじさんはシンパイショーだね。 |
| ユリウス | ルドガー、お前は ? |
| ルドガー | だ、大丈夫だよ。どうしたんだ兄さん。 |
| ユリウス | いや、何ともないならいいんだ……。それにしても、どうして骸殻化できた ? |
| ルドガー | ああ、この魔鏡を使ったんだよ。――あれ ? 割れてる…… ? |
| セシリィ | ミトス……さんの持つ剣の力を受けて割れちゃったのね。それは試作品だから。 |
| セシリィ | その魔鏡は、精霊クロノスの力を帯びていたんです。 |
| ユリウス | やはりこの世界のクロノスは……。 |
| セシリィ | はい。すでに封印から目覚めています。 |
| セシリィ | この世界の精霊が目覚めると、鏡映点によって持ち込まれた異世界の精霊は同種の存在と融合して、集合体になります。 |
| セシリィ | それでこの世界の精霊クロノスもクルスニク一族のあなたたちに影響を及ぼすものになっているの。 |
| セシリィ | だからこそその力――骸殻が使える。 |
| セシリィ | もし必要なら、ルドガーさん用にオーバーレイ魔鏡を造りますよ。 |
| セシリィ | 今はその試作品と違って、もっと安定した加工技術を開発しましたから。あ、色々と材料は必要になっちゃうけど……。 |
| ユリウス | なぁ、この魔鏡を使って骸殻化することで使用者に影響はないのか ?力の限度や、その……代償のようなものは。 |
| ルドガー | 代償 ? |
| セシリィ | ああ……。はい、理論的には問題ないです。 |
| セシリィ | エルさんは特異鏡映点なので時間の歪みエネルギーはエルさんの体からこの世界を取り巻く虚無へ吸い込まれる。 |
| ユリウス | そうか、問題はないのか。本当にそうなら、どうにか……。 |
| セシリィ | ただ、物事に100%はありません。だから今後もこの力を使うのなら、限定的な使い方をした方がいいと思います。 |
| ルドガー | ――代償って何のことだ ? |
| セシリィ | …………。 |
| ユリウス | あ、ああ。魔鏡での骸殻化だからな。俺たちの世界と、何か違う影響がでるんじゃないかと思っただけだ。 |
| ルドガー | ……兄さん。 |
| ユリウス | ルドガー、後でゆっくり話す。だから今は少し……時間をくれないか。 |
| ルドガー | ……わかったよ。 |
| フィリップ | ――セシリィ。よかった。無事だったようだね。 |
| セシリィ | フィリップさん ! ?もしかしてフィリップさんが、私を助けるように頼んでくれたの ? |
| フィリップ | ああ。でも彼らの助力がなければ到底かなわなかった。皆さん、ありがとうございます。 |
| ルドガー | いや、俺たちもセシリィに助けられたんだ。セシリィを迎えにきたんだろ ? |
| フィリップ | そのことだけど。セシリィ。彼ら鏡映点と共に、ミリーナを支えてやってくれないかな。 |
| セシリィ | えっ、私が ? |
| フィリップ | 君ほどの技師ならば、ミリーナの大きな力になれる。それにルドガーたちクルスニク一族にも、君は必要だと思うよ。……嫌かな ? |
| セシリィ | まさか ! それどころか私、助けてもらったのに何もお礼をしてないから力になれるならすごく嬉しいけど……。 |
| ルドガー | 俺は賛成だよ。ミリーナもきっと喜ぶ。 |
| ミラ=マクスウェル | 私も異論なしだ。精霊の件も詳しく知りたいしな。 |
| ロイド | 俺も賛成。ルドガーたちのためにもなるんだろ ? |
| コレット | わあ~、仲間が増えたね ! |
| エル | なんかわかんないけど、エルもさんせー ! |
| ルル | ナァ~ ! |
| エル | ルルもだって ! |
| フィリップ | そうか、よかったよ。受け入れてもらえそうだね。 |
| セシリィ | ありがとうございます ! |
| ルドガー | よし、帰ろうか。兄さんを迎えに来て随分寄り道したからな。 |
| エル | そーだね !メガネのおじさん、今度は一人でどっかいっちゃだめだよ。 |
| ユリウス | あ、ああ。それなんだが、エル。おじさんというのはそろそろやめてくれないか ? |
| ユリウス | 俺はまだ20代なんだが……。 |
| ルドガー | 兄さん……。気にしてたんだな。 |
| エル | おじさんって、嫌だったの ?ごめんね ? |
| ユリウス | いや、謝られると面はゆいんだが。 |
| エル | わかった ! これからはユリウスって呼ぶね。 |
| エル | ユリウスは何かあったら、エルやルドガーにちゃんと話してからコウドウすること !はい、目を見て ! 約束 ! |
| ユリウス | ……はは、エルにはかなわないな。わかった。約束するよ。 |
| Character | 11話【3-15 アジト近くの街道】 |
| ロイド | ふぅ。やっぱりアジトは落ち着くな。 |
| コレット | ……フィリップさんも一緒に来ればよかったのにね。 |
| ロイド | あの人、いつの間にかいなくなってたな。 |
| ルドガー | ――エルを休ませてきたよ。 |
| ロイド | 無事でよかったよな。そういや、ミリーナは ? |
| ルドガー | ああ、どうもセールンドに行ってるらしいんだ。俺たちがいない間になんだか色々起こってるみたいで……。 |
| ルドガー | 他のみんなもかなり忙しそうだったよ。 |
| ユリウス | すぐにでもお前の魔鏡の件を相談したかったんだが……仕方ないな。俺たちはここでしばらく待とう。 |
| ユリウス | それにしても驚いたよ。君がガロウズの弟子とは。 |
| セシリィ | ガロウズ師匠には色々と教えてもらいました。でも、行方不明だなんて……。 |
| セシリィ | 手がかりとか全然ないんですか ? |
| ルドガー | ……まだ何も。 |
| セシリィ | そうですか……。でも、ガロウズ師匠は絶対に帰ってきます ! |
| セシリィ | それまで私、魔鏡技師としてここで頑張りたいです。あ、師匠には及ばないかもですけど。 |
| ルドガー | そんな心配ないさ。それに優秀だから帝国もセシリィをさらったんだろうし。 |
| セシリィ | ……私が捕まったのは、ビフレスト皇国の魔鏡技術を研究していたからじゃないかな。帝国がその技術を欲しがっていたから―― |
| カーリャ | ルドガーさま !ミリーナさまが帰ってきました ! |
| ミリーナ | オーバーレイ魔鏡……。これは……ビフレストの魔鏡技術ね。 |
| セシリィ | はい。アニマに宿る過去や未来の可能性を一時的に具現化して、使用者を包むことで潜在能力を引き出し、倍増させる魔鏡です。 |
| ミリーナ | イクスのオーバーレイは今現在の力を持続的に重ね合わせる技だったけれどこれは過去や未来すらも重ねるなんて……。 |
| コーキス | 確か異世界から具現化されたものはエンコードによって、この世界に合わせて情報が調整されているんですよね。 |
| ミリーナ | ええ、そうよ。でもそのせいで鏡映点の人たちの中には本来の能力が抑えられている可能性がある。 |
| コーキス | じゃあオーバーレイ魔鏡でそれを解放できるってことなんですね ! ? |
| ミリーナ | そういうことになるわね。 |
| ミリーナ | しかも鏡士ではない人にオーバーレイを制御できるように加工するなんてとても高い技術だわ。 |
| セシリィ | でも、その代わり時間的な制限があります。長時間は使えません。 |
| ロイド | はー、なんかよく分かんねーけどオーバーレイ魔鏡ってすげぇんだな ! ?俺も試してみてぇ ! |
| セシリィ | その為にはロイドさんのアニマに秘められた力が、何を触媒にして目覚めるのかを見つけないといけませんね。 |
| ロイド | しょくばい ? 何だそれ ?――っていうか、敬語なんかで話さなくてもいいよ。 |
| ロイド | 俺たちにもフィリップと話してた時みたいにしてくれていいんだぜ。 |
| セシリィ | あ……う、うん。そうだね。これから仲間になるんだもんね。 |
| セシリィ | えっと、それで触媒っていうのはきっかけみたいな物のこと。 |
| セシリィ | ルドガーさんの場合は精霊クロノスの力を帯びた魔鏡が、ルドガーさんのアニマから過去や未来に起こりえた力を引き出したの。 |
| ロイド | ……んー ? つまり力を増幅するきっかけが何かわかれば、俺もオーバーレイしてすげぇ力が出せるんだな。 |
| ロイド | すげぇ ! イクスとかルドガーみたいに俺も格好良く変身してぇ ! |
| ミリーナ | …………。 |
| ルドガー | 大丈夫か、ミリーナ。帰って来たばかりで疲れているのにごめんな。 |
| ミリーナ | あ、違うんです。ルドガーさんたちの話には気になることがたくさんあって……。 |
| ミリーナ | ねえセシリィ。フィル……フィリップのことなんだけど―― |
| カーリャ | ミリーナさま。お話中ごめんなさい ! |
| カーリャ | クレスさまたちが戻られたんですけどジュードさまを呼んでくれって…… ! |
| ミリーナ | 皆さん、無事ですか ! ?誰か怪我でも―― |
| クレス | ミリーナ、僕らは大丈夫だよ。――さあ、チェスター、こっちへ。 |
| セシリィ | え、チェスター ! ? |
| チェスター | お前、セシリィか !なんでここに……いや、ちょうど良かった ! |
| チェスター | なあ、お前ならこいつを助けられるんじゃないか。 |
| セシリィ | ちょ、ちょっと待って。いきなりで頭が追いつかないよ !この子、誰なの ? |
| チェスター | アミィ。オレの……妹だ。 |
| ミリーナ | 妹さん ?妹さんも具現化されていたんですか ? |
| ミリーナ | ――あ、でもチェスターさんの妹さんは確か……。 |
| クレス | うん……。 |
| チェスター | 頼む……とにかく診てやってくれよ。 |
| セシリィ | ええ ? 私は魔鏡技師でお医者様じゃないよ ? |
| チェスター | んなこたぁわかってる !ジュードが来たらあいつにも診てもらうさ。けど、多分お前の方が適任だと思うんだよ ! |
| アミィ | …………。 |
| セシリィ | ……わかった。アミィ、ちょっと触るね。痛いとか苦しいとか、何でも言って ? |
| アミィ | …………。 |
| セシリィ | うーん……。ずっと笑顔だから苦しいっていうわけじゃないのかな。外傷もみあたらないし……。 |
| アミィ | …………。 |
| セシリィ | ねえ、待って。……笑顔……だけ ? |
| チェスター | ……ああ、ずっとだ。ずっとこいつは――このままだ。具現化されたときからずっと……。 |
| クレス | チェスター……。 |
| チェスター | 頼むよ……なんとかしてやってくれ。 |
| | to be continued |