Character1話【手紙】
ルドガーよし、これにしよう。……いや、こっちの方がみずみずしいな。でも量が確保できないと……。
ユリウスルドガー、そろそろ行かないと遅くなるぞ。買い物は他にもあるんだろう ?
エルエルもあきちゃった。べつのお店が見たいー ! ね、ルル。
ルルナァ~。
ルドガーでも、この店が一番品ぞろえがいいんだよ。それに今じゃ市場に買い出しなんてそう簡単にはこられないだろ。
ルドガーアジトで待ってるみんなのためにも、なるべく新鮮で、長持ちする食材を選びたいんだ。だから……。
ユリウス……仕方ないな。もう少しだけだぞ。
エルえ~、まだ見るの ? メガネのおじさん、あんまりルドガーのこと甘やかしちゃダメなんだからね。
ユリウスそんなつもりはないんだが……甘やかしてるかな ?
エルしてますー !
ユリウスそうか。それじゃルドガーと同じくらいエルのことも甘やかせば許してもらえるかな ?
エル大人はずるいなあ。そういうの、取り引きとか、コーカンジョーケンていうんでしょ ?でも、いいよ !
ユリウスよし、取り引き成立だ。このあとエルの好きなものを買おう。だからルドガーのこと、待ってやってくれ。
エルわかった !それとルルにも何か買って ?
ユリウスよしよし、ルルには奮発して高級ネコ缶だ。楽しみにしておけよ。
ルルナァ~♪
ルドガー悪いな。代わりに今日は特別に美味いものを作るよ。――あ、これもいいな。すごく新鮮だ。
エルえ……トマト ! ?
ユリウス確かにいいトマトだ。今夜はこれをスープにしてくれないか ?
エルダ、ダメだよ ! そんなことしたらロイドやコンウェイだってきっとウエッてなるし――
ルル――ナァ !
エルルル、どこ行くの ?
シング――いた !よかった……見つかって。
エル……だれ ?
シングえっと、きみ、黒衣の鏡士の仲間――だろ ?
エル―― !ルドガー、変な人がいる !
ユリウス誰だ ! !
ルドガーエルに何を…… !
シングな、何もしてないよ !なんでオレっていつもこうなんだ……。
エルあのね、この人、こくいのかがみしっていった。エルのこと、仲間だろって。
ユリウス……何のつもりで近づいた。場合によっては子どもとはいえ―――
シングそうじゃなくて ! いや、そうなのか…… ?でも、驚かせちゃったならごめんなさい。オレはこれを渡しに来ただけなんだ。
ルドガー……手紙 ?
シングこれをクレスに渡してほしいんだ。
ユリウス君が何者かもわからないのに受け取れるわけがないだろう。先に詳しい話を聞かせてもらおうか。
シング時間がないんだ。もう戻らないと……。手紙、ここに置くから。必ず届けて下さい。お願いします !
ユリウスおい、待て――
ルドガークレスに渡せって……知り合いなのか ?
ユリウス何かの罠かもしれない。ルドガー、エルを連れてアジトへ戻れ。俺は奴の後を追う。
ルドガー兄さん !
ユリウスすぐに戻る。目印を残していくから、万が一の時にはそれをたどれ。お前ならわかるだろう。
エル行っちゃった……。一人で大丈夫かな。
ルドガー兄さんのことだ。心配はいらないだろうけど……。
エルそうだよね ! メガネのおじさん、強いもん。それにエルたちは、ほかにやることあるんでしょ ?
ルルナァ~ !
ルドガーそうだな。こっちは兄さんに任せて、まずはこの手紙をクレスに届けよう。

Character2話【3-1 静かな街】
クレス――その青年が僕に手紙を ?
ルドガーああ。悪いけどすぐに中身を確認してもらえないか ?兄さんが今、そいつを追っているんだ。
クレスわかった。ごめんロイド。手合わせはまた今度にしてもらえるかな。
ロイドかまわないぜ。それで、何て書いてあるんだ ?
クレスうん……えっと……。
クレス―― !
ロイドどうしたクレス、顔が怖いぞ。
クレスロイド、すぐミリーナを呼んでくれないか。この手紙の内容を説明しないと。ルドガーさんも一緒に聞いて下さい。
ルドガーあれ ? ミリーナは……。
ロイドどこ捜してもいねえんだよ。みんなにも声かけたんだけど、知らないみたいでさ。今もコレットに捜してもらってる。
リフィル時間もないことだし、ミリーナの代わりに私が話を聞くわ。クレスの事情も承知しているから問題なくてよ。
ルドガークレスの…… ?
クレス僕が説明します。……まずこの手紙だけど、差出人はチェスターなんです。
ロイドチェスター ! ?鏡殻変動の後にはぐれちまったんだよな ?居場所わかったのか !
クレスわかったんじゃなくて、わかっていたんだ。……嘘をついてごめん。
クレス実は、セールンドの王宮から脱出した時に――
チェスターなんとか脱出できたな……。大丈夫かクレス !
クレスああ。チェスターも無事で良かったよ。すぐにミリーナたちに合流しないと。さあ、行こう。
チェスター…………。オレはまだ、一緒には行けない。
クレス―― !どうして……。
チェスターファントムは特異鏡映点を捕らえてた。そいつらの行方を追わないと。それに……。
チェスターとにかく、オレはもう少し救世軍側に残って探るから、クレスは戻れ。何かおかしな動きがあったら必ず連絡する。
クレスそんなの危険だ ! この後だって何が起こるかわからないんだぞ。
チェスター心配すんなって。今までだってそこそこ上手くやれてただろ ?ま、お前にはバレちまってたみたいだけど。
クレス当たり前だろ。どれだけ一緒にいたと思ってるんだ。
チェスターハハッ、だよな。でも、そういうお前がいるから、オレは安心してフラフラできるんだけどさ。
クレスはぁ……、わかった。ただし絶対に無理するなよ。信じてるからな、チェスター。
チェスターすまねぇクレス。後で謝るなんて言って、またこんなこと……本当に――
クレスそれ以上はいいよ。無事に戻って来たら、全部ひっくるめてちゃんと謝ってもらうからな。
チェスターああ、覚悟しとくぜ !
ルドガー……そうだったのか。
リフィルこの話は、潜入しているチェスターの安全も考えて、クレスとごく一部の者だけに止めておいたのだけれど……。
リフィルあちらに何か動きがあったようね。
クレスはい。チェスターの情報では、鏡殻変動後、救世軍の半数以上が、アスガルド帝国に吸収されたそうです。
クレスチェスターは帝国側に入り、現在は四幻将という立場で、ビフレスト皇国の生き残りの皇女に仕えていると……。
ロイドすげえなチェスター。それならいろんな情報が仕入れられるな。
クレスああ。それで帝国側には特異鏡映点が複数いることがわかったらしい。その人たちを助けて欲しいって書いてあるんだ。
クレス地図も添えてあったよ。これが帝国側への侵入経路だって。
ルドガー隠し通路か。建物の内部にまで通じてるな。これなら――
クレスルドガーさん、そのことなんですけど、手紙には絶対に帝国に来てはならない人物の名前が書かれていて……。
クレスそれが「ルドガー、ユリウス、エル」の三人だったんです。
ルドガー俺たちが…… ? どうして。
クレス理由までは書かれていませんでした。でも、ユリウスさんが、この手紙を届けにきた人物を追っているってことは……。
リフィルチェスターの協力者が戻る場所――つまり帝国側に足を踏み入れる可能性が高いわね。
ルドガー―― !まだ間に合うはずだ。俺はすぐに兄さんを追いかける !
エルエルも行く !
ルドガーいや……エルはここで待っててくれ。
エルなんで ! ? エルとルドガーはアイボーでしょ。
ルドガー買い物に行くのとは違うんだ。どんな危険があるかわからないんだぞ。
エル今までだって、危ない所いっぱい一緒にいったよ !
エルエルだってメガネのおじさん心配だもん。それに……ルドガーまでどっかいっちゃったら……エルは……。
コレットねえロイド、やっぱりミリーナ見つからないよ。――あれ……何かあったの ?
ミラ=マクスウェルどうした。なぜ泣いているんだ、エル。
エル別に……泣いてないし !
ミラ=マクスウェルそうなのか ? 私には不安で泣いているように見えたのだが。
エルそ……そんなの……。あなたがエルの知ってるミラじゃないから、わかんないんだよ !
ミラ=マクスウェル……。
ルドガーごめんミラ。これから行く所は危険だから、エルは連れていけないって話をしてたんだ。だからちょっと気が立ってて……。
ミラ=マクスウェルそうか。……ならば、私が同行しよう。私がエルを守れば問題ないだろう ?
エル……え ?
ミラ=マクスウェル私がお前を守るといったのだ。それならルドガーも自由に動けるし、エルも安全だ。ダメか ?
エルダメ……じゃないけど。
ミラ=マクスウェルそれなら良かった。どうだルドガー。これでエルを連れて行けるんじゃないか ?
ルドガー……わかった。頼むよ。
エル……別にエルは、頼んでないからね。
ミラ=マクスウェルもちろん。私が私の意志で、お前を守りたいから行くだけだ。
エル……。
コレット……ねえ。私も一緒に行っていいかな。
ロイドそうだな。俺もルドガーについて行こうと思ってたんだ。人捜しは多い方がいいだろ ?
クレスじゃあ僕は帝国への侵入経路を調査するよ。場合によっては、そのまま建物内部にも潜入することになると思う。
リフィルそうね。もしものことを想定して、それ相応の戦力をそろえていった方がいいわ。
クレスはい。ユーリやセネルにも声をかけてみるつもりです。二人とも、あちら側に知り合いがいる可能性があるようなので。
リフィルわかりました。それでは各々準備を進めて。あなたたちのことはミリーナに伝えておきます。
ルドガーああ。それじゃ俺たちはすぐに出発するよ。エル、行こう。
エル……うん。

Character3話【3-4 ひとけのない街道】
シングうわ……、間に合うかな……。
ユリウス(ここまでわき目もふらず一目散か。あいつ、時間がないと言っていたのは本当だったようだな)
シング……。
ユリウス(……止まった。まさか尾行がバレたか ? )
カイウスシング、こっち !
シングカイウス ! よかった。オレが抜け出したの、バレてないよな ?
カイウスああ、大丈夫だ。この後すぐに、救世軍のアジトに襲撃をかけるってさ。
シングギリギリか……危なかった……。
ユリウス(救世軍を襲撃……ということは、奴らはアスガルド帝国軍か)
カイウスそれで上手くいったのか ?
シングああ。もちろん ! ……というか多分だけど。
カイウスよし、すぐに本隊に戻ろう。怪しまれるとまずい。
ユリウス(彼らが戻った場所……なるほど、あそこにアスガルド軍が駐留しているのか)
ユリウスさて、どうするか……。
ユリウス(救世軍には俺自身利用されてしまったが、現時点で皆の敵ではない……)
ユリウス(かといってあの少年も敵とは思いがたい。さっきの様子だと、帝国の意向とは別の目的で動いているようにも見える)
ユリウス(ルドガーたちに手を出すなら容赦しないつもりだったが……)
ユリウス(ここは一度戻るとするか――)
ユリウス―― !
シンクにぶいね。くだらないこと考えてないで、もっと背中を気にした方がいいんじゃない ?
ユリウス(シンク ! ?……こいつ、気配がまるでなかった)
マークおいシンク。もっと普通に声かけろよ。なんでそんなケンカ腰なんだ。
シンクフン。軍が駐留する場所で背後をとられるなんて、殺して下さいって言ってるのと同じだろ。
シンク鈍くさくてイライラするんだよね。
ユリウス……とんだご挨拶だな。
マークいきなり悪かったな。ここは一つ、こいつなりの不器用な親切ってことで勘弁してくれ。
マーク実際、ここに来たのが帝国の人間だったら、間違いなくあんたはここで、ひと悶着起こしていたはずだからな。
ユリウス……救世軍のマークか。お前たちこそ、こんな所で油を売っていていいのか。これから帝国軍が――
シンク救世軍が潜伏するアジトに襲撃をかける――だろ ?ありがたいね。予定通りさ。
ユリウスそれはどういう意味だ。
マークこれは陽動作戦なんだよ。あっちで派手にやってもらって、帝国が手薄になっている隙に目的を果たす。
ユリウス……随分と口が軽いんだな。目的を聞いても教えてもらえそうだ。
マークかまわないぜ。さっき驚かせた詫びに教えてやるさ。帝国に捕らわれている魔鏡技師が俺たちの目的だ。
マークそいつはアスガルド帝国から、精霊クロノスの力を研究するように命じられている。そいつを救出して――
ユリウス精霊クロノスだと ! ?どういうことなんだ !この世界にもクロノスがいるのか ! ?
マーク食いつくねえ。だがそういうことは、素人に聞くより専門家に聞いた方がいいんじゃないか ?
ユリウス専門家……その魔鏡技師のことか。
マークああ。俺じゃ詳しく答えられないからな。一緒に来れば、救出した後にでもじっくり聞けると思うが……。
マークどうだ、俺たちと来るかい ?
ユリウス……ああ、行こう。

Character4話【3-6 危険な山岳 折返し】
ルルナァ~……。
コレットちょっと声に元気がないね。ルルちゃん、疲れちゃったのかな。
ルドガーエルも疲れてないか ?
エル……へーきだよ。それより、まだメガネのおじさん見つからない ?
ルドガー目印どおりにたどってるけど会えないな。兄さん、どこまで行ったんだろう。
ロイドかなり遠くまで追ってるみたいだな。お、また分かれ道。
ルドガーええと……ここを左だ。
ロイドすげえよな。地面の変な模様や石とかみて、すぐにわかっちまうんだから。
ロイドそれもエージェントっていうやつの知識なのか ?
ルドガーう~ん……半分くらいかな。これは俺たち兄弟だけに通じる目印なんだ。
ルドガー子どものころ、兄さんと山で迷子になったことがあってさ。随分と酷い目にあったんだけど……。
ルドガーその後で、もう迷わないようにっていろんな目印を決めたんだ。
ルドガー今思えば、基礎はエージェントの知識だったんだろうけど、子どもの俺でもわかるようにしてくれたんだろうな。
ロイドそっか。優しいんだな、ユリウスは。
ルドガー……ああ。
エル……ねえルドガー。エルにも目印のこと教えて ?そうすれば見つけるの手伝えると思うよ。
ルドガーエル……。
エルで、でもメガネのおじさんとのヒミツなら別にいーけど。
ルドガーそうだな。エルにも覚えてもらうか。俺とエルは相棒だもんな。頼むよ。
エルうん、手伝ってあげる !
ミラ=マクスウェル私にも教えてもらえるか ?四大の力を使えば、目印を見つけることも容易くなるかもしれない。
エルそれはダメですー。エルはアイボーだから教えてもらえるんだもん。……でも、どうしても知りたいなら――
ミラ=マクスウェルいや、無理にとはいわない。
エル……こんな時、きっとミラなら「教えて」っていうのに。
ミラ=マクスウェル……がっかりさせたようで済まないな。だが私はこうなんだ。エルの知っているミラと同じ反応はできない。
ミラ=マクスウェルこれからも私は、エルの望むミラにはなれないと思う。
エル…………。
ミラ=マクスウェルだからどうだろう。私はミラだが、ミラとは別人のミラとしてエルの新たな友人に加えてくれないか ?
エルミラだけどミラじゃないミラ…… ?なにそれ、ややこしーよ。
コレットそだね。確かにこんがらがっちゃうけど、これって、名前が同じお友達が増えたってことなんじゃないかな。
エル同じ名前……かぁ。でも……。
ロイドやっぱ悩むよなあ。俺はエルの気持ち、少しだけどわかるよ。
ロイド俺の村にいたポールって男の子がさ、この世界で会った時には、全然俺のこと知らない奴になってたんだ。
ロイドその頃は具現化のことなんてよくわかってなかったから、ちょっとショックだったなあ。
エルあ、そのちょっとショックっていうのエルと似てる !エルのこと知らないミラだったから……。
エルだから……あの時はごめんね。でもね、別にこっちのミラも嫌いじゃないんだよ。
ミラ=マクスウェルそうか。嫌いじゃなくて嬉しいよ。私もエルのことは嫌いじゃないからな。
コレットな~んだ。二人とも嫌いじゃないなんて、エルとミラは気が合うんだね。
エルま、まあね !それに別のミラがいるなら、いつか、本物のミラに会えるかもしれないし !
ミラ=マクスウェル本物……か。フフ、そうだな。私も、もう一人の私という存在に興味があるよ。
ミラ=マクスウェルどこが同じで、どこが違うのか。これもまた、本では得られない経験の一つだからな。
エルホント ? ねえねえ知りたい ? ミラのこと。
ミラ=マクスウェルそうだな。だが本人に会った時の楽しみというものもある。ミラの話は、ヒントくらいにしてもらえるとありがたいな。
エルわかった !楽しいのがへっちゃうのヤダもんね。
コレット心配でついてきちゃったけど、大丈夫だったみたいだね。
ルドガーああ。心配してくれてありがとう。
ロイドよし。早いとこユリウスを見つけようぜ。

Character5話【3-7 危険な山岳 出口】
エルあ、目印またあった !
ルドガーもう覚えたみたいだな。
エルふふーん。このくらいヨユーだよ。
ミラ=マクスウェル―― !ルドガー、あれを見ろ。
ルドガー煙があがってる…… ?
コレット私、ちょっと見てくるね !
エルわ、飛んでる ! すごーい !
コレットこの先の建物から煙があがってる。救世軍と……アスガルド軍、なのかな。戦ってるよ !
ミラ=マクスウェルエル、目印はどちらを指している ?
エルえっとね、煙とおなじ方向 !
ルドガーまさか兄さん、巻き込まれたんじゃ…… !
ロイドこのままじゃ状況がわからねえ。近くまで行こう !
ロイドやっぱり救世軍とアスガルド軍だ。救世軍の方が押されてるな。
ルドガー……なんか変じゃないか ?帝国軍の方が押してるっていうより、救世軍がわざと戦線を後退させてる気がする。
ロイド押されたふりして戦ってるってことか ?
ルドガー――シッ、隠れて !
ルドガー(あれは……手紙を持ってきた奴だ。やっぱり、兄さんはこの戦場にいるのか ? )
シングリヒターの言った通りだ。これ、救世軍の陽動作戦かもしれない。
カイウスじゃあ、狙いはイリアか……それともセシリィ ?
シングどっちにしろナーザが近くにいる。状況を伝えた方がいいな。
ミラ=マクスウェル……行ったようだ。
ロイドえっと……なあルドガー結局これってどうなってんだ ?
ルドガー多分、この戦い自体が救世軍の陽動作戦で帝国側もそれに気が付いた、ってとこかな。
ロイドあ~……そういう変なかけ引きみたいなの苦手なんだよな。
エルエルにもよくわかんないよ。結局メガネのおじさんはどこにいるの ?
? ? ?僕なら答えてあげられるよ。
ルドガー―― ! ?
? ? ?そのためには、少しだけ君たちの時間をもらうけどいいかな ?
ロイドお前……ファントム ! ?
ミラ=マクスウェル生きていたのか !
? ? ?ファントム……、リーパのことか。君たちにはそう見えても仕方がないね。
ルドガーもしかして、あなたは……。
フィリップ初めまして。鏡映点の方々。僕は第103代目ビクエフィリップ・ビクエ・レストン。
フィリップ【最初】のフィリップだ。証は何もないけれど、ね。
ルドガー本物のフィリップ……ってことはゲフィオンと幼馴染の…… ?
フィリップ……ここで長話は危ない。戦場から離れた場所へ行こう。さあ、こっちへ。

Character6話【3-9 喧噪渦巻く街道】
フィリップさて、この辺りなら大丈夫だろう。
ロイドなあ、あんたみたいな重要人物がなんでこんな所にいるんだ。今までどこで何をしてたんだよ。
フィリップすまないが、それを説明するには少し時間が足りないんだ。君たちにも急いでもらわないといけないからね。
フィリップ早速だが、ユリウスはマークたちと共にセールンドの城下町へ向かった。
ルドガーマークと ? なんでそんなことに。
フィリップ精霊クロノスを研究しているセシリィという魔鏡技師を帝国から救い出すためだ。
ルドガー精霊クロノス ! ? ここにもいるのか ?
フィリップああ。この世界のクロノスが君たちクルスニクの一族にどんな影響を及ぼすのかわからない。
フィリップ一刻も早く彼女と会ってすぐに調べた方がいい。
ルドガーそうか……。兄さんはそれを知ってマークと一緒に……。でもなんで今頃、精霊クロノスなんだ。
ミラ=マクスウェルクロノスではないが、以前から精霊の気配はあったんだ。私はその気配をたどって火の精霊イフリートと会っている。
コレットあ、それってクラースさんと出会った時だよね。
ミラ=マクスウェルそうだ。しかし今目覚めているのはイフリートのみのはずだが……。
ルドガー精霊が目覚める ?……いったいどういうことだ。
フィリップすでに知識のある者もいるだろうが一応、この世界の精霊について説明をしておこう。
フィリップかつて『太陽神ダーナ』は、ティル・ナ・ノーグの滅びを予言した。
フィリップその救済のために、来たるべき時に備えてダーナの巫女と精霊たちを眠りにつかせたという。
フィリップこの巫女が鏡士の始祖たるヨーランド。初代の鏡士と言われるヨウ・ビクエだ。
フィリップ精霊はヨーランドの目覚めと共に再び目覚めるはずだったのだが……。
フィリップヨーランドが未だ目覚めていないにもかかわらず、各地で精霊の目覚めの兆しが散見されている。
ミラ=マクスウェル確かに、私が会ったイフリートもそんなことを言っていたな。
ルドガーそれじゃ、クロノスも……。
フィリップ確実なことはわからない。兆しだからね。目覚めているかどうかは、セシリィが知っているはずだ。
フィリップ彼女は今、特異鏡映点亜種と呼ばれる特殊なアニマの持ち主を調べるためにセールンドに連れて来られている。
フィリップ帝国がアニマの調査に使用するのはカレイドスコープ跡、もしくはキラル純結晶精製所のどちらかだろう。
フィリップ今はカレイドスコープ側にマークら救世軍、精製所にはユリウスが向かっている。
フィリップ君たちは精製所に行って、ユリウスと合流するといい。もしもセシリィがそちらにいるのなら、助け出してやってくれ。
ルドガーわかった。……あなたには、聞きたいことも言いたいことも山ほどあるけど、情報をくれたことには感謝するよ。
フィリップこちらの利益も見込んでのことだ。
フィリップそれにマークがカレイドスコープの元へ向かっているから、僕もこれ以上カレイドスコープからは離れられない。
フィリップセシリィを捜して助けるには歴戦の勇士である鏡映点の皆さんに協力を仰ぐしかないんだ。
フィリップこちらは兵力を削がれてしまっているからね。期待していますよ。
エル話、終わった ? メガネのおじさんがどこにいるかわかったんでしょ ?急ごうよ !
ルドガーそうだな。行こう !

Character7話【3-11 精製所近くの街道1】
ルドガー――あれがキラル純結晶の精製所か。
コレットうん。前にカレイドスコープが故障した時にあの精製所でリタが部品の修理をしたんだって。
ロイドあの時は大変だったんだぜ。みんなで手分けして材料集めてさ。俺なんて――っと、そんな話より、ユリウス探さなきゃな。
ルドガーもう建物内部に侵入してる可能性もある。その場合は内部潜入と外で待機の二手で――
エルねえ、ルルがいない !
ルドガーあれ…… ? さっきまでここにいたのに。おい、ルル ?
ルドガーそこにいるのか、ルル ? おいル――
ルルナァ~ !
ルドガールル……と、兄さん ! ?
ユリウス……鳴き声を聞いてまさかとは思ったが、お前、ルルを連れて来たのか。
ルドガー兄さん、無事でよかった !
ユリウスやはり追って来てしまったんだな。……ルドガー、実は少し面倒なことになりそうなんだ。お前は戻って――
エルあーっ、ルルいた !それにメガネのおじさんも !
ユリウスエルも一緒なのか ! ?
エルそうだよ。メガネのおじさんいつまでたっても帰ってこないんだもん。だからさがしに来たの。
ユリウスいや、それにしたってこんな所まで……。ルドガー、これはどういうことだ。
ルドガー説明するよ。その後でいいから、兄さんも何があったのかちゃんと話してくれ。
ユリウス……わかった。
ユリウス――なるほど。それで俺を連れ戻しにきたのか。
ルドガーああ。俺たちにアスガルドへくるなって手紙に書いてあったのは、クルスニクの件が絡んでいたからだったのかもしれない。
ユリウスやはり手紙を持ってきた少年は、敵ではないようだな。それと――君たちにも迷惑をかけた。
ロイド俺たちは好きでついてきたんだ。迷惑なんて思っちゃいないよ。
ルドガーで、今はどういう状況 ?セシリィっていう魔鏡技師はここにいるのか ?
ユリウス少し前に、少女を連れたアスガルド軍が施設に入っていった。だが彼女が技師なのかどうかはわからない。
ユリウス……それと、陣頭指揮を取っていたのは、イクスにそっくりな男だった。信じられないかもしれないがな。
ルドガーイクス ? だってイクスは……。
ロイドそうだぜ。あの魔鏡なんとかって奴の中にいるんじゃないのか ?
コレット魔鏡結晶だよ。だからミリーナ、あんなに悲しんでるんだもん。
ミラ=マクスウェル見間違いじゃないのか ?
ユリウス俺は今まで、似て非なる物を探す仕事を山ほどしてきた。姿だけなら、イクスに間違いないと断言できる。
ユリウスただ、あの男にはイクスのような穏やかさがなかった。
ユリウスここがティル・ナ・ノーグの分史世界なら、俺は間違いなく彼を『時歪の因子』だと思っただろうな。
ルドガー…………。
ユリウスどっちにしろ、中に入らなければ魔鏡技師の所在もその男の正体もわからないということだ。
ルドガーそうだな。よし、潜入しよう。とりあえず、ミラはエルと一緒に外で待機していてくれるか ?
ミラ=マクスウェルああ。エルは私が守ると言ったからな。責任は必ず果たそう。
エル……ねえ、すぐに帰ってくるよね ?
ルドガーもちろん帰ってくるさ。安心して待っていてくれ。
エルメガネのおじさんも、ちゃんと返事して。
ユリウスえ…… ?
エルだってエルたちは、メガネのおじさんが心配だから迎えにきたんだよ。だから……いっしょに帰ろ ?
ユリウス……そうだな。帰るよ。みんな一緒に、だ。
ルドガーそれじゃ、兄さんと俺、ロイドは中に――
ロイドなんだ、今の音。
ユリウス……精製所の裏口からだな。
コレット誰か来るよ !
少女ねえ、大丈夫 ? 辛くない ?
金髪の男へい……き……だ……。
少女無理しないで、私が支えるから。ほら、よりかかって ?
ルドガー……女の子 ?金髪の男は具合が悪そうだな。
ユリウス――あれは……さっき連れられて来た子だ !
アスガルド兵貴様ら止まれ !脱走はそれ相応の処罰が下るぞ !
金髪の男う……。
少女―― !しっかりしてっ !
アスガルド兵馬鹿が、無駄なことをするからだ。手間をかけさせやがって、この――
エルあぶない !
アスガルド兵――誰だ !
ミラ=マクスウェル――シルフ !
アスガルド兵うわああっ ! なんだっ、この風は !
ミラ=マクスウェルルドガー、すまないが、もう潜入は難しいかもしれないな。彼女たちを見捨てておけなかった。
エル違うよ ! エルが声出したからかばってくれたんでしょ ?ごめんなさい……。
ロイド気にすんな。ちょうどあの時、俺も飛び出そうと思ってたんだ。
ユリウス……仕方ない。行くぞ。この騒ぎだ、すぐに他の兵士が来る。
ルドガーわかってる。今のうちにあの子たちを助け出そう。

Character8話【3-12 精製所近くの街道2】
ルドガーよし……ここまで来ればいいか。君、ケガは ?
少女はい、私は大丈夫です。でも彼が……。
金髪の男ハアッ……ハアッ……くる……し……
ユリウスこれ以上動かすのは危険かも知れないな。
ルドガーこんな時にジュードがいてくれれば……。
金髪の男うう……。
ルドガーおい、しっかりしろ !
ユリウスだめだ、意識がない。
コレット少しだけでも休ませてあげたいけど……。難しいよね。この人だけ運ぶのはできるけどみんなと離れるのは危険だと思うし……。
ロイド俺、追っ手がこないか様子を見てくるよ。その間だけでも休めるだろ。
ミラ=マクスウェル私も行こう。いざという時どちらかが足止めすれば、報せが滞ることもないからな。
ユリウスそう言えば君、先ほど軍に連行されてきたようだが、中の様子がわかるなら教えてくれないか ?
セシリィ……はい。それと私、セシリィっていいます。助けてくれてありがとうございました。
ルドガーセシリィ ! ?君が魔鏡技師のセシリィだったのか !
セシリィあの、あなたたちは…… ?
ルドガー俺はルドガー・ウィル・クルスニク。君には精霊クロノスについて聞きたいことがあるんだ。
セシリィじゃあ、あなたがクルスニクの一族…… !
金髪の男……うう……。
コレットあ、目が覚めたみたいだよ !
エルねえ大丈夫 ? どこか痛い ?
金髪の男き、みは……、…………。
エルなに ? 聞こえな――きゃあっ ! !
コレットど、どうしたの ! ? エルを離して !
ルドガーエル ! ?
セシリィリチャード……あなた !
エルはなして ! はーなーしーてーよーっ !
リチャード ?そう……きみは特異鏡映点だよね。確か『クルスニクの鍵』……だったかな。
ユリウス――貴様…… !
ルドガーエルを返せ !
リチャード ?断る。だが代わりにこれをくれてやろう。
ユリウス光魔だと ! ?コレット、セシリィを守れ !
コレットはい ! セシリィこっち !
リチャード ?それじゃあせいぜい楽しんでくれ。
エルルドガー ! ルドガー ! !
ルドガーエル !――くそっ、なんだこの大量の光魔は !後から後から……これじゃ追えない !
ロイドルドガー ! 一体どうなってるんだ !
ルドガーさっき助けた男にエルをさらわれた !
ミラ=マクスウェルなんだと ! ?エルは私が守ると約束したのに……。こんな所で足止めをくらうわけには――
マークそれならさっさと行って来な。
ユリウスマーク ! シンクもか !
マークここは引き受けた。あんたたちはエルを助けろ !
ユリウスすまない、恩に着る。
シンク言っとくけど好きでやってるわけじゃないからね。目障りだからさっさと消えな !
ユリウスルドガー、ここは彼らに任せろ。行くぞ !
ルドガーエル……絶対に助けるからな !

Character9話【3-14 入組んだ街道2】
エル痛いよ、はなしてよ !こんなことして、あなたなんてすぐ捕まえられるんだからねっ !
エルルドガーだって、メガネのおじさんだってこっちのミラだって !みんなみんな――強いんだから !
リチャード ?うるさい ! これ以上騒ぐと――……ぐっ……。
リチャード ?……こん、な……とき……に……うっ………あああっ ! !
エル! ?
エルえ…… ?
リチャード ?………。
エルねえ、どうしたの ?さっきみたいにエルを騙そうとしてるんだよね ?
リチャード ?………。
エルえっと……誰か呼んでくる !
エル――あっ !
ミトスどこに行くの ?こんな場所、一人だと危ないよ。
エル……あなた、だれ ?
ミトスボクと一緒においで。安全な所へ連れていってあげる。
エルそれよりも、あの人見てあげてよ。具合悪いみたいなの。エルのことはいいから !
ミトスそう、優しいね。人間の割には。でもちょっと面倒だから――少し眠ってもらうよ。
エル……あ……あ、れ ?何だか……ねむ……――
ミトスさてと。面倒をかけてくれたね、チーグル。おかげで――
ロイドルドガー、本当にこっちだったのか ! ?
ルドガー間違いない。エルの声がした !
ルドガーエル ! ?
ミトスそれ以上近づかない方がいいよ。この子のためにもね。
ロイド―― ! お前……ミトス !
ミトス……やぁ、ロイド。久しぶり、かな ?異世界でも出会うなんてホント笑っちゃうね。
ロイドどういうことなんだ ?救世軍に協力していたんだよな ?今もそうなのか ?
ロイドお前は何をしようとしてるんだ ?ここにはハーフエルフへの差別はないんだろ ?
ミトス別に、お前に話すようなことじゃない。
ロイド俺は聞きたいんだ !お前に聞かなきゃならないことは元の世界にいたときからたくさんある。
ミトス――おっと。お前の仲間はそうじゃないみたいだけどね ?
ユリウス――チッ ! !
ミトス甘いよ。小賢しいメガネのおじさん ?
ユリウス小賢しかろうと何だろうと、手段を選んでいられない時があるんでな。その子を返せ !
ミラ=マクスウェル……ロイド、お前の知り合いだろうが、私は戦うぞ。エルとの約束を守らねばならない !
ロイド……わかってる。
ロイド――なぁ、ミトス !話してくれないか ?お前が何をしようとしているのか。
ミトス……輝く御名の下、地を這う穢れし魂に裁きの光を雨と降らせん。
ミラ=マクスウェル――来るぞ !
ミトス安息に眠れ、罪深き者よ。――ジャッジメント ! !
ルドガーうわあああっ !
ユリウス――ぐっ !
ミラ=マクスウェルくっ、なんだ……この威力は……。
ミトスさすがにこれ一発で沈むほど弱くはなかったね。続ける ? 異世界のマクスウェル ?
ミラ=マクスウェルああ、聞くまでもない !
ルドガー……くっ、この世界でも【骸殻能力】が使えれば――
セシリィ
コレット……セシリィ。ここに隠れてて。やっぱり私も行かないと――
セシリィ――ううん。私も……私が行かないと飛天のミトスには勝てない。
コレットセシリィ ! ? 待って ! ?
セシリィ――ルドガーさん、この魔鏡を試してみて !
ルドガーこれは…… ?
セシリィこの魔鏡はクロノスの力を帯びているの。うまくいけば、クルスニク一族の力を使うことができるはず !
ルドガークルスニクの……まさか ! ?
ミトスやぁ、セシリィ。きみはそっちに付くんだね。だったら――残念だけど、さよならだ。
セシリィ――ルドガーさん ! 試して !【骸殻】を !

Character10話【3-14 入組んだ街道2】
ミトスへぇ、あれがクルスニクの力、か。
ルドガーまだ駄目か……。もっと、もっと力が引き出せれば――
ユリウス待てルドガー !
ミラ=マクスウェルルドガー、エルは取り返したぞ !君が奴を抑えてくれたおかげでな。
ミトス……うん、そうだね。きみたちはエルを、ボクは彼――チーグルを回収して手打ちにした方がいい。
ミトスきみも気づいたんじゃない ?クルスニクの力がボクに対しては上手く作用しないのを。
ルドガー…… !
ミトスその能力、エターナルソードの力に似ているね。時間にまつわる力のせいか互いの力を吸収し合ってしまう。
ミトスだからこそデミトリアスの興味を引いたのかな。
ルドガーデミトリアス……国王が ?
ミトス正しくは、お前たちクルスニクのアニマに刻まれた『分史』という概念にね。ボクは興味ないけど。
ロイドミトス、お前…… ?どうして俺たちにそんな話を――
ミトス痩せた野良犬を見たらエサの一つでもあげたくなるものでしょう ?
ミトス――さて、チーグルは連れて行くよ。
ロイドミトス……。
エルん……あ…… ?
コレットあ、エルが目を覚ましたよ !
エルルドガー…… ?あれ ? エル、どうなったの ?
ルドガーミラが助け出してくれたんだよ。みんなもここにいる。体、何ともないか ?
エルうん、大丈夫 !こっちのミラも…あ、ありがと。
ミラ=マクスウェル約束だからな。お前が無事でよかった。
ユリウス……エル、本当になんともないか ?体の痛みや、違和感や――
エルへーきだってば。メガネのおじさんはシンパイショーだね。
ユリウスルドガー、お前は ?
ルドガーだ、大丈夫だよ。どうしたんだ兄さん。
ユリウスいや、何ともないならいいんだ……。それにしても、どうして骸殻化できた ?
ルドガーああ、この魔鏡を使ったんだよ。――あれ ? 割れてる…… ?
セシリィミトス……さんの持つ剣の力を受けて割れちゃったのね。それは試作品だから。
セシリィその魔鏡は、精霊クロノスの力を帯びていたんです。
ユリウスやはりこの世界のクロノスは……。
セシリィはい。すでに封印から目覚めています。
セシリィこの世界の精霊が目覚めると、鏡映点によって持ち込まれた異世界の精霊は同種の存在と融合して、集合体になります。
セシリィそれでこの世界の精霊クロノスもクルスニク一族のあなたたちに影響を及ぼすものになっているの。
セシリィだからこそその力――骸殻が使える。
セシリィもし必要なら、ルドガーさん用にオーバーレイ魔鏡を造りますよ。
セシリィ今はその試作品と違って、もっと安定した加工技術を開発しましたから。あ、色々と材料は必要になっちゃうけど……。
ユリウスなぁ、この魔鏡を使って骸殻化することで使用者に影響はないのか ?力の限度や、その……代償のようなものは。
ルドガー代償 ?
セシリィああ……。はい、理論的には問題ないです。
セシリィエルさんは特異鏡映点なので時間の歪みエネルギーはエルさんの体からこの世界を取り巻く虚無へ吸い込まれる。
ユリウスそうか、問題はないのか。本当にそうなら、どうにか……。
セシリィただ、物事に100%はありません。だから今後もこの力を使うのなら、限定的な使い方をした方がいいと思います。
ルドガー――代償って何のことだ ?
セシリィ…………。
ユリウスあ、ああ。魔鏡での骸殻化だからな。俺たちの世界と、何か違う影響がでるんじゃないかと思っただけだ。
ルドガー……兄さん。
ユリウスルドガー、後でゆっくり話す。だから今は少し……時間をくれないか。
ルドガー……わかったよ。
フィリップ――セシリィ。よかった。無事だったようだね。
セシリィフィリップさん ! ?もしかしてフィリップさんが、私を助けるように頼んでくれたの ?
フィリップああ。でも彼らの助力がなければ到底かなわなかった。皆さん、ありがとうございます。
ルドガーいや、俺たちもセシリィに助けられたんだ。セシリィを迎えにきたんだろ ?
フィリップそのことだけど。セシリィ。彼ら鏡映点と共に、ミリーナを支えてやってくれないかな。
セシリィえっ、私が ?
フィリップ君ほどの技師ならば、ミリーナの大きな力になれる。それにルドガーたちクルスニク一族にも、君は必要だと思うよ。……嫌かな ?
セシリィまさか ! それどころか私、助けてもらったのに何もお礼をしてないから力になれるならすごく嬉しいけど……。
ルドガー俺は賛成だよ。ミリーナもきっと喜ぶ。
ミラ=マクスウェル私も異論なしだ。精霊の件も詳しく知りたいしな。
ロイド俺も賛成。ルドガーたちのためにもなるんだろ ?
コレットわあ~、仲間が増えたね !
エルなんかわかんないけど、エルもさんせー !
ルルナァ~ !
エルルルもだって !
フィリップそうか、よかったよ。受け入れてもらえそうだね。
セシリィありがとうございます !
ルドガーよし、帰ろうか。兄さんを迎えに来て随分寄り道したからな。
エルそーだね !メガネのおじさん、今度は一人でどっかいっちゃだめだよ。
ユリウスあ、ああ。それなんだが、エル。おじさんというのはそろそろやめてくれないか ?
ユリウス俺はまだ20代なんだが……。
ルドガー兄さん……。気にしてたんだな。
エルおじさんって、嫌だったの ?ごめんね ?
ユリウスいや、謝られると面はゆいんだが。
エルわかった ! これからはユリウスって呼ぶね。
エルユリウスは何かあったら、エルやルドガーにちゃんと話してからコウドウすること !はい、目を見て ! 約束 !
ユリウス……はは、エルにはかなわないな。わかった。約束するよ。

Character11話【3-15 アジト近くの街道】
ロイドふぅ。やっぱりアジトは落ち着くな。
コレット……フィリップさんも一緒に来ればよかったのにね。
ロイドあの人、いつの間にかいなくなってたな。
ルドガー――エルを休ませてきたよ。
ロイド無事でよかったよな。そういや、ミリーナは ?
ルドガーああ、どうもセールンドに行ってるらしいんだ。俺たちがいない間になんだか色々起こってるみたいで……。
ルドガー他のみんなもかなり忙しそうだったよ。
ユリウスすぐにでもお前の魔鏡の件を相談したかったんだが……仕方ないな。俺たちはここでしばらく待とう。
ユリウスそれにしても驚いたよ。君がガロウズの弟子とは。
セシリィガロウズ師匠には色々と教えてもらいました。でも、行方不明だなんて……。
セシリィ手がかりとか全然ないんですか ?
ルドガー……まだ何も。
セシリィそうですか……。でも、ガロウズ師匠は絶対に帰ってきます !
セシリィそれまで私、魔鏡技師としてここで頑張りたいです。あ、師匠には及ばないかもですけど。
ルドガーそんな心配ないさ。それに優秀だから帝国もセシリィをさらったんだろうし。
セシリィ……私が捕まったのは、ビフレスト皇国の魔鏡技術を研究していたからじゃないかな。帝国がその技術を欲しがっていたから――
カーリャルドガーさま !ミリーナさまが帰ってきました !
ミリーナオーバーレイ魔鏡……。これは……ビフレストの魔鏡技術ね。
セシリィはい。アニマに宿る過去や未来の可能性を一時的に具現化して、使用者を包むことで潜在能力を引き出し、倍増させる魔鏡です。
ミリーナイクスのオーバーレイは今現在の力を持続的に重ね合わせる技だったけれどこれは過去や未来すらも重ねるなんて……。
コーキス確か異世界から具現化されたものはエンコードによって、この世界に合わせて情報が調整されているんですよね。
ミリーナええ、そうよ。でもそのせいで鏡映点の人たちの中には本来の能力が抑えられている可能性がある。
コーキスじゃあオーバーレイ魔鏡でそれを解放できるってことなんですね ! ?
ミリーナそういうことになるわね。
ミリーナしかも鏡士ではない人にオーバーレイを制御できるように加工するなんてとても高い技術だわ。
セシリィでも、その代わり時間的な制限があります。長時間は使えません。
ロイドはー、なんかよく分かんねーけどオーバーレイ魔鏡ってすげぇんだな ! ?俺も試してみてぇ !
セシリィその為にはロイドさんのアニマに秘められた力が、何を触媒にして目覚めるのかを見つけないといけませんね。
ロイドしょくばい ? 何だそれ ?――っていうか、敬語なんかで話さなくてもいいよ。
ロイド俺たちにもフィリップと話してた時みたいにしてくれていいんだぜ。
セシリィあ……う、うん。そうだね。これから仲間になるんだもんね。
セシリィえっと、それで触媒っていうのはきっかけみたいな物のこと。
セシリィルドガーさんの場合は精霊クロノスの力を帯びた魔鏡が、ルドガーさんのアニマから過去や未来に起こりえた力を引き出したの。
ロイド……んー ? つまり力を増幅するきっかけが何かわかれば、俺もオーバーレイしてすげぇ力が出せるんだな。
ロイドすげぇ ! イクスとかルドガーみたいに俺も格好良く変身してぇ !
ミリーナ…………。
ルドガー大丈夫か、ミリーナ。帰って来たばかりで疲れているのにごめんな。
ミリーナあ、違うんです。ルドガーさんたちの話には気になることがたくさんあって……。
ミリーナねえセシリィ。フィル……フィリップのことなんだけど――
カーリャミリーナさま。お話中ごめんなさい !
カーリャクレスさまたちが戻られたんですけどジュードさまを呼んでくれって…… !
ミリーナ皆さん、無事ですか ! ?誰か怪我でも――
クレスミリーナ、僕らは大丈夫だよ。――さあ、チェスター、こっちへ。
セシリィえ、チェスター ! ?
チェスターお前、セシリィか !なんでここに……いや、ちょうど良かった !
チェスターなあ、お前ならこいつを助けられるんじゃないか。
セシリィちょ、ちょっと待って。いきなりで頭が追いつかないよ !この子、誰なの ?
チェスターアミィ。オレの……妹だ。
ミリーナ妹さん ?妹さんも具現化されていたんですか ?
ミリーナ――あ、でもチェスターさんの妹さんは確か……。
クレスうん……。
チェスター頼む……とにかく診てやってくれよ。
セシリィええ ? 私は魔鏡技師でお医者様じゃないよ ?
チェスターんなこたぁわかってる !ジュードが来たらあいつにも診てもらうさ。けど、多分お前の方が適任だと思うんだよ !
アミィ…………。
セシリィ……わかった。アミィ、ちょっと触るね。痛いとか苦しいとか、何でも言って ?
アミィ…………。
セシリィうーん……。ずっと笑顔だから苦しいっていうわけじゃないのかな。外傷もみあたらないし……。
アミィ…………。
セシリィねえ、待って。……笑顔……だけ ?
チェスター……ああ、ずっとだ。ずっとこいつは――このままだ。具現化されたときからずっと……。
クレスチェスター……。
チェスター頼むよ……なんとかしてやってくれ。
to be continued