| Character | 1話【11-1 ひとけのない街道1】 |
| | アスガルド帝国 芙蓉離宮 |
| バルド | シドニー、協力を願っておいて今更ですが、本当にいいんですね ? |
| セシリィ | もちろんです。そのために色々と準備を進めてきたんですから。……もしかして私、怖気づいてるように見えました ? |
| バルド | いいえ。ただ、ケリュケイオンにはあなたの大切な人がいるでしょう。 |
| バルド | これは危険な作戦です。ちゃんとガロウズと話はしてきましたか ? |
| セシリィ | ……姿は変わっても、優しい所は変わりませんね。生前、私をかばってくれたバルドさんのまま。 |
| バルド | そんなことは……。 |
| セシリィ | ガロウズとのことは気にしないでください。私自身が決めたことですから。 |
| セシリィ | それに、私は『体』を粗末にするつもりはありません。この体の持ち主である、セシリィのためにも。 |
| バルド | ……わかりました。では、行きましょう。 |
| メルクリア | よくセシリィを連れ戻してくれたな。さすがバルドじゃ ! |
| バルド | 私の力だけではありません。彼女自身も帝国に戻りたいと望んでおりましたので。 |
| バルド | ただ、チーグルも一緒に連れ戻せなかったのは私の不徳の致すところです。 |
| メルクリア | そなたは十分やってくれたぞ、バルド。確かにチーグルがいないのは残念じゃが今は良しとしよう。 |
| メルクリア | さて……黒衣の鏡士どもにさらわれたと聞いて心配しておったのだぞ ?セシリィ――いや、シドニーよ。 |
| セシリィ | ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。 |
| メルクリア | 無事ならば良い。良いが……さらわれる直前に、そなたはチーグルを連れて精製所からの脱走騒ぎを起こしたそうじゃな。 |
| セシリィ | ――っ ! ! それは……。 |
| メルクリア | 隠さなくてもよい。全部知っておる。 |
| メルクリア | あんなことをするくらいなら素直に申せば良かったのじゃ。「チーグルを連れて、この離宮へ戻りたかった」と。 |
| セシリィ | え ? |
| メルクリア | あの頃のそなたは、不安定なチーグルの容体も見ながらクロノスの研究を進めていた。 |
| メルクリア | そこへ特異鏡映点亜種の調査のために離宮から慣れぬ施設に移されて、ずいぶんと参っていたそうではないか。 |
| セシリィ | 私は……その……。 |
| バルド | シドニー。遠慮をせずに「そうだ」と頷いてよいのですよ。メルクリア様は寛容な方ですから。 |
| セシリィ | (バルドさん…… ! 嘘の報告を――) |
| セシリィ | は、はい。恐れながら……。 |
| メルクリア | バルドから、シドニーが思い詰めていたとの報告を受けた。それゆえ、チーグルの容体が悪化した際に、この離宮に戻るため暴挙に走ったのだと。 |
| メルクリア | そなたに無理をさせてしまったのじゃな。……わらわのことが嫌いになったか ? |
| セシリィ | いいえ、そのようなことはありません。 |
| メルクリア | 本当か ? ならば今までどおり、魔鏡術について話を聞かせてくれるのじゃな ! |
| セシリィ | もちろんです。この体――セシリィと同様、メルクリア様のお話相手として頂けるのならばこれ以上の喜びはありません。 |
| メルクリア | うむ ! ならば我がビフレストの民を救うため再びこの離宮での研究に励むがよいぞ ! |
| セシリィ | はい、ありがとうございます。 |
| メルクリア | これで一安心じゃ。シドニーが戻ってきたことでバルドが裏切っていないことも証明されたからの ! |
| バルド | 裏切りなど、一体どこからそのような話を ? |
| メルクリア | なんといったかのう……。すこし前にリビングドールとして甦らせた、浅黒い肌で、屈強な男の体を使っておる…… |
| バルド | ローゲ、ですか ? |
| メルクリア | そう、ローゲじゃ。バルドの動きに不審な点がみられるゆえくれぐれも気をつけろ、とな。 |
| バルド | 彼がそのようなことを……。 |
| メルクリア | い、言っておくが、わらわはそんなはずはないと突っぱねたぞ ! じゃが……。 |
| メルクリア | ……わらわが気に入った者は、ことごとく離れて行く。チェスター、ミトス、シング、カイウス、ルビア……。皆、わらわを裏切った。 |
| メルクリア | だからその……ローゲの言ったことを気にしているのは用心のためなのじゃ。わかるな ? |
| バルド | …………。もちろん、承知しております。 |
| メルクリア | ならば良い ! バルド、そなたは下がって休め。シドニーはわらわと共に来るのじゃ。久しぶりに魔鏡術の話を聞かせてくれ。 |
| メルクリア | そなたがいなくなって寂しくて仕方がなかったのだ。セシリィとシドニーを同時に失ったのじゃからな……。でも、今日からは共に過ごせる ! |
| メルクリア | 落ち着いたら、またぱじゃまぱーてぃーとやらを開こうぞ ! |
| バルド | (まずはひとつ、関門を突破した――か) |
| ナーザ | メルクリアとの謁見はすんだのか。 |
| バルド | はい。メルクリア様も大変お喜びでした。 |
| ナーザ | そうか。お前の立てた策が成功して何よりだ。メルクリアに良からぬ噂を持ち込んだ奴がいたようだからな。 |
| バルド | ローゲのことでしょうか。私の行動を疑っているとメルクリア様からうかがいました。 |
| バルド | ですが、あれは仕方がありません。彼は生前から私を恨んでいました。 |
| バルド | この世に舞い戻っても、その気持ちに変わりはなかった……それだけのことです。 |
| ナーザ | ローゲは才気溢れる臣下だった。そして簡単に獲物をあきらめるような男ではない。 |
| ナーザ | それに、あのローゲに鏡士の情報を渡しているものがいるようだ。恐らくその者から情報が筒抜けになっている。 |
| バルド | ! ! |
| ナーザ | ……色々と策を弄するのも結構だが、足をすくわれぬよう、気をつけて事を進めた方がいい。 |
| ナーザ | お前のやっていることは、間違ってはいないのだからな。 |
| バルド | ―― !ナーザ様……、あなたは……。 |
| ナーザ | ……もはや死者である我々が何をしてもすべては理から外れた行為。ダーナの意思に背くに違いない。 |
| バルド | わかっておられるのでしたら、もう―― |
| ナーザ | だがな、世界を救うために戦い死んでいったビフレストの民はどうなる。その志を、犠牲を、無駄にすることなど俺にはできぬ ! |
| ナーザ | せめて我らビフレストの本懐だけでも遂げずして我が民たちに顔向けができようか。 |
| ナーザ | ……バルド。お前がどう動こうと構わない。だが、これだけは言っておくぞ。 |
| ナーザ | 俺は必ず鏡精を滅ぼす。それを生み出すセールンドの鏡士もな。 |
| バルド | …………。 |
| Character | 2話【11-1 ひとけのない街道1】 |
| カロル | 待って、ユーリ ! |
| ユーリ | まだ休んでろって。今回はあっちこっち連れまわしちまったからな。 |
| カロル | そんなに疲れてないし平気だよ。それにボクは室長だから、責任もってミリーナに報告しないと。 |
| ユーリ | へえ、すっかり室長が板についてきたな。頼もしいこった。 |
| ラピード | ワオン ! |
| カロル | ミリーナお待たせ !報告に来た――って、あれ、みんな ! ? |
| エステル | ユーリ、カロル、ラピード、お帰りなさい !無事で何よりです ! |
| リタ | ずいぶん遅かったじゃない。どこ寄り道してたのよ。 |
| レイヴン | いいじゃないの、寄り道結構。で、お土産は ? |
| ユーリ | なんだよ、勢ぞろいでお出迎えか。どうした ? |
| コーキス | えっと……、ユーリ様に色々と伝えることがあって……。 |
| ジェイド | まあまあコーキス、それは後にしましょう。まずは彼らの報告を聞いてからです。 |
| ユーリ | ふうん……。あんたとコーキスの顔みてたらろくでもねえ話だってことは分かったぜ。 |
| ミリーナ | とりあえず座って、ユーリさん。カロルもラピードさんもお疲れ様。ヴェイグさんたちと別れたあと、どうしたか気になってたの。 |
| ユーリ | 悪いな。方々回ってたんで時間がかかっちまった。そういやヴェイグたちは ? |
| ミリーナ | ヒルダさんと一緒に、こっちに戻ってるわ。 |
| カロル | よかった、ちゃんと会えたんだね !ヴェイグ、すごく心配してたから。 |
| ミリーナ | そうね。クレアさんも喜んでたわ。それで何かわかった ? |
| カロル | うん。精製所とか出入りの商人とか、色々と調べたよ。ユーリなんか、酒場で衛兵や研究所関係者とうまく飲み仲間になってさ。そこで―― |
| ユーリ | 経緯はいいから、結論が先な。コーキスたちもオレに話があるみたいだし。 |
| カロル | そうだね。えっと、フレン――バルドの事を調べたんだ。そしたら兵士の間でも評判がいいフレンを悪く言う男がいるって話を聞いたんだ。 |
| カロル | ローゲって名乗ってるらしいけど最近いきなり幹部になったんだって。どこから来たのかは、みんな知らないみたい。 |
| カロル | 今まで幹部クラスになったのって鏡映点が多かったでしょ ?だから怪しいってユーリと話してたんだけど……。 |
| ミリーナ | リストは用意してあるわ。特徴を教えてもらえる ? |
| カロル | 髪が長くてうねうねしてて、いかつくて、背はユーリよりも高いって言ってたよね ? |
| ユーリ | ああ。それに肌や髪の色と――聞いた限りだと、こいつに近いな。 |
| ミリーナ | ……バルバトス。カイルの敵ね。そう言えば、クラトスさんが精製所で戦ったのも似た特徴の男だったって報告を受けてるわ。 |
| ジェイド | 精製所には、様々な心核が保管されていたと聞いています。名を偽っていないのだとしたら、彼はリビングドールにされている可能性が高いですね。 |
| ミリーナ | そうすると、バルドさんかフレンさんが、ローゲという人に敵意を持たれていることになるけど……。 |
| ユーリ | バルドがらみって線が濃厚だろ。こいつが表に出て来た頃には、フレンはもう乗っ取られていたはずだ。 |
| コーキス | ……乗っ取られたっていうか……。 |
| ユーリ | なんだ ? 何か―― |
| ジェイド | わかりました。帝国内部でバルドを妨害している人物は彼である可能性が高いということですね。他には ? |
| カロル | 精霊の話もあるよ。帝国は精霊を小さな入れ物にいれて持ち運べるんだって。 |
| カロル | なんとかケイジって名前の入れ物らしいんだけど、詳しいことまでは調べきれなかった。 |
| リタ | 待って、それってクレーメルケイジじゃない ?キールから聞いたことがある。あっちの世界では精霊じゃなくて晶霊ってのを入れてたらしいけど。 |
| ジェイド | ティル・ナ・ノーグ仕様に開発されているのかもしれません。後でキールを呼んで、詳しい仕組みを聞くとしましょう。 |
| ジェイド | ですがそうなると、捕まっている空のマクスウェルにはそのクレーメルケイジが使われていることも考えなければいけませんね。 |
| エステル | 人ひとり捜すのも大変なのに、ますます捜索がしにくくなりますね……。 |
| レイヴン | ったく、厄介な上に、人様の世界の技術をよくもまあいいように利用するもんだ。その技術もどこから仕入れたんだか。 |
| ミリーナ | 神依、クレーメルケイジ、転生者にソーディアン……。帝国はどれだけ情報を持ってるのかしら。 |
| カロル | そこまでわかれば良かったんだけど、今回報告できるのはこれくらいなんだ。 |
| ミリーナ | いいえ、ありがとう。大きな手がかりよ ! |
| ユーリ | それで、そっちの話ってのはなんだ ? |
| 三人 | …………。 |
| ユーリ | なるほど、まあ検討はつくさ。フレンのことだろ。で、なんだって ? |
| ミリーナ | レイヴンさんたちには、すでに話してありますが、これから言う話も、作戦内容も、今ここにいる人たちだけに止めておいて欲しいんです。 |
| ミリーナ | 私たち、あれからまたバルドさんに会ってきたんです。そこで新たな作戦の話になったんですが――……。 |
| Character | 3話【11-2 ひとけのない街道2】 |
| ミリーナ | ――それで、フレンさんはバルドさんと入れかわりに帝国に残る手筈になっています。 |
| ユーリ | ………………。 |
| コーキス | カ、カロル様、ちょっといいか ? |
| カロル | な、なに ? |
| コーキス | ユーリ様、大丈夫か ?なんか声かけてやった方がいいんじゃ……。 |
| カロル | えっと……リ、リタ、ちょっと来て ! |
| カロル | ユーリになんて声をかけてあげればいいかな。 |
| リタ | 何の反応もないのにどうしろってのよ !あんた考えなさい。ほら、頭使え ! |
| カロル | ボクだってフレンの話にびっくりしてるんだよ ! ?きっとユーリだって……。 |
| エステル | リタもカロルもコーキスも、どうしたんです ? |
| リタ | ちょ、エステル ! あのユーリ見てよく普通で……。 |
| エステル | ユーリですか ? 笑ってますけど。 |
| 三人 | え ? |
| ユーリ | …………くくっ、…………はははははっ !まいったね、ったく ! |
| レイヴン | だよねえ。さすがの青年もそりゃ笑うしかねえわなあ。 |
| ユーリ | ああ。あいつはそういうヤツだったぜ。なに簡単に乗っ取られてんだと思ったけど異世界ボケしてたのはオレの方だったわ。 |
| ユーリ | 抵抗するどころか受け入れて、乗っ取った奴と協力ね。どこまで正攻法が好きなんだよ。 |
| エステル | でも、とてもフレンらしいと思います。 |
| レイヴン | 不利な状況の中で対処していくってのはフレンにとっちゃ慣れたことだろうからな。あの手のタイプは案外したたかよ ? |
| ユーリ | 知ってるよ。嫌ってくらいさ。ったく、慣れない心配なんざするもんじゃねえな。 |
| ジェイド | 楽観視するには早いですよ。フレンはバルドとして帝国に残らねばなりません。万が一彼の正体がばれた場合は……。 |
| レイヴン | ちょっと大将、あんまウチの子いじめないでくれる ? |
| ユーリ | 構わねえよ。どうせそのことも含めて、色々と策をこねくり回してんだろ ? |
| ジェイド | さてどうでしょう。ともかく、バルドが無事に我々の下に来て、そこからようやくイクスの救出計画が実行に移せるわけですからね。 |
| ジェイド | まずはバルドが別の体を手に入れなければ始まりません。 |
| ユーリ | 別の体ね……。その作戦、大丈夫なのか ?『ファントム』の体を使うだなんてよ。 |
| カロル | あいつ、本当にまだ生きてるの ? |
| ジェイド | バルドからも聞きましたから、間違いありません。それに以前、帝国に潜入したあなたたちの報告を受けた時から予想はしていました。 |
| ジェイド | カレイドスコープを隠した仮想鏡界の存在は、ファントムの生存を意味しているだろう、と。 |
| ジェイド | あの戦いで倒れた後は彼と同じ存在であるジュニアがサポートをして仮想鏡界を維持しているのだと思われます。 |
| ユーリ | ちと気になったんだが、仮想鏡界は、作った鏡士か鏡精が中に残らないと維持できないんじゃなかったっけ ? |
| リタ | それ、あたしも引っかかってたの。ファントムの存在で仮想鏡界を維持してるとしたらその体を奪って出て来るなんて無謀よ。 |
| リタ | ジュニアがサポートしてるだろうとか言ってたけど、下手したら鏡界が維持できなくなって帝国にばれるんじゃないの ? |
| ミリーナ | 私がカーリャを置いてるのは、まだ未熟だからなの。この仮想鏡界はゲフィオンの知識によるものだから、今の力じゃ制御が難しくて……。 |
| ミリーナ | でもビクエであるフィル――ファントムがつくった仮想鏡界なら、そんな必要はないはずよ。変わらずに場を保つことも可能だと思う。 |
| ユーリ | なるほどね。んじゃその辺は解決か。それで、セシリィはもう出発したんだな ? |
| ミリーナ | ええ。今頃は帝国内に入っているはずです。バルドさんが手引きをしてくれてるから、大丈夫だと思います。 |
| リタ | そこまでバルドってのに任せきりで平気 ?フレンと協力してるって話も、あいつが言ってるだけなんでしょ ? 警戒しといた方がいいわよ。 |
| カロル | でも、リビングドール計画を止めたいって言ったあの時のバルドは本気にみえたけどな。それに生き返っても、こんなんじゃ嬉しくないって。 |
| レイヴン | そうねえ。リタっちの言うとおり警戒はしないといけないけど、その言葉だけは、信じてやりたいね。 |
| レイヴン | ……だいたい、勝手に死んだ人間甦らせて、それが当人の幸せだと思ってんならとんだお門違いってやつさ。 |
| カロル | レイヴン……。 |
| レイヴン | しかしバルドくんはぜーたくだわ !あのモテモテフレンちゃんの顔で嬉しくないとか !俺様なら即ナンパに行くね ! |
| リタ | 人が真面目に話してるのに……あんたは結局そこか ! |
| レイヴン | ひっ ! ? |
| エステル | リタ、ここで術はだめですよ ? |
| リタ | わ、わかってるわよ……。 |
| レイヴン | あー嬢ちゃんがいて助かったわ……。フレンちゃんと会う前に死ぬところだった……。 |
| エステル | 死なれては困ります。みんなでフレンを出迎えてあげないと。ね、ユーリ ! |
| ユーリ | 出迎えなんて、こいつで十分さ。 |
| リタ | 剣 ? またあんたらは……。 |
| ラピード | ワフ~。 |
| ジェイド | ……やれやれ、騒がしい。フレンが関わることだからと彼らに話を通したのですが、うかつでしたか。 |
| ミリーナ | いいえ、ジェイドさんの判断は間違っていません。表には出さなくても、今までみんなフレンさんのことで不安だったでしょうし。 |
| ジェイド | 士気が下がるのは避けねばなりませんので、相応の対処をしたまでですよ。 |
| ミリーナ | ふふ、そうですね。 |
| コーキス | でも、ユーリ様が案外普通でよかったですね。フレン様が帝国に残ってバルドの身代わりになるなんてもっと何か言われるかと思った。 |
| ミリーナ | そうね。フレンさんを信じているんでしょうけど、でも、きっと……。 |
| Character | 4話【11-4 静かな山岳2】 |
| ソフィ | あ、アイゼン。 |
| アイゼン | なんだ。お前たちも船の改造にかりだされたのか。 |
| アスベル | 船 ? いいえ。俺たちは仲間の様子を見にきたんです。アイゼンさんは、フィリップさんに呼ばれたんですか ? |
| アイゼン | まあな。……ところで、エドナは元気にしているか ? |
| シェリア | もちろんです。今は大変な時だけど、たまにエドナの主催でお茶会を開いたりしてて、みんなのいい息抜きになってますよ。 |
| ソフィ | お茶会、楽しかった。エドナはパルミエが食べたいって言ってたよ。 |
| アイゼン | フッ、そうか。 |
| フィリップ | わざわざ来てもらって済まないね。アイゼン。ケリュケイオンのこと、よろしく頼むよ。 |
| アイゼン | 物好きな奴らだ。死神の呪いを背負った俺に頼むとは。何が起こっても知らんぞ。 |
| ガロウズ | 起こってほしいくらいだぜ。ちょいと行き詰まってるんだよ。 |
| ガロウズ | 船乗りとしての意見とか、魔鏡技師とは別方面からのアプローチが欲しいんだ。早速頼むぜ。 |
| フィリップ | さて、こちらはリチャードのことだね。 |
| アスベル | ……はい。 |
| フィリップ | 君たちには聞きたいことがある。一緒に行こう。 |
| シェリア | 陛下……眠ってる顔は穏やかなのに……。 |
| アスベル | リチャードは、このまま眠らせておくしかないんですか ? |
| フィリップ | ……そうだね。彼の場合、リビングドールとはいっても、本人の心核をとりはずしている訳じゃない。 |
| フィリップ | 心核をいじられていて、リチャードとチーグルが、一つの体に存在している状態なんだよ。 |
| シェリア | クラトスさんの時のようにスピルメイズに入れば、どうにかなりませんか ? |
| フィリップ | それはもちろん考えている。ただ、少し時間をかけて検証したいことがあるんだ。 |
| フィリップ | (バルドとフレン、彼らの結果を見てみないと……) |
| アスベル | 結局リチャードの状況は、ラムダがいた時と変わってないってことか。 |
| シェリア | そうね。ラムダの代わりに、チーグルが取りついただけだもの……。 |
| フィリップ | その『ラムダ』のことだけど、カイウスから話は聞いたね ? |
| ソフィ | 今はルキウスって人の中に入ってるんだよね ?ラムダが暴れるから、ずっと眠ったままだって。 |
| フィリップ | 少しラムダについて説明してもらえるかい。何故、リチャードにとりついているのか。彼はどういう存在で、肉体はどうなっているのか。 |
| アスベル | 元々ラムダに肉体はありません。他人に取りつくことで存在していたんです。そしてラムダは……人間を憎んでいます。 |
| アスベル | リチャードはそんなラムダを受け入れてしまった……。 |
| フィリップ | 彼らは、望んで共存していたわけだね。 |
| シェリア | 確かに、陛下は一度は離れかけたラムダを呼び戻したことがあります。望んで一緒にいるといえばそうなのかもしれないけど……。 |
| シェリア | だけど、あんなの悲しすぎるわ……。 |
| アスベル | ……ああ。俺たちはまだリチャードのこともラムダのこともわかっていない。 |
| アスベル | ただ、俺たちの世界を滅ぼそうとしていたラムダも、そしてリチャードも、人に虐げられていた。それだけは確かです。 |
| フィリップ | ……なるほど。そして今、リチャードと引きはなされたラムダは、この世界で再び、勝手な実験にさらされている。 |
| フィリップ | これはかなり危険な状態だね。ルキウスが目覚めてしまったら大変なことになるかもしれない。 |
| ソフィ | ……その時は、わたしが消す。 |
| アスベル | ソフィ ! お前またそんなことを ! |
| ソフィ | でも、ラムダが暴れたらきっとこの世界も滅ぶ。そんなの絶対にダメ。だから、わたしがやらなきゃ。 |
| フィリップ | どういうことだい ? |
| シェリア | ラムダは、ソフィにしか消すことはできません。そしてその方法は……対消滅です。 |
| フィリップ | 対消滅……ということは……。 |
| ソフィ | ラムダを消して、わたしも消える。わたしはそのために作られたの。 |
| Character | 5話【11-6 静かな山岳4】 |
| メルクリア | なるほどのう。未来におこりえる可能性までも現在の力にすることができるのか。 |
| メルクリア | その鏡、わらわも作りたい !未来のわらわはきっと強いぞ ! |
| セシリィ | そうですね。ですが、この魔鏡の作成には高度な技術が必要なんです。 |
| メルクリア | そうか。ならばどれくらい修行が必要かの ? |
| セシリィ | 力を持っている鏡士でも技術の習得には相当かかりますので―― |
| バルド | 失礼します、メルクリア様。 |
| メルクリア | バルドか、入れ。何の用じゃ ? |
| バルド | セシリィをそろそろ下がらせてもよいでしょうか。 |
| メルクリア | なんでじゃ。もっとゆっくりしておればよい。なんならバルドも一緒にどうじゃ ?お茶もお菓子も用意してあるぞ。 |
| バルド | お誘いは大変ありがたいことですが、セシリィには仕事がありますので。 |
| セシリィ | 申し訳ありません。メルクリア様。国のための研究なのです。ご理解ください。 |
| メルクリア | いやじゃ ! わらわに話を聞かせる方がよっぽど国のためになる ! |
| セシリィ | また、お部屋に伺いますから―― |
| メルクリア | いーーやーーじゃーー ! ! |
| ナーザ | 外まで声が響いているぞ。はしたない。 |
| メルクリア | あ、兄上様 ! |
| ナーザ | また駄々をこねているのか。 |
| メルクリア | 駄々ではございませぬ !シドニーがわらわを置いて研究に戻るというから……。 |
| セシリィ | 申し訳ありません。ですが……。 |
| メルクリア | わらわは無理を言っているか ?そなたの魔鏡術の話を聞いてもっと鏡士としての知識を深めたいだけじゃぞ ? |
| ナーザ | お前は少し我慢というものを知るといい。度が過ぎると相手にされなくなるぞ。 |
| メルクリア | ……わらわは早く一人前の鏡士になって、ビフレスト皇国を甦らせたいのです。だから……。 |
| ナーザ | 何故、そこまでこだわる。ビフレストのことなど何も覚えていないだろう。 |
| メルクリア | 覚えていないから !だからこそ、我が故郷をこの目で見たいのです。 |
| メルクリア | 亡くなった母上とて、心の底からビフレストの復活を願っておりました。 |
| ナーザ | それは母上の望みだ。お前自身ではあるまい。 |
| メルクリア | いいえ、わらわの望みです。あの憎きゲフィオンが、魔鏡術で大陸を生み出したと聞いた時に決意しました。 |
| メルクリア | あの女よりも優れた鏡士となり、わらわもビフレストを復活させてみせると。これは母上の望みで、わらわの夢なのです。 |
| メルクリア | 兄上様は違うのですか ?もしや、ビフレストはもう過去のものと ? |
| ナーザ | そうは言っていない。俺には俺の目的がある。ただ、お前はこの世界の『生者』だ。死人の俺たちとは違うだろう。 |
| 二人 | …………。 |
| ナーザ | ビフレストに囚われることはない。望むまま、普通に生きて、普通に暮らせ。 |
| メルクリア | 普通…… ? よくわかりませぬが、これがわらわの普通です。兄上様。 |
| ナーザ | …………。 |
| メルクリア | 兄上様……なぜそのようなお顔をなさいます ?怒っておいでなのですか ? |
| ナーザ | ……違う。 |
| メルクリア | そ、そうじゃ、聞いて下され、兄上様 !確かに今は、カレイドスコープで光る砂になった者しかリビングドール化できませぬ。 |
| メルクリア | ですが、いずれはゲフィオンのように、過去からビフレストの民を甦らせて見せますゆえ ! |
| メルクリア | そうすれば、全ては元通りじゃ !きっと、兄上様にもお喜び頂けます。 |
| メルクリア | ……ん。その時のために研究は必要じゃな。わらわも我慢する。シドニー、研究に戻ってよいぞ !バルドも下がってよい。 |
| セシリィ | ……ありがとうございます。 |
| メルクリア | これでよいでしょう ? 兄上様。 |
| ナーザ | ……ああ。 |
| ナーザ | ……お前たちは、あれをどう思う。 |
| セシリィ | ……根はお優しい方です。それだけは間違いありません。 |
| バルド | ……ええ。そしてウォーデン様と故郷を一途に慕っております。 |
| ナーザ | わかっている。だからこそ……哀れだ。何故こうなったのか……。デミトリアスの仕業か……。 |
| ナーザ | メルクリアが生まれたとき、誰もが夢見た未来はこのような姿ではなかった筈だ……。……それが口惜しい。 |
| Character | 6話【11-7 静かな山岳5】 |
| | アスガルド帝国 仮想鏡界内 |
| セシリィ | ここがファントムの仮想鏡界……。 |
| バルド | そういえば、あなたは初めてでしたね。 |
| セシリィ | ええ。私は知らされていませんでしたから。ところで、ジュニアは ? |
| バルド | 打ち合わせ通りなら、そろそろ来るはずです。 |
| ジュニア | バルド、セシリィ ! |
| バルド | ジュニア、ここです。 |
| ジュニア | 今なら安置室には誰もいないよ。すぐに行って処置を始めよう。 |
| セシリィ | あそこで眠っているのがファントムなのね。他にもケースに入れられている人たちがいるけど、もしかして……。 |
| バルド | ええ。こちらはルキウス、そしてリーガル。彼らは鏡映点です。 |
| セシリィ | この人がカイウスの……。鏡映点がこんなにもたくさん眠っていたなんて。この人も……。 |
| ジュニア | 彼女は違うよ。ヨーランドだ。 |
| セシリィ | ヨーランドって、まさか、ヨーランド・ビクエ・オーデンセ ?初代ビクエの ! ? |
| ジュニア | そう。ダーナの巫女だよ。 |
| セシリィ | そんな人までここに……。一体どうなってるの ? |
| ジュニア | ……ごめんセシリィ。今はバルドを移すことを優先して。 |
| セシリィ | ……わかったわ。 |
| セシリィ | ――バルドさん。ファントムの側に。 |
| バルド | はい。 |
| ジュニア | それじゃ、ファントムを覚醒させるね。 |
| セシリィ | 本当に目覚めさせても大丈夫なの ? |
| ジュニア | ……見ていればわかるよ。 |
| セシリィ | ……ファントムが目を開けたわ。 |
| ファントム | ……。 |
| セシリィ | ……ファントム ? |
| ファントム | ……。 |
| ジュニア | ……このとおり、ファントムの人格はひどく希薄になってしまったんだ。今は何もできない。ただ、生きているだけ。 |
| セシリィ | ……そう。 |
| ジュニア | でもね、この状態だからこそ心核への侵入がしやすいと思う。 |
| セシリィ | そうね。やってみる。 |
| ジュニア | 頼むね。ビフレストの鏡士。これは君たちの国の技術だから任せるよ。手順は大丈夫 ? |
| セシリィ | ええ。ちゃんと確認済みよ。まずファントムの心核を解放して、その後に、バルドさんを移動させるわ。 |
| セシリィ | では――行きます ! |
| ? ? ? | おい、こんな辛気臭い部屋で何をしている。 |
| セシリィ | ―― ! ! |
| ジュニア | ――セシリィ、彼は僕が相手をするから、バルドが無事か確認して。 |
| ジュニア | どうしたの、ローゲ。なんでこんなところに ? |
| ローゲ | コソコソと動き回っているネズミを見かけたのでな。追って来たまでよ。 |
| ジュニア | ネズミってなんのこと ? 詳しく聞かせてもらえる ? |
| セシリィ | ……バルドさん。 |
| バルド | 大丈夫、私はまだフレンさんの中にいます。 |
| セシリィ | 良かった、中断しちゃったから何かあったらと思って……。 |
| バルド | あれはローゲですね。恐らく私の後をつけて来たのでしょう。 |
| ローゲ | どけ。今は小僧に用はない。――おい、いるんだろう ? バルド ! |
| バルド | ここにいるよ、ローゲ。いったい何の騒ぎだ ? |
| ローゲ | バルド、貴様ここで何をしていた。 |
| バルド | 鏡映点の安否を確認していたんだ。ここのところ、鏡映点の流出が激しかったからね。 |
| ローゲ | ハン、貴様が言うか。この前は作戦などと言って、鏡映点を二人も逃がしただろう。 |
| バルド | ああ。それが功をそうして、セシリィを取り戻せた。そのうちチーグルも救出するつもりだよ。 |
| ローゲ | ぬけぬけと……。その物言い、死ぬ前よりも癇に触る。 |
| バルド | それは済まなかったね。だがここは貴重な鏡映点が眠る場所だ。話なら別の場所でしよう。 |
| ローゲ | フン、鏡映点などいくらでも具現化すればいい。実験さえ終われば、我らが器でしかないわ !……いや、そう言えばこいつは違ったか ? |
| ローゲ | ルキウス……。確かこいつの中にはラムダとかいう寄生生命体がいるらしいな。強大な力があると聞いて興味があった。 |
| ローゲ | こんな所で眠らせておくとは、もったいないことをする。 |
| バルド | ――っ ! !ローゲ。ルキウスのケースには不用意に触れない方がいい。 |
| ローゲ | ほう ? 珍しいな。お前がそれほど焦るとは。こいつを起こせば、随分と面白い物が見られそうだ。クククッ。 |
| ローゲ | ならば目覚めてみるか ? ルキウス。そして……ラムダよ ! |
| バルド | 何を…… ! やめろ、ローゲ ! ! |
| セシリィ | そんな……ルキウスのケースが開いて……。 |
| ジュニア | まだだ ! ルキウスの意識があればラムダは少しの間おさえられるはず !その間に、僕とセシリィで強制的に眠らせれば…… ! |
| バルド | ならば私はローゲを ! |
| セシリィ | 待って ! ルキウスの体から、何か黒いもやのような物が……。 |
| ? ? ? | 声なき声の叫び……生にしがみつく者…… |
| バルド | これは…… ? |
| ? ? ? | そうか……声の主は……お前だな……。 |
| バルド | 霧が、ファントムに吸い込まれた ? |
| ファントム | ……………………。死に……たくない……。 |
| セシリィ | ファントム……意識がないはずなのに ! ? |
| ジュニア | 違う……これは…… ! |
| ファントム | ……死にたくない……。私は……我は……。 |
| ローゲ | ……お前、ラムダとか言う奴か ?そうか、さっきの黒い霧がお前だったか !ハッハッハッ ! 随分と滑稽だな ! |
| ラムダ | ……貴様ごときが、我を笑うか ! ! |
| ローゲ | ぐああああああっッ ! |
| セシリィ | キャアアッ ! |
| ジュニア | うわああっ ! |
| バルド | グッ…… ! |
| ラムダ | なるほど……。この体、使い勝手はいいが……。死にたくないという意思以外、ほとんど残っていない。 |
| ラムダ | だが、それでいい。我はお前の体で復讐を果たそう。 |
| ラムダ | 実験と称して我を貶め、冒涜したこの世界にな ! |
| Character | 7話【11-7 静かな山岳5】 |
| フィリップ | ――ソフィとラムダの対消滅か。確かにそれは、到底納得の行く方法ではないだろうね。 |
| シェリア | ……はい。それにソフィだって、私たちの気持ちはわかってくれたはずでしょう。あの花畑でのこと覚えてる ? |
| アスベル | そうだ。あの時にマリク教官も言っただろう。二度とソフィが、犠牲になろうと考えないように、みんなで全力を尽くすと。 |
| アスベル | 俺の考えだって変わっていない。たとえこの世界でも、お前一人を犠牲にする気はないからな。もちろんリチャードだって救う。 |
| アスベル | 約束したよな ? 最後まで俺たちは一緒だって。 |
| ソフィ | ……そう、だよね。……ごめんなさい。 |
| フィリップ | ラムダの件はこちらでも対策を考えてみよう。ソフィのためにもね。 |
| ソフィ | ……うん。 |
| フィリップ | ――さて、そろそろリチャードに次の鎮静剤を投与する時間だ。 |
| シェリア | それじゃ、私たちは帰りましょうか。 |
| アスベル | そうだな。フィリップさん、リチャードのことをよろしくお願いします。 |
| フィリップ | ああ、任せてくれ。 |
| ヒューバート | 失礼します。こちらにフィリップさんはいらっしゃいますか ? |
| パスカル | も~、いるって聞いたから来たんでしょ ?ほ~ら入っちゃえ ! |
| ヒューバート | ちょっ、どうしてあなたはそう――ああっ ! |
| パスカル | ちわーっす ! お届けものだよ~ん。 |
| ヒューバート | 失礼します。騒がしくてすみません。 |
| アスベル | ヒューバート、パスカル。どうしてここに ? |
| ヒューバート | ミリーナさんに届け物を頼まれたんですよ。 |
| ヒューバート | フィリップさん、確認をお願いできますか ?陛下が――いえ、チーグルが使っていた魔鏡結晶です。 |
| フィリップ | ああ、ご苦労様。わざわざ悪かったね。 |
| アスベル | 確か、その光魔を呼ぶ石はキールの研究室で調べるはずじゃなかったのか ? |
| パスカル | 一応、こっちでも出来る限りの解析はしたよ ?けどケリュケイオンの方が解析装置の種類も多いしさ。 |
| パスカル | だからミリーナとも相談した結果、こっちに預けてチャッチャカ終わらせちゃおってことになったんだ !急いで持って来たんだよ~。 |
| シェリア | 急いでいたのはわかるけど、ここには陛下が休んでらっしゃるのよ ?もう少し静かにしないと。 |
| パスカル | ごめんごめん。でもこの魔鏡結晶の波長と、それを使ってたリチャー……じゃなくてチーグルの波長を調べれば、二人の分離の手がかりになるかなって。 |
| パスカル | いつまでもリチャードを、こんな風にしておけないもんね。 |
| シェリア | そう……。急いでいたのはリチャード陛下の為なのね。 |
| シェリア | でも、それとこれとは話が別 ! |
| パスカル | ひえ~~~っ !シェリアが怖いよ~ソフィ~ ! |
| ソフィ | パスカル、静かにしないと―― |
| ソフィ | あれ ? アスベル、ミリーナから通信が来てるよ。 |
| ミリーナ | アスベルさん、緊急事態よ。今から説明するから落ち着いて聞いて。 |
| アスベル | 何があったんだ ! ? |
| ミリーナ | ラムダが目を覚ましたわ。 |
| 全員 | ラムダ ! ? |
| ミリーナ | 覚醒直後に暴走状態になって、帝国を脱走したって報告が入ったの。 |
| アスベル | それじゃラムダはルキウスを操っているのか ! ? |
| ミリーナ | ……いいえ。今のラムダはファントムの体に乗り移っているわ。 |
| シェリア | ファントムですって ?みんなで倒したはずでしょ ! ? |
| ミリーナ | ファントム自身の意識はほとんどないようだけど、……死んではいなかったの。 |
| フィリップ | リーパ……。 |
| ミリーナ | シェリアたちが疑問に思うのはわかるわ。でも今は詳しい説明はできない。勝手なことを言ってごめんなさい。 |
| アスベル | 何かあるんだろう。わかった。無理に話さなくていい。俺たちはすぐにラムダを追う。 |
| ミリーナ | ありがとう、アスベルさん。 |
| ミリーナ | ラムダは、この世界に復讐すると言い残して出ていったそうよ。今はセールンドに向かってる。 |
| ヒューバート | なぜラムダはセールンドへ ? |
| ミリーナ | イクスのいる、巨大魔鏡結晶が目的だと思う。多分ラムダは、死の砂嵐を呼びこむ気なのよ。 |
| シェリア | 死の砂嵐って、イクスが命がけで封じてるのよね ?それを解放したらこの世界は…… ! |
| ソフィ | そんなことさせない。絶対に止める ! |
| ミリーナ | お願い。私たちもすぐに追いかけるわ。 |
| アスベル | フィリップさん ! ケリュケイオンでセールンドへ先回りさせてもらえますか ? |
| フィリップ | もちろんだ。ブリッジに行こう。すぐに進路を変更する。 |
| ローエン | 失礼します。リチャードさんのお薬をお持ちしました。 |
| フィリップ | 丁度よかった。ローエンさん、リチャードを見ていてもらえますか ? |
| ローエン | 承知しました。お任せください。 |
| フィリップ | それとこの荷物も頼みます。魔鏡結晶ですので、扱いには気をつけてください。 |
| ローエン | 確かにお預かりしました。……どうやら何かあったようですね。くれぐれもご用心を。 |
| ローエン | さて、何事もなければよいのですが……。 |
| リチャード | ……。 |
| ローエン | (何か……気配が…… ? ) |
| リチャード | …………。 |
| ローエン | リチャードさん…… ! ? |
| Character | 8話【11-12 セールンドへ続く街道2】 |
| アスガルド兵A | こんなはずじゃ……。やめろ、来るな…… ! |
| ラムダ | 来るなだと ? 先程までは我を捕らえにきたとほざいていたようだが。 |
| アスガルド兵B | くそっ、総員、突撃―― |
| アスベル | 今の音―― ! |
| シェリア | この先よ ! |
| ヒューバート | あれがラムダの仕業なら、まだ魔鏡結晶にはたどり着いてはいないはずです !急ぎましょう ! |
| パスカル | うわ、何これ !この倒れてる人たち、みんなアスガルド兵じゃない ! ? |
| シェリア | ……だめだわ。もう、息がない。こっちの人も……。 |
| ヒューバート | 全滅ですか……。 |
| ソフィ | ―― ! みんな気を付けて、あそこにいる ! |
| ファントム | また追っ手か。何度でも打ちのめしてくれる ! |
| アスベル | ファントム……いやラムダ ! ! |
| ソフィ | これ以上は、進ませない。 |
| ラムダ | 貴様は……。……そうか。貴様たちも具現化されていたか。この世界でも我の邪魔をするというのだな。 |
| ラムダ | 何度我の前に立ちふさがれば気が済む !プロトス1 ! |
| ソフィ | ―― ! |
| アスベル | 待てソフィ !……お前、ファントムか ? それともラムダなのか ? |
| ラムダ | ……リチャードと違い、この男の自我はほとんどない。残ったのは生きる意思のみ。ゆえに我は我だ。 |
| パスカル | やっぱり、普通に話できるんだ !ほらね、あの時あたしが言ったとおりだったでしょ ?ラムダとは意思の疎通が可能かもって ! |
| ファントム | 可能かもだと ?フォドラでも、エフィネアでも、この世界でも我の声に耳を傾けなかったのは貴様たち人間の方だ ! |
| アスベル | 聞いてくれラムダ、俺はお前と話がしたい ! |
| ラムダ | その言葉を信じられると思うか ?異なる世界に来てさえ、人間という生き物は変わらなかったのだぞ。 |
| ラムダ | ひとたび異端と断じれば非道な行いさえ辞さぬ。我欲のために他者を利用し、必要なければ排除する。争い、憎しみ、平和を望むといいながらまた争う。 |
| ラムダ | リチャードは我と同じ思いを持つ者だった。そのリチャードでさえ、奴らは我から奪った ! |
| ファントム | ……許せるわけがない ! |
| アスベル | ――うっ ! なんだ……この力はっ ! |
| ヒューバート | 体が……っ、押しつぶされそうです ! |
| ソフィ | ラムダ~~~~ッ ! ! |
| ラムダ | ――っ ! |
| ソフィ | みんな、大丈夫 ! ? |
| シェリア | っ、はあ……はあ……、ソフィのおかげで、なんとか……ね。 |
| パスカル | 今の……原素(エレス) ? この世界ならアニマ ?とにかくすごいエネルギーだよ。ラムダとファントムの力が混ざってるのかも……。 |
| アスベル | それでも、俺たちはラムダを止めなきゃいけない ! |
| ラムダ | やってみるがいい。我は必ず目的を果たす。 |
| ファントム | 人を滅ぼし、我は生きる ! ! |
| ソフィ | させない……。この世界も、みんなも、絶対に守る ! |
| Character | 9話【11-13 セールンドへ続く街道3】 |
| アスベル | 倒した……のか ? |
| ラムダ | この体滅ぼそうとも……我に勝つことなど……出来はしない……。 |
| ラムダ | 我は必ず……我の望む世界……を……「私」が望む世界を……。 |
| ラムダ | ……フィル。 |
| アスベル | ―― ! ? ラムダ、お前…… ? |
| ラムダ | この男……自我が…… ! ?……ミリーナ……ゲフィ……オン……。 |
| ヒューバート | まさか、ファントムの意識が覚醒しつつあるというのですか ! ? |
| パスカル | 魔物を生み出すラムダの力が、ファントムの回復力や生命力に変換されちゃってる……とか ? |
| シェリア | それって、二人がお互いの力を奪いあってるってこと ? |
| パスカル | わかんない。今わかるのは、どっちが主導権をとってもこのままじゃまずいってことだけ ! |
| アスベル | ラムダ、ファントムから離れろ ! |
| ラムダ | 貴様らの……言葉など……。この程度、支配下に…… ! イ……クス…… !ぐああああああああっ ! |
| アスベル | くそっ、どうすれば…… ! |
| ソフィ | ……アスベル、シェリア、ヒューバート、パスカル。今までありがとう。 |
| 全員 | ソフィ ! ? |
| ソフィ | ファントムから離れてもラムダは消えない。長い眠りを経た後、再び力を取り戻す。 |
| ソフィ | ファントムだって、ラムダの力を取り入れてたとしたら、どんな脅威になるかわからない。 |
| ソフィ | だから、ファントムごとわたしが消さなきゃ。……約束、守れなくてごめんね。 |
| アスベル | 駄目だ ! ソフィもリチャードも犠牲にはしないと言っただろう ! |
| アスベル | ラムダ、お前もだ ! 生きるんじゃないのか ! ? |
| ラムダ | 貴様などに、言われずとも…… ! ! |
| シェリア | なに、あの黒い霧……。ファントムの体から湧き上がってる ? |
| アスベル | あれが……ラムダなのか ? |
| ソフィ | そう。でも、ファントムの体から離れきれてない。もしかして、わたしたちと戦って弱ってるから…… ? |
| アスベル | それなら、他に寄生する体があれば引っ張り出せるかもしれないよな。 |
| ヒューバート | 何を言ってるんですか ! ? |
| アスベル | ――こっちへ来い、ラムダ ! |
| ラムダ | ……我の器になろうというのか ?この得体の知れない鏡士ならばともかく、貴様の自我程度ならば、簡単にねじ伏せるぞ。 |
| シェリア | アスベル、陛下のようになったらどうするの ! ? |
| アスベル | 乗っ取られるつもりはない。それに俺も確かめたいんだ。 |
| アスベル | ……ラムダ、俺たちは元の世界であるものを見た。酷い実験にさらされ続けた中で、お前に唯一「生きろ」と言ってくれた人がいたな。 |
| ラムダ | 貴様、何を……。 |
| アスベル | 俺はその人の言葉を信じて、この先の可能性にかける。お前が来ないなら、俺が迎えに行くぞ ! |
| ソフィ | アスベル ! ? |
| ヒューバート | やめて下さい ! 兄さん ! |
| パスカル | ラムダに直接触れるなんて…… ! |
| シェリア | アスベル…… ! 嫌ああああああっ ! ! |
| アスベル | ここは……どこだ ? |
| ラムダ | お前でもなく、我でもない。我とお前が共有する領域。 |
| アスベル | ラムダ…… ! |
| ラムダ | 我はお前をこの領域から排除して、お前の領域を圧迫する。最終的にお前の肉体を我が支配下に置く。 |
| ラムダ | お前ごときが、二度とコーネルの言葉を口にしないように。 |
| アスベル | やっぱりあれは、お前の心だったんだな。 |
| ラムダ | ……他者の不幸な過去は、さぞ楽しかったことだろう。……満足したか ? |
| アスベル | そんなわけないだろう。 |
| ラムダ | ……だがな、今はお前も我と同じだ。身勝手な鏡士に勝手に具現化され、二度と己の世界に戻ることの叶わぬ、哀れな異端者だ。 |
| ラムダ | 憎いだろう ? 簡単に納得などできたはずがない。 |
| アスベル | 確かに、一人だったらこの状況には耐えられなかったかもしれない。だけど、俺には仲間がいたからな。 |
| アスベル | それに、鏡士のイクスもミリーナも精一杯その責任をとろうとしてくれている。 |
| アスベル | お前はリチャードから引き離され、帝国に実験材料として扱われていた。だから、それを知ることができなかっただけだ。 |
| ラムダ | 鏡士とて同じだ。全ては利用するための方便だとしたらどうする。人間など、いくらでも嘘はつく。 |
| アスベル | そんな人間だけじゃないことを、お前はよく知ってるはずだろう。 |
| ラムダ | ……。 |
| アスベル | ラムダ、俺と一緒に生きよう。そして確かめればいい。 |
| アスベル | 人間という存在や、なぜコーネルさんがお前に生きろといったのか、その答えを一緒に探そう。この世界を見てみるんだ。 |
| ラムダ | もの好きな……。そんなことをしている間に、我はお前を乗っ取るぞ。 |
| アスベル | 悪いが、簡単にそうなるつもりはないさ。こっちも必死だ。だから―― |
| アスベル | さあ、手を取れ。 |
| ラムダ | ……断る。 |
| アスベル | だったら、「うん」というまで、とことん付き合う。 |
| ラムダ | 要領の悪い奴だ。具現化されて愚かさが増したか ? |
| アスベル | そうかもしれない。元の世界ではもっと上手くお前の手を取れているかもしれないな。だけど、今はこれが精一杯なんだ。 |
| ラムダ | ……ならば話はここまでだ。お前の手は取らぬ。だが、限界が近い……。今はここで……しばし眠る。 |
| アスベル | わかった。俺は待つよ、お前が目覚めるのを。ラムダ――……。 |
| アスベル | う……。 |
| 三人 | アスベル ! ! |
| ヒューバート | 良かった、気がつきましたか ! |
| ソフィ | アスベル、片目だけ色が違う…… ? |
| シェリア | 大丈夫 ? 体はなんともない ! ? |
| アスベル | ああ。みんな……、今、ラムダと……。 |
| ヒューバート | 兄さんとラムダの話は聞こえていました。ソフィの力のせいかもしれません。 |
| ソフィ | ラムダ、すごく静かになってるよ。すごいね、アスベル。 |
| アスベル | 分かり合うとまではいかなかったけどな。でも、俺は諦めない。必ず―― |
| パスカル | あれ ? アスベル、なんかピカピカしてない ! ? |
| アスベル | 浄玻璃鏡が光ってる…… ! ? |
| Character | 10話【11-14 ひとけのない街道1】 |
| コーキス | マスター、ファントムはマスターの所まで辿りついてないよな ! ? |
| イクス | 『大丈夫だ。アスベルたちはこの草原をもっと進んだ先にいると思う。ただ詳しい様子まではわからない』 |
| コーキス | アスベル様たち、無事かな……。魔鏡通信ができればいいのに。 |
| ミリーナ | 今は我慢よ。もしもラムダと戦っている最中なら邪魔することになる。小さな隙が、命とりになるかもしれないもの。 |
| ルドガー | そんな危険な奴を追うのに本当に俺たちの他には、知らせなくていいのか ? |
| ミリーナ | ……ええ。 |
| ユリウス | もしかして、俺やルドガーを選んだのは今現在、帝国に近寄れない人物だから、かな ? |
| ミリーナ | ……さすがですね。 |
| ユリウス | やはり情報漏えいを恐れてか。それなら納得だ。 |
| ミリーナ | なるべく今の作戦は、明確にしないでおきたいんです。ユリウスさんとルドガーさんには協力をお願いします。 |
| ルドガー | それはわかったけど……、なあミリーナ、あっちで何か光ってないか ? |
| ミリーナ | ―― !あの輝き、まさか誰かの浄玻璃鏡が発動してる…… ? |
| ルドガー | アスベルたちが戦っているのかもしれない。急ごう ! |
| ミリーナ | アスベルさん、みんな ! |
| アスベル | ミリーナ、いい所に来てくれたな ! |
| コーキス | あそこで倒れてるの……ファントムだ !いや、それともラムダかな ? |
| ユリウス | どちらにしろアスベルたちが倒したのか。念のため、俺たちは近寄らない方がいいな。 |
| セシリィ | やっぱり、あれは浄玻璃鏡の光だったのね ! |
| ミリーナ | セシリィ、バルドさん !二人とも、大きな怪我はないようね。吹き飛ばされたって聞いて心配したわ。 |
| バルド | ええ。フレンさんの鍛えあげられた体には感謝するばかりです。 |
| セシリィ | 私は、バルドさんがかばってくれたから。それでアスベルさん。ラムダとファントムはどうなったの ? |
| アスベル | ラムダは今、俺の中で眠ってる。ファントムは―― |
| ミリーナ | ……そう。それで、ラムダはこのままで大丈夫なの ? |
| ソフィ | ……ラムダ、今までみたいな反応じゃないの。今は消す必要がないラムダ。でも、ずっとこのままかはわからない。 |
| コーキス | それじゃいつか、また暴れ出すかもしれないのか。 |
| アスベル | ……あいつはまだ、俺を信用したわけじゃない。差し出した手は握ってもらえなかったからな。 |
| ミリーナ | でもラムダがアスベルさんに入った後で、浄玻璃鏡が光ったのよね ? |
| アスベル | ああ。どういうことだろう。 |
| セシリィ | ……やっぱり、可能性かな。もしかしたら未来、もしくは元の世界で起こりえることが、浄玻璃鏡を反応させたんだと思う。 |
| パスカル | あ~なるほどね。ラムダがアスベルを好きになっちゃうってことか。 |
| シェリア | す、好きって、どういうこと ! ? |
| パスカル | だから~、ラムダがアスベルと仲良くなって力を貸してくれるかもってことだよ。でしょ ? |
| セシリィ | ええ。アスベルさんの可能性の中に、『ラムダの力を使って戦う』という未来が存在してるのね。 |
| ヒューバート | そんなことが……、信じられません。 |
| パスカル | 何言ってんの。可能性なんてその人次第で無限だよ ?明日のことなんてわかんないんだから。 |
| シェリア | そうね。いつかパスカルが、お風呂が面倒だなんて言わなくなるかもしれないし。 |
| パスカル | それはどうかな~。そんなのより、弟くんと一緒にお風呂に入る方が可能性は高いかも ? |
| ヒューバート | そっ、そんなこと、あるわけがないでしょう ! |
| セシリィ | とにかく、アスベルさんは、ラムダに関する力が使えるはずよ。 |
| ミリーナ | オーバーレイは一時的なものだけど、本当にラムダとわかりあった時には、もっとすごいことになりそうね。 |
| ソフィ | そうすれば、ずっと消さなくていいラムダになる ? |
| アスベル | ああ。いつか必ず―― |
| イクス | 『コーキス ! 大量の光魔がここへ押し寄せてる ! 』 |
| コーキス | なんだって ! ?みんな、すごい量の光魔が来るって ! |
| ミリーナ | いつの間に集まったの ! ? そんな気配なかったのに ! |
| イクス | 『突然、湧いて出て来たんだ。ほら、もう来る ! 』 |
| アスベル | みんな、構えろ ! |
| シェリア | アスベル、あなたはさっきまで倒れてたのよ。無茶しないで ! |
| アスベル | 大丈夫。それに俺は確かめなくちゃならないんだ。ラムダの力を。 |
| アスベル | (この力が前借りなのはわかってる。だが、この可能性をいつか本物にするため、お前を理解するために――) |
| アスベル | 行こう、ラムダ ! ! |
| Character | 11話【11-14 ひとけのない街道1】 |
| アスベル | これが、ラムダの力なのか。 |
| ミリーナ | すごいわね。あれだけ大量の光魔だったからもっと手こずるかと思ったわ。 |
| ルドガー | あの光魔……。 |
| ユリウス | お前も気が付いたか。湧くように押し寄せるあの様子、チーグルがエルをさらった状況と似ていた。 |
| シェリア | 待って下さい。陛下はケリュケイオンにいるんですよ ?それにまだ眠ったままです。 |
| ミリーナ | ……念のためフィルに連絡をとるわ。リチャードさんの様子を確認してもらいましょう。 |
| セシリィ | それなら今のうちにバルドさんを移してもいいかしら。 |
| バルド | ラムダの時のように、何が起こるかわかりません。早い方がいいと思います。 |
| ミリーナ | そうね。コーキス、周囲を警戒してもらえる ? |
| コーキス | わかりました。絶対に二人の邪魔はさせません ! |
| パスカル | なになに ? 何が始まるの ? |
| ヒューバート | ぼくたちは下がっていましょう。そうじゃなくても、あなたは何かと騒がしいんですから。 |
| セシリィ | ファントムの状態は問題ないし、ラムダの影響もない。アスベルさんがラムダの全てを引き受けてくれたおかげね。 |
| バルド | 強いですね、彼は。私は寄生するというラムダの特性を知っていましたがあの時は対処のしようがなかった。 |
| セシリィ | 仕方ありませんよ。それにあれは、私がバルドさんを移すために行った、心核解放作業の影響です。 |
| セシリィ | 解放されたファントムの心を、ラムダが読み取ってしまったようですから。 |
| バルド | 生きるという意思、ですね。 |
| セシリィ | ええ。――さあ、準備ができました。バルドさん、始めてもいいですか ? |
| バルド | はい。お願いします。 |
| ソフィ | 何の術かな、まぶしい…… ! |
| パスカル | ね、今の見た ! ? バルドの体からファントムの中に光が移動したよ ! |
| ヒューバート | ええ。どことなく、ラムダの寄生を思わせる光景ですね。 |
| アスベル | まさか…… ! |
| セシリィ | ……終わったわ。バルドさん、どう ? |
| バルド | ……はい。私の方は問題ないようです。フレンさんは ? |
| ヒューバート | ファントムが起きあがりましたよ ! ? |
| アスベル | いや、あれはきっと…… ! |
| セシリィ | ……フレンさん ? |
| フレン | …………。 |
| バルド | フレンさん ? そんなまさか……フレンさん ! |
| フレン | 大丈夫、起きてるよ。 |
| バルド | 良かった……。あなたを失うことだけは絶対にできませんから。 |
| フレン | 心配をかけたね。けど大丈夫。僕の頑丈さは君が身をもって知った通りだ。 |
| バルド | ええ。随分と助けられました。 |
| フレン | ……バルド、こうして向かい合って話すのはなんだか新鮮だよ。 |
| バルド | ……ええ。 |
| コーキス | よかった。ミリーナ様、セシリィたち成功しましたよ !……ミリーナ様、どうしたんですか ? |
| ミリーナ | 変なの……。ケリュケイオンに通信が繋がらない。さっきから何度もためしているのに……。 |
| イクス | 『コーキス、みんなを連れて隠れろ ! 今すぐに ! 』 |
| コーキス | え ! ? えっと、みんなすぐに隠れろ ! |
| 全員 | ! ? |
| ミリーナ | もしかして、イクスの警告 ? |
| コーキス | はい。すごく焦ってたみたいです。……あれ ? 向こうから来るのって…… ? |
| アスベル | リチャード ! ? |
| コーキス | なんでこんな所に、すぐに捕まえないと ! |
| バルド | 動かないで下さい。ここは―― |
| フレン | 僕たちに任せてくれ。行こう、セシリィ。 |
| セシリィ | はい ! |
| フレン | チーグル……無事だったんだな。 |
| チーグル | バルド ! シドニーまで。お前たちもファントムを追ってきたのか。 |
| フレン | ……なぜ、それを知っているんだ ? |
| チーグル | フン、ただ捕まっていたわけじゃないさ。奴ら、この体の心核を調査するために半覚醒状態にしたんだ。その時に、術で鎮静剤の分解を速めた。 |
| チーグル | おかげで、ラムダを宿したファントムのことも知れたよ。僕が起きているとも知らずにベラベラとよくしゃべってくれた。 |
| チーグル | ところで、僕が呼んだ光魔はどうした。それにラムダは ? |
| フレン | ……光魔は黒衣の鏡士たちが倒した。ラムダは、彼らの妨害もあって……。 |
| チーグル | チッ、何をしてるんだ !マクスウェルの輸送の時といい、最近のお前は失態が多いんじゃないか ? |
| フレン | 済まない。確かにあの指示は私のミスだ。結果、助けにもいけず、君を一人で救世軍から脱出させることになってしまった。 |
| セシリィ | バルドさんは、私と一緒にチーグルさんを助けるために力を尽くしていました。だから責めないで下さい……。 |
| チーグル | ……まあ、いいさ。おかげで救世軍を壊滅させることもできたんだ。 |
| フレン | 壊滅……だって ? いったい何を ? |
| チーグル | 奴らの航行データをいじってやったんだ。『魔の空域』に飛び込むように設定してある。恐らくもう、戻ってこれないはずさ。くっはははは ! |
| セシリィ | ……な……なんてこと―― |
| フレン | ――さ……すがだね。捕らわれの身で、そこまでやってのけるとは。 |
| チーグル | ああ、おかげでクタクタだよ。 |
| フレン | なら、早く帝国へ戻ろう。少し休んだ方がいい。――シドニーも……いいね ? |
| セシリィ | は、はい……。 |
| コーキス | フレン様、行っちまった……。 |
| バルド | それでいいんです。フレンさんが戻るのは予定どおりですから。 |
| コーキス | そうだ、ミリーナ様、結局ケリュケイオンはどうなってるんですか ? |
| ミリーナ | 通信が繋がらなかったのは魔の空域のせいなのね……。どうしよう……。どうやったらみんなを助けられるのかしら……。 |
| コーキス | ミリーナ様……。 |
| Character | 12話【11-15 ひとけのない街道2】 |
| アスベル | リチャード……。せっかく助けだせたのに、また振り出しか。 |
| ヒューバート | 陛下の居場所がわかっただけでも良しとしましょう。それに今は救世軍が心配です。 |
| ソフィ | 魔の空域ってなに ? 怖い所なの ? |
| ミリーナ | ……一度入ってしまったら、永遠に迷い続ける場所だと言われているわ。 |
| ミリーナ | ガロウズさんが言っていたの。空を飛ぶときは絶対に避ける空域なんだって。 |
| ソフィ | 帰って来た人はいないの ? |
| ミリーナ | ……いないそうよ。 |
| ミリーナ | そもそも、空を飛べる乗り物は一般的ではないから魔の空域のこともあまりよくわかっていないみたいで……。 |
| シェリア | ミリーナ、大丈夫 ?あなた一人じゃないんだからみんなで考えましょう。ね ? |
| ミリーナ | ……ありがとう、シェリア。 |
| コーキス | (ミリーナ様、珍しくうろたえてる……) |
| イクス | 『俺のことで大変な時に、ミリーナを影から支えてたのはフィルだからさ。動揺するのも仕方ないよ』 |
| バルド | ……救世軍のことは確かに心配です。ですが、ここで立ち止まるわけには行きません。 |
| ミリーナ | バルドさん……。 |
| パスカル | なんだか変な感じだね。ファントムで、ラムダで、今はバルドだなんて。 |
| バルド | そうですね。こんなことは異常だ。リビングドール計画は早く止めなければならない。 |
| バルド | ミリーナさん、冷たいことを言うようですが、すぐにでも次の行動に移さないといけません。わかってくれますね。 |
| ミリーナ | ……そうね。アスベルさんたちにお願いがあるの。大変だとは思うけど、アジトに帰って全員の所在を確認してもらえる ? |
| ミリーナ | もしかしたら、こちらからケリュケイオンに行ったままの人がいるかもしれないから。 |
| アスベル | わかった。みんな行こう ! |
| ユリウス | 君たちの様子だと、この計画は、随分と切羽詰まってるようだな。 |
| バルド | はい。もう時間がありません。帝国はさらなる鏡映点の具現化と、リビングドールの作成を行うために、死の砂嵐を利用しようとしています。 |
| バルド | 救世軍の助けを得られないのは痛手ですが、早急にイクスさんを助け出さなければなりません。 |
| ミリーナ | わかっているわ。……でも、ケリュケイオンを放っておくことはできない。何か手は打っておかないと……。 |
| ルドガー | ……わかった。ミリーナ、ケリュケイオンの調査は俺たちに任せてくれないか ? |
| ユリウス | いい判断だ、ルドガー。どうせ俺たちは帝国には近づけない。だったら救世軍捜索に当たった方がいいだろう。 |
| ミリーナ | ルドガーさん、ユリウスさん……。ありがとうございます。よろしくお願いします。 |
| バルド | お二人だけで大丈夫ですか ? |
| ミリーナ | ユーリさんたちは、この計画を知っています。カロル調査室と組んで捜索してください。 |
| ルドガー | ああ、任せてくれ ! |
| ミリーナ | それからバルドさん、イクスを助け出す手順を教えてもらえるかしら。この間、アイディアがあるとだけは聞いたけど……。 |
| バルド | イクスさんがいなくなることで、死の砂嵐が外に漏れだすのを、どう食い止めるかという話でしたね。 |
| バルド | 簡単に言うと、私とセシリィがビフレスト式の封印強化術を知っているので、イクスさんの救出後、それを発動させるつもりです。 |
| バルド | 詳しい話は、あなたたちのアジトでしましょう。準備が整い次第、すぐに作戦を開始できるように。 |
| ミリーナ | わかったわ。行きましょう、みんな。 |
| リヒター | バルド、チーグルを救出してきたそうだな。 |
| チーグル | リヒター、何か誤解があるようだけど僕は自分で脱出してきたんだ。バルドとは偶然、行き会っただけだよ。そうだろう ? バルド。 |
| フレン | ああ、その通りだ。それに私はラムダも取り逃がしてしまった。メルクリア様のお叱りを受けなくては。 |
| リヒター | そのラムダの件で、ローゲとジュニアが謹慎をくらったぞ。 |
| フレン | なぜ ?ローゲはともかく、ジュニアは関係ないじゃないか。 |
| リヒター | 俺に言われても困る。不満なら自分で上にかけあえ。 |
| リヒター | それとチーグル、メルクリアが呼んでいる。一緒に来い。 |
| チーグル | 相変わらずぶっきらぼうだな。もっと愛想よく誘ってくれないか ?君の可愛いアステル博士のようにさ。 |
| リヒター | お前に振りまく愛想などない。アステルのことも構わないでもらおうか。 |
| チーグル | わかったよ。帰って早々、面倒に巻き込まれたくないからね。じゃあね。バルド。 |
| フレン | ああ。お疲れ様、チーグル。 |
| リヒター | …………。 |
| フレン | どうしたリヒター、まだ何かあるのかい ? |
| リヒター | ……お前……。 |
| リヒター | ――いや、何でもない。セシリィを早く休ませてやれ。顔色が悪い。 |
| セシリィ | あ、ありがとうございます……。 |
| フレン | ………。大丈夫かい ? セシリィ。 |
| セシリィ | え、ええ。ごめんなさい、少し気分が悪くて。 |
| フレン | ケリュケイオンのことだね。君の恋人だった人が乗ってるんだろう ? |
| セシリィ | ………それだけじゃありません。鏡映点の人や、大勢の救世軍が乗ってます。その人たちが……みんな……。 |
| フレン | バルドやミリーナたちを信じよう。それに、あっちには僕の仲間もいる。あいつならきっと――……。 |
| フレン | ……そこにいるんだな ? |
| セシリィ | フレンさん ? |
| ? ? ? | ああ。 |
| セシリィ | だ……誰 ! ? |
| フレン | 大丈夫、落ち着いて。――ヴィクトル。ミラは ? |
| ヴィクトル | 安心しろ。もう助け出してある。 |
| フレン | わかった。それじゃ、セシリィのことを頼む。 |
| セシリィ | フレンさん、どういうことですか…… ?この人は…… ? |
| | to be continued |