Character1話【11-1 ひとけのない街道1】
アスガルド帝国 芙蓉離宮
バルドシドニー、協力を願っておいて今更ですが、本当にいいんですね ?
セシリィもちろんです。そのために色々と準備を進めてきたんですから。……もしかして私、怖気づいてるように見えました ?
バルドいいえ。ただ、ケリュケイオンにはあなたの大切な人がいるでしょう。
バルドこれは危険な作戦です。ちゃんとガロウズと話はしてきましたか ?
セシリィ……姿は変わっても、優しい所は変わりませんね。生前、私をかばってくれたバルドさんのまま。
バルドそんなことは……。
セシリィガロウズとのことは気にしないでください。私自身が決めたことですから。
セシリィそれに、私は『体』を粗末にするつもりはありません。この体の持ち主である、セシリィのためにも。
バルド……わかりました。では、行きましょう。
メルクリアよくセシリィを連れ戻してくれたな。さすがバルドじゃ !
バルド私の力だけではありません。彼女自身も帝国に戻りたいと望んでおりましたので。
バルドただ、チーグルも一緒に連れ戻せなかったのは私の不徳の致すところです。
メルクリアそなたは十分やってくれたぞ、バルド。確かにチーグルがいないのは残念じゃが今は良しとしよう。
メルクリアさて……黒衣の鏡士どもにさらわれたと聞いて心配しておったのだぞ ?セシリィ――いや、シドニーよ。
セシリィご心配をおかけして申し訳ありませんでした。
メルクリア無事ならば良い。良いが……さらわれる直前に、そなたはチーグルを連れて精製所からの脱走騒ぎを起こしたそうじゃな。
セシリィ――っ ! ! それは……。
メルクリア隠さなくてもよい。全部知っておる。
メルクリアあんなことをするくらいなら素直に申せば良かったのじゃ。「チーグルを連れて、この離宮へ戻りたかった」と。
セシリィえ ?
メルクリアあの頃のそなたは、不安定なチーグルの容体も見ながらクロノスの研究を進めていた。
メルクリアそこへ特異鏡映点亜種の調査のために離宮から慣れぬ施設に移されて、ずいぶんと参っていたそうではないか。
セシリィ私は……その……。
バルドシドニー。遠慮をせずに「そうだ」と頷いてよいのですよ。メルクリア様は寛容な方ですから。
セシリィ(バルドさん…… ! 嘘の報告を――)
セシリィは、はい。恐れながら……。
メルクリアバルドから、シドニーが思い詰めていたとの報告を受けた。それゆえ、チーグルの容体が悪化した際に、この離宮に戻るため暴挙に走ったのだと。
メルクリアそなたに無理をさせてしまったのじゃな。……わらわのことが嫌いになったか ?
セシリィいいえ、そのようなことはありません。
メルクリア本当か ? ならば今までどおり、魔鏡術について話を聞かせてくれるのじゃな !
セシリィもちろんです。この体――セシリィと同様、メルクリア様のお話相手として頂けるのならばこれ以上の喜びはありません。
メルクリアうむ ! ならば我がビフレストの民を救うため再びこの離宮での研究に励むがよいぞ !
セシリィはい、ありがとうございます。
メルクリアこれで一安心じゃ。シドニーが戻ってきたことでバルドが裏切っていないことも証明されたからの !
バルド裏切りなど、一体どこからそのような話を ?
メルクリアなんといったかのう……。すこし前にリビングドールとして甦らせた、浅黒い肌で、屈強な男の体を使っておる……
バルドローゲ、ですか ?
メルクリアそう、ローゲじゃ。バルドの動きに不審な点がみられるゆえくれぐれも気をつけろ、とな。
バルド彼がそのようなことを……。
メルクリアい、言っておくが、わらわはそんなはずはないと突っぱねたぞ ! じゃが……。
メルクリア……わらわが気に入った者は、ことごとく離れて行く。チェスター、ミトス、シング、カイウス、ルビア……。皆、わらわを裏切った。
メルクリアだからその……ローゲの言ったことを気にしているのは用心のためなのじゃ。わかるな ?
バルド…………。もちろん、承知しております。
メルクリアならば良い ! バルド、そなたは下がって休め。シドニーはわらわと共に来るのじゃ。久しぶりに魔鏡術の話を聞かせてくれ。
メルクリアそなたがいなくなって寂しくて仕方がなかったのだ。セシリィとシドニーを同時に失ったのじゃからな……。でも、今日からは共に過ごせる !
メルクリア落ち着いたら、またぱじゃまぱーてぃーとやらを開こうぞ !
バルド(まずはひとつ、関門を突破した――か)
ナーザメルクリアとの謁見はすんだのか。
バルドはい。メルクリア様も大変お喜びでした。
ナーザそうか。お前の立てた策が成功して何よりだ。メルクリアに良からぬ噂を持ち込んだ奴がいたようだからな。
バルドローゲのことでしょうか。私の行動を疑っているとメルクリア様からうかがいました。
バルドですが、あれは仕方がありません。彼は生前から私を恨んでいました。
バルドこの世に舞い戻っても、その気持ちに変わりはなかった……それだけのことです。
ナーザローゲは才気溢れる臣下だった。そして簡単に獲物をあきらめるような男ではない。
ナーザそれに、あのローゲに鏡士の情報を渡しているものがいるようだ。恐らくその者から情報が筒抜けになっている。
バルド! !
ナーザ……色々と策を弄するのも結構だが、足をすくわれぬよう、気をつけて事を進めた方がいい。
ナーザお前のやっていることは、間違ってはいないのだからな。
バルド―― !ナーザ様……、あなたは……。
ナーザ……もはや死者である我々が何をしてもすべては理から外れた行為。ダーナの意思に背くに違いない。
バルドわかっておられるのでしたら、もう――
ナーザだがな、世界を救うために戦い死んでいったビフレストの民はどうなる。その志を、犠牲を、無駄にすることなど俺にはできぬ !
ナーザせめて我らビフレストの本懐だけでも遂げずして我が民たちに顔向けができようか。
ナーザ……バルド。お前がどう動こうと構わない。だが、これだけは言っておくぞ。
ナーザ俺は必ず鏡精を滅ぼす。それを生み出すセールンドの鏡士もな。
バルド…………。

Character2話【11-1 ひとけのない街道1】
カロル待って、ユーリ !
ユーリまだ休んでろって。今回はあっちこっち連れまわしちまったからな。
カロルそんなに疲れてないし平気だよ。それにボクは室長だから、責任もってミリーナに報告しないと。
ユーリへえ、すっかり室長が板についてきたな。頼もしいこった。
ラピードワオン !
カロルミリーナお待たせ !報告に来た――って、あれ、みんな ! ?
エステルユーリ、カロル、ラピード、お帰りなさい !無事で何よりです !
リタずいぶん遅かったじゃない。どこ寄り道してたのよ。
レイヴンいいじゃないの、寄り道結構。で、お土産は ?
ユーリなんだよ、勢ぞろいでお出迎えか。どうした ?
コーキスえっと……、ユーリ様に色々と伝えることがあって……。
ジェイドまあまあコーキス、それは後にしましょう。まずは彼らの報告を聞いてからです。
ユーリふうん……。あんたとコーキスの顔みてたらろくでもねえ話だってことは分かったぜ。
ミリーナとりあえず座って、ユーリさん。カロルもラピードさんもお疲れ様。ヴェイグさんたちと別れたあと、どうしたか気になってたの。
ユーリ悪いな。方々回ってたんで時間がかかっちまった。そういやヴェイグたちは ?
ミリーナヒルダさんと一緒に、こっちに戻ってるわ。
カロルよかった、ちゃんと会えたんだね !ヴェイグ、すごく心配してたから。
ミリーナそうね。クレアさんも喜んでたわ。それで何かわかった ?
カロルうん。精製所とか出入りの商人とか、色々と調べたよ。ユーリなんか、酒場で衛兵や研究所関係者とうまく飲み仲間になってさ。そこで――
ユーリ経緯はいいから、結論が先な。コーキスたちもオレに話があるみたいだし。
カロルそうだね。えっと、フレン――バルドの事を調べたんだ。そしたら兵士の間でも評判がいいフレンを悪く言う男がいるって話を聞いたんだ。
カロルローゲって名乗ってるらしいけど最近いきなり幹部になったんだって。どこから来たのかは、みんな知らないみたい。
カロル今まで幹部クラスになったのって鏡映点が多かったでしょ ?だから怪しいってユーリと話してたんだけど……。
ミリーナリストは用意してあるわ。特徴を教えてもらえる ?
カロル髪が長くてうねうねしてて、いかつくて、背はユーリよりも高いって言ってたよね ?
ユーリああ。それに肌や髪の色と――聞いた限りだと、こいつに近いな。
ミリーナ……バルバトス。カイルの敵ね。そう言えば、クラトスさんが精製所で戦ったのも似た特徴の男だったって報告を受けてるわ。
ジェイド精製所には、様々な心核が保管されていたと聞いています。名を偽っていないのだとしたら、彼はリビングドールにされている可能性が高いですね。
ミリーナそうすると、バルドさんかフレンさんが、ローゲという人に敵意を持たれていることになるけど……。
ユーリバルドがらみって線が濃厚だろ。こいつが表に出て来た頃には、フレンはもう乗っ取られていたはずだ。
コーキス……乗っ取られたっていうか……。
ユーリなんだ ? 何か――
ジェイドわかりました。帝国内部でバルドを妨害している人物は彼である可能性が高いということですね。他には ?
カロル精霊の話もあるよ。帝国は精霊を小さな入れ物にいれて持ち運べるんだって。
カロルなんとかケイジって名前の入れ物らしいんだけど、詳しいことまでは調べきれなかった。
リタ待って、それってクレーメルケイジじゃない ?キールから聞いたことがある。あっちの世界では精霊じゃなくて晶霊ってのを入れてたらしいけど。
ジェイドティル・ナ・ノーグ仕様に開発されているのかもしれません。後でキールを呼んで、詳しい仕組みを聞くとしましょう。
ジェイドですがそうなると、捕まっている空のマクスウェルにはそのクレーメルケイジが使われていることも考えなければいけませんね。
エステル人ひとり捜すのも大変なのに、ますます捜索がしにくくなりますね……。
レイヴンったく、厄介な上に、人様の世界の技術をよくもまあいいように利用するもんだ。その技術もどこから仕入れたんだか。
ミリーナ神依、クレーメルケイジ、転生者にソーディアン……。帝国はどれだけ情報を持ってるのかしら。
カロルそこまでわかれば良かったんだけど、今回報告できるのはこれくらいなんだ。
ミリーナいいえ、ありがとう。大きな手がかりよ !
ユーリそれで、そっちの話ってのはなんだ ?
三人…………。
ユーリなるほど、まあ検討はつくさ。フレンのことだろ。で、なんだって ?
ミリーナレイヴンさんたちには、すでに話してありますが、これから言う話も、作戦内容も、今ここにいる人たちだけに止めておいて欲しいんです。
ミリーナ私たち、あれからまたバルドさんに会ってきたんです。そこで新たな作戦の話になったんですが――……。

Character3話【11-2 ひとけのない街道2】
ミリーナ――それで、フレンさんはバルドさんと入れかわりに帝国に残る手筈になっています。
ユーリ………………。
コーキスカ、カロル様、ちょっといいか ?
カロルな、なに ?
コーキスユーリ様、大丈夫か ?なんか声かけてやった方がいいんじゃ……。
カロルえっと……リ、リタ、ちょっと来て !
カロルユーリになんて声をかけてあげればいいかな。
リタ何の反応もないのにどうしろってのよ !あんた考えなさい。ほら、頭使え !
カロルボクだってフレンの話にびっくりしてるんだよ ! ?きっとユーリだって……。
エステルリタもカロルもコーキスも、どうしたんです ?
リタちょ、エステル ! あのユーリ見てよく普通で……。
エステルユーリですか ? 笑ってますけど。
三人え ?
ユーリ…………くくっ、…………はははははっ !まいったね、ったく !
レイヴンだよねえ。さすがの青年もそりゃ笑うしかねえわなあ。
ユーリああ。あいつはそういうヤツだったぜ。なに簡単に乗っ取られてんだと思ったけど異世界ボケしてたのはオレの方だったわ。
ユーリ抵抗するどころか受け入れて、乗っ取った奴と協力ね。どこまで正攻法が好きなんだよ。
エステルでも、とてもフレンらしいと思います。
レイヴン不利な状況の中で対処していくってのはフレンにとっちゃ慣れたことだろうからな。あの手のタイプは案外したたかよ ?
ユーリ知ってるよ。嫌ってくらいさ。ったく、慣れない心配なんざするもんじゃねえな。
ジェイド楽観視するには早いですよ。フレンはバルドとして帝国に残らねばなりません。万が一彼の正体がばれた場合は……。
レイヴンちょっと大将、あんまウチの子いじめないでくれる ?
ユーリ構わねえよ。どうせそのことも含めて、色々と策をこねくり回してんだろ ?
ジェイドさてどうでしょう。ともかく、バルドが無事に我々の下に来て、そこからようやくイクスの救出計画が実行に移せるわけですからね。
ジェイドまずはバルドが別の体を手に入れなければ始まりません。
ユーリ別の体ね……。その作戦、大丈夫なのか ?『ファントム』の体を使うだなんてよ。
カロルあいつ、本当にまだ生きてるの ?
ジェイドバルドからも聞きましたから、間違いありません。それに以前、帝国に潜入したあなたたちの報告を受けた時から予想はしていました。
ジェイドカレイドスコープを隠した仮想鏡界の存在は、ファントムの生存を意味しているだろう、と。
ジェイドあの戦いで倒れた後は彼と同じ存在であるジュニアがサポートをして仮想鏡界を維持しているのだと思われます。
ユーリちと気になったんだが、仮想鏡界は、作った鏡士か鏡精が中に残らないと維持できないんじゃなかったっけ ?
リタそれ、あたしも引っかかってたの。ファントムの存在で仮想鏡界を維持してるとしたらその体を奪って出て来るなんて無謀よ。
リタジュニアがサポートしてるだろうとか言ってたけど、下手したら鏡界が維持できなくなって帝国にばれるんじゃないの ?
ミリーナ私がカーリャを置いてるのは、まだ未熟だからなの。この仮想鏡界はゲフィオンの知識によるものだから、今の力じゃ制御が難しくて……。
ミリーナでもビクエであるフィル――ファントムがつくった仮想鏡界なら、そんな必要はないはずよ。変わらずに場を保つことも可能だと思う。
ユーリなるほどね。んじゃその辺は解決か。それで、セシリィはもう出発したんだな ?
ミリーナええ。今頃は帝国内に入っているはずです。バルドさんが手引きをしてくれてるから、大丈夫だと思います。
リタそこまでバルドってのに任せきりで平気 ?フレンと協力してるって話も、あいつが言ってるだけなんでしょ ? 警戒しといた方がいいわよ。
カロルでも、リビングドール計画を止めたいって言ったあの時のバルドは本気にみえたけどな。それに生き返っても、こんなんじゃ嬉しくないって。
レイヴンそうねえ。リタっちの言うとおり警戒はしないといけないけど、その言葉だけは、信じてやりたいね。
レイヴン……だいたい、勝手に死んだ人間甦らせて、それが当人の幸せだと思ってんならとんだお門違いってやつさ。
カロルレイヴン……。
レイヴンしかしバルドくんはぜーたくだわ !あのモテモテフレンちゃんの顔で嬉しくないとか !俺様なら即ナンパに行くね !
リタ人が真面目に話してるのに……あんたは結局そこか !
レイヴンひっ ! ?
エステルリタ、ここで術はだめですよ ?
リタわ、わかってるわよ……。
レイヴンあー嬢ちゃんがいて助かったわ……。フレンちゃんと会う前に死ぬところだった……。
エステル死なれては困ります。みんなでフレンを出迎えてあげないと。ね、ユーリ !
ユーリ出迎えなんて、こいつで十分さ。
リタ剣 ? またあんたらは……。
ラピードワフ~。
ジェイド……やれやれ、騒がしい。フレンが関わることだからと彼らに話を通したのですが、うかつでしたか。
ミリーナいいえ、ジェイドさんの判断は間違っていません。表には出さなくても、今までみんなフレンさんのことで不安だったでしょうし。
ジェイド士気が下がるのは避けねばなりませんので、相応の対処をしたまでですよ。
ミリーナふふ、そうですね。
コーキスでも、ユーリ様が案外普通でよかったですね。フレン様が帝国に残ってバルドの身代わりになるなんてもっと何か言われるかと思った。
ミリーナそうね。フレンさんを信じているんでしょうけど、でも、きっと……。

Character4話【11-4 静かな山岳2】
ソフィあ、アイゼン。
アイゼンなんだ。お前たちも船の改造にかりだされたのか。
アスベル船 ? いいえ。俺たちは仲間の様子を見にきたんです。アイゼンさんは、フィリップさんに呼ばれたんですか ?
アイゼンまあな。……ところで、エドナは元気にしているか ?
シェリアもちろんです。今は大変な時だけど、たまにエドナの主催でお茶会を開いたりしてて、みんなのいい息抜きになってますよ。
ソフィお茶会、楽しかった。エドナはパルミエが食べたいって言ってたよ。
アイゼンフッ、そうか。
フィリップわざわざ来てもらって済まないね。アイゼン。ケリュケイオンのこと、よろしく頼むよ。
アイゼン物好きな奴らだ。死神の呪いを背負った俺に頼むとは。何が起こっても知らんぞ。
ガロウズ起こってほしいくらいだぜ。ちょいと行き詰まってるんだよ。
ガロウズ船乗りとしての意見とか、魔鏡技師とは別方面からのアプローチが欲しいんだ。早速頼むぜ。
フィリップさて、こちらはリチャードのことだね。
アスベル……はい。
フィリップ君たちには聞きたいことがある。一緒に行こう。
シェリア陛下……眠ってる顔は穏やかなのに……。
アスベルリチャードは、このまま眠らせておくしかないんですか ?
フィリップ……そうだね。彼の場合、リビングドールとはいっても、本人の心核をとりはずしている訳じゃない。
フィリップ心核をいじられていて、リチャードとチーグルが、一つの体に存在している状態なんだよ。
シェリアクラトスさんの時のようにスピルメイズに入れば、どうにかなりませんか ?
フィリップそれはもちろん考えている。ただ、少し時間をかけて検証したいことがあるんだ。
フィリップ(バルドとフレン、彼らの結果を見てみないと……)
アスベル結局リチャードの状況は、ラムダがいた時と変わってないってことか。
シェリアそうね。ラムダの代わりに、チーグルが取りついただけだもの……。
フィリップその『ラムダ』のことだけど、カイウスから話は聞いたね ?
ソフィ今はルキウスって人の中に入ってるんだよね ?ラムダが暴れるから、ずっと眠ったままだって。
フィリップ少しラムダについて説明してもらえるかい。何故、リチャードにとりついているのか。彼はどういう存在で、肉体はどうなっているのか。
アスベル元々ラムダに肉体はありません。他人に取りつくことで存在していたんです。そしてラムダは……人間を憎んでいます。
アスベルリチャードはそんなラムダを受け入れてしまった……。
フィリップ彼らは、望んで共存していたわけだね。
シェリア確かに、陛下は一度は離れかけたラムダを呼び戻したことがあります。望んで一緒にいるといえばそうなのかもしれないけど……。
シェリアだけど、あんなの悲しすぎるわ……。
アスベル……ああ。俺たちはまだリチャードのこともラムダのこともわかっていない。
アスベルただ、俺たちの世界を滅ぼそうとしていたラムダも、そしてリチャードも、人に虐げられていた。それだけは確かです。
フィリップ……なるほど。そして今、リチャードと引きはなされたラムダは、この世界で再び、勝手な実験にさらされている。
フィリップこれはかなり危険な状態だね。ルキウスが目覚めてしまったら大変なことになるかもしれない。
ソフィ……その時は、わたしが消す。
アスベルソフィ ! お前またそんなことを !
ソフィでも、ラムダが暴れたらきっとこの世界も滅ぶ。そんなの絶対にダメ。だから、わたしがやらなきゃ。
フィリップどういうことだい ?
シェリアラムダは、ソフィにしか消すことはできません。そしてその方法は……対消滅です。
フィリップ対消滅……ということは……。
ソフィラムダを消して、わたしも消える。わたしはそのために作られたの。

Character5話【11-6 静かな山岳4】
メルクリアなるほどのう。未来におこりえる可能性までも現在の力にすることができるのか。
メルクリアその鏡、わらわも作りたい !未来のわらわはきっと強いぞ !
セシリィそうですね。ですが、この魔鏡の作成には高度な技術が必要なんです。
メルクリアそうか。ならばどれくらい修行が必要かの ?
セシリィ力を持っている鏡士でも技術の習得には相当かかりますので――
バルド失礼します、メルクリア様。
メルクリアバルドか、入れ。何の用じゃ ?
バルドセシリィをそろそろ下がらせてもよいでしょうか。
メルクリアなんでじゃ。もっとゆっくりしておればよい。なんならバルドも一緒にどうじゃ ?お茶もお菓子も用意してあるぞ。
バルドお誘いは大変ありがたいことですが、セシリィには仕事がありますので。
セシリィ申し訳ありません。メルクリア様。国のための研究なのです。ご理解ください。
メルクリアいやじゃ ! わらわに話を聞かせる方がよっぽど国のためになる !
セシリィまた、お部屋に伺いますから――
メルクリアいーーやーーじゃーー ! !
ナーザ外まで声が響いているぞ。はしたない。
メルクリアあ、兄上様 !
ナーザまた駄々をこねているのか。
メルクリア駄々ではございませぬ !シドニーがわらわを置いて研究に戻るというから……。
セシリィ申し訳ありません。ですが……。
メルクリアわらわは無理を言っているか ?そなたの魔鏡術の話を聞いてもっと鏡士としての知識を深めたいだけじゃぞ ?
ナーザお前は少し我慢というものを知るといい。度が過ぎると相手にされなくなるぞ。
メルクリア……わらわは早く一人前の鏡士になって、ビフレスト皇国を甦らせたいのです。だから……。
ナーザ何故、そこまでこだわる。ビフレストのことなど何も覚えていないだろう。
メルクリア覚えていないから !だからこそ、我が故郷をこの目で見たいのです。
メルクリア亡くなった母上とて、心の底からビフレストの復活を願っておりました。
ナーザそれは母上の望みだ。お前自身ではあるまい。
メルクリアいいえ、わらわの望みです。あの憎きゲフィオンが、魔鏡術で大陸を生み出したと聞いた時に決意しました。
メルクリアあの女よりも優れた鏡士となり、わらわもビフレストを復活させてみせると。これは母上の望みで、わらわの夢なのです。
メルクリア兄上様は違うのですか ?もしや、ビフレストはもう過去のものと ?
ナーザそうは言っていない。俺には俺の目的がある。ただ、お前はこの世界の『生者』だ。死人の俺たちとは違うだろう。
二人…………。
ナーザビフレストに囚われることはない。望むまま、普通に生きて、普通に暮らせ。
メルクリア普通…… ? よくわかりませぬが、これがわらわの普通です。兄上様。
ナーザ…………。
メルクリア兄上様……なぜそのようなお顔をなさいます ?怒っておいでなのですか ?
ナーザ……違う。
メルクリアそ、そうじゃ、聞いて下され、兄上様 !確かに今は、カレイドスコープで光る砂になった者しかリビングドール化できませぬ。
メルクリアですが、いずれはゲフィオンのように、過去からビフレストの民を甦らせて見せますゆえ !
メルクリアそうすれば、全ては元通りじゃ !きっと、兄上様にもお喜び頂けます。
メルクリア……ん。その時のために研究は必要じゃな。わらわも我慢する。シドニー、研究に戻ってよいぞ !バルドも下がってよい。
セシリィ……ありがとうございます。
メルクリアこれでよいでしょう ? 兄上様。
ナーザ……ああ。
ナーザ……お前たちは、あれをどう思う。
セシリィ……根はお優しい方です。それだけは間違いありません。
バルド……ええ。そしてウォーデン様と故郷を一途に慕っております。
ナーザわかっている。だからこそ……哀れだ。何故こうなったのか……。デミトリアスの仕業か……。
ナーザメルクリアが生まれたとき、誰もが夢見た未来はこのような姿ではなかった筈だ……。……それが口惜しい。

Character6話【11-7 静かな山岳5】
アスガルド帝国 仮想鏡界内
セシリィここがファントムの仮想鏡界……。
バルドそういえば、あなたは初めてでしたね。
セシリィええ。私は知らされていませんでしたから。ところで、ジュニアは ?
バルド打ち合わせ通りなら、そろそろ来るはずです。
ジュニアバルド、セシリィ !
バルドジュニア、ここです。
ジュニア今なら安置室には誰もいないよ。すぐに行って処置を始めよう。
セシリィあそこで眠っているのがファントムなのね。他にもケースに入れられている人たちがいるけど、もしかして……。
バルドええ。こちらはルキウス、そしてリーガル。彼らは鏡映点です。
セシリィこの人がカイウスの……。鏡映点がこんなにもたくさん眠っていたなんて。この人も……。
ジュニア彼女は違うよ。ヨーランドだ。
セシリィヨーランドって、まさか、ヨーランド・ビクエ・オーデンセ ?初代ビクエの ! ?
ジュニアそう。ダーナの巫女だよ。
セシリィそんな人までここに……。一体どうなってるの ?
ジュニア……ごめんセシリィ。今はバルドを移すことを優先して。
セシリィ……わかったわ。
セシリィ――バルドさん。ファントムの側に。
バルドはい。
ジュニアそれじゃ、ファントムを覚醒させるね。
セシリィ本当に目覚めさせても大丈夫なの ?
ジュニア……見ていればわかるよ。
セシリィ……ファントムが目を開けたわ。
ファントム……。
セシリィ……ファントム ?
ファントム……。
ジュニア……このとおり、ファントムの人格はひどく希薄になってしまったんだ。今は何もできない。ただ、生きているだけ。
セシリィ……そう。
ジュニアでもね、この状態だからこそ心核への侵入がしやすいと思う。
セシリィそうね。やってみる。
ジュニア頼むね。ビフレストの鏡士。これは君たちの国の技術だから任せるよ。手順は大丈夫 ?
セシリィええ。ちゃんと確認済みよ。まずファントムの心核を解放して、その後に、バルドさんを移動させるわ。
セシリィでは――行きます !
? ? ?おい、こんな辛気臭い部屋で何をしている。
セシリィ―― ! !
ジュニア――セシリィ、彼は僕が相手をするから、バルドが無事か確認して。
ジュニアどうしたの、ローゲ。なんでこんなところに ?
ローゲコソコソと動き回っているネズミを見かけたのでな。追って来たまでよ。
ジュニアネズミってなんのこと ? 詳しく聞かせてもらえる ?
セシリィ……バルドさん。
バルド大丈夫、私はまだフレンさんの中にいます。
セシリィ良かった、中断しちゃったから何かあったらと思って……。
バルドあれはローゲですね。恐らく私の後をつけて来たのでしょう。
ローゲどけ。今は小僧に用はない。――おい、いるんだろう ? バルド !
バルドここにいるよ、ローゲ。いったい何の騒ぎだ ?
ローゲバルド、貴様ここで何をしていた。
バルド鏡映点の安否を確認していたんだ。ここのところ、鏡映点の流出が激しかったからね。
ローゲハン、貴様が言うか。この前は作戦などと言って、鏡映点を二人も逃がしただろう。
バルドああ。それが功をそうして、セシリィを取り戻せた。そのうちチーグルも救出するつもりだよ。
ローゲぬけぬけと……。その物言い、死ぬ前よりも癇に触る。
バルドそれは済まなかったね。だがここは貴重な鏡映点が眠る場所だ。話なら別の場所でしよう。
ローゲフン、鏡映点などいくらでも具現化すればいい。実験さえ終われば、我らが器でしかないわ !……いや、そう言えばこいつは違ったか ?
ローゲルキウス……。確かこいつの中にはラムダとかいう寄生生命体がいるらしいな。強大な力があると聞いて興味があった。
ローゲこんな所で眠らせておくとは、もったいないことをする。
バルド――っ ! !ローゲ。ルキウスのケースには不用意に触れない方がいい。
ローゲほう ? 珍しいな。お前がそれほど焦るとは。こいつを起こせば、随分と面白い物が見られそうだ。クククッ。
ローゲならば目覚めてみるか ? ルキウス。そして……ラムダよ !
バルド何を…… ! やめろ、ローゲ ! !
セシリィそんな……ルキウスのケースが開いて……。
ジュニアまだだ ! ルキウスの意識があればラムダは少しの間おさえられるはず !その間に、僕とセシリィで強制的に眠らせれば…… !
バルドならば私はローゲを !
セシリィ待って ! ルキウスの体から、何か黒いもやのような物が……。
? ? ?声なき声の叫び……生にしがみつく者……
バルドこれは…… ?
? ? ?そうか……声の主は……お前だな……。
バルド霧が、ファントムに吸い込まれた ?
ファントム……………………。死に……たくない……。
セシリィファントム……意識がないはずなのに ! ?
ジュニア違う……これは…… !
ファントム……死にたくない……。私は……我は……。
ローゲ……お前、ラムダとか言う奴か ?そうか、さっきの黒い霧がお前だったか !ハッハッハッ ! 随分と滑稽だな !
ラムダ……貴様ごときが、我を笑うか ! !
ローゲぐああああああっッ !
セシリィキャアアッ !
ジュニアうわああっ !
バルドグッ…… !
ラムダなるほど……。この体、使い勝手はいいが……。死にたくないという意思以外、ほとんど残っていない。
ラムダだが、それでいい。我はお前の体で復讐を果たそう。
ラムダ実験と称して我を貶め、冒涜したこの世界にな !

Character7話【11-7 静かな山岳5】
フィリップ――ソフィとラムダの対消滅か。確かにそれは、到底納得の行く方法ではないだろうね。
シェリア……はい。それにソフィだって、私たちの気持ちはわかってくれたはずでしょう。あの花畑でのこと覚えてる ?
アスベルそうだ。あの時にマリク教官も言っただろう。二度とソフィが、犠牲になろうと考えないように、みんなで全力を尽くすと。
アスベル俺の考えだって変わっていない。たとえこの世界でも、お前一人を犠牲にする気はないからな。もちろんリチャードだって救う。
アスベル約束したよな ? 最後まで俺たちは一緒だって。
ソフィ……そう、だよね。……ごめんなさい。
フィリップラムダの件はこちらでも対策を考えてみよう。ソフィのためにもね。
ソフィ……うん。
フィリップ――さて、そろそろリチャードに次の鎮静剤を投与する時間だ。
シェリアそれじゃ、私たちは帰りましょうか。
アスベルそうだな。フィリップさん、リチャードのことをよろしくお願いします。
フィリップああ、任せてくれ。
ヒューバート失礼します。こちらにフィリップさんはいらっしゃいますか ?
パスカルも~、いるって聞いたから来たんでしょ ?ほ~ら入っちゃえ !
ヒューバートちょっ、どうしてあなたはそう――ああっ !
パスカルちわーっす ! お届けものだよ~ん。
ヒューバート失礼します。騒がしくてすみません。
アスベルヒューバート、パスカル。どうしてここに ?
ヒューバートミリーナさんに届け物を頼まれたんですよ。
ヒューバートフィリップさん、確認をお願いできますか ?陛下が――いえ、チーグルが使っていた魔鏡結晶です。
フィリップああ、ご苦労様。わざわざ悪かったね。
アスベル確か、その光魔を呼ぶ石はキールの研究室で調べるはずじゃなかったのか ?
パスカル一応、こっちでも出来る限りの解析はしたよ ?けどケリュケイオンの方が解析装置の種類も多いしさ。
パスカルだからミリーナとも相談した結果、こっちに預けてチャッチャカ終わらせちゃおってことになったんだ !急いで持って来たんだよ~。
シェリア急いでいたのはわかるけど、ここには陛下が休んでらっしゃるのよ ?もう少し静かにしないと。
パスカルごめんごめん。でもこの魔鏡結晶の波長と、それを使ってたリチャー……じゃなくてチーグルの波長を調べれば、二人の分離の手がかりになるかなって。
パスカルいつまでもリチャードを、こんな風にしておけないもんね。
シェリアそう……。急いでいたのはリチャード陛下の為なのね。
シェリアでも、それとこれとは話が別 !
パスカルひえ~~~っ !シェリアが怖いよ~ソフィ~ !
ソフィパスカル、静かにしないと――
ソフィあれ ? アスベル、ミリーナから通信が来てるよ。
ミリーナアスベルさん、緊急事態よ。今から説明するから落ち着いて聞いて。
アスベル何があったんだ ! ?
ミリーナラムダが目を覚ましたわ。
全員ラムダ ! ?
ミリーナ覚醒直後に暴走状態になって、帝国を脱走したって報告が入ったの。
アスベルそれじゃラムダはルキウスを操っているのか ! ?
ミリーナ……いいえ。今のラムダはファントムの体に乗り移っているわ。
シェリアファントムですって ?みんなで倒したはずでしょ ! ?
ミリーナファントム自身の意識はほとんどないようだけど、……死んではいなかったの。
フィリップリーパ……。
ミリーナシェリアたちが疑問に思うのはわかるわ。でも今は詳しい説明はできない。勝手なことを言ってごめんなさい。
アスベル何かあるんだろう。わかった。無理に話さなくていい。俺たちはすぐにラムダを追う。
ミリーナありがとう、アスベルさん。
ミリーナラムダは、この世界に復讐すると言い残して出ていったそうよ。今はセールンドに向かってる。
ヒューバートなぜラムダはセールンドへ ?
ミリーナイクスのいる、巨大魔鏡結晶が目的だと思う。多分ラムダは、死の砂嵐を呼びこむ気なのよ。
シェリア死の砂嵐って、イクスが命がけで封じてるのよね ?それを解放したらこの世界は…… !
ソフィそんなことさせない。絶対に止める !
ミリーナお願い。私たちもすぐに追いかけるわ。
アスベルフィリップさん ! ケリュケイオンでセールンドへ先回りさせてもらえますか ?
フィリップもちろんだ。ブリッジに行こう。すぐに進路を変更する。
ローエン失礼します。リチャードさんのお薬をお持ちしました。
フィリップ丁度よかった。ローエンさん、リチャードを見ていてもらえますか ?
ローエン承知しました。お任せください。
フィリップそれとこの荷物も頼みます。魔鏡結晶ですので、扱いには気をつけてください。
ローエン確かにお預かりしました。……どうやら何かあったようですね。くれぐれもご用心を。
ローエンさて、何事もなければよいのですが……。
リチャード……。
ローエン(何か……気配が…… ? )
リチャード…………。
ローエンリチャードさん…… ! ?

Character8話【11-12 セールンドへ続く街道2】
アスガルド兵Aこんなはずじゃ……。やめろ、来るな…… !
ラムダ来るなだと ? 先程までは我を捕らえにきたとほざいていたようだが。
アスガルド兵Bくそっ、総員、突撃――
アスベル今の音―― !
シェリアこの先よ !
ヒューバートあれがラムダの仕業なら、まだ魔鏡結晶にはたどり着いてはいないはずです !急ぎましょう !
パスカルうわ、何これ !この倒れてる人たち、みんなアスガルド兵じゃない ! ?
シェリア……だめだわ。もう、息がない。こっちの人も……。
ヒューバート全滅ですか……。
ソフィ―― ! みんな気を付けて、あそこにいる !
ファントムまた追っ手か。何度でも打ちのめしてくれる !
アスベルファントム……いやラムダ ! !
ソフィこれ以上は、進ませない。
ラムダ貴様は……。……そうか。貴様たちも具現化されていたか。この世界でも我の邪魔をするというのだな。
ラムダ何度我の前に立ちふさがれば気が済む !プロトス1 !
ソフィ―― !
アスベル待てソフィ !……お前、ファントムか ? それともラムダなのか ?
ラムダ……リチャードと違い、この男の自我はほとんどない。残ったのは生きる意思のみ。ゆえに我は我だ。
パスカルやっぱり、普通に話できるんだ !ほらね、あの時あたしが言ったとおりだったでしょ ?ラムダとは意思の疎通が可能かもって !
ファントム可能かもだと ?フォドラでも、エフィネアでも、この世界でも我の声に耳を傾けなかったのは貴様たち人間の方だ !
アスベル聞いてくれラムダ、俺はお前と話がしたい !
ラムダその言葉を信じられると思うか ?異なる世界に来てさえ、人間という生き物は変わらなかったのだぞ。
ラムダひとたび異端と断じれば非道な行いさえ辞さぬ。我欲のために他者を利用し、必要なければ排除する。争い、憎しみ、平和を望むといいながらまた争う。
ラムダリチャードは我と同じ思いを持つ者だった。そのリチャードでさえ、奴らは我から奪った !
ファントム……許せるわけがない !
アスベル――うっ ! なんだ……この力はっ !
ヒューバート体が……っ、押しつぶされそうです !
ソフィラムダ~~~~ッ ! !
ラムダ――っ !
ソフィみんな、大丈夫 ! ?
シェリアっ、はあ……はあ……、ソフィのおかげで、なんとか……ね。
パスカル今の……原素(エレス) ? この世界ならアニマ ?とにかくすごいエネルギーだよ。ラムダとファントムの力が混ざってるのかも……。
アスベルそれでも、俺たちはラムダを止めなきゃいけない !
ラムダやってみるがいい。我は必ず目的を果たす。
ファントム人を滅ぼし、我は生きる ! !
ソフィさせない……。この世界も、みんなも、絶対に守る !

Character9話【11-13 セールンドへ続く街道3】
アスベル倒した……のか ?
ラムダこの体滅ぼそうとも……我に勝つことなど……出来はしない……。
ラムダ我は必ず……我の望む世界……を……「私」が望む世界を……。
ラムダ……フィル。
アスベル―― ! ? ラムダ、お前…… ?
ラムダこの男……自我が…… ! ?……ミリーナ……ゲフィ……オン……。
ヒューバートまさか、ファントムの意識が覚醒しつつあるというのですか ! ?
パスカル魔物を生み出すラムダの力が、ファントムの回復力や生命力に変換されちゃってる……とか ?
シェリアそれって、二人がお互いの力を奪いあってるってこと ?
パスカルわかんない。今わかるのは、どっちが主導権をとってもこのままじゃまずいってことだけ !
アスベルラムダ、ファントムから離れろ !
ラムダ貴様らの……言葉など……。この程度、支配下に…… ! イ……クス…… !ぐああああああああっ !
アスベルくそっ、どうすれば…… !
ソフィ……アスベル、シェリア、ヒューバート、パスカル。今までありがとう。
全員ソフィ ! ?
ソフィファントムから離れてもラムダは消えない。長い眠りを経た後、再び力を取り戻す。
ソフィファントムだって、ラムダの力を取り入れてたとしたら、どんな脅威になるかわからない。
ソフィだから、ファントムごとわたしが消さなきゃ。……約束、守れなくてごめんね。
アスベル駄目だ ! ソフィもリチャードも犠牲にはしないと言っただろう !
アスベルラムダ、お前もだ ! 生きるんじゃないのか ! ?
ラムダ貴様などに、言われずとも…… ! !
シェリアなに、あの黒い霧……。ファントムの体から湧き上がってる ?
アスベルあれが……ラムダなのか ?
ソフィそう。でも、ファントムの体から離れきれてない。もしかして、わたしたちと戦って弱ってるから…… ?
アスベルそれなら、他に寄生する体があれば引っ張り出せるかもしれないよな。
ヒューバート何を言ってるんですか ! ?
アスベル――こっちへ来い、ラムダ !
ラムダ……我の器になろうというのか ?この得体の知れない鏡士ならばともかく、貴様の自我程度ならば、簡単にねじ伏せるぞ。
シェリアアスベル、陛下のようになったらどうするの ! ?
アスベル乗っ取られるつもりはない。それに俺も確かめたいんだ。
アスベル……ラムダ、俺たちは元の世界であるものを見た。酷い実験にさらされ続けた中で、お前に唯一「生きろ」と言ってくれた人がいたな。
ラムダ貴様、何を……。
アスベル俺はその人の言葉を信じて、この先の可能性にかける。お前が来ないなら、俺が迎えに行くぞ !
ソフィアスベル ! ?
ヒューバートやめて下さい ! 兄さん !
パスカルラムダに直接触れるなんて…… !
シェリアアスベル…… ! 嫌ああああああっ ! !
アスベルここは……どこだ ?
ラムダお前でもなく、我でもない。我とお前が共有する領域。
アスベルラムダ…… !
ラムダ我はお前をこの領域から排除して、お前の領域を圧迫する。最終的にお前の肉体を我が支配下に置く。
ラムダお前ごときが、二度とコーネルの言葉を口にしないように。
アスベルやっぱりあれは、お前の心だったんだな。
ラムダ……他者の不幸な過去は、さぞ楽しかったことだろう。……満足したか ?
アスベルそんなわけないだろう。
ラムダ……だがな、今はお前も我と同じだ。身勝手な鏡士に勝手に具現化され、二度と己の世界に戻ることの叶わぬ、哀れな異端者だ。
ラムダ憎いだろう ? 簡単に納得などできたはずがない。
アスベル確かに、一人だったらこの状況には耐えられなかったかもしれない。だけど、俺には仲間がいたからな。
アスベルそれに、鏡士のイクスもミリーナも精一杯その責任をとろうとしてくれている。
アスベルお前はリチャードから引き離され、帝国に実験材料として扱われていた。だから、それを知ることができなかっただけだ。
ラムダ鏡士とて同じだ。全ては利用するための方便だとしたらどうする。人間など、いくらでも嘘はつく。
アスベルそんな人間だけじゃないことを、お前はよく知ってるはずだろう。
ラムダ……。
アスベルラムダ、俺と一緒に生きよう。そして確かめればいい。
アスベル人間という存在や、なぜコーネルさんがお前に生きろといったのか、その答えを一緒に探そう。この世界を見てみるんだ。
ラムダもの好きな……。そんなことをしている間に、我はお前を乗っ取るぞ。
アスベル悪いが、簡単にそうなるつもりはないさ。こっちも必死だ。だから――
アスベルさあ、手を取れ。
ラムダ……断る。
アスベルだったら、「うん」というまで、とことん付き合う。
ラムダ要領の悪い奴だ。具現化されて愚かさが増したか ?
アスベルそうかもしれない。元の世界ではもっと上手くお前の手を取れているかもしれないな。だけど、今はこれが精一杯なんだ。
ラムダ……ならば話はここまでだ。お前の手は取らぬ。だが、限界が近い……。今はここで……しばし眠る。
アスベルわかった。俺は待つよ、お前が目覚めるのを。ラムダ――……。
アスベルう……。
三人アスベル ! !
ヒューバート良かった、気がつきましたか !
ソフィアスベル、片目だけ色が違う…… ?
シェリア大丈夫 ? 体はなんともない ! ?
アスベルああ。みんな……、今、ラムダと……。
ヒューバート兄さんとラムダの話は聞こえていました。ソフィの力のせいかもしれません。
ソフィラムダ、すごく静かになってるよ。すごいね、アスベル。
アスベル分かり合うとまではいかなかったけどな。でも、俺は諦めない。必ず――
パスカルあれ ? アスベル、なんかピカピカしてない ! ?
アスベル浄玻璃鏡が光ってる…… ! ?

Character10話【11-14 ひとけのない街道1】
コーキスマスター、ファントムはマスターの所まで辿りついてないよな ! ?
イクス『大丈夫だ。アスベルたちはこの草原をもっと進んだ先にいると思う。ただ詳しい様子まではわからない』
コーキスアスベル様たち、無事かな……。魔鏡通信ができればいいのに。
ミリーナ今は我慢よ。もしもラムダと戦っている最中なら邪魔することになる。小さな隙が、命とりになるかもしれないもの。
ルドガーそんな危険な奴を追うのに本当に俺たちの他には、知らせなくていいのか ?
ミリーナ……ええ。
ユリウスもしかして、俺やルドガーを選んだのは今現在、帝国に近寄れない人物だから、かな ?
ミリーナ……さすがですね。
ユリウスやはり情報漏えいを恐れてか。それなら納得だ。
ミリーナなるべく今の作戦は、明確にしないでおきたいんです。ユリウスさんとルドガーさんには協力をお願いします。
ルドガーそれはわかったけど……、なあミリーナ、あっちで何か光ってないか ?
ミリーナ―― !あの輝き、まさか誰かの浄玻璃鏡が発動してる…… ?
ルドガーアスベルたちが戦っているのかもしれない。急ごう !
ミリーナアスベルさん、みんな !
アスベルミリーナ、いい所に来てくれたな !
コーキスあそこで倒れてるの……ファントムだ !いや、それともラムダかな ?
ユリウスどちらにしろアスベルたちが倒したのか。念のため、俺たちは近寄らない方がいいな。
セシリィやっぱり、あれは浄玻璃鏡の光だったのね !
ミリーナセシリィ、バルドさん !二人とも、大きな怪我はないようね。吹き飛ばされたって聞いて心配したわ。
バルドええ。フレンさんの鍛えあげられた体には感謝するばかりです。
セシリィ私は、バルドさんがかばってくれたから。それでアスベルさん。ラムダとファントムはどうなったの ?
アスベルラムダは今、俺の中で眠ってる。ファントムは――
ミリーナ……そう。それで、ラムダはこのままで大丈夫なの ?
ソフィ……ラムダ、今までみたいな反応じゃないの。今は消す必要がないラムダ。でも、ずっとこのままかはわからない。
コーキスそれじゃいつか、また暴れ出すかもしれないのか。
アスベル……あいつはまだ、俺を信用したわけじゃない。差し出した手は握ってもらえなかったからな。
ミリーナでもラムダがアスベルさんに入った後で、浄玻璃鏡が光ったのよね ?
アスベルああ。どういうことだろう。
セシリィ……やっぱり、可能性かな。もしかしたら未来、もしくは元の世界で起こりえることが、浄玻璃鏡を反応させたんだと思う。
パスカルあ~なるほどね。ラムダがアスベルを好きになっちゃうってことか。
シェリアす、好きって、どういうこと ! ?
パスカルだから~、ラムダがアスベルと仲良くなって力を貸してくれるかもってことだよ。でしょ ?
セシリィええ。アスベルさんの可能性の中に、『ラムダの力を使って戦う』という未来が存在してるのね。
ヒューバートそんなことが……、信じられません。
パスカル何言ってんの。可能性なんてその人次第で無限だよ ?明日のことなんてわかんないんだから。
シェリアそうね。いつかパスカルが、お風呂が面倒だなんて言わなくなるかもしれないし。
パスカルそれはどうかな~。そんなのより、弟くんと一緒にお風呂に入る方が可能性は高いかも ?
ヒューバートそっ、そんなこと、あるわけがないでしょう !
セシリィとにかく、アスベルさんは、ラムダに関する力が使えるはずよ。
ミリーナオーバーレイは一時的なものだけど、本当にラムダとわかりあった時には、もっとすごいことになりそうね。
ソフィそうすれば、ずっと消さなくていいラムダになる ?
アスベルああ。いつか必ず――
イクス『コーキス ! 大量の光魔がここへ押し寄せてる ! 』
コーキスなんだって ! ?みんな、すごい量の光魔が来るって !
ミリーナいつの間に集まったの ! ? そんな気配なかったのに !
イクス『突然、湧いて出て来たんだ。ほら、もう来る ! 』
アスベルみんな、構えろ !
シェリアアスベル、あなたはさっきまで倒れてたのよ。無茶しないで !
アスベル大丈夫。それに俺は確かめなくちゃならないんだ。ラムダの力を。
アスベル(この力が前借りなのはわかってる。だが、この可能性をいつか本物にするため、お前を理解するために――)
アスベル行こう、ラムダ ! !

Character11話【11-14 ひとけのない街道1】
アスベルこれが、ラムダの力なのか。
ミリーナすごいわね。あれだけ大量の光魔だったからもっと手こずるかと思ったわ。
ルドガーあの光魔……。
ユリウスお前も気が付いたか。湧くように押し寄せるあの様子、チーグルがエルをさらった状況と似ていた。
シェリア待って下さい。陛下はケリュケイオンにいるんですよ ?それにまだ眠ったままです。
ミリーナ……念のためフィルに連絡をとるわ。リチャードさんの様子を確認してもらいましょう。
セシリィそれなら今のうちにバルドさんを移してもいいかしら。
バルドラムダの時のように、何が起こるかわかりません。早い方がいいと思います。
ミリーナそうね。コーキス、周囲を警戒してもらえる ?
コーキスわかりました。絶対に二人の邪魔はさせません !
パスカルなになに ? 何が始まるの ?
ヒューバートぼくたちは下がっていましょう。そうじゃなくても、あなたは何かと騒がしいんですから。
セシリィファントムの状態は問題ないし、ラムダの影響もない。アスベルさんがラムダの全てを引き受けてくれたおかげね。
バルド強いですね、彼は。私は寄生するというラムダの特性を知っていましたがあの時は対処のしようがなかった。
セシリィ仕方ありませんよ。それにあれは、私がバルドさんを移すために行った、心核解放作業の影響です。
セシリィ解放されたファントムの心を、ラムダが読み取ってしまったようですから。
バルド生きるという意思、ですね。
セシリィええ。――さあ、準備ができました。バルドさん、始めてもいいですか ?
バルドはい。お願いします。
ソフィ何の術かな、まぶしい…… !
パスカルね、今の見た ! ? バルドの体からファントムの中に光が移動したよ !
ヒューバートええ。どことなく、ラムダの寄生を思わせる光景ですね。
アスベルまさか…… !
セシリィ……終わったわ。バルドさん、どう ?
バルド……はい。私の方は問題ないようです。フレンさんは ?
ヒューバートファントムが起きあがりましたよ ! ?
アスベルいや、あれはきっと…… !
セシリィ……フレンさん ?
フレン…………。
バルドフレンさん ? そんなまさか……フレンさん !
フレン大丈夫、起きてるよ。
バルド良かった……。あなたを失うことだけは絶対にできませんから。
フレン心配をかけたね。けど大丈夫。僕の頑丈さは君が身をもって知った通りだ。
バルドええ。随分と助けられました。
フレン……バルド、こうして向かい合って話すのはなんだか新鮮だよ。
バルド……ええ。
コーキスよかった。ミリーナ様、セシリィたち成功しましたよ !……ミリーナ様、どうしたんですか ?
ミリーナ変なの……。ケリュケイオンに通信が繋がらない。さっきから何度もためしているのに……。
イクス『コーキス、みんなを連れて隠れろ ! 今すぐに ! 』
コーキスえ ! ? えっと、みんなすぐに隠れろ !
全員! ?
ミリーナもしかして、イクスの警告 ?
コーキスはい。すごく焦ってたみたいです。……あれ ? 向こうから来るのって…… ?
アスベルリチャード ! ?
コーキスなんでこんな所に、すぐに捕まえないと !
バルド動かないで下さい。ここは――
フレン僕たちに任せてくれ。行こう、セシリィ。
セシリィはい !
フレンチーグル……無事だったんだな。
チーグルバルド ! シドニーまで。お前たちもファントムを追ってきたのか。
フレン……なぜ、それを知っているんだ ?
チーグルフン、ただ捕まっていたわけじゃないさ。奴ら、この体の心核を調査するために半覚醒状態にしたんだ。その時に、術で鎮静剤の分解を速めた。
チーグルおかげで、ラムダを宿したファントムのことも知れたよ。僕が起きているとも知らずにベラベラとよくしゃべってくれた。
チーグルところで、僕が呼んだ光魔はどうした。それにラムダは ?
フレン……光魔は黒衣の鏡士たちが倒した。ラムダは、彼らの妨害もあって……。
チーグルチッ、何をしてるんだ !マクスウェルの輸送の時といい、最近のお前は失態が多いんじゃないか ?
フレン済まない。確かにあの指示は私のミスだ。結果、助けにもいけず、君を一人で救世軍から脱出させることになってしまった。
セシリィバルドさんは、私と一緒にチーグルさんを助けるために力を尽くしていました。だから責めないで下さい……。
チーグル……まあ、いいさ。おかげで救世軍を壊滅させることもできたんだ。
フレン壊滅……だって ? いったい何を ?
チーグル奴らの航行データをいじってやったんだ。『魔の空域』に飛び込むように設定してある。恐らくもう、戻ってこれないはずさ。くっはははは !
セシリィ……な……なんてこと――
フレン――さ……すがだね。捕らわれの身で、そこまでやってのけるとは。
チーグルああ、おかげでクタクタだよ。
フレンなら、早く帝国へ戻ろう。少し休んだ方がいい。――シドニーも……いいね ?
セシリィは、はい……。
コーキスフレン様、行っちまった……。
バルドそれでいいんです。フレンさんが戻るのは予定どおりですから。
コーキスそうだ、ミリーナ様、結局ケリュケイオンはどうなってるんですか ?
ミリーナ通信が繋がらなかったのは魔の空域のせいなのね……。どうしよう……。どうやったらみんなを助けられるのかしら……。
コーキスミリーナ様……。

Character12話【11-15 ひとけのない街道2】
アスベルリチャード……。せっかく助けだせたのに、また振り出しか。
ヒューバート陛下の居場所がわかっただけでも良しとしましょう。それに今は救世軍が心配です。
ソフィ魔の空域ってなに ? 怖い所なの ?
ミリーナ……一度入ってしまったら、永遠に迷い続ける場所だと言われているわ。
ミリーナガロウズさんが言っていたの。空を飛ぶときは絶対に避ける空域なんだって。
ソフィ帰って来た人はいないの ?
ミリーナ……いないそうよ。
ミリーナそもそも、空を飛べる乗り物は一般的ではないから魔の空域のこともあまりよくわかっていないみたいで……。
シェリアミリーナ、大丈夫 ?あなた一人じゃないんだからみんなで考えましょう。ね ?
ミリーナ……ありがとう、シェリア。
コーキス(ミリーナ様、珍しくうろたえてる……)
イクス『俺のことで大変な時に、ミリーナを影から支えてたのはフィルだからさ。動揺するのも仕方ないよ』
バルド……救世軍のことは確かに心配です。ですが、ここで立ち止まるわけには行きません。
ミリーナバルドさん……。
パスカルなんだか変な感じだね。ファントムで、ラムダで、今はバルドだなんて。
バルドそうですね。こんなことは異常だ。リビングドール計画は早く止めなければならない。
バルドミリーナさん、冷たいことを言うようですが、すぐにでも次の行動に移さないといけません。わかってくれますね。
ミリーナ……そうね。アスベルさんたちにお願いがあるの。大変だとは思うけど、アジトに帰って全員の所在を確認してもらえる ?
ミリーナもしかしたら、こちらからケリュケイオンに行ったままの人がいるかもしれないから。
アスベルわかった。みんな行こう !
ユリウス君たちの様子だと、この計画は、随分と切羽詰まってるようだな。
バルドはい。もう時間がありません。帝国はさらなる鏡映点の具現化と、リビングドールの作成を行うために、死の砂嵐を利用しようとしています。
バルド救世軍の助けを得られないのは痛手ですが、早急にイクスさんを助け出さなければなりません。
ミリーナわかっているわ。……でも、ケリュケイオンを放っておくことはできない。何か手は打っておかないと……。
ルドガー……わかった。ミリーナ、ケリュケイオンの調査は俺たちに任せてくれないか ?
ユリウスいい判断だ、ルドガー。どうせ俺たちは帝国には近づけない。だったら救世軍捜索に当たった方がいいだろう。
ミリーナルドガーさん、ユリウスさん……。ありがとうございます。よろしくお願いします。
バルドお二人だけで大丈夫ですか ?
ミリーナユーリさんたちは、この計画を知っています。カロル調査室と組んで捜索してください。
ルドガーああ、任せてくれ !
ミリーナそれからバルドさん、イクスを助け出す手順を教えてもらえるかしら。この間、アイディアがあるとだけは聞いたけど……。
バルドイクスさんがいなくなることで、死の砂嵐が外に漏れだすのを、どう食い止めるかという話でしたね。
バルド簡単に言うと、私とセシリィがビフレスト式の封印強化術を知っているので、イクスさんの救出後、それを発動させるつもりです。
バルド詳しい話は、あなたたちのアジトでしましょう。準備が整い次第、すぐに作戦を開始できるように。
ミリーナわかったわ。行きましょう、みんな。
リヒターバルド、チーグルを救出してきたそうだな。
チーグルリヒター、何か誤解があるようだけど僕は自分で脱出してきたんだ。バルドとは偶然、行き会っただけだよ。そうだろう ? バルド。
フレンああ、その通りだ。それに私はラムダも取り逃がしてしまった。メルクリア様のお叱りを受けなくては。
リヒターそのラムダの件で、ローゲとジュニアが謹慎をくらったぞ。
フレンなぜ ?ローゲはともかく、ジュニアは関係ないじゃないか。
リヒター俺に言われても困る。不満なら自分で上にかけあえ。
リヒターそれとチーグル、メルクリアが呼んでいる。一緒に来い。
チーグル相変わらずぶっきらぼうだな。もっと愛想よく誘ってくれないか ?君の可愛いアステル博士のようにさ。
リヒターお前に振りまく愛想などない。アステルのことも構わないでもらおうか。
チーグルわかったよ。帰って早々、面倒に巻き込まれたくないからね。じゃあね。バルド。
フレンああ。お疲れ様、チーグル。
リヒター…………。
フレンどうしたリヒター、まだ何かあるのかい ?
リヒター……お前……。
リヒター――いや、何でもない。セシリィを早く休ませてやれ。顔色が悪い。
セシリィあ、ありがとうございます……。
フレン………。大丈夫かい ? セシリィ。
セシリィえ、ええ。ごめんなさい、少し気分が悪くて。
フレンケリュケイオンのことだね。君の恋人だった人が乗ってるんだろう ?
セシリィ………それだけじゃありません。鏡映点の人や、大勢の救世軍が乗ってます。その人たちが……みんな……。
フレンバルドやミリーナたちを信じよう。それに、あっちには僕の仲間もいる。あいつならきっと――……。
フレン……そこにいるんだな ?
セシリィフレンさん ?
? ? ?ああ。
セシリィだ……誰 ! ?
フレン大丈夫、落ち着いて。――ヴィクトル。ミラは ?
ヴィクトル安心しろ。もう助け出してある。
フレンわかった。それじゃ、セシリィのことを頼む。
セシリィフレンさん、どういうことですか…… ?この人は…… ?
to be continued