Character1話【12-1 ひとけのない街道】
ナーザ(……これで、できることはした。あとは――)
? ? ?ナーザ将軍か。驚いたな。イ・ラプセル城に立ち寄るとは珍しい。
ナーザ! ?
? ? ?ああ……。この姿に戻ってからは、初めての顔合わせかな。
ナーザ……デミトリアス帝、か。アニマ汚染の治療はマクスウェルでもできなかったと聞いていたがどうやって治療を施した ?
デミトリアスアプローチを変えることにした。マクスウェルの力と共に、クロノスの力を加えることでアニマ汚染された細胞の時間を逆行させたんだよ。
ナーザ精霊を殺し、利用してまで生にしがみつくか。
デミトリアスその通り。私は生きる。生きてこの世界を存続させる。真実を知った以上セールンドの過ちを正さねばならない。
ナーザ皮肉なものだな。祖国ビフレストが滅びてから意見の一致を見るとは……。
ナーザこの世界がダーナの揺り籠であることは魔鏡戦争の前から知らせていたことだ。鏡精の危険についてもな。
デミトリアス……しかし父――先代のセールンド王も私もダーナの揺り籠など、単なるおとぎ話としかとらえていなかった。
デミトリアスセールンドは鏡士と鏡精の力に大きく依存していたからね。オーデンセの鏡士を見殺しにすることはできなかった。
ナーザ【死の砂嵐】こそが【フィンブルヴェトル】だと知ってようやく考えを改めたという訳か。
デミトリアスそう……。鏡士がもたらす死の季節【フィンブルヴェトル】。よもやセールンドが引き起こすとは思いもしなかった。
ナーザ……笑えないな。我らもダーナの予言の全てを理解していた訳ではない。
ナーザただ伝承を守ることが、ダーナに仕える祭司の末裔である我ら皇族の使命だと考えていただけだ。
デミトリアスしかしナーザ将軍は私の計画には反発しておいでのようだ。
ナーザそうだな。世界を救えるなら過程はどうでもいいのかも知れない。だが貴殿のやり方は好きにはなれない。
ナーザメルクリアを巻き込んだことも、な。
デミトリアスその批判は甘んじて受けることとしよう。
デミトリアス……ところでなぜこの城に ?
ナーザ――別れを告げに。貴殿が精霊の封印地へ向かう前に。
デミトリアスゲフィオン――いや、ミリーナと鏡精を殺すのか。
ナーザ我が一族に与えられた使命は、鏡精を生み出した鏡士への粛正だ。鏡士と鏡精を消滅させれば予言は覆される。ダーナもそれを望んでいるだろう。
ナーザそれとも邪魔立てするつもりか ?
デミトリアス――ナーザ……いや、ウォーデン殿。私はあなたが事を成し得なかったときの安全弁と心得ている。
デミトリアス騎士として前線で指揮を執る貴殿を私は敵ながら尊敬していた。
デミトリアスあの当時、私は既に研究によるアニマ汚染で起き上がることもままならなかったからね。
ナーザ……デミトリアス王子は文武両道の智者だとは俺も聞き及んでいた。同じ年に生まれた王子だからな。噂は気になったものだ。
ナーザ俺の邪魔をしないというなら結構だが俺にはオーデンセの鏡士を思いやる理由がない。
ナーザ黒衣の鏡士に真実を告げるかも知れないがそれも構わないのか。
デミトリアス真実を知れば、苦しむのはミリーナだ。できればこれ以上苦しませたくはない。
デミトリアス彼女は――一人目の彼女はセールンドのために尽くしてくれたからね。
ナーザ……真実を知る方が本人のためだと思うがな。
デミトリアスウォーデン殿。
ナーザ……ナーザと呼べ。ウォーデンは死んだ。
デミトリアスナーザ将軍。――ご武運お祈り申し上げる。
ナーザそちらこそ。

Character2話【12-1 ひとけのない街道】
コーキス……ミリーナ様、少し休んだ方がいいと思います。
ミリーナでも、フィルたちのことが心配で……。
ミリーナ魔鏡通信も繋がらないし、コーキスが鏡士の神殿からフィルの魔鏡を追いかけようとしても途中で痕跡が消えちゃうみたいだし……。
コーキスすみません……。俺の力不足です。
ミリーナ違うわ。コーキスのせいじゃない。きっと魔の空域というのがそれだけ特殊な場所なのよ……。
イクス『コーキス。ミリーナに伝えてくれ。いつものミリーナに戻れって。やたらと心配するのは俺のほうだった筈だろって』
イクス『救世軍はルドガーさんたちが捜してくれてるんだろ。仲間を信じるんだってこと俺たちは学んできたんだからさ』
コーキスミリーナ様。マスターが……えっと……。いつものミリーナ様に戻れって。
コーキスんーと、心配性なのはマスターだけで十分でルドガー様たちが捜してるから、仲間を信じろって。大体そんな感じのことを伝えてくれって言ってます。
カーリャコーキス。もしかしてイクスさまの言葉を適当に省略して伝えてるんじゃないですか ?
コーキスだ、だって、マスターの言葉長いんだぜ ! ?ちょいちょい難しいこと言うし !
ミリーナ………………ふふっ。
二人ミリーナさま…… ?
ミリーナごめんなさい、二人とも。そうよね……。私が心配していても状況は変わらないんだもの。
ミリーナバルドさんがイクス救出の準備を済ませるまで私は私で自分にできることをしないとね。
イクス『それが、今は休むことなんじゃ――』
イクス『――っっ ! ? 』
コーキスマスター ? どうしたんだ ?
イクス『ぐぅ…………なん……だ…… ?痛みが……どんどん強く…… ! ? 』
コーキス―――― ! ?
コーキスう、うぅぅぅぅぅっ ! ?いてぇ……。左目の奥がっ ! ?裂けるみたいに……っ !
カーリャコーキス ! ? しっかり !
コーキスこれ……。確か、マスターの痛みが……俺にまでリンクしてるんだったよな……。
コーキスマスター ! ? マスターは……ぐぅ……。
バルドお待たせしました――どうしたんです ?
ミリーナコーキスがイクスの痛みに反応して苦しんでいるんです !
バルドリンクはこちらでは断ち切れない。せめてコーキスの痛覚を抑えられれば……。
ジェイド痛みの神経経路をブロックすればいいのですね。目の奥……群発頭痛のようなものか。――失礼。
カーリャコーキスの首を絞めてどうするんですかっ ! ?
ルカ待って、カーリャ。違うよ。多分ジェイドさんは星状神経節ブロックみたいなことをしようとしているんじゃないかな。
カーリャふぁ ? それは一体…… ?
コーキスうわぁっ ! ?
ミリーナコーキス ! ?
カーリャた、た、倒れちゃいましたけど大丈夫ですか ! ?
ジェイド気絶しているだけです。ジュードがケリュケイオンに行ったままで、医療行為がまともにできる人間がいませんからね。乱暴な手段を執らせて頂きました。
ジェイド譜術でコーキスの交感神経節の一部をマヒさせました。薬物を使う処置と違って強制的な遮断を行いましたから副作用があるかも知れませんが、痛みは治まります。
ジェイドルカ、後は頼みます。あなたも医者の卵でしたよね。
ルカわ、わかりました。ジュードみたいに勉強はしてないけど……。
リフィル手伝うわ。コーキスをあちらのソファーに運びましょう。
ミリーナコーキス……。
バルドコーキスがあそこまで痛みに苦しんでいると言うことはイクスさんはもっとひどい痛みに襲われている筈です。
ミリーナ! ?
リオンコーキスは時々左目の奥が痛むと言っていたがそれはイクスとリンクして、イクスの痛みを感じ取っているからだったな。
リオンどうしてイクスはそんな痛みに襲われているんだ ?
バルドどういった仕組みかは私も把握していませんが虚無では痛覚が過敏に反応するようです。
リオンそれはお前の体験談か。
バルド……ええ。私はカレイドスコープによってアニマを抜かれ、アニムス粒子に分解されました。アニムス粒子になっても感覚は残っています。
バルド真っ暗な闇の中で、同じようにアニムス粒子となった人々の怨嗟の声を聞き続け、飢餓感と激しい痛みに苛まれながら、消えることもできず漂っている。
バルドアニムス粒子と化した人々は虚無で皆同じ体験をしています。恐らく、今も。
ミリーナ……イクスもアニムス粒子たちと同じ体験をしている ?
バルドええ。彼はアニマを有して身体を保っていますから私たちとはまた違う感じ方かも知れませんが……。魔鏡結晶の中は虚無と繋がっていますから。
リオン地獄だな。
ミリーナ………………。
ルカ何とかしてあげられないのかな。イクスだけじゃなくてアニムス粒子になってしまった人たちも可哀想だよ。
バルド……少なくとも、今は何もできません。ただコーキスにここまで痛みが伝わるということはイクスさんには耐えがたい痛みが伝わっている筈です。
バルド原因は……恐らく帝国が死の砂嵐にアクセスしているからでしょう。
バルド私がフレンさんの体にリビングドールとして移された時も、耐えがたい痛みに襲われました。
リオン帝国が外部から、魔鏡結晶の中のイクスにアクセスしているということか。
ジェイドでは、全てはバルドの予測通りに進んでいるようですね。
ミリーナどういうことですか ?
ジェイド説明しましょう。
ジェイドカーリャ、すみませんがカロル調査室のメンバーを呼び出して下さい。

Character3話【12-2 ひとけのない海岸1】
カロルお待たせ。ユーリも連れてきたよ。
カーリャあれ ? カロルさまとユーリさまだけですか ?
カロルリタはキール研究室の方の準備があるから動けないしレイヴンにはたまたまアジトに来てた救世軍の様子を見てもらってるから。
ミリーナそうよね……。突然自分たちの仲間が乗っている船が行方知れずになったなんて、パニックになるわよね。
ミリーナきちんと状況を説明したくてもこちらも何もわかっていないし。
カロルクラースが何とか落ち着かせてたんだけど調査室の情報をすぐに共有できるようにレイヴンにもついていてもらおうと思って。
リオンふん。今慌てて騒いだところで状況が変わる訳でもないだろう。
シャルティエそんな風に割り切って考えられるもんじゃないですよ。ケリュケイオンに仲間が乗り込んだままという人も多いですし、浮き足立つのは当然だと思いますよ。
ユーリとはいえ、リオンの言う通り、こっちでああだのこうだの言ってても何も始まらないからな。
ユーリ調査室で調べた情報はルドガーたちに預けた。後はあいつらに任せるしかないだろ。
ユーリで、オレたちの方は何から手をつける ?イクスを取り戻しに行くって話はまとまったのか ?
ジェイドええ。すぐに動き出す必要があります。バルド、説明を。
バルドはい。まずはイクスさんの救出を急ぐ理由から説明させて下さい。ご存じの通り、アスガルド帝国ではリビングドールを生み出し続けています。
バルド目的はビフレスト皇国の国民を甦らせ皇国を再興することです。その為に使われているのがイクスさんが世界中に作り出した魔鏡結晶です。
カロル魔鏡結晶でどうやってリビングドールを作るの ?
バルド正確には、魔鏡結晶に封じられた死の砂嵐――アニムス粒子を利用している、ということになります。
バルド私や他のリビングドールたちは、カレイドスコープによってアニマを失い、アニムス粒子となりました。
バルド死者を生者の中に宿らせるためには、死者の粒子であるアニムス粒子を選別し、死の砂嵐から取り出して生者にキメラ結合させる必要があります。
ジェイドまぁ、細かな技法については今は置いておきましょうか。
ジェイド要するに魔鏡結晶の中から、ビフレスト皇国の亡くなった人々の欠片を取り出すことがリビングドールには必要不可欠なんですよ。
ジェイドただ魔鏡結晶は、あくまでイクスの暴走による力の具現化に過ぎません。死の砂嵐と虚無そのものはゲフィオンとイクスによって封じられています。
ジェイド仮に魔鏡結晶を全て破壊し尽くしたところで死の砂嵐に触れることはできない。
ユーリあのどでかい魔鏡結晶が死の砂嵐を閉じ込めてるって訳じゃないんだな。
ユーリ死の砂嵐そのものはイクスとゲフィオンが封じていて魔鏡結晶は単に力が具現化しただけの代物ってことか。じゃあどうやってリビングドールは作り出されたんだ ?
バルドイクスさんにアプローチしていると聞いています。
ミリーナどういうこと ?
ミリーナ――まさか、イクスの放出している魔鏡術の力を外部から操っているってこと ! ?
カロルえ ! ? そんなことできるの ! ?
ミリーナ……イクスは三人目だから。帝国には最初のイクスの体があるでしょう。
ミリーナ本来過去から具現化された人間は、同一人物からの具現化でも意識を共有することはないの。
ミリーナでもフィルとファントムは手法を誤ってしまって意識を共有してしまっていたわ。
ミリーナそれがどの程度の共有なのかはわからないけれど自分の考えが漏れるからこそ、フィルは三人目のジュニアを作り出した訳だし……。
ミリーナだから後天的に最初のイクスと三人目のイクスをリンクさせることもできるんじゃないかって……。
ジューダス…………。
バルドええ、まさにその発想です。ビクエとファントムから着想を得て、ナーザ様――最初のイクスさんの体と魔鏡結晶の中のイクスさんを繋ぎました。
バルドその結果、意識の共有まではできなかったもののわずかですが、イクスさんの魔鏡術を外部から操れるようになりました。
バルドただ、それを行うと、イクスさんの防御機構が弱まるようで虚無からもたらされる苦痛がダイレクトにイクスさんに伝わるようなのです。
ミリーナ! !
コーキス――じゃあ、マスターが苦しがってたのはお前らがマスターを操って死者の欠片を死の砂嵐から抜き出してたせいなのか ! ?
カーリャコーキス ! 目が覚めてたんですか ! ?
コーキス答えろ、バルド ! !
バルドその通りです。
コーキスくそっ ! 何なんだよお前ら ! !
ユーリビフレストってのは下衆の集団か ?人の体を好き勝手にいじり回しやがって !
リオン下衆であることには同意だが、余計な口を挟むな。時間がないんだ。バルド、続けろ。
バルドはい。先ほどコーキスが感じていた痛みの様子からして帝国はリビングドールの大量生産計画を実行に移したのだと考えられます。
ミリーナだからイクスの激しい痛みがコーキスに伝わった……。
バルドセシリィが帝国へ戻ったことで計画の目処がついたのでしょう。これは予測していたことです。
バルド今帝国はイクスさんにアプローチしている。これは好機です。イクスさんはこの世界と虚無との間で存在が曖昧になっている。
バルドですが、ナーザ様の体とリンクすることで一時的にこの世界の方に存在が固着する。
バルドその瞬間なら、魔鏡結晶を物理的に破壊することでイクスさんを助け出すことができるでしょう。
バルド逆にこのまま放置すれば、イクスさんは痛みによって廃人と化すかも知れない。
ミリーナ物理的に破壊といっても、セールンドのあの魔鏡結晶はあまりにも大きすぎて、簡単には壊せないわ。
ミリーナあの魔鏡結晶はイクスの力の具現化であり命でもあるのよ。ただ壊して取り出すだけではイクスを助けることはできない……。
ミリーナそれにイクスがいなくなることでゲフィオンから漏れる死の砂嵐を止められなくなってしまう……。
バルド前にアイデアがあると言いましたよね。ビフレスト皇国に伝わる魔鏡術が役に立つ筈です。幸い、ファントムには魔鏡術の力がある。
バルドキール研究室で開発していた、イクスさんを魔鏡結晶から取り出すための装置と、私とセシリィが持つ技術があれば、問題の大部分はクリアになります。
ジェイドただ、それでも問題が一つ。アスガルド帝国がセールンドの魔鏡結晶の守りを固めています。まぁ、当然だとは思いますが。
ジェイドリビングドールを作り出すためには、イクスにアプローチしなければならないのですから、当然セールンドには相当数の帝国軍が駐留している筈です。
ジューダス……陽動作戦をとるのか ? それは危険だろう。
リオン――どうだ、ジェイド。こいつも僕と同じ意見だ。僕たちの情報は何らかの形で帝国に流れている。陽動作戦そのものが成り立たない。
ジェイドそれは同じ意見でしょうねぇ。あなた方はよく似ていますから。
ジェイド――まぁ、その話は置いておきましょうか。陽動作戦だと看破されたところで構わないんですよ。セールンドの戦力を少しでも減らせればね。
ジェイドこちらが帝都へ攻め入ると知ればあちらも戦力の一部を帝都に戻すことになる。
ユーリそのごたごたの隙に、セールンドへ潜入するってか。そう簡単にいくとも思えねぇが、それでもごり押しするってことは、何か勝算があるんだろ ?
リフィルあら、ユーリ。それは愚問でしょう。詳しいことを口に出すと――
ユーリ情報漏れ、か。ややこしいな。まぁ、そこら辺はあんたら頭脳労働組に任せておくさ。
ユーリで、陽動組か救出組か、どっちに加わるかは選ばせてくれるんだろうな。
ジェイド話が早くて結構。ですが、あなたなら救出組を選んでくれると思っています。そちらの方が危険ですから。
ミリーナ私も行きます !
コーキス俺も !
ジェイドミリーナには是非とも。コーキス。あなたは陽動部隊に回ってもらいます。
コーキス何でだよ ! ?
ジェイドまたイクスからの連絡が届く可能性があるからです。陽動部隊側に救出部隊の状況がわかる人間がいた方がいい。
コーキス………………。
ジェイド救出部隊はリオン、ミリーナ、ユーリ、バルドの四名。バックアップはしますが基本この四人でお願いします。後はリオンの指示に従って下さい。
リフィル他は陽動作戦の実行とバックアップに回ってもらうわ。カロル、あなたに仕切りを任せてもいいかしら ?
カロルそれでここに呼ばれたんだね。わかったよ。
リオン救出部隊はついてこい。計画を伝える。
リフィルコーキス、動けるようならカロルと一緒に陽動部隊の人選をしてくれるかしら。
カロルコーキス、行ける ?
コーキス……ああ。こんな時に俺だけ寝てるなんて嫌だしさ。
カロルそれじゃあ、ボクの部屋に行こう。
ミリーナジェイドさんたちは…… ?
ジェイド若い者に仕事を振りましたから後は高みの見物ですよ。
リフィルそういう言い方はやめなさい。それと、ジューダスとルカにはもう少し話があるの。ここに残って頂戴ね。
ユーリミリーナ、行くぞ。
ミリーナえ……。ええ……。
ジェイドそれじゃあ、皆さん、よろしくお願いします♪

Character4話【12-3 ひとけのない海岸2】
ルドガー……ケリュケイオンが消失したのはあの空域か。
エルねぇ、魔のクウイキってどんなところなの ?
ルドガー詳しいことはわからないんだよ。
ユリウス――ルドガー。あの大きな雲の端を見てみろ。
ルドガー……何だ ? 蜃気楼…… ?
エルホントだ。なんか白いものがゆらゆらしてる……。
? ? ?……か……。……け……て…… !
エルマキョーツーシン !
ルドガージュードの声……じゃないか ?
ルドガージュード ! ジュードか ! ? どこにいるんだ ! ?
? ? ?ル…… ! ? ……ケ……くう……――
エル切れちゃった……。
ユリウス……空の蜃気楼も消えた。
ルドガー何だったんだ…… ?
ユリウス……魔の空域に関して、いくつかの仮説がある。
ユリウス精霊界に通じるゲートだとか何らかの影響で計器が狂ってしまい、正しい方角がわからなくなってしまう空間だとか。
ユリウス過去と繋がるワープゾーンだという話もあるそうだ。この世界は具現化で造られた世界だから、空間のひずみのようなものが発生していても不思議ではないな。
ルドガー空間のひずみにケリュケイオンが飛び込んでしまった……のだとしたら、さっきの蜃気楼がケリュケイオンって可能性もあるのか。
ユリウスあの蜃気楼のようなものが現れた途端ケリュケイオンにいるはずのジュードと魔鏡通信が繋がった。
ユリウスアレがケリュケイオンと関わりがある可能性は高い。
エル助けられないの ?
ルドガーうかつに近づくのは危険だ。せめて魔鏡通信が繋がれば……。
ユリウス受信感度を上げてみよう。
エル………………。
エル……雑音しか聞こえないね。
? ? ?……来る……な……。みん……な……。
エルあ ! ? なんか聞こえてきた !
ユリウスイクス……の声か ?
ルドガーそうか……。出力を上げるとイクスの声が混線するのか……。
ユリウス……様子が変だな。
? ? ?情報……が……。お……れと……フ……。
ユリウス! !
ユリウスルドガー。アジトに連絡だ !ミリーナたちは根本的に間違っていた。情報漏れは誰かの裏切りじゃない。
ルドガー……まさか !
エル何 ? どういうこと ?
ルドガーコーキスとフィリップか !
ルカあの、僕とジューダスに用って……。
ジェイドすみません。ミリーナたちには聞かれたくなかったものですから。
ジューダスどういうことだ ?
ジェイド情報漏洩のことですよ。誰しも自分から情報が漏れてるとは思わないものですからね。
ルカえ ! ?ミリーナたちが敵に情報を伝えてるんですか ! ?
リフィル意図せずにね。
リフィルさっきミリーナたちが話していたでしょう ?ファントムとフィルは繋がっている。そしてイクスとナーザも繋がっている。
ルカでもイクスとコーキスが繋がったのは最近の話ですよね。それにファントムは確かずっと植物状態だったって……。
ジューダス……ジュニアか。
ジェイドその通りです。恐らく帝国への情報漏れはフィリップからファントムを経由してジュニアへ。ナーザへの情報漏れはコーキスからイクスを通じて。
ジェイド幸か不幸か、帝国とナーザは互いの情報を秘匿しているようなので、それぞれに伝わっている情報と伝わっていない情報があるのではと考えています。
ジューダス今はバルドがファントムの体を使っている。結局陽動作戦の件は敵に伝わっているということだろう。何故計画を実行させようとする ?
ジェイドせっかく情報が筒抜けなので裏の裏をかこうと思いまして。
ジューダス……だからコーキスは救出部隊に入れなかったんだな。
ジェイドええ。こちらの情報漏洩をコントロールしたい。あなたには陽動部隊についてもらいたいんです。それと、リオンの動きを読んでもらうためにも。
ジューダス――どういう意味だ ?
ジェイド実はリオンたちにもこの話はしていないんですよ。
ジェイド可能性は低いと思っていますが、例えば敵がミリーナを具現化したら……ミリーナからも情報が漏れるでしょう。私ならそうします。
ジューダスつまり、リオンはこの計画がずさんなものだと知っている状態で敵地に飛び込むのか。
ジェイドええ。そんな時リオンならどう動くか。あなたにはよくわかるのではないかと愚考しました。
ジューダス………………。
リフィルそして、ルカ。あなたは帝国に狙われている。だからアジトに残って救出部隊のバックアップをお願いしたいの。
ルカでも、リフィルさんやジェイドさんは――
リフィル陽動部隊の手が足りないから、出撃することになるわ。ここには負傷者を含めたごく少数しか残せない。何よりカーリャにも情報を知られたくないの。
リフィルここに残るメンバーの中で、状況を一番冷静に見られるのはあなただと思うわ。だから全てを話しておきたかったのよ。
リフィルあら……。私宛に魔鏡通信が……。
ルドガーリフィル。話しておきたいことがあるんだ。
リフィル

Character5話【12-5 セールンドへ続く森林1】
メルクリア――兄上様もセシリィも大丈夫であろうか。
メルクリア今までは1人ずつのリビングドール化だったが今度は一度に12人じゃ……。お体に負担などなければよいのじゃが……。
チーグルご安心を。ナーザ将軍は素晴らしい魔鏡術の持ち主。
チーグルそれより喜ぶべきことではありませんか ? あれほどリビングドールの大量製造に反対しておいでだったのに今回は受け入れて下さったのですから。
メルクリアそうじゃな……。
リヒターそれより、黒衣の鏡士の部隊が帝都に向かっているという話はどうする ?
リヒター進路を見る限り、この芙蓉離宮を目指していると思った方がいい。数はそう多くないが恐ろしく腕の立つ連中ばかりだ。
ローゲ失礼しますぞ、メルクリア殿下。
メルクリアローゲか。どうした、ジュニアの腕を引っ張って。痛そうにしておるではないか。放してやれ。
ローゲお優しいことで……。そら、ジュニア。報告しろ。
ジュニア……あ、あの。
フレン――ジュニア。その手に持っている鏡は魔鏡かい ?
ジュニア……ファントムの心核とリンクさせた魔鏡です。
フレン! ?
ローゲその魔鏡はジュニアにしか使えないがファントムを通じてビクエの考えを読むことができる。
ジュニア全てじゃないよ。あくまで断片だから……。
フレンなるほど……。きみはなかなか『情報通』のようだね。
ジュニア……す……すみま……せん……。
メルクリア何を謝ることがある。フィリップを通じて黒衣の鏡士の動向がわかるのなら、我らの役に立つ。誇るべきことじゃ。
ジュニア………………。
ローゲ報告はどうした、ジュニア。
ジュニア……ミリ……黒衣の鏡士の進軍は……陽動作戦、だそうです。本当の目的はセールンドのイクスを奪還すること……。
ローゲ――だ、そうだ。
メルクリア兄上様が危ないではないか !
フレン大丈夫です。第一連隊がセールンドを防衛しています。それにナーザ将軍は腕が立ちますから。
チーグルナーザ将軍に知らせよう。――伝令兵 !
ジュニア(ミリーナ……イクス……。ごめん……。僕は……僕は――)
ローゲジュニア。お前は見所があるぞ。これからも俺のために役に立て。いいな。
ジュニア…………はい。
ナーザ――なるほど。伝令ご苦労だった。ここへは転送魔法陣で来たのか ?
伝令兵その通りであります !
ナーザならば、メルクリアに伝えよ。こちらに考えがある。黒衣の鏡士たちを討つために俺の計画に協力するようにとな。
伝令兵はっ !
ナーザ詳しい作戦は、別途こちらから連絡する。まずは敵の陽動作戦に気付かぬふりをして敵を迎え撃つように伝えろ。
伝令兵了解であります !
セシリィあの……ナーザ将軍。リビングドールの新たな製造は一時停止しますか ?
ナーザ……そうだな。そうしよう。これ以上犠牲者を増やすこともない。
ナーザシドニー――いや、今はセシリィか。お前も同じ思いだろう。
セシリィは、はい……。
ナーザ……お前も、バルドと同じ事をしようとしているのか。
セシリィ! !
ナーザお前たちは……愚かだな。だが、潔い。俺は好ましいと思う。
セシリィナーザ将軍、考え直してもらえませんか。ミリーナたちと話せばきっと――
ナーザ――いや、皆まで言うな。俺が生きていて、国がまだ残っていたなら、そんな選択肢もあったかも知れない。だが、もう遅い。
ナーザそれに俺は死者だ。死者が現世に介入すること自体間違っている。間違っているものが、異議を唱えるなど笑えぬ話だ。
ナーザ俺は世界を破滅に導く黒衣の鏡士たちを憎んでいる。だから殺す。それでいい。
ナーザセシリィ。ここはいい。お前はお前のなすべきことをしろ。だが、俺はお前たちに手は貸さないぞ。
セシリィ……わかりました。ありがとうございます、ウォーデン殿下。今までもこれからも尊敬しています。
ナーザ――早く行け。
セシリィ失礼します。

Character6話【12-8 セールンドへ続く山岳2】
ジュード駄目だ……。さっき魔鏡通信でルドガーの声が聞こえたような気がしたんだけどすぐ途切れちゃって……。
フィリップでも、外と連絡がついたということはまだ希望があるということだよ。
ゼロス希望ねぇ……。どう見ても絶体絶命な感じだけど。見ろよ、ブリッジの外。空間がうねうねしてるっつーかヤバい匂いしかしねぇぞ。
シンク絶体絶命と思っている割には口調が軽いね、バカ神子。
ゼロスそういうシンくんも、随分落ち着いてるじゃねぇか。
シンク元々地獄みたいな世界だったんだ。地獄から地獄に移動したところで大したことはないでしょ。
マークあー、まいった。慌ててた連中もようやく落ち着いてきたぜ。――お、ジュード。ローエンの怪我はどうだった ?
ジュードうん、かなり血が出ていたけど、大丈夫。ルビアも他の負傷者も今のところみんな安定してるよ。
マークそいつはよかった。
フィリップすまない……。僕が気を抜いていたせいでチーグルにつけいる隙を与えてしまって……。まったく情けないよ。
マークまぁ、起きちまったことを悔やんでも仕方ねぇしなぁ。――ん ? クラトスはどうした ?
ジュードガロウズさんのところ。アイゼンと3人でこの妙な空間から脱出する手段がないか考えてみるって。
シンクアイゼンね。あいつのせいでしょケリュケイオンがこんなことになったの。
シンク死神の呪いだか何だか知らないけど他人まで巻き込むのはカンベンして欲しいね。
マークでもこれって呪いのせいじゃねぇだろ ?本人はちょっと気にしてたけど、あの呪いってアイゼンを成長させるための障害的なやつなんだろ ?
シンク逆だろ。奴の周りの連中を成長させるとか何とか上から目線のお節介な呪いだよ。
マークでもこの状況が続くと、魔の空域に閉じ込められたままになっちまうからなぁ。障害なんてレベルじゃねぇし。
マークやらかしたのはフィルだしな。
フィリップ……そうだね。僕のせいだよ。
ジュードはは……。な、なんか、みんな落ち着いてるね。
ゼロスまぁ、慌てたってどうにもなんねぇしなぁ……。
シンクここは死にたがりの集まりだからね。別にどうなってもいいんだろ。
ゼロスお前と一緒にするなっつーの。
マーク……いや、あながち間違いじゃないかもな。死にたがりっつーか自分の命を大事にしてない奴が多いだろ。
フィリップど、どうして僕を見るんだ、マーク。
マーク……別に。それより、フィル。この場所は何なんだ ?ガロウズは魔の空域だって言ってたけど。
フィリップ魔の空域のことは本当によくわかっていないんだよ。世界の具現化によるひずみじゃないかと仮定したことはあるんだけれど……。
クラトス――なるほど。ならば調査が必要かも知れぬな。
ゼロス調査って……。おい、クラトス、まさか外に出るつもりか ! ?
クラトス天使体なら、多少の状況は耐えられるだろう。天使としての力の使い方は、神子より私の方が上だ。
ジュード何言ってるんですか ! ?クラトスさんは本調子じゃないんですよ ! ?
マークじゃあ、俺が行こうか ? 俺は鏡精だから最悪致命的ダメージ食らってもフィルが何とかしてくれるだろ。
アイゼン待て。これが死神の呪いなら俺が外を調べに出れば何か様子の変化が起きるだろう。その時は――
ジュード――ねぇ、みんなもう少し命を大切にしようよ。
ジュードそれに、これどう考えても死神の呪いがどうとかじゃなくて、リチャードさんの中に入ってるチーグルって人のせいだよね ?
ガロウズまぁまぁ、ジュード。こいつらの軽口に本気で付き合ってると神経すり減っちまうぞ。
ガロウズそれより、こっちも話があってブリッジまで来たんだ。
フィリップ何か、ここを抜け出す手がかりが見つかったのか ?
ガロウズ船窓から一瞬見えたんですが、どうも魔の空域に島みたいな物が浮いてるみたいなんです。
フィリップ島…… ? 計器が死んでるからこちらでは把握できていないが……。
ガロウズちょっと降りてみませんか ? このまま飛び続けていると、燃料が切れる可能性もあります。ケリュケイオンの自動操縦も挙動が怪しいし……。
ガロウズだから、俺がエンジンの調整をして、クラトスに目視で距離を測ってもらって、アイゼンがケリュケイオンを着陸させるって形でチャレンジしてみてもいいですか ?
フィリップそうだね。危険かも知れないけれど何もしないよりいい。お願いするよ。
アイゼンよし、始めるぞ ! どうなるかわからねえからな。みんな、体を船にくくりつけとけよ !
シンクはぁ……サイアクだよ……。
ジュード待って、他の人にも知らせてくる !
ゼロスしゃあねぇな。マーク、俺らも手分けして胴体着陸のこと知らせに行くぞ。
マーク了解だ。胴体着陸で怪我でもされたら大変だからな。
アイゼンお前ら、何胴体着陸だって決めつけてんだ !ぶん殴るぞ !
クラトス胴体着陸を安全に行えるというのは操縦士の技術の高さの証明でもある。褒められたと思っておくといい。
アイゼン……あんた、意外と天然だな。

Character7話【12-9 セールンドへ続く街道】
アイゼン……無事に着陸できたな。
ゼロスやっぱり胴体着陸だったじゃねーか ! ?
アイゼン死人が出なかったんだ。文句ないだろう。
ゼロスああ……もう、俺さまつらい……。こんなデリカシーのない連中と、訳のわからない空間に閉じ込められて。女の子……女の子に会いたい……。
フィリップ申し訳ないです、ゼロスさん。僕が至らないばかりに……。
ゼロスあ、いや、マジなトーンで返されると余計に辛いんだけど……。
シンクバカ神子のことはどうでもいいけどこの島は一体何なのさ。得体の知れない空間に浮く島なんて胡散臭い。
ジュード…… ?島の中央に、何かあるような……。双眼鏡とかありますか ?
マーククラトス。あんたなら遠くのものでもよく見えるんだろ ?
クラトス――石だな。石碑……いや、墓か ?【アイフリードここに眠る。揺り籠を守るために……】と書いてある。
アイゼンアイフリードだと ! ?……いや、この世界にもアイフリードという名の海賊がいるんだったな。そいつの墓なのか ?
? ? ?『――フィル ! 』
フィリップ! ?
マークどうした、フィル。ぎょっとした顔で。
フィリップい、いや……。今誰かに……。
? ? ?『僕、三人目のフィリップだよ』
フィリップフィル ! ?
アイゼンフィルは自分だろうが……。
クラトス―― ! !
ジュニア『よかった……。やっと声が届いた。ごめんなさい。ファントムを通じて勝手にあなたの心を繋いでたんだ……』
フィリップ……そうか。僕だったのか。帝国に情報を漏らしていたのは。
ジュニア『ごめんなさい。でも、おかげで今度はあなたを助けられる』
ジュニア『魔の空域はビフレストの伝承に伝わる【この世の果て】に相当するらしいんだ。この世の果てを守っているのはアイフリードで――』
フィリップ(――そうか。今、きみの心を読んだ。脱出する方法がわかったよ)
ジュニア『 ! ? 』
フィリップ(驚いているのかい ? そちらが心を繋いだんだよ。そちらにできることが僕にできないとでも ? )
フィリップ(きみと僕は同じ潜在能力を持っているが使える力は僕の方が上だ)
ジュニア(体が……勝手に…… ! ? )
フィリップ『その魔鏡……きみの手で壊してもらう。例え自分でも、ミリーナを裏切るなら僕の敵だ』
ジュニア! !
ジュニア(僕だって、本当は――)
フィリップ『さようなら、フィリップ』
ジュニア待って ! あの場所へ行って !わかるでしょう ! ?
ジュニア――あ ! ?
ジュニア(僕を操って……魔鏡を壊した……)
マークおい、フィル ! どうした ? 顔が真っ青だぞ。またいつもの発作か ? 薬飲むか ! ?
ジュードえ ? フィリップさん、どこか悪いんですか ?
フィリップ……いや、大丈夫。
フィリップそれよりここから脱出する方法がわかった。アイフリードの墓が目印だ。あの場所に向けてケリュケイオンを飛ばしてみてくれ。
シンク根拠は ?ちゃんと話しておいてくれないと困るんだけど。
クラトスジュニアに心を読まれていたか。
マーク! !
フィリップ……ええ。その通りです。でももう大丈夫。逆にこちらからジュニアの心を読んで彼を一時的に乗っ取りました。
フィリップ僕の心とリンクさせていた魔鏡は壊しておきましたし、同じような魔鏡を作られる前に、防衛手段を講じます。
フィリップそれに、ジュニアがこの場所からの脱出方法を知っていました。
アイゼンそれがアイフリードの墓に突っ込むってことなのか ?
フィリップええ。あの場所が魔の空域とティル・ナ・ノーグを結ぶゲートなんです。
ゼロスよし、こんな辛気くさい場所とはおさらばしようぜ。
ガロウズわかった。エンジン動かすぞ !
マーク……フィル。大丈夫か ?
フィリップ自分に裏切られるのは二回目だからね。さすがに堪えたよ。でも、いいんだ。そういう弱さも僕らしい。
マーク馬鹿野郎。お前は弱くなんかねぇよ。
アイゼンお前ら、位置につけ !
アイゼンさっき無理をさせた船だからな。ガタが来てるかも知れねえ。しっかり掴まってないと怪我するぞ !
ガロウズエンジン再始動完了だ !
アイゼン行くぞっ ! !

Character8話【12-10 カレイドスコープの間】
ミリーナ………………。
ユーリそんな風に硬くなってちゃ上手くいくものも行かなくなるぜ、ミリーナ。
ミリーナ……そう、ですね。気合いが入りすぎるのも空回っちゃいますね。
バルド――そろそろ時間ですね。行きましょう。
リオンその前に、一つだけ取り決めておきたいことがある。僕たちの計画が敵に漏れていて窮地に陥った場合の優先順位だ。
ユーリそんなもの今決めるのかよ。
リオンここでは僕がリーダーだ。僕の指示に従ってもらう。まず第一に優先するのはイクスの救出だ。これが計画の目的である以上、異論はないな。
バルドもちろんです。彼を残していてはリビングドールを次々と生み出されてしまいます。
リオンミリーナはアジトの維持を考えるとどうしても生かして帰す必要がある。だからイクスの次に命を保証するのはミリーナだ。
リオンそれから戦闘狂。
ユーリなんだよその呼び方は。
リオン返事をしておいて文句を言うな。
リオンお前はミリーナとイクスを必ずアジトへ連れ帰れ。お前の腕は信用できる。頭もそれなりにマシなようだしな。
ユーリそりゃどうも。素直じゃないね、この坊やは。で、お前とバルドはどうするんだよ。
リオンバルドと僕は、生きて帰れなかったとしても問題はない。
ミリーナそんな…… !
シャルティエ坊ちゃん……。
リオン勘違いするな。もとより死ぬつもりはない。僕に勝てるような敵がいるとも思えないしな。
リオンだが何が起こるかわからないのも事実だ。最悪のことを考えておくのは当然だろう。
ミリーナ………………。
バルド――では、そろそろ行きましょうか。
ミリーナ……はい。コーキスたちに突入を知らせますね。
コーキス(マスター……。ミリーナ様……。どうか無事で……)
スタンそんな顔するなって、コーキス。
コーキススタン様……。
スタン大丈夫。上手くいくって。ここだけじゃなくて海岸線はカロルたちの部隊が準備してるし街の方はアスベルたちが待機してる。
エドナそうね。珍しく大佐のボーヤも前線に出てきているから危険な状況ではあるみたいだけれど。
スタンエドナ~。せっかくコーキスを元気づけてるのにそれはないだろ~。
エドナあら、現実を知っておいた方がいいんじゃないかしら。この陽動作戦自体、敵にバレているのかも知れないのよね。
エドナまぁ、それを承知でしかけるってことは……何か策があるんでしょうけれど。
コーキスエドナ様……。あの、エドナ様はここに来てよかったのか ?アイゼン様がケリュケイオンにいるのに……。
エドナ……別に大したことじゃないわ。ドラゴンになっているよりよっぽどね。
コーキスえ ?
エドナスタンだって、向こうには仲間がいるのよ。ロイドもカイウスもミラも。あっちはあっちで何とかしてもらわないと。
スタンケリュケイオンのみんなを信じてるってことだよな。
コーキスそうか……。やっぱ鏡映点ってすげーなぁ……。うん。俺も腹を決めた。
コーキスマスターのこともミリーナ様のことも信じてる。だからきっと大丈夫だし、俺たちがここでしくじったら救出部隊に迷惑がかかるってことだもんな。
コーキスよし、気合い入ったぜ !
エドナ単純ね、眼帯ボーヤ。
コーキス眼帯ボーヤ ! ?
エドナあら、魔鏡通信だわ。
ミリーナこちら救出部隊です。準備完了です !
スタンあっちも準備が整ったみたいだな。
コーキスよし、俺たちも始めよう !みんなに合図だ。芙蓉離宮に攻め込むぞ !
ユーリ……見張りの兵たちがばたつき始めたな。
リオン陽動部隊が動き出したんだろう。行くぞ。
ミリーナ……上手く忍び込めたみたい。
バルド――いや、待って下さい。
リオンなんだこの音は ?
バルド魔術障壁の起動音です。恐らくこの建物の周囲を魔術による壁で囲んだのでしょう。
ユーリ袋のネズミって訳かよ。壁を壊す方法はないのか ?
バルド魔鏡術の一種ですからどこかにこれを仕掛けた魔鏡装置がある筈です。
リオンなら、それは僕が見つけて壊す。ミリーナたちはイクスを助けろ。
ミリーナ――はい。
リオンこういう場合のお前は、話が早くて助かるな。
バルド陽動部隊やバックアップ部隊に状況を知らせなくていいんですか ?
リオン余計なことをするな。知らせたところで何もできないんだ。それより早く行け。僕も装置を探す。
ユーリ……リオンは行ったな ?
ミリーナえ ? ええ……。もう姿は見えないわ。
ユーリよし。ミリーナとバルドは先に行ってセシリィと合流してくれ。俺はちょっと野暮用を済ませてから追いかける。
バルドまさか、こちらの状況を連絡するんですか ?リオンさんは連絡しないようにと言っていましたが。
ユーリ陽動部隊に直接知らせるのは俺も反対だ。だが、バックアップの連中には話をしておかないといざというときの連携が取れないだろ。
ミリーナ……わかったわ。お願いします、ユーリさん。
ミリーナバルドさん、行きましょう。掘削装置のセットに時間がかかることを考えると、急いだ方がいいわ。
バルドわかりました。

Character9話【12-11 芙蓉離宮】
帝国軍兵士A急げ ! 海岸線と帝都西門にそれぞれ敵の隊が攻め込んできている !迎撃しろ !
帝国軍兵士B――お、おい、お前の後ろに転送魔法陣が ! ?
帝国軍兵士Aな、何――
コーキス――隙あり !
帝国軍兵士Aうわぁぁぁぁぁっ ! ?
スタン――悪いな。こっちもだ !
帝国軍兵士Bぐふ……っ !
エドナ便利ね。この転送魔法陣って。
コーキスバルドに設置の仕方を教わって助かったな。いつでもどこへでもって訳じゃないのは残念だけど出口さえ設定できればすぐワープできるなんてさ。
スタン他の隊もどんどん来るぞ。これなら撹乱には十分だな。
カロル敵の圧力が弱まったような……。
スレイうん、今なら芙蓉離宮の裏門へたどり着ける。
ミクリオこのまま押し切ろう !たどり着くのが遅れると、コーキスたちが危険だ。
スレイミクリオ、一緒に行こう !
ミクリオああ !
二人ルズローシヴ=レレイ !
カロル何度見ても神依って不思議だよね。
レイヴン元の世界じゃ女の子とも合体できるんでしょ。ああ~うらやましい~ !
アスベル芙蓉離宮にコーキスたちが攻め込んだみたいだな。
ヒューバートではこちらも前進しましょう。少しでも敵の数をこちらに引きつけないとコーキスたちが撤退できなくなりますよ。
アスベルよし、少し派手に動くぞ !
ラムダ『アスガルド帝国と……戦っているのか…… ?』
アスベルラムダ ! ?
ソフィラムダが目を覚ましたの…… ! ?
アスベル(ああ。彼らがやっている非道なことを許してはいけないから)
ラムダ『……それなら――我の力を使うといい。今までも勝手に使っていたようだがな』
アスベル――ご、ごめん。でもありがとう、ラムダ !
ルカ――え ! ? ルドガーさん、それは本当ですか ! ?
ルドガーああ、本当だ。ケリュケイオンが魔の空域から脱出した。通信器機がやられているらしくて俺が代わりに連絡したんだ。
ルカジェイドさんって……予知能力でもあるんですか…… ?
ルドガーえ ? どういうことだ ?
イリアあのイヤミ眼鏡、もうすぐケリュケイオンが見つかるから、空を飛べるメンバーをケリュケイオンに集めろって言ってきたのよ。
ユリウス……困った男だが、味方でいる内は頼もしいな。
スパーダああ、くそっ ! オレもこんなところでくすぶってないで戦いたいぜ。守られるなんてのは性に合わねェからな。
ユリウス気持ちはわかるが、俺たちが不測の事態で帝国に囚われたら、余計に場を混乱させる。今は我慢してくれ。
スパーダわかってる ! だから余計イライラすんだろ !
エルねぇ、空を飛べる人ってアーチェとコレット ?
ルカうん。アーチェにチェスター、コレットにロイドを組ませて、そっちに向かってもらったから。三人はこっちに戻ってきて。
ルドガーああ。アーチェたちが救世軍と合流したらすぐ戻るよ。
カイルよし、上手くいってるな !
ジューダス気を抜くな。まだ作戦は始まったばかりなんだぞ。
ラタトスクはっ ! こんな歯ごたえのない連中が相手じゃ退屈であくびが出るぜ。
マルタもう……。そんなこと言ってもっと強い敵が出てきちゃったらどうするの。
コーキスカイル様たちにエミル様たち !
ラタトスク俺はエミルじゃねぇ !
コーキスあ、ラタトスク様の方か。ややこしいなぁ。
ラタトスク何だと ! ?
エドナ――待ちなさい。何か聞こえるわ。
リアラ見て。離宮の上 !
スタンホークの集団に……ドラゴンパピーか !
ラタトスクフン。あんな奴ら、単なる雑魚だろ。
ジューダスいや……待て ! あの人影は――
カイルバルバトス ! ?
ラタトスクそれにリヒターかよ、面白い。
リアラ……待って。あの二人、何かが変だわ。
マルタそういえば……。リヒターがラタトスクを見て顔色一つ変えないなんて……。
ラタトスク構うもんかよ。さっさと叩きつぶすぞ。
ジューダスまったく……血の気の多い連中だ。スタン、コーキス、エドナ。そっちはドラゴンパピーを頼む。
ジューダス僕とカイルとリアラはバルバトスをマルタとラタトスクはリヒターを迎え撃つ。それでいいな。
コーキスよし ! 行くぞ、みんな !

Character10話【12-14 芙蓉離宮】
コーキスこれで !
二人終わりだ ! !
カイルな、何 ! ?
ラタトスクあいつら、幻だったのか……。くそっ !
メルクリア――ぬぅっ。これまでか。
ローゲくだらんな。影など送り込まなくても俺が乗り込んでいけば、鏡精やら鏡映点など軽くねじ伏せてやったものを。
メルクリアまあ、そう言うな。チーグルがわらわのことを案じてバルドだけでなく、そなたとリヒターを側に残すように懇願したのじゃ。
メルクリアそなた、チーグルとは親しいのであろう ?友の言うことは聞き入れてやらねば。
メルクリアそれにわらわの影捌きは中々上手であろう ?ローゲもリヒターも元の力が優れている故幻を生み出して操るのも楽しかった。
リヒター――頃合いだな。伝令 ! 増援を出せ !奴らもそろそろ疲れてくる頃だ。
伝令兵了解 !
メルクリア兄上様の方は大丈夫か ? 黒衣の鏡士を閉じ込めてなぶり殺しにする策じゃぞ。なのに、こちらからの増援を拒まれるなど、兄上様はどうかしておられる。
メルクリアやはりバルドを送り出してやった方がいいのではないか。
フレンお許し頂けるのなら、すぐにでも向かいますが。
リヒター……俺は賛成できんな。
ローゲ俺もだ。バルドなどどこにいても役には立たぬ。
メルクリアしかしセシリィもあちらにいったままじゃ。巻き込まれて怪我でもしたら可哀想ではないか。バルドだけを行かせるのが不安なら、わらわも共に――
伝令兵失礼します ! チーグル様から黒衣の鏡士の増援が現れたとの知らせにございます !
フレン! !
リヒター奴らの戦力は限界まで引き出している筈だぞ ! ?
伝令兵それが……救世軍が東の空から現れたとのことで……。
リヒターチーグルが魔の空域に追いやったんじゃなかったのか ! ?
ローゲフン。しぶといゴキブリ共だ。砲台を東に向けろ ! 打ち落とせ !
伝令兵了解 !
メルクリア――バルコニーに出る。
フレンそれは危険です。
メルクリア一騎当千の騎士が三人もわらわの側にいるのじゃ。それよりここに攻め入った間抜け共の顔を見ておきたい。行くぞ。
ジューダスくっ ! また増援か !
リアラフレンさんが増援を止めてくれる筈なんじゃ……。
ジューダス……敵の中枢に近すぎるからな。逆に思ったようには動けないんだろう。
ジューダスコーキス、スタン、エドナ。一緒に来い !フレンを捜す。カイルたちは他の隊と合流して持ちこたえてくれ !
カイルわかった !
ラタトスクしくじるなよ !
ジューダス見くびるな。僕を誰だと思ってる。行くぞ !
コーキス……なんか変だな。戦ってても手応えがない。
エドナやはりこちらの作戦が漏れているのかしら。時間を稼がれている感じね。
スタンでも、異変があったら連絡が来る手筈だろ。向こうにはリオンもいるしむざむざやられる訳がない。
ジューダス……どうかな。
スタンジューダス……。お前がそんなことを言うなんて……。
コーキスとにかく早くフレン様を見つけないと。……くそ ! これ以上建物には近づけないか。こうなったら魔眼で――
ジューダスバカか、お前は ! 切り札は最後までとっておけ。
エドナ――三人とも。あそこのバルコニーを見て。
メルクリアどうした、黒衣の鏡士の手先よ。わらわはここじゃ。殺せるものなら殺してみよ !
フレン……メルクリア様。東の空を。
メルクリアケリュケイオン…… !
リヒター救世軍を足止めしきれなかったか。
エドナ……見て。フレンがこっちに合図しているわよ。
ジューダス――どうやらこちらの悪い予測が当たっていたな。
コーキスそれじゃあ、ミリーナ様たちが危険なんじゃ…… ! ?
ジューダスそうだろうな。僕たちをここで潰すよりミリーナを始末した方が後々楽になるからな。
スタンだったらどうしてリオンたちは連絡してこないんだ。
ジューダスこちらの戦力を本隊の救出に割かせないため敢えて何も知らせてこないんだろう。僕ならそうする。あいつもきっとそうすると思う。
スタン……なら、俺の方からリオンを助けに行く。
コーキス俺もだ。ミリーナ様を守るってマスターと約束したんだから。
ジューダスそれは駄目だ。お前たちが抜けると、ここの戦線を維持できない。リオンが危惧した通りになる。
エドナ――結局、大佐のボーヤの掌の上って訳ね。
コーキスえ ? それは一体どういう――
アイゼンフン。くだらねぇな。死神がお前らに味方してるんだ。計画なんざ、崩壊して当たり前だろう。
エドナ――お帰りなさい、お兄ちゃん。
アイゼン待たせたな。
コーキスえ ! ? アイゼン様 ! ?でも救世軍は動けない筈じゃ……。
アイゼン計画計画って、そんなものがそんなに大事か ?守りたいものも守れなくて、何のために生きてるんだ。
スタン見ろ ! ケリュケイオンだ ! !
アイゼン行くぜ ! 野郎共 ! 救世軍の殴り込みだ !
メルクリアこちらが出し抜いているはずなのに何故こうも計算違いが起き続けるのじゃ ! ?
リヒター……こちらにも内通者がいるのだろう。
フレン………………。
メルクリア兄上様が心配じゃ。わらわはセールンドへ向かう。
フレンメルクリア様、向こうは危険です !
メルクリアだからこそじゃ ! バルド、ローゲ、リヒター。そなたらもついてまいれ。この場はチーグルに任せておけばよい。
リヒター――メルクリアの足止めには失敗したようだな。この先は……もうお前の裏切りを見逃してはやれないぞ。
フレン……君は相変わらずだね。でも、ありがとう。
フレン(――コーキスたちは……)
エドナ――フレンだわ。
コーキス合図してる…… ?
スタンフレンが魔法陣に入って……消えた !
ジューダス転送魔法陣だ。――そうか、あれはセールンドに通じているんだ。
エドナ行きなさい。ここの戦力はもう十分よ。救世軍が来てから、形勢は逆転したわ。
コーキスよし、スタン様、行こう !
スタンああ ! リオンたちを助けるんだ !
ジューダス――僕が転送魔法陣までの最短ルートを切り開く。そこから先はお前たちに任せるぞ。

Character11話【12-15 カレイドスコープの間】
セシリィ――ミリーナさん、バルドさん。こっち !
ミリーナセシリィ。ありがとう。色々協力してくれて。ガロウズのことも心配だと思うのに……。
セシリィ……だからこそ、ミリーナさんの気持ちがわかるから。
バルドそれじゃあ、ここから先の手順を確認しておこう。
バルドこの先は、敵に発見されても逃げる訳には行かない。作業はセシリィに任せる。僕とミリーナさん、それと後から合流してくるユーリさんとで敵を蹴散らすしかない。
ミリーナこれが、ビフレスト式の魔鏡術を組み込んだ掘削装置よ。
セシリィ掌サイズまで小さくしてくれたんだ。さすがキールさんたち。
ミリーナこの装置が魔鏡結晶を分解しながらその中に凝縮されているイクスのアニマを吸収してくれる。
ミリーナイクスが体を保てる最低限のアニマを補充したら――
セシリィ装置を取り外して、イクスさんを確保。この装置をイクスさんの体に取り付ける。
バルドその後は、僕とセシリィで、イクスさんが抜けた後の人体万華鏡の穴を外部から修復します。
バルド少し時間がかかりますからミリーナさんたちは先に脱出して下さい。
セシリィでも、この建物の周りには魔術障壁が――
バルドそこはリオンさんが対処してくれている。彼を信じよう。
ミリーナでも二人は本当に逃げられるの ?
セシリィ……転送魔法陣を用意してあります。
セシリィ本当はミリーナさんたちをそれで脱出させてあげられればいいんですけどイクスさんの体に負担がかかるから。
ミリーナわかったわ。それじゃあ、一気に魔鏡結晶の側へ行きましょう。
フレン(――……間に合ってくれ)
? ? ?はぁぁぁぁぁぁっ !
フレン! ?
フレンユーリ ! ?どうしていきなり斬りかかってくるんだ ! ?
ユーリわからねぇのか ? 自分の顔を鏡で見てみたらどうだ。
フレン……ああ、そうだな。確かに僕は自分のふがいなさに自分で呆れているよ。
フレンせっかくバルドと入れ替わったのにその好機を生かせなかった。
ユーリ自分のことをそんなに器用なタイプだと思ってたのか。
フレンできると思った訳じゃない。でも――そうだな。柄にもないことをしたのかも知れないね。
ユーリまだ目が覚めないみたいだな。へこむのは全部終わってからにしな。
ユーリそれとももう一度『こいつ』で喝を入れてやろうか。一勝負すれば、そのしけたツラも変わるだろ。
フレンそうか……そうだったな。君はいつもそうだ。
フレン………………。
フレン……いや、それこそ全部終わってからだ。イクスを助け出さないと今までやってきたことが無駄になる。
フレンそういえば、君はどうして一人でここにいるんだ。
ユーリここでナーザを片付けても問題は片付かねぇだろ。
ユーリ本当なら陽動部隊の方に入って、デミトリアスに接触するチャンスを狙いたかったんだがジェイドの奴がオレの動きを察したみたいでな。
ユーリこっちに回されちまった。
フレンまさかミリーナたちを置いて帝都へ潜入するつもりだったのか ?
ユーリそこまで無責任だと思ってるのかよ。ナーザを片付けたら、すぐ帝都へ行けるように準備しておこうと思ったんだよ。
ユーリ……にしても、この様子じゃ帝都への転送魔法陣は無いみたいだな。
フレンああ。入り口はあっても出口はない。
ユーリ……ちっ。それじゃあ仕方ねぇな。ミリーナたちを追いかけるか。
フレンああ。急いだ方がいい。ここにはメルクリアたちと来たんだ。リヒターとローゲも一緒にね。
ユーリ
フレン彼らがナーザと合流すると分が悪い。その前にイクスを助け出さないと。
ユーリ――よし、行くぞ !
バルドセシリィ、装置を !
セシリィはい !
ミリーナイクス……。待ってて。今助けるわ。
ナーザ――そうはいかない。
ミリーナナーザ !……いえ、ウォーデン・ロート・ニーベルング。
ナーザでは、俺はお前のことをゲフィオンと呼べばいいか。ミリーナ・ヴァイス。
ナーザ本当にこんな少数で飛び込んでくるとはな。その度胸には感心する。
ミリーナゲフィオンは私の未来であり過去の残像よ。彼女と私は違う。違う道を進む。
ナーザ違わないさ。お前はイクスの為なら世界すら滅ぼせる女だ。
ミリーナではあなたは何なの ?滅びたビフレストの復讐のために私を殺すの ?
ナーザそうだ。そして――この世界の未来を守るために貴様を……いや、セールンドの鏡士を根絶やしにする !
ミリーナ何故……。魔鏡戦争の発端も、あなたたちが私たちセールンドの鏡士を皆殺しにしようとしたことだったのに !
ナーザ違うな。セールンドが再三の忠告を無視して鏡精を生み出し続けていたからだ。
ナーザセールンド王もオーデンセの長も鏡精が禁忌の魔鏡術と知りながら使い続けた。鏡精はキラル分子を大量に生み出せるからな。
ミリーナキラル分子を…… ?そんなの初めて聞いたけれど……。
ナーザ……そうか。お前の側にカーリャがいないことを不審に思っていたが、【切り離した】か。記憶と共に。
ミリーナな、何 ? カーリャなら今も一緒にいるわ。
ナーザ二人目にはわからぬことか。だが構わん。お前は――いや、ゲフィオンは二度目の世界を滅ぼした。ダーナとヨウ・ビクエが案じた未来を招き寄せた。
ミリーナ二度目……の世界 ?
ファントムウォーデン様 !今の彼女にそれを伝えるのはあまりに――
ナーザ甘いな、バルド。お前は昔から女に甘い。それにこの女の肝は中々どうして図太いぞ。
ナーザだが、こうして話している間にもセシリィがイクスを助け出してしまうな。
ナーザイクスこそ、最終的な世界の破滅をもたらす鏡士。ここで永遠に眠っていてもらわねばならない。
ナーザバルド、手を出すなよ。どのみち、死にかけた男の体では、ろくに戦えまい。ミリーナはここで排除する。
ユーリ――おっと、美味しいところで追いついたみたいだな。
フレンバルド。君はセシリィをサポートしてくれ。ここは僕とユーリで十分だ。
ミリーナフレンさん ! ?
ナーザ……フレンか。バルドをそそのかすとは大した奴だ。
ユーリだろ ? オレも話を聞いたときは呆れて笑いしか出なかったぜ。
フレンナーザ将軍。例えセールンドに非があったにせよ最初にオーデンセを攻めたのはあなた方ビフレストだ。道理をねじ曲げるのはおかしい。
ユーリつーか、こっちはお前らの事情なんか知ったことじゃねぇ。
ユーリろくな説明もなしで、やってることと言えば人の体を奪うだの滅んだ国を甦らせるだの手前勝手にもほどがあるだろうがよ !
ミリーナ――私は私の勝手を通させてもらうわ。イクスを助け出す。その邪魔をするならこちらこそ、あなたを排除するだけよ !

Character12話【12-15 カレイドスコープの間】
ナーザう……ぐぅ……っ
ナーザ……まだだ。まだ戦える――
メルクリア兄上様―― ! ?
メルクリア兄上様 ! ? これは一体…… ! ?
ナーザ来るな、メルクリア !
メルクリアですが――
ナーザローゲ ! !
バルバトス……ちっ。嫌な役を命じる。
メルクリアは、放せ、ローゲ ! !
バルバトス無駄だ。皇女よ、ウォーデン殿下のアニムス粒子が乖離し始めている。
メルクリア! ?
ナーザイクスが……目覚めた、か。死の砂嵐へのゲートが開いた……。
リヒターイクスが目覚め、死の砂嵐が漏れ始めた。今のナーザでは……キメラ結合していたアニムス粒子が分離するのを抑えられない……。
メルクリア兄上様が……消えるのか ! ?
ミリーナな、何…… ?バルドさんとセシリィも光り出した…… ! ?
ユーリおい、魔鏡結晶にヒビが入ったぞ。このままじゃ魔鏡結晶の欠片がこの辺りに降ってくる !
リヒターローゲ、後退しろ !
ローゲわかっている !
フレンミリーナ ! 君もそこを離れろ !
ユーリバルド ! セシリィ ! お前らもだ !
バルド――いえ。私たちはこのまま人体万華鏡の損傷を修復します。
セシリィ私たちは大丈夫。この体は、傷つけたりしませんから。
ミリーナ二人が消えた…… ! ?
バルドさぁ、イクスを――
ミリーナ――今行くわ、イクス ! !
ユーリおい ! 無茶するな ! 当たり所が悪けりゃ――
ミリーナイクスっ !
イクス……ミリーナ……。ごめ……ん……。
ユーリ無茶しやがって。
ユーリイクスはオレが運ぶ。――フレン !
フレンわかってる。ミリーナ、脱出しよう !
メルクリア……兄上……様…… ?
メルクリア……放せ……放せ、ローゲッ ! !
メルクリア兄上様……大丈夫ですか、兄上様…… ?
ナーザ……メルクリア……。すまない……。
メルクリア……嫌じゃ。それは母上が亡くなられたときと同じ言葉じゃ……。
ナーザ……母上が……お前に呪いを……かけた……。だが、それは……本心では、ない……。母上もお前の幸せを祈っていた筈だ……。
ナーザビフレストは滅んだ……。それでいい……。死したものを甦らせるなど……やめろ……。
メルクリア嫌じゃ、兄上様 ! わらわを置いていかないで !母上はわらわを連れていこうとして失敗したのじゃ !兄上様、今度はわらわも連れていって !
ナーザ駄目だ……。生きろ……。俺が行くのは……虚無……。永遠の絶望と苦しみが巣くう死の砂嵐の中だ。お前は……生き……ろ……。
メルクリア兄上様 ! ?……嫌じゃ……嫌じゃっ !わらわはもう独りになりとうない ! ! 兄上様ぁっ ! !
リヒター……メルクリア。
メルクリア………………。
ローゲ泣いて、その場に座り込んでいるだけか、皇女よ。
メルクリア……………………。
メルクリア…………………………許さぬ。
メルクリアわらわから兄上様を奪った鏡士もバルドのふりをしていたあの男も……。
メルクリア許さぬ……許さぬぞ…… !

Character12話【12-15 カレイドスコープの間】
ユーリバルドとセシリィはどうなったんだ ?姿が消えちまったがあれは転送魔法陣か何かのせいなのか ?
フレンわからない。バルドからは体を傷つけるような真似だけはしないとしか聞いていないんだ。
ミリーナセシリィも言っていたわ。体を傷つけたりはしないって……。
ユーリ……あいつら、まさか。
フレン………………。
ミリーナコーキスにスタンさん ! ? どうしてここに ! ?
ミリーナ――待って。コーキス、あなたまた魔眼を使ったのね ! ?
コーキスあ……えっと……すみません。それより……マスターは ! ?
ユーリ後ろでぐっすり眠ってるのが見えねぇか ?
コーキスそれじゃあ…… !
リオンそんな話は後にしろ。早くここを出るんだ。
フレン――ヴィクトル。魔術障壁は ?
ヴィクトル三人が無効化した。今なら脱出できる。
ユーリフレン、こいつは誰だ ?
フレンヴィクトルだ。イクスの救出計画をサポートしてくれた。バルドが雇った鏡映点だよ。
コーキス……誰か来るぞ !
ミリーナメルクリアだわ……。
メルクリア……よくも兄上様を殺したな ! 黒衣の鏡士 !
メルクリアそれにフレン ! わらわを裏切るとは万死に値するぞ !
フレン……メルクリア。君は間違っている。
メルクリアわらわに意見するな、裏切り者 !今ここで、お前たちを八つ裂きにしてくれるわ ! !
リヒター……悪いが、命はもらい受けるぞ。
ローゲこの俺さまの手にかかって死ねることを光栄に思え !
ヴィクトル――ここは引き受ける。行け !
スタン俺も残る !
ヴィクトルむしろ足手まといだ。一人でやらせてもらう。早く行け !
メルクリア仲間割れか ? ならば全員始末してやろうぞ !
メルクリア――ビッグバン ! !
ヴィクトル……くっ !
ローゲ中々やるじゃないか。だが――これで終わりだ !
スタンさせるか !
リオン――フン。力任せの無駄な攻撃だ。
ローゲ貴様らぁっ !
リオン――最初に取り決めたことを忘れるなよ、ミリーナ。優先するべき事は何か。
ミリーナイクスの救出、ね。
スタン俺とリオンが残れば、三対三。いい勝負だろ。
スタンコーキスは手負いだ。ミリーナたちと逃げろ !
ヴィクトル勝手なことを……。
リオンむしろ僕の足手まといにならないようにするんだなヴィクトル。
ユーリ――一緒に暴れたいところだが、ここは任せるぜ。
ミリーナどうか無事で…… !
フレンコーキス、大丈夫かい ?
コーキスあ……ああ。大丈夫 !
ミリーナ見て ! 魔術障壁が消えてるわ !
コーキスよかった…… !
コーキスあれ ? ミリーナ様、魔鏡通信が……。
ミリーナ…… ?光っているだけで、何も映っていないけれど……。
? ? ?――……リーナ……ん……。ミリーナ……さ……。
コーキス…… ? 女の人の声 ?
? ? ?……よかった……。最後に言葉を……届けられる。
セシリィこの声で話しかけるのは初めてだからわからないかも知れないけれど私は……セシリィの体を借りていたシドニーです。
ミリーナシドニー ! ? どういうこと ! ?
シドニーすみません。計画の全容を伝えていなくて。人体万華鏡を封じるには魔鏡術を使う必要があります。
シドニーでも……私が魔鏡術を使うためにはセシリィの体から離れないといけなかった。
シドニー私は……ゲフィオンさんとキメラ結合する形でここに残ります。そしてゲフィオンさんの中から死の砂嵐を封じます。
ミリーナそんな―― ! ?
シドニー私は……もう死んでいる人間です。でも、せめて私が生きた世界を守るお手伝いはさせて下さい。
シドニーできることなら……いつか死の砂嵐を……カレイドスコープに砕かれた人々の魂を解放して欲しい……。
シドニー彼らを永遠の牢獄から解き放ってくれれば……。
ミリーナ待って ! 他に方法はないの ! ?
シドニー……今は……。でも……きっとミリーナさんなら……見つけ……ら……れ……。
ミリーナ待って、セシ……シドニー ! 行かないで !ねぇ、バルドさんは ?バルドさんもゲフィオンとキメラ結合するの ?
シドニーバルドさんは……鏡士では……ありませんから。あの方は……ウォーデン様と共に……死の砂嵐に戻りました……。
シドニー私たちの……体は……そちら……に……。
シドニーこれで……いい……。
シドニーガロウズに……会えたら……しあわ……せに……と……――
ミリーナ………………。
コーキス………………。
ユーリ……帰るぞ、二人とも。
コーキスけど、ユーリ様……。
ユーリシドニーの言葉を思い出せ。体をこっちに送ったって言ってただろうが。きっとアジトだろうよ。
ミリーナ……そうね。目が覚めたセシリィに話をしないといけないわね。それにファントムをどうするか考えないと。
フレンコーキス。泣いてばかりはいられないよ。まだやるべきことはたくさんあるんだから。
コーキスわかってるよっ !けど、なんか涙が止まんねぇんだよ !
コーキスバルドなんか……さよならも言えなかった……。
コーキス二人がこうするつもりだって最初から言ってくれれば何か考えてあげられたかも知れねーのに。
ユーリわからねぇのか ? だから言わなかったんだよ。
ミリーナ時間が無かったから……。それに……二人とも自分たちは死者だから、ここにいるべきではないとずっと思っていたんだわ。
ミリーナ(……二人を殺して、世界を奪ったのは……私なのに)
ユーリ今度こそ行くぞ。もしここで敵に捕まったらスタンたちが壁になってくれてる意味がねぇからな。
コーキス……うん。

Character12話【12-15 カレイドスコープの間】
ルカ――ジェイドさん。ミリーナたちが戻りました。イクスも無事です。スタンとリオンはまだセールンドにいるらしくて、連絡がありません。
ジェイド了解しました。それでは陽動部隊には撤退命令を出しましょう。
ルカ……あの、一つ聞いてもいいですか ?
ジェイド何でしょう ?
ルカどうしてケリュケイオンが魔の空域から脱出するタイミングがわかったんですか ?
ジェイド話すと長くなりそうですが……。
ルークあ、俺もそれ聞きたいぞ !なんかエドナの話だと、色々裏で動いてたんだろ。
ジェイド……情報漏れの片方がフィリップからだとわかったからですよ。
ジェイドファントムは活動停止状態なのだから、盗聴の真似事をしていたのはジュニアだと当たりがつきます。
ジェイドジュニアもフィリップと同じような性格ならフィリップを裏切るような行為には後ろめたさがある筈です。
ジェイドそこに自分の情報を元に、ミリーナたちを罠にはめる計画が持ち上がる。ミリーナ想いのジュニアなら何とかして助けたいと思うでしょうねぇ。
ルカつまり……ジュニアの心の動きを読んだって事ですか。でもジュニアが魔の空域の脱出方法を知っているって確証はなかったですよね。
ジェイドいえ、可能性は高いと思っていましたよ。チーグルが何故魔の空域にケリュケイオンを飛ばしたのか。
ジェイド帝国は恐らく魔の空域という場所がどんな場所なのか知っているんですよ。
ジェイドそうでなければ、確実にケリュケイオンをその場所へ導くことはできませんから。
ルーク駄目だ……。説明されてもよくわかんねー。だって全部想像だろ ?
スパーダルーク、気が合うな。オレもだ !
イリアあたしも !
エドナ大佐のボーヤ。どや顔で自分の計画の成功をひけらかしている暇があったら撤退の準備を手伝いなさい。
エドナこっちの戦いはまだ終わっていないのよ。
ジェイドおや、これはこれは。相変わらずあなたは小姑のように香ばしい発言をなさいますねぇ。
エドナ香ばしいのはどちらの方かしら。大人になるのが怖くて道化のように振る舞っているけれど、実は自分が本当に道化だとは気付いていないようね。
ルカ……は……はは……。それじゃあ、僕色々やることがあるから……失礼します !
イリアちょっと ! 何で通信を切っちゃうのよ。今から面白くなるとこだったのに !
ルカええ ! ? あの二人の言い合いとてもじゃないけど聞いていられないよ……。
スパーダそうか ? あれはあれで楽しそうにやってるみたいだけどな。
ルカそうなのかなぁ……。……あ、そうだ。セシリィとファントムの様子は ?
イリア二人とも眠ったままよ。マーテルが見てくれてるしミトスもいるから大丈夫でしょ。
ルカそう……。
イリア何情けない顔してんのよ。ちゃんと処置したんでしょ ?
ルカけどジュードみたいに慣れてる訳じゃないから……。イクスだって……点滴ぐらいしかしてあげられなかったし。
カーリャルカさま ! ここにいたんですか !
ルカカーリャ、どうしたの ? まさか、イクスに何か――
カーリャそうじゃないですけどそうなんです !とにかく来て下さい !
ルカえ ! ? 何、どういうこと ! ?
カーリャイクスさまが目覚めそうなんです ! !
イクス……ん…………。
ミリーナイクス…… ! お願い……目を覚まして…… !
コーキスマスター……。
イクス…………やめろ……くるな……っ !
コーキスマスター ! しっかり !
ユーリうなされてるな。
ミリーナイクス……夢の中でも死の砂嵐に苦しめられているんだわ……。
コーキスカーリャ先輩、何してるんだよ。俺もルカ様を捜しに――
カーリャルカさまを連れてきました !
ルカイクスが目を覚ましそうなんだって ?
コーキスルカ様 ! マスターが苦しそうなんだ !
ルカ待って。今、脈を診るから……。
イクス――や、やめろっ ! ?
ルカわぁっ ! ? な、何 ! ?
イクス…………え………… ?
フレン急に腕に触れられて、驚いたのかも知れないね。
ルカ……目が……覚めた…… ! よかった…… !
ユーリおい、カーリャ。魔鏡通信じゃないか ?
カーリャホントだ ! ? こんな時に誰ですか、もー ! !
イクス……何……だ…… ?俺……どうしたんだ…… ?
ミリーナ――イクスッ ! !
イクス……ここは…… ?
コーキスマスター ! ! !
イクスな……何…… ?二人とも……抱きついて……。く、苦しい……。
イクス(……そう……か……。俺……魔鏡結晶から出られた、のか)
イクス(もう……あの声を聞かなくてすむんだ……)
イクス(カレイドスコープで命を落とした人たちの……苦しみの声……。それに……全身が引き裂かれそうな……あの、痛み……)
イクス(俺……助かったんだ……。生きてるんだ……)
カーリャ――通信、スタンさまとリオンさまでした !お二人とも無事だそうです !
ユーリだろうと思った。あんなところでくたばるような連中じゃないしな。
イクス(そうか……。みんな……俺を助けるために、命がけで……)
ミリーナイクス……。本当によかった……。
イクスミリーナ……。
ミリーナお帰りなさい、イクス !
イクス――うん。ただいま !