Character1話【1-1 ひとけのない街道】
ミリーナイクス、大丈夫 ?やっぱり私、手伝いましょうか ?
イクスえ ! ? こ、子供じゃないんだから、大丈夫だよ !それにもうすぐ着替え終わるから……。
コーキスへへっ。
カーリャどうしたんですか、コーキス。
コーキスだってさ、マスターとミリーナ様全然変わらねーからさ。
カーリャ確かに……。でもミリーナさまが幸せそうで本当によかったです。
イクス――よし、お待たせ。
カーリャあ、イクスさまのお着替え、終わったみたいですよ ?
ミリーナええ。それじゃあ、失礼します……。
イクスえっと……ど、どうかな ?
ミリーナイクス ! すごく似合ってるわ ! とっても格好いい !
コーキスおっ ! マスターの意見を取り入れてもらって黒い布使ってもらったんだな !
カーリャイクスさまって、意外とセンス、アレですよねー。
イクスアレってなんだよ ! カーリャは相変わらずだな……。
ミリーナ着心地はどう ?
イクスあ、大丈夫だよ。でも、なんか変な感じでさ……。
ミリーナえ ? やっぱりその服、気に入らない ?だったら作り直すわ。
イクスえ ! ? ち、違うよ ! 第一、この服具現化じゃなくてミリーナが手縫いしてくれたんだろ ?
イクスその気持ちが嬉しいし、デザインが嫌だとか着心地が変だとか、そういうことじゃないんだ。
イクスほら……俺、急に背が伸びただろ ?ミリーナの顔がいつもより下に見えて……なんか落ち着かなくて。
ミリーナそうよね……。魔鏡結晶の中でイクスの身体が成長したなんて……。
ミリーナううん、成長じゃないのよねきっと。まだこの現象が何なのかわからないからイクスの身体が心配だけど……。
イクス……確かに楽観視はできないよな。でも、今のところ変な自覚症状はないからさ。ただ、急に背とか髪が伸びて驚いたってだけだよ。
コーキスマスター……。
イクスあ、この髪の毛どうかな ?本当は長髪のままでもいいなって思ってたけど……。
ミリーナ――駄目。長髪は縁起が悪いから。
イクス何だよ、それ。まぁ、でも駄目だって言われたからさせめてちょっとセットを変えてみたんだ。
ミリーナうん。前の髪型もすっごく可愛くて格好良かったけど今回の髪型もすっごく可愛くて格好いいわ !
イクス可愛い……はちょっと嫌だけど気に入ってくれたならよかったよ。
コーキスへへっ。
イクスん ? どうした、コーキス。
コーキスえ、いや、何でもないよ。
カーリャコーキスはイクスさまが帰ってきてからずっとこんな風にニヤニヤしてるんですよ。
コーキスだってさ、マスターがちゃんと目の前にいてミリーナ様が笑ってて……。
コーキスやっと……俺がずっとこうなったらいいなって思ってたことが現実になったからさ。
イクスコーキス……。辛い思いをさせてごめんな。
コーキス辛かったのはマスターだろ。痛いのとか我慢してたんだから。
イクスみんな大変だったんだよな……。……っていうか、まだ大変なのか。うん。今日からは、俺もみんなと一緒に頑張るから。
ミリーナイクス……。
イクスでも頑張るって、何から手をつけたらいいんだろう。そもそも俺たち、何をしたらいいのかな。
イクス帝国が脅威だってことはわかってるけど相手が何をしようとしているのか、俺たちは何をしたらいいのか、全然整理できてないよな。
イクスまず目的をはっきりさせる必要があるのか。
ミリーナさすがイクス ! 頼りになるわ !
コーキスあー……懐かしいな。ミリーナ様のマスター全肯定。
カーリャミリーナさまはイクスさまの前に出ると駄目な感じになっちゃいますね。
ミリーナそんなことないわ。イクスが頼りになるのは本当だから否定することが何もないのよ。
コーキス鏡精だってそこまで全肯定できないけどなぁ。
カーリャですね。
イクスははは……。そういえばミリーナはどうして黒い服を着てるんだ ?
ミリーナえ ?
イクス前に着てた赤い服、似合ってたのに。あ、黒い服も格好いいけどさ。なんか大人っぽくて。
ミリーナ……うん、そうね。でも、イクスがこの服を格好いいって言ってくれたからこのままでいるわ。イクスはこういうテイスト、好きだものね ?
イクスえ、うん……まぁ……。
ミリーナそれじゃあ、そろそろ行きましょうか。フィルが待ってるわ。
イクス
イクス――わかった。行こう。

Character2話【1-1 ひとけのない街道】
マークお、イクスが来たぜ。
フィリップ! !
キールイクス……久しぶりだな。元気そうで……よかった。
クレスみんな早くイクスに会いたいって思っていたんだ。何より、ミリーナとコーキスが苦しんでいたからね。
ミリーナとコーキス……………… !
イクスああ…… ! あの、改めて……待たせてごめん。それからありがとう。
キールああ、まったくだ。1年近く待たされたんだからな。
カーリャその間に、鏡映点さまも随分増えましたしね。
コーキス大丈夫だよ。マスター、頭はいいから、すぐに覚えられるって。
イクス頭『は』って……。ひどいな。
イクスそれと、フィル……さん。やっとちゃんと会えましたね。
フィリップイクス……やっぱりその姿……。
イクス
ミリーナフィル。イクスの変化に心当たりがあるの ?
フィリップあ、いや、違うんだ。ごめん。その……僕が知ってるイクスによく似ていたから……。
イクスフィルさんの知ってる俺…… ?『最初の俺』ってことですか ?
フィリップああ、そうだよ。それとイクス、僕のことはフィルでいい。
イクスあ……でも……。
マーク――なぁ、フィル。このイクスとミリーナは具現化されたもう一つの可能性でリアライザーなんだって言ってなかったか ?
マーク混同するなって言っておきながら、お前イクスに一人目と同じ対応してくれってのはおかしいんじゃねぇの ?
ミリーナ………………。
フィリップあ……ああ……。そうだね。僕が一番割り切れていなかったのか。すまない。
フィリップ君たちにしてみれば僕は単なる中年のおじさんだよね。わかっていた筈なのにな……。
コーキスフィリップ様……。
イクス……あの。俺も……フィルって呼んでいいです――いいかな ?年下だから生意気に聞こえたら悪いんだけど。
フィリップも、もちろん ! ……ありがとう、イクス。
キール……そろそろいいか ?話さなきゃならないことがたくさんあるんだ。
イクスあ、そうだよな。いいよ、進めてくれ。
キールそれじゃあ、まずは現状について報告しよう。
クレスリフィルさんに資料を纏めて貰ったんだ。イクスなら読んだ方が早いだろうって。
イクスわかった。読んでみるよ。
エドナ………………。
アイゼン……エドナ。
エドナそんな顔しなくても大丈夫よ。わかっていたことだもの。別れの時が近づいているって。
エドナそれより、ベルベットたちには話したの ?ケリュケイオンに移るって話。
アイゼンいや、まだだ。それにあいつらは、俺がここを離れようと気にしないだろう。
エドナ――そうね。単にケリュケイオンに行くだけですもの。会おうと思えばいつだって会えるわ。
アイゼンああ。好きなときにパルミエを届けてやれる。
エドナそれぐらい自分で持ってきたら ?
アイゼンそうだな。
エドナ………………。
エドナ……そうよ、自分で届けてちょうだい。必ずね。
アイゼンそうしよう。
エドナ気をつけて。
アイゼンああ。
ヴィクトル……助かった、のか ?
ヴィクトル(……せめてここでなら、救えると思ったのに)
ヴィクトル――待っていてくれ、ミラ。

Character3話【1-2 アスガルド城1】
リヒター……メルクリアの様子はどうだ ?
ジュニアやっと眠ったところ……。無理もないよ。ナーザ将軍を――お兄さんを失ったんだから。
リヒターナーザはどうなったんだ ?虚無に引き戻されたのか ?
ジュニアうん……。また永遠の牢獄に閉じ込められたんだ。
リヒター……そうか。苦しみを伴わないだけこちらの方がマシだったのかも知れないな。
チーグル――鏡映点に何がわかる !虚無の絶望を ! 永遠の苦痛と生を !
チーグル死にながら生き続ける終わりのない地獄に私たちは閉じ込められていた。
チーグルナーザ……いや、ウォーデン様はまたそこへ戻されてしまったんだ !
リヒターああ、わからないさ。だが、大切な人を失った者の気持ちはわかる。
チーグル……メルクリア様のことか。
リヒター俺は……アステルのためにここに残ると決めていた。だが……。
チーグルメルクリア様のためにも残るというのかい。ならば自分がどこに『属す』つもりなのかはっきりさせるんだね。
チーグル所詮デミトリアスはセールンドの王族だ。ビフレスト皇国にとっては仇の一人。
チーグルメルクリア様を守ってきたからこそ従ってやってきたが、この後はわからない。
ローゲ随分と不穏な話をしているじゃないか。
ジュニア! !
ローゲ安心しろ、ジュニア。貴様は用済みだ。ファントムが黒衣の鏡士の元に落ちた今貴様は使い道のないゴミクズに過ぎん。
ジュニア………………。
チーグルローゲ。エルレインは落ち着いたのか ?
ローゲフン……。もとより取り乱してなどいなかったわ。肝の太い女だ。それにどうやらこの体の持ち主をよく知っているようでな。
チーグルきみもよくよく考えておくんだね、ローゲ。メルクリア様のご意向次第では我らは帝国を離れることになる。
ローゲ知ったことか。
チーグル何 ! ?
ローゲこの程度のことで心が折れるような小娘が我らがビフレスト皇国を率いるに値するものか。
ローゲそれに貴様の考えていることなどデミトリアス帝はとうに気付いているぞ。なぁ、デミトリアス帝 ?
チーグル精霊の封印地から戻っていたのか、デミトリアス帝。
デミトリアスああ。マクスウェルは捕らえられなかったがね。
デミトリアスところでチーグル――いや、ビフレストの黒き虎ドンナー卿とお呼びした方がいいかな。
チーグル……セールンドに敗北した私に気高きドンナー家の名は似合わないからね。チーグルで結構。
デミトリアス失礼した。あなたやビフレストの方々の気持ちはわかっているつもりだ。
デミトリアス故に、メルクリアにも自由を与えたしビフレストの皇国の復活も帝国の目的の一つとした。
デミトリアスだが……コーキスが誕生し、イクスが自由になった今あまり悠長なことも言ってはいられない。
デミトリアスティル・ナ・ノーグがニーベルングと同じ過ちを犯さぬように、あらゆる手を尽くす必要がある。それが非道であったとしても。
チーグル私たちの望みは、世界の救済を前にしては小さいとでも言いたげだね。
エルレイン神の救済の前では、全てが矮小な事柄に違いない。
チーグル何…… !
エルレインだが、亡国の復活がお前たちの救済に繋がるというなら否定するつもりはない。
エルレインむしろ叶えてあげたいとすら思う。だが、この世界で私の力は大きな制限を受けているようだ……。
チーグルきみは……ベルセリオス博士と一緒に具現化されたというエルレインか。
エルレイン具現化か……。私の奇跡の力が弱まっているのはその具現化とやらの影響のようだな。
エルレインこんなことは初めてだ。ここでの私の運命……私がここに作り出された意味は……一体……。
デミトリアスきみの存在の意味はこの世界に救いをもたらすことだよ。いずれわかる。
デミトリアスエルレインの奇跡の力に関しては新たに研究チームを立ち上げる。ジュニア、彼女を頼むよ。
ジュニア……は、はい。
デミトリアス精霊装に関してはレイカー博士とベルセリオス博士に一任した。メルクリアに預けていた四幻将とその配下は帝国で吸収しよう。
デミトリアス既に黒衣の鏡士の元へ走った者もいるし再編は不可欠だろう。
デミトリアス私もようやくこの体が馴染んできた。いや……本来の姿を取り戻したのに馴染んだというのもおかしな話だがね。
デミトリアスとにかく、これで私も自由に動けるようになった。やっとラグナロクに立ち向かえる。
デミトリアス詳しい話は作戦会議室で行おう。サレとハスタも呼んである。
メルクリア――お待ち下さい、義父上 !
ジュニアメルクリア ! ? 起きて大丈夫なの ! ?
メルクリア大丈夫じゃ。メイドたちが義父上のことを話していたからいても立ってもいられなくなって……。
デミトリアスメルクリア。無理はしない方がいい。
メルクリア義父上……。四幻将を取り上げないで下され。わらわには兵が必要です。兄上様を二度も殺したあの鏡士を倒すために !
チーグルメルクリア様……。
ローゲはーっはっはっはっ !それでこそビフレストの皇族よ !見直しましたぞ、メルクリア様 !
デミトリアス……わかった。悪いようにはしない。だが今は部屋で休んでいなさい。いいね、メルクリア。
メルクリア……きっと、きっとじゃぞ、義父上 !

Character4話【1-7 ひとけのない森林3】
ガイ――さて、こちらキール研究室。俺は進行役のガイだ。各自部屋に待機してると思うけど魔鏡通信は届いているか ?
エルはーい ! こちらエルとルドガーの部屋。ちゃーんと届いてるよ。
カロルカロル調査室とセキレイの羽もばっちり。
クレス道場の方も大丈夫だ。
ファラファラ生活向上委員会もね。今、みんなで手分けしてお茶とお菓子配ってるから !
エドナあら、気が利くわね。さぁ、ティア、あなたも返事なさい。
ティアあ、はい ! エドナ様のお茶会の準備は万全よ。
ガイその謎の集団で集まってるのかよ……。
エドナ何か言ったかしら、給仕。
ガイ誰が給仕だ ! えっと後は――
エステルエステルの読書会も全員揃っています。
ガイそんなのまで出来てるのか……。ケリュケイオン組はどうだ ?
クラトス聞こえている。進めてくれ。
ガイわかった。それじゃあ、早速始めようか。まずはイクスが動けるようになったことの報告からだ。
イクスえっと、イクスです。初めましての人は初めまして。それから俺のために、みんな色々と力を尽くしてくれてありがとう。
イクスまだ直接顔を合わせられていない人もいるから今ここで、改めて言わせて下さい。
イクスえっと……。ミリーナ、コーキス……それに、みんな。――ただいま
ほぼ全員お帰り、イクス !
イクス! !
ガイ泣くな泣くな。キールが横で目をつり上げてるぞ。
キール泣くのはコーキスだけで十分だ。
コーキスうぅ……マスター……良かった……。
イクスご、ごめん ! ほら、コーキスも泣くなって !
コーキスうん……。悪い……。なんか嬉しくてさ……。
ミリーナコーキス……。そうよね……。
カーリャカーリャも涙が……うううう !
ガイわかったわかった。ミリーナ、鏡精たちを頼む。イクス、進めてくれ。
イクスわ、わかった。えっと……俺が魔鏡結晶の中に入ってからのことは、リフィル先生たちがまとめてくれた資料で把握した。
イクスみんな、本当にありがとう。
イクスそれで今日は、この先のことについてみんなと相談していきたいって思ってるんだ。
イクスただ、バルドさんやカロル調査室、それに帝国から来てくれた人たちが持ってきてくれた情報もある。
イクスだからまずは、これまでとこれからのことを新しい情報も交えて整理したいと思う。
イクス始めに、みんなが鏡映点としてティル・ナ・ノーグに来ることになってしまった原因から。
イクス知っていることもあると思うけど整理する意味で聞いて欲しい。
フィリップここからは僕から話そう。誰よりもこの世界の『終わり』について詳しいからね。
フィリップ今はこの世界の暦で3238年だ。
フィリップデミトリアス陛下が復興を宣下したアスガルド帝国というのは、今から約1200年前――2010年に成立したと言われる古の帝国だ。
スタンそんなに古い時代の国だったのか。
スレイもしかして今まで見つけた遺跡の中にはアスガルド帝国のものもあったかも知れないな。
ミクリオスレイ、やめろ。リフィル先生の目の色が変わった。
スレイあっ ! ?
ガイあー、遺跡マニアはそっちで上手く対応してくれ。フィリップ。続きを頼む。
フィリップああ。シャーリィの体を乗っ取っていたヨウ・ビクエはこのアスガルド帝国の初期に生まれた人物だ。
フィリップ彼女と関わりがあるアイフリードも同時期の人間ということになる。
ライラそんなに古い時代の人間がまだ生きているなんて……。天族や天使のようですわね。
ミトス人ならざる者になったのか人ならざる者の力を借りたのかってことだね。
フィリップデミトリアス陛下はアスガルド帝国を復活させヨウ・ビクエの体を確保しているらしい。この時代の何かを陛下は必要としていると言うことだ。
フィリップさて、時代はそれからさらに下る。アスガルド帝国が分裂、瓦解して、小国が乱立する時代があった。やがて残ったのがセールンド王国とビフレスト皇国だ。
フィリップ二国間で終戦協定が結ばれたのが、3113年。しばらく二国間の関係は平穏だった。
フィリップだが、キラル分子と呼ばれるエネルギーの発見と利用法を巡って対立するようになってしまった。
ミリーナキラル分子というのは私たちの世界のエネルギーの元になる粒子なの。鏡士も具現化の際にキラル分子を使用しているわ。
ミリーナ性質やあり方は違うけれど、ユーリさんたちの世界のエアルや、クレスさん、ロイド、ジュードさんたちの世界のマナ、ルークさんたちの世界の音素(フォニム)
ミリーナ……のようなものかしら。
フィリップそして魔鏡戦争が勃発した。きっかけはビフレスト皇国がセールンド王国のオーデンセ島を襲ったこと。
フィリップオーデンセは鏡士の故郷で、セールンドの鏡士と鏡精を忌み嫌っていたビフレストにとっては恰好の目標だった……と聞いている。
フィリップこの当時、僕もミリ……ゲフィオンもまだ若くて国の上層部で何が行われていたかは知らなかったんだ。
フィリップ……そしてこのオーデンセ襲撃で最初のイクスが命を落とした。
イクス……その時の俺―― 一人目のイクスの遺体を何故かビフレストは持ち帰り保管していた。それでナーザが使っていたんだな。
カイル……あれ ? 揺れてる ? 地震かな ?
ジューダスこのアジトで地震が起きる訳がない。アークからの呼び出しか ?
ミリーナ――いえ、違うわ。何かがおかしい……。私、ちょっとアジトの具現化に支障が出ていないか見てくるわ。
ミリーナイクス、コーキスを連れて行ってもいいかしら。
イクスああ、もちろん。俺も行こうか ?
ミリーナいえ、イクスはここで話を進めていて。カーリャもここに残って仮想鏡界を維持していて。
カーリャはい !
フィリップマーク。きみも一緒に行ってあげてくれ。鏡精の中では一番年長だろう ?
マーク人を幼稚園児みたいに言うのはやめてくれっつーの。まぁ、いいぜ。アジトの様子がおかしいのは確かだ。
ミトスボクも行くよ。ちょっと気になる。クラースならわかるよね。
クラース……ああ。精霊……の気配のようなものを感じる。しかしミトス、何故お前にそれがわかったんだ ?
ミトス……どうやらボクが具現化された時の状況が影響しているみたい。ボクはまだ【オリジン】と契約したままなんだよ。
ロイドそうか……。そういえばミトスは元の世界でオリジンにエターナルソードを作ってもらったって……。
ミラ=マクスウェル……四大からも妙な気配がすると言ってきている。私もミリーナと行こう。エミル、セルシウス、共に来てくれるか ?
エミルわ、わかったよ。
セルシウス……何だか嫌な予感がするわ。急ぎましょう。
ミトスクラースも来て。人間でも召喚士なんだから、役に立つでしょう。
クラース当然だ。
イクスわかった。それじゃあ、みんな、よろしくお願いします。コーキス、気をつけて行けよ。
コーキスああ、ミリーナ様もみんなもちゃんと守るからマスターは安心してそこで待ってろよ !

Character5話【1-8 ひとけのない街道1】
エルダメルクリア。そなたはビフレスト皇国に生まれた知の象徴。ダーナの揺り籠を護るために生まれた知の乙女。
エルダセールンドの悪魔共に心を許してはならぬ。
メルクリア(……母上様…… ? )
エルダそなたはいずれビフレスト式魔鏡術を極めビフレスト皇国を繁栄させる筈じゃった……。それこそが知の乙女たるそなたの宿命じゃった……。
メルクリア(……で、でも、母上様。わらわは――)
エルダゲフィオンめ ! 我が皇国を辱め、滅ぼした悪魔 !カレイドスコープを生み出し、私の可愛いウォーデンもあの悪魔が殺した……。
エルダおぞましき鏡精を生み出す破戒者共。許さぬ……許さぬぞ…… !
メルクリア(母上様……わらわは嫌じゃ……。母上様とずっと一緒に……)
エルダ呪う……呪うてやる…… ! セールンドに滅びを !我が皇国に再び命の光を !
エルダ許さぬ……ふふ……許さぬ…… !死の砂嵐はダーナの天罰じゃ。わらわもこの身をダーナに捧げ、奴らに呪いを――
メルクリア……ゆ……め………… ?
ジュニア……大丈夫 ?
メルクリア……ジュニア、か。
ジュニアまた、あの夢を見たの ?
メルクリア……そうじゃ。母上様がわらわを置いて逝ってしまった日の夢じゃ。
メルクリアあの時はまだ母上様が仰ることを何一つ理解していなかったが……。
メルクリアもしも今ほどの知識があれば……。いや、結局母上様はわらわを置いて逝ってしまわれた。
メルクリアみんな……わらわを置いていく……。わらわを独りぼっちにする。ジュニアもそうであろう。そなたはビクエの三人目じゃ。
ジュニア僕は……――僕も捨てられちゃったから……。
メルクリア…………そうか。
メルクリア――――ん ? 何じゃ、この妙な空気の振動は……。
ジュニア仮想鏡界が揺らぎ始めてる…… ?
メルクリアファントムを連れて行かれたからか ?
ジュニアううん。僕がいるからそれはない筈だけど……。ちょっと仮想鏡界の様子を見てくる !
フィリップ――アジトのことは気になるけれどひとまずミリーナたちに任せて僕たちは話を進めようか。
フィリップ魔鏡戦争勃発後のことはみんなもそれなりに知っているね。
フィリップミリーナと僕は最初のイクスの仇を討つために王立魔鏡研究所に入り、イクスの亡くなったご両親の研究を引き継いで、カレイドスコープを開発した。
フィリップカレイドスコープは魔鏡戦争の切り札となってビフレスト皇国を壊滅。戦争はセールンド王国の勝利で終わった。
フィリップこの時終戦協定が結ばれて、ビフレスト皇国の皇后エルダと皇女メルクリアが人質としてセールンドに連れてこられたんだ。
カイウスメルクリアは人質だったのか ! ?そんな風には見えなかったけど……。
シングうん、すごく自由にしていたしデミトリアス陛下とも親しそうだったよ。
フィリップそれは……エルダ皇后が亡くなられた後デミトリアス陛下がメルクリアを義理の娘として育てると仰ったからかも知れないね。
リッド皇后が亡くなったって……病気か何かか ?
フィリップ……自害された。錯乱されて……メルクリアと無理心中をしようとしたんだ。
フィリップメルクリアは助かったけれどエルダ皇后はそのまま息を引き取った。
ルーティ……なんてことを。
フィリップ――きっかけは死の砂嵐だった。終戦後しばらくしてカレイドスコープによる消滅の反動から死の砂嵐が発生したんだ。
フィリップ世界の終焉を予測して絶望されたのか……エルダ皇后は自ら命を絶った。
フィリップ僕とゲフィオンは、世界の消滅を食い止めるためこの世界を護る防御壁であるアイギスを作ったんだ。
フィリップでもその段階で、既にこの世界はセールンドの周辺海域を除いて全てが消滅してしまった。
イクスそれで、大陸の具現化を始めたんだな。
フィリップああ。まずは過去から大陸や人々を具現化していった。少しずつね。世界に全ての大陸と人々を具現化するのに8年を費やしたよ。
フィリップただ過去へのアプローチといっても遡れるのはおよそ1年。範囲を狭めても10年が限界だった。
フィリップしかも現在との距離が離れれば離れるほど具現化は困難になる。だから僕らは死の砂嵐が発生する直前の過去から、世界を具現化することにしたんだ。
フィリップ世界の方はそれでどうにかなったけれど……。でも僕は――僕とゲフィオンはどうしてもイクスを甦らせたかった。
フィリップだから自分たちの記憶を経由する具現化を開発したんだ。これで10年の壁を突破した。
フィリップ僕とゲフィオンは3217年から二人目のイクスとミリーナを具現化して3237年のオーデンセに住まわせた。
フィリップこれが今のミリーナと二人目のイクスだ。
フィリップこの段階で島の人たちとイクスとミリーナの間に記憶のズレが発生してしまうはずだったけれどエンコードで調整を掛けることになっていた。
イクスその口ぶりだと……エンコードは出来なかったのか ?
フィリップ救世軍がアイギスを破壊してしまったからね。あとは……知っての通りだよ。
フィリップアイギスが破損して、オーデンセ島も過去から具現化した大陸も全て失ってしまった。二人目のイクスもね。
フィリップだから異世界からの具現化という手段に踏み切ったんだ。その為には……イクスの力が必要だった。
イクスどうしてだ ? これだけのことをゲフィオンとフィルがやってきたなら俺の力なんて必要なかったんじゃ……。
フィリップカレイドスコープもアイギスも全てはイクスのご両親が残した魔鏡を元に作られているんだ。
イクスこの……俺が今使っている魔鏡 ?
フィリップそう。それは三枚目だけれどね。不思議なことにその魔鏡は魔鏡だけを具現化して増やそうと思っても増やせないんだ。
フィリップイクスを具現化したときだけ一緒に具現化される。その魔鏡はイクスに合うように造られているんだよ。
フィリップそして異世界からの具現化を可能にするにはその魔鏡の力を最大限に引き出す必要があった。だからイクスの力が必要だったんだ。
イクスそれで三人目――今の俺が具現化された……。
フィリップああ。マークがミリーナと二人目のイクスを見つけたときには二人目のイクスは……亡くなっていた。
フィリップだからゲフィオンは三人目のイクスを二人目のイクスの遺体とすり替えたんだ。
イクス……それで俺はゲフィオンに会いにいって……。大陸の具現化を始めた。ユーリさんたち鏡映点のみんなに出会って……助けられて、ここまで来た。
ガイ……これが今俺たちが生きているティル・ナ・ノーグの再誕史って訳だ。

Character6話【1-9 ひとけのない街道2】
キール――みんなにティル・ナ・ノーグのたどった歴史を共有したのには訳がある。
リオン帝国の目的が、ティル・ナ・ノーグの古代史に関わりがあるからだな。
イクス俺がスタック・オーバーレイで、魔鏡結晶を世界中に生み出した前後のことをまとめてみた。
イクスまずセールンド王国は、ゲフィオンの発案による異世界の力を借りた大陸の具現化を進めていた。
イクスこれを阻止しようとしていたのがファントムとあいつが支配していた救世軍だ。
イクスこの当時俺やミリーナは気付いていなかったけどセールンド王国と救世軍以外にさらに二つの勢力が存在していたことになる。
イクス一つはフィルやカノンノ――えっとイアハートが属していた勢力。仮にビクエ勢力とする。
イクスそしてもう一つはメルクリアの勢力だ。彼らはファントムを通して救世軍に通じていた。
シングああ。オレやコハクやカイウスたちはメルクリアに……助けられた。まぁ、騙されてたんだけど。
イクスみんなから聞いた話をとりまとめると、メルクリアは当初ファントムに協力していたのに途中からフィルの方へ鞍替えしたってことになる。
フィリップメルクリアにしてみれば、ファントムの目的である理想世界の具現化が、メルクリアの目的であるビフレスト皇国の復活に邪魔だったんだろうね。
フィリップただ、メルクリアとファントムを結びつけたのはデミトリアス陛下の筈なんだ。
フィリップつまりデミトリアス陛下も、どこかのタイミングでファントムと協力することをあきらめた。
フィリップあの人は、ファントムに同情的だった。それが翻ったのは、何故か――
ヒルダ――ナーザが甦ったから、ね。私がアスター様に拾われた頃、ナーザらしき男がセールンドの城に出入りしているって話を聞いたことがある。
ヒルダ私が具現化されたのは魔鏡結晶が出現する前だから時期的にほぼ間違いないと思うわ。
フィリップああ、僕もそう思う。ナーザからもたらされた情報によってデミトリアスは方針を転換した。
フィリップそれまではゲフィオンの大陸具現化に協力しつつもファントムの理想世界の具現化が成功するならそちらの方がいいと考えていたんだと思う。
フィリップあの人はゲフィオンが犠牲になる世界の具現化には消極的だった。何か別の方法があるならその方がいいと考えていたようだからね。
イクスゲフィオン様が犠牲になることを気にかけていたデミトリアス陛下が、突然リビングドールなんて非道なことを許すようになった。
イクスそれはつまり、ナーザからもたらされた情報が強硬的にならざるを得ないものだったからだと思う。
スタン具体的には何だったんだ ?
イクスまだはっきりとはわからない。でもヒントはある。ダーナの予言と精霊だ。
ゼロスどうよ、ケリュケイオンの状態は。
ガロウズ……おい、ミリーナたちとの会議に参加しなくていいのか ?
ゼロスそっちはクラトスとシンクが出てっから。難しい話はあの二人がまとめて教えてくれるだろ。
ガロウズ別に、俺に気をつかわなくてもいいぞ。
ゼロス俺さま女尊男卑をモットーにしてるからおっさんに気を遣う優しさは持ち合わせてねーけどな。
ガロウズ――シドニーはずっと死んでいた。今までのは、たまたま霊界と通信できちまってたってだけだ。
ゼロスなるほど。
ガロウズ……ああ。
ガロウズ――で、ケリュケイオンだが、何とか飛ばすことはできそうだ。まぁ、どこかで本格的なメンテが必要になりそうだけどな。
ゼロスなぁ、アイゼンの奴をこっちに引き込んでいいのか ?
ガロウズ……まぁな。仲間はミリーナ達の下に残るんだし悩ましいところだが本人が協力するって言ってるからなぁ。
ガロウズそれに海と空で勝手は違うだろうがでかい船の扱いに慣れてる奴が増えるのは助かる。
ゼロスアイフリードのことが気になってるのかねぇ、あいつ。
ガロウズ俺たちの世界のアイフリードとアイゼンの世界のアイフリードは別人だからな。
ガロウズそこにこだわってるとは思えないがもしかしたら興味はあるのかも知れないな。
ガロウズ或いは、アイフリードがどうこうより魔の空域にあったあの石碑の件とか……。
ゼロスその辺に興味示しそうなのってスレイ遺跡探検隊の連中ぐらいじゃねぇの ?
ガロウズ何だ、そんな集団までできたのか ?
ゼロスいや、俺さまが勝手に呼んでるだけ。遺跡マニア友の会でもいいけど。
? ? ?………………。
ガロウズ――ん ? 何か変な音がしないか ?
ゼロス……音っつーより、息か ?
? ? ?……うぅ……。
ゼロス――な、何だ ! ? お前、血まみれじゃねぇか ! ?
ガロウズお、おい……。あんた、大丈夫か ?
? ? ?――黒衣の……鏡士に……。
ゼロス――何 ?
? ? ?仮想鏡界が……危険だ……。
ゼロスうおっと ! ? 倒れちまった ! ?
ガロウズブリッジに知らせる !
ゼロスついでに担架と助っ人を寄越してくれ。頭を打ってるとまずい。

Character7話【1-10 アスガルド城1】
ジュニア――これは……。鏡震…… ?
メルクリアどうなっておるのじゃ ?
ジュニア仮想鏡界は想像の力で鏡士の心の中を具現化する術だ。心は無意識で世界と繋がっている。
メルクリア集合的無意識じゃな。
ジュニアそう。意識の奥に仮想鏡界で具現化する無意識の領域があり、そのさらに奥に存在する場所だ。だから仮想鏡界は世界と繋がっている。
メルクリアつまり仮想鏡界はティル・ナ・ノーグの影響を受けやすいのじゃな。
ジュニアうん。ティル・ナ・ノーグを支えているのはダーナと精霊だと考えると仮想鏡界は精霊の力に影響を受けやすい。
メルクリア義父上が精霊の封印地からお戻りになったことと関係があるのか ?
ジュニアデミトリアス陛下は、精霊の封印地へ空のマクスウェルを捕獲しにいった。そこで何かがあったはずだ。
ジュニアそれが仮想鏡界の存在を揺らがせているんだと思う。
メルクリア……待て。こちらの仮想鏡界が揺らぎ始めているなら黒衣の鏡士の仮想鏡界も揺らいでいる筈じゃな。
ジュニア――メルクリア、駄目だ。
メルクリアそなたはフィリップの三人目じゃからな。だが、わらわは兄上様を苦しみの場所に追いやったあの者を決して許さぬ !
ジュニアミリーナは、そんなつもりじゃ――
メルクリアだまれ !
メルクリアここが崩壊すれば、そなたもただでは済むまい。そなたはここで仮想鏡界を安定させなければならぬ。
メルクリアわらわはわらわのしたいようにする。そなたはここで成り行きを見ているのじゃ !
ジュニアメルクリア…… !
ミリーナ……みんな、待って。
ミリーナこれ以上奥には行かない方がいいわ。見た目ではわからないかも知れないけれど仮想鏡界が消えかかってるみたい。
クラースどういうことだ ?ミリーナの具現化に何か問題でも起きたのか ?
ミリーナいえ……。私の力が衰えたとかそういうことじゃないみたい。
コーキス……なんか、寒気がする。
クラースセルシウスがいるから……という訳ではなさそうだな。
セルシウスわたしが普段からコントロールせずに冷気を発していたらこの仮想鏡界ごと氷漬けになってるわよ。
マークその寒気は、鏡精だけが感じてるものみたいだな。俺もさっきから震えが止まらねぇ。
マーク多分幼体の方がこの変化を感じ取りやすい筈だからカーリャパイセンが心配だな。
コーキスパイセンのことをパイセンってゆーな !っつーか、何なんだ、これ ! ?
マーク仮想鏡界のほころびから、何らかのアニマが流入してそいつに反応してるんじゃないかとは思うんだが……。
ミラ=マクスウェル……何だ ? 目眩がする……。
ミトスミラの顔色が真っ青だ。セルシウスはなんともないのに……。
ラタトスク……なるほど。わかったぞ。鏡精共がアニマだと言っているこの妙なエネルギー……。こいつは【マクスウェル】だ。
セルシウス――確かに。
セルシウスミラが傍にいるから区別が難しかったけれどこれはティル・ナ・ノーグのマクスウェルの……残滓ね。
コーキス仮想鏡界の綻びから、この世界のマクスウェルのアニマが流れてきているってことか ?
セルシウス正確に言うなら、死んだマクスウェルの欠片……のようなものかしら。
ミラ=マクスウェル……微精霊……のようなもの……だろうか。そういえば……この世界のマクスウェルは……既に……。
ミリーナミラ、ここはあなたにとって良くない場所なのかも知れないわ。みんなの下へ戻っていて。
ミラ=マクスウェルしかし……。
ラタトスク……いや、ミリーナの言う通りだ。
ラタトスクこの世界のマクスウェルが生きているならともかく死んでいるとなると、同じマクスウェルであるお前はどんな影響を受けるかわからない。
ミラ=マクスウェル……わかった。
? ? ?ラタトスク様 ! そこは危険です !
クラースな、何だ ! ? 今の声は ! ?
ラタトスクテネブラエか ! ?
ラタトスク――ミリーナ ! ゲートを開け !
ミリーナここで ! ?仮想鏡界の状態が不安定なのに危険だわ !
ラタトスクテネブラエがこの場所を危険だと言ってるんだ。いいから早くしろっ !
ミトス……ミリーナ。仮想鏡界を維持したままゲートを開くのはかなりの負担だと思うけれどやった方がいい。
ミトス外に出ればマクスウェルのアニマの正体もわかるかも知れない。それにテネブラエは信用できる。
ミリーナ――わかったわ。やってみる。でも、どこへ続くゲートを開けばいいの ?
ラタトスクテネブラエ ! どこだ !
テネブラエケリュケイオンなる船の近くです。
ミリーナ了解よ。今ケリュケイオンがある場所に一番近いところへゲートを開くわ。
クラースミラはイクスたちのところへ戻って状況を説明しておいてくれ。マーク、コーキス、君たちは――
マーク――ミラを送っていくんだろ ? 任せとけ。
コーキスええ ! ? 俺はミリーナ様を守らないと――
セルシウスそんなに震えている状態で何を言ってるの。あなたもみんなのところに戻るのよ。
ミリーナコーキス。イクスとカーリャをお願い。私はみんながいるから大丈夫よ。
コーキス……わかりました。
ミリーナさあ、ゲートを開くわ !
クラースここは……ケリュケイオンの着陸地点より南の街道かな。
セルシウスとりあえずケリュケイオンを目指せばいいのよね。行きましょう。

Character8話【1-13 静かな街道1】
ミリーナここまで来る間、特に仮想鏡界に影響を与えていそうなものは見当たらなかったわね。
セルシウスマクスウェルの残滓も感じなかったわ。
ラタトスクとなると、あいつに聞くしかないな。
ラタトスク――おい、テネブラエ ! どこだ ! ?
テネブラエ――こちらです。ラタトスク様。
セルシウス……センチュリオン、ね。ミトスの世界に存在する、大樹の精霊の尖兵。
クラース精霊、ではないのか ?
テネブラエはい。我々はラタトスク様の手足となって魔物たちを統べ、マナを循環させる役割を持つ生命体です。
ラタトスクいつ具現化した ?
テネブラエラタトスク様と一緒に。ですが、力が極端に弱まっており、今まで眠りについておりました。
テネブラエある人物の協力で、ようやくラタトスク様の下に戻ることができた次第です。
テネブラエそれにしても……まさかミトスさんと一緒におられるとは。仲直りなさったのですね。良かったです。
テネブラエこのテネブラエ、お二人が仲違いされたことを心配して夜も10時間しか眠れぬ日々を過ごしておりました。
クラースしっかり寝ていたんだな……。
ミリーナふふ♪案外お茶目な性格なのね、テネブラエさんって。
テネブラエはい、イケてるお茶目とよく褒められます。いやーまいりますな。はっはっはっ !
ミトス相変わらずだね、テネブラエ。
テネブラエいえいえ、ミトスさんもお変わりなく。
ラタトスクそんなことはどうでもいい !さっきの話はどういうことだ。仮想鏡界が危険だとか何とか……。
ミリーナそうだわ。私の仮想鏡界は確かに不安定になっているけれど、原因を知っているの ?
テネブラエはい。この世界の始まりと終わりが混在する場所――精霊の封印地についてご存じでしょうか。
クラースいや……初耳だが……。
テネブラエそうですか。精霊の封印地とは、この世界を生み出した精霊たちが封印されている場所だそうです。
テネブラエそこにはこの世界の核であるダーナの心核が収められています。
ミトスダーナ……。女神の心核 ?女神の心が具現化されて置かれているってこと ?
テネブラエええ。その心核が破損しました。ダーナの心核はこの世界の心そのものです。
クラースそれはこの世界の心核が傷ついたということか。
ミリーナそれで世界と集合的無意識で繋がる私の心にも影響が出て、私の心の具現化でもある仮想鏡界に不具合が発生した…… ?
ミリーナ! ?
ミリーナう……うぅぅぅぅ……。
テネブラエまずい !この女性の心が軋んで悲鳴を上げています !
クラース仮想鏡界に何かあったのか ! ?
ミトス待って。今、アジトに連絡を取る。
ミトスクラース、ケリュケイオンの中に入ってクラトスたちにも話を聞いてみて。魔鏡通信で会議に参加していた筈だから。
クラース承知した !
カーリャさむぅぅぅぅぅ !
イクスカーリャ、どうしたんだ ?
カーリャなんか急に寒気が……。いつものぶるぶるとも違いますし、何なんでしょう。
ガイ風邪でもひいたのか ?
カーリャそうじゃなくて急にぞぞぞって……。
イクスミリーナに何かあったのかな ?
フィリップ連絡してみた方がいいかもしれないね。
キールまた揺れた…… ? 一体何が起きてるんだ……。
フィリップ……集合的無意識からの干渉かも知れない。
イクスえ ?
フィリップ心というのはね、無意識で世界中の人々や世界そのものと繋がっているんだ。
フィリップここはミリーナの無意識の一部を具現化した場所だからね。無意識で繋がった他の人や世界から干渉されやすい。
フィリップもっとも、人が人の心に干渉するというのはとても難しいことだから誰かがというより何かがというべきだと思う。
ミラ=マクスウェルその……通りだ。今回は……精霊の干渉があったらしい……。
イクスミラ ! ? 顔色が悪いけど、どうしたんだ ?
ミラ=マクスウェルいや、私のことはいい……。それより……この仮想鏡界そのものが危険な状況だ。
ガイどういうことだ ?
カーリャふぁ――っ ! ?
イクスカーリャ ! ?
コーキスカーリャ先輩、どうした ! ?
カーリャ仮想鏡界がほどけてますぅぅぅぅぅ ! ?
ジューダスどういうことだ ! ?
マーク物置の方の仮想鏡界が不安定になってたんだ。マクスウェルの影響じゃないかって話だったんだがまさかそこから仮想鏡界が消えかかってるのか ?
カーリャそ、そうです !しかも何かが侵入してきているようなんです !
カーリャカーリャはここを維持するのに集中します !侵入者を何とかして下さい ! !
フィリップまずい……。このままもし仮想鏡界が崩壊したら僕らはみんなミリーナの深層意識の中に閉じ込められてしまう。
フィリップそれだけじゃない。僕らという異物のせいで、ミリーナの心が崩壊するぞ。
イクスえっ ! ?だったら、みんな、アジトから一旦外に出ないと――
ミラ=マクスウェル――もう……遅い ! 何かが来る !

Character9話【1-14 静かな街道2】
メルクリア……見つけたぞ。黒衣の鏡士の仮想鏡界を !
コーキスメルクリア ! ? どうやってここに ! ?
メルクリア世界の綻びが仮想鏡界を揺るがせているのじゃ。今ならば、黒衣の鏡士を生きる屍にしてやれる !
コーキスやらせるかっ !
コーキス消えた ! ?
イクスコーキス、そいつはまやかしだ !
コーキス! ?
メルクリア……そなたは冷静なのじゃな。確かにわらわは幻、本体は別の場所にいる。
フィリップむしろ、幻体であるからこそ綻びの生じた他人の仮想鏡界に侵入できたんだ。
メルクリア心を壊すには心をぶつけるしかない。わらわが内側から、黒衣の鏡士の息の根を止めてやる !
ガイ光魔かっ ! ?
キールしかもこの狭い場所に何匹も出してこられると戦うにも戦えないぞ !
マークこいつも幻なら、始末のしようがないな。
スタンおい、俺たちのところにも光魔が現れたぞ ! ?
クレアこちらにも光魔が ! ?
ミラ=マクスウェルアジト中に光魔が出現しているのか……っ !
メルクリアあははははっ ! 幻の光魔は、仮想鏡界を――黒衣の鏡士の心を傷つけ、破壊できる。しかしそなたたちは幻の光魔に傷一つつけられぬ !
メルクリアそこで黒衣の鏡士の精神が死ぬところを指をくわえてみているがいい !
シングみんな、持ちこたえて !オレたちのソーマなら光魔に攻撃が効くみたいだ。ヒスイとコハクと三人で光魔を片付ける !
メルクリア……ソーマか。確かにソーマなら幻の光魔を傷つけることができような。じゃが、無駄だ。たった三人でこれだけの数の光魔を始末できるものか !
メルクリアよしんばできたところで、倒し終わる頃には黒衣の鏡士の心は壊れているだろう !行け ! 光魔 !
コーキスくそっ ! こっちのダメージが効かない !どうすれば――
フィリップイクス ! 具現化だ !
イクスえ ! ?
フィリップ光魔の幻体に実体を与える。具現化するんだ !
イクスこ、こんなにたくさん ! ?しかもここからじゃ見えない場所にもいるのに ! ?
フィリップ僕も協力する。
フィリップ仮想鏡界は心の中であり、心の中は概念の世界だ。実体を与えることはそれほど難しくない。光魔が実体化すれば、みんなが光魔を倒してくれる !
イクス――わかった !
イクス(大丈夫。落ち着け。まずはオーバーレイで基礎魔鏡力を上げるっ ! )
メルクリアな……何じゃ ! ?
マークお、おい、フィル ! ?こいつはオーバーレイ暴走じゃないのか ! ?
フィリップいや……違う。暴走じゃない。これはイクスの力が無限増殖している――
メルクリア――なっ ! 体が……融ける……っ ! ?
ミトス駄目だ……。アジトと連絡が取れない。
クラース大変だぞ !アジトがメルクリアに襲撃されているらしい !
ガロウズクラトスたちの話だと、光魔に襲われたところで通信が完全に遮断されたらしい。
ガロウズまずいぞ。もしこのまま仮想鏡界が消滅するとアジトの連中はミリーナの心に閉じ込められたままになっちまう。
ミトスゲートに戻ったとしてもミリーナが気を失っていたらゲートは開かない……。シングたちもアジトの中か……。くそ !
テネブラエま、待って下さい。何か得体の知れないものが集まってくるような感覚が……。
クラースおい ! あれを見ろ ! 空に何かが見える !
ラタトスク蜃気楼…… ? いや、違うな。何かが具現化している ?
ガロウズ……大陸…… ?
セルシウスそうだわ……。空に大陸が出現している…… ! ?
ミリーナ……うぅ……。
セルシウスミリーナ ! 大丈夫 ?
ミリーナ……え、ええ……。あそこへ……あの大陸へ向かって。あれは……イクスとフィルが創り出した空中大陸よ。
ミリーナ私にはわかる。あれは……仮想鏡界のアジトに実体を与えた物なの…… !

Character10話【1-15 静かな街道3】
キール……死ぬかと思ったが、何とか光魔を倒せたな。
マークああ、これで実体化した光魔共はあらかた片付けた。それにしてもこの状況は……。
マーク何がどうなってやがるんだ ?アジトに【外】ができてやがるじゃねぇか……。
フィリップ……イクス。大丈夫かい ?
イクス……あ、ああ。なんか、すごく疲れたけど……何とか大丈夫。
ファラねぇ、何がどうなってるの ?窓の外の景色が一変してて……。外に出られるなんて……。
リッドちょっと辺りを見て回ったんだがここは仮想鏡界じゃないよな ?この風の感じは外の世界と同じだ。
スタンここは空中にあるみたいだったぞ。
マーク空中 ! ?
ミラ=マクスウェル空に浮かぶ島という感じだろうか。少し先に行くと、崖があって、雲の下に海が見えた。四大もここが空中に浮かぶ島だと告げている。
スタンどうなってるんだ ? アジトがあったのは現実とは違う空間ってことだったよな。それがどうしてこんな空中に浮かぶ島になってるんだ ?
フィリップ……多分、イクスの創造の具現化の力の作用だ。力が強すぎて、光魔だけじゃなくてミリーナの仮想鏡界にまで実体を与えてしまったんだよ。
フィリップ本来ならカレイドスコープの力を借りないと成し得ない陸地の――島の具現化をイクスは行ったんだ。
イクス俺が……島を具現化した…… ?
フィリップもちろん、代償はあったけれどね。
コーキスうわぁぁぁぁ ! ? なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ ! ?俺、縮んでる ! ?
カーリャど、どういうことですか ! ?
キールイクスの力が弱まったのか ! ?
フィリップさすがキール。その通りだよ。
フィリップイクスが光魔を――いや、実際には島を具現化したんだけれどその時に限界まで力を使い切ったんだ。
フィリップそれでコーキスを具現化する力が弱まったんだよ。大丈夫。少し休めばコーキスも眼帯姿に戻れる。
コーキスいや、眼帯は邪魔なんだけど……。
ミリーナイクス ! すごいわ ! ケリュケイオンでこの島の上空を飛んでみたの。この島の形……オーデンセにそっくりなのよ !
イクスえ ! ? じゃあ、俺、光魔を具現化しようとしてオーデンセを具現化したのか…… ?
フィリップいや、オーデンセをモチーフにアジトを具現化したんだと思う。仮想鏡界と違って、現実世界に建物を具現化しようとしたら大地が必要だからね。
フィリップ光魔を具現化しようとして、アジトまで具現化しアジトを置く場所が必要だから、オーデンセ島をモチーフに浮島を作りだしたんじゃないかな。
フィリップ……脱帽するよ。こんなこと……僕にもできない。
イクスえ、でもフィルが協力してくれたからじゃないのか ?俺一人の力でこんなことできる訳ないし。
フィリップいや、僕は少しフォローしただけだよ。
ファラ……ねぇ、ミリーナ。どうしたの、その服。泥だらけだよ。
ミリーナあ……。ちょっと外に出たときに……。――ごめんなさい、すぐ着替えるわ。
イクスあ !
ミリーナな、何 ?
コーキスあ、そうか。アレだな !
カーリャアレですね !
ミリーナ――ちょっと待って。コーキス、あなたどうしたの ! ?
コーキスまぁまぁ、俺のことは後で話すから。さ、マスター !
イクスうん。あ、あの、着替えるなら俺の用意した服に着替えてくれないかな。
ミリーナえ ?
カーリャじゃじゃーん。この服でーす !
イクスその……俺、微妙に背が伸びたりしてミリーナがわざわざこの服を仕立ててくれただろ。
イクス実はミリーナが服を仕立ててくれてるって少し前にカーリャたちから聞いててさ。俺も……なんかお返ししたいなって。
イクスその服、具現化じゃないんだ。ファラたちに協力してもらって、デザイン考えてさみんなで作ったんだよ。
イクス俺も下手だけど、ちょっとだけ縫ったりしたんだぜ。
ファラうん。みんなで話してたの。ミリーナ、そろそろその黒い服とお別れしてもいいんじゃないかなって。
ミリーナ……ありがとう。
イクス迷惑だったか ?
ミリーナ……ううん。そうよね。私……もうこの服にお別れした方がいいのかも知れない。
ミリーナイクスやみんなが作ってくれた服だもの。大事に着させてもらうわ !
テネブラエ……えー、大変いいお話のところ恐縮なのですが。
ミリーナ――あ、そうね。みんなに紹介したい人がいるの。
ミリーナ彼はテネブラエさん。そしてこちらに歩いてくるのが――ヴィクトルさん。
スタンあ、あんたはあの時の !……っていうか、どうしたんだ、その傷は ! ?
テネブラエ……ヴィクトルさんは私とミラさんを守るために怪我を負われたのです。
ヴィクトル私はバルドの協力者として、帝国の動きを調べていた。表に出てくるつもりはなかったが、事情が変わった。
クラトスヴィクトルは救世軍への合流と共闘を持ちかけてきた。私は受け入れようと思っている。フィリップ、構わないだろうか。
フィリップええ。あなたたちがそう判断したのなら、僕は構いません。
クラトス彼の話はお前たちも聞いておいた方がいい。
イクスわかりました。
イクス――コーキス、カーリャ。悪いけど、二人でアジトのみんながどうなっているか確認してきてくれ。
マーク俺も行くわ。ちびっ子二人じゃ心配だからな。
カーリャムムム ! ? 馬鹿にしないで下さい !
コーキス自分はでかいままだからって威張るなよな !
マークはいはい、悪かった悪かった。それじゃ、行くとしようぜ。
ファラわたしはクレアたちと一緒にアジトの片付けをしてくる。リッドも来てくれるよね。
リッドそう言われると思ったよ。まぁ、ややこしそうな話はキールの方が向いてるだろうしな。
キールああ。任されてやる。
クラトスヴィクトル、座るか。
ヴィクトルいや、このままでいい。
ヴィクトルどこから話せばいいか――
テネブラエここにいるミラさんとは違うもう一人のミラさんのお話からがいいのではないでしょうか。
ミラ=マクスウェル! ?
ヴィクトル……ああ、そうしよう。ミラが……自分の命と引き替えにこの世界を支えてくれているという話から、な。
to be continued