| Character | 1話【2-1 精霊の封印地への道のり1】 |
| ヴィクトル | ルドガーと共にいる君たちなら今更説明するまでもないだろうが私の世界には正史と分史という概念がある。 |
| ヴィクトル | この世界に具現化された私はまずこの世界が分史世界であることを疑った。 |
| ヴィクトル | 調べを進めるうちにバルドと知り合いここが正史や分史とは何の関係もない別世界だと言うことを知った。 |
| ヴィクトル | ここでは分史世界の人間であろうと正史と同じように存在できるのだと……。 |
| ヴィクトル | だが、アスガルド帝国はこの世界に分史世界という概念を生み出そうとしていると知り私はやむを得ずバルドと協力することにした。 |
| イクス | 分史世界という概念…… ?分史世界というのは並行宇宙のような物なんですよね。 |
| ヴィクトル | 単なる並行宇宙とは違う。ある一族の血を引く者が望み生み出した可能性の世界だ。 |
| イクス | ………………。 |
| イクス | ――ミリーナ。話の途中だけど、着替えてきたら ? |
| ミリーナ | え ! ? こんな大切な話をしているときに ! ? |
| キール | そうだぞ、イクス。何を空気の読めないことを言ってるんだ ! |
| クラトス | ……いや、汚れた服のままでは居心地も悪かろう。行きなさい。 |
| ミリーナ | ……は、はい。 |
| テネブラエ | 私もお供しましよう。この島の様子を見にいったラタトスク様のことも気になります。お話はヴィクトルさんに任せます。 |
| カーリャ | はわわ、待って下さい、ミリーナさま ! |
| ヴィクトル | ……優しいな。 |
| イクス | ……ごまかしだってことはわかってます。でも今はミリーナにこの話を聞かせたくない。後で、俺からちゃんと説明します。 |
| イクス | この世界は……ゲフィオンの生み出した分史世界のようなものだから。 |
| キール | イクス……。 |
| イクス | ヴィクトルさん。分史世界が誰かの願いによって生み出された並行世界なら、このティル・ナ・ノーグはどうして分史世界と定義されないんでしょうか。 |
| イクス | 分史世界にあってこの世界にないもののために帝国は分史世界という概念を持ち込もうとしているんですよね。 |
| ヴィクトル | なるほど……。君は賢いな。だが、この具現化世界と分史世界は決定的に違うことがある。 |
| ヴィクトル | だがその前にここに至るまでの状況を話しておきたい。 |
| イクス | わかりました。先走ってすみません。 |
| ヴィクトル | ――では話を戻そう。アスガルド帝国は分史世界という概念をこの世界に生み出すにあたって精霊の力が必要であることに気付いた。 |
| ヴィクトル | そして精霊を支配下に置こうとしてこの世界の精霊マクスウェルを殺してしまった。 |
| ヴィクトル | だが、マクスウェルは必要不可欠な精霊だ。彼らは代わりのマクスウェルとしてミラを具現化した。 |
| ミラ=マクスウェル | その『ミラ』というのは私ではない、もう一人のミラのことだな。 |
| ヴィクトル | ……そうだ。今は……そうだな。分史世界のミラと呼んでおこう。 |
| ヴィクトル | 分史世界のミラにこの世界のマクスウェルの残滓をキメラ結合させ、新たな精霊マクスウェルを作る。それがアスガルド帝国の目的だった。 |
| ヴィクトル | 私はバルドに頼まれ、それを阻止するために分史世界のミラを移送していた馬車を襲撃した。 |
| サレ | ……ま……さか……こんな……。 |
| 帝国軍兵士A | サレ様が負けた…… ! ? |
| 帝国軍兵士B | ど、どうする……。 |
| ヴィクトル | …………。 |
| 帝国軍兵士A | 来るぞ ! ? |
| ミラ | 待って ! |
| ミラ | あなた……何者 ? それ、骸殻能力よね。 |
| ヴィクトル | 私は――私はエルの父親だ。 |
| ミラ | ! ? |
| キール | エルの父親 ! ? あなたが ! ? |
| イクス | だったら、今すぐエルをここへ―― |
| ヴィクトル | 今はいい。こんな姿を見せて、エルを心配させたくない。 |
| イクス | でも―― |
| クラトス | イクス。ヴィクトルは怪我の治療を急ぐべきだ。今は最低限情報を共有させてやれ。 |
| イクス | ……はい。 |
| ヴィクトル | 私は分史世界のミラに何が起こっているのか説明をした。 |
| ヴィクトル | そして一足先に、【精霊の封印地】へ向かって欲しいと告げたのだ。 |
| Character | 2話【2-5 精霊の封印地3】 |
| イクス | 【精霊の封印地】と言うのは一体何なんですか。 |
| ヴィクトル | 世界の――君たちの世界の始まりの場所だと聞いている。それを帝国が精霊の封印地と名付けた。 |
| イクス | 始まりって……どういう意味でしょう。文字通りですか ? |
| ヴィクトル | ああ。世界が生まれた場所、世界の始まりの場所だ。 |
| コーキス | 世界ってどうやってできたんだ、マスター ? |
| イクス | それは宇宙に漂う塵やガスが集まって――いや、待ってくれ。【この世界】は一度滅んでる。だから最初にフィルたちが具現化で世界を造った。 |
| イクス | でもそれも壊されて、今度は俺とミリーナと鏡映点のみんなで少しずつ世界を具現化していった。だからこの世界の始まりは……。 |
| コーキス | ん ?じゃあ、マスターとミリーナさまがこの世界の始まりか ? |
| キール | いや、セールンドの周辺は死の砂嵐に飲み込まれずギリギリ残っていたんだよな。つまり、この世界の全てをイクスたちが具現化した訳じゃない。 |
| ヴィクトル | そう。【精霊の封印地】はセールンド海域の小さな島に存在する、今では数少ない【異世界のアニマを借りていない島】だ。 |
| ヴィクトル | そこは精霊が眠る場所、精霊の故郷だと言われている。そこでダーナと分史世界のミラを引き合わせるというのが、私とバルドが考えた帝国への対抗策だった。 |
| ヴィクトル | 私はミラを助け出した後バルドとの約束を果たすためにセールンドへ向かった。 |
| コーキス | あ…… ! マスターを助け出したときのことだな。スタンさまとリオンさまとヴィクトル……さまと俺でカレイドスコープの魔術障壁を消したんだ。 |
| ヴィクトル | そうだ。その後のことは知っているな。君たちを逃がした後、私は精霊の封印地で分史世界のミラと合流した。 |
| ミラ | ……遅かったわね。 |
| ヴィクトル | 片付けなければならないことが多かったのでね。 |
| ミラ | ………………。 |
| ヴィクトル | どうした ? |
| ミラ | 私たち、前にどこかで会ってる ? |
| ヴィクトル | いや、君とは初めてだ。 |
| ミラ | そう……。そうよね。私がエルのお父さんのことを知っている訳ないもの。変なことを聞いてごめんなさい。 |
| ミラ | それで、ダーナはどこにいるの ? |
| ヴィクトル | ――目の前に。 |
| ミラ | まさか……この大きな結晶がダーナなの ! ? |
| ヴィクトル | ――敵か ! |
| ヴィクトル | 何だ、こいつは…… ! ? |
| ミラ | テネブラエ ! |
| ヴィクトル | こいつを知っているのか ? |
| ミラ | ラタトスクとかいう精霊の眷属だと言っていたわ。私たちのように異世界から具現化されたって。 |
| テネブラエ | ……二人とも、逃げて下さい。アスガルド帝国軍が来ています。 |
| ヴィクトル | その怪我は帝国にやられたのか。 |
| テネブラエ | ええ。この場所を守る精霊に封印を強化するように伝えました。あなた方も戦いに巻き込まれる前に―― |
| ? ? ? | 力を貸せ、マクスウェル ! |
| テネブラエ | ぐぅぅぅぅっ ! ? |
| ミラ | テネブラエ ! ? |
| デミトリアス | 一足遅かったね、センチュリオン・テネブラエ。 |
| デミトリアス | 具現化されたのは確かだったのにどこへ姿をくらましたのかと思いきや精霊の封印地に身を隠していたとは。 |
| ヴィクトル | ……デミトリアスか。 |
| ミラ | この世界の皇帝…… ! |
| デミトリアス | なるほど。仮面の君がサレを傷つけたのか。あのサレに膝をつかせるとは大した手練れだ。 |
| デミトリアス | だが、ミラは引き渡してもらうよ。この世界にはマクスウェルが必要だ。 |
| ヴィクトル | ならば何故先ほどマクスウェルの力を使った ? |
| ヴィクトル | ――まさか、精霊装が完成したのか ! ? |
| デミトリアス | そういうことだ ! |
| ミラ | あの指輪は、ルビアが無理矢理つけさせられていたマクスウェルの指輪 ! |
| テネブラエ | いけません !あの指輪は精霊の生命エネルギーの結晶。あの力をこの場所で解放されてはダーナの心核が壊れる ! |
| デミトリアス | そして、この精霊輪具の力をミラ=マクスウェルが取り込むことでこの世界の新しいマクスウェルが誕生する ! |
| Character | 3話【2-6 精霊の封印地4】 |
| ミラ | く……。頭が……痺れる……。 |
| ? ? ? | 聞こえますか、異世界のマクスウェルであったものよ。 |
| ? ? ? | 私の力ではあなたを救い出すことは出来ません。ですが、あなたが力を貸してくれるならあなたを守ることはできます。 |
| ミラ | どういうこと ! ? |
| ? ? ? | 私は心の精霊。ミラ、どうかダーナの心を繋ぎ止める楔となって下さい。 |
| ? ? ? | ダーナの心が壊れれば、この世界も崩壊する。 |
| ミラ | ! ? |
| ? ? ? | 私にはわかります。 |
| ? ? ? | あなたはこの世界に具現化されてからずっとある人々のことを心にとめていることを。彼らとの再会を強く願っていたことを。 |
| ? ? ? | ですが、このままでは世界そのものが―― |
| テネブラエ | くっ……。 |
| デミトリアス | 亜精霊が、マクスウェルを跳ね返した、だと ? |
| ミラ | ど、どうしてそこまでして私を守るの ! |
| テネブラエ | 同じ属性の精霊であろうとあなたとこの世界のマクスウェルは別の存在。それを一つにするなど、無礼にも程があります ! |
| ミラ | ! ! |
| デミトリアス | センチュリオンを排除せよ ! |
| 帝国兵たち | 御意 ! |
| テネブラエ | 今の私にはこれが精一杯です。二人とも、早く逃げて下さい ! |
| ヴィクトル | あの程度の敵、私一人で充分だ。もう休んでいろ。 |
| テネブラエ | この音は、ダーナの心核の崩壊の音―― |
| ミラ | ……この場はヴィクトルに任せていいわね。 |
| ヴィクトル | ? |
| ミラ | 私はダーナの心核とやらを引き受けるから。 |
| デミトリアス | ――そうか ! 兵士たちよ !マクスウェルを捕らえろ !彼女はダーナの心核へ【逃げる】つもりだ ! |
| ヴィクトル | どういうことだ ! ? ミラ ! |
| ミラ | ダーナの心核を守るために、私が楔になる。 |
| ミラ | ヴィクトル、エルに伝えて。いつか必ず会いに行くって。そのときには私の作ったスープを飲んでねって。 |
| ヴィクトル | ! ! |
| テネブラエ | ミラさん……。 |
| ヴィクトル | ――テネブラエ。下がっていろ。ミラに伝言を頼まれた。すぐに奴らを片付けて、エルの元へ行く ! |
| デミトリアス | それは――浄玻璃鏡の力か !何故貴様がそれを持っている ! ? |
| ヴィクトル | 私とエルが本物である世界を手に入れるために――貴様を排除する ! |
| ヴィクトル | デミトリアスをあと一歩のところまで追い詰めたが取り逃がしてしまった。私もこの有様だ。 |
| ヴィクトル | 帝国の奴らを追い払った後、ダーナの心核を確認したが私もテネブラエも、ある距離から近づくことすらできなくなっていた。 |
| ヴィクトル | テネブラエの話では心の精霊ヴェリウスが守護を強めたのだそうだ。 |
| イクス | それじゃあ、ダーナの心核には今分史世界のミラさんが融合した状態で崩壊を食い止めているんですね。 |
| ミラ=マクスウェル | 私ではないマクスウェル……か。 |
| キール | ん ? でもどうしてダーナの心核なんてものが精霊の封印地にあったんだ ? |
| キール | ダーナはこの世界の太陽神の筈だ。神の心が具現化されて抜き出されているってことか ? |
| キール | この世界における神というのは、【何】なんだ ?信仰の対象としての概念ではなく、実在するのだとして何故心だけが置かれているんだ。 |
| ヴィクトル | ダーナは人神だ。 |
| ミラ=マクスウェル | 元は人間、ということか。 |
| イクス | 後世に神として崇められるようなことをした人……。 |
| イクス | 待って下さい。世界の始まりの場所が精霊の封印地ならまさかこの世界を創造したのは神になる前のダーナってことですか ? |
| キール | 待て。話が合わない。世界の前にダーナが……人が存在していたのか ?だとしたら、人は【どこから】来たんだ ! ? |
| ミラ=マクスウェル | ……この世界の前に、世界があった、ということか。 |
| イクス | ……あぁ……まさか、まさか……。 |
| キール | ――馬鹿な。これを突き詰めて考えるとここは本当に死の世界になるぞ……。 |
| ヴィクトル | そうだ。ここは鏡士ダーナが生み出した箱庭の世界。ダーナの心が創造の力で生み出した理想郷だ。 |
| ヴィクトル | そしてダーナが暮らしていた世界ニーベルングは既に滅びた。ここはニーベルングの生き残りが世界の消滅から逃れるために生み出した閉じた箱庭だ。 |
| イクス | それを……壊したり、具現化したりしてきたのか俺たちは……。最初の世界が消滅したことも知らないでこの世界が最初から具現化された世界とも知らないで。 |
| Character | 4話【2-7 ひとけのない森1】 |
| クラトス | ……これで、今最低限共有するべきことは伝えられた。まだ話すべきことはあるがあとはヴィクトルを休ませてからにしよう。 |
| クラトス | ヴィクトル、ひとまずケリュケイオンに戻るぞ。 |
| ヴィクトル | ああ。 |
| ヴィクトル | イクス。少し状況が落ち着いてからこの手紙をエルに渡して欲しい。 |
| イクス | 直接伝えないんですか ? |
| ヴィクトル | ……頼む。 |
| イクス | ――わかりました。お預かりします。 |
| クラトス | この島を具現化させたことで混乱している者も多かろう。そちらは情報収集にあたってくれ。 |
| クラトス | 私はヴィクトルを休ませた後フィリップたちと状況を再整理する。 |
| イクス | そうですね。俺も、この話をミリーナに伝えないと。 |
| クラトス | では失礼する。 |
| コーキス | なぁ、マスター。俺、よくわかってないんだけどこの世界の前に別の世界があったってことなのか ? |
| イクス | ……ああ。信じられないけどでもそれなら納得できることもあるんだ。 |
| キール | ティル・ナ・ノーグの外――本来宇宙空間である場所すらも、虚無になっていることだな。 |
| イクス | ああ。ゲフィオンの仕業なのかと思っていたけどカレイドスコープのせいで虚無が発生したのなら虚無はカレイドスコープから外へと広がっていく筈だ。 |
| イクス | 真っ先に消滅するのはセールンドじゃなければおかしい。でも実際はセールンドは残ってるだろ。 |
| イクス | 多分、虚無とはニーベルングという世界が消滅した跡地で、その中にティル・ナ・ノーグという世界が造られたんだ。 |
| キール | ああ。ぼくもそう思う。本来は虚無に飲み込まれないための防御機構が備わっていたんだろう。 |
| キール | 或いはそれが精霊の封印地だったのかも知れない。だが、カレイドスコープによって防御機構が消失しティル・ナ・ノーグは外側から虚無に浸食された。 |
| キール | 外側から浸食された場合この世界が球状の星なら、世界の全ての場所が一瞬で虚無に飲み込まれるのが普通なんだが……。 |
| イクス | 何らかの力が働いてセールンド周辺は消滅せずに済んだ。 |
| キール | ああ。そしてカレイドスコープによって生み出された死の砂嵐は虚無に漂い続けることになった。 |
| コーキス | ……ってことは人間は何回も世界を壊してるってことか ? |
| ミラ=マクスウェル | そうだな。その時々、携わった人間も事情も違うがここでは同じようなことがくり返されてきたのだろう。 |
| ジェイド | ――ふむ、なるほど。無機物は問題なさそうですね。 |
| ユーリ | ……何やってるんだ、ジェイド。 |
| ジェイド | あなた……丈夫でしたよね。 |
| ユーリ | は ? |
| ジェイド | いえいえ、こちらの話です。ちょっと実験動物になってくれるとありがたいのですが。 |
| ユーリ | 冗談は存在だけにしておいてくれ。 |
| ジェイド | やはり断られましたか。 |
| ユーリ | 何をさせるつもりだったんだ。 |
| ユーリ | ――ん ? 何だこの蜃気楼みたいな穴は。 |
| ジェイド | あなたの持っている魔鏡通信機で私の装置に繋いでもらえますか ? |
| ユーリ | ……はーん。そういうことか。 |
| ユーリ | ――よし。通信、繋がったぜ。 |
| ジェイド | 何が見えます ? |
| ユーリ | 木、だな。草と……空も。それに鳥がいる。 |
| ジェイド | 危ない場所ではないようですね。少なくとも植物が自生できる場所なら危険度は下がる。あとは……。 |
| ユーリ | 人間がここを通れるかってことか。そういうことなら試してみるか。 |
| ジェイド | いえ、少し待っていて下さい。ここにはもう少し遠慮せずに実験の協力をお願いできる存在がいますから。 |
| カーリャ | 何なんです、ワル眼鏡大佐。人を魔鏡通信で呼び出しておきながら返事も返してこないなんて。 |
| ジェイド | あー、すみません。うっかり私の魔鏡通信機をそこの穴に落としてしまったものですから。 |
| カーリャ | へ ? 穴 ? |
| ジェイド | えい♪ |
| ミリーナ | ちょっ ! ? カーリャに何を ! ? |
| カーリャ | ぎゃああああぁぁぁぁぁ―― |
| ユーリ | おいおいマジかよ。そりゃないだろう ! |
| テネブラエ | カーリャさんが消えました ! ? |
| カーリャ | ミリーナさまぁぁぁぁぁ ! ここどこですかぁぁぁ ! ? |
| ミリーナ | カーリャ ! ? 大丈夫 ! ? |
| ジェイド | ふむ、存在が消えないということはこの島……仮にアジト島としますが、アジト島からさほど遠くない場所に繋がっているということですね。 |
| ミリーナ | どういうつもりですか ! ? |
| ジェイド | いえ、いくつかの実験で、この穴がどこかと繋がっていることが確認できたので生き物も通れるのかと思いまして。 |
| ジェイド | ああ、ご安心を。昆虫や鳥などで何度か実験は済ませていますのである程度の確証はあったのですよ。 |
| ミリーナ | 丁寧な説明をどうも ! それで、どうやってカーリャをここへ戻すんですか ! ? |
| ジェイド | カーリャ。近くに今通った穴と同じようなものはありませんか ? |
| カーリャ | ほぇぇぇ ? あ、ありましたー ! |
| カーリャ | ああああ ! ? 戻ってこられたー ! ? ! ?何すんだ、この性悪眼鏡 ! ! |
| ジェイド | 元気そうで何よりです♪ ただ、ここがある種のゲートとして使えるのでしたら、この穴を通じて不審者が入り込んでくる可能性がありますね。 |
| ジェイド | ミリーナ、あなたはこの話をイクスたちに共有しておいて頂けますか ?私は一旦この穴を使えないような手段を構築します。 |
| ミリーナ | ……わかりました。でもその前に、カーリャに謝って下さい。 |
| ジェイド | そうですね。申し訳ありませんでした。実験へのご協力、感謝しますよ。 |
| カーリャ | ジェイドさまのばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかっっっ ! ! |
| ミリーナ | カーリャ。相手と同じ土俵に立ったら駄目よ。ほら、行きましょう。 |
| テネブラエ | あの、ミリーナさん。私はもう少しここにいます。 |
| ミリーナ | え ? ええ、わかったわ。エミルたちを見かけたら連絡するわね。 |
| ジェイド | ユーリ、それに……。 |
| テネブラエ | テネブラエ。センチュリオン・テネブラエと申します。ラタトスク様の眷属のようなものです。 |
| ジェイド | なるほど。私はジェイド・カーティス。よろしければ名前の方で呼んで下さい。 |
| ジェイド | まぁ、それはそれとしてお二人は何故ここに残っているんです ? |
| ユーリ | 何、あんたがその穴を封じるところでも見せてもらおうかと思ってね。 |
| テネブラエ | 奇遇ですねぇ。私もその点が非常に気になりまして。何しろあなたは、人間にしてはあまりに非情な心の持ち主です。 |
| テネブラエ | その闇の心にシンパシーを感じます。ええ、私は闇属性なので。闇はいいものです。 |
| ジェイド | 光属性の軍人を捕まえて、ひどい言い様ですねぇ。 |
| ユーリ | 二人で漫談やってる場合か ? |
| ジェイド | ……なるほど。私の邪魔をしないというならついてきても構いませんよ。 |
| テネブラエ | いえ、そこは。 |
| ユーリ | 保証できねぇな。 |
| テネブラエ | おお、呼吸がぴったりではありませんか。その衣装も闇っぽくて実にいい趣味です。あなたも闇属性とお見受けしました ! |
| ユーリ | 頼むから一緒にしないでくれ。 |
| テネブラエ | 何と ! 闇差別ですか ! ? |
| ジェイド | ユーリ、それはいけませんねぇ。あなたも相当に黒いのですから、受け入れて優しくしてあげればいいではありませんか。闇属性同士。 |
| ユーリ | あんたにだけは言われたくねぇな……。 |
| Character | 5話【2-8 ひとけのない森2】 |
| ミリーナ | イクス、みんな。ヴィクトルさんのお話、もう終わっちゃった ? |
| ミラ=マクスウェル | ああ。ヴィクトルの容体があまり良くないようだ。ケリュケイオンに戻った。それと、ヴィクトルのことだが―― |
| イクス | あ、いいよ、ミラ。俺から話す。ミリーナ、ヴィクトルさんから聞いた話を共有するよ。 |
| ミリーナ | ………………。 |
| カーリャ | あ、あの……。カーリャにはもう、何が何だか……。 |
| コーキス | 駄目だな、パイセンは。要するに、アレだ。ニーベルングって世界があったけど、消滅しちゃうからティル・ナ・ノーグを造って引っ越ししたんだって。 |
| コーキス | それが今のこの世界だ。 |
| キール | コーキス。お前だって、さっきまでよくわからないって言ってただろ。 |
| カーリャ | なーんだ。コーキスだってカーリャと同じだったんじゃないですか。 |
| ミリーナ | ……ヴィクトルさんはどうしてそんなことを知っているのかしら。 |
| イクス | バルドさんから聞いたんじゃないのか ? |
| ミリーナ | でも……。それならバルドさんが私たちにその話をしてくれても良さそうなものだったのに。 |
| ミラ=マクスウェル | 確かに、少し不自然だな。 |
| キール | テネブラエなら情報源を知っているんじゃないか ?テネブラエはどうしたんだ ? |
| ミリーナ | あ、そうだったわ。ジェイドさんが、この島から別の場所へ出られるゲートのようなものを発見したの。 |
| ミリーナ | 恐らくあれはこの島が具現化されるときに私とカーリャが維持していた仮想鏡界と現実を結ぶゲートを具現化したものじゃないかと思うんだけど。 |
| イクス | そうか。そんなものまで具現化してたのか……。自分でも信じられないや。 |
| カーリャ | ひどいんですよ ! あの性悪ロンゲスト眼鏡 !カーリャを実験台にしたんです ! |
| ミリーナ | そうなの。カーリャを使って、具現化されたゲートが人間も通れることを確認したのよ。 |
| ミリーナ | それで、このままゲートを放置しておくと不審者が侵入する恐れがあるからゲートを閉じておくって言ってたわ。 |
| ミラ=マクスウェル | 本当にゲートを閉じていいのか ? |
| ミリーナ | え ? |
| イクス | そうか。仮にここを今後の拠点にするとしてもいつまで浮いていられるのか、どうして浮いているのかわからない限りは不安だよな。 |
| イクス | すぐに避難できるゲートは、そのままにしておく方がいいのかも知れない。それに食料の買い出しなんかの時も便利だろうし……。 |
| ラタトスク | おい ! あの眼鏡、裏切ってるんじゃないのか ! ? |
| イクス | また眼鏡…… ? それってジェイドさんのことか ? |
| ラタトスク | 裏切りそうな眼鏡と言えばあいつしかいないだろうが ! |
| ミラ=マクスウェル | そうだろうか。意外と善人そうな描写をされている人間の方が、真犯人であることが多いと推理小説完全解剖にも書かれていたが。 |
| カーリャ | ジェイドさまはストレートに悪い奴ですよ !真犯人です ! 最初から疑わしい真犯人です ! |
| アスベル | 裏切ってるかどうかはともかくジェイドさんがユーリとテネブラエさんという人と一緒に、この島を出たらしいんだ。 |
| ミリーナ | ……やられた。私をイクスのところに行かせてその隙にゲートを使ったんだわ。自分が使うためにカーリャを利用して安全性を確かめたのね。 |
| イクス | でもユーリさんが一緒なんだから、変なことは―― |
| アスベル | ……すまない。こんなことは言いたくないんだがユーリは単独行動を好むところがあるように思う。 |
| アスベル | それにどうも帝国への再侵入を計画していたらしい節もあるんだ。 |
| イクス | ――あ、じゃあテネブラエさんが……。 |
| ラタトスク | さんなんぞいらない。あのくそバカが。 |
| ラタトスク | あいつは手負いなんだ。使役する魔物もいない。そんな状態であの戦闘狂と真犯人に勝手な動きをされて止めることができるかってんだ。 |
| コーキス | アレ ? でもどうしてその三人が島を出たってわかったんだ ? |
| イクス | テネブラエさんの声がラタトスクに聞こえたとか ? |
| ラタトスク | いや、あの時はミリーナの仮想鏡界が崩壊しかかって思念のようなものが届きやすい環境だったからだろう。普通は近くにでもいなけりゃ、奴の声は聞こえない。 |
| アスベル | どうもラピードとミュウが現場を見ていたらしい。テネブラエさんがミュウにこの状況を知らせるよう伝言したんだそうだ。 |
| イクス | その絵面は、なんか和むな……。 |
| ラタトスク | テネブラエのことが気になる。俺とアスベルとマルタで追いかけてみる。 |
| イクス | あ、俺も行くよ。 |
| アスベル | イクスはまだ病み上がりみたいなものだろ。 |
| イクス | いや、大丈夫。少しは体を動かさないと。 |
| ミリーナ | だったら私も行くわ。 |
| アスベル | ――わかった。でも無理は禁物だからな。 |
| イクス | うん、大丈夫だよ。 |
| イクス | じゃあミラとキールは、他のみんなの状況を確認しておいてもらえるかな。 |
| イクス | それとヴィクトルさんのことも含めてさっきの話はまだ伏せておいてくれ。 |
| キール | そうだな。ぼくたちも状況を整理して飲み込んでからでないと説明が難しいし。救世軍側にもその旨知らせておこう。 |
| ミラ=マクスウェル | 救援が必要ならすぐに連絡をくれ。 |
| イクス | ああ、ありがとう ! |
| Character | 6話【2-12 ひとけのない森】 |
| ユーリ | 生きてるみたいだな。 |
| ジェイド | まぁ、アジト島がイクスによるミリーナの仮想鏡界の具現化なら、先ほどの穴はミリーナとカーリャが創り出していたゲートの具現化と推測できます。 |
| ジェイド | 概ね問題はないことは予測できてはいましたが試してみないことにはわかりませんからね。 |
| テネブラエ | ジェイドさん。そこに落ちている鏡はあなた用の通信装置なのでは ? |
| ジェイド | おや、ありがとうございます。 |
| ユーリ | しかし、ここはどこなんだ。見上げると少し先にアジト島が見えるってことはそんなに離れた場所じゃないだろうが……。 |
| ジェイド | 地形と位置関係を確認すると……セールンドの外れではないでしょうか。 |
| ユーリ | ……帝国へ行くには、ちっと遠いか。 |
| ジェイド | おや、まだ諦めていなかったのですか ? |
| ユーリ | デミトリアスってのに直接会った方が話が早いと思ってるだけさ。 |
| ジェイド | まぁ、その点は同意ですがアスガルド帝国というのは色々と得体が知れませんからもう少し慎重になって頂けるとありがたいですねぇ。 |
| ユーリ | つっても、このまま奴らの動きに合わせてオタオタしてても仕方ねぇぜ ? |
| ジェイド | ええ、もちろんです。では、そろそろ移動しましょうか。 |
| テネブラエ | やはり何かあるのですね。 |
| ユーリ | 何するつもりかしらねぇが、ま、お手並み拝見といきますか。 |
| テネブラエ | この街は…… ? 随分寂れていますね。 |
| ユーリ | セールンドか。ここにはまだ帝国の連中がウロウロしてるんじゃねぇのか ? |
| ジェイド | ええ、それでいいんです。 |
| ユーリ | ――見つかったか ! |
| 帝国軍兵士 | しっ ! 大きな声を出すな。 |
| テネブラエ | ……その声は ! ? |
| ジェイド | おや、声で気付くとはさすがですね。 |
| 帝国軍兵士 | 何でテネブラエが……。まぁ、とりあえず場所を変えよう。そこの建物の中が安全だ。ついてきてくれ。 |
| テネブラエ | ……あのおかしな香水の匂いがしませんがあなたはデクスですね。 |
| デクス | ぷはー。やっとあの汚い服を脱げたぜ。よう、テネブラエ。異世界ってところでも顔を合わせるとはな。 |
| テネブラエ | アリスはどこです。何か企んでいるのではありませんか ? |
| デクス | 何だよ、何も説明してないのか ? |
| ジェイド | 元々連れてくるつもりはありませんでしたから。 |
| ユーリ | で、こいつぁ誰なんだよ。……なんか見覚えある気もするけど。 |
| ジェイド | そうでしょうね。エミルたちが出していた鏡映点リストに入っていました。 |
| ジェイド | 彼は私の間者です。バルドたちだけを信用するのも危険だと思っていましたので帝国に侵入してもらっていました。 |
| デクス | 愛の使者デクスだ。よろしくな。 |
| ユーリ | ……またこんなのか。 |
| ジェイド | 仕方ありません。たまたま見つけた鏡映点がこのデクスだったので。 |
| デクス | いやぁ、ジェイドに「あなたの力が必要なんです」って頼み込まれちまってな。 |
| デクス | 俺の愛する人を捜してくれるって条件で協力することにしたんだ。頼られたのに力を貸さないのは男が廃るからな。 |
| テネブラエ | ジェイドさん。彼は危険です。 |
| ジェイド | ええ、アリス嬢が傍にいれば、ね。今のところ彼女は見つかっていません。帝国にいるという話も聞かない。 |
| ジェイド | まぁ、今のところは安全弁が効いている状態ですよ。それに情報も正確です。だからこそ私もイクスの救出作戦で、色々と無茶な予測を立てられました。 |
| ユーリ | おい、これを他に知ってる奴は―― |
| ジェイド | いません。 |
| ユーリ | だろうな。まったく、散々オレが単独行動をする危険分子だって喧伝しておいて自分が一番勝手なことをやってるじゃねぇか。 |
| ジェイド | ありがとうございます。 |
| ユーリ | 褒めてねぇけどな。 |
| ジェイド | デクス。帝国内の鏡映点の状況を聞かせてもらえますか。 |
| デクス | 俺が新しく確認できたのはエルレイン、ハロルド、イオン、リチア。 |
| ジェイド | ! ? |
| デクス | それに帝国に引き込むのに失敗したのがダオス。離反したのがザビーダってところだ。 |
| ジェイド | ……全員鏡映点リストに名前が載っていますね。一つ確認したいのですが、イオンというのは……どのような人物でしたか ? |
| デクス | いや、そっちは名前だけだ。なんか実験に関わってるみたいでハロルドと同じく姿が見えない。 |
| ジェイド | ……そうですか。 |
| デクス | あと、ヨウ・ビクエって女の子の体は間違いなく帝国が回収してる。こっちは確認できた。 |
| テネブラエ | ヨウ・ビクエの体を帝国が回収したところは私も見ていました。まだ体が動かない状況でしたので阻止することはできませんでしたが……。 |
| テネブラエ | もともとヨウ・ビクエの体は精霊の封印地で眠っていましたから。 |
| ジェイド | なるほど、テネブラエはヨウ・ビクエのことも知っているのですね。これは後で色々と話を聞かせてもらう必要がありそうです。 |
| ジェイド | それはともかく、ありがとうございました、デクス。さすが私が見込んだ通り、有能ですね。 |
| ユーリ | 棒読みじゃねぇか……。 |
| ジェイド | では引き続き、潜入調査をお願いします。 |
| デクス | ああ。このデクス様に任せておいてくれ。 |
| ユーリ | ――待った。デミトリアスと顔を合わせられるようなチャンスはないか ? |
| デクス | デミトリアスか……。わかった。奴のスケジュールも探ってみる。 |
| テネブラエ | ………………。 |
| デクス | それじゃあ、そろそろ行くぞ。 |
| デクス | ……さっきリヒターとすれ違ってな。気付かれたかも知れないんで少し慎重に動きたいんだ。 |
| ジェイド | もしも捕まったら――わかっていますね。 |
| デクス | ああ、そこはぬかりないぜ。じゃあな ! |
| テネブラエ | いやぁ、予想していたよりまともな行動でしたね。ジェイドさん。 |
| ユーリ | ああ。てっきり帝国の連中に情報でも売るのかと思ってたけどな。 |
| ジェイド | 嫌ですねぇ。売るほどの情報もないじゃないですか。それより、先ほどから何度も魔鏡通信の呼び出しが来ていますが、出ても構いませんよ。 |
| ユーリ | んじゃ、心配してる連中に返事してやるか。 |
| Character | 7話【2-13 セールンドの街】 |
| イクス | ここが……ゲートの先、か。 |
| アスベル | ここはどこなんだ ? |
| イクス | 多分……セールンド島の外れだと思うんだけど……。 |
| ラタトスク | ――くそっ ! |
| マルタ | ラタトスク、落ち着いて。 |
| ミリーナ | どうしたの ? |
| ラタトスク | ジェイドとユーリの魔鏡を呼び出してるんだがあいつら一向に出ないんだ。何してやがる ! |
| アスベル | この辺りにはいないみたいだな。 |
| コーキス | この姿に戻ったから、鏡映点がいればチキン肌になるよな。 |
| カーリャ | 一回知り合いになった鏡映点だと激しくぶるぶるはしないかもですけど反応はあると思いますよー。 |
| アスベル | それだと、アジトにいるときはずっと震えっぱなしなんじゃないか ? |
| カーリャ | んー。いるなぁってことは何となくわかりますけど新入りの鏡映点の方を見つけた時ほど激しくないので慣れちゃうんでしょうね。 |
| アスベル | へぇ、不思議だな。 |
| イクス | ――少しジェイドさんたちの動きを考えてみたんだけどセールンド島に来たなら、情報を仕入れに街の方へ行ったかも知れない。 |
| イクス | 帝国の連中に見つからないように街の方へ向かってみよう。 |
| ラタトスク | わかった。 |
| マルタ | ねぇ、エミルに状況を話しておいた方がいいんじゃないかな ? |
| ラタトスク | 急いでるんだ。後で説明すればいい。 |
| マルタ | ………………。 |
| イクス | ……魔鏡結晶の柱、まだあるんだな。 |
| ミリーナ | バルドさんとセシリィが魔鏡結晶の穴を塞いでくれたから死の砂嵐はあそこに封じ込められたまま……。 |
| イクス | ……あの人たちを救えないのかな。 |
| ラタトスク | あいつらはもう死んでるんだろ ? |
| イクス | そうだけど……。でも意識はあるんだ。俺はずっとその声を聞いてきたから……。 |
| イクス | 最初は死の砂嵐を何とかして消せばこの世界は守られるんだって単純に考えてたけど本当にそれでいいのかなって。 |
| ラタトスク | ん ? ユーリから魔鏡通信だ。 |
| ラタトスク | おい ! 今どこにいやがる ! |
| ユーリ | セールンドだ。……って、お前らもセールンドに来てるのか。 |
| アスベル | ユーリたちを追いかけてきたんだよ。どうしたんだ。アジトがあんなことになってみんなもバタバタしているときに、勝手に抜け出して。 |
| ユーリ | 勝手なのはこいつ。 |
| ジェイド | はっはっはっ。同調圧力をかけられました。 |
| テネブラエ | これはドーチョーもないですな。はっはっはっ ! |
| アスベル | え ! ? 何だ、この……猫のような……黒い……。 |
| テネブラエ | センチュリオン・テネブラエ。ラタトスク様のしもべです。 |
| マルタ | テネブラエ ! ? ホントにテネブラエ ! ? |
| テネブラエ | これは……マルタ様 !やっとこちらでもお顔を見ることができましたね。 |
| マルタ | テネブラエ、早く会いたい。今どこにいるの ? |
| テネブラエ | アジト島に続くゲートに戻るところです。もう少しでマルタ様のいる区画に着きますよ。 |
| マルタ | 本当 ! ? どっちから来る ! ? |
| イクス | ユーリさんたちがどこから来るのかわからないと方角までは……。 |
| アスベル | ――待った。誰か来る。 |
| マルタ | テネブラエ ! ? |
| テネブラエ | おや、私たちはまだそちらには―― |
| コーキス | じゃあ、帝国兵か ! ? |
| カーリャ | はわわ、隠れましょう ! |
| マルタ | ――待って。あれって、リヒター ! ? |
| ラタトスク | 何 ! ? |
| テネブラエ | ! ! |
| イクス | あ、ラタトスク ! 駄目だ―― |
| リヒター | お前は…… ! |
| ラタトスク | 丁度いいところに現れやがったな。ここでてめぇの息の根を止めてやる ! |
| マルタ | 待って、ラタトスク ! |
| ラタトスク | 止めるな、マルタ ! |
| リヒター | ――いいだろう。貴様が仇であることは変わらない。どの世界であろうと、元の世界でアステルはお前に殺された ! |
| ラタトスク | ああ、そうだ ! 人は世界を滅ぼす生き物だ。始末して当然だろう ! この世界だってそうだ !人は壊さずにはいられないんだよ ! |
| リヒター | だが、それでもアステルに罪はなかった ! |
| ラタトスク | 知ったことかよ ! ひねり潰してやる ! |
| Character | 8話【2-13 セールンドの街】 |
| リヒター | ここで終わらせてたまるか…… ! |
| ラタトスク | くそ ! しつこい奴だ ! |
| テネブラエ | ラタトスク様 ! |
| ラタトスク | テネブラエか ! |
| テネブラエ | ラタトスク様、武器を収めて下さい。リヒターと戦うことはエミルの本意ではありません。 |
| ラタトスク | エミルがどうした。あいつは俺の身代わりだっただけの人格だ。飾り物にどうして遠慮する ! |
| マルタ | なら、どうしてリヒターが劣勢になったときにとどめを刺さなかったの ? |
| ラタトスク | ―― ! ! |
| リヒター | ………………。 |
| マルタ | ねぇ、ラタトスク。この世界に具現化されて色々状況がわかってきたとき、私たち決めたよね。二人だけど三人で力を合わせていこうって。 |
| ラタトスク | ――俺は……俺が譲ってやったんだ。エミルが俺を封じ込めようとしやがったのにマルタが頼むから、俺は飲み込んだんだぞ ! ? |
| イクス | え、何、どういうことだ ? |
| ユーリ | イクス。今は黙っとけ。 |
| アスベル | 一つの体に二つの存在……。解決すべきことがあるのだとしたらそれは今行われるべきなんだろうと思う。 |
| アスベル | (……ラムダ。お前とも、いつかちゃんと話したいよ) |
| アステル | リヒター !知り合いがいたって、どういうこと―― |
| リヒター | お前は来るな ! ! |
| アステル | ……え ? |
| ラタトスク | ! ? |
| ミリーナ | 浄玻璃鏡が反応した ! ? |
| エミル | やっと……同じところに浮上できたよ。 |
| ラタトスク | 俺の意識が表に出ているときにお前は顔を出せないはずだ。 |
| ラタトスク | ここにはヴェリウスもいない。俺を封じ込める奴は誰もいないはずだ ! |
| エミル | そうだよね。だけど、何でだろう。テネブラエがここに来たときにヴェリウスの気配を感じたんだ。 |
| エミル | それから急に外の様子が見えて僕らと同じ姿の人が駆け込んでくるのがわかった。 |
| ラタトスク | ……あ……あいつは……。 |
| エミル | ラタトスクは知ってるんだよね。あれが……アステルさんなんだね。 |
| ラタトスク | ………………。 |
| エミル | ラタトスク。僕のあのときの選択が――君の存在を心の奥底に封じ込めてしまうことがどれだけひどいことかわかってた。 |
| エミル | わかってたけど、ああするしかないと思ってたんだ。でも少し、試してみてもいいかな。 |
| ラタトスク | 何をだ……。 |
| エミル | 君と話したい。ちゃんと。ここなら時間のリミットはない。 |
| エミル | 僕は自分のことをラタトスクの良心や優しさだなんて思ってないよ。優しさは君にもあるんだって、僕は知ったから。 |
| ラタトスク | ふざけるな ! 俺は―― |
| エミル | ラタトスク、聞いて。僕は君、君は僕。本当は何も変わらないんだ。 |
| エミル | 僕は以前、元の世界で、戦うことが怖くて嫌な役割を全部君に押しつけようとした。 |
| エミル | 君はリヒターさんの復讐に取り憑かれた心を知って自分がしてしまったことを後悔した。 |
| エミル | それで、僕が優しさそのものなの ?君が封じられるべき存在なの ? |
| ラタトスク | お前は……俺を封じて、自分もギンヌンガ・ガップの扉に封じられるつもりだったんだろう。俺はそんな奴は認めない。 |
| エミル | あの時、元の世界の僕がやろうとしていたことがわかったなら、今僕が何を考えているかもわかるよね。 |
| ラタトスク | 俺はお前みたいなひ弱な坊やじゃない。 |
| エミル | 僕だって、君みたいな乱暴者じゃないよ。だけど君はただ乱暴なんじゃない。 |
| エミル | 君の優しさがずっと踏みにじられてきたからそうならざるを得なかったんだ。 |
| ラタトスク | ……で、お前は、自分の弱さを盾にして俺に迫るのか。決断を。 |
| エミル | ねぇ、僕は思うんだよ。僕はラタトスクでもありエミルでもある。君はエミルでもありラタトスクでもある。 |
| エミル | ただそれを―― |
| ラタトスク | ――わかったよ。 |
| エミル | ラタトスク ? |
| ラタトスク | ……お前を信じてみる。いや、自分を信じて、受け入れてやるさ。 |
| エミル | ありがとう…… ! 君が僕でよかった。 |
| Character | 9話【2-14 ひとけのない森】 |
| テネブラエ | ……エミル様。 |
| リヒター | ……エミル、ラタトスクはどうした。 |
| エミル | ここに。一緒にいます。本来あるべき姿に戻ったんだと思います。 |
| マルタ | ラタトスクを封じた訳じゃないよね ? |
| リヒター | ラタトスクを封じる ? どういうことだ。 |
| エミル | 僕は元の世界でラタトスクを封じようとしたんです。心の精霊ヴェリウスの力を借りて。 |
| エミル | でも……この状態は違います。僕がこうしてみんなと話しているようにラタトスクも一緒に話を聞いてる。 |
| エミル | 主人格が入れ替わってもこの状態は変わりません。今の僕は……エミルとラタトスクは対等なんです。 |
| ラタトスク | リヒター。さっきの勝負は一時中断だ。エミルは戦いたくないらしいからな。 |
| エミル | ……って、こんな感じで。ややこしいですかね、はは……。 |
| アステル | すごい ! もしかしてあなたは精霊ラタトスク ! ?どうして僕と同じ姿なのかわからないけどあなたにずっと会いたかったんです ! |
| エミル | あ……あの……。僕……ごめんなさい。 |
| アステル | え ? どうして謝るんですか ? |
| リヒター | エミル。お前が謝る必要はない。それに……アステルは何も知らない。だから―― |
| エミル | ……だったら、リヒターさんに謝らせて下さい。ラタトスクも本当は後悔してるから。 |
| エミル | あ、謝られても困るのはわかります。許して欲しいとは言いません。 |
| エミル | これは、精霊ラタトスクのけじめです。僕もラタトスクだから。 |
| ラタトスク | ……いや。エミルはこういってるが、俺は謝らないぞ。だから貴様は未来永劫ラタトスクを恨めばいい。それでいいんだ。 |
| エミル | あ……ラタトスク……。 |
| リヒター | ……それでいい。 |
| エミル | え ? |
| リヒター | 俺はラタトスクを憎み、恨み続ける。それでいいんだ。 |
| アステル | ……ねぇ、やっぱり僕、ラタトスクに殺されたの ? |
| エミル | えっ ! ? あ、あの……。 |
| アステル | みんなが噂してたよ。四幻将はみんな大切な人を甦らせたかったんだって。 |
| アステル | 僕がリヒターの大切な人ってのは笑っちゃうけど。 |
| マルタ | ええ……。そんなこと言っちゃう…… ? |
| アステル | 僕はさ、リヒターに自分を大事にして欲しかったんだよね。まあ、その話は一旦置いとくけど……。 |
| アステル | だからリヒターは僕を具現化してもらったんでしょう ? |
| アステル | 今の僕には、フィールドワークしながら精霊ラタトスクを探していた頃の記憶までしか残ってないんだ。 |
| アステル | だからきっと、道中に何かあったんだろうな……とは気付いてた。 |
| アスベル | リヒター。この成り行きを見る限りお前と俺たちは戦う理由がないように思う。 |
| アスベル | さっきの言葉は「ラタトスクを憎むことはやめないけれど、殺すつもりもない」ってことだよな。 |
| リヒター | ……いや。こちらの世界に来てからの事情もある。 |
| リヒター | 俺は……チェスターやミトスのようにお前たちと合流することはない。俺の前に立ちはだかるなら、お前たちは俺の敵だ。 |
| イクス | リヒターさん。どうしてですか。あなたは話せばわかる人だと感じました。理由を聞かせて下さい。 |
| リヒター | 理由、か。そうだな。俺はメルクリアを放っておけない。ただそれだけだ。 |
| ジェイド | なるほど、それは残念です。ではアステル―― |
| ジェイド | 今からあなたは私たちの大切な人質です。せいぜい大人しくして下さい。 |
| アステル | ええっ ! ? い、痛っ ! ? |
| リヒター | な…… ! ? 貴様、アステルを放せ ! |
| ジェイド | ご冗談を。敵の言うことを素直に聞く軍人がいると思いますか。 |
| ジェイド | さあ、リヒター。武器を捨てて、距離をとって下さい。隙を突こうとしても無駄ですよ。 |
| ジェイド | あなたがおかしな動きを見せた瞬間に、私はアステルの喉を掻き切って、あなたに譜術……そちら風に言えば魔術をお見舞いすることができます。 |
| ジェイド | 本気だと言うことは……おわかりですよね ? |
| エミル | ジェイドさん ! やめて下さい ! |
| マルタ | そ、そうだよ。なんか……おかしくない ?こういうのって悪い人がやることでしょ ? |
| ジェイド | いいえ。手段を選ばない人間がやることですよ、マルタ。さあ、リヒター、武器を捨てなさい ! |
| テネブラエ | いやぁ……悪どい。さすが闇属性です。 |
| リヒター | ……くっ。 |
| リヒター | ……武器を捨てたぞ。これでいいな。 |
| ジェイド | いい子ですね。イクス、ミリーナ。リヒターを牽制して下さい。私はこのままアステルをアジトへ連れて行きます。 |
| リヒター | ……あの空に浮かぶ島か。とんでもないものを具現化したな。 |
| イクス | すみません。えっと、ジェイドさんの分もすみません。でも……ジェイドさんは理由もなくこんなことをする人じゃない。 |
| イクス | ……ってルークが、えっと仲間が言ってました。俺もそう思います。アステルさんの安全は保証します。ここは退きましょう。お互いに。 |
| ユーリ | ま、そっちは一人、オレらはジェイドと鏡精コンビとテネブを除いても六人。おまけに人質もいる。あんたはバカじゃないだろ。 |
| アスベル | 卑怯な真似をして済まない。イクスだけじゃなくて、俺も約束する。アステルを傷つけないし、傷つけさせたりしない。 |
| ミリーナ | 私もよ。大切な人を失う悲しみは、私もよく知っているもの。 |
| マルタ | リヒター……。ごめん。本当にごめんなさい。 |
| リヒター | ……今は……退く。 |
| リヒター | だが、アステルは必ず返してもらう。もしアステルに何かあればあの島ごと、貴様たちを消滅させるからな ! |
| Character | 10話【2-15 静かな街道】 |
| マルタ | ねぇ……本当に良かったの ?完全にリヒターのこと怒らせちゃったけど。 |
| エミル | だけど、ジェイドさんのこと誰が止めるの ?ルークたちかリフィル先生でも一緒だったらともかく……。 |
| テネブラエ | いやぁ、リフィルさんはどうでしょうね。あの人は爆弾魔だったそうじゃないですか。 |
| アステル | あ、僕のことは気にしないで下さい。 |
| アステル | 本気で腕を捻り上げられたときはヤバいって思ったけど冷静に考えれば皆さんのところには精霊がたくさんいるんですよね。 |
| アステル | むしろいいチャンスだと思うことにしました。 |
| ジェイド | そう言っていただけてほっとしました。善良な一小市民としては、あのような手段に出ることに罪悪感を抱いていたものですから。 |
| ユーリ | よく言うぜ。だが、まぁ、この坊やは研究者なんだろ。キールやリタが大喜びするんじゃねぇの ?帝国の事情にも詳しそうだしな。 |
| エル | あ ! ルドガー !悪いメガネのおじさんたち戻ってきたよ。 |
| カーリャ | ふっふっふっ。完全に悪メガネで定着していますね。しめしめです。 |
| ルドガー | みんな、お帰り。……あれ ? エミルが……二人 ?え ? まさか、エミルとラタトスクが分離した ! ? |
| アステル | あ、そっくりですけど、別人です。人質のアステルって言います。 |
| アステル | あなたは、確か骸殻っていう力を持っているルドガーさんですよね。なんか変身ヒーローみたいで格好いいなって思ってました ! |
| ルドガー | え ? は、はぁ…… ? え ? 人質 ? |
| アスベル | はは……。混乱することだらけだよな、この状況。 |
| イクス | ルドガーにエル !この島の状態はどうかな ? 怪我人とかは……。 |
| ルドガー | 光魔との戦いでかすり傷を負った人はいるけどみんな元気だったよ。 |
| ルドガー | アジトの建物も仮想鏡界の時と変わってないからいまはみんなそれぞれの部屋で待機してもらってる。 |
| ルドガー | 一部の人はケリュケイオンにいるけどね。 |
| エル | 今ね、ルドガーと島の探検してたんだ。 |
| ルドガー | みんなが見た島の情報をキールたちがまとめてくれたからそれを元に地図を作ろうと思って。 |
| ミリーナ | さすがルドガーさん。助かるわ。 |
| ルドガー | そういえば、また一人鏡映点が来たらしいって聞いたけど、どこにいるんだ ? |
| イクス | えっと……。あー……ちょっと怪我をしているんで今はケリュケイオンで休んでる……かな。 |
| ルドガー | そうか。じゃあ救世軍と行動を共にするのかな。だとしたら、食事の準備は今までのままで構わないか。 |
| ミリーナ | あ、アステルさんが加わるから一人分追加してもらえると助かるわ。 |
| ルドガー | よし。ファラ生活向上委員会に共有しておくよ。 |
| ジェイド | さて、早速アステルの話を聞きたいですね。それと……イクス。何か隠していますよね。そのことも教えていただけますか ? |
| イクス | え ! ? な、何も……隠してなんて……。 |
| エル | あー ! イクス、嘘ついてる ! |
| イクス | (困ったな……。エルの前でヴィクトルさんの話はできないよ……) |
| ルーティ | イクス ! ミリーナ ! |
| イクス | ルーティ ? あれ……目が赤い……。 |
| ルーティ | あ……これは何でもないの !それより医務室に来てよ。 |
| イクス | まさか、誰か目を覚ましたのか ! ? |
| ルーティ | セシリィと……ジョニーが…… !とにかく早く来て ! なんかもう、帝国の奴ら本当に酷いことばかりしてきたみたいで……許せない。 |
| アステル | ……すみません。 |
| ルーティ | え ? 何でエミルが謝るの――って、エミルが二人 ! ?ラタトスクと分離したの ! ? |
| ルドガー | 俺と同じこと言ってる。 |
| ルーティ | えー、だってそう思うじゃない。精霊なんだからそれぐらいできそうだし。 |
| ルーティ | あー、話がそれた。とにかく医務室に来て。ジョニーの話も聞いてやって。 |
| イクス | わかった。えっと……。 |
| ユーリ | オレはキール研究室に顔を出してくる。アスベル、お前も来いよ。 |
| アスベル | …… ? 構わないよ。 |
| エミル | えっと僕は―― |
| ラタトスク | 他の精霊組に話がある。テネブラエ、来い。 |
| テネブラエ | はい、ラタトスク様。 |
| マルタ | 私も一緒に行く。 |
| アステル | 僕は……良ければ、僕も医務室にご一緒させて下さい。 |
| ジェイド | 私も同行させていただきます。 |
| コーキス | ん……。 |
| カーリャ | どうしました、コーキス。 |
| コーキス | なんか、目の奥がかゆくて。……ゴミでも入ったかな。 |
| ミリーナ | コーキス、大丈夫 ? |
| コーキス | ああ、うん。大丈夫です。 |
| コーキス | それよりマスター、医務室に行くんだろ。急ごうぜ。 |
| イクス | ああ。 |
| | to be continued |