Character1話【2-1 精霊の封印地への道のり1】
ヴィクトルルドガーと共にいる君たちなら今更説明するまでもないだろうが私の世界には正史と分史という概念がある。
ヴィクトルこの世界に具現化された私はまずこの世界が分史世界であることを疑った。
ヴィクトル調べを進めるうちにバルドと知り合いここが正史や分史とは何の関係もない別世界だと言うことを知った。
ヴィクトルここでは分史世界の人間であろうと正史と同じように存在できるのだと……。
ヴィクトルだが、アスガルド帝国はこの世界に分史世界という概念を生み出そうとしていると知り私はやむを得ずバルドと協力することにした。
イクス分史世界という概念…… ?分史世界というのは並行宇宙のような物なんですよね。
ヴィクトル単なる並行宇宙とは違う。ある一族の血を引く者が望み生み出した可能性の世界だ。
イクス………………。
イクス――ミリーナ。話の途中だけど、着替えてきたら ?
ミリーナえ ! ? こんな大切な話をしているときに ! ?
キールそうだぞ、イクス。何を空気の読めないことを言ってるんだ !
クラトス……いや、汚れた服のままでは居心地も悪かろう。行きなさい。
ミリーナ……は、はい。
テネブラエ私もお供しましよう。この島の様子を見にいったラタトスク様のことも気になります。お話はヴィクトルさんに任せます。
カーリャはわわ、待って下さい、ミリーナさま !
ヴィクトル……優しいな。
イクス……ごまかしだってことはわかってます。でも今はミリーナにこの話を聞かせたくない。後で、俺からちゃんと説明します。
イクスこの世界は……ゲフィオンの生み出した分史世界のようなものだから。
キールイクス……。
イクスヴィクトルさん。分史世界が誰かの願いによって生み出された並行世界なら、このティル・ナ・ノーグはどうして分史世界と定義されないんでしょうか。
イクス分史世界にあってこの世界にないもののために帝国は分史世界という概念を持ち込もうとしているんですよね。
ヴィクトルなるほど……。君は賢いな。だが、この具現化世界と分史世界は決定的に違うことがある。
ヴィクトルだがその前にここに至るまでの状況を話しておきたい。
イクスわかりました。先走ってすみません。
ヴィクトル――では話を戻そう。アスガルド帝国は分史世界という概念をこの世界に生み出すにあたって精霊の力が必要であることに気付いた。
ヴィクトルそして精霊を支配下に置こうとしてこの世界の精霊マクスウェルを殺してしまった。
ヴィクトルだが、マクスウェルは必要不可欠な精霊だ。彼らは代わりのマクスウェルとしてミラを具現化した。
ミラ=マクスウェルその『ミラ』というのは私ではない、もう一人のミラのことだな。
ヴィクトル……そうだ。今は……そうだな。分史世界のミラと呼んでおこう。
ヴィクトル分史世界のミラにこの世界のマクスウェルの残滓をキメラ結合させ、新たな精霊マクスウェルを作る。それがアスガルド帝国の目的だった。
ヴィクトル私はバルドに頼まれ、それを阻止するために分史世界のミラを移送していた馬車を襲撃した。
サレ……ま……さか……こんな……。
帝国軍兵士Aサレ様が負けた…… ! ?
帝国軍兵士Bど、どうする……。
ヴィクトル…………。
帝国軍兵士A来るぞ ! ?
ミラ待って !
ミラあなた……何者 ? それ、骸殻能力よね。
ヴィクトル私は――私はエルの父親だ。
ミラ! ?
キールエルの父親 ! ? あなたが ! ?
イクスだったら、今すぐエルをここへ――
ヴィクトル今はいい。こんな姿を見せて、エルを心配させたくない。
イクスでも――
クラトスイクス。ヴィクトルは怪我の治療を急ぐべきだ。今は最低限情報を共有させてやれ。
イクス……はい。
ヴィクトル私は分史世界のミラに何が起こっているのか説明をした。
ヴィクトルそして一足先に、【精霊の封印地】へ向かって欲しいと告げたのだ。

Character2話【2-5 精霊の封印地3】
イクス【精霊の封印地】と言うのは一体何なんですか。
ヴィクトル世界の――君たちの世界の始まりの場所だと聞いている。それを帝国が精霊の封印地と名付けた。
イクス始まりって……どういう意味でしょう。文字通りですか ?
ヴィクトルああ。世界が生まれた場所、世界の始まりの場所だ。
コーキス世界ってどうやってできたんだ、マスター ?
イクスそれは宇宙に漂う塵やガスが集まって――いや、待ってくれ。【この世界】は一度滅んでる。だから最初にフィルたちが具現化で世界を造った。
イクスでもそれも壊されて、今度は俺とミリーナと鏡映点のみんなで少しずつ世界を具現化していった。だからこの世界の始まりは……。
コーキスん ?じゃあ、マスターとミリーナさまがこの世界の始まりか ?
キールいや、セールンドの周辺は死の砂嵐に飲み込まれずギリギリ残っていたんだよな。つまり、この世界の全てをイクスたちが具現化した訳じゃない。
ヴィクトルそう。【精霊の封印地】はセールンド海域の小さな島に存在する、今では数少ない【異世界のアニマを借りていない島】だ。
ヴィクトルそこは精霊が眠る場所、精霊の故郷だと言われている。そこでダーナと分史世界のミラを引き合わせるというのが、私とバルドが考えた帝国への対抗策だった。
ヴィクトル私はミラを助け出した後バルドとの約束を果たすためにセールンドへ向かった。
コーキスあ…… ! マスターを助け出したときのことだな。スタンさまとリオンさまとヴィクトル……さまと俺でカレイドスコープの魔術障壁を消したんだ。
ヴィクトルそうだ。その後のことは知っているな。君たちを逃がした後、私は精霊の封印地で分史世界のミラと合流した。
ミラ……遅かったわね。
ヴィクトル片付けなければならないことが多かったのでね。
ミラ………………。
ヴィクトルどうした ?
ミラ私たち、前にどこかで会ってる ?
ヴィクトルいや、君とは初めてだ。
ミラそう……。そうよね。私がエルのお父さんのことを知っている訳ないもの。変なことを聞いてごめんなさい。
ミラそれで、ダーナはどこにいるの ?
ヴィクトル――目の前に。
ミラまさか……この大きな結晶がダーナなの ! ?
ヴィクトル――敵か !
ヴィクトル何だ、こいつは…… ! ?
ミラテネブラエ !
ヴィクトルこいつを知っているのか ?
ミララタトスクとかいう精霊の眷属だと言っていたわ。私たちのように異世界から具現化されたって。
テネブラエ……二人とも、逃げて下さい。アスガルド帝国軍が来ています。
ヴィクトルその怪我は帝国にやられたのか。
テネブラエええ。この場所を守る精霊に封印を強化するように伝えました。あなた方も戦いに巻き込まれる前に――
? ? ?力を貸せ、マクスウェル !
テネブラエぐぅぅぅぅっ ! ?
ミラテネブラエ ! ?
デミトリアス一足遅かったね、センチュリオン・テネブラエ。
デミトリアス具現化されたのは確かだったのにどこへ姿をくらましたのかと思いきや精霊の封印地に身を隠していたとは。
ヴィクトル……デミトリアスか。
ミラこの世界の皇帝…… !
デミトリアスなるほど。仮面の君がサレを傷つけたのか。あのサレに膝をつかせるとは大した手練れだ。
デミトリアスだが、ミラは引き渡してもらうよ。この世界にはマクスウェルが必要だ。
ヴィクトルならば何故先ほどマクスウェルの力を使った ?
ヴィクトル――まさか、精霊装が完成したのか ! ?
デミトリアスそういうことだ !
ミラあの指輪は、ルビアが無理矢理つけさせられていたマクスウェルの指輪 !
テネブラエいけません !あの指輪は精霊の生命エネルギーの結晶。あの力をこの場所で解放されてはダーナの心核が壊れる !
デミトリアスそして、この精霊輪具の力をミラ=マクスウェルが取り込むことでこの世界の新しいマクスウェルが誕生する !

Character3話【2-6 精霊の封印地4】
ミラく……。頭が……痺れる……。
? ? ?聞こえますか、異世界のマクスウェルであったものよ。
? ? ?私の力ではあなたを救い出すことは出来ません。ですが、あなたが力を貸してくれるならあなたを守ることはできます。
ミラどういうこと ! ?
? ? ?私は心の精霊。ミラ、どうかダーナの心を繋ぎ止める楔となって下さい。
? ? ?ダーナの心が壊れれば、この世界も崩壊する。
ミラ! ?
? ? ?私にはわかります。
? ? ?あなたはこの世界に具現化されてからずっとある人々のことを心にとめていることを。彼らとの再会を強く願っていたことを。
? ? ?ですが、このままでは世界そのものが――
テネブラエくっ……。
デミトリアス亜精霊が、マクスウェルを跳ね返した、だと ?
ミラど、どうしてそこまでして私を守るの !
テネブラエ同じ属性の精霊であろうとあなたとこの世界のマクスウェルは別の存在。それを一つにするなど、無礼にも程があります !
ミラ! !
デミトリアスセンチュリオンを排除せよ !
帝国兵たち御意 !
テネブラエ今の私にはこれが精一杯です。二人とも、早く逃げて下さい !
ヴィクトルあの程度の敵、私一人で充分だ。もう休んでいろ。
テネブラエこの音は、ダーナの心核の崩壊の音――
ミラ……この場はヴィクトルに任せていいわね。
ヴィクトル
ミラ私はダーナの心核とやらを引き受けるから。
デミトリアス――そうか ! 兵士たちよ !マクスウェルを捕らえろ !彼女はダーナの心核へ【逃げる】つもりだ !
ヴィクトルどういうことだ ! ? ミラ !
ミラダーナの心核を守るために、私が楔になる。
ミラヴィクトル、エルに伝えて。いつか必ず会いに行くって。そのときには私の作ったスープを飲んでねって。
ヴィクトル! !
テネブラエミラさん……。
ヴィクトル――テネブラエ。下がっていろ。ミラに伝言を頼まれた。すぐに奴らを片付けて、エルの元へ行く !
デミトリアスそれは――浄玻璃鏡の力か !何故貴様がそれを持っている ! ?
ヴィクトル私とエルが本物である世界を手に入れるために――貴様を排除する !
ヴィクトルデミトリアスをあと一歩のところまで追い詰めたが取り逃がしてしまった。私もこの有様だ。
ヴィクトル帝国の奴らを追い払った後、ダーナの心核を確認したが私もテネブラエも、ある距離から近づくことすらできなくなっていた。
ヴィクトルテネブラエの話では心の精霊ヴェリウスが守護を強めたのだそうだ。
イクスそれじゃあ、ダーナの心核には今分史世界のミラさんが融合した状態で崩壊を食い止めているんですね。
ミラ=マクスウェル私ではないマクスウェル……か。
キールん ? でもどうしてダーナの心核なんてものが精霊の封印地にあったんだ ?
キールダーナはこの世界の太陽神の筈だ。神の心が具現化されて抜き出されているってことか ?
キールこの世界における神というのは、【何】なんだ ?信仰の対象としての概念ではなく、実在するのだとして何故心だけが置かれているんだ。
ヴィクトルダーナは人神だ。
ミラ=マクスウェル元は人間、ということか。
イクス後世に神として崇められるようなことをした人……。
イクス待って下さい。世界の始まりの場所が精霊の封印地ならまさかこの世界を創造したのは神になる前のダーナってことですか ?
キール待て。話が合わない。世界の前にダーナが……人が存在していたのか ?だとしたら、人は【どこから】来たんだ ! ?
ミラ=マクスウェル……この世界の前に、世界があった、ということか。
イクス……あぁ……まさか、まさか……。
キール――馬鹿な。これを突き詰めて考えるとここは本当に死の世界になるぞ……。
ヴィクトルそうだ。ここは鏡士ダーナが生み出した箱庭の世界。ダーナの心が創造の力で生み出した理想郷だ。
ヴィクトルそしてダーナが暮らしていた世界ニーベルングは既に滅びた。ここはニーベルングの生き残りが世界の消滅から逃れるために生み出した閉じた箱庭だ。
イクスそれを……壊したり、具現化したりしてきたのか俺たちは……。最初の世界が消滅したことも知らないでこの世界が最初から具現化された世界とも知らないで。

Character4話【2-7 ひとけのない森1】
クラトス……これで、今最低限共有するべきことは伝えられた。まだ話すべきことはあるがあとはヴィクトルを休ませてからにしよう。
クラトスヴィクトル、ひとまずケリュケイオンに戻るぞ。
ヴィクトルああ。
ヴィクトルイクス。少し状況が落ち着いてからこの手紙をエルに渡して欲しい。
イクス直接伝えないんですか ?
ヴィクトル……頼む。
イクス――わかりました。お預かりします。
クラトスこの島を具現化させたことで混乱している者も多かろう。そちらは情報収集にあたってくれ。
クラトス私はヴィクトルを休ませた後フィリップたちと状況を再整理する。
イクスそうですね。俺も、この話をミリーナに伝えないと。
クラトスでは失礼する。
コーキスなぁ、マスター。俺、よくわかってないんだけどこの世界の前に別の世界があったってことなのか ?
イクス……ああ。信じられないけどでもそれなら納得できることもあるんだ。
キールティル・ナ・ノーグの外――本来宇宙空間である場所すらも、虚無になっていることだな。
イクスああ。ゲフィオンの仕業なのかと思っていたけどカレイドスコープのせいで虚無が発生したのなら虚無はカレイドスコープから外へと広がっていく筈だ。
イクス真っ先に消滅するのはセールンドじゃなければおかしい。でも実際はセールンドは残ってるだろ。
イクス多分、虚無とはニーベルングという世界が消滅した跡地で、その中にティル・ナ・ノーグという世界が造られたんだ。
キールああ。ぼくもそう思う。本来は虚無に飲み込まれないための防御機構が備わっていたんだろう。
キール或いはそれが精霊の封印地だったのかも知れない。だが、カレイドスコープによって防御機構が消失しティル・ナ・ノーグは外側から虚無に浸食された。
キール外側から浸食された場合この世界が球状の星なら、世界の全ての場所が一瞬で虚無に飲み込まれるのが普通なんだが……。
イクス何らかの力が働いてセールンド周辺は消滅せずに済んだ。
キールああ。そしてカレイドスコープによって生み出された死の砂嵐は虚無に漂い続けることになった。
コーキス……ってことは人間は何回も世界を壊してるってことか ?
ミラ=マクスウェルそうだな。その時々、携わった人間も事情も違うがここでは同じようなことがくり返されてきたのだろう。
ジェイド――ふむ、なるほど。無機物は問題なさそうですね。
ユーリ……何やってるんだ、ジェイド。
ジェイドあなた……丈夫でしたよね。
ユーリは ?
ジェイドいえいえ、こちらの話です。ちょっと実験動物になってくれるとありがたいのですが。
ユーリ冗談は存在だけにしておいてくれ。
ジェイドやはり断られましたか。
ユーリ何をさせるつもりだったんだ。
ユーリ――ん ? 何だこの蜃気楼みたいな穴は。
ジェイドあなたの持っている魔鏡通信機で私の装置に繋いでもらえますか ?
ユーリ……はーん。そういうことか。
ユーリ――よし。通信、繋がったぜ。
ジェイド何が見えます ?
ユーリ木、だな。草と……空も。それに鳥がいる。
ジェイド危ない場所ではないようですね。少なくとも植物が自生できる場所なら危険度は下がる。あとは……。
ユーリ人間がここを通れるかってことか。そういうことなら試してみるか。
ジェイドいえ、少し待っていて下さい。ここにはもう少し遠慮せずに実験の協力をお願いできる存在がいますから。
カーリャ何なんです、ワル眼鏡大佐。人を魔鏡通信で呼び出しておきながら返事も返してこないなんて。
ジェイドあー、すみません。うっかり私の魔鏡通信機をそこの穴に落としてしまったものですから。
カーリャへ ? 穴 ?
ジェイドえい♪
ミリーナちょっ ! ? カーリャに何を ! ?
カーリャぎゃああああぁぁぁぁぁ――
ユーリおいおいマジかよ。そりゃないだろう !
テネブラエカーリャさんが消えました ! ?
カーリャミリーナさまぁぁぁぁぁ ! ここどこですかぁぁぁ ! ?
ミリーナカーリャ ! ? 大丈夫 ! ?
ジェイドふむ、存在が消えないということはこの島……仮にアジト島としますが、アジト島からさほど遠くない場所に繋がっているということですね。
ミリーナどういうつもりですか ! ?
ジェイドいえ、いくつかの実験で、この穴がどこかと繋がっていることが確認できたので生き物も通れるのかと思いまして。
ジェイドああ、ご安心を。昆虫や鳥などで何度か実験は済ませていますのである程度の確証はあったのですよ。
ミリーナ丁寧な説明をどうも ! それで、どうやってカーリャをここへ戻すんですか ! ?
ジェイドカーリャ。近くに今通った穴と同じようなものはありませんか ?
カーリャほぇぇぇ ? あ、ありましたー !
カーリャああああ ! ? 戻ってこられたー ! ? ! ?何すんだ、この性悪眼鏡 ! !
ジェイド元気そうで何よりです♪ ただ、ここがある種のゲートとして使えるのでしたら、この穴を通じて不審者が入り込んでくる可能性がありますね。
ジェイドミリーナ、あなたはこの話をイクスたちに共有しておいて頂けますか ?私は一旦この穴を使えないような手段を構築します。
ミリーナ……わかりました。でもその前に、カーリャに謝って下さい。
ジェイドそうですね。申し訳ありませんでした。実験へのご協力、感謝しますよ。
カーリャジェイドさまのばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁかっっっ ! !
ミリーナカーリャ。相手と同じ土俵に立ったら駄目よ。ほら、行きましょう。
テネブラエあの、ミリーナさん。私はもう少しここにいます。
ミリーナえ ? ええ、わかったわ。エミルたちを見かけたら連絡するわね。
ジェイドユーリ、それに……。
テネブラエテネブラエ。センチュリオン・テネブラエと申します。ラタトスク様の眷属のようなものです。
ジェイドなるほど。私はジェイド・カーティス。よろしければ名前の方で呼んで下さい。
ジェイドまぁ、それはそれとしてお二人は何故ここに残っているんです ?
ユーリ何、あんたがその穴を封じるところでも見せてもらおうかと思ってね。
テネブラエ奇遇ですねぇ。私もその点が非常に気になりまして。何しろあなたは、人間にしてはあまりに非情な心の持ち主です。
テネブラエその闇の心にシンパシーを感じます。ええ、私は闇属性なので。闇はいいものです。
ジェイド光属性の軍人を捕まえて、ひどい言い様ですねぇ。
ユーリ二人で漫談やってる場合か ?
ジェイド……なるほど。私の邪魔をしないというならついてきても構いませんよ。
テネブラエいえ、そこは。
ユーリ保証できねぇな。
テネブラエおお、呼吸がぴったりではありませんか。その衣装も闇っぽくて実にいい趣味です。あなたも闇属性とお見受けしました !
ユーリ頼むから一緒にしないでくれ。
テネブラエ何と ! 闇差別ですか ! ?
ジェイドユーリ、それはいけませんねぇ。あなたも相当に黒いのですから、受け入れて優しくしてあげればいいではありませんか。闇属性同士。
ユーリあんたにだけは言われたくねぇな……。

Character5話【2-8 ひとけのない森2】
ミリーナイクス、みんな。ヴィクトルさんのお話、もう終わっちゃった ?
ミラ=マクスウェルああ。ヴィクトルの容体があまり良くないようだ。ケリュケイオンに戻った。それと、ヴィクトルのことだが――
イクスあ、いいよ、ミラ。俺から話す。ミリーナ、ヴィクトルさんから聞いた話を共有するよ。
ミリーナ………………。
カーリャあ、あの……。カーリャにはもう、何が何だか……。
コーキス駄目だな、パイセンは。要するに、アレだ。ニーベルングって世界があったけど、消滅しちゃうからティル・ナ・ノーグを造って引っ越ししたんだって。
コーキスそれが今のこの世界だ。
キールコーキス。お前だって、さっきまでよくわからないって言ってただろ。
カーリャなーんだ。コーキスだってカーリャと同じだったんじゃないですか。
ミリーナ……ヴィクトルさんはどうしてそんなことを知っているのかしら。
イクスバルドさんから聞いたんじゃないのか ?
ミリーナでも……。それならバルドさんが私たちにその話をしてくれても良さそうなものだったのに。
ミラ=マクスウェル確かに、少し不自然だな。
キールテネブラエなら情報源を知っているんじゃないか ?テネブラエはどうしたんだ ?
ミリーナあ、そうだったわ。ジェイドさんが、この島から別の場所へ出られるゲートのようなものを発見したの。
ミリーナ恐らくあれはこの島が具現化されるときに私とカーリャが維持していた仮想鏡界と現実を結ぶゲートを具現化したものじゃないかと思うんだけど。
イクスそうか。そんなものまで具現化してたのか……。自分でも信じられないや。
カーリャひどいんですよ ! あの性悪ロンゲスト眼鏡 !カーリャを実験台にしたんです !
ミリーナそうなの。カーリャを使って、具現化されたゲートが人間も通れることを確認したのよ。
ミリーナそれで、このままゲートを放置しておくと不審者が侵入する恐れがあるからゲートを閉じておくって言ってたわ。
ミラ=マクスウェル本当にゲートを閉じていいのか ?
ミリーナえ ?
イクスそうか。仮にここを今後の拠点にするとしてもいつまで浮いていられるのか、どうして浮いているのかわからない限りは不安だよな。
イクスすぐに避難できるゲートは、そのままにしておく方がいいのかも知れない。それに食料の買い出しなんかの時も便利だろうし……。
ラタトスクおい ! あの眼鏡、裏切ってるんじゃないのか ! ?
イクスまた眼鏡…… ? それってジェイドさんのことか ?
ラタトスク裏切りそうな眼鏡と言えばあいつしかいないだろうが !
ミラ=マクスウェルそうだろうか。意外と善人そうな描写をされている人間の方が、真犯人であることが多いと推理小説完全解剖にも書かれていたが。
カーリャジェイドさまはストレートに悪い奴ですよ !真犯人です ! 最初から疑わしい真犯人です !
アスベル裏切ってるかどうかはともかくジェイドさんがユーリとテネブラエさんという人と一緒に、この島を出たらしいんだ。
ミリーナ……やられた。私をイクスのところに行かせてその隙にゲートを使ったんだわ。自分が使うためにカーリャを利用して安全性を確かめたのね。
イクスでもユーリさんが一緒なんだから、変なことは――
アスベル……すまない。こんなことは言いたくないんだがユーリは単独行動を好むところがあるように思う。
アスベルそれにどうも帝国への再侵入を計画していたらしい節もあるんだ。
イクス――あ、じゃあテネブラエさんが……。
ラタトスクさんなんぞいらない。あのくそバカが。
ラタトスクあいつは手負いなんだ。使役する魔物もいない。そんな状態であの戦闘狂と真犯人に勝手な動きをされて止めることができるかってんだ。
コーキスアレ ? でもどうしてその三人が島を出たってわかったんだ ?
イクステネブラエさんの声がラタトスクに聞こえたとか ?
ラタトスクいや、あの時はミリーナの仮想鏡界が崩壊しかかって思念のようなものが届きやすい環境だったからだろう。普通は近くにでもいなけりゃ、奴の声は聞こえない。
アスベルどうもラピードとミュウが現場を見ていたらしい。テネブラエさんがミュウにこの状況を知らせるよう伝言したんだそうだ。
イクスその絵面は、なんか和むな……。
ラタトスクテネブラエのことが気になる。俺とアスベルとマルタで追いかけてみる。
イクスあ、俺も行くよ。
アスベルイクスはまだ病み上がりみたいなものだろ。
イクスいや、大丈夫。少しは体を動かさないと。
ミリーナだったら私も行くわ。
アスベル――わかった。でも無理は禁物だからな。
イクスうん、大丈夫だよ。
イクスじゃあミラとキールは、他のみんなの状況を確認しておいてもらえるかな。
イクスそれとヴィクトルさんのことも含めてさっきの話はまだ伏せておいてくれ。
キールそうだな。ぼくたちも状況を整理して飲み込んでからでないと説明が難しいし。救世軍側にもその旨知らせておこう。
ミラ=マクスウェル救援が必要ならすぐに連絡をくれ。
イクスああ、ありがとう !

Character6話【2-12 ひとけのない森】
ユーリ生きてるみたいだな。
ジェイドまぁ、アジト島がイクスによるミリーナの仮想鏡界の具現化なら、先ほどの穴はミリーナとカーリャが創り出していたゲートの具現化と推測できます。
ジェイド概ね問題はないことは予測できてはいましたが試してみないことにはわかりませんからね。
テネブラエジェイドさん。そこに落ちている鏡はあなた用の通信装置なのでは ?
ジェイドおや、ありがとうございます。
ユーリしかし、ここはどこなんだ。見上げると少し先にアジト島が見えるってことはそんなに離れた場所じゃないだろうが……。
ジェイド地形と位置関係を確認すると……セールンドの外れではないでしょうか。
ユーリ……帝国へ行くには、ちっと遠いか。
ジェイドおや、まだ諦めていなかったのですか ?
ユーリデミトリアスってのに直接会った方が話が早いと思ってるだけさ。
ジェイドまぁ、その点は同意ですがアスガルド帝国というのは色々と得体が知れませんからもう少し慎重になって頂けるとありがたいですねぇ。
ユーリつっても、このまま奴らの動きに合わせてオタオタしてても仕方ねぇぜ ?
ジェイドええ、もちろんです。では、そろそろ移動しましょうか。
テネブラエやはり何かあるのですね。
ユーリ何するつもりかしらねぇが、ま、お手並み拝見といきますか。
テネブラエこの街は…… ? 随分寂れていますね。
ユーリセールンドか。ここにはまだ帝国の連中がウロウロしてるんじゃねぇのか ?
ジェイドええ、それでいいんです。
ユーリ――見つかったか !
帝国軍兵士しっ ! 大きな声を出すな。
テネブラエ……その声は ! ?
ジェイドおや、声で気付くとはさすがですね。
帝国軍兵士何でテネブラエが……。まぁ、とりあえず場所を変えよう。そこの建物の中が安全だ。ついてきてくれ。
テネブラエ……あのおかしな香水の匂いがしませんがあなたはデクスですね。
デクスぷはー。やっとあの汚い服を脱げたぜ。よう、テネブラエ。異世界ってところでも顔を合わせるとはな。
テネブラエアリスはどこです。何か企んでいるのではありませんか ?
デクス何だよ、何も説明してないのか ?
ジェイド元々連れてくるつもりはありませんでしたから。
ユーリで、こいつぁ誰なんだよ。……なんか見覚えある気もするけど。
ジェイドそうでしょうね。エミルたちが出していた鏡映点リストに入っていました。
ジェイド彼は私の間者です。バルドたちだけを信用するのも危険だと思っていましたので帝国に侵入してもらっていました。
デクス愛の使者デクスだ。よろしくな。
ユーリ……またこんなのか。
ジェイド仕方ありません。たまたま見つけた鏡映点がこのデクスだったので。
デクスいやぁ、ジェイドに「あなたの力が必要なんです」って頼み込まれちまってな。
デクス俺の愛する人を捜してくれるって条件で協力することにしたんだ。頼られたのに力を貸さないのは男が廃るからな。
テネブラエジェイドさん。彼は危険です。
ジェイドええ、アリス嬢が傍にいれば、ね。今のところ彼女は見つかっていません。帝国にいるという話も聞かない。
ジェイドまぁ、今のところは安全弁が効いている状態ですよ。それに情報も正確です。だからこそ私もイクスの救出作戦で、色々と無茶な予測を立てられました。
ユーリおい、これを他に知ってる奴は――
ジェイドいません。
ユーリだろうな。まったく、散々オレが単独行動をする危険分子だって喧伝しておいて自分が一番勝手なことをやってるじゃねぇか。
ジェイドありがとうございます。
ユーリ褒めてねぇけどな。
ジェイドデクス。帝国内の鏡映点の状況を聞かせてもらえますか。
デクス俺が新しく確認できたのはエルレイン、ハロルド、イオン、リチア。
ジェイド! ?
デクスそれに帝国に引き込むのに失敗したのがダオス。離反したのがザビーダってところだ。
ジェイド……全員鏡映点リストに名前が載っていますね。一つ確認したいのですが、イオンというのは……どのような人物でしたか ?
デクスいや、そっちは名前だけだ。なんか実験に関わってるみたいでハロルドと同じく姿が見えない。
ジェイド……そうですか。
デクスあと、ヨウ・ビクエって女の子の体は間違いなく帝国が回収してる。こっちは確認できた。
テネブラエヨウ・ビクエの体を帝国が回収したところは私も見ていました。まだ体が動かない状況でしたので阻止することはできませんでしたが……。
テネブラエもともとヨウ・ビクエの体は精霊の封印地で眠っていましたから。
ジェイドなるほど、テネブラエはヨウ・ビクエのことも知っているのですね。これは後で色々と話を聞かせてもらう必要がありそうです。
ジェイドそれはともかく、ありがとうございました、デクス。さすが私が見込んだ通り、有能ですね。
ユーリ棒読みじゃねぇか……。
ジェイドでは引き続き、潜入調査をお願いします。
デクスああ。このデクス様に任せておいてくれ。
ユーリ――待った。デミトリアスと顔を合わせられるようなチャンスはないか ?
デクスデミトリアスか……。わかった。奴のスケジュールも探ってみる。
テネブラエ………………。
デクスそれじゃあ、そろそろ行くぞ。
デクス……さっきリヒターとすれ違ってな。気付かれたかも知れないんで少し慎重に動きたいんだ。
ジェイドもしも捕まったら――わかっていますね。
デクスああ、そこはぬかりないぜ。じゃあな !
テネブラエいやぁ、予想していたよりまともな行動でしたね。ジェイドさん。
ユーリああ。てっきり帝国の連中に情報でも売るのかと思ってたけどな。
ジェイド嫌ですねぇ。売るほどの情報もないじゃないですか。それより、先ほどから何度も魔鏡通信の呼び出しが来ていますが、出ても構いませんよ。
ユーリんじゃ、心配してる連中に返事してやるか。

Character7話【2-13 セールンドの街】
イクスここが……ゲートの先、か。
アスベルここはどこなんだ ?
イクス多分……セールンド島の外れだと思うんだけど……。
ラタトスク――くそっ !
マルタラタトスク、落ち着いて。
ミリーナどうしたの ?
ラタトスクジェイドとユーリの魔鏡を呼び出してるんだがあいつら一向に出ないんだ。何してやがる !
アスベルこの辺りにはいないみたいだな。
コーキスこの姿に戻ったから、鏡映点がいればチキン肌になるよな。
カーリャ一回知り合いになった鏡映点だと激しくぶるぶるはしないかもですけど反応はあると思いますよー。
アスベルそれだと、アジトにいるときはずっと震えっぱなしなんじゃないか ?
カーリャんー。いるなぁってことは何となくわかりますけど新入りの鏡映点の方を見つけた時ほど激しくないので慣れちゃうんでしょうね。
アスベルへぇ、不思議だな。
イクス――少しジェイドさんたちの動きを考えてみたんだけどセールンド島に来たなら、情報を仕入れに街の方へ行ったかも知れない。
イクス帝国の連中に見つからないように街の方へ向かってみよう。
ラタトスクわかった。
マルタねぇ、エミルに状況を話しておいた方がいいんじゃないかな ?
ラタトスク急いでるんだ。後で説明すればいい。
マルタ………………。
イクス……魔鏡結晶の柱、まだあるんだな。
ミリーナバルドさんとセシリィが魔鏡結晶の穴を塞いでくれたから死の砂嵐はあそこに封じ込められたまま……。
イクス……あの人たちを救えないのかな。
ラタトスクあいつらはもう死んでるんだろ ?
イクスそうだけど……。でも意識はあるんだ。俺はずっとその声を聞いてきたから……。
イクス最初は死の砂嵐を何とかして消せばこの世界は守られるんだって単純に考えてたけど本当にそれでいいのかなって。
ラタトスクん ? ユーリから魔鏡通信だ。
ラタトスクおい ! 今どこにいやがる !
ユーリセールンドだ。……って、お前らもセールンドに来てるのか。
アスベルユーリたちを追いかけてきたんだよ。どうしたんだ。アジトがあんなことになってみんなもバタバタしているときに、勝手に抜け出して。
ユーリ勝手なのはこいつ。
ジェイドはっはっはっ。同調圧力をかけられました。
テネブラエこれはドーチョーもないですな。はっはっはっ !
アスベルえ ! ? 何だ、この……猫のような……黒い……。
テネブラエセンチュリオン・テネブラエ。ラタトスク様のしもべです。
マルタテネブラエ ! ? ホントにテネブラエ ! ?
テネブラエこれは……マルタ様 !やっとこちらでもお顔を見ることができましたね。
マルタテネブラエ、早く会いたい。今どこにいるの ?
テネブラエアジト島に続くゲートに戻るところです。もう少しでマルタ様のいる区画に着きますよ。
マルタ本当 ! ? どっちから来る ! ?
イクスユーリさんたちがどこから来るのかわからないと方角までは……。
アスベル――待った。誰か来る。
マルタテネブラエ ! ?
テネブラエおや、私たちはまだそちらには――
コーキスじゃあ、帝国兵か ! ?
カーリャはわわ、隠れましょう !
マルタ――待って。あれって、リヒター ! ?
ラタトスク何 ! ?
テネブラエ! !
イクスあ、ラタトスク ! 駄目だ――
リヒターお前は…… !
ラタトスク丁度いいところに現れやがったな。ここでてめぇの息の根を止めてやる !
マルタ待って、ラタトスク !
ラタトスク止めるな、マルタ !
リヒター――いいだろう。貴様が仇であることは変わらない。どの世界であろうと、元の世界でアステルはお前に殺された !
ラタトスクああ、そうだ ! 人は世界を滅ぼす生き物だ。始末して当然だろう ! この世界だってそうだ !人は壊さずにはいられないんだよ !
リヒターだが、それでもアステルに罪はなかった !
ラタトスク知ったことかよ ! ひねり潰してやる !

Character8話【2-13 セールンドの街】
リヒターここで終わらせてたまるか…… !
ラタトスクくそ ! しつこい奴だ !
テネブラエラタトスク様 !
ラタトスクテネブラエか !
テネブラエラタトスク様、武器を収めて下さい。リヒターと戦うことはエミルの本意ではありません。
ラタトスクエミルがどうした。あいつは俺の身代わりだっただけの人格だ。飾り物にどうして遠慮する !
マルタなら、どうしてリヒターが劣勢になったときにとどめを刺さなかったの ?
ラタトスク―― ! !
リヒター………………。
マルタねぇ、ラタトスク。この世界に具現化されて色々状況がわかってきたとき、私たち決めたよね。二人だけど三人で力を合わせていこうって。
ラタトスク――俺は……俺が譲ってやったんだ。エミルが俺を封じ込めようとしやがったのにマルタが頼むから、俺は飲み込んだんだぞ ! ?
イクスえ、何、どういうことだ ?
ユーリイクス。今は黙っとけ。
アスベル一つの体に二つの存在……。解決すべきことがあるのだとしたらそれは今行われるべきなんだろうと思う。
アスベル(……ラムダ。お前とも、いつかちゃんと話したいよ)
アステルリヒター !知り合いがいたって、どういうこと――
リヒターお前は来るな ! !
アステル……え ?
ラタトスク! ?
ミリーナ浄玻璃鏡が反応した ! ?
エミルやっと……同じところに浮上できたよ。
ラタトスク俺の意識が表に出ているときにお前は顔を出せないはずだ。
ラタトスクここにはヴェリウスもいない。俺を封じ込める奴は誰もいないはずだ !
エミルそうだよね。だけど、何でだろう。テネブラエがここに来たときにヴェリウスの気配を感じたんだ。
エミルそれから急に外の様子が見えて僕らと同じ姿の人が駆け込んでくるのがわかった。
ラタトスク……あ……あいつは……。
エミルラタトスクは知ってるんだよね。あれが……アステルさんなんだね。
ラタトスク………………。
エミルラタトスク。僕のあのときの選択が――君の存在を心の奥底に封じ込めてしまうことがどれだけひどいことかわかってた。
エミルわかってたけど、ああするしかないと思ってたんだ。でも少し、試してみてもいいかな。
ラタトスク何をだ……。
エミル君と話したい。ちゃんと。ここなら時間のリミットはない。
エミル僕は自分のことをラタトスクの良心や優しさだなんて思ってないよ。優しさは君にもあるんだって、僕は知ったから。
ラタトスクふざけるな ! 俺は――
エミルラタトスク、聞いて。僕は君、君は僕。本当は何も変わらないんだ。
エミル僕は以前、元の世界で、戦うことが怖くて嫌な役割を全部君に押しつけようとした。
エミル君はリヒターさんの復讐に取り憑かれた心を知って自分がしてしまったことを後悔した。
エミルそれで、僕が優しさそのものなの ?君が封じられるべき存在なの ?
ラタトスクお前は……俺を封じて、自分もギンヌンガ・ガップの扉に封じられるつもりだったんだろう。俺はそんな奴は認めない。
エミルあの時、元の世界の僕がやろうとしていたことがわかったなら、今僕が何を考えているかもわかるよね。
ラタトスク俺はお前みたいなひ弱な坊やじゃない。
エミル僕だって、君みたいな乱暴者じゃないよ。だけど君はただ乱暴なんじゃない。
エミル君の優しさがずっと踏みにじられてきたからそうならざるを得なかったんだ。
ラタトスク……で、お前は、自分の弱さを盾にして俺に迫るのか。決断を。
エミルねぇ、僕は思うんだよ。僕はラタトスクでもありエミルでもある。君はエミルでもありラタトスクでもある。
エミルただそれを――
ラタトスク――わかったよ。
エミルラタトスク ?
ラタトスク……お前を信じてみる。いや、自分を信じて、受け入れてやるさ。
エミルありがとう…… ! 君が僕でよかった。

Character9話【2-14 ひとけのない森】
テネブラエ……エミル様。
リヒター……エミル、ラタトスクはどうした。
エミルここに。一緒にいます。本来あるべき姿に戻ったんだと思います。
マルタラタトスクを封じた訳じゃないよね ?
リヒターラタトスクを封じる ? どういうことだ。
エミル僕は元の世界でラタトスクを封じようとしたんです。心の精霊ヴェリウスの力を借りて。
エミルでも……この状態は違います。僕がこうしてみんなと話しているようにラタトスクも一緒に話を聞いてる。
エミル主人格が入れ替わってもこの状態は変わりません。今の僕は……エミルとラタトスクは対等なんです。
ラタトスクリヒター。さっきの勝負は一時中断だ。エミルは戦いたくないらしいからな。
エミル……って、こんな感じで。ややこしいですかね、はは……。
アステルすごい ! もしかしてあなたは精霊ラタトスク ! ?どうして僕と同じ姿なのかわからないけどあなたにずっと会いたかったんです !
エミルあ……あの……。僕……ごめんなさい。
アステルえ ? どうして謝るんですか ?
リヒターエミル。お前が謝る必要はない。それに……アステルは何も知らない。だから――
エミル……だったら、リヒターさんに謝らせて下さい。ラタトスクも本当は後悔してるから。
エミルあ、謝られても困るのはわかります。許して欲しいとは言いません。
エミルこれは、精霊ラタトスクのけじめです。僕もラタトスクだから。
ラタトスク……いや。エミルはこういってるが、俺は謝らないぞ。だから貴様は未来永劫ラタトスクを恨めばいい。それでいいんだ。
エミルあ……ラタトスク……。
リヒター……それでいい。
エミルえ ?
リヒター俺はラタトスクを憎み、恨み続ける。それでいいんだ。
アステル……ねぇ、やっぱり僕、ラタトスクに殺されたの ?
エミルえっ ! ? あ、あの……。
アステルみんなが噂してたよ。四幻将はみんな大切な人を甦らせたかったんだって。
アステル僕がリヒターの大切な人ってのは笑っちゃうけど。
マルタええ……。そんなこと言っちゃう…… ?
アステル僕はさ、リヒターに自分を大事にして欲しかったんだよね。まあ、その話は一旦置いとくけど……。
アステルだからリヒターは僕を具現化してもらったんでしょう ?
アステル今の僕には、フィールドワークしながら精霊ラタトスクを探していた頃の記憶までしか残ってないんだ。
アステルだからきっと、道中に何かあったんだろうな……とは気付いてた。
アスベルリヒター。この成り行きを見る限りお前と俺たちは戦う理由がないように思う。
アスベルさっきの言葉は「ラタトスクを憎むことはやめないけれど、殺すつもりもない」ってことだよな。
リヒター……いや。こちらの世界に来てからの事情もある。
リヒター俺は……チェスターやミトスのようにお前たちと合流することはない。俺の前に立ちはだかるなら、お前たちは俺の敵だ。
イクスリヒターさん。どうしてですか。あなたは話せばわかる人だと感じました。理由を聞かせて下さい。
リヒター理由、か。そうだな。俺はメルクリアを放っておけない。ただそれだけだ。
ジェイドなるほど、それは残念です。ではアステル――
ジェイド今からあなたは私たちの大切な人質です。せいぜい大人しくして下さい。
アステルええっ ! ? い、痛っ ! ?
リヒターな…… ! ? 貴様、アステルを放せ !
ジェイドご冗談を。敵の言うことを素直に聞く軍人がいると思いますか。
ジェイドさあ、リヒター。武器を捨てて、距離をとって下さい。隙を突こうとしても無駄ですよ。
ジェイドあなたがおかしな動きを見せた瞬間に、私はアステルの喉を掻き切って、あなたに譜術……そちら風に言えば魔術をお見舞いすることができます。
ジェイド本気だと言うことは……おわかりですよね ?
エミルジェイドさん ! やめて下さい !
マルタそ、そうだよ。なんか……おかしくない ?こういうのって悪い人がやることでしょ ?
ジェイドいいえ。手段を選ばない人間がやることですよ、マルタ。さあ、リヒター、武器を捨てなさい !
テネブラエいやぁ……悪どい。さすが闇属性です。
リヒター……くっ。
リヒター……武器を捨てたぞ。これでいいな。
ジェイドいい子ですね。イクス、ミリーナ。リヒターを牽制して下さい。私はこのままアステルをアジトへ連れて行きます。
リヒター……あの空に浮かぶ島か。とんでもないものを具現化したな。
イクスすみません。えっと、ジェイドさんの分もすみません。でも……ジェイドさんは理由もなくこんなことをする人じゃない。
イクス……ってルークが、えっと仲間が言ってました。俺もそう思います。アステルさんの安全は保証します。ここは退きましょう。お互いに。
ユーリま、そっちは一人、オレらはジェイドと鏡精コンビとテネブを除いても六人。おまけに人質もいる。あんたはバカじゃないだろ。
アスベル卑怯な真似をして済まない。イクスだけじゃなくて、俺も約束する。アステルを傷つけないし、傷つけさせたりしない。
ミリーナ私もよ。大切な人を失う悲しみは、私もよく知っているもの。
マルタリヒター……。ごめん。本当にごめんなさい。
リヒター……今は……退く。
リヒターだが、アステルは必ず返してもらう。もしアステルに何かあればあの島ごと、貴様たちを消滅させるからな !

Character10話【2-15 静かな街道】
マルタねぇ……本当に良かったの ?完全にリヒターのこと怒らせちゃったけど。
エミルだけど、ジェイドさんのこと誰が止めるの ?ルークたちかリフィル先生でも一緒だったらともかく……。
テネブラエいやぁ、リフィルさんはどうでしょうね。あの人は爆弾魔だったそうじゃないですか。
アステルあ、僕のことは気にしないで下さい。
アステル本気で腕を捻り上げられたときはヤバいって思ったけど冷静に考えれば皆さんのところには精霊がたくさんいるんですよね。
アステルむしろいいチャンスだと思うことにしました。
ジェイドそう言っていただけてほっとしました。善良な一小市民としては、あのような手段に出ることに罪悪感を抱いていたものですから。
ユーリよく言うぜ。だが、まぁ、この坊やは研究者なんだろ。キールやリタが大喜びするんじゃねぇの ?帝国の事情にも詳しそうだしな。
エルあ ! ルドガー !悪いメガネのおじさんたち戻ってきたよ。
カーリャふっふっふっ。完全に悪メガネで定着していますね。しめしめです。
ルドガーみんな、お帰り。……あれ ? エミルが……二人 ?え ? まさか、エミルとラタトスクが分離した ! ?
アステルあ、そっくりですけど、別人です。人質のアステルって言います。
アステルあなたは、確か骸殻っていう力を持っているルドガーさんですよね。なんか変身ヒーローみたいで格好いいなって思ってました !
ルドガーえ ? は、はぁ…… ? え ? 人質 ?
アスベルはは……。混乱することだらけだよな、この状況。
イクスルドガーにエル !この島の状態はどうかな ? 怪我人とかは……。
ルドガー光魔との戦いでかすり傷を負った人はいるけどみんな元気だったよ。
ルドガーアジトの建物も仮想鏡界の時と変わってないからいまはみんなそれぞれの部屋で待機してもらってる。
ルドガー一部の人はケリュケイオンにいるけどね。
エル今ね、ルドガーと島の探検してたんだ。
ルドガーみんなが見た島の情報をキールたちがまとめてくれたからそれを元に地図を作ろうと思って。
ミリーナさすがルドガーさん。助かるわ。
ルドガーそういえば、また一人鏡映点が来たらしいって聞いたけど、どこにいるんだ ?
イクスえっと……。あー……ちょっと怪我をしているんで今はケリュケイオンで休んでる……かな。
ルドガーそうか。じゃあ救世軍と行動を共にするのかな。だとしたら、食事の準備は今までのままで構わないか。
ミリーナあ、アステルさんが加わるから一人分追加してもらえると助かるわ。
ルドガーよし。ファラ生活向上委員会に共有しておくよ。
ジェイドさて、早速アステルの話を聞きたいですね。それと……イクス。何か隠していますよね。そのことも教えていただけますか ?
イクスえ ! ? な、何も……隠してなんて……。
エルあー ! イクス、嘘ついてる !
イクス(困ったな……。エルの前でヴィクトルさんの話はできないよ……)
ルーティイクス ! ミリーナ !
イクスルーティ ? あれ……目が赤い……。
ルーティあ……これは何でもないの !それより医務室に来てよ。
イクスまさか、誰か目を覚ましたのか ! ?
ルーティセシリィと……ジョニーが…… !とにかく早く来て ! なんかもう、帝国の奴ら本当に酷いことばかりしてきたみたいで……許せない。
アステル……すみません。
ルーティえ ? 何でエミルが謝るの――って、エミルが二人 ! ?ラタトスクと分離したの ! ?
ルドガー俺と同じこと言ってる。
ルーティえー、だってそう思うじゃない。精霊なんだからそれぐらいできそうだし。
ルーティあー、話がそれた。とにかく医務室に来て。ジョニーの話も聞いてやって。
イクスわかった。えっと……。
ユーリオレはキール研究室に顔を出してくる。アスベル、お前も来いよ。
アスベル…… ? 構わないよ。
エミルえっと僕は――
ラタトスク他の精霊組に話がある。テネブラエ、来い。
テネブラエはい、ラタトスク様。
マルタ私も一緒に行く。
アステル僕は……良ければ、僕も医務室にご一緒させて下さい。
ジェイド私も同行させていただきます。
コーキスん……。
カーリャどうしました、コーキス。
コーキスなんか、目の奥がかゆくて。……ゴミでも入ったかな。
ミリーナコーキス、大丈夫 ?
コーキスああ、うん。大丈夫です。
コーキスそれよりマスター、医務室に行くんだろ。急ごうぜ。
イクスああ。
to be continued