| Character | 1話【3-1 鬱蒼とした森林1】 |
| アスベル | ルーティ……泣いていたみたいだね。ジョニーさんの容体が良くないんだろうか。 |
| ユーリ | 話はできるようだから大丈夫なんだろう。 |
| ユーリ | それより、あのやっかいな軍人の情報をキール研究室とカロル調査室で共有しておいた方がいい。どうせ、自分から説明するつもりもないだろうしな。 |
| アスベル | やっかいな軍人ってジェイドさんのことか。 |
| アスベル | 確かにアステルさんを人質に取ったときは驚いたけどよく見ていたら、アステルさんをつかむ腕をすぐに緩めたみたいだった。 |
| アスベル | あれならアステルさんも逃げようと思えば逃げられた筈だけど、わざと残ろうとしているように感じたから、止めるべきか悩んだよ。 |
| ユーリ | 本気で逃げようとしたら本気で攻撃してたかも知れねぇけどな。 |
| アスベル | ジェイドさんが ? まさか……。 |
| ユーリ | オレはジェイドがある程度は本気だったと思ってるぜ。まぁ、アステルってのも、オレたちの側に来ることで何か利があると考えたんだろうよ。 |
| ユーリ | 実際、本人もいいチャンスだって言ってたしな。……まぁ、あそこでジェイドを止めて奴とやり合うってのも面白そうだったがな。 |
| アスベル | ……手合わせしたいなら、クレス道場でしてくれ。 |
| パスカル | あれー、アスベルにユーリ。いらっしゃい。珍しいね。二人がキール研究室に来るの。 |
| リタ | ねぇ、キール見かけなかった ? |
| リタ | ちょっと前に青い顔して戻ってきたんだけど何があったのか説明もしないまま、アジトのみんなの様子を聞いてくるって飛び出しちゃって。 |
| リタ | なーんか気になるのよね……。 |
| リフィル | 状況の把握と共有をするつもりだったのに光魔に襲われて、仮想鏡界が具現化されて……。 |
| リフィル | まぁ、ショックを受けない方がおかしいけれどあの感じはそれとは違っていたわね……。 |
| アスベル | いや、キールの姿は見かけなかったよ。 |
| リタ | そう……。 |
| ユーリ | なぁ、ここに鏡映点リストあるだろ ? |
| リフィル | あるわよ。――はい、どうぞ。またはぐれ鏡映点が見つかったの ? |
| ユーリ | まぁな。 |
| ユーリ | ……あった。導師イオン。こいつか……。 |
| パスカル | へー、その子が新しいはぐれくんなの ? |
| リタ | それ、ルークたちの仲間よね。 |
| アスベル | ユーリ。ジェイドさんの話、共有しておくんだよな。 |
| ユーリ | ああ。 |
| リフィル | ……呆れた。相変わらず勝手なことをしているのね。 |
| ユーリ | へぇ、あんたはジェイドのやり方を理解してると思ってたけどね。 |
| リフィル | それ、どういう意味かしら。私も情報源を複数用意することは賛成だけれどそのことを仲間に共有しないのは頂けないわ。 |
| ユーリ | だよな。 |
| ユーリ | ……にしても、このリストを見ただけじゃ、ジェイドが何を思ってアステルを人質に取ったのかわからねぇな。 |
| ユーリ | イオンってのがやばい奴で急いでアジトに戻る必要があるのかと思ったが説明を読むと人畜無害って感じだ。 |
| パスカル | ルークたちに聞いた方が早いんじゃない ?そういえば、さっき資料室でガイが倒れた本棚片付けてたよ。 |
| アスベル | 聞いてみるか。 |
| ユーリ | そうだな。 |
| ミリーナ | ねぇ、ルーティ……。もしかして、泣いてた ? |
| ルーティ | そんなんじゃないわよ。……ジョニーの話を聞いてたら悔しくなっちゃったの。もっと早く助けられたらあんなに衰弱しなかったんじゃないかって……。 |
| ミリーナ | ルーティ……。ジョニーさんの治療、みんなで協力しましょう。早く元気になるように。 |
| ルーティ | そうね。ジョニーは特異鏡映点らしいからその辺も心配だしね。 |
| イクス | ジョニーさんってどんな人なんだ ? |
| ルーティ | うるさい奴よ。まぁ、元気であればって話だけど。 |
| ミリーナ | セシリィも目を覚ましたのよね。 |
| ルーティ | ええ。今はミントたちが相手をしてくれてるわ。ただ……あたしたちは、リビングドールだったセシリィを知ってるじゃない ? |
| ルーティ | 本当のセシリィとあのセシリィの印象が違い過ぎて……。 |
| ジェイド | 姿が同じでも……別人ですからね。 |
| コーキス | そうか……。俺たちの知ってるセシリィさまはシドニーさんって人なんだよな……。 |
| カーリャ | どっちのセシリィさまもおつらいですよね。アステルさまはセシリィさまのことをご存じなんですか ? |
| アステル | ここにいるみんなと同じだよ。僕が知っているのは……魔鏡技術に詳しいセシリィだけ。 |
| アステル | 彼女がリビングドールだってこともつい最近まで知らなかったから。 |
| ジェイド | ……アステル。あなたも帝国で研究をしていたのならイオンという名前の少年を知りませんか。 |
| アステル | ああ……。ベルセリオス博士から話を聞いたことはあります。 |
| ルーティ | ベルセリオス博士 ! ?それってソーディアン・ベルセリオスの元の人格の ! ? |
| アステル | えっと、ルーティさんでしたっけ。ベルセリオス博士をご存じなんですね。 |
| アステル | ソーディアンのことは色々と教えてもらいましたけどルーティさんたちの世界にはすごい技術があるんですね。 |
| アトワイト | 待って、ルーティ。この世界にはもう一人ベルセリオス博士がいる可能性があるのを忘れているわ。 |
| ルーティ | あ、そうか。カイルたちの仲間のハロルド・ベルセリオスね。 |
| ルーティ | でも、変わってるわよね。ハロルドって一般的には男の名前だけど、カイルたちの仲間は確か女の子なんでしょ? |
| アステル | え、ちょっと待って。ルーティさんの前に聞こえた声……。その剣から聞こえませんでしたか ! ? |
| アトワイト | ええ。私はソーディアン・アトワイトです。 |
| アステル | 僕はアステルです。うわー ! 話に聞いていたアトワイトさんにお目にかかれて光栄です ! |
| アステル | あれ ? でもソーディアンの声は持ち主にしか聞こえないんじゃ……。 |
| アステル | ――あ、そうか。エンコードの影響ですね。 |
| ジェイド | 理解が早いですね。なるほど……。帝国で重宝される訳だ。 |
| コーキス | なぁ、アステルさま。アステルさまの知ってるベルセリオス博士って男か ? それとも女か ? |
| アステル | 女の人だったよ。 |
| ルーティ | あ、それなら、カイルたちの仲間のハロルドなのね。 |
| アトワイト | ……………………。 |
| Character | 2話【3-2 鬱蒼とした森林2】 |
| ジュード | おかえり、イクス、ミリーナ、コーキスにカーリャも。ジョニーさんがお待ちかねだよ。 |
| ジョニー | お前さんたちが鏡士ご一行様か。悪いね、ベッドの上からで。 |
| ジョニー | 肋をやられているらしくてね。上半身を起こしているのが精一杯なんだ。 |
| イクス | そんな……。俺たちは大丈夫ですから、無理はしないで下さい。 |
| ミリーナ | 横になった方が楽なら、そうして頂いても……。 |
| ジョニー | いや、大丈夫だ。お前さんたちが来るまでの間に大体のことは聞かせてもらったよ。 |
| ルカ | 勝手に話しちゃったけど悪かったかな ? |
| イクス | いや、助かるよ。ありがとう、ルカ。 |
| スタン | ジョニーさん。俺たちの方からさっきの話をしましょうか ? |
| ジョニー | いや、自分で話すよ。まず、自己紹介から。俺はジョニー・シデン。元の世界では訳あってスタンたちと一緒に旅をしていた。 |
| イクス | あ、俺はイクスです。イクス・ネーヴェ。こっちは俺の鏡精のコーキスです。 |
| コーキス | ちっす。よろしく、ジョニーさま。 |
| ミリーナ | 私はミリーナ・ヴァイスです。この子は私の鏡精のカーリャです。 |
| カーリャ | よろしくお願いしまーす。 |
| ジョニー | 奥の二人も鏡士かい ? |
| ジェイド | いえいえ。しがない鏡映点兼軍人です。ジェイドとお呼び下さい。 |
| アステル | あ、僕もしがない鏡映点兼人質のアステルです。 |
| ジョニー | 人質…… ? |
| イクス | あ、その辺りはまた後で。無駄話も疲れさせてしまうでしょうからジョニーさんのお話を聞かせて頂けませんか。 |
| ジョニー | ……悪いがそうさせてもらうよ。 |
| ジョニー | さて、と。俺が具現化されたのは1年近く前のことだった。 |
| ジョニー | ファントムって男が特異鏡映点を集めていて俺も特異鏡映点だったってんで救世軍に捕まったんだ。ここまではOK ? |
| ミリーナ | はい。ルカやローエンさんたちと同じですね。 |
| ジョニー | ああ、そこの坊やは、俺の牢屋仲間だった。魔鏡陣とやらで気を失ってから、姿を見なくなっちまったから心配していたが、無事で何よりだ。 |
| ルカ | すみません。僕だけ先に逃げ出していて……。 |
| ジョニー | それを言ったら、俺だってリーガルを残したままだからな。人のことは言えないさ。体を治したら、助け出してやらないとな。 |
| リオン | ファントムは特異鏡映点を使って負の力を帯びたアニマを集め奴の理想の世界を造ろうとしていたんだな。 |
| ジョニー | ああ。だが、ファントムって奴はしくじったらしいな。気付いたら今度はアスガルド帝国とやらに捕まっちまってた。 |
| ジョニー | 牢屋から牢屋へ引っ越しなんてうんざりしたぜ。 |
| イクス | 帝国はどうしてジョニーさんたちを捕らえていたんですか ? |
| ジョニー | ローエンから聞いてないのか ? |
| ルーティ | ローエンはまだ本調子じゃないのよ。それにここにいる訳じゃないから話を聞きそびれちゃってるのよね。 |
| ジョニー | そうか。ローエンは衰弱が激しかったしな……。帝国の連中は俺たちが持つ負のアニマを使って過去の世界を具現化する為の研究をしたかったらしい。 |
| ジョニー | その為に取引の材料にされたのが【死者の復活】だ。俺の場合は―― |
| スタン | エレノアさんか……。 |
| コーキス | エレノアさま ? あ、名前が同じの別の人か……。 |
| カーリャ | どういうご関係なんですか ? |
| リオン | くだらないおしゃべりはやめろ、カトンボ。 |
| カーリャ | カトンボォォォォ ! ? |
| コーキス | リオンさま ! それはパイセンに失礼だろ ! |
| ミリーナ | 二人とも、落ち着いて。カーリャ。あまりぶしつけなことを聞いては駄目よ。 |
| ジョニー | いや、構わないよ。彼女は大切な……幼なじみだ。奴らの申し出はもちろん断ったよ。 |
| ジョニー | 異世界で彼女を甦らせたところでどうなるって言うんだ ?そんなものは死者への冒涜だ。 |
| 二人 | ………………。 |
| ジュード | ジョニーさんはひどい暴行を受けていたみたいなんだ。全身痣だらけで、骨にヒビが入っている箇所もある。 |
| ジュード | パスカルがレントゲン装置を作ってくれたのが役に立ったよ。 |
| ジェイド | ……ではあなたは、無理矢理その過去の具現化研究に協力させられていたということですね ? |
| ジョニー | 途中まではね。ある時から精霊の研究とやらに引っ張り出されたのさ。 |
| アステル | 精霊…… ? 精霊装研究ですか ? |
| ジョニー | いや、詳しいことはよくわからないが俺には【音の精霊】とやらの力を引き出す能力があるって話でな。 |
| ジェイド | ! |
| アステル | 音の精霊…… ? 聞いたことがないな……。 |
| ミリーナ | アステルさんって帝国で精霊の研究をしていたんでしょう ? そのアステルさんが知らない精霊なんているのかしら……。 |
| コーキス | クラースさまとかミラさまとかエミルさまに聞いてみたらいいんじゃないか ?セルシウスさまもいるし……。 |
| ジェイド | 精霊たちに話を聞くのが手っ取り早いかも知れません。ただ……。 |
| リオン | ジェイド。何か心当たりがあるのか。 |
| ミリーナ | ジェイドさん。確証が持てなくても構いません。教えて下さい。 |
| ジェイド | 確証……とまでは行きませんが、ある程度の予測はついていますよ。 |
| ジェイド | そうですね。……ここはお話ししておいた方がいいのかも知れない。 |
| ジェイド | ジョニー。その音の精霊の名前は【ローレライ】ではありませんか ? |
| ジョニー | ああ、確かそんな名前だった。お前さん、音の精霊を知ってるのかい ? |
| ジェイド | ……知っているのとは少々違いますね。私のいた世界には音素(フォニム)というエネルギーが存在しており、様々な属性を帯びています。 |
| ジェイド | そして音素(フォニム)は一定数以上集まると自我を持つ……と言われていました。 |
| ジェイド | その中で音の属性を持つ音素(フォニム)の意識集合体をローレライと読んでいたんですよ。 |
| ジェイド | 我々の世界の意識集合体は精霊という概念に似ていると考えています。 |
| ミリーナ | そうか……。音の意識集合体がエンコードされて精霊と認識された……と考えているんですね。 |
| ジェイド | はい。ここまでキール研究室では、様々な異世界のエネルギー法則などを学び、それがこの世界でどう定着していったのかを研究していました。 |
| ジェイド | 異世界の様々なエネルギー物質――例えばマナや音素(フォニム)、レンズに宿るエネルギーなどはこの世界ではキラル分子に変換されています。 |
| ジェイド | 厳密に言えば、全てがキラル分子として定義されている訳ではありませんがそれはまぁ、置いておきましょう。 |
| ジェイド | この世界では、我々の世界のエネルギーはキラル分子化しているんです。そうすることでパッチワークのように様々な世界を一つの世界にまとめている。 |
| ジェイド | エンコードは異世界の法則をティル・ナ・ノーグの法則に書き換える為の処置ですから。 |
| イクス | だからエンコードが施された結果エネルギーだけでなく天族も精霊のように定義された。 |
| イクス | それなら、音の意識集合体も精霊と定義された可能性がある……と言うことですね。 |
| ジェイド | ええ。そしてローレライにはもう一つ星の記憶を持つという特性があります。 |
| ジェイド | この特性がエンコードによって残されているかはわかりませんが、帝国好みだとは思いませんか ? |
| イクス | 過去の具現化……分史世界の概念……精霊……ダーナ……滅びた世界ニーベルング。それに星の記憶……。 |
| イクス | まさか帝国が甦らせようとしているのはビフレストじゃなくて―― |
| ミリーナ | ……滅びた世界ニーベルング。 |
| ジュード | ニーベルング ? それは何 ? |
| ジェイド | ……なるほど。イクスの隠し事はそのニーベルングに関わるものなんですね。 |
| イクス | それだけじゃないんですけど……。ここにはエルもいませんから全てを話しておきますね。 |
| Character | 3話【3-5 鬱蒼とした森林5】 |
| リヒター | (デクスに似た男がいたような気がしたが……。捜させるべきか……) |
| アスガルド軍兵士 | 焔獄のリヒター様 ! |
| リヒター | その呼び方はやめろと言った筈だ !ディストは眠ったままなんだ。義理立てする必要もないだろう。 |
| アスガルド軍兵士 | は……。それが、サレ様が必ずそう呼びかけるように、と……。 |
| リヒター | ちっ。あのイカレコンビの片割れか。……それで、何か用なのか ? |
| アスガルド軍兵士 | メルクリア様が焔……リヒター様を捜しておられます。 |
| リヒター | ! |
| リヒター | ……起きていていいのか、メルクリア。 |
| メルクリア | ……話を聞いたのだな。そんな怖い顔をするな。アルヴィンはもっと優しかったぞ ? |
| リヒター | これでも怒鳴りつけたいのを我慢してやっているんだ。危険を顧みずに幻体を他人の心の中に送り込むなどお前はバカか。 |
| メルクリア | ……わらわを叱るなど、100万年早いぞ ! |
| リヒター | 黙れ ! 自分にやれることとやれないことの区別ができずに無鉄砲をするようなガキがいきがるな ! |
| メルクリア | ……う………………。 |
| ジュニア | ま、待って、リヒターさん。メルクリアは幻体を送り込んだせいで元々弱ってた体が―― |
| リヒター | ジュニア。お前もメルクリアを甘やかすな。気持ちがわかるんだろうが……。 |
| ジュニア | ………………。 |
| リヒター | メルクリア。泣きたいなら泣いてもいい。だが、自分がしたことには責任を取れ。 |
| メルクリア | ……わ……わかった……。 |
| ジュニア | ……リヒターさんって、昔のイクスに似てるね。 |
| リヒター | ……俺はあんなに神経質じゃないぞ。 |
| ジュニア | ああ、そういうところはね。そりゃ、イクスの方が穏やかだけど小さな頃のイクスは今とはちょっと違ってたんだよ。 |
| メルクリア | ……あんなセールンドの鏡士のことはどうでもいい。それよりリヒター、アステルはどうした ?ハロルドが捜していたぞ。 |
| リヒター | ……少し、散歩に出ている。その内に戻る。 |
| メルクリア | 本当か ? そなたもわらわに隠し事をするのか…… ? |
| リヒター | ……ここだけの話にできるか ? |
| メルクリア | 無論じゃ。わらわは約束は守る。ジュニアもじゃな。 |
| ジュニア | ……うん。 |
| リヒター | アステルは……イクスとミリーナたちに誘拐された。 |
| ジュニア | え ! ? |
| メルクリア | なんじゃと ! ? 黒衣の鏡士め !リヒターの莫逆の友になんという真似を ! ! |
| メルクリア | リヒターもリヒターじゃ ! アステルを奪われておめおめと逃げ戻ってきたのか ! ?それとも手勢を連れて、今一度鏡士たちを―― |
| リヒター | 落ち着け ! あちらにはエミルがいる。……ラタトスクも、だが。 |
| リヒター | エミルなら……アステルを傷つけたりはしないだろう。それに今はアステルが帝国にいないことは好都合だ。 |
| ジュニア | どういう意味ですか、リヒターさん。 |
| リヒター | ジュニアも知っているだろう。先だっての御前会議で精霊装の実用化計画がスタートすることになった。 |
| リヒター | 武器に人格を投影するベルセリオス博士の理論とアステルの考案した精霊輪具を使って精霊装を汎用的に利用するつもりらしい。 |
| リヒター | だが俺は、精霊装を闇雲にばらまくのには反対だ。精霊を扱うにはそれなりの力がいる。アステルがいなければ、計画は一時的に止まるだろう。 |
| リヒター | その間に、精霊装の扱いを再考させたい。 |
| ジュニア | いいんですか、リヒターさん。メルクリアにその話をしても。 |
| リヒター | メルクリアを子供扱いして何も知らせないからメルクリアはこうなった。違うか ? |
| ジュニア | それは……。 |
| メルクリア | どういう意味じゃ ? |
| リヒター | メルクリア。お前はデミトリアスが何をしようとしているのか知っているか ? |
| メルクリア | 義父上はビフレストを甦らせる手助けをして下さっている。そしてこの世界を滅ぼすセールンドの鏡士と鏡精を退治しようとしておられるのじゃ。 |
| メルクリア | セールンドの愚かしさの責任と向き合いビフレストとの戦争を止められなかった悔恨の気持ちを抱いておられる。 |
| リヒター | ……間違ってはいない。だがデミトリアスはお前とお前の母の復讐心を利用している。 |
| メルクリア | 母上様のことは言うでない ! |
| リヒター | メルクリアお前のその気持ちは本当に自分のものなのか ? |
| メルクリア | 黙れ ! 母上様は……母上様はわらわを知の乙女と認めて下さった ! |
| メルクリア | わらわがビフレストを甦らせれば母上様はきっと褒めて下さる。 |
| ジュニア | メルクリア……。エルダ皇后はもう亡くなったんだよ。 |
| メルクリア | そんなことはわかっている !じゃが母上様はビフレストの復活を望みセールンドを憎んでおられた。 |
| メルクリア | わらわはビフレストの民と国を甦らせ知の乙女としてダーナの力を宿し皆を幸せにするのじゃ ! |
| メルクリア | それこそが母上様とわらわの望みじゃ !ビフレストの皆を甦らせるのじゃ ! ! |
| リヒター | メルクリア、それは間違っている。 |
| メルクリア | 何故じゃ ! 何故死んだ者を甦らせてはならぬ !リヒターもアステルを甦らせたではないか。わらわだって皆を甦らせたい ! |
| メルクリア | 兄上様も――母上様だって !今はその手段がなくとも、必ず―― |
| リヒター | 違う。甦らせたいと思うのは、みんな同じだ。だがお前の望みとお前の母親の望みは同じではないだろう。 |
| リヒター | お前が本当にビフレストを甦らせたいのなら俺は何も言わん。だが、お前はビフレストのことを知らないだろう ? |
| リヒター | ビフレストはお前が今よりもっと幼い頃に滅びた。ビフレストのことを何一つ覚えてはいない筈だ。 |
| メルクリア | 知らぬ ! 知らぬから甦らせたいのじゃ !母上様が愛し、兄上様が命をかけて守ろうとしたビフレストをわらわも見たいのじゃ ! |
| メルクリア | わらわは……わらわは……。 |
| リヒター | ……わかった。この話はまたにしよう。 |
| リヒター | だが、メルクリア。デミトリアスが何をしようとしているのかは知っておいた方がいい。目的は同じでも手段は違うかも知れないぞ。 |
| メルクリア | ………………。 |
| Character | 4話【3-7 閑散とした街道1】 |
| ルカ | え……。つまり、このティル・ナ・ノーグはニーベルングと言う世界の滅亡から逃れる為に造られた世界ってこと ? |
| ルーティ | 何なの、それ……。 |
| クラース | ……今の話は本当なのか ? |
| ルーク | この世界そのものがレプリカみたいなものってことか ? |
| イクス | ど、どこから聞いてたんですか ! ? |
| エミル | す、すみません。あの……。ヴィクトルさんの話のあたりから……。 |
| コーキス | ほぼ全部じゃん ! ? |
| カーリャ | 立ち聞きですよね、それ ! ? |
| ガイ | すまん。止めようとはしたんだが……。 |
| マルタ | なんか、気になる話をしてたし……。 |
| アーチェ | 深刻そうな雰囲気だったしさー。 |
| テネブラエ | まぁ、途中でお話の腰を折るより全部聞いてしまおうと。いえいえ、けっして出歯亀根性ではなく。 |
| リオン | フン、しつけのなってない奴らだ。 |
| クラース | すまん。言葉もない……。 |
| ジョニー | 何だか一気に人が増えたな。元気ならば一曲披露したいところだが……。 |
| ルーティ | それは元気だったとしても遠慮しておくわ。 |
| ルーティ | で、あんたたち、何か用 ?まさか本当に立ち聞きしにきただけじゃないんでしょ。 |
| アーチェ | じゃ、まずはあたしから。セシリィが落ち着いてきたから話を聞いてあげて欲しいと思って。 |
| エミル | 僕たちは……。精霊たちが感じてる妙な気配のことを共有したくてきました。 |
| クラース | 私もその話に興味があってな。一緒に来たと言う訳だ。 |
| ガイ | 俺たちの要件は、もう想像がついてるだろ、ジェイド。 |
| ジェイド | おや。 |
| ルーク | ユーリたちから聞いたんだ。イオンのこと……。それでアニスが……。本人は平気だって言うんだけどどう見ても平気じゃねぇから……。 |
| ジュード | 色々混線してるね。ただ、これ以上ここで話すのはジョニーさんの体に負担がかかる。 |
| ジュード | 医務室を預かる身としては他の場所で話の続きをして欲しい。 |
| ジョニー | すまないね、迷惑をかけて。 |
| ミリーナ | それじゃあ、こうしましょう。私はセシリィの話を聞きに行くわ。ジェイドさんはルークさんたちと話をして、イクスは―― |
| イクス | 精霊組の話を聞けばいいんだな。 |
| アステル | あ、僕も精霊の皆さんとお話しさせて下さい。 |
| ジェイド | ……ルーク、ガイ。私はアステルから話を聞きたいと思っています。後で必ず皆さんのところに行きますから今はアニスをお願いします。 |
| ルーク | ……わかった。俺も……気になるからさ。早く来てくれよな。 |
| スタン | 俺たちはここでもう少しジョニーさんと話していくよ。いいだろ、ジュード、ルカ。 |
| ジュード | もちろん。 |
| ルカ | 後でスパーダも挨拶したいって言ってました。 |
| ジョニー | そうか……。 |
| イクス | それじゃあ、みんな、そろそろ失礼しよう。ジョニーさん。まずは体をしっかり治して下さい。 |
| ジョニー | すまない、恩に着るよ。 |
| エミル | とりあえず、みんな僕の部屋に集まってもらったよ。ミラさんだけはまだちょっと体調が心配だから休んでもらってるけど。 |
| アステル | ……この世界のマクスウェルの影響ですね。 |
| イクス | 妙な気配を感じてるって聞いたけど……。それって、この世界のマクスウェルの残滓のことか ? |
| セルシウス | いえ、似ているけれど違うわ。わたしたちが今感じているのはアスカとシャドウの気配よ。ただ……妙なの。 |
| エミル | わかります。上手く言えないけど……存在が空気中に染みだしているって言うか……。 |
| ジェイド | ……アステル。丁度いい頃合いです。あなたに聞きたいことがあります。帝国が精霊をどうしようとしているのか。 |
| ジェイド | 確かアスカは光、シャドウは闇の精霊ですね。その気配がおかしいのは帝国に関わりがあるのでは ? |
| アステル | ……はい。そのことを伝えたくて僕もここに来ました。 |
| アステル | リヒターも多分、精霊を守りたいと思っているはずだから、ここで話しても許してくれると思います。 |
| エミル | リヒターさん……。精霊の研究をしていたんですよね。 |
| アステル | そうです。……って、なんか不思議だな。自分の顔を見ながら話すのって。 |
| 二人 | ……………………。 |
| アステル | 帝国はダーナの声を聞こうとしてるんです。その為に精霊の力を借りようとした。 |
| アステル | それでアイフリードの残した宝具を使い最初に接触できたのがマクスウェル。 |
| アステル | でも、マクスウェルを目覚めさせることはできず逆にマクスウェルは命を落としたそうです。 |
| アステル | 僕はそのマクスウェルを再生させる研究を請け負っていました。 |
| アステル | そしてマクスウェルの残滓を発見した。それを精霊輪具で集めて、マクスウェルの力だけは精霊輪具に宿すことができたんです。 |
| コーキス | 前に聞いたぞ。精霊輪具は精霊と神依するための指輪だって。 |
| アステル | そう。神依の資料を読んで、精霊輪具を考えたんだ。 |
| アステル | 何か依代があれば、精霊輪具に宿したマクスウェルの力と依代を神依化させてマクスウェルを助けられるんじゃないかって。 |
| アステル | でも……デミトリアス陛下は、単なる依代じゃなくて異世界のマクスウェルを呼び出して、そのマクスウェルと精霊輪具のマクスウェルの力を神依化させようとした。 |
| アステル | そのために、このアジトにいるミラ=マクスウェルとは違う、もう一人のミラ=マクスウェルを具現化した。 |
| アステル | 僕は……そんな風にするために精霊輪具を開発した訳じゃないのに……。 |
| クラース | ……もう一人のミラは、ヴィクトルによって帝国から助け出された。そして……今は精霊の封印地でダーナの心核の崩壊を防いでくれているのだな。 |
| クラース | しかしダーナの声を聞こうとしていた筈が何故ダーナの心核を壊すような真似をするんだ ? |
| アステル | わかりません。その話を聞いて……僕もショックです。リヒターは僕が帝国の情報に触れることを嫌がって遠ざけようとするから、僕も知らないことが多くて。 |
| ジェイド | 話を戻させてもらいますよ。ヴィクトルの話に出ていた【精霊装】というのは、精霊輪具を使った神依と考えていいのでしょうか。 |
| アステル | はい。もちろん完全な神依化はスレイさんと天族にしかできないと思います。 |
| アステル | ただ、帝国は目覚めていない精霊のエネルギーすらも精霊輪具で取り込むことに成功してしまいました。これは……僕のせいでもありますが。 |
| アステル | そしてベルセリオス博士の考案した装置を使って精霊の力を武器に投射して使う【精霊装】が完成したんです。 |
| アステル | 手始めにアスカとシャドウを精霊装に利用すると言っていました。僕は……それを阻止したい。だからここに来ました。 |
| マルタ | 阻止って……どうするの ?クラースさんが契約するとか ? |
| マルタ | 精霊って一人の召喚士と契約すれば他の人とは契約できないんでしょう ? |
| セルシウス | それはあなたの世界の精霊との約束事ね。だからといって、全ての世界がそのルールというわけではないの。 |
| セルシウス | ティル・ナ・ノーグはそのルールではないわ。それにアスカもシャドウもまだ目覚めていない。 |
| テネブラエ | 私は闇のセンチュリオンです。シャドウの気配は他の精霊より強く感じます。 |
| テネブラエ | シャドウが目覚めていないのは断言してもいい。クラースさんはまだ契約ができないでしょう。 |
| アステル | それに契約したところで精霊輪具には関係がないんです。精霊の力を吸い取ってしまうから。 |
| コーキス | そういえばミクリオさまが精霊輪具をはめたとき疲れたって……。あれって力を奪われたってことだったのか ! ? |
| アステル | そう。だから長時間つけては駄目だって言ったんだ。 |
| ジェイド | 帝国の精霊装を阻止したいと言いましたね。アステル。何か策があるのですか ? |
| アステル | 万全とは言えないけど……あります。精霊の力を占有させない方法が。 |
| アステル | それと精霊が精霊輪具に抵抗する方法も。これは既に目覚めている精霊を守るために役立つと思います。 |
| Character | 5話【3-7 閑散とした街道1】 |
| ミリーナ | 初めまして、セシリィ。私はミリーナ、こっちの子はカーリャよ。 |
| カーリャ | よろしくお願いします♪ |
| セシリィ | ……は、はい。初めまして、ミリーナさん……。 |
| ミリーナ | 何が起きたかわかる ? |
| セシリィ | ……うん。あの……クレアさんたちに、色々お話聞いたから……。 |
| ミリーナ | そう。じゃあ、どうしようかしら。とりあえずガロウズを呼びましょうか ? |
| セシリィ | 駄目 ! ボスは駄目 ! 怒られちゃう ! |
| クレア | セシリィは……自分でリビングドールに志願したらしいの。 |
| ミリーナ | え ! ? |
| セシリィ | ……私、ボスみたいにもっと魔鏡に詳しくなって早く一人前の魔鏡技師になりたかったから。 |
| セシリィ | ビフレストの凄い鏡士が私の中に入ってきたら私も鏡士みたいに魔鏡に詳しくなれるのかなって……。それにメルクリア様にも協力したかった。 |
| セシリィ | でも、ボスがこの話を聞いたら絶対怒ってハモンだって言うもん……。 |
| ミント | メルクリアさんとはお友達なんだそうです。 |
| ミリーナ | そうなの……。ねぇ、セシリィメルクリアとはどうやって知り合ったの ? |
| セシリィ | ゲフィオン様に頼まれたの。セールンドのお城に、メルクリア様と同じぐらいの年の子供がいないから、遊び相手になって欲しいって。 |
| ミリーナ | ! ? |
| マリアン | ミリーナさん ? 何だか顔色が……。椅子に座った方がいいのでは……。 |
| ミリーナ | あ……。大丈夫。ありがとう……。ちょっと驚いただけで……。 |
| ミリーナ | (ゲフィオンの記憶は滅びの夢として受け継いで来た筈なのに……) |
| ミリーナ | (やっぱり私が受け継いだゲフィオンの記憶には欠落があるんだわ) |
| リヒター | ジュニア。メルクリアを頼む。早く体調を戻してデミトリアスから離れさせたい。芙蓉離宮が無理ならどこか別の場所でもいい。 |
| ジュニア | リヒターさん、どこへ行くんですか ? |
| リヒター | ハロルドと話をしてくる。アステルの件、適当にごまかしておかないとな。……そんな手段が通じる女ではないだろうが。 |
| メルクリア | ……待ってくれ、リヒター。わらわが悪かった。母上様のことを出されると取り乱してしまうのじゃ。 |
| メルクリア | それより聞かせて欲しい。義父上と何を話したのじゃ ?ジュニアは話してくれぬ。だから……。 |
| リヒター | ……わかった。 |
| デミトリアス | 全ての方針を見直すことにした。 |
| チーグル | どういうことだい。デミトリアス帝。まさか……ビフレスト復活の悲願をなかったことにするとでも言うのかな。 |
| リヒター | だとしたら迷走にも程があるな。最初は救世軍としてゲフィオンの具現化計画を止めるように言われた。 |
| リヒター | もっともあれは、ファントムの望む理想世界の構築の片棒を担がされた訳だが……。 |
| リヒター | その後に救世軍ごと帝国に吸収されビフレスト復活の為、リビングドール計画だのダーナの器探しだのと奔走させられた。 |
| リヒター | ファントムにせよメルクリアにせよ貴様が後ろ盾だった。つまりは貴様の迷走だろう。 |
| デミトリアス | そうだね。その点は恥ずかしく思うよ。最初はフィルの願望を愚直に実行しようとするファントムに同情して、彼に力を貸しただけだった。 |
| デミトリアス | ゲフィオンを犠牲にしなくても世界が救われるのならその方がいいと思ったからね。 |
| デミトリアス | しかしファントムとメルクリアが、ウォーデン――ナーザ将軍をリビングドールとして甦らせてから全てが変わってしまった。 |
| ローゲ | 死の砂嵐こそが、死の季節【フィンブルヴェトル】だと知ったのだな。 |
| デミトリアス | そうだ。 |
| デミトリアス | この世界はダーナが生み出した【ダーナの揺り籠】。滅びた世界ニーベルングの生き残りが避難してきた方舟のような世界だった。 |
| デミトリアス | 具現化によって生まれた世界だからこそ鏡士の力があらゆるものを【想像】し、世界と【融合】させることで【創造】できた。 |
| デミトリアス | この世界において鏡士は神にも等しい力を持っている。 |
| チーグル | ダーナは予言を残した。 |
| チーグル | 『揺り籠を揺らす手を操ろうとしてはならぬ。鏡写しの心は、アニマ無き人となり再びフィンブルヴェトルを招くだろう。 |
| チーグル | フィンブルヴェトルが揺り籠を飲み込むときダーナの巫女は目覚め精霊を従えてラグナロクへと立ち向かう。 |
| チーグル | フィンブルヴェトルは死の季節。世界の終末の始まりである』ダーナの黙示録の一節さ。 |
| サレ | ゲフィオンのカレイドスコープが死の砂嵐――いやフィンブルヴェトルとやらを生み出したんだろう ? 歴史は繰り返すんだねぇ。 |
| サレ | ニーベルングを滅ぼしたフィンブルヴェトルを避難先でご丁寧に再現するなんてこの世界の人間は脳みそがハムスター並だね。 |
| サレ | 回し車の中で全力疾走して滅びから逃げたつもりになってるのかな ? |
| チーグル | 黙れ、血まみれのドブネズミが。 |
| サレ | へぇ、ハムスターにもプライドがあるんだね。 |
| チーグル | ! |
| ローゲ | やめておけチーグル。所詮はどこぞの馬の骨に一撃で沈んだ三下よ。 |
| サレ | ! |
| ハスタ | フェスティバ――――ル。ハムスターで生ハム作りか ?ダ・レ・ニ・ミ・カ・タ・シ・ヨ・ウ・カ・ナ。よし、両方殺そう ! |
| デミトリアス | サレ、ハスタ。退屈の虫が騒ぐのなら別の機会を用意するよ。 |
| デミトリアス | 特にハスタ。特異鏡映点亜種の二人には浅からぬ因縁があるのだろう ? |
| ハスタ | アス……なんとかとデュラなんたらさんだっけか……?俺さまにズタボロのボロキレにされるがいいわぁぁはははは ! |
| リヒター | ハスタ、サレ。お前たちは――いや、俺も所詮はこの世界の異分子。その行く末に興味は無いはずだ。 |
| リヒター | 今はわざわざこの世界の愚かな連中を煽ったところでこの下らん会議が長引くだけだぞ。 |
| サレ | ……自分は賢者だとでも言いたげだね、リヒター。アステルのことが話題に上がれば自分もうるさく騒ぎ立てるくせに。 |
| リヒター | ………………。 |
| ジュニア | ――あの……。陛下。全てはダーナの声を聞いて確証を得てからではなかったんですか ? |
| ジュニア | 死の砂嵐がフィンブルヴェトルで間違いないのかもダーナの言葉を聞く必要があります。 |
| ジュニア | それに、ダーナの巫女が完全に目覚める前に一部の精霊が目覚め始めているのも……。 |
| デミトリアス | ……いや、もうダーナの言葉を待つつもりはない。もちろん、ビフレストの復活は約束する。だが、それがティル・ナ・ノーグであるとの保証はしない。 |
| チーグル | ……どういうことだ ? |
| デミトリアス | 私はティル・ナ・ノーグを救うためにはこの世界ができた当時の姿に戻すことが最良と考えた。 |
| デミトリアス | しかしアスガルド帝国以前の十二王国時代のことは完全に文献が失われている。故にアスガルド帝国時代に回帰することを第一の目的とした。 |
| デミトリアス | あの頃はダーナの託宣を受ける巫女がいたからだ。 |
| デミトリアス | だが……仮に鏡精を殺し、セールンドの鏡士の力を封じたとしても、いずれまた同じ危機がやってくるのではないか。 |
| デミトリアス | ならば目指すべきは抜本的変化。つまりダーナの揺り籠たるティル・ナ・ノーグを捨てニーベルングに回帰する。 |
| ローゲ | 滅びた世界に回帰する、とな ? 面白いではないか ! |
| チーグル | 馬鹿な……。そんなことができるものか ! |
| デミトリアス | 誰ができぬと決めた ?ダーナがこの世界を生み出したときも同じように言われたのではないか ? |
| リヒター | ……ダーナにはニーベルングが救えなかった。だからこの世界を生み出したのではないか ? |
| デミトリアス | 今は、ダーナの時代になかったものがある。 |
| ジュニア | 異世界のアニマと鏡映点……ですか ? |
| デミトリアス | そうだ。我らはこの世界を捨て、ニーベルングを再誕させる ! |
| メルクリア | な……何…… ?それは……それではビフレストはニーベルングに甦らせるというのか ? |
| メルクリア | それは……それは本当にビフレストなのか ? |
| リヒター | ……さあな。メルクリア、お前はビフレストを『どんな形で甦らせたい』んだ ? よく考えろ。その答え次第で、デミトリアスは敵になる。 |
| ジュニア | リヒター。メルクリアはまだ子供なんだよ ? |
| メルクリア | わ、わらわは子供ではない ! |
| リヒター | 子供は子供であることを否定する。俺もメルクリアは子供だと思う。 |
| リヒター | だが、子供だからものが考えられない訳じゃない。勇気を持って真実を追究しろ。 |
| リヒター | 勇気は……夢を叶える魔法だ。 |
| Character | 6話【3-9 イ・ラプセル城】 |
| イクス | とりあえず、アステルさんに言われた通りイ・ラプセル城の堀まできたけど……。ここで精霊の研究が行われてるんですか ? |
| アステル | そんな、気を遣って喋らないでよ。見た感じ僕の方が年下みたいだし。 |
| イクス | あ、うん。わかった。ありがとう、アステル。 |
| アステル | で、精霊研究の件だけど、複数の施設があるんだ。ここはその一つ。精霊装研究を行ってるところ。 |
| アステル | さて、ここからどうやって忍び込もうかな。僕一人なら、なんてことなく入れるけど……。 |
| コーキス | ミリーナさまがいれば、幻の霧で姿を隠せるのに……。 |
| マルタ | ミリーナはセシリィの話を聞いてから合流するって言ってたんだっけ。 |
| クラース | 事を荒立てるのは良くないからな。 |
| テネブラエ | いい方法があります。 |
| テネブラエ | こういうのはいかがでしょう ? |
| エミル | ええええええ ! ? |
| マルタ | そういえば、テネブラエって色々変身できたもんね。釣り竿とか。 |
| アステル | 凄い ! 僕も以前センチュリオンのアクアと旅したことがあるけどアクアにはこういう力はなかったなぁ。 |
| テネブラエ | 所詮、アクアはジメジメしたカビ臭い水属性。高貴な闇に敵う筈もありません。 |
| クラース | ウンディーネが聞いたら何を言われるかわからん発言だな……。 |
| マルタ | シャーリィもミクリオも怒りそう。あ、シャーリィの場合はセネルが怒りそう……。 |
| エミル | だから陰険ジジブラエって言われるんだよ。 |
| テネブラエ | 失敬な ! 私はジジイではありません ! |
| コーキス | 陰険は否定しないんだな……。 |
| クラース | しかし、この変装――いや、変身なら、敵も偽物とは分からないだろう。テネブラエとアステルに見張りを遠ざけてもらって、城の中へ入ろう。 |
| アステル | わかった。それじゃあリヒブラエ、行こうか ! |
| リヒブラエ | 承知しました。 |
| エミル | リ……リヒブラエ……。 |
| イクス | 今度リヒターに会ったら、うっかりリヒブラエって言っちゃいそうだな……。はは……。 |
| クラース | 何とか、内部に潜入できたな。 |
| リヒブラエ | 私の手に掛かれば朝飯前――いえ、夜飯前ですよ。 |
| クラース | ……センチュリオン……か。何というか、精霊の眷属にも色々あるのだな。 |
| マルタ | ねぇ、ここにシャドウとアスカがいるの ? |
| アステル | 正確には、シャドウとアスカの心核があるんだ。帝国は眠りについた精霊の心を具現化することで手元に保管しているんだ。 |
| アステル | 今のところ、シャドウとアスカとクロノスの心核具現化に成功してる。 |
| クラース | どこにいるともわからない精霊の心を具現化した ! ? |
| アステル | ジュニア……えっと小さいフィリップがね。ファントムのカレイドスコープを使って精霊の力を見つけたんだ。 |
| イクス | フィル……。昔から頭が良かったからな。鏡士としても才能があって、すぐにセールンドの王立魔鏡科学研究所に推薦されたんだ。 |
| イクス | ……って、これは、一人目のイクスの記憶なのかも知れないけど。 |
| アステル | うん。彼は凄いね。心核を……えっと別の世界の晶霊石というものに見立てて、クレーメルケイジに収めたんだ。 |
| アステル | 精霊たちは眠っているけど、その力は既に世界中に広がり始めてる。でも心核があれば、そこを目指して精霊の力が戻ってくるみたいなんだ。 |
| アステル | 帝国はそれを精霊輪具で吸収して精霊装に使おうとしてるんだよ。 |
| クラース | 晶霊というのは、キール達の世界での精霊のような存在だったな。なるほど……。そうすれば目覚めていない精霊を先んじて支配下におけると言うことか。 |
| ラタトスク | けっ。人間如きが精霊を許可なく檻に閉じ込めるとはな。だから人は信用できねぇんだ。 |
| エミル | 人間ってひとくくりにするのは駄目だよ、ラタトスク。精霊も色々、人も色々、でしょ ? |
| ラタトスク | んなこたぁ、お前に言われなくてもわかってる。 |
| イクス | アステルの希望は、俺たちがシャドウとアスカのクレーメルケイジを回収してアジトに持ち帰ることなんだよな。 |
| アステル | そう。クロノスは別の場所に運ばれているから無理だけど、シャドウとアスカだけでも帝国の手から取り上げて欲しいんだ。 |
| クラース | それで、敵の精霊装計画を阻止するのはわかった。だが精霊が精霊輪具に抵抗する方法というのはどうするんだ ? |
| クラース | それに何故帝国は精霊を武器として使用する ? |
| アステル | 精霊を武器にするのは、おそらく精霊の力でしか壊せないものを壊すためだと思います。 |
| アステル | 異世界にある晶霊砲(クレーメルキャノン)や魔導砲という大型の兵器にすることも考えられているようですが今のところそれでは『被害が大きすぎる』んだとか。 |
| アステル | でも何を壊すつもりなのかは僕には知らされていなくて……。 |
| リヒブラエ | その研究を止めよう……とはなさらないんですか。あなたは元の世界で、滅びを回避しようと命がけでラタトスク様の元へ出向いた筈だ。 |
| アステル | ……その姿で言われると笑っていいのか反省すればいいのかわからなくなっちゃうけど。 |
| アステル | でも、そうだね。僕は止めたいと思ってる。でも……例えこの世界の僕らが影の存在でもこの世界のリヒターを殺すような真似はしたくない。 |
| アステル | 僕が研究をやめれば、リヒターが危ないと思う。それに、僕の代わりの天才は異世界にいくらでもいるだろうからね。 |
| アステル | せいぜい研究しているフリで足を引っ張るのが関の山なんだ。 |
| イクス | ……もしかして、それが理由でアステルは帝国から逃げだそうとしなかったのか ? |
| アステル | それも理由の一つ。あとはリヒターが……メルクリアを助けたいと思っているみたいだから。口は悪いけど、お人好しなんだよね。リヒターって。 |
| エミル | ……はい。知ってます。リヒターさんは……いつも優しかった。 |
| ラタトスク | エミルには、な。 |
| クラース | ……では、我々がシャドウとアスカのクレーメルケイジを回収すればアステルの心労も少しは軽くなるという事か。 |
| クラース | 逆に刺激することにもなりかねないという危惧はあるがしかしここはアステルの言う通り、敵の精霊装研究を遅らせるべきなんだろうな。 |
| クラース | もう一つの精霊輪具への抵抗というのは―― |
| アステル | それは研究室でお話しします。とりあえず行きましょう。リヒブラエの正体がばれないうちに。 |
| リヒブラエ | はい。それがいいと思いますよ。 |
| コーキス | よし、俺、今の話を魔鏡通信でミリーナさまに連絡しとくよ。 |
| イクス | 頼むよ、コーキス。 |
| Character | 7話【3-10 精霊研究所1】 |
| アニス | ……い、嫌だなー。大佐まできちゃったんですかぁ ?アニスちゃん、めちゃくちゃ元気ですよ。だって……イオン様が……生きてるんだから……。 |
| ティア | ……大佐。本当なんですか。導師イオンが帝国におられるというのは。 |
| ガイ | どういうことだ。フローリアンの間違いじゃないのか ? |
| ジェイド | 我々とは具現化された時期が違うのでしょう。こういう可能性は十分考えられた。だからこそ鏡映点リストに加えていた訳ですが……。 |
| ジェイド | とりあえず本人がイオンを名乗っている以上フローリアンの可能性は限りなく低いでしょうね。 |
| ナタリア | もし本当にあの導師イオンなのだとしたら私たちが具現化された時より前の時間軸から具現化されたのですわね。 |
| アッシュ | ……もし、それが可能なら。『それ』は本当に導師なのか ? |
| ルーク | は ? どういうことだ ? |
| アッシュ | お前はいい加減その脳みそを使うことを覚えろ !モノは俺と同じの筈だ ! |
| ルーク | 俺のこと、劣化してるって言わないのか ! ? |
| アッシュ | 言って欲しいなら言ってやるぞ ! |
| ガイ | 二人ともいい加減にしろ ! |
| アッシュ | ……すまん、ガイ。 |
| ルーク | ちぇっ。ガイには素直なんだな。 |
| アッシュ | 何―― |
| ティア | ルーク。アッシュは被験者(オリジナル)のことを言っているのだと思うわ。 |
| ルーク | ……え ? |
| アニス | ! ! |
| ジェイド | さすがアッシュ。私も同じことを考えました。イオンと名乗る可能性のある人物は過去へ遡れるなら、少なくとも二人いることになる。 |
| ジェイド | そして……我々の知らないイオン様であった場合少々面倒なことになります。彼は……自分のレプリカを作ろうとした人物ですからね。 |
| ジェイド | もしもディストが目を覚ましていたら……さらに面倒なことになる。 |
| ルーク | ここでもレプリカを作ろうとするってことか ? |
| ジェイド | ええ。可能性はあります。そもそもこの世界の具現化はレプリカと発想が似ている。 |
| ジェイド | いや、記憶を継承できるという点ではこちらのほうが遥かに上です。 |
| ジェイド | それに……ローレライの具現化も予想されます。 |
| アニス | ローレライって……第七音素(セブンスフォニム)の意識集合体…… ! |
| ジェイド | ……ルーク、アッシュ。残念ですが、そろそろ本当のことを話す時期がきたのかも知れません。 |
| ルーク | それって、俺がレプリカだってことか ? |
| ナタリア | 確か、イクスとコーキス、それにヴェイグとセネルにはその話をしたそうですわね。 |
| ルーク | みんな、察してくれて何も言わないでいてくれたけどな。 |
| ガイ | イクスとコーキスはもちろんだがヴェイグもセネルもいい奴だもんなぁ……。 |
| ジェイド | みんなに導師イオンの存在を説明する為には……避けて通れません。 |
| ジェイド | それに、恐らくこの先は、私たちだけではなく様々な異世界の人間が、抱え込んでいる秘密を語らざるを得なくなるでしょうね。 |
| ジェイド | 先ほどミリーナたちがイクスたちを追いかけてアスガルド帝国へ向かいました。話は彼らが戻ってきてからにしましょう。 |
| フィリップ | ………………。 |
| マーク | こんなところにいたのかよ。ヴィクトルの話の途中で消えちまって……。 |
| マーク | また何か不安なことでもあったのか ?それとも……発作か ? |
| フィリップ | ……ごめん。ヴィクトルの話から……色々なことに思い当たってしまって……。 |
| マーク | なぁ、フィル。一人で思い悩むなよ。一人で背負い込むのもナシだ。何を悩んでるんだよ。 |
| フィリップ | 僕らの始まりの場所……。 |
| マーク | ……ん ? それはチビフィルが言ってたことか ? |
| フィリップ | ……僕はずっと避けてきた。あの場所には行きたくなかったから。でも……行かなきゃいけないのかも知れない。 |
| マーク | 何処なんだ、その始まりの場所って。 |
| フィリップ | 水鏡の森。正確にはかつて水鏡の森から行くことができた聖域。……精霊の封印地のことだよ。 |
| マーク | 水鏡の森って……オーデンセにあった森だろ ?あそこから精霊の封印地に行けたのか ! ? |
| フィリップ | 水鏡の森は、色々と特別な場所だったんだ。 |
| フィリップ | 今考えれば、あの森で見られた不思議な現象は精霊の封印地へ通じる次元通路があったから引き起こされていたんじゃないかと思う。 |
| マーク | 今すぐ行くのか ? |
| フィリップ | テネブラエの話では心の精霊が守りを強めたようだから……すぐにはたどり着けないかも知れないけれどね。 |
| マーク | なぁ、そこには何があるんだ。 |
| フィリップ | ――それは、行かないとわからない。 |
| フィリップ | ただ、どうしても気が乗らなくてね。フィリップ・レストンが『こう』なった場所だから。わかるだろ、マーク。 |
| マーク | ……鏡精は鏡士と記憶を共有する訳じゃねぇからな。まぁ……何となく想像ついちまったけど。 |
| マーク | わざわざ心抉りに行くのは感心しねぇけど必要なんだって言うなら仕方ねぇな。ヴィクトルが目を覚ましたら、相談してみようぜ。 |
| フィリップ | ああ。 |
| Character | 8話【3-11 精霊研究所2】 |
| マルタ | ……ここが精霊研究所 ? なんか想像してたのと違う。 |
| リヒブラエ | どんなものを想像していたのですか ? |
| マルタ | サイバック……元の世界の学問所みたいなところ。なんか得体の知れないものが得体の知れない液体に浮いてたり……。 |
| エミル | 僕も同じこと考えてた。普通の建物なんだね。 |
| アステル | ああ、確かにあそことは違うかもね。 |
| アステル | それより、エミルとラタトスクは気をつけてね。他の精霊と違って君たちと同じ属性の精霊はこの世界に存在していなかったんだ。 |
| アステル | だからまだ帝国では研究が進んでいないけどもし捕まって研究対象にされたら……。 |
| ラタトスク | 俺がそんなドジを踏むと思うか。それよりアスカとシャドウの気配がする。イクスの左だ。 |
| クラース | イクス。きみの横にある机の上に置いてあるのがクレーメルケイジではないか ? |
| イクス | ああ、これか。キールたちが持っている物とはちょっと違うんだな。 |
| コーキス | うわ ! ? マスター、光ったぞ ! ? |
| イクス | な、何も変なことはしてない筈だぞ ! ?お、落ち着け……。ボタンらしきものはなかった。レバーらしきものもない。 |
| イクス | もしかして人体の熱に反応しているのか ?だとしたらうかつに触ったことで―― |
| アステル | お、落ち着いて、イクス。これは予想通りの反応だから。イクスの反応は予想外だったけど……。 |
| コーキス | いや、マスターはこーゆー奴だぞ。 |
| イクス | わ、悪かったな !でもアステル。どういうことなんだ ? |
| アステル | そのクレーメルケイジの中にはアスカが入っているんだ。アスカは光の精霊。イクスは光の精霊との相性がいいんだよ。 |
| アステル | だからクレーメルケイジが反応したんだ。 |
| クラース | ということは、私がそれを手にすれば……。 |
| エミル | クラースさんでも光ってるけど……。 |
| リヒブラエ | それはそうでしょう。クラースさんは召喚士ですよね。精霊全般と相性がいい筈です。 |
| コーキス | わ ! 俺も持ちたい ! |
| アステル | 鏡精の場合はどうなのかなぁ……。 |
| マルタ | それじゃあ、私が持ってみるよ。 |
| マルタ | 全然光らない……。つまり、私は光の精霊との相性が良くないんだね。 |
| アステル | 相性が良くないんじゃなくて、普通なんだよ。でも、やっぱり僕の思っていた通りだった。 |
| アステル | ……ナーザ将軍が、ここまでじゃないけれど光の精霊と相性が良かったんだ。 |
| アステル | もちろんナーザ将軍はリビングドールだからイクスが同じ結果を得られるとは限らなかったんだけどでも可能性は十分あった。 |
| アステル | 同じようにゲフィオンさんのデータを使った実証実験もしたんだ。その結果によればシャドウとミリーナの相性もかなりいい筈だよ。 |
| クラース | その口ぶりでは、まるでイクスとミリーナに光と闇の精霊装を託そうとしているようだが……。 |
| アステル | その通りです。それが、精霊を帝国による精霊装と精霊輪具から、精霊を守ることになるから。 |
| リヒブラエ | ……皆さん。気をつけて。誰かがこちらに来ます。 |
| アステル | ベルセリオス博士 ?今はアスガルド城にいる筈だけど……。 |
| イクス | まずい。隠れる場所は―― |
| リヒブラエ | 駄目です ! この部屋にきます ! |
| チーグル | ……ここか。精霊の心核が置いてあるのは―― |
| 二人 | ! ? |
| ラタトスク | おっと ! 見つかっちまったか。 |
| チーグル | ……どういうことだ ? レイカー博士が二人――いや片方は樹の精霊ラタトスクか !おい、リヒター ! これは一体どういうことだ。 |
| イクス | ――ご苦労だったな、レイカー博士。 |
| アステル | ! ? |
| イクス | 大人しく言うことを聞いてくれて助かった。シャドウとアスカは俺たちが頂いていく ! |
| クラース | ! |
| クラース | しかし頭がいいと言っても所詮子供だな。 |
| クラース | このリヒターを本物のリヒターと信じて助けようとしたその友情には感心したが肝心の友が偽者と気付かないとはな ! |
| リヒブラエ | ! ! |
| テネブラエ | はっはっはっ。リヒターと信じた馬鹿な小僧めっ !センチュリオンの力をもってすればリヒターの姿になるなど造作もないことだ ! |
| チーグル | 貴様ら !レイカー博士を謀って、精霊装を奪いにきたか ! |
| マルタ | ざまーないね、レイカー博士 ! |
| エミル | おっと、ローゲにチーグルだったな。このラタトスク様が三下の名前を覚えてやったんだ感謝しろ ! |
| エミル | だが動くなよ。動けばレイカー博士の首をはねる。 |
| ローゲ | 三下だとぉ ! ? そんな小僧の命など知ったことか ! |
| チーグル | 待て、ローゲ。レイカー博士を失えば精霊装の計画が遅れることになる。 |
| ローゲ | 構うものか ! |
| チーグル | なっ ! ? なんだこれは―― |
| ローゲ | くっ ! 姿が見えなくとも気配で…… |
| チーグル | よせ ! レイカー博士に当たったらどうする ! |
| コーキス | マスター ! これはミリーナさまの ! |
| イクス | ああ。みんな脱出するぞ ! |
| Character | 9話【3-15 鬱蒼とした森林】 |
| ミリーナ | イクス ! みんな ! 大丈夫 ! ? |
| イクス | 助かったよ ! ありがとう、ミリーナ。 |
| アーチェ | クラ~ス~♪ さっきの演技、中々だったじゃん♪ |
| クラース | 大人をからかうのはやめなさい ! |
| コーキス | エミルさまも相変わらずチンピラの演技がうめーよな。 |
| エミル | ラタトスクの真似しただけだよ。……っていうか、こういう時は出てこないんだからラタトスク……。 |
| マルタ | ラタトスク、呼んでるよ ? |
| ラタトスク | 演技なんてかったるいことエミルがやればいいだろうが。 |
| テネブラエ | ラタトスク様らしいと言うか……。それよりあの霧も長くは持たないでしょう。急いで脱出しましょう ! |
| アステル | ………………。 |
| イクス | この跳ね橋を渡れば、城の外に出られる。街に出られれば何とか逃げ切れるぞ。 |
| アステル | ――ねぇ、みんなは急いで跳ね橋を渡って。僕はここに残って跳ね橋を上げておくよ。そうすればローゲたちを少しは足止めできるからさ。 |
| エミル | え ! ? だけど……。 |
| アステル | さっきはみんな、僕が裏切り者にならないように気を遣ってくれたんでしょ ? 本当にありがとう。おかげで上手くやり過ごせそうだよ。 |
| アステル | ほら、元々僕は人質だからね。ずっとそっちにいるのも楽しそうだけど……。やっぱりリヒターのことを一人にはできないし。 |
| イクス | アステル……。ありがとう。でも、くれぐれも無理はしないでくれよ。 |
| アステル | うん、大丈夫。それから精霊装について教えておくね。クレーメルケイジの横についてるのは精霊輪具。それ、精霊はうかつに触らないように。 |
| アステル | 多分一回ぐらいは精霊装を纏えるぐらいの力がたまってると思う。 |
| アステル | スレイたちの神依の時とは違ってイクスとミリーナがその指輪をつければそこから精霊の力が武器に宿るから。 |
| アステル | 武器と精霊との神依だと思って。恒久的に使うには、スレイの時みたいに魔鏡に映すのがいいと思う。 |
| アステル | あと、これを天族に応用すればスレイは全属性の神依が可能になると思うって伝えて。 |
| アステル | それとできればシャドウとアスカだけじゃなくて他の精霊もそっちの仲間で精霊装にして欲しいんだ。 |
| ミリーナ | 霧が消えるわ ! |
| アステル | 他にも色々教えたかったんだけど、時間がない。後のことは精霊輪具を調べてみて。君たちのところには天才がたくさんいるでしょう ? |
| テネブラエ | ローゲたちがきます ! |
| アステル | 行って ! 少しの間だけど楽しかった。できれば君たちと道が一つに繋がることを祈ってる ! |
| イクス | 俺もだ ! だから、さよならは言わないよ ! またな ! |
| アステル | うん ! また、ね ! |
| ミリーナ | ……ここまで来れば、少しは休んでも平気かしら。 |
| カーリャ | さすがにカーリャも飛びっぱなしでへろへろですぅ……。 |
| コーキス | はぁ……はぁ……。だ、だらしねぇな、パイセン……。 |
| カーリャ | コーキスだって息が上がってるじゃないですか ! |
| エミル | アステルさん……大丈夫かな。 |
| マルタ | 私たちの味方だと思われてないといいんだけど……。 |
| アーチェ | そこはアステルの立ち回りのうまさを信じるしかないよね。 |
| クラース | 我々の方もまだ安心はできないぞ。とにかく急いで帝国領を出なければ―― |
| テネブラエ | ……おかしい。 |
| イクス | テネブラエ ? |
| テネブラエ | 魔物たちが静かです。 |
| ラタトスク | ――敵さんが追いついてきたってことか。 |
| アーチェ | ちょっと待って。上から見てくる。 |
| アーチェ | まずいかも。ローゲとチーグルが馬でこっちに向かってきてる。ローゲは手強いしチーグルは光魔を呼ぶんだよね。 |
| クラース | 光魔を無限に呼ばれたらやっかいだな。それに馬が相手では逃げ切れないぞ。 |
| ミリーナ | 無限には呼べないんじゃないかしら……。今はイクスも魔鏡結晶の外にいるし、ナーザもいない。 |
| ミリーナ | バルドさんたちが人体万華鏡の穴を塞いでくれたから一時的に死の砂嵐の流出が止まっている状態よ。 |
| ミリーナ | 死の砂嵐にアクセスできなければリビングドールも作れないし光魔も無限には生み出せない筈。 |
| イクス | ……ってことは、ローゲたちを何とかできればこの場をやり過ごせるんだな。 |
| ラタトスク | ……イクス、ミリーナ。精霊装を使え。 |
| 二人 | え ! ? |
| ラタトスク | 俺たちが精霊装を使ったのを見れば奴らは報告のために撤退するだろうよ。 |
| ラタトスク | 雑魚は俺たちが引き受ける。二人はローゲを徹底的に叩け。 |
| ミリーナ | 精霊装……。本当にできるのかしら……。 |
| イクス | アステルはできるって言ってた。試してみよう。 |
| テネブラエ | ……どうやら追いついてきたようですよ。 |
| チーグル | レイカー博士をどう言いくるめたか知らないが逃げられると思ったら大間違いだよ。 |
| ローゲ | シャドウとアスカを返してもらうぞ ! |
| Character | 10話【3-15 鬱蒼とした森林】 |
| イクス | 精霊よ輝け ! |
| ミリーナ | 精霊よ織りなせ ! |
| イクス | 陽剣・至白刃 ! ! |
| ミリーナ | 月鏡・継黒陣 ! ! |
| ローゲ | ぐぉぉぉぉぉぉぉぉっ ! ? |
| チーグル | ローゲ ! ? |
| ローゲ | くっ……これが精霊装……。だが、この程度―― |
| チーグル | 待て ! ローゲ ! アニムス粒子が乖離しかけている ! |
| ローゲ | ぐぬぅ……―― |
| チーグル | 退くぞ ! このままではお前が危険だ ! |
| クラース | ……転送魔法陣で消えた、か。しかし今の状況は……使えるかも知れないな。 |
| イクス | ……はい。精霊装による攻撃は、リビングドールのあり方に影響を与えるみたいでした。これならリチャードさんを救えるかも知れません。 |
| マルタ | キール研究室のみんなに精霊輪具を見せたらアステルが言ってたみたいにもっと色々なことがわかるのかも知れないね。 |
| ミリーナ | ええ。急いで調べてもらう必要がありそうね。 |
| アーチェ | それじゃあ、さっさと帰ろう。また追っ手がきたら大変だもん。 |
| エミル | そうだね。けど……アステルさんを置いてきたこと……ジェイドさん怒るかな。 |
| テネブラエ | 大丈夫ですよ。あの人のことはよくわかりませんが闇属性に悪い人はいませんから。 |
| エミル | ジェイドさん、闇属性なの ? |
| テネブラエ | 色合い的には水っぽい気もしますがあのユーモアセンスは闇でしょう。 |
| テネブラエ | あ、ですが、ユーリさんの方がもっと闇属性ですよ。何しろ真っ黒ですから。ええ。実にセンスがいい。 |
| マルタ | ええ…… ? 色基準なの…… ? |
| テネブラエ | そうですよ。ミリーナさんも精霊装の時にお召し物が漆黒の闇色に変わりました。やはり闇属性ですね。 |
| ミリーナ | ふふ、テネブラエさんと一緒で嬉しいわ。 |
| テネブラエ | そうでしょうとも。 |
| クラース | なんと頭の痛い会話だ……。 |
| ベルベット | アイゼン。あんた何してるの。 |
| アイゼン | ――ああ。引っ越しだ。アジトの荷物をケリュケイオンにな。 |
| ベルベット | ……そういうこと。 |
| ライフィセット | え ? まさかアイゼンケリュケイオンに行っちゃうの ? |
| アイゼン | ああ。人手が足りないらしくてな。死神の呪いのことも話したが、今でも地獄みたいなメンツだから今更どうでもいいとさ。 |
| アイゼン | 異世界にもおかしな連中がいるんだな。ま、アイフリード海賊団には敵わないが。 |
| ライフィセット | このこと、エドナは知ってるの ? |
| アイゼン | 別れは済ませた。それにこの世界なら、いつでも会えるだろう。 |
| ベルベット | ……そんな風に言って結局帰れなくなるなんてのは笑えないわよ。 |
| アイゼン | ああ、そうだな。 |
| ベルベット | それじゃ、気をつけて。 |
| アイゼン | そっちもな。 |
| コーキス | はぁ……やっと帰ってこられた……。 |
| カーリャ | カーリャも外で冒険するのが久々で疲れました~。 |
| ベルベット | あら、おかえりなさい。 |
| イクス | ベルベットにライフィセット。何してるんだ ? |
| ベルベット | 食事の準備よ。何だか立て続けに色々起きたけど食事をしない訳にはいかないでしょ。 |
| アーチェ | ああ……。そう聞いたらお腹すいてきちゃった。 |
| ベルベット | 色々込み入ったことになってるらしいわね。さっきジェイドたちから聞いたわ。 |
| ベルベット | 珍しく懇切丁寧に説明して回ってるからすぐにみんな情報が共有されると思うわよ。 |
| テネブラエ | さすが、闇属性は働き者ですね。そういえば、ベルベットさん……でしたか。あなたも闇属性とお見受けしました ! |
| ベルベット | な……何よ、この大きなネコ。 |
| ライフィセット | 何だか不思議な気配がするね……。 |
| マルタ | え ! ?今空に飛んでいったのって、ケリュケイオン ! ? |
| ミリーナ | え ! ? フィルたち、出発しちゃったの ! ? |
| イクス | そんな……。精霊装のことフィルの意見も聞きたかったのに……。 |
| ベルベット | 精霊装…… ? それって、前にスレイとミクリオが話してた帝国の研究 ? |
| クラース | ああ。これがあれば、リビングドールにされた人間を元に戻せるかも知れないんだ。 |
| ライフィセット | そうなの ! ? だったら、アスベルたちが喜ぶね ! |
| イクス | うん。まず当面は、この精霊装を安定して使えるようにしていかないといけないな。 |
| ミリーナ | その間に、この島のこともきちんと調べて生活の環境を整えないとね。ルドガーさんたちが地図を作ってくれていた筈だし……。 |
| クラース | 幸い、この世界で空を飛べる乗り物はケリュケイオンだけだ。ここにいる限り帝国から襲われることもないな。 |
| イクス | ええ。そしていずれは……死の砂嵐に囚われた人たちを助け出して、虚無から世界を救いたい。 |
| イクス | ティル・ナ・ノーグをニーベルングの二の舞にはしないよ。絶対に。 |
| イクス | ここが嘘の世界だとしても、俺にとっては真実なんだ。守ってみせる。 |
| ミリーナ | ふふ、イクスったら♪ |
| イクス | ちぇっ。決まらないな。……そういえば、中々食事する時間も取れなかった。 |
| ベルベット | じゃあ、すぐに準備に取りかかりましょう。みんな手伝ってちょうだい。 |
| 二人 | もちろん ! |
| エミル | あ、マルタとアーチェさんはいいよ。 |
| 二人 | ちょっと、それどういう意味 ! ? |
| ベルベット | あ、そうだ。アイゼンがケリュケイオンに移籍するらしいわよ。 |
| イクス | へぇ……――って、ええ ! ?アイゼンさんだけですか ! ?い、いいんですか、それで ! ? |
| ライフィセット | 僕らも今さっき聞いたばっかりなんだ。 |
| ベルベット | アイゼンがそうするって決めたんだからあたしたちがとやかく言うことじゃないわ。 |
| ベルベット | それに、今は救世軍とは敵対している訳じゃないんだし。向こうに居てくれた方が何かと便利かもしれない。 |
| ミリーナ | アイゼンさんのこと、信頼してるんですね。 |
| ベルベット | そんなんじゃないわよ。ただ、舵は自分で取るってだけ。 |
| イクス | ……そうですね。いつも一緒にいることだけが仲間でいるってことじゃないですよね。 |
| ライフィセット | ちょっと寂しくなるけどね。 |
| コーキス | けど、俺たちにもやることはたくさんあるからさ。すぐにそんなこと言ってられなくなるって。 |
| イクス | ああ。頑張らないとな。……未来を作るために。 |
| | to be continued |