Character1話【5-1 カレイドスコープ1】
カイウス……ミラさんとジュード、遅くないか ?何かあったのかな。
ミュゼやっぱり私がついていけば良かったわ。ああ、ミラ……。
ルビアカイウス ! どうしてそういうこと言うの ?デリカシーがないわね。
カイウスチェッ、ちょっと良くなったかと思ったらすぐこれだ。
ルビアなによ、あたしが元気になるのがそんなに嫌 ! ?
カイウス嫌なわけないだろう ?どれだけ心配したと思ってるんだ。
ルビアそ、そう。ふーん。
ミュゼ……はぁ、みんな早く帰ってこないかしら。
エルもしもーし、ルビア、入ってもいい ?
ミュゼあら、エルじゃない。それにエリーゼたちも。どうぞ、遠慮せずに入って。
ティポエラそー、ミュゼの部屋じゃないのにさー。
エリーゼルビア、体は大丈夫ですか ?少しだけ元気になったって聞いてお見舞いに来たんですけど……。
カイウス少しどころか、うるさいくらいだよ。
ルビア……カイウス ?
アミィあ、あの、ケンカはやめましょう、ね ?
エルそうだよ。ルル抱っこすれば ? 落ちつくよ。
ルルナァ~ !
クレアフフ、二人とも。これはケンカじゃないから大丈夫。ね、カイウス、ルビア ?
二人……はい。
クレア私たち、さっきまでセシリィのお見舞いに行ってたのよ。部屋にいたルカから聞いたけど色々と大変だったわね。
ルビアええ。おかげで体が楽になったわ。でも、ミラは具合が悪いままスピルリンクしているからそれが心配で……。
エリーゼジュードとミラ、まだ帰って来ないんですか ?ルカは、二人は先に戻るはずだって話してたのに。
リタルビア、ちょっといい ? ……あっ。
ルルナァ~。
リタニャー……じゃなくて、あんたの場合は……ナァ~、ナァ~。
ルルナァ~ !
エル前から思ってたけど、リタってルルとなに話してるの ?
リタ別に話してないけど ?それにしても何 ? こんなに集まって。
ルビアみんなお見舞いに来てくれたのよ。もしかしてリタも ?
リタあたしはマクスウェルの件が気になっただけで別にお見舞いっていうか……まあ、それでもいいわ。元気になってよかったわね。
ルビアありがとう。リタが手掛かりを掴んでくれたおかげよ。
リタマクスウェルの残滓の除去については大まかにルカから聞いたわ。けど、もう少し詳しく聞かせてほしいのよね。
ルビアいいわよ。ミラがあたしの部屋に来た時にね――
リタミラに残滓が集まる……精霊輪具も力を集める……。装備者の適合、不適合の判断……。
リタ指輪という人工的に作ったものに集まるなら精霊輪具自体に、特定の情報を解析したり蓄積する機能が備わってる…… ?
? ? ?―――― ! !
ミュゼ――っ、なに、今の ! ?
リタちょっと、静かにして ! 今、考えて――
エリーゼ……何か聞こえましたよね ?ファントムの部屋の方からです。
ミュゼ今のは四大の声よ。助けを求めてるわ !
クレア四大って、四大精霊のことよね ?私には何も聞こえないけれど……。
ミュゼミラがファントムの中にいるから近くにいる私に強く感じられるのかもしれないわ。
エリーゼ四大の声がわたしに聞こえたのも精霊術を使うからでしょうか ?
ミュゼわからないけど、とにかくミラが危ないの !すぐに助けに行かないと !
リタオロオロすんじゃないの。イクスかミリーナに魔鏡通信で確かめればいいでしょ。
カイウスそうだよ。精霊は危険だから留守番してるんだろ ?これでミュゼさんに何かあったらミラさんが悲しむぞ。
ミュゼでも…… !
エリーゼミュゼ、わたしが行きます。ミラやジュード……みんなを連れて帰ります !
ティポぼくら精霊じゃないもんねー。止めてもムダだよー !
リタ……しょうがないなぁ。んじゃ、あたしも行く。気になることもあるし小さいのだけじゃ行かせられないし。
ティポリタだってちっちゃいくせに。
リタそこ、うっさい !
カイウスミュゼ、ここはエリーゼとリタたちに任せよう。いいよな ?
ミュゼ……わかったわ。
クレア私は、コハクかヒスイさんを呼んでくる。それと他の人たちにも、この状況を伝えてくるわ。エル、アミィも手伝ってもらえる ?
エル・アミィはーい !
コーキスう……うああっ ! 目が、目の奥が……痛っ…… ! ?
イクスコーキス、どうしたんだ ! コーキス ! !
シングイクス、コーキスを連れて下がってて。ここはオレが食い止める !
ミラ=マクスウェルこれだけの敵を防ぐのは難しいだろう。私も前線を預かる。
ミトスミラは後ろにいて。ついでにジュードもね。
ジュード僕も戦うよ。ここはみんなで協力しないと無理だ。
クラース君たちには下がっていて欲しいが戦力的には仕方ないか。
コーキスマスター……マスターは大丈夫なのか…… ?この痛みは……俺だけ…… ?
イクスああ。こっちには何の影響もないよ。
コーキスだったら戦ってくれ……。俺はいいから……みんなを……。
カーリャコーキスのことは任せてください !
ミリーナ……イクス、私たちも戦いましょう。早くこの囲みを突破しないとコーキスをちゃんと看てあげられないわ。
イクス……そうだな。――シング、ミトス、俺と一緒に切り込むぞ !みんなは援護を頼む !

Character2話【5-2 カレイドスコープ2】
イクスはぁ……はぁ……。こっちが押してるぞ !今なら突破して逃げられる !
グラスティンそれはどうかな ?
シング兵士の増援 ! ? こんなにたくさん !
ミトスさすが雑魚だね。無駄に数ばかり多い。
帝国軍兵士1おい、マクスウェルとそこの少年。大人しくすればお前たちは傷つけない。投降しろ !
ジュードはぁ……はぁ……ミラは絶対に渡さない !
グラスティンヒヒッ、いいぞ坊や……。活きがよくて興奮するなぁ。もっとその黒髪を振り乱して、抵抗してみせてくれ !
? ? ?ヘ、ヘンタイだ―― ! !
グラスティン! ?
? ? ?どこから話しかけてるのか知らないけどキモイのよアンタ !――ファイアボール !
帝国軍兵士たちうわああああっ ! !
コハクみんな、大丈夫 ! ?
シングコハク ! ?
ミラ=マクスウェルリタとエリーゼも一緒か !
エリーゼミラ、ジュード、間にあって良かったです !
グラスティンああ……せっかくのショーが台無しだ。……しかし、そこの黒髪のお嬢さんはイイね。実にイイ !
コハクな、何なの……気持ち悪い !姿を隠してないで、堂々と出てきなさいよ !
シングコハク、気を付けて !あいつ黒髪がなんとかって変なことばっかり言うんだ !
ティポタイヘンなヘンタイ ! タイホされちゃえー !
グラスティン変態か……。フフ、それで ?お前達が俺にどんなレッテルを貼ろうと俺の邪魔はできないさ。
リタあっそ。コハク、エリーゼ、いける ?
エリーゼバッチリです !
コハクボコメキョにしてやるから !
リタじゃあね、ヘンタイ。タイダルウェイブ !
エリーゼフラッターズ・ディム !
帝国軍兵士たちぎゃああああっ ! !
グラスティン騒ぐな、次の詠唱に入る前に奴らを潰せ !
コハクそう来ると思った !エクスプロード !
帝国軍兵士1時間差だと ! ?グラスティン様 ! このままでは――うわあああっ !
グラスティン……肉が増えたな。フフ、こいつはめでたい。とはいえ、マクスウェルと黒髪の子供達は捕まえないとな。もっと兵を集めろ !
ミリーナまだ諦めるつもりはないみたいね。
イクスとはいえ、何とか時間を稼げそうだな。助かったよ。リタ、コハク、エリーゼ。でも、どうしてここに ?
コハクエリーゼとミュゼに四大の助けが聞こえたの。それを頼りにたどりついたんだよ。それに、ここからシングのスピリアを感じたから……。
リタ話はあと。ミラたちをさっさと逃がして。ミリーナ、あの子は使える ?
ミリーナあの子って、カレイドスコープ ?
リタええ。今のうちにどうしても抜き出したいデータがあるの。すぐに終わらせるから手伝って。
ミリーナ……わかったわ。みんな、先に行って。
イクスだったら、俺とシングがここに残る。クラースさん、みんなを連れて逃げて下さい。
クラース二手にわけるなら私もこちらに残ろう。シングと二人だけではデータを抜き出す時間を稼ぐのは難しいぞ。
イクスいいえ、ミラたち側に戦力を固めた方がいい。……そちら側の方が負担が大きくなると思うので。
クラース――そういうことか……承知した。
イクスすみません。こちらでもなるべく敵を引き付けます。
クラースいや、敵はできうる限りこちらで請け負う。
コハクシング、信じてるから……またね !
シングああ、みんなを頼んだよ、コハク !
ミトス―― !もうそろそろ来るよ。追加の雑魚が。
ミラ=マクスウェルわかった。行くぞ !
ジュードイクス、ミリーナ、シング、リタ、気を付けて !
グラスティンなんだ、追いかけっこかい、坊や ?いいねぇ、捕まえてやるよぉ !
グラスティンお前たち、マクスウェルを逃がすな。最優先だぞ。黒髪の二人は俺のところに必ず連れて来い !残った肉どもの処理も忘れるなよ。
帝国軍兵士2承知しました !マクスウェル捕獲に人員を投入しろ !
シングくそっ、兵士がミラたちの方へ !
イクスまだ増援の兵士は集まりきってない。あのままなら逃げ切れると思う。
イクスミラたちに追っ手の人数が割かれることを想定の上でクラースさんたちに頼んだんだ。この方が全員生き残る可能性が高い。
シング……わかった。だったら、オレたちはここでできるだけ敵を食い止めよう !

Character3話【5-6 カレイドスコープ6】
イクスミリーナ、リタ、データはまだか !
ミリーナもう少しよ ! カーリャ、コーキスはどう ?
カーリャ我慢してるけど、ずっと痛がってます……。
コーキスへいき……だって、パイセン……。
リタ終わったわ。とっとと逃げるわよ !
シング……さっきからグラスティンの声がしないな。もしかしたらミラたちの方に気を取られてるのかも。
イクスそれならこっちに兵を追加されることもなさそうだな。今のうちに突破だ !
帝国軍兵士1くそっ、こんなはずでは…… !
ローゲなんの騒ぎかと思えば、また貴様らか。グラスティンは何をしている !
帝国軍兵士1ローゲ様 !
ローゲまあ、今回は良しとするか。これで以前の礼ができるからなぁ ?盗人の鏡士どもよ。
イクスローゲ…… !
シングイクス、オレがこいつを引きつける !その隙に兵の囲みを破ってくれ !
イクスシング、ローゲ相手に一人は無理だ !
ローゲシング ? そうか、お前が裏切者のシングか。メルクリア様がたいそう心を痛めていたぞ ?
シング裏切られたのはこっちだ !お前たちが騙してコハクに酷いことをしたからだろう !
ローゲ聞く耳もたん。貴様も鏡士同様、ここで死ね !
リタシング、離れて ! ブラッディハウリング !
帝国軍兵士たちぎゃああああっ !
帝国軍兵士2あ……あの女……いつの間に詠唱を……。
リタあんたらの上司がグダグダしゃべってる間にね。みんな、こっちから突破よ !
イクスコーキス、俺の手に乗れ。
コーキス……うっ、マス……タ……。
ローゲチッ、逃がすか ! !
イクスくそっ、ローゲを足止めしないと駄目か !シング、コーキスを連れて下がってくれ。ミリーナ、精霊装だ !
ミリーナわかったわ !
イクス精霊よ輝け ! 陽剣・至白刃 ! !
ローゲぐおおおおおおっ !やはり精霊装は……我らにとって……。だが、まだだ。俺はまだ…… !
ミリーナ精霊よ織りなせ ! 月鏡・継黒陣 ! !
ローゲ体が……動か……くっ…… ! !
イクスよし、今のうちだ !
リタイクス、ミリーナ、早く !こっちにゲートを見つけたわ。
シングゲートなら、現実世界に出られるかもしれない。行先はわからないけど……。
ミリーナいいわ、そのまま飛び込んで !
カーリャだ、大丈夫なんですか ! ?ミラさまたちの後を追うって選択も……。
イクスここから脱出するのが優先だよ。考えるのは後でいい。
カーリャふぇぇ……。まさか、イクスさまがそんなこと言うなんて !
リタほら、いいからさっさと入る !
ローゲしまった ! あのゲートは――

Character4話【5-7 地下室1】
イクスここは…… ?
ミリーナ何かの研究所みたいね……。しかも大慌てで出てったみたいに機材も何もかもそのままだわ。
シングあっ、そうか ! ここセールンドだよ。セールンドのカレイドスコープの間の地下だ。
リタセールンド ? なんで帝国の仮想鏡界のゲートがこんな所に繋がってるわけ ?
シング帝国は精製所の他にここでもリビングドールの研究をしていたんだ。
シングカイウスから聞いたけど、マーテルさん救出の時に心核がカレイドスコープの間の地下にあるって情報が流れたんだろう ?
シングカイウスたちが、その情報を否定できなかったのはこの施設の話を知ってたからだと思う。
リタふうん。ここでもリビングドールをね。誰もいないけど放棄されたのかしら。
ミリーナイクス奪還作戦で私たちが乗り込んだから……。
リタ確かに、あの騒ぎじゃ研究どころじゃないか。……ってことは、もしかして !
シングあっ、どこにいくんだよ。リタ !
リタまさかとは思うけど……もしかしたら……。やっぱりあった !
ミリーナ心核 ! ? それもかなりの数よ。
リタミトスはここでコハクの心核を手に入れたんでしょ ?だから他にもあるんじゃないかって。
リタ……正直、予想としてはあんま当たって欲しくなかったけど心核を置いて逃げてったみたいね。
シングじゃあ、奴らが回収に来るかもしれない ?
リタどうだろう……。放置しつづけてるってことは、回収の必要がなくなったからかも。
シングそんな……心核は人の命なのに。これじゃ捨てられてるのと同じじゃないか !
ミリーナ考えられなくもないわ。リビングドールの中には本体の心核が邪魔だと考える人がいるかも……。
シングこんなの可哀想だよ。
イクス……だよな。この心核、俺たちで持って帰ろう。
ミリーナそうね。それに、まだ会っていない鏡映点の心核がこの中に入ってる可能性もあるから。
リタ付け加えると、この心核を調べることでリチャードの心核を正常に戻す手掛かりが見つかるかもしれないわ。
シングだといいな。アスベルたちが喜ぶよ。
ミリーナそうね。でも、リビングドールを生み出すには色々な方法があるみたいだから――
コーキスううっ…… !
イクスコーキス、大丈夫か ?
コーキスごめ……話の……邪魔して……。
イクスいいんだよ。我慢するな。
カーリャそうですよ。もっとギャーギャー叫んだっていいんですから。
コーキスへへ……かっこ悪ぃ……。
カーリャミリーナさま。ジェイドさまの方法は試せませんか ?痛みを抑えるためにコーキスを気絶させてましたよね ?
ミリーナあれは医学的な知識が必要な危険な処置なの。もしできたとしても、今のコーキスの小さな体にあんなことできないわ。
イクスジェイドさんがそんなことを ?
ミリーナええ。魔鏡結晶の中にいたイクスはもっとひどい痛みに襲われていたはずよ。
イクス魔鏡結晶の……。そうだ !ゲフィオンなら何か知ってるかもしれない。
ミリーナゲフィオンが ?
イクスコーキスに伝えた魔眼の話はゲフィオンから聞いたものなんだよ。
イクス【その目はイクスと繋がっている。自分のアニマとイクスのアニマを重ねて合わせて、死を放て。それこそが鏡精に与えられた禁断の魔眼だ】――って。
イクスでも、魔鏡結晶の中にいたゲフィオンも俺と同じように、ひどい痛みに苦しんでいて……それ以上の話はできなかったんだ。
ミリーナ…………。
イクスできるかどうかわからないけどもう一度ゲフィオンと話をしてみるよ。幸い、この上はカレイドスコープの間だしな。
ミリーナ……わかったわ。ゲフィオンの魔鏡結晶へ行ってみましょう。

Character5話【5-9 地下室3】
セールンド カレイドスコープの間
カーリャゲフィオンさま……。ずっとこの魔鏡結晶の中で死の砂嵐を封じているんですね……。
ミリーナ……今はシドニーがゲフィオンにキメラ結合して一緒に死の砂嵐を封じてくれてるわ。
イクス……シドニーを身代わりにして、俺だけが――
ミリーナ違うわ !……お願いだから、そんな風に思わないで。シドニーだってそんな風には思ってない筈よ。
イクス……ごめん。
シングミリーナの言うとおりだよイクス。それに自分のために命をかけてくれた人がいるならなおさら前に進まないといけないんだ。そうだろ ?
イクスシング……。
シングほら、コーキスのためにも早くゲフィオンに話を聞こう。――ゲフィオン ! 聞こえてる ?
………………
リタ返事どころか物音一つなしね。ま、そう簡単にいくとは思わないけど。カーリャやミリーナは聞こえた ?
ミリーナいいえ、何も。
カーリャカーリャもです……。魔鏡結晶で覆われる前なら、ゲフィオンさまの心の苦しみとかが伝わってたんですけど……。
イクス……俺の力が結晶化したのがこの魔鏡結晶なんだよな ?
ミリーナええ。
イクスもしかすると、俺なら巨大魔鏡結晶を通じてゲフィオンに――……うわっ ! !
ミリーナイクス ! ?
リタなっ、なにが起こってんの ! ? 何かした ! ?
シングイクスが魔鏡結晶に触れただけだよ !どうなってるんだ、ミリーナ。
ミリーナこれは急激なオーバーレイ現象だわ。どうしてこんな……… ?
イクス……あれ ?この場所、前にコーキスと……。
ゲフィオン久しぶりだな、イクス。
イクスゲフィオン……様…… ?
ゲフィオン魔鏡結晶に触れただろう。あれはお前の力を具現化したもの。触れたことで体が急速に力を取り戻そうとしているようだな。
ゲフィオンそのせいで現実の世界のお前はオーバーレイ現象を起こしている。
イクス現実ってことは、やっぱりここは俺の心の中なんですね。どうりで見覚えがあるはずだ。
ゲフィオンよく聞きなさい、イクス。今後、不用意に魔鏡結晶に触れてはならぬ。
ゲフィオンたとえ触れずとも、今も魔鏡結晶を通じて虚無の痛みが、お前の内側を蝕んでいるのだから。
イクス今もだなんて……気づかなかった。
ゲフィオンコーキスが痛みを引き受けているからな。
イクスそれじゃ、コーキスは俺の身代わりで……。
ゲフィオン……そうだ。だが、コーキスを救う方法はある。
ゲフィオンお前の体は、あの浮遊島を作ったせいで、一旦、力を使いきってしまい、コーキスも幼体となった。だが今は魔鏡結晶に触れたことで、急速な充填状態にある。
ゲフィオン力が回復すれば、コーキスも再び成体に戻るだろう。そうなれば、コーキスにリンクしている痛覚を切り離してやることができる。
イクス切り離す…… ?もしかしてそれは鏡精を――
ゲフィオンそうだ。鏡精を独立させるための技法、その応用となる。だが、ともすれば、これにより虚無の痛みをお前が……。
イクス教えて下さい。一刻も早くコーキスを救ってやりたいんです。
コーキス――いっ……ああああああっ ! !
カーリャコーキス !どうしましょうミリーナさま。今までで一番苦しそうです !
ミリーナシング、イクスをお願い。コーキス、私の声が聞こえる ?
コーキスミリーナさま……頼む……俺の目……取って……
カーリャな、何を言ってるんですか !
コーキス苦しいんだ……痛くて……痛くてもう……お願いだよ先輩……駄目なら自分でやるから―― ! !
カーリャやめなさい、コーキス !
ミリーナ駄目よ !
コーキス離してくれ ! うああああっ ! !
ミリーナごめんなさいコーキス……。私、あなたにこれくらいしか……。
リタちょっ、ミリーナ !そんな暴れてるコーキスを抱いてたらあんたが怪我するわ !
ミリーナ大丈夫……大丈夫よコーキス……。いい子だから落ち着いて……。
コーキスくうっ ! ! はぁ……はぁ……。…………。
ミリーナコーキス……、コーキス…… ?――きゃああっ !
カーリャコ、コーキスの体が……大きくなった ! ?
リタ何でいきなり――
イクス――っ ! !
シング危ない !
リタなっ、何 ! ?
カーリャそ、そっちはどーなってるんですか ! ?
シングいてて……イクスが魔鏡結晶からふっ飛ばされたんだ。なんとか受け止めたけど……。
ミリーナイクス、コーキス……。あなたたちに何が起こってるの…… ?

Character6話【5-10 セールンド】
ゲフィオン――イクス、痛覚の切り離しはうまくいったようだな。
イクスありがとうございます。おかげで、これ以上コーキスに苦しい思いをさせずに済みました。
ゲフィオンお前も意識を戻した方がいい。そして私には二度と話しかけに来てはならない。
イクスそんな……俺たちはまだ聞きたいことがあるんです !
ゲフィオン私は心と記憶の一部を切り離した。故に、お前たちの疑問に正確な答えを与えることはできないのだ。
ゲフィオンお前に教えたコーキスの魔眼のことも今の私の持っていた知識ではない。……だから、私と話しても無駄なのだ。
ゲフィオン私の正しい記憶は【カーリャ】が持っている。必要だと思うのなら、カーリャを捜せ。
イクスカーリャなら、今もミリーナと一緒にいますよ ?
ゲフィオン捜すのは私の……ゲフィオンの【カーリャ】だ。
イクス! !……そうか。そうだよな。【ミリーナ】には【カーリャ】だもんな。
ゲフィオン…………。
ゲフィオンフィルならば、私が忘れようとしたことも知っているはずだ。
イクスゲフィオ――……ミリーナ……。
コーキス……ん…… ?
カーリャコーキス ! 気が付いたんですね !
ミリーナ目はどう ? 痛みはない ?
コーキスはい……嘘みたいに無くなって……って……あれ ?
コーキス俺、大きくなってる ! ?
コーキス――ってか、何だこのカッコ ! ?ダサッ ! ? え、これ、またマスターの趣味か ! ?
リタ……その様子なら、ひとまず大丈夫そうね。一時はどうなるかと思ったわ。シング、コーキスが目を覚ましたわよ。
シングコーキス ! よかった、動けるんだな。けど、無理はするなよ。
コーキス大丈夫。すぐ戦えるくらい元気だって。ありがとな、シング様。……ところで、マスターは ?
シングあっちで寝てるよ。突然オーバーレイ化したあと魔鏡結晶からはじき飛ばされて、気を失ったんだ。
コーキスえっ ? マスター、大丈夫か ! ?
リタコーキス、ストップ !……誰か来る !
ローゲここにいたか、盗っ人ども。
全員ローゲ !
ローゲほう、呑気に昼寝とはな。大した度胸だ。
シングしまった、イクスが…… !
コーキスマスター ! 起きろよ、マスター !
ミリーナまだ意識が戻らないんだわ……イクス !
ローゲ貴様ら、地下にあった心核を盗んだな。返してもらおうか。でなければ、こいつの首をかっ切る。
ローゲそれとそこの小娘。貴様が動いてもこいつを殺す。
リタ……くっ。
ミリーナ(どうしよう……私一人の精霊装でどこまでローゲの動きを止められるか……。失敗したらイクスは……)
シング……ミリーナ、一瞬だけでもローゲをひるませられる ?
ミリーナわからない。けど……。
コーキス信じてください、ミリーナ様 !マスターは必ず俺が――
ローゲ返事は無しか。ならば死ぬのは、こいつからだ !
カーリャイクスさま !
ミリーナ――精霊よ織りなせ ! 月鏡・継黒陣 ! !
ローゲぐっ……やはり体が……だがこの程度…… !
シング行くぞ、コーキス !
コーキスマスターから離れろ――っ ! !
ローゲぐおおおおおっ ! !
コーキスマスターを傷つける奴は許さない !
バルバトス鏡精……この悪魔が……。
シングやった……。精霊装で隙が作れなかったら危なかったな。
ミリーナイクス !
コーキスマスターに怪我はなさそうだ。よかった……。
リタローゲも完全に気絶してるわ。まあ、あんだけ攻撃くらったしね。
シング……ん ? イクスの持ってる心核……光ってないか ?
カーリャあ、これですね。この一つだけピカピカしてます。
ミリーナ心核が光るなんて、コハクの時みたい。
シングうん。あの時はオレのソーマに反応してたんだ。
リタってことは……これはローゲ――じゃなくてえっとバルバトスだっけ ? その心核なんじゃない。
ミリーナだとすると、さっき倒れた時にイクスが持っている心核に触れたのかもしれないわね。
リタこの心核を今のうちに戻したらどう ?そうすればこいつ、追って来られなくなるでしょ。
ミリーナでも、バルバトスはカイルの敵だって言ってたわ。元の世界では、かなり暴力的な人物だとも聞いているし……。
リタなんもしないで追いつめられるよりマシよ。
シングバルバトスが敵になるとしてもオレは本人に体を返す方がいいと思う。こんな状態はおかしいんだからさ。
ミリーナ……そうね。カーリャ、私たちはローゲにスピルリンクするからイクスをお願い。
カーリャ任せてください。いいですかコーキス、ミリーナさまのことちゃんとお守りするんですよ !
コーキスへへっ、そんなふうにパイセンに頼まれるのは久しぶりだぜ。なんか嬉しいな。
コーキスそれじゃ行きましょう、ミリーナ様。必ず俺が守ります !

Character7話【5-10 セールンド】
シング――ここだよ。きっとあれがローゲのスピルーン……人工心核だ。
ミリーナシング、コハクの時とは少し違うけど基本的にはスピルーンの扱いと同じだと思うからお願いしてもいい ?
シングああ、いいよ。人工心核を外してバルバトスの心核をおさめれば……よし、完了っと。
シングはい、これが人工心核だ。
ミリーナありがとう。これでバルバトスに戻るはずよ。
コーキスさっきまであんなにしつこかったローゲが今はこの人工心核の中ってわけか。
ミリーナ改めて考えると、シングたちのソーマってすごい力なのよね。
リタねえ、その人工心核見せて。
ミリーナええ、いいわよ。
リタ……ふうん。これが魂を定着させてるのね。……ってことは、応用も……。うん、わかったわ。ありがとう。
ミリーナ何か考え付いたの ?
リタまあね。とりあえずここを出ましょ。ローゲの他に追っ手が来ないとも限らないし。
コーキスよし !早くマスターとパイセンのところへ帰ろう。
カーリャあっ、お帰りなさい !
ミリーナただいま、カーリャ。イクスはどう ?
カーリャまだ目が覚めないんです。さすがに心配になってきましたよぉ……。
コーキス大丈夫だよ、パイセン。マスターに何かあったらきっと俺にも伝わると思う。思うんだけど……。
コーキス……マスター、大丈夫だよな ?そろそろ起きろって。なあ、起きてくれよ !
ミリーナコーキス、そんなに揺すったら……
イクス……うん、あれ ? なんか良く寝たな。
コーキスはぁ――……ったく、のんきだな。
ミリーナよかった…… ! おはよう、イクス。起き抜けの顔も素敵だわ。
イクスは、はは……。心配させてごめん。みんなには迷惑かけちゃったな。コーキスも無事に大きくなれてよかった。
イクスそれに、相変わらず格好いいな、その服。
コーキスやっぱりそうか。俺が大きくなったのも痛みがなくなったのも、服がダセーのもマスターのおかげだったんだな。
イクスえ ! ? その服格好いいだろ ! ?
リタねえ、服のことより、何があったの ?
シングそうだよ、イクスは突然オーバーレイ状態になるしコーキスは大きくなるしさ。
イクスええと……そのへんは落ち着いてから話すよ。
ミリーナじゃあ一つだけ。ゲフィオンには……会ったの ?
イクスああ。俺の心の中で話を聞いたよ。それでコーキスに痛みが伝わらないようにしたんだ。
ミリーナ痛み…… ? どういうこと ?
イクスとりあえず、ミラたちと連絡をとろう。コーキスが治ったことも伝えて安心させないとな。
イクスこっちでも色々あったんだろう ?コーキス、教えてくれ。
コーキスあ、ああ。マスターが倒れたあと、ローゲが来てさ――
ミリーナ…………。
デミトリアス――もう芙蓉離宮に戻るのか。もうしばらくここで療養しても良かったんだよ。メルクリア。
メルクリアご心配には及びませぬ。体も癒えておりますゆえ。
デミトリアスそうか。二人とも、メルクリアをよろしく頼む。
ジュニアはい。
リヒターメルクリア、挨拶はこれで終わりか ?
メルクリア…………。
リヒターそうか……ではこれで――
メルクリアち、義父上 ! お聞きしたい事があります。
デミトリアス言ってみなさい。
メルクリア義父上の言うビフレストの復活とはなんじゃ ?
デミトリアス……どういうことかな。
メルクリアわらわが望むのは、過去に失われたビフレストとそこに住んでいた人々の復活じゃ。それ以外の形を、わらわは認めぬ。
デミトリアスもちろん、わかっているよ。
メルクリア義父上にもお考えがあるのは知っておる。じゃが今一度、約束してくだされ。――必ず【わらわのビフレスト】を復活させると。
デミトリアス……できる限りね。
メルクリアできる限りではない ! 絶対じゃ !
帝国軍兵士ご報告申し上げます。陛下、グラスティン様が至急お目通り願いたいと。
デミトリアスわかった。すぐに通せ。――メルクリア、名残惜しいが話はここまでだ。気を付けて帰るんだよ。
メルクリア……はい。
グラスティンおや、皇女様もおいでだったとは。邪魔をしてしまったようだな。
メルクリア気安く話しかけるでない。帰るぞ。リヒター、ジュニア。
ジュニアう、うん。
グラスティン! !……ヒヒッ……ヒヒヒヒ……ヒャーッハハハハ !フィリップ ! フィリップじゃないか ! !
ジュニアえっ、な、なに…… ?
グラスティン幼くて瑞々しいその姿も新鮮でいいなぁ。髪も肌も柔らかそうだ。その潤んだ目もいい……とてもいいぞ……ヒヒヒ。
ジュニアや、やめ……。
リヒター子供を脅かすのが趣味のようだが貴様の冗談に付き合うほど暇ではないんだ。ジュニア、メルクリア、行くぞ。
デミトリアス……相変わらずだな。グラスティン。それで、至急の要件とはなんだい ?
グラスティン仮想鏡界に奴らが来たぞ。あの女、つくづく俺の邪魔をするのが好きなようだ。
デミトリアス君が【あの女】呼ばわりするならミリーナたちか。……まあいい。計画に変更はないからね。

Character8話【5-11 イ・ラプセル城1】
ミラ=マクスウェルみんな、いるか ?
コハク大丈夫。全員ゲートから出たから。追っ手も来てないみたい。
ジュード手近なゲートに飛び込んじゃったけど……ここはどこだろう ?
ミトス多分、イ・ラプセル城だよ。この様子だと研究棟の方だね。
クラースなるほど、だとすれば多少は見当がつくか……。
エリーゼクラースは、ここを知ってるんですか ?
クラースああ。この前、潜入したばかりだよ。といっても、基本アステル頼みだったんだが……。
ミトスボクも研究棟の方までは詳しくないんだ。ここはクラースの記憶を頼りに進もう。
クラースやれやれ、責任重大だ。
ティポボケて忘れてないといいねー。
クラースそんな歳じゃない !いいだろう。私についてきなさい !
ミラ=マクスウェルクラース、ここはどの辺りなんだ ?
クラース出口に向かって進んでいる。……はずだ。
エリーゼはずってことは……。
クラース……少々迷ったかもしれん。すまん。
ティポクラースのバホー ! ! 自信満々で迷ってたー !
コハククラースさん、ミソを食べるといいですよ。ミソは老化を防止するから。
クラースコハク、これは歳のせいではないと――
ミラ=マクスウェルなるほど。コハクはミソについて詳しいんだな。
コハクうん ! 今度ミラにもミソ料理作ってあげるね。オススメはやっぱりサクランボミソ焼きおにぎりかな。
ミラ=マクスウェルじゅる……。なるほど、是非お願いしよう。クラース、その時はお前も来るといい。
クラース……ああ、うん。気づかい感謝する。
ミトス気にすることないよ、クラース。どうせニンゲン如きの記憶力なんてたかが知れてるんだから。それで次はどっち ?
クラースこの先を真っ直ぐだ。……はぁ、アステルがいればなぁ……。
クラース――ん ? 通路への扉かと思ったがここは研究室のようだな。壁に標本が……
クラース――っ ! ! なんだここは…… ?
ジュードどうしたんですか、クラースさん !うわっ――この部屋 ! ?
ミラ=マクスウェル……壁一面に人の遺体がびっしりと並んでいる。しかもこれは恐らく……。
ミトスうん。人形でも悪趣味すぎるけどこれは全て本物だよ。
ジュード壁のものは防腐処理されてる……。でもなんだろう……死臭が……。このにおい、奥からだ。
ミラ=マクスウェル待てジュード。もしかしたらそこには……。
ジュード…… ! ! ……これ、人の……。
ミトスこの臓物の量、一人分どころじゃない。しかもきれいに並べてある。きっとコレクションのつもりなんだ。
クラースおい君たち、そこに何が……うっ……これは……。
エリーゼみんな、何を見つけたんですか ?
クラースコハク ! エリーゼを近づけるな !君も来ない方がいい。
コハクは、はい ! エリーゼ、こっち。
ヨウ・ビクエ本当、悪趣味よねぇ。この部屋の主は。
エリーゼえっ ! ?
コハクあ、あなた誰 ! ?
ヨウ・ビクエ私はヨウ・ビクエ。ヨーランドって呼んでもいいわ。あなたの体、少しだけ貸してもらえない ?出口まで案内するから。
コハク体を…… ?
ヨウ・ビクエ精神体じゃすぐ消えちゃうの。あなたならもう一人を宿すくらいのキャパを備えてるし迷惑はかけないから……ね ?
コハク……わかったわ。必ずみんなを助けてよね。
エリーゼコハク、大丈夫ですか ! ? コハク !
ジュードエリーゼ、コハクがどうかしたの ?
ヨウ・ビクエ私はヨーランド・ビクエ・オーデンセ。……ごめんなさいね。この子の体を借りたわ。あ、ちゃんと合意の上よ。
クラースヨーランド…… ! ヨウ・ビクエか ! ?
ヨウ・ビクエとにかくこの部屋を出るわよ。ここにはろくな物はないし、吐き気を催すだけだから。出口まで案内するついでに、私とお話ししましょ ?
クラースあの部屋の近くに、こんな隠し通路があったんだな。
ヨウ・ビクエええ。そしてここを抜ければ裏口へ出られるの。あなたの案内、あながち間違いじゃなかったってこと。いい勘してるわよ ?
クラースいやまあ、なんというか、ハハハ……。
ティポおみそれしましたー。
ヨウ・ビクエそれとさっきの部屋は、グラスティンっていうデミトリアスが新しく雇った魔鏡学者の部屋よ。嫌なものを見ちゃったわね。
ミラ=マクスウェルあのグラスティンか。奴はジュードをコレクションしたいと言っていたがもしかしたら……。
ジュードやめてよ。想像したくない……。
ヨウ・ビクエよかったわね。可愛い坊や。あいつの部屋に飾られずに済んで。さあ、あそこが出口。
エリーゼありがとうございます。ヨウ・ビクエ !
ヨウ・ビクエフフ、どういたしまして。そうだ、シャーリィは元気 ?
ジュード元気ですよ。そういえばあなたがシャーリィの心核を直したと聞きました。
ヨウ・ビクエええ。あの子を気にかけておいて欲しいの。シャーリィはウンディーネとの親和性が極めて高いわ。精霊や天族と同じような属性をもつのかもしれない。
クラースシャーリィとウンディーネが……わかった。
ヨウ・ビクエそれと、この子……コハクに伝えて。あなたの心の中にいた人を知っていると。
ジュードコハクの心の中 ? どういうことですか ?
ヨウ・ビクエごめんなさい、そろそろ時間切れみたい。私からの連絡を待っていて。お願いよ……必ず…………。
コハク…………あれ ? もしかして、ここ出口 ?
ミトス……消えたようだね。
クラースもっと色々と話を聞きたかったが……まあ、仕方がないか。
イクスミラ、聞こえるか ? こっちはみんな無事だよ。
ミラ=マクスウェルイクスから魔鏡通信だ。あちらも無事逃げきったようだな。
ジュードうん。お互いの状況を確認して合流しよう。

Character9話【5-14 イ・ラプセル城4】
メルクリアローゲは何をしておる。いつまでわらわを待たせるのじゃ。
チーグルローゲは最後のリビングドールの様子を見るために仮想鏡界へ赴いているのです。もう戻ってくるかと思いますが……。
メルクリアまったく、あやつは勝手がすぎるのう。
リヒターだったら我々だけでも先に芙蓉離宮へ出発するか ?
メルクリアいやじゃ。わらわは皆と共に帰る。ローゲも一緒じゃ !……一人は寂しいからな。
ジュニア僕、マークに確認してみるよ。ローゲがどこにいるかわかれば――
帝国軍兵士1なんだと……どうしてそんなことに ! ?
帝国軍兵士2わかりません ! とにかく陛下にお伝えしないと !
ジュニアなんだか慌ててる……どうしたんだろう ?
リヒターおい、何があった。
帝国軍兵士1リヒター様 !ローゲ様が城下で暴れているとの報せが入ったのです。
メルクリアなんじゃと ! ?あやつは仮想鏡界に行ったのではなかったのか ?
チーグルその筈ですが……。
メルクリアええい、ここで考えていても仕方ない。わらわが城下へ参り、直接確かめてくれる。
メルクリアいたぞ、ローゲじゃ !
帝国軍兵士3おやめ下さい ! どうか……ローゲ様 !ぐあああっ !
バルバトス誰がローゲだ !俺の名はバルバトス !バルバトス・ゲーティアだ ! !
メルクリア! ?なんじゃと…… ?
チーグルまさかローゲは……。
リヒター……あいつはもうローゲではない。本来の体の持ち主、バルバトスなのだろう。
メルクリアそんな……。ローゲ、何があったというのじゃ…… !お前まで虚無に帰ったというのか ! ?
メルクリアあやつは誰よりも強くて、ふてぶてしくてそれゆえに兄上を失った時にはわらわを躊躇なく鼓舞してくれた猛者じゃった……。
メルクリアなのに……またわらわは失うのか……。ううっ……うう……。
ジュニア泣かないで、メルクリア……。
バルバトスうおおおおおっ ! !
帝国軍兵士4お静まりください。王宮までお連れいたします !謁見が許可されれば、すぐにでも――
バルバトス謁見 ? 許可 ? ふざけたことをぬかすなっ !俺はここを動かんぞ。皇帝とやらをここへ連れて来い !貴様らをなぶり殺しながら待ってやる。
帝国軍兵士4ひ、ひいいいいっ ! どうか、お許しを !
メルクリアあの男、なんと凶暴な…… !じゃがなにゆえ兵士たちはローゲではないと気づかぬのだ。
リヒターお前も知っているだろう。リビングドールは比較的親和性の高い者同士をキメラ結合させる。しかも見た目が同じであれば、わかるわけがない。
チーグル……荒れ狂ったローゲも手段を選ばない奴だったからね。事情を知らなければ私だってあれをローゲだと思うだろう。
帝国軍兵士5一時撤退だ ! 撤退しろ !
バルバトス撤退だと ? この腰抜けどもがっ !貴様らが逃げるなら、この街の奴らが身代わりだ !
リヒター……兵士ではもう無理だな。俺が行く。ジュニア、メルクリアを見ていろ。
チーグル私も行こう。あの下劣さは見るに堪えん。
バルバトスさあ、死にたい奴は逃げるがいい !殺されたい奴はかかってこいっ !
バルバトスぬうっ、誰だ !
リヒターいい加減にしろ。言葉が通じないわけではないだろう。
チーグル共に来る気がなければ、ここで討つ。
バルバトスああ、やってみろ。貴様らが俺を倒す前にこの街の人間を皆殺しにしてやるっ !
バルバトス雑魚はどけええぃ !
帝国軍兵士6ぎゃああっ !
帝国軍兵士7しまった、あっちには一般人の避難所が ! !
リヒターチッ、あの男、本気で街の人間を…… !
メルクリアインディグネイション ! !
バルバトスぐああああっ !
メルクリアリヒター、チーグル、今じゃ !
チーグル身の程をわきまえろ !
リヒター貴様はやりすぎだ。
バルバトスくそ……どもが………。
チーグルメルクリア様が自らお手を下す必要など……。ジュニア、なぜ止めなかったんだ。
ジュニアすみません……。
メルクリアこれはわらわの意志じゃ。このような下衆をのさばらせたのもある意味ローゲを失った、わらわの不始末じゃからな。
チーグルメルクリア様……。
バルバトスメル……ク……………………………。
リヒターようやく静かになったか。
チーグルとどめを刺しますか ?
メルクリアいや、再びローゲを呼び戻すためにもこやつは手元に置いておく必要がある。
メルクリアこの者を監獄へ運べ。厳重に閉じ込めておくのじゃ !

Character10話【5-15 浮遊島】
コーキスただいま、みんな !
カイウスコーキス ! 本当にでっかくなったんだな !
ミュゼお帰りなさい、ミラ ! 心配したのよ。体はどう ? 辛くないの ?
ミラ=マクスウェル帰還連絡の際に伝えただろう ? もう問題ない。ミュゼには随分と心配をかけたな。
カイウス魔鏡通信をもらった後でも確認するまで安心できないって大変だったんだぜ ?
ルビアミラは優しいお姉さんがいて羨ましいわ。
ミラ=マクスウェルルビアには兄弟はいないのか ?
ルビアいないわ。あ、でもお兄様って呼んでた人なら……とても素敵な人よ !
コハクお兄様かぁ。そうだ、シング。わたし、お兄ちゃんのところに行ってくるよ。
コハクあの人が言ってた【わたしの心の中にいた人】ってきっとリチアのことだと思う。
シングそうだね。それにシャーリィのことも聞いたんだろう ?セネルたちに伝えないと。
コハクうん。それじゃルビア。また来るね !
ルビア……確か、コハクもずっと眠らされていて大変だったんでしょ ?
ジュードうん。でも今はあんなに元気だよ。ルビアだって、すぐに動けるようになるさ。
ルビアええ。これから少しずつリハビリして必ずみんなの役に立ってみせるわ。
ミリーナ頼もしいわね。でも焦らないで、きちんと回復させましょう。
イクス…………。
ミリーナどうしたのイクス。
イクスバルバトス……大丈夫だったかなって。……結局置いていくことになっちゃっただろ。
ミリーナ仕方ないわ。見張りの兵士達が来てしまって連れて帰る余裕がなくなってしまったんだもの。
ミリーナただ……いくら元の世界でカイルたちと敵対していた人とはいえひどい選択をしたことは間違いないわよね。
ミリーナいつか、ちゃんと話をして、協力を――
イクス……協力、か。それは虫が良すぎる気がするな。
ミリーナイクス…… ?
イクスどんな状況であれ、俺たち――いや、俺は俺自身の判断で、バルバトスを助けないという選択をしたんだ。
イクスこの件に関して俺は謝罪することしかできないよ。その先はバルバトス……さんの判断だ。
二人………………。
イクスカイルたちには話を共有しておこう。この先どうなるにしても、カイルたちにとっては因縁の相手だからさ。
ミリーナ……ええ。そうね。でも忘れないで。バルバトスのことは私も同罪よ。
ミリーナバルバトスを気にしていたシングたちに急いで逃げるように促したのも私。
ミリーナだからバルバトスのことも、私とイクス二人の責任にして。一人で背負い込まないでね。
二人………………。
リタ――ねえ、あんたたち。この後、キール研究室へ来てくんない ?人工心核と精霊輪具について話があるの。
ミリーナ何かわかったの ?
リタまあ色々とね。あたしは先に行ってるから。
ミリーナこのまま私たちも行きましょうか。イクス。
イクスみんな、先に行っててくれ。俺は後から行くから。
コーキスマスター ?
イクスちょっと疲れたから部屋で一息いれたいんだよ。少しの間だけ、いいかな。
カーリャイクスさまも色々大変でしたもんね……。
ミリーナ……無理してないわよね ?
イクスああ。ちゃんとこうして疲れたから休みたいって言ってるだろう ?
ミリーナわかったわ。それじゃ行きましょう、コーキス。
コーキスあ…………はい……。
イクス…………。
フィリップどうだい ? 難しいかな。
マークやっぱ駄目だ。何度やっても近づけねえ。
フィリップそうか……。ヴィクトルの話では心の精霊ヴェリウスが守護を強めたらしいからね。精霊の封印地そのものに近づけないんだろうな。
フィリップ昔のオーデンセには精霊の封印地へ移動する入り口があったんだけど、オーデンセが失われた今では直接、封印地に降り立つしかない。
マーク召喚士の力を頼ってみるか……それとも……。
イクスフィル、聞こえるか ?二人で話をしたいんだけどいいかな。
フィリップ……イクス ? ちょっと待ってくれ。マーク、しばらく頼むよ。
マーク……了解。面倒事なら断れよ。
フィリップ待たせたね。どうしたんだい ?
イクス……さっきゲフィオンと会ってきたよ。それでフィルに聞きたいことがあって連絡したんだ。
フィリップゲフィオン…… ?詳しく聞かせてくれ。
フィリップ――鏡精を切り離す、か。確かに鏡精は、ある術式を施すことで主人から独立することが可能になる。
フィリップゲフィオンはその術を使って自分の【カーリャ】を切り離しその際に一部の記憶と心をカーリャに渡したんだ。
イクス……そうか。ゲフィオンの話は本当だったんだ。
フィリップイクス、なぜ僕と二人だけでこの話をしようと思ったんだい ?
イクス今の話をゲフィオンから聞いたのは俺だけだから。それに、ずっと違和感があったんだ。……ミリーナに。
フィリップ…………。
イクスあのさ、真面目に変なこと言うぞ ?ミリーナって、俺のことあんなに好きだったかな……。
イクス俺自身の記憶にあるミリーナは、俺を年下扱いするような感じでさ。でもきっと……そういう意味の好意を持ってくれてるんだろうなって雰囲気だった。
イクスそれが、まだオーデンセがあった頃俺がじいちゃんと長期の漁に出るって決まった辺りから……なんか、ちょっと変わってきて。
イクス俺の作られたタイミングを考えるとマークに助けられる前までの記憶は一人目と二人目の俺の記憶なんだよな。
イクスだから、俺の知ってるミリーナって言葉はちょっと違うのかも知れないけどでも今みたいな愛情を示すミリーナは、なんか……。
フィリップイクスの知ってるミリーナとは違う ?
イクス……うん。
イクス俺は【フィルとゲフィオンの記憶】を経由して作られた三人目のイクスだ。
イクスなあ、フィル、俺はどこまで本来の【俺】なんだ ?今の二人目のミリーナは ?
イクス俺たちはどこまで【一人目】と一緒でどこから違うんだろう。……教えてくれ。
フィリップ……それは……。
イクスフィル !
フィリップ……さすがだね。三人目だろうと、イクスは凄いや。
フィリップでも……少しだけ待ってくれないか。僕たちが精霊の封印地に行くことができたら全て……話すから。
フィリップだからそれまで猶予が欲しい。……頼む。
イクス……わかったよ。困らせてごめんな、フィル。

Character11話【5-15 浮遊島】
イクス(……早くキール研究室に行かなきゃな)
コーキス…………。
イクスコーキス…… ! お前、今の話……。
コーキスごめん……立ち聞きした。マスターのことが気になって後を追ったら話し声が聞こえちゃって……。
イクス……いいよ。でも今の話は誰にも言わないでくれ。
コーキスああ。絶対に言わない。マスターを裏切ったりしないよ !
イクスわかってるって。ありがとな。
コーキスあのさ、マスターがあの時に言ってた「痛みが伝わらないようにした」って話は鏡精を切り離す術の応用だったんだろう ?
イクスそうだよ。もうコーキスの目が痛むことはないから安心してくれ。
コーキスそうじゃなくて……。その術がきっかけで俺のことを完全に切り離したりしないよな ?
イクスハハッ、なんだよ急に。そんなことしないよ。
コーキス俺はマスターといたいんだ。ずっと一緒に……。マスターの痛みだと思えば耐えられるから痛覚を元どおりに繋いでくれ。
コーキスなんか今までと変わっちゃうみたいで……嫌なんだよ。魔鏡結晶を出てからのマスターは上手く言えないけど……前と違う感じがするから。
イクス……そうか ? 自分ではそんな感じしないけど。
コーキス俺の気にしすぎかもだけどでも……何となく心配なんだよ。それにもしマスターに負担が行くことがあるなら……。
イクス馬鹿なこというなって。それに俺はコーキスみたいな痛みを感じてないぞ。
イクス多分、コーキスたち鏡精は俺たち鏡士の心から生まれた存在だからマスターよりも痛みを鋭敏に感じるんじゃないかな。
コーキスでも……。
イクス俺は痛みもないし、コーキスも苦しまないならこの状態が一番だろう ? このままでいいんだよ。
コーキス本当に苦しくないんだな ?俺のこと、切り離したりしないよな ?
イクスああ、大丈夫。ほら、キール研究室へ行こう。ミリーナたちが待ってるぞ !
カーリャあ、コーキスたち、やっと来ましたよ。
ミリーナイクス、もう大丈夫なの ?
イクスああ、十分休んだよ。
リフィル失礼するわ。あら、みんな集まってるのね。
ミリーナリフィル先生。キール研究室にご用ですか ?
リフィルさっきクラースから仮想鏡界潜入の件で報告を受けたのよ。それであなたたちからも話を聞こうと思って。お邪魔だった ?
イクス丁度よかったです。よければリフィル先生も一緒に聞いてください。――それでリタ、話はどこまで進んでるんだ ?
リタ話どころか図面まで引き終わっちゃったわ。
コーキス図面って……なんだこれ ? リタ様こんな複雑なもの、帰ってきてから書いたのか ?
パスカルあたしたちが手伝ったからね~。こんなのシャシャーっでズバーンでドッカーンだよ !
カーリャなんか最後バクハツしてましたけど……。
イクスで、結局なんなんだ ?
キールこれは精霊片吸引器。精霊輪具の力を元に作り出した装置だ。
パスカル図面のここ見て。ここに現在契約している精霊たちのデータを読みこむことで、この世界に飛び散っている各属性の精霊片を呼び集めることができるんだよ~。
リタこれなら精霊輪具みたいに、特定の精霊や人物に装備させる手間がかからないし精霊たちを傷つける心配もないわ。
リタそのかわり精霊を呼びよせる力は弱いし時間もかかる。ま、その辺は精霊への負担を減らす効果もあるからしかたないわね。
パスカルそして~、テッテレ―― !今回の目玉は――――これっ !
ミリーナこの部分の図……ローゲの人工心核に似てるわ。
リタそう、これは人工心核をモデルにした【人工精霊核】よ。
イクス人工って、もしかしてそこに精霊を ?そうか……なるほどな。
コーキス全然わかんねー !俺にもわかるように説明してくれよ。
キール仕方ない。順番に教えるからよく聞くんだ。精霊は個体でありながらこの世界に息づく存在でもある。
キールだから世界中に、精霊の欠片のようなものが微精霊のように散ってるんだ。
キールそれを集めるのがこの装置。集めたものを固着させる媒体が人工精霊核ってわけだ。ここまではわかるか ?
コーキスうん、ぎりぎり……。
キールなら後は簡単だ。つまりこれがあれば個としての精霊の心核を具現化しなくても精霊片を集めることで、ある程度の精霊の力が集まる。
キール行方のわからない精霊の力もな。
コーキスあ……なるほど ! 確かにすげー便利だ。
リタカレイドスコープを調べたら、帝国がオリジンやヴォルトの心核を具現化しようとした形跡があったの。あたしはそのデータを抽出してきたってわけ。
パスカルリタが持ち帰ったデータと、人工心核に精霊輪具全部がそろって初めて可能になった装置だよ~。いや~久々に面白いものが作れそう !
キールおい ! 話はまだ終わってないぞ !
キール……まあいい。まずはこれを完成させて精霊片を集めてみよう。それに、このアジトも改良していかないとな。
イクスそうだな。ジェイドさんたちが調べてくれたけどよくわからないゲートとか、まだありそうだし。
カーリャ何よりこのアジト、浮いちゃってますからね。みなさん出入りが大変そうです。
リフィルそれに関しては、ジェイドが帝国の転送魔法陣を解析しているわ。完成すればこの空中のアジトでも移動が便利になるはずよ。
リフィルでも、完成にはもう少し時間がかかりそうだったからその間に、以前具現化された大陸の状況を調べた方がいいんじゃないかしら。
コーキス大陸の状況って、帝国だけじゃなくて ?
リフィルええ。具現化された市井の人々はあやふやな記憶から、徐々にこの世界の住人として存在を確立していくのでしょう ?
リフィルだとしたら、そろそろどの大陸の人たちも自分たちがティル・ナ・ノーグの人間だとはっきり自覚している頃なんじゃないかしら。
リフィル自分を存在する【個】として認識し、意識が固まれば必ずしも帝国に従属するという人間ばかりではなくなると思うの。
リフィルその一番いい例としてはアスターのような人物ね。
コーキスヒルダ様を助けてくれた商人か。ルーク様たちの話じゃ怪しいけどいい人だって言ってたな。
ミリーナ鏡映点だけではなく、この世界の人間を味方につけるということですね。
リフィルそういうこと。巨大な相手と戦うには必ず必要な存在になってくるはずだから。
リフィルそれと、あなたたちも少し休みなさい。ずっと落ち着かないままでしょう。
ミリーナそう言えばもうすぐ年末だわ。本当だったら、みんな仕事を一段落させて年を越す準備をする時期よね。
イクスそうか……色々あり過ぎて忘れてたよ。
イクスよし、ここからしばらく俺たちはアジトの拡充に重点を置くか。
カーリャそれと年越し準備もですよ !お正月はみんなで初詣とかもいいですよね。今のうちから計画たてておかなくちゃ !
コーキスパイセン、嬉しそうだな。
ミリーナ私たちも少しの間、落ち着いて過ごしましょう。そんな日があってもいいわよね、イクス ?
イクス……そうだな。これからはもっと大変になるだろうしみんなの鋭気を養うために必要だよ。
イクス(きっとそれは、俺自身も――)
to be continued