| Character | 1話【8-1 閑散とした街道】 |
| ミリーナ | イクス、領主のイオンさんはどう ? |
| イクス | 大丈夫、落ち着いてるよ。今のところスピルリンクも上手くいってるみたいだ。 |
| ミリーナ | よかった。でも、リビングドールβは精神への負担が大きいみたいだからこの後の処置に気を付けないとね。 |
| イクス | ウッドロウさんも危険な状態だったもんな。 |
| マーク | イクス、そっちはどうだ。シンクは迷惑かけてねぇか ? |
| イクス | マークか。シンクは大丈夫……だと思う。今、領主のイオンのスピルメイズに入ってるよ。 |
| マーク | そうか。あいつ、出て行く時に少し様子がおかしかったからさ。気になってたんだ。 |
| コーキス | シンク様のことが心配で連絡してきたのか ? |
| カーリャ | マークは面倒見がいいですねぇ。 |
| マーク | 嫌でもよくなるさ。手のかかるおっさんに加えて救世軍って大所帯抱えてるんだからな。それに、シンクのことだけで連絡したわけじゃねえよ。 |
| マーク | ついさっき情報が入った。ここ――救世軍地上施設の近くにある帝国の監獄にチーグルが運ばれて来るらしい。 |
| イクス | チーグル……リチャードさんか ! |
| ミリーナ | でも、あの人は幹部よね ?監獄に入れられるなんて何かあったのかしら。 |
| マーク | さてな。その辺のことはよくわからねぇ。テセアラ監獄の方も、立て続けのトラブルで混乱していて、情報が錯綜してるんだよ。 |
| コーキス | トラブルって……もしかしてバルバトスが脱獄したことか ? |
| マーク | ああ。あいつ、チーグルの移送で大わらわになった隙をついて脱獄してきたらしい。 |
| マーク | おかげで監獄は蜂の巣を突いたような騒ぎだぜ。兵どもが必死の形相で駆けずり回ってるらしい。 |
| カーリャ | うわぁ、なんか面倒なことになってますねぇ。 |
| イクス | でも裏を返せば、混乱している上に捜索に人手も割かれてるってことだ。だったら―― |
| コーキス | あっ ! この騒ぎに乗じてリチャード様を取り戻せるかもしれないってことだろ ?な、マスター ! |
| イクス | ああ。その通り。後は、この状況を長引かせるためにもバルバトスさんが見つからないようにしないと。 |
| マーク | あいつの傷を見たが結構な深手だった。しばらくは大人しくしてる……と思うんだがなぁ。 |
| ミリーナ | だったら、マークが保護してくれている間に行動を起こした方がいいわね。 |
| イクス | それに、リチャードさんを取り戻すならアスベルたちの協力が不可欠だ。その上で作戦をたてないと。 |
| マーク | その辺は任せる。こっちもゴタついてるんでな。俺はこのままテセアラ領の救世軍施設に待機する。何かあったら連絡してくれ。 |
| イクス | ありがとう。とりあえず、俺たちもリチャードさんの救出部隊を組んでそっちへ向かうよ。 |
| マーク | わかった。気を付けて来いよ。帝国の連中がウロウロしてるからな。 |
| カーリャ | マークも大変そうですね。何か甘い物でも差し入れてあげましょうか。 |
| ミリーナ | カーリャ、それはコーキスたちに頼みましょう。私たちは残らないと。 |
| カーリャ | あ……そうでした。領主のイオンさまを放ってはおけませんよね。 |
| イクス | スピルリンク後に何があるかわからないし鏡士がついていた方がいいからな。ミリーナ、カーリャ、頼むよ。 |
| ミリーナ | ええ、任せて。コーキス、帰って来たばかりで大変だけどイクスをお願いね。 |
| コーキス | はい。マスターが無理しないようミリーナ様の代わりに見張ります ! |
| イクス | 見張られるほど無茶なんてしてないのに……。 |
| コーキス | 自覚ねぇのかよ、マスターは……。まぁ、いいや。それじゃ俺、アスベル様たちを呼んでくる。 |
| イクス | 頼むな。打ち合わせをしたらすぐに出発だ。 |
| Character | 2話【8-1 閑散とした街道】 |
| マーク | ――大丈夫だって。バルバトスのことは、こっちで何とかするさ。 |
| フィリップ | だけど、シンクもいないんだろう ?今だけでも僕がそっちにいた方がいいんじゃないか ? |
| マーク | 人の心配より自分の心配しろっての。じゃあな、また後で連絡する。 |
| マーク | (イクスもこっちに来るって言ってんのに。顔合わせて困るのは誰だって話だよ。まったく……) |
| ルック | マークさん。今しがた、一部の負傷兵が独断で出撃したと報告が入りました ! |
| マーク | 出撃 ? どういうことだ。 |
| ルック | チーグルが監獄に運ばれたとの情報を受けて出ていったようです。 |
| ルック | 功績をあげれば、ケリュケイオンに戻してもらえるかもしれないと言っていたそうで……。 |
| マーク | 馬鹿野郎共が !無駄死にさせるために連れて来たわけじゃねぇぞ。これじゃ何のために……。 |
| マーク | ……いや、わかった。俺が連れ戻す。留守はお前に任せて―― |
| 救世軍兵士 | マークさん ! バルバトスが……くっ……。 |
| マーク | おい、どうした ! ? |
| 救世軍兵士 | バルバトスが目覚めたんですがすぐに暴れはじめて……俺たちではとても抑えきれません ! |
| マーク | くそっ、なんだってこんな時に ! |
| ルック | マークさん、負傷兵の捜索には自分が出ます。 |
| マーク | それはお前の仕事じゃねぇよ。この辺だってバルバトスの捜索で帝国兵がうろついてんだぞ。もしもの時にその足で逃げ切れるのかよ。 |
| ルック | …………。 |
| マーク | あいつらの捜索には別部隊を派遣する。荷運びと警備の奴らを回せば何とかなるだろう。 |
| マーク | ――おい、すぐに隊を組んで捜索に出るように伝えろ。バルバトスのところへは俺が行く。 |
| 救世軍兵士 | は、はい ! |
| マーク | ルック、お前も俺と来い。 |
| ルック | えっ ? |
| マーク | お前の仕事をしてもらうんだよ。万が一、俺がバルバトスにやられた時には命乞いしてもらわねぇとな。 |
| ルック | 命乞いって……。 |
| マーク | 負傷兵の捜索よりも危険だが、頼まれてくれるな ?それとも俺の命を預かるのは嫌か ? |
| ルック | いいえ、喜んで ! 行きましょう。 |
| 救世軍兵士 | ひいいっ ! こ、ここを通すわけには……。 |
| バルバトス | 帝国の犬が !雑兵の分際で邪魔をするんじゃねぇっ !潰れろぉぉぉぉぉっ ! |
| マーク | ――おっと。いててて……。馬鹿力だな、アンタ。 |
| バルバトス | 俺の拳を……貴様っ…… ! |
| マーク | 俺はマーク・グランプ。それと、ここは帝国じゃなくて救世軍だ。 |
| バルバトス | だったら尚更こんな所にいられるかっ !今すぐ俺を帝国に連れて行け。あいつらを八つ裂きにして……くっ……。 |
| マーク | ……傷が開いたな。それ、結構な深手だったぜ。その体で帝国を相手に喧嘩売る気かよ。 |
| バルバトス | これしきの傷で後れなど取らぬわ !怪我を理由に引きこもるなど弱さを言い訳にした負け犬の所業よ。 |
| バルバトス | 貴様の後ろで縮こまっている、その雑魚のようにな ! |
| ルック | くっ……。 |
| マーク | そういっても、『傷ごとき』で行き倒れてたのを治療したのは俺たちだぜ ?ちなみに、あんたの言う雑魚がここまで運んだんだ。 |
| バルバトス | だからどうした。貴様らが勝手にやったことなど知るか ! |
| マーク | そうだな。だからこそ、勝手に治療した責任は最後まで取らせてもらう。 |
| マーク | 暴れて開いた傷を手当てさせてくれ。その間だけでいいから、俺の話を聞いちゃくれねぇか。 |
| バルバトス | 貴様の話だと ? |
| マーク | ああ。帝国のこと、この世界のこと具現化された後、あんたに何が起きたのか全部説明する。俺の知る範囲で、だがな。 |
| バルバトス | ! ! |
| マーク | どうだ、悪い取引じゃないだろ ? |
| バルバトス | ……くくくっ、いいだろう。だが役に立たぬ話ならば、その首へし折るぞ。 |
| Character | 3話【8-2 テセアラ領の森1】 |
| イオン | ……アリエッタ。僕の話を聞いてはくれませんか ? |
| アリエッタ | ニセモノの話なんて、聞きたくない、です。どうせアニスみたいに……意地悪する気でしょ ? |
| イオン | アリエッタ、アニスは―― |
| アリエッタ | イオン様 ! イオン様のニセモノ、連れてきました。 |
| ハロルド | あ、おかえり~。イオンを連れ戻してくれたんだ。 |
| アリエッタ | ……ち、違うもん。これはイオン様のニセモノだもん。イオン様は、イオン様だけ……だから。あれ……イオン様、どこ ? |
| ハロルド | 散歩でもいってるんじゃない ?アリエッタ、捜してきてよ。 |
| アリエッタ | でも……ニセモノは…… ? |
| ハロルド | こっちで預かっておくわ。あんただってイオン様に早く会いたいでしょ。 |
| アリエッタ | うん、行ってくる ! ハロルド、ありがとう ! |
| ハロルド | ふっふっふ、時間稼ぎ成功♪で、首尾はどう ? |
| イオン | ええ。手に入れてきました。これがアトワイトの心核です。 |
| ハロルド | ご苦労様。これでようやくアトワイトを戻せるわ。まったく、鏡士たちに心核が持ち去られたって聞いた時は、さすがに焦ったわよ。 |
| イオン | 仕方ありません。彼らだってこんなことになるとは思っていなかったでしょうからね。 |
| イオン | 帝国にいる僕でさえあなたが何を考えて行動しているのか理解していませんでしたから。 |
| ハロルド | そうねー。イオンってば口を開けば、実験をやめろやめろってうるさかったもん。 |
| イオン | すみません。あなたが帝国の技術と目的を探るために協力していたことは承知していましたがやはり非道な実験を見過ごすのは心苦しくて……。 |
| ハロルド | それで正解よ。おかげで奴らも、私があんたと繋がってるとは全く気付いてないんだから。 |
| ハロルド | あいつらに気付かれたら胸糞悪い実験を続けた甲斐がなくなっちゃう。 |
| ハロルド | さあ、すぐにアトワイトの心核を戻すわよ。 |
| ハロルド | ――クンツァイト、ちょっと来て。この心核を確認してちょうだい。 |
| クンツァイト | データ照合。アトワイトの心核と確認。 |
| ハロルド | これからアトワイトにこの心核を戻したいんだけどスピルリンクって、すぐに始められる ? |
| クンツァイト | ハロルドには惜しみなく協力するようリチア様から申し付けられている。即刻開始しよう。 |
| ハロルド | それじゃ、アトワイトを連れて―― |
| クンツァイト | 警告。何者かの接近を確認。この部屋に向かっているようだ。 |
| 二人 | ! ! |
| 帝国兵 | ハロルド様、いらっしゃいますか ! |
| ハロルド | 今、実験中だから入らないで。用件は何 ? |
| 帝国兵 | グラスティン様がこちらにおいでになりますので一応、ご報告をと。 |
| ハロルド | グラスティン ?あいつ、しばらくはアスガルド城にいるんじゃなかったの ? |
| 帝国兵 | 鏡映点の一人がこの城から脱走しまして。その件でこちらに向かっているとか。 |
| ハロルド | 脱走って、誰が ? |
| 帝国兵 | マリク・シザースです。 |
| ハロルド | そう。実験材料が減っちゃったわね。わかったわ。グラスティンが着いたらすぐに報告して。 |
| 帝国兵 | はっ。 |
| イオン | ハロルド…… ! |
| ハロルド | もうバレちゃった。想定より早かったわね。 |
| イオン | どうしましょう……。逃がすタイミングが悪かったでしょうか。このままでは彼が危ない。 |
| ハロルド | こうなったら、あいつの腕を信じるしかないでしょ。それに想定外ってのは悪いことばかりじゃないわ。 |
| イオン | ……そうですね。いい方向に結果が出ることを願いましょう。 |
| グラスティン | 鏡映点が逃げたというのにハロルドは何をしているんだ。 |
| 帝国兵 | 相変わらず研究に没頭しておられます。それ以外のことには、あまり関心がないようで。鏡映点の脱走もご存じないようでした。 |
| グラスティン | ……なるほど。色々とやることがありそうだなぁ……。 |
| グラスティン | 俺も本気を出すとするかぁ…… !ヒヒヒッ ! ! |
| グラスティン | さっさと仕事を終わらせて帰らないと小さいフィリップが寂しがるからなぁ !ヒヒヒヒヒヒッ ! |
| イクス | ……行ったか ? |
| コーキス | ああ。もう隠れなくても大丈夫そうだぜ。 |
| シェリア | さっきから帝国兵が多いわね。やっぱりバルバトスの脱獄のせいかしら。 |
| ソフィ | 隠れてばっかりで、あんまり進まないね。救世軍の地上施設ってまだ先なんでしょ ? |
| アスベル | くそっ、一刻も早くリチャードを助けないといけないのに……。 |
| ヒューバート | 焦る気持ちはわかりますがこちらの動きが知られるのは危険です。今回は陛下を取り戻す千載一遇のチャンスですからね。 |
| イクス | うん。敵との遭遇はなるべく避けた方がいいだろうな。 |
| パスカル | ねえねえ、それじゃアレはどうする ?放っておくの ? |
| コーキス | アレって……あっ、救世軍の兵士 ! ?帝国兵に追われてるぞ ! ?どうする ! ? |
| アスベル | みんなはここにいてくれ。俺が助けに行ってくる ! |
| ソフィ | 待って、アスベル。わたしも行く。 |
| パスカル | ソフィが行くなら、あたしも~ ! |
| シェリア | もう、見つからないようにって言ったばかりなのに……仕方ないわね。待って、怪我人がいたら真っ先に保護するのよ ! |
| ヒューバート | こうなったら早急に事態を沈静化する方が得策です。イクス、コーキス、兄さんたちの援護をお願いできますか ? |
| イクス | わかった。任せてくれ。 |
| コーキス | アスベル様たち、みんな好き勝手に動いてるようで実は息ぴったりだよな。 |
| イクス | ああ、そうだな。俺たちも行くぞ、コーキス ! |
| Character | 4話【8-3 テセアラ領の森2】 |
| アスベル | これで、終わりだ ! イクス、そっちは ? |
| イクス | ああ。こっちも片がついた。――みなさん、無事ですか ? |
| 救世軍兵士A | ありがとうございました。まさか、鏡士の一行に助けてもらえるとは……。 |
| ソフィ | 大丈夫 ? その腕、ブラブラしてるよ。 |
| シェリア | 怪我したんですね。見せてください。すぐに治療しますから。 |
| シェリア | あ……これ……。 |
| 救世軍兵士A | この傷は以前負ったものなんだ。もう……無理だろ ? |
| シェリア | ごめんなさい。力になれなくて……。 |
| コーキス | マスター、この人たち、みんな……。 |
| イクス | うん……負傷した兵士ばかりだ。マークに連絡して救助にきてもらおう。 |
| 救世軍兵士A | 連絡 ! ? やめてくれ、頼む ! |
| イクス | えっ ! ? でも……。 |
| 救世軍兵士A | まだ帰るわけにいかないんだ。このままじゃ俺たちはただの足手まといになっちまう ! |
| 救世軍兵士B | ああ。帰るのは目的を果たしてからだ。 |
| ヒューバート | 冷静に考えてください。あなた方の目的が何であれその体で遂行するのは難しいでしょう。撤退すべきではありませんか ? |
| 救世軍兵士C | 馬鹿にするな ! 俺たちはまだやれる。チーグルの野郎を捕らえて連れ帰ればそれを証明できるんだ ! |
| アスベル | チーグルって…… !それじゃあなたたちは、彼を捕らえるために独断で動いてるんですか ! ? |
| 救世軍兵士D | ああそうさ。だから邪魔をしないでくれ。俺たちの存在意義を示す、最後のチャンスなんだよ ! |
| 帝国兵 | ……くっ ! |
| コーキス | あの帝国兵、まだ動けたのか ! |
| 帝国兵 | はぁ、はぁ……近寄るな ! |
| アスベル | しまった、警笛を ! |
| 帝国兵 | ぐああっ―― ! |
| パスカル | ひゃあ、今の何 ! ? 何か飛んできた ! |
| アスベル | あの武器は…… ! |
| ? ? ? | 物事は完全に終わるまで油断してはならない。オレはそう教えていた筈だ。 |
| マリク | 詰めが甘いぞ。前にもこんなことがあったな、アスベル。 |
| アスベル | あなたは……マリク教官 ! ? |
| シェリア | 教官もこの世界に ! ? |
| ソフィ | 教官、久しぶり。 |
| ヒューバート | 皆さん待って下さい !……あなたは本当にマリク・シザース本人ですか ? |
| パスカル | もしかして弟くん教官がリビングドールかもって疑ってる ? |
| マリク | ふっ、さすがヒューバートだ。アスベル、お前は真っ直ぐすぎる。時にはこのくらいの疑り深さは必要だぞ。 |
| アスベル | は、はい ! ご助言頂きありがとうございます ! |
| ヒューバート | まったく……。兄さん、あなたという人は……。 |
| ソフィ | ねえ、教官は教官でいいの ? もう近寄ってもいい ? |
| パスカル | いいよ~。ついでにあたしもソフィに近寄っちゃお~っと♪ |
| ソフィ | パスカルはだめ。 |
| マリク | 相変わらずだな、お前たちは。元気そうで安心したぞ。 |
| イクス | アスベル、よければ俺にも紹介してくれないか ? |
| アスベル | ああ、すまないイクス。この人は俺の騎士学校時代の恩師なんだ。具現化されてたんだよ。 |
| マリク | マリク・シザースだ。そうか……君が鏡士のイクスか。 |
| イクス | 俺のことを知っているんですか ? |
| マリク | 帝国に囚われていた間にそこそこの情報は仕入れてある。この世界のことも、自分自身の状況もな。 |
| シェリア | 囚われてって……それじゃ教官は脱走してきたんですか ! ? |
| マリク | ああ。イ・ラプセルという城にいたんだがハロルドという研究者の手引きで逃げられた。 |
| コーキス | マスター、ハロルドって人は確かカイル様の仲間だったよな。 |
| イクス | うん。デクスさんの情報では具現化後の所在は確認が取れてないって話だったけどイ・ラプセル城で研究していたのか。 |
| コーキス | ってことは、ハロルド様は帝国側の鏡映点……なんでマリク様を逃がしてくれたんだ ? |
| マリク | この先は別の場所で話そう。今の小競り合いで帝国兵が集まってくるかもしれん。 |
| イクス | あ、お礼が遅れましたけど先程はありがとうございました。警笛を鳴らされていたら、今頃どうなっていたか。 |
| マリク | 礼には及ばん。仲間を呼ばれて困るのはオレも同じだからな。 |
| ヒューバート | なるほど。この付近の兵士の多さはあなたへの追っ手も含まれていたわけですね。 |
| マリク | そういうことだ。オレは今、この森の奥にある猟師小屋を根城にしてる。そこなら少しは落ち着けるはずだ。 |
| マリク | おい、そこの救世軍。お前たちも一緒に来い。今はまだ戻れんのだろう ? |
| 救世軍兵士A | すまない、世話になる……。 |
| マリク | アスベル、お前にはしんがりを任せる。他の者は負傷兵を守りつつ周囲を警戒しろ。すぐに出発だ。 |
| アスベル | はい、よろしくお願いします ! |
| イクス | さすが、アスベルを指導した人だな。こっちまで背筋が伸びる気がするよ。 |
| コーキス | 俺もマリク様に教わりたいぜ。戦闘での立ち回りとかさ。 |
| ソフィ | じゃあ今度、コーキスも一緒に教官の話聞く ?教官は、色んなことを知ってるよ。 |
| コーキス | 聞く聞く ! ソフィ様はどんなこと教わったんだ ? |
| ソフィ | えっと、パスカルは魚類でエラ呼吸、とか。 |
| コーキス | マ、マジか ! ? どう見ても人間なのに ! ? |
| シェリア | 落ち着いて、コーキス。見た目通り、パスカルは人間よ。教官のあの見た目と雰囲気に流されたら駄目。 |
| イクス | ははは……。なるほど。マリクさんがどういう人かちょっとわかった気がするよ……。 |
| Character | 5話【8-5 テセアラ領の森4】 |
| アスベル | それでは、教官はリチャード救出のために動いておられたのですか。 |
| マリク | ああ。帝国を探っているハロルドが報せてくれた。 |
| イクス | ……ということは、ハロルドさんって人は獅子身中の虫……ってことかな ? |
| コーキス | え ! ? ハロルドって人も人じゃなくて虫なのか ! ? |
| マリク | ああ、丁度、幼虫からさなぎに変態したところだったな。 |
| コーキス | ヘンタイ ! ? 虫でヘンタイ ! ? |
| イクス | マリクさん ! 真顔で冗談を言うのはやめて下さい ! ?コーキスも、もう少し勉強しような、色々と。 |
| アスベル | コーキス。イクスはハロルドさんがわざと味方の振りをして帝国の情報を集めているって言っているんだよ。 |
| ヒューバート | そう断定するのは早計ですよ。教官はどうお考えですか ? |
| マリク | そうだな。今のところは疑う理由はない。だが、気を付けた方がいいのは確かだ。 |
| イクス | そう……ですね。 |
| マリク | ハロルドの話によれば、帝国は陛下をエフィネア領主に据える気のようだ。そのためにチーグルを分離しようと考えているらしい。 |
| ヒューバート | 陛下をリビングドールβにするつもりですね。 |
| シェリア | 酷いわ。陛下の心や身体を、まるで道具のように……。 |
| イクス | でもそれなら、どうしてチーグルを監獄へ連れてきたんだろう。帝国でリビングドールβにすればいいのに。 |
| マリク | 陛下は初期型だから……どうとか言っていたな。陛下とチーグルは心を共有しているそうだ。 |
| コーキス | そういえばそうか。リチャード様もフレン様と同じタイプだったよな。 |
| アスベル | ああ、だから前に助け出せた時はリチャードを眠らせておくしかできなかった。 |
| マリク | だが心を分離する技術を持つ者が亡くなったとかで心に入る力を持ったリチアという鏡映点を使って分離を行う計画を立てたようだ。 |
| シェリア | リチアって、コハクがいつも話してる人だわ。 |
| ソフィ | 大事な友達だって言ってた。教官、リチアがどこにいるか知ってるの ? |
| マリク | テセアラ領の監獄だ。彼女の力でバルバトスを大人しくさせるために派遣されている。 |
| アスベル | だからリチャードも監獄に送られることになったんですね。それで教官もこちらへ。 |
| マリク | ああ。だがバルバトスが脱獄してこの騒ぎだ。さらにオレ自身にも追っ手が迫って動きづらくなっていたところに、だ。 |
| パスカル | あたしたちが登場 ! って感じ ? |
| マリク | いいタイミングだったぞ。思っていたよりも、オレは運がいいらしい。 |
| マリク | それでだ。運がいいついでにお前たちの計画にオレを加えてはもらえないだろうか ? |
| アスベル | 教官のお力を貸して頂けるのですか ! |
| マリク | 貸すも貸さないもないだろう。むしろこの場合は、オレが助けてもらう方だ。 |
| マリク | イクス、どうだろう。オレの知る限りではあるが情報も提供する。 |
| イクス | もちろんです。こちらこそお願いします ! |
| 救世軍兵士A | 待ってくれ。俺たちも協力させてもらえないか。 |
| イクス | えっ、でも……。 |
| 救世軍兵士A | 俺たちが役に立つってことをマークさんに証明したいんだ。 |
| 救世軍兵士B | 無力だと思われてる俺たちがどう挽回すればいいのかこれ以上思いつかないんだよ……頼む ! |
| コーキス | 一体、救世軍はどうなってんだ ?マークは上手くやってると思ってたのに。 |
| アスベル | ……なあイクス、コーキス。彼らが望むなら加えてやったらどうだろう。 |
| イクス | アスベル ? |
| アスベル | ……俺にも覚えがあるんだ。この人たちは今、自分の無力感で押しつぶされそうなんじゃないかな。 |
| アスベル | こういう時には、誰かの役に立つことで救われることもあると思う。だから……。 |
| イクス | アスベル……。わかった。彼らにも一緒に来てもらおう。みんなもいいよな。 |
| 救世軍兵士A | ありがとう ! この恩は必ず返す。 |
| マリク | だがな、いつまでもそのままではいられんぞ。己の価値は、己で見出すしかない。それだけは忘れるな。 |
| 救世軍兵士A | ……わかっているさ。 |
| イクス | 俺、マークに連絡しておくよ。救世軍の拠点でマークたちと合流するつもりだったけどこの敵の多さじゃ、時間的ロスが大きすぎる。 |
| イクス | このままマリクさんと一緒にリチャードさんを救出する。 |
| イクス | 救世軍の人たちも一緒だから、当然連携作戦になるし向こうに話は通しておかないと。……皆さんも、それでいいですね ? |
| 救世軍兵士A | ああ。よろしく頼む。 |
| | テセアラ領 救世軍施設 |
| マーク | 俺の話は聞いただろう ?なのにここを出て行こうってのかよ。 |
| バルバトス | 俺に指図するんじゃねぇ !今、貴様らが生きていられるのは俺なりの情けだということを忘れるなよ ! |
| マーク | はいはい。で ? 出ていってどうするつもりだ。 |
| バルバトス | 知れたこと。メルクリアを殺す。 |
| マーク | はぁ……。あんた、今の状況がわかってて―― |
| ルック | あの、マークさん、魔鏡通信が……。 |
| イクス | マーク ! 大至急伝えたいことがあるんだ。 |
| マーク | 悪いが取り込み中だ。手短に頼む。 |
| イクス | 了解。そっちに向かう途中に救世軍の負傷兵と会ったんだ。それで、彼らと一緒にチーグル奪還作戦を進めることになった。 |
| バルバトス | チーグル…… ? |
| ルック | あいつら ! 何をやって……。 |
| マーク | ……今更連れ戻すわけにもいかねぇだろう。イクス、そのまま計画を続行してくれ。 |
| イクス | わかった。それと、チーグルの移送に関する新たな情報が入ったんだ。 |
| イクス | チーグルは船で監獄へ入る予定だったけどバルバトスさんの脱走騒ぎで変更になって別の港から陸路を使って監獄へ向かっているらしい。 |
| マーク | そうか。こっちでも対応を検討する。手間かけるが、あいつらのことよろしく頼むな。 |
| イクス | ああ、任せてくれ。 |
| ルック | 今の件、負傷兵の捜索に出た者にも連絡しておきます。しかしまさか、こんなことになるとは。 |
| マーク | あいつらが単独で行動するよりはイクスたちと一緒の方がマシだろう。 |
| バルバトス | ……ふっ、はははははっ ! |
| マーク | バルバトス ? |
| バルバトス | そうだ、思い出したぞ !チーグル……あの小娘の一味だったな。 |
| マーク | (しまった、こいつチーグルを知ってたのか !) |
| バルバトス | くくく……メルクリアをおびき出すいいエサになる。マーク、貴様にはつくづく感謝するぞ ! |
| ルック | か、勝手にここを出ることは許さ―― |
| バルバトス | 退けぇい ! ! |
| ルック | うあああっ ! |
| マーク | ルック ! 大丈夫か ! ? |
| マーク | おい、待てバルバトス ! バルバトス ! !……くそっ ! 何で俺の周りにはこう面倒な奴らばかり集まってくるんだ ! |
| Character | 6話【8-9 テセアラ領の森8】 |
| イクス | 街道か、もしくは森側のルート、ですか。 |
| マリク | ああ。港から監獄までの陸路は複数あるがハロルドの話では、この二つが有力だ。現場を確認したがオレも同感だ。 |
| マリク | 街道はオレたちで押さえる。アスベル、イクス、ソフィ、用意をしておけ。 |
| ヒューバート | では、ぼくたちはこちらの森側で陛下の輸送隊を待ち伏せます。何かあったらすぐに連絡をください。 |
| アスベル | 頼んだぞ、ヒューバート。シェリアとパスカルをよろしくな。イクス、他に気になることはあるか ? |
| イクス | いえ、特には。変更後の方針もすぐに決まってマリクさんに指揮をお願いしてよかったです。 |
| コーキス | それじゃ行ってくるぜ、マスター。 |
| イクス | ああ。コーキスも気を付けろよ。 |
| コーキス | そりゃこっちのセリフだぜ。アスベル様、マスターが無理しそうな時は強引にでも止めてくれよな。 |
| アスベル | わかった。でも、どうして俺なんだ ? |
| コーキス | だって、ラムダ様を説き伏せたアスベル様ならマスターのことも上手く説得してくれそうだしさ。んじゃ、頼みます ! |
| アスベル | ラムダ様……か。コーキス、今はラムダのことを俺たちと同じように考えてくれてるんだな。 |
| イクス | ああ。アスベルと同じ具現化された存在だし今はもう俺たちと一緒にいるんだからあいつにとって様づけは当然なんだと思うよ。 |
| アスベル | ……ありがとう。よし、俺もコーキスの期待に応えるぞ !イクス、無茶はほどほどにしてくれよ ? |
| イクス | わかってる。けど、もしかしたら逆になるかもしれないぞ ? アスベルだってラムダの時には相当無茶したって聞いてるし。 |
| マリク | ……おい、アスベル。さっきから気になってたんだが、ラムダがどうした ?リチャードから引き離されたとは聞いているが……。 |
| アスベル | 教官、ご存じなかったんですか ?でしたら報告が遅れてすみません。ラムダは今、俺の中にいるんです。 |
| マリク | 何だと ! ? お前、ラムダに寄生されているのか ! ? |
| アスベル | 寄生というよりは、同居というか……。 |
| マリク | とにかく詳しく話してくれ。 |
| アスベル | はい。少々長くなりますが……。 |
| マリク | 本当にそんなことが可能だとは……驚いた。 |
| アスベル | ただしコーキスが言ったようないい関係ではなく俺はまだ拒絶されたまま……だと思います。 |
| アスベル | 一度だけ、ラムダの意思で力を貸してくれましたがそれ以降は反応がないんです。 |
| マリク | なるほど。今はその目以外に異常は出ていないか ?ラムダの浸食を感じることは ? |
| アスベル | いいえ。何の問題もありません。 |
| ソフィ | 今のラムダ、大人しいよ。 |
| マリク | そうか。だが解決には至っていないのだろう。どうするつもりだ。 |
| アスベル | 本当はもっとラムダと話したいのですが―― |
| イクス | あっ、ごめんアスベル。連絡が来た。――どうした、コーキス。 |
| コーキス | マスター、こっちが当たりみたいだぜ !帝国の部隊が近づいてる。 |
| パスカル | 兵士がいっぱいでさ~。全部相手にしてたら肝心のターゲットに逃げられちゃうかも。 |
| ヒューバート | 陛下は馬車で運ばれているようです。馬車を隊列から分断させれば奪還の成功率も上がると思います。 |
| マリク | そうか。だったら分断後に馬車を別のルートへ追い込めばより確実だ。そこで待ち伏せよう。 |
| マリク | ただし、そこへ誘導する者が必要になるが……。 |
| 救世軍兵士A | 俺たちを使ってくれ。戦闘では足手まといだがバックアップならできる。 |
| 救世軍兵士B | ああ。襲撃で混乱した隊列を分断し目標の馬車を誘導すればいいんだろう。 |
| マリク | バックアップと言っても危険な仕事だぞ。本当にいいのか。 |
| 救世軍兵士C | 承知の上だ。やらせてくれ ! |
| マリク | わかった。だが命を捨てるような真似はするなよ。逃げるのも戦術のうちだ。 |
| マリク | では襲撃はヒューバートたちが担当。ターゲットの分断と誘導を救世軍。オレたちは先回りをしてチーグルを捕獲する ! |
| ソフィ | ――教官、馬車が来た ! |
| アスベル | ヒューバートたち、上手くやったみたいだな。 |
| イクス | ああ。誘導場所も計画どおり。救世軍との連携は大成功だよ。 |
| マリク | 喜ぶのはまだ早いぞ。あいつらが繋げたチャンスを活かすも殺すもオレたち次第なのだからな。 |
| 三人 | はい ! |
| マリク | 最後まで油断するなよ。――行くぞ ! |
| Character | 7話【8-10 テセアラ領の森9】 |
| イクス | アスベル ! チーグルを確保してくれ ! |
| アスベル | わかった !――大人しく出て来い ! チーグル ! |
| チーグル | ……以前と同じ状況か。あの時もお前たちが襲撃者だったな。 |
| チーグル | おおかた影に小娘でも仕込んで不意打ちを狙ってるんだろう ? |
| マリク | 大人しく投降しろ。お前の味方はいない。 |
| チーグル | だろうね。そうさせてもらうよ。 |
| アスベル | え…… ? |
| チーグル | 何を呆けた顔をしてるんだい ?連れていけと言っているんだ。 |
| チーグル | ああ。抵抗する気はない。 |
| イクス | マリクさん、本気だと思いますか ? |
| マリク | ……確かに、罠の可能性も捨てきれん。 |
| マリク | チーグル、後ろを向け。拘束するが構わんな ? |
| チーグル | 野蛮だな。だが、正しい判断だ。好きにすればいい。 |
| アスベル | チーグル……お前は一体……。 |
| シェリア | さあ、みんな早く ! 急いで ! |
| 救世軍兵士 | はぁ、はぁ……。 |
| アスベル | どうしたんだ、シェリア。向こうで何かあったのか ? |
| シェリア | アスベル、陛下は確保したのね ! ?だったらすぐに逃げて ! |
| シェリア | 分断した隊列にバルバトスが攻めてきたの。チーグルを捜して追って来てるわ ! |
| イクス | バルバトスさんは救世軍にいる筈じゃないのか ! ? |
| パスカル | そんなのわかんないよー !今は弟くんやコーキスが足止めしてるけど―― |
| ソフィ | コーキスたち、来たよ ! |
| ヒューバート | 皆さん、早くここを離れてください !すぐにバルバトスが来ます ! |
| コーキス | あいつ、全然ひるまないんだ !本当に大怪我してんのかよ !ゴリラみたいに馬鹿力だし、うぜーよ ! |
| イクス | ……時間がないな。転送ゲートを使おう。 |
| コーキス | なっ、何言ってんだよ ! それは駄目だ ! |
| イクス | 死ぬ訳じゃないさ。それにアスベルたちのためにもリチャードさんを守らなきゃいけない。 |
| アスベル | イクス、待ってくれ ! 他に方法を―― |
| バルバトス | 見つけたぞ…… !こんなところに隠れていやがったか !チーーーーグルゥウウウウッ ! ! |
| 救世軍兵士 | 早く逃げてくれ ! ここは俺たちが防ぐ ! |
| バルバトス | なんだと ?ろくに戦えもしないゴミ共が何をほざきやがる ! |
| アスベル | あなた達も逃げるんだ ! このままじゃ―― |
| 救世軍兵士たち | 戦えなくても壁くらいにはなる !俺たちだって……戦士なんだ ! |
| バルバトス | ほぅ。思い上がりも甚だしいが、その意気やよし。――望みどおり皆殺しにしてやるぜ ! |
| マーク | 待て、バルバトス ! そこまでだ ! |
| バルバトス | 貴様……。 |
| イクス | マーク ! どうなってるんだ ! ? |
| マーク | いいから行け ! 俺を信じて、ここは任せろ ! |
| イクス | わかった ! 転送ゲート…… |
| アスベル | イクス ! |
| コーキス | マスター、やめて―― |
| イクス | ――展開 ! ! |
| バルバトス | 消えただと…… ?このクソがぁあああああああああっ ! ! |
| 救世軍兵士 | うわああああっ ! |
| バルバトス | この虫けら共が !俺の復讐を邪魔しやがって ! 死ねぇええ ! ! |
| マーク | ――待った ! ! |
| マーク | そんなにメルクリアが憎いならあの小娘がいる帝国へ向かう、簡単な方法があるぜ。知りたくはないか ? |
| マーク | だがそれ以上、俺の部下に手を出したら俺も本気であんたとやりあわなくちゃならねぇ。 |
| マーク | それよりは、俺の話を聞いてとっとと帝国へ向かった方がいいだろう ?英雄バルバトス殿 ? |
| バルバトス | ははははっ ! 面白い奴だ。気に入った。貴様はいつか、このバルバトス様が殺してやる。メルクリアを八つ裂きにした後でな ! |
| マーク | ……また殺されリストに追加されたのかよ。もう好きにしてくれ。それじゃあ交渉成立でいいな。 |
| マーク | ……ルック、負傷兵の奴らを回収して手当してくれ。 |
| ルック | はい ! |
| Character | 8話【8-14 閑散とした街道2】 |
| マリク | ……ここはどこだ ? |
| ヒューバート | ぼくたちの拠点です。無事に戻ってこられたようですね。 |
| マリク | あの一瞬でここまで来たのか……驚いたな。さっきまでの騒ぎが嘘のようだ。 |
| シェリア | ……アスベル、どうしたの ? |
| アスベル | 救世軍の負傷兵は無事だろうかと……。 |
| イクス | そうだな……。でも、何かあればマークが連絡をくれるさ。今はまずリチャードさん……を……。 |
| コーキス | マスター ! やっぱフラフラじゃねえか ! |
| アスベル | 済まない。イクスがこんなことになるのを止められなくて……。 |
| コーキス | アスベル様のせいじゃないって。俺も、今のは仕方なかったって思うし……。 |
| コーキス | とにかく休まないとな。ほらマスター、部屋に行くぞ。 |
| イクス | 俺のことはいいって。それよりもリチャードさんを助けないと……。 |
| チーグル | ……鏡士。ここにビフレストの魔鏡術を受け継いだ者はいるのか ? |
| イクス | ……いや、いない。 |
| チーグル | そうか。僕は初期型リビングドールだ。バルドとフレン同様に僕はリチャードの心核と共にある。 |
| チーグル | お前たちは、ローゲの心核を何らかの方法でバルバトスから取り除いたようだが同じようにはいかないよ。 |
| コーキス | だからって、リチャード様を返さない気か ! ? |
| イクス | ……いや、精霊装なら分離を促すことができるかもしれない。スピルリンクしてから精霊装を使えば、あるいは……。 |
| コーキス | マスター、まさか行く気じゃないだろうな。 |
| イクス | さすがにこの状態じゃ無理だってわかってるよ。他の誰かに頼んで、スピルリンクしてもらう。 |
| イクス | 今、俺やミリーナ以外で精霊装を使えるのは確か、スタンさんとリオンとヴェイグか……。 |
| イクス | コーキス、誰か精霊装を使える人とスピルリンクできる人を呼んできてくれないか ? |
| コーキス | よし、任せとけ ! |
| チーグル | 精霊装か。お前たちが使った後心核からローゲのアニムス粒子が乖離しかけていたな。なるほど……。 |
| チーグル | 理屈はまだよくわからないが確かにあれならばいけるかも知れないな。 |
| アスベル | ……どういうつもりだ ? |
| チーグル | 何がだ ? |
| マリク | まるで陛下から分離されることを望んでいるような口ぶりだ。何を企んでいる ? |
| チーグル | ……別に企んでなどいないよ。 |
| チーグル | それよりも、この体のことを話しておこう。今は僕がリチャードという存在を封じている状態だ。 |
| チーグル | もう長い間、彼の声は聞こえない。リチャードとやらを助けたければ――僕を、殺せ。 |
| Character | 9話【8-15 リチャード】 |
| アスベル | これがリチャードの心の中なのか。 |
| ソフィ | ねえアスベル、さっき教官から何かもらってた ? |
| アスベル | ああ。疑似心核だってさ。今回は必要ないだろうけど自分は入れないから、念のために持ってけって。 |
| ソフィ | そう。みんなで来られたらよかったね。 |
| ヴェイグ | すまない。他の仲間も来たかっただろうにオレが枠を取ってしまって。 |
| アスベル | 何いってるんだ。精霊装を使えるヴェイグがいないとリチャードは助けられないんだ。来てくれて感謝してるよ。 |
| ソフィ | うん。本当にありがとう、ヴェイグ。お礼に、ご飯を全部ピーチパイにしてもらうようにクレアに頼んでおくね。 |
| ヴェイグ | いや、それは……気持ちだけで十分だ……。 |
| アスベル | コハク、リチャードの心核っていうのはどこにあるんだ ? |
| コハク | もっと奥の方だと思うよ。 |
| ソフィ | チーグルも、そこにいるんだよね。 |
| コハク | 多分ね。でもどんな形でチーグルが存在しているのかはわからないから用心はしておいて。 |
| アスベル | (チーグル……。一体何を考えているんだ。本当にリチャードを解放する気なのか ? ) |
| コハク | 多分、この辺……あっ、誰かいるよ ! |
| ソフィ | え ? リチャードが二人 ? |
| チーグル | ようやく来たか。お前たちを待っていたよ。さあ、リチャードを心の檻から解き放ってくれ。 |
| アスベル | お前は……チーグルだな。それじゃ、そっちが…… ! |
| 二人 | リチャード ! ! |
| アスベル | リチャード、俺だ ! わかるか ? |
| ソフィ | リチャード、ねぇ、リチャード ?……どうしたの ? |
| ヴェイグ | おかしい……。何の反応もないぞ。 |
| チーグル | ……駄目か。 |
| コハク | リチャードさんに何したの ! ? |
| チーグル | 僕は今までずっとこの者を無理やり封じ込めていたからね。そんな僕の声では彼に届かない。 |
| チーグル | 仲間の声であればと思ったんだが……。このままではリチャードの意識は薄まり消えるかもしれない。 |
| アスベル | リチャード……。リチャード !お前、このまま消えるつもりか ! ? |
| ラムダ | ……消えるだと ? |
| アスベル | ラムダ ! ?お前、リチャードのために目覚めてくれたのか ! |
| ヴェイグ | アスベルは誰と話しているんだ。 |
| ソフィ | アスベルの中のラムダ。目を覚ましたみたい。 |
| ラムダ | リチャード、お前は生きたいのではなかったのか。 |
| リチャード | ……ラム、ダ…… ? |
| コハク | リチャードさん、反応した ! |
| リチャード | ラムダ……どこに……。 |
| アスベル | リチャード、ここだ。ラムダは俺の中にいる。 |
| リチャード | ラムダ……アスベル…… ?アスベル、君なのか……。 |
| アスベル | リチャード、しっかりするんだ ! 戻ってこい ! |
| リチャード | 嫌だ……。ラムダは僕の希望だったのに……。奴らは僕から希望を奪ったんだ……。 |
| チーグル | …………。 |
| リチャード | 僕は、僕であることさえも奪われた……。どこの世界にいても同じだ……。争い……裏切り……世界は汚れきっている……。 |
| リチャード | 僕は……裏切られるくらいなら、誰とも関わらない……みんな消えてなくなればいい……。僕も……消えてなくなって……。 |
| アスベル | お前は消えないよ、リチャード。 |
| リチャード | アスベル…… ? |
| アスベル | 長い間待たせてしまってすまない。俺は、お前を助けに来たんだ。 |
| アスベル | さあ行こう、リチャード。 |
| リチャード | 助ける…… ? 何故そんな風に手を差し伸べるんだ。僕は元の世界で人間を滅ぼそうとした。この世界でも、君の敵だったんだろう ! |
| リチャード | それなのに……。 |
| アスベル | 元の世界でも、この世界でもリチャードは敵なんかじゃなかった。 |
| アスベル | 俺とお前は友達だ。だから助けるのなんて当然だろう。 |
| ソフィ | そうだよ。リチャードはそんなことも忘れちゃったの ? |
| リチャード | ……そうだった。君はいつだって僕の……。 |
| アスベル | ほら。何やってんだ。早く手を。 |
| コハク | ……もう、大丈夫だよね。リチャードさん。 |
| ヴェイグ | ……ああ。 |
| チーグル | ――ようやく自我を取り戻したようだな、リチャード。これで僕が心核から分離しても体が崩壊することはあるまい。 |
| チーグル | では、最後の仕上げといこうか。精霊装で、この僕を討て。 |
| ヴェイグ | ! ! |
| チーグル | 何を今更驚くんだい。そうしなければ僕はいつまでもリチャードの心に住み着いたままになるぞ。いいのか ? |
| アスベル | チーグル…… ! |
| チーグル | さあ、剣を抜け。そしてリチャードを解放するんだ。 |
| Character | 10話【8-15 リチャード】 |
| ソフィ | ……倒した、の ? |
| チーグル | ……フフ……。偽りの生き返しとも……これでお別れ、か。さあ、精霊装で僕にとどめを刺せ ! |
| ヴェイグ | ……アスベル。いいんだな。 |
| アスベル | ………………。 |
| アスベル | ……ああ。頼む。 |
| ヴェイグ | ――氷霊よ全てを砕け ! 砕気凍絶斬 ! |
| チーグル | ぐああああっ !……くっ……これで……いい……。 |
| コハク | チーグルの姿が薄れてる……。 |
| リチャード | チーグル……。 |
| チーグル | リチャード、君にこの体を返す……。もう二度と……失わぬようにしたまえ。 |
| アスベル | チーグル、何故自ら消えるような真似をしたんだ。 |
| チーグル | メルクリア様が、そう望む筈だからだ。今のあの方なら……きっと。 |
| アスベル | チーグル、まだ逝くな。お前の話を聞かせてくれ。 |
| チーグル | 無茶を言う……。今更何を……。 |
| アスベル | このまま何もわからずにお前を消してはいけない気がするんだ。頼む。 |
| チーグル | ふっ……どうせ消えるなら恨み言の一つも聞いてもらおうか。 |
| チーグル | 僕は……ビフレスト皇国の皇族に仕える騎士だった。しかしセールンドとの戦いでは主たるウォーデン殿下や故国を守れず戦死した。 |
| チーグル | 死の砂嵐の中、ただひたすら苦痛に耐えながら僕は自らの無力を嘆き、恥じた。それが永遠に続く筈だったんだ。 |
| ヴェイグ | 虚無……。そこにお前もいたんだな。 |
| チーグル | ああ。それが思いがけず生き返しの機会を得た。僕はダーナに誓った。汚名をそそぎ祖国復興を望むメルクリア様を守る、とね。 |
| チーグル | ビフレストを甦らせることが出来るのならばどんな悪辣非道なことさえも成してみせる。そう決めて、お前たちとも戦った。 |
| チーグル | その意志は、こうして消える今でも変わらない。オーデンセの鏡士たちは怨敵、お前たちも同様だ。 |
| アスベル | …………。 |
| チーグル | 当初はメルクリア様もそうだった。手段を問わず、ただ無邪気にビフレスト復興のみを目指していた。 |
| チーグル | けれど……何も知らない子供だったメルクリア様が今、様々なものに触れて変わろうとしている。 |
| チーグル | 今のメルクリア様なら、きっとリチャードをリビングドールから解放することを選ぶだろう。 |
| ソフィ | だから、あなたは自分から消えるの ? |
| チーグル | ……そうだよ。それに……こんな命令を下すのはメルクリア様にとって心の痛むことだろうからね。 |
| チーグル | メルクリア様のため、ビフレストの未来のため……これで……僕の役目は……。 |
| アスベル | 駄目だ !だったら尚更、お前は消えるべきじゃない ! |
| ヴェイグ | アスベル ! ? どうするつもりだ ?何かできることがあるのか ? |
| アスベル | ああ、いざというときはこれが使えると思っていた。 |
| ソフィ | あ、教官がくれた疑似心核 ! |
| アスベル | チーグル、この中に移れないか ? |
| チーグル | 何だと…… ? |
| アスベル | お前の仲間のローゲは人工心核のままで俺たちが預かってる。 |
| チーグル | ローゲは虚無に戻ってはいないのか…… ? |
| アスベル | そうだ。そしてうまくいけばお前も虚無には戻らずにこの世界に留まれるはずだ。だから、この心核に移ってくれ。 |
| チーグル | ……安い同情だね。 |
| アスベル | 同情……かもしれない。だけど、俺と同じように考えている仲間だっている。 |
| アスベル | シングを知っているだろう。シングは、虚無に閉じ込められた人々の魂も救いたいと言っていた。 |
| チーグル | だからと言って、この程度の話で友人を苦しめた存在を、お前は許せるのか ? |
| チーグル | そうやって、自己満足で僕たちを助けてこの先どうするつもりだ。 |
| アスベル | リチャードやラムダにした非道な行いは許せない。その先をどうすればいいかもわからない。だけど……それでも……。 |
| アスベル | (……ごめん、リチャード、ラムダ) |
| アスベル | 俺は、お前たちを救いたいんだ ! |
| チーグル | ……君の名を教えてくれないか。 |
| アスベル | アスベル・ラントだ。 |
| チーグル | そうか。僕はトルステン・ドンナー。チーグルは僕の幼い頃の名だ。……それと、アスベル。ひとつ、頼みがある。 |
| チーグル | いつかローゲの心核と共に僕をメルクリア様のもとへ届けて欲しい。 |
| アスベル | わかった。約束する。 |
| チーグル | ……感謝する。すまなかったね、リチャード。 |
| コハク | 一瞬、疑似心核が光った……。チーグルが入ったってことだよね。 |
| リチャード | チーグル……。 |
| アスベル | これで、ようやく本当のリチャードに会えるな。さあ、行くぞ。 |
| リチャード | 行くってどこに ? |
| ソフィ | あのね、シェリアも、ヒューバートも、パスカルも、教官も、みんなリチャードに会いたがってるんだよ。だから……。 |
| アスベル & ソフィ | 一緒に帰ろう。リチャード。 |
| リチャード | あ……。 |
| アスベル | リチャード、目が覚めたか ! |
| ソフィ | おはよう。リチャード。 |
| ヒューバート | 陛下、ご無事で何よりです ! |
| パスカル | お帰り~ ! そんでもって久しぶり ! |
| マリク | これでようやく全員そろったな。待ちわびておりました。陛下。 |
| シェリア | 順番で言えば、教官が一番最後ですからね。陛下、お体の具合はいかがですか ? |
| コーキス | 俺、ミリーナ様たちを呼んでくるよ。きっと大喜びするぜ ! |
| イクス | 俺はジュードに知らせてくる。リチャードさんの体調をみてもらわないとな。 |
| アスベル | (信じ続けてよかった。こんな風にリチャードと向き合える日を……) |
| ラムダ | 信じる……か。 |
| アスベル | (ラムダ !) |
| ラムダ | お前は、我を利用しリチャードを貶め仲間に刃をむける敵にさえも歩み寄るのか。なるほど。 |
| アスベル | (…………) |
| ラムダ | 人間は強欲で、残忍で、傲慢。我にとって、その認識は変わらない。 |
| ラムダ | だが……お前やコーネルが見せたかったものが今は少しだけ理解できる気がする。 |
| アスベル | (ラムダ……。今なら俺の手を取ってくれるか ?) |
| ラムダ | お前が我の手を取るというのなら―― |
| アスベル | (手……この手、は……) |
| リチャード | 心の中では、君がこうして僕の手を取ってくれたね。 |
| アスベル | リチャード……。 |
| リチャード | 本当はずっと君に助けて欲しいと願っていた。……ありがとう、アスベル。 |
| アスベル | ああ。いつだって助けにいくさ !この世界でも俺たちは……。そうだ ! ソフィ、こっちに来てくれ。 |
| ソフィ | なに ? |
| アスベル | 俺たちの手に、お前の手を重ねるんだ。 |
| ソフィ | あ…… ! わかった ! |
| アスベル | ……たとえこの先何があっても。 |
| リチャード | 僕たちは友達でいよう。 |
| ソフィ | 友達でいよう。 |
| アスベル | よし、これで俺たちはこの世界でもずっと友達だ ! |
| ソフィ | うん。ずっと一緒だね。アスベル、リチャード。 |
| リチャード | ああ。新たな世界での、新たな友情の誓いだ。忘れないよ。絶対に。 |
| | to be continued |