| Character | 1話【10-1 イ・ラプセル城】 |
| グラスティン | マリク・シザースを逃がしたそうだなぁ ?ベルセリオス博士。 |
| ハロルド | ああ、報告は受けたけど、それって私のせい ?リビングドールβの体の管理はあのトカゲみたいな男に任せたじゃない。 |
| ハロルド | 文句があるなら、あのディストって奴に任せた自分の無能さを恨んだら ? |
| グラスティン | 俺は、ディストには『導師イオンのレプリカを見せるな』と伝えた筈だ。 |
| ハロルド | 見せてないわよ。 |
| グラスティン | だったら、何故奴はイオンのレプリカと一緒にオールドラント領へ向かった ? |
| ハロルド | 知るわけないでしょ……って言いたいところだけどこっちも妙な資料を見つけたのよね。 |
| ハロルド | ほら、見て。ティル・ナ・ノーグ各領の領都の住民の詳細な調査票。 |
| ハロルド | 名前、性別、身長、体重、髪の色……。あらら、よく見たら黒髪ばっかり。 |
| グラスティン | ………………。 |
| ハロルド | ま、このリストの中身はどうでもいいのよ。問題は領都の横に書かれてる領主の名前。 |
| ハロルド | 今見せてるこれはアレウーラ領のものだけど領主としてティルキスって名前が書かれてるわよね。 |
| ハロルド | もしこれと同じような資料がオールドラント領の分もあったなら当然イオンって名前は書かれてるでしょうね。 |
| グラスティン | 何が言いたい ? |
| ハロルド | 説明しなきゃわからない ?要は私の管理してない情報を見ている可能性があるってこと。 |
| グラスティン | ヒヒヒヒヒ……確かに。頭ごなしに疑って悪かったなぁ……ベルセリオス博士。 |
| ハロルド | わかってくれればいいのよ。 |
| グラスティン | それじゃあ、俺は別の角度からマリク・シザースの件を調べることにしよう。 |
| グラスティン | そうそう後でベルセリオス博士の研究室を見学させて欲しい。構わんよなぁ…… ? |
| ハロルド | ……もちろん。ただしノックは忘れないでよ。乙女の秘密が詰まってるんだから。 |
| グラスティン | ヒヒヒ……心しておこう。そうそう、アトワイトの調整はどうなっている ? |
| ハロルド | あんたがこうして邪魔しなければ早く終わると思うけど。 |
| グラスティン | ファンダリア領にリビングドールβを送り直す必要があるんでなぁ。頼んだぞぉ ? 間違っても逃がしたりしないようにな ? ヒヒヒヒヒ……。 |
| グラスティン | ――リビングドールβ用の肉だがしばらくベルセリオス博士の下へ送り込むのは止めておけ。 |
| 帝国兵A | しかし、それでは領主の派遣が―― |
| グラスティン | そんなものは後回しでいい。所詮デミトリアス――皇帝陛下の甘っちょろい理想を叶えるだけでこの世界の未来にはなんの益もない。 |
| グラスティン | それよりあの女、思った通り鏡映点を逃がしていたようだ。 |
| グラスティン | ディストが勝手に動くことは予想の範疇だったがそれに便乗する形で、鏡映点共を解放するとはな。ヒヒヒ……面白い。 |
| グラスティン | マリクを逃がしたなら、アトワイトやクンツァイトも逃がすつもりだろう。アトワイトとクンツァイトのデータを回せ。 |
| 帝国兵A | はっ ! 急いで執務室に回します。 |
| グラスティン | いや、俺はいったんアスガルド城へ帰る。あの女がダーナの巫女について調べていた形跡があった。ダーナの巫女の体を調べたい。 |
| グラスティン | 資料は直接俺のところへ届けろ。 |
| | 領都ジャンナ・領主の館 |
| ティルキスβ | オールドラント領の領主が来ている、だと ? |
| アレウーラ領兵 | はい。オールドラント領で暴れる黒衣の鏡士たちから逃げてきたと申しております。 |
| ティルキスβ | ……計画に支障が生じたということか。わかった。通せ。 |
| ティルキスβ | 同志よ。何があった ?我らは定められた領内で、領民を導きつつ滅びの時を迎えねばならない。 |
| イオン ? | 黒衣の鏡士が、領都を占拠しようと攻め入ってきた。 |
| ティルキスβ | それでおめおめと逃げ出したのか ?従者はどうした。その時のための従者だろう。 |
| イオン ? | 従者ディストは我々を裏切った。 |
| ティルキスβ | ディストはリビングドールβではなかったのか。 |
| イオン ? | その通りだ。それが災いした。あの男は我らの疑似心核に妙な仕掛けを施していったらしい。除去作業を行う必要がある。 |
| ティルキスβ | 除去作業 ? どういうことだ。 |
| イオン ? | まずはこれを見てくれ。 |
| ティルキスβ | ! ? |
| ティルキスβ | き……さま……は…………。 |
| イオン | ここまでは上手くいきました……。次は心核の入れ替えを……。 |
| ハロルド | これは帝国の心核除去装置の改良版よ。被験者へのダメージを取り除くことはできなかったけど心核と疑似心核の入れ替えはできる。 |
| ハロルド | これをつかって、こっちの手元に心核がある領主候補たちを助けるの。 |
| ハロルド | 私がリビングドールβにした人たちはわざと心核を外しやすくしてあるからこの簡易装置でもいける筈よ。 |
| ハロルド | 私がグラスティンの相手をしている間に転送魔法陣でリビングドールβのところへ向かって。頼んだわよ。 |
| イオン | (彼女は僕を信頼して送り出してくれました。帝国に残る方が危険だと言うのに……。その期待には応えたい) |
| イオン | (装置を設置するのは額の上……。慎重に……) |
| イオン | (……よし。あとは装置を起動させて――) |
| イオン | ――誰です ! ? |
| ? ? ? | ……ティルキス ? |
| イオン | え…… ? |
| ? ? ? | あなた……誰 ?ティルキスに何をしたの ! ? |
| イオン | あ……。いえ、待って下さい。これは違うんです。僕は彼を救おうと―― |
| ハスタ | はいは~い、そこまでだワン ! 痴話喧嘩はワンコも食べないって知ってた ? |
| イオン | ! ? |
| アーリア | な……何…… ? |
| ハスタ | 肉を探して三千里。ハスタくんの登場です !キミの血肉が、悲鳴が、今 ! ボクちんに必要とされているんだ……デザイア ! ! |
| イオン | ハスタ……。どうしてここに……。 |
| ハスタ | オレっち「あなたの心のマリーゴールド」だからいつでもどこでも側にいるんだポン ! |
| ハスタ | あの日……母上とした約束のためにもあんさんらのお命、わっちがいただくでありんす !さあ、流血大会はっじまっるよー ! |
| イオン | ――この男は話が通じない。ここは僕が食い止めます。あなたはティルキスさんを連れて逃げて下さい !できるだけ遠くへ ! |
| アーリア | ! ? |
| イオン | さぁ、早く ! |
| アーリア | ――わかったわ ! |
| ハスタ | かっけ~ッ ! 見せつけられちゃいました !でも、その足も首も切り刻むでごじゃるよ ! |
| Character | 2話【10-2 アスガルド城】 |
| ジュニア | ………………。 |
| グラスティン | 大人しくしていたか、小さいフィリップ。 |
| ジュニア | ……案外早かったね。 |
| グラスティン | どうした ? 何故こちらを見ない ? 俺の醜さが恐ろしいか ? |
| ジュニア | ……あなたに、興味なんて無い。 |
| グラスティン | ……ヒヒヒヒヒ、なるほどなぁ。小さいといえどもフィリップだ。融合の魔鏡術はお手の物かぁ ? |
| ジュニア | ! |
| グラスティン | ここに『影』を置いて、どこへ逃げた ? |
| ジュニア | ………………。 |
| グラスティン | ……まあいい。俺は寛大だからなぁ。夜明けまでに戻ってくればお前の可愛い鏡精へのお仕置きは免除してやろう。 |
| グラスティン | もしも朝日が昇っても帰ってこなかったらあの鏡精は腑分けする。ヒヒヒ……鏡精の腑分けか……。楽しみだよぉ。 |
| ジュニア | マークを傷つけたら許さない ! |
| グラスティン | だったら早く帰ってくるんだなぁ ?俺は忙しいんでな。話はこれで切り上げだ。せいぜい急ぐんだなぁ、小さいフィリップ。 |
| ジュニア | (……グラスティンの奴こんなに早く帰ってくるなんて) |
| ジュニア | (夜明け前までに、このセールンドからアスガルド城に戻るには、あまり時間が無い) |
| ジュニア | (最初のイクスの体から、ナーザのアニムス粒子にアクセスできればよかったんだけどそれはできなかったから……) |
| ジュニア | 最初のミリーナ。あなたに関するフィリップの記憶はあなたと二人目のイクスが死の砂嵐を封じる前に滅びの夢で少しだけ見ました。 |
| ジュニア | せっかく死の砂嵐を封じたのに……ごめんなさい。僕はどうしても死の砂嵐の中に漂っている、ナーザのアニムス粒子を回収しなくちゃいけないんです。 |
| ジュニア | (……あれ ? セシリィ――シドニーとバルドさんが封じたはずの人体万華鏡の穴に、傷が付けられてる ?) |
| ジュニア | (僕以外にも、誰かここに来て死の砂嵐にアクセスしようとしたのかな ?) |
| ジュニア | (でもこの傷のおかげで、アニムス粒子を取り出すことはできなくても虚無に声を届けることはできそうだ) |
| ジュニア | ここに持ってきたナーザの指輪をつかって残留アニマに反応するアニムスを呼び寄せる……。 |
| ジュニア | ナーザ将軍――いえ、ビフレスト皇国皇太子ウォーデン・ロート・ニーベルング殿下。僕の声に応えて下さい。 |
| ジュニア | メルクリアを……あなたの妹を助けたいんです ! |
| デミトリアス | どうした、グラスティン。急ぎの話があるそうだがこちらはエルレインを待たせている。手短に頼むよ。 |
| グラスティン | つれないことを言うなよ。精霊の封印地へ向かう方法を思いついたんだぞ ? |
| デミトリアス | どういうことだ ! ? |
| グラスティン | ヒントは精霊の封印地で見つけたダーナの巫女だ。あの女、様々な手段を施したが目覚めようとしなかったな。 |
| デミトリアス | ああ。やはり巫女の目覚めには条件があるのだろう。神降ろしの儀式にも反応しなかった。 |
| グラスティン | だが精霊どもは目覚め始めている。という事は、実はあの巫女は目覚めているのではないか ? |
| デミトリアス | 何…… ? |
| グラスティン | フフフフ、ダーナの巫女は鏡士の始祖。ならば魔鏡術もお手の物だろう。心を切り離すぐらいのことはやってのけるんじゃないかってなぁ。 |
| デミトリアス | 確証はあるのか ? |
| グラスティン | もちろんだ。ベルセリオス博士の研究データをちょいと拝借してきた。 |
| グラスティン | ヒヒヒヒ、あの女が見つけていたよ。最初の神降ろし――シャーリィとか言う娘の時に心核が妙な反応を見せていたことをな。 |
| デミトリアス | つまり、あの時神降ろしは成功していた ?いや、シャーリィに宿ったのがダーナの巫女ならば巫女降ろしか。 |
| グラスティン | そこが分かれば後は簡単だ。俺たちがダーナの巫女の体を回収した時心核にアニムス粒子の反応はあった。 |
| グラスティン | つまり、心はダーナの巫女に宿っていた。時系列を考えれば、シャーリィに取り憑いたダーナの巫女は、一度自分の体に戻ったということだ。 |
| グラスティン | そして先程ダーナの巫女の体を調べたところ今度は心核にアニムス粒子の反応はなかった。 |
| デミトリアス | また、誰かの心に寄生している……ということか。 |
| グラスティン | 心が離れているなら丁度いい。心の精霊の精霊片を纏わせて、疑似精霊化しよう。そうすれば心の精霊の守護など無力だ。 |
| デミトリアス | さすがだ、グラスティン。では早速出撃準備に掛かろう。今度こそダーナの心核を破壊し、持ち帰らねばならぬ。 |
| Character | 3話【10-3 ケリュケイオン】 |
| ゼロス | 驚いたな。本当に人の心の中を渡って物理的にこっちに来ちまうなんて。どういう仕組みなんだ ? |
| ヨウ・ビクエ | 簡単に言うと、人の心というのは無意識の奥深くで世界中の人々と繋がっているの。だから私の心を無意識の奥からフィリップの心へと繋いだのよ。 |
| アイゼン | なるほど。言わんとすることはわかるが理解したかと言われるとさっぱりだな。 |
| ゼロス | 俺さまもー。 |
| ヴィクトル | 途中、リチアとか言う別の人間の心に繋がってしまったようだがあれはどういうことなんだ ? |
| ヨウ・ビクエ | あれは、リチアって子の心にまつわる力が規格外だったせいよ。あの子は異世界の人間なのにダーナの巫女である私に近い能力を持っているみたい。 |
| ヨウ・ビクエ | それに今はイクスも規格外の力を持っている状態なの。世界中に出現している魔鏡結晶は彼の力そのもの。つまり心が外に露出してしまっている状態なの。 |
| ヨウ・ビクエ | 人の心に自由に入れるリチアの傍で心が露出しているイクスが、魔鏡術をつかった。それで心の境界線が曖昧になった……ということね。 |
| ヨウ・ビクエ | ま、わからなくても大勢に影響はないわよ。 |
| ヴィクトル | 『心』か……。 |
| アイゼン | そういえば、お前たちも魔の空域に行ったんだったな。アイフリードの墓はまだあったのか ? |
| ヴィクトル | ああ。 |
| ヨウ・ビクエ | 無かったら困るわよ。あそこは、ティル・ナ・ノーグと既に滅びたニーベルングを繋ぐターミナルのような場所だから。 |
| アイゼン | ああ……。この世界はニーベルングとやらが滅びた後に造られた世界だったな。 |
| アイゼン | だがどうして滅びた世界と、このティル・ナ・ノーグを繋いでおく必要があるんだ ? その上そんな場所にアイフリードの墓があるなんて、妙な話だろうが。 |
| ヨウ・ビクエ | あの場所で繋がっていないと、ティル・ナ・ノーグは虚無に飲み込まれるらしいの。それを避けるための楔なのよ。あの島とお墓はね。 |
| ヨウ・ビクエ | アイフリードはあそこで精霊の封印を受け持っているの。彼は召喚士だから。 |
| ローエン | 確かにアイフリードが召喚士だとは聞いていましたがその説明の仕方ですと、まるでアイフリードがまだ生きているかのようですね。 |
| ヨウ・ビクエ | 生きてはいないわよ。さすがにね。 |
| ヨウ・ビクエ | ……ところで、みんな、浮遊島には降りないの ? |
| アイゼン | フィリップだっていい大人だろう。ゾロゾロついて行くのは野暮ってもんだ。 |
| ローエン | ええ、マークさんが一緒に下りましたから我々はここで待ちましょう。フィリップさんが抱えていた秘密をイクスさんに打ち明けるまで。 |
| ヨウ・ビクエ | そうね……。それじゃあ、私も引っ込むわ。アトワイト、ありがとう。 |
| アトワイト | いいえ。お疲れ様、ヨーランド。 |
| フィリップ | イクス……待たせてすまなかった。 |
| イクス | やっと……話してくれるんだな。 |
| フィリップ | ああ……。ようやく精霊の封印地へ向かう方法が見つかったんだ。 |
| フィリップ | ここから先は何が起こるかわからない。だからその前にイクスに全てを伝えようと思っていた。……そうやって先延ばしにしていたとも言えるけどね。 |
| フィリップ | そういえば、ミリーナはどうしたんだい ? |
| イクス | それが……どこにもいないんだ。ミリーナもこのところハードだったからどこかで休んでるのかも……。捜してこようか ? |
| フィリップ | いや、まずはイクスに話をするよ。ミリーナは後でいい。 |
| イクス | わかった。 |
| イクス | それで……フィル。俺は何なんだ ?イクス・ネーヴェの三人目だってことはわかってる。だけど、俺は何処まで最初のイクスと同じなんだ ? |
| フィリップ | ……イクス。きみは頭がいいから多分おおよそのことがわかっているんだと思う。だから焦っているし不安に思っている。 |
| フィリップ | ゆっくり話そう。きみが造り出された経緯について。 |
| イクス | ああ……。 |
| フィリップ | まずはっきりさせておこうか。イクス、きみは三人目に具現化された存在。そしてきみを造ったのは僕だ。 |
| イクス | それは知ってる。ゲフィオン……最初のミリーナとフィルが俺を造ったんだろう ? |
| フィリップ | いや、ゲフィオンはイクスの具現化には関与していない。 |
| イクス | ……え ? |
| フィリップ | 事情は後で説明する。とにかくイクスを造ったのは僕だ。そしてきみは――僕にとって都合のいいイクスなんだ。 |
| イクス | ! ? |
| Character | 4話【10-4 アジト1】 |
| フィリップ | さて、何から話そうか。 |
| フィリップ | 僕は……幼い頃からずっとミリーナが――いや、ゲフィオンが好きだった。イクスが気付いていたかはわからないけれどね。 |
| フィル | ミリーナ。お願いがあるんだけど、いい ? |
| ミリーナ | もちろんいいわよ。何、フィルのお願いって。 |
| フィル | えっと……。今から一緒に水鏡の森に行って欲しいんだ。 |
| ミリーナ | 水鏡の森 ? 素敵ね。だったらお弁当を持って行きましょうよ !簡単なもので良ければ、すぐに作るわ。 |
| フィル | うん ! ありがとうミリーナ。 |
| ミリーナ | あ、イクス ! |
| イクス | ミリーナ、フィル、どこに行くんだ ? |
| ミリーナ | 水鏡の森までピクニックに行くの。イクスも一緒に行かない ? |
| フィル | ! |
| イクス | いや、俺は港に行かないと……。 |
| イクス | そういえば、このところ水鏡の森には物騒な魔物が出てるみたいだぞ。 |
| ミリーナ | フィルも一緒だから大丈夫。イクスもお仕事が終わったら合流して ! ね ? |
| イクス | だったら俺の仕事が終わるまで待っててくれないか。二人だけじゃ心配だから一緒に行くよ。 |
| ミリーナ | ……そう ? |
| フィル | 大丈夫だよ。イクスは心配性だね。僕もミリーナも鏡士なんだよ ?先に行って準備してるよ。 |
| ミリーナ | ……そうよね。うん、大丈夫 !私お姉さんなんだしちゃんとフィルのこと守れるわ。 |
| イクス | わかった。でも危ないところには行くなよ。二人とも案外抜けてるんだから。 |
| ミリーナ | 失礼ね、大丈夫だってば。さ、行きましょう、フィル ! |
| イクス | それ、月見の丘にピクニックに行った時の話だよな ?あれ ? 水鏡の森だったか ? |
| フィリップ | 水鏡の森だったんだ。覚えていて欲しくなかったから月見の丘へのピクニックに記憶を挿げ替えた。 |
| イクス | ! ? |
| フィリップ | そう、そうなんだ。イクスたちを具現化するのに時間の壁を突破したと言ったよね。その際に僕やゲフィオンの記憶を経由すると。 |
| フィリップ | 記憶を経由して具現させると、具現化対象者の記憶も操作できることがわかったんだ。ファントムでそれを試して……イクスにも適用した。 |
| イクス | じゃあ、俺のこの記憶は……全部嘘なのか ? |
| フィリップ | 全てではないよ。どうしても覚えていて欲しくないことだけ僕が書き換えたんだ。 |
| フィリップ | 秘伝魔鏡術の暴走にまつわる一連の出来事について。それだけはイクスに忘れて欲しかった。 |
| イクス | けど、俺覚えてるよ。 |
| イクス | 港で仕事をしてたら、ミリーナが呼びに来たんだ。それで祖父ちゃんを楽させてやるために鏡士になりたいってって……。 |
| フィリップ | それは『いつ』のことだった ? |
| イクス | いつって……ピクニックに誘われた日だよ……。 |
| イクス | ……あれ ? 港に行く道でフィルたちに会って……。二人は月見の丘に行って、俺は港に行って……それでまたミリーナたちが……戻ってきた ? |
| フィリップ | あの日、本当に起きたことを話すよ。 |
| フィリップ | 僕とミリーナは水鏡の森へ向かったんだ。あの森の奥にある湖には、時々不思議な光が立ち上る。それをミリーナに見せたかった。でも―― |
| フィル | ――水鏡の森に、魔物 ! ? |
| ミリーナ | イクスの言ってた物騒な魔物って、これ…… ! ? |
| フィル | 逃げよう ! |
| フィル | はぁっ、はぁっ、はぁっ……。 |
| ミリーナ | フィル ! 立ち止まっちゃ駄目 ! |
| フィル | 駄目だよ……僕、もう走れない……。ミリーナだけでも逃げて ! |
| ミリーナ | フィル ! ? 危ない ! ? |
| イクス | やらせるかっ ! ! |
| ミリーナ | イクス ! ? どうしてここに―― |
| イクス | 祖父ちゃんたちに話を聞いたら魔物が相当ヤバそうだってわかったからな。こいつは俺が何とかする。 |
| イクス | 二人は――って、まずいな。囲まれちゃってるのか。 |
| ミリーナ | 私も戦う ! |
| フィル | ぼ、僕も ! |
| イクス | いや、大丈夫だ。二人は隙を見て、大人を呼んで来てくれ ! |
| イクス | ――秘伝魔鏡術 ! |
| 二人 | ! ? |
| イクス | オーバーレイ ! |
| フィリップ | イクスは密かに魔鏡術の訓練をしていたんだ。鏡士になる事を諦めてなかった。あの日、水鏡の森でイクスは魔鏡術で魔物の集団を蹴散らしてくれた。 |
| フィリップ | でも敵の数が多すぎたこともあって、制御しきれずオーバーレイ暴走を引き起こしてしまったんだ。 |
| ミリーナ | イクスの力が暴走して……止まらない !私が、私がイクスの言うことを聞いてもっと気を付けていれば…… ! |
| ミリーナ | 私が……イクスのことをちゃんと待ってれば……。 |
| フィル | 大丈夫、ミリーナ。僕の守護魔鏡を使えば止められる ! |
| ミリーナ | えっ ! ? |
| フィル | 僕の鏡士としての力を弱める封印なんだ。これを使えばきっと―― |
| ミリーナ | 駄目よ、フィルは体が弱いからわざと力を弱めているんでしょう ? |
| フィル | でもこのままじゃイクスが死んじゃうよ ! |
| ミリーナ | ――わかった。でも、私にやらせて。バックファイアを受けるのは私だけでいいから ! |
| フィル | ミリーナ ! ? |
| フィル | イクスの暴走が……止まった……。 |
| フィル | ミリーナは ! ? |
| フィル | よかった……。息はある……。イクスは―― |
| フィリップ | イクスも生きていた。ひどい傷だったけれど……。そして思い知った。ミリーナはイクスしか見てない。イクスがうらやましかったよ。 |
| フィリップ | ミリーナに大切にされて、自己流の訓練だけでオーバーレイを成功させて……。 |
| フィリップ | 鏡士としてのとんでもない才能、友達の危機に命がけで駆けつけてくれる勇気、頭がよくて、運動神経もよくて家族想いで……みんなイクスを慕っていた。 |
| フィリップ | 僕もイクスみたいに――いやイクスになりたかったんだ。 |
| フィル | 今なら……誰も見てない……。イクスが死んでも……魔物のせいだと思われる。今なら―― |
| フィリップ | そして、僕はイクスを刺したんだ。鏡の破片で。 |
| Character | 5話【10-7 精霊の封印地】 |
| イクス | ……ぐぅっ……。 |
| フィル | ……あ……ぁ……。 |
| イクス | ……フィ……ル…… ? |
| フィル | ……イクス……ごめ……ごめ……んなさい……。 |
| イクス | ……フィル……。この……馬鹿……。 |
| フィル | イクス……僕……あの……。 |
| イクス | 俺に……文句があるなら……刺す前に話せ……って……。 |
| フィル | あ、駄目だよ ! ? 鏡の破片を抜いたら血が……。 |
| イクス | 抜いたら……止血してくれ。魔鏡術で。それぐらいできるだろ ? |
| イクス | こいつが刺さったままじゃ……村のみんなにバレちゃうから、さ。 |
| フィル | 僕が……止血しなかったら ? |
| イクス | ハハ……。化けてでるよ。だから……そうならないように頼む。あとは……俺とお前の秘密だ。いいな ? |
| フィリップ | イクスは本当に何も言わなかった。水鏡の森で何があったのか……。そして僕は……セールンドに逃げたんだ。 |
| フィリップ | それから魔鏡戦争が始まって……色々あって……二人目のイクスを具現化することになった時こう思った。 |
| フィリップ | 僕の罪を消せるんじゃないかって。オーバーレイ暴走を違う形で引き起こしたことにしようって。 |
| イクス | ……ゲフィオンもそれを知ってたのか ? |
| フィリップ | 僕がイクスを刺したことを知っているかはわからない。でも彼女もオーバーレイ暴走の日のことを悔やんでいたんだ。 |
| フィリップ | いつも三人で行動していたのにあの時だけ僕と二人で出かけたことイクスの心配を軽くとっていたこと。 |
| フィリップ | そのせいで……イクスがオーバーレイ暴走を引き起こしたことを。 |
| フィリップ | だから僕が誘導した。イクスを守るためにオーバーレイ暴走を利用しようと。 |
| フィリップ | それで臆病なイクスが生まれればイクスは危険な事に近寄らない。オーバーレイ暴走に関する記憶を改ざんしてしまおうって。 |
| イクス | ……一人目はこんなに心配性じゃなかったのか。 |
| フィリップ | 慎重ではあったけど、決して臆病でも心配性でもなかったよ。みんな、イクスがオーデンセを率いていくリーダーになると思っていた。 |
| フィリップ | 僕は自分が理想としていたイクスを穢そうとして二人目を作り、そのデータを元に今のきみが具現化されたんだ。 |
| フィリップ | もっとも二人目もきみも、肝心なところでは一人目と同じように行動するけれど……。 |
| イクス | ミリーナも、フィルが記憶を改ざんしてるのか ?記憶だけじゃない。感情も。だってミリーナはあんなに俺のことを好きじゃなかった。 |
| フィリップ | 彼女を造ったのはゲフィオンだ。少なくともオーバーレイ暴走に関しては改ざんしている筈だよ。 |
| フィリップ | ……それ以外も、かな。自分が守れなかったイクスを今度こそ守る……という思いがミリーナには植え付けられているみたいだから。 |
| イクス | やっぱり感情も操作されてるんだな。……ファントムも、ジュニアも ? |
| フィリップ | 記憶は改ざんしている。ファントムの場合は初期型ということもあって、感情部分は上手く制御できなかったけれど、ジュニアは―― |
| イクス | ……はは……ははは……。 |
| フィリップ | イクス ? |
| イクス | ……予想通りだったし、ある意味予想以上だったよ。 |
| フィリップ | 軽蔑したかい ? |
| イクス | ああ。でもそれは一人目を殺そうとしたからじゃない。 |
| イクス | そんなくだらないことのために、記憶と感情すら俺やミリーナたちから奪って平然としているその面の皮の厚さをだ。 |
| フィリップ | ………………。 |
| マーク | ――おい、取り込み中に悪いんだが、話は打ち切りだ。ヨウ・ビクエが倒れた。 |
| 二人 | ! ? |
| アトワイト | ごめんなさい。大切な話があったみたいなのに……。 |
| フィリップ | い、いえ……―― |
| イクス | ――大丈夫です。一番聞きたかった話は聞けました。続きは後で構いません。 |
| マーク | ………………。 |
| イクス | それで、ヨウ・ビクエが倒れたって言うのは…… ? |
| アトワイト | 倒れたというのが正確かどうかはわからないけれど突然悲鳴が聞こえて、それからなんの反応もなくなってしまったの。 |
| アトワイト | 多分心核の中には宿っていると思うのだけれど……。 |
| ローエン | どなたかソーマを持っている方に調べて頂くというのはどうでしょう。 |
| イクス | ええっと……今は……コハクが残ってる筈だけど……。 |
| アイゼン | ――こんな時に通信か。誰だ ? |
| ヒスイ | おい、そっちのブリッジにイクスがいるって話だが……お、いたな。 |
| イクス | (……ヒスイさん) |
| イクス | どうしたんですか ? |
| ヒスイ | リチアが、この世界のスピルーン――ええい、クンツァイト、頼む。 |
| クンツァイト | 承知した。リチアさまがこの世界のスピルーンの異変を感じ取っている。 |
| ヴィクトル | この世界のスピルーンとは精霊の封印地にあるダーナの心核のことか ? |
| クンツァイト | そうだ。この世界の――ダーナのスピルーンが崩壊しかかっているらしい。 |
| クンツァイト | リチアさまがダーナのスピルーンと共鳴しスピルリンクに近い状態となっている。 |
| ヴィクトル | ダーナの心核が崩壊…… ! ? ミラに影響は―― |
| クンツァイト | 今リチアさまが、ダーナのスピルーンの中にいる人物を補佐している。しばらくは持つだろうが危険な状態だ。 |
| イクス | ヨウ・ビクエが反応しないことと関係があるのかな……。 |
| フィリップ | 精霊の封印地へ行こう。 |
| フィリップ | ヨウ・ビクエが言っていた筈だ。心の精霊がイクスたちの陣営に力を貸しているなら彼らと一緒に封印地まで行けば、封印は解ける筈だと。 |
| レイア | 心の精霊 ! 確かにわたしたちに話しかけてきたよ ! |
| シング | よし、だったらこっちも精霊の封印地へ行くよ。海からも行けるんだろ ? |
| アイゼン | 封印地のある島は肉眼じゃ見えないぞ。座標を教えてやるが接近しすぎて岸壁にぶつけるなよ ? |
| シング | わかった ! 気を付ける ! |
| マーク | 俺たちも向かうか。イクス、お前も来るか ? |
| イクス | もちろん。あとダーナの心核の中にいるミラさんと関わりのある人たちも連れて行こう。何があるかわからないから。 |
| ローエン | 私が呼んでまいりましょう。 |
| デミトリアス | 心の精霊ヴェリウスよ。道を拓け。 |
| ヴェリウス | 痴れ者め。どうやって外界から封じたこの島に立ち入った。早々に立ち去りなさい。 |
| デミトリアス | ……我らの言葉に耳を貸さぬなら、それでもいい。心の精霊の代わりはこの者が果たす。 |
| ヴェリウス | そのものはダーナの巫女 ! ?そしてその力は私の―― |
| ヨウ・ビクエ | 滅せよ。 |
| グラスティン | ヒヒヒ……。思った通りだ。ダーナの巫女は心の精霊との相性がすこぶるいい。このまま心の精霊として代用できるぞぉ ? |
| デミトリアス | これでもう一度ダーナの心核の元に近づけるな。 |
| グラスティン | 進め ! デミトリアス陛下のために道を拓け ! |
| 帝国兵たち | おおっ ! |
| デミトリアス | ダーナの巫女――いや、次代の心の精霊となるものよ。共に参ろうか。偽りの世界を破壊するために。 |
| ヨウ・ビクエ | ………………。 |
| Character | 6話【10-10 街道】 |
| カイウス | 本当なのかな。ティルキスがアレウーラ領の領主になったって噂。 |
| ロゼ | 聞いた話だと、背格好なんかの特徴はティルキスで間違いなさそうなんだよね。 |
| ロゼ | あと従者だか付き人だか護衛だかが、今は領都を離れてるみたいなんだけど、鏡映点リストにあったフォレストってのに似てるみたい。 |
| ロゼ | まぁ、会ってみればわかるよ。 |
| ルビア | もし本当に二人があたしたちの仲間の二人ならリビングドールβにされてるのよね。許せない……。 |
| ユリウス | 気持ちはわかるが、怒りや焦りは判断を狂わせる。落ち着いていこう。 |
| ロゼ | 調査室の手が足りなくてユリウスさんまで巻き込んでごめん !でも助かる ! |
| カイウス | ユリウスさんは博識だし、頼りにしてます。ここまで来る間も、手際よく街で情報を集めてくれたし……。 |
| ユリウス | 何だか照れるな……。 |
| ユリウス | それにしても気になるのはさっきの村で聞いた領兵の存在だな。人を捜している様子だったと言うが……。 |
| ロゼ | えっと二組だったよね。片方が怪我した男と女の二人連れで、もう片方が怪我した男を連れた帝国兵ってことだったけど……。 |
| ロゼ | 領兵だって帝国兵だよね ?これって鏡映点関係なんじゃないかな。 |
| ルビア | 単なる仲間割れじゃなくて ? |
| ユリウス | ああ、俺もそう思う。カイウスやルビアも元は帝国側にいたんだ。 |
| ユリウス | そういう鏡映点が反旗を翻して逃走それを帝国が追っているという可能性がある。 |
| カイウス | それ、ルキウスだったりしないかな……。 |
| ルビア | ……ええ。 |
| ロゼ | それってカイウスの弟だっけ ? |
| ユリウス | ……兄弟が敵に捕まっているのはつらいな。 |
| カイウス | ルキウス……どうしてるんだろう……。 |
| ロゼ | ――ユリウスさん。 |
| ユリウス | ああ。みんな、気を付けろ。何者かがこっちに向かってくる。 |
| 二人 | ! |
| ユリウス | ――何者だ ! |
| 帝国兵 | 待った !ロゼがいるってことはお前ら黒衣の鏡士の仲間だろ ! ? |
| ロゼ | ……その声。もしかしてデクス ? |
| デクス | その通り ! 助かった !ちょっとヤバい奴に襲われてな。傷の手当てをしてやりたいんだ。 |
| デクス | けど街という街は警戒が厳重で薬一つ手に入れられなくてな。 |
| ルビア | 私でよければ治療するけど……怪我人は何処 ? |
| デクス | あそこの草むらに寝かせてる。 |
| イオン | はぁ……はぁ……あなた方は……。 |
| ロゼ | この子、もしかしてアニスの世界の導師…… ? |
| イオン | アニスを……ご存じなんですね……。 |
| ルビア | ひどい怪我 ! 今、治療しますね。 |
| ユリウス | デクス……だったか。これは一体どういうことだ ?お前はたしかティルキスの動向を見張っているんじゃなかったか ? |
| デクス | その筈だったんだが―― |
| カイウス | ……ってことはティルキスはその金髪の女の人が連れて逃げたんだな。 |
| ルビア | それってアーリアよね、きっと。 |
| カイウス | ああ、オレもそう思う。 |
| ロゼ | なるほどね。これは方針転換した方がよさそうだね。 |
| ユリウス | ああ。しかし人手がいる。カロルに連絡を取ろう |
| カロル | はい、カロル調査室――あ、ユリウス ! |
| ユリウス | アレウーラ領の領都及び領主の調査だが手が足りなくなりそうだ。 |
| カロル | ええ ! ? そっちもトラブル ! ? |
| ロゼ | そっちも……って、またアジトで何かあったの ? |
| カロル | ロゼたちがアレウーラ領に行ってから色々あって……。今、一番まずいのは、精霊の封印地にあるダーナの心核が壊れそうってことかな。 |
| ユリウス | ダーナの心核にはもう一人のミラが入っていると聞いていたが……。 |
| カロル | うん。それでさっきイクスたちと一緒にルドガーとエルも精霊の封印地へ向かったんだ。 |
| ユリウス | 何 ! ? |
| カロル | だから、そっちにどれだけ人手を割けるか……。 |
| ユリウス | ルドガー……エル……。 |
| カイウス | ……ユリウスさんも精霊の封印地へ向かった方がいいんじゃないか ? |
| ユリウス | ! |
| カイウス | オレがルキウスのことを心配なのと同じようにユリウスさんだってルドガーさんのことが心配だろ。 |
| カイウス | こっちはルビアとロゼがいるしデクスって人もいるし。 |
| デクス | おお、少年 ! 存分に俺を頼っていいぞ ! |
| ロゼ | うん。その方がいい。ねぇ、カロル。イリアたちをこっちの助っ人に回してもらえないかな ? |
| ロゼ | イリアたちと因縁のあるヤバい奴が出てきてるみたいなんだよね。 |
| カロル | オッケー。そっちの動きが決まったらまた連絡して。こっちはこれからルカたちに話をしてくるから。 |
| ロゼ | よし、まずはこの導師をどこか安全な場所に連れていこう。 |
| ロゼ | 助っ人と合流したら、あたしはハスタを捜してみる。カイウスとルビアはティルキスたちの足取りを追って。 |
| カイウス | わかった。 |
| ルビア | ユリウスさんは急いで精霊の封印地へ行かないと。 |
| デクス | 精霊の封印地か……。一番手っ取り早いのは帝国の港から船で向かう方法かな。 |
| デクス | 俺の制服をつかって変装してくれ。そっちのが少し背が高いが、まぁ、問題ないだろ。帝国の港までは、転送魔法陣を出すよ。 |
| ユリウス | 助かる。 |
| カイウス | ユリウスさん、気を付けて。 |
| ユリウス | ああ、大丈夫だ。これでもエージェントとしては優秀な方だったからな。 |
| Character | 7話【10-12 セールンド城】 |
| ジュニア | ウォーデン殿下 ! 応えて下さい ! お願いです ! |
| ジュニア | ………………。 |
| ジュニア | ……駄目、なのかな。 |
| ジュニア | ――え ! ?ゲフィオンに……人体万華鏡にヒビが ! ?どうして…… ? |
| ? ? ? | 世界が……壊れかけている……。 |
| ジュニア | だ、誰…… ! ? |
| ? ? ? | この声に聞き覚えがないか……。そうだろうな。俺はオーデンセの鏡士の体に宿っていた死人だ。 |
| ジュニア | ウォーデン殿下ですか ! ? |
| ナーザ | 貴様にそのように呼ばれる筋合いはない。 |
| ジュニア | では、ナーザ将軍とお呼びします。ナーザ将軍。何が起きているんですか ? |
| ナーザ | 正確なところはわからぬ。だが……虚無が――いや、虚無に漂う死の砂嵐が突然大きくうねり暴れ出した。 |
| ナーザ | 恐らくティル・ナ・ノーグに何らかの異変が起きているのだろう。 |
| ジュニア | セールンドの人体万華鏡にヒビが入っています。このままだと死の砂嵐が溢れてきてしまう…… ! |
| ナーザ | それをどうにかして欲しくて俺の名を呼び続けたのか ? |
| ジュニア | それは……。 |
| ナーザ | 魔鏡結晶を通じて断片的に状況はわかっている。……貴様はそうまでしてメルクリアを救いたいというのか ? |
| ジュニア | メルクリアは変わろうとしています。彼女には支えが必要です。僕の力だけでは……及びそうもなくて……。 |
| ナーザ | ……今なら、外に出ることができる。疑似心核はいくつある ? |
| ジュニア | え ! ? えっと……三つ……あります。 |
| ナーザ | 案外欲深いな、貴様は。三人は無理だ。一人は内側から人体万華鏡の穴を塞ぐ役目がある。 |
| ジュニア | ……え ? |
| ナーザ | 私とバルドは疑似心核に移ろう。今を逃しては、虚無からでることは叶うまい。 |
| ナーザ | これはシドニーの意見でもある。シドニーに感謝するのだな、小僧。俺は永遠に貴様に応えるつもりはなかった。 |
| ジュニア | あ、ありがとうございます ! |
| バルド | ……ジュニア。私もウォーデン様も疑似心核に移動しました。次は人体万華鏡の崩壊を防がねばなりません。 |
| ナーザ | それならば――そこにいる鏡精が適任だろう。 |
| ジュニア | ――え ? |
| ? ? ? | ……ええ。力を貸して下さい、フィリップ。 |
| ジュニア | あなたは……。 |
| イクス | おかしい……。封印地のある島は心の精霊の力で見えなくなっていた筈ですよね。でも肉眼でこの島を見ることができた。 |
| ヴィクトル | 封印が解けた――もしくは解かれたということだろう。 |
| ルドガー | ……あの、ヴィクトルさん。 |
| ヴィクトル | ルドガーくん、だったかな。今はダーナの心核のことを優先しよう。きみが何かに気付いたのだとしても、ね。 |
| ルドガー | ! ! |
| マーク | ヴィクトルの推測通りなら先客がいるのは間違いない。 |
| マーク | ダーナの心核を傷つけようなんて奴は帝国の連中ぐらいのもんだろうけどな。 |
| ローエン | 念のため、上空はケリュケイオンでアイゼンさんが島の周辺はクラトスさんたちが警戒してくれています。何かあれば連絡が来る手筈です。 |
| フィリップ | わかりました。ありがとうローエンさん。アトワイトさん、ヨウ・ビクエは ? |
| アトワイト | 相変わらず、何の反応もないわ。 |
| ガイアス | ならば急くぞ。 |
| デミトリアス | ――マクスウェルの力よ !この世界の楔たるダーナの心核を破壊せよ ! |
| ミラ | く……っ。このままじゃ……本当に……。 |
| リチア | 諦めないで下さい。今わたくしもそちらに向かっています。ダーナのスピルーンを崩壊させはしません。 |
| ミラ | リチア……だっけ ? もう限界よ。氷が溶ける時みたいな音が聞こえるの。パチパチって。 |
| ミラ | 外側からだけじゃない。内側からも壊れかけてるんだわ。 |
| リチア | 大丈夫。もうすぐきっと―― |
| イクス | お前たちは―― |
| デミトリアス | やぁ、イクス。久しぶりだね。ミリーナは一緒じゃないのかい ? |
| イクス | だ、誰だ ? |
| フィリップ | ……デミトリアス陛下。そのお姿は……。 |
| イクス | デミトリアス陛下 ! ? え ! ? |
| マーク | どういうこった。 |
| マーク | アニマ汚染でくたばりそうなツラしてたのにまるでフィルと一緒に研究してた頃と変わらない姿になってるじゃねぇか。 |
| デミトリアス | アニマ汚染で弱った体をどうにかしたくてね……。異世界の技術をつかってアニマ汚染を無効化したんだよ。 |
| フィリップ | そんなことができる筈が……。 |
| グラスティン | おおお、フィリップ…… ! ? |
| グラスティン | ああ……。すまない、フィリップ。お前の美しい眼にこの醜い姿を映してしまった……。完璧なお前が穢れてしまうよ……。 |
| マーク | ち、変態野郎も一緒か。 |
| ガイアス | 姿形などどうでもいい。これ以上ダーナの心核を傷つけさせはせん ! |
| コーキス | ――マスター ! 見えない壁があるみたいだぞ ! ? |
| ルドガー | ……ああ。これ以上は近づくこともできないみたいだ。どうする ? |
| アトワイト | ……あぁ……ううぅ……。 |
| イクス | アトワイトさん ! ? |
| アトワイト | ……ヨウ・ビクエが……。彼女の体が偽りの心の精霊に……。 |
| グラスティン | ほぅ、アトワイト。やっぱりお前がダーナの巫女の心を宿していたのか。ヒヒヒ……なるほどなぁ……。 |
| フィリップ | 偽りの心の精霊……まさか、精霊装による疑似精霊化か ! ? |
| デミトリアス | ああ。ダーナの巫女には心の精霊になってもらいヴェリウスを封じてもらった。 |
| デミトリアス | きみたちはそこでダーナの心核が壊れるところを見学しているといい。 |
| Character | 8話【10-13 精霊の封印地1】 |
| ヒスイ | おい ! ?何そんなところでボーッと突っ立ってるんだ ! ? |
| コーキス | ヒスイ様たち ! ? |
| ルドガー | いや、俺たちの前に見えない壁があってこれ以上進めないんだ。 |
| フィリップ | 恐らく帝国の心の精霊が生み出している壁なんだと思う。 |
| レイア | 帝国の心の精霊 ? |
| しいな | ヴェリウスって精霊とは別の心の精霊かい ? |
| ガイアス | いや、精霊装によって精霊の力を与えられた……というようなことを言っていた。 |
| リチア | ……心の精霊の生み出したものならソーマを持つ者や鏡士なら超えられる筈。見えない壁の内側へ入りましょう。 |
| クンツァイト | つまり、リチアさまと自分とヒスイそれにイクスですか ? |
| リチア | ……隣の眼帯をしている方と赤い髪の大剣持ちの方からもその力を感じます。それに、こちらのお二人も。 |
| 二人 | ! ? |
| イクス | コーキスは鏡精だからとしてもルドガーさんとヴィクトルさんはどうして ? |
| リチア | わかりません。世界の壁を越える力……のようなものがあるようです。追求はともかく急ぎましょう。 |
| リチア | ダーナの心核の中にいるミラに限界が迫っています。 |
| ルドガー | ――わかった。どうすればいいんだ ? |
| リチア | この壁の向こうへ【スピルリンク】して入り口をこじ開けます。 |
| イクス | 瞬間移動した ! ? |
| フィリップ | イクス ! ヨウ・ビクエから精霊輪具を外そう !それで疑似精霊化を止められる筈だ ! |
| イクス | あ、ああ、わかった ! |
| グラスティン | クックックッ。いいのかぁ ? 分断して…… ? |
| ルドガー | ガイアスたちが ! ? |
| ガイアス | 人の心配をしている場合か ?こちらの雑魚はこちらで片付ける。お前たちは自分の成すべきことをしろ。 |
| グラスティン | いいか、お前ら ! 壁の外のそっちにいる黒髪の二人は生け捕りにしろよぉ ?中に入ってきた黒髪の男の方は、俺が捕まえる。 |
| ヒスイ | って、なんで俺を見てるんだ ! ? きめぇ奴だな ! ?そっちの仮面野郎も黒髪だろ ! |
| マーク | まあ、気にすんなって、ヒスイ。で、どうする。全員でデミトリアスたちを叩くのか ? |
| デミトリアス | そう簡単にいくかな ? |
| グラスティン | ――デミトリアス。お前はマクスウェルの力で引き続きダーナの心核を攻撃しろ。 |
| グラスティン | フィリップと周りの肉は俺の獲物だぁ……。ヒヒヒヒヒ ! |
| デミトリアス | ……わかった。きみに任せよう。 |
| リチア | わたくしとソーマ使いの三人は、ダーナの心核にスピルリンクして、ミラを助けます。彼女が力尽きた時、ダーナの心核も崩壊する。 |
| イクス | なら、残りのメンバーでダーナの心核を守りつつヨウ・ビクエから精霊輪具を取り上げるんだな。 |
| ヴィクトル | ……グラスティンは私とルドガーくんイクスとコーキスで引きつける。フィリップとマークはヨウ・ビクエを頼む。 |
| フィリップ | 了解だよ。 |
| グラスティン | ヒヒヒヒヒ……。フィリップが相手じゃないのは残念だが邪魔なフードを脱ぐことができるなぁ……。 |
| グラスティン | さぁて、お前ら全員、ミンチジュースにしてやるよぉ ! |
| Character | 9話【10-14 精霊の封印地2】 |
| ルドガー | ヨウ・ビクエは ! ? |
| マーク | ――今、指輪を外した ! |
| レイア | 何、今の音 ! ? |
| アトワイト | ……くぅ……。 |
| しいな | ちょっとあんた、どうしたんだい ! ? |
| フィリップ | ヨウ・ビクエ…… ! ? |
| ヨウ・ビクエ | ――体に戻るわね。こんな風に体を使われるんじゃ心を切り離している方が不利になるから。 |
| ローエン | ですが、見えざる壁が、まだ―― |
| ヨウ・ビクエ | 私は今、心だけの存在。心の生み出す壁なんて意味はないわ。大丈夫。 |
| ヨウ・ビクエ | ……ふぅ……。この体で動くのは……ものすごく久しぶり……。 |
| ルドガー | よし、後はデミトリアスを止めればダーナの心核を守り切れる ! |
| デミトリアス | ――上手くいったようだな。 |
| イクス | 何…… ? |
| グラスティン | 引っかかったなぁ……鏡士の諸君。 |
| ヴィクトル | ――そうか。狙いはダーナの巫女の覚醒、か。 |
| グラスティン | ヒヒヒヒヒ……。偽物の黒髪の癖によくわかってるじゃないかぁ。 |
| グラスティン | ダーナの巫女が目覚めれば、アイフリードが残した精霊の封印は完全に解ける。そして【ダーナの揺り籠】であるこの世界も滅びを迎える。 |
| イクス | ……本気か ! ?世界を滅ぼせばお前たちだって死ぬんだぞ ! |
| グラスティン | 死なないさぁ。俺たちはなぁ ? |
| ヨウ・ビクエ | はき違えないでちょうだい。 |
| ヨウ・ビクエ | 私が目覚める時は、世界が滅びの危機を迎える時。けれど、私が目覚めるから世界が滅ぶわけじゃない。ダーナ様の造ったこの世界を壊させはしないわ ! |
| デミトリアス | ダーナの巫女。ならばそのダーナに問うてもらえないか ?何故いびつな楽園を造り出したのか。 |
| デミトリアス | 緊急避難などという理由が単なるおためごかしであることはわかっているのだ。 |
| ヨウ・ビクエ | あれだけダーナ様の心核を破壊しておいて話が聞ける状態だとでも思っているの ? |
| デミトリアス | まだ足りない。ダーナの心は徹底的に破壊する。 |
| ヨウ・ビクエ | やらせないわ。 |
| グラスティン | そうはいかないなぁ、ダーナの巫女。あんたにはまだまだ色々とやってもらうことがある。 |
| ヨウ・ビクエ | ……そこをどきなさい ! |
| グラスティン | 嫌なこった。 |
| イクス | ヨウ・ビクエ ! 今―― |
| デミトリアス | 光魔 ! お前たちの復活を阻止する悪魔共を滅ぼせ ! |
| コーキス | どうして…… ? マスターもここにいて死の砂嵐も封じているのにどうしてこんなに光魔を呼べるんだよ ! ? |
| フィリップ | ダーナの心核が崩壊しかけている影響かもしれない。 |
| イクス | くそ !とにかく光魔を倒して、ヨウ・ビクエを守ろう ! |
| フィリップ | 一体一体倒していてはキリがない。僕が魔鏡術で広範囲に攻撃する。 |
| マーク | それで散らせなかった分を俺たちでフォローするんだな !けど無理するなよ、フィル。お前の体は―― |
| フィリップ | ……まだ、大丈夫。 |
| コーキス | マスター ! 魔眼を使おう ! |
| ヴィクトル | ……いや。それは最終手段にとっておけ。 |
| ヴィクトル | ルドガーくん、フルで行けるか ? |
| ルドガー | フルって、骸殻のことですか ?いえ、スリークォーターまでです。 |
| ヴィクトル | ならばそれでいい。『一緒に』蹴散らすぞ。 |
| ルドガー | ! ? |
| エル | ほら、やっぱりユリウスだ ! |
| ユリウス | エル ! ? どうしてここにいるんだ ! |
| ゼロス | どうしてもルドガーやヴィクトルと一緒にいたいっていうからケリュケイオンに乗せたんだよ。 |
| エル | エル、おぺれーたーっていうのやってたんだ。そしたらユリウスがこっちに来るのが見えたから迎えにきたんだよ。 |
| ゼロス | ルドガーたちへの助太刀か ?だが、ダーナの心核の周辺は、ソーマ使いやら鏡士やらじゃないと近づけないらしいぜ。 |
| ゼロス | こっちも困ってるんだ。 |
| ユリウス | なら、ルドガーもダーナの心核には近づけていないのか ? |
| エル | ううん。ルドガーとパパはバリアの中に入れたみたい。 |
| ユリウス | ! ? |
| エル | ゼロス ! ユリウスを追いかけよう ! |
| ゼロス | エルちゃん。危ないからケリュケイオンに戻っててくれって。 |
| エル | ゼロスが一緒に行かないならエル一人で行くからいい。 |
| ゼロス | ……あちゃー。そうなるわな。へいへい、お供しますよお姫様。 |
| エル | それアルヴィンっぽいよ。 |
| ゼロス | ええ ! ? 心外だわー。 |
| ガイアス | ユリウスか。 |
| ユリウス | ルドガーは ! ? |
| ルドガー・ヴィクトル | ゼロディバイド ! ! |
| ユリウス | ……あの動きは……。まさか……。 |
| ガイアス | ユリウス。お前ならこの見えざる壁の向こうに行けるんじゃないのか ? |
| ガイアス | ルドガーとヴィクトルが、何故向こうに行けたのかよくわからなかったのだが、もし骸殻化できることが理由の一つなら、お前にも行けると考えられるが。 |
| ユリウス | いや、エンコードで力を制限されている。俺はここでは骸殻化できない……。 |
| エル | ユリウス ! ルドガーとパパを助けて ! |
| ユリウス | エル……。 |
| ユリウス | ………………。 |
| ユリウス | ……ああ、そうだな。骸殻が使えなくても、中には入れるなら ! |
| レイア | ――壁を……抜けた…… ? |
| ローエン | まるで壁が存在していないかのようにあっさり走っていかれましたね。 |
| エル | ねぇ、本当に壁なんてあるの ? 何にも見えないよ ? |
| ゼロス | あっと、エルちゃん、ストップ――って……うおおおい ! ?エルちゃんも向こう側にいっちまったぞ ! ? |
| アトワイト | ……壁はまだあります。少なくとも私は中には入れない。 |
| しいな | まずいよ ! エルが戦いに巻き込まれちまう ! |
| イクス | よし、だいぶ光魔の数が減ってきたぞ。 |
| フィリップ | ヨウ・ビクエ ! 今ならダーナの心核に近づける ! |
| ヨウ・ビクエ | ええ ! |
| グラスティン | ヒヒヒ……。動かないでもらおうか。 |
| ルドガー・ヴィクトル | エル ! ? |
| エル | パパ……ルドガー……。 |
| ルドガー | エルを放せ ! |
| グラスティン | どっちの立場が上かわかってないみたいだなぁ ? |
| エル | 痛いっ ! ? |
| グラスティン | さぁ、ヨウ・ビクエを捕まえて引き渡してもらおうか ? |
| ユリウス | ――やらせるか ! |
| ヴィクトル | ! ! |
| ルドガー | 兄さん ! |
| ユリウス | エルもルドガーも……傷つけさせはしない ! |
| ユリウス | この光は……浄玻璃鏡か ? |
| ヴィクトル | ……ユリウス。今なら骸殻化できる筈だ。 |
| ユリウス | ――ルドガー。ヴィクトル。共にエルを守ろう。 |
| ユリウス | エルに――ルドガーの……相棒に手をかけようとした罪、償ってもらうぞ ! |
| Character | 10話【10-14 精霊の封印地2】 |
| グラスティン | ……フゥゥ……。心地のいい痛みだった……。 |
| グラスティン | なるほどなぁ。こいつらが分史世界の……。ヒヒヒ……そしてあのガキがクルスニクの鍵か……。 |
| 二人 | ! ! |
| ヴィクトル | 私の娘を薄汚れた目で見るな。 |
| デミトリアス | グラスティン。ご苦労。やるべき事は終わった。必要な物も手に入れたしね。 |
| デミトリアス | ダーナの声が聞けなかったのは残念だがダーナの巫女が目覚めれば十分だ。引き上げよう。 |
| イクス | 待て ! |
| グラスティン | そう言って待つ馬鹿はいないよなぁ……。フィリップ……次に会う時はお前を綺麗な標本にしてやるからなぁ…… ! |
| コーキス | 転送魔法陣か……。 |
| マーク | フィル、ヨウ・ビクエはどうした ? |
| フィリップ | ダーナの心核の中に入っていった。 |
| ミラ | ……もう駄目……。手足の感覚が……。 |
| リチア | ミラ、もう大丈夫。仲間を連れてきました。 |
| シング | ミラ ! やっぱりあの時のミラだ ! |
| ミラ | シング…… ? |
| シング | あの時は助けてくれてありがとう。今度はオレがミラを助ける番だよ。 |
| ミラ | それでわざわざこんなところへ来てくれたの ? |
| シング | 何処にだって行くよ。ミラを助ける為なら。 |
| ミラ | おかしな子……。 |
| リチア | クンツァイト。内側からできるだけの修復を施して下さい。わたくしも協力します。 |
| クンツァイト | 了解。スピルーンの損傷度合の測定を開始します。 |
| ヒスイ | 俺たちは何をすればいいんだ ? |
| リチア | ……ミラはもう限界です。彼女を外に連れ出して下さい。 |
| ミラ | けど、私がいなくなったらダーナの心が壊れるんじゃないの ? |
| リチア | わたくしとクンツァイトがいます。 |
| ヒスイ | まさか、お前が残るって言うんじゃないだろうな ! ? |
| クンツァイト | リチアさま。それならば自分が一人でここに残ります。 |
| ? ? ? | お待ちなさい……。今、ダーナの巫女がそちらに向かっています。彼女がこの場に残って修復作業を行ってくれる。 |
| ? ? ? | 異世界から強引に招かれたあなたたちにこれ以上の迷惑はかけられません。 |
| ミラ | その声は……ヴェリウスね ? |
| ヴェリウス | ええ。不覚にも敵に後れをとり存在が消えかかっていましたが今は自分を取り戻しました。 |
| ヴェリウス | ミラ、長い間ダーナの心を守ってくれてありがとう。 |
| ヨウ・ビクエ | ……はぁ、やっと来られたわ。ミラ、苦しい思いをさせてごめんなさい。今外に、あなたの仲間が来ているわよ。 |
| ミラ | 私の……仲間……。それってルドガーとエルのこと ! ? |
| ヨウ・ビクエ | ええ、そう。早く戻ってあげて。この先は私が引き受けるわ。 |
| ヨウ・ビクエ | ここは……私のご先祖様が生まれた場所。故郷みたいなものだからご先祖のためにも綺麗に修復してあげないとね。 |
| シング | えっと……あなたは確か……。 |
| ヨウ・ビクエ | 私はヨウ・ビクエ。ヨーランド・ビクエ・オーデンセよ。 |
| ヨウ・ビクエ | シングとヒスイにはリチアのスピルメイズで会ってるわよね。 |
| ヒスイ | ああ。あの時はバタバタしていたけどな。 |
| ヨウ・ビクエ | 今もバタバタしてるわよ。急がないと、ダーナ様の心が完全に崩壊してしまうもの。 |
| ヨウ・ビクエ | あのデミトリアスとか言う男心核を思いっきり攻撃してくれたから……。 |
| ヴェリウス | ヨーランド。急ぎましょう。 |
| ヨウ・ビクエ | ええ。それじゃあ、ヒスイとシングはミラを連れて外へ出て。 |
| ヨウ・ビクエ | リチアとクンツァイトは、ギリギリまで心核――そちら風に言うとスピルーンの修復を手伝ってくれないかしら。 |
| ヨウ・ビクエ | もちろん後できちんとアジトまで送っていくわ。 |
| リチア | もちろんです。スピルーンが壊れるところは……もう二度と見たくありませんから。 |
| クンツァイト | 自分はリチアさまに従います。 |
| ヨウ・ビクエ | ありがとう。それと、外に出たら鏡士たちに伝えて。ダーナの心核は魔の空域に移動させて封印を施すって。 |
| ヨウ・ビクエ | そうすれば帝国も簡単には近づけなくなるわ。その代わり……世界が少し不安定になる。 |
| ヨウ・ビクエ | 死の砂嵐こそ侵入してこないけれど虚無との境が危うくなって光魔が現れやすくなるわ。気を付けて。 |
| シング | わかった。他には ? |
| ヨウ・ビクエ | 私が目覚めたことで、精霊たちが目を覚まし始めるわ。彼らを味方に付けて。それがティル・ナ・ノーグを守るための第一歩よ。 |
| シング | 必ず伝えるよ。 |
| シング | さあ、ミラ、オレに掴まって。ヒスイも肩を貸してあげて。 |
| ヒスイ | あ、ああ……。 |
| ミラ | ありがとう……。 |
| ミラ | ねぇ、あなた、誰 ?先祖がここで生まれたってどういうこと ? |
| ヨウ・ビクエ | ああ、その話が途中だったわね。私のご先祖様はね、太陽神ダーナの鏡精だったのよ。私は鏡精の子孫ってこと。 |
| Character | 11話【10-15 ミラ】 |
| ? ? ? | ミラ……まだ目を覚まさないのかな……。 |
| ? ? ? | 随分衰弱していたから、ゆっくり休ませてあげないと。 |
| ミラ | ……ん…………。 |
| エル | ミラ ! ! エルのミラ ! ! |
| ミラ | ……え…… ? |
| ルドガー | ミラ……。よかった、気がついて。 |
| ミラ | え…… ? ここは……どこ ? シングは ? |
| エル | シングとヒスイが、ミラを大きな宝石の中から連れてきてくれたんだよ。 |
| ルドガー | その時には、ミラはもう気を失っていたんだ。それでケリュケイオン……ここの医務室に連れてきた。 |
| エル | ……ミラは、エルのことちゃんと覚えてる ? |
| ミラ | え ? 何言ってるのよ。当たり前じゃない。 |
| エル | よかった…… !ジュードたちはエルのこと覚えてなかったから……。 |
| ミラ | ジュードたちもここにいる……のよね。 |
| ルドガー | ああ。 |
| ルドガー | ……と言っても、俺たちに出会う前のジュードたちだけどね。俺たちの知ってる姿より少し若いから驚くと思うよ。 |
| ミラ | ……もう一人の私も……いるのよね。 |
| ルドガー | ………………。 |
| エル | ねぇ、ミラ。パパから伝言聞いたよ。スープ作ってくれるんでしょ ? |
| ルドガー | こら、エル。ミラはまだ病み上がりみたいなものなんだぞ。 |
| ミラ | ふふ……。いいわよ。動けるようになったら、作ってあげるわ。 |
| ミラ | ……ううん、作らせて欲しい。やっと二人に会えたんだもの。 |
| ユリウス | きみは……行かなくていいのか。ミラのところに。 |
| ヴィクトル | バルドに頼まれて、成り行きでミラを精霊の封印地へ連れて行っただけだ。別に会って話すようなこともない。 |
| ユリウス | ……そうか。 |
| ヴィクトル | ………………。 |
| ユリウス | ヴィクトルと言う名前は、本名か ? |
| ヴィクトル | まるで尋問だな。 |
| ユリウス | そうだな。……単刀直入に聞こう。きみは分史世界のルドガーなんじゃないか ? |
| ヴィクトル | この世界で、正史も分史もないだろう。ここは全てが正史であり、同時に分史のようなものだ。 |
| ユリウス | ああ。確かにこの世界でなら俺は生きてルドガーと共に歩める。クルスニクの呪縛はここには存在しないからな。 |
| ユリウス | エルを守ってやることもできる。この世界でなら。 |
| ユリウス | ――お前はどう生きるつもりなんだ、ルドガー。 |
| ヴィクトル | ………………。 |
| フィリップ | ゲホッ……ゲホッ……くふぅ……。 |
| マーク | ……大丈夫か、フィル。 |
| フィリップ | ああ……。さっき発作を抑える……薬を飲んだから……コホッ……。 |
| マーク | 前よりひどくなってるじゃねぇか。 |
| フィリップ | ……歳のせいかな。 |
| マーク | 馬鹿なこと言ってるんじゃねぇよ。それで……わかったのか ? チビフィルが言ってた『始まりの場所』に行けってやつの意味。 |
| フィリップ | ……うん。バタバタしていたけど、わかったと思う。あれは……ゲホッゴホッ…… ! |
| マーク | また血を吐いたな……。 |
| マーク | なぁ、このままじゃ本当に死ぬぞ。どうしてそこまでしてイクスたちに尽くすんだ。罪滅ぼしのつもりか ? |
| フィリップ | ……はは。聞いてたのか。イクスとの話。 |
| マーク | 扉の外で見張りをしてたからな。聞こえちまったんだよ。 |
| マーク | そんなこったろうと思ってたから驚きはしなかったけどな。 |
| マーク | いくら歪んでいようがファントムはもう一人のお前だ。 |
| マーク | そいつがイクスとミリーナを殺せなんて言い出すんだ。お前の中にも……多少なりともそういう感情があるだろうとは予想が付くさ。 |
| マーク | うちのマスターはクズの大馬鹿野郎だからな。 |
| フィリップ | 耳が痛いよ……。でもその通りだ。 |
| マーク | フィル……。死ぬつもりなんだろう ? |
| フィリップ | ………………。 |
| マーク | 鏡士が自分の魔鏡を手放すのは、自決する時だけ。お前、一度魔鏡を手放してるよな。 |
| フィリップ | ……まだ死なないよ。イクスとミリーナのために、やることが沢山ある。 |
| マーク | まったく……。『どの』イクスとミリーナのためなんだよ……。 |
| イクス | 何だかこの数日、立て続けに色々なことが起きて正直頭がパンクしそうだよ。 |
| コーキス | なあ、マスター。フィリップ様と何を話したんだ ? |
| イクス | ………………。 |
| コーキス | ……え ? 何でそんな怖い顔するんだ ? |
| イクス | ……いや、何でもない。コーキスは知らなくていい。 |
| コーキス | けどマスター―― |
| イクス | コーキス ! ! |
| コーキス | ! ? |
| イクス | ……悪い。大声出して。この話はいいんだ。俺が……消化しなくちゃいけないことだから。それにまだ話の続きがあるみたいだったし……。 |
| クラトス | アジトから魔鏡通信だ。スクリーンに映すぞ。 |
| コンウェイ | 失礼するよ。そっちにミリーナさんはいるかな ? |
| イクス | え ? ミリーナ ? アジトに残ってる筈だけど……。 |
| コンウェイ | それが……彼女どこにもいないんだ。 |
| イクス | ……え ? |
| コンウェイ | もう夜も遅い。買い物に出たんだとしてもこんな時間まで連絡が無いというのはおかしいってルカくんが心配していてね。 |
| コンウェイ | こちらも心当たりをあたってみるから急いで戻ってきてくれないか。 |
| イクス | あ、ああ。わかった。今向かってるから。 |
| イクス | (ミリーナ……。何かあったのか…… ?) |
| | to be continued |