Character1話【10-1 イ・ラプセル城】
グラスティンマリク・シザースを逃がしたそうだなぁ ?ベルセリオス博士。
ハロルドああ、報告は受けたけど、それって私のせい ?リビングドールβの体の管理はあのトカゲみたいな男に任せたじゃない。
ハロルド文句があるなら、あのディストって奴に任せた自分の無能さを恨んだら ?
グラスティン俺は、ディストには『導師イオンのレプリカを見せるな』と伝えた筈だ。
ハロルド見せてないわよ。
グラスティンだったら、何故奴はイオンのレプリカと一緒にオールドラント領へ向かった ?
ハロルド知るわけないでしょ……って言いたいところだけどこっちも妙な資料を見つけたのよね。
ハロルドほら、見て。ティル・ナ・ノーグ各領の領都の住民の詳細な調査票。
ハロルド名前、性別、身長、体重、髪の色……。あらら、よく見たら黒髪ばっかり。
グラスティン………………。
ハロルドま、このリストの中身はどうでもいいのよ。問題は領都の横に書かれてる領主の名前。
ハロルド今見せてるこれはアレウーラ領のものだけど領主としてティルキスって名前が書かれてるわよね。
ハロルドもしこれと同じような資料がオールドラント領の分もあったなら当然イオンって名前は書かれてるでしょうね。
グラスティン何が言いたい ?
ハロルド説明しなきゃわからない ?要は私の管理してない情報を見ている可能性があるってこと。
グラスティンヒヒヒヒヒ……確かに。頭ごなしに疑って悪かったなぁ……ベルセリオス博士。
ハロルドわかってくれればいいのよ。
グラスティンそれじゃあ、俺は別の角度からマリク・シザースの件を調べることにしよう。
グラスティンそうそう後でベルセリオス博士の研究室を見学させて欲しい。構わんよなぁ…… ?
ハロルド……もちろん。ただしノックは忘れないでよ。乙女の秘密が詰まってるんだから。
グラスティンヒヒヒ……心しておこう。そうそう、アトワイトの調整はどうなっている ?
ハロルドあんたがこうして邪魔しなければ早く終わると思うけど。
グラスティンファンダリア領にリビングドールβを送り直す必要があるんでなぁ。頼んだぞぉ ? 間違っても逃がしたりしないようにな ? ヒヒヒヒヒ……。
グラスティン――リビングドールβ用の肉だがしばらくベルセリオス博士の下へ送り込むのは止めておけ。
帝国兵Aしかし、それでは領主の派遣が――
グラスティンそんなものは後回しでいい。所詮デミトリアス――皇帝陛下の甘っちょろい理想を叶えるだけでこの世界の未来にはなんの益もない。
グラスティンそれよりあの女、思った通り鏡映点を逃がしていたようだ。
グラスティンディストが勝手に動くことは予想の範疇だったがそれに便乗する形で、鏡映点共を解放するとはな。ヒヒヒ……面白い。
グラスティンマリクを逃がしたなら、アトワイトやクンツァイトも逃がすつもりだろう。アトワイトとクンツァイトのデータを回せ。
帝国兵Aはっ ! 急いで執務室に回します。
グラスティンいや、俺はいったんアスガルド城へ帰る。あの女がダーナの巫女について調べていた形跡があった。ダーナの巫女の体を調べたい。
グラスティン資料は直接俺のところへ届けろ。
領都ジャンナ・領主の館
ティルキスβオールドラント領の領主が来ている、だと ?
アレウーラ領兵はい。オールドラント領で暴れる黒衣の鏡士たちから逃げてきたと申しております。
ティルキスβ……計画に支障が生じたということか。わかった。通せ。
ティルキスβ同志よ。何があった ?我らは定められた領内で、領民を導きつつ滅びの時を迎えねばならない。
イオン ?黒衣の鏡士が、領都を占拠しようと攻め入ってきた。
ティルキスβそれでおめおめと逃げ出したのか ?従者はどうした。その時のための従者だろう。
イオン ?従者ディストは我々を裏切った。
ティルキスβディストはリビングドールβではなかったのか。
イオン ?その通りだ。それが災いした。あの男は我らの疑似心核に妙な仕掛けを施していったらしい。除去作業を行う必要がある。
ティルキスβ除去作業 ? どういうことだ。
イオン ?まずはこれを見てくれ。
ティルキスβ! ?
ティルキスβき……さま……は…………。
イオンここまでは上手くいきました……。次は心核の入れ替えを……。
ハロルドこれは帝国の心核除去装置の改良版よ。被験者へのダメージを取り除くことはできなかったけど心核と疑似心核の入れ替えはできる。
ハロルドこれをつかって、こっちの手元に心核がある領主候補たちを助けるの。
ハロルド私がリビングドールβにした人たちはわざと心核を外しやすくしてあるからこの簡易装置でもいける筈よ。
ハロルド私がグラスティンの相手をしている間に転送魔法陣でリビングドールβのところへ向かって。頼んだわよ。
イオン(彼女は僕を信頼して送り出してくれました。帝国に残る方が危険だと言うのに……。その期待には応えたい)
イオン(装置を設置するのは額の上……。慎重に……)
イオン(……よし。あとは装置を起動させて――)
イオン――誰です ! ?
? ? ?……ティルキス ?
イオンえ…… ?
? ? ?あなた……誰 ?ティルキスに何をしたの ! ?
イオンあ……。いえ、待って下さい。これは違うんです。僕は彼を救おうと――
ハスタはいは~い、そこまでだワン ! 痴話喧嘩はワンコも食べないって知ってた ?
イオン! ?
アーリアな……何…… ?
ハスタ肉を探して三千里。ハスタくんの登場です !キミの血肉が、悲鳴が、今 ! ボクちんに必要とされているんだ……デザイア ! !
イオンハスタ……。どうしてここに……。
ハスタオレっち「あなたの心のマリーゴールド」だからいつでもどこでも側にいるんだポン !
ハスタあの日……母上とした約束のためにもあんさんらのお命、わっちがいただくでありんす !さあ、流血大会はっじまっるよー !
イオン――この男は話が通じない。ここは僕が食い止めます。あなたはティルキスさんを連れて逃げて下さい !できるだけ遠くへ !
アーリア! ?
イオンさぁ、早く !
アーリア――わかったわ !
ハスタかっけ~ッ ! 見せつけられちゃいました !でも、その足も首も切り刻むでごじゃるよ !

Character2話【10-2 アスガルド城】
ジュニア………………。
グラスティン大人しくしていたか、小さいフィリップ。
ジュニア……案外早かったね。
グラスティンどうした ? 何故こちらを見ない ? 俺の醜さが恐ろしいか ?
ジュニア……あなたに、興味なんて無い。
グラスティン……ヒヒヒヒヒ、なるほどなぁ。小さいといえどもフィリップだ。融合の魔鏡術はお手の物かぁ ?
ジュニア
グラスティンここに『影』を置いて、どこへ逃げた ?
ジュニア………………。
グラスティン……まあいい。俺は寛大だからなぁ。夜明けまでに戻ってくればお前の可愛い鏡精へのお仕置きは免除してやろう。
グラスティンもしも朝日が昇っても帰ってこなかったらあの鏡精は腑分けする。ヒヒヒ……鏡精の腑分けか……。楽しみだよぉ。
ジュニアマークを傷つけたら許さない !
グラスティンだったら早く帰ってくるんだなぁ ?俺は忙しいんでな。話はこれで切り上げだ。せいぜい急ぐんだなぁ、小さいフィリップ。
ジュニア(……グラスティンの奴こんなに早く帰ってくるなんて)
ジュニア(夜明け前までに、このセールンドからアスガルド城に戻るには、あまり時間が無い)
ジュニア(最初のイクスの体から、ナーザのアニムス粒子にアクセスできればよかったんだけどそれはできなかったから……)
ジュニア最初のミリーナ。あなたに関するフィリップの記憶はあなたと二人目のイクスが死の砂嵐を封じる前に滅びの夢で少しだけ見ました。
ジュニアせっかく死の砂嵐を封じたのに……ごめんなさい。僕はどうしても死の砂嵐の中に漂っている、ナーザのアニムス粒子を回収しなくちゃいけないんです。
ジュニア(……あれ ? セシリィ――シドニーとバルドさんが封じたはずの人体万華鏡の穴に、傷が付けられてる ?)
ジュニア(僕以外にも、誰かここに来て死の砂嵐にアクセスしようとしたのかな ?)
ジュニア(でもこの傷のおかげで、アニムス粒子を取り出すことはできなくても虚無に声を届けることはできそうだ)
ジュニアここに持ってきたナーザの指輪をつかって残留アニマに反応するアニムスを呼び寄せる……。
ジュニアナーザ将軍――いえ、ビフレスト皇国皇太子ウォーデン・ロート・ニーベルング殿下。僕の声に応えて下さい。
ジュニアメルクリアを……あなたの妹を助けたいんです !
デミトリアスどうした、グラスティン。急ぎの話があるそうだがこちらはエルレインを待たせている。手短に頼むよ。
グラスティンつれないことを言うなよ。精霊の封印地へ向かう方法を思いついたんだぞ ?
デミトリアスどういうことだ ! ?
グラスティンヒントは精霊の封印地で見つけたダーナの巫女だ。あの女、様々な手段を施したが目覚めようとしなかったな。
デミトリアスああ。やはり巫女の目覚めには条件があるのだろう。神降ろしの儀式にも反応しなかった。
グラスティンだが精霊どもは目覚め始めている。という事は、実はあの巫女は目覚めているのではないか ?
デミトリアス何…… ?
グラスティンフフフフ、ダーナの巫女は鏡士の始祖。ならば魔鏡術もお手の物だろう。心を切り離すぐらいのことはやってのけるんじゃないかってなぁ。
デミトリアス確証はあるのか ?
グラスティンもちろんだ。ベルセリオス博士の研究データをちょいと拝借してきた。
グラスティンヒヒヒヒ、あの女が見つけていたよ。最初の神降ろし――シャーリィとか言う娘の時に心核が妙な反応を見せていたことをな。
デミトリアスつまり、あの時神降ろしは成功していた ?いや、シャーリィに宿ったのがダーナの巫女ならば巫女降ろしか。
グラスティンそこが分かれば後は簡単だ。俺たちがダーナの巫女の体を回収した時心核にアニムス粒子の反応はあった。
グラスティンつまり、心はダーナの巫女に宿っていた。時系列を考えれば、シャーリィに取り憑いたダーナの巫女は、一度自分の体に戻ったということだ。
グラスティンそして先程ダーナの巫女の体を調べたところ今度は心核にアニムス粒子の反応はなかった。
デミトリアスまた、誰かの心に寄生している……ということか。
グラスティン心が離れているなら丁度いい。心の精霊の精霊片を纏わせて、疑似精霊化しよう。そうすれば心の精霊の守護など無力だ。
デミトリアスさすがだ、グラスティン。では早速出撃準備に掛かろう。今度こそダーナの心核を破壊し、持ち帰らねばならぬ。

Character3話【10-3 ケリュケイオン】
ゼロス驚いたな。本当に人の心の中を渡って物理的にこっちに来ちまうなんて。どういう仕組みなんだ ?
ヨウ・ビクエ簡単に言うと、人の心というのは無意識の奥深くで世界中の人々と繋がっているの。だから私の心を無意識の奥からフィリップの心へと繋いだのよ。
アイゼンなるほど。言わんとすることはわかるが理解したかと言われるとさっぱりだな。
ゼロス俺さまもー。
ヴィクトル途中、リチアとか言う別の人間の心に繋がってしまったようだがあれはどういうことなんだ ?
ヨウ・ビクエあれは、リチアって子の心にまつわる力が規格外だったせいよ。あの子は異世界の人間なのにダーナの巫女である私に近い能力を持っているみたい。
ヨウ・ビクエそれに今はイクスも規格外の力を持っている状態なの。世界中に出現している魔鏡結晶は彼の力そのもの。つまり心が外に露出してしまっている状態なの。
ヨウ・ビクエ人の心に自由に入れるリチアの傍で心が露出しているイクスが、魔鏡術をつかった。それで心の境界線が曖昧になった……ということね。
ヨウ・ビクエま、わからなくても大勢に影響はないわよ。
ヴィクトル『心』か……。
アイゼンそういえば、お前たちも魔の空域に行ったんだったな。アイフリードの墓はまだあったのか ?
ヴィクトルああ。
ヨウ・ビクエ無かったら困るわよ。あそこは、ティル・ナ・ノーグと既に滅びたニーベルングを繋ぐターミナルのような場所だから。
アイゼンああ……。この世界はニーベルングとやらが滅びた後に造られた世界だったな。
アイゼンだがどうして滅びた世界と、このティル・ナ・ノーグを繋いでおく必要があるんだ ? その上そんな場所にアイフリードの墓があるなんて、妙な話だろうが。
ヨウ・ビクエあの場所で繋がっていないと、ティル・ナ・ノーグは虚無に飲み込まれるらしいの。それを避けるための楔なのよ。あの島とお墓はね。
ヨウ・ビクエアイフリードはあそこで精霊の封印を受け持っているの。彼は召喚士だから。
ローエン確かにアイフリードが召喚士だとは聞いていましたがその説明の仕方ですと、まるでアイフリードがまだ生きているかのようですね。
ヨウ・ビクエ生きてはいないわよ。さすがにね。
ヨウ・ビクエ……ところで、みんな、浮遊島には降りないの ?
アイゼンフィリップだっていい大人だろう。ゾロゾロついて行くのは野暮ってもんだ。
ローエンええ、マークさんが一緒に下りましたから我々はここで待ちましょう。フィリップさんが抱えていた秘密をイクスさんに打ち明けるまで。
ヨウ・ビクエそうね……。それじゃあ、私も引っ込むわ。アトワイト、ありがとう。
アトワイトいいえ。お疲れ様、ヨーランド。
フィリップイクス……待たせてすまなかった。
イクスやっと……話してくれるんだな。
フィリップああ……。ようやく精霊の封印地へ向かう方法が見つかったんだ。
フィリップここから先は何が起こるかわからない。だからその前にイクスに全てを伝えようと思っていた。……そうやって先延ばしにしていたとも言えるけどね。
フィリップそういえば、ミリーナはどうしたんだい ?
イクスそれが……どこにもいないんだ。ミリーナもこのところハードだったからどこかで休んでるのかも……。捜してこようか ?
フィリップいや、まずはイクスに話をするよ。ミリーナは後でいい。
イクスわかった。
イクスそれで……フィル。俺は何なんだ ?イクス・ネーヴェの三人目だってことはわかってる。だけど、俺は何処まで最初のイクスと同じなんだ ?
フィリップ……イクス。きみは頭がいいから多分おおよそのことがわかっているんだと思う。だから焦っているし不安に思っている。
フィリップゆっくり話そう。きみが造り出された経緯について。
イクスああ……。
フィリップまずはっきりさせておこうか。イクス、きみは三人目に具現化された存在。そしてきみを造ったのは僕だ。
イクスそれは知ってる。ゲフィオン……最初のミリーナとフィルが俺を造ったんだろう ?
フィリップいや、ゲフィオンはイクスの具現化には関与していない。
イクス……え ?
フィリップ事情は後で説明する。とにかくイクスを造ったのは僕だ。そしてきみは――僕にとって都合のいいイクスなんだ。
イクス! ?

Character4話【10-4 アジト1】
フィリップさて、何から話そうか。
フィリップ僕は……幼い頃からずっとミリーナが――いや、ゲフィオンが好きだった。イクスが気付いていたかはわからないけれどね。
フィルミリーナ。お願いがあるんだけど、いい ?
ミリーナもちろんいいわよ。何、フィルのお願いって。
フィルえっと……。今から一緒に水鏡の森に行って欲しいんだ。
ミリーナ水鏡の森 ? 素敵ね。だったらお弁当を持って行きましょうよ !簡単なもので良ければ、すぐに作るわ。
フィルうん ! ありがとうミリーナ。
ミリーナあ、イクス !
イクスミリーナ、フィル、どこに行くんだ ?
ミリーナ水鏡の森までピクニックに行くの。イクスも一緒に行かない ?
フィル
イクスいや、俺は港に行かないと……。
イクスそういえば、このところ水鏡の森には物騒な魔物が出てるみたいだぞ。
ミリーナフィルも一緒だから大丈夫。イクスもお仕事が終わったら合流して ! ね ?
イクスだったら俺の仕事が終わるまで待っててくれないか。二人だけじゃ心配だから一緒に行くよ。
ミリーナ……そう ?
フィル大丈夫だよ。イクスは心配性だね。僕もミリーナも鏡士なんだよ ?先に行って準備してるよ。
ミリーナ……そうよね。うん、大丈夫 !私お姉さんなんだしちゃんとフィルのこと守れるわ。
イクスわかった。でも危ないところには行くなよ。二人とも案外抜けてるんだから。
ミリーナ失礼ね、大丈夫だってば。さ、行きましょう、フィル !
イクスそれ、月見の丘にピクニックに行った時の話だよな ?あれ ? 水鏡の森だったか ?
フィリップ水鏡の森だったんだ。覚えていて欲しくなかったから月見の丘へのピクニックに記憶を挿げ替えた。
イクス! ?
フィリップそう、そうなんだ。イクスたちを具現化するのに時間の壁を突破したと言ったよね。その際に僕やゲフィオンの記憶を経由すると。
フィリップ記憶を経由して具現させると、具現化対象者の記憶も操作できることがわかったんだ。ファントムでそれを試して……イクスにも適用した。
イクスじゃあ、俺のこの記憶は……全部嘘なのか ?
フィリップ全てではないよ。どうしても覚えていて欲しくないことだけ僕が書き換えたんだ。
フィリップ秘伝魔鏡術の暴走にまつわる一連の出来事について。それだけはイクスに忘れて欲しかった。
イクスけど、俺覚えてるよ。
イクス港で仕事をしてたら、ミリーナが呼びに来たんだ。それで祖父ちゃんを楽させてやるために鏡士になりたいってって……。
フィリップそれは『いつ』のことだった ?
イクスいつって……ピクニックに誘われた日だよ……。
イクス……あれ ? 港に行く道でフィルたちに会って……。二人は月見の丘に行って、俺は港に行って……それでまたミリーナたちが……戻ってきた ?
フィリップあの日、本当に起きたことを話すよ。
フィリップ僕とミリーナは水鏡の森へ向かったんだ。あの森の奥にある湖には、時々不思議な光が立ち上る。それをミリーナに見せたかった。でも――
フィル――水鏡の森に、魔物 ! ?
ミリーナイクスの言ってた物騒な魔物って、これ…… ! ?
フィル逃げよう !
フィルはぁっ、はぁっ、はぁっ……。
ミリーナフィル ! 立ち止まっちゃ駄目 !
フィル駄目だよ……僕、もう走れない……。ミリーナだけでも逃げて !
ミリーナフィル ! ? 危ない ! ?
イクスやらせるかっ ! !
ミリーナイクス ! ? どうしてここに――
イクス祖父ちゃんたちに話を聞いたら魔物が相当ヤバそうだってわかったからな。こいつは俺が何とかする。
イクス二人は――って、まずいな。囲まれちゃってるのか。
ミリーナ私も戦う !
フィルぼ、僕も !
イクスいや、大丈夫だ。二人は隙を見て、大人を呼んで来てくれ !
イクス――秘伝魔鏡術 !
二人! ?
イクスオーバーレイ !
フィリップイクスは密かに魔鏡術の訓練をしていたんだ。鏡士になる事を諦めてなかった。あの日、水鏡の森でイクスは魔鏡術で魔物の集団を蹴散らしてくれた。
フィリップでも敵の数が多すぎたこともあって、制御しきれずオーバーレイ暴走を引き起こしてしまったんだ。
ミリーナイクスの力が暴走して……止まらない !私が、私がイクスの言うことを聞いてもっと気を付けていれば…… !
ミリーナ私が……イクスのことをちゃんと待ってれば……。
フィル大丈夫、ミリーナ。僕の守護魔鏡を使えば止められる !
ミリーナえっ ! ?
フィル僕の鏡士としての力を弱める封印なんだ。これを使えばきっと――
ミリーナ駄目よ、フィルは体が弱いからわざと力を弱めているんでしょう ?
フィルでもこのままじゃイクスが死んじゃうよ !
ミリーナ――わかった。でも、私にやらせて。バックファイアを受けるのは私だけでいいから !
フィルミリーナ ! ?
フィルイクスの暴走が……止まった……。
フィルミリーナは ! ?
フィルよかった……。息はある……。イクスは――
フィリップイクスも生きていた。ひどい傷だったけれど……。そして思い知った。ミリーナはイクスしか見てない。イクスがうらやましかったよ。
フィリップミリーナに大切にされて、自己流の訓練だけでオーバーレイを成功させて……。
フィリップ鏡士としてのとんでもない才能、友達の危機に命がけで駆けつけてくれる勇気、頭がよくて、運動神経もよくて家族想いで……みんなイクスを慕っていた。
フィリップ僕もイクスみたいに――いやイクスになりたかったんだ。
フィル今なら……誰も見てない……。イクスが死んでも……魔物のせいだと思われる。今なら――
フィリップそして、僕はイクスを刺したんだ。鏡の破片で。

Character5話【10-7 精霊の封印地】
イクス……ぐぅっ……。
フィル……あ……ぁ……。
イクス……フィ……ル…… ?
フィル……イクス……ごめ……ごめ……んなさい……。
イクス……フィル……。この……馬鹿……。
フィルイクス……僕……あの……。
イクス俺に……文句があるなら……刺す前に話せ……って……。
フィルあ、駄目だよ ! ? 鏡の破片を抜いたら血が……。
イクス抜いたら……止血してくれ。魔鏡術で。それぐらいできるだろ ?
イクスこいつが刺さったままじゃ……村のみんなにバレちゃうから、さ。
フィル僕が……止血しなかったら ?
イクスハハ……。化けてでるよ。だから……そうならないように頼む。あとは……俺とお前の秘密だ。いいな ?
フィリップイクスは本当に何も言わなかった。水鏡の森で何があったのか……。そして僕は……セールンドに逃げたんだ。
フィリップそれから魔鏡戦争が始まって……色々あって……二人目のイクスを具現化することになった時こう思った。
フィリップ僕の罪を消せるんじゃないかって。オーバーレイ暴走を違う形で引き起こしたことにしようって。
イクス……ゲフィオンもそれを知ってたのか ?
フィリップ僕がイクスを刺したことを知っているかはわからない。でも彼女もオーバーレイ暴走の日のことを悔やんでいたんだ。
フィリップいつも三人で行動していたのにあの時だけ僕と二人で出かけたことイクスの心配を軽くとっていたこと。
フィリップそのせいで……イクスがオーバーレイ暴走を引き起こしたことを。
フィリップだから僕が誘導した。イクスを守るためにオーバーレイ暴走を利用しようと。
フィリップそれで臆病なイクスが生まれればイクスは危険な事に近寄らない。オーバーレイ暴走に関する記憶を改ざんしてしまおうって。
イクス……一人目はこんなに心配性じゃなかったのか。
フィリップ慎重ではあったけど、決して臆病でも心配性でもなかったよ。みんな、イクスがオーデンセを率いていくリーダーになると思っていた。
フィリップ僕は自分が理想としていたイクスを穢そうとして二人目を作り、そのデータを元に今のきみが具現化されたんだ。
フィリップもっとも二人目もきみも、肝心なところでは一人目と同じように行動するけれど……。
イクスミリーナも、フィルが記憶を改ざんしてるのか ?記憶だけじゃない。感情も。だってミリーナはあんなに俺のことを好きじゃなかった。
フィリップ彼女を造ったのはゲフィオンだ。少なくともオーバーレイ暴走に関しては改ざんしている筈だよ。
フィリップ……それ以外も、かな。自分が守れなかったイクスを今度こそ守る……という思いがミリーナには植え付けられているみたいだから。
イクスやっぱり感情も操作されてるんだな。……ファントムも、ジュニアも ?
フィリップ記憶は改ざんしている。ファントムの場合は初期型ということもあって、感情部分は上手く制御できなかったけれど、ジュニアは――
イクス……はは……ははは……。
フィリップイクス ?
イクス……予想通りだったし、ある意味予想以上だったよ。
フィリップ軽蔑したかい ?
イクスああ。でもそれは一人目を殺そうとしたからじゃない。
イクスそんなくだらないことのために、記憶と感情すら俺やミリーナたちから奪って平然としているその面の皮の厚さをだ。
フィリップ………………。
マーク――おい、取り込み中に悪いんだが、話は打ち切りだ。ヨウ・ビクエが倒れた。
二人! ?
アトワイトごめんなさい。大切な話があったみたいなのに……。
フィリップい、いえ……――
イクス――大丈夫です。一番聞きたかった話は聞けました。続きは後で構いません。
マーク………………。
イクスそれで、ヨウ・ビクエが倒れたって言うのは…… ?
アトワイト倒れたというのが正確かどうかはわからないけれど突然悲鳴が聞こえて、それからなんの反応もなくなってしまったの。
アトワイト多分心核の中には宿っていると思うのだけれど……。
ローエンどなたかソーマを持っている方に調べて頂くというのはどうでしょう。
イクスええっと……今は……コハクが残ってる筈だけど……。
アイゼン――こんな時に通信か。誰だ ?
ヒスイおい、そっちのブリッジにイクスがいるって話だが……お、いたな。
イクス(……ヒスイさん)
イクスどうしたんですか ?
ヒスイリチアが、この世界のスピルーン――ええい、クンツァイト、頼む。
クンツァイト承知した。リチアさまがこの世界のスピルーンの異変を感じ取っている。
ヴィクトルこの世界のスピルーンとは精霊の封印地にあるダーナの心核のことか ?
クンツァイトそうだ。この世界の――ダーナのスピルーンが崩壊しかかっているらしい。
クンツァイトリチアさまがダーナのスピルーンと共鳴しスピルリンクに近い状態となっている。
ヴィクトルダーナの心核が崩壊…… ! ? ミラに影響は――
クンツァイト今リチアさまが、ダーナのスピルーンの中にいる人物を補佐している。しばらくは持つだろうが危険な状態だ。
イクスヨウ・ビクエが反応しないことと関係があるのかな……。
フィリップ精霊の封印地へ行こう。
フィリップヨウ・ビクエが言っていた筈だ。心の精霊がイクスたちの陣営に力を貸しているなら彼らと一緒に封印地まで行けば、封印は解ける筈だと。
レイア心の精霊 ! 確かにわたしたちに話しかけてきたよ !
シングよし、だったらこっちも精霊の封印地へ行くよ。海からも行けるんだろ ?
アイゼン封印地のある島は肉眼じゃ見えないぞ。座標を教えてやるが接近しすぎて岸壁にぶつけるなよ ?
シングわかった ! 気を付ける !
マーク俺たちも向かうか。イクス、お前も来るか ?
イクスもちろん。あとダーナの心核の中にいるミラさんと関わりのある人たちも連れて行こう。何があるかわからないから。
ローエン私が呼んでまいりましょう。
デミトリアス心の精霊ヴェリウスよ。道を拓け。
ヴェリウス痴れ者め。どうやって外界から封じたこの島に立ち入った。早々に立ち去りなさい。
デミトリアス……我らの言葉に耳を貸さぬなら、それでもいい。心の精霊の代わりはこの者が果たす。
ヴェリウスそのものはダーナの巫女 ! ?そしてその力は私の――
ヨウ・ビクエ滅せよ。
グラスティンヒヒヒ……。思った通りだ。ダーナの巫女は心の精霊との相性がすこぶるいい。このまま心の精霊として代用できるぞぉ ?
デミトリアスこれでもう一度ダーナの心核の元に近づけるな。
グラスティン進め ! デミトリアス陛下のために道を拓け !
帝国兵たちおおっ !
デミトリアスダーナの巫女――いや、次代の心の精霊となるものよ。共に参ろうか。偽りの世界を破壊するために。
ヨウ・ビクエ………………。

Character6話【10-10 街道】
カイウス本当なのかな。ティルキスがアレウーラ領の領主になったって噂。
ロゼ聞いた話だと、背格好なんかの特徴はティルキスで間違いなさそうなんだよね。
ロゼあと従者だか付き人だか護衛だかが、今は領都を離れてるみたいなんだけど、鏡映点リストにあったフォレストってのに似てるみたい。
ロゼまぁ、会ってみればわかるよ。
ルビアもし本当に二人があたしたちの仲間の二人ならリビングドールβにされてるのよね。許せない……。
ユリウス気持ちはわかるが、怒りや焦りは判断を狂わせる。落ち着いていこう。
ロゼ調査室の手が足りなくてユリウスさんまで巻き込んでごめん !でも助かる !
カイウスユリウスさんは博識だし、頼りにしてます。ここまで来る間も、手際よく街で情報を集めてくれたし……。
ユリウス何だか照れるな……。
ユリウスそれにしても気になるのはさっきの村で聞いた領兵の存在だな。人を捜している様子だったと言うが……。
ロゼえっと二組だったよね。片方が怪我した男と女の二人連れで、もう片方が怪我した男を連れた帝国兵ってことだったけど……。
ロゼ領兵だって帝国兵だよね ?これって鏡映点関係なんじゃないかな。
ルビア単なる仲間割れじゃなくて ?
ユリウスああ、俺もそう思う。カイウスやルビアも元は帝国側にいたんだ。
ユリウスそういう鏡映点が反旗を翻して逃走それを帝国が追っているという可能性がある。
カイウスそれ、ルキウスだったりしないかな……。
ルビア……ええ。
ロゼそれってカイウスの弟だっけ ?
ユリウス……兄弟が敵に捕まっているのはつらいな。
カイウスルキウス……どうしてるんだろう……。
ロゼ――ユリウスさん。
ユリウスああ。みんな、気を付けろ。何者かがこっちに向かってくる。
二人
ユリウス――何者だ !
帝国兵待った !ロゼがいるってことはお前ら黒衣の鏡士の仲間だろ ! ?
ロゼ……その声。もしかしてデクス ?
デクスその通り ! 助かった !ちょっとヤバい奴に襲われてな。傷の手当てをしてやりたいんだ。
デクスけど街という街は警戒が厳重で薬一つ手に入れられなくてな。
ルビア私でよければ治療するけど……怪我人は何処 ?
デクスあそこの草むらに寝かせてる。
イオンはぁ……はぁ……あなた方は……。
ロゼこの子、もしかしてアニスの世界の導師…… ?
イオンアニスを……ご存じなんですね……。
ルビアひどい怪我 ! 今、治療しますね。
ユリウスデクス……だったか。これは一体どういうことだ ?お前はたしかティルキスの動向を見張っているんじゃなかったか ?
デクスその筈だったんだが――
カイウス……ってことはティルキスはその金髪の女の人が連れて逃げたんだな。
ルビアそれってアーリアよね、きっと。
カイウスああ、オレもそう思う。
ロゼなるほどね。これは方針転換した方がよさそうだね。
ユリウスああ。しかし人手がいる。カロルに連絡を取ろう
カロルはい、カロル調査室――あ、ユリウス !
ユリウスアレウーラ領の領都及び領主の調査だが手が足りなくなりそうだ。
カロルええ ! ? そっちもトラブル ! ?
ロゼそっちも……って、またアジトで何かあったの ?
カロルロゼたちがアレウーラ領に行ってから色々あって……。今、一番まずいのは、精霊の封印地にあるダーナの心核が壊れそうってことかな。
ユリウスダーナの心核にはもう一人のミラが入っていると聞いていたが……。
カロルうん。それでさっきイクスたちと一緒にルドガーとエルも精霊の封印地へ向かったんだ。
ユリウス何 ! ?
カロルだから、そっちにどれだけ人手を割けるか……。
ユリウスルドガー……エル……。
カイウス……ユリウスさんも精霊の封印地へ向かった方がいいんじゃないか ?
ユリウス
カイウスオレがルキウスのことを心配なのと同じようにユリウスさんだってルドガーさんのことが心配だろ。
カイウスこっちはルビアとロゼがいるしデクスって人もいるし。
デクスおお、少年 ! 存分に俺を頼っていいぞ !
ロゼうん。その方がいい。ねぇ、カロル。イリアたちをこっちの助っ人に回してもらえないかな ?
ロゼイリアたちと因縁のあるヤバい奴が出てきてるみたいなんだよね。
カロルオッケー。そっちの動きが決まったらまた連絡して。こっちはこれからルカたちに話をしてくるから。
ロゼよし、まずはこの導師をどこか安全な場所に連れていこう。
ロゼ助っ人と合流したら、あたしはハスタを捜してみる。カイウスとルビアはティルキスたちの足取りを追って。
カイウスわかった。
ルビアユリウスさんは急いで精霊の封印地へ行かないと。
デクス精霊の封印地か……。一番手っ取り早いのは帝国の港から船で向かう方法かな。
デクス俺の制服をつかって変装してくれ。そっちのが少し背が高いが、まぁ、問題ないだろ。帝国の港までは、転送魔法陣を出すよ。
ユリウス助かる。
カイウスユリウスさん、気を付けて。
ユリウスああ、大丈夫だ。これでもエージェントとしては優秀な方だったからな。

Character7話【10-12 セールンド城】
ジュニアウォーデン殿下 ! 応えて下さい ! お願いです !
ジュニア………………。
ジュニア……駄目、なのかな。
ジュニア――え ! ?ゲフィオンに……人体万華鏡にヒビが ! ?どうして…… ?
? ? ?世界が……壊れかけている……。
ジュニアだ、誰…… ! ?
? ? ?この声に聞き覚えがないか……。そうだろうな。俺はオーデンセの鏡士の体に宿っていた死人だ。
ジュニアウォーデン殿下ですか ! ?
ナーザ貴様にそのように呼ばれる筋合いはない。
ジュニアでは、ナーザ将軍とお呼びします。ナーザ将軍。何が起きているんですか ?
ナーザ正確なところはわからぬ。だが……虚無が――いや、虚無に漂う死の砂嵐が突然大きくうねり暴れ出した。
ナーザ恐らくティル・ナ・ノーグに何らかの異変が起きているのだろう。
ジュニアセールンドの人体万華鏡にヒビが入っています。このままだと死の砂嵐が溢れてきてしまう…… !
ナーザそれをどうにかして欲しくて俺の名を呼び続けたのか ?
ジュニアそれは……。
ナーザ魔鏡結晶を通じて断片的に状況はわかっている。……貴様はそうまでしてメルクリアを救いたいというのか ?
ジュニアメルクリアは変わろうとしています。彼女には支えが必要です。僕の力だけでは……及びそうもなくて……。
ナーザ……今なら、外に出ることができる。疑似心核はいくつある ?
ジュニアえ ! ? えっと……三つ……あります。
ナーザ案外欲深いな、貴様は。三人は無理だ。一人は内側から人体万華鏡の穴を塞ぐ役目がある。
ジュニア……え ?
ナーザ私とバルドは疑似心核に移ろう。今を逃しては、虚無からでることは叶うまい。
ナーザこれはシドニーの意見でもある。シドニーに感謝するのだな、小僧。俺は永遠に貴様に応えるつもりはなかった。
ジュニアあ、ありがとうございます !
バルド……ジュニア。私もウォーデン様も疑似心核に移動しました。次は人体万華鏡の崩壊を防がねばなりません。
ナーザそれならば――そこにいる鏡精が適任だろう。
ジュニア――え ?
? ? ?……ええ。力を貸して下さい、フィリップ。
ジュニアあなたは……。
イクスおかしい……。封印地のある島は心の精霊の力で見えなくなっていた筈ですよね。でも肉眼でこの島を見ることができた。
ヴィクトル封印が解けた――もしくは解かれたということだろう。
ルドガー……あの、ヴィクトルさん。
ヴィクトルルドガーくん、だったかな。今はダーナの心核のことを優先しよう。きみが何かに気付いたのだとしても、ね。
ルドガー! !
マークヴィクトルの推測通りなら先客がいるのは間違いない。
マークダーナの心核を傷つけようなんて奴は帝国の連中ぐらいのもんだろうけどな。
ローエン念のため、上空はケリュケイオンでアイゼンさんが島の周辺はクラトスさんたちが警戒してくれています。何かあれば連絡が来る手筈です。
フィリップわかりました。ありがとうローエンさん。アトワイトさん、ヨウ・ビクエは ?
アトワイト相変わらず、何の反応もないわ。
ガイアスならば急くぞ。
デミトリアス――マクスウェルの力よ !この世界の楔たるダーナの心核を破壊せよ !
ミラく……っ。このままじゃ……本当に……。
リチア諦めないで下さい。今わたくしもそちらに向かっています。ダーナのスピルーンを崩壊させはしません。
ミラリチア……だっけ ? もう限界よ。氷が溶ける時みたいな音が聞こえるの。パチパチって。
ミラ外側からだけじゃない。内側からも壊れかけてるんだわ。
リチア大丈夫。もうすぐきっと――
イクスお前たちは――
デミトリアスやぁ、イクス。久しぶりだね。ミリーナは一緒じゃないのかい ?
イクスだ、誰だ ?
フィリップ……デミトリアス陛下。そのお姿は……。
イクスデミトリアス陛下 ! ? え ! ?
マークどういうこった。
マークアニマ汚染でくたばりそうなツラしてたのにまるでフィルと一緒に研究してた頃と変わらない姿になってるじゃねぇか。
デミトリアスアニマ汚染で弱った体をどうにかしたくてね……。異世界の技術をつかってアニマ汚染を無効化したんだよ。
フィリップそんなことができる筈が……。
グラスティンおおお、フィリップ…… ! ?
グラスティンああ……。すまない、フィリップ。お前の美しい眼にこの醜い姿を映してしまった……。完璧なお前が穢れてしまうよ……。
マークち、変態野郎も一緒か。
ガイアス姿形などどうでもいい。これ以上ダーナの心核を傷つけさせはせん !
コーキス――マスター ! 見えない壁があるみたいだぞ ! ?
ルドガー……ああ。これ以上は近づくこともできないみたいだ。どうする ?
アトワイト……あぁ……ううぅ……。
イクスアトワイトさん ! ?
アトワイト……ヨウ・ビクエが……。彼女の体が偽りの心の精霊に……。
グラスティンほぅ、アトワイト。やっぱりお前がダーナの巫女の心を宿していたのか。ヒヒヒ……なるほどなぁ……。
フィリップ偽りの心の精霊……まさか、精霊装による疑似精霊化か ! ?
デミトリアスああ。ダーナの巫女には心の精霊になってもらいヴェリウスを封じてもらった。
デミトリアスきみたちはそこでダーナの心核が壊れるところを見学しているといい。

Character8話【10-13 精霊の封印地1】
ヒスイおい ! ?何そんなところでボーッと突っ立ってるんだ ! ?
コーキスヒスイ様たち ! ?
ルドガーいや、俺たちの前に見えない壁があってこれ以上進めないんだ。
フィリップ恐らく帝国の心の精霊が生み出している壁なんだと思う。
レイア帝国の心の精霊 ?
しいなヴェリウスって精霊とは別の心の精霊かい ?
ガイアスいや、精霊装によって精霊の力を与えられた……というようなことを言っていた。
リチア……心の精霊の生み出したものならソーマを持つ者や鏡士なら超えられる筈。見えない壁の内側へ入りましょう。
クンツァイトつまり、リチアさまと自分とヒスイそれにイクスですか ?
リチア……隣の眼帯をしている方と赤い髪の大剣持ちの方からもその力を感じます。それに、こちらのお二人も。
二人! ?
イクスコーキスは鏡精だからとしてもルドガーさんとヴィクトルさんはどうして ?
リチアわかりません。世界の壁を越える力……のようなものがあるようです。追求はともかく急ぎましょう。
リチアダーナの心核の中にいるミラに限界が迫っています。
ルドガー――わかった。どうすればいいんだ ?
リチアこの壁の向こうへ【スピルリンク】して入り口をこじ開けます。
イクス瞬間移動した ! ?
フィリップイクス ! ヨウ・ビクエから精霊輪具を外そう !それで疑似精霊化を止められる筈だ !
イクスあ、ああ、わかった !
グラスティンクックックッ。いいのかぁ ? 分断して…… ?
ルドガーガイアスたちが ! ?
ガイアス人の心配をしている場合か ?こちらの雑魚はこちらで片付ける。お前たちは自分の成すべきことをしろ。
グラスティンいいか、お前ら ! 壁の外のそっちにいる黒髪の二人は生け捕りにしろよぉ ?中に入ってきた黒髪の男の方は、俺が捕まえる。
ヒスイって、なんで俺を見てるんだ ! ? きめぇ奴だな ! ?そっちの仮面野郎も黒髪だろ !
マークまあ、気にすんなって、ヒスイ。で、どうする。全員でデミトリアスたちを叩くのか ?
デミトリアスそう簡単にいくかな ?
グラスティン――デミトリアス。お前はマクスウェルの力で引き続きダーナの心核を攻撃しろ。
グラスティンフィリップと周りの肉は俺の獲物だぁ……。ヒヒヒヒヒ !
デミトリアス……わかった。きみに任せよう。
リチアわたくしとソーマ使いの三人は、ダーナの心核にスピルリンクして、ミラを助けます。彼女が力尽きた時、ダーナの心核も崩壊する。
イクスなら、残りのメンバーでダーナの心核を守りつつヨウ・ビクエから精霊輪具を取り上げるんだな。
ヴィクトル……グラスティンは私とルドガーくんイクスとコーキスで引きつける。フィリップとマークはヨウ・ビクエを頼む。
フィリップ了解だよ。
グラスティンヒヒヒヒヒ……。フィリップが相手じゃないのは残念だが邪魔なフードを脱ぐことができるなぁ……。
グラスティンさぁて、お前ら全員、ミンチジュースにしてやるよぉ !

Character9話【10-14 精霊の封印地2】
ルドガーヨウ・ビクエは ! ?
マーク――今、指輪を外した !
レイア何、今の音 ! ?
アトワイト……くぅ……。
しいなちょっとあんた、どうしたんだい ! ?
フィリップヨウ・ビクエ…… ! ?
ヨウ・ビクエ――体に戻るわね。こんな風に体を使われるんじゃ心を切り離している方が不利になるから。
ローエンですが、見えざる壁が、まだ――
ヨウ・ビクエ私は今、心だけの存在。心の生み出す壁なんて意味はないわ。大丈夫。
ヨウ・ビクエ……ふぅ……。この体で動くのは……ものすごく久しぶり……。
ルドガーよし、後はデミトリアスを止めればダーナの心核を守り切れる !
デミトリアス――上手くいったようだな。
イクス何…… ?
グラスティン引っかかったなぁ……鏡士の諸君。
ヴィクトル――そうか。狙いはダーナの巫女の覚醒、か。
グラスティンヒヒヒヒヒ……。偽物の黒髪の癖によくわかってるじゃないかぁ。
グラスティンダーナの巫女が目覚めれば、アイフリードが残した精霊の封印は完全に解ける。そして【ダーナの揺り籠】であるこの世界も滅びを迎える。
イクス……本気か ! ?世界を滅ぼせばお前たちだって死ぬんだぞ !
グラスティン死なないさぁ。俺たちはなぁ ?
ヨウ・ビクエはき違えないでちょうだい。
ヨウ・ビクエ私が目覚める時は、世界が滅びの危機を迎える時。けれど、私が目覚めるから世界が滅ぶわけじゃない。ダーナ様の造ったこの世界を壊させはしないわ !
デミトリアスダーナの巫女。ならばそのダーナに問うてもらえないか ?何故いびつな楽園を造り出したのか。
デミトリアス緊急避難などという理由が単なるおためごかしであることはわかっているのだ。
ヨウ・ビクエあれだけダーナ様の心核を破壊しておいて話が聞ける状態だとでも思っているの ?
デミトリアスまだ足りない。ダーナの心は徹底的に破壊する。
ヨウ・ビクエやらせないわ。
グラスティンそうはいかないなぁ、ダーナの巫女。あんたにはまだまだ色々とやってもらうことがある。
ヨウ・ビクエ……そこをどきなさい !
グラスティン嫌なこった。
イクスヨウ・ビクエ ! 今――
デミトリアス光魔 ! お前たちの復活を阻止する悪魔共を滅ぼせ !
コーキスどうして…… ? マスターもここにいて死の砂嵐も封じているのにどうしてこんなに光魔を呼べるんだよ ! ?
フィリップダーナの心核が崩壊しかけている影響かもしれない。
イクスくそ !とにかく光魔を倒して、ヨウ・ビクエを守ろう !
フィリップ一体一体倒していてはキリがない。僕が魔鏡術で広範囲に攻撃する。
マークそれで散らせなかった分を俺たちでフォローするんだな !けど無理するなよ、フィル。お前の体は――
フィリップ……まだ、大丈夫。
コーキスマスター ! 魔眼を使おう !
ヴィクトル……いや。それは最終手段にとっておけ。
ヴィクトルルドガーくん、フルで行けるか ?
ルドガーフルって、骸殻のことですか ?いえ、スリークォーターまでです。
ヴィクトルならばそれでいい。『一緒に』蹴散らすぞ。
ルドガー! ?
エルほら、やっぱりユリウスだ !
ユリウスエル ! ? どうしてここにいるんだ !
ゼロスどうしてもルドガーやヴィクトルと一緒にいたいっていうからケリュケイオンに乗せたんだよ。
エルエル、おぺれーたーっていうのやってたんだ。そしたらユリウスがこっちに来るのが見えたから迎えにきたんだよ。
ゼロスルドガーたちへの助太刀か ?だが、ダーナの心核の周辺は、ソーマ使いやら鏡士やらじゃないと近づけないらしいぜ。
ゼロスこっちも困ってるんだ。
ユリウスなら、ルドガーもダーナの心核には近づけていないのか ?
エルううん。ルドガーとパパはバリアの中に入れたみたい。
ユリウス! ?
エルゼロス ! ユリウスを追いかけよう !
ゼロスエルちゃん。危ないからケリュケイオンに戻っててくれって。
エルゼロスが一緒に行かないならエル一人で行くからいい。
ゼロス……あちゃー。そうなるわな。へいへい、お供しますよお姫様。
エルそれアルヴィンっぽいよ。
ゼロスええ ! ? 心外だわー。
ガイアスユリウスか。
ユリウスルドガーは ! ?
ルドガー・ヴィクトルゼロディバイド ! !
ユリウス……あの動きは……。まさか……。
ガイアスユリウス。お前ならこの見えざる壁の向こうに行けるんじゃないのか ?
ガイアスルドガーとヴィクトルが、何故向こうに行けたのかよくわからなかったのだが、もし骸殻化できることが理由の一つなら、お前にも行けると考えられるが。
ユリウスいや、エンコードで力を制限されている。俺はここでは骸殻化できない……。
エルユリウス ! ルドガーとパパを助けて !
ユリウスエル……。
ユリウス………………。
ユリウス……ああ、そうだな。骸殻が使えなくても、中には入れるなら !
レイア――壁を……抜けた…… ?
ローエンまるで壁が存在していないかのようにあっさり走っていかれましたね。
エルねぇ、本当に壁なんてあるの ? 何にも見えないよ ?
ゼロスあっと、エルちゃん、ストップ――って……うおおおい ! ?エルちゃんも向こう側にいっちまったぞ ! ?
アトワイト……壁はまだあります。少なくとも私は中には入れない。
しいなまずいよ ! エルが戦いに巻き込まれちまう !
イクスよし、だいぶ光魔の数が減ってきたぞ。
フィリップヨウ・ビクエ ! 今ならダーナの心核に近づける !
ヨウ・ビクエええ !
グラスティンヒヒヒ……。動かないでもらおうか。
ルドガー・ヴィクトルエル ! ?
エルパパ……ルドガー……。
ルドガーエルを放せ !
グラスティンどっちの立場が上かわかってないみたいだなぁ ?
エル痛いっ ! ?
グラスティンさぁ、ヨウ・ビクエを捕まえて引き渡してもらおうか ?
ユリウス――やらせるか !
ヴィクトル! !
ルドガー兄さん !
ユリウスエルもルドガーも……傷つけさせはしない !
ユリウスこの光は……浄玻璃鏡か ?
ヴィクトル……ユリウス。今なら骸殻化できる筈だ。
ユリウス――ルドガー。ヴィクトル。共にエルを守ろう。
ユリウスエルに――ルドガーの……相棒に手をかけようとした罪、償ってもらうぞ !

Character10話【10-14 精霊の封印地2】
グラスティン……フゥゥ……。心地のいい痛みだった……。
グラスティンなるほどなぁ。こいつらが分史世界の……。ヒヒヒ……そしてあのガキがクルスニクの鍵か……。
二人! !
ヴィクトル私の娘を薄汚れた目で見るな。
デミトリアスグラスティン。ご苦労。やるべき事は終わった。必要な物も手に入れたしね。
デミトリアスダーナの声が聞けなかったのは残念だがダーナの巫女が目覚めれば十分だ。引き上げよう。
イクス待て !
グラスティンそう言って待つ馬鹿はいないよなぁ……。フィリップ……次に会う時はお前を綺麗な標本にしてやるからなぁ…… !
コーキス転送魔法陣か……。
マークフィル、ヨウ・ビクエはどうした ?
フィリップダーナの心核の中に入っていった。
ミラ……もう駄目……。手足の感覚が……。
リチアミラ、もう大丈夫。仲間を連れてきました。
シングミラ ! やっぱりあの時のミラだ !
ミラシング…… ?
シングあの時は助けてくれてありがとう。今度はオレがミラを助ける番だよ。
ミラそれでわざわざこんなところへ来てくれたの ?
シング何処にだって行くよ。ミラを助ける為なら。
ミラおかしな子……。
リチアクンツァイト。内側からできるだけの修復を施して下さい。わたくしも協力します。
クンツァイト了解。スピルーンの損傷度合の測定を開始します。
ヒスイ俺たちは何をすればいいんだ ?
リチア……ミラはもう限界です。彼女を外に連れ出して下さい。
ミラけど、私がいなくなったらダーナの心が壊れるんじゃないの ?
リチアわたくしとクンツァイトがいます。
ヒスイまさか、お前が残るって言うんじゃないだろうな ! ?
クンツァイトリチアさま。それならば自分が一人でここに残ります。
? ? ?お待ちなさい……。今、ダーナの巫女がそちらに向かっています。彼女がこの場に残って修復作業を行ってくれる。
? ? ?異世界から強引に招かれたあなたたちにこれ以上の迷惑はかけられません。
ミラその声は……ヴェリウスね ?
ヴェリウスええ。不覚にも敵に後れをとり存在が消えかかっていましたが今は自分を取り戻しました。
ヴェリウスミラ、長い間ダーナの心を守ってくれてありがとう。
ヨウ・ビクエ……はぁ、やっと来られたわ。ミラ、苦しい思いをさせてごめんなさい。今外に、あなたの仲間が来ているわよ。
ミラ私の……仲間……。それってルドガーとエルのこと ! ?
ヨウ・ビクエええ、そう。早く戻ってあげて。この先は私が引き受けるわ。
ヨウ・ビクエここは……私のご先祖様が生まれた場所。故郷みたいなものだからご先祖のためにも綺麗に修復してあげないとね。
シングえっと……あなたは確か……。
ヨウ・ビクエ私はヨウ・ビクエ。ヨーランド・ビクエ・オーデンセよ。
ヨウ・ビクエシングとヒスイにはリチアのスピルメイズで会ってるわよね。
ヒスイああ。あの時はバタバタしていたけどな。
ヨウ・ビクエ今もバタバタしてるわよ。急がないと、ダーナ様の心が完全に崩壊してしまうもの。
ヨウ・ビクエあのデミトリアスとか言う男心核を思いっきり攻撃してくれたから……。
ヴェリウスヨーランド。急ぎましょう。
ヨウ・ビクエええ。それじゃあ、ヒスイとシングはミラを連れて外へ出て。
ヨウ・ビクエリチアとクンツァイトは、ギリギリまで心核――そちら風に言うとスピルーンの修復を手伝ってくれないかしら。
ヨウ・ビクエもちろん後できちんとアジトまで送っていくわ。
リチアもちろんです。スピルーンが壊れるところは……もう二度と見たくありませんから。
クンツァイト自分はリチアさまに従います。
ヨウ・ビクエありがとう。それと、外に出たら鏡士たちに伝えて。ダーナの心核は魔の空域に移動させて封印を施すって。
ヨウ・ビクエそうすれば帝国も簡単には近づけなくなるわ。その代わり……世界が少し不安定になる。
ヨウ・ビクエ死の砂嵐こそ侵入してこないけれど虚無との境が危うくなって光魔が現れやすくなるわ。気を付けて。
シングわかった。他には ?
ヨウ・ビクエ私が目覚めたことで、精霊たちが目を覚まし始めるわ。彼らを味方に付けて。それがティル・ナ・ノーグを守るための第一歩よ。
シング必ず伝えるよ。
シングさあ、ミラ、オレに掴まって。ヒスイも肩を貸してあげて。
ヒスイあ、ああ……。
ミラありがとう……。
ミラねぇ、あなた、誰 ?先祖がここで生まれたってどういうこと ?
ヨウ・ビクエああ、その話が途中だったわね。私のご先祖様はね、太陽神ダーナの鏡精だったのよ。私は鏡精の子孫ってこと。

Character11話【10-15 ミラ】
? ? ?ミラ……まだ目を覚まさないのかな……。
? ? ?随分衰弱していたから、ゆっくり休ませてあげないと。
ミラ……ん…………。
エルミラ ! ! エルのミラ ! !
ミラ……え…… ?
ルドガーミラ……。よかった、気がついて。
ミラえ…… ? ここは……どこ ? シングは ?
エルシングとヒスイが、ミラを大きな宝石の中から連れてきてくれたんだよ。
ルドガーその時には、ミラはもう気を失っていたんだ。それでケリュケイオン……ここの医務室に連れてきた。
エル……ミラは、エルのことちゃんと覚えてる ?
ミラえ ? 何言ってるのよ。当たり前じゃない。
エルよかった…… !ジュードたちはエルのこと覚えてなかったから……。
ミラジュードたちもここにいる……のよね。
ルドガーああ。
ルドガー……と言っても、俺たちに出会う前のジュードたちだけどね。俺たちの知ってる姿より少し若いから驚くと思うよ。
ミラ……もう一人の私も……いるのよね。
ルドガー………………。
エルねぇ、ミラ。パパから伝言聞いたよ。スープ作ってくれるんでしょ ?
ルドガーこら、エル。ミラはまだ病み上がりみたいなものなんだぞ。
ミラふふ……。いいわよ。動けるようになったら、作ってあげるわ。
ミラ……ううん、作らせて欲しい。やっと二人に会えたんだもの。
ユリウスきみは……行かなくていいのか。ミラのところに。
ヴィクトルバルドに頼まれて、成り行きでミラを精霊の封印地へ連れて行っただけだ。別に会って話すようなこともない。
ユリウス……そうか。
ヴィクトル………………。
ユリウスヴィクトルと言う名前は、本名か ?
ヴィクトルまるで尋問だな。
ユリウスそうだな。……単刀直入に聞こう。きみは分史世界のルドガーなんじゃないか ?
ヴィクトルこの世界で、正史も分史もないだろう。ここは全てが正史であり、同時に分史のようなものだ。
ユリウスああ。確かにこの世界でなら俺は生きてルドガーと共に歩める。クルスニクの呪縛はここには存在しないからな。
ユリウスエルを守ってやることもできる。この世界でなら。
ユリウス――お前はどう生きるつもりなんだ、ルドガー。
ヴィクトル………………。
フィリップゲホッ……ゲホッ……くふぅ……。
マーク……大丈夫か、フィル。
フィリップああ……。さっき発作を抑える……薬を飲んだから……コホッ……。
マーク前よりひどくなってるじゃねぇか。
フィリップ……歳のせいかな。
マーク馬鹿なこと言ってるんじゃねぇよ。それで……わかったのか ? チビフィルが言ってた『始まりの場所』に行けってやつの意味。
フィリップ……うん。バタバタしていたけど、わかったと思う。あれは……ゲホッゴホッ…… !
マークまた血を吐いたな……。
マークなぁ、このままじゃ本当に死ぬぞ。どうしてそこまでしてイクスたちに尽くすんだ。罪滅ぼしのつもりか ?
フィリップ……はは。聞いてたのか。イクスとの話。
マーク扉の外で見張りをしてたからな。聞こえちまったんだよ。
マークそんなこったろうと思ってたから驚きはしなかったけどな。
マークいくら歪んでいようがファントムはもう一人のお前だ。
マークそいつがイクスとミリーナを殺せなんて言い出すんだ。お前の中にも……多少なりともそういう感情があるだろうとは予想が付くさ。
マークうちのマスターはクズの大馬鹿野郎だからな。
フィリップ耳が痛いよ……。でもその通りだ。
マークフィル……。死ぬつもりなんだろう ?
フィリップ………………。
マーク鏡士が自分の魔鏡を手放すのは、自決する時だけ。お前、一度魔鏡を手放してるよな。
フィリップ……まだ死なないよ。イクスとミリーナのために、やることが沢山ある。
マークまったく……。『どの』イクスとミリーナのためなんだよ……。
イクス何だかこの数日、立て続けに色々なことが起きて正直頭がパンクしそうだよ。
コーキスなあ、マスター。フィリップ様と何を話したんだ ?
イクス………………。
コーキス……え ? 何でそんな怖い顔するんだ ?
イクス……いや、何でもない。コーキスは知らなくていい。
コーキスけどマスター――
イクスコーキス ! !
コーキス! ?
イクス……悪い。大声出して。この話はいいんだ。俺が……消化しなくちゃいけないことだから。それにまだ話の続きがあるみたいだったし……。
クラトスアジトから魔鏡通信だ。スクリーンに映すぞ。
コンウェイ失礼するよ。そっちにミリーナさんはいるかな ?
イクスえ ? ミリーナ ? アジトに残ってる筈だけど……。
コンウェイそれが……彼女どこにもいないんだ。
イクス……え ?
コンウェイもう夜も遅い。買い物に出たんだとしてもこんな時間まで連絡が無いというのはおかしいってルカくんが心配していてね。
コンウェイこちらも心当たりをあたってみるから急いで戻ってきてくれないか。
イクスあ、ああ。わかった。今向かってるから。
イクス(ミリーナ……。何かあったのか…… ?)
to be continued