| Character | 1話【11-1 アセリア領の世界樹1】 |
| ? ? ? | (ごめんなさい、イクス……。あなたまで、この無間地獄に引きずり込んでしまった) |
| ? ? ? | (きっとあなたも虚無の痛みと苦しみを感じているでしょう。私も同じ……。意識を保つのがやっとだわ……) |
| ミリーナ | (これは……夢…… ? ) |
| イクス | クッ…… ! |
| ミリーナ | (イクス…… ! ?もしかしてこれは滅びの夢の続き…… ?ゲフィオンの記憶なの ! ? ) |
| ゲフィオン | (今の私は人型のカレイドスコープ。声を発することもできない) |
| ゲフィオン | (イクスを……私のエゴで生み出された三人目のイクスを、慰めることも勇気づけることも彼に謝ることすらもできない。もどかしい……) |
| ミリーナ | (辺りは虚無と死の砂嵐とイクスだけ……。これが人体万華鏡になったゲフィオンの見ているもの……) |
| ゲフィオン | (事態は悪い方へ進むばかり……。どうすればいいの……。何か知っている筈なのに思い出せない……) |
| ゲフィオン | (私は……記憶を切り離してしまったの ?わからない……) |
| ミリーナ | (ゲフィオンが人体万華鏡になってから記憶の共有は途切れていたのに……。どうして今になって……) |
| ミリーナ | (いえ、詮索は後だわ。ここはどこかしら。カーリャはどこ ?確か私たちは森で――) |
| ? ? ? | 目が覚めたか。黒衣の鏡士。 |
| ミリーナ | あなたは私たちを襲った……。 |
| ? ? ? | 貴様に話がある。 |
| ミリーナ | いきなり襲いかかっておいて話をしろなんて随分図々しいのね。 |
| ? ? ? | 世界を滅ぼした女ほどではない。お前はその分霊に過ぎぬようだが……それでも記憶を共有していると聞いた。 |
| ミリーナ | あなたは何者なの ?どこかで見覚えがあるわ。きっと鏡映点……よね。 |
| ダオス | 我が名はダオス。 |
| ミリーナ | ! ! |
| ミリーナ | (クレスさんたちの世界の――魔王 !物理攻撃は効かない……と聞いたことがあるわ。魔鏡術なら少しは――) |
| ダオス | ……また、か。 |
| ミリーナ | (来る ! ? ) |
| ミリーナ | な、何 ? 魔物 ! ? |
| ダオス | 伏せろ、鏡士。 |
| ダオス | ―― |
| ダオス | ここにまで現れるとは……。この森が奴らに寄生されつつあるというのか。 |
| ミリーナ | あ……あの、ダオス……。ありがとう……ございます。今の……魔物、のようなものから助けて下さって。 |
| ミリーナ | もしかして世界樹の前で私たちを襲ったのも本当は―― |
| ダオス | お前たちを襲ったつもりはない。あの得体の知れない『アヤカシ』共に邪魔をされたくなかっただけだ。 |
| ダオス | 奴らに見つかる前に世界樹の側を離れるつもりであったが小さな鏡精が騒ぎ立てたせいで面倒なことになった。 |
| ミリーナ | ……あの、カーリャは無事なんでしょうか。 |
| ダオス | あのアヤカシは、鏡精には攻撃を加えぬようだ。うるさく抵抗するから気絶させたが、問題なかろう。 |
| ミリーナ | そんな言い方……。 |
| ダオス | ……またアヤカシ共が来るぞ。時間がない。鏡士よ、答えるのだ。 |
| ダオス | この世界から離れる術はないのか ?ここは愚かな人間どもに造られた、閉じた箱庭。しかし最初から閉じていた訳ではないだろう。 |
| ミリーナ | ない筈……です。ゲフィオンの記憶に該当するものはありません。でも……ゲフィオンは自分の記憶に空白があると言っていました。 |
| ダオス | ――時間切れのようだ。 |
| ミリーナ | ! ! |
| ? ? ? | シネ カガミシ。 |
| ミリーナ | きゃあああっ ! ? |
| Character | 2話【11-3 アレウーラ領】 |
| ルビア | ……どう ? 治癒術効いてる ? |
| イオン | はい……。ありがとうございます。 |
| ロゼ | ……うん。顔色もよくなってきたしこれなら大丈夫みたいだね。さすが、ルビア。 |
| ルビア | そんなことないわよ。それにあたしもアジトのみんなに助けてもらったから、これぐらいは当然だもの。 |
| カイウス | なぁ、イオンって帝国にいるんだろ ?今あっちはどうなってるんだ ?メルクリアはどうしてるんだ ? |
| イオン | 皇女メルクリアですね。残念ながら僕はお会いしたことがないんです。 |
| イオン | 僕は具現化されてからずっと……その、僕の双子の兄……のような存在に預けられていましたから。 |
| カイウス | イオンも双子なのか ! ? |
| ルビア | カイウスとルキウスもそうだしルークとアッシュもそうだし、何だか双子だらけね。 |
| 二人 | ………………。 |
| ロゼ | ――あ、誰か来る。この足音はスパーダ、かな ? |
| スパーダ | よぉ、大丈夫か ? |
| カイウス | スパーダ ! |
| ルビア | あら、スパーダ一人なの ? |
| スパーダ | ああ ? オレ一人じゃ不満か ? |
| ルビア | そんなこと言ってないでしょ。 |
| ルビア | これからアレウーラ領を調査したり、ハスタって奴を追いかけたりするんだから、てっきりイリアとルカも来てくれるんだと思ってたのよ。 |
| スパーダ | ハスタ、ねぇ……。まったく異世界にまで来てあいつと関わるとは思わなかったぜ。 |
| スパーダ | ま、そいつはともかく、計画は一旦中止になった。 |
| ロゼ | どういうこと ? ユリウスさんが向かった精霊の封印地で何かまずいことがあったの ? |
| スパーダ | いや、そっちは一旦片付いたらしいんだが今度はアジトの方で問題が発生したんだよ。 |
| スパーダ | で、色々情報も整理しなきゃならないってんで各地に散らばってる調査隊も全員引き上げようってことになったらしいぜ。 |
| カイウス | それで、アジトで何が起きたんだ ? |
| スパーダ | ミリーナがいなくなっちまったんだよ。 |
| 三人 | ! ! |
| ロゼ | いなくなったって、どういうこと ?攫われたの ? あのアジトで ? |
| スパーダ | そこら辺は、今調べてるところだ。 |
| ロゼ | なるほどね。確かに色々立て続けに事件が起きすぎてる。 |
| ロゼ | こっちもハスタの捜索は適当なところで切り上げた方がよさそう。 |
| カイウス | だったらアジトに戻りがてらこの辺りの情報を集めていこう。いいだろ、スパーダ。 |
| スパーダ | おう。そのつもりでこのスパーダ様が来てやったんだからな。ルビアにはルカも世話になったしよ。 |
| ルビア | そんなのお互い様よ。でも……イオンを連れ回すのはよくないわよね。あたし、先にイオンを連れてアジトに戻るわね。 |
| イオン | ………………。 |
| デクス | じゃあ、俺もそろそろ持ち場に戻るとするか。制服無くした言い訳は考えておかないとなぁ……。 |
| イオン | あの……デクスさん。帝国へ戻るなら、僕も一緒に連れて行ってもらえませんか ? |
| ルビア | え ! ? その体で帝国へ帰るの ! ? 無茶よ ! |
| イオン | ……はい、確かにその通りだと思います。ですが、僕はまだハロルドとの約束を果たしていません。 |
| イオン | 彼女は自分の身に危険が及ぶことを承知の上で僕を送り出してくれました。彼女の信に答えなければ僕がここにいる意味がありません。 |
| ロゼ | ……約束って、何 ? |
| イオン | 各地に派遣されている領主――リビングドールβを救うことです。 |
| スパーダ | 『心に剣を持ち、誰かの楯になれ』『右手に規律を、左手に誇りを』『己を殺し、永久の礎にせよ』 |
| スパーダ | 『正しき道を正しく歩め』『個よりも全に仕えよ』 |
| デクス | なんだ、そりゃ ? |
| スパーダ | 騎士の心得だ。オレの中に叩き込まれて、裏切れねェもんなんだ。こいつもそうなんだろうと思ってよ。 |
| イオン | ――はい。僕はこの世界ではあまりに無力だ。それでも……託された信頼を……思いをそして苦しむ人々を放っておくことはできません。 |
| ロゼ | 導師、か……。世界は違っても、導師って呼ばれる人は何となく似てるとこがあるんだね。 |
| ロゼ | いいんじゃない。魔鏡通信機は持ってるんでしょ ?何かあったらこっちに連絡をくれればいい。きっと誰かが助けに行く。 |
| イオン | ありがとうございます。 |
| ルビア | でも、イオン。ルークたちはきっとイオンのこと心配してるわよ。だから自分を大事にすることは忘れないでね。 |
| イオン | はい。僕の代わりは……いませんから。 |
| Character | 3話【11-4 テセアラの世界樹】 |
| ミトス | 毒気に当てられたって顔してるね。どうだった ? シングって毒は ? |
| シンク | 別に。何かわめいていたけど、もう忘れたよ。そっちこそ帝国にいた頃にあの毒を浴びてたんじゃないの ? |
| ミトス | 知らなかった ?ボク、ああいうタイプの毒には耐性があるんだよ。墜ちた勇者だからね。 |
| シンク | ……フン。 |
| ジーニアス | どうしたの、二人とも。凄く怖い顔してるよ。……ってシンクの顔は見えないけど。 |
| ラタトスク | やめとけ、ジーニアス。どうせろくな話じゃない。 |
| ジーニアス | ……そう ? でも、まあ、無理に聞き出すことじゃないよね。誰だって触れて欲しくないことってあるもん。 |
| ミトス | ところで、ジーニアスこそどうしたの ?エミルとラタトスクと三人で何か真剣に話していたでしょう ? |
| ジーニアス | あ、そうそう。大樹カーラーンのことだよ。えっと……ミトス、ボクたちの世界の大樹のこと覚えてる……よね? |
| ジーニアス | ボクの知ってる大樹は、一度急激に大きくなって暴走して……枯れたんだけど……。 |
| ミトス | ……うん、知ってる。多分、ボクとジーニアスは同じような時期に具現化されたんだね。 |
| ミトス | ごめんなさい、言いにくいことを言わせて。 |
| ミトス | 元の世界での大樹の暴走は、ボクが君たちを利用して引き起こしたようなものだからジーニアスが気にすることはないよ。 |
| シンク | 何があったのか知らないけど相変わらず同族には甘いね、墜ちた勇者サマ。 |
| ジーニアス | そんな言い方しないでよ ! |
| ミトス | いいんだよ、ジーニアス。事実なんだから。それより、まだ続きがあるんでしょう ? |
| エミル | (ミトスのシンクとジーニアスへの態度の差が……) |
| ラタトスク | (っていうか、ジーニアスとリフィルに甘いんだよ。あいつは……) |
| エミル | (そ、そうかも……) |
| ジーニアス | あ、うん。えっと、僕らの知ってる大樹は枯れた状態でエミルの知ってる大樹は、芽が出たばかりの小さな木だったんだって。 |
| ジーニアス | エミルはボクたちより未来の世界の人だから樹の状態が一致してなくてもおかしくはない。 |
| ジーニアス | でも、どちらの世界が影響したにせよ僕らの世界を具現化したのならこんな立派な大樹は存在していないと思うんだ。 |
| シンク | 具現化ってのは、鏡映点を通すから鏡映点の記憶とか感情が影響するんだろ ? |
| シンク | この大陸を具現化した時一番の核になったのはクラトスの息子なんだからあいつの影響じゃないの ? |
| ジーニアス | ロイドだって、枯れた樹しか知らない筈だよ。 |
| ミトス | ラタトスクの影響じゃない ?ラタトスクは知ってるでしょ大樹カーラーンが元気だった頃の姿。 |
| エミル | ……ああ。だが、あの樹は俺が知っているカーラーンの姿とも違う。デカすぎる。 |
| ミトス | どういうこと ? |
| シンク | ……成長しているってことだろ。しかもラタトスクの口ぶりだと、異常なほどにさ。 |
| ミトス | ボクが若かった頃には、大樹もかなり弱っていたから元の姿はわからないけど……。 |
| シンク | こうなると、やっぱりソーマ使いを無理矢理連れてきた方がよかったんじゃない ? |
| ジーニアス | でも本当に植物にスピルリンクできるかどうかは賭けみたいなものだったから……。 |
| エミル | ……とりあえず俺がこの樹にアクセスできるかどうか試してみる。 |
| ラタトスク | ――……応えろ、大樹カーラーン ! |
| ラタトスク | ……なん……だ……これは…… ? |
| ジーニアス | どうしたの、ラタトスク ! ? 顔が真っ青だよ ! |
| ラタトスク | ……………………。 |
| ミトス | アクセスできなかったの ?それとも『他の精霊』が見えた ? |
| ラタトスク | ……わからない。 |
| シンク | はぁ ? |
| ラタトスク | 何かが……いた。この樹は俺の樹だ。だが……俺だけの樹じゃなくなっていやがる。 |
| ミトス | ロイドたちが……未来の世界で大樹の種子――大いなる実りから大樹を芽吹かせた。その時大樹には新しい精霊が誕生した……って聞いた。 |
| ラタトスク | ……それでも、これは俺の樹だ ! |
| シンク | 所有権はどうでもいい。後で勝手に主張してよね。 |
| シンク | それより、アンタだけの樹じゃなくなってるってのはその新しい精霊とやらもこの世界に具現化されてこの樹に取り憑いてるっていうこと ? |
| ラタトスク | いや、新しい精霊……は痕跡しか残っていない。どこかに立ち去ったのか、帝国が捕まえたのか定かじゃねぇ。 |
| エミル | さっきこの樹にいたのは精霊じゃないよ。あれは……呪いの塊のようなものだった……。 |
| エミル | それがマナ――ここではキラル分子だっけ。とにかくそれを集めている……ように感じたけど。 |
| ジーニアス | キラル分子を集めているから樹が異常発達してるってことなんじゃない ?確かにこの辺りはマナが異常に濃いもん。 |
| ミトス | ………………。 |
| シンク | ――ちっ。死霊使い(ネクロマンサー)から呼び出しだ。 |
| ジーニアス | ジェイドさん ? 嫌なら代わろうか ?ボク、意外とあの人嫌いじゃないよ。ちょっと面倒くさいけど。 |
| シンク | ……だったら任せるよ。顔を見ると今すぐ殺しにいきたくなるからさ。 |
| ジーニアス | 怖…… ! |
| ラタトスク | ……おい。どういうことだ。 |
| ミトス | 何のこと ? |
| ラタトスク | おかしいと思ったんだ。お前が人間共に協力して精霊の調査だのと言い出すなんて。 |
| ラタトスク | あの得体の知れない呪いの塊はともかく何なんだ、あの新しい樹の精霊は。なんで精霊の名前が『マーテル』なんだ ? |
| ミトス | さぁ、ね。アセリア大陸の影響じゃないの ?元々この大陸は、あっちとキメラ結合していたし。 |
| ミトス | クラースたちの世界にはいるんでしょ。マーテルって精霊が。 |
| ラタトスク | ……そっちの精霊のことは知らねぇが俺がカーラーンの中で見た精霊の痕跡……あの新しい精霊は、マーテルと同じ顔をしていたぞ。 |
| ミトス | ……そう。やっぱり、そうなんだ。 |
| Character | 4話【11-5 アジト】 |
| ルカ | おかえり、スパーダ !ロゼさんもカイウスもルビアもお疲れ様 ! |
| イリア | で、どうだったの ? ハスタの奴は ? |
| スパーダ | 実際に遭遇することはなかったんだがよ。ああいう奴だから目撃証言も痕跡も腐るほどあってな。 |
| スパーダ | 大体の足取りは掴めたぜ。 |
| カイウス | ハスタの奴、イオンがオレたちに匿われた辺りでイオンの足取りを見失ったみたいで、近くの町や村を順番に……襲っていったらしいんだ。 |
| ルカ | そんな……。 |
| ルビア | どこもひどい有様だったわ。人捜しのために襲ったなんてレベルじゃなかったもの。 |
| イリア | それ、ほっといて大丈夫なの ! ?何かした方がいいんじゃない ? |
| ロゼ | とりあえずセキレイの羽には、被害に遭った村や町を回るように伝えた。こんな時だけど、アジトからも救護の手を出したいから、ちょっと話をまとめてくる。 |
| ロゼ | ………………。 |
| ルビア | あたしも行くわ。あたしたちの世界が元になっている大陸で起きたことだもの。他人事とは思えない。カイウス、報告は任せたわよ ! |
| ルカ | それで……ハスタはどうしたの ?まだアレウーラ領で暴れてるの ? |
| スパーダ | いや、それが、途中で駐留兵を残して引き上げちまったらしいんだ。どうも船で帝都に向かったらしい。 |
| カイウス | イオンがデクスと帝都へ向かってるからそれに感づいた……とかじゃないといいんだけど。 |
| スパーダ | まあな。ただ、お前の仲間の―― |
| カイウス | ティルキスとアーリア ? |
| スパーダ | ――そう、そいつらは上手いこと逃げ切れるんじゃねェか。ハスタの意識はイオンの方に向いてるみたいだからよ。 |
| ルカ | イオン……さん、か……。 |
| スパーダ | あ ? なんか気になることがあるのか ? |
| ルカ | うん……。後で話すよ。ミリーナのことも心配だし、色々ばたついてるから。 |
| ルカ | そうだ、カイウスの仲間の件はカロル調査室にも共有した方がいいね。 |
| カイウス | そうだな。オレ、カロルに話してくるよ。それにイオンたちやハロルドさんのことも心配だしさ。 |
| ミクリオ | ――この浮遊島で、誰かに攫われるなんてことは考えにくい。やっぱりミリーナは自発的にどこかへ出かけたんじゃないか。 |
| エドナ | だとしても、自分が帝国に追われている立場だってことぐらいわかっている筈よ。帝都や領都のような人目に付く場所には行かないんじゃないかしら。 |
| ロンドリーネ | ねぇ、ミリーナが帰ってこないってホント ! ? |
| ジェイド | おや、まるでミリーナが出掛けたことをご存じのような口ぶりですねぇ。 |
| ロンドリーネ | ……ごめん。こんなに大事になるなんて思ってなかったから……。 |
| ジョニー | ロディ、何があったんだ ? |
| ロンドリーネ | 実は―― |
| ロンドリーネ | あれ ? ミリーナ。どこかに出掛けるの ? |
| ミリーナ | ロディ !ええ、ちょっとやることができちゃって。でもすぐに戻るわ。 |
| ミリーナ | あっ、それと、このことはみんなに内緒にしててね。特にミトスには、絶対よ。ちょっとしたサプライズの仕込みだから。 |
| ロンドリーネ | これが昼間の話。軽い感じだったからパーティーか何かの買い出しかなって。そういうこと、みんなよくやるでしょう ? |
| スレイ | ミトスには絶対内緒……ってことはミトスには何か心当たりがあるかも知れないね。 |
| エドナ | 大佐のボーヤ。 |
| ジェイド | もうやっていますよ。不本意ながらね。 |
| ジェイド | ――おや、シンクにかけたつもりでしたがそこまで嫌われていましたか。いやぁ、残念です。 |
| ジーニアス | もー、そういうこと言うから嫌われるんだよジェイドさん。それで、何の用 ? |
| ジェイド | 単刀直入に言いますが、ミリーナが外出したまま連絡がなく、魔鏡通信にもでません。ミトスなら心当たりがあるのではないかと思うのですが。 |
| ミトス | ……もしかして、アセリア領の世界樹、かな。写真があったら欲しいとは言ったよ。 |
| ジェイド | ――なるほど。ありがとう。もう夜も遅い。そちらも気を付けて戻ってきて下さい。 |
| ミトス | ……いや、ボクたちはこのままアセリア領に向かうよ。丁度あっちの世界樹も見たいと思ってたんだ。 |
| ジェイド | それはそれは……。 |
| ミトス | ――何 ? |
| ジェイド | いえ、謎が解けるといいですね。お気を付けて。 |
| ジェイド | ジーニアス、そのメンバーではあなたとエミルが一番常識的だ。他のメンバーの手綱をしっかり握っていて下さい。 |
| ジーニアス | 了解 ! |
| スレイ | ミリーナはアセリア領の世界樹に向かったのかな。それで……何か不測の事態が起きた。 |
| ミクリオ | あの辺りは帝国の監視も薄いし安全な場所だと思っていたが……。 |
| ジョニー | アセリア領、か。カロル調査室の報告じゃ最近ダオスとかいう奴があの辺りをうろついてる……って言ってなかったか ? |
| コンウェイ | ミリーナさんのことケリュケイオンに連絡してきたよ。 |
| コンウェイ | ところで、面白そうな話をしているね。 |
| エドナ | 面白い ? 何が ? |
| コンウェイ | アセリア領に魔王と呼ばれたダオスがいるってところが、さ。やっぱりクレスくんたちを呼ぶのかい ? |
| ジェイド | ……そうですね。アセリア領を調査するなら彼らの方が適任でしょう。 |
| ジェイド | イクスが戻り次第出発できるようクレスたちに協力を仰ぎましょう。 |
| コンウェイ | なら、ボクも同行させてもらおうかな。 |
| ジェイド | おや、これはまた珍しい。 |
| コンウェイ | こんな機会は滅多にないからね。 |
| スレイ | オレたちも一緒に行った方がいいんじゃないか。人手は少しでも多い方がいいだろ ? |
| ジェイド | ええ。ただ、世界樹の傍にいない可能性もあります。念のため、世界樹を中心に、アセリア領全土にも捜索範囲を広げておきましょう。 |
| ジェイド | スレイ、ミクリオ。他に協力してもらえそうなメンバーを集めてきて下さい。それと―― |
| エドナ | もう一度ケリュケイオンに連絡、ね。 |
| Character | 6話【11-6 アトワイト】 |
| イクス | ミリーナの奴……。朝になってもアジトに帰ってこないなんて……。全然連絡も取れないし……。 |
| ロンドリーネ | 本当にごめん……。すぐに帰ってくるから誰にも言わないでって頼まれてて……。 |
| ロンドリーネ | でも……まさか連絡が取れなくなっちゃうなんて思わなかったから……。 |
| イクス | いや、ロディは悪くないよ。それより秘密だったのに話してくれてありがとう。 |
| コンウェイ | 世界樹ユグドラシルの写真を撮りに行くなんて素敵だよね。ボクも誘って欲しかったな。 |
| クラース | ……もしや世界樹を見たくてミリーナの捜索に来たのか ? |
| コンウェイ | まさか。ミリーナさんの身を案じてついて来たに決まってるじゃないか。……それにしても本物の世界樹は素晴らしいね。想像以上だよ。 |
| アーチェ | 本物っていうか、具現化した世界樹だけどね。 |
| クレス | イクス ! あそこにいるのはカーリャじゃないか ! ? |
| イクス | 本当だ ! ? カーリャ ! ? どうしたんだ ! ? |
| カーリャ | イクス……さま……。ミリーナさまが……。連れていかれて……。 |
| イクス | 何 ! ? |
| すず | 周りに敵がいないか、確認してきます。 |
| ミント | 今、法術で怪我を癒やします。そうすれば、少しはカーリャさんも楽になるはずですから。 |
| チェスター | おい、カーリャ。少しは楽になったか ? |
| カーリャ | はい……。ありがとうございます……。 |
| クラース | 一体何があったんだ。帝国軍が現れたのか ? |
| すず | ――いえ、周囲の草は踏み固められていません。足跡もほとんどない。軍隊ではないと思います。 |
| すず | ただ、少し先の狩猟小屋が半壊していました。そこで何者かが戦った形跡があります。 |
| カーリャ | きっと……あのイケメンですぅ……。 |
| アーチェ | え ! ? ちょっとカーリャ、頭でも強く打ったの ! ? |
| コンウェイ | ……まさか、とは思うけど。そのイケメンっていうのは金髪で長身のマントの男かい…… ? |
| 二人 | ! ! |
| カーリャ | そうです。黒衣の鏡士かって……確認して……ミリーナさまをさらって……。 |
| コンウェイ | ……確か、カロル調査室が出してきた最新のはぐれ鏡映点リストに、ダオスの名前があったよね。 |
| すず | だとしたら、あの狩猟小屋で戦っていたのはミリーナさんとダオスということになりますね。 |
| イクス | それで……連れていかれたのか。 |
| ロンドリーネ | どうして……そんなことを……。 |
| チェスター | あいつならやるだろ !オレたちの村だってそもそもあいつのせいで……。 |
| クレス | こうしてはいられない。ミリーナの行方を捜そう。そこにダオスもいるなら、元の世界で途中だったダオスとの決着を、ここでつける ! |
| イクス | ま、待ってくれ !ダオスはなんでクレスたちと敵対していたんだ ? |
| イクス | ミリーナを殺さずにさらおうとしたのは、元の世界でやろうとしていたことに関係があるんじゃないかな。 |
| イクス | 具現化された人は、みんな元の世界を強制的に捨てさせられた。それって果たしたかった願いとか目的も取り上げられてしまうってことだと思う。 |
| チェスター | 関係あるかよ ! ? ミリーナがさらわれたんだぞ ! ? |
| すず | カーリャさんも……こんな目に……。 |
| クレス | ああ。ダオスが僕たちの世界でしてきたことを考えればティル・ナ・ノーグでも何かを企んでいるに違いない。 |
| コンウェイ | ……クレスくんってダオスのことになるといつもと雰囲気が変わるんだね。 |
| クレス | ――ダオスは倒すべき敵だ ! |
| ロンドリーネ | ………………。 |
| クラース | ――そう、私たちの倒すべき敵だ。だがこの世界においては、イクスの言うこともわかる。 |
| クレス | クラースさん ! ? |
| クラース | こうしよう。ダオスを追いかけ、ミリーナを取り戻す。それは当然のことだ。だが……ダオスの目的について彼に問いかけてみてはどうだ。 |
| クレス | ………………。 |
| チェスター | 奴と話して、何をしようとしていたのかがわかったところでどうなる ! ? |
| チェスター | いくらこの世界にアミィを具現化されていても元の世界のアミィが辛い思いをしたのは変わらない !トーティス村だって…… ! |
| ミント | ………………。 |
| コンウェイ | でも、ダオスがこの世界に何かを仕掛けていた場合。ダオスを殺すことで、この世界に解けない呪いを放つことになるかも知れないよね。 |
| アーチェ | んー、だから、ダオスの目的を知っておけってことか。 |
| すず | 確かに、戦いにおいて敵を知ることは大事です。敵を知り己を知れば百戦危うからずといいます。 |
| クレス | ……わかった。でも、ダオスが何も答えないまま攻撃してきたら――その時は元の世界で果たせなかった決着をつけることになる。それでいいかな、イクス。 |
| イクス | ……ごめん。でもありがとう。 |
| すず | 狩猟小屋から血の跡が続いていました。少量でしたから、致命傷による出血というよりはパンくずと同じではないでしょうか。 |
| イクス | ミリーナがわざと残したメッセージか。リフィル先生の時と同じだな……。 |
| クレス | それはどっちの方角に続いているんだい ? |
| すず | ……あちらです。このまま森を抜けるとまっすぐ先にダオス城があります。 |
| チェスター | ダオス城…… ! あそこか ! |
| コンウェイ | なら、提案があるんだ。ボクとイクスくん、ロディさん、カーリャは別働隊として動いたらどうかな ? |
| コンウェイ | クレスくんたちはダオスに向き合うために正面から。ボクたちはミリーナさんを捜索するために別ルートから侵入する。 |
| コンウェイ | クレスくんたちがダオスを引きつけて、ボクたちがミリーナさんを救出するための時間を確保してもらいたい。 |
| コンウェイ | ミリーナさんさえ救出すれば、ゆっくりダオスの真意を聞けるだろう ? |
| コンウェイ | ……まぁ、元の世界とは違うから干渉したことにはならないだろうし。 |
| イクス | ? |
| ロンドリーネ | ダオスの真意……。 |
| イクス | ……えっと、うん。俺はそれでいいと思う。ただクレスたちはそれで構わないかな ? |
| クレス | みんな――いいね。 |
| チェスター | ああ。あいつを叩けるならな。 |
| アーチェ | こんな形でダオスと戦うことになるなんてね。 |
| すず | 私の覚悟は決まっています。 |
| クラース | 無論、私もだ。 |
| ミント | クレスさん、行きましょう。 |
| クレス | ああ。そして僕たちは今度こそ、ダオスを――倒す ! |
| Character | 5話【11-6 アトワイト】 |
| | 早朝。 |
| イクス | 遅くなってすみません ! ミリーナから連絡は ? |
| リフィル | お帰りなさい、イクス。残念ながらまだ連絡はないわ。すでにスレイたちを中心にして、アセリア領の外周部から順次捜索を開始してもらっているところよ。 |
| フィリップ | こちらも救世軍の地上部隊をアセリア領での捜索にあたらせています。捜索地図を共有しましょう。 |
| リフィル | ええ、お願いするわ。 |
| クレス | イクス、僕らは世界樹ユグドラシルからミリーナを捜そう。 |
| ミント | 私たちも協力します。 |
| イクス | ごめん、みんな……。ミリーナのことでこんな迷惑をかけてしまって……。 |
| クラース | イクスが謝ることじゃない。何でも背負いすぎるのは感心しないな。 |
| ロンドリーネ | そうよ。謝りたいのは私の方。今回の件は、私の責任でもあると思うから……。だからそんな顔しないでよ。 |
| コーキス | ………………。 |
| チェスター | ところでイクス、お前大丈夫か ? 顔色が悪いぞ。 |
| アーチェ | この数日ろくに寝てないでしょ。あたしたちだけで行こうか ? |
| すず | 極度の疲労は判断力を鈍らせます。無理は禁物です。 |
| コーキス | ……そうだよ、マスター。ケリュケイオンの中でも結局ほとんど寝てなかったし、ミリーナ様は俺が代わりに見つけるから、マスターは少し休めよ。 |
| イクス | いや、大丈夫。一緒に行かせてくれ。 |
| コーキス | ……大丈夫じゃないよ。 |
| イクス | そんなことないよ、大丈夫―― |
| コーキス | 大丈夫じゃねぇっつってんだろ ! |
| 一同 | ! ! |
| コーキス | マスターは俺が鏡精だってこと忘れてるんじゃねーのか ! ? |
| コーキス | 俺はマスターが何を考えてるかはわかんねーけど感じてることは何となくわかるんだよ ! |
| コーキス | なんか超苦しんでるだろ ! ? つらいんだろ ! ?何で隠すんだよ ! ? 大丈夫大丈夫って全然大丈夫じゃねーじゃん ! ! |
| イクス | ………………。 |
| コーキス | マスターは休んでてくれよ。俺、ちゃんとミリーナ様を見つけるから。な ? |
| イクス | ……いや、俺も行く。 |
| コーキス | はあ ! ? 俺が信じられねぇのかよ ! ? |
| イクス | そうじゃない。俺は……一応ミリーナの幼なじみだから。俺ならわかる手がかりがあるかも知れないだろ。 |
| コーキス | んなもの、魔鏡通信で見てもらえばいいだろ ! ? |
| イクス | 俺が行く。そう決めてるんだ。 |
| コーキス | ……あー、そうかよ。勝手にしろ、石頭のクソマスター ! !俺はもう知らねーからなっ ! |
| クレス | コーキス ! |
| クレス | ――イクス、いいのかい ?コーキスの言うことももっともだと思うけれど。 |
| イクス | ……コーキスの気持ちはありがたいけど今は時間が惜しい。 |
| フィリップ | イクス、待ってくれ。コーキスとちゃんと話した方がいい。 |
| イクス | あなたの知っているイクスならそうしたかも知れませんね。 |
| フィリップ | ! ! |
| イクス | ――とにかく、これ以上事態を放置してみんなに迷惑をかけることは避けたい。 |
| イクス | 行こう、クレス。クラースさんも、チェスターもミントたちも……よろしくお願いします。 |
| マーク | ……自分から空気悪くしといてそりゃねぇだろ、イクス。 |
| イクス | ………………。 |
| リフィル | ――はい、そこまで。 |
| リフィル | マーク、煽るのはよくないわ。イクス、あなたも少しいつもの冷静さを取り戻した方がいいわね。 |
| リフィル | とにかく、時間が惜しいと思うのなら協力して最善を尽くしましょう。 |
| イクス | ……そう、ですね。すみません。今のは俺が悪かったです。 |
| アトワイト | イクスさん、コーキスさんのことは任せてもらえるかしら。あの子の気持ち、わかるような気がするの。後であなたと仲直りできるよう、少し話をしてみるわ。 |
| イクス | ……すみません。アトワイトさんにもご迷惑をおかけして。 |
| アトワイト | いいのよ。それより体調が万全でないのは明らかだから気を付けてちょうだいね。 |
| イクス | はい、わかりました。 |
| アトワイト | ここにいたのね、コーキスさん。 |
| コーキス | ……マスターは ? |
| アトワイト | ミリーナさんを捜しに行ったわ。 |
| コーキス | ………………。 |
| アトワイト | コーキスさん。あなたの言っていたことは正しいわ。イクスさんは明らかに無理をしている。彼を戦力に数えるのは愚策よ。 |
| コーキス | だったらどうしてマスターを止めてくれなかったんだよ ! ? |
| アトワイト | あなたならどうかしら。 |
| コーキス | え ? |
| アトワイト | もしもイクスさんが行方不明なら、あなたは自分の体がどんな状態であろうと、イクスさんを捜しに行くでしょう? |
| コーキス | それは……俺はマスターの鏡精だから……。 |
| アトワイト | 違うわ。鏡精だからじゃないの。大切な人に危機が迫れば、人は冷静ではいられない。イクスさんもそうなのよ。 |
| アトワイト | ただ、私が彼を止めなかったのはそれだけが理由ではないけれど……。 |
| コーキス | え ? |
| アトワイト | 一つは能力の問題。彼、かなりの記憶力の持ち主だそうね。 |
| アトワイト | それに鏡士同士は、魔鏡通信機がなくても魔鏡で連絡が取れるとも聞いたわ。ミリーナさんを捜すのに、イクスさんの能力はとても有益よ。 |
| コーキス | そりゃ……マスターは頭いいし……強いし……。 |
| アトワイト | そしてもう一つ。イクスさんは明らかに何かを悩んでいる。あなたが指摘した通り。それは……恐らく自身に関わる何か重大なことなのでしょうね。 |
| アトワイト | だから、何かをせずにはいられない。動いていないと、余計なことを考えてしまう……そんなところじゃないかしら。 |
| アトワイト | そんな彼を止められるのは彼をよく知る人物だけだと思うの。 |
| コーキス | ミリーナ様……。 |
| アトワイト | ええ、そうよ。そしてコーキスさんあなたもイクスさんの理解者なの。近いからこそ、わかるからこそ、ぶつかってしまう。 |
| コーキス | …………うん。 |
| アトワイト | 私もフィリップさんたちとミリーナさんを捜すつもりよ。いわば、イクスさんたちの後方支援ね。 |
| アトワイト | コーキスさん、あなたも一緒にどうかしら。あなたが手伝ってくれたら、イクスさんもきっと喜ぶわ。 |
| コーキス | ……そうかな。 |
| アトワイト | ええ、きっと。 |
| Character | 7話【11-9 ケリュケイオン】 |
| アトワイト | イクスさんたちは、何かミリーナさんの手がかりをつかんだのかしら。 |
| マーク | 何かありゃ、連絡してくるとは思うが……。 |
| コーキス | ……なぁ。 |
| マーク | ……ああ、お前も感じてるのか。 |
| コーキス | やっぱ、なんかいるよな ? 昔、鏡映点が近くにいる時に感じたチキン肌みたいな……。うーん、もっと気持ち悪い感じの……。 |
| マーク | ああ。何なんだ、こいつは……。 |
| アトワイト | それは、鏡精独特の感覚なのかしら。フィリップさん、何か思い当たることはある ? |
| フィリップ | いや……。鏡精が反応するとしたらキラル分子に関わるもの……ぐらいかな。それも幼体でないと、さほどではないと思う。 |
| クラトス | ――マークとコーキスが察しているものかはわからぬがここから北東の方角で、何者かが戦っているようだ。 |
| ゼロス | おっと、天使様はさすがお耳の具合がよろしくていらっしゃる。いや、それとも視力の方かな ? |
| クラトス | 神子も天使化すれば、すぐにわかる筈だが ? |
| ゼロス | 必要に迫られなきゃ、あんなものはご免だってーの。 |
| コーキス | クラトス様、誰が戦ってるかわかるか ?まさかマスターたちってことは……。 |
| クラトス | ……いや、私の記憶が確かならあれはダオス、という者に似ているようだ。 |
| マーク | おっと……そう来たか。 |
| アトワイト | 行ってみましょう。ミリーナさんの姿を見ているかも知れない。 |
| ダオス | ――テトラシャドウ。 |
| アトワイト | な、何…… ! ? あれは魔物なの ? |
| フィリップ | ま……さか…… ? |
| マーク | ……うちの大将に思い当たる節がありそうだが今はあのイケメンのフォローが先だ。各自、宜しく頼むぜ ! |
| ゼロス | ……何だったんだ。今の敵は。なんつーか……手応えがまるで感じられなかったぞ。 |
| コーキス | あいつらだ……。俺が感じてた、あの嫌な感じを発してたのは。 |
| フィリップ | (やっぱりアレは……) |
| ダオス | ……鏡精が二人。お前たちも鏡士か ? |
| コーキス | え ! ? 俺たちが鏡精って、どうしてわかるんだ ! ? |
| ダオス | 質問しているのは私だ。 |
| コーキス | な、何 ! ? |
| アトワイト | コーキスさん。怒りに身を任せてはいけないわ。冷静に。 |
| コーキス | ……うぅ。 |
| アトワイト | 確かに鏡士も一緒にいるわ。あなたは……ダオス、よね ? |
| ダオス | 何故、私を知っている。黒衣の鏡士の仲間か ? |
| コーキス | ミリーナ様を知ってるんだな ! ? |
| ダオス | そうか……。あの女を捜しに来たのだな。 |
| コーキス | もう、何なんだよ ! 人の話を聞けよ !ミリーナ様はどこにいるんだ ! ? |
| ダオス | ――招かれざる客が来たようだ。どうせお前たちの仲間だろう。あの女もいずれ見つかる。 |
| フィリップ | 招かれざる客 ? イクスたちか…… ? |
| ダオス | ……そのモノクルは魔鏡だな。貴様が鏡士か。 |
| フィリップ | ! |
| ダオス | お前なら知っているか ?この地獄から抜け出す方法を。 |
| フィリップ | ない。ここは閉じた世界だ。外側からは観測することすらできない。……本来なら。 |
| ダオス | ――やはりあるのだな ! この世界から逃れる方法が ! |
| 全員 | ! ? |
| フィリップ | 期待をさせたなら謝る。鏡映点が元の世界に戻る確率は限りなくゼロに近い。 |
| フィリップ | だが、ゼロだとは言い切れない。 |
| フィリップ | この世界には壁がある。外からの干渉を防ぐ次元の壁――ティル・ナ・ノーグの内側から見れば外へ出るために超えなければならない壁だ。 |
| フィリップ | だが、この壁は何度か崩壊しかけている。 |
| クラトス | その壁というのはアイギスのことか。 |
| フィリップ | そう、虚無から世界を守る壁だ。今、この壁には小さな傷がある。それを塞いで守っているのがゲフィオンだ。 |
| フィリップ | 壁がなければ、この世界は滅ぶ。その時なら――鏡映点も異世界に帰れるかもしれない。 |
| ダオス | この世界を壊せばいいということか。 |
| コーキス | そんな ! ? |
| フィリップ | ただし、この世界が滅ぶ時には当然、この世界の人間も、鏡映点も共に滅ぶ。 |
| ダオス | 滅びる前に脱出すればいい。 |
| フィリップ | 賭けてみるかい ?たった一度の命を賭けたチャンスに。 |
| フィリップ | 成功しても必ず戻れるという保証はない。よしんば戻れたとして、具現化された存在が元の存在と融合することはできない。 |
| フィリップ | 具現化はこの世界の仕組みによって成り立っている。違う世界に行けば、消えるか、自壊するか或いは異物となって元の世界をも消滅させるかだ。 |
| フィリップ | それより何より、学術的にゼロと言い切れないだけで計算上はこの世界の終わりと共に鏡映点も終わる。故に、戻ることは不可能だ。 |
| ダオス | それでも万一望みがあるなら、私はこの世界を滅ぼす !そうすればこの世界に具現化された世界樹から大いなる実りを運び出せる…… ! |
| マーク | どうやって ? |
| ダオス | 何 ? |
| マーク | どうやって世界を滅ぼして、どうやって滅びきる前に次元の壁の穴を見つけ、どうやって死の砂嵐や虚無を超えて、どうやって元の世界を見つけるんだ。 |
| マーク | その方法が見つからなけりゃ世界を滅ぼす意味がない。あんたは意味のないことをする馬鹿には見えないがねぇ。 |
| ダオス | ………………。 |
| マーク | 戻りたきゃ――世界を滅ぼしたきゃ今は鏡士とこの世界を守っておいた方がいい。あんたの疑問に答えを出せるのは鏡士だけだ。違うか ? |
| ダオス | ――よく喋る男だ。 |
| コーキス | あ、おい ! ミリーナ様は―― |
| コーキス | ……って、いなくなっちまった。どうする ? あいつ、ミリーナ様の行方を知ってるみたいだったけど……。 |
| アトワイト | ダオスが言っていたわね。招かれざる客が来たって。 |
| クラトス | ああ。それが本当に我々の仲間なら、捜索隊の誰かがダオス城に侵入したのだろう。 |
| クラトス | ダオス城の仕掛けのことを考えればそれはデリス・エンブレムを持つ者でしかあり得ない。 |
| アトワイト | 確かクレスさんたちはデリス・エンブレムを持っているんだったわね。 |
| クラトス | あとは私とマーテルとミトスも持っている。クレスたちの物とは違うが、構造はよく似ており同等の働きをするだろうとジェイドが言っていた。 |
| クラトス | それにラタトスクならデリス・エンブレムは必要がないとも聞いている。 |
| マーク | 確かミトスたちも、こっちの大陸に来てるんだったな。シンクに連絡を取ってみるか。 |
| フィリップ | ………………。 |
| マーク | おい、フィル ? 聞いてたか ? |
| フィリップ | ――え ? あ、ああ……。うん、そうだね。頼むよ。マーク。 |
| フィリップ | (ダオスにはああ言ったけどもしさっき戦ったのが本当に【死鏡精】ならダオスがどうこうする前に世界は消滅しかねない……) |
| フィリップ | (でも【死鏡精】に関してはミリーナの方が詳しかった。どうすれば――) |
| コーキス | ……なぁ、凄い怖い顔してるけど、何かあったのか ? |
| フィリップ | あ……ああ……。すまない、大丈夫だよ。 |
| コーキス | 鏡士はみんなそんな風に言うんだな。 |
| フィリップ | コーキス……。ごめんよ。イクスが悩んでいるのは僕のせいだ。僕があまりに……自分本位だったから。 |
| フィリップ | 償いはする。だからコーキス、どうかイクスを支えてあげてくれ。 |
| フィリップ | 僕の知っている最初のイクスに鏡精はいなかった。君だけが――今のイクスが、唯一無二のイクスであるという証なんだよ。 |
| コーキス | ……はぁ ? 鏡士はみんな難しいこと言うなぁ。俺、馬鹿なんだからもっとわかりやすく言ってくれよ。 |
| マーク | ――馬鹿自慢してるところだが、朗報だぞ。丁度向こうから連絡が来た。ミリーナが見つかったそうだ。 |
| 全員 | ! ! |
| Character | 8話【11-11 ダオス城2】 |
| イクス | 暗くて……冷たい……。虚無が近づいてくる……。 |
| イクス | 万華鏡の裂け目を塞がないと……。……でも、力がどんどん拡散して……。 |
| ゲフィオン | (イクス……。イクス、無理をしてはダメ。そのままではあなたの力が虚無に吸い取られてしまう…… !) |
| イクス | く……っ。死の砂嵐からの悲鳴がうるさくて……集中できない……。それにこの痛み……。 |
| ゲフィオン | (届かない……。イクスに私の声が……。どうすればいいの。イクス、気付いて !) |
| ミリーナ | (これはゲフィオンの記憶……。私……また夢を見ているのね……) |
| ? ? ? | こっちです ! ミリーナさまはこっちにいます ! |
| ? ? ? | いたよ ! イクスくん ! |
| ? ? ? | 気を失ってる……。でも怪我はしてないみたい……。 |
| ? ? ? | ミリーナ ! ? 大丈夫か ! ? |
| ミリーナ | (この声は…………) |
| ミリーナ | ――イクス ! ? |
| イクス | ミリーナ ! よかった……目が覚めたんだな ! |
| ミリーナ | イクス…… ! カーリャ !それに……コンウェイさんとロディも…… ?ここは……。 |
| コンウェイ | ここはダオス城だよ。何があったのか聞きたいのはこちらの方なんだけれど、覚えているかな ? |
| ミリーナ | あ……そうだわ。あの人が……ダオスが助けてくれたのよ。 |
| イクス | え ? ダオスにさらわれたんじゃないのか ? |
| カーリャ | そうですよ ! あのイケメンカーリャに魔術を使ってきましたよ ! ?ミリーナさま、洗脳されてるんじゃないですか ! ? |
| ロンドリーネ | ちょっと、カーリャ ! ?ダオスはそんなことしないよ ! ? |
| ミリーナ | 確かにダオスは私とカーリャを襲ってきたけれど……あれは、妙な魔物から逃げるためだったらしいの。 |
| イクス | ……ダオスは元の世界に戻る方法を探してミリーナに接触してきたのか。 |
| ミリーナ | ええ。その後で、またダオスが『アヤカシ』と呼んだ敵が襲ってきて……。私も戦ったんだけれど襲われて気を失ってしまったの。 |
| カーリャ | ……あれ ? でも気絶してたならあの血の跡はどうやって残したんですか ? |
| ミリーナ | 血の跡 ? 私、怪我なんてしていないけれど……。 |
| ロンドリーネ | え ?だったら森の狩猟小屋から続いてた、あの血痕は…… ? |
| コンウェイ | ミリーナさんでないなら残るはダオスってことになるね。 |
| イクス | ……もしかして、カーリャが捜しに来られるように目印を残してくれたのかな ? |
| カーリャ | ええ ! ? そんな親切な人なんですか ! ? |
| イクス | 親切な人かどうかはわからないけどでもそうとしか考えられないよ。 |
| ロンドリーネ | ダオス……。 |
| コンウェイ | イクスくんの言った通りダオスにはミリーナさんをさらう理由があった……ということだね。 |
| ミリーナ | ……あの、ごめんなさい。私が軽率だったからアジトのみんなにも迷惑をかけてしまって……。 |
| コンウェイ | ああ、それはそうだね。安全な場所だったとはいえ、少し軽はずみだった。 |
| ミリーナ | ええ。反省します。 |
| ロンドリーネ | あんまりミリーナをせめないでよ。悪気があった訳じゃないし……。軽率って意味では、私も同罪だからさ。 |
| ロンドリーネ | それよりミリーナも見つかったし早くクレスたちに連絡を取った方がいいと思うんだけど。 |
| イクス | そうだな。ちょっと待ってくれ―― |
| イクス | ……ダメだ。クレスたちからの応答がない。 |
| ロンドリーネ | ……もしかしたらクレスたちもうダオスと戦ってるのかも。 |
| イクス | だったら、直接知らせに行こう !ミリーナの件は誤解だったんだしもしかしたら話し合えるかも知れな……―― |
| イクス | あ……れ…… ? |
| カーリャ | イクスさま ! ? ふらついてますよ ! ? |
| ラタトスク | フン……。大方、ミリーナが見つかったんで気が抜けたんだろうよ。 |
| ミトス | 人間のくせに不眠不休で動くからこういうことになるんだよ。 |
| イクス | ラタトスクとミトス ! ?それにジーニアスとシンクも……。どうしてここに…… ? |
| ジーニアス | ジェイドさんから聞いてない ?テセアラ領から直接ミリーナを捜しに来たんだ。 |
| ミリーナ | え ! ? 私を…… ! ? |
| ミトス | ……ボクのせいで死なれたら迷惑だからね。見つかったならそれでいいよ。 |
| ミトス | ねぇ、クレスたちに知らせに行くんでしょう ?イクスとミリーナとカーリャはこっちで引き受けるけど ? |
| ミトス | 幸い救世軍もこっちに混じってるし、戦力は十分だよ。 |
| コンウェイ | 墜ちた勇者が魔王の城にいる……か。面白いね。まさかこんな場面に遭遇するなんて。 |
| ミトス | ……何 ? |
| コンウェイ | いいや。異世界も捨てた物じゃないと思ってね。ロディさん、行こうか。 |
| ロンドリーネ | うん、急ごう。ミトス、シンクジーニアス、ラタトスク、ありがとう ! |
| ミトス | ――さて、弱った人間を二人も運ぶのは面倒だね。救世軍さん。 |
| シンク | うるさいよ。今、マークに連絡してるところだ。 |
| マーク | おっと、こっちから連絡しようと思ってたところだ。ナイスタイミングだぜ、シンク。 |
| シンク | そっちの用事はどうでもいい。人騒がせな鏡士が見つかったよ。殺す ? それとも殺してから死体を持って帰る ? |
| マーク | おいおい、そういう冗談はやめてくれよ。生かして連れ帰るに決まってるだろ。ちょっと待っててくれ。 |
| マーク | ――馬鹿自慢してるところだが、朗報だぞ。丁度向こうから連絡が来た。ミリーナが見つかったそうだ。 |
| マーク | シンクたちが見つけてくれたらしい。 |
| コーキス | 本当か ! ? |
| イクス | コーキス ! ? |
| コーキス | マスター ! ? え ! ?なんでシンク様たちとマスターが一緒に…… ? |
| コーキス | ……っていうか、マスターなんで座り込んでるんだ ! ?まさか倒れたのか ! ? |
| カーリャ | コーキス ! うるさいですよ ! !もうちょっと落ち着きなさい。まだまだ子供ですね、コーキスは。 |
| イクス | カーリャ、その辺にしてやってくれ。俺が悪いんだ。コーキスに心配かけちゃってあんなに忠告されたのに、このザマだからな。 |
| ミリーナ | どうしたの ?イクスもコーキスも……何かあったの ? |
| コーキス | それは……その……。 |
| イクス | コーキス。俺が悪かったよ。意地を張りすぎた。お前に甘えちゃったんだな。 |
| コーキス | マスター……。 |
| アトワイト | コーキスさん、あなたも一緒にどうかしら。あなたが手伝ってくれたら、イクスさんもきっと喜ぶわ。 |
| フィリップ | 償いはする。だからコーキス、どうかイクスを支えてあげてくれ。 |
| フィリップ | 僕の知っている最初のイクスに鏡精はいなかった。君だけが――今のイクスが、唯一無二のイクスであるという証なんだよ。 |
| コーキス | しょ……しょうがねぇな。今回だけだからな、許してやるのは。 |
| イクス | ありがとう、コーキス。 |
| シンク | そろそろいい ?ケリュケイオンを城の近くまで寄せて欲しいんだけど。 |
| コーキス | あ、悪い……。マーク、聞こえたか ? |
| マーク | はいはい、聞こえてるよ。こっちも城の前まで行くから、そこで落ち合おう。頼むぞ、シンク。 |
| ミント | ダオスの姿が見えませんね……。 |
| すず | ここにはいないのでしょうか。 |
| クレス | ダオス ! ! |
| ダオス | 勝手に忍び込んでおいて、図々しいものだな。 |
| クレス | やっぱりお前もこの世界に具現化されていたんだな。 |
| ダオス | ふふふ……それはこちらの台詞だ。この世界でもお前たちと顔を合わせることになるとはな。 |
| アーチェ | ミリーナは一緒じゃないんだね。 |
| ダオス | あの女か……。 |
| ミント | ダオス、どうしてミリーナさんをさらったのですか ? |
| ダオス | そんなことを聞いてどうする。この異世界に殉じるつもりの貴様たちには意味のないことよ。 |
| チェスター | はぐらかすな !元の世界でお前がやってきたことを考えればどうせろくでもない理由に決まってる ! |
| クレス | ……ミリーナが何をしたっていうんだ。何故罪のない人々を苦しめようとするんだ !この世界でも、元の世界でも ! |
| ダオス | ――罪のない、だと ? |
| チェスター | そうだ ! アミィには……何の罪もなかった ! |
| チェスター | アミィだけじゃねぇ !みんな、虫けらみたいに殺された !俺はお前を許さねぇ ! ! |
| ダオス | 貴様らに許される筋合いなどない !愚かな下等生命体め ! !その非礼、その命を持って贖うがいい ! ! |
| クラース | ――クレス !これ以上は無理だ。戦わざるを得まい ! |
| チェスター | 構うもんかよ ! ここで決着を付けるんだ ! |
| アーチェ | 馬鹿! イクスたちとの約束はどうすんのよ ! |
| すず | ――来ます ! |
| Character | 9話【11-12 ダオス城3】 |
| クレス | や、やったのか ? |
| クラース | いや、まだだ ! |
| ダオス | ふはははは……。下等な生命体がここまでやるとは思わなんだぞ。 |
| ダオス | この世界においてもはや貴様たちが私に刃向かう意味はないだろうに。それほどまでに死にたいか。 |
| クレス | 意味ならある !僕は――トーティス村のみんなやミッドガルズのみんなのためにお前を倒す ! |
| ダオス | ……良かろう。ならば私も全身全霊を賭して戦おうではないか ! ! |
| クレス | て、手加減していたっていうのか ! ? |
| ミント | ――待って下さい ! |
| ダオス | ……この期に及んで命乞いか ? |
| ミント | あなたに、聞きたいことがあります。前にあなたは、私たちとは戦う理由がないと言いました……。 |
| ミント | 何故、ですか ? |
| クレス | ミント ! ? |
| アーチェ | クレス、これ以上続けたらもう最後まで行くしかなくなっちゃう。それじゃあ、イクスたちとの話が無駄になるじゃん。 |
| ダオス | ……………………。 |
| ダオス | それは……お前たちが魔科学に関わる者ではないからだ。 |
| ミント | 何故、魔科学はいけないのですか ? |
| ダオス | 魔科学はマナの力をことごとく使い果たしてしまうからだ ! ! 私は、魔科学を使う人間を抹殺しなければならなかった ! |
| クラース | 何故、そうまでして魔科学を否定する ?確かに魔科学の力はすさまじいものだ……。 |
| クラース | だが、人間も愚かではない !もう世界樹が枯れるようなことはしない ! |
| ダオス | 本当にそう思うのか ?私がミッドガルズをほろぼさねばお前たちの星の世界樹はなかったのだぞ。 |
| クレス | そうまでして、何故ユグドラシルを守る ! ?この世界では、ユグドラシルの写真を撮っていただけのミリーナまでさらって、カーリャを傷つけた。 |
| クレス | お前の望みは何なんだ ? |
| ダオス | 私にはマナが必要なのだ。だが、その理由を貴様らに話したところで理解できまい。 |
| チェスター | 分かりたくもねぇ !いまさら、言い訳なんか聞かねえぜ ! |
| ダオス | ははははは !なぜ私が弁解せねばならぬのだ ? |
| ロンドリーネ | 待って、ダオス ! |
| ダオス | ………………。 |
| ロンドリーネ | ダオス、もうこんなこと止めよう。私たちが戦う理由なんてないんだ。 |
| ダオス | ……誰だ、貴様は ? |
| ロンドリーネ | ……そうか。あんたもクレスたちと同じで私のことを知らないダオスなんだね……。 |
| ロンドリーネ | でも、私は知ってるんだよ、ダオス。故郷の星を救おうとした、あんたのことをね。 |
| クレス | 故郷の星 ? 一体なにを言っているんだ、ロディ ? |
| コンウェイ | 何とか間に合ったみたいだね。ミリーナさんはイクスくんと救世軍で外へ運び出したよ。 |
| ダオス | 黒衣の鏡士を連れ戻しに来たのか。……だが、あの者の知識の中には欠落があった。私にはもう、用がない。好きにするがいい。 |
| コンウェイ | ダオス。この世界のユグドラシルが、大いなる実りを生み出すかどうかわからない。生み出したところでそれを持ち帰る術がわからない。 |
| コンウェイ | ミリーナさんの中のゲフィオンの知識を求めたのはその為じゃないのかな ? |
| クレス | 大いなる実り…… ?それはロイドの世界の大樹の種子のことか ?マナの塊だっていう……。 |
| ダオス | 何故貴様らが大いなる実りのことを知っている ! ? |
| コンウェイ | そこはさして重要なことじゃない。ここにいるクレスくんは、あなたが元の世界で戦っていたクレスくんより、さらに知識があるんだ。 |
| コンウェイ | そして、あなたのやろうとしてきたことの真意を知る人もいる。 |
| ロンドリーネ | ユグドラシルが大いなる実りを生み出してくれればダオスはそれをデリス・カーラーン――故郷の星に持ち帰ることができる。 |
| ロンドリーネ | そうすればダオスの故郷は救われるんだ。ダオスはずっと、ユグドラシルを守るために戦っていたんだよ。 |
| ロンドリーネ | それが、多くの命を救いたかったダオスの願いであり使命だったんだ。 |
| クレス | 命を救う……ダオスが……。 |
| ミント | だから、私たちとは戦う理由がないと……。 |
| ダオス | 私を待ち望んでいる民のためにも……私は大いなる実りを手に入れこの閉ざされた牢獄から逃れねばならぬのだ ! |
| ダオス | 絶対に邪魔はさせぬぞ ! |
| チェスター | 何してんだ、クレス ! 武器を構えろ ! |
| チェスター | あいつが自分の故郷を救うためだったとしてどうしてオレたちの村が――世界が蹂躙されなきゃいけねぇんだよ ! |
| クラース | そうだ。クレス。私たちは間違ってなどいない。奴だって多くの人間を犠牲にしているんだ。 |
| クラース | ダオスは、己の信じる正義のために戦っている。だが、私たちにも譲れないものがある。守るべき人々がいる。 |
| クラース | ……違うか ? |
| クレス | ………………。 |
| クレス | ダオスは倒すべき敵だ。何を聞いても、どこまで行っても、それは変わらない。 |
| クレス | ただ、僕らとダオスはもっと違う時間で、違う形で出会っていれば、もしかしたら協力し合うことができたんじゃないかって……。 |
| チェスター | クレス……。 |
| クレス | ……ここでダオスを倒したら、僕たちこそがダオスの故郷の魔王になってしまうんじゃないか。 |
| クレス | できることなら、僕は僕たちの星も、ダオスの故郷もこのティル・ナ・ノーグも救いたい。それが……僕の旅の進む道だと思えるんだ。 |
| ダオス | 母なる星を……デリス・カーラーンを救うだと ?下等生命体である貴様らが ? |
| ロンドリーネ | でもダオスはその下等生命体の星に――そこにある世界樹ユグドラシルに救いを求めにきたんだよね。 |
| ロンドリーネ | クレスたちはわかってるよ。ユグドラシルをきっと守ってくれる ! あんたが大いなる実りを持ち帰ることも邪魔はしないはずさ。 |
| コンウェイ | ……そうだね。その点は、ボクも保証するよ。まぁ、初対面の人間が保証したところで気高い王には何の意味もないだろうけれど。 |
| コンウェイ | でも王の器の持ち主なら……相手の器もわかるんじゃないかな ? |
| ダオス | ………………。 |
| ダオス | ――去れ。少なくとも我が目的を邪魔立てしない限りは貴様たちと争うつもりはない。 |
| クレス | ――ダオス、一つだけ約束しろ。この世界では、もう誰も傷つけないと。 |
| クレス | そして、いつか全てを救う道筋を見つけ出したときはお前と決着をつける。 |
| ダオス | ……好きにしろ。 |
| クレス | ――行こう、みんな。 |
| ロンドリーネ | ……ダオス。あんたが私を知っている世界のあんたじゃなくて、少し残念だよ。でも……これ以上敵対しなくていいのは……すごく嬉しいんだ。 |
| ロンドリーネ | おかしな女だと思うだろうけどまた会えるのを楽しみにしてるから。 |
| ロンドリーネ | だから覚えておいて。私……このロンドリーネのことを。 |
| コンウェイ | ……やれやれ、なんとか危機は脱したようだね。 |
| ロンドリーネ | クレスたちは ? |
| ミリーナ | 先にケリュケイオンに乗ったわ。 |
| ミリーナ | クレスさんたちには伝えたけれど改めて二人にもお礼を言わないとね。助けてくれて本当にありがとう。 |
| ロンドリーネ | 私は何もしてないよ。気にしないで。 |
| イクス | ……なぁ、コンウェイ。さっき教えてくれたダオスの話が本当だとしてどうして、それを知ってるんだ ? |
| コンウェイ | イクスくん、悪いけど、今はこれ以上のことを話すつもりはないよ。いずれ、その内に、ね。 |
| ミリーナ | クレスさんたちとダオス……。大丈夫かしら。フィルがマークなら上手く取りなしてくれるって言っていたけれど。 |
| コンウェイ | ……そうだね。まぁ、大丈夫じゃないかな。クレスくんが伝説の勇者になって魔王を退治するのは――違う世界の物語さ。 |
| コンウェイ | この世界の人の心に潜む『悪』が芽を出さない限り彼が『魔王』になることはないからね。 |
| イクス | 何だかまるでコンウェイはクレスの世界のことを知ってるみたいな口ぶりだな。 |
| イクス | ……なぁ、俺、余計なことを言ったのかな ?ダオスの真意は何か……なんて。 |
| イクス | クレスたちに余計なことを言わなければクレスたちが何も知らなければ……ダオスを……。 |
| イクス | (何も知らなければ……。俺も何も知らないままだったら……こんな気持ちには……) |
| ミリーナ | そうね。何も知らなければ復讐を果たすことができた。でも私……いえ、ゲフィオンがそうだったようにその後で、また別の悩みを背負っていたかも知れない。 |
| ミリーナ | それにロディは止めたいと思っていたんでしょう?何が正解かはわからない。でも人は……それでも前に進むしかないのよ。 |
| ロンドリーネ | ……うん。 |
| イクス | ………………。 |
| カーリャ | イクスさま ? |
| イクス | ……ごめん。何だかひどく疲れて……。 |
| コンウェイ | イクスくんはいい加減休んだほうがいいね。コーキスくんがまた怒り出すよ。 |
| イクス | ああ、そうさせてもらうよ。ごめん……。限界だから先に戻らせてもらう……。 |
| ミリーナ | イクス……本当に疲れているだけかしら……。心配だわ……。 |
| ロンドリーネ | それはミリーナもだよ。アヤカシとやらに襲われたから念のため精密検査をした方がいいってフィリップが言ってた。 |
| ミリーナ | 私は平気なのに……。 |
| カーリャ | ミリーナさまもイクスさまももう少し自分を大事にしないといけませんね。 |
| コンウェイ | フフ、ミリーナさんとイクスくんは無茶なところがそっくりだね。 |
| ミリーナ | ……ごめんなさい。反省します。 |
| Character | 10話【11-13 ダオス城4】 |
| ダオス | ……鏡精か。貴様の仲間は帰ったぞ。今更何をしに来た。 |
| マーク | 黒衣の鏡士からの伝言。一人目の自分が原因でデリス・カーラーンを滅ぼす罪まで背負うのは寝覚めが悪いから、協力させて欲しい、とさ。 |
| ダオス | ……元の世界にいる本当の私が大いなる実りを持ち帰る筈だ。私はそれを確認できればいい。ただ―― |
| マーク | 何かの時のためのスペアは確保しておきたいんだろ。わかるさ。 |
| マーク | ところでうちの親分は、ゲフィオンと一緒に異世界からの具現化技術を完成させた人間だ。 |
| マーク | こっちにつけ、とは言わない。普段はこの城にいてもいい。でもまぁ、よければ救世軍の方にも顔出してくれよ。別荘感覚でな。 |
| ダオス | ……何故ことさらに軽薄を取り繕うのだ、鏡精。 |
| マーク | こんなこといかれてるって思うからだよ。それでもうちの親分は、ゲフィオンのためにこの世界を救いたいんだ。 |
| マーク | だったらいかれてようが望みを叶えてやるしかねぇだろ。 |
| マーク | あんたは誇り高い一匹狼だ。鎖に繋ぐつもりはない。 |
| マーク | だがこっちにも、デリス・カーラーンの関係者やら大いなる実りに詳しい奴やらがいる。利用してくれて構わないんだぜ。 |
| ダオス | ……お前も去れ、鏡精。必要とあらば、立ち寄ってやらぬこともない。 |
| マーク | そいつはよかった。……救われてるといいな……あんたの故郷。 |
| ダオス | いらぬ気遣いだ。 |
| マーク | だな。それじゃあ、失礼するぜ、ダオス陛下。 |
| マーク | ………… ? |
| ? ? ? | 久しぶりですね、マーク……。 |
| マーク | ……な……何で…… ? |
| ? ? ? | 相変わらずの間抜け顔ですね。 |
| マーク | パイセン…… ! ? |
| ? ? ? | そういう軽薄な呼び方はやめなさい。本当に、いつまでも子供なんですから。 |
| マーク | マジかよ……カーリャ先輩 ! 何でこんなところに ! ? |
| カーリャ・N | こんなところというのは失礼ですよ、マーク。 |
| カーリャ・N | 小さなミリーナ様を助けて下さってありがとうございます。 |
| ダオス | 別に助けたつもりはない。聞くべきことを聞くまで生きていてもらう必要があっただけだ。 |
| ダオス | ……無駄であったがな。 |
| カーリャ・N | 小さなミリーナ様に記憶の共有はなかったのですね。 |
| ダオス | あの者の記憶は欠落している。 |
| カーリャ・N | ミリーナ様が私を切り離したから……ですね。 |
| マーク | ……それだけじゃないみたいだけどな。パイセンは知らねぇだろ。二人目のミリーナがどうやって具現化されたのか。 |
| カーリャ・N | どうやって…… ? それはどう言う意味ですか ? |
| マーク | ……フィルに聞いてくれ。パイセンになら、フィルも話すだろ。 |
| カーリャ・N | ………………。 |
| ダオス | ……貴様は何故ここに来た ? |
| カーリャ・N | セールンドの人体万華鏡が崩壊しかかっています。魔鏡の護符によって一時的に食い止めましたが……。 |
| ダオス | 私が訪れた時に反応していた、あの鏡か。 |
| カーリャ・N | あれはミリーナ様――人体万華鏡を護ろうと、侵入者を検知するために設置したものですが、小さいフィル様にご協力頂いて、封印強化に転用したんです。 |
| マーク | 小さいフィル……ってジュニアのことか ! ?何であいつがセールンドに……。 |
| カーリャ・N | マーク。人の話に割り込んではいけません。 |
| マーク | ……はいはい、すみませんね。パイセン。 |
| カーリャ・N | ――話を戻します。 |
| カーリャ・N | 原因はまだわかりませんが、虚無に漂う死の砂嵐がうねりだしたと聞いています。それが人体万華鏡に何か影響を及ぼしたのかも知れません。 |
| ダオス | カーリャ。そこの鏡精が何か知っているようだぞ。 |
| マーク | ――思い当たる節が二つほど。一つはテセアラ領の世界樹――大樹カーラーンの異常発達。 |
| ダオス | あの世界樹が異常発達している、だと ? |
| マーク | アセリア領の世界樹ユグドラシルにはその兆候がないみたいだな。それとも、この後何か起きるのか……。 |
| ダオス | ………………。 |
| カーリャ・N | もう一つというのは ? |
| マーク | ちょっと長い話になるがこの場を借りて説明して構わないかい、ダオス陛下。帰れって言われたのに、長居することになっちまうが。 |
| ダオス | 構わぬ。その軽口は気に入らぬがな。 |
| マーク | こいつは失礼。今後は気を付ける。 |
| マーク | さてと……それじゃあ始めようか。ダーナの心核と、この世界の成り立ちの話を。 |
| Character | 11話【11-14 ケリュケイオン1】 |
| ミリーナ | もう、みんな大げさよ。私、本当に元気なのよ。私のことよりイクスの方が心配だわ……。 |
| ミリーナ | それに軽い気持ちで動いてみんなに迷惑をかけてしまったことが心苦しいの。ねぇ、何か私にできることはない ? |
| カーリャ | 駄目ですよぅ、ミリーナさま !今は大人しく寝ていて下さい。 |
| フィリップ | ああ、そうだよ、ミリーナ。それにきみがしっかり休まないとカーリャにも影響が出てしまう。違うかい ? |
| ミリーナ | ……それは……そうだけれど……。 |
| コーキス | 申し訳ないって気持ちがあるなら、今は休んでそれから働いてくれればいい……ってマスターなら言うと思う。 |
| コーキス | ……そういうマスターも、全然休んでくれないけどさ。 |
| ミリーナ | コーキス。イクスとは仲直りしたんでしょう ?そんな顔しないで。 |
| ミリーナ | イクスだってコーキスが心配してくれてることちゃんとわかっているわよ。ね ? |
| マーク | ――失礼するぜ……っておいおい、どうしたコーキス ?しょぼくれた顔して。 |
| コーキス | う、うるさいな ! マークには関係な―― |
| コーキス | ……誰だ、その人 ? |
| フィリップ | カーリャ ! ? |
| カーリャ | な、なんですか ! ?カーリャはここにいますよ ! ? |
| カーリャ・N | ………… ! |
| カーリャ・N | ミリーナ様…… ! |
| ミリーナ | ? |
| カーリャ・N | フィル様……。本当に……成功させてしまったんですね……。 |
| コーキス | え ? マスターたちの知り合いなのか ? |
| フィリップ | 彼女は―― |
| カーリャ・N | ――いえ、フィル様。自分で説明します。初めまして、小さなミリーナ様。それに……イクス様の鏡精コーキスも。 |
| カーリャ・N | 私はカーリャ。カーリャ・ネヴァン。最初のミリーナ様――ゲフィオン様の鏡精だった者です。 |
| 三人 | ! ? |
| マーク | ダオスに話をしにいったら、ばったり会っちまった。 |
| カーリャ・N | それはこちらの台詞です。 |
| ミリーナ | カーリャ…… ? あなたが…… ? |
| カーリャ・N | よければ、私のことはネヴァンと呼んで下さい。ミリーナ――いえ、ゲフィオン様から切り離された後に自分で付けたファミリーネームです。 |
| カーリャ・N | 小さなカーリャと混乱してしまいますから。 |
| カーリャ | カーリャが成長するとこうなるんですか…… ? |
| カーリャ・N | ええ、おそらくは。 |
| カーリャ・N | ダオス様のところで、マークからこれまでの話を聞かせてもらいました。そして、今世界がとてつもない危機に陥っていることを知った。 |
| カーリャ・N | 私はなんとしてもこの世界を護らなければなりません。ですから、小さいミリーナ様とイクス様に協力したいのです。 |
| コーキス | それは……。あなたが本当にゲフィオンの鏡精なら俺たちの知らないことをアドバイスしてくれるだろうし、きっとありがたいんだろうけど……。 |
| ミリーナ | コーキス。大丈夫よ。マークが言うんだからこの人は確かにゲフィオンの鏡精なんだと思うわ。 |
| フィリップ | ああ。その点は僕も保証するよ。でもカーリャ……いや、ネヴァン。今まできみはどこで何をしていたんだい ? |
| カーリャ・N | ゲフィオン様のお側に。人体万華鏡となったゲフィオン様を護りながら……助け出す手段を捜していました。 |
| カーリャ・N | それと、一つ訂正を。私はもう鏡精ではありません。鏡精であった者、です。 |
| ミリーナ | どういうこと ? |
| カーリャ・N | ――ずるいですね、フィル様。それにマークも。ミリーナ様たちに何も教えていないなんて。 |
| マーク | ……その話、今しちまうのか。 |
| コーキス | な、何で俺を見るんだよ ! ? |
| カーリャ・N | 鏡精は、マスターである鏡士から切り離されて独立することができます。 |
| カーリャ・N | 成体となった鏡精は、マスターとの繋がりを断たれると人間という存在とほぼ同じになります。 |
| 三人 | ! ? |
| コーキス | だから……俺……あんなに切り離されるのが怖かった、のか ? |
| カーリャ・N | 切り離されるのが……怖い ?成体であるあなたにそんな感覚はない筈ですが……。もしかしたらまだ幼いのかも知れませんね。 |
| コーキス | な…… ! 馬鹿にするなよな ! |
| カーリャ・N | ふふ、ムキになるところがまだ幼い所以ですね。でも鏡精は本質的にマスターから切り離されることを嫌うものなので、気持ちはわかりますよ。 |
| ミリーナ | ねぇ、ネヴァン。あなた、ゲフィオンを助け出す手段を探していた……と言ったわよね。それは人体万華鏡から解放するってこと ? |
| カーリャ・N | はい。私はゲフィオン様とフィル様の計画に反対していました。だから……切り離されてしまったのですが……。 |
| カーリャ・N | もちろんこうなった今でも反対しています。特にゲフィオン様があんな風に犠牲になることは。自己犠牲は罪を犯した者の自己満足に過ぎない。 |
| カーリャ・N | 気持ちは痛いほどわかりますがそれでもとるべき手段ではない、と私は考えています。 |
| カーリャ・N | ゲフィオン様はもっと別の形で償う方法を考えられた筈ですから。イクス様が生きていたらきっと同じように仰ったと思います。 |
| フィリップ | ………………。 |
| カーリャ・N | ……すみません。つい、偉そうなことを言ってしまいました。 |
| カーリャ・N | それより、ゲフィオン様の人体万華鏡が崩壊の危機にあります。それを食い止めるためにも皆さんの力が必要なのです。 |
| 一同 | ! ? |
| コーキス | ――ええっと、つまり、今は虚無に戻ったシドニー様が内側から封印を護りつつ、外側はネヴァンとジュニア様の二人で崩壊を食い止めているんだな。 |
| コーキス | でもジュニア様は何でセールンドにいたんだ ? |
| マーク | その辺りは、パイセン――ネヴァンパイセンが何も話しちゃくれないんだよ。ジュニアとの約束だって。 |
| カーリャ・N | それがゲフィオン様を救うことに繋がるのであれば……私は手段を選びませんから。 |
| フィリップ | ……………………。 |
| フィリップ | ――じゃあ、その話はいったん置いておこう。 |
| フィリップ | マークは人体万華鏡の急激な変化――つまり虚無に漂う死の砂嵐の活性化は、大樹カーラーンの異常発達と関係があると思っているんだね。 |
| マーク | 実際、タイミングが同じなんだから可能性は高いだろ ?それとダーナの心核が傷つけられたことも大きいな。 |
| コーキス | ……そうか。今、ダーナの心核は魔の空域に移されてるんだよな。本来の場所から動かしてる上に壊れてて、ダーナの巫女も目を覚ましちゃって……。 |
| コーキス | 全てが関係していてもおかしくない……のかも。 |
| カーリャ・N | 大樹カーラーンというのは、異世界から具現化された樹ですよね。何か際立った特徴などはないのですか ? |
| ミリーナ | エミルとラタトスクから聞いた話だと本来はマナっていうエネルギーを生み出して世界中に循環させる機能があるらしいの。 |
| ミリーナ | でも一度樹が枯れて、種子だけになったのをロイドたちが芽吹かせたんだそうよ。 |
| ミリーナ | その辺りがロイドたちとエミルたちの間で認識がずれてるから、なんとも言えないんだけれど。 |
| ミリーナ | エミルの世界とロイドの世界は同じ世界の過去と未来らしいの。それがキメラ結合して具現化されてしまったから……。 |
| フィリップ | エネルギーの生産と循環……。 |
| カーリャ・N | ――まるでキラル分子の生成と循環に似ていますね。 |
| マーク | 確かに……。 |
| フィリップ | ……やはり【死鏡精】か ? |
| コーキス | 【死鏡精】 ? なんだそれ ? |
| カーリャ | なんか凄く不吉なワードに聞こえるんですけど……。 |
| カーリャ・N | ……小さなカーリャとコーキスには酷な話かも知れません。でも話さずには進められませんから、お伝えします。 |
| フィリップ | カーリャ ! |
| カーリャ・N | 【死鏡精】は文字通り死んだ鏡精の残滓。キラル分子生成の過程で犠牲になった鏡精の怨嗟が形となったものです。 |
| Character | 12話【11-15 ケリュケイオン2】 |
| コーキス | ……は ? つまり……それって……。 |
| カーリャ | 鏡精を殺してキラル分子を造ってるってことですか ! ? |
| ミリーナ | 嘘……。そんなの聞いてない……。 |
| フィリップ | ……ああ、ミリーナはまだそこまで習っていない筈だよ。それに恐らく鏡精に関わる記憶はゲフィオンが切り離した筈だ。 |
| フィリップ | カーリャ……ネヴァンを切り離した時にね。 |
| カーリャ・N | 鏡士は鏡精を切り離す時に、鏡精に関する記憶も一緒に切り離します。そうしないと……何度も鏡精を生み出しては殺すことに耐えられませんから。 |
| カーリャ・N | ゲフィオン様はそれ以外にも、いくつかの記憶を私に預けていってしまいましたが……。 |
| コーキス | 何度も生み出して、殺す…… ? |
| カーリャ・N | それがセールンド王国のエネルギーシステムです。キラル分子を生み出す魔鏡機器はいくつか存在していましたが、鏡精を使ったシステムには勝てなかった。 |
| カーリャ・N | 鏡精はキラル分子を大量に生み出す力がある。それを殺して取り出したキラル分子は、魔鏡機器が生み出す量の何百倍もあります。 |
| カーリャ・N | これでセールンド王国はエネルギー問題から開放されました。 |
| コーキス | そんな……それじゃあ俺たち鏡精は……ただの道具じゃないか。 |
| ミリーナ | コーキス……。それは違うわ。コーキスは道具なんかじゃない。 |
| ミリーナ | イクスがどれだけあなたを大切に思っているか……。あなたにもわかる筈よ。 |
| コーキス | …………うん。 |
| ミリーナ | カーリャもよ。道具だなんて思わないで。あなたは私の大切な親友よ。あなたに何度救われたかわからないわ。 |
| カーリャ | ミリーナさまぁ…… ! ! |
| ミリーナ | ……カーリャ。あなたを殺させはしない。あなたは私の大切な親友で、私の心の護り手なんだもの。あなたを殺すことは私が死ぬことだわ。 |
| カーリャ・N | ミリーナさま…… ! |
| カーリャ・N | やっぱり小さいミリーナ様も同じようなことを言うんですね。少し……うらやましいです。 |
| カーリャ・N | コーキスとカーリャにはつらい話をしてしまいました。すみません。でも【死鏡精】の問題はとても重要です。 |
| カーリャ・N | 【死鏡精】は鏡精の墓場から生まれます。鏡精の墓場もまた、カレイドスコープによる世界の消滅で滅びた筈です。 |
| カーリャ・N | ということは、死の砂嵐の中に死鏡精の残滓も含まれている。そして死の砂嵐は、今活性化している。 |
| フィリップ | デミトリアス陛下――いや、デミトリアスは光魔を呼びだしていた。きっと何らかの形で死の砂嵐にアクセスする方法を見つけたんだ。 |
| フィリップ | 死鏡精の残滓……というのもそこから漏れ出ているんじゃないだろうか。 |
| ミリーナ | そして【死鏡精】は、自らの生成システムに近い大樹カーラーンを住処にしている ? |
| フィリップ | 住処にしているだけならまだいいがそこで自己増殖している可能性もある。 |
| フィリップ | それがさらに世界に悪影響を及ぼしているのかもしれない。実際、【死鏡精】はセールンド王国でも駆除対象だった。ひどい話だけれどね。 |
| コーキス | ……なぁ、フィル様。フィル様はビクエでえらかったんだろ ? |
| コーキス | もしかして鏡精を殺してキラル分子を作るように命令してた側なんじゃないのか ? |
| マーク | だったら、俺がここにいる訳ねぇだろ。こいつは馬鹿でドジで救いようのないクズだが鏡精の敵じゃない。 |
| マーク | カレイドスコープの研究は、鏡精システムを止める為でもあったんだ。――まぁ、兵器としてってところはフォローしきれないけどな。 |
| ミリーナ | そう……だわ。カレイドスコープは対象物のアニマを抜き出し、カレイドスコープの中で反射を繰り返すことで消滅させる兵器。 |
| ミリーナ | その際にキラル分子が生み出される。そもそもはイクスのご両親が遺した魔鏡とキラル分子の生成機がヒントになったのよ。 |
| フィリップ | これは伝聞だけれど、イクスのご両親も鏡精システムを嫌っていて、何とかそれに変わる物を生み出そうと研究していたそうだよ。 |
| カーリャ・N | 【死鏡精】のことはもっと調べる必要がありますね。皆さんは浮遊島とかいうアジトに戻って下さい。私はもう少し【死鏡精】について―― |
| カーリャ・N | ! ! |
| マーク | お ? 今の荒々しい腹の虫は、でっかいパイセンか ?食いしん坊なところ全然変わってな―― |
| カーリャ・N | だ、黙りなさい !後輩のくせに生意気ですよ、マーク ! |
| カーリャ・N | 人間はお腹がすくんです !別に私が特別食いしん坊な訳じゃありませんから ! |
| コーキス | なーんだ。そういうとこやっぱカーリャパイセンのパイセンなんだな。 |
| カーリャ | なんですか、そのパイセンのパイセンってのは ! ? |
| コーキス | だって、パイセンより先に生まれてるんだからパイセンのパイセンじゃん。 |
| カーリャ | むむ……。それはそうですね……。じゃあ先輩、カーリャのとっておきの飴玉を分けてあげますよ。先輩後輩のよしみで ! |
| カーリャ・N | そ、それは……無碍にするのも悪いですから……頂いておきましょう。ありがとうございます。 |
| カーリャ・N | べ、別にそこまでお腹はすいていませんが厚意はありがたく頂かなくては。 |
| ミリーナ | それだけじゃ足りないでしょう ?【死鏡精】のことを調べるのだとしてもいったん食事をとってからの方がいいわ。 |
| マーク | そうだな。ネヴァンパイセン。食堂に案内する。ちっこいパイセンの飴はデザートにとっときな。 |
| ミリーナ | コーキスも、何か食べた方がいいわ。あなただって疲れているでしょう ? |
| カーリャ | そうですよ。ミリーナ様にはカーリャもついてますし。 |
| コーキス | はい、わかりました。ミリーナ様。 |
| マーク | おい、フィル。お前は ? |
| フィリップ | 僕は……いいよ。その……まだイクスに色々と伝えなきゃ行けないことがあるからちょっと図書室で頭を整理しておく。 |
| フィリップ | イクスに……これ以上嘘はつきたくないから。 |
| ミリーナ | ………嘘 ? |
| フィリップ | ……うん。この話は込み入っているからまた今度きちんと話すよ。今は体を休めることを優先してくれ。 |
| ミリーナ | え、ええ……。 |
| マーク | 安心しろって。俺がちゃんと話をさせるさ。隠し事はさせねぇよ。 |
| カーリャ・N | ……マークも案外信用なりませんけれど。 |
| マーク | う……。痛いとこ突くなぁ、パイセン。 |
| ミリーナ | ねぇ、ネヴァン。食事の後でまたお話ししましょう ?色々聞かせて欲しいわ。ゲフィオンのこととか……。 |
| カーリャ・N | ……いえ、食事を頂いた後は、すぐに出発します。やはり【死鏡精】のことは気になるので……。 |
| ミリーナ | そう……。残念だわ……。 |
| カーリャ・N | でも、調査が終わりしだいすぐに小さいミリーナ様の元にはせ参じます。その時には、どうかよろしくお願いします。 |
| コーキス | (【死鏡精】か……。なぁ、マスター。本当に……大丈夫なんだよな。俺、マスターのこと信頼してていいんだよな ? ) |
| コーキス | (マスターはゲフィオン様みたいに俺を……切り捨てないよな……) |