| Character | 1話【12-1 アジト】 |
| コーキス | マスター ! 聞いたか ! ?パイセンのパイセンが戻ってくるらしいぜ ! |
| イクス | パイセンのパイセンって……ネヴァンか ! |
| イクス | そうか、やっとちゃんと会えるんだな……。俺、ネヴァンとは彼女が【死鏡精】の調査に出かける前、少し挨拶しただけだったからさ。 |
| コーキス | あの時のマスター……ボロボロだったからな。今は無理してねぇだろうな ? |
| イクス | はは……。ごめんな、コーキス。大丈夫だよ。あれからゆっくり眠ったし、少し時間ができた時に海に行ったり、花火を楽しんだり……。 |
| イクス | けっこうリフレッシュしたからさ。 |
| コーキス | ……なら、いいんだ。 |
| コーキス | (また、嘘だ。マスター、夜も寝てないことが多いしネヴァンパイセンがいなくなった後、フィル様と何か話してたのに、そのことも隠してるし……) |
| アトワイト | そしてもう一つ。イクスさんは明らかに何かを悩んでいる。あなたが指摘した通り。それは……恐らく自身に関わる何か重大なことなのでしょうね。 |
| アトワイト | だから、何かをせずにはいられない。動いていないと、余計なことを考えてしまう……そんなところじゃないかしら。 |
| アトワイト | そんな彼を止められるのは彼をよく知る人物だけだと思うの。 |
| コーキス | ミリーナ様……。 |
| アトワイト | ええ、そうよ。そしてコーキスさんあなたもイクスさんの理解者なの。近いからこそ、わかるからこそ、ぶつかってしまう。 |
| コーキス | (アトワイト様……。俺、マスターがわかんねぇよ……) |
| イクス | コーキス、どうした ?元気がないけど……。 |
| コーキス | な、何でもないよ。それより、早くパイセンのパイセンを迎えに行ってやろうぜ。 |
| カーリャ・N | ただいま戻りました。小さいミリーナ様。 |
| ミリーナ | カーリャ……じゃなくて、ネヴァン !お帰りなさい ! 無事で何よりだわ ! |
| カーリャ | 先輩、お帰りなさい !おやつを用意して待ってましたよ ! |
| カーリャ・N | おやつ…… ! |
| カーリャ・N | ――コホン。おやつはともかく……。【死鏡精】に関しての調査は今できる範囲のことを行なってきました。 |
| カーリャ・N | ただ……その、世界の殆どが消えた状態で中々手がかりを得られず、行き詰まっている状態です。 |
| カーリャ・N | できれば小さいミリーナ様やイクス様のお知恵も拝借したいと思っています。 |
| イクス | もちろんだよ、ネヴァン ! |
| カーリャ・N | イ……イクス様 ! ? |
| イクス | お帰り、ネヴァン。君が帰ってくるのを待ってたよ。 |
| カーリャ・N | ! ! |
| カーリャ・N | あ、ありがとう……ございます。 |
| イクス | 死鏡精の話も重要だけど、まずはカーリャの用意してくれたおやつを食べながら休んだ方がいいよ。 |
| カーリャ | そうですよ ! |
| カーリャ・N | は、はい……。イクス様がそう仰るなら……。 |
| ミリーナ | ふふ♪そうと決まったら、みんなでお茶にしましょう ! |
| コーキス | 俺、ネヴァンパイセンの荷物を持つよ。 |
| カーリャ・N | あ、ありがとうございます、コーキス。 |
| コーキス | パイセンのパイセンは俺のパイセンでもあるからな。 |
| カーリャ・N | パイセン……。はぁ……ここにもマークの良くない影響が出ているんですね……。 |
| Character | 2話【12-2 アスガルド城1】 |
| ジュニア | お願い、今度こそ成功しますように…… ! |
| ジュニア | っ ! ! 今のは…… ! |
| ジュニア | ナーザ将軍、聞こえますか ?イクスの体には入れたんですか ? |
| ナーザ | ……駄目だ。まだ人工心核の中にいる。 |
| ジュニア | また失敗……。どうして……。 |
| ナーザ | 俺にもわからぬ。前回は何も知らぬままリビングドールになっていたからな。 |
| ジュニア | ……そうでしたね。 |
| ジュニア | (前回と違うのは、ナーザ将軍の意識がはっきりしているということだけど……) |
| ジュニア | (もしかしたら無意識下で、イクスの体を使うことに抵抗しているのかもしれない) |
| ジュニア | (……もともとナーザ将軍は死者が生者の世界に関与することに否定的な人だった) |
| ジュニア | (メルクリアのためだと理解していても心が受け入れられないのだとしたら肉体への移動なんて上手くいく筈がない) |
| ジュニア | (ナーザ将軍、あなたの高潔さが裏目に出てしまうなんて……) |
| グラスティン | 小さなフィリーップ、ご主人様のお帰りだぞ。 |
| ジュニア | ! !(この心核だけは見つからないようにしなくちゃ……) |
| グラスティン | ヒヒヒ、どうした ?早く顔を見せてくれよぉ。 |
| ジュニア | 待って、すぐに行くから。 |
| グラスティン | 小さなフィリップ、今日もいい子で待っていたな。 |
| デミトリアス | やあ、ジュニア。息災かね。 |
| ジュニア | ……はい。 |
| グラスティン | ククッ、そりゃ息災だろうよ。ここしばらくは俺の下で大人しくしているからなぁ ? |
| デミトリアス | なるほど。どうりできみの機嫌がいいわけだ。 |
| グラスティン | ああ。毎日楽しくてたまらないよぉ。好きな時に好きなだけこいつを眺めていられる。そして想像するんだ。 |
| グラスティン | どうやってフィリップの体を切り開いてやろうかってなぁ ! ヒヒヒッ ! |
| ジュニア | …………。 |
| デミトリアス | ……ジュニア、奇跡の力の研究はどうなっている ? |
| ジュニア | はい。今のところですが……。 |
| ジュニア | (奇跡の力……そうだ ! ) |
| ジュニア | あの、その件について陛下にお願いがあるんです。 |
| グラスティン | 願い ? そんなことは後で俺に言え。今は研究の成果を聞いているんだ。 |
| デミトリアス | 構わないよ。言ってごらん、ジュニア。 |
| ジュニア | 奇跡の力の研究ですが当初の計画よりも進みが遅いように思えます。優秀な人材が不足していることも否めません。 |
| デミトリアス | そういえば、しばらく前に、エルレインの元から神官――研究員が逃亡したと報告があったな。確か鏡映点のフィリアだったか。 |
| ジュニア | はい。彼女にあの仕事を頼んだのは僕でしたからとても残念で……。 |
| ジュニア | 有能な人員を失ったのは痛手です。その穴を埋めるためにも、研究の陣頭指揮を僕に任せて頂きたいんです。 |
| デミトリアス | つまり、自由に動ける権限が欲しいと ? |
| グラスティン | 自由 ? まさか俺から離れようとでも言うのか ?そいつはダメだ。お前は俺のペットなんだからなぁ ! |
| ジュニア | 違うよ。今までどおり、あなたの下でいい。ただ、思ったような成果を得られないのがもどかしいんだ。 |
| デミトリアス | なるほど。やはり小さくてもフィリップだな。確かに今の状況ではきみという天才の足を引っ張るだけかもしれない。 |
| ジュニア | 僕は天才なんかじゃ……。 |
| デミトリアス | 謙遜することはないさ。わかった。今後の研究指針はきみが決めるといい。相応の地位を約束しよう。 |
| ジュニア | あ、ありがとうございます、デミトリアス陛下 ! |
| グラスティン | ――おい、デミトリアス。 |
| デミトリアス | それとジュニア、ひとつ付け加えておくがきみがグラスティン付きだということを忘れてはならない。 |
| デミトリアス | 彼の命には従うように。いいね。 |
| ジュニア | ……はい。 |
| グラスティン | フン……まあいい。お優しい陛下でよかったなぁ、小さなフィリップ。恩を仇で返すような真似はするなよ。 |
| ジュニア | ……わかってるよ。 |
| ジュニア | (これでいい。我慢なんていくらでもしてやる) |
| ジュニア | (エルレインの奇跡の力。あの異世界の神の力が使えるようになればナーザ将軍をイクスの体に移せるかもしれない) |
| ジュニア | (いや、もしかしたらナーザ将軍やバルドさんたちに体を作ってあげられるかも……) |
| ジュニア | (そうすればこれ以上イクスの体を使わなくても済む) |
| デミトリアス | ところで、ベルセリオス博士の行方は聞いていないか ? |
| ジュニア | いいえ。突然いなくなったそうですね。 |
| グラスティン | ああ、それなら今さっき、ようやく尻尾を掴んだぞ。 |
| デミトリアス | そうか ! さすがグラスティンだな。それで彼女はどこにいる ? |
| グラスティン | まあ焦るな。なかなか面白いことになっているようだからなぁ。ヒヒヒ……。 |
| Character | 3話【12-3 アスガルド 戦士の館】 |
| ハロルド | ……う……。 |
| アリエッタ | あ……目、覚めた…… ? |
| ハロルド | アリ……エ……。 |
| アリエッタ | 動かないほうがいい……です。体中、傷だらけだから。 |
| ハロルド | ……あいつは ? |
| アリエッタ | イオン様は……いません。 |
| ハロルド | 休憩タイムってわけ……痛っ……。酷くやってくれたわね……。けどまあ……痛覚のいいデータに……なる……かしら。 |
| アリエッタ | 今のうちにハロルドも休んだ方がいい、です。 |
| ハロルド | もちろん……そうさせてもらうわよ。あ~、口の中血だらけ。気持ち悪ぅ……。 |
| アリエッタ | ……お水、飲む ? |
| ハロルド | 飲む飲む。しみるから優しく飲ませてよ ? |
| アリエッタ | はい……。 |
| ハロルド | ふぅ……ありがと。じゃあついでに拘束を解いてここから逃がしてくれる ? |
| アリエッタ | ダ、ダメ ! ハロルドの監視はイオン様に任された大事な仕事だもん ! |
| ハロルド | あ~はいはい……言ってみただけよ。あんたにとってイオン様は絶対……っ……。 |
| アリエッタ | 苦しい……よね ? |
| ハロルド | へ~きへ~き♪って、言いたいところだけどね……。 |
| アリエッタ | イオン様は、ハロルドが言うことを聞かないからこうするしかないって……。 |
| アリエッタ | イオン様のお願い……聞いて欲しい、です。そうすれば―― |
| ハロルド | あんた……そのお願いが何か、わかって言ってるの ? |
| アリエッタ | ううん……。アリエッタは知る必要ないって。イオン様が……。 |
| ハロルド | 知る必要がない、か。それとも知られたくないのかしらね……。 |
| ハロルド | (まあ、この子には言えないか……。イオンの心核とシンクってレプリカの心核を入れ替えろ……だなんてね) |
| ハロルド | (他人と心核を入れ替えようとすると拒絶反応が出るから、相手を十分に選ぶ必要がある。でもレプリカなら――) |
| アリエッタ | ――ハロルド ? 大丈夫…… ? |
| ハロルド | ……あ、ごめんごめん。ちょっと考え事。 |
| アリエッタ | ……このままだと、ハロルド……死んじゃう、です。 |
| ハロルド | そうなったら、この体を解剖……って自分で自分は無理ね……。あ~あ、もったいない……。 |
| ハロルド | ……レプリカが欲しいって気持ちちょっとわかるかも。 |
| アリエッタ | ハロルド、イオン様と仲直りする、です。 |
| ハロルド | アリエッタは、どうしてイオンに従ってるの ? |
| アリエッタ | アリエッタは導師守護役だから。 |
| ハロルド | それだけ ? |
| アリエッタ | それだけじゃない、です。イオン様は……アリエッタを助けてくれたから。 |
| アリエッタ | 言葉を教えてくれて……食べ物や、寝る所や居場所も……全部くれた。 |
| ハロルド | ふうん、あのイオンがねぇ……。 |
| アリエッタ | アリエッタは、イオン様の側にいられるだけで幸せだった。なのに……。 |
| アリエッタ | アリエッタはイオン様を守れなくて……。 |
| アリエッタ | でも、イオン様は生きてた。この世界で会えた。だから今度こそイオン様を守るの !……絶対に ! |
| ハロルド | なるほどね。あいつがあんたに何も話さない理由何となくわかった気がする。 |
| アリエッタ | どういうこと、です ?ハロルドの言うこと……よくわからない。イオン様のお願い、聞いてくれるの ? |
| ハロルド | そうね……。じゃあ、わかりやすく言うわ。 |
| ハロルド | ――絶対に、嫌。 |
| アリエッタ | ハロルドの馬鹿っ ! 死んでも知らないから ! |
| Character | 4話【12-4 アスガルド城2】 |
| | アスガルド城 カレイドスコープの間 |
| メルクリア | あったぞルキウス ! カレイドスコープじゃ ! |
| ルキウス | しっ、気づかれたらどうする。 |
| メルクリア | 大丈夫じゃ。先ほど兵士たちも話していたであろう ?どこぞの騒ぎで兵が駆り出されているからしばらくこの場所に人を寄せ付けるな、と。 |
| メルクリア | とはいえ、ここまで調べ上げたルキウスの苦労を無駄にするところであったな。すまなかった。 |
| ルキウス | ボクだけの力じゃないさ。アスガルド城に潜入できたのは君のおかげだ。あの抜け道は、君じゃなきゃ探しだせなかったよ。 |
| メルクリア | ここは芙蓉離宮に次ぐ我が居城じゃ。この程度は造作もない。……と言っても今となっては客分同様だがな。 |
| メルクリア | ……いや、わらわは最初からこの国の客であったか。義父上にとっても……。 |
| ルキウス | ……そこまでだよ、メルクリア。調査を始めよう。 |
| メルクリア | ……そうであったな。まずはイクスの体を探すぞ。カレイドスコープと共に保管されていると聞いたが……。 |
| ルキウス | メルクリア、こっちに来てくれ。これがイクスの遺体じゃないか ? |
| メルクリア | ! ! |
| メルクリア | ああ、間違いない。あの時の姿のままじゃ……。 |
| ルキウス | あの時 ? |
| メルクリア | そうか。ルキウスは会っていなかったな。イクスとも、兄上とも……。 |
| メルクリア | よく見つけてくれた。これでようやく、わらわの計画も動き出す。 |
| ルキウス | その計画、詳しく教えてくれないか ?イクスの遺体を見つけたら話すって言ってただろう。 |
| メルクリア | そうであったな。事に移る前に説明しておこう。 |
| メルクリア | ルキウスは、アニマとアニムスについてどこまで知っている ? |
| ルキウス | 大まかにしかわからないよ。ボクの世界とは命の概念が違うみたいだから。 |
| メルクリア | では、わらわがシドニーから学んだことをそのまま教えよう。 |
| メルクリア | この世界の命は、アニマとアニムスで成り立っている。アニマは魂――命の光アニムスは魄――命の設計図。 |
| メルクリア | アニマがなければ体を保てずアニムスがなければ、体を失ってしまうのじゃ。 |
| ルキウス | アニマが魂っていうのはわかるけどアニムスが命の設計図っていうのは ? |
| メルクリア | アニムスは命の器を構成するものじゃ。体や記憶、遺伝的要素はアニムスに属する。 |
| ルキウス | アニマは生命エネルギー、アニムスはそれを保つ器……肉体って考えればいいのかな。 |
| メルクリア | 厳密にはもっと色々あるのじゃが今はその認識で構わぬ。 |
| メルクリア | このイクスの遺体はアニマを失っている。つまり『死んで』いる状態じゃ。 |
| メルクリア | だが、特殊な保存により体は保たれている。命の設計図に含まれる『記憶』もこの体に残っているというわけじゃ。 |
| ルキウス | 君の計画には、イクスの記憶が必要だってこと ? |
| メルクリア | そのとおりじゃ。まずはイクスの記憶から【無垢なるオーデンセ】を生み出す。 |
| メルクリア | その後、そこにビフレストを具現化してキメラ結合させるのじゃ。 |
| ルキウス | オーデンセをリビングドール化するのか ?それは前に言っていた、リビングシティ構想と同じじゃないか ! |
| メルクリア | あくまでオーデンセという島だけじゃ。そこに新たな命は具現化しない。 |
| メルクリア | わらわはもう命を弄ぶ気はない。そうしてはならぬとルキウスたちが教えてくれたであろう ? |
| ルキウス | でも、このリビングシティ構想は予測不能だ。何が起きるかわからない。君にとっても危険だよ。 |
| ルキウス | それに、この遺体……この人の思い出を利用することにもなるんじゃ……。 |
| メルクリア | ! |
| メルクリア | か、鏡士どもの思い出がなんじゃ !わらわには思い出さえなかった。ゲフィオンは、わらわの国を滅ぼしたのじゃぞ ! ? |
| メルクリア | オーデンセは、その元凶たるゲフィオンの故郷じゃ。利用して何が悪い ! |
| ルキウス | ……少しでも思う所があるなら一度立ち止まってみたら ? |
| ルキウス | そして答えが出るまで考えるんだ。自分がしていることは本当に正しいのかって。 |
| メルクリア | 何故、今更そのようなことを ! |
| ルキウス | 答えがないまま突き進むのは自分だけじゃなくて周りの人も不幸にする。ボクはそれを知っているから。 |
| メルクリア | ……答えなら、とうに出ている。 |
| メルクリア | 作業を始めるぞ。イクスの記憶からオーデンセのデータを抽出するのじゃ。 |
| ルキウス | メルクリア……。 |
| Character | 5話【12-5 芙蓉離宮】 |
| | 芙蓉離宮 |
| バルバトス | メルクリアの居場所を吐け。そうすれば楽に殺してやる。 |
| 帝国兵 | お、お許しを ! 我々は何も知らされておりません。ただ、しばらく留守にするとだけしか……。 |
| バルバトス | ……フン。おい、救世軍ども !メルクリア捜索隊の進捗を聞かせろ ! |
| バルバトス | あれからもう二週間以上たつのにまだしっぽも掴めないのか弱い上に無能な奴らめ。 |
| 救世軍 | 申し訳ありません……。誰もメルクリアの姿を見た者がいないのです。恐らく転送魔法陣を使ったのではないかと……。 |
| 救世軍 | 館から出た形跡も見られないため現在、地下や隠し部屋などの調査も進めていますが踏み込むのに難航しているようです。 |
| バルバトス | なら壊せ。そしてどんな手を使ってでもメルクリアを捜しだし生かした状態で俺の前に連れて来い ! |
| 帝国兵 | お待ちください !これ以上、宮殿を破壊されては……。 |
| バルバトス | なら代わりに貴様が壊されるか ?ここは誰の城だと思っているんだ ? |
| 帝国兵 | バ、バルバトス様です ! |
| バルバトス | わかっているなら俺に逆らうな !貴様らは俺に負けた。この芙蓉離宮は陥落し、すでに俺の城となった。 |
| バルバトス | よって何を壊すも自由 !この宮殿の奴らの命も全て俺の掌の中よ ! |
| 帝国兵 | ……我々はバルバトス様のしもべです。ですから、捕虜となった者たちも含めどうか命だけは……。 |
| バルバトス | では貴様らも捜せ !追っ手を放ち、死ぬ気でメルクリアを狩り出せ ! |
| 帝国兵 | はい、仰せのままに……。 |
| ルック | (バルバトスさん……ここまでやらなくても……) |
| 救世軍A | ルック、止血薬あるか ?こいつ、さっきの地下捜索でヘマしちまった。 |
| ルック | おい、大丈夫か ? 少し休んだ方が……。 |
| 救世軍B | いや、手当をすれば、まだ作戦に参加できる。バルバトスさんからの命令は ? |
| ルック | 今は気にするな。無理しないで休息を取れって。 |
| 救世軍B | そんなこと言わないでくれよ。今はあの人について行きたいんだよ。 |
| 救世軍A | ああ。バルバトスさんと合流してなきゃはみ出し者の俺たちが帝国の離宮を落とすなんて夢のまた夢だったもんな。 |
| 救世軍A | マークさんに黙ってでもバルバトスさんを追ってきて良かったぜ。 |
| 救世軍B | もう、俺たちアルタミラ移動組を手負いの役立たずだの用済みだのなんて言わせねえよ ! |
| ルック | ……そうだな。 |
| 救世軍B | なんだ、浮かない顔して。ルックだって自分の価値を認めさせたくて俺たちと来てくれたんだろ ? |
| ルック | …………。 |
| バルバトス | おい、マークの腰巾着。さっさとそいつらもメルクリア捜索に回せ。 |
| ルック | こいつらは外してくれませんか。 |
| 救世軍B | 何言ってんだルック ! 俺たちはまだ―― |
| ルック | 最近は魔物だって増えているんだ。無駄死にさせるわけにはいかねぇだろ ! |
| バルバトス | 俺の命令に無駄もクソもねぇ !メルクリアを捜すには数がいる。動ける奴は全員働かせろ ! |
| ルック | そんな…… ! |
| バルバトス | フン、貴様もマークと同じか ?聞けば、貴様らのような戦えぬ連中を飼い殺しているそうじゃないか。 |
| ルック | …………。 |
| バルバトス | 俺はあんな腰抜けとは違うぞ。生きている限りは、貴様ら傷病兵共も一兵士だ。俺の手足として死ぬまで働け。 |
| 救世軍B | 俺たちを足手まといだとは思わないんですか ? |
| バルバトス | 貴様ら虫ケラが、俺の足を引っ張れるとでも ?ハッ、笑わせてくれる ! |
| バルバトス | 戦いたい奴は戦え !蔑む奴には己の価値を見せつけろ !力でねじ伏せ、叩き潰せ ! |
| 救世軍A | バルバトスさん……。 |
| 救世軍B | ……ルック。俺はバルバトスさんに付いていく。この人は、俺たちに生きる意味をくれる人だ。 |
| 救世軍B | 俺は戦うことしかできねえ。それが憐みの目でみられて……役立たずのまま生きるなんて御免だ ! |
| 救世軍A | 俺もだ。必要だと言ってくれる人の所に行くよ。 |
| ルック | …………。 |
| バルバトス | そうだ、その意気だ。さあ行け、メルクリアを引きずり出せ ! |
| バルバトス | 俺を貶めた小娘……ひと思いには殺さんぞ。少しずつ引き裂いて思い知らせてやる。クックックッ…… ! |
| ルック | (……凶暴で残忍な男だ。俺たちのことなんてきっと道具としか見ていない。それはよくわかってる。でも……) |
| ルック | (あの人の背中を追うことで救われる奴もいる。多分、俺もその一人だ) |
| ルック | (だが、このまま突き進んでいいのか ?マークさんに知らせないまま……) |
| 救世軍C | バルバトスさん !お探しのリビングドールと鏡映点に関する研究資料を入手しました。 |
| バルバトス | よこせ !下らぬ研究に俺を利用しやがって……。 |
| バルバトス | ――なんだこれは…… ? |
| バルバトス | おい、腰巾着 !この資料にある名前を知っているか ?こいつらだ ! |
| ルック | ああ、この人なら対帝国部隊のリーダーです。俺たちクラスじゃ噂程度しか知らないですけど英雄だなんて言う人もいるくらいで……。 |
| バルバトス | 英雄……クククッ……ハーッハハハハァ ! !そうか、この世界でも英雄か ! |
| バルバトス | おい、メルクリアと平行してこいつらについても調査しろ。 |
| ルック | その人はメルクリアと関わりがない―― |
| バルバトス | しのごの言わずにさっさと行け ! |
| バルバトス | ……クソみたいな世界だと思っていたがようやく面白くなってきたぜ。なあ、ディムロス、アトワイト ! ! |
| Character | 6話【12-6 帝都へ向かう船】 |
| リアラ | 見て、カイル。港が見えてきたわ ! |
| カイル | やった ! ようやく帝国入りだ。船だと時間がかかるなぁ。 |
| リアラ | そうね。浮遊島アジトのゲートが帝国に繋がっていればもっと早く来られたのに。 |
| ナナリー | 二人ともせっかちだね。まあ、気持ちはわかるけどさ。 |
| ロニ | こういう時こそ余裕を持てよ。今日の俺たちは運がいいんだ。 |
| ロニ | 首尾よく帝国行きの船に乗れたし天気は上々、航路は順調。言うことなしだろ ! |
| ロニ | ……あとはハロルドさえ無事ならな。 |
| カイル | ハロルド……大丈夫かな。行方不明だなんて。 |
| ナナリー | カロル調査室の報告には驚いたよ。アトワイトさんの話じゃあっちで上手く立ち回ってるって聞いてたのにさ。 |
| ロニ | これが帝国から無事脱出してましたってオチなら万々歳なんだけどな。 |
| リアラ | でも、帝国兵にはベルセリオス博士を見つけ次第保護しろって通達されているんでしょう ? |
| リアラ | それって、逃亡者とか罪人とは別の扱いってことじゃない ? |
| ナナリー | 本当のトラブルって線が濃厚か……。それが一番怖いんだけどね。 |
| カイル | きっとハロルドの研究室に潜入できれば何か手がかりがあるはずだよ。 |
| カイル | ああもう、早く帝国に入らないかなあ ! |
| ロニ | まあまあ、港はすぐそこだから……つーかこの船、心なしかスピード落ちてないか ? |
| ナナリー | 落ちてるどころか、止まろうとしてるよ ! |
| ジューダス | おい、まずいことになったぞ。 |
| カイル | ジューダス、どこ行ってたんだ ? |
| ジューダス | ど、どこだっていいだろう。考えごとをする時は一人になりたいんだ。 |
| カイル | 前に船に乗った時もそんなこと言ってたよね。 |
| ジューダス | いいから聞け ! この船はこれ以上港には近づけない。 |
| 四人 | えっ ! ? |
| ジューダス | どこかの帝国の船がシージャックされたそうだ。そのせいで港を封鎖しているらしい。 |
| カイル | シージャック……って誰かが船を乗っ取ったってこと ? |
| ジューダス | ああ。船長たちが大騒ぎしている。このままでは帝国に入るどころか海上で足止めだ。 |
| カイル | そんな……。早くハロルドを助け出さないといけないのに。どうしよう、泳ぐ ! ? |
| ジューダス | 泳ぎきれるような距離か ! 却下だ ! |
| ロニ | くそっ、運が良かったのは船に乗るまでかよ……。 |
| リアラ | わたしの力がエンコードされてなければ……。無理にでも船を動かせたかもしれないのに。 |
| ナナリー | 誰だい、まったく !シージャックなんて迷惑な真似した奴は。時と場合を考えろってんだ ! |
| ロニ | それだと時と場合がよけりゃやっても構わないって聞こえるぞ。 |
| ナナリー | こんな時に余計な口を挟むんじゃないよ ! |
| ロニ | んぎゃーーーー ! 悪かった ! 悪かったって ! |
| ジューダス | 悪かったと思うなら打開策を出せ。その頭では無理だと思うがな。 |
| ロニ | 頭……頭……ボーっとして、それどころ……じゃ……ボーット……ボー……ト……。 |
| カイル | あ ! もしかしてロニ、ボートって言おうとしてる ! ? |
| ジューダス | 救命ボートか ! なるほど。これだけの大型船なら数隻は用意されているはずだ。 |
| ナナリー | へえ。命の危険を感じると頭が回るんだね。 |
| ロニ | し……死ぬかと思った……。よくわからんが、このロニ様に感謝しろよ ! |
| カイル | じゃあオレ、船長に交渉して―― |
| ジューダス | やめておけ。たとえ交渉が上手くいったにしろ無断上陸がバレた時に責任が問われるのはこの船だ。 |
| ジューダス | 船長たちに迷惑をかけたくなければボートを盗まれた被害者にしておいてやれ。 |
| ロニ | へえ、この船の乗組員のことまで考えるなんていいところあるじゃねえか。 |
| ジューダス | まあ、強奪の方が手っ取り早いしな。 |
| ロニ | はは……前言撤回。 |
| ジューダス | ――さて、うまく港に上陸できたはいいがここからどう帝都の中心部に潜入するかだな。 |
| リアラ | ちょっと待って。……何か聞こえない ? |
| カイル | 魔物の声だ ! 一体どこから―― |
| ナナリー | ……あっちだね。ほら、あの大きな排水溝からだよ。 |
| ロニ | こんなところに魔物が棲み着いてんのかよ。どれどれ……かなり深そうだな。まるで迷路だぜ。 |
| ジューダス | 迷路のような通路に魔物か……。もしかして、以前ユーリたちが潜入したという地下通路と繋がっているんじゃないか ? |
| カイル | 戦士の館ってところに通じているんだっけ ?行ってみよう ! |
| ロニ | みんな、気を付けろよ。どこから魔物が襲ってくるか―― |
| | グルァアアアアア ! ! |
| カイル | 危ないロニ ! 後ろ ! |
| ロニ | えっ ! うわあああっ…… ! ……って……あれ ? |
| カイル | あの魔物、ロニのこと無視して行っちゃった。 |
| ナナリー | よっぽど不味そうだったのかね。食われないでよかったじゃないか。 |
| ロニ | うるせー ! けど、なんか変じゃねえか ?って、また魔物 ! ……あれ ? |
| カイル | ……今度も無視 ? |
| リアラ | ねえ、どんどん魔物の数が増えてる…… !なのに、わたしたちには見向きもしないなんて。おかしいわ ! |
| ジューダス | 一様に同じ方向へ走っているようだ。何か起きてるのかもしれない。追うぞ ! |
| Character | 7話【12-9 アスガルド 戦士の館】 |
| カイル | ――ここは…… ! |
| ジューダス | おそらく例の戦士の館とか言うところだろうな。この帝都の中枢部にあたるはずだが……。 |
| ナナリー | 酷い有様だね。館の中を魔物が走っていくよ。しかもこの臭い……。 |
| リアラ | この床の汚れって……血……よね。 |
| ロニ | ああ。一人二人が怪我したって量じゃねえぜ。魔物はこの臭いにつられて館に入り込んだのかもしれないな。 |
| ジューダス | それにしたって異常だ。魔物が暴走するような何かがこの館で起こったとしか思えん。 |
| ナナリー | 誰かの襲撃とか ? |
| ジューダス | わからん。だが恐らく原因はこの先にある。血の跡をたどっていけばわかるだろう。 |
| カイル | ――こんなに魔物がいて館の人たちは無事なのかな。 |
| ロニ | おい ! あの床に転がってるのって……人……だよな……。 |
| ジューダス | 魔物に食い散らかされてバラバラになったのかそれとも戦いで……。 |
| ナナリー | ……しばらく肉料理ができなくなりそうだよ。 |
| リアラ | ……ねえ、待って ! ……嘘 ! ! |
| カイル | どうしたのリアラ ? |
| リアラ | あれ……あそこに落ちてる手……。あの手が握っているのは……。 |
| ジューダス | これか ? 確かに何か握ってるな。 |
| ナナリー | 細いね……子供の手だよ。可哀想に……。ごめんよ、ちょっと見せてもらうね。 |
| ロニ | 妙な形のペンダントだな。それと……なんだこりゃ。イヤリング―― |
| 全員 | ! ! |
| カイル | これ……ハロルドのイヤリングじゃ…… ! |
| リアラ | やっぱり見間違いじゃなかったのね……。ねぇ、まさかハロルドもこんな風にされてるなんてことは―― |
| ナナリー | 馬鹿言うんじゃないよ。きっと大丈夫さ。 |
| カイル | ああ、ハロルドは必ず生きてここにいる。早く見つけてあげなきゃ ! |
| ロニ | 待ってくれ、カイル。……なあ、ジューダス。この右手の持ち主生きていると思うか ? |
| ジューダス | いや。さっき落ちていた臓物がこいつの物ならもう無理だろう。 |
| ロニ | ……だよな。……悪いな。このペンダント、もらってくぞ。仲間の大事な手掛かりになるかもしれねぇ。 |
| ロニ | ――よし、ハロルドを捜そうぜ。もし生きている奴がいたらこのペンダントも見せて聞き込みだ ! |
| カイル | ジューダス、そっちの部屋はどう ? |
| ジューダス | いや、誰もいない。 |
| ナナリー | こっちもだよ。どの部屋ももぬけの空さ。みんな避難した後ならいいんだけど。 |
| ロニ | これじゃハロルドを見つけるどころか聞き込みもできやしないぜ。俺たち、捜す場所を間違えてんじゃねえか ? |
| リアラ | でも、血の跡はこっちに続いているわ。さっきのペンダントの持ち主もこっちの方から来たみたいだし。 |
| カイル | ねえ、この扉、外から鍵がかけられてる。壊しちゃってもいいよね。 |
| ロニ | その大きさじゃ物置かなんかだろ ?どっか別のところを―― |
| ジューダス | いや、念のために確認しろ。 |
| カイル | よし、じゃあ……とりゃっ ! |
| カイル | 開いた ! 中は――うわあああっ ! ! |
| 四人 | ! ! |
| ジューダス | カイル……そいつは…… ! |
| カイル | いてて、なんか転がり出て来た……って…………ハロルド ! ! |
| リアラ | ハロルド、しっかりして ! 酷い傷……。 |
| ジューダス | これは……戦ってついた傷じゃないな。 |
| ナナリー | なら何だってんだい。 |
| ジューダス | おそらく拷問だろう。 |
| ロニ | ……くそっ ! 俺たちがもっと早く来ていれば……。 |
| ? ? ? | ――いやぁああああああっっ ! |
| ロニ | 今の悲鳴……女か ? |
| ハロルド | ……アリ、エ……。 |
| リアラ | ハロルド ! ? 気が付いた ? |
| ハロルド | って……。イ……危な……。 |
| ナナリー | 無理してしゃべるんじゃないよ。 |
| ハロルド | 行って……。イオンが……危な……。 |
| カイル | イオンって、ルークさんたちの仲間の ? |
| ジューダス | 悲鳴はその先から聞こえた。行くぞ。 |
| リアラ | ハロルドはまだ動かせないわ。 |
| ハロルド | いいから……行けって……の。 |
| ナナリー | ロニ、あんたはハロルドを背負いな。リアラ、移動しながら治療を続けられる ? |
| リアラ | できるけど、途中で魔物たちが襲ってきたら……。 |
| カイル | 大丈夫。オレたちを信じて。ハロルドはこれ以上傷つけさせない。 |
| リアラ | ……わかったわ。みんな、お願い ! |
| Character | 8話【12-12 戦士の館 中庭】 |
| カイル | こっちだ ! ……ここは中庭かな ? |
| カイル | っ ! ! なんだ、これ……。 |
| ジューダス | どうした。なにがあった。 |
| 全員 | ! ! |
| ロニ | 見渡す限り死体って……悪夢かよ……。魔物と……こいつらは帝国兵だな。 |
| ナナリー | 誰か ! 生きているなら返事しな ! いないのかい ! ? |
| ジューダス | 無駄だ。全員死んでいる。 |
| ハロルド | 遅かったみたいね……。 |
| カイル | ハロルド、しゃべれるの ? |
| ハロルド | 何とか……。世話かけちゃったわ。 |
| リアラ | 良かった。でも無理はしないで。 |
| カイル | ハロルド、どうしてこんなことになったんだ。 |
| ハロルド | 順を追って話すから、しばらく黙って聞いといて。 |
| ハロルド | まず、私を監禁してたのはイオンよ。と言っても私の協力者のイオンとは別人だけど。 |
| ハロルド | ややこしいから、協力者の方はイオン。私をここに監禁した奴を【被験者イオン】としときましょ。 |
| ハロルド | 被験者イオンが私を攫ったのは下らない理由だから省略。見解の相違ってことでよろしく。 |
| ハロルド | で、私の捜索にあたったのがグラスティンらしいけどあいつ、突然ここを襲ってきたみたいね。 |
| ハロルド | 襲撃を知った被験者イオンは、私を物置に閉じ込めて魔物使いのアリエッタと出ていったわ。あんたたち、どこかで二人を見なかった ? |
| ナナリー | いや、それらしいのはいなかったね。 |
| ハロルド | ……そう。話はこれで終わり。なんか質問ある ? |
| カイル | この魔物はアリエッタが呼んだのかな。 |
| ハロルド | でしょうね。それにさっきの悲鳴もアリエッタだと思ったんだけど……。 |
| ロニ | そうだ。このペンダントに見覚えないか ?おまえの服の切れ端と一緒にあったんだよ。 |
| ハロルド | ペンダント ?……それって―― |
| グラスティン | おや ? ベルセリオス博士 !こんなところにいたのか。 |
| 全員 | ! ! |
| グラスティン | 手間をかけさせやがって。お前を捜すためにこんなにたくさん、肉共を捌く羽目になったぞ ?……さあ、こっちに来い。 |
| ハロルド | 自分で帰るから結構よ。 |
| グラスティン | ヒヒヒ、昔のお仲間がお迎えに来てくれたって訳だ。どっちに帰るつもりなのかなぁ、ベルセリオス博士。 |
| カイル | ハロルドが帰るのはオレたちの所だ !ハロルドは今もオレたちの仲間なんだからな ! |
| グラスティン | ……どけ、肉小僧。お前が邪魔で後ろの綺麗な黒髪が見えないだろうが。 |
| ジューダス | …………ウジ虫が。 |
| グラスティン | なんとでも言ってくれ。これは滾るよ……。極上の黒髪だぁ…… !ヒヒヒヒヒ ! |
| ナナリー | 噂には聞いてたけど、こいつ…… ! |
| ロニ | 実際に見ると鳥肌もんだぜ……。 |
| ジューダス | 無駄口を叩く暇があるならハロルドを避難させろ ! |
| グラスティン | なぁ、そんな醜い仮面を外してお前の美しい黒髪をみせてくれよぉ……。それともはがしてもらう方がお好みかぁ ? |
| ジューダス | カイル、こいつを黙らせるぞ。 |
| カイル | グラスティン…… !ハロルドも、ジューダスも誰も渡さない ! |
| Character | 9話【12-12 戦士の館 中庭】 |
| グラスティン | があああっ…………くそっ……。 |
| カイル | ……どうだ !今度こそもう立ちあがれないだろ ! |
| ジューダス | しぶとい奴だったな。すぐにここを出るぞ ! |
| グラスティン | ――なんてな。まだまだ遊んでもらうぜぇ ? |
| ロニ | またかよ ! さっきから何度も何度も ! |
| ナナリー | 今のは致命傷だったのに……。あいつ、不死身だってのかい ? |
| グラスティン | ヒヒヒ、そうさ。この程度の傷、全て無かったことにできるんだよ。 |
| ハロルド | 無かったって……なるほど、そういうことね。あいつ、精霊装を使ってるんだわ。 |
| カイル | 精霊装 ! ? 精霊装であんなことできるの ? |
| ハロルド | あれはクロノスの精霊装だからよ。時の精霊クロノスの力を使ってバケモノじみた復活を繰り返してるってわけ。 |
| カイル | そんな……。それじゃいくら倒してもキリがないよ ! |
| グラスティン | ヒヒヒ、肉共の頭でも理解できたみたいだなぁ ?だったらそろそろ諦めてくれよぉ、ベルセリオス博士 ! |
| カイル | させるか ! |
| ロニ | ハロルド、何か作戦はねえのかよ ! ? |
| ハロルド | 作戦ね。じゃあ、みんな頑張れ ! |
| ナナリー | なんだいそりゃ ! |
| ハロルド | いいから、キリキリ戦って。ほらジューダス、カイルだけ戦わせておく気 ? |
| ジューダス | 言われなくても ! |
| グラスティン | ヒヒ、黒髪仮面くんかぁ !俺に仮面をはぎ取って欲しいんだろう ?今願いを叶えてやるよ。それから解体だぁ ! |
| ハロルド | ……ふぅ……まったく……。 |
| リアラ | ハロルド、大丈夫なの ?本当は話すのも辛いでしょ。 |
| ハロルド | 平気。……どうせ、あと少しだから。 |
| リアラ | どういうこと ? |
| グラスティン | ヒャーッハハハハ……ハ………… ?………………ガハッ ! ! |
| カイル | え、なんで急に…… ? |
| ハロルド | はい来たーー ! 時間切れーー♪ |
| グラスティン | 何を………した……… ? |
| ハロルド | アホね。単純にバテたのよ。あれだけ力を使って、まだ耐えられると思ってた ? |
| ハロルド | 精霊輪具を使った精霊装はそんな甘い物じゃない。そうそう長く持つわけないでしょ。 |
| ハロルド | なのに黒髪ちゃんに煽られちゃって。執着が過ぎて引き際を誤ったわね。 |
| グラスティン | くくっ……そうか。これは改良の余地ありだなぁ……。 |
| ジューダス | その必要はない。お前はここで―― |
| 帝国兵 | グラスティン様 ! 大至急ご報告があります !グラスティン様はどちらに ! |
| ロニ | 帝国兵 ! こんな時にかよ ! ? |
| グラスティン | ヒヒヒ……。黒髪仮面くんに切り刻まれるのも楽しそうだが、まだ本命に手をつけていないんでなぁ。 |
| グラスティン | ――お前ら、あの肉共を殺せ !おっと、黒髪の仮面のガキは生かしておけよ。 |
| カイル | くっ、帝国兵の数が多すぎる……。 |
| ナナリー | 雑魚は放っときな ! ハロルドは確保したんだ。あたしらは逃げるよ。 |
| ハロルド | 待って ! どうせ逃げるなら―― |
| 帝国兵 | グラスティン様、皇帝陛下からの勅命です。新たな島の具現化が確認されたため急ぎ、アスガルド城へ戻るようにとのことであります。 |
| グラスティン | 島…… ? 何故そんなものを具現化している ?黒衣の鏡士共の仕業か ? |
| 帝国兵 | 残念ながら、詳細は不明です。 |
| グラスティン | ……肉ネズミ共の退治は一時中断か。 |
| グラスティン | この場は引き上げる。具現化された島の調査を優先しろ。 |
| リアラ | ハロルドの言う通り、逃げたフリをして隠れていて正解だったわね……。 |
| カイル | うん。それにしても……島の具現化だって ? |
| ハロルド | さっきの様子だと、グラスティンたちも知らなかったみたいね。あんたたちの鏡士がやったって線は ? |
| カイル | イクスたちじゃないよ。絶対に。 |
| ハロルド | そう。でも色んな可能性を……考えないと…………いけないんだけど…………ちょっと……きゅーけー…………。 |
| カイル | ハロルド ! ? |
| リアラ | 大丈夫、寝てるだけ。このままにしておきましょう。かなり無理をしていたはずだから。 |
| カイル | ……そうだね。じゃあオレ、イクスたちに具現化のこと知らせておくよ。 |
| カーリャ・N | 美味しいです……。このチョコレートケーキ…… ! |
| カーリャ | やりましたね、ミリーナさま ! |
| ミリーナ | ええ。ネヴァンに喜んで欲しくて一生懸命焼いたのよ♪ |
| カーリャ・N | 小さいミリーナ様……。 |
| クレア | イクス、ミリーナ、大変よ !通信室で新しい島の具現化を確認したわ ! |
| 一同 | ! ? |
| コーキス | あれ ? マスター、カイル様とフィル様からも魔鏡通信が来てるぞ ? |
| カイル | イクス ! 色々報告があるんだけど新しい島が具現化されたって話は本当 ? |
| フィリップ | イクス、ミリーナ、見たかい ! ?かつてビフレストのあった海域にオーデンセ島が具現化されているんだ ! |
| イクス | な……何だ ? 何が起きてるんだ ? |
| ミリーナ | 順番に話を聞きましょう。まずカイルたちから―― |
| イクス | ――状況はわかったよ。ありがとうカイル。気を付けて帰ってきてくれ。 |
| カイル | うん。具現化された島のこと、よろしくね。 |
| イクス | ……そういうわけだ。今の話、そっちにも聞こえてたよな。 |
| フィリップ | ……ああ。帝国の仕業ではないなら具現化可能なのは、オーデンセをよく知るジュニアくらいのものだけど……。 |
| フィリップ | ここで考えていても仕方ない。僕たちはすぐに現地に向かうよ。君たちはどうする ? |
| ミリーナ | もちろん私たちも行くわ。ね、イクス。 |
| イクス | ……あ、ああ。そうだな。 |
| フィリップ | ……わかった。すぐに迎えに行くよ。来てくれてありがとう……イクス。 |
| イクス | ………………。 |
| ミリーナ | 驚いたわね、イクス。魔鏡通信で見た限りでは私たちが暮らしていたあのオーデンセそのものに見えたわ。 |
| イクス | アスガルド帝国の帝都もこの浮遊島もオーデンセをモチーフに具現化されているみたいだけど今回は……正真正銘オーデンセ、なのかな。 |
| イクス | (正真正銘のオーデンセって何なんだろう。俺もこの世界もオーデンセも……全てがまやかしみたいなものじゃないか……) |
| Character | 10話【12-13 オーデンセ港】 |
| コーキス | ここがオーデンセか。マスターやミリーナ様が生まれた場所なんだな。 |
| ミリーナ | ええ、そうよ。懐かしいわ。この景色……。 |
| カーリャ | カーリャも覚えていますよ。イクスさまとの初対面もこの港でした。ね、イクスさま ! |
| イクス | え ? ああ、そうだったよな。 |
| カーリャ | ありゃ、違いましたっけ ? |
| イクス | いや、間違いないよ。俺は三人目でカーリャと出会った後に具現化されたみたいだけどちゃんとカーリャと会った記憶は残ってるからさ。 |
| カーリャ | あ…… ! あの、ええと……。 |
| ミリーナ | イクス、ごめんなさい。カーリャは変な意味で言ったんじゃないの。 |
| イクス | ! ! |
| イクス | ち、違うんだ。ごめん。俺もそんな当てつけとかじゃなくて……。 |
| イクス | 突然オーデンセが現れて思ったより混乱してるみたいだ。……ごめんな、カーリャ。 |
| フィリップ | …………。 |
| マーク | ――さ、仕切り直しだ。俺たちは調査に来たんだろ ?さっさと始めようぜ。 |
| コーキス | そっ、そうだよ !なあマスター、色々と案内してくれよ。俺はこの島のこと何もわからねえし。 |
| コーキス | そういや、アトワイト様とネヴァンパイセンは ?まだケリュケイオンから降りてこないのか ? |
| カーリャ・N | すみません。お待たせしました。 |
| アトワイト | 何が起こるかわからないからネヴァンさんに手伝ってもらって色々と準備をしていたの。 |
| コーキス | アトワイト様がついてきてくれて安心したよ。最近のマスター、やっぱり変だからさ……。 |
| アトワイト | コーキスさんが安心してくれるなら何よりだわ。それに私もイクスさんの体調は気になってたの。 |
| アトワイト | 特に鏡士は無茶をする傾向があるみたいだから医療面でのサポートには念を入れないとね。 |
| 三人 | わかる……。 |
| カーリャ・N | …………。 |
| マーク | どうしたネヴァンパイセン。あさっての方を見て。 |
| カーリャ | なにか美味しそうなものでも見つけました ?……もしも~し。先輩 ? 先輩ってば~ ! |
| カーリャ・N | ここは、私たちのオーデンセです……。 |
| コーキス | パイセンのパイセンもそれかよ。みんなもう驚き飽きたとこだぜ ? |
| コーキス | あっ、どこ行くんだよ。ネヴァンパイセン ! |
| マーク | 俺には何だかんだうるさいくせに、自分はこれだよ。おーい、勝手な行動は慎めっての。パイセーン。 |
| カーリャ・N | やっぱり……。ミリーナ様、イクス様……。 |
| ミリーナ | ネヴァン、その樹がどうかしたの ? |
| カーリャ・N | ……これを見て確信しました。 |
| カーリャ・N | ここは、初代のイクス様とミリーナ様だけが知るオーデンセです。間違いありません。 |
| 三人 | ! ! |
| イクス | なんでそんなことがわかるんだ。 |
| カーリャ・N | この木がその証明です。 |
| イクス | 俺と、ミリーナの名前が彫ってある……。それに日付も……。 |
| イクス | ……え ! ?……ってことは……。 |
| ミリーナ | イクス……。それじゃ、私たち…… ! |
| フィリップ | …………そう、だったんだ。はは……。 |
| マーク | ………………。 |
| コーキス | どうしたんだ、みんな。 |
| アトワイト | これに何か重要な意味があるの ? |
| カーリャ・N | オーデンセでは、結婚を決めた二人が木の幹に名前と日付を彫る習慣があります。 |
| カーリャ・N | この日付は、イクス様がミリーナ様に結婚を申し込んだ日……です。 |
| コーキス | けっ、結婚 ! ? |
| カーリャ | ミリーナさまとイクスさまが ! ? |
| カーリャ・N | はい。当時、イクス様は十七歳でした。初めて長期の漁に出ることになった時にミリーナ様にプロポーズなさったんです。 |
| カーリャ・N | イクス様は、お祖父様から鏡士になることを反対されていました。でも、必ず説得するから鏡士になれたら結婚して欲しいと仰って……。 |
| カーリャ・N | 私は物陰から見ていましたがお二人とも、本当に、本当に、幸せそうでした……。 |
| 二人 | …………。 |
| イクス | (それって……二人目の俺がカーリャと初めて出会ったあの日……だよな ? でも二人目の俺はプロポーズする気配なんてなかった) |
| イクス | (二人目と俺は……性格を変えられてしまったからか ?それにカーリャが生まれた時期もゲフィオンとミリーナで違うみたいだし……) |
| カーリャ・N | ……この話を知る者は、もう私以外にはいません。フィル様も知らないはずです。この頃にはもう、オーデンセにはいませんでしたから。 |
| フィリップ | ……そうだね。初耳だよ。 |
| イクス | 待ってくれ。だったら、このオーデンセは誰が具現化したんだ ! ? |
| イクス | フィルもジュニアも知らないんだろう ?ゲフィオンは人体万華鏡になったままだ。それなら後は……。 |
| コーキス | 最初のイクス様か ! ? |
| ミリーナ | まさか、生きているの ! ? |
| フィリップ | そんなはず―― ! |
| 帝国兵 | お待ちください ! このままでは、我々は反逆者になってしまいます。どうか一度帝都へ戻り船の正式な出港許可を得てください ! |
| メルクリア | なにを言う ! わらわは皇女じゃ。わらわの命で船を動かして何の問題がある ! |
| 帝国兵 | ですが、帝国では恐らくこの船を奪われたものとして捜索しているはずです。ですから―― |
| 全員 | ! ! |
| ミリーナ | メルクリア…… ? どうしてここに…… ! |
| メルクリア | お前たちは……黒衣の鏡士の郎党共 ! ! |
| イクス | 先に島へ乗り込んでいたのか ! |
| メルクリア | ……兄上様の仇 !よくもその顔をわらわの前にさらしてくれたな ! |
| ミリーナ | 待って ! あなたとは―― |
| メルクリア | 黙れ ! 消し炭にしてくれるわ ! |
| Character | 11話【12-14 オーデンセ港】 |
| ルキウス | やめるんだ、メルクリア ! |
| メルクリア | ルキウス ! しかし…… ! |
| イクス | ルキウスって、確かカイウスの……。 |
| ミリーナ | ええ、弟さんだわ。カイウスにそっくり。 |
| ルキウス | メルクリア、こんなことをしている時間はないんだ。はやくこの島を出ないと。 |
| メルクリア | くっ……、行くぞ ! 全員、船に乗り込め ! |
| ルキウス | 君たちも早くこの島を離れた方がいい。もうすぐビフレストがこの場所に復活する。 |
| イクス | ビフレストが復活って……どういうことなんだ ! |
| ルキウス | 島に残ればキメラ結合に巻き込まれる。そうなれば命はない。……きっと、メルクリアもそれは望まないから。 |
| メルクリア | ルキウス、早く乗るのじゃ ! |
| ルキウス | 忠告はしたよ。イクス。 |
| イクス | 待ってくれ ! 君はカイウスの弟だろう。カイウスはずっと君を心配して―― |
| コーキス | 駄目だ、船が出ちまう ! 追うか、マスター ! |
| イクス | いや、オーデンセをこのままにはしておけない。ビフレストの具現化を止めないと ! |
| カーリャ・N | 追跡は私に任せてください。 |
| アトワイト | ネヴァン、一緒に行くわ。あなたたちは鏡士として事態の収束を優先して。 |
| イクス | 無茶だ ! ネヴァン、アトワイトさん ! |
| カーリャ | あわわ……、二人とも船に乗っちゃいましたよ !どうしましょう……見つかっちゃったら……。 |
| マーク | いや……。騒ぎが起こらねえ。ってことは上手く密航できたってことだろ。さすが軍人さん……と、俺のパイセンだな。 |
| イクス | ……アトワイトさんたちの方は信じて任せよう。俺たちは具現化を阻止しないと。 |
| イクス | ――フィル、見通しはどうだ ? |
| フィリップ | ……大がかりな具現化にキメラ結合だ。これには仕掛けが必要なはずだよ。解除すれば具現化は阻止できる。 |
| ミリーナ | この島のことは隅々まで知っているわ。仕掛けるための最適な場所も検討はつくから大丈夫。 |
| コーキス | でもあいつら、時間がないって言ってたぞ。間に合うのか ? |
| イクス | 大丈夫。まだ具現化は始まらないよ。 |
| イクス | メルクリアだって、自分たちが巻き込まれないようにこの海域から離れる時間を考慮しているはずだ。その時間内で処理できる。 |
| イクス | それに最悪の事態になったら俺がみんなを転送ゲートでアジトに連れ帰る。 |
| イクス | まずは既存の島に新たな島をキメラ結合させる場合に想定される魔鏡装置とその設置場所の洗い出しだ。始めるぞ。ミリーナ、フィル ! |
| ミリーナ | ええ ! |
| フィリップ | あ、ああ……。 |
| マーク | どうしたフィル。呆けたツラして。 |
| フィリップ | ……なんだかまるで僕の知るイクスが甦ったように思えたんだ。 |
| フィリップ | 三人目のイクスは僕のせいで苦しんでいるのにそれでも、もがいて前に進もうとしている。それに比べて僕は……何をしているんだろう……。 |
| マーク | 何もしてないなら、何かすればいいんじゃねぇの ?何もしないより遥かに酷いことをしてるけどな。それでも、やれることはあるだろ ? |
| マーク | 頼むから、俺を切り離して死のう……ってのはやめてくれよ ? |
| フィリップ | ……そうできたら、どんなにか楽だろうね。その前に、僕の命の方が尽きそうだけれど。 |
| マーク | ………………。 |
| コーキス | ――おーい、フィル様 !フィル様が知恵を出してくれないと話が進まないぞ ! |
| フィリップ | ――ああ、わかってるよ。この計画がメルクリアの手によるものならこの具現化はビフレスト式だろう。 |
| フィリップ | それにメルクリアはビフレストを知らない。恐らく彼女の想像のビフレストを具現化させるつもりだろう。 |
| フィリップ | それなら、手段は限られる筈だ。オーデンセの地図を魔鏡に映してくれ。それで指示するよ。 |
| Character | 12話【12-15 ハロルド】 |
| ハロルド | ――へえ、ゲートねえ。そんなものまであるんだ~。このアジト、調べ甲斐がありそう。 |
| リアラ | しばらくは大人しくしてて。傷が全部治ったわけじゃないんだから。 |
| ナナリー | そうだよ。さっきまで死んだみたいに眠ってたんだ。少しは自重しな。 |
| カイル | ねえハロルド。話の続きだけど罠って帝国の中に仕掛けたの ? |
| ハロルド | あ、そうそう。あっちこっちにね。結構苦労したのよ ? |
| ハロルド | けど、それも私が帝国を離反したことでバレちゃったかもしれないなーって。 |
| カイル | ……悔しいな。ハロルドは敵の中でこんなに頑張ってくれてたのに。 |
| ハロルド | まあ、そうは言っても全部は見つけられないはずよ。 |
| ハロルド | この私が全身全霊心を込めて組んだ罠だもん。名づけるなら、帝国切り崩しネットワークってとこかしら。 |
| ハロルド | これは役に立つはずよ。今すぐじゃなくても、じわじわと必ずね。グフフフフ……。 |
| ロニ | 言い方が怖いんだよ……。まるで帝国に毒盛ってやったみたいな口振りだぜ。 |
| ジューダス | おまえにしては言い得て妙だ。ハロルドのように、腹に一物ある奴が帝国内には多く潜んでいるようだからな。 |
| ハロルド | そうそう。敵だと思っていても、ある日突然仲間に !なんて展開があるかもしれないわよ ? |
| リアラ | 敵……。もしかしたらエルレインも……なんてことは。 |
| ロニ | いやいや、あの聖女様が味方になんてありえねえって。もしそうなったら裸でアジトを走りまわってやるよ ! |
| ナナリー | 誰も見たかないよ、そんなお粗末な物 ! |
| ロニ | 誰が粗末だ ! いつ粗末って知った ! |
| ジェイド | おや、ずいぶんと賑やかだと思ったら無事に戻っていたんですね。 |
| カイル | ただいま、ジェイドさん。ええと、こっちが―― |
| ジェイド | ハロルドですね。お噂はかねがね。私のことはジェイドと呼んで下さい。 |
| ハロルド | ああ、あんたが『あの』ジェイドね。その名前、ディストの口からやたら聞いたわ。 |
| ジェイド | それはおそらく幻聴でしょう。もしくは、我々には感知しえない何かの声……なのかもしれません。 |
| ロニ | ゆ、幽霊とかの話じゃねえよな ? |
| カイル | ロニ、びびってるー ! |
| ジェイド | はっはっはっ。幽霊などとアレを一緒にしては幽霊に失礼ですよ。幽霊にも矜持はあるでしょうから。会ったことはありませんが。 |
| ジェイド | さて、冗談はさておき、後ほどあなた方の報告を聞かせて頂けるとありがたいのですがね。 |
| ジェイド | ハロルド救出の経緯と帝国の状況も把握しておきたいので。 |
| カイル | あ……そうだ !このペンダントのことも調べなきゃ。 |
| ジェイド | ! ! |
| ロニ | それか……。そいつを使ってハロルドの居場所を聞き込もうと思ってたのにな。死体だらけで、それどころじゃなかったぜ。 |
| ジェイド | 随分と凄惨な現場だったようですね。そのペンダントの持ち主も亡くなっていたのですか ? |
| ナナリー | ……酷い有様だったよ。 |
| ジェイド | なるほど。一応、確認のために預からせて頂けますか ? |
| カイル | はい。どうぞ。 |
| ハロルド | ……………。 |
| ジェイド | ……………。 |
| ハロルド | は~、それにしても疲れたわ。なんかお腹もへった気がするし。あんたたちは平気なの ? |
| カイル | そういえばへってる ! |
| ナナリー | じゃあ、あたしが何か作るよ。ハロルドの分はここに持ってくるかい ? |
| ハロルド | ひと眠りしてからにするわ。あんたたちは先に食べてきて。 |
| リアラ | じゃあ、お先に。ゆっくり休んでね。 |
| カイル | あ、ジェイドさんも一緒にどうですか ? |
| ジューダス | ……そいつが人間の食べるものを食べるとでも思っているのか ?放っておけ。 |
| カイル | ええっ ! ? |
| ジェイド | さすがの察しの良さですね。まあ、ひどい言われように傷つきましたが。 |
| ハロルド | ……それ、イオンのペンダントでしょ。 |
| ジェイド | ええ。 |
| ハロルド | さっき聞いたとおりよ。そのペンダントの持ち主は内臓の一部と手だけしか残っていなかった。 |
| ジェイド | あなたは、どちらのイオンだと思いますか ? |
| ハロルド | 何とも言えないわね。 |
| ハロルド | そもそも私が捕まったのは被験者イオンを、レプリカイオンだと思ってのこのこついて行ったからよ。 |
| ジェイド | 本気で成りすまされたら見分けはつきませんよ。双子ではなく、同一人物ですからね。 |
| ハロルド | 同情はお断り。凡ミスなのは自分でわかってるから。 |
| ハロルド | あの時、現場にいたのは被験者イオンよ。でもレプリカイオンが私を助けにきていたとしたら ?レプリカイオンならありえるでしょ。 |
| ジェイド | ………………。 |
| | アスガルド帝国 近海 |
| 救世軍バルバトス派 | すげぇ……。バルバトスさん、相手の船にこっちの船首を突撃させるなんて。 |
| バルバトス | 出て来い、メルクリア ! どこに隠れていやがる ! |
| バルバトス | おい、救世軍の役立たずども !メルクリアは本当にこの船に乗っているんだろうな ? |
| 救世軍バルバトス派 | ま、間違いありません !皇女がこの帝国船で帰ってくると報せがあったんです ! |
| バルバトス | ならメルクリアが出てくるまでの間この船の兵を一人づつ海に捨てる !無論、手足は縛ったままでな ! ! |
| バルバトス | 聞こえているか、メルクリア ! |
| アトワイト | (一体なにが起きてるの ? 誰がこんなことを……) |
| バルバトス | 貴様はアトワイト…… ? |
| アトワイト | バルバトス……なぜあなたがここに ! ? |
| バルバトス | くくく……これはこれは……。思わぬところで巡り合ったものだ。 |
| アトワイト | ……バルバトス、まずは武器を納めなさい。これ以上の暴挙は許さないわ。 |
| バルバトス | 久しぶりに会ったというのにつれないことを言う。戦を共にする同士ではないか。 |
| アトワイト | …… ? あなたはもしかして……。 |
| バルバトス | 共に再会を喜び会おう。……なあ ? アトワイトオオオオッ ! |
| アトワイト | ―――― ! ! |
| | to be continued |