Character1話【13-1 船上】
バルバトスどうしたアトワイト ?先ほどまでの威勢が嘘のようではないか ?
アトワイト……くっ、何とでも言いなさい。あなたが聞きたかったことは全部話したつもりよ。
バルバトス派救世軍兵士あの、バルバトスさん……。この女の人、誰なんですか…… ?バルバトスさんは知り合いだったみたいですけど……。
バルバトス貴様らのような死にぞこないが知ってどうするっ !つべこべ言わずに、この女をどこかの部屋に閉じこめておけ !
バルバトス派救世軍兵士はっ、はい !
バルバトスマークの腰巾着 ! この女の話は聞いていただろう。すぐにメルクリアたちが逃げた大陸に船を向かわせろ ! 今すぐだ !
ルックわ、わかりました。ただ、ここからメルクリアたちが逃げたっていうファンダリア領まで向かうとなるとそれなりに時間がかかります……。
バルバトスふん、まあよかろう。
バルバトス転送魔法陣なぞ使って船から逃げ出したようだがディムロスたちがいる大陸を選ぶとはなかなか気が利くではないか。
バルバトスメルクリア ! ! そしてディムロスっ ! !待っていろ、すぐにまとめて俺が殺してやる ! !
バルバトスクク、クククククッ !アーッハッハッハッハッ ! !
カーリャ・N――お待たせしました。見回りの兵たちはここから離れたようですが念のため、しばらくは大人しくしていてください。
ルキウスありがとう。きみが手を貸してくれなければボクたちも今頃、乗っていた船と一緒に海の底に沈んでいたかもしれない。
ルキウスでも、ボクたちをかばって戦った兵たちの中には……。
カーリャ・N……今は考えないことです。まずは現在の状況をお伝えしておきます。
カーリャ・Nこの船は、アトワイト様が流した嘘の情報によりあなた方が逃げたことになっているファンダリア大陸に向かっています。
カーリャ・Nなので私たちは港に着き次第タイミングを見計らって次の行動に移ります。いいですね ?
ルキウスああ。今はきみの指示に従うよ。
メルクリア……何故じゃ。
ルキウスメルクリア ?
メルクリア何故わらわたちを助けるような真似をするッ ! !貴様らにとって、わらわは敵ではなかったのか ! !
カーリャ・Nそれは……。
メルクリア答えろっ ! ! さもなくば、わらわはすぐにでも貴様をここで八つ裂きにしてくれるぞ ! !
カーリャ・N……そうですね。私には、あなたを助ける義理などありません。
メルクリア! ?
カーリャ・Nですが、あなたを助けることはミ……ゲフィオン様の望みなのです。
メルクリアゲフィオン……じゃと ?
ルキウスゲフィオン……ビフレストを滅ぼした鏡士……。
メルクリア戯言を抜かすでないッ ! ! ゲフィオンがビフレストの皇女であるわらわを助けようなどと思うはずがなかろう ! !
メルクリアあやつはわらわの大切なものを全て奪っていったのだ !故郷も、民も、母上様や兄上様さえも…… !そのような者に慈悲の心があるとでも言うのかっ !
カーリャ・Nあなたに話しても理解してもらえるとは思いませんしゲフィオン様も理解されたいとは思わないでしょう。
メルクリア何じゃと…ッ ! ?
ルキウス落ち着くんだ、メルクリア。こんなところで争っている場合じゃない。
ルキウスボクたちの置かれている状況がわからないメルクリアじゃないだろう ?
メルクリア……う……しかし……。
カーリャ・Nそれに、今回あなたを助けようと決めたのは私だけではありません。
カーリャ・N捕まったアトワイト様は、私のように私情ではなく人としてあなたたちを見捨てるわけにはいかないと自ら囮となってくださいました。
カーリャ・Nあなたは、そのアトワイト様の行動さえ無駄にしようというのですか ?
メルクリア…………ッ !
カーリャ・Nそれでも私に刃を向けたいというのならあなたもそれまでの人間ということ。私も全力で相手をしましょう。
メルクリア…………今回だけじゃ。今回だけは、貴様らに従ってやる……。

Character2話【13-1 船上】
イクス水鏡の森……。具現化に必要な仕掛けがありそうな場所で調べていないのは、ここだけだ。
ミリーナ当たり前だけど、やっぱりこの森の景色も同じなのね。歩いてるとイクスやフィルと一緒にピクニックへ行ったりしたことを思い出すわ。
フィリップあ、ああ……懐かしいね……。
ミリーナ確か、魔物が出るからって言われて、それ以来あまり水鏡の森には近づかなくなったのよね ?
フィリップミリーナ、それは……。
イクス……ミリーナ、その話は後でゆっくりしよう。今は一刻も早く仕掛けを見つけるんだ。
ミリーナそうね。ごめんなさい、懐かしくてつい……。
コーキスん ? なぁマスター。あっちのほう、何かチカチカ光ってないか ?
イクスあれは……魔鏡が反射する光だ !ということは……。
マークようやく見つかったか。
フィリップああ、間違いない。ここに設置された魔鏡は具現化の魔鏡陣の力を増幅させるためのものだ。
カーリャやりましたね ! では、ちゃちゃっとこの魔鏡陣を何とかしちゃいましょう !
フィリップ……いや、どうやらそう簡単にはいかないみたいだ。
コーキスまさか、フィル様でも解除できない術式なのか ! ?
フィリップいや、正確には術式自体はなんとかできると思う。ただ、それを実行するために必要な段取りが少々厄介なんだ。
イクス教えてくれ、フィル。どうすればビフレストの具現化を止められるんだ ?
フィリップまず、この魔鏡陣を書き換えたり消しただけではビフレストの具現化とキメラ結合は止まらない。
フィリップ魔鏡陣の構成を考えるに、オーデンセの具現化とビフレストとのキメラ結合は各具現化大陸からキラル分子を吸い上げて行われている。
フィリップおそらく、ビフレストの具現化を止めるには各具現化大陸に仕掛けられた魔鏡を破壊する必要がある。
フィリップそれも、一つだけじゃない。各大陸に数ヵ所、必要な数の魔鏡を設置しているはずだ。
マーク面倒くせえやり方しやがって。こりゃ人海戦術で挑むしかねえな。
イクスフィル、ビフレストの具現化が完了するまで、あとどれくらいなんだ ?
フィリップ……時間的猶予はない。具現化は今も少しずつ進行しているんだ。すぐにでも各大陸とのリンクを切らないと……。
コーキスなるはや……って奴だな !
ミリーナイクス、急いでアジトのみんなに連絡して協力してもらいましょう !
イクスああ !
ユリウスわかった。すぐに人員を手配する。何かあればこちらからも連絡をするようみんなには伝えておこう。
イクスありがとうございます。俺たちは具現化を止める準備をしておきますからみんなによろしく伝えてください。
リッド大陸ごとにある魔鏡の破壊ねえ。こりゃあ、骨が折れそうな仕事だぜ。
ガイアス魔鏡があると思われる場所は既にイクスたちが見当をつけてくれている。だが……。
セネル問題は時間だな。この浮遊島からケリュケイオンとゲートを使うにしても全部の場所を回るとなると、かなり厳しいぞ。
リッドああ、ゲートで各大陸に行けたとしてもそっから魔鏡の場所まで遠いとこだってあるしな。
ガイアス俺だけならミュゼに運んでもらうという方法も可能かもしれんが、それだけでは足りんだろう。
リッドあんたが運ばれてるとこ想像するとすげーシュールだな。
フィリップいや、もっといい方法がある。
リッドフィリップにマーク ! ?お前ら、イクスたちと一緒じゃなかったのかよ ?
フィリップついさっきまではね。きみたちがイクスから連絡を受けている間に僕たちは鏡士が使う転送ゲートでここに来たんだ。
セネルそれって……かなり体力を消耗するから緊急時以外は使うなって言われてるやつだろ。大丈夫……なのか ?
フィリップ緊急事態だからね。それにこれでも僕はこの世界で一番の鏡士だよ。大丈夫さ。
マーク…………。
フィリップ時間が惜しいから手短に話すよ。きみたちをこれから、僕の転送魔鏡術で各地の魔鏡設置ポイントに送り込む。
セネル帝国の連中が使ってる魔鏡術か。確かに、それなら時間はかなり短縮できるな。あんたがそれを使えるとは思わなかった。
フィリップあれはビフレスト式の魔鏡術でね。本来は事前準備が必要なんだが今回はそれを飛ばして行う。
フィリップだから片道切符になってしまうしもしかしたら危険な場所に転送されるかも知れない。それに、帰りは自力で帰ってきてもらうことになる。
リッドいや、十分だぜフィリップ。それなら何とかなるんじゃねえか ?
ガイアス……お前は、本当にそれでいいのだな ?
フィリップこれでもビクエだからね。たまには年配者の威厳ってものを見せておかないと。
ガイアス……わかった。では俺たちも仲間を集めて準備に取り掛かろう。
ガイアスユリウス、お前はアジトに残り全体の指揮を頼む。ジェイドは色々と忙しそうだからな。
ユリウス了解だ。では、各大陸への転送は五分後。その間に出来る限りアジトのみんなに情報を共有しておこう。
フィリップ――マーク。
マーク……何だよ。
フィリップありがとう、何も言わないでいてくれて。
マーク…………この馬鹿マスターが。

Character3話【13-2 テセアラ領 領主の館1】
テセアラ領・領都アルタミラ
イオン ?リヒター、なぜ僕が領主と面談が許されないのか詳しく教えてもらえないかな ?
リヒターβ現在、各大陸の領主が次々と襲われていると報告を受けている。同時に、帝都で保管されていた心核もいくつか持ち去られたという話だ。
イオン ?その犯人が僕だとでも言いたげな態度だね。そんなことをするのは、出来損ないの【レプリカ】のほうじゃないのかな。
リヒターβああ、我々もその線で動いている。だからこそお前が『あの』イオンだと証明できない限り領主であるリーガルの元へは行かせられん。
イオン ?……つまり、この僕が【被験者】ではない、と言いたいのか。
リヒターβその通りだ。
イオン ?困ったね。信じてもらえないとなるとお前を力尽くでどかすしかないってことだから。
イオン ?まあ、どうせ、リビングドールβなんて汎用型のオモチャだし、壊してもかまわないか。
リヒターβ……待て。わかった。俺から話をつけてこよう。
イオン ?ふうん。出来損ないのオモチャでも恐怖心があるんだ。面白いね。
リヒターβ……但し、一つ聞いておくことがある。お前は自分がいつ頃この世界に具現化されたか覚えているか ?
イオン ?……おかしなことを聞くね。僕が具現化されたのはハロルドと同じ頃だったはずだけど。
リヒターβ……そうか。
イオン ?無駄口を叩いている暇があったら早く領主であるリーガルに――
リヒターβ――はああっ !
イオン ?なっ ! ?
リヒターβ……上手く避けるじゃないか。身体が弱いと聞いていたのだがな。レプリカイオン。
イオンどうして……僕が【被験者】じゃないとわかったのですか ?
リヒターβお前たちに伝わっていた情報には齟齬がある。被験者と呼ばれた方は、もっと前に具現化された。あのディストによってな。
イオン……なるほど、迂闊でした。
リヒターβさて、大人しく捕まってもらおうか。
イオン……そうはさせません !
リヒターβなにっ ! ? これは…… ! !ぐううううっっ…… ! !
イオン――ダアト式譜術。万が一の為あなたが来るまでの間に準備をしておきました。少しの間だけ、眠っていてもらいますよ。
イオン(……心核を入れ替えて……)
イオン――よし、これで大丈夫なはずです。あとは……。
帝国軍兵士おい、どうした ! ?物騒な物音がしたようだが……。
イオン! !
リーガルβ貴様……リヒターに何をした ?
イオン(……この人数相手にもう一度ダアト式譜術を使う……か ?)
リーガルβそいつを捕らえろ。詳しい話を聞く必要がある。
イオン(上手くいけばリーガルの心核も戻せるかもしれない。でも僕の体力が持つか……)
? ? ?助けが来る……。
イオン……なるほど、そうですか。
リーガルβお前、何を笑っている ?
イオンいえ。どうやら助けが来てくれるようなので。
ロイドうおっ ! ? すげーな ! !本当にパッとついちまったぜ ! ?
帝国軍兵士なっ、なんだ ! ?転送魔法陣 ! ? こんな所に ! ?
マルタちょっと ! 周りが帝国兵だらけじゃない ! ?
エミルな、なんでこんな状況になってるの ! ?
リーガルβなるほど、仲間がいたのか。
エミル――え ! ? リーガルさん ! ?
ロイドリーガル ! ! どうしてこんな所に……ってそもそもここはどこなんだ ?アルタミラ付近に飛ばすって話だったけど。
ミトス領主の館……じゃないかな。だとしたら、テセアラ領の領主はリーガルでリビングドールβにされてるってことになるけど。
ロイド……そういうことかよ。だったらここでとっ捕まえてアジトに連れて帰ればリーガルを助けられるってことだな !
帝国軍兵士リーガル様 ! ここは我々が !
リーガルβわかった。後は任せるぞ !
ロイドあっ、おい ! ! 待てよ ! !
ミトスロイド、深追いは禁物だよ。ボクらの目的は――
ロイド……ビフレストの具現化を食い止める。分かってるさ。
帝国軍兵士侵入者共が何をガタガタと !みんな、かかれ !

Character4話【13-5 テセアラ領 領主の館4】
ロイドよし、これで片付いたな。
ラタトスク……ちっ。数が多すぎて時間がかかっちまった。
ミトス――ねぇ、その顔……。もしかしてイオン ?鏡映点リストで見たよ。被験者かレプリカの方かは分からないけど。
イオンああ……。はい、レプリカの方……です。証明できるものはありませんが……。
ロイドレプリカ…… ?てか、お前、顔が青いの通り越して白いぞ ! ?大丈夫か ! ?
イオン……すみま……せん。少し休めば大丈夫……。それより、あちらの彼を……。
マルタエミル、見て ! ? あそこで倒れてる人って ! ?
エミルリヒターさん ! ? どうして ! ?
イオン彼は……気を失っているだけです。リビングドールβに……されていたので心核を……戻しま……
マルタちょっと ! 全然大丈夫じゃないじゃない ! ?顔も真っ青だよ ! ?待ってて、すぐに治癒術を……。
イオンはぁはぁ……申し訳、ありません……。少し無理をしてしまったようです。
イオンあなた方は……ジェイドたちの……仲間ですよね。どうか、リヒターをあなたたちのアジトまで送り届けてくだ……さ――
ロイドおい ! しっかりしろ ! !
ミトス気絶しただけだよ。命に別状はない。とはいえ、このままって訳にもいかないね。
エミル魔鏡陣の仕掛けを壊すんだよね。でもリヒターさんが……。
ラタトスクリヒターなんざ、どうでもいいだろ。
二人よくないだろ !
エミル――え ? ミトス ?
ミトス……何 ? リヒターはハーフエルフなんだから心配して当然でしょ。それにイオンもボクらと似たようなものだし。
ロイド………………。
ラタトスクだが、どうする ? アジトに帰るゲートは魔鏡が設置されている場所とは逆方向だぞ。
マルタ手分けしたらどうかな。リヒターたちをアジトに連れて帰る組と魔鏡陣の仕掛けを壊す組と。
ロイドミトス。お前がエミルとマルタと一緒にこのイオンって人とリヒターを運んでやってくれよ。
エミルそれじゃあロイドが一人になっちゃうよ ! ?
ミトス……本当に、嫌なやつ。
ロイドな、なんだよ ? 俺、そんな嫌なこと言ったか ?だってミトスはイオンのことなんかわかってるみたいだったし。
ロイドリヒターのことはエミルとマルタが知ってるだろうし。それに、この二人を運びながら戦うとなると人数は多い方がいいだろ。
ラタトスク――テネブラエ。
テネブラエはい、お側に。
ラタトスクお前、ロイドについていってサポートしてやれ。俺たちは急いでこの足手まとい共をアジトに運ぶ。
ロイドよし、決まりだな。テネブラエ、頼むぜ !
テネブラエノイシュさんからいつもロイドさんのことは聞いていますからね。おまかせ下さい。
マルタじゃあ私、ジーニアスたちにも一応連絡しておくね。いざという時にロイドのサポートができないか確認してみる。
ロイドああ、頼む。それじゃあ、俺は例の仕掛けってやつを探しにいくか !
ミトスロイド……。
ロイドん ? 何だ ?
ミトス……せいぜい必死であがくといいよ。疲れ切って帰ってくるのを楽しみにしてるから。
ロイドおう。あがくのは得意だからな。
バルバトスようやく着いたか。もうすぐだ、もうすぐでお前に会えるぞ……。
バルバトスおいっ ! お前たち ! ! ディムロスだ ! !まずはディムロスという男がどこにいるのか捜し出せ ! !
バルバトス派救世軍はいっ !
バルバトスおっと、あの女も連れてくることを忘れるなよ ?ディムロスへの大切な手土産だからな。
ルック(いいのか……俺は本当にこのままバルバトスさんに従い続けて……)
バルバトスどうした、マークの腰巾着。まさか、今さら怖気づいた……などということはあるまいな ?
バルバトス派救世軍そんなことはありません !なあ、ルック ! 俺たちは戦うためにバルバトスさんに付いてきたんですから !
バルバトスならば、最後まで俺のためにその命を使え。戦場で死ぬのがお前たちの本望だろう ?
バルバトス派救世軍はい、その通りです ! !
バルバトスクックックッ、それでこそ戦士の証だ。救世軍から捨てられたお前たちでも死に場所くらいはこの俺が与えてやろう。
ルック………………。
カーリャ・N船が停泊したようですね。では、私たちも行動を開始しましょう。
カーリャ・N帝国軍の主力が上陸したら、船を奪取します。捕まった帝国兵を解放してそのまま沖へ出てください。
ルキウスきみはどうするつもりなんだ ?
カーリャ・N私はあなたたちの乗った船が沖に出たのを見届けたのち、アトワイト様の救出に向かいます。
ルキウスそれじゃあ、ここからは別行動だね。色々とありがとう。でも……。
カーリャ・Nはい、私たちは敵同士です。次に会うときは戦いの場かもしれません。
ルキウス……残念だね。
メルクリア…………。
カーリャ・Nでは、私は船に残っている見張り兵を一掃しますのであとは、あなたたちにお任せします。
ルキウスああ、こっちは上手くやってみせるよ。
カーリャ・Nそれでは、ご武運を。
ルキウスメルクリア、ボクたちもいつでも動けるようにしておこう。
メルクリアルキウスよ……わらわは、本当にこのままでよいと思うか ? 何もせず、鏡士たちの仲間に助けられるだけでよいのか ?
ルキウス……それは、きみの中にしか答えがない問いかけだよ。
メルクリアわらわは……。
ルキウスメルクリア。きみはどうしたいんだい ?
メルクリアわらわは……本当は……。

Character5話【13-6 ファンダリア領 村】
スタンお待たせ、ディムロス !
ディムロスよく来てくれた、スタン。すまない、我々も協力は惜しまないが、こちらも日夜帝国軍との戦闘で動かせる兵が限られていてな。
スタンいや、ディムロスたちが協力してくれて本当に助かったよ。この大陸の地形なら俺たちより対帝国軍部隊の人たちのほうが詳しいだろうし。
シャルティエそれで、大陸のキラル分子を吸収してるっていう魔鏡はどこにあるんですか ?
スタンイクスたちが言うにはこのファンダリア大陸には全部で三つの魔鏡が設置されているそうなんだ。
ソーディアン・ディムロス二つの魔鏡は、それぞれリオンとルーティウッドロウとフィリアが破壊に向かってくれている。
ディムロスなるほど、つまり、残る一つを我々が破壊すればよいのだな。
ソーディアン・ディムロスただ、一つ問題があってな。その魔鏡が集めたキラル分子を求めて、魔物まで集まってくるのだ。
シャルティエ危険が伴う任務ってことですね。
スタンカイルたちも手伝うって言ってくれたけどハロルドさんを助けにいったばかりで無理をさせるわけにはいかなくて……。
ディムロスそれで、我々に白羽の矢が立ったというわけか。
スタンごめん、俺たちだけでなんとかしたかったんだけど。
ディムロス何を言っている ? こういう不測の事態の時こそ互いに協力する為の同盟ではなかったのか ?そうだろう、シャルティエ ?
シャルティエええ、ええ、わかってますよ。ディムロスが引き受けたのなら初めから僕に拒否権なんてありませんからね。
スタン二人とも……ありがとう !
ディムロスよし、では早速その魔鏡がある場所へ向かおう。シャルティエ、念のため我々の本部にはピエール部隊を待機させておいてくれ。
シャルティエええ~、あいつらですか ?別にいいですけど、大丈夫ですかね……。ちゃんとみんなに指揮とかできるかな……。
ソーディアン・ディムロス大丈夫か、スタン ?
スタンえっ ! ? な、なんだよ急に……。
ソーディアン・ディムロスなに、珍しく考え事をしているような顔をしていたのでな。
スタン……なんか馬鹿にされたような気がするぞ。でも、やっぱりディムロスにはバレてたのか。
ソーディアン・ディムロスルーティのことか ?
スタン……ああ。ルーティ、ずっと様子が変だろ ?俺やカイルとのこともあったし色々悩んでいるんだと思う。
スタンだから、そんな状態で魔物に襲われたりでもしたらって考えちゃってさ……。
ソーディアン・ディムロスこればかりは、お前たちの問題だからな。
ソーディアン・ディムロスしかし、だからといって目の前の問題を蔑ろにしていいわけではない。ルーティもそれがわからぬ未熟者ではあるまい。
スタン……そうだな。それに、リオンも一緒だし、きっと大丈夫だよな。
フィリップ――これで……全員の転送は……完了だ。
ユリウスあとは、みんなからの報告を待つだけか。フィリップ、きみはゆっくり休んでいてくれ。
フィリップああ……、そうさせてもらうよ。
カノンノ・Gあの、私、何か飲み物持ってきましょうか ?
フィリップそう……だね。少しだけ水を貰えるかな ?
マークおい、フィル。身体は……。
フィリップ……大丈夫。ただ、やっぱり歳……かな。つか……れ……。
マークフィル ! ?
カノンノ・Eフィリップ ! ? そんな、すごい熱…… ! !
P・カノンノわ、私、すぐ医療班の人たちを呼んでくる ! !
ユリウスマーク、これは一体どういうことだ ?
マーク……まあ、見ての通りだ。転送魔鏡術ってのは負担が大きすぎる術式でな。だから事前に仕掛けをしておかないとヤバいんだ。
マークなのにこの馬鹿は、緊急事態だからって……。ビクエだろうと、こんなにポンポン飛ばしてりゃ倒れるに決まってんだよ !
マークああっ ! ! 誰だ、こんなときに魔鏡通信なんぞかけてくる奴はっ ! !
ルック…………マークさん、俺です。
マークルック ! ? お前、今どこにいるんだ ! ?
ルックすみません。今はバルバトスさんと一緒にファンダリア領にいます……。
マークバルバトスだと ! ?あいつ、なんでファンダリア領なんかに……。
ルックメルクリアがファンダリア領にいるって情報を手に入れて……それに、ディムロスって人も捜してるみたいなんです。
ルックでも、途中で帝国軍の艦隊も追いついてきて……。バルバトスさんが帝国の船を奪ったんで追われてるんです。
ルックで、その帝国軍を押しやるために動けない仲間を使って足止めしろって命令されて……。
マークちょっと待て ! ? そんなことしたらあいつらは確実に……。
ルックマークさん ! ! こんなこと頼めた義理じゃないのは百も承知です ! ! でも、このままじゃあいつら全員、死んじまう……っ ! !
ルックおねがいです、マークさん。俺、何とかあがいて時間を稼いでみますからあいつらを助けて下さい !
マーク……くっ。
カノンノ・Eマーク ! どうして黙ってるの ! ?このままじゃ本当にルックさんたちが ! !
マークわかってる ! だが、ビフレストの具現化を阻止するのに、救世軍の兵力も割いてるんだ。
マーク俺が兵力かき集めて行くにしてもアジトからファンダリア領じゃ距離がありすぎて、存在が消えちまう……。
フィリップ僕も一緒に行けばその点は解消されるね。ルック。僕らが行くよ。だから、それまで何とか耐えてくれ……。
マークフィル ! ? お前……。
フィリップマーク……ケリュケイオンのみんなに連絡だ。僕たちを迎えに来たあと、すぐにファンダリア領へ向かう旨を伝えてくれ。
マーク何言ってんだ ! ?こんな状態のお前を連れていくことなんて……。
フィリップ頼む、行かせてくれ……。イクスなら……例えどんなときでも……大切な仲間のために戦うはずだ。
マークこんなときでもイクスかよ。久々にあいつにムカついてきたぜ。
マーク……くそっ、どうなっても知らねえからな ! !おい、ルック ! !俺たちが行くまで、絶対死ぬんじゃねえぞ。
ルックはっ、はい ! !

Character6話【13-7 ファンダリア領 平原1】
リオン魔鏡の仕掛けがあるというのはこの辺りで間違いないんだな。
ルーティそのはずよ。だから、ここからは一層気を引き締めていかないとね。
リオンそれは僕に言ってるのか ?
ルーティ誰もあんたなんかの心配なんてしてないわよ。魔鏡につられて、魔物が集まるって話だったのを思い出しただけ。
リオンなら、僕の足手まといにならないように。気を付けるんだな。
ルーティわかってるわよ、いちいちうるさいわね !大体、あんたはいっつもそうやって偉そうに――
リオン……ふっ、やっと調子が出てきたようだな。
ルーティ……はあ ?
ソーディアン・アトワイトルーティ。リオンさんはあなたのことを心配してくれて言ってくれてるんじゃないかしら ?
リオンおいっ ! 勝手なことを言うのは止めろ !
ソーディアン・シャルティエすみません、坊ちゃんは誰かを励ましたりするのが絶望的に苦手ですから。
リオンシャル ! お前まで…… ! ?
リオン――待て、あれは何だ ?
ルーティあんたねぇ、話を逸らしたいからってそんな古典的な方法で誤魔化さなくても……。
リオン違う ! よく見ろ !
帝国軍兵士ウオオオオオオオッ ! !
バルバトス派救世軍兵士――まだだぁ ! ! 俺たちはまだ戦えるんだッ ! !
ルーティちょっと……何なの、あの兵士の数…… ! !
リオン戦っているのは帝国軍と救世軍の兵士か。
ソーディアン・アトワイト……まるで戦争だわ。
ソーディアン・シャルティエどうしますか、坊ちゃん。魔鏡がある場所はこの先ですよ ?
リオン……巻き込まれると面倒だ。時間は掛かるが迂回するぞ。
バルバトス派救世軍兵士バルバトスさん ! このままではすぐに帝国軍の連中に追いつかれます ! !
バルバトス帝国の虫ケラ共め…… !この俺の邪魔をしたことを後悔させてやる ! !来い、アトワイト ! !
アトワイト……ッッ ! !
ルーティアトワイト ! !
アトワイトルーティさん ! ? どうしてここに……。
バルバトス――何だ ?貴様ら、この女のことを知っているのか ?
バルバトス……ククク、そうか。アトワイトを知っているということは、さては貴様ら、ディムロスが率いる対帝国軍部隊の兵か ! !
アトワイトまずいわ…… ! 二人とも、すぐに逃げるのよ !
バルバトスいけぇぇぇ、救世軍どもよ ! !あいつらを捕らえてディムロスの居場所を吐かせろおぉぉ ! !
バルバトス派救世軍兵士――うおおおおおっ ! !
リオンマズい ! 退け ! ルーティ ! !
ルーティ……くっ、こいつら、なんて気迫なのっ ! ?
ソーディアン・シャルティエど、どうしましょう ! 坊ちゃん ! ?
リオン……くそっ、兵の数が多すぎる。このままでは僕たちが……。
ルーティ……仕方ないわね。
ルーティリオン ! あんただけでも逃げなさいッ !こいつらはあたしが足止めするわ !その代わり、あんたは絶対に魔鏡を壊してきなさいよ !
リオン馬鹿を言うな !それじゃあお前が――。
ルーティあたしがこんなところでくたばる訳ないでしょ !その代わり、あんたにはでっかい貸しを作るんだから覚悟しときなさいよ !
ソーディアン・シャルティエ……坊ちゃん。
リオン……シャル、僕たちは魔鏡がある目的地まで向かう。一気に切り抜けるぞ !
ソーディアン・シャルティエりょ、了解です ! !
ルーティ……ほんと、世話が焼けるんだから。それじゃあ、アトワイト……って今二人この場にいるからややこしいわね。
ソーディアン・アトワイトそうね。でも、あなたをマスターに選んだアトワイトは私一人だけよ、ルーティ。
ルーティあー、そういう話は、この場を切り抜けてから聞きたかったわ。でも、ちょっとだけやる気は出たかも。
ルーティさあ、来なさい !あんたたちの相手はこのあたしよ !
フィリア……遅いですね、ルーティさんたち。
スタン駄目だ。さっきから魔鏡通信で連絡してるけど二人とも出てくれない……。
ウッドロウ何か問題が発生したのかもしれない。私たちも動く準備をしておいたほうがいいのかもしれないね。
シャルティエで、でも。あのリオン君たちに限って……。
対帝国軍部隊伝令ディムロスさん ! 先ほど、伝令部隊から緊急の報告が上がってきました !
ディムロス何があった ?
対帝国軍部隊伝令それが、近くで大規模な戦闘が始まったと……。これが詳しい場所が記載された報告書です。
フィリアこれは…… ! ?
スタンルーティたちが向かった場所じゃないか ! ?
ウッドロウとなると、二人がこの戦闘に巻き込まれている可能性もある。どうする、スタン君 ?
スタン決まってます !ルーティとリオンを助けに行かなきゃ !
ディムロススタン、私たちも同行しよう。何やら嫌な予感がする……。

Character7話【13-10 ファンダリア領 街道3】
ロイドイクス ! 設置されてた魔鏡は壊したぜ !
イクスありがとう、ロイド。テセアラ領の魔鏡はこれで全部破壊完了だ。
ロイド了解。それじゃあ、あとはよろしく頼むぜ。
ミリーナこれで残りの魔鏡の仕掛けはファンダリア領だけね。
カーリャはわわ……待ってるだけっていうのは落ち着かないですね。
コーキスマスター……。フィル様が言ってた時間もそろそろじゃないか ?このままじゃ……。
イクス……一度、アジトにいるユリウスさんに連絡してみる。何か報告が入っているかもしれない。
ユリウスイクスか。すまない、色々あってこちらの連絡が滞ってしまっていた。
イクス色々って、もしかして何か問題が起こったんですか ?
ユリウスいや、少し話が入り組んでいてな。この作戦が終わってから報告しようと思ったのだがそちらも何かあったのか ?
ミリーナそれが、魔鏡の破壊は順調に進んでいるんですがファンダリア領のキラル分子リンクだけまだ切れていないんです。
ユリウスファンダリア領だと ? まさか……。
イクスユリウスさん ?
ユリウスイクス、こちらにファンダリア領で救世軍を巻き込んだ大規模な戦闘が発生したという報告があったんだ。もしかしたら、それが影響しているのかもしれない。
コーキス救世軍が ! ? ユリウス様、そっちにフィル様とマークがいるだろ ? 二人は何て言ってんだ ?
ユリウス……いや、二人は事態の収拾のため現場に向かった。そのあとの報告は、我々のところにも届いていない。
ユリウスともかく、何か動きがあればすぐに報告する。不安だろうが、イクスたちはそのまま現場で待機しておいてくれ。
コーキスどうするんだよ。マスター !もし、ファンダリア領の魔鏡が壊せなかったらここにいる俺たちも具現化に巻き込まれちまうんだろ ! ?
カーリャあわわ !これって大ピンチってやつじゃないですか ! ?
ミリーナいざとなったらキラル分子リンクを解除しないまま具現化停止処理を行う方法もあるけど……。
カーリャ駄目ですよ、ミリーナさま !フィリップさまがその方法は危険だって仰ってたじゃないですか ! ?
ミリーナそうだけど……。イクスはどう思う ?
イクス…………。
ミリーナイクス ?
イクスえっ ? あ、ああ……。ごめん、もう一回言ってくれないか ?
カーリャもう、しっかりしてくださいよイクスさま !いつもならここでイクスさまの心配性が出て色々言ってくれるところじゃないですか ! ?
イクスさ、最近はそうでもないだろ !でも、そうだよな……。この状況でどう行動するのが最適か考えないと……。
ミリーナ……イクス、ちょっと二人だけで話をしない ?
イクスミリーナ…… ?
ミリーナイクス、単刀直入に聞くわ。フィルと何があったのか教えて。
イクス! ? ど、どうしたんだよ急に……。
ミリーナ急なんかじゃないわ。フィルと何かあったんでしょう ?
ミリーナ私、イクスから話してくれるのを待っていたの。でも、ここに来てからのイクス……なんだかいつもとは違っていたから……。
イクス俺は……いつも通りだよ。
ミリーナううん。普段のイクスならフィルが危険を承知で転送ゲートを使おうとしたときに止めたはずよ。
ミリーナだから、フィルを止めなかったイクスを見てきちんと話を聞くべきだと思ったの。
ミリーナお願い、イクス。私にもちゃんと話して。一体、フィルと何があったの ?
イクス……ミリーナ。ミリーナは、自分の感情を疑ったことはないか ?
ミリーナ……自分の、感情を ?
イクスああ。答えてくれ、ミリーナ。
ミリーナ――あるわ。
イクス! ?
ミリーナ私にはゲフィオンの記憶が受け継がれているから。『最初の私』と『今の私』の記憶と感情が同居しているんだもの。
ミリーナ影響だって……受けているでしょうね。
イクスあ……。なら……ミリーナはどうやって自分の気持ちが自分だけのものだって……。
ミリーナ……感情って何なのかしらね。
イクスえ ?
ミリーナ全然興味のなかったもの――そうね、例えばハーブがあまり好きじゃなかったとして、でも好きな人がハーブが好きだから、一生懸命好きになろうとする。
ミリーナそして気付いたら嫌いじゃなくなってる……なんてこともあるかも知れないわよね。
イクスそういうことも……あるかもな。
ミリーナそれは私の感情なのかしら?好きな人に影響された感情は私だけの感情?
イクスそれは……自分の感情だよ。だって自分でハーブを好きになろうとして選んだんだから。
ミリーナええ。誰かに影響を受けたとしても、選ぶのは私。
ミリーナゲフィオンの記憶や感情に影響を受けても私は今目の前にいるイクスを見てイクスを好きになることを選んだの。
イクス! !
イクスけ、けど……それが、そうなるようにあらかじめインプットされていたものだとしたら……。或いは暗示をかけられているとしたら……。
ミリーナゲフィオンが、私を造る時にそうなるように仕向けていたらってことよね。ありそうな話だわ。だって、ゲフィオンはイクスを守りたかったんだから。
イクスミリーナ……。気付いてたのか?
ミリーナ気付いていた ? どういうこと ?私は……単に私が二人目を造るならそうすると思ったの。酷い女だもの、私。
イクス(ゲフィオンから受け継いだ記憶に具現化された時のことはないのか……)
ミリーナでも……もしイクスが私を傷つけたり、幻滅させることがあったら、きっとインプットされた気持ちだって消えていってしまうと思う。
ミリーナ暗示だってそう。どんなに強固なものでも打ち破れるものだと思うわ。人の心は脆くて崩れやすいから。
ミリーナ私たちが具現化されてもう二年以上経ってるのよ ?もう具現化前のイクスより目の前のイクスの方がずっと鮮やかだわ。
ミリーナイクスは違うの? 記憶の中のミリーナと『私』とどっちの方が鮮明?
イクスそれは目の前のミリーナだよ。記憶は……風化していくから。
ミリーナ感情もよ。時間はかかるかも知れないけれど。
イクス感情も……風化する……。
ミリーナ私は、ずっと『今』のイクスの傍にいた。みんなと出会って、ゲフィオンが抱えてきた嘘を真実にしようと戦ってくれたイクスを見てきた。
ミリーナ私は、色んなことに怯えて、悩んで、それでも最終的には前を向いて頑張ってるイクスが好き。今のあなたが好き。
ミリーナそれはゲフィオンの感情じゃない。私が自分で生みだした感情。
イクスミリーナ……。
ミリーナ私は、イクスのことが大好きよ。

Character8話【13-11 アジト】
イオン……うっ……。ここ、は…… ?
イオンそうだ、彼は…… !
リヒター…………。
イオンよかった……。
ジェイドお目覚めのようですね、イオン様。
イオンジェイド ! それにハロルドも !では、ここは皆さんのアジトなんですね ?
ハロルドまあね。ってことで、早速だけどちょ~っとあんたの身体を見させてもらうわよ。
マルタええっ ! ? 何やってるのハロルド ! ?いきなり男の子の服を捲し上げるなんて ! ?
ミトス……胸に何か埋め込まれている。あれは、鏡……魔鏡の破片 ?
ハロルドおっ、あったあった。ってことはあんたは正真正銘レプリカイオンの方ってことね。
マルタえっと、どういうこと ?
ハロルドそっか。まだあんたたちには言ってなかったわね。まぁ、ちゃちゃっと説明すると、この鏡の破片がこの子がレプリカイオンである証拠なの。
イオン僕たちの計画を進めるには、僕の身体が虚弱すぎました。いざというとき、ハロルドの足手まといにならないよう僕は自分で自分の身を守れなければなりませんでした。
ハロルドそう。元々身体の弱いイオンの体力を補うためには親和性の高い精霊ローレライとキメラ結合させてローレライのアニマを共有させる必要があったって訳。
ハロルドそこで、レプリカイオンには鏡の破片を埋め込んだのよ。どう ? これで少しはわかってきたでしょ ?
ジェイドなるほど……。イオン様にローレライの第七音素――ここではアニマとキラル分子ですが、とにかくそれを供給する形で、体力を底上げしているわけですか。
マルタえっと……私は全然わからなかったんだけど……。
ミトス精霊輪具を使った精霊装の応用だよ。ボクたちの世界のエクスフィア、他には天族と人間が融合する神依とかも参考にしたんだろうね。
ミトスそれらを複合させ、魔鏡片を使ってイオンと精霊ローレライを擬似的に結合させた。
ミトス要するに、イオンは常時精霊ローレライとごく微弱な精霊装状態にあって、ローレライのマナ――生命エネルギーを借り受けているんだ。
イオンはい……。そこまでしてもらっても少し戦うとこの通りですが……。
ジェイドハロルド、念のためにお聞きしますが精霊装状態によるイオン様への悪影響は ?
ハロルドないわね。精霊輪具の使用だと負担も大きいけどこの魔鏡片はエネルギーの吸収を弱めているわ。
ハロルド何よりイオンはレプリカだからローレライとは構成が驚く程似ているの。他の人間じゃ拒絶反応で倒れるでしょうね。
ジェイド………………。
マルタ要するに、イオンは体が弱くて戦える体じゃないのにハロルドが戦えるようにしたってことだよね ?
マルタレプリカってのがよく分からないけど……でも、なんだか凄いね。
ハロルド当たり前でしょ。なんたって私、天才だから。
ジェイドイオン様……相変わらずあなたは無茶をしますね。こんなことをハロルドが勝手にやるとは思えない。あなたが頼んだのですね?
イオン……ええ。僕たちには味方がいなかったんです。僕も戦わざるを得なかった。
イオンどんな手段でもかまわないから、足手まといにならない最低限の力が欲しいとハロルドにお願いしました。元の世界で、僕は守られるばかりで無力でしたから。
イオン……今も無力なのは変わらないかも知れません。僕はリーガルをリビングドール状態から救うことができませんでした。申し訳ありません。
ハロルド仕方ないわよ。むしろ、リヒターだけでもリビングドール状態から解放できたんだから上出来よ。
ハロルドそれにあんたは無力なんかじゃないわよ。ちゃんと約束を果たそうとしてくれたんだもの。ありがとう、イオン。
ジェイド……色々と言いたいことはありますが今はこれだけにしておきます。元の世界でもあなたは無力ではなかった。
ジェイド無力などと言ったら、ルークもアニスも悲しみますよ。
イオン……ありがとう、ジェイド。
ジェイドさて、イオン様。今、あなたが把握している各大陸の領主の状況を教えていただけませんか ?
イオンはい、そのことなのですが——
イオン! ?これ、は……。
ジェイドイオン様 ? どうされたのですか ?
イオンローレライの、声です……。
ジェイド……やはりそうか。イオン様はローレライを召喚できると言っていましたね。それは魔鏡片を埋め込まれる前からですか ?
ハロルドそうよ。被験者にはできなかったけどイオンとこの世界で造られた新しいレプリカイオン――リベラだっけ ? その二人はローレライを呼べた。
ジェイドだとすれば、今のイオン様は常にローレライを召喚しているのと同じだ。
イオンそうです。さすがジェイドですね。魔鏡片を埋め込まれてから、僕は折に触れてローレライの声を受け取っています。
ジェイドそれは預言(スコア)ですか?
イオンいえ、この世界に預言(スコア)は存在しないようです。
イオンその代わりローレライは時の流れの音を聞くことができるそうなのです。
ハロルドそのせいで、イオンも自分の意志とは関係なく過去や未来の音を聞いてしまうそうよ。
ハロルドこれから起きるかも知れないことやかつて起きてしまったことなんかをね。
ハロルドでも、イオンだけズルいわよね。私だって精霊と話してみたいのに !
マルタハロルドさんって、やっぱ変……。
イオン…… ! ? そんな……。
ジェイドイオン様、ローレライは何と ?
イオンジェイド、イクスたちに一刻も早く今いる島から離れるように伝えてください。
イオンローレライが言うには、このままでは【バロールの眼】が開いてしまうと……。
ミトス【バロールの眼】 ?それは、一体何のこと ?
イオン僕にもそれがどういうものなのかまではわかりませんが、危険なものであることは間違いないとローレライは言っています。

Character9話【13-12 ファンダリア領 平原2】
シャルティエ……酷い状況ですね、これは。あちこちに死体が……。
ウッドロウ大規模な抗争だと聞いてはいたがまさか、ここまでのものだったとは。それに、この戦いは……。
フィリアええ……帝国軍に立ち向かっている救世軍の方々は殆どが負傷兵です。
ディムロス自軍の負傷兵すら戦わせようとするなどこの軍の指揮官は何を考えているんだ !
バルバトス派救世軍兵士……ううっ !
フィリア大丈夫ですか ! ? しっかりしてください ! !今手当てを !
バルバトス派救世軍兵士——どけっ ! !
フィリアきゃぁ ! !
スタンフィリア ! ! お前、何するんだ ! ?フィリアに謝れ ! !
バルバトス派救世軍兵士俺たちは——俺たちは戦えるっ ! !たとえ手足が失われようともっ ! !
スタンおいっ ! 待て ! !
ソーディアン・ディムロス止めろ、スタン !あの者には、すでに我らの声は届いていない。
フィリアあの人の眼……何かにとり憑かれているようでした……。
スタン……こんな戦い、絶対に間違ってる ! !早く止めないと ! !
ディムロス方法なら一つだけある。この部隊を指揮する者を討ち倒すのだ ! !
シャルティエで、でも僕たちは魔鏡を壊しに行かないといけませんしルーティさんやリオンくんも捜さないといけないんですよ ! ?
シャルティエせめて、両軍を相手にできる兵がいないと……。
ローエンでは、私たちが助太刀致しましょう。
スタンローエンさんにヴィクトルさん ! ?二人がどうしてここに ?
ローエンフィリップさんからの指示です。一刻も早く、この戦いを止めるために我々が派遣されました。
ディムロスしかし、何故このような場所で救世軍と帝国軍が争っているのだ ?
ローエン帝国軍の目的はバルバトスさんです。どうやら帝国軍籍の艦を奪ってこの地にやってきたという情報がありました。
ディムロスバルバトスだと ! ?奴もこの世界に来ていたのか ! ?
シャルティエどおりで戦い方が無茶苦茶な訳だ。無理やりこんなことをやらされている兵たちもたまったもんじゃないですよ。
ヴィクトルいや、厄介なことに救世軍の兵たちはバルバトスに心酔してしまっている。
ヴィクトル彼らは自ら志願して肉の壁となり帝国軍の侵攻を妨害しているのだ。
ローエンこのままでは犠牲者が増える一方です。しかし、すぐにでも魔鏡を破壊しなくてはイクスさんたちが危険なのも事実。
ローエンそこで、皆さんには今から二手に分かれて行動して頂きます。
ローエン一方は救世軍の鎮静化。もう一方は魔鏡の破壊へと向かいましょう。
ウッドロウ戦力が分散されるのは痛いが時間がない以上それが得策か。
ディムロスでは、私とスタンは当初の予定通り魔鏡の破壊に向かう。シャルティエ、お前は対帝国軍部隊と共に、この戦いを止めるのだ。
シャルティエはい、わかりました。
ディムロススタン、お前も異論はないな。
スタンああ、魔鏡は俺とディムロスで何とかします。
フィリアスタンさん……気を付けてくださいね。
スタンありがとう、フィリア。それじゃあ、行ってくる !
ディムロススタン、魔鏡がある場所まではもうすぐだ。ここからは魔物の気配にも気を配っておこう。
スタンああ。それにルーティたちも近くにいるかもしれない。合流できたらいいんだけど……。
ソーディアン・ディムロススタン、気持ちはわかるが今は集中するんだ。なに、彼らならば機転を利かせて行動しているはずだ。
スタン……そうだよな。リオンは俺なんかよりよっぽど頭がいいし、ルーティだって……。
バルバトスみつけたぞぉぉぉぉぉぉぉ ! ! ! !ディィィィィィムロォォォォスッッッッ ! ! ! !
ディムロスなにっ ! ? 後ろか ! ?
スタンディムロス ! ! 危ない ! ?
バルバトスぶるるるるああああっっっっ ! !
スタン——くっ、うわああああっ ! !
ディムロススタン ! !
バルバトス俺の邪魔をしおって……。まあいい。これで貴様とゆっくり殺し合いができるというものだ。そうだろう、ディムロス !
ディムロスバルバトス ! お前の目的はなんだ ?なぜ、兵たちにあのような真似をさせる ! ?
バルバトスふっはっはっ ! !決まっているだろ、貴様をこの手で殺すためだ ! !
バルバトス俺がどれほど、この日を待ち望んでいたか……。それを貴様の身体を切り刻んで味合わせてやるっ ! !
ディムロス……ならば、望み通り相手をしてやろう。但し、地に伏せるのは貴様のほうだ ! !
バルバトスほほぅ、では、これを見ても同じことが吐けるか ?
アトワイトディムロス ! !
ディムロスアトワイト ! ?……バルバトス、貴様はまた同じ過ちを繰り返そうというのか ! !
バルバトス……過ちだと ?俺はずっとこの日を待ち望んでいたのだ ! !
バルバトス英雄と呼ばれた貴様をこの手で殺す瞬間を味わう日をなぁぁ ! !

Character10話【13-13 ファンダリア領 森】
バルバトスふはははっ……たまらんな !貴様の女の命は今この俺が握っている。
バルバトスどうだ ? ディムロス中将。今の心中を教えてはくれまいか。憎いか ? 俺を殺したいか ?
ディムロス……貴様っ。
アトワイトディムロス。挑発に乗ってはいけないわ。
バルバトスつまらん。なら手始めに……おいっ。あの女を連れてこい。
バルバトス派救世軍兵士ハッ ! こちらに !
ルーティ……くっ。
二人ルーティ ! ?
スタンルーティ……だと。
ディムロススタン ! 目を覚ましたのか ! ?
スタンあぁ……なんとかっ。それより、ルーティを助けなくちゃ。
バルバトスほう。死にぞこないの分際で。まだ俺とやり合おうというのか。
バルバトス面白い。やはりこの女から殺すとしよう。腕か脚か……どこから切り落とすべきか。
ルーティやれるものならやってみなさ――
ルーティぐっ !
スタンルーティ ! ! やめろっ、バルバトス ! !
バルバトスその目だ。貴様のような目をした輩がいつも俺の邪魔をするために群がってくるのだ……。
バルバトスアトワイト、スタン・エルロン。それにディムロス。貴様ら全員、同じ目をしやがる ! !
バルバトスその目を潰し、舌を切り裂きじっくり苦しみ悶えながら殺してやるっ ! !まずは、この女からだっ !
リオンそうはさせるかっ !
バルバトスなにっ ! ?
バルバトス——うぐっ。
リオン僕の手を煩わすな。
アトワイトありがとう。おかげで助かったわ。
ルーティまったく。遅いわよ。
リオンふん。お前まで助けたつもりはない。
シャルティエ二人とも無事救出完了ですね。
バルバトスちっ ! ……シャルティエか !小虫ごときが俺の視界に入るんじゃねえ !
シャルティエ正直、貴方とは関わりたくありませんでしたがそうも言ってられない状況だったもので。
ディムロスバルバトス。今すぐ部下と共に戦場から撤退しろ。
バルバトス黙れ ! 軟弱が ! !すぐに引き裂いてやる ! !
ディムロス今貴様らが勝手な行動を取ればイクス率いる先行部隊の作戦遂行に多大なる支障が発生する。
ディムロス我らに争ってる時間はない。今にも皇女メルクリアは亡国ビフレストを復活させようとしてい──
バルバトスその名を口にするな ! !あの女も貴様らも皆殺しにしてやる ! !
バルバトスメルクリアは俺をリビングドールに……操り人形にしやがった !俺の尊厳を踏みにじりやがった !
バルバトスあのガキめ ! 今殺す ! すぐ殺す ! !抹殺してやる ! 貴様らはそれを見ていろ ! !殺した後に全員すり潰してやる ! !
ディムロス私怨か。相変わらず貴様の戦いには信念も大義もないようだな。
アトワイト部下を道具としか思わない残虐なところもね。
バルバトスメルクリアを殺すまで屍の山を築いてやる !みんな使い捨ての駒どもだ ! !どうなろうと知ったことか ! !
ディムロス貴様とてかつては軍人のはず。大義と、部下を生かして帰してこその誇り。それを失った貴様はただの狂犬だ !
バルバトス俺に向かってしゃべってんじゃねえ !何が大義だ、何が部下を生かしてだ ! ?てめえはいつも偉そうにぬかしやがるっ !
バルバトスまずは力で示せっ ! この腰抜け野郎がっ ! !
ディムロス何を話そうと貴様には届かぬか。ならば仕方がない。憎しみに囚われた愚か者――
ディムロス我が誇りに懸けて貴様をとめるっ ! !
バルバトス足掻き苦しめ ! 俺を楽しませろっ ! !俺の餓えを満たせ ! ! ディムロスっ ! !

Character11話【13-13 ファンダリア領 森】
バルバトス——まだだ、まだ俺の飢えは満たされん ! !こいっ ! ディムロス ! !
ルーティはぁはぁ……まだ戦おうっての ?勘弁しなさいよ……。
リオンこいつ……本当に人間か ?
ディムロスいや、奴も限界が近いはずだ。スタン ! !
スタンああ ! このまま一気に決めるぞ !
バルバトス無駄だ ! その程度でこの俺を止めようなどと—— ! !
? ? ?天光満つる処に我は在り黄泉の門開く処に汝在り出でよ神の雷 !
リオンこの声は—— ! ?
メルクリアこれで終わりじゃ !インディグネイション ! !
バルバトスぐあああああああああっっっっ ! !
メルクリアわらわの術を受けて、まだ意識があるとは噂通りの化け物ぶりじゃな、バルバトスよ。
バルバトスな……、き……さまは…… ! ?
メルクリアわらわがメルクリアじゃ。ローゲ程の品格もない男に名乗るのも口惜しいがの。
メルクリアじゃが、貴様が場をかき回してくれたお陰でビフレストを復活させるという我が悲願が成就する。化け物も人の役に立つとは驚きじゃ。
バルバトス黙れ…… !きさ、まは……ここで俺が……ころ、して……。
メルクリア……わらわを猪のように追い回すだけしか能のない単細胞では何もできぬ。頭の足りぬ力任せの単細胞など恐るるに足らぬわ。
バルバトス……ころ……し……。
スタンバルバトスが、止まった……。
メルクリア——わらわの用は済んだ。その男の処理は貴様らに任せる。好きにするがよい。
リオン待て。どういうつもりだ。キラル分子を送り込む最後の魔鏡は、僕が破壊した。ビフレストの具現化も失敗したはずだ。
メルクリアそんなことはわかっておる。わらわはただあの猪のような大男に、狙うは貴様らではなくわらわであると教え直してやったまでのことじゃ。
リオンその行動に何の意味がある ?下手をすれば、本当にバルバトスに殺されていたかもしれないんだぞ ?
メルクリア……この程度では借りを返すにもあたらぬが命の恩人を見捨てるような外道ではない。
アトワイトメルクリア、あなた……。
帝国兵メルクリア様 ! ここは危険です !すぐに我々と共に避難を !
メルクリアわかっておる。
メルクリア――黒衣の鏡士の仲間共よ !わらわはまだ諦めてなどおらぬぞ。次は必ず我がビフレストを復活させてみせる !
ルーティ何だったわけ ?まさか、あたしたちを助けてくれたの ?
リオン理由などどうでもいい。このままメルクリアを野放しにするのは危険だ。僕たちも追いかけるぞ。
カーリャ・Nお待ち下さい。メルクリアの追跡は引き続き私に任せて頂けませんか ?
アトワイトネヴァンさん。メルクリアを尾行していたのね。
カーリャ・Nはい。彼女が皆様に危害を加えるようなことがあれば出て来ざるを得ませんでしたが……。
ディムロス結果的に、我々は彼女に助けられたという訳か。
アトワイトリオンさん。ネヴァンさんの言う通りメルクリアの追跡は彼女に任せましょう。私たちもさっきの戦いで、かなり疲弊しているわ。
リオン……ネヴァン、何かあったらすぐに連絡しろ。僕たちも動けるように待機しておく。
カーリャ・Nありがとうございます。では、皆様もお気をつけて。
イクス——よし ! 各大陸とのリンクは全部切れたぞ !
ミリーナイクス、すぐに私たちも始めましょう !
イクスああ、フィルが書き換えた魔鏡陣を作動してビフレストの具現化を止めるっ !
コーキスマスター、頼んだぜ !
イクス————いくぞ ! !
カーリャな、なんですか ! ?急に目の前が真っ白になりましたよっ ! !
ミリーナこれは……光がオーデンセ中を包み込んでいるんだわ !
コーキスマスター ! ! ミリーナ様 ! !くそっ、前が……見えない…… ! !
ミリーナイクス ! ?
コーキスマスター ! 大丈夫か ! ?身体とかどこか痛かったりしないか ! ?
イクス……大丈夫、俺は何ともないよ。それに、ビフレストの具現化も止まったみたいだ。
カーリャということは、無事成功したんですねっ !
コーキスやったな、マスター !
イクス……ただ、魔鏡陣を作動させたことでキラル分子の供給がなくなったから——
カーリャはわわわわわっ ! !凄い揺れです~~ ! !
コーキスどうなってるんだ、マスター !
イクス島が消滅しようとしてるんだ !すぐに転送ゲートを使ってアジトに戻るぞ !

Character12話【13-14 ファンダリア領 街道4】
救世軍兵士マークさん、帝国軍の兵が撤退しているとの報告が上がってきました。
マークローエンの作戦通りだな。お前たちもよくやった。すぐに引き上げる準備をしておけ。
救世軍兵士了解です !
マークはぁ。今度こそマジでヤバイかと思ったが何とかなるもんだな。
フィリップお疲れ様、マーク。見事だったよ。
マークいや、指示を出していたのは殆どローエンだよ。あの爺さん、普段は飄々としてる癖してなかなかの策士だぜ。
フィリップヴィクトルが言うには、元の世界では「指揮者(コンダクター)イルベルト」として名を馳せていたそうだよ。
マーク人は見かけに寄らねえってことか。それで、イクスたちの方はどうなったんだ ?
フィリップ無事、ビフレストの具現化は阻止されて具現化したオーデンセも消失した。
フィリップキラル分子のリンクを切ったことでオーゼンセは存在を保てなくなったんだと思う。
マークそうか……。
マークそれにしてもあの島のおかげで残酷な真実ってやつを知っちまったな。
フィリップ……あの島は、僕が目を背けていた現実だったんだよ。本当はもっと早く向き合わなきゃいけなかったんだ。
フィリップイクスを刺したあの日から僕はオーデンセへの里帰りもやめてしまったしイクスからの手紙も読もうとはしなかった。
フィリップそうして逃げ続けて、果ての果てまで来てしまった。僕にはもう逃げるところがない。全て壊してしまったからね。
フィリップだったら、いい加減向き合うしかない。現実と。
マーク……命の期限と競争だな。
フィリップ……ああ、それまでに、必ず決着は付けるよ。今度こそ世界の為、イクスやミリーナの為それから……僕自身の為にも。
マーク自分の為にと言えるようになったならちったあマシだな。
フィリップマーク。僕はね、いつだって本当は自分自身のためだけにしか動いてなかったんだよ。
マーク誰だってそんなもんだろ。ただ、そうだと認められずに言い訳ばかりするやつは駄目だってだけさ。
フィリップそうだね……。
マークんじゃ、まずは目先の問題から片付けるとしようぜ。バルバトスの奴はどうする ?放っておいたらまた暴れだすぜ、あいつ。
フィリップそうだね、厄介者を引き取るのは厄介者が一番だろう。
マークはあ……。厄介者、ねえ。まあ、否定はしねぇが……。
フィリップバルバトスに付いていったみんなのことも本人たちの希望を聞かずに地上軍へ追いやった僕の責任だ。
フィリップ傷つけないように守るつもりがもっとひどい傷をつけることになってしまった。
フィリップ僕は昔からそうなんだ。守るつもりで傷つけて、守るつもりで壊してしまう。もうこれ以上、彼らを傷つけるわけにはいかない。
フィリップバルバトスがこちらにつけば彼に付いていった救世軍も戻ってきてくれるんじゃないかな ?
マーク……言ってることはさぞ立派だが説得するのは俺なんだよなあ、ったく。
救世軍兵士失礼します ! マークさん、バルバトスの下で働いていた兵たちのことですが、想像以上に負傷者が多く、現場も混乱しているようです。
マークはいはい、わかったわかった。すぐに行くから、まずは重症の奴から手当てしろと伝えておけ。そのあとのことは直接指示を出す。
フィリップマーク。きみは先に救世軍のみんなのところへ行ってくれ。僕は先にバルバトスが向かったという場所まで行っておく。
マークおいおい、だからバルバトスの説得は俺が……。
フィリップいや、事情を話さないといけないのはバルバトスだけじゃない。
フィリップ彼の処遇については鏡映点の人たちにも納得してもらうつもりさ。
マーク……わかったよ。その代わり、バルバトスと話すときは絶対一人になるなよ。
フィリップそこまで無茶をするつもりはないよ。マーク、救世軍のことは頼んだよ。出来るだけ彼らのことは優しく迎えてやってくれ。
マーク……優しくねぇ。悪いな、フィル。あいつらにはキツめのお灸を据えてやるつもりだよ。

Character13話【13-15 イオン】
リオンさて、僕たちも戻るぞ。ビフレストの具現化を阻止した以上もうここに用はない。
スタンリオン、遅くなったけど、さっきはありがとう。リオンがいなきゃ、ルーティもアトワイトさんも助けれられなかったかもしれない。
リオン……ふん、僕はただ借りを作らせたままにしておくのが嫌だっただけさ。
ルーティちょ、あんた ! ?まさかさっきので、あたしがあんたを逃がしたのをチャラにしようって訳じゃないわよね ?
リオンそのつもりだが ?
ルーティ何言ってんのよ ! こっちは人質にまでなったのよ !すこ~しいいところで出てきたからってそれで済むと思ったら——。
リオン……それで、この男はどうするつもりなんだ ?
ルーティこら ! 無視すんじゃないわよ !
アトワイトルーティさん……悪いけれどその話は後にしましょう……。
ソーディアン・アトワイトそうね、人間の私が言う通りよルーティ。今はバルバトスの処遇を決めるほうが先よ。
ルーティうっ。わ、わかったわよ……。
スタンそっか、さすがのルーティも二人のアトワイトさんの意見ならちゃんと言うこと聞くんだな。
ルーティスタン、あんた今なんか言った ?
スタンい、いや ! 何にも言ってないって !あはは……。
ソーディアン・ディムロススタン……お前はルーティ一人でも充分そうだな。
アトワイトディムロス、あなたの意見を聞かせて頂戴。
ディムロスバルバトス……やはりあいつを自由にしておくのは危険だ。今ここで捕らえておかねばなるまい。
フィリップ——待ってくれ。彼のことは僕たちに任せて欲しい。
ディムロスフィリップ ! ?
フィリップ君たちは先に行ってくれ。帝国側が動き始めた。
ディムロスだがお前たちだけでバルバトスをとめられるのか ?
フィリップ僕では無理かも知れないね。だが、君たちよりは僕らの方が奴に近い。——色々な意味で、ね。
フィリップそれにマークがいる。マークを信じて欲しい。
ディムロス……いいだろう。では、奴の処遇はお前に委ねる。みんな、それでいいな ?
スタンああ、ディムロスが決めたことなら誰も文句は言わないさ。
フィリップありがとう。必ず、悪い方向へ事が進まないようにしてみせるよ。
マークあいつらがいないってことは上手く説得できたみたいだな。
フィリップああ。だけど、肝心のバルバトスはまだ目を覚ましていない。
マーク丁度いい、フィル。お前は戻ってろ。あとは俺が何とかする。元々、そういう手筈だっただろ ?
フィリップマーク……だけど……。
マークいいから、お前は戻ってバルバトスに付いていった連中に何か言ってやってくれ。あいつら、俺の顔を見た途端、謝るばかりで話にすらならねえんだわ。
フィリップ……わかった。それじゃあ、後は頼んだよ、マーク。
マークはいよ。このマーク様に任せときな。
マークさて、大見得切ったのはいいがどうしたもんかねえ。まぁ、暫くは様子見でもさせてもらうか。
バルバトス——ぐううっ……。メルクリアめ……。小癪な真似をしおって……。
バルバトス奴らはどこだ ?まさか、俺を置いて立ち去ったとでもいうのか……。
バルバトス——いや、命知らずの馬鹿がまだ残っているようだな。
バルバトスこそこそ隠れてんじゃねぇ。出てきやがれ。
マーク久しぶりだな。
バルバトスマーク・グランプ……か。
マークディムロスじゃなくて悪かったな。けど名前を覚えてもらえてたのは光栄だ。
バルバトス貴様の差し金か。
マークそんなところだ。
バルバトスふんっ。
マークおっと。どこに行く気だ ?
バルバトスわかっているだろう。
マークメルクリアのところだよな。だったらやめとけ。
バルバトス……邪魔する気か ?ならば——
マーク殺すってか。いいぜ、好きにしろよ。お前なら俺を殺すくらい楽勝だろ。
マークだが、『事情』が変わったと言ったら ?
バルバトスなにっ。
マークバルバトス。俺たちと来いよ。
バルバトス雑魚と群れるつもりはない。それに——
バルバトス俺は貴様の手下であってもためらいなく殺すぜ ?今までも、これからも。
マークあんたが俺のどうしても奪われたくない物に手をかけるってんなら、その時は全力で阻止するさ。
マークあんた同様『どんな手』を使ってでもな。それに——
マークあいつらはお前を慕って救世軍を辞め自分の意思でお前についていった。ただそれだけのことだ。
バルバトスあんなゴミくず共に意志があったとは驚きだ。
マークあんたらしい、クソみたいな言い草だな。
マークだが、あいつらがなぜディムロスじゃなくお前を選んだのかわかったぜ。
バルバトスなんだと ?
マーク——あんた、気づいてたんだろ ?あいつらは全員、怪我や病気でまともに戦える奴らじゃなかった。
マーク本当は戦いたくても腹の中に恨み辛みを押し込めてずっと生きてきたんだ。
マークだが、理屈も現実も全部受け止めて自分の醜い気持ちも自分のものとして逆境にも挑んでいくお前に希望を見た。
バルバトスそして犬死にしていったと。欺瞞に満ちた美談には反吐がでる。あいつらは俺に利用されただけだ。
マークそれでもだ。きっとお前は世界いや自分自身すら救うことはできない奴だ。けどな——
マークあんたは間違いなくあいつらを救った。
マーク手段を選ばないという手段を選ぶこと。是非はともかく、中々できることじゃない。
マーク実際、俺もそこまで割り切るのは難しいだろうな。
マークだから、死んでいったあいつらにとってはディムロスよりもあんたこそが英雄なんだ。
マーク……俺から見てもその傲慢さはある意味で英雄的かもな。
バルバトス……英雄だと ?
マークああ。
バルバトスふっ、ふははははっ ! !その言葉、よくぞ俺に吐いたわ ! !
マークさて、そろそろ返事を聞かせてくれよ。
バルバトスメルクリアは俺が殺す。そのために救世軍を利用させてもらうぜ。
マーク十分だ。
バルバトスメルクリア、待っていろよ。そしてディムロス……貴様も。

Character14話【13-15 イオン】
イクス俺たちは無事帰ってこられたけど他の人たちは、もうアジトに戻ってきてるのかな ?
ミリーナそうね、先に魔鏡通信で連絡を取り合ったほうがいいかもしれないわね。
イクスあっ、待ってくれ。丁度ジェイドさんから連絡だ。
カーリャげっ、ジェイドさまからですか……。カーリャは近くにいないとお伝えください……。
コーキスパイセン……ジェイド様に対する反応が他の鏡映点の人たちと違いすぎねーか ?
ミリーナ大丈夫よ、カーリャ。いくらジェイドさんでも、魔鏡通信越しで酷いことなんてできっこないわ。
ジェイドおや~、でしたら試してみましょうか ?面白い実験になりそうです♪
カーリャギャー ! ! でたー ! !
ミリーナジェイドさん !これ以上カーリャを怖がらせないでください !私、本気で怒りますよ !
ジェイドこれは失礼。その様子だとビフレストの具現化は無事止められたようですね。それで、今はどちらにいますか ?
イクスえっと、もう浮遊島に戻って来ていますけど……。
ジェイドそれは結構。でしたら、そのままアジトの医務室に来てください。イオン様があなたたちにお話したいことがあるそうです。
ミリーナイオンさん ! ? 帝国から戻ってきたのね。
イクスわかりました、すぐに向かいます。
イオン——これが、ローレライが僕に伝えてきたことの全てです。
イクス【バロールの眼】……、一体何のことなんだ……。ミリーナは聞いたことがあるか ?
ミリーナ……いいえ。私も今初めて聞いたわ。
イクスそうか……けど、眼と言えばコーキスが使う【魔眼】が関係してるのかもしれない。それに、何だか嫌な予感がするんだ。
ジェイドローレライは、この【バロールの眼】が危険なものだと言ったそうです。詳しい情報を集めておいたほうがいいでしょうね。
コーキス(もしかして、俺のこの【魔眼】のせいでマスターたちが危険な目に遭うんじゃ……。いや、そんなことは絶対に……)
ジェイドしかし、今は一旦置いておきましょう。少ない情報だけで憶測を立てるのは危険です。
ジェイドイオン様には引き続きローレライとの接触を行ってもらいます。
ジェイド次に、そのイオン様のことについてお話があります。
ハロルドその点については私から話すわ。あんたたちも知ってると思うけどこの世界には三人のイオンが存在してる。
ミリーナ今、目の前にいるイオンさんと私たちが保護している【リベラ】そして、【被験者】と呼ばれているイオンね。
ハロルドその通り。そして、私が助けられた戦士の館には『イオンの死体』があった……。
ハロルド——これ以上は、何も言わなくてもわかるわね ?
イクス……死んだのは『被験者のイオン』さんなんですね。
イオン……そういうことになりますね。
ジェイド念のためにお聞きしますが他のレプリカを製作、もしくは新たに具現化したという可能性はありませんか ?
ハロルドありえないわね。帝国を出るときに被験者のデータはきれいサッパリ消去しておいたからもう一度レプリカを作るには時間が足りないわ。
ハロルドもう一つ、具現化の線だけど、こっちも無理ね。異世界からの再度の具現化は、過去からの具現化以上に厳しい制約があるみたいだから。
ハロルド帝国は既にローレライを確保してる。他のレプリカイオンを具現化することに意味はない。だから新たに具現化をしたとは考えにくいわね。
ハロルド以上のことから、あれが被験者のイオンでない可能性は限りなくゼロに近いってこと。この天才科学者の名に懸けてね。
イオン僕が具現化されたのも、あくまでフォミクリーというレプリカ技術をこの異世界で完成させるための実験だったに過ぎません。
ミリーナフォミクリー……。まるで鏡士の具現化みたい……。
ジェイド………………。
イクスごめん……イオン。俺たちのせいで、こんなことに巻き込まれて……。
イオンいいえ、あなたたちが謝ることではありません。ですが、これ以上帝国軍の思い通りにさせない為に協力していただけませんか ?
イオン――いえ、違いますね。僕を皆さんの仲間に加えて下さい。僕も協力したいんです。
ジェイドイオン様。あなたはローレライと接触できる。それで十分役に立っていますし協力してくれていますよ。
イオンジェイド。僕は元の世界の僕より少しだけ……ほんの少しだけ体力があります。より導師としての力を発揮できる。
イオンそれに……僕、何となく分かっているんです。前にアニスたちに会った時に気付いてしまいました。僕はみんなと具現化された時間が違う。それは――
ジェイド――イオン様。
イオン止めないで下さい、ジェイド。
イオン僕が初めてあなたと会った時もあなたは僕を諫めることはあっても頭ごなしに言うことを聞かせようとはしなかった。
イオンここでなら、僕のやりたかったことができる。そして、元の世界でやり残したこともできると思うんです。
イオン無理はしません。約束します。みんなより弱いことは分かっていますから。
ジェイド……いいえ。あなたは十分に強いですよ。初めて出会った時からあなたは唯一無二の導師でした。
ルークおいっ ! イオンがいるって本当なのか ! ?
ティア導師イオン ! 良かった、ご無事だったのですね……。
ナタリア何やら大変な目に遭ったとお聞きしたのですがお元気そうで安心しましたわ。
ミュウイオン様が来てくれてボクも嬉しいですのっ !
ジェイドやれやれ。皆さん、ここは医務室ですよ。お静かに願います。
ガイまあまあ、固いこと言うなよ。こっちは一仕事終えて急いで駆けつけて来たんだぜ。なあ、アニス ?
アニスえっ ! ? あ、えっと……。
イオン……アニス ?
アニス…………てへっ !いやぁ~、もう ! イオン様ってば無茶しすぎですよ !すっごく心配したんですからね ! ?
アニスあっ、いっけな~い !アニスちゃん大事な用事を思い出しちゃった !それじゃあイオン様、今はゆっくり休んでください~。
ルークはぁ ! ? おいっ、どこ行くんだよ、アニス ! !
イオン待ってください、アニス !
アニスはうわっ ! な、何ですか ?
イオン……アニス、僕の傍に来てくれませんか ?
アニスど、どうしたんですか急に……。
イオンお願いします。さあ、アニス、こちらへ。
アニス……もう、イオン様ってば本当にどうしちゃったんですか ?
アニスあっ ! わかっちゃいましたよ~。さてはさっきまで大佐に虐められてましたね ?もう、駄目ですよ大佐、イオン様を虐めちゃ——。
イオンアニス……泣かないでください。
アニス……えっ ? や、やだなぁ、イオン様。私、泣いてなんかいませんよ ?
イオンでも、涙が……。
アニス……えっ ? あれ ? ホントだ……。なんで……私……。
イオン僕のせいで、アニスが悲しい思いをしているのですね。
アニスち、違いますっ ! !イオン様は、何も悪くありませんっ…… ! !悪いのは、私……なんですっ ! !
イオン……アニス。僕から一つ、あなたにお願いがあります。聞いてくれますか ?
アニスお願い…… ?
イオンはい、僕からの大切なお願いです。
イオンアニス、僕の導師守護役はアニスだけです。
アニス! ? イオン……様 ! !
イオンまた、僕の傍にいてくれますか ?
アニス……イオン……様…… !イオン様ぁぁぁぁ ! !
イオンアニス、この世界でもよろしくお願いしますね。……僕の一番、大切な——
to be continued