| Character | 1話【14-1 ファンダリア領】 |
| エルレイン | ――では、奇跡の力の復活は未だ難しいと ? |
| ジュニア | はい……。この夏からずっとあなたの奇跡の力を取り戻すために異世界の神の力の具現化を試みてきました。 |
| ジュニア | でも、完全な形で成功した実験はひとつもなかったんです。 |
| ジュニア | すみません……。いい報告ができなくて。 |
| エルレイン | 本来、神の力は人が扱うべきものではない。そう簡単に成し遂げられることではないと承知しているつもりですよ。 |
| ジュニア | ですが、僕が実験に失敗したせいでこの世界を滅ぼしかねない危機が何度もあったんです。 |
| ジュニア | 救済を掲げるあなたにとってはとても不愉快な話ではないでしょうか……。 |
| エルレイン | …………。 |
| ジュニア | やっぱり、僕みたいな未熟者には荷が重すぎる役目なのかもしれません。 |
| ジュニア | だから、その……。 |
| エルレイン | この研究から離れると ? |
| ジュニア | …………。 |
| エルレイン | では、一つ聞かせて欲しい。『あなた自身の目的』はもう遂げたのですか ? |
| ジュニア | ! ! |
| ジュニア | (まさか、ばれてる ! ? そんなはずは……) |
| エルレイン | 何を驚くことがあるのです。そのために奇跡の力の研究をしていたのでしょう。 |
| ジュニア | (やっぱりこの人は知っているんだ。僕が奇跡の力の研究を口実にしてナーザ将軍を復活させようとしていることを) |
| エルレイン | 答えよ。鏡士。 |
| ジュニア | ……目的は、まだ遂げていません。 |
| エルレイン | ならば何故。 |
| ジュニア | 大切な友人が捕まっているんです。僕は今、その友人を助けることを優先したい。 |
| ジュニア | それに、研究自体も今は足踏み状態で目処が立たないんです。 |
| エルレイン | ナーザの魂が器に宿れないようだな。 |
| ジュニア | そんなことまでご存じなんですか ! ? |
| エルレイン | この私が、お前たちの行いを唯々見過ごし義務的な報告ばかりを待つ身だとでも思ったか。 |
| ジュニア | ……すみま……せん……。 |
| エルレイン | ……話を戻しましょう。魂が納得の上であっても、死者である器に入れない。それは器の方に原因があるからです。 |
| ジュニア | 器 ! ? ってことは、ナーザ将軍じゃなくてイクスの体が問題…… ? |
| エルレイン | これで、あなたの抱える幾分かの悩みは解決される筈です。 |
| ジュニア | ……なぜ助けてくれるんですか。僕は帝国を……あなたを裏切るかもしれないのに。 |
| エルレイン | あまねく人々の救済。それこそが私の存在意義です。 |
| エルレイン | 皆に等しく手を差し伸べ、余すことなく全てを救う。それが裏切者であろうと何であろうと。 |
| ジュニア | あなたは本気でこの世界の全てを救おうと考えているんですね。 |
| エルレイン | ええ。それが神のご意思です。この救済を拒み、逆らう事など許さない。 |
| ジュニア | (この人は、なんて恐ろしくて……愛が深い人なんだろう……) |
| Character | 2話【14-2 アジト】 |
| ユリウス | お帰り、カロル、ユーリ。情報収集ご苦労様。 |
| イクス | ビフレストの具現化を阻止してから、カロル調査室はフル回転でしたからね。 |
| ユーリ | まったく人使いが荒いよな、お前らは。 |
| ミリーナ | フフ、ごめんなさい。しばらくはゆっくり休んで下さいね。 |
| カーリャ | あれ ? そういえばロゼさまはどこですか ? 今度帰ってきた時は、お土産に新しいお菓子をくれるって言ってたのに……。 |
| ユーリ | それなんだが……セキレイの羽からは色々情報をもらってるんだが、ロゼとデゼルからは全然連絡が来てねぇんだ。 |
| カロル | ロゼたちにはグラスティンの周辺を探ってもらってたから、多分どこかに潜入してるんだとは思うんだけど……。 |
| イクス | ……そうか。そういえば、ネヴァンからの連絡も滞ってるよな。みんな、危険な目に遭っていないといいんだけど……。 |
| ユーリ | そういうときのために例のデクスって野郎がいるんだろ ? |
| ユーリ | 何かあればあっちのラインから連絡が入る筈だ。 |
| ユリウス | そうだな。色々なことを織り込み済で情報網を広げているんだ。無事であることを祈りつつこちらも状況を分析していこう。 |
| ユリウス | この二ヶ月で帝国の支配体制はほぼ確立したらしいな。 |
| カロル | うん。こっちがオーデンセだのジルディアだの色んな大陸の具現化に振り回されてる間に各領の領都に、新しい領主が赴任しちゃったからね。 |
| カロル | しかも全員鏡映点リストにある名前だから、きっと―― |
| ハロルド | リビングドールβ化されてるって事ね。 |
| ユーリ | 全員が全員ってことでもないみてぇだけどな。ファンダリア領の新しい領主になったエルレインはリビングドール化されてないんだろ。 |
| ハロルド | 帝国に協力する意志のある鏡映点はリビングドールにする必要はないしね。 |
| キール | しかし不思議じゃないか ? わざわざリビングドールにしてまでどうして鏡映点を領主にする必要があるんだ ? |
| キール | 言うことを聞かせたいなら、別に自分たちの配下の人間を派遣すればいいだろう。その方が簡単だ。 |
| ハロルド | 目印って聞いてるけど。 |
| カロル | 目印…… ? |
| ハロルド | 【ルグの槍】を落とす目印だって。ニーベルングの復活には【ルグの槍】が必要だとか言ってたわね。詳しいことは『さぱらん』って感じ。 |
| コーキス | ハロルド様にまで『さぱらん』が侵蝕してる……。 |
| ユーリ | 槍を落とす目印ねえ。訳がわかんねえな……。イクス、ミリーナ。【ルグの槍】ってのに聞き覚えはないのか ? |
| イクス | いや、俺は聞いたことがないです。ミリーナは ? |
| ミリーナ | 私も……。 |
| キール | だが、嫌な感じの言葉だな。槍を落とすって……。まるで兵器みたいじゃないか ? |
| ユリウス | ああ。空からの攻撃……のようなイメージだな。 |
| イオン | そういえば、以前ディストが妙なことを言っていました。【ルグの槍】を打ち込む前に前世を具現化しなければ何の意味もない……と。 |
| ミリーナ | 前世を具現化 ? イリアたちの世界の前世と関わりがあるのかしら。 |
| イクス | ……答えは出ませんね。デミトリアスに直接問いただせれば話は別でしょうけど……。 |
| ユーリ | お、奴の所に乗り込むってんなら協力するぜ。その方が話は早い。 |
| カロル | ユーリはずっとそれを考えてたもんね。 |
| コーキス | 俺も賛成 ! ぐちゃぐちゃ考えてても訳がわかんないしその方が手っ取り早いよ ! |
| キール | そんなむちゃくちゃな……。 |
| ユリウス | ……いや、ここで考え込むよりその方が早い気もするな。 |
| ユリウス | ハロルドやイオンにも細かな情報が伝わってないとなれば、俺たちがどれだけ情報を集めたところでたかが知れてる。 |
| イクス | もし、本当にデミトリアスに話を聞くならこちらが潜入するより、何とかしておびき出した方がいいですよね。 |
| ユーリ | ――イクス、何かあったのか ? |
| イクス | え ? |
| ユーリ | いや、しばらく見ない間に憑き物が落ちたって顔してるからさ。 |
| イクス | そう、ですか ? ……そうかも知れないです。少しだけ、考えすぎる癖をやめるようにしました。 |
| イクス | ……って、性分なんでやっぱり色々考えちゃうことはあるんですけど。 |
| カーリャ | 下手の考え休むに似たりって言いますもんね ! |
| ミリーナ | カーリャ ! それ、どういう意味かしら。 |
| カーリャ | はわわわわ……。ミリーナさまが怖い……。 |
| イオン | フフフ、カーリャはすぐ思ったことを口にしてしまうんですね。 |
| ユリウス | 話がそれてしまったな。デミトリアス帝の件は、いったん置いておこう。 |
| ユリウス | 新しく領主になった鏡映点の名前を見ればみんな大騒ぎになるのは間違いない。まずはこれをみんなに知らせないといけないからな。 |
| カロル | うん……。レイヴンもテルカ・リュミレース領の領主のこと聞いてからなんか考え込むことが増えたし……。 |
| ユーリ | ………………。 |
| イクス | アレクセイさん、でしたっけ。確かレイヴンさんの元上司だとか……。 |
| イオン | オールドラント領のことも……ルークたちには言い出しにくいです。ジェイドも悩んでいるみたいですし。 |
| コーキス | そうか……。みんな元の世界で関わりのある人たちだもんな……。 |
| ユリウス | …………そう、だな。 |
| エミル | イクス ! 大変だよ ! |
| イクス | エミル ? どうしたんだ ? |
| エミル | リヒターさんがいなくなっちゃったんだ ! 地上に降りたみたいで……。 |
| キール | リヒターって、ずっと眠っていたあの男か ? 急に動いて大丈夫なのか ! ? |
| エミル | それが僕も心配で……。マルタが追いかけてくれてるみたいだから僕たちも行こうと思うんだけど、いいかな ? |
| イオン | イクス、ミリーナ。リヒターはまだリビングドール化の影響が残っている筈です。僕にも行かせて下さい。 |
| ユリウス | 領主に関する連絡はこちらで済ませておこう。行ってくるといい。 |
| イクス | ありがとうございます。 |
| イクス | エミル、俺たちも行くよ ! ちょっと待ってて。 |
| エミル | うん、ありがとう ! |
| Character | 3話【14-3 静かな平原1】 |
| リヒター | (……なるほど。これが奴らが話していたゲート……。鏡士たちはこの仕組みを使って空中に浮かんだアジトから行き来しているのか) |
| リヒター | ……くっ。 |
| リヒター | (情けない。歩くのが精一杯とは……。俺は随分と長く眠っていたようだな……) |
| リヒター | (これではすぐに、鏡士どもに追いつかれる……) |
| マルタ | リヒター ! |
| リヒター | ――マルタ……か。 |
| マルタ | 良かった……見つかった。 |
| リヒター | …………。 |
| マルタ | …………。 |
| リヒター | ……………………すまなかったな。 |
| マルタ | え…… ? そ、そうだよ !みんな心配してるんだからね。目が覚めたと思ったら突然いなくなっちゃって。 |
| マルタ | 謝るなら私だけじゃなくて、みんなに謝って ! |
| リヒター | 今のはお前への謝罪だ。マルタ。 |
| マルタ | 私…… ? |
| リヒター | 俺は、お前の父親をセンチュリオン・コアによって狂わせた。 |
| マルタ | …………。 |
| リヒター | あいつは、俺のせいで別人のように変わり果てた。そして本来の志とは違う道を歩むことになってしまった。 |
| マルタ | …………。 |
| リヒター | ……あの時のブルートはリビングドールと同じだ。それがどれほど苦痛なことか、今はよくわかる。 |
| リヒター | もっとも、異世界からではブルート本人への謝罪など届かないだろうが。 |
| マルタ | 私だって……私だってパパに謝りたいよ……。 |
| リヒター | マルタ……。 |
| マルタ | 私は、おかしくなっていくパパを止められなかった。それどころか、結局戦うことになって……。 |
| マルタ | ああするしかなかったのはわかってる。でも……。 |
| リヒター | ……ブルートはどうなったんだ。 |
| マルタ | 酷い怪我をしたの……。でも、命はとりとめた。 |
| マルタ | 私はこの世界に来ちゃったからそこまでしか分からないけど……。多分……ううん、きっと元気になってるはず。 |
| マルタ | あの後、何があったとしてもきっと元の世界の私が、パパを支えてるよ。 |
| リヒター | ……そうだろうな。 |
| マルタ | ……何か変な感じ。リヒターとこんな話するなんて。 |
| マルタ | それに、パパのことを話すのも久しぶり。いつも、どうしてるかなって考えるだけだったから。 |
| リヒター | 話し相手はいるだろう。エミルはどうした。 |
| マルタ | エミルたちは、ただでさえ大変なんだし私のことで心配なんかさせられないよ。 |
| マルタ | それに、元に戻ったパパとは話ができたから。それだけでも十分……。 |
| リヒター | そうか ? 『父が恋しい』と顔に書いてあるぞ。わかりやすい奴だ。 |
| マルタ | そっ、そんなこと…… ! |
| リヒター | だが、お前が元に戻ったあいつと話ができたのなら良かった。 |
| リヒター | コアに汚染される前のブルートは本当に気のいい奴だったからな。 |
| マルタ | ……うん。 |
| マルタ | あ、そうだ ! みんなに連絡しなきゃ。リヒターのこと、まだ捜してるはずだから。 |
| リヒター | 待て、俺は戻る気は―― |
| マルタ | あ、エミル、リヒターを見つけたよ !それでね―― |
| リヒター | ………… ?何か来る……。おい、気を付けろ ! |
| マルタ | 何 ? 今、通信中だから後に――あっ ! |
| 魔物 | グルルルル…… |
| マルタ | 魔物 ! ?リヒター、逃げて。私が引きつける ! |
| リヒター | そこまで落ちぶれてはいない。自分の身は自分で守る。 |
| マルタ | 今まで寝たきりだったんだよ。起きたばっかりで戦えるわけないじゃない ! |
| リヒター | うるさい。構えろ、来るぞ ! |
| Character | 4話【14-5 静かな平原3】 |
| マルタ | これで終わりかな。リヒター、怪我はない ? |
| リヒター | ! ! マルタ、後ろだ ! |
| マルタ | えっ…… ! ? きゃあああっ ! |
| リヒター | くそっ…… ! |
| マルタ | あ、ありがとう、リヒター……。私、あの魔物をしとめ損ねてたんだね……。 |
| リヒター | まったく、油断……しすぎだ……。 |
| マルタ | リヒター ! 大丈夫 ! ? |
| リヒター | 少し、疲れただけだ……。 |
| マルタ | ごめんなさい……。私が守るって言ったのに……。結局リヒターに守ってもらうなんて……。 |
| カーリャ | ミリーナさま、いましたよ ! マルタさまです。 |
| コーキス | リヒター様も一緒だ ! |
| ミリーナ | 途中で通信が切れたって聞いて焦ったけどふたりとも無事で良かったわ。 |
| テネブラエ | ラタトスク様もキレていましたからね。通信が『切れ』て。ククク……。 |
| エミル | テネブラエは黙ってて !マルタ ! リヒターさん ! |
| イクス | あっ、待ってくれ、エミル ! |
| テネブラエ | おっと、怒らせてしまいました。 |
| イオン | テネブラエは場を和ませようとしたんですよね。 |
| イオン | それより、僕たちも急ぎましょう。……リヒターが無理をしていなければいいのですが。 |
| マルタ | エミル ! テネブラエ !みんなも来てくれたんだね。ありがとう。 |
| エミル | 心配したよ。いきなり魔鏡通信が切れちゃったから……。 |
| マルタ | ごめんね。魔物に襲われちゃったの。でもリヒターが助けてくれたんだ。 |
| エミル | リヒターさん……。無事で良かったです。あの……、ええと……体は平気ですか ? |
| リヒター | ……問題ない。 |
| 二人 | ……………………。 |
| カーリャ | う……空気が重すぎますぅ。 |
| コーキス | 仕方ないって。一応ほら……敵ってことになってるし。 |
| エミル | 敵じゃないよ。僕はリヒターさんのことを、そんな風には―― |
| リヒター | …………くっ。 |
| エミル | リヒターさん ! ? |
| マルタ | どうしよう……。さっき魔物に襲われたときに私を助けて戦ってくれたの。それで余計に具合が悪くなったのかも……。 |
| イオン | その体で戦ったんですか ? なんて無茶を……。 |
| ミリーナ | リヒターさん。じっとしていてくださいね。治癒術で少しは楽になると思います。 |
| リヒター | ……捕虜にも等しく治療を施すか。 |
| イクス | 捕虜だなんて、そんな……。 |
| リヒター | それなりに状況は理解しているつもりだ。自分がリビングドールにされていたこともわかっている。 |
| リヒター | なのに、正気に戻るとお前たちのアジトにいた。ならば捕虜として連れてこられたんだろう ? |
| イクス | 違います。イオンが命をかけてあなたを助け出してくれたんですよ。 |
| リヒター | イオン……。そういえばその顔、研究所で見た気がするな。 |
| イオン | リヒター、あなたに仕掛けられたリビングドール化は今までのβよりも、さらに高度な術式が仕込まれているとハロルドから聞いています。 |
| リヒター | ベルセリオス博士か。彼女も鏡士側に来ているのか。 |
| イオン | ええ。その辺りの経緯も、後ほど詳しく説明しますね。今はあなたの体の話をさせてください。 |
| イオン | 最新型のリビングドールのせいでその体にはかなりの負担がかかっています。ですから、もうしばらくの静養が必要なんです。 |
| イクス | だからリヒターさんは二ヶ月も眠ったままだったのか。 |
| リヒター | 二ヶ月、だと…… ? |
| イオン | はい。しかも今は目覚めたばかりです。何が起こるかわかりません。どうか僕たちと一緒にアジトへ戻ってください。 |
| リヒター | ……助けてくれたことには感謝する。だが―― |
| カーリャ・N | 小さいミリーナ様 ! |
| ミリーナ | ネヴァンからだわ。――ネヴァン、心配していたのよ。しばらく連絡がなかったから。 |
| カーリャ・N | 申し訳ありません。至急お伝えしたいことがあります。 |
| カーリャ・N | メルクリアとルキウスが帝国に連行されました。 |
| 一同 | ! ! |
| イクス | 帝国にって、どういうことだ ! ?二人は元々帝国側の人間だろう ? |
| イクス | それともビフレストの具現化に失敗して立場が悪くなったのか ! ? |
| リヒター | ビフレストの具現化…… ! ? |
| カーリャ・N | いえ、あの二人はかなり前から帝国に追われる立場になっていたようです。 |
| リヒター | ……デミトリアスめ。 |
| エミル | リヒターさん ! ? どこへ行くつもりですか。 |
| リヒター | 俺はメルクリアを助けに行く。世話になったな。 |
| マルタ | そんな体で無茶だよ ! |
| リヒター | お前たちには関係のないことだ。邪魔をするなら力ずくでも―― |
| エミル | 待ってください。……だったら、僕もついて行きます。手伝わせて下さい ! |
| マルタ | それなら私も ! |
| テネブラエ | もちろん、私も。 |
| リヒター | ……断る。 |
| マルタ | そんなこと言ってる場合じゃないでしょ ! ?そんな体だし、放っておけないよ。 |
| エミル | イクス、みんな、ごめん。僕たちはリヒターさんと一緒に行くよ。 |
| コーキス | 待ってくれ、エミル様。そんな状態のリヒター様を連れて四人だけで乗り込むってのか ? |
| カーリャ | そうですよ。無謀です ! |
| コーキス | だよな ! だからさ、マスター……。 |
| イクス | わかってるよ、コーキス。リヒターさん、俺たちもメルクリア救出に同行します。 |
| リヒター | 慣れあうつもりはないと言ったはずだ。それに、お前たちにそこまでしてもらう義理はない。 |
| イクス | いいえ、あります。以前、アステルを攫って迷惑をかけましたし俺たち、前に一度メルクリアに助けられているんです。 |
| リヒター | メルクリアに…… ? |
| リヒター | ……ならば、勝手にするといい。せいぜい利用させてもらう。 |
| イクス | わかりました。それじゃミリーナ、俺たちはこのままメルクリア救出へ向かおう。 |
| ミリーナ | ええ。本当は、一度アジトに戻ってみんなと相談するべきなんでしょうけど……。 |
| イオン | でしたら、僕がアジトへ戻って報告しますよ。僕もこの世界では、多少戦えますがそれでも今回は足手まといになってしまいますから。 |
| イクス | 足手まといなんかじゃないよ。ありがとう、イオン。何かあったら連絡よろしくな。 |
| イオン | はい。では皆さん、どうか気をつけて。それとリヒター、無理は禁物ですよ。 |
| リヒター | ……わかっている。 |
| マルタ | 大丈夫。私たちがちゃーんと見張っておくから。ね、エミル ! ……エミル ? |
| エミル | あ、ああ。もちろんだよ ! |
| エミル | (……ラタトスク。リヒターさんを助けてもいいよね ? ) |
| ラタトスク | (……フン。俺は手を貸さないからな。後はお前とテネブラエに任せる。勝手にしろ) |
| Character | 5話【14-6 イ・ラプセル城】 |
| | アスガルド帝国 イ・ラプセル城 |
| ロゼ | ……行った ? |
| デゼル | ああ。他に風の動きはない。今のが巡回兵ならしばらく見回りもないだろう。 |
| ロゼ | よっしゃ。この先にグラスティンの部屋があるって話だよね。今のうちに入ろ ! |
| デゼル | しかし、お前がここまでやる必要があるか ?イクスやカロルたちの報告だけでも十分だろう。 |
| ロゼ | そりゃ、イクスたちの情報を疑ってなんかないよ。でもさ、やっぱりちゃんと調べておきたいんだ。 |
| ロゼ | 黒髪ばっか狙う誘拐事件のせいで街の人たちも怯えてるし、商人たちも警戒してる。このままじゃ商売に影響でまくりだもん。 |
| デゼル | ふん、商売以上に首突っ込んでるくせによ。ま、お前らしいっちゃらしいけどな。 |
| ロゼ | 知らん顔できないでしょ。黒髪マニアのグラスティンの話はイクスたちから聞いてたし。それに……。 |
| ロゼ | ……親がいなくなって泣いてる子や友達や家族を捜してる人、あたしたちが街を巡る間にどれだけ見たと思ってんの。 |
| ロゼ | しかも収まるどころか増え続けてる。 |
| デゼル | まあ、おかげで目撃情報にはことかかなかったがな。 |
| ロゼ | 帝国所属のサレって男が攫ってるのはわかったし後は攫われた人たちがどうなったのか調べて――あ、この部屋じゃない ? |
| デゼル | ……聞いたとおりだな。薬液と血の匂いが染みついてやがる。 |
| ロゼ | それに……壁一面の遺体。間違いないね。 |
| デゼル | ……反吐が出るぜ。確かこの奥はもっと酷いって話だが……。 |
| デゼル | ………… ! |
| ロゼ | ねえデゼル、そっちは何かあった ? |
| デゼル | ………まあな。間違いない。サレの野郎が攫った人間はここでグラスティンの実験に使われている。 |
| デゼル | 帰るぞ。長居は無用だ。 |
| ロゼ | はあ ? 何言ってんの。あたしはまだ、入り口しか確認してないって。 |
| デゼル | これ以上、入る必要はない。それに……お前でもキツいかもしれん。 |
| ロゼ | 今更でしょ。大丈夫、ちゃんと確認させて。 |
| ロゼ | …………酷いね。 |
| デゼル | ああ……。 |
| ロゼ | これで、あいつらがやっているのが大義名分の『実験』だけじゃないのがよくわかったよ。 |
| ロゼ | あいつらは命を弄んでいる。 |
| ロゼ | これは――『悪』だ。 |
| デゼル | …………。 |
| ? ? ? | グラスティン…… ! |
| 二人 | ! ! |
| アリエッタ | 違う……。グラスティン、じゃない……。 |
| ロゼ | ちょっ、あんた血まみれ…… !どうしたの ! ? 怪我してるの ! ? |
| デゼル | いや……ありゃ自分のだけじゃなさそうだ。 |
| アリエッタ | グラスティンがいないなら……いい……。 |
| ロゼ | 待って ! なんでグラスティンを捜してるの。 |
| アリエッタ | グラスティン、イオン様を殺した…… !だから、殺す。殺すの !本当にグラスティン……いない ? |
| ロゼ | いないよ。いつ帰るかもわかんない。 |
| アリエッタ | そう……。……あの……ありがと……。 |
| デゼル | あいつ、俺たちなんて気にもかけちゃいなかったな。おかげで助かったが……。って――ロゼ、どこへ行く ! |
| ロゼ | あの子を追う。 |
| デゼル | やめておけ。これ以上は本当にヤバイぞ。何が起きるかわかりゃしねえ。 |
| ロゼ | あのまま放っておくなんて無理 !あたしは行くよ。デゼルは先に外へ出てて ! |
| デゼル | チッ……、できるわけないだろうが。待てよ、ロゼ ! |
| Character | 6話【14-7 アスガルド城】 |
| | 帝国 アスガルド城 |
| メルクリア | ………………。 |
| デミトリアス | 私は悲しいよ。メルクリア。何故、ビフレストの具現化なんて勝手な真似をしたんだ。 |
| メルクリア | お忘れか、義父上。わらわからチーグルやジュニアたちを召し上げた日のことを。 |
| メルクリア | あの時、わらわは「自由にやらせてもらう」と宣言した筈じゃ。 |
| デミトリアス | ……まさか、本気だったとはね。 |
| デミトリアス | ジュニアたちのことは本当に悪かったと思っている。 |
| デミトリアス | だからこそ、君に対しては何かしらの埋め合わせをと思っていたんだ。それなのに……。 |
| メルクリア | それも結構と言ったはずじゃ。 |
| メルクリア | わらわはもう、義父上には何も期待しない。 |
| デミトリアス | メルクリア……。 |
| メルクリア | それよりも、ルキウスをどこへやった。グラスティン、お前も一枚噛んでおるのじゃろう ! |
| グラスティン | さあてな。それよりも皇女様には大事な仕事がある。ヒヒヒ……お手伝い頂けますかな ? |
| メルクリア | 己でやれ ! 下衆の仕事など知るか ! |
| グラスティン | 己ねえ。そうしたいのは山々ですが俺の周りで鏡精を生み出せるのは皇女様ぐらいのものなんでなあ。 |
| メルクリア | 鏡精じゃと…… ? わらわへの嫌がらせか。冗談にも程があるわ ! |
| グラスティン | 冗談 ?ヒヒヒ、俺はいつだって本音で語っているつもりだぞ。 |
| グラスティン | ――皇女よ、鏡精を作るんだ。 |
| メルクリア | 断る !第一、わらわは鏡精の作り方など知らぬわ ! |
| グラスティン | 俺が教えるとおりにやればいい。なーに、簡単なことさあ。 |
| メルクリア | やらぬと言っているであろう !鏡精を作るのは悪しき鏡士の行い。それは義父上とて承知の筈じゃ。そうじゃろう ! ? |
| デミトリアス | その通りだ。けれど……。 |
| メルクリア | 義父上 ! ? |
| グラスティン | よく吠える皇女様だ。そうそう……吠えると言えば今、黒い毛並みの可愛い子犬をあずかっててなぁ。 |
| グラスティン | 会ってみるか、皇女様。――おい、誰か ! あいつを連れて来い ! |
| ルキウス | ……うっ……。 |
| メルクリア | ルキウス ! ! |
| グラスティン | おっと、近づくなよ。それ以上動くと首が飛ぶ。 |
| ルキウス | くっ……。 |
| グラスティン | ああ、いい目だなあ。悔しそうに睨みつけて。えぐってやりたくなる。黒髪で鏡映点……内臓はどんな色なんだろうなあ。 |
| グラスティン | なあ、飼い主様。駄々をこねるなら手始めにこいつの片目を―― |
| メルクリア | やめよ、グラスティン ! |
| グラスティン | ……ああ ? |
| メルクリア | ……貴様の望むようにしてやる。だからルキウスには手を出すな。 |
| グラスティン | なんだ、もう諦めるのか。残念だな……。 |
| ルキウス | メルクリア……。ごめん……。 |
| Character | 7話【14-8 セールンドの街道】 |
| カーリャ・N | 小さいミリーナ様、今どちらに ? |
| ミリーナ | あなたに言われたとおりセールンドへ向かっているところよ。 |
| イクス | さっきはどうしたんだ ?とにかくセールンドへ行けって言ってすぐに通信を切っちゃったけど。 |
| カーリャ・N | 先程はすみません。突然状況が変わったのです。それについて新たな情報を入手しました。 |
| カーリャ・N | 当初、メルクリアはアスガルド城へ入りその後は城内に留め置かれていました。 |
| カーリャ・N | ですが現在、帝国の一行はメルクリアを伴いセールンドで一番高い山へと向かっているのです。 |
| カーリャ | 山 ? なんでですか ? |
| カーリャ・N | あの山には、かつてアイギスシステムの関連施設がありました。考えすぎかも知れませんがそれが関係しているのかも……。 |
| ミリーナ | アイギスシステム……。嫌な予感がするわ。 |
| カーリャ・N | 私もです。帝国は何か企んでいるに違いありません。皆さん、どうかくれぐれも気を付けて。 |
| イクス | わかったよ。ありがとう、ネヴァン。そっちも気を付けてくれ。 |
| リヒター | ……急ぐぞ。一刻も早く追いついてメルクリアを救出する。 |
| マルタ | 待って。そんなんじゃすぐバテちゃうよ。無理しないようにってイオンも言ってたでしょ。 |
| リヒター | わかっている。だがメルクリアに何かあってからでは遅い。 |
| イクス | ……リヒターさんは、どうしてそこまでメルクリアに肩入れするんですか ? |
| リヒター | 以前にも言ったはずだ。メルクリアを放っておけないだけだと。 |
| カーリャ | 放っておけないだなんてリヒターさまって怖そうなのに面倒見がいいんですねぇ。 |
| リヒター | 別にそういうわけじゃない。……メルクリアは同志だからだ。 |
| コーキス | 同志…… ? リヒター様とメルクリアは同じ目的を持ってるってことか ? |
| カーリャ | メルクリアの目的っていうとビフレストの復活と鏡士への復讐とかですかね。 |
| コーキス | 前も兄上の復讐だって言って襲いかかってきたしな。だとするとリヒター様は―― |
| リヒター | ――歩きながら話すのは疲れる。遠慮してくれ。 |
| 二人 | ご、ごめんなさい……。 |
| エミル | ………………。 |
| マルタ | エミル……。 |
| エミル | あ、あのリヒターさん、疲れているのにごめんなさい。一つだけ聞かせて欲しいんです。 |
| エミル | 今、アステルさんはどうしてますか ? |
| マルタ | そうだね。心配だよ。帝国内も混乱してるみたいだし。 |
| リヒター | 大丈夫だろう。最悪でも殺されはしない筈だ。あれでもアステルは研究部門で重要な位置にいる。 |
| リヒター | 何かトラブルがあったとしても今のあいつなら必ず切り抜ける。必ずな……。 |
| リヒター | ……無駄話は本当にここまでだ。急ぐぞ。 |
| エミル | リヒターさん……、無理してるよね。 |
| マルタ | うん……。けど、エミルもだからね。 |
| エミル | え ? |
| マルタ | 気にしてるでしょ、リヒターの復讐のこと……。 |
| マルタ | メルクリアが同志だっていうの復讐したい相手がいる気持ちがわかるから……ってことでしょ ? |
| エミル | ……そうだよね。やっぱり。 |
| マルタ | だから、無理しないでねって言ってるの。つらい時はつらいって吐き出してね ? |
| エミル | ……うん。ありがとう、マルタ。 |
| テネブラエ | フフフ、お二人はやはりいいコンビですね。吐き出せる仲間がいるというのはいいものです。 |
| マルタ | もう……やめてよ、テネブラエ。照れちゃう…… ! |
| エミル | はは……。 |
| マルタ | それにしたって、リヒターってば……。 |
| エミル | リヒターさんが何 ? |
| マルタ | あ、ううん、こっちの話。 |
| マルタ | (……私のこと、あんな風に言ってたくせに) |
| マルタ | (自分だって、顔に書いてあるじゃない。「アステルが心配でたまらない」って……) |
| Character | 8話【14-12 イ・ラプセル城】 |
| アステル | すみませーん ! 開けてもらえませんかー ? |
| アステル | ………………。 |
| アステル | 返事がない……。 |
| アステル | (誰もいないのかな ? ずっと見張りの兵士が扉の外にいたのに……) |
| アステル | (な、何だろう、この音…… ? ) |
| アステル | え ? 地震……じゃない…… ? この揺れは…… ? |
| アステル | か、壁が崩れる ! ? ケホッ ! ケホッ ! だ、誰か ! ? 助けて下さい ! ! 扉を開けて ! 部屋が潰れる ! ! |
| ??? | ハーッハッハッハッ ! この部屋が潰れることはありませんよ。ちゃーんと城の構造を把握して掘り進んできましたから。 |
| アステル | ……え ? その声……もしかして薔薇のディスト博士 ? |
| ディスト | おや、レイカー博士。ということは、計算通り研究棟の地下まで辿り着いたようですね。 |
| アッシュ | ――おい、いつになったら外に出られるんだ。 |
| ディスト | まったく、人の話を聞いていなかったのですか ? ここから左に40度掘り進むと脱出用の地下通路にぶつかるんですよ。 |
| アステル | え ? まさかディスト博士、帝国から逃げるんですか ? |
| ディスト | 逃げる ? 何を言うのかと思えば。 |
| ディスト | 勘違いしないで頂きたいですね。この薔薇のディスト様の方が今まで帝国にいてやったのですよ。 |
| ディスト | そろそろ私の目的を果たす時が来たのでね、自分の研究に専念することにしたのです。 |
| アステル | それで掘削機を使って地下を掘り進んで来たんですか ! ? ディスト博士なら、城内を自由に移動できるのに。 |
| ディスト | 私の研究資料や成果が勝手に奪われていましたからね。保管庫から回収する必要があったのですよ。 |
| アッシュ | アステル、だったな。お前はここに閉じ込められていると聞いた。何なら俺たちと一緒に来るか ? |
| アステル | え ! ? |
| ディスト | アッシュ ! あなたにしてはいい考えですね。 |
| アッシュ | どういう意味だ……。 |
| ディスト | レイカー博士。あなたは私ほどではありませんが研究者として良い資質を持っています。特に精霊の分野では役に立つ。 |
| ディスト | 私と一緒に来るというなら歓迎しますよ。 |
| アステル | ――あの、だったらリヒターを助けるのに力を貸してもらえませんか ! ? |
| アステル | リビングドールにされて、テセアラ領の領都に派遣された所までは聞いてるんですけどそれきりなんの消息もなくて……。 |
| ディスト | 焔獄のリヒターですか ? |
| ディスト | 私を崇拝し、私の主催するサロンに顔を出すところは殊勝だと思いますが、研究者としてはさほど見るべきところはありませんよ。 |
| アステル | (崇拝……してたかな ? まあ、いいや) |
| アステル | リヒターも専門は精霊なんです。僕一人よりリヒターの助けがある方がディスト博士の研究に役立てると思います。 |
| ディスト | ふむ……。 |
| アッシュ | おい、死神。こいつにとってのリヒターはお前にとっての死霊使いのようなものじゃないのか ? |
| アッシュ | いくらお前の存在が人外でもアステルの気持ちぐらいは理解できるだろうが。 |
| ディスト | 誰が死神ですか ! 薔薇だと言っているでしょう。物覚えの悪い男ですね。 |
| ディスト | それにジェイドは我が友であり、同時に我が仇敵 ! リビングドールにされるような間抜けではありません。全く理解できませんよ。 |
| アッシュ | おい、アステル。一緒に来い。この歩く茹でダコに人間の気持ちを説くだけ無駄だった。 |
| アッシュ | リヒターを助けるならイクスたちの協力を仰いだ方が早い。 |
| ディスト | 何を勝手に決めているんです ! ? |
| アッシュ | お前が掘削機で掘り進む間に追っ手だの魔物だのを切り伏せているのは俺だということを忘れるなよ、メガネダコ。 |
| ディスト | さっきから何なんです ! ? 人のことをタコ呼ばわりして ! ? |
| アッシュ | ああ、タコに失礼だったな。 |
| ディスト | ムキーッ ! あなた、私がローレライに会わせてやった恩も忘れて何なんですか ! ? |
| アステル | ディスト博士。ご迷惑でしょうが、僕を連れて行って下さい。この城を脱出するまででかまいませんから。 |
| ディスト | 相変わらず、あなたは殊勝ですねえ…… ! もちろんかまいませんよ。 |
| ディスト | 焔獄のリヒターのことはともかくあなたのことは評価していますから。 |
| アッシュ | グラスティンとその麾下の連中はこの城を離れている。今が脱出の好機だ。行くぞ。 |
| アステル | はい ! |
| ディスト | では壁を掘り進めますよ ! シールドマシン『ミニカイザーディスト』号始動 ! |
| Character | 9話【14-13 セールンド山4】 |
| メルクリア | な、なんじゃ……ここは……。 |
| メルクリア | あそこに横たわっておるのは兄上様の器 ! ?どういうことじゃ ! ?何故最初のイクスの死体がここにある ! ? |
| グラスティン | これから始まるショータイムに欠かせないパーツなんでなあ ? |
| メルクリア | どういう意味じゃ ! ?ここで鏡精を作らせて、何をしようというのじゃ ! ? |
| 光魔 | ……ウゥ~……ハルルルルル ! |
| ルキウス | 光魔 ! ? |
| グラスティン | ――おっと、お前ら。まだ、皇女様に手を出しちゃ駄目だぞ ? |
| メルクリア | な、何匹おるのじゃ……。 |
| ルキウス | メルクリア、壁を見て !一面に光魔の檻がびっしり……。 |
| メルクリア | どういうことじゃ ? 何故こんなに沢山の光魔がいる ?虚無へのアクセス手段が断たれ光魔は生み出せない筈じゃぞ…… ? |
| デミトリアス | あの光魔はレプリカだ。はぐれて生き残っていた光魔を捕獲して増やしたんだよ。 |
| ルキウス | そこまでしてどうして光魔を増やす必要があったんだ……。それにどうやって飼い慣らしている ? |
| ルキウス | チーグルも魔鏡結晶を使って呼び出すことしかできなかった筈なのに。 |
| グラスティン | ヒヒヒ、飼い慣らすなど簡単だ。奴らにだって心はあるんだからな ? |
| メルクリア | まさか、リビングドールか ! ? |
| グラスティン | 光魔は便利なんだよなあ。奴らは死ぬと死の砂嵐に帰っていく。その時に一瞬できる道を使って死の砂嵐に接触するんだ。 |
| グラスティン | 毎回殺さなきゃならないのが不便だがなあ……。殺しても肉にもならないし……。 |
| デミトリアス | グラスティン、そんな話をメルクリアたちに聞かせることはないだろう。 |
| グラスティン | ヒ……ヒヒ……。いつもながらずれた優しさを持っているな。デミトリアス。 |
| グラスティン | まあいいさ、それじゃあそろそろ鏡士の奇跡の力を見せてもらおうか、皇女様。 |
| メルクリア | ――わ、わらわが鏡精を作ればルキウスを解放してくれるんじゃな。 |
| デミトリアス | ああ、約束するよ。 |
| メルクリア | ………………。 |
| メルクリア | (鏡精は……世界を滅ぼす存在じゃと兄上様は仰っていた……。じゃが……このままではルキウスが……) |
| ルキウス | メルクリア ! 嫌な予感がする。こいつらの言うことなんて聞かなくていい ! |
| グラスティン | ヒヒヒ……。そうか、お前は俺に解体されたいんだなあ。かまわないぞ、それでも。 |
| メルクリア | ルキウスに手を出すでない !貴様はそこで大人しく見ておれ ! |
| メルクリア | (鏡精は心の具現化……。心を……もう一人のわらわを捜す……) |
| メルクリア | アニマを感じよ……。わらわの中にいるもう一人のわらわを。わらわの心の現し身―― |
| メルクリア | (何じゃ、この感覚は…… ! ?わらわの中から何かが――) |
| メルクリア | 現世に姿を見せよ ! 鏡精モリアン ! |
| ジュニア | ――メルクリア ! ? |
| ナーザ | ! ! |
| グラスティン | ヒヒヒヒヒ…… ! 上手くいったぞ !やっぱり異世界のアニマを利用するより鏡精の方が断然エネルギー効率がいい ! |
| ジュニア | ど、どういうこと…… ? 鏡精…… ? |
| グラスティン | ――おっと、小さなフィリップのお出ましか。皇女様のことが気になったようだなあ ? |
| ジュニア | グラスティン ! 何をした ! ?まさか鏡精を殺してキラル分子を作り出したんじゃ―― |
| グラスティン | ご名答。お前がマークを差し出さないから皇女様に鏡精を作ってもらったんだよおぉぉぉぉ ! |
| ジュニア | ! ? |
| ナーザ | メルクリアに鏡精を作らせた……だと ! ? |
| グラスティン | おやあ…… ? その声は―― |
| ジュニア | メルクリア ! ? |
| メルクリア | ………………わら……わ……わら……わ……ここ……ろ……ひ……あ……ふふ……ふふふふふ…………。 |
| ジュニア | まさか……鏡精を切り離さずにキラル分子変換したの ! ?そんなことをしたらメルクリアの心が潰れる ! ! |
| ナーザ | ……何という……邪悪 ! ! |
| ジュニア | 何をするつもりなんです ! ?鏡精をキラル分子化して何に利用するつもりですか ! ? |
| グラスティン | おお、怖い……。せっかく皇女様の望みを叶えてやろうとしたのに、そう睨まないでくれよ……ヒヒヒ……。 |
| ルキウス | まさか……ビフレストの復活…… ? |
| グラスティン | そうだあ ! 皇女様のお望み通りビフレストを具現化してやるんだよ ! |
| グラスティン | 皇女様たちが一度具現化しかけてくれたからな。その仕掛けとデータを再利用してビフレストが復活する ! |
| Character | 10話【14-15 リヒター】 |
| イクス | もう少しで山頂だ……。リヒターさん、大丈夫ですか ? |
| リヒター | ああ……。 |
| コーキス | な ! ? 何だ ! ? 地震か ! ? |
| テネブラエ | 皆さん ! ここは足下が悪い ! 気を付けて ! |
| イクス | ……収まった、か ?みんな、大丈夫か ! ? |
| コーキス | えっと……エミル様たちは……。 |
| カーリャ | 少し先の所です。あの、ちょっと開けた場所……。 |
| 帝国兵A | ――なんだ、今の地震は ? |
| 帝国兵B | グラスティン様が言ってた『鏡震』だろう。 |
| コーキス | 帝国兵 ! ? |
| 帝国兵A | ――貴様たち。侵入者か。 |
| 帝国兵B | 賊は排除する。 |
| エミル | マルタ ! リヒターさん ! 大丈夫 ? |
| リヒター | 俺は平気だ。マルタは―― |
| マルタ | 私も大丈夫。凄く大きな地震だったね……。 |
| テネブラエ | ――待って下さい !イクスさんたちが帝国兵に囲まれています ! |
| エミル | え ! ? |
| リヒター | いや、どうやらこちらもだ。山頂の方から兵士たちが来る。 |
| テネブラエ | 警備兵でしょうか。しかし、数が多い。 |
| リヒター | よほど後ろ暗いことをしているんだろう。この先でな。 |
| 帝国兵C | 侵入者、発見。 |
| 帝国兵D | これより排除にかかる。 |
| リヒター | くっ ! 今のが鏡震ならメルクリアの力が利用されたはずだ。あいつは無事なのか ! ? |
| エミル | リヒターさん ! 僕とテネブラエで敵を引きつけます。マルタと一緒に先に行って下さい ! |
| エミル | マルタ、リヒターさんをお願い ! |
| マルタ | エミル ! ? だけど―― |
| エミル | 二人の位置からなら、走って突破できる。僕たちなら大丈夫 ! |
| ラタトスク | ――リヒターを一人で行かせて死なれたら寝覚めが悪いからな。奴を守ってやれ。 |
| リヒター | 何……。 |
| ラタトスク | 俺はお前が俺を殺しに来るところを返り討ちにしたくてたまらねぇんだ。それまで死なれてたまるか ! |
| ラタトスク | マルタ ! お前ならできる ! |
| マルタ | ――わかった ! リヒター、行こう ! |
| リヒター | ちぃっ ! |
| マルタ | な……何 ! ? 光魔がこんなに沢山……。待って ! ? リヒター、光魔に囲まれてるのって―― |
| リヒター | ――メルクリアとジュニアか ! ? |
| ジュニア | リヒターさん ! ? どうしてここに ! ? |
| メルクリア | ……ぐぅ……ううう……。 |
| リヒター | やらせるか ! ! |
| グラスティン | おっと……。リヒターか。ヒヒヒ……。姿をくらませたと思いきや自分を取り戻していたとは恐れ入るな。 |
| リヒター | 貴様、メルクリアに何をした ! ? |
| グラスティン | 鏡士として働いてもらっただけだよ。それの何が問題なんだ ? |
| ジュニア | リヒターさん、お願いです。少し時間を稼いで下さい。そうすれば、味方を増やせるから―― |
| グラティン | ! ! |
| グラスティン | ……ヒヒ、そういうことか。小さいフィリップ。だが、俺の手にはあの黒髪の仔犬がいることを忘れるなよお ? |
| ルキウス | ――くぅっ ! |
| 兵士 | うわあっ ! ? |
| グラスティン | ――ちぃっ ! ? 雑魚肉が邪魔するな ! |
| マルタ | だ、誰が、雑魚肉よ ! この変態 ! !その男の子に手出しはさせないんだから ! |
| グラスティン | ガキが面白いことを言うなあ。生意気な肉は解体してやろう。臓物になれば、少しは見栄えもよくなるだろうよ。 |
| マルタ | な、何なのアンタ ! ? マジでキモいんだけど ! |
| グラスティン | ヒヒヒヒヒ、だからなんだ ? |
| リヒター | マルタ ! 逃げろ !こっちは光魔の相手で手一杯だ !お前にそいつの相手は―― |
| マルタ | 無理だって言うの ! ? 冗談じゃない ! |
| マルタ | (ヤバい……。絶対ヤバい相手だよ。だけど……) |
| エミル | マルタ、リヒターさんをお願い ! |
| エミル | マルタ ! お前ならできる ! |
| マルタ | (エミルとラタトスクに頼まれたんだもん。二人が今まで私を守ってくれたみたいに今度は私が――) |
| マルタ | 私が、ここにいるみんなを守る !私だって――守られてばかりじゃないんだから ! |
| ジュニア | 浄玻璃鏡が光った…… ! ? |
| リヒター | ――マルタ ! オーバーレイだ ! |
| グラスティン | ちぃ、これだから鏡映点ってのは始末が悪い。 |
| マルタ | オーバーレイだか何だかわかんないけど変態なんかに負けないんだから ! |
| Character | 11話【14-15 リヒター】 |
| マルタ | やった ! ? |
| リヒター | 気を抜くな、マルタ !奴はクロノスの力で再生できる ! |
| ラタトスク | ――だったら、今度は俺たちが相手だ ! |
| マルタ | ラタトスク ! ? |
| エミル | マルタ ! お待たせ ! |
| マルタ | エミル…… ! |
| カーリャ・N | 皆さん、グラスティンとデミトリアス陛下が逃げるつもりです ! |
| グラスティン | ――カーリャか。お前、生きていたとはなあ。 |
| デミトリアス | グラスティン ! 急げ ! |
| グラスティン | しかし、小さいフィリップが―― |
| デミトリアス | 後にしろ ! グラスティン ! |
| グラスティン | ちっ……。だったら、交渉材料にお前を連れて行くぞ黒髪の犬コロ ! |
| ルキウス | うっ……。 |
| テネブラエ | 転送魔法陣で逃げられましたね……。 |
| カーリャ・N | ……すみません。私がもっと早くこの場所に着いていれば……。 |
| イクス | いや、俺たちだってそうだよ。なあ、ミリーナ―― |
| ミリーナ | ………………。 |
| イクス | ――ミリーナ ? |
| ミリーナ | イクス……。あれ、最初のイクスじゃ……。 |
| イクス | 本当だ……。横にはジュニアが…… ?何をして―― |
| カーリャ・N | イクス様の体が――最初のイクス様の体が光り出した ! ? |
| イクス | ……何……だ……急に……意識が……―― |
| コーキス | マスター ! ? |
| カーリャ | ミリーナさま ! イクスさまが倒れちゃいましたよ ! ? |
| イクス | (……真っ暗だ……。一体何がどうなって……) |
| ? ? ? | ――祖父ちゃん、どうしてだよ。俺だって鏡士の血を引いてるんだぞ ! |
| ? ? ? | そうだな。そろそろちゃんと話して聞かせる時が来たのかも知れないな。 |
| ? ? ? | イクス。お前は特別なんだ。お前が鏡士になるということは世界の理を変えることになるかも知れない。 |
| ? ? ? | 私はお前を亡くしたくない。お前の父も母も同じだ。それでも鏡士になるというなら―― |
| イクス | (祖父ちゃんの声 ? ) |
| イクス | (……違う。これは……まさか……最初のイクスの『記憶』…… ? ) |
| ジュニア | ――やっぱり。イクスの体は『破損』していたんだ。だからナーザ将軍を受け入れられなかった。 |
| ? ? ? | そのようだな。 |
| ナーザ | 俺がこの体を離れた後、デミトリアスたちが死の砂嵐に繋がる術を見つけようとこの体を実験に利用した。 |
| カーリャ・N | どういうことです。イクス様のご遺体を何に使ったというのですか ! ? |
| ジュニア | 虚無に繋がる道を生み出すための魔鏡作り……だと思う。 |
| ジュニア | イクスの遺体をレプリカで増やして人体万華鏡に改造したんだ……。 |
| ジュニア | 多分レプリカを作った時に最初のイクスの遺体に悪影響が……。 |
| 二人 | ! ? |
| ナーザ | だが、今はこうして俺の宿る疑似心核を受け入れた。恐らく、そこの具現化されたイクスが影響しているのだろう。 |
| コーキス | どういうことだ ?マスターが倒れたのはお前らのせいなのか ! ? |
| ジュニア | そうじゃないよ。僕にも理屈はよくわからないけど最初のイクスのアニムスと三人目のイクスのアニマが共鳴したんだ。 |
| ナーザ | ――ジュニア。行くぞ。あの毒は世界を死に至らしめる。俺は止めねばならない。ビフレストの皇子として。 |
| ナーザ | ――リヒターと言ったか。至らぬ愚妹に力添え感謝する。 |
| リヒター | 待て。俺も――お前たちと共に行く。 |
| エミル | リヒターさん ! ? |
| リヒター | メルクリアの無事を見届けたい。 |
| ナーザ | ……物好きな奴だ。好きにしろ。 |
| カーリャ・N | 待ちなさい !イクス様のご遺体に勝手な真似をするのは私が許しません ! |
| ナーザ | カーリャか。貴様の許しを得るつもりなどない。それに俺にかかずらっている場合か ?ビフレストが具現化したのだぞ。 |
| ミリーナ | さっきの地震は……鏡震 ! ? |
| キール | おい、大変だぞ ! ?前にオーデンセが具現化された場所にまた島が現れた ! |
| キール | 今情報を分析しているが明らかにオーデンセとは違う島だ ! |
| ナーザ | 黒衣の鏡士よ。今は貴様らとやり合っている時ではない。 |
| ナーザ | 今の俺の敵は、世界に毒をもたらす邪悪。アスガルド帝国の皇帝を自称するデミトリアスだ。その為に――この体は借りていく。 |
| ジュニア | 転送魔法陣、起動させます ! |
| カーリャ・N | イクス様ッ ! ! |
| マルタ | ……何 ? 何がどうなったの…… ? |
| ミリーナ | わからない……。今は急いでアジトに戻らないと。ビフレストの具現化も確認しなければいけないし何よりイクスが……。 |
| コーキス | マスター……。 |