Character1話【1-1 仮想鏡界1】
ジュニア――仮想鏡界、設置完了しました。でも本当にいいんですか ?
ナーザ我らの知る情報を持ち合わせた限り帝国に鏡士はいないことは間違いない。
ナーザ鏡士がいなければ仮想鏡界を襲われる可能性は低いだろう。死鏡精もほとんど消えた。
バルドはい。いま地上のどこかに隠れ家をもってそこを拠点にするというのは難しいところです。
バルド我々はどうしても遊撃的な動きしか出来ませんので拠点が足かせになってしまいます。
リヒター……バルドの言うことはもっともだ、が。
バルド…… ? どうかしましたか ?
リヒタージュニアもナーザも鏡士だ。メルクリアも正式ではないが、鏡士の術を学んでいる。
リヒター突然お前の声が聞こえるのも気にならないだろうが……。
メルクリアいや、わらわとて驚くぞ。
バルドそれは……そうですよね。申し訳ありません。ですが人工心核に宿るだけの存在ですので魔鏡越しに声をお届けするので精一杯なのです。
ナーザ姿が見えていれば問題ないのか ?
リヒターどういう意味だ ? 何か考えでもあるのか ?
ナーザ魔鏡術で幻体を作る。
ナーザ幻体の元となる魔鏡とバルドの人工心核をリンク。幻体の制御をバルドの人工心核と同期させる。
メルクリア兄上様、これは――
バルドこ、この体は…… ?
ナーザ単なる幻だ。声だけがどこからともなく聞こえるから驚くのだ。幻でも喋れる姿が見えていれば、気にならぬだろう。
コーキス……マジかよ…… ?
バルドコーキス……。やっと口を開いてくれたね。
コーキス……別に喋ることがなかっただけだし。
メルクリアこれが……バルドの本当の姿なのか ?
バルドはい……。幻体故、メルクリア様に触れることは叶いませんが、恥ずかしながらこの姿こそ生前の私の姿です。
リヒターフレン……のような姿を想像していたが、違ったな。
バルド相性のいいアニマの持ち主の体でないとリビングドールにはなれません。ですから何かが……フレンさんに近かったのでしょうね。
バルド私は彼のような心の強さを持っているようには思えませんが……。
ナーザ――どうした、頭を垂れて。
バルド生前、祖国を守れず、こうして心だけが甦っても一度はウォ――ナーザ様を裏切った騎士失格の男にかような姿を与えていただけた。
バルドそのお慈悲に感謝を申し上げます。
ナーザ死んでからもなお忠誠を求める程、俺は愚かではない。
ナーザそれにあの時、黒衣の鏡士たちに力を貸したのはそれがお前の騎士としての生き方に恥じぬ行為だという自覚があったからだろう。
ナーザならば、謝罪は不要だ。
バルドありがとうございます、ナーザ様。
マークⅡ仮想鏡界をざっと見て来たぞ。綻びはない。所々ビフレスト風にしてあるんだな――っとそちらさんは ?
バルドバルドです。マーク。
マークⅡ幻体、か。へえ……随分と優男だったんだな。
ナーザメルクリア、バルドの姿を維持するのには魔鏡に鏡士の力を常に注いでおく必要がある。この魔鏡をお前に預けておこう。
メルクリアは、はい !
ナーザバルドの幻体はその魔鏡からメルクリアの力を感じ取れる位置までは自由に動ける。
マークⅡ鏡精みたいなモンってことか。マスターから離れすぎると消えちまう。
コーキス………………。
マークⅡん ? どうした、コーキス。もうホームシックか ?
コーキスち、違う !
マークⅡそうかあ ? ま、切り離されもしないのにマスターのところを飛び出す鏡精なんて前代未聞だからな。
ジュニアマーク。コーキスをいじめないでよ。
マークⅡはいはい。了解しましたよ、マスター。
メルクリア兄上様。わらわがバルドの魔鏡を持っていては兄上様がバルドと話を出来ぬのではありませぬか ?
ナーザバルドの心核は俺が持つ。必要があれば、俺は心核と直接対話する。
バルドそういえば、そろそろレイカー博士がこちらに来るのでは ?
コーキスアステル様がこっちに来るのか ! ?
リヒター救世軍を通じてイクスたちと話をつけた。馴れ合うことはしないが、帝国という敵に立ち向かうための情報共有は行う。
リヒター無論ビフレストの情報や、我々が帝国にいた時の情報も受け渡す。その代わりに向こうはアステルをこちらに引き渡す。
マークⅡ引き渡し地点に向かったらどうだ。俺は例によって、ここで留守番でもしとくわ。
ナーザでは……メルクリアとバルドとリヒターに同行してもらう。
コーキス俺は…… ?
ナーザ来たければ付いてきても構わない。だが、貴様は自分が俺たちの側に着いた理由をきちんとイクスたちに説明できるのか ?
コーキス……それは……。
ナーザ無理だろうな。貴様はバロールの魔眼について知るために付いてきたと言った。しかし、それは真に貴様が求めていることではないだろう。
ナーザ自分が本当は何を求めているのかそれを自分で納得させないことにはイクスたちを納得させることもできない。
ナーザ己を知れ、鏡精。貴様はまだ未熟だ。

Character2話【1-2 仮想鏡界2】
ジュニア……みんな行っちゃったね。
コーキス………………。
ジュニアコーキス、あの……焦ることはないと思うよ。
コーキスうん……。けど、俺の持っている力がニーベルングを滅ぼした力だなんて……。
マークⅡ俺たち鏡精が兵器だったって話も聞いちまったんだったな。
コーキスマークは知ってたのか ?
マークⅡフィル……ジュニアは、最初のフィリップの記憶を少しずつ共有してるからな。教えて貰ったよ。
コーキスミリーナ様みたいに、記憶を失ってるところがあったりはしないのか ?
ジュニアミリーナの場合は、ゲフィオンがカーリャ……今はネヴァンか。ネヴァンを切り離した時に記憶を預けてしまったからね。
コーキス……くそ。どうしたらいいのかな。俺、馬鹿だから何から手をつけたらいいのかよくわからないんだ。
マークⅡバロールの魔眼ね……。ビフレストの連中から話を聞いて、その後は……やっぱりゲフィオンにあたるしかねえだろ。
ジュニアイクスの話だと、魔鏡結晶の中にいたときにはゲフィオンと会話出来てたみたいだから何か手段はあると思うんだよね。
ジュニアこんな時最初のフィルがいれば……。
マークⅡは ? お前を自分の都合で具現化した挙げ句ゴミみたいに捨てた奴だぞ ?
マークⅡ今はダーナと話をするために精霊の封印地にいるんだっけ ?あれから全然連絡がねぇらしいけど何していやがるのかね。
ジュニアう、うん……。でも知識も技術もあっちのフィルの方が確かだから。
コーキスけど、フィル様の記憶少しずつジュニア様も共有してるんだろ ?だったらいい勝負なんじゃないか ?
マークⅡうちのマスターの方が若い分脳のひらめきがいい筈だ。
ジュニア……待って。それだ !
二人
ジュニアミリーナなら、ゲフィオンと会話出来るのかも知れない…… !
セネルイクス、ちょっといいか。
イクスああ……えっと、用件は ?
セネル……何か急ぎの用事でもあるみたいだな。
イクスあ、ああ……ごめん。アステルがナーザ将軍たちのところに行くことになってその手配でちょっとバタバタしてたんだ。
ジェイイクスさんですね。ジェイです。きちんとお目にかかるのは初めてですね。先程ウェルテス領の調査から戻りました。
セネル俺たちがウェルテス領から引き上げた後も色々と帝国の状況を調べてくれていたんだ。
イクスああ ! 話は聞いてるよ。ようこそ浮遊島アジトに。俺はイクス・ネーヴェだ。
ジェイウェルテス領に関する情報は、資料にまとめてキール研究室とカロル調査室、リオン警備部に共有しました。これはイクスさんたちの分です。
イクスありがとう、助かる。文書になってると早いんだ。
ジェイ瞬間記憶能力ですよね。その辺りはこちらも把握しています。
イクス本当にすごいな ! ?
セネルジェイは頼りになるからな。
セネルそれより色々と大変なことが続いて気が休まらないんじゃないか ?コーキスのこともあるし。
イクス――いや、コーキスは……コーキスなりに考えがあってのことだと思うから……。っていうか、セネルたちにまで心配かけてごめん。
セネル仲間だろ。そんなことで謝るぐらいなら悩み事はきちんと相談して、しっかり休んでくれ。つらい時はつらいって言っていいんだ。
イクス……ありがとう、セネル。
セネルそれで……こんな時に空気が読めないと思われそうなんだが、うちの連中がジェイの歓迎会をしたいって言い出して。
イクスああ、いいんじゃないか ?
セネルいいのか ? せっかくだから、今年のクリスマス会も兼ねられればと思ったんだが……。
イクスそうか……もうすぐクリスマスだもんな。他のみんなも喜ぶと思うから、話をしてみてくれ。
セネルわかった。じゃあ、行こうか、ジェイ。
ジェイあ、すみません。ぼくはこの後カロル調査室の方へ顔を出そうと思います。
セネルそうか ? わかった。それじゃあ、イクス。無理するなよ。
イクスああ、ありがとう。ジェイ、これからよろしく。
ジェイええ、こちらこそ、イクスさん。
イクス(またクリスマスが来るのか……。コーキスが一緒にいたら、パーティーの準備張り切っただろうな……)
イクス(コーキス。ちゃんとお前と話したいよ……)
ミリーナイクス、こんなところにいたのね。そろそろ出発の時間よ。
カーリャ急ぎましょう。コーキスも待ち合わせ場所に来ているかも知れません。
カーリャ・Nイクス様。イクス様がお望みでしたらなんとしても、コーキスをこちらに連れ戻しますが。
イクスいや、それは駄目だ。コーキスなりに考えて決めたことだと思うから、まずはその話を聞きたい。
カーリャそうですよ、ネヴァン先輩。コーキスのやったことは馬鹿無限大の所行ですけど、それでも最初から本人の意志を無視するのはよくないです。
カーリャ・Nそ、そうですね……。すみません。小さいカーリャの言う通りです。
カーリャ・N私はミリーナ様とイクス様に関わることだとどうも頭に血が上ってしまうようですね。カーリャ、ありがとう。
ミリーナねえ、ネヴァン。アステルさんを送り届けたら、あなたにお話があるの。
カーリャ・Nすみません、小さいミリーナ様。実はこの後――
ミリーナいいえ、何かの調査ならカロル調査室に任せましょう。もうそろそろ、ちゃんと向き合ってもいいんじゃないかしら。私たち。
カーリャ・N何に……でしょうか。
ミリーナゲフィオン――最初のミリーナに。

Character3話【1-3 静かな平原1】
リヒターアステルはどうした。
イクスもうすぐ来るよ。アジトを出る前に研究資料を共有するって駆け回ってたから。その……コーキスは…… ?
ナーザ来るつもりはないそうだ。
イクス……だったら伝えてもらえませんか。話がしたいって。
ナーザ俺はメッセンジャーではない。
バルドナーザ様。イクスもそんなつもりではないのですから気持ちを汲んでやっていただけませんか ?
ミリーナ……え ? その声、もしかして……。
バルドはい。バルドです。メルクリア様救出のおりにはお力添え、ありがとうございました。
三人! ?
ミリーナバルドさん……こういう姿をしていたんですね。あの時――イクスの救出の時は、きちんとお別れの挨拶もできないままだった……。
バルドあの時は不義理をしてすみません。本当はシドニーも連れてこられればよかったのですが事情があって……。
ミリーナシドニーはまだ虚無にいるのね……。
メルクリア………………。
バルドそれからカーリャ――いえ、ネヴァン。お久しぶりです。
カーリャ・Nえ……ええ……。でもバルド……。あなたの体は魔鏡戦争の時、カレイドスコープによって消滅したはず。それがどうして……。
バルド幻体です。姿が見えない状態では色々とご迷惑をお掛けするようなので、ナーザ様がこのような形でかりそめの体をご用意下さいました。
バルドもっとも、幻の存在故、あなたのその美しい手に唇を寄せることも叶いませんが……。
カーリャええ ! ? キャラが違いませんか ! ? バルドさま ! ?
ナーザこれは昔からこうだ。
バルドフレンさんの心核にいた頃はフレンさんから色々と止められていて……。あの方は本当に真面目な方ですね。
イクス(色々と……って、フレンさんが止めなければ何をするつもりだったんだろう……)
ミリーナナーザ将軍、教えて頂けませんか。ビフレストは何を知っているのか。
ミリーナデミトリアス陛下は、どうして異世界の技術を使って非道な実験を繰り返すのか。
ナーザ聞かれるだろうと思っていた。故にバルドとメルクリアを同行させた。
メルクリアわらわ……でございますか ?
ナーザメルクリア。ビフレストのことを知らないのはお前も同じだ。今日はその話をしようと思う。だが……ここで立ち話というのもな。
イクスあ、それはそうですね。アジトに来て貰う……のは大変か……。
メルクリアわらわたちの拠点に案内してはどうでしょう。……こやつらのことは好きではありませぬが助けてもらった恩がございます。
メルクリアそれに鏡精への伝言など、兄上様のお手を煩わせずともマスターが自ら声がけすればよいではありませぬか。
カーリャ・Nビフレストの拠点……ですか。
ミリーナ不満そうね、ネヴァン。
カーリャ・N……私にとってはたとえ死者でもこの者たちは仇ですから。
メルクリアわらわにとってもミリーナ・ヴァイスは仇じゃぞ。
ミリーナそうよね……。でも私……ゲフィオンは、イクスを救うためなら手段を選ばないと決めていた。恨まれても仕方ないわ。
バルド我々は、それぞれ対立する国に属していた存在。色々と思うところもあるでしょう。ですがそれでも、協力しあうことはできる筈です。
バルド拠点では、私が皆さんの身の安全を保証します。
イクスありがとうございます。それに俺もバルドさんと同じ意見です。
ミリーナバルドさんは私たちを助けてくれた人だもの。信じない方が失礼よね。
カーリャはい ! それにイケメンですし !
バルドあなたもとても愛らしいですよ、カーリャ。見た目だけではなく、中身もきら星の如く輝いている。そして願わくば私の中身のことも、是非知って下さい。
カーリャカカカカカーリャ……く、口説かれてる…… ! ?
ミリーナちょ……バルドさん ! ?
カーリャ・N小さいカーリャに色目を使うのはやめなさい !
バルド叱られてしまいました。
バルドすみません、ミリーナさん、ネヴァン。あなた方を困らせるつもりはなかったのです。どうかその――
ナーザバルド ! 貴様は相変わらずだな。なぜ息をするように女を口説く。それで何度も痛い目に遭っているだろう。
バルド口説くなどと、とんでもない。私は自分が美しいと思うものを称えたいだけです。
バルド私にとって女性は皆美しく、強く気高い神のような存在。称えずにはいられません。
バルドもちろん、この世で一番美しく気高いのはウォ……ナーザ様ですが。
ナーザ――やめろ。だから貴様はローゲに毛嫌いされるのだ。乳兄弟とはいえ、虫酸が走る。
メルクリアバルド、その辺にしておけ。兄上様が怒りのあまりそなたの幻体を消すかも知れぬぞ。
バルドはい、承知しました。メルクリア様。
メルクリア兄上様がお望みなら、すぐにでもこの者たちを拠点へ案内させますが。
ナーザ……わかった。リヒター、お前はここに残りアステルと合流してから来るがいい。
リヒター言われずともそうするつもりだ。
カーリャ・Nでは、私もここに残り一緒にアステル様の到着を待ちます。
リヒター………………。
ミリーナそう……。ええ、わかったわ。それじゃあ、お願いね、ネヴァン。
イクス(ネヴァン……。やっぱりゲフィオンの話になりそうなところは避けるんだな)
イクス(でも、これでコーキスに会える…… !コーキス、今、すごくお前と話がしたいよ)

Character4話【1-4 仮想鏡界3】
イクスアジトって、ジュニアの仮想鏡界だったんですね。
バルドええ。今の時世を考えれば、どこよりも安全でしょう。
カーリャすごーい ! カーリャたちのアジトとは雰囲気が違います。
ミリーナええ。この造りはビフレスト様式ね。
バルドジュニアが気遣ってくれたようです。故郷のものと、ほぼ同じと言ってもいい出来ですよ。
ミリーナさすが小さいフィル。細やかだわ。
カーリャあっ、見てください、ミリーナさま。あっちもすごいですよ。ほらほら !
ミリーナフフッ、あまりウロウロしちゃ駄目よ、カーリャ。
メルクリア……どの鏡精とマスターも仲が良いのじゃな。
バルドメルクリア様……。
メルクリアきっ、気づかいは無用じゃぞ !――皆、こちらへ。兄上様のお話を拝聴する。
カーリャはーい。イクスさま。見学は終わりですよ。
イクスえっ ?
カーリャあ~、聞いてませんでしたね。
イクスいや、その……。
ナーザコーキスでも探していたか。
イクス! !
ナーザあの鏡精は己の意思で俺の下へ来た。今ここに姿を見せぬのも、また奴の意思だ。
イクス…………。
ナーザコーキスを呼ぶか ?
イクス……いえ。俺たちの目的は、ビフレストの話を聞くことですから。
ナーザそうか。では始めるぞ。まずは、あの魔鏡戦争で何があったのか話すとしよう。
魔鏡戦争当時 ビフレスト軍
ウォーデン――バルド、戦況は ?
バルド現在、我が軍が優勢です。セールンド王国軍は相当数の兵を失い戦線は大きく後退しています。
ウォーデンそうか。だが油断はするなよ。蟻も這い出ぬほど、徹底的に攻め続けろ。
ウォーデンいくら敵兵を減らし、勢いをそいだとて禁忌に触れたセールンドの鏡士と鏡精を排除しなければ、我らの勝利とは言えない。
バルド…………承知しました。
ウォーデン……言いたいことがあれば手短に言え。鏡士でないお前と話すために、魔鏡術で無理に繋いだ通信だ。あと僅かな時間しか持たんぞ。
バルド……ウォーデン様この戦争は正しいものなのでしょうか。
ウォーデンどういう意味だ。
バルドこの戦では、セールンド王国に家族や想う相手を残している者が大勢います。
バルドこの通信を繋いでくれている鏡士のシドニーもその一人です。彼女の話を聞くにつけ争うほかに何か道はないのだろうかと……。
ウォーデン……なるほど、シドニーか。やはりお前は女に甘いな。
ウォーデンこの戦争は俺たち一族の使命だ。鏡精を作っただけでは飽き足らず、バロールの力を甦らせようとしたセールンド王国を許すわけにはいかない。
ウォーデンバルド、俺とお前は共に育った。それがわからないお前ではないはずだ。義兄ならば義兄らしく、物の道理をわきまえろ。
バルド……そうだね、ウォーデン。きみの言う通りだ。それでも……何かできることはなかったかと考えてしまうんだ。
バルドこの選択を選ばざるをえなかったきみの苦悩を、僕も知っているからね。
ウォーデンもはや、過ぎたことだ。
ビフレスト軍兵士バルド様、前方より接近するセールンド軍を確認 !我が軍の中央を突破してきます。恐ろしいほどの強さです !
バルドこの状況で切り込んで来るだと ? まさか……。
ウォーデン兵が必要ならば、こちらでも準備をするぞ。
バルド御心配にはおよびません。私にお任せを。ウォーデン様は良き報告をお待ちください。
ウォーデンバルド、重ねて言うが用心しろ。そして、迷うな。
バルド承知しました。
バルド――出るぞ、皆続け !
バルドカーリャ ! ! やはりあなたか !
カーリャ…………。
バルド降伏しなさい ! この状況では全滅は免れない !
カーリャふざけたことを ! 降伏などありえません。イクス様を殺したあなたたちに、せめて一矢報いねば !
バルドよく考えなさい ! セールンド王国が鏡精に対して非道な扱いをしていることを知っているだろう。
バルド虐げられた鏡精であるあなたが何故そこまでして仕える必要がある !
カーリャ私を愚弄するな !このカーリャ、一度たりとも虐げられたことなどない !
カーリャ非道というのなら、あなたたちの行いこそが私にとっては非道そのもの !そのせいでイクス様は……、イクス様は…… !
カーリャ今日であなたの顔も見納めです。――全員、突撃 !
セールンド軍兵士たちうおおおおおおっ !
バルド残念です、美しき鏡精カーリャ。もっと別の出会い方をしていれば、私は……。
バルドしかし、私はあなたをこの手で倒さねばならない。ウォーデン様のために !
ビフレスト軍兵士いいぞ、追い込め ! セールンドの奴らは逃げ腰だ !
バルド(……妙だ。特攻しておきながら、攻め入るどころかこんな自陣の奥まで戦線を後退させている……)
バルド皆、止まれ ! これ以上深追いするな !
セールンド兵士カーリャ様、あっちの大将が動かなくなりました。気づかれたかもしれません。ゲフィオン様から連絡は ?
カーリャいいえ、まだです。もうじき……あっ !
カーリャ………………来ました。
セールンド兵士では !
カーリャええ。――全兵に告ぎます ! 撤退してください !
セールンド兵士撤退 ! 急げ ! 撤退ーー !
バルド撤退だと ? カーリャ、あなたは―― !
カーリャ罠にはまりましたね。ビフレストの悪鬼共。今こそ、反撃ののろしを上げる時 !
バルド…………彼女にしてやられました。カーリャたちに気を取られている隙に、手薄になった後方の軍勢へ魔鏡兵器が撃ち込まれたのです。
ミリーナまさか、それって……。
ナーザそうだ。お前たちもよく知っているはずだ。我らビフレストの多くの民を虚無へと還し世界を滅ぼす原因となった魔鏡兵器。
ナーザカレイドスコープだ。
二人! !

Character5話【1-5 静かな平原2】
カーリャ・N…………。
リヒター……遅いな。何をしているんだ、アステルは。
カーリャ・N……色々と準備があるのでしょう。気長に待つのがよろしいかと。
リヒター本当に返してくれるんだろうな。
カーリャ・Nご心配なく。ですが、アステル様は私たちのアジトでも研究の助言をくださっていましたから残念に思う方々は多いでしょうね。
リヒターまったくあいつは……。人がいいにも程がある。
カーリャ・N大事になさっているのですね、アステル様を。
リヒター否定はしない。この世界に来なければ俺はあいつを失ったままのはずだからな。
リヒターアステルを亡くした後は、後悔と憎悪に蝕まれ気が休まることはなかった。
カーリャ・N…………。
リヒター今のままでは、お前もそうなる。
カーリャ・Nなんのことですか ?
リヒターわからん奴だな。このままでいいのかと言っているんだ。
リヒターお前は鏡士たちと別れてからずっと浮かない顔をしている。
カーリャ・N……リヒター様の気のせいでしょう。
リヒターそう取り繕うつもりなら顔に出さない訓練でもするんだな。
リヒター伝えたいことがあるなら、伝えておけ。いつまでも相手が傍にいるとは限らない。……俺がアステルを失ったように。
カーリャ・N…………。
リヒター勇気を持て。そうすれば、お前自身も前へと進めるはずだ。
カーリャ・N勇気……。
アステルあ、いた ! やっほー、リヒター ! 相変わらず不機嫌そうだね !
リヒター――ええい、アステル ! 遅いぞ !
アステルごめん、ごめん !みんなとお別れの挨拶してたら長引いちゃったんだ。ほら、僕って人気者だから !
リヒターお前も相変わらずふてぶてしいな……。で、お前たちは付き添いというところか。
クラース護衛兼見送りだよ。イクスたちはどうした ?
カーリャ・N込み入った話があるとのことでビフレスト側のアジトへ行きました。安全は保障されている……と思います。
リヒターお前たちの到着が遅れていたからな。俺たちを残して先に向かった。
クラースそれは申し訳ない。アステルの精霊に関する知識がとても興味深くてね。道々、つい話しこんでしまったんだ。
キールもうしばらくこっちにいて研究を続けて欲しかったよ。
アステル僕ももっと話がしたかったんだけどさ。これ以上はリヒターがうるさいから。
リヒター誰がうるさいだと ?俺の手を煩わせるからだろう。だいたいお前は――。
アステルほらね ? うるさいと思わない ?
キールな、なんでぼくに聞く !見ろ、睨まれてるじゃないか !
リヒターいや、睨んではいないが……。
アステルあはは、リヒターはこれが普通なんだよ。怖がらせてごめんね。ほら、リヒターも謝って。
リヒターなんでそうなる……。
カーリャ・N………………。
クラース羨ましい……いや、懐かしいといった顔かな。
カーリャ・N――あ……いえ、あの……。
クラースそれにしても、引き渡し交渉だというから身構えていたんだが……ずいぶんと和やかで拍子抜けしたよ。
クラースネヴァン、きみもご苦労だったな。
カーリャ・Nはい。……リヒター様も、アステル様もとても穏やかな顔をしていますね。
クラースああ。あのリヒターという男アステルがいると雰囲気がだいぶ違うな。
クラース少し羨ましいよ。そういう相手が側にいるのは。
カーリャ・N…………。
クラースきみもそうなんじゃないか ?
カーリャ・Nわ、私は…………。それよりも、クラース様が側にいて欲しいというのはどんな方なのですか ?
クラースえっ ! ? い、いやまあ、その、何というかだな……。
キールおい、アステルたち、そろそろ行くそうだ。
クラースおっと、そうか。気をつけてな !
アステルはい。色々とお世話になりました。
リヒターネヴァン、お前はどうするんだ。
カーリャ・N……このままクラース様たちと戻ろうと思います。小さいミリーナ様たちには、連絡を入れますので。
リヒター……そうか。では行くぞ、アステ――…… ?
アステルリヒター、何してるの。おいてっちゃうよ。
リヒターおい待て、そうやっていつもフラフラと !アジトの場所も知らないだろう !
キール……さて、ぼくたちも帰ろう。やることは山ほどあるぞ。
クラースアステルの話だと、帝国がレムとヴォルトの居場所にあたりを付けているらしいからな。これも含めて調査を進めないといけないだろう。それと他には……
キールシャドウについてはスレイたちが確認済みのはずだ。
クラースああ。レムとヴォルトも、カロル調査室が集めた各地の異変と照らし合わせて、確実に押さえよう。しかし……こうなると手が足りないな。
キールだったら、手分けして精霊との契約を進めればいいさ。こっちはメルディに協力してもらう。
クラースそうだな。では頼む。シングたちがヨウ・ビクエに言われたように一刻も早く「精霊を味方につける」ことが第一だ。

Character6話【1-6 ジェイ】
ノーマはいは~い、注目~ ! それじゃあ、ジェージェーの歓迎会 & クリスマス会の計画は、あたし主導で進めるからね~ ! 当日は派手にやっちゃうよ !
シャーリィ気合入ってるね。ノーマ。
ノーマそりゃそうでしょ ! や~っとジェージェーが正式に仲間になったんだもん。
ノーマウェルテス領から撤退する時に、一緒にアジトに帰るかと思ったのにさ。残るとか言い出すし。肩透かしくらったこっちの身にもなれっての。
ジェイ仕方ないでしょう。まだ調査中の案件もあったんですから。それに他にもいろいろと。
セネル他ってのにはイクスたちのことも含まれてたんだろ ?
ジェイええ。以前から彼らの情報は仕入れていましたけど改めて調査した上で納得できなければ合流する気はありませんでした。
ジェイぼくにとっては付き合いのない方たちです。万が一……ということだってありえますので。
クロエジェイらしいな。用心深い。
ジェイ……まあ、皆さんが、イクスさんたちと一緒に行動してる時点で、その心配は低かったんですけどね。
グリューネありがとうジェイちゃん、信用してくれて。お姉さん嬉しいわ。
ノーマはいはい、とにかくパーティーの計画 !ジェージェーの紹介には大掛かりな演出が欲しいよね。レッちゃんに頼んで、ババ~ンと空から舞い降りるとか !
セネルレッちゃんてコレットか ? 大丈夫かよ、それ。
ノーマもう、セネセネってば、ハロウィンでのあたしの活躍っぷり、もう忘れちゃったの ?
セネル忘れてないから不安なんだよ。演出される方の気持ちも考えてやれよ……。
グリューネあら、ジェイちゃん、なんだか嬉しそうね。
ノーマあたしたちに会えて嬉しさを隠し切れないんでしょ ?今まで寂しかったんだねぇ、ジェージェー。
ジェイち、違いますよ。ここにモーゼスさんがいなくてほっとしただけです。あの人がいたら、もっとうるさかったでしょうからね。
シャーリィモーゼスさん……どこにいるのかな。ウィルさんの情報も未だに入らないし……。
セネルウィルが具現化されていたとしてもどこかで堅実に生活してそうな気がするな。
クロエそれを言うならシャンドルも、どこかで逞しくやってそうだぞ。
セネルははっ、ジェイの時みたいにいきなりキュッポたちから連絡がきたりしてな。
クロエまさか、そこまで都合のいい展開など――
キュッポセネルさん、セネルさん !モーゼスさんを見つけたキュ !
全員……………………。
シャーリィつ、都合……よかったね ?
ノーマいや、よすぎだわ !
ポッポ聞いてるキュ ! ? 大変なんだキュ !
ジェイ落ち着いて。ちゃんと順を追って話すんだ。
ピッポピッポたち、オルバース領を調査してたキュ。その途中で、モーゼスさんが帝国軍に追われているのを見たんだキュ !
キュッポキュッポたちも後を追ってる途中だキュ。皆さん、こっちに来られるキュ ?
クロエシャンドルが帝国に…… !クーリッジ、すぐに助けに行こう !
セネルああ ! みんな、準備をしてくれ !
ジェイ待ってください。助けに行くのは結構ですがグリューネさんは残った方がいいと思います。
グリューネどうして ? みんなと一緒にモーゼスちゃんを助けに行きたいわ。
ジェイさっき、カロル調査室と情報を共有してきました。その中に気になる話があったんです。
ジェイグリューネさんのことはジュニアという人が具現化したそうですね。
グリューネええ、そうよ。また会いたいわねぇ、ジュニアちゃん。
ジェイその一連の事件には、セネルさんたちも立ち会っていたと聞いています。
セネルああ。グリューネさんは神の『奇跡の力』を具現化する過程で偶然具現化されたんだ。
セネルけど、ジュニアの研究は結果的には失敗してシュヴァルツまで現れた。なんとか抑え込んだけどな。
ジェイどうやら、その時のジュニアさんの研究結果に帝国が興味を示しているらしいんです。
全員! !
クロエそれは、グリューネさんに目をつけたということか ?
ジェイ何にしろ詳しいことはわかりません。わからないからこそ、今は用心するべきです。
グリューネわかったわ。残念だけど仕方ないわよね。みんな、モーゼスちゃんのこと、お願いね。
セネルああ、任せてくれ。そういうわけだからノーマ、パーティーの計画は後回しだ。あと、他のメンバーの意見も聞きながらにしてくれよ !
ノーマセネセネ、なんでちょっと嬉しそうなのさ !
ノーマはぁ、仕方ない……この持てあますやる気はモーすけ救出に回しますか。もったいないけどね !
ジェイ全く、あの人は本当に世話がかかるんですから。まあ、恩を売るには丁度いい機会でしょう。
ジェイキュッポ、ピッポ、ポッポ大至急そっちに向かうから位置を詳しく教えて。
キュッポたち了解だキュ !
セネルそれじゃグリューネさん。後をよろしく。
グリューネええ。お留守番は任せてちょうだい。みんな、いってらっしゃ~い。

Character7話【1-7 オルバース領 街道1】
オルバース領
ピッポジェイ、皆さん ! 待ってたキュ !
セネル連絡ありがとうな。それでモーゼスはどうなった ?
キュッポモーゼスさんはあの後すぐに捕まってしまったキュ……。
全員ええっ ! ?
ジェイそれで ?
キュッポそのまま、帝国の研究施設に連れていかれたのを確認したキュ !
クロエでは、その施設に入らねばならないな。どう潜入する ?
ポッポ心配ないキュ ! ポッポが発明したこの『モフモフドリル』で秘密の抜け道を作ってる途中だキュ。
ポッポもう少しで開通だキュ。掘りながら潜入するキュ !
ノーマやるじゃん、ホタテ三兄弟 !まあ、モフモフドリルって名前は柔らかそうでちょっと不安だけどさ。
キュッポホタテじゃないキュ !
ピッポモフモフドリルもモフモフ族らしい、詩的で美しい名前だキュ !
ポッポドリルだってピッカピカでカッチカチだキュ !耐摩耗性も高くて掘削能力は今までの――
ノーマわ~かったわかった、ごめんて !
ジェイありがとう、みんな。これで警備に見つからずに入れるよ。
キュッポジェイたちのためなら、たとえ火の中、土の中だキュ !それじゃ皆さん、潜入開始だキュ !
クロエどうだ ? 警備はいないか ? ゴホッ……。
セネルああ、大丈夫だ。この辺りは兵士も少ないみたいだ。シャーリィ、大丈夫か……ゲホゲホッ……。
シャーリィうん……、ケホッケホッ……。
ノーマそんじゃこのままモーすけを探し……ゲホガホゲホホッ ! !
ジェイノーマさん、大声は控えてください。見つかりますよ。
ノーマ煙で目も鼻も喉もやられてんの !なにあのドリル、欠陥品じゃん ! つ~か、なんでジェージェーは平気なのさ……ゲホッ……。
ジェイ鍛え方が違いますから。………………けほ。
三人(ちょっとやられてる……)
ポッポすまないキュ……。でも煙を噴く程度で良かったキュ。
セネル煙程度……。そういや、ポッポ三世号の時も成功確率1割で俺たちを乗せようとしてたっけな。
ポッポ今回も一つ間違えば大爆発だったキュ。 煙くらいなら大成功だキュ ! キュキュキュ !
クロエば、爆……。これ以上は聞かない方がいいな……。とにかくシャンドルを捜そう。
キュッポ待って欲しいキュ。こっちの方から人の声が聞こえるキュ !
セネル警備兵に見つかったか ! ?
キュッポう~ん……違うようだキュ。普通に話してるキュ。
ジェイ闇雲に探すよりはマシですね。行ってみましょう。
セネル話し声ってのはこの部屋からだな。
グラスティン――おい、背中を出せ。そのまま大人しくしていろよ。
一同! !
セネルグラスティン…… !それにグラスティンの前にいる二人、見覚えが……。
クロエそうだ ! 鏡映点リストで見た顔だ。ええと……
ジェイリッドさんの世界の人ですね。確かレイスという名前だったはずです。それともう一人はフォッグ。
グラスティンでは始めようか。リビングドールβとはいえ痛みで暴れるかもしれん。こいつらをしっかり押さえておけよ。
帝国兵はっ。
セネルグラスティン、何をするつもりだ……。
クロエ奴が手にしているのは、焼印のようにも見えるが……まさか…… !
グラスティンヒヒヒ……いくぞお。
レイスぐっ ! ああああっ !
グラスティンよし、次はお前だ。
フォッグ……ぐおおおおっ ! !
グラスティンヒヒヒ。さあ、終わったぞ。領主の館へ運んでやれ。
帝国兵はっ。
グラスティンこれで【贄の紋章】を目印に【ルグの槍】を発動できる。
シャーリィ嘘、本当に焼印……。背中に押してた…… !
セネルあいつら…… ! すぐにリッドたちに連絡する !
ジェイ待ってください。あれは……。
帝国兵グラスティン様。捕らえた賊を連れてきました。
モーゼス離せっ ! 離せ言うちょるんじゃ ! この悪党がっ !ここらの人間をさらっとったんはワレらじゃろ ! ?
セネルモーゼス ! !

Character8話【1-8 オルバース領 研究施設1】
グラスティンお前か。サレの『仕事』を邪魔していた奴は。
モーゼス何が仕事じゃ。アレは人さらい言うんじゃ !このゲスが !
グラスティン……ん ? そうか、お前は鏡映点だな。その下品な顔、資料で見たぞ。
モーゼス誰がきょーえーてんじゃ !ワイにはモーゼスって立派な名ぁがあるわ !
グラスティンそうそう、モーゼス・シャンドル。間違いないようだ。ヒヒヒ……。
四人(あのバカ…… ! )
グラスティンヒヒヒ……面白いものが引っかかったな。おい、こいつを俺のところへ運べ。
シャーリィどうしよう ! グラスティンのところへ連れていかれたら何をされるか…… !
セネルくそっ !
セネル待てっ ! モーゼスは返してもらうぞ !
モーゼスセの字…… ? 何でこがあなところに !
グラスティン羽虫が入り込んでたか。まあ一匹程度なら――
ノーマ誰が一人だって ?――シャボン・スパークリングー !
グラスティンうっ ! ?
モーゼスシャボン娘 ! ? 当たる ! ワイに当たる !
クロエシャンドル、今のうちにこっちへ !
ジェイ少しくらい当たっても多分死にませんから。早く !
モーゼスクッちゃんにジェー坊 ! ってか多分てなんじゃ !
グラスティンおおっ ! 黒 ! 黒髪だぁ !ヒヒヒ、楽しくなってきたじゃないか。
ノーマ気持ちわる ! もう一発くらえ !
シャーリィ私が ! アビサル・スクウィーズ !
グラスティンぐあああっ………… !くっ……この力……。ヒヒヒッ……そうか、お前…… !
ノーマなにあいつ、リッちゃんの技くらって笑ってるよ。ホント、キモ !
グラスティン予定変更だ。――お前にしよう。そろそろ大人しくなる頃合いだしな。
シャーリィな、なに…… ! ?
セネルシャーリィ ! こっちに――……うっ…… ?
クロエなんだ……体が……動かな…………。
ジェイこれは……ガス……。
グラスティンヒヒヒ、当たりだ、黒髪の坊や。もう一人のお嬢さんと一緒に後でゆっくり可愛がってやるから待ってろよ。
セネルくそっ……いつの……間に……。
グラスティンこいつは侵入者用のトラップでなぁ。お前が現れた時に作動させておいたんだよ。
クロエなぜ……お前は……。
グラスティン不思議かあ ? 綺麗な黒髪のお嬢さん。俺はガスを吸ってもクロノスの力で回復する。精霊装さまさまだよ。ヒヒッ。
セネルくそっ…… !
グラスティンさて、神降ろしの器だったお嬢さん。また面白いものを宿しているようだ。その力はウンディーネ、か ?
シャーリィいや……来ないで…… !
モーゼスおいワレ ! くっ……ワレは……ワイを連れてくんじゃろが…… !だったら嬢ちゃんじゃなく……ワイを…… !
グラスティンお前は後回しだ。『こっち』が優先でな。
クロエ焼印…… ! ? まさか…… !
シャーリィあ……、いや……。
セネルや……めろ ! シャーリィ…… ! シャーリィ ! !
ノーマリッちゃ……逃げ……て…… !
グラスティン歯を食いしばっておけよ。ヒヒヒ……。
シャーリィきゃああああああああっ ! !
セネルシャーリィーーーーッ ! !
グラスティンああ、金髪のわりには、いい声で鳴くなぁ。ヒヒヒッ !
シャーリィっ……はぁ……はぁ……おにい……ちゃん……、おにい……。
グラスティンヒヒッ、気を失うほどよかったか ?さて、黒髪は後の楽しみにとっておくとして先につまらん肉共を――
セネルお前は……お前は絶対に許さないっ ! !
グラスティンこの光は…… !
クロエ……オーバー……レイ…… ?
モーゼスセの字……ワレ……なんで動けるんじゃ……。
セネルうおおおおおおおおっ !
グラスティンぐっ ! 浄玻璃鏡の力か……やっかいな……。
セネルお前だけは……俺がこの手でぶちのめす ! !

Character9話【1-9 オルバース領 研究施設2】
セネルくらえーーーーッ ! !
グラスティンぐああああああっ ! !
モーゼス壁ごと吹き飛ばしよった…… !なんちゅう威力じゃ……。
クロエ……なんだ ? 体が楽になったぞ。
ジェイ壁が壊れて、充満してたガスが散ったんでしょう。キュッポたちは平気 ?
キュッポ動けるキュ !
ノーマあたしも何とか。クー ! リッちゃんは ! ?
クロエ気を失っている。すぐに手当てをしないと !
帝国兵侵入者を確認。グラスティン様と交戦中の模様。
ノーマやば ! 兵士が集まって来た !
ジェイこの騒ぎですからね。すぐに脱出しましょう。モーゼスさん、動けますよね。
モーゼスお、おう。じゃがセの字が…… !おい、撤退じゃセの字 ! 聞いとんかワレ !
セネル立てよグラスティン ! まだこんなもんじゃないぞ !
グラスティンはぁ……はぁ……五月蠅い虫め。
帝国兵たちグラスティン様。ご無事ですか。
グラスティン丁度いい。お前ら、俺が回復するまで盾になれ。なんだったら奴を殺しても――……ん ?
グラスティンこのキラル反応は…… !
グラスティンヒヒヒ、悪いな『お兄ちゃん』♪おまえの相手をしている暇はなくなった。本命が色々悪さをしているみたいでなあ。
グラスティンおい、俺はアスガルド城に行く。後始末は任せたぞ。
帝国兵はっ。
セネル――っ ! ! 逃がすか ! !
グラスティンククク……。しつこいのは嫌いじゃないぞ ?そこの黒髪の二人と一緒なら、また遊んでやるさ。じゃあな、『お兄ちゃん』。ヒヒヒヒヒッ !
セネルふざけるな ! 待てよ、今ここで決着を――
セネルくそっ、お前ら邪魔だ ! どけーーっ !
モーゼス待てや ! セの字 ! !
セネルモーゼス ! !
モーゼスちいと落ち着け !今は嬢ちゃん助けるんが先とちゃうんか ! !
セネルっ…………。
モーゼスこいつらはワイが足止めするけえ。早う嬢ちゃんの側に行っちゃれ。
セネル……ああ、頼んだ !
帝国兵たち待て。
モーゼスワレらの相手はワイじゃ。さっきはようもネチネチと追い回してくれたのう。
モーゼス礼はたっぷりとさせてもらうけえのお !
セネル――シャーリィ !
クロエクーリッジ ! シャーリィがまだ目を覚まさないんだ。
セネルわかった。俺が背負う。
ジェイキュッポたちが道を確保しています。こっちです !
ノーマモーすけ ! 準備完了。てったーーい !
モーゼスわかっちょる ! こっちもこいつで最後じゃ !
帝国兵ぐああっ ! !
ノーマあらら、さっきの警備兵、みんな倒しちゃったわけ ?
モーゼスああ、この程度なら楽勝じゃ !こいつら数に頼んで、大した技も持っとらん。
ジェイさっきまで『この程度』に捕まってましたけど ?
モーゼスえ、ええから、新手が来んうちにさっさと逃げえ !

Character10話【1-13 モーゼス】
モーゼスどうやら追っ手はまいたようじゃの。
クロエこれでようやく一息つけるな。
キュッポキュッポたちが見張っておくキュ。シャーリィさんを休ませてあげてほしいキュ。
セネルああ、ありがとう。
セネル……シャーリィ。
ノーマ大丈夫、呼吸は落ち着いてるよ。安心して。
セネルみんな……俺、さっきは取り乱して……迷惑かけたよな、ごめん……。
クロエいや、クーリッジのオーバーレイで私たちも助かったんだ。
ノーマそ~そ~、それでチャラ。
セネルモーゼス、あの時、止めてくれてありがとな。
モーゼスクカカ ! 礼を言うんはワイの方じゃ。まさかワレらが助けに来るとはの。
セネル助けるつもりだったけど、逆に助けられちまった。
ジェイモーゼスさんに説教されるなんてセネルさん、一生の不覚ですね。
モーゼスなんじゃああいっかわらずの憎まれ口じゃの、ジェー坊。
ジェイそういうモーゼスさんも、相変わらず考えなしに行動していたようですね。
モーゼスしゃあないじゃろ。知らん場所に放り出されてからあちこち旅して調べまわっとったんじゃ。
ノーマあ~……見つからなかったのはそれが理由か~。せめて具現化された場所にいてくれりゃ……。
モーゼスぐげんか ? なんのことじゃ。
ジェイ後でぼくがゆっくり説明します。モーゼスさんレベルに納得してもらうには時間がかかりそうですから。
ジェイそれよりも、セネルさん。今のうちにリッドさんに連絡を入れたらどうですか ?
セネルああ、そうするよ。
リッドマジかよ……。じゃあ、オレたちの大陸の領主と従騎士は、フォッグとレイスなのか。シゼルのことが解決したばかりだってのに……。
ファラレイスが……。
リッドファラ、大丈夫か。
ファラう、うん。リッド、わたしたちもオルバース領に行こう。
リッドそうだな。セネル、オレたちはフォッグとレイスが送られたっていう領主の館へ向かってみる。
セネル了解。気を付けろよ。
セネルさて、俺たちはどうするか……。
クロエクーリッジ ! シャーリィが目を覚ました !
シャーリィお兄……ちゃん……。
セネルシャーリィ ! 気分はどうだ、痛みは ?
シャーリィうん、もう大丈夫だよ。みんなも、心配かけてごめんね。
ノーマ…………。リッちゃん、ちょっとごめんね ?
シャーリィえっ、なに…… ? キャッ ! !
クロエな、何をしてるんだノーマ !
モーゼスコラ、シャボン娘 !なに嬢ちゃんの服、脱がそうとしとんじゃ !追いはぎか ! ?
クロエわーー ! シャンドル、見るな !あっちを向け !クーリッジも、ジェイもだ !
三人は、はいっ ! !
シャーリィノ……ノーマ ? なんなの…… ?
ノーマ……やっぱり。焼印の痕がどこにもない。リッちゃんの背中、きれいなままだよ。
全員えっ ! ?
ノーマおかしいと思ったんだ。酷いやけどを負ったはずなのにさっきは仰向けになってたからさ。
シャーリィなんでだろう……。確かに痛みはあったのに……。
ジェイ……その印、グラスティンは【贄の紋章】と言ってましたよね。もしかしたら特別な力が働いているのかもしれません。
セネル【贄の紋章】……。
シャーリィわたし、何か変わっちゃったのかな。どこか変 ?
セネル大丈夫だ。シャーリィはどこも変わってない。けど……アジトに戻って詳しく調べてもらおう。な、シャーリィ。
シャーリィうん……。

Character11話【1-14 精霊の封印地】
フィリップ…………っ。……はぁ……はぁ……。
ヴィクトル駄目だったか……。
フィリップああ。……すまない。
マーク少し休め。ぶっ続けじゃ体が持たねえぞ。
フィリップうん……。でも、帝国の動きを考えればあまり時間をかけてもいられないからね。
マークそれは置いとけよ。どうせここじゃ、時間なんて概念どうにかなっちまってるんだろう ?
ヴィクトル私たちにとっては数時間でも、外では数日もしくは数分かもしれないと聞いたがどういう仕組みなんだ ?
フィリップ魔の空域特有の空間の歪みが一番近いこの場にも影響しているみたいだね。
フィリップ僅かな間であればともかく既に長時間滞在した僕たちには作用してるだろう。
ヴィクトル……そうか。
マーク娘さんのことが心配か ?
ヴィクトルいや、あいつが側にいるなら必ず守るだろう。それに……ユリウスもいる。
ヴィクトルそれよりも、なぜダーナの心核にアクセスできないのかもう一度調べたほうがいいのではないか ?
フィリップそうだね。手順自体は問題ないはずなんだ。ダーナの心核があった場所に描いた魔鏡陣にも間違いはない。
フィリップ……やっぱり、人が神に直接接触するなんて無謀な考えなのかもしれないな。
ヴィクトル行き詰まるにはまだ早い。接触できる可能性はゼロではないんだろう ?君は諦めが悪い方ではなかったか ?
マークそうそう、これが駄目ならさっさと次の手だ。
フィリップはは、そうだね。じゃあ、次のアプローチを――
? ? ?我らの壁に触れようとしてるのはあなたでしたか……。
フィリップ声が…… ?
マークああ、俺にも聞こえるぜ。
ヴィクトルその声、ヴェリウスか。
ヴェリウスお久しぶりですね。ヴィクトル。そして当代ビクエに、鏡精マーク。
? ? ?私たちの作った防心壁を突破するのは当代ビクエでも難しかったみたいね。
フィリップその声はヨーランド ! ではアクセスできなかったのはあなたたちの力のせいか。心核へのアプローチならば繋がるかと思ったが……。
ヨウ・ビクエ残念だけど、そこまで守りは甘くないわ。
フィリップお願いです。ダーナに会わせて下さい。
フィリップ僕は幼い頃に、ダーナと出会ったはずなんだ……。それが真実なのか、会って確かめたいんです。
ヨウ・ビクエあなたが……なるほどね……。わかったわ。接触を許可しましょう。ヴェリウスはどう ?
ヴェリウスええ。異存はありません。
フィリップありがとうございます !
ヨウ・ビクエ私とヴェリウスの力を使えば、魔の空域に精神を飛ばすことができるわ。ただし、あなた一人だけ。それもほんの僅かな時間だけど、それでもいい ?
フィリップええ、十分です。
マーク一人で大丈夫か ? 相手はこの世界の神様だぜ ?
フィリップ世界を救うなら、神との交渉くらいは上手くやってみせないとね。
マークおー、よく言ってのけた。さすがは俺のマスターだ。
ヴェリウスでは、すぐに始めましょう。ヨーランド、準備はいいですか ?
ヨウ・ビクエええ。いくわよ。
ヨウ・ビクエ魔の空域へ繋がる路を開いたわ。あなたの精神を飛ばすから集中して !
フィリップはい !
マーク………… ?何だ ? 妙な気配が……。
光魔たち……ウゥ~……ハルルルルル !
ヴィクトル光魔か !
ヨウ・ビクエ魔の空域への路を開いたせいで虚無と精霊の封印地の境界が曖昧になっているのね。
フィリップマーク、ヴィクトル !
ヴィクトルこの程度なら私たち二人で十分だ。
マークフィル、さっさと行ってこい。お前の体はちゃんと守ってやる。
マーク俺たちの強さ、良くわかってるだろ ?
フィリップああ、もちろん。二人とも、後は任せるよ。
ヨウ・ビクエフィリップ、もういいわよ。目を開けて。
フィリップヨーランド…… ! ここは……魔の空域…… ?
ヨウ・ビクエそうよ。そのまま待っていて。
? ? ?……久しぶりですね。オーデンセの鏡士。フィリップ・レストン。
フィリップこの声……どこかで聞いたことが……。
フィリップ(そうだ、この声はあの時の……。あの懐かしい、水鏡の森の湖で……)
フィリップ魔物が出るって言われてるけどやっぱりここの景色はきれいだな……。
フィリップここでピクニックとかしたらミリーナが喜びそう……。
? ? ?……――フィ……。――こっち――。
フィリップえっ、誰かいるの…… ? この声、湖の方…… ?
? ? ?――フィリップ……。
フィリップ何だろう、湖が眩しい…… ?――わあああっ !
フィリップ……すごい ! 光の粒が湖から立ち上ってる !キラキラして、なんて綺麗なんだろう……。
フィリップここにミリーナを連れてきたらどんな顔してくれるかな。そうだ、今度ミリーナを誘ってみよう…… !
? ? ?やっと……――見つけ……――約束の子供たち……よ……。定めの……子……――――――
フィリップ――え ?光が……消えた ?
フィリップ――あの時の声とあの光……。当時は気付かなかったけどあれはダーナの予言に記されたものと一致していた。
フィリップやはり、あれがダーナ……あなただったんですね。
フィリップならばどうか教えていただきたい。この世界は、どうしたら救われるのですか。

Character12話【1-15 アスガルド城】
デミトリアスそうか。フィリップはダーナの心核への接触に成功したのか。
グラスティンああ。キラル分子の揺らぎを観測装置が確認した。ダーナの心核信号の数値が跳ね上がっている。間違いないさ。
グラスティンさすがフィリップだろう ?あいつは俺たちの一歩も二歩も先を行くんだ。 ヒヒヒッ、素晴らしい才能だよ。
デミトリアスそうだね。だが【ルグの槍】を打ち込もうという今ではその才能が邪魔になる。
デミトリアスフィリップには大人しくしてもらわないとな。精霊の封印地へ兵を派遣しておこう。間に合うかどうかはわからないが……。
グラスティンヒヒヒ、そこは安心しろ。神との対面を邪魔する手筈は整えてある。兵士たちは、フィリップを連行するだけでいい。
グラスティンなあ、フィリップは絶対に殺すなよ。生きて捕らえて、俺にくれ。
デミトリアス――それよりも、オルバース領主たちへの【贄の紋章】はどうなったんだ ?
グラスティンああ、処置は問題なく終えた。おまけに思わぬ収穫があってなぁ。いやあ、楽しみが増えたよ。ヒヒヒッ。
デミトリアスそうか。こちらも一部を除いて各領の領主と従騎士に【贄の紋章】を付け終えた。
デミトリアスこれは、きみの今日の成果と合わせたリストだ。確認してくれ。
グラスティンどれどれ。――アセリア領。領主ルーングロム、従騎士モリスン。ファンダリア領。領主エルレイン、従騎士イレーヌ。
グラスティンオルバース領。領主フォッグ、従騎士レイス。テセアラ領。領主リーガル、従騎士ブルート。カレギア領。領主アガーテ、従騎士ミルハウスト。
グラスティンウェルテス領。領主マウリッツ、従騎士ワルター。オールドラント領。領主ピオニー、従騎士ヴァン。アレウーラ領。領主ロミー、従騎士フォレスト。
グラスティンレグヌム領。領主マティウス、従騎士チトセ。テルカ・リュミレース領。領主アレクセイ、従騎士イエガー。
グラスティンセルランド領。領主パライバ、従騎士カルセドニー。エフィネア領。領主カーツ、従騎士ヴィクトリア。
グラスティンリーゼ・マクシア領。領主ウィンガル、従騎士プレザ。グリンウッド領。領主ヘルダルフ、従騎士セルゲイ。ミッドガンド領。領主アルトリウス、従騎士オスカー。
グラスティン……おい。エルレインとアルトリウスには――
デミトリアスああ。大丈夫。彼らには【贄の紋章】はつけてないよ。
グラスティンそうか。他に問題はないだろうな。
デミトリアス実は少々面倒が起きたんだ。グリンウッド領の領主ヘルダルフが私に対して謀反を起こした。
グラスティン何だと ? だから言っただろう ! 他の奴ら同様さっさとリビングドールにすれば良かったんだ。あの手の奴を野放しにすると厄介だぞ。
アルトリウスその点は問題ない。私が対処させてもらった。
グラスティンアルトリウス ! なんだ……、お前もいたのか。黙っているとは、デミトリアスも人が悪いな。
グラスティンそれで、対処とはなんだ。
アルトリウス導師の力で、奴に呪いをかけた。
グラスティン呪い ?
アルトリウス業魔……いや、あの者たちの世界では憑魔と呼んでいたか。いずれにせよ、穢れに満ちた存在となるだろうが、計画に支障はない。
アルトリウス今は従騎士のオスカーに動向を見張らせている。安心して事を進めるといい。
グラスティンならばいい。――これで準備は整った。あとは計画通りに進めるぞ。デミトリアス。
デミトリアスああ。みな、よく働いてくれた。いよいよだ。
デミトリアスこの計画をもってティル・ナ・ノーグは、ニーベルングへと回帰する !
to be continued