Character1話【2-1 魔の空域1】
魔の空域
フィリップ――どうか教えて頂きたい。この世界は、どうしたら救われるのですか。
フィリップ女神ダーナ。ティル・ナ・ノーグを創造し滅びをも予言したあなたならば救う方法もご存じなのではありませんか ?
ヨーランドフィリップ。幼い頃にダーナ様と会ったかどうか確かめるだけじゃなかったかしら ?
フィリップこの機を逃すわけにはいかないんです。それに確かめる『だけ』とは言っていませんよ。どうか悪しからず。
ヨーランドあら、意外にふてぶてしいのね。
フィリップ自分でも重々承知していますよ。以前にも……面の皮が厚いと言われましたから。
ヨーランドふふっ。【ビクエ】なら、それくらいで丁度いいわ。
ヨーランド――ダーナ様、もうしばらくお付き合い頂けるでしょうか。
ダーナもちろんです、ヨーランド。心核の修復も進んでいます。この程度であれば問題はありません。
ダーナ何より私の方こそ、この子に話があるのですから。
フィリップ(この子 ! ?)
ダーナフィリップ。あなたの質問に答えるためにはまず、ティル・ナ・ノーグが誕生した経緯を話さねばならないでしょう。
ダーナそれに、この世界で神と呼ばれる者たちについても。
フィリップ神と呼ばれる者たち…… ?
ダーナええ。私が神と呼ばれるようになる前はニーベルングに生まれた人間であったことはすでに承知のことと思います。
フィリップあ……まさか、ナーザやバロールも…… ! ?
ダーナあなたの考えているとおりです。私同様、バロールとナーザもニーベルングの生き残りなのです。
フィリップではこの世界は全て人間が造り出したものなのか…… ?
ヨーランド驚くことじゃないでしょう ? あなたたちだって似たようなことをやっているんだから。
ヨーランド世界の創造なんて、鏡士以外から見れば神にも等しい所業じゃない ?
フィリップ…………。
ダーナ私とあなたは『同じ』です。フィリップ。在り方も、その行いさえも。
フィリップ……何故ニーベルングは滅びたのですか。それも私たちと同じように国同士の争いが原因なのですか ?
ダーナ確かに原因は戦争……と言えるかも知れませんね。ですが、私たちが戦っていた相手は人間ではありません。
ダーナ鏡精です。
フィリップ人間が鏡精と ! ?
ダーナ……ええ。最初は鏡士と鏡精の対立でした。それは徐々に激しさを増し、やがて人間と鏡精の決定的な対立へと発展してしまったのです。
フィリップ………………。
フィリップ……あなたも、鏡精と戦ったのですか ?
ダーナええ。私もナーザも……そうせざるを得なかった。でもバロールは違った。バロールは人でありながら鏡精側へとつきました。
フィリップ! ?
ダーナそのバロールの選択が、ニーベルングを滅びの道へと誘うことになってしまった……。
ダーナ生き残った私とナーザは、ある計画を立てました。私の力と、ナーザが使役していた精霊の力を合わせ生き残った人々を、別の世界へ移そうと考えたのです。
ダーナ新たな世界――人々を守る揺り籠の世界への移住。それが――
フィリップダーナの揺り籠、ティル・ナ・ノーグ……。
ダーナそのとおりです。
フィリップ……この世界はダーナの揺り籠である。罪を背負った人々は、罪を贖い、浄化しダーナの揺り籠に生まれ落ちた。
フィリップあの創世神話は、歴史そのものを伝えていたのか…… !
ヨーランド神話やおとぎ話に歴史が織り込まれるのはよくある手法でしょう ?私も最初に真実を知ったときは驚いたけどね。
フィリップええ。まだにわかには信じがたいです……。バロール神が鏡精と共に戦った鏡士でナーザ神は召喚士……。
フィリップそういえば、アイフリードの墓にも揺り籠の文言がありました。精霊を封印しているのであればやはり創世の関係者なのですか ?
ダーナもちろん。アイフリードはナーザですから。
フィリップは……ええっ! ?でもあの墓は確か……。
ヨーランドああ、混乱しちゃうわよね。じゃあ、わかりやすく説明してあげる。
ヨーランドナーザ神はアイフリード、これはいいわね。そしてあの墓の主は私の幼馴染でもある召喚士のルイス・アイフリードの方よ。
ヨーランド召喚士ルイス・アイフリードはナーザ神の鏡精の子孫なの。鏡精が主の名を頂いたって感じかしら。
フィリップナーザは鏡士ではなく召喚士だと聞きましたがどうして鏡精が出てくるのですか ?
ダーナナーザは召喚士であると同時に鏡士でもありました。いえ、【想像】の力によって精霊を創ったと言った方がいいかもしれません。
フィリップ精霊を……創る ! ?
ダーナその話はとても長い話になってしまいます。今は置いておきましょう。
ダーナとにかく私とナーザはこの世界に万が一があったときのことを考え自分たちの力を自らの鏡精に移したのです。
フィリップあなた方は鏡精と戦ったのではないのですか ?それなのに……。
ダーナフィリップ……私も鏡精と争いたくはなかった……。鏡精は自らの分身でもありますから。
ダーナ鏡精に味方したバロールとは逆に鏡士に味方した鏡精もいました。……ひどい時代だったのです。
フィリップ……申し訳ありません。出過ぎたことを口にしました。
フィリップそれにしても……鏡士の始祖であるヨーランドがダーナの鏡精の子孫でアイフリードはナーザの鏡精の子孫……。
フィリップ創世の神々は、こんな形で私たち鏡士に繋がっていたんですね。
ダーナええ。そしてフィリップ、あなたはどの鏡士よりも私と近い縁を持っています。
ダーナあなたは、私の血を引いているのですからね。
フィリップえ…… ?
ダーナだからこそ、この声が届いたのでしょう。フィリップ・レストン。我が子孫であり、融合の鏡士よ。
フィリップぼ……いや、私が、あなたの ! ?
ダーナさて、世界を救うためにはどうしたらいいか、でしたね。
ダーナ私にあなたの力を貸してください。それが世界を救うための方法になるでしょう。

Character2話【2-2 魔の空域2】
フィリップ(僕がダーナの子孫…… ?)
ヨーランドフィリップ。固まっちゃってるけど大丈夫 ?
フィリップい、いや、あまりにもその……予想外で。今まで神とされていた方からその血を引いていると言われても……。
フィリップそれに、このティル・ナ・ノーグは、女神ダーナの【創造】の力で生み出されたと聞いていました。
フィリップ僕……いえ、私は融合の鏡士です。
ダーナええ。驚くのも無理はありません。全ての始まりはニーベルングでの争いに端を発します。
フィリップ…… ? 今、何かおかしな気配がしたような……。
ヨーランドええ。初めてよ、こんなの。
ダーナあなた――……は――……の……イフ……に……。
フィリップダーナの声が……。
ヨーランドダーナ様 ! ? このノイズはなに ! ?
ダーナ……ヨーラン……すぐにフィリ――を――……。
ヨーランドこれ、魔の空域とのアクセスが妨害されているんだわ !
フィリップ私の体に何か異変があったのでしょうか。
ヨーランドいいえ、これは魔鏡機器によるジャミングね。この空間に影響を及ぼすことが出来るなんて……。
フィリップ魔鏡機器 ? だとするとグラスティンかもしれない。僕の動きに勘付いたのか。
ダーナヨー……一刻もはやく――……安全……かえ――……。
ヨーランド……ここまでね。
フィリップ待ってください ! 肝心な話が聞けていない。ダーナの声はまだ届いています。
ヨーランド駄目よ。このままだとあなたの意識もここから戻れなくなる可能性がある。
ダーナフィリップ、帰り……さい。あなたが――無事に……。
フィリップ…… !
ヨーランド聞こえたでしょう。ダーナ様のご命令よ。あなたの安全が最優先なの。
フィリップ……わかりました。
ダーナフィリ――……お願い――……。アイフリードを……守って……。
フィリップダーナ ! ?
ヨーランドあなたの意識を魔の空域から離すわ。準備はいい ?
フィリップ……はい。
フィリップ(アイフリードを守る…… ?)

Character3話【2-3 精霊の封印地1】
マークうおおおりゃあっ !
光魔……ウゥ~……ハルルルルル !
マークこいつら、まだ沸くのかよ !
ヴィクトルマーク、後ろだ !
マーク危ねぇ…… ! ありがとな。
ヴィクトルさすがに疲れてきたか ?
マークご心配――どうもっ !
ヴィクトル! !済まない。助かった。
マークははっ、お互いちょいとバテがきてるな。
ヴィクトルフィリップはまだ目覚めないか ?
マーク……まだだ。けど苦しそうな様子はない。神様とのご対面てやつは上手くいってるはずだ。
ヴィクトルそうか。もうしばらくかかるかもしれないな。光魔もまだ沸いて――……。
二人…………。
マーク沸いて……来ないな。まさか、さっきので打ち止めか ?
フィリップ……ん……マーク……。
マークフィル、戻ったか ! 体は平気か ?
フィリップ大丈夫。どこも異常はないよ。守ってくれてありがとう。
ヴィクトル意識もしっかりしているようだな。無事でよかった。
フィリップ……二人とも、かなり疲れているね。あれだけの光魔を相手に持久戦は大変だったろう。
ヴィクトルそれなんだが、ついさっき光魔の出現が止まった。君がこちらに戻ったせいか ?
フィリップそれもあるだろうけど……おそらく魔の空域とのアクセスが途切れたからだろうね。
マーク途切れたって、何があった ? ダーナとは会えたのか ?
フィリップああ、ちゃんと話もできたよ。でも横槍が入って、魔の空域とのアクセスを妨害されてしまったんだ。
フィリップダーナとヨーランドが僕の安全を優先してくれて急遽こちらに戻ってきた。
マーク女神ダーナがねぇ……。お前、本当に神様と会ったんだな。で、その妨害ってのは何だったんだ ?
フィリップヨーランドは、魔鏡機器を使ってのジャミングだと言っていた。間違いなく帝国の仕業だろう。
マークあいつら、魔の空域にまで干渉してきたのか !
ヴィクトルそんな物まで造っているとは……。帝国の魔鏡技師は厄介だな。
フィリップ昔から魔鏡技師としては優秀だったんだよグラスティンは。それに今は異世界の技術もあるだろうしね。
マークおいおい、敵を誉めてる場合か ?
フィリップそうだった。ひとまずここを離れよう。帝国に嗅ぎつけられた以上、この地は危険だ。それに今は長くいていい場所ではないからね。
ヴィクトル了解した。魔の空域の影響が薄いといいが……。
マークどうだろうな。外と上手く時間が噛み合ってることを祈ろうぜ。
ヴィクトルところで、ダーナから有益な情報は得られたのか ?
フィリップ……そうだね。成果はあったよ。でも肝心なところで邪魔をされて全てを聞くことはできなかった。
フィリップでも、指針は示してもらえたと思う。後で詳しく話すよ。
フィリップそれと、ダーナから聞いた話をイクスたちにも伝えないと。
マークわかった。ケリュケイオンに戻ったらイクスたちのアジトへ直行するぞ。

Character4話【2-7 アスガルド城】
デミトリアスこちらが送り込んだ兵たちは、精霊の封印地には入れなかったようだ。おかげでフィリップたちの足取りは掴めていない。
グラスティンそうか……。何か仕掛けがあるんだな。まあいいさ。自分で手に入れた方が何倍も興奮するからなぁ。ヒヒヒッ。
デミトリアスきみの方は上手くやってくれたようだね。
グラスティンああ。今は心核信号の数値も落ち着いている。ダーナはまた雲隠れしたらしい。
デミトリアス一体何をしたんだ ?「神との対面を邪魔する手筈」と言っていたが。
グラスティンあれか ? 開発中の【魔導砲】を応用した魔鏡機器を使ったんだよ。
グラスティン異世界の技術は素晴らしいよなあ。あの妨害波は、かなりの威力だった筈だぞお。神へも影響を及ぼすほどになぁ。ヒヒッ !
グラスティンこれがある限り、今後はフィリップもダーナへの接触が難しくなるだろうよ。
デミトリアス『今後』はな。だがフィリップはすでにダーナとの接触を成功させて私たちに不利となる情報を掴んだかもしれない。
デミトリアス……やはり、あの時にダーナの心核を破壊できていれば……。
グラスティンそんな泣き言、今更何になる。
デミトリアスそうは言ってもね……。心核さえ破壊していればあの時点でティル・ナ・ノーグの精霊たちを強制的に目覚めさせることができていた。
デミトリアスそうすればアイフリード……ナーザ神の復活ももっと早い段階で実現できていただろう。
グラスティン早かろうが遅かろうが、目的を達成すれば関係ない。
グラスティンお前は心核の破壊にこだわっているようだがあの時に必要だったのはダーナの心核の『欠片』だぞ。そいつは目的通りに達成した。
グラスティン何より最大の狙いはヨーランドの『目覚め』だった。全て俺たちの計算通りに進んでいる。
グラスティンお前が悔いる要素がどこにあるというんだ ?
デミトリアス…………。
グラスティン確かに、フィリップがダーナに接触したのは厄介だがあいつのことは俺に任せておけ。むしろその方が好都合だしなぁ。ヒヒヒッ。
グラスティン俺たちは精霊を従えるためにこのままナーザ神の復活に着手すればいいんだよ。
デミトリアス……そうだね。
グラスティン……納得してないって顔だな。だったらもう一つ面白い話を聞かせてやる。
グラスティン小さいフィリップが残した研究資料を探っていたら興味深いものを見つけたんだ。
デミトリアスエルレインの奇跡の力の研究だろう ?成果は芳しくなかったと聞いたが。
グラスティン確かに『神の力の具現化』としては失敗だった。だがあいつは、シュヴァルツという異世界の神を具現化している。
グラスティンこの研究記録を応用すれば、ナーザ神の復活がもっと早く叶うかもしれないぞ。
デミトリアス本当か !
グラスティン少し前から俺の方で研究を進めている。何しろ神の復活という難業だ。アプローチは多い方がいいだろう ?
デミトリアス素晴らしい。きみのおかげで更に展望が開けそうだ。
グラスティンヒヒヒ、陛下の憂いは払拭できましたかな ?
デミトリアスああ。礼を言うよ、グラスティン。研究に必要な物があれば何でも言ってくれ。
グラスティン必要か……。あえて言うなら、あの聖女様だな。
デミトリアスエルレインか ?
グラスティンナーザ神の具現化にはエルレインの協力が欠かせない。だが、あいつが素直に従うかどうか。
グラスティンあの女の口癖は知っているだろう ?
デミトリアス遍く人々の救済……。そのために彼女はフォルトゥナ神の力を求めていたのだったな。
デミトリアスふむ……。ならば下手に事を荒立てるよりもエルレインには『そう思って』動いてもらう方がいいのだろうね……。
グラスティン回りくどいな。つまり、エルレインにはフォルトゥナ神の具現化と偽ってナーザ神の復活に協力させろということだろう ?
グラスティンあの女を騙せとはっきり言え。
デミトリアス耳が痛いよ。彼女の希望を裏切るようで心苦しいんだ。……しかし私の目的も、ある意味救済ではある。彼女とは規模と手段が違うだけだ。そうだろう ?
デミトリアス……いや、これが欺瞞であることもわかっているがね。
グラスティン……いびつだなぁ、デミトリアス。まあ、そこがお前の面白いところさ。ヒヒヒヒッ !

Character5話【2-8 ミッドガンド領 領主の館】
ミッドガンド領 領主の館
テレサお帰りなさいませ、アルトリウス様。
アルトリウステレサ。こちらに戻っていたのか。
テレサはい。ヘルダルフの様子をご報告に参りました。
アルトリウスあいつはどうしている。
テレサグリンウッド領、領主の館にて幽閉しております。呪いの力で穢れが溢れてきていますが業魔化する様子もなく、周囲にも――
アルトリウス――影響はない、か。すぐにも業魔と化すと思っていたがグラスティンの言っていた通りだな。
アルトリウスこの世界にとって穢れはどういう意味を持たされているのか……。
テレサオスカーが監視を続けておりますので変化があればすぐに報告が入ります。どうかご心配なきよう。
アルトリウスそうか、ご苦労。
テレサもったいないお言葉です。
アルトリウスああ、いい機会だ。お前にこれを渡しておこう。これから行う【ルグの槍】の計画の為にデミトリアス帝から預かったものだ。
テレサこれは……指輪ですか ?
アルトリウス精霊輪具という。こちらの指輪はマクスウェルもう一つはクロノスの精霊の力が宿ったものだ。
アルトリウスこれを使うと精霊装が纏えるようになる。後でオスカーにも届けておけ。
テレサ精霊装とはどのようなものなのでしょう。
アルトリウスそうだな……。神依のような力が使えると思えばいい。
テレサ神依と同じ……。
アルトリウスどうした ?
テレサいいえ、その……、この世界に来る以前ですが神依は術者の命に関わるものと耳にしておりましたので……。
アルトリウスあのような未完成な術とは似て非なるものだ。この精霊輪具を使うのであれば、体に負担もなく纏う者の安全も保障されている。
テレサそうなのですね。余計なことを申しました。ですが、何故このような貴重なものを私たちに ?
アルトリウスこの力は、ニーベルングという分史世界を創るための足掛かりとなる。
テレサ世界を創るとはどういう意味なのでしょう。
アルトリウスそのままの意味だ。新たな世界を生み出すのだよ。それが我々の役割だ。
テレサ世界を生み出す…… ! ?
アルトリウスこの計画を成し遂げてこそ私が目指すべき世界がある。
テレサ……あまりにも壮大で、私には考えも及びません。
アルトリウスいずれお前にもわかる。事が進めばな。
アルトリウスまずはオリジンという精霊を探さねばならない。我々の知る聖隷との違いは、すでに学んでいるな ?
テレサはい。心得ております。アルトリウス様の理想のため弟オスカーと共に尽力いたします。

Character6話【2-9 仮想鏡界1】
イクス魔鏡兵器カレイドスコープか……。話には聞いてたけど、本当に具現化装置とは正反対の存在なんだな。
ミリーナ…………ええ。
ナーザカレイドスコープはそれまでの戦況を覆した。我がビフレスト軍は見る間に劣勢へ転じ……。最終的には消滅した。
ナーザ文字どおり、人も、国も、大地も、全てが消えたのだ。もちろん俺とバルドもな。
メルクリア…………っ。
ナーザその後のことは、虚無に飲まれた俺よりもお前たちの方が詳しいだろう。
二人……はい。
カーリャ…………。
ミリーナカーリャ、大丈夫 ? 震えてるわ。
カーリャカ……カーリャが、ビフレストに攻め込んで……。
イクスカーリャじゃない。俺と最初のイクスさんが違うようにさ。
バルドカーリャ、今の話を聞いて恐れや悲しみを感じているのならばそれはあなたの心が清く純粋だからですよ。
バルド何より私たちに心を寄せてくれている証拠でもある。ありがとうございます。愛らしいカーリャ。
カーリャバルドさま……。
バルドあなたは泣き顔さえも可愛らしいですね。かりそめの体でなければ、その涙を拭って――
ナーザそういう一言が余計なのだ、お前は。だからローゲに疎まれたことを忘れるなよ。
バルドすみません。 ――何にしろ、あなたに罪はありませんよ、カーリャ。
メルクリア確かに、その鏡精……カーリャに罪はない。だが、わらわの国が消滅した事実は変わらぬ。
メルクリアセールンドは、攻められる切っ掛けを作ったうえにビフレストを消滅させたということじゃ。
ミリーナ…………。
イクス……最初のイクスさんも、バロールの魔眼を継いだ自分が鏡士にならなければ、おそらく戦争は起きなかったと言ってたよ。
バルド彼の選択が世界の命運を左右したのは確かです。ですが、開戦へ至った理由はそれだけではありません。
ナーザああ。オーデンセとビフレストとの停戦協定がかろうじて守れていた当時でもセールンドは何かがおかしかった。
ナーザ魔鏡戦争前、まだセールンドの先王が健在だった頃のことだ。
バルドお呼びですか、ウォーデン様。
ウォーデン来たか。早速だがこれを見てくれ。魔鏡技師フリーセルからの報告書だ。
バルド今はセールンドへ派遣されていましたね。
ウォーデン……人払いは済ませてある。お前の率直な感想を聞かせて欲しい。
バルド……わかった。
バルド…………。これは…… !
バルドウォーデン !ここに書かれたことが事実ならば…… !
ウォーデン事実だ。セールンド国王はオーデンセに接触しバロールの力を取り戻そうとしている。
ウォーデンしかも、バロールの一族にも力を取り戻すことに応じた人物がいるようだ。
バルド何ということを……。明らかに停戦協定を反故にした行為だ !
バルドオーデンセの鏡士もなぜこのような愚かな選択をしたんだ。
ウォーデンわからん。オーデンセが我々の領土だったのは昔の話だ。
ウォーデン100年戦争時代にセールンドに奪われて以降何が起こっているか詳しく調査することも叶わない。
バルドだが、その100年戦争の停戦の際セールンドへ多大な譲歩をする代わりに、バロールの血族に対しては固い取り決めをかわしたはず。
バルドなのに今になって、古の盟約を破ろうとは……。セールンドへの正式な確認はしたのかい ?
ウォーデンもちろん、外交ルートで書簡を送っている。しかしセールンドからは相手にされなかった。何度問い合わせても、知らぬ存ぜぬばかりだ。
バルド何度も……そうか。ウォーデン、最近きみの顔色が優れなかったのはこの件に奔走していたからだね。
ウォーデン……本当に余計な所ばかりよく見ているな。お前は。
バルドいや、愛する義弟の苦悩に気付かないとは情けないよ。すまなかった。
ウォーデン愛するだの何だのといちいち大げさだぞ。そんなだから貴様の周囲では厄介事が絶えないんだ。
バルドこれでも相当自重しているつもりだよ。特にきみに対してはね。何しろ将来の皇主であらせられる。
ウォーデンならばもっと自重しろ。俺の乳兄弟というだけでもいらぬ嫉妬を買うのだからな。
バルド――だけど悪い癖だよ、ウォーデン。すぐに一人で抱え込もうとして。
ウォーデン今回は仕方がなかった。この話を大事にすればただでは済まないだろう。内々に対処できればと思っていた。
ウォーデン……だが、そうも言っていられなくなった。バロールの魔眼を持つ鏡精が出現すれば世界は終わる。
ウォーデン今この瞬間でさえ、セールンドは和平を謳いながら鏡精という兵器を造り続けている。
ウォーデン女神ダーナの言葉も言い伝え程度にしか受け取らずダーナを殺そうとしたバロールさえも、未だ神として崇める始末。
ウォーデンこの上、我々の言葉も通じないとなればこれ以上は看過できない。
ウォーデンもう……力で抑え込むしかない。
バルド攻める気なんだね、セールンドを。だが、きみはまだ迷っている。違うかい ?
ウォーデン…………。
バルドここに僕を呼んだのは、背中を押して欲しいから ?
ウォーデンうぬぼれるな。決めるのは皇太子であるこの俺だ。
バルドそうだね。それでいい。けれど、僕も求められたとおり、率直に言わせてもらう。――開戦には反対だ。
ウォーデン……お前が争いを嫌うのはよく知っている。だが心構えはしておけ。
ウォーデンビフレストはセールンドへの最後通牒の後返答次第では正式に宣戦布告をする。
ウォーデン目標はオーデンセ島。【バロール狩り】の開始だ。

Character7話【2-10 仮想鏡界2】
ミリーナ……その【バロール狩り】にあったのが最初のイクスだったのね。
ナーザあの時点では、バロールの血を引く者の手がかりは『銀髪』という情報だけだった。
ナーザ故にビフレストはオーデンセ島に住む銀髪の人間を片っ端から狩って、その遺体を回収した。
メルクリア! !
カーリャ銀髪っていうだけで襲ったんですか ! ?
メルクリア兄上様、その……、お話のとおりであればほとんどの者は無関係だったのではありませぬか ?
ナーザ……無関係の者を巻き込んでも成すべき事だと思った。あの時はな。
カーリャそれでも酷いです……。
イクスそれだけバロールの力が脅威だったって証拠だよ。
メルクリアイクス ? おぬしは腹が立たぬのか。今の話は怒って当然だと思ったぞ。
イクス……メルクリア、なんか感じが変わってきたよな。
メルクリアな、なんじゃ、いきなり ! 馬鹿にしておるのか !
二人…………。
イクスバロール狩りのやり方に納得なんかしてないよ。俺は当時のことを知らないけど想像しただけでも怒りが沸く。
イクス……でも、オーデンセの話は、メルクリア奪還作戦の時に、少しだけナーザ将軍から聞いているからさ。多少冷静になれたってだけだ。
イクスそうだ。ナーザ将軍、オーデンセ侵攻と虐殺はバロールの血筋がどこに潜んでいるかわからないからだと、あの時に言ってましたよね。
ナーザああ。そんな話をしたな。
ナーザバロールの血筋はオーデンセの鏡士のどこに潜んでいるかわからぬ。
ナーザイクス・ネーヴェ以外にも、バロールの血を受け継いだ者がいた可能性がある。
ナーザ――だが、確かに言葉が過ぎた。我が国も問題解決のため、力に訴えたことは事実だ。
ミリーナ……待って。そんなに恐ろしいものならそもそもどうしてバロールの血筋を残しておいたの ?
ミリーナ最初のイクスの遺体を保存していたのもバロールの魔眼と関係があるの ?
ナーザ遺体を残したのは、バロールの血筋を滅ぼしてもバロールの力を残しておく必要があったからだ。
ナーザ大事なのはバロールの魔眼をもつ鏡精を作らせないことだったからな。
イクスなぜバロールの力を残しておく必要があったのかまだ答えを聞いていません。
ナーザ脅威ではあっても、失ってはいけない力だとビフレストの皇族に伝えられていたからだ。
ナーザこの世界からバロールの力が失わなれないように銀髪の遺体――最初のイクスを『保存』し厳重に管理することが必要だった。
ミリーナバロールの力……。
イクスミリーナ、どうしたんだ ?
ミリーナ……あの時も思っていたの。どうして私は、バロールの話を知らないのかって。
ミリーナ鏡士やイクスに関わる重要な情報でしょう ?なのに……。
イクスゲフィオンは【バロールの魔眼】を知っていたはずだ。コーキスとナーザ将軍が戦っていた時に俺に教えてくれたから。
ナーザあの時か。魔鏡結晶の中でそんな真似を……。
イクス多分、ゲフィオンが今のミリーナを具現化した時に意図的に記憶を引き継がなかったんじゃないかな。
ミリーナ……やっぱり私、最初のミリーナと向き合わなきゃいけないわね。
ミリーナごめんなさい、話を中断させて。それで、バロールに関して他にどんな言い伝えがあるんですか ?
ナーザバロールについてはビフレストでも情報が少ない。こちらが知る話も、ほぼ伝承のみだな。
ナーザバロールは神話から抹消された空の神だ。それと同時に、世界を滅ぼす嵐の神とも伝えられている。
ナーザビフレストに残る伝承によれば神々を滅ぼした【フィンブルヴェトル】を引き起こしたのがバロールだ。
ナーザその力は魔眼として、バロールの血筋に受け継がれたと言われている。
ナーザだが、バロールの魔眼がどのような形で死を呼ぶのかはビフレストでもわかっていない。
イクス死を呼ぶ……か。バロールの魔眼を持つ鏡精がフィンブルヴェトルでニーベルングを破壊したって話が関係するのかな……。
ナーザわからん。だがそれも相まってか、バロールは鏡精の守り神としても語られていて――
コーキス何だよそれ ! ニーベルングを滅ぼした奴が俺たちの守り神のわけ――
全員えっ ! ?
イクスコーキス ! ?
コーキスヤバッ…… !
ナーザはぁ……たわけ者め。

Character8話【2-11 仮想鏡界3】
カーリャコーキス、やっぱりいたんですね !
ミリーナ心配してたのよ ! 会えて良かったわ。
コーキス……あ……えっと……。
メルクリアコーキス、そなた、イクスに会わないようにとマークと一緒に出かけたのではなかったかのう ?
イクスえっ…… ?
コーキスそ、それは……あれ、あれだよ……ええと……。
コーキス(どうしよう、マスター傷ついたかな。けど言えねえ……。やっぱりマスターたちが気になって隠れてこっそり様子を見てたなんて……)
コーキスお……俺、忘れものを取りにきたんだ ! じゃあな !
メルクリア何も持っておらんが、忘れ物とはなんじゃ ?
コーキスうっ……。いや、だから……。
イクスもういいよ、コーキス。ひとまず元気そうで安心した。
コーキス……う、うん。
イクスずっとコーキスと話がしたかったんだ。……アジトを出て行った理由ちゃんとお前の口から聞きたかったからさ。
コーキス……今は話したくない。
カーリャコーキス ! みんな心配してるんですよ ?
コーキスそれは……ごめん。
イクスじゃあ、理由は後でもいいよ。なんで今は話したくないんだ ?
コーキス話したくないんだから仕方ねーじゃん !しつこいよ、マスター !
イクス……ど、どうしてだよ ! 話してくれなきゃ俺だって何もわからないだろ !
コーキスマスターだって俺と同じだろ ! 色々隠し事して肝心なことは何も話しちゃくれないくせに !
イクス隠し事ってなんだよ ! そんなことしたつもりは――
コーキスしてただろ。バロールの魔眼のことや、鏡精の秘密もそうだ !
コーキス俺、こんなヤバい力を受け継いでるんだぜ ! ?だったらなおさら離れてた方がいいよ。マスターの負担になるだけだ。
イクス……俺はそんな風に思ってない。
コーキスマスターが思ってなくたって、そもそも俺みたいなのは生まれちゃいけない存在だったんだろ ! ?
イクスそんなわけないだろう !いい加減にしろよ、コーキス ! 俺は…… !
ナーザ双方落ち着け ! 見苦しい !
二人! !
ナーザくだらぬ争いをしている場合か ?続けたければ、ここを出て行け。
イクス……すみませんでした。
コーキス…………。
カーリャコーキスも言うことがあるんじゃありませんか ?
コーキス……邪魔してすみません。
バルド二人とも、冷静に話し合える状況ではありませんね。落ち着くまでは、コーキスもこちらにいたほうがいいと思いますが、いかがでしょう ?
二人………………。
ナーザでは、話を戻すぞ。……と言っても、これ以上バロールに関する目ぼしい情報はない。
ナーザ今後、バロールについてはこちらで調査を進める。お互い、新たな情報が入った際は共有しようと思うがそちらに異存はあるか ?
イクスいいえ。俺たちも助かります。
ナーザでは今日はここまでだ。バルド、メルクリア。出口まで案内してやれ。
バルド承知しました。
メルクリア皆の者、ついて来るがよい。
コーキス…………待ってくれ、マスター。
イクス……どうした ?
コーキスアジトを出る時にも言ったけど俺、ここでやらなきゃいけないことがあるんだ。
イクス……そうか。だったら、そのやることを済ませたらちゃんと帰って来るって約束してくれ。
イクス俺は信じて待ってるからさ、コーキス。
コーキス…………。マスター、ミリーナ様、パイセン気を付けて帰れよ。
カーリャあっ、コーキ――
イクスいいんだ、カーリャ。
カーリャでも、せっかく会えたんですよ ! ?
イクスさっきのコーキスの目は真剣だった。あいつはただ迷ってるだけじゃないと思う。
イクス今更だけど、しばらくの間はコーキスの好きにさせてやりたい。ミリーナも、カーリャも、それでいいか ?
ミリーナわかったわ。イクスが決めたことだもの。コーキスの意思を尊重しましょう。
ミリーナカーリャも寂しいだろうけど、しばらくの我慢ね。
カーリャ……わかりました。でも、こんなにみんなに心配かけているんですから帰ってくる時は、お土産持ってこなきゃ許しません !
イクスそういうわけなんで……すみませんがコーキスのこと、宜しくお願いします。
バルドええ。どうかご心配なく。
メルクリア召使い代わりに丁度良いのじゃ。気兼ねなく置いて行くがよい。
イクス(コーキス……、これでいいんだよな ?)
ナーザ奴らは帰ったぞ。お前を頼むと言ってな。
コーキスうん……。
コーキス(俺はまだ帰れないんだよ、マスター)
コーキス(わかってるんだ。バロールの魔眼の話を隠していたのは、俺を思ってのことだって……)
コーキス(なのに俺は、そんなマスターを信じきれなかった。マスターを疑って、魔眼に不安を感じてそこを死鏡精に付け込まれた……)
コーキス(こんな弱い心の俺じゃ、きっとマスターを危険な目に合わせちまう。それだけは絶対に嫌だ)
コーキス(まずこの不安を……バロールの魔眼が何なのかを解き明かさなきゃ。これからもずっと、マスターと一緒にいるために)

Character9話【2-15 アジト】
カーリャはぁ……。なんだか疲れましたねぇ。
ミリーナそうね。まさかビフレスト側のアジトに行くなんて思わなかったわ。
カーリャそういえば、先輩はどうしてるんでしょう。合流はしないで、クラースさまたちと戻るって連絡は来ましたけど……。
ミリーナ……きっと忙しいのよ。ネヴァンには後でゆっくり話すわ。話さなければ……いけないんだから。
ミリーナねえイクス、今日の報告だけど――
イクス…………。
ミリーナ……イクス、大丈夫 ?
イクスああ、うん、報告だろ ? ええと……。
ミリーナ無理しないで。疲れた顔してるわ。やっぱりコーキスのことが気になるのね。後は私がやるから、イクスは少し休んで。
イクス……ありがとう。じゃあ悪いけど――
ノーマあ~、イっくん、リナっち、カーりゃん !帰ってきてるじゃん !
イクスただいま。遅くなってごめんな。そっちの企画はまとまったか ?クリスマス兼歓迎会。
セネルそれどころじゃなかったんだ。捜してた俺の仲間が、帝国と揉めてるって聞いて救出に行ってた。こっちも今帰って来たところだよ。
二人ええっ ! ?
イクスみんな無事なのか ! ?
セネル……まあ、一応。ただ、行った先で――
モーゼスおう、ワレがここの頭か。世話んなるのう !ワイはモーゼ――
ジェイモーゼスさんはちょっと黙っててください。そんなことよりも大事な話なんですから。
モーゼスそんな ! ? ま、まあええわ。今は嬢ちゃんの体が心配じゃけぇの。
シャーリィすみません、モーゼスさん。
ミリーナシャーリィ ? 何かあったの ?
セネル実は、モーゼスを助けに行ったところでグラスティンに会ったんだ。
二人グラスティン ! ?
イクスリッドの仲間に、シャーリィまでか……。【贄の紋章】なんて、聞いたことがないな。
ミリーナ大丈夫なの ? 痛んだりしない ?
シャーリィはい。今は不思議なくらい何ともないんです。
クロエでも、まだ顔色が悪いぞ。私たちに心配をかけまいと我慢しているんじゃないか ?
シャーリィクロエってば、心配しすぎだよ。ちゃんと医務室で診てもらうから大丈夫。
イクス念のために、ジェイドさんやハロルドさんにも診てもらった方がいいな。
セネルああ、そのつもりだ。何かわかったら報告する。行こう、シャーリィ。
シャーリィうん。それじゃ、失礼します。
モーゼスなあ、ところでワイの紹介は――
ノーマ心配ご無用。ジェージェーの歓迎会も兼ねたパーティーを計画してるからさ一緒にモーすけもやっちゃおう !
ジェイあ、ぼくはその日、絶対に間違いなく予定が入ります。モーゼスさんおひとりでどうぞ。
モーゼスクカカ ! ワイに主役を譲るっちゅうんか !ええとこあるのう、ジェー坊 !
ジェイあはは、無知って怖いですね。
カーリャモーゼスさま、でしたっけ ?見た目は完全に山賊ですけど、愉快な人ですね。
ミリーナええ。でも……シャーリィもみんなも平気そうな顔してるけど、きっと不安よね。
イクスああ……。――ん ? 通信だ。
リッドイクスか ?
イクスリッド ! セネルたちから聞いたぞ。仲間が見つかったんだって ?
リッドなんだ、聞いてたのか。レイスとフォッグの救出に動いてるから連絡しとこうと思ったんだよ。
イクスそっちの様子はどうだ ? 救援はいるか ?
リッドいや、オレたちの方は心配すんな。すぐに二人を連れて帰る。じゃあな。
イクスわかった。そっちは頼む。
ミリーナフォッグさんとレイスさんも印を押されているのよね。贄の紋章の情報を、何か知ってるんじゃないかしら。
イクスリビングドールにされてたようだし、どうかな……。
? ? ?よお、パイセン !
カーリャえっ、コー…… ! ?……って、マークじゃないですか !
マークおっと、パイセン呼びはコーキスに怒られちまうか。
イクスマーク ! フィルさん ! 無事に戻ったんですね。
ミリーナ良かった……。連絡がなかったからどうしたのかと思ってたのよ。
フィリップ出発の時に言ったじゃないか。しばらく連絡はとれなくなるって。
ミリーナそれはわかってるけど……でも魔の空域よ ?何日も連絡がなければ心配に決まってるじゃない。
マークあ~、あれから一週間以上たってたみたいだな。ま、その程度の誤差で済んで良かったぜ。
カーリャ誤差 ?
マークま、その辺は後で説明するよ。
イクスそれで、ダーナには会えたんですか ?
フィリップもちろん。その報告に来たんだよ。
ミリーナすごいわ、フィル ! 本当に神様に会えたのね。
フィリップ神様……か。ところで、こちらで変わったことは ?
イクス今日はナーザ将軍と会ってきました。そこで新しい情報と、他にも色々……。それに今、グラスティン絡みで問題が起きています。
ファントムやはり彼が動いてるんだな……。わかった。まずはお互いに情報をすり合わせよう。
ミリーナええ。でもその前に。
イクスあ、そうか。まだだったよな。
フィリップ何がだい ?
イクスおかえり、フィルさん。マーク。
ミリーナおかえりなさい。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。
フィリップえ…… ! ? う、うん……。ありがとう……――ただいま。

Character10話【2-15 アジト】
イクス…………。
ミリーナイクス……。
イクス……それじゃ、バロールという神は元々人間で俺はその力を継いだ末裔。フィルさんはダーナの血を引いた子孫……ってことになるのか ?
フィリップイクスたちの情報と、僕がダーナから聞いた話を突き合わせるとそうなるね。
カーリャあわわわ……神様の子孫……。ええと、フィルさまには何をお供えしたらいいですかね ?
マーク……だいぶ混乱してるな。ちっこいカーリャ先輩。
フィリップ今聞いたナーザ将軍の話だと、神とは言ってもビフレスト皇国とセールンド王国の神話では捉え方や認識にずれがあるようだね。
イクスあの……俺の家系がバロールの力を継いでるってフィルさんは知っていたんですか ?
フィリップバロールの力や魔眼の件は、伝承程度にしか知らなかった。ネーヴェの家系のこともビクエになった後に知ったんだよ。
フィリップそんな認識だったから、魔鏡戦争の件もビフレストが伝承をたてに攻め込んだようにしか見えなかったな。
ミリーナ……毎度のことだけれど私たちには知識も情報も足りないのね。これじゃまだ何もわからないわ。
フィリップ確かなこともある。帝国が本格的にニーベルング復活に着手したということだ。
フィリップ救世軍は引き続き、アイフリードであるナーザ神の調査をしようと思う。ダーナの別れ際の言葉も気になるからね。
ミリーナバロール神のほうは、ビフレスト側が調べると言っていたわ。
イクスじゃあ俺たちは、フィルさんとナーザ将軍が掴んだ情報を共有しながら、その他の調査を進めていこう。
ミリーナそうね。だったら聖核の調査に出ているカロル調査室のメンバーにも招集をかけましょう。一度、全ての情報を整理した方がいいわ。
マークよし ! それぞれやることは決まったな。
マーク――で、コーキスは今後ナーザの配下で動くのか ?
イクス……今は、多分。
マークおい、あからさまに沈んだ顔するなよ。
カーリャ仕方ないんです ! イクスさまはお疲れなんですよ。
マークはは、こっちのパイセンもイクスびいきか。すまなかったよ。
マークしかしまぁ、姿が見えねえと思ったら家出かよ。鏡精にとっちゃ贅沢な話だぜ。
イクス贅沢 ?
マークそうだろう ? あいつは魔鏡結晶のおかげで一人でも、この世界のほとんどの場所に行ける。だから家出なんて出来るんだぜ ? うらやましい話さ。
フィリップうらやましいって……マーク、家出したいのかい ?
マークして欲しくてもやらねえぞ。ダメおっさん放り出して家出とか逆にこっちが心労で死ぬっての。
マーク一般的な鏡精の認識ってやつだ。俺の願いじゃねえ。
カーリャですね。私もミリーナさまから離れたくはないですけど……コーキスの気持ちもちょっとだけわかっちゃいます。
カーリャカーリャも、具現化されたビフレストで話を聞いて動揺しちゃいましたから。
ミリーナカーリャ……。
イクスそうだよな……。コーキスは魔眼も持ってるからあの話を知ったら、色々考えるのは仕方ないよな……。
マークまあ、普段使わねー頭を使ったせいで余計なこと考えちまったんだろうよ。頭が冷えたら帰ってくるさ。
カーリャ安心してください、イクスさま。コーキスが帰ってきたらカーリャがガツンと言ってやりますから !
ミリーナそんなに怒ったら、今度はカーリャが怖くて家出しちゃうかもしれないわよ ?
カーリャ平気ですよ。そんな軟弱者に育てた覚えはありません。
イクス育てたって……ははははっ !コーキスが聞いたらどんな顔するかな。
マークなんだ、持ち直したか ?
イクスあ……。
フィリップイクス、コーキスは必ず戻ってくる。だから今は僕たちがやるべきことをやろう。
ミリーナ一緒に頑張りましょう。コーキスが安心して戻って来られるように。
イクスありがとう……みんな。
イクスそうだよな。コーキスが何か目的を持って動いているなら、俺だって止まってちゃいけない。
ミリーナでも、その前にちゃんと休んでね。それも今やるべきことなんだから。
イクスわかってる。無理はしないよ。それでフィルさん、調査についてですけど――
フィリップええ ? 休むんじゃないのかい ?
カーリャイクスさまのやる気がすごいです……。さっきはあんなにグッタリしてたのに……。
マークいいじゃねえか。マスターたちが元気なら鏡精としては言うことなしだ。
カーリャですよね !……早く帰って来るんですよ、コーキス。
to be continued