| Character | 1話【2-1 魔の空域1】 |
| | 魔の空域 |
| フィリップ | ――どうか教えて頂きたい。この世界は、どうしたら救われるのですか。 |
| フィリップ | 女神ダーナ。ティル・ナ・ノーグを創造し滅びをも予言したあなたならば救う方法もご存じなのではありませんか ? |
| ヨーランド | フィリップ。幼い頃にダーナ様と会ったかどうか確かめるだけじゃなかったかしら ? |
| フィリップ | この機を逃すわけにはいかないんです。それに確かめる『だけ』とは言っていませんよ。どうか悪しからず。 |
| ヨーランド | あら、意外にふてぶてしいのね。 |
| フィリップ | 自分でも重々承知していますよ。以前にも……面の皮が厚いと言われましたから。 |
| ヨーランド | ふふっ。【ビクエ】なら、それくらいで丁度いいわ。 |
| ヨーランド | ――ダーナ様、もうしばらくお付き合い頂けるでしょうか。 |
| ダーナ | もちろんです、ヨーランド。心核の修復も進んでいます。この程度であれば問題はありません。 |
| ダーナ | 何より私の方こそ、この子に話があるのですから。 |
| フィリップ | (この子 ! ?) |
| ダーナ | フィリップ。あなたの質問に答えるためにはまず、ティル・ナ・ノーグが誕生した経緯を話さねばならないでしょう。 |
| ダーナ | それに、この世界で神と呼ばれる者たちについても。 |
| フィリップ | 神と呼ばれる者たち…… ? |
| ダーナ | ええ。私が神と呼ばれるようになる前はニーベルングに生まれた人間であったことはすでに承知のことと思います。 |
| フィリップ | あ……まさか、ナーザやバロールも…… ! ? |
| ダーナ | あなたの考えているとおりです。私同様、バロールとナーザもニーベルングの生き残りなのです。 |
| フィリップ | ではこの世界は全て人間が造り出したものなのか…… ? |
| ヨーランド | 驚くことじゃないでしょう ? あなたたちだって似たようなことをやっているんだから。 |
| ヨーランド | 世界の創造なんて、鏡士以外から見れば神にも等しい所業じゃない ? |
| フィリップ | …………。 |
| ダーナ | 私とあなたは『同じ』です。フィリップ。在り方も、その行いさえも。 |
| フィリップ | ……何故ニーベルングは滅びたのですか。それも私たちと同じように国同士の争いが原因なのですか ? |
| ダーナ | 確かに原因は戦争……と言えるかも知れませんね。ですが、私たちが戦っていた相手は人間ではありません。 |
| ダーナ | 鏡精です。 |
| フィリップ | 人間が鏡精と ! ? |
| ダーナ | ……ええ。最初は鏡士と鏡精の対立でした。それは徐々に激しさを増し、やがて人間と鏡精の決定的な対立へと発展してしまったのです。 |
| フィリップ | ………………。 |
| フィリップ | ……あなたも、鏡精と戦ったのですか ? |
| ダーナ | ええ。私もナーザも……そうせざるを得なかった。でもバロールは違った。バロールは人でありながら鏡精側へとつきました。 |
| フィリップ | ! ? |
| ダーナ | そのバロールの選択が、ニーベルングを滅びの道へと誘うことになってしまった……。 |
| ダーナ | 生き残った私とナーザは、ある計画を立てました。私の力と、ナーザが使役していた精霊の力を合わせ生き残った人々を、別の世界へ移そうと考えたのです。 |
| ダーナ | 新たな世界――人々を守る揺り籠の世界への移住。それが―― |
| フィリップ | ダーナの揺り籠、ティル・ナ・ノーグ……。 |
| ダーナ | そのとおりです。 |
| フィリップ | ……この世界はダーナの揺り籠である。罪を背負った人々は、罪を贖い、浄化しダーナの揺り籠に生まれ落ちた。 |
| フィリップ | あの創世神話は、歴史そのものを伝えていたのか…… ! |
| ヨーランド | 神話やおとぎ話に歴史が織り込まれるのはよくある手法でしょう ?私も最初に真実を知ったときは驚いたけどね。 |
| フィリップ | ええ。まだにわかには信じがたいです……。バロール神が鏡精と共に戦った鏡士でナーザ神は召喚士……。 |
| フィリップ | そういえば、アイフリードの墓にも揺り籠の文言がありました。精霊を封印しているのであればやはり創世の関係者なのですか ? |
| ダーナ | もちろん。アイフリードはナーザですから。 |
| フィリップ | は……ええっ! ?でもあの墓は確か……。 |
| ヨーランド | ああ、混乱しちゃうわよね。じゃあ、わかりやすく説明してあげる。 |
| ヨーランド | ナーザ神はアイフリード、これはいいわね。そしてあの墓の主は私の幼馴染でもある召喚士のルイス・アイフリードの方よ。 |
| ヨーランド | 召喚士ルイス・アイフリードはナーザ神の鏡精の子孫なの。鏡精が主の名を頂いたって感じかしら。 |
| フィリップ | ナーザは鏡士ではなく召喚士だと聞きましたがどうして鏡精が出てくるのですか ? |
| ダーナ | ナーザは召喚士であると同時に鏡士でもありました。いえ、【想像】の力によって精霊を創ったと言った方がいいかもしれません。 |
| フィリップ | 精霊を……創る ! ? |
| ダーナ | その話はとても長い話になってしまいます。今は置いておきましょう。 |
| ダーナ | とにかく私とナーザはこの世界に万が一があったときのことを考え自分たちの力を自らの鏡精に移したのです。 |
| フィリップ | あなた方は鏡精と戦ったのではないのですか ?それなのに……。 |
| ダーナ | フィリップ……私も鏡精と争いたくはなかった……。鏡精は自らの分身でもありますから。 |
| ダーナ | 鏡精に味方したバロールとは逆に鏡士に味方した鏡精もいました。……ひどい時代だったのです。 |
| フィリップ | ……申し訳ありません。出過ぎたことを口にしました。 |
| フィリップ | それにしても……鏡士の始祖であるヨーランドがダーナの鏡精の子孫でアイフリードはナーザの鏡精の子孫……。 |
| フィリップ | 創世の神々は、こんな形で私たち鏡士に繋がっていたんですね。 |
| ダーナ | ええ。そしてフィリップ、あなたはどの鏡士よりも私と近い縁を持っています。 |
| ダーナ | あなたは、私の血を引いているのですからね。 |
| フィリップ | え…… ? |
| ダーナ | だからこそ、この声が届いたのでしょう。フィリップ・レストン。我が子孫であり、融合の鏡士よ。 |
| フィリップ | ぼ……いや、私が、あなたの ! ? |
| ダーナ | さて、世界を救うためにはどうしたらいいか、でしたね。 |
| ダーナ | 私にあなたの力を貸してください。それが世界を救うための方法になるでしょう。 |
| Character | 2話【2-2 魔の空域2】 |
| フィリップ | (僕がダーナの子孫…… ?) |
| ヨーランド | フィリップ。固まっちゃってるけど大丈夫 ? |
| フィリップ | い、いや、あまりにもその……予想外で。今まで神とされていた方からその血を引いていると言われても……。 |
| フィリップ | それに、このティル・ナ・ノーグは、女神ダーナの【創造】の力で生み出されたと聞いていました。 |
| フィリップ | 僕……いえ、私は融合の鏡士です。 |
| ダーナ | ええ。驚くのも無理はありません。全ての始まりはニーベルングでの争いに端を発します。 |
| フィリップ | …… ? 今、何かおかしな気配がしたような……。 |
| ヨーランド | ええ。初めてよ、こんなの。 |
| ダーナ | あなた――……は――……の……イフ……に……。 |
| フィリップ | ダーナの声が……。 |
| ヨーランド | ダーナ様 ! ? このノイズはなに ! ? |
| ダーナ | ……ヨーラン……すぐにフィリ――を――……。 |
| ヨーランド | これ、魔の空域とのアクセスが妨害されているんだわ ! |
| フィリップ | 私の体に何か異変があったのでしょうか。 |
| ヨーランド | いいえ、これは魔鏡機器によるジャミングね。この空間に影響を及ぼすことが出来るなんて……。 |
| フィリップ | 魔鏡機器 ? だとするとグラスティンかもしれない。僕の動きに勘付いたのか。 |
| ダーナ | ヨー……一刻もはやく――……安全……かえ――……。 |
| ヨーランド | ……ここまでね。 |
| フィリップ | 待ってください ! 肝心な話が聞けていない。ダーナの声はまだ届いています。 |
| ヨーランド | 駄目よ。このままだとあなたの意識もここから戻れなくなる可能性がある。 |
| ダーナ | フィリップ、帰り……さい。あなたが――無事に……。 |
| フィリップ | …… ! |
| ヨーランド | 聞こえたでしょう。ダーナ様のご命令よ。あなたの安全が最優先なの。 |
| フィリップ | ……わかりました。 |
| ダーナ | フィリ――……お願い――……。アイフリードを……守って……。 |
| フィリップ | ダーナ ! ? |
| ヨーランド | あなたの意識を魔の空域から離すわ。準備はいい ? |
| フィリップ | ……はい。 |
| フィリップ | (アイフリードを守る…… ?) |
| Character | 3話【2-3 精霊の封印地1】 |
| マーク | うおおおりゃあっ ! |
| 光魔 | ……ウゥ~……ハルルルルル ! |
| マーク | こいつら、まだ沸くのかよ ! |
| ヴィクトル | マーク、後ろだ ! |
| マーク | 危ねぇ…… ! ありがとな。 |
| ヴィクトル | さすがに疲れてきたか ? |
| マーク | ご心配――どうもっ ! |
| ヴィクトル | ! !済まない。助かった。 |
| マーク | ははっ、お互いちょいとバテがきてるな。 |
| ヴィクトル | フィリップはまだ目覚めないか ? |
| マーク | ……まだだ。けど苦しそうな様子はない。神様とのご対面てやつは上手くいってるはずだ。 |
| ヴィクトル | そうか。もうしばらくかかるかもしれないな。光魔もまだ沸いて――……。 |
| 二人 | …………。 |
| マーク | 沸いて……来ないな。まさか、さっきので打ち止めか ? |
| フィリップ | ……ん……マーク……。 |
| マーク | フィル、戻ったか ! 体は平気か ? |
| フィリップ | 大丈夫。どこも異常はないよ。守ってくれてありがとう。 |
| ヴィクトル | 意識もしっかりしているようだな。無事でよかった。 |
| フィリップ | ……二人とも、かなり疲れているね。あれだけの光魔を相手に持久戦は大変だったろう。 |
| ヴィクトル | それなんだが、ついさっき光魔の出現が止まった。君がこちらに戻ったせいか ? |
| フィリップ | それもあるだろうけど……おそらく魔の空域とのアクセスが途切れたからだろうね。 |
| マーク | 途切れたって、何があった ? ダーナとは会えたのか ? |
| フィリップ | ああ、ちゃんと話もできたよ。でも横槍が入って、魔の空域とのアクセスを妨害されてしまったんだ。 |
| フィリップ | ダーナとヨーランドが僕の安全を優先してくれて急遽こちらに戻ってきた。 |
| マーク | 女神ダーナがねぇ……。お前、本当に神様と会ったんだな。で、その妨害ってのは何だったんだ ? |
| フィリップ | ヨーランドは、魔鏡機器を使ってのジャミングだと言っていた。間違いなく帝国の仕業だろう。 |
| マーク | あいつら、魔の空域にまで干渉してきたのか ! |
| ヴィクトル | そんな物まで造っているとは……。帝国の魔鏡技師は厄介だな。 |
| フィリップ | 昔から魔鏡技師としては優秀だったんだよグラスティンは。それに今は異世界の技術もあるだろうしね。 |
| マーク | おいおい、敵を誉めてる場合か ? |
| フィリップ | そうだった。ひとまずここを離れよう。帝国に嗅ぎつけられた以上、この地は危険だ。それに今は長くいていい場所ではないからね。 |
| ヴィクトル | 了解した。魔の空域の影響が薄いといいが……。 |
| マーク | どうだろうな。外と上手く時間が噛み合ってることを祈ろうぜ。 |
| ヴィクトル | ところで、ダーナから有益な情報は得られたのか ? |
| フィリップ | ……そうだね。成果はあったよ。でも肝心なところで邪魔をされて全てを聞くことはできなかった。 |
| フィリップ | でも、指針は示してもらえたと思う。後で詳しく話すよ。 |
| フィリップ | それと、ダーナから聞いた話をイクスたちにも伝えないと。 |
| マーク | わかった。ケリュケイオンに戻ったらイクスたちのアジトへ直行するぞ。 |
| Character | 4話【2-7 アスガルド城】 |
| デミトリアス | こちらが送り込んだ兵たちは、精霊の封印地には入れなかったようだ。おかげでフィリップたちの足取りは掴めていない。 |
| グラスティン | そうか……。何か仕掛けがあるんだな。まあいいさ。自分で手に入れた方が何倍も興奮するからなぁ。ヒヒヒッ。 |
| デミトリアス | きみの方は上手くやってくれたようだね。 |
| グラスティン | ああ。今は心核信号の数値も落ち着いている。ダーナはまた雲隠れしたらしい。 |
| デミトリアス | 一体何をしたんだ ?「神との対面を邪魔する手筈」と言っていたが。 |
| グラスティン | あれか ? 開発中の【魔導砲】を応用した魔鏡機器を使ったんだよ。 |
| グラスティン | 異世界の技術は素晴らしいよなあ。あの妨害波は、かなりの威力だった筈だぞお。神へも影響を及ぼすほどになぁ。ヒヒッ ! |
| グラスティン | これがある限り、今後はフィリップもダーナへの接触が難しくなるだろうよ。 |
| デミトリアス | 『今後』はな。だがフィリップはすでにダーナとの接触を成功させて私たちに不利となる情報を掴んだかもしれない。 |
| デミトリアス | ……やはり、あの時にダーナの心核を破壊できていれば……。 |
| グラスティン | そんな泣き言、今更何になる。 |
| デミトリアス | そうは言ってもね……。心核さえ破壊していればあの時点でティル・ナ・ノーグの精霊たちを強制的に目覚めさせることができていた。 |
| デミトリアス | そうすればアイフリード……ナーザ神の復活ももっと早い段階で実現できていただろう。 |
| グラスティン | 早かろうが遅かろうが、目的を達成すれば関係ない。 |
| グラスティン | お前は心核の破壊にこだわっているようだがあの時に必要だったのはダーナの心核の『欠片』だぞ。そいつは目的通りに達成した。 |
| グラスティン | 何より最大の狙いはヨーランドの『目覚め』だった。全て俺たちの計算通りに進んでいる。 |
| グラスティン | お前が悔いる要素がどこにあるというんだ ? |
| デミトリアス | …………。 |
| グラスティン | 確かに、フィリップがダーナに接触したのは厄介だがあいつのことは俺に任せておけ。むしろその方が好都合だしなぁ。ヒヒヒッ。 |
| グラスティン | 俺たちは精霊を従えるためにこのままナーザ神の復活に着手すればいいんだよ。 |
| デミトリアス | ……そうだね。 |
| グラスティン | ……納得してないって顔だな。だったらもう一つ面白い話を聞かせてやる。 |
| グラスティン | 小さいフィリップが残した研究資料を探っていたら興味深いものを見つけたんだ。 |
| デミトリアス | エルレインの奇跡の力の研究だろう ?成果は芳しくなかったと聞いたが。 |
| グラスティン | 確かに『神の力の具現化』としては失敗だった。だがあいつは、シュヴァルツという異世界の神を具現化している。 |
| グラスティン | この研究記録を応用すれば、ナーザ神の復活がもっと早く叶うかもしれないぞ。 |
| デミトリアス | 本当か ! |
| グラスティン | 少し前から俺の方で研究を進めている。何しろ神の復活という難業だ。アプローチは多い方がいいだろう ? |
| デミトリアス | 素晴らしい。きみのおかげで更に展望が開けそうだ。 |
| グラスティン | ヒヒヒ、陛下の憂いは払拭できましたかな ? |
| デミトリアス | ああ。礼を言うよ、グラスティン。研究に必要な物があれば何でも言ってくれ。 |
| グラスティン | 必要か……。あえて言うなら、あの聖女様だな。 |
| デミトリアス | エルレインか ? |
| グラスティン | ナーザ神の具現化にはエルレインの協力が欠かせない。だが、あいつが素直に従うかどうか。 |
| グラスティン | あの女の口癖は知っているだろう ? |
| デミトリアス | 遍く人々の救済……。そのために彼女はフォルトゥナ神の力を求めていたのだったな。 |
| デミトリアス | ふむ……。ならば下手に事を荒立てるよりもエルレインには『そう思って』動いてもらう方がいいのだろうね……。 |
| グラスティン | 回りくどいな。つまり、エルレインにはフォルトゥナ神の具現化と偽ってナーザ神の復活に協力させろということだろう ? |
| グラスティン | あの女を騙せとはっきり言え。 |
| デミトリアス | 耳が痛いよ。彼女の希望を裏切るようで心苦しいんだ。……しかし私の目的も、ある意味救済ではある。彼女とは規模と手段が違うだけだ。そうだろう ? |
| デミトリアス | ……いや、これが欺瞞であることもわかっているがね。 |
| グラスティン | ……いびつだなぁ、デミトリアス。まあ、そこがお前の面白いところさ。ヒヒヒヒッ ! |
| Character | 5話【2-8 ミッドガンド領 領主の館】 |
| | ミッドガンド領 領主の館 |
| テレサ | お帰りなさいませ、アルトリウス様。 |
| アルトリウス | テレサ。こちらに戻っていたのか。 |
| テレサ | はい。ヘルダルフの様子をご報告に参りました。 |
| アルトリウス | あいつはどうしている。 |
| テレサ | グリンウッド領、領主の館にて幽閉しております。呪いの力で穢れが溢れてきていますが業魔化する様子もなく、周囲にも―― |
| アルトリウス | ――影響はない、か。すぐにも業魔と化すと思っていたがグラスティンの言っていた通りだな。 |
| アルトリウス | この世界にとって穢れはどういう意味を持たされているのか……。 |
| テレサ | オスカーが監視を続けておりますので変化があればすぐに報告が入ります。どうかご心配なきよう。 |
| アルトリウス | そうか、ご苦労。 |
| テレサ | もったいないお言葉です。 |
| アルトリウス | ああ、いい機会だ。お前にこれを渡しておこう。これから行う【ルグの槍】の計画の為にデミトリアス帝から預かったものだ。 |
| テレサ | これは……指輪ですか ? |
| アルトリウス | 精霊輪具という。こちらの指輪はマクスウェルもう一つはクロノスの精霊の力が宿ったものだ。 |
| アルトリウス | これを使うと精霊装が纏えるようになる。後でオスカーにも届けておけ。 |
| テレサ | 精霊装とはどのようなものなのでしょう。 |
| アルトリウス | そうだな……。神依のような力が使えると思えばいい。 |
| テレサ | 神依と同じ……。 |
| アルトリウス | どうした ? |
| テレサ | いいえ、その……、この世界に来る以前ですが神依は術者の命に関わるものと耳にしておりましたので……。 |
| アルトリウス | あのような未完成な術とは似て非なるものだ。この精霊輪具を使うのであれば、体に負担もなく纏う者の安全も保障されている。 |
| テレサ | そうなのですね。余計なことを申しました。ですが、何故このような貴重なものを私たちに ? |
| アルトリウス | この力は、ニーベルングという分史世界を創るための足掛かりとなる。 |
| テレサ | 世界を創るとはどういう意味なのでしょう。 |
| アルトリウス | そのままの意味だ。新たな世界を生み出すのだよ。それが我々の役割だ。 |
| テレサ | 世界を生み出す…… ! ? |
| アルトリウス | この計画を成し遂げてこそ私が目指すべき世界がある。 |
| テレサ | ……あまりにも壮大で、私には考えも及びません。 |
| アルトリウス | いずれお前にもわかる。事が進めばな。 |
| アルトリウス | まずはオリジンという精霊を探さねばならない。我々の知る聖隷との違いは、すでに学んでいるな ? |
| テレサ | はい。心得ております。アルトリウス様の理想のため弟オスカーと共に尽力いたします。 |
| Character | 6話【2-9 仮想鏡界1】 |
| イクス | 魔鏡兵器カレイドスコープか……。話には聞いてたけど、本当に具現化装置とは正反対の存在なんだな。 |
| ミリーナ | …………ええ。 |
| ナーザ | カレイドスコープはそれまでの戦況を覆した。我がビフレスト軍は見る間に劣勢へ転じ……。最終的には消滅した。 |
| ナーザ | 文字どおり、人も、国も、大地も、全てが消えたのだ。もちろん俺とバルドもな。 |
| メルクリア | …………っ。 |
| ナーザ | その後のことは、虚無に飲まれた俺よりもお前たちの方が詳しいだろう。 |
| 二人 | ……はい。 |
| カーリャ | …………。 |
| ミリーナ | カーリャ、大丈夫 ? 震えてるわ。 |
| カーリャ | カ……カーリャが、ビフレストに攻め込んで……。 |
| イクス | カーリャじゃない。俺と最初のイクスさんが違うようにさ。 |
| バルド | カーリャ、今の話を聞いて恐れや悲しみを感じているのならばそれはあなたの心が清く純粋だからですよ。 |
| バルド | 何より私たちに心を寄せてくれている証拠でもある。ありがとうございます。愛らしいカーリャ。 |
| カーリャ | バルドさま……。 |
| バルド | あなたは泣き顔さえも可愛らしいですね。かりそめの体でなければ、その涙を拭って―― |
| ナーザ | そういう一言が余計なのだ、お前は。だからローゲに疎まれたことを忘れるなよ。 |
| バルド | すみません。 ――何にしろ、あなたに罪はありませんよ、カーリャ。 |
| メルクリア | 確かに、その鏡精……カーリャに罪はない。だが、わらわの国が消滅した事実は変わらぬ。 |
| メルクリア | セールンドは、攻められる切っ掛けを作ったうえにビフレストを消滅させたということじゃ。 |
| ミリーナ | …………。 |
| イクス | ……最初のイクスさんも、バロールの魔眼を継いだ自分が鏡士にならなければ、おそらく戦争は起きなかったと言ってたよ。 |
| バルド | 彼の選択が世界の命運を左右したのは確かです。ですが、開戦へ至った理由はそれだけではありません。 |
| ナーザ | ああ。オーデンセとビフレストとの停戦協定がかろうじて守れていた当時でもセールンドは何かがおかしかった。 |
| ナーザ | 魔鏡戦争前、まだセールンドの先王が健在だった頃のことだ。 |
| バルド | お呼びですか、ウォーデン様。 |
| ウォーデン | 来たか。早速だがこれを見てくれ。魔鏡技師フリーセルからの報告書だ。 |
| バルド | 今はセールンドへ派遣されていましたね。 |
| ウォーデン | ……人払いは済ませてある。お前の率直な感想を聞かせて欲しい。 |
| バルド | ……わかった。 |
| バルド | …………。これは…… ! |
| バルド | ウォーデン !ここに書かれたことが事実ならば…… ! |
| ウォーデン | 事実だ。セールンド国王はオーデンセに接触しバロールの力を取り戻そうとしている。 |
| ウォーデン | しかも、バロールの一族にも力を取り戻すことに応じた人物がいるようだ。 |
| バルド | 何ということを……。明らかに停戦協定を反故にした行為だ ! |
| バルド | オーデンセの鏡士もなぜこのような愚かな選択をしたんだ。 |
| ウォーデン | わからん。オーデンセが我々の領土だったのは昔の話だ。 |
| ウォーデン | 100年戦争時代にセールンドに奪われて以降何が起こっているか詳しく調査することも叶わない。 |
| バルド | だが、その100年戦争の停戦の際セールンドへ多大な譲歩をする代わりに、バロールの血族に対しては固い取り決めをかわしたはず。 |
| バルド | なのに今になって、古の盟約を破ろうとは……。セールンドへの正式な確認はしたのかい ? |
| ウォーデン | もちろん、外交ルートで書簡を送っている。しかしセールンドからは相手にされなかった。何度問い合わせても、知らぬ存ぜぬばかりだ。 |
| バルド | 何度も……そうか。ウォーデン、最近きみの顔色が優れなかったのはこの件に奔走していたからだね。 |
| ウォーデン | ……本当に余計な所ばかりよく見ているな。お前は。 |
| バルド | いや、愛する義弟の苦悩に気付かないとは情けないよ。すまなかった。 |
| ウォーデン | 愛するだの何だのといちいち大げさだぞ。そんなだから貴様の周囲では厄介事が絶えないんだ。 |
| バルド | これでも相当自重しているつもりだよ。特にきみに対してはね。何しろ将来の皇主であらせられる。 |
| ウォーデン | ならばもっと自重しろ。俺の乳兄弟というだけでもいらぬ嫉妬を買うのだからな。 |
| バルド | ――だけど悪い癖だよ、ウォーデン。すぐに一人で抱え込もうとして。 |
| ウォーデン | 今回は仕方がなかった。この話を大事にすればただでは済まないだろう。内々に対処できればと思っていた。 |
| ウォーデン | ……だが、そうも言っていられなくなった。バロールの魔眼を持つ鏡精が出現すれば世界は終わる。 |
| ウォーデン | 今この瞬間でさえ、セールンドは和平を謳いながら鏡精という兵器を造り続けている。 |
| ウォーデン | 女神ダーナの言葉も言い伝え程度にしか受け取らずダーナを殺そうとしたバロールさえも、未だ神として崇める始末。 |
| ウォーデン | この上、我々の言葉も通じないとなればこれ以上は看過できない。 |
| ウォーデン | もう……力で抑え込むしかない。 |
| バルド | 攻める気なんだね、セールンドを。だが、きみはまだ迷っている。違うかい ? |
| ウォーデン | …………。 |
| バルド | ここに僕を呼んだのは、背中を押して欲しいから ? |
| ウォーデン | うぬぼれるな。決めるのは皇太子であるこの俺だ。 |
| バルド | そうだね。それでいい。けれど、僕も求められたとおり、率直に言わせてもらう。――開戦には反対だ。 |
| ウォーデン | ……お前が争いを嫌うのはよく知っている。だが心構えはしておけ。 |
| ウォーデン | ビフレストはセールンドへの最後通牒の後返答次第では正式に宣戦布告をする。 |
| ウォーデン | 目標はオーデンセ島。【バロール狩り】の開始だ。 |
| Character | 7話【2-10 仮想鏡界2】 |
| ミリーナ | ……その【バロール狩り】にあったのが最初のイクスだったのね。 |
| ナーザ | あの時点では、バロールの血を引く者の手がかりは『銀髪』という情報だけだった。 |
| ナーザ | 故にビフレストはオーデンセ島に住む銀髪の人間を片っ端から狩って、その遺体を回収した。 |
| メルクリア | ! ! |
| カーリャ | 銀髪っていうだけで襲ったんですか ! ? |
| メルクリア | 兄上様、その……、お話のとおりであればほとんどの者は無関係だったのではありませぬか ? |
| ナーザ | ……無関係の者を巻き込んでも成すべき事だと思った。あの時はな。 |
| カーリャ | それでも酷いです……。 |
| イクス | それだけバロールの力が脅威だったって証拠だよ。 |
| メルクリア | イクス ? おぬしは腹が立たぬのか。今の話は怒って当然だと思ったぞ。 |
| イクス | ……メルクリア、なんか感じが変わってきたよな。 |
| メルクリア | な、なんじゃ、いきなり ! 馬鹿にしておるのか ! |
| 二人 | …………。 |
| イクス | バロール狩りのやり方に納得なんかしてないよ。俺は当時のことを知らないけど想像しただけでも怒りが沸く。 |
| イクス | ……でも、オーデンセの話は、メルクリア奪還作戦の時に、少しだけナーザ将軍から聞いているからさ。多少冷静になれたってだけだ。 |
| イクス | そうだ。ナーザ将軍、オーデンセ侵攻と虐殺はバロールの血筋がどこに潜んでいるかわからないからだと、あの時に言ってましたよね。 |
| ナーザ | ああ。そんな話をしたな。 |
| ナーザ | バロールの血筋はオーデンセの鏡士のどこに潜んでいるかわからぬ。 |
| ナーザ | イクス・ネーヴェ以外にも、バロールの血を受け継いだ者がいた可能性がある。 |
| ナーザ | ――だが、確かに言葉が過ぎた。我が国も問題解決のため、力に訴えたことは事実だ。 |
| ミリーナ | ……待って。そんなに恐ろしいものならそもそもどうしてバロールの血筋を残しておいたの ? |
| ミリーナ | 最初のイクスの遺体を保存していたのもバロールの魔眼と関係があるの ? |
| ナーザ | 遺体を残したのは、バロールの血筋を滅ぼしてもバロールの力を残しておく必要があったからだ。 |
| ナーザ | 大事なのはバロールの魔眼をもつ鏡精を作らせないことだったからな。 |
| イクス | なぜバロールの力を残しておく必要があったのかまだ答えを聞いていません。 |
| ナーザ | 脅威ではあっても、失ってはいけない力だとビフレストの皇族に伝えられていたからだ。 |
| ナーザ | この世界からバロールの力が失わなれないように銀髪の遺体――最初のイクスを『保存』し厳重に管理することが必要だった。 |
| ミリーナ | バロールの力……。 |
| イクス | ミリーナ、どうしたんだ ? |
| ミリーナ | ……あの時も思っていたの。どうして私は、バロールの話を知らないのかって。 |
| ミリーナ | 鏡士やイクスに関わる重要な情報でしょう ?なのに……。 |
| イクス | ゲフィオンは【バロールの魔眼】を知っていたはずだ。コーキスとナーザ将軍が戦っていた時に俺に教えてくれたから。 |
| ナーザ | あの時か。魔鏡結晶の中でそんな真似を……。 |
| イクス | 多分、ゲフィオンが今のミリーナを具現化した時に意図的に記憶を引き継がなかったんじゃないかな。 |
| ミリーナ | ……やっぱり私、最初のミリーナと向き合わなきゃいけないわね。 |
| ミリーナ | ごめんなさい、話を中断させて。それで、バロールに関して他にどんな言い伝えがあるんですか ? |
| ナーザ | バロールについてはビフレストでも情報が少ない。こちらが知る話も、ほぼ伝承のみだな。 |
| ナーザ | バロールは神話から抹消された空の神だ。それと同時に、世界を滅ぼす嵐の神とも伝えられている。 |
| ナーザ | ビフレストに残る伝承によれば神々を滅ぼした【フィンブルヴェトル】を引き起こしたのがバロールだ。 |
| ナーザ | その力は魔眼として、バロールの血筋に受け継がれたと言われている。 |
| ナーザ | だが、バロールの魔眼がどのような形で死を呼ぶのかはビフレストでもわかっていない。 |
| イクス | 死を呼ぶ……か。バロールの魔眼を持つ鏡精がフィンブルヴェトルでニーベルングを破壊したって話が関係するのかな……。 |
| ナーザ | わからん。だがそれも相まってか、バロールは鏡精の守り神としても語られていて―― |
| コーキス | 何だよそれ ! ニーベルングを滅ぼした奴が俺たちの守り神のわけ―― |
| 全員 | えっ ! ? |
| イクス | コーキス ! ? |
| コーキス | ヤバッ…… ! |
| ナーザ | はぁ……たわけ者め。 |
| Character | 8話【2-11 仮想鏡界3】 |
| カーリャ | コーキス、やっぱりいたんですね ! |
| ミリーナ | 心配してたのよ ! 会えて良かったわ。 |
| コーキス | ……あ……えっと……。 |
| メルクリア | コーキス、そなた、イクスに会わないようにとマークと一緒に出かけたのではなかったかのう ? |
| イクス | えっ…… ? |
| コーキス | そ、それは……あれ、あれだよ……ええと……。 |
| コーキス | (どうしよう、マスター傷ついたかな。けど言えねえ……。やっぱりマスターたちが気になって隠れてこっそり様子を見てたなんて……) |
| コーキス | お……俺、忘れものを取りにきたんだ ! じゃあな ! |
| メルクリア | 何も持っておらんが、忘れ物とはなんじゃ ? |
| コーキス | うっ……。いや、だから……。 |
| イクス | もういいよ、コーキス。ひとまず元気そうで安心した。 |
| コーキス | ……う、うん。 |
| イクス | ずっとコーキスと話がしたかったんだ。……アジトを出て行った理由ちゃんとお前の口から聞きたかったからさ。 |
| コーキス | ……今は話したくない。 |
| カーリャ | コーキス ! みんな心配してるんですよ ? |
| コーキス | それは……ごめん。 |
| イクス | じゃあ、理由は後でもいいよ。なんで今は話したくないんだ ? |
| コーキス | 話したくないんだから仕方ねーじゃん !しつこいよ、マスター ! |
| イクス | ……ど、どうしてだよ ! 話してくれなきゃ俺だって何もわからないだろ ! |
| コーキス | マスターだって俺と同じだろ ! 色々隠し事して肝心なことは何も話しちゃくれないくせに ! |
| イクス | 隠し事ってなんだよ ! そんなことしたつもりは―― |
| コーキス | してただろ。バロールの魔眼のことや、鏡精の秘密もそうだ ! |
| コーキス | 俺、こんなヤバい力を受け継いでるんだぜ ! ?だったらなおさら離れてた方がいいよ。マスターの負担になるだけだ。 |
| イクス | ……俺はそんな風に思ってない。 |
| コーキス | マスターが思ってなくたって、そもそも俺みたいなのは生まれちゃいけない存在だったんだろ ! ? |
| イクス | そんなわけないだろう !いい加減にしろよ、コーキス ! 俺は…… ! |
| ナーザ | 双方落ち着け ! 見苦しい ! |
| 二人 | ! ! |
| ナーザ | くだらぬ争いをしている場合か ?続けたければ、ここを出て行け。 |
| イクス | ……すみませんでした。 |
| コーキス | …………。 |
| カーリャ | コーキスも言うことがあるんじゃありませんか ? |
| コーキス | ……邪魔してすみません。 |
| バルド | 二人とも、冷静に話し合える状況ではありませんね。落ち着くまでは、コーキスもこちらにいたほうがいいと思いますが、いかがでしょう ? |
| 二人 | ………………。 |
| ナーザ | では、話を戻すぞ。……と言っても、これ以上バロールに関する目ぼしい情報はない。 |
| ナーザ | 今後、バロールについてはこちらで調査を進める。お互い、新たな情報が入った際は共有しようと思うがそちらに異存はあるか ? |
| イクス | いいえ。俺たちも助かります。 |
| ナーザ | では今日はここまでだ。バルド、メルクリア。出口まで案内してやれ。 |
| バルド | 承知しました。 |
| メルクリア | 皆の者、ついて来るがよい。 |
| コーキス | …………待ってくれ、マスター。 |
| イクス | ……どうした ? |
| コーキス | アジトを出る時にも言ったけど俺、ここでやらなきゃいけないことがあるんだ。 |
| イクス | ……そうか。だったら、そのやることを済ませたらちゃんと帰って来るって約束してくれ。 |
| イクス | 俺は信じて待ってるからさ、コーキス。 |
| コーキス | …………。マスター、ミリーナ様、パイセン気を付けて帰れよ。 |
| カーリャ | あっ、コーキ―― |
| イクス | いいんだ、カーリャ。 |
| カーリャ | でも、せっかく会えたんですよ ! ? |
| イクス | さっきのコーキスの目は真剣だった。あいつはただ迷ってるだけじゃないと思う。 |
| イクス | 今更だけど、しばらくの間はコーキスの好きにさせてやりたい。ミリーナも、カーリャも、それでいいか ? |
| ミリーナ | わかったわ。イクスが決めたことだもの。コーキスの意思を尊重しましょう。 |
| ミリーナ | カーリャも寂しいだろうけど、しばらくの我慢ね。 |
| カーリャ | ……わかりました。でも、こんなにみんなに心配かけているんですから帰ってくる時は、お土産持ってこなきゃ許しません ! |
| イクス | そういうわけなんで……すみませんがコーキスのこと、宜しくお願いします。 |
| バルド | ええ。どうかご心配なく。 |
| メルクリア | 召使い代わりに丁度良いのじゃ。気兼ねなく置いて行くがよい。 |
| イクス | (コーキス……、これでいいんだよな ?) |
| ナーザ | 奴らは帰ったぞ。お前を頼むと言ってな。 |
| コーキス | うん……。 |
| コーキス | (俺はまだ帰れないんだよ、マスター) |
| コーキス | (わかってるんだ。バロールの魔眼の話を隠していたのは、俺を思ってのことだって……) |
| コーキス | (なのに俺は、そんなマスターを信じきれなかった。マスターを疑って、魔眼に不安を感じてそこを死鏡精に付け込まれた……) |
| コーキス | (こんな弱い心の俺じゃ、きっとマスターを危険な目に合わせちまう。それだけは絶対に嫌だ) |
| コーキス | (まずこの不安を……バロールの魔眼が何なのかを解き明かさなきゃ。これからもずっと、マスターと一緒にいるために) |
| Character | 9話【2-15 アジト】 |
| カーリャ | はぁ……。なんだか疲れましたねぇ。 |
| ミリーナ | そうね。まさかビフレスト側のアジトに行くなんて思わなかったわ。 |
| カーリャ | そういえば、先輩はどうしてるんでしょう。合流はしないで、クラースさまたちと戻るって連絡は来ましたけど……。 |
| ミリーナ | ……きっと忙しいのよ。ネヴァンには後でゆっくり話すわ。話さなければ……いけないんだから。 |
| ミリーナ | ねえイクス、今日の報告だけど―― |
| イクス | …………。 |
| ミリーナ | ……イクス、大丈夫 ? |
| イクス | ああ、うん、報告だろ ? ええと……。 |
| ミリーナ | 無理しないで。疲れた顔してるわ。やっぱりコーキスのことが気になるのね。後は私がやるから、イクスは少し休んで。 |
| イクス | ……ありがとう。じゃあ悪いけど―― |
| ノーマ | あ~、イっくん、リナっち、カーりゃん !帰ってきてるじゃん ! |
| イクス | ただいま。遅くなってごめんな。そっちの企画はまとまったか ?クリスマス兼歓迎会。 |
| セネル | それどころじゃなかったんだ。捜してた俺の仲間が、帝国と揉めてるって聞いて救出に行ってた。こっちも今帰って来たところだよ。 |
| 二人 | ええっ ! ? |
| イクス | みんな無事なのか ! ? |
| セネル | ……まあ、一応。ただ、行った先で―― |
| モーゼス | おう、ワレがここの頭か。世話んなるのう !ワイはモーゼ―― |
| ジェイ | モーゼスさんはちょっと黙っててください。そんなことよりも大事な話なんですから。 |
| モーゼス | そんな ! ? ま、まあええわ。今は嬢ちゃんの体が心配じゃけぇの。 |
| シャーリィ | すみません、モーゼスさん。 |
| ミリーナ | シャーリィ ? 何かあったの ? |
| セネル | 実は、モーゼスを助けに行ったところでグラスティンに会ったんだ。 |
| 二人 | グラスティン ! ? |
| イクス | リッドの仲間に、シャーリィまでか……。【贄の紋章】なんて、聞いたことがないな。 |
| ミリーナ | 大丈夫なの ? 痛んだりしない ? |
| シャーリィ | はい。今は不思議なくらい何ともないんです。 |
| クロエ | でも、まだ顔色が悪いぞ。私たちに心配をかけまいと我慢しているんじゃないか ? |
| シャーリィ | クロエってば、心配しすぎだよ。ちゃんと医務室で診てもらうから大丈夫。 |
| イクス | 念のために、ジェイドさんやハロルドさんにも診てもらった方がいいな。 |
| セネル | ああ、そのつもりだ。何かわかったら報告する。行こう、シャーリィ。 |
| シャーリィ | うん。それじゃ、失礼します。 |
| モーゼス | なあ、ところでワイの紹介は―― |
| ノーマ | 心配ご無用。ジェージェーの歓迎会も兼ねたパーティーを計画してるからさ一緒にモーすけもやっちゃおう ! |
| ジェイ | あ、ぼくはその日、絶対に間違いなく予定が入ります。モーゼスさんおひとりでどうぞ。 |
| モーゼス | クカカ ! ワイに主役を譲るっちゅうんか !ええとこあるのう、ジェー坊 ! |
| ジェイ | あはは、無知って怖いですね。 |
| カーリャ | モーゼスさま、でしたっけ ?見た目は完全に山賊ですけど、愉快な人ですね。 |
| ミリーナ | ええ。でも……シャーリィもみんなも平気そうな顔してるけど、きっと不安よね。 |
| イクス | ああ……。――ん ? 通信だ。 |
| リッド | イクスか ? |
| イクス | リッド ! セネルたちから聞いたぞ。仲間が見つかったんだって ? |
| リッド | なんだ、聞いてたのか。レイスとフォッグの救出に動いてるから連絡しとこうと思ったんだよ。 |
| イクス | そっちの様子はどうだ ? 救援はいるか ? |
| リッド | いや、オレたちの方は心配すんな。すぐに二人を連れて帰る。じゃあな。 |
| イクス | わかった。そっちは頼む。 |
| ミリーナ | フォッグさんとレイスさんも印を押されているのよね。贄の紋章の情報を、何か知ってるんじゃないかしら。 |
| イクス | リビングドールにされてたようだし、どうかな……。 |
| ? ? ? | よお、パイセン ! |
| カーリャ | えっ、コー…… ! ?……って、マークじゃないですか ! |
| マーク | おっと、パイセン呼びはコーキスに怒られちまうか。 |
| イクス | マーク ! フィルさん ! 無事に戻ったんですね。 |
| ミリーナ | 良かった……。連絡がなかったからどうしたのかと思ってたのよ。 |
| フィリップ | 出発の時に言ったじゃないか。しばらく連絡はとれなくなるって。 |
| ミリーナ | それはわかってるけど……でも魔の空域よ ?何日も連絡がなければ心配に決まってるじゃない。 |
| マーク | あ~、あれから一週間以上たってたみたいだな。ま、その程度の誤差で済んで良かったぜ。 |
| カーリャ | 誤差 ? |
| マーク | ま、その辺は後で説明するよ。 |
| イクス | それで、ダーナには会えたんですか ? |
| フィリップ | もちろん。その報告に来たんだよ。 |
| ミリーナ | すごいわ、フィル ! 本当に神様に会えたのね。 |
| フィリップ | 神様……か。ところで、こちらで変わったことは ? |
| イクス | 今日はナーザ将軍と会ってきました。そこで新しい情報と、他にも色々……。それに今、グラスティン絡みで問題が起きています。 |
| ファントム | やはり彼が動いてるんだな……。わかった。まずはお互いに情報をすり合わせよう。 |
| ミリーナ | ええ。でもその前に。 |
| イクス | あ、そうか。まだだったよな。 |
| フィリップ | 何がだい ? |
| イクス | おかえり、フィルさん。マーク。 |
| ミリーナ | おかえりなさい。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。 |
| フィリップ | え…… ! ? う、うん……。ありがとう……――ただいま。 |
| Character | 10話【2-15 アジト】 |
| イクス | …………。 |
| ミリーナ | イクス……。 |
| イクス | ……それじゃ、バロールという神は元々人間で俺はその力を継いだ末裔。フィルさんはダーナの血を引いた子孫……ってことになるのか ? |
| フィリップ | イクスたちの情報と、僕がダーナから聞いた話を突き合わせるとそうなるね。 |
| カーリャ | あわわわ……神様の子孫……。ええと、フィルさまには何をお供えしたらいいですかね ? |
| マーク | ……だいぶ混乱してるな。ちっこいカーリャ先輩。 |
| フィリップ | 今聞いたナーザ将軍の話だと、神とは言ってもビフレスト皇国とセールンド王国の神話では捉え方や認識にずれがあるようだね。 |
| イクス | あの……俺の家系がバロールの力を継いでるってフィルさんは知っていたんですか ? |
| フィリップ | バロールの力や魔眼の件は、伝承程度にしか知らなかった。ネーヴェの家系のこともビクエになった後に知ったんだよ。 |
| フィリップ | そんな認識だったから、魔鏡戦争の件もビフレストが伝承をたてに攻め込んだようにしか見えなかったな。 |
| ミリーナ | ……毎度のことだけれど私たちには知識も情報も足りないのね。これじゃまだ何もわからないわ。 |
| フィリップ | 確かなこともある。帝国が本格的にニーベルング復活に着手したということだ。 |
| フィリップ | 救世軍は引き続き、アイフリードであるナーザ神の調査をしようと思う。ダーナの別れ際の言葉も気になるからね。 |
| ミリーナ | バロール神のほうは、ビフレスト側が調べると言っていたわ。 |
| イクス | じゃあ俺たちは、フィルさんとナーザ将軍が掴んだ情報を共有しながら、その他の調査を進めていこう。 |
| ミリーナ | そうね。だったら聖核の調査に出ているカロル調査室のメンバーにも招集をかけましょう。一度、全ての情報を整理した方がいいわ。 |
| マーク | よし ! それぞれやることは決まったな。 |
| マーク | ――で、コーキスは今後ナーザの配下で動くのか ? |
| イクス | ……今は、多分。 |
| マーク | おい、あからさまに沈んだ顔するなよ。 |
| カーリャ | 仕方ないんです ! イクスさまはお疲れなんですよ。 |
| マーク | はは、こっちのパイセンもイクスびいきか。すまなかったよ。 |
| マーク | しかしまぁ、姿が見えねえと思ったら家出かよ。鏡精にとっちゃ贅沢な話だぜ。 |
| イクス | 贅沢 ? |
| マーク | そうだろう ? あいつは魔鏡結晶のおかげで一人でも、この世界のほとんどの場所に行ける。だから家出なんて出来るんだぜ ? うらやましい話さ。 |
| フィリップ | うらやましいって……マーク、家出したいのかい ? |
| マーク | して欲しくてもやらねえぞ。ダメおっさん放り出して家出とか逆にこっちが心労で死ぬっての。 |
| マーク | 一般的な鏡精の認識ってやつだ。俺の願いじゃねえ。 |
| カーリャ | ですね。私もミリーナさまから離れたくはないですけど……コーキスの気持ちもちょっとだけわかっちゃいます。 |
| カーリャ | カーリャも、具現化されたビフレストで話を聞いて動揺しちゃいましたから。 |
| ミリーナ | カーリャ……。 |
| イクス | そうだよな……。コーキスは魔眼も持ってるからあの話を知ったら、色々考えるのは仕方ないよな……。 |
| マーク | まあ、普段使わねー頭を使ったせいで余計なこと考えちまったんだろうよ。頭が冷えたら帰ってくるさ。 |
| カーリャ | 安心してください、イクスさま。コーキスが帰ってきたらカーリャがガツンと言ってやりますから ! |
| ミリーナ | そんなに怒ったら、今度はカーリャが怖くて家出しちゃうかもしれないわよ ? |
| カーリャ | 平気ですよ。そんな軟弱者に育てた覚えはありません。 |
| イクス | 育てたって……ははははっ !コーキスが聞いたらどんな顔するかな。 |
| マーク | なんだ、持ち直したか ? |
| イクス | あ……。 |
| フィリップ | イクス、コーキスは必ず戻ってくる。だから今は僕たちがやるべきことをやろう。 |
| ミリーナ | 一緒に頑張りましょう。コーキスが安心して戻って来られるように。 |
| イクス | ありがとう……みんな。 |
| イクス | そうだよな。コーキスが何か目的を持って動いているなら、俺だって止まってちゃいけない。 |
| ミリーナ | でも、その前にちゃんと休んでね。それも今やるべきことなんだから。 |
| イクス | わかってる。無理はしないよ。それでフィルさん、調査についてですけど―― |
| フィリップ | ええ ? 休むんじゃないのかい ? |
| カーリャ | イクスさまのやる気がすごいです……。さっきはあんなにグッタリしてたのに……。 |
| マーク | いいじゃねえか。マスターたちが元気なら鏡精としては言うことなしだ。 |
| カーリャ | ですよね !……早く帰って来るんですよ、コーキス。 |
| | to be continued |