Character1話【4-1 アジト1】
浮遊島アジト
ファントム……イ……クス……ミリーナ……。
ミリーナファントム……。
フィリップ間違いない。やはりこの気配はダーナの力だ。どうしてファントムから……。
マークどういうことだよ。こいつが目覚めたのと関係があるのか ?
フィリップわからない。心当たりもないし、理由だって……。
ファントムうっ…… !
全員! !
カーリャ・Nどうしたのでしょう。今までよりも苦しそうです。
アトワイトバイタルに異常が出てるわ。ファントムさん、わかりますか ? ファントムさん !
ファントム……………………。
アニー駄目です、反応がありません。このままでは、また昏睡状態に戻ってしまいます。
イクスフィルさん、まだダーナの力を感じますか ?
フィリップああ。むしろさっきよりも強くなってる。
ジュードアニー、ちょっとごめん。瞳孔を診るからライトを――
ファントム ?…………あら、カワイイお顔。
ジュードひっ !
全員! !
カーリャお、起きた ! ファントムが起きましたよ !
ファントム ?よかった、上手くいったみたい。悪くない目覚めね。
フィリップリーパ…… ?
イクス……ジュード、離れて。何かおかしい。
ジュードわかってる。あなたは誰 ?
ファントム ?お久しぶりね。可愛い坊や。確か、ジュードだったかしら。グラスティンの研究所を逃げ出した時以来 ?
ジュードグラスティンの ?
ファントム ?忘れちゃったの ? 寂しいわ。 アトワイトもお久しぶり。
アトワイトあなた、もしかして……。
フィリップヨーランド……ですか ?
ヨウ・ビクエええ。騒がせてごめんなさいね。
イクスヨウ・ビクエ !?それじゃ、ファントムが目覚めたのはあなたが身体を使っているからですか ?
ヨウ・ビクエそうみたい。
アトワイトみたいって、どういうこと ?
ヨウ・ビクエフィリップに連絡を取るためには魔の空域から精神体を飛ばして乗り移れる身体が必要だったのよ。
ヨウ・ビクエ今回はダーナ様のお力を借りて身体を探したんだけどそのせいでダーナ様に近しい存在の彼に引き寄せられたみたい。
フィリップそうでしたか……。
アニーファントムさんが回復したわけじゃなかったんですね……。残念です……。
マークそれ、本気で言ってるのか ?
アニーどういう意味ですか ?
マークこいつが何をしたか知ってるだろう。目覚めない方が都合がいいと思わねえのか ?
アニー……話は聞いています。でもわたしは、助けられる命は助けたい。
アニーそれに、命に色はありませんから。
フィリップ…………。
マーク……そうか。そいつは綺麗で正しい理屈だ。けど、俺はまだそこまで人間――いや、鏡精ができてないんでな。
マークで、ヨウ・ビクエ。フィルに連絡ってのは ?
イクスあの……俺たちは席を外したほうがいいかな。
ヨウ・ビクエいいえ、むしろ居てくれて好都合よ。話が早く済むから一緒に聞いてちょうだい。
ヨウ・ビクエあなたたち全員ティル・ナ・ノーグの三柱の神の話は聞いてるわね。
イクスはい。ダーナ神と、ナーザ神、バロール神ですね。
ヨウ・ビクエ帝国が、その神の一人であるナーザ神の復活を進めているわ。
全員! !
ヨウ・ビクエあなたたちには、その阻止をお願いに来たの。

Character2話【4-2 アジト2】
イクスナーザ神の復活って……それが帝国の目的だったんですか ?
ヨウ・ビクエそれだけではないわ。まずは順を追って話しましょう。
ヨウ・ビクエ帝国は今、ナーザ神、ダーナ神、バロール神の『三柱の復活』を目論んでいるわ。
ヨウ・ビクエそのために、神に繋がるものを手に入れようとしている。
ヨウ・ビクエまずはダーナ様に関してだけど以前の精霊の封印地での戦いでダーナ様の心核の欠片が奪われてしまったわ。
カーリャ欠片とはいえ、神様本人の心核なんて一番大事なものを持っていかれちゃったんですね。
ヨウ・ビクエそうなのよ。そして次にバロール神。バロールの力は――
イクスもしかして俺……ですか ?
ヨウ・ビクエええ。彼らはバロール神の力を手に入れるためにその血を引き継ぐ、あなたを狙ってくる可能性が高い。
カーリャ・N冗談ではありません !また『イクス様』を利用するなんて !
ミリーナそんなことさせない。イクス、絶対に……絶対にあなたを守って見せるから。
イクスありがとな、二人とも。
イクスけど……帝国には元々最初の俺の遺体があったんだからすでにバロール復活に繋がる何かを持っていそうな気もするけど……。
ヨウ・ビクエええ。その可能性もあるわ。けれど、あなた自身のことも警戒しておくに越したことはないと思うのよ。
イクスこれは……ナーザ将軍にも知らせた方がいいのか……。
イクス――あ、いや。そうか。ナーザ将軍で思い出した。神様の方のナーザに繋がる人も俺みたいに狙われるんじゃありませんか ?
ヨウ・ビクエその通りよ。これがまた厄介なところなんだけど……。
ヨウ・ビクエフィリップ、ナーザ神がアイフリードだということはイクスたちに伝えてあるわね ?
フィリップはい。あっ……そうか ! 帝国は鏡映点を…… !
ヨウ・ビクエ気づいたみたいね。帝国は、この世界のアイフリードと近しい性質を持った、『異世界のアイフリード』の血族を使うんじゃないかと思うの。
ミリーナだとすれば、狙われるのはチャットとパティだわ。早く知らせなくちゃ。
フィリップ今はどこに ?
イクス確認します。それといつでも会議が開けるようにみんなに連絡もしないとな。
アニーイクスさんたちはこのまま話を続けてください。わたしが二人の安否確認の手配をしますから。
ジュード僕は、今の話を共有できるようみんなに通達するよ。会議の準備も進めておくね。
イクスありがとう、助かるよ。こっちが長引きそうだったら連絡するからその時は各班のリーダーたちで先に始めてくれ。
ジュードわかった。それじゃアトワイトさん、医務室をお願いします。
アトワイトええ、任せて。
ヨウ・ビクエアイフリードの件は、もっと早く知らせてあげられたら良かったんだけど……。
ヨウ・ビクエ魔の空域にいると、なかなか今までどおりには動けないのよ。ごめんなさいね。
イクスいいえ。俺たちだけじゃ、ここまでの情報を掴むことはできませんでした。感謝しています。
ヨウ・ビクエふふっ、こうして改めて話すのは初めてね、イクス。なかなかの好青年じゃない。
イクスそ、そうですか ?
ヨウ・ビクエええ。素朴そうなところも可愛いし何だか頭をなでたくなっちゃう。
ミリーナさすがヨウ・ビクエですね。イクスの魅力をお見通しだなんて。
イクスミリーナ、真顔で言うことじゃないぞ……。
ヨウ・ビクエそういえばこの身体……ファントムのことだけど彼を精霊の封印地まで連れてきてくれない ?治療を施すから。
フィリップ治療 ? できるんですか ! ?
ヨウ・ビクエ多分ね。それに、今後もあなたたちと連絡を取るためには『ファントム』の存在が役に立ってくれるはずよ。
マーク……それは、こいつがフィルと繋がっている存在だからか ?
ヨウ・ビクエさすが、よくわかっているわね。魔の空域から連絡を取るには、ダーナ様に近しいフィリップを経由するのが一番なの。
ヨウ・ビクエそのフィリップと繋がっている存在が魔の空域にいてくれれば、こちらも助かるのよね。
フィリップ……イクス、ファントムは救世軍で預かるよ。これから彼を連れて、精霊の封印地に行ってくる。
イクスわかりました。それじゃ俺たちはアイフリードの件も含めて今後の動きを詰めておきます。
フィリップマーク、ケリュケイオンへ連絡を入れて受け入れ態勢を整えておいてくれ。
マーク……了解。搬送準備は頼んだぜ。
アトワイトところで、ヨーランドさんはこの身体に入ったまま ?それなら搬送の仕方を変えるけど。
ヨウ・ビクエいいえ、私はファントムに身体を返して先に精霊の封印地に行くわ。
アトワイトそう。いつかあなた自身の身体でゆっくり話ができるといいわね。
ヨウ・ビクエそうできたら楽しいでしょうね。そんな日が来たら、一晩中おしゃべりにつきあってもらうわよ ?
アトワイトええ、喜んで。
ヨウ・ビクエそれじゃフィリップ、待ってるわね。
カーリャあ……ファントムが眠りました。
アトワイトヨーランドさんが出ていったのよ。大丈夫、容体は落ち着いているから。それでは準備を始めましょう。
フィリップリーパ……。

Character3話【4-3 アジト3】
カーリャ・N(良かった、このゲート周辺には誰もいない。これなら気づかれないうちに浮遊島を出られる)
カーリャ・N(今ならまだ、イクス様も小さいミリーナ様もフィリップ様の見送りをしているはず……)
カーリャ先輩、どこに行くんですか。
カーリャ・N! !カーリャ ! ? 小さいミリーナ様まで…… !
ミリーナネヴァン……。
カーリャ・N……フィリップ様の見送りはどうしたのですか ?早くしないと行ってしまわれますよ。
ミリーナいいの。今はネヴァンと話がしたいから。
カーリャ・Nすみませんが、できれば後にしてください。今は調査に向かわなければなりませんので。
ミリーナ何の調査 ?
カーリャ・Nそれは……先ほどのヨウ・ビクエ様の話の裏付けも兼ねて帝国の動向を調べるため……です。
カーリャ・Nアイフリードの血族の方々や、イクス様の安全にも関わります。ですから、そこを通していただけますか ?
ミリーナ理由はわかったけど、少しだけ私につきあって。最近のネヴァンは調査を理由にすぐにいなくなってしまうんだもの。
カーリャ・N……すみませんが、急ぎますので。
カーリャおーっと、他のゲートには行かせませんよネヴァン先輩っ !
カーリャ・Nどきなさい、小さいカーリャ。
カーリャどきません ! いいかげん先輩も『ミリーナ様』とちゃんと向き合ったらどうですか !
カーリャ・N! !
ミリーナネヴァン、言ったでしょ。私たちはゲフィオンに……最初のミリーナに向き合わなきゃいけないって。
カーリャ・N……はい。
ミリーナあなたの知っていることを聞かせて。話したくない訳があるなら、ちゃんと言って欲しいの。
カーリャ・N…………。
ミリーナ前に、ゲフィオンにはイクスに関する記憶を託されたと言っていたわね。
ミリーナもしかしたらそこにティル・ナ・ノーグを救う手掛かりがあるかもしれない。
ミリーナなぜ、ゲフィオンがあなたを切り離したのかそうしてまで託された記憶が何なのか私には知る必要があるんじゃないかしら。
ミリーナミリーナの記憶を見られるのはミリーナだけなんでしょう ?
カーリャ先輩、観念しちゃったらどうですか ?こうなったミリーナさまは引き下がりませんよ。
カーリャ・N……そうですね。よく知っています。それでも今はまだ……。
リヒター伝えたいことがあるなら、伝えておけ。
カーリャ・N……いえ、わかりました。お話ししましょう。
ミリーナありがとう、ネヴァン !
カーリャ・Nここで話さなければ、怒られてしまいそうですから。
カーリャえ ? 誰にですか ?
ミリーナカーリャ、いいから。――それじゃネヴァン、お願い。
カーリャ・Nこれからお話しするのは私がまだミリーナ様――ゲフィオン様の鏡精だった時のことです。
カーリャ・Nゲフィオン様、こちらにいらしたのですね。大事な用件があるとのことですが何でしょう。
ゲフィオンごめんなさい、ちょっと待っててね。すぐに終わらせるから。
ゲフィオンそれと、今はミリーナでいいわよ。ここには誰もいないから。
カーリャ・Nまたカレイドスコープのチェックですか ?
ゲフィオンもうすぐアイギス計画が本格的に始動するでしょう ?なるべく調整は丁寧にしておきたいの。
カーリャ・N……本当にアイギス計画を行うのですね。
ゲフィオンええ。それがこのティル・ナ・ノーグを救う唯一の方法だもの。
カーリャ・N私は……まだ納得していません。
ゲフィオンふふっ、せっかく世界が救われるというのにそんな顔されたら困ってしまうわ。
ゲフィオン美味しいお菓子をごちそうしたら納得してもらえる ?
カーリャ・N冗談はやめてください ! この計画は最終的にミリーナ様が人体万華鏡に……世界のために犠牲になるものでしょう ? 喜べるはずがありません !
カーリャ・Nそれに、イクス様を具現化させるという話は今もどうかと思っています。
ゲフィオン…………。
カーリャ・Nイクス様は、亡くなったイクス様ただ一人です。失礼ですが、あの方を具現化するのは、ミリーナ様やフィリップ様の感傷に過ぎないのではありませんか ?
ゲフィオン…………そうね。あなたの言うとおりだわ。
カーリャ・Nだったら――
ゲフィオンだけどもう決めたことなの。私は私のエゴを貫き通すわ。
ゲフィオン相手の気持ちなんて振り返ろうともしない。そういう、ズルくて嫌な人間なの。
カーリャ・Nそんなことありません! ミリーナ様は魔鏡戦争のことを心から悔いておいででした。私はそれをずっと横で――
カーリャ・N――え、ミリーナ様…… ? まさか、この術は !
ゲフィオンもう少しだけ、もう少しだけと思いながら先延ばしにしてしまった。あなたと一緒にいたくて……。
カーリャ・Nまさか、用件って……待ってください、ミリーナ様 !
ゲフィオンあなたには、私に何かあった時のために『記憶』を託しておくわ。だけど、それを見られるのは『ミリーナ』だけ。
カーリャ・N嫌です、ミリーナ様 !お願いですから術を止めてください !
カーリャ・N私を……カーリャを切り離さないで !
ゲフィオン責任を負うのも、死の砂嵐で苦しむのも私一人でいい。あなたを巻き込みたくはないの。
ゲフィオン今までありがとう、私の鏡精、カーリャ。あなたは生きて…… !ずっと大好きよ……。
カーリャ・Nミリーナ様――――っ !

Character4話【4-4 アジト4】
ミリーナ…………。
カーリャ辛かったですよね、先輩……。
カーリャ・N……ゲフィオン様が私を切り離したのは人体万華鏡になる際に、鏡精である私を巻き込まないようにするためだと思います。
ミリーナそうね……。私だってそうすると思う。
カーリャやめてください ! ミリーナさまから切り離されたらと思うと、怖くて悲しくてどうにかなっちゃいそうです……。
カーリャ・Nほとんどの鏡精はそうですよ。私たちはマスターの心から生まれたのですから。
カーリャ・Nでも、そんな存在だからこそ私はゲフィオン様の記憶を預かることができたのです。
カーリャ・Nそして、ゲフィオン様の言葉どおりなら小さいミリーナ様であれば私の中から記憶を引き出すことができるはずです。
ミリーナだったら、私はいつでも――
カーリャ・Nですが、私は記憶を引き出すことには反対です。
ミリーナどうして ?
カーリャ・Nゲフィオン様の記憶を見るためには、私と小さいミリーナ様の心を繋ぐ必要があります。
カーリャ・Nけれど、それを行ってしまうとゲフィオン様の心が、小さいミリーナ様の心に影響を及ぼす恐れがあるのです。
カーリャどうなっちゃうんですか ?
カーリャ・Nお互いの心が作用しあって小さいミリーナ様か、あるいはゲフィオン様の心が消えてしまうかもしれません。
ミリーナ心が消える…… ?
カーリャそ、そんなの絶対に駄目ですっ !反対 ! 断固反対っ !
ミリーナ落ち着いて、カーリャ。
カーリャネヴァン先輩だって、ゲフィオンさまの心が消えたら嫌でしょう ! ?
カーリャ・Nもちろんです。そうさせないために別の手段で記憶を見る方法を探していたのです。
カーリャ・N解決策がみつかるまで小さいミリーナ様とは、ゲフィオン様の話をしないつもりでいました。
ミリーナ何故なの ? ちゃんと話してくれれば私だって……。
カーリャ・Nあなたは『ミリーナ』様です。ご自身を犠牲にしてでも記憶を引き出そうと考えるでしょう。
ミリーナ…………。
カーリャ・N私はもう、『ミリーナ』様が苦しむ姿は見たくありません。
カーリャ先輩……、だからずっと話し合いを避けていたんですね。
カーリャ・Nすみません。私が至らないばかりにあなた方を煩わせることになって……。
ミリーナいいえ、謝るのは私の方よ。ネヴァンはずっと私たちのために頑張ってくれていたのね。
ミリーナありがとう。そして『ミリーナ』のこと一人で抱えさせてごめんなさい。
カーリャ・Nそんな……私は……。
ミリーナでも、もういいの。これからはみんなで一緒にどうすればいいのか考えましょう。
ミリーナあなたは一人じゃないわ、ネヴァン。ほら、こんなふうに――
カーリャ・Nあ……。
ミリーナあなたの手を取る人がここにはたくさんいるんだから。
カーリャ・N(温かい手……私のミリーナ様と同じ……)
カーリャ・N……わかりました。改めてお願いします。
カーリャ・N私と一緒に記憶を取り出す手段を探してください。

Character5話【4-5 アジト5】
イクス……そうだったのか。話してくれてありがとな、ネヴァン。
カーリャ・Nイクス様にまでご心配をおかけしてすみません。
イクスでも難しいよなぁ。ネヴァンの中にあるゲフィオンの記憶を安全に引き出す方法か……。
イクスミリーナがゲフィオンの影響を受けないようにすればいいんだよな ?
カーリャ・Nええ。でもお二人は同一人物ですし水と水を混ぜるようなもので……。
イクス最悪、心を失う……か。
ミリーナでも、何事もなく成功する可能性だってあるのよね ?
カーリャ・N否定はしませんが、リスクの方が高いかと。
カーリャあっ ! 心の中なら、シングさまたちの力を借りるのはどうですか ! ?
イクスソーマ使いの力か。心には入れるけど異物を排除したり治したりするわけじゃないからなぁ。
カーリャむむむ……そうですか。難しいですね……。
カーリャはぁ、カーリャもミリーナさまのお力になりたいのに……。
ミリーナ何言ってるの。こうして考えてくれているじゃない。カーリャは十分、私の力になってくれているわ。
カーリャ・N小さいカーリャ、自信を持ちなさい。あなたは小さいミリーナ様の心の一部なのですから。
イクスうーん……。ネヴァンとカーリャは二人のミリーナの心の具現化なんだから、二人の力があれば何とかなりそうなのにな……。
イクス心の一部が具現化されてるんだから心が混ざり合ったり、消えてしまうこともなくなりそうな気もするんだけど。
イクスカーリャっていう存在が二人のミリーナの心の防護壁になるっていうか……。
カーリャ・N……そうですね。一時的に小さいミリーナ様の中にカーリャを戻し、ミリーナ様の中でカーリャが意識を持てば……心を守れるかも知れません。
カーリャ本当ですか ! ? だったらカーリャも頑張りますよ !ミリーナさまの心は絶対に守ります !
ミリーナありがとう、カーリャ。ネヴァンもありがとう !
カーリャ・Nいえ……。もちろん、検証は必要ですが。
イクスひとまずとっかかりが見つかって良かったよ。けど、本当にこの案で大丈夫かな。何か引っかかる気も……。
カーリャ・N方向性は間違っていません。鏡精を使うのはいい案だと思います。
ミリーナでも、カーリャを私の中に戻すって聞いた時にイクスは渋い顔をするかと思ってたわ。
カーリャですね。コーキスを心の中には戻したくないってこだわりがあったみたいですし。
イクスあれは……俺自身鏡士の常識をよくわかってないから何となくああ感じただけなんだよ……。
イクスミリーナやカーリャみたいな関係が普通の鏡士と鏡精なんだってことはちゃんと理解してるよ。
カーリャそれなら、このアイディアには文句なしですね !
カーリャ・N(……確かにこの方法ならば、小さいミリーナ様の心は小さいカーリャが守れる)
カーリャ・N(けれど、鏡精だった私を切り離したゲフィオン様には守る者がいない。もしも想定以上の強い影響が及べば心が消えてしまう)
カーリャ・N(そもそも、何故ゲフィオン様ほどの力を持ちながらこんなリスクのある方法をとったのだろう)
カーリャ・N(…… !まさか、それこそがゲフィオン様の望み…… ?)
カーリャ先輩、どうしたんですか ?何か気になります ?
カーリャ・N……いいえ、その方法でやってみましょう。
カーリャ…………。
ミリーナええ。ここから先はフィルが帰って来てからね。
イクスそれにアイフリードの件もみんなと話し合わないと――
イクス――っと、ジェイドさんから通信だ。ジェイドさん、どうしました ?
ジェイドあなたとミリーナに話があります。今はどちらに ?
イクス俺の部屋ですけど。あ、ミリーナも一緒です。
ジェイドそれは丁度よかった。今からアッシュと向かいたいのですが都合はいかがですか ?
イクスアッシュさんと ? あの、何かあったんですか ?確かディストさんの取り調べ中ですよね。
ジェイドおや、今ここで聞いてしまいますか ?後悔しても知りませんよ ?
イクスど、どういう意味ですかそれ……。
ジェイドはっはっは、冗談はさておき。私は伺ってもいいのでしょうか。
イクスあ、はい。もちろんです。
ジェイドありがとうございます。では後程。
イクスなんか、用件をはぐらかされたような……。
カーリャただイジワルしたいだけじゃないですか ?悪いメガネだし。
イクスはは……、カーリャ、ジェイドさんとは相性が悪いな。
ミリーナ私は、カーリャとジェイドさんの相性はいいと思うんだけど。だってカーリャは私が好きでしょう ?
カーリャ大好きですけど、なんでそれがジェイドさまと関係あるんですか ! まったくさぱらんです !
イクスまあまあ。とりあえずジェイドさん待ちだな。
カーリャ・N…………。
ミリーナネヴァン、大丈夫 ? 顔色が悪いけど。
カーリャ・Nえ……そうですか ?
ミリーナええ。少し休んだら ?
カーリャ・Nでも、ジェイド様のことも気になりますし。
カーリャメガネの相手はカーリャたちで十分ですよ。こう来たら ! こうして ! こうです !
イクスやる気満々だな……。ジェイドさん、話しに来るだけなのに……。
ミリーナあれじゃ逆に喜ばせてしまいそうね。
イクスとにかく、本当に無理するなよ、ネヴァン。その……ゲフィオンのこととか色々と辛い話をさせたからさ。
カーリャ・Nお気遣いありがとうございます。では、アジトの見回りも兼ねて少し気分転換をしてきますね。
ミリーナネヴァン……少しでも息抜きができるといいんだけど。
イクスそうだな。それにしてもジェイドさんの話ってなんだろう。

Character6話【4-6 アジト6】
リフィル――みんな、今の説明でナーザ神とアイフリードの話は理解できて ?
リフィルリーダーが不在で代理の人もいるでしょうけれどここに出席してる者が自分の班のメンバーに伝えるのだから、いい加減では駄目よ。
ライフィセット大丈夫。すごくわかりやすかったから。
レイアうん。さすがリフィル先生だね。スパーダはどう ?
スパーダギ、ギリギリだな……。つまり、ユーリんとこのチビとリッドのとこのチビを敵に渡さなきゃいいんだろ ?
チャットチビチビ言わないでください !
リッドったく、やっとフォッグやレイスを取り戻したってのに、今度はチャットかよ……。
チャットボクだって不本意です。誇り高きアイフリードの子孫がこそこそ隠れなければいけないなんて。
チャットですが、状況は理解しました。しばらくは浮遊島にこもってキール研究室のサポートにでも回ります。
アリーシャ念のため島の警備を強化しておこう。万が一、アジト内で襲われたとあっては浮遊島警備部の名折れだ。
エレノアそうですね。しばらくはチャットに護衛を付けるのもいいかもしれません。
ヴェイグ後はパティか。今はどこにいるんだ ?
リフィル彼女はカロル調査室だから、魔核の調査よ。フレンたちが同行していると聞いているわ。
ジーニアスねえ、さっき姉さんたち、ユーリやパティと魔鏡通信が繋がらないって話してたよね。あれ本当 ?
リフィルええ。実験的に導入している魔鏡通信文も送ったけれど、その返信もないの。
リフィルまあ、通信文に関しては通知音を切っていたらわからないだろうけれど……。
マルタ後は定時連絡を待つしかないのかな。ちょっと不安だね。
ヒューバート魔核の調査ならば、領主の館周辺は確実に彼らの調査対象になりますよね。
ヒューバート地上に降りているメンバーに周辺の捜索を任せてはどうでしょう。
リフィルええ。丁度、ルークたちがオールドラント領へ向かっていたからパティと出会ったら保護してくれと伝えたわ。
リフィルそれと、反帝国組織との情報交換に行ったカイルたちとも連絡が取れたからそちらにも捜索を頼んであります。
チェスターオールドラント領と、ファンダリア領か。他の領地でも、近くにいる奴に頼まねえとな。
ヒューバートでしたら、こちらで捜索隊を派遣した方が早いかもしれませんね。
リフィルそうね。異論がある人は挙手を。
リフィルなし……と。では決定します。
ユリウス俺の方からもひとつ。領主と従騎士についてだ。
ユリウス現在、領主と従騎士が不明なのはアレウーラ領、リーゼ・マクシア領ミッドガンド領。
ユリウス従騎士が不明なのはテルカ・リュミレース領。
ユリウスグリンウッド領は領主が不明。訂正はあるか ?
マルタ……訂正じゃないけど、テセアラ領は従騎士だったパパ……ブルートが領主代理で執務を行っているそうです。
チェスター家族が利用されてる状態はたまらねぇよな……。気をしっかり持てよ、マルタ。
マルタありがとう。でも大丈夫。この間リーガルさんを助け出したときにパパの心核も取り戻したし。
マルタそれに、みんなそれぞれ縁のある人たちが巻き込まれてるから、大変だと思う。
ユリウス……その通りだな。
ユリウスところで領主と従騎士が不明な領地は該当する人物を調査してもらっているはずだがしばらくは控えたほうがいいかもしれない。
カイウスえっ ! ?
ユリウス贄の紋章の件もあるし、危険性も増しているからな。
セネル……そうだな。
カイウスそんな……。
ユリウスカイウス、そう気を落とすな。君たちの安全のためでもあるんだ。
レイア仕方ないよ。カイウスのところは領主か従騎士かもって人にたどり着いてたんでしょ ?フォレストさんだっけ ?
カイウスああ。帝国にいるらしいんだ……。
レイアあと一歩って思ってたら、そりゃガックリくるよね。
ガイアスそうだな。未だに両方とも判明しない俺たちの方が幾分諦めもつくというものだ。
カイウス危険でも、出来れば早く助けたかったよ……。ルキウスも帝国に捕まったままだし……。
スレイそうだよな……。大事な人が苦しんでるって思ったら少しくらい無茶してもって気持ちになるの、わかるよ。
ミクリオスレイ……。今は無茶するときじゃない。
スレイうん、それもちゃんとわかってるから、大丈夫。カイウス、みんなで協力して頑張ろう !
カイウスああ。ありがとな、スレイ。
ベルベット……判明した領主や従騎士が『助けるべき相手』だったらいいけど。
ライフィセットベルベット、それって……。
ベルベット何 ?
ライフィセットあ……ううん、何でもない……。
ユリウス納得してもらえたようだな。では、捜索隊の派遣メンバーを決めよう。決まったら、イクスたちに報告する。

Character7話【4-7 ファンダリア領 森】
フレン――この辺りなら、もう大丈夫か………。
エステルはあ……はあ……フレン、帝国の兵士は ?
フレンご安心を。今のところは追ってきていません。
エステル驚きました。こんな森の中にまで兵がいるなんて。
パティどこからともなく出てきおって。フナムシみたいな奴らなのじゃ。
フレンそれにしても妙だな。どこも警戒が厳しくなってはいるけど今のファンダリア領は異常だ。
エステル何か理由がありそうですけどこの状況で調査の続行は無理でしょうね。
フレンええ。ユーリには今の件だけ報告して一旦、引き揚げましょう。どうせあいつも浮遊島に戻っているはずですから。
エステルそういえば、イクスに報告があると言ってましたね。
パティではうちがユーリに連絡するのじゃ。先刻のユーリへの通信はエステルに譲ったからの。
エステル譲ったって、パティが連絡しろって言ったんですよ ?
パティそれは作戦じゃ。会えない時間が長いとさらに思いを募らせるじゃろ ?今頃ユーリの頭は、うちのことでいっぱいなのじゃ。
フレンはは、そんな可愛げはないと思うよ……。
パティフッ、まだまだじゃのうフレン。ならばしかと目に焼き付けるといいのじゃ。フレンもびっくりのラブラブ通信を…………ん ?
フレンどうしたんだい ?
パティ魔鏡通信に通信文が来ているのじゃ。追われていて気づかんかったの。
エステル通信文なんて珍しいですね。いったい何の連絡です ?
フレン――静かに、誰か来ます !
テレサそこにいるのはわかっています。出てきなさい。
エステル女性…… ? 一人のようですね。
テレサそのまま隠れているのなら敵意があるとみなし攻撃します。
パティ少なくとも味方ではないようじゃの。敵意がハリセンボン以上にチクチクなのじゃ。
パティどうする。相手は一人、制圧も可能じゃが。
フレンいや……二人はそのままで。僕が彼女の気をそらすから、その隙に逃げるんだ。エステリーゼ様も、いいですね ?
テレサやっと出てきましたね。
フレン……君は帝国の人間か ?
テレサ他にもいますね。出てきなさい。
フレン話を聞いてくれ。そちらが危害を加えなければ、僕は一切手を出さない。
テレサ交渉の余地はありません。言うとおりになさい。あと二人いるはずです。
フレン……君は、何を焦っている ?
テレサっ ! ! ――かかりなさい !
フレンなにっ ! ?
帝国兵βはっ ! !
フレン帝国兵 ! やはり君は―― !
エステルフレン ! わたしたちも戦います !
パティこっちは任せるのじゃ !
テレサ…… !
フレンくっ ! 今までの兵士よりも強い…… !
エステル倒しても起き上がってきます ! このままじゃ…… !
テレサ…………。
パティせいっ ! !
テレサ! !
パティ高みの見物を決め込んで安心してたか ?油断大敵なのじゃ。
テレサあなたもですよ。アイフリード。私を狙うのを待っていました。
パティなんじゃと…… ! ?
テレサその子をこちらへ ! 早く !
エステルフレン ! あの人、撤退して行きま――……あっ !
フレンあれは、パティ ! ?
テレサ目標の少女は確保しました。残党が追跡できぬよう足止めなさい !
帝国兵βはっ !
フレン初めからパティを狙ってたのか ! ?
エステルパティ、今いきます !
エステルきゃあっ !
フレンエステリーゼ様 ! くっ、これじゃ追うどころか……。
カイル――爆炎剣 !
ナナリー龍炎閃 !
帝国兵βぎゃああああっ !
カイルフレンさん、大丈夫 ! ?
ナナリー何の騒ぎかと思ってきてみりゃ……。あんたたち、ファンダリア領にいたんだね。
ロニしかしなんだよ、この兵士の数は。よく二人だけで耐えてたな !
リアラええ、無事でよかったわ。
エステルいいえ、たった今、パティがさらわれたんです !追いかけないと !
カイルパティがここにいたの ! ?
ジューダスしまった、遅かったか !
ハロルドなるほど、それでリビングドールβの兵士が大量投入されてんのね。ったく、用意周到だわ。
フレン一体何の話を……。
ジューダスここを突破するのが先だ。――行くぞ !

Character8話【4-8 静かな平原】
ナーザメルクリア、先を急ぎすぎだ。あまり離れるな。
メルクリアですが兄上様、早く心核を受け取りに行かねばアスベルとやらの気が変わってしまうやもしれませぬ !
バルド大丈夫です。敵対していたチーグルとローゲの心核をずっと大事に保管していた方々ですよ。今更そんなことは言い出しません。
メルクリアなんじゃ、お前は随分とセールンドの鏡士たちに肩入れするのう。
バルドやきもちですか ? ふふ、光栄ですね。
メルクリアうむ、やいておる。
バルド
メルクリア……なるほど、こう返せばお前の軽口を塞げるわけじゃな。兄上様のご助言どおりじゃ。
ナーザよくやった、メルクリア。
バルドまったく、あなた方は……。
ナーザだが、今のような戯言でなくお前のそうした発言を、本気で嫌悪する者もいる。今後は気を付けることだ。
バルド……ローゲたちですね。
メルクリアそういえば、バルドとローゲは犬猿の仲と聞いた。また一緒になるが、よいのか。
バルド慣れていますので。それに私は、ローゲを嫌ってはおりません。
メルクリアそうなのか ?
バルド私も、ローゲも、チーグルもあなた方を誇りに思い、仕える気持ちは同じですから。
バルド中でも、ことさらローゲは愛国心が強かった。生前は、ビフレストを強き国たらしめんと尽力していたことも知っています。
バルド彼のそんな所を、私は好ましく思っていました。……残念ながら、なかなか伝わりませんでしたが。
メルクリアそうか……。まあ、わらわに任せておけ。心核を受け取ったあかつきにはローゲたちによく言い含めてやろう !
ソフィあ、来たよ。
メルクリアお前は、チーグル…… !
リチャード……お初にお目にかかる。メルクリア皇女殿下。僕はリチャード。こちらはアスベル、そしてソフィだ。
メルクリアそうか……そうであったな。
アスベルそれじゃ、用件を済ませよう。これがチーグルの心核、こっちがローゲだ。
メルクリアこの心核が……。チーグル、ローゲ、二人とも虚無へと帰ったものとばかり……。
アスベル受け取ってくれ、メルクリア。
ナーザ待て。その前に聞かせてもらおうか。
ナーザこの心核を返しても、お前たちには何の利益にもならないはずだ。何故このようなことをする。
アスベル利益は関係ない。俺たちはチーグルとの約束を果たしたいだけだ。
メルクリア約束じゃと ? 貴様、あやつと何があった。
アスベルチーグルは、メルクリアが望んでいるはずだと言って自分からリチャードを解放してくれたんだ。そして人工心核に移った。
メルクリア! !
ソフィその時に、いつかローゲと一緒にメルクリアのところに返してくれってチーグルが言ってたの。
メルクリアそれが約束……。
アスベルああ。俺とチーグル……トルステン・ドンナーとの約束だ。
ナーザそうか……、チーグルは貴様に名を教えたのか。
バルドナーザ様、それほどチーグル――トルステンが信頼した相手です。十分な理由ではありませんか。
ナーザそうだな。わかった。その厚意、ありがたく受け取ろう。
アスベルよかった ! これでやっと約束が果たせる。
メルクリア受け取る前に、わらわも言わねばならぬことがあった。――ありがとう、アスベル。ソフィ。
メルクリアそして、リチャード。そなたには本当に済まぬことをした。ラムダのこともじゃ……。
リチャード……アスベル、ラムダは何か言ってるかい ?
アスベルいや……何の反応もない。
リチャード……そうか。メルクリア皇女、君の気持ちはわかった。それだけ言っておこう。
メルクリア……承知した。
アスベルそれじゃ、手を出して、メルクリア。……確かに返したぞ。
メルクリアチーグル、ローゲ……よく戻って来たな。大儀であった。
メルクリア…………………… ?おかしいのう……。
バルドどうしました ?
メルクリア心核から二人の声がせんのじゃ。チーグル、ローゲ、返事をせぬか !
ソフィメルクリアは心核の声が聞こえるの ?
メルクリア鏡士の技を使えばな。だが、この心核からは何の反応もない。兄上様、どういうことでしょう。
ナーザ……恐らく、人工心核として肉体から離れた時間が長すぎたのかもしれない。
ナーザ虚無にいた俺やバルドと違って人工心核から意志を伝える力も弱まっているようだ。
メルクリアでは、もう二人とは話せぬのですか ?
ソフィそれじゃメルクリアがかわいそう。何か方法はないの ?
メルクリアソフィ……。
ナーザしばらく休ませつつ人工心核に魔鏡術でアニマを供給する必要がある。
ナーザただ、そのためには術者もかなりの力が必要となるが……。
メルクリアならばその役目、わらわにお任せください !
ナーザ……お前がやるならばビフレスト式魔鏡術をさらに磨かねばならない。それに人工心核の回復は負担が大きいぞ。
メルクリア覚悟の上です。チーグルも、ローゲもわらわを見守り助けてくれた大切な臣下じゃ。
メルクリア今度こそ、わらわの手で助けたいのです。
ナーザそうか。ではお前に任せよう。
メルクリアはい ! 必ずや成し遂げてご覧にいれます。
ソフィよかったね。頑張って、メルクリア。
リチャードもしも人工心核が回復したら僕もチーグルと話がしてみたいよ。
メルクリア……承知した。
バルドでは、我々はそろそろ参りましょうか。
メルクリアそうじゃな。吹雪にでもなったら厄介じゃ。
アスベル吹雪 ? 雪なんて降りそうにないぞ。
メルクリアこれからオールドラントの雪山へ行くのじゃ。救世軍からの援助物資を回収せねばならぬからな。
ナーザメルクリア、おしゃべりが過ぎるぞ。
メルクリアあっ…… ! い、今のは忘れるのじゃ……。
バルドフフ……。まあ、このくらいは問題ないでしょう。
ソフィそうだ。メルクリアのともだちから伝言。
メルクリアわらわの、友達…… ?
ソフィうん。セシリィが、いつか会いにいくからいっぱい話そうって。
メルクリアセシリィは、わらわを友達だと言ったのか ?
ソフィそうだけど、違った ?
メルクリアいや……もうそのようには思ってもらえぬものと……。わらわはセシリィにも酷いことをした故……。
バルドよかったですね、メルクリア様。
メルクリア……うむ。皆、世話になったな。
ソフィうん、またね。
リチャードいい報せを待っている。
アスベル気を付けて。
ナーザアスベル、リチャード、ソフィ。メルクリアのことそして我が臣下たちを届けてくれたこと、感謝する。
ソフィ心核、返してよかったね。
リチャードそうだね。また彼らと戦う日が来るとしても後悔はないよ。
アスベルああ。だけど……いつかメルクリアたちとも手を取り合える日が来るといいな。

Character9話【4-9 オールドラント領 雪山1】
メルクリア……なんじゃ、これは。
バルドこれは雪だるまです。
メルクリア知っておる ! 何故に救世軍の援助物資が雪だるまなのかと言っておるのじゃ。
ナーザ随分と大きいな。中に何か入れてあるのかもしれん。
バルドということは生ものでしょうか。
メルクリアなるほど ! であれば、ジュニアたちに美味なるものを食させてやれるな。どれどれ――
メルクリアひいぃっ、ディスト ! ?
ナーザ何故、この男がここに…… !
バルド氷漬けですが生きています。恐ろしい生命力です。
メルクリア早う助けねば !
ナーザしかし、この状況はあまりに不自然だ。何かの罠かもしれん。改めて救世軍を呼んで――
メルクリアその間に死んで……いや、多分死にませんがともかく、こやつは元々わらわに仕えていた者です。せめて一度、連れ帰ることをお許しください。
バルドそうですね。それにディストの知識は我々にも有益なものかと。
メルクリアお願いです。わらわが面倒を見ますから !
バルド確かに、生き物を育てるのは情操教育の一環でもありますね。
ナーザ仕方がない。ちゃんと責任は持つんだぞ。
ディストヘークショッ ! ヘークショーイ ! !ジェ、ジェ……ジェイドめぇ……。
ナーザなるほど。事の経緯はわかった。しかし、よく生きているな貴様……。
メルクリアジェイド……何と恐ろしい……。その者は悪魔か……。
バルド多分、彼に対してだけなのでは ?本人に会ったことがありますが理性的な人物と見受けましたよ。
ディストああああなたにジェイドの何がわかるといいいい言うんです !あれを理解するのは、わわ私だけ――
バルドええ、そうですね。それよりも、もっと火にあたるといいですよ。震えがとまりますからね。
ディスト幻体ごときが余計なお世話ですよ !どうせ魔鏡術あたりで思念映像を投影してるのでしょうが。
バルド……驚きました。さすが研究者だ。一目で私の状態を見抜くとは。
ナーザそれで結局のところこいつが援助物資ということなのか ?
バルドおそらく救世軍としては、この者を引き取る代わりに資金を提供するという腹づもりなのでは……。
メルクリアおぬし……、えらく嫌われたものじゃな。
ディスト愚か者どもには私の価値がわからな……は……ハークショーイ !
メルクリアわかったわかった。鼻水をふけ、垂れておるぞ。
ナーザこいつの価値云々はどうでもいいが俺たちに押し付けられたのは都合が良かったかもしれん。
ナーザディスト、貴様に聞きたいことがある。
ナーザ今のデミトリアスは、本当に『デミトリアス』なのか ?
ディストはぁ ? 知るわけないでしょう。くだらない話で私の体力を消耗させる気ですか ?
ディストだいたい、本当のデミトリアスなどと言われても比較対象が不明瞭すぎます。その『本当』とやらが私には何かもわからないというのに、愚問ですよ。
メルクリア兄上様、火を消しましょう。
ディストま、待ちなさい ! 私が知っているのはデミトリアスがアニマ汚染に冒された体を若返らせたことくらいです。
ディストですが、その反動で何かしらのダメージを負っている可能性はありえるでしょう。
メルクリアダメージ ? じゃが、若返る以前はともかく今の義父上が苦しそうな様子など見たことがないぞ。
ディストこれ以上は知りませんよ。私には興味がありませんから。後は自分たちで勝手に調べなさい。
ナーザ……なるほど。
バルドどうしますか ? 気になるようであれば探ってみる価値はあると思いますが。
ナーザそうだな。セールンドに行って、王宮内を調査してみよう。
バルド私たちが騒ぎを起こしたばかりですから逆に盲点かもしれませんね。
メルクリアでは兄上様、すぐにここを発ちましょう。寒くてかないませぬ。
メルクリアディスト、貴様も行くのだぞ。
ディストなぜ私が ? あなた方とは関係ないでしょう。
メルクリアわらわが世話をすると言ってしまったからな。責任をもって面倒をみるのは、主たる者の務めじゃ。
メルクリアそれに、さすがの貴様もこのままでは凍死するぞ。寒いのは嫌じゃろう ?
バルドディスト博士。あなたの知識と力を是非ともお借りしたいのです。いかがでしょうか ?
ディスト……まあ、そこまでいうのであれば特別に力を貸してあげましょう。いいですか ? 特別ですからね !

Character10話【4-11 精霊の封印地1】
フィリップマーク、ヴィクトルファントムをここへ寝かせてくれ。
ヴィクトル承知した。
マークったく……この厄介な場所にとんぼ返りとはな。
ヨウ・ビクエあまり嫌わないで欲しいわ。大切な場所なんだから。
フィリップヨーランド、おまたせしました。
ヨウ・ビクエいいえ。ここまでファントムを運んでくれてありがとう。
シンクそういう挨拶はいらないからさっさと用件を済ませてよね。
ヨウ・ビクエあら、元気がいいのね。
シンクそれが余計なんだよ。無駄話してる余裕があるの ?
マークまあ、シンクの言い方はアレだけどな。確かに精霊の封印地周辺は帝国軍の巡視船も待機していた。
マーク俺たちがここに来たことはそのうちデミトリアスに知られるだろうよ。
ヨウ・ビクエまあ、彼らはここへ近づけない筈だけれど時間を無駄にするのもよくないわよね。ファントムの治療に取りかかりましょうか。
マーク俺たちは、治療中のあんたらを護衛してればいいんだよな ?
ヨウ・ビクエええ。その間は魔の空域との通路が開くわ。そこから発生する光魔も、あなたたちにお願いしてしまうことになるけれどいいかしら。
ヴィクトル承知の上だ。前回の件で要領は得ている。
マーク今回は助っ人も連れてきたからな。頼りにしてるぜ、シンク。
シンクあんたも大変だね。あっちだこっちだと、機嫌をとってさ。
マークお気遣いどうも。
マークってわけだから、こっちはいつでもいいぜ。始めてくれ。
フィリップごめん、ちょっとだけ待ってくれるかい ?
マーク……さっさと済ませろよ。
フィリップヨーランド、ファントムを……リーパをよろしく頼みます。
ヨウ・ビクエどうしたのフィリップ。深刻な顔しちゃって。
フィリップ……リーパは許されないことをしました。今のような状態もある意味自業自得だと思います。
フィリップ彼が目覚めることを懸念する者も大勢いるでしょう。
フィリップですがリーパは僕のエゴの犠牲者です。だからこそ彼のことも救いたい。……最近、ようやくそう思えるようになりました。
フィリップこの考えもまた、僕のエゴかもしれませんが……。
ヨウ・ビクエ……ふふっ、当代ビクエは本当にふてぶてしいわね。いいわ、あなたのお望み通りの言葉を言ってあげる。
ヨウ・ビクエ誰かを助けたいと思う気持ちはエゴなんかじゃないわ。あなたは素直に、彼の回復を願っていいのよ。
フィリップヨーランド……。リーパを助けてください。お願いします。
ヨウ・ビクエ任せなさい。

Character11話【4-13 ファンダリア領 領都1】
エステルどうです ? 館の様子は見えますか ?
フレンええ、警戒が強まっています。こちらの襲撃を予測してのことでしょう。
ロニくそっ、領主の館なんて面倒な場所に逃げ込みやがって。
ナナリーああ、もう ! もどかしいったらないね。こうして隠れて見てるだけじゃパティは助けられないってのに。
カイルここにいる全員で一気に攻め込んだら何とかなんないかな。
ジューダスやめておけ。さっき戦った兵士たちは並みの強さじゃなかった。
ハロルドあれは精霊装を扱えるリビングドールβ兵よ。きっとこの館にも、同等の兵士が配備されてるわね。闇雲に攻め入ると返り討ちよ。
カイルそうか……。その中でパティを捜すならもっと人数が必要だよね。
フレンカイル、イクスたちとの通信は繋がらないままかい ?
カイルうん。何かあったのかも……。でも通信文で状況は伝えたから読んでいればすぐに来てくれるはずだよ。
イクスみんな、ここにいたのか !
カイル噂をすれば、イクス、ミリーナ !通信が繋がらないから心配してたんだ。
ミリーナごめんなさい。問題が発生してオールドラント領へ行ってたの。
フレンそっちはもういいのかい ?
イクスはい、解決しました。それでさっき通信文を見て急いで来たんですけど……どんな状況ですか ?
エステルパティは領主の館に拉致されたままです……。
フレン突入には戦力を増やす必要があったから二人が来てくれて助かったよ。
ユーリ戦力ね。じゃあオレたちはいいタイミングで到着したってわけだ。
ラピードワンワン !
フレンユーリ、ラピード ! みんなも来てくれたのか。
リタ当たり前でしょ。さっさとあいつ助けて帰るわよ。
カイルリタ、なんか怒ってる ?
レイヴン違う違う。ありゃ動揺を隠してんの。パティちゃんたちが襲われたって聞いてさっきまで青ざめてたからね。
エステルごめんなさい……心配させて。
リタ違っ、エステルのせいじゃ……おっさんが悪い !
レイヴンいてっ、リタっち横暴 !ナナリーちゃん、かわいそーなおっさんを助け……。
レイヴンぐはあっ !
ナナリーへえ、結構体が柔らかいね。もうちょっと締め上げてもよさそうだ。
ロニレイヴン、逃げ込む先を間違えやがって……。
ジューダスまったく、一気に緊張感が失せたな。
ジュディス肩の力が抜けて丁度いいわね。
イクスあの、ユーリさんシングたちは無事だったんですよね ?
ユーリまあ、一応はな。全員アジトへ戻ってる。
ミリーナ一応って、何かあったんですか。
カロルシングが大怪我しちゃったんだ。ハスタって奴にやられて……。
エステル大丈夫なんです ! ?
カロルすぐに治癒術をかけたから命に別状ないって。領主の館は、今までよりもずっと危険みたいだね。
エステルそれじゃパティは……。
リタちょっと、ガキんちょまで不安にさせるようなこと言わないでよ。
カロルご、ごめん !
リタエステルもしっかりしなさい !あいつ、魔物のお腹の中にいたってピンピンしてたような奴よ ?
エステルでも、もっと早く通信に気づいてパティを避難させていたらと思うと……。
フレンエステリーゼ様に責任はありません。敵を甘く見た、私の慢心が原因です。
ジュディスそこまでにしたら ? 反省もいいけど今はやることがあるでしょ。
ユーリだな。過ぎたことは仕方ねえ。パティを取り戻せばいいだけの話だ。
ハロルドこの人数なら、リビングドールβ兵も何とかなりそうね。あとはまあ……入ってから確かめなきゃいけないことが、一つ二つってとこね。
リタ……嫌なこと考えてるでしょ。
ハロルドあんたもね。だから慌てたんでしょ ?優しいのね~リタっち♪
リタうっさい、リタっち言うな !
エステルなんのことです ?
ハロルドパティの心核をいじられる可能性があるって話。まあ、この館に魔鏡技師が詰めてなきゃできないはずだけど。
エステルそんな…… !
ユーリまたかよ……。いい加減にしろってんだ。
フレンユーリ ?
ユーリ帝国の奴ら、人なんて便利な道具かなんかだと思ってんだろ。んで邪魔なら殺す。
レイヴン…………。
ユーリシングの傷もひでえもんだったぜ。あれをやった奴は躊躇もなんもねえ。確実に殺すつもりで刺した傷だ。
ユーリああいう奴らを止めるなら大本の頭を潰しちまうのが一番手っ取り早いんだろうな。
フレン……ユーリ、おかしなこと考えるなよ。
ユーリ安心しな。お前ほどじゃねえさ。
フレン本当に ?
ユーリ……おい、イクス。人数はこれで十分だろ。そろそろ行こうぜ。
イクスはい。潜入の手筈はジューダスとハロルドさんが考えて……。
? ? ?(聞こえ……バロー……末裔……)
イクスなんだ ?
ミリーナどうしたの、イクス。
イクス今誰か、俺に話しかけたよな ?
ミリーナいいえ、誰も。
イクスそうか……。ごめん、気のせいだ。集中しないと。
フレン疲れてるならバックアップに回るかい ?
イクスいいえ、大丈夫です。それで、潜入の方法ですけど――
ミリーナ…………。

Character12話【4-15 ファンダリア領 領主の館】
パティ…………。
魔鏡技師A心核除去終了。心拍は ?
魔鏡技師B正常値です。このまま人工心核の埋め込みを開始します。
エルレインこれでフォルトゥナが復活するのだな ?
魔鏡技師Bはい。この聖核で造った人工心核にフォルトゥナ神を宿すことで神の具現化が可能になります。
エルレイン神の具現化、か。
エルレイン(この話が真実であれば、何故この娘を……)
伝令兵エルレイン様、敵襲です !この場所に向かっています !
エルレイン! !
ラピードウーッ……ワフ。
フレンそうか、いないんだね。ユーリ、次だ。
ユーリはいよ。カイル、こっちの部屋にパティはいねえ。一番奥を目指すぞ。
カイルわかった ! じゃあ、この廊下を真っすぐ進んで。
エステルカイルたちがいてくれて助かりましたね。以前、潜入した時と造りは同じです ?
カイルうん。変わってなくて良かったよ。
リアラ他のチームも調べ終わってるかもしれないわ。早く合流しましょう。
帝国兵侵入者発見、排除する。
リアラ! !
カイルリアラ !
帝国兵ぐあっ ! !
リアラえ…… ?
ジュディス遅かったのね。この辺の警備兵はみんな片づけておいたわ。
ユーリそりゃご苦労さん。
ロニこっちにパティはいなかったぜ。
ナナリーイクスたちの方でみつかってりゃいいけど。
レイヴンそん時は魔鏡通信が入る予定でしょ。この分じゃおそらく……。
カロルあっ、イクスたち来たよ !
イクスこっちは駄目だった !
ジューダス領主の部屋も空だ。エルレインもいない。
カロルじゃあ、残るはあの奥の部屋だけだね。そこにパティがいる !
リアラエルレインも一緒かもしれないわ。
二人…………。
ミリーナすぐに他の兵士が来るはずよ。今のうちに踏み込みましょう。
エステルパティを見つけたら、すぐに撤退でいいんです ?
ジューダスああ、上手く行けばな。時と場合によっては臨機応変だ。
レイヴンま、そん時の采配は騎士団長代行に任せましょ。頼むぜ、大将。
フレンレイヴンさんに言われると緊張しますね。では、みんな準備を。行きますよ !
帝国兵βうおおおっ !
ユーリおっと ! 手荒な歓迎だな。
ロニこっちは任せろ ! パティを捜せ !
エステルパティ ! パティ、どこです ! ?
カロル変だよ、部屋のどこにもいない !もう捜せそうな場所なんて……。
リタ……やっぱり。
カイルやっぱり ? どういうこと ?
2人まさか !
ユーリもう別の場所につれてかれちまったってことか。
ハロルドそういうこと。その可能性もあるとは思ってたけど実際そうだと厄介よね。
カロルでも、どこへ――うわっ!?
イレーヌ ?……避けられたか。
イクス! !
ジューダスお前は……イレーヌ !
ナナリーイレーヌ ? ってことは従騎士だね。
イレーヌ ?貴様らはここで始末する。
カイルあれがイレーヌ……さん ?
ジューダスいや、違うな。『中身』はイレーヌじゃない。
ナナリーリビングドールβだね。
ユーリだったら話は早え。ぶっ倒してパティの居場所吐かせて、それから戻す。行くぞ !
? ? ?(我が末裔よ……)
イクス……え…… ?
ラピードワウッ ! ワンワンワン !
カイル何してんだ、イクス ! 危ないよ !
ミリーナイクス ! ?
イクス頭の中……声がして……。
ミリーナ声 ? 声ってなに ! ?
イクスうううっ、目、目が……痛っ……うううっ !
ミリーナイクス !
フレンカイル、ナナリー、ジュディス ! イクスを守れ !
ジュディスわかったわ !
ナナリーいったいどうしたってんだい !
ミリーナわからない。声が聞こえるって言って倒れたの。
イクス…………。
ミリーナイクス、良かった、気が付いた ! ?
イクス ?やはり、あの者が宿すルグの槍に反応したか……。
全員! ?
ミリーナあなた……イクスじゃない。誰なの ! ?
イクス ?……バロール。

Character13話【4-15 ファンダリア領 領主の館】
エルレイン貴様が侵入者か。
デューク今すぐその聖核をこちらに渡してもらおう。
エルレイン聖核を手に入れて何とする。
デューク答える義理はない。
エルレイン聖核は、すでにこの娘の心核として移植されている。
パティ…………。
デューク……そうか。ならばその体ごともらい受けるまでだ。
エルレイン触れるな !
デューク力ずくでも回収させてもらうぞ。
エルレイン貴様、なぜそこまで聖核にこだわる。
デューク聖核をこのように利用するなど冒涜でしかないからだ。
エルレイン……今はまだ、渡すわけにはいかぬ。疾く立ち去れ。さもなくば後悔するぞ。
デュークそうか。ならばやはり力で――
サレ『素材』は確保した。撤退ですよ、聖女様 !
パティ…………。
二人! !
サレほら、早くしてくださいよ。
エルレイン先に行け。
サレ困りますねえ……。そいつを相手にするよりフォルトゥナ神の具現化が優先だと思いますけど。
エルレイン……貴様、私に命じるか。
サレいいえ、これはお願いですよ。でも僕の言うとおりにしてくれないならこの聖核、この子ごと壊しちゃうかもね。
デューク! !
エルレイン…………。
エルレイン……行くぞ。
サレふふっ、御意に。
デュークどこまでも聖核を利用するつもりか、人間。
デューク……必ず取り戻す。待っていてくれ、友よ。
to be continued