Character1話【7-1 ファンダリア領 森1】
パティ…………。
エステルパティ ! !
デューク……。
ユーリいくぞ。
待ち伏せていたユーリたちの前にようやく姿を現したパティ。双方が相まみえようとしている、その少し前のこと。
心の中からカーリャが消えてしまったミリーナは――
ミリーナゲフィオン、カーリャが消えてしまったわ。どうして ! ?
ゲフィオン恐らくお前――つまりミリーナが『ミリーナ単独』の存在ではなくなってしまったからだろう。
ゲフィオン何らかの外的要因でミリーナとゲフィオンの境界が徐々に曖昧になっている。お前が倒れたのも、私がここにいるせいだ。
ミリーナそれじゃ『私のカーリャ』はもう私の中にはいられないの ! ?
ゲフィオン落ち着きなさい。先ほども言ったが今はゲフィオンとミリーナが混ざり合おうとしている。そのせいで一時的にはじかれてしまっただけだろう。
ゲフィオンあのカーリャは……私の鏡精ではないからな。
ゲフィオンだがこのままでは『一時的』では済まなくなる。これ以上の影響が及ぶ前に何らかの処置を施さねばなるまい。
ミリーナ処置と言っても、原因がわからないんじゃ……。
ゲフィオン心当たりはある。この現象には、バロールの力が影響しているのだろう。
イクスミリーナ !
ミリーナイクス ! ? フィル、ネヴァンも !
フィリップようやくきみの心にアクセスできたよ、ミリーナ。
ミリーナフィル……みんな、ありがとう。迷惑をかけてごめんなさい。こんなところまで来てくれるなんて……。
イクス当たり前だろう。『二人』を救うためだからな。
ゲフィオン…………。
フィリップミ――ゲフィオン……。
カーリャ・Nミリーナ様 !良かった、ミリーナ様がご無事で……。
ゲフィオン私をミリーナと…… ? お前は誰だ。
カーリャ・Nっ !……そう……ですよね。
フィリップゲフィオン、彼女はきみの鏡精『カーリャ』だよ。
ゲフィオンカーリャ ! ? あなたが…… ?
ミリーナやっぱり……覚えていないのね。
ゲフィオン……記憶を切り離した私は『私のカーリャ』という存在を知らぬ。
ゲフィオン私にはそういった鏡精がいたと周囲の者から聞いてはいたが……。そうか、お前が私のカーリャ……。
ゲフィオンすまない……。
カーリャ・Nいいえ ! いいえ……。ミリーナ様が……ゲフィオン様がご無事なら私はそれで十分です。
カーリャ・Nそれよりも、早くこの状況を打開する方法を考えましょう。
ゲフィオン……そうだな。
ミリーナさっき、私たちが交じり合った原因はバロールの力だと言っていたわよね ?
イクスバロールが ?
ゲフィオンそうだ。バロールは、人体万華鏡となって死の砂嵐を封じている私に接触してきたのだ。恐らくは、死の砂嵐を操るためにな。
ゲフィオン上手く言えないが、バロールの接触によって私は自らが世界に融けそうな感覚を覚えた。そのせいか、私自身の存在が曖昧になろうとしている。
ゲフィオンそれがミリーナとゲフィオンの境界が危うくなった原因だろう。
ミリーナ死の砂嵐を操る……。ねえイクス、倒れた時にバロールと会ったのよね ?
イクス俺も今、そのことを思い出してたよ。
イクスゲフィオン様。俺はバロールの記憶の残滓……という存在に会っているんです。その時――
ゲフィオン――死の砂嵐を鎮めるために尖兵を作る、か。
イクスはい。それと、俺の心の中にも関わらずバロールは明らかにコーキスに語り掛けていました。「鏡精コーキスよ、命の炎を燃やせ」と。
ゲフィオン鏡精と鏡士の心は繋がっている。本当にコーキスに命じていたのかも知れない。
ゲフィオンこの推測が正しければ、すでにバロールはコーキスを使って、死の砂嵐を操っているのだろう。それがバロールの接触として感じられたのか……。
ゲフィオン……もしや、コーキスは私の近くに来ているのか ?
イクスコーキスが……。あいつ、バロールに何をさせられてるんだ……。
ゲフィオン何が目的であれ、その強引なアクセスによってゲフィオン――私という人格が崩壊しようとしておりその結果が、ミリーナに影響を及ぼしている。
ゲフィオン鏡精がいないゲフィオンには人格を――心を守る存在がいないからな。
フィリップ……妙だな。バロールの接触が強引だったとはいえなぜそこまで深刻な影響を受けているんだい ?
ゲフィオン……当時の記憶がないから確実なことは言えないけれど……。
ゲフィオンおそらく『ある目的』のために心を閉じる作業を行わなかったんだと思うわ。そして、新たな鏡精を作ることもしなかった。
ゲフィオンだから今の私は、心にずっと穴が開いた状態なのよ。それで影響を受けやすくなっているのかもしれない。
フィリップ穴って…… !どうして無防備な状態のままで放置したんだ。手段はあったはずだろう !
フィリップ手段――そうか……だから……。
ゲフィオン…………。
カーリャ・N……やはり、そういうことでしたか。
ミリーナネヴァン ?
カーリャ・Nゲフィオン様の計画では、私は今よりもっと早い段階で小さいミリーナ様に記憶をお渡ししている筈だった。本来ゲフィオン様が人体万華鏡になる時期に……。
フィリップそうか……。ファントムの存在でゲフィオンが人体万華鏡になるタイミングが狂ったんだね。
カーリャ・Nはい。本来は記憶の継承と共に、人体万華鏡は真の完成を迎え、死の砂嵐の外部流出を防ぐことができた筈でした。
カーリャ・Nおそらくその場合は鏡精のいないゲフィオン様の心は小さいミリーナ様に吸収され、消えていたでしょう。つまりゲフィオン様の心は死んでいた筈です。
三人! !
ゲフィオン…………。
イクス待ってくれ、記憶を受け渡す時にカーリャがミリーナの心を守れば、二人の消滅を防げるかもしれないって話し合ったじゃないか。
カーリャ・Nええ。確かにあの方法であれば小さいミリーナ様の心は確実に守れます。ですがゲフィオン様の心を確実に守る手段はありません。
カーリャ・N心の穴を塞ぐためには、新しい鏡精を作らなければいけないんです。でもゲフィオン様はそうしなかった。
カーリャ・N仮に心が残っても、ゲフィオン様を待っているのは永遠の死です。砂防堤として気の狂うような痛みに耐え永遠に『死に続ける』という運命……。
フィリップそれに新しい鏡精を巻き込みたくなかったからあえて心の穴を残していた……。
ゲフィオン…………。
カーリャ・N今回、お二人の心を守る方法を考えている時にこれは手段がなかった訳ではなくわざと残さなかったのでは、と気付いたんです。
フィリップそうか……ある意味ファントムが、ゲフィオンの心を延命した形になったんだね。
カーリャ・N……ええ。少なくともゲフィオン様は、こんな形で小さいミリーナ様を巻き込むつもりはなかった筈です。バロールの件は不測の事態ですから。
カーリャ・Nそれに……今のこの状況を招いてしまったのは記憶の移行を渋った私にも責任があります。
ミリーナそんな……。ネヴァンは何も……。
カーリャ・Nいいえ。私が悪いんです。そもそも私は記憶の受け渡しを防ぎたかった。
ミリーナどういうこと ?
カーリャ・Nお二人の心が消えないように安全な方法を探っていたのは本当です。
カーリャ・Nですが、そんな危険を冒す前に、ゲフィオン様を人体万華鏡から救い出す手段を見つけたかった。だから記憶の受け渡しを先延ばしにしてしまった。
ゲフィオンカーリャ……。
カーリャ・Nだって、このままだとゲフィオン様は永遠に動かない鏡の体の中で、自我を失い、終わらない激痛に苛まれるんです。
カーリャ・N『死ぬ』のではない。『生きている』のでもない。『死に続ける』んですよ ! ?カーリャはそんなの嫌です !
ゲフィオン……それは私が殺した世界や人々も同じなのよ。私の過ちのせいで命を落とした後も苦しんでいる人々がいる。
ゲフィオンそれにこの世界を守るためには、死の砂嵐を封じなければならないのよ。誰かがやらなければならないなら、この役目は私が引き受けるべきだわ。
カーリャ・Nわかってます、ミリーナ様。あなたが助けなんて望んでないことも。それでも私は、生きていて欲しかったんです。
カーリャ・Nたとえあなたが世界中から非難される極悪人だったとしてもミリーナ様は私のただ一人のマスターだから。

Character2話【7-2 ミリーナの心1】
カーリャ・N身勝手なことばかり言って申し訳ありません……。
ミリーナ身勝手じゃないわ。そうよね、ゲフィオン。
ゲフィオン……ああ。しかし、バロールの影響はさらに強まるだろう。記憶の受け渡しさえできればミリーナだけは助かるはず。それなら――
イクスあの ! ちょっといいかな。バロールはコーキスを使っているんですよね。自分の鏡精のように。
ゲフィオンそのようだ。
イクスちょっと違うかもしれないけどフィルさんとファントムもそうでしたよね ?その、マークとの関係というか繋がりというか……。
フィリップああ、僕とファントムは、マークを共有していた。
フィリップただ、僕とファントムは同一人物を同一時空に具現化する為のテストケースだったからね。参考にはならないかもしれないよ。
イクスでも、同じ存在なら鏡精を共有できる可能性が高いってことですよね。
フィリップそれはゲフィオンとミリーナ、二人分の心をカーリャに守ってもらえないかってことかい ?
イクス無理でしょうか……。記憶を受け渡して心の穴を修復する間だけでも。
フィリップできるとは断言できない。でも……。
ゲフィオンいいえ。できたとしても私にそのつもりはないわ。
フィリップゲフィオン !
ゲフィオンもう決めたことなの。
ゲフィオンイクス、ミリーナ、聞いて欲しい。私はあなたたちを騙し異世界や鏡映点たちを具現化させた。
ゲフィオン巻き込まれた鏡映点たちには償おうにも、償いきれぬ苦しみを今も強いている。
ゲフィオンそして、あなたたち二人には、尊厳を踏みにじり冒涜するような生み出し方をしてしまった。本来の記憶を改ざんし、心を捻じ曲げてしまった。
ミリーナ私たちを具現化するときに手を加えたという記憶はネヴァン――あなたのカーリャに預けた筈ですよね。どうして知っているんですか ?
ゲフィオンそう……。知っているのね。……何もかも。
イクスフィルさんから聞きました。
ゲフィオンそう……。ええ、確かに記憶は残っていない。でも、二人を見ていればわかるわ。それに、私ならやりかねないことだもの。
ゲフィオン全て、私の責任です。謝って済むことではないけれど――
フィリップ待ってくれ、それなら僕も一緒だ !
ゲフィオンいいえ。イクス、ミリーナ、フィルを責めないで。
ゲフィオンフィルはただ、魔女と幼馴染であったというだけでこんな外道に付き合わされてしまっただけ。巻き込まれたことを考えれば、むしろ被害者よ。
ゲフィオン全ては私一人が背負うべき罪。だから――
フィリップそうじゃないっ ! !
ゲフィオンフィル……。
フィリップ一人だって…… ?確かに覚えていないんだね。あれは、二人で一緒にやったことだ ! きみと僕で !
フィリップむしろ、イクスを甦らせようとしたときイクスが危険に巻き込まれないように性格を変えようと積極的に提案したのは僕だった筈だ。
フィリップ僕は卑怯で、臆病で愚かだったから自分の罪を隠したかったんだ。生み出される命を物みたいに考えて……。
ゲフィオン……だとしても、私もそれに乗ったのよ。そしてきっと、私が決めた。だから、フィルはそんな風に――
フィリップ――もう僕をそんな風に甘やかさないでくれ !僕は心底薄汚い人間なんだ。ミリーナの優しさにつけ込んで甘えていた。
フィリップ僕はね、ミリーナ。昔イクスが憎くて羨ましくて……彼を殺そうとしたことがあったんだ。あのピクニックの日のことだよ。
ゲフィオン! !
フィリップ知ってるよ。あの時、きみは後悔した。僕がきみを誘って、きみは珍しくイクスが一緒にいなくても平気だと思ってしまった。
フィリップ僕らは二人とも、イクスの忠告を軽く考えて……そこで魔物に襲われた。
ゲフィオンあの時……いつもならイクスも一緒にって言ったのにフィルが久々にセールンドから帰ってきたのが嬉しくて少しなら……大丈夫って思ってしまった。
ゲフィオン私はお姉さんだから一人でもフィルのことを守れるって……。
フィリップあの時からきみは、イクスに罪悪感を抱いてイクスを守ると決めたんだよね。そして無意識に僕を遠ざけるようになった。
ゲフィオンごめんなさい……。あなたを見ていると、私の弱さが思い出されてつらかった……。
フィリップ……うん、知ってたよ。でも、イクスが殺されて色々あって、イクスを具現化しようと決めた時これは全てをやり直すチャンスだと思ったんだ。
フィリップ僕の罪を消して、ミリーナの罪悪感を消して二人目のイクスとミリーナが幸せになれば……きみは僕を振り向いてくれるんじゃないかって。
フィリップ僕はイクスが好きだったけどミリーナのことも好きだった。ミリーナに……きみに振り向いて欲しかったんだよ。
ゲフィオン――え…… ?
二人…………。
フィリップそうだよね……。気付いてないと思ってた。
フィリップ勇気が無くて今まで一度も口にできなかったけど僕は、ミリーナが好きなんだ。
ゲフィオン…………。
フィリップ……ミリーナ ?
ゲフィオン酷い……。
フィリップ……ごめん、困らせて。
ゲフィオンいいえ……違うの。私が……酷いの……。私……本当に何も見えていなかった……。
ミリーナイクス、私……。
イクスあれはフィルさんとゲフィオンの話だよ。ミリーナは、ミリーナだ。
ミリーナえ、ええ……。
ゲフィオンありがとう、フィル。私のことを好きでいてくれて。でも……。
フィリップ……うん。
ゲフィオンあなたをずっと、弟のように大事に思っていたわ。だから巻き込んではいけないと考えていた。
ゲフィオン……なのに、結果的に酷く傷つけることになってしまった。
ゲフィオンだからこそ、全ての責任は姉である私が引き受けるつもりでいたの。
ゲフィオンでも……それも私の独りよがりだったのね。あなたに対して、とても失礼なことをしていたんだわ。……ごめんなさい。
ゲフィオン私、やっぱりイクスが……最初のイクスが好きなの。だからあなたの気持ちには応えられない。
フィリップ……うん。
ゲフィオンけれど、一緒に世界を歪めた者としてあなたには生きて責任を果たして欲しい。
フィリップ『一緒に』って……。今、それを言うんだね。
ゲフィオンええ。私、魔女だもの。
ゲフィオンそれと……カーリャ。
カーリャ・Nは、はい !
ゲフィオンあなたの記憶がなくて、ごめんなさい。
カーリャ・Nですから、それはもう――
ゲフィオンでもね、私がカーリャに全てを託したのなら私は間違いなくあなたを愛し、信頼していたのよ。だからきっと二人目の鏡精を作らなかったんだわ。
ゲフィオン私を救おうとしてくれて、ありがとう、カーリャ。
カーリャ・Nゲフィオン様……そんなお別れみたいな言葉は嫌です。
ゲフィオン困ったわね。でもきっと、人間になったあなたの心にはかつての私が――ゲフィオンが生きているわ。いつも一緒なのよ。
ゲフィオンだからどうか、『小さな』ミリーナを守るためにあなたの持つ記憶を託してあげてちょうだい。
カーリャ・N……………………はい。
ゲフィオンありがとう、カーリャ。
ゲフィオン――ではミリーナ、カーリャを呼び戻そう。お前の心を守って貰わねばならない。
ミリーナ無理よ。カーリャを感じることができないの。
ゲフィオン私に考えがある。
イクス何をする気ですか。
ゲフィオンミリーナの心には、バロールの接触で暴走した私の力が流れ込んでいる。今からそれを止める。
ゲフィオンほんの僅かな時間だがミリーナの心は安定するはずだ。その間にカーリャを呼び戻してもらう。
イクス待ってください !
ゲフィオンこれ以上長引けば、私が力を制御できなくなる。――ミリーナ、始めるぞ。

Character3話【7-3 ミリーナの心2】
ミリーナカーリャ、私はここよ。聞こえているなら答えて……。
カーリャ……さま。ミリーナさまっ ! !
ミリーナカーリャ ! 戻って来たのね !
カーリャミリーナさまーっ ! 会いたかったですぅ !どうしても心の中に戻れなくて……。
イクス良かった、カーリャは元気みたいだ。
カーリャはれ ? イクスさまに、先輩に、フィルさま ! ?めちゃくちゃ人数増えてますけど ! ?
ゲフィオン……くっ……。ミリーナ、早く記憶の受け渡しを……。
ミリーナカーリャ、詳しい説明は後でするわ。ネヴァン、お願い。
カーリャ・Nはい。――小さいカーリャ、今から私はゲフィオン様の記憶を、小さいミリーナ様に渡します。あなたは小さいミリーナ様の心を守りなさい。
カーリャえ ? でも、ゲフィオンさまは ?
ゲフィオンカーリャ、ミリーナをお願いね。
カーリャ! !
カーリャ……わかりました。全力で守ります !
カーリャ・N……では小さいミリーナ様、ご用意を。
ミリーナええ……。
カーリャ・N……記憶の移行は終了しました。
イクスミリーナ ! ?
ゲフィオン……大丈夫、上手くいったわ。これが証拠。
イクス姿が薄れて……心が消えているからか ! ?
ゲフィオンこれで、やっと……。
フィリップゲフィオン、こんなのはずるいよ……。
イクス……そうだよ。フィルさんの言う通りだ。生きて償うのは、あなたも同じじゃないか !
ゲフィオン! !
イクスあなたが苦しむのは――俺はそんなこと必要ないと思うけど、それでもあなたの自由だ。
イクスでも、あなたが苦しめたと自覚している人たちが実際にまだ苦しんでいるなら何か助ける方法を探しましょう。
イクス万策尽きてから『死に続ける』選択をしても遅くはない筈だ !
ゲフィオンイクス……。
カーリャ・N……ミリーナ様、やっぱりカーリャは納得できません。ミリーナ様をこのまま消えさせはしない。
フィリップネヴァン、何をするつもりだ ?
カーリャ・N私はもう鏡精ではありませんが人間になったことで、ゲフィオン様と同じ想像の魔鏡術の力を受け継いでいます。
カーリャ・Nこの力で、ゲフィオン様の心を守れないかやってみます。
フィリップま、待て ! それは危険――
カーリャ・Nあなたを守ってみせます ! ミリーナ様 !
ゲフィオン駄目…………カー……リャ……………。
二人! !
イクス二人とも消えた……。まさか、一緒に消滅したのか ! ?
フィリップいや、ネヴァンがゲフィオンの心の中に残った、のか ? 今の彼女にそんなことができる筈がないのに……。
カーリャううっ……二人とも、推測は外でしてください !
イクスカーリャ ! ?
カーリャゲフィオンさまの記憶を受け止めるためにミリーナさまの心に大きな負荷がかかっているんです !
フィリップすまないカーリャ !
フィリップ――イクス。ミリーナにとって僕たちは異物だ。すぐに出よう。
イクスはい !
イクスう……戻ったのか ? フィルさんは……。
フィリップ僕もついさっき戻ったんだよ。
マークよし、これで二人とも無事に目が覚めたな。
マーク正直なところ、ミリーナのことやら、突然消えたネヴァンパイセンのことやら、聞きたいことは山ほどあるんだが……とりあえずはこっちが先だ。
マーク――おい、イクスたち、戻ってきたぞ。
コレットよかった…… !おはよう、イクス。大丈夫 ?
イクスコレット ! ? どうしてここに……。
コレットカーリャに頼まれてセールンドからこの砦まで送ることになってたの。
イクスセールンド ! ?カーリャはそんなところにいたのか。
コレットうん。けど私、飛んでる途中でカーリャを落としちゃって……。
イクス落としたって……。カーリャも飛べる筈なのにさては気を抜いてたな……。
コレットでもね、偶然ルドガーやジュードたちが戦っている真上だったから、カーリャのこと受け止めてくれたの。
コレットそのあと、カーリャが消えちゃったって聞いたからもしかしてここにいるのかもと思って様子を見に来たんだ。
イクスそうだったのか。カーリャは今、ミリーナの心の中にいるよ。送ってくれてありがとう。
コレットそっか、ちゃんと戻れたんだね ! 良かった !
イクスところで、ジュードたちは何かの作戦中なのか ?ミリーナが倒れた時に、魔鏡通信が繋がらなくなったから、今どんな状況かわからないんだ。
コレット精霊関連で問題が起きたから、みんなで手分けして調査をしてるところだよ。
コレットでもジュードたちは、途中でパティ奪還作戦の戦闘に巻き込まれたみたいで、敵に囲まれてたの。
イクス大丈夫なのか ! ?
コレットうん、みんな無事だよ。
コレットただ、みんな「こっちは大丈夫だからカーリャの方へ行ってあげて」って言ってたけど何だか心配なの。
イクスそうなのか……。
コレットカーリャが無事だったことがわかったから私、今からジュードたちの様子を見に行ってみるね。カーリャのことを心配してたから伝えてあげたいし。
フィリップいや、直接出向かなくてももう、魔鏡通信が使えるんじゃないかな。
イクス本当ですか ! ?
フィリップこの砦付近での大きな障害はミリーナがゲフィオンの力の影響を受けたことだ。そのせいで魔鏡結晶ができてしまったしね。
フィリップでもそれはもう……解決した。
マークそういやさっき、ローエンから通信が入ったぜ。ノイズが酷くて、何を言ってるかまでは聞き取れなかったけどな。
マークけど、原因は複数あるんだろう ?ローエンからの通信のノイズもそいつのせいか ?
フィリップ多分ね。けれど、一番大きな要因はゲフィオンの力だと思う。だから、魔鏡通信は回復しつつあると見ていい。
フィリップコレット、ジュードに繋いでごらん。
コレットはい。
コレット――ジュード、ジュード、繋がってる ?
ジュードコレット ! そっちは無事 ?
コレットうん。カーリャはミリーナの所へ帰れたって。イクスも隣にいるよ。
イクス心配かけてすまない。そっちの状況を教えてくれ。

Character4話【7-3 ミリーナの心2】
バルド――簡単ですが、事の経緯はこんなところです。
ロイドバルドの実体化も驚いたけどセールンドではそんな大変なことが起こってたのか。
ラタトスク……精霊を無理やり集めてフリンジかよ。帝国の野郎、ろくでもねえこと考えやがって。
しいなまったくだね。こっちには精霊関係者も多いしフリンジが成功して、何か悪い影響でもあったら今頃どうなってたかわかりゃしないよ。
ジーニアスけど、フリンジって新しい魔術を作り出すんでしょ ?何を作るつもりだったんだろう。
ナーザディスト博士、心当たりはあるか ?
ディストさあ、帝国のくだらない研究には興味がありません。この薔薇のディスト様の関心を惹きたければもっと面白い題材を用意していただかないと。
ロイドディストが関心ありそうな研究…… ?ジェイドの研究……とか ?
マルタ確かに。ジェイドさんなら興味あるでしょ ?
ディスト何故私がジェイド如きを研究しなければならないのですか ! ?
バルドまあまあ。ジェイドさんは優秀な方ですからそれを研究できる博士はもっと優秀だということでは ?
ディスト私が…… ! 優秀…… !ええ……ええ ! 優秀ですとも !
ジーニアス結局、フリンジで何をする気だったかは不明なんだね。ともかく、コーキスたちが阻止してくれて助かったよ。
テネブラエはい。助けられた精霊たちに代わってお礼を申し上げます。
メルクリア…………。
コーキスなんだよ、メルクリア。さっきからテネブラエ様のことじっと見つめてさ。
メルクリアいいや、珍しいものじゃと思ってな。獣が話すのじゃぞ ?
テネブラエ獣ではありません。私は誇り高きセンチュリオンです。この世界では精霊に属していますが本来は魔物の王たるラタトスク様のしもべとして高貴なる闇を司り――
メルクリアよ、よくしゃべるな。
エミル僕も最初は驚いたよ。でも、すごく頼りになるんだ。ちょっとクセが強いけどね……。
メルクリアそういうお前も、さきほどからコロコロと人格が入れ替わっておるぞ ?鏡映点は変わり者が多いのう。
テネブラエはぁ……自己紹介を遮ったばかりかクセが強いだの変わり者だのと、あんまりです。私には語り切れないほどの魅力があるというのに。
プレセアテネブくんの魅力……。肉球を自在に作れることでしょうか。ふにふにすると気持ちがいいです。
テネブラエプレセアさんは、またそれですか ?
メルクリアまた ?そんなに何度も触りたくなるほど良いものなのか。
プレセアはい。テネブくんは、私のいた時代よりも未来の存在ですが、その時に出会った未来の私も同じように触っていたそうです。
メルクリアなるほど、肉球……。
プレセア……テネブくん。今、作ってもらえませんか ?メルクリアが触りたそうなので。
メルクリアなんと ! よいのか ! ?
テネブラエか、構いませんが、あのふにふにはくすぐったいんですよねぇ……。
プレセアリーガルさんの体がよくなったらその時にもお願いします。きっと喜ぶと――
全員! !
メルクリアゲフィオンの鏡像が光ったぞ ! ?
カーリャ・N………っ!
コーキスうおわおあ ! ?鏡像からネヴァンパイセンが飛び出してきたぞ ! ?
バルドネヴァン !
カーリャ・Nあ……バル、ド…… ?
バルドこれは……酷い傷だ。無理に動かないで。
コーキスネヴァンパイセン、どうしたんだよ !
カーリャ・Nゲフィオン様の……心の防御壁を……作って…………………………。
コーキスネヴァンパイセン ?おい、しっかりしろよ、死ぬなって !
バルド落ち着くんだ、コーキス。
バルド――誰か、回復術が使える方は ! ?
マルタは、はい、少しだけなら!
バルド状態はどうですか ?
マルタなんとも言えない。もっと強い回復術が使えたらよかったんだけど……。
エミルさっき『心の防御壁』って言ってたよね。それを作ってこんなことになったのかな。
バルドしっかりしてください、ネヴァン。あなたのこんな姿は見るに堪えない……。
バロールの残滓(まったく、余計なことをしてくれた)
バルドこの声……。
ナーザどうした、バルド。
バルドお待ち下さい、ナーザ様。今、バロールが話しかけてきています。
コーキスそれ、頭の中に声がするやつか ?
バルドええ。後で話そうと思っていましたが先ほども同じように話しかけてきたのです。私のことを尖兵と言っていました。
ナーザ尖兵だと ?
コーキスあいつ、俺だけじゃなくてバルドにまでちょっかい出してんのかよ。何て言ってるんだ ?
バルド………………。バロールによれば、カーリャ……ネヴァンのせいで死の砂嵐にアクセスできなくなった、と。
ナーザバルド、バロールにこちらの声は聞こえているのか ?
バルドええ、恐らく。
ナーザそうか。
ナーザ――バロール、いや、その残滓とやらよ。バルドは貴様の所有物ではなく俺の部下だ。俺の許可無く利用するな、無礼者め。
バルドナーザ様……。ご存じかと思いますが、相手は神ですよ ?
ナーザバルド、お前もわきまえろ。人を駒としか思わぬ神など無視すればいい。我らが奉る神はダーナ神のみ。それを忘れるな。
バルド御意。元より私は御身とメルクリア様のためにある存在。どうかご心配なさいませんように。
ナーザ心配などしていない。――それで、そちらの元鏡精はどうだ。しゃべれそうか。
マルタううん、まだ無理。ちゃんとアジトで治療しないと。
ナーザならば待っても無駄だな。後は貴様たちに任せる。我らは調査に赴かねばならない。
ナーザ――行くぞ。バルド、メルクリア。それにコーキスとディスト博士も。
バルド……このような状態のネヴァンを残して去らなければならないのは、身を裂かれる思いです。どうか彼女を……ネヴァンをお願いします。
コーキスネヴァンパイセンのこと絶対の絶対の絶対に、元気にしてやってくれよな。
ロイドああ、任せてくれ。
しいなコーキス、ちょっと待ちな。
コーキスえ、なんだ ?
しいなあんまり意地張らないほうがいいんじゃないのかい ?
コーキス意地って、何が ?
しいな余計なおせっかいかもしれないけどさ。もしもイクスたちに伝言があるなら引き受けるよ ?
コーキス…………いい。
しいなコーキス……。
コーキスごめん……。ありがとな、しいな様。

Character5話【7-4 ファンダリア領 森2】
ミリーナ……私……は…… ?
イクスミリーナ、目が覚めたか !
ミリーナイクス……、傍にいてくれたのね……。
マークってことは、こっちもそろそろか ?
カーリャただいま戻りましたっ !
マークよう、ちっこいパイセン。お疲れ様。鏡精の底力、見せてもらったぜ。
カーリャこのくらい当然ですよ。
コレットカーリャ ! 無事でよかったよぉ。
カーリャコレットさま、来てくれたんですね。さっきはありがとうございました。
コレットううん、お礼なんていいよ。私こそ途中で落としちゃってごめんなさい。凄いスピード出しながら放りだしちゃって……。
カーリャいいえ、あれはカーリャがコレットさまを無理に急がせてしまったからです。
マークそれで飛べるはずの鏡精が真っ逆さまか。
カーリャそういうこともあるんですよ ! マークだって幼体のまま全速力のコレットさまに運んでもらえばわかります !
フィリップどうやらカーリャの方は問題なさそうだね。ミリーナ、異常はないかい ?
ミリーナ……ええ、大丈夫。あの、フィル、私……。
フィリップミリーナ、『その記憶』はゲフィオンのものだ。
ミリーナ…………。
フィリップ勝手に作られてしまった『今のミリーナ』が体験したことじゃない。決して取り込まれてはいけないよ。
ミリーナ……努力します。
フィリップそれと、ネヴァンのこともだ。今は目の前のことに対処しないといけない。わかるね ?
ミリーナええ……。
フィリップ……まあ、その、僕も色々と恥ずかしかったりみっともなかったり、情けないことを言ったから正直……かなり居心地が悪いんだけれど……。
マーク……なんだ。また恥の上塗りをしたのか?
イクス恥ずかしくなんてないって、俺は思います。
フィリップそう言われると余計に……。
イクスわ……そ、そうですか、すみません !
イクスえ、えっと……ミリーナ、少し休んでくれ。まだ混乱してるだろう?
ミリーナいいえ、大丈夫よ。戦況はどうなっているの ?
イクス陽動部隊は救世軍の力を借りて立て直し中だ。それと、パティの心核を手に入れたからユーリさんに渡さないといけない。
フィリップそのことだけど、休眠中だったパティの心核を目覚めさせておいたよ。ほら、これだ。
イクスあ、ありがとうございます、フィルさん !さすが、仕事が早いですね。じゃあ、俺、ユーリさんに連絡してみます。
イクス…………あれ ?通信が届いていないのかな。反応しない。
ミリーナ出られないのかも。通信文だけでも送っておいたらどうかしら ?
イクスそうだな。ええと、到着までの時間も考えないと……。
コレット私、先にユーリたちのところへ行ってみるよ。飛んでいった方が断然早いでしょ ?
イクス助かるよ ! パティのことは一刻を争うんだ。
イクスミリーナとカーリャも、コレットと一緒に行ってくれ。心核を扱うから鏡士が必要だ。俺も後から追いかける。
ミリーナええ、わかったわ。コレット、よろしくね。
コレットうん。頑張ればイクスも一緒に運べるけど今はスピード重視だもんね。
ミリーナところでユーリさんたちの居場所はわかっているの ?
イクスああ。ジュードたちの情報で目安はついている。そこから先は、魔鏡通信が繋がるチームと連絡を取りながら行動しよう。
コレットわかった。ミリーナ、カーリャ、行こう。
イクス気を付けてな !
イクスええと、後は――
フィリップイクス、きみも今すぐに発つといい。砦のほうは僕たちで持たせておくよ。
マークってことだ。さっさと片付けて来いよ。
イクス……フィルさん、マーク、ありがとう。俺、二人がいてくれて本当によかったって思ってる。
イクス――じゃあ、行ってきます。
フィリップ……僕がいてよかったって。
マークそう思ってる奴は他にもたくさんいるんだぜ ?いい加減、気づけっての。
カイルあっ、あそこだ !
リアライレーヌ、あんな所に隠れていたのね。
ナナリーったくなんなんだい !もうずっと逃げちゃ隠れ、逃げちゃ隠れ……。子供の遊びじゃあるまいし。
ロニおい、イレーヌさんよ !もういい加減に観念しろって !
ジューダスそう言われて諦める馬鹿はいない。
ロニうるせー、わかって言ってんだって !
ジューダス美女を追いかけるのは役得だとか言ってたがさすがのお前でも我慢の限界か。
ハロルドけど、おかげでだいたい読めたわ。あいつの目的はこの先にある帝国軍の基地よ。
ハロルドあちこち隠れながらだけど確実にある場所へ近づいているから。
ジューダスそこが帝国軍の基地というわけか。
ハロルドそういうこと。領主の館が襲撃を受けた今この辺りじゃ一番守りが固くて兵が多いはず。逃げ込むには妥当でしょ。
ハロルドでも、それだけじゃ腑に落ちないことがあるのよね。
エルレインイレーヌ、やはり基地に向かっていたか。
イレーヌβ――エルレイン様。
カイルエルレイン ! ?
エルレイン…………。
リアラエルレイン、何故あなたがここに !
エルレインイレーヌ、デミトリアスはどこか。
ロニ無視かよ……なめやがって。
イレーヌβデミトリアス陛下であればアスガルド城でしょう。向かわれますか ?
エルレインええ。今すぐに。
イレーヌβ承知しました。
ハロルド転送魔法陣…… !そんなものが使えるなら、なんで今まで――
ナナリーあいつ、逃げちまうよ !
ロニ逃がすか !
カイルオレたちも――うわっ !
ジューダス魔法陣が消えた ! ?おい、もう一度展開できないのか !
ハロルドこれは無理ね。痕跡がまったくないもの。ということは……そもそもエルレインだけを……そうするために準備していた……?
リアラねぇ、エルレインはデミトリアスの所に行こうとしていたわよね。
ジューダスああ。このままだと、ロニとナナリーは二人だけで敵地の只中に放り出されてしまう。
カイルロニ、ナナリー…… !

Character6話【7-5 アスガルド城1】
イレーヌβそれではエルレイン様私は謁見の申し入れをして参ります。
エルレイン必要ない。デミトリアスは何処か。
イレーヌβ今時分であれば謁見の間かと。
エルレインでは直接赴く。行くぞ。
イレーヌβ承知しました。
イレーヌβ――………… ?
エルレインどうした。
イレーヌβ転送魔法陣がまだ閉じない……。申し訳ありません、どうやら賊が侵入したようです。
エルレイン構うな、捨て置け。
ロニここは…… ?――って、今の後ろ姿、エルレインだ !
ナナリーカイルたちは来られなかったみたいだね。転送魔法陣は消えちまったし……。あんたと二人だけか。
ロニなんだよ、不満か ?
ナナリーいいや、頼りにしてるよ。
ロニお ! ? ……おお。イレーヌを捕まえるのは難しくなっちまったができるだけ情報収集はしておこうぜ。
エルレインデミトリアスはいるか !
帝国兵エルレイン様 ! ? どうかお待ちを――
デミトリアス……エルレインか。
帝国兵申し訳ありません。お止めしたのですが。
デミトリアスいや、いい。彼女とはゆっくり話がしたい。謁見の間の周囲の人払いを。警備兵も今だけは下がらせておけ。
帝国兵はっ。
デミトリアス――さて、随分と急な訪問だ。良い報告だと嬉しいのだがね。
エルレインよくもぬけぬけと。貴様、フォルトゥナ神を具現化する気など最初からなかったのだろう。
デミトリアスそんなことはない。ただ、この世界ではどう足掻いても異世界の神はエンコードで矮小化してしまう。
デミトリアスそれは、きみの力が酷く弱まっていることで身をもって実感しているはずだ。弱体化した神など望んではいないだろう ?
エルレインその話と、貴様たちがフォルトゥナ神の降臨を騙ったことに何の関係がある。
デミトリアス大いにある。私たちは、まずこの世界の神と呼ばれる存在を引きずり出し、神という概念を書き変えるしかないと考えたのだ。
デミトリアスそうすれば、異世界の神も具現化できるようになるかもしれない。
デミトリアスその時こそ、真のフォルトゥナ神の降臨となるだろう。きみの望む救済はそこから始まる。奇跡の力が、人々に救いをもたらすんだ。
エルレイン全てを消滅させた後で神を具現化したとしてそれが救済と言えるのか ?
デミトリアス……どこまで知っているのかね ?
エルレイン帝国が救うべき人々を見捨てこの世界を滅ぼそうとしていること。
エルレインすでに滅びた世界であるニーベルングを造ろうとしていること。
エルレインそして、皇帝を名乗るあなたが孤独で侘しく、誰よりも救われたいと願う弱い人間だということです。
デミトリアス…………。
グラスティン全てお見通しとは、さすが聖女様だ。しかも皇帝陛下をも憐れむ心をお持ちでいらっしゃる。
エルレイン……グラスティン。
グラスティンそんな聡明なお方が、俺たちの目を盗んであっちこっち嗅ぎまわっていたらしいなぁ。犬のように。
エルレイン犬を使って私を探っていたのは貴様であろう。
グラスティンヒヒヒッ。聖女様の頭が固すぎるからだよ。人々の救済とやらに執着しすぎだ。
グラスティン世界を消滅させた後だって救済はできるだろう ?新たに救済するべき『人』を作ればいいんだからな。
エルレイン貴様……、本気で言っているのか。
グラスティンお気に召さないか? それじゃあ仕方がないなあ。聖女様には最後の役割を務めてもらおう。
エルレインこれは…… ! ?
グラスティン【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。
エルレイングラスティ――
グラスティン聖女様出棺だあ。よくやったな、イレーヌ。
イレーヌβありがとうございます。
デミトリアスイレーヌはよく働いているようだね。
グラスティンああ。聖女様は、俺がサレを使っていることに気を取られていたから、従順なイレーヌが裏切るとは思わなかっただろうよ。
グラスティンおかげでこの魔鏡陣にも気づかれずに誘導することができた。ヒヒヒッ。
デミトリアスそう、だな……。
グラスティンおーい、あの女の言うことを真に受けるなよお ?
デミトリアスわかっている。わかってはいるが彼女の望みを叶えて上げられなかったことが悲しいのだ。
グラスティンヒヒヒ、お前は本当に面白いなあ……。目に入る範囲の全てに同情し手の届く範囲全てに手を差し伸べる。
グラスティンそうして、結局は手に負えなくなって手放すんだ。『誰かいい人に拾われてね』ってな。最高の絶望演出家さあ !
デミトリアス…………っ !
帝国兵伝令グラスティン様 ! 至急お戻りください。
グラスティンあ ? 何が起きた。
帝国兵伝令それは……来ていただいた方がよいかと思います。グラスティン様の私的な件でもありますので。
グラスティン……なるほど。ちょっとヤボ用が出来た。今から出てくる。
デミトリアスわかった……。後は引き受けるよ。
グラスティンそうそう、外に出るついでに『レプリカの心核』も回収しておかなきゃな。イレーヌ、お前も来い。
イレーヌβはい。グラスティン様。
ロニおい……、俺たち、ヤバイもの見ちまったんじゃねえか ?
ナナリー嘘だろ、あのエルレインが……。
ロニあいつら、奇跡の力がどうとか言ってたよな。エルレインはそのために嵌められたのか ?
ナナリーあっ、グラスティンとイレーヌが行っちまうよ !
ロニ考える時間もないってか。くそっ、追うぞ !

Character7話【7-6 アジト】
リフィル浮遊島全域で、魔鏡通信の復活を確認したわ。
リフィル外部との通信が安定するにはもう少しかかるでしょうけどこの分ならほぼ問題なく繋がる筈よ。
ジェイド根本的な原因が解消されたのでしょう。これでようやく地上に降りているチームに連絡が取れる。
リフィルあら、言っている間に連絡が来たみたい。――カイル、そちらは無事 ?
カイルリフィル先生 ! ロニとナナリーが大変なんだ !
リフィルでは、二人はアスガルド城にいる可能性が高いのね。
カイルうん。オレたちも助けに行きたいけどここからじゃ遠すぎるんだ。
リフィルわかっています。彼らの救出はスタンたちのチームに動いてもらうわ。
ジェイドそれと、ケリュケイオンにも連絡を。ローエンがいれば何かしらの際に対処してくれるでしょう。カイルたちも、それでいいですね ?
カイル了解。それとスタンさんたちに伝えて欲しいんだ。ロニとナナリーを頼みますって。
リアラ良かった……。少しだけ安心したわ。
カイルでもさ、オレたちが魔法陣に飛び込むのがもう少し早ければこんなことにはならなかったのにって思うと……。
ハロルドいいえ、行かなくて正解かも。イレーヌは転送魔法陣を使っていたけど自分が逃げる時には使わなかったでしょ。
ハロルド普通の転送魔法陣より消えるのも早かったし痕跡も残らなかった。なんか不自然なのよねぇ。
ジューダス確かに。むしろエルレインが来なければ使う予定さえなかったようにも思えるな。
リアラ……まさか、エルレインは……。
ハロルドま、今考えても出ない答えは後回ししましょ。それで、これからどうする気 ?
カイルイクスたちに合流しようと思ってる。
ジューダス――待て。……誰かいる。
カイルあれは、ディムロスさんだ !
ディムロス……………………。
カイルえ ? 何かのサイン ?
ハロルドそのまま静かに、この先の茂みに身を隠せって。行くわよ。
ディムロス驚かせてすまない。あの辺りは帝国兵が頻繁に現れるからな。
カイルどうしてディムロスさんがここにいるんですか ?
ディムロスそうか、きみたちはイクスくんと別行動だったな。どこまで把握している ?
カイルついさっき、ジェイドさんたちから聞いて大まかな動きだけは知っています。
カイルけど、さっきまで魔鏡通信が使えなかったから少し前の情報ばかりなので詳しいことは調査中だそうです。
ハロルドちなみに今は通信可能よ。まだ不安定だけどね。で、そっちは ?
ディムロスファンダリア領の研究施設に魔核が大量に運び込まれたとの情報を得てイクスくんたちと協力しつつ回収作戦に当たっていた。
ディムロスだが、魔核の保管場所を移されてしまってな。ちょうど輸送中の敵と鉢合わせして戦ったんだが転送魔法陣で逃げられた。
ハロルドで、後を追っかけて魔法陣に飛び込んだわけ ?
ディムロスああ。転送先は帝国の基地だった。さすがに身を隠さざるを得ず輸送していた者たちを見失ってしまった。
カイルだったら捕まえましょう !どんな奴らだったんですか ?
ディムロスカイルくんたちと同じくらいの少年と少女だ。少女の方は魔物使いで、アリエッタと呼ばれていたな。
ハロルドアリエッタ……。ふうん……そう。
ジューダスそれで、基地を脱出して今に至るというわけか。
ディムロスそんなところだ。だが、魔核の行方は突き止めた。【魔導砲】に使用するために運ばれているらしい。今も基地から魔導砲への輸送隊が送り出されている。
ハロルドちょっ、魔導砲 ! ?
ディムロスあまり大きな声を出すな。今も言ったが、輸送隊と護衛の兵がこの辺にも――
ハロルド出さずにいらんないって ! キール研究室ではね魔導砲は虚無を破壊する装置じゃないかって推測されてるんだから。
カイル虚無を破壊っていうと……。
リアラ虚無はティル・ナ・ノーグを取り巻く空間よ。死の砂嵐……カレイドスコープで消えた人々の魂はそこに捕らえられて苦しんでいるわ。
カイルそうそう、それ !それを壊せるなら、いいことなんじゃないの ?
ハロルドバカね。もしも虚無が消えたらティル・ナ・ノーグそのものが消滅するわよ。
カイルええっ ! ?
ハロルド帝国の目的が、ティル・ナ・ノーグの破壊とニーベルングの復活ならもう計画は最終段階ってことね。
ジューダスだとすれば、アリエッタたちを追うよりも魔核の輸送隊を追った方がいいだろう。
ディムロスああ。魔導砲の稼働を止めねばならん。
その頃、魔核の輸送隊とともに魔導砲へと向かっていたパティは――
? ? ?タイダルウェーブ !
帝国兵たちうわああっ !
輸送隊隊員A弓兵だ !
輸送隊隊員Bくそっ、足を……。動けな……。
帝国兵待ち伏せされたか ! ?狙われているぞ ! 少女を渡すな !
パティ…………。
帝国兵いったいどこ……から……。……………………。
パティ…………。
ユーリさっきの奴が最後の護衛ってとこか。
レイヴン取り巻きは全部片付けたわよ。
ユーリ――パティ、今度こそ迎えに来たぜ。
パティ! !
デュークあの娘、戦う気だぞ。
ユーリやっぱそうなるか。仕方ねぇ。パティ、悪いがちょっと痛いぜ !

Character8話【7-7 ファンダリア領 森3】
ユーリふぅ……やっと大人しくなってくれたな。
レイヴン結構きつかったわ……。おっさんヘトヘト。
カロルボクも……。リタ、パティにはそんなに力が残ってないって言ってたのに……。
リタそれだけ【鏡の精霊】としての力が強いってこと。
ジュディス手加減しながら戦っていたのも原因じゃないかしら ?パティに大きな怪我はさせられないものね。
カロルジュディス……手加減してた ?
ジュディスふふふ。それなりに。
エステルあとはイクスたちが来てくれればパティも元通りですね !
フレンその筈ですが……、まだ姿は見えないようです。
カロル今はジュードたちが手分けして監視してくれてるけどここには長く居ないほうがいいよね ?
ユーリああ。だが、ギリギリまで待ってみようぜ。イクスたちを信じてな。
コレットミリーナ、ユーリたち、あそこにいるよ。
ミリーナみんな、待たせてごめんなさい !
全員ミリーナ !
カロルコレットに送ってもらってきたんだね。イクスは ?
ミリーナ後から追いかけてくる筈よ。パティの心核を持ってきたからすぐに交換しましょう。
エステルどうです ? 上手くいったでしょうか。
ミリーナええ、交換終了よ。パティの心核はちゃんと戻したから、安心して。
エステルありがとうございます !
ミリーナもう少し遅かったらパティの肉体も作り替えられていたかもしれない。ギリギリだったわ。
リタそう、急いでよかった……。
ミリーナそれとこれが、今までパティに入っていた疑似心核――聖核よ。
デュークこれが我が友だと…… ?
ミリーナこんな状態、私も初めて見たわ。キメラ結合でこうなってしまっているのね。
ユーリくそっ、サレの言った通りかよ。
エステルミリーナ、この聖核はデュークにとって掛け替えのない大事な友人なんです。何とかなりませんか ?
ミリーナ大事な友人……。あの……デュークさん。あなたのご友人をお預かりしてもいいでしょうか。
デューク元に戻せるのか ?
ミリーナ……かなり複雑な結合状態ですが、私たちの拠点で結合を解くことができないか確認してみます。
ミリーナもちろん、デュークさんも一緒にアジトへ来て頂いて構いません。
デューク……拠点とやらまでは、私が我が友を運ぶ。
スレイお前は !
カロル今の声、スレイだ !
ユーリ行くぞ、襲撃かもしれねえ。
フレンミリーナはパティを見ていてくれ。
ユーリおい、いったい何が――
全員! !
グラスティンほう ! お前いいな、最高だ !長さといい艶といい……ヒヒッ、ヒヒヒッ !
ラピードグルルルルゥ…… ! ワンワンワン !
ユーリ……死んだんじゃねえのかよ。
カロルニ、ニセモノとか…… ?
リタあのキモい反応、間違いなく本物よ。
スレイ突然現れたんだ。まさか生きてたなんて。
ザビーダんなわけねえ。あの時は呼吸だって止まってたぜ。
ユーリあの時……。そうか、その後、死体がどうなったか確認しちゃいなかったな。
ユーリてめえのレプリカでも作ったか。グラスティン。
スレイレプリカ ! ?
ユーリお前らもリーガルの一件、聞いてるだろ。
ライラこの世界で作られたレプリカは、不完全でも被験者の記憶を共有できる可能性がある――でしたよね。
リタそう。ロイドたちの話では、レプリカの心核が崩壊したのと一緒に、身体も消えたらしいけど。もし、こいつの死体に心核が残っていたら ?
エドナ死体は残る……。じゃああの時死んだのはレプリカというわけね。
グラスティンヒヒッ。さて、どうだろうなぁ。
フレンどちらにしろ、お前にパティは渡さない。その悪趣味な黒髪狩りも止める。
グラスティン心配しなくても、あの聖核はもう用済みだ。娘ごと、そのまま返してやるよ。
グラスティンそこの黒髪は……本当なら意地でも手に入れて持ち帰るところだがな。惜しいが今だけは見逃してやる。
ユーリそりゃどうも。で、てめぇの目的はなんだ。
グラスティン聖核もお前も見逃してやる代わりにサレの行方を話せ。
ユーリ…………なんのことだよ。
グラスティンとぼけなくていい。この森に来た筈だ。銀髪の男が追っていたと、目撃情報がある。
デューク…………。
グラスティンやはり戦ったんだな ? その後、どこに行った。
ユーリだから知んねえって。
グラスティンふん……どちらにしろ役立たずか。いっそお前らが息の根を止めてくれればよかったのによぉ……。
グラスティンまあいい。サレがいないなら、ここに用はない。また会おうぜ、ヒヒヒッ。
ミクリオ転送魔法陣か。どうりで突然現れたように見えたわけだ。
ユーリみんな、周辺の警備に行ってる奴らにも連絡して集まってくれ。今後について話がある。
ミリーナそう。パティを連れてケリュケイオンへ行くのね。
ユーリああ、心核の交換は済んでるがしばらく目は覚めないだろ。安全な所で休ませる。
ユリウス今なら魔鏡通信も繋がっているようだ。ケリュケイオンに連絡をとってみよう。
カロルよし、全員で撤退準備だね。
ユーリいや、オレは残る。気になることがあるんでな。
フレンまた君は……。何を調べる気だい。
ユーリあいつが言ってただろ。「聖核は用済み」って。パティのことも気にかけちゃいなかった。
ユーリ自分のレプリカ使ってまで【鏡の精霊】を作る準備をしてたんだぜ ?なのに、全く執着がねえってのもおかしな話だ。
ユーリで、思ったんだけどよすでに【鏡の精霊】を手に入れていたとしたらどうだ ?レプリカで。
スレイ【鏡の精霊】のレプリカ ! ?
フレン突拍子もないな。それを確かめるために残るっていうのか。
ユーリ他にもあるぜ。あいつのレプリカが死んだ理由と意味がわからねえ。
レイヴン死の意味ねぇ……。何にしろ、パティちゃんを回収して「はい解決」ってわけじゃないのは確かだけどさ。
スレイう~ん……。ユーリ、その調査オレたちが引き受けるのはどうかな。
ユーリお前らが ?聞いた通り、これは全部オレの推測だ。空振りかもしんねえぞ。
スレイうん。でもさ、やっぱりユーリたちはみんなでパティの側にいた方がいいと思う。
ミリーナそうね。だってユーリさんたちはパティを救いに来たんでしょう ?
ミリーナだったら、聖核もパティもユーリさんたちみんなも無事に帰還することでようやく救出作戦のゴールだと思うの。
ユーリ……なるほどな。オレの仕事は中途半端ってわけか。
ミリーナそういうわけじゃないわ。でも……。
フレンいや、スレイやミリーナの言う通りだよ。一本取られたね、ユーリ。
ユーリああ、確かにこいつはオレの負けだ。スレイ、後は頼んだぜ。
スレイああ、任せてくれ。――それじゃみんなオレたちは帝国の基地へ調査に行ってくる。
ユーリデューク、あんたにも一緒に来てもらうぜ。
デューク……やむを得ぬ。
ユリウスではジュードたちにも一緒にケリュケイオンへ移動してもらおう。パティには医療の力が必要だろう。
ジュードうん、そうだね。それに救世軍側も戦力不足だろうし調査班は最小限にした方がいいかもしれない。
ルドガーそうか……。あっちも人手が足りない様子だったな。とはいえ、スレイたちだけを残すのも心配だが……。
ミリーナだったら私がスレイさんたちと一緒に行くわ。イクスがこっちに向かっているし連絡して、基地で合流しようと思うの。
コレット私もミリーナたちと一緒に行くよ。きっと役に立てると思うから。
セネル俺とシャーリィはケリュケイオンに戻る。グラスティンがうろついてるとなると、シャーリィに何か悪影響があるかも知れないからな。
シャーリィお兄ちゃん。わたしなら、大丈夫。【鏡の精霊】のことを調べるならわたしも役に立てるかも――
ミクリオいや、セネルの判断が正しい。シャーリィ、僕たちを信じてくれ。
シャーリィ……そうですね。わかりました。皆さん、気を付けて下さいね。

Character9話【7-9 アスガルド城2】
ウッドロウさすが帝国の本拠地、アスガルド城だ。警備が固いな。
スタンやべっ、あんなところにも兵士がいる。一瞬、目が合ったかと思ったぜ。
リオン気をつけろ ! 見つかっていないだろうな。
スタンああ、大丈夫 ! ……だと思うぜ、多分。
ルーティそれより、デクスはまだなの ?
フィリアジェイドさんが連絡をつけてくれている筈ですがこの警戒網の中です。自由がきかないのかもしれません。
帝国兵おい、そこの !
スタンまずい ! さっきの帝国兵だ !
デクスオレだ、愛の使者デクス !さっきスタンの顔が見えてな、探す手間が省けたぜ。
ルーティあんた、やっぱり見つかってたんじゃない !
スタンけ、結果オーライだって。な ?
デクス時間がないから聞け。ロニたちはグラスティンに捕まったぜ。二人は今から別の城に運ばれる。
帝国兵おい、そこ、誰かいるのか !
デクス――くそっ !もう少しで裏門の方から馬車が出る。二台目を襲え。いいな !
フィリアあ、慌ただしいですね……。
ウッドロウ私たちもここを離れよう !
スタンは、はい !
リオンこの辺りなら大丈夫だろう。城の裏門も見える。
スタンよし ! 今のうちにアジトへ連絡を入れておこう。
スタンスタンです。デクスに会えました。
リフィルそう、良かったわ。それでロニたちは大丈夫 ?
スタンそれが……二人はグラスティンに捕まったそうです。別の城へ運ばれるのでこれから救出作戦に入ります。
リフィルわかったわ。みんな、気を付けてね。
クレアリフィルさん ! さっきの観測データに間違いはありません。
マリアンこちらもです。やはり異常値を示しています !
リオンマリアン…… ?おい、後ろが騒がしいようだが、何があった。
リフィル耳聡いわね。実はファンダリア領で、また新たに正体不明の精霊の力を観測したの。しかも精霊の力が凝縮した、とてつもない力よ。
リオン計器は直っていた筈だな。発生源はどこだ。
リフィルイクスや救世軍が戦闘をしている辺りね。
ルーティスタン、裏門の様子が変よ。兵士が集まって来てる。
スタンわかった。――リフィルさん、また後で連絡します !
フィリアファンダリア領で何が起きているのでしょう……。
スタンイクスたち、大丈夫かな。
ウッドロウ心配は尽きないが、今の我々にできるのはロニ君とナナリー君の救出だけだ。
ルーティそうよ。カイルたちに言われたでしょ。二人を頼むって。
スタンそうだな。まずは俺のやるべきことをやる !
リオンおい、馬車が出てきたぞ。一台……二台目 ! あれだ !
スタン行こう ! 待ってろよ、ロニ、ナナリー !
グラスティン【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。
カイルペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! !
エルレイン(またか……。もう何十回、いや、何百回、この言葉を聞いただろう)
リアラエルレイン ! あなたはまちがっているわ !こんなやり方で、人々は救えはしない !
エルレイン(私は、フォルトゥナから生まれ【クロノスの檻】に落とされるこの生を何百――いや何千回繰り返したのか……)
エルレイン(上も下もなく、永劫人生の記憶を見せられる。これが……【クロノスの檻】……)
リアラいいえ、わたしは信じているわ。人間の強さを……カイルたちを !
エルレイン(本当にそうだろうか)
? ? ?ううっ、痛い……苦しい……。なんでこんな目に……。
? ? ?辛いんだ……助けてくれ……。もう楽にしてくれ……。
? ? ?憎い……羨ましい……妬ましい……。アニマを……アニマをよこせぇえええっ !
エルレイン(いや、リアラが思うほど、人間は強くない。その証拠に、この場に漂う人々の残滓はいまだ救われぬまま悲鳴を上げているではないか)
エルレイン(そうか……。ここは……虚無、なのか ?)
ジューダス……なぜ ? …………フッ、貴様は……やはりなにも……わかっていない。
グラスティン【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。
カイルペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! !
エルレイン(ああ、まただ。同じようにまたペンダントを……)
エルレイン(ペンダント……。精霊クロノスの力が私のペンダントに反応して暴走している……。グラスティン、お前は一体、何が目的で……)
ハロルド明らかに論理が破たんしてるわね。救うために破壊する ?そんなことはありえないわ。
デミトリアスティル・ナ・ノーグがニーベルングと同じ過ちを犯さぬように、あらゆる手を尽くす必要がある。それが非道であったとしても。
エルレイン(あの男の救済……。私の救済……。救済とはなんだ…… ?)
エルレイン案ずることはない。
エルレインお前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。
エルレインそして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。
エルレインいまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。
エルレイン(私は、元の世界であの者と同じことを……言うのか…… ?)
エルレイン(帝国の行いは愚かだ。だがそれはフォルトゥナを呼べぬ世界で破壊を選んだからだ。私は違う……私は……)
イクス神降ろしが失敗したのはわざとそうさせられたんじゃないでしょうか。
リアラいいえ……ふたりの聖女は神より生み出されしもの。いうなれば神の化身……神の存在が消滅するときわたしとエルレインもまた……。
エルレイン(リアラ……もう一人の聖女……)
ディムロス見ろ、あれが魔導砲だ。
カイルうわぁ、まるで塔みたいだ。
ハロルドズルい ! 私も作りたかったー !
リアラハロルドったら、そんなこと言ってる場合じゃ…………えっ…… ?
カイルどうしたの、リアラ。
リアラ今、エルレインの声が聞こえた気がして……。
ジューダス近くにいるのか ! ?
ディムロス警戒しろ。ここで邪魔をされるわけにはいかない !
クラトスお前たち ! 何故ここにいる。
カイルクラトスさん ! そっちこそなんで ?
クラトス魔導砲の情報を聞いて、周辺を探っていたのだ。
ハロルド丁度いいわ。その辺にエルレインいなかった ?他にも何か変わったこととか。
クラトスエルレインの姿は見ていない。だが、私の体内のマナがざわつくような妙な気配は感じている。
ハロルドマナか……。魔導砲と関係があるのかしら。他に何か魔導砲に関連することは ?
クラトス先ほど魔導砲に、魔核と【精霊石】なるものが届いたようだ。
ハロルド精霊石 ! ? 帝国はもう、そんなものまで作ってたのね。
クラトス知っているのか ?
ハロルド精霊石は、精霊を砲弾にしたものよ。
クラトス砲弾…… ! ユーリたちから魔導砲で精霊を撃ち出す計画があるとは聞いていたがそういうことだったか。
カイルどうしよう。魔導砲が使われたらティル・ナ・ノーグが滅ぶかもしれないんだろ ?
ハロルド多分、それはまだよ。実験もしないで本番だなんて、リスク高いでしょ ?あいつらもそこまで馬鹿じゃない筈よ。
ハロルドけど、そこまで準備が整っているなら実験する気満々でしょうね。街一つくらいは吹っ飛ぶわよ。
ジューダスならば実験を阻止すればいい。精霊石を奪えば、今回の計画は止められるだろう。
カイルなら決まりだね。魔導砲の砲台に向かおう !
クラトスよし、私もお前たちに協力する。魔導砲の内部へ案内しよう。

Character10話【7-11 ファンダリア領 研究施設】
ヴィクトルシャルティエ、ディムロスはここで戦っていたのか ?
シャルティエええ。間違いありません。どこに行ったんだろう……。まさか負けたわけじゃないよな。
ヴィクトルこれは…… !見ろ。転送魔法陣の跡だ。
シャルティエ敵はこれで逃げたのかもしれませんね。……ってことはまさか、ディムロスは追っていったのか ! ?
ヴィクトル単身でか。無茶をする。
シャルティエそうなんですよ、あの突撃兵。これじゃどこに行ったのかわからないじゃないか。
ヴィクトル……この転送魔法陣、かなり雑に閉じているな。敵も相当焦っていたか。これならば、もう一度くらい起動できるかもしれない。
シャルティエ本当ですか ! ? お願いします、ヴィクトルさん。
ヴィクトルやってみよう。もし起動したら、すぐに陣に飛び込め。
ヴィクトル成功だ、行くぞ !
シャルティエはい !
シャルティエここは……帝国軍の基地だ。
ヴィクトルこのままでは兵士に見つかる。一度、人気のない所へ隠れよう。
シャルティエこの辺りなら――
ミリーナこの辺りなら――
全員ええっ ! ?
ミリーナヴィクトルさんに、シャルティエさん ! ?ディムロスさんと研究施設に潜入中だったんじゃないんですか ?
シャルティエその筈だったんだけどね。ディムロスが敵と遭遇したあと転送魔法陣でここに来たようなんだ。
ヴィクトル我々はその後を追って来たんだ。君たちは何を ?
ミリーナここへは調査に来たんです。これからイクスと合流する予定なんですがまさかシャルティエさんたちと会うなんて。
シャルティエイクスくんと合流 ? 少し前と状況が違うな。そっちも複雑な経緯があるみたいだし今のうちに互いの情報の交換を――
ヴィクトルしっ、誰か来る。
帝国兵魔導砲の試射が始まるぞ !
帝国兵衝撃に備えろ !
全員魔導砲 ! ?
ルキウス ?いいね。ここならよく見えそうだ。
ロミー面白いものを見せるって、魔導砲の試射だったのね。
ルキウス ?試射とはいえ、島一つが消し飛ぶ威力だ。見ごたえがあると思うよ。
ロミーそれはさぞ爽快でしょうね。ふふふ……。
カイルはあ……はあ……ここが魔導砲の最上部 ! ?結構敵を倒してきたけど……。
ディムロスどうやらそのようだ !
クラトスまだ敵がいる。気を抜くなよ。
帝国兵――き、貴様ら、何者だ ! ?
リアラエアプレッシャー !
帝国兵ううっ ! !
リアラしばらく動けない筈よ。今のうちに !
ハロルドサンキュー !ええと、多分あそこがコントロールルームね。ん~、この感じ、わくわくするわ♪
ジューダスするな ! それで精霊石の場所はどこだ !
ハロルド砲弾として装填済みでしょうね。取り出すにはまず、発射停止命令を出さないと。
ハロルドなるほど。オートモードになってるのか。となると、解除には、ここが、これで……。
ハロルド……何これ、性格悪っ。
カイルどうしたの ?
ハロルド今回の試射実験、自動操縦での停止命令プログラム自体がないわ。開始したら最後、絶対に発射するようになってる。
ディムロスつまり、もう止める方法がないということか ?
リアラそんな……。やっとここまで来られたのに。
ハロルドさせないわよ。せめて出力を最低まで弱めて被害を抑えるわ。あいつらに一泡吹かせてやりましょ。
リアラハロルド……。
全員! !
カイルリアラのペンダントが光ってる !
? ? ?(リアラ……)
リアラ今のはエルレインの声……ペンダントから ?エルレイン、あなたなの ?
エルレインリアラ……。
リアラやっぱり。はっきり聞こえるわ !
カイルあっ、魔鏡通信が !
ジューダスこんな時に誰だ。間の悪い奴め。
ロニカイル ! ようやく繋がったぜ !
カイルロニ ! 良かった、無事だったんだね !
ロニああ、スタンさんたちのおかげで俺もナナリーもピンピンしてる。
ジューダスフッ、確かにお前らしい間の悪さだ。とりあえず無事ならそれでいい。こっちは立て込んでいるんだ。切るぞ。
ロニちょっ、待て待て ! リアラは無事か ! ?
カイルリアラ ? 無事だけど。なんで ?
ロニエルレインがグラスティンの罠に嵌められて魔鏡陣とかいうのに吸い込まれちまったんだ !
ロニもしかしたら、同じ力を持ってるリアラも狙われるんじゃねえかと思ってさ。
リアラエルレイン…… !
ハロルドその魔鏡陣について、他になんかわかんない ?
ロニええと確か【クロノスの檻】とか言ってたような……。
ハロルドクロノス、それだわ !だとしたらターゲットを変更で……。
ロニおい、そっちじゃ何が起こってんだよ !
カイルえっと、なんかわかんないけどすごい勢いでハロルドが機械をいじってる !
リアラハロルド、何をするつもりなの ?
ハロルドいいから、あんたはそのペンダントの声をしっかり捕まえてなさい。
ハロルドペンダントから探知できるエネルギーの発生元を特定魔導砲の威力と照射バランスを……。
ディムロスクロノスと魔導砲に何の関係があるんだ。
ハロルド多分、エルレインが吸い込まれたのは精霊クロノスを閉じ込めておくクレーメルケイジよ。
ハロルドそれをこの魔導砲でぶっ壊す。どうせこいつを止められないなら有効利用してやんなきゃね。
ハロルドリアラ、ペンダントにエルレインに強く呼び掛けて。
リアラええ。――エルレイン、わたしの声が聞こえる ?エルレイン ! !
リアラ……エル…………聞こえ…………。
エルレイン(また、繰り返すのか)
リアラエルレイン ! !
エルレイン(リアラ…… ? 違う……これは外界の声か…… ? )
カイルオレもみんなと同じ気持ちだ。だから、ここまで来られたんだ…… !
カイルオレたちは、神の救いなんか必要としていない !もう迷ったりはしない !オレたちの手でかならず、神を倒す !
エルレイン(これはなんだ…… ?これまでのような、私の生の繰り返しではない。私にこのような記憶はない)
エルレイン(もしや、リアラの記憶が流れ込んでいるのか ?)
エルレイン私……は…………人々を…………救う……ため……神の…………ち……から…………だけが…………それを…………可能にす……る……。
エルレイン(……私は……、カイルたちに負けた……のか ?まさか、そんな筈はない。神の救いはそんなものでは……)
リアラカイル ! レンズを砕いてッ !
エルレイン(……そうか……。リアラ、お前も自ら死を……)
エルレイン(だとすれば、これはリアラの記憶でもない。私もリアラも『生きて』いるのだから)
エルレイン(ならばこれは、あり得た未来の記憶。私のやり方では、人々の救済には至らぬと言うのか)
? ? ?愚かな……。
エルレイン…… ?
? ? ?あの世界同様、人は愚かな生き物だ。人の欲は歪んだ神すら生み出し、自らを否定し世界が滅びても自らだけは浅ましく生き残ろうとする。
? ? ?人など救うに値しない。
エルレイン愚かであろうと、人々は遍く救済されるべきもの。浅ましきは、もたらされる救いを拒む心です。
? ? ?……お前は……一体…… ?そうか……人の希望から生まれ出たモノ……。
ハロルド【クロノスの檻】発見 !
リアラエルレイン !
エルレインお前は……リアラ…… ?
リアラそうよ、エルレイン。ペンダントが導いてくれた。あなたを助けにきたの。
エルレイン……我が救済を否定したお前が、この私を救うと ?この世界では、フォルトゥナ神を呼ぶこともできぬと言うのに ?
リアラやっぱり異世界の神はここには呼べないのね。
エルレインそうだ……。具現化は徒労に終わった……。
リアラそれでも……わたしは手を伸ばせる限りあなたを救いたい。だってわたしたち、目指したものは一緒だもの。
リアラわたしも、あなたもただ人々を幸せにしたい……そうでしょう ?
エルレイン道は違えども、か。
エルレイン……そうだな。その一点においてならばお前の手を取るのも悪くはない。
リアラさあ、エルレイン。わたしの手を掴んで――

Character11話【7-12 セールンド 街中】
ロイドみんな、早く !
ジーニアス待ってよ、ロイド !ネヴァンを背負ってるくせに、一番早いんだから。
ロイド当たり前だろ。早く治してやらないと……あれ ?
エミルどうしたの ?
ロイドあの光、何だろう。すげえ眩しい。
マルタファンダリア領の方角だね。あっちで何かあったのかな。
エミルここはセールンドだよ ?ファンダリア領とは距離があるし相当強い光じゃなきゃ、見える筈ないと思うけど。
しいな気になるね。どこかで見覚えがあるような……。
しいなそうか ! 魔導砲を発射した時の光に似てるんだ !
ジーニアス魔導砲って、怖いこと言わないでよ。
ラタトスク妙だな。光から精霊のマナを……違うな、精霊そのものの気配を感じる。
しいな精霊 ! ?――ってことは、まさかあれは本当に魔導砲だってのかい ! ?
ラタトスクチッ、だとしたらここに撃って来るぞ。あの精霊の意識――光は、セールンドに向いている。
マルタなんでここが狙われるの ! ?
テネブラエわかりません。ですが、セールンドには虚無を封じるゲフィオンの人体万華鏡がありますね。それが狙いかもしれません。
ラタトスク時間がねえ ! あれが精霊なら……。
テネブラエ…………。
ラタトスクいや、何か他に……クソッ !
テネブラエいいえ、わかっている筈です。精霊には精霊をぶつけるしかないでしょう。私にお任せください。
ジーニアスそういえばボクたちの世界でも、相反する精霊の力をぶつけてエネルギーを中和させた !でもその方法だと……。
ロイドテネブラエ、自分をぶつける気か ! ?
テネブラエご心配なく、センチュリオンは死にません。あの程度の光など私の闇で塗りつぶして見せますよ。何しろ闇属性は不死身ですから。
ラタトスクふざけるな ! この世界ではセンチュリオンも精霊に組み込まれてるんだぞ。元の世界とは違う。しかも本家本元の精霊より弱いんだ。
ラタトスク精霊同士なら対消滅したところでエネルギーさえ十分なら死ぬことはないが精霊に格上げされたお前が助かるかは保証が――
テネブラエでは、他に皆さんを救う方法でも ?
ラタトスクだったら俺が行く !
プレセア光が……来ます !
テネブラエラタトスク様。また後程。
ロイドおい、テネブ――
? ? ?(――待て)
ロイド頭の中に声が…… ? 誰だ ! ?
ラタトスクテネブラエ――ッ ! !
テネブラエっ ! これは一体…… ?
ロイド魔導砲が……消えた…… ?
ファンダリア領 帝国軍基地
イクスよし、潜入成功。ミリーナに連絡だ。
帝国兵Aああああっ ! 体が……消え…… !
イクスなんだ ! ?
帝国兵B早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… !
帝国兵Cこれはいったい……何が起きた !
帝国兵D基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです !
イクス(消滅 ! ?ミリーナの無事を確認しないと――)
イクス(――いや、あの雹を止めるのが先だ。俺にできることは……そうだ ! 魔鏡結晶を作って屋根代わりにこの辺りを覆えば――)
イクス慎重にいけよ……また石の中に入るのはごめんだからな……。
イクススタックオーバーレイ ! !
イクスはぁ、はぁ……。この基地一帯は魔鏡結晶で包めた筈だ。雹は……よし、防げているみたいだな。
イクスあれ、通信文が届いてる…… ?
こちらはディムロス。魔鏡通信が繋がらない。通信文だけでも届いていることを願う。
イクス魔核を確保……、作戦完了か !良かった、ディムロスさんの方は上手くいったんだ。
イクス(通信文が来たのはたった今だ。ってことは、魔鏡通信が繋がらないのは俺がスタックオーバーレイで魔鏡結晶を作ったせいか)
イクス……でも、この雹が止まるまでは魔鏡結晶のドームを維持するしかない。
一方、アスガルド帝国では――
ウッドロウ追っ手の兵は片付けたぞ !
フィリアこちらもです !
スタンよし、このまま残りの敵を倒しつつ撤退しよう !
ロニはい……。
ナナリーなんだい、カイルたちのこと気にしてんのかい ?
ロニあっちも大変なことが起きてるみたいなんだよ。そんなんで突然通信が切れたら気になるだろうが !
ルーティ景気の悪い顔してんじゃないの。カイルたちならきっと大丈夫 !
ロニ……はい、そうですね !
ナナリー……今度は打って変わって、随分と素直じゃないか。
リオンおい、無駄口よりも目の前の敵を叩け !
フィリア待ってください、敵が撤退しています !
? ? ?引け ! こちらの被害が増すだけだ。
ウッドロウどうやら我々のことは諦めたようだな。冷静な指揮官のようだ。
全員! !
スタンあの指揮官って……イレーヌさん ! ?――待ってくれ、イレーヌさん !
リオンおい、スタン ! あいつを追う気か !
スタン当たり前だろう !
ルーティ何言ってんの !今は安全に逃げられる絶好のチャンスなのよ !あたしたちの目的は何 ! ?
スタン……っ ! !そう……だよな。ごめんルーティ。ロニ、ナナリー。悪かったよ。早くここを離脱しよう。
ロニスタンさん……すまねえ……。
ローエンお帰りなさいませ、フィリップさん、マークさん。
フィリップローエンさんの采配のおかげで陽動部隊の立て直しもできた。さすがの手腕だよ。
マークローエンが派遣してくれた手勢で砦の辺りの戦闘もなんとか収まったしな。
マークあのままずっとあそこで戦ってたら命がいくつあっても足りないところだった。
ローエン枯れたジジイがお役に立って何よりです。今の帝国軍は浮足立っています。このままであれば、無事に撤退できるでしょう。
マークけど、また魔鏡通信が使えなくなっちまってるよな。今撤退に持ち込んで大丈夫か ?
ローエンええ。ケリュケイオンの計器類は無事ですし通信文も送信可能です。
フィリップでは、作戦参加者全員に通信文で撤退命令とケリュケイオンの着地点を送信しよう。彼らを回収したら作戦終了だ。
ローエン承知しました。
マークなあフィル、魔鏡通信の障害ってことはミリーナに何かあったんじゃねえのか ?
フィリップいや、今の魔鏡通信の障害はイクスの力だ。ただしミリーナのような暴走ではなくちゃんと制御しているみたいだね。
フィリップでも、それだけの力を使わなければいけない事態ならイクスのことが心配だな……。
マーク……やれやれ、わかったよ。俺が行ってくるからフィルはここで指示を頼む。
フィリップ……ごめん。ありがとう、マーク。イクスの魔鏡術を感知したのは帝国軍の基地だ。頼んだよ。
マーク了解。お前も、薬飲んどけよ。さっき発作が出てたろ ?
フィリップ……上手く誤魔化したつもりだったのにばれてたのか。
マークまた無茶して力を使ったからな。しばらくは絶対安静だぞ。
ローエン私が見張っておきますよ。
マークこいつは頼もしいぜ。それと力が有り余ってる奴らを連れて行くぞ。構わないよな ?
フィリップ力ということはバルバトスか。大丈夫かい ?
マークああ。色んな意味で骨は折れるだろうが強さで言ったらダントツだしな。
フィリップさすがマーク。彼らとも上手くやってくれて感謝してるよ。
マーク俺だって、あいつを連れて戦うたびに緊張するんだぜ ?バルバトスの手綱を握れる奴がいたら即スカウトしたいよ……。

Character12話【7-13 ファンダリア領 帝国軍基地1】
ミリーナ今放たれた光が魔導砲だったのかしら…… ?
ヴィクトル方角的にはセールンドを目指しているようだった。
スレイセールンドには確かロイドたちがいるんだよね ! ?
コレット……ロイド ! ? ロイド ! ? 聞こえる ! ?
ロイド――コレットか ! ?
コレットロイド ! ? 今、そっちに魔導砲が――
ロイドああ、それなら大丈夫だ !
テネブラエせっかく私が魔導砲を無効化して闇の力の神髄をご覧に入れようとしたのですが突然消えてしまったのですよ。
ミリーナそれじゃあ、そちらはみんな無事なのね ?
ロイドああ、それで――
帝国兵Aああああっ ! 体が……消え…… !
帝国兵B早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… !
帝国兵Cこれはいったい……何が起きた !
帝国兵D基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです !
ライラ帝国兵の声ですわ。それに……雹…… ?
ザビーダ上だ ! 何か降って来やがったが……あれは雹なんかじゃねえぞ ! ?精霊の力の塊だ !
シャルティエ見て下さい ! その雹だか何だかが落ちたところ !そこにあったものが『消えて』いってますよ ! ?
ヴィクトルこれは……この力は『奴』の…… !
帝国伝令兵くっ、消えてしまう前にこのサンプルを運び出さねば……。
帝国伝令兵……ん ! ? お前たちは――
ヴィクトル――避けろ ! クロノスの力がこちらに来る !
帝国伝令兵いてぇっ ! ? し、しまった、雹が…… ! ?わ、わああああああ ! ?足が……腕が……ああっ ! ?
ライラそんな……。消えてしまいましたわ……。
ヴィクトルこれは……消えた兵士が持っていた箱、か。
シャルティエヴィクトルさん ! ?箱なんて拾って、何ぼーっとしてるんです ! ?危ないですよ !
ザビーダちぃっ ! 俺が風であの妙なブツを吹き飛ばす !ミクリオ !
ミクリオそれを水で押し流せばいいんだろう ! 任せろ !
エドナ大地を揺り起こして盾にするわ。どこまで持つかわからないけれど、無いよりマシな筈よ。みんな、来なさい。
ヴィクトル……スレイ君。これは、君たちが探していたもののようだ。持っておくといい。
スレイえ ? この箱は――
ヴィクトル消えてしまった兵士が持っていた物だ。おそらく、鏡の精霊の心核だろう。
スレイ! !
ロイドおい ! ? そっちで何が起きてるんだ ! ?
スレイ――あ、ああ。ロイド、大丈夫。ちょっとばたついてるけど、対処できそうだよ。それより何か言いかけていたようだけど……。
ロイドああ ! そうだ !さっき急にネヴァンがゲフィオンの鏡像から飛び出してきたんだ。
ミリーナネヴァンがセールンドに ! ?
ロイドああ。カーリャの時と同じ感じだよ。ただあちこち傷だらけで気を失って……ひとまず…………あれ……聞こえて……
ヴィクトルまた通信障害か。今度は何が起きた ?
ミリーナ待って、魔鏡術の力が集まってきている――
ライラ空を見て下さい !魔鏡結晶のドームができていますわ !
ミリーナまさか、イクス ! ? 近くにいるんだわ !
リアラ――ここは…… ?
エルレイン…………くっ……。
リアラエルレイン ! ? どうしたの ! ?
エルレインいや……目眩がしただけだ。
リアラ……ねえ、エルレイン。あなたはあの場所にずっといたの ? あの【クロノスの檻】っていう場所に……。
リアラあの場所は……異様だったわ。クレーメルケイジだって聞いていたけど……。一瞬なのに永遠のような気がして、寒気がした。
エルレイン……だろうな。あの場所は精霊クロノスの力に満ちていた。時が何度も巻き戻り……寄せては返し……。
リアラ永遠という時間を……終わらない無間地獄の中を彷徨っていた…… ?
エルレイン我々は神の代理者だ。精霊の操る時間の流れなど神の力の前では無意味でしかない。
カイルリアラ――ッ !
ジューダスクラトスの言っていた通り、帝国の基地にいたな。天使の視覚と聴覚、大したものだ。
リアラカイル ! ? どうしたの ! ? 凄い傷だわ ! ?
エルレイン
カイルちょっとここまで来るのに帝国の連中とやり合ったから。
カイルそれより突然姿が消えちゃったから心配したんだよ !無事で良かった。エルレインが傍にいるみたいだって話だったから……。
リアラええ……わたしは大丈夫。それで、ハロルドは ?
ジューダスディムロスとクラトスと三人で魔導砲から魔核を運び出している。
リアラそう……。きっとハロルドのおかげよ。わたしとエルレインが、あの恐ろしい【クロノスの檻】から出られたのは。
ジューダスならば、魔導砲は【クロノスの檻】とやらを破壊したんだな。
エルレイン……そうか……お前たちが……私を……。
カイルこれで危機は回避できたよ。あとは――痛 ! ?
カイルな、なんだ ! ?ガラスみたいな見えない壁があるぞ ?
ジューダス……これは……魔鏡結晶、か ?
カイルえ ! ?リアラたち、魔鏡結晶に閉じ込められちゃったの ! ?どうして ! ?
エルレイン――いや、これは……【クロノスの檻】の代償から守ろうとしたのだろうな。あの鏡士の仕業、か ?
リアラ【クロノスの檻】の代償 ? それは一体――
エルレインお前も感じていたとおり、【クロノスの檻】には精霊クロノスの力が満ちていた。おそらく長い間あの場所にクロノスを閉じ込めていたのだろう。
リアラわたしたちが脱出したときに、破壊された檻の欠片のようなものも、この場所に出現してしまった……ってこと ?
ジューダス……しかし今はそれらしい物は降っていないぞ。
エルレインなるほど……。【クロノスの檻】があった場所とこの世界を繋いだ次元穴は……修復されたのだな。ならば……鏡士の傘ももはや必要は無い。
リアラエルレイン、何を――
エルレインインディグネイト・ジャッジメント !
コレット……え ? 今、カイルたちの声が聞こえたみたい……。
エドナ――それに関係があるのかしら。上の魔鏡結晶にヒビが入ったわ。
ザビーダ何てこった。あの欠片に俺たちの力が触れると互いに打ち消し合っちまって思ったようには吹き飛ばせねえんだぞ !
ヴィクトルそれはおそらくあの欠片が精霊クロノスの力を帯びているからだろう。
スレイ精霊クロノス ! ?
コレットあ、でも、もうクロノスの欠片……みたいなものは降ってこないんじゃないかな。空のどこにもそれらしい物がないもの。
ライラ魔鏡結晶も……消えましたわ。確かに、例の欠片はもう降ってこないみたいですね。
ミリーナあ、イクスから通信文よ。魔鏡通信が復活したのね。私たちのこと、見つけてくれたみたい。こっちに来てくれるって。
シャルティエよし、魔鏡通信が復活したなら、僕たちはディムロスと連絡を取って合流するよ。行こう、ヴィクトルさん。
ヴィクトル……ああ。
マーク――おっと、やっと繋がったか。
マークミリーナ。通信文も送ったが、撤退の準備が完了した。やり残したこともあるかも知れないが、今回は引き上げようぜ。指定した合流地点まで来てくれ。
エドナバタバタと忙しいわね。
ミクリオ仕方が無いさ……。想定外のことばかり起きている。それにしてもこのままだと、ユーリたちとの約束を違えることになってしまうな……。
スレイいや、大丈夫。ヴィクトルさんが凄い物を見つけてくれたよ。

Character13話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】
カイル魔鏡結晶が壊れた ! これで――
ジューダス待て、カイル。慌てなくても、エルレインの方から――来る。
エルレインお前たちが【クロノスの檻】を破壊したのならここは、礼を言うべきなのでしょうね。
カイルえ……。いや、それはハロルドが……。
エルレイン……久しぶりですね。
エルレインいや……この感覚もまた懐かしい……。まるで遠い昔のことのように感じられるが……これもあの檻の中にいたせいか。
カイルな、何 ? 何を言ってるんだ ?
エルレイン……そうか。あれは精霊クロノス……であったな。
エルレインペンダントが……。まさかこのペンダントには……。もし『そう』なら、空間という制限のない時の力で――
エルレイン……………… !
ジューダスまずい ! カイル ! 避けろ !
エルレインディバインセイバー !
カイルぐはっ―― ! !
ジューダスくっ !
リアラカイル ! ! ジューダス ! !エルレイン、どうしてなの ! ?
エルレイン今ならば――
エルレイン案ずることはない。
エルレインお前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。
エルレインそして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。
エルレインいまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。
エルレイン(……フォルトゥナ神を呼べたとして……それが、遍く救済となるのか……)
エルレイン(私の救いとあの者たちの救いは同じだというのか。いや、そうではないはずだ――)
? ? ?時の流れに制限はなくとも人の子のある場所に空間という制限は存在する。時空の壁は突き破れない。
エルレインならばやはり、ここでは救いをもたらすことは――
リアラカイル ! レンズを砕いてッ !
エルレイン……自ら消滅してまで望む強さが……あるというのか。それが人間の強さだと…… ?
エルレイン……………………。
イクスミリーナ、遅くなってすまない。ディムロスさんから作戦完了の通達があったぞ。
ミリーナこっちもスタンさんたちと連絡がついたわ。みんな無事みたい。私たち陽動部隊も急いで撤退をしましょう。
イクスマークとの合流地点まで帝国軍から逃げ切れれば俺たちの勝ちだ。急いで、カイルたちにも知らせなきゃ――
? ? ?ぐはっ―― ! !
ミリーナ! いまの声って…… ?
イクスカイルだよな ! ? まさか……。
コレットうん ! 魔鏡結晶が壊れたから、はっきり聞こえる。カイルたち……誰かと戦ってるみたい !
イクスどっちだ、コレット !
コレットえっと……あっち !
イクス2時の方角か。よし――
コレット待って ! 逆の方から大勢の足音が――あ ! ? 帝国軍がたくさん !何か……大事な物を探してるみたい。
ミクリオスレイ、それって――
スレイああ。
スレイイクス、帝国兵は俺たちに任せて。多分探してるのはヴィクトルさんが見つけてくれた精霊の心核だ。
スレイこれで、帝国兵を引きつけながら撤退する。ケリュケイオンで会おう。
イクスコレット。念のため、スレイたちと一緒に行ってくれ。
コレット何かあったときの連絡係だね。任せて !
イクスミリーナ ! カイルたちのところへ行ってみよう !
カイルくっ……。
リアラカイル。しっかりして。
カイルだ、大丈夫だよ。
ジューダスお前はさがっていろ。帝国軍との連戦で消耗しきっているんだ。
カイルそれはジューダスも同じだろ。まだオレは戦える。
エルレイン……ならば、続けよう。カイル。お前たちの言う人間の強さとやらを示してみせろ。
イクス待ってください !
カイルイクス ! ミリーナ !
エルレイン鏡士の。久しいな。
イクスエルレインさん、どういうことですか。ここにいるということは俺たちがした話――帝国の真の目的を信じてくれたんじゃないんですか ! ?
エルレインああ。お前たちの話は真実だった。帝国はニーベルング世界の再建を目論んでいる。ニーベルングの神々の復活すらも秘密裏に進めていた。
エルレイン本当に、この世界を、全てを滅ぼし真なるニーベルングの甦りを――この世に生きる者を捨て去ろうと画策していたとは。
エルレインいったいこの何が救済であろうか。救済とは遍く人々に注がれるべきもの。嘆かわしいにもほどがある。
イクス……俺には救済とか難しいことはわからない。けど…………。
イクス俺自身や鏡映点、そして貴女も含めて……今この世界にはニーベルング世界の住人ではない人帝国の考える偽りの人々がたくさんいるんだ。
イクスそんな人たちを帝国は切り捨てようとしている。確かに偽りだけど……存在していることは事実だ。だから俺は、その全てを守りたい。
エルレインどうやって ?
イクス決まってる。カイルと同じです。
カイル掴み取る。オレたち自身の手で。
エルレイン神による救済ではなく、か。
エルレインならば――
カイル……ぐっ。
リアラカイル !
イクスやめろっ ! !何故戦わなくちゃならない ! ?
エルレイン確かにお前たちには感謝している。これ以上、聖女としての使命に反する行いを――帝国の偽りの救済に荷担せずに済んだ。
エルレイン聖女の力をほぼ失った私の今やるべきことそれは救済の対象である遍く人々の保護。つまりは帝国の野望の阻止であろう。
ミリーナ私たちは同じ敵と戦っているわ。そして、帝国の野望を阻止するためには私たちは貴女の、貴女は私たちの協力が必要不可欠。
エルレインその通り。
エルレインだが、フォルトゥナを具現化すると言った場合お前たちはどう反応するだろう。
カイルフォルトゥナだと ! ?
イクス神の具現化は不可能のはずだ。
エルレイン……ふふっ。それはどうだろう。幸いこの世界にはエンコードされているとはいえレンズも具現化されている。
リアラフォルトゥナの具現化には失敗したはずなのに可能性はゼロではないというの ! ?
エルレイン……お前たちはただ待てばいい。フォルトゥナの降臨を。すべての魂が救済されるその時を。
ジューダス本当の楽しみや喜びを代償にした永遠を夢の中で過ごす苦しみや悩み、痛みのない世界……。
ジューダスお前は神による完全なる幸福をこの世界でも実現しようというのか !
カイルそんなことオレは絶対に許さない ! !フォルトゥナを降臨させるというのならオレたちはお前を止めてみせる !
ジューダスカイル ! 無茶をするな !これ以上は――
カイルジューダス、止めないでくれ !まずはオレが証明しなくちゃなんだ。
カイル人間は弱くなんかないって ! !
ジューダス……カイル。
ジューダスふっ、いいだろう !僕も付き合ってやる !
リアラわたしもよ ! カイルの選択は、わたしの選択だもの !
イクスミリーナ、俺たちも加勢するぞ !もう一踏ん張りだ。
ミリーナ援護は任せて。みんなで切り抜けましょう。
エルレイン愚かな。どれだけ束になろうと無駄だ。――人間は弱い。私もお前たちに身を以て証明してくれよう。

Character14話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】
カイルくっ……足がっ。
リアラカイル !
ジューダスくそっ。エンコードによりエルレインの力は制限されているとはいえ……厳しいか。
イクス帝国軍との連戦で疲弊しきっているんだ。みんなもう限界か……。
エルレインやはり人間は弱い。これが現実だ。さぁ、諦めて降伏しろ。そうすれば命までは取るまい。
イクスカイル ! いま助けに――
カイル来るな ! !
イクスえっ ! ?
カイル言っただろ、
カイル人間は弱くないって ! !
カイルくっ……。
エルレイン……それがお前の選択か。いまのお前にこの私を倒すことはできない。わかっているだろう ?
カイルそれはどうかな ?リアラ ! ジューダス !
ジューダスいくぞ、リアラ !
リアラええ ! ジューダスにあわせるわ !
エルレインなるほど。お前は囮か。だが私の二の太刀の方が速い。そしてそれを、いまのお前は防ぎきれまい。
カイルそんなことわかってるよ。最悪、オレはここまでってことも。
エルレイン……わかって飛び込んできただと ?何故だ。死ぬことが怖くないというのか。
カイル怖いさ ! けどここを乗り越えればお前を倒すことができるかもしれない !
エルレインできなければ ?
カイルそのときはまた考えればいいだけだ !たとえ今、そして未来に苦しみが待ち受けていようと更に先には大きな幸福がきっとある ! だから――
カイル人間は辛い未来すら選べる !それが人間の強さだ ! !
エルレイン―― ! !
二人――くらえっ ! !
イクスな、なんて威力だ……。
ミリーナ……けど。
エルレイン無駄だと言っただろう。
リアラカイル ! !
エルレイン動くな。
ジューダス
カイルはぁ……ぐっ。
エルレインもうこれで終わりだ。
ジューダスエルレイン ! 貴様ッ !
リアラ! ?ジューダス、待って。
ジューダスなに……。
エルレイン治癒魔法だ。少しは楽になっただろう。
カイルえっ…………あ、ありがとう。けど、どうして ?
エルレイン……言っておくべきことがある。
エルレインお前たちの強さは認めよう。だが、すべての人間がお前たちのように強いとは限らない。
カイルそうかもしれないけど――
エルレイン聞け。
カイル……わ、わかった。
エルレインここはフォルトゥナが……私たちを救う神がいない世界。お前たちが望む世界のありさまだ。
エルレインお前たちが理想とする幸せな世界に私とリアラは本来存在しない。だが幸か不幸か、いま私たちは神なき世界にいる。
エルレイン滅びと絶望に包まれたこの世界であってもお前の言うように人々は苦難を乗り越え幸福を手に入れることができるのか。
エルレイン神の御使いたる聖女としてそして神を失った力なき一人の人間としてこの世界の人々の行く末を観測するのも悪くはない。
カイルえっと……つまりどういうこと ?
イクス力を貸してくれるのか ! ?
エルレイン帝国の野望は阻止せねばなるまい。そして私の信じる神がいないこの世界でも今の私にできうる救済を行う。
エルレインそう、判断したまで。
カイルつまり協力してくれるんだね ! ?
リアラエルレイン……ありがとう。カイルに、いえ人間の強さに可能性を見出してくれて。
エルレイン私はしばらく観測をしようと決めただけだ。そのために一時的にお前たちに協力するが――
エルレイン人は、もろく、はかない存在。その事実が証明されたならばお前たちを切り捨て私はフォルトゥナによる救済を選ぶ。
カイルわかった ! じゃあオレたちはそうならないよう頑張るよ !
エルレインいいでしょう。
リアラ…………。
帝国兵見つけたぞ !
イクス敵の追っ手だ !
エルレインいきなさい。
ジューダスお前一人で大丈夫なのか ?
マーク安心しろって。俺たちもいるからよ。
バルバトス虫けら、ウジ虫どもが。捻りつぶしてくれる。
イクスマーク ! ?
カイルバルバトスも ! ?
マークったく、遅いからなにやってるかと思えば。あんたも相当面倒な女だな。
エルレインあなたは、フィリップの鏡精でしたね。
マーク覚えててくれてどうも。イクス、この先でフィルたちが待ってる。他の奴らと一緒に先に行け。
イクスわかった。ありがとうマーク。みんな、行こう。
マークそれじゃあ一仕事はじめますか。バルバトス、頼んだぜ。
バルバトス俺に命令すんじゃねぇ ! !俺はこの雑魚共を捻りつぶしたいだけだ ! !
マーク元気が良いねぇ。――さて、茶番は済んだかい、聖女様。納得したならあんたにも働いてもらいたいんだがね。
エルレイン茶番ではない。救済の遂行を担えるかの審判だ。全ては世界の救済のため。
エルレイン……人々の幸せがあらんことを。
マークはは、だったらこっちにも救済を頼むよ。あんたなりのけじめの儀式を大人しく見ていてやったんだからな。
マークまあ昔、俺にもそういうことがあったんでね。鏡精と聖女様じゃ葛藤の度合いが違うかも知れないが。
エルレイン……フ、バルバトスを押さえるのは苦労したでしょう。
バルバトスはき違えるなよ、女。俺は俺のやりたいようにやっている。
バルバトスあのカイルとかいう小僧は俺の信奉者だ。非力なゴミくずだが、見所はある。その踊る様を見ていたまでよ。
マークそうだとも。それにあの茶番劇をスルーすればこの辺りの帝国兵が寄ってくることはわかってた。そいつを待ってたんだよな、我らがバルバトス殿は。
マークま、それは俺も願ったりでね。合流ポイントにたどり着けてない連中を助けるために大立ち回りして、帝国の連中を引きつけたいんだ。
バルバトスくだらん !自ら救えぬ非力な奴は捨て置けばいいのだ。
エルレインお前はここでもそのような生き様か。
バルバトスなんだ ? 何が言いたい !
エルレインお前が真に英雄であるというなら、その証ここで見せてみるがいい。
バルバトスほう……。そうか、お前……英雄に惹かれたか !ならば篤と見るがいいわ !

Character15話【7-15 ファンダリア領 山岳】
グラスティンヒッヒッヒッ、特等席じゃないか。だが、これ以上ここで待っていても無駄だぞ。魔導砲の試射は失敗した。
ロミーそうなの ? たいそうな仕掛けの割にお粗末ね。
ルキウス ?大山鳴動して鼠一匹、かな ? だらしないね。せっかく面白いものが見られると思ったのに。
ロミーフフ……。
グラスティンいいんだよ。問題なく発射できるってことは確認できたんだしなあ。それより、サレの奴を見かけなかったか ?
ロミーサレ ? この辺じゃ見てないわね。
グラスティン……やっぱり逃げ出したかあ。ヒヒヒ……だったら追いかけるしかないよなあ。黒髪じゃないから、面白みには欠けるがな。
ロミーあんたたち、随分仲が良さそうだったのにどうしたのよ。
グラスティン俺の大事な玩具を壊しやがったんだよ。
グラスティンせっかく可愛いジュニアを、毒でじわじわいたぶっていたのに、サレの奴、ジュニアに使った刻印器を壊して持って行きやがった……。
グラスティン俺とジュニアの楽しいコミュニケーションが台無しだ。サレにはお仕置きが必要だなあ……。ヒヒヒヒ……。
アリエッタ――グラスティン !
グラスティンん ? アリエッタかあ。こんなところまで俺を捜しに来たのか ?
アリエッタ約束……果たした、です !魔核運んだ、です !イオン様に会わせて !
ロミーイヤねえ。この子、まだ気付いてないの ?本当に滑稽ね。笑っちゃうわ。ねえ、ルキウス ?
ルキウス ?僕のペットを馬鹿にするな。アリエッタが可哀想だろう ?
ロミーあーあ、そうだった。『こっち』も、何も知らないんだったわね。
ルキウス ?何 ? どういうことだ ?
ロミーグラスティンそろそろ種明かししてもいいんじゃない ?『こっち』の実験も終わったんでしょ ?
ロミー何も知らないイオンもどきを観察してるのも面白かったけれど、そろそろ飽きてきたわ。
ルキウス ?イオンもどき…… ?
アリエッタイオン様 ? イオン様がいるの ! ? どこ ! ?
グラスティンそうかあ……そうだったな。実験も成功したし、そろそろ頃合いかあ。
グラスティンアリエッタ、お前の大事なイオン様はこのルキウスの中にいるんだぜえ ?
アリエッタルキウスの……中…… ?何 ? どういうこと…… ?
グラスティンお前の大事なイオンサマはなあ、どうしても健康な体が欲しかったんだよ。ところがレプリカを何体作っても満足いく健康な体が作れなくてなあ。
グラスティン挙げ句、シンクとかいうレプリカを捕まえるって勝手に色々画策しだしたんだ。
アリエッタ……シンク ? シンクが何か関係あるの ?
グラスティンまあ、その辺りは些末なことか。
グラスティンとにかく、お前のご主人様は、自分の欲を満たすために、ハロルドを鏡士へ引き渡すような失態をやらかしたんでな。お仕置きしてやったんだよ。
アリエッタイ、イオン様に何をした、ですか ! ?
グラスティン心核を抜いてやった。わかるか ? 心だ。心だけ取り出して、体は魔物にくれてやった。
アリエッタ! ?
ルキウス ?アリエッタ。大丈夫だよ。僕は生きている。この体は仮の入れ物だが……。
アリエッタえ ? じゃあ、イオン様はルキウスになった、の ?生きてる……ですか ?
ルキウス ?ああ、生きてるよ。この体の中に入っている心がイオン――僕だ。
ロミー――なーんて、それも嘘。
アリエッタ・ルキウス ?! ?
グラスティンあーあ、そこまでバラしちまうかあ……。まあ、仕方ない。本当の事を知らないままなのは『可哀想』だもんなあ。
グラスティン心核ってのは、体が死んじまうと存在を保てなくなる。体が死ねば心も死ぬんだよ。
ロミーでも、イオンの心に別の体を与えたところでまた勝手なことをするでしょう ?だから実験に使ったんですって。
グラスティン死ぬ前の心核からデータを抽出して限りなくイオンに近い疑似人格を作ったんだ。その疑似人格を疑似心核に転写した。
グラスティン被験者イオンの人格のコピーを疑似心核に与えたんだからこのルキウスの心は「ほぼ」イオンだ。
ロミーグラスティンも作ったんでしょ。自分のレプリカに自分の人格を転写した疑似心核を入れてそいつをグラスティンとして戦場に送り込んだのよね。
ロミーアイフリード神の転生体である鏡の精霊のデータも狙い通り疑似心核に移せたんでしょう?自分のレプリカを使って仕掛けるなんて変態ね。
ルキウス ?待て…… !な、何…… ? 僕が疑似人格…… ?
アリエッタ……え……何……わからない…… ?
ロミー簡単よ、アリエッタ。
ロミー失礼、イオンもどき。
ルキウス ?ぐっ ! ?
グラスティンおいおい……沈静化もさせずに人間から心核を抜くなよ。相当な痛みだぞ。
ロミー大丈夫よ。ルキウスの心核は、ちゃんと別のところに保存してあるし、死にはしないわ。
ロミーほら、アリエッタ。これが疑似心核よ。イオンだと思い込んでいた可哀想な疑似人格が宿っているわ。
アリエッタじゃあ……それは……イオン様の偽物…… ?
ロミーアリエッタは本当に頭の回転が鈍いのね。そもそも私たちは具現化された存在なんだから偽物も本物もないじゃない。
ロミーそれを言うならアリエッタも偽物みたいなものだし被験者イオンなんて最初から死んでるようなものよ。
グラスティン死んだ人間をコピーしてそれも死にそうだったからコピーしたってところか。
ロミーコピーのコピーって、もうそれ、なんの価値があるのかしら。まあ、人格を持った玩具だと思えば価値はあるのかも知れないわね。
アリエッタ……イ、イオン様は死んでないもん !イオン様は生きてる ! イオン様は――
ロミーあ、心核が壊れちゃったわ。
グラスティン壊したんだろう。
ロミーなんでもいいでしょ。まあ、これで疑似人格も死んだわね。まあ、被験者はとっくに死んでるわけだけど。
アリエッタあ――――――
グラスティンほら、形見だ、アリエッタ。
ロミー何 ? その黒くて汚い石。
グラスティン被験者イオンの心だった石の欠片だよ。体が死んで心も死んじまったから、単なる石ころなんだがデミトリアスが捨てずに残してやれとさ。
グラスティンほら、お前のイオン様だ。受け取れ。
アリエッタい、いやあああああああああああああっ ! ?
マーク――待たせたな。なんとか帰り着いたぜ。バルバトスが暴れて暴れて……。まあ、おかげでいい攪乱になった筈だ。
ヴィクトル……確かに、あの辺りの帝国軍は大打撃を受けたようだったな。
フィリップおかげで、イクスたちもほら、ここにいるよ。
イクスありがとうマーク。あのあと、なんとかフィルさんと合流できたよ。
スレイオレも、お礼を言わないと。ありがとう、マーク。オレたちも帝国兵の多さに手こずってたけど途中からほとんどの兵士がそっちに行ってくれて……。
ライラむしろ大変な負担になったのではと心配していましたわ。
ローエンみなさんご無事で何よりです。そういえば、エルレインさんはどちらに ?
マークバルバトスの手綱を握ってもらったんで一足先に船室にお入りいただいた。あしらいには慣れてたようだが、疲れただろうしな。
マークバルバトス担当として末永くここにいてもらいたいぜ……。あとできっちりスカウトしとくわ。マジで。
イクスは、ははは……。
イクスローエンさん、これで全員そろったでしょうか ?
ローエンはい。この地点で回収予定の人員は全てケリュケイオンに乗船しました。
ローエン念のため、ファンダリア領の状況が落ち着くまでディムロスさんたちにも乗り込んでもらっています。
ゼロス魔核も回収できたしあとはスタンたちと合流すれば終わりだな。
ミリーナやっと一息つけそうね、イクス。
イクスああ。想定外のことが色々と起きてしまったし状況の確認と情報の精査が必要だけどまずは浮遊島に戻ろう。
アイゼン気を抜くなよ。最後まで何が起きるかわからないぞ。
イクスそ、そうですね。先の心配をしないなんて俺らしくなかった……。
マークそんなところは、らしくなくていいんだよ。まったく……。
イクスご、ごめん……。
イクスそれじゃあ、ガロウズ !あとはよろしく頼むよ !
ガロウズイクスの指示ってのも懐かしいな。よし、エンジン始動だ !
イクス――ケリュケイオン、発進 !
to be continued