| Character | 1話【7-1 ファンダリア領 森1】 |
| パティ | …………。 |
| エステル | パティ ! ! |
| デューク | ……。 |
| ユーリ | いくぞ。 |
| | 待ち伏せていたユーリたちの前にようやく姿を現したパティ。双方が相まみえようとしている、その少し前のこと。 |
| | 心の中からカーリャが消えてしまったミリーナは―― |
| ミリーナ | ゲフィオン、カーリャが消えてしまったわ。どうして ! ? |
| ゲフィオン | 恐らくお前――つまりミリーナが『ミリーナ単独』の存在ではなくなってしまったからだろう。 |
| ゲフィオン | 何らかの外的要因でミリーナとゲフィオンの境界が徐々に曖昧になっている。お前が倒れたのも、私がここにいるせいだ。 |
| ミリーナ | それじゃ『私のカーリャ』はもう私の中にはいられないの ! ? |
| ゲフィオン | 落ち着きなさい。先ほども言ったが今はゲフィオンとミリーナが混ざり合おうとしている。そのせいで一時的にはじかれてしまっただけだろう。 |
| ゲフィオン | あのカーリャは……私の鏡精ではないからな。 |
| ゲフィオン | だがこのままでは『一時的』では済まなくなる。これ以上の影響が及ぶ前に何らかの処置を施さねばなるまい。 |
| ミリーナ | 処置と言っても、原因がわからないんじゃ……。 |
| ゲフィオン | 心当たりはある。この現象には、バロールの力が影響しているのだろう。 |
| イクス | ミリーナ ! |
| ミリーナ | イクス ! ? フィル、ネヴァンも ! |
| フィリップ | ようやくきみの心にアクセスできたよ、ミリーナ。 |
| ミリーナ | フィル……みんな、ありがとう。迷惑をかけてごめんなさい。こんなところまで来てくれるなんて……。 |
| イクス | 当たり前だろう。『二人』を救うためだからな。 |
| ゲフィオン | …………。 |
| フィリップ | ミ――ゲフィオン……。 |
| カーリャ・N | ミリーナ様 !良かった、ミリーナ様がご無事で……。 |
| ゲフィオン | 私をミリーナと…… ? お前は誰だ。 |
| カーリャ・N | っ !……そう……ですよね。 |
| フィリップ | ゲフィオン、彼女はきみの鏡精『カーリャ』だよ。 |
| ゲフィオン | カーリャ ! ? あなたが…… ? |
| ミリーナ | やっぱり……覚えていないのね。 |
| ゲフィオン | ……記憶を切り離した私は『私のカーリャ』という存在を知らぬ。 |
| ゲフィオン | 私にはそういった鏡精がいたと周囲の者から聞いてはいたが……。そうか、お前が私のカーリャ……。 |
| ゲフィオン | すまない……。 |
| カーリャ・N | いいえ ! いいえ……。ミリーナ様が……ゲフィオン様がご無事なら私はそれで十分です。 |
| カーリャ・N | それよりも、早くこの状況を打開する方法を考えましょう。 |
| ゲフィオン | ……そうだな。 |
| ミリーナ | さっき、私たちが交じり合った原因はバロールの力だと言っていたわよね ? |
| イクス | バロールが ? |
| ゲフィオン | そうだ。バロールは、人体万華鏡となって死の砂嵐を封じている私に接触してきたのだ。恐らくは、死の砂嵐を操るためにな。 |
| ゲフィオン | 上手く言えないが、バロールの接触によって私は自らが世界に融けそうな感覚を覚えた。そのせいか、私自身の存在が曖昧になろうとしている。 |
| ゲフィオン | それがミリーナとゲフィオンの境界が危うくなった原因だろう。 |
| ミリーナ | 死の砂嵐を操る……。ねえイクス、倒れた時にバロールと会ったのよね ? |
| イクス | 俺も今、そのことを思い出してたよ。 |
| イクス | ゲフィオン様。俺はバロールの記憶の残滓……という存在に会っているんです。その時―― |
| ゲフィオン | ――死の砂嵐を鎮めるために尖兵を作る、か。 |
| イクス | はい。それと、俺の心の中にも関わらずバロールは明らかにコーキスに語り掛けていました。「鏡精コーキスよ、命の炎を燃やせ」と。 |
| ゲフィオン | 鏡精と鏡士の心は繋がっている。本当にコーキスに命じていたのかも知れない。 |
| ゲフィオン | この推測が正しければ、すでにバロールはコーキスを使って、死の砂嵐を操っているのだろう。それがバロールの接触として感じられたのか……。 |
| ゲフィオン | ……もしや、コーキスは私の近くに来ているのか ? |
| イクス | コーキスが……。あいつ、バロールに何をさせられてるんだ……。 |
| ゲフィオン | 何が目的であれ、その強引なアクセスによってゲフィオン――私という人格が崩壊しようとしておりその結果が、ミリーナに影響を及ぼしている。 |
| ゲフィオン | 鏡精がいないゲフィオンには人格を――心を守る存在がいないからな。 |
| フィリップ | ……妙だな。バロールの接触が強引だったとはいえなぜそこまで深刻な影響を受けているんだい ? |
| ゲフィオン | ……当時の記憶がないから確実なことは言えないけれど……。 |
| ゲフィオン | おそらく『ある目的』のために心を閉じる作業を行わなかったんだと思うわ。そして、新たな鏡精を作ることもしなかった。 |
| ゲフィオン | だから今の私は、心にずっと穴が開いた状態なのよ。それで影響を受けやすくなっているのかもしれない。 |
| フィリップ | 穴って…… !どうして無防備な状態のままで放置したんだ。手段はあったはずだろう ! |
| フィリップ | 手段――そうか……だから……。 |
| ゲフィオン | …………。 |
| カーリャ・N | ……やはり、そういうことでしたか。 |
| ミリーナ | ネヴァン ? |
| カーリャ・N | ゲフィオン様の計画では、私は今よりもっと早い段階で小さいミリーナ様に記憶をお渡ししている筈だった。本来ゲフィオン様が人体万華鏡になる時期に……。 |
| フィリップ | そうか……。ファントムの存在でゲフィオンが人体万華鏡になるタイミングが狂ったんだね。 |
| カーリャ・N | はい。本来は記憶の継承と共に、人体万華鏡は真の完成を迎え、死の砂嵐の外部流出を防ぐことができた筈でした。 |
| カーリャ・N | おそらくその場合は鏡精のいないゲフィオン様の心は小さいミリーナ様に吸収され、消えていたでしょう。つまりゲフィオン様の心は死んでいた筈です。 |
| 三人 | ! ! |
| ゲフィオン | …………。 |
| イクス | 待ってくれ、記憶を受け渡す時にカーリャがミリーナの心を守れば、二人の消滅を防げるかもしれないって話し合ったじゃないか。 |
| カーリャ・N | ええ。確かにあの方法であれば小さいミリーナ様の心は確実に守れます。ですがゲフィオン様の心を確実に守る手段はありません。 |
| カーリャ・N | 心の穴を塞ぐためには、新しい鏡精を作らなければいけないんです。でもゲフィオン様はそうしなかった。 |
| カーリャ・N | 仮に心が残っても、ゲフィオン様を待っているのは永遠の死です。砂防堤として気の狂うような痛みに耐え永遠に『死に続ける』という運命……。 |
| フィリップ | それに新しい鏡精を巻き込みたくなかったからあえて心の穴を残していた……。 |
| ゲフィオン | …………。 |
| カーリャ・N | 今回、お二人の心を守る方法を考えている時にこれは手段がなかった訳ではなくわざと残さなかったのでは、と気付いたんです。 |
| フィリップ | そうか……ある意味ファントムが、ゲフィオンの心を延命した形になったんだね。 |
| カーリャ・N | ……ええ。少なくともゲフィオン様は、こんな形で小さいミリーナ様を巻き込むつもりはなかった筈です。バロールの件は不測の事態ですから。 |
| カーリャ・N | それに……今のこの状況を招いてしまったのは記憶の移行を渋った私にも責任があります。 |
| ミリーナ | そんな……。ネヴァンは何も……。 |
| カーリャ・N | いいえ。私が悪いんです。そもそも私は記憶の受け渡しを防ぎたかった。 |
| ミリーナ | どういうこと ? |
| カーリャ・N | お二人の心が消えないように安全な方法を探っていたのは本当です。 |
| カーリャ・N | ですが、そんな危険を冒す前に、ゲフィオン様を人体万華鏡から救い出す手段を見つけたかった。だから記憶の受け渡しを先延ばしにしてしまった。 |
| ゲフィオン | カーリャ……。 |
| カーリャ・N | だって、このままだとゲフィオン様は永遠に動かない鏡の体の中で、自我を失い、終わらない激痛に苛まれるんです。 |
| カーリャ・N | 『死ぬ』のではない。『生きている』のでもない。『死に続ける』んですよ ! ?カーリャはそんなの嫌です ! |
| ゲフィオン | ……それは私が殺した世界や人々も同じなのよ。私の過ちのせいで命を落とした後も苦しんでいる人々がいる。 |
| ゲフィオン | それにこの世界を守るためには、死の砂嵐を封じなければならないのよ。誰かがやらなければならないなら、この役目は私が引き受けるべきだわ。 |
| カーリャ・N | わかってます、ミリーナ様。あなたが助けなんて望んでないことも。それでも私は、生きていて欲しかったんです。 |
| カーリャ・N | たとえあなたが世界中から非難される極悪人だったとしてもミリーナ様は私のただ一人のマスターだから。 |
| Character | 2話【7-2 ミリーナの心1】 |
| カーリャ・N | 身勝手なことばかり言って申し訳ありません……。 |
| ミリーナ | 身勝手じゃないわ。そうよね、ゲフィオン。 |
| ゲフィオン | ……ああ。しかし、バロールの影響はさらに強まるだろう。記憶の受け渡しさえできればミリーナだけは助かるはず。それなら―― |
| イクス | あの ! ちょっといいかな。バロールはコーキスを使っているんですよね。自分の鏡精のように。 |
| ゲフィオン | そのようだ。 |
| イクス | ちょっと違うかもしれないけどフィルさんとファントムもそうでしたよね ?その、マークとの関係というか繋がりというか……。 |
| フィリップ | ああ、僕とファントムは、マークを共有していた。 |
| フィリップ | ただ、僕とファントムは同一人物を同一時空に具現化する為のテストケースだったからね。参考にはならないかもしれないよ。 |
| イクス | でも、同じ存在なら鏡精を共有できる可能性が高いってことですよね。 |
| フィリップ | それはゲフィオンとミリーナ、二人分の心をカーリャに守ってもらえないかってことかい ? |
| イクス | 無理でしょうか……。記憶を受け渡して心の穴を修復する間だけでも。 |
| フィリップ | できるとは断言できない。でも……。 |
| ゲフィオン | いいえ。できたとしても私にそのつもりはないわ。 |
| フィリップ | ゲフィオン ! |
| ゲフィオン | もう決めたことなの。 |
| ゲフィオン | イクス、ミリーナ、聞いて欲しい。私はあなたたちを騙し異世界や鏡映点たちを具現化させた。 |
| ゲフィオン | 巻き込まれた鏡映点たちには償おうにも、償いきれぬ苦しみを今も強いている。 |
| ゲフィオン | そして、あなたたち二人には、尊厳を踏みにじり冒涜するような生み出し方をしてしまった。本来の記憶を改ざんし、心を捻じ曲げてしまった。 |
| ミリーナ | 私たちを具現化するときに手を加えたという記憶はネヴァン――あなたのカーリャに預けた筈ですよね。どうして知っているんですか ? |
| ゲフィオン | そう……。知っているのね。……何もかも。 |
| イクス | フィルさんから聞きました。 |
| ゲフィオン | そう……。ええ、確かに記憶は残っていない。でも、二人を見ていればわかるわ。それに、私ならやりかねないことだもの。 |
| ゲフィオン | 全て、私の責任です。謝って済むことではないけれど―― |
| フィリップ | 待ってくれ、それなら僕も一緒だ ! |
| ゲフィオン | いいえ。イクス、ミリーナ、フィルを責めないで。 |
| ゲフィオン | フィルはただ、魔女と幼馴染であったというだけでこんな外道に付き合わされてしまっただけ。巻き込まれたことを考えれば、むしろ被害者よ。 |
| ゲフィオン | 全ては私一人が背負うべき罪。だから―― |
| フィリップ | そうじゃないっ ! ! |
| ゲフィオン | フィル……。 |
| フィリップ | 一人だって…… ?確かに覚えていないんだね。あれは、二人で一緒にやったことだ ! きみと僕で ! |
| フィリップ | むしろ、イクスを甦らせようとしたときイクスが危険に巻き込まれないように性格を変えようと積極的に提案したのは僕だった筈だ。 |
| フィリップ | 僕は卑怯で、臆病で愚かだったから自分の罪を隠したかったんだ。生み出される命を物みたいに考えて……。 |
| ゲフィオン | ……だとしても、私もそれに乗ったのよ。そしてきっと、私が決めた。だから、フィルはそんな風に―― |
| フィリップ | ――もう僕をそんな風に甘やかさないでくれ !僕は心底薄汚い人間なんだ。ミリーナの優しさにつけ込んで甘えていた。 |
| フィリップ | 僕はね、ミリーナ。昔イクスが憎くて羨ましくて……彼を殺そうとしたことがあったんだ。あのピクニックの日のことだよ。 |
| ゲフィオン | ! ! |
| フィリップ | 知ってるよ。あの時、きみは後悔した。僕がきみを誘って、きみは珍しくイクスが一緒にいなくても平気だと思ってしまった。 |
| フィリップ | 僕らは二人とも、イクスの忠告を軽く考えて……そこで魔物に襲われた。 |
| ゲフィオン | あの時……いつもならイクスも一緒にって言ったのにフィルが久々にセールンドから帰ってきたのが嬉しくて少しなら……大丈夫って思ってしまった。 |
| ゲフィオン | 私はお姉さんだから一人でもフィルのことを守れるって……。 |
| フィリップ | あの時からきみは、イクスに罪悪感を抱いてイクスを守ると決めたんだよね。そして無意識に僕を遠ざけるようになった。 |
| ゲフィオン | ごめんなさい……。あなたを見ていると、私の弱さが思い出されてつらかった……。 |
| フィリップ | ……うん、知ってたよ。でも、イクスが殺されて色々あって、イクスを具現化しようと決めた時これは全てをやり直すチャンスだと思ったんだ。 |
| フィリップ | 僕の罪を消して、ミリーナの罪悪感を消して二人目のイクスとミリーナが幸せになれば……きみは僕を振り向いてくれるんじゃないかって。 |
| フィリップ | 僕はイクスが好きだったけどミリーナのことも好きだった。ミリーナに……きみに振り向いて欲しかったんだよ。 |
| ゲフィオン | ――え…… ? |
| 二人 | …………。 |
| フィリップ | そうだよね……。気付いてないと思ってた。 |
| フィリップ | 勇気が無くて今まで一度も口にできなかったけど僕は、ミリーナが好きなんだ。 |
| ゲフィオン | …………。 |
| フィリップ | ……ミリーナ ? |
| ゲフィオン | 酷い……。 |
| フィリップ | ……ごめん、困らせて。 |
| ゲフィオン | いいえ……違うの。私が……酷いの……。私……本当に何も見えていなかった……。 |
| ミリーナ | イクス、私……。 |
| イクス | あれはフィルさんとゲフィオンの話だよ。ミリーナは、ミリーナだ。 |
| ミリーナ | え、ええ……。 |
| ゲフィオン | ありがとう、フィル。私のことを好きでいてくれて。でも……。 |
| フィリップ | ……うん。 |
| ゲフィオン | あなたをずっと、弟のように大事に思っていたわ。だから巻き込んではいけないと考えていた。 |
| ゲフィオン | ……なのに、結果的に酷く傷つけることになってしまった。 |
| ゲフィオン | だからこそ、全ての責任は姉である私が引き受けるつもりでいたの。 |
| ゲフィオン | でも……それも私の独りよがりだったのね。あなたに対して、とても失礼なことをしていたんだわ。……ごめんなさい。 |
| ゲフィオン | 私、やっぱりイクスが……最初のイクスが好きなの。だからあなたの気持ちには応えられない。 |
| フィリップ | ……うん。 |
| ゲフィオン | けれど、一緒に世界を歪めた者としてあなたには生きて責任を果たして欲しい。 |
| フィリップ | 『一緒に』って……。今、それを言うんだね。 |
| ゲフィオン | ええ。私、魔女だもの。 |
| ゲフィオン | それと……カーリャ。 |
| カーリャ・N | は、はい ! |
| ゲフィオン | あなたの記憶がなくて、ごめんなさい。 |
| カーリャ・N | ですから、それはもう―― |
| ゲフィオン | でもね、私がカーリャに全てを託したのなら私は間違いなくあなたを愛し、信頼していたのよ。だからきっと二人目の鏡精を作らなかったんだわ。 |
| ゲフィオン | 私を救おうとしてくれて、ありがとう、カーリャ。 |
| カーリャ・N | ゲフィオン様……そんなお別れみたいな言葉は嫌です。 |
| ゲフィオン | 困ったわね。でもきっと、人間になったあなたの心にはかつての私が――ゲフィオンが生きているわ。いつも一緒なのよ。 |
| ゲフィオン | だからどうか、『小さな』ミリーナを守るためにあなたの持つ記憶を託してあげてちょうだい。 |
| カーリャ・N | ……………………はい。 |
| ゲフィオン | ありがとう、カーリャ。 |
| ゲフィオン | ――ではミリーナ、カーリャを呼び戻そう。お前の心を守って貰わねばならない。 |
| ミリーナ | 無理よ。カーリャを感じることができないの。 |
| ゲフィオン | 私に考えがある。 |
| イクス | 何をする気ですか。 |
| ゲフィオン | ミリーナの心には、バロールの接触で暴走した私の力が流れ込んでいる。今からそれを止める。 |
| ゲフィオン | ほんの僅かな時間だがミリーナの心は安定するはずだ。その間にカーリャを呼び戻してもらう。 |
| イクス | 待ってください ! |
| ゲフィオン | これ以上長引けば、私が力を制御できなくなる。――ミリーナ、始めるぞ。 |
| Character | 3話【7-3 ミリーナの心2】 |
| ミリーナ | カーリャ、私はここよ。聞こえているなら答えて……。 |
| カーリャ | ……さま。ミリーナさまっ ! ! |
| ミリーナ | カーリャ ! 戻って来たのね ! |
| カーリャ | ミリーナさまーっ ! 会いたかったですぅ !どうしても心の中に戻れなくて……。 |
| イクス | 良かった、カーリャは元気みたいだ。 |
| カーリャ | はれ ? イクスさまに、先輩に、フィルさま ! ?めちゃくちゃ人数増えてますけど ! ? |
| ゲフィオン | ……くっ……。ミリーナ、早く記憶の受け渡しを……。 |
| ミリーナ | カーリャ、詳しい説明は後でするわ。ネヴァン、お願い。 |
| カーリャ・N | はい。――小さいカーリャ、今から私はゲフィオン様の記憶を、小さいミリーナ様に渡します。あなたは小さいミリーナ様の心を守りなさい。 |
| カーリャ | え ? でも、ゲフィオンさまは ? |
| ゲフィオン | カーリャ、ミリーナをお願いね。 |
| カーリャ | ! ! |
| カーリャ | ……わかりました。全力で守ります ! |
| カーリャ・N | ……では小さいミリーナ様、ご用意を。 |
| ミリーナ | ええ……。 |
| カーリャ・N | ……記憶の移行は終了しました。 |
| イクス | ミリーナ ! ? |
| ゲフィオン | ……大丈夫、上手くいったわ。これが証拠。 |
| イクス | 姿が薄れて……心が消えているからか ! ? |
| ゲフィオン | これで、やっと……。 |
| フィリップ | ゲフィオン、こんなのはずるいよ……。 |
| イクス | ……そうだよ。フィルさんの言う通りだ。生きて償うのは、あなたも同じじゃないか ! |
| ゲフィオン | ! ! |
| イクス | あなたが苦しむのは――俺はそんなこと必要ないと思うけど、それでもあなたの自由だ。 |
| イクス | でも、あなたが苦しめたと自覚している人たちが実際にまだ苦しんでいるなら何か助ける方法を探しましょう。 |
| イクス | 万策尽きてから『死に続ける』選択をしても遅くはない筈だ ! |
| ゲフィオン | イクス……。 |
| カーリャ・N | ……ミリーナ様、やっぱりカーリャは納得できません。ミリーナ様をこのまま消えさせはしない。 |
| フィリップ | ネヴァン、何をするつもりだ ? |
| カーリャ・N | 私はもう鏡精ではありませんが人間になったことで、ゲフィオン様と同じ想像の魔鏡術の力を受け継いでいます。 |
| カーリャ・N | この力で、ゲフィオン様の心を守れないかやってみます。 |
| フィリップ | ま、待て ! それは危険―― |
| カーリャ・N | あなたを守ってみせます ! ミリーナ様 ! |
| ゲフィオン | 駄目…………カー……リャ……………。 |
| 二人 | ! ! |
| イクス | 二人とも消えた……。まさか、一緒に消滅したのか ! ? |
| フィリップ | いや、ネヴァンがゲフィオンの心の中に残った、のか ? 今の彼女にそんなことができる筈がないのに……。 |
| カーリャ | ううっ……二人とも、推測は外でしてください ! |
| イクス | カーリャ ! ? |
| カーリャ | ゲフィオンさまの記憶を受け止めるためにミリーナさまの心に大きな負荷がかかっているんです ! |
| フィリップ | すまないカーリャ ! |
| フィリップ | ――イクス。ミリーナにとって僕たちは異物だ。すぐに出よう。 |
| イクス | はい ! |
| イクス | う……戻ったのか ? フィルさんは……。 |
| フィリップ | 僕もついさっき戻ったんだよ。 |
| マーク | よし、これで二人とも無事に目が覚めたな。 |
| マーク | 正直なところ、ミリーナのことやら、突然消えたネヴァンパイセンのことやら、聞きたいことは山ほどあるんだが……とりあえずはこっちが先だ。 |
| マーク | ――おい、イクスたち、戻ってきたぞ。 |
| コレット | よかった…… !おはよう、イクス。大丈夫 ? |
| イクス | コレット ! ? どうしてここに……。 |
| コレット | カーリャに頼まれてセールンドからこの砦まで送ることになってたの。 |
| イクス | セールンド ! ?カーリャはそんなところにいたのか。 |
| コレット | うん。けど私、飛んでる途中でカーリャを落としちゃって……。 |
| イクス | 落としたって……。カーリャも飛べる筈なのにさては気を抜いてたな……。 |
| コレット | でもね、偶然ルドガーやジュードたちが戦っている真上だったから、カーリャのこと受け止めてくれたの。 |
| コレット | そのあと、カーリャが消えちゃったって聞いたからもしかしてここにいるのかもと思って様子を見に来たんだ。 |
| イクス | そうだったのか。カーリャは今、ミリーナの心の中にいるよ。送ってくれてありがとう。 |
| コレット | そっか、ちゃんと戻れたんだね ! 良かった ! |
| イクス | ところで、ジュードたちは何かの作戦中なのか ?ミリーナが倒れた時に、魔鏡通信が繋がらなくなったから、今どんな状況かわからないんだ。 |
| コレット | 精霊関連で問題が起きたから、みんなで手分けして調査をしてるところだよ。 |
| コレット | でもジュードたちは、途中でパティ奪還作戦の戦闘に巻き込まれたみたいで、敵に囲まれてたの。 |
| イクス | 大丈夫なのか ! ? |
| コレット | うん、みんな無事だよ。 |
| コレット | ただ、みんな「こっちは大丈夫だからカーリャの方へ行ってあげて」って言ってたけど何だか心配なの。 |
| イクス | そうなのか……。 |
| コレット | カーリャが無事だったことがわかったから私、今からジュードたちの様子を見に行ってみるね。カーリャのことを心配してたから伝えてあげたいし。 |
| フィリップ | いや、直接出向かなくてももう、魔鏡通信が使えるんじゃないかな。 |
| イクス | 本当ですか ! ? |
| フィリップ | この砦付近での大きな障害はミリーナがゲフィオンの力の影響を受けたことだ。そのせいで魔鏡結晶ができてしまったしね。 |
| フィリップ | でもそれはもう……解決した。 |
| マーク | そういやさっき、ローエンから通信が入ったぜ。ノイズが酷くて、何を言ってるかまでは聞き取れなかったけどな。 |
| マーク | けど、原因は複数あるんだろう ?ローエンからの通信のノイズもそいつのせいか ? |
| フィリップ | 多分ね。けれど、一番大きな要因はゲフィオンの力だと思う。だから、魔鏡通信は回復しつつあると見ていい。 |
| フィリップ | コレット、ジュードに繋いでごらん。 |
| コレット | はい。 |
| コレット | ――ジュード、ジュード、繋がってる ? |
| ジュード | コレット ! そっちは無事 ? |
| コレット | うん。カーリャはミリーナの所へ帰れたって。イクスも隣にいるよ。 |
| イクス | 心配かけてすまない。そっちの状況を教えてくれ。 |
| Character | 4話【7-3 ミリーナの心2】 |
| バルド | ――簡単ですが、事の経緯はこんなところです。 |
| ロイド | バルドの実体化も驚いたけどセールンドではそんな大変なことが起こってたのか。 |
| ラタトスク | ……精霊を無理やり集めてフリンジかよ。帝国の野郎、ろくでもねえこと考えやがって。 |
| しいな | まったくだね。こっちには精霊関係者も多いしフリンジが成功して、何か悪い影響でもあったら今頃どうなってたかわかりゃしないよ。 |
| ジーニアス | けど、フリンジって新しい魔術を作り出すんでしょ ?何を作るつもりだったんだろう。 |
| ナーザ | ディスト博士、心当たりはあるか ? |
| ディスト | さあ、帝国のくだらない研究には興味がありません。この薔薇のディスト様の関心を惹きたければもっと面白い題材を用意していただかないと。 |
| ロイド | ディストが関心ありそうな研究…… ?ジェイドの研究……とか ? |
| マルタ | 確かに。ジェイドさんなら興味あるでしょ ? |
| ディスト | 何故私がジェイド如きを研究しなければならないのですか ! ? |
| バルド | まあまあ。ジェイドさんは優秀な方ですからそれを研究できる博士はもっと優秀だということでは ? |
| ディスト | 私が…… ! 優秀…… !ええ……ええ ! 優秀ですとも ! |
| ジーニアス | 結局、フリンジで何をする気だったかは不明なんだね。ともかく、コーキスたちが阻止してくれて助かったよ。 |
| テネブラエ | はい。助けられた精霊たちに代わってお礼を申し上げます。 |
| メルクリア | …………。 |
| コーキス | なんだよ、メルクリア。さっきからテネブラエ様のことじっと見つめてさ。 |
| メルクリア | いいや、珍しいものじゃと思ってな。獣が話すのじゃぞ ? |
| テネブラエ | 獣ではありません。私は誇り高きセンチュリオンです。この世界では精霊に属していますが本来は魔物の王たるラタトスク様のしもべとして高貴なる闇を司り―― |
| メルクリア | よ、よくしゃべるな。 |
| エミル | 僕も最初は驚いたよ。でも、すごく頼りになるんだ。ちょっとクセが強いけどね……。 |
| メルクリア | そういうお前も、さきほどからコロコロと人格が入れ替わっておるぞ ?鏡映点は変わり者が多いのう。 |
| テネブラエ | はぁ……自己紹介を遮ったばかりかクセが強いだの変わり者だのと、あんまりです。私には語り切れないほどの魅力があるというのに。 |
| プレセア | テネブくんの魅力……。肉球を自在に作れることでしょうか。ふにふにすると気持ちがいいです。 |
| テネブラエ | プレセアさんは、またそれですか ? |
| メルクリア | また ?そんなに何度も触りたくなるほど良いものなのか。 |
| プレセア | はい。テネブくんは、私のいた時代よりも未来の存在ですが、その時に出会った未来の私も同じように触っていたそうです。 |
| メルクリア | なるほど、肉球……。 |
| プレセア | ……テネブくん。今、作ってもらえませんか ?メルクリアが触りたそうなので。 |
| メルクリア | なんと ! よいのか ! ? |
| テネブラエ | か、構いませんが、あのふにふにはくすぐったいんですよねぇ……。 |
| プレセア | リーガルさんの体がよくなったらその時にもお願いします。きっと喜ぶと―― |
| 全員 | ! ! |
| メルクリア | ゲフィオンの鏡像が光ったぞ ! ? |
| カーリャ・N | ………っ! |
| コーキス | うおわおあ ! ?鏡像からネヴァンパイセンが飛び出してきたぞ ! ? |
| バルド | ネヴァン ! |
| カーリャ・N | あ……バル、ド…… ? |
| バルド | これは……酷い傷だ。無理に動かないで。 |
| コーキス | ネヴァンパイセン、どうしたんだよ ! |
| カーリャ・N | ゲフィオン様の……心の防御壁を……作って…………………………。 |
| コーキス | ネヴァンパイセン ?おい、しっかりしろよ、死ぬなって ! |
| バルド | 落ち着くんだ、コーキス。 |
| バルド | ――誰か、回復術が使える方は ! ? |
| マルタ | は、はい、少しだけなら! |
| バルド | 状態はどうですか ? |
| マルタ | なんとも言えない。もっと強い回復術が使えたらよかったんだけど……。 |
| エミル | さっき『心の防御壁』って言ってたよね。それを作ってこんなことになったのかな。 |
| バルド | しっかりしてください、ネヴァン。あなたのこんな姿は見るに堪えない……。 |
| バロールの残滓 | (まったく、余計なことをしてくれた) |
| バルド | この声……。 |
| ナーザ | どうした、バルド。 |
| バルド | お待ち下さい、ナーザ様。今、バロールが話しかけてきています。 |
| コーキス | それ、頭の中に声がするやつか ? |
| バルド | ええ。後で話そうと思っていましたが先ほども同じように話しかけてきたのです。私のことを尖兵と言っていました。 |
| ナーザ | 尖兵だと ? |
| コーキス | あいつ、俺だけじゃなくてバルドにまでちょっかい出してんのかよ。何て言ってるんだ ? |
| バルド | ………………。バロールによれば、カーリャ……ネヴァンのせいで死の砂嵐にアクセスできなくなった、と。 |
| ナーザ | バルド、バロールにこちらの声は聞こえているのか ? |
| バルド | ええ、恐らく。 |
| ナーザ | そうか。 |
| ナーザ | ――バロール、いや、その残滓とやらよ。バルドは貴様の所有物ではなく俺の部下だ。俺の許可無く利用するな、無礼者め。 |
| バルド | ナーザ様……。ご存じかと思いますが、相手は神ですよ ? |
| ナーザ | バルド、お前もわきまえろ。人を駒としか思わぬ神など無視すればいい。我らが奉る神はダーナ神のみ。それを忘れるな。 |
| バルド | 御意。元より私は御身とメルクリア様のためにある存在。どうかご心配なさいませんように。 |
| ナーザ | 心配などしていない。――それで、そちらの元鏡精はどうだ。しゃべれそうか。 |
| マルタ | ううん、まだ無理。ちゃんとアジトで治療しないと。 |
| ナーザ | ならば待っても無駄だな。後は貴様たちに任せる。我らは調査に赴かねばならない。 |
| ナーザ | ――行くぞ。バルド、メルクリア。それにコーキスとディスト博士も。 |
| バルド | ……このような状態のネヴァンを残して去らなければならないのは、身を裂かれる思いです。どうか彼女を……ネヴァンをお願いします。 |
| コーキス | ネヴァンパイセンのこと絶対の絶対の絶対に、元気にしてやってくれよな。 |
| ロイド | ああ、任せてくれ。 |
| しいな | コーキス、ちょっと待ちな。 |
| コーキス | え、なんだ ? |
| しいな | あんまり意地張らないほうがいいんじゃないのかい ? |
| コーキス | 意地って、何が ? |
| しいな | 余計なおせっかいかもしれないけどさ。もしもイクスたちに伝言があるなら引き受けるよ ? |
| コーキス | …………いい。 |
| しいな | コーキス……。 |
| コーキス | ごめん……。ありがとな、しいな様。 |
| Character | 5話【7-4 ファンダリア領 森2】 |
| ミリーナ | ……私……は…… ? |
| イクス | ミリーナ、目が覚めたか ! |
| ミリーナ | イクス……、傍にいてくれたのね……。 |
| マーク | ってことは、こっちもそろそろか ? |
| カーリャ | ただいま戻りましたっ ! |
| マーク | よう、ちっこいパイセン。お疲れ様。鏡精の底力、見せてもらったぜ。 |
| カーリャ | このくらい当然ですよ。 |
| コレット | カーリャ ! 無事でよかったよぉ。 |
| カーリャ | コレットさま、来てくれたんですね。さっきはありがとうございました。 |
| コレット | ううん、お礼なんていいよ。私こそ途中で落としちゃってごめんなさい。凄いスピード出しながら放りだしちゃって……。 |
| カーリャ | いいえ、あれはカーリャがコレットさまを無理に急がせてしまったからです。 |
| マーク | それで飛べるはずの鏡精が真っ逆さまか。 |
| カーリャ | そういうこともあるんですよ ! マークだって幼体のまま全速力のコレットさまに運んでもらえばわかります ! |
| フィリップ | どうやらカーリャの方は問題なさそうだね。ミリーナ、異常はないかい ? |
| ミリーナ | ……ええ、大丈夫。あの、フィル、私……。 |
| フィリップ | ミリーナ、『その記憶』はゲフィオンのものだ。 |
| ミリーナ | …………。 |
| フィリップ | 勝手に作られてしまった『今のミリーナ』が体験したことじゃない。決して取り込まれてはいけないよ。 |
| ミリーナ | ……努力します。 |
| フィリップ | それと、ネヴァンのこともだ。今は目の前のことに対処しないといけない。わかるね ? |
| ミリーナ | ええ……。 |
| フィリップ | ……まあ、その、僕も色々と恥ずかしかったりみっともなかったり、情けないことを言ったから正直……かなり居心地が悪いんだけれど……。 |
| マーク | ……なんだ。また恥の上塗りをしたのか? |
| イクス | 恥ずかしくなんてないって、俺は思います。 |
| フィリップ | そう言われると余計に……。 |
| イクス | わ……そ、そうですか、すみません ! |
| イクス | え、えっと……ミリーナ、少し休んでくれ。まだ混乱してるだろう? |
| ミリーナ | いいえ、大丈夫よ。戦況はどうなっているの ? |
| イクス | 陽動部隊は救世軍の力を借りて立て直し中だ。それと、パティの心核を手に入れたからユーリさんに渡さないといけない。 |
| フィリップ | そのことだけど、休眠中だったパティの心核を目覚めさせておいたよ。ほら、これだ。 |
| イクス | あ、ありがとうございます、フィルさん !さすが、仕事が早いですね。じゃあ、俺、ユーリさんに連絡してみます。 |
| イクス | …………あれ ?通信が届いていないのかな。反応しない。 |
| ミリーナ | 出られないのかも。通信文だけでも送っておいたらどうかしら ? |
| イクス | そうだな。ええと、到着までの時間も考えないと……。 |
| コレット | 私、先にユーリたちのところへ行ってみるよ。飛んでいった方が断然早いでしょ ? |
| イクス | 助かるよ ! パティのことは一刻を争うんだ。 |
| イクス | ミリーナとカーリャも、コレットと一緒に行ってくれ。心核を扱うから鏡士が必要だ。俺も後から追いかける。 |
| ミリーナ | ええ、わかったわ。コレット、よろしくね。 |
| コレット | うん。頑張ればイクスも一緒に運べるけど今はスピード重視だもんね。 |
| ミリーナ | ところでユーリさんたちの居場所はわかっているの ? |
| イクス | ああ。ジュードたちの情報で目安はついている。そこから先は、魔鏡通信が繋がるチームと連絡を取りながら行動しよう。 |
| コレット | わかった。ミリーナ、カーリャ、行こう。 |
| イクス | 気を付けてな ! |
| イクス | ええと、後は―― |
| フィリップ | イクス、きみも今すぐに発つといい。砦のほうは僕たちで持たせておくよ。 |
| マーク | ってことだ。さっさと片付けて来いよ。 |
| イクス | ……フィルさん、マーク、ありがとう。俺、二人がいてくれて本当によかったって思ってる。 |
| イクス | ――じゃあ、行ってきます。 |
| フィリップ | ……僕がいてよかったって。 |
| マーク | そう思ってる奴は他にもたくさんいるんだぜ ?いい加減、気づけっての。 |
| カイル | あっ、あそこだ ! |
| リアラ | イレーヌ、あんな所に隠れていたのね。 |
| ナナリー | ったくなんなんだい !もうずっと逃げちゃ隠れ、逃げちゃ隠れ……。子供の遊びじゃあるまいし。 |
| ロニ | おい、イレーヌさんよ !もういい加減に観念しろって ! |
| ジューダス | そう言われて諦める馬鹿はいない。 |
| ロニ | うるせー、わかって言ってんだって ! |
| ジューダス | 美女を追いかけるのは役得だとか言ってたがさすがのお前でも我慢の限界か。 |
| ハロルド | けど、おかげでだいたい読めたわ。あいつの目的はこの先にある帝国軍の基地よ。 |
| ハロルド | あちこち隠れながらだけど確実にある場所へ近づいているから。 |
| ジューダス | そこが帝国軍の基地というわけか。 |
| ハロルド | そういうこと。領主の館が襲撃を受けた今この辺りじゃ一番守りが固くて兵が多いはず。逃げ込むには妥当でしょ。 |
| ハロルド | でも、それだけじゃ腑に落ちないことがあるのよね。 |
| エルレイン | イレーヌ、やはり基地に向かっていたか。 |
| イレーヌβ | ――エルレイン様。 |
| カイル | エルレイン ! ? |
| エルレイン | …………。 |
| リアラ | エルレイン、何故あなたがここに ! |
| エルレイン | イレーヌ、デミトリアスはどこか。 |
| ロニ | 無視かよ……なめやがって。 |
| イレーヌβ | デミトリアス陛下であればアスガルド城でしょう。向かわれますか ? |
| エルレイン | ええ。今すぐに。 |
| イレーヌβ | 承知しました。 |
| ハロルド | 転送魔法陣…… !そんなものが使えるなら、なんで今まで―― |
| ナナリー | あいつ、逃げちまうよ ! |
| ロニ | 逃がすか ! |
| カイル | オレたちも――うわっ ! |
| ジューダス | 魔法陣が消えた ! ?おい、もう一度展開できないのか ! |
| ハロルド | これは無理ね。痕跡がまったくないもの。ということは……そもそもエルレインだけを……そうするために準備していた……? |
| リアラ | ねぇ、エルレインはデミトリアスの所に行こうとしていたわよね。 |
| ジューダス | ああ。このままだと、ロニとナナリーは二人だけで敵地の只中に放り出されてしまう。 |
| カイル | ロニ、ナナリー…… ! |
| Character | 6話【7-5 アスガルド城1】 |
| イレーヌβ | それではエルレイン様私は謁見の申し入れをして参ります。 |
| エルレイン | 必要ない。デミトリアスは何処か。 |
| イレーヌβ | 今時分であれば謁見の間かと。 |
| エルレイン | では直接赴く。行くぞ。 |
| イレーヌβ | 承知しました。 |
| イレーヌβ | ――………… ? |
| エルレイン | どうした。 |
| イレーヌβ | 転送魔法陣がまだ閉じない……。申し訳ありません、どうやら賊が侵入したようです。 |
| エルレイン | 構うな、捨て置け。 |
| ロニ | ここは…… ?――って、今の後ろ姿、エルレインだ ! |
| ナナリー | カイルたちは来られなかったみたいだね。転送魔法陣は消えちまったし……。あんたと二人だけか。 |
| ロニ | なんだよ、不満か ? |
| ナナリー | いいや、頼りにしてるよ。 |
| ロニ | お ! ? ……おお。イレーヌを捕まえるのは難しくなっちまったができるだけ情報収集はしておこうぜ。 |
| エルレイン | デミトリアスはいるか ! |
| 帝国兵 | エルレイン様 ! ? どうかお待ちを―― |
| デミトリアス | ……エルレインか。 |
| 帝国兵 | 申し訳ありません。お止めしたのですが。 |
| デミトリアス | いや、いい。彼女とはゆっくり話がしたい。謁見の間の周囲の人払いを。警備兵も今だけは下がらせておけ。 |
| 帝国兵 | はっ。 |
| デミトリアス | ――さて、随分と急な訪問だ。良い報告だと嬉しいのだがね。 |
| エルレイン | よくもぬけぬけと。貴様、フォルトゥナ神を具現化する気など最初からなかったのだろう。 |
| デミトリアス | そんなことはない。ただ、この世界ではどう足掻いても異世界の神はエンコードで矮小化してしまう。 |
| デミトリアス | それは、きみの力が酷く弱まっていることで身をもって実感しているはずだ。弱体化した神など望んではいないだろう ? |
| エルレイン | その話と、貴様たちがフォルトゥナ神の降臨を騙ったことに何の関係がある。 |
| デミトリアス | 大いにある。私たちは、まずこの世界の神と呼ばれる存在を引きずり出し、神という概念を書き変えるしかないと考えたのだ。 |
| デミトリアス | そうすれば、異世界の神も具現化できるようになるかもしれない。 |
| デミトリアス | その時こそ、真のフォルトゥナ神の降臨となるだろう。きみの望む救済はそこから始まる。奇跡の力が、人々に救いをもたらすんだ。 |
| エルレイン | 全てを消滅させた後で神を具現化したとしてそれが救済と言えるのか ? |
| デミトリアス | ……どこまで知っているのかね ? |
| エルレイン | 帝国が救うべき人々を見捨てこの世界を滅ぼそうとしていること。 |
| エルレイン | すでに滅びた世界であるニーベルングを造ろうとしていること。 |
| エルレイン | そして、皇帝を名乗るあなたが孤独で侘しく、誰よりも救われたいと願う弱い人間だということです。 |
| デミトリアス | …………。 |
| グラスティン | 全てお見通しとは、さすが聖女様だ。しかも皇帝陛下をも憐れむ心をお持ちでいらっしゃる。 |
| エルレイン | ……グラスティン。 |
| グラスティン | そんな聡明なお方が、俺たちの目を盗んであっちこっち嗅ぎまわっていたらしいなぁ。犬のように。 |
| エルレイン | 犬を使って私を探っていたのは貴様であろう。 |
| グラスティン | ヒヒヒッ。聖女様の頭が固すぎるからだよ。人々の救済とやらに執着しすぎだ。 |
| グラスティン | 世界を消滅させた後だって救済はできるだろう ?新たに救済するべき『人』を作ればいいんだからな。 |
| エルレイン | 貴様……、本気で言っているのか。 |
| グラスティン | お気に召さないか? それじゃあ仕方がないなあ。聖女様には最後の役割を務めてもらおう。 |
| エルレイン | これは…… ! ? |
| グラスティン | 【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。 |
| エルレイン | グラスティ―― |
| グラスティン | 聖女様出棺だあ。よくやったな、イレーヌ。 |
| イレーヌβ | ありがとうございます。 |
| デミトリアス | イレーヌはよく働いているようだね。 |
| グラスティン | ああ。聖女様は、俺がサレを使っていることに気を取られていたから、従順なイレーヌが裏切るとは思わなかっただろうよ。 |
| グラスティン | おかげでこの魔鏡陣にも気づかれずに誘導することができた。ヒヒヒッ。 |
| デミトリアス | そう、だな……。 |
| グラスティン | おーい、あの女の言うことを真に受けるなよお ? |
| デミトリアス | わかっている。わかってはいるが彼女の望みを叶えて上げられなかったことが悲しいのだ。 |
| グラスティン | ヒヒヒ、お前は本当に面白いなあ……。目に入る範囲の全てに同情し手の届く範囲全てに手を差し伸べる。 |
| グラスティン | そうして、結局は手に負えなくなって手放すんだ。『誰かいい人に拾われてね』ってな。最高の絶望演出家さあ ! |
| デミトリアス | …………っ ! |
| 帝国兵伝令 | グラスティン様 ! 至急お戻りください。 |
| グラスティン | あ ? 何が起きた。 |
| 帝国兵伝令 | それは……来ていただいた方がよいかと思います。グラスティン様の私的な件でもありますので。 |
| グラスティン | ……なるほど。ちょっとヤボ用が出来た。今から出てくる。 |
| デミトリアス | わかった……。後は引き受けるよ。 |
| グラスティン | そうそう、外に出るついでに『レプリカの心核』も回収しておかなきゃな。イレーヌ、お前も来い。 |
| イレーヌβ | はい。グラスティン様。 |
| ロニ | おい……、俺たち、ヤバイもの見ちまったんじゃねえか ? |
| ナナリー | 嘘だろ、あのエルレインが……。 |
| ロニ | あいつら、奇跡の力がどうとか言ってたよな。エルレインはそのために嵌められたのか ? |
| ナナリー | あっ、グラスティンとイレーヌが行っちまうよ ! |
| ロニ | 考える時間もないってか。くそっ、追うぞ ! |
| Character | 7話【7-6 アジト】 |
| リフィル | 浮遊島全域で、魔鏡通信の復活を確認したわ。 |
| リフィル | 外部との通信が安定するにはもう少しかかるでしょうけどこの分ならほぼ問題なく繋がる筈よ。 |
| ジェイド | 根本的な原因が解消されたのでしょう。これでようやく地上に降りているチームに連絡が取れる。 |
| リフィル | あら、言っている間に連絡が来たみたい。――カイル、そちらは無事 ? |
| カイル | リフィル先生 ! ロニとナナリーが大変なんだ ! |
| リフィル | では、二人はアスガルド城にいる可能性が高いのね。 |
| カイル | うん。オレたちも助けに行きたいけどここからじゃ遠すぎるんだ。 |
| リフィル | わかっています。彼らの救出はスタンたちのチームに動いてもらうわ。 |
| ジェイド | それと、ケリュケイオンにも連絡を。ローエンがいれば何かしらの際に対処してくれるでしょう。カイルたちも、それでいいですね ? |
| カイル | 了解。それとスタンさんたちに伝えて欲しいんだ。ロニとナナリーを頼みますって。 |
| リアラ | 良かった……。少しだけ安心したわ。 |
| カイル | でもさ、オレたちが魔法陣に飛び込むのがもう少し早ければこんなことにはならなかったのにって思うと……。 |
| ハロルド | いいえ、行かなくて正解かも。イレーヌは転送魔法陣を使っていたけど自分が逃げる時には使わなかったでしょ。 |
| ハロルド | 普通の転送魔法陣より消えるのも早かったし痕跡も残らなかった。なんか不自然なのよねぇ。 |
| ジューダス | 確かに。むしろエルレインが来なければ使う予定さえなかったようにも思えるな。 |
| リアラ | ……まさか、エルレインは……。 |
| ハロルド | ま、今考えても出ない答えは後回ししましょ。それで、これからどうする気 ? |
| カイル | イクスたちに合流しようと思ってる。 |
| ジューダス | ――待て。……誰かいる。 |
| カイル | あれは、ディムロスさんだ ! |
| ディムロス | ……………………。 |
| カイル | え ? 何かのサイン ? |
| ハロルド | そのまま静かに、この先の茂みに身を隠せって。行くわよ。 |
| ディムロス | 驚かせてすまない。あの辺りは帝国兵が頻繁に現れるからな。 |
| カイル | どうしてディムロスさんがここにいるんですか ? |
| ディムロス | そうか、きみたちはイクスくんと別行動だったな。どこまで把握している ? |
| カイル | ついさっき、ジェイドさんたちから聞いて大まかな動きだけは知っています。 |
| カイル | けど、さっきまで魔鏡通信が使えなかったから少し前の情報ばかりなので詳しいことは調査中だそうです。 |
| ハロルド | ちなみに今は通信可能よ。まだ不安定だけどね。で、そっちは ? |
| ディムロス | ファンダリア領の研究施設に魔核が大量に運び込まれたとの情報を得てイクスくんたちと協力しつつ回収作戦に当たっていた。 |
| ディムロス | だが、魔核の保管場所を移されてしまってな。ちょうど輸送中の敵と鉢合わせして戦ったんだが転送魔法陣で逃げられた。 |
| ハロルド | で、後を追っかけて魔法陣に飛び込んだわけ ? |
| ディムロス | ああ。転送先は帝国の基地だった。さすがに身を隠さざるを得ず輸送していた者たちを見失ってしまった。 |
| カイル | だったら捕まえましょう !どんな奴らだったんですか ? |
| ディムロス | カイルくんたちと同じくらいの少年と少女だ。少女の方は魔物使いで、アリエッタと呼ばれていたな。 |
| ハロルド | アリエッタ……。ふうん……そう。 |
| ジューダス | それで、基地を脱出して今に至るというわけか。 |
| ディムロス | そんなところだ。だが、魔核の行方は突き止めた。【魔導砲】に使用するために運ばれているらしい。今も基地から魔導砲への輸送隊が送り出されている。 |
| ハロルド | ちょっ、魔導砲 ! ? |
| ディムロス | あまり大きな声を出すな。今も言ったが、輸送隊と護衛の兵がこの辺にも―― |
| ハロルド | 出さずにいらんないって ! キール研究室ではね魔導砲は虚無を破壊する装置じゃないかって推測されてるんだから。 |
| カイル | 虚無を破壊っていうと……。 |
| リアラ | 虚無はティル・ナ・ノーグを取り巻く空間よ。死の砂嵐……カレイドスコープで消えた人々の魂はそこに捕らえられて苦しんでいるわ。 |
| カイル | そうそう、それ !それを壊せるなら、いいことなんじゃないの ? |
| ハロルド | バカね。もしも虚無が消えたらティル・ナ・ノーグそのものが消滅するわよ。 |
| カイル | ええっ ! ? |
| ハロルド | 帝国の目的が、ティル・ナ・ノーグの破壊とニーベルングの復活ならもう計画は最終段階ってことね。 |
| ジューダス | だとすれば、アリエッタたちを追うよりも魔核の輸送隊を追った方がいいだろう。 |
| ディムロス | ああ。魔導砲の稼働を止めねばならん。 |
| | その頃、魔核の輸送隊とともに魔導砲へと向かっていたパティは―― |
| ? ? ? | タイダルウェーブ ! |
| 帝国兵たち | うわああっ ! |
| 輸送隊隊員A | 弓兵だ ! |
| 輸送隊隊員B | くそっ、足を……。動けな……。 |
| 帝国兵 | 待ち伏せされたか ! ?狙われているぞ ! 少女を渡すな ! |
| パティ | …………。 |
| 帝国兵 | いったいどこ……から……。……………………。 |
| パティ | …………。 |
| ユーリ | さっきの奴が最後の護衛ってとこか。 |
| レイヴン | 取り巻きは全部片付けたわよ。 |
| ユーリ | ――パティ、今度こそ迎えに来たぜ。 |
| パティ | ! ! |
| デューク | あの娘、戦う気だぞ。 |
| ユーリ | やっぱそうなるか。仕方ねぇ。パティ、悪いがちょっと痛いぜ ! |
| Character | 8話【7-7 ファンダリア領 森3】 |
| ユーリ | ふぅ……やっと大人しくなってくれたな。 |
| レイヴン | 結構きつかったわ……。おっさんヘトヘト。 |
| カロル | ボクも……。リタ、パティにはそんなに力が残ってないって言ってたのに……。 |
| リタ | それだけ【鏡の精霊】としての力が強いってこと。 |
| ジュディス | 手加減しながら戦っていたのも原因じゃないかしら ?パティに大きな怪我はさせられないものね。 |
| カロル | ジュディス……手加減してた ? |
| ジュディス | ふふふ。それなりに。 |
| エステル | あとはイクスたちが来てくれればパティも元通りですね ! |
| フレン | その筈ですが……、まだ姿は見えないようです。 |
| カロル | 今はジュードたちが手分けして監視してくれてるけどここには長く居ないほうがいいよね ? |
| ユーリ | ああ。だが、ギリギリまで待ってみようぜ。イクスたちを信じてな。 |
| コレット | ミリーナ、ユーリたち、あそこにいるよ。 |
| ミリーナ | みんな、待たせてごめんなさい ! |
| 全員 | ミリーナ ! |
| カロル | コレットに送ってもらってきたんだね。イクスは ? |
| ミリーナ | 後から追いかけてくる筈よ。パティの心核を持ってきたからすぐに交換しましょう。 |
| エステル | どうです ? 上手くいったでしょうか。 |
| ミリーナ | ええ、交換終了よ。パティの心核はちゃんと戻したから、安心して。 |
| エステル | ありがとうございます ! |
| ミリーナ | もう少し遅かったらパティの肉体も作り替えられていたかもしれない。ギリギリだったわ。 |
| リタ | そう、急いでよかった……。 |
| ミリーナ | それとこれが、今までパティに入っていた疑似心核――聖核よ。 |
| デューク | これが我が友だと…… ? |
| ミリーナ | こんな状態、私も初めて見たわ。キメラ結合でこうなってしまっているのね。 |
| ユーリ | くそっ、サレの言った通りかよ。 |
| エステル | ミリーナ、この聖核はデュークにとって掛け替えのない大事な友人なんです。何とかなりませんか ? |
| ミリーナ | 大事な友人……。あの……デュークさん。あなたのご友人をお預かりしてもいいでしょうか。 |
| デューク | 元に戻せるのか ? |
| ミリーナ | ……かなり複雑な結合状態ですが、私たちの拠点で結合を解くことができないか確認してみます。 |
| ミリーナ | もちろん、デュークさんも一緒にアジトへ来て頂いて構いません。 |
| デューク | ……拠点とやらまでは、私が我が友を運ぶ。 |
| スレイ | お前は ! |
| カロル | 今の声、スレイだ ! |
| ユーリ | 行くぞ、襲撃かもしれねえ。 |
| フレン | ミリーナはパティを見ていてくれ。 |
| ユーリ | おい、いったい何が―― |
| 全員 | ! ! |
| グラスティン | ほう ! お前いいな、最高だ !長さといい艶といい……ヒヒッ、ヒヒヒッ ! |
| ラピード | グルルルルゥ…… ! ワンワンワン ! |
| ユーリ | ……死んだんじゃねえのかよ。 |
| カロル | ニ、ニセモノとか…… ? |
| リタ | あのキモい反応、間違いなく本物よ。 |
| スレイ | 突然現れたんだ。まさか生きてたなんて。 |
| ザビーダ | んなわけねえ。あの時は呼吸だって止まってたぜ。 |
| ユーリ | あの時……。そうか、その後、死体がどうなったか確認しちゃいなかったな。 |
| ユーリ | てめえのレプリカでも作ったか。グラスティン。 |
| スレイ | レプリカ ! ? |
| ユーリ | お前らもリーガルの一件、聞いてるだろ。 |
| ライラ | この世界で作られたレプリカは、不完全でも被験者の記憶を共有できる可能性がある――でしたよね。 |
| リタ | そう。ロイドたちの話では、レプリカの心核が崩壊したのと一緒に、身体も消えたらしいけど。もし、こいつの死体に心核が残っていたら ? |
| エドナ | 死体は残る……。じゃああの時死んだのはレプリカというわけね。 |
| グラスティン | ヒヒッ。さて、どうだろうなぁ。 |
| フレン | どちらにしろ、お前にパティは渡さない。その悪趣味な黒髪狩りも止める。 |
| グラスティン | 心配しなくても、あの聖核はもう用済みだ。娘ごと、そのまま返してやるよ。 |
| グラスティン | そこの黒髪は……本当なら意地でも手に入れて持ち帰るところだがな。惜しいが今だけは見逃してやる。 |
| ユーリ | そりゃどうも。で、てめぇの目的はなんだ。 |
| グラスティン | 聖核もお前も見逃してやる代わりにサレの行方を話せ。 |
| ユーリ | …………なんのことだよ。 |
| グラスティン | とぼけなくていい。この森に来た筈だ。銀髪の男が追っていたと、目撃情報がある。 |
| デューク | …………。 |
| グラスティン | やはり戦ったんだな ? その後、どこに行った。 |
| ユーリ | だから知んねえって。 |
| グラスティン | ふん……どちらにしろ役立たずか。いっそお前らが息の根を止めてくれればよかったのによぉ……。 |
| グラスティン | まあいい。サレがいないなら、ここに用はない。また会おうぜ、ヒヒヒッ。 |
| ミクリオ | 転送魔法陣か。どうりで突然現れたように見えたわけだ。 |
| ユーリ | みんな、周辺の警備に行ってる奴らにも連絡して集まってくれ。今後について話がある。 |
| ミリーナ | そう。パティを連れてケリュケイオンへ行くのね。 |
| ユーリ | ああ、心核の交換は済んでるがしばらく目は覚めないだろ。安全な所で休ませる。 |
| ユリウス | 今なら魔鏡通信も繋がっているようだ。ケリュケイオンに連絡をとってみよう。 |
| カロル | よし、全員で撤退準備だね。 |
| ユーリ | いや、オレは残る。気になることがあるんでな。 |
| フレン | また君は……。何を調べる気だい。 |
| ユーリ | あいつが言ってただろ。「聖核は用済み」って。パティのことも気にかけちゃいなかった。 |
| ユーリ | 自分のレプリカ使ってまで【鏡の精霊】を作る準備をしてたんだぜ ?なのに、全く執着がねえってのもおかしな話だ。 |
| ユーリ | で、思ったんだけどよすでに【鏡の精霊】を手に入れていたとしたらどうだ ?レプリカで。 |
| スレイ | 【鏡の精霊】のレプリカ ! ? |
| フレン | 突拍子もないな。それを確かめるために残るっていうのか。 |
| ユーリ | 他にもあるぜ。あいつのレプリカが死んだ理由と意味がわからねえ。 |
| レイヴン | 死の意味ねぇ……。何にしろ、パティちゃんを回収して「はい解決」ってわけじゃないのは確かだけどさ。 |
| スレイ | う~ん……。ユーリ、その調査オレたちが引き受けるのはどうかな。 |
| ユーリ | お前らが ?聞いた通り、これは全部オレの推測だ。空振りかもしんねえぞ。 |
| スレイ | うん。でもさ、やっぱりユーリたちはみんなでパティの側にいた方がいいと思う。 |
| ミリーナ | そうね。だってユーリさんたちはパティを救いに来たんでしょう ? |
| ミリーナ | だったら、聖核もパティもユーリさんたちみんなも無事に帰還することでようやく救出作戦のゴールだと思うの。 |
| ユーリ | ……なるほどな。オレの仕事は中途半端ってわけか。 |
| ミリーナ | そういうわけじゃないわ。でも……。 |
| フレン | いや、スレイやミリーナの言う通りだよ。一本取られたね、ユーリ。 |
| ユーリ | ああ、確かにこいつはオレの負けだ。スレイ、後は頼んだぜ。 |
| スレイ | ああ、任せてくれ。――それじゃみんなオレたちは帝国の基地へ調査に行ってくる。 |
| ユーリ | デューク、あんたにも一緒に来てもらうぜ。 |
| デューク | ……やむを得ぬ。 |
| ユリウス | ではジュードたちにも一緒にケリュケイオンへ移動してもらおう。パティには医療の力が必要だろう。 |
| ジュード | うん、そうだね。それに救世軍側も戦力不足だろうし調査班は最小限にした方がいいかもしれない。 |
| ルドガー | そうか……。あっちも人手が足りない様子だったな。とはいえ、スレイたちだけを残すのも心配だが……。 |
| ミリーナ | だったら私がスレイさんたちと一緒に行くわ。イクスがこっちに向かっているし連絡して、基地で合流しようと思うの。 |
| コレット | 私もミリーナたちと一緒に行くよ。きっと役に立てると思うから。 |
| セネル | 俺とシャーリィはケリュケイオンに戻る。グラスティンがうろついてるとなると、シャーリィに何か悪影響があるかも知れないからな。 |
| シャーリィ | お兄ちゃん。わたしなら、大丈夫。【鏡の精霊】のことを調べるならわたしも役に立てるかも―― |
| ミクリオ | いや、セネルの判断が正しい。シャーリィ、僕たちを信じてくれ。 |
| シャーリィ | ……そうですね。わかりました。皆さん、気を付けて下さいね。 |
| Character | 9話【7-9 アスガルド城2】 |
| ウッドロウ | さすが帝国の本拠地、アスガルド城だ。警備が固いな。 |
| スタン | やべっ、あんなところにも兵士がいる。一瞬、目が合ったかと思ったぜ。 |
| リオン | 気をつけろ ! 見つかっていないだろうな。 |
| スタン | ああ、大丈夫 ! ……だと思うぜ、多分。 |
| ルーティ | それより、デクスはまだなの ? |
| フィリア | ジェイドさんが連絡をつけてくれている筈ですがこの警戒網の中です。自由がきかないのかもしれません。 |
| 帝国兵 | おい、そこの ! |
| スタン | まずい ! さっきの帝国兵だ ! |
| デクス | オレだ、愛の使者デクス !さっきスタンの顔が見えてな、探す手間が省けたぜ。 |
| ルーティ | あんた、やっぱり見つかってたんじゃない ! |
| スタン | け、結果オーライだって。な ? |
| デクス | 時間がないから聞け。ロニたちはグラスティンに捕まったぜ。二人は今から別の城に運ばれる。 |
| 帝国兵 | おい、そこ、誰かいるのか ! |
| デクス | ――くそっ !もう少しで裏門の方から馬車が出る。二台目を襲え。いいな ! |
| フィリア | あ、慌ただしいですね……。 |
| ウッドロウ | 私たちもここを離れよう ! |
| スタン | は、はい ! |
| リオン | この辺りなら大丈夫だろう。城の裏門も見える。 |
| スタン | よし ! 今のうちにアジトへ連絡を入れておこう。 |
| スタン | スタンです。デクスに会えました。 |
| リフィル | そう、良かったわ。それでロニたちは大丈夫 ? |
| スタン | それが……二人はグラスティンに捕まったそうです。別の城へ運ばれるのでこれから救出作戦に入ります。 |
| リフィル | わかったわ。みんな、気を付けてね。 |
| クレア | リフィルさん ! さっきの観測データに間違いはありません。 |
| マリアン | こちらもです。やはり異常値を示しています ! |
| リオン | マリアン…… ?おい、後ろが騒がしいようだが、何があった。 |
| リフィル | 耳聡いわね。実はファンダリア領で、また新たに正体不明の精霊の力を観測したの。しかも精霊の力が凝縮した、とてつもない力よ。 |
| リオン | 計器は直っていた筈だな。発生源はどこだ。 |
| リフィル | イクスや救世軍が戦闘をしている辺りね。 |
| ルーティ | スタン、裏門の様子が変よ。兵士が集まって来てる。 |
| スタン | わかった。――リフィルさん、また後で連絡します ! |
| フィリア | ファンダリア領で何が起きているのでしょう……。 |
| スタン | イクスたち、大丈夫かな。 |
| ウッドロウ | 心配は尽きないが、今の我々にできるのはロニ君とナナリー君の救出だけだ。 |
| ルーティ | そうよ。カイルたちに言われたでしょ。二人を頼むって。 |
| スタン | そうだな。まずは俺のやるべきことをやる ! |
| リオン | おい、馬車が出てきたぞ。一台……二台目 ! あれだ ! |
| スタン | 行こう ! 待ってろよ、ロニ、ナナリー ! |
| グラスティン | 【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。 |
| カイル | ペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! ! |
| エルレイン | (またか……。もう何十回、いや、何百回、この言葉を聞いただろう) |
| リアラ | エルレイン ! あなたはまちがっているわ !こんなやり方で、人々は救えはしない ! |
| エルレイン | (私は、フォルトゥナから生まれ【クロノスの檻】に落とされるこの生を何百――いや何千回繰り返したのか……) |
| エルレイン | (上も下もなく、永劫人生の記憶を見せられる。これが……【クロノスの檻】……) |
| リアラ | いいえ、わたしは信じているわ。人間の強さを……カイルたちを ! |
| エルレイン | (本当にそうだろうか) |
| ? ? ? | ううっ、痛い……苦しい……。なんでこんな目に……。 |
| ? ? ? | 辛いんだ……助けてくれ……。もう楽にしてくれ……。 |
| ? ? ? | 憎い……羨ましい……妬ましい……。アニマを……アニマをよこせぇえええっ ! |
| エルレイン | (いや、リアラが思うほど、人間は強くない。その証拠に、この場に漂う人々の残滓はいまだ救われぬまま悲鳴を上げているではないか) |
| エルレイン | (そうか……。ここは……虚無、なのか ?) |
| ジューダス | ……なぜ ? …………フッ、貴様は……やはりなにも……わかっていない。 |
| グラスティン | 【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。 |
| カイル | ペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! ! |
| エルレイン | (ああ、まただ。同じようにまたペンダントを……) |
| エルレイン | (ペンダント……。精霊クロノスの力が私のペンダントに反応して暴走している……。グラスティン、お前は一体、何が目的で……) |
| ハロルド | 明らかに論理が破たんしてるわね。救うために破壊する ?そんなことはありえないわ。 |
| デミトリアス | ティル・ナ・ノーグがニーベルングと同じ過ちを犯さぬように、あらゆる手を尽くす必要がある。それが非道であったとしても。 |
| エルレイン | (あの男の救済……。私の救済……。救済とはなんだ…… ?) |
| エルレイン | 案ずることはない。 |
| エルレイン | お前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。 |
| エルレイン | そして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。 |
| エルレイン | いまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。 |
| エルレイン | (私は、元の世界であの者と同じことを……言うのか…… ?) |
| エルレイン | (帝国の行いは愚かだ。だがそれはフォルトゥナを呼べぬ世界で破壊を選んだからだ。私は違う……私は……) |
| イクス | 神降ろしが失敗したのはわざとそうさせられたんじゃないでしょうか。 |
| リアラ | いいえ……ふたりの聖女は神より生み出されしもの。いうなれば神の化身……神の存在が消滅するときわたしとエルレインもまた……。 |
| エルレイン | (リアラ……もう一人の聖女……) |
| ディムロス | 見ろ、あれが魔導砲だ。 |
| カイル | うわぁ、まるで塔みたいだ。 |
| ハロルド | ズルい ! 私も作りたかったー ! |
| リアラ | ハロルドったら、そんなこと言ってる場合じゃ…………えっ…… ? |
| カイル | どうしたの、リアラ。 |
| リアラ | 今、エルレインの声が聞こえた気がして……。 |
| ジューダス | 近くにいるのか ! ? |
| ディムロス | 警戒しろ。ここで邪魔をされるわけにはいかない ! |
| クラトス | お前たち ! 何故ここにいる。 |
| カイル | クラトスさん ! そっちこそなんで ? |
| クラトス | 魔導砲の情報を聞いて、周辺を探っていたのだ。 |
| ハロルド | 丁度いいわ。その辺にエルレインいなかった ?他にも何か変わったこととか。 |
| クラトス | エルレインの姿は見ていない。だが、私の体内のマナがざわつくような妙な気配は感じている。 |
| ハロルド | マナか……。魔導砲と関係があるのかしら。他に何か魔導砲に関連することは ? |
| クラトス | 先ほど魔導砲に、魔核と【精霊石】なるものが届いたようだ。 |
| ハロルド | 精霊石 ! ? 帝国はもう、そんなものまで作ってたのね。 |
| クラトス | 知っているのか ? |
| ハロルド | 精霊石は、精霊を砲弾にしたものよ。 |
| クラトス | 砲弾…… ! ユーリたちから魔導砲で精霊を撃ち出す計画があるとは聞いていたがそういうことだったか。 |
| カイル | どうしよう。魔導砲が使われたらティル・ナ・ノーグが滅ぶかもしれないんだろ ? |
| ハロルド | 多分、それはまだよ。実験もしないで本番だなんて、リスク高いでしょ ?あいつらもそこまで馬鹿じゃない筈よ。 |
| ハロルド | けど、そこまで準備が整っているなら実験する気満々でしょうね。街一つくらいは吹っ飛ぶわよ。 |
| ジューダス | ならば実験を阻止すればいい。精霊石を奪えば、今回の計画は止められるだろう。 |
| カイル | なら決まりだね。魔導砲の砲台に向かおう ! |
| クラトス | よし、私もお前たちに協力する。魔導砲の内部へ案内しよう。 |
| Character | 10話【7-11 ファンダリア領 研究施設】 |
| ヴィクトル | シャルティエ、ディムロスはここで戦っていたのか ? |
| シャルティエ | ええ。間違いありません。どこに行ったんだろう……。まさか負けたわけじゃないよな。 |
| ヴィクトル | これは…… !見ろ。転送魔法陣の跡だ。 |
| シャルティエ | 敵はこれで逃げたのかもしれませんね。……ってことはまさか、ディムロスは追っていったのか ! ? |
| ヴィクトル | 単身でか。無茶をする。 |
| シャルティエ | そうなんですよ、あの突撃兵。これじゃどこに行ったのかわからないじゃないか。 |
| ヴィクトル | ……この転送魔法陣、かなり雑に閉じているな。敵も相当焦っていたか。これならば、もう一度くらい起動できるかもしれない。 |
| シャルティエ | 本当ですか ! ? お願いします、ヴィクトルさん。 |
| ヴィクトル | やってみよう。もし起動したら、すぐに陣に飛び込め。 |
| ヴィクトル | 成功だ、行くぞ ! |
| シャルティエ | はい ! |
| シャルティエ | ここは……帝国軍の基地だ。 |
| ヴィクトル | このままでは兵士に見つかる。一度、人気のない所へ隠れよう。 |
| シャルティエ | この辺りなら―― |
| ミリーナ | この辺りなら―― |
| 全員 | ええっ ! ? |
| ミリーナ | ヴィクトルさんに、シャルティエさん ! ?ディムロスさんと研究施設に潜入中だったんじゃないんですか ? |
| シャルティエ | その筈だったんだけどね。ディムロスが敵と遭遇したあと転送魔法陣でここに来たようなんだ。 |
| ヴィクトル | 我々はその後を追って来たんだ。君たちは何を ? |
| ミリーナ | ここへは調査に来たんです。これからイクスと合流する予定なんですがまさかシャルティエさんたちと会うなんて。 |
| シャルティエ | イクスくんと合流 ? 少し前と状況が違うな。そっちも複雑な経緯があるみたいだし今のうちに互いの情報の交換を―― |
| ヴィクトル | しっ、誰か来る。 |
| 帝国兵 | 魔導砲の試射が始まるぞ ! |
| 帝国兵 | 衝撃に備えろ ! |
| 全員 | 魔導砲 ! ? |
| ルキウス ? | いいね。ここならよく見えそうだ。 |
| ロミー | 面白いものを見せるって、魔導砲の試射だったのね。 |
| ルキウス ? | 試射とはいえ、島一つが消し飛ぶ威力だ。見ごたえがあると思うよ。 |
| ロミー | それはさぞ爽快でしょうね。ふふふ……。 |
| カイル | はあ……はあ……ここが魔導砲の最上部 ! ?結構敵を倒してきたけど……。 |
| ディムロス | どうやらそのようだ ! |
| クラトス | まだ敵がいる。気を抜くなよ。 |
| 帝国兵 | ――き、貴様ら、何者だ ! ? |
| リアラ | エアプレッシャー ! |
| 帝国兵 | ううっ ! ! |
| リアラ | しばらく動けない筈よ。今のうちに ! |
| ハロルド | サンキュー !ええと、多分あそこがコントロールルームね。ん~、この感じ、わくわくするわ♪ |
| ジューダス | するな ! それで精霊石の場所はどこだ ! |
| ハロルド | 砲弾として装填済みでしょうね。取り出すにはまず、発射停止命令を出さないと。 |
| ハロルド | なるほど。オートモードになってるのか。となると、解除には、ここが、これで……。 |
| ハロルド | ……何これ、性格悪っ。 |
| カイル | どうしたの ? |
| ハロルド | 今回の試射実験、自動操縦での停止命令プログラム自体がないわ。開始したら最後、絶対に発射するようになってる。 |
| ディムロス | つまり、もう止める方法がないということか ? |
| リアラ | そんな……。やっとここまで来られたのに。 |
| ハロルド | させないわよ。せめて出力を最低まで弱めて被害を抑えるわ。あいつらに一泡吹かせてやりましょ。 |
| リアラ | ハロルド……。 |
| 全員 | ! ! |
| カイル | リアラのペンダントが光ってる ! |
| ? ? ? | (リアラ……) |
| リアラ | 今のはエルレインの声……ペンダントから ?エルレイン、あなたなの ? |
| エルレイン | リアラ……。 |
| リアラ | やっぱり。はっきり聞こえるわ ! |
| カイル | あっ、魔鏡通信が ! |
| ジューダス | こんな時に誰だ。間の悪い奴め。 |
| ロニ | カイル ! ようやく繋がったぜ ! |
| カイル | ロニ ! 良かった、無事だったんだね ! |
| ロニ | ああ、スタンさんたちのおかげで俺もナナリーもピンピンしてる。 |
| ジューダス | フッ、確かにお前らしい間の悪さだ。とりあえず無事ならそれでいい。こっちは立て込んでいるんだ。切るぞ。 |
| ロニ | ちょっ、待て待て ! リアラは無事か ! ? |
| カイル | リアラ ? 無事だけど。なんで ? |
| ロニ | エルレインがグラスティンの罠に嵌められて魔鏡陣とかいうのに吸い込まれちまったんだ ! |
| ロニ | もしかしたら、同じ力を持ってるリアラも狙われるんじゃねえかと思ってさ。 |
| リアラ | エルレイン…… ! |
| ハロルド | その魔鏡陣について、他になんかわかんない ? |
| ロニ | ええと確か【クロノスの檻】とか言ってたような……。 |
| ハロルド | クロノス、それだわ !だとしたらターゲットを変更で……。 |
| ロニ | おい、そっちじゃ何が起こってんだよ ! |
| カイル | えっと、なんかわかんないけどすごい勢いでハロルドが機械をいじってる ! |
| リアラ | ハロルド、何をするつもりなの ? |
| ハロルド | いいから、あんたはそのペンダントの声をしっかり捕まえてなさい。 |
| ハロルド | ペンダントから探知できるエネルギーの発生元を特定魔導砲の威力と照射バランスを……。 |
| ディムロス | クロノスと魔導砲に何の関係があるんだ。 |
| ハロルド | 多分、エルレインが吸い込まれたのは精霊クロノスを閉じ込めておくクレーメルケイジよ。 |
| ハロルド | それをこの魔導砲でぶっ壊す。どうせこいつを止められないなら有効利用してやんなきゃね。 |
| ハロルド | リアラ、ペンダントにエルレインに強く呼び掛けて。 |
| リアラ | ええ。――エルレイン、わたしの声が聞こえる ?エルレイン ! ! |
| リアラ | ……エル…………聞こえ…………。 |
| エルレイン | (また、繰り返すのか) |
| リアラ | エルレイン ! ! |
| エルレイン | (リアラ…… ? 違う……これは外界の声か…… ? ) |
| カイル | オレもみんなと同じ気持ちだ。だから、ここまで来られたんだ…… ! |
| カイル | オレたちは、神の救いなんか必要としていない !もう迷ったりはしない !オレたちの手でかならず、神を倒す ! |
| エルレイン | (これはなんだ…… ?これまでのような、私の生の繰り返しではない。私にこのような記憶はない) |
| エルレイン | (もしや、リアラの記憶が流れ込んでいるのか ?) |
| エルレイン | 私……は…………人々を…………救う……ため……神の…………ち……から…………だけが…………それを…………可能にす……る……。 |
| エルレイン | (……私は……、カイルたちに負けた……のか ?まさか、そんな筈はない。神の救いはそんなものでは……) |
| リアラ | カイル ! レンズを砕いてッ ! |
| エルレイン | (……そうか……。リアラ、お前も自ら死を……) |
| エルレイン | (だとすれば、これはリアラの記憶でもない。私もリアラも『生きて』いるのだから) |
| エルレイン | (ならばこれは、あり得た未来の記憶。私のやり方では、人々の救済には至らぬと言うのか) |
| ? ? ? | 愚かな……。 |
| エルレイン | …… ? |
| ? ? ? | あの世界同様、人は愚かな生き物だ。人の欲は歪んだ神すら生み出し、自らを否定し世界が滅びても自らだけは浅ましく生き残ろうとする。 |
| ? ? ? | 人など救うに値しない。 |
| エルレイン | 愚かであろうと、人々は遍く救済されるべきもの。浅ましきは、もたらされる救いを拒む心です。 |
| ? ? ? | ……お前は……一体…… ?そうか……人の希望から生まれ出たモノ……。 |
| ハロルド | 【クロノスの檻】発見 ! |
| リアラ | エルレイン ! |
| エルレイン | お前は……リアラ…… ? |
| リアラ | そうよ、エルレイン。ペンダントが導いてくれた。あなたを助けにきたの。 |
| エルレイン | ……我が救済を否定したお前が、この私を救うと ?この世界では、フォルトゥナ神を呼ぶこともできぬと言うのに ? |
| リアラ | やっぱり異世界の神はここには呼べないのね。 |
| エルレイン | そうだ……。具現化は徒労に終わった……。 |
| リアラ | それでも……わたしは手を伸ばせる限りあなたを救いたい。だってわたしたち、目指したものは一緒だもの。 |
| リアラ | わたしも、あなたもただ人々を幸せにしたい……そうでしょう ? |
| エルレイン | 道は違えども、か。 |
| エルレイン | ……そうだな。その一点においてならばお前の手を取るのも悪くはない。 |
| リアラ | さあ、エルレイン。わたしの手を掴んで―― |
| Character | 11話【7-12 セールンド 街中】 |
| ロイド | みんな、早く ! |
| ジーニアス | 待ってよ、ロイド !ネヴァンを背負ってるくせに、一番早いんだから。 |
| ロイド | 当たり前だろ。早く治してやらないと……あれ ? |
| エミル | どうしたの ? |
| ロイド | あの光、何だろう。すげえ眩しい。 |
| マルタ | ファンダリア領の方角だね。あっちで何かあったのかな。 |
| エミル | ここはセールンドだよ ?ファンダリア領とは距離があるし相当強い光じゃなきゃ、見える筈ないと思うけど。 |
| しいな | 気になるね。どこかで見覚えがあるような……。 |
| しいな | そうか ! 魔導砲を発射した時の光に似てるんだ ! |
| ジーニアス | 魔導砲って、怖いこと言わないでよ。 |
| ラタトスク | 妙だな。光から精霊のマナを……違うな、精霊そのものの気配を感じる。 |
| しいな | 精霊 ! ?――ってことは、まさかあれは本当に魔導砲だってのかい ! ? |
| ラタトスク | チッ、だとしたらここに撃って来るぞ。あの精霊の意識――光は、セールンドに向いている。 |
| マルタ | なんでここが狙われるの ! ? |
| テネブラエ | わかりません。ですが、セールンドには虚無を封じるゲフィオンの人体万華鏡がありますね。それが狙いかもしれません。 |
| ラタトスク | 時間がねえ ! あれが精霊なら……。 |
| テネブラエ | …………。 |
| ラタトスク | いや、何か他に……クソッ ! |
| テネブラエ | いいえ、わかっている筈です。精霊には精霊をぶつけるしかないでしょう。私にお任せください。 |
| ジーニアス | そういえばボクたちの世界でも、相反する精霊の力をぶつけてエネルギーを中和させた !でもその方法だと……。 |
| ロイド | テネブラエ、自分をぶつける気か ! ? |
| テネブラエ | ご心配なく、センチュリオンは死にません。あの程度の光など私の闇で塗りつぶして見せますよ。何しろ闇属性は不死身ですから。 |
| ラタトスク | ふざけるな ! この世界ではセンチュリオンも精霊に組み込まれてるんだぞ。元の世界とは違う。しかも本家本元の精霊より弱いんだ。 |
| ラタトスク | 精霊同士なら対消滅したところでエネルギーさえ十分なら死ぬことはないが精霊に格上げされたお前が助かるかは保証が―― |
| テネブラエ | では、他に皆さんを救う方法でも ? |
| ラタトスク | だったら俺が行く ! |
| プレセア | 光が……来ます ! |
| テネブラエ | ラタトスク様。また後程。 |
| ロイド | おい、テネブ―― |
| ? ? ? | (――待て) |
| ロイド | 頭の中に声が…… ? 誰だ ! ? |
| ラタトスク | テネブラエ――ッ ! ! |
| テネブラエ | っ ! これは一体…… ? |
| ロイド | 魔導砲が……消えた…… ? |
| | ファンダリア領 帝国軍基地 |
| イクス | よし、潜入成功。ミリーナに連絡だ。 |
| 帝国兵A | ああああっ ! 体が……消え…… ! |
| イクス | なんだ ! ? |
| 帝国兵B | 早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… ! |
| 帝国兵C | これはいったい……何が起きた ! |
| 帝国兵D | 基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです ! |
| イクス | (消滅 ! ?ミリーナの無事を確認しないと――) |
| イクス | (――いや、あの雹を止めるのが先だ。俺にできることは……そうだ ! 魔鏡結晶を作って屋根代わりにこの辺りを覆えば――) |
| イクス | 慎重にいけよ……また石の中に入るのはごめんだからな……。 |
| イクス | スタックオーバーレイ ! ! |
| イクス | はぁ、はぁ……。この基地一帯は魔鏡結晶で包めた筈だ。雹は……よし、防げているみたいだな。 |
| イクス | あれ、通信文が届いてる…… ? |
| | こちらはディムロス。魔鏡通信が繋がらない。通信文だけでも届いていることを願う。 |
| イクス | 魔核を確保……、作戦完了か !良かった、ディムロスさんの方は上手くいったんだ。 |
| イクス | (通信文が来たのはたった今だ。ってことは、魔鏡通信が繋がらないのは俺がスタックオーバーレイで魔鏡結晶を作ったせいか) |
| イクス | ……でも、この雹が止まるまでは魔鏡結晶のドームを維持するしかない。 |
| | 一方、アスガルド帝国では―― |
| ウッドロウ | 追っ手の兵は片付けたぞ ! |
| フィリア | こちらもです ! |
| スタン | よし、このまま残りの敵を倒しつつ撤退しよう ! |
| ロニ | はい……。 |
| ナナリー | なんだい、カイルたちのこと気にしてんのかい ? |
| ロニ | あっちも大変なことが起きてるみたいなんだよ。そんなんで突然通信が切れたら気になるだろうが ! |
| ルーティ | 景気の悪い顔してんじゃないの。カイルたちならきっと大丈夫 ! |
| ロニ | ……はい、そうですね ! |
| ナナリー | ……今度は打って変わって、随分と素直じゃないか。 |
| リオン | おい、無駄口よりも目の前の敵を叩け ! |
| フィリア | 待ってください、敵が撤退しています ! |
| ? ? ? | 引け ! こちらの被害が増すだけだ。 |
| ウッドロウ | どうやら我々のことは諦めたようだな。冷静な指揮官のようだ。 |
| 全員 | ! ! |
| スタン | あの指揮官って……イレーヌさん ! ?――待ってくれ、イレーヌさん ! |
| リオン | おい、スタン ! あいつを追う気か ! |
| スタン | 当たり前だろう ! |
| ルーティ | 何言ってんの !今は安全に逃げられる絶好のチャンスなのよ !あたしたちの目的は何 ! ? |
| スタン | ……っ ! !そう……だよな。ごめんルーティ。ロニ、ナナリー。悪かったよ。早くここを離脱しよう。 |
| ロニ | スタンさん……すまねえ……。 |
| ローエン | お帰りなさいませ、フィリップさん、マークさん。 |
| フィリップ | ローエンさんの采配のおかげで陽動部隊の立て直しもできた。さすがの手腕だよ。 |
| マーク | ローエンが派遣してくれた手勢で砦の辺りの戦闘もなんとか収まったしな。 |
| マーク | あのままずっとあそこで戦ってたら命がいくつあっても足りないところだった。 |
| ローエン | 枯れたジジイがお役に立って何よりです。今の帝国軍は浮足立っています。このままであれば、無事に撤退できるでしょう。 |
| マーク | けど、また魔鏡通信が使えなくなっちまってるよな。今撤退に持ち込んで大丈夫か ? |
| ローエン | ええ。ケリュケイオンの計器類は無事ですし通信文も送信可能です。 |
| フィリップ | では、作戦参加者全員に通信文で撤退命令とケリュケイオンの着地点を送信しよう。彼らを回収したら作戦終了だ。 |
| ローエン | 承知しました。 |
| マーク | なあフィル、魔鏡通信の障害ってことはミリーナに何かあったんじゃねえのか ? |
| フィリップ | いや、今の魔鏡通信の障害はイクスの力だ。ただしミリーナのような暴走ではなくちゃんと制御しているみたいだね。 |
| フィリップ | でも、それだけの力を使わなければいけない事態ならイクスのことが心配だな……。 |
| マーク | ……やれやれ、わかったよ。俺が行ってくるからフィルはここで指示を頼む。 |
| フィリップ | ……ごめん。ありがとう、マーク。イクスの魔鏡術を感知したのは帝国軍の基地だ。頼んだよ。 |
| マーク | 了解。お前も、薬飲んどけよ。さっき発作が出てたろ ? |
| フィリップ | ……上手く誤魔化したつもりだったのにばれてたのか。 |
| マーク | また無茶して力を使ったからな。しばらくは絶対安静だぞ。 |
| ローエン | 私が見張っておきますよ。 |
| マーク | こいつは頼もしいぜ。それと力が有り余ってる奴らを連れて行くぞ。構わないよな ? |
| フィリップ | 力ということはバルバトスか。大丈夫かい ? |
| マーク | ああ。色んな意味で骨は折れるだろうが強さで言ったらダントツだしな。 |
| フィリップ | さすがマーク。彼らとも上手くやってくれて感謝してるよ。 |
| マーク | 俺だって、あいつを連れて戦うたびに緊張するんだぜ ?バルバトスの手綱を握れる奴がいたら即スカウトしたいよ……。 |
| Character | 12話【7-13 ファンダリア領 帝国軍基地1】 |
| ミリーナ | 今放たれた光が魔導砲だったのかしら…… ? |
| ヴィクトル | 方角的にはセールンドを目指しているようだった。 |
| スレイ | セールンドには確かロイドたちがいるんだよね ! ? |
| コレット | ……ロイド ! ? ロイド ! ? 聞こえる ! ? |
| ロイド | ――コレットか ! ? |
| コレット | ロイド ! ? 今、そっちに魔導砲が―― |
| ロイド | ああ、それなら大丈夫だ ! |
| テネブラエ | せっかく私が魔導砲を無効化して闇の力の神髄をご覧に入れようとしたのですが突然消えてしまったのですよ。 |
| ミリーナ | それじゃあ、そちらはみんな無事なのね ? |
| ロイド | ああ、それで―― |
| 帝国兵A | ああああっ ! 体が……消え…… ! |
| 帝国兵B | 早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… ! |
| 帝国兵C | これはいったい……何が起きた ! |
| 帝国兵D | 基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです ! |
| ライラ | 帝国兵の声ですわ。それに……雹…… ? |
| ザビーダ | 上だ ! 何か降って来やがったが……あれは雹なんかじゃねえぞ ! ?精霊の力の塊だ ! |
| シャルティエ | 見て下さい ! その雹だか何だかが落ちたところ !そこにあったものが『消えて』いってますよ ! ? |
| ヴィクトル | これは……この力は『奴』の…… ! |
| 帝国伝令兵 | くっ、消えてしまう前にこのサンプルを運び出さねば……。 |
| 帝国伝令兵 | ……ん ! ? お前たちは―― |
| ヴィクトル | ――避けろ ! クロノスの力がこちらに来る ! |
| 帝国伝令兵 | いてぇっ ! ? し、しまった、雹が…… ! ?わ、わああああああ ! ?足が……腕が……ああっ ! ? |
| ライラ | そんな……。消えてしまいましたわ……。 |
| ヴィクトル | これは……消えた兵士が持っていた箱、か。 |
| シャルティエ | ヴィクトルさん ! ?箱なんて拾って、何ぼーっとしてるんです ! ?危ないですよ ! |
| ザビーダ | ちぃっ ! 俺が風であの妙なブツを吹き飛ばす !ミクリオ ! |
| ミクリオ | それを水で押し流せばいいんだろう ! 任せろ ! |
| エドナ | 大地を揺り起こして盾にするわ。どこまで持つかわからないけれど、無いよりマシな筈よ。みんな、来なさい。 |
| ヴィクトル | ……スレイ君。これは、君たちが探していたもののようだ。持っておくといい。 |
| スレイ | え ? この箱は―― |
| ヴィクトル | 消えてしまった兵士が持っていた物だ。おそらく、鏡の精霊の心核だろう。 |
| スレイ | ! ! |
| ロイド | おい ! ? そっちで何が起きてるんだ ! ? |
| スレイ | ――あ、ああ。ロイド、大丈夫。ちょっとばたついてるけど、対処できそうだよ。それより何か言いかけていたようだけど……。 |
| ロイド | ああ ! そうだ !さっき急にネヴァンがゲフィオンの鏡像から飛び出してきたんだ。 |
| ミリーナ | ネヴァンがセールンドに ! ? |
| ロイド | ああ。カーリャの時と同じ感じだよ。ただあちこち傷だらけで気を失って……ひとまず…………あれ……聞こえて…… |
| ヴィクトル | また通信障害か。今度は何が起きた ? |
| ミリーナ | 待って、魔鏡術の力が集まってきている―― |
| ライラ | 空を見て下さい !魔鏡結晶のドームができていますわ ! |
| ミリーナ | まさか、イクス ! ? 近くにいるんだわ ! |
| リアラ | ――ここは…… ? |
| エルレイン | …………くっ……。 |
| リアラ | エルレイン ! ? どうしたの ! ? |
| エルレイン | いや……目眩がしただけだ。 |
| リアラ | ……ねえ、エルレイン。あなたはあの場所にずっといたの ? あの【クロノスの檻】っていう場所に……。 |
| リアラ | あの場所は……異様だったわ。クレーメルケイジだって聞いていたけど……。一瞬なのに永遠のような気がして、寒気がした。 |
| エルレイン | ……だろうな。あの場所は精霊クロノスの力に満ちていた。時が何度も巻き戻り……寄せては返し……。 |
| リアラ | 永遠という時間を……終わらない無間地獄の中を彷徨っていた…… ? |
| エルレイン | 我々は神の代理者だ。精霊の操る時間の流れなど神の力の前では無意味でしかない。 |
| カイル | リアラ――ッ ! |
| ジューダス | クラトスの言っていた通り、帝国の基地にいたな。天使の視覚と聴覚、大したものだ。 |
| リアラ | カイル ! ? どうしたの ! ? 凄い傷だわ ! ? |
| エルレイン | ! |
| カイル | ちょっとここまで来るのに帝国の連中とやり合ったから。 |
| カイル | それより突然姿が消えちゃったから心配したんだよ !無事で良かった。エルレインが傍にいるみたいだって話だったから……。 |
| リアラ | ええ……わたしは大丈夫。それで、ハロルドは ? |
| ジューダス | ディムロスとクラトスと三人で魔導砲から魔核を運び出している。 |
| リアラ | そう……。きっとハロルドのおかげよ。わたしとエルレインが、あの恐ろしい【クロノスの檻】から出られたのは。 |
| ジューダス | ならば、魔導砲は【クロノスの檻】とやらを破壊したんだな。 |
| エルレイン | ……そうか……お前たちが……私を……。 |
| カイル | これで危機は回避できたよ。あとは――痛 ! ? |
| カイル | な、なんだ ! ?ガラスみたいな見えない壁があるぞ ? |
| ジューダス | ……これは……魔鏡結晶、か ? |
| カイル | え ! ?リアラたち、魔鏡結晶に閉じ込められちゃったの ! ?どうして ! ? |
| エルレイン | ――いや、これは……【クロノスの檻】の代償から守ろうとしたのだろうな。あの鏡士の仕業、か ? |
| リアラ | 【クロノスの檻】の代償 ? それは一体―― |
| エルレイン | お前も感じていたとおり、【クロノスの檻】には精霊クロノスの力が満ちていた。おそらく長い間あの場所にクロノスを閉じ込めていたのだろう。 |
| リアラ | わたしたちが脱出したときに、破壊された檻の欠片のようなものも、この場所に出現してしまった……ってこと ? |
| ジューダス | ……しかし今はそれらしい物は降っていないぞ。 |
| エルレイン | なるほど……。【クロノスの檻】があった場所とこの世界を繋いだ次元穴は……修復されたのだな。ならば……鏡士の傘ももはや必要は無い。 |
| リアラ | エルレイン、何を―― |
| エルレイン | インディグネイト・ジャッジメント ! |
| コレット | ……え ? 今、カイルたちの声が聞こえたみたい……。 |
| エドナ | ――それに関係があるのかしら。上の魔鏡結晶にヒビが入ったわ。 |
| ザビーダ | 何てこった。あの欠片に俺たちの力が触れると互いに打ち消し合っちまって思ったようには吹き飛ばせねえんだぞ ! |
| ヴィクトル | それはおそらくあの欠片が精霊クロノスの力を帯びているからだろう。 |
| スレイ | 精霊クロノス ! ? |
| コレット | あ、でも、もうクロノスの欠片……みたいなものは降ってこないんじゃないかな。空のどこにもそれらしい物がないもの。 |
| ライラ | 魔鏡結晶も……消えましたわ。確かに、例の欠片はもう降ってこないみたいですね。 |
| ミリーナ | あ、イクスから通信文よ。魔鏡通信が復活したのね。私たちのこと、見つけてくれたみたい。こっちに来てくれるって。 |
| シャルティエ | よし、魔鏡通信が復活したなら、僕たちはディムロスと連絡を取って合流するよ。行こう、ヴィクトルさん。 |
| ヴィクトル | ……ああ。 |
| マーク | ――おっと、やっと繋がったか。 |
| マーク | ミリーナ。通信文も送ったが、撤退の準備が完了した。やり残したこともあるかも知れないが、今回は引き上げようぜ。指定した合流地点まで来てくれ。 |
| エドナ | バタバタと忙しいわね。 |
| ミクリオ | 仕方が無いさ……。想定外のことばかり起きている。それにしてもこのままだと、ユーリたちとの約束を違えることになってしまうな……。 |
| スレイ | いや、大丈夫。ヴィクトルさんが凄い物を見つけてくれたよ。 |
| Character | 13話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】 |
| カイル | 魔鏡結晶が壊れた ! これで―― |
| ジューダス | 待て、カイル。慌てなくても、エルレインの方から――来る。 |
| エルレイン | お前たちが【クロノスの檻】を破壊したのならここは、礼を言うべきなのでしょうね。 |
| カイル | え……。いや、それはハロルドが……。 |
| エルレイン | ……久しぶりですね。 |
| エルレイン | いや……この感覚もまた懐かしい……。まるで遠い昔のことのように感じられるが……これもあの檻の中にいたせいか。 |
| カイル | な、何 ? 何を言ってるんだ ? |
| エルレイン | ……そうか。あれは精霊クロノス……であったな。 |
| エルレイン | ペンダントが……。まさかこのペンダントには……。もし『そう』なら、空間という制限のない時の力で―― |
| エルレイン | ……………… ! |
| ジューダス | まずい ! カイル ! 避けろ ! |
| エルレイン | ディバインセイバー ! |
| カイル | ぐはっ―― ! ! |
| ジューダス | くっ ! |
| リアラ | カイル ! ! ジューダス ! !エルレイン、どうしてなの ! ? |
| エルレイン | 今ならば―― |
| エルレイン | 案ずることはない。 |
| エルレイン | お前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。 |
| エルレイン | そして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。 |
| エルレイン | いまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。 |
| エルレイン | (……フォルトゥナ神を呼べたとして……それが、遍く救済となるのか……) |
| エルレイン | (私の救いとあの者たちの救いは同じだというのか。いや、そうではないはずだ――) |
| ? ? ? | 時の流れに制限はなくとも人の子のある場所に空間という制限は存在する。時空の壁は突き破れない。 |
| エルレイン | ならばやはり、ここでは救いをもたらすことは―― |
| リアラ | カイル ! レンズを砕いてッ ! |
| エルレイン | ……自ら消滅してまで望む強さが……あるというのか。それが人間の強さだと…… ? |
| エルレイン | ……………………。 |
| イクス | ミリーナ、遅くなってすまない。ディムロスさんから作戦完了の通達があったぞ。 |
| ミリーナ | こっちもスタンさんたちと連絡がついたわ。みんな無事みたい。私たち陽動部隊も急いで撤退をしましょう。 |
| イクス | マークとの合流地点まで帝国軍から逃げ切れれば俺たちの勝ちだ。急いで、カイルたちにも知らせなきゃ―― |
| ? ? ? | ぐはっ―― ! ! |
| ミリーナ | ! いまの声って…… ? |
| イクス | カイルだよな ! ? まさか……。 |
| コレット | うん ! 魔鏡結晶が壊れたから、はっきり聞こえる。カイルたち……誰かと戦ってるみたい ! |
| イクス | どっちだ、コレット ! |
| コレット | えっと……あっち ! |
| イクス | 2時の方角か。よし―― |
| コレット | 待って ! 逆の方から大勢の足音が――あ ! ? 帝国軍がたくさん !何か……大事な物を探してるみたい。 |
| ミクリオ | スレイ、それって―― |
| スレイ | ああ。 |
| スレイ | イクス、帝国兵は俺たちに任せて。多分探してるのはヴィクトルさんが見つけてくれた精霊の心核だ。 |
| スレイ | これで、帝国兵を引きつけながら撤退する。ケリュケイオンで会おう。 |
| イクス | コレット。念のため、スレイたちと一緒に行ってくれ。 |
| コレット | 何かあったときの連絡係だね。任せて ! |
| イクス | ミリーナ ! カイルたちのところへ行ってみよう ! |
| カイル | くっ……。 |
| リアラ | カイル。しっかりして。 |
| カイル | だ、大丈夫だよ。 |
| ジューダス | お前はさがっていろ。帝国軍との連戦で消耗しきっているんだ。 |
| カイル | それはジューダスも同じだろ。まだオレは戦える。 |
| エルレイン | ……ならば、続けよう。カイル。お前たちの言う人間の強さとやらを示してみせろ。 |
| イクス | 待ってください ! |
| カイル | イクス ! ミリーナ ! |
| エルレイン | 鏡士の。久しいな。 |
| イクス | エルレインさん、どういうことですか。ここにいるということは俺たちがした話――帝国の真の目的を信じてくれたんじゃないんですか ! ? |
| エルレイン | ああ。お前たちの話は真実だった。帝国はニーベルング世界の再建を目論んでいる。ニーベルングの神々の復活すらも秘密裏に進めていた。 |
| エルレイン | 本当に、この世界を、全てを滅ぼし真なるニーベルングの甦りを――この世に生きる者を捨て去ろうと画策していたとは。 |
| エルレイン | いったいこの何が救済であろうか。救済とは遍く人々に注がれるべきもの。嘆かわしいにもほどがある。 |
| イクス | ……俺には救済とか難しいことはわからない。けど…………。 |
| イクス | 俺自身や鏡映点、そして貴女も含めて……今この世界にはニーベルング世界の住人ではない人帝国の考える偽りの人々がたくさんいるんだ。 |
| イクス | そんな人たちを帝国は切り捨てようとしている。確かに偽りだけど……存在していることは事実だ。だから俺は、その全てを守りたい。 |
| エルレイン | どうやって ? |
| イクス | 決まってる。カイルと同じです。 |
| カイル | 掴み取る。オレたち自身の手で。 |
| エルレイン | 神による救済ではなく、か。 |
| エルレイン | ならば―― |
| カイル | ……ぐっ。 |
| リアラ | カイル ! |
| イクス | やめろっ ! !何故戦わなくちゃならない ! ? |
| エルレイン | 確かにお前たちには感謝している。これ以上、聖女としての使命に反する行いを――帝国の偽りの救済に荷担せずに済んだ。 |
| エルレイン | 聖女の力をほぼ失った私の今やるべきことそれは救済の対象である遍く人々の保護。つまりは帝国の野望の阻止であろう。 |
| ミリーナ | 私たちは同じ敵と戦っているわ。そして、帝国の野望を阻止するためには私たちは貴女の、貴女は私たちの協力が必要不可欠。 |
| エルレイン | その通り。 |
| エルレイン | だが、フォルトゥナを具現化すると言った場合お前たちはどう反応するだろう。 |
| カイル | フォルトゥナだと ! ? |
| イクス | 神の具現化は不可能のはずだ。 |
| エルレイン | ……ふふっ。それはどうだろう。幸いこの世界にはエンコードされているとはいえレンズも具現化されている。 |
| リアラ | フォルトゥナの具現化には失敗したはずなのに可能性はゼロではないというの ! ? |
| エルレイン | ……お前たちはただ待てばいい。フォルトゥナの降臨を。すべての魂が救済されるその時を。 |
| ジューダス | 本当の楽しみや喜びを代償にした永遠を夢の中で過ごす苦しみや悩み、痛みのない世界……。 |
| ジューダス | お前は神による完全なる幸福をこの世界でも実現しようというのか ! |
| カイル | そんなことオレは絶対に許さない ! !フォルトゥナを降臨させるというのならオレたちはお前を止めてみせる ! |
| ジューダス | カイル ! 無茶をするな !これ以上は―― |
| カイル | ジューダス、止めないでくれ !まずはオレが証明しなくちゃなんだ。 |
| カイル | 人間は弱くなんかないって ! ! |
| ジューダス | ……カイル。 |
| ジューダス | ふっ、いいだろう !僕も付き合ってやる ! |
| リアラ | わたしもよ ! カイルの選択は、わたしの選択だもの ! |
| イクス | ミリーナ、俺たちも加勢するぞ !もう一踏ん張りだ。 |
| ミリーナ | 援護は任せて。みんなで切り抜けましょう。 |
| エルレイン | 愚かな。どれだけ束になろうと無駄だ。――人間は弱い。私もお前たちに身を以て証明してくれよう。 |
| Character | 14話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】 |
| カイル | くっ……足がっ。 |
| リアラ | カイル ! |
| ジューダス | くそっ。エンコードによりエルレインの力は制限されているとはいえ……厳しいか。 |
| イクス | 帝国軍との連戦で疲弊しきっているんだ。みんなもう限界か……。 |
| エルレイン | やはり人間は弱い。これが現実だ。さぁ、諦めて降伏しろ。そうすれば命までは取るまい。 |
| イクス | カイル ! いま助けに―― |
| カイル | 来るな ! ! |
| イクス | えっ ! ? |
| カイル | 言っただろ、 |
| カイル | 人間は弱くないって ! ! |
| カイル | くっ……。 |
| エルレイン | ……それがお前の選択か。いまのお前にこの私を倒すことはできない。わかっているだろう ? |
| カイル | それはどうかな ?リアラ ! ジューダス ! |
| ジューダス | いくぞ、リアラ ! |
| リアラ | ええ ! ジューダスにあわせるわ ! |
| エルレイン | なるほど。お前は囮か。だが私の二の太刀の方が速い。そしてそれを、いまのお前は防ぎきれまい。 |
| カイル | そんなことわかってるよ。最悪、オレはここまでってことも。 |
| エルレイン | ……わかって飛び込んできただと ?何故だ。死ぬことが怖くないというのか。 |
| カイル | 怖いさ ! けどここを乗り越えればお前を倒すことができるかもしれない ! |
| エルレイン | できなければ ? |
| カイル | そのときはまた考えればいいだけだ !たとえ今、そして未来に苦しみが待ち受けていようと更に先には大きな幸福がきっとある ! だから―― |
| カイル | 人間は辛い未来すら選べる !それが人間の強さだ ! ! |
| エルレイン | ―― ! ! |
| 二人 | ――くらえっ ! ! |
| イクス | な、なんて威力だ……。 |
| ミリーナ | ……けど。 |
| エルレイン | 無駄だと言っただろう。 |
| リアラ | カイル ! ! |
| エルレイン | 動くな。 |
| ジューダス | ! |
| カイル | はぁ……ぐっ。 |
| エルレイン | もうこれで終わりだ。 |
| ジューダス | エルレイン ! 貴様ッ ! |
| リアラ | ! ?ジューダス、待って。 |
| ジューダス | なに……。 |
| エルレイン | 治癒魔法だ。少しは楽になっただろう。 |
| カイル | えっ…………あ、ありがとう。けど、どうして ? |
| エルレイン | ……言っておくべきことがある。 |
| エルレイン | お前たちの強さは認めよう。だが、すべての人間がお前たちのように強いとは限らない。 |
| カイル | そうかもしれないけど―― |
| エルレイン | 聞け。 |
| カイル | ……わ、わかった。 |
| エルレイン | ここはフォルトゥナが……私たちを救う神がいない世界。お前たちが望む世界のありさまだ。 |
| エルレイン | お前たちが理想とする幸せな世界に私とリアラは本来存在しない。だが幸か不幸か、いま私たちは神なき世界にいる。 |
| エルレイン | 滅びと絶望に包まれたこの世界であってもお前の言うように人々は苦難を乗り越え幸福を手に入れることができるのか。 |
| エルレイン | 神の御使いたる聖女としてそして神を失った力なき一人の人間としてこの世界の人々の行く末を観測するのも悪くはない。 |
| カイル | えっと……つまりどういうこと ? |
| イクス | 力を貸してくれるのか ! ? |
| エルレイン | 帝国の野望は阻止せねばなるまい。そして私の信じる神がいないこの世界でも今の私にできうる救済を行う。 |
| エルレイン | そう、判断したまで。 |
| カイル | つまり協力してくれるんだね ! ? |
| リアラ | エルレイン……ありがとう。カイルに、いえ人間の強さに可能性を見出してくれて。 |
| エルレイン | 私はしばらく観測をしようと決めただけだ。そのために一時的にお前たちに協力するが―― |
| エルレイン | 人は、もろく、はかない存在。その事実が証明されたならばお前たちを切り捨て私はフォルトゥナによる救済を選ぶ。 |
| カイル | わかった ! じゃあオレたちはそうならないよう頑張るよ ! |
| エルレイン | いいでしょう。 |
| リアラ | …………。 |
| 帝国兵 | 見つけたぞ ! |
| イクス | 敵の追っ手だ ! |
| エルレイン | いきなさい。 |
| ジューダス | お前一人で大丈夫なのか ? |
| マーク | 安心しろって。俺たちもいるからよ。 |
| バルバトス | 虫けら、ウジ虫どもが。捻りつぶしてくれる。 |
| イクス | マーク ! ? |
| カイル | バルバトスも ! ? |
| マーク | ったく、遅いからなにやってるかと思えば。あんたも相当面倒な女だな。 |
| エルレイン | あなたは、フィリップの鏡精でしたね。 |
| マーク | 覚えててくれてどうも。イクス、この先でフィルたちが待ってる。他の奴らと一緒に先に行け。 |
| イクス | わかった。ありがとうマーク。みんな、行こう。 |
| マーク | それじゃあ一仕事はじめますか。バルバトス、頼んだぜ。 |
| バルバトス | 俺に命令すんじゃねぇ ! !俺はこの雑魚共を捻りつぶしたいだけだ ! ! |
| マーク | 元気が良いねぇ。――さて、茶番は済んだかい、聖女様。納得したならあんたにも働いてもらいたいんだがね。 |
| エルレイン | 茶番ではない。救済の遂行を担えるかの審判だ。全ては世界の救済のため。 |
| エルレイン | ……人々の幸せがあらんことを。 |
| マーク | はは、だったらこっちにも救済を頼むよ。あんたなりのけじめの儀式を大人しく見ていてやったんだからな。 |
| マーク | まあ昔、俺にもそういうことがあったんでね。鏡精と聖女様じゃ葛藤の度合いが違うかも知れないが。 |
| エルレイン | ……フ、バルバトスを押さえるのは苦労したでしょう。 |
| バルバトス | はき違えるなよ、女。俺は俺のやりたいようにやっている。 |
| バルバトス | あのカイルとかいう小僧は俺の信奉者だ。非力なゴミくずだが、見所はある。その踊る様を見ていたまでよ。 |
| マーク | そうだとも。それにあの茶番劇をスルーすればこの辺りの帝国兵が寄ってくることはわかってた。そいつを待ってたんだよな、我らがバルバトス殿は。 |
| マーク | ま、それは俺も願ったりでね。合流ポイントにたどり着けてない連中を助けるために大立ち回りして、帝国の連中を引きつけたいんだ。 |
| バルバトス | くだらん !自ら救えぬ非力な奴は捨て置けばいいのだ。 |
| エルレイン | お前はここでもそのような生き様か。 |
| バルバトス | なんだ ? 何が言いたい ! |
| エルレイン | お前が真に英雄であるというなら、その証ここで見せてみるがいい。 |
| バルバトス | ほう……。そうか、お前……英雄に惹かれたか !ならば篤と見るがいいわ ! |
| Character | 15話【7-15 ファンダリア領 山岳】 |
| グラスティン | ヒッヒッヒッ、特等席じゃないか。だが、これ以上ここで待っていても無駄だぞ。魔導砲の試射は失敗した。 |
| ロミー | そうなの ? たいそうな仕掛けの割にお粗末ね。 |
| ルキウス ? | 大山鳴動して鼠一匹、かな ? だらしないね。せっかく面白いものが見られると思ったのに。 |
| ロミー | フフ……。 |
| グラスティン | いいんだよ。問題なく発射できるってことは確認できたんだしなあ。それより、サレの奴を見かけなかったか ? |
| ロミー | サレ ? この辺じゃ見てないわね。 |
| グラスティン | ……やっぱり逃げ出したかあ。ヒヒヒ……だったら追いかけるしかないよなあ。黒髪じゃないから、面白みには欠けるがな。 |
| ロミー | あんたたち、随分仲が良さそうだったのにどうしたのよ。 |
| グラスティン | 俺の大事な玩具を壊しやがったんだよ。 |
| グラスティン | せっかく可愛いジュニアを、毒でじわじわいたぶっていたのに、サレの奴、ジュニアに使った刻印器を壊して持って行きやがった……。 |
| グラスティン | 俺とジュニアの楽しいコミュニケーションが台無しだ。サレにはお仕置きが必要だなあ……。ヒヒヒヒ……。 |
| アリエッタ | ――グラスティン ! |
| グラスティン | ん ? アリエッタかあ。こんなところまで俺を捜しに来たのか ? |
| アリエッタ | 約束……果たした、です !魔核運んだ、です !イオン様に会わせて ! |
| ロミー | イヤねえ。この子、まだ気付いてないの ?本当に滑稽ね。笑っちゃうわ。ねえ、ルキウス ? |
| ルキウス ? | 僕のペットを馬鹿にするな。アリエッタが可哀想だろう ? |
| ロミー | あーあ、そうだった。『こっち』も、何も知らないんだったわね。 |
| ルキウス ? | 何 ? どういうことだ ? |
| ロミー | グラスティンそろそろ種明かししてもいいんじゃない ?『こっち』の実験も終わったんでしょ ? |
| ロミー | 何も知らないイオンもどきを観察してるのも面白かったけれど、そろそろ飽きてきたわ。 |
| ルキウス ? | イオンもどき…… ? |
| アリエッタ | イオン様 ? イオン様がいるの ! ? どこ ! ? |
| グラスティン | そうかあ……そうだったな。実験も成功したし、そろそろ頃合いかあ。 |
| グラスティン | アリエッタ、お前の大事なイオン様はこのルキウスの中にいるんだぜえ ? |
| アリエッタ | ルキウスの……中…… ?何 ? どういうこと…… ? |
| グラスティン | お前の大事なイオンサマはなあ、どうしても健康な体が欲しかったんだよ。ところがレプリカを何体作っても満足いく健康な体が作れなくてなあ。 |
| グラスティン | 挙げ句、シンクとかいうレプリカを捕まえるって勝手に色々画策しだしたんだ。 |
| アリエッタ | ……シンク ? シンクが何か関係あるの ? |
| グラスティン | まあ、その辺りは些末なことか。 |
| グラスティン | とにかく、お前のご主人様は、自分の欲を満たすために、ハロルドを鏡士へ引き渡すような失態をやらかしたんでな。お仕置きしてやったんだよ。 |
| アリエッタ | イ、イオン様に何をした、ですか ! ? |
| グラスティン | 心核を抜いてやった。わかるか ? 心だ。心だけ取り出して、体は魔物にくれてやった。 |
| アリエッタ | ! ? |
| ルキウス ? | アリエッタ。大丈夫だよ。僕は生きている。この体は仮の入れ物だが……。 |
| アリエッタ | え ? じゃあ、イオン様はルキウスになった、の ?生きてる……ですか ? |
| ルキウス ? | ああ、生きてるよ。この体の中に入っている心がイオン――僕だ。 |
| ロミー | ――なーんて、それも嘘。 |
| アリエッタ・ルキウス ? | ! ? |
| グラスティン | あーあ、そこまでバラしちまうかあ……。まあ、仕方ない。本当の事を知らないままなのは『可哀想』だもんなあ。 |
| グラスティン | 心核ってのは、体が死んじまうと存在を保てなくなる。体が死ねば心も死ぬんだよ。 |
| ロミー | でも、イオンの心に別の体を与えたところでまた勝手なことをするでしょう ?だから実験に使ったんですって。 |
| グラスティン | 死ぬ前の心核からデータを抽出して限りなくイオンに近い疑似人格を作ったんだ。その疑似人格を疑似心核に転写した。 |
| グラスティン | 被験者イオンの人格のコピーを疑似心核に与えたんだからこのルキウスの心は「ほぼ」イオンだ。 |
| ロミー | グラスティンも作ったんでしょ。自分のレプリカに自分の人格を転写した疑似心核を入れてそいつをグラスティンとして戦場に送り込んだのよね。 |
| ロミー | アイフリード神の転生体である鏡の精霊のデータも狙い通り疑似心核に移せたんでしょう?自分のレプリカを使って仕掛けるなんて変態ね。 |
| ルキウス ? | 待て…… !な、何…… ? 僕が疑似人格…… ? |
| アリエッタ | ……え……何……わからない…… ? |
| ロミー | 簡単よ、アリエッタ。 |
| ロミー | 失礼、イオンもどき。 |
| ルキウス ? | ぐっ ! ? |
| グラスティン | おいおい……沈静化もさせずに人間から心核を抜くなよ。相当な痛みだぞ。 |
| ロミー | 大丈夫よ。ルキウスの心核は、ちゃんと別のところに保存してあるし、死にはしないわ。 |
| ロミー | ほら、アリエッタ。これが疑似心核よ。イオンだと思い込んでいた可哀想な疑似人格が宿っているわ。 |
| アリエッタ | じゃあ……それは……イオン様の偽物…… ? |
| ロミー | アリエッタは本当に頭の回転が鈍いのね。そもそも私たちは具現化された存在なんだから偽物も本物もないじゃない。 |
| ロミー | それを言うならアリエッタも偽物みたいなものだし被験者イオンなんて最初から死んでるようなものよ。 |
| グラスティン | 死んだ人間をコピーしてそれも死にそうだったからコピーしたってところか。 |
| ロミー | コピーのコピーって、もうそれ、なんの価値があるのかしら。まあ、人格を持った玩具だと思えば価値はあるのかも知れないわね。 |
| アリエッタ | ……イ、イオン様は死んでないもん !イオン様は生きてる ! イオン様は―― |
| ロミー | あ、心核が壊れちゃったわ。 |
| グラスティン | 壊したんだろう。 |
| ロミー | なんでもいいでしょ。まあ、これで疑似人格も死んだわね。まあ、被験者はとっくに死んでるわけだけど。 |
| アリエッタ | あ―――――― |
| グラスティン | ほら、形見だ、アリエッタ。 |
| ロミー | 何 ? その黒くて汚い石。 |
| グラスティン | 被験者イオンの心だった石の欠片だよ。体が死んで心も死んじまったから、単なる石ころなんだがデミトリアスが捨てずに残してやれとさ。 |
| グラスティン | ほら、お前のイオン様だ。受け取れ。 |
| アリエッタ | い、いやあああああああああああああっ ! ? |
| マーク | ――待たせたな。なんとか帰り着いたぜ。バルバトスが暴れて暴れて……。まあ、おかげでいい攪乱になった筈だ。 |
| ヴィクトル | ……確かに、あの辺りの帝国軍は大打撃を受けたようだったな。 |
| フィリップ | おかげで、イクスたちもほら、ここにいるよ。 |
| イクス | ありがとうマーク。あのあと、なんとかフィルさんと合流できたよ。 |
| スレイ | オレも、お礼を言わないと。ありがとう、マーク。オレたちも帝国兵の多さに手こずってたけど途中からほとんどの兵士がそっちに行ってくれて……。 |
| ライラ | むしろ大変な負担になったのではと心配していましたわ。 |
| ローエン | みなさんご無事で何よりです。そういえば、エルレインさんはどちらに ? |
| マーク | バルバトスの手綱を握ってもらったんで一足先に船室にお入りいただいた。あしらいには慣れてたようだが、疲れただろうしな。 |
| マーク | バルバトス担当として末永くここにいてもらいたいぜ……。あとできっちりスカウトしとくわ。マジで。 |
| イクス | は、ははは……。 |
| イクス | ローエンさん、これで全員そろったでしょうか ? |
| ローエン | はい。この地点で回収予定の人員は全てケリュケイオンに乗船しました。 |
| ローエン | 念のため、ファンダリア領の状況が落ち着くまでディムロスさんたちにも乗り込んでもらっています。 |
| ゼロス | 魔核も回収できたしあとはスタンたちと合流すれば終わりだな。 |
| ミリーナ | やっと一息つけそうね、イクス。 |
| イクス | ああ。想定外のことが色々と起きてしまったし状況の確認と情報の精査が必要だけどまずは浮遊島に戻ろう。 |
| アイゼン | 気を抜くなよ。最後まで何が起きるかわからないぞ。 |
| イクス | そ、そうですね。先の心配をしないなんて俺らしくなかった……。 |
| マーク | そんなところは、らしくなくていいんだよ。まったく……。 |
| イクス | ご、ごめん……。 |
| イクス | それじゃあ、ガロウズ !あとはよろしく頼むよ ! |
| ガロウズ | イクスの指示ってのも懐かしいな。よし、エンジン始動だ ! |
| イクス | ――ケリュケイオン、発進 ! |
| | to be continued |