| Character | 1話【8-1 オールドラント領 領主の館】 |
| 領主補佐官 | 領主様。領民台帳のまとめが終わりました。 |
| ピオニーβ | ごくろう。台帳を置いて下がれ。 |
| ピオニーβ | ヴァン、後は頼むぞ。 |
| ヴァンβ | 承知しました。移民を保護区へ移送し亜人は放逐する方針で進めます。 |
| ピオニーβ | 私は会議の準備に入る。 |
| ヴァンβ | それでは―― |
| ヴァンβ | ! ? |
| ピオニーβ | どうした ? |
| ヴァンβ | グッ……胸が……クルシ……―― |
| ピオニーβ | 心核の不具合か ? しかし、何故……。 |
| ? ? ? | 私の力に反発した……。この者はユリアの縁者ではないのか…… ? |
| ピオニーβ | ! ? |
| ピオニーβ | 何者だ ? 姿が見えぬが……。 |
| ローレライ | 私はローレライ。この者の核を戻すのだ。さもなくば、この者は命を落とす。 |
| カーリャ・N | イクス様、少しお時間をいただけますか ? |
| イクス | ――ネヴァンか。ああ、大丈夫だよ。 |
| カーリャ・N | 鏡映点の皆さんのファイル、ですか ? |
| イクス | うん。パティを救出した後、色々あっただろ。状況を整理しながら、鏡映点のみんながどこで何をしているのかまとめておこうと思って。 |
| カーリャ・N | イクス様らしいですね。 |
| イクス | はは、性分なんだな。まとめておかないと心配なんだ。 |
| イクス | 色々なことがあっただろ。デュークさんから預かった聖核のキメラ結合の解析に、スレイたちが見つけてくれた鏡の精霊の心核、それに魔導砲や贄の紋章……。 |
| イクス | まあ……何一つ解決していないことばかりだけど。 |
| カーリャ・N | 聖核のキメラ結合に関してはフィル様とリタ様が取り組んでおられますね。 |
| カーリャ・N | デューク様も心配なようでよくアジトに顔を出されています。 |
| イクス | 魔導砲はハロルドさんとリフィルさんとクラースさんが贄の紋章のことは、パスカルとキールとジュードがそれぞれ本格的な調査を進めてくれてる。 |
| イクス | だから俺は、鏡の精霊の心核を調べてみたんだ。ジェイドさんの意見も聞いたけどあれは心核のレプリカと考えて間違いなさそうだよ。 |
| カーリャ・N | レプリカなんですね。だから簡単にこちらの手に渡ったのでしょうか。 |
| イクス | ああ。帝国にとって、あの心核はサンプルに過ぎないんだろうな。 |
| イクス | 大本のデータ、もしくはオリジナルを握ってるからレプリカの心核には執着していないんだと思う。 |
| カーリャ・N | でも何故、鏡の精霊の心核をレプリカで増やしたんでしょうか。いえ、そもそも鏡の精霊というのは……。 |
| カーリャ・N | 彼らはナーザ神――ナーザ・アイフリードを甦らせようとしていたのでは……。 |
| イクス | うーん。おそらくこういうことだと思う。 |
| イクス | 帝国は、パティに複数の聖核をキメラ結合させた物を入れて、ナーザ・アイフリードを甦らせた。 |
| イクス | そしてそのナーザ・アイフリードを鏡の精霊という別の存在に書き換えたんだ。 |
| カーリャ・N | 別の存在に書き換える…… ?そんなことが可能なんでしょうか。 |
| イクス | 帝国は一つの魂に二つの存在があるという状況にこだわっていた。 |
| イクス | これはそこから導いた推測に過ぎないんだけど……ナーザ・アイフリードを、鏡の精霊の前世として定義したんじゃないかな。 |
| イクス | だからあの心核は、ナーザ・アイフリードでもあり鏡の精霊でもある。 |
| カーリャ・N | 何故ナーザ・アイフリードを鏡の精霊にする必要があったんでしょう ?回りくどいように感じます。 |
| イクス | ナーザ・アイフリードを甦らせたかったのは恐らく精霊の力を完全に支配下に置きたいから、かな。精霊はナーザ神が創ったという話だから。 |
| イクス | でもナーザ神は恐らく帝国の自由にはならない。だから、帝国が自由にできる存在を造る必要があった。 |
| カーリャ・N | それが、鏡の精霊…… ? |
| イクス | ……だと思うんだけど。本当のところはまだわからないよ。 |
| イクス | ひょっとすると帝国は鏡の精霊をオリジンの代わりにしようとしているのかも知れない――とも思うし。 |
| カーリャ・N | あの……ちょっと理解が……。 |
| イクス | 追いつかないよな。俺も正直なところ自分で言っている意味がよくわからないんだ。 |
| イクス | ただ、状況を読み取ろうとするとそうなっちゃうっていうか……。はー、わかりそうでわからないなあ……。 |
| イクス | ――あ、ごめん。俺に用だったんだよな。どうしたんだ ? |
| カーリャ・N | あ、はい。あの……ミリーナ様が準備ができたと仰っています。 |
| イクス | ゲフィオンの記憶の件か ? |
| カーリャ・N | そうです。ミリーナ様の中で、ご自身の記憶とゲフィオン様の記憶の整理がついて時系列のまとめが終わったそうです。 |
| カーリャ・N | 私も……少しお手伝いしました。 |
| イクス | そうか……。 |
| カーリャ・N | ミリーナ様が、イクス様に記憶の共有をしたいと仰っています。不愉快な話もあるかも知れませんが……。 |
| イクス | いや、それがどんなに苦しい話でも俺も知らなきゃいけないことだからな。どうしよう、どこで話す ? |
| カーリャ・N | 談話室で、とのことです。 |
| イクス | よし、それじゃあ行くか―― |
| カーリャ | た、大変です ! イクスさま ! |
| イクス | カーリャ ! ? どうしたんだ、そんなに慌てて……。 |
| カーリャ | イオンさまが倒れちゃいましたあっ ! |
| 二人 | ! ? |
| Character | 2話【8-2 アジト1】 |
| イクス | イオンが倒れたって ! ? |
| アニス | イクス……うん。カロル調査室からもらったオールドラント領内のめぼしい事件をみんなでチェックしてたら、急に……。 |
| アトワイト | ――確認が終わったわ。少なくとも、大きな外傷はないし今は呼吸や脈拍も正常よ。落ち着いているわ。 |
| イクス | イオンが倒れた原因は何かわかったんですか ? |
| アトワイト | その点は、今ジェイドとハロルドが確認しているところよ。魔鏡片の異常かも知れないと考えたみたいね。 |
| ミリーナ | 私もアニスたちと一緒に談話室にいたんだけれど突然胸を押さえて苦しみだしたように見えたわ。 |
| セルシウス | ……それだけじゃないかも知れないわ。 |
| カーリャ・N | セルシウス様 ? 何か思い当たることでも ? |
| セルシウス | アイフリードの封印が消えたせいかも知れない……。それで精霊ローレライと同調しているイオンも影響を受けたのだとしたら……。 |
| イクス | それは、ナーザ神が目覚めたからってことか ?以前滄我もそう言っていたらしいけど……。 |
| イクス | あ、いや、精霊を封じたのはルイスか。この間目覚めたのはナーザ神の方のアイフリード……。うーん。ややこしいな。 |
| セルシウス | ええ、そうね。神であるナーザ・アイフリードとその鏡精の末裔である召喚士のルイス・アイフリード。 |
| セルシウス | ただ封印に関してはどちらでも同じことなのよ。 |
| セルシウス | 本来精霊の封印をしたのはルイスだけれどそれはナーザ・アイフリードの力を使った封印だから帝国はナーザ神を目覚めさせようとしたのね。 |
| イクス | でも、あれは目覚めたって言っちゃっていいのかな。 |
| イクス | 確かに、目覚めた後、鏡の精霊にされてそれを俺たちが解除した状態だから目覚めたという状況ではあるんだろうけど……。 |
| セルシウス | ええ。単にアイフリードが目覚めただけなら良かったんでしょうけど、帝国によって色々と存在を弄られてしまったから……。 |
| セルシウス | もしかしたら、本来とは違う形で、精霊の封印が解けてしまったのかも知れないわ。 |
| セルシウス | ただ少なくとも、わたしの中に封じられていた『ティル・ナ・ノーグの精霊としての記憶』が甦ってきたことは確かよ。 |
| 全員 | ! ? |
| ミリーナ | いつ記憶が戻ったの ?パティが連れさられたときはそんな状態じゃなかったわよね。 |
| セルシウス | ここに連れてくるために、イオンを抱き上げた時よ。 |
| アニス | はぅあ ! ? なんでそんな時に ! ? |
| カーリャ・N | それって、アイフリード神に創られたこの世界の精霊としての記憶ってことですよね ! ?もしかしてニーベルングの記憶もあるんですか ! ? |
| セルシウス | ええ、まあ……。それに……思わぬ副産物もあったの―― |
| イオン | ……うぅ……。 |
| アニス | ――イオン様 ! |
| イオン | ……アニ……ス……。それに皆さん……。……ああ、僕は倒れてしまったんですね。すみません……ご迷惑をお掛けしました。 |
| アニス | あ、まだ起きちゃ駄目ですよ ! |
| イオン | 大丈夫。急に息が苦しくなって気を失ってしまいましたが病気というわけではないと思います。 |
| イオン | この感覚は預言を詠んだ時に近い。ローレライの力が暴走した……という感じです。 |
| ジェイド | ああ、お目覚めでしたか。 |
| イオン | ジェイド……僕の体の魔鏡片が取り外されているようですが……。 |
| ジェイド | はい。ハロルドの解析が終わったので持ってきました。今、装着します。 |
| イクス | 魔鏡片に異常があったんですか ? |
| ジェイド | というより、魔鏡片を通じて、ローレライの力の激流に巻き込まれた……という感じでしょうか。 |
| ジェイド | この辺りは取り出したデータの精査が必要なのでもう少し時間がかかります。 |
| ジェイド | イオン様に大きな問題はないと思いますが後ほど検査を行う必要はあるでしょうね。 |
| セルシウス | やっぱり……。ローレライも影響を受けたんだわ。でも、ローレライは本来この世界にはいなかった精霊の筈……。 |
| セルシウス | 同じくこの世界にいなかったラタトスクやこの世界のマクスウェルと融合していないミラにも変わった様子がないということは……。 |
| セルシウス | ………………。 |
| ミリーナ | セルシウス、どうしたの ? 私たちには言えないこと ? |
| セルシウス | いいえ、そうじゃないのよ。説明が難しいけれど確かにアイフリードによる精霊の封印は解けた。 |
| セルシウス | でも単に解けたのではなくて、精霊クロノスの力が影響したんじゃないかと思うの。 |
| セルシウス | ――あ、待って !主……いえ、グリューネが大変だわ ! |
| 全員 | ? |
| グリューネ | あら~。ここは一体どこかしら。綺麗なお花が咲いているわぁ。 |
| ? ? ? | お前は何者だ ? |
| グリューネ | ええと……あなたはだあれ ? |
| ? ? ? | そうか……。世界の理によって記憶を奪われているのか……。我は精霊クロノスの分霊だ。 |
| グリューネ | まあ、クロノスちゃんっていうのね。初めまして。 |
| チトセ | ああ……マティウスさまが仰った通りだわ。クロノスの分霊の反応があるもの。 |
| レグヌム領帝国兵 | チトセ様。クレーメルケイジの準備、完了しております。 |
| クロノス分霊 | ――追っ手が来たか。いずれ、また見えよう。 |
| グリューネ | そう、元気でね~。クロノスちゃん。 |
| チトセ | 反応が……消えた ! ? |
| グリューネ | まあ、あなたはクロノスちゃんのお友達かしら ? |
| チトセ | ……まさか、あなたはクロノスの分霊と会話ができるの ? |
| グリューネ | 寂しそうに見えたけれどあなたみたいなお友達がいるならお姉さん安心だわ。 |
| ウェルテス領帝国兵 | ワルター様、クロノスの分霊が消失しました。 |
| ワルターβ | レグヌム領の従騎士チトセか。何故ここにいる。ここは我々の管轄だ。クロノスの分霊をよこせ。 |
| レグヌム領帝国兵 | チトセ様に無礼な ! |
| チトセ | リビングドールが口出しをしないで。私はマティウスさまのためにクロノスの分霊を集めるの。どこの領地であっても……。 |
| チトセ | それにクロノスの分霊なら私たちが捕獲する前に消えてしまったわ。 |
| グリューネ | まあ。よかったわ。クロノスちゃんにはこんなにたくさんのお友達がいるのね。 |
| ワルターβ | 貴様は……鏡映点だな。クロノスを知っているのか。 |
| グリューネ | そういえば、誰かに呼ばれている気がしたんだけどクロノスちゃんだったのかしら。 |
| チトセ | 彼女はマティウスさまのところへ連れて行くわ。 |
| ワルターβ | ふざけるな。ここはウェルテス領。マウリッツ様のところへ連れて行くのが筋だ。 |
| チトセ | ……だったら、デミトリアスさまに話を聞きましょう。そちらの領都の通信装置を借りるわ。 |
| チトセ | ただし、捕獲して連行するのはこちらの兵に任せてもらいます。最初に彼女を見つけたのは私たちの方だもの。 |
| ワルターβ | ……良かろう。 |
| グリューネ | みんなでピクニックなんて、と~っても素敵ねぇ。クロノスちゃんも一緒だったらもっと楽しいのに残念だわぁ。 |
| チトセ | この人、自分の状況がわかっているのかしら……。 |
| Character | 3話【8-3 アジト2】 |
| セネル | ――遅くなった。 |
| イクス | シャーリィの検査の途中にすまない。 |
| セネル | いや、どうせ男の俺は検査に立ち会えないしな。 |
| イクス | けど、シャーリィもセネルが傍にいれば安心だろう。贄の紋章の状況を調べるってことはあの時のことを思い出してしまうだろうし……。 |
| クロエ | …………そうだな。 |
| セネル | グラスティン……あいつだけは絶対に許さない。 |
| ジェイ | ところでイクスさん、一体どうしたんですか ?慌ててぼくたちを呼び出したからにはあまりいい話とも思えませんが。 |
| イクス | セルシウスから伝言だ。どうも、グリューネさんがこの浮遊島を抜け出したらしい。 |
| セネル | まさか、一人でか ? |
| イクス | ああ。しかもどうやら帝国の連中に捕まったようなんだ。 |
| クロエ | 何ということだ。すぐに助けに向かわなければ ! |
| ジェイ | 待って下さい。セルシウスさんからの伝言と言っていましたがどうしてそれがわかったんですか ? |
| イクス | セルシウスが察知したんだ。どうもセルシウスとグリューネさんは元の世界で関わりがあったみたいで―― |
| クロエ | セルシウスの記憶が戻った ? しかもセルシウスに私たちの世界の記憶がある、というのか ?そんな馬鹿な……。 |
| ジェイ | ……いえ、でも確か、元の世界にいた頃グリューネさんはセルシウスの種を植える……と言っていたことがありましたね。 |
| ジェイ | それだけじゃない。他の精霊の名前も口にしていた。今になってみれば、あれは植物ではなく精霊の種……だったのかもしれません。 |
| セネル | セルシウスがグリューネさんを主と呼ぶならグリューネさんもクラースのような召喚士か或いはミラのような精霊なんだろうか。 |
| ジェイ | セルシウスさんがその点を詳しく話してくれなかったのは気になりますね。 |
| ジェイ | それに、確か異世界の神として呼び出されたシュヴァルツという存在も、グリューネさんと関わりがあるかもしれないんでしたっけ。 |
| クロエ | ああ、そうだったな。 |
| ジェイ | ………………。 |
| イクス | とにかく、今、セルシウスが先行してグリューネさんを追いかけてくれているから俺たちもグリューネさんの救出に向かおう。 |
| イクス | シュヴァルツのことがある以上グリューネさんを帝国に渡すのは危険だ。まして精霊も絡んでくるならなおさらだろう。 |
| セネル | わかった。でもイクスはここに残った方がいい。 |
| イクス | え ? |
| クロエ | 私もクーリッジの意見に賛成だ。ミリーナとの大切な話があるのだろう。 |
| イクス | あ、ああ……。だけど―― |
| クロエ | ミリーナも色々と悩んでいたんだ。この機会を大切にした方がいい。 |
| イクス | ………………。 |
| ジェイ | 精霊との関わりのことを考えると少々危険ですがシャーリィさんも連れて行くべきでしょう。 |
| セネル | ああ。ノーマとモーゼスにも声を掛けてくる。 |
| ジェイ | ああ……モーゼスさんもここにいたんでしたね。忘れていました。 |
| ミリーナ | イクス、お待たせ。イオンさんのことはアニスたちに任せたわ。 |
| カーリャ | グリューネさまを助けに行くんですよね ! |
| イクス | ……いや、それはセネルたちに任せることにしたよ。俺はミリーナから話を聞きたい。 |
| ミリーナ | ! |
| ミリーナ | イクス……。 |
| ミリーナ | ええ、わかったわ。私の受け取ったゲフィオンの記憶のこときちんと話すわね。 |
| ナーザ | 定時連絡だ。皆、変わりないか。 |
| メルクリア | はい、兄上様やバルドもお変わりありませぬか ?義父……いえ、デミトリアスのことを探るためにお二人が別行動をされて二ヶ月にもなります。 |
| メルクリア | やはりわらわもご一緒すれば良かったと……。 |
| ナーザ | いや、お前たちにはそれぞれやってもらわねばならぬことがあった。人手も足りぬ。手分けをして事に当たるのは当然だ。 |
| メルクリア | ……………………はい。 |
| コーキス | あ、ボス。言われてたアリス……様って鏡映点の様子を見てきたけど、あれは駄目だよ。 |
| リヒター | だからそう言った。奴は大人しく従うようなタマじゃない。 |
| コーキス | ああ。それにあの人、結局ケリュケイオンに行ったみたいだから。 |
| ナーザ | ふむ……。そういえば、猫を連れた鏡映点というのはどうした ? |
| コーキス | アリス様の調査が終わった後また調べてみたけど、めぼしい手かがりがないんだ。もしかしたら帝国に行ったのかもしれない。 |
| ナーザ | ならば、敵になるな。では、もういい。捨て置け。それより、こちらの調査の手伝いをしてもらおう。 |
| メルクリア | でしたらわらわが―― |
| ナーザ | いや、これはコーキスに頼む。 |
| メルクリア | ! |
| ナーザ | デミトリアスの幼少期に関わる情報を掴んだ。どうやら幼い頃、秘密裏にセールンド諸島の小さな村へ、一年近くも滞在している。 |
| ナーザ | この村が今でも残っているかはわからぬが当時のデミトリアスの足跡を調査して欲しい。 |
| コーキス | 了解 ! |
| ナーザ | リヒター、例の巨大クレーメルケイジに関する調査は進んでいるか ? |
| リヒター | ああ。アステルとディストがそれぞれ装置と術式の両方からアプローチしている。もう少しでまとめ終わるだろう。 |
| ナーザ | 流石だな。期待している。 |
| ナーザ | ……ん ? ジュニアとマークはどうした ? |
| コーキス | ジュニアの奴……倒れたんだ。帝国にいた頃、グラスティンになんかされてたみたいで……。 |
| メルクリア | はい。何やら刻印器なるものを使われたのだとか。解除方法を一人で調べていたようです。今、マークが看病しております。 |
| ナーザ | 相変わらず無茶をする……。しかし、わかった。ならばジュニアが担当していたバロールに逆アクセスする方法に関しては保留だな。 |
| コーキス | ボスたちはどうするんだ ? |
| ナーザ | 一通りの調査は終わった。ついでに帝都の様子を調べてから戻る。 |
| メルクリア | ……………………。 |
| バルド | フフ、メルクリア様が大層ご不満な様子でしたよ。 |
| ナーザ | バルド。メルクリアを甘やかそうとするな。 |
| バルド | 甘やかすつもりはありません。ただ、締め付けすぎれば、子供は反発するものです。 |
| ナーザ | それはそうだが……。 |
| バルド | ――おっと、ナーザ様。例の男に動きがあったようです。 |
| ナーザ | デミトリアスの手の者か。 |
| バルド | はい。あの民家で何か受け取ったようです。包みを抱えています。襲いますか ? |
| ナーザ | ああ、しかし用心しろ。兵を伏せているやもしれぬ。 |
| バルド | はい。ですが、ここは帝都から離れた小さな街です。駐留兵も少ない筈。 |
| ナーザ | よし、お前は回り込んで退路を断て。挟み撃ちにするぞ。 |
| バルド | 承知しました。 |
| Character | 4話【8-4 仮想鏡界】 |
| ジュニア | ――やめて……やめてよっ、サレっ ! |
| マークⅡ | ど、どうした、フィル ! ? |
| ジュニア | …………え ? ここは……仮想鏡界…… ?じゃあ、今のは夢…… ? |
| マークⅡ | おい、フィル。どうした。買い出しに行くって言ったきり帰ってこないんで心配してたんだぞ。 |
| ジュニア | え…… ! ? じゃあ、僕はどうやってここに……。 |
| マークⅡ | ゲートの近くの街の宿屋で寝込んでたんだ。それをリヒターが見つけてくれて―― |
| ジュニア | ! ? |
| マークⅡ | ……おい、本当に何があった ?俺はてっきり、グラスティンの奴が仕掛けた例の刻印器の呪いのせいだと思ってたんだが……。 |
| ジュニア | いけない……。僕、また取り返しのつかないことをしてしまったかも……。 |
| マークⅡ | 何だよ。わかるように話せ。でないと対処できねえぞ。 |
| ジュニア | ……具現化を……させられた。 |
| マークⅡ | は ? グラスティンにか ? |
| ジュニア | ち、違うよ ! サレにだよ !買い出しに行った街で、ディストさんとはぐれて……。 |
| マークⅡ | そこでサレの野郎に会ったのか ?具現化させられたって、何を具現化したんだ ? |
| ジュニア | フリーセル、だよ……。 |
| マークⅡ | ! ? |
| コーキス | 大変だ ! マーク、もう一度ゲートを開けてくれ ! |
| マークⅡ | うるせえっ ! 今、それどころじゃ……ってちょっと待て。 |
| マークⅡ | コーキス、お前、なんでまだアジトにいるんだ ?ナーザに言われた調査のためにセールンド諸島に向かった筈だろ ? |
| リヒター | メルクリアだ。あの馬鹿、コーキスに用事を言いつけてその隙に魔鏡術で眠らせたんだ。 |
| ジュニア | え ! ? まさか、メルクリア一人で行っちゃったの ! ? |
| コーキス | 多分な。一緒に連れて行けって言うから俺、断ったんだよ。 |
| コーキス | だから、一人でゲートを使ってセールンド諸島に向かったんじゃないかと思うんだ。魔鏡通信にも全然出ないしさ。 |
| マークⅡ | だったら追いかければいいだろ――ってあいつも鏡士だったな。俺が開けたゲートを強制的に閉じたのか。 |
| マークⅡ | くそ、ジュニアのことで手一杯でそこまで感知できなかった。まったく、次から次へと……。 |
| リヒター | どうした ? 何があった ? |
| ジュニア | それが……あの……。 |
| マークⅡ | いや、説明は後だ。今、ゲートを開く。二人はメルクリアを追ってくれ。その間に俺はうちのご主人様のやらかしを確認して整理しておく。 |
| コーキス | お、おう…… ?わかった。リヒター様、行こう ! |
| メルクリア | (ふっふっふっ。コーキスめ。そろそろ目を覚ました頃かの。わらわも連れて行ってくれと言ったのに、強情な奴め) |
| メルクリア | (いや……強情なのはわらわの方か……。勝手をして、皆、怒っているだろうな……。それでもわらわは、義父上のことを知りたいのじゃ) |
| 魔物 | グルルル……ッ ! |
| メルクリア | また魔物か ! ?何故この島にはこのように魔物が多いのじゃ ! |
| メルクリア | ミゼラブル・トーチャー ! |
| メルクリア | ふう……。やはり一人では無理があったか……。いや、しかしわらわの力はこんなものでは―― |
| メルクリア | ええいっ、またか !術式・十三―― |
| ウィル | 何、子供だと ! ? |
| メルクリア | 何、人だと ! ? |
| 魔物 | ――グォォォォォォッ ! |
| メルクリア | し、しまった ! 先程の生き残りか ! ? |
| ウィル | 危ないっ ! |
| ウィル | ラスレスハンマー ! ! |
| 魔物 | ギィィ……。 |
| メルクリア | た、助かった……。 |
| ウィル | 他に生き残りは……いないようだな。怪我はないか ? |
| メルクリア | いや……大丈夫じゃ。すまぬ、世話を掛けた。感謝するぞ。そなたは大事ないか ? |
| ウィル | オレなら心配には及ばない。こういったことには慣れている。 |
| ウィル | しかし……大陸では見かけない種類の魔物だな。ウルフ系だが爪の形が独特だ。 |
| ウィル | そうか……さっき見つけたプルメリアの群生地を荒らしていた足跡はこいつらだな。ということは―― |
| メルクリア | ふむ…… ? このようなところに人がいるのはおかしいと思ったが、もしやお主は学者か ? |
| ウィル | おっと……。そうだった。調査のことよりまず、きみのことを何とかしなければな。 |
| ウィル | オレはウィル・レイナード。この隣の島で村長代行を務めている。博物学の研究の為この辺りの島々を回っていた。 |
| ウィル | きみは何者だ ? どうしてこんなところにいる ?この島には、もう人は住んでいないと聞いていたが……。 |
| メルクリア | わらわはメル―― |
| メルクリア | (いや、本名を名乗っては危険か。この者が親帝国か反帝国かもわからぬ……) |
| メルクリア | メル、じゃ。メルという。その……ち、父上の育った村がこの島にあると聞いて探しに来たのじゃ。 |
| ウィル | 父親の……。 |
| ウィル | ……しかし、こんな無人島に一人で来たわけではないだろう。 |
| メルクリア | 島には……あ、兄と一緒に来たのじゃがはぐれてしまったのじゃ……。 |
| ウィル | ……フッ。 |
| メルクリア | な、何じゃ ? 何がおかしい ?わらわは嘘などついておらぬぞ ! |
| ウィル | いや、友人のことを思い出しただけだ。 |
| ウィル | よし、それなら、一緒にきみのお兄さんを捜そう。子供が一人でうろついていい場所ではないからな。 |
| メルクリア | わらわは子供ではない ! |
| ウィル | ! |
| メルクリア | ……いや、子供じゃな。こんな振る舞いは。すまぬ……大声を出して。 |
| ウィル | ……素直に謝れるとは感心だな。 |
| メルクリア | う……た、確かにわらわは子供じゃ。なれど、あまり子供扱いをしないで欲しい。わらわはわらわなりに――あっ ! ? |
| ウィル | やれやれ、今度はどうした ? |
| メルクリア | じょ、浄玻璃鏡がない…… ! ? |
| Character | 5話【8-5 帝都イ・ラプセル 郊外】 |
| デミトリアスの使い | くっ……離せっ ! |
| バルド | ――失礼。 |
| ナーザ | 気を失ったか。 |
| バルド | 騒がれても困りますから。ところでナーザ様この男が持っていた包みは……。 |
| ナーザ | これは……キラル純結晶、か ? |
| ナーザ | ――いや、これは鏡精エネルギーの結晶体か ! ? |
| バルド | 馬鹿な ! ? もはや帝国に鏡士はいない筈です ! |
| ナーザ | なんだ、この音は。 |
| バルド | この使いの者が持っている魔鏡通信機の呼び出し音ですね。これは……もしやデミトリアス帝からの私信でしょうか ? |
| ナーザ | 帝国の魔鏡通信……。おそらく仕組みは俺たちが使っているものと同じようなものだろう。よし、魔鏡術でハックできるか試してみよう。 |
| デミトリアス | ――待たせたね。使いの者が戻らずに難儀していた。時間も無いことだし、会議を始めるとしよう。 |
| ピオニーβ | 承知した。すでに報告をしたとおり従騎士ヴァンが倒れた。 |
| ピオニーβ | 疑似心核が崩壊し、体が保てない恐れがあるため本人の心核を戻して沈静化させている。 |
| アルトリウス | スペアの疑似心核の埋め込みはどうなった ? |
| ピオニーβ | 受け付けない。ヴァンの体内にある精霊ローレライが活性化しているようだ。 |
| マウリッツβ | 精霊クロノスの解放に影響されたのでは ? |
| デミトリアス | その可能性は大いにあるね。 |
| ロミー | 魔導器を埋め込んだらどう ? なんて言ったかしら……ヘルメス式とかなんとか……。あれなら元の心核と組み合わせてリビングドールにできるんでしょう ? |
| マウリッツβ | ワルターに施したものと同じか。しかしワルターも完全とは言いがたい。時折元の心核が動き出す。定期的な調整も必要だ。 |
| デミトリアス | その点も考慮して、領主の館の地下に魔核工場を作らせたのだが……やはり手間になるようだね。 |
| ピオニーβ | 地下工場といえば、カレギア領内の汎用型カレイドスコープを、帝国を出奔したサレが勝手に利用していた件はどうなった。 |
| アルトリウス | 今、調査させているところだ。ところで当のサレは、今どこで何をしている ? |
| デミトリアス | グラスティンが追っている。今日はその報告もある筈だったんだがね。 |
| アルトリウス | …………なるほど。 |
| マウリッツβ | デミトリアス様。クロノスの分霊についても報告があります。 |
| マウリッツβ | ワルターとレグヌム領の従騎士がクロノスの分霊に接触。取り逃がしたものの、代わりにクロノスの分霊と会話する鏡映点を捕獲しました。 |
| ? ? ? | つまり、その鏡映点をどちらの領地で預かるか裁可して欲しいんだね。だったら話は簡単だ。鏡映点は帝都で預かる。それで問題ないだろう。 |
| ? ? ? | そちらに迎えの兵を出そう。その鏡映点の名前は ? |
| ? ? ? | グリューネだそうです。 |
| バルド | ――ナーザ様、確かこの名前には聞き覚えがあります。イクスさんたちの下にいる鏡映点の女性かと。 |
| ナーザ | よく覚えているな。まさか、親切心を出すつもりか ? |
| バルド | お許しがいただけるならば。 |
| ナーザ | ……ならば、今少し待て。今グリューネとやらの身柄を拘束している場所について話しているようだ。 |
| デミトリアス | ……わかった。墳墓で受け渡しだ。その時に、例のオリジンの報告も―― |
| アルトリウス | 待て。ネズミが紛れ込んでいるようだ。 |
| ナーザ | ちっ、誰だかわからぬが、勘のいい奴め。アクセスできなくなった。だがグリューネとやらの場所は特定できたぞ。 |
| バルド | ありがとうございます、ナーザ様。お慈悲に感謝致します。 |
| セネル | ――イクスからの連絡によるとこの辺りだな。グリューネさんが連れて行かれた墳墓というのは。 |
| クロエ | まさかバルドたちからグリューネさんの行方について連絡が来るとはな。 |
| シャーリィ | 結局、セルシウスさんからの連絡はなかったね。無事ならいいんだけれど……。 |
| ジェイ | ええ……。イクスさんから聞いた話を総合するとセルシウスさんはグリューネさんの居所をある程度把握できるようです。 |
| ジェイ | それなのに連絡がないというのはセルシウスさんかグリューネさんのどちらかが危険な状態なのかも知れません。 |
| モーゼス | のう、そこじゃないかのう。探しちょる墳墓の入り口ちゅうのは。 |
| ノーマ | そうかな~ ?だって墳墓って【人食い遺跡】のことじゃないの ?構造も雰囲気も全然違うみたいだけど……。 |
| クロエ | エンコード、とやらが影響しているんじゃないか ? |
| モーゼス | なんじゃ、そのエンコードちゅうのは。 |
| ジェイ | さすが、モーゼスさん。大事なことは何一つ覚えていませんね。 |
| モーゼス | ほうじゃろほうじゃろ――って、貶しとるんか ! ? |
| ジェイ | モーゼスさんに褒めるところなんて何一つありませんからね。 |
| モーゼス | なんじゃと ! ? |
| シャーリィ | ねえ、お兄ちゃん。確か【人食い遺跡】って元の世界でお兄ちゃんたちが、グリューネさんに出会った場所だよね。関係があるのかな ? |
| セネル | どうかな。あの時、ワルターは【人食い遺跡】にはいなかった。もしも何かあるとすれば―― |
| ノーマ | エバーライト ! |
| ジェイ | 帝国の奴らは、エバーライトすらも何かに利用しようとしているのかもしれませんね。 |
| ノーマ | そんなことさせない ! |
| クロエ | 落ち着け、ノーマ。今はグリューネさんを助けに来たんだ。 |
| セネル | それにこの世界にエバーライトがあると確定したわけでもないからな。 |
| ノーマ | わかってるよ~ !けど『ある』かもしれないんだからよ~く調べながら進まないとね。 |
| モーゼス | お、おい、シャボン娘……。まさかまたトラップを片っ端から発動させるつもりじゃ……。 |
| ノーマ | まさか~。モーすけってば心配しすぎ。ここってどう見てもトラップなんてなさそうだし―― |
| 三人 | あ……。 |
| モーゼス | ぎょえええええ~~~~~っ ! |
| ジェイ | こうなると思ってました。 |
| モーゼス | いい加減にせんか、シャボン娘 ! ?毎度毎度、次から次へとトラップに引っかかりおって ! |
| モーゼス | ワイのケツの穴が二つに増えたらどうするつもりじゃ ! ? |
| ジェイ | 最高に笑えますよね。 |
| モーゼス | なんじゃ、ジェー坊。何か言ったか ! ? |
| ジェイ | ――しっ。うるさいですよ、モーゼスさん。 |
| モーゼス | 誤魔化そうとしてもそうはいかん。ワイは―― |
| セネル | いや、待て、モーゼス。本当に誰かいる。 |
| 四人 | ! |
| ワルター | はあ……はあ……。 |
| ワルター | ……く……どういう……ことだ…… ?俺は……どうして……。 |
| シャーリィ | ワルターさん ! |
| ワルター | ! |
| ワルター | メル……ネス…… ! |
| ワルター | セネル・クーリッジ…… ! |
| セネル | リビングドール状態じゃなくなっているのか ! ? |
| クロエ | それに、様子がおかしいぞ ! 随分苦しそうだが……。 |
| ワルター | 貴様……まだ、メルネスの……隣に……。 |
| ワルター | 貴様…… ! 貴様――貴様ァァァァァッ ! ! |
| セネル | おい、落ち着け ! 話をさせてくれ ! |
| シャーリィ | ワルターさん ! 私からもお願いです ! |
| ワルター | 貴様だけは、貴様だけは――絶対に許さんッ ! ! |
| Character | 6話【8-6 ウェルテス領 遺跡1】 |
| ワルター | 何故……貴様だったのだ。 |
| ワルター | 何故……メルネスは、貴様を選んだのだ。 |
| ワルターβ | もうやめろ。それは貴様が敗北した際の無様な記憶。私の活動の邪魔だ。 |
| ワルター | 貴様に何がわかる ! 水の民でもなく陸の民ですらない、人形兵士同然の貴様に俺の……この俺の憎しみなどわかってたまるか ! |
| ワルター | 俺の体を返せ ! 奴を……セネルを殺す !そしてマウリッツと共に、メルネスを―― |
| ワルターβ | あの小娘を取り返してどうなる。 |
| ワルターβ | この世界に、貴様の言う『本当の』水の民はなく『本当の』滄我とやらもない。所詮は異世界の影。使い捨ての道具だ。 |
| ワルター | だ、黙れっ ! 黙れ黙れ黙れっ ! |
| シャーリィ | ワルターさん ! お兄ちゃん、ワルターさんが ! |
| セネル | 聞こえるか、ワルター。悪いが拘束させてもらった。だが、危害を加えるつもりはない。話をしたいんだ。 |
| ワルター ? | ―――――――― |
| モーゼス | 大丈夫かのう。こいつ、目の焦点が合っちょらんぞ。 |
| ? ? ? | その声はセネルたち ? |
| ジェイ | セルシウスさんの声です ! |
| セネル | どこだ ! ? |
| セルシウス | 主……グリューネの壺の中よ。 |
| モーゼス | どういうこっちゃ ! ? |
| セルシウス | あなたたちが来てくれたならもう安心ね。 |
| クロエ | グリューネさんも、寝ていないで起きてくれ ! |
| グリューネ | あらぁ、クロエちゃん、それにセネルちゃんたちも。みんなもピクニックに参加しに来てくれたのねぇ。お姉さん嬉しいわぁ。 |
| ノーマ | やっぱりグー姉さん、何もわかってない ? |
| グリューネ | セルシウスちゃん。セルシウスちゃんも目が覚めたのね。 |
| セルシウス | セネルたちと会えたから、先に出ていたの。主……いえやはりグリューネと呼びましょうか。助けてくれてありがとう。 |
| セネル | セルシウス、何があったんだ。 |
| セルシウス | グリューネを見つけたところでワルターたちと交戦になったのよ。 |
| セルシウス | 向こうがクレーメルケイジにわたしを入れようとしたときにグリューネがこっちの方が居心地がいいと言って……わたしも危険を感じて壺の中に避難していたの。 |
| ノーマ | ちょ ! ?グー姉さんの壺、ど~なってんの~ ! ? |
| ジェイ | セルシウスさん。あなたとグリューネさんはどういった関係なんですか ?おおよその予想はついていますけれど。 |
| モーゼス | ジェー坊 ! ? そいつは本当か ! ? |
| ジェイ | セネルさんだって、シャーリィさんだってノーマさんやクロエさんだってわかっていると思いますよ。モーゼスさんと違って。 |
| モーゼス | ! ? |
| セルシウス | そうね。でもいつまでもここにいるのは危険よ。すぐにここへ帝国の連中がやってくるわ。 |
| セルシウス | いったん外に脱出しましょう。話はその後よ。それと、アジトから応援を呼んだ方がいいわね。 |
| セネル | ワルターの心核を戻す為か ?やっぱりイクスたちにも来てもらうべきだったか……。 |
| セルシウス | これは鏡士より、リタの方が適任だと思うわ。私の聞いた話だと、ワルターの中の心核は特殊な状況らしいのよ。 |
| ノーマ | リタっち ?リタっちは今ケリュケイオンの方にいるよね。 |
| ジェイ | 好都合です。アジトから来るより早く合流できるでしょう。今連絡します。 |
| ジェイ | モーゼスさん、ワルターさんを運んで下さい。 |
| モーゼス | 仕方ないのう。ワイが背負うちゃる ! |
| セネル | グリューネさん、行こう。 |
| グリューネ | ええ、ピクニックの続きよね。やっぱりピクニックは大勢の方が楽しいものねぇ。 |
| クロエ | グリューネさん、これはピクニックじゃないんだ。それにグリューネさんにも色々と聞かなければならないことがある。 |
| グリューネ | わかったわ。じゃあ、最近ミラちゃんから聞いた面白いお話をしてあげるわねぇ。 |
| シャーリィ | あ……それは……ちょっと興味があるかも……。 |
| ノーマ | あ~、グー姉菌恐るべし ! |
| ウィル | ……ないな。 |
| メルクリア | ……ないのう。 |
| ウィル | この自然の森の中では落とした物を見つけるのも簡単ではない。諦めて、お兄さんとの合流を優先してはどうだ。 |
| メルクリア | ………………嫌じゃ。 |
| ウィル | しかしきみは森を探索する装備もない。たかが鏡、それも壊れた鏡の破片など―― |
| メルクリア | 単なる鏡ではない ! |
| メルクリア | あれは……わらわの友達の形見のようなものなのだ……。 |
| ウィル | 形見のようなもの、か。土足で踏み込むつもりはないがもし良ければ事情を聞かせてもらえないか ? |
| メルクリア | ……う、うむ。その……わらわには、自分の我が儘と幼さ故に迷惑を掛けてしまった友が二人いるのじゃ。 |
| ウィル | ……フ。 |
| メルクリア | また、笑ったな ? わらわはそんなにおかしいか ? |
| ウィル | いや、すまない。これはオレが悪いな。だが、きみは――少なくともオレから見ればまだ幼い子供だ。 |
| ウィル | 先程からきみの話を聞いているときみは無理をして大人のように振る舞おうとしているように感じられる。 |
| メルクリア | 他の者にも似たようなことを言われたことがある。じゃが、わらわは……子供らしくすることができないのじゃ。 |
| ウィル | オレにしてみれば、きみは十分子供らしい。言葉遣いは独特だが、それでもきみは子供だ。むしろ聞き分けが良すぎるぐらいだな。 |
| メルクリア | そ、そうであろうか ?兄上様はわらわを我が儘じゃとお叱りになり軽挙妄動を慎めと―― |
| ウィル | ははははは ! 確かに軽挙妄動とは言い得て妙だな。一人でこんな無人島をうろついているのだ。しかも家出のような形で。 |
| メルクリア | ! ? |
| ウィル | オレが気付かないとでも思ったか ?きみの嘘はわかりやすい。それにオレにも娘が……――娘がいたんだ。ハリエットと言ってな。 |
| ウィル | あの子も無茶をする子だった。だからすぐにピンと来たんだよ。 |
| ウィル | すまない、話の腰を折ってしまったな。良かったら続きを聞かせてくれ。 |
| メルクリア | ……どちらの友にも酷いことをしてしまったがわらわがなくしてしまったのは、シドニーという友が残してくれた鏡の破片じゃ。 |
| メルクリア | シドニーが最初にわらわのために作ってくれた鏡でな。もっといいものを作ると話していたのじゃが約束が果たされることはなかった……。 |
| メルクリア | 二度と会えないところに行ってしまったのでな。 |
| ウィル | ……そうか。その鏡がきみにとって特別なものであることはわかった。 |
| ウィル | だが、その鏡を探すことできみが命を落とすようなことになるのはそのシドニーという友達の本意ではないだろう。 |
| ウィル | 夕暮れまでに見つからなければいったん諦めた方がいい。オレがきみを家まで――ん ? |
| メルクリア | どうした ? |
| ウィル | いや、今森の奥で何かが光ったような……。 |
| メルクリア | もしや浄玻璃鏡ではないか ! ? すぐに探しに行こう ! |
| ウィル | しかし、あの方向は……。 |
| メルクリア | 何じゃ ? 何か問題でもあるのか ? |
| ウィル | ……仕方ない。洗いざらい話すしかないか。おそらくこの先にはきみの父親が育ったという村の跡地がある筈だ。 |
| メルクリア | 何じゃと ! ? ならば何故教えてくれなかったのじゃ ! |
| ウィル | 危険な魔物の棲家になっているんだ。うかつには近づけない。 |
| メルクリア | それでもわらわは行かねばならない !でなければ……わらわは本当に役立たずじゃ。兄上様にも見捨てられてしまう……。 |
| ウィル | 兄妹なのだろう ? そんなことは―― |
| メルクリア | 兄妹にもいろいろある ! それにわらわは母上様に先立たれ、義父上……とも対立し、一人ぼっちじゃ。 |
| ウィル | そうか……。 |
| メルクリア | 兄上様とも最近になって初めて顔を合わせた故お役に立ちたいのにどうしていいのかわからぬ。 |
| メルクリア | 兄上様は義父上の情報を欲しがっているのじゃ。わらわがそれを手に入れればもう少し……わらわのことを……。 |
| ウィル | ……きみは寂しいんだな。 |
| メルクリア | わ、わらわには仲間がいる ! 新しい友もいる !寂しいなどと言っては罰が当たる ! |
| ウィル | 罰など当たるか ! 寂しくていいんだ。 |
| メルクリア | ! ? |
| ウィル | その素直な気持ちをもっとお父さんやお兄さんや仲間にぶつけてみろ。そうやって子供は大人になる。 |
| メルクリア | で、でも、それは我が儘……。 |
| ウィル | 我が儘でもいい。ためらって気持ちをため込みその結果、大切な人を失うぐらいなら自分の素直な気持ちを口にしたほうがいい。 |
| メルクリア | ……ぅ…………。 |
| ウィル | 泣いてもいいんだ。 |
| メルクリア | うう……わらわは寂しいのじゃ ! 母上様に会いたい !兄上様とも離れたくない ! |
| メルクリア | それに……義父上のことも……。何故こうなってしまったのじゃ !わらわはわらわは……皆と一緒にいたかったのじゃ ! ! |
| Character | 7話【8-7 ウェルテス領 街道1】 |
| リタ | ――みんな、お待たせ。念のため、フィリップにも来てもらったわよ。お供もね。 |
| マーク | お供ってのは結構な言い種だな。せめて護衛と言ってくれ。 |
| フィリップ | 心核のことが関わっているなら僕もいた方がいいかと思って。イクスたちは……今大変みたいだから。 |
| セネル | 助かる。 |
| リタ | で ?ヘルメス式魔導器が埋め込まれてるって、本当なの ? |
| ノーマ | セルるんの話によるとね。 |
| リタ | ちょっと待って。今調べる。フィリップ、あんたもさっさと手伝う。 |
| フィリップ | ああ、わかってるよ。 |
| ジェイ | 墳墓での話の続きですが―― |
| セルシウス | その前に、話しておきたいことがあるの。グリューネは、以前シュヴァルツと接触し記憶が戻りかかったことがあるわね。 |
| セルシウス | 彼女の記憶が戻るということは再びシュヴァルツを甦らせかねない。 |
| セルシウス | わたしはあなたたちの世界のセルシウスでありこの世界のセルシウスでもある。だから、この世界を守らなければならないの。 |
| モーゼス | つまり、どういうことじゃ。 |
| セルシウス | グリューネの正体を知っても今まで通りに接すること。そして記憶を無理に取り戻そうとさせないこと。それを約束して欲しいのよ。 |
| セネル | 仮にグリューネさんが自分の正体を知りたがったとしてもか ? |
| セルシウス | グリューネは思い出せないだけで『知っている』わ。 |
| セネル | ……わかった。 |
| ジェイ | では、単刀直入に伺います。グリューネさんはぼくらの世界の神に類する存在……ということでしょうか。 |
| セルシウス | ええ。本来の力を失っているけれどそう考えていいと思うわ。 |
| モーゼス | 神……じゃと ! ? |
| セルシウス | ティル・ナ・ノーグではエンコードの力が働いて実際には神としての力は発揮できないでしょうね。それはこの世界の防御機構だからどうにもできないわ。 |
| モーゼス | みんな、気付いとったんか ! ? |
| シャーリィ | シュヴァルツのことや、精霊であるセルシウスさんが主って呼んでいたから、もしかしたらとは……。 |
| クロエ | だが、まだ半信半疑だ。急にグリューネさんが神だと言われても……。 |
| ジェイ | まあ、在り方は違いますがこの世界の神もこちらにコンタクトを取ってきました。 |
| ジェイ | ここはそういう世界だ、そういうこともあると割り切っておくぐらいでいいんじゃないですか。本当はこういうのは気持ち悪いんですけどね。 |
| ノーマ | けど、ジェージェーの言う通りだよ。だって、グー姉さんはこれからもグー姉さんなんだし。 |
| グリューネ | お姉さんのことを話しているの ? |
| モーゼス | お、おう……。まあ……どこからどう見ても姉さんは姉さんじゃからのう……。 |
| グリューネ | あらぁ、わたくしのことを見たいの ?どうぞ、モーゼスちゃん。じっくり見てちょうだい。 |
| モーゼス | ! |
| クロエ | だからといって本当にじっくり見ようとするな、シャンドル ! |
| ジェイ | ですが、これではっきりしました。グリューネさんは一刻も早く浮遊島に連れ帰った方がいい。 |
| ジェイ | もしかしたら、今回のことで帝国はグリューネさんの利用価値に気付いてしまったかも知れません。 |
| セネル | ああ、そうだな。 |
| セネル | どうだ、ワルターの方は。もし長引くならアジトに連れ帰った方がいいかもしれない。 |
| フィリップ | 魔導器の方は僕にはわからないけれど彼の元々の心核と一緒に付けられている疑似心核なら外すことはできそうだよ。 |
| シャーリィ | え ? 疑似心核が埋め込まれているんですか ?でもさっきのワルターさんはリビングドール状態には見えませんでしたけど……。 |
| フィリップ | どうやら疑似心核と心核を魔導器で連結しているようだね。 |
| フィリップ | 心核が大きなダメージを負っているから具現化された時、肉体的にも精神的にも瀕死だったんじゃないかな。 |
| セネル | まさか……ワルターが具現化されたタイミングはあの時の―― |
| クロエ | ワルターが命を落としたあの時か ! ? |
| ジェイ | まずいですね。疑似心核を取り除けばあの状態のワルターさんが現れる。 |
| ジェイ | 会話になんてなりませんよ。アジトに連れ帰ることすら危険だ。 |
| リタ | そっちの事情はよくわからないけど魔導器の方は何とかなりそうよ。 |
| リタ | それにしても、帝国の奴らあいかわらずメチャクチャな使い方をするわね。 |
| リタ | きっと治療と実験をかねて魔導器と心核を繋いだんでしょうけどこんな乱暴な使われ方、この子たちが可哀想だわ。 |
| フィリップ | リタ、僕の見立てではワルターの体はまだ完全に癒えていないと思うんだがどうかな。 |
| リタ | でしょうね。心核が崩壊寸前なのを魔導器がかろうじて守ってる状態だから。 |
| リタ | 心核のダメージが修復されて魔導器を取り外せるようにならない限り体の方も癒えないと思う。 |
| リタ | 酷い話よね。死にかけた体のままずっと働かされてるのよ、こいつは。 |
| シャーリィ | そんな…… ! |
| セネル | 本当にあの時のまま、か。 |
| モーゼス | どうする、セの字。 |
| セネル | …………わからない。どうすれば……。 |
| ノーマ | やってみようよ、セネセネ。 |
| セネル | ノーマ ? |
| ノーマ | あの時はどうにもならなかったけど話す時間ができたってことじゃん ! |
| ノーマ | リッちゃんだって、あれから水の民と陸の民の間をつなごうとして頑張ってきた。 |
| ノーマ | 会話になるとかならないってことを心配するより前にセネセネが伝えたいことをちゃんと伝えてワルちんの気持ちもちゃんと知ろうよ。 |
| グリューネ | セネルちゃん、喧嘩はダメよ。ワルターちゃんもまっすぐなとてもいい子なんだから仲良くしましょう。 |
| ノーマ | ああ、こういう時はむしろグー姉菌がありがたい~ !セネセネ、グー姉菌に感染しよう ! |
| シャーリィ | お兄ちゃん、わたしも、ちゃんとワルターさんと話したい。もう水の民を一人も失いたくないから。 |
| シャーリィ | わたし、ワルターさんも守りたい。メルネスとして……それからワルターさんに何度も助けられたシャーリィとして。 |
| セネル | ――リタ、フィリップ。ワルターの疑似心核を外して、目覚めさせてくれ。それから、拘束も解いて欲しい。 |
| モーゼス | みんな ! ワシらはいざというときにワの字を止められるよう、準備じゃ ! |
| クロエ | 任せろ。クーリッジ、シャーリィ私たちのことは気にするな。ワルターのことだけ考えるんだ。 |
| マーク | リタとフィルは俺が守る。二人とも頼むぜ。 |
| リタ | OK。それじゃ、行くわよ。魔導器最終確認。再起動開始 ! |
| フィル | では、疑似心核を外そう。行くよ ! |
| ワルター | ……………… ! |
| セネル | ワルター。話をさせて欲しい。お前は話なんてないというかも知れないが―― |
| ワルター | ――どけ ! |
| セネル | くっ ! ? |
| シャーリィ | ワルターさん ! 待って下さい ! |
| ワルター | メルネス……何故だ……。俺はメルネスを守るために生きてきた。メルネスのそばにいるのは俺の筈だった ! |
| シャーリィ | どこへ行くんですか ?ワルターさんのお話、聞かせて下さい。それにわたしの水の民への気持ちも―― |
| ワルター | メルネス……もう水の民を一人も失いたくないと言ったな。 |
| セネル | お前……あの状態でも俺たちの声が聞こえていたのか ! |
| ワルター | もしその気持ちが本当なら、ご託を並べる前に何故陸の民どもに拘束されているマウリッツを助けようとしない ? |
| シャーリィ | マウリッツさんが近くにいるんですか ! ? |
| ワルター | ――俺は行く。セネル、貴様を葬り去るのはその後だ ! |
| ワルター | このままではルグの槍の贄となってマウリッツも死ぬ。俺はもう、陸の民どもに水の民を殺させはしない ! |
| シャーリィ | 待って ! ワルターさん ! |
| シャーリィ | お兄ちゃん ! ワルターさんを追いかけましょう ! |
| リタ | そうした方がいいわね。あいつ、これ以上無茶すると、本当に死ぬわよ。 |
| フィリップ | ああ。アジトでも僕たちのところでもいい。連れ帰って、心核の治療をするべきだ。 |
| ノーマ | セネセネ、行こう ! |
| セネル | ああ ! |
| Character | 8話【8-9 ウェルテス領 街道3】 |
| セネル | この方角……。まさかワルターが向かったのはさっきの【人食い遺跡】か ? |
| ジェイ | そのようですね。このままグリューネさんを連れて行くのは危険だと思いますよ。 |
| セルシウス | そうね。グリューネはわたしが連れて帰るわ。 |
| グリューネ | あらぁ、もうピクニックはおしまいなの ? |
| ノーマ | グー姉さん、続きは浮遊島でやろ~よ。 |
| グリューネ | まあ、それも素敵ねぇ。 |
| セネル | ワルターのことがあるからリタとフィリップとマークには遺跡の前で待っていて欲しい。頼めるか。 |
| マーク | ああ。帝国の奴らが来るかも知れないんだったな。いざとなったらヘルプを出してくれ。 |
| セネル | 助かる。 |
| ワルター | ……はあ……はあ……。確かここには……マウリッツの心核が……。 |
| ワルター | (くそ……胸が……苦しい……。疑似心核があった頃はここまで弱っていなかった……。陸の民どもめ……) |
| ワルター | (…………陸の民、か。ここには本当の水の民も陸の民もいない。全てがニセモノのまやかしだ…… !) |
| ワルター | だが、せめてマウリッツは…… ! |
| 帝国兵 | 現れました、領主様 ! |
| マウリッツβ | ワルターか。遅かったな。会議に参加していた私の方が先に着くとは。 |
| マウリッツβ | 例のクロノスの分霊と話せる鏡映点はどこだ ?何故、お前の麾下の兵士たちが倒れていた ? |
| ワルター | はあ……はあ……。 |
| マウリッツβ | 魔導器の不具合か。 |
| ワルター | マウリッツ…… ! |
| マウリッツβ | なるほど。やはり貴様、また元の人格が出ていたのだな。面倒な奴め。 |
| マウリッツβ | ワルターを捕らえよ !帝都からの迎えが来る前に、ワルターを正気に戻して鏡映点の居場所を聞き出さねばならぬ。 |
| ワルター | 俺は正気だ…… !これが俺だ !マウリッツを解放しろ ! |
| ワルター | ぐあああああああっ ! ? |
| 帝国兵 | 捕獲魔法陣、発動しました ! |
| マウリッツβ | 鏡映点のために用意していたものだがワルターに使うことになるとはな。 |
| シャーリィ | ワルターさん ! ? |
| セネル | お前たち、ワルターに何をした ! ? |
| マウリッツβ | あやつは、グラスティン様が言っていた贄の紋章を植え付けた娘……。 |
| ワルター | ! ? |
| マウリッツβ | 皆、ワルターはもう良い。生きてさえいれば、贄の紋章は機能する。それよりその金髪の娘を捕らえるのだ ! |
| 帝国兵 | 承知しました ! |
| シャーリィ | キャ ! ? |
| ワルター | ! ? |
| セネル | シャーリィ ! 危ない ! ! |
| ワルター | メルネス ! ! やらせるものかっ ! ! |
| 二人 | ぐっ……。 |
| シャーリィ | お兄ちゃん、ワルターさん ! |
| シャーリィ | やめて !お兄ちゃんもワルターさんもわたしの大切な人たち。わたしが……二人を守る ! |
| シャーリィ | セラフィック・バード ! |
| マウリッツβ | 増援だ ! 奴らを囲め ! |
| ジェイ | くっ ! このままここで戦っていても消耗するだけです。ワルターさんを連れて退避できるような場所はありませんか、ノーマさん ! |
| ノーマ | あたしぃ ! ? そんなこと聞かれても……。 |
| モーゼス | なんか仕掛けとかないんか ! ? |
| ノーマ | はあ ! ?ここは元の世界の遺跡とは全然違……――あ ! |
| クロエ | どうした、ノーマ ! |
| ノーマ | あれ ! さっきモーすけに発動した罠と同じ奴だ ! |
| モーゼス | 何じゃと ! ? |
| ノーマ | 一か八か……それ~っ ! ポチッとな ! |
| 全員 | ! ? |
| 全員 | うわあああああああ ! ? |
| メルクリア | 何だか目が腫れぼったいわ……。 |
| ウィル | あれだけ泣けばそうだろうな。 |
| メルクリア | 見ず知らずの人間の前であんなにも泣こうとは……。 |
| ウィル | 案外、何も知らない人間の前の方が素直になれることもある。 |
| メルクリア | ……そうかも知れぬな。あの……ありがとう……。 |
| ウィル | いや、オレは何もしていない。 |
| メルクリア | そんなことはない。わらわは感じ入った。また一つ学びを得た。そなたに何か礼をしたいとすら思うておる。 |
| ウィル | 大げさな奴だな。だが……そうだな。ではこうしよう。オレはオレと家族に誓ってメルをメルの家族の下へ帰す。 |
| ウィル | その時に、改めて礼を言ってもらおう。 |
| メルクリア | どうしてもそなたはわらわを帰したいのだな。まあ、よい。ならば約束しよう。 |
| メルクリア | ――しかし、だんだん景色が開けてきたな。 |
| ウィル | そろそろ村のあった辺りだからな。見ろ、奥には建物もある。 |
| メルクリア | では、ここが義父上の……。 |
| ウィル | やはり……この奥だな。何か光ったように見えたのは。 |
| ウィル | もし鏡の破片がここにあるのなら魔物が拾って持ち帰ったのか…… ?光るものにでも興味があるのか……。 |
| メルクリア | (……なんじゃ…… ? 胸が苦しいような…… ?) |
| ウィル | 気を付けろ、メル。ここには光魔という危険な魔物が巣食っている。それも大量にな。オレはこの光魔の生態を調査するために来たんだ。 |
| メルクリア | 光魔じゃと ? 何故このような場所に……。 |
| ウィル | 驚いたな。光魔を知っているのか ? |
| メルクリア | それは……その……。 |
| メルクリア | ん ? ウィル、あの茂みの奥が光ったぞ ! |
| ウィル | ……よし。オレが見てくる。メルはここを動くなよ。 |
| メルクリア | ぐっ……。 |
| ウィル | メル ? どうした ? |
| メルクリア | ……なん……じゃ…… ?胸が……痛い……。痛くて……息が……。 |
| ウィル | メル ! ? |
| ウィル | くっ、光魔か ! 何もこんな時に ! |
| ウィル | 光魔の体が光った ! ? まさか、鏡の破片か ! ?ならば――取り返すまで ! |
| Character | 9話【8-11 ウェルテス領 海岸2】 |
| シャーリィ | ……お兄ちゃん、大丈夫 ? |
| セネル | ……う……ここは……。 |
| ジェイ | 墳墓の遺跡の下が海岸線に繋がっていたんです。 |
| クロエ | ノーマが装置を発動させてくれて何とかここへ逃げ込めたが……。ここからどう動けばいいものか。 |
| ワルター | ……フ……フフ……。 |
| モーゼス | うおっ ! ? 何じゃ、気付いとったんか、ワレ ! ? |
| ワルター | 逃げ込んだ、だと。愚か者共め。帝都からくる船はこの海岸に着けられる。 |
| ワルター | 貴様らの仲間のグリューネとかいう女を運ぶための船だが、こうなるとメルネスを運ぶ船に変わるだろうな。 |
| ジェイ | つまり、下手をするとマウリッツさんと帝国の船に挟み撃ちにされるということですね。 |
| シャーリィ | ワルターさん、体の方は大丈夫ですか ? |
| ワルター | ……俺のことはどうでもいい。それよりメルネス、贄の紋章を刻まれたというのは本当か ? |
| シャーリィ | え、ええ……。あのこてのようなものですよね。今は痕も残っていないですけど……。 |
| ワルター | セネル ! !貴様が付いていながら、何故そんなことになった ! ? |
| セネル | すまない……。俺がシャーリィを守れなかったんだ。 |
| ワルター | だから陸の民など信用できんのだ !あれはメルネスの命を奪う恐ろしい呪いだぞ ! ? |
| 五人 | ! ? |
| セネル | それはどういうことだ ! ?贄の紋章ってのは一体何なんだ ! ? |
| ワルター | 贄の紋章は、文字通り生け贄の印だ。刻印器と呼ばれる装置で紋章を刻むと紋章を通じて生体エネルギーが集められる。 |
| シャーリィ | 生け贄……。 |
| ワルター | エネルギーの搾取が少量なら、相手を暗示に掛けてコントロールできるし、量が多ければ生体エネルギーを固形化させて、レプリカのような模造品作りに使える。 |
| クロエ | なんだ、そのおぞましい装置は…… ! ? |
| ワルター | 最大限まで出力を高めるとルグの槍と呼ばれるエネルギーの柱になる。 |
| ワルター | ルグの槍は、このまやかしの世界を破壊してニーベルングという星を召喚するための転送装置だ。メルネスは人柱にされたんだ ! |
| シャーリィ | ! ! |
| モーゼス | 信じられん……。なんちゅうものを帝国の奴らは……。 |
| セネル | 解除する方法はないのか ! ? |
| ワルター | 俺にはそこまでの知識は与えられていない !それに贄の紋章は俺にも埋め込まれている。領主と従騎士はほぼ全員紋章を刻まれている筈だ。 |
| ジェイ | それが本当だとして、この世界を壊せば帝国も滅びるのではありませんか ? |
| ワルター | 奴らの目的は貴様ら陸の民の祖先と同じだ。自分たちだけは箱船に乗ってニーベルングへ移住するつもりだ ! |
| ワルター | 鏡士どもに具現化された人間はこの世界と共に消滅しもともとこの世界に生まれていたわずかな生き残りだけを移民させる計画らしい。 |
| ジェイ | ニーベルングの復活、どんな手段を執るのかと思っていたら……つくづく帝国らしいですね。 |
| ノーマ | ……え ? どういうこと ? あたし、わかんないよ。だって、この世界を救うためにイっくんたちは具現化を始めたんでしょ ? |
| ノーマ | それってデミトリアスも承知してたことなんでしょ ? |
| ノーマ | せっかく作ったのに、異世界からあたしらみたいに帰れなくなる人たちまで生み出して、壊します置いていきますとか、あたしらの存在は何なのよ ! |
| ワルター | 俺の知ったことか ! くそっ !こんな……せっかく自分を取り戻したというのに……俺はまた自分の使命を果たせないのか……。 |
| ワルター | どうしてこうなった ! ?答えろ、セネル ! ! |
| ウィル | メル ! しっかりしろ ! 鏡の破片を見つけたぞ ! |
| メルクリア ? | ………………無駄じゃ。 |
| ウィル | な、何だ ? |
| メルクリア ? | この娘は心に穴があいたまま。我の恨みを晴らすに丁度いい……。 |
| ウィル | 貴様、メルではないな ! ? |
| メルクリア | ……く……ウィル、か……。 |
| ウィル | メル ! 大丈夫か ! ? |
| メルクリア | ……すまぬ……。わらわは……特異な体質になっていてな……。 |
| メルクリア | 何と言えばいいか……心に隙があり……得体の知れぬものにのっとられやすいのじゃ。 |
| メルクリア | わらわを置いて立ち去れ……次に意識を失うと……わらわは……恩人であるそなたを……手に掛けるやも……。 |
| メルクリア ? | ――中々にしぶとい。さすがは鏡士よ。だが、もはや抵抗はできまい ! |
| ワルター | 答えろ ! セネル ! !セネル・クーリッジ ! ! ! |
| セネル | 俺にだってわかるかよ !だがそれでも何とかしないと―― |
| ワルター | 何をどうするというんだ ! ?メルネスの傍にいながら、メルネスを守ることもできず戯言ばかり口にするな ! |
| シャーリィ | 待って ! ワルターさん ! 違うの。わたしはもうお兄ちゃんに守られるだけの存在じゃない。 |
| シャーリィ | わたし……わたしもどうしたらいいのかわからないけどでも自分がルグの槍になるのも嫌だしワルターさんがそうなるのも嫌。 |
| シャーリィ | それにこの世界が壊れたら、お兄ちゃんも、みんなもこの世界で出会った人も、この世界に生まれた水の民もみんな死んでしまう。そんなの駄目だよ。 |
| シャーリィ | わたしは……みんなを守りたい。わたしはメルネスであり、シャーリィだから。 |
| ワルター | ………………。メルネス……無駄だ。贄の紋章を消す方法はない。一度刻めば、二度と消えることはないと聞いた。 |
| ノーマ | そんな筈ない ! |
| ワルター | 何 ! ? |
| ノーマ | あんたさ、メルネスメルネスって騒ぐならリッちゃんのことちゃんと見なよ !リッちゃん震えてるじゃん ! |
| ワルター | ! |
| ノーマ | リッちゃんは怖いんだよ。怖くて怖くて仕方ないのに頑張って自分の足で立ってみんなを守る方法を探したいって言ってんの ! |
| ワルター | ………………。 |
| ノーマ | ワルちん、贄の紋章の知識、ぜ~んぶ持ってるって訳じゃないんだよね ? だったら、贄の紋章を消す方法がないなんて言い切れる訳ないじゃん ! |
| ノーマ | まだまだ調べてないことたくさんあるんでしょ。やれることやって調べて調べて調べ抜いたらなにか見つかるかも知れない。 |
| ワルター | そんな都合のいい話があるか ! |
| ノーマ | あるかもしれない。ううん、あるんだよ ! |
| ウィル | 何者かは知らんが、メルから離れろ ! |
| メルクリア ? | 愚か者。小娘に騙されているのじゃぞ ?この娘の本当の名は―― |
| ウィル | メルではない。そんなことは知っている。だが、メルが流した涙は本物だ。オレはあの涙と叫びを信じる ! |
| ウィル | そしてその子を待つ家族や仲間の下に帰してやる !オレは―― |
| ノーマ | あたしは諦めない。リッちゃんやみんなのこと諦めない。帝国の奴らの好きになんてさせない。 |
| ノーマ | 何かあるよ、何か。調べもしないうちに決めてかかるな !あたしは―― |
| 二人 | 諦めない ! ! |
| 帝国兵 | いたぞ ! |
| ワルター | くっ、追っ手か―― |
| シャーリィ | ワルターさん。大丈夫。わたしが戦います。あなたは水の民の仲間。何より、命の恩人です。 |
| ワルター | ! ! |
| ノーマ | リッちゃん ! あたしも一緒に戦うよ !今、浄玻璃鏡、輝いちゃったもんね~ ! |
| モーゼス | くそぅ ! なしてワイの浄玻璃鏡は輝かんのじゃ ! ?じゃが帝国の連中なんぞワイの聖爪術で一掃しちゃる ! |
| ジェイ | 張り切りすぎて空回りしないで下さいね。 |
| セネル | 皆、ワルターを巻き込まないように動くぞ ! |
| ワルター | 貴様に守られるいわれはない ! |
| セネル | だったら、まずその体を治せ !文句はその後で聞いてやる ! |
| クロエ | 来るぞ ! |
| Character | 10話【8-14 ウェルテス領 海岸5】 |
| セネル | 何とか片付けたが……。 |
| ジェイ | ええ。ここに留まるのは危険です。外のフィリップさんたちに連絡はしてあるので合流してここを離れましょう。 |
| クロエ | いつの間に……。 |
| ジェイ | 当然でしょう。救援が遅れては意味がありませんから。 |
| シャーリィ | 待って、お兄ちゃん。 |
| シャーリィ | ワルターさん。マウリッツさんを助けるためにここに来たということは、もしかしたらマウリッツさんの心核を持っているんじゃないですか ? |
| ワルター | ……いや、持っていない。だが、ここではルグの槍の起動のための準備が進められていて、マウリッツの心核はその一環として、ここに安置されている。 |
| ワルター | 元々はエバーライトを求めていたようだがそれはまだ見つかっていないようだな。 |
| クロエ | そうか……。シャーリィはマウリッツさんを助けたいんだな。 |
| セネル | ワルター、心当たりの場所を教えてくれ。俺たちで探してくる。 |
| ワルター | 貴様らなど信用できるか。俺も行く。メルネスを守るのもマウリッツを助けるのも陸の民の貴様ではなく、水の民である俺の責務だ。 |
| セネル | ……なあ、水の民だとか陸の民だとかはいったん置いておけないか。 |
| ワルター | 貴様 ! ? |
| セネル | 聞いてくれ ! ……お前は知らないことだと思うがお前と俺たちが戦った後、色々あって……シャーリィは水の民と陸の民の調和を目指してきたんだ。 |
| セネル | まだまだ道は半ばだ。それなのに、そんな時にこの世界に連れてこられてしまった。自分の責務を果たせずに苦しんでいるのはシャーリィも同じなんだ。 |
| セネル | その辛さは……お前ならわかるんじゃないのか ? |
| セネル | ノーマも言ってたろ。シャーリィを見てくれって。メルネスがいてシャーリィがいるんじゃない。シャーリィの一部分がメルネスなんだ。 |
| セネル | そんなシャーリィだから、二つの種族の架け橋になろうとしていた。そのシャーリィの気持ちを汲んでくれ。 |
| シャーリィ | ワルターさん。この世界でもわたしのやることは変わりません。 |
| シャーリィ | 水の民と陸の民……ううん、それだけじゃない。沢山の種族がいて、この世界で生まれた人がいてこの世界に具現化された人がいて、鏡映点がいる。 |
| シャーリィ | 一緒に歩いて行けるように……支え合って生きられるようにしたい。 |
| シャーリィ | そうすることが、この世界の水の民を守ることにもなると思うんです。わたしはメルネスとして、水の民を守りたいんです。 |
| ワルター | ……メルネスがマウリッツを助けるというならそれには協力する。だが、それだけだ。後のことは知らん。 |
| メルクリア | ……この光は…… ? |
| メルクリア | さっきまで、何かよくわからないものがわらわの中にいて……まるで話に聞く虚無のようであった……のに……。 |
| ウィル | 俺は――諦めない ! |
| メルクリア | ウィルの声か。あやつめ、逃げよと言ったのに……。見ず知らずのわらわのために……。何という奴じゃ……。 |
| ? ? ? | メルクリア様、こちらに来てはいけません……。 |
| シドニー | その声は……シドニーか ! ? |
| シドニー | ここは死鏡精がたくさん生み出された忌み地。今のメルクリア様が来ては危ない。わずかですが、死鏡精が残っています。 |
| メルクリア | わらわの中にいるのは死鏡精か……。しかし何故そなたの声が聞こえるのじゃ ? |
| シドニー | 私にもわかりません……。浄玻璃鏡の輝きで気付きました。 |
| シドニー | メルクリア様の探しているものは、一番奥の建物にあるようです。それを手に入れたら、早くここを離れて下さい。死鏡精は私が祓っておきます。 |
| メルクリア | わかった。シドニー、ありがとう―― |
| ウィル | 気がついたか、メル ! |
| メルクリア | ウィル……また迷惑を掛けてしまったな。 |
| ウィル | やれやれ、今度はメル本人のようだな。 |
| メルクリア | ……ん ?ウィル、その手に持っている鏡の破片は……。 |
| ウィル | ああ、メルが落としたのはこの鏡の破片か ? |
| メルクリア | う、うむ、そうじゃ。それぞシドニーの……。 |
| メルクリア | そうか……これを通じてシドニーはわらわを……。 |
| ウィル | ならば、この破片はきみに返そう。 |
| ウィル | しかし何とも不思議な鏡だな。光魔に囲まれて厳しい状況だったがその鏡が突然輝いて、オレに力を与えてくれた。 |
| ウィル | 以前、似たようなことがあったのを思い出したよ。 |
| メルクリア | 光った……のか ? そうか……。 |
| ウィル | さて、ここで何か探し物があるんだったな。オレも手伝おう。 |
| メルクリア | それなら大丈夫じゃ。見当はついているからのう。 |
| ワルター | ……ここがルグの槍の起動室だ。 |
| ノーマ | お~ ! ? 台座の上でキラキラしてる心核を発見 !ああして置いてあると、お宝感マシマシだね~ ! |
| モーゼス | あれを手に入れてマウリッツを助け出せばええんじゃな ? |
| マウリッツβ | やはりこの部屋に現れたか。その心核もエネルギーの一部となる。帝国の邪魔をするものは排除する ! |
| クロエ | それでいいのか ? ルグの槍が発動すればマウリッツさんだけではなく疑似心核であるお前も死ぬんだぞ ! |
| マウリッツβ | 疑似心核をなんだと思っている ?生命ではない。目的を全うするための装置にすぎぬ。 |
| ジェイ | 装置が自我を持つとこうなるわけですね。哀れだ。 |
| シャーリィ | マウリッツさんを返してもらいます ! |
| セネル | 勝手に人の心を奪ってゴミのように捨てるようなことはさせない ! |
| ワルター | ……同胞の体、返してもらうぞ ! |
| Character | 11話【8-15 ウェルテス領 遺跡2】 |
| モーゼス | よし、光魔は倒した。あとはマウリッツを―― |
| マウリッツβ | ――くっ ! |
| リタ | ちょーっと待った ! ここから先は行かせないわよ ! |
| ジェイ | みなさん、計算通りに来てくれましたね ! |
| ワルター | マウリッツ ! 待て ! |
| ワルター | 俺がマウリッツを拘束しておく。その間に―― |
| フィリップ | わかった。疑似心核を抜き出して、元の心核に入れ換えよう。 |
| セネル | どうだ ! ? フィリップ ! |
| フィリップ | ――ああ、大丈夫。無事に心核を入れ換えられた。今はまだ眠っているが、じきに目が覚めるだろう。しばらくは安静が必要だろうけどね。 |
| ワルター | ……そう…………か……。 |
| シャーリィ | ワルターさん ! ? |
| リタ | やっぱり……相当無茶したわね。 |
| マーク | ケリュケイオンに運んで、心核の治療を開始しよう。その後は絶対安静なのは、このマウリッツっておっさんと同じだな。 |
| マーク | で、どうする ?この二人は治療をした後、どこへ連れて行けばいい ? |
| セネル | いったん浮遊島の方へ連れて行こうと思う。マウリッツさんが意識を取り戻してくれればワルターの説得に力を貸してくれるはずだ。 |
| シャーリィ | うん……。そうだよね。 |
| クロエ | ワルターが水の民を守りたいと思うなら我々と利害は一致している筈だ。 |
| クロエ | まあ……ワルターの抱えている陸の民への憎しみが簡単に癒えるとは思わないが……。 |
| ノーマ | それもそうだけど、ワルちんってばセネセネのいるところで暮らせるのかな ? |
| モーゼス | 目が覚めたら怒り狂って飛び出して行くかもしれんのう。 |
| セネル | 敵対しなくてすむなら、それでいい。 |
| シャーリィ | わたし、ワルターさんが目を覚ましたら元の世界の滄我の話をしてあげられたらって思うんだ。 |
| シャーリィ | それで納得はできないかも知れないけれど滄我も調和を目指そうとしたんだって……知って欲しいから。 |
| ジェイ | ……ということのようです。マウリッツさんとワルターさんを運ぶ手伝いをしてくれますよね ? |
| マーク | 了解だ。肉体労働は俺の役目だからな。 |
| ジェイ | もちろん、モーゼスさんも手伝って下さいよ。 |
| モーゼス | またワイか ! ? |
| セネル | 俺も手伝うよ。 |
| リタ | 乱暴に運ぶんじゃないわよ。相手は重病人みたいなもんなんだから。 |
| ノーマ | ねえ……。ウィルっち……元気かなぁ。 |
| ジェイ | どうしたんです、急に。 |
| ノーマ | ん~ ? あはは、なんかさ~。浄玻璃鏡が光ったときにウィルっちの声を聞いた気がするんだよね。 |
| ノーマ | ん~、ちょっと違うか。心が繋がったっていうかさ。違う世界にいるのに、おかしいよね。 |
| ジェイ | はぐれ鏡映点として具現化されている可能性はありますよ。 |
| セネル | もしそうだとして、ウィルに会えるなら歓迎したいがウィルの場合は、この世界に来てしまうとなると……。 |
| クロエ | ハリエットと離ればなれになるということだからな。複雑だ……。 |
| ノーマ | そうだよね。でも……なんか、むしょ~に会いたくなっちゃったよ。 |
| コーキス | ――あー、いたいた。何やってんだよ、メルクリア ! |
| メルクリア | コ、コーキス ! ? その名を呼ぶでない ! ! |
| コーキス | へ ? |
| リヒター | 俺はリヒター、こっちはコーキス。メルクリアの保護者だ。迷惑を掛けたようで、申し訳ない。 |
| ウィル | これで約束を果たせて、オレも安心した。それに……長く離れている娘のことを思い出して懐かしい気持ちにさせてもらった。気にしないでくれ。 |
| メルクリア | すまぬ、ウィル。名前まで嘘をついていて……。 |
| ウィル | どうせそんなことだろうと思っていた。しかしメルクリア、か……。 |
| メルクリア | おおおおお ! そ、それより、この鏡の破片に宿ったお主の力を、改めて別の鏡に映して進呈したいのじゃ。もらってくれるか ? |
| ウィル | それは……さっきの強力な力のことを言っているのか ? |
| メルクリア | うむ。少し時間がかかるが、待っていてくれるか ?そなたにもらって欲しいのじゃ。出来上がったらそなたが村長代行をしているという村に送ろうぞ。 |
| ウィル | (あの鏡の破片が光ったとき、ノーマの気配を感じた。ひょっとしてノーマが近くにいるのか…… ?あの鏡があれば、もしかしたら――) |
| ウィル | ……わかった。楽しみにしている。 |
| コーキス | ウィルさん、ありがとうございました ! |
| メルクリア | それではな。 |
| リヒター | では、失礼する。 |
| ウィル | やれやれ、何とも騒がしかったな。 |
| ウィル | (こんな騒がしさは、セネルたちといたとき以来だな。やはり……ここは……オレの知っている世界ではないのだろう) |
| ウィル | (セネル、シャーリィ、クロエ、ノーマ、モーゼスジェイ、グリューネさん。それに――ハリエット) |
| ウィル | (お前たちが懐かしいよ。きっと今も、賑やかにやっているんだろう) |
| バルド | ――ナーザ様。メルクリア様が見つかったようです。 |
| ナーザ | まったく、油断も隙もない。帰ったら厳しく言い聞かせねば。 |
| バルド | どうか、お手柔らかにお願いします。デミトリアス帝の幼少期の医療カルテを見つけたそうですので。 |
| ナーザ | 中は確認したのか ? |
| バルド | はい。リヒターの話ではやはり鏡精のエネルギーをデミトリアス帝に注いでいたようです。 |
| ナーザ | なるほど、これで納得がいった。俺たちの調査結果とも符合する。 |
| ナーザ | デミトリアスは自身が受けていた延命措置に気付き悩み――贖罪を考えた、というところか。 |
| バルド | セールンド王も嫡男を失いたくなかったのでしょう。 |
| ナーザ | そうだろうな。老齢になってからやっと授かった子だと聞いている。まあ、詳しいことは資料待ちだ。 |
| ナーザ | ――さて、ではジュニアの方の話を聞こうか。 |
| ジュニア | ……はい。 |
| ナーザ | フリーセルを具現化した、と言ったな。それは、あのフリーセルのことか ? |
| ジュニア | そうです。サレが言っていました。グラスティンのアキレス腱を見つけたって。 |
| ジュニア | グラスティンに何か仕掛けるなら、一人目の僕かフリーセルなのは間違いありません。だから―― |
| ナーザ | フリーセルの具現化、か……。 |
| | to be continued |