Character1話【9-1 ファンダリア領 雪山】
ドロワットやったー ! また私たちの勝ちなの !
小さな男の子くっそー。今日の雪合戦は絶対勝てると思ったんだけどな……。
ゴーシュ甘いぞ、エリック。だが、ちゃんと作戦を組み立ててきたのは感心だ。
ドロワット雪の壁を作って、太陽の光を反射させてきたときはビックリ ! 目の前がピカピカ~ってなって危なかったのよ。
エリックだって、ボクも負けっぱなしは悔しいからさ。それに、イクスお兄ちゃんも戦う前の準備は大切だって教えてくれたもん。
ドロワットエリック、またそのお兄ちゃんの話なのん。
ゴーシュ私たちも耳にタコができるくらい聞かされたな。
エリックだって、イクスお兄ちゃんは本当に凄いんだよ !優しくてカッコよくて、ボクを助けてくれたヒーローなんだから !
ゴーシュわかった、わかった。話はあとでゆっくり聞いてあげるから今日はもう帰るぞ。
ドロワットお腹もペコペコになってきたのよ。
エリックううっ……。じゃあ、ご飯のときに二人にもいっぱい聞いてもらうんだからね !
女性おかえりなさい、みんな。エリック、今日もゴーシュとドロワットに遊んでもらっていたのね。
気弱な男の子いいなぁ……エリックお兄ちゃん。ぼくも一緒に雪合戦したかったのに……。
エリック仕方ないだろ、ライアン。熱は下がったみたいだけど、まだ安静にしなさいってお医者さんに言われたんだから。
ゴーシュエリックの言う通りだ、ライアン。しっかり休むことも大事なことだ。
ドロワット元気になったらまた私たちが一緒に雪合戦してあげるのん !
ライアンホントに ! ?
女性ふふっ。良かったわね、ライアン。あなたには優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんがいてくれて。
ライアンうん ! ぼく、ここにいるみんなのこと大好きだよ !
女性そう言ってくれると私も嬉しいわ。それじゃあ、みんな戻ってきたことだし食事の準備をしないと……。
エリック待って。準備ならしばらくボクたちがやるって約束だったでしょ ?
女性だけど……。
エリック大丈夫だよ ! ボクたちだって役に立ちたいんだから。ライアンもみんなを呼んできて。手分けすれば、すぐに終わるからさ。
ライアンうん、わかった !
女性……本当に、優しい子たちだわ。
ドロワットみんな、足の怪我のこと心配してくれてるの。もう大丈夫なの ?
女性ええ、あなたたちが助けてくれたお陰でもうすっかり平気よ。
女性だけど、あのときは驚いたわ。まさか、こんな子供たちまで戦いに巻き込まれているのかと思ったから……。
ゴーシュそれは……。
女性いいの。話したくない事情があるのなら無理に話さなくても。
女性だけど、領主であるエルレイン様も以前と比べて表に顔を出さなくなってしまって、それが原因なのかファンダリア領の治安も悪くなってしまっているわ。
女性だから、あなたたちが良かったらずっとここにいてくれてもいいからね。
二人…………。
――コンコン。
女性はい、どなたかしら ?
商人失礼。こちら『セキレイの羽』の者です。物資の運送に来ました。
女性いつもありがとうございます。すぐに扉を開けますので、少し待ってくださいね。
ゴーシュあっ、荷物なら私たちが運ぶ。いいな、ドロワット。
ドロワットはいなの~。ゴーシュちゃんと一緒にやればちょちょいのちょい~、だよ。
女性ありがとう。だったら、悪いけどあとは二人にお願いするわね。
ゴーシュ……ふぅ。物資はこれで全部運べたな。
商人しかし、凄いな、きみたち……。大人でも重たい荷物をあんな軽々持ち上げるなんて。
ドロワット私たちは魔導器があるから平気なのだわん。
商人ぶら……なんだ、それは ?
ゴーシュき、気にするな !それより、最近は物資の調達も大変だと聞いている……のですが…… ?
商人そうなんだよ。以前のこの領での戦いに加えてテルカ・リュミレース領でも大規模なクーデターが起こったみたいだからな。
商人しかも、そのクーデターを起こした首謀者であるアレクセイという男が、また兵を集めて帝国に戦いを仕掛けるって噂だ。
二人! ?
商人おっと、すまない。こんなこと、子供のきみたちに話しても怖がらせてしまうだけか……。
商人だが、安心してくれ。この施設への物資供給はうちのリーダー直々の依頼だからな。ここにいれば、きみたちも安全だよ。
商人さて、荷物も運び終わったし、挨拶を終えたら俺も帰るとするか。じゃあ、また来たときは宜しく頼むよ。
ドロワットゴーシュちゃん……。今の話……。
ゴーシュアレクセイ…… !一体何をするつもりだ…… !
ドロワットけど、アレクセイが帝国と戦っているのはおかしいの。あいつもイエガー様と同じように洗脳されてたはず。
ゴーシュ考えられるのは、その洗脳が解けて反乱を起こしているってことだ。
ゴーシュだが、イエガー様も一緒にいるとは限らない。グラスティンって奴を追って、この大陸に来てみたが結局手がかりも掴めないままだ……。
ドロワットどうしよう、ゴーシュちゃん ?
ゴーシュ決まっている。アレクセイのところに私たちも行く。今は少しでもイエガー様に関わる情報が欲しい。
ゴーシュそれに……アレクセイのことだからまたイエガー様を酷い目に遭わせるかもしれない。そんなこと、絶対にさせるものか !
ドロワット私も、イエガー様がアレクセイに利用されるなんて嫌なのよ。
ゴーシュドロワット、すぐに支度するぞ。港まで行けば、アレクセイのいる大陸まで貨物船で移動できる。
ドロワット了解だよ。だけど、ここの人たちにはさよならを言わなくていいの ?
ゴーシュ……ああ。言ったら止められるだろうしみんなに心配をかけてしまう。
ドロワットゴーシュちゃんがそう言うなら私もそうするの。
ゴーシュ……明日の早朝には出発する。それまでは、みんなにも悟られないようにな。
ライアンエリックお兄ちゃん……。今の話……。
エリックしっ ! 二人に気付かれるだろ。……けど、もう行ったみたいだな。
ライアン……ねえ、さっきの話、本当なの ?ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもここからいなくなっちゃうの ?
エリック……それは。
ライアンぼく、そんなの嫌だよ !また雪合戦して遊ぶ約束だってしたのに !
エリックライアン……。ボクだって二人のことは心配だよ。
エリックそれでも、ボクたちに何も言わないで出て行かなきゃいけないくらい、きっと二人にとっては大切なことなんだ。
ライアンだけど、戦いがあるって言ってたよ……。そんな危険な場所に行ったら、お姉ちゃんたちが……。
エリック……わかってる。だから、ボクがなんとかする。ライアンは何も心配しなくていい。
ライアンエリックお兄ちゃん…… ?
エリックボクも、イクスお兄ちゃんみたいになるよ。大事な人たちを守れるヒーローにね。

Character2話【9-3 アジト1】
フレンみんな、急な招集にも関わらず集まってもらってすまない。感謝するよ。
チェスター気にすんなって。ここにいる奴らは丁度オレたちみたいにアジトに残ってた連中だろうしな。
リッドそうだぜ、フレン。そんな固い顔してねえでもっと気楽にいこうぜ……っていうのは流石に無理か。
ジーニアス最近は色々なことが立て続けに起こって大変だったもんね……。
マルタうん……エミルたちも、ずっと精霊のこと調べてるみたいだし、私も力になれればいいんだけど……。
ライラマルタさん。人の言葉には「適材適所」というものがあります。きっと、マルタさんもエミルさんたちの為にできることがあるはずです。
マルタ……そうだね。ありがとう、ライラさん。
ジーニアスねえ、フレン。それで、ボクたちにも話しておきたいこと、って何 ?
フレンああ、今カロルたちがテルカ・リュミレース領の様子を調査しているんだが、そこでアレクセイ一派に新しい動きがあったみたいなんだ。
マルタアレクセイって、確か魔導砲を使おうとしてた人のことだよね ?
リッドまさか、また懲りずに何かやってんのか ?
フレン詳しいことはまだわかっていないけど噂では領都を攻め落とす為の準備をしているんじゃないかという話だ。
ライラ領都を攻めるとなると当然、帝国軍と衝突することになりますわね。
フレンそうなると、かなり大規模な戦いになると思う。おそらく、その為の人員と物資を集めているんだろう。
フレン彼の優秀な采配は、僕も嫌という程知っている。無策で帝国に戦いを挑むようなことはしないはずだ。
ジーニアスじゃあ、アレクセイには何か勝算があるってことだね。
フレンその通り。そこでカロル調査室が調べてくれた結果アレクセイの部下たちが頻繁に出入りしているという遺跡が見つかったんだ。
フレンその遺跡周辺に、何かアレクセイにとって必要なものがあるんじゃないかと僕たちは睨んでいる。
リッド遺跡か……。まぁ、そういうところにすげえもんがあるってのはお約束だな。
ジーニアスけど、それを突き止めてどうするの ?アレクセイのことなら、救世軍預かりなんでしょ ?
フレンアレクセイの目的を突き止めて、場合によっては戦いそのものを止める必要があると思っている。救世軍も情報を集めてくれているんだ。
チェスターということは、アレクセイが必要としてるかも知れない何かってのを見つけてオレたちが手に入れちまえばいいんじゃないか ?
フレンああ。実は、そのつもりで既にユーリたちが動いてくれていて、僕もすぐに合流する予定なんだ。
フレンだから、また暫くアジトを離れてしまう前にできるだけ情報を共有しておこうと思ってね。
マルタわかった。みんなには私たちから伝えておくね。
エステルフレン。みんなとの会議は終わったんです ?
フレンはい、丁度伝え終わったところです。それで、パティの容体は ?
エステルはい……身体的には問題ないそうですがまだ本調子ではないみたいで今回はアジトに残るそうです。
チェスター……そのほうがいいだろうな。心核を抜かれたうえに、鏡の精霊なんてものに体をのっとられちまったんだからな。
フレンリタもまだケリュケイオンから離れることはできないでしょうし、我々だけでユーリたちのところへ向かいましょう。
ジーニアス二人とも、気を付けてね。
リッド何かあったら、オレたちもすぐに駆け付けるからな。
フレンありがとう。それじゃあ、行ってくる。
ゴーシュ……なんとか船には上手く乗り込めたな。
ドロワットかくれんぼは得意だもんね、私たち。
ゴーシュこのまま、この貨物船に乗っていればテルカ・リュミレース領に到着するはず……。
ゴーシュ誰か来る ! ドロワット、荷物に紛れて隠れろ !
ドロワットま、待ってなの、ゴーシュちゃん !見て見てなの !
ゴーシュなんだ一体…… ! ?そんな……まさか ! お前たちは…… !
エリックゴーシュお姉ちゃん ! ドロワットお姉ちゃん !良かった ! この船に乗ったのは見間違いじゃなかったんだね。
ゴーシュエリック ! それにライアンまで……。お前たち、どうしてこんなところに……。
エリックごめんなさい……ボクたち、お姉ちゃんたちが話をしているところを聞いちゃったんだ……。
ゴーシュだからって追いかけてきたのか…… !どうして、そんな馬鹿なことをしたんだ !
ゴーシュ話を聞いていたのなら、危険なことだってわかっていたはずだ !それなのに、どうして付いてきた !
ドロワットゴーシュちゃん……。
ライアン……嫌だったから。
ゴーシュ……なに ?
ライアンぼく、嫌だったんだよ !ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもお父さんたちみたいにいなくなっちゃうのが…… !
ゴーシュライアン……そうか……。お前は戦争で家族を失っていたんだったな……。
エリック……最初はボクだけで二人を追いかけようとしたんだ。だけど、ライアンがどうしても自分も付いていきたいっていうから、一緒に来たんだ。
エリックねえ、お願い ! ボクたちも一緒に連れて行って !絶対、お姉ちゃんたちの力になるから !
ドロワットゴーシュちゃん……どうしよう……。
ゴーシュ……今さら戻れといったところで危険なことに変わりはない。それなら……まだ私たちと一緒にいたほうが安全だ。
エリックゴーシュお姉ちゃん…… !
ゴーシュだが、一つだけ約束しろ。本当に危険になったら、エリックとライアンは私たちを置いて逃げるんだ。
ライアンそ、そんなことできないよ !
ゴーシュ約束できないのなら、無理にでもファンダリア領行きの船に乗せて帰ってもらう。
ライアンそんな・・…。
エリック……わかったよ。約束する。そしたら、ボクたちも付いていっていいんだね ?
ゴーシュ……交渉成立だな。では、船が到着するまで隠れるぞ。テルカ・リュミレース領までは、あと少しのはずだ。

Character3話【9-4 アジト2】
イクス――じゃあ、始めようか。ミリーナ、ネヴァン、カーリャ。
二人……はい。
ミリーナ私たちとの違いを明確にするために最初から話すわね。
ミリーナ最初の私たち――一人目のイクスとフィルと私はセールンド王国のオーデンセ島で生まれたわ。
ミリーナ鏡士は大抵セールンド島にある王立研究所で働くから島で生まれる子供は少なかった。
イクス俺の母さんは、珍しく里帰り出産だったんだよな。二人とも、一年ぐらいでセールンド島に戻っていったらしいけど。
イクス……あ、これ、一人目から受け継いだ記憶だよな。俺たちは作られた存在だから……母親から生まれたわけじゃないだろうし。
ミリーナええ、そうね。そこはゲフィオン……最初のミリーナの記憶とも一致しているわ。
ミリーナ私のお母様は私を産んですぐに亡くなってしまったしお父様も病気で死んでしまって……。だからなんとなく私たち、お互いに親近感を覚えていたわよね。
イクスうん……。ミリーナはいつも俺の姉さんとして振る舞ってくれてたよな。あれ、結構嬉しかったよ。……まあ、一人目の記憶だけど。
二人………………。
ミリーナ三人の関係が変わったのは、あのピクニックの日よ。フィルがセールンド島に引っ越してから一年と少し過ぎた頃だった。
ミリーナあの日はフィルがオーデンセ島に遊びに来ていたわ。水鏡の森に見せたいものがあるって私をピクニックに誘ってくれたの。
ミリーナ今思えば、あれは女神ダーナの存在を示す光だったのかも知れないわね。
ミリーナイクスと同じで、この時の私の記憶も改ざんされているの。だから今から話すのはゲフィオンの――最初のミリーナの記憶よ。
ミリーナあ、イクス !
イクスミリーナ、フィル、どこに行くんだ ?
ミリーナ水鏡の森までピクニックに行くの。イクスも一緒に行かない ?
フィリップ
イクスいや、俺は港に行かないと……。
イクスそういえば、このところ水鏡の森には物騒な魔物が出てるみたいだぞ。
ミリーナフィルも一緒だから大丈夫。イクスもお仕事が終わったら合流して ! ね ?
イクスだったら俺の仕事が終わるまで待っててくれないか。二人だけじゃ心配だから一緒に行くよ。
ミリーナ……そう ?
フィリップ大丈夫だよ。イクスは心配性だね。僕もミリーナも鏡士なんだよ ?先に行って準備してるよ。
ミリーナ……そうよね。うん、大丈夫 !私お姉さんなんだしちゃんとフィルのこと守れるわ。
イクスわかった。でも危ないところには行くなよ。二人とも案外抜けてるんだから。
ミリーナ失礼ね、大丈夫だってば。さ、行きましょう、フィル !
ミリーナこの時のことを、ミリーナはずっと後悔していたわ。イクスの忠告を気にとめなかったことやイクスを巻き込んでしまったことを。
ミリーナイクスは私たちを心配して、漁に出ないで追いかけてきてくれた。そして私たちを助ける為に、秘伝魔鏡術を使った。
ミリーナイクスの力が暴走して……止まらない !私が、私がイクスの言うことを聞いてもっと気を付けていれば…… !
ミリーナ私が……イクスのことをちゃんと待ってれば……。
フィリップ大丈夫、ミリーナ。僕の守護魔鏡を使えば止められる !
ミリーナえっ ! ?
フィリップ僕の鏡士としての力を弱める封印なんだ。これを使えばきっと――
ミリーナ駄目よ、フィルは体が弱いからわざと力を弱めているんでしょう ?
フィリップでもこのままじゃイクスが死んじゃうよ !
ミリーナ――わかった。でも、私にやらせて。バックファイアを受けるのは私だけでいいから !
フィリップミリーナ ! ?
ミリーナあの時のバックファイアで、ミリーナは心の一部を破壊された。ミリーナは鏡士の訓練を中止して心の治療に専念したの。
ミリーナそしてイクスも酷い怪我を負った。フィルも……。
イクス……ああ。フィルはセールンド島に戻ってそのまま音信不通になった。最初の俺は、何度も手紙を送ってたみたいだけど。
ミリーナええ。イクスは自分も大怪我をしたのにフィルに連絡を取ろうとしながら心に穴のあいたミリーナを何度も見舞ってくれた。
ミリーナそうして、単なる幼なじみだったミリーナとイクスは付き合うようになっていったの。
ミリーナミリーナは過去の罪悪感からフィルを避けていてフィルも私たちを避けて……。イクスだけが、何とか幼なじみの糸が切れてしまわないように動いていた。
ミリーナやがて心を修復したミリーナは鏡士の訓練を再開してやっと鏡精を作れるようになったわ。イクスも傷が癒えて、長期の漁に出るようになった。
イクス……これで全部、か。手伝ってくれてありがとな、ミリーナ。
イクス1人で遠くの海への漁に出るのは初めてだからどうも、勝手がわからなくて。
ミリーナううん。全然 !──帰ってくるのは4日後だっけ。
イクスああ。その予定だ。長く待たせることになっちゃうな。一人で大丈夫か ?
ミリーナふふっ。イクスったら相変わらず心配性なんだから。大丈夫。カーリャがいてくれるもの。
イクスあれ、そういえばカーリャはどこだ ?いつもなら俺たちの傍をグルグル飛んでるのに。
ミリーナ……気を……利かせてくれてるみたい。
イクスハハ、そうか。相変わらず可愛いところがあるな、カーリャは。
イクス――ミリーナ。漁に出る前に伝えておきたいことがあるんだ。
ミリーナえ…… ?
イクス俺……やっぱり鏡士を目指す。
ミリーナイクス !それはお祖父様に止められているんでしょう ?
イクスわかってる。それでも祖父ちゃんを説得して俺は鏡士になるよ。そうしたら、ミリーナの心の傷を治療できるかも知れない。
イクス俺の血統は【創造】だし……それに、どうも祖父ちゃんは何かを隠してるみたいなんだ。
ミリーナそうなの ?
イクス……まあ、そのことはあとでいいか。
イクスとにかく、俺は鏡士になると決めた。だから俺が鏡士になったら……結婚して欲しい。ミリーナを守りたいんだ。この先もずっと。
ミリーナイクス…… !
イクスいいだろ ?
ミリーナ……ずるいわ、イクス。そんな風に聞かれたら断れない。
イクス自分のことじゃないとはいえ顔から火が出そうだよ……。
ミリーナそ、そうね……。こんなに詳細に話す必要なかったかしら……。
カーリャ最初のイクスさまはイケメン力が高いですね……。
カーリャ・Nふふ……。こちらのイクス様も素敵ですよ。

Character4話【9-4 アジト2】
ミリーナ漁から帰ったイクスは、お祖父様を説得しようとした。でも、最初は中々認めてもらえなくて……鏡士になる許可をもらうのに三年ぐらいかかったの。
カーリャ・Nでも最後には根負けしてイクス様のご両親の遺言を見せて下さったそうです。
イクス両親の遺言か……。俺の魔鏡に遺言が残されてるらしいんだけど、どこに記録されてるのか全然わからないんだよな。
イクス前にるつぼで会った最初のイクスさんから話を聞いてすぐ調べてみたんだけど……。ゲフィオンは遺言のこと、何か聞いてるのかな ?
ミリーナイクスと婚約した当時は、世界を守るための方法を知らせてくれていた、とだけ聞いていたみたい。
ミリーナ当時はビフレストと戦争になるって噂があってミリーナはそれに関係することかと思っていた。でも、そうじゃなかった。
ミリーナ混乱させないために、順番に進めるわね。
カーリャ・Nそうですね。とにかくイクス様は無事に鏡士となりお二人は結婚の準備に入られました。その頃です。ビフレストがセールンドを襲撃したのは。
イクス……くそ。雨か。
ビフレスト皇国軍A――見つけたぞ ! 鏡士だ !
ミリーナ! ?
イクスミリーナ、走れ !港まで行けばセールンドへ逃げられる !
ミリーナイクス、だけど――
イクスミリーナに手を出すな !
ビフレスト皇国軍Aどけ !
ミリーナイクス ! ?
ビフレスト皇国軍A邪魔だー ! !
イクスミリーナは俺が守る ! !
イクスぐぅ……やらせ……ない……っ !スタック・オーバーレイ ! ! !
ビフレスト皇国軍Aこれは――秘伝魔鏡術か ! ?離魂術を急げ ! こいつかもしれん !
ミリーナそんな……うそ……。
ミリーナイクス……うそ、だよね……。
ミリーナイクス……目をあけてよ……。お願い……お願いだからっ ! !
ミリーナやだよ……。
ミリーナいや……。
ミリーナいやーーーー ! ! ! !
ビフレスト皇国軍B離魂術成功しました !
ビフレスト皇国軍A次はあの女だ !
ビフレスト皇国軍B銀髪ではありません。ウォーデン殿下のご命令は、銀髪を取りこぼすな、と。
ビフレスト皇国軍Aだが、鏡士だ。ローゲ様はセールンドの鏡士は全て始末せよと仰せになった。
カーリャ――ミリーナさま ! 逃げましょう !イクスさまの命を無駄にしたら駄目です !
ミリーナこの時、カーリャがミリーナを必死に促してくれて彼女は半死半生で港まで逃げたの。何とか命を繋ぐことができたけれど、体中に消えない傷が残ったわ。
ミリーナ島の大人も大部分が殺されて、ミリーナは数少ないオーデンセの生き残りとして王都に辿り着いた。
イクスビフレスト皇国は、バロールの血を引く銀髪の鏡士だけを皆殺しにするつもりだった。殺して、離魂術とかいう方法で、遺体を保存した。
イクス少なくともナーザ将軍はそう言っていた。けど実際の現場では鏡士たちはほとんどが殺されたんだよな。
カーリャ・Nはい。恐らくはローゲの判断でしょう。セールンドの鏡士を生かしておくことは後の遺恨になると考えたのかも知れません。
ミリーナそれから離魂術だけど、あれはアニマだけを消滅させてアニムスを残す技術なの。だから最初のイクスの遺体を残すために使われたのね。
ミリーナミリーナはその離魂術をカレイドスコープの開発に転用したのよ。カレイドスコープで亡くなった人と最初のイクスの亡くなり方が似ていたのはそのせいだった。
ミリーナ話を元に戻しましょうか。
ミリーナセールンド島でフィルが出迎えてくれて、ミリーナはオーデンセの生き残りとして王室に保護された。そこで王立魔鏡科学研究所に入ることになったの。
フィリップミリーナ、魔鏡科学研究所に入るって本当 ?
ミリーナどうしてそれを知ってるの ?
カーリャカ、カーリャじゃありませんよ !カーリャはマークに何も話してません !
ミリーナまあ、カーリャが話したのね。すっかりマークと仲良くなって。何でも筒抜けなんだから。
フィリップアハハ、カーリャはいつもマークに先輩風を吹かせてるよね。少しだけカーリャの方が生まれたのが早かったから。
カーリャマークは一緒じゃないんですか ?
フィリップマークがいることがバレたら切り離すように言われちゃうから心の中に入ってもらってるんだ。
カーリャ……そうですか。私は免除されてますからね。エネルギー変換されること。
フィリップよかったよ。ミリーナは前に心が崩壊しかけていたから宮廷鏡士の人たちも鏡精を切り離すのは危険だと判断してくれたんだね。
ミリーナ知らなかったわ……。鏡精がエネルギーに変換されているなんて。
フィリップ……そのことは、キラル分子研究に関わる鏡士たちしか知らないんだ。
デミトリアスフィリップ、珍しいな。王宮に来るなんて。
フィリップ殿下 !
デミトリアスこの間の論文を読んだ。流石、フィリップだ。魔鏡技術科の連中も色めき立っていたよ。
デミトリアス――きみは、ミリーナだったな。オーデンセのことは残念だった。
ミリーナ痛み入ります、デミトリアス殿下。
デミトリアスそうかしこまらないでくれ。ビフレスト皇国の暴挙は許しがたい。父も対抗手段に出ると言っている。
ミリーナはい。微力ながら、私も鏡士としてお役に立ちたいと思っています。
フィリップそのことだけど、僕も王立大学を中退して研究所に移ろうと思うんだ。
三人! ?
フィリップミリーナは魔鏡兵器の開発をするんでしょう。僕だってビフレストのことは許せない。研究所からも内諾は貰ってる。
デミトリアスそうか……。国を預かる立場としては歓迎すべきことだが、学友としては寂しいな。フリーセルやグラスティンも悲しむだろう。
フィリップ大学にも顔は出します。研究に関しては共同で行うことも多いでしょうし僕が研究所に籍を置いて、橋渡しができれば……。
デミトリアスうん、それはいい考えだ。
デミトリアスそれとフィリップ、軍部から気になる報告が上がっている。きみが許可を得ずに鏡精を作ったのではないか、と。
フィリップおかしいですね。何かの間違いじゃないですか。僕は今のエネルギーシステムには反対の立場です。鏡精を作ろうなんて思いません。
デミトリアスああ、私もそう信じている。だが、あえて言うよ。くれぐれも気を付けて欲しい。私の庇護の手も限界がある。父上に知られたら最後だ。
フィリップはい。ご忠告ありがとうございます。
ミリーナフィルはミリーナがビフレストへの復讐のために魔鏡兵器研究を行うと知っていた。それで一緒に研究所に入ってくれたの。
ミリーナ王立学問所から王立大学、そして魔鏡省の宮廷鏡士になるというエリートコースを捨てて軍部の一組織に過ぎない研究所の研究者に……。
イクスフィル……。

Character5話【9-5 アジト3】
ミリーナフィルの協力を得たミリーナは学問所でみるみる成果を上げていったわ。
ミリーナイクスの仇を討つために、寝る間を惜しんで研究と実験を繰り返した。
フィリップミリーナ、まだ研究所にいたのか。もう夜も遅いよ。帰った方がいい。
ミリーナカーリャが知らせに行ったのね。私がまだここにいるって。
フィリップ……お見通しだね。そうだよ。カーリャが心配してマークと僕に相談してきたんだ。ミリーナがもう三日も寝てないって。
ミリーナまだイクスの仇を討てていないのよ。もっと頑張らないと。それに、ビフレストとの戦局も厳しい状態だわ。
フィリップああ。ビフレスト皇国の魔鏡兵士には驚かされたよ。
フィリップ戦闘人形の中に一時的にアニマを憑依させて前線へ送り込む。あんなものと戦っていてはこちらが疲弊するばかりだ。
ミリーナセールンドの戦力が足りずに、大勢のセールンドの人が亡くなったわ。沢山の街が制圧されて、そこに住む何の罪もない人々が殺されていった。
ミリーナオーデンセ島と同じように、老若男女を問わず非力な子供達まで……。あいつらはやりたい放題で略奪を行っている。あの戦闘人形を使って。
フィリップアニマに直接働きかける武器がなければ僕らは負けてしまう。
フィリップデミトリアス殿下もアニマの研究のせいでアニマ汚染されて動けなくなってしまわれた。
ミリーナ……ビフレスト皇国に対抗するために色々なアニマ研究が行われたけれどやはり一番有力なのは、私たちのカレイドスコープよ。
ミリーナイクスのご両親が研究していたあの魔鏡兵器を発展させれば、ビフレストは戦闘人形を操ることもできなくなる。だから完成を急がないと。
フィリップミリーナは頑張りすぎだよ。カーリャも成体になってきみの体はアニマに汚染され始めた。何もかも早すぎる。
ミリーナそれはフィルも同じよね。
ミリーナ……まあ、私にはフィルほどの力はないからこれ以上アニマ汚染が進行すると使い物にならなくなってしまうけれど。
フィリップそれがわかっているならもう少し自分の体を労ってくれ。
ミリーナ……大丈夫。イクスの仇を討つまでは生きるわ。
フィリップその後も、だ。ビフレストを倒したら次は鏡精を救う為のエネルギー装置を開発するんだよ。カーリャだってそれを望んでいただろう ?
フィリップ鏡精を殺してエネルギーにするシステムは止めるんだ。鏡精を切り離した鏡士は、少しずつ心を失っていく。
フィリップそれがどれほど苦しいことかはミリーナもよく知ってるはずだ。イクスの力のバックファイアで、ミリーナの心は壊れかけたんだ。
ミリーナカーリャのためにも、エネルギー問題は解決しないといけないわね。
フィリップデータが出てくるのを待っているんだろう ?続きは僕が確認しておく。ミリーナは休んでくれ。
ミリーナ……わかったわ。ありがとう、フィル。あなたがいてくれてよかった。フィルがいなかったら私は暴走してばかりだったでしょうね……。
フィリップ……いいんだよ。お休み、ミリーナ。
イクスデミトリアス陛下も兵器開発の研究に関わっていたんだな。
ミリーナあの方は研究の前線で指揮を執っていたの。鏡士ではないけれど、よく勉強なさっていたわ。
ミリーナそのせいで、別のチームが行っていたアニマのキメラ結合に関する研究の事故に巻き込まれてしまったの。それでアニマ汚染に……。
カーリャアニマ汚染って体がしおしおになっちゃうんですよね。
カーリャ・N正確に言うと、汚染された細胞が老化し同時に周囲の正常な細胞を攻撃するんです。その為に精神すらも病んでいきます。
カーリャ・N鏡士なら魔鏡の力でそれを食い止められますがそうでない人間は、著しく弱ってしまいます。
イクス俺が初めて会ったデミトリアス陛下はものすごく老け込んで見えたもんな……。
ミリーナあの頃は、大勢の鏡士たちがアニマ汚染と戦いエネルギー供給のために心を削り鏡精を生み出して……地獄だった。
ミリーナそして、ようやくカレイドスコープが完成したの。その時の話は――ナーザ将軍からも聞いたわよね。
イクスああ。
カーリャミリーナ様。カレイドスコープの試射、成功しました。セールンド軍の被害は軽微です。
ミリーナええ。私も確認したわ。人形兵士たちは崩れてあれを操っていた鏡士も倒れた。敵の撤退も早かったわね。
カーリャ敵に、あのバルドの姿もありました。あの男なら逃げ足も速いかと。
ミリーナカーリャ……。あなた、すっかり軍人みたいね。
カーリャみたい、ではなく、軍人です。ミリーナ様を守るために王宮騎士の地位を頂きました。カーリャはミリーナ様にどこまでもお供します。
ミリーナ……何度止めても言うことを聞いてくれなかったものね。
ミリーナ心の中に戻しても、ずっと文句を言っていたから根負けしちゃったわ。
カーリャもしオーデンセが襲撃されたときカーリャに今の力があればイクス様を助けられたかも知れない。
カーリャ……そう思うと、自分だけ何もしないのが嫌なんです。
ミリーナカーリャは、何度か戦場でバルドと戦っているのよね。彼はどう出てくると思う ?
カーリャ……ウォーデンが考えを変えない限り完全に撤退することはないと思います。
カーリャただ、戦闘人形が無力になったとわかった今戦力が足りないのはわかっている筈です。
カーリャビフレスト本国に援軍を求める間は大人しくしているのでは。
ミリーナそう……。だったら、今が攻め時ね。
カーリャバルドを追撃しますか ?
ミリーナいいえ。西に展開しているローゲの軍を潰すことを提案するつもりよ。
カーリャ……いよいよ、敵討ちの始まりですね。
ミリーナええ。

Character6話【9-5 アジト3】
ミリーナカレイドスコープは、恐ろしいほどの威力だった。劣勢だったセールンド王国は息を吹き返したわ。
ミリーナけれど、やがて王都を中心に、カレイドスコープの開発者は魔女だという噂が流布するようになった。
ミリーナあとでわかったことだけれど、それはビフレスト皇国の攪乱作戦の一環で、主導していたのは国内に入り込んでいたビフレストの工作員だった。
カーリャ・Nフリーセルの一派ですね。
イクスフリーセルって、確か救世軍の創始者だった人だよな。
カーリャ・Nはい。あの男は、正体を隠して魔鏡技師としてセールンドに入り込んだビフレストの工作員でした。
カーリャ・N何度か告発もあったのですが、情報の出所が怪しいのとデミトリアス殿下のご学友だったために監視を強化するに留められたのです。
ミリーナセールンド軍内部でもミリーナに対する評価は二分されていた。ガロウズと出会ったのもその頃よ。
セールンド軍兵士――大変です ! カレイドスコープの目標地点に我が軍の兵士が一名走って行きます !
セールンド軍部隊長何 ! ? どこの部隊の兵士だ ! ?
セールンド軍兵士第三補給部隊の少年兵と思われます !
セールンド軍部隊長くっ、すでにカレイドスコープへのエネルギー充填は始まっている。計画を止めることはできないぞ。
セールンド軍部隊長敵の総大将はウォーデン・ロート・ニーベルングだ。この機を逃すわけには――
ミリーナ待って下さい。キラル分子の流入量を絞れば起動まで多少の時間は稼げます。
セールンド軍部隊長ミリーナさん。あなたは素人だ。新しいビクエ様からの推挙で、司令官と同等の権限を持っていようとも、この場の指揮権は私にある。
ミリーナ承知しています。ですが、ここで味方を見殺しにすれば前線の兵士たちの士気に関わります。
ミリーナ私に行かせて下さい。カレイドスコープへのエネルギー充填が完了したら、私が戻るのを待たずに即座に撃って構いません。
カーリャミリーナ様 ! ?
ミリーナカーリャ、充填完了のタイミングを知らせて。それで何とかできる。
セールンド軍部隊長……魔女め。雑兵たちのご機嫌取りか。
セールンド軍部隊長まあ、いいでしょう。ご自由にどうぞ。
ミリーナ(少年兵が向かったというのはこの辺り……)
カーリャミリーナ様 ! カレイドスコープのエネルギー充填が完了しました !60秒後に発射です !
ミリーナカーリャ ! 少年兵はどこ ! ?
カーリャ10時の方向ですが、これ以上進むとカレイドスコープの効果範囲に入ってしまいます !
ミリーナ――まだ間に合う !
カーリャあと30秒 ! 無理です ! 戻って下さい !
少年兵うわああああっ ! ?
ミリーナ今の声は――
バルドガロウズ ! 逃げなさい !
シドニー逃げてっ ! ! ガロウズ ! !
カーリャ発射されました ! ミリーナ様っ ! !
ミリーナ(見つけた ! あの子だわ ! )
ミリーナ手を伸ばして ! 早く !
少年兵! !
ミリーナ――……そう。ビフレスト軍に恋人がいたのね。
少年兵軍規違反……ですよね。構いません。処分して下さい。俺は……あいつを……シドニーを助けられなかった……。
ミリーナ……あなた、名前は ?
少年兵ガロウズ……。
ミリーナガロウズ、帰りましょう。腕の治療が必要よ。それに、ここでの戦いは終わったわ。カレイドスコープが全てを消し去ってしまった。
ガロウズカレイドスコープ……あんなもの !いきなり攻め込んできたビフレストもあんなものを造ったセールンドも、みんな狂ってる ! !
ミリーナ……そうね。あなたの言う通りよ。
ガロウズ……すみません。あなたは……ええっと――
ミリーナ私はミリーナ・ヴァイスよ。
ガロウズカ、カレイドスコープを造った魔女…… ! ?
イクスバルドさんとシドニーが戦死した戦いか……。
ミリーナええ。そして、この時だったわ。ビフレスト軍のいた地点で、妙な空間のひずみを観測したのは。それが死の砂嵐の予兆だったの。
カーリャ・Nミリーナ様とフィリップ様はカレイドスコープ使用の即時停止を訴えました。
カーリャ・Nですが、デミトリアス殿下はアニマ汚染で臥せっており国王陛下はお二人の言葉を聞き入れてはくれませんでした。
カーリャ・N戦場に引きずり出したビフレストの皇太子ウォーデンを消滅させるために、カレイドスコープは乱発されひずみは世界中で観測されるようになりました。
ミリーナウォーデンの死後、しばらくしてビフレストが降伏したわ。皇妃とまだ小さな皇女――メルクリアが、人質としてセールンドへやってきた。
ミリーナ死の砂嵐が発生したのは、その直後よ。
ミリーナ……お疲れ様、フィル。ビフレストの皇族の様子はどう ?
フィリップうん……。皇女の方は元気だけれど、皇妃がね……。食事もろくに手を付けないらしい。
ミリーナここは敵国ですものね。
フィリップミリーナ……王都を出るって本当 ?
ミリーナまたカーリャとマークね。二人ともお喋りなんだから。
フィリップオーデンセ島に戻るの ?
ミリーナええ……。イクスの仇は討ったわ。もう十分すぎるほどに。魔女はそろそろ表舞台から消えないと。
カーリャミリーナ様 ! フィリップ様 ! 大変です !セールンドの上空に、ギラギラと虹色に光るオーロラのようなものが発生しています !
フィリップ……待ってくれ。まさかそれはキラル分子の異常収縮現象か ! ?
ミリーナ――ひずみは ! ?
カーリャマークが今情報を集めています ! ただ――
マークフィル ! ヤバいぞ ! セールンドの真裏にあった次元亀裂κが急速に広がってる ! こいつはお前が予測していたアニムス崩壊じゃないのか ! ?
ミリーナフィル ! アイギスを展開しましょう !
フィリップ迷ってる暇はなさそうだ。やろう !
イクスその時、もうアイギスがあったのか !
ミリーナええ。ひずみを研究して、それが次元の亀裂だと仮説を立てたミリーナとフィルはいざというときの為の防御装置を準備していたの。
ミリーナでもアイギスの展開より、死の砂嵐のスピードの方が遥かに速かった。守れたのはセールンド諸島の周辺だけだった。
ミリーナその時外遊に出ていた国王陛下も亡くなってしまってセールンド王国は混乱したわ。
ミリーナそしてミリーナはゲフィオンになってフィルと一緒に過去から世界を具現化することに決めたの。

Character7話【9-6 アジト4】
ミリーナこれがゲフィオンの歩んできた道よ。私たちとゲフィオンたちの違いでもあるわね。
イクスああ。やっぱりオーデンセでのピクニックから枝分かれしている感じだよな。
イクスミリーナが受け継いだ記憶の中で他に重要そうなことはあるか ?
ミリーナそうね。やっぱり、バロールに関する記憶かしら。
イクスやっぱり、ゲフィオンはバロールのことを知っていたのか ! ?
ミリーナええ。彼女がバロールに関わる情報を入手したのは過去から世界を具現化する時のことよ。
ミリーナ過去のオーデンセ島をサーチしようとした時に一瞬、紋章が魔鏡に浮かび上がったの。
ミリーナゲフィオンはその紋章に心当たりがあった。イクスから貰った婚約指輪に刻まれていたから。
ミリーナその指輪をはめて魔鏡に触れたときイクスの両親からのメッセージが再生されたの。
イクス母さんたちの遺言か !
ミリーナええ。それでバロールのことを知ったんだけど……。多分あの指輪がないとメッセージは再生されないわよね。
ミリーナ指輪はゲフィオンが持っているから……。
イクス指輪……。指輪って……あれ、か ?
カーリャへ ? イクスさま、何か心当たりがあるんですか ?
イクス俺、ゲフィオンと一緒に魔鏡結晶の中にいただろ。あの時、ゲフィオンが指にはめていた指輪のことかなって……。
イクス待ってくれ。今、具現化してみる。
イクス(思い出せ……。あの時のあの指輪……)
ゲフィオンその目はイクスと繋がっている。自分のアニマとイクスのアニマを重ねて合わせて、死を放て。それこそが鏡精に与えられた禁断の魔眼だ。
イクス(……そういえば、あの時のゲフィオンの言葉。あれは……何だ ?)
イクス(あの時は酷い痛みで、きちんと考えられなかったけどあの時だけ、やけにゲフィオンの言葉がはっきり聞こえた気がする)
イクス(それに、記憶を切り離したゲフィオンが何故あんなことを言えたんだろう)
イクス(もしかしてあれは……ゲフィオンじゃなかったのか ?だとしたら、あの言葉は――)
カーリャ・Nイクス様 ! ?
イクス! !
女性の声イクス。20歳の誕生日、おめでとう。あなたがこのメッセージを見ているということは私たちはあなたの傍にいられない状態なのでしょうね。
男性の声でも、お父さんが――お前にとってのお祖父さんがきっとお前を立派に育ててくれたと信じているよ。
イクスえ ! ? 魔鏡から声が……。
女性の声あなたは知っているかしら。自分がバロールの血を引きバロールの魔眼を受け継ぐ子供だということを。
男性の声オーデンセという島は、この世界の原初からある島だ。伝承によれば、この地にバロールの血族がいるのは罪人を留め置くためだという。
男性の声今ではバロールの力が罪であるかのように言われているが、決してそうではない。そのことを私たちは、セールンドに来て知り得た。
男性の声だからイクス、お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。
イクス(これがイクスさんが言っていた母さんたちの遺言…… ?)
女性の声この世界は大きく揺らぎ始めているわ。セールンドで作り出されたキラル分子供給のしくみが罪人の揺り籠であるこの世界を滅ぼそうとしているの。
女性の声世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。
男性の声成人したお前に伝える言葉が、こんなものになってしまったことが残念だ。なんの憂いもなくただお前を祝ってやりたかった。
男性の声鏡精を生み出せる力を得たら、墓守の街へ行きなさい。私たちの言葉の意味がわかるだろう。
女性の声私たちはいつも祈っているわ。あなたが健やかであることを。イクス、どうか、いつまでも元気で……。
イクス……今のは……。
ミリーナゲフィオンが聞いたメッセージと同じよ !でもどうして ?
イクスわからない……。ゲフィオンのしていた指輪を具現化しようと思って……。それで記憶を探っていたときに、突然……。
イクス(あれはゲフィオンじゃなくて……俺の中のバロールだったのか ?それがゲフィオンからの言葉のように感じた ?)
ミリーナゲフィオンも今のメッセージを聞いたの。そしてオーデンセ島が襲われた時のことを思い出してビフレストの狙いがイクスだったことに気付いた。
ミリーナそこから彼女のバロールに関する調査が始まったわ。
カーリャ・N墓守の街と呼ばれる場所にも調査に向かわれました。すでに廃村になっていて、バロールのこともルグの槍に関する手かがりも見つからなかったそうです。
イクスルグの槍……。バロールの残滓から受け渡された記憶でも聞いた言葉だ。
イクス今まで色んな人たちから聞いた話を総合するとルグの槍はニーベルングとティル・ナ・ノーグを繋ぐ何かのことじゃないか ?
ミリーナバロールは、リビングドールにされたイレーヌさんの体に、ルグの槍が刻まれているとも言っていたわよね。
イクスゲフィオンは、何か他にバロールに関することを知らなかったのか ?
ミリーナバロールのことを知ったのが、死の砂嵐の後だったから辿れそうな資料はほとんど残っていなかったの。唯一セールンドの王宮で古い写本を見つけたぐらいね。
ミリーナティル・ナ・ノーグの創世神話の古い形の書記よ。ゲフィオンは解読を試みていたのだけれど中断することになってしまって……。
イクスどうしてだ ?
カーリャ・N解読は、世界の具現化と並行して行われていました。けれど、アイギスが破壊され、せっかく過去から具現化した世界も消失してしまった。
カーリャ・N異世界からの具現化に舵を切るためバロールの情報を辿ることを中断せざるを得なかったんです。
イクス二人目の俺が……死んだときか。写本はまだ残ってるのかな ?
ミリーナええ、多分。だけどデミトリアス陛下が持っているんじゃないかしら。
イクスくそっ。王宮にあった本なら、そうなるか……。
イクスいや、でも、まだ王宮を探したわけじゃないよな。
ミリーナええ。この記憶のパーツを組み合わせることができたのがついこの間だから。
イクスだとしたら、その写本を探してみないか ?
ミリーナええ、そうね。けど、その前に――
イクス
ミリーナ私、イクスや自分が生み出されたときの記憶も受け継いだわ。確かに記憶を改ざんしようと提案したのはフィルだった。
ミリーナでも……結局はゲフィオンも過去の後悔から逃れようとして『イクスを優先しなかった』記憶を改ざんした。
ミリーナ私に、何においてもイクスを優先するように植え付けたわ。
イクス……うん。
ミリーナ私は……滅びの夢を見るようになってから少しずつゲフィオンの――最初のミリーナの記憶に侵蝕されて、境界が曖昧になっていった。
ミリーナ私は常に最初のミリーナで、ゲフィオンでそして二人目のミリーナでもあった。
イクスうん、ミリーナも苦しいよな……。
ミリーナ……苦しい、とはちょっと違うかも知れないわ。どちらかというと、申し訳ないの。
ミリーナゲフィオンの気持ちを切り離せなくて私はイクスに色々な感情を重ねてきた。
イクスミリーナ……。それは、どういう意味だ ?
ミリーナ私は今のイクスが好きよ。前にも言った通り。けど、私が受け継いだ記憶と感情はイクスに違うイクスを重ねようとする。
ミリーナそして歪められた記憶はイクスを不必要なまでに守ろうとしてしまう。だから、イクス、お願い。本当の気持ちを言って。
イクス! !
ミリーナそれで、私の中のゲフィオンを葬り去るわ。
イクス……気付いてたのか、ミリーナ。
ミリーナわかるわよ。だって、私、イクスのことが本当に好きなんだもの。だから……わかっちゃうの。
イクス……ごめん、ミリーナ。俺は、ミリーナが好きだよ。大切だし、守りたいって思ってる。でもそれは姉弟とか親友みたいな……そんな気持ちなんだ。
イクス前にミリーナがオーデンセで、今の俺のことを好きだって言ってくれたとき、俺は救われた。だけど……俺は、多分、ミリーナを愛してない。
ミリーナ……ええ、そうね。多分最初からそうだったのよね。
ミリーナでも、私はそれでいいと思っていた。私がイクスを好きなのは当然のことで見返りもいらないし、イクスが幸せであればいいって。
ミリーナでもそれこそが、ゲフィオンの感情だったの。ありがとう、イクス。これで私は、ちゃんと私になっていけると思う。
イクスミリーナ……ごめん。俺……。
ミリーナ私こそ、ごめんなさい。言いにくいことを言わせて。
カーリャ・Nミリーナ様……。
カーリャ………………。
ミリーナ――さ、これで記憶の確認はおしまい。今の私は、ゲフィオンの知識をフル活用できる存在よ。きっと帝国に対抗する力になれるわ。
イクス……あ、ああ、わかった。

Character8話【9-6 アジト4】
ルーティねえ、リリス。こっちのスープ、ちょっと味見してくれない ?
リリスはい、わかりました。それじゃあ、いただきますね。
リリス――うん ! バッチリ !さすがルーティさんですね。
ルーティよし、これでお腹空かせて帰って来る連中にたっぷり食べさせてやれるわね。
リリスそういえば、ルーティさん。どうしてルーティさんはお兄ちゃんたちと一緒に行かなかったんですか ?
ルーティん ? まぁ、ディムロスたちの部隊の訓練に付き合うってのも柄じゃないしね。何か報酬が出るなら別だったんだけど。
ソーディアン・アトワイトもう、ルーティったら。スタンさんもカイルさんも残念そうにしてたわよ。
ルーティえっ ? そうだっけ ? 全然気づかなかったわ。
リリスそれなら、お兄ちゃんたちが好きな料理を一品増やしておきましょうか。
リリス二人とも、ルーティさんが作ってくれたって言ったらきっと喜びますよ。
ルーティそうね……あいつらも色々と頑張ってるみたいだしそれくらいはしてあげようかしら。
ルーティあれ ? 魔鏡通信ね。噂をすればあいつらのほうから連絡が来たかも。
ロゼルーティ、あたし。今、話しても大丈夫 ?
ルーティロゼ ? 別にこっちは平気だけど、どうしたの ?
ロゼそれが、セキレイの羽のネットワークであたしのところにSOSが来てさ。ルーティたちにも少し関係ある話なんだよね。
ルーティあたしに ?
ロゼうん。ルーティに頼まれてセキレイの羽でも支援してた施設があったでしょ ? そこから連絡があって子供が何人かいなくなったらしいの。
ルーティえっ、チビたちが ! ? どうして ! ?まさか……誰かに誘拐されたとか ! ?
ロゼううん。子供たちは手紙を残してったみたいでね。「すぐに帰って来るから心配しないで」って書いてあったから、自分たちで出て行ったんだと思う。
ロゼそれでさ、いなくなった子供の中にルーティやイクスたちの知ってる子もいたから一応、先に連絡しておくことにしたんだよ。
ルーティあたしたちが知ってる子って、まさかエリック ! ?
リリスエリック ?
ルーティああ、そっか……。リリスたちには詳しく話してなかったわね。
ソーディアン・アトワイトまだ私たちが具現化されたばかりの頃に見つけた迷子の男の子のことよ。その子、特にイクスさんによく懐いていたわね。
ロゼどうする ? ぶっちゃけ、子供だし行動範囲も限られるだろうから、あたしたちセキレイの羽だけでなんとか見つけられると思うけど……。
ルーティ……ううん。あたしも捜しに行く。それにあのチビ……ちょっと無茶するところがあるから心配なのよね……。
ロゼ了解。あっ、それともう一つ。今、あたしたちは周辺の街を捜してるんだけど気になることがあってさ。
ルーティ気になること ?
ロゼそのいなくなった子供たちに、ウチのメンバーがテルカ・リュミレース領のことを話したんだって。今思えば、その時ちょっと様子がおかしかったみたい。
リリスじゃあ、その子供たちはテルカ・リュミレース領へ向かったかもしれないってことですか ?
ソーディアン・アトワイトだけど、ファンダリア領から随分と距離があるわよ。行くとすれば、船を使うことになるわ。
ルーティってことは、貨物船か何かに勝手に乗り込んだかもしれないわね。
ソーディアン・アトワイトでも、子供たちだけでそんなことできるかしら ?
リリス多分、できると思いますよ。お兄ちゃんだって、飛行竜に勝手に乗り込んでましたし。
ルーティそうね。あのスタンにできて、チビたちにできないってことはないはずよ。
ソーディアン・アトワイトスタンさんって、あなたたちの中ではまだ子供扱いなのね……。
ロゼオッケー。一応、港の貨物船の便もこっちで調べとくけど、ルーティもあたしたちと合流する ?
ルーティううん。あたしはアジトからテルカ・リュミレース領に向かうわ。そっちのほうが手分けして捜せるでしょ ?
ルーティそれに、多分ファンダリア領にはまだスタンたちがいると思うから、ロゼたちと合流できないか連絡してみるわ。
ロゼわかった。それじゃあ、一旦切るよ。新しい情報が入ったら、すぐ連絡入れるから。
リリスあの、ルーティさん。私も一緒に行きましょうか ?
ルーティありがとう。けど、そしたらお腹空かせて帰ってきた奴らががっかりするだろうしリリスはそのままご飯の準備を頼めるかしら。
ルーティそれに、迷子探しなんて昔はよくやってたしあたしの手ですぐチビたちを見つけてくるから。
ソーディアン・アトワイトルーティ、念のため、イクスさんたちには連絡しておいたほうがいいんじゃないかしら ?
ルーティそうね。きっとイクスも心配するわよね。あのチビのことだし……。
イクスルーティ ? 俺がどうかしたのか ?
ルーティイクス ! 丁度良かったわ !ちょっと話したいことがあるの。
イクス……わかった。ルーティ、俺も一緒にエリックを捜しに行くよ。
ミリーナイクス、私も行くわ。あの子がいなくなったのなら私だって無関係じゃないもの。
イクスミリーナ。だけど……。
ミリーナ……大丈夫よ。それに、今は不思議と落ち着いているの。だから、心配しないで。
カーリャ・Nでは、私も小さいミリーナ様たちに同行します。
カーリャ当然、カーリャも一緒に行きます。それに、カーリャがいないとイクスさまも子供の相手は大変ですからね。
イクスカ、カーリャ……。俺だって成長してるんだからな。
ルーティじゃあ、これで決まりってことで。リリス、悪いけど後のことはお願いね。
リリスわかりました。では、みなさん、美味しいご飯を作って待ってますので、無事に帰って来てくださいね。

Character9話【9-7 テルカ・リュミレース領 遺跡1】
エステルみんな、お待たせしました。
カロルエステル、フレン。いや、ボクたちもさっき着いたところなんだけど……。
フレン……何かあったのかい ?
ユーリ口で説明するよりあいつらの様子を見たほうが早いかもな。
帝国兵A増援だと ? ふざけるな。ここの持ち場は我々だけで十分のはずだ。お前たちのような【亜人】と一緒に行動するなど不愉快だ !
帝国兵B我々は【亜人】ではないと言っているだろう !そういう貴様たちこそ【亜人】ではないのか ?
帝国兵Aなんだと ! 俺たちを侮辱してやがるのか !
帝国兵B先に侮辱してきたのは貴様らのほうだろう !命令が聞けないのならば、相応の対処をさせてもらう !
帝国兵Aそっちがその気なら、俺たちも容赦せんぞ !
フレン……彼らは一体、どうしたんだ ?
ジュディスさあ ? 私たちが来たときからずっとあんな感じよ。
レイヴンはぁ……。どこの部隊もいざこざがあるのかねえ。おっさん、ああいうの見ると、ちょっと悲しくなるわ。
ユーリけど、おかげで警備なんてあってないようなもんだ。悪ぃが、そのままあいつらには揉めてもらってたほうが都合がいいぜ。
カロルそうだね。これならボクたちが勝手に遺跡に入ってもバレないだろうし。
ラピードワンッ !
ユーリさて、アレクセイの奴が何企んでんのか知らねえが反省してねえようなら、また熱いお灸を据えてやらねえとな。
レイヴンあ~、随分と奥まで来たけどそれらしいものは何もないんじゃない ?
カロルもしかして、アレクセイたちが先に目的のものを持ち出しちゃったのかな ?
ユーリそれが持ち出せる代物かもわかんねえぜ ?なんたって、あのザウデを復活させたやつの考えることだ。
レイヴンこっちでも、魔導砲なんて物騒なもん奪い取ろうとしてたしね。
フレンとにかく、帝国兵だけじゃなく、アレクセイの部隊とも鉢合わせる可能性がある。警戒は怠らないようにしよう。
ジュディス待って。誰かいるみたいよ。
ラピードグルルルル…… !
ユーリおっと、やっとおでましか ?
? ? ?誰だ、お前たちは ?
ジュディスあら、人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るものじゃないかしら ?
レイヴンそうそう、ジュディスちゃんの言う通りよ。ちなみに、おっさんたちは怪しい者じゃないんでそこんとこ宜しく。
カロルうわぁ……一番レイヴンに似合わない台詞……。
レイヴンちょっと少年、聞こえてるわよ。
? ? ?帝国の者ではないか……。ならば、お前たちに用はない。
エステルあっ……行ってしまいました……。
カロル誰だったんだろう…… ?
ユーリあの口ぶりからするとあいつも帝国の人間、ってわけじゃなさそうだったな。だが……。
フレンユーリ、きみも気付いてたんだね。
ユーリああ……。さっきのやつ、只者じゃねえな。
ジュディス考えたって仕方ないわ。私たちは私たちのすべきことをしましょう。
ユーリ……だな。よし、行くぞ、みんな。この奥の部屋で最後だ。
フレンそんな…… ! これは…… !
カロルな、なっ………… !
レイヴン……少年。それに嬢ちゃんはあまり見ないほうがいい。
エステルわ、わたし ! すぐに治療を…… !
ジュディス駄目よ、エステル。もう手遅れよ。
エステルそんな…… !
ユーリどいつもこいつも、派手にやられてやがる。だが、まだ血が固まってないところをみるとそんなに時間は経ってねえってことか……。
ラピードクゥーン……。
フレンユーリ、どう思う ?
ユーリ状況から考えて、一番怪しいのはさっきの男だが断言はできねえし、目的もわからねえ。
フレンやられた人たちは、帝国兵ではないね。だとしたら、アレクセイの部下である可能性も……。
ユーリさっきのやつを追いかけて問い詰めりゃあ何かわかるかもしれねえな。
カロルユ、ユーリ。あれ…… !
ユーリどうした、カロル ?
カロルあの台座みたいな場所に何かあるよ。
ユーリみたいだな。ちょっと待ってろ。オレが取ってくる。
ユーリよっと。こいつは……心核か ?
エステル心核 ? ですが、どうしてこんなところに ?
ユーリわからねえことだらけだな。この部屋だって、ほかのところと違って随分と仰々しい感じになってるしな。
ジュディスそうね。しいて言えば、何か儀式をするような祭壇って感じかしら ?
エステルこんなとき、リタがいてくれたら助かるんですが……。
ユーリこの心核の正体を調べてもらう為にも一旦ここを離れてアジトに連絡を入れたほうがよさそうだ。
フレン僕も賛成だ。それに、これだけの騒ぎがあればさすがに帝国兵たちも異変に気が付くはずだしね。
エステル…………。
フレンエステリーゼ様、どうされましたか ?やはり、このような光景を見てしまっては具合が……。
エステルいいえ……。わたしは大丈夫です。ですが……この人たちにも、家族や友人がいたかと思うと……。
ユーリ……エステル。オレたちはそういう奴らが犠牲にならねえように帝国と戦ってる。今は落ち込んでる場合じゃねえぞ。
エステル……はい。
フレンエステリーゼ様。あなたのその優しさが必ず多くの人を救うことになります。どうか、その心を大切にしてください。
エステルフレン……。
ジュディスそうね。優しさは時に甘さになるけれどあなたの場合は、それを強さに変えられる力があるわ。
レイヴンそうそう、嬢ちゃんみたいな子がいるおかげで世の中が平和になっていくんじゃない ?
ラピードワンッ !
カロルうん、ユーリもエステルにそう言いたかったんだよね ?
ユーリ……ったく、カロル先生には敵わねえな。
エステルユーリ、みんな……。本当に、ありがとうございます。
ユーリんじゃ、まずはさっきの奴を追いかけるとしようぜ。

Character10話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】
ゴーシュ――よし、港に到着したな。
エリックゴーシュお姉ちゃん、これからどうするの ?
ゴーシュまずはこの港町で情報を集める。エリックとライアンは私たちと一緒に付いてこい。
ライアン……ぼくたち、勝手に船に乗ったことバレたりしないかな ?
ドロワットへ~きへ~き。このままバレずに、逃げろや、逃げろ~。すたこら逃げろ~ !
警備兵……ん ? おい、待て、お前たち。
四人! ?
警備兵今、この船から降りてきたようだがお前たちだけで乗船していたのか ?
ゴーシュ……そうだけど、何 ?
警備兵いや、先ほど船に密航しようとした男がいてな。その男の行方を調査しているところだ。
ゴーシュ生憎だが、私たちは無関係だ。早くその男を見つけることだな。
警備兵そうしたいところだが、念のため、お前たちの乗船券を見せて貰えないか ?
ゴーシュ! ? な、なぜそんなことを確認する必要がある ?
警備兵言っただろう。念のためだ。なんせ、その密航者は警備兵を殺して逃走している。事が事だけに、捜査は入念にしておきたい。
警備員お前たちはまだ子供のようだがその密航者の関係者という可能性もある。さあ、乗船券を見せて貰おうか ?
ゴーシュ……くっ。
ミリーナ時刻表通りなら、ファンダリア領からの船はもう到着しているはずね。
ルーティええ、まずはその船を探しましょう。
イクス………… ?
カーリャ・Nイクス様 ? どうかされましたか ?
イクスいや、少し港の様子がおかしいというか変な緊張感が漂っている気がするんだ。
カーリャう~ん、確かに警備兵みたいな人たちが沢山いますね。
カーリャ・N前にアレクセイ様がテルカ・リュミレース領で大規模なクーデターを起こしましたからその影響なのかもしれません。
ルーティあたしたちも帝国兵に見つかったら厄介だわ。早いとこ停泊場に行きましょう。
イクスああ。でも、停泊場はすぐそこに――
警備兵――どうした ? 早く乗船券を見せろ。
ドロワットえっと、えっと……。
警備兵まさか、お前たち。本当に……。
イクスルーティ ! あそこにいる子供って…… !
ルーティあれは……間違いないわ ! あのチビよ !
カーリャで、でも、なんか空気がピリピリしてませんか ?
ミリーナイクス、行ってみましょう !
イクスああ !
ルーティちょっと、チビ ! あんた、こんなところで何してんのよ ! ?
エリック……えっ ? ルーティお姉ちゃん ! ?それに…… !
イクスエリック……。良かった、無事だったんだな !
警備兵なんだ、お前たちは ?この子供たちのことを知っているのか ?
ルーティ知ってるも何も、あたしらはこの子たちを捜してたのよ。
ミリーナあの、何かあったんですか ?
警備兵いや、保護者がいたのならいいんだがさっきから、なかなか乗船券を見せてくれなくてな。この子たちが密航者ではないかと疑っていたところだ。
イクス乗船券……。
警備兵だが、やはりこの目で確認はしておきたい。さあ、乗船券を見せろ。
ゴーシュそれは…… !
イクスあ、あの ! それ、俺がみんなの分を預かってます !
五人えっ ! ?
警備兵そうか。ならば、確認させてもらおう。
イクスはい、どうぞ。ちなみに、俺たちの分の乗船券もあります。
警備兵……ふむ。確かに、先ほどの便の乗船券の半券だな。しかし、わざわざ貨物船に乗らなくても客船を選べばよかっただろうに。
イクスはは、そうですよね。俺、前に海の仕事をしていて客船とは違う船をみんなに見せたくて……。色々と誤解させたみたいですみません。
警備兵変わった奴らだな……。
警備兵そうそう。先ほど子供たちには伝えたが、まだ密航者が近くにいるかもしれないから、気を付けるんだぞ。
ドロワットあ、危なかったの…… !助けてくれてありがとなのぉ !
ゴーシュだが、お前たちは……。エリックの知り合いなのか ?
エリック……お兄ちゃん ? 本当に、イクスお兄ちゃんなの ! ?
イクスえ…… ? ああ、そうか。最初に会ったときと服装と髪型が少し変わったから気付きにくいか。
イクス久しぶりだな、エリック。ごめんな、なかなか会いに行けなくてさ。
ライアンこの人が、イクスお兄ちゃん……。
エリックそうだぞ、ライアン ! ボクの言った通りだろ !イクスお兄ちゃんは、ボクを助けてくれるヒーローなんだ !
イクスヒーローって、そんな大袈裟な……。けど、無事で安心したよ。
ルーティほんと、心配かけさせんじゃないわよ。あとでたっぷり説教してあげるから覚悟しなさい。
エリックうっ……ご、ごめんなさい……。
カーリャあ、あの、イクスさま ?カーリャ、どうしてイクスさまが乗船券なんて持ってたのか、さっぱりなんですけど……。
カーリャ・N具現化の力、ですね。
イクスああ、咄嗟に思いついたことだけど上手くいって良かったよ。
ミリーナ瞬時に状況を把握して動くなんて、さすがイクスね。
ルーティそれより、チビ。あんたたちが、こんなところにいる理由を話してもらうわよ。
ルーティって言っても、そこにいる女の子たちを追いかけていったってところまではあたしたちも知ってるんだけどね。
イクスあれ ? この二人……。
ゴーシュな、なんだ。人の顔をジロジロと……。
ドロワット私たち、怪しい者じゃないだわん。
イクスあの、もしかして二人はゴーシュさんとドロワットさんじゃないか ?
二人! !
カーリャ・Nイクス様、お知り合いですか ?
イクスいや、鏡映点リストの特徴とぼやけた写真が二人と一致するんだ。ユーリさんたちの世界の人だと思うんだけど……。
ゴーシュユーリ……だと !お前たち、ユーリ・ローウェルを知っているのか !
ルーティど、どうしたのよ急に !
ドロワット答えてほしいの !私たちにとっては、とっても重要なことなのよ !

Character11話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】
ゴーシュ――つまり、私たちは鏡映点という存在で本来の私たちは元の世界に存在しているのか ?
ドロワットう~ん、難しすぎてよくわかんないなのよ~。
ゴーシュだが、これでアレクセイが生きている理由もわかった。そして、イエガー様のこともな……。
イクス俺たちもゴーシュとドロワットの事情はわかったよ。できる限り、イエガーさんの救出に協力させてもらう。
ドロワット本当なの ! ?
ゴーシュだが、お前たちはあの『凛々の明星』の仲間。あいつらが、私たちに協力などしてくれるはずが……。
ユーリったく、オレたちも信用がねえな。まあ、当然といえば当然なんだが。
ゴーシュユーリ・ローウェル !
レイヴンお久しぶりね~。元気そうで何よりだわ。
ルーティあんたたち、どうしてこんなところにいるの ?もしかして、ロゼから聞いた ?
カロルううん、ボクたちがここに来たのは偶然。けど、ミリーナがいてくれて助かったよ。
エステル実は、調査していた遺跡で心核を見つけたんです。ミリーナならこの心核が誰のものなのかわかるんじゃないでしょうか ?
ルーティ心核 ? どうしてそんなのが遺跡なんかにあったのよ ?
ジュディスさあ ? 私たちも知りたいくらいよ。
ユーリんで、それを知ってそうな奴を追いかけてここまで来たらお前たちがいたって訳だ。
フレンミリーナ、早速で悪いんだけど誰の心核なのか調べることはできそうかい ?
ミリーナはい、私が持っている魔鏡を使えば誰の心核なのか、すぐにわかると思います。
ライアンエリックお兄ちゃん……。ぼく、あの人たちが何を話してるのか全然わからないよ……。
エリックボクもわからないけど……きっと、大事な話をしてるんだよ。だから、邪魔しないようにするんだぞ。
ミリーナ……では、この魔鏡と私の魔鏡術を使って鏡の中に心核の持ち主を写します。
二人イエガー様 !
レイヴンってことは、この心核はイエガーのものってわけね。
ゴーシュならば、その心核をイエガー様の身体に戻せば元のイエガー様に戻るんだな ! ?
ドロワットやった、やった !これでイエガー様を助けられるの !
カーリャおおっ ! ゴーシュさまとドロワットさまに会ったタイミングで心核が見つかるなんてラッキーじゃないですかあ !
ユーリ……ああ、随分と都合が良すぎるくらいにな。
ラピード……グルル。
イクスそう……ですよね。まるで、誰かに仕組まれているような……。
カロルそれって、誰かがボクたちにイエガーの心核を手に入れられるように仕向けてるってこと ?いくら何でも考えすぎじゃない ?
カロルそれに、イエガーの心核は帝国が持っていたものだろうし、それをわざわざボクたちに渡すようなことはしないと思うんだけど。
フレンいや、もし帝国の人間ではない誰かの手によって仕組まれたことなのだとすれば……。
ゴーシュ何をごちゃごちゃと……。イエガー様を助けることができるのならばそれが仕組まれたことだろうが、私たちには関係ない。
ドロワット待ってて、イエガー様。今度こそ、私たちがイエガー様を助けるの !
レイヴンおっさんたちが口を挟むことじゃないみたいね。どうするよ、青年。
ユーリどうって言われてもな……。その心核がイエガーのものだってんなら元に戻してやるのが先決だろうが……。
カーリャ・Nですが、その肝心のイエガー様は一体どこにいらっしゃるのでしょうか ?
帝国兵βA総員。至急、持ち場を離れ集合せよ。繰り返す。至急、各自持ち場を離れて集合せよ。
フレンその話はあとにしよう。見回りの帝国兵だ。
レイヴンなに、なに ? 急に慌ただしくなっちゃって。
フレン僕たちのことを捜している感じもしないな……。今の内に、路地に入って様子を見よう。
帝国兵βB例の密航者が見つかったのか ?
帝国兵βAいや、密航者のことは後回しでいい。本部からイエガー様の部隊がアレクセイ一派に襲撃されているという情報が入った。
帝国兵βA至急、我々もイエガー様の部隊と合流する。場所はすぐ隣の都市だ。
帝国兵βB了解。
ジュディス……行ったみたいね。
ユーリここでアレクセイまで出てきやがんのか。ますますタイミングが良すぎて気持ち悪いぜ。
ゴーシュそんなことはどうでもいい !アレクセイがイエガー様を狙っているというのなら許してはおけるものか !
レイヴンどの道、俺たちだってアレクセイが絡んでるならほっとけないでしょ。
イクスだったら、俺たちもユーリさんたちと一緒にイエガーさんのところへ行きます。
ルーティ待って。その前に、チビたちはあたしが施設に帰してもいいわよね ?
ライアンえっ…… ?
ミリーナそうね……。そっちのほうが安全だし施設の人たちも心配しているものね。
ルーティチビたちも、それでいいわね ?
エリックうん……わかった。イクスお兄ちゃんが一緒ならお姉ちゃんたちも大丈夫だと思うし……。
ライアンま、待ってよ ! ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんも用事が終わったら、戻って来るんだよね…… ?
ドロワットえっと……それは……。
ゴーシュ……いや。多分、私たちは戻らない。お前たちとは、ここでお別れだ。
ライアンそんな…… ! 約束したでしょ !またぼくと一緒に遊んでくれるって !
ドロワットごめんなさいなの……。だけど、私たちはイエガー様と一緒に……。
ライアン……お姉ちゃんたちの馬鹿ッ !
エリックおい、ライアン ! ?
ルーティちょっと、いきなり走ったら人にぶつかるわよ !
ライアンわっ ! ?
カーリャあちゃあ……本当に人とぶつかっちゃいましたね……。
ルーティ全く、あんたも世話のかかるチビね……。
? ? ?……また、見つけたぞ。
ユーリおい、ちょっと待て ! あいつは…… !
ライアンえっ ? わああああっ…… ! !
エリックライアン ! !
? ? ?セールンドの残党め……。お前たちの好きにはさせん…… !
カーリャ・N待ちなさい !
エステルユーリ ! 先ほどの人はもしかして…… !
ユーリああ、間違いねえ !オレたちが追ってきた男だ !
イクスユーリさん ! あの男とライアンは俺たちが追います !ミリーナはユーリさんたちと一緒にイエガーさんの心核を戻してきてくれ !
ミリーナわかったわ !ネヴァン、私の代わりにイクスに付いていってくれないかしら。お願い !
カーリャ・N畏まりました ! すぐにあの男を捕獲します。
ルーティあたしも行くわ ! チビを傷つけたらただじゃおかないんだから !
ドロワットゴ、ゴーシュちゃん……。私たち、どうしよう…… !
ゴーシュこのままだとイエガー様が危険なんだ……。だが、ライアンは私たちのせいで…… !
エリック大丈夫だよ ! ゴーシュお姉ちゃん !
ゴーシュエリック…… !
エリックライアンは、ボクとイクスお兄ちゃんたちが絶対に連れて帰って来るから !だから、二人はそのイエガーって人のところに行って !
エリック二人にとって、とても大切な人なんでしょ…… ?だったら、絶対助けてあげなきゃ !
ドロワットそうなの……。イエガー様は、私たちの大切な人…… !
ゴーシュ……ありがとう、エリック。イクス、といったな。すまないが、ライアンのことを頼む !
イクスああ、絶対にあの子は俺たちが連れ戻す !

Character12話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】
カロルみんな、こっち ! この道を使えば上手く隠れながら先に行けるはずだよ。
レイヴンはぁ…… ! はっ…… !ちょ、ちょっと待ってよ、少年…… !おっさん、もうヘロヘロ…… ! !
エステル頑張ってください、レイヴン。もう少しでイエガーを見つけられるはずです。
ドロワットイエガー様、大丈夫かな…… ?それに、ライアンのことだって……。
ミリーナ心配いらないわ。ライアンはきっとイクスたちが何とかしてくれるはずよ。
ゴーシュドロワット、今は自分のことに集中しろ。私たちでイエガー様を助けると誓ったはずだ。
ドロワットうん……ごめんね、ゴーシュちゃん……。もう、大丈夫なの。
ジュディスそれにしても、思ったより静かね。もっと派手にお互い暴れてると思ったんだけど。
フレンおそらく、イエガーが率いている帝国軍の部隊が分断されているんだ。
フレン敵の戦力を削ってから、一気に奇襲をかける彼らしいやり方だ。
ユーリそのおかげで、オレたちも堂々と敵の懐に入ってこられたってわけか。
ゴーシュ暢気なことを言っている場合か !それだけ、イエガー様の身が危ないということだろ !
ユーリ落ち着けよ。戦いが終わってねえってことはアレクセイも、まだイエガーのところまでは辿り着いてねえって考えられねえか ?
ドロワットうっ……、確かにその通りだわん。
ジュディスみんな、バウルが確認してくれたわ。イエガーたちの部隊の一つが戦線から離脱するように動いているみたい。
フレン従騎士は帝国軍にとっても失ってはいけない人材のはず。きっと彼もその部隊にいるはずだ。
ユーリサンキュー、バウル。最近はオレたちに付き合わせてばかりで悪いな。
ジュディス気にしなくていいですって。あなたたちを運べない分自分も力になりたいみたいよ。
ユーリなら、バウルにばっか頼らねえおかげでおっさんの運動不足も解消できそうだって伝えといてくれ。
ジュディスええ、そうするわ。
レイヴン青年……いつか自分もおっさんの体力になることを覚悟しときなさいよ……。
ミリーナそういえば、みんなはバウルが運んでくれるフィエルティア号って船で、空を飛んでいたのよね。
レイヴンよく船の名前まで覚えてたわね、ミリーナちゃん。あ~、おっさん……なんだか懐かしくなってきたわ。
カーリャカーリャも、バウルさまと一緒に空のお散歩してみたいです !
ジュディスふふっ、バウルもきっと喜ぶと思うわ。
ユーリさてと、盛り上がってきたところ悪ぃがオレたちも、ちと気合入れとかねえとな。
カロルそうだね。行こう、みんな。ボクたちでアレクセイより先にイエガーを見つけるんだ。
帝国兵βイエガー様、申し訳ありません。敵の部隊がすぐそこまで迫っています。すぐに撤退を。
イエガーβ小賢しい真似を……。だが、まあいい。クロノスの分霊はクレーメルケイジで確保した。もうここには用がない。
? ? ?……フッ。小賢しい、か。まさか、お前にそのようなことを言われるとはな。
イエガーβ誰だ ?
アレクセイ久しいな、イエガー。今なお帝国に好きなよう使われてしまっているとは実に不憫だ。
帝国兵β敵襲 ! 総員、迎撃態勢 !
アレクセイ邪魔だ !
帝国兵β隊ぐはあああああああっ ! !
アレクセイ雑魚共は引っ込んでいろ。それとも、手負いで我々の部隊と戦うか ?
アレクセイ一派アレクセイ様 ! いつでもご指示を !
イエガーβ仕方ない。手駒をいくらか捨てることになるが代わりはいくらでも用意できる。
イエガーβお前たち、まだ動けるだろう。私が逃げるまで、こいつらを足止めしろ。
帝国兵β隊――了解。
アレクセイ一派こいつら ! ? 致命傷を負ってもまだ動くのか ! ?
アレクセイ……ふっ、まさに痛ましい人形の姿だ。
アレクセイだが、我々の邪魔をするのならば躊躇う必要などない !
ゴーシュアレクセイ ! !
ドロワットやっと見つけたの ! !
アレクセイお前たちは……。
ジュディスどうやら、間一髪間に合ったみたいね。
アレクセイ……貴様たちまで一緒か。
ユーリてめえが派手に暴れてるって聞いてな。わざわざ来てやったぜ、アレクセイ !
ラピードワンッ ! ワンッ !
イエガー鏡士共の仲間か。こんなときに厄介な……。
ゴーシュイエガー様…… !待っていて下さい。すぐに私たちが元に戻します !
ドロワット今度こそ……今度こそイエガー様を助けるの !
イエガーβ子供か……。ならば、あの男はリビングドール兵で足止めし、私はこいつらを処分して退散することにしよう。
エステルそんなこと、絶対にさせません !
ユーリオレたちのこと、甘く見てると痛い目見るぜ。今のお前にはわからねえだろうがな !

Character13話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】
イエガーβ……くっ。こんなところで、倒れるわけ……には…… !
ゴーシュイエガー様 ! ?
ミリーナ大丈夫。気絶しているだけよ。待ってて、すぐに心核を取り換えるわ。
エステルミリーナ、わたしも治癒術で補助します。
アレクセイふん。無様だな。駒の役割も果たせないなど、哀れな男だ。
ドロワットアレクセイ…… !
アレクセイああ、お前たちの顔を見るのも久しぶりだな。
ゴーシュアレクセイ…… ! 覚悟しろッ !
ドロワットイエガー様の仇、今ここで取らせて貰う !
ユーリっと、お前たち。再会の挨拶にしちゃあちと派手にやりすぎだ。
レイヴンそうそう。上の立場にいた人間ってのはどうも礼儀作法にうるさいんだわ。
ゴーシュお前たち…… ! !何故、止める ! ! この男は私たちの仇だ ! !
フレンだからといって、殺していいわけじゃない。少し落ち着くんだ。
アレクセイフレン、お前は相変わらずだな。騎士道精神にあふれる素晴らしい考えだよ。
フレン勘違いしないでくれ。あなたに確認しておきたいことがある。そうだろ、ユーリ ?
ユーリああ。なあ、アレクセイ。お前、オレたちを利用しただろ ?
アレクセイはて、一体なんのことやら。私には皆目見当がつかんな。
ユーリとぼけんじゃねえよ。お前が何か企んでるって情報が入ってから全部が上手くいきすぎてんだよ。
カロルユーリ、それって……港町でも言ってた「仕組まれてるような感じがする」って話のこと ?
ジュディスそれで、その犯人はアレクセイだった、ってことでいいのかしら ?
ユーリこいつは、初めからイエガーを帝国から取り戻すことが狙いだったんだ。
アレクセイなぜ、そう思う ?
レイヴン戦争を始めようって割には戦力が少なすぎんのよ。それに、この前痛い失敗したのに、すぐに攻め込むなんて真似をするのは、あんたらしくない。
ユーリだが、イエガーだけはすぐに助けなきゃいけねえ理由があったんじゃねえか ?
アレクセイどうやら、きみたちは勘違いをしているようだ。今回私が動いたのは、従騎士たちがクロノスの分霊を集めているという情報が入ってきたからに過ぎない。
カロルクロノスの分霊って……もしかしてイエガーが大事そうに持っていたクレーメルケイジがそうなの ?
アレクセイその通り。これ以上、帝国にカードを握られるのは私としても不本意だった。
カロルだから、クロノスの分霊を集めていたイエガーを止めようとしたってこと ?
フレンいや、イエガーを止めるだけじゃなくイエガーを自らの部隊に引き入れようとしていたのなら彼の心核が必要だった。
ユーリだが、肝心のイエガーの心核回収はリスクを避ける為に、オレたちにやるよう仕向けやがったんだ。
ジュディス随分と信頼されているわね、私たち。
ドロワット本当に……イエガー様を助けようとしたの ?
アレクセイ下らん。全て証拠もない机上の空論に過ぎぬ。
アレクセイ……と、言いたいところだが、まあいいだろう。確かに、イエガーを利用できると思い盗賊を使って心核を手に入れようとしたのは事実だ。
アレクセイしかし、何者かによる邪魔が入ってしまってね。そこで、きみたちを利用させて貰ったのだよ。
フレンやはり、全てはあなたの思い通りに進んだということか。
アレクセイどうかな、私の掌で踊らされていた気分は ?
ユーリおいおい、今日は随分とお喋りじゃねえか。
アレクセイなに、きみたちに一泡吹かせることができて私も機嫌がいいのだよ。
レイヴン本当、いい性格してるわ。
イエガー……んんっ。 ここは……。
カーリャミリーナさま ! 目を覚ましたみたいです !やりましたね !
ミリーナええ。だけど、心核を入れ替えてすぐはまだ体力が回復していないはず……。
ゴーシュイエガー様ッ ! !
ドロワットイエガー様 ! ! 本当に本当に本当のイエガー様なんですよね ! ?
イエガーゴーシュ、ドロワット……。ワイ…… ? あなたたちとは、随分とロングタイム 会っていなかったように感じます……。
エステルイエガー、まだあまり動かないでください。無理をすれば、また意識が……。
イエガーオウ……。実にファンタスティックな面々ですね。ミーはドリームを見ているのでしょうか……。
レイヴンまぁ、当たらずとも遠からずってやつかね。けど安心しな。今じゃあ、こっちが俺たちの現実よ。
イエガーそうですか……。では、やはりユーたちとのバトルは、お預けみたいですね。
カロル……やっぱりザウデでボクたちと戦う前までの記憶しかないんだね。
イエガー……ですが、ノットフォーゲット。アレクセイ、ミーとのプロミスは守ってもらいますよ。
アレクセイそこにいる二人の子供の命のことか ?今さら人質として扱うつもりなどない。
アレクセイなにせ今のお前は駒としても使えんようだからな。まったく、興醒めだ。
ゴーシュアレクセイ……貴様ッ ! ?
ドロワットイエガー様のこと、悪く言うのは私たちが許さないの !
レイヴン待ちなって。こんなところでお互いやりあっても無益よ、無益。
ユーリアレクセイ、お前はどうするつもりだ。こんだけ手の込んだことをしておいてあんたの手元には何一つ残っちゃいないぜ ?
アレクセイ浅いな、ローウェル君。此度の戦果を聞けば帝国に対して猜疑心を抱いている連中が私の元へ集まってくる。
レイヴンまあ、あんたならスパイの一人や二人紛れ込ませてるだろうからな。上手く唆して、仲間を増やそうって魂胆か。
ユーリ喰えねえ野郎だぜ……ったく。
アレクセイそういうことだ。よって手負いの駒など不要。お前たちもその男を連れて、どこへなりと行け。
レイヴンはいはい、んじゃ、そうさせてもらうわ。
アレクセイきみたちもせいぜい帝国の人間に利用されないことだな。
ジュディス嫌味な人ね。それとも自虐だったのかしら ?
レイヴン両方でしょ。平気な顔してるけどリビングドールのときにやらされてたことが結構堪えてるみたいだったしね。
カロルもしかして……だからイエガーのことも助けようとしたのかな ?
イエガーミーのことを…… ?インポッシブル……。アレクセイはそんな男ではありません。
エステルいえ、彼も変わろうとしているのかもしれません。少なくとも、あなたを帝国から助けようとしたのは事実だと思います。
イエガー……ブラボー。その話が本当ならば、実にファンタジー、です……。
ドロワットイエガー様 ! ?
ミリーナ大丈夫、気を失っただけよ。やっぱり、まだリビングドールのときの負荷が身体に残ってしまっているのね。
ジュディスだったら、一度アジトで診て貰ったほうがいいわね。
ミリーナええ。だけど、まだイクスたちから連絡が……。
フレンそれなら、イエガーは僕たちがこのままアジトまで運ぶよ。ミリーナはイクスたちのところへ行ってくれ。
ラピードワンッ !
ミリーナありがとう、みんな。イエガーさんのこと、宜しくお願いします。
ゴーシュ……待て ! すまないが、一つだけライアンとエリックに伝えてほしいことがある。
ドロワット私たち、また必ず二人に会いに行くから。だから、一緒に雪合戦する約束は忘れないって……そう伝えてほしいの。
ミリーナええ、わかったわ。私がちゃんと、伝えておくわね。二人の気持ちも一緒に。

Character14話【9-15 テルカ・リュミレース領 海岸3】
ルーティこの先はもう海じゃない。まさか、船でも待たせてるのかしら。
イクス港に現れたってことは自前の船は持ってないんじゃないかな。小型のボートみたいな物を隠してる可能性もあるけど……。
カーリャ・Nイクス様、ルーティ様 ! あの岩の先を !
エリック眩しくて見えないよ……。これ、逆光って言うんでしょ ?
ルーティエリック、あんたは下がってなさい。確かにこの先にいるのは、ライアンをさらった男だわ。
イクス待て !
? ? ?………………。
イクスその子を返せ !
? ? ?断る。それより、お前は何者だ ?何故、鏡精を連れている ?
イクスえ…… ?
カーリャ・Nその声、どこかで聞き覚えがあります。私が鏡精だった頃に……。
ルーティあいつが何者なのかは、ライアンを助けてからよ。
? ? ?動くな ! 動けばどうなるかわかっているな。
ルーティ卑怯者 ! 子供を盾に取るつもり ! ?
カーリャ・N傷つけることも辞さないというのなら何故その子をさらったのですか !
? ? ?この子供はリストにある同胞であり、救出目標だ。
ルーティ人質にしておいて、何が救出よ !
イクス(救出とは言っているけど生かして助けるって意味とは限らない。せめて何とか隙を作れれば……)
エリックイクスお兄ちゃん……。
イクス大丈夫だ、エリック。何とか――
イクス(――そうか !)
イクスネヴァン、ルーティ。俺が合図したら、ライアンを頼む。
二人! !
イクス俺が何者か教えてやる !
? ? ?………………。
イクスこの顔をよく見るんだな。
イクス(このまま、腕を太陽の方に……)
イクス俺は鏡士のイクス・ネーヴェだ !
? ? ?……ぐっ ! ? 鏡の反射かっ ! ?
イクス今だ !
カーリャ・N鏡転身 !
カーリャ・Nライアンは返してもらいます !
カーリャ・Nルーティ様 !
ルーティオッケー ! チビ、こっちよ !
ライアンお姉ちゃん !
? ? ?くっ、やらせるか !
イクスネヴァン、避けろ ! 裂燕迅 ! !
? ? ?ぐっ ! ?
イクスよし、このままお前を捕まえる !
? ? ?――そうか、お前がイクス・ネーヴェ。魔女が甦らせた二人目という訳か。
イクス! ?
? ? ?全ては奴の言う通り……。ならば、また相見えよう !
ルーティな……海に飛び込んだの ! ?
カーリャ・Nお二人とも ! 後ろに敵が―― !
盗賊Aボスの代わりに俺たちが相手だ。
盗賊B逃げられると思うなよ !
ルーティもう、雑魚がうじゃうじゃと !
イクスここは危険だ。何とか敵の数を減らして、この場所から離れよう。
ルーティええ、そうね。エリック、ライアン。あたしたちからはぐれるんじゃないわよ !
子供たちうん !
カーリャ・N敵が来ます !

Character15話【9-15 テルカ・リュミレース領 海岸3】
イクス……追っ手は……来ないみたいだな。ライアン、エリック、大丈夫か ?
エリックうん !
ライアン……う……えぐ……。
イクスあ……え…… ? な、な、泣かないでくれよ……。ええっと、ルーティ……、ネヴァン……ど、どうしよう……。
ルーティ大丈夫よ。安心したら泣けてきちゃっただけよね ?
ライアンう……うん……。ごめんなさい……。
カーリャ・Nあの……大丈夫ですか ?飴、食べますか ? 甘くて元気が出ますよ。
ライアンありが……とう……。
イクスそ、そうだ。エリック、ありがとう。エリックのお陰でライアンを助けられたよ。
エリックえ ?
イクスほら、逆光で眩しいって言ってただろ。それで太陽の光を反射させようって思いついたんだよ。
エリックあ ! そうか ! イクスお兄ちゃんも僕と同じこと思いついたんだ !
イクス同じこと ?そうか、エリックもあの時鏡で光を反射させたらいいって思ったんだな。
エリックううん、さっきじゃなくて雪合戦の時にね。
イクスえ ? 雪合戦 ?
エリックへへ、僕、イクスお兄ちゃんみたいになりたいって思ってたから、ちょっと嬉しいな。
イクス? ? ?
ミリーナイクス ! みんな !
カーリャ・Nミリーナ様 !
ミリーナよかった !無事にライアンを助けられたのね。
ルーティええ、何とかね。そっちは ?わざわざ駆けつけてくれたってことはもちろん首尾よくいったのよね。
ミリーナええ。イエガーさんを助けることができたわ。それから、エリックとライアンに伝言よ。
二人
ミリーナゴーシュとドロワットから。また必ず二人に会いに行くって。一緒に雪合戦する約束は忘れないって。
施設の女性……この度は色々とありがとうございました。また皆さんに助けられてしまいましたね。
イクスいえ、そんな……。
ルーティさっきも話した通り、怪しい盗賊たちからライアンの身柄を守るためにこの辺りの警護をするわね。
ルーティだから子供たちにも遠出しないように言い聞かせてくれる ?
施設の女性はい。ライアンが帝都に移るまでは、十分に気を付けます。
カーリャ・Nそれにしても、帝国がわざわざライアンを帝都に呼び寄せているというのはどういうことなんでしょうか。
ルーティ確か……ライアンは移民だから帝都に行かなくちゃいけないのよね。
施設の女性ええ。一体何のことやら……。
施設の女性ライアンの亡くなったお祖父さんはビフレスト皇国から旧セールンド王国へやってきた移民だそうですけど、ライアンは別に……。
カーリャ・Nビフレスト……まさか……。
イクスネヴァン ? 何か心当たりがあるのか ?
カーリャ・Nあ、いえ、ライアンのことではないんです。ライアンをさらった盗賊の正体に……。
カーリャ・Nでも、そんな筈は……。
ミリーナネヴァン ? よかったら話してみて。
カーリャ・Nは、はい。あの盗賊ですが、声や背格好が……フリーセルに似ているんです。
ミリーナフリーセル……。救世軍の創始者で、ビフレストの工作員だった男……。
カーリャ・Nですが、マークからフリーセルは死んだと聞いています。
ミリーナ………………。
セネルイクス、今大丈夫か ?
イクスセネル ! グリューネさんは見つかったか ?
セネルああ、こっちは問題ない。みんな無事だ。
セネルそれより、いつ頃アジトに戻る ?共有しておきたいことがたくさんあるんだ。
イクスああ、こっちも大体片付いたからすぐに戻るよ。
セネルそうか、じゃあ戻ったら知らせてくれ。
ルーティ何だか、深刻な感じだったわね。
イクスああ。さっきの男の正体がフリーセルなのかどうかも含めてアジトで検討した方がいいな。
カーリャ・Nはい。マークにも連絡を取ってみます。
イクス(『移民』を集めている帝国、怪しい盗賊の男……。何かが起きているのは確かなのに上手く線が繋がらない……)
イクス……とにかく、アジトに戻ろう。セネルたちの話を聞くんだ。
to be continued