| Character | 1話【9-1 ファンダリア領 雪山】 |
| ドロワット | やったー ! また私たちの勝ちなの ! |
| 小さな男の子 | くっそー。今日の雪合戦は絶対勝てると思ったんだけどな……。 |
| ゴーシュ | 甘いぞ、エリック。だが、ちゃんと作戦を組み立ててきたのは感心だ。 |
| ドロワット | 雪の壁を作って、太陽の光を反射させてきたときはビックリ ! 目の前がピカピカ~ってなって危なかったのよ。 |
| エリック | だって、ボクも負けっぱなしは悔しいからさ。それに、イクスお兄ちゃんも戦う前の準備は大切だって教えてくれたもん。 |
| ドロワット | エリック、またそのお兄ちゃんの話なのん。 |
| ゴーシュ | 私たちも耳にタコができるくらい聞かされたな。 |
| エリック | だって、イクスお兄ちゃんは本当に凄いんだよ !優しくてカッコよくて、ボクを助けてくれたヒーローなんだから ! |
| ゴーシュ | わかった、わかった。話はあとでゆっくり聞いてあげるから今日はもう帰るぞ。 |
| ドロワット | お腹もペコペコになってきたのよ。 |
| エリック | ううっ……。じゃあ、ご飯のときに二人にもいっぱい聞いてもらうんだからね ! |
| 女性 | おかえりなさい、みんな。エリック、今日もゴーシュとドロワットに遊んでもらっていたのね。 |
| 気弱な男の子 | いいなぁ……エリックお兄ちゃん。ぼくも一緒に雪合戦したかったのに……。 |
| エリック | 仕方ないだろ、ライアン。熱は下がったみたいだけど、まだ安静にしなさいってお医者さんに言われたんだから。 |
| ゴーシュ | エリックの言う通りだ、ライアン。しっかり休むことも大事なことだ。 |
| ドロワット | 元気になったらまた私たちが一緒に雪合戦してあげるのん ! |
| ライアン | ホントに ! ? |
| 女性 | ふふっ。良かったわね、ライアン。あなたには優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんがいてくれて。 |
| ライアン | うん ! ぼく、ここにいるみんなのこと大好きだよ ! |
| 女性 | そう言ってくれると私も嬉しいわ。それじゃあ、みんな戻ってきたことだし食事の準備をしないと……。 |
| エリック | 待って。準備ならしばらくボクたちがやるって約束だったでしょ ? |
| 女性 | だけど……。 |
| エリック | 大丈夫だよ ! ボクたちだって役に立ちたいんだから。ライアンもみんなを呼んできて。手分けすれば、すぐに終わるからさ。 |
| ライアン | うん、わかった ! |
| 女性 | ……本当に、優しい子たちだわ。 |
| ドロワット | みんな、足の怪我のこと心配してくれてるの。もう大丈夫なの ? |
| 女性 | ええ、あなたたちが助けてくれたお陰でもうすっかり平気よ。 |
| 女性 | だけど、あのときは驚いたわ。まさか、こんな子供たちまで戦いに巻き込まれているのかと思ったから……。 |
| ゴーシュ | それは……。 |
| 女性 | いいの。話したくない事情があるのなら無理に話さなくても。 |
| 女性 | だけど、領主であるエルレイン様も以前と比べて表に顔を出さなくなってしまって、それが原因なのかファンダリア領の治安も悪くなってしまっているわ。 |
| 女性 | だから、あなたたちが良かったらずっとここにいてくれてもいいからね。 |
| 二人 | …………。 |
| | ――コンコン。 |
| 女性 | はい、どなたかしら ? |
| 商人 | 失礼。こちら『セキレイの羽』の者です。物資の運送に来ました。 |
| 女性 | いつもありがとうございます。すぐに扉を開けますので、少し待ってくださいね。 |
| ゴーシュ | あっ、荷物なら私たちが運ぶ。いいな、ドロワット。 |
| ドロワット | はいなの~。ゴーシュちゃんと一緒にやればちょちょいのちょい~、だよ。 |
| 女性 | ありがとう。だったら、悪いけどあとは二人にお願いするわね。 |
| ゴーシュ | ……ふぅ。物資はこれで全部運べたな。 |
| 商人 | しかし、凄いな、きみたち……。大人でも重たい荷物をあんな軽々持ち上げるなんて。 |
| ドロワット | 私たちは魔導器があるから平気なのだわん。 |
| 商人 | ぶら……なんだ、それは ? |
| ゴーシュ | き、気にするな !それより、最近は物資の調達も大変だと聞いている……のですが…… ? |
| 商人 | そうなんだよ。以前のこの領での戦いに加えてテルカ・リュミレース領でも大規模なクーデターが起こったみたいだからな。 |
| 商人 | しかも、そのクーデターを起こした首謀者であるアレクセイという男が、また兵を集めて帝国に戦いを仕掛けるって噂だ。 |
| 二人 | ! ? |
| 商人 | おっと、すまない。こんなこと、子供のきみたちに話しても怖がらせてしまうだけか……。 |
| 商人 | だが、安心してくれ。この施設への物資供給はうちのリーダー直々の依頼だからな。ここにいれば、きみたちも安全だよ。 |
| 商人 | さて、荷物も運び終わったし、挨拶を終えたら俺も帰るとするか。じゃあ、また来たときは宜しく頼むよ。 |
| ドロワット | ゴーシュちゃん……。今の話……。 |
| ゴーシュ | アレクセイ…… !一体何をするつもりだ…… ! |
| ドロワット | けど、アレクセイが帝国と戦っているのはおかしいの。あいつもイエガー様と同じように洗脳されてたはず。 |
| ゴーシュ | 考えられるのは、その洗脳が解けて反乱を起こしているってことだ。 |
| ゴーシュ | だが、イエガー様も一緒にいるとは限らない。グラスティンって奴を追って、この大陸に来てみたが結局手がかりも掴めないままだ……。 |
| ドロワット | どうしよう、ゴーシュちゃん ? |
| ゴーシュ | 決まっている。アレクセイのところに私たちも行く。今は少しでもイエガー様に関わる情報が欲しい。 |
| ゴーシュ | それに……アレクセイのことだからまたイエガー様を酷い目に遭わせるかもしれない。そんなこと、絶対にさせるものか ! |
| ドロワット | 私も、イエガー様がアレクセイに利用されるなんて嫌なのよ。 |
| ゴーシュ | ドロワット、すぐに支度するぞ。港まで行けば、アレクセイのいる大陸まで貨物船で移動できる。 |
| ドロワット | 了解だよ。だけど、ここの人たちにはさよならを言わなくていいの ? |
| ゴーシュ | ……ああ。言ったら止められるだろうしみんなに心配をかけてしまう。 |
| ドロワット | ゴーシュちゃんがそう言うなら私もそうするの。 |
| ゴーシュ | ……明日の早朝には出発する。それまでは、みんなにも悟られないようにな。 |
| ライアン | エリックお兄ちゃん……。今の話……。 |
| エリック | しっ ! 二人に気付かれるだろ。……けど、もう行ったみたいだな。 |
| ライアン | ……ねえ、さっきの話、本当なの ?ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもここからいなくなっちゃうの ? |
| エリック | ……それは。 |
| ライアン | ぼく、そんなの嫌だよ !また雪合戦して遊ぶ約束だってしたのに ! |
| エリック | ライアン……。ボクだって二人のことは心配だよ。 |
| エリック | それでも、ボクたちに何も言わないで出て行かなきゃいけないくらい、きっと二人にとっては大切なことなんだ。 |
| ライアン | だけど、戦いがあるって言ってたよ……。そんな危険な場所に行ったら、お姉ちゃんたちが……。 |
| エリック | ……わかってる。だから、ボクがなんとかする。ライアンは何も心配しなくていい。 |
| ライアン | エリックお兄ちゃん…… ? |
| エリック | ボクも、イクスお兄ちゃんみたいになるよ。大事な人たちを守れるヒーローにね。 |
| Character | 2話【9-3 アジト1】 |
| フレン | みんな、急な招集にも関わらず集まってもらってすまない。感謝するよ。 |
| チェスター | 気にすんなって。ここにいる奴らは丁度オレたちみたいにアジトに残ってた連中だろうしな。 |
| リッド | そうだぜ、フレン。そんな固い顔してねえでもっと気楽にいこうぜ……っていうのは流石に無理か。 |
| ジーニアス | 最近は色々なことが立て続けに起こって大変だったもんね……。 |
| マルタ | うん……エミルたちも、ずっと精霊のこと調べてるみたいだし、私も力になれればいいんだけど……。 |
| ライラ | マルタさん。人の言葉には「適材適所」というものがあります。きっと、マルタさんもエミルさんたちの為にできることがあるはずです。 |
| マルタ | ……そうだね。ありがとう、ライラさん。 |
| ジーニアス | ねえ、フレン。それで、ボクたちにも話しておきたいこと、って何 ? |
| フレン | ああ、今カロルたちがテルカ・リュミレース領の様子を調査しているんだが、そこでアレクセイ一派に新しい動きがあったみたいなんだ。 |
| マルタ | アレクセイって、確か魔導砲を使おうとしてた人のことだよね ? |
| リッド | まさか、また懲りずに何かやってんのか ? |
| フレン | 詳しいことはまだわかっていないけど噂では領都を攻め落とす為の準備をしているんじゃないかという話だ。 |
| ライラ | 領都を攻めるとなると当然、帝国軍と衝突することになりますわね。 |
| フレン | そうなると、かなり大規模な戦いになると思う。おそらく、その為の人員と物資を集めているんだろう。 |
| フレン | 彼の優秀な采配は、僕も嫌という程知っている。無策で帝国に戦いを挑むようなことはしないはずだ。 |
| ジーニアス | じゃあ、アレクセイには何か勝算があるってことだね。 |
| フレン | その通り。そこでカロル調査室が調べてくれた結果アレクセイの部下たちが頻繁に出入りしているという遺跡が見つかったんだ。 |
| フレン | その遺跡周辺に、何かアレクセイにとって必要なものがあるんじゃないかと僕たちは睨んでいる。 |
| リッド | 遺跡か……。まぁ、そういうところにすげえもんがあるってのはお約束だな。 |
| ジーニアス | けど、それを突き止めてどうするの ?アレクセイのことなら、救世軍預かりなんでしょ ? |
| フレン | アレクセイの目的を突き止めて、場合によっては戦いそのものを止める必要があると思っている。救世軍も情報を集めてくれているんだ。 |
| チェスター | ということは、アレクセイが必要としてるかも知れない何かってのを見つけてオレたちが手に入れちまえばいいんじゃないか ? |
| フレン | ああ。実は、そのつもりで既にユーリたちが動いてくれていて、僕もすぐに合流する予定なんだ。 |
| フレン | だから、また暫くアジトを離れてしまう前にできるだけ情報を共有しておこうと思ってね。 |
| マルタ | わかった。みんなには私たちから伝えておくね。 |
| エステル | フレン。みんなとの会議は終わったんです ? |
| フレン | はい、丁度伝え終わったところです。それで、パティの容体は ? |
| エステル | はい……身体的には問題ないそうですがまだ本調子ではないみたいで今回はアジトに残るそうです。 |
| チェスター | ……そのほうがいいだろうな。心核を抜かれたうえに、鏡の精霊なんてものに体をのっとられちまったんだからな。 |
| フレン | リタもまだケリュケイオンから離れることはできないでしょうし、我々だけでユーリたちのところへ向かいましょう。 |
| ジーニアス | 二人とも、気を付けてね。 |
| リッド | 何かあったら、オレたちもすぐに駆け付けるからな。 |
| フレン | ありがとう。それじゃあ、行ってくる。 |
| ゴーシュ | ……なんとか船には上手く乗り込めたな。 |
| ドロワット | かくれんぼは得意だもんね、私たち。 |
| ゴーシュ | このまま、この貨物船に乗っていればテルカ・リュミレース領に到着するはず……。 |
| ゴーシュ | 誰か来る ! ドロワット、荷物に紛れて隠れろ ! |
| ドロワット | ま、待ってなの、ゴーシュちゃん !見て見てなの ! |
| ゴーシュ | なんだ一体…… ! ?そんな……まさか ! お前たちは…… ! |
| エリック | ゴーシュお姉ちゃん ! ドロワットお姉ちゃん !良かった ! この船に乗ったのは見間違いじゃなかったんだね。 |
| ゴーシュ | エリック ! それにライアンまで……。お前たち、どうしてこんなところに……。 |
| エリック | ごめんなさい……ボクたち、お姉ちゃんたちが話をしているところを聞いちゃったんだ……。 |
| ゴーシュ | だからって追いかけてきたのか…… !どうして、そんな馬鹿なことをしたんだ ! |
| ゴーシュ | 話を聞いていたのなら、危険なことだってわかっていたはずだ !それなのに、どうして付いてきた ! |
| ドロワット | ゴーシュちゃん……。 |
| ライアン | ……嫌だったから。 |
| ゴーシュ | ……なに ? |
| ライアン | ぼく、嫌だったんだよ !ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもお父さんたちみたいにいなくなっちゃうのが…… ! |
| ゴーシュ | ライアン……そうか……。お前は戦争で家族を失っていたんだったな……。 |
| エリック | ……最初はボクだけで二人を追いかけようとしたんだ。だけど、ライアンがどうしても自分も付いていきたいっていうから、一緒に来たんだ。 |
| エリック | ねえ、お願い ! ボクたちも一緒に連れて行って !絶対、お姉ちゃんたちの力になるから ! |
| ドロワット | ゴーシュちゃん……どうしよう……。 |
| ゴーシュ | ……今さら戻れといったところで危険なことに変わりはない。それなら……まだ私たちと一緒にいたほうが安全だ。 |
| エリック | ゴーシュお姉ちゃん…… ! |
| ゴーシュ | だが、一つだけ約束しろ。本当に危険になったら、エリックとライアンは私たちを置いて逃げるんだ。 |
| ライアン | そ、そんなことできないよ ! |
| ゴーシュ | 約束できないのなら、無理にでもファンダリア領行きの船に乗せて帰ってもらう。 |
| ライアン | そんな・・…。 |
| エリック | ……わかったよ。約束する。そしたら、ボクたちも付いていっていいんだね ? |
| ゴーシュ | ……交渉成立だな。では、船が到着するまで隠れるぞ。テルカ・リュミレース領までは、あと少しのはずだ。 |
| Character | 3話【9-4 アジト2】 |
| イクス | ――じゃあ、始めようか。ミリーナ、ネヴァン、カーリャ。 |
| 二人 | ……はい。 |
| ミリーナ | 私たちとの違いを明確にするために最初から話すわね。 |
| ミリーナ | 最初の私たち――一人目のイクスとフィルと私はセールンド王国のオーデンセ島で生まれたわ。 |
| ミリーナ | 鏡士は大抵セールンド島にある王立研究所で働くから島で生まれる子供は少なかった。 |
| イクス | 俺の母さんは、珍しく里帰り出産だったんだよな。二人とも、一年ぐらいでセールンド島に戻っていったらしいけど。 |
| イクス | ……あ、これ、一人目から受け継いだ記憶だよな。俺たちは作られた存在だから……母親から生まれたわけじゃないだろうし。 |
| ミリーナ | ええ、そうね。そこはゲフィオン……最初のミリーナの記憶とも一致しているわ。 |
| ミリーナ | 私のお母様は私を産んですぐに亡くなってしまったしお父様も病気で死んでしまって……。だからなんとなく私たち、お互いに親近感を覚えていたわよね。 |
| イクス | うん……。ミリーナはいつも俺の姉さんとして振る舞ってくれてたよな。あれ、結構嬉しかったよ。……まあ、一人目の記憶だけど。 |
| 二人 | ………………。 |
| ミリーナ | 三人の関係が変わったのは、あのピクニックの日よ。フィルがセールンド島に引っ越してから一年と少し過ぎた頃だった。 |
| ミリーナ | あの日はフィルがオーデンセ島に遊びに来ていたわ。水鏡の森に見せたいものがあるって私をピクニックに誘ってくれたの。 |
| ミリーナ | 今思えば、あれは女神ダーナの存在を示す光だったのかも知れないわね。 |
| ミリーナ | イクスと同じで、この時の私の記憶も改ざんされているの。だから今から話すのはゲフィオンの――最初のミリーナの記憶よ。 |
| ミリーナ | あ、イクス ! |
| イクス | ミリーナ、フィル、どこに行くんだ ? |
| ミリーナ | 水鏡の森までピクニックに行くの。イクスも一緒に行かない ? |
| フィリップ | ! |
| イクス | いや、俺は港に行かないと……。 |
| イクス | そういえば、このところ水鏡の森には物騒な魔物が出てるみたいだぞ。 |
| ミリーナ | フィルも一緒だから大丈夫。イクスもお仕事が終わったら合流して ! ね ? |
| イクス | だったら俺の仕事が終わるまで待っててくれないか。二人だけじゃ心配だから一緒に行くよ。 |
| ミリーナ | ……そう ? |
| フィリップ | 大丈夫だよ。イクスは心配性だね。僕もミリーナも鏡士なんだよ ?先に行って準備してるよ。 |
| ミリーナ | ……そうよね。うん、大丈夫 !私お姉さんなんだしちゃんとフィルのこと守れるわ。 |
| イクス | わかった。でも危ないところには行くなよ。二人とも案外抜けてるんだから。 |
| ミリーナ | 失礼ね、大丈夫だってば。さ、行きましょう、フィル ! |
| ミリーナ | この時のことを、ミリーナはずっと後悔していたわ。イクスの忠告を気にとめなかったことやイクスを巻き込んでしまったことを。 |
| ミリーナ | イクスは私たちを心配して、漁に出ないで追いかけてきてくれた。そして私たちを助ける為に、秘伝魔鏡術を使った。 |
| ミリーナ | イクスの力が暴走して……止まらない !私が、私がイクスの言うことを聞いてもっと気を付けていれば…… ! |
| ミリーナ | 私が……イクスのことをちゃんと待ってれば……。 |
| フィリップ | 大丈夫、ミリーナ。僕の守護魔鏡を使えば止められる ! |
| ミリーナ | えっ ! ? |
| フィリップ | 僕の鏡士としての力を弱める封印なんだ。これを使えばきっと―― |
| ミリーナ | 駄目よ、フィルは体が弱いからわざと力を弱めているんでしょう ? |
| フィリップ | でもこのままじゃイクスが死んじゃうよ ! |
| ミリーナ | ――わかった。でも、私にやらせて。バックファイアを受けるのは私だけでいいから ! |
| フィリップ | ミリーナ ! ? |
| ミリーナ | あの時のバックファイアで、ミリーナは心の一部を破壊された。ミリーナは鏡士の訓練を中止して心の治療に専念したの。 |
| ミリーナ | そしてイクスも酷い怪我を負った。フィルも……。 |
| イクス | ……ああ。フィルはセールンド島に戻ってそのまま音信不通になった。最初の俺は、何度も手紙を送ってたみたいだけど。 |
| ミリーナ | ええ。イクスは自分も大怪我をしたのにフィルに連絡を取ろうとしながら心に穴のあいたミリーナを何度も見舞ってくれた。 |
| ミリーナ | そうして、単なる幼なじみだったミリーナとイクスは付き合うようになっていったの。 |
| ミリーナ | ミリーナは過去の罪悪感からフィルを避けていてフィルも私たちを避けて……。イクスだけが、何とか幼なじみの糸が切れてしまわないように動いていた。 |
| ミリーナ | やがて心を修復したミリーナは鏡士の訓練を再開してやっと鏡精を作れるようになったわ。イクスも傷が癒えて、長期の漁に出るようになった。 |
| イクス | ……これで全部、か。手伝ってくれてありがとな、ミリーナ。 |
| イクス | 1人で遠くの海への漁に出るのは初めてだからどうも、勝手がわからなくて。 |
| ミリーナ | ううん。全然 !──帰ってくるのは4日後だっけ。 |
| イクス | ああ。その予定だ。長く待たせることになっちゃうな。一人で大丈夫か ? |
| ミリーナ | ふふっ。イクスったら相変わらず心配性なんだから。大丈夫。カーリャがいてくれるもの。 |
| イクス | あれ、そういえばカーリャはどこだ ?いつもなら俺たちの傍をグルグル飛んでるのに。 |
| ミリーナ | ……気を……利かせてくれてるみたい。 |
| イクス | ハハ、そうか。相変わらず可愛いところがあるな、カーリャは。 |
| イクス | ――ミリーナ。漁に出る前に伝えておきたいことがあるんだ。 |
| ミリーナ | え…… ? |
| イクス | 俺……やっぱり鏡士を目指す。 |
| ミリーナ | イクス !それはお祖父様に止められているんでしょう ? |
| イクス | わかってる。それでも祖父ちゃんを説得して俺は鏡士になるよ。そうしたら、ミリーナの心の傷を治療できるかも知れない。 |
| イクス | 俺の血統は【創造】だし……それに、どうも祖父ちゃんは何かを隠してるみたいなんだ。 |
| ミリーナ | そうなの ? |
| イクス | ……まあ、そのことはあとでいいか。 |
| イクス | とにかく、俺は鏡士になると決めた。だから俺が鏡士になったら……結婚して欲しい。ミリーナを守りたいんだ。この先もずっと。 |
| ミリーナ | イクス…… ! |
| イクス | いいだろ ? |
| ミリーナ | ……ずるいわ、イクス。そんな風に聞かれたら断れない。 |
| イクス | 自分のことじゃないとはいえ顔から火が出そうだよ……。 |
| ミリーナ | そ、そうね……。こんなに詳細に話す必要なかったかしら……。 |
| カーリャ | 最初のイクスさまはイケメン力が高いですね……。 |
| カーリャ・N | ふふ……。こちらのイクス様も素敵ですよ。 |
| Character | 4話【9-4 アジト2】 |
| ミリーナ | 漁から帰ったイクスは、お祖父様を説得しようとした。でも、最初は中々認めてもらえなくて……鏡士になる許可をもらうのに三年ぐらいかかったの。 |
| カーリャ・N | でも最後には根負けしてイクス様のご両親の遺言を見せて下さったそうです。 |
| イクス | 両親の遺言か……。俺の魔鏡に遺言が残されてるらしいんだけど、どこに記録されてるのか全然わからないんだよな。 |
| イクス | 前にるつぼで会った最初のイクスさんから話を聞いてすぐ調べてみたんだけど……。ゲフィオンは遺言のこと、何か聞いてるのかな ? |
| ミリーナ | イクスと婚約した当時は、世界を守るための方法を知らせてくれていた、とだけ聞いていたみたい。 |
| ミリーナ | 当時はビフレストと戦争になるって噂があってミリーナはそれに関係することかと思っていた。でも、そうじゃなかった。 |
| ミリーナ | 混乱させないために、順番に進めるわね。 |
| カーリャ・N | そうですね。とにかくイクス様は無事に鏡士となりお二人は結婚の準備に入られました。その頃です。ビフレストがセールンドを襲撃したのは。 |
| イクス | ……くそ。雨か。 |
| ビフレスト皇国軍A | ――見つけたぞ ! 鏡士だ ! |
| ミリーナ | ! ? |
| イクス | ミリーナ、走れ !港まで行けばセールンドへ逃げられる ! |
| ミリーナ | イクス、だけど―― |
| イクス | ミリーナに手を出すな ! |
| ビフレスト皇国軍A | どけ ! |
| ミリーナ | イクス ! ? |
| ビフレスト皇国軍A | 邪魔だー ! ! |
| イクス | ミリーナは俺が守る ! ! |
| イクス | ぐぅ……やらせ……ない……っ !スタック・オーバーレイ ! ! ! |
| ビフレスト皇国軍A | これは――秘伝魔鏡術か ! ?離魂術を急げ ! こいつかもしれん ! |
| ミリーナ | そんな……うそ……。 |
| ミリーナ | イクス……うそ、だよね……。 |
| ミリーナ | イクス……目をあけてよ……。お願い……お願いだからっ ! ! |
| ミリーナ | やだよ……。 |
| ミリーナ | いや……。 |
| ミリーナ | いやーーーー ! ! ! ! |
| ビフレスト皇国軍B | 離魂術成功しました ! |
| ビフレスト皇国軍A | 次はあの女だ ! |
| ビフレスト皇国軍B | 銀髪ではありません。ウォーデン殿下のご命令は、銀髪を取りこぼすな、と。 |
| ビフレスト皇国軍A | だが、鏡士だ。ローゲ様はセールンドの鏡士は全て始末せよと仰せになった。 |
| カーリャ | ――ミリーナさま ! 逃げましょう !イクスさまの命を無駄にしたら駄目です ! |
| ミリーナ | この時、カーリャがミリーナを必死に促してくれて彼女は半死半生で港まで逃げたの。何とか命を繋ぐことができたけれど、体中に消えない傷が残ったわ。 |
| ミリーナ | 島の大人も大部分が殺されて、ミリーナは数少ないオーデンセの生き残りとして王都に辿り着いた。 |
| イクス | ビフレスト皇国は、バロールの血を引く銀髪の鏡士だけを皆殺しにするつもりだった。殺して、離魂術とかいう方法で、遺体を保存した。 |
| イクス | 少なくともナーザ将軍はそう言っていた。けど実際の現場では鏡士たちはほとんどが殺されたんだよな。 |
| カーリャ・N | はい。恐らくはローゲの判断でしょう。セールンドの鏡士を生かしておくことは後の遺恨になると考えたのかも知れません。 |
| ミリーナ | それから離魂術だけど、あれはアニマだけを消滅させてアニムスを残す技術なの。だから最初のイクスの遺体を残すために使われたのね。 |
| ミリーナ | ミリーナはその離魂術をカレイドスコープの開発に転用したのよ。カレイドスコープで亡くなった人と最初のイクスの亡くなり方が似ていたのはそのせいだった。 |
| ミリーナ | 話を元に戻しましょうか。 |
| ミリーナ | セールンド島でフィルが出迎えてくれて、ミリーナはオーデンセの生き残りとして王室に保護された。そこで王立魔鏡科学研究所に入ることになったの。 |
| フィリップ | ミリーナ、魔鏡科学研究所に入るって本当 ? |
| ミリーナ | どうしてそれを知ってるの ? |
| カーリャ | カ、カーリャじゃありませんよ !カーリャはマークに何も話してません ! |
| ミリーナ | まあ、カーリャが話したのね。すっかりマークと仲良くなって。何でも筒抜けなんだから。 |
| フィリップ | アハハ、カーリャはいつもマークに先輩風を吹かせてるよね。少しだけカーリャの方が生まれたのが早かったから。 |
| カーリャ | マークは一緒じゃないんですか ? |
| フィリップ | マークがいることがバレたら切り離すように言われちゃうから心の中に入ってもらってるんだ。 |
| カーリャ | ……そうですか。私は免除されてますからね。エネルギー変換されること。 |
| フィリップ | よかったよ。ミリーナは前に心が崩壊しかけていたから宮廷鏡士の人たちも鏡精を切り離すのは危険だと判断してくれたんだね。 |
| ミリーナ | 知らなかったわ……。鏡精がエネルギーに変換されているなんて。 |
| フィリップ | ……そのことは、キラル分子研究に関わる鏡士たちしか知らないんだ。 |
| デミトリアス | フィリップ、珍しいな。王宮に来るなんて。 |
| フィリップ | 殿下 ! |
| デミトリアス | この間の論文を読んだ。流石、フィリップだ。魔鏡技術科の連中も色めき立っていたよ。 |
| デミトリアス | ――きみは、ミリーナだったな。オーデンセのことは残念だった。 |
| ミリーナ | 痛み入ります、デミトリアス殿下。 |
| デミトリアス | そうかしこまらないでくれ。ビフレスト皇国の暴挙は許しがたい。父も対抗手段に出ると言っている。 |
| ミリーナ | はい。微力ながら、私も鏡士としてお役に立ちたいと思っています。 |
| フィリップ | そのことだけど、僕も王立大学を中退して研究所に移ろうと思うんだ。 |
| 三人 | ! ? |
| フィリップ | ミリーナは魔鏡兵器の開発をするんでしょう。僕だってビフレストのことは許せない。研究所からも内諾は貰ってる。 |
| デミトリアス | そうか……。国を預かる立場としては歓迎すべきことだが、学友としては寂しいな。フリーセルやグラスティンも悲しむだろう。 |
| フィリップ | 大学にも顔は出します。研究に関しては共同で行うことも多いでしょうし僕が研究所に籍を置いて、橋渡しができれば……。 |
| デミトリアス | うん、それはいい考えだ。 |
| デミトリアス | それとフィリップ、軍部から気になる報告が上がっている。きみが許可を得ずに鏡精を作ったのではないか、と。 |
| フィリップ | おかしいですね。何かの間違いじゃないですか。僕は今のエネルギーシステムには反対の立場です。鏡精を作ろうなんて思いません。 |
| デミトリアス | ああ、私もそう信じている。だが、あえて言うよ。くれぐれも気を付けて欲しい。私の庇護の手も限界がある。父上に知られたら最後だ。 |
| フィリップ | はい。ご忠告ありがとうございます。 |
| ミリーナ | フィルはミリーナがビフレストへの復讐のために魔鏡兵器研究を行うと知っていた。それで一緒に研究所に入ってくれたの。 |
| ミリーナ | 王立学問所から王立大学、そして魔鏡省の宮廷鏡士になるというエリートコースを捨てて軍部の一組織に過ぎない研究所の研究者に……。 |
| イクス | フィル……。 |
| Character | 5話【9-5 アジト3】 |
| ミリーナ | フィルの協力を得たミリーナは学問所でみるみる成果を上げていったわ。 |
| ミリーナ | イクスの仇を討つために、寝る間を惜しんで研究と実験を繰り返した。 |
| フィリップ | ミリーナ、まだ研究所にいたのか。もう夜も遅いよ。帰った方がいい。 |
| ミリーナ | カーリャが知らせに行ったのね。私がまだここにいるって。 |
| フィリップ | ……お見通しだね。そうだよ。カーリャが心配してマークと僕に相談してきたんだ。ミリーナがもう三日も寝てないって。 |
| ミリーナ | まだイクスの仇を討てていないのよ。もっと頑張らないと。それに、ビフレストとの戦局も厳しい状態だわ。 |
| フィリップ | ああ。ビフレスト皇国の魔鏡兵士には驚かされたよ。 |
| フィリップ | 戦闘人形の中に一時的にアニマを憑依させて前線へ送り込む。あんなものと戦っていてはこちらが疲弊するばかりだ。 |
| ミリーナ | セールンドの戦力が足りずに、大勢のセールンドの人が亡くなったわ。沢山の街が制圧されて、そこに住む何の罪もない人々が殺されていった。 |
| ミリーナ | オーデンセ島と同じように、老若男女を問わず非力な子供達まで……。あいつらはやりたい放題で略奪を行っている。あの戦闘人形を使って。 |
| フィリップ | アニマに直接働きかける武器がなければ僕らは負けてしまう。 |
| フィリップ | デミトリアス殿下もアニマの研究のせいでアニマ汚染されて動けなくなってしまわれた。 |
| ミリーナ | ……ビフレスト皇国に対抗するために色々なアニマ研究が行われたけれどやはり一番有力なのは、私たちのカレイドスコープよ。 |
| ミリーナ | イクスのご両親が研究していたあの魔鏡兵器を発展させれば、ビフレストは戦闘人形を操ることもできなくなる。だから完成を急がないと。 |
| フィリップ | ミリーナは頑張りすぎだよ。カーリャも成体になってきみの体はアニマに汚染され始めた。何もかも早すぎる。 |
| ミリーナ | それはフィルも同じよね。 |
| ミリーナ | ……まあ、私にはフィルほどの力はないからこれ以上アニマ汚染が進行すると使い物にならなくなってしまうけれど。 |
| フィリップ | それがわかっているならもう少し自分の体を労ってくれ。 |
| ミリーナ | ……大丈夫。イクスの仇を討つまでは生きるわ。 |
| フィリップ | その後も、だ。ビフレストを倒したら次は鏡精を救う為のエネルギー装置を開発するんだよ。カーリャだってそれを望んでいただろう ? |
| フィリップ | 鏡精を殺してエネルギーにするシステムは止めるんだ。鏡精を切り離した鏡士は、少しずつ心を失っていく。 |
| フィリップ | それがどれほど苦しいことかはミリーナもよく知ってるはずだ。イクスの力のバックファイアで、ミリーナの心は壊れかけたんだ。 |
| ミリーナ | カーリャのためにも、エネルギー問題は解決しないといけないわね。 |
| フィリップ | データが出てくるのを待っているんだろう ?続きは僕が確認しておく。ミリーナは休んでくれ。 |
| ミリーナ | ……わかったわ。ありがとう、フィル。あなたがいてくれてよかった。フィルがいなかったら私は暴走してばかりだったでしょうね……。 |
| フィリップ | ……いいんだよ。お休み、ミリーナ。 |
| イクス | デミトリアス陛下も兵器開発の研究に関わっていたんだな。 |
| ミリーナ | あの方は研究の前線で指揮を執っていたの。鏡士ではないけれど、よく勉強なさっていたわ。 |
| ミリーナ | そのせいで、別のチームが行っていたアニマのキメラ結合に関する研究の事故に巻き込まれてしまったの。それでアニマ汚染に……。 |
| カーリャ | アニマ汚染って体がしおしおになっちゃうんですよね。 |
| カーリャ・N | 正確に言うと、汚染された細胞が老化し同時に周囲の正常な細胞を攻撃するんです。その為に精神すらも病んでいきます。 |
| カーリャ・N | 鏡士なら魔鏡の力でそれを食い止められますがそうでない人間は、著しく弱ってしまいます。 |
| イクス | 俺が初めて会ったデミトリアス陛下はものすごく老け込んで見えたもんな……。 |
| ミリーナ | あの頃は、大勢の鏡士たちがアニマ汚染と戦いエネルギー供給のために心を削り鏡精を生み出して……地獄だった。 |
| ミリーナ | そして、ようやくカレイドスコープが完成したの。その時の話は――ナーザ将軍からも聞いたわよね。 |
| イクス | ああ。 |
| カーリャ | ミリーナ様。カレイドスコープの試射、成功しました。セールンド軍の被害は軽微です。 |
| ミリーナ | ええ。私も確認したわ。人形兵士たちは崩れてあれを操っていた鏡士も倒れた。敵の撤退も早かったわね。 |
| カーリャ | 敵に、あのバルドの姿もありました。あの男なら逃げ足も速いかと。 |
| ミリーナ | カーリャ……。あなた、すっかり軍人みたいね。 |
| カーリャ | みたい、ではなく、軍人です。ミリーナ様を守るために王宮騎士の地位を頂きました。カーリャはミリーナ様にどこまでもお供します。 |
| ミリーナ | ……何度止めても言うことを聞いてくれなかったものね。 |
| ミリーナ | 心の中に戻しても、ずっと文句を言っていたから根負けしちゃったわ。 |
| カーリャ | もしオーデンセが襲撃されたときカーリャに今の力があればイクス様を助けられたかも知れない。 |
| カーリャ | ……そう思うと、自分だけ何もしないのが嫌なんです。 |
| ミリーナ | カーリャは、何度か戦場でバルドと戦っているのよね。彼はどう出てくると思う ? |
| カーリャ | ……ウォーデンが考えを変えない限り完全に撤退することはないと思います。 |
| カーリャ | ただ、戦闘人形が無力になったとわかった今戦力が足りないのはわかっている筈です。 |
| カーリャ | ビフレスト本国に援軍を求める間は大人しくしているのでは。 |
| ミリーナ | そう……。だったら、今が攻め時ね。 |
| カーリャ | バルドを追撃しますか ? |
| ミリーナ | いいえ。西に展開しているローゲの軍を潰すことを提案するつもりよ。 |
| カーリャ | ……いよいよ、敵討ちの始まりですね。 |
| ミリーナ | ええ。 |
| Character | 6話【9-5 アジト3】 |
| ミリーナ | カレイドスコープは、恐ろしいほどの威力だった。劣勢だったセールンド王国は息を吹き返したわ。 |
| ミリーナ | けれど、やがて王都を中心に、カレイドスコープの開発者は魔女だという噂が流布するようになった。 |
| ミリーナ | あとでわかったことだけれど、それはビフレスト皇国の攪乱作戦の一環で、主導していたのは国内に入り込んでいたビフレストの工作員だった。 |
| カーリャ・N | フリーセルの一派ですね。 |
| イクス | フリーセルって、確か救世軍の創始者だった人だよな。 |
| カーリャ・N | はい。あの男は、正体を隠して魔鏡技師としてセールンドに入り込んだビフレストの工作員でした。 |
| カーリャ・N | 何度か告発もあったのですが、情報の出所が怪しいのとデミトリアス殿下のご学友だったために監視を強化するに留められたのです。 |
| ミリーナ | セールンド軍内部でもミリーナに対する評価は二分されていた。ガロウズと出会ったのもその頃よ。 |
| セールンド軍兵士 | ――大変です ! カレイドスコープの目標地点に我が軍の兵士が一名走って行きます ! |
| セールンド軍部隊長 | 何 ! ? どこの部隊の兵士だ ! ? |
| セールンド軍兵士 | 第三補給部隊の少年兵と思われます ! |
| セールンド軍部隊長 | くっ、すでにカレイドスコープへのエネルギー充填は始まっている。計画を止めることはできないぞ。 |
| セールンド軍部隊長 | 敵の総大将はウォーデン・ロート・ニーベルングだ。この機を逃すわけには―― |
| ミリーナ | 待って下さい。キラル分子の流入量を絞れば起動まで多少の時間は稼げます。 |
| セールンド軍部隊長 | ミリーナさん。あなたは素人だ。新しいビクエ様からの推挙で、司令官と同等の権限を持っていようとも、この場の指揮権は私にある。 |
| ミリーナ | 承知しています。ですが、ここで味方を見殺しにすれば前線の兵士たちの士気に関わります。 |
| ミリーナ | 私に行かせて下さい。カレイドスコープへのエネルギー充填が完了したら、私が戻るのを待たずに即座に撃って構いません。 |
| カーリャ | ミリーナ様 ! ? |
| ミリーナ | カーリャ、充填完了のタイミングを知らせて。それで何とかできる。 |
| セールンド軍部隊長 | ……魔女め。雑兵たちのご機嫌取りか。 |
| セールンド軍部隊長 | まあ、いいでしょう。ご自由にどうぞ。 |
| ミリーナ | (少年兵が向かったというのはこの辺り……) |
| カーリャ | ミリーナ様 ! カレイドスコープのエネルギー充填が完了しました !60秒後に発射です ! |
| ミリーナ | カーリャ ! 少年兵はどこ ! ? |
| カーリャ | 10時の方向ですが、これ以上進むとカレイドスコープの効果範囲に入ってしまいます ! |
| ミリーナ | ――まだ間に合う ! |
| カーリャ | あと30秒 ! 無理です ! 戻って下さい ! |
| 少年兵 | うわああああっ ! ? |
| ミリーナ | 今の声は―― |
| バルド | ガロウズ ! 逃げなさい ! |
| シドニー | 逃げてっ ! ! ガロウズ ! ! |
| カーリャ | 発射されました ! ミリーナ様っ ! ! |
| ミリーナ | (見つけた ! あの子だわ ! ) |
| ミリーナ | 手を伸ばして ! 早く ! |
| 少年兵 | ! ! |
| ミリーナ | ――……そう。ビフレスト軍に恋人がいたのね。 |
| 少年兵 | 軍規違反……ですよね。構いません。処分して下さい。俺は……あいつを……シドニーを助けられなかった……。 |
| ミリーナ | ……あなた、名前は ? |
| 少年兵 | ガロウズ……。 |
| ミリーナ | ガロウズ、帰りましょう。腕の治療が必要よ。それに、ここでの戦いは終わったわ。カレイドスコープが全てを消し去ってしまった。 |
| ガロウズ | カレイドスコープ……あんなもの !いきなり攻め込んできたビフレストもあんなものを造ったセールンドも、みんな狂ってる ! ! |
| ミリーナ | ……そうね。あなたの言う通りよ。 |
| ガロウズ | ……すみません。あなたは……ええっと―― |
| ミリーナ | 私はミリーナ・ヴァイスよ。 |
| ガロウズ | カ、カレイドスコープを造った魔女…… ! ? |
| イクス | バルドさんとシドニーが戦死した戦いか……。 |
| ミリーナ | ええ。そして、この時だったわ。ビフレスト軍のいた地点で、妙な空間のひずみを観測したのは。それが死の砂嵐の予兆だったの。 |
| カーリャ・N | ミリーナ様とフィリップ様はカレイドスコープ使用の即時停止を訴えました。 |
| カーリャ・N | ですが、デミトリアス殿下はアニマ汚染で臥せっており国王陛下はお二人の言葉を聞き入れてはくれませんでした。 |
| カーリャ・N | 戦場に引きずり出したビフレストの皇太子ウォーデンを消滅させるために、カレイドスコープは乱発されひずみは世界中で観測されるようになりました。 |
| ミリーナ | ウォーデンの死後、しばらくしてビフレストが降伏したわ。皇妃とまだ小さな皇女――メルクリアが、人質としてセールンドへやってきた。 |
| ミリーナ | 死の砂嵐が発生したのは、その直後よ。 |
| ミリーナ | ……お疲れ様、フィル。ビフレストの皇族の様子はどう ? |
| フィリップ | うん……。皇女の方は元気だけれど、皇妃がね……。食事もろくに手を付けないらしい。 |
| ミリーナ | ここは敵国ですものね。 |
| フィリップ | ミリーナ……王都を出るって本当 ? |
| ミリーナ | またカーリャとマークね。二人ともお喋りなんだから。 |
| フィリップ | オーデンセ島に戻るの ? |
| ミリーナ | ええ……。イクスの仇は討ったわ。もう十分すぎるほどに。魔女はそろそろ表舞台から消えないと。 |
| カーリャ | ミリーナ様 ! フィリップ様 ! 大変です !セールンドの上空に、ギラギラと虹色に光るオーロラのようなものが発生しています ! |
| フィリップ | ……待ってくれ。まさかそれはキラル分子の異常収縮現象か ! ? |
| ミリーナ | ――ひずみは ! ? |
| カーリャ | マークが今情報を集めています ! ただ―― |
| マーク | フィル ! ヤバいぞ ! セールンドの真裏にあった次元亀裂κが急速に広がってる ! こいつはお前が予測していたアニムス崩壊じゃないのか ! ? |
| ミリーナ | フィル ! アイギスを展開しましょう ! |
| フィリップ | 迷ってる暇はなさそうだ。やろう ! |
| イクス | その時、もうアイギスがあったのか ! |
| ミリーナ | ええ。ひずみを研究して、それが次元の亀裂だと仮説を立てたミリーナとフィルはいざというときの為の防御装置を準備していたの。 |
| ミリーナ | でもアイギスの展開より、死の砂嵐のスピードの方が遥かに速かった。守れたのはセールンド諸島の周辺だけだった。 |
| ミリーナ | その時外遊に出ていた国王陛下も亡くなってしまってセールンド王国は混乱したわ。 |
| ミリーナ | そしてミリーナはゲフィオンになってフィルと一緒に過去から世界を具現化することに決めたの。 |
| Character | 7話【9-6 アジト4】 |
| ミリーナ | これがゲフィオンの歩んできた道よ。私たちとゲフィオンたちの違いでもあるわね。 |
| イクス | ああ。やっぱりオーデンセでのピクニックから枝分かれしている感じだよな。 |
| イクス | ミリーナが受け継いだ記憶の中で他に重要そうなことはあるか ? |
| ミリーナ | そうね。やっぱり、バロールに関する記憶かしら。 |
| イクス | やっぱり、ゲフィオンはバロールのことを知っていたのか ! ? |
| ミリーナ | ええ。彼女がバロールに関わる情報を入手したのは過去から世界を具現化する時のことよ。 |
| ミリーナ | 過去のオーデンセ島をサーチしようとした時に一瞬、紋章が魔鏡に浮かび上がったの。 |
| ミリーナ | ゲフィオンはその紋章に心当たりがあった。イクスから貰った婚約指輪に刻まれていたから。 |
| ミリーナ | その指輪をはめて魔鏡に触れたときイクスの両親からのメッセージが再生されたの。 |
| イクス | 母さんたちの遺言か ! |
| ミリーナ | ええ。それでバロールのことを知ったんだけど……。多分あの指輪がないとメッセージは再生されないわよね。 |
| ミリーナ | 指輪はゲフィオンが持っているから……。 |
| イクス | 指輪……。指輪って……あれ、か ? |
| カーリャ | へ ? イクスさま、何か心当たりがあるんですか ? |
| イクス | 俺、ゲフィオンと一緒に魔鏡結晶の中にいただろ。あの時、ゲフィオンが指にはめていた指輪のことかなって……。 |
| イクス | 待ってくれ。今、具現化してみる。 |
| イクス | (思い出せ……。あの時のあの指輪……) |
| ゲフィオン | その目はイクスと繋がっている。自分のアニマとイクスのアニマを重ねて合わせて、死を放て。それこそが鏡精に与えられた禁断の魔眼だ。 |
| イクス | (……そういえば、あの時のゲフィオンの言葉。あれは……何だ ?) |
| イクス | (あの時は酷い痛みで、きちんと考えられなかったけどあの時だけ、やけにゲフィオンの言葉がはっきり聞こえた気がする) |
| イクス | (それに、記憶を切り離したゲフィオンが何故あんなことを言えたんだろう) |
| イクス | (もしかしてあれは……ゲフィオンじゃなかったのか ?だとしたら、あの言葉は――) |
| カーリャ・N | イクス様 ! ? |
| イクス | ! ! |
| 女性の声 | イクス。20歳の誕生日、おめでとう。あなたがこのメッセージを見ているということは私たちはあなたの傍にいられない状態なのでしょうね。 |
| 男性の声 | でも、お父さんが――お前にとってのお祖父さんがきっとお前を立派に育ててくれたと信じているよ。 |
| イクス | え ! ? 魔鏡から声が……。 |
| 女性の声 | あなたは知っているかしら。自分がバロールの血を引きバロールの魔眼を受け継ぐ子供だということを。 |
| 男性の声 | オーデンセという島は、この世界の原初からある島だ。伝承によれば、この地にバロールの血族がいるのは罪人を留め置くためだという。 |
| 男性の声 | 今ではバロールの力が罪であるかのように言われているが、決してそうではない。そのことを私たちは、セールンドに来て知り得た。 |
| 男性の声 | だからイクス、お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。 |
| イクス | (これがイクスさんが言っていた母さんたちの遺言…… ?) |
| 女性の声 | この世界は大きく揺らぎ始めているわ。セールンドで作り出されたキラル分子供給のしくみが罪人の揺り籠であるこの世界を滅ぼそうとしているの。 |
| 女性の声 | 世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。 |
| 男性の声 | 成人したお前に伝える言葉が、こんなものになってしまったことが残念だ。なんの憂いもなくただお前を祝ってやりたかった。 |
| 男性の声 | 鏡精を生み出せる力を得たら、墓守の街へ行きなさい。私たちの言葉の意味がわかるだろう。 |
| 女性の声 | 私たちはいつも祈っているわ。あなたが健やかであることを。イクス、どうか、いつまでも元気で……。 |
| イクス | ……今のは……。 |
| ミリーナ | ゲフィオンが聞いたメッセージと同じよ !でもどうして ? |
| イクス | わからない……。ゲフィオンのしていた指輪を具現化しようと思って……。それで記憶を探っていたときに、突然……。 |
| イクス | (あれはゲフィオンじゃなくて……俺の中のバロールだったのか ?それがゲフィオンからの言葉のように感じた ?) |
| ミリーナ | ゲフィオンも今のメッセージを聞いたの。そしてオーデンセ島が襲われた時のことを思い出してビフレストの狙いがイクスだったことに気付いた。 |
| ミリーナ | そこから彼女のバロールに関する調査が始まったわ。 |
| カーリャ・N | 墓守の街と呼ばれる場所にも調査に向かわれました。すでに廃村になっていて、バロールのこともルグの槍に関する手かがりも見つからなかったそうです。 |
| イクス | ルグの槍……。バロールの残滓から受け渡された記憶でも聞いた言葉だ。 |
| イクス | 今まで色んな人たちから聞いた話を総合するとルグの槍はニーベルングとティル・ナ・ノーグを繋ぐ何かのことじゃないか ? |
| ミリーナ | バロールは、リビングドールにされたイレーヌさんの体に、ルグの槍が刻まれているとも言っていたわよね。 |
| イクス | ゲフィオンは、何か他にバロールに関することを知らなかったのか ? |
| ミリーナ | バロールのことを知ったのが、死の砂嵐の後だったから辿れそうな資料はほとんど残っていなかったの。唯一セールンドの王宮で古い写本を見つけたぐらいね。 |
| ミリーナ | ティル・ナ・ノーグの創世神話の古い形の書記よ。ゲフィオンは解読を試みていたのだけれど中断することになってしまって……。 |
| イクス | どうしてだ ? |
| カーリャ・N | 解読は、世界の具現化と並行して行われていました。けれど、アイギスが破壊され、せっかく過去から具現化した世界も消失してしまった。 |
| カーリャ・N | 異世界からの具現化に舵を切るためバロールの情報を辿ることを中断せざるを得なかったんです。 |
| イクス | 二人目の俺が……死んだときか。写本はまだ残ってるのかな ? |
| ミリーナ | ええ、多分。だけどデミトリアス陛下が持っているんじゃないかしら。 |
| イクス | くそっ。王宮にあった本なら、そうなるか……。 |
| イクス | いや、でも、まだ王宮を探したわけじゃないよな。 |
| ミリーナ | ええ。この記憶のパーツを組み合わせることができたのがついこの間だから。 |
| イクス | だとしたら、その写本を探してみないか ? |
| ミリーナ | ええ、そうね。けど、その前に―― |
| イクス | ? |
| ミリーナ | 私、イクスや自分が生み出されたときの記憶も受け継いだわ。確かに記憶を改ざんしようと提案したのはフィルだった。 |
| ミリーナ | でも……結局はゲフィオンも過去の後悔から逃れようとして『イクスを優先しなかった』記憶を改ざんした。 |
| ミリーナ | 私に、何においてもイクスを優先するように植え付けたわ。 |
| イクス | ……うん。 |
| ミリーナ | 私は……滅びの夢を見るようになってから少しずつゲフィオンの――最初のミリーナの記憶に侵蝕されて、境界が曖昧になっていった。 |
| ミリーナ | 私は常に最初のミリーナで、ゲフィオンでそして二人目のミリーナでもあった。 |
| イクス | うん、ミリーナも苦しいよな……。 |
| ミリーナ | ……苦しい、とはちょっと違うかも知れないわ。どちらかというと、申し訳ないの。 |
| ミリーナ | ゲフィオンの気持ちを切り離せなくて私はイクスに色々な感情を重ねてきた。 |
| イクス | ミリーナ……。それは、どういう意味だ ? |
| ミリーナ | 私は今のイクスが好きよ。前にも言った通り。けど、私が受け継いだ記憶と感情はイクスに違うイクスを重ねようとする。 |
| ミリーナ | そして歪められた記憶はイクスを不必要なまでに守ろうとしてしまう。だから、イクス、お願い。本当の気持ちを言って。 |
| イクス | ! ! |
| ミリーナ | それで、私の中のゲフィオンを葬り去るわ。 |
| イクス | ……気付いてたのか、ミリーナ。 |
| ミリーナ | わかるわよ。だって、私、イクスのことが本当に好きなんだもの。だから……わかっちゃうの。 |
| イクス | ……ごめん、ミリーナ。俺は、ミリーナが好きだよ。大切だし、守りたいって思ってる。でもそれは姉弟とか親友みたいな……そんな気持ちなんだ。 |
| イクス | 前にミリーナがオーデンセで、今の俺のことを好きだって言ってくれたとき、俺は救われた。だけど……俺は、多分、ミリーナを愛してない。 |
| ミリーナ | ……ええ、そうね。多分最初からそうだったのよね。 |
| ミリーナ | でも、私はそれでいいと思っていた。私がイクスを好きなのは当然のことで見返りもいらないし、イクスが幸せであればいいって。 |
| ミリーナ | でもそれこそが、ゲフィオンの感情だったの。ありがとう、イクス。これで私は、ちゃんと私になっていけると思う。 |
| イクス | ミリーナ……ごめん。俺……。 |
| ミリーナ | 私こそ、ごめんなさい。言いにくいことを言わせて。 |
| カーリャ・N | ミリーナ様……。 |
| カーリャ | ………………。 |
| ミリーナ | ――さ、これで記憶の確認はおしまい。今の私は、ゲフィオンの知識をフル活用できる存在よ。きっと帝国に対抗する力になれるわ。 |
| イクス | ……あ、ああ、わかった。 |
| Character | 8話【9-6 アジト4】 |
| ルーティ | ねえ、リリス。こっちのスープ、ちょっと味見してくれない ? |
| リリス | はい、わかりました。それじゃあ、いただきますね。 |
| リリス | ――うん ! バッチリ !さすがルーティさんですね。 |
| ルーティ | よし、これでお腹空かせて帰って来る連中にたっぷり食べさせてやれるわね。 |
| リリス | そういえば、ルーティさん。どうしてルーティさんはお兄ちゃんたちと一緒に行かなかったんですか ? |
| ルーティ | ん ? まぁ、ディムロスたちの部隊の訓練に付き合うってのも柄じゃないしね。何か報酬が出るなら別だったんだけど。 |
| ソーディアン・アトワイト | もう、ルーティったら。スタンさんもカイルさんも残念そうにしてたわよ。 |
| ルーティ | えっ ? そうだっけ ? 全然気づかなかったわ。 |
| リリス | それなら、お兄ちゃんたちが好きな料理を一品増やしておきましょうか。 |
| リリス | 二人とも、ルーティさんが作ってくれたって言ったらきっと喜びますよ。 |
| ルーティ | そうね……あいつらも色々と頑張ってるみたいだしそれくらいはしてあげようかしら。 |
| ルーティ | あれ ? 魔鏡通信ね。噂をすればあいつらのほうから連絡が来たかも。 |
| ロゼ | ルーティ、あたし。今、話しても大丈夫 ? |
| ルーティ | ロゼ ? 別にこっちは平気だけど、どうしたの ? |
| ロゼ | それが、セキレイの羽のネットワークであたしのところにSOSが来てさ。ルーティたちにも少し関係ある話なんだよね。 |
| ルーティ | あたしに ? |
| ロゼ | うん。ルーティに頼まれてセキレイの羽でも支援してた施設があったでしょ ? そこから連絡があって子供が何人かいなくなったらしいの。 |
| ルーティ | えっ、チビたちが ! ? どうして ! ?まさか……誰かに誘拐されたとか ! ? |
| ロゼ | ううん。子供たちは手紙を残してったみたいでね。「すぐに帰って来るから心配しないで」って書いてあったから、自分たちで出て行ったんだと思う。 |
| ロゼ | それでさ、いなくなった子供の中にルーティやイクスたちの知ってる子もいたから一応、先に連絡しておくことにしたんだよ。 |
| ルーティ | あたしたちが知ってる子って、まさかエリック ! ? |
| リリス | エリック ? |
| ルーティ | ああ、そっか……。リリスたちには詳しく話してなかったわね。 |
| ソーディアン・アトワイト | まだ私たちが具現化されたばかりの頃に見つけた迷子の男の子のことよ。その子、特にイクスさんによく懐いていたわね。 |
| ロゼ | どうする ? ぶっちゃけ、子供だし行動範囲も限られるだろうから、あたしたちセキレイの羽だけでなんとか見つけられると思うけど……。 |
| ルーティ | ……ううん。あたしも捜しに行く。それにあのチビ……ちょっと無茶するところがあるから心配なのよね……。 |
| ロゼ | 了解。あっ、それともう一つ。今、あたしたちは周辺の街を捜してるんだけど気になることがあってさ。 |
| ルーティ | 気になること ? |
| ロゼ | そのいなくなった子供たちに、ウチのメンバーがテルカ・リュミレース領のことを話したんだって。今思えば、その時ちょっと様子がおかしかったみたい。 |
| リリス | じゃあ、その子供たちはテルカ・リュミレース領へ向かったかもしれないってことですか ? |
| ソーディアン・アトワイト | だけど、ファンダリア領から随分と距離があるわよ。行くとすれば、船を使うことになるわ。 |
| ルーティ | ってことは、貨物船か何かに勝手に乗り込んだかもしれないわね。 |
| ソーディアン・アトワイト | でも、子供たちだけでそんなことできるかしら ? |
| リリス | 多分、できると思いますよ。お兄ちゃんだって、飛行竜に勝手に乗り込んでましたし。 |
| ルーティ | そうね。あのスタンにできて、チビたちにできないってことはないはずよ。 |
| ソーディアン・アトワイト | スタンさんって、あなたたちの中ではまだ子供扱いなのね……。 |
| ロゼ | オッケー。一応、港の貨物船の便もこっちで調べとくけど、ルーティもあたしたちと合流する ? |
| ルーティ | ううん。あたしはアジトからテルカ・リュミレース領に向かうわ。そっちのほうが手分けして捜せるでしょ ? |
| ルーティ | それに、多分ファンダリア領にはまだスタンたちがいると思うから、ロゼたちと合流できないか連絡してみるわ。 |
| ロゼ | わかった。それじゃあ、一旦切るよ。新しい情報が入ったら、すぐ連絡入れるから。 |
| リリス | あの、ルーティさん。私も一緒に行きましょうか ? |
| ルーティ | ありがとう。けど、そしたらお腹空かせて帰ってきた奴らががっかりするだろうしリリスはそのままご飯の準備を頼めるかしら。 |
| ルーティ | それに、迷子探しなんて昔はよくやってたしあたしの手ですぐチビたちを見つけてくるから。 |
| ソーディアン・アトワイト | ルーティ、念のため、イクスさんたちには連絡しておいたほうがいいんじゃないかしら ? |
| ルーティ | そうね。きっとイクスも心配するわよね。あのチビのことだし……。 |
| イクス | ルーティ ? 俺がどうかしたのか ? |
| ルーティ | イクス ! 丁度良かったわ !ちょっと話したいことがあるの。 |
| イクス | ……わかった。ルーティ、俺も一緒にエリックを捜しに行くよ。 |
| ミリーナ | イクス、私も行くわ。あの子がいなくなったのなら私だって無関係じゃないもの。 |
| イクス | ミリーナ。だけど……。 |
| ミリーナ | ……大丈夫よ。それに、今は不思議と落ち着いているの。だから、心配しないで。 |
| カーリャ・N | では、私も小さいミリーナ様たちに同行します。 |
| カーリャ | 当然、カーリャも一緒に行きます。それに、カーリャがいないとイクスさまも子供の相手は大変ですからね。 |
| イクス | カ、カーリャ……。俺だって成長してるんだからな。 |
| ルーティ | じゃあ、これで決まりってことで。リリス、悪いけど後のことはお願いね。 |
| リリス | わかりました。では、みなさん、美味しいご飯を作って待ってますので、無事に帰って来てくださいね。 |
| Character | 9話【9-7 テルカ・リュミレース領 遺跡1】 |
| エステル | みんな、お待たせしました。 |
| カロル | エステル、フレン。いや、ボクたちもさっき着いたところなんだけど……。 |
| フレン | ……何かあったのかい ? |
| ユーリ | 口で説明するよりあいつらの様子を見たほうが早いかもな。 |
| 帝国兵A | 増援だと ? ふざけるな。ここの持ち場は我々だけで十分のはずだ。お前たちのような【亜人】と一緒に行動するなど不愉快だ ! |
| 帝国兵B | 我々は【亜人】ではないと言っているだろう !そういう貴様たちこそ【亜人】ではないのか ? |
| 帝国兵A | なんだと ! 俺たちを侮辱してやがるのか ! |
| 帝国兵B | 先に侮辱してきたのは貴様らのほうだろう !命令が聞けないのならば、相応の対処をさせてもらう ! |
| 帝国兵A | そっちがその気なら、俺たちも容赦せんぞ ! |
| フレン | ……彼らは一体、どうしたんだ ? |
| ジュディス | さあ ? 私たちが来たときからずっとあんな感じよ。 |
| レイヴン | はぁ……。どこの部隊もいざこざがあるのかねえ。おっさん、ああいうの見ると、ちょっと悲しくなるわ。 |
| ユーリ | けど、おかげで警備なんてあってないようなもんだ。悪ぃが、そのままあいつらには揉めてもらってたほうが都合がいいぜ。 |
| カロル | そうだね。これならボクたちが勝手に遺跡に入ってもバレないだろうし。 |
| ラピード | ワンッ ! |
| ユーリ | さて、アレクセイの奴が何企んでんのか知らねえが反省してねえようなら、また熱いお灸を据えてやらねえとな。 |
| レイヴン | あ~、随分と奥まで来たけどそれらしいものは何もないんじゃない ? |
| カロル | もしかして、アレクセイたちが先に目的のものを持ち出しちゃったのかな ? |
| ユーリ | それが持ち出せる代物かもわかんねえぜ ?なんたって、あのザウデを復活させたやつの考えることだ。 |
| レイヴン | こっちでも、魔導砲なんて物騒なもん奪い取ろうとしてたしね。 |
| フレン | とにかく、帝国兵だけじゃなく、アレクセイの部隊とも鉢合わせる可能性がある。警戒は怠らないようにしよう。 |
| ジュディス | 待って。誰かいるみたいよ。 |
| ラピード | グルルルル…… ! |
| ユーリ | おっと、やっとおでましか ? |
| ? ? ? | 誰だ、お前たちは ? |
| ジュディス | あら、人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るものじゃないかしら ? |
| レイヴン | そうそう、ジュディスちゃんの言う通りよ。ちなみに、おっさんたちは怪しい者じゃないんでそこんとこ宜しく。 |
| カロル | うわぁ……一番レイヴンに似合わない台詞……。 |
| レイヴン | ちょっと少年、聞こえてるわよ。 |
| ? ? ? | 帝国の者ではないか……。ならば、お前たちに用はない。 |
| エステル | あっ……行ってしまいました……。 |
| カロル | 誰だったんだろう…… ? |
| ユーリ | あの口ぶりからするとあいつも帝国の人間、ってわけじゃなさそうだったな。だが……。 |
| フレン | ユーリ、きみも気付いてたんだね。 |
| ユーリ | ああ……。さっきのやつ、只者じゃねえな。 |
| ジュディス | 考えたって仕方ないわ。私たちは私たちのすべきことをしましょう。 |
| ユーリ | ……だな。よし、行くぞ、みんな。この奥の部屋で最後だ。 |
| フレン | そんな…… ! これは…… ! |
| カロル | な、なっ………… ! |
| レイヴン | ……少年。それに嬢ちゃんはあまり見ないほうがいい。 |
| エステル | わ、わたし ! すぐに治療を…… ! |
| ジュディス | 駄目よ、エステル。もう手遅れよ。 |
| エステル | そんな…… ! |
| ユーリ | どいつもこいつも、派手にやられてやがる。だが、まだ血が固まってないところをみるとそんなに時間は経ってねえってことか……。 |
| ラピード | クゥーン……。 |
| フレン | ユーリ、どう思う ? |
| ユーリ | 状況から考えて、一番怪しいのはさっきの男だが断言はできねえし、目的もわからねえ。 |
| フレン | やられた人たちは、帝国兵ではないね。だとしたら、アレクセイの部下である可能性も……。 |
| ユーリ | さっきのやつを追いかけて問い詰めりゃあ何かわかるかもしれねえな。 |
| カロル | ユ、ユーリ。あれ…… ! |
| ユーリ | どうした、カロル ? |
| カロル | あの台座みたいな場所に何かあるよ。 |
| ユーリ | みたいだな。ちょっと待ってろ。オレが取ってくる。 |
| ユーリ | よっと。こいつは……心核か ? |
| エステル | 心核 ? ですが、どうしてこんなところに ? |
| ユーリ | わからねえことだらけだな。この部屋だって、ほかのところと違って随分と仰々しい感じになってるしな。 |
| ジュディス | そうね。しいて言えば、何か儀式をするような祭壇って感じかしら ? |
| エステル | こんなとき、リタがいてくれたら助かるんですが……。 |
| ユーリ | この心核の正体を調べてもらう為にも一旦ここを離れてアジトに連絡を入れたほうがよさそうだ。 |
| フレン | 僕も賛成だ。それに、これだけの騒ぎがあればさすがに帝国兵たちも異変に気が付くはずだしね。 |
| エステル | …………。 |
| フレン | エステリーゼ様、どうされましたか ?やはり、このような光景を見てしまっては具合が……。 |
| エステル | いいえ……。わたしは大丈夫です。ですが……この人たちにも、家族や友人がいたかと思うと……。 |
| ユーリ | ……エステル。オレたちはそういう奴らが犠牲にならねえように帝国と戦ってる。今は落ち込んでる場合じゃねえぞ。 |
| エステル | ……はい。 |
| フレン | エステリーゼ様。あなたのその優しさが必ず多くの人を救うことになります。どうか、その心を大切にしてください。 |
| エステル | フレン……。 |
| ジュディス | そうね。優しさは時に甘さになるけれどあなたの場合は、それを強さに変えられる力があるわ。 |
| レイヴン | そうそう、嬢ちゃんみたいな子がいるおかげで世の中が平和になっていくんじゃない ? |
| ラピード | ワンッ ! |
| カロル | うん、ユーリもエステルにそう言いたかったんだよね ? |
| ユーリ | ……ったく、カロル先生には敵わねえな。 |
| エステル | ユーリ、みんな……。本当に、ありがとうございます。 |
| ユーリ | んじゃ、まずはさっきの奴を追いかけるとしようぜ。 |
| Character | 10話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】 |
| ゴーシュ | ――よし、港に到着したな。 |
| エリック | ゴーシュお姉ちゃん、これからどうするの ? |
| ゴーシュ | まずはこの港町で情報を集める。エリックとライアンは私たちと一緒に付いてこい。 |
| ライアン | ……ぼくたち、勝手に船に乗ったことバレたりしないかな ? |
| ドロワット | へ~きへ~き。このままバレずに、逃げろや、逃げろ~。すたこら逃げろ~ ! |
| 警備兵 | ……ん ? おい、待て、お前たち。 |
| 四人 | ! ? |
| 警備兵 | 今、この船から降りてきたようだがお前たちだけで乗船していたのか ? |
| ゴーシュ | ……そうだけど、何 ? |
| 警備兵 | いや、先ほど船に密航しようとした男がいてな。その男の行方を調査しているところだ。 |
| ゴーシュ | 生憎だが、私たちは無関係だ。早くその男を見つけることだな。 |
| 警備兵 | そうしたいところだが、念のため、お前たちの乗船券を見せて貰えないか ? |
| ゴーシュ | ! ? な、なぜそんなことを確認する必要がある ? |
| 警備兵 | 言っただろう。念のためだ。なんせ、その密航者は警備兵を殺して逃走している。事が事だけに、捜査は入念にしておきたい。 |
| 警備員 | お前たちはまだ子供のようだがその密航者の関係者という可能性もある。さあ、乗船券を見せて貰おうか ? |
| ゴーシュ | ……くっ。 |
| ミリーナ | 時刻表通りなら、ファンダリア領からの船はもう到着しているはずね。 |
| ルーティ | ええ、まずはその船を探しましょう。 |
| イクス | ………… ? |
| カーリャ・N | イクス様 ? どうかされましたか ? |
| イクス | いや、少し港の様子がおかしいというか変な緊張感が漂っている気がするんだ。 |
| カーリャ | う~ん、確かに警備兵みたいな人たちが沢山いますね。 |
| カーリャ・N | 前にアレクセイ様がテルカ・リュミレース領で大規模なクーデターを起こしましたからその影響なのかもしれません。 |
| ルーティ | あたしたちも帝国兵に見つかったら厄介だわ。早いとこ停泊場に行きましょう。 |
| イクス | ああ。でも、停泊場はすぐそこに―― |
| 警備兵 | ――どうした ? 早く乗船券を見せろ。 |
| ドロワット | えっと、えっと……。 |
| 警備兵 | まさか、お前たち。本当に……。 |
| イクス | ルーティ ! あそこにいる子供って…… ! |
| ルーティ | あれは……間違いないわ ! あのチビよ ! |
| カーリャ | で、でも、なんか空気がピリピリしてませんか ? |
| ミリーナ | イクス、行ってみましょう ! |
| イクス | ああ ! |
| ルーティ | ちょっと、チビ ! あんた、こんなところで何してんのよ ! ? |
| エリック | ……えっ ? ルーティお姉ちゃん ! ?それに…… ! |
| イクス | エリック……。良かった、無事だったんだな ! |
| 警備兵 | なんだ、お前たちは ?この子供たちのことを知っているのか ? |
| ルーティ | 知ってるも何も、あたしらはこの子たちを捜してたのよ。 |
| ミリーナ | あの、何かあったんですか ? |
| 警備兵 | いや、保護者がいたのならいいんだがさっきから、なかなか乗船券を見せてくれなくてな。この子たちが密航者ではないかと疑っていたところだ。 |
| イクス | 乗船券……。 |
| 警備兵 | だが、やはりこの目で確認はしておきたい。さあ、乗船券を見せろ。 |
| ゴーシュ | それは…… ! |
| イクス | あ、あの ! それ、俺がみんなの分を預かってます ! |
| 五人 | えっ ! ? |
| 警備兵 | そうか。ならば、確認させてもらおう。 |
| イクス | はい、どうぞ。ちなみに、俺たちの分の乗船券もあります。 |
| 警備兵 | ……ふむ。確かに、先ほどの便の乗船券の半券だな。しかし、わざわざ貨物船に乗らなくても客船を選べばよかっただろうに。 |
| イクス | はは、そうですよね。俺、前に海の仕事をしていて客船とは違う船をみんなに見せたくて……。色々と誤解させたみたいですみません。 |
| 警備兵 | 変わった奴らだな……。 |
| 警備兵 | そうそう。先ほど子供たちには伝えたが、まだ密航者が近くにいるかもしれないから、気を付けるんだぞ。 |
| ドロワット | あ、危なかったの…… !助けてくれてありがとなのぉ ! |
| ゴーシュ | だが、お前たちは……。エリックの知り合いなのか ? |
| エリック | ……お兄ちゃん ? 本当に、イクスお兄ちゃんなの ! ? |
| イクス | え…… ? ああ、そうか。最初に会ったときと服装と髪型が少し変わったから気付きにくいか。 |
| イクス | 久しぶりだな、エリック。ごめんな、なかなか会いに行けなくてさ。 |
| ライアン | この人が、イクスお兄ちゃん……。 |
| エリック | そうだぞ、ライアン ! ボクの言った通りだろ !イクスお兄ちゃんは、ボクを助けてくれるヒーローなんだ ! |
| イクス | ヒーローって、そんな大袈裟な……。けど、無事で安心したよ。 |
| ルーティ | ほんと、心配かけさせんじゃないわよ。あとでたっぷり説教してあげるから覚悟しなさい。 |
| エリック | うっ……ご、ごめんなさい……。 |
| カーリャ | あ、あの、イクスさま ?カーリャ、どうしてイクスさまが乗船券なんて持ってたのか、さっぱりなんですけど……。 |
| カーリャ・N | 具現化の力、ですね。 |
| イクス | ああ、咄嗟に思いついたことだけど上手くいって良かったよ。 |
| ミリーナ | 瞬時に状況を把握して動くなんて、さすがイクスね。 |
| ルーティ | それより、チビ。あんたたちが、こんなところにいる理由を話してもらうわよ。 |
| ルーティ | って言っても、そこにいる女の子たちを追いかけていったってところまではあたしたちも知ってるんだけどね。 |
| イクス | あれ ? この二人……。 |
| ゴーシュ | な、なんだ。人の顔をジロジロと……。 |
| ドロワット | 私たち、怪しい者じゃないだわん。 |
| イクス | あの、もしかして二人はゴーシュさんとドロワットさんじゃないか ? |
| 二人 | ! ! |
| カーリャ・N | イクス様、お知り合いですか ? |
| イクス | いや、鏡映点リストの特徴とぼやけた写真が二人と一致するんだ。ユーリさんたちの世界の人だと思うんだけど……。 |
| ゴーシュ | ユーリ……だと !お前たち、ユーリ・ローウェルを知っているのか ! |
| ルーティ | ど、どうしたのよ急に ! |
| ドロワット | 答えてほしいの !私たちにとっては、とっても重要なことなのよ ! |
| Character | 11話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】 |
| ゴーシュ | ――つまり、私たちは鏡映点という存在で本来の私たちは元の世界に存在しているのか ? |
| ドロワット | う~ん、難しすぎてよくわかんないなのよ~。 |
| ゴーシュ | だが、これでアレクセイが生きている理由もわかった。そして、イエガー様のこともな……。 |
| イクス | 俺たちもゴーシュとドロワットの事情はわかったよ。できる限り、イエガーさんの救出に協力させてもらう。 |
| ドロワット | 本当なの ! ? |
| ゴーシュ | だが、お前たちはあの『凛々の明星』の仲間。あいつらが、私たちに協力などしてくれるはずが……。 |
| ユーリ | ったく、オレたちも信用がねえな。まあ、当然といえば当然なんだが。 |
| ゴーシュ | ユーリ・ローウェル ! |
| レイヴン | お久しぶりね~。元気そうで何よりだわ。 |
| ルーティ | あんたたち、どうしてこんなところにいるの ?もしかして、ロゼから聞いた ? |
| カロル | ううん、ボクたちがここに来たのは偶然。けど、ミリーナがいてくれて助かったよ。 |
| エステル | 実は、調査していた遺跡で心核を見つけたんです。ミリーナならこの心核が誰のものなのかわかるんじゃないでしょうか ? |
| ルーティ | 心核 ? どうしてそんなのが遺跡なんかにあったのよ ? |
| ジュディス | さあ ? 私たちも知りたいくらいよ。 |
| ユーリ | んで、それを知ってそうな奴を追いかけてここまで来たらお前たちがいたって訳だ。 |
| フレン | ミリーナ、早速で悪いんだけど誰の心核なのか調べることはできそうかい ? |
| ミリーナ | はい、私が持っている魔鏡を使えば誰の心核なのか、すぐにわかると思います。 |
| ライアン | エリックお兄ちゃん……。ぼく、あの人たちが何を話してるのか全然わからないよ……。 |
| エリック | ボクもわからないけど……きっと、大事な話をしてるんだよ。だから、邪魔しないようにするんだぞ。 |
| ミリーナ | ……では、この魔鏡と私の魔鏡術を使って鏡の中に心核の持ち主を写します。 |
| 二人 | イエガー様 ! |
| レイヴン | ってことは、この心核はイエガーのものってわけね。 |
| ゴーシュ | ならば、その心核をイエガー様の身体に戻せば元のイエガー様に戻るんだな ! ? |
| ドロワット | やった、やった !これでイエガー様を助けられるの ! |
| カーリャ | おおっ ! ゴーシュさまとドロワットさまに会ったタイミングで心核が見つかるなんてラッキーじゃないですかあ ! |
| ユーリ | ……ああ、随分と都合が良すぎるくらいにな。 |
| ラピード | ……グルル。 |
| イクス | そう……ですよね。まるで、誰かに仕組まれているような……。 |
| カロル | それって、誰かがボクたちにイエガーの心核を手に入れられるように仕向けてるってこと ?いくら何でも考えすぎじゃない ? |
| カロル | それに、イエガーの心核は帝国が持っていたものだろうし、それをわざわざボクたちに渡すようなことはしないと思うんだけど。 |
| フレン | いや、もし帝国の人間ではない誰かの手によって仕組まれたことなのだとすれば……。 |
| ゴーシュ | 何をごちゃごちゃと……。イエガー様を助けることができるのならばそれが仕組まれたことだろうが、私たちには関係ない。 |
| ドロワット | 待ってて、イエガー様。今度こそ、私たちがイエガー様を助けるの ! |
| レイヴン | おっさんたちが口を挟むことじゃないみたいね。どうするよ、青年。 |
| ユーリ | どうって言われてもな……。その心核がイエガーのものだってんなら元に戻してやるのが先決だろうが……。 |
| カーリャ・N | ですが、その肝心のイエガー様は一体どこにいらっしゃるのでしょうか ? |
| 帝国兵βA | 総員。至急、持ち場を離れ集合せよ。繰り返す。至急、各自持ち場を離れて集合せよ。 |
| フレン | その話はあとにしよう。見回りの帝国兵だ。 |
| レイヴン | なに、なに ? 急に慌ただしくなっちゃって。 |
| フレン | 僕たちのことを捜している感じもしないな……。今の内に、路地に入って様子を見よう。 |
| 帝国兵βB | 例の密航者が見つかったのか ? |
| 帝国兵βA | いや、密航者のことは後回しでいい。本部からイエガー様の部隊がアレクセイ一派に襲撃されているという情報が入った。 |
| 帝国兵βA | 至急、我々もイエガー様の部隊と合流する。場所はすぐ隣の都市だ。 |
| 帝国兵βB | 了解。 |
| ジュディス | ……行ったみたいね。 |
| ユーリ | ここでアレクセイまで出てきやがんのか。ますますタイミングが良すぎて気持ち悪いぜ。 |
| ゴーシュ | そんなことはどうでもいい !アレクセイがイエガー様を狙っているというのなら許してはおけるものか ! |
| レイヴン | どの道、俺たちだってアレクセイが絡んでるならほっとけないでしょ。 |
| イクス | だったら、俺たちもユーリさんたちと一緒にイエガーさんのところへ行きます。 |
| ルーティ | 待って。その前に、チビたちはあたしが施設に帰してもいいわよね ? |
| ライアン | えっ…… ? |
| ミリーナ | そうね……。そっちのほうが安全だし施設の人たちも心配しているものね。 |
| ルーティ | チビたちも、それでいいわね ? |
| エリック | うん……わかった。イクスお兄ちゃんが一緒ならお姉ちゃんたちも大丈夫だと思うし……。 |
| ライアン | ま、待ってよ ! ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんも用事が終わったら、戻って来るんだよね…… ? |
| ドロワット | えっと……それは……。 |
| ゴーシュ | ……いや。多分、私たちは戻らない。お前たちとは、ここでお別れだ。 |
| ライアン | そんな…… ! 約束したでしょ !またぼくと一緒に遊んでくれるって ! |
| ドロワット | ごめんなさいなの……。だけど、私たちはイエガー様と一緒に……。 |
| ライアン | ……お姉ちゃんたちの馬鹿ッ ! |
| エリック | おい、ライアン ! ? |
| ルーティ | ちょっと、いきなり走ったら人にぶつかるわよ ! |
| ライアン | わっ ! ? |
| カーリャ | あちゃあ……本当に人とぶつかっちゃいましたね……。 |
| ルーティ | 全く、あんたも世話のかかるチビね……。 |
| ? ? ? | ……また、見つけたぞ。 |
| ユーリ | おい、ちょっと待て ! あいつは…… ! |
| ライアン | えっ ? わああああっ…… ! ! |
| エリック | ライアン ! ! |
| ? ? ? | セールンドの残党め……。お前たちの好きにはさせん…… ! |
| カーリャ・N | 待ちなさい ! |
| エステル | ユーリ ! 先ほどの人はもしかして…… ! |
| ユーリ | ああ、間違いねえ !オレたちが追ってきた男だ ! |
| イクス | ユーリさん ! あの男とライアンは俺たちが追います !ミリーナはユーリさんたちと一緒にイエガーさんの心核を戻してきてくれ ! |
| ミリーナ | わかったわ !ネヴァン、私の代わりにイクスに付いていってくれないかしら。お願い ! |
| カーリャ・N | 畏まりました ! すぐにあの男を捕獲します。 |
| ルーティ | あたしも行くわ ! チビを傷つけたらただじゃおかないんだから ! |
| ドロワット | ゴ、ゴーシュちゃん……。私たち、どうしよう…… ! |
| ゴーシュ | このままだとイエガー様が危険なんだ……。だが、ライアンは私たちのせいで…… ! |
| エリック | 大丈夫だよ ! ゴーシュお姉ちゃん ! |
| ゴーシュ | エリック…… ! |
| エリック | ライアンは、ボクとイクスお兄ちゃんたちが絶対に連れて帰って来るから !だから、二人はそのイエガーって人のところに行って ! |
| エリック | 二人にとって、とても大切な人なんでしょ…… ?だったら、絶対助けてあげなきゃ ! |
| ドロワット | そうなの……。イエガー様は、私たちの大切な人…… ! |
| ゴーシュ | ……ありがとう、エリック。イクス、といったな。すまないが、ライアンのことを頼む ! |
| イクス | ああ、絶対にあの子は俺たちが連れ戻す ! |
| Character | 12話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】 |
| カロル | みんな、こっち ! この道を使えば上手く隠れながら先に行けるはずだよ。 |
| レイヴン | はぁ…… ! はっ…… !ちょ、ちょっと待ってよ、少年…… !おっさん、もうヘロヘロ…… ! ! |
| エステル | 頑張ってください、レイヴン。もう少しでイエガーを見つけられるはずです。 |
| ドロワット | イエガー様、大丈夫かな…… ?それに、ライアンのことだって……。 |
| ミリーナ | 心配いらないわ。ライアンはきっとイクスたちが何とかしてくれるはずよ。 |
| ゴーシュ | ドロワット、今は自分のことに集中しろ。私たちでイエガー様を助けると誓ったはずだ。 |
| ドロワット | うん……ごめんね、ゴーシュちゃん……。もう、大丈夫なの。 |
| ジュディス | それにしても、思ったより静かね。もっと派手にお互い暴れてると思ったんだけど。 |
| フレン | おそらく、イエガーが率いている帝国軍の部隊が分断されているんだ。 |
| フレン | 敵の戦力を削ってから、一気に奇襲をかける彼らしいやり方だ。 |
| ユーリ | そのおかげで、オレたちも堂々と敵の懐に入ってこられたってわけか。 |
| ゴーシュ | 暢気なことを言っている場合か !それだけ、イエガー様の身が危ないということだろ ! |
| ユーリ | 落ち着けよ。戦いが終わってねえってことはアレクセイも、まだイエガーのところまでは辿り着いてねえって考えられねえか ? |
| ドロワット | うっ……、確かにその通りだわん。 |
| ジュディス | みんな、バウルが確認してくれたわ。イエガーたちの部隊の一つが戦線から離脱するように動いているみたい。 |
| フレン | 従騎士は帝国軍にとっても失ってはいけない人材のはず。きっと彼もその部隊にいるはずだ。 |
| ユーリ | サンキュー、バウル。最近はオレたちに付き合わせてばかりで悪いな。 |
| ジュディス | 気にしなくていいですって。あなたたちを運べない分自分も力になりたいみたいよ。 |
| ユーリ | なら、バウルにばっか頼らねえおかげでおっさんの運動不足も解消できそうだって伝えといてくれ。 |
| ジュディス | ええ、そうするわ。 |
| レイヴン | 青年……いつか自分もおっさんの体力になることを覚悟しときなさいよ……。 |
| ミリーナ | そういえば、みんなはバウルが運んでくれるフィエルティア号って船で、空を飛んでいたのよね。 |
| レイヴン | よく船の名前まで覚えてたわね、ミリーナちゃん。あ~、おっさん……なんだか懐かしくなってきたわ。 |
| カーリャ | カーリャも、バウルさまと一緒に空のお散歩してみたいです ! |
| ジュディス | ふふっ、バウルもきっと喜ぶと思うわ。 |
| ユーリ | さてと、盛り上がってきたところ悪ぃがオレたちも、ちと気合入れとかねえとな。 |
| カロル | そうだね。行こう、みんな。ボクたちでアレクセイより先にイエガーを見つけるんだ。 |
| 帝国兵β | イエガー様、申し訳ありません。敵の部隊がすぐそこまで迫っています。すぐに撤退を。 |
| イエガーβ | 小賢しい真似を……。だが、まあいい。クロノスの分霊はクレーメルケイジで確保した。もうここには用がない。 |
| ? ? ? | ……フッ。小賢しい、か。まさか、お前にそのようなことを言われるとはな。 |
| イエガーβ | 誰だ ? |
| アレクセイ | 久しいな、イエガー。今なお帝国に好きなよう使われてしまっているとは実に不憫だ。 |
| 帝国兵β | 敵襲 ! 総員、迎撃態勢 ! |
| アレクセイ | 邪魔だ ! |
| 帝国兵β隊 | ぐはあああああああっ ! ! |
| アレクセイ | 雑魚共は引っ込んでいろ。それとも、手負いで我々の部隊と戦うか ? |
| アレクセイ一派 | アレクセイ様 ! いつでもご指示を ! |
| イエガーβ | 仕方ない。手駒をいくらか捨てることになるが代わりはいくらでも用意できる。 |
| イエガーβ | お前たち、まだ動けるだろう。私が逃げるまで、こいつらを足止めしろ。 |
| 帝国兵β隊 | ――了解。 |
| アレクセイ一派 | こいつら ! ? 致命傷を負ってもまだ動くのか ! ? |
| アレクセイ | ……ふっ、まさに痛ましい人形の姿だ。 |
| アレクセイ | だが、我々の邪魔をするのならば躊躇う必要などない ! |
| ゴーシュ | アレクセイ ! ! |
| ドロワット | やっと見つけたの ! ! |
| アレクセイ | お前たちは……。 |
| ジュディス | どうやら、間一髪間に合ったみたいね。 |
| アレクセイ | ……貴様たちまで一緒か。 |
| ユーリ | てめえが派手に暴れてるって聞いてな。わざわざ来てやったぜ、アレクセイ ! |
| ラピード | ワンッ ! ワンッ ! |
| イエガー | 鏡士共の仲間か。こんなときに厄介な……。 |
| ゴーシュ | イエガー様…… !待っていて下さい。すぐに私たちが元に戻します ! |
| ドロワット | 今度こそ……今度こそイエガー様を助けるの ! |
| イエガーβ | 子供か……。ならば、あの男はリビングドール兵で足止めし、私はこいつらを処分して退散することにしよう。 |
| エステル | そんなこと、絶対にさせません ! |
| ユーリ | オレたちのこと、甘く見てると痛い目見るぜ。今のお前にはわからねえだろうがな ! |
| Character | 13話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】 |
| イエガーβ | ……くっ。こんなところで、倒れるわけ……には…… ! |
| ゴーシュ | イエガー様 ! ? |
| ミリーナ | 大丈夫。気絶しているだけよ。待ってて、すぐに心核を取り換えるわ。 |
| エステル | ミリーナ、わたしも治癒術で補助します。 |
| アレクセイ | ふん。無様だな。駒の役割も果たせないなど、哀れな男だ。 |
| ドロワット | アレクセイ…… ! |
| アレクセイ | ああ、お前たちの顔を見るのも久しぶりだな。 |
| ゴーシュ | アレクセイ…… ! 覚悟しろッ ! |
| ドロワット | イエガー様の仇、今ここで取らせて貰う ! |
| ユーリ | っと、お前たち。再会の挨拶にしちゃあちと派手にやりすぎだ。 |
| レイヴン | そうそう。上の立場にいた人間ってのはどうも礼儀作法にうるさいんだわ。 |
| ゴーシュ | お前たち…… ! !何故、止める ! ! この男は私たちの仇だ ! ! |
| フレン | だからといって、殺していいわけじゃない。少し落ち着くんだ。 |
| アレクセイ | フレン、お前は相変わらずだな。騎士道精神にあふれる素晴らしい考えだよ。 |
| フレン | 勘違いしないでくれ。あなたに確認しておきたいことがある。そうだろ、ユーリ ? |
| ユーリ | ああ。なあ、アレクセイ。お前、オレたちを利用しただろ ? |
| アレクセイ | はて、一体なんのことやら。私には皆目見当がつかんな。 |
| ユーリ | とぼけんじゃねえよ。お前が何か企んでるって情報が入ってから全部が上手くいきすぎてんだよ。 |
| カロル | ユーリ、それって……港町でも言ってた「仕組まれてるような感じがする」って話のこと ? |
| ジュディス | それで、その犯人はアレクセイだった、ってことでいいのかしら ? |
| ユーリ | こいつは、初めからイエガーを帝国から取り戻すことが狙いだったんだ。 |
| アレクセイ | なぜ、そう思う ? |
| レイヴン | 戦争を始めようって割には戦力が少なすぎんのよ。それに、この前痛い失敗したのに、すぐに攻め込むなんて真似をするのは、あんたらしくない。 |
| ユーリ | だが、イエガーだけはすぐに助けなきゃいけねえ理由があったんじゃねえか ? |
| アレクセイ | どうやら、きみたちは勘違いをしているようだ。今回私が動いたのは、従騎士たちがクロノスの分霊を集めているという情報が入ってきたからに過ぎない。 |
| カロル | クロノスの分霊って……もしかしてイエガーが大事そうに持っていたクレーメルケイジがそうなの ? |
| アレクセイ | その通り。これ以上、帝国にカードを握られるのは私としても不本意だった。 |
| カロル | だから、クロノスの分霊を集めていたイエガーを止めようとしたってこと ? |
| フレン | いや、イエガーを止めるだけじゃなくイエガーを自らの部隊に引き入れようとしていたのなら彼の心核が必要だった。 |
| ユーリ | だが、肝心のイエガーの心核回収はリスクを避ける為に、オレたちにやるよう仕向けやがったんだ。 |
| ジュディス | 随分と信頼されているわね、私たち。 |
| ドロワット | 本当に……イエガー様を助けようとしたの ? |
| アレクセイ | 下らん。全て証拠もない机上の空論に過ぎぬ。 |
| アレクセイ | ……と、言いたいところだが、まあいいだろう。確かに、イエガーを利用できると思い盗賊を使って心核を手に入れようとしたのは事実だ。 |
| アレクセイ | しかし、何者かによる邪魔が入ってしまってね。そこで、きみたちを利用させて貰ったのだよ。 |
| フレン | やはり、全てはあなたの思い通りに進んだということか。 |
| アレクセイ | どうかな、私の掌で踊らされていた気分は ? |
| ユーリ | おいおい、今日は随分とお喋りじゃねえか。 |
| アレクセイ | なに、きみたちに一泡吹かせることができて私も機嫌がいいのだよ。 |
| レイヴン | 本当、いい性格してるわ。 |
| イエガー | ……んんっ。 ここは……。 |
| カーリャ | ミリーナさま ! 目を覚ましたみたいです !やりましたね ! |
| ミリーナ | ええ。だけど、心核を入れ替えてすぐはまだ体力が回復していないはず……。 |
| ゴーシュ | イエガー様ッ ! ! |
| ドロワット | イエガー様 ! ! 本当に本当に本当のイエガー様なんですよね ! ? |
| イエガー | ゴーシュ、ドロワット……。ワイ…… ? あなたたちとは、随分とロングタイム 会っていなかったように感じます……。 |
| エステル | イエガー、まだあまり動かないでください。無理をすれば、また意識が……。 |
| イエガー | オウ……。実にファンタスティックな面々ですね。ミーはドリームを見ているのでしょうか……。 |
| レイヴン | まぁ、当たらずとも遠からずってやつかね。けど安心しな。今じゃあ、こっちが俺たちの現実よ。 |
| イエガー | そうですか……。では、やはりユーたちとのバトルは、お預けみたいですね。 |
| カロル | ……やっぱりザウデでボクたちと戦う前までの記憶しかないんだね。 |
| イエガー | ……ですが、ノットフォーゲット。アレクセイ、ミーとのプロミスは守ってもらいますよ。 |
| アレクセイ | そこにいる二人の子供の命のことか ?今さら人質として扱うつもりなどない。 |
| アレクセイ | なにせ今のお前は駒としても使えんようだからな。まったく、興醒めだ。 |
| ゴーシュ | アレクセイ……貴様ッ ! ? |
| ドロワット | イエガー様のこと、悪く言うのは私たちが許さないの ! |
| レイヴン | 待ちなって。こんなところでお互いやりあっても無益よ、無益。 |
| ユーリ | アレクセイ、お前はどうするつもりだ。こんだけ手の込んだことをしておいてあんたの手元には何一つ残っちゃいないぜ ? |
| アレクセイ | 浅いな、ローウェル君。此度の戦果を聞けば帝国に対して猜疑心を抱いている連中が私の元へ集まってくる。 |
| レイヴン | まあ、あんたならスパイの一人や二人紛れ込ませてるだろうからな。上手く唆して、仲間を増やそうって魂胆か。 |
| ユーリ | 喰えねえ野郎だぜ……ったく。 |
| アレクセイ | そういうことだ。よって手負いの駒など不要。お前たちもその男を連れて、どこへなりと行け。 |
| レイヴン | はいはい、んじゃ、そうさせてもらうわ。 |
| アレクセイ | きみたちもせいぜい帝国の人間に利用されないことだな。 |
| ジュディス | 嫌味な人ね。それとも自虐だったのかしら ? |
| レイヴン | 両方でしょ。平気な顔してるけどリビングドールのときにやらされてたことが結構堪えてるみたいだったしね。 |
| カロル | もしかして……だからイエガーのことも助けようとしたのかな ? |
| イエガー | ミーのことを…… ?インポッシブル……。アレクセイはそんな男ではありません。 |
| エステル | いえ、彼も変わろうとしているのかもしれません。少なくとも、あなたを帝国から助けようとしたのは事実だと思います。 |
| イエガー | ……ブラボー。その話が本当ならば、実にファンタジー、です……。 |
| ドロワット | イエガー様 ! ? |
| ミリーナ | 大丈夫、気を失っただけよ。やっぱり、まだリビングドールのときの負荷が身体に残ってしまっているのね。 |
| ジュディス | だったら、一度アジトで診て貰ったほうがいいわね。 |
| ミリーナ | ええ。だけど、まだイクスたちから連絡が……。 |
| フレン | それなら、イエガーは僕たちがこのままアジトまで運ぶよ。ミリーナはイクスたちのところへ行ってくれ。 |
| ラピード | ワンッ ! |
| ミリーナ | ありがとう、みんな。イエガーさんのこと、宜しくお願いします。 |
| ゴーシュ | ……待て ! すまないが、一つだけライアンとエリックに伝えてほしいことがある。 |
| ドロワット | 私たち、また必ず二人に会いに行くから。だから、一緒に雪合戦する約束は忘れないって……そう伝えてほしいの。 |
| ミリーナ | ええ、わかったわ。私がちゃんと、伝えておくわね。二人の気持ちも一緒に。 |
| Character | 14話【9-15 テルカ・リュミレース領 海岸3】 |
| ルーティ | この先はもう海じゃない。まさか、船でも待たせてるのかしら。 |
| イクス | 港に現れたってことは自前の船は持ってないんじゃないかな。小型のボートみたいな物を隠してる可能性もあるけど……。 |
| カーリャ・N | イクス様、ルーティ様 ! あの岩の先を ! |
| エリック | 眩しくて見えないよ……。これ、逆光って言うんでしょ ? |
| ルーティ | エリック、あんたは下がってなさい。確かにこの先にいるのは、ライアンをさらった男だわ。 |
| イクス | 待て ! |
| ? ? ? | ………………。 |
| イクス | その子を返せ ! |
| ? ? ? | 断る。それより、お前は何者だ ?何故、鏡精を連れている ? |
| イクス | え…… ? |
| カーリャ・N | その声、どこかで聞き覚えがあります。私が鏡精だった頃に……。 |
| ルーティ | あいつが何者なのかは、ライアンを助けてからよ。 |
| ? ? ? | 動くな ! 動けばどうなるかわかっているな。 |
| ルーティ | 卑怯者 ! 子供を盾に取るつもり ! ? |
| カーリャ・N | 傷つけることも辞さないというのなら何故その子をさらったのですか ! |
| ? ? ? | この子供はリストにある同胞であり、救出目標だ。 |
| ルーティ | 人質にしておいて、何が救出よ ! |
| イクス | (救出とは言っているけど生かして助けるって意味とは限らない。せめて何とか隙を作れれば……) |
| エリック | イクスお兄ちゃん……。 |
| イクス | 大丈夫だ、エリック。何とか―― |
| イクス | (――そうか !) |
| イクス | ネヴァン、ルーティ。俺が合図したら、ライアンを頼む。 |
| 二人 | ! ! |
| イクス | 俺が何者か教えてやる ! |
| ? ? ? | ………………。 |
| イクス | この顔をよく見るんだな。 |
| イクス | (このまま、腕を太陽の方に……) |
| イクス | 俺は鏡士のイクス・ネーヴェだ ! |
| ? ? ? | ……ぐっ ! ? 鏡の反射かっ ! ? |
| イクス | 今だ ! |
| カーリャ・N | 鏡転身 ! |
| カーリャ・N | ライアンは返してもらいます ! |
| カーリャ・N | ルーティ様 ! |
| ルーティ | オッケー ! チビ、こっちよ ! |
| ライアン | お姉ちゃん ! |
| ? ? ? | くっ、やらせるか ! |
| イクス | ネヴァン、避けろ ! 裂燕迅 ! ! |
| ? ? ? | ぐっ ! ? |
| イクス | よし、このままお前を捕まえる ! |
| ? ? ? | ――そうか、お前がイクス・ネーヴェ。魔女が甦らせた二人目という訳か。 |
| イクス | ! ? |
| ? ? ? | 全ては奴の言う通り……。ならば、また相見えよう ! |
| ルーティ | な……海に飛び込んだの ! ? |
| カーリャ・N | お二人とも ! 後ろに敵が―― ! |
| 盗賊A | ボスの代わりに俺たちが相手だ。 |
| 盗賊B | 逃げられると思うなよ ! |
| ルーティ | もう、雑魚がうじゃうじゃと ! |
| イクス | ここは危険だ。何とか敵の数を減らして、この場所から離れよう。 |
| ルーティ | ええ、そうね。エリック、ライアン。あたしたちからはぐれるんじゃないわよ ! |
| 子供たち | うん ! |
| カーリャ・N | 敵が来ます ! |
| Character | 15話【9-15 テルカ・リュミレース領 海岸3】 |
| イクス | ……追っ手は……来ないみたいだな。ライアン、エリック、大丈夫か ? |
| エリック | うん ! |
| ライアン | ……う……えぐ……。 |
| イクス | あ……え…… ? な、な、泣かないでくれよ……。ええっと、ルーティ……、ネヴァン……ど、どうしよう……。 |
| ルーティ | 大丈夫よ。安心したら泣けてきちゃっただけよね ? |
| ライアン | う……うん……。ごめんなさい……。 |
| カーリャ・N | あの……大丈夫ですか ?飴、食べますか ? 甘くて元気が出ますよ。 |
| ライアン | ありが……とう……。 |
| イクス | そ、そうだ。エリック、ありがとう。エリックのお陰でライアンを助けられたよ。 |
| エリック | え ? |
| イクス | ほら、逆光で眩しいって言ってただろ。それで太陽の光を反射させようって思いついたんだよ。 |
| エリック | あ ! そうか ! イクスお兄ちゃんも僕と同じこと思いついたんだ ! |
| イクス | 同じこと ?そうか、エリックもあの時鏡で光を反射させたらいいって思ったんだな。 |
| エリック | ううん、さっきじゃなくて雪合戦の時にね。 |
| イクス | え ? 雪合戦 ? |
| エリック | へへ、僕、イクスお兄ちゃんみたいになりたいって思ってたから、ちょっと嬉しいな。 |
| イクス | ? ? ? |
| ミリーナ | イクス ! みんな ! |
| カーリャ・N | ミリーナ様 ! |
| ミリーナ | よかった !無事にライアンを助けられたのね。 |
| ルーティ | ええ、何とかね。そっちは ?わざわざ駆けつけてくれたってことはもちろん首尾よくいったのよね。 |
| ミリーナ | ええ。イエガーさんを助けることができたわ。それから、エリックとライアンに伝言よ。 |
| 二人 | ? |
| ミリーナ | ゴーシュとドロワットから。また必ず二人に会いに行くって。一緒に雪合戦する約束は忘れないって。 |
| 施設の女性 | ……この度は色々とありがとうございました。また皆さんに助けられてしまいましたね。 |
| イクス | いえ、そんな……。 |
| ルーティ | さっきも話した通り、怪しい盗賊たちからライアンの身柄を守るためにこの辺りの警護をするわね。 |
| ルーティ | だから子供たちにも遠出しないように言い聞かせてくれる ? |
| 施設の女性 | はい。ライアンが帝都に移るまでは、十分に気を付けます。 |
| カーリャ・N | それにしても、帝国がわざわざライアンを帝都に呼び寄せているというのはどういうことなんでしょうか。 |
| ルーティ | 確か……ライアンは移民だから帝都に行かなくちゃいけないのよね。 |
| 施設の女性 | ええ。一体何のことやら……。 |
| 施設の女性 | ライアンの亡くなったお祖父さんはビフレスト皇国から旧セールンド王国へやってきた移民だそうですけど、ライアンは別に……。 |
| カーリャ・N | ビフレスト……まさか……。 |
| イクス | ネヴァン ? 何か心当たりがあるのか ? |
| カーリャ・N | あ、いえ、ライアンのことではないんです。ライアンをさらった盗賊の正体に……。 |
| カーリャ・N | でも、そんな筈は……。 |
| ミリーナ | ネヴァン ? よかったら話してみて。 |
| カーリャ・N | は、はい。あの盗賊ですが、声や背格好が……フリーセルに似ているんです。 |
| ミリーナ | フリーセル……。救世軍の創始者で、ビフレストの工作員だった男……。 |
| カーリャ・N | ですが、マークからフリーセルは死んだと聞いています。 |
| ミリーナ | ………………。 |
| セネル | イクス、今大丈夫か ? |
| イクス | セネル ! グリューネさんは見つかったか ? |
| セネル | ああ、こっちは問題ない。みんな無事だ。 |
| セネル | それより、いつ頃アジトに戻る ?共有しておきたいことがたくさんあるんだ。 |
| イクス | ああ、こっちも大体片付いたからすぐに戻るよ。 |
| セネル | そうか、じゃあ戻ったら知らせてくれ。 |
| ルーティ | 何だか、深刻な感じだったわね。 |
| イクス | ああ。さっきの男の正体がフリーセルなのかどうかも含めてアジトで検討した方がいいな。 |
| カーリャ・N | はい。マークにも連絡を取ってみます。 |
| イクス | (『移民』を集めている帝国、怪しい盗賊の男……。何かが起きているのは確かなのに上手く線が繋がらない……) |
| イクス | ……とにかく、アジトに戻ろう。セネルたちの話を聞くんだ。 |
| | to be continued |