Character1話【10-1 アジト】
カーリャ最近平和ですね……。
イクスまあ……そうだな。正確には、何かが起きているけど動きようがないってだけなんだけど……。
ミリーナ私たちが新たにわかったことと言ったら帝国の目的、贄の紋章の正体、バロールの力についてぐらいだものね。
カーリャ・N全ては繋がっていると推測できましたね。帝国の目的は、ティル・ナ・ノーグを滅ぼして代わりにニーベルングを甦らせ、移住すること。
カーリャ・Nその際、異世界からの具現化で生み出された人々も見捨てられる。
イクス帝国が帝都に集めている【移民】って言葉もセネルの報告で何となく見えたよな。
イクス帝国はティル・ナ・ノーグ生まれの人間を選別してニーベルングに連れて行こうとしているんだと思う。
ミリーナその為に使われるのが【贄の紋章】。【贄の紋章】を刻まれた人は、【ルグの槍】と呼ばれるエネルギーの柱になって、ニーベルングの転送に利用される。
ミリーナニーベルングの転送……というのがまだはっきりしないけれど……。
ミリーナゲフィオンの記憶と照らし合わせるとこのティル・ナ・ノーグのある場所に、ニーベルングという星を丸ごと移動させるんだと思うわ。
イクスただ、父さんたちの遺言だと、ティル・ナ・ノーグはセールンドが行っていた鏡精のエネルギーシステムのせいで、限界を迎えていたみたいだよな。
イクスそれを救う為に【ルグの槍】を解放しろと言っていた。まだ【ルグの槍】そのものがよくわかってないからなんとも言えないけど――
イクス【ルグの槍】の解放が帝国の目的を阻む対抗手段であってくれるならまだ状況を変えられるかも知れない。
カーリャ・N【贄の紋章】を刻まれたのが、各地の領主と従騎士それにシャーリィ様とマオ様、でしたね。解除の方法はわからないままですが……。
ミリーナ……そういえばサレの行方もわからないままだったわね。
カーリャ・Nはい。ヴェイグ様たちが自警団に監視をお願いした後浮遊島警備部の皆様に連絡をとっている間に自警団の人たちが襲われ、サレも消えていたそうです。
カーリャ・Nおびただしい量の血痕が残されていたそうですが……。
ミリーナ今もヴェイグさんたちと警備部であの村周辺の捜索と調査を行っているわ。あそこには何かがある……。
ミリーナそれに各地の領主の奪還の準備も進めているけれど……上手くはいっていないわね。
イクス領主たちが消えた地域もあるみたいだし……。そもそも領主の正体がはっきりしない地域もあるから……。
カーリャ・Nミッドガンド領ですね。領主はテレサという女性だ……と言われているそうですが、まだ裏が取れていないとカロル様も言っていました。
カーリャあ、カロルさまといえば、ビフレストの皆さんには連絡がついたんですか ?情報共有しようって言ってましたよね ?
イクスいや、まだだよ。こちらからの通信に応えてくれないんだ。
イクス単にこっちの連絡を無視してるだけならいいんだけど。いや、それはそれで良くないか。もっとちゃんと協力できればそれに越したことはないんだし。
ジェイドまあ、あちらはあちらで感情の整理がつかないのかも知れませんねぇ。
カーリャで、で、で、出たーーーーーーーっ ! ? 鬼畜眼鏡 ! !
ジェイドおや、カーリャ。相変わらず熱烈に歓迎していただけてとても嬉しいですよ ♪
カーリャしっしっ !
ミリーナカーリャ……。気持ちはわかるけれど、やめなさい。
イクスジェイドさん、どうしたんですか ?何か新しいことがわかったんですか ?
ジェイドええ。まず墓守の街の件ですが候補が見つかりました。
イクスえ ! ? 大した情報も無かったのに ! ?
ジェイド礼なら、この間ここにやってきたウィルに伝えて下さい。彼の話にそれらしき場所が出てきたんですよ。
ジェイドとはいえ、今は廃村になっているようなので海凶の爪の皆さんに調査を依頼しています。
カーリャ・Nイエガー様はもう動けるんですか ?
ジェイドええ。まあ、それに次々と病人や怪我人が運ばれてくるので、気を遣って病床を空けて下さったようですね。
ジェイドそれと、コーキスの姿が目撃されました。
イクスどこですか ! ? 俺、すぐに――
ジェイドイクス。コーキスとの関係をこれ以上こじらせないためにも今は、あなたが動いてはいけません。
ジェイドコーキスに関してはカロルに一任してあります。今はベルベットたちが向かっている筈です。
イクス……はい。
ジェイドそして、これが最後のご報告になりますが……。オールドラント領の領主が動くようなので奪還したいと思います。構いませんね ?
ミリーナオールドラント領ってことは……ジェイドさんの……。
ジェイドまあ、これでも一応アレの部下ということになっていますので、善人の私としては異世界で見捨てるのも心苦しいのですよ。
カーリャ今しれっと嘘をついてましたよ、この人 !
イクス――わかりました。俺たちも一緒に行きます。
ジェイドそうですね。イクスとネヴァンには来ていただきましょうか。
ミリーナイクスが行くなら私も行きます。
ジェイドいえ、今カーリャに来られるとつい解剖したい気持ちになってしまうのであなたはカーリャの為にも残って下さい。
ジェイドここにいれば、あなたの中のゲフィオンの記憶をキール研究室の為に活用できますしね。
ミリーナ………………。
ジェイドでは、イクス、ネヴァン。行きましょうか。
イクスは、はい !
カーリャ・N……小さいミリーナ様、失礼します。カーリャ、後は頼みますよ。
カーリャ……むむ。あの眼鏡、もしかしたら綺麗な方に入れ替わっているんじゃ……。
ミリーナ………………。
カーリャ……ミリーナさま。あの……ですね。カーリャが思うに、もっといい男は沢山いますよ !
カーリャ例えばロイドさまとか、アスベルさまとかユリウスさまとか、フレンさまとか……。
ミリーナそれは全部カーリャの好みでしょう ?というか、カーリャに優しい人たちよね ?
カーリャはっ、バレましたか ! ?
ミリーナふふ……。でも、ありがとう。大丈夫よ。
ミリーナ大丈夫だけど、少しだけカーリャをぎゅっとさせてくれるかしら ?
カーリャもちろんですとも !カーリャはいつだって、ミリーナさまの味方です !

Character2話【10-2 オールドラント領 街道】
イクス………………。
ジェイド――イクス、今の話、聞いていましたか ?
イクスえ ! ? あ、えっと……すみません。ちょっとボーッとしていて、聞き逃しました……。
ジェイド……だ、そうです。ガイ、もう一度説明を。
ガイなんだなんだ ? イクスらしくない。
イクスすみません……。
ガイいや、別に構わないさ。
ガイさて、俺たちの任務はピオニー陛下の奪還と心核の回収にある。どうやら帝国側は一部の領主や従騎士を帝都付近に集めているらしい。
ガイ今回はピオニー陛下の番って訳だな。カロル調査室に集まった情報を総合すると、ここ数日のうちにピオニー陛下が帝都へ運ばれるのは間違いない。
ガイ俺たちは二手に分かれて心核の捜索とピオニー陛下の奪還を行う。
イクスピオニー陛下の心核はどこにあるかわかっているんでしょうか ?
ジェイド手がかりになりそうな情報はワルターから聞き出しています。
イクスえ ! ? ジェイドさんワルターと話ができたんですか ! ?俺なんていまだに口をきいてもらえないのに。
ルークいや、ジェイドがワルターと話してまともな会話になると思うか ?
イクスですよね ?
ナタリアシャーリィとマウリッツさんのおかげですわ。ワルターが帝国にいた頃の情報を聞き出せたのは。
ジェイド私とリオンでさっと話を聞き出すという形でも良かったのですが、後々のことを考えて穏便に済む方向でまとめました。
カーリャ・N賢明な判断です。
ティア領主や従騎士の心核は、養液に浸した状態で各地の【ルグの槍】起動地点に置かれているらしいの。
ティア中々その場所が特定できなかったのだけれどピオニー陛下に関してはワルターが設置場所に繋がる情報を持っていたわ。
アニスあー、ティア、いいよ。その先は私が話すから。
アニスあのね、ヴァン総長――ティアのお兄さんの疑似心核が壊れたらしいんだ。
アニスそれで他の疑似心核も受け付けないから一時的に本当の心核をヴァン総長に戻すことになったんだって。
イオンつまり、今現在ヴァンは、心核を取り戻している筈なんです。そしてセルシウスの予測では、ヴァンの中にローレライの本体が宿っているそうです。
イオン僕なら、ヴァンの中のローレライと話ができる。ローレライなら、ヴァンの心核がどこに保管されていたかわかる筈です。
イクスつまりピオニー陛下の心核もヴァンさんの心核があった場所と同じ場所にあるという推測ですね。
イオンはい。ですから、心核捜索班はヴァンに接触する必要があります。僕がローレライを任意に呼び出せれば話は簡単だったのですが……。
ガイまあ、アッシュと協力して呼び出すって方法もあるんだろうが危険な手段には変わりないからな。
カーリャ・Nそういえばアッシュ様の姿がありませんが……。
ナタリアアッシュなら、先行してヴァンの捜索にあたっていますわ。
イクスわかりました。つまり、この作戦はヴァンさんの救出作戦でもある訳ですね。
ジェイドええ。さすが、イクス。飲み込みが早いですね。
ジェイドここからは二手に分かれますよ。
ジェイドティアとアニスとイオン様はアッシュと合流して下さい。残りはピオニー陛下の方へ向かいます。
ガイしかし、ヴァンの担当はアッシュも入れて四人だけだろ。俺もヴァンの方に向かった方がいいんじゃないか ?
ジェイドいえ……まあ、恐らく戦力は十二分ですよ。
デミトリアス……やっと姿を見せたね。グラスティン。心配していたよ。
グラスティン悪いなあ。ちょっと気になることがあって帝都に戻れなかった。で、話ってのは、オリジンの件か ?
デミトリアスああ。オリジンを呼び出すための器をどうするかそろそろはっきりさせておきたいんだ。
グラスティンその件なら、前にも話しただろう。小さいフィリップで決まりだ。まあ……手違いが起きてはいるが、何とかなるだろう。
デミトリアス……やはり、私では駄目だろうか。
グラスティンお前は駄目だ。アニマ汚染の回復のために他の精霊の力を使った。
グラスティンそれとも、まだ下らん正義感に囚われているのか ?お前が生まれる前からセールンドは鏡精をエネルギーにしてきた。
グラスティン揺り籠の崩壊がたまたま、お前の代だっただけだ。
デミトリアス……グラスティン。今日は、いつもより苛ついているようだね。
グラスティンああ、まあな。サレのせいで色々と計算が狂った。あいつ……一体何のつもりで……。
デミトリアス………………。
グラスティン話が以上なら、俺は行くぞ。
デミトリアスあ、ああ……。
グラスティン――おっと、そうだ。
グラスティンデミトリアス。アルトリウスには気を付けろ。奴に鏡の精霊の心核を渡すなよ。
グラスティン奴とお前はまったく正反対だがやろうとしていることは近しいものがある。
グラスティン俺は、他でもないお前が、どんな風にこの世界で踊るのかを楽しみにしてるんだ。
デミトリアスそうだな……。いっそアルトリウスのようになれていたなら、私は悩みはしないよ……。

Character3話【10-3 オールドラント領 浜辺1】
アニスあ、アッシュみっけ !
アッシュ……見事にローレライ教団の関係者しかいないな。
イオンやはり、ガイにも来てもらうべきだったでしょうか。
ティアナタリアにも来てもらった方がよかったのかも知れないわね。
アッシュだ、誰もそんなことは言ってないだろう !
アニスひっひっひっ、柄にもなく照れちゃって。うい奴よのう……。
アッシュええい、お前ら全員ここから帰れ !
シンクアッシュ。貴重な戦力だ。勝手に分散させないでよね。
イオンシンク…… ! どうしてここに……。
リグレット導師イオン。シンクは私が協力を依頼した。お互い遺恨があるとは思うが、飲み込んでもらう。
アリエッタ総長の為だから……アニスがいても……我慢する。
アニスはああああ ! ?
イオンアニス、いけませんよ。
イオンアリエッタ、ありがとうございます。
アリエッタ……あなたのことは……導師って呼ぶ、です。コンランする、です。
イオンはい、わかりました。あなたにとってのイオンは一人だけですしね。
ティア教官、どういうことですか ?ビフレスト陣営とは連絡が取れないと聞いていました。
リグレットだろうな。今は……ジュニアを守るために仮想鏡界に通信が届かないようにしている。
アニスほえ ? それってどういうこと ?
リグレットサレという男に暗示を掛けられた。他にもグラスティンという男が何か仕掛けをしていたらしい。
リグレット調査と保護のために外界からの接触を避けている。
アリエッタグラスティン……。イオン様を殺して、ジュニアにも酷いことをした。絶対に許しません…… !
アッシュ俺も、リグレットたちに連絡が取れなくてな。ヴァンの調査にシンクの手を借りようとしたところすでにリグレットがシンクと連携して動いていた。
シンクそこにアンタたちが便乗してきたって訳。つまりアンタたちはオマケなんだよ。付いてくるのは勝手だけど、足を引っ張らないでよね。
ティア意外だわ。シンクが兄さんの救出に協力するなんて……。
シンクそう ? ボクからすれば、アンタたちよりヴァンの方がずっとマシだよ。いつまでも死なせてくれないしつこさ以外はね。
リグレットお前たちもこちらに来たからには戦力として利用させてもらう。わかっているな ?
ティアも、もちろんです、教官 !
アニスアニスちゃんも了解。まあ、六神将と一緒の作戦なんて変な感じだけど……。
イオン僕も精一杯頑張ります。
ディストハーッハッハッハッ ! 皆、安心なさい。この薔薇のディスト様が華麗なる勝利を約束して差し上げましょう !
アニスえ ! ? こいつもいるの ?
アッシュ何の話だ、アニス。
アニスえ ? だからこいつ――
リグレットそろそろ時間だ。移動するぞ。
ディストちょ、ちょっと待ちなさい !また私を無視するんですか ! ?
アッシュ船はどこだ ?
シンクこの先だ。救世軍から拝借してきた。
アリエッタお友達……呼ぶ ?
シンク今はまだいい。
ディストキィィィィィィ ! 私の話を聞きなさい !
リグレットアッシュ、ティア、導師イオン、こちらだ。
リグレットディスト、話ならアニスが聞きたいそうだ。
アニスはあああああ ! ?ちょっと、なんでアニスちゃんがこいつの面倒を見ることになってんの ! ?
ディストそうでしたか ! 今回の計画は私の情報が無ければ始まらなかったのですよ。つまり、今作戦は私がいてこそ成り立つのです。
ディストその私の世話係を命じられるとは……あなたも幸せ者ですねえ、アニス。
アニスさーいーあーくーなーんーでーすーけーどー ! ?
ルーク何度見ても飽きねーな、これ。
ミュウはいですの ! ジェイドさん、格好いいですの !
ナタリアお土産も色々種類が増えていますわね。
ガイけど、いいのかジェイド。こんなに堂々と領都に入っちまって。最近、かなり警戒が厳重だって話だが――
帝国兵貴様ら !見慣れない顔だが、こんなところで何をしている !
イクス(ま、まずい……。俺の魔鏡を見られたら……)
帝国兵……おい、そこの銀髪の男。前に出ろ。
イクス
ジェイドどうか、落ち着いて下さい。私は争いごとを避けるべきだと皆さんに訴えてきたつもりですよ ?
帝国兵何だ、お前は……ん ?お前……いや、あなたは……。
ジェイド私はジェイド。旅の者です。最近私の名を騙る鏡士の一派の男が帝国に刃向かい悪事を働いていると聞きました。
ジェイドどうやら私の偽者というのは私によく似ているようですね。
ジェイド私と同じ姿の人間が、皆さんに迷惑を掛けているとは……情けない限りですよ。
全員! ? ! ? ! ?
街の女性もしかして……聖人ジェイド様 ! ?
ジェイド聖人だなんて……とんでもない。私はただ、人としてよく生きる術を皆さんに伝えるべく世界中を旅しているしがない伝道師に過ぎません。
街の女性やっぱり聖人ジェイド様だわ !
街の男性何 !ジェイド様がダアトに戻って来て下さったのか ! ?
子供僕、ジェイド様を見るの初めて !
街の人々――ジェイド様 ! ジェイドさま ! ジェイさまーっ ! ――
イクス知ってる……これ……知ってるぞ……。
ルークマジかよ……やばい……また体が震えてきた……。
カーリャ・Nな……いつもの黒いオーラが消えています ! ?
ナタリアな、何なんですの ? 大佐が気持ち悪いですわ…… ?
ガイまさか、偽者の方に寄せていくとは……。いや、しかしこいつはマジで不気味だな。

Character4話【10-4 オールドラント領 海上1】
ティア教官、兄の行方をどうやって掴んだんですか ?
リグレットナーザとバルドが持っていた情報だ。あの二人はデミトリアス帝のことを調査していたらしくてな。その時に、閣下の話を聞きつけたらしい。
リグレット内容はお前も知っている通りだ。だが、我々はお前たちより早く調査に入ったからな。閣下の足取りを掴むのは、そう難しくはなかった。
ティア兄さんは……今、どんな状態なんでしょうか。
リグレットマルクトの皇帝を回収する役目を閣下が担ったという話だ。
リグレットしかし閣下が帝国に与するとは考えにくい。心核が戻されたことは間違いないようだから恐らくリビングドール化されているのだろう。
ティア心核が戻されているのに、ですか ?
リグレットディストからは、疑似心核に入れ換えなくてもリビングドールにする手段があると聞いている。
リグレットならば、そういった処置を施されていると考えるのが自然ではないか ? それともお前は閣下が帝国に賛同すると考えているのか ?
ティアいえ……。違う、と思いたいです。でも帝国はこの世界を滅ぼし、ニーベルングという新たな世界に移住することを目的にしていると聞きました。
ティア兄がオールドラントでしようとしていたことと……似ています。
リグレット形は同じでも、信念は違う。
ティア……そうだと思います。思いたいけれど私には兄がわからなくなってしまった。わからないまま、この世界に具現化されて……。
リグレット……まあ、わかり合うことはできないだろうな。
ティアえ ?
リグレットわかり合えるならお前と閣下が対立することはなかった。
リグレットだが……ここはオールドラントではなく、預言もない。預言がなければ、お前も閣下もただの兄妹として話せるのではないか ?
ティア………………。
アッシュ――おい、帝国の船影が見えてきた。決行だ。
リグレット行くぞ、ティア。
ティアはいっ !
シンク最終確認するよ。目的は帝国船の拿捕及びヴァンの回収だ。船は傷つけるなよ。計画が狂う。
アッシュ気を付けろよ、死神。
ディストフン、私に言うのはお門違いですよ。
シンク手順はこうだ。まずはアリエッタに、飛行系の魔物を呼んでもらう。
アリエッタうん……わかった。
シンク帝国船が魔物の迎撃を行っている間にこっちの船を接舷させて、帝国船を拿捕する。
シンク先陣を切るのはボクとアッシュだ。リグレットとティアは支援役を、ディストとアニスはイオンと一緒にヴァンの確保に向かう。
アニスえ ! ? イオン様はともかくディストの面倒まで見てらんないよ~ ! ?
ディスト面倒を見るのは私の方ですよ !
イオンまあまあ、仲良く頑張りましょう。ところでシンク、ヴァンの状態次第では戦闘になりかねませんが……。
シンク――というか、十中八九戦闘になるだろうね。だろ、ディスト。
ディストそうですね。こちらに来る前にコーキスから得た情報ですが、帝国は研究中だった簡易型のリビングドールを完成させたようです。
ディストリビングドールγと呼ばれていた代物ですがこれなら心核を抜かなくてもリビングドールにできます。
イオン解除の方法は何かあるのでしょうか ?
ディスト最近施されたものであれば強い刺激ですぐに解除できます。強力な暗示のようなものですから。
ディストただ、長時間暗示に晒されていたとすれば厄介なことになるでしょうねぇ。
アニスそんな時のためのディストでしょ ?何かすごい音機関的なもの、用意してないの ?
ディストもちろん、抜かりはありません。せいぜい楽しみにしていなさい。
シンクヴァンと遭遇したら、足止めしてボクたちを呼ぶんだ。ヴァンは内側にローレライを飼ってる。刺激しないでよね。面倒なことになるから。
帝国兵A――た、大変です !12時の方向から魔物の大群がやってきます !
ヴァンγ慌てるな。砲撃の準備だ。蹴散らせ。
帝国兵A了解 !
ヴァンγ――どうした ?
帝国兵B敵襲 ! 敵襲です !
アニスよっしゃ、敵船侵入 !
イオン帝国の兵士たちはアッシュたちが引きつけてくれていますね。
ディスト当然です。彼らは神の使者たる薔薇のディスト様の露払いなのですからね。
アリエッタイオ……導師、ディスト、アニス。こっち !
イオンアリエッタ !
アリエッタヴァン総長、いた。この先の……艦橋、です。
ディストご苦労様ですね、アリエッタ。さあ、アッシュたちに連絡しましょう。
アニス待った ! 隠れて ! 艦橋から総長が出てくる !
三人! !
ヴァンγ魔物に気をとられて、船の接舷を許すとは愚か者が。
帝国兵B申し訳ありません !
アニス(総長が背中を向けた…… !)
アニスアリエッタ。魔物に頼んでシンクたちに連絡して。
アリエッタわかった……です。
アニスディスト、総長に突っ込んで。
ディストな、何を言っているのです。そういう役目は――
アニスええい、いいから行けーっ !
ディストぎゃーっ ! ?
ヴァンγ後ろからかっ ! ?
アニスアリエッタ ! イオン様 ! ヴァンを足止めするよ !
アリエッタ総長……ごめんなさい !
イオン行きましょう !

Character5話【10-5 オールドラント領 海上2】
アニスちょっ、まだ起き上がれるの ! ?アリエッタ、シンクたちは ! ?
アリエッタわかんない……けど……ちゃんと呼びに行ってくれた筈だもん……。
アニスはぅあ !魔物の言葉、通じてないのかな。
アニスちょっと、ディストすごい音機関的なやつはどうなってんの ?
ディストヴァンを気絶させてくれないと無理ですね。
アニスはああ ! ?
イオンアニス、僕が何とかします !
アニス駄目です !イオン様はすぐ無茶するんだから、絶対駄目ですよ !
リグレットバーストレーザー !
ヴァンγ! ?
アッシュ紅蓮襲撃 !
二人そこだ ! /そこです !
二人ダアト式 ! 八卦硬衝 ! !
ヴァンγぐぅっ ! ?
ティア兄さんっ !
シンク……余計なことを。ボク一人で十分だった。
イオンそうですね、すみません。
リグレットティア、閣下は ?
ティア気絶しています。
ディストよろしい。ならばこの【タルロウC・ケイジ】の出番ですね。さあ、くらいなさい、ローレライ !
? ? ?ここは……一体……。
ディストやりましたよ !私の作った仮想クレーメルケイジにローレライを捕らえました。
アニス仮想クレーメルケイジ ? どういうこと ?
シンクローレライは、存在が不安定な精霊なんだよ。本来は精霊で無い物がエンコードされた存在だからね。
シンクローレライは音の精霊であり未来への指向性を強く持ち時の精霊に似た側面がある。
ディストそれ以外にも第一から第六の音素の性質が混在しています。つまり音素の精霊とも言える訳です。
ディスト様々な力が内包されているせいでローレライは誰かに寄生していないと存在が希薄になる。
ディストローレライを観測しやすくするために一時的にヴァンから切り離すための装置がこの仮想クレーメルケイジなのです。
アニスなるほど~、わからん。
アリエッタアリエッタも……わかんない……。
アッシュお前たちの頭はルーク並みか ?
リグレットわからなくていい。要するにローレライを一時的に閣下の外へ引きずり出すための装置だ。
アニスなるほど~、今度はわかった。
アッシュイオン、奴からヴァンの心核があった場所を聞き出してくれ。
イオンわかりました。
シンクこの場はイオンとティアとディストに任せるよ。残りは雑魚どもの掃討だ。
シンクそれと地図か海図があったら持ってきて。気になることがあるから。
帝国兵――では、ジェイド様とお弟子の皆さんはこちらの部屋でお待ち下さい。今から上司に報告してきます。
ジェイドありがとうございます。よろしくお願いしますね。
ナタリアまあ……いつの間にか大佐の弟子にされてしまいましたわ。
ガイさて、旦那――いや、聖人ジェイド様。こいつはどういうことなのか、説明してもらえるかい ?
ジェイドどういうつもりか、と言われましても。せっかく聖人ジェイドが厚い信頼を得ているのですからそれを利用した方がいいと考えたのですよ。
ジェイド聖人ジェイドが悪の権化の鏡士を改心させて帝国に協力するように説得して連れてきたと聞けば帝国側も無碍には出来ないでしょう。
ガイまあ、それで実際、こうして警備が厳重になって近寄れなかった領主の館にすんなり入れちまったからなあ……。
カーリャ・Nですが、罠ではないのでしょうか ?
ジェイド罠でも構わないんですよ。ピオニー陛下に会えればいいんですから。
ジェイドそれに、上層部はこちらを疑うでしょうが末端の兵士たちは市民と同じように聖人ジェイドの信奉者です。
ジェイドあまり心配しなくても大丈夫でしょう。
カーリャ・Nた、確かに……。
ガイこんなに簡単に事が運ぶなら他の領地でも……と思ったがそもそもダアトが特別なのか。
ジェイドええ。聖人ジェイドの存在があってこそ大胆な行動に出られるのです。
ジェイド皆さん、日頃の行いは大事ですよ ?常に隣人には優しく、家族や友人を大切にして愛をもって接しましょう。
ミュウ愛ですの !
ルークううう……じんましんが……っ !
イクスお、俺も、何か体中がかゆい……。
ナタリアまあ、二人ともさっきからどうしたのです ?いくら聖人のジェイドが不気味だからといってそこまで嫌がらなくても……。
ジェイドルークはともかく、イクスまで聖人ジェイドに拒否反応を示すとは、驚きましたね。
ジェイド以前は随分慕っていたではありませんか。私の振りをしていた光魔のことを。
イクスす、すみません……。長年ジェイドさんを見ている内にすっかり悪――手段を選ばないジェイドさんに慣れてしまって……。
イクスまあ、今回のも手段を選んでいないといえばそうですけど……。
ルークな ! ? あの時、俺が気持ち悪いって言ったのわかるだろ ! ?綺麗なジェイドを見てると、ぞわぞわするんだよ !
イクスああ、わかるよ、ルーク。すごくよくわかる。
ジェイドそうですか。もし、今この場にミリーナがいたら何と言ったでしょうねぇ。
イクス……え ?
ジェイド――なーんて。どうです ? かゆみは治まりましたか ?
イクス………………ジェイドさん。あの……どこまでご存じなんですか ?
ジェイドいえ。別に、何も。
二人……………………。
ナタリアどうしたんですの ?ミリーナに何かありましたの ?
ジェイドまあ、その話は置いておきましょうか。
ジェイドこちらに鏡士のイクスがいるのですから領主であるピオニーは、必ず何か動いてくる筈です。まずはあちらの出方を待ちましょう。
ルークお、おう…… ?
ルークでもさ、もしいきなり兵士が踏み込んできたらどうするつもりなんだ ?
ジェイドこの部屋の広さなら、兵士が取り囲んできてもたかが知れていますよ。まあ、兵士を一人人質にとって領主の元に案内してもらえばいいのでは ?
ガイ聖人が聞いて呆れるな……。

Character6話【10-6 オールドラント領 海上3】
イオンローレライ、僕の声が聞こえますか ?あなたに聞きたいことがあるんです。
ローレライ導師か……。私に何を問う ?
イオンマルクト皇帝ピオニー・ウパラ・マルクト9世の心核のありかです。
ローレライそうか……。核のありかだな。今、そなたに見せよう……。
イオンこれは……地下神殿…… ?
ローレライだが、私の観測できる未来ではすでにこの場所に核はない。核は地下水脈に乗って運ばれる。
イオンえ ! ? それは預言でしょうか。
ローレライ否。私の観測できる範囲の確定せぬ未来の一つ。これまでも、そなたに見せてきた可能性の未来だ。
ローレライこの星は造られた星。星ならざる星。私とは違う理にある。
イオンそれは僕たちが未来を変えられる――ということですね。
ローレライだが、気を付けよ。クロノスによって、私の力が暴走する。未来を確定させ、強引に招こうとする力がある。
イオンそれは一体どういうことです。
ローレライこの世界に上書きしようとしているもう一つの世界――あれは呪われた星だ。時が歪められている。クロノスを鎮めねばならぬ。
ローレライ分かたれたクロノスを集めよ。
ローレライ……ユリアの縁者が目覚める。私はまた彼の者の中に沈む。
ローレライそうすることでこの世界への干渉を抑えられるだろう。導師よ、また会おう。
ヴァン……く……。
ティア兄さん !
ディストヴァンが目覚めましたか。導師イオン、仮想クレーメルケイジは効果を失ったのですね。
イオンええ。この装置はヴァンが覚醒状態では作用しないんですね。
ディストその通りです。ヴァンはローレライを内包した状態で具現化しました。切り離すことはできません。
ディストヴァンが心核を失っていた間、ローレライはあなたの存在を宿り木にすることで存在を安定させようとしていたんですよ。
ディストですが、ヴァンが目覚めれば話は違う。今まであなたが不規則に見せられていた未来も今後は違う形で訪れるでしょうね。
ヴァン……そうか。そういうことか。
二人
ヴァンティア、世話を掛けたな。
ティア兄さん…… ! 本当に……兄さんなの ?
ディストリビングドールγのことならもう大丈夫ですよ。仮想クレーメルケイジに入れたことで、ローレライはこの世界の精霊として、一時的に安定した。
ディストローレライが安定すればその力によってヴァンの暗示も解ける。こうなることは全て計算済みです。
イオンさすがディストですね。
ディスト当然ですよ。
ティア兄さん……。だったら、今の状況はわかるの ?
ヴァン私はローレライの記憶も内包している。忌々しいことだが、今は奴の記憶が助けになっている。
ヴァン私に何が行われたか、どうしてここにいるのか全てははっきりしている。
ヴァンティア、アッシュたちを呼びなさい。
ティアえ ? でも、どうして……。
ヴァンどうやら、この絵を描いたのは死霊使い殿のようだ。ならば……礼をせねばなるまい。
ヴァン――ディスト。預言に呪われた地での離反は水に流そう。今回は良くやってくれた。
ディスト私は私の目的のためにローレライの性質を掴みたかっただけですよ。
ヴァン知っている。貴様がこの地で何をしてきたかもローレライが見聞きした範囲で、全てな。
ディスト
ヴァン私に従え、ネイス博士。そうすれば、ローレライの観測も容易くなるぞ。
ディスト……いいでしょう。
ヴァン導師イオン。帝国はピオニー9世の心核を運ぶため別働隊を動かしている。
ヴァンあなたがローレライから教えられた場所と私が知っている作戦を付き合わせたいのだが構わないだろうか。
イオンもちろんです。
アニスはぅあ ! ヴァン総長……ホントに目が覚めてる !
ヴァンアニスか。まさかお前に助けられるとはな。アリエッタとリグレットが世話になった。
アリエッタ総長 ! 総長、元気になったの ! ?
ヴァンアリエッタ……。つらい思いをさせてしまったな。
アリエッタ総長、力を貸して。アリエッタ……イオン様の仇をとる、です !
ヴァン無論だ。私に任せておけ。
シンク相変わらずだね、アンタは。
ヴァンシンク、良くやってくれた。お前こそ、相変わらず見事な働きぶりだ。
アッシュ……ヴァン……。
ヴァンアッシュ、いい子だ。
アッシュこ、子供扱いするなっ !
ヴァンフフ、そうだったな。助かったぞ。感謝する。
アッシュ………………。
リグレット閣下、ご命令を。
ヴァン船をダアトの南に向けよ。これより、マルクト帝国ピオニー9世の心核を奪還する !

Character7話【10-7 オールドラント領 地下】
シンクこれ、帝国の船で見つけた地図だ。ローレライからイオンが聞いた地下神殿と水脈の位置が重なってる。
ヴァンふむ。これは領都のすぐ脇を通っているな。ダアトの中で、地下水道と繋がっているのだろう。
リグレットやはり、閣下の見立て通り敵はこの進路で心核を運ぶと考えて間違いないかと。
ディスト出発地点は間違いないのですか ?そこがずれていたら、全ての計算が狂います。
ヴァン導師の話と私が持つローレライの記憶は合致している。この水路を遡った地下神殿に心核はあった筈だ。
アリエッタ総長、お友達から連絡が来たよ。誰か来るって。いっぱい。えっと……八人。
アッシュ当たりだな。どうする。ルークに連絡するか ?
シンクいや、待て。確実に心核を入手するまで余計な報告をしない方がいい。
ティア……すごい。
ヴァンどうした ? ティア。
ティアあ……。ううん。兄さんと六神将がそうやって作戦行動をしているのを初めてちゃんと見たから……。
ヴァン元の世界では敵対していたからな。
アニスさすが、私のヴァンお兄ちゃん !私、やっぱりお兄ちゃんが好き !……みたいな~ ?
ティアな ! ?
アニスわかる~、わかるな~。普段と違う一面を見るとこうキュンってなるんだよねぇ。
イオンアニスもそうですよね。いつもはニコニコしてますけど時々ドスのきいた声で敵を威嚇してくれます。
アニスそ、それは違いますっ !
ティアわ、私も違うわよ !
リグレット違うのか、ティア ?
ティア教官 ! ?
ヴァン……フ。違うのならば残念だな、ティア。
ティア兄さん ! あ、違わないの ! あ、違うわ。アニスが言ってることが違うだけで私は兄さんのことが嫌いなわけじゃ……。
アッシュ何を慌ててるんだ、貴様は。
ティアあ、慌ててなんていないわ。
シンク良かったね、ヴァン。導師とアニスはともかく六神将とティアがいるのはアンタが望んだ『最期』の光景だろ。
ヴァンこの地においては、もはや潰えた夢だ。それに、ここにはラルゴがいない。
アリエッタ……お友達から、連絡。あと曲がり角二つのところまで来てる。
シンクさあ、馬鹿馬鹿しい馴れ合いは切り上げてくれる ?計画の総仕上げだ。
ヴァンティア、支援を頼む。お前にはすでに十分な力があるはずだ。
ティア――はい、兄さん !
ヴァンリグレット、アッシュとアリエッタを連れて後方から挟撃準備だ。一人も逃がすなよ。
リグレットお任せ下さい。アッシュ、アリエッタ、行くぞ。
アッシュ……ヴァン、あんたは病み上がりみたいなもんだ。無理はするなよ。
ヴァンフ……。ここにはお前がいるのだ。私が本気を出すまでもなかろう。違うか ?
アッシュ……当然だ。
アリエッタ待っててね、総長。いっぱい敵……倒してくるから。
ヴァンディスト。お前は我々の頭脳であり切り札だ。前線を任せるのは厳しいかも知れないが――やってくれるな。
ディストま、まあ、今はコマとなる雑兵もいませんからね。特別に戦ってあげましょう。
ヴァン導師、無理はしないように。アニス、導師守護役として存分に働け。期待している。
アニスはぅあ ! これか……これにみんなやられるのか……。人たらしだわ……。
イオンふふ、そうですね。ヴァンは相変わらずです。
ヴァンシンク、指揮は任せたぞ。お前の分析が一番信頼できる。できるな ?
シンク……ホント、アニスじゃないけどさ。アンタのそういうところだよ。ボクが嫌いなのは。
シンクさあ、位置に付いて ! さっさと終わらせるよ !
ピオニーβ聖人ジェイド殿とその弟子、か。
ルークピオニー陛下……。
ピオニーβ……この体の知り合いか。なるほど、ではやはり貴様たちは鏡映点で銀髪の鏡士はイクス・ネーヴェだな。
ピオニーβどういうつもりだ ? 何故のこのこと現れた。
ジェイドおや、話が伝わっていなかったようですね。この聖人ジェイドが、悪辣な鏡士たちを説得し帝国に忠誠を尽くすよう導いたのです。
ピオニーβそんな戯言を信じるとでも思ったか ?
ジェイドでも、あなたはこの部屋に入ってきた。あわよくばイクス・ネーヴェを捕らえるなり、彼の魔鏡を手に入れるなりできる……と考えたのでしょう ?
ピオニーβ私を捕まえたところで【ルグの槍】は止められないぞ。
ジェイドええ、知っています。それどころか、恐らく【ルグの槍】の発動は、【贄の紋章】を刻まれた人間がどこにいようと関係が無いのでしょう。
ジェイドだから、領主たちが次々と我々に連れ去られても帝国はさして気にとめていなかった。
ピオニーβそうだ。領主たちに心核を戻させないよう尽力していたのは、時間稼ぎに過ぎない。この体が欲しいのならくれてやるぞ ?
ジェイドおや、いいのですか ?我々はフリーセルと手を結んでいるのですよ ?
全員! ?
ピオニーβな……んだと…… ?
ジェイドもっとお話をしたいのですが人払いをお願いできませんか。
ルーク……いってぇ……。まさか、これ……。
ガイルーク ! どうした ? あ、もしかして……。
ルークああ、アッシュだ……。……――え ?
帝国兵 ?領主様 ! 心核の輸送隊が襲われました !
ピオニーβやはり来たか。大方そんなところだろうと思っていた。だが、こちらも準備をしていた。聖人ジェイド、お前たちは袋のネズミだ。
ピオニーβこの部屋には――
帝国兵 ?――この部屋に仕掛けていた魔鏡陣ならとっくに無効化してあるよ。
シンクおい、死霊使い。全ては手筈通りだ。これで文句はないだろうな。
ジェイド結構。では、皆さん、ピオニーを捕まえましょうか。
カーリャ・Nえ ? な、何が起こったんですか ! ?
ナタリア何でシンクがこんなところにいますの ! ?
ルークあ、それはアッシュだよ。さっき連絡が来たんだ。アッシュがシンクたちに協力を頼んで心核を取り戻して――
ジェイド話は後です。さあ、日頃の恨み――いえいえ、友情のために、非常に心苦しいのですがピオニーを痛めつけましょう ♪
イクスな、なんか、綺麗なジェイドさんと戦ったときのルークみたいだな……。ていうか、相手は皇帝陛下で幼なじみなんですよね ! ? いいんですか ! ?
ガイまあ……何というかジェイドの気持ちもわからなくはない。
ガイ俺もこの際だから、元の世界での『復讐』と『恩返し』をさせてもらうとするか。
ルークはは……。ごめん、陛下 !

Character8話【10-8 オールドラント領 領主の館】
シンク終わったみたいだね。はい、これ。
イクスこれ、ピオニーさんの心核 ! ?
シンク多分ね。確認できないから知らないけど。
ジェイドまあ、何でもいいですからとりあえず入れてしまって下さい。
イクスそんな ! ? ジェイドさん、雑すぎませんか ! ?
ジェイドいえ、自分の作戦に自信があるだけです。それはピオニーの心核ですよ。まあ、別人でも面白いですが……。
カーリャ・Nジェイド様……。聖人のままでいてくれた方が……。いえ、アレはアレでやはりちょっと……。
イクス……わかりました。とりあえず戻しますよ。
シンク心核を戻したら脱出だ。皇帝は――
ガイ俺とイクスで運ぼう。どうせジェイドはやらないだろうからな。
ジェイド私がそんなに薄情な人間だとでも思っているのですか ?
ガイいやいや、意外と情には厚いが肉体労働が嫌いなだけだよな。知ってるよ。
ナタリアそうですわよね。今回、なんだかんだ言って大佐にしてはかなり積極的に動いていましたもの。
ルークここを出たら、そもそも何がどうなってたのかちゃんと教えてくれよ、ジェイド。
ルーク……つまり、全部六神将組にやらせる手筈だったってことか ?
ジェイドいやですね、人聞きの悪い。適材適所ですよ。こちらはワルターからの情報でヴァンの行方を追っていた。
ジェイド同時にリグレットたちもヴァンの行方を追っていた。手を組めると考えるのは当然でしょう。
アッシュほとんどの仕事をこちらに押しつけておいて何だ、その言い種は。
ナタリアアッシュ ! ご無事で何よりですわ。大佐の話では、何もかもそちらにお任せだったようで……申し訳ないですわ。
アッシュいや、お前の方は戦わなくて済んでよかった。
ナタリアあら ? 私、ピオニー陛下と戦いましたわよ ?
アッシュな……、話が違うぞ、死霊使い !
シンクこいつを信じるアンタが馬鹿なんじゃない、アッシュ。
イクスすみません、話を戻しますけど、ジェイドさんは結局どこまで状況を把握していたんですか ?フリーセルと繋がっているって話も……。
ジェイドそうですね……。わからなかったのはピオニー陛下の心核のありかだけです。
ジェイドただ、それに関しては、ヴァンもしくはヴァンの中のローレライが知っているのは予想できましたからね。
ジェイドですから、リグレットたちにまずヴァンを取り戻すよう焚きつけました。
アッシュ俺たちは、ヴァンがピオニー9世の回収に動くという情報を仕入れた。それをジェイドに知らせたところジェイドはピオニー9世を足止めすると言ってきた。
ジェイド帝国がピオニー陛下の心核を回収することは予測できました。ただ、タイミングまではわからない。
ジェイドヴァンにやらせるのか、別働隊が行くのかピオニー陛下自身に行かせるのか。
ジェイドただ、ピオニー陛下を領主の館に置いておけば最終的には心核もピオニーかヴァンに届けられると考えました。
ジェイドあとは……そうですね。ヴァン謡将のような方なら私に助けられたと察知すれば義理を果たしてくれるとも考えましたね。
ガイ相変わらずとんでもない先読みの仕方をするなジェイドは。
イクスでも、フリーセルの件は……。
ジェイドあれは、でまかせです。
五人! ?
ジェイドさっき少し話しましたが、帝国は本来、我々に領主を奪われても痛くもかゆくもない。それが、最近になって領主たちを帝都に集めて保護するようになった。
ジェイド何か状況が変わったのでしょうね。ユーリたちの話では、フリーセルらしき男が心核のある遺跡に姿を見せていた。
ジェイド何か繋がりがあるかもと思い、あそこで足止めもかねてカマをかけてみたんですよ。
カーリャ・Nなるほど……。
ルークつーか、だったら最初からわざとピオニー陛下に捕まって時間稼ぎするって言っといてくれよ !
ナタリアそうですわ ! そうしたらもっと上手く立ち回れたかも知れませんのに。
ガイ……まあ、ルークとナタリアなら、何も知らせない方が都合がいいと思ったんだな、旦那は。で、ついでに俺やイクスたちにも隠すことにした、と。
ルーク何でだよ !
ガイそりゃお前、嘘が下手だからだよ。
ピオニー……うう……。
ナタリアまあ、陛下が目を覚ましましたわ。大丈夫ですか ? どこかお怪我は……。
ピオニーナタリア……王女…… ?
ナタリアええ、そうですわ。どうやら、あの心核はピオニー陛下の物で間違いなかったようですわね。
ピオニー……綺麗だ。
ナタリアえ ?
ピオニーナタリア王女、成人したら結婚しよう。ピオくん……と呼んでほしい、さあ……。俺の耳元で !
アッシュジェイド ! 何なんだこいつは ! ?
ジェイド……目が覚めるなりこれですか。
ピオニー……なんだ、いたのか。可愛くない方。
ジェイドピオくん ♪ 元気を出して下さい ♪
ピオニーきも……。ああ……死ぬ。あまりの気持ち悪さに俺は今にも死にそうだー。ナタリア王女俺を抱きしめてこの世に引き止めてくれないか。
アッシュナタリア、離れろ ! ガイ、止めろ !
ガイ陛下。そういう嫌がらせをやるようになったら人間終わりです。
ピオニーガイ……。そんな冷たいこと言うなよ。マジで体が動かないんだって。
ジェイド口は回るようですね。うるさいので心核を抜きましょう。
イクスルーク、あれが皇帝陛下…… ? 本当に ?
ルークははは……。だってジェイドの幼なじみで親友だぞ。
カーリャ・Nそうですね。ジェイド様の親友がまともな訳がありませんね……。

Character9話【10-9 オールドラント領 浜辺2】
ティア……兄さん。これからどうするの ?
ヴァンさて……どうするか。
ティアアスガルド帝国のやろうとしていることは……。
ヴァン……私と同じ、か ?
ティア……違う。違うことはわかっているの。でも、起こそうとしている事象は同じよね。
ヴァンまあ、我々のやろうとしてきたことを利用されてはいるのだろうな。
ティア兄さん……私、兄さんと戦いたい訳じゃなかった。未来は変えられるって兄さんに伝えたかった。
ヴァンいや、変えられない。変わらないと、私は知っているのだよメシュティアリカ。
ティア……ルークは預言に詠まれていない存在よ。枝葉が違えば――少しずつ変えていけば大きなうねりだって変えられる。
ヴァン……メシュティアリカ。すまなかったな。私はお前を傷つけることしかできなかった。
ルークヴァン師匠 !
ヴァンルークか。ティアを頼むぞ。
ルーク待ってくれよ、師匠 !
ヴァン何を話すことがある ?
ルークあるよ ! 沢山ある !あなたになくても、俺には沢山あるんだ !
アニスルーク……。
アニスヴァン総長 !逃げないで、ちゃんとルークと向き合ってよ !
ヴァン………………。
アニスルークを作ったのは総長でしょ !ルークの話、ちゃんと聞いてよ !
ティア兄さん !
ヴァン……ルーク。
ルーク師匠、俺……俺は……生きてる。ちゃんと生きてる。レプリカだけど……ちゃんと人間だ。
ヴァン……私に認めて欲しいのか ?
ルーク
ルーク……そうだよ。ずっとそうだったよ !俺には師匠しかいなかったから……。そう思い込んでたから。
ルークずっとアッシュが羨ましくて……俺だって……俺だってって。けど、もう……それはいい。
ルークこの世界に来て、記憶や感情だって他人に振り回されてる仲間がそれでも必死に立ち上がってくるのを見た。
ルークだから、俺も思ったんだ。俺が俺であるためには他人の物差しで生きてちゃだめなんだって。
ヴァンならば、私に言うべき言葉は一つだけだろう。
ルークそれは……。
ヴァンためらいや迷いがあるならお前はまだ何もわかっていない。
ルークためらうよ ! ヴァン師匠は俺の師匠で……。
アッシュおい、ヴァン。お前こそ、言うべき言葉がある筈だ。
ルークアッシュ…… ?
ヴァン――ルーク。剣を抜け。
ティア兄さん ! ?
ヴァン最後の稽古を付けてやろう。証明して見せろ、お前が自分を単なる模造品ではないと言うのならな。
ルークああ――やってやるっ !

Character10話【10-10 オールドラント領 浜辺3】
ルーク……か、勝った、のか ?
ヴァン……フ、二度もお前に負けるとはな、ルーク。見事だ……。
ヴァン……ウッ……。
リグレット閣下 !
ヴァン……大丈夫だ。
ヴァンルーク、私を憎めないのは、お前の甘さだ。だが……それがお前という存在の強さなのだろうな。
ルーク師匠…… !
ヴァン何故、まだ私を師と呼ぶのだ。それはお前の望みではないだろう。お前は私と決別するために来たのではないのか ?
ルークそうです……。
ヴァンならば、告げよ。
ルークヴァン師匠……。さよう……なら……。
ヴァン……さらばだ、ルーク。
ヴァン次の機会には、お前の師のヴァンではなく同志たちを守る騎士ヴァンデスデルカとしてまみえよう。
ルーク……はい、師匠。
ヴァンまだ言うか、愚か者が。
ヴァン……ガイラルディア様。そろそろ姿をお見せになってはいかがですか ?
ガイ……おっと、気付かれてたか。
ルークガイ ! ?な、何だよ ! 付いてくるなって言ったじゃん !
ガイいや、まあ、色々と気になっちまってな。悪かったよ。
ガイヴァン――いやヴァンデスデルカ。お前が騎士としての本分に立ち戻るのなら俺たちももう一度やり直せるよな。
ガイこの世界じゃ、ホドの生き残りはお前とティアだけだ。
ヴァン……今はまだお約束はできかねます。私はまだ、この世界で何をなすか見つけられてはいない。
ヴァン何より、私はあなたたちの仇だ。
ガイそうさ。お前は俺たちの敵で仇だ。罪のない沢山の命を刈り取ってきた。
ガイだが、互いに許し合えなくても、理解が及ばなくても同じ方向を向くことはできるんじゃないのか ?
ガイ何より、お前は俺の幼なじみだしな。だから、待つよ。
ヴァンガイラルディア様……。あなたという人は……。
リグレット……閣下、そろそろ行きましょう。お体に障ります。
ガイ――リグレット、ジェイドから伝言だ。ナーザたちに連絡を寄越せとよ。
リグレット承知した。――シンク、行くぞ。
シンクボク、一応救世軍所属なんだけど。
ヴァンシンク、戻って構わんぞ。
シンク……ビフレストの連中のところまでは付き合う。その後でケリュケイオンに戻るけどね。
アニスおおおおお……なんか、こう、盛り上がってた~ !海辺で仇敵との熱い会話か~ !
アッシュ見世物じゃねぇんだぞ。それに、お前もヴァンに叫んでたじゃねぇか。
アニスいやいや、あれは、こうその場のノリっていうか。でも、いいものを見せてもらいましたー !
イオンアニス……。そういうところジェイドに影響されていませんか ?
アニスぶーぶー ! 心外ですぅ !
ティアガイ……ありがとう。兄さんに歩み寄ってくれて。
ガイ最初に歩み寄ったのは、あっちだぜ。
ティアえ ?
ガイヴァンの奴、ルークに歩み寄ってただろ。
ティアええ……。そうね。
ルーク……うん。屋敷にいた頃みたいな嘘……じゃないよな ?俺を利用するための、さ。
ティアええ、きっと……。
ルーク……なんか、ガイもティアもいいな。ヴァン師匠と繋がりがあって。
ルーク俺も師匠と幼なじみだったら良かったな。それか師匠の弟とか……。
ガイ……お前のヴァン贔屓も大概だなぁ。
ルークだって……やっぱ、師匠だからさ。
アッシュ……言っておくが、てめえだけの師匠じゃねぇからな。
ルークな、なんだよ ! お前こそ、六神将だからって師匠と一緒に行動してズルいぞ !
アニスルーク、ヴァン総長と決別したんじゃなかったの~ ?
イオンそうですよ。師と弟子の関係にこだわるのではなく一人の戦士としてヴァンの横に立つというのもいいじゃないですか。
ルークおお、そうだよな ! そっちのがカッケーよな ! ?
アッシュ馬鹿が……。下らんことを言ってないでさっさとアジトに引き上げるぞ。
ルークお、余裕じゃん。今頃ナタリアがピオニー陛下に口説かれてるかも知れないのに。
アッシュ! !
ガイまったく、お前ら、本当に子供だなあ……。
イクス……ジェイドさん。あの、ミリーナのことですけど。
ジェイドああ、いえ、説明は結構。
イクスあ……はい……。
ジェイドまあ、ミリーナは今まで通りに振る舞っていますが――
イクス俺も、そうしていたつもりなんですけど……。
ジェイドああ、違います。周りは気付いていないと思いますよ。あなたもミリーナも、今まで通りに振る舞えています。
ジェイド二人がそうしようと思ったのなら私が口出しすることではありません。
ジェイドただ、ミリーナもあなたも、今より少しだけ一人になれる時間を作ってはどうかと思いましてね。
イクスえ ?
ジェイドミリーナも一人で泣きたい時もあるでしょう。あなたも、ミリーナに気を使いすぎる必要はない。
ジェイドまあ、恋愛というのは脳の錯覚ですから深く考えすぎないことです。
イクスはは……。
ナタリア大佐 ! イクス ! ピオニー陛下を何とかして下さい !
ジェイドおや、呼ばれてしまいました。まあ、そういうことです。
イクスはい……ありがとうございます。
to be continued