Character1話【13-1 グリンウッド領 森】
アルトリウス――これで、計画の全容は以上だ。理解したな ?
テレサは、はい……。
アルトリウスどうした。
テレサい、いえ ! その……聖主カノヌシの復活が叶うと知って驚いておりました。この世界にも地脈があるとは存じませんでしたので。
アルトリウス正確に言えば地脈の代用となるものだ。
アルトリウス鏡士たちがこの世界を具現化する時に使ったという魔鏡術の根源、オリジンの力が大地の奥底に封じられていた。
テレサオリジン……。それほどの力を持つ存在なのですね。
アルトリウス『創造』と『想像』を『融合』させてできたこの世界の命の源だ。オリジンの力は地脈のように広がっている。
アルトリウスこれを目覚めさせることで地脈に見立てることが可能となるのだ。
テレサそこに聖主カノヌシは眠っておられるのですか。
アルトリウスああ。本来、神と同等の力を持つ聖隷カノヌシはこの世界での具現化は叶わぬ。具現化がなったとしても力が矮小化されるだろう。
アルトリウスだが、聖隷――天族は精霊として具現化可能だ。事実、カレイドスコープに残された情報に拠ればカノヌシは具現化されている。
アルトリウスだが、帝国も鏡士たちもカノヌシを観測していない。考えられるのは、カノヌシの心と体が分離しているためこの世界の精霊に取り込まれたという可能性だ。
テレサ確かに、この世界の多くの精霊は同等の力を有するティル・ナ・ノーグの精霊と統合されて具現化されています……。
アルトリウスならば、世界の在り方に作用するカノヌシの力はこの世界を構築するオリジンに内包されていると考えた。それはグラスティンの調査からも推測できた。
テレサ………………。
アルトリウステレサ、先ほどから心ここにあらずのようだな。
テレサい、いいえ、そんなことはありません !ただ、先ほどのお話がどうしても気になるのです。この計画では、まるで……。
アルトリウス……そういうことか。落ち着きなさい、テレサ。そんな有様では、この計画は成し得ない。
テレサ申し訳ありません……。
アルトリウスいいか、私が話したのはあくまでも邪魔が入った場合を想定しての話だ。
アルトリウスどこまでも冷静に、自分の使命が何かを考えろ。
テレサ承知しました。必ずや、ご期待に沿う働きをお約束します。
アルトリウス私は引き続きヘルダルフを探す。後は手筈どおりに。いいな ?
テレサはい。アルトリウス様も、どうかお気をつけて。
アルトリウスさて……。
アルトリウスどうやら探す手間が省けたようだ。待っていたぞ。
アルトリウスヘルダルフ。
ヘルダルフその言葉、そのまま返してやろう。ようやく会えたな、導師よ。
アルトリウス……なるほど。随分と様変わりしたな。魔導器の影響か、力も驚くほど増したようだ。
ヘルダルフ貴様への怒りと憎しみ故にな。
アルトリウスそうか。やはり人が業によって穢れた姿は愚かで醜い。
ヘルダルフ醜いか。ククッ……フハハハハハハッ !
ヘルダルフ呪いをかけた張本人がよくもぬけぬけと言えたものよ !
アルトリウス謀反人に正統な裁きを与えたまでだ。
ヘルダルフ裁きだ ? あの掴みどころのない皇帝のためか。嘘も大概にしておけ。
ヘルダルフ呪いなどかけずともワシをリビングドールとやらにして意思を奪えば済んだであろうが。
ヘルダルフ貴様、腹の底に何を隠している。
アルトリウス何も。私が私であるが故に導師としての務めを果たしているだけだ。
ヘルダルフその務めが、貴様の言う業によって穢れたワシを否定することか。
アルトリウスそうだ。それが理だ。
ヘルダルフ愚かな。業とは欲、欲は生きる力よ。業を背負って生きることこそ、人が人である所以。貴様とて同じだろう。
ヘルダルフ理という傲慢な理想の押し付けこそが貴様の欲そのものではないか !
アルトリウスわかっている。だからこそ、私は全てを背負う。
ヘルダルフならば死ね。愚かな理想と共に !
ヘルダルフっ ! ?
アルトリウス戦訓その一、策戦は堅実に。対応は柔軟に。
ヘルダルフ……体が…… !
アルトリウス拘束のみに特化させた術式だ。今の貴様でも簡単には解けん。
ヘルダルフいつの間に……ぐおおおっ !
アルトリウスあれほどの穢れだ。気配を感じる者であれば対策の一つもするさ。
アルトリウスだが、お前は私への警戒を怠った。本来ならば、そこに考えが至らぬ程愚かでもなかっただろうに。
アルトリウス急激に力を増したことで、己の強さに溺れたあげく私への怒りが目を曇らせたのだ。やはり業とは醜いものだな。
ヘルダルフおのれぇぇっ ! 導師ーーーーっ !ぐああああああっ !
アルトリウス大人しくしておけ。苦しむだけだ。
アルトリウス――事は済んだ。転送魔法陣の準備はできているか ?
帝国兵βはい。ミッドガンド領内聖主の御座への転送確認を完了しております。
ヘルダルフくっ……聖主の御座……だと…… ?
アルトリウスグリンウッド領ではセルゲイの手前帝都へ運ぶという話になっていただけだ。
アルトリウスその忌まわしき穢れはカノヌシへの贄とさせてもらう。腐抜けたベルベットの代わりにな。

Character2話【13-2 ケリュケイオン1】
エルレイン治療は終わりました。もう痛みはないはずですよ。
スレイありがとう、エルレインさん。
ザビーダいやー聖女様の治癒術はまた格別だな !今度お礼するぜ、個人的に。
エルレイン俗な見返りなど不要です。
ザビーダ怖っ……。
マークハハッ、冗談が通じる相手じゃねえって。しかしハデにやられたな。
フィリップヘルダルフは予想以上の強さだったようだね。
ライラええ。かの者の強さは魔導器によって引き上げられていました。あのまま戦っていたら、こちらが危なかったでしょう。
スレイ……いや、勝てなかったのは魔導器のせいだけじゃないよ。
スレイあいつを浄化するためにはきっと、知らなきゃいけないことや足りないものがたくさんあるんだ。
スレイヘルダルフに何があったのかとかオレ自身の実力とかさ。
エルレイン………………。
ミクリオ……そうだな。けど、それはスレイだけじゃない。僕たちみんなに言えることだ。
全員…………。
ビエンフーく、空気が激重でフー……。
エドナミボのせいよ。責任とって何とかしなさい。
ミクリオ何とかって言っても……。
エドナ踊りでも踊って場を盛り上げればいいでしょ。協力してあげる。ほら、ほら、ほーら。
ミクリオちょっ、くすぐったいだろ !傘はやめろ !
ビエンフーああっ、エドナさんにあんなツンツン……。うらやましいでフー。ボクも優しくツンツンされ――
アイゼンビエンフー……、てめえ、後で倉庫に来い。
ビエンフービ、ビエ~~~~ン ! 姐さん、お助け~~ !
マギルゥ自業自得じゃ。しかも益々空気を悪くしおって。ベルベット、こんな時こそお主のアレをブチかましてやれい !
ベルベットは ? アレってなによ。
マギルゥまたまたぁ、出し惜しみせんでいいんじゃよー ?伝説のモノマネを披露する絶好の機会であろうが。
マギルゥこの重っ苦しい空気の中お主が「ポッポ~ ♪ 」と一声鳴けば泣いたカラスも怒って笑い、ドカンドカンの大爆笑 !
ベルベットっ ! !
ライフィセットベルベット、大丈夫 ? 顔が赤いよ。
ロクロウなんだ、ハトじゃなくてタコのモノマネか ?
マギルゥそうか !ブルナーク間欠泉から飛び出す茹でダコじゃな ?ニッチな新ネタを仕込んで来るとは、侮れんヤツめ。
エレノアいい加減にしてください、あなたたち !こんな時に何をふざけているのですか。
エレノアベルベットも、芸を披露するならもっと相応しい場所でやってください。
ベルベットやるわけないでしょ !まったく、疲れるったらないわね……。
ライラ芸を『披露』するのに『疲労』してしまった……というわけですね !
ベルベットそれやめて。ホントおじさん臭い。
ライラ酷いです、ベルベットさん。ダジャレはおじさんだけのものではありませんわ !
アリーシャふふっ、さすがライラ様だな。
スレイっていうか、怒るとこずれてるし。
ロゼでさ、結局あたしら何の話してたんだっけ ?
3人っ……あっはははははは !
マギルゥどうじゃなご一同。泣いてばかりの子ガラスも我らマギルゥ奇術団にかかればあっという間にこのとおり。
スレイうん、ありがとう。気を遣わせちゃってごめん。落ち込んでる場合じゃなかった。
アリーシャそうだな。次のことを考えよう。ヘルダルフに勝てるように。
デゼル賛成だ。それにサイモンのこともな。
エルレインそのことですが、あなた方には迷惑をかけましたね。
デゼルなんであんたが謝る。
エルレイン先ほどまでサイモンは私の管轄下にありました。あの者を御することができなかった私の不始末です。
マークまあ、うちの鏡映点はクセ者揃いだからな。素直に言うこと聞くやつの方が貴重だよ。
フィリップだからといってヘルダルフと繋がりがあるとわかった以上このままサイモンを放っておくわけにはいかない。
ロゼうん。あの二人は合流させたらまずいよ。サイモンは、あたしたちが知らない未来のことを知ってるみたいだし、今のうちに何とかしないと。
フィリップでは二人の捜索にはこのままケリュケイオンを使ってくれ。機動力は必要だからね。
マーク使うのはいいとして、どこを捜すか当てはあるのか ?
スレイ当てはないけど、気になることはある。ケリュケイオンが迎えに来る前にほんの一瞬だけヘルダルフの領域を感じたんだ。
ミクリオ本当か ! ? 気がつかなかったな。
スレイ感じた……んだと思う。すぐ消えちゃったし気のせいかもしれないけどいつもの感じとは違うっていうか……。
スレイとにかく、ヘルダルフに繋がる手掛かりがあるなら何でも知りたいんだ。
ミクリオそうだな。サイモンの様子じゃ聞いても答えてくれそうにない。自分たちで情報を集めないと。
マークんじゃ、スレイの言うあたりを探ってみるか。
エルレイン…………。スレイ。サイモンの見てきた世界を知りたいか ?
スレイえ ? どういう意味 ?
エルレイン私は以前、クロノスの檻で元の世界の自分が辿るであろう生涯を何度も繰り返し見せつけられた。
スレイ自分の未来を見たのか !元の世界の……。
エルレインそうだ。もしもそのような機会があったとしたらお前はそれを望むか ?
スレイう~ん…………。自分の未来が知りたいっていうかそれがヘルダルフを浄化するための手がかりになるなら知りたいって感じかな。
エルレイン自分のためではなく、敵のためだと ?
スレイうーん、自分の未来は自分で体験したいんだ。まあ、元の世界のことはもう体験できないんだけど。
スレイそれに、あのヘルダルフってアルトリウスの呪いや魔導器のせいであんなに穢れちゃってるんだろ ?
スレイこの世界は穢れが存在していても憑魔として具現化された奴以外は本来憑魔になるはずがない世界だし。
スレイそもそもの条件が違うこの世界でならヘルダルフの穢れをどうにかできるかもしれない――……あれ ? よく考えるとやっぱり自分のためかも。
ライラふふっ、本当に、スレイさんらしいですわね。
クラトスフィリップ、マーク、取り込み中すまない。
フィリップクラトスさん、どうしましたか ?
クラトスこのデータを見てくれないか。ミッドガント領を中心に妙な数値が――
エルレインあっ…… !
クラトス失礼。肩が当たってしまった。怪我はないだろうか ?
エルレインいや、大事ない――
二人う…………。
スレイエルレインさん ! ?
マーククラトス ! ? どうした !
クラトス急に……めまい…………が……………………。
フィリップ二人とも、意識がない。すぐに医務室へ !
ライフィセットえっ ! ?
フィリップライフィセット ! きみもか ! ?
ライフィセットううん……大丈夫。けど、今の感覚……。そんなわけないのに……。
ベルベットどうしたの ! ?
ライフィセットかすかだけど、今、地脈のようなものを感じた……。
全員! !

Character3話【13-2 ケリュケイオン1】
ヘルダルフ……ぐっ……。
ヘルダルフ(おかしい……。力が湧き上がるそばから奪われていく……)
アルトリウス苦しいか。力が吸い取られるように感じるはずだ。
ヘルダルフ…………。
アルトリウス……まあいい。その様子であればお前の穢れは地脈へと注ぎ込まれているだろう。
アルトリウスしかし……やはり念には念を入れるべきか。餌が足りなくては困る。
ヘルダルフ餌……だと ?
アルトリウスお前には、オリジンから分離するに十分な穢れをカノヌシに与えてもらわねばならん。
アルトリウスその力、『神依』によりさらに高めてもらうぞ。
ヘルダルフ何 ?
アルトリウス今からこのクレーメルケイジに入った聖隷――いや、天族と精霊輪具で神依化してもらう。
アルトリウスお前を『我が主』と呼んでいた天族の娘だ。見知った者であれば、より神依化もしやすいだろう。
ヘルダルフ知らぬ ! 何が天族だ !
アルトリウスそうか。お前には、あの者の記憶がないのか。
アルトリウス片割ればかりが記憶と想いを募らせたままか。この天族も哀れだな。
アルトリウス天族よ、せめて一つとなって、主の力となるがいい。
ヘルダルフ何をする……やめろ ! ぐああああああっ ! !
アルトリウス(こちらの準備は整った。後は……)
ロミーアルトリウス、話があるの。
アルトリウスロミーか。どうした。
ロミー知ってると思うけど新たな大陸の具現化は成功したわ。そっちはどう ?
アルトリウスこちらも順調だ。おかげで地脈は活性化した。喰魔を介さずにカノヌシへ穢れを送る術式も起動している。
ロミーそう。『穢れの質』っていうのはちゃんと高めてから送りこんでる ?「憎悪」とか「傲慢」とか色々あるって話だったけど。
アルトリウス魔導器で全ての要素は十分高められているが先ほど念のために手も打った。
ロミーよかったわ。苦労してグラスティンから盗んだ術式の一つだもの。ちゃんと役立ててくれないとね。
アルトリウス問題ない。全ては順調だ。
ロミーだったら、もういいわね。しばらくは連絡も手助けも出来ないからそのつもりでいて。
アルトリウス何かあったか ?
ロミーちょっと面倒が起きて怪我をしたの。帝国もこっちを嗅ぎつけてるだろうし回復がてら身を隠すわ。
ロミーそれともう一つ。新大陸の調査で面白いものが見つかったわよ。
ロミー『霊石』と『集霊器』っていうんだけど集霊器を使って、霊石を取り付けた人間からエネルギーを回収できるの。
アルトリウス人間から……。
ロミー何か引っかかる ?
アルトリウスいや。では新大陸で回収したエネルギーはこちらで預かるぞ。
ロミーいいけど、何に使う気 ?
アルトリウス【ルグの槍】の対抗エネルギーとして使用する。
ロミーそう、お好きにどうぞ。……フフッ。
アルトリウスなんだ ?
ロミー造反したあなたが仕組んだ計画って結局、帝国の連中と同じなんだもの。具現化した世界を利用しつくそうとするところとかね。
アルトリウス確かに、私は『全』を生かすために『個』への犠牲を強いている。
アルトリウスだが、いずれはこの世界に具現化された人間たち全てを、救われるべき『全』にする。
アルトリウスそれが私の『理』だ。
ロミーご立派な思想だこと。あなたの理想とする世界がどんなものか見るのが楽しみだわ。
ロミーそれじゃ、さようならアルトリウス。お互いまた無事に会えるといいわね。フフフッ。
ロミー(その時まで『ここ』にいるかどうかはわからないけど)

Character4話【13-3 ケリュケイオン2】
ベルベット地脈って……。フィー、どういうことなの ! ?
アイゼンもう一度、落ち着いて感じてみろ。
ライフィセット待って、地脈とは何かが違うんだ。似てるけど、何かもっと特別な力のような……。
フィリップ…………。
マークどうした、フィル。お前も調子悪いのか。
フィリップ……いや、大丈夫。ちょっとしたアニマ酔いだよ。でも、ライフィセットの感じているものがわかった。
ライフィセットえ ! ?
フィリップライフィセットが感じている特別な力っていうのは魔鏡術の融合の力だ。とてつもない融合の力が突然、地中で活性化したせいだと思う。
ライフィセットこれが魔鏡術の融合の力…… ?だったらなんで地脈みたいに感じるんだろう。それに僕は鏡士じゃないのに……。
フィリップごめん、僕宛てに通信だ。
フィリップ――……えっ、なんで君が ! ?
ファントムなんでとは、ご挨拶ですね。フィル。
フィリップリーパ……、目が覚めていたんだね。良かった。
マークファントム…… !
三人ファントム ! ?
フィリップ意識ははっきりしているんだね。体はどうだい ?
ファントムあなたからそう聞かれるのは複雑ですね。こちらとしても、連絡したかった訳ではありませんし。さて……用件を伝えましょうか。
ファントム今、ティル・ナ・ノーグの具現化に関わった三人の鏡士とオリジンの力が活性化して暴走し始めています。
ファントムヨーランドたちは、それらを抑えながら『オリジンの存在を保つ』ので精一杯なんです。
フィリップオリジン ? これは融合の力ではないのか ?
フィル融合の力ですよ。あなたが感じている通りにね。
マーク相変わらず持って回った言い方しやがって。さっさと詳しいことを説明しやがれ !
ファントム詳しいことも何も、オリジンの力は融合の力と同義なのですよ。オリジンは、ナーザ・アイフリードがダーナの力を元に造りだした最初の精霊ですから。
ファントムこの世界には、世界の具現化を保つための原初の力が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。そしてうかつに触れられないよう封じられていた。
ファントムしかし、原初の力を制御する筈のオリジンが『狂った』ようですね。エンコードによって、オリジンに異世界の『何か』が吸収された。それが今になって暴れている。
マークそれだけじゃ、何が何だか見当がつかねえぞ……。
ファントム仕掛け人はミッドガンド領とやらにいるようです。さっさとこの首謀者を何とかしなさい。
マークチッ。
ベルベット……アルトリウスよ。
エレノアベルベット、あまりに早計じゃありませんか ?
ベルベット地脈――まあ正確には違う物みたいだけどそんなものが関わるような騒ぎを起こす奴なんて他に誰がいるの ?
エレノアそれは……。
マークともかく、ミッドガンド領へ向かうぞ。スレイたちはどうする ?
スレイオレたちも行くよ。ベルベットたちの話だとアルトリウスとヘルダルフは同じ場所にいるかもしれないし。
スレイそれに、一瞬だけ感じたヘルダルフの領域……。なんて言ったらいいかわかんないけど変な感じだったから。
ベルベットそのヘルダルフってのもアルトリウスに呪われてたんでしょ。今回の件に関わっているかもしれないわよ。
スレイうん……。なあ、ベルベットアルトリウスって人は導師なんだよな ?
ベルベットええ。前にも言ったでしょ。あんたとは似ても似つかない導師であたしの仇。
ロクロウアルトリウスが糸を引いているなら十中八九カノヌシ絡みだろうな。
ザビーダここでその名前が出るかよ。ったく懐かしくて涙が出るぜ。
エレノアだとしたらアルトリウス様の目的は、この世界で……。
マークちょっと待て。悪いがその、地脈とかカノヌシのあたり俺たちにもわかるように説明しといてくれるか ?
アイゼンそうだな、すまなかった。手短に話すぞ。
アイゼン俺たちの世界で地脈というのは大地を流れる自然の力だ。その地脈を通じてカノヌシは力を取り入れていた。
アイゼンそしてカノヌシは穢れを、その根源である意思ごと喰らう聖隷で、これによって人間を鎮静化させる。アルトリウスはこの力が狙いだった。
マギルゥかなりザックリじゃのー。
マーク十分だ。けど、なんでアルトリウスは鎮静化なんて力が必要だったんだ ?
マギルゥ大量の穢れを生まない世界を造るため、じゃな。
スレイえっ ! ? できるのか ? そんなこと。
アリーシャ実現するのなら、理想の世界と言えそうだが……。
アイゼン俺はごめんだ。反吐が出る。
アリーシャ何故ですか ?
アイゼンお前たちも知ってるだろう。穢れがなぜ生まれるか。
マギルゥ憎悪、執着、愛欲、絶望……人の感情によって穢れは増える。だからと言って切り離せるものでもなかろう。
フィリップ…………そうだね。それを切り離せたらきっと楽になれるんだろうけれど僕は僕ではなくなってしまうだろうな。
二人………………。
マギルゥそこで人の意思を奪うカノヌシじゃよ。奴の領域ならば、人間がすべてリビングドールβに置き換わったがごとき世界に早変わり。
マギルゥ決められた理に逆らわない。逆らう意思もない。感情の高ぶりがないから人間味がない。理から外れれば、自死さえ選ぶ。
アリーシャそんな ! それは人として生きていると言えるのか ! ?
マギルゥじゃが、それが唯一つ世界を救う方法だとしたら、お主はどうする ?
アリーシャそ、それは……。
エレノアマギルゥ ! アリーシャを惑わせないでください。
マギルゥ儂らの視点だけで話しては偏りが出ると思うての ♪
ベルベット誰がどう思おうとあたしにはあいつを倒す理由がある。マーク、あんたたちも好きに動けばいいわ。
マークまあ、ざっくりと事情はわかった。率直に言えば俺はアルトリウスの理想ってのが肌に合わねえ。鏡精はマスターの心――感情から生まれるもんだしな。
マークフィルはどうだ ?
フィリップさっきも言った通り、僕は今まで散々感情に流され惑わされて、ここまで来た。それを否定されることは僕という存在を否定されるようなものだよ。
フィリップこれまでの在り方を否定するような世界は望まない。
スレイオレもだよ。それに少なくともここでは、世界を救う方法がアルトリウスの考える手段だけじゃない筈だ。……いや、オレたちの世界だってきっと――
ライラ………………。
ミクリオ僕も……いや、みんなも同じだ。
ライラ……ええ ! そうですわ。
フィリップでは全員一致でいいね。
フィリップ……今の話の通りなら、カノヌシは世界の在り方に関わる者とも思える。だが聖隷は精霊としてエンコードされるという法則があるから、神として判定されず――
ファントムしかし、神に近い力を持っていたが故に矮小化され最も性質の近い精霊オリジンと同一視されてオリジンの中に取り込まれたのかもしれ――
ファントム……まあいいでしょう。私はこれで失礼しますよ。
フィリップあっ、リーパ !
マーク……ほっとけ。何かあれば連絡が来るだろ。今はミッドガンド領へ急ぐぞ。

Character5話【13-3 ケリュケイオン2】
帝国兵1――以上が、新大陸出現に関する調査報告になります。
デミトリアスそうか。ご苦労だった。
グラスティン予想どおりだったな。今回の主導はアルトリウスでそこにロミーやチトセが一枚噛んでいるというわけか。
デミトリアス我々のオリジン覚醒計画を盗んだあげくすでに実行に移しているとはね。
グラスティンしかも勝手に筋書きを変えやがった。オリジンの覚醒には、鏡の精霊の心核を入れたジュニアを器にする予定だったのに……。
グラスティン――おい、ロミーとチトセの居場所は判ったか ?
帝国兵1それが、お二人とも連絡がつかず目下捜索中であります。
デミトリアス警戒して姿をくらましたようだね。
グラスティンまあ、あいつらはいい。贄の紋章でどうとでも出来る。問題はアルトリウスだ。
グラスティンあいつは聖主の御座を奪って立てこもっている。まずはあの場を、奴から取り戻すぞ。
デミトリアスわかった。ではすぐに兵を向かわせよう。
グラスティンおい、伝令だ ! すぐにミッドガンド領へ部隊を――
帝国兵2申し上げます ! ただいまミッドガンド領よりテレサ・リナレス様がおいでになりました。
グラスティンテレサだと ? アルトリウスの子飼いが見計らったようなタイミングでご登場か。ヒヒヒ……どうする ?
デミトリアス構わん。テレサをここへ。
テレサテレサ・リナレスにございます。この度は拝謁を賜り――
グラスティン上辺だけの口上ならその辺にしておくんだなあ。
テレサっ……。
デミトリアステレサ、私たちはミッドガンド領の状況を知っている。それを心にとめた上で話すがいい。
テレサはい……。では包み隠さず申し上げます。まずお尋ねしますが、帝国はアルトリウス様の捕縛、もしくは討伐をお考えでしょうか。
デミトリアス無論。彼の暴走は止めねばならない。仕えていたきみには酷な話だろうがね。
テレサ…………。
グラスティンヒヒッ、許しを請うつもりか ?だったらアルトリウス本人を連れて来るんだな。
テレサいいえ。アルトリウス様をかばうつもりは毛頭ございません。
デミトリアスでは、きみの用件とはなんだい ?
テレサ恐れながら……陛下と、取引をしたいのです。
デミトリアス……聞こうか。
テレサ恐らくご存じとは思いますが、現在、アルトリウス様は聖主の御座におられます。そしてその周囲には多数の罠が仕掛けられているのです。
テレサこのまま帝国軍が聖主の御座へと攻め込めば相応の被害が出ることは間違いありません。
テレサですが、私であれば、アルトリウス様も心を許されるはずです。攻め込む隙を作ることもできましょう。
デミトリアスなるほど。きみはこちらに協力をすると言うのか。それで、見返りは何だ。何か要求があるのだろう ?
テレサ……私の弟、オスカー・ドラゴニアに付けられた贄の紋章の解除です。
デミトリアスそうか。ミッドガンド領の従騎士だったね。
グラスティンヒッヒッヒッ、弟のために主を裏切るのか。
テレサええ。私にとって一番大事なのは弟です。オスカーが自由になれるのならばどんな汚い手でも使います。
テレサそれに、このままアルトリウス様の下にいれば弟は遠からず命を落とすでしょう。……とても耐えられません。
テレサ私は、オスカーだけでも助けたいのです。
デミトリアスそうか……。きみの気持ちはよくわかった。ではアルトリウスの件は、きみに一任するとしよう。
グラスティンおっと……本気か ?
デミトリアスこちらの戦力も随分と削られている。テレサの申し出を無下にすることはない。
デミトリアスそれに、きみはフリーセルの捜索を優先するべきだ。違うかい ?
グラスティン……そうだな。
テレサでは、取引は成立ということでしょうか。
グラスティン皇帝陛下のご意思ならば仕方がないだろう。さっさとアルトリウスを連れてこい。
グラスティン上手く事が運べばオスカーの贄の紋章を解除してやる。
デミトリアステレサ、私はきみの言葉を信じよう。きみが弟への愛を忘れなければ任務は間違いなく成功するはずだ。
テレサはい、必ずや証明してご覧にいれます。
テレサ(やった…… ! 私が襲撃を仕切れるならばミッドガンド領侵攻への時間稼ぎができる)
テレサ(アルトリウス様……、全ては計画どおりです。どうか今のうちにカノヌシ復活を成し遂げてください)
グラスティン………あの女は行ったか。
グラスティン――おい、テレサに監視をつけろ。あの女は信用ならんからな。
帝国兵β承知しました。
グラスティン構わないよな ? お優しい皇帝陛下。
デミトリアス……ああ。やってくれ。
グラスティンほう、即答か。お前も肝が据わってきたな。
デミトリアスどういう意味かな ?
グラスティン疑うのは心苦しいだの、裏切るとは思いたくないだのひとしきりゴネてから渋々承諾ってのがお前のお決まりだったからな。
グラスティンそういう矛盾したところが面白かったんだが今回ばかりは決断が早くて助かる。
デミトリアス肝が据わったと言われればそうかもしれない。けれど、私は今だって彼女が裏切らないことを祈っているよ……。
グラスティンまあ、裏切ったら裏切ったで弟に最高の地獄を見せてやればいいだけさ。
グラスティンああ、その方が面白いかもなあ。何か仕掛けを考えておこう。ヒヒヒヒッ。

Character6話【13-4 ミッドガンド領 聖主の御座1】
スレイこの気配、やっぱり間違いない。聖主の御座の奥にヘルダルフがいるはずだ。けど……やっぱり変な感じがするよな ?
ミクリオうん……。スレイの言ってた通りだ。なんだろうな、今までと違う。
ライラ先に入ったベルベットさんたち、大丈夫でしょうか。
ロゼうちらだって人のこと心配してる場合じゃないかもよ。
デゼルともかく、一番濃い穢れをたどってきゃヘルダルフのところまで行けるだろう。
エドナそうね。見当がついたならさっさと進む。
ザビーダなんだ、ご機嫌斜めだな。お兄ちゃんが先に行っちまって寂しかったか ?だったら俺様が代わりに――
エドナゲスの勘ぐりね。あっちはアルトリウス捜索、こっちはヘルダルフ。やるべきことをやってるだけでしょ。
ロゼ――ねえ、あれ ! あそこにいるのって !
スレイフィリップさんだ。周辺の警護をするって言ってたのにこんなところにいるなんて何かあったのかな ?
アリーシャ待て、スレイ。罠かもしれない。
アリーシャフィリップ殿。何故あなたがいらっしゃるのですか ?
ファントムそれは私がファントムだからですよ。アリーシャ殿下。
スレイファントム ! ? なんでここにいるんだ。
ファントム自分のしたことの落とし前をつけに、ね。
スレイ落とし前って ?
ファントムこのミッドガンド領は、私が具現化したものです。私は、ゲフィオンとフィルが生きるための世界を造ろうとした。
ファントムけれど、そうして具現化した中に私の望む世界とは違う、独自の世界を生み出そうとするアルトリウスを呼びこんでしまった。
スレイじゃあ、アルトリウスを倒すためにここに来たってこと ?
ファントムアルトリウスの始末はベルベットたちに任せますよ。それが彼らの望みでしょう。
ファントムですが、アルトリウスを倒しただけでは、この世界を守ることはできません。ダーナの近くにいたせいで色々と……事情通になってしまいましてね。
ファントムまあ、簡単に言えば、私には私のそして導師には導師の役目がある、ということです。
スレイオレの役目って ?
ファントムこれから教えて差し上げますよ。
全員! !
スレイこれは……転送魔法陣 ! ?
? ? ?導師スレイ。我が声が聞こえるか。
スレイ(ここは…… ? 誰の声…… ?)
オリジン我が名はオリジン。クロノスの力添えのもと、お前の中にある『あり得た未来』を見せる機会を設けた。
スレイオリジン ! ?えっと……どうなってるか説明してくれるとありがたいんだけど。
オリジンまずはお前の成すべきことを伝えよう。我の中には、エンコードによって統合された異世界の神に等しい存在がある。
オリジンしかし、この世界の理を変えるために異世界の存在は我から切り離されようとしているのだ。導師には、これを阻止して欲しい。
スレイそれって多分理を変えようとしているのがアルトリウスで異世界の神様みたいなのがカノヌシ、だよな。
スレイでも、それならベルベットたちが動いてる。アルトリウスを倒せばいいんだろ ?
オリジンいや、アルトリウスを討ち果たしたところでティル・ナ・ノーグに僅かでも異世界の存在が確立して残れば、世界の理は変わってしまう。
オリジン今までのように、我らが安定して統合し続けるためにヘルダルフの穢れを消し去らねばならない。
スレイヘルダルフを…… !
オリジンそのためにも、お前の望むとおり災禍の顕主へと至るヘルダルフの過去を見せることにした。
スレイえっ ! ? なんでそれを……うわあっ !
スレイあれは……過去のヘルダルフなのか ?大地の記憶を見てる時みたいだな。
スレイ………………。これって…………。
オリジン今のがヘルダルフの過去だ。どう思った、導師。
スレイ……わからない。ううん、違うな。ただ『過去がわかった』って言い方しかできないよ。
スレイ確かに、将軍だったヘルダルフのやり方に賛成なんかできない。
スレイ守ると言った村を利用したあげく敵の侵攻を知りながら見捨てて、全滅させた。
スレイ先代導師に呪われて災禍の顕主になった理由もわかった。けど…………。
スレイ呪いのせいで、大事な人たちはみんな死んでどんどん孤独になって、自分だけは死ねなくて……。
オリジンそれは『元の世界のヘルダルフ』の話。この世界に具現化されたヘルダルフは、ミケルとやらの呪いを受けておらず、災禍の顕主ですらない。
オリジン全ての事柄を踏まえた上で、お前たちにはこの世界で具現化された『スレイ』と『ヘルダルフ』として対峙して欲しい。
オリジンこの前提ならば、お前でも浄化できるだろう。
スレイオレ『でも』…… ?じゃあ元の世界では……オレは……。…………そっか。
ファントムスレイ、あなたは未だ道半ばの未熟な導師だ。それでも――やりますか ?
スレイファントム ! ? みんなは ?
ファントム全員が同じ体験をしていますよ。ですが、私はあなたに聞いているのです。それで、あなたの答えは ?
スレイわからない。でも、やってみるしかない。今のオレとして、今のヘルダルフと向き合う。
ファントム結構。では、行きますよ。
スレイ……ふぅ。もしかして転送完了 ?
ファントムええ。みなさんも揃っています。
ミクリオスレイ !
スレイミクリオ ! みんなも !ヘルダルフの過去、見たんだよな ?
アリーシャああ。我が国とヘルダルフの過去にあんな繋がりがあったなんて驚いたよ。スレイもだろう ?
スレイうん。先代導師との因縁とか、色々と。
ライラ…………。
ミクリオ導師ミケル……か……。
スレイミクリオ ? 何かあったのか ?
ミクリオえ ? ああ、大丈夫。ちょっと気になることがあったんだ。後でゆっくり考えるよ。
エドナで、ここはどこよ。
ファントムこの先の部屋が、あなた方の目的地です。進みますよ。
ヘルダルフ……………………。
スレイヘルダルフ ! ?
ミクリオこの気配……姿こそ変わりがないけどまさか神依…… ?
ロゼうそ……ヘルダルフが神依化してるってこと ! ?
ミクリオ……ああ。そうだと思う。ヘルダルフがはめているあれは精霊輪具だ。恐らく無理やりに神依させられてる。
デゼルチッ、気配が変わるはずだぜ。ってことは、力も増してるってことか。
ヘルダルフドウシ……ユルサ……コロ……コロォオオオオオス ! !
ザビーダうおおっと、正気じゃねえな。
ファントムどこかにあるはず……。あれか !
エドナ危ないでしょ ! 何してるの !
ファントムヘルダルフの術式を起動させている装置を止めます !この『場』自体が、奴の穢れをカノヌシに流し込んでいるのです !
ファントム戦って穢れを増せば、それだけ多くの力をカノヌシに与えてしまうでしょう !
アリーシャならば――たああっ ! 逆雲雀 ! !
ファントム……フ、さすがに荒事はお手の物ですね。ひとまず、装置の動きは止められた。あとは……導師、あなたの役目ですよ。
スレイわかってる、行くぞ !

Character7話【13-5 ミッドガンド領 聖主の御座2】
ベルベット邪霊雷牙 !
帝国兵βたちぐおっ…… !
ライフィセットすごい、ベルベット。みんな倒しちゃった。
エレノア気合いが入ってますね。
ロクロウなあ、ベルベット。一人で全部倒さんでも俺に任せていいんだぞ。これでは恩返しもできん。
ベルベットそれって自分が斬りたいだけじゃないの ?
ロクロウはは、バレたか !
ベルベットわかったわよ。次はあんたに任せる。
ロクロウ応 ! この程度の兵士を倒しても恩返しのおの字にもならんからな。もっとじゃんじゃん出て来て欲しいもんだ。
エレノア敵が少なくて物足りないと言ってるように聞こえるのですが……。
マギルゥ仕方なかろうて。ファントムに尻を叩かれ坊の感じるままにミッドガンド領へ来てみれば聖主の御座がどどーんじゃぞ ?
マギルゥうじゃうじゃ敵がおると期待してしまうのが人情というものじゃよ。
ビエンフー姐さんの人情ってなんなんでフかね……。
アイゼンしかし妙だな。領主の館よりも警備兵が少ない。
ロクロウアルトリウスも、これほど早く襲撃されるとは思ってなかったんじゃないか ?
ベルベットそれはどうかしら。あいつはフィーの力を知ってるわ。地脈を利用した時点でフィーが勘付くことはわかってるはずよ。
アイゼンとなると、ますます怪しいな。考えてみれば外からして警戒網が薄かった。
ライフィセットもしかして罠 ?
エレノアわかりませんが……やはり、スレイたちと一緒に対策を講じてから突入すべきだったかもしれませんね。
ベルベット獲物が違うんだから、やり方もそれぞれでしょ。ほら、行くわよ。
ライフィセット待って、ベル――
ライフィセットうわあああっ !
全員っ ! !
ベルベットっ……何が……。
アルトリウス敵陣で一瞬でも気を抜くとはな。
ベルベットアルトリウスッ…… ! !
ライフィセット…………。
アルトリウスカノヌシの器は気を失ったか。だが、傷はついていないな。
ベルベットカノヌシ…… ! ? フィー、起きて、フィー !
ベルベットフィーから離れろ、アルトリウスッ ! !
アルトリウス――転送魔法陣、展開。
ベルベット待てっ ! フィーを返せ !
エレノアベルベット !
マギルゥ無駄じゃよ。魔法陣は消えておる。
エレノアですが、ライフィセットとベルベットが !
ロクロウ落ち着け、エレノア。今さら慌てても仕方ない。
エレノアわかってはいますが……。痛っ……。
ロクロウ無理して動かんほうがいいぞ。さっきの攻撃は強烈だったからな。
マギルゥとにかく、仕切り直しじゃな。ビエンフー、生きとるかー。
ビエンフーダメでフ~……せめて最後はエレノア様の腕の中で……。
マギルゥ元気そうじゃな。治療もいらんじゃろ。
ビエンフービエ~~ン !
ロクロウしかし不思議だ。さっきの攻撃不意打ちには違いないがそれにしたって体がうまく動かなかった。
マギルゥなんぞ仕掛けておったんじゃろ。
エレノアどういうことですか ?
マギルゥ恐らく、攻撃と同時に簡単な拘束術でも放ったんじゃろうて。
マギルゥま、ベルベットはそれをねじ伏せて坊を追ったわけじゃが。
アイゼン拘束術か。用意周到だな。
エレノア用意……。もしかして、アルトリウス様はライフィセットを捕らえるためにわざと私たちの侵入を見逃していたのでしょうか。
マギルゥああっ ! 言ってしまったなお主 !それはフラグというやつじゃよ~……。
エレノアふらぐ…… ?
マギルゥわからんか ? お主の話が正解としてあやつが目的のものを手に入れた今邪魔者となった儂らはな……。
ロクロウなるほど、そういうことか。
アイゼン来るぞ。
エレノア帝国兵があんなに !それに……ドラゴン ! ?
マギルゥ邪魔者はここで始末というわけじゃ。くわばらくわばら。
ロクロウ丁度いい。斬り足りなくてうずいてたところだ。付き合ってもらうぞ、帝国兵ども !

Character8話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】
ライフィセットう…………。
アルトリウス……もうしばらく気を失っているといい。苦しまずに済む。
アルトリウスっ ! !カノヌシへの穢れの供給が途絶えた…… ?
アルトリウス(ヘルダルフを繋いだ部屋は封じているはずだが……)
ヘルダルフグォオオオオオオオッ !
ザビーダあいつヤベーぞ !倒すどころか近づくのもやっとだぜ。
ライラスレイさん ! 神依化したヘルダルフは危険です。こちらも神依化して、まずは精霊輪具を壊しましょう !
スレイ了解 !
デゼルロゼ ! 俺たちも――…………っ。
? ? ?聞こえ……。たの……ど……し。
デゼル今の声は……。
ロゼねえ ! 今なんか聞こえなかった ! ?
スレイオレも聞こえた ! サイモンの声だ !
エドナあの不思議ちゃんいきなり何なの ?こっちはひげネコで手一杯なのに……――インブレイスエンド !
ミクリオまさか…… !ヘルダルフと神依しているのはサイモンなのか ! ?
全員! !
スレイサイモン ! ヘルダルフの中にいるのか ! ?
サイモン……主が……私と主は……強引な神依化で……自我が失われ……。
ヘルダルフドォオシィイイイイイ ! ドォオシィイイイイイ !
スレイぐっ……。
サイモンああ、主……このような姿……本意では……。
スレイサイモン、しっかりしろ ! オレたちはどうすればいい。
サイモンあの銃で……ジークフリートで主と私を撃て…… !あれは……穢れとの結びつきを防ぐ……。
ザビーダよく知ってんじゃねえの。穢れたヘルダルフに撃ちこみゃ神依が解除されるかもってか。
スレイザビーダ ! やれるか ! ?
ザビーダおうよ、ここが使いどころってな !――うおっと !
ヘルダルフコロスコロスコロスコロス…… !
ザビーダ……目も当てらんねえな。絶対に外したくねえ。足止め頼むぜ !
スレイわかった !ミクリオ、どう行く ?
ミクリオ手数で攻めて攪乱、大きく一発。
スレイよし。みんな、いい ?
全員了解 !
ライラ行きます ! 焼くは赤銅 ! フォトンブレイズ !
アリーシャ葬炎雅 ! みんな下がれ !――エドナ様 !
エドナロックトリガー !
ヘルダルフ! !
スレイ今だ ! ルズローシヴ=レレイ !
二人蒼の四連 ! 蒼海の八連 ! 蒼穹の十二連 !
ヘルダルフウ……ウォオオオッ !
サイモンもう……もたな……。
デゼル! !
ロゼなにあいつ、まだ元気 ! ? デゼルあたしらも――
デゼルサイモン ! あきらめてんじゃねえ ! ――まだ終わらねぇぜ !
デゼルリーサル・サウザンド ! !
ヘルダルフおおおっ…………。
スレイ脚が止まった、今だ、ザビーダ !
ザビーダとっておきだ。よく味わえよ !
ヘルダルフがあああああっ !
サイモンうっ…………。
スレイサイモン ! 神依が解けたんだ !
ライラスレイさん ! かの者が虚ろなうちに今こそ浄化を !
スレイああ !………………。
ファントムどうした、導師。
スレイ駄目だ……。どうして浄化できないんだ……。
ファントム……やはりそうですか。では今のうちに奴を虚無へと送り込みましょう。
スレイなっ ! ? やめてくれ !
ファントム何故止めるのです。
スレイそんなことをしたら、この世界でもヘルダルフに永遠の孤独を与えることになる !
ヘルダルフ孤独……そうか……。
スレイヘルダルフ ! ?
ヘルダルフ――サイモン !
サイモンうっ……御意…… !
スレイここは……、サイモンの幻術か ?何のつもりだ、サイモン ! ?
ヘルダルフここにはワシと貴様しかおらぬ。
スレイヘルダルフ…… !
ヘルダルフ導師スレイよ、ワシは貴様を知らぬ。だがワシは『いずれ貴様と相まみえる存在』のようだな。
スレイ! !お前も『知って』るのか ?
ヘルダルフそうだ。サイモンの幻術で元の世界でワシが歩む未来を見た。
スレイ……そうか。
ヘルダルフ先の言葉から察するにお前もワシのことを知ったようだな。して、どう思った ?
ヘルダルフ貴様は、ワシが呪われるべき存在だと確信したのではないか ?
スレイ……それでも、オレは導師として災禍の顕主のお前を救いたいって思った。
スレイだから、『今のお前』のことはもっと救いたいって思う。
ヘルダルフ笑止千万 !
スレイ! !
ヘルダルフ元の世界のワシを呪ったのが導師ならばこの世界で呪ったのも導師。
ヘルダルフ貴様もまた導師であるならば決してワシを救えぬ !
スレイやってみなきゃわからない !
ヘルダルフいいや、同じだ。貴様はワシの穢れを浄化できなかった !
スレイ――浄化……。そう、か……。そうだ、ここはティル・ナ・ノーグだ……。
ヘルダルフ惚けている暇はないぞ。ワシは導師という存在を憎悪する。貴様もここで潰えよ !

Character9話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】
スレイはあっ……、はあっ……。
ロゼスレイ ! 幻術が解けたんだ……ってヘルダルフと戦ってたの ! ?
スレイ……ああ。
スレイ立てるか、ヘルダルフ。
ヘルダルフ……何だ、その手は。
スレイオレは戦いたいわけじゃない。それに、決着はついたんじゃないか。
ヘルダルフ……わかっているのか ?貴様の差し伸べる手がどれほど残酷か。ワシへの侮辱以外の何ものでもない。
スレイ救いたいって……、元の世界みたいに孤独になって欲しくないって思うのは駄目なのか。
ヘルダルフ未来がどうであれ、ワシに貴様の救いはいらぬ。それに貴様はワシを浄化できなかった。
スレイオレは『浄化』したいんじゃない。『救い』たいんだ。
ヘルダルフ同じことだ !
スレイ同じじゃない。結果が同じだったとしても違う筈だ。
スレイ元の世界でお前のしてきたことは理解できないけどだからって元の世界みたいに――いや、それ以上の孤独の中で生き続けるようにはなって欲しくない。
スレイ生きるにしろ、死ぬにしろ、世界の中であって欲しい。虚無に封じるなんてしたくはない。
スレイこの世界でどうするのか、どうなるのかの選択肢があってもいいだろ ?
スレイだから救いたい。その為に浄化する。ここではお前はまだ災禍の顕主じゃない。ただのヘルダルフとして生きられる。
ヘルダルフ断絶された世界に独り閉じ込められて生きることが救いになると思うのか。
スレイ一人かも知れないけど独りじゃ――孤独じゃないだろ。
ロゼ少なくともサイモンはあんたを救おうと頑張ってた。精霊輪具の影響でボロボロなのに幻術まで使ってさ。
サイモン………………。
ヘルダルフ……この娘なら己を道具として使えと言うから使ったまでよ。
アリーシャなんてことを……。 それではあまりにサイモン様が報われない。
ヘルダルフ知ったことを抜かすでないわ。貴様にこの娘の何がわかる。
ヘルダルフワシも、この娘も、互いの益を求めあったに過ぎん。導師、お前も同じだ。天族を利用し、天族に利用される。
ヘルダルフいつの世も何ら変わることのない世の理だ。
エドナそれを本気で言ってるなら呪われて災禍の顕主になる前からあなたは孤独だったってことね。
ヘルダルフだからこそ救いなどいらぬと言っている。
スレイそれ、本気じゃないだろ。
ヘルダルフまだ言うか。
スレイ本気でそう思ってたらオレに未来を見てどう思ったかなんて聞いたりしない。
ヘルダルフ! !
スレイお前は、自分の未来に僅かでも『後悔』したんじゃないのか ?
ヘルダルフ……あの時のワシの選択は間違っていない。ハイランドが動いた以上あの村を、カムランを放棄するのは妥当な策だ。
ヘルダルフ人は未来を見通せはせん。なればこそ何度でもワシは同じ選択をするだろう。それが災禍の顕主へと至る道になろうとな。
ミクリオだったら、お前を呪った導師ミケルも間違ってないということになるな。
ヘルダルフ小僧……。
スレイ辿らなかった人生のことより、オレは、今のお前がこの世界でどうしたいか知りたいよ、ヘルダルフ。このままじゃお前は元の世界と同じになる。
ヘルダルフフフ……そうだろうな。
ヘルダルフ言っただろう。呪いなどなくてもこの世界に具現化された時点でワシは孤独だ。慈しみ、愛したものは、この世界にいない。
スレイ家族……か。
ミクリオヘルダルフ、お前と同じように、導師ミケルも家族や大切なものを失う悲しみを負ったんだ。いや……それ以上の絶望を。
スレイうん……。そして憎しみのままにヘルダルフを呪った。
スレイオレだって、ミクリオやみんな……家族を失ったらどうなるかわからない。相手を憎んで、その憎しみで戦うかもしれない。
ヘルダルフだが……それでも貴様は、あの選択をした、か。
スレイえっ ?
ヘルダルフ……ふっ、はははは……。そうか……お前は、堕ちなかった……。家族を失うという絶望に……。
ヘルダルフ……貴様は……違うのかも知れぬ。
スレイ………………。
ヘルダルフ今一度、ワシを――
スレイな、なんだ ! ?
サイモン――っ ! また装置が起動した……。アルトリウス…… !
ヘルダルフぐっ…… !
ファントムヘルダルフの穢れがカノヌシに…… !残念ですが、これ以上は引き延ばせない。もはや猶予はありません。
ヘルダルフ………………。
サイモン……主。
ファントムスレイ、これが最後です。浄化するか、虚無に封じるか――うっ ! ?
サイモン動いているのがやっとのお前など捕まえるのは造作もない。
スレイサイモン ! ? 何を――
ヘルダルフサイモン、よくやった。
ヘルダルフ導師よ。ワシをこの部屋から解放しアルトリウスのもとへ連れていけ。
ファントムスレイ、奴の口車に乗ってはいけない。今の状態のヘルダルフを浄化するのは無理です。ここで虚無に送るしかない !
ヘルダルフ黙れ。今のワシでもまだ貴様の首ぐらいは簡単に折れるぞ。
スレイ
ファントムスレイ、あなたにはわからないでしょうがどうあがいても、救われない人間はいる。
ファントム救われたくない人間も救うべきではない人間もいる。私もこいつもそういう存在だ ! 早くやれ !
スレイ……どうして、わからないって思うんだ。
ミクリオ! ?
スレイわかるから――わかるけど、それでも救いたいんだ。
三人………………。
スレイそれに――
ヘルダルフ………………。
スレイ……それが、お前の望みなんだな。
ヘルダルフそうだ。
スレイ――向こうに転送魔法陣がある。そこからなら、出られるはずだ。
五人スレイ !
スレイ一緒にアルトリウスのところへ行こう。ヘルダルフ。それが、お前の救いに繋がるのなら……。

Character10話【13-12 ミッドガンド領 聖主の御座9】
ベルベットアルトリウス !
アルトリウス……ベルベット。
ベルベットフィーはどこ ! フィーを……。
ベルベット! !
ライフィセット……ベルベット……逃げ、て……。
ライフィセット(お姉ちゃん ! 逃げて !)
ベルベットあ……ラフィ……、フィー !
ベルベットフィーを返せええええええっ !
アルトリウス変わらんな、お前は。
ベルベット黙れ ! またあたしから奪うつもりか ! ?
アルトリウスそうだ。ライフィセットはカノヌシの完全復活に必要な器だ。
ライフィセットうっ ! うああああっ !
ベルベットフィー ! ?
ライフィセットベルベット……僕……ごめ……。
アルトリウス地脈に眠るカノヌシとの融合が始まったのだ。
ベルベットだったら全てが終わる前にあんたを殺してフィーを解放する !
アルトリウス無駄だ。すでに儀式は行われた。私も本来の力を取り戻しつつある。
ベルベットっ……今の力……カノヌシの…… !
アルトリウスもう諦めろ、ベルベット。
ベルベットふざけるな ! 一体、何が目的よ。この世界でも同じことをする気 ! ?
アルトリウスここでは穢れが世界へ影響を及ぼすことはなく業魔も生まれない。
アルトリウスだが、穢れが影響せずとも人は争い世界は滅亡を免れぬところまで追いつめられている。
アルトリウス知っているか ? この世界の成り立ちを。ここは滅亡から逃れるために作られた欺瞞の世界だ。
アルトリウス作られた世界は脆弱で、だからこそ自らの世界を滅ぼした愚かな人間が、この世界をも破壊しないように世界を生み出した原初の力を封じて隠していた。
アルトリウスにもかかわらず、人は原初の力に手を伸ばした。それが魔鏡術であり、鏡精であり、この世界の精霊だ。
アルトリウスそして人は再び世界を壊し、あげく異世界をも具現化し喰いつくさんとしている。穢れていなくとも、すでに業魔のようなものだ。
アルトリウスならば、誰かが世界を変えねばならん。
ベルベットそれがフィーを犠牲にする理由 ?あんたが世界を救うためには何を犠牲にしてもいいってわけ ! ?
アルトリウス個よりも全。何度も繰り返した言葉だがお前にはわからんようだな。
ベルベットわかってたまるかああああっ !
ベルベットっ ! !
アルトリウス……やはり、怒りに身を任せる姿は愚かだな。自分の痛みばかりに目をむけ世界の痛みを知ろうとしない。
ベルベット……そうね。それがあんたの言う、個よりも全。 だけどあたしは、この世界で別の答えをもらったわ。
ベルベット全ての個をとって、いずれ全にするってね !
アルトリウス大した夢想家がいたものだ。
ベルベットどっちが――
ライフィセットううっ !
ベルベットフィー ! ?
ベルベットあ……。
アルトリウス戦訓その二だ。やはりお前は感情的すぎる。
ベルベットアルト……リウス……。
アルトリウス……ベルベットよ、なぜ鳥は、空を飛ぶのだと思う ?
ベルベットと……り…………は…………。……………………。
ライフィセットあ……、ベルベット…… ? ベルベットーーーーッ !

Character11話【13-13 ミッドガンド領 聖主の御座10】
ライフィセットベルベット……死なないで…… !
アルトリウス……カノヌシの影響が薄れているな。まさか、また……。
ヘルダルフここにおったか、アルトリウス。
スレイあの人が導師アルトリウス……。
ロゼねえ、あれライフィセットだよ !捕まってるってこと ?
アリーシャ倒れてるのは……ベルベットだ ! 早く助けないと !
ヘルダルフ待て。
ヘルダルフ――サイモン、その男を解放しろ。再び神依とやらを行うぞ。
サイモン御意。
エドナちょっと、何してるの、ひげネコ !
ファントムそんなことをしたら、またカノヌシに――
ヘルダルフアルトリウスゥッ ! !
アルトリウスお前はっ ! ?
アルトリウス……くっ………。
ヘルダルフフハハハハハッ !ようやく見ることができたわ。貴様が膝をつく姿をな !
デゼルあいつ、正気を保ってやがる !
ザビーダジークフリートの効果が効いてんのかもな。穢れと結びつきが弱くなった分、制御しやすいのかね。
ミクリオああ。それに、本人たちの意思も関係しているかもしれない。
ライフィセットカノヌシ……お前に……僕は渡さないっ…… !
ライフィセット僕は……、僕だーーーーっ ! !
ライフィセットっ、はぁ……はぁ……解けた……。今の光、浄玻璃鏡…… ?
ライフィセット――そうだ、ベルベット !
ライフィセットベルベット、すぐに治すから ! しっかりして !
ライラライフィセットさん、私もお手伝いしますわ。頑張ってください……ベルベットさん !
アルトリウス………………。
ヘルダルフどうした、さすがの導師も不意打ちには泡を食ったか !
アルトリウス…………そうか。お前が逃げ出したからカノヌシの分離が中断されたのか。
アルトリウスまあいい。仕切り直しだ。餌となるお前を捕らえるところから始めるとしよう。ヘルダルフ。
ヘルダルフくくく、餌か。――導師スレイよ !
スレイえっ ! ?
ヘルダルフ貴様が、ワシを呪ったあの男と違うと言うならば見事ワシを浄化して見せよ !
アルトリウス何のつもりだ。
スレイ――わかってる ! 行くぞ、ヘルダルフ !
アルトリウス馬鹿なことを。やれるものならやってみろ。魔導器の力で増え続ける穢れを浄化などできはしない。
スレイ………くっ !
ロゼああっ、まずいよあれ。浄化した端からまた穢れが増えてる !
ファントム……一時的に穢れを虚無へ流し込みます。
アリーシャそれはどういうことだ ?
ファントム私が何度もヘルダルフを虚無に封じると言ったことをお忘れですか ?
ファントム今、虚無はゲフィオンの人体万華鏡と彼女の心を守るカーリャの防御壁で守られている。
ロゼカーリャ……ネヴァンのことか。
ファントムですがカーリャの想像の力は創造のバロールには触れられなくても融合の私なら穴をあけられるんですよ。
ファントム魔導器が増やす穢れを虚無に流せれば少しは浄化の助けになるでしょう。ただし、長くはできません。せいぜい10秒ほどです。
スレイファントム ! ?
ファントム……あなたは理解できない。だが、永遠の地獄に誰かを追いやりたくないという気持ちは、私にもわかるのですよ。悔しいですがね。
ファントムそのまま浄化を続けて下さい。やれますね、スレイ。
スレイああ、ありがとう、ファントム !
アルトリウス…………。
ザビーダおっと、妙な気はおこすなよ、導師殿。俺たちの得物は、みーんなあんたを狙ってるぜ。
アルトリウス邪魔はしない。お前たちの行為は、所詮絶望の再確認だからな。
ヘルダルフぐっ……、導師……スレイ…… !
スレイわかってる。必ずお前の穢れを浄化する。
スレイ戻ろう。人間、ゲオルク・ヘルダルフに――
アルトリウスまさか…… !
ロゼねえ、これってさ……これって…… !
ミクリオああ。やったな、スレイ。浄化成功だ。
ベルベットあ……。
シアリーズ目が覚めましたね、ベルベット。
ベルベットシアリーズ…… ! ?なんであんたがここに ?
シアリーズいてはいけませんか ?
ベルベットだって、あんたはもうあたしの中にはいないはずだもの。
シアリーズそうですね。ですから今の私はあなたが見ている幻影のようなものです。
ベルベットそっか。本当のあんたじゃないのね。でもまた会えて良かった。それに……謝らなきゃいけないことがあったから。
シアリーズなんでしょう。
ベルベットアルトリウスを止めるっていう約束、果たせなかった。ごめんなさい。
シアリーズいいえ、終わってはいない。あなたには、まだ待っている人たちがいるでしょう ?
ベルベットどこに ?
シアリーズほら、あの小さな光。
ベルベットあっ……。
? ? ?ベルベット……。 ベルベット !
ベルベット……本当だ。あたし、まだたくさんやり残してる。
ベルベット行ってくるね。約束、ちゃんと守るから。
シアリーズええ。いってらっしゃい、ベルベット。

Character12話【13-14 ミッドガンド領 聖主の御座11】
ベルベット…………。
ライフィセットベルベット…… ?
ベルベットフィー……。
ライフィセットベルベット、良かった ! 気が付いた !
ベルベットありがとう……、フィー。
ライフィセットううん、ベルベットの傷を治したのは僕だけじゃない。ライラも一緒だったんだ。
ベルベットそういう意味だけじゃないんだけど……。
ライラ傷はふさがっていますが、立てますか ?
ベルベットええ。ライラもありがとう。もう大丈夫。
ベルベットフィー、あんたは平気なの ?
ライフィセットうん。スレイたちが来てくれたおかげで拘束術が解けたんだ。
ベルベットえっ、今のなに ?
ライラすごい……スレイさんついに、かの者の浄化を果たしましたわ !
ベルベットやったのね、あいつ……。あれが本物の導師、か。
ライラええ、そのとおりですわ !
スレイやったよ、ヘルダルフ ! 浄化成功だ !
ヘルダルフワシは……、戻れたのか……。
アルトリウスこんなことが……。
ヘルダルフふっ……、ふははははっ !ざまを見ろ、導師アルトリウス ! 餌はもうない !貴様の計画もこれまでよ !
ヘルダルフはははははっ……はっ…………ごふっ……。
スレイヘルダルフ !
アルトリウス私に一矢報いるために、己が命と交換か。高くついたな。
ヘルダルフふっ、こうなることは全てわかっていた。
アルトリウス呪いによって弱った心核に、魔導器による穢れの増幅。精霊輪具を使った神依と、カノヌシへの力の譲渡。
アルトリウスこれほどまでに積み重ねられた負荷は憑魔であったからこそ耐えられたのだ。
アルトリウスそれが浄化によって人の身へと返れば当然のごとく死を迎える。それが理だ。
スレイ………………。
アルトリウス憑魔にその手でとどめを刺した、それだけのことだ。我が同胞、導師スレイよ。
ベルベット違うわ !
スレイベルベット……。
ベルベットそいつは、あんたとは違う。一緒にしないで。
アルトリウス……死に損なったか。
エレノアベルベット、ライフィセット !無事でしたか。
マギルゥなんじゃ、勢ぞろいではないか。まあ、主役は後から以下略 !
ライフィセットみんな !
アルトリウスもう片付けてきたのか。
ロクロウああ、あのドラゴンゾンビか ?少々食い足りなかったな。次はもう少し骨太なのを頼む。
アイゼンベルベット、ここで片をつけるぞ。
ベルベットええ。今度こそ決着をつける。
アルトリウス私を殺すか。だがお前たちもすぐにスレイと同じ絶望を味わうだろう。
ヘルダルフふ……ふはははは…… !貴様には……わからないだろうよ……。この導師が、貴様とは違うということを……。
ヘルダルフそうだろう、導師スレイ。お前はこうなることを知っていた。これが……ワシの望み。ワシの選んだ『救い』よ。
ファントムあなたは……まさか……。
ロゼスレイ……。
スレイ――ヘルダルフ、それでもオレはこの世界を生きて欲しかったよ。
ヘルダルフ……行け、スレイ。
スレイああ。
スレイオレは絶望なんてしていない。戦うよ、ベルベット !
ベルベット好きにしなさい。
スレイああ、好きにする !
エドナそうね。他人に左右なんてされないわ。自分の舵は、自分で取るんだから。
アイゼンフッ……。そういうことだ !
アルトリウスどこまでいっても理を壊すか。
アルトリウスわかっているのか、ベルベット。不十分とはいえ、カノヌシの力はまだ繋がっている。何度やっても先ほどの二の舞だぞ。
ライフィセット今度はさせないよ。ベルベットを傷つける奴は絶対に許さない。
アルトリウスやめておけ。お前には器としての価値がある。
ベルベット……アーサー義兄さん。『なぜ鳥は空を飛ぶのか』答えがわかったわ。
アルトリウス……。
ベルベット鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。理由なんてなくても。翼が折れて死ぬかもしれなくても。
ベルベット他人のためなんかじゃない。誰かに命令されたからでもない。
ベルベット鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ !
アルトリウス異世界に来てまで得た答えがそれか ?
ベルベットどこにいたって、きっと答えは同じ。
ベルベットそう、それが『あたし』よ !
アルトリウスその愚かさが業魔を生むのだ。悲劇は遥か後世まで続きやがて『憑魔』と呼ばれるようになる。
スレイ………………。
アルトリウス導師スレイ。貴様の隣に立つ者たちは世界に悲劇をもたらす元凶だ。お前もその一端を担う気か。
スレイあなたが実現しようとするものもオレには悲劇のように思える。
スレイ人が生きる限り悲劇は生まれるのかも知れない。変えようのない現実があるのかも知れない。それでもオレは、現実に正面から立ち向かう。
スレイ人の心が生むのは穢れだけじゃないと思うから。
ベルベットアルトリウス、あんたはあたしたちを止められない。
アルトリウスお前たちも私を止められん。
アルトリウスベルベット。今度は確実にとどめをさす。
ベルベット上等よ。殺すなら、しっかり殺せ !
ベルベットさもないと……あたしが、あんたを喰らう ! !

Character13話【13-15 ミッドガンド領 聖主の御座12】
アルトリウス成長したな。だが !
アルトリウス私は、世界の痛みを止めねばならんのだ ! !
ベルベットあたしは、あんたを殺す ! 殺して、止める !――約束だからっ ! !
ライフィセット浄玻璃鏡が !
ベルベットうおおおおおおっ ! !
アルトリウスっ !
アルトリウスがはっっ ! !
ロクロウ入った。
エレノア油断は禁物です。
マギルゥいや、あれで決まりじゃ。カノヌシは力の供給を絶たれておるでの。……回復も間に合わん。
ベルベット…………。
アルトリウスオーバーレイ、か……。異世界の力に……負けた、な。
ベルベット……ええ。ついでに聞かせて。
ベルベットこの世界では具現化という力があるわ。それでセリカ姉さんを生み出そうとは思わなかったの ?
アルトリウス……たとえ、セリカを具現化しても俺が失った時間は戻らない。何より……。
アルトリウスあのセリカが、そんなことを……望むと思うか ?
ベルベット……そうね。
アルトリウスベルベット、俺は、ずっと思っていたよ。死んだのがセリカたちではなく……。
アルトリウス『お前たちだったらよかったのに』……と……。
ベルベット…………。
アルトリウスこの世界に来て、思いはもっと、強くなった……。
アルトリウスお前たちが死んでいたなら迷わず……具現化して……幸せな生活を……。
ベルベットええ……そうだったら良かったのに。
アルトリウス……ベル、ベット……。
ベルベットなに ?
アルトリウス元の世界……俺は……世界を……救えただろ……か……。
ベルベットいいえ。あたしたちが止めたはずよ。何度倒れて、挫けようとあたしは立ち上がる。
ベルベットあきらめるなって、教えてくれたじゃない。……あの開門の日に。
アルトリウス……………………。
ベルベット……もう、聞こえないのね。さよなら……アーサー義兄さん。
ヘルダルフ……はっ、あの男は、先に逝ったか。これで、心残りも……なくなったわ……。
スレイヘルダルフ……。
ヘルダルフサイモン……どこだ……。
サイモン我が主……お側におります……。
ヘルダルフお前は、どこへなりと失せよ……。
サイモンっ !
ヘルダルフもう、ワシに縛られるな。ワシはお前の主であった『ヘルダルフ』ではない……。
サイモンいいえ ! 私には尊き方に違いありません。僅かばかりのお仕えでしたが御身はすでに我が主なのです !
サイモンどうか、お側に置いてください…… !
ヘルダルフならば申し付ける。ワシの代わりにお前が導師たちの行く末を見届けるのだ。
スレイ! !
ヘルダルフ己が志を貫くもよし、闇に堕ちるもまたよし……。面白い、見世物と……なる……。……いや、堕ちぬか……。この導師は……。
サイモンああ、主 ! ! お待ちください !私を置いていかないで !
ヘルダルフワシを、楽しませよ……、導師スレイ……。…………。
サイモン主……。
スレイヘルダルフ……。
サイモン――主に触れるな。
スレイサイモン……。
サイモン……主の望みを叶えてくれたことには感謝する。だが、主の最期の言葉を叶えるには……まだ……。
アリーシャ消えた ! ?
エドナお得意の幻術でしょうね。
ライラサイモンさん、かの者の遺体をどこに……。
ロゼ救世軍へ戻っていればいいんだけどそういう感じでもなさそうだよね。
スレイ…………。
ミクリオ大丈夫か、スレイ。
スレイえ……ああ。
ザビーダおいおい、胸を張れよ、導師殿。お前はあのヘルダルフを浄化したんだぜ ?
スレイ確かに浄化はできた。けど、オレ……ヘルダルフを救えたのかな。
ライラかの者にとって何が救いかは誰にもわかりません。本人にすらそれが本当に救いであったのかわからないこともあります。
ライラですが、かの者は自ら浄化を望み、受け入れました。それだけは事実ですわ。
スレイ……オレ、へルダルフとファントムの話を聞いて何となくわかった気がするんだ。オレに欠けていたもの……。オレに必要なもの……。
ロゼそれって――
スレイ……覚悟、かな。
ザビーダそう、か。
エドナ………………。
スレイ誰かや何かを救いたいと思うなら、救う対象を選別することはできない。あれは救うけどこれは救わないなんて誰にも決められない。
スレイだからヘルダルフも救いたかった。だけど、本気でそれを貫くためには、オレ自身が理想を貫いた先の結果に目を背けない覚悟を持たなきゃいけないんだ。きっと。
テレサあなたたち…… !
エレノアテレサ ! ?
ベルベット…… !本当に、あんたなのね。
テレサアルトリウス様はどうしたのです !
ベルベットそこよ。あたしが殺した。
テレサ――ああ……恐れていたことが…… !
テレサ業魔ベルベット !よくもアルトリウス様をっ !
ベルベットいいわよ。恨みなら全部買うわ。――さあ、来なさい。
テレサ…………っ。いいえ、今の私では、あなたたちには到底敵わない。
ベルベットそう、なら手間が省けたわ。
テレサけれど、アルトリウス様のご意志はこのテレサが受け継ぎます。
テレサベルベット、あなたは私の仇。必ずうち果たしてみせます !
ベルベット仇、か。また言われちゃったわね。
ライフィセットベルベット……。
ベルベット大丈夫。もう聞きなれてる。
ベルベットあんたたちも、用は済んだんでしょ。
スレイああ。終わったよ……。
ベルベットだったらもう帰るわよ。
ベルベットあたしたちは、こんなところで立ち止まっていられないんだから。
to be continued