| Character | 1話【13-1 グリンウッド領 森】 |
| アルトリウス | ――これで、計画の全容は以上だ。理解したな ? |
| テレサ | は、はい……。 |
| アルトリウス | どうした。 |
| テレサ | い、いえ ! その……聖主カノヌシの復活が叶うと知って驚いておりました。この世界にも地脈があるとは存じませんでしたので。 |
| アルトリウス | 正確に言えば地脈の代用となるものだ。 |
| アルトリウス | 鏡士たちがこの世界を具現化する時に使ったという魔鏡術の根源、オリジンの力が大地の奥底に封じられていた。 |
| テレサ | オリジン……。それほどの力を持つ存在なのですね。 |
| アルトリウス | 『創造』と『想像』を『融合』させてできたこの世界の命の源だ。オリジンの力は地脈のように広がっている。 |
| アルトリウス | これを目覚めさせることで地脈に見立てることが可能となるのだ。 |
| テレサ | そこに聖主カノヌシは眠っておられるのですか。 |
| アルトリウス | ああ。本来、神と同等の力を持つ聖隷カノヌシはこの世界での具現化は叶わぬ。具現化がなったとしても力が矮小化されるだろう。 |
| アルトリウス | だが、聖隷――天族は精霊として具現化可能だ。事実、カレイドスコープに残された情報に拠ればカノヌシは具現化されている。 |
| アルトリウス | だが、帝国も鏡士たちもカノヌシを観測していない。考えられるのは、カノヌシの心と体が分離しているためこの世界の精霊に取り込まれたという可能性だ。 |
| テレサ | 確かに、この世界の多くの精霊は同等の力を有するティル・ナ・ノーグの精霊と統合されて具現化されています……。 |
| アルトリウス | ならば、世界の在り方に作用するカノヌシの力はこの世界を構築するオリジンに内包されていると考えた。それはグラスティンの調査からも推測できた。 |
| テレサ | ………………。 |
| アルトリウス | テレサ、先ほどから心ここにあらずのようだな。 |
| テレサ | い、いいえ、そんなことはありません !ただ、先ほどのお話がどうしても気になるのです。この計画では、まるで……。 |
| アルトリウス | ……そういうことか。落ち着きなさい、テレサ。そんな有様では、この計画は成し得ない。 |
| テレサ | 申し訳ありません……。 |
| アルトリウス | いいか、私が話したのはあくまでも邪魔が入った場合を想定しての話だ。 |
| アルトリウス | どこまでも冷静に、自分の使命が何かを考えろ。 |
| テレサ | 承知しました。必ずや、ご期待に沿う働きをお約束します。 |
| アルトリウス | 私は引き続きヘルダルフを探す。後は手筈どおりに。いいな ? |
| テレサ | はい。アルトリウス様も、どうかお気をつけて。 |
| アルトリウス | さて……。 |
| アルトリウス | どうやら探す手間が省けたようだ。待っていたぞ。 |
| アルトリウス | ヘルダルフ。 |
| ヘルダルフ | その言葉、そのまま返してやろう。ようやく会えたな、導師よ。 |
| アルトリウス | ……なるほど。随分と様変わりしたな。魔導器の影響か、力も驚くほど増したようだ。 |
| ヘルダルフ | 貴様への怒りと憎しみ故にな。 |
| アルトリウス | そうか。やはり人が業によって穢れた姿は愚かで醜い。 |
| ヘルダルフ | 醜いか。ククッ……フハハハハハハッ ! |
| ヘルダルフ | 呪いをかけた張本人がよくもぬけぬけと言えたものよ ! |
| アルトリウス | 謀反人に正統な裁きを与えたまでだ。 |
| ヘルダルフ | 裁きだ ? あの掴みどころのない皇帝のためか。嘘も大概にしておけ。 |
| ヘルダルフ | 呪いなどかけずともワシをリビングドールとやらにして意思を奪えば済んだであろうが。 |
| ヘルダルフ | 貴様、腹の底に何を隠している。 |
| アルトリウス | 何も。私が私であるが故に導師としての務めを果たしているだけだ。 |
| ヘルダルフ | その務めが、貴様の言う業によって穢れたワシを否定することか。 |
| アルトリウス | そうだ。それが理だ。 |
| ヘルダルフ | 愚かな。業とは欲、欲は生きる力よ。業を背負って生きることこそ、人が人である所以。貴様とて同じだろう。 |
| ヘルダルフ | 理という傲慢な理想の押し付けこそが貴様の欲そのものではないか ! |
| アルトリウス | わかっている。だからこそ、私は全てを背負う。 |
| ヘルダルフ | ならば死ね。愚かな理想と共に ! |
| ヘルダルフ | っ ! ? |
| アルトリウス | 戦訓その一、策戦は堅実に。対応は柔軟に。 |
| ヘルダルフ | ……体が…… ! |
| アルトリウス | 拘束のみに特化させた術式だ。今の貴様でも簡単には解けん。 |
| ヘルダルフ | いつの間に……ぐおおおっ ! |
| アルトリウス | あれほどの穢れだ。気配を感じる者であれば対策の一つもするさ。 |
| アルトリウス | だが、お前は私への警戒を怠った。本来ならば、そこに考えが至らぬ程愚かでもなかっただろうに。 |
| アルトリウス | 急激に力を増したことで、己の強さに溺れたあげく私への怒りが目を曇らせたのだ。やはり業とは醜いものだな。 |
| ヘルダルフ | おのれぇぇっ ! 導師ーーーーっ !ぐああああああっ ! |
| アルトリウス | 大人しくしておけ。苦しむだけだ。 |
| アルトリウス | ――事は済んだ。転送魔法陣の準備はできているか ? |
| 帝国兵β | はい。ミッドガンド領内聖主の御座への転送確認を完了しております。 |
| ヘルダルフ | くっ……聖主の御座……だと…… ? |
| アルトリウス | グリンウッド領ではセルゲイの手前帝都へ運ぶという話になっていただけだ。 |
| アルトリウス | その忌まわしき穢れはカノヌシへの贄とさせてもらう。腐抜けたベルベットの代わりにな。 |
| Character | 2話【13-2 ケリュケイオン1】 |
| エルレイン | 治療は終わりました。もう痛みはないはずですよ。 |
| スレイ | ありがとう、エルレインさん。 |
| ザビーダ | いやー聖女様の治癒術はまた格別だな !今度お礼するぜ、個人的に。 |
| エルレイン | 俗な見返りなど不要です。 |
| ザビーダ | 怖っ……。 |
| マーク | ハハッ、冗談が通じる相手じゃねえって。しかしハデにやられたな。 |
| フィリップ | ヘルダルフは予想以上の強さだったようだね。 |
| ライラ | ええ。かの者の強さは魔導器によって引き上げられていました。あのまま戦っていたら、こちらが危なかったでしょう。 |
| スレイ | ……いや、勝てなかったのは魔導器のせいだけじゃないよ。 |
| スレイ | あいつを浄化するためにはきっと、知らなきゃいけないことや足りないものがたくさんあるんだ。 |
| スレイ | ヘルダルフに何があったのかとかオレ自身の実力とかさ。 |
| エルレイン | ………………。 |
| ミクリオ | ……そうだな。けど、それはスレイだけじゃない。僕たちみんなに言えることだ。 |
| 全員 | …………。 |
| ビエンフー | く、空気が激重でフー……。 |
| エドナ | ミボのせいよ。責任とって何とかしなさい。 |
| ミクリオ | 何とかって言っても……。 |
| エドナ | 踊りでも踊って場を盛り上げればいいでしょ。協力してあげる。ほら、ほら、ほーら。 |
| ミクリオ | ちょっ、くすぐったいだろ !傘はやめろ ! |
| ビエンフー | ああっ、エドナさんにあんなツンツン……。うらやましいでフー。ボクも優しくツンツンされ―― |
| アイゼン | ビエンフー……、てめえ、後で倉庫に来い。 |
| ビエンフー | ビ、ビエ~~~~ン ! 姐さん、お助け~~ ! |
| マギルゥ | 自業自得じゃ。しかも益々空気を悪くしおって。ベルベット、こんな時こそお主のアレをブチかましてやれい ! |
| ベルベット | は ? アレってなによ。 |
| マギルゥ | またまたぁ、出し惜しみせんでいいんじゃよー ?伝説のモノマネを披露する絶好の機会であろうが。 |
| マギルゥ | この重っ苦しい空気の中お主が「ポッポ~ ♪ 」と一声鳴けば泣いたカラスも怒って笑い、ドカンドカンの大爆笑 ! |
| ベルベット | っ ! ! |
| ライフィセット | ベルベット、大丈夫 ? 顔が赤いよ。 |
| ロクロウ | なんだ、ハトじゃなくてタコのモノマネか ? |
| マギルゥ | そうか !ブルナーク間欠泉から飛び出す茹でダコじゃな ?ニッチな新ネタを仕込んで来るとは、侮れんヤツめ。 |
| エレノア | いい加減にしてください、あなたたち !こんな時に何をふざけているのですか。 |
| エレノア | ベルベットも、芸を披露するならもっと相応しい場所でやってください。 |
| ベルベット | やるわけないでしょ !まったく、疲れるったらないわね……。 |
| ライラ | 芸を『披露』するのに『疲労』してしまった……というわけですね ! |
| ベルベット | それやめて。ホントおじさん臭い。 |
| ライラ | 酷いです、ベルベットさん。ダジャレはおじさんだけのものではありませんわ ! |
| アリーシャ | ふふっ、さすがライラ様だな。 |
| スレイ | っていうか、怒るとこずれてるし。 |
| ロゼ | でさ、結局あたしら何の話してたんだっけ ? |
| 3人 | っ……あっはははははは ! |
| マギルゥ | どうじゃなご一同。泣いてばかりの子ガラスも我らマギルゥ奇術団にかかればあっという間にこのとおり。 |
| スレイ | うん、ありがとう。気を遣わせちゃってごめん。落ち込んでる場合じゃなかった。 |
| アリーシャ | そうだな。次のことを考えよう。ヘルダルフに勝てるように。 |
| デゼル | 賛成だ。それにサイモンのこともな。 |
| エルレイン | そのことですが、あなた方には迷惑をかけましたね。 |
| デゼル | なんであんたが謝る。 |
| エルレイン | 先ほどまでサイモンは私の管轄下にありました。あの者を御することができなかった私の不始末です。 |
| マーク | まあ、うちの鏡映点はクセ者揃いだからな。素直に言うこと聞くやつの方が貴重だよ。 |
| フィリップ | だからといってヘルダルフと繋がりがあるとわかった以上このままサイモンを放っておくわけにはいかない。 |
| ロゼ | うん。あの二人は合流させたらまずいよ。サイモンは、あたしたちが知らない未来のことを知ってるみたいだし、今のうちに何とかしないと。 |
| フィリップ | では二人の捜索にはこのままケリュケイオンを使ってくれ。機動力は必要だからね。 |
| マーク | 使うのはいいとして、どこを捜すか当てはあるのか ? |
| スレイ | 当てはないけど、気になることはある。ケリュケイオンが迎えに来る前にほんの一瞬だけヘルダルフの領域を感じたんだ。 |
| ミクリオ | 本当か ! ? 気がつかなかったな。 |
| スレイ | 感じた……んだと思う。すぐ消えちゃったし気のせいかもしれないけどいつもの感じとは違うっていうか……。 |
| スレイ | とにかく、ヘルダルフに繋がる手掛かりがあるなら何でも知りたいんだ。 |
| ミクリオ | そうだな。サイモンの様子じゃ聞いても答えてくれそうにない。自分たちで情報を集めないと。 |
| マーク | んじゃ、スレイの言うあたりを探ってみるか。 |
| エルレイン | …………。スレイ。サイモンの見てきた世界を知りたいか ? |
| スレイ | え ? どういう意味 ? |
| エルレイン | 私は以前、クロノスの檻で元の世界の自分が辿るであろう生涯を何度も繰り返し見せつけられた。 |
| スレイ | 自分の未来を見たのか !元の世界の……。 |
| エルレイン | そうだ。もしもそのような機会があったとしたらお前はそれを望むか ? |
| スレイ | う~ん…………。自分の未来が知りたいっていうかそれがヘルダルフを浄化するための手がかりになるなら知りたいって感じかな。 |
| エルレイン | 自分のためではなく、敵のためだと ? |
| スレイ | うーん、自分の未来は自分で体験したいんだ。まあ、元の世界のことはもう体験できないんだけど。 |
| スレイ | それに、あのヘルダルフってアルトリウスの呪いや魔導器のせいであんなに穢れちゃってるんだろ ? |
| スレイ | この世界は穢れが存在していても憑魔として具現化された奴以外は本来憑魔になるはずがない世界だし。 |
| スレイ | そもそもの条件が違うこの世界でならヘルダルフの穢れをどうにかできるかもしれない――……あれ ? よく考えるとやっぱり自分のためかも。 |
| ライラ | ふふっ、本当に、スレイさんらしいですわね。 |
| クラトス | フィリップ、マーク、取り込み中すまない。 |
| フィリップ | クラトスさん、どうしましたか ? |
| クラトス | このデータを見てくれないか。ミッドガント領を中心に妙な数値が―― |
| エルレイン | あっ…… ! |
| クラトス | 失礼。肩が当たってしまった。怪我はないだろうか ? |
| エルレイン | いや、大事ない―― |
| 二人 | う…………。 |
| スレイ | エルレインさん ! ? |
| マーク | クラトス ! ? どうした ! |
| クラトス | 急に……めまい…………が……………………。 |
| フィリップ | 二人とも、意識がない。すぐに医務室へ ! |
| ライフィセット | えっ ! ? |
| フィリップ | ライフィセット ! きみもか ! ? |
| ライフィセット | ううん……大丈夫。けど、今の感覚……。そんなわけないのに……。 |
| ベルベット | どうしたの ! ? |
| ライフィセット | かすかだけど、今、地脈のようなものを感じた……。 |
| 全員 | ! ! |
| Character | 3話【13-2 ケリュケイオン1】 |
| ヘルダルフ | ……ぐっ……。 |
| ヘルダルフ | (おかしい……。力が湧き上がるそばから奪われていく……) |
| アルトリウス | 苦しいか。力が吸い取られるように感じるはずだ。 |
| ヘルダルフ | …………。 |
| アルトリウス | ……まあいい。その様子であればお前の穢れは地脈へと注ぎ込まれているだろう。 |
| アルトリウス | しかし……やはり念には念を入れるべきか。餌が足りなくては困る。 |
| ヘルダルフ | 餌……だと ? |
| アルトリウス | お前には、オリジンから分離するに十分な穢れをカノヌシに与えてもらわねばならん。 |
| アルトリウス | その力、『神依』によりさらに高めてもらうぞ。 |
| ヘルダルフ | 何 ? |
| アルトリウス | 今からこのクレーメルケイジに入った聖隷――いや、天族と精霊輪具で神依化してもらう。 |
| アルトリウス | お前を『我が主』と呼んでいた天族の娘だ。見知った者であれば、より神依化もしやすいだろう。 |
| ヘルダルフ | 知らぬ ! 何が天族だ ! |
| アルトリウス | そうか。お前には、あの者の記憶がないのか。 |
| アルトリウス | 片割ればかりが記憶と想いを募らせたままか。この天族も哀れだな。 |
| アルトリウス | 天族よ、せめて一つとなって、主の力となるがいい。 |
| ヘルダルフ | 何をする……やめろ ! ぐああああああっ ! ! |
| アルトリウス | (こちらの準備は整った。後は……) |
| ロミー | アルトリウス、話があるの。 |
| アルトリウス | ロミーか。どうした。 |
| ロミー | 知ってると思うけど新たな大陸の具現化は成功したわ。そっちはどう ? |
| アルトリウス | こちらも順調だ。おかげで地脈は活性化した。喰魔を介さずにカノヌシへ穢れを送る術式も起動している。 |
| ロミー | そう。『穢れの質』っていうのはちゃんと高めてから送りこんでる ?「憎悪」とか「傲慢」とか色々あるって話だったけど。 |
| アルトリウス | 魔導器で全ての要素は十分高められているが先ほど念のために手も打った。 |
| ロミー | よかったわ。苦労してグラスティンから盗んだ術式の一つだもの。ちゃんと役立ててくれないとね。 |
| アルトリウス | 問題ない。全ては順調だ。 |
| ロミー | だったら、もういいわね。しばらくは連絡も手助けも出来ないからそのつもりでいて。 |
| アルトリウス | 何かあったか ? |
| ロミー | ちょっと面倒が起きて怪我をしたの。帝国もこっちを嗅ぎつけてるだろうし回復がてら身を隠すわ。 |
| ロミー | それともう一つ。新大陸の調査で面白いものが見つかったわよ。 |
| ロミー | 『霊石』と『集霊器』っていうんだけど集霊器を使って、霊石を取り付けた人間からエネルギーを回収できるの。 |
| アルトリウス | 人間から……。 |
| ロミー | 何か引っかかる ? |
| アルトリウス | いや。では新大陸で回収したエネルギーはこちらで預かるぞ。 |
| ロミー | いいけど、何に使う気 ? |
| アルトリウス | 【ルグの槍】の対抗エネルギーとして使用する。 |
| ロミー | そう、お好きにどうぞ。……フフッ。 |
| アルトリウス | なんだ ? |
| ロミー | 造反したあなたが仕組んだ計画って結局、帝国の連中と同じなんだもの。具現化した世界を利用しつくそうとするところとかね。 |
| アルトリウス | 確かに、私は『全』を生かすために『個』への犠牲を強いている。 |
| アルトリウス | だが、いずれはこの世界に具現化された人間たち全てを、救われるべき『全』にする。 |
| アルトリウス | それが私の『理』だ。 |
| ロミー | ご立派な思想だこと。あなたの理想とする世界がどんなものか見るのが楽しみだわ。 |
| ロミー | それじゃ、さようならアルトリウス。お互いまた無事に会えるといいわね。フフフッ。 |
| ロミー | (その時まで『ここ』にいるかどうかはわからないけど) |
| Character | 4話【13-3 ケリュケイオン2】 |
| ベルベット | 地脈って……。フィー、どういうことなの ! ? |
| アイゼン | もう一度、落ち着いて感じてみろ。 |
| ライフィセット | 待って、地脈とは何かが違うんだ。似てるけど、何かもっと特別な力のような……。 |
| フィリップ | …………。 |
| マーク | どうした、フィル。お前も調子悪いのか。 |
| フィリップ | ……いや、大丈夫。ちょっとしたアニマ酔いだよ。でも、ライフィセットの感じているものがわかった。 |
| ライフィセット | え ! ? |
| フィリップ | ライフィセットが感じている特別な力っていうのは魔鏡術の融合の力だ。とてつもない融合の力が突然、地中で活性化したせいだと思う。 |
| ライフィセット | これが魔鏡術の融合の力…… ?だったらなんで地脈みたいに感じるんだろう。それに僕は鏡士じゃないのに……。 |
| フィリップ | ごめん、僕宛てに通信だ。 |
| フィリップ | ――……えっ、なんで君が ! ? |
| ファントム | なんでとは、ご挨拶ですね。フィル。 |
| フィリップ | リーパ……、目が覚めていたんだね。良かった。 |
| マーク | ファントム…… ! |
| 三人 | ファントム ! ? |
| フィリップ | 意識ははっきりしているんだね。体はどうだい ? |
| ファントム | あなたからそう聞かれるのは複雑ですね。こちらとしても、連絡したかった訳ではありませんし。さて……用件を伝えましょうか。 |
| ファントム | 今、ティル・ナ・ノーグの具現化に関わった三人の鏡士とオリジンの力が活性化して暴走し始めています。 |
| ファントム | ヨーランドたちは、それらを抑えながら『オリジンの存在を保つ』ので精一杯なんです。 |
| フィリップ | オリジン ? これは融合の力ではないのか ? |
| フィル | 融合の力ですよ。あなたが感じている通りにね。 |
| マーク | 相変わらず持って回った言い方しやがって。さっさと詳しいことを説明しやがれ ! |
| ファントム | 詳しいことも何も、オリジンの力は融合の力と同義なのですよ。オリジンは、ナーザ・アイフリードがダーナの力を元に造りだした最初の精霊ですから。 |
| ファントム | この世界には、世界の具現化を保つための原初の力が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。そしてうかつに触れられないよう封じられていた。 |
| ファントム | しかし、原初の力を制御する筈のオリジンが『狂った』ようですね。エンコードによって、オリジンに異世界の『何か』が吸収された。それが今になって暴れている。 |
| マーク | それだけじゃ、何が何だか見当がつかねえぞ……。 |
| ファントム | 仕掛け人はミッドガンド領とやらにいるようです。さっさとこの首謀者を何とかしなさい。 |
| マーク | チッ。 |
| ベルベット | ……アルトリウスよ。 |
| エレノア | ベルベット、あまりに早計じゃありませんか ? |
| ベルベット | 地脈――まあ正確には違う物みたいだけどそんなものが関わるような騒ぎを起こす奴なんて他に誰がいるの ? |
| エレノア | それは……。 |
| マーク | ともかく、ミッドガンド領へ向かうぞ。スレイたちはどうする ? |
| スレイ | オレたちも行くよ。ベルベットたちの話だとアルトリウスとヘルダルフは同じ場所にいるかもしれないし。 |
| スレイ | それに、一瞬だけ感じたヘルダルフの領域……。なんて言ったらいいかわかんないけど変な感じだったから。 |
| ベルベット | そのヘルダルフってのもアルトリウスに呪われてたんでしょ。今回の件に関わっているかもしれないわよ。 |
| スレイ | うん……。なあ、ベルベットアルトリウスって人は導師なんだよな ? |
| ベルベット | ええ。前にも言ったでしょ。あんたとは似ても似つかない導師であたしの仇。 |
| ロクロウ | アルトリウスが糸を引いているなら十中八九カノヌシ絡みだろうな。 |
| ザビーダ | ここでその名前が出るかよ。ったく懐かしくて涙が出るぜ。 |
| エレノア | だとしたらアルトリウス様の目的は、この世界で……。 |
| マーク | ちょっと待て。悪いがその、地脈とかカノヌシのあたり俺たちにもわかるように説明しといてくれるか ? |
| アイゼン | そうだな、すまなかった。手短に話すぞ。 |
| アイゼン | 俺たちの世界で地脈というのは大地を流れる自然の力だ。その地脈を通じてカノヌシは力を取り入れていた。 |
| アイゼン | そしてカノヌシは穢れを、その根源である意思ごと喰らう聖隷で、これによって人間を鎮静化させる。アルトリウスはこの力が狙いだった。 |
| マギルゥ | かなりザックリじゃのー。 |
| マーク | 十分だ。けど、なんでアルトリウスは鎮静化なんて力が必要だったんだ ? |
| マギルゥ | 大量の穢れを生まない世界を造るため、じゃな。 |
| スレイ | えっ ! ? できるのか ? そんなこと。 |
| アリーシャ | 実現するのなら、理想の世界と言えそうだが……。 |
| アイゼン | 俺はごめんだ。反吐が出る。 |
| アリーシャ | 何故ですか ? |
| アイゼン | お前たちも知ってるだろう。穢れがなぜ生まれるか。 |
| マギルゥ | 憎悪、執着、愛欲、絶望……人の感情によって穢れは増える。だからと言って切り離せるものでもなかろう。 |
| フィリップ | …………そうだね。それを切り離せたらきっと楽になれるんだろうけれど僕は僕ではなくなってしまうだろうな。 |
| 二人 | ………………。 |
| マギルゥ | そこで人の意思を奪うカノヌシじゃよ。奴の領域ならば、人間がすべてリビングドールβに置き換わったがごとき世界に早変わり。 |
| マギルゥ | 決められた理に逆らわない。逆らう意思もない。感情の高ぶりがないから人間味がない。理から外れれば、自死さえ選ぶ。 |
| アリーシャ | そんな ! それは人として生きていると言えるのか ! ? |
| マギルゥ | じゃが、それが唯一つ世界を救う方法だとしたら、お主はどうする ? |
| アリーシャ | そ、それは……。 |
| エレノア | マギルゥ ! アリーシャを惑わせないでください。 |
| マギルゥ | 儂らの視点だけで話しては偏りが出ると思うての ♪ |
| ベルベット | 誰がどう思おうとあたしにはあいつを倒す理由がある。マーク、あんたたちも好きに動けばいいわ。 |
| マーク | まあ、ざっくりと事情はわかった。率直に言えば俺はアルトリウスの理想ってのが肌に合わねえ。鏡精はマスターの心――感情から生まれるもんだしな。 |
| マーク | フィルはどうだ ? |
| フィリップ | さっきも言った通り、僕は今まで散々感情に流され惑わされて、ここまで来た。それを否定されることは僕という存在を否定されるようなものだよ。 |
| フィリップ | これまでの在り方を否定するような世界は望まない。 |
| スレイ | オレもだよ。それに少なくともここでは、世界を救う方法がアルトリウスの考える手段だけじゃない筈だ。……いや、オレたちの世界だってきっと―― |
| ライラ | ………………。 |
| ミクリオ | 僕も……いや、みんなも同じだ。 |
| ライラ | ……ええ ! そうですわ。 |
| フィリップ | では全員一致でいいね。 |
| フィリップ | ……今の話の通りなら、カノヌシは世界の在り方に関わる者とも思える。だが聖隷は精霊としてエンコードされるという法則があるから、神として判定されず―― |
| ファントム | しかし、神に近い力を持っていたが故に矮小化され最も性質の近い精霊オリジンと同一視されてオリジンの中に取り込まれたのかもしれ―― |
| ファントム | ……まあいいでしょう。私はこれで失礼しますよ。 |
| フィリップ | あっ、リーパ ! |
| マーク | ……ほっとけ。何かあれば連絡が来るだろ。今はミッドガンド領へ急ぐぞ。 |
| Character | 5話【13-3 ケリュケイオン2】 |
| 帝国兵1 | ――以上が、新大陸出現に関する調査報告になります。 |
| デミトリアス | そうか。ご苦労だった。 |
| グラスティン | 予想どおりだったな。今回の主導はアルトリウスでそこにロミーやチトセが一枚噛んでいるというわけか。 |
| デミトリアス | 我々のオリジン覚醒計画を盗んだあげくすでに実行に移しているとはね。 |
| グラスティン | しかも勝手に筋書きを変えやがった。オリジンの覚醒には、鏡の精霊の心核を入れたジュニアを器にする予定だったのに……。 |
| グラスティン | ――おい、ロミーとチトセの居場所は判ったか ? |
| 帝国兵1 | それが、お二人とも連絡がつかず目下捜索中であります。 |
| デミトリアス | 警戒して姿をくらましたようだね。 |
| グラスティン | まあ、あいつらはいい。贄の紋章でどうとでも出来る。問題はアルトリウスだ。 |
| グラスティン | あいつは聖主の御座を奪って立てこもっている。まずはあの場を、奴から取り戻すぞ。 |
| デミトリアス | わかった。ではすぐに兵を向かわせよう。 |
| グラスティン | おい、伝令だ ! すぐにミッドガンド領へ部隊を―― |
| 帝国兵2 | 申し上げます ! ただいまミッドガンド領よりテレサ・リナレス様がおいでになりました。 |
| グラスティン | テレサだと ? アルトリウスの子飼いが見計らったようなタイミングでご登場か。ヒヒヒ……どうする ? |
| デミトリアス | 構わん。テレサをここへ。 |
| テレサ | テレサ・リナレスにございます。この度は拝謁を賜り―― |
| グラスティン | 上辺だけの口上ならその辺にしておくんだなあ。 |
| テレサ | っ……。 |
| デミトリアス | テレサ、私たちはミッドガンド領の状況を知っている。それを心にとめた上で話すがいい。 |
| テレサ | はい……。では包み隠さず申し上げます。まずお尋ねしますが、帝国はアルトリウス様の捕縛、もしくは討伐をお考えでしょうか。 |
| デミトリアス | 無論。彼の暴走は止めねばならない。仕えていたきみには酷な話だろうがね。 |
| テレサ | …………。 |
| グラスティン | ヒヒッ、許しを請うつもりか ?だったらアルトリウス本人を連れて来るんだな。 |
| テレサ | いいえ。アルトリウス様をかばうつもりは毛頭ございません。 |
| デミトリアス | では、きみの用件とはなんだい ? |
| テレサ | 恐れながら……陛下と、取引をしたいのです。 |
| デミトリアス | ……聞こうか。 |
| テレサ | 恐らくご存じとは思いますが、現在、アルトリウス様は聖主の御座におられます。そしてその周囲には多数の罠が仕掛けられているのです。 |
| テレサ | このまま帝国軍が聖主の御座へと攻め込めば相応の被害が出ることは間違いありません。 |
| テレサ | ですが、私であれば、アルトリウス様も心を許されるはずです。攻め込む隙を作ることもできましょう。 |
| デミトリアス | なるほど。きみはこちらに協力をすると言うのか。それで、見返りは何だ。何か要求があるのだろう ? |
| テレサ | ……私の弟、オスカー・ドラゴニアに付けられた贄の紋章の解除です。 |
| デミトリアス | そうか。ミッドガンド領の従騎士だったね。 |
| グラスティン | ヒッヒッヒッ、弟のために主を裏切るのか。 |
| テレサ | ええ。私にとって一番大事なのは弟です。オスカーが自由になれるのならばどんな汚い手でも使います。 |
| テレサ | それに、このままアルトリウス様の下にいれば弟は遠からず命を落とすでしょう。……とても耐えられません。 |
| テレサ | 私は、オスカーだけでも助けたいのです。 |
| デミトリアス | そうか……。きみの気持ちはよくわかった。ではアルトリウスの件は、きみに一任するとしよう。 |
| グラスティン | おっと……本気か ? |
| デミトリアス | こちらの戦力も随分と削られている。テレサの申し出を無下にすることはない。 |
| デミトリアス | それに、きみはフリーセルの捜索を優先するべきだ。違うかい ? |
| グラスティン | ……そうだな。 |
| テレサ | では、取引は成立ということでしょうか。 |
| グラスティン | 皇帝陛下のご意思ならば仕方がないだろう。さっさとアルトリウスを連れてこい。 |
| グラスティン | 上手く事が運べばオスカーの贄の紋章を解除してやる。 |
| デミトリアス | テレサ、私はきみの言葉を信じよう。きみが弟への愛を忘れなければ任務は間違いなく成功するはずだ。 |
| テレサ | はい、必ずや証明してご覧にいれます。 |
| テレサ | (やった…… ! 私が襲撃を仕切れるならばミッドガンド領侵攻への時間稼ぎができる) |
| テレサ | (アルトリウス様……、全ては計画どおりです。どうか今のうちにカノヌシ復活を成し遂げてください) |
| グラスティン | ………あの女は行ったか。 |
| グラスティン | ――おい、テレサに監視をつけろ。あの女は信用ならんからな。 |
| 帝国兵β | 承知しました。 |
| グラスティン | 構わないよな ? お優しい皇帝陛下。 |
| デミトリアス | ……ああ。やってくれ。 |
| グラスティン | ほう、即答か。お前も肝が据わってきたな。 |
| デミトリアス | どういう意味かな ? |
| グラスティン | 疑うのは心苦しいだの、裏切るとは思いたくないだのひとしきりゴネてから渋々承諾ってのがお前のお決まりだったからな。 |
| グラスティン | そういう矛盾したところが面白かったんだが今回ばかりは決断が早くて助かる。 |
| デミトリアス | 肝が据わったと言われればそうかもしれない。けれど、私は今だって彼女が裏切らないことを祈っているよ……。 |
| グラスティン | まあ、裏切ったら裏切ったで弟に最高の地獄を見せてやればいいだけさ。 |
| グラスティン | ああ、その方が面白いかもなあ。何か仕掛けを考えておこう。ヒヒヒヒッ。 |
| Character | 6話【13-4 ミッドガンド領 聖主の御座1】 |
| スレイ | この気配、やっぱり間違いない。聖主の御座の奥にヘルダルフがいるはずだ。けど……やっぱり変な感じがするよな ? |
| ミクリオ | うん……。スレイの言ってた通りだ。なんだろうな、今までと違う。 |
| ライラ | 先に入ったベルベットさんたち、大丈夫でしょうか。 |
| ロゼ | うちらだって人のこと心配してる場合じゃないかもよ。 |
| デゼル | ともかく、一番濃い穢れをたどってきゃヘルダルフのところまで行けるだろう。 |
| エドナ | そうね。見当がついたならさっさと進む。 |
| ザビーダ | なんだ、ご機嫌斜めだな。お兄ちゃんが先に行っちまって寂しかったか ?だったら俺様が代わりに―― |
| エドナ | ゲスの勘ぐりね。あっちはアルトリウス捜索、こっちはヘルダルフ。やるべきことをやってるだけでしょ。 |
| ロゼ | ――ねえ、あれ ! あそこにいるのって ! |
| スレイ | フィリップさんだ。周辺の警護をするって言ってたのにこんなところにいるなんて何かあったのかな ? |
| アリーシャ | 待て、スレイ。罠かもしれない。 |
| アリーシャ | フィリップ殿。何故あなたがいらっしゃるのですか ? |
| ファントム | それは私がファントムだからですよ。アリーシャ殿下。 |
| スレイ | ファントム ! ? なんでここにいるんだ。 |
| ファントム | 自分のしたことの落とし前をつけに、ね。 |
| スレイ | 落とし前って ? |
| ファントム | このミッドガンド領は、私が具現化したものです。私は、ゲフィオンとフィルが生きるための世界を造ろうとした。 |
| ファントム | けれど、そうして具現化した中に私の望む世界とは違う、独自の世界を生み出そうとするアルトリウスを呼びこんでしまった。 |
| スレイ | じゃあ、アルトリウスを倒すためにここに来たってこと ? |
| ファントム | アルトリウスの始末はベルベットたちに任せますよ。それが彼らの望みでしょう。 |
| ファントム | ですが、アルトリウスを倒しただけでは、この世界を守ることはできません。ダーナの近くにいたせいで色々と……事情通になってしまいましてね。 |
| ファントム | まあ、簡単に言えば、私には私のそして導師には導師の役目がある、ということです。 |
| スレイ | オレの役目って ? |
| ファントム | これから教えて差し上げますよ。 |
| 全員 | ! ! |
| スレイ | これは……転送魔法陣 ! ? |
| ? ? ? | 導師スレイ。我が声が聞こえるか。 |
| スレイ | (ここは…… ? 誰の声…… ?) |
| オリジン | 我が名はオリジン。クロノスの力添えのもと、お前の中にある『あり得た未来』を見せる機会を設けた。 |
| スレイ | オリジン ! ?えっと……どうなってるか説明してくれるとありがたいんだけど。 |
| オリジン | まずはお前の成すべきことを伝えよう。我の中には、エンコードによって統合された異世界の神に等しい存在がある。 |
| オリジン | しかし、この世界の理を変えるために異世界の存在は我から切り離されようとしているのだ。導師には、これを阻止して欲しい。 |
| スレイ | それって多分理を変えようとしているのがアルトリウスで異世界の神様みたいなのがカノヌシ、だよな。 |
| スレイ | でも、それならベルベットたちが動いてる。アルトリウスを倒せばいいんだろ ? |
| オリジン | いや、アルトリウスを討ち果たしたところでティル・ナ・ノーグに僅かでも異世界の存在が確立して残れば、世界の理は変わってしまう。 |
| オリジン | 今までのように、我らが安定して統合し続けるためにヘルダルフの穢れを消し去らねばならない。 |
| スレイ | ヘルダルフを…… ! |
| オリジン | そのためにも、お前の望むとおり災禍の顕主へと至るヘルダルフの過去を見せることにした。 |
| スレイ | えっ ! ? なんでそれを……うわあっ ! |
| スレイ | あれは……過去のヘルダルフなのか ?大地の記憶を見てる時みたいだな。 |
| スレイ | ………………。これって…………。 |
| オリジン | 今のがヘルダルフの過去だ。どう思った、導師。 |
| スレイ | ……わからない。ううん、違うな。ただ『過去がわかった』って言い方しかできないよ。 |
| スレイ | 確かに、将軍だったヘルダルフのやり方に賛成なんかできない。 |
| スレイ | 守ると言った村を利用したあげく敵の侵攻を知りながら見捨てて、全滅させた。 |
| スレイ | 先代導師に呪われて災禍の顕主になった理由もわかった。けど…………。 |
| スレイ | 呪いのせいで、大事な人たちはみんな死んでどんどん孤独になって、自分だけは死ねなくて……。 |
| オリジン | それは『元の世界のヘルダルフ』の話。この世界に具現化されたヘルダルフは、ミケルとやらの呪いを受けておらず、災禍の顕主ですらない。 |
| オリジン | 全ての事柄を踏まえた上で、お前たちにはこの世界で具現化された『スレイ』と『ヘルダルフ』として対峙して欲しい。 |
| オリジン | この前提ならば、お前でも浄化できるだろう。 |
| スレイ | オレ『でも』…… ?じゃあ元の世界では……オレは……。…………そっか。 |
| ファントム | スレイ、あなたは未だ道半ばの未熟な導師だ。それでも――やりますか ? |
| スレイ | ファントム ! ? みんなは ? |
| ファントム | 全員が同じ体験をしていますよ。ですが、私はあなたに聞いているのです。それで、あなたの答えは ? |
| スレイ | わからない。でも、やってみるしかない。今のオレとして、今のヘルダルフと向き合う。 |
| ファントム | 結構。では、行きますよ。 |
| スレイ | ……ふぅ。もしかして転送完了 ? |
| ファントム | ええ。みなさんも揃っています。 |
| ミクリオ | スレイ ! |
| スレイ | ミクリオ ! みんなも !ヘルダルフの過去、見たんだよな ? |
| アリーシャ | ああ。我が国とヘルダルフの過去にあんな繋がりがあったなんて驚いたよ。スレイもだろう ? |
| スレイ | うん。先代導師との因縁とか、色々と。 |
| ライラ | …………。 |
| ミクリオ | 導師ミケル……か……。 |
| スレイ | ミクリオ ? 何かあったのか ? |
| ミクリオ | え ? ああ、大丈夫。ちょっと気になることがあったんだ。後でゆっくり考えるよ。 |
| エドナ | で、ここはどこよ。 |
| ファントム | この先の部屋が、あなた方の目的地です。進みますよ。 |
| ヘルダルフ | ……………………。 |
| スレイ | ヘルダルフ ! ? |
| ミクリオ | この気配……姿こそ変わりがないけどまさか神依…… ? |
| ロゼ | うそ……ヘルダルフが神依化してるってこと ! ? |
| ミクリオ | ……ああ。そうだと思う。ヘルダルフがはめているあれは精霊輪具だ。恐らく無理やりに神依させられてる。 |
| デゼル | チッ、気配が変わるはずだぜ。ってことは、力も増してるってことか。 |
| ヘルダルフ | ドウシ……ユルサ……コロ……コロォオオオオオス ! ! |
| ザビーダ | うおおっと、正気じゃねえな。 |
| ファントム | どこかにあるはず……。あれか ! |
| エドナ | 危ないでしょ ! 何してるの ! |
| ファントム | ヘルダルフの術式を起動させている装置を止めます !この『場』自体が、奴の穢れをカノヌシに流し込んでいるのです ! |
| ファントム | 戦って穢れを増せば、それだけ多くの力をカノヌシに与えてしまうでしょう ! |
| アリーシャ | ならば――たああっ ! 逆雲雀 ! ! |
| ファントム | ……フ、さすがに荒事はお手の物ですね。ひとまず、装置の動きは止められた。あとは……導師、あなたの役目ですよ。 |
| スレイ | わかってる、行くぞ ! |
| Character | 7話【13-5 ミッドガンド領 聖主の御座2】 |
| ベルベット | 邪霊雷牙 ! |
| 帝国兵βたち | ぐおっ…… ! |
| ライフィセット | すごい、ベルベット。みんな倒しちゃった。 |
| エレノア | 気合いが入ってますね。 |
| ロクロウ | なあ、ベルベット。一人で全部倒さんでも俺に任せていいんだぞ。これでは恩返しもできん。 |
| ベルベット | それって自分が斬りたいだけじゃないの ? |
| ロクロウ | はは、バレたか ! |
| ベルベット | わかったわよ。次はあんたに任せる。 |
| ロクロウ | 応 ! この程度の兵士を倒しても恩返しのおの字にもならんからな。もっとじゃんじゃん出て来て欲しいもんだ。 |
| エレノア | 敵が少なくて物足りないと言ってるように聞こえるのですが……。 |
| マギルゥ | 仕方なかろうて。ファントムに尻を叩かれ坊の感じるままにミッドガンド領へ来てみれば聖主の御座がどどーんじゃぞ ? |
| マギルゥ | うじゃうじゃ敵がおると期待してしまうのが人情というものじゃよ。 |
| ビエンフー | 姐さんの人情ってなんなんでフかね……。 |
| アイゼン | しかし妙だな。領主の館よりも警備兵が少ない。 |
| ロクロウ | アルトリウスも、これほど早く襲撃されるとは思ってなかったんじゃないか ? |
| ベルベット | それはどうかしら。あいつはフィーの力を知ってるわ。地脈を利用した時点でフィーが勘付くことはわかってるはずよ。 |
| アイゼン | となると、ますます怪しいな。考えてみれば外からして警戒網が薄かった。 |
| ライフィセット | もしかして罠 ? |
| エレノア | わかりませんが……やはり、スレイたちと一緒に対策を講じてから突入すべきだったかもしれませんね。 |
| ベルベット | 獲物が違うんだから、やり方もそれぞれでしょ。ほら、行くわよ。 |
| ライフィセット | 待って、ベル―― |
| ライフィセット | うわあああっ ! |
| 全員 | っ ! ! |
| ベルベット | っ……何が……。 |
| アルトリウス | 敵陣で一瞬でも気を抜くとはな。 |
| ベルベット | アルトリウスッ…… ! ! |
| ライフィセット | …………。 |
| アルトリウス | カノヌシの器は気を失ったか。だが、傷はついていないな。 |
| ベルベット | カノヌシ…… ! ? フィー、起きて、フィー ! |
| ベルベット | フィーから離れろ、アルトリウスッ ! ! |
| アルトリウス | ――転送魔法陣、展開。 |
| ベルベット | 待てっ ! フィーを返せ ! |
| エレノア | ベルベット ! |
| マギルゥ | 無駄じゃよ。魔法陣は消えておる。 |
| エレノア | ですが、ライフィセットとベルベットが ! |
| ロクロウ | 落ち着け、エレノア。今さら慌てても仕方ない。 |
| エレノア | わかってはいますが……。痛っ……。 |
| ロクロウ | 無理して動かんほうがいいぞ。さっきの攻撃は強烈だったからな。 |
| マギルゥ | とにかく、仕切り直しじゃな。ビエンフー、生きとるかー。 |
| ビエンフー | ダメでフ~……せめて最後はエレノア様の腕の中で……。 |
| マギルゥ | 元気そうじゃな。治療もいらんじゃろ。 |
| ビエンフー | ビエ~~ン ! |
| ロクロウ | しかし不思議だ。さっきの攻撃不意打ちには違いないがそれにしたって体がうまく動かなかった。 |
| マギルゥ | なんぞ仕掛けておったんじゃろ。 |
| エレノア | どういうことですか ? |
| マギルゥ | 恐らく、攻撃と同時に簡単な拘束術でも放ったんじゃろうて。 |
| マギルゥ | ま、ベルベットはそれをねじ伏せて坊を追ったわけじゃが。 |
| アイゼン | 拘束術か。用意周到だな。 |
| エレノア | 用意……。もしかして、アルトリウス様はライフィセットを捕らえるためにわざと私たちの侵入を見逃していたのでしょうか。 |
| マギルゥ | ああっ ! 言ってしまったなお主 !それはフラグというやつじゃよ~……。 |
| エレノア | ふらぐ…… ? |
| マギルゥ | わからんか ? お主の話が正解としてあやつが目的のものを手に入れた今邪魔者となった儂らはな……。 |
| ロクロウ | なるほど、そういうことか。 |
| アイゼン | 来るぞ。 |
| エレノア | 帝国兵があんなに !それに……ドラゴン ! ? |
| マギルゥ | 邪魔者はここで始末というわけじゃ。くわばらくわばら。 |
| ロクロウ | 丁度いい。斬り足りなくてうずいてたところだ。付き合ってもらうぞ、帝国兵ども ! |
| Character | 8話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】 |
| ライフィセット | う…………。 |
| アルトリウス | ……もうしばらく気を失っているといい。苦しまずに済む。 |
| アルトリウス | っ ! !カノヌシへの穢れの供給が途絶えた…… ? |
| アルトリウス | (ヘルダルフを繋いだ部屋は封じているはずだが……) |
| ヘルダルフ | グォオオオオオオオッ ! |
| ザビーダ | あいつヤベーぞ !倒すどころか近づくのもやっとだぜ。 |
| ライラ | スレイさん ! 神依化したヘルダルフは危険です。こちらも神依化して、まずは精霊輪具を壊しましょう ! |
| スレイ | 了解 ! |
| デゼル | ロゼ ! 俺たちも――…………っ。 |
| ? ? ? | 聞こえ……。たの……ど……し。 |
| デゼル | 今の声は……。 |
| ロゼ | ねえ ! 今なんか聞こえなかった ! ? |
| スレイ | オレも聞こえた ! サイモンの声だ ! |
| エドナ | あの不思議ちゃんいきなり何なの ?こっちはひげネコで手一杯なのに……――インブレイスエンド ! |
| ミクリオ | まさか…… !ヘルダルフと神依しているのはサイモンなのか ! ? |
| 全員 | ! ! |
| スレイ | サイモン ! ヘルダルフの中にいるのか ! ? |
| サイモン | ……主が……私と主は……強引な神依化で……自我が失われ……。 |
| ヘルダルフ | ドォオシィイイイイイ ! ドォオシィイイイイイ ! |
| スレイ | ぐっ……。 |
| サイモン | ああ、主……このような姿……本意では……。 |
| スレイ | サイモン、しっかりしろ ! オレたちはどうすればいい。 |
| サイモン | あの銃で……ジークフリートで主と私を撃て…… !あれは……穢れとの結びつきを防ぐ……。 |
| ザビーダ | よく知ってんじゃねえの。穢れたヘルダルフに撃ちこみゃ神依が解除されるかもってか。 |
| スレイ | ザビーダ ! やれるか ! ? |
| ザビーダ | おうよ、ここが使いどころってな !――うおっと ! |
| ヘルダルフ | コロスコロスコロスコロス…… ! |
| ザビーダ | ……目も当てらんねえな。絶対に外したくねえ。足止め頼むぜ ! |
| スレイ | わかった !ミクリオ、どう行く ? |
| ミクリオ | 手数で攻めて攪乱、大きく一発。 |
| スレイ | よし。みんな、いい ? |
| 全員 | 了解 ! |
| ライラ | 行きます ! 焼くは赤銅 ! フォトンブレイズ ! |
| アリーシャ | 葬炎雅 ! みんな下がれ !――エドナ様 ! |
| エドナ | ロックトリガー ! |
| ヘルダルフ | ! ! |
| スレイ | 今だ ! ルズローシヴ=レレイ ! |
| 二人 | 蒼の四連 ! 蒼海の八連 ! 蒼穹の十二連 ! |
| ヘルダルフ | ウ……ウォオオオッ ! |
| サイモン | もう……もたな……。 |
| デゼル | ! ! |
| ロゼ | なにあいつ、まだ元気 ! ? デゼルあたしらも―― |
| デゼル | サイモン ! あきらめてんじゃねえ ! ――まだ終わらねぇぜ ! |
| デゼル | リーサル・サウザンド ! ! |
| ヘルダルフ | おおおっ…………。 |
| スレイ | 脚が止まった、今だ、ザビーダ ! |
| ザビーダ | とっておきだ。よく味わえよ ! |
| ヘルダルフ | があああああっ ! |
| サイモン | うっ…………。 |
| スレイ | サイモン ! 神依が解けたんだ ! |
| ライラ | スレイさん ! かの者が虚ろなうちに今こそ浄化を ! |
| スレイ | ああ !………………。 |
| ファントム | どうした、導師。 |
| スレイ | 駄目だ……。どうして浄化できないんだ……。 |
| ファントム | ……やはりそうですか。では今のうちに奴を虚無へと送り込みましょう。 |
| スレイ | なっ ! ? やめてくれ ! |
| ファントム | 何故止めるのです。 |
| スレイ | そんなことをしたら、この世界でもヘルダルフに永遠の孤独を与えることになる ! |
| ヘルダルフ | 孤独……そうか……。 |
| スレイ | ヘルダルフ ! ? |
| ヘルダルフ | ――サイモン ! |
| サイモン | うっ……御意…… ! |
| スレイ | ここは……、サイモンの幻術か ?何のつもりだ、サイモン ! ? |
| ヘルダルフ | ここにはワシと貴様しかおらぬ。 |
| スレイ | ヘルダルフ…… ! |
| ヘルダルフ | 導師スレイよ、ワシは貴様を知らぬ。だがワシは『いずれ貴様と相まみえる存在』のようだな。 |
| スレイ | ! !お前も『知って』るのか ? |
| ヘルダルフ | そうだ。サイモンの幻術で元の世界でワシが歩む未来を見た。 |
| スレイ | ……そうか。 |
| ヘルダルフ | 先の言葉から察するにお前もワシのことを知ったようだな。して、どう思った ? |
| ヘルダルフ | 貴様は、ワシが呪われるべき存在だと確信したのではないか ? |
| スレイ | ……それでも、オレは導師として災禍の顕主のお前を救いたいって思った。 |
| スレイ | だから、『今のお前』のことはもっと救いたいって思う。 |
| ヘルダルフ | 笑止千万 ! |
| スレイ | ! ! |
| ヘルダルフ | 元の世界のワシを呪ったのが導師ならばこの世界で呪ったのも導師。 |
| ヘルダルフ | 貴様もまた導師であるならば決してワシを救えぬ ! |
| スレイ | やってみなきゃわからない ! |
| ヘルダルフ | いいや、同じだ。貴様はワシの穢れを浄化できなかった ! |
| スレイ | ――浄化……。そう、か……。そうだ、ここはティル・ナ・ノーグだ……。 |
| ヘルダルフ | 惚けている暇はないぞ。ワシは導師という存在を憎悪する。貴様もここで潰えよ ! |
| Character | 9話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】 |
| スレイ | はあっ……、はあっ……。 |
| ロゼ | スレイ ! 幻術が解けたんだ……ってヘルダルフと戦ってたの ! ? |
| スレイ | ……ああ。 |
| スレイ | 立てるか、ヘルダルフ。 |
| ヘルダルフ | ……何だ、その手は。 |
| スレイ | オレは戦いたいわけじゃない。それに、決着はついたんじゃないか。 |
| ヘルダルフ | ……わかっているのか ?貴様の差し伸べる手がどれほど残酷か。ワシへの侮辱以外の何ものでもない。 |
| スレイ | 救いたいって……、元の世界みたいに孤独になって欲しくないって思うのは駄目なのか。 |
| ヘルダルフ | 未来がどうであれ、ワシに貴様の救いはいらぬ。それに貴様はワシを浄化できなかった。 |
| スレイ | オレは『浄化』したいんじゃない。『救い』たいんだ。 |
| ヘルダルフ | 同じことだ ! |
| スレイ | 同じじゃない。結果が同じだったとしても違う筈だ。 |
| スレイ | 元の世界でお前のしてきたことは理解できないけどだからって元の世界みたいに――いや、それ以上の孤独の中で生き続けるようにはなって欲しくない。 |
| スレイ | 生きるにしろ、死ぬにしろ、世界の中であって欲しい。虚無に封じるなんてしたくはない。 |
| スレイ | この世界でどうするのか、どうなるのかの選択肢があってもいいだろ ? |
| スレイ | だから救いたい。その為に浄化する。ここではお前はまだ災禍の顕主じゃない。ただのヘルダルフとして生きられる。 |
| ヘルダルフ | 断絶された世界に独り閉じ込められて生きることが救いになると思うのか。 |
| スレイ | 一人かも知れないけど独りじゃ――孤独じゃないだろ。 |
| ロゼ | 少なくともサイモンはあんたを救おうと頑張ってた。精霊輪具の影響でボロボロなのに幻術まで使ってさ。 |
| サイモン | ………………。 |
| ヘルダルフ | ……この娘なら己を道具として使えと言うから使ったまでよ。 |
| アリーシャ | なんてことを……。 それではあまりにサイモン様が報われない。 |
| ヘルダルフ | 知ったことを抜かすでないわ。貴様にこの娘の何がわかる。 |
| ヘルダルフ | ワシも、この娘も、互いの益を求めあったに過ぎん。導師、お前も同じだ。天族を利用し、天族に利用される。 |
| ヘルダルフ | いつの世も何ら変わることのない世の理だ。 |
| エドナ | それを本気で言ってるなら呪われて災禍の顕主になる前からあなたは孤独だったってことね。 |
| ヘルダルフ | だからこそ救いなどいらぬと言っている。 |
| スレイ | それ、本気じゃないだろ。 |
| ヘルダルフ | まだ言うか。 |
| スレイ | 本気でそう思ってたらオレに未来を見てどう思ったかなんて聞いたりしない。 |
| ヘルダルフ | ! ! |
| スレイ | お前は、自分の未来に僅かでも『後悔』したんじゃないのか ? |
| ヘルダルフ | ……あの時のワシの選択は間違っていない。ハイランドが動いた以上あの村を、カムランを放棄するのは妥当な策だ。 |
| ヘルダルフ | 人は未来を見通せはせん。なればこそ何度でもワシは同じ選択をするだろう。それが災禍の顕主へと至る道になろうとな。 |
| ミクリオ | だったら、お前を呪った導師ミケルも間違ってないということになるな。 |
| ヘルダルフ | 小僧……。 |
| スレイ | 辿らなかった人生のことより、オレは、今のお前がこの世界でどうしたいか知りたいよ、ヘルダルフ。このままじゃお前は元の世界と同じになる。 |
| ヘルダルフ | フフ……そうだろうな。 |
| ヘルダルフ | 言っただろう。呪いなどなくてもこの世界に具現化された時点でワシは孤独だ。慈しみ、愛したものは、この世界にいない。 |
| スレイ | 家族……か。 |
| ミクリオ | ヘルダルフ、お前と同じように、導師ミケルも家族や大切なものを失う悲しみを負ったんだ。いや……それ以上の絶望を。 |
| スレイ | うん……。そして憎しみのままにヘルダルフを呪った。 |
| スレイ | オレだって、ミクリオやみんな……家族を失ったらどうなるかわからない。相手を憎んで、その憎しみで戦うかもしれない。 |
| ヘルダルフ | だが……それでも貴様は、あの選択をした、か。 |
| スレイ | えっ ? |
| ヘルダルフ | ……ふっ、はははは……。そうか……お前は、堕ちなかった……。家族を失うという絶望に……。 |
| ヘルダルフ | ……貴様は……違うのかも知れぬ。 |
| スレイ | ………………。 |
| ヘルダルフ | 今一度、ワシを―― |
| スレイ | な、なんだ ! ? |
| サイモン | ――っ ! また装置が起動した……。アルトリウス…… ! |
| ヘルダルフ | ぐっ…… ! |
| ファントム | ヘルダルフの穢れがカノヌシに…… !残念ですが、これ以上は引き延ばせない。もはや猶予はありません。 |
| ヘルダルフ | ………………。 |
| サイモン | ……主。 |
| ファントム | スレイ、これが最後です。浄化するか、虚無に封じるか――うっ ! ? |
| サイモン | 動いているのがやっとのお前など捕まえるのは造作もない。 |
| スレイ | サイモン ! ? 何を―― |
| ヘルダルフ | サイモン、よくやった。 |
| ヘルダルフ | 導師よ。ワシをこの部屋から解放しアルトリウスのもとへ連れていけ。 |
| ファントム | スレイ、奴の口車に乗ってはいけない。今の状態のヘルダルフを浄化するのは無理です。ここで虚無に送るしかない ! |
| ヘルダルフ | 黙れ。今のワシでもまだ貴様の首ぐらいは簡単に折れるぞ。 |
| スレイ | ! |
| ファントム | スレイ、あなたにはわからないでしょうがどうあがいても、救われない人間はいる。 |
| ファントム | 救われたくない人間も救うべきではない人間もいる。私もこいつもそういう存在だ ! 早くやれ ! |
| スレイ | ……どうして、わからないって思うんだ。 |
| ミクリオ | ! ? |
| スレイ | わかるから――わかるけど、それでも救いたいんだ。 |
| 三人 | ………………。 |
| スレイ | それに―― |
| ヘルダルフ | ………………。 |
| スレイ | ……それが、お前の望みなんだな。 |
| ヘルダルフ | そうだ。 |
| スレイ | ――向こうに転送魔法陣がある。そこからなら、出られるはずだ。 |
| 五人 | スレイ ! |
| スレイ | 一緒にアルトリウスのところへ行こう。ヘルダルフ。それが、お前の救いに繋がるのなら……。 |
| Character | 10話【13-12 ミッドガンド領 聖主の御座9】 |
| ベルベット | アルトリウス ! |
| アルトリウス | ……ベルベット。 |
| ベルベット | フィーはどこ ! フィーを……。 |
| ベルベット | ! ! |
| ライフィセット | ……ベルベット……逃げ、て……。 |
| ライフィセット | (お姉ちゃん ! 逃げて !) |
| ベルベット | あ……ラフィ……、フィー ! |
| ベルベット | フィーを返せええええええっ ! |
| アルトリウス | 変わらんな、お前は。 |
| ベルベット | 黙れ ! またあたしから奪うつもりか ! ? |
| アルトリウス | そうだ。ライフィセットはカノヌシの完全復活に必要な器だ。 |
| ライフィセット | うっ ! うああああっ ! |
| ベルベット | フィー ! ? |
| ライフィセット | ベルベット……僕……ごめ……。 |
| アルトリウス | 地脈に眠るカノヌシとの融合が始まったのだ。 |
| ベルベット | だったら全てが終わる前にあんたを殺してフィーを解放する ! |
| アルトリウス | 無駄だ。すでに儀式は行われた。私も本来の力を取り戻しつつある。 |
| ベルベット | っ……今の力……カノヌシの…… ! |
| アルトリウス | もう諦めろ、ベルベット。 |
| ベルベット | ふざけるな ! 一体、何が目的よ。この世界でも同じことをする気 ! ? |
| アルトリウス | ここでは穢れが世界へ影響を及ぼすことはなく業魔も生まれない。 |
| アルトリウス | だが、穢れが影響せずとも人は争い世界は滅亡を免れぬところまで追いつめられている。 |
| アルトリウス | 知っているか ? この世界の成り立ちを。ここは滅亡から逃れるために作られた欺瞞の世界だ。 |
| アルトリウス | 作られた世界は脆弱で、だからこそ自らの世界を滅ぼした愚かな人間が、この世界をも破壊しないように世界を生み出した原初の力を封じて隠していた。 |
| アルトリウス | にもかかわらず、人は原初の力に手を伸ばした。それが魔鏡術であり、鏡精であり、この世界の精霊だ。 |
| アルトリウス | そして人は再び世界を壊し、あげく異世界をも具現化し喰いつくさんとしている。穢れていなくとも、すでに業魔のようなものだ。 |
| アルトリウス | ならば、誰かが世界を変えねばならん。 |
| ベルベット | それがフィーを犠牲にする理由 ?あんたが世界を救うためには何を犠牲にしてもいいってわけ ! ? |
| アルトリウス | 個よりも全。何度も繰り返した言葉だがお前にはわからんようだな。 |
| ベルベット | わかってたまるかああああっ ! |
| ベルベット | っ ! ! |
| アルトリウス | ……やはり、怒りに身を任せる姿は愚かだな。自分の痛みばかりに目をむけ世界の痛みを知ろうとしない。 |
| ベルベット | ……そうね。それがあんたの言う、個よりも全。 だけどあたしは、この世界で別の答えをもらったわ。 |
| ベルベット | 全ての個をとって、いずれ全にするってね ! |
| アルトリウス | 大した夢想家がいたものだ。 |
| ベルベット | どっちが―― |
| ライフィセット | ううっ ! |
| ベルベット | フィー ! ? |
| ベルベット | あ……。 |
| アルトリウス | 戦訓その二だ。やはりお前は感情的すぎる。 |
| ベルベット | アルト……リウス……。 |
| アルトリウス | ……ベルベットよ、なぜ鳥は、空を飛ぶのだと思う ? |
| ベルベット | と……り…………は…………。……………………。 |
| ライフィセット | あ……、ベルベット…… ? ベルベットーーーーッ ! |
| Character | 11話【13-13 ミッドガンド領 聖主の御座10】 |
| ライフィセット | ベルベット……死なないで…… ! |
| アルトリウス | ……カノヌシの影響が薄れているな。まさか、また……。 |
| ヘルダルフ | ここにおったか、アルトリウス。 |
| スレイ | あの人が導師アルトリウス……。 |
| ロゼ | ねえ、あれライフィセットだよ !捕まってるってこと ? |
| アリーシャ | 倒れてるのは……ベルベットだ ! 早く助けないと ! |
| ヘルダルフ | 待て。 |
| ヘルダルフ | ――サイモン、その男を解放しろ。再び神依とやらを行うぞ。 |
| サイモン | 御意。 |
| エドナ | ちょっと、何してるの、ひげネコ ! |
| ファントム | そんなことをしたら、またカノヌシに―― |
| ヘルダルフ | アルトリウスゥッ ! ! |
| アルトリウス | お前はっ ! ? |
| アルトリウス | ……くっ………。 |
| ヘルダルフ | フハハハハハッ !ようやく見ることができたわ。貴様が膝をつく姿をな ! |
| デゼル | あいつ、正気を保ってやがる ! |
| ザビーダ | ジークフリートの効果が効いてんのかもな。穢れと結びつきが弱くなった分、制御しやすいのかね。 |
| ミクリオ | ああ。それに、本人たちの意思も関係しているかもしれない。 |
| ライフィセット | カノヌシ……お前に……僕は渡さないっ…… ! |
| ライフィセット | 僕は……、僕だーーーーっ ! ! |
| ライフィセット | っ、はぁ……はぁ……解けた……。今の光、浄玻璃鏡…… ? |
| ライフィセット | ――そうだ、ベルベット ! |
| ライフィセット | ベルベット、すぐに治すから ! しっかりして ! |
| ライラ | ライフィセットさん、私もお手伝いしますわ。頑張ってください……ベルベットさん ! |
| アルトリウス | ………………。 |
| ヘルダルフ | どうした、さすがの導師も不意打ちには泡を食ったか ! |
| アルトリウス | …………そうか。お前が逃げ出したからカノヌシの分離が中断されたのか。 |
| アルトリウス | まあいい。仕切り直しだ。餌となるお前を捕らえるところから始めるとしよう。ヘルダルフ。 |
| ヘルダルフ | くくく、餌か。――導師スレイよ ! |
| スレイ | えっ ! ? |
| ヘルダルフ | 貴様が、ワシを呪ったあの男と違うと言うならば見事ワシを浄化して見せよ ! |
| アルトリウス | 何のつもりだ。 |
| スレイ | ――わかってる ! 行くぞ、ヘルダルフ ! |
| アルトリウス | 馬鹿なことを。やれるものならやってみろ。魔導器の力で増え続ける穢れを浄化などできはしない。 |
| スレイ | ………くっ ! |
| ロゼ | ああっ、まずいよあれ。浄化した端からまた穢れが増えてる ! |
| ファントム | ……一時的に穢れを虚無へ流し込みます。 |
| アリーシャ | それはどういうことだ ? |
| ファントム | 私が何度もヘルダルフを虚無に封じると言ったことをお忘れですか ? |
| ファントム | 今、虚無はゲフィオンの人体万華鏡と彼女の心を守るカーリャの防御壁で守られている。 |
| ロゼ | カーリャ……ネヴァンのことか。 |
| ファントム | ですがカーリャの想像の力は創造のバロールには触れられなくても融合の私なら穴をあけられるんですよ。 |
| ファントム | 魔導器が増やす穢れを虚無に流せれば少しは浄化の助けになるでしょう。ただし、長くはできません。せいぜい10秒ほどです。 |
| スレイ | ファントム ! ? |
| ファントム | ……あなたは理解できない。だが、永遠の地獄に誰かを追いやりたくないという気持ちは、私にもわかるのですよ。悔しいですがね。 |
| ファントム | そのまま浄化を続けて下さい。やれますね、スレイ。 |
| スレイ | ああ、ありがとう、ファントム ! |
| アルトリウス | …………。 |
| ザビーダ | おっと、妙な気はおこすなよ、導師殿。俺たちの得物は、みーんなあんたを狙ってるぜ。 |
| アルトリウス | 邪魔はしない。お前たちの行為は、所詮絶望の再確認だからな。 |
| ヘルダルフ | ぐっ……、導師……スレイ…… ! |
| スレイ | わかってる。必ずお前の穢れを浄化する。 |
| スレイ | 戻ろう。人間、ゲオルク・ヘルダルフに―― |
| アルトリウス | まさか…… ! |
| ロゼ | ねえ、これってさ……これって…… ! |
| ミクリオ | ああ。やったな、スレイ。浄化成功だ。 |
| ベルベット | あ……。 |
| シアリーズ | 目が覚めましたね、ベルベット。 |
| ベルベット | シアリーズ…… ! ?なんであんたがここに ? |
| シアリーズ | いてはいけませんか ? |
| ベルベット | だって、あんたはもうあたしの中にはいないはずだもの。 |
| シアリーズ | そうですね。ですから今の私はあなたが見ている幻影のようなものです。 |
| ベルベット | そっか。本当のあんたじゃないのね。でもまた会えて良かった。それに……謝らなきゃいけないことがあったから。 |
| シアリーズ | なんでしょう。 |
| ベルベット | アルトリウスを止めるっていう約束、果たせなかった。ごめんなさい。 |
| シアリーズ | いいえ、終わってはいない。あなたには、まだ待っている人たちがいるでしょう ? |
| ベルベット | どこに ? |
| シアリーズ | ほら、あの小さな光。 |
| ベルベット | あっ……。 |
| ? ? ? | ベルベット……。 ベルベット ! |
| ベルベット | ……本当だ。あたし、まだたくさんやり残してる。 |
| ベルベット | 行ってくるね。約束、ちゃんと守るから。 |
| シアリーズ | ええ。いってらっしゃい、ベルベット。 |
| Character | 12話【13-14 ミッドガンド領 聖主の御座11】 |
| ベルベット | …………。 |
| ライフィセット | ベルベット…… ? |
| ベルベット | フィー……。 |
| ライフィセット | ベルベット、良かった ! 気が付いた ! |
| ベルベット | ありがとう……、フィー。 |
| ライフィセット | ううん、ベルベットの傷を治したのは僕だけじゃない。ライラも一緒だったんだ。 |
| ベルベット | そういう意味だけじゃないんだけど……。 |
| ライラ | 傷はふさがっていますが、立てますか ? |
| ベルベット | ええ。ライラもありがとう。もう大丈夫。 |
| ベルベット | フィー、あんたは平気なの ? |
| ライフィセット | うん。スレイたちが来てくれたおかげで拘束術が解けたんだ。 |
| ベルベット | えっ、今のなに ? |
| ライラ | すごい……スレイさんついに、かの者の浄化を果たしましたわ ! |
| ベルベット | やったのね、あいつ……。あれが本物の導師、か。 |
| ライラ | ええ、そのとおりですわ ! |
| スレイ | やったよ、ヘルダルフ ! 浄化成功だ ! |
| ヘルダルフ | ワシは……、戻れたのか……。 |
| アルトリウス | こんなことが……。 |
| ヘルダルフ | ふっ……、ふははははっ !ざまを見ろ、導師アルトリウス ! 餌はもうない !貴様の計画もこれまでよ ! |
| ヘルダルフ | はははははっ……はっ…………ごふっ……。 |
| スレイ | ヘルダルフ ! |
| アルトリウス | 私に一矢報いるために、己が命と交換か。高くついたな。 |
| ヘルダルフ | ふっ、こうなることは全てわかっていた。 |
| アルトリウス | 呪いによって弱った心核に、魔導器による穢れの増幅。精霊輪具を使った神依と、カノヌシへの力の譲渡。 |
| アルトリウス | これほどまでに積み重ねられた負荷は憑魔であったからこそ耐えられたのだ。 |
| アルトリウス | それが浄化によって人の身へと返れば当然のごとく死を迎える。それが理だ。 |
| スレイ | ………………。 |
| アルトリウス | 憑魔にその手でとどめを刺した、それだけのことだ。我が同胞、導師スレイよ。 |
| ベルベット | 違うわ ! |
| スレイ | ベルベット……。 |
| ベルベット | そいつは、あんたとは違う。一緒にしないで。 |
| アルトリウス | ……死に損なったか。 |
| エレノア | ベルベット、ライフィセット !無事でしたか。 |
| マギルゥ | なんじゃ、勢ぞろいではないか。まあ、主役は後から以下略 ! |
| ライフィセット | みんな ! |
| アルトリウス | もう片付けてきたのか。 |
| ロクロウ | ああ、あのドラゴンゾンビか ?少々食い足りなかったな。次はもう少し骨太なのを頼む。 |
| アイゼン | ベルベット、ここで片をつけるぞ。 |
| ベルベット | ええ。今度こそ決着をつける。 |
| アルトリウス | 私を殺すか。だがお前たちもすぐにスレイと同じ絶望を味わうだろう。 |
| ヘルダルフ | ふ……ふはははは…… !貴様には……わからないだろうよ……。この導師が、貴様とは違うということを……。 |
| ヘルダルフ | そうだろう、導師スレイ。お前はこうなることを知っていた。これが……ワシの望み。ワシの選んだ『救い』よ。 |
| ファントム | あなたは……まさか……。 |
| ロゼ | スレイ……。 |
| スレイ | ――ヘルダルフ、それでもオレはこの世界を生きて欲しかったよ。 |
| ヘルダルフ | ……行け、スレイ。 |
| スレイ | ああ。 |
| スレイ | オレは絶望なんてしていない。戦うよ、ベルベット ! |
| ベルベット | 好きにしなさい。 |
| スレイ | ああ、好きにする ! |
| エドナ | そうね。他人に左右なんてされないわ。自分の舵は、自分で取るんだから。 |
| アイゼン | フッ……。そういうことだ ! |
| アルトリウス | どこまでいっても理を壊すか。 |
| アルトリウス | わかっているのか、ベルベット。不十分とはいえ、カノヌシの力はまだ繋がっている。何度やっても先ほどの二の舞だぞ。 |
| ライフィセット | 今度はさせないよ。ベルベットを傷つける奴は絶対に許さない。 |
| アルトリウス | やめておけ。お前には器としての価値がある。 |
| ベルベット | ……アーサー義兄さん。『なぜ鳥は空を飛ぶのか』答えがわかったわ。 |
| アルトリウス | ……。 |
| ベルベット | 鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。理由なんてなくても。翼が折れて死ぬかもしれなくても。 |
| ベルベット | 他人のためなんかじゃない。誰かに命令されたからでもない。 |
| ベルベット | 鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ ! |
| アルトリウス | 異世界に来てまで得た答えがそれか ? |
| ベルベット | どこにいたって、きっと答えは同じ。 |
| ベルベット | そう、それが『あたし』よ ! |
| アルトリウス | その愚かさが業魔を生むのだ。悲劇は遥か後世まで続きやがて『憑魔』と呼ばれるようになる。 |
| スレイ | ………………。 |
| アルトリウス | 導師スレイ。貴様の隣に立つ者たちは世界に悲劇をもたらす元凶だ。お前もその一端を担う気か。 |
| スレイ | あなたが実現しようとするものもオレには悲劇のように思える。 |
| スレイ | 人が生きる限り悲劇は生まれるのかも知れない。変えようのない現実があるのかも知れない。それでもオレは、現実に正面から立ち向かう。 |
| スレイ | 人の心が生むのは穢れだけじゃないと思うから。 |
| ベルベット | アルトリウス、あんたはあたしたちを止められない。 |
| アルトリウス | お前たちも私を止められん。 |
| アルトリウス | ベルベット。今度は確実にとどめをさす。 |
| ベルベット | 上等よ。殺すなら、しっかり殺せ ! |
| ベルベット | さもないと……あたしが、あんたを喰らう ! ! |
| Character | 13話【13-15 ミッドガンド領 聖主の御座12】 |
| アルトリウス | 成長したな。だが ! |
| アルトリウス | 私は、世界の痛みを止めねばならんのだ ! ! |
| ベルベット | あたしは、あんたを殺す ! 殺して、止める !――約束だからっ ! ! |
| ライフィセット | 浄玻璃鏡が ! |
| ベルベット | うおおおおおおっ ! ! |
| アルトリウス | っ ! |
| アルトリウス | がはっっ ! ! |
| ロクロウ | 入った。 |
| エレノア | 油断は禁物です。 |
| マギルゥ | いや、あれで決まりじゃ。カノヌシは力の供給を絶たれておるでの。……回復も間に合わん。 |
| ベルベット | …………。 |
| アルトリウス | オーバーレイ、か……。異世界の力に……負けた、な。 |
| ベルベット | ……ええ。ついでに聞かせて。 |
| ベルベット | この世界では具現化という力があるわ。それでセリカ姉さんを生み出そうとは思わなかったの ? |
| アルトリウス | ……たとえ、セリカを具現化しても俺が失った時間は戻らない。何より……。 |
| アルトリウス | あのセリカが、そんなことを……望むと思うか ? |
| ベルベット | ……そうね。 |
| アルトリウス | ベルベット、俺は、ずっと思っていたよ。死んだのがセリカたちではなく……。 |
| アルトリウス | 『お前たちだったらよかったのに』……と……。 |
| ベルベット | …………。 |
| アルトリウス | この世界に来て、思いはもっと、強くなった……。 |
| アルトリウス | お前たちが死んでいたなら迷わず……具現化して……幸せな生活を……。 |
| ベルベット | ええ……そうだったら良かったのに。 |
| アルトリウス | ……ベル、ベット……。 |
| ベルベット | なに ? |
| アルトリウス | 元の世界……俺は……世界を……救えただろ……か……。 |
| ベルベット | いいえ。あたしたちが止めたはずよ。何度倒れて、挫けようとあたしは立ち上がる。 |
| ベルベット | あきらめるなって、教えてくれたじゃない。……あの開門の日に。 |
| アルトリウス | ……………………。 |
| ベルベット | ……もう、聞こえないのね。さよなら……アーサー義兄さん。 |
| ヘルダルフ | ……はっ、あの男は、先に逝ったか。これで、心残りも……なくなったわ……。 |
| スレイ | ヘルダルフ……。 |
| ヘルダルフ | サイモン……どこだ……。 |
| サイモン | 我が主……お側におります……。 |
| ヘルダルフ | お前は、どこへなりと失せよ……。 |
| サイモン | っ ! |
| ヘルダルフ | もう、ワシに縛られるな。ワシはお前の主であった『ヘルダルフ』ではない……。 |
| サイモン | いいえ ! 私には尊き方に違いありません。僅かばかりのお仕えでしたが御身はすでに我が主なのです ! |
| サイモン | どうか、お側に置いてください…… ! |
| ヘルダルフ | ならば申し付ける。ワシの代わりにお前が導師たちの行く末を見届けるのだ。 |
| スレイ | ! ! |
| ヘルダルフ | 己が志を貫くもよし、闇に堕ちるもまたよし……。面白い、見世物と……なる……。……いや、堕ちぬか……。この導師は……。 |
| サイモン | ああ、主 ! ! お待ちください !私を置いていかないで ! |
| ヘルダルフ | ワシを、楽しませよ……、導師スレイ……。…………。 |
| サイモン | 主……。 |
| スレイ | ヘルダルフ……。 |
| サイモン | ――主に触れるな。 |
| スレイ | サイモン……。 |
| サイモン | ……主の望みを叶えてくれたことには感謝する。だが、主の最期の言葉を叶えるには……まだ……。 |
| アリーシャ | 消えた ! ? |
| エドナ | お得意の幻術でしょうね。 |
| ライラ | サイモンさん、かの者の遺体をどこに……。 |
| ロゼ | 救世軍へ戻っていればいいんだけどそういう感じでもなさそうだよね。 |
| スレイ | …………。 |
| ミクリオ | 大丈夫か、スレイ。 |
| スレイ | え……ああ。 |
| ザビーダ | おいおい、胸を張れよ、導師殿。お前はあのヘルダルフを浄化したんだぜ ? |
| スレイ | 確かに浄化はできた。けど、オレ……ヘルダルフを救えたのかな。 |
| ライラ | かの者にとって何が救いかは誰にもわかりません。本人にすらそれが本当に救いであったのかわからないこともあります。 |
| ライラ | ですが、かの者は自ら浄化を望み、受け入れました。それだけは事実ですわ。 |
| スレイ | ……オレ、へルダルフとファントムの話を聞いて何となくわかった気がするんだ。オレに欠けていたもの……。オレに必要なもの……。 |
| ロゼ | それって―― |
| スレイ | ……覚悟、かな。 |
| ザビーダ | そう、か。 |
| エドナ | ………………。 |
| スレイ | 誰かや何かを救いたいと思うなら、救う対象を選別することはできない。あれは救うけどこれは救わないなんて誰にも決められない。 |
| スレイ | だからヘルダルフも救いたかった。だけど、本気でそれを貫くためには、オレ自身が理想を貫いた先の結果に目を背けない覚悟を持たなきゃいけないんだ。きっと。 |
| テレサ | あなたたち…… ! |
| エレノア | テレサ ! ? |
| ベルベット | …… !本当に、あんたなのね。 |
| テレサ | アルトリウス様はどうしたのです ! |
| ベルベット | そこよ。あたしが殺した。 |
| テレサ | ――ああ……恐れていたことが…… ! |
| テレサ | 業魔ベルベット !よくもアルトリウス様をっ ! |
| ベルベット | いいわよ。恨みなら全部買うわ。――さあ、来なさい。 |
| テレサ | …………っ。いいえ、今の私では、あなたたちには到底敵わない。 |
| ベルベット | そう、なら手間が省けたわ。 |
| テレサ | けれど、アルトリウス様のご意志はこのテレサが受け継ぎます。 |
| テレサ | ベルベット、あなたは私の仇。必ずうち果たしてみせます ! |
| ベルベット | 仇、か。また言われちゃったわね。 |
| ライフィセット | ベルベット……。 |
| ベルベット | 大丈夫。もう聞きなれてる。 |
| ベルベット | あんたたちも、用は済んだんでしょ。 |
| スレイ | ああ。終わったよ……。 |
| ベルベット | だったらもう帰るわよ。 |
| ベルベット | あたしたちは、こんなところで立ち止まっていられないんだから。 |
| | to be continued |