| Character | 1話【14-1 アセリア領 領都】 |
| | アセリア領・領都アルヴァニスタ郊外 |
| 帝国兵 | お待ちしておりました。グラスティン様。 |
| グラスティン | アルヴァニスタの様子はどうだ ? |
| 帝国兵 | 反乱兵はどんどん数を増やしており勢いは収まる気配がありません。 |
| グラスティン | 従騎士のモリスンが心核を取り戻して反乱の先頭に立っているという話だったな。 |
| 帝国兵 | はい。今、帝国側で動いているのはリビングドールβ兵のみです。 |
| 帝国兵 | γ兵たちは元々がレプリカで、最低限の刷り込みしか与えておりませんでしたので、機能不全に陥ったところを反乱兵たちが戦力として囲い込み―― |
| グラスティン | ――待て。リビングドールγは確かに暗示が解けやすいが、そんなに簡単に大勢の兵の暗示を解くことはできない筈だ。 |
| グラスティン | 誰かが意図的にやったんだろう。 |
| 帝国兵 | モリスンではないのですか ? |
| グラスティン | そいつは俺が聞きたいなあ。その為にお前が情報収集役を任されたんだろう ? |
| 帝国兵 | し、失礼しました ! |
| 帝国兵 | グラスティン様の求める情報かはわかりませんが妙な男が反乱兵たちと接触していたという情報を掴んでおります。 |
| グラスティン | 言い訳はいらない。詳細を話せ。 |
| 帝国兵 | はっ ! 身長はおよそ2メートル。魔鏡技師風の出で立ちでジェイソンと名乗っていたようです。 |
| グラスティン | ……ヒ……ヒヒヒ……――やっぱりそうか。隠すつもりはないってことだな、あのエセ野郎め ! |
| 帝国兵 | では、やはりお捜しの男でしょうか。本名を名乗るような浅はかな真似をするか疑問だったのですが……。 |
| グラスティン | いや、奴は見つけて欲しいんだよ。だから帝国に嫌がらせをしてるって訳だ。 |
| グラスティン | ヒヒヒ、嬉しいよ。奴をこの手で捌く機会が訪れるとはなあ。まあ……どうせ二人目だろうが。 |
| グラスティン | よし。今すぐ、デミトリアス陛下に連絡を取れ。 |
| デミトリアス | ――それは本当なのか、グラスティン。 |
| グラスティン | ああ。アセリア領の反乱にはジェイソン・フリーセル様が一枚噛んでいるようだぞ。 |
| グラスティン | ヒヒヒ、アルトリウスたちが新大陸に兵を集めたせいで各領地に隙ができたところを狙って来るとはさすがビフレストのスパイは鼻が利くよなあ ? |
| デミトリアス | ……やはり、あちこちで情報が上がっていた通りフリーセルが動いていたのか。 |
| デミトリアス | しかし、フリーセルはファントムが殺した筈だ。そうなると……。 |
| グラスティン | ああ。具現化だろうな。問題は誰が何のためにそれをやったのか、だ。今更、奴を具現化することに何の意味がある ? |
| グラスティン | ビフレストの連中か ? それともフィルか ?ミリーナたちは二人目と三人目だ。フリーセルのことは知らないだろう。 |
| デミトリアス | ……ジュニアではないのか ? |
| グラスティン | 小さいフィリップ ? どうしてジュニアが……―― |
| グラスティン | ……まさか……サレの奴か…… !あいつ……どこまで俺の足を引っ張るつもりだ…… !死んでからも亡霊のように、俺の計画を邪魔してくる。 |
| デミトリアス | グラスティン、他の領都でも反乱が起きている。これを収めなくては。 |
| グラスティン | ……知ったことか。 |
| デミトリアス | グラスティン ! ? |
| グラスティン | はき違えるなよ、デミトリアス。 |
| グラスティン | お前がやろうとしているのはこの世界を正しく治めることじゃない。ニーベルング復活まで持たせることだ。 |
| グラスティン | どうせもうすぐこの世界は終わる。お前がやりたい『正しい治世』とやらはニーベルングへ移住した後にするんだな。 |
| デミトリアス | しかし、このままでは……。 |
| グラスティン | 帝都のあるイ・ラプセル島だけ確保出来ていればいい。無駄なことは考えるな。 |
| デミトリアス | だが――ぐぅ……。 |
| グラスティン | ……アニマ汚染か。クロノスで時間を巻き戻しても体は恒常性を保とうとするようだな。 |
| デミトリアス | これでは……結局私は昔と何も変わらない。 |
| グラスティン | ヒヒ、お前は何も変わらないよ。変わらなくていいんだ。その方が面白いからなあ。 |
| グラスティン | まあ、大人しく鏡精を喰らうかクロノスを再利用しろ。俺はフリーセルの足取りを追う。 |
| デミトリアス | ……ぐぅぅ……。はあ、はあ……。薬を―― |
| デミトリアス | 鏡精を喰らう、か……。私は……いつもこうだ。私は……私は……―― |
| Character | 2話【14-1 アセリア領 領都】 |
| デミトリアス | …………はあ……はあ……。 |
| フィリップ | あ……あの、大丈夫…… ? |
| デミトリアス | だ、誰だ ! ? |
| フィリップ | え……あ、ご、ごめんなさい……。苦しそうにしてたから……。あの……、誰か人を呼んでこようか ? |
| デミトリアス | や、やめろ ! |
| フィリップ | ! ? |
| デミトリアス | ――すまない。いつもの……発作だ。それより……このことは誰にも言うな。誰にもだ。 |
| フィリップ | は、はい……。 |
| デミトリアス | きみは……見かけない顔……だな。 |
| フィリップ | あの……僕、オーデンセから出てきたばかりで……。 |
| デミトリアス | オーデンセ……。鏡士の島……。そうか……。だからきみは私のことを知らないんだな。 |
| デミトリアス | きみの名前は ? |
| フィリップ | フィリップ・レストン。あの、きみは……。 |
| デミトリアス | 私はデミトリアス・ダナン・アースガルズだ。 |
| フィリップ | デミトリアス……様…… ! ? |
| デミトリアス | (フィリップ……。私と同じ病を抱えて生まれた鏡士。きみの意見を聞いていたら何か変わっていたのだろうか……) |
| フィリップ | デミトリアス殿下。起きていて大丈夫なんですか ?倒れたと聞いていましたけれど……。 |
| デミトリアス | ……ああ。心配を掛けてすまない。単なる過労だ。 |
| フィリップ | ……それは、嘘ですね。アニマ汚染が始まっているのでは ? |
| デミトリアス | ………………。 |
| フィリップ | どうしてそこまで無茶をするんですか。あなたはセールンドの王子なんですよ。まして、僕と同じ先天性アニマ欠乏症なら、余計に―― |
| デミトリアス | そのことは口にするなと言った筈だ。初めて出会ったときに。 |
| フィリップ | それは……。 |
| デミトリアス | 誰に聞かれているかわからない。そのことを知っているのは父ときみ、それから……―― |
| グラスティン | デミトリアス。そこまでだ。さっきフリーセルが王宮に入った。下手なことを話せば、ビフレストに筒抜けだあ……。 |
| デミトリアス | ……グラスティン。ジェイソンも我々の仲間だ。それに彼は私が呼んだんだ。 |
| グラスティン | ヒ……ヒヒ……。お優しい殿下は、あのエセ野郎を切れないって訳か。 |
| フィリップ | グラスティン、そういう言い方は止めた方がいい。 |
| グラスティン | フィ……フィル……。そんな目で俺を見ないでくれ……。俺たちは……ここにいる三人は……同類だろ…… ? |
| デミトリアス | どういう意味だ。 |
| グラスティン | ヒヒ……ヒヒヒ……。だってそうだろ。みんな……誰かの魂を喰らった仲間じゃないか……。 |
| デミトリアス | フィルは違う。それに私も――そうと知っていた訳ではない。知っていればあんな薬……。 |
| グラスティン | だからその罪滅ぼしって訳か ?今度のエネルギー政策は。 |
| デミトリアス | ……そうだ。キラル分子を20%減産する。そうすれば……鏡士たちの負担も減る。 |
| デミトリアス | 生活に不便な点も出てくるだろうがどこかで今のキラル分子生産体制を止めなければ状況は好転しない。 |
| フィリップ | それはその通りでしょう。けれど、王宮の中でも反対論が根強いと聞いています。イジアス陛下もあまり乗り気ではないとか……。 |
| デミトリアス | 父上は鏡士を道具としか思っていない。父上を諫めるのも私の役目だ。ジェイソンもそう言ってくれている。 |
| グラスティン | ジェイソン・フリーセル、か。デミトリアス……お前は奴に騙されているんだ。 |
| フィリップ | ………………。 |
| デミトリアス | フィル、きみもグラスティンと同じ考えなのか ? |
| フィリップ | フリーセルの言っていることは正しい、とは思います。このままではセールンドのエネルギーシステムは破綻するでしょう。 |
| フィリップ | ただ、彼が反戦論者である以上、今の僕はフリーセルとは相容れない。僕は……ミリーナと共にイクスの仇を取ると決めていますから。 |
| デミトリアス | 私だって、ビフレストの侵略を黙って見過ごすつもりはない。 |
| デミトリアス | だが、間違った政策は正さねばならないし例え思想に違いがあっても良い意見は吸い上げるべきだろう ? |
| グラスティン | それがビフレストのスパイの言葉でも……か ? |
| フリーセル | どうしたどうした ? 三人ともしけた顔して。 |
| フィリップ | フリーセル……。いや、なんでもないんだ。 |
| フリーセル | そうか ? まあ、フィルがそう言うならそういうことにしておくが……。 |
| フリーセル | それより、デミトリアス。病み上がりなのに大丈夫なのか ?国立養育院の件で俺に聞きたいことがあるって話だが。 |
| デミトリアス | ああ。ジェイソンの提案通り、我が国に留まっているビフレストの生活困窮者も国立養育院に収容しようと思ってね。 |
| 二人 | ! ? |
| グラスティン | 正気か ! ? |
| フリーセル | 何か問題でもあるのか ? |
| グラスティン | 敵国の人間を救うってのか ?ドンパチやってるさなかに ? |
| デミトリアス | 人道的には敵も味方もないだろう。 |
| フィリップ | それは……そうだとは思います。でも、今、それを国立の施設でやるのは……。 |
| デミトリアス | 民間の施設がビフレストの人間に手を差し伸べると思うか ? |
| フィリップ | けれど、時期が悪すぎます。ついこの間もハンザ半島をビフレストの魔鏡兵士が襲撃して多数の死者が出たばかりだ。 |
| フィリップ | その上キラル分子の減産を強行すれば国民の大多数が殿下をビフレストに利する裏切り者と見なす恐れがあります。もっと段階を踏むべきだ。 |
| フリーセル | フィル。お前のその弱腰はいたずらに鏡精の犠牲を増やすだけだ。 |
| グラスティン | お前如きがフィルに意見するな。お前こそ、そのやり口はセールンドの国内に不和をまき散らすだけだ。 |
| フリーセル | 俺はそんなことをするつもりはない。そもそも戦争が止まればそいつが一番なんだ。 |
| グラスティン | 攻めてきてるのは、ビフレストの方なんだがなあ…… ? |
| デミトリアス | みんなやめてくれ。父上も私も、ビフレストに対して折れるつもりはない。だが、弱っている民に手を差し伸べることも間違っているとは思わない。 |
| デミトリアス | それが敵国の人間であっても、だ。 |
| グラスティン | ヒ……ヒヒ……デミトリアス。お前のその考えは、いずれお前を殺しにくるぞ ?正しさは必ずしも救いにはならないんだからなあ ? |
| 帝国兵 | ――陛下 ! ? どうなさいましたか ! ? |
| デミトリアス | ……大事……ない。いつもの発作だ。今、薬を飲んだ……。 |
| デミトリアス | (私が選んだのは、フリーセルの手だった) |
| デミトリアス | (あの後、私はキメラ結合の研究中に事故に巻き込まれアニマ汚染が一気に進行した。グラスティンがかばってくれなければ、命すら危うかっただろう) |
| デミトリアス | (だが、あの事故は――仕組まれたものだった……) |
| Character | 3話【14-2 雪原1】 |
| リグレット | ……ここが新しく具現化された大陸、か。 |
| リグレット | 私も具現化された身だ。元の世界では具現化に似た力を利用していた立場でもあるから技術を疑っていたわけではないが―― |
| バルド | 機械の力に頼っているとはいえ、一人の人間が生み出したものだと考えると、鏡士という存在の持つ強大な力を思い知らされますね。 |
| コーキス | これ、メルクリアが造ったんだよな。造らされた、だけど。 |
| リグレット | ああ。これだけの仕事をさせられたのだ。かなり弱っているように見えたが皇女殿下は大丈夫なのか ? |
| バルド | ……弱っておられるのは、リビングドール状態で具現化を行ったためでしょう。心を操られた状態では魔鏡術の力も弱まってしまうそうなので。 |
| バルド | メルクリア様の本来のお力ならこの新大陸ももっと広大なものを造れた筈ですよ。 |
| リグレット | ……確かに島よりは大きいが、他の大陸に比べると面積は小さいようだな。となると帝国の手に落ちるのも時間の問題か。 |
| リグレット | 具現化されたばかりだというのに抵抗勢力がしっかりと力を持っているようなのは驚いたが。 |
| バルド | その点は、私も気になっています。 |
| バルド | 帝国が具現化したのですから、帝国への帰属意識を植え付けられていてもおかしくない筈ですがそうはなっていない。 |
| バルド | とするとこの大陸は一体何のために具現化されたのか。 |
| コーキス | マスターたちは、異世界のアニマを補充するために具現化をしてただろ。帝国もそうなんじゃないのか ? |
| バルド | いや、コーキス。よく考えてごらん。帝国はニーベルングを甦らせようとしている。この世界を維持する必要はない筈だよ。 |
| コーキス | あ……そうか……。壊しちゃうつもりなんだもんな。 |
| コーキス | ディスト様なら何かわかるのかな。 |
| バルド | そうだね。博士からなら何かしら有益な意見をいただけるかも知れない。 |
| バルド | ………………。 |
| リグレット | ………………。 |
| リグレット | ……その点に異論はないが、あまり頼りすぎるなよ。ディストは敵対すると厄介だが味方にするともっと厄介な存在だ。 |
| リグレット | それより―― |
| バルド | ――ええ。 |
| バルド | そこに隠れている者。出てきなさい。 |
| コーキス | え ! ? え ! ? |
| ? ? ? | …………生きて……おられたのですか…… ? |
| バルド | その声は……フリーセル……。ジェイソン・フリーセルか ! ? |
| フリーセル | ――ご無沙汰しております。バルド様。 |
| コーキス | え ! ? こいつがジュニアが具現化させられたっていう……。 |
| フリーセル | 何故それを知っている ! ? |
| コーキス | 何故って―― |
| バルド | いや、コーキス。私から説明するよ。 |
| バルド | ジュニアのことは知っているんだな。今、私とウォーデン殿下はそのジュニアと共に行動しているんだ。 |
| フリーセル | ウォーデン殿下がリビングドールで甦ったことは私も存じております。しかしバルド様までとは……。 |
| バルド | ここできみに会えるとは思わなかった。きみは何故ここにいる ?そして何をしようとしているんだい ? |
| バルド | そもそもきみは何をどこまで知っているのかそれを教えてくれないだろうか。 |
| フリーセル | 私が知っているのは、セールンドの鬼畜共が再び世界を滅ぼそうとしていることだけです。 |
| フリーセル | 全ては私が……最初の私がデミトリアスと奴の取り巻きを処理しきれなかった手落ち。申し訳ございません。 |
| バルド | 処理、とはどういうことだ ?それが暗殺を指しているなら、少なくとも私はきみにそんなことを命じた覚えはない。 |
| フリーセル | ウォーデン様が薨御なされた後皇后陛下より勅命を賜りました。 |
| バルド | 皇后陛下が……。あの方なら、確かに……。 |
| リグレット | バルド。場所を移してはどうだ。こんな雪原では、いつ敵対勢力に発見されるかわからない。 |
| バルド | 確かにそうですね。 |
| バルド | フリーセル。我々と共に来てくれないか。ウォーデン様にもご挨拶するといい。それに聞きたいことが山のようにある。 |
| フリーセル | ……ありがたきお言葉。ですが、私はウォーデン様の下に参じることはできません。 |
| バルド | 何故だ。 |
| フリーセル | 私は……過去の亡霊です。ですが、やり残した仕事を片付ける機会を得たとも思っています。 |
| フリーセル | この命は皇后様のために捧げるつもりです。 |
| コーキス | それってデミトリアスを殺すってことか ? |
| リグレット | いや、その取り巻きとも言っていたな。デミトリアス、グラスティンの両名だけならナーザ――ウォーデンらにも有益だろうが……。 |
| バルド | ……ええ。皇后様のご命令であれば当代ビクエやマークやゲフィオン、それにゲフィオンのカーリャも、ということになりますね。 |
| バルド | 二人目三人目まで標的にするつもりかはわかりませんが。 |
| コーキス | ミリーナ様も狙われるってことかよ ! ? |
| バルド | 考え直してはくれないか、フリーセル。今の状況でビクエたちに手を掛けられるのはウォーデン殿下にとっても不都合だ。 |
| フリーセル | それはできません。私を具現化させたサレへの恩義もある。 |
| フリーセル | どうしようもなく救いがたい男ではありましたが私が行っていることの醜悪さが奴への手向けとなるでしょう。 |
| バルド | 醜悪とわかっているなら、何故止めようとしないんだ。 |
| フリーセル | 私はビフレストのスパイでしたが同時にデミトリアスらの学友でもありました。止めるべきだった。デミトリアスが毒に染まる前に。 |
| フリーセル | ですから、私は私のやり方で落とし前をつけるつもりです。 |
| バルド | フリーセル ! |
| フリーセル | ビフレスト皇国とウォーデン殿下に栄光あれ。 |
| フリーセル | ――失礼します。 |
| コーキス | なあ、行かせていいのか ? |
| リグレット | まずいだろうな。 |
| リグレット | 仕方がない、こちらで監視をする。 |
| コーキス | え ! ? どうやって ! ? |
| リグレット | 当面はアリエッタの魔物に協力してもらうほかはないだろうな。 |
| リグレット | それに私やコーキスは面が割れてしまったが誰かをフリーセルのところに送り込みたい。 |
| バルド | ……となると、救世軍やイクスたちに協力を頼む必要がありそうですね。 |
| リグレット | そうなるな。まさか、閣下やディストを送り込むわけにもいかない。 |
| コーキス | ヴァン様やディスト様が近づいてきたらフリーセルにめちゃくちゃ疑われるもんな。 |
| バルド | ……どうでしょう。ディスト博士はともかくヴァンは……案外上手く懐に潜り込みそうな気もしますが。 |
| リグレット | 閣下にそのようなことはさせられない。 |
| バルド | もちろんです。あの方の中には精霊ローレライが存在している。 |
| バルド | それに……ナーザ様からもヴァンから目を離すなと言われております。 |
| リグレット | フ……。それは賢明なことだ。 |
| Character | 4話【14-4 アジト1】 |
| スパーダ | ――でよ、原因はまだよくわかんねえけどレグヌム領は、新大陸への侵攻だけじゃなくて帝国側とも争っているみたいなんだよな。 |
| イクス | そうか。報告ありがとう。もしも大事になりそうだったら応援を送るからすぐに連絡してくれ。 |
| スパーダ | 了解。こっちは、もうちょい調べてみるわ。 |
| イクス | ええと、次は新大陸の調査の進行状況を確認して―― |
| ミリーナ | イクス、カロル調査室からの報告よ。今度はアセリア領で反乱が起きたって。 |
| イクス | アセリア領 ? ってことはクレスたちの世界が元になった大陸か。 |
| ミリーナ | ええ。新大陸具現化のせいで帝国側でも混乱が起きているみたい。その隙をついたようね。 |
| イクス | 領民の反乱かな。それともレジスタンスか。 |
| ミリーナ | いいえ、あちらでも他の領と同じで、一部の兵士たちが帝国に対して反旗を翻したんですって。 |
| イクス | 兵士が ? 領主や従騎士は帝国側 ? それとも……。 |
| ミリーナ | 詳しいことはまだわからないけれど従騎士はすでに心核を取り戻しているそうよ。 |
| イクス | アセリア領の従騎士はモリスンさんって人だったよな。 |
| ミリーナ | ええ。それとカロルたちだけど他にもアセリア領内で確認したいことがあるから詳しい情報がわかり次第、連絡するって言ってたわ。 |
| イクス | 確認 ? 何だろう……。 |
| ミリーナ | 領都周辺の魔物の様子が変だって言っていたからそのことかもしれないわね。 |
| イクス | 心配だな……。とにかくクレスたちに報告しておこう。その後でネヴァンに連絡をとってから、各大陸の―― |
| ミリーナ | イクス、魔鏡通信が来てるわよ。 |
| イクス | おっと、今度は誰からだ ?……あれ、映らない ? |
| ? ? ? | ……クス……リーナ。 |
| ミリーナ | まさか、また通信障害 ? |
| ヨーランド | イクス、ミリーナ。 |
| ミリーナ | ヨーランド様 ! ? |
| ヨーランド | 良かった ! 通じてるわね。今、手が離せなくて魔鏡通信に干渉できるか不安だったのよ。 |
| イクス | 手が離せないって、何があったんですか ? |
| ヨーランド | オリジンの力が暴走を始めたわ。このままでは、ティル・ナ・ノーグの存続にさえ影響を及ぼすことになる。 |
| 二人 | ! ? |
| ヨーランド | 私は今、その暴走を抑えながらオリジンの存在を保つためにほとんどの力を費やしている状態なの。 |
| イクス | どうしてそんなことに…… ! |
| ヨーランド | 原因となる鏡映点がミッドガンド領にいるはず。どうやらアルトリウスという人物らしいわね。 |
| イクス | アルトリウス……ベルベットさんが追ってる相手だ。すぐに連絡しなくちゃ ! |
| ヨーランド | 大丈夫。ケリュケイオンにはすでにファントムが連絡してくれたから。 |
| 二人 | ファントム ! ? |
| ヨーランド | あら、私がこうして魔鏡通信に干渉できるのもファントムがティル・ナ・ノーグに戻っているからなのよ。 |
| Character | 5話【14-5 アジト2】 |
| イクス | ファントムは目が覚めていたんですか ! ? |
| ヨーランド | ええ。まだ回復しきってはいないけれどね。私の手が回らない所は彼にお願いしているの。 |
| ミリーナ | ファントムが協力してくれるなんて……。 |
| ヨーランド | そう驚くことでもないわ。狂化止めで冷静さを取り戻しているし。 |
| ミリーナ | ええ……そうですね。 |
| ヨーランド | ただ、だからこそ心配だともいえるけれど―― |
| イクス | どうしました ? |
| ヨーランド | …………やっぱり変ね。少し前からオリジンの力を強く感じる……。 |
| イクス | まさか、アルトリウスが何かしたんじゃ…… ! |
| ヨーランド | いいえ、違う。これは……。 |
| ミラ=マクスウェル | 済まない、邪魔をするぞ。 |
| ミリーナ | ミラ、どうしたの ? |
| ミラ=マクスウェル | さっきから精霊の気配がおかしい。何というか、妙な感触がするんだ。 |
| ヨーランド | あなたも察知していたのね。異世界のマクスウェル。 |
| ミラ=マクスウェル | 驚いたな。通信相手はヨウ・ビクエか ? |
| ヨーランド | お邪魔しているわ。マクスウェル、あなたが感じ取ったのはきっと私と同じものよ。 |
| ヨーランド | あれはオリジンと、そしてクロノスの力。二人がどこかで邂逅し、接触したんだわ。 |
| ミラ=マクスウェル | なるほど。この気配は彼らだったのか。 |
| イクス | オリジンとクロノスって……、何が起きてるんだ。 |
| フィリップ | イクス、聞こえるかい ?ベルベットたちについて報告がある。 |
| イクス | フィルさん、ええと、今……。 |
| ヨーランド | 丁度いいわ。報告してちょうだい。 |
| フィリップ | ヨーランド ! ?魔鏡通信に干渉しているのか ! ? いや、それよりあなたは手が離せない状況だとリーパが―― |
| ヨーランド | ええ、今もそうよ。こうして話すのも結構ギリギリ。だからイクスにはオリジンのことも大まかにしか話していないの。 |
| ヨーランド | あなたはファントムから説明を受けたでしょ。イクスたちにも聞かせてあげて。 |
| フィリップ | わ……わかりました。 |
| フィリップ | ――イクス、まずベルベットとスレイたちだが先ほどミッドガンド領へ向かったよ。 |
| イクス | ――そうですか。本当にファントムは協力してくれているんですね。 |
| フィリップ | ああ。この状況もあってまともに話すことはできなかったけどね。それに、クラトスさんとエルレインも心配だ。 |
| ミリーナ | 二人が軽くぶつかっただけで倒れたなんて変よね。何かの影響を受けたのかしら。 |
| ミラ=マクスウェル | フィリップが話したとおりなら私が妙な気配を感じ始めたのと同じ頃だな。 |
| ミリーナ | 妙な気配……オリジンとクロノスの接触のことね。 |
| イクス | クロノス……か。確かエルレインさんは【クロノスの檻】に閉じ込められたことがあるよな。 |
| ヨーランド | ……なるほど、そういうことか。彼女はクロノスと会っているのね。もしかしてクラトスもオリジンと関係があるのかしら ? |
| ミトス | あるよ。 |
| イクス | ミトス ? いつの間に……。 あっ、そうか。ミトスもオリジンと契約していたって言ってたよな。 |
| ミラ=マクスウェル | なるほど。それでお前も異変を感じたのだな。今の話も聞いていたのだろう ? |
| ミトス | 聞こえちゃったんだよ。天使は耳がいいからね。 |
| ミトス | 余計な口出しはしないつもりだったけどクラトスのことなら話は別。 |
| ミトス | 元の世界で、ボクはオリジンを封じていた。クラトスの命を使ってね。 |
| ミトス | もしその時の状態のまま、この世界に具現化されたならクラトスはオリジンと繋がりを持った者としてこの世界に認識されているんじゃない ? |
| ヨーランド | オリジンを封じていた……。それは、このティル・ナ・ノーグと同じ状況ね。ここでもオリジンは封じられている……。 |
| ヨーランド | ………………。 |
| ヨーランド | ――話してくれてありがとう。これでおおよその予測が付いたわ。 |
| ヨーランド | オリジンとクロノスに縁を持った者同士が接触した。つまり彼らを通じて、オリジンとクロノスが接触を果たした……んでしょうね。 |
| フィリップ | その衝撃で二人は倒れたのか。まずは原因がわかっただけでも良かったよ。 |
| フィリップ | 後は、スレイやベルベットたちがどう動くかでオリジンの状況も変わっていくはずだ。 |
| ミラ=マクスウェル | 本当にアルトリウスとやらが原因であれば思いとどまってくれれば済む話だが……。 |
| ミトス | 思いとどまる、ね。それは簡単なことじゃないんだよ、マクスウェル。 |
| ミトス | ボクは奴を知らないけど、他にどんな選択肢があろうと戻れないし、戻ってはいけない道もあるんだ。世界の仕組みを変えようなんて思い至った段階でね。 |
| ミリーナ | …………。 |
| イクス | ……やっぱり、俺たちもスレイやベルベットさんの加勢に行った方がいいんじゃないか ? |
| ヨーランド | いいえ、彼らに任せた方がいい。それにあなたには、やるべきことがあるのよ、イクス。 |
| イクス | 俺に、ですか…… ? |
| ヨーランド | ええ。あなたにしかできないことなの。 |
| Character | 6話【14-6 アジト3】 |
| イクス | 俺が……っていうことはもしかしてバロール絡みですか ? |
| ヨーランド | それも含めた面倒事になる予定よ。ただ、まだわからないことが多いからあなたたちからも情報が欲しいの。 |
| ミラ=マクスウェル | オリジンで手一杯で情報収集が追い付かないか。 |
| ヨーランド | ええ。何しろ新大陸の現状把握さえままならない状態なのよ。 |
| イクス | 新大陸ならネヴァンが先行して調査に向かっています。すぐに連絡をとって―― |
| ミリーナ | 待って、魔鏡通信が……バルドさんからだわ ! |
| バルド | ミリーナさん ? 通じてよかった。イクスさんもそちらにいますか ? |
| ミリーナ | ええ。 |
| バルド | そうですか。何もないなら良いのですが何故かイクスさんとの魔鏡通信が通じにくくて……心配していたんです。 |
| イクス | ああ、多分、魔鏡通信への干渉が―― |
| ヨーランド | 待って、私やフィリップの話は込み入ってるから後回しで。まずは彼の用件を聞いてちょうだい。 |
| バルド | 失礼、誰かと通信中でしたか ? |
| イクス | ええ、まあ……。後で詳しく話します。そちらの用件を先に聞かせてください。 |
| バルド | わかりました。まず確認をさせてください。最近、私たちのアジトと魔鏡通信が通じなかった理由はそちらに伝わっていますか ? |
| イクス | はい。ヴァンさんの救出の際にリグレットさんたちから事情を聞いたと報告がありました。 |
| イクス | サレに暗示をかけられたジュニアを保護するために外界との接触を避けているんですよね ? |
| バルド | ええ。ご存知の通り我々のアジトはジュニアの仮想鏡界です。彼に何かあったらひとたまりもありませんからね。 |
| イクス | 確かに、サレがどうなったかもわからないしなぁ。 |
| ミリーナ | ヴェイグさんたちも気にしているのよね。最後に会った村の周辺も継続して調べているけど消息はわからないって……。 |
| バルド | なるほど。ともあれ、こちらの事情が伝わっているようで安心しました。これから話すのは、その件を踏まえてのことです。 |
| バルド | サレに暗示をかけられたジュニアがある人物を具現化していたんです。 |
| バルド | その人物は、私たちの同胞にして救世軍の初代指導者、フリーセル。 |
| 二人 | フリーセル ! ? |
| フィリップ | ! ! |
| バルド | ええ。私は先ほど調査中の新大陸で彼と出会いました。 |
| イクス | やっぱりそうだったのか…… ! |
| バルド | ということは、彼とはすでに ? |
| イクス | はい。この間、テルカ・リュミレース領で戦った盗賊がフリーセルに似ているとネヴァンが言っていました。 |
| バルド | ネヴァンが言うのであれば具現化されたフリーセルに間違いないかと思いますよ。 |
| ミリーナ | バルドさん……、フリーセルとは何か話を ? |
| バルド | ええ。その内容を伝えるために連絡を取りました。 |
| バルド | 今の彼は、あなたたちや、ネヴァンそれに当代ビクエやマークにも害を及ぼしかねません。 |
| 三人 | ! ! |
| ミリーナ | フリーセルはそんなことを……。 |
| イクス | 事情はわかりました。それなら救世軍には俺たちの方から連絡します。潜入できそうなメンバーも見繕っておきますね。 |
| バルド | ええ、お願いします。こちらではアリエッタの魔物たちに監視を頼んでいますので。 |
| イクス | 他には何かありますか ? |
| バルド | 我々としてはそちらの状況が気になるのですが察するにイクスさんたちの方も色々と慌ただしいご様子ですね。 |
| イクス | 実は……そうなんです。 |
| バルド | では、後程詳しく伺うことに致しましょう。私たちも新大陸の調査とフリーセルの件がありますからお互いに目途が付き次第、情報をすり合わせればいい。 |
| バルド | こちらもなるべく定期的にアジトを離れて魔鏡通信を確認しますね。 |
| バルド | では、また――……えっ ? |
| イクス | バルドさん ? どうかしたんですか ? |
| コーキス | マ、マスター ! ミリーナ様 ! パイセンも !気を付けてくれよなっ ! |
| 三人 | ! ! |
| バルド | ――だそうです。では失礼します。 |
| イクス | コーキスの奴……。 |
| ミリーナ | ふふ、心配してくれているのね、コーキス。 |
| カーリャ | まったく、コーキスは早く帰ってくればいいんです。 |
| フィリップ | …………。 |
| ミリーナ | フィル、どうしたの ? 顔色が悪いみたいだけど……。 |
| フィリップ | ああ、すまない。覚悟はしていたけど、本当にフリーセルが……。 |
| ミリーナ | そうね……ビフレストのスパイだったとはいえフィルにとっては友人ですものね。 |
| フィリップ | その友人をファントムが殺し、ジュニアが具現化して……僕は再び敵対しようとしている。正直、やりきれないよ。 |
| フィリップ | ヨーランド、ファントムには……リーパにはまだこのことを伝えないでもらえますか。 |
| ヨーランド | ええ。今の彼を動揺させたくないもの。仕事も任せていることだしね。 |
| イクス | フィルさん、ファントムはどうしてフリーセルを殺したんですか ? |
| イクス | そもそも、どうして同一人物だったフィルさんとファントムはこんなにも違ってしまったんでしょう。俺と最初のイクスのような感じですか ? |
| フィリップ | それは……。 |
| イクス | あ ! あの、フィルさんを責めようとかそういうことじゃないんです。すみません。あの……話しにくいことならまた改めてでも……。 |
| フィリップ | い、いや、責められて当然なんだ。ただ、その……。 |
| ヨーランド | ……オリジンはまだ動かないわね。いいわ。今のうちに私からファントムについて少し話をしましょうか。 |
| フィリップ | え ! ? あなたが ? |
| ミトス | だったらボクたちは行こう、マクスウェル。どうせ胸が悪くなる話なんだ。聞くことないでしょ。 |
| ミラ=マクスウェル | そうだな。私たちはフリーセルを偵察できそうな者に当たりをつけるとしよう。オリジンに変化があったらすぐに呼んでくれ。 |
| ヨーランド | ふふっ、いい子たち。気を遣ってくれたのね。 |
| フィリップ | ヨーランド、どういうことですか ?リーパはあなたに何か話したんですか ? |
| ヨーランド | いいえ。ただ、彼を治療している時に私に流れ込んでしまったのよ。彼の思考――思いがね。 |
| ヨーランド | 恐らく、ミリーナの中のゲフィオンの記憶やフィリップの記憶と照らし合わせると彼の狂気への道筋が見えるはずよ。 |
| フィリップ | であれば、まずは僕から話をさせて下さい。あなたが感じたリーパの思いはなるべく公開しないであげて欲しい。 |
| フィリップ | 彼を自分の付随物としか思っていなかった僕ですが……今は悔いています。リーパにも隠しておきたいことはある筈ですから。 |
| ヨーランド | そうね。その通りだわ。じゃあ、最低限、必要と思えたことだけ補足するようにするわね。 |
| Character | 7話【14-7 アジト4】 |
| ヨーランド | フィリップがファントム――リーパを具現化したのは同一時空に同一存在を具現化する実験のためだった。そうよね ? |
| フィリップ | ……ええ。同一存在は記憶を共有してしまう。具現化された二つの存在を別人として確立するためにはその繋がりを断ち切る必要があった。 |
| フィリップ | そうしないと、具現体と具現元の双方の心が互いに過干渉して、【狂化】と言われる状態に陥ってしまう。 |
| イクス | 【狂化】 ? そういえば具現化の教本の中に、魔鏡術のバックファイアを受けたことによる【狂乏症】という症状について書かれているのを読んだことがあります。 |
| イクス | 語感が似ていますけど同じようなものなんでしょうか。 |
| ミリーナ | ……ええ。心を扱う技術だからこそ心の調子が狂うような症状も起きることがあるの。 |
| ミリーナ | ゲフィオンがイクスを助けようとして心が壊れてしまったのも【狂乏症】の症状の一つよ。 |
| フィリップ | 【狂化】というのは、ゲフィオンとミリーナの境界が曖昧になった状態が近いかもしれないね。僕とリーパは鏡精であるマークを共有していた。 |
| フィリップ | つまりリーパは僕と心が繋がった状態で具現化された。そのせいで、お互いの存在を食い合う状態になっていたんだ。 |
| フィリップ | リーパと僕なら、僕の方が存在の強度が強い。リーパには固有の鏡精がいなかったからね。 |
| フィリップ | だからリーパは僕に侵蝕されて、彼の中の願いや希望が先鋭化して歯止めがきかなくなる傾向があった。 |
| ヨーランド | リーパを食い殺さないために、フィリップは自分とリーパの心に狂化止めという術式を組み込んだのよね。 |
| ヨーランド | でもフィリップは当時すでにアニマ汚染が始まっていたから、心身の老化現象で狂化止めの術式を今までより強力なものに変更する必要があった。 |
| ヨーランド | それが、リーパがファントムへと変わるきっかけよ。 |
| フィリップ | リーパ。僕たちに仕掛けた狂化止めの術式が弱まってきている。それはきみも感じているよね。 |
| ファントム | ……ええ。 |
| フィリップ | だから僕は、狂化止めの術式をより強いものに変えられないかやってみるつもりだ。 |
| フィリップ | これが上手くいけば、過去から具現化を行っても心を分断し、記憶の共有を断ち切れるかも知れない。 |
| ファントム | それはやめて下さい。 |
| フィリップ | ……え ? |
| ファントム | もし新たな狂化止めで私とあなたの繋がりが断ち切れたら、私はあなたの望みを叶えてあげられなくなってしまう。 |
| フィリップ | ……いや、それは駄目だよ。リーパの言いたいことはわかっているけれどそれは容認できない。 |
| ファントム | いや、わかっていない ! イクス・ネーヴェは死んだ。あなたがすることは、イクスを過去から具現化することではなくて、ミリーナとの未来を構築することです。 |
| フィリップ | ミリーナは……僕なんか眼中にないよ。それに僕だって、イクスのことが好きなんだ。 |
| フィリップ | イクスとミリーナが幸せになってくれれば……僕はそれで……。 |
| ファントム | 欺瞞だ !私にはあなたの心がわかるのですよ。鏡精であるマーク以上に。 |
| フィリップ | リーパに伝わっているのは、【狂化止め】で歪んだ僕の心だ。それに、人には相反する感情や思考が存在しうるものだよ。 |
| ファントム | つまり、私が感じているあなたの思いはあなたが隠している欲望というわけだ。 |
| ファントム | それの欲望は犯罪ではありませんよ。イクスを過去から甦らせるほうがよっぽど道義に反している。 |
| ファントム | あなたはかつてイクスに鏡の欠片を突き刺した事実を消し去りたいだけだ。 |
| フィリップ | やめてくれ……。 |
| ファントム | カーリャもマークもイクスを具現化することに反対しています。作り出された側の存在は皆同じ結論に辿り着いている。 |
| ファントム | フィルがどうしても計画を実行するというのなら、私はフリーセルを利用してあなたとミリーナの計画を止めますよ。 |
| フィリップ | まさか……救世軍を動かすつもりか ?あれは休戦後の治安維持のために組織した自警団なんだよ。それを―― |
| ファントム | ――それを、なんです ? 私利私欲のために使うな ?冗談ではありませんよ。イクスの具現化も私利私欲だ。 |
| ファントム | 救世軍だって、ミリーナに対しておかしな動きを見せているフリーセルをガス抜きして同時に監視するための組織だ。 |
| ファントム | 何もかも私利私欲でしょう。 |
| フィリップ | ああ、そうさ。きみも僕ならわかって欲しいよ。僕は、やっとミリーナの共犯者になれたんだ。 |
| フィリップ | 僕を邪魔するならきみが僕であっても……僕は許さないよ。 |
| ファントム | それでも私は諦めない。あなたを救うためには私が救われる世界を構築するべきなんだ。そこにイクス・ネーヴェはいらない ! |
| ファントム | 邪魔なものは排除するだけです。それがあなたを守り願いを叶えることになる。私は私のために私の願いを叶えます。 |
| フィリップ | ! ? |
| フィリップ | その時だったよ。リーパが自分と僕を同一視し始めていることに気付いたのは。 |
| フィリップ | その頃から、僕の願いを感じ取ったリーパが願いを自分のものと考えるようになりそれを叶えるために行動するようになっていったんだ。 |
| ヨーランド | それはちょっと違うわね、フィル。それはあなたが見た真実。リーパの真実とは違う。 |
| フィリップ | え ? |
| ヨーランド | リーパは確かに狂化が進んで自分とフィルの境界が曖昧にはなっていた。 |
| ヨーランド | けれど彼は自分とフィルをまだ完全には同一視はしていなかったのよ。 |
| ヨーランド | いずれはそうなるかも知れなかったけれど、彼は本気で「あなたとミリーナが幸せになる世界」を作ることが自分の願いだと思っていたの。今でもきっと、ね。 |
| フィリップ | ………………。 |
| Character | 8話【14-8 アジト5】 |
| イクス | ……少し気になったんですけど、救世軍はフリーセルのガス抜きをするための組織だったんですよね。 |
| イクス | ということは、当時からフリーセルがスパイとして危険な行動を取ろうとしていることはわかっていたんですね。 |
| フィリップ | 確たる証拠はなかったけれど、ね。彼は友情をもって僕らと交流してくれていたし弱者に対しての優しさも本心だったと思うよ。 |
| フィリップ | ……僕がそう信じたいだけかも知れないけど。 |
| マーク | 救世軍を結成してからのフリーセルの話なら俺の方が詳しいかもな。 |
| マーク | ゲフィオンは救世軍の結成にフィルが関わっていることを知らなかったしフィルもファントムや俺に任せきりになっちまってた。 |
| ミリーナ | そうね……。ゲフィオンは救世軍にマークが関わっていることをイクスから聞いて驚いたぐらいだから……。 |
| マーク | 実際、救世軍に関しては失敗だったよ。あ、いや、今の救世軍がどうこうって話じゃないぜ。当時の『フリーセルのガス抜きと監視』って名目がな。 |
| マーク | 俺たちの見込みが甘かった。ファントムとフリーセルが化学反応を起こして、まるでテロ組織みたいになりかけてたからな。 |
| マーク | 当時のフィルはアニマ汚染でかなりやばい状態だったし俺も……まあ、ファントムの計画に荷担してたしな。 |
| イクス | 以前の救世軍はゲフィオンに反抗していたもんな……。 |
| マーク | フリーセルはゲフィオンが世界を壊したと思っていたからな。まあ、正確にはゲフィオンとうちのマスターの仕業なんだが―― |
| イクス | それはそうかも知れないけど、カレイドスコープを推進したセールンドにも、セールンドに攻め入ったビフレストにも責任はあるんじゃないかな。 |
| イクス | 戦争って……どちらか片方だけが悪いなんてことはないと思うし、兵器を作った人間だけが悪いってこともないだろう ? |
| ミリーナ | ビフレストにはビフレストの大義がセールンドにはセールンドの大義があった……ということよね。 |
| カーリャ | ビフレストの大義って……バロールの血族に鏡精を作らせないってことですよね ? |
| イクス | 結局、そこに突き当たるんだな。やっぱり創世神話の写本を見つけないと。 |
| イクス | ――いや、ヨーランドさんなら何か知っているんじゃないですか ? |
| ヨーランド | 何の話 ? |
| イクス | 俺の両親が残していた遺言なんですけど―― |
| 女性の声 | あなたは知っているかしら。自分がバロールの血を引きバロールの魔眼を受け継ぐ子供だということを。 |
| 男性の声 | オーデンセという島は、この世界の原初からある島だ。伝承によれば、この地にバロールの血族がいるのは罪人を留め置くためだという。 |
| 男性の声 | 今ではバロールの力が罪であるかのように言われているが、決してそうではない。そのことを私たちは、セールンドに来て知り得た。 |
| 男性の声 | だからイクス、お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。 |
| イクス | (これがイクスさんが言っていた母さんたちの遺言…… ?) |
| 女性の声 | この世界は大きく揺らぎ始めているわ。セールンドで作り出されたキラル分子供給のしくみが罪人の揺り籠であるこの世界を滅ぼそうとしているの。 |
| 女性の声 | 世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。 |
| イクス | バロールの力って……いえ、バロールはこの世界にとってどういう存在なんですか ? |
| ヨーランド | 女神ダーナやナーザと共にこの世界を創った鏡士。そしてバルドが言っていたように、命を生み出す存在……だという話よ。 |
| ヨーランド | ナーザの想像の力がティル・ナ・ノーグという巨大な仮想鏡界を創り、バロールの創造の力がその仮想鏡界を現実に変えた。 |
| ヨーランド | それら二つの力を繋いだのがダーナ様の融合の力。バロールの力が失われればこの世界は本当に単なる幻になってしまう。 |
| イクス | そうか、ティル・ナ・ノーグそのものがこの浮遊島アジトと同じ成り立ちなんだ……。 |
| ヨーランド | ええ、そういうことね。――あら ? でも……。 |
| イクス | どうしたんですか ? |
| ヨーランド | いえ、そうじゃなくて。おかしいと思わない ? |
| ヨーランド | セールンドの王室では創世神話をおとぎ話のように思っていたのよね。でもご両親の遺言は、私が今話した情報を知った上での言葉のように聞こえたわ。 |
| ヨーランド | ううん、或いは私以上の情報を知っていたのかも知れない。 |
| イクス | え、ええ……。それが創世神話の写本の可能性があると思ったんです。セールンドの王宮にあったらしいんですけど……。 |
| ヨーランド | だったらセールンド王家の人間も、その本を読んでいた筈よね。写本が核心に迫る内容だったのだとしたら王家の人間も知っていなければおかしい。 |
| ヨーランド | おとぎ話だと思っていたという証言とは矛盾するわ。だとすれば……セールンド王家の人間は『知っていて』世界を壊そうとした…… ? |
| ミリーナ | 世界を壊してしまったのはゲフィオンですよね ? |
| ヨーランド | けれど、ビフレストとの約束を反故にしてバロールの魔眼を受け継ぐ最初のイクスを鏡士にしたのよね。 |
| ミリーナ | それは、最初のイクスがゲフィオンの心の傷を治すために志願したことです。セールンド王家の意向では―― |
| ミリーナ | あ、でも、鏡士になるための登録はする筈だわ。王国からの認可証が届いたからイクスとゲフィオンは結婚することになったんだし……。 |
| フィリップ | イクスが正式に鏡士になったのなら宮廷鏡士たちに伝わる筈だ。当然僕にも。 |
| フィリップ | けどイクスが鏡士になったという話を聞いたのはゲフィオンがセールンドに避難してきた後だ。 |
| フィリップ | つまり、王家や先代のビクエは最初のイクス――バロールの魔眼を受け継いだ血族が鏡士になったことを知っていた。 |
| フィリップ | それを……恐らくフリーセルは察知してビフレストに報告した……のかもしれない。 |
| ヨーランド | 一刻も早くその写本とやらを見つけた方がいいわね。それと、ルグの槍に関してだけれど……。 |
| イクス | ルグの槍――ニーベルングを転送するための転送装置ですよね ? |
| ヨーランド | 帝国がその目的で使おうとしているだけ。本来はバロールと彼の鏡精ルグを結ぶアニマの通り道と聞いているわ。 |
| イクス | バロールの鏡精……。 |
| ヨーランド | ――あ ! オリジンの暴走が……止まった ? |
| ミリーナ | ベルベットたちだわ ! |
| ヨーランド | ――そのようね。私はこの隙に、オリジンの存在を安定させる作業に戻るわ。また連絡します。 |
| ヨーランド | イクス、あなたがやるべきこと――あなたにしかできないことを伝えておくわ。 |
| イクス | は、はい ! |
| ヨーランド | ルグの槍を手に入れて。恐らくご両親もそれを伝えようとしていたのだと思うわ。 |
| ヨーランド | さっきも言った通り、ルグの槍はバロールと鏡精を繋ぐアニマの道。あなたとコーキスならその道を奪って、操ることができる筈。 |
| ヨーランド | ルグの槍を支配下におければこの世界を守ることができるわ。その為の手段は、きっとあなたの中にある筈よ。 |
| Character | 9話【14-9 雪原3】 |
| フリーセル | ………………。 |
| グラスティン | ………………。 |
| フリーセル | どういうつもりだ、グラスティン。さっきから人をつけ回して。 |
| グラスティン | ヒヒ……同じ魔鏡技師同士じゃないかあ。仲良くしよう……。 |
| フリーセル | 断る。俺はお前が嫌いだ。 |
| グラスティン | そんなことは知ってるさ。俺だって同じだよお……。だがお前は、好き嫌いで人を切り捨てるタイプじゃないだろう ? |
| フリーセル | ああ。だが、友に害を与える存在なら、俺は容赦はしない。 |
| グラスティン | 友、ねえ。そいつはフィルのことかあ ?それともデミトリアスのことかあ ? |
| フリーセル | どちらもだ。 |
| グラスティン | ヒヒヒ、出たよ、心にもない台詞だ。どうせお前は、祖国のために大切なお友達も切り捨てるんだ。そうだろう ? |
| フリーセル | 何のことだ。 |
| グラスティン | 俺は知ってるんだ。お前がビフレストのスパイだってなあ。 |
| フリーセル | 俺も知っているぞ、グラスティン。お前がフィルに執着する理由を。 |
| グラスティン | ! |
| フリーセル | 屍蝋化したママの死体はそんなにも魅惑的だったか ?グラスティン坊や。 |
| グラスティン | ヒ……ヒヒ……。そうか。見たのか……。やっぱりお前、ビフレストのスパイだったんだな。 |
| フリーセル | バロールの巫女が突然行方知れずになったことでビフレスト皇国とセールンド王国の間に大きな溝ができたんだぞ。 |
| フリーセル | 何故巫女を……実の母親を殺した ?墓守の街で何があった ? |
| グラスティン | 俺が殺したと思ってるならお前はやっぱりマヌケだよ。 |
| フリーセル | どういう意味だ。 |
| グラスティン | 確かに俺は殺そうとはしたが、『殺せなかった』んだ。鏡精の墓を守りながら、だんだんと壊れていくあの女がただただ恐ろしくてなあ。 |
| グラスティン | でも、殺ってくれた奴がいたんだよお。 |
| フリーセル | ……デミトリアスか ! ? |
| グラスティン | ヒヒ……ヒヒヒ……。だから特別なのさ。デミトリアスとフィリップはなあ ! |
| フリーセル | (……感謝するぜ、サレ。俺を具現化してくれて。グラスティンはもっと早くデミトリアスから引き離しておくべきだったんだ) |
| フリーセル | (デミトリアスはフィリップとは違う。グラスティンに蝕まれている) |
| フリーセル | (最初の俺がやり残した仕事は、必ず遂行する。そして――デミトリアスにも、グラスティンにもフィリップにも、けりをつけさせる) |
| セールンド王 | 探せ ! なんとしてもデミトリアスの命を繋ぐ方法を探し出すのだ ! |
| 魔鏡学者 | 本来、アニマ欠乏症は決して命を奪うほどの病ではありません。 |
| 魔鏡学者 | ですが近頃では、従来とは明らかに違う様相を示すものが増えております。殿下もそういったⅡ型の欠乏症でありまして―― |
| メイド | ねえ、今度呼ばれた魔鏡学者と鏡士の夫婦とても危険な力の持ち主なんですって。ビクエ様が警戒しておられるとか。 |
| メイド | それもこれも殿下の為なんでしょうけれど……。 |
| 騎士団長 | 殿下。どうかご辛抱下さい。この墓守の街ならば、殿下のお命を繋ぐ薬が作れます。ここで静養なさることが肝要なのです。 |
| グラスティン | ヒヒ…… ! 残念だよお !お前をかばって死ぬのは悪くないがどう生きてどう死ぬのかは見たかった…… ! |
| グラスティン | ああ、それにフィリップ……。フリーセルに殺されると思うと悔しくてたまらない。俺が……俺が綺麗に保存したかったのに…… ! |
| デミトリアス | ! |
| デミトリアス | (……夢、か) |
| デミトリアス | (近頃、過去のことばかり夢に見る。これもクロノスの影響なのかもしれないな……) |
| ? ? ? | クロノスの影響じゃと ?もっとそなたに影響を与えているものがあるではないか。 |
| デミトリアス | メルクリア ! ? |
| ? ? ? | わらわはメルクリアではない。わからぬか。我らを喰らって生き存えた死人よ。 |
| デミトリアス | きょ、鏡精……か…… ? |
| ? ? ? | わらわはかつてモリアンであったもの。 |
| モリアンの影 | オリジンが覚醒した。止まっていた時計の針が動き出したのじゃ。 |
| モリアンの影 | これから、お前が喰らい、体に取り込んできた鏡精たちが、時の流れと共にそなたの中で甦る。覚悟せよ。 |
| デミトリアス | ……覚悟など、疾うにできている。我が父の過ち。私に費やされた膨大な命とエネルギー。 |
| デミトリアス | 奪った物は返す。私にできるのはそれぐらいだ。 |
| モリアンの影 | ならば貴様も、バロール様の尖兵となれ ! |
| Character | 10話【14-10 アジト6】 |
| パスカル | 【贄の紋章】の基礎データを元にしたアニマの放出計算表が出てきたよ~ ! |
| ハロルド | 早かったじゃない ! |
| リフィル | まだ概算だもの。それでも大筋のところは十分でしょう ? |
| ハロルド | もちろん。どれどれ~ ? |
| ジェイド | ……なるほど。こう来ましたか。まあ、想定内ではありますが。 |
| ハロルド | そうね。予想通りではあるけれど、処理するのは大変よ。 |
| ハロルド | 前世って概念をどう処理しているのかはもう少し検証が必要だけど、分史世界の方は確定ね。もう計画は進み始めてるんだわ。 |
| ジェイド | そのようですね。手段を講じる必要がありそうです。ルドガーたちの世界と法則が同じならば分史世界に行けるのはルドガーとユリウス、それに―― |
| ハロルド | ……まあ、メンバーに関してはイクスたちとも相談した方がいいわね。行けるなら私も行きたいぐらい。 |
| ジェイド | 確かに興味深いですね。並行世界というのは。 |
| ジェイド | もっとも、今回はティル・ナ・ノーグの前世として仮定されたニーベルングの分史世界……というややこしい代物です。 |
| ジェイド | 厳密な分史世界という概念とはいささか趣が異なるのでしょうが。 |
| パスカル | あー、疲れたよ~。ちょっと休憩してもいいよね。 |
| リフィル | ふふ、そうね、パスカル。あとはお風呂に入ってゆっくりするといいわ。 |
| パスカル | ええ~、お風呂は別にいいかな。それより、このままフカフカ布団にダイブして……。 |
| リフィル | そう言うと思って既にシェリアには声をかけておきました。 |
| パスカル | ええ~。お風呂なんていいよ~。 |
| リフィル | いけません。ちゃんとお風呂に入ってから休むこと。いいわね ? |
| パスカル | わかったよぉ~。逃げると怖いからなぁ、シェリア。 |
| リフィル | さて、私はこの結果をキール研究室のみんなにも共有してくるわ。 |
| ハロルド | じゃあ、私はクラースたちに話してくるわね。クロノスのこともあるし。 |
| ジェイド | つまり、私がイクスたちへの連絡役、ですか……。 |
| リフィル | あら、適任ね。しっかり説明してくるといいわ。 |
| パスカル | 頑張れ~ジェイド~ ♪ |
| ジェイド | やれやれ……。 |
| コーキス | マスターたち……大変そうだったな……。 |
| バルド | 戻って、力を貸してあげたらどうだい ? |
| コーキス | こっちだって人手が足りないだろ !それに……まだ……俺は……。 |
| バルド | コーキス。自分がよくない存在で、イクスさんたちに迷惑を掛けるのではないかと不安に思っていることは想像できるよ。 |
| バルド | けれど、自分が『どんな存在なのか』を決めるのは他でもない自分自身なんだ。きみの心一つで決まる。本当はね、とてもシンプルなことなんだよ。 |
| コーキス | ……うん。だけど、中途半端にはしたくない。マスターのところを飛び出してボスたちと一緒に行動して……。 |
| コーキス | ここまでしたんだから、なんかわかんねーけどこれっていう答えを見つけないといけないと思うんだよ。 |
| リグレット | ――待たせたな。 |
| リグレット | ヴァン総長宛てに魔鏡通信文を出しておいた。定時確認で見てもらえればアリエッタを派遣してくれるだろう。 |
| リグレット | 私は念のため、フリーセルを追跡してみる。雪原なのが幸いだな。消そうとしても痕跡が残る。この後、雪が強くならなければ、だが。 |
| バルド | お願いします。私とコーキスはもう少しこの大陸の調査を行ってから仮想鏡界に戻るつもりです。 |
| 二人 | ! ? |
| リグレット | …… ? どうした ? 二人とも、妙な顔をして……。 |
| バルド | いえ、何か、悪寒のようなものが……。 |
| コーキス | ああ。空気がビリビリして……――いてぇっ ! ? |
| リグレット | コーキス ! ? バルド ! ?どうした ! ? しっかりしろ ! |
| リグレット | ……まずい……二人とも意識を…………大丈……―― |
| バロール | 目を覚ませ、鏡精に尖兵。 |
| コーキス | ……ここ……は……。 |
| バロール | 気付いたか。 |
| コーキス | ボス ! ? |
| バルド | ――いえ、これはウォ……ナーザ様ではありません。 |
| バロール | ナーザ様、か。自分が甦ったことを否定したいが為にナーザの名前を使うとは。確かナーザは、海神であり死者の世界の神として祭り上げられているのだったか。 |
| バロール | あのアイフリードが神とは……。笑えるな。 |
| コーキス | それにしても何なんだよ。またなんか面倒なことやらせようとしてるのか ? |
| バロール | 死の砂嵐の異物を取り除く。 |
| バルド | どういうことですか。死の砂嵐に触れるためのゲフィオンの心の穴は、カーリャ――ネヴァンが守ったはずです。 |
| コーキス | そうだよ。パイセンのパイセンがなんかしたから死の砂嵐にアクセスできなくなったんだろ。 |
| バロール | ……コーキス。お前は俺の子孫の鏡精にしては頭が悪すぎるな。 |
| コーキス | 何だと ! ? た、確かに頭は良くないけどその分マスターはめちゃくちゃ頭いいからな !記憶力とかすげーいいし ! |
| バロール | 記憶力……。そうか、鏡士の資質には長けているということか。 |
| バロール | ……まあいい。ダーナの子孫がやってくれた。 |
| バロール | 人間の感情の澱を虚無へ流すために、融合の力でカーリャとやらが作った防御壁を崩したのだ。これで俺も再び死の砂嵐に手を伸ばすことができる。 |
| バルド | 我々に何をさせようというのですか。 |
| バロール | すぐにわかる。 |
| 二人 | …………………………。 |
| コーキス | (マスター……。頭が……ぼーっとして…………) |
| バルド | ………………ビフレストの民を……救う……。 |
| コーキス | ………………マス……ター…………助け……て……。 |
| | to be continued |