| Character | 1話【15-1 雪原1】 |
| 二人 | ! ? |
| リグレット | …… ? どうした ? 二人とも、妙な顔をして……。 |
| バルド | いえ、何か、悪寒のようなものが……。 |
| コーキス | ああ。空気がビリビリして……――いてぇっ ! ? |
| リグレット | コーキス ! ? バルド ! ?どうした ! ? しっかりしろ ! |
| リグレット | まずいな。二人とも意識を失ってしまったようだ。 |
| リグレット | 大丈夫か ! ? |
| 二人 | …………。 |
| リグレット | このままでは……。 |
| リグレット | ………………。 |
| リグレット | ――やむを得ん。 |
| リグレット | イクス、緊急連絡だ。 |
| イクス | リグレットさん、どうしました ? |
| リグレット | バルドとコーキスが突然倒れてしまってな。意識が戻る気配がない。救世軍にも伝え―― |
| リグレット | うっ ! ! |
| イクス | リグレットさん…… ? リグレットさん ! |
| カーリャ | どうしました ? 今のリグレットさまの通信ですよね ? |
| イクス | コーキスとバルドさんが倒れたって……。でも途中からリグレットさんの姿も消えちゃってそれっきり返事もないんだ。 |
| カーリャ | ええっ ! ? ど、どういうことですか ! ?三人は一体どうなって……。 |
| ミリーナ | ――静かに。まだ通信が繋がっているみたいよ。ほら、声が聞こえる。 |
| コーキス | バルド、お前はフリーセルを追え。 |
| イクス | その声、コーキスか !どうした、何があったんだ。 |
| コーキス | まだ通信が繋がっていたのか。 |
| コーキス | ――イクスか。お前の鏡精は借り受けた。 |
| イクス | コーキス……じゃないな ?お前は誰だ ! ? コーキスをどうするつもりなんだ ! |
| コーキス ? | ――早くこのリグレットとかいう女を回収しに来い。凍え死んでも知らんぞ。 |
| ミリーナ | 待って、コーキス ! |
| カーリャ | イクスさま、もう一度コーキスに繋いでください ! |
| イクス | わかってる ! |
| イクス | ――……駄目だ、出ない。 |
| カーリャ | そんなあ……。 |
| ミリーナ | あのコーキスは「お前の鏡精は借り受けた」って言っていたわね。 |
| イクス | たぶん何かに意識を乗っ取られてるんだ。もしかしたら、一緒にいたバルドさんも同じような状態なのかもしれない。 |
| カーリャ | コーキス……。バルドさま……。 |
| ミリーナ | 操っているとしたら、やっぱりバロールかしら。以前も意識を奪われたことがあったわよね。 |
| イクス | ……俺の事を知っているようだったし、そうかもな。 |
| イクス | けど、それより今は、リグレットさんの救出だ。 |
| イクス | 救世軍はベルベットさんたちを回収しなきゃいけない。連絡だけ入れておいて、こっちは俺たちで進めよう。 |
| ミリーナ | そうね。新大陸にはネヴァンもいるわ。先行して向かってもらいましょう。 |
| カーリャ | イクスさま……、コーキスは無事ですよね ? |
| イクス | 大丈夫。コーキスと俺は繋がってるんだ。何かあったらちゃんとわかるよ。 |
| コーキス | お前の鏡精は借り受けた。 |
| イクス | (……そうさ、わかるはずだ。コーキスは、俺の鏡精なんだから……) |
| Character | 2話【15-4 ミッドガンド領 聖主の御座1】 |
| ムルジム | なんてこと……。聖主の御座が崩れて行くわ。 |
| シグレ | ってことは、負けたのか。アルトリウス。 |
| シグレ | …………あいつ、どんな顔で戦ったんだろうな。 |
| ムルジム | シグレ……、やっぱり自分の手でアルトリウスを倒したかったんじゃないの ? |
| シグレ | 今となっちゃどうでもいいさ。――さてと、約束を果たしてもらいに行くか。 |
| ムルジム | 約束 ? |
| シグレ | ロクロウたちはあいつを倒した。となりゃ、今度は俺の番だろう。 |
| ムルジム | あれ、本気だったのね。 |
| シグレ | 当たり前だ。楽しみにしてたんだからな。体が疼いて仕方ねえ。 |
| ムルジム | もう少しだけ待ってあげたら ?あの子たちだってきっと心を落ち着けたいんじゃないかしら。 |
| シグレ | おいおい、水を差してくれるなよ。可愛い弟が遊んで欲しくて待ってるんだぜ ? |
| ムルジム | 遊んで欲しいのはあなたの方じゃないの。本当、寂しがりやなんだから。 |
| ムルジム | あら、通信が来てるわ。 |
| シグレ | わかってる、リグレットだ。さっきから連絡よこせって通信文が来てるんだよ。面倒だから放ってある。 |
| ムルジム | 駄目じゃない、返事くらいしてあげなさい。新大陸で何かあったのかもしれないわ。 |
| シグレ | そういやコーキス連れて調査に行ってたっけな。よし、面白い奴がいたか聞いてみるか。 |
| ムルジム | 『面白い奴』じゃなくて『強い奴』でしょ ? |
| シグレ | 応よ。でなきゃ面白くねぇ。 |
| シグレ | どうした。何か面白いもんでも見つけたか ? |
| リグレット | ―――――……。 |
| ムルジム | 変ね。誰も映ってないわ。……遠くに見えるのはコーキス ? |
| シグレ | シッ、黙ってろ。 |
| リグレット | ……う……。 |
| コーキス | …………。 |
| 二人 | ! ? |
| ムルジム | あっ、通信が……。 |
| シグレ | 切られちまったか。なあ、今の気づいたか ? |
| ムルジム | ええ。魔鏡越しでも感じたわ。さっきのコーキスは異様な気配を発してた。 |
| シグレ | 俺も久々に鳥肌が立ったぜ。 |
| ムルジム | 何が起きてるのかしら。少なくともリグレットは生きているみたいだけど。……ちょっとシグレ、何で笑ってるの ? |
| シグレ | これが笑わずにいられるかよ。 |
| ムルジム | もしかして、さっきの鳥肌ってそういう意味の方 ? |
| シグレ | ああ。予定変更だ。新大陸へ行くぞ。 |
| ムルジム | リグレットを助けに――ってだけじゃなさそうね。まさか……。 |
| シグレ | おう。面白くなってきたじゃねえか。 |
| シグレ | 俺は決めたぜ。ロクロウの前にコーキスから先に『片付け』る。 |
| Character | 3話【15-7 ミッドガンド領 聖主の御座2】 |
| 帝国兵 | テレサ様、全兵、聖主の御座より撤退完了です ! |
| テレサ | ご苦労でした。念のため崩壊に巻き込まれた者がいないか再度確認を。 |
| 帝国兵 | 承知しました ! |
| テレサ | (亡骸の回収さえ間に合わなかった……) |
| テレサ | 申し訳ありません、アルトリウス様……。 |
| グラスティン | おいおい、相手が違うだろう。謝罪なら皇帝陛下へ捧げるべきだぞ。 |
| テレサ | グラスティン ! |
| グラスティン | ああ、聖主の御座もボロボロだ。哀れな末路だなぁ、アルトリウス。 |
| グラスティン | 結局、裏切者が手に入れたのは己の死だけだ。欲を張るとろくなことがない。そう思うだろう、テレサ。 |
| テレサ | …………。 |
| グラスティン | まぁ、あいつが死んでくれたおかげで計画をかき回す奴が減った。これで良しとしよう。 |
| テレサ | ……では、オスカーの贄の紋章を消してくださいますか ? |
| グラスティン | それは無理な話だなぁ。皇帝陛下はアルトリウスを連れて来いと言ったんだぞ。死んじまったんじゃ、取引はパァってことだ。 |
| テレサ | それは…… ! |
| グラスティン | だが、もう一度チャンスをやる。贄の紋章を消す代わりにフリーセルという男を捕まえて来い。 |
| グラスティン | 成功すれば、今度こそ弟の紋章を消してやる。 |
| テレサ | ……フリーセルですね。わかりました。ただ、新たな使命を受ける代わりにこちらの質問にも答えて頂きたいのです。 |
| グラスティン | 気が向いたらな。言ってみろ。 |
| テレサ | あの紋章は本当に消えるのですか ? |
| グラスティン | 当然だ。 |
| テレサ | それはどのような方法で ?後遺症はないのですか ? |
| グラスティン | ……それを聞いてどうする。贄の紋章を消す手段だけを聞き出してオスカーの贄の紋章を除去して逃げるつもりか ? |
| テレサ | ……そんなつもりはありません。 |
| テレサ | ただ、本当にあなたに除去できるのか確認しておきたかったのです。 |
| グラスティン | 傷つくなぁ。ここに来て人をウソつき呼ばわりとは。 |
| テレサ | 私はただ、確証が欲しいだけです。 |
| グラスティン | はっ、本当に無駄なことばかり考える。聞いたところで、知識も技術も持っていないお前がどうやってそれが真実だと確認するつもりなんだ ? |
| グラスティン | 何をしようと、アルトリウスが死んだ今お前は俺の命令に従わざるを得ないんだよ。 |
| テレサ | …………。 |
| グラスティン | お前が捜すのは『ジェイソン・フリーセル』って男だ。人相と風体はこの資料にまとめてある。 |
| テレサ | ……具現化された魔鏡技師 ?何故この男を捕らえる必要があるのですか ? |
| グラスティン | ビフレストの亡者だからさぁ。 |
| グラスティン | いいか、今度は必ず生かして連れて来いよ ?撤退は部下に任せて、今すぐフリーセルを追うんだ。いいな ? 弟思いの、無能なお姉ちゃん。 |
| テレサ | (今はまだ我慢しなければ……。贄の紋章の除去方法さえわかればあの男に従う理由などないのだから) |
| テレサ | (そういえば……、何故グラスティンは「アルトリウスが死んだ今」などと言ったのだろう) |
| テレサ | (私がアルトリウス様にお仕えしているから ?) |
| テレサ | (けれど、アルトリウス様の生死に関わらずオスカーに贄の紋章がある限り私を従わせることはできるはずなのに) |
| テレサ | …………もしかして…… ! |
| テレサ | (アルトリウス様が生きていたら贄の紋章を無効化できる可能性があったということ ?) |
| テレサ | (……アルトリウス様が残された物を調べてみよう。生前に預かった命令も遂行せねばならないのだから) |
| 帝国兵 | テレサ様、聖主の御座周辺の確認が完了しました。 |
| テレサ | ご苦労でした。あなた方はこのまま引き上げなさい。 |
| 帝国兵 | あっ、テレサ様、どちらへ ! |
| テレサ | 先ほど別命を受けました。これ以上の詮索は無用です。 |
| テレサ | (まずは、転送魔法陣で領主の館へ戻らなければ――) |
| Character | 4話【15-7 ミッドガンド領 聖主の御座2】 |
| テレサ | (ミッドガンド領の館はほぼ調べた。他に目ぼしいところといえばこの地下くらいだけれど……) |
| テレサ | (ここで何も見つからなければ次はグリンウッドの方へ出向いてみようかしら) |
| テレサ | (……アルトリウス様は、ご自分が命を落とした後も事が進むように計画なさっていた) |
| テレサ | (必ず何か手掛かりを残しているはず) |
| テレサ | っ ! ! ここは ! |
| テレサ | (この部屋……全体がエネルギー貯蔵庫のようになっている) |
| テレサ | (もしや、新大陸の具現化で得たエネルギーの一部をここに運んで保管していた ?) |
| テレサ | (それにこの魔鏡陣……一体何の為かしら。もしかして、これがアルトリウス様の二の矢……) |
| テレサ | (あの時おっしゃっていた「邪魔が入った場合」を想定しカノヌシの具現化がならなかった際の次の策――) |
| テレサ | (それが、このエネルギーを利用して第二のカノヌシを生む計画だった…… ?) |
| グラスティン | ほう、やっぱりアルトリウスはまだ隠し事をしていたか。 |
| テレサ | ! ? |
| テレサ | ……なっ、何故あなたが ! ? |
| グラスティン | さあ、どうしてだろうなあ ? |
| グラスティン | それにしても、どうしてこんなところにいるのかな ?俺は『フリーセル』捕縛を命じたはずなんだがなあ ?まさか、ここにフリーセルが現れるのか ? |
| テレサ | こちらにも準備というものがあります。フリーセルに関する情報も精査しなければいけません。 |
| テレサ | いったん領主の館に戻るだけで何故このように非難されるのですか。 |
| グラスティン | 非難 ? 俺はただ確認しただけだ。お前こそ、過剰に反応すると裏があると思われるぞ ? |
| テレサ | (グラスティンは私をつけてきたのかしら。それとも……この場所に何か……) |
| テレサ | (まさかオスカーを捕まえるつもりでは…… !) |
| グラスティン | それにしてもこの貯蔵されたエネルギーと魔鏡陣……なるほどねぇ。 |
| グラスティン | お前たちも可哀そうに。アルトリウスに忠誠を尽くしたところで結局はただの駒だったんだなぁ。 |
| テレサ | なっ、何を……。どういう意味ですか ! |
| グラスティン | やっぱり何も知らされていないんだなあ。 |
| グラスティン | アルトリウスはな、お前の大事な弟の心核を『鏡の精霊の心核のレプリカ』と繋いでいるのさぁ。魔導器で結合させてな。 |
| テレサ | ………………え ? |
| グラスティン | 俺の作った鏡の精霊のレプリカ心核が盗まれた。その中の一つがここにあることはすでに確認している。 |
| グラスティン | アルトリウスはオスカーを疑似的な鏡の精霊にしてそれと神依することで、カノヌシ――いや、オリジンを使役しようと考えていたんだろうな。 |
| テレサ | う……嘘を吹き込もうとしても無駄です !私は知っていますから ! |
| テレサ | 鏡の精霊になるには、アイフリードの血を引いた者でなければならないはず。 |
| テレサ | アルトリウス様を貶め、私を騙そうとしてもそうはいきません ! |
| グラスティン | それは鏡の精霊へと至る『心核』を作る工程の話だ。出来上がった以上、アイフリードの血など関係ない。 |
| グラスティン | お前の弟は、アルトリウスにとって都合のいい生贄だったってわけさ。 |
| テレサ | 嘘…………。 |
| グラスティン | それでだ。そんな妙な物をくっつけられて弟の容体はちゃんと安定しているのかねぇ。 |
| テレサ | ! ! |
| グラスティン | いつどうなるか、俺は心配でならないよ。 |
| テレサ | そんな……、オスカー、オスカー ! ! |
| グラスティン | ヒヒヒ、慌てて転ぶなよ、お姉ちゃん。 |
| グラスティン | (さて、アルトリウスの奴がこの場所に異世界のアニマをため込んでいたのは単にカノヌシの代わりを作るってだけじゃないはずだ) |
| グラスティン | テレサのいない間に調べさせてもらうか……。クックックッ。 |
| Character | 5話【15-8 ケリュケイオン】 |
| フィリップ | ……そうか。ではひとまずカノヌシとアルトリウスの融合は避けられたんだね。 |
| ベルベット | ……ええ。 |
| マーク | あとはヨウ・ビクエがオリジンの存在を安定させてくれれば、カノヌシがオリジンから分離することもなくなるって訳か。 |
| フィリップ | 報告ありがとう。ベルベット、ライフィセット、スレイ。 |
| ベルベット | あたしとフィーとスレイをブリッジに呼び寄せたのはこの報告を聞くためだけって訳じゃないんでしょう ?用があるならさっさと言いなさい。 |
| フィリップ | そうだね。実はさっきイクスたちと連絡を取ったときにこのケリュケイオンに精霊のオリジンとクロノスがいた――いや、いるという可能性に気付いたんだ。 |
| スレイ | どういうこと ? |
| フィリップ | クラトスさんとエルレインが倒れたことは覚えているよね。クラトスさんはオリジンにエルレインはクロノスに縁があるんだそうだ。 |
| フィリップ | 二人が倒れたのは、精霊同士の接触に二人の体が衝撃を受けたからだと思う。 |
| フィリップ | 二人はまだ目覚めないんだ。少し荒療治が必要なのかも知れない。 |
| スレイ | あ……そうか。カノヌシがオリジンの一部として具現化されたなら、ライフィセットも……。 |
| ライフィセット | 僕の存在がクラトスやエルレインに影響を与えられるかも知れないってことだね。 |
| フィリップ | ああ。ライフィセットを呼び出すならベルベットにも立ち会ってもらった方がいいかなと思ってね。 |
| スレイ | え ? それなら、オレは ? |
| フィリップ | ファントムから報告を聞いたんだ。オリジンがきみに接触してきたとね。 |
| スレイ | あれ、そういえばファントムは ?ケリュケイオンに戻ってから姿が見えないけど……。 |
| フィリップ | 部屋で休ませているよ。相当無理をしたみたいだし。 |
| スレイ | そうか……。それならよかった。 |
| フィリップ | それじゃあ、三人とも僕と一緒に医務室まで来てもらえるかな。 |
| ライフィセット | それで――どうしたらいいの ? |
| フィリップ | 二人の体に触れてみてもらえるかな。ライフィセットはクラトスさんに。スレイはエルレインに。 |
| ベルベット | 危険はないんでしょうね。 |
| フィリップ | 逆なら反動があるかも知れないけれどクラトスさんが内包しているのはオリジンだそうでライフィセットとは親和性があるからね。 |
| フィリップ | それに、スレイはティル・ナ・ノーグのオリジンと接触した存在であってオリジンを内包しているわけじゃない。 |
| フィリップ | だから、仮にクロノスとの接触による衝撃があったとしてもごく微量だと考えられる。神依よりははるかに負担が少ない筈だよ。 |
| スレイ | わかった。 |
| スレイ | それじゃあ、ライフィセット。二人で同時にクラトスさんとエルレインさんに触れてみよう。 |
| ベルベット | 気を付けなさいよ、フィー。 |
| ライフィセット | うん、大丈夫。 |
| スレイ | よし、行くよ。 |
| 二人 | ………………。 |
| ベルベット | ……様子がおかしいわね。 |
| クラトス ? | ベルベット、そして――ライフィセット。カノヌシの件では世話になった。感謝する。 |
| スレイ | クラトスさん……じゃない ? |
| ライフィセット | もしかして精霊オリジン ? |
| オリジン | そうだ。今はこの者の体を借りている。この者のアニマには異世界の我が溶け込んでいるのでな。 |
| スレイ | それじゃあエルレインさんも目覚めたわけじゃなくて―― |
| オリジン | これはクロノスだ。どうやらそのエルレインという者は本来人間が体験することができないほどの長い時間をクロノスと共に過ごしたようだな。 |
| クロノス | ――元々この者は、時間という概念と親和性がある。故に、分霊となった我をアニマの中に取り込むことができたのだろう。 |
| オリジン | さて、導師スレイ。お前には感謝とともに、謝罪もしなければならないな。 |
| スレイ | 謝罪 ? どうして ? |
| オリジン | 我はお前の力量を見誤っていた。いや……お前の心の在り方を見くびっていたのだろう。 |
| オリジン | 我はお前が本当にヘルダルフを浄化できるかどうか危ぶんでいた。だがお前はあの者の穢れを浄化した。 |
| スレイ | 浄化……。いや、オレは―― |
| オリジン | 導師。我は信じる。この世界に具現化されたお前はこの世界に具現化されたヘルダルフを『救った』のだと。 |
| スレイ | ! ! |
| オリジン | そして、ライフィセット。我はまたお前も信じる。お前はカノヌシのように我と融合する形ではなくライフィセットとして具現化された。 |
| オリジン | 異世界でのお前の在り方が影響したのかエンコードの影響なのかはわからぬがお前は我に限りなく近しい存在だ。 |
| オリジン | そのお前たちが鏡士の末裔たちに力を貸しているのなら我もまた鏡士の末裔たちを信じようと思う。 |
| スレイ | それはイクスたちに力を貸してくれるってこと ? |
| オリジン | 無論、力を貸すことはやぶさかではないが……。 |
| クロノス | オリジンは悩んでいたのだ。封印が解かれ久方ぶりに目にしたティル・ナ・ノーグは見るも無惨な姿になっていた。 |
| クロノス | しかも我らの主であるナーザとは連絡が取れない状況だ。ナーザとの連絡はマクスウェルの役目であったからな。 |
| オリジン | 今の我は……いや、我だけではなく全ての精霊は非力な存在だ。 |
| オリジン | 帝国はまがい物のナーザ様を鏡の精霊に仕立て上げた。あの存在がある限り我らはいつ自由を奪われるかわからない。 |
| オリジン | 我らはナーザ様には逆らえないように造られている。 |
| クロノス | 故に、頼みがある。鏡の精霊を無力化して欲しい。我ら精霊はティル・ナ・ノーグを維持するための安全弁なのだ。 |
| クロノス | 鏡の精霊の心核を破壊してくれ。それで我らは自由に動けるようになる。 |
| フィリップ | わかりました。やってみます。 |
| オリジン | このままでは、我の力はまた帝国に利用されるだろう。 |
| オリジン | 目覚めてしまった以上、存在を消すことは叶わぬがそれでも彼奴らによる悪用を防ぐために我は暫しヨウ・ビクエの元に身を寄せる。 |
| オリジン | 我の力が必要になったときは異世界の我と縁を持つ者らを通じて語りかけよ。 |
| クロノス | 我は引き続きエルレインの中にある。そうせざるを得ない状態だ。 |
| クロノス | 魔導砲によって解き放たれた際に身を分かたれてしまったからな。 |
| クロノス | できれば我の分霊も集めて欲しい。いくつかはすでに帝国に囚われているようだ。 |
| オリジン | 帝国はクロノスの分霊を使って分史世界を造ろうとしている。 |
| オリジン | 全ては滅びたニーベルングを甦らせるためだ。計画はすでに進行している。もはや止めることは叶わない。 |
| クロノス | この世界にもクルスニクの一族が具現化されているだろう。彼らなら帝国の造る分史世界を破壊できる。 |
| オリジン | 頼んだぞ、新たな揺り籠の住人たちよ……。 |
| クラトス | …………ここ……は…… ? |
| エルレイン | …………この……感覚は……。 |
| フィリップ | 今度こそ、クラトスさんとエルレインですね ! ? |
| クラトス | 『今度こそ』とはどういうことだ ? |
| エルレイン | 何者かが私たちの中にいた……ということでしょう。 |
| フィリップ | 詳しいことは後でお話しします。それより―― |
| ベルベット | 分史世界のことね。 |
| ライフィセット | ルドガーたちに伝えないと。 |
| スレイ | 魔鏡通信で連絡しよう。 |
| フィリップ | お願いします。僕はケリュケイオンを浮遊島に向かわせます ! |
| Character | 6話【15-9 アジト1】 |
| ミリーナ | イクス ! ネヴァンに連絡が取れたわ。リグレットさんからの通信が途切れた場所を知らせたら、かなり近くにいるみたい。 |
| カーリャ | すぐに向かってくれるそうですよ ! |
| イクス | そうか。俺たちは一番近いゲートを使っても数時間はかかってしまうだろうから助かるな。 |
| イクス | ……あれ ? ジェイドさん ? |
| ジェイド | やあ、イクス。ミリーナ。それに可愛いカーリャじゃありませんか。上手く先回りできたようですね。 |
| カーリャ | で、出たー ! 悪メガネ ! やるんですかー ! ? |
| ミリーナ | カーリャ。まだ何もされていないでしょう。落ち着いて。 |
| カーリャ | 油断しちゃいけませんよ、ミリーナさま。抉るように打つべしッ ! ですッ ! |
| ジェイド | ああ、カーリャ。あなたを可愛がりたいのは山々なのですが今は他に優先しなければいけないことがありまして。 |
| イクス | どうしたんですか ?もしかしてリグレットさんの救出に関することですか ? |
| ジェイド | いえ、別件です。ですが、非常に重要なことですのでここで皆さんをお待ちしていました。 |
| イクス | 移動しながらで構いませんか ?リグレットさんを助けに行かないと。それにコーキスだって―― |
| ジェイド | その件でしたら、すでに別働隊を向かわせています。 |
| 三人 | ! ? |
| ミリーナ | 相変わらず手回しがいいですね、ジェイドさん。 |
| ジェイド | ここで抜かってはハロルドやリフィルから叱られてしまいますからね。 |
| ジェイド | イクス、あなたにしてみれば、大事な鏡精の危機です。すぐにも駆けつけたいでしょう。ですが、鏡精はあなたの一存で心に戻すことができる。 |
| イクス | それは……そうかも知れませんけどバロールが関与しているなら―― |
| ジェイド | それでも、あなたが生きていればコーキスは死なない。今は別働隊に任せてこちらの話を聞いて頂けませんか ? |
| ジェイド | ようやく贄の紋章の構造が見えてきたんです。 |
| イクス | ……ということは、キール研究室からの報告ですか ? |
| ジェイド | ええ。手短に言います。 |
| ジェイド | 帝国側が動き出したようです。帝都付近にクロノスの力を帯びたアニマがあふれ出しています。 |
| ジェイド | 恐らく帝国は何らかの手段をもって分史世界を生み出そうとしているのでしょう。 |
| イクス | 分史世界……。ルドガーさんたちの世界にあったという並行世界のことですね。 |
| ミリーナ | 確か帝国はニーベルングの分史世界を創ってニーベルングを甦らせようとしているのよね。 |
| イクス | ああ。 |
| イクス | ルカたちの世界の前世の概念と分史世界という概念を掛け合わせようとしているんじゃないかっていう見立てでしたよね、ジェイドさん。 |
| ジェイド | その通りです。そしてルグの槍は分史世界に創りだしたニーベルングの大地をティル・ナ・ノーグに転送するための装置だ。 |
| ジェイド | つまり、ルグの槍の起動も近い。 |
| ジェイド | ルグの槍が起動するということは贄の紋章を刻まれた人々が世界を繋ぐエネルギーの柱として消費されるということです。 |
| イクス | このままじゃ、贄の紋章を刻まれたみんなが危険だってことですね。くそっ、まだ写本も探せてないのに……。 |
| ジェイド | 仕方がありません。どのみちルグの槍の起動は帝国に主導権があるのです。我々にはそれを止める手立てはない。 |
| ジェイド | ですが、紋章を無効化する方法を見つけました。 |
| 三人 | ! ! |
| カーリャ | す、すごいじゃないですか !だったら、ルグの槍の起動なんて怖くありませんね ! |
| ジェイド | ことはそう簡単ではないのですよ。手段は見つけましたがまだ実用化には至っていません。 |
| カーリャ | そんな~ ! ? ぬか喜びさせないで下さい~ ! |
| ミリーナ | でもジェイドさんは、何の方策もないのに私たちを引き止めたりはしませんよね。 |
| ジェイド | おや、随分信頼されていますねえ。 |
| カーリャ | ジェイドさまはともかくキールさまたちは信頼できますからねっ ! |
| ジェイド | おや、妬けますねえ。まあ、それはともかく―― |
| ジェイド | 今キール研究室で、贄の紋章を無効化するための準備を始めています。少しでも時間を確保したい。そこで、帝都に奇襲を掛けてはどうかと思いまして。 |
| イクス | 奇襲、ですか ? でもどうやって……。帝都を攻めるとなるとそれなりの兵力が必要ですよね。 |
| イクス | 救世軍の手を借りるにしても兵力を移動させるための時間がかかります。そう簡単にはいかないと思うんですけど……。 |
| ジェイド | 救世軍の手は借りません。 |
| ミリーナ | それじゃあ、アジトの戦力だけで奇襲ですか ?でも帝都に一番近いゲートを使っても―― |
| ジェイド | いえ、この浮遊島をぶつけます。 |
| イクス | なるほど……―― |
| イクス | ――え ? |
| ジェイド | この浮遊島アジトを帝都のイ・ラプセル島にぶつけるんですよ。 |
| ジェイド | どちらもオーデンセを元に具現化された島ですから大きさも質量もいい勝負でしょう。 |
| 三人 | ええっ ! ? |
| Character | 7話【15-10 雪原4】 |
| カーリャ・N | ――そうですか。では、イクス様たちは浮遊島に残りティア様たちが向かって下さっているのですね。 |
| ティア | ええ。急なことでごめんなさい。 |
| ガイ | 俺たちも突然ジェイドに声を掛けられてな。ビフレストのアジトへ行ってジュニアに会わなけりゃならないんだよ。 |
| カイウス | ネヴァンは今どの辺りにいるんだ ? |
| カーリャ・N | そろそろ、リグレット様からの通信が途絶えた地点に着きます。 |
| ルキウス | ……ボクたちが追いつくにはまだ少し掛かるね。 |
| ティア | ネヴァン、教官をお願い。それにコーキスのことも……。 |
| カーリャ・N | はい、心得ています。万事お任せ下さい。 |
| テネブラエ | コーキスさんやリグレットさんのこともですが……この辺りの空気も気になりますね。どうも周辺に生息している筈の魔物が少なすぎる。 |
| テネブラエ | 強大な力を持った何かがいて、避難しているのでは。 |
| カイウス | その何かがリグレットさんを襲ったってことか ? |
| テネブラエ | 恐らく……。 |
| ガイ | だとしたら気を引き締めていかないとな。 |
| ガイ | ところでルキウス。体調はどうだ ? |
| ルキウス | 大丈夫。ボクのことは心配しないで。今は一刻も早くネヴァンと合流することを優先しよう。 |
| カイウス | ルキウス……。 |
| ルキウス | 本当に無理をしている訳じゃないよ、兄さん。 |
| カイウス | うーん……。でも、まだ万全な状態って訳じゃないからなあ……。 |
| ガイ | 俺たちも気を配るが、くれぐれも無理はするなよ。メルクリアに会いたいんだろ ? |
| ルキウス | ……そうだね。ありがとう。 |
| ジェイド | ――私からの説明は以上です。 |
| イクス | ………………。 |
| ミリーナ | ………………。 |
| カーリャ | ………………。 |
| ジェイド | どうしたんですか、三人とも。おかしな顔をして。 |
| イクス | い、いえ……。まだ信じられなくて。 |
| カーリャ | そ、そうですよ ! この浮遊島を動かすなんて ! |
| ジェイド | 発案者はハロルドとパスカルです。文句は彼女たちにお願いします♪ |
| ミリーナ | けど、確かに帝国は驚くでしょうね。ケリュケイオン以外に空を飛べる乗り物はありません。 |
| ミリーナ | 上空の守りが甘いことは以前、芙蓉離宮を攻めたときにわかっています。 |
| ジェイド | ええ、その通りです。原動機はパスカルが開発しすでに島の各所に取り付けを完了しています。 |
| ジェイド | ただし燃料となるキラル分子は、鏡士であるイクスとミリーナに作りだしてもらわなければなりません。ですから、島を操縦できるのは鏡士だけです。 |
| イクス | だから俺たちはアジトに残っていなければいけなかったんですね。 |
| ジェイド | ええ。あなた方の許可さえ得られればすぐにでも作戦を決行したい。 |
| イクス | わかりました。俺とミリーナはパスカルの作ってくれた原動機を動かす準備をします。ジェイドさんは浮遊島のみんなに―― |
| ジェイド | ――今作戦について周知せよ、ですね。その辺りは抜かりありません。ハロルドとリフィルがすでに動いています。 |
| ミリーナ | さすが、準備は万端ですね。 |
| ジェイド | ただ、私たちができるのは、この島を動かし帝国の中枢を一時的に混乱に陥れることだけです。 |
| ジェイド | その先――つまり、贄の紋章の無効化にはイクスとミリーナの魔鏡術が不可欠になります。 |
| イクス | それが、今キールたちが最終調整してくれているという『逆しまの魔導砲』ですね。 |
| ジェイド | はい。魔鏡術で擬似的な魔導砲を放ち贄の紋章と正反対の紋章を打ち込み、力を相殺する。これで、いったんは贄の紋章を無効化できる筈です。 |
| ミリーナ | でも完成させるためにはジュニアのもつ情報が不可欠……。 |
| ジェイド | 情報がなくても、仕上げられないことはありませんが精度は落ちます。なるべく万全を期したい。 |
| ジェイド | それに、この作戦が上手くいけばルドガーやユリウスに負担を掛けなくて済みます。 |
| カーリャ | ユリウスさま ? |
| ジェイド | 分史世界ですよ。帝国が分史世界を創り、ルグの槍でティル・ナ・ノーグと繋いでしまったら、彼らには分史世界に行ってもらわなければならないでしょう。 |
| Character | 8話【15-11 雪原5】 |
| カーリャ・N | (リグレット様はどこに……。イクス様から聞いている位置情報ではこの辺りの筈ですが……) |
| カーリャ・N | (ティア様たちの到着にはまだ時間がかかるでしょう。早くリグレット様を見つけて安全を確保しなければ……) |
| カーリャ・N | っ ! ! |
| コーキス ? | ようやく来たか。 |
| カーリャ・N | コーキス…… ! |
| コーキス ? | 女はそこだ。まだ生きているぞ。 |
| カーリャ・N | リグレット様っ ! ? |
| リグレット | …………。 |
| カーリャ・N | 意識がない。それになんて酷い傷。でも……。 |
| カーリャ・N | …………。 |
| コーキス ? | なんだ。俺を睨む暇があったら、その女を連れて帰れ。早くしないと間に合わんぞ。 |
| カーリャ・N | なぜ、リグレット様にとどめを刺さなかったのです ? |
| コーキス ? | ………………。 |
| カーリャ・N | 確かにひどい傷ですが、致命傷ではない。それに傷つけておきながら放置はせず、迎えを待った。凍死や魔物の襲撃から守る意図があったのでしょう。 |
| カーリャ・N | どういう魂胆なのですか。――バロール。 |
| バロールの尖兵 | ……バロール、か。俺はバロール様ではない。バロール様の眷属――尖兵だ。 |
| バロールの尖兵 | 鏡精ではなくなったお前には俺の気配を正確には掴めぬのだろうな。 |
| カーリャ・N | 何でも構いません。コーキスの体を奪い、リグレット様を傷つけ何をしようとしているのです。 |
| カーリャ・N | それに、バルドはどこにいるのですか ? |
| バロールの尖兵 | もう一人の尖兵のことか。バロール様の命令を遂行するために先行している。お前たちが知る必要はない。 |
| カーリャ・N | 人の意志を……体を奪っておいて何という言い種ですか ! |
| カーリャ・N | 二人を解放しなさい !彼らには彼らの意志がありそれぞれ仕えるべき主がいるのですよ ! |
| バロールの尖兵 | お前のようにか ? ゲフィオンの元鏡精。 |
| カーリャ・N | ! ! |
| バロールの尖兵 | この女を迎えに来たのがお前でよかった。話しておきたいことがあったからな。 |
| カーリャ・N | な、何です…… ? |
| バロールの尖兵 | 何、バロール様に代わって忠告しておこうと思っただけだ。 |
| バロールの尖兵 | お前もかつて鏡精であったなら我らを救うために尽力して下さったバロール様の意に背くような真似をするな。 |
| カーリャ・N | どういう意味です。 |
| バロールの尖兵 | お前がゲフィオンに施した術のせいでバロール様は死の砂嵐にアクセスできなかった。つい先ほどまでだがな。随分と面倒をかけてくれた。 |
| カーリャ・N | ついさっき『まで』…… ? |
| バロールの尖兵 | いいか、死の砂嵐に関する全てに対してもう余計な手出しはするなよ。後はバロール様が全て終わらせてくれる。 |
| カーリャ・N | まさか、すでに死の砂嵐にアクセスを…… ?ゲフィオン様の心の防御壁を壊したのですか ! ? |
| バロールの尖兵 | ダーナの子孫が、異世界から持ち込まれた人の感情の澱を虚無へ流し込むためにお前の作った防御壁をこじ開けた。 |
| バロールの尖兵 | それをバロール様は見逃さなかったのだ。 |
| カーリャ・N | なんてことを !それではゲフィオン様の意識が……。 |
| バロールの尖兵 | 諦めろ。人の身でフィンブルヴェトルを引き受けたのだ。もはやどう足掻いても救うことはできない。 |
| カーリャ・N | 認めませんっ ! |
| バロールの尖兵 | ならば勝手にしろ。俺はもう行くぞ。ルグの槍をバロール様の手に戻さなければならない。 |
| カーリャ・N | 待ちなさい、コーキス !――バロールの手の者っ ! |
| バロールの尖兵 | 俺に構うより、そのリグレットとかいう女を助けた方がいいのではないか ? |
| カーリャ・N | くっ…… ! |
| バロールの尖兵 | バロール様に任せておけ。揺り籠の罪人がこの世界を壊そうとしてもバロール様が阻止して下さる。 |
| カーリャ・N | ――くっ ! |
| カーリャ・N | ……落ち着きなさい、カーリャ。今はリグレット様の治療が先。優先するべきことを間違えては駄目です。 |
| カーリャ・N | メディカルシェル ! |
| カーリャ・N | (どうかご無事で、ゲフィオン様…… ! ) |
| Character | 9話【15-14 雪原8】 |
| テネブラエ | あっ、あちらですよ ! |
| カイウス | おーい、ネヴァーーン ! |
| カーリャ・N | 皆さん、お待ちしていました ! |
| ガイ | よかった、無事に合流できたな。 |
| ティア | 教官の容体は ! ? |
| カーリャ・N | 負傷していますが、命に別状はないようです。 |
| ルキウス | でもこれは……かなり深い傷だね。 |
| カーリャ・N | ええ。私も先ほどから回復術を試みていたのですがまだここまでしか治癒できていません。 |
| ティア | だったら、私も一緒に―― |
| リグレット | あ……ティ……ア…… ? |
| ティア | 教官 ! 気が付かれたのですね。 |
| リグレット | 私は……、そうか……コーキスたちに……うっ……。 |
| ティア | 動かないでください。まだ傷がふさがっていません。 |
| リグレット | 傷……、あの状況で私は生きていたのか……。 |
| カーリャ・N | 命を取るつもりはなかったのだと思います。コーキスは先ほどまでリグレット様の側にいましたから。 |
| ガイ | ……バロールの尖兵、か。何にしても、意図的に急所を外したことは間違いないようだな。 |
| テネブラエ | 無事にリグレットさんの意識も戻りましたしひとまず安心ということでよさそうですね。 |
| ルキウス | ……バロールの尖兵、いやバロールの目的がはっきりしないところは不安要素だけれどね。 |
| ガイ | ……そうだな。 |
| ガイ | ティア、リグレットを動かせるようになるまであとどのくらいかかりそうかな ? |
| ティア | そんなに時間は取らせないわ。もう少し術をかければ、負担も少なくなる筈だから。 |
| ガイ | わかった。ティアの処置が終わったらリグレットをビフレストのアジトへ連れていこう。 |
| リグレット | ……待て。私はフリーセルという男を追わねばならない。それに、コーキスやバルドのことも……。 |
| カイウス | 追うって、その体で ! ? |
| ティア | 失礼ながら、教官。それは誤った判断です。ご自分の状態をよく考えて下さい。いつもの教官なら、そんな無茶はしない筈です ! |
| リグレット | ……お前に叱られるとは思わなかったな。 |
| ティア | す、すみません……。つい……。口が過ぎました。 |
| リグレット | いや、どうやら私は、自分で思っていたよりも動揺していたようだ。お陰で頭が冷えた。今の言葉は効いたぞ。 |
| リグレット | 泣きそうな顔でなければ、なお良かったがな。 |
| ティア | あ……。 |
| ガイ | それじゃ、治療が終わったら出発だ。できれば背負ってやりたいが……その……。俺は……ちょっと……。 |
| カイウス | いいよ。もしリグレットさんが歩けないようならオレが運ぶって ! |
| リグレット | ……ありがたい話だが、私のことであれば心配はない。フリーセルの追跡は諦めるにしても回復すれば一人で戻るつもりだ。 |
| ルキウス | こちらに気を遣っているのなら無用です。それとも、不用意に外部の者をアジトに近づけるのは心配ですか ? |
| リグレット | フッ、聡いな。それもある。 |
| ガイ | なるほどね。けど、こっちもビフレストのアジトに用があるんだ。 |
| ガイ | ウチの研究室の依頼でジュニアに会わなきゃならなくてな。ついでに道案内も頼めるとありがたい。 |
| ルキウス | それに、これは個人的な理由ですがメルクリアが心配なんです。側にいるつもりだったのに、こんなことになって……。 |
| リグレット | そうか。お前がルキウスか。皇女がいつも気にかけていたな。 |
| カイウス | こいつ、目が覚めたばっかりでフラフラのくせにリグレットさんやビフレストの件を知ったら一緒に行くって聞かなくて。 |
| カイウス | ……でも、気持ちはよくわかるからさオレも一緒に来たんだけど。 |
| ルキウス | ごめん……。兄さんまで巻き込んで。 |
| カイウス | いいって。けど、絶対に無理はするなよ。ルビアたちを説得するの、大変だったんだからな。 |
| ルキウス | うん、感謝してるよ。 |
| リグレット | そうか。そういうことならば承知した。 |
| テネブラエ | リグレットさんフリーセルの話は我々も聞いています。追跡は私が引き受けましょう。 |
| テネブラエ | 私なら周囲の魔物たちから話を聞くこともできますし。 |
| テネブラエ | これならば、心置きなくアジトへ向かって頂けるのでは ? |
| リグレット | 異世界には不思議な生き物がいるものだな。だが助かる。すまないが頼まれてくれるか ? |
| テネブラエ | お任せを。 |
| カイウス | それじゃ、テネブラエ以外はビフレストのアジトへ向かうってことでいいよな。 |
| カーリャ・N | カイウス様、申し訳ありませんが私はご一緒できません。 |
| カーリャ・N | ゲフィオン様に危機が迫っているのです。私はこれからセールンドへ向かいます。 |
| カイウス | わかった。でも、必ず連絡だけは取れるようにしておいて欲しいんだ。オレたちじゃなくても、イクスたちには必ず。 |
| ガイ | 気をつけろよ。今はあっちこっちで混乱してるからな。 |
| カーリャ・N | はい、ありがとうございます。皆様もお気をつけて。 |
| バロールの尖兵 | おい、その船を貸せ。 |
| 船主 | 貸せだ ? 船なら金を払えば出してやるがね。 |
| バロールの尖兵 | そうか。着いたら倍額払ってやる。目的地は墓守の街だ。 |
| 船主 | 墓守 ? 知らないな。 |
| バロールの尖兵 | ならばセールンド諸島付近でいい。俺の言う場所へ船を着けろ。 |
| シグレ | おおっと、その船待った !――ムルジム、当たりだぜ。良くやった。 |
| ムルジム | ありがとう。『あの気配』が濃い方を辿ってみたけどまさか本当に出会えるとは思わなかったわ。 |
| ムルジム | 一応、あたしもこの世界の精霊だからこれで面目躍如ね。 |
| シグレ | おい、そこの船長さんよ巻き込まれないように逃げときな。 |
| シグレ | これからそいつと、一戦交えるんでね。 |
| 船主 | ひぃーーーっ ! |
| バロールの尖兵 | ……逃げられたか。まあ、却って都合がいい。これで自由に船が使える。 |
| バロールの尖兵 | おい、お前。俺は戦うつもりはない。『俺』との因縁があるなら、後で相手をしてやる。 |
| シグレ | いや、今の『お前』じゃなきゃ駄目だ。その気配と……強い奴と戦いたくてここまで追って来たんだからな。 |
| シグレ | それで、何て呼べばいい ?お前は『コーキス』じゃねぇもんなぁ ? |
| バロールの尖兵 | なるほど、事情を知ってて挑むか。やめておけ、死ぬぞ。 |
| シグレ | 上等。死ぬ気で斬り合わんでどうする。手心なんぞ加えたら面白くねぇだろうが。 |
| シグレ | それにコーキスは鏡精だ。死んでもまた具現化されるって聞いてるぜ。 |
| シグレ | お前を倒せば、元に戻るかもしれねぇ。 |
| バロールの尖兵 | 貴様はそれでいいかもしれん。だが、こいつはどうだ。お前が負けた時己の手で知己を斬ったと知れば、どう思うだろうな。 |
| シグレ | さあな。だいたい、これからやり合うのは『コーキス』じゃなくて『お前』だろ。あいつが気にすることじゃねぇよ。 |
| バロールの尖兵 | 話が通じない奴だ。正気の沙汰ではないな。 |
| シグレ | 百も承知 ! 付き合ってもらうぜ ! |
| バロールの尖兵 | っ ! ! |
| Character | 10話【15-15 港町】 |
| バロール | ……尖兵とのリンクが切れたか。 |
| 死鏡精 | バロール様、バロール様。帝都にて、デミトリアスを捕まえました。 |
| バロール | そうか。しかし、ルグの代わりになる鏡精を失った。 |
| バロール | いや…… ? 来るか ? あの男なら。 |
| 死鏡精 | 始めましょう。バロール様。ルグの槍を手に入れましょう。 |
| バロール | ……よかろう。 |
| バロール | ルグの槍を起動する ! |
| コーキス | (……な……んだ ? 体中がひどく痛い……) |
| ムルジム | ちょっと、大丈夫 ? |
| コーキス | ムルジム……さ……ま…… ? |
| シグレ | おっと……。どうやら本体には逃げられちまったみたいだな。 |
| コーキス | …………………………あ ! |
| コーキス | そうだ ! 俺、バロールにのっとられたんだ ! |
| ムルジム | 思い出したみたいね。どう ? 動ける ? |
| コーキス | 大丈夫……っじゃない、かも。ひどいよ、シグレ様 !本気で俺のこと倒そうとしただろ ! |
| ムルジム | シグレが最後まで本気だったらそんな口もきけなかったと思うわよ。 |
| コーキス | う……そうか……。 |
| シグレ | おい、コーキス。お前、バロールにのっとられていたときの記憶はあるのか ? |
| コーキス | ……うん。 |
| コーキス | どうしよう……。俺、リグレット様に酷いことしちゃった……。 |
| シグレ | そんなことはどうでもいい。お前、ここからどこへ行こうとしてたんだ ? |
| コーキス | そんなことって言い方はないだろ。 |
| シグレ | リグレットなら大丈夫だ。さっき鏡士の仲間たちが回収していったからな。それより俺の質問に答えろ。 |
| コーキス | えっと……墓守の街だよ。そこにバロールがいるみたいなんだ。 |
| シグレ | だったら話は早え。コーキス、俺をバロールのところへ連れていけ。 |
| コーキス | え ! ? だけどバルドを助けないと……。バルドものっとられたみたいだから。 |
| ムルジム | さっき感じた、弱い方の気配かしら。 |
| コーキス | 気配 ? のことはよくわかんねーけど……。 |
| シグレ | バルドがお前みたいにバロールにのっとられたのならバロールのところに行って奴を倒せば全部解決するな。 |
| コーキス | は ? |
| コーキス | いやいやいや、何言ってんだよ、シグレ様 !バロールは倒しちゃ駄目なんだよ。 |
| コーキス | なんか、えっと……この世界を守るためにはバロールを―― |
| シグレ | あー、わかったわかった。死なないように殺せばいいんだろ。さあ、早く船に乗れ。墓守の街とやらまで案内しろ。 |
| コーキス | 死なないように殺すってどういうことだよ ! ? |
| シグレ | 地鳴りか ? |
| 三人 | ! ? |
| コーキス | うわ ! ? 地震 ! ? |
| ムルジム | まずいわね。目の前が海よ。津波でも来たらひとたまりもないわ。 |
| シグレ | いや、こいつは地震じゃなさそうだ。 |
| コーキス | え ? どうしてそんな風に言い切れるんだ ? |
| シグレ | 見ろよ。あの真っ赤な火柱を。 |
| コーキス | ! ? |
| メイドA | きゃあああああああ ! ? |
| メイドB | ルーングロム様 ! ? ブルート様 ! ?ウィンガル様 ! ? |
| 三人 | ! ? |
| メイドA | 領主の皆様が……みんな……火の……柱に……。 |
| マティウス | ! ! |
| チトセ | マティウスさま ! ?どうして……どうしてマティウスさまが炎に包まれて―― |
| チトセ | い、いやあぁぁぁぁぁぁ ! ? |
| ロミー | (【贄の紋章】が反応した。予想より早いわね。でもこのタイミングを逃せば後がないわ。ルグの槍の力を使ってプリセプツを――) |
| ロミー | くっ…… ! ? |
| テレサ | オスカー ! オスカー ! ! |
| オスカー | 姉……―― |
| テレサ | オスカーッッ ! ? |
| グラスティン | (オスカーが火柱になった……だと ?早い。早すぎるぞ。まだルグの槍を起動させる時じゃない) |
| グラスティン | (どうなってる、デミトリアス ! ?) |
| マーク | な……何だ…… ! ?帝都から火柱が噴き上がった ! ? |
| シンク | 十柱あるね。それに他の場所からもいくつか火柱が上がってる―― |
| シンク | ! ? |
| シンク | 鏡士たちのアジトが……飛んでる ! ?な、何なんだよ、アレは ! ? |
| アリス | ねえ、なんで浮遊島が動いてるのよ ! ?非常識過ぎじゃない ! ? |
| フィリップ | マーク、今のアニマの暴発は一体――ってな、何…… ?一体何が起きてるんだ…… ? |
| セシリィ | ……ね、ねえ、マーク !もしかしてあの浮遊島帝都の火柱に向かって飛んでるんじゃ……。 |
| マーク | マジかよ ! ? |
| マーク | おい、浮遊島 ! ! こちら救世軍 ! 応答しろ !一体何が起きてるんだ ! ? |
| ハロルド | あちゃー……。ちょーっと遅かったみたいね。 |
| ジェイド | ええ。ですが、まだ取り返せますよ。 |
| リフィル | ジュニアと連絡さえ取れれば、だけれど……。 |
| フリーセル | ――何なんだ、あの火柱は ! ? |
| バロールの尖兵 | バロール様がデミトリアスを取り込みルグの槍を起動させたのだ。もっともあの火柱を仕掛けたのは帝国の連中だがな。 |
| フリーセル | バルド様――ではないな。お前は一体……。 |
| バロールの尖兵 | 俺はバロール様の尖兵。バロール様の命令でお前が集めているものを受け取りに来た。 |
| フリーセル | 何 ? |
| バロールの尖兵 | バロール様は命の選別はしない。ビフレストの生き残りだけを救おうなどという卑しい真似はやめろ。 |
| イクス | こっちの準備が終わる前にルグの槍が起動するなんて……。 |
| カーリャ | どうするんですか ! ?まだカイウスさまたちからの連絡はありませんよ ! ? |
| イクス | 見切り発車になるけど、やるしかない。 |
| イクス | 行くぞ、ミリーナ。 |
| ミリーナ | ええ !ジェイドさんたちの作戦通り【贄の紋章】を無効化して、ルグの槍を鎮めましょう ! |
| | to be continued |