Character1話【16-1 アジト1】
セルゲイ……く……。
シャーリィセルゲイさん、大丈夫ですか ?
ジュード目が覚めたばかりですぐ移動させるのは体に良くないんだけれど……。
アニー急に贄の紋章を刻まれた人たちを外に集めろだなんて一体何をするつもりなんですか ?
リフィル無茶をお願いしたことは謝るわ。ごめんなさい。けれど、帝国内が混乱している今がチャンスだと考えたの。
マオチャンスって、何のコト ?
キール贄の紋章を無効化するための千載一遇の好機ってことさ。
ワルターメルネスを助けることができるのか ! ?
リフィルそういうことね。
アトワイト詳細を教えてくれるかしら。
キールその前に、今の状況を振り返っておきたい。目下のところ、ぼくたちに課せられているのは『帝国からティル・ナ・ノーグを守ること』だ。
ユリウス帝国はティル・ナ・ノーグを滅ぼして滅びた世界ニーベルングを甦らせようとしている。
ユリウス贄の紋章はニーベルングとティル・ナ・ノーグを繋ぐ橋……魂の橋のようなものだ。
ユリウス起動したが最後、贄の紋章を刻まれた者のアニマを燃焼し、かつてニーベルングが存在していた空間とこの世界とを繋いでしまう。
ルドガー魂の橋……。
ユリウス……少なくとも、計測されているアニマの数値や位置情報から、帝国が分史世界を創るための準備に着手したことが見て取れた。
ユリウスアルトリウスの騒ぎが落ち着いたらすぐにでも奴らはニーベルングを甦らせるだろう。
リフィルこれを防ぐために贄の紋章を無効化します。本当は消し去ることができればいいのだけれどそれは難しいの。
リフィルキール研究室では、時間を稼ぐためにも無効化を優先するべきだと考えました。
キール無効化の手順は極めて簡単だ。
キールそもそも贄の紋章というのは、この世界の人間の中にあるアニマの指向性をキラル分子によって自在に変化させる仕組みを指す。心核の鏡像異性体を体内に作って――
ルカま、待ってよ、キール。何を言っているのかその……わからないというか……。
リフィルキール、あなたの話はとても重要なものだけれど今は誰にでも簡潔にわかることを優先しましょう。あなたならそれもできるわ。そうでしょう ?
キールも、もちろんだ。
キール――つまり、お前たちにもわかるように話すなら贄の紋章と逆の作用を持つ紋章を刻むことで贄の紋章の作用を打ち消すんだ。
カルセドニーそんなことができるのか。ならば、すぐにそれを行ってくれ !
キールそ、そうしたいのはやまやまなんだが打ち消すための逆しまの紋章がまだ未完成なんだ。
マウリッツしかし、我々をこの浮遊島の広場に集めたということはまったくなす術がない、ということでもないのだろう。違うかね ?
リフィルその通りです。逆しまの紋章は九割完成しています。残りの一割を埋めるために、今カイウスたちがビフレスト側にいるジュニアに接触しています。
フォレストカイウスが……。それで、カイウスたちからの連絡はまだなのか ?
リフィルええ。本来は彼らからの連絡を待って、逆しまの紋章を完成させてから、個別に紋章を刻めばいいのだけれどそれとは別に、今好機が訪れつつあるのよ。
レイス好機、か。それは今地上で帝国内部が混乱していることが関係しているのかな。
フォッグアレだ。帝国のアレがアレを裏切ってベルベットとスレイがアレしてるやつだな。
キールそうさ。今、帝国の戦力は各地に分散して帝都の守りは手薄になっている。
キール今なら帝都に集められた鏡映点も救い出せるしニーベルングを甦らせるための装置も止めることができる。
キールそれどころかデミトリアスを叩くことだって可能だ。
ピオニーつまり、ベルベットたちをおとりにして帝都を急襲人質の確保を行い、大将の首も取ろうって魂胆か。
ユリウスそう簡単にことが運ぶかはわからないがそれが最善なのは間違いない。加えて逆しまの紋章を完成させ、刻む必要もある。
リフィルですから、今回は戦力を四分割します。
リフィル一つ目はスレイとベルベットたちのチーム。彼らはアルトリウスを撃破後救世軍と合流する筈。
リフィルそこで救世軍と共に、今浮遊島を離れているモリスンイエガー、アレクセイの保護に向かってもらいます。
キール二つ目はカイウス、ルキウス、ガイ、ティアの四人のチーム。
キール目的はジュニアの体内に残されている、贄の紋章のデータを解析することだ。これが逆しまの紋章の完成に繋がる。
ジュード少し気になってたんだけど贄の紋章のデータっていうのはジュニアのものでないと駄目なの ?
リフィルハロルドの推測ではそのようね。ビフレスト側の話を聞く限り、ジュニアはグラスティンによってすでに贄の紋章を起動させられていたのだと思うわ。
リフィルここにいるメンバーの贄の紋章はマオのもの以外まだ起動していない。
マオボクはサレに一回利用されてるからネ……。
ユリウスこんな言葉は慰めにはならないかもしれないが一度使われているからこそ他のみんなを救う手助けとなるんだ。
ユリウスマオのデータとジュニアのデータを参照することで逆しまの紋章が完成する。
マオうん、ありがとう。みんなの役に立つのは大歓迎だヨ。
キール話を戻すぞ。三つ目のチームはお前たち――つまり浮遊島にいる贄の紋章を刻まれたメンバーだ。
キール逆しまの紋章はハロルドの開発した【逆しまの魔導砲】を使ってここにいる全員と帝都の鏡映点全員に刻み込む。
カルセドニー帝都の鏡映点……それはパライバさまたちのことだな ?
キールああ。各領地の領主と従騎士たちのことだ。それぞれ手分けして刻むのでは効率が悪いし時間もかかる。
キールだからぼくたちは、帝国の魔導砲の技術を転用して逆しまの紋章を広範囲に打ち込む方法を思いついた。
キールこの浮遊島の地下に逆しまの魔導砲を設置してある。この広場の下辺りだ。
リフィルみんなにはここで待機してもらいます。
リフィル逆しまの紋章が完成したらすぐに逆しまの魔導砲を起動してみんなの贄の紋章を無効化するわ。
リーガル先程も言っていたが、浮遊島にもおらず帝都にもいない鏡映点の贄の紋章はどうなるのだ ?
ユリウスそれは、個別に助けていくしかないな。
ルカ今の話の流れからすると四つ目のチームが帝都への潜入班ってこと ?
ユリウスその通りだ。今帝都には、領主や従騎士と彼らの心核が集まっている状態だ。可能な限り回収したい。
リッド帝都へは誰が行くんだ ?
リフィル今は浮遊島を離れているメンバーも多いから残っている人員を二分するしかないわね。
リフィルただ、ルカたちレグヌム領にゆかりのあるメンバーとユリウス、ルドガー、エルは浮遊島に残ってもらいます。
ルドガーニーベルングの具現化に利用されるかも知れないからだな。
アトワイト今がチャンスであるという話はわかったわ。まだ療養が必要な人たちがこの場所にいなければならないという理由も。
アトワイトけれど、今から帝都に向かうのならまだ焦る必要はなかったわよね。ゲートを使っても帝都まではかなり時間がかかる筈よ。
リフィル普通に考えればその通りなんだけれど……。
ユリウスキール研究室は異世界の異能の集まりだからな……。
キールパスカルとハロルドがこの浮遊島に推進装置をつけたんだ。つまり――
二人島が動く。
アトワイト! ?

Character2話【16-2 アジト2】
イクスそれにしても、妙な気分です。
ジェイドおや、浮遊島を動かすことがですか ?それとも――まだ何もわかっていないから、ですか ?
イクスやっぱりジェイドさんは何でもお見通しなんですね。
イクス帝国の目的はわかっています。けれどその為に手間暇を掛けている動機――いえ、そもそもデミトリアス陛下の動機がわからない。
イクス何故ティル・ナ・ノーグを滅ぼしてしまうのか。ニーベルングを甦らせることに固執するのか。
イクスそれに、帝国以外の思惑はさらにわかりません。バロールやダーナがどうしたいと思っているのか。フリーセルは何の目的を持って動いているのか。
ミリーナフリーセルに関しては、想像がつくような気がするわ。
イクスミリーナ、それは…… ?
ミリーナ復讐よ。以前のメルクリアと同じ。セールンドへの復讐とビフレストの再興。
ミリーナフリーセルが具現化された存在だとしたらフリーセルの記憶は具現化された時代で止まっている。
ミリーナそこに今現在のティル・ナ・ノーグの情報を入れたらセールンド王国――ゲフィオンとその仲間がこの世界を玩具にしているようにしか見えないでしょうね。
ミリーナだからどう動くのか、までは読めないけれど……。
ジェイドええ、そうですね。とはいえ、私はフリーセルの存在に関しては大勢に影響がないと考えています。
ジェイドただ、些末な部分では問題になりえるでしょう。だからテネブラエを監視に向かわせました。
イクスそうですか……。
ジェイドおや、久々に心配性の虫が騒ぎ出しましたか ?ではもう少しだけ。デミトリアスの動機などわからなくても構いません。
ジェイド人間はわからないものに不安や恐怖を感じる。だから動機を知って、理解したつもりになって安心したいのです。
ジェイドわからないものに囚われすぎる必要はない。動機がわかったところで理解できるとも限りません。
イクスつまり、今できることに最善を尽くせってことですか ?
カーリャむむ、ジェイドさまのくせにまともなことを言いますね。
ミリーナカーリャったらすぐそうやってジェイドさんに突っかかって。本当はジェイドさんが好きなんじゃない ?
カーリャはああああああ ! ?
ジェイドおや、それはそれは。光栄ですね。私もカーリャが好きですよ。ええ、もう、解剖したいぐらいに♪
カーリャいやああああ ! ? ミリーナさま ! ?カーリャ、『鏡精のひらき』にされちゃいますよ ! ?
アトワイトこの浮遊島を飛空挺のように改造したということ ! ?
リッドこの島が動くのかよ ! ?
フォッグぐわははは ! そいつはすげえな ! ?
アニー島が動く……。でも、確かにそれなら地上を移動するより遙かに早いです。
リフィルええ。だから、すぐ帝都上空へつけることができるわ。もっとも現時点でこの浮遊島を動かせるのは魔鏡術が使える鏡士だけだけれど……。
セルゲイ――ん…… ? な、何だ…… ?
シャーリィセルゲイさん ? どうしたんですか ?
ルカセルゲイさんの顔色が悪い……。まだ車椅子も負担なのかも……。
ジュードここに待機しなければいけないならベッドを持ってこよう。テントか何かもあればいいんだけど。
リーガルベッドは医務室のものを運べばいいだろう。テントはイクスたちに―― ! ?
リーガルなん……だ…… ? 胸が…………ッ !
マウリッツグゥ……。
シャーリィマウリッツさん ! ?
レイス……っ、リッド……。
リッドおい、レイス、どうした ! ?
カルセドニーこれは……スピリアが……――
フォレスト息が……カハッッ ! ?
アニーカルセドニーさん ! フォレストさん !
アニー駄目です ! 脈が速すぎて――
ピオニーまず……い……。ジェイドを……呼べ――
フォッグぐっ……。
マオピオニーとフォッグまで ! どういうこと ! ?
ワルターメルネス……メル……ネス……ッ !
シャーリィワルターさん ! ? ワルターさ……――
マオあ……ボクも……きゅうにねむく……――
キールな、なんだ…… ! ? 人体発火…… ! ?
リフィルみんなが炎の柱に…… ! ?いえ、シャーリィとマオは気絶しているだけみたいだわ。
リッド一体どうなってんだ ! ?
ジュード……この炎は熱くないみたいだ。ただの炎じゃない。
イクス――な、何ですか ! ? 炎の柱がこんなに沢山 ! ?
ミリーナ熱を感じない……それにこの感覚……。アニマを放出しているんだわ。
カーリャうう……ぶるるるるるるるるっ ! ? き、きまひた ! ?ひしゃびしゃにブルブル来てましゅよお ! ?
ジェイドカーリャのこの反応は、光魔の鏡や鏡映点を発見した時と同じですね。しかもその時より激しく震えています。
ジェイド……とすると、これがルグの槍なのでしょうね。
一同! ?
ユリウス何故そう断言できる ?
ジェイド光魔の鏡は虚無とこの世界を繋ぐゲートでした。鏡映点も元の世界からアニマをこの世界に届ける存在です。
ジェイドつまりどちらも異世界や異次元との繋がりを持ち恐らく鏡精はそういうものに反応するのでしょう。
ジェイドルグの槍もまた分史世界とティル・ナ・ノーグを繋ぐ存在ですから。
ユリウス分史世界が創られたのか ?
ジェイドそれは観測機を見てみないことにはなんとも言えませんが――
ジェイドルドガー、エルを捜してきて下さい。大至急です。
ルドガーえ ? あ、ああ、わかった !
ユリウス俺も行こう !
アニーあの ! みんなは大丈夫なんですか ! ?
ジェイドこちらの計算通りであれば、まだ大丈夫な筈です。
ジェイドアトワイト、ルカ。管制棟へ向かって下さい。ハロルドがいる筈です。ルグの槍が起動したと伝えればあらかじめ準備していた観測器を渡してくれます。
ジェイドそれを持ってきて下さい。
アトワイト了解。――ルカ、行きましょう。
ルカは、はい !
リフィルそれにしても、帝国の動きが予測より遙かに早いわ。計画を前倒しするしかなさそうね。
イクスこっちの準備が終わる前にルグの槍が起動するなんて……。
カーリャどうするんですか ! ?まだカイウスさまたちからの連絡はありませんよ ! ?
イクス見切り発車になるけど、やるしかない。
イクス行くぞ、ミリーナ。
ミリーナええ !ジェイドさんたちの作戦通り【贄の紋章】を無効化して、ルグの槍を鎮めましょう !
アニーでも、本当にルグの槍が起動したんですか ?だとしたら、どうしてシャーリィさんとマオだけは無事なんでしょうか ?
ジェイド……想像は付きます。ですが、その話は後にしましょう。今は時間が惜しい。
ジェイドイクス。浮遊島を帝都上空へ !やり方は先程教えた通りです。
イクスはい、やってみます !
イクスミリーナ。俺はしばらく操縦に集中する。何かあったら浮遊島の指示はミリーナに任せるよ。
ミリーナ了解よ。ジェイドさん、イクスに付いていてあげて下さい。
ジェイドええ、そのつもりですよ。

Character3話【16-5 テルカ・リュミレース領 森】
アレクセイなるほど、あの盗賊……フリーセルは新大陸にいたか。その後の足取りはどうなった。
デクスわからない。救世軍に回ってきたのは奴と遭遇したって話までだ。
デクスで、そっちは何か見つかったか ?イエガーって奴の一件からずっとフリーセルを追ってるんだろ。
アレクセイ共有できるような情報は特にない。
デクスそりゃないだろ。色々動いているのはわかってるんだ。
デクスいつもオレたちの情報ばっか吸い上げて。お前らは一応救世軍と提携してるんだぞ。その辺、ちゃんとわかってるか ?
アレクセイああ。きみたちには感謝しているよ。この領土で騒いでいた輩の正体がわかったことで我らが帝国に先手を打つ方法も見えてきたのだからな。
アレクセイ定時連絡ご苦労だった。お引き取り願おう。
デクスううっ……なんてことだ。手ぶらで帰ったらアリスちゃんをがっかりさせてしまうじゃないか !
デクスアリスちゃんにあんなことやこんなことをしてもらう計画がああああ !
アレクセイ私の知ったことではない。せいぜいご機嫌をとってやりたまえ。
デクス仕方ない。そろそろレイヴンが来るはずだしそっちから何か情報をもらうか……。
アレクセイレイヴンだと ?
デクスはっはっはっ ! 気になるのか騎士団長殿 !実はここで落ち合う約束をしてるんだ。あいつも各地の情報を集めて回ってるからな。
アレクセイまったく、お前たちは……。私の拠点を勝手に――
アレクセイ一派兵士A失礼します、アレクセイ様。
アレクセイどうした。
アレクセイ一派兵士A捜索中のフリーセルですがアジトと思われる場所を突き止めました。
デクスおおっ ! ?
アレクセイそうか、よくやった。
アレクセイ一派兵士Aついては、周辺の監視を強化したく――
アレクセイ待て。――デクス、ここからは席を外してもら……。
デクス……どうした、アレクセイ ?何だか急に顔色が……。
アレクセイ……っ !
レイヴンだからぁ、ここで救世軍のデクスと待ち合わせしてんの !おたくの大将だって知ってるはずよ ? ……多分。
アレクセイ一派兵士Bわかったから、もう少し待て。今は大事な報告を――
レイヴンなんだありゃ ! ? 火…… ! ?
アレクセイ一派兵士Aアレクセイ様っ ! アレクセイ様ーー ! !
アレクセイ一派兵士Bあれは…… ! ? あ、貴様、待てっ !
レイヴンおい、どうした ! 何が起きた ! ?
レイヴン! ?
デクスレイヴン ! ア、アレクセイが !アレクセイが突然火柱になった !
レイヴンこれが……アレクセイ…… ?
同時刻 アレウーラ領
ゴーシュいい仕入れができたな。この商品なら高値で取引ができそうだ。
ドロワットでも大量に買いすぎ~。すっごく重いのねん……。イエガー様は大丈夫 ?
イエガーイエース。ノープロブレムね。
ゴーシュですが、まだお体が辛いでしょう ?ここからは私が預かります。
ドロワットあっ、ゴーシュちゃんずるい !イエガー様の荷物なら私が預かるのよん。
ゴーシュさっきまで重いと愚痴を言っていたくせに。
イエガーフフフ……ユーたちとこうしているとまるで普通の商人のようですね。
イエガーこんなドリームのような日が――………………。
ゴーシュイエガー様 ?
ドロワット……止まって、ゴーシュちゃん。あそこにいる人、見覚えあるぬん。鏡映点リストにあった、え~っと……ロミー ?
ゴーシュだとしたら敵だぞ。イエガー様を守れ !
ロミーくっ…… ! ? 間に合わない――
二人! ?
ゴーシュイエガー様、見ましたか ! ?あの人、火の柱に !
イエガーっ ! !
ゴーシュえ…… ? あ……あああっ ! !
ドロワットイエガー様あああああっ ! !
同時刻 アセリア領
クレスモリスンさん ! モリスンさん ! ?ミント、この火は術でどうにかならないのか ! ?
ミント術が効きません !火のようですが、何かが変です……。クレスさん、すぐにアジトへ連絡をお願いします !
クレスわかった !
クレアこちら浮遊島のクレアです。クレスさんですね ?
クレスクレア、緊急なんだ。モリスンさんが突然火に包まれた !術ではどうにもならないらしい。
クレアモリスンさんも ! ?さっきから同じ報告をいくつも受けているの。
クレス他にも火柱になった人がいるのか !
クレアええ。少しだけ待ってて。――マリアンさん、そっちはどう ?
マリアンはい。準備できました !
マリアンクレスさん、今から報告のあった方たちと通信回線を開きます。皆さんと状況の確認をお願いできますか。
クレスわかった。すぐに繋いでくれ !
レイヴン――突然の発火、本人以外周囲に被害はなし、か。アレクセイと同じだな。
ゴーシュイエガー様もだ。ロミーと思われる人物とほぼ同時に……っ。
ドロワットううっ、イエガー様ぁ……。
マークお前らの話だと、火柱化したのは全員領主か従騎士だった奴らみたいだな。
マークケリュケイオンでは帝都から上がる火柱を確認した。あっち側にいる領主たちかもしれねえ。
マークとはいえ、ウチの聖女様は問題ないんだが……。
クレスエルレインさんか。他の領主との違いはなんだろう。
マーク違い……そうか、【贄の紋章】だ。エルレインは紋章を入れられてないって話だぜ。
キールその通り。贄の紋章を入れられた者が火柱になっているんだ。
マークキールか ! どうなってんだか説明しろ。通信は急に途絶えるわ、浮遊島は動いてるわ……。そっちにいる元領主や従騎士はどうした。
キール同じだよ……。火柱になった。
全員! !

Character4話【16-6 アジト5】
ファラレイス……フォッグ……。本当にこの火の柱が二人なの…… ?
メルディキールたち、すごく頑張ってるよ。きっと何とかしてくれる !
チャットそうですね……。今はキール研究室の指示を待つしかありません……。
リッドオレたちは何もできないのかよ !
? ? ?……頼む……助け……。
リッドえっ ! ?
ファラどうしたの ?
リッドレイスの声がした。
ファラレイス ! ? わたしには何も聞こえないよ ?
メルディメルディも。リッドにだけ聞こえてるか ?
チャットフォッグさんは ! ?フォッグさんの声は聞こえるんですか ! ?
リッド悪ぃ、ちょっと静かにしててくれ。――おい、レイスだよな。返事してくれ !
レイスリッド……、私の声が届いているのか。
リッドああ、聞こえてるぜ。オレだけみたいだけどな。
レイスそうか。だとすると極光術……セイファートの試練が関係しているのかもしれない。
リッドなんにしろ無事……じゃねえかもしんねえが意識はしっかりしてんだな。
リッドレイスも含めて、贄の紋章を付けられた奴は火柱になっちまったんだ。覚えてるか ?
レイスああ、朧気に。それに贄の紋章の者たちとは意識で――心の世界で繋がっているようだ。
リッドってことは、フォッグや他の連中も ?
レイスああ。フォッグは側にいる。他にも何人か。今、姿が見えない者たちともすぐに出会えるだろう。
レイス私を介せば、心の世界にいる他の者にも状況を伝えられる。そちらではどうなっているのか、教えてくれないか。
リッドわかった。さっきも言ったけどあの時集められた連中は突然火柱になったんだ。
リッドん ? 違うな。シャーリィとマオは無事だった。
レイスシャーリィとマオ…… ?おかしいな。二人ともこちらにいるぞ。
リッドそんなはずねぇよ。気は失ったけど、火柱にはなってない。……あ、もしかして…… !
リッドレイス、ちょっと待っててくれ。
ファラちょ、ちょっと、リッド ! ?
メルディ一人でぶつぶつ言って、どうかしたか ?
リッドミリーナに話があるんだ !
リッドソーマ使いをここに呼んでくれ !レイスたちを助けられるかもしんねぇ。
リフィルそう……。レイスの声が聞こえたのね。
ミリーナ確かに、マオやシャーリィにスピルリンクすればその心の中で、火柱になった人たちと会えるかもしれないわ。
リッドまあ、オレの思い付きだから上手くいくかわかんねぇけど……。
シング大丈夫、まかせて。オレも早くカルを助けたいんだ。
シングけど、いつもと状況が違うからイクスかミリーナも一緒に来てもらえるかな ?
ミリーナもちろんよ。イクスは今浮遊島を動かしているから私だけになるけど、いいかしら。
シングうん。じゃあ、まずはマオからリンクしてみよう。上手くできなかったら次はシャーリィってことで。
ミリーナそうね、それで行きましょう。イクスと、それにヴェイグさんやセネルさんにも話を通さなくちゃね。
カーリャそれではカーリャはイクスさまに知らせてきますね !
ミリーナええ、お願い。
ファラミリーナ、わたしも一緒に心の中に行くよ。
チャットあっ、ボクも行きます ! カーリャさんは鏡精だから人数にカウントされないとして、あと二人は心の中に連れてってもらえますね ?
アニーそれなら、わたしも連れて行って下さい。マオと話ができるかも知れないんですよね。
ミリーナみんな……ごめんなさい。正直、リスクがないとは言えないの。今回は私とシングだけで入るわ。
ファラでも、ここでじっとしてるなんて……。
チャットボクもです……。さっきは待つしかないって言いましたけど本当は、何もできない自分が悔しかったんです……。
メルディ気持ちわかるよ。メルディも行きたい。
チャットそうですよね !
メルディでも、ここで無茶して何かあったらレイスやフォッグは悲しむな。
ジュードアニーもだよ。僕たちはシャーリィとマオの体に異変がないか見ていてあげよう。そうすることがみんなの助けになる筈だよ。
三人…………。
アニーそうですね。ジュードさんの言うとおりです。こういう時こそ、何が大事なのかしっかり見極めないといけませんよね。
チャットすみません……。ボクとしたことが、冷静ではありませんでした。
ファラわたしも、困らせてごめん。
リッドそう思うんならオレたちはこっちで、やれることをやろうぜ。
ファラリッドは冷静で凄いね……。
リッドそうでもねぇって。オレは今、レイスと繋がってるからお前らより落ち着いてるってだけだ。
リッド仲間を……誰かを失うかもって思うとさやっぱ怖ぇよ。
ファラそうだよね。みんな同じなんだよね。
リフィルあら、私が説得するまでもなかったわね。偉いわ、みんな。今はあらゆる状況に対応できるよう、冷静でいなくてはね。
ファラはい。
ファラミリーナ、シング、気を付けて行ってきて。みんなをお願い。
ミリーナええ、ファラたちも浮遊島の方を頼むわね。

Character5話【16-9 仮想鏡界1】
マークⅡじゃあ、お前らはこっちで待っててくれ。俺はジュニアの様子を見てくる。
ガイなんだ、早かったな。メルクリアには会えたのか ?
ルキウスうん。だけど、まだ体調がよくないみたいだから少しだけ話をして、あとは横にならせたんだ。また後で様子を見てくるよ。
カイウスなあ、リグレットさんの方はどうなってる ?治療は上手くいってるのかな。
ガイまあ、心配ないだろ。ティアとヴァンもいるし。――っと、噂をすればだ。
ティア待たせてごめんなさい。教官の傷はすっかりふさがったわ。
ティア今、ナーザ将軍たちにバルドやコーキスたちのことを報告しているところよ。
カイウスそうか ! 安心したよ。
ガイな、心配なかっただろ ?
ヴァンガイラルディア様、ご面倒をおかけしました。リグレットを連れてきて頂き、感謝申し上げる。
ガイ別に面倒なんて思っちゃいないよ。ついでと言うと語弊はあるがこっちも用があって来てるからな。
ジュニア皆さん、お待たせしてすみません。
マークⅡおい、待てってジュニア。本当にもういいのかよ。
ジュニア大丈夫だってば。さっきはおかしなアニマの動きで一瞬気持ち悪くなっただけ。
ディストまったく、なんなんですか。忙しい私を呼び出すからには納得いく理由と、その対価が必要ですよ !
ガイ理由も対価もあると思うぜ ? ま、とりあえずこの手紙を読んでくれ。
ジュニアキール研究室からですね。拝見します。
ジュニアこれは……。
ジュニア――本当に、こんなことが可能なんでしょうか。逆しまの紋章で贄の紋章の作用を相殺するなんて……。
ガイ俺の知識じゃ可能かどうかを論じることはできないが少なくともジェイドは分の悪い賭けをするような人間じゃないぜ。
ガイ今日はその計画のための計測装置も持ってきた。
ジュニアでも、扱うには相当の知識が必要ですよね ?
ガイそうなんだよ。そこで、だ。
ガイディスト、受け取れ。ジェイドからお前さん宛ての手紙だ。
ディストジェイドから……私に ! ?
ガイああ。是非とも頼むだとさ。今回の件はお前に託したってことだろ。親友の、な。
ディスト親友の私に……。そうですか ! そうでしょうとも ! ジェイドの思惑を理解し、成し遂げ得る頭脳の持ち主がこの薔薇のディスト様以外にいるものですか !
ディスト仕方ありません、これほど私を欲するというのなら少しくらいは手伝ってあげましょう。――マーク、まずは手紙を飾る額縁を用意なさい !
カイウスなあ、なんかすげえ嬉しそうだけどあれって利用されてるだけなんじゃ……。
ルキウス兄さん、しーっ。いいんだよ、これで。
ガイまあ、今のところ誰も損しちゃいないからな。若干気が引けるが機嫌よくやってくれるなら何よりだ。
ティアそういえば、兄さんも贄の紋章が入っているでしょう ?この作戦の間だけでも、私たちのアジトにいた方がいいんじゃないかしら。
ガイそうだな。ここじゃ魔鏡通信も繋がらないし。どうだ、ヴァン。
ヴァン確かにここはジュニアの仮想鏡界――心の中だ。万一のことを考えると、外に出た方がいいのだろうな。だが、鏡士たちの下へ行く必要は――
ヴァン! ?
ティアどうしたの ?
ヴァン今……何かが私の精神に……心に触れてきた。
ティア心って、ローレライ ?
ヴァンいや、これは別の……。誰かが呼んで…………。
ティア兄さん ! ?
ガイおい、ヴァン ! 目を開けろ、ヴァン !

Character6話【16-10 心の世界1】
? ? ?こっちだ。私たちのところへ早く――
ヴァンここは…… ?
? ? ?おーい、おーい、やっほー !
? ? ?聞こえていたら返事をして !
ヴァンこの声たちか、呼んでいたのは。――私はここだ。
レイスああ、来たようだ。ミリーナ、こっちだ。
ミリーナヴァンさんだわ !やっぱりここにいたんですね。
ヴァン鏡士のミリーナか。
ミリーナそうです。直接お会いしたのは初めてなのによくおわかりですね。
ヴァンそれはお前が初対面で私が『ヴァン』だと気付いたのと同じことだ。
ヴァンお前たちが用意した鏡映点リストとやらには一通り目を通してある。無論鏡士の情報にも、な。
ヴァンそれで、「ここにいた」とはどういう意味だ。
ミリーナ火柱になった贄の紋章の人たちはこの心の世界――スピルメイズで繋がっているんです。
マオヴァンも、気が付いたらここにいたんでしょ ?
ヴァンいや、私はビフレストの拠点にいたのだが心の中で、お前たちの声が聞こえたのでな。その声を辿ってみたらここに着いたというわけだ。
マオそれじゃ、火柱にはならなかったの ?
ヴァン火柱 ?
ピオニーそこにいるのは、ヴァン・グランツ……か…… ?
ヴァンピオニー陛下 ?そうか、あなたも領主でしたな。直接お目に掛かるのは何年ぶりか。
ピオニーはは……。これが直接かはわからんが……な……。
シャーリィミリーナさん、あっちにカルセドニーさんとセルゲイさんがいました !今、シングさんが連れてきてくれます。
シャーリィまだ見つからない人もいますしシングさんが戻ったらわたし、もう少し先まで捜してきますね。
ワルター待て、メルネス……これ以上は危険だ……。俺が……。
シャーリィわたしは大丈夫ですから。ワルターさんこそ、無理はしないでください。
シャーリィマウリッツさんも、ワルターさんと一緒にここにいてくださいね。
マウリッツ力になれず……すまないな……。
ヴァン……黒衣の鏡士。いや、ミリーナと呼ぶべきか。
ヴァン一体何が起きている。
ミリーナはい、わかる範囲で説明しますね。
ヴァン――なるほど。そのソーマ使いの話どおりならばスピルーン……心核のある場所が、贄の紋章の者たち全員で繋がってしまっているわけだな。
ミリーナはい。ですから多少のバラつきはあっても全員この付近にいる筈なんです。
ヴァンそれで捜して回っていると。――貴公は外への連絡役を担っているのだな。
レイスああ。だが、他の者よりは動けるもののやはり体の方は思うようではないんだ。そういう意味では、あまり役に立てそうもない。
フォッグ何言ってんだぁ……。今は、お前がアレなんだぜ……。
カーリャアレ ? 頼り、ですかね。
フォッグおぅ……ソレだ……ソレ……。ぐあははっ……はは……。
カーリャ大丈夫ですか ! ?カラ元気が過ぎますよ、フォッグさま。
ヴァン事情はわかった。しかし、君たちも紋章付きの筈だが何事もなかったというのは不思議だな。
マオないわけじゃないヨ。火柱にはならなかったけどボクとシャーリィは気を失って倒れちゃったんだ。ヴァンは何も感じなかった ?
ヴァンリグレットの治療に当たっている時にわずかに眩暈を感じたが……。特に変化はなかった。
ヴァン私はジュニアの仮想鏡界の中にいたからな。外にいるのとは何か作用が違っているのかも知れない。
シャーリィ不思議ですね。紋章を付けられたのは同じなのにわたしたち、他の人と何が違うんでしょう。
マオそれに、ヴァンの話だとジュニアの方も特に異変がないみたいだよね。でも、ジュニアにも贄の紋章があるんでしょ ?
ヴァン先程ガイたちが、ジュニアの贄の紋章のデータを求めて訪ねてきた。
ヴァンつまり、アジトの研究者たちは、ジュニアの贄の紋章が他の者とは違う状態だと察していたのだろう。
ヴァンジュニアがこの場にいないことは不自然ではないのかも知れぬな。
カーリャ違うといえば、シャーリィさまやマオさまは領主でも従騎士でもありませんよね。確か、グラスティンやサレに――
二人……。
カーリャす、すみません !嫌なことを思い出させちゃって。
シャーリィううん、大丈夫。あの時のことはもう……。
シャーリィ……あっ ! そういえばグラスティンはわたしとウンディーネとの繋がりに気づいて紋章をいれたみたいだった。
ミリーナそうだったわ。シャーリィはウンディーネと深く繋がっているのよね。確か、ヴァンさんも――
ヴァンああ。私の中にはローレライがいる。
マオじゃあ、きっとボクも精霊関係だヨ。こっちの世界でいう精霊がボクのお母さんなんだ。
ミリーナそうか……そうだったのね。何らかの形で精霊の加護を受けた人が火柱にならなかったのかもしれない……。
マオあれ、でもレイスは ? 火柱になっちゃったケド他の人よりは元気だし。やっぱり精霊に関係あるの ?
レイスいや、ないな。だが、私は元の世界でセイファートの……神の試練を受けている最中だった。そのおかげか、リッドとも通じている。
シャーリィじゃあ、それ以外の人たちはこのまま……。
カーリャあっ、シングさまです !
シングカル、しっかり ! ミリーナたちの所までもうすぐだ。
カルセドニーシング……、僕より、セルゲイの様子が……。
セルゲイ…………。
シングセルゲイさん ?
全員! ?
マオセルゲイの姿が崩れて……消えちゃった !
シングセルゲイさん ! そんな……。
カルセドニーいや……消えた跡を……よく見ろ……。
シング跡…… ? これ、心核だ !
シャーリィミリーナさん、どういうことでしょう……。
マウリッツ…………うう。
ワルター………。
シャーリィマウリッツさん、ワルターさん !
カーリャミリーナさま、みんなどんどん弱ってます……。
レイス私も感じる。少しづつだが力が失われているんだ……。
シングそれじゃ、みんなセルゲイさんみたいに姿が保てなくなるの ! ?
カーリャどうにかなりませんか、ミリーナさま !
ミリーナ……隠していても仕方がないからはっきり言うわね。
ミリーナルグの槍を起動すると、贄の紋章を持った人は世界を創るエネルギーの柱として消費されるとジェイドさんも言っていたわ。
ミリーナみんなの体から放たれていたあの炎はアニマの放出現象なの。
ミリーナアニマは人の魂。精神エネルギーよ。これを放出しているということは徐々に精神的な死を迎えようとしている。
ミリーナだからまず、心の世界で存在が保てなくなった。
カーリャセルゲイさまは元々回復しきってなかったから最初に消えちゃったんですね。
ミリーナええ。やがてこれは心核に影響を及ぼすと考えられるわ。
ヴァンつまり、心核も消費され、消滅するということだな。
ミリーナええ。恐らくは心核が燃え尽きてしまうでしょうね。
シャーリィそんな…… !
レイス今の話をリッドに伝えよう。私の意識がはっきりしているうちに……。

Character7話【16-12 アジト8】
リッド――さっきレイスから届いた話は、これで全部だ。この通信でアジト全体に話は伝わると思うけど聞いてなさそうな奴には直接教えてやってくれ。
ジーニアスあんな状態だけどリーガルは心の世界の中にいるんだね。
プレセアですが、弱っていると言ってました。一刻も早く元に戻さないと取り返しのつかないことになるかもしれません。
しいな……試してみるか。
ジーニアスしいな ? 何する気。
しいなヴェリウスを呼んでみるのサ。
ジーニアスヴェリウスって心の精霊の ?
しいなああ。前にあいつと会った時あたしとは繋がりがあるって言ってたんだよ。手を貸してもらえないか頼んでみる。
プレセアお願いします。
しいな……ヴェリウス、あたしだ、しいなだよ !答えとくれ。仲間が危ないんだ !
しいな……………………。
? ? ?……………………。
ジーニアスどう ? ヴェリウスの声、聞こえた ?
しいな…………駄目みたいだ。何か気配は感じる気がするんだけどね。ダメ元でもう少し声をかけ続けてみるよ。
ジーニアスうん、頑張ってね、しいな。
しいなああ。大勢の仲間を目の前で失うのはごめんだからね。
しいなヴェリウス……頼むよ…… !
イクス帝都上空、停止します !
ジェイドお見事。ぴったり真上のようですね。
ジェイドミリーナの補助がなかった分、キラル分子の不足による出力低下の恐れもありましたが問題なかったようで良かったです。
リフィル浮遊島が停止したから、様子を見に来たわ。イクス、大丈夫 ?
イクスはい、俺の方は全然。あの、みんなの様子はどうですか ?
リフィルええ。そのことも伝えなくてはと思って。
イクスそうですか……。早く贄の紋章を無効化しないと。ジュニアの方はどうですか ?何か連絡は来ましたか ?
リフィルいいえ、残念ながらまだよ。本来はもう少し余裕のある中で進める計画だったから時間がかかるのは仕方がないわ。
ジェイドそうですね。あちらのアジトは外界を遮断していますし今の状況を知らない可能性も高い。
ジェイドまあ、それでもデータはすぐに来ると思いますよ。念のために手は打ってありますから。
リフィル手 ? そういえばあなたガイたちに手紙を渡していたけれど、それのこと ?
ジェイドええ。作業が早まるおまじないです♪
リフィルでは、ジュニアのデータが届いたらすぐに起動システムを解除できるように準備しておきましょう。
イクスそれじゃあ、俺の方も始めますね。
リフィルごめんなさいね。敵の動きが変わった以上本来は計画を練り直すべきなんでしょうけれど……。
イクスいえ、火柱になったみんなを助けるためにもできることをやらないと。
ジェイド不本意ながら、やや確度の低い作戦になってしまいますが、これは仕方がありません。ただ、やることは同じです。
ジェイドイクスはバロールの血族ですからね。あなたの中にはバロールの残滓が存在している。今度はこちらがバロールの力を拝借します。
イクスはい。父や母の遺言が本当なら俺にはルグの槍に干渉する力があるはずですから。
女性の声世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。
イクスバロールの力で、ルグの槍を起動する装置が帝都のどこにあるか感知して、装置を解除、破壊する。それでいいんですよね。
リフィルええ。こちらはギリギリまでジュニアからの連絡を待つわ。
リフィルルグの槍や分史世界の動向次第では、ジュニアのデータなしで、逆しまの魔導砲を撃つことになる。
イクスその前に、俺が起動装置をなんとかできれば危うい状態で、逆しまの紋章を打ち込む必要はありませんよね。
リフィルそれはそうだけれど……無理をしては駄目よ。バロールの力を使うことも帝都へ潜入することも危険なんですからね。
イクスはい。みんなに迷惑は掛けませんし無茶も……なるべくしません。
リフィル迷惑なんていくらだって掛けていいのよ。だからなるべくではなく、絶対に無茶はしないこと。よくって ?
イクスはい、リフィル先生。
ジェイドあなたの生徒は問題児が多いですねぇ。
リフィル素行で言えば、誰かさんよりは遥かに優秀です。
イクスあはは !
イクスそれじゃあ、まず浮遊島周辺のアニマの流れを観測します。
ジェイド浮遊島には、様々な観測装置が設置してあります。あなたの足下の魔鏡陣は、浮遊島の操縦だけでなく観測装置とも連携していますので、利用して下さい。
ジェイド鏡士であるあなたなら、特別な装置がなくてもアニマの流れは感じ取れるでしょうが補助的にでも装置を使う方が負担が少ないでしょう。
ジェイドちなみに少し前まで、リタやパスカルが改良を加えていましたから、性能の方もかなり上がっている筈ですよ。
イクスありがとうございます。本当に、みんなには感謝だな。――さて、と。
イクス(火柱……アニマ……、浮遊島……帝国……。テルカ・リュミレース……アセリア……アレウーラと――)
イクス(……ん ? 周りが発するアニマに比べて火柱から感じるアニマは『歪んで』いるみたいだ)
イクス(どういうことだ ? これがルグの槍特有のアニマなのか ? だとしたらこれと同じようなアニマが帝都から出ていないか確認すれば――)
イクス(――見えた ! )
バロール(――邪魔だ)
イクス(この感じ……バロールか ! ? )
バロール(ルグの槍に手を伸ばしてきたか。これは俺の得物だ。気配を辿ることすら不敬である ! )
バロール(どけ ! )
イクスくっ ! ?
二人イクス ! ?

Character8話【16-13 墓守の街】
バロール――大人しくなったか。我が末裔にも拘わらず勝手をするからだ。
バロールさて……、聞こえるか、鏡精喰いの王よ。ルグの槍は起動した。
バロールその槍は、俺がルグと共にこの世界を創った時に振るった武器だ。返してもらう。
バロール起動システムから、『槍の本体』を外せ。
デミトリアスそれはできない。本体を外せばこれから創る分史世界とティル・ナ・ノーグを繋ぐ道がなくなってしまう。
バロールなぜ拒む。お前の望みは世界への贖罪ではないのか ?
デミトリアス……その通りだ。この世界は罪人の方舟だ。だからこそ、世界をあるべき姿に戻すしかない。
イクスあれ……、ここはスピルメイズか ?確か声がして……。
イクスそうだ、あの声 ! あれはバロール……。
? ? ?気が付いたな。
イクスえっ、ナーザ将軍 ?
? ? ?違うよ。俺を覚えてないのか ?
イクスっ ! まさかバロール ! ?
? ? ?だから違うって。もしかして久しぶり……なのかな ?また会えてうれしいよ、もう一人のイクス。
イクスあ…… ! 最初のイクス……さん ?
イクス1stああ。俺もさっき目が覚めたばっかりでさ。
二人一体どうなって――
二人えっ?
イクスもしかして、イクスさんもわからないんですか ?
イクス1stああ。きみの目が覚めたら聞こうと思ってた。俺も突然自我が回復して驚いてたんだ。
イクスイクスさんがいるってことはここは【アニマのるつぼ】ですか ?俺は死にかけてるのか……。
イクス1stいや、ここはきみの心の中だ。【アニマのるつぼ】で溶けていた俺がここにいる方が変なんだよ。
イクス1st切っ掛けがあった筈だけどそっちでは何があったんだ ?
イクス切っ掛け……。ルグの槍の起動に干渉しようとしたらバロールの声が聞こえて……。
イクス1stやっぱりバロールか。よし、最初からきちんと説明してくれ。
イクス1st――間違いなくルグの槍が原因だな。ルグの槍が起動したことで俺のいた集合的無意識も外側と繋がったんだ。
イクス1stそれで【アニマのるつぼ】にいる筈の俺がきみの心と繋がって目が覚めたんだろう。
イクス1stそれにしても、俺たちはバロールの子孫なんだろ ?邪魔だの何だのと……。そういう性格だからバロールもビフレストから疎まれていたのかもなあ。
イクスはは……。
イクス(あ、相変わらずだな……この人……)
イクス何にしろ、イクスさんと会えて良かったですよ。
イクス1stああ。でも、こうなるとミリーナが心配だな。心の世界――贄たちのスピルメイズにいるんだろう ?きっとあっちも混乱してる筈だ。
イクスそう思います。でも、仲間がついていますから。あっちはミリーナに任せるつもりです。
イクス1st任せる、か……。
イクスえ ? まずかったですか……。
イクス1stいや、そうじゃないんだ。改めてきみたちは、俺とミリーナとは違う別の俺たちなんだなって思ってね。
イクス別に、見えますか ?
イクス1stああ。俺はミリーナを守ることを第一にしてきた。フィルのこともだ。
イクス1stこれ以上傷つけないようにとか危険な目にあわせないようにとか悲しい思いをさせないように……なんてね。
イクス1stでも、今のきみは――きみに絡みついたしがらみを断ち切ったんだなって。
イクス俺もミリーナも、みんなと出会って、影響を受けて色んなことを教わりましたから。
イクス1stああ。きみには自分だけの道が見えてきたんだな。
イクス前にイクスさんも言ってくれましたからね。全部捨てたっていい。俺たちは自由なんだって。
イクス1stそうだったな。俺もきみも違って当然なんだ。だからこそ……。
イクスイクスさん ?
イクス1st……頼みがある。俺たちの『後始末』を手伝ってくれないか。
イクス後始末 ?
イクス1stこうして自我を取り戻しても俺はやっぱり死者なんだ。外界に影響を与えることはできない。
イクス1stでも、イクスに力を貸すことはできる。だから、しばらくここに居候させて欲しいんだ。
イクスここって、俺の心の中に ?
イクス1stああ。色々と便利になると思う。例えば……、今、きみの鏡精がバロールのところへ向かってる。
イクスコーキスが ! ? 何でわかるんですか ! ?
イクス1st本当はきみもわかってる筈なんだ。バロールと『イクス』は繋がっている。感知していても気づいてないだけだよ。
イクス俺にも……。本当に俺にもわかるのか……。
イクス1stそれで居候の件は ? 家賃分は働くよ ?
イクスはは……。もちろん、構いません。
イクス1stよし、決まりだ。となると、まずはきみに目覚めてもらわないとな。
イクス1stそうしたら、バロールの心を手繰ってルグの槍を譲ってもらおう !
イクス譲って……はあ ! ?
イクス1st驚くことかな ? 父さんたちの遺言でもあるし君がやろうとしている計画にも必要なことだろ ?頑張ってくれよ、イクス !

Character9話【16-14 心の世界3】
カーリャモリスンさま ! アレクセイさま !カーリャの声、聞こえますか ?
モリスン……どう……にか……。
アレクセイ…………イエガー、は……。
イエガー…………。
カーリャイエガーさまの姿さっきより薄れている気がします……。
マオどんどん精神エネルギーが使われちゃってるんだ……。
ミリーナとにかく心核の燃焼を防がないと。何か手はないかしら。
マオ精霊が守ってくれればボクたちみたいに意識や姿を保っていられるのに……。
ヴァン……精霊の力か。精霊の加護があれば、火柱にならず姿も保てる。
ヴァンならば、今からでもその力を施せば心核の燃焼を防ぐか、できずとも遅らせる為の防御壁にはなるかもしれない。
シャーリィそれなら、わたしとマオさんとヴァンさんがこの場で精霊の力を使えば、その防御壁というものができるかもしれませんよね。
マオナイスアイディア ! やってみようヨ !
ヴァンだが、その効果がどれだけの範囲に及ぶかもわからん。心核がある筈だというこの場所を中心に術を展開するべきだ。
カーリャでは、急いで他の人たちも集めないとですね !
シングおーい、いたよー !
ミリーナフォレストさん、リーガルさん、会えてよかったです。
フォレストミリーナ……これを預かってくれ……。
ミリーナこれは、心核だわ。
フォレスト途中で……見つけた……。
リーガル私もだ……。……この二つ……。
ミリーナありがとうございます。二人とも、ここで休んでいてください。
シャーリィ全部で四つ……心核だけになってるということはこの人たちも弱っていたんでしょうね……。誰なんでしょう。
カーリャミリーナさま、わかりますか ?
ミリーナええ。以前は難しかったけど今はゲフィオンの記憶があるから読み取ってみるわね。
ミリーナこれは……オスカーという人。確かミッドガンド領の従騎士ね。
ミリーナこっちは……ロミーとチトセ。
カーリャアレウーラ領とレグヌム領の方ですね。
ミリーナそれにこっちは……。何かしら、声が聞こえる。
ミルハウスト私……は、ミルハウスト……。
マオミルハウスト ! ?
ミリーナミルハウストさん、心核だけどまだ意識があるんだわ !
ミルハウスト……陛下を……救い……心核を……取り戻して……。
マオ陛下の心核ってアガーテ様のコト ! ?
ミルハウスト……アガーテ様……守って……どうか…………。…………………………………………………。
マオミルハウスト ! ねえ、ミルハウストってば !
ミリーナマオ。落ち着いて。今ここでは姿を保てず心核になっているだけで彼はまだ生きているわ。
マオ……わかってる。
カーリャ心核の状態で伝えてくるなんて驚きました。こんなことができたのは心の中だからですかね。
シャーリィ……ミルハウストさんのアガーテさんを思う気持ちが強かったからじゃないでしょうか。こんなに必死で訴えて……。
マオボクもそう思う。けど、こうなるってことはミルハウストは帝国で弱るような仕打ちを受けてたってコトだよね……。
マオでも心核が見つかってよかったヨ。ここで守ってあげられるもん !
ミリーナ後は帝国側にいる筈の領主や従騎士たちね。早く探さないと。
シング……あのさ、少し気になるんだけどこれだけ集まってるのに、帝国でリビングドールになってる人って、まだ見つかってないよな ?
マオそうだね。アガーテ様は見つかってないし……。
シングオレ、ここにマリンさんがいるかと思ってたんだ……。
ヴァン疑似心核を入れられたまま火柱となっているのなら本来の心核は体の外に置かれている筈だ。故にここには居ないのだろう。
マオそれじゃ帝国の人は保護できないってコト ! ?
カーリャあーもー、魂と体が別って本当にややこしいです !ちゃっちゃと元に戻せればいいのに !
シングそりゃ、心核さえあれば……あれ ?
カーリャどうしました ?
シングここはさ、スピリアの一番奥で、今は贄の紋章の人たちみんなが繋がってるんだけど……。
シングスピリアの一番奥はスピルーンの――心核の置き場所だ。ってことは……。
シングリビングドールにされた人たちの心核を持ってくれば今なら元に戻せるし保護できるかも……。
全員! !
シャーリィシングさん、すごいです !
ミリーナ帝国から取り返した心核がいくつかアジトにあるわ。それをソーマ使いの誰かに持ってきてもらいましょう。
ヴァンだが、それ以外は物理的に心核を取り返さない限り救えないということになる。何か策を講じねばならんぞ。
ミリーナええ。それもわかっています……。
ヴァン水を差してすまない。ともあれ、まずは外へ連絡をしてもらおう。レイス、体は問題ないかね ?
レイスああ。いい報せは伝えがいがあるよ。
ヴァンでは、シャーリィ、マオ。私たちは精霊エネルギーによる防御壁の構築に取り掛かるとしよう。

Character10話【16-15 仮想鏡界2】
カイウスガイさん !ヴァンさんは気が付いた ?
ガイいや、まだだ。今はティアが付いてる。精霊絡みかも知れないからアステルも一緒だ。
カイウスリヒターとナーザは ?
ガイメルクリアの様子を見てから来るってさ。
ジュニア心配だな……。何が起きてるんだろう……。
マークⅡ心配もいいが、今はやることがあるだろう。お前はこっちに集中しろって。
マークⅡ――で、その装置はどうなんだ。
カイウス運んできてなんだけどさこんなに小さい機械で本当に計れるのか ?掌に収まるサイズだぞ。
ディスト愚問です。ふむ……この計測装置はハロルドのものですね。
ガイお、ご名答。さすがだな。
ディストフン、当たり前でしょう。音機関でも機械でも、作り手の個性というものは案外隠しきれないものです。
ガイ確かに、それは言えてるな。根性ねじ曲がった奴の音機関なんざ回路の繋がり方すら捻くれてることがあるしなあ。
ルキウスそれで、計測装置のセットアップにはどれぐらい掛かりそうなの ?
ディストもう終わりました。始めますよ。
カイウスえっ ! ? いつの間に……。
ディストではジュニア、こちらへ。計測を開始しますよ。
ディストこれで、贄の紋章の構造と進行具合、それにルグの槍起動装置への通信信号が計測できました。
ディストおや…… ?
マークⅡ……おい、どうした。失敗したなんて言うなよ ?
ディスト失礼な ! 私がこの程度の計測に失敗するはずがありませんよ !しかしこれは……。
ジュニアあの……、もしかして時間が掛かりそうとか ?
ディストいいえ、計測は成功です。こちらに情報を出しましょう。
ガイこんなに早く済むとはな。情報が届いたらジェイドもきっと喜ぶぜ。
ディストでは、もう一つ伝えなさい。ジュニアに刻まれた贄の紋章ですが対になる紋章がもう一つある筈です。
ジュニアえっ ! ?
ディスト本来はもう一人別の人物に刻まれた紋章と共に発動することでルグの槍へと変化するようですね。
ジュニア対になる紋章…… ?
ディストええ。何故かあなたの贄の紋章は本来の半分の能力しか有していないようです。
ディストどこかにもう半分の贄の紋章を刻まれた――あるいは、刻まれようとしている人物がいるということですよ。
ジュニア半分……。どうして半分なんだ ?もう半分は誰が……。
ガイもう半分の贄の紋章の持ち主が誰だか目星はつかないのか ?
ディストそんなことを私に聞かれても困りますね。
ジュニア僕をルグの槍にする意味……。ニーベルングの具現化、かな。やっぱり。いや、でも、それならルグの槍にする必要はないのか。
マークⅡまあ、言うことを聞かせるだけなら他にも色々と方法はありそうだからな。
マークⅡわざわざお前をルグの槍にする意味と半分の贄の紋章には関連がありそうだ。
ジュニア……そうだね。
ジュニア――皆さん、今から仮想鏡界の封鎖を解除します。そうしたら、すぐにこの計測データを浮遊島へ送信してください。
ガイいいのか ? これ以上グラスティンにつけ込まれないために外部との通信ができないようにしていたんだろう ?
ガイ俺たちはこの仮想鏡界を出てから通信をしても構わないんだぜ ?
ジュニアううん。こうなってくると、みんなと密に連絡を取れないことの方が問題だと思うから。
カイウスありがとな、ジュニア。
マークⅡとはいえ、ある程度の防御はしとかないとな。
ジュニアうん。もちろんそのつもり。それじゃ――行くよ。
ガイよし、魔鏡通信が繋がった。
ガイ――ジェイド、聞こえるか !データが取れた。今から送る。
ジュニア……あれっ ?
マークⅡどうした、フィル。
ジュニア仮想鏡界の防御を解除したときに、何か違和感が……。
マークⅡまさか、もう帝国の連中が何かしてきたってのか ! ?
ジュニアいや、外からの刺激じゃないよ。内側の方だったような……。
ナーザ(……上手く誤魔化したつもりだったがバレるのは時間の問題か。しかし、少しのあいだ時が稼げればいい)
ナーザ――待っていろ、バルド。
ジェイド――なるほど。あなたの心の中に、最初のイクスがいる、と。全くこの世界のいびつさときたら、頭が痛いですね。
イクスまあ、そんな訳なのでもう一度あの歪んだアニマを辿ってみます。
リフィルそんなすぐに大丈夫なの ?
イクスええ。問題ありません。
リフィルでも、ほんの数分とはいえ気を失っていたのよ。本当にこのまま続けてよくて ?
イクス本当に大丈夫です。最初のイクスさんもいますし次はバロールが干渉してきても対抗できると思います。
ジェイドそうですね。どのみちこの計画はあなたの存在ありきのものです。よろしくお願いします。
イクスわかりました。
ジェイドまずは、何としてもルグの槍の起動装置の場所を特定する。それから帝都に降下してもらいます。
イクス起動装置の破壊と、心核の回収ですね。それに可能なら鏡映点を救出する。優先順位もこの順序でいいですよね。
ジェイドええ、大変結構です。あなたは地頭がいいので、話が早くて助かりますよ。
リフィルイクス、気を付けなさい。あなたの頭の良さと物わかりの良さは悪い大人に利用されてしまうこともあるのだから。
イクスそ、そうですね。あの……それ、ジェイドさんのことじゃないですよね ?
リフィルええ、ジェイドのことです。
ジェイドはっはっはっ。相変わらず手厳しいですねえ。
イクス――っと、コハクだ。
コハクイクス、こっちの準備はできたよ。今から行ってくるね。ちゃんと保管庫の心核も持ってきたから !
イクスああ、頼んだ。心核の交換になるだろうから大変だと思うけどよろしくな。
コハクまかせて ! みんなをガンドコ助けてくるね !イクスたちも頑張って !
イクス……さて、俺たちも始めましょう !
バロールデミトリアス、これが最後の通告だ。起動装置から槍を外せ。
デミトリアス断る ! 私には私の信念がある !
バロールそうか。お前の意志はそれなりに尊重するつもりだったが、肝心なところで我が意に逆らうのならば自由意志など邪魔なだけだな。
バロール貴様は山ほど鏡精を喰らった。ならば此度は――
デミトリアス! ?
バロールお前が喰われろ。
グラスティンおい、デミトリアス、どういうことだ !何故ルグの槍が起動している !お前の命令か ! ?
デミトリアスああ、そうだ。
グラスティン何を考えている ! これでは計画が台無しだろう !今からでも起動装置を止めろ !
デミトリアスできんな。あれは俺の槍だ。
グラスティン…………あ ?
デミトリアスお前はこのまま見ていればいい。手出しは無用だ。
グラスティン……………誰だ、お前。
デミトリアス……………。
グラスティンああ、そうか。『俺の槍』か。ヒヒヒ。お前、バロールだな。
バロールわかったか。ならば下がれ。
グラスティンヒヒヒ…………ヒャハハハハッ !おいおい、それならデミトリアスはどうした、あ ?
バロール俺が喰った。
グラスティン………………喰った ?
グラスティンそうか……ヒヒッ……あいつを……。これはまた、ヒヒッ……。
バロールいらんだろう。あのような邪魔な意識など。
グラスティン…………貴様ァアアアアアア ! !
バロール無駄なことを。
グラスティン喰ったなら吐き出せ !デミトリアスを返してもらう !
to be continued