Character1話【17-1 アジト1】
コハクイクス、こっちの準備はできたよ。今から行ってくるね。ちゃんと保管庫の心核も持ってきたから !
イクスああ、頼んだ。心核の交換になるだろうからミリーナのことをよろしくな。
コハクまかせて ! みんなをガンドコ助けてくるね !イクスたちも頑張って !
イクス……さて、俺たちも始めましょう !
イクスさっきの歪んだアニマの感覚が残っているうちに起動装置の場所を突き止めます。
リフィルええ、お願い。それと何度も言うけれど、無理だけはしないこと。あなたの中の、もう一人のイクスもね。
イクスありがとうございます、リフィル先生。
イクス1st(へえ、先生、か……。優しくて素敵な人だな。俺のことまで気にしてくれるなんて)
イクス1st(こんないい先生に指導してもらえてイクスは幸せ者だな)
イクスははっ、確かに。
リフィルどうしたの ?
イクスいや、イクスさんがリフィル先生を褒めてたんで。優しくて素敵な、いい先生だって。
リフィルあら、そんな……、ありがとう、もう一人のイクス。
ジェイドええ。リフィル先生は本当に優しくて素敵な遺跡大好き先生ですからね♪
イクス1st(遺跡って ?)
イクスそ、それはまあ置いといて !
ジェイドそうですね。ではイクス、お願いします。
イクスあはは……。じゃあ、始めます。
イクス(あの時に見えた歪んだアニマ。帝都のこのあたりだったっけ。さっきはバロールに邪魔されたけど……)
イクス(……変だな。何の干渉もない。さっきの様子なら俺たちを見逃すはずないのに)
イクス1st(罠か、もしくはバロールの気が逸れてるか、だな)
イクス(気が逸れる……。まさかコーキスか ?確かバロールの所に向かってるんですよね)
イクス1st(いや、コーキスが接触した気配は感じない。何にしろ、こっちを見ていないなら絶好の機会だ)
イクス(そうですね。罠だとしても、どうせ引き返す余裕はないんだ。このままアニマを辿ります)
イクス――ふぅ……。お待たせしました。
リフィルお疲れ様。今回は無事に戻ってこられたようね。
イクスはい。なぜかバロールの妨害がなくて。
ジェイドそれは気になるところですが先に成果の方を伺っておきましょうか ?
イクスはい。起動装置の場所は確認できました。芙蓉離宮の地下です。
ジェイド芙蓉離宮なら潜入経験者がいますね。かつて宮殿にいた鏡映点たちから情報を得て見取り図も作ってあります。かなり大まかですが。
イクス十分です。すぐに降下に入ります。ゲートじゃ遠回りだから飛べる人を探して頼まないとな。
ジェイドいいえ。その必要はありません。リフィル、例の物は用意できてますか ?
リフィルええ、問題なくてよ。突貫で作ってもらったけれど数もそれなりに揃っているわ。
イクス例の物 ?
ジェイドキール研究室が自動制御付きのパラシュートを作ってくれました。これを使えば浮遊島から狙ったポイントへ降下できます。
イクスいつの間に !魔導砲やら浮遊島の推進装置やら贄の紋章の調査だって抱えてたのに。
ジェイドパスカル曰く「いい気分転換になったよ~」だそうです。
リフィル気を遣ってくれたんでしょうけど実際、研究室メンバーにとっては息抜きみたいなレベルなんでしょうね。
ジェイド天才というのは恐ろしいものですねえ。非常識な事を簡単にやってのける。
イクスそれ、ジェイドさんが言いますか……。
ジェイドもちろん、自分のことも含めての客観的な意見です。さて、本題に戻りましょう。
ジェイド降下メンバーの選抜はあなたにお任せしますがクルスニクの関係者や転生者などは外してください。彼らには何が起こるかわかりませんので。
ジェイドそれと、口うるさいようですがくれぐれも目標の優先順位を間違えないように。
ジェイドあくまでも第一は、ルグの槍の制御装置の破壊。次いで、領主や従騎士たちの心核の回収。更に可能であれば、彼らの肉体――鏡映点の救出です。
イクス……そこに釘を刺すのは、降下メンバーに帝国に仲間が囚われている人が手を挙げることを見越してのことですね ?
ジェイドええ。あちらで仲間を目にすれば連れて帰りたくなるでしょう。ですが、二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますから。
ジェイドもしもの時は、非情な決断を下す必要があることを忘れないでください。
イクス…………肝に銘じておきます。じゃあ、みんなの所に行ってきますね。
ジェイドええ。準備ができたら声をかけてください。
リフィル……辛いわね。目の前の人間を見捨てろという決断は。
ジェイドそうですね。そういう決断をしなくてすむように方針を立てられるのが、本当の意味で優れた人間なのでしょうね。

Character2話【17-2 アジト2】
リフィルイクスたちは順調 ?
ジェイド観測した限りでは。予定どおり着地できそうですよ。
リフィル良かったわ。正直なところ気になってたのよ。あの自動制御付きパラシュート。
ジェイドおや、我らが誇る頭脳集団が信用ならないと ?
リフィルそうじゃないわ。でも、パスカルが話していたの。いつの間にか、落下軌道の数値設定が変わってたって。
リフィル修正はすぐに終わったけれど、一緒に話を聞いていたハロルドがため息をついていたから、何か知っている――いえ、何かしたんじゃないかと思って。
ジェイド……なるほど。カイルたちが言ってた例のアレですか。偶然にもパスカルが未然に防いでしまったとはハロルドもがっかりでしょうねぇ。
リフィル例の ?
ジェイドご存じありませんでしたか。でしたらお気になさらず。パラシュートがドッタンバッタンしなくて良かった――という程度の話です。
ジェイド――おっと、来ましたね。
ガイジェイド、聞こえるか !データが取れた。今から送る。
ジェイドありがとうございます。今、確認中です。思ったよりも早くて助かりました。おまじないは効きましたか ?
ガイ効きすぎだ。計測なんてあっという間だったぜ。あとディストの奴、あんたの手紙を飾るために最高級の額縁を探してる。
ジェイドそうですか。あの手紙は開封後一定時間を過ぎると消滅する仕組みなんですよ。無駄な出費をさせて嬉し――心苦しいばかりです。
ガイ旦那……、ディストにはホント容赦がないな。
ジェイドところで、私が送った通信文は見て頂けましたか ?
ガイ通信文 ? ああ、悪い。ジュニアの仮想鏡界の防御を解いてすぐ連絡したんだ。今、そっちも確認して……って……。
ガイなんだこりゃ ! ? ルグの槍が起動してるのか ! ?贄の紋章たちが炎の柱……って、どういうことだよ !
ジェイド諸々状況が変わりまして。後ほど詳しく説明します。データの他に何か報告はありますか ?
ガイあ、ああ。こっちでも色々と問題が起きてる。まず、ジュニアの贄の紋章だが、ディストの話だと――
ジェイド――なるほど。ミリーナたちはスピルリンク中ですからネヴァンの件は通信文に入れておきましょう。ヴァンの方は、このまま様子を見てください。
ジェイドそれと、ジュニアと対になるという紋章ですがデータから見るに、この値は……。
ガイ心当たりがあるのか ?
ジェイド……今はまだ、何とも。
ハロルドもったいぶっちゃって。どうせ見当はついてんでしょ ?
ガイハロルド ! ?
ジェイドハロルド、個人回線の傍受はマナー違反ですよ。
ハロルド今さら ? 傍受程度は織り込み済みのクセに。だいたい、あんたが言い渋ってなきゃ口出すつもりもなかったわよ。
ハロルドそれよりこのデータ、ユリウスに見せて話を聞いた方がいいんじゃない ?
ジェイド勿論、そうしたいのは山々ですが恐らく彼は口を割らないでしょう。
ハロルド……そう。まあ、わからないでもないけどね。
ハロルドいいわ。こっちは忙しくなるし、面倒なのは任せる。
パスカルふぁ~……何 ? ハロルド、誰と話してるの ?
ジェイドパスカル、お休みのところすみません。立て続けに無茶な注文をこなして頂いたので少しでも休息をとってもらうつもりだったんですが。
ガイ悪いな。研究室の連中には頭があがらないよ。
パスカルジェイドにガイ……ってことはデータ取れた ! ?
ハロルドええ。やっと主役が到着したとこ。作業再開するからリタにも声掛けといて。
ハロルド【逆しまの魔導砲】、超特急で仕上げるわよ。
イクス――ふぅ、着地成功。
セネル全員揃ってるか ?
アスベルああ、問題ない。見張りの兵士は……見当たらないな。
レイアみんな炎の柱の方へ集まってるんじゃない ?
スタン……。
ソーディアン・ディムロスどうした、スタン。
スタンあの柱のどれかが、イレーヌさんなんだよな……。
ルーティでしょうね。けど、そればっかりに気を取られるんじゃないわよ。――そっちもね。
マリクああ……、もちろんだ。
アスベル教官……。
マリク……すまないな。教え子にそんな顔させるようじゃ教官失格だ。
アスベルいいえ、カーツさんを思う気持ちはわかります。それにヴィクトリア教官だって……。
マリクルーティも言ってるだろう。『それはそれ』だと。大丈夫だ、任務に私情を交える気はない。
マリクさて、イクス。地下への潜入経路だが事前の打ち合わせどおりで問題ないか。
イクスはい。見たところ地図との相違もなさそうです。スタンさんは ?
スタンああ。俺が前に潜入した時と変わってない。今回はあの通用口から宮殿の中に入って地下へ降りればいいんだよな。
マリクよし。だったら目標地点へ急ぐぞ。これだけ派手に降りてきたんだ奴らが見逃すはずがない。
帝国兵いたぞ ! 中庭にて侵入者を発見 !侵入者を――
帝国兵ぐあっ !
ジェイ言ってるうちに、ですね。
帝国兵くっ ! 総員中庭へ !
帝国兵たちおおおおおおっ !
ルーティなによ、あっちこっちから !全員相手にしてたらキリがないわ。
レイア通用口からも敵が出て来てる !これじゃ中に入れないよ。どうする ! ?
イクス……みんな !このまま時間を稼げるか ! ?
ルーティ何する気 ?
イクス歪なアニマを強く感じる所……――あそこだ。あの場所まで行って、創造の魔鏡術で地下への入口を作る。
ジェイ作ったとしても、入口の先がどうなってるかはわかりませんよ !それに術の途中で敵に囲まれたら――
イクス一か八かだ。みんな、援護を頼む !
ジェイあっ、イクスさん !仕方ないな、こうなったら……。
ジェイスタンさん、アスベルさん !イクスさんの目指す方向へ同時に魔神剣を放てますか !
アスベルイクスの道をひらくんだな。わかった !
スタンああ、まかせろ。いくぞ、アスベル !
二人魔神剣 ! !
帝国兵たちうわあああっ ! !
イクスありがとう !――いくぞ、魔鏡の力よ…… !
帝国兵見ろ、鏡士のイクス・ネーヴェだ ! 鏡士がいるぞ !
セネル行かせるかよっ !
マリク全員、イクスを囲んで陣を組め !

Character3話【17-4 心の世界1】
シャーリィ――そうですね。心核の燃焼を防ぐにはこの方法が一番確実だと思います。
ヴァンでは、防御壁の構築法は決まりだな。各々、手順はいいか ?
マオうん。ヴァンはローレライを呼んでメルネスの力を使ったシャーリィと一緒に精霊力を放出する。
マオボクは二人の力に炎のフォルスを纏わせてみんなを囲むように壁を作る――だよネ。バッチリだヨ !
カーリャマオさまが言うと簡単そうに聞こえちゃいますけどこれって大変なんじゃないですか ?
レイスああ。ヴァンやシャーリィは大きな力を放出し続けることになるだろうしマオはそれを制御しなければならない。
ミリーナかなりの力を消耗することになるわね。私は何もできなくて……ごめんなさい。
シャーリィミリーナさん。わたし、自分にできることがあって嬉しいんです。
シャーリィマウリッツさんや、ワルターさんや、みんなを……メルネスとしての力を、誰かを傷つけるためじゃなく守るために使えることが嬉しい。
シャーリィだから、そんな風に思わないでください。
マオそうそう。下なんか向いてないでボクたちのカッコいいところ、ちゃんと見ててよネ !
ミリーナシャーリィ、マオ……、ありがとう。三人とも、お願いします。
ヴァン承知した。では始めよう。――聞こえるか、ローレライよ。その力、我が身が耐えうる限り解き放て。
シャーリィ滄我……ウンディーネ……あなたたちの声を聞かせて。そしてわたしに力を。
シングシャーリィの髪が輝いてる。きれいだなぁ !
マオよーし、仕上げはボク !――炎よ……心を護る壁となれ !
カーリャ炎がカーリャたちの周りを……わっ、上まですっぽり覆われちゃいました !
レイスドーム状の防御壁か。ああ……僅かだが体が楽になった気がするな。
ヴァン僅か ? それは妙だな……。かなり負担は軽減されるはずだが……。
マオとにかく、あとは集中しながらこれを出来るだけ長く維持……あれっ ?
ミリーナどうしたの ?
マオどうしても覆い切れない部分があるんだ。穴があいてるみたいな感じで……多分、あのへん。
カーリャあ、こっちこっち !ここ、他よりも炎が薄くないですか ?
ミリーナ本当、確かに穴みたい。オスカーさんの心核のすぐ側だわ。
シングこれじゃ穴から生命エネルギーが流れ出ちゃうよ。一旦、オスカーの心核を避難させよう。とりあえず、あっちに――
ミリーナ動かさないで、シング !心核と一緒に穴も移動してるわ !
シングえっ ! ?じゃあ、壁の穴はオスカーの心核が原因 ! ?
ミリーナ私によく見せて。……これかしら。心核に小さな亀裂が入ってる。
シングその傷が防御壁に影響してるのかな。
ミリーナわからない……。でもこのままだとオスカーさんが危険よ。防御壁だって穴があいたままではきっと十分に機能しないわ。
ミリーナ穴との関連性も含めて傷の原因を調べて修復しないと……。
シングじゃあ、オスカーのスピルメイズを調べに行こう。みんなのスピリアが繋がって入り組んでるけどこのまま地続きで入れる筈だ。
カーリャ待ってください。それだと防御壁を維持するマオさまたちや、弱ったみなさんを置いていくことになります。もし何かあったら……。
ヴァン構わん、行け。この状況が長引く方が危険だ。
ミリーナ…………。
コハクシング、ミリーナ、そこにいる ?アジトに保管されてた心核を持ってきたよ !
シングコハクだ !――コハク、ちょっと待ってて !
シングマオ、コハクたちは入れる ?
マオうん。物理的な通過は制限してないからネ。そのままどうぞ。
シングこの火の壁は安全だ ! そのまま入って来て。
ベリルうわ、この火の壁、本当に熱くない !
リチアこれがリッドが話していた防御壁なのですね
ヒスイおい ! 贄の紋章の奴ら、大丈夫かよ。全員ぶっ倒れてるぞ。
クンツァイト生命維持機能の極端な低下を確認。危険な状態だ。
シングみんな、来てくれたんだ。イネスとガラドは ?
コハクアジトで待機してる。こっちで何かあっても外から援護してもらえるでしょ ?
コハクあと、これが心核。保管してあったのは3つで間違いない ?
ミリーナええ。ありがとう、すぐに誰のものか確認するわ。
ベリルその心核、劣化防止の封印がしてあるんだよね ?解き方とか大丈夫 ?
ミリーナ今はゲフィオンの記憶のおかげで封印の解除も、心核が誰かもわかるわ。少し待ってて。
ミリーナ……これはイレーヌさん。スタンさんの知り合いね。こっちは……エフィネア領主のカーツさん。アスベルさんたちの関係者だったかしら。
ミリーナそしてこれは……レグヌム領主のマティウスさん。ルカたちは敵対していたって言ってたから伝えておかないと。
カーリャこの場所に心核があるんだからその三人はリビングドール状態から解放されたってことでいいんですよね ?
ベリルうん。目を覚ませば元通りのはずだよ。心核の封印も解けたしね。
ヒスイで、俺らはどうすんだ。紋章付きの奴らを守りゃいいのか ?
三人「そうなんだ !」「そうなの !」「それですよ !」
ミリーナ――オスカーさんのスピルメイズ進むにつれて荒れてる気がするわね。先行してるシングやヒスイさんたちは大丈夫かしら。
リチア心配いりません。こういった状況に対応するためにわたくしたちが来たのですから。
ミリーナありがとう。本当に助かったわ。おかげで手分けして調査ができるし防御壁にはコハクやベリルがいてくれるから安心――
ミリーナあっ !
ミリーナあ、ありがとう、クンツァイトさん。
クンツァイト警告。このスピルメイズは劣化が激しい。リチアさまも、足元にお気をつけください。
リチアええ。この方のスピリアは相当弱っていますね。スピルーンが欠けた時のようなスピルメイズの縮小は始まっていないようですが。
リチア疑似心核を植え付けられた時と同様に外部から心核への接触があったとしか思えません。
ミリーナ変ね。聞いた限りでは、オスカーさんに疑似心核は入っていなかったようだけど……。
シングおーい、こっちに来てくれ !ヒスイが何か見つけたみたいだ。
ヒスイ――こいつだ。ここに落ちてた。
ミリーナこれ……ロゼが見たっていう魔導器に似てるけど……。ヘルダルフのものと同じなのかしら。リタがいればすぐにわかるのに。
クンツァイト自分が確認しよう。ロゼとデゼルによる証言はデータ化してある。キール研究室のデータベースを参考に――
ヒスイいいから結果だけ教えろって。魔導器か、違うのか ?
クンツァイトデータ照合。完全ではないが構造的には魔導器との判断が可能だ。
ミリーナじゃあ、これはオスカーさんの心核に取り付けてあったと見るべきね。なぜこんなスピルメイズの外れに落ちていたのかしら。
リチア……確か、ルグの槍は生命エネルギーを消費しているのでしたね。
リチアこの魔導器は、エネルギーの吸引を妨げる異物としてルグの槍に認識されたのかもしれません。
リチア本来はスピリア――こちらでいう心の中に異物があっていいはずがないのですから。
シング魔導器は、オレたちの世界でいうゼロムみたいなものだってこと ?
リチアそうですね。ですから、ルグの槍の起動時に心の世界にあるべきではない異物として、心核から強引に外されてしまったのではないでしょうか。
ミリーナ確かに、それで傷ができたのかもしれないわね。だからスピルメイズもこんなに荒れて……。
シング防御壁に穴ができるのもこの魔導器がオスカーの心核に影響しているせいかな。
リチアこの方の心核を正常に戻すことでそれもわかるはずです。
リチアこの振動はまさか……スピルメイズの縮小が始まったのですか ! ?
ヒスイだとしたら、あんま長くは持たねえかもしれねえぞ。こいつのスピリアはもうボロボロだ。
ミリーナ……シング。ソーマなら、この場所からオスカーさんの体の外へ出られるわよね。私、この魔導器を持って外へ出るわ。
シングわかった。オレが一緒にリンクアウトするよ。
シングただ、今のオスカーがどんな場所にいるかはわからない。戦う準備だけはしておいて。
リチアでしたらクンツァイト、あなたもミリーナと一緒に行ってください。先ほどのようにあなたの持つ情報が役に立つかもしれません。
リチアわたくしはこちらに残ってコハクのところへ戻ります。
クンツァイト否。今戻るのは危険です。
リチアわかっています。ですが、誰かがこの状況を伝えないと。一人のスピルメイズの崩壊が他の方にも影響を及ぼすかもしれないのですから。
ヒスイごちゃごちゃ言ってねぇで早く行け !リチアには俺がついてる。
リチアヒスイ…… ! ありがとうございます。
ミリーナシング、オスカーさんを助けに行きましょう。クンツァイトさんも、それでいいかしら。
クンツァイト……肯定。ヒスイ、リチアさまを頼む。

Character4話【17-5 ミッドガンド領 領主の館1】
テレサオスカー ! お願いだから目を開けて !
テレサなっ ! ?
シング火が ! この人がオスカーだ。
テレサ誰 ! ? いつの間に入ったのですか !
シング驚かせてごめん。オレたち、きみが抱きしめてるその人を助けに――
テレサ近寄らないでっ ! 弟に何をする気です !
ミリーナ弟……。やっぱりあなたは……。
クンツァイト警告。彼女は極度の興奮状態にある。これ以上刺激すると錯乱状態に陥りかねない。
ミリーナわかったわ。まずは私一人で話させて。
ミリーナあなたはテレサさんですね。私は鏡士のミリーナです。
テレサ鏡士 ? 確かにその顔は黒衣の鏡士……。そうよ、あなたたちのせいで……。
テレサあなたたちがこの世界に呼んだからオスカーはこんな目にあったのです !
ミリーナ……確かにその通りです。ごめんなさい。恨み事はいくらでも受けます。だけど今は、オスカーさんの命を優先させて下さい。
テレサ! !
ミリーナこれを見て下さい。何かわかりますか ?
テレサそれは……魔導器 ?
ミリーナやっぱりそうなんですね。これはオスカーさんの心の中にあったものです。何か心当たりはありますか ?
テレサグラスティンが……弟の心核には魔導器が取り付けられていた、と……。
ミリーナそうだったのね……。でも、こうして取り出したから魔導器については、もう心配いりません。
テレサでは、この炎は ! ?熱くもない、けれど消えもしないのですよ ! ?
ミリーナこれは贄の紋章のせいです。心のエネルギーを燃焼している状態が炎のように具現化されているの。
ミリーナこのまま放置するとオスカーさんは命を燃やし尽くしてしまう。そうさせないために、私たちは動いています。
テレサオスカーを、死なせないために……。
ミリーナそう。だからお願いです、テレサさん。私たちにオスカーさんを助けさせて下さい。
テレサなぜ、あなたがそこまでするのです。オスカーを気にするのもどうせ自分たちの利益のためなのでしょう ?
ミリーナ……ええ、それはもちろんそうです。オスカーさんを助けるのは私たちのため。何があろうと救わなければならない。
テレサ
ミリーナその理由も、今までの経緯も、全て説明します。オスカーさんとテレサさんが納得するまで。
ミリーナけれど……救いたいという気持ちも本当なの。大切な人を目の前で失う怖さ……私も知ってるから。
テレサ………………。信じていいのですね。
ミリーナええ。オスカーさんに触れてもいいですか ?心核の治療をします。
テレサ……お願いします。
アスベル裂空刃 !
帝国兵ううっ……。
アスベルみんな無事か !
セネルああ。後ろも追っ手は無しだ。
マリク中庭の兵もまだ追い付かないだろう。魔鏡術で作った入口はイクスがすぐに閉じたからな。
レイアじゃあ、相手はこの地下通路の警備兵だけだね。っていっても、さっきからかなりの数だけど。
ジェイしかも進むたびに増えています。この先に何かあるようですね。
イクスああ。このまま進もう。
スタンうわ、でかいな ! この鉄の扉。
マリク巨大な鉄扉に、あの警備兵の数だ。どう見ても重要施設だろう。どうだ、イクス。
イクス俺も歪なアニマを強く感じます。中に入りましょう。ええと……どうやって開けるんだろう。
ルーティこういうのって、たいがいどこかに凝った仕掛けがあるのが定番なのよね。
レイアじゃあ、みんなで探そう !
ルーティ……おかしいわね。レンズハンターの勘ではこの辺にあるはずなんだけど。えい、えいっ !
ソーディアン・ディムロスアトワイト、ルーティを止めなくていいのか ?罠がないとも限らんぞ。
ソーディアン・アトワイトそうなったら、またスタンさんに助けてもらえばいいわ。
ルーティもう、嫌なこと思い出させないで !
スタンしかし見つからないなぁ。
アスベル……まずいな。いつまでもここにいると中庭の兵士たちが追いつくぞ。
イクスよし、魔鏡術でこの鉄扉に穴を開けよう。
アスベルそんな頻繁に創造の魔鏡術を使ってもいいのか ?
イクス確かに消耗はするけど、今は時間との勝負だしな。みんな、下がっててくれ。
イクス――えっ ?
セネルどうした、失敗したのか ?
イクス術が阻まれたんだ。っていうか、力が抑え込まれたような……。妨害しそうな魔鏡陣も見当たらないのに。
ジェイ術が阻まれる……ですか。イクスさん、この世界のエネルギー制御って鏡士以外では、魔鏡技師の作る機械が主なんですよね ?
イクスえ ? ああ、そうだな。ケリュケイオンや、カレイドスコープとかアンチ・ミラージュブレスみたいな器機は……あっ !
ジェイええ。まさにアンチ・ミラージュブレスなんて術や力の影響を抑え込むものだと聞いています。
ジェイだとすると、イクスさんの術をはねのけたのもそういった類のものかもしれません。いっそ専門家に相談してみては ?
フィリップ――そうか。贄の紋章たちは心の世界で繋がっているのか。
ゴーシュじゃあ、イエガー様もいるんだな ! ?
ドロワット助かるのよねん ! ?
キール……そのためには、みんなの力が必要だ。
レイヴン……なるほどね。事態は切迫してると。
フィリップもちろん協力するよ。こちらは何をすればいい ?
キール救世軍には、各地で火柱となった人たちを回収した後浮遊島に連れてきて欲しいんだ。
キールさっき説明した【逆しまの魔導砲】がじきに完成するはずだ。それを打ち込めば贄の紋章を無効化できる。
マーク目印はあの炎の柱だな。近づくことで計器類への影響はありそうか ?
キールいや、あの炎自体は幻のようなものだ。外界には影響しない。
ミントどうりで術が通じないはずですね。
クレスああ。ミントの言うとおりだったよ。それで、僕たちは何を ?
キールみんなは救世軍が到着するまで贄の紋章たちの保護を頼む。きっと帝国側も火柱を目指して駆けつけるはずだからな。
マークとなると、回収作業は荒事になるかもな。丁度いいのがウチに乗り込んでて良かったぜ。
フィリップよし、すぐに出発する。近場だと――
イクス応答せよ、ケリュケイオン。こちらイクス。大至急ガロウズに聞きたいことがあるんだ !
二人イクス ! ?
ガロウズ――なるほど。確かにこれは俺たち技師の分野だ。気付いたヤツ、いい勘してるぜ。
イクスだってさ。ありがとな、ジェイ。ガロウズ、開けるにはどうすればいい ?
ガロウズもう少し引いて、扉を全体的に映してくれ。……よし、そこだ。左右に制御盤が隠れているはずだ。
レイアあれ ? そこ、さっきルーティが触ってた場所じゃない ?
ルーティふふん、レンズハンターの勘は正しかったってことね。
ガロウズへえ、勘のいい奴ばっかりで頼もしいねぇ。
ガロウズさて、その制御盤を出すのが最初の難関だ。俺が言うとおりに操作しろよ。まずは――
帝国兵警備兵がやられてるぞ ! 奴らはこの先だ !
セネル来たぞ、追っ手だ !
イクス急いでくれ、ガロウズ ! 敵が来た !
ガロウズ了解。やり直しはねぇぞ。絶対に間違えるな。
イクスああ。みんなは後を――
アスベルわかってるさ。イクスは解除に集中してくれ。必ず守って見せる !

Character5話【17-8 芙蓉離宮4】
グラスティンっ ! ゲフッ…………。………………………………。
バロール今度こそ死んだな ?さすがにもう復活はできぬ――
グラスティン……ヒ、ヒヒ……ヒャッハハーッ !残念だな。これでまた『ふりだし』だぁ !
バロールまだクロノスの力を使えるか。常人ならば負荷に耐えられずに死ぬかとうの昔に力の制御を失うはずだが。
バロール貴様のクロノスの力、流れがどうも歪に見える。
グラスティンヒヒヒ、神相手に研究成果が検証できるとは研究者冥利に尽きるねぇ。
バロールはあ……。いい加減、目障りだっ !
グラスティン……………………。
バロールしつこくたかる虫ほど不快なものはない。
グラスティンヒヒッ、いくらでも復活するぜ。お前がデミトリアスを返すまで付きまとってやる。
グラスティン勝手に人の楽しみを奪いやがって…… !
バロールなるほど、見えたぞ。クロノスの力の負荷が他に流れていくのを。
バロール貴様、『何人』いる ?
グラスティンほう、流石はバロール様だあ。まあ、バレたところで痛くも痒くもないがな。
グラスティン『俺』ならレプリカって便利な技術で増やし放題だ。何人だって用意できる。ヒヒヒ !
バロールなるほど。複製した自分の心核を外付けしてダメージを流したと見える。異世界の知識を小賢しく組み合わせたか。
グラスティンヒヒッ、その通り。異世界が混じったことでここはお前たち古い神が知る世界じゃなくなった。
グラスティンお前たちは大人しく俺に……デミトリアスに使われていればいいんだよぉ !
バロール勝手に神と祀り上げその力を好きに使おうなどとは浅ましい所業だ。貴様らのような者がいるから、世界は……。
バロール……よくわかった。貴様は徹底的に殺しきる。
バロール――コーキス ! 今一度、我が声に応えよ !
シグレコーキス、こっちは何もねぇぞ。
コーキスう~ん……。けど、バロールの気配を強く感じるのは地面の下からなんだ。絶対に地下があるはずなんだけどなぁ。
シグレおいおい、こんな廃墟まで連れてきて空振りなんて御免だぜ ?
コーキス墓守の街に連れてけって言ったの、シグレ様じゃん !
ムルジムごめんなさいね。炎の柱や、バルドのことだって気になるでしょうにシグレのわがままに付き合ってもらって。
コーキスあっ、ごめん ! そんなつもりじゃないよ。ここに来たのも俺の意志だし、シグレ様にはバロールから解放してもらった恩もあるからさ。
シグレあれはお前への恩返しの一つだ。気にすんな。それに俺の趣味も兼ねてたしな。
シグレとにかく気合い入れて探せ。ムルジムも気配程度はたどれるがお前ほどじゃない。頼りにしてるぜ。
コーキスそ、そうか ! ? わかった ! よーし、入口、入口っと……。
ムルジムたん――……素直な子ね。
シグレフッ、単純馬鹿ほど強くなるんだよ。
メルクリアコーキス、わらわじゃ ! 無事なのじゃな ! ?
コーキスっと、メルクリアだ。俺の通信文見たのかな。――メルクリア、こちらコーキス。
メルクリアおぬしからの報告、確認したぞ。まずは無事で何よりじゃ !
コーキス心配させてごめんな。リグレット様は ?
メルクリアイクスの使いの者たちが仮想鏡界まで運んでくれた。治療も済ませてある。
コーキスそうか、良かった……。ん ? ってことは、もしかして今は仮想鏡界から ?通信とか遮断してなくていいのかよ。
メルクリア緊急時にてジュニアが解放した。実はその折に兄上様が何も言わずにお一人で外に出たようでな。連絡がつかぬのじゃ……。
コーキスえっ、何で ! ?
メルクリアわからぬ。ただ、姿を消す直前におぬしたちが操られたと報告を受けておった。
コーキスまさか、俺やバルドを追って……。
メルクリア心当たりはそれしかない。故にバルドにも連絡したが繋がらぬ。おぬしもその様子だと、見かけてはおらぬようだな。
コーキスああ。もしボスを見かけたらすぐに連絡するよ。きっとここに来るはずだから。
メルクリアこことは、どこにおるのじゃ。
コーキス墓守の街だよ。ほら、前にメルクリアが一人で出てった時にリヒター様と一緒に迎えに行ったろ ?
コーキスあそこからさらに奥に行った潰れた村だよ。バロールに操られている時にここへ呼ばれてたんだ。
メルクリアなっ…… ! その場所は危険じゃぞ !未だ死鏡精の生き残りが潜んでおる。わらわは危ないところをウィルに救われたのじゃ。
コーキス死鏡精 ! ?
メルクリアコーキスも奴らに乗っ取られたことがあったのじゃろう ?何があるかわからぬ。重々気をつけよ。
コーキスう、うん……。いや、でも、もしかしたら…… !
コーキスメルクリア、死鏡精に襲われた場所ってどこだ ?
コーキスメルクリアの話じゃ、この辺りなんだけど……。シグレ様、ムルジム様、草むらの中を探してみてくれ。
シグレ応。けどよなんで死鏡精と入口探しが関係あるんだ。
コーキスバロールは俺たちを操る時に「これで死の砂嵐に手を伸ばせる」って言ってたんだ。死鏡精は死の砂嵐の一部、みたいな感じだったと思う。
コーキスそれが現れてた場所ならバロールの力に一番近いんじゃないかって思ってさ。
ムルジムあったわ ! こっちよ。
シグレさすが猫。茂みを探るのが上手いぜ。
ムルジムどういう褒め方よ。――コーキス、地下への入り口って、これかしら。
コーキスああ ! ありがとな、ムルジム様。
シグレへえ、地下水道に繋がってるのか。よし、行くぞ。
コーキス待ってよ、シグレさ――
バロール――コーキス ! 今一度、我が声に応えよ !
コーキス! ?
コーキス……あれ…… ? どうなったんだ ?ここは、スピルメイズ…… ?
コーキス ?そうだ。バロール様に呼ばれたんだよ。魔眼の使用をご所望だ。
コーキス俺 ! ?
コーキス ?ああ、俺だよ。さあ、早く行くぞ。
コーキス嫌だ ! なんでマスターでもないバロールに従わなきゃいけないんだよ !俺のマスターは一人だけだ !
コーキス ?そのマスターだってお前は信じきれてなかったくせに。
コーキス! !
コーキス ?思い出せよ、コーキス。
コーキス ?……俺の魔眼が……バロールの魔眼 ?
コーキス! !
コーキス ?マスターは……俺を作っちゃいけないって知ってた…… ?
コーキス ?マスター……俺……生まれちゃいけなかった…… ?
コーキスやめろっ ! 今さらそんなもの見たくない !そんな弱い俺…… !
コーキス ?だよな。でも、そういう俺をバロール様は必要としてくれてる。嬉しいよな。
コーキス ?俺はバロール様に力を貸す。お前も行こう。
コーキス駄目だっ ! 俺は行かない……。お前も行かせないっ !

Character6話【17-9 芙蓉離宮5】
スタン鳳凰天駆 ! !
ソーディアン・ディムロスいいぞ、スタン。敵もだいぶ片付いてきたようだ。
スタンああ。増援の前に扉が開けば全員逃げ込めるな。イクス、扉はどうなってる ?
イクスああ、これで――……解除だ !
ルーティやった、扉が開いたわ !
マリクしんがりはオレが務める。――連弾、行かせてもらおうか ! 出でよ、爆炎 !
アスベル今のうちだ ! みんな駆け込め !
ガロウズイクス、全員入ったら内側からロックだ。しばらくは外側からの操作を受け付けないから敵の足止めになる。
イクス了解 !
イクスロック完了。ありがとうございます、マリクさん。
マリクいや、これで時間が稼げればいいがな。
セネルおい ! みんなこっちに来てくれ !
マリクどうした ! そっちにも警備兵が――
イクス火柱 ! 贄の紋章の人たちだ !
イクスくそっ、これ以上近づけない。この床の紋様は魔鏡陣か ! ?
ルーティスタン ! あそこに倒れてる人って…… !
スタンイレーヌさんだ !
アスベルあれは……ヴィクトリア教官 !
マリクカーツ……、おい、カーツ !
レイア…………。
ジェイ大丈夫ですか ?レイアさんのところは、まだ領主も従騎士も判明してませんでしたよね。
ジェイやっぱり、あの中に知り合いが ?
レイアうん……。ここに来たのがわたしで良かった。きっと、二人が見たら動揺すると思うから。
レイアプレザ……、ウィンガル……。アルヴィンとガイアスに伝えないと。
ルーティイクス、これってどうすれば近づけるのよ。あたしやレイアの仕事ができないわ。
レイアそうだね。せめてみんなが怪我してないかだけでも確認したい。
イクス近づけないのはこの魔鏡陣のせいだと思うんだけど……。
フィリップガロウズ、ちょっとごめん。――イクス、魔鏡でその部屋の様子を映してくれないか。
イクスフィルさん !これです。どうやれば解除できますか ?
フィリップこれは……。今は無理だ。ルグの槍の起動を止めないことにはこの魔鏡陣は消せないようになっている。
二人…………。
イクスだとしても、このままじゃ――
ジェイイクスさん、歪んだアニマはどうです ?
イクスえ ? ああ、今のところ、ここが一番強いな。
ジェイでは、この周辺が目標地点ですね。起動装置を探しましょう。それが第一目標のはずです。
セネルそうだな。みんなを助けるにも、それが一番早い。
ジェイセネルさんはそのために、倒れたシャーリィさんから離れてここにいるんですもんね。一刻も早く、贄の紋章から解放するために。
セネル!おい、ジェイ…… !
イクスそうか。シャーリィだってあっちで頑張ってるんだよな。
イクスありがとう。危うく優先順位を忘れるところだった。早く起動を止めないと。
スタンイクス、ごめん。俺、驚いて……。でも、もう大丈夫だ。
アスベルこの辺りで起動装置を探すんだろう ?俺はあっちを見てくるよ。
イクスああ、頼んだ。
イクスそれらしきものは無いな。ここは本ばっかりだし……別の場所を見てみるか。
イクス……あれ ?
イクス(この本…… ?セールンドの王立図書館のマークが入ってる。しかも相当古いな。なんでこんなところに……)
イクス(そういえばゲフィオンは王宮で見つけた創世神話の古い形の書記を解読中だったって言ってたけど)
イクスまさか……。
イクス1st(イクス、まずいぞ ! コーキスが危ない !)
イクスえっ ! ?
イクス1st(今まではどれだけ操られても『イクスの鏡精コーキス』だった)
イクス1st(けど今は『バロールの鏡精コーキス』として使おうとしてる !このままじゃコーキスが乗っ取られるぞ ! )
イクスコーキスを守らないと !でも、どうすれば……。
イクス1st(コーキスの心に触れろ。鏡精とマスターは繋がってるんだ。そのまま自分の心から辿ればいい)
イクス1st(さっきも言ったはずだ。俺にわかるなら、イクスにだってわかる。必ずコーキスのところへ辿り着ける)
イクスそうか。スピルメイズのイメージで行けばいいのか。けど、このままじゃ俺も気を失って倒れちゃうな。
イクスイクスさん、俺の体、お願いできますか ?
イクス1st(任せろ。こっちも時間はないからイクスとしてみんなと行動しておくよ)
イクス助かります。それじゃ行ってきます。
イクス1st(ああ。絶対コーキスを渡すなよ ! )
コーキスこれで終わりだ !
コーキス ?くっ……俺はバロール様の下へ……俺を本当に必要としてくれる人の側に……。
コーキス ?…… ? なんで……ここに……。
コーキス……消えた…… ? なんだよこいつ。
コーキスくそっ、本当に必要としてくれるのはマスターだ。俺はマスターを信じてる ! 本当に……。
コーキス…………本当に ?
イクスいた ! コーキス、無事だったか ! ?
コーキス…… ? なんで……ここに……。ここ、俺の心の中で……。
イクス良かった……大丈夫か ?バロールの鏡精になってないよな。
コーキスマスター、知ってたのか ?それでここまで来てくれたのか ?
イクスああ。お前を守りたくてさ。ごめんな、操られてた時にも何もしてやれなくて。
コーキスもしかして、さっきの俺が消えたのは……。――……ははっ、そういうことか。
コーキス俺……マスターやみんなに助けられてばっかりだ。弱い心の自分を鍛えなおすためにマスターから離れたのに……。
イクスコーキスが弱い、か。俺の鏡精なんだから、弱いのは当たり前だろ ?
コーキスへ…… ?
イクス俺もみんなに助けられてばっかりだ。けどさ、そういうマスターと鏡精だからこそ一緒に支え合っていくのが一番だと思わないか ?
コーキスけど俺は、本当は生み出されちゃいけない鏡精だぞ !
イクスそれ、懐かしいなぁ。あの時は二人でナーザ将軍に怒られたっけ。……やっぱり、ずっと気にしてたのか。
コーキス…………。
イクスなぁコーキス、俺にはお前が必要なんだ。弱い者同士、支え合う存在がさ。
イクスだからお前が生み出されちゃいけないなんて世界中の誰にもそんなこと言わせない。
イクスコーキスは望まれて生まれたんだよ。俺に。
コーキス……マスター ! お、俺――
? ? ?ウオオオオオオオオ ! ?
イクスなんだ、今の叫び声は ! ?
コーキスあれはバロールだ !
イクスコーキス !
コーキスマスター !
コーキスマスター……。
ムルジム起きた ? 心配したのよ。
コーキスムルジム様 ? マスターは ! ?
ムルジムマスター ? やだ、頭を打ったかしら。あたしのしっぽ、何本に見える ?
コーキス……ええと、そうか ! ここ、地下水道の入口だ。入った瞬間にバロールに意識を持ってかれたんだ……。シグレ様は ?
ムルジムシグレは先にバロールの下へ向かったわ。もう我慢の限界だって。
コーキスマジかよ ! 早く追いかけよう !

Character7話【17-13 ミッドガンド領 領主の館2】
カーリャオスカーさまの体の傷、治ってませんね……。治癒術をかけたのに。
ミリーナええ……。クンツァイトさんも診てもらえる ?
クンツァイト肯定。細胞レベルでの再生箇所は見られるものの施した治癒術に比例した治療効果は得られていない。
テレサどういうことです ?
ミリーナ体の傷は心核への負担にもなるのでまずは治癒術を試みました。でも、思ったよりも術の効きが弱いんです。
ミリーナやはりオスカーさんの心の中に戻って心核の治療を先に試みます。
テレサでしたら、私も連れていってください。
ミリーナそれは……。
テレサもう嫌なのです !この子が傷つき、命を削って行くのをただ見ているだけなんて。
シング連れていくことはできる。けど――
クンツァイト警告、動体反応 !複数名がこちらへ接近中。
シング帝国兵か ! ?
クンツァイト肯定。突然現れたことから転送魔法陣による侵入と推測される。さらに外部より数名が侵入。
ミリーナオスカーさんの確保に来たんだわ !
テレサグラスティン……。いつの間にか消えたと思ったらこういうことだったのですね !
クンツァイト全員でスピルリンクすれば脱出は可能。ただし、オスカーの肉体はこの場に置いていかなければならない。
テレサいいえ、それはできません !
ミリーナテレサさん ! ?
テレサあなたたちは早くオスカーの心へ。この子は私が守ります !
カーリャ無茶ですよ !
帝国兵βテレサ・リナレス、オスカー・ドラゴニアを確認。両名の捕縛を――
ベルベットラファティ・レイヴン !
テレサあなた…… !
ベルベット……間に合ったようね。
ミリーナベルベット ! ? どうしてここに ! ?
ベルベットあんたたちこそ、なんでいるの。
ベルベットああ、片付いたかしら。
ライフィセットベルベット、こっちは終わったよ !
テレサ二号……。
ライフィセットテレサ様、やっぱりここにいたんだ……。
エレノアテレサ、早くしてください。敵の援軍が来ないうちにオスカーを保護――
エレノアそこにいるのはミリーナですか ! ?それにシングたちも。あなた方はスピルリンク中と聞いていましたが。
ミリーナええ。オスカーさんの心核が危険だったから一時的に外に出て対処してたの。またすぐに戻るつもりよ。
エレノアそうですか。私たちは、火柱となった外部の贄の紋章たちを保護して、ケリュケイオンでアジトへ連れて来るよう要請を受けているんです。
ベルベット説明はそのくらいにして。あまり時間がないんだから。
ベルベットそれで、あんたはどうするの。
テレサベルベット…… !
ミリーナテレサさん、オスカーさんの心は私が守るから体の方をお願いします。
テレサ私に、ベルベットたちと一緒に行けと ?
シングオレもその方がいいと思う。それにさ、オスカーが目覚めた時にお姉さんが横にいた方が安心するんじゃないかな。
テレサ
エレノアテレサ、お願いです。ここは一旦収めてください。オスカーのために。
テレサ……わかっています。ここで争うほど愚かではありません。
テレサあの子が助かるなら私はどんな憎しみも屈辱も、呑み込んでみせます。
ベルベットそうね……。弟を守るのは、姉の役目だもの。
テレサでも、それではオスカーの心の中で何かあっても私は助けることができないのですね……。
シングだったらオレ、テレサさんと行くよ。ケリュケイオンにもソーマ使いがいたほうが何かと便利だろうし。
テレサあなたはそれでいいのですか ?
シングああ。女の子の笑顔を守るのもソーマ使いの役目だからね。
ライフィセットテレサ様が面食らってる……。
シングミリーナ、クンツァイト、あっちは頼んだ。コハクにもよろしく言っといて。
ミリーナわかったわ。ありがとうシング。それじゃみんな、お願いします。
クンツァイトでは行こう。ミリーナ。
ナーザ(バルドは新大陸で姿を消した。後を追うにも時間も当てもない)
ナーザ(やはり奴を救うにはこの場から直接介入するほか手だてはないか……)
ナーザふっ……。
ナーザ(『これ』を使ったことがバルドに知れたら大目玉だな。しばらくは小言が続くことを覚悟せねば)
ナーザ(死人の体でこの奥義を使って果たしてその後があるかは疑問だが……)
ナーザ(元より死した身の上だ。このかりそめの命は、生者のためにこそある)
ナーザバルド、すぐに助けてやるぞ。
ナーザ秘伝魔鏡術【ギエラ・ビフレスト】 !
バロールの尖兵なるほど。この船の方角はセールンド諸島か。あの辺りには沢山の小島がある。そこが貴様の根城だな。
バロールの尖兵しかし、ずいぶんと大人しく言うことを聞いたな。もっと暴れるかと思ったぞ ?
フリーセル俺如き腕前で、バルド様に敵う筈もない……。たとえバロールの尖兵と成り果てようとな。
フリーセル……それより貴様、何故バルド様の体を奪った ?
バロールの尖兵この男は何より生に執着している。故に器として使いやすい。
バロールの尖兵我らの作ったこの世界に留まりたいという強い意志があるからこそ、命を生む俺には従順になる。
フリーセル貴様が何を言っているのかさっぱりわからん。
バロールの尖兵わからなくていい。俺はお前が集めているものを――この世界で生まれた、ティル・ナ・ノーグの住民を我が手に取り戻すまで。
フリーセル………………。
バロールの尖兵しかし、お前は何故ビフレストの生存者だけを集めているのだ ?
フリーセル帝国の歪んだ目的から同胞を解放するためだ。奴らは本来のティル・ナ・ノーグで生まれた人間だけを集めて、この世界から逃げようとしている。
バロールの尖兵崩壊しつつある世界を捨てるのはまあ、考えそうなことだ。だが、お前は逃げようと思わないのか ?
フリーセル……咎人の揺り籠から解放されるのは虹の橋が架けられた時だ。
フリーセルその前まで、我々はこのティル・ナ・ノーグで生きねばならない。
フリーセルそれが先代の知の乙女であるエルダ皇后陛下の残した遺言――
バロールの尖兵くっ……、ああああああっ ! !
フリーセル! ?
バロールの尖兵くっ……、ああああああっ ! !これは……何が…… !
ナーザ苦しいか。ならば早々に立ち去るがいい。
バロールの尖兵お前は…… !……俺の、体が、言うことをきかん……
ナーザ俺のだと ?何をほざくか。痴れ者が。
ナーザこの体の主の名はバルド。我が愛する乳兄弟でありこれより長きに渡りメルクリアの守護を担う者。
ナーザお前ごときで代えがきくものか !
バロールの尖兵なぜ、体が動かない…… ! これは心核への直接攻撃か…… ?
ナーザ心と心を虹の橋で繋いだ。どれだけ距離が離れていようとその自由を拘束できる。
バロールの尖兵虹の…… ? 想像の魔鏡術【ギエラ・ビフレスト】か !貴様、ナーザ・アイフリードの子孫だな ! ?
ナーザそんなことはどうでもいい。
ナーザバルドから手を引け !

Character8話【17-14 心の世界2】
ミリーナ待たせてごめんなさい !
ベリルミリーナ !無事に帰ってこられてよかったよ。オスカーの心核の調査は ?
ミリーナええ。事情はだいたい確認できたわ。
コハク…… ? ミリーナと、クンツァイトだけ ?
クンツァイトシングはテレサと一緒にケリュケイオンに行った。彼女の笑顔を守りたいそうだ。
二人はぁ ! ?
コハクシング……。
ヒスイ野郎、コハクにこんな顔させやがって !ボコボコにしてやる !
ベリルどこの女だよ、そのテレサってのは !
カーリャ酷い誤解が生じてます !
ミリーナ誤解はとくけど、まずはオスカーさんの心核よ。早く処置を始めましょう。
ミリーナ……これで何とかなるかしら。魔鏡術で一時的に心核の傷を覆ってみたんだけど。
リチアそうですね。今はこれで凌ぎましょう。心核の完全治癒には時間を要しますから。
ミリーナそれじゃ、ヴァンさん、シャーリィ、マオお願いします。
ヴァンでは、穴をふさぐために全員で出力を一時的に上げよう。成功したら再び今の状態に戻す。いいな ?
二人「了解 !」「はい !」
カーリャあっ、穴がふさがってます ! 大成功ですよ !
四人やったーー !
ミリーナ良かった…… ! 後は【逆しまの魔導砲】が完成すれば……。
マークよお、お疲れ。マギルゥたちも戻ってるぜ。
ベルベットそう。ミッドガンド領オスカー、回収完了よ。後はよろしく。
テレサ…………。
マークおいおい、そう怖い顔しなさんな。さて、オスカーはこっちに運んでくれ。
シングテレサさん、こっちだって。
テレサあの人たちも、大切な人をオスカーと同じように…… ?
テレサこれは ! ?
クレス炎が弱まった…… ?
ゴーシュまさか生命エネルギーが燃え尽きたんじゃ――
レイヴンっ ! ば、バカ言わないでよ。
フィリップみんな、落ち着いてくれ。浮遊島から連絡が入った。
フィリップ今起きた現象だが、これは精霊力を使って心核の生命エネルギーを守る作業が行われた結果だそうだ。
フィリップ浮遊島の贄の紋章たちも炎が抑えられてうっすらと発光する程度らしい。こちらとも一致しているから、安心してくれ。
フィリップとはいえ、予断は許さない状況だ。何かあったらすぐにブリッジへ連絡を頼むよ。
シング防御壁が完成したんだ !
ミントそうだったんですね……。驚きました。
ドロワット心臓に悪いにょ~……。
レイヴンホント、こっちが余計なエネルギー消費したわ。
ライフィセットみんなも少し休んで。飲み物持ってきたから。
ライフィセットあの……、テレサ様も、どうぞ。
テレサ二号……。いいえ、あなたたちと慣れ合うつもりは――
ライフィセットもしかして、今のテレサ様はまだ……。
テレサなんです ?
ライフィセット……ううん、何でもない。
ライフィセット僕が言いたいのは……。僕の名前はライフィセット。二号じゃありません。
テレサ……あなたのことはアルトリウス様から聞いていました。
テレサ聖隷が名を名乗り人のように振る舞う様は奇妙なものですね。
ライフィセット…………。
テレサけれど、ここは異世界ですしそういうこともあるのでしょう。
テレサ……飲み物を頂けますか。ライフィセット。
ライフィセットはい !
レイアこれだけ探しても見つからないなんて……。
セネル他の場所を探すにしてもイクスのアンテナに引っかからなきゃ意味ないしな。
マリクイクス、他にアニマの歪みを感じる場所はあるか ?
イクス(1st)いや、俺もここ以外は考えられません。
ジェイとなると、上か下ですね。ただ地図上で見ると、この上にある可能性は低い。となると――
イクス(1st)おお、俺と一緒だ ! さすがジェイだな。ここって、構造的に地下がありそうなんだよ !そうだろ ?
ジェイえ、ええ。その通りです。
イクス(1st)贄の紋章の人たちの位置から考えても魔鏡陣まで施しておいて、起動装置だけを遠くに配置する意味はあまりないと思う。
ルーティけど、下に降りられそうな場所はなかったわよ ?
イクス(1st)そこは――俺がなんとかする。
イクス(1st)………………。
アスベルイクス、大丈夫か ?負担になるなら他の手を考えよう。
イクス(1st)アスベル……。君はいい奴なんだな ! うん、やっぱり仲間っていいよなあ。
アスベルイクス ?
イクス(1st)――よし、やってみよう !
イクス(1st)(俺は以前、オーバーレイで暴走を起こしている。『このイクス』も、スタックオーバーレイで魔鏡結晶を大量に具現化させてしまった)
イクス(1st)(この体で俺が制御できるかは未知数だ。でもこの体は今までイクスが鍛えてきた体だからな。俺は一人の鏡士として君を――そして自分を信じる)
イクス(1st)――魔鏡の力よ !
イクス(1st)(よし、成功した――)
バロールの尖兵こんなことが……うおおおおおっ ! !
ナーザ聞くに堪えんな。疾く失せよ。
ナーザバルド……。
バルドウォーデン様…… !
ナーザお前はまた……、まあ、今はいい。よくぞ戻った。
バルドはい。誠に申し訳ございません。この度の失態には恥じ入るばかりです。尊き御身を私のような者のために――
ナーザお前が無事ならばそれでいい。それとも、俺のしたことが不満だったか ?
バルド……いや、心の底から嬉しいよ。ありがとう。
バルドけれど、あれだけは頂けないな。
ナーザ! !
バルドその体で奥義を使うなんてこちらの肝が冷えたよ。こんな注意ができるのは、奥義の存在を知る僕しかいないのに。だいたい昔から自分を大事にしろと――
ナーザ説教は後で聞く。フリーセルのことは任せるぞ。
バルドあっ、ウォーデン !
ナーザ……よし、どうやら戻れたようだな。しかし、バルドの奴め……。
? ? ?――あ、ええと、お帰り。
ナーザ! ? 誰だ !
イクス1stあ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ?
ナーザなっ、まさかお前は…… !

Character9話【17-15 墓守の街4】
コーキス…………ふへっ。
シグレなんだよ気持ち悪ぃ。お前本当に大丈夫か ?
ムルジムそうよ。さっきから突然変な笑い声出して。
コーキスえ ? へーきへーき。
コーキス(あれは夢じゃないよな……。会いたいよ、マスター……)
シグレまぁ、お前がバロールのところまで連れてってくれりゃどんなニヤけたツラしてたって構わねえけどよ。
コーキスちゃんと気配は追ってるって。この先から強い力を――あ…… !
ムルジムここ、何かしら。神殿みたいね。
コーキスあそこ、女の人が倒れてる !
シグレ待て。ありゃ死人だ。しかもずいぶん前のな。
コーキスえ ? 生きてるみたいに見えるけど……。
ムルジム屍蝋よ。ほら、ぬめっと光ってるように見えるでしょ。気温や湿度とか、特殊な条件を満たした環境に死体があった場合、あんな状態で保存されることがあるの。
シグレま、人間蝋燭ってとこだな。で――問題はその死体の奥にいる奴だ。出て来いよ。
コーキスえっ ! ?
ロクロウ…………。
二人! !
シグレなんでお前がここにいる。
コーキスびっくりした…… !そりゃ会いたいとは思ってたけどさ。
シグレそういやコーキスもこいつとは存分に斬り合うって約束だったか。
コーキスえ ? 何言ってんだよ、シグレ様 !斬り合うって――
コーキス(マスターと…… ?)
シグレけど、俺が先だ。アルトリウスを倒したこいつを倒す。そういう約束なんでな。
コーキス(そうか、シグレ様にはマスターがロクロウ様に見えてるんだ ! )
コーキス待ってくれ、シグレ様 !あいつはロクロウ様じゃない !
シグレあ ? ならなんだってぇんだよ。
コーキス俺に見えているのはマスターだよ。けど、あれは――
イクス俺にはお前が必要なんだ。弱い者同士、支え合う存在がさ。
イクスコーキスは望まれて生まれたんだよ。俺に。
コーキス(今なら使いこなせる ! この魔眼を ! )
シグレコーキス、お前、その眼…… !
コーキス視える…… ! やっぱりあいつ人じゃない。何かビカビカ光るエネルギー体だ !きっとこいつはバロールだ !
シグレ……そうか。気配まで擬態してくるとはな。だがありがとよ、コーキス。どうやら俺たちは『目的』にたどり着いたようだ。
シグレその姿、俺にとっちゃいい余興だ。ロクロウの時も尖兵の時も最後はコーキスに邪魔されたからな。
シグレここはきっちり決着つけさせてもらうぜ !バロール !
イクス………………あれ ?
スタン階段だ ! 下にも空間があるぞ !
アスベルやっぱり地下があったのか。大成功だな、イクス !
イクスあ、ああ…………。
イクス(イクスさん……、イクスさん…… ? )
マリクよし、オレが先に降りよう。後ろは任せたぞ。
アスベルはい ! みんな、行こう。
イクス(イクスさん、どこに行ったんですか ?俺、戻ってきましたよ ! )
レイアねえ、これ、もしかして ! !
イクス(行かないと……。そうだ、あの王立図書館のマークが入った本は確保しておいたほうがよさそうだな)
イクスごめん、みんな。遅れ……――これは !
ジェイええ。本当に当たりのようです。
レイアわたしもそう思う。だって、この装置から繋がってるあれ……心核だよね。
イクスこれがルグの槍の起動装置……。いや、ちゃんと確認しないとな。――ガロウズ、これを見てもらえないか。
ガロウズ――よし、概ねわかったぞ。その装置はエネルギーを引き入れている。で、エネルギーってのが、マクスウェルの残滓だ。
イクスマクスウェル ! ? どうしてルグの槍に !
ガロウズルグの槍を固定するエネルギーに利用してるようだな。
ガロウズしかも、ただ精霊の力ってだけじゃなくマクスウェルの残滓は、死んだマクスウェルの残りかすつまり本体そのものだ。そりゃ強力だろうよ。
マリクガロウズ、心核を取り外すためにも起動装置はなるべく安全に停止させたい。どうすればいい ?
? ? ?ヒヒヒッ ! ヒャーッハハハハ !
セネル今の声……グラスティンか ! ?奥の方からだ。
イクス確認してくる。ジェイとルーティは来ない方がいいな。黒髪はまずい。
マリクわかった。オレはジェイたちと一緒に起動装置の停止を進めておく。あっちは頼んだぞ。
グラスティンヒャーハハハハッ !ほら、また最初から殺してみろよ !
バロール……やはり、答えぬか。
イクスグラスティンとデミトリアス陛下…… ! ?
スタンあいつら、仲間割れか ! ?
セネルスタン、声が大きい。気づかれるぞ。
バロールコーキスさえ我が声に答えていれば貴様など魔眼で存在自体を消し去れたものを。
グラスティンなんだ、調子が悪いのか ?デミトリアスを喰ったりするからだ。さっさと吐いてすっきりしろよぉ。ヒヒヒ !
イクスコーキス…… ! ?じゃあ、あの陛下はバロール !
アスベルだとすると、グラスティンはデミトリアスを取り返そうとしてるのか。
ラムダ(滑稽だな。あのグラスティンという男は気づいているのか ? 己が人に与えてきた苦痛を今まさに自分が受けているのだと)
ラムダ(悪意も、善意も、巡るものだな)
アスベルラムダ……。
グラスティンデミトリアスさえ戻せば勝手にルグの槍を起動して計画をブチ壊したことは許してやるぜ。
バロールあれは我が槍だ。貴様の愚劣な口から名を呼ばれるだけでも怖気がする。
スタンあれ ? じゃあ贄の紋章の火柱はバロールがやったってことか ?
レイアええっ ! これってどうすればいいの ?バロールが勝っても、グラスティンが勝ってもまずいよね ?
バロール今のは…… !フッ、どうやら決着がついたようだ。貴様の負けだな。
グラスティンなに…… ?
バロールたった今、【ギエラ・ビフレスト】が我が尖兵に打ち込まれた。これで虹の橋が架かる。
グラスティン【ギエラ・ビフレスト】…… ?
バロール小賢しい貴様でもさすがに知らぬか。創世の鏡士がそれぞれ受け継いだ三つの奥義の一つだ。
バロールティル・ナ・ノーグからニーベルングへ虹の橋が架かれば、我が鏡精ルグとの再会が叶う。
バロールルグさえいれば、共に死の砂嵐の中の遺物をこの地に降らすことができる。今日までの貴様らが重ねた歴史は消し去ってくれよう。
グラスティン歴史を…… ? 何を言ってる…… ?
バロールわからぬか ? 魔鏡戦争による大陸消滅前と同じ状況を作るのだ。
バロールこの世界の時間を巻き戻すでもなく今の世界を壊して、元の世界を甦らせる。そういうことだ。
バロール貴様らは今の世界を捨てて自分たちは生き延びようとしているようだが、俺はこの揺り籠世界の全てを守る。異世界の異物は消してしまえばいい。
グラスティンヒヒヒ…… ! 傑作だ !それで事態が変わるとでも思っているのかあ ?またフィリップとあの女が同じことを……――
グラスティン……あ…… ?
バロール本体にもダメージは蓄積していたようだな。どれだけ複製を作ろうと全てを受け流せるはずもない。お前は世界より先に死ね。
バロール……く、雑魚に手間取った。これでは……この体の持ち主も持たない、な……。
バロール……我が末裔か。手を出さぬよう言ったはずだが。
イクス話は全部聞いた。なおさら俺が止めなきゃならない。
バロール異世界の仲間とやらを巻き込んでか。
スタン巻き込まれてなんかない。俺たちも自分の意志でここに立ってる。
レイア全部無くなるのを知ってて楽しく過ごせるわけないでしょ。
アスベルああ。ここで終わらせたりしない。あいつに見せてやらなきゃならないんだ。俺たちの『これから』を。
バロールなるほど。だが、お前たちだけでこの世界の終わりが止められるものか。
セネル俺たちだけじゃないぜ。心の中でも戦ってる奴らがいるからな。
イクスああ。俺たちが積み重ねた思いで、お前を止める !
バロール仕方が無い。……光魔よ。俺が虹の橋を架け終わるまで奴らを足止めしろ !

Character10話【17-15 墓守の街4】
パスカルリタ、そこの丸いのギューンってしたら上へパチンでポチポチドン ! で、お願い。
リタったく、いつもそれなんだから。はい、これでいいわ。キール、後はあんたよ。
キールなんであれで通じるんだ……っと、よし、結果が出たぞ。
キールジュニアの紋章データも含めたパラメータ領域での安定性が確認できた。ハロルド、いけるぞ !
ハロルド了解。これを組み込めば―― !はい、【逆しまの魔導砲】、完成ーー !
リタ……なに、今の ?
キールおい、浮遊島の計器類全てに異常値が出てるぞ !
テレサオスカーの炎が七色に…… !
レイヴンおい、ブリッジ !アレクセイたちの様子がおかしい。すぐに来てくれ !
ジュードなんなんだ……。みんなの七色の炎が螺旋を描いて空へ伸びていく……。
アニーどうしたらいいんでしょう……。一時は落ち着いたと思ったのに。
リッドレイスからだ !レイス、なんかこっちのお前らヤバイことになってるぞ ! え……それマジかよ !
リッドおい、あっちの防御壁何かの力で侵食されてるらしい !
プレセアそんな、せっかく作ったのに…… !
しいなその何かの力ってのは、なんなんだい ! ?
? ? ?その力、以前感じたものとよく似ています。アイフリード……鏡の精霊の力に。
しいなあんた、ヴェリウスかい ! ?
ヴェリウスええ。あなたの声が聞こえました。
しいなヴェリウス、心の精霊のあんたならあっちで何が起きてるのかもわかるだろ ?力を貸して欲しいんだ。頼むよ。
ヴェリウスええ。もちろんそのつもりです。まずは、残念なことを伝えねばなりません。
ヴェリウス彼らから立ち上る虹のオーラで虹の橋は完成してしまいました。
ヴェリウスこのままでは、この世界は消えてなくなります。
ヴェリウスですが、今、虹の橋を制御しているのは帝国の装置ではなくバロールです。まだ贄の紋章たちの命が使われたわけではありません。
しいなけど、そのアイフリードだか鏡の精霊だかの力ってのに防御壁は破られそうなんだろ ?
ヴェリウス正確には『似た力』です。恐らくはアイフリードの残した奥義をバロールが使っているのでしょう。
ヴェリウス贄の紋章たちを守る壁は精霊の力。ですからアイフリードの魔鏡術に引きずられてしまう。
しいなつ、つまりどうすればいいのサ ! ?
ヴェリウス私の力で防御壁を補強しましょう。
ヴェリウスただし、防御壁を構築している者たちも疲弊しています。私の力で支えられるのはわずかな間かもしれない。
ヴェリウス今のうちに装置を破壊し【逆しまの魔導砲】を放ってください。
しいなわかった。ありがとう、ヴェリウス。あたしの声に応えてくれて。
しいなよかったよ……。少しはあたしでも役に立てたみたいでサ……。
? ? ?しいなはいつだって頑張ってるよ。大丈夫、これからもヴェリウスの中でしいなのこと応援してるから……。
しいな――いまのは…… !
バロールフ、遅かったな。もはや虹の橋は我が手に――
バロールなんだ……これは…… !
? ? ?【ギエラ・ビフレスト】、か。すごいな。こうして人の心に侵入できるなんて。
バロール貴様……貴様は俺の末裔か ! ?何故だ ? 貴様はもう死んだはずだろう ! ?本来のイクス・ネーヴェ !
イクス(1st)離魂術だよ。ビフレスト皇国が受け継いだ力で俺の体だけが生かされ続けてきた。
バロール離魂術……ダーナの秘伝魔鏡技か。しかし何故我が血を明け継ぐ貴様が【ギエラ・ビフレスト】を……。
イクス(1st)さっき知り合った友達が親切な人でね。俺とお前の心を繋いで送り込んでくれたんだよ。
バロールそうか、貴様の死体を使っていた奴が……。
イクス(1st)諦めろ、バロール。ルグの槍を解除するんだ。
バロール揃いも揃って同じことを…… !ぐっ…… !
イクス(1st)無駄だよ。【ギエラ・ビフレスト】の拘束はお前の力を使う尖兵も敵わなかったって話だ。
バロール尖兵か……、我が力の一部を下した程度でつけ上がるなあああっ !
イクス(1st)拘束がゆるんだ ! ?
バロール貴様はバロールの血族だ。【ギエラ・ビフレスト】を使いこなせると思うなよ !
イクス(1st)くっ…… !
バロール我が血に連なる者よ。貴様は絶対俺には逆らえないと教えてやる。俺の糧となるがいい !
ロクロウの幻……っ !
シグレつまんねぇな。期待はずれもいいとこだ。お前、本物よりもずっと弱かったぜ。
コーキスあっ、バロールの光が消えた…… !
バロールふん、さすが同じ一族だ。よくなじむ。イクスよ、このまま俺の中に溶けていけ。
バロールっ ! 今のは……。ぐおおおおおおおっ ! !
バロール俺の核が…… ! 力が……削がれる…… !そうか……俺の神殿に踏み込んできた奴らか !
イクス(1st)はぁ……はぁ……喰われるとは思わなかった。けど……フフ、いいザマだな、バロール。今のお前、俺より弱ってるじゃないか。
バロール! !
バロール……ぐっ……。
スタンバロールが……倒れた ! ?
イクスあれ……めまいが………。
セネルおい、どうした !
レイアイクス、大丈夫 ! ?
イクスああ、平気だ。なんだろう……。
イクス1st(やったな、イクス……)
イクス(イクスさん !どこに行ってたんですか、心配しましたよ)
イクス1st(うん、ナーザ将軍のところに飛ばされてそれからバロールを取り込んできた)
イクス(は…… ! ? あの……言っている意味がよくわからないんですけど ! ?)
イクス1st(ははっ、俺の記憶を覗いてくれ。それでわかる。家賃分の仕事はできたと思うよ ?)
イクス1st(ただ、バロールを掌握するのに時間がかかりそうだ。ちょっと……休む……………………)
アスベルイクス、おい、イクス ?
イクスごめん、少しボーッとしてた。
アスベル……イクス、もしかして『中』に誰かいるんじゃないか ?
イクスそうか……、アスベルもラムダが一緒だもんな。後で説明するよ。今はバロール……じゃなくてデミトリアス陛下を……あれ ?
スタンバロールがいないぞ !
セネルグラスティンが連れていったのか ! ?あいつ、生きていたとは…… !
イクスくそっ、いつの間に !
ヴェリウス(待ちなさい、イクス。すぐにルグの槍の解除に向かうのです。時間がありません)
イクスえっ、ヴェリウス ?
イクスマリクさん、ジェイ、ルーティ !起動装置に繋がった心核は ! ?
マリクああ、つい今しがた取り外すことができた。後はこいつを停止させるだけだ。
イクス急ぎましょう。贄の紋章の人たちの防御壁が壊れそうです。ガロウズ、解除手順は ?
ガロウズばっちり確認できたぜ。まずは――
ジェイドキール、イクスから連絡が入りました。今すぐ【逆しまの魔導砲】を !
キール了解 ! よし、それじゃいよいよだl我らキール研究室の英知を結集したこの、逆しまの――
ハロルドポチっとな。
キールあ。
ファラ……今のが、逆しまの魔導砲 ?
チャット見てください !贄の紋章のみなさんの炎が消えていきます !
メルディほらな、キールたち。ちゃんとやってくれた !みんな助かったよ !
ファラうん……うん !
クロエよかった、これでシャーリィたちも戻ってこられるんだな。
ルカそうだね。それにみんなから出てた虹の橋も――……あれ ?
グリューネまあ、お空がきれいねぇ。ゆらゆら虹色がたなびいて。
ルカ虹の橋が、消えていない……。みんなの体から出る炎は消えたのに……。
to be continued