| Character | 1話【19-1 分史世界1】 |
| 分史ハスタ | ハーッハハハハッ ! ヒーッヒヒヒヒ ! |
| 分史ルカ | ごふっ…………。……………………。 |
| ルカ | 僕が、殺された……。 |
| イクス | あれが、【時歪の因子】化したハスタ…… ! |
| エル | ルドガー……。エル、気持ち悪い……。 |
| カーリャ | エ……エルさま、大丈夫ですか ?カーリャもお側についてますからね。 |
| ルドガー | ……ミリーナ、カーリャ、聞いてくれ。分史世界を破壊するには、俺がハスタにとどめを刺さないといけない。戦っている間、エルを頼めるか。 |
| ミリーナ | ――ええ、任せて。 |
| スパーダ | あの野郎…… ! |
| スパーダ | ルカーーーー ! |
| 分史ハスタ | おっと ! |
| 分史ハスタ | ……おや ? さっき「そいつだけは~」とか命乞いしてた……ええと、みっともなし太郎くん ?おかしいな、息の根止めたはずだよなぁ。 |
| スパーダ | うるせえ !よくも…… ! よくもオレの前でルカを ! |
| 分史ハスタ | ああ、このかば焼きくんね。串打ち三年、裂き八年。どうだい、この見事な刺しっぷり。 |
| 分史ハスタ | でも、素材がこんなゴミじゃハスタくんの腕が号泣ですよ。というわけで、この雑魚ウナギは廃棄だポイ ! |
| スパーダ | ! ! てめぇッ ! |
| カーリャ | ひっ ! こっちに投げて―― |
| 二人 | きゃあああっ ! |
| 三人 | 「ルカ ! 」「ルカくん ! 」「ルカ兄ちゃん ! 」 |
| スパーダ | おい、ルカ ! しっかりしろ ! |
| イリア | どいて、スパーダ ! 手当てするから ! |
| チトセ | 傷口を押さえるわ。止血してる間に術を ! |
| イリア | わかってる ! |
| ルカ | 待って、みんな !……もういいよ。力は温存して。 |
| イリア | 馬鹿言わないで !ルカが……もう一人のあんたが死んじゃう ! |
| エルマーナ | せやで !別の世界のルカ兄ちゃんでも見捨てることなんてできへん ! |
| アンジュ | そうじゃないわ。わかってるでしょう ?分史のルカくんは、もう……。 |
| 四人 | ……………………。 |
| リカルド | ! !切り替えろ。奴が来るぞ。 |
| 分史ハスタ | あれれ~ ? 飛んだ死体を追っかけたらブッコロリンしたリカルド先生がいるよ~。おかしいなぁ~。どうやって生き返ったのかなぁ~ ? |
| リカルド | 貴様……、輪をかけてイカレてるようだな。この死体の山、目に入った奴らを片っ端から殺したか。 |
| 分史ハスタ | おい、聞いてるのはオレだぜ ?質問に答えられない先生なんて、先生じゃないやい !クビですよ、クビ ! 首チョンパ ! |
| 分史ハスタ | ぎゃひん ! |
| エルマーナ | ……ええ加減にしや、自分。 |
| アンジュ | エル ! |
| エルマーナ | 止めんといて !子どもが目の前で殺されて、腹煮えくり返っとんねん。ウチも、ウチの中のヴリトラもな ! |
| アンジュ | 誰が止めるなんて言った ?エル、やるなら徹底的によ。 |
| リカルド | さすが俺の元雇い主だ。こいつは一気に殺らんと逃げられるからな。 |
| イリア | 言われなくても、最初から全力でやってやるわ ! |
| ルカ | はーーーっ ! ! |
| 分史ハスタ | うわ、かば焼きくん、もう復活 ! ? さっきのあんまり痛くなかった ? |
| ルカ | 痛かったよ。みんなが悲しむ姿も、みんなが死んでいた姿も。 |
| ルカ | あんな光景、二度と繰り返すもんか ! |
| スパーダ | ルカ…… ! |
| 分史ハスタ | 次から次へと蘇る、これぞわんこ敵 !最高のおもてなしに、ハスタ、感謝。 |
| 分史ハスタ | ではでは~楽しい殺戮タイムセールの再開だー ! |
| コンウェイ | ……ここは ? |
| キュキュ | 景色、変わた ! ……みんな、いない。 |
| コーダ | うう……突然周りがぐんにゃりしたぞ。コンニャクみたいで増々ハラが減ったんだな、しかし。 |
| コンウェイ | この現象……もしかするとここは分史世界かもしれないな。 |
| キュキュ | ブンシ……。ルカたち、はぐれたか ? |
| コンウェイ | ルドガーくんたちもいないのを見るにはぐれたのはボクたちのほうだろうね。 |
| コンウェイ | ボクたちとルドガーくんとの位置関係によるものかそれとも他に違いが……。 |
| コンウェイ | とにかく、まずはみんなを捜さないと。ここを中心に、少しづつ捜索範囲を広げていこう。 |
| キュキュ | ……わかた。 |
| コンウェイ | なんだい ? なにか言いたそうだけど。 |
| キュキュ | イヌテブ。アゴヌル シエリエ マゲアモエ カディアナリ イニク。 |
| コンウェイ | イイ エツカノケチ ウタラナイ。 |
| 二人 | …………。 |
| コーダ | なに言ってるのかわからんぞ、しかし。メシの相談ならもっと楽しくしろ。しかし。 |
| キュキュ | ……はい、ごめん。 |
| コンウェイ | ボクも、少し大人気なかったかな。 |
| キュキュ | 誰 ! そこいるのわかる。出ろ ! |
| コンウェイ | それじゃ脅迫だよ。――そこの人、出てきてもらえるかな。ボクたちも話がしたいんだ。 |
| マティウス | ……。 |
| コンウェイ | あなたは……。 |
| Character | 2話【19-2 分史世界2】 |
| マティウス | ……。 |
| キュキュ | マティウス ! |
| コーダ | ギャー ! こいつはマズイんだな、しかし ! |
| キュキュ | 止まれ ! そこから動く。キュキュ、攻撃する ! |
| コンウェイ | 待つんだ。彼女に確認したいことがある。――あなたは、ボクたちを追ってきたの ? |
| マティウス | ……そうだ。 |
| コンウェイ | ということは、分史世界のマティウスじゃないのか。ここまでついてきたからには何か目的があるはずだけど、聞かせてもらえないかな。 |
| マティウス | ……。チトセはどこにいる。 |
| コンウェイ | さあね。ここにいるのかもわからないよ。 |
| マティウス | ならばお前たちに用はない。 |
| キュキュ | 待て ! お前、ルカたちに悪いことする気か ?それならキュキュ、ぜたい許さない ! |
| マティウス | 奴らが私の邪魔をするのならあるいはそうなるかもしれんな。 |
| キュキュ | そうか。ならお前、行かすことできない。 |
| コンウェイ | やれやれ……本当に血の気が多いね、キミは。けれどキュキュの言うことにも一理ある。 |
| コンウェイ | あなたが目的を話さない以上野放しにするのは危険すぎる。一緒にいてくれないかな。 |
| マティウス | 断る。邪魔するのなら、お前たちから―― |
| 死鏡精 | 死ヲ……、カガミ……シ……。 |
| コンウェイ | 死鏡精 ! ? |
| マティウス | なんだこいつらは ! なぜ、天上界にこんなものが ! ? |
| コンウェイ | 天上界 ? やっぱりそうか !この分史世界が天上界なら、なぜ死鏡精が……。 |
| コーダ | わー ! コーダ、食うのはいいけど喰われるのは嫌なんだな、しかしー ! |
| 死鏡精 | ……ミツケタ。カガミシ……。イル…… ! |
| 死鏡精 | アッチ……。イル……。カガミシニ……死ヲ……。 |
| 二人 | ! ! |
| キュキュ | コンウェイ、考える、後 !こいつら排除する ! |
| コーダ | あっ、あいつ逃げるぞ、しかし ! |
| キュキュ | コンウェイ、コーダ連れてマティウス追え !キュキュ、死鏡精倒しながらついてく ! |
| コンウェイ | わかった、そうしよう。 |
| キュキュ | アウォヌリ ケディエリ エミン コンウェイエンヌビ キイ ! |
| コンウェイ | アソ ムコブ。 |
| キュキュ | ……ホントか ? |
| コンウェイ | ああ。さあ、行こう。 |
| 分史ハスタ | ぎゃひいいん ! |
| スパーダ | オラオラオラオラァ !どうしたよ、さっきの勢いは ! |
| 分史ハスタ | 寄ってたかって攻撃だなんて恥ずかしくないのか、君たちは ! |
| リカルド | 貴様が言うか、この外道が ! |
| 分史ハスタ | ぎゃあっ !おいおい……いつも冷静なリカルド先生らしくないでおじゃるよ ? |
| リカルド | ああ、そうかもしれん。守ると誓ったガキどもの死体がしっかり目に焼き付いちまったんでな。 |
| リカルド | 己の不甲斐なさに嫌気が差す ! |
| 分史ハスタ | なるほど八つ当た――ぐはっ…… ! |
| イリア | 怯んだ ! 今よ、ルカ ! |
| ルカ | 行くよ、スパーダ ! |
| スパーダ | おう ! |
| 二人 | 爆嵐業刹衝 ! ! |
| 分史ハスタ | まだ……、足りな…………殺した…………。……………………。 |
| エルマーナ | よっしゃ ! 倒したで ! |
| ルカ | ルドガーさん ! |
| ルドガー | ああ ! とどめを―― |
| ルドガー | うわあっ ! ! |
| エル | ルドガー ! ! |
| チトセ | ダメ、危ないわ ! |
| ミリーナ | 落ち着いて、エル。ほら、ルドガーさんは無事よ。 |
| ルドガー | くっ……。邪魔をされた…… ?今のはいったい……。 |
| ルカ | お前は ! |
| チトセ | マティウス……さま ? |
| マティウス | まだ、こやつを殺すわけにはいかぬ。 |
| コーダ | そいつ、ルカたちを追ってきたんだな ! しかし ! |
| コンウェイ | 正確にはチトセさんを追っていたらしいけどね。 |
| ルカ | コンウェイ、コーダ !やっぱりこっちに来てたんだ。キュキュさんは ? |
| コンウェイ | すぐに追いつくはずだよ。見たところ、あれが【時歪の因子】化したハスタのようだね。 |
| ルドガー | ああ。あいつを倒さないと俺たちも帰れない。 |
| イリア | 聞いたでしょ、マティウス ! そいつを渡しなさい ! |
| マティウス | ……チトセ、ここにいたのか。 |
| チトセ | マティウスさま !お目覚めになったのですね。この日をどれだけ待ち焦がれたか。 |
| イリア | ちょっと、あんたたち、無視すんじゃないわよ ! |
| イクス | マティウスさん ! 俺たちの話を聞いてください。 |
| キュキュ | コンウェイ ! 死鏡精、倒しきれなかた !みんな ! 逃げる ! |
| 三人 | 死鏡精 ! ? |
| 死鏡精 | カガミシ、イタ ! |
| キュキュ | バニシングストーム ! |
| イクス | あ、ありがとう ! キュキュさん ! |
| キュキュ | 死鏡精、イクスたち、狙てる。 |
| ミリーナ | エル、一旦私から離れていて。チトセさん、エルをお願い ! |
| チトセ | えっ ? ……わかったわ。だったらお願い、マティウスさまを――きゃあっ ! |
| 死鏡精 | カガミシ、ナカマ ! ジャマ ! ジャマ ! |
| エルマーナ | あかん、こいつら何とかせんと ! |
| マティウス | ハスタは確保した。行くぞ、チトセ。 |
| チトセ | 行くって……マティウスさま ? |
| スパーダ | ! !マティウス、てめぇ ! ハスタを置いてきやが―― |
| スパーダ | くそっ、死鏡精が…… ! 邪魔すんな ! |
| マティウス | チトセ、早くしろ ! ここから離れるぞ。 |
| チトセ | でも、私はこの子を……。 |
| マティウス | ……チトセ、まさか、お前まで私を裏切るのか ? |
| チトセ | ! ! |
| チトセ | いいえ ! 私はイナンナとは違う !決して、アスラさまを失望させるようなことはしません ! |
| チトセ | そうよ、私だけは絶対に…… ! |
| エル | チトセ…… ? |
| チトセ | ……エル。周りの死鏡精だけは倒すからその間にみんなのところに行って。 |
| エル | チトセ、待って ! |
| チトセ | マティウスさま。今、お傍に参ります ! |
| エル | 行っちゃダメだってば、チトセ ! |
| チトセ | 来ないで、邪魔よ ! |
| エル | ! ! |
| ルドガー | エル、大丈夫か ! |
| マティウス | よく来た。さあ、行くぞ、チトセ。 |
| チトセ | はい……、マティウスさま。 |
| エル | チトセーーーーッ ! |
| イクス | チトセさん ! くそっ、ハスタも取り戻さないと―― |
| リカルド | 死鏡精に集中しろ !今ここで奴らを倒さないとこの先ずっと付きまとわれるぞ。 |
| イクス | ……はい ! |
| Character | 3話【19-4 仮想鏡界1】 |
| ナーザ | ――それで、イクスたちが消えた後フリーセルはどうなった。 |
| アリエッタ | デミトリアスたちに、捕まった……です。今、アリエッタのお友達が……後を追ってます。 |
| ナーザ | わかった。ご苦労だったな、アリエッタ。引き続き動向を探ってくれ。 |
| アリエッタ | わかった……、です ! |
| ナーザ | ……ここまで急激に事が動くとはな。 |
| ジュニア | はい……。心構えはしていましたけど……。 |
| バルド | フリーセルとデミトリアスが交戦との一報を受けたので皆さんには情報共有のために集まって頂きましたがそれだけでは済まなくなりましたね。 |
| リヒター | ああ。フリーセルだけじゃなく、イクスたちも本当に分史世界へ行ったのか確かめようもない。さて、どうするか。 |
| アステル | う~ん、分史世界に関しては下手に手を出すより浮遊島に任せるのがいいんじゃない ?あっちはクルスニクの一族もいるし。 |
| コーキス | …………。 |
| メルクリア | コーキス、やはりイクスが心配か ? |
| コーキス | そりゃ当たり前だろ。けど……マスターなら大丈夫だから。 |
| メルクリア | なんと、自信満々じゃな。 |
| コーキス | まあな。今も確かめてたんだけど俺の身体には何の変化もない。感覚も正常だ。だったら、マスターだって無事ってことだよ。 |
| マークⅡ | へえ。なんだよ、鏡精っぽいこと言いやがって。 |
| コーキス | 鏡精だっての !っていうか、マークより俺のが先輩だからな ? |
| メルクリア | ……コーキス、おぬし何やら変わったな。 |
| コーキス | えっ、マジで ! ? どこが ! ?まさかマスターに何かあったのか…… ! |
| メルクリア | 違うわ ! 見た目は変わっておらぬから安心せい。まったく……、一瞬、頼もしく見えたがわらわの気のせいであったか。 |
| バルド | いいえ、メルクリア様。素晴らしい観察眼かと。やはりあなたはナーザ様と同じように上に立つ素質をお持ちです。 |
| バルド | あなたにお仕えする者は、きっと……。 |
| メルクリア | バルド ? |
| バルド | ……いえ、話を戻しましょう。 |
| バルド | アリエッタの報告から鑑みるにフリーセルが墓守の街に向かった理由は分史世界の誕生を阻止するためだったのでしょうね。 |
| ナーザ | ああ。しかもそれは、フリーセルにとっても単身で挑まねばならぬほど急ぐ必要がありにも関わらず、阻止はできなかった。 |
| ナーザ | そう考えると、今の状況はこちらにとって相当まずい方向へ動いているということだ。 |
| メルクリア | ならば、わらわたちは、まず何をすべきでしょうか。 |
| ナーザ | それはもう決まっている。だが、これは俺の勝手ですることだ。 |
| ナーザ | 俺はフリーセルを救出する。 |
| リヒター | こちらは構わんが奴はジュニアも敵視する可能性があると聞いているぞ。 |
| マークⅡ | ああ。俺としちゃ危険人物はなるべく遠ざけておきたいぜ。 |
| ジュニア | マーク、僕なら大丈夫だよ。 |
| マークⅡ | ったく、お前は……。そう来ると思ったよ。けど一応、言うべきことは言っとかねえとな。 |
| マークⅡ | それに、あいつは二人目だろ。俺らにとっちゃ、一人目のフリーセルだってよくわからねえ奴なのに、二人目ともなるとな。 |
| マークⅡ | ビクエの方のフィルから聞いたフリーセルの話をベースにして、二人目のフリーセルの動きを予測しても同じように動くとは限らねえ。 |
| マークⅡ | 警戒ぐらいさせて欲しいぜ。 |
| バルド | 二人目が同じとは限らない……ですか。 |
| ナーザ | 一人目か二人目かなど関係ない。フリーセルは我がビフレストの民だ。 |
| ナーザ | 俺たちと手段は違えど今も祖国のために戦い続ける忠臣を見捨てるのは俺の望むところではない。 |
| ナーザ | マークの懸念は承知している。故にフリーセルを助け出した暁には膝を突き合わせて話すつもりだ。 |
| ナーザ | それでも変わらぬとあれば……俺が責任を取る。 |
| マークⅡ | わかった、わかった。まあ、フィル……ジュニアも了承してるしな。 |
| バルド | では、すぐにでも向かいましょう。メンバーはどうします ? |
| ナーザ | こうなった今、デミトリアスとグラスティンの狙いはジュニアだろうな。 |
| ナーザ | 虹の橋が実体化し、奴らはニーベルングへの移住とティル・ナ・ノーグの破壊を試みるはずだ。 |
| バルド | はい。そしてその鍵はジュニアだという話です。 |
| ジュニア | ………………。 |
| ナーザ | 贄の紋章は無効化された。しかし消えたわけではない。 |
| リヒター | そもそもジュニアの贄の紋章は前回、他の紋章持ちとは違って発動しなかった。つまり性質が違うと考えられる。 |
| リヒター | であれば、ジュニアの紋章はまだ生きている可能性が高い。 |
| ナーザ | ああ。なればこそ、お前は今一度仮想鏡界にこもり外部との接触を断つのだ。 |
| ナーザ | フリーセルの救出は俺の独断だ。救出には最小限――俺とバルドで向かうとしよう。 |
| ジュニア | ……………。 |
| Character | 4話【19-5 仮想鏡界2】 |
| メルクリア | ――な ! ?兄上様、それはあまりにも危険ではありませぬか ! ? |
| ナーザ | 案ずるな。バルドもいる。 |
| ジュニア | ……ま、待って……。 |
| ジュニア | 待ってください、ナーザ将軍 !僕も……僕もお二人に同行させてください ! |
| マークⅡ | お、お前、何言ってんだ ! ? |
| ナーザ | どういうつもりだ、ジュニア。 |
| ジュニア | 虹の橋が架かって、分史世界も創られてしまいました。みんなが言うとおり、これから帝国は僕の捜索に全勢力を傾けるはずです。 |
| ジュニア | 魔の空域にまで干渉したグラスティンだ。このまま仮想鏡界に隠れていても見つかる可能性だってある。 |
| ジュニア | だったら僕を交渉材料にしてください。僕がおとりになって隙を作る計画を立てた方が相手の意表を突けると思います。 |
| マークⅡ | 駄目だ、危険すぎる !何されるかわかんねえぞ ! |
| ジュニア | 嫌なんだ ! そうやって怯え続けるのは ! |
| ジュニア | マーク、僕はもう利用されるためだけに生まれた僕のままでいたくない。 |
| マークⅡ | ! ! |
| メルクリア | よう言うた。ジュニア。 |
| マークⅡ | ……参ったな。俺のご主人様、意外にカッコいいわ。 |
| アステル | ふふっ、だったら僕たちも協力しないと。 |
| バルド | レイカー博士、何か良い策でも ? |
| アステル | 策はないよ。でもジュニアの贄の紋章の抑制コードみたいなものはできそうかなって。 |
| アステル | 確かジュニアの贄の紋章には対になる紋章があるんだったね。 |
| アステル | 帝国がジュニアを捕まえたならきっと対になる贄の紋章とセットで起動させる筈だ。 |
| アステル | だから、ジュニアの贄の紋章に相手の贄の紋章の発動を抑えるコードを上書きしてみようかと思うんだ。 |
| コーキス | え~と……、つまり ? |
| リヒター | アステル、わかりやすく説明してやれ。 |
| アステル | わかりやすく ? う~ん……、例えるならディスト博士がジェイドさんと遭遇しても何もできずに指をくわえて見てるだけになるコード。 |
| コーキス | ますますわかんねえ ! |
| ディスト | 心外ですよ、レイカー博士 !私とジェイドの部分を逆にしなさい ! |
| コーキス | いたのか、ディスト様 ! |
| ディスト | 最初からいましたよ。救出だの何だのと興味がなかったので黙っていただけです。 |
| アステル | あはは、ごめんなさい。とにかく、そういう対策はできると思うんだ。 |
| アステル | 浮遊島で所持しているデータやリヒターとディスト博士の力があればすぐにでもジュニアの贄の紋章に上書きできると思う。 |
| アステル | でも、そもそも対の紋章の性質まではわかってないから相手の贄の紋章が効果を発動させるのを遅らせることしかできないけどね。 |
| ジュニア | 対になる贄の紋章……、元々贄の紋章はルグの槍の力を利用して虹の橋を架けるものだった。 |
| ジュニア | なら、僕と誰かの持つ『対の贄の紋章』もルグの槍の力を利用していて虹の橋に似た効果を持っているのかな……。 |
| アステル | 基本的には贄の紋章なんだからそうだろうね。 |
| ディスト | 簡単なことですよ。わざわざ二人の人間を対にする――つまり二人の人間の力を寄り合わせる必要があるのでしょうね。 |
| リヒター | ジュニアをわざわざ使うのなら当然鏡士としての力か。 |
| ジュニア | ……少し見えてきた気がします。帝国は何かを具現化したいんだ。 |
| ジュニア | アステルさん。対の紋章が誰に施されているのか突き止めるためにも是非その上書きをお願いします。 |
| バルド | ナーザ様、いかがなさいますか ?だいぶ盛り上がっているようですが。 |
| ナーザ | ……わかっている。歩みを進めんとする者たちに水を差すほど無粋ではない。 |
| ナーザ | レイカー博士、ジュニアへの処置を急いでくれ。 |
| アステル | 了解です。 |
| ジュニア | ナーザ将軍、ありがとうございます ! |
| ナーザ | 何を言う。感謝するのはこちらの方だ。 |
| アステル | ディスト博士、力を貸して貰えませんか ?僕だけじゃ難しい作業ですしどちらかといえばディスト博士の得意分野ですよね。 |
| ディスト | いいでしょう。対の紋章には私も興味があります。浮遊島でも研究をしているはずですよ。 |
| ディスト | さあ、早く連絡しなさい。我が友ジェイドなら快く情報を共有してくれるでしょう。 |
| ナーザ | メルクリア、コーキス、俺たちに同行しろ。いざとなれば、お前たちがジュニアを連れて逃げるのだ。わかったな。 |
| コーキス | 了解 !へへっ、ボスも結構優しくなったよな。 |
| メルクリア | 馬鹿者 ! 兄上様は元からお優しい方じゃ。――よし、わらわも準備をせねばのぅ ! |
| リヒター | 気負いすぎるな。足を掬われるぞ。 |
| メルクリア | わかっておる。リヒターは本当に心配性じゃの。 |
| ナーザ | リヒター、お前もついてきてもらえるか。ジュニアの処置後に対処できる者が欲しい。 |
| リヒター | わかった。だが、ここの守りはどうする。仮想鏡界はほぼ安全だとは思うが……。 |
| ナーザ | マークとディストならアステルを守ってそれなりに立ち回れるだろう。外に出ている者も、じき戻るしな。 |
| ナーザ | 紋章の上書きが終わり次第、墓守の街に出発する。それぞれ備えを進めておけ。 |
| Character | 5話【19-6 分史世界4】 |
| イクス | 洸牙衝 ! |
| イクス | ……よし、これで全部かな。 |
| リカルド | ああ。見た限りではな。しばらくは邪魔されずに済むだろう。 |
| イクス | ミリーナ、カーリャも無事か ? |
| ミリーナ | ええ ! |
| ミリーナ | カーリャ、大丈夫よね ? |
| カーリャ | はい、このとおり !乗っ取られたりしてませんよ。 |
| イクス | よかった。コーキスの例もあるからさ。心配したよ。 |
| カーリャ | それにしてもなぜ分史世界に死鏡精が現れたんでしょう。もしかして、天上界にもいたんですか ? |
| アンジュ | いないはずよ。天上界に鏡士みたいな存在がいたら嫌でも戦争に引きずり出されてるはずだもの。 |
| イクス | う~ん……。この分史世界はハスタの記憶の中にある前世の天上界を再現しているはずだ。 |
| イクス | でも、エンコードのせいでティル・ナ・ノーグでの『前世』の概念はニーベルングへと置き換わっている。 |
| イクス | そのせいで、二つの世界が歪に混ざり合った分史世界が生まれたのかもしれない。 |
| カーリャ | それなら死鏡精が現れても不思議じゃないですね。 |
| ミリーナ | これからも何が起きるかわからないわ。早く脱出しないと。 |
| スパーダ | ああ。ルドガーにハスタのとどめを刺してもらってこんな世界とはおさらばだ。さあ、マティウスを追おうぜ ! |
| ルドガー | ああ、でも……。 |
| エル | …………どうしたの ? エルなら平気だよ。早くチトセを迎えにいこう。 |
| ルドガー | 本当に大丈夫か ?何か気になることがあるなら―― |
| エル | なにもないよ ! 本当に大丈夫だから……。 |
| アンジュ | ねえ、みんな。立ち話程度でいいからマティウスを追う前に今の状況を整理しておかない ? |
| ミリーナ | そうね ! その間、エルとルドガーさんは休んだらどうかしら。 |
| ルドガー | ありがとう、そうさせてもらうよ。 |
| エルマーナ | せや、忘れるとこやった !エル、これ返しとくな。 |
| エル | あ、これ……エルがエルと拾った貝殻 ! |
| エルマーナ | これな、あの部屋の……管制室の前で拾ってん。ルドガー兄ちゃんから話を聞いたあとに。 |
| エル | ! !あ、それじゃ……。 |
| エルマーナ | 一人で抱えるんがしんどいなら相談してみるのもええんちゃう ?エルには何でも話せる相棒がおるんやろ ? |
| エル | アイボー……。そうだよね。ルドガーは、エルの相棒。 |
| エルマーナ | せやで ! そんで、それでもしんどい時にはアンジュ姉ちゃんに抱っこしてもらい。ルドガー兄ちゃんと違ってフッカフカやで ? |
| エル | うん、わかった。ルルとどっちがフカフカか、比べてみる ! |
| アンジュ | うっ、そこはルルに勝って欲しいかな……。 |
| イクス | それにしても、マティウスがいたのは予想外だったな。 |
| コンウェイ | ボクも最初は分史世界のマティウスかと疑ったよ。 |
| リカルド | しかし、何故あいつはハスタをかばったんだ。 |
| コンウェイ | 彼女にとって、この分史世界の中に都合のいい何かがあるんじゃないかな。それが何かといわれても、ボクにはわからないけどね。 |
| イリア | そんな小難しいこと、どうでもいいわよ。とにかくマティウスを止めないとあいつ、また都合のいいように利用されるだけよ。 |
| ルカ | あいつって、チトセさんだよね ? |
| イリア | 当たり前でしょ。他に誰がいるのよ。 |
| ルカ | ……それって利用されるチトセさんが心配ってこと ? |
| イリア | はぁ ? どこをどう聞いたらそうなんのよ !あんたほんっと、おたんこルカね ! |
| コーダ | コーダもそう聞こえたぞ、しかし。 |
| イリア | 違うって言ってるでしょ !……けどさ、あたしたちはみんなあいつの最期を見てるじゃない。 |
| イリア | もうあんな想いをさせるわけにはいかないでしょ。こっちも後味悪いしね。 |
| イリア | そういうわけだからくれぐれも勘違いするんじゃないわよ ! ? |
| ルカ | イリア、顔が赤―― |
| スパーダ | おい、ルカ ! やめとけって ! |
| ルカ | え ? |
| エルマーナ | アスラもそうやったけど、ルカ兄ちゃんてたまにおっそろしく空気読めん時あるなぁ。そう思わん ? アンジュ姉ちゃん。 |
| アンジュ | …………。 |
| エルマーナ | アンジュ姉ちゃん ? なに考えとるん ? |
| アンジュ | えっ ? ああ、ごめんね、エル。さっきコンウェイさんが言ってたことが気になって。 |
| アンジュ | マティウスに都合のいいことは何なのかって考えてたの。 |
| エルマーナ | ふうん。で、わかったん ? |
| アンジュ | それが全然。やっぱり、まずはマティウスの目的をはっきりさせないといけないのよね。でも、それも全く思い浮かばないの。 |
| アンジュ | だって、今のマティウスの行動って帝国側に都合のいいことばかりでしょ ? |
| アンジュ | 自我を取り戻したマティウスが自分をリビングドールにした人たちの利益になることなんてするかしら。 |
| エルマーナ | まあそうやな。帝国に味方してないならそうに見える行動をするんはなんでかを突き止めて……、ええと……。 |
| エルマーナ | あーー、なんや頭痛なってきたわ ! |
| アンジュ | ごめんね。私だって考えがまとまってないのに混乱させるだけよね。 |
| リカルド | おい、そろそろ行くぞ。さすがにこれ以上は奴らから離れ過ぎる。 |
| アンジュ | わかりました。さ、行きましょうか、エル。 |
| エルマーナ | 全然わからんままやけど、ええの ? |
| アンジュ | ええ。立ち止まって考えるよりもエルの言うとおり今は彼女たちを止めるのが先決よね。 |
| Character | 6話【19-9 分史世界7】 |
| チトセ | ――そうして帝国から連れ出された後鏡士のもとに身を寄せ、マティウスさまが回復されるのをお待ちしていたのです。 |
| マティウス | そうであったか。……帝国め、よくもここまで愚弄してくれたものよ。 |
| マティウス | それで、ロミーと行動を共にしている間奴は何か言っていたか ? |
| チトセ | はい。ルグの槍が発動したときこそ自分が世界を超える機会だと。 |
| チトセ | 帝国とも、アルトリウスとも違う発言をしたのはそれだけです。 |
| マティウス | そうか。これで確信できた。フフフ、あのロミーという女はしたたかだな。 |
| チトセ | マティウスさまは、何かご存じなのですか ? |
| マティウス | あの者は、ティル・ナ・ノーグという世界から脱出しようと目論んでいたのだ。 |
| チトセ | 脱出…… ?それは、自分の世界に戻るという意味ですか ? |
| マティウス | そうだ。私もリビングドールにされる直前に知った話だがな。奴は今もその計画のために動いているとみえる。 |
| チトセ | 『今も』とおっしゃいましたがロミーはまだ目覚めてはおりません。 |
| マティウス | よい。それで構わぬ。 |
| チトセ | そう、ですか……。 |
| マティウス | ともあれ、ティル・ナ・ノーグから抜け出せるか否かはルグの槍の力の発現である虹の橋にかかっている。 |
| マティウス | 分史世界に虹の橋が架かっている限り閉じた世界に風穴が空いた状態になるのだ。 |
| マティウス | チトセ、この分史世界という場所を消させてはならぬ。 |
| チトセ | はい !それで、あの……、差し出がましいようですがお体はいかがでしょうか。 |
| マティウス | 問題はない。このとおり、目覚めてすぐに動くこともできた。 |
| チトセ | そうですか。本当に……本当によかった…… !必ずお元気になられると信じていました。 |
| マティウス | 行くぞ、チトセ。私にはやることがある。 |
| チトセ | はい、マティウスさま ! |
| チトセ | (ああ、マティウスさまについて来てよかった。これで私の思いは報われるわ。もう、何も憂いはない) |
| チトセ | (…………何も ?) |
| 分史ルカ | ごふっ…………。……………………。 |
| ルカ | 僕が、殺された……。 |
| チトセ | (大丈夫、アスラさまは……、ルカくんは強いわ。分史世界のようにはならないはず……) |
| エル | 行っちゃダメだってば、チトセ ! |
| チトセ | (でも、あの子は……) |
| マティウス | ……どうした、チトセ。顔色がすぐれぬようだが、何を気にしている。 |
| チトセ | い、いいえ、何も !マティウスさまが気にされるようなことではございません ! |
| マティウス | 私には話せぬと ? |
| チトセ | それは……。 |
| マティウス | 話せ。 |
| チトセ | ……先ほどの死鏡精の襲撃がどうなったか考えておりました。 |
| マティウス | ああ、そのようなことか。そうだな、ヤツらがあそこで倒れてくれればこちらには都合がよいのだがな。 |
| チトセ | えっ…… ? |
| マティウス | 私の思惑どおりに事が運べばルカたちは恐らく邪魔をしてくるだろう。 |
| マティウス | 共にいた鏡士は、我らをここに閉じ込めた元凶だ。直接恨みを晴らすことはできぬが死鏡精とやらと相打ちになれば手間が省ける。 |
| チトセ | おっしゃる通りですがそれでも、あの人たちはマティウスさまの御身を救い保護いたしました。 |
| チトセ | ルカくんや、他の者も毎日のようにマティウスさまの容体を気にして訪れてくれたのです。 |
| チトセ | それに、エル……、私と共にいた子は先ほどまで、マティウスさまのために一緒にお見舞いの花を探していました。 |
| チトセ | あの子、それは懸命に選んでくれて―― |
| マティウス | それが一体なんだ。 |
| チトセ | ! |
| マティウス | 奴らが私を救出し保護したのは自らの目的を果たすためであろう ? |
| マティウス | そして、お前を懐柔するために献身と愛情を見せつけているのだ。 |
| マティウス | あのイナンナのようにな。 |
| マティウス | 優しさや愛など偽りにすぎない。奴らの示す偽善に満ちた感情に惑わされるな。早く忘れろ。 |
| チトセ | ……はい。 |
| チトセ | (……だけど) |
| サクヤ | アスラさまが正しいのよ。 |
| チトセ | ! ! |
| サクヤ | イナンナのせいで天上界は崩壊しアスラさまも全てを失ってしまった。 |
| サクヤ | あの女の偽りの愛のせいで ! |
| サクヤ | だから今度は『私』がアスラさまの傍にいなければ。 |
| チトセ | そうよ、私が……。私がマティウスさまの傍にいなくちゃいけない ! |
| マティウス | チトセ、ハスタを匿える場所を探すぞ。 |
| チトセ | はい ! |
| チトセ | (ハスタ……、この人が来なければ今頃私はエルと花を摘んで――) |
| チトセ | ……忘れなきゃ。 |
| Character | 7話【19-10 墓守の街1】 |
| コーキス | 驚いたな。ここまでめちゃくちゃスムーズだぜ。 |
| メルクリア | うむ。墓守の街に近づくほど帝国兵か死鏡精あたりに出くわすかと思ったのじゃが。 |
| ナーザ | アリエッタの魔物たちのおかげだ。いざという時の脱出経路も確保するよう頼んである。 |
| コーキス | すげえ ! あ、いいこと思いついた。アリエッタ様がこの世界の魔物を全部仲間にできたら他の魔物とも戦わなくて済むよな ! |
| リヒター | アリエッタの魔物は、あくまで『友人』だろう。お前、心を通わせるほどの友をそう簡単に手に入れられるとでも思っているのか ? |
| コーキス | う……。 |
| メルクリア | リヒター、話はもっともじゃがもそっと優しく言えぬか ? コーキスがしょぼくれておる。 |
| リヒター | そんなつもりはなかったんだが……。すまなかったな。 |
| コーキス | いや、リヒター様の話は勉強になるからさ、うん。 |
| ナーザ | お前たち、じきに目的地だぞ。気を引き締めろ。 |
| バルド | ふふっ、多少は敵が出たほうが緊張感があったでしょうか。 |
| ジュニア | でも、おかげで少し落ち着きました。 |
| ジュニア | ……この作戦、必ず成功させます。フリーセルを取り戻して、みんな無事で帰りましょう。 |
| グラスティン | まったく、どこまでも邪魔しやがって。貴様のせいで、奴らだけが分史世界に行っちまっただろうが ! |
| フリーセル | ぐっ ! |
| デミトリアス | やめるんだ、グラスティン。 |
| フリーセル | デミトリアス……。 |
| グラスティン | 絆されるなよ、デミトリアス。復讐するチャンスだぞ。 |
| グラスティン | 友人面して近づいて、お前を殺そうとした男だ。生かしておく必要があるか ? |
| フリーセル | ゲホッ……。俺を殺したいのは……誰よりお前なんじゃないか ?グラスティン。 |
| グラスティン | 貴様―― |
| ナーザ | そこまでにしてもらおう。 |
| デミトリアス | 貴殿は…… ! |
| ナーザ | 久しぶりだな、デミトリアス帝。 |
| デミトリアス | ウォーデン殿…… !それにメルクリアも。 |
| フリーセル | ! ! |
| デミトリアス | 懐かしいよ……、変わらず元気なようだね。 |
| メルクリア | ……お久しゅうございます。 |
| グラスティン | おいおい、これはどういうことだぁ ?ビフレストの皇族方がおそろいで。しかも……。 |
| ジュニア | …………。 |
| グラスティン | ヒヒヒッ、小さいフィリップまでいるじゃないか。かくれんぼは終わりか ? |
| ジュニア | そうだね。いい加減飽きたんだ。 |
| グラスティン | もう少し遊んでいてもよかったんだぞ ?お前の大事なものを順番に痛めつけたところで許しを請いながら俺に下るのも一興と思っていたのに。 |
| リヒター | 下衆が……。 |
| グラスティン | まあ、手間は省けたんだ。文句は言わんさ、ヒヒヒッ。それで、用件はなんだ。 |
| ナーザ | 我が臣下を迎えに来た。 |
| フリーセル | ウォーデン様 !御自らがお出ましになることではございません !どうかお捨て置き下さい ! |
| バルド | 捨て置けと言われて帰るような御方であれば最初からここには来ないよ、フリーセル。 |
| メルクリア | そうじゃな。兄上様をみくびるでないわ。 |
| フリーセル | バルド様、メルクリア様……。 |
| フリーセル | 申し訳ありません。私の失態ゆえに尊き方々を巻き込んでしまった……。 |
| グラスティン | いやぁ、価値ある失態だぞ ?その尊き方々が大事に隠しておいた小さいフィリップまで引きずり出したんだからなぁ ! |
| フリーセル | くっ……。 |
| ナーザ | フリーセル、お前は思い違いをしている。 |
| ナーザ | むしろ、最初に巻き込んだのは俺たち皇族の人間だ。お前はただ、その渦中でひたすらに責を果たそうと奔走した。 |
| ナーザ | その忠義に報いるためにここへ来た。全ては俺の身勝手な思い故。お前が悔いることなど何ひとつない。 |
| フリーセル | ……殿下……。 |
| グラスティン | よかったなぁ。お前みたいな駄犬でもご主人様はまだ飼う気でいるらしい。 |
| グラスティン | だが、俺はどうしてもこいつを殺したいんだよなぁ。 |
| デミトリアス | グラスティン、待て。――ウォーデン殿、ならば取引をしようではないか。 |
| グラスティン | ヒヒッ、そういうことだ。こいつの命と、ジュニアの身柄を交換といこう。 |
| リヒター | そうまでしてジュニアを手に入れたい理由は特殊な贄の紋章のせいか ? |
| グラスティン | ……なるほど。お前やアステル、ディストにハロルドもいる。その程度の調べはついて当然か。 |
| リヒター | やはりな。だが、対になるもうひとつの紋章はまだ誰にも刻めていないはずだ。 |
| リヒター | 鏡映点は、ほぼイクスたちの手中にある。その全員を調べたからな。しかもすでに刻まれた紋章は全て無効化してある。 |
| リヒター | 今さらジュニアを手に入れたところで無駄な話だ。ここからどうする気か見物だな。 |
| コーキス | ……リヒター様、探りを入れてるのか。 |
| メルクリア | うむ。少しでも対の相手がわかればよいが。 |
| グラスティン | くっくっくっ……ご忠告どうも。そうか、対の紋章が刻まれてないこともバレてると。 |
| グラスティン | だがな、なくて当たり前なんだよ。紋章を刻んだのは、ついさっきだ。 |
| グラスティン | あれは本人も気づいてないだろうなぁ。 |
| ジュニア | さっきだって ! ? |
| リカルド | いいか、よく探せよ。あいつらは気絶したハスタを抱えてる。不自然な足跡があるはずだ。 |
| キュキュ | 足跡、見つけた ! こっち ! |
| ルドガー | よし、行こう、エル。 |
| エル | うん。……ねえ、ルドガー、エルってジャマかな。 |
| ルドガー | 邪魔なわけないだろう ? |
| ルドガー | ……あ、そうか。あの時の―― |
| エル | 行っちゃダメだってば、チトセ ! |
| チトセ | 来ないで、邪魔よ ! |
| ルドガー | ……エルは、チトセのことどう思う ? |
| エル | チトセは優しいよ。マティウスのために花を摘んだりエルにも折り紙見せてくれたり、色々話してくれたしさっきもエルのこと守ってくれた。 |
| エル | 花もね、本当は摘むよりも自然に咲いてるのを見るのが好きなんだって。動物も好きって言ってて……。 |
| エル | ……だからね、ジャマって言われて悲しかったけど本当は、エルが危ないから来ないようにするためかもって……。 |
| エル | けど、すごく怖い顔してたし……、よくわかんない。 |
| ルドガー | そうか。だったら、ちゃんと会って話さないとな。みんなでチトセを迎えに行こう。 |
| エル | うん !戻れたら、またチトセとあの花畑に行きたい。今度はミラもいっしょに。 |
| エル | ……エルね、今すごく、エルのミラと話がしたいんだ。 |
| ルドガー | そうだな……。チトセを助けて、早く帰ろう。ミラや、兄さんや、エルのパパのところに。 |
| Character | 8話【19-11 分史世界8】 |
| マティウス | 崖か……。一度戻らねばならんな。 |
| チトセ | 申し訳ありません。私が不案内なばかりに。 |
| マティウス | 天上界と似ているとはいえ場所によって地形がだいぶ違っているな。 |
| チトセ | ここまでの道沿いに廃屋らしきものがありました。とりあえずハスタは、そこにでも閉じ込めて―― |
| エルマーナ | あっ、おったで ! マティウスや ! |
| ルカ | チトセさん、探したよ ! |
| チトセ | ルカくん……。 |
| マティウス | やはり生きていたか。 |
| イリア | 当たり前でしょ。あのくらいで死んでたらティル・ナ・ノーグじゃ生きていけないっての ! |
| チトセ | また私の邪魔をするのね、裏切者のイナンナ。アスラさまは渡さないわ。 |
| イリア | 頼まれたっていらないわよ。それとイナンナは前世。あたしはイリア。ごっちゃにしないで。 |
| イリア | で ? あんたはどっちよ。イナンナに負けたほう ?それとも―― |
| チトセ | っ !この―― ! |
| アンジュ | 待って !マティウス、あなたに聞きたいことがあります。 |
| アンジュ | あなたがハスタを庇うことで、帝国は有利になるわ。それを知っての行動かしら。 |
| マティウス | そうだ。 |
| アンジュ | あなたを利用しようとした帝国に協力するというの ? |
| マティウス | 協力などしていない。ただ、今は手段を同じくしているだけのこと。 |
| マティウス | 私はヤツらを利用しているにすぎない。 |
| イリア | あーーもったいぶった会話ってイライラする !さっさと話しなさいよ ! |
| マティウス | ふっ、いいだろう。どちらにせよ、お前たちには手出しのできぬことだからな。 |
| マティウス | 私はティル・ナ・ノーグを脱しあの忌まわしい世界へと帰還を果たした後――破滅させる。 |
| スパーダ | ……やめとけよ。それ、絶対に上手くいかねえぜ。 |
| コンウェイ | この鏡に護られし創造の世界でなら違う可能性を見つけられるはずなのにそれでもキミは繰り返すというのか。 |
| マティウス | どこにいようと我が願いは変わらぬ。腐った世界の破壊のみ。 |
| コンウェイ | そう……。これも魂に刻まれた因果ゆえか……。 |
| マティウス | ふっ、何とでも言うがいい。 |
| ルカ | でも、それは本当に叶わない願いなんだ、マティウス。――そうだよね、イクス。 |
| イクス | ああ。ティル・ナ・ノーグは閉ざされた世界だ。あなたはもう二度と、元の世界には戻れない。 |
| マティウス | そのようなことは百も承知よ。知ったうえで私は計画を進めているのだ。 |
| マティウス | こうしている今もロミーは私の目的を達するために動いている。本人が自覚しているかは知らぬがな。 |
| イクス | 何を言っているんだ。ロミーはまだ眠っているのに。 |
| マティウス | あの者の魂はすでに肉体から離れている。お前たちは気づいていないようだがな。 |
| ミリーナ | 離れているですって ! ?ロミーの身体にはアニマがない…… ? |
| カーリャ | まさか、ロミーさまはもう亡くなって……。 |
| マティウス | 正確には、ロミーとやらの体を奪っていたものが離れていったのだろうな。 |
| イクス | そうか……。確かロミーは本来のロミーではないってルキウスが言っていた。 |
| イクス | でもロミーの中にいた魂はどうして急にロミーから離れたんだ…… ? |
| マティウス | もちろん、ティル・ナ・ノーグを脱出するためだ。 |
| ルカ | まさか、本当に……。 |
| マティウス | 興味が沸いたか? ルカ、私に協力するのなら共に来い。 |
| ルカ | そんなの……。 |
| マティウス | もっと詳しく話してやろう。 |
| マティウス | 帝国にいた頃だ。私はロミーが『故郷』と呼ぶ場所に戻ろうと動き出したことを知った。 |
| マティウス | しかし、探りを入れようとしたところでグラスティンという男にリビングドールにされたのだ。だが、チトセが動いてくれた。 |
| チトセ | ええ。前もってのご指示どおりに万が一、マティウスさまに何かあればまずはデミトリアスにつく。 |
| チトセ | そして、デミトリアスの様子をうかがいつつロミーが帝国軍の意図に反して動いているようであればそちらへつくようにと。 |
| チトセ | ロミーがアルトリウスについたからこちらもアルトリウスに協力することにした。 |
| マティウス | これまでの帝国の動き、そしてチトセからの情報加えて、アジトからお前たちをつけて来た際に聞いたデミトリアスとの話。 |
| マティウス | それら全てを合わせて私は理解した。 |
| マティウス | ルグの槍は隔てられた二つの世界――この分史世界とティル・ナ・ノーグとを虹の橋を作ることで繋いでいる。 |
| マティウス | つまり、ルグの槍には世界を越える力がある。ロミーはこの力を利用して奴の故郷へ戻ろうとしているのだ。 |
| マティウス | 虹の橋の実体化はこの分史世界の誕生と連動している。ロミーの脱出が成功し、私が脱出するまで分史世界を守り、虹の橋を保たなければならない。 |
| マティウス | さぁ、行こう。我が半身よ。元の世界に戻り、我々に与えられた責務を果たすのだ。 |
| エルマーナ | 待ちぃ ! さっきから黙って聞いてれば勝手なことばっか言うて ! |
| アンジュ | 帝国はこの分史世界から何かを持ち込むことでティル・ナ・ノーグを消滅させようとしている。分史世界をこのままにはしておけないわ。 |
| マティウス | この世界のことなどどうでもいい。聞けば元より具現化を繰り返した継ぎはぎの世界だ。歪さは私たちの世界の比ではない。消えて当然だ。 |
| マティウス | しかも、お前たちは勝手に具現化されたのだぞ ?守ってやる価値がどこにある。 |
| リカルド | それはお前が決めることじゃない。価値など自分で決める。 |
| キュキュ | そう ! キュキュの大事、キュキュが決める ! |
| マティウス | お前はどうなのだ、ルカ。 |
| ルカ | 僕もみんなと同じだよ。 |
| ルカ | この世界で結んだ絆を……ティル・ナ・ノーグで出会ったみんなを犠牲にしてまで帰ろうなんて思わない。 |
| マティウス | そうか。ならば私を止めてみることだな。 |
| スパーダ | ああ、やってやるよ !ルドガー、こっちはオレらが抑える。スキ見てハスタのほう頼むぜ。 |
| ルドガー | わかった ! |
| チトセ | させないわ ! |
| ルドガー | チトセ…… ! |
| エル | お願いチトセ、ルドガーと戦わな―― |
| エル | ……あれ…… ?なんで……胸……くるし……。 |
| 二人 | エル ! ? |
| Character | 9話【19-14 墓守の街4】 |
| ジュニア | 紋章を刻んだのがさっきって、どういうこと ! ? |
| フリーセル | まさか……あの鏡士たちとの戦いの時か ! ? |
| グラスティン | ヒヒヒ、今頃気付くなんてのろまだなあ。だからお前は駄犬なんだよぉ。 |
| デミトリアス | グラスティン、仕掛けをペラペラと話すのはいささか危険なのでは ? |
| グラスティン | そうだなぁ。ジュニアを前にして昂ぶったのかもしれないな。ヒヒヒヒ、この辺にしておくかぁ。 |
| デミトリアス | それで、ウォーデン殿。返答はいかに。 |
| グラスティン | どうするんだ ? あんまり長く待たせると手が滑ってうっかり刺しちまうぞ ? |
| ナーザ | ――ジュニア、行ってもらえるか。 |
| ジュニア | ……わかりました。 |
| デミトリアス | 交渉成立だな。 |
| ナーザ | では、フリーセルの解放を確認した後に同時に互いのほうへ歩かせる。それでいいな。 |
| デミトリアス | 承知した。グラスティンフリーセルの足の拘束を解いて放してやれ。 |
| グラスティン | ……わかった。ただし―― |
| フリーセル | ぐあっ ! ! |
| グラスティン | 大げさだな。片足刺したくらいで。さて、これで派手な動きはできないだろう。――行け。 |
| バルド | ジュニア、くれぐれも気を付けて。 |
| フリーセル | ……すまない。 |
| ジュニア | 大丈夫。任せてください。 |
| ナーザ | よくぞ戻った。大儀であった。 |
| バルド | 出血が酷い。応急手当だけでもしておかないと。 |
| フリーセル | 申し訳ありません……。 |
| ナーザ | 手当が済んだら下がっていろ。ことはすぐに起きるかもしれん。 |
| フリーセル | こと…… ? |
| グラスティン | ああ、よく帰ってきたなぁ、小さいフィリップ。――それで、何を企んでいる ? |
| ジュニア | ! ! |
| グラスティン | 隠れてた奴がノコノコ出てきてしかも素直にこっちに来た。上手く運びすぎて疑いたくもなるだろう ? |
| ジュニア | ……そうだね、企んでるよ。僕はもう、あなたの思い通りになんかならないってね。何をされたって、全力で抗ってみせる。 |
| グラスティン | ヒヒヒッ、可愛いことを言うじゃないか。ならやってみせてくれよ !お前に刻んだ贄の紋章は特別だとわかってるんだろう ? |
| ジュニア | うあああっ ! ! |
| グラスティン | 決意だけでその紋章の発動は止められないぞ ?さあ、次元を越えるルグの槍――いや、クルスニクの槍が生まれるぞおっ ! |
| グラスティン | …………あ ? |
| グラスティン | 何だこれは……対の紋章が同期しない ! ? |
| リヒター | 始まったぞ ! 今だ ! |
| ナーザ | 行け ! ジュニアを奪還しろ ! |
| 二人 | 「了解 ! 」「承知 !」 |
| デミトリアス | 邪魔はさせない ! |
| デミトリアス | 衛兵 ! ! |
| デミトリアス | 兵たちが来ない…… ? |
| デミトリアス | そうか……。貴殿らの仕業か。ウォーデン殿、メルクリア。ならば――私が貴殿らを食い止める ! |
| グラスティン | クソッ、紋章に変なコードを上書きしてやがる !こいつの解除は……チッ、面倒なロックかけやがって !このやり方じゃ時間がかかりすぎる ! |
| ジュニア | 言っただろ……。思い通りになんて……させ……ない……。 |
| グラスティン | 馬鹿が。対の紋章との結合は終わってるんだ。対の方に負担はかかるが、強引にでも―― |
| ジュニア | うっ ! |
| グラスティン | 俺が直接上書きして強制的に紋章の効果を発動させてやる ! |
| ジュニア | うわああああ ! ? |
| コーキス | ジュニアが炎に包まれた ! ? |
| エル | 痛っ ! ! はあっ……はあっ……。 |
| ルドガー | エル ! ? エル、どうしたんだ ! !体が異常に熱い ! ? |
| ミリーナ | え ! ? 今、一瞬エルの体が炎に包まれたような…… ! ? |
| イクス | 炎…… ! ?まさか……贄の紋章 ! ?でも、エルに紋章が刻まれた筈は……。 |
| イクス | いや、そうか。エルとチトセは帝国にさらわれたんだ。まさかその時に―― |
| マティウス | そうか。【クルスニクの鍵】に贄の紋章を仕込んでこの分史世界を丸ごとティル・ナ・ノーグに運び込むつもりか。 |
| 三人 | ! ? |
| マティウス | ならばルグの槍の再起動も近いな。これでティル・ナ・ノーグを抜け出せる ! |
| イクス | エルの贄の紋章が完全に発動したらエルもティル・ナ・ノーグも危険だ !ルドガーさん、早くハスタを ! |
| マティウス | させぬ ! クルスニクの一族、貴様さえ倒せば―― |
| ルドガー | ! ! |
| マティウス | うっ…… ! 死神め……。 |
| チトセ | マティウスさま ! |
| リカルド | 動くなよ。次は頭をぶち抜く。 |
| キュキュ | キュキュも、容赦しない。 |
| マティウス | チトセ、起動するまで分史世界を守るのだ !そいつらを……ルドガーを殺せ ! |
| チトセ | は、はい ! |
| エル | ルド……ガー……、だめ、チトセを、助け……。 |
| ルドガー | わかってる。無理にしゃべるな。 |
| チトセ | っ……。 |
| ルカ | ……チトセさん、手が震えてるよ。それじゃ戦えない。 |
| チトセ | (どうして体が動かないの…… ?マティウスさまの命令ならあの子が苦しんでようが構わないはずのに……) |
| チトセ | (そうよ、私は元の世界でだって他人を犠牲にしながらルカくんを――アスラさまを手に入れようとしてたじゃない。なのに……) |
| マティウス | やれ、チトセ ! |
| エル | チト……セ……。 |
| チトセ | (これは……本当に正しいことなの ?) |
| サクヤ | (そうよ。正しいに決まってる。私は、アスラさまの期待に応えなければ) |
| チトセ | 私は……アスラさまの……期待に……。 |
| イリア | あんた、それでいいわけ ! ? |
| チトセ | ! ! |
| イリア | あいつの願いは知ってるでしょ。世界の破滅よ ?あんたもそれを望んでるっての ? |
| チトセ | アスラさまが……望むなら……。 |
| イリア | アスラじゃなくて、あんたの望みを聞いてんの !自分の気持ちにくらいちゃんと正直になりなさいよ ! |
| サクヤ | あんな女の言葉なんて聞いては駄目。あの女さえいなければ、アスラさまは滅びを望むほどの絶望に苛まれることなどなかったのだから。 |
| サクヤ | 今度こそ私がアスラさまを支えるのよ。 |
| チトセ | そう、サクヤが支える、アスラさまを……。マティウスさまを支えるのは……。 |
| チトセ | 私は、誰のために…… ? |
| サクヤ | まず、あの女を裁きましょう。さあ、早く ! |
| マティウス | 早く ! やれ、チトセ ! |
| チトセ | ……る……い。 |
| チトセ | うるさい ! 私はあなたじゃない ! |
| サクヤ | 何をしているの ! あなたは私、私は―― |
| チトセ | 私は……サクヤ……。私は……アスラさまを……支えて……。 |
| チトセ | アスラ……さま……じゃない。あの人は……マティウスさま…… ? |
| サクヤ | アスラさまよ。アスラさまを支えるの。私は―― |
| チトセ | 違う……違う…… !あの方はマティウスさま…… ! |
| チトセ | 私の……チトセの大切なマティウスさまなの !あなたの気持ちを私に押し付けないで ! |
| イリア | あんた……。 |
| マティウス | 何をしている、チトセ !ルドガーを殺せ ! |
| チトセ | ――……私には、できません……。 |
| マティウス | チトセ……。 |
| チトセ | マティウスさまの願いはマティウスさま自身も失ってしまいます……。だから……。 |
| マティウス | やはりお前も……、お前までも裏切るのか ! ! |
| 二人 | ! ! |
| チトセ | きゃあっ ! ! |
| マティウス | 私を裏切る者など不要だ ! |
| チトセ | ! ! |
| スパーダ | お前、何もわかっちゃいねェ。 |
| イリア | 今のチトセの気持ちがわかんないならあんたは一生独りよ。 |
| アンジュ | マティウス、あなたは彼女を裏切者と言ったけれど私にはむしろ『あなた』を選んだように見えたわ。 |
| マティウス | 知った口を叩くな !全てを失うこの絶望を、お前たちは知りはしまい ! |
| エルマーナ | 全部なくした言うんなら、また集めればええやん !ウチらみんな、そうしてきてんで ? |
| マティウス | 戯言を…… ! |
| リカルド | ガキの戯言ってのは案外当たってるもんだ。侮ると痛い目を見るぞ。 |
| キュキュ | キュキュ、帰れないは辛い。でも、この世界好きになた。とても大事 ! |
| コンウェイ | ああ。せっかく未知の世界の物語を楽しんでるんだ。結末は先延ばしにさせてもらうよ。 |
| ルカ | マティウス僕は君の未来を知っている。でも、今ならまだ変えられるんだ。 |
| ルカ | 止めてみせるよ、絶対に ! |
| マティウス | ほざけ !天上界も、地上界も、ティル・ナ・ノーグもすべて消し去ってくれるわ ! |
| Character | 10話【19-15 分史世界9】 |
| マティウス | こんなことが……なぜ、私が……お前たちなどに…… ! |
| ルカ | 僕たちには仲間がいるからだよ。 |
| ルカ | どんな時でも信じあって、助け合える仲間の存在が僕たちの強さなんだ。 |
| マティウス | 認めん……。そんなものが強さだなどと…… ! |
| イクス | 何にしろ、あなたの負けです。マティウスさん。 |
| マティウス | くっ…………。 |
| チトセ | マティウスさま……。 |
| エル | ううっ ! |
| イクス | !ルドガーさん、ミリーナ、エルは ? |
| ミリーナ | 苦しそうよ。治癒術じゃどうにもならないわ。早く逆しまの紋章を打ち込まないと…… ! |
| ルドガー | ミリーナ、エルを頼んだ。すぐに【時歪の因子】を破壊する。 |
| ルドガー | ……ハスタはどこだ ? |
| イクス | いない ! ? さっきまでそこにいたのに―― |
| チトセ | マティウスさまっ ! |
| チトセ | きゃあああああっ ! |
| マティウス | チトセ ! ? |
| ハスタ | バッキャロ~イ !ハスタは急に止まれないって常識でしょうが ! |
| チトセ | マティウス……さま、ご無事……で……。 |
| マティウス | 何を…… ! |
| ハスタ | まったくこのバカちんが !オレ様の復活記念の獲物はマティウスって相場が決まってんですよ~おい ! |
| ハスタ | ってわけで、いただきまーゲボッ ! ? |
| スパーダ | お前にはやらせねぇよ ! |
| マティウス | なぜ……なぜ助ける ! |
| スパーダ | 今のオレは剣じゃねェ。守りたいと思えば、自分で動いて守れるんだよ。 |
| スパーダ | デュランダルもそうしたかったんじゃねえの。アスラは最高の相棒だからな。 |
| マティウス | ……。 |
| ハスタ | 病み上がりにきつい迎え傷……。さすがご同輩、ざっくりいってくれますなぁ。 |
| ハスタ | いいぜいいぜ、殺戮ショーの再々演、はっじまっる―― |
| ハスタ | ギャッ ! |
| キュキュ | 始まる、ない。もう終わり。――イクス、ミリーナ、今 ! |
| ミリーナ | 魔鏡の霧よ ! |
| イクス | よし、今のうちに魔鏡結晶でハスタの足下を !はーーっ ! ! |
| コーダ | ハスタの足下が固まったんだな、しかし! |
| ハスタ | くっ……こんなシナリオはボツでリテイク !次だ次 ! 次行ってみよー ! |
| コンウェイ | 悪いけど……キミに次はもうないんだ。解放しよう、永劫の苦しみから ! |
| ハスタ | ! |
| コンウェイ | 頼むよ、ルドガーくん ! |
| ルドガー | ああ、これで……終わりだ ! |
| ハスタ | 槍 ! 槍はいいぞ ! 懐か―― |
| ルカ | ……あれ ? 真っ暗だ。僕、何してたっけ……。 |
| マティウス | ……お前は、ルカか ? |
| ルカ | マティウス ! ?……そうだ、ハスタを倒して分史世界が破壊されて……。 |
| ルカ | どうして、僕たちだけここに……。 |
| マティウス | ……分史世界の破壊を切っ掛けにお前と私、同じアスラの魂を持つ者同士が共鳴したのかもしれん。 |
| ? ? ? | そこにいるな、分かたれし我が魂たちよ。 |
| 二人 | アスラ ! ? |
| マティウス | ……そうか。私はまた、絶望を抱えたまま生まれ変わるのだな。 |
| マティウス | そして『私』は消滅する……。 |
| アスラ | それは違う。 |
| アスラ | お前は絶望という輪廻からは解放されている。 |
| アスラ | よく考えろ。心当たりがあるはずだ。今のお前の魂は絶望に染まってはいない。 |
| マティウス | …………。 |
| アスラ | お前はルカと同じように前世に縛られることなく生きられるだろう。 |
| ルカ | マティウス、君は絶望から生まれてしまったけどこの世界で――ううん、本当は元の世界でも君を慕っている人はいたんだ。 |
| ルカ | だから、僕たちといっしょに新しい世界で一から始めようよ。 |
| マティウス | 黙れ ! |
| ルカ | あっ……。 |
| マティウス | 私に新しい生き方など、できるはずがない。 |
| ルカ | マティウス…… ? 姿が薄れてる…… ! |
| マティウス | これは……。 |
| アスラ | 心配するな。お前たちが元の世界に戻る兆しだろう。 |
| ルカ | マティウス、消えちゃった。 |
| アスラ | お前もじきに消える。目覚めればな。 |
| ルカ | ごめん、アスラ……。マティウスを説得できなくて。 |
| アスラ | それだけあの者に刻まれた絶望が深いということだ。 |
| アスラ | だが、お前たちならあの者の魂を救うことができるだろう。 |
| ルカ | うん。やってみるよ。 |
| アスラ | ……また前世の因縁を背負わせてしまったな。 |
| アスラ | お前もまた、もうひとりのマティウスの痛みをその身に宿しているというのに。 |
| ルカ | 平気だよ。辛くたって僕には支えてくれる仲間がたくさんいるから。 |
| アスラ | そうか。ならば、これ以上は何も言うまい。 |
| ルカ | あれ……アスラの姿が透けてる……。 |
| アスラ | お前が透けているのだ。目覚めるようだな。 |
| ルカ | うん。じゃあね、アスラ。 |
| アスラ | ああ。頼むぞ、ルカ。 |
| ルカ | …………あ、戻った ? |
| スパーダ | ルカー ! なんだよ、心配したぜ !お前だけ目が覚めなくてよぉ ! |
| ルカ | 痛い、痛いって、スパーダ。 |
| エルマーナ | スパーダ兄ちゃんは熱烈すぎて乱暴やねん。ウチが可愛がり方、教えたるわ。こうやで、こう ! |
| アンジュ | もう、エルもスパーダくんも、一旦離れてくれる ?ルカくん、異常はない ? |
| キュキュ | ルカ、起きた !キュキュ、嬉しい ! ルカのため踊る ! |
| コーダ | コーダも踊るんだな、しかし。 |
| リカルド | それどころじゃないんだがな……。まあ、今だけはよしとしよう。 |
| コンウェイ | イリアさん、こっちに来たら ?もう乾いたでしょ ? |
| イリア | ……ぐすっ、ったく、なんの話だか。 |
| ルカ | イリア……。 |
| イリア | ……お帰り、おたんこルカ。 |
| ルカ | うん、ただいま、みんな ! |
| | to be continued |