| Character | 1話【20-1 墓守の街1】 |
| ジュニア | うっ、あああああああっ ! |
| グラスティン | もっと鳴いてくれよ、小さいフィリップ。分史世界の対の紋章に届くようになぁ ! ヒヒヒ ! |
| メルクリア | あやつ、ジュニアと共に炎に包まれて笑っておる ! |
| コーキス | あの火、シグレ様と見た炎の柱と同じだ ! |
| ナーザ | 怯むな ! あれは幻影のようなものだとイクスたちから聞いただろう。 |
| リヒター | あの炎は対の紋章と繋がり始めている証拠だ。ジュニアをグラスティンから引き離すぞ ! |
| コーキス | わかってる ! |
| デミトリアス | させぬと言っているだろう。 |
| グラスティン | いいぞ、デミトリアス。そのまま時間を稼げ。このまま対の紋章と呼応させ続けてクルスニクの槍を―― |
| ジュニア | はあっ、はぁ……。 |
| コーキス | 炎が ! |
| グラスティン | 消えた ! ? |
| デミトリアス | なんだと ! ?ルグの……、クルスニクの槍はどうなった ! |
| グラスティン | ……そいつも消えちまったな。おそらく原因は『あっち』だ。 |
| ジュニア | そうだよ……、分史世界は……消えた……。 |
| コーキス | マスターだ !やっぱりマスターたちが分史世界に行ってたんだよ。 |
| グラスティン | くそっ、面倒なことに……。 |
| ナーザ | お前たちの計画も終わりだな。 |
| メルクリア | ジュニアッ ! |
| グラスティン | 目障りな小娘が―― |
| デミトリアス | 駄目だ、グラスティン ! |
| メルクリア | ジュニアは返してもらった !――リヒター、ジュニアを頼む ! |
| グラスティン | はぁ、お前が止めるから……。まだ『娘』に未練があるのか ? |
| デミトリアス | ……槍は消えた。すぐに奥の手を使う。行くぞ。 |
| グラスティン | わかったよ。 |
| コーキス | 転送魔法陣だ ! どうする、ボス。 |
| ナーザ | 俺たちが追えるような痕跡など残すまい。ここまでだ。 |
| コーキス | けど、あいつら奥の手とか言ってたぞ。 |
| ナーザ | ああ。まだ次の手があるのか、それとも撤退するためのはったりか……。 |
| バルド | 何にしろ、我々の目的は達成です。フリーセルも無事でしたしジュニアも奪還できましたからね。 |
| フリーセル | ……ウォーデン殿下。 |
| ナーザ | やっと会えたな、フリーセル。長の務め、大儀であった。辛い役目を背負わせたな。 |
| フリーセル | おやめください !殿下こそ、かような器に閉じ込められどれほどの屈辱であったことか。 |
| メルクリア | やめよ ! それは、わらわのせいなのじゃ ! |
| フリーセル | メルクリア様。お目通りが叶い嬉しゅうございます。エルダ皇后のご逝去以降、御身の行方は宮殿の奥深くへと隠されておりました故。 |
| フリーセル | これも全て、私の不徳と致すところです。あの者たちを仕留めていれば……。 |
| ナーザ | ……フリーセル、今ここで我らに下れとは言わん。ただ少しの間、俺の話に付き合え。 |
| メルクリア | わらわからも頼む。わらわには、そなたの話が必要なのじゃ、フリーセル。 |
| フリーセル | なぜ、私の話などを。 |
| メルクリア | わらわは何も知らぬが故に過ちを犯した。リビングドールもその一つじゃ。 |
| メルクリア | 無知は罪だと知ったからには、知らねばならぬ。そなたは母上を知り、かつては義父上とも友だったと聞いておる。 |
| メルクリア | 聞けば理解できるやもしれぬ。わらわを置いて死んだ母上のことや先ほどわらわを助けた義父上の心のうちもな。 |
| メルクリア | もちろん、フリーセルのこともじゃぞ。わらわにそなたのことを教えて欲しい。聞いて、知って、理解したい。 |
| フリーセル | メルクリア様……。 |
| ナーザ | まずはその傷を治さねばならん。今だけは同行しろ。 |
| ナーザ | それと、これだけは言っておく。この体の主を悪く言うことは許さぬ。これは我が友の体だ。 |
| フリーセル | あなた方は……。 |
| バルド | 驚いたかい ? |
| フリーセル | ええ。もしや幼いフィリップも……。 |
| バルド | ああ。きみの知る彼とは違うかもしれないね。誰しも新たな可能性を秘めているのだろう。 |
| バルド | きみも、そして僕も。 |
| エル | (ここ、どこだろう。ルドガーは ?) |
| ? ? ? | 見つけた ! きみはエル、だったよね。 |
| エル | エルもあなたのこと知ってる。ジュニアでしょ ? |
| ジュニア | うん。エルはどこか痛いところはある ?火柱……火に焼かれたみたいにならなかった ? |
| エル | うん。さっきまですごく苦しかったけど、今は平気。ここってどこ ? |
| ジュニア | きみと僕の心の中。僕たちは贄の紋章で繋がっていたから心の中も繋がっていたんだ。 |
| ジュニア | でも、安心して。僕たちを繋ぐ贄の紋章は消えた。もう苦しいことはないから。 |
| エル | よかった ! ジュニアは大丈夫 ? |
| ジュニア | うん。優しいね、エルは。 |
| エル | どういたしまして。あと、エル、ルドガーのところに戻りたいんだけど。 |
| ジュニア | 僕たちのリンクはもうすぐ切れる。そうしたらエルの目が覚めるからきっと、すぐそばに――…………。 |
| ルドガー | エル、エル ! |
| エル | 本当だ……。ルドガー、いた。 |
| ルドガー | エル ! よかった……。どうだ、痛いところはないか ? |
| エル | うん、何ともないよ。ふふっ、ルドガー、ジュニアと同じこと言ってる。 |
| ルドガー | ジュニア ? |
| エル | 夢の中で会ったんだ。ニエのモンショーは消えたからもう大丈夫って言ってた。 |
| イクス | 消えた ? 贄の紋章が ? |
| ミリーナ | そういえば、逆しまの紋章は打ち込んでいないのに症状が治まっているわ。どういうことかしら。 |
| エル | あれ ? ここってティル・ナ・ノーグ ?じゃあチトセは ? ルドガー、チトセと戦ったの ! ? |
| ルドガー | 安心しろ。ほら、あそこだ。マティウスに付き添ってる。 |
| エル | チトセ ! |
| チトセ | エル…… ? |
| エル | チトセ ! 大丈夫だったんだ ! |
| チトセ | エル ! 気が付いたのね。よかっ……うっ……。 |
| エル | チトセ ! ? どうしたの ? |
| ミリーナ | マティウスさんをかばって怪我をしたの。治癒術で傷は塞がったけど傷が深かったからまだ痛むはずよ。 |
| エル | チトセ……。 |
| チトセ | 私は大丈夫。でも、まだマティウスさまが目を覚まさないの。 |
| カーリャ | ルカさまもです……。 |
| チトセ | マティウスさまとルカくん二人だけが気を失ったまま……。 |
| エル | もしかしたら、エルとジュニアみたいに夢の中で話してるのかも。 |
| チトセ | 二人が ?……そうね。そうかもしれないわ。 |
| エル | ねえチトセ、エルもマティウスが起きるの一緒に待ってもいい ? |
| チトセ | ええ、お願い。 |
| Character | 2話【20-2 墓守の街2】 |
| マティウス | 私に新しい生き方など、できるはずがない。 |
| ルカ | マティウス…… ? 姿が薄れてる…… ! |
| マティウス | これは……。 |
| アスラ | 心配するな。お前たちが元の世界に戻る兆しだろう。 |
| マティウス | ……私に……できるはずが……。 |
| チトセ | マティウスさま ! |
| マティウス | チトセ……。 |
| チトセ | 本当に……ご無事で何よりです。 |
| マティウス | ……なぜ泣いている。 |
| エル | そんなの、うれしいからだよ。ね、チトセ。 |
| チトセ | ええ。もしもマティウスさまの目が覚めなかったら……私……。 |
| スパーダ | ルカー ! なんだよ、心配したぜ !お前だけ目が覚めなくてよぉ ! |
| ルドガー | ルカも無事みたいだな。 |
| エル | ルドガー、これでみんな分史世界から戻ったんだよね ? |
| ルドガー | ああ。全員無事で安心したよ。ティル・ナ・ノーグと俺たちの世界じゃ状況が違うからな。 |
| マティウス | 分史世界は消えた、か。 |
| イクス | マティウスさん……。 |
| マティウス | さぞや私は滑稽に見えているだろうな。お前たちからも、ルカたちからも。 |
| イクス | そう見えていたなら、みんなあんな必死にあなたを救おうとしていませんよ。 |
| ミリーナ | ええ。チトセさんは命まで投げだして。 |
| エル | そうだよ ! だからもう心配かけちゃだめだよ ?マティウスはチトセのアイボーなんだから。 |
| マティウス | 相棒…… ? |
| ミリーナ | ふふっ、エルったら。 |
| ルカ | マティウス、君も目が覚めたんだね。 |
| マティウス | …………。 |
| ルカ | あのさ、『さっき』の話だけど―― |
| マティウス | あれが全てだ。他に語ることはない。 |
| ルカ | あっ、マティウス、待って ! |
| カーリャ | マティウスさま、行っちゃいました……。 |
| チトセ | ……私も―― |
| イリア | あんた、まだあいつに拘るわけ ? |
| チトセ | あなたには関係ないわ。指図しないで。 |
| イリア | はぁ ? なんなのよ、その態度 ! |
| ルカ | チトセさん、マティウスのこと、お願い。 |
| チトセ | ルカくん……。 |
| エル | チトセ……行くの ? |
| チトセ | ええ。私もエルたちみたいな素敵な関係になれるように頑張りたいから。 |
| エル | なれるよ ! エルも応援してるし ! |
| チトセ | ありがとう。元気でね。 |
| エルマーナ | ……結局、マティウスと行ってしもたなぁ。 |
| イリア | せいせいするわ !ホント気が合わないったら。 |
| イリア | ……まぁ、その方があいつらしいけど。 |
| アンジュ | そうそう。いがみ合っているならまだ平和よ。あなたたちの気が合う時なんてよほどの緊急事態なんだから。 |
| イリア | げ~、緊急事態でもそんなのありえな~い。 |
| アンジュ | あら、でもあの時……。 |
| リカルド | やめておけ。忘れているなら、その方がいい。 |
| アンジュ | 意外と繊細ですね、リカルドさん。 |
| キュキュ | でもあの二人、このまま行かせていいか ? |
| ルカ | 『今の』チトセさんが一緒ならきっと大丈夫じゃないかな。 |
| ルカ | それにさ、何か悪いことを考えるようならまた僕たちで止めればいいよ。 |
| イリア | ルカ……。 |
| エルマーナ | ルカ兄ちゃん、カッコいいで ! |
| スパーダ | 言うようになったじゃねぇか。で ? 誰へのアピールだよ。 |
| ルカ | そんなんじゃないってば……。 |
| イリア | そ、そうね。その程度じゃカッコつけにもならないわ。 |
| コンウェイ | ふうん。 |
| イリア | ……なによ、言いたいことがあるならはっきりしなさいよ ! |
| コーダ | じゃあ言うぞ ! 腹がへったんだな、しかし ! |
| カーリャ | コーダさまはたくましいですねぇ。色々ありすぎてカーリャはお腹空くのも忘れてました。 |
| ミリーナ | そうよね。でも、まだ気は抜けないわ。 |
| イクス | ああ。分史世界からは戻ってこられたけどデミトリアス陛下たちも、フリーセルもいない。あれからどうなったのか―― |
| イクス | 通信 ? ナーザ将軍からだ。――イクスです。 |
| ナーザ | お前たち、ティル・ナ・ノーグにいるんだな ?分史世界に行っていたのか。 |
| イクス | はい。分史世界は消滅させました。 |
| ナーザ | そうか。ジュニアの言ったとおりだな。 |
| イクス | その話なんですけど俺たち分史世界から戻ったばかりでこっちの世界で何が起きたのかわかっていないんです。 |
| ナーザ | 承知している。こちらもその件で連絡した。まず現在の状況を伝える。 |
| ナーザ | グラスティンたちだが分史世界の消滅を知って撤退した。 |
| イクス | やっぱり、分史世界がなければニーベルングの具現化ができないからか。 |
| ミリーナ | だとしたら、これで帝国の計画は頓挫したことになるわね。 |
| ナーザ | いや、奴らは諦めていない。まだ手があるような口ぶりだった。 |
| イクス | まだ ! ? 帝国は何を考えているんですか ? |
| ナーザ | それを知るための情報交換だ。互いにこれまで起こった事を整理するぞ。 |
| Character | 4話【20-7 アジト1】 |
| ジェイド | では、あなた方とビフレスト側の話を総合すると対の紋章は発動しかけたものの分史世界を消滅させたことにより阻止した、と。 |
| 三人 | 「でもあの虹は――」「けどよ、あの空――」「虹の橋がまだ――」 |
| リフィル | 言いたいことはわかるけど全回線を繋げてみんなに聞いてもらっているのだからいっぺんに話さないでちょうだい。 |
| イクス | カイルたちが言ったとおり、虹の橋は消えていない。分史世界が消滅したなら消えていいはずなのにな。 |
| イクス | もしかしたら、帝国が打つ『次の手』ってやつに関係していて消えないのかもしれないし別の理由があるのかもしれない。 |
| カーリャ | わからないことだらけですねぇ……。 |
| ミラ=マクスウェル | 少し気になることがある。あの虹の橋の方からマクスウェルの残滓を感じるのだ。 |
| ミラ=マクスウェル | 確か、この世界のマクスウェルは虹の橋の守護者だったのだろう ?そこから何か探れないか ? |
| クラース | なるほど。では、精霊研究室のメンバーと精霊諸君で調査を進めるとしよう。天族のみんなも準備を頼む。 |
| エドナ | わかったわ。次回のお茶会の差し入れと余興が楽しみね。 |
| ミクリオ | おい、クラースに何をさせる気だ。 |
| エドナ | あら、それじゃミボが代わりになるのね。余興、期待しているわ。 |
| クラース | ミクリオが余興なら私は差し入れを考えておこう。 |
| ミクリオ | クラース ! ? |
| セルシウス | うまく逃げたわね、クラース。 |
| シャーリィ | あの……その調査ですけどお邪魔でなければ、わたしも同行させてください。 |
| セネル | シャーリィ ? |
| マオ | あ、ボクもボクも !シャーリィに先越されちゃったヨ。 |
| ヴェイグ | マオもか。どうしてだ ? |
| マオ | 虹の橋を架けるのに必要な贄の紋章の人たちってみんな領主だったよね。けど、ボクとシャーリィだけ例外。 |
| マオ | しかもルグの槍が起動した時ボクたちだけは精霊の力で守られていた。これって関係ありそうじゃない ? |
| シャーリィ | そう思います。グラスティンもウンディーネと近しいわたしには、意味があって贄の紋章を入れたようですから。 |
| シャーリィ | もしかすると、精霊の力を利用しようと考えていたのかもしれません。 |
| クラース | 確かに。だがそうなると……。 |
| セネル | 今度は俺も一緒に行く。 |
| ヴェイグ | オレもだ。 |
| クラース | やはりそうなるか。では、君たちにも加わってもらおう。大所帯になりそうだ。 |
| クラース | おっと、こちらで勝手に進めてしまったが構わないかね ? |
| イクス | もちろんです。助かります ! |
| ジェイド | 私からもいいでしょうか。贄の紋章を持つ方々はすでに検査を受けて承知のことと思いますが念のためこの会議で報告をさせてください。 |
| ジェイド | ジュニアと対になっていたエルの贄の紋章ですが逆しまの紋章で封じるまでもなく完全に消去されていたことが判明しました。 |
| ジェイド | それに伴い、他の方々の検査も行ったところ全ての贄の紋章が消滅していました。相違ありませんね、ハロルド。 |
| ハロルド | ええ。きれいさっぱり消えてたわ。 |
| リフィル | どうしたの ? 不機嫌ね。 |
| キール | ハロルドは自分で紋章を消したかったんだ。 |
| カーリャ | ハロルドさま…… !そこまで皆さんのことを思って研究していたんですね。感動です ! |
| ハロルド | っていうか、ルドガーが分史世界を消滅させたことで連動して消えたじゃない ? |
| ハロルド | 消える瞬間とか、データとして残したかったのよねぇ。こんなことなら一人くらい隔離して装置に繋いで常時データ収集でもしとけばよかった。 |
| カーリャ | もうしゃべらないでください、ハロルドさま……。感動がモリモリ減っていきます……。 |
| ジェイド | もはや言動が悪役ですねぇ。 |
| カーリャ | ジェイドさまだけには言われたくないと思います。 |
| カーリャ・N | イクス様、ミリーナ様、会議中失礼します。 |
| イクス | ネヴァン、お帰り……え、ヨウ・ビクエも ! ? |
| ヨウ・ビクエ | お邪魔するわね ! イクス。 |
| リフィル | ヨウ・ビクエが来たということは込み入った話がありそうね。会議は一旦休憩にしましょうか。 |
| カーリャ・N | すみません。みなさんもお忙しいでしょうに。 |
| ミリーナ | いいのよ。ゲフィオンに何かあった ? |
| カーリャ・N | ゲフィオン様は……人体万華鏡は内側から崩壊し始めています。 |
| カーリャ | 先輩……。 |
| カーリャ・N | 今は外からの封印を強化していますが崩壊は時間の問題かと思われます。 |
| ミリーナ | まずいわね。ゲフィオンの人体万華鏡が崩壊したら虚無から死の砂嵐が流れ込んでしまう。 |
| イクス | 死の砂嵐、か……。 |
| ミリーナ | イクス、まさかまたスタックオーバーレイで塞ごうなんて考えていないわよね。 |
| イクス | いや、それは大丈夫だから安心してくれ。 |
| ヨウ・ビクエ | 一応、いい話もあるのよ ?ダーナ様の心核の修復が終わったの。 |
| ヨウ・ビクエ | これまでは不安定だったティル・ナ・ノーグも世界の要であるダーナ様の心核が強固であれば今すぐに崩壊するということはないわ。 |
| カーリャ | それは確かにいい話ですね ! |
| ヨウ・ビクエ | それでね、今日ここに来たのはダーナ様からイクスに話があるからなの。 |
| イクス | ダーナ ! ? |
| ヨウ・ビクエ | それとイクスの中のバロールも一緒に話を聞いてもらわないと。 |
| イクス | やはり知っているんですね。確かにバロールはいますがなんていうか、今はちょっと複雑な状態で……。 |
| ヨウ・ビクエ | 大丈夫よ。さ、私と手を合わせて。私とあなたの心を連結させるわ。 |
| イクス | こうですか ? |
| ヨウ・ビクエ | ええ。では、行ってらっしゃい、イクス。 |
| Character | 5話【20-8 イクスの心1】 |
| イクス | さて、心の中に入ったはいいけどダーナはどこにいるんだろう。 |
| ヨウ・ビクエ ? | 待たせましたね、イクス。 |
| イクス | ヨウ・ビクエ。ダーナから話があるって言ってましたけどどうしたらいいんですか ? |
| ダーナ | 私がダーナです。今はヨーランドの姿を借りています。 |
| イクス | あなたが、ダーナ……様。 |
| ダーナ | そんなに畏まらなくてよいのですよ。 |
| イクス(1st) | イクス、何があったんだ ? |
| イクス | イクスさん ! 目が覚めたんですね。 |
| イクス(1st) | 起きるよ、そりゃ。そこにいるの女神ダーナ……だよな ? |
| ダーナ | イクスの中の、さらに奥深く……あなたの中にいるのですね、バロールは。 |
| イクス | ダーナ様から俺やバロールに話があるそうです。それで心の中に来てもらいました。 |
| イクス(1st) | そうだったのか。じゃあ俺、バロールに代わった方がいいんだよな ? |
| イクス | 代わるって、大丈夫ですか ?そのまま乗っ取られたりとか……。 |
| イクス(1st) | 今は俺の力が勝ってるから何かあっても抑え込めると思うよ。 |
| イクス | 神であった人に勝ってるなんてすごいですよね……。 |
| イクス(1st) | それ、本気で言ってるのかい ? |
| イクス | え…… ? |
| ダーナ | 二人とも。少しお待ちなさい。私の話には、あと二人必要なのです。もうすぐ現れます。 |
| フィリップ | えっ ! ? あれ ! ? ここって…… ? |
| イクス | フィルさん ! |
| フィリップ | イクス ! じゃあここは……。 |
| イクス | 俺の心の中です。もしかして予告なしで飛ばされました ? |
| フィリップ | うん。分史世界の件で浮遊島に向かっている途中だったんだ。 |
| フィリップ | そうしたら、何か声が聞こえて気が付いたらここに……。 |
| フィリップ | ヨーランド ? いや、あなたは……ダーナ、ですか ? |
| ダーナ | ええ。察しがいいですね、フィリップ。久し振りです。魔の空域で話をして以来ですね。アイフリード……ナーザの件ではありがとう。 |
| フィリップ | いえ、あれは僕だけではなくてイクスや異世界の皆が力を合わせたおかげで……。それに結局ナーザの心核を利用されてしまいましたし。 |
| ダーナ | ……それについては、あとで話しましょう。 |
| フィリップ | わかりました。あの……そっちにいるのはナーザ将軍――いや、違うような気がするな。きみは…… ? |
| イクス(1st) | …………。 |
| イクス | あ……ええと、あの……。フィルさん、こちらは―― |
| イクス(1st) | 待て、イクス。 |
| バロール | ……ダーナ、久しいな。 |
| イクス | (イクスさん、バロールに代わったのか) |
| ダーナ | バロール。もう一人、ここへ来ます。ナーザの血を引く子供が。 |
| ウォーデン | ここは…… ? |
| フィリップ | ! あなたは、まさか……。 |
| ウォーデン | イクスか。これはどういうことだ ? |
| イクス | …… ?あの、どちら様でしたっけ…… ? |
| ウォーデン | 何を言っている。俺はナーザ……。 |
| ウォーデン | この髪……、この姿は……。 |
| イクス | ナーザって……あなたはナーザ将軍ですか ! ? |
| フィリップ | うん、間違いない。ビフレスト皇太子ウォーデン・ロート・ニーベルング。ナーザ将軍の本来の姿だよ。 |
| ウォーデン | どういうことだ。イクス、いやビクエでもいい。説明しろ。 |
| イクス | ここは俺の心の中です。ナーザ将軍を呼んだのはこちらにいる……今はヨウ・ビクエの姿ですけど女神ダーナが、俺たちを呼び出したんです。 |
| ダーナ | ようこそ、ウォーデン。此度は本来のあなたとして向き合ってもらえるようその姿で招きました。 |
| ウォーデン | ダーナ……、では先ほどのお声が ! |
| ウォーデン | ご無礼仕りました。太陽神ダーナよ。御身を祀る一族でありながら、かような不甲斐なき顛末を迎えたこと、伏してお詫び申し上げます。 |
| イクス | お詫びって、ナーザ将軍……。 |
| ウォーデン | ビフレスト皇族は女神ダーナの祭司の末裔。ダーナの教えを守り、伝えるのが使命だ。だが力及ばず、世界は破滅へと踏み出してしまった。 |
| バロール | 貴様らは真理を理解せず愚直に守るばかりだったからな。 |
| ウォーデン | ……貴様、バロールか。 |
| イクス | あの……。 |
| ウォーデン | わかっている。今はダーナ様の御前。見苦しい真似はすまい。 |
| ダーナ | では、始めましょうか。今世の『約束の子供たち』よ。希望の灯火を絶やさぬ為に。 |
| ダーナ | あなたたちはすでに私やバロールから伝えられていますね。何故、このティル・ナ・ノーグが作られたのか。 |
| ダーナ | ここはかつて自らの星を滅ぼした罪人たちの揺り籠。ですが、単なる星ではありません。ティル・ナ・ノーグは私の仮想鏡界の中の星です。 |
| ウォーデン | この世界そのものがダーナの仮想鏡界……。だから『ダーナの』揺り籠、か。 |
| ダーナ | 私はまず、できうる限り広大な仮想鏡界を作り出しました。 |
| ダーナ | その中で、私は自らの体を大地に変え心は心核として残すことでティル・ナ・ノーグを生み出したのです。 |
| ダーナ | この計画には、想像を創造に変え命を生み出すバロールの力が必要不可欠でした。 |
| ダーナ | そしてバロールは、仮想鏡界の中の想像に過ぎなかったティル・ナ・ノーグを仮想鏡界ごと星として具現化してくれました。 |
| ダーナ | 星という巨大なものを創るためには、仮想鏡界――心の壁すらも具現化する必要があったのです。 |
| ダーナ | そして最後に、ナーザが虹の橋をかけて人々を移住させ精霊たちを新たな地の守護者にしました。 |
| ダーナ | こうして、ティル・ナ・ノーグは完成に至ったのです。 |
| イクス | 浮遊島と同じ……いや、仮想鏡界そのものを具現化しているんだから、それ以上か……。 |
| イクス | では、ティル・ナ・ノーグという世界はあなたそのもの、ということですか ? |
| ダーナ | ええ。鏡士である私の仮想鏡界の中だからこそ鏡士が神のごとき力を使うことができるのです。 |
| ダーナ | ですが、私の心の中だからこそいくつか危険なこともありました。その一つが鏡精の存在です。 |
| イクス | そうか。人の心の中で、別の人の心を具現化している……ってことだから鏡写しの繰り返しみたいになるのか。 |
| ウォーデン | 鏡精を作る度、異常なエネルギーが発生しスタックされ続ける……。 |
| ダーナ | ええ。この環境の中で鏡精を生み出し続けると何が起こるかわかりませんでした。 |
| ダーナ | そのために、この地に移住した者たちには決して鏡精を生み出さないよう告げました。 |
| フィリップ | …………。 |
| ダーナ | もちろん、私もナーザも自らの鏡精を切り離し今後は人間としてこの世界を見守ってくれるよう頼みました。 |
| ダーナ | こうしてティル・ナ・ノーグを鏡精がいない世界としたのです。 |
| ウォーデン | 鏡精を禁じた世界ならばなぜ『バロールの鏡精』だけ名指しで伝承が伝わっているのでしょう。 |
| ダーナ | バロールだけは特別だったのです。 |
| バロール | ……俺はルグを自分の鏡精をニーベルングに残していた。 |
| バロール | ニーベルングの文明は滅びたが星そのものは、まだかろうじて生きている。 |
| バロール | ニーベルングが再び人の住める星となった時にそれを伝えに来る役目を我が鏡精が請け負っているのだ。 |
| ダーナ | ナーザの虹の橋を正しく機能させるためには精霊と鏡精の力が必要です。 |
| ダーナ | それ故に、バロールの血族には限定的に鏡精を作ることが許されていました。 |
| ダーナ | ですが、この決まり事は時を経て拡大解釈され世界の危機であると感じたのなら鏡士は鏡精を作ってもよいと思われたようです。 |
| フィリップ | それが……今に至ると。 |
| ダーナ | ええ。私たちが神にされてしまったようにあらゆる事が歪んで伝わってしまった。 |
| ウォーデン | 我らの祈りが間違っていたと仰せか ? |
| ダーナ | いいえ。私たちの配慮が足らなかったのです。世界を創造するということが、どのように人々に伝わっていくのかを。 |
| バロール | ダーナもナーザも、世界の成り立ちやニーベルングへの回帰を、後の世に伝えることを放棄していたわけではない。 |
| ダーナ | ティル・ナ・ノーグは仮想鏡界の具現化。どれだけ補強しても脆い存在なのです。 |
| ダーナ | 世界に綻びが出るかも知れない。その時には鏡士たちに修復の協力を依頼しなければならない。 |
| ダーナ | その時に力を貸してくれる存在こそが私たちの力を受け継ぐ子供――『約束の子供たち』だったのです。 |
| ダーナ | 私はこの世界の創った目的や想いをそして『約束の子供たち』の役割を伝えるべく何百年かに一度顕現できるように務めました。 |
| ダーナ | 世界が滅びに瀕したときに、力を貸してもらえるよう。いつかニーベルングへ戻る日までこの世界を受け継いでもらうために。 |
| フィリップ | そして僕たちがこの時代の『約束の子供たち』なのですね。 |
| ダーナ | ええ。バロールの子孫、イクス。ナーザ・アイフリードの子孫、ウォーデン。そして私の子孫、フィリップ。 |
| ダーナ | 私の顕現の時は、すぐそこまで近づいていました。ですが、その前に、本来予測していた仮想鏡界の異常とは違う滅びの予兆を感じ取りました。 |
| ダーナ | 鏡精の増殖と死滅です。 |
| イクス | セールンドのエネルギー政策か……。 |
| ダーナ | 私は少しでも早く顕現しようとオーデンセにいる私の子孫に接触しようとしたのです。 |
| フィリップ | それが、あの水鏡の森で僕が見たあなたですか。 |
| ダーナ | ええ。私と近しいあなたでもわずかに声を聞き取るのが精いっぱいだったでしょう ?やはりあの時では力が足りなかったのです。 |
| ダーナ | 私からは縁が遠いナーザの子孫に言葉を伝えるのはもっと時間がかかりました。 |
| ウォーデン | 知の乙女たる我が母エルダが受けた託宣か。我が国はダーナの言葉に従い脅威を取り除こうと考えた。 |
| ウォーデン | 鏡精を生み続けるセールンドを何としても止めねばならぬ、と。しかしそれが―― |
| ダーナ | ……ええ。本来は手を取り合って進むべき者たちが剣を突きつけ、破滅へと向かってしまった。 |
| ダーナ | この顛末は、何よりあなたこそが不本意であったでしょう、バロール。 |
| バロール | …………。 |
| ダーナ | あなたは、私との約束どおりあるべき世界の形を守ろうとしていた。 |
| バロール | ……ルグを一人ニーベルングへと置き去りにしながら己はおめおめと生き延びそしてお前を犠牲にし……そうまでして創った世界だ。 |
| バロール | 俺が守りたかった世界はお前やナーザと創ったティル・ナ・ノーグのみ。 |
| バロール | このようにいびつな継ぎはぎのティル・ナ・ノーグではない。 |
| ダーナ | ええ。あなたが私たちのティル・ナ・ノーグを大事に思ってくれていること、嬉しく思います。 |
| Character | 6話【20-9 イクスの心2】 |
| イクス | 待ってください !女神ダーナ、あなたもバロールと同じ考えなのですか ? |
| ダーナ | …………。 |
| イクス | もしそうなら、俺はあなたたちとも対立することになります。 |
| イクス | 俺は、継ぎはぎだらけでも、この世界を存続させたい。そのために戦っています。 |
| バロール | ダーナは世界そのものだ。お前は世界に弓引くつもりか ? |
| イクス | さっきの話で、俺たちは世界の在り方を知った。鏡士である俺も、この世界の内側でならあなたたちと同等の力を使うことができる筈だ。 |
| フィリップ | イクス、落ち着いて。ダーナはまだ何も言ってないだろう ? |
| イクス | …………。 |
| フィリップ | 大丈夫。僕たちを滅ぼすつもりならもうとっくにしているはずだ。 |
| フィリップ | それに、鏡士を三人も呼んでおいて『自分が不利になる話』はしないはずだよ。 |
| イクス | えっ、それって……フィルさん。 |
| バロール | つまり、お前もイクスの肩を持つということか。当代のビクエよ。 |
| フィリップ | ダーナの話を聞こうと言っているだけです。 |
| ウォーデン | …………。 |
| ダーナ | フィリップの言うとおりです。皆、私の話を聞いてください。 |
| ダーナ | 私は、今あるティル・ナ・ノーグを見捨てはしません。安心してください、イクス。 |
| ダーナ | 私は今のこの世界も過去の世界も救いたいと思っています。そのためにここにいる約束の子供たちやバロールやイクスの力を貸して欲しいのです。 |
| ダーナ | 今のティル・ナ・ノーグが本当に目指すべき未来へ進むために。 |
| イクス | よかった……。そういうことならもちろん協力させてください。 |
| フィリップ | ああ。僕たちにできることなら。 |
| ウォーデン | あなたが神であることを否定しても、我らにとっては国の礎たる太陽神であることに変わりはない。 |
| ウォーデン | あなたの意向を正しく汲み取れなかったは祭司として未熟でありました。太陽神ダーナ。あなたの望みのままに。 |
| ダーナ | ありがとう。今、世界には二つの危機が迫っています。一つはアスガルド帝国による新たなニーベルングの創造と移住です。 |
| バロール | まだルグ――俺の鏡精からニーベルングに戻れるという報告は来ていない。戻れる状態ではないのだろう。 |
| バロール | それを知っているから、帝国とやらも、ニーベルングを新たに創ろうとしているのだろうな。 |
| ダーナ | 彼らが何のために、ニーベルングへの回帰を早めようとしているのかはわかりません。 |
| ダーナ | ですが彼らがやろうとしていることは私の仮想鏡界を破壊することに他なりません。それは何としても食い止めなければ。 |
| ウォーデン | もう一つの危機というのは死の砂嵐のことでしょうか。 |
| ダーナ | ええ、そうです。かつてバロールが生み出したフィンブルヴェトル。これはバロールあなたにお任せしても構いませんね。 |
| バロール | 今の俺には無理だ。ルグと同じ魔眼を持つ鏡精が俺のコントロールをはねのけた。 |
| バロール | フィンブルヴェトルの中にある邪魔な異物を消さない限り、どうすることもできぬ。 |
| イクス | え ! ? ルグと同じ魔眼を持つ鏡精ってコーキスのことですか ! ? |
| ウォーデン | そういえば、バルドが肉体を取り戻したときコーキスはバロールの力を使ったな。 |
| バロール | そうだ。しかし今の奴には俺の声が届かない。知らぬ間に、鏡士との絆が強固になった。何かが奴の心持ちを変えた。 |
| イクス | え…… ? |
| ウォーデン | コーキスをコントロールすれば死の砂嵐が消せるというならイクス・ネーヴェがバロールの力を使えばいい。 |
| ウォーデン | この者も『約束の子供たち』であるならできるのではないか ? |
| ダーナ | それは……―― |
| イクス | 俺、やります。俺にできるというならやらせてください !ゲフィオンもそれを望んでいる筈です ! |
| バロール | いいだろう。お前がやるというなら力を貸してもいい。どれだけの負担がお前に掛かるかわからないがそれでもいいと言うのならな。 |
| イクス | それは……正直不安ですけど……。具体的な方法や結果について事前に共有してもらえるんですよね ? |
| バロール | ……お前は本当に俺の血を引いているのか ? |
| イクス | な、何ですか ? 詳しい話を聞いて準備をするのは当然のことじゃないですか。 |
| ダーナ | バロール……。その子を苦しめないで。 |
| バロール | わかっている。だが、このいびつな世界を守る役目はいびつな存在にこそふさわしかろう。 |
| バロール | イクス。俺は今のティル・ナ・ノーグは好かん。だが、元のティル・ナ・ノーグを取り返すためならば力を貸してもいい。 |
| バロール | まずはフィンブルヴェトルから異物を取り除け。その為の尖兵がお前の鏡精コーキスと俺の力を分け与えたバルドだ。 |
| ウォーデン | まだバルドを勝手に使うつもりか ! ? |
| バロール | あの者が望んだことだ。あの者は生きたい――生きて故国を取り戻したいという感情に蓋をしていた。 |
| バロール | 奴を使わねば、フィンブルヴェトルの異物を取り除くことはできない。 |
| イクス | ウォーデンさん、まずは俺にやらせてみてください。バロールから詳しい話を聞いて、問題のない計画だとわかれば、あなたやバルドさんから許可を取ります。 |
| ウォーデン | ………………わかった。 |
| ダーナ | 死の砂嵐はイクスとバロールに任せます。また、帝国の計画を止めるには精霊たちの力を借りる必要があるでしょう。 |
| フィリップ | 精霊、ですか ? |
| ダーナ | この世界を守る最終防衛圏が精霊なのです。ですが、クロノスの力は帝国に抑えられマクスウェルは死にました。 |
| ダーナ | マクスウェルを甦らせるのです。その為にはオリジンの助けが必要になる。帝国にオリジンを奪われてはなりません。 |
| ダーナ | こちらはウォーデンあなたにお願いしたいと思います。 |
| ウォーデン | それは私がナーザ神の血を受け継いでいるからでしょうか。 |
| ダーナ | その通りです。ナーザは精霊の生みの親。 |
| ダーナ | 鏡の精霊にナーザが――ナーザ・アイフリードが取り込まれている今、対抗し得るとすればあなたの存在しかあり得ない。 |
| ダーナ | マクスウェルを甦らせれば、鏡の精霊の前世として取り込まれた彼を呼び戻せるはずです。 |
| ダーナ | 精霊たちと彼が揃えばこの世界の防衛圏が本来の力を取り戻しニーベルングの創造を阻止できる筈。 |
| フィリップ | 僕は何をすればいいでしょうか。 |
| ダーナ | あなたにはもう一つのティル・ナ・ノーグを創造してもらいます。 |
| 三人 | ! ? |
| ダーナ | 詳しくはヨーランドが知っています。ヨーランドはその為にダーナの巫女として今まで眠りについていたのですから。 |
| フィリップ | そういえばヨウ・ビクエはあなたの鏡精の子孫だと聞きましたが、人間である彼女がどうしてこんなにも長命なのでしょうか。 |
| ダーナ | 彼女は私の鏡精ビクトリエにかなり近い存在でした。そして魔鏡術に長けていた。故に顕現していない私の心の声を感じ取ることができたのです。 |
| ダーナ | 私はいつか訪れる危機に備え、ヨーランドを擬似的な鏡精として取り込みました。彼女は人間ですが、私の心と繋がっています。 |
| イクス | そんなことができるなんて……。 |
| ダーナ | この世界は私の仮想鏡界ですからね。 |
| ダーナ | けれど、ヨーランドはまだ目覚める時ではなかった。私が予測した滅びの時は――私の心が限界を迎えるのはもっとずっと後になる筈でした……。 |
| バロール | まさか、この世界に住む人間がお前の体を消滅させてフィンブルヴェトルを生み出すとは思わなかった。つくづく業が深い。 |
| イクス | ………………。 |
| Character | 7話【20-10 イクスの心3】 |
| ダーナ | 私は自分の体を――この世界を維持することを優先しなければなりません。あなたたちへの助力は僅かなものになってしまいます。 |
| ダーナ | ですが、ヨーランドを通じてできる限りのことはするつもりです。 |
| フィリップ | あなたの心核は大丈夫でしょうか。意識をヨウ・ビクエに飛ばしておくと無防備になってしまうのでは……。 |
| ダーナ | 心の精霊ヴェリウスに管理を任せていますから何かあればすぐに知らせてくれる筈です。 |
| バロール | そうやって、また己をないがしろにするか。 |
| ダーナ | バロール、勝手を許してください。できればあなたも、もう少しだけこの子たちに心を開いてくれるとよいのだけれど。 |
| バロール | ……俺が守るティル・ナ・ノーグは、もう滅びた。今世を生きる愚か者たちによってな。 |
| イクス | バロール……。 |
| ダーナ | イクス、そして約束の子供たちよ。あなたたちには辛い役目を背負わせました。本当に申し訳なく思います。 |
| ダーナ | それでも私はあなた方に願います。どうか一緒にこの世界を救ってください。 |
| イクス | はい ! |
| ウォーデン | 御意。 |
| フィリップ | 承知しました。 |
| バロール ? | …………。 |
| ダーナ | では、私はこれで。あなた方もすぐに自分の体に戻るでしょうから心配はいりませんよ。 |
| イクス | ……はぁ。何だか色々あったなぁ……。フィルさん、さっきはありがとうございました。 |
| フィリップ | …………。 |
| イクス | フィルさん ? |
| フィリップ | ……君は……イクス、だよね。 |
| イクス | ! ?フィ、フィルさん、何を―― |
| イクス1st | ははっ、バレてたか。せっかくバロールっぽくしてたのにな。 |
| イクス1st | 久しぶり、フィル。 |
| フィリップ | イクス……、本当にイクスなんだね。 |
| イクス1st | ああ。けど、なんで俺だってわかった ? |
| フィリップ | ダーナが、約束の子供たちと三人目のイクスを分けて話していたように感じたんだ。 |
| フィリップ | それでここにバロールの血族がもう一人いると思った。となると、最初のイクスしかいない。 |
| イクス1st | さすがフィルだ !さっきもバロールの中から見てたけどさビクエになって頼もしくなったよな。 |
| イクス1st | 特にイクスの味方したところとか、格好よかったよ。 |
| フィリップ | 今どういう状態なの ? 生きてるの ? |
| イクス1st | いや、ちゃんと死んでるよ。今の俺は幽霊みたいなものなんだ。いずれ消える。 |
| フィリップ | 消える……。………………イクス、ごめん。 |
| イクス1st | フィル ? 消えるのは別にお前のせいじゃ―― |
| フィリップ | 僕はイクスを刺した ! 殺そうとした……。それでもかばってくれたのに僕はイクスと向き合わずに逃げた。 |
| フィリップ | 手紙も、勇気がなくて読んだのは最近だ。僕はずっと逃げ続けてたんだ。 |
| フィリップ | 今さら遅いのはわかっている。でも、ちゃんと言わなきゃ駄目だ。だから聞いてほしい。 |
| フィリップ | 僕はイクスにもミリーナにも好かれたくて自分のことしか考えられなかった。 |
| フィリップ | 傷つけてごめんなさい、イクス。 |
| イクス1st | フィル……。 |
| イクス1st | やっと、俺の目を見て言ってくれたな。 |
| フィリップ | イ、イクス ? 痛いよ……。 |
| イクス1st | はははっ、だって嬉しくてさ !つい力が入っちゃったよ。 |
| イクス1st | あのさ、フィル。さっきから自分のこと逃げたって言ってるけど結局こうして俺の前にいるじゃないか。 |
| イクス1st | 誰だって間違えることはあるよ。その間違いを悔やんでいると、ちゃんと伝えてくれた。逃げ出さなかったフィルは、やっぱり格好いいんだよ。 |
| フィリップ | イクス……僕……。 |
| イクス | あっ、フィルさんが ! |
| イクス1st | 身体の方が目覚めたのかもな。もう少し話したかったけど。 |
| ウォーデン | ならば俺もそろそろ消えるだろう。……しかし、お前の寛容さには調子を狂わされるな。お前のような者が側にいてはビクエも苦労したろうよ。 |
| イクス1st | 俺が寛容 ? 言うべきことは言ってるよ。『この前』みたいにね。皇太子殿。 |
| ウォーデン | なるほど。確かにな。 |
| イクス | (珍しい……。ナーザ将軍が笑ってる) |
| ウォーデン | ああ、そうだ。イクス、コーキスのことだがそろそろ戻るかもしれないぞ。 |
| イクス | 本当ですか ! ? いつ戻るって言ってました ? |
| ウォーデン | さあな。あれを見ていてそう感じただけだ。それに死の砂嵐を消すためにはコーキスとバルドはお前の下に向かう必要があるだろう―― |
| イクス1st | ナーザ将軍も戻ったか。それじゃあイクス、また後で―― |
| イクス | …………あれ、俺も戻ったのか。 |
| ミリーナ | お帰りなさい。気分はどう ? |
| イクス | うん、問題ないよ。ここ、医務室か。 |
| ミリーナ | ええ。みんなが気絶したイクスを運んでくれたの。 |
| イクス | そうか、お礼言わないと。しかし色々びっくりしたなぁ……。 |
| ミリーナ | ダーナ様の話よね ? 聞いてもいい ? |
| イクス | ああ、もちろん。心の中でダーナと会ったんだけどさそこにはフィルさんや、ナーザ将軍も呼ばれていて―― |
| ミリーナ | そう。最初のイクスとフィルがそんな形で出会えるなんて……。 |
| ミリーナ | 最初のイクスのことはフィルにとっての心残りだったはずよ。これで一つ、解消されたのよね。よかった……。 |
| イクス | ところで、俺が寝てる間に何か変わったことは ? |
| ミリーナ | あの後、各班の代表者と元領主たちの会議になって帝国への反転攻勢を試みることになったの。まだ今も話し合ってるところよ。 |
| ミリーナ | 今までは帝国の目的がわからなくて手をこまねいていたでしょう ? |
| ミリーナ | でも分史世界を破壊したことで、前世を持った人たちやクルスニクの鍵であるエルを使った帝国の計画は暗礁に乗り上げたと見ていいわ。 |
| イクス | ああ。けど、次の手が来る可能性もあるってナーザ将軍たちは言ってたよな。 |
| ミリーナ | ええ。だからこそ、このわずかな隙に帝国を足元から崩してしまおうというわけ。 |
| ミリーナ | 以前の会議で出たとおり、アセリア領を中心に反乱作戦を実行する手筈よ。 |
| イクス | わかった。俺たちも準備しないとな。 |
| マルタ | イクス、起きてたらこっちの病室に来てもらえないかな。 |
| イクス | マルタ、どうしたんだ ? |
| ミリーナ | ブルートさんに何かあったの ? |
| マルタ | ううん、パパは大丈夫。いつかちゃんと目を覚ますってヨウ・ビクエが言ってくれたし。 |
| ミリーナ | ヨウ・ビクエ様も目を覚ましていたのね。 |
| マルタ | ついさっきね。ついでにって言って、眠ってるみんなを診てくれたんだけど、ロミーが……。 |
| ルキウス | ロミー……。 |
| イクス | ルキウス、ロミーの容体はどうだ ? |
| ヨウ・ビクエ | あら、イクス。起きたのね。 |
| イクス | ヨウ・ビクエ。ロミーがかなり衰弱していると聞きました。 |
| ヨウ・ビクエ | ええ。この子、ファントムのように心核が崩壊寸前なのよ。 |
| ルキウス | ……このままだと、ロミーはどうなるんですか。 |
| ヨウ・ビクエ | 確実に命を落とすわ。 |
| ルキウス | ……そうですか。覚悟はしておきます。 |
| マルタ | ルキウス ! 諦めちゃうの ! ? |
| ルキウス | 元々ロミーは『スポット』という怪物に乗っ取られていた。元の世界でも戻すことはできなかったんだよ。 |
| ルキウス | だから、もし目を覚ましてみんなを襲うようならボクが何とかしようと思っていた。 |
| マルタ | それってロミーを……。 |
| イクス | ルキウス、今のロミーからはその『スポット』って怪物が離れているかもしれないんだ。 |
| ルキウス | えっ ! ? |
| ミリーナ | 私たちも、さっき知ったばかりなの。もしもロミーを助けることができたら、あるいは……。 |
| ヨウ・ビクエ | そうね。幸い私の中にはダーナ様もいらっしゃることだしお力を借りて治療してみましょうか。 |
| ルキウス | お願いします ! |
| ヨウ・ビクエ | そういうわけだから、こっちは任せて。あなたたちは自分の仕事をしてらっしゃい。 |
| イクス | はい ! |
| Character | 8話【20-12 海上1】 |
| ナーザ | ……戻ったか。 |
| メルクリア | 兄上様 ! 気がつかれましたか ! |
| ナーザ | ……どうした、メルクリア。何を泣いている。 |
| メルクリア | あ、兄上様が突然、お、お倒れになったので……。 |
| ナーザ | だからと言って……。いや、それほどまでに心配させたのだな。すまなかった。 |
| メルクリア | いいえ、わらわこそ見苦しいところをお見せして恥ずかしい限りです。 |
| バルド | 見苦しいなどとんでもない。その美しい涙はビフレストの至宝です。故に、あまり流されてはもったいのうございますよ。 |
| メルクリア | 言われるまでもないわ。今ので涙が引っ込んでしもうた。 |
| バルド | フフフ、それは何よりです。 |
| ナーザ | バルド、船は予定通りに進んでいるか ? |
| バルド | ええ。救世軍の地上基地へ身を寄せるべく向かっております。 |
| バルド | 先ほどヴァンからも、地上基地で合流するとの通信文が入りました。 |
| バルド | それで、誰に『呼ばれた』のですか ? |
| ナーザ | 気づいていたのか。 |
| バルド | ええ。倒れる直前に「声が」と呟いておられましたので。 |
| バルド | 私やコーキスがバロールに呼ばれたように何者かがナーザ様に接触してきたのではないかと。 |
| コーキス | そうか。それでバルドは冷静だったんだな。 |
| バルド | フフ、そう見えていたなら何よりです。まあ、事と次第によってはぶしつけに接触してきた者を許しはしませんが。 |
| ナーザ | その言葉、後悔するぞ ?俺を呼んだのは、女神ダーナだ。 |
| フリーセル | ダーナ ! ? |
| バルド | 驚きました。直接お言葉を賜ったのですか。 |
| ナーザ | ああ。イクスの心の中に呼ばれてな。ビクエやバロールも一緒であった。 |
| コーキス | ええっ、マスターの ! ? ずるいよボスだけ……。 |
| ジュニア | 今の話、本当ですか ? |
| ナーザ | ジュニア、もう動いていいのか ? |
| ジュニア | はい。リヒターさんにも確認してもらいました。 |
| リヒター | グラスティンに上書きされた際のダメージはあるが今のところ問題はないようだ。 |
| ジュニア | ナーザ将軍、大きいフィリップとイクスがダーナに会ったという話、聞かせてください。 |
| ナーザ | 無論、皆に聞いてもらう。我が神から託されたお言葉だ。心して聞け。 |
| コーキス | ええと……何か途方もない話だったな。俺たちの住むティル・ナ・ノーグが女神ダーナの体で……ええと……。 |
| リヒター | 何にせよ、今の話は帝国も知っているだろうな。奴らはルグの槍を切り札にしていた。 |
| リヒター | あればかりはティル・ナ・ノーグの成り立ちを知らねば使い道さえわからないものだ。 |
| バルド | ええ。問題は、どこから情報を得ていたかです。ビフレストでさえおぼろげな神代の話がセールンドに伝わっていたとは思えない。 |
| メルクリア | 精霊はどうじゃ ?帝国はマクスウェルを捕らえていた。そこから情報は得ていたとは考えられぬか ? |
| リヒター | あり得なくもないが、少なくとも俺はそういった記録を見た覚えはない。 |
| ジュニア | ティル・ナ・ノーグの古い話を仕入れるとしたら王立図書館とかになるけど、僕の中の大きいフィリップの記憶では見た覚えもないし……。 |
| フリーセル | バロールの巫女であればどうだろう。 |
| コーキス | なんだそれ ? |
| フリーセル | バロールに連なる鏡精でも知らないのか。 |
| コーキス | 全然知らない。教えてくれ。 |
| フリーセル | ……素直だな。当代のバロールの巫女は、グラスティンの母親だ。 |
| メルクリア | なんと……。母親とな ? |
| フリーセル | はい。そのような家系であれば何かしらの情報が伝えられている可能性があります。 |
| バルド | しかし巫女の知る情報であればビフレストの情報網にも掛かっていておかしくないのでは。 |
| バルド | それとも一子相伝の口伝のようなものなのでしょうか。 |
| ジュニア | それにデミトリアス陛下は、ニーベルングが今もまだ人の住めない環境であることを知っているんですよね? |
| ジュニア | いつ、どうやって知ったんだろう……。 |
| メルクリア | 本当に、義父上はどこまで知っておいでなのか。そのお考えが見えぬがゆえに、わらわは……。 |
| フリーセル | …………。 |
| ジュニア | 少しづつ『何か』が足りないのがもどかしいですね。こうしている間にも帝国は次の一手を打つかもしれないのに。 |
| ナーザ | こうなっては、我々が優先すべきはその一手を止めることだ。そして帝国そのものを瓦解させねばならん。 |
| ナーザ | まずはオリジンに接触する必要がある。確かイクスたちとの情報共有によればオリジンは―― |
| バルド | ナーザ様、通信が。 |
| ナーザ | ヴァンからだ。――こちらナーザ。どうした。 |
| ヴァン | 少々立て込んでいるので手短に説明する。 |
| ヴァン | 先ほど連絡を受けた『帝国の次の一手』とやらの話だが何を目論んでいるか見当がついた。ゆえに合流地点とは別の場所にいる。 |
| ナーザ | なんだと ? 今はどこだ。 |
| ヴァン | 帝都内に隠されているカレイドスコープの傍だ。 |
| 一同 | なっ ! ? |
| コーキス | ヴァン様、いつの間に !どうやってそんなところ入ったんだよ ! |
| ヴァン | ローレライの力を使えば造作もない。 |
| コーキス | 怖っ……。敵じゃなくてよかったぜ……。 |
| ナーザ | それで、何がわかった。 |
| ヴァン | カレイドスコープの構造を確認したのだが帝国はレプリカ情報を抜き取るための装置として使った形跡がある。それも膨大なデータ量だ。 |
| ヴァン | これは一つの世界に匹敵する。帝国は虹の橋を利用して、分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取っていたのかもしれん。 |
| コーキス | レプリカ情報ってそっくり同じ物をつくるためのものだよな ? |
| ナーザ | ……まずいぞ。ヴァン、これより俺たちも帝都に―― |
| ヴァン | !誰か来る。切るぞ。 |
| メルクリア | ヴァン……。無事であろうか。 |
| ナーザ | バルド、今の話を救世軍に伝えろ。俺はイクスに連絡する。精霊の話もそこでしておこう。 |
| ナーザ | 針路変更だ。これよりヴァンのもとへ向かう ! |
| Character | 9話【20-15 アジト2】 |
| リーガル | ――本当に大丈夫なのか ?まだ休んでいてもいいんだぞ。 |
| イクス | ありがとうございます。でも体調は万全ですから。俺の方こそ、大事な計画の立案を皆さんに任せてしまってすみません。 |
| ピオニー | 気にするな。ここにいる連中はそういうのを仕事にしていた奴らばかりなんだろう ?使えるものは使っておけ。 |
| パライバ | ええ、そのとおりです。贄の紋章が消えたことで目下の不安も解消されました。もはや縛られるものもありません。 |
| カルセドニー | とはいえ、あまりご無理をなさいませんよう。パライバさまの足も、まだ本調子ではないはずです。 |
| パライバ | ありがとう、カル。でも、やれることがあるなら全力で成し遂げたいの。そう思えるのも、あなたが傍にいるからなのですよ。 |
| カルセドニー | パライバさま……。 |
| カーリャ | むむ、これは……。 |
| フォッグ | おぅ、こりゃアレだな、アレ ! |
| カーリャ | あれっ ?そこにいるのはフィルさまじゃありませんか ? |
| イクス | 到着してたんですね。声をかけてくれればよかったのに。 |
| フィリップ | 会議中のようだったからね。それに、その……、少し個人的な話もしたかったし。 |
| ミリーナ | ふふっ。今ね、各大陸の領主や騎士のみんなと帝国への反乱計画をまとめているところなの。よければフィルも一緒に聞いてちょうだい。 |
| キール | イクス、例の王立図書館の本なんだが――あ、フィリップも来てるのか。いいタイミングだ ! |
| イクス | キール、何かわかったのか ? |
| キール | 内容としては、一般の歴史書でも見かけるような大昔の歴史が記されているだけだ。めぼしいことは書かれていなかった。 |
| キール | だが、様々な形で解析した結果何らかの魔鏡術による封印が施されているとわかった。これを解くことで本当の内容がわかるかもしれない。 |
| イクス | 魔鏡術 ! |
| フィリップ | なるほど、それで僕というわけか。 |
| キール | ああ。術式体系に造詣が深い鏡士がいるとありがたい。 |
| フィリップ | イクス、僕はキールに協力した方が役に立てそうだ。ちょっと行ってくるよ。 |
| イクス | ありがとうございます。よろしくお願いします。 |
| イクス | それじゃ、こちらも続きを始めましょうか。 |
| ルーングロム | では、反撃への流れを説明しよう。まずアセリア領だが、以前話があったように蜂起の土台はできている。 |
| ルーングロム | それを踏まえ、まずはアセリア領と、その両隣にあたるオールドラント領、カレギア領を中心に大規模な反乱を起こし、領主たちが一時的に実効支配する。 |
| ミリーナ | ということは、一時的とはいえ領主は浮遊島を離れることになりますが……。アガーテさん、大丈夫ですか ? |
| アガーテ | ええ。ミルハウストのことは浮遊島の方々を信じて託します。 |
| ルーングロム | 我々三領と同時に蜂起する大陸はファンダリア領だったな。 |
| イレーヌ | ええ。ディムロスたちが所属するファンダリア領の対帝国部隊やケリュケイオンとも協力する手筈です。 |
| パライバ | ファンダリア領と隣接する原界(セルランド)領も共に蜂起します。 |
| イクス | 最初にアセリア、カレギア、オールドラントファンダリアと原界(セルランド)が動くんですね。何か狙いがあるんですか ? |
| カーツ | この五領は帝都からの距離やアセリア領との関係もあって、すでに半数以上の帝国兵が反帝国派に転じている。落とすのは難しくない。 |
| カーツ | そしてこの反乱を鎮圧するために帝国が兵を動かせば帝国側は手薄となり、他の地域も蜂起しやすくなる。 |
| フォレスト | 言葉は悪いが、彼らがおとりとなることで他領は蜂起のための力をつけることもできるだろう。 |
| マウリッツ | そうやって帝国の兵力を削ぎながら帝都への侵攻準備を進めるというわけだ。 |
| イクス | なるほど、それなら――っと、通信が入ってる。ちょっとすみません。 |
| ナーザ | イクス、差し迫った事態ゆえ用件だけ伝える。帝国はカレイドスコープを使って分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取っている。 |
| イクス | 本当ですか ! ? |
| ナーザ | ああ。ヴァンが帝都に潜入して確認した。俺たちも今、向かっているところだ。帝国がレプリカ作成を実行に移す前に阻止する。 |
| ナーザ | オリジンとの接触も急がねばならない。オリジンの関係者に話を通しておいてくれぬか。 |
| ナーザ | 俺もバルドとコーキスにはいずれお前から声がかかることは伝えてある。以上だ。 |
| ミリーナ | イクス、今の話って……。 |
| イクス | うん。同時蜂起の計画はこのまま任せて俺たちも帝都に向かった方がよさそうだな。 |
| | ――帝国内 イ・ラプセル城 カレイドスコープの間 |
| デミトリアス | 分史ニーベルングのレプリカを作るのにどれくらいかかる。 |
| グラスティン | 膨大な量のキラル分子が必要だ。鏡精を何匹殺しても間に合わん。そもそも鏡士がいなけりゃ鏡精は生み出せん。 |
| デミトリアス | ならばどうやってキラル分子を手に入れればいい。 |
| グラスティン | 腹は立つがあの魔女がかつてやった悪行に倣うとするさ。 |
| デミトリアス | ゲフィオンのことか。 |
| グラスティン | ああ。ティル・ナ・ノーグそのものを分解してそこからキラル分子を抽出すればエネルギーは何とかなる。 |
| グラスティン | あとはキラル分子にローレライの属性を付与すればいいんだが、今は手元にないからなぁ。ローレライの精霊片を集める必要がある。 |
| ヴァン | 安心するといい。ローレライならば私の中にいる。 |
| デミトリアス | ヴァン ! ? |
| グラスティン | どこから入りこんだ――と言いたいところだがヒヒヒッ、歓迎するぜ ? |
| デミトリアス | ヴァン、先ほどの言葉はどういう意味だ。私たちに協力すると ? |
| ヴァン | 利害が一致する間は。 |
| デミトリアス | 利害 ? きみにとっての利とはなんだ。 |
| ヴァン | 預言に縛られぬ【被験者】たちを守ること。 |
| グラスティン | つまり具現化されたわけじゃない人間の世界を守るってことだな ?確かにデミトリアスの目的とは合致しているが……。 |
| ヴァン | (この世界に【星の記憶】はない。だが、この先もそうであるとは限らぬ。ならば――見極めねばなるまい) |
| ヴァン | このまま計画を進めるならば、ティル・ナ・ノーグが消えた後、ニーベルングのレプリカが出来上がるまで他の人間たちはどうする。 |
| ヴァン | 生かそうとする者たちを集めているのだろう ?その者たちを守る場所が必要だ。 |
| グラスティン | ヒヒヒッ、それならば準備はできているさ。 |
| Character | 10話【20-15 アジト2】 |
| ロミー | ヤクタタズドモガ……。ハヤク、ルグノヤリヲ……。 |
| ロミー | ! !ハスタ、ダト…… ! ?タイムファクターニナッタハズダ…… ! |
| デミトリアス | 贈り物は届いたかな ? |
| ロミー | ソノコエ、デミトリアスカ !ドウイウコトダ ! |
| デミトリアス | 私はロミーが……、いや、今はロミーではないのかな。『きみ』が自分の世界に戻ろうとしていたことを知っている。 |
| デミトリアス | それほどまでに願うなら、叶えてあげたかった。 |
| デミトリアス | それに、もしも閉じた世界の外へ行けるのなら鏡映点を戻し、この世界を救う切っ掛けになるかもしれないと考えていた。 |
| デミトリアス | だが、『きみ』は結局抜け出せていない。ルグの槍の力でも、それをクルスニクの槍に変化させても。 |
| デミトリアス | ティル・ナ・ノーグの外に広がる虚無は飛び越えることができないと『きみ』のおかげで判明した。 |
| デミトリアス | 虚無はまだティル・ナ・ノーグの理に支配された場所だ。ロミーの心の一部として定義されて具現化した『きみ』は、このまま体を失えば消滅するしかない。 |
| ロミー | ナンダト…… ! ? |
| デミトリアス | だが、ロミーが死んでも『きみ』が残る方法はある。スポットとしての能力で誰かに寄生すればいいんだ。――たとえば、そこにいるハスタとか。 |
| ロミー | ! !……コイツハ、イキテイルノカ ? |
| デミトリアス | 彼が前世持ちなのは知っているだろう。生まれ変わりを繰り返す前世の魂と今のハスタの魂、二つを持っているようなものだ。 |
| デミトリアス | 分史世界の消滅と共に、ハスタの魂の一部である生まれ変わりの力は消滅した。だが、『ハスタ』はまだかろうじて生きている。 |
| ロミー | ……ナゼ、イキタニンゲンガキョムニイルノダ。 |
| デミトリアス | クルスニクの娘、エルの力だよ。特異鏡映点だからね。 |
| デミトリアス | 彼女は骸殻の反動だけでなく分史世界消滅の際に【時歪の因子】となったハスタそのものを虚無へと追いやったんだ。 |
| デミトリアス | だが、このまま放置すれば死んでしまう。 |
| デミトリアス | ロミーの身体にとりついたようにスポットである『きみ』が寄生して体を動かせば『きみ』は助かるかもしれない。ハスタもだ。 |
| デミトリアス | それに寄生すればハスタを侵食することになる。いずれは『きみ』の体になるだろう。 |
| ロミー | キサマノハナシナド、シンジラレルカ !ダガ……。 |
| ロミー | シヌヨリハ、マシダ ! |
| ロミー | ナンダコレハ ! ?ハスタノカラダニ、モンショウガ ! |
| ロミー | マキョウジンダト ! ? デミトリアス、キサマ ! |
| デミトリアス | …………。 |
| | セールンド カレイドスコープの間 |
| デクス | おーい、ファントム。救世軍からの差し入れだ。ちゃんと食べてくれよ。 |
| ファントム | 必要ないと言っているでしょう。早く帰りなさい。 |
| デクス | それじゃ連絡役であるオレの面子が立たないんだ。そんなオレを見たらアリスちゃんがどんなに悲しむか―― |
| デクス | なんだ、今の音は ! ? |
| ファントム | ゲフィオン ! |
| デクス | うわ、ゲフィオンにでかいヒビが ! ? 砕けるぞ ! |
| ファントム | くっ……駄目だっ…… ! まだ……砕けるな ! |
| デクス | ファントム ! |
| ファントム | 今すぐ……私が食い止めている間に部屋を出なさい……。そしてイクスに伝えるのです……早く ! |
| デクス | わ、わかった ! 無理するなよ !オレが怒られるんだからな ! ? |
| デクス | よし、部屋は出た ! イクスに連絡を―― |
| デクス | ! ? 今の光は…… ?おいファントム、無事か ! ? おい ! |
| デクス | 部屋に近づけない…… ?ファントムのやつカレイドスコープの間を封じたのか ? |
| バルド | 帝都が見えてきましたね。みなさん準備をしてくさい。 |
| リヒター | …… ?あれは何の光だ ? |
| コーキス | 本当だ、何か気持ち悪い色してるぜ。こういうの、マスターならなんて言うだろう……。禍々しい…… ? |
| フリーセル | あの場所は帝都の中心だ。イ・ラプセル城のあたりになるはずだが。 |
| ナーザ | あれは…… ! |
| メルクリア | はい、わらわも感じました。 |
| ジュニア | あの光の場所に、具現化の力が集中している…… ! |
| ミリーナ | ねえイクス、今、感じたわよね ?おかしな気配。 |
| イクス | ああ。何かが具現化される時の空気に似ている。力がどこかに集中してるんだ。 |
| クレア | こちら管制室です。緊急連絡につき、全回線に通知します。 |
| クレア | 帝都上空に島の具現化を確認。詳細は不明。現在観測データを収集し―― |
| イクス | 本当に具現化だったのか !それに帝都の『上空』に『島』って……。 |
| ミリーナ | 誰なのかしら。フィルはここにいるしナーザ将軍もメルクリアもジュニアも一緒にいるって、ついさっき確認が取れているわ。 |
| イクス | そうなると、他に鏡士は……。 |
| 二人 | ファントム…… ? |
| | to be continued |