| Character | 1話【Ep2-1 セールンド城1】 |
 | ウォーデン | ……母上に祈っていたのか。 |
 | メルクリア | 兄上様 ! |
 | メルクリア | はい。せっかくセールンド城に戻って参りました故……。 |
 | ウォーデン | そうか……。母上も喜ぶだろう。 |
 | メルクリア | 兄上様は何故こちらに ? |
 | ウォーデン | この者が母上に挨拶をしたいと申してな。 |
 | フリーセル | メルクリア様。祈りを妨げてしまいまして申し訳ございません。 |
 | メルクリア | そなたは……フリーセルであったな。 |
 | ウォーデン | この者はビフレストがセールンドに送り込んだ間者だ。戦後は母上の手足となって動いていたらしい。 |
 | フリーセル | 正確には……一人目の私が、ということになります。私はサレの命令によって具現化された存在ですから。 |
 | メルクリア | 過去からの具現化……。そなたもジュニアたちと同じ立場なのじゃな。 |
 | フリーセル | 私はグラスティンへの嫌がらせのために作り出された存在です。彼らよりもっと空虚だ。 |
 | ウォーデン | だから、母上の言葉を実行しようとしたのか ? |
 | フリーセル | ……そうですね。そうだったのかも知れません。 |
 | フリーセル | 私は自分の無意味さを埋めるために一人目が果たせなかった皇后陛下の遺言を果たしたかったのでしょう。 |
 | メルクリア | 今もそうなのか ?あのミリーナ・ヴァイスを討つつもりか ? |
 | フリーセル | ……本日は、皇后陛下に謝罪するために参りました。ビフレストを滅ぼした魔女を討ち取れなかったこととこの先も本懐を遂げることは叶わぬことを。 |
 | メルクリア | ! |
 | ウォーデン | この者はビクエから俺への伝言を持ってきた。帝国が崩壊したこの地をまとめるための草案と共にな。 |
 | メルクリア | 伝言……でございますか ? |
 | ウォーデン | ビフレスト皇国と和平交渉を持ちたいそうだ。 |
 | メルクリア | 和平交渉…… ? |
 | ウォーデン | あの月にあるビフレスト皇国だ。あそこにはカレイドスコープで滅ぶ前のビフレスト皇国がまだ存在している。 |
 | ウォーデン | いや、ビフレストだけではない。他の小国もセールンドも存在している。その全てと和平を結ぶつもりなのだろう。 |
 | ウォーデン | ビクエは俺が新しい月へ移住することを確信しているようだな。 |
 | メルクリア | 新しい月……。あの空に浮かぶもう一つのティル・ナ・ノーグですね。 |
 | ウォーデン | そうだ。俺に残された時間は多くはない。 |
 | ウォーデン | 未来を生きるもののためになるべく早く道筋を付けたいと考えていたがビクエも同じであったようだ。 |
 | フリーセル | 恐れながら、私もウォーデン殿下にお力添えしたいと考えております。 |
 | フリーセル | 先程、ドンナー卿からの魔鏡通信が届きました。彼の地では、カレイドスコープで命を落とした者たちが甦りを果たし、混乱に陥っているそうです。 |
 | フリーセル | ドンナー卿らが事態を収めようとしておられるそうですが、セールンドのものはビフレストの民の言葉に中々耳を貸そうとはしないとか。 |
 | フリーセル | 私もセールンドで長く暮らした身。 |
 | フリーセル | ――いえ、それも一人目の記憶ではありますが。しかし他のビフレストの方々よりは、セールンドの民の気持ちがわかるのではないかと思うのです。 |
 | メルクリア | そなた……まさかセールンドの民として月に渡ると言うのか ! ? |
 | フリーセル | 私が真実セールンドの民であるかといえば……それは違いますが……。 |
 | フリーセル | 彼の地で再びセールンドとビフレストが――いえその他の国々も、皆、争いを起こさぬよう尽力したいのです。 |
 | メルクリア | そうか……。そなたは母上様の呪いから解き放たれたのじゃな……。 |
 | ウォーデン | メルクリア。先程、ジュニアたちが城に入った。会ってくるといい。 |
 | メルクリア | ジュニアが ! ?では、行って参りまする ! |
 | ウォーデン | フリーセル。本当にいいのか ?王を失った彼の地のセールンドはますます荒れる。 |
 | ウォーデン | 貴様の正体が発覚すれば命を落とすことにもなりかねない。 |
 | フリーセル | 命を落とすつもりはございませんが覚悟はしています。それにあちらにも、腕のいい魔鏡技師は必要でしょう。 |
 | ウォーデン | そうか。ならば力を貸してくれ。『友』との誓いを果たすためにも彼の地を平和に導かねばならぬからな。 |
 | フリーセル | 友……ですか ? |
 | ウォーデン | フッ……。勝手に友を名乗る面倒な男がいてな。色々と面倒事を押しつけられたのだ。 |
| Character | 2話【Ep2-2 セールンド城2】 |
 | ナーザ | ! ? 誰だ ! |
 | イクス1st | あ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ? |
 | ナーザ | なっ、まさかお前は…… ! |
 | イクス1st | 俺はイクス・ネーヴェ。この体の本当の持ち主だ。初めましてだな。ナーザ将軍――ウォーデン・ロート・ニーベルング。 |
 | ナーザ | 体を取り戻しに来たか。 |
 | イクス1st | いや、もう戻れないのは知っているだろ。俺を殺して、体だけを残しておいたんだから。 |
 | ナーザ | ならば何故ここにいる。 |
 | イクス1st | やっぱり元々いた体だからなのかな。何故か引き寄せられちゃって。 |
 | ナーザ | 【ギエラ・ビフレスト】のせいでアニマが引き寄せられたか……。 |
 | イクス1st | けど、丁度よかったよ。きみと話がしたいと思ってたんだよね。 |
 | ナーザ | 何を話すというのだ。 |
 | イクス1st | 俺を殺した理由だよ、皇太子殿。 |
 | ナーザ | 死者から自らの死の理由を尋ねられるとはな。今更それを知ったところで何が変わる訳でもなかろう。 |
 | イクス1st | 驚いたな。恥じてるのか。 |
 | ナーザ | 何 ? |
 | イクス1st | 言葉通りだよ。俺を殺したことを恥じている――もしくは悔いているのかな ? |
 | ナーザ | 恥などとは思わぬ。バロールの血族を鏡士にしてはならぬというのが古からの取り決めだ。 |
 | イクス1st | ああ……そうか。『戦争になることを承知で』俺を殺したことを悔いているのか。 |
 | ナーザ | ………… ! |
 | イクス1st | それは悔いるべきだな。 |
 | イクス1st | というか、殺す前にこっそり話してみようとか思わなかったのか ? どうして禁忌を破ってまで鏡士になろうとしたのかって。 |
 | ナーザ | そんな必要はない。理由が何であれバロールの血族が鏡精を作る可能性のある鏡士になることは認められぬ。 |
 | ナーザ | かつてオーデンセが我が国の領土であった頃からそれは変わらない。 |
 | ナーザ | 人が定めた法ならば見直すこともできようがこれは神の定めた法だ。 |
 | イクス1st | その神様も、元は人間だったけどね。 |
 | ナーザ | 何が言いたい。 |
 | イクス1st | 俺たちは似たもの同士だってことかな。 |
 | イクス1st | 俺は俺の力でセールンドの鏡士の在り方を変えられると思っていた。きみはきみのやり方でセールンドの鏡士の在り方を変えられると思っていた。 |
 | イクス1st | 独善的だったんだろうね。少し立ち止まってみればよかったんだ。俺たちは自分を過信し過ぎたんだよ。 |
 | ナーザ | ……それで ? 俺に謝罪しろとでも言うのか ? |
 | イクス1st | 謝罪なんていらないけど、そうだなあ……。 |
 | イクス1st | とりあえず、友達になるってのはどうかな ? |
 | ナーザ | な……何…… ? |
 | イクス1st | 俺を殺したんだ。憐れな死者の願い事ぐらい叶えてくれてもいいだろう ? |
 | ナーザ | 馬鹿なことを……。 |
 | イクス1st | そうかな。まあ、順序は逆になるけど、きみは『友達』を大義のために殺したことになる。 |
 | イクス1st | その大義が本当に正しかったのかどうかきみはこれから『この顔』を見る度に自問自答する。 |
 | イクス1st | そしてこう思う。『この顔』の持ち主のように広く仲間の知恵を借りる人間でありたい……ってね。 |
 | ナーザ | それは三人目のことか。 |
 | イクス1st | ああ。俺はあいつを買ってるんだ。 |
 | イクス1st | 体を貸してるよしみで、イクスのことを頼むよ。あいつは俺たちとは違う。違う道を切り開ける思慮深い男だ。 |
 | ナーザ | ……そう、かもしれぬな。 |
 | イクス1st | さすが皇太子殿、話がわかるな。 |
 | イクス1st | じゃあ、これから俺たちは『友達』だ。友達なら、体を使われても仕方ない。そこは目を瞑っておくよ。 |
 | ナーザ | 待て。三人目のイクス・ネーヴェが本当に世界の為になるのならば協力は惜しまぬと約束してもいい。 |
 | ナーザ | だが、少しでも毒になるのであれば、俺は―― |
 | イクス1st | ――おっと、その前に鏡を見てくれよ。誰よりも自分が自分の大義を疑うんだ。これは友達としての忠告だよ。 |
 | ウォーデン | (イクス・ネーヴェはこの記憶を見たのだろうか。それとも――) |
| Character | 3話【Ep2-3 セールンド城3】 |
 | マークⅡ | どうした、フィル。疲れたか ? |
 | ジュニア | うん……少しね。 |
 | バルド | それはそうでしょう。ようやく仮想鏡界の整理が終わりセールンド城へ着いたところで月からの魔鏡通信らしき反応を感知したのですから。 |
 | マークⅡ | 宇宙からの通信を何とか聞こえるような形に安定させるのに、結構な力を使っちまったからな。 |
 | バルド | しかし……バロールは本当にカレイドスコープで命を落とした人々を甦らせたのですね。 |
 | マークⅡ | 暗い顔だな。故郷が甦ったってのに。 |
 | バルド | これからが大変です。 |
 | バルド | カレイドスコープで命を落とした者が甦ったということは、それ以外の死因の者は存在していないのでしょう。 |
 | バルド | となれば、あちらのセールンドには王族がいない筈ですし、政変が起きる可能性もあります。各国の対立感情も頭の痛いところだ。 |
 | バルド | この状態でウォーデン様が月へ向かうのは危険でしょうしね。 |
 | ジュニア | でもナーザ……じゃなかった、ウォーデン様は一刻も早く月に行きたいって言ってましたよね。 |
 | バルド | ご自身の命の期限を気にしておいでなのでしょう。せめて、最初は私が彼の地の様子をこの目で見てから―― |
 | メルクリア | ジュニアが帰ったとはまことか ! ? |
 | ジュニア | メルクリア ! うん、ただいま ! |
 | メルクリア | うむ。仮想鏡界の始末、ご苦労であったな。マークもよくジュニアを支えてくれた。 |
 | メルクリア | ……ん ? ヴァンたちはどうした ? |
 | ジュニア | オールドラント領に向かったよ。落ち着く場所を見つけたら連絡をくれるって。 |
 | メルクリア | そう……か……。そうじゃな。もう帝国は事実上崩壊した。あの者たちも我らと共に来る必要などないしな……。 |
 | マークⅡ | 何だよ、姫さん。そんな悲しい顔するなって。俺とフィルだけじゃ不服か ? |
 | メルクリア | さようなことはないが、おぬしらともいずれは離ればなれになるではないか……。 |
 | ジュニア | え ? どうして ? |
 | メルクリア | わらわたちは、いずれ新しき月へ向かうことになる。そうなればそなたたちともお別れじゃ。 |
 | ジュニア | 僕たち、一緒に行ったら駄目なの ? |
 | メルクリア | ! ? |
 | バルド | メルクリア様、ジュニアとマークも共に月へ行きたいと申し出てくれているのですよ。 |
 | メルクリア | な……何故じゃ…… ?ここにはそなたたちの知己もおろうが……。 |
 | ジュニア | それはもちろんそうだけど、僕にとってはメルクリアたちも大事な仲間だよ。 |
 | マークⅡ | うちのご主人様はさ、新しい月とここを繋ぐゲートを作りたいって考えてるんだよ。 |
 | メルクリア | ゲート……とな ? |
 | ジュニア | うん。転送魔鏡陣のようなものを魔鏡機器として設置出来れば、向こうとの行き来が楽になるでしょう ? |
 | ジュニア | その為には向こうの状況も確認する必要があるからね。リヒターさんとアステルさんも協力してくれるって。 |
 | メルクリア | リヒターたちが !なんと……それは心強い……。 |
 | ジュニア | それよりメルクリアバルバトスにやられた傷は大丈夫 ? |
 | メルクリア | うむ……。傷は治癒術でふさがっておるがまだ奥がじくじくと痛むのじゃ。 |
 | メルクリア | 自業自得ではあるのじゃが、わらわも殺される訳にはいかぬからな。早く傷を癒やしていつでも動けるようにしておかねば。 |
 | バルド | 大丈夫ですよ、メルクリア様。御身はこのバルドが必ずお守り致します。 |
 | マークⅡ | まあ、いざとなれば色々逃げようもあるしな。ところで勝手にこの城を占拠していいのか ? |
 | バルド | いえ、いつまでもという訳にはいかないでしょうね。いずれはどこかの街に屋敷を構えるかあるいは浮遊島をお借りするという手も……。 |
 | メルクリア | 浮遊島か……。 |
 | ジュニア | やっぱりいや ? |
 | メルクリア | ……いや、そうではない。いずれはミリーナ・ヴァイスとしっかり向き合わねばならないと……そう思うておるだけじゃ。 |
 | ミリーナ | ……イクス、大丈夫かしら。 |
 | カーリャ・N | 随分とショックを受けておられましたからね。 |
 | マーク | おかしなもんだな。鏡精の方が切り離されるって聞いてショックを受けるのならまだわかるんだが。 |
 | ミリーナ | そうね……。イクスはコーキスを独立した存在として扱っているように感じていたからあんな風に不安そうな顔になるとは思わなかったわ。 |
 | カーリャ | 私たち鏡精にはよくわからないんですけど鏡精の切り離しって鏡士的にはどれぐらい負担になるんですか ? |
 | ミリーナ | そうね……。鏡精の切り離し自体は難しいことじゃないのよ。 |
 | ミリーナ | 以前のセールンドでは、鏡精をエネルギーに変換するため、たくさんの鏡精を作る必要があったから鏡士が鏡精を忘れる術式を組み込んでいたけれど。 |
 | ミリーナ | それは自ら生み出した命を殺すという心理的な負担を軽減するための措置だからコーキスの場合はそんなことをする必要もないし。 |
 | ミリーナ | でも――今のイクスの状態だと術式を組み込まなくても……コーキスのことを忘れてしまう可能性はゼロではないわね。 |
 | ミリーナ | 切り離すにしても心核が回復するのを待った方がいいと思う。 |
 | カーリャ | むむ……。中々大変なんですね。 |
 | カーリャ・N | ……ミリーナ様。よろしければミリーナ様もカーリャと一緒にお休み下さい。私とマークがコーキスの帰りを待ちますので。 |
 | ミリーナ | ……そうね。そうさせてもらおうかしら。 |
 | ミリーナ | スレイさんを送り届けるとなると帰りはかなり遅くなる筈だから二人も隙を見て休んでちょうだいね。 |
 | マーク | パイセン。何か話でもあるのか ?二人きりになろうとするなんて。 |
 | カーリャ・N | ……ええ。マークには話しておかなければいけないと思って。 |
 | マーク | はいはい。聞きましょう ? |
 | カーリャ・N | 私は新しい月へ行きます。 |
 | マーク | ………………え ? |
 | カーリャ・N | あちらはきっと混乱しているでしょう。彼らに何が起きたのか説明できる人間が必要です。私は―― |
 | マーク | ――嫌だっ ! |
 | カーリャ・N | ……マーク ? |
 | マーク | ファントムと何か話してやがるなと思ったらそういうことかよ。そんなの、絶対認めねえからな ! |
 | | to be continued |