Character1話【音楽祭1 港町ミナール】
ヴェイグここがカレギア領の港町ミナール……。オレたちの世界のミナールよりも発展しているようだな。
イクスカレギア領の貿易拠点となっているからかな。そのうえ音楽祭の開催も近づいているからか街の人たちにも活気があるよ。
ヒルダミナール初の音楽祭を、特等席で楽しめる。これもニーア・バース先生のおかげね。お供させてくれたことに感謝しないと。
ミリーナそれにしても、街の市長さんから直々に招待をされるなんて。さすがベストセラー作家よね。
アニーも、もう。ヒルダさんもミリーナさんも……わたし、作家としてはもう引退しているんですからね。
アニー本当は招待も断ろうと思っていたのに……まさか担当編集さん、勝手に出席するって返事しちゃうなんて…………はぁ。
カーリャドンマイ、アニーさま !これも有名税ってやつですよ !
コーキスパイセン。それはなんか違くねぇか……。
ヒルダけど、医療班の仕事で最近ずっと忙しそうだったじゃない。息抜きだと思って楽しんだ方が得だと思うわよ。
アニーせっかくですからね、わたしもそのつもりです。それに……もう今の時点でもこの素敵な演奏で、楽しませてもらってますよ。
ヴェイグ……軽快で陽気なメロディが聞こえるな。酒場の方からか。
クレアふふっ。ヒューマたち……この世界で言う人間たちとガジュマたちがセッションしているわね。演奏だけじゃなく、本人たちもとっても楽しそうだわ。
ヴェイグ……。
カーリャおぉ、ヴェイグさままで笑顔にするなんてやっぱり音楽の力は偉大ですね !
ヴェイグ……それはどういう意味だ。
クレアけど、その笑顔は、いい演奏を聴けたからという理由だけじゃないわよね、ヴェイグ ?
ヴェイグああ……少し安心したのもある。ガジュマたちがこの世界でどう扱われているのか、気がかりだったからな。
イクス確かにこの世界には存在しなかった種族だから受け入れられているのか心配する気持ちはわかるよ。でも、カレイドスコープの具現化は――
ヴェイグ……ああ。オレたちの世界が具現化された際にガジュマもティル・ナ・ノーグで生まれるヒトとして定義されたとは聞いていた。
ヴェイグだがこうして実際に、ガジュマが当たり前のようにこの世界で生きて、受け入れられているのをこの目で見られたことが嬉しい。
クレアガジュマはもちろんのこと、具現化によってこの世界には、本当に多くの種族のみんなが共に暮らすようになったのよね。
ミリーナええ。エルフやハーフエルフやドワーフ。水の民にレイモーンの民。他にも様々な種族がこの世界に生まれるようになったわ。
アニーこの街は、世界中のあらゆる種族の移民を受け入れているそうです。だから、こんなに多くの種族が集まっているんですね。
ヒルダハーフエルフがいるなら他のハーフもいるかもしれないわね。……私と同じように。
アニー……ヒルダさん。
クレア私、この街がとても好きよ。
ヴェイグああ。オレもだ、クレア。
コーキスミトス様やカイウス様たちにも見せてやりたいな。この街をさ。
アニーきっとこのミナールもたくさんの困難を乗り越えて今のような街になれたんでしょうね。わたしたちの旅と同じように。
ヒルダ何でも、始めは大変だったみたいよ。けど、街の市長が指揮を執り、差別や偏見による問題を少しずつ解決していったらしいわ。
アニー……この街の市長さんが ?
クレア音楽祭だけじゃなく市長さんに会えるのも楽しみね。どんなヒトなのかしら。
アニーもうそろそろ市長さんとの待ち合わせ場所ですけど――
? ? ?これは困ったことになったな。それでは音楽祭の目玉が……。
アニーえっ……ユージーン ! ?
ユージーンそこにいるのは……アニーか ! ?
ヒルダアニーだけじゃないわよ。
クレアお久しぶりです。ユージーンさん。まさかこんなところで会うことになるなんて。
ユージーンヒルダにクレアさん、そしてヴェイグも。なるほど、ということはやはり……。
ヴェイグここで会ったのは偶然ではなさそうだな。
ユージーンそうだ。なにせ作家ニーア・バースを音楽祭に招待をしたのはこの俺だからな。
アニーということは……ミナールの市長さんはユージーンなの ! ?
ユージーンああ。『雨と共に去りぬ』を読んでまさかと思ったが……本当にアニーだったとは。編集者に無理を言って、来てもらった甲斐があった。
アニーそういうことだったのね……。それにしてもまさかユージーンにも小説を読まれていたなんて……。
ミリーナ恥ずかしがることないわよ。あんなに素敵な小説なんだから。もちろん、恥ずかしがるアニーも可愛いけどね。
ユージーンおっと。そこにいる四人とは初対面だな。挨拶が遅れた。俺はユージーン・ガラルド。ヴェイグたちと共に旅をしていた者だ。
ヴェイグ紹介する。二人は鏡士のイクスとミリーナ。その隣にいるのが鏡精のコーキスとカーリャ。この世界で出会った、オレたちの新しい仲間だ。
イクス初めまして。よろしくお願いします。
ユージーンこちらこそよろしく頼む。だが、鏡精というのは…… ?初めて聞く種族だが……。
イクス……ユージーンさん。もしかしたらここがユージーンさんがいた世界でないことに気付いていらっしゃるんですか ?
ユージーンなるほど……。やはりそういうことか。――詳しい話を聞かせてもらえるか ?
ヴェイグユージーン、ひとまず落ち着いて話をできる場所に移動しないか ?
ユージーンそれもそうだな。では俺の執務室まで案内する。そこでゆっくりと雨去りの感想も伝えさせてもらうとしよう。
アニーも、もう。ユージーンったら。
ユージーンははっ、冗談だ。では、ついて来てくれ。

Character2話【音楽祭2 トラブル】
ユージーン……滅びを食い止めるための具現化、か。見たことのない種族のヒトたちがいたのは複数の異世界を具現化したからという訳だったのだな。
ユージーンこれでようやく世界の有り様に合点がいった。何らかの幻覚ではと疑ったこともあったが……。
イクスすみません……。俺たちの世界の事情に巻き込む形になってしまって……。
ヴェイグ……ユージーン。無理にとは言わないがこの世界でも力を貸してくれないか ?
ユージーンああ。もちろんだ。だが少なくとも音楽祭が終わるまではこの街から離れられんだろう。
アニーまさかユージーンが街の市長だけでなく音楽祭の実行委員も務めていたなんて。あまり無理をしすぎないでくださいね。
ユージーンこれくらいは王の盾に所属したばかりの頃と比べればどうということはない。心配してくれてありがとう、アニー。
アニーわ、わたしはその……医者として忠告をしたまでですから。もちろんユージーンなら大丈夫でしょうけど。
ユージーンとはいえ、この仕事をやり終えたら俺もしばらくゆっくり休むつもりだ。なにせずっと働き詰めだったからな。
ヒルダ各大陸同士で交易がはじまってから種族の違いによるトラブルも少なくなかったと聞いているわ。
ユージーンああ。特にガジュマの獣人という外見的特徴――これは他の地方のヒトにとっては珍しいようでそれが原因となり、誤解される事件もあった。
ユージーンガジュマは主にカレギア領に住んでいる。他の地方に暮らす者にとって、あまりガジュマが身近な存在ではないから、ということだろう。
ユージーン知識としてガジュマを知っていても実際に見ると驚くようだ。
ヒルダカレギア領に来るまでガジュマを見たことすらなければ、誤解してしまうのも悲しいけれど仕方のないことかもしれないわ。
ユージーンだがこの街では、ガジュマと各大陸のヒトたちとも良好な関係が取れるようになってきている。
ユージーンそれだけじゃない。種族の違いなど関係ないという考えに賛同し、他の種族からも協力してくれる者たちが集まるようになってきた。
アニー……ユージーン。もしかして、忙しい中で音楽祭の企画をしたのも……。
ユージーン……種族の違いで苦しんでいる者たちはヒューマとガジュマだけではないとこの世界に来て、俺は知った。
ユージーンまぁ、ここが異世界であることに確信が得られたのはつい先程であるが……。それでも様々な種族が生きにくさを抱えていたのは確かだ。
ユージーンだからこそ、このミナールで大陸……いや、種族を越えた更なる親睦のため音楽祭を開催しようと思ったんだ。
クレア音楽はその場にいるだけで大勢のヒトが楽しめる。そして聴くだけじゃなく、共に奏でることもできる。種族を越えた音楽祭……とても素敵だわ。
ヒルダけど、大丈夫なの ?音楽祭に関して何か困った様子だったけど。
ユージーン……聞かれていたか。
アニー何かあったの ?
ユージーンそこまで大したことではないが……音楽祭のメインとして企画しているマーチングに関して少々トラブルがあってな。
コーキスマーチングって何だ ?
ミリーナ大勢で、楽器を演奏しながら行進したりするの。パレードみたいな感じを想像してみて。
イクスしかも、ただ行進するだけじゃないんだぞ。曲に合わせてステップとかターンをして耳だけじゃなく視覚でも楽しめる音楽なんだ。
ヒルダマーチングは華やかさもある。音楽祭のメインとしてはうってつけね。
ユージーンそれだけじゃないぞ。マーチング・バンドのメンバーもこの音楽祭のコンセプトに合わせて多種族からなるバンドを企画している。
クレアヒューマ、ガジュマ、ハーフエルフやレイモーンの民色んな種族のヒトたちによって結成されたマーチング・バンドということね !
ヴェイグさすがユージーンだな。この話を聞いているだけでも胸が熱くなってきた。
ヒルダそれで、そのトラブルっていうのは ?些細な問題が大事に発展することもある。共有しておいて損はないと思うわよ。
ユージーンいや……バンドのリーダーとここ最近、何故か連絡が取れなくてな。
ヴェイグ……何かあったということか。
ユージーン今、部下が直接尋ねに向かっているところだ。ついでにバンドの状況も確認してもらうことになっている。
アニー……何かあったんでしょうか。他のバンドメンバーの方々も無事だといいですけど。
ユージーンそしてもう1つ。マーチング用に依頼した曲がなかなか完成しなくてな……。作曲家からは「もう少しで完成する」と言われてはいるが……。
ヒルダアニー、どう思う ?
アニー多分終わってませんね。編集さんによると大抵の作家が言う「もう少しで完成する」は「今から着手する」って意味らしいですから。
ユージーンや、やはりか……。実は俺もそんな気がしていてな。打ち合わせをいれておいて正解だったか。
ヴェイグ打ち合わせ ?
ユージーンああ。何か悩んでいることがあればその場で聞こうと思っていてな。もう少ししたらその作曲家もやって来るはずだ。
イクスなるほど。けどさすがユージーンさんですね。トラブルはあるみたいですけどもうどっちも対策を打っているなんて。
ユージーン対策は早く立てた方がいいからな。だがどちらの問題も、その原因がハッキリしないという点がどうも気がかりだ。
ヒルダ…………。
アニーあっ、ヒルダさん……タロットを……。
ヒルダ……「塔」の正位置。災難や滅亡の暗示。人間関係による争いの予兆……。
カーリャひぇぇ ! ! なんですそれ !めっちゃ不吉じゃないですか ! !
アニーま、まあ……占いの結果は生きる上での道しるべでしかない……ですから、ね ?
ユージーンひ、ひとまず作曲家との打ち合わせに備えるとしよう。
カーリャ……変な人じゃないといいですけど。
? ? ?じゃりっじゃり~……がりっがり~……。う~~ん、ダメだ。やっぱりしっくりこないや。
ヒルダ待って。この声は――
マオあれ ! ? みんな ! !どうしてここにいるの ! ?
一同マオ ! ?
マオわーい ! ユージーンもいる !ひっさしぶり ! !ボクがいなくて寂しくなかった ?
ユージーンマオ、一度落ち着いてくれ。どうしてお前がここにいるんだ。
マオどうしてって決まってるでしょ。打ち合わせに来たんだヨ。
アニー打ち合わせってことは……マオが作曲家なの ! ?
マオそのとおり ! ……って、厳密に言うとアシスタントなんだけどネ。ところでみんなは何してるの ?
ヴェイグ……打ち合わせの前にまず色々話すことがありそうだな。
マオけど、その色々話すのも後にしてまずは何か食べさせてよ。ボク、もうお腹ぺこぺこでこれじゃあ話すに話せないヨ。
ユージーンあいにく今は食材を切らしている。しばらく我慢できないか ?
マオえ~、そんなの無理だよ !ユージーンってばボクを餓死させる気なの ! ?何か食べないと、これ以上話したくても話せないヨ !
コーキス……いや、すでにめっちゃ話してるけど。
ヒルダまったく、うるさいわね。これだからお子様は。仕方ないから、外に行って何か食べながら話すとしましょう。
マオわーい、やったやった !ヒルダにしては気が利くネ。
ヒルダぶつよ。
イクスな、なんだか一気に賑やかになったな……。
マオそれじゃあ街にしゅっぱーつ ! !

Character3話【音楽祭3 曲のアイデア】
マオ色々屋台が出てるネ。どれも美味しそうで気になっちゃうヨ !次は何を食べよっかな。
アニーマオ。お腹が減っていたのはわかるけどあまり食べ過ぎると、クレアさんが作ってくれているおやつが入らなくなるわよ。
マオ大丈夫。おやつは別腹だもん。クレアさんのピーチパイ楽しみだな~!
ユージーン……食べ物のこともいいがイクスたちの説明はちゃんと理解できたのか ?
マオもちろんだよ……ボクが鏡映点ってことでしょ。あ、すみません。ホットドッグ1つくださーい。
ヒルダまったく……。
ヴェイグそれにしても、まさかマオが有名作曲家のアシスタントになっているとはな。
ミリーナ作曲のお手伝いまでしてるのよね ?
マオうん。ボクの歌を元に作曲するのがその先生のマイブームなんだって。インスピレーションが掻き立てられるって言ってたヨ !
マオ有名作曲家の先生にも見込まれるボクの歌の才能、すごいでしょう ?
アニーマオの歌の才能というよりマオの歌をちゃんとした曲に仕上げる作曲家の先生の方がすごいと思うけど……。
ヴェイグそれは同意だ。やはりプロの作曲家は違うな。
マオちょっと ! ボクのことも褒めてヨ ! !
ユージーンとにかく、マオが曲の原案となるメロディを考えてくれない限りは、マーチングの曲も仕上がらないということか。
マオそういうこと。けど最近なんだか調子が悪くてさ。
ヒルダ全然出来上がってないんでしょう。締切があるにもかかわらずこんなところでブラブラして、いい身分ね。
マオボクだってサボっているわけじゃないんだヨ !それに、部屋の中に閉じこもっていたって良いアイデアはでてこないんだから。
ユージーン確かに気分転換も大切なことではあるな。
マオそうそう、気分転換だヨ !楽しい気分になれば何か閃くかもだしさ !
アニーそれは一理あるわね。実際にマーチングを披露するこの街を巡りながらみんなで話していれば良い考えもでてくるかも。
マオそのとおり ! さあ、久しぶりの再会だし明るく楽しく元気よく、みんな盛り上がって行こう ! !
四人おーっ ! !
四人…………。
マオって、なんで一番話すことがあるはずのヴェイグたちの方が黙っちゃうかな ! !
ユージーンいや……いざ盛り上がれと言われてもな……。
ヴェイグオレはいつもどおりにしているだけだ。
コーキス……なぁ。一緒に盛り上がってあげなくていいのか ?
ヒルダ無理して付き合うこともないわ。疲れるだけよ。
マオあぁ……やだやだ。みんな、暗すぎるよ。これじゃあヴェイグに囲まれているみたい。みんなにも根暗が移っちゃったの ?
ヴェイグ…………。
アニー……マオ。考えてみたんだけど、わたしたちだけで盛り上がるのは厳しいんじゃないかしら。ほら、わたしたちそういうタイプじゃないし。
マオ……うん。ボクも冷静になってそんな気がしてきた。
ヴェイグティトレイがいたら違ったかもしれないがな。
ヒルダあの男、こういう時に限っていないんだから。
マオあーあ。誰かもっと話してくれるヒトがいたらな……。
ヴェイグそういえば、旅の時も同じようなことを言っていたな。
ユージーン俺もよく覚えている。まあ、話し相手がいなくてもマオは勝手に歌ったりと楽しそうにしていたが。
マオそう言われてみれば…………あっ !
アニーマオ、どうかしたの ?
マオちょっと待って !イメージが浮かんできたかも !そう……これは、冒険の曲 ! !
コーキスおっ、なんかよくわからないけどマオ様が閃いたみたいだぞ !
アニーよかった。占いの結果が悪かったからちょっと心配だったけど案外早く解決できたわね。
マオうん。これもみんなのおかげだヨ !
ヴェイグオレたちは何もしていないが ?
マオボク、気がついたんだ。なんだか調子が悪いと思ってたけどこの暗くてどんよりした感じが足りなかったんだって。
マオあ~、ヴェイグの無口さが懐かしいよ ! おかげで冒険中で歌っていた時の感覚が思い出せてきた !みんな、ありがとうね !
四人…………。
イクスなんか、ヒルダさんの占いの結果通りだ。この場の空気がピリピリしてきた……。
マオこの空気がボクたちなんだヨ。だから気にしない、気にしない♪
ミリーナええっと……。これで、一件落着、かしら ?
ユージーンああ。曲の問題はひとまず解決としてあとは連絡が取れなくなっているバンドリーダーだが――
クレアみんな。ちょっといいかしら ?報告したいことがあるの。
マオクレアさん ! もしかしてピーチパイが完成したっていう報告 ?
クレアええ。けどそっちは良い報告。残念だけど悪い報告もあるの。
ヴェイグゆっくりピーチパイを食べている状況ではなさそうだな。何かあったのか ?
クレアそれが……今、ユージーンさんの部下の方たちが来てバンドリーダーについて報せてくれたのだけど……。
クレア……実は数日前にバンドを辞めていたみたい。後任も決まっていないんですって。
ユージーンバンドを辞めただと ?
クレアええ……その他にも数名、辞退したそうです。このままではメンバーが足りないみたいで……。
ヴェイグ……何故そんなことに。
ユージーンすぐに市長室に戻ろう。そこで詳しく話を聞かせて欲しい。
クレアええ。わかりました。
イクスよし。向かいましょう。

Character4話【音楽祭4 一難去って……】
ユージーン……なるほど。マーチング・バンドのリーダーやメンバー数名が脱退したのはガジュマに対しての恐怖心が原因というわけか。
クレア脱退したヒトの中には、過去にガジュマの盗賊に襲われたことがあったみたいです。だからか「野蛮なガジュマなんかと演奏はできない」と……。
イクス野蛮なガジュマって……随分ひどいな……。
コーキスそれに、その盗賊とバンドメンバーは同じガジュマでも別人なんだろ ?だったら恨むのはおかしいよ。
アニー……きっと過去のことが原因で、ガジュマだからと一括に決めつけて見てしまうんですよ。そんなこと、間違ってるのに……。
ユージーン……アニー。
マオあーぁ。せっかくボクの歌が閃いて曲作りも動き出したところだったのになぁ。メンバーが足りなきゃマーチングもできないよネ。
ユージーンこの人数を集めるだけでもかなりの時間がかかった。今から再募集をかけても間に合うかどうか……。
ヴェイグ諦めるのはまだ早い。まずは一人でも新しいメンバーを集めるべきだろう。
カーリャあっ ! アジトに楽器を演奏できる人たちがいるじゃないですか !たとえばジョニーさまとか !
ヒルダマーチング・バンドは管楽器と打楽器で構成されているのよ。ジョニーが得意なのは弦楽器でしょう。
ミリーナそれにマーチングは体力を消耗するわよね。まだ体調が万全ではないジョニーさんには厳しいんじゃないかしら……。
イクスアークで一緒にバンドを組んだアスベルならドラムの経験があるし打楽器なら頼めるんじゃないか ?
カーリャ今は無理じゃないですかね。アスベルさまはマリクさまと一緒に修行で山に行っていますし。
コーキスリオン様はベースとピアノはできるけど……これもマーチングの楽器じゃないんだよな。
イクスまあ、リオンなら何でもできると思うけど…………うん、断られる未来しか見えない。
ユージーン楽器の種類は問わん。他に楽器経験者はいないのか ?
コーキスならマスターがいるじゃん !バンドでギターを弾いていたよな ?
ユージーンつまり音楽の素養はあるということか。マーチング・バンドには他の楽器で参加することになってしまうが、イクス、頼めるか ?
イクス……俺は、ギターですらかなり頑張って何とかって感じだったから。今から他の楽器を覚えるのは難しいと思う。
イクスそれに行進しながら楽器を弾くなんて絶対間違えそうだし……転んで楽器を壊して隊列を崩しちゃうかも知れないし……。
イクス俺が転んだせいで、前の人も倒れて結局隊列全員が倒れて怪我人が大勢出ることになったら――
ヒルダこれが噂に聞いてた無駄に心配性な部分って訳ね……。
ミリーナ久々に心配性なイクスも可愛い…… !
カーリャ――という、いつものミリーナさまはおいといて。
クレア他には……カノンノさんたちも楽器経験者だったわよね ?
ミリーナええ、カノンノたちは秋祭りで演奏をしていたものね。もしかしたら頼めるかもしれない。ちょっと後で声をかけてみるわね。
アニーそういえば……ヒルダさん、音楽がお好きでしたよね ?それに、チェロの腕にも自信があると言っていたような……。
ヒルダ……まあ、そうだけど。よく覚えていたわね。
ユージーンならヒルダ。やはり別の楽器になってしまうがここはひとつ、バンドに加わってもらえないか ?
ヒルダ私が ! ?
マオヒルダがやるんだったらボクもやってみようかな !
ヒルダちょっと誰もやるとは言っていないでしょ。
マオボク、ラッパを吹いてみたいんだ。クレアさんも一緒にやってみない ?
クレアそうね。私も楽器には興味があるし何より、この音楽祭を成功させたいもの。
クレア役に立てるかわからないけど……私にできることは何でもやりたい。
ヴェイグ……クレア。
クレアそうだ。ヴェイグも一緒にどうかしら ?
ヴェイグああ。オレもクレアと同じ想いだ。一緒に参加しよう。
マオえっと……あと必要な人数は……あれ ?アニーとユージーンが加わればもう最低限の人数は揃うんじゃないかな ?
アニーわたしもやることは決定なの ! ?
ユージーン待て。俺も参加はしてもいいが市長や実行委員としての職務が――
コーキスだったらそっちこそマスターがやればいいじゃん。そういう机に向かってごちゃごちゃやったり頭使うことならできるだろ ?
ミリーナええ。それに裏方も必要だものね。
イクスう、うん。人に見られない方の仕事なら大丈夫かな。
マオはい ! これで問題解決 !
ヒルダただ人数が揃ったところでちゃんと演奏ができなきゃ意味ないでしょう。根本的な問題は解決していないわ。
マオそこでヒルダの出番だよ。ボクたちに演奏の仕方や音楽の基礎を教えてくれない ?ヒルダが楽器の練習をするついでにさ。
ヒルダ……はぁ。そうくるのね。というか私も参加確定になってるし。
マオいいじゃん。一緒にやろうヨ !
ヒルダはいはい。わかったわよ。けど、指導は私なんかじゃなくもっと上手い人に頼んだら ?
アニーわたし、ヒルダさんがいいです。タロットの占いもすごくわかりやすく教えてくれましたし。
ヒルダ……そんなことは。
マオほら。アニーもこういっていることだしさ。
ユージーンヒルダ。頼めるか ?
ヒルダ……わかったわ。ただし、私の演奏指導はカレギア語の指導と同じくらい……いやそれ以上に厳しいわよ。
ヒルダやるからには徹底的にやる。覚悟はあるかしら ?
ヴェイグああ。望むところだ。本番までに演奏できるようになってみせる。
クレアええ。私も頑張るわ。
ヒルダならまずは楽器を決めましょう。そうしたらすぐに練習開始よ。
マオおーっ ! !

Character5話【音楽祭5 特訓開始!】
ヒルダそれじゃあ一度休憩にしましょう。終わったらまた基礎合奏よ。
イクスみんな、お疲れ様。飲み物をここに置くよ。
ミリーナユージーンさん。書類の記入は私たちで終わらせておきました。
ユージーンありがとう、ミリーナ。なにせずっとバスドラを叩いていたせいで、腕がバテてしまってな。ペンを持てるかも怪しいと思っていたんだ。
マオぶっ続けで練習だったもんね。ボクもラッパの吹きすぎで唇がヒリヒリするヨ……。
マオアニーが調合してくれたリップクリームを塗ろっと。ヴェイグも使ってる ? これよく効くんだよ。ぬりぬり……っと。
ヴェイグ……はぁ、はぁ。オレは……それより、息が切れて……。
マオあらら。まあ、ヴェイグが担当しているチューバは金管楽器の中でも一番大きい楽器だもんね。そりゃあ肺活量も必要か。
ヴェイグそのうえ、重い。
ヒルダ本番ではスーザというマーチング用の軽いチューバみたいな楽器で演奏してもらうことになっているわ。
ヒルダまあ、重さは軽減されるとはいえ肺活量が必要なのには変わりないけど。
クレア私の担当しているフルートも、直接楽器の中に息を吹き込むわけじゃないから、肺活量が必要みたい。ヴェイグ、私と一緒にマラソンで体力づくりよ。
ヴェイグああ、クレア。一緒にがんばろうな。
マオトランペットも肺活量必要かな ?
ヒルダあんたは肺活量より演奏の練習を優先しなさい。
マオ……はーい。けどまさかラッパってこんなに難しいと思わなかったヨ。指のボタン3つだけだし楽勝だと思ってた。
ヒルダだからこそ唇の形や、息のスピードで音をコントロールしなくちゃいけない。単純な構造の楽器ほど難しいものよ。
マオえっ、ということはボクのラッパよりヒルダの担当しているサックスの方が実は簡単だったりするの ! ?
ヒルダまあ、アルトサックスの方が音は出しやすいと言われているわね。
ヒルダけど、その代わり、複雑な連符があったりはじめは指使いを覚えるのが大変だったりするからどの楽器がラクとは一概には言えないものよ。
マオそっか……じゃあボクはやっぱりラッパがいいや。なんだかしっくり来るんだよね。
ユージーントランペット……形は小さいが音は大きくメロディを担当することも多いブラスバンドでの花形。確かに、マオにぴったりの楽器かもしれないな。
マオえへへ……そうかなぁ。でも、そう言われてみるとみんなも今の楽器がなんだかハマってるよね。
ヴェイグ皆を導くユージーンがリズム楽器のバスドラ……。マオの言う通りかもしれないな。
マオヴェイグはまさにチューバだよね。なんか地味なところとかさ。
ヒルダけど低音楽器がないと演奏も厚みがなくなってしまう。地味な役とはいえ大切な存在よ。
マオそっか。確かにヴェイグがいないとなんかしっくりこないし……うん、やっぱりヴェイグはチューバだネ !
ヴェイグ……褒め言葉として受け取っておく。
ヒルダクレアのフルートもいいわよね。まさに上品で優雅なお嬢様って感じで。
クレアそんな……お嬢様だなんて。私はただの村娘よ。それに、ヒルダさんの大人っぽさには敵わないわ。
アニーアルトサックスを吹いているヒルダさんなんだか大人の色気がありますもんね。チェロを弾く姿も素敵なんだろうなぁ。
ヒルダわ、私なんかを褒めても何もでないわよ……。
カーリャあれ ? ところでアニーさまの楽器はなんですか ?
アニー……わたしは、ドラムメジャーになりました。
イクスドラムメジャーってことは……アニーがマーチングの指揮者なのか ! ?
ミリーナバンドの先頭でみんなに合図を送ったりするマーチングの中でもすごく重要な役よね ! ?
アニーはい……ドラムメジャーはバトントワリングをするんですけど今のバンドには誰もできるヒトがいなくて……。
マオそれで武器が杖のアニーならバトントワリングもできるよねってことで見事、ドラムメジャーに就任したのさ !
アニーはぁ……マオが余計なことを言うから。バトントワリングも簡単じゃないんだからね。
ユージーンだが、俺はお前が適任だと思っている。
アニーそ、そう…… ?
ユージーンいや……すまない。プレッシャーをかけてしまったか ?
アニーもう、ユージーンったら。さすがにわたしに対して気を使いすぎよ。そんなことはないから安心して。
ユージーンそ、そうか……いや、すまない。
マオユージーンってば、また言ってる。
ヒルダけど、また無茶して倒れないようにね。あんたの頑張り屋なところは良いところだけどたまに心配になるわ。
ヒルダ練習も大切だけどちゃんと休憩も忘れずに。わかってるわね ?
アニーはい。雨去り最終巻を書いていた時のような失敗はしません。心配してくれてありがとう、ヒルダさん。
マオ休憩も忘れずに……か。やっぱりヒルダってアニーにはちょっと甘いよネ。ボクたちにはすっっごく厳しかったのに。
ヒルダそ、そんなこと……。
クレアふふっ……それはアニーがヒルダさんにとって\"妹\"だからじゃないかしら。
ヴェイグオレたちの仲間には妹に甘い奴が多い。ヒルダもその一人ということか。
ヒルダさ、さあ。もう休憩時間は終わり。いつまでお喋りしている気かしら。はやく練習に戻るわよ。
マオちぇっ。特別扱いがバレて照れてるヒルダをまだからかいたかったのになぁ。
ヒルダマオ。あんた、体力づくりとして街の周り5周させるよ。さっき一言多かったヴェイグたちもまとめてね。
ユージーン俺は黙っていたはずだが……。
ヒルダ連帯責任よ。
マオほらー ! やっぱりボクたちには厳しいじゃないか ! !
ユージーンマオ。余計なことを言うな。本当に走らされることになるぞ。
マオそ、そっか。この後の基礎練習の後にはバンド全員での行進練習があるんだし体力は温存しておかないと。
アニーそれじゃあわたしはバトントワリングの個人練習に戻りますね。
ユージーンああ、頑張れ、アニー。俺たちも気を引き締めて行くぞ。

Character6話【音楽祭5 特訓開始!】
ユージーン全体、止まれ ! !
一同…………っ。
ユージーンよしっ。ようやく行進にもまとまりがでてきた。一度休憩にするとしよう。
バンドメンバー達……は、はい。
ユージーンどうした、声が小さいうえ全然揃っていないじゃないか。そんなことでマーチングができるのか ?
バンドメンバー達はいっ ! !
ユージーンああ、いい返事だ。それでは次の練習時間まで、解散 !
ヴェイグユージーンの行進指導は気が引き締まるな。さすがは元王の盾隊長と言ったところか。
クレア皆からも信頼されているみたいね。練習が終わってからもアドバイスや指導を求められているわ。
アニーユージーンは面倒見がいいですからね。おかげでバンド内での会話や交流も増えてきた気がします。
ヒルダまあ、演奏も行進もまだまだ改善の余地があるからこれからが正念場だと思うけれどね。
ヴェイグああ。はじめの頃に比べると、行進も揃ってはきたが先程の返事のように気を抜くとすぐ歩幅や速さがズレてしまう。
アニーみんなやる気はあるんですけどね……。ヒューマとガジュマのことで少しトラブルもあったからでしょうか……。
マオちょっと、また暗くなってる !もう、結束感だけじゃなく明るさも欲しいよ !助けて、クレアさ~ん !
クレアわ、私 ! ? えっと……一緒に歌でも歌えば明るくなるかしら ?
ヴェイグ……マオ。クレアを巻き込むな。
マオだってさすがにボク一人じゃ限界なんだもん。この中で一番、根暗度が低いクレアさんに助けを求めるのは当たり前じゃないか。
ヒルダ根暗度って……。
ユージーン笑う門には福来る。確かに笑顔は大切だ。
マオユージーン ! やっぱりそう思うよね !今こそ笑顔で、ヒルダの占い結果もひっくり返してやるときだよ !
ヴェイグ……そう言われてもだな。
イクスみんな ! お待たせ !マオがお世話になっていた作曲家の先生からマーチング用の曲が完成したって連絡があったぞ !
ユージーンおぉ、とうとう完成したか !
ミリーナええ ! これがその総譜です。
ヒルダ見せてちょうだい。
マオうわぁ。おたまじゃくしがいっぱい。ボクにはさっぱりわからないヨ。ヒルダ、どんな感じなの ?
ヒルダちょっと静かにして……。
マオう、うん。ごめん。
ヒルダ…………これは。
一同……………………。
ヒルダ……すごくいいわ。この大地や空がどこまでも広がっているように、この曲もとても壮大。
ヒルダそしてその壮大さに胸が高まる。あんたたちにも早く聞かせてあげたいわ。
クレアそんなに素敵な曲なのね。早く演奏してみたいわ。
ユージーン音楽好きのヒルダが絶賛するくらいだ。今の俺たちにはわからんが本当に素晴らしい曲なんだろう。
マオま、まさかそんなにすごい仕上がりになってるなんて……。ボク、自分の才能が恐ろしいヨ。
ヒルダあんた、曲の原案を担当したとはいえまだどんな仕上がりかちゃんとわかってないくせに。
マオまあ、そうなんだけどさ。
アニーもう。マオったらおかしいんだから。
クレアふふっ……。
バンドメンバーあの。何を話してるんですか ?なんだか随分と楽しそうですけど。
ヒルダマーチング用の曲が完成したのよ。あんたたちも総譜を見てみて。
バンドメンバー…………こ、これは。すごくいい曲ですね !
バンドメンバーそうなのか ! ? 俺にも見せてくれ !
ガジュマのバンドメンバー達…………。
ユージーンお前たちも、気になっているなら一緒に見たらどうだ ?
ガジュマのバンドメンバーいや……俺たちは後でいいですよ……。なんだか悪いですし。
ユージーン本当にそう思っているようには思えんな。もちろん、お前たちが気後れしてしまうのはよくわかる。
ユージーンだが遠慮なんて必要ないんだ。相手側も……きっとそれを待ち望んでいるはずだ。
ヒルダ少なくともここに残ったメンバーは信頼してもいいんじゃないかしら。
ユージーン俺たちは、同じバンドの仲間なのだからな。
ガジュマのバンドメンバー達…………仲間、か。
ガジュマのバンドメンバーえっと……みんな。俺たちにも総譜を見せてもらっていいか ?
バンドメンバー当たり前だろ ! 突っ立ってないではやく見てくれよ ! これ、本当にいい曲なんだ !
バンドメンバーって、おい。ちょっと押し付けがましいぞ。
ガジュマのバンドメンバー……ふふっ。そんなこと気にしてないわよ。
マオね、言ったでしょ。「笑う門には福来る」だって。
ヴェイグそれを言ったのはユージーンだ。……だが、マオの言っていた笑顔の力は本当に未来を変えるのかもしれないな。
マオだからみんなもポジティブに、だヨ。
アニーそうね。きっとそう過ごしていれば案外すぐに結束感や明るさもでてくるかも。
ヒルダとはいえ、そう簡単ではないと思うけど。あの微妙に探り合っている様子だとね。
ユージーン少しずつ、互いに歩きやすい歩幅を見つけていけばいいんだ。マーチングと同じな。
クレアあら。もう休憩時間が終わりだわ。本当に、楽しい時間はすぐ過ぎるのね。
ユージーンさあ、みんな。いい気分転換になっただろう。そろそろ練習を再開するぞ。
ユージーン行進の基礎練習が終わったらいよいよ合奏練習だ。そしてマーチングの衣装もそろそろ届く頃だろう。
ミリーナはい。今、カノンノたちが練習の合間を縫ってデザインを考えてくれてます。
ユージーンそれらを楽しみに行進練習ももう一踏ん張りだ。全員、いいな ?
一同はいっ ! !
ユージーンでは練習再開だ !

Character7話【音楽祭8 不協和音】
マオ本番も近づいてきたことだしユージーンの三つ編みもボクがチョキチョキして整えてあげるヨ !
ユージーンああ。久しぶりに頼む。演奏やパフォーマンスだけじゃなく身だしなみも大切だからな。
ユージーン本番には他の大陸からも取材が来ると聞いている。
クレア「種族を越えたマーチング・バンド」として音楽の評論家たちに注目されているのよね。いつの間にか、有名になったものだわ。
ヒルダけど期待され過ぎな気もするわね。期待が高ければ少しのミスであっても酷評されてしまう。
ヒルダそれにバンドの雰囲気はだいぶ良くなったけど一部のメンバーは本調子じゃないみたいよ。
アニーあっ、バトンが……。よし……もう一度。
ヒルダあの子も含めてね。
アニーえっ ? 何の話ですか ?
ヒルダアニー。ちょっとこっちに来なさい。よく顔をみせて。
アニーど、どうしたんですか ?さすがにそこまでジロジロ見られると恥ずかしいですよ……。
ヒルダ……顔色や肌は問題ない。むしろ羨ましいくらい健康。また頑張りすぎて、寝不足とかではないみたいね。
アニー医者の不養生のようなことはしませんよ。無理はしないってヒルダさんとも約束しましたから。
アニーさっきも別のことを考えてしまってちょっと集中が途切れただけですよ。
マオ別のことって、今日の晩ごはんとか ?
ヒルダあんたじゃないんだから……。
アニーえっと……皆さんになら話しても大丈夫だと思うので、伝えておきますね。
アニー実は……先日、街中で「ガジュマに音楽という繊細な芸術ができるはずがない」と小馬鹿にして笑っているヒトたちがいたんです。
マオまーたガジュマがなんだって話かぁ。もうホント、嫌になっちゃうよネ。
ヒルダ冗談のつもりなのかもしれないけど全く面白くないわね。いったいどんな奴らだったの ?
アニーたぶん、脱退した元メンバーです。話の内容から明らかにわたしたちのバンドのことを揶揄していましたし、楽器ケースも持っていたから。
ユージーンつまりは、自分たちの去ったバンドが注目を集めたゆえの嫉妬みたいなものか。
ヴェイグ呆れてものも言えんな。
ユージーン……待て。ということは他のバンドメンバーも……。
ヒルダ本調子じゃない原因がわかったわね。
クレア……アニーも嫌な思いをしたわね。なかなか忘れられないのも無理はないわ。
アニー……はい。なんだかすごく悔しくてもうその場で言い返してやりたかったぐらいです。
マオガツンと言い返してやればよかったじゃん。
アニー些細な言い争いからまた大事に発展しかねないと思ったの。
アニーそれに、そんな悪意のあるヒトたちに心を乱されるのもなんだか負けた気がして。
ヴェイグ……それも一理あるな。アニー、辛かっただろうがよく我慢した。
アニーはい。せっかくバンドもいい雰囲気になってきましたから。
アニー……「笑う門には福来る」皆さんとは楽しく過ごした方がいいと思うんです。
ユージーン…………アニー。
マオそれもそうだネ。きっとこの前みたいに笑顔の力で乗り越えられるヨ !
クレアええ。まだ本番まで練習時間もあるもの。行進やパフォーマンスのときのようにきっと演奏もどんどんよくなっていくわ。
ヒルダ……ユージーン。ひとまず様子を見るとしましょう。
ユージーンああ。そうだな。
マオそれじゃあ練習はちょっとお休みして次はレクリエーションだネ !イクスたちも手伝ってくれる ?
イクスもちろん。何かやりたいことがあるならなんでも言ってくれ。
マオよーし、それじゃあ思いっきり楽しむぞ !

Character8話【音楽祭8 不協和音】
ヒルダ…………ハッキリと言っていいのね ?
ユージーンああ。先程の合奏……ヒルダはどう思ったかを聞かせてくれ。
ヒルダ微妙ね。悪くはないけど良いとも思えない。今のバンドの実力ならもっといい演奏ができるはずなのに。
ヴェイグつまり……依然として本調子ではないということか。
マオそんな ! ボクたちの笑顔の力はどうしちゃったの ! ?これじゃあヒルダの占い結果の通りになっちゃうヨ !
アニーさすがは塔のカード……。一筋縄ではいかないようですね。
マオこうなったら練習は置いておいて気分転換にみんなで遊びにでも行こうよ。ピクニックとかキャンプとかさ。
ヴェイグ確かに、気分転換も大切だが……。
ユージーン…………。
クレアどうする ? 早く呼びかけないとみんな帰ってしまうわ。
ユージーン…………わかった。ここは俺に任せてくれ。
アニー……ユージーン ?
ユージーンみんな ! そのまま聞いてくれ !話しておきたいことがある !
バンドメンバーははっ。またマオのレクリエーションですか ?
マオビンゴ ! !
ユージーンいや。そうではない。
マオえっ、違うの ! ?
ユージーンこの中にも街で耳にした者はいるだろう。元メンバーらしき人物が、ガジュマの演奏家を俺たちの仲間を、揶揄し、嘲笑っている件についてだ。
ヴェイグユージーン ! ?
バンドメンバーちょっと待ってくれ !そんなことがあったのか ! ?
ガジュマのバンドメンバーユージーンさん。そんな大事のように話さなくても――
ユージーンいいや。これは大問題だ。このせいでお前たちの演奏が本調子じゃないと俺たちが気づいていないと思ったか。
バンドメンバー元メンバーってことは辞めていったあいつらか……。ユージーンさん、何があったんだ ?
ユージーン彼らはこう語っていたという。「ガジュマに音楽という繊細な芸術ができるはずがない」と。
バンドメンバー達! !
ガジュマのバンドメンバー気にしてませんよ。それに陰口叩かれているのは俺たちだけじゃないですから。
ドワーフのバンドメンバードワーフは職人気質だからか演奏がみみっちくていけないとかみみっちいこと言われてますからね。
レイモーンの民のバンドメンバーレイモーンの民の演奏は、突然自己主張が激しくなる、とかも聞いたぜ。
ガジュマのバンドメンバー……けど。そんなことも笑い飛ばして俺たちはこのバンドで音楽をやっていこうと決めたんです。
ガジュマのバンドメンバー繊細な演奏ができないって言われても繊細じゃない俺たちは傷つきませんよ……なんてな !
クレアそれは違うわ。あなたたちは繊細な感性を持っている。それだけは否定しちゃいけないわ。
クレア繊細な演奏が苦手であってもあなたたちは、力強く壮大な演奏で大勢のヒトを魅了することができるわ。
クレアそんな魅力的な演奏がヒトの心を動かす演奏ができるのは紛れもなく、繊細な感性を持っている証拠じゃない。
クレアガジュマのヒトたちだけじゃない。ドワーフもレイモーンの民もハーフエルフや天族も……種族なんて関係なく、みんな同じよ。
クレアだって音楽は、心で心を響かせるものだから。
ユージーンお前たちは困難を笑い飛ばすことができる。これは間違いなく、お前たちの強さだ。
ユージーンだが、時には真っ向から受け止め蹴散らしてやることも大切だと俺は考えている。
ユージーン何故なら、お前たちが心の奥で抱えている怒りや憎しみ……その感情もお前たち自身だ。自分の心を、蔑ろにするのは違うと思うぞ。
ガジュマのバンドメンバー…………。
ユージーン俺は悔しい。こんなことを言われて心のそこから悔しいと思っている。
ヒルダそれは同意ね。
アニーはい ! わたしも同じです !
バンドメンバー俺たちも同じだ !仲間を馬鹿にされるのは……やっぱり許せないよ !
ガジュマのバンドメンバーみんな……ありがとう。俺たちのために、怒ってくれて。
ヴェイグもう足並みは揃っている。あとは共に奏でるだけだ。
ユージーン楽しいだけが音楽じゃない !見返してやろうじゃないか ! !
ユージーン俺たちのできる最高の演奏で !
一同はいっ ! !
マオ……楽しいだけが音楽じゃない、か。確かにそれもボクたちらしいかも。
ユージーン本番までラストスパートだ !気合をいれていくぞ ! !

Character9話【音楽祭9 ミナール・マーチング・バンド】
イクスもうすぐ本番か。なんだか俺まで緊張してきたよ。
ミリーナカレギア音楽祭は好評みたいだしラストのマーチングも期待が高まってるみたいね。
カーリャカーリャも楽しみですよ !
コーキスあっ、マスター !みんな衣装に着替えてきたみたいだぞ !
マオどう ! ? カッコいいでしょ ?
クレアそうね。みんなよく似合っているわ。
ヴェイグああ。それに身が引き締まる。
ヒルダカノンノたちが練習の合間を縫ってデザインしてくれたのよね ?
P・カノンノうん。けど私たちだけで考えたわけじゃないんだ。
カノンノ・Gなかなかデザインが決まらなくて困っていたんだけどそうしたらユージーンさんが相談に乗ってくれたの。
カノンノ・Eそうしたらすごくいい意見をもらえてあっという間に、決まったんだよね。
マオそうだったんだ !さすがオシャレさんなユージーンだネ !
ユージーン俺は少しアドバイスをしただけだ。素敵な衣装をありがとう、三人とも。
三人こちらこそ !
アニー………………。
ヒルダアニー。さっきからずっと黙っているけど……大丈夫 ?
アニーはい。ちょっと緊張をしてきたので練習の日々を思い出しながら深呼吸していただけですから。
クレア私たちだって緊張するもの。ドラムメジャーのアニーならなおさらよね。
アニーけど、それと同じぐらいワクワクします。
マオあれからたくさん練習してみんなすごく上達したもんネ。
アニーうん。それをこれから見せつけることができる。そう考えると、緊張もするけどワクワクもしてくるんです。
クレアええ。そうね。むしろこの緊張も心地良いくらいに思えてくる。なんだか燃えてくるわ。
ヒルダふっ。クレア、あんたってやっぱりタフよね。
アニーよし。まだ少しだけ時間ありますよね。わたし、最後にバトントスの確認がしたいのでちょっと練習場に行ってきます。
ユージーン待て、アニー。
アニー……ユージーン ?
ユージーン不安や緊張と真っ向から戦う強さ。その強さをくれるものは色々ある。練習ももちろんその1つだ。
ユージーンだがお前に……いや、俺たちに今、最もその強さをくれるものは練習場にはない。
アニー最もその強さをくれるもの……。
ユージーンそれは何か。元の世界で俺たちと旅をしてきたアニーなら、わかるはずだが ?
アニーもしかして…………絆 ?
ユージーン質問に質問で返すのは感心せんな。
ユージーンだが、そのとおりだ、アニー。
ヴェイグ今はオレたちだけじゃない。このバンドのメンバー全員の絆がある。
マオよーし ! なら、もう練習はここまで !最後にみんなで円陣を組もう !
クレアみんな、集まって !
マオほらほら。ヴェイグもヒルダもそんな端っこで恥ずかしがってないでこっちに来てよ。みんな待ってるんだから。
ヒルダ別に恥ずかしがってるわけじゃ……。
ヴェイグたまにはいいんじゃないか?
ユージーンでは全員揃ったところで、アニー。掛け声を頼む。
アニーわ、わかりました。えっと…………こほんっ。
アニーミナール・マーチング・バンド、いきますよっ ! !
一同オーッ ! !

Character10話【音楽祭10 共に生きるということ】
ユージーン細かい話は抜きだ !ミナール・マーチング・バンドそしてカレギア音楽祭の大盛況を祝して――
一同乾杯ッ !
マオうわぁ ! 豪華な料理がこんなにたくさん !これって夢じゃないよネ ! ?いきなりなくなったりしないよネ ! ?
ミリーナ安心して。夢じゃないわよ、マオ。たくさんあるから焦らないでね。
イクスカイウスやジーニアス……他にも色んな人たちから差し入れが届いてる。こんなに食べ切れるかな。
コーキスマスター。その心配はないと思うぞ。
カーリャマオさまとカーリャも甘くみられたものですね。
マオそうそう。それにティトレイの分もボクが食べておいてあげる予定だからネ。これくらいは楽勝さ。
ヒルダ……はぁ、おいしいわ。
アニーヒルダさん、ちょっと頬が赤いですね。もしかして、今飲んでいるのもお酒ですか ?
ヒルダ差し入れにあった琥珀心水よ。それも年代ものの名柄。滅多にお目にかかれない一品よ。
アニーつまり高級品ってことですか。まさかそんなものまで届いているなんて。
クレアそれだけ多くのヒトたちがこの音楽祭を楽しんでくれたのね。
ヴェイグアジトの仲間、音楽評論家だけじゃなく大陸や種族を越え、この音楽祭に来てくれた皆にオレたちの演奏が届いたというわけか。
クレアピーチパイを美味しいと思う心と同じ。素晴らしい演奏に感動する心にも違いはないのよ。
ヴェイグああ。そういうことだろうな。
アニーユージーンが企画してくれた種族を越えた音楽祭。無事に成功させることができてよかったです。
マオユージーンの仕事もこれで一段落だネ、お疲れ様 !
ユージーンいや、そのことなんだが……新しい市長に今までの仕事は引き継いだもののアドバイザーを頼まれていてな。
ヴェイグ引き受けたのか ?
ユージーンああ。どうしてもと言われてな。
ユージーンそれに……俺はこの街の行く末を見届けたいと思っている。多くの種族が集まる、このミナールの。
ヒルダそうね。私も興味があるもの。
アニーきっと、ユージーンやヒルダさん……ううん、わたしたち全員が思い描いている街にきっとなれますよ。
ヴェイグこの世界に来て、種族の問題の根深さを知った。
クレアけど、同時に、種族に違いはないこと皆、心は同じだというのもよくわかったわ。
ユージーンああ。だからこそ、まずはこのミナールから皆が共に生きることができると証明していきたい。
ユージーン種族の問題に苦しむ全てのヒトが、救われるように。