Character1話【在りし日の過ち1 奇怪な事件】
リベラアニス……。イオン……。
アニスそう ! 私がアニスで、こっちがイオン様。
リベライオンサマ。
イオンあ、【様】は名前ではないんです。イオン。僕はイオンです。
リベライオン……。おぼえた……。
ルークすげーな、リベラ !ついこの間目が覚めたばっかなのにもうみんなの名前覚えられたんだな。
リベラルーク……。……えっと、ほめてくれて、ありがとう。
ルークおお、ちゃんとしてる !
イオンルーク……。すみません。付き合わせてしまって。僕は造られた時に記憶の刷り込みがあったのでリベラの状態を正確には把握できていなくて……。
ルークいいっていいって。それにリベラはメチャクチャ覚えが早いぜ。すぐ歩けるようになったし、言葉だって話せるし……。
イオンええ……。もしかしたら刷り込みに似た何かが施されていた状態なのかも知れませんね。
イオンディストにリベラの状態を聞ければいいのですが今はそれどころじゃないでしょうから……。
リベラ………… ?
ルークああ、リオン警備部がディストの取り調べをしてるんだよな。おっかねーの。あいつら拷問とかしてそうだし。
アニスリオン警備部って呼ぶとリオンに怒られるよ。眉間にお金挟めそうな程しわを寄せちゃったりしてさ。
ルークそうだった。「浮遊島警備部と言え ! 」って怒鳴られるな。
ガイ――お、ここにいたか。
リベラ……ガイ ?
アニスそう、ガイだよ ! リベラ本当にすごいね !
ガイえ ? もう俺の名前を覚えてくれたのか ?ありがとな、リベラ。
リベラありがとう。
ルークところでガイ、何か用か ?
ガイああ……。ちょっと気になる話を仕入れてな。オールドラント領のことなんだが……。
ルーク……何かあったのか ?
ガイあ、いや、領主サマと従騎士殿云々って話じゃない。グラスティンが出没してるんじゃないかって噂があるんだ。
アニスえ ? 黒髪マニアの ?
ガイああ。カロル調査室の方に情報が上がってきてるんだ。領都のダアトで妙な殺人事件が頻発してるって。
アニスあー、わかった !ガイってば、またリタとパスカルのところをウロウロしてたんでしょ。ガイのえっち~ !
ガイあのなー !ちゃんと彼女たちとは社会的距離を保ってたし目当ては音機関……じゃなくて機械の方だ !
ルークそれもどうかと思うけどな。
ガイどういう意味だ ?
ルーク別に。人一倍彼女欲しいくせに、そういうとこが甘いってみんなが言ってたから。
ガイみんなって誰だ ! ?……っていうか、人をダシにして何の話をしてるんだ ! ?
リベラガイ……あまい ?
ガイほら見ろ ! リベラの教育に悪いだろ ! ?
イオンフフ……。ガイ、落ち着いて下さい。アニスもルークも、ガイをいじめてはいけませんよ。
アニスええ ! ?今回のはほとんどルークの犯行ですよ~ ! ?
ルーク言い出したのはアニスじゃん !
イオン二人とも。
二人……ごめんなさい。
ガイいや、別に謝ってもらうこともないんだが……。それより、さっきの殺人事件の件だ。
ガイ被害者が黒髪ばかりだって言うんで内偵の人員を集めるつもりだったらしくてな。
ガイオールドラント領のことだし俺たちで調べに行かないか ?
ルークダアトって、ジェイド像のあるとこだろ ?やべーな。もう一度アレを見てぇ…… !
アニスそうだ ! 行こう行こう !大佐の銅像、あれからどうなったか超楽しみ !ティアとナタリアにも声をかけるでしょ ?
ガイおいおい、ノリがピクニックになってるぞ。
イオン僕は遠慮しておきます。元々リベラが領主でしたから僕が行くと目立ってしまいそうですし。
アニスそうして下さい。もしグラスティンがいたら危ないですし。
ルークジェイドとアッシュはどうする ?ディストの取調中だろ ?
イオン僕から二人に報告しておきますよ。
ガイまあ、ジェイドの旦那もダアトには近づきたがらないだろうしな。
ルークひひひ、そうだよな。
アニスだよねー !
リベラ………… ?
ガイそれじゃあ、全員支度をしてオールドラント領の転送ゲート前に集合だ。
ルークおう !

Character2話【在りし日の過ち2 取り調べ】
リオンおい、こいつは本当に人語が話せるのか ?会話が全然かみ合わないぞ。
アッシュ形は人間だが、人類かどうかはわからんな。俺はタコの可能性が高いと思っている。
ディスト何なんです ! ?さっきから失礼ですね、あなたたちは ! ?
ジェイドそうですよ。タコに失礼です。
ディストどういう意味ですか ! ?
ジェイド……ああ、元の世界でもこういう尋問をした記憶が甦ってきました。本当に、あなたは私の人生のシミのようなものですねぇ。
ディスト私も思い出しましたよ。この場にピオニーがいないのには清々しますねぇ。
ジェイドその点については同意しますよ。
ディストそうでしょうとも !金の貴公子ジェイドにふさわしいのはこの私――
ジェイドリオン。どうせ殺しても死にませんから痛めつけてしまって下さい。私は仕事がたまっているので失礼します。
ディスト待ちなさい ! この薔薇のディスト様の取り調べという重責を担えるのはジェイドだけの筈ですよ ! ?
アッシュちっ、本当に面倒な奴だな……。
ジェイド連れてきたのはあなたですよ、アッシュ。自分で拾ったタコの面倒は自分で見て下さい。
リオン一理あるな。最低限の情報は得た。後はアッシュに任せる。このくだらない騒ぎに付き合う程、僕は暇じゃない。
ジェイドリオンの言う通りです。アッシュ、後は頼みましたよ。
アッシュおい、待て死霊使い(ネクロマンサー) !
ディストそうですよ !ジェイド、私が何故帝国を出てきたのか不思議に思わないのですか ?
ディスト我々の夢を叶える準備が整ったからなのですよ ! ?
ジェイド! !
アッシュ……夢 ? 何のことだ、ジェイド。
ディストあなたには関係の無いことですよ、アッシュ。これはあの輝かしい時代を取り戻すための――
ジェイド『ここ』では無理な筈だ。レプリカ情報がない。仮にあったとしても……それでは『完璧』ではない。
ディストええ、その通りです。ですが、私は見つけたのですよ。『完璧』に一番近い存在を。
ジェイド――アッシュ。行きましょう。
アッシュお、おい、話の途中だぞ ! ?
ディストま、待ちなさい ! ジェイド ! ?
ディスト……何なんです !どいつもこいつもこのディスト様をないがしろにして !
ディスト……ちょっと。本当に誰もいなくなったんですか ?
ディスト……誰か ! ? 誰かいないのですか ! ?取り調べを放棄するなんて職務怠慢ですよ ! ?ジェイドを呼びなさい ! !
リベラ……ジェイド ?
ディストおや……導師イオン――ではありませんね。
リベラぼくはリベラ。あなたは ?
ディストああ……導師イオンのレプリカですか。
リベラレプリカ ?
ディスト私の名は薔薇のディストです。
リベラばらのディスト。
ディストおや……なかなか賢いではありませんか。
リベラばらのディスト…… ? ぼくのことしってるひと ?
ディスト――ええ。あなたのことは誰よりも知っていますよ。
リベライオン……いってた。ぼくのこと……ディストにききたいって。
ディストそうですか……。ではリベラ、私に協力しませんか ?
リベラ………… ?

Character3話【在りし日の過ち3 死霊使い】
イクス――どうしたんです、ジェイドさん。それにアッシュさんも。ディストさんの取り調べの最中だったと思いますけど。
カーリャ何だかいつも以上に怖い顔ですね……。
ジェイド嫌ですねえ、カーリャ♪私はいつも温和な顔をしているじゃありませんか♪
カーリャミ、ミリーナさまぁ ! ? 怖いですよ、あのメガネ ! ?
ミリーナカーリャが刺激するようなことを言うからでしょ。
ジェイド――幸い、この部屋にいるのはあなた方三人だけのようですね。内密に話があります。
イクスわ、わかりました。
ミリーナカーリャ。部屋の外に出て、人が来ないか見張ってちょうだい。
カーリャわかりました !
ジェイドありがとうございます。
アッシュおい、死霊使い(ネクロマンサー)。一体どういうつもりだ。
アッシュディストの尋問を打ち切った理由をちゃんと説明してくれるんだろうな。
ジェイドええ。イクスとミリーナにも聞いておいて貰いたいのでここに場所を移しました。私の――罪について。
イクス罪……ですか ?
ジェイド先程もアッシュが私のことを死霊使い(ネクロマンサー)と呼びましたがそれは元の世界で私につけられた不名誉な名前です。
ジェイド戦場で死体を持ち帰り、レプリカを作る実験に利用していました。レプリカ技術――フォミクリーの開発者は私なんですよ。
二人! !
ジェイドこの世界で具現化という技術を知って驚きました。フォミクリーに似ている――いえ、正確には私が目指していたフォミクリーの完成形に似ていると。
イクスフォミクリーは具現化とは違うんですね。
ジェイドええ。あなた方がルークから何処まで聞いているかはわかりませんが色々と差異があります。
ジェイド大きなところとしてはレプリカは被験者(オリジナル)の記憶を継承しないんです。それが……私にとっては問題でした。
ミリーナ……記憶を継承しない方が幸せかもしれませんよ。
イクスうん……。
ジェイド作られた側はそうかも知れませんね。ただ、私が目指していたのは死者の復活だったので。
イクス死者の復活……。
ミリーナ………………。
アッシュ……それがディストの尋問打ち切りとどう繋がるんだ。
ジェイドええ、そうですね。話を戻しましょうか。実はオールドラントからの鏡映点候補のリストですが一人、意図的に外していた人物がいます。
イクスえ ! ? どうしてですか ! ?
ジェイドまず、その人物がはぐれ鏡映点として無作為に具現化される可能性が限りなく低かったからです。
ジェイドはぐれ鏡映点はカレイドスコープの照準の甘さによる瑕疵です。その条件は概ね以下の二点と考えられます。
ジェイド『その世界の最初の鏡映点との時代の一致』もしくは『世界にとって重要である』という条件です。
ミリーナジェイドさんいつの間にそんなことを調べていたんですか ?
ジェイド能ある鷹は爪を隠すと言いますから。
アッシュ自分で言うか、普通……。
ジェイドツッコミがルークに似てきましたね。
アッシュう、うるさい !
ジェイド私とルークの場合、二人同時……という可能性もあるので慎重に検討しました。
ジェイドしかし以前ゲフィオンの許可を得て、カレイドスコープを調査した際の情報から、鏡映点として先に抽出されたのはルークで間違いありません。
ジェイドリストから外した人物はルークの誕生時には死亡しており、接点はないので第一の条件は除外されます。
ジェイドまあ、時間跳躍できる世界なら条件も変わると思いますが……。
ミリーナもう一つの『世界にとって重要』っていう条件にも当てはまらないんですか ?
イクスそういえば、その条件のことはゲフィオンも言っていたけど具体的にはどういう基準なんでしょう。
ジェイドティル・ナ・ノーグからの観測の基準なので我々の世界で基準を作るのは少々難しいですが……。
ジェイド敢えて定義すればその人物が『直接』世界のあり方に変容をもたらす可能性があるか、でしょう。
ジェイドルークよりも過去の時代の人間はルークから見れば死者です。死者は直接世界を変容させることはまずあり得ない。
ジェイドよほどの英雄的存在であれば話は別ですがリストから外した人物はそこまでではありません。
イクス……ジェイドさんにしては甘い気もしますけどまあ、わかりました。でも帝国が鏡映点としてピンポイントで具現化する可能性もありますよね。
ジェイドそうですね。帝国がこのジェイド・カーティスという存在をどうしても手に入れて自由にしたい……と考えたならばあり得る話です。
ジェイドまあ、私の能力を求められることは想像に難くありませんが、私というコマは中々制御が難しいですからね。
ジェイド能力的に格落ちしますが、ディストが帝国にいましたし帝国も私を引き入れる利点と不利益とを天秤にかければ具現化しない可能性の方が遥かに高いと考えました。
アッシュよくもそんな台詞をしゃあしゃあと言えるな。
ジェイド褒められると照れるのですがまあ、今のは全て言い訳です。
三人! ?
ジェイド自分の過去の話をしたくなかったので必要に迫られるまで黙っていました。
アッシュ貴様…… ! よくもまあぬけぬけと !
ジェイドすみません。まあ、鏡映点リストの精度はその程度のものですよ。それに、私は今でもその人物が具現化されることはないと予測しています。
ジェイド帝国にとって私はそれほど重要人物ではありません。
ジェイドそのつもりがあるなら、まず今のオールドラントの領主を利用してくるでしょうし。私には可愛い妹もいますので。
イクスああ……。そうか、そうでしたね……。けど、ディストさんを――
ジェイド帝国が ? 利用する ? ディストを ?逆ならともかく、それはないでしょう。
アッシュお前はディストを信頼しているのか軽んじているのかわからんな。
ジェイドどちらでもありません。現実を見ているまでです。
イクスん ? でも、だったらどうして俺たちにその話をしてくれたんですか ?
ジェイドその人物の……レプリカの方なら色々な意味で具現化されている可能性があるからです。
イクスレプリカ……。それってもしかして……ジェイドさんが……。
ジェイドはい。私が甦らせたいと願い、作ったレプリカです。名前はゲルダ・ネビリム。子供の頃に通っていた私塾の先生です。
アッシュおい。まさかさっきディストが「見つけた」と言っていたのは、その先生とやらのレプリカなのか ?
ジェイド……先生のレプリカは『処分』し損ねたので生きていたなら具現化されている可能性は高い。ディストの口ぶりからしても……十分あり得ますよ。
イクス処分って……そんな言い方……。
カーリャあのー……イオンさまが緊急のお話があると――
イオン――すみませんカーリャ、失礼しますよ。ジェイドとアッシュもここにいたんですね。丁度よかった。
イオンイクス、ミリーナ。大変です。ディストが脱走しました。
四人! ?
ジェイドそうですか…… !

Character4話【在りし日の過ち5 ダアトにて】
ルーク何度見ても壮観だな……。聖人ジェイド像 !
ミュウジェイドさん、大きいですの !
アニスさっきお土産屋さんで聖人ジェイド像のキーホルダー売ってたよ !イオン様とリベラに買ってあげようかな。
ナタリアあら、素敵ではありませんか。せっかくですから、ディストにも買ってあげたらどうでしょう。
ガイよせよせ、ナタリア。どんな酷い目に遭うかわからないぞ。
ティア大佐も……何だか気の毒ね。本心から嫌がっているみたいだから……。
二人うひひひひひ♪
ガイお前たちはそういうところばっかり気が合うなあ……。
アニスだってねー ?
ルークなー ?
ナタリアな、何ですの、今の悲鳴は ?
ティアあっちの方から聞こえたわね。
ルークあ、おい、ティア ! 待てよ !
ガイ俺たちも追いかけよう。
ルーク――どうした ?
ティア駄目 ! ルーク、来ないで !
ルークえ…… ?
ティア……人が死んでるわ。かなり酷い状態よ。
ガイ――ルークたちはそこにいろ。わざわざ見なくていい。どれ……っと。
ガイ酷い状態だが……黒髪、じゃないな。聞いてた話と違うぞ。
ティアええ。ロゼの話だと、グラスティンは黒髪ばかりを狙って殺しているそうだからグラスティンが犯人……ではなさそうね。
街の住人あ、あんたたち……犯人を捜してるのか ?
ガイああ、何か知ってるのかい ?
街の住人いや、俺も後ろ姿をちらっと見ただけだけど……あれは女だったと思うんだ……。
ルーク……いってぇ……。また頭痛が……。
アッシュおい、ルーク。どこにいる ! ?
ルークアッシュ ! ? どこって……ダアトだよ。っていうか、魔鏡通信使えよ。毎度毎度便利に使いやがって。
ルークこっちはお前が回線繋いできた時じゃないと声を届けられないんだぞ。
アッシュ実際便利なんだ。仕方ないだろうが。それより、俺たちもオールドラント領に来た。できれば合流したい。
ルーク俺たち…… ?
アッシュ……こっちの場所は伝えたぞ。
ジェイドありがとうございます。ところで……あちらで何かあったのですか ?
アッシュん ? いや、ルークの話は要領を得なくてよくわからないがグラスティンが犯人ではないとかなんとか……。
ジェイドそういえば、ルークたちは殺人事件とやらの捜査のためにオールドラント領へ来たのでしたね。
イオンはい……。グラスティンがこの領内でもむやみに人を殺めているのではないかと……。
ジェイドしかしどうやらグラスティンではない……。そしてディストが逃げ出した先もオールドラント領、ですか。
アッシュまさか、殺人事件とディストが関係あるとでも言うのか ?
ジェイド……いえ、ちょっと気になることがあるので。
アッシュルークたちが合流するのに、まだ少し時間がかかる。思わせぶりに隠すぐらいならさっさと話せ。
ジェイドあなたは気が短いですねぇ……。まあいいでしょう。ネビリム先生のレプリカのことを思い出していたんですよ。
イオンジェイドが作った最初の人間のレプリカ、ですね。ディストはやはり、そのネビリムさんのレプリカの元に向かったのでしょうか。
ジェイドええ……。そうだと思います。ただ、私が気になったのはディストのことではなく先生のレプリカのことなんですよ。
ジェイドあの当時はまだ譜術の理論でレプリカを作っていたんです。
イオン僕やルークとは作り方が違っていたのですね。
ジェイドええ。ただ、そのやり方では一部の音素が欠落してしまう。
ジェイド無機物なら影響はないのですが、生物の場合は精神の均衡が保てなくなって、破壊衝動に襲われたりある種の能力だけが異常発達してしまいます。
ジェイドもし先生のレプリカがこの世界にいるとしてもその部分がエンコードされていない可能性がある。
ジェイドエンコードされていなければ、精神の均衡を求めて欠落している属性の音素を求めるのでは……と。
イオン音素を求める……というと具体的にはどんなことをするのですか ?
ジェイド必要な音素が集まる土地などに行って吸収するか……或いは物や人に宿った音素を回収するか……。
イオンジェイド。まさかとは思いますが、オールドラント領で起きている殺人を、ネビリムさんのレプリカが行っていると考えているのですか ?
ジェイド飛躍しすぎだ、と思いますか ? 確かに、この世界の殺戮者が事件を起こしているだけ、とも考えられます。
ジェイドですが、私の記憶の中にあるネビリム先生のレプリカは……そういうことをやりそうなのですよ。
ジェイドそれにグラスティンが犯人というのはどうも考えにくい。
ジェイド奴の傾向を考えると、現場に死体を残すのではなく相手を自分の好みの場所に連れ込んで殺人という行為を楽しみたいように思えます。
アッシュだが、この世界では音素も違う物にエンコードされているんだろう ?
アッシュ仮に人を殺したところで音素を回収することはできないんじゃないのか ?
ジェイドそうですね。音素のエンコードに関しては前にアッシュとイオン様がローレライを呼んでくれたおかげで、ある程度の確証を得られました。
ジェイドこの世界で音素はキラル分子にエンコードされていると考えて問題なさそうです。
ジェイドただし、第七音素だけは精霊となったローレライが保有する音のアニマという形に置き換えられている。
ジェイドつまり、この世界に音素はないがそこに宿る属性と近しいものは存在する。
アッシュアニマか……。自分に欠けている属性を他者のアニマを奪うことで補っている……というんだな。
ジェイドまあ、あくまで予想でしかありませんがね。

Character5話【在りし日の過ち6 追跡】
ルークはあ、やっと着いた……。道々アッシュから聞いたけどディストが逃げたってマジかよ。
イオンはい。ルークたちが出かけたことをジェイドに知らせようと、リオ……浮遊島警備部のある別棟に行ったんです。
イオンですが、ディストが入っていた筈の牢屋の鍵が開いていて、ディストの姿はありませんでした。
ガイそもそもあいつはなんで浮遊島まで来たんだ ?
ティアそれは……アッシュとアステルが……。
アッシュ俺はアジトに戻るついでに、奴を転送ゲートに押し込んだだけだ。奴は奴の目的を果たすために帝国を出たらしいからな。
ナタリアディストの目的とは何ですの ?
ミュウきっとジェイドさんと仲良くすることですの !
ジェイドミュウ、おかしなことを言うとルークが酷い目に遭いますよ ?
ルーク俺かよ ! ?
ガイははは、飼い主の責任って奴だな。
イオン……ジェイドさっきの話をしておいた方がいいのでは ?
アニスんんん ? 何かあったんですか ?
ジェイド……そうですね。以前ルークには少し話をしたことがありますが皆さんにもお話ししておきましょう。
アニーあの、リベラを見かけませんでしたか ?
ミリーナリベラ…… ? いえ、見てないけど、どうかしたの ?
アニー薬の時間なので部屋を訪ねたんですけど……何処にも姿が見えなくて。
イクスリベラは最近目が覚めたばかりだからそんなに遠くには行けないと思うけど……。庭で遊んでるのかな。
カーリャ・N小さいミリーナ様、それにイクス様も……。あの、イオン様を知りませんか ?
イクス今度はイオンか……。イオンならジェイドさんたちとオールドラント領に出かけたけど。
カーリャ・Nあの……イオン様宛のメモが転送ゲートの傍に落ちていたんです。
カーリャ・N子供のような字で『ごめんなさい、イオン。ぼくがつれもどします』と。
アニーそれ……リベラの文字に似てる。アニスさんが教えているのを横で見ていたから……。
カーリャもしかして連れ戻すって……ディストのことなんじゃ…… ?
イクスどうしてリベラが ?待てよ、もしかしてディストさんが脱走できたのはリベラが何かしたからなのか…… ?
ティア……では、ディストが脱走したのもネビリムさんのレプリカの下に向かった可能性が高いんですね。
ジェイドええ、おそらくは。
ルーク……ジェイド、大丈夫か ?
ジェイドこの世界に来てからというもの私は自分がやろうとしていたことの一つの形を見せられ続けていたようなものですからね。
ジェイド今更どうと言うこともありません。
ナタリア……私たちがこの世界にいるのもかつてミリーナだったゲフィオンとフィリップさんが世界とイクスを具現化したことが始まりですものね。
イクスすみません、ジェイドさん。そっちにリベラはいますか ?
ジェイドリベラ……ですか ? いえ、いませんが……。
イクスそうですか……。それじゃあやっぱり……。
アニスリベラがどうかしたの ?
イクスそれが……どうもディストさんを追いかけて行ったみたいなんだ。
ジェイド……しまった。計算よりディストの脱獄が早いのをもっと疑ってかかるべきでした。
ルークえ ? どういうことだ ?
ジェイドディストにはネビリム先生のレプリカの下に案内してもらう必要があったのでわざと警備棟から人を外したんですよ。
ジェイドイオン様から連絡を貰った時にディストにしては随分手早く脱獄したものだと思ったのですが……。
ジェイド人がいないせいでリベラが警備棟に入り込んでしまったのでしょうね。
イオンリベラがディストを脱獄させたと言うことですか ?
アニスリベラがそんなことする訳ありませんよぅ !
ジェイドええ。ディストが言葉巧みに利用したのでしょう。
イクスだから「ごめんなさい、イオン」なのか。ジェイドさん、俺たちもリベラ捜索のためにそっちに向かいます !
? ? ?はーっはっはっはっ ! やはり私の予測通りでしたよ !
ルークな、何だ ? この声 ?
ガイあ ! ? もしかして魔鏡型盗聴器か ! ?パスカルがこの間作ってた !
ジェイドガイ……。そんなにパスカルといちゃいちゃしていてはアスベルの弟くんに睨まれてしまいますよ。
アニスガイってば、やっぱりハレンチ~♪
ミリーナガイさん…… ! まさか、そういうことですか ! ?
イクスミリーナ、そういうときだけ前のめりになるなよ……。やっとガイさんに来た春なんだから温かく見守らないと……。
アッシュお前ら ! ガイを馬鹿にするな !
ガイアッシュ……。
ルークアッシュ……。お前本当にガイが好きだな……。
ナタリア子供の頃からそうですわ。いつも私をおいて二人で遊びに行ってしまって……。
ティアま、待って、みんな。情報が錯綜しているわ。ガイの話はひとまずおいておきましょう。
ガイその言い方だと、俺がこの場を混乱させているようにも聞こえるんだが……。
ティアああ ! ? そうよね、ごめんなさい……。
ガイ情報を整理するぞ。さっきの声はディストのものだ。ジェイドが魔鏡型盗聴器をディストに持たせたんだな。
ジェイドまあ、持たせたというか、食べさせたというか……。
イクス食べさせた ! ?
ジェイド何をしでかすかわからないので食事に混ぜておいたんです。
ジェイドああ見えてディストは大食漢で何でもろくに噛まずに飲み干しますからね。
アニス怖い……。大佐マジで怖い……。
イクスけど……あの……。すぐに排出されるんじゃ……。
ジェイド胃壁に張り付いてはがれない仕様です。胃酸による損傷を考慮して定期的に摂取させる必要がありますが……。
ルークおえ……。もうその辺りでやめてくれ。
ジェイドアジトにいた時の音声はカロル調査室に保存されるように調整してありますのでリベラと何を話したのかもそれでわかると思います。
イクスわ、わかりました。データを確認してからそっちに向かいます。
ガイ今になって急にディストの声が聞こえたってことはディストが近くにいるってことだな。
ジェイドええ。受信機の範囲内にディストがいるのでしょう。
ガイよし、それじゃあ受信機の反応を見ながらディストの居場所を突き止めよう。それと俺は別にパスカルとは何もない。残念ながらね。
ルークまた、そうやって残念とか余計な事言うから……。
アニスあわよくば、この発言がパスカルの耳に入って……なんて考えてるんじゃないの~ ?
ガイいい加減にしろーっ ! !

Character6話【在りし日の過ち7 発見】
タルロウ型スパイディスト様、報告ヅラ。ネビリム様のレプリカは大氷壁から消失したヅラ。
ディストそうですか。クロノスは持ち出せませんでしたがローレライでも代用はできたようですね。引き続き辺りの様子を監視しておきなさい。
タルロウ型スパイ了解ヅラ。
ディスト――さて、と。もう、息も絶え絶えではありませんか。出てきなさい、リベラ。
リベラ……ばらのディスト……かえって……。
ディスト浮遊島にですか ?あそこへは成り行き上行くことになったまでですよ。
ディストまあ、ジェイドにネビリム先生のことを話せるいい機会にはなりましたが。
リベラ……ぼくは……ぼくのこと……はなしてほしかっただけ……。おねが……い……。
ディスト牢屋の鍵を開けて貰う代わりにあなたのことを話してあげる約束でしたからそれぐらいは果たしてあげますよ。
ディストあなたを作ったのはグラスティンという……まあ、小者なりに頭は切れるもののつまらない男です。
ディスト技術そのものはジェイドと私が開発したフォミクリーを流用しただけですがね。
ディストただ、あなたの様子を見るに刷り込み技術もある程度取り込んでいるようですね。
リベラ……………… ?
ディストまあ、わかりませんか。
? ? ?……こんなところにお客様 ?ふふ、嬉しいわ。
ディスト! ?
? ? ?あら……あなた、もしかして……。
ディストはーっはっはっはっ ! やはり私の予測通りでしたよ !氷の中で眠る先生を見つけた時に、氷の壁そのものが何らかの封印であると看破したのです。
ディストネビリム先生、お久しぶりです ! サフィールです !あなたを冷たい封印から解放したのはこのサフィール・ワイヨン・ネイスなのですよ !
ネビリムサフィール……。そう、あなたがサフィール……。ふふ……大きくなったのねぇ、サフィール。あなた、一人なの ? ジェイドはどこ ?
ディスト先生。待って下さい。あなたはまだ完璧ではない。ジェイドに会わせるのはあなたが完璧になってからです。
ネビリム完璧……。
ディスト我々の理論は間違っていなかった筈です。あなたは記憶を持っている。
ディスト――いや、時を巻き戻しさえすれば記憶が甦る筈です。あなたが殺された時の記憶が !
ネビリムそう……。サフィール、あなたも私を完璧ではないというのね。
ネビリムでも大丈夫よ。さっき補充してきたの。第一と第六の音素を。
ディスト欠落した音素……。いえ、ですが、この世界に音素は存在しない筈。……先生、『何』を補充してきたのですか ! ?
ネビリムだから第一音素と第六音素よ。そういえば……あなたも第一音素を帯びているわね。もちろん私にくれるわよね ?
ディストネビリム先生……何を――
リベラディスト…… !
リベラああ…… ! ?
ディストな、なんであなたが私を庇うのですか ! ?
ネビリムあら……サフィール。駄目よ、死んでくれないと。私、あなたの第一音素が必要なの。
ディスト――くっ !
イクスディストさん ! 走れ !
ミリーナ私が霧でネビリムさんの動きを一時的に止めるわ !
ジェイド助ける義理はありませんが、仕方ありません。急ぎなさい !
ディスト――リベラ。背中に乗りなさい !
リベラばらの……。
ディスト喋らなくて結構です。せいぜい生き存えなさい !
ネビリム待ちなさい、サフィール !
ネビリムく……見えない。すぐそこに第一音素の塊があるのに…… !

Character7話【在りし日の過ち8 実験】
イクス……ここまで来れば大丈夫かな。
ミリーナしばらくは霧が方向感覚を狂わせる筈だから大丈夫だと思うけど……。
ディスト………………。
アニスディスト ! リベラを降ろして ! 治療しなきゃ !
ディスト――ええ、そうでしたね。
ナタリアティア、一緒に治癒を !
ティアええ !
ジェイド……今、何を考えていたんです。
ディスト全てを諦めたあなたに話しても仕方の無いことです。
ジェイドサフィール !
ディストだってそうでしょう。元の世界であなたはネビリム先生を甦らせることを諦めた。
ディストそして異世界に来て、新たな環境と技術が目の前にあるのに、あなたはそこのレプリカを延命させることを優先している。
ルーク………………。
ミリーナ……本当に諦めたんですか、ジェイドさん。
ジェイドおや、あなたがそれを言いますか。
ルークミリーナ ! ジェイドはネビリムさんのレプリカを作ったことを後悔してるんだ。
ルークミリーナだって……ミリーナじゃないけどゲフィオンの記憶を受け継いでるなら……。
ミリーナええ……。ゲフィオンも後悔した。でも彼女が後悔したのは、世界を滅ぼしてしまったこと。
ミリーナもし……世界に何の影響もなく、誰にも迷惑をかけることなく最初のイクスを甦らせる手段があったのなら……きっと迷わず手を伸ばした。そんな気がするの。
ルークそんな……。
ガイ死者の復活、か……。確かに、大切な誰かを失った人間は誰だって一度は考えるよな。
ティアええ……。大抵は手段がないからその先に進まないだけなのかも知れないわ。
アッシュそれで救われた奴がアジトにもいるな。そのこと自体の是非を論じるつもりはない。
アッシュそれぞれに事情があり、俺たちが口を出すことではないからな。だが、死者の復活が正しいことなのかどうかと言われると……首をひねりたくなる。
イオンそうですね。それが倫理というものなのかもしれません。
ディスト倫理などというものは正義と同じくらい当てにはなりませんよ。
ディストこうあるべきと言う理屈は、いくらでも変えられる。時代や場所によっても簡単に変わってしまう。
アニスもしも、本当に誰にも迷惑がかからないのなら……私も生き返らせたいって思うよ……きっと。
イオン………………。
イクス俺も、ずっと考えてます。この世界は……一度死んだも同然の世界でそれを甦らせてしまったのは、俺たちだから。
イクスそれが正しくないことだと言われても命を繋ぐ方法があるならそうしたいと思ったし一度甦らせたからには守りたい。
イクスだから今日まで戦ってきました。けど……こうも思うんです。
イクス死者を蘇らせたいのは生きている人間のエゴで死んでしまった人たちがどう思っているかはわからないって。
ジェイド……それはあなたが死者の声を聞いたからですか ?
イクスそう、ですね。一人目の俺は……生き返れるとしてもそうしないような気がして。わからないですけど。それにナーザ将軍も、かな。
イクスもちろん無念で生き返りたいと思う人も大勢いると思います。ただ、俺たちにはそれがわからないじゃないですか。
イクス誰が生き返りたいと思っていて、誰が死んだままでいいと思っているのか。それをこちらの都合でどうにかするのは、おかしいですよね。
ナタリア亡くなった方の気持ちを尊重するなら命を甦らせる手段があったとしてもそれを行使はしない……ということですわね。
ディストならば、ネビリム先生の声を聞けばいいではないですか。
ディストこの世界には時を操る精霊がいる。この場にはローレライを呼べる存在もいます。
ジェイドサフィール。あれはレプリカだ。レプリカの時間を巻き戻したところで記憶は継承されていない。
ディストレプリカは被験者から作り出されるものですよ !レプリカの時を巻き戻すことは被験者に繋がる可能性がある。
ジェイド存在が消えるだけだ。
ディストあなたはそれを試したのですか、ジェイド !
ジェイド……試せば、お前は納得するのか ?
ルークジェイド ! ?
ディストええ。私は諦めないと決めています。
ジェイド……ならばそうしよう。ただし、それで上手くいかなければあのネビリム先生は私が息の根を止める。
全員! ?
ジェイドお前とネビリム先生の会話は聞いていた。あれは……もう無理だ。
ジェイドそれに、無辜の人々を大勢手にかけている。改悛も望めないだろう。彼女を生み出した責任は私たちにある。
ディストいいでしょう。
ルークジェイド ! ネビリムさんとちゃんと話してみた方がいいんじゃないか ?今、そんな結論を出さなくても――
ジェイド……ルーク。
ルークごめん……。わかってる。俺が口を出すようなことじゃないって。
ルークでも俺も……劣化レプリカって言われて……それが本当なのもわかってるけどすごく嫌で……。
アッシュ………………。
ルークネビリムさんだって、もしかしたら――
ジェイドルーク。わかりました。あなたに免じて話はしてみます。ですから……今回は私の好きにさせて下さい。
ルーク…………うん。

Character8話【在りし日の過ち10 師の元へ】
イクス今、ダアトまで戻ってきました。医療班にリベラを引き渡したら、そっちに戻ります。
アニスリベラ、大丈夫そう ?
ミリーナええ。傷は深いけれど、急所は外れているしティアとナタリアの治癒術で傷口は広がらなかったそうよ。
ディストリベラが目覚めたらよく言い聞かせておきなさい。薔薇のディスト様はレプリカに守られるほど弱くはないと。
イクスありがとう、お大事にってことですね。伝えておきます !
ディスト何を言っているのです、あの鏡士共は…… ?
アニスイクスたちは善人だからさ、ディストが照れ隠しを言ったんだと思ってくれたんだよ。そんな訳ないのに。
アッシュあいつらはどうもディストを間違った方向に理解している節があるからな。
ジェイドさあ、こちらはこちらでやることを済ませましょう。ディスト、ネビリム先生のレプリカは帝国が意図的に具現化したものではないのですか ?
ディスト違いますよ。確かにデミトリアスをそそのかして試みはしましたがね。
ディストジュニアの話では、すでに具現化されている形跡があるとのことでしたので、はぐれ鏡映点としてこちらにいるとわかったのです。
ガイそれでしらみつぶしに捜したのか ?
ディスト私はそんな非効率的なことはしませんよ。
ディストはぐれ鏡映点なら初期のカレイドスコープに具現化の痕跡があると思って調べたところそれらしい情報を見つけました。
ディストそこから具現化位置を割り出したところあの雪山の大氷壁に封じられていたのです。
ティアでも、どうして封じられた状態で具現化されたんでしょうか。
ジェイド封印ごと具現化された……のでしょうね。そういえば、ネビリム先生のレプリカと遭遇したあの時一瞬でしたが妙な譜陣を見ましたが……。
ディストさすがはジェイド。あの譜陣に気付くとは。あれこそがネビリム先生のレプリカを封じていた封印であり、惑星譜術の譜陣ですよ。
ディストどうもマクガヴァン元帥がネビリム先生をロニール雪山に封じていたようなのです。
イオンマクガヴァン元帥というのはセントビナーにいらしたあのご老人ですね。ジェイドの上官だった……。
ジェイドええ。――元帥が先生のレプリカを封じた……ということは封じるしかできなかったと言うことか。
ルークそれって、ネビリムさんが倒せない程すげー強いってことか ?
ジェイドそうでしょうね。ディスト、惑星譜術に関する情報を教えて下さい。なるべく詳細に。
ナタリア惑星譜術って、なんですの ?
ジェイド創世暦時代に考案された大規模譜術です。セフィロトを利用して星の力を解放する譜術ですよ。
ジェイドもっともティル・ナ・ノーグにセフィロトがあるとは思えませんから、あまり意味は無いかも知れません。それでも何かの役に立つ可能性がありますからね。
アッシュローレライの方はどうする。召喚する必要があるんだろう ?
ナタリア以前アッシュとイオンがローレライを召喚した時は二人とも意識を失っておりましたわよね。
ナタリア同じように召喚するのでしたら二人を守るための戦力が必要ですわ。
アニスもしネビリムさんのレプリカが本当に強いなら結構大変そうだなー。
ジェイドそこはイクスとミリーナに任せましょう。
ガイやれやれ、色々と骨が折れそうだな。
ディスト私とジェイドの研究に協力できるのですから誇りに思って頂きたいですねえ。
ジェイド綿埃の分際で何を言うのやら。
ディストキィィィィ ! ?これから崇高な実験に赴こうというのに――
ジェイドサフィール。あなただけが頼りです。早く惑星譜術の情報を聞かせてもらえませんか。
ディスト! ?
ディストそうでしょうそうでしょう。最初から素直に教えを請えばいいのです。仕方がありません。それでは解説しましょう。
ルーク……ジェイド。
イオンルーク、ジェイドのことが心配なのはわかります。けれど、ジェイドにはジェイドなりの考えがあってディストの実験に協力したのだと思いますよ。
イオン信じてあげましょう。
ルークああ……そうだよな。うん、俺、ジェイドのこと信じてるのに……何か色々考えちゃってさ。
ルークあと……ごめんな。またローレライを召喚させることになって。
イオンルークが謝ることではありませんよ。それに僕……今回は少しだけ怒っているんです。リベラを傷つけて……アニスを悲しませたあの人を。
イオン悩める人々を救い導く立場の者がこんな個人的な怒りを持つのはとても未熟で恥ずかしいことですけれど……。
イオンですから、僕が協力できることは何でもやるつもりなんですよ。
ディストいよいよです……。オールドラントでは叶わなかった時間の壁を超えて、『あの時の記憶』を持った私たちの先生を甦らせる。
ジェイドまずはネビリム先生のレプリカを弱らせる必要があります。その後、ローレライを召喚しレプリカの時間を巻き戻させる。
ジェイドただし、ローレライは音の精霊です。時の概念を帯びてはいますが……預言の持つ性質を考えても本来は未来に対しての力が強い筈です。
ジェイド時の巻き戻しが上手くいかなかった場合は――
アニスネビリムを叩く、ですよね。任せといて下さい。リベラの分も殴っちゃる…… !
イオンアニス……先走らないで下さいね。
ミリーナ……それじゃあ、霧を払うわね。
イクスああ。ミリーナ、頼むよ。
ネビリム感じるわ……。第一音素の気配……。戻ってきたのねサフィール。
ネビリムそれに……隣にいるのはジェイドよね。ふふ……怖いお顔になってしまったけれどそれでも面影が残っているわ。
ジェイドあなたと話すことはありません。それでも念のために聞いておきますが大人しく投降する気はありますか ?
ネビリムあら、面白いことを言うのね。私はこれからあなたたちに宿る第一音素を吸収する。そして完全な存在になるの。
イクス第一音素って何のことです ?
イオンシャドウの属性を帯びた音素のことです。ですが、この世界では音素はエンコードされている筈なので……。
ミリーナシャドウの属性……。もしかしたらアニマの属性をそう感知しているのかも知れないわ。
ミリーナオールドラント大陸周辺のアニマはシャドウの属性を帯びているの。
ミリーナオールドラントから具現化された人もほとんどがシャドウ属性のアニマを持っている筈よ。
ネビリム何を言っているの ?
ネビリムまあ、いいわ。その金髪の女の子と銀髪の男の子からは微量だけれど第六音素を感じる……。やっと……第六音素を吸収できるわ。
ネビリムさあ……私を完全にしてちょうだい !

Character9話【vsネビリム】
ネビリムく……。音素が足りない……。癒やさなければ……。
ジェイド今です !
イオンアッシュ、手を !
アッシュわかっている !
イオン精霊ローレライ……。僕の呼びかけに応えて下さい。
ローレライ……アッシュ。暫しその身を借り受ける。
イオンローレライ。ネビリムのレプリカの時を巻き戻して下さい。
ローレライあの者にそれを施すのは二度目だ。
イオン二度目…… ? どういうことです ?
ローレライあの者の封印を解くためディストがリベラを使って私を呼んだ。
イオンそれはリベラが領主だった頃の話ですね。二度目は危険と言うことですか ?
ローレライ鏡映点は鏡写しの時の中にある。あの者とて同じ。重ねて時の音を纏えばどうなるかわからぬ。それでもよいか ?
二人構いません。
ルーク! !
ローレライ承知した……。
ネビリムああああああ…… ! ?
マルクト軍兵士一個中隊が全滅です !
マクガヴァン――ぬぅ……。このままでは倒すことも叶わぬか。ならば封じるしかあるまい。惑星譜術の譜陣を利用すれば、あの者を押さえられるじゃろう。
アニス何…… ? これ…… ?
イオンこれは……レプリカであるネビリムの記憶…… ?
ネビリム完全になる……音素さえあれば……私は……完全に……。
ネビリムああ……あああああ……――
ネビリム――――――――――
イクスネビリムさんの身体が消える…… ! ?
ローレライこの先は……無、だ。
ディストどういうことです、ローレライ ! ?
ローレライこのレプリカは消える……。その時には……虚無の壁があり被験者までは手が届かない。
ジェイド……やはりそうですか。
ディストジェイド ! ?
ジェイドティル・ナ・ノーグは虚無に包まれている。
ジェイド仮にレプリカの時間を巻き戻して被験者まで辿り着こうとしても、被験者そのものは虚無の外の世界にいるから手が届かない。
ジェイドディスト、あなたが考えた『レプリカの中にある筈の被験者の情報を甦らせる』という手法はこの世界で生まれたレプリカにしか適用できない。
ディスト……っ !
ルークジェイド……。もしかしてこうなることがわかってて……。
ジェイド………………。
ローレライ……いけない…… !レプリカが力を取り戻して――
ナタリアアッシュ ! ? な、何が起きたんですの ! ?
ミュウ……怖いですの…… ! 何か怖いものが……。
ネビリム星の藻屑と消え去りなさい……ビッグバン ! !
ナタリアアッシュ ! 危ない !
ルークヤバい ! ? よけきれな――
アニスイオン様 ! !
イクスうわああああああああっ ! ?
ジェイド――っ ! 私以外全滅ですか……。
イオンいえ……。ジェイド、僕もいます。アニスが、僕を庇ってくれました。
ネビリム――うふふ……。案外しぶといのね。けれど二度目はないわ。
ルーク……ジェ……イド……。
ジェイドルーク ! ?
ルーク悪い……。まともに食らっちまって……。けど……よかった……。ジェイドが……ネビリムさんを甦らせるつもりがなかった……って……。
ジェイドルーク ! !
ネビリムまあ。怖い。怒っているのね。
ネビリムねえ、ジェイド。その子は完全なレプリカなの ?とっても大事なのね、そのレプリカが。だったら……私がその子の音素を吸収すればいいのかしら。
イオンこの光は……浄玻璃鏡の…… !
ジェイド――そのレプリカは、大事な実験の最中なんですよ。
ジェイドお前に邪魔はさせない。
ネビリムそう……。あなたは私を捨てて、その子をとるの。私が不完全だから。
ジェイドお前が完全かどうかはどうでもいいことだ。
ジェイド――それより、ルークとの約束ですから一応聞いてあげましょう。
ジェイド投降するなら命を保証して差し上げますがどうしますか ?
ネビリム命の保証 ? うふふふふ、それはこちらの台詞よ。私があなたたちに負けるはずがないわ。
ネビリムだってもうここにはあなたとお供のレプリカしかいないのよ。
ディスト――それはどうでしょうね。
イオンディスト ! ? あなたも無事だったのですか ! ?
ディストフン、これぐらいで倒れる私ではありません。薔薇のディスト様を甘く見ないでもらいたいですね。
ディスト実験の結果が出た以上ジェイドとの約束を守るしかありません。
ディストジェイド、安心なさい。私がいるからにはたとえネビリム先生のレプリカだろうと――
アニス――アニスちゃん、ふっかーつ ! ! !
イオンアニス ! ?
アニスふっふっふっ !トクナガを盾にして、衝撃を吸収したんですよ。導師守護役を甘く見ないで貰いたいですね。
ディストアニス、それは私の台詞――
アニスネビリムだか何だか知らないけど、リベラを傷つけてルークに嫉妬して、イオン様をお供呼ばわりしてみんなを傷つけて――
アニスぶっ潰す !
ジェイド――だそうです。ツケを払って貰いますよ !
ネビリムあら、それなら試してみましょうよ。本当にツケを払うのは……どちらなのかをね !

Character10話【vsネビリム】
ネビリム……乖離……する……何か……何か……。
ジェイド――まさか !
ディスト……ええ、一度ローレライの力で封印の力を消し去りました。ですからあの譜陣は今や封印ではない。
イオン惑星譜術の譜陣そのもの……。それを使うつもりですか、彼女は !
ジェイド……………… !
アニス――イオン様 ! ディストも !気絶してるみんなを助けてここから離れましょう !
イオンですが――
アニスいえ、大佐が !
ディストアニス、大丈夫です。だからこそ、少し距離を取るだけでかまいません !
ネビリム天の禍
ジェイド地の嘆き
イオン同時に惑星譜術を ! ?
ネビリムあらゆる咎を送らんがため
ジェイド今断罪の剣が振り下ろされる !
ジェイド――ネビリム先生。
ネビリム
ジェイド……滅せよ ! !
ネビリムしま――
ネビリムきゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ ! ?
ジェイド………………。
ディストジェイド。あなたの中にもまだフォミクリー研究者としての矜持が残っていたのですね。だからこそ、試さずにはいられなかった。
ディスト最初期のフォミクリー技術にはレプリカの中に被験者の情報も含まれるという仮説の検証を。
ジェイドここでも無理なことはわかっていました。
ディストでもあなたは踏み切った。
ジェイド否定はしません。私の中にはいつも欲求があった。
ディストならば何故です ?何故、フォミクリーに向き合わないのですか ! ?
ジェイドあなたが指摘したじゃありませんか。
ジェイド異世界に来て、新たな環境と技術が目の前にあるのに、ルークを延命させることを優先している――と。
ジェイドここにはこの世界固有の技術や異世界の技術がある。あらゆる可能性を試し、ルークが生きる道を模索する。
ディストそれは……ネビリム先生を甦らせようとすることと同じです。
ジェイドええ、本質的にはね。けれどルークはまだ生きている。だから足掻きたいんです。そしてそれに結論が出た時に私は次に進めるのだと思います。
ディストそれが回り道に過ぎないと知っていてあなたはその愚かな道を進むのですね。
ディスト――いいでしょう。私は待つことには慣れています。ですが私は、あのレプリカに何の思い入れもない。私は私で、あの瞬間の先生を甦らせてみせます。
ジェイドそれに何の意味がある ?
ディストあなたと同じことですよ。あなたは時折目的に別の意味を被せようとする。私はそうではない。
ディストですから結局は同じなのです。ルークレプリカを救った末に見つける物とネビリム先生を甦らせた時に見つける物は。
ジェイドそうですね。
ミュウご主人様 ! 大丈夫ですの ?
アニスんー……。雪がクッションになったおかげで打ち身は酷くないみたい。大丈夫じゃないかな。
イオン……アニスはすごいですね。
アニスほえ ? どうしたんです、イオン様。
イオンジェイドが惑星譜術を使おうとしたこと僕はすぐには気付きませんでした。アニスはすぐ気付いて、周りに被害が出ないよう動こうとした。
アニスまあ、場数が多いですし……。それ言ったらディストの方がもっとすごくありません ?トカゲ椅子メガネのくせに。
イオンふふ……。アニス……ありがとう。
アニスいやいや、そんな~照れちゃいますよう !
イオン……僕を……生き返らせたいと思ってくれて。
アニス! ?
イオン黙っていた方がいいと思ってはいたんです。でも……アニスは僕を見る度に苦しそうだった。きっとモースがあなたに何かを命じたんですね。
イオンでも、モースに何を命じられたとしても僕はアニスを恨むことはありません。
イオン僕はアニスにいつも救われていたんです。あなたに出会えて本当に幸せだったんですよ。
アニス………………。
イオンだからあなたを苦しめていることの一つが僕なのだとしたら、せめてこの世界でだけは少しだけでもいいですからその苦しみを忘れて下さい。
イオンそう言っても、あなたが背負い込む性格なのはよく知っていますけど。
アニス……駄目です。そういうの……ずるいです。
イオンすみません。
アニス………………っ。
ミュウみゅうううう ? ご主人様、起きてるですの ?
アニス……はあああああああ ! ?ルーク立ち聞き――いや、寝聞き ! ?
ルークば……それを言うなら狸寝入りだろ ! ?
ジェイド何をいちゃついているんですか。
アニス大佐~ ! 酷いんですよ、ルークってば !乙女の秘密を盗み聞きしたんです !
ジェイドなげかわしいですねぇ。ところで他の皆さんは…… ?
イオンミリーナたちが先に目を覚ましてくれたので順番に手当てをして貰っているところです。
ジェイドそうですか。では、そろそろ浮遊島に戻りましょうか。
アニス……ほえ ?大佐、ディストがいませんけど。
ジェイドディスト…… ? 何です ?その世にもおぞましい響きのそれは。
ルーク……なあ、気のせいかな。向こうの方に、メチャクチャデカい雪だるまが見えるんだけど。
ジェイドああ、すみません。雪国育ちなものでつい童心に返ってしまって雪だるまを作ってしまったんですよ。
ジェイドよくできているでしょう ?
三人………………。
ミュウ大きい雪だるまですの !
ティア――みんな、こんなところに集まってどうしたの ?こっちはみんな応急手当がすんだけれど……。
ジェイド何でもありません。中のゴミは回収を頼んでおきましたので我々は帰りましょう。
イオンいえ、ですが、あの中にはディ――
アニス帰りましょう ! イオン様 !
ルークお、おう、帰ろう。そうしよう !
シンクねえ……ビクエ宛に死霊使いから魔鏡通信文が届いたんだけど。
マークはあ ? 通信じゃなくて通信文 ?
マークいや、まあ、そういう使い方もできるっちゃできるんだろうがジェイドからってのが引っかかるな。見せてくれ。
マーク………………。
マーク――雪山の粗大ゴミを回収して引き取れだあ ! ?
シンク椅子と生ものって書いてあるけどこれ、どう考えてもあの死神のことだろ。
マーク……奴の頭の中の情報は利用したいが側には置きたくないってことか。あいつは鬼か ?
シンクそんなのみんなそうでしょ。あんなのが四六時中傍にいると気が狂うよ。
マークうちも一人死神を抱えてるしなあ……。
ナーザ……ビクエの鏡精から連絡だと ?
ジュニアあっちのマークが当面の活動資金と物資をくれるって話なんです。
ナーザ奴らと馴れ合うつもりはないと言った筈だが……。
ジュニアでも資金は必要ですよ。
ナーザ……仕方ない。それで、何処まで取りに行けばよいのだ ?
ジュニアオールドラントの雪原地帯だそうです。
ルークはー……。やっと帰ってきた。リベラが元気そうでよかったよ。
ジェイドそうですね。
ルーク……ジェイド。一つだけ聞いていいか ?
ジェイドどうかしましたか ?
ルークもし……元の世界に帰れて元の世界でレプリカのネビリムさんを見つけて……それで今と同じ実験ができるとしたら……。
ルークジェイドは……やるのか ?
ジェイドそれはあまりにも仮定の話が多すぎますね。でも、まあ……あなたが何を言わんとしているかはわかります。
ジェイドそしてそんなあり得ない仮定を結びつけなくてもこの世界でなら……私の望むネビリム先生を甦らせることができるのかもしれません。
ルーク甦らせたいのか ?
ジェイドそうするつもりはない……と以前言ったことがありませんでしたか ?元の世界で。
ルークでも、あれはレプリカの話で……。
ジェイド本当に私は信用がありませんねえ……。まあ、自業自得ですが。
ジェイドこの世界にはあなたがいるので私はそれどころではないのですよ。
ルーク俺が抑止力になるって話か ?
ジェイド私がその気ならあなた如き、抑止力にもなりはしませんよ。
ルークはあ ! ?
ジェイド――私は今、自分自身を実験台にして人生をかけた研究をしているところなんです。他の研究に手を出す余裕はありません。
ルークえ ! ? そうなのか ! ? 何を研究してるんだ ?毒薬か ? 真人間になる薬でも開発してるのか ! ?
ジェイド真人間……ねえ。近いと言えば近いのかも知れません。
ジェイド私は『死』を研究しているのですよ。それが何かを知るために、ね。