| Character | 1話【Mirage1 海辺のリゾート】 |
| メルディ | バイバ ! すっごいあついなー。 |
| ファラ | ここは一年中こんな風らしいよ。ええと、案内によると『常夏の楽園』なんだって。 |
| キール | 『常夏の楽園』 ? ということは、地熱による影響……いや、今までのケースを考慮すると精霊が関係している可能性も……。 |
| リッド | そういうのはまた今度にしろって。今日は別の目的で来たんだから。 |
| シゼル | ……よいのだろうか。このような場所で、遊んでいても。 |
| ファラ | もう、シゼルさんったらまたそんなこと言って。 |
| ファラ | せっかくメルディと再会したんだからもっと二人で楽しい思い出作らなくちゃ ! |
| リッド | そうだぜ。イクスたちも同じ意見だからわざわざお膳立てしてくれたんだ。 |
| シゼル | そうか……お前たちにはずいぶんと気を遣わせてしまっていたのだな。 |
| リッド | だから、そういう風にとらえるなって。気軽に楽しめばいいんだよ。 |
| キール | 親子水入らずには、むしろ、ぼくたちの方が邪魔なんじゃないか ? |
| メルディ | そんなことないよー。キールいてくれて、メルディうれしいな。 |
| キール | ま、まあ、そこまで言うのなら……。 |
| リッド | なーに照れてんだよ。お前は。 |
| キール | て、照れてなんかいない ! |
| ファラ | はいはい、時間が勿体ないよ。早く水着に着替えよう ! |
| メルディ | はいな ! おカーサン、一緒に行くよぅ ! |
| シゼル | ああ、メルディ……。 |
| エルレイン | 人が繰り返す日常から逃れひとときの非日常を享受する場所か……。 |
| エルレイン | なるほど、ここは幸福に満ちている。 |
| ローエン | お気に召されましたか ? |
| エルレイン | ……そうだな。これもまた救済だろう。完全とは言えないが。 |
| エルレイン | それでも、人の幸福を知るには良い場所だ。案内、感謝する。 |
| ローエン | いえいえ、この程度は案内したうちに入りません。ここで過ごす数日をサポートするのが今回の仕事です。 |
| ローエン | とはいえ、女性の身の回りのお世話をするのにジジイ一人では不足もございましょう。 |
| ローエン | 勝手ながら、知人に声をかけさせていただきました。この場所で待ち合わせをしているはずですが……。 |
| レイア | ローエン、お待たせ ! |
| ローエン | レイアさん、急なお願いにもかかわらずご足労いただきありがとうございます。 |
| レイア | へーきへーき。おかげでこんな素敵なリゾートに来られたんだから。ところで、そっちの人が……。 |
| ローエン | 私からご紹介しましょう。こちら、今回ご案内するエルレインさんです。 |
| エルレイン | エルレインだ。こういった場所での作法には疎いのでな。よろしく頼む。 |
| レイア | 任せてください。きちんとお手伝いさせてもらいますから。 |
| アルヴィン | あー、そろそろ俺のことも紹介してくれねえかな。 |
| ローエン | おや、アルヴィンさん。いらっしゃったのですか。 |
| アルヴィン | いたよ。ずっといた。 |
| ローエン | 冗談ですよ。ただ、少々意外だと思いましてね。 |
| アルヴィン | あのな、俺だって働くときは働くんだよ。 |
| レイア | アルヴィンには宿の予約とかこっちで必要そうな物の手配をしてもらったの。 |
| アルヴィン | レイア一人じゃ不安だってジュードに頼まれてな。ついでに、そっちに加わったっていう噂の聖女様ってのにも興味があったってわけ。 |
| エルレイン | 聖女か、確かにそう呼ばれていたこともあったな。だが、この世界ではもはや意味のない称号だ。 |
| アルヴィン | なら、教祖様って呼んだ方がいいか ? 聖アタモニ教団だっけ ? |
| エルレイン | なんとでも、好きに呼ぶといい。 |
| レイア | もう、変に探りをいれるのは良くないよ。せっかくリゾートに来てるのに。 |
| ローエン | レイアさんのおっしゃる通りですな。レディに立ち話をさせるのは紳士的とは言えません。 |
| アルヴィン | はいはい。そんじゃ、お嬢様方。あちらに、お召し物のご用意をしております。 |
| レイア | 着替えに行きましょう、エルレインさん。わたし、お手伝いします。 |
| エルレイン | ああ、感謝する。 |
| アグリア | ……間違いねえ、あいつらだ。一体、何してやがんだあのブス。 |
| アグリア | いや、んなことはどうでもいい。やっと陛下に会える手掛かりを見つけたんだ。 |
| アグリア | 気が付いたら知らねー場所にいるし金もねーから仕方なくここで働いて情報を集めていたがそんなクソめんどくせーことも今日で終わりだ ! |
| アグリア | なんなら情報が手に入ったらあいつらぶっ殺しとくか。そしたら、陛下もきっと喜んで…… |
| サイモン | 残念だが、それは無理だろうな。 |
| アグリア | ああっ ! ? 誰だよ ! ? |
| サイモン | お前と同じく、この世界に無理矢理連れて来られた存在だ。 |
| アグリア | 『この世界』だと…… ! ? |
| サイモン | お前も薄々気づいているのだろう。ここが、自分の生まれた世界でないことに。 |
| アグリア | …………何者だよ、てめえ。 |
| サイモン | 答える必要はない。だが、我々は同じ目的を持っている。そして私はお前の望むものを知っている。 |
| サイモン | ならば、私と協力しようではないか ? |
| アグリア | 帰れるってのかよ、元の世界に。 |
| サイモン | ああ、可能だ。鏡士、という連中を連れてこられればな。 |
| Character | 2話【Mirage2 幻惑のビーチ】 |
| アリーシャ | ここがそうか……。だが、待ち合わせをするには賑やかすぎる場所だ。『あの人』らしくない……。 |
| アリーシャ | しかし、手紙には確かに『合言葉』が書かれていた。万が一の場合、王宮を脱出し身を隠すためにいくつか決めてあった符丁が……。 |
| アリーシャ | それを知っているのは、マルトラン師匠だけだ。師匠……本当にあなたもこの世界に……。 |
| サイモン | いいや……残念だが、それは偽物だ。 |
| アリーシャ | だ、誰だ ! ? |
| サイモン | ようこそ、騎士姫。呼びだしに応じてくれたこと、感謝しよう。 |
| アリーシャ | 騎士姫……そんな風に呼ぶということはお前は私たちと同じ世界の……。 |
| サイモン | その通りだ。だが、お前たちと同じ人間ではなかったがな。 |
| アリーシャ | 人間ではない……。まさか、天族の方でしたか !これは、とんだ無礼な発言を !申し訳ございません ! |
| サイモン | やはり、この世界に来ても天族への敬意は変わらぬか。 |
| アリーシャ | 当然です。天族の方を敬うことに時間も場所も関係ありません。 |
| サイモン | 時間も場所も……か。 |
| アリーシャ | しかし、なぜあなたが師匠と私の間だけの符丁をご存じだったのですか ? |
| サイモン | ……そうか、まだお前はあの女の真の姿を知らないようだな。 |
| サイモン | この地に具現化される者たちは、同じ世界であっても同一の時間の者とは限らぬということか。 |
| アリーシャ | あの、どういう意味でしょうか ?師匠の真の姿とはいったい……。 |
| サイモン | どうやら私は、お前よりも少しばかり未来からこの地に具現化されたらしい。 |
| サイモン | それが分かっただけでも収穫としては十分。感謝するぞ、騎士姫よ。 |
| サイモン | 礼代わりに、少しばかり未来について教えてやろう。そう……お前と、ハイランド王国に関する未来だ。 |
| アリーシャ | わ、我が国の未来 ! ? |
| サイモン | 戦争は起きたのだ。導師もお前も、それを止めることはできなかった。 |
| サイモン | 多くの者が死に、地も人も穢れに満ちた。その手引きをしたのは誰でもないお前の師だ。 |
| アリーシャ | ば、バカな ! 師匠がそんなことをするはずが── |
| サイモン | お前はあの女の何を知っている ? |
| アリーシャ | え……。 |
| サイモン | 家が没落した時、あの女は何を思ったか知っているか ?何に怒り、何を憎んだのか。 |
| サイモン | 騎士として身を立てるまでにどれほどの艱難辛苦を味わったのか。 |
| サイモン | 分家とはいえ王家の娘として幸福に生きてきたお前が目の前に現れた時、何を羨み、何を妬んだのか。 |
| サイモン | お前が未熟を晒す度、やつの心に溜まっていった澱のような感情の名を知っているか ? |
| サイモン | そして、やつがなぜ憑魔に堕ちたのか── |
| サイモン | お前にはその意味がわかるか ? |
| アリーシャ | 師匠が……憑魔……う、嘘だ……そんな……。 |
| サイモン | 信じるか否かはお前が好きにするがいい。少なくとも、私はお前よりあの女の業を知っている。ただ、それだけのこと。 |
| アリーシャ | 師匠……私は……。 |
| サイモン | これで準備は整った。あとは、鏡士共だけ……。 |
| レイア | エルレインさん、水着はどう ? |
| エルレイン | ああ……キツくはない。体格に合っているようだ。こういう物は着慣れぬゆえにこれで良いかはわからないが……。 |
| レイア | うんうん ! バッチリだよ !……まあ、選んだのアルヴィンなんだけど。 |
| レイア | 相変わらず、オシャレのセンスは良いんだよねー。どうしてエルレインさんのサイズを知ってたのかはあとでしっかり問い詰めないといけないけど。 |
| シゼル | ん……もしや、そこにいるのはレイアか。 |
| レイア | シゼルさん ! どうしてここに……。 |
| シゼル | 少し休暇をもらったのだ。メルディ……娘たちと、過ごしてみてはどうかとな。 |
| レイア | じゃあ、ファラやみんなもいるんだ。 |
| レイア | そうだ ! エルレインさん、みんなと合流しない ?女の子も多いから、きっと楽しいよ ! |
| エルレイン | ああ、かまわない。レイアの仲間というのなら、別の世界の者たちだろう ?彼らのことも知りたいと思っていた。 |
| レイア | それじゃ、一緒のところにパラソルを立てて── |
| レイア | え……何、これ…… ? |
| シゼル | 魔術……それも強力な幻術だ。 |
| エルレイン | この場所の催し……というわけではなさそうだな。 |
| アグリア | あははははっ ! ! てめぇら全員よーく聞きやがれ !ここは、あたしが占拠した ! |
| アグリア | 死にたくなけりゃ、黙って大人しく這いつくばれ ! |
| レイア | う……うそ……。どうしてアグリアが ! ? |
| Character | 3話【Mirage3 占拠者の要求】 |
| レイア | ……そっか、具現化……か……。具現化なら、そういう事だってあるよね……。 |
| アグリア | ああ ? 何言ってんだお前。 |
| レイア | だ、だって……。またあなたに会えるなんて思ってなかったから……。 |
| アグリア | わけわかんねーこと言いやがって。つーか、慣れ慣れしいんだよ。ブス。 |
| レイア | ぶ、ブス…… ! ? |
| アグリア | てめーらは人質なんだ。死にたくなけりゃ、言うことを聞くんだな。 |
| エルレイン | 幻術で閉じ込める手口には関心したが簡単に姿を見せるとは迂闊というもの。 |
| シゼル | 手段は巧妙。しかし最後の詰めが稚拙。お前一人の策とは思えない。 |
| シゼル | いずれにせよ、私たちの邪魔するというのであれば容赦はせん……。 |
| アグリア | お、おい、ブス ! 誰だよ、このババア共は ! ? |
| レイア | えっと……あまり怒らせちゃいけない人たち……かな ? |
| サイモン | そのあたりにしてもらおう。 |
| エルレイン | いつの間に……いや、なるほど。この幻術はお前の仕業か。 |
| サイモン | その通りだ。幻術はこの辺りを覆っている。簡単には入ることも出ることもできぬだろう。 |
| サイモン | それに、お前たちの仲間も幻術の外だ。しばらく助けは来ぬよ。 |
| エルレイン | 術か……ならば術者の始末を、と考える所だが…… |
| サイモン | それもやめておくがよかろう。貴様らが抵抗すれば、一般客の安全は保障できん。 |
| シゼル | 私たちに対する人質というわけか。 |
| レイア | いったい何が目的なの ! ? |
| アグリア | お前らの仲間に鏡士ってのがいるんだろ ? そいつらをここに呼べ ! |
| レイア | 鏡士を…… ? どうして……。 |
| アグリア | 質問なんか許してねーんだよ ! ブス ! いいから黙って呼べってんだ ! |
| サイモン | 待て。鏡士を呼ぶ役目は外の連中にさせる。お前は、しばらくここで待っていろ。 |
| アグリア | つーわけだ、鏡士が来るまでの間せいぜいヒマ潰しさせてもらうぜ。 |
| レイア | くっ…… ! |
| リッド | ……ダメだ。何度やっても外に出されちまう。中には入れそうにねえな。 |
| キール | 空間を歪めるほどの魔術が行使されたとは思えない。中に入った人間の感覚を狂わせているだけだ。だったら、本人次第でなんとかなるはずだ ! |
| リッド | いやいや、目隠しで綱渡りするようなもんだぞ。 |
| キール | お前の野生の勘でなんとかならないのか ! ? |
| リッド | んなこと言われても出来ねえもんは仕方ねえだろ。 |
| ファラ | 二人とも落ち着いて。どうしたの、キール。いつものキールらしくないよ ? |
| キール | そ、それは…… ! |
| メルディ | シゼル……。 |
| ファラ | ……そっか。キールも心配なんだね。シゼルさんのこと……。 |
| キール | くっ……どうして、こんな……。せっかく、二人で来られたのに。 |
| リッド | オレたちだって、メルディにあんな顔させたかねえよ。だからさ、冷静なお前の頭が必要なんだろ ? |
| キール | ……すまない。リッドの言う通りだな。 |
| ファラ | わたしたちが協力すればなんとかなるよ。うん ! イケるイケる ! |
| ローエン | ……良いものですな。若い方々のああいった姿は。 |
| アルヴィン | 感心してる場合じゃねえぞ。こっちだって、連れを二人持ってかれたんだ。 |
| ローエン | もちろん。忘れておりませんよ。しかし、そろそろではないかと。 |
| アルヴィン | そろそろ ? |
| ローエン | これだけ手の込んだ術を用いたのです。なんらかの意図や目的があるはずでしょう。 |
| アルヴィン | つまり、犯人からの要求があると ? |
| ローエン | ……おや、噂をすれば――。 |
| リッド | 幻術の壁を抜けてきた…… ! ? |
| キール | お前が術者か ! |
| サイモン | その通りだ。キール・ツァイベル。 |
| キール | ぼくの名前を…… ! ? |
| サイモン | ああ、知っているとも。お前たちの名も、異世界から具現化されたことも。 |
| サイモン | さて、わざわざお前たちと仲間を分断した理由。あえて言わなくてもわかっているだろう。 |
| サイモン | こちらの要求は鏡士をここに連れて来ること。 |
| ローエン | なるほど、我々のことを概ね把握しているというわけですね。 |
| サイモン | ああ。お前の方は救世軍だかケリュケイオン、と言ったか。 |
| アルヴィン | あんたも鏡映点か。その幻術であちこち忍び込んで調べてたのか ? |
| サイモン | 答える必要はない。 |
| メルディ | シゼルが無事か ! 会わせてほしいよ ! |
| サイモン | お前の母親なら無事だ。 |
| サイモン | そもそも積極的にお前たちと事を構えるつもりはない。 |
| サイモン | だが、私の協力者はそうでもないようだぞ。言わば暴発寸前の火薬庫のようなものだ。 |
| サイモン | 機嫌を損ねて爆発すれば、お前たちの仲間はともかく他の客たちがどうなるかな ? |
| サイモン | せいぜい急ぐがいい。あいつが痺れを切らす前にな。 |
| サイモン | ……そうだ。もう一つ要求をつけ加えよう。導師スレイもここに呼べ。この様子をあやつにも見せてやろう。 |
| ファラ | なーんか、嫌な感じ ! |
| リッド | やれやれ、一方的だったな。んで、どうする ? |
| アルヴィン | 中の様子がわからないんだ。今は要求に従うしかないだろ。 |
| キール | スレイを呼ぶということはもしかして、同じ世界から来たのか。 |
| ローエン | 復讐……あるいは、もっと複雑な何か。油断できる相手ではありませんね。 |
| アルヴィン | 俺はイクスたちに連絡しておく。そっちも頼むぜローエン。 |
| ローエン | ええ、お任せください。 |
| Character | 4話【Mirage5 猛る無影】 |
| サイモン | 客は、二つに分けて部屋に閉じ込めておいた。どちらかが逆らえばもう一方を罰すると伝えてな。 |
| サイモン | これで、お互いに監視し合うだろう。 |
| アグリア | なかなかえげつねえこと考えるな。んで、こいつらは ? |
| サイモン | 力ある者たちは、我々の目の届く場所に置いておいた方がいいだろう。 |
| サイモン | それに、保険はかけてある。 |
| アグリア | って、わけだ。てめーらは、しばらくそこで日干しになってな。 |
| レイア | どうしてこんなことをするの ! ?みんなを苦しめてなんの意味があるの ! ? |
| アグリア | 黙れ、ブス。てめーらは、こっちの世界でよろしくやってんのかもしれねーけどこっちはそれほど浮かれちゃいねーんだ。 |
| アグリア | さっさと元の世界に戻らせてもらう。 |
| レイア | 元の世界に、戻る…… ? |
| レイア | だったらこんなことしても無駄だよ !わたしたち鏡映点は元の世界には戻れないんだから ! |
| レイア | それに、ガイアスならこっちに……。 |
| アグリア | 陛下の名前を気安く呼ぶんじゃねえ !だいたい、誰がてめーの言葉なんか信じるか ! |
| アグリア | 黙ってそこで干物になってろ !じゃなきゃ、あたしが丸焼きにしてやる ! |
| エルレイン | ずいぶんと嫌われているようだな。あの様子では説得は難しいぞ。 |
| レイア | ……ごめんなさい。 |
| エルレイン | そなたが謝ることではない。他者の言葉に耳を傾けぬ者もいる。愚かなことだ。 |
| シゼル | だが、やり方は巧妙だぞ。 |
| シゼル | 人質同士監視させ、自分たちの手間と労力を減らした。おまけに我々と一緒にいる客たちも老人や子供が多い。 |
| エルレイン | 人間の中で、もっとも弱き者を集めたようだな。サイモンと言ったか……あの娘、なかなか人の心を知っている。老獪、と言えるほどにな。 |
| シゼル | ともかく、今は様子を見るしかないな。 |
| レイア | アグリア……。 |
| レイア | 暑い……いつまでここにいさせるのかな……。 |
| シゼル | 文字通り、日干しにして弱らせるつもりなのだろうな。 |
| エルレイン | 私たちを、釣った魚くらいに思っているのだろう。 |
| レイア | そう言いつつも、シゼルさんもエルレインさんも二人とも平気そうだよね。汗一つかいてないし。 |
| シゼル | いや、私もこの日差しはそれなりに堪える。 |
| エルレイン | 今はまだ耐えられても、人の身であればいずれは渇きに苦しむことになるだろう。それにしても、ババアなどと呼ばれるのは初めてだ。 |
| アグリア | オラ、なにしゃべってんだ。逃げ出す算段でもしてたんじゃねーだろうな。 |
| レイア | あ、アグリア…… !そんなことしてないよ ! |
| アグリア | ふん、余計なことしやがったら燃やすぞ。んなことより、おらよ。お仲間追加だ。 |
| アリーシャ | うっ……。 |
| レイア | アリーシャ ! ?どうしてここに…… ! ! |
| アリーシャ | 私は……。 |
| アグリア | サイモンは放っておいていいっつってたけどぶつぶつ言って辛気くせえんだよ。てめーらでなんとかしろ。 |
| レイア | アリーシャ……何があったの…… ? |
| アリーシャ | …………。 |
| アグリア | そいつの面倒見とけよ。 |
| レイア | 待って ! こんな場所にいたらみんな倒れるよ !お年寄りや小さい子は解放してあげたら ? |
| アグリア | はあ ? 知るかよ、んなこと。 |
| レイア | じゃあ、せめて日陰に連れて行かせて。それと、お水も……。 |
| アグリア | ああ ? てめー、あたしに指図する気か。 |
| レイア | 指図じゃない。お願いだよ。 |
| アグリア | 知るか ! 具合が悪い ? ああそうかよ。だったらこれ以上悪くならねーようにしてやる。 |
| レイア | アグリア、やめて── |
| 男性客 | おい、あんた。これ以上怒らせるのはやめてくれ ! |
| 女性客 | そうよ、下手に刺激しないで !みんな殺されるわ ! |
| レイア | そんな、でも……。 |
| アグリア | あははは ! 見たかよ !お前よりわかってんじゃねーか。 |
| アグリア | 弱いやつは強いやつに従うしかねえ。てめーは善人づらして気持ちいいだろうがまわりにとっちゃ迷惑なんだよ ! |
| レイア | わ、わたしは……。 |
| アグリア | 相変わらず浮かれた頭のままだな。がんばればなんとかなる ?真面目にしていれば誰かが見ていてくれる ? |
| アグリア | んなのてめーが楽に生きてきた証拠でしかないんだよ ! |
| シゼル | そのくらいにしておけ。 |
| アグリア | んだよババア ! 邪魔すんな ! |
| シゼル | お前の味わった苦痛はレイアのせいではない。それは八つ当たりというものだ。 |
| アグリア | なに…… ! |
| シゼル | それに、お前がどれほど言葉を浴びせてもレイアはお前を憎んではくれぬ。 |
| アグリア | っ ! ? |
| レイア | シゼルさん、いいの。私は……。 |
| アグリア | けっ、偉そーに見透かしたつもりかよババア。 |
| アグリア | てめーこそ、どうなんだ ?娘と離れ離れのくせに。よく母親づらなんかできるよな。 |
| シゼル | ……確かに。私は母親失格だ。 |
| アグリア | 開き直ってんじゃねえ ! |
| シゼル | そうだ。開き直りだ。失った時は取り戻せない。 |
| シゼル | だが、今、私はここにいる。メルディがそう望んでくれる限り私は母なのだ。 |
| アグリア | くそっ、なんで……なんで…… ! |
| レイア | アグリア、どうしたの ? |
| アグリア | うるさい ! どいつもこいつも ! |
| レイア | アグリアの、あんな顔初めて見た……。 |
| エルレイン | 母……か。ずいぶんこだわっているようだったな。 |
| シゼル | あの娘にも何か想いがあるのだろう。……私は少し、しゃべりすぎた。 |
| Character | 5話【Mirage6 暴かれる本性】 |
| アグリア | くそ……あいつら……。 |
| サイモン | 外の連中は大人しくしているようだ。鏡士はまだ来ていないが……何かあったのか ? |
| アグリア | なんでもねえよ。 |
| サイモン | あいつらの戯言に惑わされたか。 |
| アグリア | なんでもねえって言ってんだろ ! |
| サイモン | ふむ……そうか。 |
| サイモン | ……少しは使えると思ったがやはり人間か。少し、計画を早めるか……。 |
| サイモン | アグリアから聞いたぞ。人質をいくらか解放してほしいそうだな。 |
| レイア | お願い、せめて身体の弱い人たちだけでも… |
| サイモン | では、外に出たい者は名乗り出ろ。条件に従えば解放してやろう。 |
| レイア | 条件…… ? |
| サイモン | 簡単なことだ。ただ一言、宣言するだけでいい。自分が外に出る代わりに、ここに残す人間を指名する。指名する相手はお前たちの同行者、家族などに限る。 |
| レイア | なっ ! ? そんな条件…… ! |
| アリーシャ | ま、待ってくれ、それはあまりにも……。 |
| サイモン | 嫌なら残ればいい。安心しろ、要求さえ通れば私は人質に危害を加える気はない。アグリアはどうかは知らぬがな。 |
| アリーシャ | 脅しをかけるのか ! ? |
| サイモン | 選ぶのはお前たちだ。 |
| アリーシャ | そんな条件、飲めるわけが……。 |
| 男性客 | わ、私を解放してくれ ! 代わりに妻をここに残す ! |
| アリーシャ | なっ…… ! ? |
| 男性客 | どうせ、金目当てに近寄ってきた女だ。なんの未練もない。 |
| サイモン | よかろう。お前を解放する。 |
| 女性客 | 私も ! 恋人を残すわ ! |
| アリーシャ | そんな……どうして……。 |
| サイモン | これが人間の本質というものだ。何も驚くことはない。 |
| サイモン | マルトランもまた、その内に醜く歪んだ心を抱えていた。だが、お前はそれに気づいたか ? 一度でも師を疑ったことがあるか ? |
| サイモン | 人は仮面を被る。嘘も建前も吐き出す。欲望に身を委ねるよりも、そちらの方が醜いとは思わんか ? |
| サイモン | なあ、救済をうたう女よ。 |
| エルレイン | そうだな。人は弱く、愚かだ。だからこそ導いてやらねばならない。 |
| サイモン | なるほど、そうか。それがお前の救済か。思った通りだ……。 |
| エルレイン | …………。 |
| Character | 6話【Mirage7 猛火の元へ】 |
| イクス | みんな、待たせた。 |
| アルヴィン | 来てくれたか、イクス。 |
| イクス | それで、状況は ? |
| キール | 犯人は、今のところ二人のようだ。顔を見せるのはサイモンと言う名の女だけだ。 |
| スレイ | その、サイモンがオレを連れて来いって言ったんだな ? |
| キール | ああ、そうだ。スレイのことを導師と呼んでいた。 |
| ミクリオ | ということは、僕たちと同じ世界の人間か。だけど、人質をとって呼びつけるなんてあまり好かれているとは言えないだろうね。 |
| ミリーナ | おまけに鏡士も連れて来いだなんていったい何が目的かしら……。 |
| サイモン | 鏡士どもが到着したようだな。 |
| キール | サイモン ! |
| リッド | 相変わらず、ぬるっと現れやがって。 |
| ローエン | まるで、我々のことも監視していたようですな。 |
| サイモン | 探りをいれているつもりか ?まあ、好きにするがいい。 |
| サイモン | それより、交渉の前に人質の一部を解放してやろう。 |
| アルヴィン | ずいぶんとお優しいことだな。 |
| サイモン | なに、そちらは要求に応えた。こちらも誠意を見せてやろうというだけだ。 |
| アルヴィン | ちっ、冗談のつもりか。 |
| サイモン | 行け、解放だ。 |
| 男性客 | …………。 |
| 女性客 | …………。 |
| キール | 待ってくれ、中がどうなってるか話を── |
| 男性客 | わ、悪いが……。 |
| 女性客 | ごめんなさい……。 |
| リッド | おいおい、なんだありゃ。 |
| イクス | みんな、逃げるように行っちゃった。 |
| ミクリオ | …………。 |
| スレイ | 彼らに何をしたんだ。 |
| サイモン | ほう……導師か。久しいな。 |
| スレイ | ……オレを知っているのか ? |
| サイモン | やはりお前たちも具現化された時間が違うか。私を知らないということは……なるほど。おおよその時期は把握できた。 |
| ミクリオ | スレイ、彼女は天族だ。 |
| スレイ | 天族だって ! ? |
| サイモン | エンコードとやらで、変化していても天族同士であればお互い感じ取れるのだな。 |
| イクス | 君は鏡映点……みたいだね。それなのに、ずいぶんとこちらの事情に詳しそうだ。 |
| サイモン | ああ、知っているとも。イクス・ネーヴェ。 |
| サイモン | さて、おしゃべりを楽しみたいところだが私の協力者も待ちくたびれている。 |
| サイモン | ミリーナ・ヴァイス。お前だけこちらに入るのを許可しよう。 |
| イクス | 待て、ミリーナだけなんて……。 |
| ミリーナ | 大丈夫よ、イクス。私に任せて。 |
| サイモン | ……着いてこい。 |
| キール | くっ、やっぱり隙を見て入るのは無理そうだ。 |
| ローエン | 用心深い方です。今、我々の前に現れたのもおそらくは幻術でしょう。 |
| ミクリオ | …………。 |
| スレイ | どうしたんだ ? ミクリオ。 |
| ミクリオ | 幻術の壁が少しだけ開いた時、感じたんだ。本当に微かにだけど、この土地は穢れはじめている。 |
| スレイ | 穢れだって ! ? |
| ミクリオ | もともとこの地がそうなのか。それとも今回のことでそうなったのかはわからないが……。 |
| ミクリオ | ともかく、彼女をこのままにしておくのは危険だ。僕たちのこともよく知っているみたいだったしね。 |
| キール | 彼女は具現化された時間が違うと言っていた。たぶん、スレイたちよりも未来から具現化されたんだろう。 |
| スレイ | 未来を知っている……か。オレたちと、いったい何があったんだろう。 |
| ミリーナ | ここが……。 |
| レイア | ミリーナ ! |
| ミリーナ | レイア、シゼルさん、無事でよかった。 |
| サイモン | 人質に危害は加えぬ。目的を果たすまではな。アグリア、この娘が鏡士だ。 |
| アグリア | ようやく来たか。待ちくたびれたぜ。おら、さっさとあたしを元の世界に戻せ。 |
| ミリーナ | 元の世界へ…… ? |
| ミリーナ | 待って、誤解があるかもしれないんだけど鏡士にそんなことはできないわ。 |
| アグリア | ざっけんな ! あたしらをこっちに呼んだのはお前ら鏡士なんだろうが ! ? |
| ミリーナ | 『呼んだ』のではなくて『映した』のよ。 |
| ミリーナ | 具現化は、元の世界のあなたたちを鏡のようにこの世界に映しとったの。 |
| ミリーナ | だから、元の世界のあなたが消えたわけじゃない。この世界にもう一人のあなたが現れたの。 |
| アグリア | な、なんだよそりゃ !じゃあ、あたしは帰れないのか…… ! |
| ミリーナ | ……そうなるわね。 |
| アグリア | そんな……じゃあ、あたしはここで一生……。 |
| Character | 7話【Mirage8 虚像】 |
| アリーシャ | 私は……なにを……。 |
| スレイ | アリーシャ。 |
| アリーシャ | スレイ ! ? どうして……。 |
| スレイ | あの、サイモンという天族の要求で来たんだ。導師をここに連れて来いって。 |
| アリーシャ | そ、そうか……。 |
| スレイ | どうしたの ? 顔色が悪いけど……。 |
| アリーシャ | うっ……そ、それは……。 |
| スレイ | 何か悩んでることがあるなら話してくれ。オレたちは仲間だろう。 |
| アリーシャ | …………。 |
| アリーシャ | 言われたんだ、マルトランは私を憎んでいたって。 |
| スレイ | マルトラン……確か、アリーシャの師匠で── |
| アリーシャ | 目標、だった。 |
| アリーシャ | 師匠のようになりたいとずっと思っていた。だけど、師匠は私を憎み、嫌っていた。 |
| アリーシャ | ただ、王女という地位の前に膝を折り私を気遣うフリをしていただけだったんだ。 |
| スレイ | そうか……サイモンは未来から具現化されたから……。 |
| アリーシャ | 私は、戦争を止められなかったそうだ。そもそも味方だと思っていた師匠が対立を煽り戦争へと導いていたのだから無理な話だ。 |
| アリーシャ | 私のやっていたことは無駄だったんだ。 |
| アリーシャ | 別の世界に来て、そんなことを聞かされるなんて。もう何もできない ! 後悔しても手遅れなんだ ! |
| アリーシャ | なにより、私は師匠に……。 |
| スレイ | もう、考えなくていいんじゃないかな。 |
| アリーシャ | え……。 |
| スレイ | 君はもう王女じゃない。もっと自由に、心のままに生きてもいいと思う。 |
| スレイ | 怒っても泣いても、誰かを憎んだり恨んだりしても『王女のくせに』なんて言うやつはここにはいない。 |
| スレイ | 新しいアリーシャがどんな人間になろうともオレは嫌いになったりなんかしないよ。 |
| アリーシャ | スレイ……。 |
| スレイ | …………。 |
| ミクリオ | こんなところで考えごとか。 |
| スレイ | ミクリオ……うん。サイモンのこと気になってさ。 |
| ミクリオ | 確かに、ずいぶんとひねくれた天族だったね。 |
| スレイ | なんていうかさ、すごく長い時間を生きてきたって感じがした。 |
| スレイ | ライラとは真逆の、もっと……こう……。 |
| ミクリオ | 人間に期待をしていない。 |
| スレイ | …… ! |
| スレイ | ……いや、そうかもしれない。少なくともオレに、導師という存在に思うところがあるのかなって……。 |
| ミクリオ | 素直に言ったら ? 嫌われてるって。 |
| スレイ | ははっ……ミクリオは容赦ないな。 |
| ミクリオ | 隠してても仕方ないからね。 |
| ミクリオ | 幻術で人を欺き、僕たちの未来も知っている。そんな相手に油断は禁物だ。 |
| スレイ | ああ……。分かってるよ。 |
| アリーシャ | …………。 |
| スレイ | アリーシャ ! ? どうして、ここに ! ? |
| ミクリオ | スレイ ! 様子がおかしい ! |
| アリーシャ | ………… ! |
| スレイ | うっ…… ! |
| ミクリオ | まさか、これも幻術か ! ? |
| スレイ | ……幻術でも怪我するのかな ? |
| ミクリオ | その傷は…… ! ? だったら幻術じゃないのか ? |
| ミクリオ | アリーシャが幻を見せられているのか。それとも、アリーシャの姿をした別の何かか。 |
| スレイ | どっちにしてもこのまま放っておくわけにはいかない !……ミクリオ ! |
| ミクリオ | 分かってる !出来るだけ相手を傷つけずに止めよう ! |
| Character | 8話【Mirage9 信念】 |
| アグリア | あああああっ ! くそっ ! くそっ ! |
| レイア | アグリア ! やめて ! |
| アグリア | うるせえ ! あたしらは帰れねーんだぞ !勝手に連れて来られて ! それなのに ! |
| レイア | 気持ち、わかるよ。元の世界にやり残したこともある。 |
| レイア | でも、今を受け入れるしかないの。 |
| アグリア | そうやってあたしに説教して気分が良いか ! ?かわいそうだとでも思ってんのか ! ? |
| アグリア | てめえのそういうとこが気持ち悪いんだよ ! |
| レイア | わ、わたしは…… ! |
| アグリア | 何もねーんだよ ! こんな世界には !壊してやる。燃やしてやる……全部 ! 全部 ! |
| レイア | やめて ! そんなことしたら、あなたまで…… ! |
| シゼル | 私に任せろ。 |
| アグリア | てめえ、なにしやがる ! 離せ ! |
| シゼル | とても強い炎だ。幻術ではこれを防ぐことはできない。辺りは火の海と化すだろう。 |
| シゼル | ここには私の娘もいる。そんなものを放たせるわけにはいかない。 |
| アグリア | 知ったこっちゃねーんだよ !燃やすって言ったら燃やすんだ ! |
| シゼル | ならば、私はこの身をかけてお前を止めるだけだ。 |
| レイア | シゼルさんも、アグリアもやめて !みんな死んじゃう ! |
| シゼル | 私は、とうに死んでいた人間だ。メルディのために死ねるならそれでかまわない。 |
| アグリア | 死ぬ……だと…… ! |
| シゼル | なぜ止めた ? |
| アグリア | うるさい ! 母親のくせに、死んでもいいとか言うな !てめえが、てめえみたいなやつが……一番嫌いだ ! |
| レイア | アグリア…… ? |
| エルレイン | 私を呼びつけるとは、なんのつもりだ。 |
| サイモン | なに、お前と話がしたかったのだ。誰にも邪魔されずな。 |
| サイモン | 聖アタモニ教団の聖女。世界を、神の名の下に支配しようとしたお前と。 |
| エルレイン | 支配というのは聞き捨てならないな。それは、私が目指す救済とは真逆の思想だ。 |
| サイモン | 果たしてそうだろうか ?人間を管理し、統制するのがお前の使命なのだろう ? |
| サイモン | しかしそれは、人間が自ら良き道へ到達できないと最初から期待をしていないということではないか ? |
| エルレイン | …………。 |
| サイモン | 弱く、醜い。 |
| サイモン | 欲深く、俗悪。 |
| サイモン | そんな人間たちは、そもそも、救う価値があるのか ? |
| エルレイン | なるほど、それがお前の聞きたいことか。 |
| サイモン | 異なる世界に来ても、人を救済しようとするお前はいったい人間の中に何を見ている ? |
| エルレイン | 実に、愚かな質問だ。 |
| エルレイン | そうすると決めたことに、理由など必要はない。人の救済は私の存在意義だ。何も求めることなどないのだから。 |
| エルレイン | むしろ、求めているのはお前であろう。 |
| エルレイン | なぜ、人を試す ?何をそれほどまでに知りたがる ? |
| サイモン | 知りたいのではない。見て来たのだ。人の弱さと醜さを。 |
| サイモン | たかだか数十年ほど生きただけのお前では見ることもなかったような世界をな。 |
| サイモン | 見ただろう、少しばかり異質な状況を作っただけで人は簡単にその本性をさらけ出す。鏡映点とて例外ではない。 |
| サイモン | いや、鏡映点だからこそ危うい。やつらは世界に影響を与えすぎる。 |
| サイモン | 彼らが暴走しないように管理する者が必要だ。そう、神のような存在が。 |
| サイモン | だが、お前にはもうその力はない。 |
| エルレイン | 確かに、この世界にフォルトゥナを降臨させるのは不可能に近いだろう。だが……。 |
| サイモン | だが、お前はすでに、ここにいる。神はおらずとも、神の意志を体現できる。 |
| サイモン | 私欲を持たず、世界の安定のためにその身を捧げる指導者にして支配者だ。 |
| エルレイン | それを、私にやれというのか。 |
| サイモン | お前ほどの適任はおるまい。救済という目的にも近いと思うが。 |
| エルレイン | ……ふっ。 |
| エルレイン | ふふ……。 |
| サイモン | 何がおかしい。 |
| エルレイン | すまない。お前は老獪に見えて存外、夢見がちなのだと思ってな。 |
| エルレイン | そうやって、誰かの目的に寄り添うのがお前の望みか ? 生きる意味がほしいか ? |
| サイモン | なに……。 |
| エルレイン | いや、今のは戯れ言だ。忘れてくれ。 |
| エルレイン | ……指導者か。それも一つの理想かもしれぬな。だが、お前は一つ大きな見落としをしている。 |
| エルレイン | その点においては、長く生きたお前よりもこの私の方が多くの経験をしてきたのだろう。 |
| サイモン | 私に足りない経験だと……それはなんだ。 |
| エルレイン | 敗北するということだ。 |
| エルレイン | 己が生涯を費やした計画が僅かな見落としや計算しきれぬ存在に潰される経験だ。 |
| エルレイン | 指導者、支配者、救世主……なんでもいい。世界を思い通りにしようとする者の前には必ずといっていいほど立ちはだかる者たちがいる。 |
| エルレイン | そういう者たちのことを私は愚か者だと思っていた。だが、彼らのおかげで広い視野で見ることができた今救済の道は一つではないと理解できた。 |
| エルレイン | 奴らは手強いぞ。ただの少女一人と世界を天秤にかけてしまえる者もいるのだからな。 |
| Character | 9話【Mirage10 消えゆく陽炎】 |
| スレイ | ……わかった。アリーシャの望んでいることは……。 |
| ミクリオ | スレイ ! ? 武器を捨ててどうするつもりだ ! ? |
| スレイ | でもオレたちがアリーシャと戦う必要なんてない ! ! |
| アリーシャ | ………… ! |
| ミクリオ | スレイッ ! ! |
| スレイ | ……あれ ? 痛く……ない ? |
| ミクリオ | 幻術、だったのか。 |
| スレイ | さっきの傷が消えてる。痛みもだ。 |
| ミクリオ | 傷も痛みも幻術だったのか。すさまじい力だな。 |
| スレイ | うん。元の世界で戦わなくてよかった。きっとお互いに無事じゃすまなかっただろうし。 |
| ミクリオ | それにしても、幻だってよくわかったな。武器まで捨てて、こっちはヒヤヒヤしたよ。 |
| スレイ | いや、分かってたわけじゃないんだけどオレが隙を与えれば、あとはミクリオがアリーシャを正気に戻してくれるかなって。 |
| ミクリオ | 何考えてるんだ ! それでスレイが死んだら僕はどうすればいいんだよ ! |
| スレイ | ご、ごめん……。 |
| ミクリオ | はぁ……まったく。でも、君らしいよ。 |
| スレイ | 幻が消えたってことは、中で何かあったのかな。 |
| ミクリオ | 相変わらず壁は残ったままだけどね。 |
| スレイ | みんな……無事でいてくれ。 |
| アリーシャ | よし、悩むのはここまでだ ! |
| スレイ | アリーシャ…… ? |
| アリーシャ | やはり……お前はスレイじゃない。 |
| スレイ | アリーシャ、何を言ってるんだ。オレはスレイだよ。 |
| アリーシャ | スレイは『王女の立場を忘れろ』なんてそんなことわざわざ言わない。 |
| アリーシャ | 最初から、私のことは王女ではなくただのアリーシャと見てくれていたからな。 |
| アリーシャ | 彼の目には、すべてが等しく尊いものに見えている。それは私の憧れで、同時に少し重荷でもあった。 |
| アリーシャ | スレイの隣に立つために、私自身ももっとしっかりしなければといつも思っていたよ。 |
| アリーシャ | だから、お前がどんな私でも嫌いにならないとそう言ってくれたのは嘘でも嬉しかった。 |
| アリーシャ | だけど、私は前に進みたい。昨日よりも今日よりも、強い自分になりたい。 |
| アリーシャ | そしていつか、師匠に……。 |
| アリーシャ | さようなら、私の鏡。 |
| サイモン | 幻術が……破られただと。 |
| エルレイン | どうやら、さっそく愚か者どもにしてやられたようだな。 |
| サイモン | くっ……黙れっ ! |
| アグリア | おい、陰険女 ! |
| サイモン | 何をしている……やつらを見張っていろと言ったはずだが。 |
| アグリア | どういうことだ !あたしらは元の世界に戻れないってあの鏡士の女が言ってたぞ ! |
| サイモン | そのことか……。 |
| アグリア | てめえ、最初から知ってたな。あたしを騙しやがったな ! |
| サイモン | 騙すつもりなどない。私にも確証はなかったからな。 |
| サイモン | だが、鏡士ならお前の世界自体を具現化できる。お前が会いたい誰かも一緒にな。それで十分だろう。 |
| アグリア | うるせえうるせえうるせえっ !てめえがあたしの望みを決めるな ! |
| アグリア | もういい、ムカついた。ぜんぶ燃やしてやる。 |
| サイモン | ちょうどいい。私も予定が狂ってしまったのでな。仕切り直しをしたいと思っていたところだ。 |
| アグリア | オラァ ! ぜんぶ燃やしちまうぞ !死にたくなけりゃ必死で逃げな ! |
| レイア | アグリア、もうやめて ! |
| シゼル | 無駄だ。もう言葉は届かない。自分でも間違っているとわかっているのだ。それでも止まることができない。 |
| レイア | だったら……わたしが止めます ! |
| アリーシャ | 私も手を貸そう。明日が少しでも良くなるために。ただのアリーシャは、そのためにここにいる。 |
| レイア | アリーシャ…… !うん、お願い ! ! |
| ミリーナ | 彼女は、この世界で迷子のままなのね。私たち鏡士の責任よね……。 |
| シゼル | お前たち……そうか。メルディたちもこんな気持ちで私の前に立っていたのだな……。 |
| シゼル | ならば、同じ想いを繰り返させるわけにはいかぬ。 |
| エルレイン | 私の言った通りになっただろう、サイモン。 |
| サイモン | だから、どうだというのだ。 |
| エルレイン | ……愚かな。まだ、分からないというのか。ならば私がこの手で与えてやろう。敗北という名の救済を。 |
| Character | #N/A |
| ロイド | よし、このゲートを使えばいいんだな。コレット、コハク。二人とも準備はいいか ? |
| コハク | うん、わたしはバッチリだよ。 |
| コレット | あっ、ロイド。ちょっと待ってね。 |
| ロイド | ん ? どうしたんだ、コレット。もしかして忘れものか ? |
| コレット | ううん、そうじゃなくて。あのね、リフィル先生から頼まれていたことがあるの。 |
| ロイド | 先生から ? |
| コレット | うん、ロイドがちゃんと精霊装のことを理解してるのか、出発する前に確認しておいて欲しいって。だいじょぶだよね ? |
| ロイド | もちろんだぜ。昨日ジーニアスからばっちり説明してもらったからな ! |
| ロイド | あれだろ、俺たちが精霊装を使えるようになる為に精霊片ってのを、この精霊片吸引器で集めて人工精霊核に『癒着』すればいいんだろ ? |
| コハク | えっと、ロイド……。それを言うなら『固着』じゃないかな ? |
| ロイド | そう、それ ! とにかく、今回は俺たちの属性に合った精霊片が集まるスポットが見つかったから俺たちが行くことになったんだよな ? |
| コハク | うん、ロイドが地の精霊のノームでコレットが光の精霊のアスカ。そして、わたしが火の精霊のイフリートなんだって。 |
| コハク | でも、精霊との相性ってどうやって決まってるんだろ ?やっぱり、わたしの場合は得意な思念術とかと関係してるのかな ? |
| ロイド | そうなんじゃないか ?コレットも光の精霊のアスカと相性がいいっていうのは、わかる気がするし……。 |
| ロイド | ……待てよ。じゃあ何で俺はノームと相性がいいんだ ? |
| コレット | きっとあれだよ。ノームの寝ている姿が授業中に寝ちゃったロイドの姿と似てるからだよ。 |
| コハク | ふふっ、確かにロイドもノームもすっごく気持ちよさそうな顔で寝てるもんね。 |
| ロイド | 嫌だよ、そんな理由 !もっとこう、あるだろ。俺にはノームみたいに大地を震わすすっげえパワーが秘められてたりとかさ。 |
| コレット | わかった ! きっとロイドはダイクおじさんみたいに色々作れちゃうから、あのくるくるくるって回るリボンを作ってほしいんだよ。 |
| コハク | リボン ? |
| コレット | うん、私たちの世界のノームが付けててすっごく可愛かったんだぁ。 |
| ロイド | いや、だからあれはリボンじゃないだろ。あれはドリルだからな。ドリル。 |
| コハク | でも、わたしちょっと見てみたいかも。クラースさんが召喚してくれるノームに頼んだら付けてくれるかな ? |
| コレット | うん、プレゼントで渡してあげたらきっと喜んでくれるよ。ね、ロイド ? |
| ロイド | いや、俺に聞かれても……。 |
| コハク | あっ、それだったら、わたしもイフリートに何かプレゼントを渡したほうがいいよね ?力を貸してもらうんだから。 |
| コハク | そうなると、やっぱり精霊なんだから高級なミソミソとか……。あっ、でもわたしのマイミソを分けたほうが……。 |
| ロイド | おーい、話が変なほうにズレてないか ? |
| コレット | ねえ、ロイド。私もアスカに会ったら何かプレゼントしたいと思うんだけど何がいいかな ? |
| ロイド | ああ、そういや、これから向かう場所ってルカたちがアスカの目撃情報を聞いたって場所だったよな ? |
| コレット | うん。だからね、私も今の内に何か渡すものを決めておいたほうがいいのかなって。 |
| ロイド | なぁ、コレット。俺、思うんだけどプレゼントっていうのは『何をあげるのか』じゃなくて渡す側の気持ちが大事なんじゃないか ? |
| コレット | 気持ち ? |
| ロイド | ああ、どんなものでも、コレットの気持ちが伝わればアスカも喜んでくれるし、力も貸してくれると思うぜ。 |
| コレット | ……ロイド。うん、そだね。ロイドの言う通りだよ。 |
| コレット | 私も、ロイドからこの首飾りを貰ったときすごく嬉しかったから。 |
| コハク | えっ、そのペンダントってロイドからのプレゼントだったんだ ! |
| コレット | そうなの。あのね、私の誕生日プレゼントにロイドが――。 |
| ロイド | あー、もう ! その話はまた今度な !とにかく、準備がいいならもう行こうぜ ! |
| コハク | ……ふふ、コレット。あとでちゃんと教えてね。 |
| コレット | うん ! |
| ロイド | そんじゃあ、コレット、コハク。三人で精霊片集めに出発だ ! |
| コレット & コハク | おぉー ! |
| Character | 10話【Mirage10 消えゆく陽炎】 |
| アグリア | ああっ…… ! |
| サイモン | くっ……。 |
| シゼル | ここまでだ。これ以上の戦いに意味は無い。 |
| アグリア | 意味だと……そんなもの知るか ! |
| ミリーナ | まだこんな力が残ってたの…… ! ? |
| シゼル | 違う。制御できていない。感情のまま力が溢れているのだ。 |
| アグリア | あたしは負けてねえ !あの時だって、一人だった ! |
| アグリア | 一人で、あいつらの仕打ちに耐えてきた !最後はみんな燃えていなくなった !あたしがやったんだ ! |
| アリーシャ | 錯乱しているのか ! ? |
| レイア | ううん、怯えてるんだよ。一人ぼっちだから。 |
| レイア | だから、わたしが…… ! |
| アリーシャ | レイア ! 無茶だ ! |
| アグリア | なんだてめえ、来るなっ !あたしに触るんじゃねえ ! |
| レイア | 嫌ッ ! 今度は絶対に離さない !あなたはもう誰かを傷つけなくても生きていける ! |
| アグリア | てめえなんかが、あたしに同情すんじゃねえ !そんなことされるくらいなら死んだ方がマシだ ! |
| シゼル | いい加減にしろ…… ! |
| レイア | 炎が……消えた……。 |
| シゼル | 言っておくが、いくら炎を呼びだそうともその度に私がかき消すぞ。 |
| アグリア | なん、で……。 |
| シゼル | お前を死なせたくないからだ。 |
| シゼル | 死んだ方がマシなどと言うな。お前の母も、自分の娘がそんなことを口にすれば死ぬよりもずっとつらいはずだ。 |
| アグリア | ……くそっ。どいつもこいつも……うぜーんだよ。 |
| アリーシャ | ……もう、戦う意思はなさそうだな。 |
| ミリーナ | ええ、そうね。本当によかった……。 |
| サイモン | …………。 |
| エルレイン | お前は、あの娘を救いたかったのか ? |
| サイモン | そんなつもりはない。単に、利用しただけだ。 |
| エルレイン | いいだろう。ならば、私と共に来るがいい。 |
| サイモン | 私の提案を受け入れるのか ? |
| エルレイン | 私は指導者にはならぬ、私が目指す救済ではないからな。 |
| エルレイン | だが、私が目的と理由を与えよう。新たなるアタモニ教団のためにお前の力を使わせてもらう。 |
| サイモン | ……いいだろう。しばらくはお前に利用されてやる。 |
| メルディ | おカーサン ! |
| シゼル | メルディ……。すまない。心配をかけたな。 |
| メルディ | うん……メルディ、いっぱいいっぱい心配したよ。でも、また会えて嬉しいな。 |
| アグリア | …………。 |
| シゼル | ああ、そうだ。メルディ、お前に紹介したい者がいる。 |
| アグリア | な、なんだよ。あたしは別に……。 |
| メルディ | ワイール ! はじめましてだな !メルディはメルディいうよ。名前、なんていうな ? |
| アグリア | あ……アグリア。 |
| メルディ | アグリア ! よろしくな ! |
| アグリア | お、おう……。 |
| レイア | ねえ、わたしの時と態度が違いすぎない ? |
| アグリア | うっせー、ブス ! |
| レイア | ああー ! またブスって言った ! |
| アグリア | 何度でも言ってやる !ブスブスブースブスブス~。 |
| レイア | もう怒ったんだから ! |
| アルヴィン | あー……中では思ったより楽しくやってたのか ? |
| キール | こっちは、ずっと気を揉んでたっていうのに……。 |
| スレイ | アリーシャ ! よかった、無事だったんだな。 |
| アリーシャ | ああ、おかげさまでな。スレイにはまた助けられてしまった。 |
| スレイ | オレ、なにもしてないと思うけど。 |
| アリーシャ | 気にしないでくれ。こっちのことだ。 |
| イクス | みんな、せっかくの休暇だったのに残念だったな。 |
| ファラ | でも、まだ少しくらい時間があるんじゃない ? |
| リッド | そうそう、ここまで来て何もせずに帰るのはちょっともったいねーよな。 |
| メルディ | はいな ! メルディ、シゼルと泳ぎたいよ ! |
| ミリーナ | じゃあ、ちょっとだけ遊んで帰りましょうか。ほら、イクスもっ。 |
| イクス | え、お、俺も ? いいのかな……。 |
| ミリーナ | いいからいいから、さ、行きましょっ。 |
| ローエン | 若い方々は元気でいいですな。 |
| サイモン | ふん、浮かれているだけだ。 |
| エルレイン | お前も加わって来たらどうだ ?存外、悪くないかもしれないぞ。 |
| サイモン | 笑えない冗談だ。さっさとケリュケイオンに連れて行け。 |
| ローエン | では、参りましょう。皆さまにご紹介しなければいけませんな。 |
| アグリア | ここがてめーらのアジトか。なーんか辛気くせえな。……だけど、まあ、しばらく我慢してやるか。 |
| イクス | はは……気に入ってもらえてよかったよ。 |
| ミュゼ | あら、お久しぶりね♪ |
| アグリア | て、てめーまでいやがったのかよ ! !いや、ちょっと待て。てめーがいるってことは……。 |
| ガイアス | アグリア……。 |
| アグリア | へ、陛下ッ ! !おい、ブス ! ! こりゃあ一体どういうことだ ! !なんで陛下がお前たちのところにいんだよ ! ! |
| レイア | あれ、言ってなかったっけ ? |
| ミュゼ | 私たち、今じゃあとっても仲良しなのよ。もちろん、ガイアスともね。 |
| アグリア | そ……そんな。 |
| レイア | アグリア ? |
| アグリア | う、嘘だ ! ! こんなことあるわけねー ! !……そうか、さてはあの陰険女 ! !また、あたしを嵌めようってんだな ! ! |
| アグリア | おらっ ! ! 出てきやがれ ! !あたしが全部燃やしてやる ! ! |
| レイア | ちょ、アグリア ! ?やめなってばー ! ! |
| ミュゼ | ねえ、ガイアス。止めなくていいの ?あなたの部下だった子でしょ ? |
| ガイアス | 部下……か。 |
| ミュゼ | フフッ……。それとも、今は『仲間』って言ってあげたほうがいいのかしら ? |
| ガイアス | ……ああ、そうかもしれんな。 |