Character1話【Mirage1 海辺のリゾート】
メルディバイバ ! すっごいあついなー。
ファラここは一年中こんな風らしいよ。ええと、案内によると『常夏の楽園』なんだって。
キール『常夏の楽園』 ? ということは、地熱による影響……いや、今までのケースを考慮すると精霊が関係している可能性も……。
リッドそういうのはまた今度にしろって。今日は別の目的で来たんだから。
シゼル……よいのだろうか。このような場所で、遊んでいても。
ファラもう、シゼルさんったらまたそんなこと言って。
ファラせっかくメルディと再会したんだからもっと二人で楽しい思い出作らなくちゃ !
リッドそうだぜ。イクスたちも同じ意見だからわざわざお膳立てしてくれたんだ。
シゼルそうか……お前たちにはずいぶんと気を遣わせてしまっていたのだな。
リッドだから、そういう風にとらえるなって。気軽に楽しめばいいんだよ。
キール親子水入らずには、むしろ、ぼくたちの方が邪魔なんじゃないか ?
メルディそんなことないよー。キールいてくれて、メルディうれしいな。
キールま、まあ、そこまで言うのなら……。
リッドなーに照れてんだよ。お前は。
キールて、照れてなんかいない !
ファラはいはい、時間が勿体ないよ。早く水着に着替えよう !
メルディはいな ! おカーサン、一緒に行くよぅ !
シゼルああ、メルディ……。
エルレイン人が繰り返す日常から逃れひとときの非日常を享受する場所か……。
エルレインなるほど、ここは幸福に満ちている。
ローエンお気に召されましたか ?
エルレイン……そうだな。これもまた救済だろう。完全とは言えないが。
エルレインそれでも、人の幸福を知るには良い場所だ。案内、感謝する。
ローエンいえいえ、この程度は案内したうちに入りません。ここで過ごす数日をサポートするのが今回の仕事です。
ローエンとはいえ、女性の身の回りのお世話をするのにジジイ一人では不足もございましょう。
ローエン勝手ながら、知人に声をかけさせていただきました。この場所で待ち合わせをしているはずですが……。
レイアローエン、お待たせ !
ローエンレイアさん、急なお願いにもかかわらずご足労いただきありがとうございます。
レイアへーきへーき。おかげでこんな素敵なリゾートに来られたんだから。ところで、そっちの人が……。
ローエン私からご紹介しましょう。こちら、今回ご案内するエルレインさんです。
エルレインエルレインだ。こういった場所での作法には疎いのでな。よろしく頼む。
レイア任せてください。きちんとお手伝いさせてもらいますから。
アルヴィンあー、そろそろ俺のことも紹介してくれねえかな。
ローエンおや、アルヴィンさん。いらっしゃったのですか。
アルヴィンいたよ。ずっといた。
ローエン冗談ですよ。ただ、少々意外だと思いましてね。
アルヴィンあのな、俺だって働くときは働くんだよ。
レイアアルヴィンには宿の予約とかこっちで必要そうな物の手配をしてもらったの。
アルヴィンレイア一人じゃ不安だってジュードに頼まれてな。ついでに、そっちに加わったっていう噂の聖女様ってのにも興味があったってわけ。
エルレイン聖女か、確かにそう呼ばれていたこともあったな。だが、この世界ではもはや意味のない称号だ。
アルヴィンなら、教祖様って呼んだ方がいいか ? 聖アタモニ教団だっけ ?
エルレインなんとでも、好きに呼ぶといい。
レイアもう、変に探りをいれるのは良くないよ。せっかくリゾートに来てるのに。
ローエンレイアさんのおっしゃる通りですな。レディに立ち話をさせるのは紳士的とは言えません。
アルヴィンはいはい。そんじゃ、お嬢様方。あちらに、お召し物のご用意をしております。
レイア着替えに行きましょう、エルレインさん。わたし、お手伝いします。
エルレインああ、感謝する。
アグリア……間違いねえ、あいつらだ。一体、何してやがんだあのブス。
アグリアいや、んなことはどうでもいい。やっと陛下に会える手掛かりを見つけたんだ。
アグリア気が付いたら知らねー場所にいるし金もねーから仕方なくここで働いて情報を集めていたがそんなクソめんどくせーことも今日で終わりだ !
アグリアなんなら情報が手に入ったらあいつらぶっ殺しとくか。そしたら、陛下もきっと喜んで……
サイモン残念だが、それは無理だろうな。
アグリアああっ ! ? 誰だよ ! ?
サイモンお前と同じく、この世界に無理矢理連れて来られた存在だ。
アグリア『この世界』だと…… ! ?
サイモンお前も薄々気づいているのだろう。ここが、自分の生まれた世界でないことに。
アグリア…………何者だよ、てめえ。
サイモン答える必要はない。だが、我々は同じ目的を持っている。そして私はお前の望むものを知っている。
サイモンならば、私と協力しようではないか ?
アグリア帰れるってのかよ、元の世界に。
サイモンああ、可能だ。鏡士、という連中を連れてこられればな。

Character2話【Mirage2 幻惑のビーチ】
アリーシャここがそうか……。だが、待ち合わせをするには賑やかすぎる場所だ。『あの人』らしくない……。
アリーシャしかし、手紙には確かに『合言葉』が書かれていた。万が一の場合、王宮を脱出し身を隠すためにいくつか決めてあった符丁が……。
アリーシャそれを知っているのは、マルトラン師匠だけだ。師匠……本当にあなたもこの世界に……。
サイモンいいや……残念だが、それは偽物だ。
アリーシャだ、誰だ ! ?
サイモンようこそ、騎士姫。呼びだしに応じてくれたこと、感謝しよう。
アリーシャ騎士姫……そんな風に呼ぶということはお前は私たちと同じ世界の……。
サイモンその通りだ。だが、お前たちと同じ人間ではなかったがな。
アリーシャ人間ではない……。まさか、天族の方でしたか !これは、とんだ無礼な発言を !申し訳ございません !
サイモンやはり、この世界に来ても天族への敬意は変わらぬか。
アリーシャ当然です。天族の方を敬うことに時間も場所も関係ありません。
サイモン時間も場所も……か。
アリーシャしかし、なぜあなたが師匠と私の間だけの符丁をご存じだったのですか ?
サイモン……そうか、まだお前はあの女の真の姿を知らないようだな。
サイモンこの地に具現化される者たちは、同じ世界であっても同一の時間の者とは限らぬということか。
アリーシャあの、どういう意味でしょうか ?師匠の真の姿とはいったい……。
サイモンどうやら私は、お前よりも少しばかり未来からこの地に具現化されたらしい。
サイモンそれが分かっただけでも収穫としては十分。感謝するぞ、騎士姫よ。
サイモン礼代わりに、少しばかり未来について教えてやろう。そう……お前と、ハイランド王国に関する未来だ。
アリーシャわ、我が国の未来 ! ?
サイモン戦争は起きたのだ。導師もお前も、それを止めることはできなかった。
サイモン多くの者が死に、地も人も穢れに満ちた。その手引きをしたのは誰でもないお前の師だ。
アリーシャば、バカな ! 師匠がそんなことをするはずが──
サイモンお前はあの女の何を知っている ?
アリーシャえ……。
サイモン家が没落した時、あの女は何を思ったか知っているか ?何に怒り、何を憎んだのか。
サイモン騎士として身を立てるまでにどれほどの艱難辛苦を味わったのか。
サイモン分家とはいえ王家の娘として幸福に生きてきたお前が目の前に現れた時、何を羨み、何を妬んだのか。
サイモンお前が未熟を晒す度、やつの心に溜まっていった澱のような感情の名を知っているか ?
サイモンそして、やつがなぜ憑魔に堕ちたのか──
サイモンお前にはその意味がわかるか ?
アリーシャ師匠が……憑魔……う、嘘だ……そんな……。
サイモン信じるか否かはお前が好きにするがいい。少なくとも、私はお前よりあの女の業を知っている。ただ、それだけのこと。
アリーシャ師匠……私は……。
サイモンこれで準備は整った。あとは、鏡士共だけ……。
レイアエルレインさん、水着はどう ?
エルレインああ……キツくはない。体格に合っているようだ。こういう物は着慣れぬゆえにこれで良いかはわからないが……。
レイアうんうん ! バッチリだよ !……まあ、選んだのアルヴィンなんだけど。
レイア相変わらず、オシャレのセンスは良いんだよねー。どうしてエルレインさんのサイズを知ってたのかはあとでしっかり問い詰めないといけないけど。
シゼルん……もしや、そこにいるのはレイアか。
レイアシゼルさん ! どうしてここに……。
シゼル少し休暇をもらったのだ。メルディ……娘たちと、過ごしてみてはどうかとな。
レイアじゃあ、ファラやみんなもいるんだ。
レイアそうだ ! エルレインさん、みんなと合流しない ?女の子も多いから、きっと楽しいよ !
エルレインああ、かまわない。レイアの仲間というのなら、別の世界の者たちだろう ?彼らのことも知りたいと思っていた。
レイアそれじゃ、一緒のところにパラソルを立てて──
レイアえ……何、これ…… ?
シゼル魔術……それも強力な幻術だ。
エルレインこの場所の催し……というわけではなさそうだな。
アグリアあははははっ ! ! てめぇら全員よーく聞きやがれ !ここは、あたしが占拠した !
アグリア死にたくなけりゃ、黙って大人しく這いつくばれ !
レイアう……うそ……。どうしてアグリアが ! ?

Character3話【Mirage3 占拠者の要求】
レイア……そっか、具現化……か……。具現化なら、そういう事だってあるよね……。
アグリアああ ? 何言ってんだお前。
レイアだ、だって……。またあなたに会えるなんて思ってなかったから……。
アグリアわけわかんねーこと言いやがって。つーか、慣れ慣れしいんだよ。ブス。
レイアぶ、ブス…… ! ?
アグリアてめーらは人質なんだ。死にたくなけりゃ、言うことを聞くんだな。
エルレイン幻術で閉じ込める手口には関心したが簡単に姿を見せるとは迂闊というもの。
シゼル手段は巧妙。しかし最後の詰めが稚拙。お前一人の策とは思えない。
シゼルいずれにせよ、私たちの邪魔するというのであれば容赦はせん……。
アグリアお、おい、ブス ! 誰だよ、このババア共は ! ?
レイアえっと……あまり怒らせちゃいけない人たち……かな ?
サイモンそのあたりにしてもらおう。
エルレインいつの間に……いや、なるほど。この幻術はお前の仕業か。
サイモンその通りだ。幻術はこの辺りを覆っている。簡単には入ることも出ることもできぬだろう。
サイモンそれに、お前たちの仲間も幻術の外だ。しばらく助けは来ぬよ。
エルレイン術か……ならば術者の始末を、と考える所だが……
サイモンそれもやめておくがよかろう。貴様らが抵抗すれば、一般客の安全は保障できん。
シゼル私たちに対する人質というわけか。
レイアいったい何が目的なの ! ?
アグリアお前らの仲間に鏡士ってのがいるんだろ ? そいつらをここに呼べ !
レイア鏡士を…… ? どうして……。
アグリア質問なんか許してねーんだよ ! ブス ! いいから黙って呼べってんだ !
サイモン待て。鏡士を呼ぶ役目は外の連中にさせる。お前は、しばらくここで待っていろ。
アグリアつーわけだ、鏡士が来るまでの間せいぜいヒマ潰しさせてもらうぜ。
レイアくっ…… !
リッド……ダメだ。何度やっても外に出されちまう。中には入れそうにねえな。
キール空間を歪めるほどの魔術が行使されたとは思えない。中に入った人間の感覚を狂わせているだけだ。だったら、本人次第でなんとかなるはずだ !
リッドいやいや、目隠しで綱渡りするようなもんだぞ。
キールお前の野生の勘でなんとかならないのか ! ?
リッドんなこと言われても出来ねえもんは仕方ねえだろ。
ファラ二人とも落ち着いて。どうしたの、キール。いつものキールらしくないよ ?
キールそ、それは…… !
メルディシゼル……。
ファラ……そっか。キールも心配なんだね。シゼルさんのこと……。
キールくっ……どうして、こんな……。せっかく、二人で来られたのに。
リッドオレたちだって、メルディにあんな顔させたかねえよ。だからさ、冷静なお前の頭が必要なんだろ ?
キール……すまない。リッドの言う通りだな。
ファラわたしたちが協力すればなんとかなるよ。うん ! イケるイケる !
ローエン……良いものですな。若い方々のああいった姿は。
アルヴィン感心してる場合じゃねえぞ。こっちだって、連れを二人持ってかれたんだ。
ローエンもちろん。忘れておりませんよ。しかし、そろそろではないかと。
アルヴィンそろそろ ?
ローエンこれだけ手の込んだ術を用いたのです。なんらかの意図や目的があるはずでしょう。
アルヴィンつまり、犯人からの要求があると ?
ローエン……おや、噂をすれば――。
リッド幻術の壁を抜けてきた…… ! ?
キールお前が術者か !
サイモンその通りだ。キール・ツァイベル。
キールぼくの名前を…… ! ?
サイモンああ、知っているとも。お前たちの名も、異世界から具現化されたことも。
サイモンさて、わざわざお前たちと仲間を分断した理由。あえて言わなくてもわかっているだろう。
サイモンこちらの要求は鏡士をここに連れて来ること。
ローエンなるほど、我々のことを概ね把握しているというわけですね。
サイモンああ。お前の方は救世軍だかケリュケイオン、と言ったか。
アルヴィンあんたも鏡映点か。その幻術であちこち忍び込んで調べてたのか ?
サイモン答える必要はない。
メルディシゼルが無事か ! 会わせてほしいよ !
サイモンお前の母親なら無事だ。
サイモンそもそも積極的にお前たちと事を構えるつもりはない。
サイモンだが、私の協力者はそうでもないようだぞ。言わば暴発寸前の火薬庫のようなものだ。
サイモン機嫌を損ねて爆発すれば、お前たちの仲間はともかく他の客たちがどうなるかな ?
サイモンせいぜい急ぐがいい。あいつが痺れを切らす前にな。
サイモン……そうだ。もう一つ要求をつけ加えよう。導師スレイもここに呼べ。この様子をあやつにも見せてやろう。
ファラなーんか、嫌な感じ !
リッドやれやれ、一方的だったな。んで、どうする ?
アルヴィン中の様子がわからないんだ。今は要求に従うしかないだろ。
キールスレイを呼ぶということはもしかして、同じ世界から来たのか。
ローエン復讐……あるいは、もっと複雑な何か。油断できる相手ではありませんね。
アルヴィン俺はイクスたちに連絡しておく。そっちも頼むぜローエン。
ローエンええ、お任せください。

Character4話【Mirage5 猛る無影】
サイモン客は、二つに分けて部屋に閉じ込めておいた。どちらかが逆らえばもう一方を罰すると伝えてな。
サイモンこれで、お互いに監視し合うだろう。
アグリアなかなかえげつねえこと考えるな。んで、こいつらは ?
サイモン力ある者たちは、我々の目の届く場所に置いておいた方がいいだろう。
サイモンそれに、保険はかけてある。
アグリアって、わけだ。てめーらは、しばらくそこで日干しになってな。
レイアどうしてこんなことをするの ! ?みんなを苦しめてなんの意味があるの ! ?
アグリア黙れ、ブス。てめーらは、こっちの世界でよろしくやってんのかもしれねーけどこっちはそれほど浮かれちゃいねーんだ。
アグリアさっさと元の世界に戻らせてもらう。
レイア元の世界に、戻る…… ?
レイアだったらこんなことしても無駄だよ !わたしたち鏡映点は元の世界には戻れないんだから !
レイアそれに、ガイアスならこっちに……。
アグリア陛下の名前を気安く呼ぶんじゃねえ !だいたい、誰がてめーの言葉なんか信じるか !
アグリア黙ってそこで干物になってろ !じゃなきゃ、あたしが丸焼きにしてやる !
エルレインずいぶんと嫌われているようだな。あの様子では説得は難しいぞ。
レイア……ごめんなさい。
エルレインそなたが謝ることではない。他者の言葉に耳を傾けぬ者もいる。愚かなことだ。
シゼルだが、やり方は巧妙だぞ。
シゼル人質同士監視させ、自分たちの手間と労力を減らした。おまけに我々と一緒にいる客たちも老人や子供が多い。
エルレイン人間の中で、もっとも弱き者を集めたようだな。サイモンと言ったか……あの娘、なかなか人の心を知っている。老獪、と言えるほどにな。
シゼルともかく、今は様子を見るしかないな。
レイアアグリア……。
レイア暑い……いつまでここにいさせるのかな……。
シゼル文字通り、日干しにして弱らせるつもりなのだろうな。
エルレイン私たちを、釣った魚くらいに思っているのだろう。
レイアそう言いつつも、シゼルさんもエルレインさんも二人とも平気そうだよね。汗一つかいてないし。
シゼルいや、私もこの日差しはそれなりに堪える。
エルレイン今はまだ耐えられても、人の身であればいずれは渇きに苦しむことになるだろう。それにしても、ババアなどと呼ばれるのは初めてだ。
アグリアオラ、なにしゃべってんだ。逃げ出す算段でもしてたんじゃねーだろうな。
レイアあ、アグリア…… !そんなことしてないよ !
アグリアふん、余計なことしやがったら燃やすぞ。んなことより、おらよ。お仲間追加だ。
アリーシャうっ……。
レイアアリーシャ ! ?どうしてここに…… ! !
アリーシャ私は……。
アグリアサイモンは放っておいていいっつってたけどぶつぶつ言って辛気くせえんだよ。てめーらでなんとかしろ。
レイアアリーシャ……何があったの…… ?
アリーシャ…………。
アグリアそいつの面倒見とけよ。
レイア待って ! こんな場所にいたらみんな倒れるよ !お年寄りや小さい子は解放してあげたら ?
アグリアはあ ? 知るかよ、んなこと。
レイアじゃあ、せめて日陰に連れて行かせて。それと、お水も……。
アグリアああ ? てめー、あたしに指図する気か。
レイア指図じゃない。お願いだよ。
アグリア知るか ! 具合が悪い ? ああそうかよ。だったらこれ以上悪くならねーようにしてやる。
レイアアグリア、やめて──
男性客おい、あんた。これ以上怒らせるのはやめてくれ !
女性客そうよ、下手に刺激しないで !みんな殺されるわ !
レイアそんな、でも……。
アグリアあははは ! 見たかよ !お前よりわかってんじゃねーか。
アグリア弱いやつは強いやつに従うしかねえ。てめーは善人づらして気持ちいいだろうがまわりにとっちゃ迷惑なんだよ !
レイアわ、わたしは……。
アグリア相変わらず浮かれた頭のままだな。がんばればなんとかなる ?真面目にしていれば誰かが見ていてくれる ?
アグリアんなのてめーが楽に生きてきた証拠でしかないんだよ !
シゼルそのくらいにしておけ。
アグリアんだよババア ! 邪魔すんな !
シゼルお前の味わった苦痛はレイアのせいではない。それは八つ当たりというものだ。
アグリアなに…… !
シゼルそれに、お前がどれほど言葉を浴びせてもレイアはお前を憎んではくれぬ。
アグリアっ ! ?
レイアシゼルさん、いいの。私は……。
アグリアけっ、偉そーに見透かしたつもりかよババア。
アグリアてめーこそ、どうなんだ ?娘と離れ離れのくせに。よく母親づらなんかできるよな。
シゼル……確かに。私は母親失格だ。
アグリア開き直ってんじゃねえ !
シゼルそうだ。開き直りだ。失った時は取り戻せない。
シゼルだが、今、私はここにいる。メルディがそう望んでくれる限り私は母なのだ。
アグリアくそっ、なんで……なんで…… !
レイアアグリア、どうしたの ?
アグリアうるさい ! どいつもこいつも !
レイアアグリアの、あんな顔初めて見た……。
エルレイン母……か。ずいぶんこだわっているようだったな。
シゼルあの娘にも何か想いがあるのだろう。……私は少し、しゃべりすぎた。

Character5話【Mirage6 暴かれる本性】
アグリアくそ……あいつら……。
サイモン外の連中は大人しくしているようだ。鏡士はまだ来ていないが……何かあったのか ?
アグリアなんでもねえよ。
サイモンあいつらの戯言に惑わされたか。
アグリアなんでもねえって言ってんだろ !
サイモンふむ……そうか。
サイモン……少しは使えると思ったがやはり人間か。少し、計画を早めるか……。
サイモンアグリアから聞いたぞ。人質をいくらか解放してほしいそうだな。
レイアお願い、せめて身体の弱い人たちだけでも…
サイモンでは、外に出たい者は名乗り出ろ。条件に従えば解放してやろう。
レイア条件…… ?
サイモン簡単なことだ。ただ一言、宣言するだけでいい。自分が外に出る代わりに、ここに残す人間を指名する。指名する相手はお前たちの同行者、家族などに限る。
レイアなっ ! ? そんな条件…… !
アリーシャま、待ってくれ、それはあまりにも……。
サイモン嫌なら残ればいい。安心しろ、要求さえ通れば私は人質に危害を加える気はない。アグリアはどうかは知らぬがな。
アリーシャ脅しをかけるのか ! ?
サイモン選ぶのはお前たちだ。
アリーシャそんな条件、飲めるわけが……。
男性客わ、私を解放してくれ ! 代わりに妻をここに残す !
アリーシャなっ…… ! ?
男性客どうせ、金目当てに近寄ってきた女だ。なんの未練もない。
サイモンよかろう。お前を解放する。
女性客私も ! 恋人を残すわ !
アリーシャそんな……どうして……。
サイモンこれが人間の本質というものだ。何も驚くことはない。
サイモンマルトランもまた、その内に醜く歪んだ心を抱えていた。だが、お前はそれに気づいたか ? 一度でも師を疑ったことがあるか ?
サイモン人は仮面を被る。嘘も建前も吐き出す。欲望に身を委ねるよりも、そちらの方が醜いとは思わんか ?
サイモンなあ、救済をうたう女よ。
エルレインそうだな。人は弱く、愚かだ。だからこそ導いてやらねばならない。
サイモンなるほど、そうか。それがお前の救済か。思った通りだ……。
エルレイン…………。

Character6話【Mirage7 猛火の元へ】
イクスみんな、待たせた。
アルヴィン来てくれたか、イクス。
イクスそれで、状況は ?
キール犯人は、今のところ二人のようだ。顔を見せるのはサイモンと言う名の女だけだ。
スレイその、サイモンがオレを連れて来いって言ったんだな ?
キールああ、そうだ。スレイのことを導師と呼んでいた。
ミクリオということは、僕たちと同じ世界の人間か。だけど、人質をとって呼びつけるなんてあまり好かれているとは言えないだろうね。
ミリーナおまけに鏡士も連れて来いだなんていったい何が目的かしら……。
サイモン鏡士どもが到着したようだな。
キールサイモン !
リッド相変わらず、ぬるっと現れやがって。
ローエンまるで、我々のことも監視していたようですな。
サイモン探りをいれているつもりか ?まあ、好きにするがいい。
サイモンそれより、交渉の前に人質の一部を解放してやろう。
アルヴィンずいぶんとお優しいことだな。
サイモンなに、そちらは要求に応えた。こちらも誠意を見せてやろうというだけだ。
アルヴィンちっ、冗談のつもりか。
サイモン行け、解放だ。
男性客…………。
女性客…………。
キール待ってくれ、中がどうなってるか話を──
男性客わ、悪いが……。
女性客ごめんなさい……。
リッドおいおい、なんだありゃ。
イクスみんな、逃げるように行っちゃった。
ミクリオ…………。
スレイ彼らに何をしたんだ。
サイモンほう……導師か。久しいな。
スレイ……オレを知っているのか ?
サイモンやはりお前たちも具現化された時間が違うか。私を知らないということは……なるほど。おおよその時期は把握できた。
ミクリオスレイ、彼女は天族だ。
スレイ天族だって ! ?
サイモンエンコードとやらで、変化していても天族同士であればお互い感じ取れるのだな。
イクス君は鏡映点……みたいだね。それなのに、ずいぶんとこちらの事情に詳しそうだ。
サイモンああ、知っているとも。イクス・ネーヴェ。
サイモンさて、おしゃべりを楽しみたいところだが私の協力者も待ちくたびれている。
サイモンミリーナ・ヴァイス。お前だけこちらに入るのを許可しよう。
イクス待て、ミリーナだけなんて……。
ミリーナ大丈夫よ、イクス。私に任せて。
サイモン……着いてこい。
キールくっ、やっぱり隙を見て入るのは無理そうだ。
ローエン用心深い方です。今、我々の前に現れたのもおそらくは幻術でしょう。
ミクリオ…………。
スレイどうしたんだ ? ミクリオ。
ミクリオ幻術の壁が少しだけ開いた時、感じたんだ。本当に微かにだけど、この土地は穢れはじめている。
スレイ穢れだって ! ?
ミクリオもともとこの地がそうなのか。それとも今回のことでそうなったのかはわからないが……。
ミクリオともかく、彼女をこのままにしておくのは危険だ。僕たちのこともよく知っているみたいだったしね。
キール彼女は具現化された時間が違うと言っていた。たぶん、スレイたちよりも未来から具現化されたんだろう。
スレイ未来を知っている……か。オレたちと、いったい何があったんだろう。
ミリーナここが……。
レイアミリーナ !
ミリーナレイア、シゼルさん、無事でよかった。
サイモン人質に危害は加えぬ。目的を果たすまではな。アグリア、この娘が鏡士だ。
アグリアようやく来たか。待ちくたびれたぜ。おら、さっさとあたしを元の世界に戻せ。
ミリーナ元の世界へ…… ?
ミリーナ待って、誤解があるかもしれないんだけど鏡士にそんなことはできないわ。
アグリアざっけんな ! あたしらをこっちに呼んだのはお前ら鏡士なんだろうが ! ?
ミリーナ『呼んだ』のではなくて『映した』のよ。
ミリーナ具現化は、元の世界のあなたたちを鏡のようにこの世界に映しとったの。
ミリーナだから、元の世界のあなたが消えたわけじゃない。この世界にもう一人のあなたが現れたの。
アグリアな、なんだよそりゃ !じゃあ、あたしは帰れないのか…… !
ミリーナ……そうなるわね。
アグリアそんな……じゃあ、あたしはここで一生……。

Character7話【Mirage8 虚像】
アリーシャ私は……なにを……。
スレイアリーシャ。
アリーシャスレイ ! ? どうして……。
スレイあの、サイモンという天族の要求で来たんだ。導師をここに連れて来いって。
アリーシャそ、そうか……。
スレイどうしたの ? 顔色が悪いけど……。
アリーシャうっ……そ、それは……。
スレイ何か悩んでることがあるなら話してくれ。オレたちは仲間だろう。
アリーシャ…………。
アリーシャ言われたんだ、マルトランは私を憎んでいたって。
スレイマルトラン……確か、アリーシャの師匠で──
アリーシャ目標、だった。
アリーシャ師匠のようになりたいとずっと思っていた。だけど、師匠は私を憎み、嫌っていた。
アリーシャただ、王女という地位の前に膝を折り私を気遣うフリをしていただけだったんだ。
スレイそうか……サイモンは未来から具現化されたから……。
アリーシャ私は、戦争を止められなかったそうだ。そもそも味方だと思っていた師匠が対立を煽り戦争へと導いていたのだから無理な話だ。
アリーシャ私のやっていたことは無駄だったんだ。
アリーシャ別の世界に来て、そんなことを聞かされるなんて。もう何もできない ! 後悔しても手遅れなんだ !
アリーシャなにより、私は師匠に……。
スレイもう、考えなくていいんじゃないかな。
アリーシャえ……。
スレイ君はもう王女じゃない。もっと自由に、心のままに生きてもいいと思う。
スレイ怒っても泣いても、誰かを憎んだり恨んだりしても『王女のくせに』なんて言うやつはここにはいない。
スレイ新しいアリーシャがどんな人間になろうともオレは嫌いになったりなんかしないよ。
アリーシャスレイ……。
スレイ…………。
ミクリオこんなところで考えごとか。
スレイミクリオ……うん。サイモンのこと気になってさ。
ミクリオ確かに、ずいぶんとひねくれた天族だったね。
スレイなんていうかさ、すごく長い時間を生きてきたって感じがした。
スレイライラとは真逆の、もっと……こう……。
ミクリオ人間に期待をしていない。
スレイ…… !
スレイ……いや、そうかもしれない。少なくともオレに、導師という存在に思うところがあるのかなって……。
ミクリオ素直に言ったら ? 嫌われてるって。
スレイははっ……ミクリオは容赦ないな。
ミクリオ隠してても仕方ないからね。
ミクリオ幻術で人を欺き、僕たちの未来も知っている。そんな相手に油断は禁物だ。
スレイああ……。分かってるよ。
アリーシャ…………。
スレイアリーシャ ! ? どうして、ここに ! ?
ミクリオスレイ ! 様子がおかしい !
アリーシャ………… !
スレイうっ…… !
ミクリオまさか、これも幻術か ! ?
スレイ……幻術でも怪我するのかな ?
ミクリオその傷は…… ! ? だったら幻術じゃないのか ?
ミクリオアリーシャが幻を見せられているのか。それとも、アリーシャの姿をした別の何かか。
スレイどっちにしてもこのまま放っておくわけにはいかない !……ミクリオ !
ミクリオ分かってる !出来るだけ相手を傷つけずに止めよう !

Character8話【Mirage9 信念】
アグリアあああああっ ! くそっ ! くそっ !
レイアアグリア ! やめて !
アグリアうるせえ ! あたしらは帰れねーんだぞ !勝手に連れて来られて ! それなのに !
レイア気持ち、わかるよ。元の世界にやり残したこともある。
レイアでも、今を受け入れるしかないの。
アグリアそうやってあたしに説教して気分が良いか ! ?かわいそうだとでも思ってんのか ! ?
アグリアてめえのそういうとこが気持ち悪いんだよ !
レイアわ、わたしは…… !
アグリア何もねーんだよ ! こんな世界には !壊してやる。燃やしてやる……全部 ! 全部 !
レイアやめて ! そんなことしたら、あなたまで…… !
シゼル私に任せろ。
アグリアてめえ、なにしやがる ! 離せ !
シゼルとても強い炎だ。幻術ではこれを防ぐことはできない。辺りは火の海と化すだろう。
シゼルここには私の娘もいる。そんなものを放たせるわけにはいかない。
アグリア知ったこっちゃねーんだよ !燃やすって言ったら燃やすんだ !
シゼルならば、私はこの身をかけてお前を止めるだけだ。
レイアシゼルさんも、アグリアもやめて !みんな死んじゃう !
シゼル私は、とうに死んでいた人間だ。メルディのために死ねるならそれでかまわない。
アグリア死ぬ……だと…… !
シゼルなぜ止めた ?
アグリアうるさい ! 母親のくせに、死んでもいいとか言うな !てめえが、てめえみたいなやつが……一番嫌いだ !
レイアアグリア…… ?
エルレイン私を呼びつけるとは、なんのつもりだ。
サイモンなに、お前と話がしたかったのだ。誰にも邪魔されずな。
サイモン聖アタモニ教団の聖女。世界を、神の名の下に支配しようとしたお前と。
エルレイン支配というのは聞き捨てならないな。それは、私が目指す救済とは真逆の思想だ。
サイモン果たしてそうだろうか ?人間を管理し、統制するのがお前の使命なのだろう ?
サイモンしかしそれは、人間が自ら良き道へ到達できないと最初から期待をしていないということではないか ?
エルレイン…………。
サイモン弱く、醜い。
サイモン欲深く、俗悪。
サイモンそんな人間たちは、そもそも、救う価値があるのか ?
エルレインなるほど、それがお前の聞きたいことか。
サイモン異なる世界に来ても、人を救済しようとするお前はいったい人間の中に何を見ている ?
エルレイン実に、愚かな質問だ。
エルレインそうすると決めたことに、理由など必要はない。人の救済は私の存在意義だ。何も求めることなどないのだから。
エルレインむしろ、求めているのはお前であろう。
エルレインなぜ、人を試す ?何をそれほどまでに知りたがる ?
サイモン知りたいのではない。見て来たのだ。人の弱さと醜さを。
サイモンたかだか数十年ほど生きただけのお前では見ることもなかったような世界をな。
サイモン見ただろう、少しばかり異質な状況を作っただけで人は簡単にその本性をさらけ出す。鏡映点とて例外ではない。
サイモンいや、鏡映点だからこそ危うい。やつらは世界に影響を与えすぎる。
サイモン彼らが暴走しないように管理する者が必要だ。そう、神のような存在が。
サイモンだが、お前にはもうその力はない。
エルレイン確かに、この世界にフォルトゥナを降臨させるのは不可能に近いだろう。だが……。
サイモンだが、お前はすでに、ここにいる。神はおらずとも、神の意志を体現できる。
サイモン私欲を持たず、世界の安定のためにその身を捧げる指導者にして支配者だ。
エルレインそれを、私にやれというのか。
サイモンお前ほどの適任はおるまい。救済という目的にも近いと思うが。
エルレイン……ふっ。
エルレインふふ……。
サイモン何がおかしい。
エルレインすまない。お前は老獪に見えて存外、夢見がちなのだと思ってな。
エルレインそうやって、誰かの目的に寄り添うのがお前の望みか ? 生きる意味がほしいか ?
サイモンなに……。
エルレインいや、今のは戯れ言だ。忘れてくれ。
エルレイン……指導者か。それも一つの理想かもしれぬな。だが、お前は一つ大きな見落としをしている。
エルレインその点においては、長く生きたお前よりもこの私の方が多くの経験をしてきたのだろう。
サイモン私に足りない経験だと……それはなんだ。
エルレイン敗北するということだ。
エルレイン己が生涯を費やした計画が僅かな見落としや計算しきれぬ存在に潰される経験だ。
エルレイン指導者、支配者、救世主……なんでもいい。世界を思い通りにしようとする者の前には必ずといっていいほど立ちはだかる者たちがいる。
エルレインそういう者たちのことを私は愚か者だと思っていた。だが、彼らのおかげで広い視野で見ることができた今救済の道は一つではないと理解できた。
エルレイン奴らは手強いぞ。ただの少女一人と世界を天秤にかけてしまえる者もいるのだからな。

Character9話【Mirage10 消えゆく陽炎】
スレイ……わかった。アリーシャの望んでいることは……。
ミクリオスレイ ! ? 武器を捨ててどうするつもりだ ! ?
スレイでもオレたちがアリーシャと戦う必要なんてない ! !
アリーシャ………… !
ミクリオスレイッ ! !
スレイ……あれ ? 痛く……ない ?
ミクリオ幻術、だったのか。
スレイさっきの傷が消えてる。痛みもだ。
ミクリオ傷も痛みも幻術だったのか。すさまじい力だな。
スレイうん。元の世界で戦わなくてよかった。きっとお互いに無事じゃすまなかっただろうし。
ミクリオそれにしても、幻だってよくわかったな。武器まで捨てて、こっちはヒヤヒヤしたよ。
スレイいや、分かってたわけじゃないんだけどオレが隙を与えれば、あとはミクリオがアリーシャを正気に戻してくれるかなって。
ミクリオ何考えてるんだ ! それでスレイが死んだら僕はどうすればいいんだよ !
スレイご、ごめん……。
ミクリオはぁ……まったく。でも、君らしいよ。
スレイ幻が消えたってことは、中で何かあったのかな。
ミクリオ相変わらず壁は残ったままだけどね。
スレイみんな……無事でいてくれ。
アリーシャよし、悩むのはここまでだ !
スレイアリーシャ…… ?
アリーシャやはり……お前はスレイじゃない。
スレイアリーシャ、何を言ってるんだ。オレはスレイだよ。
アリーシャスレイは『王女の立場を忘れろ』なんてそんなことわざわざ言わない。
アリーシャ最初から、私のことは王女ではなくただのアリーシャと見てくれていたからな。
アリーシャ彼の目には、すべてが等しく尊いものに見えている。それは私の憧れで、同時に少し重荷でもあった。
アリーシャスレイの隣に立つために、私自身ももっとしっかりしなければといつも思っていたよ。
アリーシャだから、お前がどんな私でも嫌いにならないとそう言ってくれたのは嘘でも嬉しかった。
アリーシャだけど、私は前に進みたい。昨日よりも今日よりも、強い自分になりたい。
アリーシャそしていつか、師匠に……。
アリーシャさようなら、私の鏡。
サイモン幻術が……破られただと。
エルレインどうやら、さっそく愚か者どもにしてやられたようだな。
サイモンくっ……黙れっ !
アグリアおい、陰険女 !
サイモン何をしている……やつらを見張っていろと言ったはずだが。
アグリアどういうことだ !あたしらは元の世界に戻れないってあの鏡士の女が言ってたぞ !
サイモンそのことか……。
アグリアてめえ、最初から知ってたな。あたしを騙しやがったな !
サイモン騙すつもりなどない。私にも確証はなかったからな。
サイモンだが、鏡士ならお前の世界自体を具現化できる。お前が会いたい誰かも一緒にな。それで十分だろう。
アグリアうるせえうるせえうるせえっ !てめえがあたしの望みを決めるな !
アグリアもういい、ムカついた。ぜんぶ燃やしてやる。
サイモンちょうどいい。私も予定が狂ってしまったのでな。仕切り直しをしたいと思っていたところだ。
アグリアオラァ ! ぜんぶ燃やしちまうぞ !死にたくなけりゃ必死で逃げな !
レイアアグリア、もうやめて !
シゼル無駄だ。もう言葉は届かない。自分でも間違っているとわかっているのだ。それでも止まることができない。
レイアだったら……わたしが止めます !
アリーシャ私も手を貸そう。明日が少しでも良くなるために。ただのアリーシャは、そのためにここにいる。
レイアアリーシャ…… !うん、お願い ! !
ミリーナ彼女は、この世界で迷子のままなのね。私たち鏡士の責任よね……。
シゼルお前たち……そうか。メルディたちもこんな気持ちで私の前に立っていたのだな……。
シゼルならば、同じ想いを繰り返させるわけにはいかぬ。
エルレイン私の言った通りになっただろう、サイモン。
サイモンだから、どうだというのだ。
エルレイン……愚かな。まだ、分からないというのか。ならば私がこの手で与えてやろう。敗北という名の救済を。

Character#N/A
ロイドよし、このゲートを使えばいいんだな。コレット、コハク。二人とも準備はいいか ?
コハクうん、わたしはバッチリだよ。
コレットあっ、ロイド。ちょっと待ってね。
ロイドん ? どうしたんだ、コレット。もしかして忘れものか ?
コレットううん、そうじゃなくて。あのね、リフィル先生から頼まれていたことがあるの。
ロイド先生から ?
コレットうん、ロイドがちゃんと精霊装のことを理解してるのか、出発する前に確認しておいて欲しいって。だいじょぶだよね ?
ロイドもちろんだぜ。昨日ジーニアスからばっちり説明してもらったからな !
ロイドあれだろ、俺たちが精霊装を使えるようになる為に精霊片ってのを、この精霊片吸引器で集めて人工精霊核に『癒着』すればいいんだろ ?
コハクえっと、ロイド……。それを言うなら『固着』じゃないかな ?
ロイドそう、それ ! とにかく、今回は俺たちの属性に合った精霊片が集まるスポットが見つかったから俺たちが行くことになったんだよな ?
コハクうん、ロイドが地の精霊のノームでコレットが光の精霊のアスカ。そして、わたしが火の精霊のイフリートなんだって。
コハクでも、精霊との相性ってどうやって決まってるんだろ ?やっぱり、わたしの場合は得意な思念術とかと関係してるのかな ?
ロイドそうなんじゃないか ?コレットも光の精霊のアスカと相性がいいっていうのは、わかる気がするし……。
ロイド……待てよ。じゃあ何で俺はノームと相性がいいんだ ?
コレットきっとあれだよ。ノームの寝ている姿が授業中に寝ちゃったロイドの姿と似てるからだよ。
コハクふふっ、確かにロイドもノームもすっごく気持ちよさそうな顔で寝てるもんね。
ロイド嫌だよ、そんな理由 !もっとこう、あるだろ。俺にはノームみたいに大地を震わすすっげえパワーが秘められてたりとかさ。
コレットわかった ! きっとロイドはダイクおじさんみたいに色々作れちゃうから、あのくるくるくるって回るリボンを作ってほしいんだよ。
コハクリボン ?
コレットうん、私たちの世界のノームが付けててすっごく可愛かったんだぁ。
ロイドいや、だからあれはリボンじゃないだろ。あれはドリルだからな。ドリル。
コハクでも、わたしちょっと見てみたいかも。クラースさんが召喚してくれるノームに頼んだら付けてくれるかな ?
コレットうん、プレゼントで渡してあげたらきっと喜んでくれるよ。ね、ロイド ?
ロイドいや、俺に聞かれても……。
コハクあっ、それだったら、わたしもイフリートに何かプレゼントを渡したほうがいいよね ?力を貸してもらうんだから。
コハクそうなると、やっぱり精霊なんだから高級なミソミソとか……。あっ、でもわたしのマイミソを分けたほうが……。
ロイドおーい、話が変なほうにズレてないか ?
コレットねえ、ロイド。私もアスカに会ったら何かプレゼントしたいと思うんだけど何がいいかな ?
ロイドああ、そういや、これから向かう場所ってルカたちがアスカの目撃情報を聞いたって場所だったよな ?
コレットうん。だからね、私も今の内に何か渡すものを決めておいたほうがいいのかなって。
ロイドなぁ、コレット。俺、思うんだけどプレゼントっていうのは『何をあげるのか』じゃなくて渡す側の気持ちが大事なんじゃないか ?
コレット気持ち ?
ロイドああ、どんなものでも、コレットの気持ちが伝わればアスカも喜んでくれるし、力も貸してくれると思うぜ。
コレット……ロイド。うん、そだね。ロイドの言う通りだよ。
コレット私も、ロイドからこの首飾りを貰ったときすごく嬉しかったから。
コハクえっ、そのペンダントってロイドからのプレゼントだったんだ !
コレットそうなの。あのね、私の誕生日プレゼントにロイドが――。
ロイドあー、もう ! その話はまた今度な !とにかく、準備がいいならもう行こうぜ !
コハク……ふふ、コレット。あとでちゃんと教えてね。
コレットうん !
ロイドそんじゃあ、コレット、コハク。三人で精霊片集めに出発だ !
コレット & コハクおぉー !

Character10話【Mirage10 消えゆく陽炎】
アグリアああっ…… !
サイモンくっ……。
シゼルここまでだ。これ以上の戦いに意味は無い。
アグリア意味だと……そんなもの知るか !
ミリーナまだこんな力が残ってたの…… ! ?
シゼル違う。制御できていない。感情のまま力が溢れているのだ。
アグリアあたしは負けてねえ !あの時だって、一人だった !
アグリア一人で、あいつらの仕打ちに耐えてきた !最後はみんな燃えていなくなった !あたしがやったんだ !
アリーシャ錯乱しているのか ! ?
レイアううん、怯えてるんだよ。一人ぼっちだから。
レイアだから、わたしが…… !
アリーシャレイア ! 無茶だ !
アグリアなんだてめえ、来るなっ !あたしに触るんじゃねえ !
レイア嫌ッ ! 今度は絶対に離さない !あなたはもう誰かを傷つけなくても生きていける !
アグリアてめえなんかが、あたしに同情すんじゃねえ !そんなことされるくらいなら死んだ方がマシだ !
シゼルいい加減にしろ…… !
レイア炎が……消えた……。
シゼル言っておくが、いくら炎を呼びだそうともその度に私がかき消すぞ。
アグリアなん、で……。
シゼルお前を死なせたくないからだ。
シゼル死んだ方がマシなどと言うな。お前の母も、自分の娘がそんなことを口にすれば死ぬよりもずっとつらいはずだ。
アグリア……くそっ。どいつもこいつも……うぜーんだよ。
アリーシャ……もう、戦う意思はなさそうだな。
ミリーナええ、そうね。本当によかった……。
サイモン…………。
エルレインお前は、あの娘を救いたかったのか ?
サイモンそんなつもりはない。単に、利用しただけだ。
エルレインいいだろう。ならば、私と共に来るがいい。
サイモン私の提案を受け入れるのか ?
エルレイン私は指導者にはならぬ、私が目指す救済ではないからな。
エルレインだが、私が目的と理由を与えよう。新たなるアタモニ教団のためにお前の力を使わせてもらう。
サイモン……いいだろう。しばらくはお前に利用されてやる。
メルディおカーサン !
シゼルメルディ……。すまない。心配をかけたな。
メルディうん……メルディ、いっぱいいっぱい心配したよ。でも、また会えて嬉しいな。
アグリア…………。
シゼルああ、そうだ。メルディ、お前に紹介したい者がいる。
アグリアな、なんだよ。あたしは別に……。
メルディワイール ! はじめましてだな !メルディはメルディいうよ。名前、なんていうな ?
アグリアあ……アグリア。
メルディアグリア ! よろしくな !
アグリアお、おう……。
レイアねえ、わたしの時と態度が違いすぎない ?
アグリアうっせー、ブス !
レイアああー ! またブスって言った !
アグリア何度でも言ってやる !ブスブスブースブスブス~。
レイアもう怒ったんだから !
アルヴィンあー……中では思ったより楽しくやってたのか ?
キールこっちは、ずっと気を揉んでたっていうのに……。
スレイアリーシャ ! よかった、無事だったんだな。
アリーシャああ、おかげさまでな。スレイにはまた助けられてしまった。
スレイオレ、なにもしてないと思うけど。
アリーシャ気にしないでくれ。こっちのことだ。
イクスみんな、せっかくの休暇だったのに残念だったな。
ファラでも、まだ少しくらい時間があるんじゃない ?
リッドそうそう、ここまで来て何もせずに帰るのはちょっともったいねーよな。
メルディはいな ! メルディ、シゼルと泳ぎたいよ !
ミリーナじゃあ、ちょっとだけ遊んで帰りましょうか。ほら、イクスもっ。
イクスえ、お、俺も ? いいのかな……。
ミリーナいいからいいから、さ、行きましょっ。
ローエン若い方々は元気でいいですな。
サイモンふん、浮かれているだけだ。
エルレインお前も加わって来たらどうだ ?存外、悪くないかもしれないぞ。
サイモン笑えない冗談だ。さっさとケリュケイオンに連れて行け。
ローエンでは、参りましょう。皆さまにご紹介しなければいけませんな。
アグリアここがてめーらのアジトか。なーんか辛気くせえな。……だけど、まあ、しばらく我慢してやるか。
イクスはは……気に入ってもらえてよかったよ。
ミュゼあら、お久しぶりね♪
アグリアて、てめーまでいやがったのかよ ! !いや、ちょっと待て。てめーがいるってことは……。
ガイアスアグリア……。
アグリアへ、陛下ッ ! !おい、ブス ! ! こりゃあ一体どういうことだ ! !なんで陛下がお前たちのところにいんだよ ! !
レイアあれ、言ってなかったっけ ?
ミュゼ私たち、今じゃあとっても仲良しなのよ。もちろん、ガイアスともね。
アグリアそ……そんな。
レイアアグリア ?
アグリアう、嘘だ ! ! こんなことあるわけねー ! !……そうか、さてはあの陰険女 ! !また、あたしを嵌めようってんだな ! !
アグリアおらっ ! ! 出てきやがれ ! !あたしが全部燃やしてやる ! !
レイアちょ、アグリア ! ?やめなってばー ! !
ミュゼねえ、ガイアス。止めなくていいの ?あなたの部下だった子でしょ ?
ガイアス部下……か。
ミュゼフフッ……。それとも、今は『仲間』って言ってあげたほうがいいのかしら ?
ガイアス……ああ、そうかもしれんな。