| Character | 1話【曲目1 街の演奏会】 |
| カイウス | おーい、二人とも !こっちだぞ。早く来いよー ! |
| ルビア | もう、カイウスったら !一人でスタスタ歩かないでよ !ルキウスはまだ病み上がりなんだから。 |
| カイウス | あ…… ! そうだったな。ごめん。 |
| ルキウス | 兄さんもルビアも……。何度も言ったけどボクの体ならもうすっかり万全だって。気遣いはいらないよ。 |
| ルビア | そう言われたって、心配しちゃうわよ。リビングドール化を自力で解除するなんて無茶をしたんだもの。 |
| ルキウス | あの時は……メルクリアを助けたいって必死だったから。 |
| カイウス | ああ、メルクリアが無事に済んだのはお前のおかげだよ。 |
| ルキウス | ……ボクだけの力じゃないよ。あの場にみんながいてくれたから。ロミーには逃げられてしまったみたいだけど―― |
| カイウス | そうだな……。でも、あいつとはきっとまた決着を付ける時が必ず来る。 |
| ルキウス | ……そうだね。今は彼女のことよりも自分たちのことを考えようか。 |
| ルキウス | ルビア。ボクはこの街、初めてなんだ。案内してくれるかい。 |
| ルビア | ええ、いいわよ。ここはアーリアとティルキスお兄様が帝国の手を逃れて身を隠していた街なの。 |
| ルビア | 二人っきりの逃避行なんて、ロマンチックよね !うふふ、憧れちゃうわ〜。 |
| カイウス | ……オレたちも、昔そんな感じのことしてなかったか ? 二人でフェルンの村を出て……。 |
| ルビア | カイウスとじゃロマンチックとは言えないわよ。ほら、こっちよルキウス !向こうにお兄様たちが過ごした愛の巣があるの。 |
| ルキウス | ……それは別に見なくていいかな。 |
| カイウス | おい、ルビア ! 自分で言っといて無理にあちこち連れ回すなよな。 |
| ルビア | でも、ルキウスは療養のためにずっとアジトにこもってたのよ。 |
| ルビア | やっと外に出られるようになったんだからたくさん見て回りたいわよね。ここに来た目的は、ルキウスの気晴らしもあるんだし。 |
| カイウス | それもあるけど、第一の目的はティルキスたちが準備してる演奏会の応援だろ。忘れるなよな。まったく、ルビアはさ……。 |
| ルビア | 何よ、カイウスこそ…… ! |
| ルキウス | ……やれやれ、兄さんたちはどこに行ってもこの調子なんだね。 |
| ルキウス | ――ん ? あそこにあるポスターは……。 |
| カイウス | あれ、ルキウス ? どこ行くんだ ?勝手に走り回って迷子になるなよ ! |
| ルビア | そんな、カイウスじゃあるまいし。 |
| カイウス | オレがいつ迷子になったって言うんだよ。……子供の頃だけだろ ! |
| ルキウス | 二人とも、喧嘩はいいからこのポスターを見てよ。これ、さっき言ってた演奏会の宣伝だよね。 |
| ルビア | そうそう、これよこれ !お兄様たちが手伝ってる演奏会のポスター。この街に旅のオーケストラ楽団を招いたんだって。 |
| ルキウス | ああ、さっき街の人も噂しているのが聞こえた。この辺りじゃ有名な楽団らしいね。演奏会、かなり盛り上がりそうだ。 |
| カイウス | オレも楽しみだな !オーケストラの演奏なんて、初めて聴くよ。 |
| ルビア | でもカイウスに、オーケストラなんて高尚な音楽がわかるのかしら。 |
| カイウス | なんだよ。ルビアだって、聴いたことないだろ ? |
| ルビア | そ、それはまぁ、そうだけど……。 |
| ルビア | ルキウスはどう ? オーケストラ、聴いたことある ? |
| ルキウス | ボクは……何度か聴いたことはあるよ。教会の式典とかでね。 |
| ルビア | へぇ、そうなんだ…… !やっぱり都会のジャンナ育ちは違うわね。 |
| カイウス | どうだったんだ ? 迫力とかすごいのか ? |
| ルキウス | いや、少し聴いただけで……。綺麗だなとは思ったけど、その頃はじっくり音楽を聴くような余裕はなかったから。 |
| カイウス | ……そうか。お前はずっと、教皇の――父さんの下で異端審問官として働いてたもんな。 |
| ルキウス | うん……。あの頃のボクは、教皇様の望み通り生命の法を成功させなくちゃってそればかり考えて、必死だったからね。 |
| ルビア | ルキウス……。今度の演奏会では、ちゃんとオーケストラを楽しめるといいわね。 |
| ルキウス | あ……、うん。そうだね。楽しめたらいい、と思ってるよ。 |
| カイウス | ……そろそろ、ティルキスたちのところに行くか。演奏会がちゃんと成功するようにオレたちも応援しなくちゃ ! |
| ルキウス | ああ、そうだね。 |
| ルビア | あら ? なんだか向こうが騒がしいわ。どうしたのかしら……。 |
| ルキウス | もしかして、楽団の人たちが街に着いたのかな ? |
| カイウス | ……でも、歓迎って空気じゃないみたいだぞ。何かあったのかもしれない。行ってみよう ! |
| カイウス | うーん……、人ごみでよく見えないな。すみません、通してください ! |
| アーリア | あら、その声……。カイウスにルビア、それにルキウスも ! |
| フォレスト | ……そうか、お前たちも着いたか。どうやら間の悪い時に来てしまったな。 |
| ルビア | アーリアにフォレストさん ?こんな街外れで、何をしてるの ?演奏会の準備をしているんじゃ……。 |
| アーリア | 今は話している時間がないわ。負傷者がいるの。ルビア、治療を手伝ってくれる ? |
| ルビア | え ! ? う、うん、わかったわ ! |
| ルキウス | 楽器のケースがある……ってことはこの人たちが噂の楽団の ? |
| フォレスト | ああ。もうすぐ到着するというところで魔物の群れに襲われてしまったそうだ。 |
| フォレスト | どうにかここまで連れてこれたが……。まだ近くに魔物が残っているかもしれない。今のうちに態勢を立て直さなくては。 |
| ルキウス | ……そんな時間はないと思うよ。魔物の気配が近づいてる。もう、すぐそこだ。 |
| カイウス | くそっ、楽団の人たちを追いかけて来たんだな。これ以上、誰かを傷つけさせるか…… !返り討ちにしてやるっ ! |
| Character | 2話【曲目2 問題発生】 |
| ティルキス | ――さて。よく来たな、三人とも !最近ずっとこっちで手伝いをしていたから直接顔を合わせるのは結構久しぶりだよな。 |
| ティルキス | アジトのみんなの近況でも聞きたいところだが……今はそんな場合じゃなさそうだ。 |
| ティルキス | ひとまず、体を張って街を守ってくれたことへ街の人々に代わって礼を言わせてもらう。……助かったよ、みんな。 |
| ルビア | お礼なんていいんですよ、お兄様 ♪ |
| カイウス | ああ、見過ごせるわけないもんな。とりあえず、街の近くにいた魔物は倒したけどこれで全部片付いたのかな ? |
| フォレスト | 楽団が通ってきた北の道には魔物のねぐらになっている森があるようだが……。ひとまず、街は安全になったと見ていいだろう。 |
| ルキウス | 楽団の人たちは無事かい ?大怪我をしている人もいたみたいだけど。 |
| アーリア | 幸い、みんな命に別条はないわ。ルビアのおかげで治療も間に合ったし。ただ……。 |
| ルキウス | ただ ? |
| ティルキス | 怪我をした団員の中には、完治するまでしばらくかかりそうな人もいてな。……演奏会には出られそうにないんだ。 |
| ルビア | えっ ? ってことは……、演奏会は中止 ? |
| ティルキス | そうなるかもしれない。延期できればそうしたかったんだが楽団のスケジュールも先が埋まっているんだ。 |
| アーリア | 代わりに演奏できる人がいればいいけど……オーケストラ奏者となると、そう簡単には見つからないでしょうね。 |
| ルキウス | 足りないのは何人 ? |
| ティルキス | 三人だ。トロンボーンと、トランペット。それからマリンバだな。 |
| フォレスト | そういえば……確かティルキス様も母国センシビアで楽器を習われていましたよね ? |
| アーリア | そうだったの ?初めて聞いたわ、そんなこと。 |
| ティルキス | ああ、王族のたしなみってことであれこれ習わされたこともあったな。言っておくが、そんなに上手いわけじゃないぞ。 |
| ルビア | 楽器ができるってだけで素敵よ !それじゃあ代役の一人はお兄様で決まりかしら。 |
| ティルキス | うーん、プロに混じって演奏できる腕前でもないが他にいなけりゃ、俺がやってみるか。 |
| ティルキス | この中だと、そうだな……。トロンボーンなら……まだ何とかなりそうかな。 |
| カイウス | なんか、意外だな。ティルキスって、そういう習い事はやりたがらないと思ってた。 |
| ティルキス | 俺も最初は嫌々だったんだが続けているうちに楽しくなってきたんだよ。うまく演奏できると気持ちいいんだぜ。 |
| ティルキス | ……それにな。楽器ができるととにかく女性にモテるんだ ! 俺が証明済みだ。覚えとけよ、カイウス。 |
| カイウス | な、なんでオレに言うんだよ ! |
| アーリア | …………へぇ……、そうなの。それはとてもタメになる話ね。 |
| ルビア | あ〜らら、お兄様。今のは失言ですね。 |
| ティルキス | あ…… ! いや、あくまで昔の話だぞ !今の俺は、そんな不純なことを考えたりしない !俺には君がいるし、それに、えっと……。 |
| フォレスト | ティルキス様、そういう時は言葉を重ねるほどかえって言い訳がましく聞こえます。 |
| アーリア | ええ、その話は後でゆっくり聞かせてもらうわ。今は本題に戻りましょう。 |
| ティルキス | ……コホン。とにかく、トロンボーンは俺がやろう。あと二人をどうにかして見つけなくちゃな。 |
| ルキウス | アジトで誰かに声をかけてみたらどう ?ほら、ジョニーさんとか……。あの人ならどんな楽器でも扱えそうな感じがしたよ。 |
| カイウス | アスベルたちも楽器を弾いてたけどオーケストラって感じじゃなかったな……。確か、ヴェイグたちも何かやってなかったか ? |
| ルビア | そうそう、マーチングバンドをやってたわ !アジトでも、マオが楽しそうにトランペットを吹いてるの見たことあるもの。 |
| ティルキス | なるほど、みんなの手を借りてみるか…… ?だが、ジョニーはあちこちで演奏しているみたいだし都合よくつかまるかどうか。 |
| カイウス | そういえば、ヴェイグたちもこれから調査に出かけるって言ってたな……。 |
| ルビア | うーん……。……ねぇ、お兄様。マリンバって、あたしも練習したらできるかしら ? |
| ティルキス | えっ、ルビアがか ? どうだろうな……。やってやれないことはないかもしれないが予備知識もなしに今から練習するのは大変だぞ。 |
| ルビア | それはわかるけど……マオたちもやってみせたんだしあたしも頑張ってみたいと思うの。前からちょっと、興味あったし。 |
| カイウス | 無茶言うなよ、ルビア !お前、楽器なんてやったことないだろ。 |
| ルビア | そうよ。だからこそ、やってみなくちゃ向いてるかどうかもわからないじゃない。 |
| カイウス | そりゃ、そうだけど……。演奏会に出るんだから、遊びじゃないぞ。 |
| ルビア | 何よ、カイウスったら !あたしにはできないって言いたいわけ ?あたしはカイウスとは違うの。 |
| カイウス | なんだよ、その言い方 !ルビアにできるなら、オレにだってできるさ。 |
| ルビア | ふーん。口だけなら、なんとでも言えるわよね。 |
| カイウス | くっそー……口だけなもんか !よーし、わかった ! オレもやるぞ ! |
| ルキウス | ええ…… ? 兄さん、本気 ? |
| カイウス | ああ ! ここで引き下がれるかよ。残ってるのはトランペットだよな。絶対、ルビアより先に上手くなってやるっ ! |
| ルビア | やれるもんならやってみなさいよ ! |
| ルキウス | えっと、これで残りの二枠も埋まったけど……。本当にこれでいいの、ティルキス ? |
| ティルキス | はは……。まぁ、正直かなり不安はあるが他に手がないのも事実だからな。そこまでやる気があるなら、やってもらうか ! |
| ティルキス | 二人とも初心者だが、基本くらいなら俺が教えられる。楽団の人たちもきっと喜んで協力してくれるだろう。 |
| アーリア | でも、演奏会までに間に合うかどうかは賭けになってしまうわね……。 |
| フォレスト | 賭けてみる価値はあるだろう。子供というのは、我々が思う以上に知識や技術の吸収力が高いものだ。 |
| 二人 | 子供じゃないってば ! |
| フォレスト | あ、ああ……。そうだな、すまん。 |
| ルキウス | ……本当に大丈夫なのかな、この調子で。 |
| ルビア | あっ ! そうだ、ルキウス。せっかくだからあなたも何か習ってみたら ?演奏会に出なくても、楽しいと思うわよ。 |
| カイウス | いいかもな ! オレたちが練習している間ずっと待ってるのも暇だろ。 |
| ルキウス | 二人とも……。ありがとう、気を遣ってくれて。でも、ボクはやめておくよ。 |
| ルビア | そう ? なら、無理にとは言わないけど。 |
| ルキウス | うん。ボクのことはいいから、練習に集中して。兄さんもね。 |
| カイウス | ああ……わかった。 |
| ティルキス | カイウス、ボーッとしてる暇はないぞ。これから猛勉強に猛特訓だからな。 |
| カイウス | あ、うん。わかってるよ。……あれ ? 今、勉強って言ったか ? |
| ルビア | そうよ、当たり前でしょ。楽譜の読み方から覚えなくちゃいけないもの。 |
| カイウス | うっ……そうか、勉強……。 |
| カイウス | ……ええい、やってやる !ルビアには絶対負けられないからな ! |
| Character | 3話【曲目3 さらなる問題】 |
| カイウス | ぶーっ…… ♪うーん、なんかダメだな。ぶぶーっ…… ♪ |
| ルビア | カイウス、さっきから変な音しか出てないわよ。まだちゃんと吹けてないのね。 |
| ルビア | あたしはだんだんコツがつかめてきたのに。ほら、ポロンポロン……っと ! |
| ルキウス | へえ、ルビアのマリンバは綺麗な音だね。まだ始めて数日なのに、すごいじゃないか。 |
| ルビア | うふふ、自分の才能が怖いわ !本番までには、もっと練習が必要だけどカイウスとの勝負は決まったようなもんね。 |
| カイウス | くっそー、仕方ないだろ !トランペット奏者の人はまだ寝込んでて吹き方をちゃんと教われなかったんだよ。 |
| ルビア | それは、残念だけど……。無理に起こすわけにはいかないしカイウスが自分でコツをつかむしかないわよ。 |
| ティルキス | しっかり練習を続ければ、きっとわかってくるさ !俺はこれからちょっと用があるから今日はこのまま、二人で続けていてくれ。 |
| ルビア | あら ? お兄様は練習しないの ? |
| ティルキス | 後でちゃんとやるよ。街の外へ偵察に行ったアーリアたちが、そろそろ戻る頃だからな。まずは二人の報告を聞かないと。 |
| カイウス | もし、また魔物が街を襲ってきたら演奏会どころじゃなくなるもんな……。オレたちも手伝わなくて大丈夫か ? |
| ティルキス | ああ、魔物のことはこっちに任せておけ。お前たちは楽器の練習を頑張れよ ! |
| ルビア | ……お兄様、なんだか忙しそうね。 |
| カイウス | 演奏会のことも、魔物のことも引き受けて……。この街でなんでも屋さんをやってた名残なんだろうけど本当にみんなから頼られてるよな。 |
| ルキウス | ティルキスって、一国の王子にしては奔放な性格だと思っていたけど人を束ねる資質があるのは確かみたいだね。 |
| カイウス | ああ。一緒に旅している時もオレたちを引っ張ってくれたことが何度もあったよ。 |
| ルビア | 黒の森で出会った時から助けられっぱなしよね。あたしたち二人だけだったらずっとあの森から出られなかったかも。 |
| カイウス | い、嫌なこと言うなよ ! ルビア ! |
| ルキウス | へぇ……。ルビアが「お兄様」って呼ぶのはそれだけ頼りにしてるってことなんだね。 |
| ルビア | まぁ、それは話せば長いんだけど……。実のお兄さんみたいに頼りにしてるのは確かね。 |
| カイウス | オレもティルキスみたいに人から頼られる人間になりたいと思うよ。 |
| ルビア | ……あたしは、カイウスのことも結構頼りにしてるつもりだけどね。 |
| カイウス | ん ? なんか言ったか、ルビア。 |
| ルビア | なんでもないわよ。さ、練習しましょ !お兄様のためにも、演奏会を成功させなくちゃ。 |
| カイウス | ああ、そうだな。街の人たちの期待に応えるためにも ! |
| カイウス | ……ぷひゅぅーっ ♪ |
| ルビア | ぷっ……あはは !ちょっとカイウス、笑わせないでよぉっ。こっちが練習にならないじゃない。 |
| カイウス | うっ、うるさいな !わざとやってるわけじゃないんだってば。 |
| カイウス | うーん……、何がいけないんだろう ?本に書かれた通りにやってるつもりなんだけどな。 |
| ルキウス | …………。 |
| ルキウス | 兄さん、ちょっといいかい ? |
| カイウス | ん ? どうしたんだ ? |
| ルキウス | この何日か、練習を見ていて兄さんの問題がわかった気がするんだ。 |
| ルキウス | きっと、吹く息が強すぎるんだよ。特に高い音を出そうとする時、必要以上に力が入っている気がする。 |
| カイウス | 息が強すぎ、か……。言われてみれば、確かにそうかも。どうしても力が入っちゃうんだよな。 |
| ルキウス | 姿勢がよくないのかもしれないね。肩の力を抜いて、リラックスして自然な感じで息を吹いてみたらどう ? |
| カイウス | リラックス……自然に、だな。よし、やってみるぞ。 |
| カイウス | ……パァーッ ♪ |
| ルビア | わっ ! カイウス、綺麗な音が出てるわよ。やるじゃない ! |
| カイウス | ああ……、すごい !ちゃんと音が出せるって気持ちいいな ! |
| カイウス | ありがとな、ルキウス !お前のアドバイスのおかげだ。 |
| ルキウス | 思ったことを言っただけだよ。ちゃんと改善できたのは兄さん自身だろ。 |
| ルビア | でも、びっくりしちゃったわ。見てただけで問題を言い当てるなんて。もしかして、トランペットを吹いたことあるの ? |
| ルキウス | えっ ? いや、一度もないけど……。 |
| カイウス | なのに、あんな的確なアドバイスができたのか ?お前やっぱりすごいじゃないか。 |
| ルキウス | ……別に、すごくなんかないよ。教会の式典やなんかで、オーケストラの演奏を見たことがあるって言っただろ。 |
| ルキウス | その時のトランペットの演奏を思い出して兄さんとの違いを考えてみただけさ。 |
| ルビア | ……さらっと言ってるけど、普通はそんなことなかなか気づかないと思うわよ。 |
| ルビア | ルキウス、もしかして音楽の才能あるんじゃない ?カイウスとは違って。 |
| カイウス | ……一言余計だぞ、ルビア。 |
| カイウス | でも、確かに言う通りかもしれないな。……なぁ、ルキウス。やっぱり、お前も楽器やってみないか ? |
| ルキウス | えっ…… ? |
| カイウス | さっき、お前のおかげでいい音が出せた時……すごくワクワクして楽しい気持ちになったんだ。お前にも、この気分を味わってほしいと思ってさ。 |
| ルキウス | ボクは……やっぱり、いいよ。見ているだけで十分だから。 |
| カイウス | ……そうか ? でも……。 |
| ルビア | カイウス、本人がいいって言ってるんだから無理強いしちゃダメよ。 |
| カイウス | ……あ、うん。そうだな。それじゃ、もしまた何かアドバイスがあったら遠慮なく言ってくれよ。 |
| ルキウス | そうさせてもらうよ、兄さん。 |
| ルビア | ねぇねぇ、ルキウス。あたしのマリンバにも何かアドバイスある ? |
| ルキウス | ルビアは、ちょっと雑……かな。 |
| ルビア | ざ、雑っ ! ? |
| カイウス | あははは ! 人のこと笑っといてルビアだってまだまだじゃないかよ。 |
| ルキウス | ごめん……、言い方が悪かったかな。ちょっとリズムがバラついてる気がしたんだ。楽団の演奏と比べると、緩急が荒いっていうか。 |
| ルビア | うーん、そう言われてみればそうかも。……カイウス、ちょっと一緒に演奏してみましょ。ルキウスにリズムをとってもらって。 |
| ルキウス | え、ボクが ? まぁ、いいけど……。 |
| カイウス | わかった。それじゃ、三人一緒にだな。せーの―― |
| ティルキス | 三人とも、揃ってるか ?練習を邪魔して悪いが、緊急事態だ。 |
| ルビア | お兄様 ! アーリアにフォレストさんも。どうしたの、いきなり……。 |
| カイウス | まさか、また魔物が街を襲ってきたのか ! ? |
| フォレスト | いや、魔物たちには今のところ大きな動きはないままだ。 |
| ルキウス | それじゃ、何をそんなに慌ててるんだ ? |
| アーリア | 午後からオーケストラの練習があるはずだったんだけど……。指揮者さんの姿が、どこにも見当たらないの。 |
| ティルキス | 街中を捜索してみたが、成果なしだ。つまり、行方不明になってしまった。 |
| ルビア | えっ ! ? 嘘っ…… ! |
| Character | 4話【曲目4 指揮者代理】 |
| カイウス | 一体どういうことなんだ ?指揮者さんが行方不明って…… ! |
| ティルキス | 言葉通りだよ。朝からみんなで捜していたそうだがどこにもいないんだ。書き置きも何もない……。 |
| ルビア | 何があったのかしら……。昨日まで楽団のみんなと一緒に練習してたのに。まさか、魔物に襲われて―― |
| フォレスト | それは考えにくいだろう。魔物が街に入ったような痕跡は見つからなかった。 |
| アーリア | 手がかりと言えるかわからないけど……街に着いてから、彼が何か悩んでいるみたいだった……って話を楽団の人に聞いたわ。 |
| ルキウス | 何を悩んでいたのかはともかく自分から身を隠したっていう可能性もあるね。借金取りにでも追われていたとか ? |
| ティルキス | とにかく、今は捜索を続けるしかない。街の中から外まで、もう一度徹底的に調べるんだ。フォレスト、みんなに指示を頼めるか ? |
| フォレスト | お任せください、ティルキス様。 |
| ティルキス | アーリアも一緒に捜索を手伝ってくれ。俺は演奏会の方を何とかする。 |
| アーリア | ええ、わかったわ。 |
| ルビア | こんなにトラブル続きでちゃんと演奏会ができるのかしら……。 |
| ティルキス | なーに、どうにかしてみせるさ !楽しみにしてる人たちがいるんだ。 |
| ルビア | お兄様……、そうですね。一緒に頑張りましょ ! |
| ティルキス | ああ。こっちは指揮者の代役を見つけないとな。でないとオーケストラの練習ができない。あ、俺のトロンボーンも後で練習しなくちゃ……。 |
| アーリア | ティルキス……、そんなに忙しくして大丈夫 ?せめて楽器の演奏は他の誰かに任せたらどうかしら。あれもこれも同時にはできないわ。 |
| ティルキス | 心配させて悪いな、アーリア。でも、俺なら大丈夫さ ! 引き受けたことは最後までやりきってみせる。 |
| アーリア | そう言うのなら、止めないけど……。体を壊さないように気をつけて。 |
| ティルキス | ありがとう。君もな。 |
| カイウス | うーん……指揮者指揮者の代役、か……。 |
| ルビア | ウンウン唸ってどうしたの、カイウス ?考え込むなんて、らしくないわよ。 |
| カイウス | ……ちょっと思いついたことがあるんだ。指揮者って、オーケストラの前に立ってみんなの演奏を監督するんだろ ? |
| ティルキス | ああ。指揮棒を振ってリズムをとりながら全員に指示を出して、演奏をコントロールする。オーケストラの要になる役割だ。 |
| カイウス | ……だよな。それでオレ、思ったんだけど――指揮者の代役、ルキウスがやってみたらどうかな ? |
| ルキウス | えっ ! ? き、急に何を言い出すのさ…… !指揮なんて、ボクは全然わからないよ。 |
| ティルキス | ルキウスの言う通り、オーケストラの指揮は素人がいきなりできるものじゃないぞ。 |
| カイウス | ああ、無茶な思いつきだってことはわかってる。でも、他にできる人がいないなら試してみる価値はあると思うんだよ。 |
| ティルキス | ふむ……。そこまで言うからには何か根拠があるんだよな ? |
| カイウス | ああ。さっき、ルキウスがオレにトランペットのアドバイスをしてくれたんだ。すごく的確で、オレの演奏の欠点を見抜いてた。 |
| ルビア | あたしも、いいアドバイスをもらったわ。言われてみれば、そうやって自分じゃ気づけないことを見抜けるのって、指揮者っぽい気がするわね。 |
| ティルキス | なるほど……。確かに、指揮者はオーケストラ全体を見てみんなの演奏を把握する目が必要だな。 |
| カイウス | ……それにオレ、ルキウスはそうやってみんなを監督して上手く導くようなことが得意なんだと思うんだ。 |
| ルキウス | そんなこと……どうして兄さんにわかるんだよ。兄弟だからって、それほど長い時間を過ごしてきたわけじゃないだろう。 |
| カイウス | ああ、確かになんでも知ってるわけじゃない。でも、オレは国王を倒した後のアレウーラでお前が教会を立て直してきたことは知ってる。 |
| カイウス | リカンツ狩りもやめさせて、歪んだ組織を正したんだ。そんなこと、オレにだって他の誰にだってできなかったと思う。 |
| ルキウス | ボク一人でできたわけじゃないよ。アーリアや、同じ考えの人が大勢いたんだ。ボクはただ教皇の息子として、旗を振っただけさ。 |
| アーリア | ルキウス。旗を振ることだって誰にでもできるわけじゃないわ。あなたに人を導く力があるのは確かだと、わたしも思う。 |
| ルキウス | アーリアまで、そんなこと……。 |
| アーリア | もちろん、だからといってオーケストラの指揮ができるかとは言わないけれど……。 |
| ルビア | そうね……。たとえ、才能があったとしても全くの未経験なんだし。 |
| カイウス | だけど、オレたちだって未経験だぞ。オレたちにできるなら、ルキウスにだってできてもおかしくないじゃないか ! |
| ルキウス | ボクは、兄さんたちとは違うよ。ボクには……。 |
| フォレスト | ……このままでは押し問答ですね。どうしますか、ティルキス様 ? |
| ティルキス | そうだなぁ……難しいところだが練習をしないわけにはいかないし……。 |
| ティルキス | ……よし、決めた !ルキウス。試しに一度だけ、楽団の前で指揮棒を振ってみてくれないか。 |
| ルキウス | えっ…… ! ? ティルキスまでそんな……。ボクは指揮棒の振り方も知らないんだよ。 |
| ティルキス | 基本的なやり方は、楽団にもわかる人がいるから教えてもらえばいい。もし団員たちのお眼鏡に適ったらその時、改めてどうするか考えようじゃないか。 |
| ルキウス | ……わかった。やるだけやってみよう。ボクだって、役に立てるなら立ちたいから。無理だとは思うけど……。 |
| ティルキス | 決まりだな !それじゃ、楽団のみんなを呼んでくるぞ。 |
| フォレスト | ティルキス様、私たちはそろそろ失踪した指揮者の捜索に出発します。 |
| ティルキス | ああ、頼む。俺も練習が一段落したらそっちに行くつもりだ。 |
| アーリア | ティルキス、無理しなくていいのに……。 |
| ルキウス | ……ふぅ。とりあえず、教わった通りに指揮棒を振ってみたよ。こんな感じでよかったのかな……。 |
| カイウス | カッコよかったぞ、ルキウス !本物の指揮者みたいだった。 |
| ルキウス | ただの見様見真似だよ。あれで楽団の人たちが納得するとは―― |
| ティルキス | ……楽団のみんなに意見を聞いてきた。合格だぞ、ルキウス。 |
| ルキウス | えっ、本当に…… ? |
| ティルキス | もちろん、本番に出るにはまだまだ知識も練習も足りないがな。素人にしてはかなり筋がいいとの評価だ。 |
| ティルキス | 初めてでこれだけ振れるなら練習を続けるには十分だろうってさ。 |
| ルビア | プロの演奏家にそこまで言わせるなんてすごいじゃない、ルキウス !やっぱりあたしが見込んだ通りね。 |
| カイウス | おい ! ルビアの手柄みたいに言うなよ。オレが最初に勧めたんだぞ。 |
| ティルキス | ……で、どうする ? ルキウス。お前がやりたくないなら無理にとは言わない。大変なことには違いないからな。 |
| ルキウス | …………。 |
| ルキウス | わかった、やってみるよ。ボクが街のみんなの助けになれるなら。 |
| ティルキス | そうか ! ありがとな、ルキウス。よーし、それじゃあ練習を再開するぞ ! |
| ルビア | これで、四人とも晴れてオーケストラの一員ね。よろしくね、指揮者さん ! |
| カイウス | 一緒に頑張ろうな、ルキウス ! |
| ルキウス | うん。引き受けたからには最大限の努力をするつもりだよ。 |
| ルキウス | というわけで……、練習の前に言っておくけど。兄さん、さっきも言った通り音を安定させてね。ルビアは指揮をよく見ること。 |
| 二人 | は、はいっ ! |
| ティルキス | ははは、早速厳しいな。それぐらいの方が頼れるってもんだ。 |
| ルキウス | ティルキスも、まだ音程が不安定だよ。 |
| ティルキス | 何っ ! ? お、俺もか。はい、わかりました……。 |
| Character | 5話【曲目5 それぞれの故郷】 |
| カイウス | パーパパパーッ ♪……ん ? 何かおかしいな。 |
| ティルキス | カイウス、そこはトロンボーンのパートだぞ。俺の見せ場なんだから頼むぜ。 |
| カイウス | あ、しまった……。楽譜ってややこしくてさ。 |
| ルビア | しっかりしなさいよね。……まぁ、あたしもさっき少し間違えちゃったけど。 |
| ルキウス | 二人とも、ボクの指揮をもっとよく見て。譜面ばかり見ていると上手くいかないよ。 |
| カイウス | わ、わかってるんだけど……。トランペットを吹いて、譜面を見て指揮も見て頭が全然追いつかないんだ ! |
| ルキウス | ……いったん休憩にしようか。ルビアと兄さんは、しばらく個人練習をした方がよさそうだね。ボクも少し譜面を読み直すから。 |
| ルビア | わかったわ……。ルキウスの足を引っ張らないようにあたしたちも頑張るわよ、カイウス ! |
| カイウス | ああ。やるっていったからにはちゃんとしないとな…… ! |
| ルキウス | ……二人とも、元気だな。ボクは……本当にこのままでいいんだろうか。 |
| ティルキス | まだまだ前途多難か……。さて、俺ももっと練習しとかないとな。 |
| フォレスト | ティルキス様、ただいま戻りました。 |
| ティルキス | ああ。二人とも、お疲れ様。報告を頼む。 |
| フォレスト | 昨日から夜を徹して捜しましたが街の周辺にはいないようですね。午後はさらに捜索範囲を広げてみます。 |
| アーリア | 街の中にも、指揮者さんの姿はなかったわ。宿を出て門の方に向かうところを見た人がいるからやっぱり外を捜した方がいいわね。 |
| ティルキス | わかった、ありがとう。……しかし、なんでまた彼はわざわざ危険のある街の外にいったんだ ? |
| フォレスト | 今のところはっきりしませんね。思い悩んでいたという話が本当なら自暴自棄にでもなったのか……。 |
| フォレスト | 何にしても、とにかく彼を見つけなければ……。理由など後からいくらでも聞けるでしょう。 |
| ティルキス | そうだな。引き続き捜索を頼むよ。 |
| ティルキス | ……悪いな、二人に任せきりにしてしまって。俺も捜索に行きたかったが、演奏会の打ち合わせが遅くまで長引いてな……。 |
| アーリア | わたしたちなら平気よ、気にしないで。それより……こっちは大丈夫なの ? |
| ティルキス | カイウスたちのことか ?苦戦はしてるみたいだが、きっと大丈夫さ。三人とも頑張ってるからな。 |
| アーリア | ……それはよかったわ。ルキウスも大変ね。急に指揮だなんて。 |
| ティルキス | ああ、さすがにまだぎこちないな。だが、楽団の人たちも熱心に教えているしあいつもどんどん吸収してるよ。 |
| フォレスト | ルキウスが間をつないでいるうちに我々は早く本来の指揮者を見つけなければなりませんね。 |
| アーリア | ……なんだか不思議な感じだわ。ルキウスが教会の異端審問官だった頃は彼が楽団を指揮する姿なんて想像もつかなかった。 |
| ティルキス | 本人もまだ戸惑っているんじゃないかな。カイウスやルビアと一緒に練習していればそのうち馴染めると思うが……。 |
| アーリア | …………。 |
| アーリア | あのね、ティルキス。三人のことも気になってはいたけど最初に聞こうとしたのはそのことじゃないの。 |
| ティルキス | え ? ああ、もしかして……「大丈夫 ? 」ってのは俺の話だったのか。 |
| アーリア | そうよ。あなた、どう見ても無理をしているもの。演奏会の準備を始めてから、手当たり次第に仕事を抱え込んでいるじゃない。 |
| アーリア | まさかとは思うけど、ティルキス……。わざと忙しくなるようにしているの ? |
| ティルキス | アーリア……。やっぱり、君に隠し事はできないな。 |
| フォレスト | 本当ですか、ティルキス様 ?どうしてそんなことを……。何か悩んでおられるのですか。 |
| ティルキス | 悩みなんて大層なものじゃない。ただ……、この頃やけにセンシビアのことを考えてしまってな。 |
| アーリア | あなたの故郷のこと…… ? |
| ティルキス | ああ。この世界にはアレウーラの影響はあるがセンシビアの面影はほとんどないだろ ? |
| フォレスト | そのようですね。確か、この地域の具現化には鏡映点であるカイウスやルビアたちの記憶が色濃く出ているとか……。 |
| アーリア | 彼らはアレウーラで生まれ育ったものね。 |
| ティルキス | 言っておくが、別に寂しいとかじゃないんだ。勝手に城を飛び出したり、国を出たりなんてしょっちゅうだったしな。 |
| フォレスト | ええ、よく知っています。私も苦労させられましたからね。 |
| ティルキス | はは、その節は振り回して悪かったな。……まぁ、それでもやっぱりセンシビアは俺にとって、いつか帰る場所だったんだ。 |
| ティルキス | それがこうも突然なくなるとな……。アーリアと二人でこの街に隠れていた頃はそんなことを考える暇もなかったんだが。 |
| アーリア | あの頃は、日々の暮らしに必死だったものね。 |
| ティルキス | ……だが今は仲間も増えて、手が空くこともある。そうしたら、だんだん気付いてしまったんだよ。 |
| ティルキス | 当たり前にあると思っていた場所がなくなってしまうっていうのは……こんなに落ち着かない気分なんだなってさ。 |
| アーリア | だから、あれこれ引き受けて前みたいに忙しくしたかったのね。その気持ちを忘れたくて……。 |
| ティルキス | 忘れるというか、振り切ってしまいたかったのかな。忙しく走り回っていれば気が紛れるだろうって。 |
| フォレスト | ティルキス様……。お気持ちはよくわかります。私にとっても、センシビアは第二の故郷ですから。 |
| ティルキス | ありがとう、フォレスト。いつまでもこんな調子じゃいけないとわかっちゃいるんだがな。 |
| アーリア | ……ティルキス。失った故郷を思うことは悪いことじゃないわ。 |
| アーリア | わたしもセンシビアには心残りがたくさんある。あなたの故郷をもっと知りたかったしお父様とも、もっと話してみたかった。 |
| ティルキス | ははは、それを聞いたら親父は喜んだだろうな。アーリアのこと、本当に気に入っていたから。 |
| アーリア | ……でもね、これだけは言わせて欲しいの。たとえ具現化されなくても、あなたの故郷がこの世界に存在しないわけじゃないわ。 |
| ティルキス | ? どういう意味だ ? |
| アーリア | センシビアの記憶はこの世界にもちゃんとある。あなたの中にも、わたしやフォレストさんの中にも。それがある限り、センシビアはなくならないもの。 |
| ティルキス | センシビアの記憶か……そうだな。俺の中のセンシビアを、なくしたくはない。 |
| アーリア | それにね、ティルキス。わたしたちはここで新しい故郷を作ることもできると思う。 |
| アーリア | ……わたしは人生で二度、故郷を捨てたわ。生まれ故郷のアデルハビッツを捨てて身を寄せた教会とも、一度は決別した。 |
| アーリア | だけど、今のわたしにはまた故郷と呼べるものがある。それはあなたがいて、カイウスやみんなのいる場所。わたしが心から信じられる人たちのいる場所よ。 |
| ティルキス | アーリア……。そんな風に思ってくれていたのか。 |
| アーリア | ええ、この街で暮らしていた時からね。きっとここもそんな場所の一つになるわ。わたし、この街の人たちが大好きだもの。 |
| ティルキス | そうだな。ここでもたくさん思い出ができた。 |
| ティルキス | 新しい故郷か……。ありがとう、アーリア。霧が晴れたような気分だよ。 |
| アーリア | あ……、ごめんなさい。わたし、つい一人で色々話しちゃったわね。 |
| ティルキス | いや、俺こそ一人で抱え込んで悪かった。もっと早く君に相談していればよかったな。 |
| アーリア | 気にしないで。わたしも、あなたにたくさん助けられてきたわ。 |
| ティルキス | いやいや、俺の方が絶対に多く助けられてるさ。君がいなかったら、本当に生きていけたかわからないよ。 |
| アーリア | ティルキスったら……。 |
| フォレスト | …………。コホン。 |
| ティルキス | あっ ! いや、お前がいるのを忘れてたわけじゃないぞ、フォレスト !……ええと、何の話だった ? |
| フォレスト | ティルキス様は働きすぎだという話です。指揮者の捜索と魔物の対処については私たち二人に一任してください。 |
| アーリア | え、ええ ! そうね。その話よ。あなたは演奏会に集中して、休む時間を作って。 |
| ティルキス | わかった、そうするよ。 |
| アーリア | それじゃ、わたしたちはまた捜索に戻るわ。そう、サクッと指揮者さんを見つけてみせるから。 |
| ティルキス | …………。 |
| アーリア | あら ? わからなかった ?そう、サクッと捜索を……。 |
| ティルキス | あ、ああ、わかってるさ。俺を元気付けようとしてくれたんだよな。もう大丈夫 ! 気をつけてな、アーリア。 |
| アーリア | え ? わたしは面白いと思って……。だって、捜索の「そう」と「さく」を―― |
| フォレスト | ……アーリア。もう、何も言うな。 |
| Character | 6話【曲目6 胸中】 |
| ルビア | ふ〜っ……。今日もたっぷり練習して疲れちゃった。ちょっと気分転換でもしようかしら。 |
| ルビア | ……それにしても、いたるところに演奏会のポスターが貼られてるのね。期待されてるのは嬉しいけどちょっとプレッシャー感じちゃう。 |
| ルビア | カイウスはともかく、ルキウスは緊張したりしてないかしら ? 指揮の勉強、大変みたいだし……。 |
| ルビア | ……あら ?あそこにいるの……ルキウス ?噂をすればね。 |
| ルキウス | …………。 |
| ルビア | ……ねぇ、ルキウス !こんなところで何をしてるの ?あなたも散歩 ? |
| ルキウス | えっ ? ああ、ルビア……。いや、ちょっと風に当たりたくてね。 |
| ルビア | ふうん……。もしかして、何か考え事でもしてる ?お邪魔だったかしら。 |
| ルキウス | 別にいいよ、大したことじゃないから。ただ、当たり前のことを考えていただけさ。 |
| ルビア | 当たり前のこと ? |
| ルキウス | みんなの前でオーケストラの指揮なんてやっぱりボクには向いてないんだ、ってことだよ。 |
| ルビア | えっ ? そんなことないと思うけど……。初めてなのに、上手くやってるじゃない。 |
| ルビア | 楽団の人たちも褒めていたわよ。あたしとカイウスなんて、間違えないようにするだけで精一杯なのに。 |
| ルキウス | 認めてもらえたのは嬉しいよ。でも、引っかかってるのは技術じゃなくてボク自身の問題なんだ。 |
| ルキウス | ……自分で練習に参加してみて、気付いたのさ。オーケストラを成功させるにはみんなが一丸になってなくちゃいけない。 |
| ルビア | みんなに合わせるのは、あたしもできてないわ。まだテンポがズレちゃうもの。 |
| ルキウス | テンポじゃなく、気持ちの問題だよ。指揮をしていると感じるんだ。カイウスも楽団のみんなも、気持ちが一つなのを。 |
| ルキウス | だけど、指揮台に立ったボクだけがみんなの演奏に溶け込めなくて浮いてしまっている。それじゃダメなんだよ……。 |
| ルビア | うーん、なんだか難しいことで悩んでるのね……。才能があるっていうのも大変なのかしら。 |
| ルビア | あなたがカイウスに言ったみたいにちょっと肩の力を抜いてみたらどう ?深く考えずに、音楽を楽しんでみるの。 |
| ルキウス | 音楽を楽しむ……。そこなんだよ、問題は。 |
| ルビア | えっ ? |
| ルキウス | 前に言っただろう。昔、オーケストラを聴いた時ボクには楽しむ余裕がなかったって。 |
| ルキウス | ボクはきっと、今もあの頃のままなんだ。素晴らしい曲を一緒に演奏していてもボクはただ、教わった通りに指揮棒を振っているだけ。 |
| ルキウス | カイウスやルビアは、たとえ失敗しても音楽を楽しんでいるのが伝わるんだ。でも、ボクは……どうしてもそんな気持ちになれない。 |
| ルビア | ルキウス……、そっか。あなたが何を悩んでるのかはわかったわ。だったら、一緒に考えましょ。 |
| ルビア | どうすれば、音楽を楽しめるようになるか !一人より二人の方がきっと答えが見つかりやすいわよ。原因に心当たりはあるの ? |
| ルキウス | ルビア……。うん、原因はわかっているんだ。 |
| ルキウス | ……ボクは、手を汚し過ぎたのさ。ずっと教会のリカンツ狩りに加担して多くの同族が苦しむのを見過ごしてきた。 |
| ルキウス | そんな人間が今さら、無邪気に音楽を楽しむなんて許されるわけがないと思うんだよ。 |
| ルビア | そんな……。でも、ずっとそんな気持ちでいたら何をしたって楽しくないじゃない ? |
| ルキウス | ……そうだね。だけど、それでいいんだ。昔、ルビアにも言ったことがあるだろう。「ボクはカイウスの影」だって―― |
| ルビア | ええ、覚えてるわよ。ルキウスがあたしを人質にしてた時……。……あ、ごめん。 |
| ルキウス | いいんだ。ボクがしたことだから。 |
| ルキウス | ……仮面を外しても、ボクはあの時と別の人間になれたわけじゃない。 |
| ルキウス | 光の中をまっすぐ生きてきた兄さんが表ならボクはやっぱり裏の存在……。人前で音楽を演奏できるような人間じゃないのさ。 |
| ルビア | ……ねえ、ルキウス。あなたの気持ちはわかったわ。 |
| ルビア | だけど、あなたはスポットに巣食われてしまったお父さんの言いなりだったんだもの。それを全部一人で背負わなくてもいいと思うの。 |
| ルキウス | 言いなり…… ? いや、そうじゃない。ボクは自分が何をしているかわかっていたよ。 |
| ルキウス | 教皇様――父さんの目的は生命の法を成就させて、レイモーンの民や……母さんを蘇らせることだった。 |
| ルキウス | ボクは、それが正しいことだって信じたんだ。そのためには、どんなことも仕方がないってずっと自分に言い聞かせて…… ! |
| ルビア | 本当に悪い奴は、そうやって自分に言い聞かせたりしないと思うわよ。あのロミーみたいにね。 |
| ルビア | あたし、覚えてるもの……。異端審問官だった時も、教会のしていることが本当に正しいのかってルキウスが迷っていたこと。 |
| ルキウス | ……どうして、君はそんなにボクをかばえるんだ ?ボクは君のことだって利用していたじゃないか。 |
| ルキウス | 君のご両親を殺したのがロミーだってことも本当は最初から察していたんだ。だけど、知らないふりをして君を騙した。 |
| ルビア | …………。 |
| ルキウス | ……ルビア。ボクは確かに、ロミーのような本当の悪にはならずに済んだかもしれない。 |
| ルキウス | だけど、それで過去の悪事が消えるわけはないんだ。ボクは今も……、卑怯な罪人のままだ。 |
| ルビア | ルキウス…………。 |
| ルビア | …………あたしもね。昔のことを忘れたわけじゃないわよ。 |
| ルビア | お父さんとお母さんを殺されて。それをカイウスのお父さんのせいだなんて嘘をつかれて……。 |
| ルビア | あのどうしようもない気持ちは今でも時々、思い出しちゃったりするわ。 |
| ルキウス | …………。 |
| ルビア | だけど本当の犯人であるロミーを元の世界で倒した時に、手伝ってくれたのはあなたでしょ、ルキウス。 |
| ルビア | あの時だけじゃないわ。こっちの世界に来てからも、たくさんたくさんあたしとカイウスを助けてくれたじゃない。 |
| ルキウス | ……ボクを、許してくれるのか ? |
| ルビア | 許すも何も……。ルキウスって、本当にカイウスそっくりなんだもの。その顔見てたら恨むなんて気も起きないわよ ! |
| ルキウス | はは……。そりゃあ、双子だからね。顔がそっくりなのは当たり前さ。 |
| ルビア | あら、顔だけじゃないわ。あたしから見れば性格もよく似てるわよ。強がりで、変なところで頑固で、子供っぽくて。 |
| ルキウス | ……ボクは子供じゃないよ。 |
| ルビア | ほら、カイウスと全く同じこと言ってる !なんだか面白いわね。 |
| ルキウス | …………ルビア。ありがとう。 |
| ルビア | どういたしまして。少しは気が晴れた ? |
| ルキウス | ああ、少しはね。ボクもいつか君のように、ボクを許せるといいな。今はまだできそうもないけど……。 |
| ルビア | できるわよ、きっと。 |
| ルキウス | ……そう願ってる。……それじゃあ、ボクはそろそろ宿に戻るよ。また明日、練習で会おう。 |
| ルビア | うん、わかったわ。また明日 ! |
| ルビア | …………。……カイウス、頭のてっぺんが見えてるわよ。 |
| カイウス | あっ ! |
| カイウス | ……あの、その。別にオレは、隠れて盗み聞きとかそういうつもりじゃなかったんだ ! |
| ルビア | そんなの、わかってるわ。カイウスにそんな器用なことできるわけないもの。 |
| カイウス | オレ……。一緒にルキウスと話したかったんだけどあいつに何を言えばいいか、わからなくてさ。 |
| ルビア | ……それで、ここでじっとしてたわけね。本当に子供なんだから。 |
| カイウス | う……今は何も言い返せないな。あいつの悩みを聞いてくれてありがとう、ルビア。 |
| ルビア | 別に、カイウスにお礼を言われる筋合いはないわよ。カイウスの弟なら、あたしにとっても弟みたいなものでしょ。 |
| カイウス | ん ? それって、どういう―― |
| ルビア | ――あ、別に深い意味はないから ! !とにかく、もっとしっかりしなさいよね。 |
| ルビア | あんたはお兄さんなんだからルキウスに言いたいことがあるならちゃんと自分で考えて、自分で伝えなきゃ。 |
| ルビア | あたしも自分の気持ちは伝えたけど……多分、本当にルキウスの心を開いてあげられるのは、カイウスだけだと思うから。 |
| カイウス | ルビア……、わかったよ。オレ、考えてみる。あいつのために。 |
| カイウス | (……そうだ。ちゃんと考えなくちゃ。元の世界であいつが倒れた時の言葉を今でもオレは覚えてる) |
| カイウス | (どうしてボクのことをわかってくれなかったんだ――って。オレは今度こそ、あいつのことをわかってやりたい……) |
| Character | 7話【曲目7 指揮者の行方】 |
| カイウス | ふわぁ……。こんな朝から集合なんて、どうしたんだ ?考え事をしてたせいで眠くて……。 |
| ルビア | シャキッとしなさいよ、カイウス !全員集合ってことは何かあったんでしょ ? |
| ティルキス | ああ、失踪していた指揮者の行方がようやくわかったんだ。 |
| カイウス | ! 指揮者さん、見つかったのか…… ! |
| フォレスト | いや、まだ見つかってはいない。だが彼の通った痕跡を見つけた。 |
| フォレスト | 場所は、街の北へと続く道だ。その途中に、道を外れて森へと入っていく足跡が残されていた。 |
| ルキウス | 北の森……。そこって魔物のねぐらになっていると言っていたよね。 |
| アーリア | ええ、そうよ。だから、なるべく早くみんなで救出に向かう必要があるわ。 |
| カイウス | よし、急ごう !……ルキウス、お前はどうする ? |
| ルキウス | 当然、ボクも一緒に行くよ。体調は万全だし、ボクのプリセプツはきっと役に立つはずだ。 |
| ティルキス | よーし、ルキウスも一緒だな。準備が整ったらすぐに出発だ ! |
| ルビア | 魔物の森でみんなと冒険かぁ……。何だか久しぶりね、こういうの。 |
| フォレスト | 確かに我々が全員揃えば戦力は十分かもしれない。だからといって、あの森が危険な場所であることに変わりはないぞ。あまり気を抜かないようにな。 |
| ルビア | わかってるってば、フォレストさん。ちょっと思い出してただけ。 |
| ルビア | ……カイウス、何をニヤけてるのよ ? |
| カイウス | ん ? ああ、オレもちょっと嬉しくなっちゃったんだ。いつものみんなと一緒に、ルキウスがいるのがさ。 |
| ルキウス | 兄さん……。……でも、遊びに行くんじゃないんだからね。 |
| ルビア | ……森に入ってから結構歩いてきた気がするけど指揮者さんの姿、見当たらないわね……。 |
| ティルキス | 足跡を見る限り、どうも同じところを行ったり来たりしてるみたいだな。 |
| フォレスト | 何か探し物でもしているのでしょうか ? |
| カイウス | ただ道に迷ってるだけじゃないか ?……だけど、やっぱり理由がわからないな。こんな危険な場所に一人で入り込むなんてさ。 |
| ルキウス | 何か、よほどの事情があったのかもしれないね。それが何なのかはわからないけど……。 |
| フォレスト | ……待て、みんな !向こうから何か聞こえる。叫び声のような……。 |
| 楽団の指揮者 | ひぃぃっ…… ! うわあああー !助けてくれ、誰か ! |
| カイウス | あれは、指揮者さん !おーい、こっちだ ! 助けに来たぞ ! |
| 楽団の指揮者 | ひぃぃっ、来るな、来るなぁぁっ ! ! |
| ルキウス | ダメだ、魔物から逃げるのに必死でこっちの声が聞こえていない。急いで追いかけないと ! |
| 魔物 | グァァァッ ! ! |
| フォレスト | ! ? ティルキス様、後ろにも魔物が ! |
| ティルキス | 何っ ! ? くそっ、新手か !邪魔な奴らだ…… ! |
| カイウス | ティルキス ! 大丈夫か ! ? |
| ティルキス | ああ、こっちはなんとかする !お前たち二人は早く指揮者を追いかけろ ! |
| カイウス | ……わかった、任せたぞ !行こう、ルキウス ! |
| ルキウス | ああ、兄さん ! |
| ルビア | 大丈夫かしら、二人とも……。 |
| ティルキス | 寂しがってる場合じゃないぞ、ルビア。こっちもすでに囲まれちまってるようだ。 |
| ルビア | 別に、あたしは寂しがってなんか……きゃっ !ええい、アイシクル ! |
| ティルキス | よし ! いったん下がれ、ルビア。俺とフォレストが前に立つ。アーリア、援護を頼む ! |
| アーリア | 任せて……。シャープネス ! |
| ティルキス | ありがとう ! ここから反撃だぜ。フォレスト、左を頼むぞ。俺はこっちをやるっ ! |
| フォレスト | お任せください、ティルキス様。はぁぁっ ! 裂旋斧 ! |
| ティルキス | タイタンウェイブ ! |
| ルビア | ……これで、とりあえず近くの魔物はいなくなったかしら。 |
| ティルキス | いや、まだまだ奥から気配がするぞ。油断せずに準備を整えておこう。ほら、ルビア。オレンジグミを食べとけよ。 |
| ルビア | ありがとうございます、お兄様 ♪ |
| フォレスト | ……さすがですね、ティルキス様。しっかり皆の戦いを見ておられる。 |
| アーリア | ええ、もう迷いはないみたいね。背中が頼もしいわ。 |
| ティルキス | なんだよ急に、二人とも。褒めてもグミはもう出ないからな ? |
| フォレスト | はは、わかっていますよ。ティルキス様。 |
| ティルキス | ……それとな、フォレスト。前にも言ったが「様」はもういらないって。今の俺は王子でもなんでもないんだ。 |
| フォレスト | いいえ。肩書きがあってもなくても……たとえ継ぐべき国がなかろうと。あなたは私にとって王子のままですよ。 |
| フォレスト | 人を惹きつけ、率いる力。そして何より周りのために全霊であたる姿勢。やはりあなたは、忠義を捧げるに足る人物です。 |
| ティルキス | お前って奴は……。わかったよ、そこまで言うなら王子様でもなんでも好きに呼んでくれ。 |
| ルビア | もう ! ダメよ、フォレストさん。「あなたは私の王子様」なんて……それはアーリアが言うセリフでしょ ! |
| アーリア | ちょっ……、ルビア ! ?何言ってるのよ。わたしはティルキスのことそんな風に呼んだりは……。 |
| ルビア | えっ、そうなの ? てっきり二人きりの時はそういう感じかと思ってた。 |
| ティルキス | ……お前、俺たちをなんだと思ってるんだ ? |
| ルビア | うふふ、ごめんなさい。冗談よ !……あたしもフォレストさんの話、よくわかるわ。 |
| ルビア | 血の繋がりがなくても、ティルキスはやっぱりあたしの「お兄様」ってことと同じよね。 |
| フォレスト | ああ。きっと、そういうことだな。 |
| ティルキス | ……まったく。二人とも、嬉しいことを言ってくれるよな。この前、アーリアが話していた通りだ。 |
| アーリア | わたしが ? |
| ティルキス | ああ。言ってただろ ?「信じられる仲間のいる場所が、新しい故郷になる」……ってさ。今、実感できたよ。 |
| ティルキス | 俺の新しい家族はここにいる。目の前の家族を守らなきゃって思ったら過去ばかり見てる暇はないよな。 |
| アーリア | ……そうね。でも、あなたが守るばかりじゃないわよ。わたしたちもあなたを守ってあげるから。 |
| ティルキス | 頼りにしてるぜ、アーリア。君は、俺の―― |
| ルビア | ――「お姫様」 ! ? |
| 二人 | こら、ルビア ! |
| ルビア | あ、ごめんなさい。つい……。 |
| フォレスト | ティルキス様、話の続きは後にしましょう。新たな魔物の群れが近づいてきました。 |
| ティルキス | やれやれ、オーケストラと違ってこっちは休憩を挟ませてもくれないか。 |
| ティルキス | みんな、次の戦闘に備えろ !カイウスとルキウスの背中は俺たちが守るんだ。ここは……絶対に通さん ! |
| Character | 8話【曲目8 兄弟】 |
| カイウス | ルキウス、こっちだ ! 行くぞ ! |
| ルキウス | ……ちょっと待って、兄さん。一度止まった方がいい。 |
| カイウス | えっ ! ? 何言ってるんだよ !早く指揮者さんを追いかけないと―― |
| ルキウス | 見当違いの方向に走って行ったらかえって追いつくのが遅くなってしまうだろ。 |
| ルキウス | ほら、足跡を見て。ここで右に方向転換している。きっと後ろの魔物を撒こうとしたんだ。だから、あっちへ行かなきゃダメだ。 |
| カイウス | 本当だ……。気付かずに走っていくとこだった。結構タフな人だな、指揮者さん。ありがとな、ルキウス。 |
| ルキウス | ……ここから先は、少し走る速度を落として指揮者さんがどっちへ向かったかちゃんと確かめながら進んだ方がいいね。 |
| カイウス | ああ、そうしよう。指揮者さんを助ける前にオレたちが迷うわけにはいかないもんな。 |
| ルキウス | ボクが先導するよ。ついてきて、兄さん。 |
| カイウス | ああ、頼む。……指揮者さん、無事だといいな。 |
| ルキウス | そうだね。そしたら、ボクが指揮の代役をする必要もなくなることだし……。 |
| カイウス | …………。 |
| カイウス | ……ルキウス。進みながら、少し話してもいいか ? |
| ルキウス | え ? 別にいいけど……。 |
| カイウス | 指揮の代役に推薦したこと、謝っておきたいんだ。お前は最初から乗り気じゃなかったのにオレが無理に勧めちゃったからさ……。 |
| ルキウス | 兄さんが謝るようなことじゃないだろ。最終的には、ボクも納得して決めたことだよ。どうして急にそんな話をするのさ ? |
| カイウス | ……昨夜、うっかり聞いちゃったんだ。お前とルビアが話しているところ。音楽を楽しめない、って。 |
| ルキウス | そうか……。兄さんも聞いてたんだね。 |
| カイウス | あれから、どうすればお前が楽しめるようになるか考えてたんだけど……、それも違うと思ってさ。そもそも、楽しめないことをやらせちゃいけないよな。 |
| ルキウス | 兄さんの判断は間違ってはいないよ。誰かがやらなくちゃいけないことだったんだから。 |
| ルキウス | それに、「楽しめない」とは言ったけど別に指揮をするのが嫌なわけじゃないんだ。ただ……、ボクにはふさわしくないと思うだけで。 |
| カイウス | ルキウス……。それは、自分が『影』だって思うからか ? |
| ルキウス | ……そうだよ。ルビアとの話を聞いていたなら、知ってるだろ。ボクは自分のしたことを許せてない。 |
| ルキウス | ボクは兄さんみたいに、堂々と表舞台に立てる人間にはどうしたってなれないんだよ。 |
| カイウス | ……確かに、お前は悪いことをしたよ。だけど、ちゃんと埋め合わせもしてきたはずだ。 |
| カイウス | この間、お前が元の世界で教会を立て直していたことを話しただろ ?お前には人を導く力があるって。 |
| カイウス | オレがすごいと思ったのは、それだけじゃない。何よりもすごいのは、お前がちゃんと自分と父さんの過ちに向き合ったことだよ。 |
| ルキウス | ボクが、過ちに向き合った…… ? |
| カイウス | ああ。スポットのせいだから自分は悪くないってそのまま教会を離れることだってできたはずだ。……だけど、お前はそうしなかった。 |
| カイウス | お前は正面から向き合って、償ったんだよ。もう、これ以上自分を責めなくてもいいだろ。 |
| カイウス | 少なくとも、オレはそんなこと望まない。楽しいことを心から楽しめない生き方をお前がずっと続けることなんか。 |
| ルキウス | 死んでしまった人たちの前でも、そんなことが言えるの ? ラムラスさんやルビアの両親にボクは償ったからもう気にしなくていいなんて…… ! |
| カイウス | それは……命を落とした人たちがどう思うかなんて本当のところはわからないよ。でも、自分を責め続ければ償いになるのか ? |
| カイウス | 少なくともオレの知っている人たちは誰かに苦しんで生きろなんて願うような人たちじゃなかったよ。 |
| ルキウス | …………。 |
| カイウス | 今のお前は、正しいことをしてると思う。この世界の人たちのために戦っているんだ。誰かの命令とかじゃなく、自分の意思でさ。 |
| カイウス | だから、影に隠れる必要なんか何もない。もう過去にこだわらずに、お前が自分で生きたいように生きていいんだ。 |
| ルキウス | ボクが、生きたいように……。 |
| カイウス | ああ。だから、指揮のことも……お前の本当の気持ちを聞かせてくれないか。やるべきかじゃなく、やりたいかどうかをさ。 |
| カイウス | 答えがどっちだろうと、オレは絶対お前の決めたことを応援するからな ! |
| ルキウス | ふっ……。兄さんは、まったく。また、いきなり兄貴面して。 |
| カイウス | な、なんだよ。本当に兄貴なんだからいいだろ ! |
| ルキウス | ……そうだね。兄さんのおかげでボクも自分の本当の気持ちがわかった気がする。 |
| ルキウス | ずっと、ボクは音楽を楽しめないと思ってた。だけど本当は違っていたのかもしれない。 |
| ルキウス | 楽しんじゃいけないって押さえ込んでいただけで心の底ではずっと楽しかったんだと思う。音楽を聴くのも、指揮者としてみんなと演奏するのも。 |
| カイウス | そうか ! やっぱり、そうだったんだな。薄々そんな気はしてたよ。 |
| ルキウス | わかってたの、兄さん ? |
| カイウス | ああ。オレがルキウスを指揮者に推薦したのも練習を見てるお前の顔が、なんとなくうらやましそうに見えたからなんだ。 |
| ルキウス | そうだったの…… ? 自分じゃ気が付かなかった。 |
| カイウス | ……それじゃ、一応確認するけどお前は指揮をやりたいんだよな ? |
| ルキウス | うん。やりたいよ。 |
| カイウス | よし ! だったら、早く指揮者さんを見つけてお願いしよう。一曲ぐらい指揮させてくれないかって。オレも一緒に話すからさ。 |
| ルキウス | ……また兄貴面だね。でも、ありがとう。 |
| カイウス | へへっ、気にするなって。……ん ? 待て、ルキウス ! |
| ルキウス | ! どうしたのさ、急に立ち止まって ? |
| カイウス | 魔物の声が聞こえる。……こっちからだ。きっと指揮者さんを追ってるんだ !オレたちも行くぞ ! |
| ルキウス | わかった ! |
| 指揮者 | くっ……、囲まれてしまったか。……ここで終わりなのか ?結局、見つけられないまま……。 |
| カイウス | 指揮者さん ! よかった、無事だな。 |
| 指揮者 | なっ…… ! ?き、君たちは確かティルキス君の……。 |
| ルキウス | ええ、仲間です。あなたを助けに来ました。兄さん、先に周りにいる奴らを片付けよう。 |
| カイウス | よしっ、オレがまとめて追い払う !……魔神剣 ! ! |
| ルキウス | 指揮者さん、今のうちにこっちへ !まだ魔物が集まってきます。 |
| 指揮者 | ああ、わ、わかった……。 |
| カイウス | このまま全部倒し切る !やるぞ、ルキウス ! |
| ルキウス | いつでもいいよ、兄さん ! |
| Character | 9話【曲目9 陽のあたる場所へ】 |
| カイウス | 魔物の数はあと少しだな……。ルキウス、まとめて片付けるぞ ! |
| ルキウス | わかった。兄さんは魔物を向こうに追いやって。ボクがプリセプツで一気に倒す ! |
| カイウス | よしっ……まとめて吹っ飛べ !はぁぁーっ ! 獅子千裂破 ! |
| ルキウス | 今だ ! サンダーブレイド ! |
| カイウス | ……ふぅ、これで全部だな。 |
| 指揮者 | 本当に、助けてくれてありがとう。カイウス君に、ルキウス君……だったね。 |
| カイウス | へへっ、どういたしまして。……でも、どうしてこんな危険な場所に ?楽団のみんなも、街の人たちも心配してたんだ。 |
| 指揮者 | そうか……、やっぱり皆に迷惑をかけてしまったか。 |
| ルキウス | ……ボクも、理由が知りたいです。何かよほどのことがあったんでしょう。 |
| 指揮者 | ああ。……探し物をしていたんだ。私にとっては何よりも大事なもの……。亡くした妻の、形見のペンダントをね。 |
| ルキウス | 奥さんの、形見……。 |
| 指揮者 | 街の近くで魔物たちに襲われた後どさくさで落としてしまったと気付いたんだ。それで、探しにここまで来てしまった。 |
| 指揮者 | ……最初は、すぐに見つかると思っていた。魔物たちに襲われた場所に行けばその辺りにでも落ちているだろうって。 |
| カイウス | でも、見つからなかったのか……。オレたちに言ってくれればみんなで一緒に探せたのに。 |
| 指揮者 | その時は、必死で頭が回らなかったんだ。あいつの思い出をどうしても取り戻したくて。なくなったなんて、信じたくなくて……。 |
| 指揮者 | どうしてもあきらめられずに一晩中探し回っていたら、とうとうこんな森の中まで迷い込んでしまった。 |
| カイウス | 指揮者さん……。奥さんの形見ならすっごく大事だっていうのはわかるよ。だけど、いくらなんでも無茶しすぎだ ! |
| 指揮者 | ……そうだね。本当にすまない。自分でもどうかしているとは思ったんだ。だけど、それでも……私は……。 |
| ルキウス | ……指揮者さん。ボクにはあなたの気持ち、よくわかります。 |
| カイウス | ルキウス…… ? |
| ルキウス | ボクも、そんな気持ちだったことがあるから。求めている人はもうこの世にいないのにその名残を必死に追いかけて……。 |
| カイウス | それ……、母さんのことか。 |
| ルキウス | ……うん。だけど、そんな気持ちに何年もとらわれてしまったせいでボクともう一人の家族は道を誤ってしまった。 |
| ルキウス | だから……あなたは同じ過ちを犯さないでください。どれだけ思い出が大事でも、そのために今いる仲間や家族を心配させちゃいけない。 |
| 指揮者 | ……君の言う通りだ。私は、長年一緒に音楽をやってきた友人たちをないがしろにしてしまったんだな。 |
| 指揮者 | わかった、街へ戻ろう。罪滅ぼしのためにも、楽しみにしてくれる街の人に最高の音楽を届けなくては ! |
| カイウス | ああ、そうしよう。奥さんのペンダントはオレたちと仲間で探してきっと見つけ出すからさ。 |
| 指揮者 | ……ありがとう、二人とも。 |
| ルビア | カイウス、ルキウス !よかった、無事に指揮者さんを見つけられたのね。 |
| カイウス | ああ、なんとかな。そっちも無事みたいでよかった。 |
| ティルキス | 二人とも、お疲れさん。後は俺たちに任せといてくれ。さあ、指揮者殿。肩を貸しますよ。 |
| 指揮者 | ……すまない。ありがとう。 |
| カイウス | ……ルキウス。 |
| ルキウス | ? なんだい、兄さん。 |
| カイウス | さっきの話を聞いてて、思ったよ。やっぱりお前はオレの影なんかじゃない。 |
| ルキウス | そうかな ? ボクは、自分の暗い過去を話したつもりだったんだけどね。 |
| カイウス | だとしても、お前の言葉のおかげで指揮者さんは前に進めたんだ。 |
| カイウス | そんな風に誰かを導けるのは……『影』じゃなくて『光』だろ ? |
| ルキウス | ボクが、光…… ?……ふふっ。 |
| カイウス | おい ! 笑うなよ !オレは真面目に言ってるんだからな。 |
| ルキウス | わかってるよ、兄さん。正直言って、まだ自分がそこまで立派なものだとは思えないけど―― |
| ルキウス | それでもボクは、影の中から一歩ずつ踏み出してみようと思う……。 |
| ティルキス | ……みんな、着替えは終わったか ? |
| カイウス | ああ、オレはバッチリだ !おーい、ルビアたちも早く来いよ ! |
| ルビア | もうっ、ゆっくり歩きなさいよ、カイウス !せっかくのドレスなのに転んで汚しちゃったらどうする気 ? |
| ルキウス | ……でも、よかったの ? 今日のためにわざわざ衣装まで作ってもらって。 |
| ティルキス | 街の仕立て屋がせっかく用意してくれたんだ。この街に貢献してくれたお礼だってさ。人の厚意はありがたく受け取っておけよ。 |
| カイウス | ああ、オレは気に入ったよ。ピシッとしてるけど、意外と動きやすいし ! |
| ルビア | ……カイウスはいつも元気ねぇ。緊張するってことないのかしら。あたし、足が震えちゃいそうよ。 |
| アーリア | たくさん練習したんだから大丈夫よ、ルビア。それにその衣装、とってもかわいいわよ。 |
| ルビア | うふふ、そう ? やっぱり ?ねえねえ、カイウスはどう思う ? |
| カイウス | あ、うん……。いいんじゃないか、うん。 |
| ルビア | ……何よ、その薄い反応。言いたいことがあるなら言いなさいよ。 |
| カイウス | いや、前のクリスマスの時は服のことで喧嘩になったから、変なこと言わないようにしようと思ってさ……。 |
| ルキウス | 妙な気の使い方するね、兄さん……。 |
| ルビア | ……しょうがないわね。だったら、二択で聞くからどっちか答えて。かわいい ? かわいくない ? |
| カイウス | ……じゃあ、かわいい、で。 |
| ルビア | 「じゃあ」って何よ ! ? |
| カイウス | なんだよその怒り方 ! ? 理不尽だぞ ! |
| フォレスト | ……カイウスたちは、いつも通りだな。ティルキス様もお似合いですよ。 |
| ティルキス | 派手な舞台は柄じゃないがなかなかサマになってるだろ ?アーリアはどう思う ? |
| アーリア | …………。 |
| ティルキス | アーリア…… ? おい、どうして無言なんだ ?やっぱり似合ってないか ? |
| アーリア | はっ ! いえ、ごめんなさい。ちょっと見とれて……いえ、何でもないわ。 |
| ティルキス | あ、うん。そうか。そりゃ良かった。うん。 |
| ルビア | ……お兄様たちも、いつも通りね。ふふふ。 |
| 指揮者 | 君たち、そろそろ本番だよ !舞台の方で準備しておきたまえ。 |
| ルビア | あっ、はーい ! |
| ルキウス | 指揮者さん、すっかり元気になったね。奥さんの形見のペンダントがちゃんと見つかってよかったよ。 |
| ティルキス | それはフォレストの手柄だな。いや、本当にお疲れさん ! |
| フォレスト | ええ。見つからないと思ったら、まさか川に落ちてあんな遠くまで流れ着いていたとは……。……思わぬ長旅になりました。 |
| アーリア | でも、おかげで素晴らしい演奏会になりそうね。三人とも、応援してるわよ。 |
| ティルキス | ああ、俺の晴れ舞台をしっかり見ててくれよ。……ルキウス、また後でな。 |
| ルキウス | うん、みんなも頑張って。 |
| フォレスト | ん ? そういえば、ルキウスは何をするんだ ?指揮者は見つかったから、代役をする必要はなくなったのだと思っていたが……。 |
| アーリア | あ、そうか……。フォレストさんは街を離れていたから知らないのね。 |
| フォレスト | 知らない ? 何をだ ? |
| ルキウス | 最後まで舞台を見ていればわかるよ。ほら、そろそろ始まる…… ! |
| Character | 10話【曲目10 堂々たる演奏】 |
| 観客たち | ワーッ ! ! |
| カイウス | ふーっ……、なんとか最初の一曲はミスせずに終われたな。 |
| アーリア | すごいわね、三人とも……。たくさん練習していたのは知ってるけど本当に素敵な演奏だわ。 |
| フォレスト | ああ、見事なものだな。すっかりオーケストラに馴染んでいる。 |
| アーリア | あっ ! 次の曲はルビアからよ。なんだか見ているこっちが緊張するわね……。 |
| ルビア | あたしの見せ場だわ…… !カイウスには負けてられないんだから。 |
| カイウス | (ルビアの奴、本当に楽しそうだ。……頑張って練習してよかったな、オレ。あいつとこうして一緒に演奏できて――) |
| 観客たち | ワーッ ! ! |
| フォレスト | ……拍手が止まないな。まだ聴き足りないが、これで演目は全て終わりか。そういえば、ルキウスの出番は…… ? |
| アーリア | フォレストさん、待って。まだアンコールがあるわ。 |
| 指揮者 | ……お集まりの皆さん。本日、こうして無事に演奏会を開催できたのはティルキス氏と仲間たちのおかげです。 |
| 指揮者 | 私も個人的に、彼らにとても助けられました。どうか皆さん、もう一度盛大な拍手を ! |
| 観客たち | ワーッ ! ! |
| 指揮者 | 最後の一曲は、彼らの仲間の一人であるルキウス君に指揮をお願いしたいと思います。どうぞ皆さん、ご静聴ください。 |
| フォレスト | ここでルキウスが指揮を…… !そういうことだったのか。 |
| ルキウス | ……よろしくお願いします。 |
| ルビア | ほら、ルキウス ! こっちよ、こっち。 |
| ティルキス | 心の準備はできてるか、ルキウス ?お客さんがいると緊張するだろ。 |
| ルキウス | ……少しだけね。でも、大丈夫さ。みんなも一緒だから。 |
| カイウス | オーケストラ、一緒に楽しもうな ! ルキウス。 |
| ルキウス | ああ。そうだね、兄さん。 |
| ルキウス | 兄さんの言う通り……。今は、義務感も罪悪感もなしだ。 |
| ルキウス | 聴いてくれる人たちと、演奏してくれるみんなとそして、ボク自身が楽しむために―― |
| ルキウス | (最初はトランペットのソロから。行くよ、兄さん…… ! ) |
| カイウス | (任せとけ、ルキウス…… !オレにできる最高の演奏で応えてやる ! ) |
| フォレスト | 堂々としているな、カイウスもルキウスも。 |
| アーリア | ええ、立派なものだわ。それに、なんだかすごく楽しそう……。 |
| フォレスト | うむ……。舞台に立つ二人の姿を見ているとどこか不思議な気分になる。 |
| フォレスト | かつての世界では国全体から虐げられていたレイモーンの民の血を引く子供たちがこうして堂々と皆の喝采を浴びているんだ。 |
| フォレスト | 昔の私がこの光景を見たらどう感じたのだろうな……。 |
| アーリア | 二人のこと、誇らしく思っているのね。 |
| フォレスト | ああ、そうだな。……願わくばこれからも、彼らの行く末を見守っていきたいものだ。 |
| ティルキス | いやー、演奏会も無事に終了したな !ルキウス、カイウス、ルビア。三人ともよく頑張った。いい演奏だったぞ。 |
| ルビア | ありがとうございます、お兄様 ♪聴きに来てくれた街の人たちもみんな楽しんでくれたみたいでよかったわ。 |
| ティルキス | 俺も演奏していて楽しかったぜ。ルキウス、お前とやった最後の曲は特にだ !いつか、本当に立派な指揮者になれるかもな。 |
| ルキウス | まだまだ、反省点もたくさんあったよ。自己採点は60点ぐらいかな。 |
| カイウス | 採点、厳しいな…… !オレは95点の演奏ができたと思ってるぞ。 |
| ルビア | それは甘すぎよ。まぁ、カイウスにしてはかなり頑張ってたけどね。 |
| ルビア | ……で、どうだった ? ルキウス。今日は演奏、楽しめた ? |
| ルキウス | ああ、心からね。まるで音楽が自分の体から響いてるみたいで……あんな気持ちになれたの、初めてだ。 |
| ルビア | きっと、その楽しい気持ちがあたしたちや楽団のみんなにも伝わったのよ。 |
| アーリア | 聴いていたわたしたちにもちゃんと伝わったわよ。本当に楽しい演奏だったもの。 |
| カイウス | よかったな、ルキウス !オレも兄として助言した甲斐があったよ。 |
| ルビア | 何よ、その言い方 !あたしだって色々アドバイスしたしルキウス本人が一番頑張ったのよ。 |
| カイウス | わ、わかってるよ ! そんなこと。 |
| ルキウス | ははは ! ……でも、そうだね。確かに、兄さんには助けられたよ。……ありがとう。 |
| カイウス | どういたしまして。オレも「兄貴面」じゃなくて本当の兄貴っぽくなれたかな。 |
| ルキウス | ……まぁ、少しはね。 |
| ルキウス | あっ、でも兄さん。さっきのソロで音を一つ間違えてたよね。 |
| カイウス | うっ……、気付いてたのか ? |
| ルキウス | 当たり前だろ、指揮者なんだから。兄貴面してても、演奏はまだまだだね。音の強弱もメリハリに欠けていたし。 |
| カイウス | 何だよ ! お前だって、最後の最後で指揮棒落としてたじゃないか。 |
| ルキウス | あっ、あれは安心して気が抜けて…… ! |
| ルビア | もう、二人とも素直じゃないわね〜。いつまで経っても、本当に子供なんだから。 |
| ティルキス | ……いいんじゃないか、子供でも。見ろよ、あいつの顔。楽しそうだろ ? |
| ルビア | ……それもそうね。今の二人、同じ笑顔してるわ。 |
| アーリア | ルキウス……、やっと本当に仮面を外すことができたのかもしれないわね。 |
| ルキウス | みんな、さっきから何を話してるんだい ?ボクたちの方を見て……。 |
| フォレスト | お前たち兄弟の仲の良さについて話していただけだ。気にするな。 |
| カイウス | なあ、ルキウス ! お前にもダメ出しされたしオレ、もう少しトランペットの練習がしたいんだ。ちょっと付き合ってくれるか ? |
| ルキウス | ああ、いいよ。でも、本番が終わったからって甘くはしないからね。 |
| ルビア | あ、待って ! あたしも練習に行く ! |
| カイウス | よーし、それじゃ三人で競争するぞ !ビリの奴が楽器の片付けをするってことで。 |
| ルビア | えっ ! ? ちょっと、いきなりズルいわよ !もう、カイウス〜 ! |
| ルキウス | あはは ! 待ってよ、兄さん ! |