| Character | 1話【聖夜1 クリスマス間近】 |
| クンツァイト | リチアさま。イネスから依頼されていた輸送任務が完了しました。 |
| リチア | ありがとう、クンツァイト。これで今日分の搬入はおしまいですね。 |
| ヒスイ | 明日は朝からこいつらの検品か。頼りにしてるぜ、クンツァイト。 |
| クンツァイト | 了解した。しかし、ヒスイにも一層の努力を要請する。このような原始的労働にリチアさまのお手を煩わせることなど許されない。 |
| ヒスイ | 原始的労働ってお前なぁ……。『日々寧日』のクリスマス業務をそういう風に言うとイネスからどんな無茶ぶりされるかわかんねぇぞ ? |
| クンツァイト | ……忠告、感謝する。 |
| クンツァイト | また、ヒスイに確認事項がある。リチアさまを外にお連れしているのは何故だ。現在の屋外気温では体調を崩される可能性がある。 |
| ヒスイ | だ、だからこうして俺のコート着させてんだろうが。リチアが外周りのお前を出迎えたいって言って聞かなかったんだ、仕方ねぇだろ ? |
| リチア | そうですよ、クンツァイト。ヒスイはわたくしのワガママを聞いてくれただけです。怒るのならわたくしを怒ってください。 |
| クンツァイト | ……守護機士の自分には、主であるリチアさまを怒るなど不可能です。どうか防寒対策を整えて下さい。ヒスイのコートでこの気温に耐えるのは困難です。 |
| ヒスイ | なんだとてめぇ ! |
| リチア | ふふ。ヒスイのコートはとても暖かいですよ。クンツァイトも着たらわかるはずです。 |
| ヒスイ | なんでこいつに貸さなきゃなんねぇんだよ。勘弁してくれリチア ! |
| シング | おーい ! ヒスイ~、リチア~ !イネスが商品の仕分けを手伝って欲しいってさ ! |
| コハク | あ、クンツァイト ! おかえりなさい !丁度よかった。クンツァイトも手を貸してくれない ? |
| クンツァイト | 肯定。現在の自分の主任務は『日々寧日』のクリスマス商戦対応業務の補助である。リチアさまと共に商品仕分けの支援を行う。 |
| イネス | うんうん、順調順調 ♪ロゼたちセキレイの羽にも協力してもらった甲斐があったわ ♪ |
| コハク | ん~イネスが淹れてくれたココアおいし~。 |
| リチア | はい、体の芯まで温まりますね。 |
| シング | うん !上に乗ってるホイップクリームも甘くて美味しいよ ! |
| ヒスイ | 今回は妙に気が利くじゃねぇか、イネス。 |
| イネス | 頑張ってる従業員を労うのは当然よ。お給金だって色々手当を付けてるんだから。 |
| ヒスイ | ああ、そうだったな。おかげでコハクたちと派手にクリスマスパーティーができるってモンだぜ。 |
| コハク | ねぇ、リチア。クリスマスプレゼントの準備はどう ?今年はみんなで交換会をしようって話になってたけど。 |
| リチア | お給金次第ですが、色々と考えています。コハクはどうするのですか ? |
| コハク | わたしも同じ。今はお店を回ってるところなんだ。 |
| イネス | そういうことなら私に任せて。あなたたちがプレゼントを贈る相手を考慮してバッチリな品物を用意してあげるわ。 |
| ヒスイ | 『日々寧日』で働いた給料で『日々寧日』の商品を買わせるのかよ……。 |
| クンツァイト | 生産と消費が無駄なく循環している。実に合理的だ。 |
| シング | そうだね !イネスはオレたちのことをよく知ってるからプレゼント選びも信頼できるし ! |
| ヒスイ | お前ら無邪気すぎるだろ……。つーかイネス。その恰好どうしたんだ ?昨日まではいつもの服だったのによ。 |
| イネス | クリスマスといえばサンタクロースでしょ ?ヒスイも欲しいなら用意してあげるわよ ?防寒具代わりにもなるわ。 |
| ヒスイ | 俺はこれくらいの寒さどうってことねぇよ。代わりにコハクとリチアに用意してくれねぇか ? |
| クンツァイト | 自分も同様の要請をする。リチアさまはクリスマスを楽しみにされている。体調管理は徹底しなければならない。 |
| イネス | わかった、用意しておくわ。あぁ、さっきのクリスマスプレゼントのことだけど。 |
| イネス | 今回は本当にみんなに助けてもらってるから特別手当ってことで、準備費用は私が出すわ。 |
| シング | 本当 ! ? ありがとう、イネス !それならオレは── ! |
| コハク | ここで言ったら駄目だよ、シング !交換会の楽しみが減っちゃうから。 |
| イネス | そうね。後でこっそり教えてくれる ? |
| シング | あぁ、そうだった !うん、そうするよ。 |
| クンツァイト | …………。 |
| ヒスイ | どうしたんだよ、クンツァイト。 |
| クンツァイト | クリスマスプレゼント。クリスマスに親しい者に渡す贈り物。伝統行事、儀式……。 |
| クンツァイト | ヒスイ。オマエはリチアさまに何を贈るのだ。 |
| ヒスイ | 今の話聞いてなかったのかよ ! ?こ、ここで言える訳ねぇだろ ! ? |
| クンツァイト | 開示してはならないのは、贈り物の内容が不明であれば交換時の期待感が高まるからか ? |
| ヒスイ | そうだよ ! わかってんじゃねぇか。 |
| クンツァイト | ……その心理は理解できる。しかし、自分のスピリアは不安を覚えている。 |
| クンツァイト | リチアさまに何をお贈りすれば喜んでいただけるのか。シミュレーションを重ねても明確な答えが得られない。 |
| ヒスイ | お前は何でも難しく考えちまうからなぁ……。まぁ俺にだってそいつはわかんねぇんだけどよ。 |
| ヒスイ | んじゃ、後で一緒に考えるか。二人で悩めばなんか出るだろうからな。 |
| クンツァイト | ……感謝する、ヒスイ。 |
| Character | 2話【聖夜2 見知った少女】 |
| イネス | よーし、入荷物確認終わり。クンツァイトがいると作業の効率が全然違うわね。 |
| クンツァイト | 自分は機械人だ。この程度は造作ない。 |
| イネス | ソーマを使えば四本腕で作業もできちゃうしね。このままずっとウチで働かない ? お給金も弾むわよ ? |
| クンツァイト | それは不可能だ。自分にはリチアさまをお守りするためにお側を離れることはできない。 |
| イネス | ふふ、冗談よ。繁忙期にリチアやシングたちと一緒に手を貸してくれるだけで助かるわ。 |
| クンツァイト | イネスから要請があり、リチアさまが許可された場合あらゆる支援を行うと約束しよう。 |
| イネス | 契約成立ね ♪ それじゃ事務所に戻りましょうか。シングたちには配達をお願いしちゃったから今頃リチア一人で商品の梱包をしてるだろうし。 |
| クンツァイト | 了解。速やかに撤収行動へ── |
| イネス | ……クンツァイト ? どうかした ? |
| クンツァイト | この泣き声は……記録照合……該当データあり。泣き声の発生源、探索開始。 |
| イネス | ちょ、ちょっとクンツァイト ! ?どこへ行くの ! ? |
| ? ? ? | うぇ~~~~ん……。 |
| クンツァイト | やはり──アン ! |
| アン | え……おにいちゃん、だれ…… ? |
| イネス | クンツァイト、急に走り出して一体どうしたのよ ! ? |
| アン | …………。 |
| イネス | こ、この子、もしかしてアン ! ? |
| クンツァイト | 肯定。彼女の容姿と音声は自分のデータと一致する。しかし、その反応から鏡映点ではないと推測される。 |
| イネス | ……私たちとの記憶がない。具現化されていても元の世界の記憶がない以上は別人ということね……。 |
| イネス | でも、どうして一人なのかしら ?アンが具現化されていたのならシンディとオーブも── |
| アン | ? どうしてアンとパパとママをしってるの…… ?おねえちゃんたち、だれ…… ? |
| イネス | 私たちは……シンディとオーブの仕事仲間よ。あなたのことは二人から聞いてるわ。 |
| アン | ……パパと、ママから……。 |
| クンツァイト | アン、何故一人でいる ?シンディとオーブは一緒ではないのか ? |
| アン | ……パパもママも、おしごとがいそがしいんだって。だからアンはようごいんにいるの……。 |
| クンツァイト | ヨウゴイン ? |
| イネス | この街にあるイング養護院のことだと思うわ。あそこは子供の一時預かりをしていたはずだから。仕事で忙しい親は助かってるって話だけど……。 |
| アン | いそがしいときはたくさんあったのに……。いまはパパもママも、ぜんぜんあいにきてくれないの。 |
| アン | ようごいんのひとから、おまえはすてられたって…… !パパ、ママ……うぇぇぇぇぇ~~~~ん ! |
| クンツァイト | オーブとシンディがオマエを見捨てるはずがない。そのような可能性はゼロだ。 |
| イネス | クンツァイトの言う通りよ。アンのお父さんとお母さんはあなたが大好きなの。だから泣くことなんてないのよ ? |
| ? ? ? | あぁ、アン ! やっと見つけました !部屋からいなくなったと思ったらこんな所にいるなんて…… ! |
| アン | キャ、キャスリンせんせー……。 |
| イネス | ……失礼ですが、あなたは ? |
| キャスリン | イング養護院で子供たちの面倒を見ているキャスリンと申します。そちらは ? |
| イネス | この子の両親の仕事仲間です。アンが一人で歩いていたので気になって声を掛けたところでした。 |
| キャスリン | そうでしたか。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。 |
| クンツァイト | 確認。オーブとシンディがアンを養護院へ預けたのは事実か ? |
| キャスリン | はい。今年は特に忙しいそうでして。この子を家に一人にしてしまう時間があるらしくしばらく養護院で預かって欲しいと依頼されました。 |
| イネス | ……そうですか。でも、アンは養護院の方から、お前は捨てられたと言われたそうなのですが。 |
| キャスリン | お恥ずかしい話ですが、そうした酷い言葉をぶつける職員がいるのは確かです。事実関係を確認して 然るべき対応を行います。 |
| イネス | 子供は大人の言葉にとても敏感です。たくさんの子供の面倒を見ているので大変かと思いますが……。 |
| キャスリン | 以後、このようなことがないように注意します。さぁ、アン。養護院へ戻りましょう。このまま外にいては風邪を引いてしまいます。 |
| アン | ……う、ん……。 |
| クンツァイト | ……イネス。この世界のアンとシンディたちは……。 |
| イネス | アンの様子からすると、親子の関係は元の世界と変わらないように感じたわ。そうじゃないとあんな風に泣いたりしないと思うの。 |
| イネス | この時期、商人はみんな書き入れ時よ。シンディとオーブが行商人をやっているのなら雪の中で商売先を渡り歩いているはず。 |
| イネス | アンのような子供にそれをさせるのは酷よ。街の養護院に預けたのは仕方ないわ。 |
| クンツァイト | 状況は把握している。この世界のアンが我々の知るアンとは別の存在であることも理解している。 |
| クンツァイト | それでも自分は……自分のスピリアは。アンをあのままにしてはいけないと警告している。 |
| イネス | ……ええ。私も同意見よ。違和感を覚えたところもあったしね。 |
| クンツァイト | 確認。その違和感とは何に対するものだ ? |
| イネス | キャスリン……養護院の職員ね。あの気配と私たちを見る目……。どうにも引っ掛かるのよね。 |
| クンツァイト | 自分のセンサーは何の反応も示していない。いわゆる気のせいではないか ? |
| イネス | ……だといいんだけどね。さぁ、私たちも事務所に戻って仕事を終わらせるわよ。それでリチアも連れてアンの様子を見に行きましょう。 |
| クンツァイト | ……感謝する、イネス。 |
| クンツァイト | リチアさま。クンツァイト、及びイネス。入荷商品の確認任務を終え、帰還しました。 |
| リチア | お帰りなさい、二人とも。イネス。あなたにお客様がいらしているのですがお時間はありますか ? |
| イネス | ええ、構わないわ。アポはなかったと思うけど、誰かしら。 |
| アリーシャ | 忙しいところ、突然押しかけてすまない。久しぶりだな、イネス。 |
| Character | 3話【聖夜3 アリーシャの頼み】 |
| イネス | 元気そうね、アリーシャ。来るなら事前に連絡してくれればよかったのに。 |
| アリーシャ | すまない、直前まで仕事に追われていてな……。 |
| イネス | わかるわ。それで、今日はどうしたの ? その様子だとクリスマスプレゼントを買いに来た訳じゃないわよね ? |
| アリーシャ | ……ああ。ここに来たのも仕事の為だ。私は今、グリンウッド領の統治を手伝っている。騎士として領内の治安維持に努めているんだ。 |
| アリーシャ | 先日、領内の犯罪組織を一掃した際にこの街のイング養護院が裏で子供の人身売買を行っている情報を掴んだ。 |
| イネス | ! ? |
| クンツァイト | アリーシャ、その情報は事実か ! ? |
| アリーシャ | 今のところ、組織の構成員の証言のみで物的証拠は確認できていないが……イング養護院について何か知っているのか ? |
| イネス | ……後で話すわ。今はあなたの話を聞かせて、アリーシャ。 |
| アリーシャ | わかった。イング養護院についてロゼたちの力を借りて調査を行ったが、人身売買を行っている確かな証拠は掴めなかった。 |
| アリーシャ | だが、養護院側に逃亡の兆候が確認された。ここで彼らを逃がせば被害者の子供の救出が困難になり、売買ルートの解明もできなくなる。 |
| イネス | そうなれば二次被害が広がるわね。養護院が逃げようとしている以上証拠を集めている時間も無い、と。 |
| アリーシャ | その通りだ。だから強引な手段ではあるが、養護院へ潜入し、人身売買の物的証拠を探す方針になった。だが、養護院側は警戒心が強い……。 |
| アリーシャ | 考えた末、セキレイの羽が養護院と取引をして私が商品の配達員になって潜入する作戦となった。でもセキレイの羽で問題が起こって── |
| イネス | この街で商売をしてる私を頼ったって訳ね。話はわかったわ。キャスリンの違和感の正体もね。 |
| アリーシャ | …… ? どういうことだ ? |
| イネス | ええ。実は── |
| アリーシャ | ……何ということだ。では、そのアンという少女は…… ! |
| イネス | 商品候補で、キャスリンはそのお目付け役ね。ああいう気配をまとった人間には何度か会ったことがあるの。彼女、ただの職員じゃないわ。 |
| クンツァイト | アン…… ! |
| アリーシャ | やはり時間はかけていられないな。イネス。イング養護院との繋がりはあるだろうか ? |
| イネス | ごめんなさい。あそことは取引していないの。前に一度営業をかけたんだけど懇意にしてる商会があるから無理だ、ってね。 |
| イネス | でも、その懇意にしてる商会──アサノ商会は知ってるわ。 |
| アリーシャ | 本当か ! ? |
| イネス | ええ。よく作業員の募集をしてる商会よ。応募すれば即採用されるはず。アサノ商会を介してイング養護院に潜入することはできると思うわ。 |
| アリーシャ | ありがとう、イネス ! その作戦で行かせてもらう ! |
| クンツァイト | アリーシャ、自分も養護院潜入に同行したい。 |
| アリーシャ | それは助かる。ぜひ頼むよ。 |
| クンツァイト | リチアさま。どうか自分にアリーシャを支援する許可をお与え下さい…… ! |
| リチア | クンツァイト……ええ、もちろんです。あなたのスピリアが望むことをなしてください。 |
| クンツァイト | ありがとうございます、リチアさま…… ! |
| アサノ商会面接官 | はい、採用です。 |
| アリーシャ | え ? あ、あの。 |
| クンツァイト | 自分たちは名前と経歴しか述べていない。現状は面接と言えない。 |
| アサノ商会面接官 | 我がアサノ商会は圧倒的成長を遂げており幹部候補さえ手広く募集しているのです。要するに人手がまったく足りていません。 |
| アサノ商会面接官 | 現在クリスマス商戦に向けて工場をフル稼働させていますが、とても間に合いません。本日から是非働いていただきたいのですが、可能でしょうか ? |
| アリーシャ | クンツァイト、構わないか ? |
| クンツァイト | 肯定。前職の経験を活かして即戦力になることを保証する。 |
| アサノ商会面接官 | あの『日々寧日』さんで経験を積まれていたお二人はとても心強いです。ウチはアットホームな職場ですからきっと気に入りますよ。 |
| アリーシャ | お心遣い感謝します。では、できれば商品配達員を希望したいのですが。 |
| クンツァイト | 自分たちは『日々寧日』で商品配達の業務を請け負い結果を出していた。自分たちに任せれば業務効率は前月比200パーセントを約束する。 |
| アサノ商会面接官 | そのご要望にはお応えできません。お二人の配置先は決まっています。申し訳ありません。 |
| アリーシャ | ……わかりました。ちなみに、どのような仕事になりますか ? |
| アサノ商会面接官 | ノルミン人形の製造ライン工です。 |
| アリーシャ | ……ノルミン人形の、ライン工 ? |
| ライン工A | はぁ、はぁ、はぁ…… !ノルマが、ノルマが終わらないぃぃぃ…… ! |
| ライン工B | 中に詰め込む綿が足りません !誰か ! 誰か持ってきてください !持ってきてぇええええええええええええ ! |
| アリーシャ | こ、ここは本当に人形の製造工場なのか…… ! ?野戦病院か何かの間違いではないのか ! ? |
| ノルミンA | ノルミン人形が1匹、2匹、3匹……。 |
| ノルミンB | 毎日18時間労働で休憩時間が30分って無茶やわぁ~ ! もういややぁ~ ! ライラはんに会いたいぃ~ ! |
| アリーシャ | ノ、ノルミン様がノルミン人形を作っている ! ? |
| ? ? ? | ふん。やっと来たわね、新人 ! |
| クンツァイト | オマエは何者だ ? |
| リーノ監督官 | 私はリーノ。この工場を任されている監督官よ。アリーシャにクンツァイトね、話は聞いてるわ。 |
| リーノ監督官 | 早速だけど働いてもらうわよ !アリーシャ、あなたはノルミンたちの補佐を。クンツァイトは梱包班に入りなさい。 |
| アリーシャ | 待ってください。どうしてここにノルミン様たちがいるのですか ! ? |
| リーノ監督官 | 有給休暇でソロキャンプに出掛けた時に魔物に襲われているところを助けたのよ。そしたら恩返しをしたいって言い出してね。 |
| リーノ監督官 | こうして商会の仕事を手伝ってもらっているの。それなりの給与も支払っているわ。 |
| ノルミンA | お金より、休みが…… !休憩が欲しいですわぁ~…… ! |
| アリーシャ | ……私が彼らの分まで働きます。ですからお願いです。彼らにまとまった休息を…… ! |
| リーノ監督官 | 素晴らしい優しさね。では、この子たちのノルマもこなしてもらうわ。 |
| クンツァイト | そのノルマは自分が対応する。機械人である自分は1日24時間労働が可能だ。 |
| アリーシャ | クンツァイト、いくらなんでもそれは…… ! |
| リーノ監督官 | ではクンツァイトに1日24時間労働を与える !しっかり働いて商会に貢献しなさい ! |
| クンツァイト | 了解した。 |
| アリーシャ | ほ、本当に大丈夫なのか ?言い出したのは私だ、無理があったらすぐに言ってくれ。 |
| アリーシャ | ……それからリーノ監督官。最後にもう一つ質問があります。 |
| リーノ監督官 | 何かしら ? |
| アリーシャ | 私もクンツァイトも前職が商品配達員でした。慣れているそちらの業務の方がこの商会に貢献できると思うのですが、配置転換は叶うのでしょうか ? |
| リーノ監督官 | 難しいけれど不可能ではないわ。商品配達員は直接お客様に商品をお届けできる花形中の花形部署なの。 |
| リーノ監督官 | 工場業務で優秀な成績を収めた者のみが配達員に転属できるわ。あなたたちが我がアサノ商会に本当に貢献したいと考えているのなら── |
| アリーシャ | ノルミン人形の制作で優秀な成績を出せ……という訳ですね。わかりました ! |
| クンツァイト | 状況を把握。商品の梱包作業に移行する ! |
| Character | 4話【聖夜4 意外な来客】 |
| クンツァイト | 迅速な業務遂行に必要なのは徹底した無駄の排除だ。輸送箱と梱包材をこの位置に配置して作業を行えば必要最低限の動作で商品の梱包が可能になるだろう。 |
| ライン工A | はい、教えてもらってありがとうございます !クンツァイトさん ! |
| ライン工B | ウチに来て日も浅いのに…… !クンツァイトさん、俺たちの十倍の速度で仕事してる !しかも一切休憩無しにだぜ ! ? |
| ライン工C | さすがクンツァイト ! 俺たちのエースだ ! |
| クンツァイト | 否定。自分は汎用ジャック型機械人だ。エース型ではない。 |
| アリーシャ | ここはこうして……うん。いい感じだ。次からはこの縫い方でボタンをつけてみてください。 |
| ノルミンA | おおきにぃ~ !アリーシャはんはほんまに器用やなぁ。 |
| ノルミンB | 器用なだけやない、作業の教え方も上手いわぁ~。アリーシャはんが来てくれてから効率上がっとるしほんま助かるわぁ~。 |
| アリーシャ | 皆様の覚えが早いからですよ。今日の作業は予定よりも進んでいます。もうひと踏ん張り、頑張りましょう ! |
| クンツァイト | ──以上、報告終了。任務は順調だ。工場作業員たちからの信頼も得ていると認識している。 |
| アリーシャ | クンツァイトによって工場の作業効率が改善され殺人的な労働時間も減りつつある。成果は上げていると思うが……。 |
| イネス | 配達員への配置転換の話は出ない、か。話を聞いてる限り、まだ時間がかかりそうね……。養護院の方も大きな動きはないけれど……。 |
| イネス | リーノ監督官に賄賂を渡して配達員にしてもらうって方法はどう ? |
| アリーシャ | ……私の所感だが、難しいと思う。リーノ監督官は、その手の手段に対して潔癖な印象があるんだ。 |
| アリーシャ | 迂闊な行動をすれば逆効果になるかもしれない。時間はないが、地道に信頼を勝ち取っていくことがベストだと判断している。 |
| リチア | 皆さん、お話中にごめんなさい。イネスにお客様が来ています。 |
| イネス | また ? 最近アポなしが多いわね。どちら様かしら ? |
| ザビーダ | よう。ちょいと失礼するぜ。 |
| エドナ | ……久しぶり。 |
| アリーシャ | エ、エドナ様とザビーダ様 ! ?でも、あの……そのお姿は一体…… ? |
| ザビーダ | クリスマスプレゼントを配る時の正装だ。エドナちゃんが用意してくれた代物だが、どうよ ?なかなか決まってるだろ ? |
| エドナ | 角の角度がこだわりポイントよ。 |
| アリーシャ | エドナ様が作られたのですか ! ? |
| エドナ | まさか。9割9分ミボよ。ワタシは考えただけ。 |
| ザビーダ | おう。おかげでガキどもから大人気だ。エドナちゃんとミク坊には特別なプレゼントを用意しとくから期待しててくれ。 |
| イネス | 私を訪ねてきたのは二人に贈るクリスマスプレゼントを用意する為かしら ? |
| ザビーダ | 残念だがそうじゃねぇ。実はな、プレゼントを配って養護院だの何だのあちこち回ってたらよ、聞いちまったんだ。 |
| ザビーダ | ガキどもが誘拐されてるって話をよ。 |
| アリーシャ | ! ! |
| ザビーダ | それがどうにも気になってな……。色々探った結果、この街のイング養護院が臭うって情報を掴んだ訳だ。 |
| ザビーダ | それで街に来てみたらアリーシャちゃんがいてイネスたちと妙な動きをしてると来た。こいつは何かあるに決まってんだろ ? |
| ザビーダ | ちっと話、聞かせてもらうぜ。 |
| アリーシャ | ……はい、実は―― |
| アリーシャ | ──という訳で、私はここにいます。 |
| エドナ | 人身売買の犯罪組織……。子供をさらって売り物にするなんてね。 |
| ザビーダ | お。エドナちゃんご立腹 ?珍し──いた ! 傘で突くのはミク坊だけにしろって。 |
| エドナ | 別に怒ってないわ。呆れてるだけ。どの世界にも悪党はいるのね。 |
| アリーシャ | ……はい。哀しいことです。 |
| ザビーダ | ……んじゃ、その悪党どもをパパッと片付けますか。せっかくのクリスマスだしな。エドナちゃんに頼れる男の背中ってヤツを見せねぇと。 |
| アリーシャ | ……お待ちください、ザビーダ様。この件は私に任せていただけないでしょうか ? |
| ザビーダ | ……それはアリーシャちゃんが追ってる事件だからかい ? |
| アリーシャ | いいえ。この世界の今後を考えた上での発言です。 |
| アリーシャ | 私たち鏡映点は大きな力を持っています。未だに世界各地で起こっている小競り合いは仲間たちによって沈静化に向かっていますが── |
| アリーシャ | 平和が訪れた時に必要になるのは力ではありません。法と秩序です。グリンウッド領の統治に協力してきて私はそのことを強く実感しています。 |
| アリーシャ | 罪人は力による制裁ではなく、法によって公平に裁かれなければならないのです。 |
| エドナ | ……潜入調査なんてしているあなたが言っても説得力はないと思うけど ? |
| アリーシャ | おっしゃる通りです。しかし、罪人を法で裁くには確実な物証が必要です。真っ向から探すにはあまりにも時間が少なく……。 |
| ザビーダ | だから潜入調査って訳か。 |
| アリーシャ | 被害の拡大を防ぐ為にもここで捕まえたいのです。私は、今日より少しでも良い明日を迎える為にできる限りのことをしたい…… ! |
| エドナ | ……あなたも言うようになったわね。 |
| アリーシャ | も、申し訳ありません…… !お二人に生意気な意見を…… ! |
| ザビーダ | あ~そういうのはなしなし。それに、生意気なんて思っちゃいねぇよ。 |
| ザビーダ | いいぜ、アリーシャ。あんたのやりたいことはよくわかった。少し見ないうちに、いい女になったじゃねぇか。 |
| アリーシャ | え、あ、あの。ありがとう、ございます……。 |
| ザビーダ | そんじゃ、アリーシャちゃんのために俺様もひと肌脱ぐとしますかね。 |
| エドナ | いつも脱いでるじゃない。それ以上脱いだら捕まるわよ。 |
| ザビーダ | 今はサンタなやつを着てるだろ ?ってそういうことじゃねえよ。 |
| クンツァイト | つまり、自分たちの任務に協力するということか ? |
| ザビーダ | 正解。養護院と繋がってるアサノ商会だっけか ?そこに連れてってくれ。 |
| アリーシャ | それは構いませんが……。何をされるつもりですか ? |
| ザビーダ | あんたたちの上司、女なんだろ ?だったら俺様の出番だ。 |
| Character | 5話【聖夜5 即戦力】 |
| アリーシャ | と、という訳でして……。 |
| ザビーダ | このザビーダ様を雇わねぇか ?安心しろって。絶対に後悔させねぇからよ。 |
| クンツァイト | ザビーダの能力については先ほど説明した通りだ。非常に優れた戦闘力と豊富な経験を備えている。彼の参戦で生産性は120パーセント向上するだろう。 |
| リーノ監督官 | クンツァイトとアリーシャがそこまで言うのなら信頼できそうね。ええ、いいわ。雇ってあげる。 |
| ザビーダ | ……即断即決か。俺としちゃ助かるが、いいのかい ?ライバル商会の回し者かもしれねぇぞ ? |
| リーノ監督官 | これでも人を見る目には自信があるの。さぁ、ふざけたことを言ってないで仕事を始めて。ウチのノルマは他所と違って厳しいわよ ? |
| ザビーダ | 上等だ。あんたの信頼に応えてみせるぜ。 |
| リーノ監督官 | ええ、それなりに期待してるわ。 |
| アリーシャ | ザ、ザビーダ様 !何故あのような挑発めいた発言を…… !不採用になったらどうするのですか…… ! ? |
| ザビーダ | このザビーダ様がそんなミスする訳ねぇだろ ?クンツァイトも言ってたじゃねぇか。俺は経験豊富だってな。 |
| クンツァイト | 先ほどのリーノ監督官とのやりとりはその経験に則った行動だったということか ? |
| ザビーダ | そーいうこと。いいから俺に任せて、あんたたちは仕事に集中しな。 |
| アリーシャ | は、はぁ……。 |
| リーノ監督官 | ……今日の進捗率、芳しくないわね。どこかでスケジュールを調整しないと……。 |
| ザビーダ | よう、リーノさん。 |
| リーノ監督官 | ご苦労様、ザビーダ。何か用 ? |
| ザビーダ | なぁに、頭脳労働で苦労をされている我らが上司殿にささやかなスイーツを、と思ってね。 |
| リーノ監督官 | これは……ミルフィーユ ?こんなもの、どうしたの ? |
| ザビーダ | おいおい、こんなものはねぇだろ ?俺様が腕によりをかけて作ったんだぜ ?疲れてる時は甘い物に限る。 |
| リーノ監督官 | それならあなたたちもでしょう ?肉体労働なんだし。 |
| ザビーダ | その分、あんたほど気苦労はしちゃいない。さぁ、食ってくれ。このブドウのミルフィーユはマジで傑作なんだ。 |
| リーノ監督官 | ……いい顔で笑うのね、あなた。ありがとう、いただくわ。 |
| リーノ監督官 | はぁ……。 |
| ザビーダ | どうした、溜息なんざついて。また上から無茶なノルマでも言われたのかい ? |
| リーノ監督官 | ……ええ。クリスマス商戦で苦戦しているらしくてね。でも、これ以上現場に無理はさせられないわ。 |
| ザビーダ | ノルマがキツいのはあんたのせいじゃない。あんたは中間管理職として俺たち以上に苦労を背負い込んでる身だ。 |
| ザビーダ | そんなに俺たちまで気遣う必要はねえさ。 |
| リーノ監督官 | ……慰めのつもり ? |
| ザビーダ | いや、思ったことを言っただけだ。あんたは客や俺たちの為に頑張ってる。そのことを俺たちは知ってるつもりだ。 |
| ザビーダ | 無理と思う前に相談の一つくらいはしてほしいがねぇ。あんたには笑って仕事をしてもらわねぇと。客を笑顔にすることなんてできないだろ ? |
| リーノ監督官 | ザビーダ……そうね。ええ、そうよ。私たちが笑っていないとお客様を笑顔になんてできないわ ! |
| ザビーダ | おう、その意気だ。で、俺たちは何を手伝えばいい ? |
| リーノ監督官 | ザビーダ……ありがとう…… !笑顔の大切さを知っているあなたならやれるかもしれないわね…… ! |
| アリーシャ | ……まさか、こんなに早く配達員への配置転換を実現してしまうなんて…… ! |
| クンツァイト | ザビーダだけではなく、自分とアリーシャもだ。一体どのような手段を用いたのだ ? |
| ザビーダ | 菓子は女性の心を溶かす大事なアイテムだ。そいつをきっかけにしてやりゃいい。 |
| ザビーダ | ま、監督官殿も立場的に苦労してたってこった。そいつを理解して手を貸せば、向こうだってこっちをちゃんと信頼してくれる。 |
| アリーシャ | なるほど……。私もグリンウッド領では管理側に立つことがあります。今回の件は大変勉強になりました。 |
| ザビーダ | そいつはなにより。で、養護院への潜入はいつにする ? |
| アリーシャ | 直近の配達日にしようと考えています。クンツァイトはそれで構わないか ? |
| クンツァイト | 肯定。自分は養護院潜入計画の立案を行う。 |
| クンツァイト | …… ? あれは…… ? |
| ? ? ? | …………。 |
| クンツァイト | シンディ、オーブ…… !やはりオマエたちだったか ! |
| オーブ | え…… ? 申し訳ありませんが、どちら様でしょうか…… ? |
| クンツァイト | 自分は……自分はアンの知り合いだ。そんなことより、こんな所で何をしている ? |
| シンディ | そうでしたか……アンがお世話になっています。丁度、養護院にアンを迎えに行ったところでした。ですが……。 |
| オーブ | アンが……私たちのところに帰りたくないと……。 |
| クンツァイト | それは事実か ? |
| オーブ | ……はい。お恥ずかしい限りです。仕事に追われて、アンとの時間を作れなかった。あの子に嫌われてしまっても仕方ありません……。 |
| クンツァイト | ……アンは現在もイング養護院にいるのか ? |
| シンディ | ええ。もうしばらく預かると。アンも冷静になれば私たちを受け入れてくれるはずとキャスリン先生がおっしゃってくださいまして。 |
| クンツァイト | 確認。アンは自ら帰還を拒否する発言をしたのか ? |
| シンディ | い、いえ。泣いて興奮してしまっているらしくて。キャスリン先生から聞きました。 |
| クンツァイト | ……状況把握。アンは自分が必ず帰還させる。オマエたちは家で待機しているのだ。 |
| シンディ | え…… ? それはどういうことですか…… ?あなたは一体…… ? |
| クンツァイト | 自分は汎用ジャック型機械人クンツァイト。申告した通り、アンの知り合いだ。 |
| イネス | クンツァイト、アリーシャ、ザビーダ。準備はいい ? |
| ザビーダ | エドナちゃん。角の角度、どうよ ? |
| エドナ | バカな角度でバッチリ決まってるわ。 |
| アリーシャ | 確かにリーノ監督官からはクリスマスに相応しい身なりで配達するように言われているが……。この服は少し派手過ぎる気が……。 |
| クンツァイト | 季節に対応した偽装効果が期待できる。養護院の職員、及び子供たちに対する心理的影響も考慮し、この服装で作戦を遂行するべきだ。 |
| アリーシャ | な、なるほど、カムフラージュということか。 |
| イネス | みんな、確認するわよ。アリーシャ、クンツァイト、ザビーダは作戦通りイング養護院に配達員として潜入── |
| リチア | わたくしとイネス、エドナは不測の事態に備えて養護院近くで待機ですね。 |
| エドナ | 院内の見張りには注意して。バレたら面倒よ。 |
| ザビーダ | なにしろ敵の腹ん中でお宝探しだからな。ま、その辺は俺様の風に任せとけ。 |
| アリーシャ | 私も細心の注意を払います…… ! |
| クンツァイト | アン、これより救出に向かう…… ! |
| Character | 6話【聖夜6 潜入捜査】 |
| アリーシャ | アサノ商会です。クリスマス用のノルミン人形の搬入に来ました。 |
| 守衛 | ご苦労様。門を入って右に進むと荷車の搬入口がある。そこに担当の職員がいるから声を掛けてくれ。 |
| クンツァイト | 案内、感謝する。 |
| 職員 | 保管庫まで運んでもらって悪いな。この時期は俺たちも忙しくてよ。 |
| ザビーダ | イング養護院はお得意様だ。これくらい喜んでやらせてもらうさ。 |
| アリーシャ | ……クンツァイト。気づいているか ? |
| クンツァイト | 肯定。武装した衛兵、及び施設内トラップを感知した。トラップは非殺傷系。捕縛用と思われる。 |
| アリーシャ | 外ではなく中に対しての備えに見える。やはり普通の養護院ではないな、ここは。 |
| アン | あ…… ! ? |
| クンツァイト | アン── ! ? |
| 職員 | なんだ ? この子を知ってるのか ? |
| ザビーダ | ……ああ。行商人をしてるこの子の両親とウチが取引しててな。何度か話したことがあるんだよ。 |
| アン | …………。 |
| クンツァイト | アン。自分たちと共に帰還せよ。 |
| アン | え…… ? |
| クンツァイト | シンディとオーブはオマエの為に労働に従事している。商いを行い、賃金を獲得し、オマエが歓喜する品物の寄贈を目標としているのだ。 |
| クンツァイト | だが、二人はこの目標は誤っていたと認識を改めた。オマエを一人にしてしまった事実を後悔し、以降はオマエとの時間の共有を優先すると発言している。 |
| アン | ……ロウドウ、ジュウジ ? ジカンノキョウユウ…… ? |
| 職員 | ……アン、早く部屋に戻りなさい。 |
| アン | ……う、ん……。 |
| クンツァイト | 待て、アン ! |
| 職員 | 待つのはあんただ。あの子とはどういう関係だ ?……あんたたち、ホントにアサノ商会の人間か ? |
| ザビーダ | おいおい、さっき商会の従業員証確認したろ ? |
| アリーシャ | 彼はあの少女と特に親しくしていたので。もういいな、クンツァイト。 |
| クンツァイト | ……肯定。 |
| 職員 | 確かにさっきの従業員証は本物だったが……荷物運びはここまでで十分だ。あんたたちはもう帰ってくれ。 |
| ザビーダ | そんな無責任なことはできねえよ。アフターサービスまでバッチリ決めねぇとリーノ監督官に絞られちまう。 |
| 職員 | それはそっちの都合だ。知ったことじゃない。それとも最後まで手伝わなきゃならん理由があるのか ? |
| アリーシャ | ……ザビーダ様。 |
| ザビーダ | ああ、仕方ねぇ。 |
| 職員 | ぐぅっ ! ? お、お前、たち……はっ…… ! |
| クンツァイト | ……自分のミスだ。アンに迂闊な接触をしたために……。申し訳ない、アリーシャ、ザビーダ。 |
| アリーシャ | 気にするな。私たちの潜入はいずれバレる。遅いか早いかだけのことだよ。 |
| ザビーダ | こういう展開には慣れてるしお前の気持ちもわかるしな。さて、アリーシャ、どうする ? |
| アリーシャ | 二手に分かれるのはどうでしょうか。クンツァイトはアンの保護に向かい私は人身売買の証拠を探すのが良いかと。 |
| ザビーダ | なら、アリーシャちゃんには悪いが俺はクンツァイトと行かせてもらうぜ。こいつにはフォローが必要そうだからな。 |
| クンツァイト | 否。自分は単独での作戦行動が可能だ。 |
| ザビーダ | そういうことじゃねえよ。お前がさっきお嬢ちゃんにかけた言葉ありゃ硬すぎる。 |
| ザビーダ | デートに誘うならもっとそれらしくいかねえと。俺がそこんとこしっかりレクチャーしてやるよ。 |
| クンツァイト | 理解不能。自分はアンに交際を求めていない。 |
| アリーシャ | ふふ。わかりました。ザビーダ様、クンツァイトとアンをお願いします。 |
| ザビーダ | ああ、そっちの様子は風で探っとく。でも気を付けてくれよ ? |
| ザビーダ | しかし思ったよりも広いな、この養護院は。あのお嬢ちゃんを探すのは骨だぜ。 |
| クンツァイト | 否。アンの通常行動で移動できる距離は限られている。自分の計算では間もなく彼女を捕捉できるはずだ。 |
| アン | …………。 |
| ザビーダ | おぉ。やるじゃねぇかクンツァイト。いいか。今度はお嬢ちゃんでもわかる言葉を選べよ ?その上優しい声音でだな、こう、包み込むような……。 |
| クンツァイト | ……表現が抽象的。自分には理解不能だ。 |
| 衛兵A | お前たち、そこで何をしている ! ? |
| ザビーダ | ちっ ! クンツァイト、アンを ! |
| クンツァイト | 肯定 ! アンの保護を最優先とする ! |
| 衛兵B | おっと、動くな ! このガキがどうなってもいいのか ! ? |
| アン | ふあぁっ ! ? |
| ザビーダ | もう一人いるとはな…… !くそ、向こうに気を回し過ぎたか。 |
| クンツァイト | アンを離せ ! |
| 衛兵B | そうはいかん。持ってる武器を捨てろ。さもないと── |
| アン | うわぁ~~~ん ! |
| クンツァイト | ……了解した。要請を受諾、武装を解除する。ザビーダ。 |
| ザビーダ | わぁってるよ。大人しくしてやる。縛り首でもなんでも好きにしな。 |
| アリーシャ | (ザビーダ様の指示のおかげでここまで見つからずに来られたが……) |
| アリーシャ | (養護院院長の寝室──ここに証拠の類が無ければ…… ! ) |
| アリーシャ | (ん ? これは……取引の目録……。それに……売買ルートの書類…… ! ? ) |
| アリーシャ | (売買された日付や子供たちについての記録だ !イング養護院が人身売買を行っていたことを裏付ける証拠になる…… ! ) |
| アリーシャ | (他には……組織のメンバーリストもある。ふむ……規模自体はそこまで大きくないな。よし、ザビーダ様に魔鏡通信で連絡を──) |
| アリーシャ | 応答がない…… ? |
| ? ? ? | 総員に通達 ! 侵入者だ !院内を捜索しろ ! |
| アリーシャ | (廊下の衛兵たちが…… ! ?ザビーダ様とクンツァイトの身に何かあったのか ! ? ) |
| Character | 7話【聖夜7 救出】 |
| アリーシャ | (二人とも魔鏡通信に反応が無い……。まさか、捕まったのか ? ) |
| アリーシャ | (──誰か来る、隠れなくては…… ! ) |
| 衛兵A | おい。侵入者がいたって本当なのかよ ? |
| 衛兵B | ああ。三人組で二人は捕まえたらしい。残り一人は未だ逃亡中だ。 |
| 衛兵A | 集めてたガキどもを取り返しに来たのかねぇ……。 |
| 衛兵B | 念のため、ボスが子供たちを一カ所に集めてる。予定を前倒ししてここを放棄するかもしれないぞ。 |
| アリーシャ | (……やはり二人とも捕まってしまったのか。アンは無事なのか ? 状況が掴めない……。とにかくザビーダ様たちを救出しなければ…… ! ) |
| アリーシャ | イネス、聞こえるか ? 非常事態だ…… ! |
| イネス | ええ。こちらでも把握してるわ。ザビーダが魔鏡通信文でアンと一緒に捕まったって連絡してきたの。 |
| エドナ | でも、それ以降反応がないわ。魔鏡通信機を奪われたのね。 |
| アリーシャ | なるほど、そうでしたか……。 |
| イネス | そっちの首尾は ? |
| アリーシャ | 証拠は確保、人身売買組織の規模も把握した。だが、今はとにかくザビーダ様たちを救出しなければ…… ! |
| イネス | そうね。でも、あの二人が大人しく捕まるはずがない。アンを人質にされた可能性があるわ。一旦合流して対策を練りましょう。 |
| アリーシャ | 了解した…… ! |
| アン | い、いたい ! キャスリンせんせいいたいよ !どうしてアンをしばるの…… ! ? |
| キャスリン | あなたが部屋で大人しくしていなかったからよ。これは罰なの。静かにしていなさい。 |
| クンツァイト | 警告 ! アンへの暴力的行為は決して看過しない !拘束するのは自分とザビーダだけでいいはずだ ! |
| キャスリン | 暴力なんてまさか。この子は大切な商品よ ?その価値を損なうような真似するはずないじゃない。 |
| アン | しょう、ひん…… ? アン、うりものなの…… ? |
| キャスリン | ええ、そうよ。だから暴れたりしないでちょうだい。いいわね ? |
| ザビーダ | ……行ったか。いくら美人相手でもこういう趣味はないんだがなぁ。 |
| アン | ……キャスリンせんせい……。おかお、とってもこわかった…… ! |
| クンツァイト | 奴らは養護院に偽装した犯罪組織。オマエのような子供たちを売買して利益を得ている者たちだ。 |
| アン | ギソウ ? バイ、バイ ? |
| ザビーダ | つまりこういうことさ。キャスリン先生たちは人を人形みたいに売って、お金をもらう悪い奴。俺たちはそれを止めに来たってワケだ。 |
| ザビーダ | ま、捕まっちまったけどな。 |
| アン | ……つかまったの、アンのせいだよね…… ?アンがわるいひとにつかまっちゃったから……。ごめんねっ……うわぁ~~~ん ! |
| クンツァイト | 否定。断じて否定。アンに現状の責任はない。そしてアンは自分の能力を過小評価している。この程度の拘束、容易に突破可能だ。 |
| ザビーダ | ひゅ~。さすが機械人。縄を引きちぎりやがった。それじゃ俺様は優雅にやるか。 |
| アン | なわが、かってにほどけた…… ! |
| クンツァイト | アンの拘束も解除する。 |
| アン | ……うん……ありがとう……。 |
| クンツァイト | 拘束解除。ザビーダ、迅速なる脱出を提案する。敵から魔鏡通信等装備品を奪還し、速やかにアリーシャたちと連絡を取るべきだ。 |
| ザビーダ | 安心しな。俺たちの状況は魔鏡通信機を取り上げられる前に、通信文でイネスに知らせてある。 |
| ザビーダ | 今頃、アリーシャと合流して動いてるはずだ。こっちはしばらく大人しくしとこうぜ。焦って動いたら足を引っ張るかもしれねぇ。 |
| クンツァイト | 同意。自分たちや子供たちが人質になる可能性も否定できない。 |
| ザビーダ | そういうこと。とにかく今はお嬢ちゃんを見てやんな。 |
| アン | …………。 |
| クンツァイト | ……アンの元気が通常時を遥かに下回っている。 |
| ザビーダ | ……キャスリン先生に裏切られちまったんだ。ショックに決まってる。 |
| クンツァイト | アン、元気を出せ。オマエには自分たちがついている。オーブとシンディがオマエを待っている。 |
| アン | ……パパ、ママ……。 |
| アン | ……アン、パパとママと……あうの、こわい。 |
| クンツァイト | 疑問。何故親との再会に恐怖を抱くのか。以前にも自分は断言したはずだ。オーブとシンディがオマエを見捨てるはずがないと。 |
| クンツァイト | 彼らはオマエを愛している。自分が保証する。養護院の職員たちの言葉など忘却せよ。 |
| アン | でも……でも、でも……。 |
| ザビーダ | ……クンツァイト。そういう時はな、こうするのさ。 |
| クンツァイト | ? 何故、アンと自分の手を握らせる ? |
| ザビーダ | いいから。ちゃんとお嬢ちゃんの手を握ってやりな。 |
| アン | …………。 |
| クンツァイト | ……アンが……自分の手を握り返した。 |
| ザビーダ | お嬢ちゃんの手、暖かいか ? |
| クンツァイト | 肯定。アンは生命活動を維持している。自分の温度センサーは彼女の熱源を捉えている。 |
| ザビーダ | そうじゃねぇんだが……まぁ、伝わってるか。クンツァイト。お嬢ちゃんに言葉をかけ続けろ。なるべくわかりやすい言葉でな。 |
| ザビーダ | お前の手を握り返してくる力と暖かさはな。お嬢ちゃんの信じたいって気持ちなのさ。 |
| ザビーダ | 犯罪者どもの都合のいいこと吹き込まれても心の中じゃ親を信じるのを諦めてねぇんだ。 |
| クンツァイト | この暖かさと、力が……。 |
| アン | …………。 |
| クンツァイト | ……このままではアンたちは笑顔で再会できないと予測される。 |
| クンツァイト | 自分はこれより、アンとスピルリンクを実行する。彼女のスピリアと繋がり、その不安を取り除く…… ! |
| ザビーダ | スピルリンク──人の心に入るってやつか。確かに、それならお嬢ちゃんの本音を聞けるな。 |
| ザビーダ | よし。行ってこい、クンツァイト。お嬢ちゃんを笑顔にするためによ。 |
| クンツァイト | 了解した…… ! |
| イネス | アリーシャ ! |
| アリーシャ | 何とか無事に合流できたな…… ! |
| エドナ | で。これからどう動くのかしら ? |
| アリーシャ | ザビーダ様たちと施設内の子供たちの救出を同時に行い、どちらの安全も確保した状態で養護院の職員たちを捕らえます。 |
| リチア | どちらかを人質にされてしまったら手の打ちようがないですからね。 |
| イネス | 了解。クンツァイトたちの救出は私が行くわ。 |
| リチア | わたくしも同行させてください。クンツァイトが心配です…… ! |
| アリーシャ | わかった。エドナ様は私と一緒に、子供たちの救出をお願いできないでしょうか。 |
| エドナ | ……仕方ないわね。 |
| アリーシャ | ありがとうございます !では行きましょう ! |
| Character | 8話【聖夜8 少女の本心】 |
| クンツァイト | スピルリンクの成功を確認。スピルメイズの構造精査を開始する。 |
| クンツァイト | ──元の世界のアンのスピルメイズと酷似している。記録から進行経路を参照──完了。最短ルートで最深部へ向かう…… ! |
| アンの本心 | …………。 |
| クンツァイト | ……最深部に到達。対話を開始する。アン。オマエの不安を教えてくれ。 |
| アンの本心 | ……せんせいたちがいってたの。パパとママはアンよりおかねがだいじなんだって。おかねもうけにアンはじゃまなんだって。 |
| クンツァイト | 否。その発言は偽りだ。 |
| アンの本心 | みんな、うそいってたの ?でも、パパもママもあいにきてくれなかった。いいこにしてまってたのに。きてくれなかった。 |
| クンツァイト | それは……。 |
| アンの本心 | こわい……パパとママにあうの、こわいの……。きらいだっていわれたら、しごとがだいじっていわれたら……こわいよっ…… ! |
| クンツァイト | ……アン。オマエが今感じている恐怖は自分にも理解できる。自分もかつて恐怖から性能が低下したことがある。 |
| アンの本心 | …… ? |
| クンツァイト | クロアセラフとの性能差に恐怖を覚えオマエと同じように怯え、動けなくなったのだ。 |
| クンツァイト | リチアさまをお守りする為、恐怖を感じるスピリアを捨てて、ただの機械になりたい。あの時、自分はそう望んだ。 |
| アンの本心 | スピリアって……なに ? |
| クンツァイト | オマエにも自分にも備わっている大切なモノだ。確かに、スピリアは恐怖を生み出す……。 |
| クンツァイト | だが、時に恐怖を乗り越える勇気をも生み出すのだ。疑似スピリアを搭載した機械人である自分でも仲間たちの助けによって勇気を持つことができた。 |
| クンツァイト | アンなら必ず勇気を持てるはずだ。キャスリンたちの言葉に惑わされるな。 |
| アンの本心 | ゆう、き……。 |
| クンツァイト | オマエには自分がついている !オーブとシンディとスピリアを通わせるのだ、アン ! |
| イネス | クンツァイトだけじゃないわよ ? |
| リチア | ええ。わたくしたちも一緒です。 |
| クンツァイト | リ、リチアさま、イネス ! ?何故ここに…… ! |
| リチア | それは後ほど。今はアンを。 |
| イネス | 聞いて、アン。親ってものはね。世界の何よりも自分の子供が大切なの。世界を敵に回すことだってできちゃうくらいなのよ ? |
| イネス | 子供の為にどんな苦労も厭わなかった人を私は知っているわ。 |
| アンの本心 | …………。 |
| リチア | さぁ、アン。クンツァイトの手を握って。強くて暖かな勇気が湧いてきますよ。 |
| アンの本心 | ……うん。 |
| クンツァイト | ……アン。 |
| アンの本心 | ……もう、だいじょうぶ。クンチャイトがゆうきくれたから。 |
| クンツァイト | ……そうか。では帰ろう。オマエを愛する両親の元へ。 |
| ザビーダ | お、戻ってきたか。お嬢ちゃんと心は通じたかい ? |
| クンツァイト | 肯定。目的は達成したと推測する。だが疑問がある。何故リチアさまとイネスが ? |
| リチア | もちろん、あなたたちの救出に来たのです。 |
| ザビーダ | クンツァイトがお嬢ちゃんにスピルリンクした後に来てくれてな。事情を話したら二人ともお前を追ってスピルリンクしたってワケさ。 |
| アン | う~ん……パパぁ、ママぁ~……。 |
| ザビーダ | ……いい寝顔だ。これなら安心だな。 |
| クンツァイト | ザビーダ、感謝する。オマエの言葉に自分もアンとスピルリンクを行う勇気を貰った。オマエのおかげだ。 |
| ザビーダ | 子供の泣き顔は見たくなかっただけさ。気にすんなって。 |
| ザビーダ | いってぇ ! ? お前、ちょっと頑丈すぎじゃねぇか ! ? |
| クンツァイト | かつてヒスイも同様の反応をしていた。この穏やかな気持ちは……そうか。これが過去を懐かしむ、というものか。 |
| リチア | クンツァイト……。 |
| イネス | 和むのは全部が終わってからよ。アリーシャが人身売買の証拠を確保したの。さっさと悪党どもを捕まえに行きましょう。 |
| ザビーダ | お、いいねぇ。こんな所に放り込んでくれたお礼がしたかったんだ。付き合うぜ ? |
| クンツァイト | リチアさまはアンを連れて先に脱出してください。自分はイネスたちと共に悪党の確保に向かいます。 |
| リチア | わかりました。アンはわたくしに任せてください。 |
| イネス | ──アリーシャと連絡がついたわ。あっちも院内の子供たちの保護に成功したみたい。 |
| ザビーダ | やるじゃねぇか。それじゃあ、俺たちも気合入れて大捕物といきますか ! |
| クンツァイト | 了解 ! |
| Character | 9話【聖夜9 正義の裁き】 |
| 保護した子供A | あぁ~ ! おねえちゃんのかさについてるやつ !のるさまにんぎょーだぁ~ ! かわいい~ ! |
| エドナ | あなたたちにもサンタのお姉さんがプレゼントしてくれるかもね。だから、良い子にしてなさい。 |
| 保護した子供たち | はぁ~い ! |
| アリーシャ | エ、エドナ様 ! ? |
| エドナ | こんな所に詰め込まれて大人しくしてるのよ。それくらいのご褒美はあるべきじゃない ? |
| アリーシャ | わ、わかりました !事件が解決した暁には子供たちにノルミン人形を全力で配ります ! |
| エドナ | ええ。いい心がけね。 |
| ザビーダ | よぉ、待たせたな二人とも ! |
| イネス | 院内の子供たちはこれで全員かしら ! ? |
| アリーシャ | 先ほど衛兵の一人を捕らえて確認した。全員ここにいるぞ。 |
| クンツァイト | 感謝する。これで悪党どもを全力で捕獲できる。 |
| エドナ | ワタシはここで子供たちを見てるから。悪者退治は任せるわ。 |
| ザビーダ | おう。言われるまでもねぇ。 |
| アリーシャ | はい ! このような悪辣非道な連中は一人たりとも逃がしません…… ! |
| キャスリン | 地下に閉じ込めていた連中に逃げられ子供たちも奪われるなんて…… ! |
| 衛兵 | ボス ! どうしますか ! ? |
| 院長 | 口惜しいが命あっての物種だ ! ズラかるぞ ! |
| アリーシャ | そこまでだ ! |
| クンツァイト | 総員、武装を解除せよ ! |
| ザビーダ | 因果応報だ。神妙にお縄につけい、ってな。 |
| イネス | 慈善団体を隠れ蓑に人身売買なんてね。いくらなんでも下衆が過ぎるわ。 |
| 院長 | て、てめぇらっ…… ! 一体何者だ ! ?なんだってそんなっ…… ! |
| アリーシャ | お前がイング養護院の責任者だな。グリンウッド領の犯罪組織と共謀し人身売買で利益を得ていた── |
| アリーシャ | お前の寝室にあった、この取引目録で確認した。取引先についてもすべて話してもらう。観念して大人しく裁きを受けろ…… ! |
| キャスリン | い、いつの間に ! ? |
| 院長 | っ…… ! お、お前 ! グリンウッド領の騎士か ! ?わかった、わかったよ ! 売買で得た儲けをやる !今よりずっといい暮らしをさせてやる ! |
| 院長 | だから俺たちの用心棒になれよ、な ! ?他の連中もだ ! いい腕っ節だ、頼りになる ! |
| イネス | って言ってるけど ? |
| アリーシャ | 論外だ。 |
| 院長 | このっ…… ! いいか、これから世界は平和になる !そうなりゃお前みたいな騎士はお役御免だ !金に困るに決まってる ! |
| 院長 | 俺たちについた方が美味しい思いができる !それくらいわかるだろ ! ? |
| アリーシャ | ──騎士は守るもののために強くあれ。民のために優しくあれ。 |
| アリーシャ | 私の……私の師の言葉だ。私が騎士であり続けるのは己の理想を現実にする為…… ! そして ! |
| アリーシャ | お前たちのような外道から民とその幸せを守る為だ !何を言われようとそれは変わらない ! |
| 院長 | 青二才がっ…… !もういい ! てめぇら、やっちまえ ! |
| キャスリン | 私たちに刃向かったことを後悔させてあげる ! |
| クンツァイト | 敵性反応、増大。アリーシャ、指示を期待する。 |
| アリーシャ | 全員を無力化して捕縛する ! |
| イネス | 了解。ザビーダ、手加減しなさいよ ? |
| ザビーダ | そっちもな。力の入れすぎ、注意だぜ ? |
| 院長 | ち、ちくしょうっ…… ! |
| 騎士団団員 | そこ、大人しくしろ ! |
| アリーシャ | クリスマスの警備などで忙しいのにすまない。手間を掛けさせてしまうな。 |
| 騎士団団長 | とんでもない。こちらこそ何とお礼を言えばいいか。まさかイング養護院がこんな非人道的な行いの拠点になっていたとは……。 |
| アリーシャ | これが彼らの犯罪の証拠だ。法に則った対応を頼む。 |
| 騎士団団長 | もちろんです。連中と繋がっている奴らも必ず捕らえてみせます。 |
| エドナ | これで一件落着かしら ? |
| ザビーダ | ……いや。 |
| アン | …………。 |
| クンツァイト | アン、目を覚ますのだ。 |
| アン | ん……ここ、は…… ? |
| シンディ | あぁ、アン…… ! |
| オーブ | 怖い思いをさせてすまなかった…… ! |
| アン | パパ、ママ……。 |
| リチア | さぁ、アン。 |
| イネス | 勇気を出して。 |
| クンツァイト | 自分たちが一緒だ。 |
| アン | ……うん。 |
| アン | パパ、ママ。アンは……いらないこ ? |
| シンディ | そんなこと……ある訳ないでしょう…… ! ? |
| オーブ | 仕事ばかりでお前に会いに行けなかった。一人にして寂しい思いをさせてしまった。本当に……すまなかった…… ! |
| オーブ | お前はパパとママにとって世界でたった一つの宝物だ。いらないなんて、そんなことあるものか…… ! |
| アン | う、ん…… !パパ、ママっ…… ! |
| クンツァイト | ……アンの勇気の発露を確認。オーブとシンディとの関係は改善されると予測する。 |
| イネス | こういう時くらいシングやヒスイみたいに思い切り喜んだらどう ? |
| クンツァイト | それは抑制も理性的判断も無分別に放棄して涙を放出しろということか ?機械人である自分には不可能だ。 |
| リチア | でも、嬉しいのですよね ? |
| クンツァイト | はい。スピリアの根底から歓喜を感じています。本当に……よかった。 |
| Character | 10話【聖夜10 それぞれのクリスマス】 |
| ヒスイ | くそ、なんでクリスマス・イブにこんな重労働を…… ! |
| コハク | ほら、お兄ちゃん。もう少し頑張ろ ?プレゼントを待ってる人がたくさんいるんだから。 |
| ヒスイ | そりゃわかってるけどよ……。俺たちは別の街で配達終わって戻ってきたばかりだぜ ?さすがに疲れが…… ! |
| シング | みんなの笑顔を見れば疲れも吹き飛ぶはずさ !ガンドコ配達しようよ、ヒスイ ! |
| ? ? ? | その通りだ、シング ! |
| アリーシャ | 街の人々にクリスマスを笑顔で過ごしてもらうために、我々にできることをやろう ! |
| ノルミンA | アリーシャは~ん。こっちはウチらにお任せや~。 |
| アリーシャ | ノルミン様も手伝っていただき感謝いたします ! |
| ノルミンB | メリ~クリスマスや~。プレゼントお持ちしましたで~ ♪ |
| ヒスイ | アリーシャもノルミンも、いい顔で働いてんなぁ……。よーし仕方ねぇ ! もうひと踏ん張りするか !シング ! 超高速ガンドコダッシュだ ! |
| シング | ああ ! アリーシャたちに負けていられない !行こう、コハク ! |
| コハク | うん ! |
| アリーシャ | イネス、今回は本当に世話になった。改めて感謝する…… ! |
| イネス | いいのよ、気にしないで。 |
| イネス | それにしても、アサノ商会は相変わらずひどいわね。クリスマス向けの製造が終わった途端に工場の作業員を全員解雇するなんて。 |
| アリーシャ | リーノ監督官も気に病まれていたよ。頑張って結果を出してくれた人たちを商会都合でクビにしなければならないなんて……。 |
| イネス | 工場の人たち、みんなウチに来てもらおうかしら。今度は年末年始の人手が足りなさそうなのよ。 |
| アリーシャ | 本当か ! ? ぜひ頼むよ、イネス !みんな落ち込んでいたから、きっと喜ぶはずだ ! |
| イネス | ええ、任せて。私も助かるしね。 |
| イネス | …………。 |
| アリーシャ | ……イネス ? |
| イネス | あぁ、ごめんなさい。アンはご両親とクリスマスを楽しめてるかなって考えたら、ラピスのことを思い出しちゃって。 |
| アリーシャ | ラピス……。イネスの知り合いのお子さん、だったか…… ? |
| イネス | ……ええ。あの子がこの世界にいるのなら、アンと同じように鏡映点じゃないでしょうけれど……。 |
| イネス | 幸せに生きていて欲しいなって。改めて、そう思ったのよ。 |
| アリーシャ | イネス……。 |
| イネス | さて、私も配達に参加しようかしら。アリーシャ、一緒に行ってもいい ? |
| アリーシャ | ああ、もちろんだよ。 |
| ザビーダ | うし ! この辺りは終わりだ !エドナちゃん、次のナビよろしく ! |
| エドナ | あっち。 |
| ザビーダ | いや、あっちって……。エドナちゃん、せめて指差しくらい頼むぜ ? |
| エドナ | このワタシに労働を強いるなんて。偉くなったものね。 |
| ザビーダ | あー……お願いしますエドナ様。次はどちらに向かえばよろしいでしょうか ?指で方向を示していただけると助かります。 |
| エドナ | ん。 |
| ザビーダ | サンキュー。あぁ、そうだ。 |
| エドナ | これ以上は働かないわよ ? |
| ザビーダ | そうじゃねぇ。イネスの手伝いが終わったらよ。アイゼンに会いに行くか ? |
| エドナ | ……いい。 |
| ザビーダ | そうかい。 |
| エドナ | 代わりに……この手紙、届けて。 |
| ザビーダ | お。クリスマスカードってヤツか ? |
| エドナ | 届けるの ? 届けないの ? |
| ザビーダ | 届けるさ。約束のザビーダの名に懸けてな。 |
| エドナ | ……ありがと。 |
| リチア | これで配達はおしまいですね。 |
| クンツァイト | 肯定。自分たちの担当区画の配達は完了しました。リチアさまは先にご帰還ください。自分は特別任務の遂行に移ります。 |
| リチア | ふふ。アンにクリスマスプレゼントを届けに行くのですか ? |
| クンツァイト | な、何故それを…… ! ? |
| リチア | ごめんなさい。今朝イネスと話しているのを聞いてしまいまして……。 |
| アン | あ~クンチャイトとおねえちゃんだ~ ♪ |
| シンディ | こら、アン。お仕事の邪魔をしないの。 |
| リチア | いえ、今終わったところです。アン。雪が降っている時に走ると危ないですよ ? |
| アン | でもね、パパとママにかってもらったノルさまにんぎょーをね、クンチャイトにみせたかったの ! |
| クンツァイト | それはアサノ商会が総力を挙げて制作した限定品。入手は困難を極めるはずだ。 |
| オーブ | アンには寂しい思いをさせてしまいましたから。これくらいのことはしないと。 |
| リチア | よかったですね、アン。 |
| アン | うん ! |
| クンツァイト | …………。 |
| リチア | クンツァイト。ほら、あなたからも。 |
| クンツァイト | ……了解しました。アン、自分からもクリスマスプレゼントを進呈する。様々な情報から考慮して選定したものだ。 |
| アン | わ~ ! ありがと、クンチャイト !あけていい ? |
| クンツァイト | もちろんだ。 |
| アン | ……まっしろのマフラー ! きれー…… !アン、とってもうれしい ! |
| リチア | よかったですね、アン。ところでクンツァイト、わたくしにはないのですか ?クリスマスプレゼント。 |
| クンツァイト | そ、それは…… !本日のプレゼント交換会までお待ちください…… ! |
| アン | ……クンチャイト ! こっちにきて ! |
| クンツァイト | アン ? 待て。どこへ行く ! ? |
| クンツァイト | ……状況確認。現在位置、街の露店広場。アン、何故自分をここへ連れてきたのだ ? |
| アン | クンチャイト、おねえちゃんのプレゼントまだかってないんだよね ? |
| クンツァイト | な、何故その情報を知っている ! ? |
| アン | クンチャイトのことならなんでもわかるもん ♪プレゼント、アンがえらんであげる !ここ、いっぱいおみせがあるでしょ ? |
| クンツァイト | ……協力に感謝する。しかし、自分もシミュレーションを繰り返しているがリチアさまがお喜びになるプレゼントは── |
| アン | だいじょうぶ ! アンにまかせて !う~んとね~……。 |
| アン | これはどう ? スノードームっていうの !すごくきれーでしょ ? |
| クンツァイト | ……クリスマスを想定したインテリアの一種と確認。液体で満たされた球体内を白色の微粒子が飛散し雪を演出していると推測される。 |
| アン | でね、でね ! なかにはいってるおにんぎょうさん !おねえちゃんにそっくりでしょ ! |
| クンツァイト | ……肯定。リチアさまとの類似点を確認。季節、状況から、このスノードームはリチアさまへのクリスマスプレゼントとして適切だと判断するが……。 |
| クンツァイト | リチアさまに……喜んでもらえるだろうか…… ? |
| アン | きっとだいじょうぶ ! アンとクンチャイトがえらんだんだもん !ゆうきをだして、クンチャイト ! |
| クンツァイト | 勇気……ああ、その通りだ。アン、感謝する…… ! |
| アン | うん ! |
| リチア | おかえりなさい、クンツァイト、アン。どこに行っていたのですか ? |
| アン | えへへ、いまはひみつ ! でもたのしみにしてて !ね、クンチャイト ! |
| クンツァイト | 肯定。後ほど開示しますのでお待ちください。 |
| リチア | わかりました。ではアンを信じて楽しみにしていますね ? |
| クンツァイト | はい…… ! |