Character1話【双拳1 異常気象】
アルフェン……みんな、揃ったか ?
テュオハリムいや。まだ、ロウの姿がないようだ。
リンウェル大丈夫かな。もしかして、どこかで凍えてたり……。
キサラ心配しすぎだろう。きっとそろそろ――
ロウう~、さみぃさみぃ……。
リンウェル遅いよ、ロウ !もうとっくにみんな揃ってるのに。
ロウ悪い、悪い。ちょっと居眠りしちまってさ。寒すぎてそのまま死んじまうとこだったぜ。
リンウェルちゃんと窓閉めなきゃ駄目だよ。寝る時は毛布をかぶって……。
ロウあー、もう、わかってるって。
キサラシスロディアの気候に慣れているロウがその様子ならやはりこの寒さは尋常ではないんだな。
シオンええ。こんな寒さ、ダナでもティル・ナ・ノーグでも感じたことがないわ。
アルフェン他の大陸のみんなにも聞いてみたが、この異常気象はシスロディア大陸だけで起きているようだ。
テュオハリムシスロデンの周囲を渦巻く、猛烈な寒波。加えて、空の分厚い雲……。
ロウおかげで昼間っからこの暗さ……本当、気分悪いぜ。まるでガナベルトの野郎がいた頃のシスロディアじゃねえか。
リンウェルさすがに、あの頃みたいに集霊器で光を奪われてるわけじゃないから、晴れ間もなくはないけどね。その代わり、寒さはもっとひどいかも……。
キサラ寒波に加えて日も差さなければ、作物が育たない。このまま長引くと、深刻な食糧不足が起きてしまうぞ。
シオンええ、これは命に関わる重大問題よ…… !最優先で解決しましょう。
アルフェン……さすが、食べ物が絡むと気合が入るな。
シオンそ、そういうわけじゃないわよ…… !命に関わるのは事実でしょう ?
テュオハリムうむ。飢えに限らず、衣食住の不足は人の心を荒廃させてしまうものだ。聞けば街でも小競り合いが増えているとか。
ロウああ。俺も昨日、喧嘩の仲裁に駆り出されたぜ。夜中に何事かと思ったら、食いもんの奪い合いだとさ。
リンウェルなんだか悲しいね、そんなの……。
キサラ連日の大雪で、道の往来も難しくなっているからな。街中ではすでに物資がなくなりかけている。
テュオハリムアルフェン。聞いたところでは、問題が起きているのはシスロデン周辺だけではないそうだな ?
アルフェンああ、そうなんだ。こっちが寒波に見舞われてる一方で火山地帯は逆に暑くなってるらしい。
ロウマジか ! ?ちょっとそっちに行って、あったまりてえな。
リンウェルそんなこと言って、向こうに行ったら今度はこっちで涼みたいとか言うんでしょ。
シオンどれくらいの暑さなの ?あの辺りはカラグリアに似た気候だったから以前から暑くはあったわよね。
アルフェン断片的な情報しかわからないが、外に出てるだけで火傷しそうなぐらいだとか……このままじゃ命の危険があると報告が来てる。
キサラなんてことだ……。すぐにでも救援に行かなければならないな。
アルフェン問題は、どう助けるかだ。住民たちをこちら側に避難させるにしても今度は寒さに対処しなきゃならない。
テュオハリム物資の不足も、人数が増えればより深刻になる。ふむ……問題は山積みだな。
シオン異常気象の原因はわからないの ?根本的な解決ができないと、いずれ手詰まりだわ。
アルフェン一応、キールたちに相談はしている。研究室のみんなで色々調べてくれているが原因はまだわからないそうだ。
リンウェルうーん……キールたちにもわからないんじゃ本当に謎なんだね。
アルフェンただ、仮説はあると言っていた。少し前にビエゾが火山地帯で集霊器を使っただろう ?
ロウああ、あれがぶっ壊れた時はすごかったよな。でっかい炎の化け物が出て来てさ。
アルフェンキールの話では、まさにあの炎の怪物が周囲の均衡を崩してしまった可能性があるそうだ。
シオンでも、あの怪物はあなたが炎の剣で消滅させたわよね ?
アルフェンそう思っていたんだが、どうやら完全には消えていなかったんじゃないかと言っていた。
アルフェン力の不均衡がどうとか……説明を聞いても、俺にはよくわからなかったが。
テュオハリムなるほど……ありえぬ話ではないな。集霊器に集まっていた力はそれほど莫大だった。
ロウま、要するに原因はあの辺にあるってことだろ ?じゃあまた行ってみるしかねえよな。
テュオハリムうむ。原因の究明と、熱波に苦しむ民の救援。いずれにせよ直接行かねば何もできまい。
アルフェン俺もそれがいいと思う。みんな、一緒に来てくれるか ?
シオンそんなこと、当たり前でしょう。確認するまでもないわ。
キサラ……その迷いのなさは、食糧のためなのかそれともアルフェンのためなのか。どちらなのだろうな ?
シオンなっ…… ! ?
ロウメシのためだな。
リンウェルアルフェンのためでしょ。
シオンいい加減にしなさいよ、あなたたち……。
テュオハリムふむ。その反応を見るに両方といったところか。『寒風に 心乾けば 腹の音も泣く』
シオンか、勝手に変な詩を詠まないで !
キサラなるほど。食糧が足りなければ、人と人が心を通わす余裕もなくなるという意味ですね。
アルフェン相変わらず、よく伝わるな……。
アルフェンまあ、確かにテュオハリムの言う通りだ。準備ができたら、出発しよう !
ロウおう !
テュオハリム……変な詩、か……。
キサラそんなことで落ち込まないでください。テュオハリム……。

Character2話【双拳2 村への使者】
アルフェンこの村まで来れば、火山地帯はもうすぐだ。……みんな、大丈夫か ?
シオン大丈夫じゃ……ないわよ……。
ロウざみい……鼻水が凍っちまう……。
リンウェル汚いなあ、もう。……へくしゅん !
キサラリンウェル、お前も気をつけた方がいい。この寒さは命に関わるぞ。
テュオハリム手足が冷えれば、戦いでの動きも鈍くなる。ここで少し休んだ方がいいかもしれんな。
シオンそうね……。アルフェン、あなたも寒さを感じないからって油断しない方がいいわ。
アルフェン確かになんとなく体が鈍くなってきた気がする。気をつけるよ、ありがとう。
ロウ……ん ?なんか、向こうが騒がしいぜ。
村人A……全く、どうしてあんな奴を村に入れたんだ !使者とかなんとか言って、信用できるのか ?
村人B火山の方から来たのは確かみたいだがな。避難を手助けしてくれと言われても、こっちは自分たちの生活も限界だってのに……。
村人Aまったくだ !  今の状態で、避難民なんて入ってきたら俺たちは飢え死にしちまうぞ。
村人Bいっそ追い出してしまったらどうだ ?吹雪で野垂れ死のうが、俺たちの知ったことじゃない。
ロウおい !  あんたら、何を話してんだ ?追い出すとかなんとか物騒な言葉が聞こえたぜ。
村人Aえ ?  あ、いや……。
村人B火山の方から、避難を手伝えって使者が来たのさ。いい迷惑だよ。こっちも死にかけてるってのに。
アルフェン厳しい時だからこそ、みんなで助け合う必要があるんじゃないのか。
村人A……そんな綺麗事言われてもな。俺たちゃこの天気で生きるのも精一杯なんだ。
アルフェン食糧が足りないのはよくわかってる。大雪で時間がかかっているが、俺たちの仲間が物資を運んできてくれている。
アルフェンだから、もう少しだけ辛抱してくれ。苦しい者同士で憎み合っても何も生まれない。
村人Bへっ……辛抱なら、毎日してるさ。もう行こうぜ。
村人Aああ……。
リンウェル……なんだか、悪い意味で昔を思い出すね。みんな余裕がなくて、お互いの悪口ばっかり。
シオン元の世界のシスロディアのことね。密告社会で、誰も彼も疑い合っていた……。
ロウ……できれば、思い出したくねえな。〈蛇の目〉にいた頃は、俺もそのムカつく状況を作る側だったんだ。
アルフェンロウ一人が責任を感じることじゃないさ。国中がそういう状況だった。
ロウ俺一人のせいとまでは思ってねえけどさ。俺自身がやっちまったことは忘れられねえよ。親父のこともあるしな……。
テュオハリム……ガナベルトはおそらく、そんな風に民衆一人一人に罪悪感を抱かせることで自分が支配しやすい状況を作っていたのだろうな。
ロウえっと、つまり……俺が昔を引きずってんのもあいつの思惑通りってことか ?
テュオハリムそういう側面もあるということだ。己の罪の重さを忘れるのが、良いことだとは私も決して思わぬよ。
アルフェン……しかし、どうもすっきりしないな。
シオンどうしたの ?  アルフェン。
アルフェン当時のシスロディアにはレナの支配があった。少し前はこの世界でも帝国という支配者がいた。
アルフェンでも、今はそうじゃない。誰かに強制されたわけでもないのにお互いがお互いを疑い、憎み合っているんだ。
シオンしっかりして、アルフェン。支配者がいなくても、原因ははっきりしてるじゃない。
シオンだったら、その原因を除けばいいだけよ。やることは同じ。そうでしょう ?
アルフェン……そうだな。ありがとう、シオン。
リンウェルこれから、どうする ?このまま火山地帯に向かうのもいいけど……さっき言ってた『使者』って人も気になるよね。
アルフェンああ、俺も話を聞いてみようと思っていた。向こうがどんな状況かも知っておきたいからな。
ロウんじゃ、そのへんの人に聞いてみようぜ。使者ってのがどこにいるか知ってるだろ。
キサラ火山地帯から来た使者がいるのはこの宿で合っているか ?
宿の主人ええ、奥の部屋で寝てます。あの人、村に着いた時から疲れ果てた様子でねえ。話を終えるなり倒れちゃったんですよ。
シオン無理もないわね。灼熱の火山地帯を抜けて、今度は吹雪の中をここまで歩いてきたんだもの。
テュオハリム眠っているのなら、まだ話は聞けぬだろうが……我々で治療の手助けができるかもしれんな。
アルフェンああ、部屋に行ってみよう。
宿の主人どうぞ、この部屋です。
テュオハリムあの男が例の使者か。なるほど、体格からして屈強な人物のようだな。
リンウェル…………えっ ?そ、そんな………… !
二人! !
キサラ?  どうした ?リンウェル……アルフェン、シオンまで。様子がおかしいぞ。
ロウもしかして、知ってる顔か ?俺にも見せ――
ロウ…………嘘……だろ…… ?
ジルファ…………。
ロウ親父…… ! !

Character3話【双拳3 思わぬ再会】
ジルファう……誰だ……。誰か、そこにいるのか…… ?
リンウェルジルファ ! !よかった……よかった、目が覚めて……。
ジルファ……リンウェル、か ?それにお前たち…… ! ?
シオン治癒術が効いたようね……。無事に目が覚めてよかったわ。
アルフェンジルファ、本当に……ジルファなんだな。
ジルファ……妙なことを聞くんだな。リンウェル ?  お前、泣いてるのか ?
リンウェルな、泣いてな……ぐすっ。だって、だってジルファが……。
ジルファ何がどうなってるかわからんが……いったん顔を拭いて落ち着け。俺はどこにも行ったりしない。
リンウェルでも……ううん、そうだよね。ごめん。
ジルファ謝らなくていい。俺も、お前たちにまた会えて嬉しいぞ。
アルフェン……ああ。こっちの台詞だ、ジルファ。また、会えてよかった。
ジルファダナでも、レナでもない……ティル・ナ・ノーグ。そこに『具現化』された、と ?
シオン混乱するわよね。わかるわ、その気持ち。
ジルファまあ、な。細かいところはわからんが……漠然と感じていたことの確信は得られた。
ジルファ……俺がおかしな場所で目を覚ましたのはもうかなり前のことだ。そこは、カラグリアともシスロディアとも似つかない緑豊かな土地だった。
キサラそれは……もしや、メナンシアが再現された土地なのだろうか。
ジルファおそらく、そういうことなんだろう。そこの連中は、俺がいくら尋ねてもダナもレナも聞いたことがないと言った。
ジルファ妙な感じだった……。奴隷もいないし、食うにも困らない土地なんてな。
アルフェンそこから、どうして火山地帯へ行ったんだ ?
ジルファあそこでの暮らしは確かに平和だった。だが、俺はどうしてもお前たちや〈紅の鴉〉のことが頭から離れなかった。
ジルファ俺が急にいなくなって、どうしているか。今もどこかで戦っているのなら、俺だけがのうのうとしているわけにはいかない。
ジルファそう思って、旅を始めた。あちこち彷徨って……少し前にたどり着いたのがあのカラグリアに似た土地だ。
テュオハリム故郷の面影を求めて、か。
ジルファだが……結局『似ている』だけだった。あそこに俺を知る者は一人もいなかった。ガナルもネアズも、誰もな……。
リンウェル……つらかったよね。
ジルファそうだな。カラグリアにはつらい記憶も、いい記憶も無数にある。俺が生きてきた世界そのものだった。
ジルファどうしたものかと思ったが……ちょうどその頃、あの辺りは何か事件の後で混乱しているようだった。
ジルファなんでも『ビエゾ』が倒されたとかって噂を聞いたが……まさか、本物のビエゾだったのか ?
アルフェンああ。だが、俺たちが倒したよ。
ジルファははっ !  さすが、よくやったな。二度もお前に破れれば、あいつも地獄で少しは懲りるだろうよ。
シオン懲りる頭があるとは思えないけど。まあ、今度こそ二度と会うことはないでしょうね。
ジルファそう願おう。
ジルファ……ビエゾ亡き後の火山地帯は、誰もが疲れ切っていて助けが必要に思えた。
アルフェンそうだな……俺たちの組織もできる限り支援したが、復興は時間がかかっていた。
ジルファその様子を見ていたら、離れがたくてな。俺の知るカラグリアでなくとも人が苦しんでるのは同じだ。
ジルファあてのない郷愁のために放浪を続けるより俺は残って復興の手伝いをすることを選んだ。少しでも、皆の助けになろうと思ってな。
ジルファそうこうしているうちに、気づけば周りの連中にあれこれ頼まれて、まとめ役みたいになっちまった。そして、今に至るというわけだ。
アルフェンジルファらしいな……。やっぱり、あんたは指導者の器なんだな。
ジルファよしてくれ、そんな大層なものじゃない。お前こそ、見ないうちに仲間が増えたようじゃないか ?
アルフェンああ、この二人は――
テュオハリムテュオハリム・イルルケリス。エリデ・メナンシアの元領将だ。以後、見知りおき願おう。
ジルファ領将、だと…… ! ?
キサラテュオハリム、いきなりその自己紹介は……。
ジルファふっ……はははは !
ジルファレナ人だとは思ったが、これはまたずいぶん大物だな。こちらこそよろしく頼む、テュオハリム。
テュオハリム……領将の名ごときでは動じないか。アルフェンたちから話はかねがね聞いていたが確かに、その通りの人物だな。
ジルファこいつらの仲間だって言うならそれだけのことさ。
キサラ私はキサラだ。メナンシアで、テュオハリムの近衛兵をしていた。今は互いに対等な仲間だがな。
ジルファなるほど。面白い連中を集めたものだ。この五人で戦ってきたわけか。
キサラいや、仲間はもう一人いるのだが……。こんな大事な時に、ロウはどこへ行ったのだ ?
ジルファ……ロウ ?  ロウ、と言ったか ?まさか……いや、同じ名前か。偶然にしては……。
アルフェンいや、同じ名前というか……。
シオン……シッ。この反応……多分、ジルファはまだロウと『出会って』いないんだわ。
アルフェンあ !  ……そういうことか。
ジルファどうした ?
シオン……ジルファ。私たちの仲間のロウは、確かにあなたの息子よ。
ジルファなんだと…… ! ?本当なのか、それは !
ジルファいや、嘘などつくはずもないか。すまん……予想もしてなかったもんでな。
シオン元の世界であなたと別行動になって……それから出会って、仲間になったの。
リンウェルう、うん !  そうなんだよ。ジルファとは全然似てなくて、ガサツで単純だけどでも……いい仲間だよ。
ジルファそうか……。そうか、あいつ……生きていたか。
ジルファロウ……。
ロウ……この声。はは……マジで親父の声だ……。
ロウちくしょう、なんでこんな……涙が……。顔合わせらんねえじゃねえかよ……。
ロウ……親父……。

Character4話【双拳4 ぎこちない二人】
ジルファさて……話したいことはいくらでもあるが今はこのぐらいにしておこう。いつまでも寝ているわけにはいかない。
リンウェルジルファ ! ?駄目だよ、まだ起きちゃ !
シオンリンウェルの言う通りよ。傷は治したけれど、消耗した体力が戻ったわけじゃないんだから。
ジルファああ、治療には感謝してる。お前には世話になりっぱなしだな、シオン。
シオン何を急に……当たり前でしょう。怪我しているのを放ってなんておけないわ。
ジルファ当たり前、か。変わったな。昔は「必要だったから」なんて言っていただろう。
シオンは、話を逸らさないで。とにかく、あなたはまだ休息が必要よ。
ジルファ……今は休めないんだ。俺が行かないと、死んじまう奴らがいる。
キサラ火山地帯の民のことだな。状況はそれほどひどいのか ?
ジルファああ、カラグリアで育った俺がうんざりするほどだ。猛烈な日差しで大地も乾き、飲み水さえ確保できない。
アルフェンそこまで切迫していたのか……。
ジルファこちら側の住民に手を借りるか、あるいは一時避難する場所でも借りられればと思ったが……それも厳しい状況だということはよくわかった。
ジルファしかし、少なくとも寒冷地帯に近い場所まで皆を避難させる必要がある。境界のそばまで来れば対処のしようもあるしな。
テュオハリム雪を溶かせば水になる。あるいは氷で体を冷やすこともできる、か。
ジルファそういうことだ。こちら側まで入ると、今度は吹雪をしのぐ必要がある。双方行き来できる場所で対処するのが現実的だろう。
ジルファ俺はすぐに戻って、準備にかからなきゃならない。あいつらの命を背負ってるからな。
ロウ……だったら。なおさら、一人で行くんじゃねえよ。
リンウェルロウ !  戻ったんだね。
ジルファロウ…… ! !
ロウその……久しぶりだな、親父。話は聞こえたぜ。
ジルファ…………そうか。
アルフェンロウの言う通りだ、ジルファ。火山地帯なら、目的地は俺たちと同じ。
アルフェン一緒に行こう。だから……頼むから、無茶はしないでくれ。
ジルファ……わかった。
ロウ…………。
ロウ……んじゃ、決まりだな。俺は荷物の準備してくるぜ。
リンウェルあ……ちょっと、ロウ ! ?そんなすぐに……。
キサラ久しぶりの再会で、気まずいところもあるのだろうな。
ジルファ……いや。あいつはきっと、まだ俺のことを怒っているんだろう。
ジルファあいつにとって俺は、戦いのために母親と自分を見捨てた身勝手な父親なんだ。……俺も、それを否定できなかった。
リンウェルでも、ロウは…… !
アルフェンリンウェル。今はそっとしておこう。
リンウェル……わかった。出発まで、ちゃんと休んでね !  ジルファ。
ジルファああ、そうさせてもらう。
ロウ……はぁ。くそっ、どうすりゃいいんだよ……。
リンウェルロウ !  何してるの、こんなとこで。
ロウうわっ ! ?急に話しかけてくんなよ !
リンウェル急じゃないよ !ロウが気づかなかっただけでしょ。
ロウそりゃ……悪かったな。なんか用かよ。
リンウェルなんか用か、じゃなくて !どうしてジルファにあんな態度取ったの ?
ロウあんなって、どんなだよ。
リンウェルなんかツンツンしちゃってさ。全然嬉しくなさそうだったよ。
リンウェルせっかくまたお父さんに会えたのに…… !ねえ、どうして ?
ロウどうして、って――
ロウ……俺にも、わかんねえよ。本当にわかんねえんだ、どうすりゃいいのか……。
リンウェルロウ……。
ロウ親父が死んだ時……俺は言いたいことも聞きたいこともたくさんあったんだ。でも、いざ目の前にしたら何も言えなくなっちまった。
ロウどんな顔すりゃいいのかもわからねえ。俺は――
ロウ俺は、親父に取り返しのつかないことをしちまった。親父が死んだのは、俺のせいなんだぜ。
リンウェル違うよ !ロウのせいじゃ…… !
ロウ確かに、手を下したのはガナベルトの野郎だ。でも、親父を捕えたのは他でもない俺なんだ。俺がこの手で、自分の意思でレナに引き渡した。
ロウあの時俺がいなけりゃ、親父は〈蛇の目〉なんてぶん殴って切り抜けてたに決まってるしな。
リンウェルそれは、そうかもしれないけど……。
ロウ……ずっと忘れられねえんだよ。あの感触。無抵抗の親父をぶん殴った時の最低の感触を、今でも拳が覚えてるんだ。
ロウなのに、今は何も知らねえ親父が目の前にいるんだぜ ?謝ろうにも、向こうは心当たりもねえって……。
ロウどうすりゃいいのか、わかんねえよ。どう償えばいいのか……。
リンウェル…………。
ロウ……なんだよ。お前までそんな顔すんなって。
リンウェルだって……だって、ロウ…… !
ロウ気にすんなよ。これは俺と親父の問題だ。
ロウお前は先に戻ってろよ。俺もすぐ行くから。
リンウェルうん……、わかった。
ロウ……はぁ。こんな気分になんのも、俺がやったことへの罰なのかもしれねえな。

Character5話【双拳5 火山を目指して】
テュオハリムくっ……すさまじい吹雪だな。立ち止まると吹き飛ばされかねん。
キサラか、かか……火山が見えているのにお、おおお、おかしなもの、です……。
ジルファダナも同じだったはずなんだがな。互いの土地が見えなかっただけで。
リンウェルそうそう !シスロディアからカラグリアに着いた時は空気が熱くて溶けちゃうかと思ったよ。
ロウ今回は、もっと温度差がキツいかもしれねえ。気をつけろよ、リンウェル。
リンウェルむっ……なんで私にばっかり言うの ?ロウだっていつもの格好で寒いんでしょ。
ロウ俺は鍛えてるから平気なんだよ。
リンウェル……さっき、くしゃみしてたくせに。
ロウそっ、それよりお前、初めてカラグリアに行った時は倒れちまったんだろ ?だから俺は気をつけとけって―― !
リンウェルあの時は本当に必死だったし――
キサラ……さ、さささ寒さで、仲裁する気も……アルフェン、任せる、ぞ……。
アルフェンああ。二人とも、その辺にしておけ。そんなことで体力を使うと後が大変だぞ。
リンウェルあ……そうだよね。ごめん、つい。
ロウわかってるって。俺なら平気――
ロウ――ぇっくしょい !……だぜ。
シオンもう少し進んだら、火を起こして温まった方がよさそうね。
アルフェンああ、そうだな。その時は頼む、シオン。
ジルファ…………。
アルフェンどうした、ジルファ ?体は大丈夫か ?
ジルファああ、なんともない。ただ、お前もずいぶん変わったと思ってな。
アルフェンそうか ?  いい方向にだと思いたいが。
ジルファもちろん、そうだ。見ないうちにすっかり貫禄が出た。
アルフェンきっと、鎧のせいだろう。過去のダナ人が使っていたものらしい。
ジルファそんな上辺のことじゃない。抵抗組織とやらの話は、この大陸のあちこちで聞いた。まさか、お前がそれを率いていたとはな。
アルフェン率いてるなんて言われると、しっくり来ないな。俺は今もみんなに頼りっぱなしだ。
ジルファお前自身も、皆に頼られている。見ていればわかるさ。
ジルファ新しい仲間はもちろん、シオンとリンウェルも昔以上にお前を信頼してる。
アルフェンそう……なんだろうか。自分じゃよくわからないが。
アルフェンだが、もしそうなれているなら……それはあんたにたくさん教わったおかげだ。
ジルファ俺が何をしたって ?
アルフェンあんたは奴隷だった俺に、自分自身として生きる道を示してくれた。あんたがいなかったら今の俺はいない。
ジルファふっ……そいつは光栄だな。
ジルファだが、俺の言葉はしょせん俺の考えだ。それだけに従っていれば、お前自身の心を見失うぞ。
アルフェン「俺の奴隷になるな」……だよな。わかっているさ、ジルファ。
ジルファ……そうか。余計な心配だったな。
アルフェンダナでもティル・ナ・ノーグでも俺は多くのものを見て、ずっと探し続けてきた。本当の、自分自身の答えを。
アルフェンまだ道は半ばだが……あんたに会えたら話したいことがたくさんあったんだ。今は本当に、それを話せるんだな。
ジルファ話したければいつでも言ってくれ。今は、やるべきことが優先だがな。
アルフェン……ジルファ。その言葉、ロウにもかけてやってくれないか。
ジルファ…… !
アルフェンあいつもきっと、話したいことがたくさんある。すぐには言い出せないかもしれないが……。
ジルファロウ……か。あいつは、お前から見てどんな男だ ?
アルフェンえ ?
ジルファ俺は離れていた時間が長すぎてな。今のあいつがどんな人間なのか、わからない。
アルフェン……そうだな。ロウは努力家で、まっすぐでいつも俺たちに突破口を開いてくれる。頼もしい仲間だよ。
ジルファふ、そうか……。
アルフェン嬉しそうだな、ジルファ。
ジルファ俺が最後に覚えているあいつは、怒りに満ちて危げな子供だった。
ジルファそんなあいつが、お前の言うように立派に成長できたのなら、これほど嬉しいことはない。きっとお前のおかげなんだろう。
アルフェンいや、ジルファ。それは違う。
アルフェン俺たちは確かにお互い支え合ってきたが……ロウが成長したのは、ロウ自身の努力の結果だ。
ジルファそうか……確かにそうだな。俺はまだあいつを子供と思っていたのかもしれん。
アルフェン親ってのはそういうものなんだろう。それに、ジルファ。あんたの存在はロウにとって何よりも大きな目標になっていたはずだ。
アルフェンだから、きっとロウにとっても同じなんだ。離れていても、あんたはロウの『親父』だった。
ジルファ……アルフェン。ありがとうよ。
ロウ…………はぁ……。
キサラロウ、大丈夫か ?
ロウあ、ああ……大丈夫だ。別に寒くねえよ。
キサラそういうことではなく、だな……。
テュオハリムつまり、父親とのことで何か悩んでいるなら我々も話を聞くということだ。
ロウ大将まで……なんか格好悪いな、俺。心配ばっかかけちまって。
キサラそんなことを気にするな。仲間だろう ?
ロウ……ありがとな。でも、もう少し俺一人で考えてえんだ。
テュオハリムそうか。ならば、野暮は言うまい。
キサラ丸く収まるのでしょうか、あの二人。
テュオハリムふむ。実のところ、私はさほど心配していないのだ。
キサラどうしてです ?
テュオハリムロウもジルファも、つまるところ互いを気遣うがゆえ接しあぐねているのだろう。ならば、きっかけさえあれば氷はすぐに溶けよう。
キサラその『きっかけ』が難しいから、悩んでいるのだと思いますが……。
キサラ……でも、そうですね。上手くいって欲しいものです。過去に何があろうと……家族なんですから。

Character6話【双拳6 心の壁】
ロウ……そろそろ、火山地帯との境界だな。寒さがちょっとは和らいできたぜ。
リンウェル?  ねえ、あそこ……人が集まってるよ。こんな場所で何してるんだろう。
アルフェン何か言い争って――いや、武器を向け合っているのか ! ?まずい、すぐ止めに行こう !
ジルファ!  あいつらは…… !
火山地帯の住民それ以上近づくな !俺たちは命懸けなんだ、覚悟はできてるぞ。
寒冷地帯の住民それはこっちの台詞だ !村には一歩も入れさせるものか !
ジルファお前たち、何をしている !俺はこんなことをしろと言った覚えはないぞ。
火山地帯の住民あっ、ジルファさん…… ! ?無事だったんですね !
テュオハリム薄着の彼らは、ジルファの知り合いかね ?
ジルファああ、俺の仲間だ。動く元気のある奴を集めて周辺の調査をさせていた。それがどうしてこんなことになっている ?
火山地帯の住民お、俺たちは悪くないっすよ !ただ、ジルファさんの指示通りにこの辺りを調査してたんです。
火山地帯の住民そうしたら、こいつらが近づいてきて武器を向けやがって…… !
寒冷地帯の住民調査だと !  やっぱり、私たちの食い物を奪おうと下調べしてたんだな。
寒冷地帯の住民村の食糧は、誰にも渡すものか !子供も腹が減ったって泣いているんだ…… !
アルフェンみんな、落ち着いてくれ !  お互い誤解してるんだ。まずは武器を収めて、冷静に――
火山地帯の住民それなら、あいつらから武器をしまうべきだ。先に抜いたんだからな。
寒冷地帯の住民ふざけるな、泥棒どもめ !ここは私たちの土地だ。さっさと帰れ !
ロウ……てめえらなぁっ ! !
全員! !
ロウさっきから何を馬鹿なこと言ってやがる !そんなもん突きつけ合って、誰が得するってんだ ! ?大した根拠もねえのに、疑って憎んで !
ロウ誰に強いられてもいねえのに、自分たちで壁を作ってどうするんだよ…… !
火山地帯の住民くっ……。
ロウ今はそんな場合じゃねえだろ。自分も家族も死んじまうかもしれねえってのに !
寒冷地帯の住民だ、だから私たちは、泥棒のあいつらを――
ロウお前らも本当はわかってるんじゃねえのか。こいつらは泥棒なんかじゃなくて自分らと同じように必死になってるだけってこと。
寒冷地帯の住民そ、それは……。
ジルファ…………。
ロウだから武器をしまってくれよ。お前らは、敵同士なんかじゃない。
ロウ感情にまかせて、敵でもない人を傷つけちまったら事が収まった後で必ず後悔するぜ。……俺にはよくわかるんだ。
リンウェルロウ……。
寒冷地帯の住民「事が収まった後」ってのは、いつなんだ ?そんな時が本当に来るのか ?
ロウえっと……そりゃ、まあいつかは来るだろ。そのために俺たちがこれから調べて――
火山地帯の住民調べて、解決しなかったら……どうなっちまうんだ ?うちの爺ちゃん、このままじゃ死んじまう……。
ロウそれは……その……。
ジルファ――俺たちが、必ず解決する。誰も死なせやしない。
ロウ親父…… ! ?
ジルファ苦しい時に、目の前の誰かを責めるのは簡単だ。あいつのせいだ、こいつのせいだってな。
ジルファだが、本当に自分を苦しめてるのはなんだ ?お前たちが武器を突きつけてる奴らなのか ?
火山地帯の住民……そうじゃない。この空のせいだ。
寒冷地帯の住民ああ、この寒さで何もかもおかしくなってる。私たちも……。
ジルファそうだ。そいつと向き合わない限り状況は何も変わらない。
ジルファここで殺し合っても、得られるのは新しい恨みだけだ。暑さも寒さもなくなりはしないまま、な。
住民たち…………。
ジルファそれでもまだ争いたいってんなら……まずは俺が相手になってやる。
ジルファさあ、どうする ?
寒冷地帯の住民……わかった、もういい。みんな、武器を下ろそう。
火山地帯の住民ああ、こっちも手を引く。冷静になるよ、ジルファさん。
シオン一触即発かと思ったけど、どうにか収まったわね。
テュオハリム的確に事情を汲み、場を鎮める手腕。なるほど、アルフェンが学んだというだけある。
リンウェルこれで、ようやく火山地帯に向かえるね。早く原因を調べないと。
アルフェンああ、問題はここからだ。何かもう少し手がかりがあるといいんだが……。
ロウ……ん ?  魔鏡通信か ?
アルフェンキールからだ !何かわかったのかもしれない。
キールアルフェン、そちらの状況はどうだ ?
アルフェンこっちは今から、火山地帯に入って調査するところだ。そっちは ?  もしかして、何かわかったのか ?
キールそれが……わかったといえばわかったんだが大きな問題があるというか……。
シオン歯切れが悪いわね。
キールまあ、聞いてくれ。ぼくは解決策を探るために、ケリュケイオンで大陸周辺の空を調査してもらったんだ。
キール集霊器から現れた『炎の化身』が原因だろう、という話はしたな ?
リンウェルうん。あの炎の力がまだなくなりきらずに残ってるのかも、って聞いたよ。
キールああ、そうだ。膨大な力の偏りがそのままになったことで火山地帯はさらに暑く、寒冷地帯はさらに冷え込んだ。
キールぼくは、空からの調査でその力が集まる場所を測定できると思ったんだ。
キールそうすれば、アルフェンの炎の剣でもう一度完全に散らすことで、異常気象は収まるはずだからな。
ロウあー……よくわかんねえけどその測定ってのが、上手くいかなかったのか ?
キールいや、測定自体は上手くいったんだ。問題は……その力の座標が常に移動し続けていることだ。
キサラ移動…… ?空中をさまよっているとでも言うのか ?
キールわからない。とにかく動きが不規則で予測できないんだ。場所を特定した頃には、もう別の位置に移ってる。
リンウェルそれじゃ、追いかけても永遠に追いつけないってこと…… ! ?
キールいや、空から特定するのが難しいだけだ。それだけ大きな力が動けば地上でも必ず目に見える変化があるはず。
キールその辺りで、何か大きな力が動いているのを見かけなかったか ?たとえば、竜巻とか……。
アルフェン竜巻……誰か、見たことはあるか ?
火山地帯の住民うーん、見たことないなぁ……。
テュオハリム……常に動いている、と言ったがその動きはたとえるならどんな風かね ?直線的であるとか……。
キールいや、それがなんとも言えない。直線だったり、曲線だったり、まるででたらめなんだ。答えのない数式みたいでイライラするよ。
テュオハリム……ふむ。自然の中に、それほど不規則な動きをするものは実のところ多くはない。
テュオハリム風にも、水の流れにも、それぞれの法則があり一定の律動で重なり、調和を奏でているものだ。その調和を乱すものとは、すなわち――
ロウすなわち、なんだよ !何かわかったんなら、早く言ってくれよ。
テュオハリムすなわち、『生物』だよ。獣はその時々で気まぐれに動くものだ。
キール! !  そうか、そういうことか !
キール集まった力は、何かの動物に取り憑いたんだ。それなら不規則な動きに説明がつく。どうして気づかなかった…… !
ジルファ動物だと……そいつは魔物ってこともありえるのか ?
アルフェン心当たりがあるのか、ジルファ ?
ジルファああ。ちょうど暑くなってきた頃から、この辺りで異様な力を持った魔物が現れたんだ。カラグリアで見たどんなズーグルよりも強力だ。
ジルファ皆には避けるように言っていたが毎日動き回るんで、厄介だったんだ。くそっ、俺の目も節穴だな。
キサラいや、手を出さなくて正解だったろう。集霊器の力は、とても一人や二人で対処できるものではなかった。
アルフェン確認させてくれ、キール。その魔物を倒して、取り憑いた力を拡散させれば今起きている異常気象は収まるんだな。
キールああ、そのはずだ。
ロウよし、やるべきことは決まったな。魔物をぶっ倒して、暑さも寒さも吹っ飛ばしてやるぜ ! !

Character7話【双拳7 心をひとつに】
アルフェン異常気象の原因はわかった。あとは解決するだけだ。
シオン動く前に、具体的な計画が必要よ。火山地帯を動き回る魔物を見つけ出さなきゃいけないんでしょう。
キサラそうだな……闇雲に歩き回っていては時間がいくらあっても足りないぞ。
テュオハリムとはいえ、キールから聞けた位置情報は少し前のもの。大まかな居場所はわかるが、正確な現在地は自らの目と足で見つける以外にないぞ。
リンウェルうーん……何か痕跡でもあるといいけど。炎の力を纏ってるなら、焦げ跡とかさ。
ロウ火山地帯なら、焦げ跡なんてそこら中にあるんじゃねえか ?
リンウェルあ、そっか……。
ジルファ…………。
アルフェンジルファ、何かいい案はあるか ?
ジルファ皆で手分けして探すしかないだろう。泥臭いが、確実な手だ。
アルフェンそうだな……それしかないか。俺たち七人でどうにか――
ジルファいいや。俺は『皆』でと言ったんだ。ここにいるのは七人だけじゃない。
アルフェンえ ?  まさか…… !
火山地帯の住民お、俺たちもってこと…… ! ?
寒冷地帯の住民ちょ……ちょっと待ってくれ !そいつは恐ろしい魔物なんだろ ! ?
ジルファ本当に恐ろしいのは、魔物じゃない。このまま異常気象が続くことだ。
ジルファそうなれば、弱い者からどんどん死んでいく。生き延びた者も、冷静じゃいられなくなるだろう。さっきのようにな。
寒冷地帯の住民それは……確かに。
ジルファこれ以上、一分一秒でもこんな状態を続けるわけにはいかない。
ジルファ幸い、おおまかな範囲はわかってるんだ。この人数が全員で協力して捜索にあたればそう時間はかからないはずだ。
火山地帯の住民うう……ジルファさんの言う通りだけど俺は戦いは素人なんだぜ。
火山地帯の住民しかも、ついさっきまで武器を向け合ってた奴らと協力するなんて……。
寒冷地帯の住民私たちだって、そんなことできるはずがない…… !
ジルファできるさ。俺たちなら、できる。
ジルファ人の心が一つに集まればどれだけのことができるか俺はこの目で見てきた。
ジルファ地獄のような状況だろうと、人は覆せる。何百年続いた支配も、どれだけの分厚い壁もはね除けられるんだ。
リンウェル……そうだね。私たちも見てきたよ。レナからの解放も、帝国からの自由も。
寒冷地帯の住民そういうのは、一握りの強い奴らがすることだろ ?私たちみたいな弱い者は、見ていることしか……。
ジルファ違う。必要なのは、誰か一人の力じゃない。そうだろう、アルフェン ?
アルフェンああ。俺は確かに、この炎の剣の力でいろんな戦いを切り抜けてきたが……本当に世界を変えたのはこの剣でも俺でもない。
アルフェン壁を壊せたのも、帝国をひっくり返せたのも気持ちを同じくする大勢の人が協力し合ったからだ。
アルフェンあんたたちも同じ力を持ってる。故郷を守りたい、家族を救いたい。だから武器を持ってここへ来たんだろう ?
火山地帯の住民そうだ、暑さで苦しんでる爺ちゃんを死なせたくなくて……。
アルフェンなら、一緒にやろう。俺たち全員で、みんなの故郷を救うんだ。
寒冷地帯の住民……ああ、わかった。私たちもやれるだけやってみよう…… !
ジルファよし、そうと決まれば捜索の詳細を詰めるぞ。全員、手伝ってくれ。
一同おう !
ロウ……やっぱ、すげえよな。親父もアルフェンも。
リンウェルさっきのロウも、結構頑張ってたと思うよ。みんなにビシッと言ってさ。
ロウへへ……ま、俺は言いたいこと言っちまっただけだけどよ。
リンウェル……ねえ、ロウ。やっぱり、まだジルファとちゃんと話せない ?
ロウああ……。でも、なんか元気な親父を見てたらこれで十分なのかもって気もしてきたんだよな。
リンウェル十分、って ?
ロウ二度と会えないはずの親父と同じ世界で生きてるってだけで、幸せ者だなってさ。謝るとかってのも、俺の自己満足だろ。
リンウェル……でも、本当は話したいんでしょ。もっともっと言いたいことあるんだよね ?
ロウそりゃ、そうだけど……。
リンウェルだったら、そんな我慢しちゃ駄目だよ !ジルファだってきっと話したがってるのに……。
ロウなんで、お前がそんな必死になるんだよ。
リンウェルだってさ……普通は会いたくても会えないんだよ。いなくなった人とは……。
ロウあ……そうか、お前も……。……ごめん。
リンウェルわ、私のことだけじゃなくて !そういう人はダナにもいたし、この世界にもいるよ。言いたかったこと、心にずっとしまったままでさ。
ロウ…………。
リンウェルでも、ロウには奇跡が起きたんだよ。だから絶対、無駄にしちゃ駄目。
リンウェル……お節介なのはわかってる。でも、ロウとジルファがまた仲良くなれたら……私は嬉しいなって、それだけ。
ロウリンウェル……。
ロウ……そうだよな。このままじゃいけねえ。勇気、出してみるか……。

Character8話【双拳8 火山の魔物】
アルフェン……よし、班分けは大体決まったな。それぞれの班に戦える者を数人配置するから危険はかなり減らせるはずだ。
火山地帯の住民助かるよ、これで魔物に遭遇しても安心だ。
キサラああ、任せてくれ。どんな魔物が来ようとこの盾で止めてみせる。
テュオハリム三方に分かれれば、十分な範囲を捜索できよう。魔物が範囲外へ移動している可能性もあるがその時は再びキールに測定を頼めばよい。
リンウェル私たちはどう分かれようか ?
ジルファアルフェンとシオンは炎の剣のために同じ班だな。あとは――
ロウ……お、俺は !  俺は、親父と一緒に行くよ。親父がよければ、だけど。
ジルファ…………わかった。問題ない。
リンウェルじゃあ、私はアルフェンたちと一緒に行くね。これで班分けは決まり !
アルフェンよし、早速始めよう。みんな暑さには十分注意してくれ。
寒冷地帯の住民ああ、そうだな……向こうに入ったら防寒着を脱がなきゃいかん……。
火山地帯の住民ははっ、火山地帯の歩き方は俺たちが教えるよ。足元にも気をつけろよ。
アルフェン炎の力をまとった魔物を見つけたら足止めをしつつ、無理はせず他の班を呼んでくれ。
アルフェンでは……出発だ !
ロウ…………。
ジルファ…………。
ロウ(……駄目だ。やっぱ、話しかけづれえ)
火山地帯の住民ジルファさん、向こうの捜索は終わったよ。それらしい魔物はいないみたいだ。
ジルファ……わかった。この辺りはほぼ調べ終わったな。
ジルファ残りの者が戻ったら、次の場所へ移動する。全員、今のうちに準備をしておけ。
火山地帯の住民はい !
寒冷地帯の住民おーい !見つけた、見つけたぞ ! !
ジルファ!  例の魔物か ! ?
寒冷地帯の住民いや、でかい足跡だけだったが……周りの地面が燃えていたんだ !
ロウそいつだな。間違いねえ。
ジルファああ、その場所へ案内してくれ。
ロウ足跡はこの奥に続いてんな。まだいるのか…… ?
ジルファ調べてみるしかない。俺が先頭を行く。ロウ、背中を頼めるか ?
ロウあ、ああ……。任せてくれ。
ジルファよし、行くぞ。ゆっくり後に続け。
火山地帯の住民はい !
ロウ…………。
ジルファ……ロウ、大丈夫か ?さっきから黙っているが。疲れたか ?
ロウえ ?  いや、大丈夫だよ !ただ、なんか昔を思い出しちまってさ。
ジルファ昔……。
ロウあ、別に悪いことじゃねえって !
ロウその……はっきりは覚えてねえんだけどさ。ガキの頃も、こんな風に親父の背中を見てたような気がしたんだ。
ジルファ……そんなことも、あっただろうな。
ロウあの頃は、俺もデカくなりゃ追いつけるって単純に思ってた。
ロウでも、やっぱり簡単には届きそうにねえや。今日また親父の背中を見て、実感したよ。
ジルファ……俺の背中、か。
ジルファ俺はそんなに立派な男じゃない。俺は……戦いにかまけて、家族を顧みなかった。
ロウ…………。
ジルファお前が背中ばかり覚えているのも、無理はない。俺はお前に正面から向き合ってやれなかった。
ジルファ母親を助けられず、お前がカラグリアから姿を消して……ようやく自分の過ちを理解した。俺はそんな、馬鹿な男だ。
ロウそんなことねえよ、親父。……馬鹿だったのは俺の方だ。
ジルファ……ロウ。すまなかった……何もかも。
ジルファお前が俺に怒りを感じるのは当然だ。だが、これだけは言わせてくれ。
ジルファ俺はお前のことも、母親のことも一日だって忘れた日はない。
ジルファあの時、それを言ってやれなかったことが俺の最大の過ちだった。今、こうしてお前に言えてよかった。
ロウ俺も……それを聞けてよかったよ。
ロウでもな、親父…… !それはもういいんだ。俺はもう怒ってねえ。
ジルファ…… ?
ロウ俺は……俺の方こそ、謝らなきゃいけなくて。でも、説明が難しいっつうか――
ジルファロウ、伏せろっ ! !
ロウえ ?  ……うおわっ ! ?
炎をまとった魔物グォォォォォォッ ! !
ロウ危ねえ……っ !こいつが、例の魔物か !
火山地帯の住民ひいぃっ !  ジ、ジルファさん、どうしたら ! ?
ジルファお前たちはアルフェンたちを呼びに行け !こいつは俺たちが足止めする !
寒冷地帯の住民わ、わかったっ !
炎をまとった魔物ガウウッ ! !
ロウ行かせるかよっ !おらぁっ ! !  無影掌 !
ロウあっつっ…… !  拳が焼けちまうぜ。
ジルファ気をつけろ、ロウ !はあああっ ! !  牙砲 !
炎をまとった魔物グルルルルル……。
ロウ親父の拳も受け止めんのかよ。丈夫な野郎だぜ…… !
炎をまとった魔物ゴオオオオオオオオオオオオッ ! !
ロウなんだ、この揺れ…… ! ?こいつが起こしてんのか ?
ジルファまずい…… !上だ、崩れるぞ !
ロウなっ…… !うわああああっ ! ?

Character9話【双拳9 二人の拳】
キサラ魔物が見つかった ! ?場所はどこだ ?
寒冷地帯の住民む……向こうの洞窟の中だ。ハァ、ハァ……。
テュオハリム我々も向かおう。アルフェンたちもそうしているはずだ。
火山地帯の住民――それで、ジルファさんとロウが残って魔物を足止めしてたんだけど……。
シオン「だけど」 ?  二人に何かあったの ?
火山地帯の住民……洞窟が崩れたんだ。魔物だけは外に出てきたけど、二人はまだ中に閉じ込められてる。
リンウェルそんな…… ! !
アルフェンすぐ助けに行こう。このままだと二人が危険だ !
リンウェル……ロウ、ジルファ。お願い、無事でいて…… !
ジルファごほっ……ロウ !  無事か ?
ロウ……ああ、なんとか。暑くて体が茹だっちまいそうだけど。親父はどうだ ?
ジルファ俺も問題はない。だが、確かにここの暑さは異常だな。あの魔物の影響か……。
ロウさっさと出ねえと、本当に焼け死んじまうぜ。あれ ?  出口は……どこだ ?
ジルファさっきの落盤でふさがったようだな。おそらく、この岩の向こうだと思うが。
ロウだったら、ぶっ壊して出るしかねえ。はぁぁぁぁっ ! !
ロウ……かってえ !くそっ、俺の拳じゃ無理か……。
ジルファ俺がやってみよう。……ふんっ ! !
ロウ親父でも無理か……。こうなりゃ、二人で徹底的に叩き込んで――
ジルファいや、やめておけ。体力を消耗するだけだ。
ロウ外に出なきゃ死んじまうぞ !あきらめんのかよ…… ! ?
ジルファこいつは拳の百や二百で砕ける岩じゃない。この暑さで闇雲に体力を使えば、死が早まるだけだ。
ジルファ生き延びるためには、体力を温存して待つんだ。少し待てば必ずアルフェンたちが来る。それとも、あいつらが信じられないか ?
ロウ……わかったよ、待てばいいんだろ。
ジルファああ。今はそれが最善だ。
ロウ…………。
ジルファ……ロウ。少し、聞いていいか ?
ロウん ?  ああ……。
ジルファアルフェンたちとの暮らしはどうだ。毎日、忙しくしていると聞いたが。
ロウまあな。でも、別に俺はアルフェンみたいにみんなを引っ張ってるわけじゃねえからさ。結構、気楽にやってる。
ジルファアルフェンは、お前を頼りにしていると言っていたぞ。鍛錬も毎日続けているらしいな。
ロウそれは癖みたいなもんっつーか……。あ !  でも、ちゃんと体を休める時間も作ってるぜ。
ロウ昔、言ってただろ ?たまには筋肉を休ませろってさ。
ジルファそうだな……そんなことも言った。よく覚えていたな。
ジルファ我ながら、偉そうなことを言ったもんだ……。自分はろくに休みもしなかったくせにな。
ロウ……まあ、これからは少しずつ休んでくれよ。昔ほどは忙しくないんだろ。
ジルファ……そうだな。これから、か……。
ロウ
ジルファ……ロウ。お前に、渡しておきたいものがある。
ロウなんだよ、急に。
ジルファ大事な話だ。……こいつを受け取れ。
ロウ……お袋の指輪 ?
ジルファああ。もし、いつか生きてお前に会えたら……ずっと渡すつもりでいた。
ジルファ今がその機会だと――
ロウ……ちょっと待てよ、親父。さっきからなんなんだよ。
ジルファ何がだ ?
ロウ俺たちは生きてここから出るんだろ。そんな話、いつだって出来るじゃねえか。
ロウなのに、なんでそんな顔で俺のこと見てやがるんだよ !
ジルファ…………。
ロウ……怪我してんだな。さっきの落盤か ?
ジルファ……いや。あの魔物だ。すれ違いざまに腹をやられちまった……歳だな。
ロウ何言ってんだよ…… !さっき、じっとしてりゃ生きられるって !
ジルファお前は生きられる。それが一番大事なことだ。
ロウ……っ !
ジルファ俺は、ずっとお前に会える日を待っていた。そんな日が来るかもわからず……。
ジルファだから、もう……未練はない。言いたいことは、全て……ぐっ……。
ロウふざけんじゃねえっ ! !こっちはまだ言いたいことがあるんだよ !俺はもっと話してえんだ……親父と ! !
ジルファロウ……。
ロウ勝手に満足しやがって…… !俺はまだ謝れてもいねえんだ…… ! !
ロウ絶対に死なせるかよ !   !岩が邪魔ってんなら、叩き割ってやる !
ロウうおおおおおおおっ ! !おらっ !  おらっ !  おらぁぁっ ! !
ジルファ岩に……ヒビが ! ?ロウ、お前……。
ロウはぁ……はぁっ……。
ジルファ……そうか。お前の拳はもう子供の拳じゃないんだな。自分の力で、進む道を切り開ける……。
ジルファふっ、俺としたことが……自慢の倅を見くびっちまうとは。
ロウ……もう一発……っ !
ジルファ待て、ロウ。
ロウうるせぇ !  止めんじゃねえっ !
ジルファ止めるものか。俺は決して、お前の道を阻む壁にはならない。
ジルファ同時に叩き込むぞ。まだ、やれるな ?
ロウ……へへっ。そっちこそ、無理して倒れんなよ。
ジルファその時は、お前が俺を担いでいってくれ。
ロウ任せとけよ。じゃあ、行くぜ……せえのっ !
二人はああああっ ! !
リンウェル……スプレッド ! !
炎をまとった魔物ガァァァッ ! !
アルフェン……くっ !この魔物、やはり強い…… !
キサラこれでは、ロウたちを助けに行く暇がない !なんとか攻撃を引きつけて、隙を作るか…… ! ?
テュオハリム……いや、待て。洞窟の方から、震動を感じる。
リンウェルえっ ! ?  それ、まさか――
アルフェン岩が砕けた…… !ロウ、ジルファ !  そこにいるのか ?
ロウ親父、もうちょっとの辛抱だからな !
ジルファ……すまんな。倅の肩を借りることになるとは……。
ロウこのぐらい、どうってことねえよ。思ったより軽いぐらいだぜ。
リンウェル二人とも !  よかった……。
ロウシオン、親父を頼めるか ?腹をやられてる。
シオンええ、任せて。すぐに治療するわ。
ジルファ……ロウ。俺のことは心配いらん。好きに暴れてこい。
ロウああ、行ってくるぜ !
炎をまとった魔物ガオオオオオッ ! !
ロウよし…… !見ててくれよ、親父…… ! !

Character10話【双拳10 大きな背中】
ロウちっ……しぶとい野郎だぜ。
テュオハリム恐ろしい力だな。ビエゾも厄介な置き土産をしたものだ。
アルフェンだが、だいぶ弱ってきている。あと一息だ…… !
炎をまとった魔物ウオオオオッ ! !
キサラ!  来るぞ !気をつけろ !
シオンフリーズランサー ! !
炎をまとった魔物ゴウッ ! ?
アルフェンシオン ! ?ジルファはもういいのか ?
シオンええ、治療は終わったわ。
ジルファはあっ ! !
ロウ親父…… !
ジルファロウ、俺たちで片をつけるぞ。
ロウああ…… ! !  行くぜ !
炎をまとった魔物グゥ………… !ガアアアアアアアアッ ! !
ジルファ俺は……守ると決めた !一歩も引かん !
ロウ俺は……進むと決めた !一歩も止まらねえ !
二人剛柔の極致 !紅鴉狼・轟雷 ! !
炎をまとった魔物………… ! !
ロウはぁ……はぁ……。やった、ぜ……。
ジルファ……ああ、よくやった。さすがは俺の倅だ。
ロウへへ……。
リンウェルちょ、ちょっと待って !魔物の体から、炎が…… !
テュオハリム!  これが、奴に取り憑いていた力か。すさまじいものだな……。
シオンアルフェン、今よ !
アルフェンああ。キールの言った通り、今度こそ炎の剣で…… !うおおお……っ ! !
キサラ……炎が消えたな。これで、終わったのか ?
ロウああ、ちょっとは暑さがマシになった気がするぜ。暑いことは暑いけど、カラグリアと同じぐらいだ。
アルフェンいったん、村に戻ろう。向こうの寒さも落ち着いたかどうか、確かめないとな。
リンウェルうん、吹雪も止んですっかり寒さが和らいだね。
キサラ村の空気も変わったな。さっきまで睨み合っていた者たちが今では握手をしている。
アルフェン天候が戻ったおかげだがジルファの言葉も大きかったと思う。あれでみんな、歩み寄る勇気が出たんだ。
ジルファあの時、本当は誰も戦いたいとは思っちゃいなかった。俺はただ、自分の心に耳を傾けろと言っただけだ。
シオン……そうかもしれないわね。ジルファがいなければ、あの場は収まらなかったでしょうけど。
テュオハリムただ人を従わせるのではなく、己の心に従わせる……見事だ。ジルファとは、折を見て為政者のなんたるかを語り合いたいものだ。
ジルファはは…… !為政者どころか、俺は筋金入りの反逆者だぞ。話ならいつでも聞くがな。
テュオハリムそれは助かる。では、早速――
キサラテュオハリム。時と場所を考えてください。それに、今はもっと話したい人がいるんですから。
テュオハリムむ、そうだったな。これはすまない、ロウ。
ロウいや、俺は……その……。
リンウェルロウ、頑張って !
ロウわ、わかったって !ったく……。
ジルファ……何か、改めて話したいことがあるんだな。
ロウ……ああ。言っても仕方ねえとも思ったけど……やっぱり、俺の気が済まねえんだ。
ジルファ話してみろ。
ロウその……ずっと、謝りたかったんだ。まず、親父の気も知らねえで勝手にカラグリアを出ていっちまったこと。
ロウきっと、しんどかったよな。お袋が死んじまったってのに俺までいなくなってさ。
ジルファ……そうだな。あの時は、必死に捜した。
ジルファお前がどこにもいないとわかった時は……生きた心地がしなかった。
ロウ……ごめん。
ジルファいいんだ。こうして、また会えた。
ロウ…………。それと……もう一つ、謝らせてくれ。
ロウ話すとややこしいんだけど……元の世界で、俺は親父の知らない少し未来にいたんだ。
ジルファ未来だと…… ?
ロウああ。俺、本当は親父に会ってたんだよ。アルフェンたちと親父がシスロディアに入って少し後ぐらいだったらしい。
ロウその時、俺は……親父にひどいことをしちまった。どう謝りゃいいかわかんねえぐらい。
ロウ怒りに任せて傷つけて、それで――親父の思いを裏切るような真似をしたんだ。
ジルファ…………。
ロウ……わかってるんだ !今ここにいる親父は、何も知らねえって。
ロウでも……言わなきゃいけない。言わなきゃ俺は、親父の顔を見られない。だから――
ロウすまねえ、親父…… !本当に……何もかも、すまねえ…… ! !
ジルファ……そうか。何があったかはわからないが……結局は俺がお前を見てやれなかったからだろう。
ロウ親父……。
ジルファだが、お前の抱えている気持ちはわかった。よく言ってくれたな、ロウ。……だから、もう俺の顔を見て辛気臭い顔をするな。
ジルファお前はたった今、俺の命を救った。それは間違いないんだからな。
ロウああ……ありがとな、親父。
リンウェルロウ、スッキリしたみたいだね。
ロウ……ああ。一生言えねえと思ってたこと、言えたよ。お前もありがとな、リンウェル。
リンウェルえ ?  なんで私 ?
ロウ発破かけてくれただろ。おかげで、立ち止まらなくて済んだんだ。
リンウェルそれは、だって……ウジウジしてるロウってなんか気持ち悪かったから。
ロウ気持ち悪いってなんだよ !
リンウェルだって、そうだったんだもん !
アルフェン……ジルファは、これからどうするんだ ?よかったら、俺たちと一緒にシスロデンへ来ないか。
ジルファ生憎だが、俺はこのまま火山地帯に残るつもりだ。
リンウェルえっ ! ?  そうなの ?
ジルファああ。あそこには、まだ俺を必要としてる奴らがいる。あいつらを放ってどこかへ行くつもりはない。
アルフェンジルファらしいな。わかった、また会いに行く。
ロウ…………。
ロウあ……あのさ、親父。だったら俺も、一緒に――
ジルファロウ !
ロウ――いってええっ ! ?
ロウ何しやがんだ、このクソ親父 !思いっきり背中叩きやがって !
ジルファ辛気臭い顔はするな、と言ったはずだぞ。
ロウあ……。
ジルファお前はそっちで頼りにされてるんだろう。だったら、その場所で踏ん張ってこい。
ジルファ居場所を放り出してまで来ることはない。これからは、いつでも会えるんだからな。
ロウいつでも……。……そうか。そうだよな !絶対また会いに行くから、待ってろよ !
リンウェルロウとジルファ……なんだか普通に親子って感じだね。
キサラ……そうだな。きっと子供の頃は、あんな風だったんだろう。
ロウあ、そうだ……親父。その指輪、まだ持っててくれよ。
ロウ俺がいつか、もっとデカくなって親父に追いついたら取りに行くからさ。
ジルファわかった。その時まで、預かろう。……またな、ロウ。
ロウああ、またな !  親父 ! !
ジルファ「追いついたら」、か。ふふ……追い抜かれないように、頑張らんとな。