| Character | 1話【真実1 海賊稼業】 |
| カナタ | はぁ……。 |
| ミゼラ | どうしたの、カナタ ?ため息なんてカナタらしくないよ。 |
| ヴィシャス | 青春の悩みってやつか ? |
| イージス | まだ船での生活に慣れていないんだろう。俺もしばらくは疲れが溜まったものだ。寝床は硬いし、揺れるし……。 |
| ミゼラ | 今日は港に停泊できたから、久しぶりにゆっくり眠れそうだね。 |
| カナタ | いや、そうじゃなくて……やっぱり人の見る目を変えるのって簡単じゃないんだなと思ってさ。 |
| ミゼラ | ……『正義の海賊』活動のこと ? |
| カナタ | うん。覚悟はしてたけど……こうして毎日海で人助けをしてても、海賊旗を見るとみんなに怖がられちゃうからさ。 |
| イージス | そうだな、今も旗を隠していなければ港に入れなかっただろう。 |
| ミゼラ | ……カナタがこんなに頑張ってるのに。 |
| イージス | 人は見た目で判断するし、真実は広まりにくい……世界が変わっても同じということか。 |
| ヴィシャス | 今更だな。そんなこと、咎我人やってりゃわかんだろ。 |
| カナタ | うん……わかってるよ。地道にやっていくしかないって。 |
| カナタ | みんなが反射的に怖がるぐらい、この世界には危険な海賊がたくさんいるってことだよね。そういう人たちをどんどん退治していかなきゃ ! |
| ミゼラ | カナタならきっとすぐできる。三日ぐらいで。 |
| カナタ | ありがとう、ミゼラ。三日はちょっと厳しいけどなるべく頑張るよ ! |
| カナタ | とりあえず、海賊旗を変えようかな。もっと正義っぽくカッコよくしなきゃ ! |
| イージス | 頑張りどころはそこでいいのか…… ? |
| カナタ | 大事なことだよ !助けを求める人が、俺たちと間違って悪い海賊についていったら大変でしょ。 |
| ヴィシャス | ったく、面倒くせえことしてんな。噂だったら一発でオレが広めてやるよ。 |
| カナタ | 本当 ! ? |
| ミゼラ | 駄目だよカナタ、絶対にろくでもない方法だから。聞くだけでカナタの耳が汚染されちゃう。 |
| ヴィシャス | 悪いコトすりゃいいんだよ。悪事ってのはマジであっさり広まるぜ。 |
| カナタ | 正義の海賊が悪いことしたらダメだよ ! ? |
| イージス | 本当にろくでもなかったな……。 |
| ヴィシャス | ただの事実言っただけだろ ?ほら、この新聞読んでみろよ。上から下まで悪い奴の話ばっかりだぜ。 |
| カナタ | 新聞 ? |
| イージス | これは……役人の不正の告発か。これこそ悪事を働けば罰を受けるという証明だろう。 |
| ミゼラ | ねえ、ちょっと待って。この記事の下にある記者の名前―― |
| カナタ | ……『ユナ・アゼッタ』 ! ? |
| ヴィシャス | マジかよ、全然気づかなかったぜ。 |
| イージス | ユナ ! ? そうか、あいつもこの世界に…… ! |
| ミゼラ | 新聞に記事が載ってるなんてさすがジャーナリストだね。 |
| カナタ | それじゃあ、みんなで会いに行こうよ !新聞社があるの、ちょうどこの港町みたいだし。 |
| ヴィシャス | やめとけって。どうせ面倒なことに巻き込まれて振り回されまくるぜ。 |
| イージス | なおさら放っておけないだろう。周囲の人間が心配だ。 |
| ミゼラ | 一番振り回されそうなのはイージスだけど。 |
| イージス | うっ ! それは否定できん。……だとしても無関係な人々が巻き込まれるよりは被害が少ないだろう ! |
| カナタ | イージス…… !自分を犠牲にしてみんなを守る気なんだね ! |
| ヴィシャス | おう、世界をユナの魔の手から守る正義の騎士様、超カッコいいじゃん。 |
| イージス | ……ハァ。さっさと行くぞ。これ以上話していると、会いに行く気をなくしそうだ。 |
| カナタ | えっ ! ? いないんですか ? |
| 新聞社の受付 | はい、大事な取材があるとのことで昨日から別の街に滞在しています。 |
| カナタ | そうなんですか……。ありがとうございます。 |
| ヴィシャス | どうすんだよ ?もう帰るか。腹減ったし。 |
| カナタ | 帰らないよ !居場所はわかったんだから、その街に行ってみよう。 |
| ミゼラ | そうだね。ユナ、元気にしてるかな……。 |
| カナタ | 会えばわかるよ !待っててね、ユナ…… ! |
| Character | 2話【真実2 突撃取材中】 |
| カナタ | ここが、ユナのいる街……。取材のために来てるって言ってたよね。 |
| ミゼラ | 平和そうな街だけど何か事件でも起きてるのかな。 |
| ヴィシャス | そういうのは見ただけじゃわからねぇだろ。……そら、陰気な奴らがコソコソしてるぜ。 |
| 街の人A | 聞いたか ? 大屋敷の富豪の噂……。 |
| 街の人B | ええ、聞いたわよ。あの成金、裏でずいぶん悪どいことをしているそうじゃない。 |
| 街の人A | あの大屋敷を建てるのにどれだけ悪事に手を染めてきたんだろうな。おお、怖い怖い。 |
| 街の人B | 今でも悪い連中が出入りしているらしいよ。広い庭には死体でも埋まってるんじゃないかしら……。 |
| ミゼラ | ……なんだか怖い人が住んでるみたい。 |
| イージス | もし事実なら見過ごせないな。 |
| ヴィシャス | この世界にも結構気合入った奴がいるじゃねぇか。 |
| カナタ | もしかして、ユナもその人の取材に来てるのかな ? |
| イージス | その可能性はありそうだな。他に手がかりもないことだし、まずは富豪の屋敷に行ってみるか。 |
| カナタ | わあ…… ! 大きなお屋敷だね。 |
| ヴィシャス | ああ。盗み甲斐のあるもんがいくらでもありそうだな。 |
| イージス | 馬鹿なことを言うな !例え悪党の持ち物だろうと、窃盗は罪だ。 |
| ミゼラ | …… ? 何か、向こうが騒がしいみたい。 |
| ? ? ? | せやから、さっきから言うてるやん。ウチとここの富豪さんはマブダチなんやって。 |
| 門番 | マブダチぃ…… ?そんな話は聞いておらんぞ。あの方と付き合いがあるような者には見えんな。 |
| ? ? ? | なら狙い通りやな。ウチ、本当は高貴な立場なんやけど今日はお忍びで、目立たんようにしてんねん。富豪さんとは子供ん頃よう一緒に遊んだもんやわ~。 |
| 門番 | 嘘をつくな ! どう考えても年齢が合わんだろう ! |
| ? ? ? | ええやないの、そないな細かいこと。 |
| 門番 | いいわけがあるか !まったく、しつこい奴め……。 |
| ミゼラ | この声に、この話し方…… ! |
| イージス | それに、堂々とウソをつくこの態度……間違いない。 |
| カナタ | ユナ ! ! |
| ユナ | …… ! ? カナ坊(ぼん) !それにみんな…… ? |
| ヴィシャス | よぅ。 |
| 門番 | なんだ、そいつらは ?知り合いか ? |
| ユナ | あー……せや !この子らはウチの従者やねん。 |
| カナタ | え ! ? 従者 ? |
| ユナ | さっき言うたやろ ? 高貴な立場やさかい一人で出歩くなんてできひんねん。 |
| ユナ | もう、四人ともどこほっつき歩いとったん ?ずいぶん待ったんやで。 |
| イージス | 待っていただと ?いったいここで何を―― |
| ユナ | しーっ ! ほほほ、教育がなっとらんなぁ。お父様に叱ってもらわな。 |
| ユナ | (……お嬢、話合わせて ! ) |
| ミゼラ | ! ……わかったわ、ユナ。いいえ、ユナお嬢様。 |
| ミゼラ | 到着が遅れてごめんなさい。お迎えに上がりました。 |
| 門番 | ふむ……本当に従者なのか ? |
| カナタ | えっと、はい ! そうです !俺たち、ユナ……お嬢様の使用人なのだぜ ! |
| 門番 | 怪しいな。そこのふてぶてしい男などどう見ても山賊か野盗の風体ではないか。とても従者とは思えん。 |
| ヴィシャス | ああ ? 誰が従者だよ。っつか、このオレをそんな雑魚と比べんな。 |
| ユナ | うーん……。やっぱ、この面々にアドリブは無茶やったか。ほな、さいなら~。 |
| 門番 | あっ、おい ! 待て…… ! |
| カナタ | やっと会えたね、ユナ !元気そうでよかった。 |
| ユナ | カナ坊もみんなも元気みたいやな。まさか、こんなとこで会えるとは思ってへんかったわ。 |
| イージス | お前は、相変わらず口八丁で生きているようだな。 |
| ユナ | 久々の再会やのに、イーツンってばつれへんなぁ。 |
| イージス | ウソに巻き込んでおいて、よく言う……。 |
| ミゼラ | さっきのはなんだったの ?屋敷の門番と話して。 |
| ユナ | あー……あれは記事のためにあの富豪さんにインタビューがしたかったんや。 |
| ユナ | せやけど、思ったより秘密主義でなぁ。正面から行っても全然相手にしてくれへん。 |
| ヴィシャス | それで妙な芝居打って中に入ろうとしたってか ?変わってねえな。 |
| ユナ | 褒め言葉と受け取っとくわ。 |
| カナタ | やっぱり、ユナは富豪さんの悪い噂のこと調べてたんだね。 |
| イージス | 巷でも噂の大悪党のようだな。 |
| ユナ | 噂だけやったら何もわからんのと同じや。はっきりした証拠もないのに悪人扱いはできん。人の噂が信用ならへんのはウチらもよう知っとるやろ ? |
| カナタ | そうだね……。俺たちの世界でも、みんなビジョンセントラルに投影されたものを信じちゃってたし。 |
| ユナ | 広まった印象ちゅうのは強いもんや。ウチが同じことをしてしまうわけにはいかへん。しっかり調べて真実を伝えへんとな。 |
| ヴィシャス | んで ? その富豪ってのはただのオッサンか ?ガッカリだな。 |
| ユナ | ウチはまだ善人とも言ってへんで ?何しろこの富豪さん、過去の情報が一切ないねん。経歴は謎やし名前は偽名。 |
| イージス | なるほど……。余計に噂がふくらむわけだな。 |
| ユナ | ウチも探ってみたけど、悪事の証拠どころか本名もわからんかったわ。怪しさだけで言うたらヴィシャス並みや。 |
| ヴィシャス | そんなオッサンと並べんな。 |
| ユナ | とにかく、こうなったら直接本人に聞くしかあらへんと思ったんやけど―― |
| カナタ | 門前払いされちゃったんだね。ごめん、上手くウソつけなくて。 |
| ユナ | ええよ。ウチが勝手に巻き込んだんやし。ウソが得意なカナ坊なんて想像つかへんしな。 |
| ミゼラ | うん、カナタはウソなんてつけないわ。 |
| カナタ | ねえ、ユナ。俺たちに何か手伝えることないかな ? |
| イージス | ああ。悪事が行われている可能性があるなら放ってはおけないからな。 |
| ユナ | ほんま ? おおきに。やっぱ持つべきものは仲間やね。 |
| ユナ | せやったら、カナ坊たちにも力貸してもらおかな。ウチ一人やとできひん計画があるんや。 |
| ミゼラ | 任せて、ユナ。なんでも手伝うよ。 |
| ユナ | ほな、ひとまず宿まで行こか !そこでじっくり説明するわ。積もる話もあるやろし、な ♪ |
| Character | 3話【真実3 ユナの計画】 |
| ユナ | はぁ~、なるほどなぁ。そないなことになってたんや。 |
| カナタ | あれ ? なんか、思ったよりあっさりした反応だね。 |
| ユナ | 具現化やなんやって話は初耳やけど……ジャーナリストとして働いて、この世界の情勢はそれなりに知っとったからな。 |
| ユナ | あっちこっち飛び回って空の上から地の底まで、大冒険のしっぱなし。毎日ゴッしくて休む暇もあらへんかったわ。 |
| カナタ | 空の上まで ! ? すごい !どうやって空を飛んだの ? |
| イージス | ……カナタ、いい加減学べ。 |
| ユナ | なんや擦れてもうたなぁ、イーツン。昔は子供のように目を輝かせてウチの話聞いてたのに。 |
| イージス | そんな目をした覚えは一度たりともない ! |
| ミゼラ | それじゃあ、さっきの話は……。 |
| ユナ | もちろん、全部ウソや。わりと平和な取材しかしてへんし空にも地下にも行ってへんよ。 |
| カナタ | なんだ、そっか……あはは。 |
| ヴィシャス | なに笑ってんだ ?ウソつかれすぎておかしくなったか。 |
| カナタ | 違うよ。久しぶりにユナのウソを聞いたからなんだか懐かしくてさ。 |
| ユナ | ……ふふ。ウチも同じや。どこ捜しても見つからんと思ったら、まさか噂の『正義の海賊』さんがカナ坊たちやったとはな。 |
| カナタ | ! 噂になってるの ! ? 俺たちのこと。 |
| ユナ | せやで。まだ、ちっちゃい噂やけどな。近海の治安がよくなったっちゅう話もあるし成果はちゃんと出てるで。 |
| ミゼラ | やっぱり無駄じゃなかったね、カナタ。 |
| カナタ | うん……。少しずつでも、正しいことをしてるって実感出来た気がする。 |
| イージス | ……お互いの近況報告は十分だろう。ユナ、お前の計画を教えてくれ。 |
| ユナ | せやな。実は明日、例の富豪さんのお屋敷で盛大なパーティーが開かれることになってんねん。 |
| ミゼラ | パーティー…… ? |
| ユナ | そ。キラッキラで派手っ派手なやつや。 |
| ユナ | で、ウチはその招待状を裏ルートで手に入れてん。それ使ってパーティーに潜入して、富豪さんに直接インタビューしようって計画や。 |
| ヴィシャス | あん ? だったら、お前一人でやれるじゃねえか。 |
| ユナ | それがな……招待状の名前が男の人になってるんよ。 |
| ユナ | つまり、誰かが招待客を演じてウチをエスコートしてもらわなあかん。 |
| ユナ | ――ってことで、頼むでイーツン。 |
| イージス | なっ ! ? なんで俺なんだ ! |
| ユナ | 他におらんやろ ?ヴィシャスやったら絶対揉め事起こすし。 |
| ヴィシャス | おう、よくわかってるじゃねーか。 |
| ユナ | カナ坊やとちょっと年が足りんし。 |
| イージス | ……まぁ、言いたいことはわかった。いいだろう。正義のためならばエスコートでもなんでもやってみせる。 |
| ユナ | 助かるわぁ ! |
| ミゼラ | パーティーかぁ……。きっとすごく素敵なんだろうね。私にはどうせ一生縁のない世界だから全くうらやましくないけど。 |
| ヴィシャス | うらやましがってる奴しか言わねえ台詞じゃん。 |
| カナタ | あ……ねえ、ユナ !俺たちにも何か手伝わせてよ。パーティーに裏から潜入するとか。 |
| ユナ | うーん……せやなぁ。そういえば、パーティーの給仕が足りてへんって聞いた気がするわ。 |
| ユナ | カナ坊とお嬢はそっちのツテから屋敷に潜り込んでや。富豪さんは使用人とも直接会わへんって話やけど内部の情報を探れるかもしれんしな。 |
| カナタ | わかった。頑張ろうね、ミゼラ ! |
| ミゼラ | カナタ……ありがとう。私のために気を遣ってくれて。 |
| カナタ | へへっ、気にしないでよ。俺もお屋敷の中を見てみたかったしさ。 |
| ミゼラ | カナタのおかげだよ。これで……パーティーのお肉料理が食べられる。 |
| カナタ | そっち ! ? |
| イージス | ……ここしばらく、魚ばかりだったからな。 |
| ヴィシャス | はぁー……潜入作戦ね。クソつまんねぇ。ダルいから、オレはパス。 |
| ユナ | はいはい、わかってるて。最初からあんたには何も期待してへん。 |
| カナタ | 辛辣だね、ユナ……。 |
| ミゼラ | ユナの言う通り、今回ヴィシャスの出番はなさそう。暴力以外に何もできない存在だから。 |
| ヴィシャス | 褒めても何も出ねぇぜ ? |
| ユナ | まぁ、聞いた話やとパーティーには美味い酒がぎょうさん出るらしいけどな。 |
| ヴィシャス | …… ! |
| ユナ | 富豪さんの貯め込んどる秘蔵の名酒が飲み放題っちゅう噂やで。 |
| ヴィシャス | ……へぇ。興味ねぇな。マジで全然、興味ねぇ。 |
| ヴィシャス | 興味ねぇけど一応、覚えとくわ。じゃあな。 |
| カナタ | いいの ? ユナ。あんなこと言ったら、絶対明日のパーティーに乗り込んできてめちゃくちゃになるよ ? |
| ユナ | それが狙いや。ヴィシャスが引っかき回してくれればその分ウチらが動きやすくなるやろ ? |
| ユナ | ヴィシャスのことや。手伝え言うても絶対手伝うタマやないからな。 |
| ミゼラ | 策士だね、ユナ……。 |
| イージス | 危険すぎないか ?あいつを好きにさせたら、屋敷がどうなるか……。 |
| ユナ | そこはイーツ……いや、ウチらが手綱握ってやりすぎんように抑えれば大丈夫やろ。 |
| イージス | 今、一瞬俺だけに押し付けようとしたな ! ? |
| ミゼラ | 頑張ってね、イージス。私も応援してる。 |
| イージス | 自然に逃げ道をふさごうとするな ! |
| ユナ | 相変わらずええツッコミやなぁ。ほんま、からかいがいあるわぁ。 |
| カナタ | 大丈夫だよ、イージス !俺もちゃんと手伝ってあげるから。 |
| イージス | 釈然としない……。 |
| Character | 4話【真実4 煌びやかなパーティー】 |
| イージス | ……やれやれ。どうにか、パーティー会場に入れたな。 |
| ユナ | 思ったより手間取ってしもたけど、今のところウチらの正体はバレてへんみたいや。 |
| イージス | 富豪の姿はまだない、か。しばらくは様子を見るしかないな……ふぅ。 |
| ユナ | どないしたん ? あ、もしかして緊張してるん ? |
| イージス | そういうわけではない。ただ、バレないかどうか気がかりなだけだ。 |
| ユナ | 確かにイーツンの演技は個性的っちゅうかやんわり言うと『最悪』やもんな。 |
| イージス | やんわりどころか直球の罵倒だぞ、それは ! |
| ユナ | これでも言葉を選んでるほうやで。さっきなんて、受付で「あ、お頼み申す~ ! 」とか言うていきなり怪しまれとったやんか。 |
| イージス | それは……堂々としなければと思ったら、つい……。 |
| ? ? ? | お客様、お飲み物はいかがですか ? |
| イージス | ああ、いや。まだ喉は渇いていないが―― |
| カナタ | イージス、俺だよ俺 ! |
| イージス | カナタ ! ミゼラも、ちゃんと潜り込めたんだな。 |
| ミゼラ | ええ。このお屋敷、人手不足らしくてあっさり雇ってもらえたわ。 |
| ユナ | 悪評立ちまくりやからな。近くの住民は、こんなとこで働こうと思わへんのやろ。 |
| カナタ | でも、警備はすごく厳重みたいだよ。ユナも言ってた通り、俺たちまだ雇い主の富豪さんに会うどころか顔も見たことないんだ。 |
| イージス | よほど警戒心が強いようだな。悪党にありがちなことだ。 |
| ユナ | となると、やっぱり富豪さんと話すんはウチら二人の役目っちゅうことになりそうやな。 |
| イージス | 問題ない。そのつもりでこうして準備も整えたのだからな。 |
| カナタ | うん、二人ともすごくオシャレだよ !小物のアクセントもパーティーにバッチリ合ってる。 |
| ミゼラ | ユナの衣装、大人っぽくて素敵…… ! |
| ユナ | せやろ ?取材の必要経費っちゅうことで、ええ服買うたんよ。 |
| イージス | 会社の金だったのか……。 |
| カナタ | あっ ! ごめん、俺たちそろそろ戻らないと。怪しまれちゃいそうだし、雇われたからにはちゃんと仕事しなきゃね。 |
| ユナ | なんか面白そうなもん見かけたら教えてな。 |
| ミゼラ | うん、任せて。 |
| イージス | さて……ヴィシャスの姿はまだないか。今頃何をしているやら……。 |
| ユナ | 気になるん ?ほんま仲ええなあ。 |
| イージス | 馬鹿を言うな。目を離すと、どこで悪事を働いているかわからないから心配なだけだ。 |
| イージス | まったく、あいつと二人で行動していた頃の俺の心労がどれほどだったか……。 |
| ユナ | 苦労してたんやね。ま、とりあえず銃声も聞こえへんし大丈夫やろ。 |
| イージス | 楽観的というか、無責任というか……。 |
| ユナ | 今はこっちの仕事に集中せな。こういう人が集まる場は情報収集にもってこいやで。ちょっと耳傾けてみよか。 |
| イージス | 盗み聞きか ? 気は進まんが……。 |
| パーティーの出席者A | ……しかし、妙なパーティーだな。商売のチャンスがあるかと来てみたが主役は一向に姿を見せない。 |
| パーティーの出席者B | 噂通り、何か後ろ暗いところがあるんじゃない ?それでもこれだけ人が集まるのはさすがお金の力よねぇ。 |
| パーティーの出席者C | そういえば、友人の友人から聞いた話なんだが……どうもこの屋敷の主はパーティーの裏で秘密の会合を開いているようだ。 |
| パーティーの出席者D | 私も聞いたわ ! 表には出せないような禁制品を取引しているって……。このパーティーは隠れ蓑ってわけね。 |
| イージス | 裏取引だと…… ! ? |
| ユナ | 確かに、ありそうな話やな。こうやって盛大にパーティーを開いておいて本命の相手とは隠れて会っとるっちゅうわけや。 |
| イージス | 一体何の取引を……いや、なんであろうと悪事ならば、証拠を見つけて止めなくては。 |
| ユナ | ちょお待ち !あそこ、誰か入ってきたで。 |
| イージス | ! 物々しい警備に囲まれたところを見るとあれが例の富豪か。 |
| ユナ | 行くで、イーツン !インタビュー敢行や ! |
| 富豪 | ん…… ? |
| ユナ | あの~、あなたがここのご主人さんです ?ちょっとお話させてもらいたいんやけど……。 |
| 護衛の兵士 | 止まれ ! 貴様、何者だ ?勝手に近づくんじゃない。 |
| ユナ | そう言わんと。ウチは話を聞きたいだけで―― |
| 護衛の兵士 | ん ? その喋り方……。まさか、昨日門の前で騒いでいた女じゃないだろうな ? |
| イージス | ……しまった !あれは、昨日の門番か。 |
| 護衛の兵士 | どうも怪しいぞ。こっちへ来て顔を見せろ。 |
| ユナ | まずいことになったわ……。どないしたらええんやろ。 |
| Character | 5話【真実5 ダンスタイム】 |
| カナタ | ……やっと休憩だね。ミゼラ、大丈夫 ? |
| ミゼラ | うん、平気だよ。ちょっと疲れちゃったけど。 |
| カナタ | 人が少ない分、たくさんやることがあってさすがに大変だったよね。 |
| ミゼラ | でも、カナタは結構楽しそうだったね。ずっと笑顔だったよ。 |
| カナタ | そうかな ? 言われてみればそうかも……。お客さんをもてなすのって、結構合ってるみたいだ。みんなに喜んでもらえるからかな。 |
| ミゼラ | そうだね。カナタは修道院にいた頃からずっとみんなのためにって考えてた。 |
| カナタ | 俺がそうしたかったからだよ。今日だって、俺の趣味も兼ねてたし。 |
| カナタ | ほら、みんな着飾ってすごいオシャレしてくるでしょ ?上流階級のファッションって感じですごく勉強になるよ。 |
| ミゼラ | よかった、カナタが楽しそうで。カナタが笑顔だと私も嬉しいよ。 |
| カナタ | ……あ、ミゼラは楽しくなかった ? |
| ミゼラ | えっ ? そんなことは……ないけど。カナタと一緒なら、私はなんでも楽しいから。 |
| カナタ | でも、ちょっと笑顔が硬い気がするよ。何か気になることがあるなら言って !俺もミゼラに笑顔でいて欲しいんだ。 |
| ミゼラ | それは……。 |
| カナタ | もしかして……やっぱりミゼラもパーティーに出てみたかった ?ユナたちの正装、すごく素敵だったし。 |
| ミゼラ | ううん、そうじゃないよ。確かに素敵だったけど、私のことは別にいいの。ただ一つ残念だなって思ったのは―― |
| ミゼラ | パーティーって、きっとダンスがあるんだよね ? |
| カナタ | うん、そうだろうね。イージスも昨日、こっそり練習してたよ。 |
| ミゼラ | 私……カナタが踊るところを見てみたかったの。きっとすごく格好いいだろうなって。 |
| カナタ | …… ! ミゼラ……。 |
| ミゼラ | ごめんね、変なこと言って。私が勝手に想像してただけだから。 |
| カナタ | ううん、変じゃないよ !俺もミゼラと一緒に踊ってみたい。 |
| ミゼラ | え…… ! ? |
| カナタ | ――そうだ !ここでもきっとパーティー会場の音楽が聞こえるよ。音楽が始まったら、二人で踊ってみない ? |
| ミゼラ | ……いいの ? |
| カナタ | 大丈夫 ! まだ休憩時間だし裏でなら見つかっても怒られないよ、きっと。 |
| ミゼラ | カナタ……ありがとう。私、嬉しいよ。 |
| カナタ | よかった。キラキラした場所じゃなくてごめんね。 |
| ミゼラ | ううん、カナタがいる場所はいつでもキラキラしてるよ。 |
| カナタ | あ ! 音楽が始まった !ほら、ミゼラ。 |
| ミゼラ | う、うん―― ! |
| 護衛の兵士 | そこの怪しい二人、顔を見せてみろ。 |
| イージス | このままではまずいぞ。どうする、ユナ ! |
| ユナ | ! 音楽や ! |
| イージス | なに ! ? |
| ユナ | ダンスが始まったんや。これ以上怪しまれる前に、紛れて逃げるで ! |
| イージス | わかった !……よし、俺が先導するぞ。ついてこい ! |
| ユナ | 大丈夫なん ? イーツン。 |
| イージス | 安心しろ、エスコートの仕方なら恋愛指南本で会得済みだ ! |
| ユナ | へぇ~、ほんまになかなか上手やん !足踏まれる覚悟しとったけど意外やな。 |
| イージス | このぐらい朝飯前だ。まぁ、少し練習はしたがな。 |
| ユナ | せやったん ? 手間かけて悪いなぁ。イーツンもみんなも頑張ってくれて助かるわ。 |
| イージス | 当たり前だろう、仲間なんだからな。 |
| ユナ | ……せやったな。なんだか久々すぎて、ちょっとくすぐったいわ。おおきに。 |
| イージス | だが、どうしてこのインタビューにそこまで力を入れているんだ ? |
| ユナ | ん ? ジャーナリストとして取材のために頑張るんは普通やろ ? |
| イージス | ただの取材にしては、手間がかかりすぎている。お前は正義感だけで動くとも思えないしな。 |
| ユナ | ……イーツンにしては勘がええなぁ。確かに、取材以外にも調べる理由がないわけやない。 |
| ユナ | 実はウチ、とある問題の調査依頼を請けてるんよ。もしかしたらその件とここの富豪さんが繋がっとるかもしれへん。 |
| イージス | 依頼 ? 一体、誰から―― |
| ユナ | それはまだヒ・ミ・ツや。 |
| イージス | なんだ、その怪しすぎる誤魔化し方は……。 |
| ユナ | 全然関係ないかもしれへんやろ ?そうやったら、言わんままの方がええし。 |
| ユナ | それと……言うとくけど、ウチが力入れてるんは「人に言われたから」なんて理由だけやないで。 |
| イージス | それは、どういう意味だ ? |
| ユナ | ……この世界に来て、イーツンはどう思った ?ビジョンオーブがなくて、勝手な仕組み押し付ける神様もおらへん世界。 |
| イージス | そうだな……この世界なりの争いや問題はあるが少なくとも、歪んだ仕組みがないのはいいことだと思っている。 |
| ユナ | ウチも、最初はそう思っとった。みんなが自分の目と耳で真実を判断できるええ世界やないかって。 |
| ユナ | ……でもな。記者として世間を見てるうちにそんな簡単な話やないって思うようになった。 |
| ユナ | ビジョンオーブがないっちゅうことは当然やけど見過ごされる悪事や逃げおおせる罪人も多いってことや。 |
| ユナ | 罪がバレても、罰する執行者はおらん。金やら権力やらで揉み消す悪党もぎょうさんおる。 |
| イージス | まさか、ビジョンオーブの存在が正しかったとでも言うのか ? |
| ユナ | そないなわけないやろ。でも、やり方は歪んどっても大衆がああいうもんを求めてたんは事実や。 |
| イージス | それは……否定しきれないな。ビジョンオーブのおかげで裁かれた罪人も多い。 |
| ユナ | つまり、この世界でビジョンオーブみたいなもんが必要とされへんように、ウチのようなジャーナリストが正しい情報を広めていかなあかんっちゅうことや。 |
| ユナ | ウチが適当な噂話を信じて、一面的な情報を広めてしもたら、元の世界となんも変わらへん。 |
| ユナ | だから、こういうはっきりせえへん噂ほどウチ自身がしっかり調べて見極めたいんや。何が真実で、何が本当の罪なんかを。 |
| イージス | ……なるほどな。ジャーナリストとしての使命感か。本当に変わっていないようだな、お前も。 |
| ユナ | 当たり前やん。どこにいようと、ウチはウチやで ♪ |
| 富豪 | …………。 |
| ユナ | ! イーツン、向こう見てみ。富豪さんがパーティー会場から出ていくみたいやで。 |
| イージス | さっき来たばかりではないか ?怪しいな……やはり、裏取引があるのか。 |
| ユナ | それを確かめる方法は一つだけや。見失わんように、あとを追うで ! |
| イージス | ああ ! |
| Character | 6話【真実6 ド派手に踊れ】 |
| カナタ | あっ、ごめん ! 今、足踏みそうだったよね。なんか、緊張しちゃってさ……はは。 |
| ミゼラ | 大丈夫。いくらでも踏んでいいよ。カナタの足なら痛くないから。 |
| カナタ | いや、誰の足でも踏まれたら痛いよ !そもそも、ミゼラにそんな思いさせたくないし。 |
| ミゼラ | カナタ……。 |
| ? ? ? | おーい、そこの給仕さんよ !酒が全っ然足りねえんだけど。 |
| カナタ | えっ ! ? この声ーー |
| ヴィシャス | やたら小せぇグラスに入れやがって……何杯飲んでも飲んだ気しねえっつの。瓶ごと持ってこい、瓶ごと。 |
| カナタ | ヴィシャス !やっぱり来たんだね。 |
| ヴィシャス | 美味い酒があるって聞いたからな。量は足りねぇが、こういうお高くとまった酒もたまには悪くねぇ。 |
| ミゼラ | お客様、お帰りならそこの窓から飛び降りてください。お手伝いします。 |
| カナタ | ミゼラ、投げ捨てようとしちゃダメだよ ! |
| ヴィシャス | おう、接客がなってねえぞ。こちとらご来賓なんだからな。 |
| ミゼラ | ウソばっかり。どうせ勝手に入ってきたくせに。 |
| カナタ | その格好はどうしたの ?ヴィシャスにしてはフォーマルな感じだね。 |
| ヴィシャス | ああ、そのへんの奴から剥ぎ取った。 |
| カナタ | 剥ぎ取ったの ! ? |
| ヴィシャス | 勘違いすんなよ。ちゃんと縛り上げて閉じ込めといたぜ。 |
| カナタ | ヴィシャス……あとでちゃんと返してあげないとダメだよ。 |
| ヴィシャス | いいぜ、どうせオレの趣味じゃねえからな。袖も上手く破けねえし。 |
| カナタ | 破こうとはしたんだ……。 |
| ヴィシャス | カッコよくしてやろうって親切心だぜ ? |
| ミゼラ | あ……音楽が終わっちゃう。ヴィシャスさえいなければ、もう少し踊れたのに……。 |
| ヴィシャス | あ ? 何睨んでんだ ? |
| ミゼラ | その服、返す前にちゃんと消毒しないと。私の炎で綺麗にしてあげる。中身ごと。 |
| カナタ | ミゼラ ! ? 中身より先に服が全部燃えちゃうよ ! |
| ヴィシャス | おいおい、ガキのお守りしに来たんじゃねぇんだ。いいから早く酒持ってこいって。 |
| ミゼラ | そのぐらい自分で……あれ ? |
| カナタ | どうしたの ? ミゼラ。 |
| ミゼラ | 大勢の足音がする。こっちに来るみたい。 |
| カナタ | ……通り過ぎて行っちゃった。あんなに護衛を連れてるってことはきっとあの人がここの富豪さんなんだね。 |
| ミゼラ | うん。確かになんとなく悪い人にみえる。 |
| カナタ | まだパーティーの最中なのに、どこへ行くんだろ ?追いかけてみよう。 |
| ミゼラ | そうだね。行こう、カナタ。 |
| ヴィシャス | ……オレの酒は ? |
| カナタ | 富豪さんたち、あの部屋に入ったね。警備の人がいっぱいだ。 |
| ミゼラ | 中の様子も気になるけど……見つからずに調べるのは無理そうだね。 |
| カナタ | ……うん。とりあえず、ユナたちに知らせに行こう ! |
| 警備の兵士たち | …………。 |
| イージス | くっ……これだけ警備が多いと富豪を追うどころか会場から出ることもできないぞ。 |
| ユナ | ウチの顔覚えとる人もおるみたいやしなぁ。さて、どうしたもんやろ……。 |
| カナタ | ユナ、イージス ! |
| ユナ | カナ坊にお嬢 ?どないしたん、そない慌てて。 |
| ミゼラ | 私たち、あの富豪が怪しい部屋に入るのを見たの。厳重に警備されてたわ。 |
| イージス | なんだと ? もしや、そこで裏取引を……。 |
| ユナ | はよ見つけなあかんな。このままやとパーティーも終わってまうし。 |
| ヴィシャス | おい、カナタ ! 給仕の仕事してんなら客の注文を無視すんじゃねえよ。 |
| カナタ | ヴィシャス ! ?今、それどころじゃないんだって。お酒ならあとで持ってくるから。 |
| ユナ | ! せやった、あんたがいたの忘れてたわ。 |
| ヴィシャス | ああ ? この咎我鬼様の存在を忘れてんじゃねーよ。 |
| ユナ | そうそう、極悪人の咎我鬼ヴィシャス様やもんな。で、その咎我鬼様が大人しゅう酒が来るのを待ってるっちゅうわけや。 |
| ヴィシャス | ……何が言いてえんだ ? |
| ユナ | 別に~。ただ、昔のあんたなら根こそぎ奪うところを黙って待ってるなんてお行儀がよくなったんとちゃう ? |
| ヴィシャス | オレが丸くなったってのかよ。言ってくれるじゃねぇか。 |
| カナタ | ちょ、ちょっと、ユナ…… ! |
| ヴィシャス | ……フン、安い挑発しやがって。まあいいぜ、今日のとこは乗ってやるよ。そのほうが手っ取り早く酒にありつけそうだからな ! |
| パーティー参加者たち | きゃぁぁぁぁ ! ? |
| パーティー参加者たち | 何、何が起こったの ! ? |
| ヴィシャス | おらおら ! 酒だ、酒 !酒が足りねえって言ってんのにここの主人は客のもてなしもできねえのか ? |
| 警備の兵士たち | な、なんだこいつ ! ?ええい、ひっ捕らえろ ! |
| ヴィシャス | 動くんじゃねぇよ。怪我するぜ ? |
| 警備の兵士たち | くっ…… ! |
| ヴィシャス | ほら、どうした ? オレが大人しくしてるうちにじゃんじゃん酒持ってきやがれ !シケたパーティーを熱くしてやるよ ! |
| ユナ | 今のうちや、行くで ! |
| カナタ | えっ ! ? でも、ヴィシャスを放っておいたら誰か怪我しちゃうかも……。 |
| イージス | 心配するな、俺が残ってあいつが暴走しないよう見張っておく。 |
| カナタ | じゃあ、俺も手伝うよ !イージスだけを置いていけない。 |
| イージス | 余計な気遣いは不要だ。ヴィシャスの一人や二人、俺が抑えてみせる。 |
| ミゼラ | 二人はちょっと無理そうだけど……。 |
| イージス | 揚げ足をとるな ! |
| ユナ | ヴィシャスもウチの狙いには気づいてるはずや。無茶はせんやろ、……たぶん。 |
| カナタ | ……わかった。じゃあ俺たち、行くよ ! |
| イージス | ああ、調査のほうは任せたぞ ! |
| Character | 7話【真実7 真相は目前】 |
| カナタ | あの部屋だよ、ユナ。富豪さんが入って行ったのは。 |
| ユナ | ……ほんま、えらい厳重に守ってはるなぁ。 |
| ミゼラ | 警備の兵士が多すぎて正面突破は難しいかも。 |
| カナタ | うん。もし富豪さんが無実だったらって考えると手荒なことはしたくないよね。 |
| ユナ | ウチも同じ気持ちや。……ヴィシャスがさっき、天井に穴空けてもうたけど。 |
| カナタ | それはあとで謝ろう ! |
| ミゼラ | お金の代わりにヴィシャスを置いていけば ? |
| ユナ | やめとき。資産マイナスになってまうで。 |
| ユナ | ……さてと、ほならウチがひと肌脱ごか。二人はここで待っといて。 |
| ユナ | そこの兵士さんたち、ちょっとええ ? |
| 見張りの兵士A | ん ? パーティーの招待客か。悪いがこの先は立入禁止で―― |
| ユナ | 道に迷ったわけやないんよ。ウチ、ちょっと困ってしもて……ああ、どないしよ。 |
| 見張りの兵士B | どうしたんです ? |
| ユナ | 大事な指輪、向こうの部屋で落としてしもて……ウチ一人で探しても全然見つからへんから優しい兵士さんたちに手ぇ貸してもらえたらなって。 |
| 見張りの兵士A | しかし、我々は持ち場を離れるわけには……。 |
| ユナ | ああ……ウチの大事な家族の形見の指輪。いつかええお人に出会えたら婚約指輪にするつもりやったのに。 |
| ユナ | 優しい誰かが見つけてくれたら、ウチその人に結婚を申し込んでしまうかもしれへん…… ! |
| 見張りの兵士A | なにっ…… ! ?そ、それほどまでに大事なら放っておけませんな。俺が手伝いに行くからお前は警備を頼む。 |
| 見張りの兵士B | いや、ここは私も一緒に行きましょう。困っているご婦人を放ってはおけません ! |
| ユナ | おおきに、親切な兵士さんたち。指輪落としたんはこの部屋や。入って。 |
| 見張りの兵士A | よし、指輪を見つけるのは俺だ…… ! |
| ユナ | ほな、どうぞごゆっくり。 |
| 見張りの兵士B | な…… ! ? 鍵を閉められた ! ?くそっ、罠だ…… ! |
| ミゼラ | ……あっさり引っかかってくれたね。 |
| ユナ | 世界が変われど、男は男っちゅうことや。お嬢もよう覚えとき。 |
| カナタ | お、俺は違うからね、ミゼラ ! |
| ミゼラ | わかってる。カナタは引っかからないよね。さっそく奥の部屋の様子を探ろう。 |
| ユナ | まずは聞き耳立ててみよか。そーっとな。 |
| 怪しい声 | ……それで、例の品の準備は…… ? |
| 富豪の声 | うむ……全て抜かりなく……。……金のほうは、いつも通りで……。 |
| 怪しい声 | 結構……それでは……。……感謝して……。 |
| カナタ | ……声が遠くてよく聞こえないね。 |
| ユナ | もう少し近づかなあかんな。しゃーない、危ないけど忍び込んでみよか。 |
| 富豪の声 | ……では、これで成立ですな。 |
| 怪しい声 | はい。いつもお世話になっております。何もかもあなたのおかげですよ。 |
| ユナ | ……どうやら、何かの取引してるんは間違いなさそうやな……。 |
| 富豪の声 | こちらこそ。あなた方が潤えば私の……も温まるというものです。クックック……。 |
| 怪しい声 | いや、あなたは本当に……い方だ。子供たちもまさか自分たちが…………とは思わんでしょうな。ははは……。 |
| 富豪の声 | 積荷は私が責任を持って送り届けましょう。『あの子たち』を新しい主のもとへ……。 |
| 怪しい声 | よろしくお願いします。くれぐれもこのことは内密に。 |
| 富豪の声 | ええ、もちろん。それでは台無しですからな。クックックッ……ハハハハ ! ! |
| カナタ | ! 今、子供たち……って聞こえたよね ?どこかに送り届けるって……。 |
| ミゼラ | うん。まるで子供たちを誘拐して売り払おうとしているみたいに聞こえた。 |
| カナタ | そんな…… !父さんみたいな正しくないこと、放っておけないよ ! |
| ユナ | あっ、カナ坊 !ちょい待ち―― |
| 富豪 | な、なんだ君たちは ! ? |
| カナタ | 今の話、聞かせてもらいました。どういうことですか ? |
| 怪しい男 | どういうこと、と言われても……。 |
| ミゼラ | …… ? カナタ、ユナ !なんだか外が騒がしいみたい…… ! |
| イージス | くっ…… !なぜこんなことになったんだ ! |
| カナタ | イージス ! ? それにヴィシャス !どうしてここに ? |
| ヴィシャス | 向こうの酒は全部飲んじまったんだよ。チビチビした酒ばっかで、まるで足りやしねぇ。 |
| イージス | すまん、カナタ。どうにか人的被害は抑えたのだがその代わりに酒をどんどん飲み干されてな……。 |
| ユナ | 相変わらず、飲み方が雑やなぁ。 |
| ヴィシャス | おい、オッサン !富豪ならなんかいい酒隠し持ってんだろ ?そいつも寄越しな。 |
| 富豪 | やれやれ……今日はずいぶんと予定外のお客様が多いようだ。これは困りましたね……フフフ。 |
| ヴィシャス | お ? 悪役っぽい台詞吐くじゃん。やっぱテメェも悪人てわけか ? |
| ミゼラ | 子供たちを売り払う相談をしていたみたい。 |
| イージス | なんだと…… ! ?そんなこと許せん ! |
| 警備の兵士たち | いたぞ、あそこだ ! |
| カナタ | うわっ、今度は警備の人たちが……ヴィシャスを追いかけて来たの ! ? |
| イージス | ああ。やはり撒けなかったか……。 |
| カナタ | 待ってください !俺たちはただ―― |
| 警備の兵士たち | そいつらも仲間だ !一緒にひっ捕らえろ ! |
| ミゼラ | この二人は仲間じゃありません。顔も知りません。私たちは偶然通りがかっただけです。 |
| イージス | 表情一つ変えずに言い切ったな ! ?それなりに傷つくぞ ! |
| 警備の兵士たち | 嘘をつくな ! そっちの女はさっき俺たちの純情をもてあそんで部屋に閉じ込めただろう ! |
| カナタ | うっ……どうしよう、反論したいけど事実しか言われてないよ ! |
| 怪しい男 | あわわ……。何がどうなっているんだ ? |
| ユナ | ん ? あの富豪さんと話してた人なんや見覚えがあるような……。 |
| ユナ | ……あ。みんな、ちょっと待ちや。 |
| 警備の兵士たち | うおおおおっ ! ! |
| ヴィシャス | 言葉で止まる状況じゃなさそうだぜ ? |
| ユナ | ……しゃーない、ちょっとだけ大人しくしてもらわなアカンか…… ! |
| Character | 8話【真実8 本当の顔】 |
| ユナ | はぁっ……十字裂糸 ! |
| 警備の兵士たち | くっ…… !こいつら、強い……。 |
| ユナ | 頭冷えた ? せやったら大人しゅう話聞いてくれへんか。 |
| カナタ | そうだよ、武器を収めて !俺たちは悪人以外と戦うつもりはないんだ。 |
| 警備の兵士たち | 屋敷で暴れた悪人が何を…… ! |
| ヴィシャス | なんだよ、酒飲みまくっただけだろ ?あと天井に穴開けたぐらいか。 |
| イージス | それも十分な被害だろう。グラスもいくつか割っていたし……。 |
| イージス | ……だが ! それとこれとは話が別だ。悪事の噂が真実だったのなら、捕らえるべき悪は間違いなく貴様だ ! |
| 富豪 | ……フッフッフッ。 |
| ミゼラ | 何がおかしいの ?私たちは、子供たちを売り払うって会話を聞いたのよ。 |
| 富豪 | いえ、これは癖でして……困った時ほど笑ってしまうだけなのです。気を悪くしたら申し訳ありません。フッフッフ。 |
| カナタ | ……えっ ? |
| 富豪 | 人身売買とはまたずいぶん誤解があったようです。護衛の皆さん、武器を収めてください。 |
| 警備の兵士たち | ええっ ! ? し、しかし……。 |
| 富豪 | いいから、言う通りにしてください。この方たちから悪意は感じません。 |
| 富豪 | 私の悪い噂を聞き、正義感に駆られてこの屋敷に入り込んだのでしょう ?クックック……なんと見上げた勇気。 |
| カナタ | はい、そうです……けど。なんか思ってたのと反応が違うな……。あの、二人は裏取引をしてたんですよね ? |
| 富豪 | ……裏取引などとんでもない。私たちはただ、身寄りのない子供たちへの寄付金について話していたのです。 |
| 富豪 | 怪しむ気持ちはわかります。昔から、この笑い方と人相のせいでよく勘違いされてしまうのです……ハッハッハ。 |
| イージス | おい……これはどういうことだ ?カナタ、ミゼラ。 |
| ミゼラ | で、でも……確かに聞いたわ !『あの子たち』を新しい主人に届けるって。 |
| カナタ | 俺も聞いたよ。誰にも知られちゃいけないとか。それも聞き間違いだったの…… ? |
| 怪しい男 | 『あの子たち』 ? ああ、人形のことですね !この方は寄付金とは別に、子供たちにサプライズで玩具を送りたいと話していたんです。 |
| 富豪 | ククッ……子供たちに知られてしまってはサプライズが台無しですからな。彼らの喜ぶ顔を思うと心が温まります。 |
| ヴィシャス | いちいち、言い方がクセェんだよ……。結局ただの金持ってるオッサンってことか ? |
| イージス | む……どうも、まだ信じきれん。口ではなんとでも言えるからな。 |
| ユナ | ほな、ウチが証明しよか。 |
| カナタ | ユナ ? |
| ユナ | ここにある書類ざーっと見てみたけどな。確かに全部、寄付金やら慈善事業のことしか書いてへんかったで。 |
| ユナ | それに富豪さんと話してたその人。よう見たらウチ、見覚えあんねん。 |
| ミゼラ | えっ ! ? ユナの知り合い…… ? |
| ユナ | 知り合いっちゅうか、前に仕事で取材したんよ。近くの街で活動してはる慈善団体の代表の方や。その節はどうもおおきに。 |
| 怪しい男 | あ、はい……どうも。 |
| イージス | ……そうか。ならば、もはや疑いの余地はないな。 |
| カナタ | あの、本当に……ごめんなさい !勝手な思い込みで責めちゃって…… ! |
| イージス | 申し訳ない !先入観に惑わされ、無実の者を糾弾してしまうなど騎士としてあるまじき行為だ。 |
| ユナ | ウチも謝るわ。取材のためとはいえ、勝手に潜り込んでヴィシャス暴れさせたんはやりすぎやった。 |
| ヴィシャス | おう、しっかり反省しろよ。ついでにそこにある酒、ひと瓶もらうぜ。 |
| ミゼラ | あなたが一番暴れたんだから、ちゃんと謝って。 |
| ヴィシャス | あちっ ! ? おい、オレの頭燃やす気か ? |
| 富豪 | フッフッフ……顔を上げてください。誤解が解けたのなら、それでいいんです。お互い怪我もなく済みましたし。 |
| ミゼラ | ……本当にいい人なんだね。よかった。子供たちが売り払われていなくて。 |
| カナタ | あの……ひとつだけ、聞いてもいいですか ? |
| 富豪 | ええ、なんでしょう。 |
| カナタ | 慈善事業とか子供たちの支援とかいいことをたくさんしてるなら……どうして、それをこんな風に隠すんですか ? |
| カナタ | 悪い噂も、全部ただの噂だって否定すればきっと街の人たちもわかってくれると思います。 |
| 富豪 | ……私はただ当たり前のことをしているだけです。自慢したり、喧伝するようなことではありません。 |
| 富豪 | それに、私は人から悪く言われるのはまるで苦ではないんですよ。だから……悪い噂もそのままでいいんです。 |
| イージス | 悪事などとんでもない、立派な人物じゃないか。 |
| ヴィシャス | そうそう。やっぱ悪名ってのは男の勲章だよな。消すなんてとんでもねぇ。 |
| ミゼラ | ……そういう意味じゃないと思う。 |
| ユナ | 富豪さん。なんや騒がしゅうなってしもたけど……そもそもウチはあんたにインタビューしたくてここまで来たんよ。 |
| 富豪 | インタビュー…… ? |
| ユナ | せや。ジャーナリストとして、世間の皆さんに『真実』を伝えたいと思ってな。 |
| 富豪 | 真実……ですか。 |
| ユナ | あんた自身は噂を気にしてなくても周りの人間は不安になったり、怖がってしまってる。それはあんたも望んでへんやろ ? |
| 富豪 | ええ、まぁ、そうですね。わかりました。お受けしましょう。 |
| 富豪 | ……そうだ !でしたら、もう時間も遅いことですし今日は皆さんこのまま泊まっていってください。 |
| 富豪 | インタビューは明日、場を改めて受けましょう。それでいかがですか ? |
| カナタ | えっ ! ? そんな、いいんですか ?俺たち迷惑ばっかりかけちゃったのに……。 |
| 富豪 | もちろんです。こうして知り合えたのも何かの縁。精一杯おもてなしをさせてください。 |
| ヴィシャス | チッ……どうも気に食わねえな。妙にペコペコしやがって。 |
| 富豪 | お酒も、自由に飲んでくださって構いません。どうせ余らせていましたから……。 |
| ヴィシャス | お、わかってるじゃねぇか !んじゃ、遠慮なく。 |
| ユナ | ちょろい男やな。 |
| 富豪 | では、お部屋に案内しましょう。こちらについてきてください。 |
| ヴィシャス | おっと……酒を忘れるとこだったぜ。取れるもんは取っておかねぇとな。 |
| ヴィシャス | ……ん ? なんだこりゃ。 |
| ヴィシャス | 隠し扉……か ? やけに厳重にしてやがる。……こりゃ、まだ楽しめるかもな。 |
| Character | 9話【真実9 富豪の理由】 |
| カナタ | うーん……。 |
| ヴィシャス | さっきから、何ウンウン言ってんだ ?食い過ぎで腹でも壊したのかよ。 |
| カナタ | 違うよ ! 確かに豪華なご飯だったけど。 |
| イージス | そうだな。どうにか弁償の金だけは受け取ってもらえたがそれ以上にご馳走されてしまった……。 |
| カナタ | なんか引っかかるんだ。何がっていうのは上手く言えないんだけど。 |
| ヴィシャス | ……へぇ、お前も感じてたか。この屋敷に隠された真実ってやつを。 |
| カナタ | えっ ? 真実…… ? |
| ヴィシャス | ああ。あのオッサンまだなんか隠してやがるぜ。 |
| ヴィシャス | 気づいたか ?あの部屋、奥に隠し部屋があったぜ。ご丁寧に鍵かけまくった超怪しいヤツ。 |
| イージス | なんだと…… ?では、そこにまだ秘密が―― |
| ヴィシャス | ああ。秘蔵の酒が大量に隠されてんだよ !伝説の名酒とか。 |
| カナタ | うーん……俺が引っかかってたのはそういうことじゃないかな。 |
| カナタ | でも、今の話で思い出せたよ。俺、あの部屋の警備が厳重すぎるような気がしてたんだ。 |
| カナタ | 善行は宣伝するものじゃないって言ってたけど……慈善団体の人と会うだけであんなに兵士がいるのは不自然じゃないかって。 |
| イージス | ヴィシャスが暴れていたせいではないのか ? |
| カナタ | いや、その前から警備の人たちはいたんだ。富豪さんが部屋に入る前からずっとあの部屋を守っているみたいだった。 |
| イージス | それは……ううむ、言われてみれば確かに少々怪しいと言わざるを得ないな。だが、無実を証明した相手を何度も疑うのもな……。 |
| カナタ | あの人が悪い人だって疑ってるわけじゃないんだ。でも、何かまだ隠し事があるっていうのも本当なのかも。 |
| イージス | だとしても、悪事を働いているわけでもないのに人の秘密を勝手に暴くのはダメだ。 |
| イージス | 気にならないと言えば嘘になるが俺たちはついさっき、無実の人を糾弾するところだったんだからな。 |
| カナタ | そっか……それもそうだね。知られたくないことぐらい、誰にだってあるし。 |
| ヴィシャス | はいはい、じゃお前らはここに残ってな。オレはまだまだ飲み足りねぇんだ。勝手に行かせてもらうぜ。 |
| カナタ | あっ、ちょっと、ヴィシャス ! ? |
| イージス | おい待て、ヴィシャス ! |
| ヴィシャス | 「待て」と言われて待つアホがいるかよ。そんなのお前ぐらいだろ。 |
| イージス | 俺がいつそんなことをした ! ?いいから、待て。奥から人影が―― |
| ヴィシャス | あん ? |
| ミゼラ | あ……、カナタ !どうしてこんなところに ? |
| カナタ | 俺たちはちょっとヴィシャスを止めに……。ミゼラこそ、一人でどうしたの ? ユナは ? |
| ミゼラ | それが……ちょっと前に部屋を出ていったきり全然戻ってこないの。だから、心配になって捜してたんだけど……。 |
| ヴィシャス | 心配 ? あいつなら放っといても死にゃしね―だろ。 |
| イージス | ユナの奴……まさか、富豪の部屋を調べに行ったのではないか ? |
| カナタ | えっ ? さっき言ってた奥の部屋のこと ?でも、ユナの目的はインタビューだって……。 |
| イージス | お前たちにはまだ話していなかったな。あいつは取材だけではなく、誰かの依頼でここの富豪を調査しているそうだ。 |
| イージス | 詳しいことは俺も聞いていないが、その調査のために富豪の隠し部屋に忍び込んだのかもしれん。 |
| ミゼラ | だったら、戻ってこないのはやっぱりおかしいよ。ユナの身に何かあったのかも……。 |
| カナタ | あの部屋に行ってみよう !ユナが困ってたら、助けてあげなきゃ ! |
| 富豪 | ……クックックッ。そうですか。真実にたどり着いてしまったというわけですね。 |
| ユナ | そうみたいやな。あんたの振る舞いもようやく合点がいったで。 |
| 富豪 | 残念です。この記憶は、永遠に封じておくはずだったのに。見られたからには―― |
| ユナ | どないしはるん ? |
| 富豪 | ……終わりにするしか、ありませんね。 |
| カナタ | ユナ ! その人から離れて ! |
| ユナ | カナ坊 ! ?それにみんなも、どないしたん ? |
| イージス | 聞きたいのはこっちだ !一体、何がどうなっている ?こいつはやはり噂通りの悪人だったのか ! ? |
| 富豪 | そうです。 |
| ユナ | ちゃうで。 |
| カナタ | ど、どっちなの ! ? |
| ユナ | ……つまりやな、カナ坊。この世にすっぱり悪人だの善人だの言える人間なんてそうそうおらへん、ちゅうことや。 |
| ヴィシャス | おい、なんだこりゃ ?隠し部屋のくせに酒が一本もねえじゃねえか。きったねえ鎧と剣が飾ってあるだけだぜ。 |
| ミゼラ | この鎧……覚えてる。アスガルド帝国の兵士が着てた、よね ? |
| イージス | ! では、この男は帝国の兵士だったのか。だが、なぜそんなものを飾って……? |
| 富豪 | その武具は……私の罪の象徴です。忘れないために、ずっとここに隠していました。 |
| カナタ | あの……聞かせてもらってもいいですか。あなたが何者で、何があったのか。 |
| 富豪 | ええ……ここまで見られてしまったら全てお話したほうがいいでしょう。 |
| 富豪 | 私は確かに帝国の兵士として戦ってきました。それが正しいことだと信じて。 |
| 富豪 | しかし、ある時……恐ろしい任務を遂行しました。抵抗勢力の拠点があるという情報に惑わされてなんの罪もない村を一つ滅ぼしたのです。 |
| カナタ | …… ! そんな……。 |
| 富豪 | 大勢の人々の命を奪いました。その鎧を着て、その剣を振るい。 |
| 富豪 | 上官からは「誤情報だった」の一言だけでした。しかし、私は……自分がやったことへの罪悪感に耐え切れず、軍から逃げ出したのです。 |
| イージス | 仕える者に命じられるまま、か……。昔の俺も同じだったかもしれない。 |
| イージス | ミダスメグールの騎士として、王から命じられれば相対する敵が悪と信じて戦っていた。自分が正義なのだと思い込んで……。 |
| ユナ | でも、その脱走兵さんが何をどうしてこないな豪邸に住めるほどお金持ちになったん ? |
| 富豪 | 運がよかったとしか言えません。過去を捨てて、始めた事業がトントン拍子に成功して気づけば使い切れないほどの財を得ていた。 |
| 富豪 | クックック……皮肉なものです。いくら稼いでも、犯した罪は消えないのに。私は毎晩悪夢にうなされました。 |
| ミゼラ | でも、命令した人がいるんでしょ ?手を下したのはあなたの罪だとしてもあなた一人だけが背負う罪じゃないわ。 |
| 富豪 | そんな風に思おうとしたこともありましたよ。でも、私の手が覚えているんです。自分が何をしたか……自分が何者か。 |
| 富豪 | 私は、人殺しの罪人なんです。帝国が潰えた今となっては、裁かれることも罰せられることもない罪人。 |
| カナタ | ……だから、罪滅ぼしのために子供たちを支援したりずっと隠れて善行をしてたんですね。 |
| 富豪 | ええ、そうです。ただの自己満足ですよ。 |
| イージス | ユナ。お前は全部知っていたのか ? |
| ユナ | 全部やあらへんよ。あの鎧見つけて、ようやく点と点が繋がったっちゅうとこや。 |
| ユナ | やっぱり、直接話を聞かんと本当はどういう人間なんかっちゅうのはわからんなぁ。 |
| 富豪 | 新聞記者さん。私の過去を暴いて、世間に晒したいならお好きになさってください。 |
| 富豪 | 今まで、この過去だけは誰にも知られまいと必死に隠してきましたが……思えばそれも罪から逃れようとする弱さだったのでしょう。 |
| 富豪 | 真実を明かして、噂通りの罪人と知られればいっそ清々します。罪人には悪名こそ相応しい。 |
| ユナ | ……せやな。ほな、ウチの好きにさせてもらうわ。 |
| カナタ | ユナ…… ! ? |
| Character | 10話【真実10 ジャーナリストの使命】 |
| カナタ | どうする気なの、ユナ !本当に今の話を全部記事にするの ? |
| イージス | ……この男が犯した罪は事実だ。皆がそれを知る権利はあるだろう。 |
| ミゼラ | でも、それで本当にいいのかな……。兵士を辞めてからは、ずっと子供や貧しい人を支援していたんでしょう ? |
| ヴィシャス | んなもん、自己満足だって本人が言ってたろ ?こいつに殺された村の連中は、関係ねぇ奴らがいくら助かろうが気にしやしねぇさ。 |
| ミゼラ | そんなこと…… ! |
| 富豪 | いや、その通りですよ。私がかぶるべき汚名なのですから。 |
| ユナ | ちょっと ! みんな勝手に話進めんといて。ウチはまだどうするとは言ってへんで。 |
| カナタ | え ? でも、好きにするって……。 |
| ユナ | せや。だから、ウチはウチの好きなように改めてあんたにインタビューを申し込ませてもらう。一方的な暴露記事を書くんやなく、な。 |
| 富豪 | ……どういうことです ? |
| ユナ | なんか勘違いしてはるみたいやけど……ウチは別に、罪人を捕まえに来たわけでもスキャンダル暴きに来たわけでもないねん。 |
| ユナ | 言うたやろ ? ウチは『ジャーナリスト』や。ただ、真実を知るためにここまで来た。そのためにちょっと無茶な手段も使ってしもたけど。 |
| 富豪 | 知るため……ただ、それだけのために ? |
| ユナ | まぁ、人から頼まれたっちゅうのもあるけどな。報告の代わりにあんたのインタビュー記事を読んでもらうつもりや。 |
| イージス | さっきも話していたが、その依頼人というのは結局誰なんだ ? |
| ユナ | ああ、それな。その富豪さんが帝国軍兵士として滅ぼした村の生き残りの人たちや。 |
| 富豪 | ! ! そんな……。 |
| ミゼラ | まさか、この人を恨んで…… ? |
| ユナ | ちゃう、ちゃう。その人らはまだ何も知らへんよ。 |
| ユナ | でも、なんでやろな~。匿名で毎月大金が送られてくるんやて。気味悪いから調べてくれって頼まれたわけや。 |
| カナタ | 匿名でお金 ? じゃあ、それも富豪さんが……。 |
| ユナ | ま、今となってはわかりやすい話やな。 |
| ユナ | でも、取材しようと思ってた噂の富豪さんが謎の出資者の正体らしい、って気づいた時はウチも困惑したで。 |
| 富豪 | 真相を知ったら……彼らは私を恨むでしょうか ?憎い仇から施しを受けていたなんて。 |
| ユナ | ……それはわからへん。ウチにできるのは伝えることだけや。 |
| ユナ | だからこそ、ウチはあんたにインタビューをさせて欲しいって言うてるんよ。 |
| 富豪 | ? はい ? |
| ユナ | ウチはあの人たちに『真実』を伝えたい。事実を羅列しただけの薄っぺらい記事じゃなくて本当に本当のことを。 |
| ユナ | あんたが何を思って罪を犯したんか。それからどんな思いを抱えてずっと生きてきたか。今、何を考えてはるのか……。 |
| ユナ | そういうもん全部ひっくるめてこその『真実』やろ ? |
| カナタ | ユナ…… ! |
| ユナ | もちろん、あんたに忖度もせえへん。全てを知って、依頼しはった村の人がどう感じるか……それはウチが歪めたらあかんことやから。 |
| ユナ | どないする ? 決めるのはあんたや。 |
| 富豪 | ……なるほど。わかりました、全てお話します。 |
| 富豪 | 大したジャーナリストですね、あなたは。 |
| ユナ | せや。『ゴッしい』やろ ? |
| ユナ | ……いやぁ~ !ひっさびさに徹夜してもうた。お肌に悪いわ……。 |
| ミゼラ | 記事の執筆、お疲れ様。もう書き終わったの ? |
| ユナ | うん、さっき原稿渡してきたとこや。印刷されたら依頼人に届くよう手配もしてきた。ほんま、大変な記事やったで。 |
| イージス | だが、晴れ晴れとした顔だな。 |
| ユナ | まぁな。誰かの罪にがっつり向き合うんは楽やないけど……ウチにできることはやりきったと思う。 |
| カナタ | ……あの富豪さんは、ずっと自分を罰していたんだよね。 |
| カナタ | 善行をしても全部隠して、悪い噂はそのままにして。自分は罪人だから、褒められちゃいけない。悪く言われるべきなんだって……。 |
| ミゼラ | うん……根はすごく真面目な人なんだろうね。 |
| ヴィシャス | へっ。罪滅ぼしだなんだ言っても結局自分の罪から目ぇ逸らしてやがったんだろ。 |
| ユナ | それは本人も言うてたことや。だからこそ自分の過去を捨てて、素性も隠してはったわけやし。 |
| カナタ | だけど、今はもう違うと思うよ。ユナの記事のおかげで、ようやく本当に自分の罪と向き合えたんじゃないかな。 |
| イージス | ああ。記事の結果がどうなるにせよあの男は今度こそ贖罪の道を歩めるのだろう。 |
| ユナ | ……そう願いたいもんやね。 |
| ユナ | さてと ! それじゃ依頼も片付いたことやし次は噂の海賊さんに密着取材、させてもらおかな。 |
| カナタ | それって……一緒に来てくれるってこと ! ? |
| ユナ | そう受け取ってもらってかまへんで。おとなしい取材ばっかりで体がなまってたとこやし。 |
| ミゼラ | よかった ! また、ユナと一緒に旅ができるね。女子会もしよう。今の私はもう耐えられるから。ミリーナたちのおかげで…… ! |
| ユナ | お嬢…… ! 成長したんやなぁ。ウチ、泣きそうや。 |
| イージス | 再会してから、一番感動してないか ? |
| ユナ | 当たり前やん、乙女の一大事やで。男だらけの船で大変やったやろ ? |
| ミゼラ | うん、大変だったよ。特にヴィシャスが邪魔で……それにヴィシャスが邪魔で。 |
| ユナ | うん、うん。わかるで、その気持ち。実はこの男、こう見えて常人の三倍の重さがあんねん。ずっと船に乗せてたら底が抜けてまうで。 |
| カナタ | そうなの ! ? お酒ばっか飲んでるとそうなるんだね……。 |
| ヴィシャス | ウソつき女のウソに決まってんだろ。はあ……めんどくせぇのが戻ってきちまったな。 |
| ユナ | そんなこと言うて、ほんまは寂しかったんやろ ?ウチがおらんと話に華が咲かへんもんな。 |
| ヴィシャス | ウソで盛り上げんのは華が咲くとは言わねえっつの。 |
| イージス | お前たち、無駄話はそれぐらいにしろ。そろそろ出港の準備をするぞ。 |
| カナタ | あ、うん !次はどこへ行こうか ? |
| ユナ | そういえば、ウチ気になってる噂があんねん。なんや向こうの海で、山よりでっかい海蛇が暴れて困ってるっちゅう話やで。 |
| カナタ | 山より大きな…… ! ?それはすぐに助けてあげなきゃ ! |
| ヴィシャス | どうせウソだろ、ウソ。 |
| ユナ | 記事のことでウソは言わへんって。ま、噂の出処の誰かさんがウソついてる可能性はなきにしもあらずにしもあらずやけどな。 |
| ミゼラ | えっと……あるの ? ないの ? |
| ユナ | 確かめる道はひとつしかないで。ほな、行こか ! |