Character2話 オリジナル・タナトス part1
死神騎士になるきっかけとなった憧れの人物――ネオイデア王国の国王ヘイズに目通りが叶ったコダマ。
彼は憧憬の想いを込めていつかヘイズの右腕になると告げたのだった。
ヘイズそうか……。フ……。楽しみにしているぞ、コダマ。
コダマヘイズ様……。
嫌味な死神騎士ふん、貴様如きが陛下の右腕になるなど思い上がるな。元棄民のくせに図々しい奴め。陛下をお支えするのは王室親衛隊である、我らタナトス隊だ。
嫌味な死神騎士陛下、お待ちくださ――
嫌味な死神騎士いてぇっ !
コダマおっと、大丈夫か ?何かにつまずいたみたいだけど足下には気をつけろよ。
エルナトそこ !  何をしているんですか !早く後を追わないと陛下のご出立に遅れますよ !
嫌味な死神騎士――チッ、わかってるよ。
エルナトコダマ、見ましたよ。あの人の足を引っかけて転ばせたでしょう。ああいうことはやめた方がいいですよ。
コダマはーい、エルナト先輩。つーか、ヘイズ様、どこに行くんだ ?
エルナトギムレイ辺境伯やアグラード殿をアイギスの塔へご案内するんです。それじゃあ、急ぎますからこれで。
アイリスコダマ、勝手に離れて何してたの。今のエルナトよね ?
コダマはぁ、いいよなぁエルナトは……。ヘイズ様と一緒に行動できてさ。
セイリオスそれはそうだろう。エルナトはタナトス隊の隊長なんだから。
コダマわかってるよ。けどエルナトはともかく他のクソ死神騎士がタナトス隊に所属してて何で俺は入れないんだ。くっそー。
アイリスコダマはまだ入隊したばっかりじゃない。その内機会があるわよ。シーザリオ様の目にとまるような働きをすれば。
コダマ……セイリオス、アイリス。ちょっと力を貸してくれないか ?二人の夜勤を一週間ずつ引き受けるから。
セイリオスやれやれ、その顔……。ろくでもないことを考えてるな。
アイリスでも、一週間夜勤免除はちょっと美味しいかも……。
王都イザヴェル 駅
アイリスシーザリオ様、あの列車に乗ったみたいね。
セイリオスアイギスの塔直行の御召列車だ。タナトス隊以外は乗り込めないぞ。コダマ、まだ追う気か ?
コダマもちろん。けど、あの警備をどうするか……あっ !
セイリオスどうした ?
コダマ最後尾車両の乗車口にいる奴さっき「棄民のくせに」って嫌味言った奴だ。丁度いい。利用してやろう。
コダマという訳で、アイリス様。その七色の声で、どうかよろしくお願いします !
アイリスほんっと、調子いいんだから。
嫌味な死神騎士……そろそろ発車か。
エルナト ?最後尾 !車両の足元に誰か潜んでいます。確認を !
嫌味な死神騎士何 ! ?
コダマいやあ、こんな簡単に御召列車に乗り込めるなんてな。やっぱりあいつ『足もと』への注意が散漫だわ。
セイリオスお前さん、意趣返しして気分はいいだろうがあとでエルナトに謝らないといけないぜ ?
コダマそうだな。あいつの仕事を邪魔しちまったんだもんな。
アイリス私も一緒に行くよ。エルナトの声を合成したのは私だし。
セイリオスしかしアイリスの声をものまねに使うとはコダマも贅沢な策を立てたもんだ。
アイリス本当だよね。私の『機械の声』をこんな風に使うなんて考えもしなかったな。
アイリス声が出なくなったときはショックだったけどまた少しこの機械の声が好きになれたかも。
コダマ少しかよ。だったら俺の方がずっとアイリスの声が好きってことだな !
セイリオスああ、どうやら俺たちはアイリス本人よりアイリスの声が好きらしい。
アイリスは、恥ずかしい事言わないでよ……馬鹿 !
列車はアイギスの塔に到着した。塔の内部にある発着場に降り立ったコダマたちはヘイズ一行の姿を捜していた。
コダマここが国の守りの要、アイギスの塔か。こいつが街を守る壁を出力しているんだな。
エルナトコダマ ! ?  セイリオスにアイリスまで。何故ここにいるんです !
ヘイズどうした、エルナト。そこにいるのは……コダマか ?
エルナト――は、はい。先ほどの戦闘で欠員が出たため今回のみ、彼らに警護を任せることになりました。セイリオス、アイリス、コダマの三名です。
エルナト一つ貸しです。早くご挨拶を。
コダマヘイズ様のお力になるべく馳せ参じました !
アイリス誠心誠意、シーザリオ様にお仕えいたします。
ヘイズ私のことはヘイズと呼んでおくれ、アイリス。
ヘイズそれではよろしく頼む。コダマ、アイリス。そして……セイリオス。
セイリオス……承知いたしました、ヘイズ様。

Character2話 オリジナル・タナトス part2
コダマアイギスの塔って研究施設みたいだな。
エルナト当たりです。アイギスの塔の地下は対幻影種の研究施設になっているんですよ。
エルナトヘイズ様は国王であると同時に筆頭研究員でもありますからね。
コダマ文武両道かぁ。カッコいいよな、ヘイズ様。しかしエルナトってヘイズ様のことよく知ってるよな。
エルナト当然です。ヘイズ様に関する知識も敬愛も新人には負けませんからね。
コダマ俺だって負けるつもりはねぇ !
セイリオスわかったわかった。二人ともヘイズ様が大好きないい子だな。よしよし。
エルナト適当にいなさないでください !ヘイズ様の話をしているんですよ ?
コダマそうだ、すごく大事なところだからな !
アイリス気が合うんだか合わないんだか……。
リワンナふふ……後ろは賑やかですね。
アグラード慕われていらっしゃいますな、陛下。
ヘイズああ。可愛いだろう ?自慢の子供たちだ。
研究員陛下、お待ちしておりました。オリジナル・タナトスが目覚めています。意識もクリアです。
ヘイズわかった。急ごう。
コダマなあ、オリジナル・タナトスって ?
エルナト私もそこまで詳しくは……。
ヘイズオリジナル・タナトスとは、お前たち死神騎士の力の源である【デス・スター】を生み出した存在だ。
ヘイズ正確にはオリジナル・タナトスを元にして私が研究した力だが。
ヘイズ私たちは長らくオリジナル・タナトスを研究してきたがまだわからないことが多くてな。唯一わかっているのはあの者は私と同じく不老であるということだ。
ヘイズなるほど。完全に覚醒したようだな。拘束を外してやれ。
エルナトあれがオリジナル・タナトス ?
コダマみたいだな。綺麗な人だけど、普通の人間に見える……。
コダマなんかすげえこっち見てる ! ?エルナト、何した ?
エルナト知りません !コダマが気に障ることを言ったのでは ! ?
セイリオス二人とも、構えておけ。奴が妙な動きを見せたらすぐに確保だ。
? ? ?………………。
コダマあいつ、ヘイズ様の方へ…… !  止めるか ?
アイリス待って。あの人、ヘイズ様の前で跪いて……えっ ! ?
二人ああああああああっ ! ?
コダマあいつ今ヘイズ様の手に !キ、キスした ?  キスしたよな ! ?
エルナト高貴な御手に触れるなど何たる破廉恥 !
? ? ?もしや無礼な行為でしたか ?ならば深くお詫び申し上げます。私にとっては敬意を込めた挨拶でしたので。
ヘイズいや、私の国でも同じだ。安心するがいい。そなた、名は ?
バルド・M申し遅れました。私はバルド――バルド・ミストルテンと申します。
バルド・M正直なところ、今の状況が掴めておりません。先ほどあなたは『私の国』とおっしゃいましたがここはどこなのでしょう。
ヘイズネオイデア王国の首都イザヴェルだ。
バルド・Mネオイデア…… ?  もしやセールンド王国に滅ぼされたイデア王国と関係があるのでしょうか ?復興したとの話は聞いておりませんが……。
ヘイズ…………そなた、バルド・ミストルテンと言ったな。その名は滅んだビフレスト皇国の騎士の名だ。今から223年前の話だが。
バルド・M223年前…… ?そんなはずは……だとしたらティル・ナ・ノーグは……甦ったビフレストの民は……。
コダマティル・ナ・ノーグって今のアスガルドのことだよな ?かなり昔の呼び方だけど。
アイリスもしかしてこの人、223年前から歳を取ってないの ?
バルド・M――お願いです !ウォーデン・ロート・ニーベルング殿下の消息を !我が主の行方を教えてください !
ヘイズ落ち着け。私と少し話をしよう。リワンナ、アグラードも来てくれ。他の者は別室で休んでいるといい。
ヘイズによれば、バルド・ミストルテンという男は200年ほど前に発生したアスガルド大戦の際伝説の鏡士バロールの力で甦ったのだという。
鏡士とは魔鏡という不思議な鏡の力で色々なものを生み出す術者のことらしい。その力は凄まじく鏡精という生命体まで作り出せるのだそうだ。
そしてアスガルド大戦が終結してしばらく経った夜のこと――
バルド――先程から私をつけ回す者よ、姿を現せ !
? ? ?私の気配に気付くとは、さすがバロール様の尖兵だ。
バルド………… ?声しか聞こえない…… ?しかし確かに気配が……。
ルグ私の名前はルグ。ここではない場所からお前に接触している。
バルドルグ…… ! ?  バロールの鏡精 ! ?
ルグ尖兵よ。バロール様の力を繋ぐ血族を守るため貴様に巫となることを命じる。
バルドそれがバロールの巫女の代わりをやれということならばお断りします。
ルグ巫女の血筋は途絶えた。次の監視者が必要だ。お前に断る権利はない。
バルド主が主なら、鏡精も鏡精ですね。私には守るべき方がいる。私の邪魔をするのなら、全力で刃向かうまで !
バルド・Mルグに心を蝕まれながら、必死に抗ううちに私は気を失っていました。そして……先程目を覚ましたのです。
ヘイズ彼の話が確かなら、この時期は最初に幻影種が観測されたのと同じ時期だ。彼の記憶に幻影種攻略の糸口があるかも知れぬ。
ヘイズ騎士バルドよ。そなたには自由を与える。だが、願わくば幻影種撲滅のため我々に協力してもらえないだろうか。
バルド・M……しばらく考えさせてはいただけませんか。今の私は、我が主のことで頭がいっぱいで……。
アグラード気持ちはわかる。俺もリワンナ様をお一人にしたらと考えただけで身が引き裂かれる思いだ。
リワンナあの……陛下、お話がございます。こちらへお願いできますか ?
リワンナやはり間違いありませんでした。お知らせいただき、ありがとうございます。
ヘイズ当然のことだ。バルドは元々そなたらギムレイ家が発見し保護していたのだからな。それで、予想どおりだったのだな ?
リワンナはい。データを拝見したところ彼の覚醒は以前からゆるやかに始まりそして今日、目覚めました。
リワンナ彼の覚醒度合いは幻影種の活発化と比例しています。先刻の幻影種大量襲撃が決定打です。
バルド・M…… ?  私の顔に何か ?
ヘイズいや、最近は幻影種も多い。今後、そなたの身の安全も確保せねばと考えていた。
バルド・M……差し支えなければその幻影種を直接見てみたいのですが。
ヘイズもちろん、街の外に出れば可能だが私はこの後に調べものがあってな。同行は叶わん。
ヘイズよければ皆でバルドを案内してやってくれ。

Character2話 オリジナル・タナトス part3
コダマ――とは言ってもさ幻影種は神出鬼没だからな。地道に探すことになると思うぜ ?
バルド・M何か来ます……。右手方向、あの茂みの奥。
セイリオス逃げろ、バルド !  それが幻影種だ !
アグラードあの幻影種、バルドを狙ってるのか !そうは――させん !
アグラードよし、終わったな。皆、怪我はないか ?
コダマすげえ…… !  アグラードさん、強いなあ ! ?さすが、辺境伯のお抱え死神騎士だぜ。
アイリスでもバルドさん、何で幻影種が来るってわかったの ?
バルド・M気配に覚えがあったんです。どこかで……確か……。
バルド・Mそうだ、私が気を失う直前に感じた妙な気配あれとそっくりでした。
エルナト普通は幻影種を感知なんてできませんよ。特殊な能力かもしれませんね。
リワンナ【虹の夜】……。
バルド・M虹の夜 ?
リワンナ幻影種が発生した夜のこと……です。今ではそのように名づけられて伝わっています。
リワンナあなたがルグと接触したのも夜だったのですよね ?幻影種を感知する能力といい、何かしら【虹の夜】と関連していてもおかしくないのかも……。
バルド・M………。
リワンナ……いけない。先走りすぎたら見える筈のものも見えなくなってしまいますね。もっと辺境伯として冷静にならなくちゃ……。
リワンナアグラード、アスガルドへ戻りましょう。クロノスの柱を調査します。
アグラード承知しました。陛下に連絡した後すぐに戻る準備をいたします。
バルド・Mお待ちください。私もアスガルドに連れて行ってもらえませんか。
バルド・Mこの目で確かめたいのです。あなたたちの言うアスガルドが本当に私の知るティル・ナ・ノーグなのかを。
エルナトヘイズ様への報告が終わりました。ひとまずは解散です。
コダマバルド、アスガルドに行ってがっかりするだろうな。あいつのいた時代とは全然違ってるだろうし。
アイリス……そうだね。
セイリオスどうした、何か考え事か ?
アイリスあの人がいた頃に幻影種が発生したんでしょ ?もしもその時代に行って原因を潰せたらおじいちゃんたちは死ななかったかもって……。
エルナトそんな夢みたいなことを。
アイリスでも、バルドの時代には死神騎士の力はなかった。私たちが過去に行けたら幻影種の駆逐も夢じゃないよ。
コダマアイリスがそこまで思うなんて俺まで興味が沸いちまうな。おじいちゃんって、どんな人だったんだ ?
アイリスすっごく格好良かったんだよ。御洒落で、センスが良くて、綺麗なものが大好きでいつも優しくて。
エルナトセイリオスみたいですね。
アイリスあー、確かに !言われてみればちょっと似てるかも。
セイリオス可愛い孫娘よ。続きを聞かせてくれないか ?
アイリスあははは、セイリオスったら。
アイリス……私が歌を歌うようになったのもおじいちゃんが私の声を誉めてくれたからなの。とっても綺麗な声だって。
アイリス綺麗なものが好きなおじいちゃんがそう言ってくれるのが誇らしかった。
アイリスだからおじいちゃんのために……毎日歌って……。
アイリス……ごめん、ちょっと喉かわいちゃった。飲み物買ってくる。
セイリオス……いい思い出と一緒に辛いことも思い出しちまったんだな。傷つけちまったかな。
コダマけど、羨ましいよ。思い出があるってのは。俺は幻影種に襲われた時に記憶をなくしてるから。
コダマだからかな。アイリスみたいな考えは思いつかなかった。過去に戻って幻影種を滅ぼす、か。
エルナトでも、もしアイリスの言うように過去に戻って幻影種を駆逐したら歴史が変わってしまうのではないですか ?
コダマそれは……。
エルナト幻影種がいなければ、こうして皆と出会うこともない。それどころか生まれて来ない人さえいるかもしれない。
エルナトアイリスが大事にしているおじい様との記憶だって元から消えてしまうかも……。
セイリオスまあまあ、そう深刻になるなよ。考えるだけ無駄だ。過去には戻れないんだ。
コダマセイリオス ?
セイリオスそんなことで頭を悩ませるより、バルドの記憶から効率よく幻影種を倒せる手段が見つかることに期待する方がまだ建設的だろうさ。
? ? ?誰か頼む !  死神騎士のところへ…… !
セイリオスなんだ、この人だかりは。
街の男棄民が転がり込んできたんだよ。怪我してるらしいが汚くってさ。みんな寄りたがらねえ。
コダマなっ…… !  助けないならどいてろよ !
コダマ――おい、大丈夫か ?  すぐに手当てするからな。
エルナト今、救護兵を呼びました。
棄民の男頼む !  助けてやってくれ、みんなを……。
セイリオスみんな ?
棄民の男俺たちのコロニーへ向かう輸送車が幻影種に……。護衛の死神騎士も怪我をして動けない……。
コダマエルナト、俺たちには出動命令は出てないけど行っていいよな。
エルナトええ。すでに他のチームへ出動命令が下っていると思いますが、構いません。私も救護兵の到着を確認次第、後を追います。
コダマあそこだ !  ――って、アイリス ! ?
セイリオス騒ぎを知って先に向かっていたようだな。それに、あっちを見ろ。
嫌味な死神騎士くそっ !  棄民共、うろちょろすんな !俺の後ろから出るんじゃねえぞ !
コダマあいつらのチームに指令が下ったのか。けど、ちゃんと守ってくれてんじゃん !
エルナト彼らとて、腐っても死神騎士ですので。
コダマ追い付いたか。俺たちもやるぞ !
コダマふぅ……、討伐終了、かな。
アイリスまだ終わりじゃないよ。輸送車を何とかしないと。
セイリオスああ。棄民のコロニーはいつも物資不足だ。こいつが届かないだけでも死人が出るかもしれない。
アイリス他の死神騎士は、ここの後処理で手一杯だろうし……いっそ、私たちで運ぶ ?
コダマ賛成 !  ってことで、エルナト、後は任せていいか ?
エルナト行ってください。あなたたちなら、他の死神騎士が同行するよりも棄民とのトラブルを回避できそうですから。
コダマ悪いな。それじゃ行こうぜ、アイリス、セイリオス !