Character4話 聖地の守護者 part1
リワンナ、バルドと合流したコダマたち一行は緊急の知らせを受けて一人先行したアグラードを追いアスガルドの地へ続く転送ゲートに到着した。
アスガルドは惑星イデアの双子星である。かつては惑星アスガルドも人間の居住区であった。
しかしアスガルドの人間は、幻影種の襲撃によって200年前に絶滅したため、現在はギムレイ辺境伯とそれに連なる辺境駐留部隊だけが滞在している。
全ては転送ゲートのある『聖地』を守るためだ。
コダマたちは転送ゲートを使ってアスガルドへ入るとギムレイ家の軍隊が駐留する砦へ向かった。
しかし、砦にはアグラードの姿は見えず代わりに、消息不明だった部隊が帰還を果たしたところであった。
リワンナでは、アグラードと死神騎士数名がまだ戦っていると ?
帰還兵Aはい……。捜索に来てくださったアグラード隊長は我々を無事に逃がすため、しんがりを務めると……。
帰還兵Bですが、無事なことは確かです。【不帰の旗(かえらずのはた)】はまだ出ていません !
コダマ『かえらずのはた』…… ?
ヘイズならば、すぐにアグラード救出に向かう。行くぞ、リワンナ !
ギムレイ死神騎士Aお待ちください !  我々はアグラード団長からリワンナ様が砦に戻られたらそのまま留めておくよう命じられております。
リワンナアグラードは、私を……。
コダマなあ、『かえらずのはた』ってなんだ ?なんかリワンナさんもどこか様子が変だしさ。
アイリス私も知らない。ギムレイ家に仕える死神騎士たちの合言葉かな ?
エルナト【不帰の旗】は、アスガルドの防人たちが幻影種に襲われて死を覚悟した際、仲間を巻き込まないために『遠ざかれ』という意味で上げる信号です。
コダマ見殺しにしろって意味かよ……。
セイリオスそうせざるを得ないほどアスガルドは過酷な場所だからな。
エルナトリワンナ様の様子については推測しかできませんが五年前にこの砦は幻影種の大規模襲撃を受けています。それを予想して警戒してるんじゃないですか ?
バルド・Mここでそんなことが……。
コダマけどリワンナさんを見てると、警戒っつーかそういうのとは違う気がするんだよぁ。
ヘイズリワンナ、どうする。アグラードの言葉に従うか ?お前が行かぬなら我々だけで向かうが。
リワンナ………………アグラードたちを、お願いします。
ヘイズよかろう。皆、これよりアグラードたちの捜索及び救出に向かう。直ちに帰還者より情報を集めよ。
全員了解しました !
コダマヘイズ様、ちょっと。
コダマリワンナさんのこと、一人にして大丈夫ですかね ?なんだか様子がおかしい感じですし誰かが傍についてた方がいいと思うんです。
ヘイズうむ……。確かにそうだな。
ヘイズ――では、バルドに頼もう。リワンナと共にいるよう伝えておくれ。
コダマわかりました !
ヘイズバルド・ミストルテン、か……。
救出に向かったコダマたちは、帰還兵たちの情報を頼りにアグラードと別れたという場所へ向かった。しかし――
ヘイズそちらはどうだ !
アイリス見当たりません。逃げたのかもしれませんけどそういった連絡も入っていませんし……。
セイリオスアスガルドはイデア以上に通信が不安定だからな。
コダマヘイズ様、手分けして捜索範囲を広げてみますか ?
ヘイズそうだな。それから、ここでは不安定な通信よりも信号弾などの報せの方が確実だ。見落とさぬよう注意を払っていて欲しい。
コダマ(う~ん……アグラードさんは、しんがりを務めてた。本来上官の筈のリワンナさんに待機を命じたところからして、割と一人で抱え込むタイプだ)
コダマそういうタイプは、一人で戦いやすい場所を選ぶ。となると、砦からは遠くなるけど、地形的にはきっとこっちの方へ向かった筈……。
アグラードうおぉりゃあああっ ! !
ギムレイ死神騎士Bアグラード団長、こっちは囲まれています !これ以上は――
アグラード伏せろ !  後ろに――
ギムレイ死神騎士Bえ…… ?
コダマ間一髪 !  危なかったな。
アグラードお前、コダマか ! ?  何してる !
コダマ話は後で。まずは切り抜けないと !

Character4話 聖地の守護者 part2
コダマの援護によって、一時的に幻影種を退けたアグラードたちは、負傷者の治療を進めていた。
コダマ怪我はしてるけど全員無事か。さすが防人なんて呼ばれてる死神はタフだなぁ。
アグラード助かった。しかし、どうやってこの場所を ?こちらは救援の信号弾すら撃ち尽くして場所を知らせることも叶わなかった。
コダマえっと、それを言っちゃうと、俺がどれだけ優れた観察力でアグラードさんの居場所を見つけたか自慢することになっちゃうんですよねー。
アグラードはははっ、自慢しているではないか。そのくせ手の内は見せないとはまったく、おかしな奴だな。
アグラードで、どうしてここにいる ?
コダマ俺たち、ヘイズ様のお供でリワンナさんたちを追ってきたんです。それで協力することになったんですよ。
アグラードまさか……リワンナ様は捜索に出ていないだろうな ?
コダマ来てませんよ。ていうか、突っ込んだこと聞いていいっすか ?まあ、空気読まずに聞いちゃいますけど。
コダマもしかして、リワンナさんとアグラードさん何かありました ?
コダマリワンナさん、砦に着いてからなんか様子がおかしいんですよね。それに今のアグラードさんも。
アグラード……なるほど。ヘイズ様がお前を連れてきた理由が垣間見えた気がするな。
コダマズケズケ聞いちゃって、ホント申し訳ないんですけどなんでリワンナさんを砦に残すように伝言したんです ?
アグラードお前は新入りだから知らんのだろうがあいつは……妹なんだよ。義理のな。
コダマ義理ってことは……。
アグラード俺はリワンナの姉と婚約していたんでな。まあ、妹になる予定だった、と言うべきか。
コダマその口ぶりだと、リワンナさんのお姉さんはもう……。
アグラードああ。五年前にこのアスガルドで起きた幻影種の大規模襲撃の時にな。お父上である当時の辺境伯と共に亡くなった。
アグラードリワンナも兵たちの家族を守って怪我を負い死にかけていた。でも、俺はどうしても助けたくてな。リワンナの体のほとんどを義体化して生かしたんだ。
コダマじゃあリワンナさんはその時に死神騎士になったんだ。
アグラードああ。それに父親と姉を失ったことで辺境伯の地位も継がざるを得なかった。
アグラードだがな、リワンナは元々戦いに向いていない。大人しくて優しくて、争いを好む性格じゃなかった。
アグラードそんなリワンナに、辺境伯という重荷を加え死神騎士にさせてしまったのがこの俺だ。
アグラードなのにあいつは、俺を恨むどころか命の恩人だと慕ってくれる。……全部、俺のエゴだっていうのに。
コダマまったくですね。
アグラード……むう……。
コダマすいません。アグラードさん、非難してくれって顔してるから、つい。本当は俺じゃなくてリワンナさんにエゴだって責めて欲しいんですよね。
コダマまあ、だったらアグラードさんが抱え込んでる気持ちリワンナさんに伝えた方がいいんじゃないかなあ。
アグラード随分人の心の中を踏み荒らしてくれるじゃないか。
コダマ俺だって普段からこんなじゃないですよ。そう言って欲しそうだなって感じちゃったから。すいません。
ギムレイ死神騎士アグラード隊長、応急処置ではありますが全員治療を終えました。
アグラードわかった。ではこの場所を離れよう。コダマ、ヘイズ様の陣まで案内を頼めるか ?信号弾があるならそれを使った方がいい。
コダマいや、俺たちアスガルドに来てすぐ捜索に出たから信号弾は持ってないんです。こういう場所とは知らなくて……。
アグラードそうだな。イデアで戦う分には信号弾など必要ない。ならば――
アグラードく、また幻影種どもか !やはりここまで活性化しているのは奴の存在が……。
コダマヘイズ様に通信は……くそっ、やっぱ繋がらないか。
ギムレイ死神騎士C隊長、このままじゃ俺たちは足手まといだ !二人だけなら逃げ切れますから、行ってください !
アグラード……確かに、今のお前らは足手まといだな。
アグラードコダマ !こいつらを連れて砦の方角に走れ !
コダマまた自分がしんがりとか言い出すんですか ?
アグラードそんなことはしない。すぐに追いつくから行け !全員グズグズするな !
コダマ…………わかった。
コダマはぁ、はぁ……。よし、ここなら負傷者全員で隠れられるか。
ギムレイ死神騎士Cすまない……。
コダマいいって。それよりアグラードさんだ。あれは絶対自分がおとりになるって顔だった。俺だけでも引き返して――
コダマあれは……信号弾 ?もしかしてアグラードさんが呼んでるのか ?あ、でも信号弾はもう打ち尽くしたって……。
ギムレイ死神騎士Dコダマと言ったな。隊長の元に戻るのは中止だ。
コダマなんでだよ ?
ギムレイ死神騎士B今の信号弾は【不帰の旗】……。アグラード隊長は来るなと言っている。
コダマ【不帰の旗】って……自分を見捨てろってやつか。冗談じゃない、そんなもの無視して――
ギムレイ死神騎士C【不帰の旗】の命令は防人にとって絶対だ !俺たちだって……悔しいんだよ !
コダマ俺は防人じゃない。だから従う義理はない。
ギムレイ死神騎士B駄目だ !  行かせはしない。【不帰の旗】が上がったのなら、その場所は危険な場所なんだ。俺たちは防人として隊長の意思を守る !
コダマ――待った。足音がする。誰かが来る…… ?
アグラードはぁ、はぁ……。敵がどんどん湧いてくるな……。
アグラード(ルシエラ……。きみや義父上の代わりにリワンナを守ると誓ったがもはやそれも叶わん。許してくれ……)
アグラードだがせめて、貴様らの命くらいは貰っていくぞ !
アグラードぐっ !
アグラード(リワンナ……すまな……)
アグラードリワンナ…… ?  どうして……。
リワンナ『【不帰の旗】などクソくらえ』です。
アグラードお前、『あの時』意識が…… ?
リワンナええ、お義兄様。
バルド・M間に合いましたか !
コダマったく、俺を騙そうなんて100年早いよアグラードさん !
リワンナお義兄様はあの時、ルシエラお姉様が撃った【不帰の旗】を見て、防人の掟を破って助けに来てくれた。
リワンナお義兄様がそうしてくれなかったらリワンナは死んでいました。
リワンナ私はお義兄様の【不帰の旗】を生還の旗に変えてみせます !だから……一緒に戦いましょう。生きて帰るために !

Character4話 聖地の守護者 part3
コダマ――了解。じゃあよろしく。
コダマアイリス、セイリオスとの通信は回復っと。あと連絡がつかないのはヘイズ様とエルナトか……。
コダマアグラードさん、部下の人たちはセイリオスたちに頼んであるから安心してよ。
アグラードああ、感謝する。――ではリワンナ様、続きを。
リワンナそ、それで……、やっぱりアグラードたちが心配になって、バルドに頼んで砦を抜け出したの。
バルド・Mあのように痛々しくも高潔な姿で懇願されたら断れる者などこの世に存在しないでしょう。
リワンナそれで、バルドとの捜索中に【不帰の旗】を見つけてそちらへ向かったら、コダマがいて……。
アグラードここに案内された、と。なるほど、状況はわかりました。
アグラードしかし防人を統べる辺境伯のあなたが何故防人の掟を破るのです !あれは『危険だから近づくな』という信号ですよ !
リワンナア……アグラードお義兄様だって……『あの時』無視したくせに……。
アグラード【不帰の旗】などクソくらえだ !
アグラード…………。
リワンナわ、私、もう誰も失わないために戦うと決めたんです !お義兄様は私のことを……頼りなくて辺境伯としては信頼できないと思っているかも知れないけれど……。
リワンナ………………。
コダマな~んかごちゃごちゃ言ってるけど、お互いを守りたいと思うことだって信頼の形じゃねーの ?なあ、バルドもそう思わないか ?
バルド・Mええ。私にも……覚えがありますよ。
アグラード……ともかく、こんな無茶は二度となさいますな。それと部下や他の兵の前で気安く兄とは呼ばれませぬよう。
リワンナご……ごめんなさい…………。
アグラード………………。
アグラードだが……ありがとう、リワンナ。
ヘイズ……ん ?  そこにいるのはバルド……か ?……そうか、来ていたのか。
ヘイズ少し前に【不帰の旗】を見たのだが全員無事のようだな。
アグラードはい。しかしヘイズ様までお越しになるとは我々の掟も脆くなったものです。
コダマヘイズ様、連絡がつかないから心配していました !
コダマ……あれ ?エルナト ?  どうした、その怪我 !
ヘイズ突然、巨大な幻影種が現れてな。エルナトが身をもって守ってくれたのだ。
コダマ他にもいたのか。俺たちも同じような巨大幻影種を倒したところです。
ヘイズそうか。私もエルナトがいなければどうなっていたか。さすがタナトス隊の隊長だ。見事な働きであった。感謝しているぞ、エルナト。
エルナトいえ、当然の務めです。ヘイズ様の御身は、いついかなる時も私が必ずお守りします !
コダマうっ、くっそあのドヤ顔…… !ヘイズ様、俺もリワンナさんたちと頑張りましたっ !めちゃくちゃ頑張りましたっ !
エルナトリワンナ『さん』とはなんですか !辺境伯への敬意があれば『様』でしょう ?
リワンナいえ、いいのよ。気軽に呼んでくれた方が嬉しいわ。それに、コダマには本当に助けられたのよ。私もアグラードも。
アグラードはい。
ヘイズあははは、そうかそうか。リワンナはもとよりアグラードまで誉めるとはよく働いてくれたようだな、コダマ。
コダマあ……ありがとうございますっ !
ヘイズ皆もよく戦ってくれた。何より嬉しいのは、大事な子供たちである皆の命が一つも損なわれなかったことだ。
コダマそれにしても、通信はしょっちゅう途切れるし幻影種はバカ強いし……。
コダマアスガルドがこんなに危険な場所ならゲートを塞げばいいのに。そうすれば幻影種の侵入も防げますよね。
コダマ砦は捨てることになるけど、防人の人たちだってイデアで暮らせれば、ここよりはマシな生活になると思うけど。
リワンナそうしたくても無理なのよ。
アグラードギムレイ家は代々、砦や転送ゲートがある『聖地』と『祭壇』を守る任務を与えられている。それがなければ、こんな場所など……。
コダマ聖地と祭壇 ?
ヘイズああ。私がリワンナたちを追ってここに来たのもギムレイが守る領地――聖地の確認をするためだ。それと、すでに渡したが、バルドへの贈り物もな。
バルド・Mああ、これですか。
ヘイズ丁度良い。『例の者』にも会っておきたいし砦に戻ったら皆で祭壇に参るとしよう。
コダマたちは、セイリオス、アイリスギムレイの死神騎士たちと無事に合流し砦への帰還を果たした。
しばしの休息の後、コダマたちが案内された祭壇と呼ばれる場所には透明な棺が置かれていた。
リワンナあちらが『祭壇』です。
アイリス祭壇って……あそこに置かれているの棺よね。ってことは中に入ってるのは亡くなった人……。
セイリオスああ。遺体を祀っているようだ。
ヘイズ……久しぶりだな。銀の髪の鏡士よ。
コダマ鏡士 ! ?
バルド・Mまさか……。この方は……。
ヘイズバルド ?
バルド・Mイクス……さん……。