| Character | 5話 幻の囁き part1 |
| | ギムレイ家が管理する聖地と呼ばれる場所でコダマたちは銀髪の鏡士の遺体と対面していた。 |
| バルド・M | イクス……さん……。イクスさん ! |
| リワンナ | バルド、この方を知ってるの ! ? |
| バルド・M | ええ。何故ここにイクスさんが……。 |
| アグラード | この『聖体』は、かつてこの地に存在していた鏡士たちによって保管されたものだ。 |
| アグラード | アスガルドを守るために決して失ってはならぬとされてな。 |
| バルド・M | ティル・ナ・ノーグを守るために……。 |
| リワンナ | そうよ。そしてギムレイの一族に託されたこの地の要でもあるの。 |
| コダマ | そんなのを管理してたんじゃ、リワンナさんたちがアスガルドを離れられないわけだよな。 |
| ヘイズ | これだけではない。聖地には他にも重要な場所がある。 |
| ヘイズ | さらにこの先にある聖地の境界まで行くと【クロノスの柱】と呼ばれる、光の柱がそびえていてなそこからは幻影種が生まれ出るとの話もあるのだ。 |
| 二人 | 幻影種が ! ? |
| コダマ | もしかして俺たちとんでもなくヤバイ場所にいる ? |
| セイリオス | そういうことになるな。 |
| アイリス | それにしても不思議。この人、鏡士が生きていた時代に亡くなったんでしょ ?なのに……。 |
| エルナト | ええ、まるで眠っているようです。 |
| バルド・M | イクスさん……あの頃と何も変わっていない。若くして命を落としたのか。何故こんなことに……。 |
| ヘイズ | バルド、彼について知っているなら話してはもらえぬか ? |
| バルド・M | はい……。彼の名前は、イクス・ネーヴェ。あなたたちの話を元にすると今から200年程前の鏡士となります。 |
| バルド・M | イクスさんは、共に戦った仲間でした。 |
| コダマ | マジかよ ! ?いや、アイギスの塔で話は聞いてたけどさバルドって本当に昔の人間なんだな……。 |
| エルナト | この聖体やバルドさんを見ているとそんな風には見えませんからね。 |
| バルド・M | 彼の体が朽ちずにいるのは私の国に伝わる魔鏡術を使った特殊な仕掛けによるものでしょうね。 |
| エルナト | では、あなたもその術のせいで若い姿のままなのでしょうか。 |
| バルド・M | いいえ、それは違います。私の不老についてはまだ不明で……。 |
| バルド・M | ヘイズ様、この際です。私が目覚めた時に伺った話を彼らと共有しても構いませんか ?あなたの研究にも関わる内容になりますが。 |
| ヘイズ | 構わん。いらぬ不安と混乱を招かぬようにと配慮していただけのことだ。元より隠すつもりもない。 |
| バルド・M | では、私がこの世界で発見された時のことから始めましょうか。 |
| Character | 5話 幻の囁き part2 |
| | 話によると、バルドはギムレイ家によって発見保護されたという。 |
| | 気を失った姿はボロボロで顔にも体にも酷い傷を負っていたが、その周囲には幻影種を倒したと思われる形跡が残っていた。 |
| | 当時、幻影種への対抗手段を模索していたヘイズはその報告を受け、バルドの力の研究を開始した。 |
| バルド・M | そうした研究の果てに私の体に流れる未知のエネルギーを発見したそうです。それが【イデアエネルギー】、でしたね ? |
| ヘイズ | そうだ。幻影種の細胞を破壊する力の源だ。 |
| ヘイズ | このイデアエネルギーを人工的に移植することで私は幻影種への対抗手段となる死神騎士を作り出すことができた。 |
| ヘイズ | この理屈から言えば、バルドも通常の武器を使って幻影種と戦える筈だったんだが……。 |
| セイリオス | バルドに何か問題が ? |
| ヘイズ | イデアエネルギーを効率的に放出できる死神騎士と違いバルドは生命エネルギーを限界まで放出しないと幻影種に効果的なダメージを与えられない。 |
| ヘイズ | それで、研究中だったその【幻想灯】を急いで仕上げバルドに届けることにしたというわけだ。 |
| バルド・M | これには驚きましたよ。あれだけいた幻影種を倒してしまいましたからね。 |
| ヘイズ | 幻想灯はバルドの力を増幅する。今後は死神騎士のように戦えるはずだ。全てはそなたの力があってこそ。 |
| バルド・M | 私の力ですか。いや、もしかすると……。 |
| リワンナ | 何か他にあるの ? |
| バルド・M | 私が、バロールという神のごとき鏡士によって甦った存在であるというのはすでに皆さんもご承知でしょう。 |
| バルド・M | ですが、それは私だけではなく、あなたたちの住む惑星イデアも、そこに住む人々も同じようにバロールが甦らせた存在ということはご存知ですか ? |
| アイリス | ちょ、ちょっと待って。何言ってるの ? |
| バルド・M | そうですか。失われてしまった話なのですね……。ならば改めて説明しましょう。今の世界の成り立ちを。 |
| アイリス | 世界を創ったり、異世界を呼び出したり……。それ、本当の出来事 ? |
| ヘイズ | 信じようと信じまいと、幻影種のせいで私たちの歴史の多くは失われてしまっている。今は素直に受け止めようではないか。 |
| ヘイズ | バルド、続けてくれ。 |
| バルド・M | はい。例えば、私に流れる『幻影種を破壊するエネルギー』がバロールの力だとしましょう。 |
| バルド・M | そうなると、同じようにバロールの力で生み出された惑星イデアは、元々が幻影種への耐性がある土地だったということになります。 |
| バルド・M | だからこそ、その星に生まれた人々も、微力ながらこれまで幻影種に対抗できていたのではないですか ?元をただせばバロールが甦らせた人々の子孫ですから。 |
| ヘイズ | バロールの力があったからネオイデア王国は幻影種と戦ってこられたと ? |
| バルド・M | ええ。逆に言えば、ティル・ナ・ノーグ……アスガルドに住む者は、バロールの力を得ていません。対抗し得る力がなかった。 |
| バルド・M | だから、あっという間に滅ぼされて……。 |
| バルド・M | ……うっ。 |
| アグラード | 大丈夫か ?故郷が滅ぶ話だ、気分が悪くなっても仕方ない。 |
| セイリオス | しかし、バロールだのなんだのとんでもない話になってきたな。 |
| エルナト | ええ、驚いて言葉も出ませんよ。珍しくコダマも静かに……コダマ ? |
| コダマ | (まずい……なんだよこれ……さっきから声が……) |
| ? ? ? | (目を覚ませ……早く。全てが滅びる前に……) |
| コダマ | ごめん、めまいが……。耳も……変……。 |
| エルナト | ちょっと、コダマ ! ? コダマ ! |
| コダマ | ……あれ ? 俺、なにして……。 |
| ヘイズ | 気が付いたか ? |
| コダマ | ヘイズ様 ?うわっ、すみません、膝枕とか…… ! |
| ヘイズ | 気にせず休んでおれ。なるべく音が入らぬよう皆からは少し離れておいた。耳はどうだ。まだ痛むか ? |
| コダマ | 少し……。イヤホンの不具合かもしれません。今もうっすら変な声が聞こえてて……。 |
| ヘイズ | もしや、コダマは『耳』なのか ? |
| コダマ | はい。幻影種に襲われた時から近くに奴らが来ると、鳴き声みたいな妙な音が聞こえるようになっちゃったんですよね。 |
| コダマ | 戦闘中なんか特にうるさくて仲間の声が聞き取れないこともあるんですよ。 |
| コダマ | だから今は、あえて全ての音を拾って雑音をカットするこの特殊イヤホンを使ってるんです。 |
| ヘイズ | そうか……『ここ』がお前の痛みであったか。よしよし、辛かったな。 |
| コダマ | ヘ、ヘイズ様、耳はちょっと……くすぐったいです。 |
| ヘイズ | ……死神騎士となる条件はイデア値の低さだ。幻影種にイデアエネルギーを吸い取られた者がその適合者となる。 |
| ヘイズ | ほとんどの死神騎士は、多かれ少なかれイデアエネルギーを失って、精神や肉体のどこかに不調をきたしているというのに……。 |
| ヘイズ | 私は、皆に辛い責務を強いている。 |
| コダマ | そんな顔しないでください。少なくとも俺は強いられていません。望んでヘイズ様の傍にいるんです。 |
| ヘイズ | コダマ……。 |
| コダマ | そうだ、気を付けてください。近くに幻影種が来てるかもしれません。それでイヤホンが奴らの音をカットしきれずに、変な声に聞こえたのかも。 |
| コダマ | ……それにしちゃちゃんとした『言葉』だったけど……。 |
| ヘイズ | その言葉、当ててみせよう。「目を覚ませ、早く。全てが滅びる前に」ではないか ? |
| コダマ | えっ ! ? なんで……。 |
| ヘイズ | やはりそうか。バルドも話している途中で声を聞いたそうだ。少しふらついていただろう ? |
| ヘイズ | しかもその声は鏡士イクスによく似ていたらしい。 |
| コダマ | あれが ! ? あの遺体の声と……。 |
| セイリオス | ヘイズ様、コダマは――目が覚めてるようですね。具合はどうだ ? |
| コダマ | 心配させてごめん。けど、まだ頭がくらくらしてる。 |
| セイリオス | そうか。――ヘイズ様、幻影種が多数こちらに近づいているとの報せが入りました。 |
| コダマ | まさか、本当にクロノスの柱から湧いたとか ! ? |
| リワンナ | 皆さん、こちらへ !一度、我が館に戻って体制を整えましょう。 |
| バルド・M | いいえ、もう来る……。食い止めなければ……。皆さんは早く行ってください ! |
| ヘイズ | バルド ! |
| エルナト | ご心配なく。私が加勢に参ります ! |
| リワンナ | 二人だけじゃ危ないわ ! 私が―― |
| アグラード | お待ちを !ギムレイ家当主が陛下をお守りしなくてどうします。あの二人は私にお任せください。 |
| リワンナ | わかったわ。――皆さん、こちらへ ! |
| Character | 5話 幻の囁き part3 |
| | 館へ撤退するコダマたちだったがその道にも幻影種が多数出現していた。 |
| ヘイズ | 小物だな。切り抜けられんこともないがあの数を相手にしてもキリがない。 |
| リワンナ | 回避できるかもしれません。この辺りには館に通じる古い地下道があったはずです。確か陛下も以前お使いになったと、父から聞いて……。 |
| セイリオス | ならばあの方角でしょう。入口は多少見つけにくいかもしれませんが。 |
| リワンナ | ……なぜあなたが知ってるの ? |
| ヘイズ | …………ああ、そうか、思い出した。皆、こっちだ ! |
| ヘイズ | そうそう、この地下道だ ! 思い出せてよかったよ。 |
| セイリオス | これで館への道は確保できたな。さて、アイリス。 |
| アイリス | わかってる。――ヘイズ様、リワンナ様、コダマをお願いします。私とセイリオスは、戻ってエルナトたちに加勢します。 |
| リワンナ | あなたたち……。わかりました。では戻り次第、援軍を手配します。 |
| ヘイズ | 行くぞ。さあコダマ、私に掴まれ。――セイリオス、アイリス、頼んだぞ。 |
| 二人 | 承知しました。 |
| アイリス | ねえ、セイリオス、ここに来たの初めてじゃないの ? |
| セイリオス | 二度目だ。昔、辺境伯の部下をやってたからな。 |
| アイリス | そうなの ! ? |
| セイリオス | ああ。前の辺境伯に命を助けられてね。 |
| アイリス | でも、リワンナ様もアグラードさんもセイリオスが部下だったって知ってるようには見えなかったけど。 |
| セイリオス | あの人たちは貴族で、本来は雲の上のお人だぜ ?一兵卒の顔なんて知るはずがないさ。それより急ぐぞ ! |
| アイリス | ……了解。 |
| | 一方、バルドたちは幻影種との戦いの中時間を稼ぎつつも、少しづつ撤退を続けていた。 |
| アグラード | どうした、エルナト ! 動きがにぶいぞ ! |
| エルナト | だって……いつもは獣なのに…… ! |
| バルド・M | 獣…… ?エルナトさん、幻影種が人間に見えていますか ? |
| アグラード | こいつらが人間 ! ? とてもそうは見えんぞ ! |
| バルド・M | どうなんです、エルナトさん ! |
| エルナト | 人間です……。こんなの初めてで……。 |
| バルド・M | なるほど……あなたは人を斬ったことがないのですね。わかりました。 |
| バルド・M | アグラード、幻影種の動きから見て彼らは私に向かって集まってくるようです。今のうちに彼女を連れて撤退してください ! |
| アグラード | それではお前が逃げきれん ! |
| バルド・M | 大丈夫。言ったでしょう。『幻影種の動きを見た』と。ですから私はイクスさんの傍でしのぎます。 |
| エルナト | 棺の周りだけ幻影種が近づかない…… ? |
| バルド・M | ええ。どういう訳か幻影種はイクスさんに近寄れないようです。まさに聖域ですね。 |
| バルド・M | さあ、私がここで幻影種を引き付けているうちに。 |
| アグラード | わかった、すぐに救援を寄越す。無茶せず待ってろよ ! |
| Character | 5話 幻の囁き part4 |
| | アグラードがエルナトを連れて館に戻るとそこには兵を整え出撃するヘイズとその後を追うコダマの姿があった。 |
| コダマ | さっきよりは回復しています。俺も連れてってください ! |
| エルナト | またコダマは無茶を言って……。――ヘイズ様、エルナト、ただいま帰還しました。 |
| ヘイズ | お前たち ! よく切り抜けて来られたな。途中にも幻影種がひしめいていただろう。 |
| アグラード | …… ?いいえ、それほどは。 |
| エルナト | やはり、バルドが引き付けているからでしょうか……。 |
| | エルナトは幻影種が人間に見えたことやバルドも同じ様子でありながら、エルナトを案じておとりとなったことを報告した。 |
| ヘイズ | そうか。すでにセイリオスたちが救援に向かっている。エルナトたちとは行き違いになったようだがな。 |
| ヘイズ | ともかく、委細承知した。バルドは必ず連れ帰る。 |
| ヘイズ | ご苦労だったな、エルナト。全て私に任せて、コダマと共に休むがいい。 |
| コダマ | そんな、待ってください ! |
| ヘイズ | しかし、まだ声が聞こえるのだろう ? |
| コダマ | ……だったら、イヤホンのスイッチを切ります。こいつが不調だからきっと駄目なんだ。 |
| エルナト | コダマ ! |
| コダマ | (……ああ、うるせー。けどこれは、いつもの奴らの鳴き声だ。あの声は聞こえない。めまいもない) |
| コダマ | ……よし。ヘイズ様、これでいけます。 |
| ヘイズ | その状態で私の声が聞こえるのか ? |
| コダマ | 正直、聞こえにくいです。でも口の動きで言葉はわかります。足手まといにはなりません。 |
| ヘイズ | ……頑固者め。行くぞ。 |
| コダマ | はい ! |
| バルド・M | なるほど……これは幻影種なりの嫌がらせですか ?知ってる顔ばかり並べて。 |
| バルド・M | ユーリさんに……リヒター……、ヴァンさんカイウス……。 |
| バルド・M | ああ、あなたには特に弱いんですよ、フレンさん……。 |
| バルド・M | だが、いくら鏡映点の姿で騙っても無駄だ。偽物など、この灯(ともしび)で消し去って―― |
| バルド・M | あ……。 |
| バルド・M | やめろ……。 |
| バルド・M | やめてくれっ ! あなた方を、私に殺せと ! ? |
| バルド・M | ああ、そんな……。 |
| アイリス | バルドさん、無事 ! ? |
| セイリオス | 後はこいつらを倒せば―― |
| バルド・M | お願いです ! この方々だけは ! |
| アイリス | バルドさん、なにを言ってるの ! ? |
| バルド・M | この方は私の主 !ナーザ様は……ウォーデンは私の……。 |
| セイリオス | 違う、そいつは幻影種だ ! |
| | その時、周囲の幻影種をなぎ倒しながらヘイズが援軍を伴い駆けつけた。 |
| ヘイズ | バルドは無事か ! ? |
| アイリス | ヘイズ様、バルドさんが幻影種を庇おうと ! |
| ヘイズ | バルド、何をしている、離れよ ! |
| バルド・M | 嫌です ! ウォーデン様が目の前で殺されるなど私には耐えられない ! もう二度と私は…… ! |
| バルド・M | やめなさい、コダマ !ウォーデン様に手を出すのなら、あなたでも―― |
| コダマ | (ああ、言ってることはわかるよ。でも――) |
| コダマ | ごめん、聞こえなかった。 |
| バルド・M | ウォー……デン、さま……。 |
| コダマ | (なんだ今の……何かが幻影種から抜け出してバルドのランタンに吸い込まれた ? ) |
| バルド・M | ウォーデン様……私はまた、あなたを守れずに……。 |
| バルド・M | うあああああああっ ! |
| コダマ | ………。 |