Character7話 時の柱を渡りて part1
行き詰まっていた幻影種殲滅への打開策を過去の世界に見出したヘイズはコダマたちを伴いクロノスの柱を調査していた。
しかし、過去に戻る手掛かりを握るエルナトはクロノスの柱が発する光の中へ飛び込み消えてしまったのだった。
ヘイズエルナト……どうして……。
コダマはエルナトを追ってクロノスの柱に触れた。しかし――
コダマなんだよこれ……ただの石の柱になっちまってる……。くそっ、なんでだよ !
セイリオスヘイズ様、さっき見た湧き上がるような光の動きは俺が未来に飛ばされた時と同じでした。エルナトは時間を移動したのではありませんか ?
ヘイズああ……あの子は恐らく過去へ行ったのだろう。
アイリスなんでエルナトが……何がどうなってるの ?
コダマ説明してもらおうぜ。――なあ、アグラードさん。
アグラード…………。
コダマなんでさっき邪魔したんだよ。
アグラード訳のわからない状況だった。止めるに決まっているだろう。
コダマけど、さっき俺が柱に触れた時は止めなかったよね。もう何も起きないって『知ってた』んじゃない ?
リワンナアグラード、知っているなら話しなさい。
アグラード…………。
リワンナアグラード、何故黙っているの…… ?
アグラード……隠し立てはいたしません。ですが、全てを話すには、今しばらく時間を頂きたい。まずは私を王都へ連れて行ってください。
リワンナそれでは疑いが深まるばかりでしょう。申し開きなら今すぐ――
アグラードこれ以上はお答えできません。
ヘイズもうよい、リワンナ。アグラードを連れて王都へ戻るぞ。
王都イザヴェルに戻ったもののアグラードは沈黙を守ったまま話し出す様子はなかった。
ヘイズはアグラードを軟禁した後エルナトと交わしたやり取りをコダマたちに明かした。
リワンナそうですか。では、過去に戻る手段を知るのはエルナトだけなのですね……。
ヘイズああ。だが、エルナトも記憶を取り戻したばかりで自分の記憶に半信半疑の様子でな。今回の調査では確認するだけの予定だった。
ヘイズなのに、あの子は一人で行ってしまった……。
アイリスエルナト……本当に過去に行けたとして何する気よ。一人で世界を救えるわけないのに……。
コダマ『一人で救える方法』ってのを見つけたのかもしれないな。それも、とびきり危険な手段だと思う。
コダマだから俺たちやヘイズ様を巻き込まないために単独行動に走ったんだよ。
アイリスコダマ、何か知ってるの ?
コダマいや、俺がエルナトだったらって考えただけ。あのエルナトがヘイズ様を騙し打ちする理由なんてそれ以外考えつかないんだよ。
リワンナじゃあ、アグラードもきっと――
バルド・Mそれはあなた方の推測に過ぎませんね。そもそも、クロノスの柱を操れるなんて普通の人間とは思えません。
バルド・M彼女は一体何者なんです ?ヘイズ様は何かご存じなのでは ?
ヘイズ……エルナトは確かに普通の人間とは違う。
ヘイズあの子は、過去の伝承にあった『鏡精』なのかもしれない。
バルド・M鏡精 ! ?
ヘイズ………………そう、そうだ。今から50年ほど前のことになるな。
ヘイズによると、初めて出会った時のエルナトはおとぎ話に出てくる妖精のような姿をしていたという。
保護した後は数十年に渡り眠り続けある日突然、今の姿に変化して目覚めたというのだ。
ヘイズあまりに特殊な存在だったのでな。目覚めてからは私の側近くに置くようにしていた。
セイリオス50年前……。
ヘイズ先ほども言ったが、私も本物の鏡精を見たことはない。断定はできないが……バルド、何を描いている ?
バルド・M発見時のエルナトさんはこのような姿ではありませんでしたか ?
三人「……虫 ? 」「……鳥 ? 」「……蟹 ? 」
バルド・M鏡精です。ああ、絵の才はないと主からも言われておりますのでどうかお気遣いなく。
ヘイズせ、背中 ?  に羽が生えた姿は似ているな。うむ。
バルド・Mだとしたら、彼女のマスターとなる鏡士がいる筈です。
ヘイズしかし、鏡士はすでに潰えているのだぞ。
コダマあの聖体は ?  イクスって鏡士の。
バルド・M鏡精は主と命を共にする存在です。鏡士が死ねば、鏡精も生きてはいません。
コダマはずれか。あの鏡士と関係あるなら祭壇前でエルナトがおかしくなったのも説明がつくと思ったのになぁ。
バルド・M恐らく、イクスさんの遺体が残してあるのはこの世界からバロールの血を絶やしてはならないとの言い伝えを――………。
バルド・M……まさか、エルナトの『主』は……。
リワンナ心当たりがあるの ?
バルド・Mええ。主の実体がなくてもこの世に存在しうる鏡精がいます。
バルド・Mその理屈については私もよく知らないのですが。バロールの鏡精ルグなら、主がいなくとも……。
リワンナルグって、遥か昔にあなたを襲った鏡精よね ?
ヘイズエルナトがルグだと言うのか ?
バルド・M思い出した……。巫になるまいと抵抗し続けた私の前に光と共に現れた声の主……ルグ……そうだ、あの姿は…… !
バルド・M間違いない !鏡精ルグには、エルナトさんの面影があった…… !
バルド・Mああ、見える……ルグに抗っている私が……なぜ……私が見ている…… ?
バルド・Mっ……左目が…… !
全員バルド ! !
アイリスそれじゃ私、バルドさんが起きるまでつきそってますね。
ヘイズああ、頼む。
リワンナ……バルドの精神は、かなり不安定なようですね。
ヘイズうむ。これ以上は刺激すまい。エルナトについては他に情報を得る手段もある。
リワンナアグラード……ですね。私が責任をもって尋問をします。
コダマそれなんですけど俺とセイリオスに任せてもらえませんか ?
セイリオス俺たちでか ?
コダマああ、頼むぜ、セイリオス先生。で、ヘイズ様とリワンナさんは――

Character7話 時の柱を渡りて part2
アグラードの尋問を開始したコダマたちはエルナトがルグであることを話すと何を隠しているのか問いただした。
セイリオスこのままだと、リワンナ様へも疑惑の目が向くことになるんですよ ?
アグラード何度も言っただろう。話はする。だが、まだその時ではない。
コダマその時ねぇ……。じゃあ、俺の推理を先に聞いてもらおうかな。当たってたら、飯おごってくださいね。
コダマエルナトが過去に行ったんなら目的は鏡映点の想珠――エネルギー回収だと思う。
コダマで、集めた力をこの時代に持って帰ってアスガルドを破壊する。どうかな、当たってます ?
アグラードさあな。何故そう思う。
コダマエルナトは過去を変えることを極端に嫌がってた。となると、ヘイズ様が渋ってたこの方法しかない。
アグラードはずれだと言ったら ?
コダマえっ、マジで ! ?だとすると、ヘイズ様やリワンナさんに謝らなきゃ。
セイリオスそうだな。エルナトが戻ってくる想定でお二人はアスガルドに向かった。とんだ無駄足を踏ませちまったよ。
アグラードなっ……アスガルドだと ! ?  すぐに連れ戻せ !いつ破壊されるかわからんのだぞ !
コダマなんだよ、やっぱり当たってんじゃん !
アグラード言ってる場合か !  二人はいつ発った ! ?
コダマ落ち着いてくださいよ。エルナトはヘイズ様を巻き込んだりしません。すぐに破壊なんてするわけないって。
アグラードくっ !  エルナト、エルナト !
焦った様子のアグラードは懐から一枚の鏡を取り出すとその鏡に呼び掛けた。
アグラード返事はないな……。まだ間に合うか。ここから出せ !  二人を助けに行く !
セイリオス今のはどういうことです。理由を教えてくれるなら俺の責任で解放してもいい。
アグラード……っ。エルナトはもう、ここには戻らない。
アグラード過去の世界で想珠のエネルギーを集めた後そのままこの鏡――聖体の魔鏡に潜み続け現代まで時を待つ手筈だ。
アグラードそして、アスガルドと共に自爆する。
コダマ自爆 ! ?
アグラード俺はエルナトに頼まれてアスガルドから人払いをするためにこの世界に残った。
アグラードさあ、話したぞ !  解放しろ !リワンナを安全な場所へ連れ戻す !
リワンナアグラード……。
アグラードリワンナ ?お前、アスガルドに行ったんじゃ……。
リワンナいいえ、その……。
アグラード……なるほど。俺は一杯食わされたわけだな、コダマ。
コダマ『食わす』のはアグラードさんの方でしょ。俺の推理、当たったんだからちゃんとおごってくださいね。
ヘイズアグラード、話は聞かせてもらったぞ。
アグラードヘイズ様……申し訳ございません。
ヘイズ詫びは後でよい。今は私の質問に答えて欲しい。エルナトはどうやって過去に戻った。
アグラード『鏡精ルグ』は、精霊クロノスの力を借りることができるそうです。だからクロノスの柱を自在に操れると。
ヘイズでは、あの子がいなければもうクロノスの柱は動かぬのか。
アグラードいいえ、あの時はエルナトが動きを止めましたが今も彼女が向かった過去へ繋がっております。柱の動きを止める方が負担が大きいのだとか……。
ヘイズでは、今ならエルナトを追うことができるのだな。
アグラードやはり、アスガルドの破壊は……エルナトの犠牲は承知できませんか。
ヘイズ……少なくとも、このような親孝行は願い下げだ。エルナトは連れ戻す。
コダマヘイズ様、俺にエルナト追跡を許可してください。
ヘイズコダマ、過去に行くという意味がわかっているのか ?今の状況では戻れぬかもしれぬぞ。
コダマエルナトをとっ捕まえて一緒に戻ればいいんですよ。
ヘイズ……そうだな。ならば私も共に行こう。
セイリオス国王自ら赴かれるには危険が過ぎます。コダマには俺がついていきますからご安心を。
ヘイズ問題ない。私が王都を空けることなど頻繁にある。留守を預かる優秀な大臣たちや、研究者も控えている。そうでなければ、王自ら戦の陣頭になど立てるものか。
ヘイズあの子だって、私の言うことならば耳を貸してくれる可能性がある。
コダマそれはまあ、そのとおりですけど……。
ヘイズ何にしろ、エルナトをとっ捕まえて一緒に戻ればいいだけ、だろう ?
二人承知しました。
アグラード(すまない、エルナト……。だが、まだ……)
リワンナねえ、アグラード。どうしてエルナトに協力したの ?いつから二人はそんな話を ?
アグラード最近です。幻影種の駆逐は不可能だと気づいて絶望したあの日……エルナトから声をかけられました。
アグラード突飛な話でしたが、確かにエルナトの力があればイデアに影響を与えることなくアスガルドを消滅できると思いました。
アグラードイデアの人々を救うためにも幻影種が増える一方のアスガルドなど消してしまうのが確実です。
リワンナ(やっぱりお義兄様はお姉様を奪った幻影種とアスガルドをずっと憎んでいる……)
リワンナギムレイの騎士たちはどうする気だったの ?
アグラードいつでも撤退できるように隊の者に命じて、密かに準備を進めておりました。勝手な振る舞いは、どうかお許しを。
アグラードですが、もしもエルナトの計画が遂行されれば我々は全てのしがらみから解放されます。これ以上ギムレイの血を流すこともなくなる。
アグラード私はまだ、望みを捨ててはいません。
リワンナお義兄様……。

Character7話 時の柱を渡りて part3
過去へ戻る方法を知ったコダマたちはアイリスにも伝えるべくバルドの休む部屋を訪れた。
話を聞いたアイリスは過去行きを志願し目を覚ましていたバルドも共にコダマたちの報告を聞いていたが――
バルド・Mお願いします。私も同行させてください。
ヘイズそなたは疲弊している。ここで養生しながら待つがよい。
バルド・M我が主を救えるこの機会に何故休んでいられましょう !
ヘイズそれが一番の問題だ。そなたが共に行けば主愛しさゆえに、過去を大きく改変する危険がある。否定できまい ?
バルド・M……。
ヘイズすまぬが、わかっておくれ。
バルド・M幻影種が発生したと伝わる【虹の夜】からほどなくアスガルドは……ティル・ナ・ノーグの人々は幻影種によって全滅するのでしょう ?
ヘイズそうだな。私たちの時代ではそう伝えられている。
バルド・Mならば、我が主たちをこの時代に連れてくることで過去の悲劇から救い出します。
バルド・Mこれなら過去の『大きな』改変にはならないでしょう ?たった二人が、死ぬか、消えるかだけの違いですから。
コダマどうかな。助けられると思ったら、他の人にまで手を伸ばしたくなるんじゃないの ?
ヘイズ……まあ、良い。バルドの同行を許そう。
コダマ(ヘイズ様 ?  やけにあっさり……)
バルド・Mありがとうございます。死を待つばかりの揺り籠に主を置き去りにはできませんから。
ヘイズ揺り籠……、そういえば古きティル・ナ・ノーグには『ダーナの揺り籠』との呼び名もあったとか。
バルド・Mええ。ですが、私にとっては今や死の揺り籠です。必ずウォーデン様とメルクリア様を救い出さねば……。
ヘイズは、コダマ、セイリオス、アイリスを正式にタナトス隊に任命。エルナト追跡にはリワンナとバルドを加えた6名で当たることとなった。
一行はそれぞれに準備を整えクロノスの柱の前に集結した。
セイリオスしかし、どうやってエルナトを捜そうかね。同じ時代には行けても居場所まで突き止めるのは難しいだろう。
コダマ捜すんじゃなくて、おびき寄せたらどうかな ?
コダマあいつの目的は鏡映点の想珠だろ。そいつを俺たちが先に頂いちまえばこっちに接触せざるを得なくなる。
セイリオスおいおい、悪人みたいな言いざまだなぁ。
アイリスヘイズ様、鏡映点の人たちって想珠を取られて平気なんでしょうか……。
ヘイズ取り出すだけならな。壊したりしなければ本体への影響はない。
アイリスそうなんですね。よかった……。
リワンナでは、エルナトを捕らえた暁には想珠を再び鏡映点に戻せばいいのですね。
ヘイズまあ、そういうことだが……。
ヘイズ我々が先に回収するとして鏡映点たちに協力してもらえるだろうか。
リワンナそうですね。影響はないと言っても積み重ねて来た思い出という『力』を他人に貸し与えることになりますから。
コダマ俺は、協力を求めるなんて言ってませんよ。さっさと奪っちまえばいいんだから。
アイリス何言ってんの ! ?  そんなのひど過ぎるでしょ !鏡映点の人たちは敵じゃないんだよ ?
コダマ敵だと思ってもらった方が後々苦しまなくて済むと思うよ。
セイリオス………………。
ヘイズよい。コダマの案を採用する。ひとまずは少々強引な手を使ってでも集めて行こう。
ヘイズその方が、エルナトの耳にも入りやすくなるだろうからな。
二人……承知しました。
セイリオス……だから『奪う』か。まったくコダマは……。
コダマへへ、セイリオスたちは無理しなくていいよ。俺がガンガン悪役ムーブかましていくから !
ヘイズそれともう一つ、これは私とリワンナの推測だが過去でもすでに幻影種が発生している可能性がある。それらの想珠も回収するつもりだ。
ヘイズ皆にも想珠回収用の幻想灯をいくつか用意してあるがいざという時はバルドの幻想灯と同様幻影種をおびき出す手段として使ってみるといい。
ヘイズでは、早速過去へ――【揺り籠】の世界へ向かうとしよう。まずは……コダマからだったな ?
そして――ティル・ナ・ノーグに現れたコダマたちはイクスたちに出会うこととなる。
イクスうっ………。
コダマさて、次はどっちの想珠をもらおうかな。どんな味がするか楽しみだ。
イクスはぁ、はぁ、待ってくれ……。
セイリオス動くな、大人しくしていろ。
イクス君たちは、未来から来たのか ?
ミリーナ未来って ! ?
イクスさっき、意識を失いかけた時にバロールが教えてくれたんだ。
バルド、バルド・Mバロール ! ?
イクス君たちが何をしようとしているか教えてくれないか。理由があるんだろう ?
アイリス……ねえ、もうこんなことしなくていいんじゃない ?話を聞いてくれるって言ってるんだよ ?
バルド・Mええ。イクスさんには全てを話しましょう。それにバロールの声も聞こえているようです。好都合ではありませんか。
コダマ……お前ら、チョロすぎだって。簡単にほだされるなよ。
ヘイズセイリオス、イクスを解放してやれ。コダマはこちらへ。
ヘイズは呼び寄せたコダマの耳元でそっと囁いた。
ヘイズコダマは賢いな。だが、どのみち誰かが苦しむことになるのは変わらぬ。この時代の者か、或いはアイリスたちのどちらかがな。
ヘイズお前の優しさは相手の責任まで奪ってしまう。それはいけない。今はエルナトを止めるためにも甘んじて荊の道を進むべきなのではないか ?
コダマ……責任を奪う……。それは……。
ヘイズこれは命令だ。よいな、コダマ。
カーリャあっ !  死神の人、こっちに来ますよ !
コダマ鏡士イクス。
コダマいきなり襲いかかる真似をして申し訳ありません。少し長くなるけれど、俺たちがここに来た経緯を説明させてください。
イクスああ、もちろんだ。