Character8話 不死王の記憶 part1
エルナトを追い、過去の世界であるティル・ナ・ノーグに降り立ったコダマたち。そこで出会ったのはコダマたちにとって『聖体』であるイクスだった。
無理やりイクスの想珠を取り出したコダマたちに対しイクスはコダマたちが未来人であることを、バロールから知らされたと告げ、その目的を問いかけてきた。
一考したヘイズは、強硬策を貫こうとするコダマを制し全て打ち明けることを選ぶのだった。
四人………………。
ミリーナ信じられない……。でも……。
イクスああ。バロールは、この人たちが未来から来たことを知っていた。本当なんだろうな。
バルド・Mイクスさん、今、バロールの声は ?
イクスもう聞こえません。あの時だけだったみたいです。どうして突然……。
バルド・M残念です。バロールと接触できればエルナトさんを……ルグを説得するのも容易だったでしょうに。
カーリャあなたは未来のバルドさま……なんですよね ?
バルド・Mええ。ですが偽物も同然です。ウォーデン様をお守りできなかった私など……。
バルドそんな未来、私は到底受け入れられない。
バルド・M私だって、何もできなかった過去の私を恥じている。
カーリャまあまあまあ !どっちのバルドさまも落ち着いてください。
二人すみません、愛らしいカーリャ。
カーリャはうあっ !ダブルはかなり効きますね……。
セイリオスエルナトもあんな姿だったのでしょうか。
ヘイズああ。小さな体に美しい羽。あれほど元気に愛らしく飛び回る姿は見られなかったがな。
アイリスあんな子を作り出せるなんて鏡士って本当の神様みたい。
リワンナそうね。ましてや鏡士イクスなんて『聖体』として祀られていた存在だもの。
コダマ(確かに神様みたいな人だろう。でも、これから先の『選択』次第ではその神様と対立するかもしれないのに)
ヘイズこれは命令だ。よいな、コダマ。
コダマ(ヘイズ様は優しいけど……厳しい)
イクスコダマ……だったよな。さっきは説明ありがとう。君たちの話だけど、仲間たちに共有したいんだ。できれば一緒に来てもらえないか。
コダマそれは……。――ヘイズ様、どうします ?
ヘイズ願ってもない話だ。鏡士イクスよ、よろしく頼む。
イクスこちらこそ。俺からも聞きたいことがたくさんありますから。
イクスそれじゃミリーナ、みんなを浮遊島に案内しよう。なんなら、しばらく滞在してもらってもいいし。
ミリーナそうね。今はウォーデンさんたちしかいないから空いている所も多いわ。好きな場所を使ってもらいましょう。
バルド・Mウォーデン様…… !

Character8話 不死王の記憶 part2
ティル・ナ・ノーグでの拠点として浮遊島を提供されたコダマたちは、現住人であるウォーデンたちと対面することになった。
イクスから事前に説明を受けていたウォーデンだったがもう一人のバルドを前にして動揺を隠せずにいた。
ウォーデン本当にバルド……なんだな。
バルド・Mはい。不甲斐なき姿を御前にさらす非礼どうかお許しください。
ウォーデン馬鹿を言うな。その姿のどこが不甲斐ない。……大儀であった。
メルクリアその痛々しい傷……辛かったであろう。ところどころ記憶が曖昧だとも聞いたぞ。
バルド・Mはい。ですが、未来にてあなた方をお守りできなかった無念さだけは、胸に刻んであります。
バルド・M本当に……本当に申し訳ございません……。
メルクリア謝るでない !  未来は変えられるのじゃ。これから訪れる悲劇などわらわたちが叩き伏せればよい !
メルクリアそうであろう ?我らが生きる道を作るのじゃ。おぬしも共にな。
バルド・Mああ、メルクリア様の御手のなんと暖かいことか。必ずや、あなた方をお救いいたします。……この私が、必ず。
ウォーデン……未来は変えられる、か。
ウォーデン(俺たちが生きる道に作り変えるということは未来に生きるもう一人のバルドは……)
バルド浮かない顔ですね。何をお考えで。
ウォーデン色々とな。お前こそ複雑だろう。言いたいことがあれば聞く。乳兄弟(きょうだい)としてな。
バルド……ありがとう、ウォーデン。
ウォーデンさて、ネオイデアの王よ。子細はイクスより聞いている。
ヘイズどうかヘイズと呼んで頂きたい、ウォーデン殿。イクスたちにも、そのように頼んである。な、イクス。
イクスええ、ヘイズさん。
コーキス……チッ。
カーリャコーキス、態度が悪いですよ !
コーキスだってあいつら、マスターに酷いことしたんだろ ?
イクスそれは謝ってもらったからいいんだって。――すみません、話を続けましょう。
ウォーデンではヘイズ殿、改めて聞こう。鏡映点たちを襲っているのはあなたたちではないのだな ?
ヘイズああ、私たちではない。ティル・ナ・ノーグでは幻影種としか戦っていないはずだ。皆、そうだろう ?
イクス俺たちを滅ぼすという幻影種はもうこの世界に現れているんですね。
ヘイズうむ。私たちの時代では、【虹の夜】と呼ばれる日に幻影種が出現したと伝えられている。けれど、どうやらその年代よりも少し早いようだ。
コダマ何が切っ掛けかは未だにわからないけどすでに、思い出の力の暴走が始まっていたんでしょうね。
メルクリアおぬしたちでなければ鏡映点を襲ったのは誰なのじゃ。バルドの姿を見たとの報告は嘘だったと ?
バルド・Mイクスさん被害者と、その状況を教えてもらえますか ?
イクスわかりました。まず、一人目はデクスさん。アリスをかばって襲われました。
イクスアリスは何者かにあとを付けられていたらしく撃退しようとしたデクスさんが気配を追尾。その後、気絶したデクスさんを発見したそうです。
イクス本人の記憶は曖昧ですが「バルドが襲ってきた」とデクスさんが呟いたとアリスが証言しています。
イクス次に襲われたのがディストさん。一緒にいたピオニーさんの話ではいきなりディストさんに突き飛ばされたらしいですね。
イクスその際に頭を打って気を失ったそうですが目を覚ましたら、その……ピオニーさん曰く「サフィールがアホヅラで突っ立っていた」と。
イクスそしてデクスさん同様、ディストさんは記憶が曖昧で意味不明なことを呟いていたそうですがこちらもバルドさんの名前が出たそうです。
イクスこの二件は比較的近い場所で起きていました。俺たちはその調査をしていてヘイズさんたちと出会ったんです。
ヘイズふむ……襲撃したのはエルナトだろうが何故バルドの姿だったのかはわからぬな。
アイリスちょっとすみません。その襲われた人たちは大丈夫なんですか ?
イクス大丈夫。襲われた時の記憶が曖昧な以外はピンピンしてるよ。
メルクリアとは言うても、あの二人については普段でも何を言ってるかわからぬ時があるでのう。本当に影響がないか判断がつかぬわ。
ミリーナそうね。そもそも、想珠を奪われても本当に命に別状はないのかしら。
ミリーナ鏡映点の二人、それにイクスだって想珠を取り出されて奪われています。危ないことはないと保証はできますか ?
ヘイズ懸念はもっともだ。では、我が身で証明しよう。これより私の想珠を取り出してみせる。
コダマヘイズ様 !  そういうことなら、何も高貴な存在であるヘイズ様じゃなくて、俺の体で試せばいいじゃないですか !
ヘイズいや、王にして研究者たる私がやるべきことだ。彼らへの詫びと、今後の信頼を得るためにもな。
ミリーナヘイズさん……。
ヘイズそれにな、コダマたちでは想珠をはっきりとした形で取り出せるほど思い出を持ってはいまい。まだ種のようなものだ。
アイリス種、ですか ?
ヘイズああ。鏡映点や鏡士の想珠が形を成しているのは彼らが特別な存在だからだ。普通の人間では数十年かけねばなるまい。
ヘイズその点、私は長く生きているから想珠も育っている。どうだ、納得したか ?
コダマ……はい。
ヘイズでは、始めるとしよう。

Character8話 不死王の記憶 part3
ヘイズが幻想灯を掲げながら自らの胸に手を当てるとみるみるうちに吸い込まれていく。
ヘイズ……っ。
コーキスうわ……マスターもこんなことされたのか ! ?
カーリャコーキス ! ?  あなたバルドさまになってますよ ! ?
バルド、バルド・M! ?
ミリーナイクス ! ?  あなた姿がぼやけて――
周囲が異変にざわつくなかわずかに表情を歪めたヘイズが胸から手を引き出すとそこには想珠が握られていた。
同時に、コーキスやイクスの姿が元に戻っていく。
カーリャイクスさま、コーキス、今のは何なんです…… ?
ヘイズ……ふぅ。どうした、何があった ?
コダマたちは、ヘイズが想珠を取り出している最中にコーキスにバルドの姿が重なって見えたこと更にはイクスの姿がぼやけていたことを伝えた。
ヘイズなんと !  そのような現象これまで起きたことはなかったぞ。
コダマヘイズ様、体に異変は ?想珠は無事ですよね ?
ヘイズああ。体も想珠も何ともない。想珠を安定保存させるため幻想灯に移すぞ。
ヘイズが自分の想珠を幻想灯に吸い込ませるとその周囲には走馬灯のように、次々と景色が浮かび上がった。
それは、破壊された街並みやあちこちに転がる無残な死体だった。
コダマこれは……。
ヘイズ私の思い出だ。幻想灯はこんな使い方もできる。
コダマじゃあ、この光景は過去のネオイデア王国なんですか ! ?
ヘイズああ。これは私が王に即位する直前、14歳の頃だ。当時、アイギスはまだ研究中でな幻影種防衛には物理的手段しかなかった。
ヘイズ私たちは、危険な地上から地下へと街の機能を移して襲い来る幻影種に対抗し続けていた。
ヘイズしかし、そんな生活が続けば人々は心身を病み、蝕ばまれる。そして最悪の状況下で王都は大規模な襲撃を受けた。
逃げ惑う男どけ !  グズグズしないで走れよ !
逃げ惑う女こっちは病人抱えてるんだよ !
ネオイデア王皆、落ち着いてこちらへ !――ヘイズ、お前も早く研究棟の地下へ !あそこはまだ無事だ !
少女ヘイズすみません、父上。
ネオイデア王どうした、その赤子は。
少女ヘイズそこの瓦礫の下敷きに。まだ息があったので連れて参りました。
ネオイデア王そうか、あの襲撃の中で生き残ってくれたか。
赤ん坊う……えっ……。
ネオイデア王良い子だ、もう泣くな。ヘイズ、この子と共に避難を――
ヘイズ父は目の前で幻影種に引き裂かれた。私も衝撃で吹き飛ばされて気を失った。
ヘイズ次に目を覚ました時には民も、我が一族の者も、等しくむくろとなっていた。
ヘイズ国は壊滅寸前、一族の生き残りは私一人、民の心は荒み今やどれほどの数が生きているかもわからない。
ヘイズもういいと思った。ここで終わりにしたいと。でもな……。
ヘイズ泣くのだよ、腕の中の子が。死にたくないと。
少女ヘイズわかった……わかったから……。もう、泣くな……。
研究者ご無事でしたか、ヘイズ様 !
少女ヘイズこの子をお願い。これからアイギスを動かします。
研究者えっ ?  お、お待ちください。その新型アイギスはまだ研究中ですよ !
少女ヘイズわかっています。私も見習いとはいえ研究者ですから。でも、今動かさなければこの研究棟も幻影種に攻め込まれます。
研究者動かすといっても、アイギスの動力は人体エネルギーです !特に、誰かが人柱にならなければ、そのコダ――
少女ヘイズ動力は我が命をもって担う ! これは王命だ、お前たちは下がれ !
少女ヘイズアイギス、展開 !

Character8話 不死王の記憶 part4
ヘイズ――私は皆が止めるのも聞かずアイギスに繋がり、始動させた。
ヘイズ結果は成功。一時的に展開したアイギスはその範囲から幻影種を消し去った。成功を見届け、私は意識を失った。
ヘイズ目が覚めると、臣下たちからは賞賛と共に危険なことはするなと酷く叱られた。だが、何の話をされているのかわからなかった。
ヘイズ私は、アイギスに繋がったという記憶を失っていたんだ。
ヘイズその後、徐々にだが記憶を取り戻した私は記憶障害とアイギスの関連について調べ始めた。
ヘイズアイギスはかつて鏡士が作った防壁だが起動のために必要なキラル分子は失われていた。故に、別の人体エネルギーを使う研究が行われた。
ヘイズキラル分子は心から生み出されるエネルギー。それは鏡士にしか作れぬ。故に心によく似た記憶をエネルギーとして使うことにしたのだ。
ヘイズだから私の記憶が失われた。それはつまり記憶を動力エネルギーとして供給し続ければアイギスは常時起動が可能になるということだ。
ヘイズ私は、自らの記憶を捧げることを決めた。
ヘイズ大襲撃後、正式に国王として即位した私は以降、4年ほどの月日をかけてシステムの安定化を図った。
ヘイズアイギスによって、衰退していた国は徐々に回復し少しずつ民たちの暮らしは上向いていった。
ヘイズに救われた子へいずさまー !  おはなー !
ヘイズお前は……………………ああ、今日も花を摘んできてくれたのか。ありがとう。
ヘイズ失われる記憶を外部データに保管することで維持し私は今も、アイギスの展開を可能としている。
幻想灯のともしびが消え映し出されていたヘイズの過去が見えなくなっても一同は声を上げることができなかった。
全員………………。
ヘイズすまぬ。想珠を保管するため幻想灯に入れるとどうしても想珠の中の記憶が流出するのだ。嫌なものを見せてしまったな。
ヘイズ先ほどのおかしな事象は想定外だが想珠を奪われただけでは命に別状はないという証明になっただろうか ?
ミリーナえ、ええ……。でも、こんな形でヘイズさんの過去を見るつもりはありませんでした。ごめんなさい……。
ヘイズ謝らないでおくれ。私が勝手にやったことだ。それよりも今後の話を進めよう。他に聞きたいことは ?
イクス想珠を……想い出の力を回収された鏡映点からは『思い出の力の暴走』である幻影種は発生しないんじゃないですか ?
ヘイズいや、想珠を回収しても、記憶そのものが失われるわけではないから、また力を蓄えるだろう。
ヘイズそれに、鏡映点だけでなく、普通の人間でも小規模なエネルギーは貯め込んでいるのだ。そこから発生した幻影種も存在している。
ヘイズこの世界で具現化された普通の人々ならまだ思い出の力は弱いだろう。だが、元々存在していた住人たちには、想珠が出来上がっている筈だ。
ウォーデンどうあっても幻影種発生は止められぬか……。そちらに伝わっている【虹の夜】とはいつになる。それと、バルドがルグに襲われる日は ?
リワンナ【虹の夜】でしたら、今から約一年後です。日付まではわかりません。――バルド、あなたが襲われた日は ?
バルド・M申し訳ありません。私のほうも日付はわからないのです。恐らく春だったかと思いますが……。
リワンナ……ヘイズ様、バルドと【虹の夜】についてですが例の仮説を彼らに伝えたほうが良いのでは ?
ヘイズそうだな。確証を得てはいないが聞いてもらおう。
リワンナ私たちは、バルドがルグに襲われた日こそが【虹の夜】だと考えています。
リワンナ彼は、ただ一人幻影種の気配を感じ取れるうえにその目覚めは幻影種の活性化と連動しています。さらには幻影種の正体も最初から『見えて』いました。
リワンナバルドと幻影種には、何かしらの関連があるのは間違いありません。
コーキス……え~と、つまり ?
ウォーデンバルドが襲われ、幻影種によるティル・ナ・ノーグの滅びが始まる全ての起点が【虹の夜】というわけだ。その日が一年後に来る。
コーキスなるほどね。けどボスのまとめ方だとバルドが襲われると幻影種が現れるように聞こえ……。
コーキスご、ごめん !  変な意味じゃなくてさ。
ヘイズあくまで仮説だ。先ほどのイクスとコーキスに起きた現象も含めてもっと調査が必要だろうな。
セイリオスエルナトを捜しながらですね。こいつは手際よく運ばないとな。コダマ、お前の要領よさで……。おい、どうした ?
コダマえ ?  ああ、大丈夫、聞いてるよ。
アイリスもしかしてヘイズ様の過去を見て辛くなっちゃった ?
コダマそれもあるけど……いや、後で話すわ。
コダマとにかく、今後のことを決めるんですよね。だったら、諸々正式に協定を結んだ方がいいんじゃありませんか ?
イクス協定 ?
コダマ例えば、互いの世界について対立した場合とか。
ウォーデン……しっかりしているな。
エルレイン……それは本当の話なのだな。
バルド ?ええ。ですが、あなたの想珠を頂ければ人の未来は守られます。
エルレインいいだろう。持っていくがいい。それが救いとなるのなら――