| Character | 9話 誓いの理由 part1 |
| | 話し合いを終えたコダマたちはそれぞれにあてがわれた部屋で体を休めていた。 |
| コダマ | はぁ……、疲れたなぁ。 |
| コダマ | (バルドの姿がコーキスって人にダブって見えたりイクスさんの姿が薄れて見えたり) |
| コダマ | (それに、ヘイズ様の記憶……。すごく『懐かしい味』がした。あれはきっと……) |
| セイリオス | コダマ、起きてるか。少し話がしたいんだ。 |
| コダマ | セイリオス ? いいよ、入って。 |
| セイリオス | 失礼。今日はお疲れ……ってお前さん、本当に疲れた顔してるな。今日はやめとくか。 |
| コダマ | 大丈夫だよ。話ってのはあれだろ。俺が「後で」って言ったやつ。 |
| セイリオス | ご名答。ヘイズ様の過去を見て気づいたことがあったようだな。 |
| コダマ | うん。けど、あの場では説明しづらくてさ。今もどう話そうか考えてる。 |
| コダマ | それでもいいなら……――アイリスも一緒に聞く ? |
| ? ? ? | っ ! ? |
| アイリス | ごめん、立ち聞きしちゃって。私もコダマの様子が気になって来たんだよ ?でも、セイリオスが先に部屋に入るのが見えて……。 |
| コダマ | いいって。気にしてくれてありがとな。 |
| コダマ | そうだ、外で話そうぜ。ちょうど気分転換したかったんだ。 |
| アイリス | ……何度見ても不思議。あの月には、私たちのご先祖様が生きてるんだね。悲劇が起きる前の……。 |
| コダマ | アイリス、今日くらいはこの綺麗な夜空を純粋に楽しもうよ。 |
| アイリス | コダマにしてはロマンチックなこと言うじゃない。でも、確かに綺麗。見て、あの星すっごく明るいよ。 |
| セイリオス | あれは要の星だ。迷った時には道しるべにもなる。その近くの、次に明るい星が……っと、余計な話だったな。 |
| コダマ | いやいや、さすがセイリオス先生。俺の話より面白そう。 |
| セイリオス | ……はぐらかす気じゃないよな ? |
| コダマ | まさか。ちゃんと話しますって。 |
| コダマ | ヘイズ様の過去を見て思い出したんだよ。俺が忘れていた昔のこと、全部。 |
| セイリオス | 記憶が戻ったってことか ! |
| アイリス | 本当 ! ? よかったね、コダマ ! |
| コダマ | まあ、ね。 |
| セイリオス | ……わかった。それだけ聞ければ十分だ。様子が変だった理由がわかって安心したよ。 |
| コダマ | 優しいなぁ、セイリオスは。でもさ、別に話したくないわけじゃないんだ。 |
| コダマ | とにかく、まだ色々と混乱してるから順を追って話すよ。記憶の整理みたいなもんだし、気楽に聞いて。 |
| コダマ | ――物心ついた頃から、俺たち家族は居場所を転々としていたんだ。幻影種に襲われながらも何とか逃げ延びていたって感じかな。 |
| コダマの母 | さあ、この森を超えたら第10コロニーだぞ。もう少し歩ける ? |
| 幼いコダマ | うん !とうさんもがんばって。もうちょっとだよ。 |
| コダマの父 | ああ、ありがとう……な。 |
| コダマ | 親父……父さんは穏やかな人だったけどこんな生活だったせいか体も心も弱っててさ。第10コロニーに着いた途端、倒れたんだ。 |
| コダマの母 | 落ち着ける場所を探してくるね。父さんと荷物を頼める ? |
| 幼いコダマ | うん、おれがまもる ! |
| コダマの母 | ありがとう。すぐ戻るから気を付けるんだぞ。 |
| 幼いコダマ | だいじょうぶ。あぶないときは、まよわずにげろ、でしょ ? |
| コダマの母 | うん、賢い賢い !そうだ、いつものお守りを忘れてた。強き子に―― |
| 幼いコダマ | そんなのいいから、はやくいきな ? |
| コダマの母 | ふふっ、いっぱしの口をきくじゃないか。それじゃキスは後でな。任せたぞ。 |
| コダマ | その時突然、倒れた親父の隣に幻影種が現れたんだ。まるで親父の中から出てきたみたいに……。 |
| コダマの父 | う……うぅ―― |
| コダマの母 | 逃げて ! リ―― |
| コダマ | 母さんの声がして……その後はわからない。多分、吹っ飛ばされたかなんかで頭を打ったんだと思う。 |
| コダマ | 気が付くと、俺は草むらの中で隠れるように倒れていた。 |
| 幼いコダマ | いたっ…… ! ここどこ……。 |
| 幼いコダマ | おれ…………、なんだっけ ? |
| コダマ | 多分、その時に記憶を失ったんだ。 |
| コダマ | 耳がおかしくなったのも同時だろうな。今まで聞いたこともないような獣の声が聞こえていたから。 |
| コダマ | あの声が聞こえてたってことは、第10コロニーは幻影種に襲われている真っ最中だったんだと思う。 |
| コダマ | 音に驚いて草むらから出るとそこには『いろんなもの』が散らばってた。本やカバン、たくさんの紙切れ。それと、人の……。 |
| コダマ | 今ならわかる。あれは俺たちの荷物で死んでいたのは父さんと母さんだった。 |
| コダマ | 子供の俺には相当キツかったけどそれを見て思ったんだ。 |
| 幼いコダマ | にもつ……、おれ、まもらなきゃ……。 |
| コダマ | 記憶は失っても、母さんと約束した「守る」っていう思いだけは強く刷り込まれていたんだろうな。 |
| コダマ | 散らばった荷物を集めながら森の中に入ると……奴がいた。 |
| 幻影種 | ……リィィ……。 |
| 幼いコダマ | ひっ…… !うああああああっ ! ! |
| ? ? ? | 黒く焦がせ――サクリメイション ! |
| ヘイズ | 大丈夫か ! ? 怪我はないか ! ? |
| 幼いコダマ | ……うっ……うわああああん ! |
| Character | 9話 誓いの理由 part2 |
| ヘイズ | そうか、私と出会う前にそんなことが……。 |
| コダマ | うわっ、ヘイズ様 ! ? |
| バルド・M | ヘイズ様、コダマの話が終わるまで隠れているはずだったのでは ? |
| ヘイズ | すまぬ……。コダマの健気さに、つい声が出てしまった。 |
| アイリス | 皆さん、どうしてここに ? |
| ヘイズ | 明日からの段取りを打ち合わせていたんだがお前たちが外に出たのを見て気になってしまってな。 |
| リワンナ | 話も全て聞いてしまいました。ごめんなさいね、コダマ。 |
| コダマ | いいえ、何度も話す手間が省けましたよ。 |
| ヘイズ | そう言ってくれるとありがたい。それにしても、なぜ私の過去を見てコダマの記憶が戻ったのだろうな。 |
| コダマ | 切っ掛けは、ヘイズ様が繋がった新型アイギスです。 |
| コダマ | ヘイズ様、研究者の人はあのアイギスを「コダマ」って言ってませんでしたか ? |
| ヘイズ | ああ。確かに、私が繋がったのは『コダマ型アイギス』だ。偶然にもお前と同じ名だな。 |
| コダマ | 偶然じゃありません。俺がコダマと名乗ったのはそのアイギスが大元だったんです。 |
| ヘイズ | ! ? |
| コダマ | 俺を助けたヘイズ様が、タナトス隊の人に俺を託して第10コロニーの様子を見に向かった後のことです。 |
| タナトス隊死神騎士A | きみ、さっきはよく幻影種から逃げ出せたな。ヘイズ様が一足遅かったら殺されてたぞ ? |
| 幼いコダマ | げんえいしゅのこえが……きこえたから……。 |
| タナトス隊死神騎士B | 幻影種の声 ? そんなわけないだろう。きっと俺たちの声がこだまして聞こえたんだよ。それより、どこの子だ ? 第10コロニーか。 |
| 幼いコダマ | ……わかんない。うっ……うえええ。 |
| コダマ | その時、俺が持っていたのは母さんたちの荷物……書類の切れ端でした。 |
| コダマ | 今思えば、あれは何かの設計図のようだった。絵が描いてあったり、難しい数字が並んでいたり。 |
| コダマ | でも、ボロボロの紙切れから読み取れたのは『コダマ』の文字だけで。 |
| コダマ | それを見た大人たちが幻影種の声も聞こえるならコダマでいいだろうと仮の名として呼んでいたんです。 |
| ヘイズ | ………………思い出した。だから第10コロニーから戻った私にその名を名乗ったんだな。 |
| コダマ | はい。本当の名前じゃなかったとしてもヘイズ様には『俺』を覚えていて欲しかったから。 |
| コダマ | それに記憶がなくてもコダマって響きはどこか懐かしく思えて呼ばれても違和感がなかった。 |
| コダマ | 多分、父さんや母さんの会話の中にコダマって名前が頻繁に出ていたんだと思います。 |
| リワンナ | コダマのご両親は何者なのでしょう……。アイギスの設計図と思われる資料まで持っていたようですし。 |
| ヘイズ | アイギスの設計図を持つ者など関係者以外には考えられん。 |
| ヘイズ | 元々、アイギスの研究はセールンドとビフレストの鏡士の子孫たちが行っていた。 |
| ヘイズ | コダマ、お前の家族、もしくはその縁者は鏡士の子孫かもしれぬぞ。 |
| コダマ | 鏡士……。 |
| アイリス | じゃ、じゃあもしかしてカーリャみたいな子が作れちゃうってこと ! ? |
| バルド・M | それは無理でしょう。鏡士の血筋であっても修行を積まねば力は使えません。 |
| コダマ | ははっ、だよなぁ。 |
| コダマ | そんなわけで俺の思い出話はこれで全部だ。みんな、心配かけてすみませんでした ! |
| ヘイズ | うむ ! しかし驚いたな。コダマ型アイギスと、コダマの名が……。 |
| ヘイズ | 待て、大事なことを忘れているぞ。 |
| ヘイズ | コダマ、お前の本当の名は ?これよりは、その名で呼ぼうではないか。 |
| コダマ | 今さら本名で呼ばれてもピンとこないですよ。 |
| コダマ | 俺は、これからもコダマがいいです。みんなが呼んでくれた、この名前で生きていきたい。 |
| ヘイズ | わかった。皆も、コダマの望みを叶えてやってくれ。 |
| コダマ | そういうわけなんで、これからもコダマでよろしく ! |
| コダマ | ところでヘイズ様俺たちの後をつける余裕があったということはすでに明日以降の方針はお決まりなんですよね ? |
| ヘイズ | ふふっ、もちろんだ。 |
| Character | 9話 誓いの理由 part3 |
| | エルナトは奪った想珠を元にして、近しい鏡映点を狙うだろうと考えたヘイズは自分たちが鏡映点の護衛につくことを計画していた。 |
| ヘイズ | 皆、明日はさらに忙しくなる。今日はゆっくり体を休めておくれ。 |
| 全員 | 承知しました。 |
| | それぞれが部屋に戻るなかコダマは一人足を止め、空を見上げていた。 |
| コダマ | ………………。 |
| ヘイズ | どうした、まだ星を見ていたのか ?夜更かしは駄目だぞ ? |
| コダマ | ……ヘイズ様、第10コロニーを壊滅させた幻影種ですけど、あれは、もしかしたら……。 |
| ヘイズ | コダマ、お前の想珠は未だ小さく取り出して過去を見ることはできぬ。 |
| ヘイズ | 今日は何も考えずに休め。 |
| ヘイズ | そうだ、眠れないのならお休みのキスでもしてやろうか ? |
| コダマの母 | お守りのキスだ。これでよく眠れるぞ。 |
| コダマ | はははっ、ヘイズ様にかかっちゃ俺は本当に子供なんですねぇ。 |
| ヘイズ | なんの、強くたくましく育ってくれた。頼りにしておるのだぞ ? |
| コダマ | ……俺は、命を助けられたうえに、ヘイズ様の記憶を代償にしたアイギスに守られて暮らしていました。子供が母親に守られるように。 |
| コダマ | 母さんからもらい損ねたキスを優しいヘイズ様から代わりにもらって、満たされてそれを忘れられずに追いかけて……甘えていた。 |
| ヘイズ | コダマ ? |
| コダマ | 俺、ヘイズ様が大好きでした。 |
| ヘイズ | なんじゃ、突然。私のことを好いてくれていたのは過去のことだというのか ? |
| コダマ | いいえ。今も、これからも好きですよ。でも、俺は子供だから。 |
| コダマ | まず、大人にならないといけないんです。『国王陛下』を、お支えするために。 |
| ヘイズ | そうか……なるほどな。ありがとう、コダマ。 |
| | 翌朝、コダマたちは当初の予定を変更しアセリア領とファンダリア領へ向かうこととなった。 |
| | イクス側から、時間移動に関する情報を持つ鏡映点に話を聞いてみてはとの提案を受けてのことだったが一人、それを渋る者がいた。 |
| バルド・M | すみません。どうしても調べたいことがあるのです。後から参りますので、私を置いて先に出発してはもらえませんか ? |
| リワンナ | でも、あなたを一人には……。 |
| バルド・M | 信用なりませんか ? |
| ヘイズ | いや、そなたの体と心を心配しているのだ。記憶が定かではない部分も多いのだろう ? |
| バルド・M | ご心配なく。むしろ勝手知ったる世界です。では、失礼します。 |
| ヘイズ | バルド ! |
| リワンナ | 仕方ありません。二手にわかれましょうか。 |
| コダマ | じゃあ、俺がバルドを追いますよ。みんなは鏡映点のところへ。 |
| アイリス | いいの ?ヘイズ様にいいところ見せられないよ ? |
| コダマ | こうして見せてるだろ ?セイリオス、後をよろしく。 |
| セイリオス | ああ、バルドを頼む。今のあいつは危なっかしいからな。 |
| アイリス | ……コダマ、絶対にヘイズ様側についていくと思ってたのに。 |
| セイリオス | 耳タコができなくて寂しいかい ? |
| アイリス | セイリオスの意地悪……。 |
| コダマ | なあ、バルド。どこに行く気だよ。 |
| バルド・M | 私がルグと接触した場所です。だいたいの目安はついていますので。 |
| コダマ | なんで今 ? 【虹の夜】って、もっと先なんだろ ? |
| バルド・M | コダマさん、パラドックスという言葉をご存じですか。 |
| コダマ | 何となく。矛盾とか、そんな感じ ? |
| バルド・M | まあ、それでも構いません。私は、過去の私と出会ってしまいました。ですが、私の中に『私』と出会った記憶はない。 |
| バルド・M | これは、私の中では大きなパラドックスです。 |
| バルド・M | この先、この時代のバルドが未来に飛ばされたとしても私と同じ存在にはならないでしょう。 |
| バルド・M | ……これは過去改変になるのでしょうか。だとしたら、未来はすでに変わりつつある ? |
| コダマ | でも、俺たちに影響が出てるようには見えないぜ ? |
| バルド・M | ならば私は誰なのでしょうね。 |
| バルド・M | 私は、バルドではない…… ? |