キャラクター | 1話【回想】 |
| 聞こえる――マスターの悲鳴が。死の砂嵐から世界を守る砂防堤となった苦しみが。 |
| 俺は鏡精。鏡士の心が具現化して人格を与えられた、造られた存在。 |
| 俺は知っている。俺がこうして存在し続けられる限りマスターもまた生きているのだと―― |
イクス | 魔鏡技 !スタック・オーバーレイ ! ! |
イクス | ごめん、ミリーナ。みんな。コーキス、後は…頼むぞ…。 |
コーキス | 嫌だ ! 嫌だ嫌だ嫌だ ! |
ミリーナ | イクス――――っ ! ! |
カーリャ | あ ! ?イクスさまの周りに水晶みたいな鏡が… ! ? |
ミリーナ | ……魔鏡結晶 ! ?――う…、何…アニマ酔いが…。 |
カーリャ | ミリーナさま ! ? |
コーキス | カーリャ先輩、落ち着け !ミリーナ様は俺が運ぶ。この場所はもう保たない。逃げるぞ ! |
カーリャ | コーキス ! ? え ! ? なんで、そんな姿に―― |
コーキス | 話は後だ ! 行くぞ ! |
コーキス | ……セールンドの街は完全に魔鏡結晶で覆われちまったな。 |
カーリャ | コーキス……。どうなってるんですか ? |
コーキス | この姿か ? |
コーキス | 俺にもよく分からねぇけどマスターの力を感じるんだ。今までよりずっと強く。 |
カーリャ | でもイクスさまは……。 |
ミリーナ | ――イクスは ! ? |
コーキス | ミリーナ様……。 |
ミリーナ | ――もしかして、コーキス ? |
コーキス | そ、そうです ! |
ミリーナ | ……ということは、イクスとゲフィオンを包み込んだあの魔鏡結晶は、やっぱりイクスの魔鏡暴走で生まれたものなのね。 |
カーリャ | どういうことですか ? |
ミリーナ | イクスは……生きているんだわ……。イクスの力が魔鏡結晶で増幅されてそれでコーキスが大人の姿になったのよ。 |
コーキス | ……ミリーナ様。魔鏡結晶が広がり続けています。この島にいるのは危険です。 |
ミリーナ | わかったわ。ケリュケイオンに戻って―― |
コーキス | 駄目なんです。ケリュケイオンも魔鏡結晶に貫かれて動きません。 |
カーリャ | どうしましょう。船を探すにしてもかなりの人数を乗せられる船でないと……。 |
コーキス | 港は救世軍に抑えられているだろうな。くそっ……。 |
ミリーナ | ……鏡界を造るわ。 |
コーキス | 鏡界 ? それは一体何ですか ? |
ミリーナ | 想像の魔鏡術の奥義の一つよ。鏡界という仮想空間を造り出して維持するの。そこへみんなで逃げ込みましょう。 |
ミリーナ | 私には制御が難しい術だけれど、今の私はゲフィオンの記憶も持っているからやり方はわかるわ。 |
ミリーナ | それにイクスが暴走させた魔鏡の結晶が私の力を補佐してくれる。 |
ミリーナ | 仮想鏡界、展開―― |
| ――一ヶ月後 |
| 鏡界の拠点 |
カーリャ | コーキス。見つけましたよ。こんなところで油を売ってる場合ですか ! ? |
コーキス | うるさいなぁ、先輩は。 |
カーリャ | うるさいとはなんですか !カーリャだって頑張ってるんですよ ! |
カーリャ | この鏡界を維持するのもカーリャの仕事だし、ガロウズさんの仕事も代わりにやらなきゃだし ! |
コーキス | ……ガロウズさんどこに行っちまったんだろうな。 |
カーリャ | ですね……。一ヶ月前のあの日――鏡殻変動の時にはぐれたきりで……。 |
カーリャ | やっぱりアスガルド帝国か救世軍に捕まってるんでしょうか。 |
コーキス | アスガルド帝国か……。何なんだよ、あれ。いきなりオーデンセのあった場所に新しい島を造ってさ。 |
コーキス | 古のアスガルド帝国の復活だとか言い出して―― |
ミリーナ | そうね。あのデミトリアス陛下が突然そんなことを言い出すなんて狐につままれた気分だわ。 |
コーキス | ミリーナ様 ! ? す、すみません……。掃除さぼって……。 |
ミリーナ | あら、さぼっていたの ? |
コーキス | あ、いや……えっと……。 |
カーリャ | ミリーナさま……これから私たちどうなっちゃうんでしょう。 |
カーリャ | イクスさまの力が暴走してできた魔鏡結晶が世界中に広がってるし、光魔の鏡はないのに何故か光魔は湧き放題です。 |
カーリャ | アスガルド帝国は鏡殻変動をミリーナさまのせいだなんて言ってるし……。 |
ミリーナ | 私のせい――というのはある意味では正しいわね。 |
ミリーナ | ゲフィオンの人体万華鏡が機能していればイクスに魔鏡暴走を引き起こさせることもなかった……。 |
カーリャ | そんなのミリーナさまのせいじゃありません ! |
ミリーナ | ……ありがとう、カーリャ。コーキス、さぼっちゃ駄目よ ? |
カーリャ | ミリーナさま、何か用だったんじゃ……。 |
ミリーナ | 二人の様子を見に来ただけよ。それじゃあね。 |
二人 | ………………。 |
キャラクター | 1話【回想】 |
| 聞こえる――大地の軋む音が。人々の怨嗟の声が。 |
| あの場所は永遠の鏡の檻。イクスと過去の私が死の砂嵐と共に眠る場所。 |
| だけど私は決めている。たとえ世界の全てを敵に回しても必ずあの鏡の檻を打ち破ると。 |
| アスガルド帝国首都イ・ラプセルエリジウム宮殿 |
ミトス | …………。 |
ミトス | (本当に、これで良かったの ? ) |
??? | ミトス、やっぱりここにいたんだ。マーテルさんが捜していたよ。 |
ミトス | ……ありがとう。フィリップ――じゃなくてジュニアって呼べばいいんだっけ ? |
??? | うん。フィリップって奴が三人もいるから混乱するって、メルクリアが……。 |
ミトス | 一人目がフィリップ、二人目がファントム三人目がジュニアか。でもいいの ?自分の名前を変えられて。 |
ジュニア | あはは、まぁ、仕方ないよ。それより体はもう大丈夫 ?幻影融合はアニマを傷つけるから……。 |
ミトス | うん、大丈夫。うかつだったよ。魔鏡術には疎いから、ファントムの計画に気づくのが遅れちゃって。 |
ミトス | これじゃ、人のドジのことを笑えないね。 |
ジュニア | でも、幻影化が解けた後、チェスターにアニマを分けてあげたんでしょ ? それでミトスたちは回復が遅れたんだし……。 |
ミトス | アニマを ? ―ああ、マナを分ける作業をそう呼ぶのか……。エンコードって便利だけれど困ることも多いね。 |
ミトス | 正確にはアニマを分けた訳ではないと思うんだけど……どう説明したらいいのかな。生命力を分けたって感じかもね。 |
ジュニア | そんなことができるなんてミトスの世界の技術はすごいね。 |
ジュニア | そのおかげでチェスターはすぐに動けるようになって僕らに合図を送ってくれた。 |
ジュニア | だからファントムを止められたんだ。本当にありがとう、ミトス。 |
ミトス | ううん……。でもあれから大変だったね。 |
ミトス | スタック・オーバーレイの余波に巻き込まれてみんなセールンドのお城から逃げ出すので精一杯だった。 |
ジュニア | メルクリアの助けがなかったら危なかったね。 |
ミトス | ……メルクリア、か。 |
ジュニア | ミトスはメルクリアが嫌いなの ? |
ミトス | …………。 |
ミトス | (自分を見ているようで……反吐が出るなんて言ったら、ボクはボクであることをやめることになる) |
カイウス | ジュニア ! おっと、ミトスもいたのか。丁度いい。救世軍が動き出したらしい。オレとシングで様子を見てきていいか ? |
ミトス | ――ボクも行こうか。 |
カイウス | お前もかよ。リヒターもアステルが止めてくれなきゃ一緒に来るつもりだったし。 |
カイウス | もう少し休んでた方がいいと思うぞ。ディストの奴を見習ってさ。 |
ミトス | あいつ、一番ぴんぴんしてたのにまだ寝てるの ! ? |
カイウス | 丈夫なんだかひ弱なんだか訳わからないよな。 |
ジュニア | 出撃のこと、フレンには伝えた ? |
カイウス | ああ、伝えてある。オレ行くぞ。 |
ジュニア | 気をつけて。それから――なるべく相手を傷つけないで。 |
カイウス | ああ、わかってるよ。そっちも無理するなよ ! |
ミトス | ジュニア。この世界は、これからますます混乱するよ。 |
ジュニア | ……そうだね。でも僕は……僕らはメルクリアの元から離れられない。 |
ミトス | ……離れた方がもっと混乱を引き起こすから ? |
ジュニア | …………。 |
ミトス | だから……鏡映点は殺すべきだった、のかも知れないね。 |
ミトス | 今考えると、そこまで計算してファントムとフィリップを利用していたのかも知れない。……デミトリアスは。 |
ジュニア | ……行こう、ミトス。何をするにしてもまずは傷を癒やさないと。 |
ジュニア | マーテルさんも心配してるよ。それにノイシュもね。 |
ミトス | ……うん。 |
キャラクター | 1話【回想】 |
コーキス | ミリーナ様 ! |
ミリーナ | コーキス ! ? どうして……。 |
コーキス | カーリャに言われたんです。ミリーナ様が何かを隠してるって。 |
コーキス | このところ、ミリーナ様は一人で情報収集に出て行くから今回もそうじゃないかと思って。 |
ミリーナ | ……カーリャは私の鏡精ですものね。何を考えているかまではわからなくても心が揺れていることはわかっちゃうのね。 |
コーキス | 単独行動はやめて下さい。 |
コーキス | みんな心配してますよ。最近のミリーナ様は一人で思い詰めてるんじゃないかって。 |
ミリーナ | そんなことないわ。 |
ミリーナ | ……ただ、私たちがこれからどうしていくのかを決めるには情報が必要だと思って。 |
ミリーナ | それに鏡映点の人たちがこの世界で暮らしていくための環境も整えてあげないと……。 |
コーキス | だったらその話をみんなにしてみんなで問題を解決していけばいいじゃないですか ! |
ミリーナ | そうね……。でも駄目よ。今から私がやろうとしていることは私のエゴだから。 |
コーキス | え…… ? |
ミリーナ | 救世軍が動き出したみたいなの。そのおかげでアスガルド帝国の目が救世軍に向いた。 |
ミリーナ | 今ならセールンドの守備が手薄になっている筈よ。 |
コーキス | まさか……マスターを助けるつもりですか ! ? |
コーキス | 今魔鏡結晶を破壊したら死の砂嵐が外に流れ出ますよ ! ? |
ミリーナ | そうね……。でも構わないわ。イクスを助けるためなら。 |
コーキス | そんなのミリーナ様じゃない ! |
ミリーナ | いいえ。イクスのためなら何でもできるの。イクスはいつだって私を守ろうとして私のせいで命を落としてきた。 |
ミリーナ | だから私は、イクスを救いたい。そのためには―― |
ミリーナ | 世界だって滅びても構わない。それが【私】だったのよ。 |
コーキス | ……嘘だ。それならあの時――マスターを助けるために魔鏡結晶を壊していた筈だ ! |
ミリーナ | そのつもりだったわ。でもその前に私は気を失ってあなたに外へ連れ出されてしまった。 |
ミリーナ | あれからセールンドはアスガルド帝国に封鎖されて、誰も立ち入ることができなくなってしまったわ。 |
ミリーナ | だから私は機会をうかがっていたのよ。 |
コーキス | …………。 |
コーキス | マスター。こんな夜中に何してるんだ ? |
イクス | ……勉強だよ。魔鏡術のこととか、色々さ。 |
コーキス | もしかして最近図書室に閉じこもってるのもその勉強のせいなのか ? |
イクス | まぁな。最近、ミリーナが何か隠してて……でも俺には話してくれなくてさ。俺じゃ頼りにならないのかなって。 |
コーキス | 心配かけたくないからじゃないのか ? |
イクス | うん、わかってる。だけどミリーナって何でも一人で解決しようとするところがあるんだ。 |
イクス | 俺にもそういう所があるけど、それって結局怖いからなんじゃないかなって思うようになって……。 |
コーキス | 怖い ? 何が ? |
イクス | 信じることが、かな。信じるって凄いことだと思うんだよ、俺。 |
イクス | 誰かや何かを本当に信じることができたとき人は凄い力を出せるんじゃないかって鏡映点の人たちを見て思うようになってさ。 |
イクス | でも誰かに信じて欲しいならまず自分が自分を信じられるようにならなきゃなって。 |
イクス | 俺、色々あったから、どうしても自分を素直に信じるのが怖いんだ。だからもっと強くなろうって思ったんだよ。 |
コーキス | それで勉強かよ ! ?マスターってズレてるな。剣とか練習した方がいいんじゃないか ? |
イクス | はは、強さにも色々あるんだって。俺は俺のできることをやってるんだ。いざというときのためにさ。 |
イクス | あ、みんなには言うなよ。なんか恥ずかしい……。 |
コーキス | (今になってマスターの言ってたことがわかる気がする。信じるって怖い。でも――) |
コーキス | ミリーナ様。俺も一緒に行かせて下さい。 |
ミリーナ | 私の邪魔をするつもりなら……。 |
コーキス | ――邪魔はしません。でも、俺はマスターから託されたんです。この世界の未来とみんなを。 |
コーキス | それにミリーナ様のことも。だから、一緒に行かせて下さい。 |
ミリーナ | ……わかったわ。 |
| 聞こえる――大地の軋む音が。人々の怨嗟の声が。 |
| ここは永遠の鏡の檻。死の砂嵐をここに【スタック】させるしか今は世界を守る術がない。 |
| でも俺は信じている。【みんな】が未来をたぐり寄せてくれることを―― |
キャラクター | 3話【1-1 ひとけのない草原1】 |
ミリーナ | みんな……。どうしてここに……。 |
ヴェイグ | オレたちもオレたちなりに鏡殻変動以後の世界情勢を調べていた。 |
キール | 情報を精査したところ、アスガルド帝国側にはぐれ鏡映点らしき存在が複数いる可能性が高くなった。 |
ジュード | 僕やユーリの仲間もアスガルド帝国にいる可能性が高いんだ。それでイ・ラプセルに潜入しようってことになったんだよ。 |
ジュード | でも、カーリャに転移を頼もうとしたらカーリャの様子がおかしかったからちょっと……問い詰めたんだ。 |
メルディ | ジェイドとリオン、カーリャ囲んだよ ! |
コーキス | うぇ……。その二人じゃカーリャ先輩なんか太刀打ちできねぇや……。 |
ジュード | ア、アハハ……それで手分けすることにしたんだ。イ・ラプセル潜入組とミリーナたちを追いかける組にね。 |
キール | ぼくは来るつもりはなかったがメルディが……。 |
メルディ | ミリーナ、思い詰めてた。みんなすごく心配してる。 |
ヴェイグ | ああ。イクスの元に行くのなら何故みんなに知らせないんだ ? |
ミリーナ | ……私が自分の我が儘でイクスに会いに行くだけだから。 |
ジュード | ミリーナ。君がそんな理由だけでセールンドに行くなんてみんな信じないよ。 |
ジュード | ミリーナは頭のいい人だから。 |
ミリーナ | ……みんなに迷惑はかけないわ。約束します。必ずいい結果を出すわ。だから……私を一人で行かせて。 |
キール | イクスの代わりになるつもりか。 |
ミリーナ | …………。 |
ジュード | やっぱり……。イクスが自分の代わりに死の砂嵐を防いでくれたと思ってるんだね。 |
コーキス | 待ってくれ。ミリーナ様だってマスターがどうしてあの時スタック・オーバーレイを起こしたのかをわかってる筈だ。 |
ミリーナ | コーキス……。 |
メルディ | コーキスも知ってるか ?イクスがメルディたちに託したモノ。 |
ミリーナ | ……え ? |
コーキス | 託したもの…… ?いや、俺はそのことはよく知らないよ。 |
コーキス | でも俺はマスターの鏡精だから、マスターが何を願っていたかはわかる。マスターはミリーナ様を守りたいんだ。 |
コーキス | だから俺もマスターと同じようにミリーナ様を守るし、ミリーナ様も自分を大事にしてくれるって信じてる。 |
ジュード | そうか……。コーキスはイクスの心と繋がっているんだものね。 |
ジュード | 僕たちはイクスの心の中まではわからないけど、それでもイクスが何をしてきたのかは突き止めたよ。このメモを見て。 |
コーキス | これは…… ?難しそうな名前が書いてあるけど……。 |
ミリーナ | これ……魔鏡術の関連書籍のタイトルだわ……。 |
キール | それはイクスが図書室で読んでいた本だ。 |
ジュード | 借りた本を貸し出しノートに記入するルールを作っておいてよかったよ。 |
ジュード | おかげでカノンノがタイトルの関連性に気づいたんだ。 |
ミリーナ | これは……スタック・オーバーレイの制御と統合を学ぼうとしていた…… ? |
キール | その通りだ。 |
キール | ここに書かれていた本を読んでいたならイクスはスタック・オーバーレイの制御と暴走の結果を熟知していた筈だ。 |
ミリーナ | そうだとしても―― |
ジュード | イクスはミリーナの身代わりになった ?それは違うよ。 |
キール | あの時、融合の性質を帯びた死の砂嵐を食い止められる可能性が最も高かったのは創造の魔鏡術の血筋であるイクスだった。 |
ミリーナ | それでも私はイクスを魔鏡結晶の外に出してあげたい !今なら準備ができているわ。 |
ミリーナ | この一ヶ月私が組み上げた人体万華鏡の補強術を使えば、死の砂嵐を食い止めてイクスを助け出せる ! |
コーキス | それは……ミリーナ様もゲフィオン様と同じように魔鏡化して生きながら死ぬってことですか ? |
コーキス | マスターが命がけでミリーナ様を守ろうとしたのに ? |
コーキス | ゲフィオン様のことでカーリャ先輩がどんな思いをしているのかミリーナ様にも分かっている筈なのに ? |
ミリーナ | ! ! |
ヴェイグ | 立場は違うが……ミリーナの気持ちはオレにも察することはできる。 |
ヴェイグ | どんなことをしてでも助けたいせめてそばにいたい――そんな気持ちなんじゃないか。 |
ヴェイグ | だがミリーナがやろうとしていることは同じ苦しみをイクスに背負わせることに繋がる……。 |
メルディ | カーリャも、つらい思いするよ。 |
ジュード | ミリーナ。思い出して。イクスは何て言ってた ? |
ミリーナ | 「ごめん、ミリーナ。みんな」って……。 |
ジュード | その後だよ。イクスはこう言ったんだよね。「コーキス、後は頼む」って。 |
ジュード | コーキスはイクスの鏡精だよ。鏡精は鏡士が消えたら一緒に消える。それなのに「後は頼む」って言ったんだ。 |
ジュード | イクスは全部計算していたんだよ。そしてあの場を救える一番成功率の高い方法をはじき出した。 |
キール | イクスはスタック・オーバーレイで魔鏡術を人体が耐えうるギリギリまで重ね合わせた。 |
キール | そして自分が魔鏡になるのではなく魔鏡――魔鏡結晶の中に自分が入ることで死の砂嵐の砂防堤になる選択をした。 |
キール | 永久に死の砂嵐を食い止めるならゲフィオンのように自分が魔鏡そのものになれば確実なのに、それを選択しなかった。 |
コーキス | ――そうか……。信じてたんだ。俺たちが死の砂嵐を無くす方法を見つけてマスターを助け出すって。 |
ミリーナ | ! ! |
ヴェイグ | ……だから「ごめん」なんだな。オレたちに面倒な課題を押しつけることになるから。 |
コーキス | すみません、ミリーナ様。 |
コーキス | 俺マスターに託されたのに……マスターを信じてたのに、マスターに信じられてるって本当の意味ではわかっていなかった。 |
ミリーナ | どうして謝るの……。私……私が……いつまでもイクスのこと守らなきゃいけない存在だって思い込んでて……。 |
ミリーナ | 私が私がって……。私はただイクスを助けたいとしか思っていなかった。イクスの気持ちのこと後回しにしてた……。 |
ミリーナ | ――イクス……っ ! |
メルディ | ミリーナとイクスが、本当に心繋がった ? |
ミリーナ | メルディ……。うん……うん……。多分、私、やっとイクスと同じところに来られたんだと思う……。 |
ミリーナ | メルディたちと出会った時の私たちはまだ本当の意味でお互いのことをわかっていなかったんだって……。 |
ミリーナ | やっと……わかった。 |
キャラクター | 4話【1-2 ひとけのない草原2】 |
ヴェイグ | ……落ち着いたか ? |
ミリーナ | ……ええ。ごめんなさい。私……涙が止まらなくて……。 |
ミリーナ | でももう大丈夫。ちゃんと冷静になってこれからのことを考えなくちゃね。どうやって死の砂嵐を食い止めるか。 |
ミリーナ | 私……この一ヶ月、ただイクスを助けることしか頭になかったから。 |
メルディ | みんなで考えればきっといい方法見つかる ! へーき ! |
ジュード | うん、そうだね。それじゃあいったん仮想鏡界に戻ろうか。 |
コーキス | …………。 |
メルディ | コーキス、どうかしたか ? |
コーキス | え ? あ、いや、何でもないよ。俺、まだまだだなって。 |
コーキス | もっとマスターの鏡精……として頑張らないとなって。 |
ミリーナ | コーキス。私のことを信じようとしてくれていたのに、騙すような真似をしてごめんなさい。 |
コーキス | いや、そんなことありません。俺がまだまだ未熟なだけです。 |
コーキス | (マスターも言ってた。信じるって難しいって) |
コーキス | (俺はとりあえずミリーナ様の判断を盲目的に信じて、きっとわかってくれるって簡単に思ってたんだ) |
コーキス | (違うんだ。信じるって……。でも――) |
コーキス | (カーリャ先輩もミリーナ様が何をしようとしていたのかはっきりとはわからなかった) |
コーキス | (ゲフィオン様とミリーナ様が同じ存在だってことも気づかなかった) |
コーキス | (鏡精はマスターの本当の心を感じ取れると思っていたけど……。マスターは鏡精を【謀れる】んじゃないのか…… ? ) |
ヴェイグ | 気をつけろ ! 新手だ ! |
??? | ……無駄だ。 |
コーキス | 誰だ ! ? |
??? | 誰でもいい。それより君たちが黒衣の鏡士とそのしもべたちか。 |
キール | おい、いつからぼくたちはしもべになったんだ ! ? |
??? | 呼び方など何でもいい。どうせここで潰える運命だ ! 行け、光魔 ! |
コーキス | くそっ ! やらせるか ! |
キャラクター | 6話【1-6 草原での連戦4】 |
キール | 何とか光魔を一掃できたな……。それにしても……。 |
ミリーナ | ……気を遣わないで。あの人は確かにイクス……にそっくりだったわ。 |
ヴェイグ | どういうことだ ? イクスは魔鏡結晶の中にいるんじゃないのか ? |
メルディ | イクス大人っぽかったな ? |
ジュード | うん。大人びてた……と思う。雰囲気も……それになんとなく背も大きかったような……。 |
キール | 過去の具現化ではない……筈だ。イクスは三人目。過去から具現化できるのは二人まで―― |
キール | ……いや、待てよ。未来から具現化……したのか ? |
ミリーナ | いえ、それはまだ理論として確立していない筈。 |
ミリーナ | 似たようなことはビフレスト皇国の鏡士が技術を開発していたけれど具現化するには至っていないわ。 |
ジュード | ねぇ、スレイとリフィル先生が話していたんだ。 |
ジュード | アスガルド帝国はセールンド王国とビフレスト皇国を支配していたって。それは本当なの ? |
キール | 遺跡マニアめ。異世界の歴史にまで興味があるのか。 |
メルディ | キール、もう異世界が歴史違うよ。メルディが世界で、キールが世界。 |
キール | そういえばそうか……。まだ実感が沸かないが……。 |
キール | ……ん ? そうか、アスガルド帝国がビフレスト皇国の鏡士の技術を研究している可能性もあるってことか。 |
ジュード | うん。もしこの推測が可能ならあのイクスは――。 |
ミリーナ | ……いえ、でもイクスじゃない。何か違う……ような気がする。 |
ヴェイグ | コーキスはどうなんだ ? |
コーキス | ……わからない。マスターならわかる……のかも知れないけど、でもカーリャ先輩はゲフィオン様のことがわからなかったから。 |
全員 | ………………。 |
ミリーナ | ――ごめんなさい。私、やっぱりセールンドのカレイドスコープの所へ行ってみるわ。イクスがどんな状態なのか調べたいの。 |
ジュード | うん、そうだね。その方がいいと思う。僕たちも一緒に行くよ。また光魔が出ないとも限らないし。 |
ミリーナ | ええ……。ありがとう。危険かも知れないけど、お願いします。 |
キール | その前に、光魔について教えてくれ。 |
ミリーナ | ! |
キール | お前、光魔について何か知ってるんだな ? |
キール | 光魔の特性と言っていたが、誰もまだ光魔の生態や、何故光魔の鏡から現れるのか検証していない。 |
キール | もしかしたらゲフィオンとしての記憶の中に光魔がどんな存在なのか答えがあったんじゃないか ? |
ミリーナ | ……駄目ね。つい口を滑らせちゃった。 |
コーキス | ミリーナ様、まだ隠し事が…… ? |
ミリーナ | そう言われても仕方ないわね。でも……死の砂嵐を封じてしまえば関係ないと思っていたから言わなかったの。 |
ミリーナ | 光魔は……私――ゲフィオンがカレイドスコープで消滅させたあらゆる生命体が元になって誕生した存在よ。 |
ミリーナ | 専門的に言うと難しくなってしまうけど……カレイドスコープでアニマを失った生物はアニムス粒子になって消えてしまうの。 |
ミリーナ | 死の砂嵐の金色の光砂はアニムス粒子の塊なのよ。光魔はアニムス粒子がキメラ結合した生物よ。 |
コーキス | それってつまり……光魔の元はティル・ナ・ノーグに昔存在していた人間や動物の幽霊――みたいなことですか ? |
ミリーナ | ええ。ゲフィオンとしての研究ではそうだった……。ごめんなさい。鏡映点を狙う光魔まで私のせいだったのよ。 |
メルディ | 違うよ。ミリーナとゲフィオン違う。 |
ミリーナ | ……頭ではわかってるの。でもゲフィオンの記憶が私にはある。私のあり得た過去――そして未来がゲフィオンなんだって……。 |
コーキス | ミリーナ様は何もかも自分で背負い込むところがあるってマスターも心配してました。 |
コーキス | そういう考え方はやめましょう。 |
ミリーナ | ……そうね。ええ、努力する。すぐには無理かも知れないけれど頑張るわ。 |
キール | ……こんなところで聞き出して悪かった。ミリーナが大丈夫なら、注意しながらカレイドスコープの所へ急ごう。 |
キール | 魔鏡結晶が世界中に出現しているということは光魔が出やすいということだからな。 |
ミリーナ | ええ。行きましょう。 |
キャラクター | 7話【1-15 カレイドスコープ前】 |
コーキス | ――マスター。魔鏡結晶の中にいるな。ゲフィオン様を守るみたいに抱き寄せてる……。 |
ヴェイグ | ……まるで氷の中に閉じ込められているみたいだ。 |
ジュード | イクスがここにいるってことはさっきのイクスにそっくりな人は……。 |
メルディ | …… ? |
キール | どうした、メルディ ?さっきから首をかしげて。 |
メルディ | イクス……髪伸びたのか ? |
キール | いや、そんな筈がないぞ。魔鏡結晶の中は―― |
キール | 中はどうなってるんだ ?普通に時間が経過するのか ? |
キール | もしそうだとしたら餓死したりする可能性もある。 |
キール | ――いや、内側は虚無と繋がっているんだから、生命活動は停止するのか。 |
ジュード | え ? でも髪が伸びているなら停止してないんじゃない ? |
ミリーナ | ……違う。なんとなくイクスの姿がぼやけているわ。もしかしたら魔鏡結晶が内側にも何か影響を及ぼしているのかも。 |
ミリーナ | 髪は少し伸び始めているけど排泄が行われていない。単に時間が経過しているんじゃないと思う。 |
ヴェイグ | このままにしておいていいのか ! ? |
ジュード | だけど無理矢理魔鏡結晶を壊せばイクスにも影響があるかも知れないし死の砂嵐も止められないよ。 |
ミリーナ | 上手く言えないけれど、この中のイクスに魔鏡に映された未来や過去のイクスが重なって見えているんだと思うわ。 |
ミリーナ | さっきも話したけれど、ビフレストの技術にそういうものがあったの。 |
ミリーナ | 魔鏡の性質が暴走しているから、イクスの過去と未来が反射して、ぼやけた像が私たちに見えている……のじゃないかしら。 |
キール | なら、イクスは大丈夫なのか ? |
ミリーナ | わからない。いつか鏡に映ったイクスが魔鏡結晶の中のイクスのアニマを喰ってしまうかも……。 |
ミリーナ | スタック・オーバーレイで魔鏡の力を高めるってことは、合わせ鏡という危険な手法を制御することだから。 |
ミリーナ | せめてガロウズさんかビフレストの魔鏡術に詳しい人がいれば―― |
??? | ……へぇ、まさかこんな所に黒衣の鏡士がいるなんてね。 |
コーキス | 誰だ ! ? |
??? | もう一人の鏡士のお墓参りかい ? |
ミリーナ | イクスは生きているわ ! |
??? | あんな状態で生きてる ? 哀れだね。 |
コーキス | てめぇっ ! ミリーナ様に謝れ ! |
??? | ギャアギャアとうるさいんだよ、眼帯坊や。海賊ごっこは海でやれば ? |
コーキス | 黙れ ! |
??? | あはは、怒ってるの。怒りたいのはこっちの方なんだけどね。 |
??? | 丁度良い。恨みを晴らさせてもらうよ傲慢な鏡士サマ ! |
キャラクター | 8話【1-15 カレイドスコープ前】 |
シンク | これで終わりだなんて思わないでよね。 |
コーキス | まだ動けるのか ! ? |
シンク | アカシック―― |
マーク | シンク ! ストップだ !俺たちの目的を忘れたのか ! ? |
シンク | ――アンタか。まだあの黒衣の鏡士に傍惚れしてるの ? |
マーク | 傍惚れたぁ、ひでぇ言い種じゃねぇか。こっちにも色々事情があるんだよ。 |
コーキス | マーク ! ? |
マーク | おおっと、コーキスか。でかくなったって噂は本当かよ。 |
コーキス | そのシンクって奴はお前の……救世軍の味方なのか ! ?それにこんなところで何をしてるんだ ! ? |
マーク | 見りゃわかるだろ。仮面の客人を迎えに来たんだよ。 |
ミリーナ | マーク。フィルが近くにいるのよね ?会わせて。フィルならイクスの状態がどんなものなのかわかるでしょう ? |
マーク | 悪いな、ミリーナ。こっちは先約があるんだ。フィルと三人のティータイムはまた今度な。 |
ジュード | 待って ! アルヴィンも一緒なの ! ?それともアルヴィンもアスガルド帝国に―― |
マーク | アルヴィンねぇ……。 |
マーク | あの三重スパイくんなら、出ていったぜ。まぁ、色々助けられもしたから恨みはねぇけどな。 |
ジュード | 三重スパイって…どういうこと ! ? |
マーク | 別の所にご主人様がいるんだとよ。お前らも知ってるだろ。あの赤い髪のチャラチャラした……。 |
ミリーナ | ゼロスさんね。 |
マーク | そういうこった。こっちも忙しいんでね。あいつらのことはそっちで捜して何とかしてくれ。じゃあな。 |
コーキス | あ、待て ! その仮面の男は置いてけ ! |
コーキス | ――って行っちまったか。追いかけますか ? |
ミリーナ | いいえ。あのシンクという人が私を狙ったことより今はイクスのことが心配だわ。 |
コーキス | (何だ…… ? また左目の奥が痛い……) |
コーキス | (この姿になったときから眼帯がついてて外れないけど俺の左目はどうなってるんだ…… ? ) |
ミリーナ | ――そうだ。ユーリさんたちがアスガルド帝国へ向かったのよね ?何とか連絡を取れないかしら。 |
ミリーナ | ビフレスト皇国の魔鏡技術に関する資料を見たいわ。 |
ヴェイグ | 一度仮想鏡界に戻るか ? |
ジュード | そうだね。それでユーリたちが開いた転移ゲートを確認すれば追いかけることができる。 |
ミリーナ | 待って。その前にカーリャに聞いてみるわ。ユーリさんたちがどこに転移ゲートを開いたのか。 |
カーリャ | ミリーナさま……ごめんなさい。あの眼鏡とマントが怖かったから……。 |
ミリーナ | まぁ、カーリャ。それを二人に聞かれたらもっと怖い思いをするわよ。 |
カーリャ | はわわわわわ、それは嫌です ! ! ! ! |
ミリーナ | それよりユーリさんたちのことを聞かせて欲しいの。 |
カーリャ | ユーリさまたちと言えば、ユーリさまたちと一緒に転移したコンウェイさまたちがはぐれ鏡映点の方を連れて戻ってきました。 |
カーリャ | えっと……確かルカさまという方です。 |
ミリーナ | カーリャ。詳しい話を聞かせて。 |
カーリャ | 了解しました。えっとですね――……。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【囚われの少年】 |
| アスガルド帝国首都イ・ラプセル戦士の館 |
ルカ | ……うん、起きていても辛くないし、ずいぶん動けるようになったな。 |
ルカ | (あの時――、魔法陣の中で、動くことも声を出すこともできなくて、ただ苦しくて……) |
ルカ | (イリアも目の前で苦しんでいたのに、僕は何もできないまま気を失って、気が付いたらここに……) |
ルカ | (イリア……あれから一度も会えてないな。この館にいるのは分かっているのに……) |
? ? ? | 食事を持ってきたの。ドアを開けて。 |
アスガルド兵 | ああ、どうぞルビアさん。ですが、今日こそは手みじかに願いますよ。 |
アスガルド兵 | 中の者とは無駄な会話を避けるようにと、厳しく言われているんですからね。 |
ルビア | わかってるわ。いつも大した話はしてないでしょ ?ご心配なく。 |
ルビア | ルカ、お待たせ。食事を持ってきたわ。今日のメインはお肉よ ! |
ルビア | それと、これはチーズスープ。前に好きだって言ってたでしょ ?お母様の味には、遠いかもしれないけど。 |
ルカ | ……ありがとうルビア。でも、あんまり食欲がなくて……。 |
ルビア | 何いってるの ! 体力回復には食べなくちゃ。そうじゃなくたって、ルカは危ない状態だったんだからね ? |
ルカ | もうかなり良くなったよ。だから、ここから出してくれないかな。 |
ルビア | それは……何度お願いされても無理なの。 |
ルカ | ……どうしてって聞いても理由は教えてもらえないんだよね ? |
ルビア | ……ごめんなさい。 |
ルカ | だったらせめて、イリアの様子だけでも教えてくれないかな。 |
ルビア | イリアはこの館にいるわ。言えるのはそれだけ。 |
ルカ | それはわかってるよ ! もう何度も聞いた ! |
ルビア | ……。 |
ルカ | ご、ごめん。大きな声出して。でも、すごく心配で……。 |
ルカ | 僕でもようやく動けるようになったくらいひどい状態だったんだ。同じ目にあったイリアだって、きっと……。 |
ルカ | せめて無事かどうかだけでも教えて欲しい。いや、教えてください。お願いします ! |
ルビア | ……イリアは―― |
アスガルド兵 | ルビアさん、そろそろ。 |
ルビア | え、ええ。ちょっと待って。 |
ルビア | ――いい ? 無理しちゃ駄目よ。あなたの体、まだ本調子じゃないんだから。 |
ルビア | ほら、ルカの手、こんなに冷たいじゃない。 |
ルカ | ―― ? |
ルビア | ……食事、冷めないうちに食べてね。食器はいつもどおり、後で下げに来るから。それじゃ。 |
アスガルド兵 | いいか、大人しく食うんだぞ。と言っても、お前はいつも大人しいか。 |
ルカ | ……。 |
ルカ | (よし、誰もいなくなったな) |
ルカ | (ルビア、さっき僕の手に何を握らせて――……これ、メモ ? ) |
ルビアのメモ | 兵士たちが救世軍討伐に出ているため今この館は守りが手薄になっています。 |
ルビアのメモ | 食事を下げる時に、あたしを人質にして逃げて下さい。 |
ルカ | ルビア…… ! |
キャラクター | 2話【2-1 イ・ラプセル 戦士の館】 |
ルビア | ルカ、入るわよ。食器を下げに―― |
ルビア | キャッ ! |
ルカ | う、動くな ! |
アスガルド兵 | 貴様っ、何を―― ! |
ルビア | だめ、動かないで ! あたし刺されちゃう ! |
アスガルド兵 | 食事用のナイフを―― ! ?チッ、いつも大人しいからと油断したか ! |
ルカ | えっと……、お、お前が動いたら、この子がどうなるか、わっ、わかって、わかって―― ! |
アスガルド兵 | や、やめろ小僧、落ち着くんだ ! |
ルビア | お願い、ルカに逆らわないで !大丈夫、あたしが説得するから。あなたは下手に動いて刺激しないで ! |
アスガルド兵 | し、しかし―― |
ルビア | ――これでよし。部屋からの脱出は成功ね。見張りは閉じ込めちゃったからしばらく追って来られないはずよ。 |
ルカ | ハァ……こういうのは苦手だよ……。 |
ルビア | そんなことない。ルカの演技すごかったわ。『何をするかわからない』って感じがして、見張りの兵も怯んでたじゃない。 |
ルカ | あ、あはは……。何を言えばいいかわからなかっただけなんだけどね。 |
ルカ | ありがとうルビア。助けてくれて。でもこれってどういうこと ? |
ルビア | 詳しい話は後でね。こんな所でぐずぐずしてたらすぐに見つかっちゃう。さ、こっちよ。 |
ルカ | ここって、物置部屋…… ? |
ルビア | そうよ。まずは簡単に踏み込まれないように荷物で扉をふさいでおかないとね。……よいしょっと ! |
ルカ | うわ、なんだか色んな物がたくさん置いてあるなあ。 |
ルビア | だからこそ色々隠しておけるのよ。――はい、これ。 |
ルカ | これ、僕の剣じゃないか…… !それにイリアの銃まで ! |
ルビア | いい、ルカ。これからいうことを落ち着いて聞いて。 |
ルビア | まず、イリアは無事よ。回復が早かったからあなたよりもずっと元気なくらい。 |
ルカ | 本当に ! ? 良かった……。イリア、無事だったんだ。 |
ルビア | でも、今はこの館にはいないわ。 |
ルビア | 少し前に、四幻将の命令でこことは別の島――セールンドという場所へ連れていかれたの。 |
ルカ | どうして ! ? |
ルビア | アニマの観測実験のために必要だからって話だけど、詳しい事まではわからない。 |
ルビア | ただその実験では、未知のアニマの情報を調べると言ってたわ。ルカとイリアは、その持ち主だって……。 |
ルカ | 僕とイリアが…… ? |
ルビア | イリアを助けに行ってあげて。実験なんかで、またこの前のように、死にかけることにでもなったら……。 |
ルカ | そんなことさせるもんか。必ず助ける ! |
ルカ | でも、どうして協力してくれるの ?君はあいつらの仲間なんでしょ。 |
ルビア | ……。 |
ルカ | ……ねえルビア。もしも無理してここにいるんだったら、僕と一緒に逃げない ? |
ルビア | それは、できないわ……。 |
ルカ | だって、すごく辛そうな顔してるよ。だったら―― |
ルビア | あたしとカイウスは、ここに残らないと。ルキウスのために……。 |
ルカ | カイウスに、ルキウス ? |
ルビア | ……とにかく、あたしのことはいいから。それよりも、ルカたちはメルクリアに気を付けて。 |
アスガルド兵 | ――探せ ! まだ館の中にいるはずだ ! |
ルビア | いけない、もう見つかっちゃった !ルカ、手伝って。ここの棚をずらせば、後ろにスイッチがあるはずなの。 |
ルカ | わ、わかった ! |
ルカ | これ、隠し通路 ! ? |
ルビア | 館の外に繋がっているわ。気をつけて進んでね。さ、行って ! |
ルカ | うん。でも、ルビアは―― |
アスガルド兵1 | ……おい、この部屋から話し声がしなかったか ? |
アスガルド兵2 | おかしいな、開かないぞ。何かつかえてるのか ? |
ルカ | だめだ、追っ手が入ってくる !ルビアも早く一緒に ! |
ルビア | 大丈夫、ここはあたしに任せて。 |
ルビア | ……大事な人を失うのはとても辛いわ。まだ間に合うんだから、イリアを絶対に助けてあげて。 |
ルカ | ルビア、扉を開けて ! ルビア ! |
ルカ | もう……戻れない、か。 |
ルカ | (……ルビアは大丈夫って言った。今はそれを信じて進もう) |
ルカ | こんな所にも魔物が ! ?――うわっ ! ! |
ルカ | だめだ、倒しきれない…… !天術さえ使えていれば……。 |
ルカ | ―― ! ? この力は ! |
ルカ | ハアッ、ハアッ……。なんで僕、今でも天術が使えるんだ…… ? |
キャラクター | 3話【2-6 隠し通路 広場】 |
ルカ | (よし ! 体の調子もどんどん良くなってる気がする) |
ルカ | (無くなったはずの天術が使える理由はわからないけど、これなら十分に戦っていけるぞ) |
? ? ? | ……けど……じゃないか。 |
ルカ | (誰かいる ? ) |
ガイ | だからルーク、なるべく戦闘はさけろよ。俺たちは潜入中なんだからな。 |
ルーク | へいへい、それは何度も聞いてるって。でも魔物の方からかかってくるんだから仕方ないだろ。 |
ルーク | こんな所じゃ逃げ場ねえし。それに誰よりも喜んで戦ってる奴が他にいるぞ。なあ、戦闘狂 ? |
ユーリ | おい、クレス。ルークがなんか言ってるぜ。 |
クレス | え、ルークは僕をそんな風に思ってたのか。僕……戦闘狂かなあ ? |
ルーク | おいユーリ、お前なぁ !そういう返し、ジェイドっぽいぞ。 |
ルーク | クレス。違うって。クレスはまともじゃん。俺はユーリのことを―― |
リタ | あーもーあんたらうっさい ! !少しは静かにできないの ? |
セネル | お前が一番うるさくないか ? |
リタ | ……なんか言った ? |
ユーリ | おっと、そこまでな。それと――、おい、さっさと出て来い。いつまで隠れてるつもりだ ? |
ルカ | (も、もしも追っ手なら先に仕掛けないと……) |
セネル | ――ルカ ! ?お前……、ルカだよな ? 無事だったのか ! |
ユーリ | ルカ ?確かセネルたちの前でさらわれたっていうあいつか ? |
ルカ | あなたたちはいったい…… ? |
セネル | 覚えてないか ? お前、クレアと一緒に救世軍にさらわれただろう。俺はあの場にいたんだ。 |
ルカ | そう言えばあなたは……、僕たちを助けに入ってくれた人ですね ! |
ルカ | あの時はありがとうございます。僕、クレアさんとは地下牢で離れてしまって……。 |
セネル | 大丈夫だ。俺たちが助け出した。お前たち特異鏡映点が、連れていかれた後だったけどな。 |
セネル | それにしても何でこんな所にいる。あれから何があったんだ ? |
ルカ | (……信用していいのかな。クレアさんを助け出した人たちだし……) |
ルカ | ……あの、話を聞いてもらえますか。 |
ルカ | ――それで僕、セールンドという島に行かなきゃならないんです。 |
リタ | ……面倒な話になってきたわね。何なのよ、未知のアニマって。 |
クレス | それにメルクリアって、マークを追ってる時に介入してきた奴らが口にしてたような……。 |
ユーリ | ああ、オレの知り会いの名前と一緒にな。 |
ガイ | とにかく、このままじゃ進めない。ルカを入り口の待機組に預けよう。セールンド行きの件もその後だ。 |
セネル | だったら俺が入り口まで連れていく。……あの時は助け出せなかったんだ。今度は無事に送り届けてやらないと。 |
リタ | 別に構わないけど、そいつ脱走して追われてるんでしょ ? 魔物も多いしもう何人かいた方が安全じゃない ? |
クレス | だったら一度、二手に分かれようか。ここにはユーリとルーク、それに僕が残るよ。 |
クレス | セネル、リタ、ガイはルカを入り口に送っていってくれるかな。 |
ガイ | 了解だ。それじゃルカ、行こう。 |
ルカ | ……すみません。迷惑かけて。 |
ガイ | 迷惑なんかじゃないさ。あと、そんなにかしこまるなよ。もっと気楽に、な ? |
リタ | それじゃあ行ってくるけど、あんたたち、お目付役がいないからって派手に戦ってんじゃないわよ ? |
ルーク | だから、喜んで戦ってるのは俺じゃねえし ! こいつの方が―― |
クレス | いや、僕はそんなつもりじゃ…… |
ルーク | だーっ、ちげーって !ややこしいんだよクレス ! |
セネル | ……なあ、ガイ。本当にお前が抜けて大丈夫か ? |
ガイ | ハハ……しっかり者のクレスがいるしまあ、どうにかなるだろ。ユーリも、後は頼んだからな。 |
ユーリ | ああ、おかげで退屈しなさそうだぜ。そんじゃルカ、気をつけて行けよ。 |
ルカ | はい、ありがとうございます ! |
キャラクター | 4話【2-7 隠し通路 出口】 |
スレイ | ……う~ん、どうなってるのかなあ。 |
ミクリオ | スレイ、隠し通路に興味が湧くのはわかるけど、この状況でそれはどうかと思うよ。 |
ミクリオ | 何かしら異常があったら、入り口待機組の僕らが対処しないといけないんだからね。もっと警戒して―― |
スレイ | 違うって。気になってるのはクレスたちの様子だよ。 |
スレイ | ミクリオこそ、そんな風に思うなんて、この隠し通路に興味深々だからじゃないか ? |
ミクリオ | そ、そんなことは…… ! |
コンウェイ | 別に否定することはないよ。いつだって好奇心は大事だからね。それに彼らなら、心配ないんじゃないかな。 |
カロル | そうそう。ユーリもいるし、リタもいる。二人ともすごく頼りになるしね。……たまにおっかないけど。 |
コンウェイ | そうだね、彼らはとても強い。実際に目にすると驚くばかりだ。 |
ミクリオ | ……実際 ? |
スレイ | あ、帰って来たぞ ! |
カロル | お帰り、リタ !……あれ、ユーリは ? |
リタ | あいつはまだ中。ちょっと事情が変わってね、あたしたちはこいつの護衛で戻ったの。 |
リタ | ほら、早くこっち来て、もたもたしない ! |
ルカ | ご、ごめん ! 今すぐ―― |
コンウェイ | ……ルカくん ? |
ルカ | ……コンウェイ ! ?コンウェイもこの世界にいたんだ ! |
コンウェイ | ああ。よく無事だったね。怪我はないかい ? |
コンウェイ | セネルくんやヴェイグくんから、ルカくんのことは聞いていたけど、行方がしれなかったから……心配したよ。 |
ルカ | コンウェイこそ、あの時、黙っていなくなっちゃってさ。……お礼、言いたかったのに。 |
コンウェイ | 済まなかったね、あのときは急いでいたんだ。 |
コンウェイ | ところで、キミはどうしてこんなところにいるんだい ? |
ルカ | あ……そうだ、大変なんだよ !イリアを助け出すために、コンウェイも協力してくれない ? |
コンウェイ | イリアさんを ?……彼女も具現化されているのか。 |
コンウェイ | わかった。込み入った話のようだし、一度、仮想鏡界に戻って、他のみんなにも聞いてもらおう。 |
ルカ | 仮想鏡界 ? |
コンウェイ | ボクたちのアジトみたいなものさ。ルカくんにも、こちらの事情を知ってもらわないとね。それに―― |
コンウェイ | ほら、彼らも訳がわからなくて驚いてるだろう ?ちゃんと説明しないと。 |
三人 | お、お願いします……。 |
コンウェイ | ……ルカくんとイリアさんが未知のアニマの持ち主か。イリアさんはそれを理由に連れていかれたんだね。 |
コンウェイ | 二人に共通してるのは転生者という点だ。未知のアニマというのは、間違いなく転生者のことだろう。 |
ルカ | うん、僕もそう思う。 |
ジェイド | 転生者ですか。同じ魂が生まれ変わりを繰り返すとは……何とも興味深い。 |
リフィル | 話がそれて申し訳ないのだけれど生前の自分と今の自分に同一感というのはあるのかしら。 |
ルカ | それほどありませんでした。昔の僕と今の僕では性格も全然違いましたし。 |
ルカ | だから、僕は僕――なんです。 |
クラース | ルカの話を聞いていると、転生者というのは一つの体に、同じ魂が分裂して存在しているようにも思えてくるよ。不思議な存在だな。 |
コンウェイ | だからこそ、この世界においてもルカくんたちのアニマは特殊なのかもしれない。 |
コンウェイ | だとすると、彼らがイリアさんにどんな実験をするのかが問題だな。アニマ――魂に触れる実験だとしたら……。 |
ルカ | 命に関わるってこと ! ? |
コンウェイ | ……イリアさんが連れていかれたのはセールンドだったね。 |
スレイ | セールンド……そうだ、あっちにはミリーナたちがいる ! |
コンウェイ | まずは彼女に連絡をとって、合流したらどうだろう。何か情報を掴んでいるかもしれないよ。 |
クラース | ああ、それがいいだろうな。いざという時のためにも戦力は多い方がいい。 |
ルカ | 戦力って……みなさんもイリアの救出に協力してくれるんですか ? |
リフィル | ええ。あちら側の思惑を知る必要もあるし転生者のアニマの件は私たちにとっても必要な情報だと思うわ。 |
ジェイド | そうですね、私も異論はありません。 |
ルカ | ありがとうございます ! |
ミクリオ | それなら早速カーリャに連絡を頼まないと。……なんでここにいないんだ ? |
ジェイド | おかしいですねえ。少し前までは、一緒に楽しくおしゃべりをしていたのですが。 |
リフィル | ……ジェイドあなたミリーナの行き先を聞き出す時にやりすぎたのではなくて ? |
ジェイド | そうでしょうか。私は平和を愛するただの紳士です。やり過ぎたのはリオンの方だと思いますが。 |
リフィル | 随分ツッコミどころの多い発言ね……。 |
カーリャ | え~と……ルカさま ? |
ジェイド | おや、カーリャ♪先程から姿が見えないので避けられているのかと思いましたよ。 |
カーリャ | ……鬼畜眼鏡。 |
カーリャ | ――あ、それどころじゃなかった。 |
カーリャ | ルカさまの話ですけどカーリャにも詳しく説明してください。今、ミリーナさまと繋がっていて―― |
スレイ | すごいよカーリャ、ナイスタイミング ! |
カーリャ | はい ? |
リフィル | それではルカ、みんなも気を付けて。ミリーナとの合流場所は大丈夫ね ? |
ルカ | はい、色々とお世話になります。 |
リフィル | いいえ、こちらも助かっているのよ。今の私達にとって、外の情報を知るのは大変な作業だから。 |
コンウェイ | ではルカくん、セールンドへ向かおうか。 |
ルカ | うん、行こう ! |
キャラクター | 5話【2-10 セールンドへ3】 |
スレイ | えっと、ミリーナたちとの合流地点は、街はずれの小屋だったよな。こっちの方角か。 |
ルカ | あの、僕と一緒で大丈夫なんですか ?二人は他の役目があったんじゃ……。 |
スレイ | ああ。入り口の見張り役は引き継ぎしたから問題ないよ。 |
スレイ | それに、同行を申し出たのはオレたちの方だから、気にすることないって。な、ミクリオ。 |
ミクリオ | 僕たちっていうかスレイだろ。すぐに何にでも首をつっこむんだから。 |
ミクリオ | まあ、それがスレイの良いところでもあるんだけどね。 |
ルカ | 仲がいいんですね。スレイさんとミクリオさん。 |
スレイ | もっと気楽にしゃべってくれていいよ。オレもほら、こんなだし。 |
ルカ | えと、それじゃあ……一緒に来てくれてありがとう。スレイ、ミクリオ。 |
スレイ | うん、どういたしまして ! |
マルタ | ルカ、私たちにもその感じでお願いね。キミの礼儀正しい所は好感度高いけど、ずっとそのままだと他人行儀だし。 |
マルタ | でも、そういう所、嫌いじゃないな。ちょっとエミルと似てるもん。 |
エミル | え、ええと……そういうわけだからよろしくね。ルカ。 |
ルカ | うん、よろしく。エミル、マルタ ! |
レイヴン | 若者はいいねえ。なんかこうキラッキラしてて。おっさん、疎外感~。 |
カロル | じゃあなんでレイヴンはついて来たの ? |
レイヴン | そりゃまあ、飲み友に頼まれちゃったからよ。 |
カロル | それってクラースのこと ? |
レイヴン | そそ。協力してやりたいが、今の私では足手まといになるとかなんとか言ってたんで、この俺様がひと肌脱いでやったってわけ。 |
コンウェイ | レイヴンさんは仲間思いなんですね。それで取り引きの内容は ? |
レイヴン | あいつからミリーナちゃんに、大人のジュースの仕入れを頼んでもら――ヤバッ……。 |
カロル | お酒だね……。もう、仕方ないなあ。やっぱりボクがしっかりしないと。 |
ルカ | この声は…… ? |
コンウェイ | 光魔だよ。気を付けてルカくん。彼らは通常の魔物よりも性質が悪い。 |
スレイ | ルカ、危ないから下がっててくれ。 |
ルカ | 大丈夫、僕もやれるから ! |
コンウェイ | ルカくん、まさかキミ……天術が ? |
ルカ | 話は後だよ。今は敵を何とかしなくちゃ ! |
キャラクター | 6話【2-10 セールンドへ3】 |
コンウェイ | 驚いたよ。ルカくんは今も天術が使えるんだね。 |
ルカ | 言い忘れててごめん。僕も不思議なんだ。一度は失ったのに、なぜ天術が使えるようになったのか……コンウェイはわかる ? |
コンウェイ | いや、ボクにもわからない。どういうことなんだろう。 |
コンウェイ | 具現化された際に、ルカくんに変化があったのか、それともこの世界の何かが関係しているのか……。 |
ルカ | そうか……コンウェイにもわからないんだ。でも、イリアを救うために戦えるんだから、悪いことじゃないよね。 |
コンウェイ | ……そうだね。 |
ルカ | そう言えばさ、僕、あの時コンウェイが言ってたこと、今ならちょっとだけわかる気がするよ。 |
コンウェイ | ボクが ? 何を言ったんだっけ。 |
ルカ | ほら、イリアにどう思われてるか悩んでた時だよ。他にも何度か話してくれたでしょ ? |
ルカ | 人は失って初めて、自分の気持ちや何が大切だったか気づくって。 |
コンウェイ | ……そういえば、そんなことを言ったかな。 |
ルカ | イリアを失うなんて、あの時は思いもしなかったから、わからないって答えたけど。 |
ルカ | 実際に今、イリアに危険がせまってコンウェイの言葉を思い出したんだ。 |
コンウェイ | ……そう。 |
ルカ | ……あの時のコンウェイまるで自分のことみたいに言ってたけどそれって―― |
カロル | ルカ、強いんだね !すごいや ! |
ルカ | え ? ああ、ありがとう。カロルも強いね。確かギルドのボスをやってるんだっけ ? |
カロル | えへへ、まあね。興味あるならいつでも言って ! |
レイヴン | ……少年、悪いけどスカウトは中断ね。 |
カロル | どうしたの ? |
レイヴン | こりゃこっちに来るな……。みんな物陰へ隠れろ。そんでジッとしてて。 |
マルタ | あれは……アスガルド軍 ?よく気が付いたね。 |
レイヴン | 軍人が大勢で移動してりゃあね。しかしあの隊列の組み方……誰かを護衛いや、護送かな ? |
コンウェイ | ―― !ルカくん、あれを見て。 |
ルカ | イリアだ ! |
レイヴン | あの子が ? ……いや参ったね。ミリーナちゃんと会う前に当たり引いちゃったわよ。どうする ? |
ミクリオ | 数で言えばこっちは不利だからな……。このまま後をつけて、様子を見るという手もあるけど。 |
ラタトスク | ……こうしてウダウダ言ってる間に、機会はどんどん無くなるぞ。いいのか ? |
ルカ | エミル…… ? 何か雰囲気が……。 |
マルタ | その話はまた後で。今の彼はラタトスクって名前。 |
マルタ | で、ラタトスクの言う通りだと思う。ルカ、行くなら今だよ ! |
ルカ | ……うん。イリアのいる所だけに集中して一気に叩こう ! |
キャラクター | 8話【2-12 セールンドへ5】 |
イリア | イタタタ、もうちょっと優しく解けないの ?この、おたんこルカ ! |
ルカ | ご、ごめん……。でもイリアが動くから、縄が余計に絡んじゃうんだ。もうちょっと大人しくしててくれる ? |
イリア | わかったわよ。三つ数える間だけね。いーち、にー…… |
ルカ | あわわわわ、これで……よし ! |
イリア | はーっ、やっと自由になったーっ !助けてくれてありがと。 |
ルカ | みんなが協力してくれたおかげだよ。 |
イリア | そうみたいね。いや~どうも、みなさんお世話になっちゃって ! |
レイヴン | どういたしまして !や~、こりゃまた元気なお嬢ちゃんで。 |
マルタ | ……でも、ルカとはもっとこう感動的な恋人同士の再会 ! みたいになるかと思ってたから……ちょっと意外。 |
イリア | え、なんでよ ?前世では恋人かもしれないけど今のあたしとルカはそんなんじゃないし。 |
マルタ | そうなの ? 誤解してごめん。ルカってばずっとイリア、イリアって心配してたからてっきりそういう関係なんだと思ってた。 |
イリア | ちょっとルカ !あんたのせいで妙な誤解うけてるじゃない。 |
ルカ | そ、そんな……。僕にとってはその……誤解じゃ……。 |
コンウェイ | フッ、相変わらずのようだね。イリアさんは。 |
イリア | コンウェイもね。あんたって、いっつも突然なんだから。突然現れて、突然消えちゃってさ。 |
イリア | 出会った時だって、天術が通用しない敵にコンウェイが……って、そうだ ! |
イリア | ねえルカ、あんた天術使ってなかった ?どういうことよ。 |
ルカ | 突然使えるようになったんだ。もしかしたら、イリアも使えるかもしれないね。 |
イリア | はぁ ? あんたそういうことはさっさと言いなさいよ ! だったらあたしの手であいつらボッコボコにしてやったのに ! |
マルタ | ねえ、天術が使えるとか使えないとかってどういうこと ? |
イリア | ああ、それはね―― |
ルカ | ねえエミル。さっきから別人みたいだけどもしかしてエミル……じゃ、ないの ?まさか君も転生者 ? |
ラタトスク | ……違う。だが、お前とは後でゆっくり話をしてみたいな。 |
ルカ | え…… ? |
ラタトスク | じゃあな。 |
エミル | ……ん ?もしかして今の僕、別人みたいだった ? |
ルカ | う、うん。 |
エミル | そっか。混乱させてごめん。後で色々説明しないといけないね。 |
エミル | とりあえず、マルタたちの所へ行こう。 |
ミクリオ | ……さっきのイクス――ナーザ将軍だけど、どう思う ?更なる具現化って可能性はあるのかな。 |
スレイ | う~ん、ミリーナなら、そのへん詳しいんだろうけど。 |
カロル | すっごく似てるだけの人ってことは ?ほら、そっくりさんって世界で三人はいるってどっかで聞いたことあるよ。 |
スレイ | それもあるかもね。でもなあ……。あれは、そっくりの域を越えてるよ。 |
スレイ | 何かが原因で、成長したイクス本人――いや、でも今のイクスは……。 |
コンウェイ | キミたち、それ以上の推測は無意味じゃないかな。色々と複雑な事情がありそうだし。 |
カロル | それってどういうこと ?コンウェイは何か知ってるの ? |
コンウェイ | いや、この世界のことは全く知らないからね。単なる推測だよ。 |
コンウェイ | 魔鏡術に疎いボクらがいくらここで議論していても答えはでないってこと。 |
コンウェイ | だから今はミリーナさんとの合流地点へ向かおう。 |
キャラクター | 9話【2-15 セールンド 小屋】 |
ミリーナ | ……そう。そっちにも現れたの。ナーザ将軍って呼ばれていたのね……。 |
スレイ | ああ、確かナーザというのはこの世界の神の名前と同じだよね。 |
ミリーナ | ええ……。海の神――漁師の守り神の名前よ。本当の名前ではないのかも……。 |
スレイ | 具現化のことはよくわからないけどあいつはやっぱり、オレたちの知ってるイクスじゃないんだな ? |
ミリーナ | イクスはまだ魔鏡結晶の中にいるわ。でも……そっくりな彼に関しては私もまだ何もわからなくて……。 |
スレイ | 何言ってるんだ。本当のイクスの様子がわかっただけでも十分だって。 |
コーキス | 本当のマスター……か。 |
エミル | イクスのことも問題だけどミリーナの話だとマークの動きも探らないといけないよね。 |
マルタ | それと、ルカがルビアって子から言われたメルクリアの話もあるわよ。 |
レイヴン | ハァ……あっちもこっちも問題が山積みと来た。こりゃ手分けしてやっつけないとだわ。 |
ミリーナ | でも、一つは解決よ。イリアさんを無事保護できたもの。大変だったわね、イリアさん。 |
イリア | ……え ? あ、ありがとう。 |
コンウェイ | どうしたんだい ?何か気になることでもあったかな。 |
イリア | 結局、あたしはこれから何をすればいいのかなって。ルカはどうする気 ? |
ルカ | どうって……ええと……。 |
イリア | あんた何も考えないで、この人たちに泣きついてたの ?相変わらずのんきねえ。 |
イリア | 話聞いてると、転生者が重要なんでしょ ?だったら、あたしとルカがこっち側に協力すれば、もう勝ったようなもんじゃない ? |
ルカ | そこまで簡単な話じゃないと思うけど……。 |
イリア | 何言ってんの。こういうのは先手必勝 !動いたもん勝ちなの ! |
イリア | そういうわけで、これからお世話になってもいい ? |
ミリーナ | もちろんよ、ルカさん、イリアさん。 |
イリア | あたしのことはイリアでいいってば。初対面で呼び捨てにされるとムカつくけど。あんたは礼儀正しいし。 |
ミリーナ | ありがとう。じゃあ、私もミリーナって呼んで。これからもよろしくお願いね。 |
イリア | ラッキー、タダで寝床ゲット !\nいしししし……。 |
ルカ | イリア……君って人は。 |
コンウェイ | さすがイリアさん、逞しいね。それでルカくんは ? |
ルカ | もちろん、僕も協力するよ。それに、ルビアのことも気になるんだ。 |
ルカ | 僕を逃がしたせいで投獄されたのかもしれないし……。どうにかしてあげられたらって思う。 |
ルカ | それに03って呼ばれてた人も気になるよ。もし特異鏡映点亜種っていうのが転生者のことなら―― |
イリア | あたしたちの知ってる誰かがまだ帝国に囚われてるのかも知れないのか……。 |
コーキス | ――ミリーナ様やることがたくさんありますけどここからどう動きましょうか ? |
ミリーナ | そうね……今できることからやりましょう。 |
ミリーナ | 調べるのは、転生者のアニマを使ってアスガルド帝国が何を企んでいるのか。それとメルクリアについて。 |
ミリーナ | ……そうすることで、きっとイクスのことについても手掛かりが掴めると思うから。 |
コーキス | ユーリ様たちが帝都に潜入してるんですよね。 |
コーキス | 今からでも合流した方がいいかもしれません。 |
キャラクター | 1話【手紙】 |
ルドガー | よし、これにしよう。……いや、こっちの方がみずみずしいな。でも量が確保できないと……。 |
ユリウス | ルドガー、そろそろ行かないと遅くなるぞ。買い物は他にもあるんだろう ? |
エル | エルもあきちゃった。べつのお店が見たいー ! ね、ルル。 |
ルル | ナァ~。 |
ルドガー | でも、この店が一番品ぞろえがいいんだよ。それに今じゃ市場に買い出しなんてそう簡単にはこられないだろ。 |
ルドガー | アジトで待ってるみんなのためにも、なるべく新鮮で、長持ちする食材を選びたいんだ。だから……。 |
ユリウス | ……仕方ないな。もう少しだけだぞ。 |
エル | え~、まだ見るの ? メガネのおじさん、あんまりルドガーのこと甘やかしちゃダメなんだからね。 |
ユリウス | そんなつもりはないんだが……甘やかしてるかな ? |
エル | してますー ! |
ユリウス | そうか。それじゃルドガーと同じくらいエルのことも甘やかせば許してもらえるかな ? |
エル | 大人はずるいなあ。そういうの、取り引きとか、コーカンジョーケンていうんでしょ ?でも、いいよ ! |
ユリウス | よし、取り引き成立だ。このあとエルの好きなものを買おう。だからルドガーのこと、待ってやってくれ。 |
エル | わかった !それとルルにも何か買って ? |
ユリウス | よしよし、ルルには奮発して高級ネコ缶だ。楽しみにしておけよ。 |
ルル | ナァ~♪ |
ルドガー | 悪いな。代わりに今日は特別に美味いものを作るよ。――あ、これもいいな。すごく新鮮だ。 |
エル | え……トマト ! ? |
ユリウス | 確かにいいトマトだ。今夜はこれをスープにしてくれないか ? |
エル | ダ、ダメだよ ! そんなことしたらロイドやコンウェイだってきっとウエッてなるし―― |
ルル | ――ナァ ! |
エル | ルル、どこ行くの ? |
シング | ――いた !よかった……見つかって。 |
エル | ……だれ ? |
シング | えっと、きみ、黒衣の鏡士の仲間――だろ ? |
エル | ―― !ルドガー、変な人がいる ! |
ユリウス | 誰だ ! ! |
ルドガー | エルに何を…… ! |
シング | な、何もしてないよ !なんでオレっていつもこうなんだ……。 |
エル | あのね、この人、こくいのかがみしっていった。エルのこと、仲間だろって。 |
ユリウス | ……何のつもりで近づいた。場合によっては子どもとはいえ――― |
シング | そうじゃなくて ! いや、そうなのか…… ?でも、驚かせちゃったならごめんなさい。オレはこれを渡しに来ただけなんだ。 |
ルドガー | ……手紙 ? |
シング | これをクレスに渡してほしいんだ。 |
ユリウス | 君が何者かもわからないのに受け取れるわけがないだろう。先に詳しい話を聞かせてもらおうか。 |
シング | 時間がないんだ。もう戻らないと……。手紙、ここに置くから。必ず届けて下さい。お願いします ! |
ユリウス | おい、待て―― |
ルドガー | クレスに渡せって……知り合いなのか ? |
ユリウス | 何かの罠かもしれない。ルドガー、エルを連れてアジトへ戻れ。俺は奴の後を追う。 |
ルドガー | 兄さん ! |
ユリウス | すぐに戻る。目印を残していくから、万が一の時にはそれをたどれ。お前ならわかるだろう。 |
エル | 行っちゃった……。一人で大丈夫かな。 |
ルドガー | 兄さんのことだ。心配はいらないだろうけど……。 |
エル | そうだよね ! メガネのおじさん、強いもん。それにエルたちは、ほかにやることあるんでしょ ? |
ルル | ナァ~ ! |
ルドガー | そうだな。こっちは兄さんに任せて、まずはこの手紙をクレスに届けよう。 |
キャラクター | 2話【3-1 静かな街】 |
クレス | ――その青年が僕に手紙を ? |
ルドガー | ああ。悪いけどすぐに中身を確認してもらえないか ?兄さんが今、そいつを追っているんだ。 |
クレス | わかった。ごめんロイド。手合わせはまた今度にしてもらえるかな。 |
ロイド | かまわないぜ。それで、何て書いてあるんだ ? |
クレス | うん……えっと……。 |
クレス | ―― ! |
ロイド | どうしたクレス、顔が怖いぞ。 |
クレス | ロイド、すぐミリーナを呼んでくれないか。この手紙の内容を説明しないと。ルドガーさんも一緒に聞いて下さい。 |
ルドガー | あれ ? ミリーナは……。 |
ロイド | どこ捜してもいねえんだよ。みんなにも声かけたんだけど、知らないみたいでさ。今もコレットに捜してもらってる。 |
リフィル | 時間もないことだし、ミリーナの代わりに私が話を聞くわ。クレスの事情も承知しているから問題なくてよ。 |
ルドガー | クレスの…… ? |
クレス | 僕が説明します。……まずこの手紙だけど、差出人はチェスターなんです。 |
ロイド | チェスター ! ?鏡殻変動の後にはぐれちまったんだよな ?居場所わかったのか ! |
クレス | わかったんじゃなくて、わかっていたんだ。……嘘をついてごめん。 |
クレス | 実は、セールンドの王宮から脱出した時に―― |
チェスター | なんとか脱出できたな……。大丈夫かクレス ! |
クレス | ああ。チェスターも無事で良かったよ。すぐにミリーナたちに合流しないと。さあ、行こう。 |
チェスター | …………。オレはまだ、一緒には行けない。 |
クレス | ―― !どうして……。 |
チェスター | ファントムは特異鏡映点を捕らえてた。そいつらの行方を追わないと。それに……。 |
チェスター | とにかく、オレはもう少し救世軍側に残って探るから、クレスは戻れ。何かおかしな動きがあったら必ず連絡する。 |
クレス | そんなの危険だ ! この後だって何が起こるかわからないんだぞ。 |
チェスター | 心配すんなって。今までだってそこそこ上手くやれてただろ ?ま、お前にはバレちまってたみたいだけど。 |
クレス | 当たり前だろ。どれだけ一緒にいたと思ってるんだ。 |
チェスター | ハハッ、だよな。でも、そういうお前がいるから、オレは安心してフラフラできるんだけどさ。 |
クレス | はぁ……、わかった。ただし絶対に無理するなよ。信じてるからな、チェスター。 |
チェスター | すまねぇクレス。後で謝るなんて言って、またこんなこと……本当に―― |
クレス | それ以上はいいよ。無事に戻って来たら、全部ひっくるめてちゃんと謝ってもらうからな。 |
チェスター | ああ、覚悟しとくぜ ! |
ルドガー | ……そうだったのか。 |
リフィル | この話は、潜入しているチェスターの安全も考えて、クレスとごく一部の者だけに止めておいたのだけれど……。 |
リフィル | あちらに何か動きがあったようね。 |
クレス | はい。チェスターの情報では、鏡殻変動後、救世軍の半数以上が、アスガルド帝国に吸収されたそうです。 |
クレス | チェスターは帝国側に入り、現在は四幻将という立場で、ビフレスト皇国の生き残りの皇女に仕えていると……。 |
ロイド | すげえなチェスター。それならいろんな情報が仕入れられるな。 |
クレス | ああ。それで帝国側には特異鏡映点が複数いることがわかったらしい。その人たちを助けて欲しいって書いてあるんだ。 |
クレス | 地図も添えてあったよ。これが帝国側への侵入経路だって。 |
ルドガー | 隠し通路か。建物の内部にまで通じてるな。これなら―― |
クレス | ルドガーさん、そのことなんですけど、手紙には絶対に帝国に来てはならない人物の名前が書かれていて……。 |
クレス | それが「ルドガー、ユリウス、エル」の三人だったんです。 |
ルドガー | 俺たちが…… ? どうして。 |
クレス | 理由までは書かれていませんでした。でも、ユリウスさんが、この手紙を届けにきた人物を追っているってことは……。 |
リフィル | チェスターの協力者が戻る場所――つまり帝国側に足を踏み入れる可能性が高いわね。 |
ルドガー | ―― !まだ間に合うはずだ。俺はすぐに兄さんを追いかける ! |
エル | エルも行く ! |
ルドガー | いや……エルはここで待っててくれ。 |
エル | なんで ! ? エルとルドガーはアイボーでしょ。 |
ルドガー | 買い物に行くのとは違うんだ。どんな危険があるかわからないんだぞ。 |
エル | 今までだって、危ない所いっぱい一緒にいったよ ! |
エル | エルだってメガネのおじさん心配だもん。それに……ルドガーまでどっかいっちゃったら……エルは……。 |
コレット | ねえロイド、やっぱりミリーナ見つからないよ。――あれ……何かあったの ? |
ミラ=マクスウェル | どうした。なぜ泣いているんだ、エル。 |
エル | 別に……泣いてないし ! |
ミラ=マクスウェル | そうなのか ? 私には不安で泣いているように見えたのだが。 |
エル | そ……そんなの……。あなたがエルの知ってるミラじゃないから、わかんないんだよ ! |
ミラ=マクスウェル | ……。 |
ルドガー | ごめんミラ。これから行く所は危険だから、エルは連れていけないって話をしてたんだ。だからちょっと気が立ってて……。 |
ミラ=マクスウェル | そうか。……ならば、私が同行しよう。私がエルを守れば問題ないだろう ? |
エル | ……え ? |
ミラ=マクスウェル | 私がお前を守るといったのだ。それならルドガーも自由に動けるし、エルも安全だ。ダメか ? |
エル | ダメ……じゃないけど。 |
ミラ=マクスウェル | それなら良かった。どうだルドガー。これでエルを連れて行けるんじゃないか ? |
ルドガー | ……わかった。頼むよ。 |
エル | ……別にエルは、頼んでないからね。 |
ミラ=マクスウェル | もちろん。私が私の意志で、お前を守りたいから行くだけだ。 |
エル | ……。 |
コレット | ……ねえ。私も一緒に行っていいかな。 |
ロイド | そうだな。俺もルドガーについて行こうと思ってたんだ。人捜しは多い方がいいだろ ? |
クレス | じゃあ僕は帝国への侵入経路を調査するよ。場合によっては、そのまま建物内部にも潜入することになると思う。 |
リフィル | そうね。もしものことを想定して、それ相応の戦力をそろえていった方がいいわ。 |
クレス | はい。ユーリやセネルにも声をかけてみるつもりです。二人とも、あちら側に知り合いがいる可能性があるようなので。 |
リフィル | わかりました。それでは各々準備を進めて。あなたたちのことはミリーナに伝えておきます。 |
ルドガー | ああ。それじゃ俺たちはすぐに出発するよ。エル、行こう。 |
エル | ……うん。 |
キャラクター | 3話【3-4 ひとけのない街道】 |
シング | うわ……、間に合うかな……。 |
ユリウス | (ここまでわき目もふらず一目散か。あいつ、時間がないと言っていたのは本当だったようだな) |
シング | ……。 |
ユリウス | (……止まった。まさか尾行がバレたか ? ) |
カイウス | シング、こっち ! |
シング | カイウス ! よかった。オレが抜け出したの、バレてないよな ? |
カイウス | ああ、大丈夫だ。この後すぐに、救世軍のアジトに襲撃をかけるってさ。 |
シング | ギリギリか……危なかった……。 |
ユリウス | (救世軍を襲撃……ということは、奴らはアスガルド帝国軍か) |
カイウス | それで上手くいったのか ? |
シング | ああ。もちろん ! ……というか多分だけど。 |
カイウス | よし、すぐに本隊に戻ろう。怪しまれるとまずい。 |
ユリウス | (彼らが戻った場所……なるほど、あそこにアスガルド軍が駐留しているのか) |
ユリウス | さて、どうするか……。 |
ユリウス | (救世軍には俺自身利用されてしまったが、現時点で皆の敵ではない……) |
ユリウス | (かといってあの少年も敵とは思いがたい。さっきの様子だと、帝国の意向とは別の目的で動いているようにも見える) |
ユリウス | (ルドガーたちに手を出すなら容赦しないつもりだったが……) |
ユリウス | (ここは一度戻るとするか――) |
ユリウス | ―― ! |
シンク | にぶいね。くだらないこと考えてないで、もっと背中を気にした方がいいんじゃない ? |
ユリウス | (シンク ! ?……こいつ、気配がまるでなかった) |
マーク | おいシンク。もっと普通に声かけろよ。なんでそんなケンカ腰なんだ。 |
シンク | フン。軍が駐留する場所で背後をとられるなんて、殺して下さいって言ってるのと同じだろ。 |
シンク | 鈍くさくてイライラするんだよね。 |
ユリウス | ……とんだご挨拶だな。 |
マーク | いきなり悪かったな。ここは一つ、こいつなりの不器用な親切ってことで勘弁してくれ。 |
マーク | 実際、ここに来たのが帝国の人間だったら、間違いなくあんたはここで、ひと悶着起こしていたはずだからな。 |
ユリウス | ……救世軍のマークか。お前たちこそ、こんな所で油を売っていていいのか。これから帝国軍が―― |
シンク | 救世軍が潜伏するアジトに襲撃をかける――だろ ?ありがたいね。予定通りさ。 |
ユリウス | それはどういう意味だ。 |
マーク | これは陽動作戦なんだよ。あっちで派手にやってもらって、帝国が手薄になっている隙に目的を果たす。 |
ユリウス | ……随分と口が軽いんだな。目的を聞いても教えてもらえそうだ。 |
マーク | かまわないぜ。さっき驚かせた詫びに教えてやるさ。帝国に捕らわれている魔鏡技師が俺たちの目的だ。 |
マーク | そいつはアスガルド帝国から、精霊クロノスの力を研究するように命じられている。そいつを救出して―― |
ユリウス | 精霊クロノスだと ! ?どういうことなんだ !この世界にもクロノスがいるのか ! ? |
マーク | 食いつくねえ。だがそういうことは、素人に聞くより専門家に聞いた方がいいんじゃないか ? |
ユリウス | 専門家……その魔鏡技師のことか。 |
マーク | ああ。俺じゃ詳しく答えられないからな。一緒に来れば、救出した後にでもじっくり聞けると思うが……。 |
マーク | どうだ、俺たちと来るかい ? |
ユリウス | ……ああ、行こう。 |
キャラクター | 4話【3-6 危険な山岳 折返し】 |
ルル | ナァ~……。 |
コレット | ちょっと声に元気がないね。ルルちゃん、疲れちゃったのかな。 |
ルドガー | エルも疲れてないか ? |
エル | ……へーきだよ。それより、まだメガネのおじさん見つからない ? |
ルドガー | 目印どおりにたどってるけど会えないな。兄さん、どこまで行ったんだろう。 |
ロイド | かなり遠くまで追ってるみたいだな。お、また分かれ道。 |
ルドガー | ええと……ここを左だ。 |
ロイド | すげえよな。地面の変な模様や石とかみて、すぐにわかっちまうんだから。 |
ロイド | それもエージェントっていうやつの知識なのか ? |
ルドガー | う~ん……半分くらいかな。これは俺たち兄弟だけに通じる目印なんだ。 |
ルドガー | 子どものころ、兄さんと山で迷子になったことがあってさ。随分と酷い目にあったんだけど……。 |
ルドガー | その後で、もう迷わないようにっていろんな目印を決めたんだ。 |
ルドガー | 今思えば、基礎はエージェントの知識だったんだろうけど、子どもの俺でもわかるようにしてくれたんだろうな。 |
ロイド | そっか。優しいんだな、ユリウスは。 |
ルドガー | ……ああ。 |
エル | ……ねえルドガー。エルにも目印のこと教えて ?そうすれば見つけるの手伝えると思うよ。 |
ルドガー | エル……。 |
エル | で、でもメガネのおじさんとのヒミツなら別にいーけど。 |
ルドガー | そうだな。エルにも覚えてもらうか。俺とエルは相棒だもんな。頼むよ。 |
エル | うん、手伝ってあげる ! |
ミラ=マクスウェル | 私にも教えてもらえるか ?四大の力を使えば、目印を見つけることも容易くなるかもしれない。 |
エル | それはダメですー。エルはアイボーだから教えてもらえるんだもん。……でも、どうしても知りたいなら―― |
ミラ=マクスウェル | いや、無理にとはいわない。 |
エル | ……こんな時、きっとミラなら「教えて」っていうのに。 |
ミラ=マクスウェル | ……がっかりさせたようで済まないな。だが私はこうなんだ。エルの知っているミラと同じ反応はできない。 |
ミラ=マクスウェル | これからも私は、エルの望むミラにはなれないと思う。 |
エル | …………。 |
ミラ=マクスウェル | だからどうだろう。私はミラだが、ミラとは別人のミラとしてエルの新たな友人に加えてくれないか ? |
エル | ミラだけどミラじゃないミラ…… ?なにそれ、ややこしーよ。 |
コレット | そだね。確かにこんがらがっちゃうけど、これって、名前が同じお友達が増えたってことなんじゃないかな。 |
エル | 同じ名前……かぁ。でも……。 |
ロイド | やっぱ悩むよなあ。俺はエルの気持ち、少しだけどわかるよ。 |
ロイド | 俺の村にいたポールって男の子がさ、この世界で会った時には、全然俺のこと知らない奴になってたんだ。 |
ロイド | その頃は具現化のことなんてよくわかってなかったから、ちょっとショックだったなあ。 |
エル | あ、そのちょっとショックっていうのエルと似てる !エルのこと知らないミラだったから……。 |
エル | だから……あの時はごめんね。でもね、別にこっちのミラも嫌いじゃないんだよ。 |
ミラ=マクスウェル | そうか。嫌いじゃなくて嬉しいよ。私もエルのことは嫌いじゃないからな。 |
コレット | な~んだ。二人とも嫌いじゃないなんて、エルとミラは気が合うんだね。 |
エル | ま、まあね !それに別のミラがいるなら、いつか、本物のミラに会えるかもしれないし ! |
ミラ=マクスウェル | 本物……か。フフ、そうだな。私も、もう一人の私という存在に興味があるよ。 |
ミラ=マクスウェル | どこが同じで、どこが違うのか。これもまた、本では得られない経験の一つだからな。 |
エル | ホント ? ねえねえ知りたい ? ミラのこと。 |
ミラ=マクスウェル | そうだな。だが本人に会った時の楽しみというものもある。ミラの話は、ヒントくらいにしてもらえるとありがたいな。 |
エル | わかった !楽しいのがへっちゃうのヤダもんね。 |
コレット | 心配でついてきちゃったけど、大丈夫だったみたいだね。 |
ルドガー | ああ。心配してくれてありがとう。 |
ロイド | よし。早いとこユリウスを見つけようぜ。 |
キャラクター | 5話【3-7 危険な山岳 出口】 |
エル | あ、目印またあった ! |
ルドガー | もう覚えたみたいだな。 |
エル | ふふーん。このくらいヨユーだよ。 |
ミラ=マクスウェル | ―― !ルドガー、あれを見ろ。 |
ルドガー | 煙があがってる…… ? |
コレット | 私、ちょっと見てくるね ! |
エル | わ、飛んでる ! すごーい ! |
コレット | この先の建物から煙があがってる。救世軍と……アスガルド軍、なのかな。戦ってるよ ! |
ミラ=マクスウェル | エル、目印はどちらを指している ? |
エル | えっとね、煙とおなじ方向 ! |
ルドガー | まさか兄さん、巻き込まれたんじゃ…… ! |
ロイド | このままじゃ状況がわからねえ。近くまで行こう ! |
ロイド | やっぱり救世軍とアスガルド軍だ。救世軍の方が押されてるな。 |
ルドガー | ……なんか変じゃないか ?帝国軍の方が押してるっていうより、救世軍がわざと戦線を後退させてる気がする。 |
ロイド | 押されたふりして戦ってるってことか ? |
ルドガー | ――シッ、隠れて ! |
ルドガー | (あれは……手紙を持ってきた奴だ。やっぱり、兄さんはこの戦場にいるのか ? ) |
シング | リヒターの言った通りだ。これ、救世軍の陽動作戦かもしれない。 |
カイウス | じゃあ、狙いはイリアか……それともセシリィ ? |
シング | どっちにしろナーザが近くにいる。状況を伝えた方がいいな。 |
ミラ=マクスウェル | ……行ったようだ。 |
ロイド | えっと……なあルドガー結局これってどうなってんだ ? |
ルドガー | 多分、この戦い自体が救世軍の陽動作戦で帝国側もそれに気が付いた、ってとこかな。 |
ロイド | あ~……そういう変なかけ引きみたいなの苦手なんだよな。 |
エル | エルにもよくわかんないよ。結局メガネのおじさんはどこにいるの ? |
? ? ? | 僕なら答えてあげられるよ。 |
ルドガー | ―― ! ? |
? ? ? | そのためには、少しだけ君たちの時間をもらうけどいいかな ? |
ロイド | お前……ファントム ! ? |
ミラ=マクスウェル | 生きていたのか ! |
? ? ? | ファントム……、リーパのことか。君たちにはそう見えても仕方がないね。 |
ルドガー | もしかして、あなたは……。 |
フィリップ | 初めまして。鏡映点の方々。僕は第103代目ビクエフィリップ・ビクエ・レストン。 |
フィリップ | 【最初】のフィリップだ。証は何もないけれど、ね。 |
ルドガー | 本物のフィリップ……ってことはゲフィオンと幼馴染の…… ? |
フィリップ | ……ここで長話は危ない。戦場から離れた場所へ行こう。さあ、こっちへ。 |
キャラクター | 6話【3-9 喧噪渦巻く街道】 |
フィリップ | さて、この辺りなら大丈夫だろう。 |
ロイド | なあ、あんたみたいな重要人物がなんでこんな所にいるんだ。今までどこで何をしてたんだよ。 |
フィリップ | すまないが、それを説明するには少し時間が足りないんだ。君たちにも急いでもらわないといけないからね。 |
フィリップ | 早速だが、ユリウスはマークたちと共にセールンドの城下町へ向かった。 |
ルドガー | マークと ? なんでそんなことに。 |
フィリップ | 精霊クロノスを研究しているセシリィという魔鏡技師を帝国から救い出すためだ。 |
ルドガー | 精霊クロノス ! ? ここにもいるのか ? |
フィリップ | ああ。この世界のクロノスが君たちクルスニクの一族にどんな影響を及ぼすのかわからない。 |
フィリップ | 一刻も早く彼女と会ってすぐに調べた方がいい。 |
ルドガー | そうか……。兄さんはそれを知ってマークと一緒に……。でもなんで今頃、精霊クロノスなんだ。 |
ミラ=マクスウェル | クロノスではないが、以前から精霊の気配はあったんだ。私はその気配をたどって火の精霊イフリートと会っている。 |
コレット | あ、それってクラースさんと出会った時だよね。 |
ミラ=マクスウェル | そうだ。しかし今目覚めているのはイフリートのみのはずだが……。 |
ルドガー | 精霊が目覚める ?……いったいどういうことだ。 |
フィリップ | すでに知識のある者もいるだろうが一応、この世界の精霊について説明をしておこう。 |
フィリップ | かつて『太陽神ダーナ』は、ティル・ナ・ノーグの滅びを予言した。 |
フィリップ | その救済のために、来たるべき時に備えてダーナの巫女と精霊たちを眠りにつかせたという。 |
フィリップ | この巫女が鏡士の始祖たるヨーランド。初代の鏡士と言われるヨウ・ビクエだ。 |
フィリップ | 精霊はヨーランドの目覚めと共に再び目覚めるはずだったのだが……。 |
フィリップ | ヨーランドが未だ目覚めていないにもかかわらず、各地で精霊の目覚めの兆しが散見されている。 |
ミラ=マクスウェル | 確かに、私が会ったイフリートもそんなことを言っていたな。 |
ルドガー | それじゃ、クロノスも……。 |
フィリップ | 確実なことはわからない。兆しだからね。目覚めているかどうかは、セシリィが知っているはずだ。 |
フィリップ | 彼女は今、特異鏡映点亜種と呼ばれる特殊なアニマの持ち主を調べるためにセールンドに連れて来られている。 |
フィリップ | 帝国がアニマの調査に使用するのはカレイドスコープ跡、もしくはキラル純結晶精製所のどちらかだろう。 |
フィリップ | 今はカレイドスコープ側にマークら救世軍、精製所にはユリウスが向かっている。 |
フィリップ | 君たちは精製所に行って、ユリウスと合流するといい。もしもセシリィがそちらにいるのなら、助け出してやってくれ。 |
ルドガー | わかった。……あなたには、聞きたいことも言いたいことも山ほどあるけど、情報をくれたことには感謝するよ。 |
フィリップ | こちらの利益も見込んでのことだ。 |
フィリップ | それにマークがカレイドスコープの元へ向かっているから、僕もこれ以上カレイドスコープからは離れられない。 |
フィリップ | セシリィを捜して助けるには歴戦の勇士である鏡映点の皆さんに協力を仰ぐしかないんだ。 |
フィリップ | こちらは兵力を削がれてしまっているからね。期待していますよ。 |
エル | 話、終わった ? メガネのおじさんがどこにいるかわかったんでしょ ?急ごうよ ! |
ルドガー | そうだな。行こう ! |
キャラクター | 7話【3-11 精製所近くの街道1】 |
ルドガー | ――あれがキラル純結晶の精製所か。 |
コレット | うん。前にカレイドスコープが故障した時にあの精製所でリタが部品の修理をしたんだって。 |
ロイド | あの時は大変だったんだぜ。みんなで手分けして材料集めてさ。俺なんて――っと、そんな話より、ユリウス探さなきゃな。 |
ルドガー | もう建物内部に侵入してる可能性もある。その場合は内部潜入と外で待機の二手で―― |
エル | ねえ、ルルがいない ! |
ルドガー | あれ…… ? さっきまでここにいたのに。おい、ルル ? |
ルドガー | そこにいるのか、ルル ? おいル―― |
ルル | ナァ~ ! |
ルドガー | ルル……と、兄さん ! ? |
ユリウス | ……鳴き声を聞いてまさかとは思ったが、お前、ルルを連れて来たのか。 |
ルドガー | 兄さん、無事でよかった ! |
ユリウス | やはり追って来てしまったんだな。……ルドガー、実は少し面倒なことになりそうなんだ。お前は戻って―― |
エル | あーっ、ルルいた !それにメガネのおじさんも ! |
ユリウス | エルも一緒なのか ! ? |
エル | そうだよ。メガネのおじさんいつまでたっても帰ってこないんだもん。だからさがしに来たの。 |
ユリウス | いや、それにしたってこんな所まで……。ルドガー、これはどういうことだ。 |
ルドガー | 説明するよ。その後でいいから、兄さんも何があったのかちゃんと話してくれ。 |
ユリウス | ……わかった。 |
ユリウス | ――なるほど。それで俺を連れ戻しにきたのか。 |
ルドガー | ああ。俺たちにアスガルドへくるなって手紙に書いてあったのは、クルスニクの件が絡んでいたからだったのかもしれない。 |
ユリウス | やはり手紙を持ってきた少年は、敵ではないようだな。それと――君たちにも迷惑をかけた。 |
ロイド | 俺たちは好きでついてきたんだ。迷惑なんて思っちゃいないよ。 |
ルドガー | で、今はどういう状況 ?セシリィっていう魔鏡技師はここにいるのか ? |
ユリウス | 少し前に、少女を連れたアスガルド軍が施設に入っていった。だが彼女が技師なのかどうかはわからない。 |
ユリウス | ……それと、陣頭指揮を取っていたのは、イクスにそっくりな男だった。信じられないかもしれないがな。 |
ルドガー | イクス ? だってイクスは……。 |
ロイド | そうだぜ。あの魔鏡なんとかって奴の中にいるんじゃないのか ? |
コレット | 魔鏡結晶だよ。だからミリーナ、あんなに悲しんでるんだもん。 |
ミラ=マクスウェル | 見間違いじゃないのか ? |
ユリウス | 俺は今まで、似て非なる物を探す仕事を山ほどしてきた。姿だけなら、イクスに間違いないと断言できる。 |
ユリウス | ただ、あの男にはイクスのような穏やかさがなかった。 |
ユリウス | ここがティル・ナ・ノーグの分史世界なら、俺は間違いなく彼を『時歪の因子』だと思っただろうな。 |
ルドガー | …………。 |
ユリウス | どっちにしろ、中に入らなければ魔鏡技師の所在もその男の正体もわからないということだ。 |
ルドガー | そうだな。よし、潜入しよう。とりあえず、ミラはエルと一緒に外で待機していてくれるか ? |
ミラ=マクスウェル | ああ。エルは私が守ると言ったからな。責任は必ず果たそう。 |
エル | ……ねえ、すぐに帰ってくるよね ? |
ルドガー | もちろん帰ってくるさ。安心して待っていてくれ。 |
エル | メガネのおじさんも、ちゃんと返事して。 |
ユリウス | え…… ? |
エル | だってエルたちは、メガネのおじさんが心配だから迎えにきたんだよ。だから……いっしょに帰ろ ? |
ユリウス | ……そうだな。帰るよ。みんな一緒に、だ。 |
ルドガー | それじゃ、兄さんと俺、ロイドは中に―― |
ロイド | なんだ、今の音。 |
ユリウス | ……精製所の裏口からだな。 |
コレット | 誰か来るよ ! |
少女 | ねえ、大丈夫 ? 辛くない ? |
金髪の男 | へい……き……だ……。 |
少女 | 無理しないで、私が支えるから。ほら、よりかかって ? |
ルドガー | ……女の子 ?金髪の男は具合が悪そうだな。 |
ユリウス | ――あれは……さっき連れられて来た子だ ! |
アスガルド兵 | 貴様ら止まれ !脱走はそれ相応の処罰が下るぞ ! |
金髪の男 | う……。 |
少女 | ―― !しっかりしてっ ! |
アスガルド兵 | 馬鹿が、無駄なことをするからだ。手間をかけさせやがって、この―― |
エル | あぶない ! |
アスガルド兵 | ――誰だ ! |
ミラ=マクスウェル | ――シルフ ! |
アスガルド兵 | うわああっ ! なんだっ、この風は ! |
ミラ=マクスウェル | ルドガー、すまないが、もう潜入は難しいかもしれないな。彼女たちを見捨てておけなかった。 |
エル | 違うよ ! エルが声出したからかばってくれたんでしょ ?ごめんなさい……。 |
ロイド | 気にすんな。ちょうどあの時、俺も飛び出そうと思ってたんだ。 |
ユリウス | ……仕方ない。行くぞ。この騒ぎだ、すぐに他の兵士が来る。 |
ルドガー | わかってる。今のうちにあの子たちを助け出そう。 |
キャラクター | 9話【3-14 入組んだ街道2】 |
エル | 痛いよ、はなしてよ !こんなことして、あなたなんてすぐ捕まえられるんだからねっ ! |
エル | ルドガーだって、メガネのおじさんだってこっちのミラだって !みんなみんな――強いんだから ! |
リチャード ? | うるさい ! これ以上騒ぐと――……ぐっ……。 |
リチャード ? | ……こん、な……とき……に……うっ………あああっ ! ! |
エル | ! ? |
エル | え…… ? |
リチャード ? | ………。 |
エル | ねえ、どうしたの ?さっきみたいにエルを騙そうとしてるんだよね ? |
リチャード ? | ………。 |
エル | えっと……誰か呼んでくる ! |
エル | ――あっ ! |
ミトス | どこに行くの ?こんな場所、一人だと危ないよ。 |
エル | ……あなた、だれ ? |
ミトス | ボクと一緒においで。安全な所へ連れていってあげる。 |
エル | それよりも、あの人見てあげてよ。具合悪いみたいなの。エルのことはいいから ! |
ミトス | そう、優しいね。人間の割には。でもちょっと面倒だから――少し眠ってもらうよ。 |
エル | ……あ……あ、れ ?何だか……ねむ……―― |
ミトス | さてと。面倒をかけてくれたね、チーグル。おかげで―― |
ロイド | ルドガー、本当にこっちだったのか ! ? |
ルドガー | 間違いない。エルの声がした ! |
ルドガー | エル ! ? |
ミトス | それ以上近づかない方がいいよ。この子のためにもね。 |
ロイド | ―― ! お前……ミトス ! |
ミトス | ……やぁ、ロイド。久しぶり、かな ?異世界でも出会うなんてホント笑っちゃうね。 |
ロイド | どういうことなんだ ?救世軍に協力していたんだよな ?今もそうなのか ? |
ロイド | お前は何をしようとしてるんだ ?ここにはハーフエルフへの差別はないんだろ ? |
ミトス | 別に、お前に話すようなことじゃない。 |
ロイド | 俺は聞きたいんだ !お前に聞かなきゃならないことは元の世界にいたときからたくさんある。 |
ミトス | ――おっと。お前の仲間はそうじゃないみたいだけどね ? |
ユリウス | ――チッ ! ! |
ミトス | 甘いよ。小賢しいメガネのおじさん ? |
ユリウス | 小賢しかろうと何だろうと、手段を選んでいられない時があるんでな。その子を返せ ! |
ミラ=マクスウェル | ……ロイド、お前の知り合いだろうが、私は戦うぞ。エルとの約束を守らねばならない ! |
ロイド | ……わかってる。 |
ロイド | ――なぁ、ミトス !話してくれないか ?お前が何をしようとしているのか。 |
ミトス | ……輝く御名の下、地を這う穢れし魂に裁きの光を雨と降らせん。 |
ミラ=マクスウェル | ――来るぞ ! |
ミトス | 安息に眠れ、罪深き者よ。――ジャッジメント ! ! |
ルドガー | うわあああっ ! |
ユリウス | ――ぐっ ! |
ミラ=マクスウェル | くっ、なんだ……この威力は……。 |
ミトス | さすがにこれ一発で沈むほど弱くはなかったね。続ける ? 異世界のマクスウェル ? |
ミラ=マクスウェル | ああ、聞くまでもない ! |
ルドガー | ……くっ、この世界でも【骸殻能力】が使えれば―― |
セシリィ | ! |
コレット | ……セシリィ。ここに隠れてて。やっぱり私も行かないと―― |
セシリィ | ――ううん。私も……私が行かないと飛天のミトスには勝てない。 |
コレット | セシリィ ! ? 待って ! ? |
セシリィ | ――ルドガーさん、この魔鏡を試してみて ! |
ルドガー | これは…… ? |
セシリィ | この魔鏡はクロノスの力を帯びているの。うまくいけば、クルスニク一族の力を使うことができるはず ! |
ルドガー | クルスニクの……まさか ! ? |
ミトス | やぁ、セシリィ。きみはそっちに付くんだね。だったら――残念だけど、さよならだ。 |
セシリィ | ――ルドガーさん ! 試して !【骸殻】を ! |
キャラクター | 10話【3-14 入組んだ街道2】 |
ミトス | へぇ、あれがクルスニクの力、か。 |
ルドガー | まだ駄目か……。もっと、もっと力が引き出せれば―― |
ユリウス | 待てルドガー ! |
ミラ=マクスウェル | ルドガー、エルは取り返したぞ !君が奴を抑えてくれたおかげでな。 |
ミトス | ……うん、そうだね。きみたちはエルを、ボクは彼――チーグルを回収して手打ちにした方がいい。 |
ミトス | きみも気づいたんじゃない ?クルスニクの力がボクに対しては上手く作用しないのを。 |
ルドガー | …… ! |
ミトス | その能力、エターナルソードの力に似ているね。時間にまつわる力のせいか互いの力を吸収し合ってしまう。 |
ミトス | だからこそデミトリアスの興味を引いたのかな。 |
ルドガー | デミトリアス……国王が ? |
ミトス | 正しくは、お前たちクルスニクのアニマに刻まれた『分史』という概念にね。ボクは興味ないけど。 |
ロイド | ミトス、お前…… ?どうして俺たちにそんな話を―― |
ミトス | 痩せた野良犬を見たらエサの一つでもあげたくなるものでしょう ? |
ミトス | ――さて、チーグルは連れて行くよ。 |
ロイド | ミトス……。 |
エル | ん……あ…… ? |
コレット | あ、エルが目を覚ましたよ ! |
エル | ルドガー…… ?あれ ? エル、どうなったの ? |
ルドガー | ミラが助け出してくれたんだよ。みんなもここにいる。体、何ともないか ? |
エル | うん、大丈夫 !こっちのミラも…あ、ありがと。 |
ミラ=マクスウェル | 約束だからな。お前が無事でよかった。 |
ユリウス | ……エル、本当になんともないか ?体の痛みや、違和感や―― |
エル | へーきだってば。メガネのおじさんはシンパイショーだね。 |
ユリウス | ルドガー、お前は ? |
ルドガー | だ、大丈夫だよ。どうしたんだ兄さん。 |
ユリウス | いや、何ともないならいいんだ……。それにしても、どうして骸殻化できた ? |
ルドガー | ああ、この魔鏡を使ったんだよ。――あれ ? 割れてる…… ? |
セシリィ | ミトス……さんの持つ剣の力を受けて割れちゃったのね。それは試作品だから。 |
セシリィ | その魔鏡は、精霊クロノスの力を帯びていたんです。 |
ユリウス | やはりこの世界のクロノスは……。 |
セシリィ | はい。すでに封印から目覚めています。 |
セシリィ | この世界の精霊が目覚めると、鏡映点によって持ち込まれた異世界の精霊は同種の存在と融合して、集合体になります。 |
セシリィ | それでこの世界の精霊クロノスもクルスニク一族のあなたたちに影響を及ぼすものになっているの。 |
セシリィ | だからこそその力――骸殻が使える。 |
セシリィ | もし必要なら、ルドガーさん用にオーバーレイ魔鏡を造りますよ。 |
セシリィ | 今はその試作品と違って、もっと安定した加工技術を開発しましたから。あ、色々と材料は必要になっちゃうけど……。 |
ユリウス | なぁ、この魔鏡を使って骸殻化することで使用者に影響はないのか ?力の限度や、その……代償のようなものは。 |
ルドガー | 代償 ? |
セシリィ | ああ……。はい、理論的には問題ないです。 |
セシリィ | エルさんは特異鏡映点なので時間の歪みエネルギーはエルさんの体からこの世界を取り巻く虚無へ吸い込まれる。 |
ユリウス | そうか、問題はないのか。本当にそうなら、どうにか……。 |
セシリィ | ただ、物事に100%はありません。だから今後もこの力を使うのなら、限定的な使い方をした方がいいと思います。 |
ルドガー | ――代償って何のことだ ? |
セシリィ | …………。 |
ユリウス | あ、ああ。魔鏡での骸殻化だからな。俺たちの世界と、何か違う影響がでるんじゃないかと思っただけだ。 |
ルドガー | ……兄さん。 |
ユリウス | ルドガー、後でゆっくり話す。だから今は少し……時間をくれないか。 |
ルドガー | ……わかったよ。 |
フィリップ | ――セシリィ。よかった。無事だったようだね。 |
セシリィ | フィリップさん ! ?もしかしてフィリップさんが、私を助けるように頼んでくれたの ? |
フィリップ | ああ。でも彼らの助力がなければ到底かなわなかった。皆さん、ありがとうございます。 |
ルドガー | いや、俺たちもセシリィに助けられたんだ。セシリィを迎えにきたんだろ ? |
フィリップ | そのことだけど。セシリィ。彼ら鏡映点と共に、ミリーナを支えてやってくれないかな。 |
セシリィ | えっ、私が ? |
フィリップ | 君ほどの技師ならば、ミリーナの大きな力になれる。それにルドガーたちクルスニク一族にも、君は必要だと思うよ。……嫌かな ? |
セシリィ | まさか ! それどころか私、助けてもらったのに何もお礼をしてないから力になれるならすごく嬉しいけど……。 |
ルドガー | 俺は賛成だよ。ミリーナもきっと喜ぶ。 |
ミラ=マクスウェル | 私も異論なしだ。精霊の件も詳しく知りたいしな。 |
ロイド | 俺も賛成。ルドガーたちのためにもなるんだろ ? |
コレット | わあ~、仲間が増えたね ! |
エル | なんかわかんないけど、エルもさんせー ! |
ルル | ナァ~ ! |
エル | ルルもだって ! |
フィリップ | そうか、よかったよ。受け入れてもらえそうだね。 |
セシリィ | ありがとうございます ! |
ルドガー | よし、帰ろうか。兄さんを迎えに来て随分寄り道したからな。 |
エル | そーだね !メガネのおじさん、今度は一人でどっかいっちゃだめだよ。 |
ユリウス | あ、ああ。それなんだが、エル。おじさんというのはそろそろやめてくれないか ? |
ユリウス | 俺はまだ20代なんだが……。 |
ルドガー | 兄さん……。気にしてたんだな。 |
エル | おじさんって、嫌だったの ?ごめんね ? |
ユリウス | いや、謝られると面はゆいんだが。 |
エル | わかった ! これからはユリウスって呼ぶね。 |
エル | ユリウスは何かあったら、エルやルドガーにちゃんと話してからコウドウすること !はい、目を見て ! 約束 ! |
ユリウス | ……はは、エルにはかなわないな。わかった。約束するよ。 |
キャラクター | 11話【3-15 アジト近くの街道】 |
ロイド | ふぅ。やっぱりアジトは落ち着くな。 |
コレット | ……フィリップさんも一緒に来ればよかったのにね。 |
ロイド | あの人、いつの間にかいなくなってたな。 |
ルドガー | ――エルを休ませてきたよ。 |
ロイド | 無事でよかったよな。そういや、ミリーナは ? |
ルドガー | ああ、どうもセールンドに行ってるらしいんだ。俺たちがいない間になんだか色々起こってるみたいで……。 |
ルドガー | 他のみんなもかなり忙しそうだったよ。 |
ユリウス | すぐにでもお前の魔鏡の件を相談したかったんだが……仕方ないな。俺たちはここでしばらく待とう。 |
ユリウス | それにしても驚いたよ。君がガロウズの弟子とは。 |
セシリィ | ガロウズ師匠には色々と教えてもらいました。でも、行方不明だなんて……。 |
セシリィ | 手がかりとか全然ないんですか ? |
ルドガー | ……まだ何も。 |
セシリィ | そうですか……。でも、ガロウズ師匠は絶対に帰ってきます ! |
セシリィ | それまで私、魔鏡技師としてここで頑張りたいです。あ、師匠には及ばないかもですけど。 |
ルドガー | そんな心配ないさ。それに優秀だから帝国もセシリィをさらったんだろうし。 |
セシリィ | ……私が捕まったのは、ビフレスト皇国の魔鏡技術を研究していたからじゃないかな。帝国がその技術を欲しがっていたから―― |
カーリャ | ルドガーさま !ミリーナさまが帰ってきました ! |
ミリーナ | オーバーレイ魔鏡……。これは……ビフレストの魔鏡技術ね。 |
セシリィ | はい。アニマに宿る過去や未来の可能性を一時的に具現化して、使用者を包むことで潜在能力を引き出し、倍増させる魔鏡です。 |
ミリーナ | イクスのオーバーレイは今現在の力を持続的に重ね合わせる技だったけれどこれは過去や未来すらも重ねるなんて……。 |
コーキス | 確か異世界から具現化されたものはエンコードによって、この世界に合わせて情報が調整されているんですよね。 |
ミリーナ | ええ、そうよ。でもそのせいで鏡映点の人たちの中には本来の能力が抑えられている可能性がある。 |
コーキス | じゃあオーバーレイ魔鏡でそれを解放できるってことなんですね ! ? |
ミリーナ | そういうことになるわね。 |
ミリーナ | しかも鏡士ではない人にオーバーレイを制御できるように加工するなんてとても高い技術だわ。 |
セシリィ | でも、その代わり時間的な制限があります。長時間は使えません。 |
ロイド | はー、なんかよく分かんねーけどオーバーレイ魔鏡ってすげぇんだな ! ?俺も試してみてぇ ! |
セシリィ | その為にはロイドさんのアニマに秘められた力が、何を触媒にして目覚めるのかを見つけないといけませんね。 |
ロイド | しょくばい ? 何だそれ ?――っていうか、敬語なんかで話さなくてもいいよ。 |
ロイド | 俺たちにもフィリップと話してた時みたいにしてくれていいんだぜ。 |
セシリィ | あ……う、うん。そうだね。これから仲間になるんだもんね。 |
セシリィ | えっと、それで触媒っていうのはきっかけみたいな物のこと。 |
セシリィ | ルドガーさんの場合は精霊クロノスの力を帯びた魔鏡が、ルドガーさんのアニマから過去や未来に起こりえた力を引き出したの。 |
ロイド | ……んー ? つまり力を増幅するきっかけが何かわかれば、俺もオーバーレイしてすげぇ力が出せるんだな。 |
ロイド | すげぇ ! イクスとかルドガーみたいに俺も格好良く変身してぇ ! |
ミリーナ | …………。 |
ルドガー | 大丈夫か、ミリーナ。帰って来たばかりで疲れているのにごめんな。 |
ミリーナ | あ、違うんです。ルドガーさんたちの話には気になることがたくさんあって……。 |
ミリーナ | ねえセシリィ。フィル……フィリップのことなんだけど―― |
カーリャ | ミリーナさま。お話中ごめんなさい ! |
カーリャ | クレスさまたちが戻られたんですけどジュードさまを呼んでくれって…… ! |
ミリーナ | 皆さん、無事ですか ! ?誰か怪我でも―― |
クレス | ミリーナ、僕らは大丈夫だよ。――さあ、チェスター、こっちへ。 |
セシリィ | え、チェスター ! ? |
チェスター | お前、セシリィか !なんでここに……いや、ちょうど良かった ! |
チェスター | なあ、お前ならこいつを助けられるんじゃないか。 |
セシリィ | ちょ、ちょっと待って。いきなりで頭が追いつかないよ !この子、誰なの ? |
チェスター | アミィ。オレの……妹だ。 |
ミリーナ | 妹さん ?妹さんも具現化されていたんですか ? |
ミリーナ | ――あ、でもチェスターさんの妹さんは確か……。 |
クレス | うん……。 |
チェスター | 頼む……とにかく診てやってくれよ。 |
セシリィ | ええ ? 私は魔鏡技師でお医者様じゃないよ ? |
チェスター | んなこたぁわかってる !ジュードが来たらあいつにも診てもらうさ。けど、多分お前の方が適任だと思うんだよ ! |
アミィ | …………。 |
セシリィ | ……わかった。アミィ、ちょっと触るね。痛いとか苦しいとか、何でも言って ? |
アミィ | …………。 |
セシリィ | うーん……。ずっと笑顔だから苦しいっていうわけじゃないのかな。外傷もみあたらないし……。 |
アミィ | …………。 |
セシリィ | ねえ、待って。……笑顔……だけ ? |
チェスター | ……ああ、ずっとだ。ずっとこいつは――このままだ。具現化されたときからずっと……。 |
クレス | チェスター……。 |
チェスター | 頼むよ……なんとかしてやってくれ。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【4-1 ひとけのない草原】 |
マーク | ……おい、シンク。そんなに腹を立てなくてもいいだろうよ。あの場でミリーナを殺させる訳には―― |
シンク | アンタたちに協力してたのは、ボクをこんな馬鹿げた死者の国に呼びつけた鏡士たちを殺させてくれるって約束だったからだ。 |
フィリップ | それはマークの独断だね。 |
マーク | ……悪かったよ。あんたにとってはそれが一番なんじゃないかって……あの時まで――いや、今だって……。 |
フィリップ | ………………。 |
フィリップ | ……シンク。全て話しただろう。全ての元凶はゲフィオンと僕だ。 |
フィリップ | この世界を一度は滅ぼし具現化で甦らせようとして異世界の人々までをも巻き込んだ。 |
フィリップ | 恨むなら僕とゲフィオンだ。 |
シンク | 同じことさ。ゲフィオンとあの黒衣の鏡士はお仲間だろ。レプリカとオリジナルみたいなものだ。 |
フィリップ | ……シンク。具現化した存在は……似て非なる者だ。 |
フィリップ | 運命の分岐点から違う道を歩む自分の可能性……それが具現化された存在――リアライザーだと僕は思うよ。 |
シンク | 勝手に分岐点に放り出しておいてよくそんな上から目線で話せるね。さすが鏡士サマはお偉くていらっしゃる。 |
マーク | なぁ、シンク。お前の前にニンジンぶら下げたのも取り上げたのも俺だ。 |
マーク | フィルを責めないでくれ。 |
シンク | ご主人様には忠実なんだね。 |
マーク | そりゃそうだろ。俺はフィルの鏡精だ。 |
シンク | …………。 |
フィリップ | その時が来たら、僕を殺せばいい。でも今は―― |
シンク | 偽善者だね。まぁ、いいさ。マークに免じてもう少しだけ救世軍に付き合ってやるよ。 |
シンク | それで、今はどうなってるのさ。 |
フィリップ | ミリーナの仲間が魔鏡技師のセシリィを助け出したのは知っているね。 |
マーク | ……そうか。だったら、ガロウズも今度は大人しく言うことを聞きそうだな。 |
シンク | セシリィがいるから帝国を出られないって言ってたんだっけ ? |
フィリップ | ああ。ガロウズが戻ってくれればケリュケイオンをもう一度動かすことができるだろう。 |
シンク | へぇ、あの女のお古なら何でも欲しいんだ ? |
フィリップ | ミリーナとゲフィオンは違う人間だよ。 |
シンク | でも、直接会うのが怖いんだろ ?口ではそんな風に言ってても同一視してるんだよ、アンタは。 |
ゼロス | 何だよ、またやり合ってんの ?つれないねぇ、シンくんは。 |
シンク | その呼び方やめてくれない、バカ神子。 |
ゼロス | せめてアホ神子にしといてくれよ。 |
フィリップ | ゼロスさん。アルヴィンとシャーリィは ? |
ゼロス | 俺さまたちのアジトに置いてきた。アルヴィンもシャーリィちゃんの護衛役なら丁度いいだろうと思ってな。 |
シンク | へぇ。あの裏切り者、目を離して大丈夫なの ? |
ゼロス | ……まぁ、心配するのもわかるが、あいつはあれでも罪悪感でいっぱいいっぱいになってるように見えるけどな。 |
ゼロス | 苦労はしたんだろうが根はお育ちがいい坊やなんだろ、きっと。 |
マーク | 元々あんたたちが雇ってこっちに送り込んできた傭兵なんだ。奴を信じようが信じまいが勝手にしてくれ。 |
マーク | フィルを助けてくれたことには感謝してるけどな。 |
ゼロス | それよか俺さま、どっちかっていうとシャーリィちゃんの方が気になるけどな。あからさまに何か隠してるし。 |
フィリップ | きみが女性を敬遠するのは珍しいね。 |
ゼロス | 嫌って訳じゃねぇよ。ただ、得体が知れねぇっつーの ? |
ゼロス | あれは鏡映点とかストレンジャーじゃなくてリビングドールなんじゃねぇか ? |
フィリップ | どうかな。それとも違うように感じるが……。 |
フィリップ | それよりゼロスさん丁度いいところに来てくれた。 |
フィリップ | シンクと一緒にアスガルド帝国の帝都に向かってくれないか。一時的にで構わない。手を貸して欲しい。 |
シンク | 冗談だろ ? バカ神子と一緒に動けっての ? |
フィリップ | ゼロスさんは僕の命の恩人だよ。そんな風に言うのは感心しないな。 |
フィリップ | それに単独行動よりは安全だと思うけれどどうだろう。マークが無理なのはわかっているよね ? |
ゼロス | ……首に縄つけられたワンコロだもんなぁ。 |
マーク | 悲しき鏡精の身ですから。ご主人様をおいて遠くへは行けませんってね。 |
フィリップ | シンクとゼロスさんには帝都にいるガロウズを連れてきて欲しい。 |
フィリップ | 確かクラトスさんがデミトリアス陛下の件で潜入している筈だから、合流するといい。 |
ゼロス | まーたあのおっさんとかよ。あーあ。綺麗なおねーちゃんの仲間とかできねぇかな。 |
シンク | ――くだらないね。ボクは一人で行く。ゼロスがついてきたいなら勝手にすれば。 |
ゼロス | へいへい、勝手にさせて頂きますとも。シンク坊や。 |
マーク | 大丈夫かね、あの二人は。 |
フィリップ | ――マーク……自由に動きたいか ? |
マーク | ……言っても仕方ないことだろ。それが鏡精だ。 |
フィリップ | ……ごめんよ。 |
マーク | 何だよ、それ。そんなことより気弱な顔すんなって。ほら、笑えよ。 |
フィリップ | ………………。 |
マーク | やれやれ……。 |
キャラクター | 2話【4-2 地下通路 薄暗い道】 |
ルーク | ルカたち、無事にアジトへ行けたかな。 |
クレス | スレイたちも一緒の筈だから大丈夫だと思うよ。 |
ユーリ | それより自分たちの心配をした方がいいかもな。 |
ルーク | へ ? なんで ? |
ユーリ | ルカがどんな立場で戦士の館とやらにいたのか知らねぇが、単なるお客さんだったなんてことはねえだろ ? |
クレス | 囚われの身だったなら、追っ手がこの通路にまで来ている可能性はあるね。 |
ルーク | あー、そりゃそうだな。今んとこ魔物以外、特に遭遇してねぇけど帝国の兵士が来る可能性もあるのか……。 |
クレス | ルークは人間を相手に戦うのはちょっと苦手みたいだね。 |
ルーク | ん ? まぁな。……足引っ張らないようにしてるつもりだけど、やっぱわかっちまうのか。 |
クレス | いや、足手まといなんてことはないよ。ただ、無理をする必要はないってことかな。 |
ユーリ | だな。人間にゃ向き不向きってもんがある。 |
ルーク | いや……大丈夫。 |
ルーク | それにしてもアスガルド帝国ってはぐれ鏡映点を集めて何をするつもりなんだろうな。 |
ユーリ | さーてねぇ。セネルたちが集めてきたのははぐれ鏡映点らしき連中を、帝国が片っ端から捕まえてるって話だけだからな。 |
クレス | 同じタイミングでチェスターから届いた手紙には、何人かの特異鏡映点が帝都にある【戦士の館】に捕らえられているとあった。 |
ルーク | ……つまり帝国は、はぐれ鏡映点を集めてその中に特異鏡映点がいないか調べてるってことか ? |
クレス | 今のところはそう考えるよりなさそうだね。チェスターの手紙にも詳しいことは書いていないし……。 |
クレス | ただ、本当にそれだけなのかは疑わしいよ。すぐに帝国に囚われた特異鏡映点を助けて欲しいなんて書いてくるなんて。 |
ユーリ | しかもルドガーたちを帝国に入れるな、ときた。 |
クレス | ルドガーたちは、同じ鏡映点でも何か僕たちとは違う部分があるのかもしれないね。 |
ルーク | 違う部分か……。この世界で言うところの【アニマ】ってのに違いがあるのかな。 |
ユーリ | 珍しく頭使ってるとこ悪いんだがこの辺じゃねえか ? |
ユーリ | チェスターの手紙にあった秘密の出入り口っての。 |
クレス | ……そうみたい、だね。 |
クレス | ――うん。壁に偽装しているけど扉がある。開けてみよう。 |
ユーリ | 動かねぇみたいだな。 |
クレス | ルカのことがあってからこの出入り口を封じたのかも知れないね。 |
ルーク | マジかよ。どうする ?別の出入り口がないか探してみるか ? |
ユーリ | まぁ、ここで引き返しても仕方ねぇしな。ちょっくらその辺探してみるか。 |
アスガルド帝国兵A | 特異鏡映点亜種01か ! ? |
アスガルド帝国兵B | ――違うな。お前たちは何者だ ! ? |
クレス | まずい……。 |
アスガルド帝国兵A | 怪しい奴らめ ! 捕まえろ ! |
キャラクター | 3話【4-2 地下通路 薄暗い道】 |
ルーク | くそ ! いったん出直すか ? |
クレス | いや。チェスターがこのタイミングで来いと言っている以上出直すのはチェスターが危険になる。 |
ユーリ | だが帝国の連中がうろついてるとなると―― |
クレス | 誰だ ! |
クラトス | ――敵ではない。こちらへ来い。身を潜める場所がある。 |
ユーリ | ついていったらブスリ……なんてことはないよな。 |
クラトス | そのつもりがあれば声をかける前に斬っている。 |
ルーク | あれ……あんた……。 |
クレス | ルーク、知り合いか ? |
ルーク | あ、いや……。そういう訳じゃないけどどこかで見たような……。 |
ユーリ | それより増援が来るぞ。戦うってなら大歓迎だがそれでいいのか ? |
クレス | よし、ついていこう。 |
ユーリ | ……帝国の奴ら、いなくなったみたいだな。 |
クレス | ありがとうございました。おかげでやり過ごせました。あなたは一体―― |
クラトス | 私はクラトス。雇われの傭兵だ。 |
クラトス | 今は雇い主の希望で、アスガルド帝国の皇帝を自称するようになったデミトリアスについて調べている。 |
ルーク | クラトス ! ?そうか、クラトスってあんたのことか ! |
クレス | やっぱり知り合いなのかい ? |
ルーク | ほら、ロイドが言ってた、前に北の監獄で助けてくれたロイドの仲間だよ。ロイドの親父さ―― |
ユーリ | ……ああそういやそんなことも聞いたかな。 |
クレス | ロイドのお父さんなら僕らと一緒に来ませんか ? |
クラトス | いや、私も仕事を請け負っているのでな。遠慮させてもらう。 |
クレス | そうですか……。 |
ユーリ | それにしても【傭兵】ね。傭兵って聞くとうさんくさい奴の顔が浮かんでくるけどお仲間かい ? |
クラトス | 誰のことを言っているかわからぬが現時点ではお前たちと敵対するつもりはない。 |
ユーリ | へぇ……。だったら当然雇い主の名前も―― |
クラトス | 言えないな。 |
ユーリ | 鏡映点の傭兵を雇う奴なんてのは限られてるけどな。 |
クラトス | お前たちの目的は、戦士の館に潜入することだろう。ならば私の雇い主が誰であろうと問題なかろう。 |
ユーリ | 随分こっちの情報に詳しいな。 |
クラトス | 戦士の館に続く隠し通路で騒いでいれば見当はつく。 |
ユーリ | そうか。そいつは失礼。てっきりこっちの様子が気になって遠回しに調べ回ってるのかと思ってね。 |
クラトス | 必要とあれば調べるが今はその必要性はない。 |
クレス | ……あの、デミトリアス陛下が皇帝を自称するようになったというのはどういうことですか。 |
クレス | あの人はセールンド王国の国王ですよね。 |
クラトス | ……デミトリアスがアスガルド帝国を復活させると宣下したことは知っているな。しかしアスガルド帝国は滅びて久しい。 |
クラトス | また帝室に連なる一族は絶えていると聞く。そこでデミトリアス自身が皇帝に名乗りを上げたということだ。 |
クラトス | 幸か不幸かこの世界は具現化によって再生された。具現化された鏡映点ではない人々の記憶や意思は、曖昧模糊としている。 |
クラトス | 比較的たやすく帝国への帰属意識に目覚めたのだろう。 |
クラトス | おそらくファントムによる最後の一斉具現化の際にも何か記憶の操作が行われただろうしな。 |
クラトス | おかげで、今やこの世界の9割はアスガルド帝国の支配下にある。 |
ルーク | 鏡殻変動からまだ一ヶ月しか経ってないのにそんなことになってるのかよ ! ? |
ユーリ | 帝国に皇帝ね……。やっぱりそういうのは好きになれねぇな。 |
クレス | デミトリアスの目的は何なんだろう……。 |
クラトス | 私は具現化されたときからデミトリアスの動きが気になり、密かに調査を続けていた。 |
クラトス | どうもデミトリアスはダーナの予言に関する資料を集めさせているようだ。 |
ルーク | 予言……って預言(スコア)みたいなもののことだろ……。 |
クラトス | ……案ずるな。ダーナの予言はお前の世界のように【絶対の未来】として存在するのではない。 |
クラトス | 可能性の未来視……とでも言えばいいか。それすら私には眉唾のように思えるがデミトリアスは深く傾倒しているらしいな。 |
クレス | ダーナの予言って確かこの世界の滅びについての予言ですよね。 |
クラトス | 魔鏡と鏡精が世界の滅亡に関わる……そういう内容のものであるらしい。 |
クラトス | 予言がどこまでの信憑性を持っているのかデミトリアスは予言をどうしたいのか――私はそれを調べている。 |
クレス | それが雇い主の目的でもあるんですね。 |
クラトス | ……そうだな。ところでお前たちの目指す戦士の館だが、この先の道を左に2回曲がるといい。 |
クラトス | 南棟の地下牢へ続くもう一つの出入り口がある。ではな。 |
ルーク | あ、ちょっと――って行っちゃったよ……。それにしてもどことなくロイドに似てたな。 |
ユーリ | そうか ?――それよりどうする ?この先にもう一つ入り口があるって奴。 |
クレス | 行ってみよう。このままだとチェスターが心配だ。 |
キャラクター | 4話【4-5 帝都イ・ラプセル 1】 |
| 帝都イ・ラプセル |
ゼロス | ――なぁ、ここアレだろ ? もともとオーデンセがあったところだよな ? |
ゼロス | 具現化ってのはおっそろしいねぇ。島だの建物だの、人まで造っちまうのか。 |
シンク | ファントムが開発していたもう一つのカレイドスコープの力だろうね。レプリカ以上のレプリカだよ。 |
シンク | 地獄さ、ここは。 |
ゼロス | あー、そういやお前の世界にもこういう技術があるんだよな。 |
ゼロス | ミリーナちゃんのとこにいるジェイドってのが開発したんだろ ?何でもコピーするフォミクリーって技術を。 |
シンク | あの死霊使いらしいね。鏡士のところに居候するなんて。不気味な力の開発者同士気が合うんだろ。 |
ゼロス | シンくんは、何にでも当たり散らしたい年頃なんだねぇ。 |
シンク | うるさいよ。文句があるならついてこなければいい。 |
ゼロス | いやいや、文句なんてねーよ。むしろ面白い。ただ一つ注文があるとすれば―― |
シンク | ――何 ? |
ゼロス | その仮面はちょっとなー。悪目立ちするんじゃねーの ? |
ゼロス | 俺さまもこの麗しい顔を隠すためのマスクは持ってるが、必要に迫られない限り付けやしないぜ。 |
シンク | ………………。 |
ゼロス | うぉっと、仮面越しにも感じる冷たい視線。へいへい、顔も隠したい年頃なんだな。ま、いいけどよ。 |
ゼロス | で、戦士の館とやらはどの辺りにあるんだ ? |
シンク | ――一番警備の厳重な中央区画らしいね。元々帝室の離宮だった場所を改装して使ってるって話だ。 |
ゼロス | 帝室 ? この島はオーデンセのあった海域に新しく具現化された島だろ ?たかだか一ヶ月程度で離宮を手放したのか ? |
ゼロス | ……いや、この街自体、新しく具現化されたものにしては作りが古めかしいな。使い込まれてるっていうか……。 |
シンク | アンタ、バカなフリをしてるけど、意外とまともな脳みそ持ってるんだね。 |
シンク | そうだよ。この島はかつてのアスガルド帝国の帝都をそのまま具現化した島なんだ。 |
シンク | フィリップの話じゃ、古の時代オーデンセ島にはアスガルド帝国の帝都があったらしい。 |
ゼロス | つまりここは大昔のオーデンセ島でもあるって訳か。 |
ゼロス | だが、具現化で遡れる時間には限界があるんじゃなかったか ? |
ゼロス | それに過去を具現化するってアプローチ自体は失敗したんだろ。 |
シンク | そう。それは変わっていない筈だ。 |
シンク | だから考えられるのは、ファントムが開発していたカレイドスコープは、奴が望んだ通りの機能が備わっていたって可能性さ。 |
ゼロス | 自分の理想を投影して具現化するカレイドスコープ、か。 |
ゼロス | 創造と想像の融合。フィリップとファントムが得意にしてる具現化技術だな。 |
シンク | ……バカ神子、兵士が来る。隠れるよ。 |
ゼロス | わかってる。あとバカ神子呼ばわりはやめろっつーの。 |
帝国兵A | ――怪しい奴らがいたようだったが……。 |
帝国兵B | 背格好はどうだ ?脱走した特異鏡映点亜種01は銀髪に大剣を持った少年だと言うことだが。 |
帝国兵A | いや、赤い髪の男とおかしな仮面を付けた細身の奴の二人組だった。戦士の館の関係者ではなさそうだな。どうする ? |
帝国兵B | 上にはあとで報告することにして巫女の隊列へ戻るぞ。 |
帝国兵B | 勝手に持ち場を離れたことがバレたら後で焔獄のリヒター様に叱られる。 |
帝国兵A | その呼び方もやめた方がいいぞ。お嫌いらしい。 |
帝国兵B | いや、しかし、ちゃんと二つ名付きで呼ばないと死神ディストにどやされるぞ。 |
ゼロス | ……行ったな。 |
シンク | ………………。 |
ゼロス | どうやら戦士の館で脱走があったらしいな。こいつはやっかいだ。きっと戦士の館の守りが堅くなってるぜ。 |
シンク | ……神殿へ行く。 |
ゼロス | ああ……あいつら巫女の隊列に戻るって言ってたな。ってことは―― |
ゼロス | 帝国の連中、例の女神ダーナを巫女の体に宿す【神降ろし】とやらをまだ続けてるってことか。 |
シンク | ああ。巫女は鏡映点の中から適正のある女が選ばれるらしい。鏡映点なら戦士の館に囚われている筈だ。 |
シンク | 巫女の隊列を利用すれば館の中に入れるかも知れない。 |
ゼロス | 巫女に女神を降ろす……か。どこの世界も似たようなことをやってやがる。 |
ゼロス | まぁ、ミトスが帝国側にいるならそういう発想にもなるか。 |
シンク | ああ、アンタの世界もそうだったね。あのミトスとか言うガキが、姉だか女神だかを神子の体に宿らせようとしてたとか。 |
シンク | アンタの世界も中々いい地獄加減って訳だ。 |
ゼロス | 否定はしねぇよ。ただ俺さまはお前と違ってあの世界のことは割と嫌いじゃないけどな。 |
シンク | ……フン。行くよ、バカ神子。 |
ゼロス | へいへい、烈風のシンク様。 |
シンク | ……言っておくけど気に入ってる訳じゃないよ、その呼び名。勝手に広められて、呼ばれ慣れただけでね。 |
ゼロス | センスの欠片もない仲間を持つと苦労するねぇ……。 |
シンク | 仲間 ? ボクらは共同体から外れたゴミクズ集団だよ。埃と埃がくっつくみたいに仕方なくつるんでただけだ。 |
シンク | アンタも似たようなもんだったんでしょ ? |
ゼロス | はぁ~、きっついこと言うねぇ。 |
ゼロス | ま、いいわ。さっさとやることやっちまおうや。 |
シンク | ……ああ。 |
キャラクター | 5話【4-8 ダーナ神殿 1】 |
| ダーナ神殿 |
ゼロス | 簡単に潜入できちまったなぁ。 |
ゼロス | 前に成り行きでシャーリィちゃんを助け出したことがあったからもっと警戒されてるのかと思ったけどな。 |
シンク | 代わりの器はいくらでもいるってことなんじゃない。 |
ゼロス | 嫌だねぇ、そういう考え。 |
ゼロス | ――おっ、あの祭壇で眠らされてる女の子超可愛いじゃねーの。綺麗な黒髪、綺麗なおみ足 ! |
シンク | ……静かにしろ。神官が来る。 |
神官 | ……駄目だ。ダーナ神は降臨されなかったようだ。 |
帝国軍兵士 | また失敗か……。せっかくアニマを受け入れやすい鏡映点が見つかったのに中々上手くいかないな。 |
神官 | 焔獄のリヒター様のお怒りを買わなければ良いのですが……。 |
帝国軍兵士 | あの方は大丈夫だろう。それより器の鏡映点を館に戻したい。 |
神官 | 棺の中にお戻ししておきます。 |
シンク | ……よし、奴ら祭壇から離れていった。 |
ゼロス | 棺か……。あの黒髪の美少女を助け出して代わりに棺の中に収まれば戦士の館に入れそうだな。 |
シンク | ――待った。祭壇の後ろに誰かいる。 |
クラトス | …………。 |
ゼロス | ! ! |
シンク | ……あいつ、アンタの仲間だっけ ? |
ゼロス | ああ、クラトスだ。目配せしやがった。合流しろってことかよ、くそったれが。 |
シンク | へぇ、アンタ、あの男が嫌いなんだ。 |
ゼロス | ――うるせぇな。それよりあいつと合流するぞ。 |
シンク | ――それで ? ボクたちを招き寄せて何をさせようってのさ。 |
クラトス | 祭壇にいるコハクという少女を助け出したい。手を貸して欲しい。 |
ゼロス | へぇ、あの子コハクちゃんって言うのか。 |
ゼロス | で、なんであんたがあの子を助けるんだよ。デミトリアスのことを調べてたんじゃないのか。 |
クラトス | デミトリアスの動きを知るためにはあの少女が必要不可欠だ。 |
クラトス | しかし今の状態では目を覚ますことはないだろう。助け出してフィリップに会わせる必要がある。 |
シンク | ――なるほどね。動けない空っぽの人形を抱えて戦うのは大変だから力を貸せってことか。 |
シンク | 丁度いい。ゼロス、アンタがクラトスと一緒にコハクを助けたら ? |
シンク | どうせアンタたちの体格じゃコハクが入っていた棺には入れないだろ。 |
クラトス | お前たちは、戦士の館に潜入するつもりだったのか。 |
ゼロス | ガロウズを助けろって言われてるからな。 |
クラトス | 先ほど、黒衣の鏡士の仲間が、戦士の館へ侵入しようとしているところに出くわした。彼らを陽動に使えるだろう。 |
シンク | 誰が潜入してるのさ ? |
クラトス | クレス、ルーク、ユーリだ。おそらく館の中でチェスターと合流するのだろう。 |
シンク | ルークがいるのか……。ちょっと面倒だね。まぁ、いざとなったら利用させてもらうよ。 |
ゼロス | 俺らはコハクちゃんを助け出してから戦士の館に行って、シンクをキャッチアップすればいいんだな。 |
クラトス | 神子――ゼロスも私も空を飛べる。建物の外にさえ出てくれればお前とガロウズを助けられるだろう。 |
シンク | へぇ、ホント便利だね、天使って。じゃあさっさとそこの女を連れてってよ。 |
ゼロス | 無理すんなよ、シンくん ! |
シンク | 殺すよ、バカ神子。 |
クラトス | 頼むぞ。 |
キャラクター | 6話【4-11 戦士の館 広間】 |
| 戦士の館 |
帝国兵 | よし、棺はそこに置け。 |
シンク | (……上手く潜入できたみたいだな) |
帝国兵A | 棺の中から器の鏡映点を出せ。 |
帝国兵B | 了解 ! |
シンク | ――残念だったね。器の鏡映点じゃなくてさ ! |
シンク | (……この兵士たちは縛り上げておけばいいとしてガロウズの居所を見つけないとね) |
シンク | (……何だ、今の音は ? ) |
ルーク | やべ ! ツボ落としちまった ! |
ユーリ | おいおい、オレたちは敵のアジトに潜入してるっての、忘れないでくれよ。ルーク坊ちゃん。 |
クレス | いったんそこの部屋に隠れよう ! |
三人 | ! ? |
シンク | ――随分間抜けな侵入者だね。 |
ルーク | シンク ! ? な、なんでお前がここに―― |
クレス | ルークの仲間かい ? |
ユーリ | ……って訳じゃないみたいだぜ。見ろよ、ルークの顔。鏡映点ではあるんだろうがな。 |
シンク | 察しのいいのがいると助かるね。 |
ユーリ | 帝国の連中を縛り上げてるんだ。オレたちと立場は同じようなもんだろ ? |
シンク | ああ。そっちはチェスターを捜してるところでしょ。 |
シンク | こっちもこの館に詳しい人間を捜してるんだ。ここはいったん手を組むってのはどう ? |
ルーク | シンク……お前の目的は何だ ? |
シンク | 一応言っておくけど、今のところ総長が具現化されたって話は聞かないよ。 |
ルーク | ………………。 |
シンク | ボクは……そうだな、強いて言うなら救世軍の所属ってところさ。アンタたちとやり合うつもりはない。 |
クレス | ユーリ、ルーク、どう思う ? |
ユーリ | 嘘をついてるって感じはしねぇな。もっとも信用できるかってのはまた別の話だ。 |
ルーク | シンクが俺たちをどうにかするつもりならこの部屋に入った段階で仕掛けてくると思う。 |
クレス | うん、僕もそう思う。二人が問題ないなら今は彼と手を組むべきじゃないかな。 |
クレス | この先、どうしたって敵との戦いになる。戦力は多い方がいいからね。 |
ユーリ | だな。ただその前に一つ確認しておきたいことがある。 |
ユーリ | お前、クラトスと組んでるんだろ ?あいつはどうした ? |
ルーク | え ? そうなのか ? |
シンク | 別に組んでるって訳じゃない。 |
ユーリ | でも雇い主は同じってことか。 |
シンク | それを知ってどうするのさ。 |
ユーリ | フィリップの動きが知りたかったんでね。まぁ、こっちの予想通りみたいだな。 |
ルーク | え ? どういうことだよ ? |
クレス | 僕たちが仮想鏡界に隠れている間の世界情勢に関することだね。 |
クレス | ジェイドさんたちが、ある程度予測をまとめていたみたいだけど……。 |
ユーリ | まぁな。詳しい話はチェスターの件を片付けてからだ。それにジュードやセネルからも人捜しを頼まれてるしな。 |
ルーク | ……そうだな。どうせ今話を聞いたって訳わかんねーだろうしまずはチェスターを捜そうぜ。 |
ルーク | ――あ、シンク。えっと、なんか知ってそうだけどこっちがユーリでこっちがクレス。 |
シンク | 知ってるよ。ボクはシンク。さっさと行くよ。 |
クレス | よろしく、シンク。 |
シンク | ……はいはい、めんどくさ。 |
キャラクター | 7話【4-12 戦士の館 通路1】 |
アミィ | ………………。 |
チェスター | ……アミィ。ごめんな。オレが……オレが馬鹿なことを考えなけりゃ……。お前を巻き込むことはなかったのに……。 |
帝国兵 | 大変です ! 魔弓のチェスター様 ! |
チェスター | ――この部屋にいるときは誰も近寄るなって言っただろうが ! あと変な二つ名もやめろ ! |
帝国兵 | し、失礼しました ! ですが―― |
帝国兵 | うっ ! ? |
シンク | ――これで静かになった。 |
クレス | チェスター ! ! |
チェスター | クレス ! ! 来てくれたのか ! 色々あって抜け道が使えなくなっちまってたから会えないんじゃないかと思ってたぜ。 |
クレス | ああ、危ないところだったんだけど……あれ ? そこにいるのは―― |
チェスター | ……ああ。アミィだ。 |
クレス | アミィちゃんも具現化されていたのか !でも僕たちと同じタイミングで具現化された訳じゃないよな。 |
チェスター | ああ……。アミィは……ファントムが後から具現化したんだ。 |
シンク | ……その子は、アンタの家族 ? |
チェスター | あ、ああ……。オレの……妹だ。 |
ユーリ | ――なぁ、気付いてるか ?その子、さっきからずっと表情が変わらない。 |
クレス | ! ? |
シンク | リビングドール。それも失敗作だね。 |
チェスター | お前、知ってるのか ! ? |
シンク | 救世軍でも調査していたからね。ファントムが具現化したって言ってたけどリビングドールにしたのはメルクリアだろ ? |
ルーク | リビングドールってなんだよ ?メルクリアってのは ? |
チェスター | メルクリアはビフレスト皇国の生き残りの皇女だ。リビングドールは……。 |
シンク | 空っぽの人間に魂を入れるんだよ。アニマを失った人間に、別のアニマを注入してキメラ結合させるんだ。 |
シンク | すると魂をもった人形が出来上がるって訳。 |
クレス | アミィちゃんもアニマを失ってるっていうのか ? |
シンク | いや、アニマを消せなかったんだろ。だから心が壊れてこんな状態になってるんじゃないの。 |
チェスター | この世界の医者にはさじを投げられた。かといって、アミィを具現化した連中に任せれば、もっと酷い目に遭わされる。 |
チェスター | だから異世界の知識でなんとかアミィを救えないかって……。 |
クレス | チェスター……。 |
クレス | わかった。すぐにアミィちゃんを連れてアジトへ戻ろう。 |
ユーリ | いいぜって言いたいとこだが……まだ特異鏡映点を助けられてねぇ。それにジュードたちの仲間も捜さねぇと。 |
チェスター | 特異鏡映点は牢屋に入れられてるんだ。 |
チェスター | それと亜種って呼ばれてる特異鏡映点もいるんだが、そっちは今帝国の連中に連れてかれちまった。 |
チェスター | 今回はあきらめるしかないかも知れない。 |
ルーク | なぁチェスター、ここにローエンって執事の爺さんとシャーリィって金髪の女の子が囚われてないか ? |
チェスター | シャーリィって名前には聞き覚えがないが、ローエンって爺さんだったら多分牢の中にいる特異鏡映点の一人に―― |
帝国兵 | 大変です ! 侵入者がこちらの方へ―― |
ユーリ | おっと、悪いがお休みの時間だ。 |
ルーク | やばい、足音がこっちに近づいてくるぞ。ここにいるのがバレるのも時間の問題かも……。 |
シンク | ……チェスター。その牢屋の場所を教えてよ。ボクが捜してる奴もそこにいそうだ。 |
チェスター | けど、この状況で牢屋に寄ってたらこの館から逃げられなくなるぞ。 |
シンク | アンタたちはアミィをつれてさっさと逃げればいい。ボクが牢屋の方を引き受ける。 |
シンク | 特異鏡映点がいれば一緒に助ければいいんだろ ? |
ルーク | でも、シンク一人で大丈夫なのか ? |
シンク | アンタたちが大立ち回りしながら逃げてくれれば、こっちは楽になるからね。 |
クレス | ……シンク。頼んだよ。 |
シンク | 乗りかかった船だからね。今回は貸しにしといてやるよ。 |
ユーリ | おい、チェスター。それにシンクも。フレンってやつ知らないか ?金髪で騎士っぽいナリの。 |
チェスター | フレン ? お前、フレンを知ってるのか ? |
ユーリ | ここにいるのか ! ? |
シンク | フレンって、デミトリアスの側近の騎士団長でしょ ? ここにはいない筈だよ。 |
ユーリ | デミトリアスの側近だって ! ?ったく、あいつ……。 |
チェスター | 詳しい話は後でいいか ? |
ユーリ | あ、悪ぃ。話しこむようなヒマなかったな。 |
チェスター | シンク、特異鏡映点の牢屋は北棟の地下だ。気をつけろよ。 |
シンク | はいはい。こっちのことはいいからさっさと消えな。 |
クレス | ありがとうシンク。また後で ! |
ルーク | 無理すんなよ ! |
ユーリ | 特異鏡映点のことは頼むぜ。 |
シンク | ……さて。こっちも行動開始と行くか。 |
キャラクター | 8話【4-14 戦士の館 北棟】 |
シンク | (ルークたちが兵士を引きつけてくれたからここまでは楽に来られたけど……) |
ガロウズ | …………。 |
シンク | ――やっと見つけたよ。ガロウズ。 |
ガロウズ | ……あんたは確か―― |
シンク | シンク。救世軍の使いだよ。 |
ガロウズ | ……前にも言った筈だ。セシリィが帝国に囚われた。あいつが帝国にいる限り俺は帝国に従うしかない。 |
シンク | セシリィなら助け出したよ。 |
ガロウズ | ! ? |
シンク | これでアンタを縛るものはなくなった筈だ。こっちはケリュケイオンを修理できる人材が必要なんだよ。 |
ガロウズ | ……そうか。ありがとう。だったらあんたたちに協力するしかねぇな。 |
シンク | へぇ、簡単に信じるんだね。 |
ガロウズ | ――お、おい、どういう意味だ ! ? |
シンク | お人好し過ぎて呆れただけさ。別に嘘をついた訳じゃない。一応、助け出した証拠も持ってきたからね。 |
シンク | ほら、セシリィのスペアのメガネだってさ。 |
ガロウズ | ………… ! |
シンク | それから特異鏡映点がここに捕まってるって聞いてるんだけど……。 |
? ? ? | 特異鏡映点の人たちを助けてくれるの ? |
シンク | 誰 ? |
ガロウズ | ……ああ、ルビアだ。鏡映点で、昨日までは俺たちの世話係をしてくれていたんだが―― |
ルビア | 色々あって、あたしも牢屋に入れられちゃった。 |
シンク | ……どうする ? 逃げるなら鍵を開けるけど。 |
ルビア | あたしはいいわ。ここにいなくちゃいけない理由があるの。でも特異鏡映点の人たちは助けてあげて。 |
ルビア | どんどん衰弱してきているからこのままじゃ命を落としてしまうわ。 |
シンク | ガロウズ。鍵を開けるから特異鏡映点の牢まで案内してよ。 |
ガロウズ | ありがとう。助かった。 |
ガロウズ | ……ルビア、本当にいいのか ? |
ルビア | ええ、あたしは大丈夫。それよりローエンさんたちを、早く……。 |
ガロウズ | わかった。――シンクだったな。こっちだ。 |
ガロウズ | ローエン、リーガル、ジョニー。助けに来たぞ ! |
リーガル | ガロウズか……。良かった。ローエンを頼む。 |
シンク | ……一人足りないんじゃない ? |
リーガル | ジョニーはどこかへ連れて行かれた。今ここにいるのは私とローエンだけだ。 |
シンク | 二人とも随分衰弱してるね。 |
リーガル | 私はまだ大丈夫だ。しかしローエンはかなり厳しい状況にある……。もう長い間、意識を失ったままだ。 |
シンク | ……そう。それじゃ、鍵を開けるよ。 |
シンク | ガロウズ。ローエンを背負って。 |
ガロウズ | 了解だ。 |
シンク | リーガル。アンタは歩けるでしょ。さっさと出てよ。 |
リーガル | ……いや、私はここに残る。 |
シンク | ……はぁ。アンタもかい ? |
リーガル | ここの連中は死者を蘇らせようとしている。その中には私の大切な人もいるのだ。それだけは……阻止しなければならない。 |
シンク | へぇ……。生き返らせたいとは思わないの。 |
リーガル | ……その誘惑がないと言えば嘘になるな。しかし奴らの計画は単なる死者の復活ではない。 |
リーガル | 私は……彼女を……アリシアをリビングドール計画に使わせる訳にはいかないのだ。 |
シンク | ……ああ。この地獄みたいな世界に復活を強要されるなんて哀れ過ぎて笑えるからね。 |
リーガル | ……そうだな。 |
シンク | じゃあ、ローエンだけ連れて行くよ。いいね。 |
リーガル | 頼む。 |
ルビア | ローエンさんをお願いします。 |
シンク | わかったよ。 |
シンク | ……はぁ、なんだってボクがこんなことをしなきゃいけないんだ。 |
ガロウズ | なんだ ? 意外と照れ屋なのか ? |
シンク | はぁ ! ? |
ガロウズ | いや、仮面で顔を隠して照れ隠しみたいなことを言うから……。 |
シンク | 照れ隠し ? 冗談じゃない。心底嫌なんだよ。馬鹿なこと言ってないでさっさと歩いたら。 |
ガロウズ | おー、怖 ! わかったよ。仮面の坊や。 |
シンク | 殺すよ、死に損ない。 |
ガロウズ | ははは、死に損ないとは上手いことを言うな。確かに俺は色んな意味で死に損ないだからなぁ……。 |
シンク | (……死に損ないはボクも同じだけどね) |
キャラクター | 9話【4-15 戦士の館 中庭】 |
ガロウズ | やけに人が少ないな……。 |
シンク | 警備の連中はルークたちを追いかけていったんじゃないかな。 |
シンク | ――っと、そう呑気なことも言ってられなくなりそうだ。 |
帝国兵A | まだ侵入者がいるぞ ! ? |
帝国兵B | 捕まえろ ! |
シンク | ガロウズ ! 逃げるよ ! |
ガロウズ | はぁっ、はぁっ、ま、待ってくれ !こっちは人一人背負ってるんだぞ…… ! |
シンク | ……ボクがそのジジイを背負ったら敵を倒せないだろ。泣き言言わないでしっかり運んでよね。 |
ガロウズ | 人使いの荒い奴だな……。くそ……ここはどこだ ? |
シンク | ……中庭みたいだね。 |
ディスト | はーっはっはっはっ ! 袋のネズミとはこのことですねぇ、シンク。 |
ディスト | 感謝しなさい。私が神降ろしの首尾を聞きに来たことを。異世界でも私に出会えるとは、あなたは幸せ者ですねぇ。 |
シンク | ……なんだ。目が腐ると思ったら鼻たれの死神じゃない。 |
シンク | 神降ろしはリヒターの担当かと思ってたけどアンタも首を突っ込んでたのか。 |
ディスト | 誰が鼻たれの死神ですか ! ?薔薇のディスト様だと言っているでしょう。 |
シンク | 薔薇っていうより腐ったバラ肉って感じだけど。 |
ディスト | キィィィィィ ! ! ! 六神将のよしみで優しくしていればつけあがって ! |
ディスト | いいでしょう。あなたがそういう態度ならまずそこの魔鏡技師と特異鏡映点から始末しましょうか ! |
ゼロス | おーっと、腐ったバラ肉が人間様の邪魔をするんじゃねーよ ! |
クラトス | シンク。ガロウズたちは我々が連れて行く。 |
ディスト | ああっ ! 待ちなさい !空を飛ぶなんて非常識な ! |
シンク | ――アンタだって椅子で空を飛ぶ非常識なバラ肉だろ。 |
ディスト | きぃぃぃぃ、まだ言いますか ! ! |
シンク | それよりわかってるの ? 足を引っ張る連中がいなくなったら、アンタなんてボクの足下にも及ばないってこと。 |
ディスト | 失敗作が偉そうに ! |
シンク | ああ、ボクは失敗作さ。でも失敗したのはボクじゃない。ヴァンやモースやアンタだ。 |
シンク | そうだろう、失敗ばかりのヘボ研究者さん。目障りだからさっさと死にな ! |
キャラクター | 10話【4-15 戦士の館 中庭】 |
フィリップ | シンク、ありがとう。おかげで救世軍はケリュケイオンという足を手に入れることができた。 |
フィリップ | これで帝国から逃れることができるしいずれ時が来れば、このケリュケイオンをミリーナたちに返すこともできる。 |
シンク | アンタはどこまでも【あの女】に尽くすんだね。 |
マーク | まぁまぁ、そう言ってやるなよ。それがフィルのいいところなんだ。 |
シンク | ……アンタも大変だね。ご主人様に気を遣ってさ。 |
フィリップ | シンクは手厳しいね。 |
シンク | ……フン。 |
アルヴィン | で、この後はどうするんだ ?俺としては、早いところジュードたちのところに連れて行って欲しいんだけどな。 |
マーク | 今ゼロスとクラトスが、帝国へ再調査に行ってるんだ。あいつらが戻ってきたらミリーナたちのところへ送らせるよ。 |
アルヴィン | まだしばらくかかりそうだな……。 |
フィリップ | シンク。きみはどうする ? きみさえ良ければこのまま救世軍の力になって欲しいと思っているんだけれど……。 |
シンク | 救世軍は何をするつもりなのさ。 |
フィリップ | それはずっと変わっていないよ。このティル・ナ・ノーグを守り甦らせたい。 |
フィリップ | 世界の具現化は完了したものの死の砂嵐の問題は残ったままだ。 |
フィリップ | デミトリアス陛下がこの世界をどう導こうとしているのかも気になる。 |
フィリップ | 異世界からの具現化を続けているのは何故なのかもわからないしね。 |
フィリップ | 異世界からの具現化が危険であることは陛下もわかっている筈なのに……。 |
シンク | その目的を果たしたら鏡士を殺させてくれるのかい ? |
フィリップ | 鏡士を殺したいというなら全てが終わった後に僕を殺せばいい。 |
シンク | ――へぇ、言ったね。これで二度目だ。だったら構わないよ。アンタたちに協力してやるさ。 |
? ? ? | 何だか怖いお話をしてるわね。 |
マーク | シャーリィか。どうだ、客人の様子は。 |
シャーリィ ? | コハクさんもローエンさんも眠ったままよ。 |
アルヴィン | おい、フィリップ。ローエンの奴、本当に大丈夫なんだろうな ? |
フィリップ | ああ。快復には時間がかかると思うけれど命に別状はないよ。 |
フィリップ | コハクの方も意識を取り戻せるようこちらで手を打つつもりだ。 |
フィリップ | 彼女が知っているというデミトリアス陛下の話を知りたいしね。 |
シャーリィ ? | そうだ。ガロウズさんにコーヒーを頼まれたの。皆さんの分も淹れましょうか ? |
マーク | お、気が利くねぇ。 |
シャーリィ ? | ふふ♪そうでしょ ?あ、アルヴィン、手伝ってくれる ? |
アルヴィン | わかったよ。 |
シンク | 当面はデミトリアスの動きを調べることになると思うけど、リビングドール計画の方はどうするの。放っておくには不気味すぎる。 |
マーク | 帝国の連中、なんでリビングドールなんて生み出してるんだろうな。単なる死者の復活とは違うんだろ ? |
フィリップ | もちろんそちらも調べるつもりではいるけれど、僕はダーナの予言の方が気になるんだ。 |
フィリップ | それにリビングドールの方は、おそらくミリーナたちが調査に取りかかると思うからあちらに任せた方がいいと思っている。 |
シンク | そこまで言うなら手を組めばいいのに。 |
シンク | 現実に向き合うのが怖くてあしながおじさんよろしく陰から助けますって ? |
フィリップ | ……恥ずかしながらその通りだ。 |
マーク | もうその辺でいいだろ、シンク。あんまりフィルをいじめるなって。 |
シンク | ……わかったよ。じゃあ予言とやらの話をしよう。 |
シンク | この世界の予言は確定した未来を予知するのとは違うんでしょ。 |
フィリップ | そうだね。確定の未来……ではない筈だ。でも、どうやら本当に精霊はアイフリードによって封じられていた。 |
フィリップ | 予言が真実かどうかはともかく精霊を封じる必要性はあった訳だ。僕はその点がどうしても気になるんだよ。 |
フィリップ | 精霊が封じられていたのが事実ならダーナの巫女もどこかで長い眠りについていると考えるべきだろう。 |
シンク | 了解だ。そこまで言うなら、ダーナの予言とデミトリアスの動きを中心に調べていこう。 |
シンク | ただ、どこかであの黒衣の鏡士と顔をつきあわせて話す必要が出てくるってこと忘れないでよね。 |
フィリップ | ……ああ。 |
ガロウズ | 待たせたな。エンジンが動きそうだ。 |
マーク | よーし、出発するか。新生救世軍の門出だ ! |
シンク | 新生……ね。 |
マーク | なんだよ、渋い顔して。おかしいか ? 新生救世軍って。 |
シンク | ……別にいいんじゃないの。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【アジト】 |
ミリーナ | 皆さん、集まってくれてありがとうございます。 |
ミリーナ | 今日は今までに集めた情報の共有と、この前ゼロスさんから聞いた救世軍の情報の精査。 |
ミリーナ | あと今後の方針についてご相談できればと思っています。 |
リフィル | それじゃあ、少し前のことから振り返りましょうか。 |
リフィル | この世界は死の砂嵐によって消滅の危機に瀕しています。 |
リフィル | 一度はゲフィオンが自分の体を魔鏡にする【人体万華鏡】という方法で、死の砂嵐を自分の中に取り込もうとしたわ。 |
リフィル | でもそれは叶わなかった。 |
リフィル | だからゲフィオンの体から溢れる死の砂嵐を食い止めようと、イクスが自分の力を意図的に暴走させた。 |
リフィル | その結果、彼の力が魔鏡結晶という鏡の石に変質して、この世界全体へと広がったの。これが魔鏡結晶。 |
リフィル | 今あちこちの地面から露出している水晶のような石よ。この水晶の中に死の砂嵐を封じている訳ね。 |
ミリーナ | そしてイクスも魔鏡結晶の中に閉じ込められてしまった……。 |
ジェイド | これが所謂【鏡殻変動】です。鏡震を伴った現象でもあったため各地で被害が出ています。 |
ジェイド | アスガルド帝国が救済の手を伸ばしているようですが、追いついていないのが実情のようですね。 |
ジェイド | ――ここまでで、何か質問はありますか ? |
エル | よく分かんないけど、イクスが鏡の石をいっぱい作って、みんなを守ったってことでしょ ? |
ジェイド | さすがエル。賢いですねー。エルが理解しているのだから次に進んでもいいでしょう。 |
キール | 次はぼくだな。キール研究室では、魔鏡結晶の性質について調査を進めた。 |
キール | その結果わかったのは、今世界中に露出している魔鏡結晶が、地下深くで繋がっている一つの巨大な塊だということ。 |
キール | もちろんイクスが閉じ込められている石にも繋がっている筈だ。そしてその石は今も広がり続けている。 |
キール | これはイクスが今も魔鏡術を魔鏡結晶に変質させているということだ。 |
キール | これを放置すると、イクスは自分の生命エネルギーであるアニマを使い尽くしてしまう恐れがある。 |
ジュード | もしアニマを使い尽くしたら……。 |
ミリーナ | ……ええ。命を落とすかも知れない。 |
ミリーナ | でも魔鏡結晶に包まれている限りアニマを使い尽くしても息絶えることはないの。 |
ミリーナ | 魔鏡結晶はイクスの命であり力でもある。 |
ミリーナ | イクスを助け出すときに魔鏡結晶からアニマを取り戻すことができればきっと大丈夫。 |
クラース | つまり、今はあの魔鏡結晶の檻がイクスを守る防御壁でもある訳だな。 |
リタ | その通りよ。だからまだ時間はある。イクスを助け出すための確実な方法を見つけることができればね。 |
コーキス | 俺が必ず見つけ出します。マスターの力が鏡の石になって世界中に広がってるから俺はどこへでも行くことができる。 |
コーキス | マスターのためなら俺、何でもやれるから。 |
ミリーナ | コーキス。一緒に頑張りましょう。 |
リフィル | 次に現在の状況よ。 |
リフィル | セールンドの国王デミトリアスは1200年以上前の古代国家アスガルド帝国の復活を宣言したわ。 |
リフィル | これはおそらく彼がセールンド王国の敵対国家であったビフレスト皇国を甦らせようとしているからだと推察できる。 |
リフィル | かつてはセールンドもビフレストもアスガルド帝国の支配下にあったから古代のそれに倣ったのでしょうね。 |
スレイ | わざわざアスガルド帝国を甦らせるってことは、そこに伝わる儀式や風習を甦らせたいとも考えられるな。 |
スレイ | ゼロスさんからの話では、デミトリアスが【神降ろし】という儀式を行っているという話でしたよね。 |
リフィル | ええ。太陽神ダーナを巫女の体に降ろし託宣を受ける……という儀式のようね。 |
スレイ | アスガルド帝国時代の資料には【神降ろし】という単語こそ残っていないけど、託宣を受ける巫女の話は頻繁に出てくるんです。 |
スレイ | もしかしたらここにもアスガルド帝国を甦らせる意味があったのかも知れない。 |
コレット | 巫女の体に……神様を降ろす……。まるで私たちの世界のお話みたいですね。 |
リフィル | そうね……。ミトスの発案か……或いは彼の話を聞いたデミトリアスの命令なのかも知れないわね。 |
ミリーナ | これに関しては、フィリップの方でも調査を進めているみたい。 |
ミリーナ | 何もかもに手を広げるのは無理だからあちらからの情報を待ちましょう。 |
ユリウス | フィリップの話題が出たところで帝国以外の勢力の話もしておこう。 |
ユリウス | まずアスガルド帝国は、この世界のほぼ全土を手中にしていると考えて間違いないな。 |
ユリウス | 敵対しているのは俺たちと救世軍だけのようだ。 |
カノンノ・E | ファントムが亡くなってからの救世軍はフィリップとマークが指揮権を取り戻したみたいなの。 |
カノンノ・E | 今は救世軍がケリュケイオンを使ってるわ。 |
カノンノ・E | ただ兵士さんたちの半数以上は帝国に付いていったみたいだから昔ほどの力はないかも……。 |
リフィル | そうそう。救世軍からアルヴィンがこちらに合流したのは、みんな覚えているわよね。 |
リフィル | 一応他にも新しい仲間を紹介しておいた方がいいかしら。 |
ミリーナ | そうしましょうか。もう、みんなすっかり馴染んでいるけれど……。 |
ミリーナ | ――まずロゼとデゼルさん。 |
ミリーナ | アニスとセルシウス。 |
ミリーナ | ヒューバートさんとパスカル。 |
ミリーナ | パスカとカナとロディ。 |
ミリーナ | 他にも何人かの鏡映点の人たちが救世軍にいるわ。 |
アルヴィン | ああ。まずは鏡映点じゃないけどガロウズ。それにローエンって俺たちの連れもあっちにいる。 |
アルヴィン | 帝国に捕まってたのを助けたはいいがまだ眠ったままだ。命には別状がないけどな。 |
アルヴィン | あとゼロスとクラトス、シンクに、コハクそれにやっぱり鏡映点じゃないけどシャーリィって―― |
セネル | シャーリィ ! ? おい、アルヴィン !今シャーリィって言ったな ! ? |
アルヴィン | え……な、何だよ、そんな怖い顔で……。 |
ミリーナ | 確か……セネルさんの仲間にもシャーリィさんって方いましたよね。 |
アルヴィン | いや、でも、あの子自分で鏡映点じゃないって言ってたぞ ? |
セネル | ……な……何だよ……。名前が同じだけの他人か……。 |
ジェイド | 決めつけるのはどうかと思いますがね。 |
セネル | 俺の知っているシャーリィかも知れない、ってことか…… ? |
ジェイド | 直接会ってみるのが一番でしょう。近々救世軍側にコンタクトを取ろうと思っています。 |
ジェイド | セネル、あなたがその役を請け負ってくれますね。 |
セネル | ああ、もちろんだ ! |
リフィル | とはいえ、こちらは救世軍が今どこにいるかもわからないの。しばらく待つことになってしまうわ。 |
セネル | そんなこと言ってられるか――と言いたいところだが……。今はそうするしかないんだろうな。 |
リフィル | ありがとう、セネル。でもあちらにいるシャーリィという少女が、本当にあなたの仲間なのかは気になるでしょう。 |
リフィル | アルヴィンと少し話をして確認してみるといいわ。 |
リフィル | 判断がつけば何よりだしそうでなかったとしても彼女の状況は知っておきたいでしょう。 |
セネル | ああ。そうさせてもらう。 |
リフィル | その間、私たちは少し休憩を取りましょう。 |
リフィル | クレス、チェスターを連れてきて。次はリビングドールの話をすることになるから。 |
クレス | ……わかりました。 |
キャラクター | 2話【5-1 ひとけのない街道 1】 |
ジェイド | さて、再開といきましょうか。 |
カーリャ | はー……。お話の続きですね。カーリャには難しすぎます。パッと行くとかスキップ~とかできればいいのに。 |
カイル | ぱっといく ? すきっぷ ? |
カーリャ | あわわわ、何でもないです ! |
クラース | ここからはさらに深刻な話になる。――チェスター、つらいだろうがわかっていることを話してくれないか。 |
チェスター | ああ……。リビングドール計画のことだな。 |
チェスター | ……そもそもこの計画を発案したのはビフレスト皇国の皇族の生き残りであるメルクリア皇女だ。 |
ミリーナ | …………。 |
リオン | ビフレストは魔鏡戦争でセールンドに負けて滅びたんだったな。 |
ミリーナ | ええ……。ゲフィオンの記憶によればカレイドスコープによってセールンドは戦争に勝利、ビフレストは征服された筈よ。 |
チェスター | オレが聞いた話だと、メルクリアは終戦の時に人質としてセールンドに連れてこられたらしいな。 |
チェスター | それでデミトリアスが親代わりに育てていたって話だ。 |
ミリーナ | ……デミトリアス様が ? |
チェスター | メルクリアはそう言ってた。救世軍はファントムを通じてメルクリアと知り合ったらしい。 |
チェスター | 最初はビフレストの生き残りとは知らなかったから、反ゲフィオン派の貴族の娘だって認識だったみたいだな。 |
チェスター | それがいつの間にか救世軍を取り込んじまった。 |
チェスター | 鏡殻変動のとき、オレが城の中に潜入できたのも、メルクリア派の連中の手引きがあったからだ。 |
チェスター | あの段階でメルクリアはファントムを切り捨ててフィリップと手を組もうとしていたみたいだぜ。 |
リフィル | 整理させてちょうだい。メルクリアはファントムの仲間として救世軍に接触した。 |
リフィル | その後、何らかの理由でファントムを切り捨てると決めて、救世軍を掌握し『ファントム封印計画』に荷担した。 |
チェスター | ああ。その後、メルクリアと後見人のデミトリアスが帝国の復活だのビフレストの再興だの言い出してな。 |
チェスター | 救世軍をメルクリアの親衛隊として召し抱えるって話になったんだ。 |
チェスター | その時にフィリップとマークは帝国と対立したって流れだな。帝国を出た後でゼロスたちとつるむようになったんだろう。 |
チェスター | その辺りはアルヴィンの方が詳しいだろうが今はセネルと話し込んでるみたいだな。 |
ジュード | フィリップたちが帝国と対立したのはリビングドール計画のせいなの ? |
チェスター | そいつはわからねぇ……。そうかも知れないし何か別の理由かも知れない。 |
チェスター | どっちにしてもわかってるのはリビングドールってのが、アニマを―― |
チェスター | 魂を失った人間に、別の人間の魂を入れるなんて、ひでぇものだってことだけだ。その理由が何なのかすらわからねぇ……。 |
リフィル | ……ありがとう、チェスター。つらいことを話してくれて。もういいわ。アミィの傍にいてあげて。 |
チェスター | ……ああ。すまない。 |
ジェイド | アミィは今、鎮静処置をして眠っています。今は安定していますが、まだ治すための手段は見つかっていません。 |
ユリウス | 総括すると、俺たちは大きく三つの問題を抱えている。 |
ユリウス | 一つはオーバーレイ暴走を起こしているイクスの救出。これには死の砂嵐という問題も付随する。 |
ユリウス | 二つ目はリビングドール計画について。皇女メルクリアが何故こんなことをしているのかを突き止める必要がある。 |
ユリウス | 無論、アミィの治療方法も探さなければならないだろう。 |
ユリウス | 三つ目はアスガルド帝国そのものだ。彼らはミリーナやルドガーを狙っているしルカやイリアたちのことも捕らえていた。 |
ユリウス | 鏡映点が持つ異世界のアニマを利用しようとしているのは間違いない。 |
ジェイド | そこで我々も勢力を分散して問題を解決しようと思います。――ガイ、説明を。 |
ガイ | ここまで来て俺に振るかね…… ?仕方がないな……。 |
ガイ | まず、情報収集のための専門部署を立ち上げることになった。ここはロゼとカロルに頼みたい。 |
ロゼ | そう来ると思ってた ! |
カロル | え、ボクも ! ? |
ガイ | ボクも、じゃなくてカロルが中心になってやるんだよ。【カロル調査室】の室長としてな。 |
カロル | 室長 ! ? ボクが ! ? |
ガイ | リフィル先生の見立てだ。期待に応えないとな。 |
カロル | ……へ……へへ。ま、まぁ、そう言われちゃったら引き受けるしかないよね。 |
ロゼ | フンフン、いいんじゃない ?リフィルだっけ ? いいチョイスだと思うよ。 |
ロゼ | で、メンバーはあたしとデゼルと凛々の明星の連中でいいの ? |
リフィル | 察しが早くて助かるわ。あなたたちは遊撃隊のような立場の方が向いていると思うの。 |
ジェイド | カロル室長にはそこの癖の強い皆さんをまとめて頂いて、情報収集につとめていただきます。 |
ジェイド | 必要な人員は適宜補充して下さい。人選はお任せします。 |
カロル | 責任重大だな……。でも任せてよ。 |
ユリウス | キール研究室では、異世界の知識を集めてイクスの救出に必要な手段とステップを構築する。 |
ユリウス | 戦える人員は、はぐれ鏡映点の捜索と救出を進めよう。 |
ユリウス | ただし、ミリーナとルカとイリアそれにルドガーとエルは―― |
クラース | きみもだ、ユリウス。 |
ユリウス | ――俺もだが、とにかくこのメンバーは単独行動を避けてくれ。 |
リフィル | 話は以上よ。みんな、お疲れ様。 |
ミリーナ | あ、あの、ちょっといいですか ? |
リフィル | ミリーナ、どうしたの ? |
ミリーナ | 後でちょっとお話があるんです。ジェイドさんにも……。あの……ナーザ将軍のことで。 |
リフィル | ……わかったわ。後で作戦会議室へ来てちょうだい。 |
キャラクター | 3話【5-2 ひとけのない街道 2】 |
ロイド | わりぃ。待たせたな ! |
カロル | リオン、ロイド、いらっしゃい !好きな所に座って。 |
リオン | ……おい、本当にあいつが仕切るのか ?子供だぞ。 |
ユーリ | おいおい、オレたち凛々の明星の首領をなめてもらっちゃ困るな。それに今やあいつはカロル室長さまだぜ ? |
レイヴン | そうそう。あとね、おっさんからすれば、リオンくんだって、いたいけで可愛い、立派なお子様だから。 |
リオン | ……チッ。さっさと始めろ。 |
カロル | それじゃ、第一回カロル調査室会合を始めます ! |
カロル | えっと、それでまずは……何を調べる ? |
デゼル | おい、そこからなのか……。 |
カロル | だって、イクスのことや、死の砂嵐とかリビングドールとか……。全部いっぺんに調べるのは無理でしょ ? |
ユーリ | だったら、今確実にわかってる情報を深掘りしてくのが手っ取り早いんじゃねぇの ? |
カロル | そっか。いま確実にだと……ゼロスの報告書にあった、帝国にいる特異鏡映点かな。確かリーガルとジョニー。 |
ロゼ | なるほどね。それでユーリは、ロイドとリオンを呼んだんだ。 |
ユーリ | まずは捕まってるお仲間の人となりを聞きたくてな。特にリーガルってのは、自分の意思で残ったって話だろ ? |
カロル | うん。リーガルが残ったのは大事な人を甦らせないために――だよね ?絶対に阻止するって言ってたみたいだけど。 |
ユーリ | らしいな。捕まってるとはいえ、リーガルがあっちでどんな動きをするのかオレたちじゃ予測がつかねぇ。 |
ユーリ | で、ロイド。どんな奴なんだ ? |
ロイド | リーガルは、すげえ強くて優しくて、大きい会社の会長で、落ちついてて、手錠してて―― |
リオン | なんだその薄っぺらい話は。もっと有益な情報はないのか。 |
ロイド | こ、これから色々話そうと思ったんだって !だったら、リオンの仲間だっていうジョニーのこと聞かせてくれないか ? |
リオン | ジョニーか ? そうだな……。ジョニーは…………歌を歌う。 |
デゼル | ………。 |
ロゼ | デゼル、肩震えてるけどどうかした ? |
デゼル | な、なんでもねえ ! 放っておけ ! |
レイヴン | あのさあリオンくん、おっさんもーちょっと有益な情報が聞きたいわ。 |
リオン | わ、わかっている !歌のイメージが強烈すぎるんだ、あいつは ! |
リオン | まあ……能天気に歌っている印象が強いがそれはあの男の一面だ。冷静だし統率力もそれなりにある。 |
リオン | そして……重い過去もな。 |
カロル | 重いってどんな ? |
リオン | ジョニーにはエレノアという片思いの女性がいた。だが、過去に卑劣な男のせいで命を落としている。 |
リオン | そして、国がらみの争いで僕たちと出会い、結局奴は、その仇を討った。愛する人のために。 |
リオン | ……少なくとも僕はそう思っている。スタンは違う見方をするかもしれないけどな。 |
ロイド | そうか……。ジョニーもリーガルと一緒で、大事な人を亡くしてたんだな。 |
ロゼ | もしかしたら、ジョニーもリーガルと同じかもしれないね。 |
ロゼ | 愛した人をリビングドール計画に使わせないために、何か考えてるのかも。 |
デゼル | だがそいつは、牢から連れ出されて行方知れずって話だろう ? |
デゼル | 何を考えてるかまだわからねえ。信用しすぎると痛い目をみるぜ。誰がどっちについてるかも曖昧だからな。 |
レイヴン | 確かに、慎重に見分けないとね。帝国側についてる鏡映点にも、こっちに協力的なのがいるって話だし。 |
ロイド | チェスターの手紙を届けにきたシングとカイウスだろ ?確かルビアって子も捕まってるはずだ。 |
ユーリ | ……ま、中には目的がわからないままあっちに付いてる奴もいるけどな。 |
レイヴン | ……フレンちゃんね。デミトリアスの側近やってるっていうけど何か考えてんのかな。 |
ユーリ | ああ、それも確かめなきゃなんねえ。ってことで――、 |
ユーリ | カロル先生 ! 情報収集のため、帝国再潜入の許可を願いまーす ! |
カロル | え ! ? 許可したいけど、潜入しちゃうと他の調査が……。 |
ユーリ | 心配ねぇよ。その辺は―― |
ロゼ | こっちで商売のルートたどって、巷の細かい情報さらうんでしょ。セキレイの羽の本領発揮って感じ ? |
ユーリ | ご明察。あんたらが面倒起こして後々商売に支障がでるのは、オレたちにとっても痛手だからな。 |
ロゼ | うん、お互いにその方が良さそう。最近は商工ギルドへの出入りも多いしそっちの情報網からもたどってみるわ。 |
ロゼ | それと、帝都に信頼できる商人がいるから紹介状書いとくよ。 |
ロゼ | あたしたちと通じるくらいだから、それなりに裏はあるんだけどさ。多分色々と便宜を図ってくれると思う。 |
ユーリ | そんな大サービスされたんじゃ、それなりのネタ掴んで帰らないといけねぇな。 |
ロゼ | へへ~、お土産よろしく ! |
カロル | じゃあカロル調査室の方針はこれで決定 !それと、ボクとレイヴンは潜入班でいいとして…… |
カロル | あとはリタ――は、キール研究室の方で忙しいし、エステルに声かけてくるよ。 |
ユーリ | 待った。確かあいつ、アミィをどうにかしてやりたいって言って今も張りついてんだろ ? |
カロル | うん。ミントやエステルみたいな治癒術を使う人たちが集まって、アミィを治す方法を相談してた。 |
ユーリ | ならあっちを任せようぜ。適材適所ってことで。 |
カロル | わかった。それじゃ他の誰かを誘ってみる ! |
ユーリ | 今回も荒事は避けられねえだろうし、血の気の多そうなのと抑え役、頼むわ。 |
セシリィ | あれ、会合終わっちゃった ?ごめんなさい。誘われてたのに顔を出せなくて……。 |
ロゼ | 大丈夫。やることは決まったから。ねえ、そのいっぱい抱えてるのなに ? |
セシリィ | これね、みんなに渡そうと思ってたら量産に時間がかかっちゃった。 |
セシリィ | これは新しい魔鏡、【浄玻璃鏡】っていうんだけど是非、みんなに持っていってもらいたいの ! |
一同 | ………… ? |
キャラクター | 4話【5-3 静かな街道 1】 |
ライフィセット | あ、あの虫、珍しいよ !カロルは名前知ってる ? |
カロル | む、虫 ! ? ボクはよくわからないから。ルークに聞いたら ? |
ルーク | 俺もちょっとなー。こういうの得意なヤツっていないか ? |
ライフィセット | アイゼンやデゼルだったら知ってるかも……持って帰って見せてみるよ。カロル、カバンに入れてもらっても―― |
カロル | うわーダメダメダメダメダメ ! |
ライフィセット | カロル、虫嫌いなの ?こんなにカッコいいのに……ほら ! |
カロル | うわー ! こっち持ってきちゃイヤーッ ! |
ベルベット | フィー、遊びに来てるわけじゃないでしょ。カロルも大事な手紙落とさないように気を付けなさい。 |
カロル | だ、大丈夫だよ。ロゼにもらった紹介状ならちゃんとカバンに入れてるから。ほら ! |
レイヴン | ほほ~う ? そのカバンの隙間、この虫くらいなら入るんじゃない ? |
ルーク | 本当だな !ここなら安全に連れて帰れそうじゃん。 |
カロル | ちょ、レイヴン、ルークまで ! |
ベルベット | まったく……、言っても聞きやしないんだから。 |
ラピード | ワフ~ン……。 |
ガイ | ハハッ、けど子供が騒いでるのってなごむじゃないか。 |
ユーリ | ああ。おっさんが一人混じってるけどな。 |
ユーリ | ところで、カロルはガイとベルベットに声かけたっつってたけどずいぶんおまけが増えてんのな。 |
ガイ | あいつ、自分は帝都潜入経験者だっていって駄々こねてさ。それになんか、自分も慣れなきゃいけないとかなんとか。 |
ユーリ | ……まだそんなこと考えてんのか、あのお坊ちゃんは。向き不向きがあるって言ってんのに。 |
ガイ | なんのことだ ? |
ユーリ | いや、なんでもねえよ。こりゃ多分お前さんの領分だ。んで、フィーは ? |
ベルベット | 潜入の件とこの魔鏡の話をしたら、突然いっしょに行くって言いだしたのよ。どういうつもりなんだか……。 |
ユーリ | 魔鏡ってセシリィにもらった、この【浄玻璃鏡】のことか。 |
ユーリ | 浄玻璃鏡……これを持ってけって ? |
セシリィ | ええ。ルドガーさんのように、元の世界では備わっていた能力が、この世界では使えないっていう人がいるみたいで……。 |
ロゼ | そうそう ! あたしもスレイもこの世界に来てからは神依が使えなくてさ。 |
セシリィ | やっぱりね。 |
セシリィ | 骸殻や神依のようなわかりやすい技じゃなくても、元の世界で使えていた術や技が使えないってことがあるんじゃないかな ? |
ユーリ | 確かにな。魔導器の問題かとも思ったがオレたちとは違う世界の連中も似たようなことは言ってた。 |
セシリィ | エンコードの影響を考えれば当然のことなの。 |
セシリィ | 鏡映点は特殊な存在だから元の世界と全く同じように具現化すると不具合が出てしまう可能性がある。 |
セシリィ | でもそれはカレイドスコープの照準が大雑把だったせいなの。一人一人のパターンを考慮して馴染ませれば問題はないわ。 |
セシリィ | この魔鏡はね、鏡映点の中にある能力の滞留をサーチして、力を解放するきっかけとなる触媒を見つけてくれるの。 |
セシリィ | そして鏡映点のアニマに刻まれた過去や起こりうる未来から、鏡映点の本来の力をふさわしい形に構築してくれる。 |
セシリィ | ルドガーさんの時みたいに触媒となる事象に出会うと、輝きだしてオーバーレイ状態を引き起こすわ。 |
セシリィ | その時には、一時的にだけど鏡によって構築された力を引き出して放出することができるの。 |
セシリィ | 要は、この魔鏡で触媒を見つけられれば鏡士じゃなくてもオーバーレイが使える。元の世界と同じ力を取り戻せる。 |
セシリィ | これって絶対役に立つと思うんだ。 |
セシリィ | だから念のため、みんなに持ってもらって、何か変化があったら報告して欲しいの。お願いね。 |
ユーリ | フィーは何か力の制限を強く感じてるのかもな。 |
ベルベット | そうね。あの子は聖隷だし、あたしとは違う何かがあるのかも……。 |
ユーリ | ……いや、案外逆かも知れないな。 |
ベルベット | ……え ? |
ライフィセット | ねえ魔鏡の話 ?もしかしてベルベット、魔鏡が光ったの ! ? |
ベルベット | 何 ? そんなに慌てて。違うわよ。 |
ライフィセット | そう、よかった……。 |
ベルベット | よかったって、何よそれ。 |
ライフィセット | だってその魔鏡、前と同じ能力が戻るって。もしかしたらベルベットも……その……具現化前みたいに……。 |
ベルベット | ―― ! あんたまさか、あたしの穢れや味覚のことが心配でそれでついてきたの ? |
ライフィセット | …………。 |
ベルベット | ……大丈夫よ。それにもしそうなったとしても、あたしは―― |
カロル | ――エミル ! ?おーいエミルーッ ! |
ユーリ | どうしたカロル。エミルがなんだって ? |
カロル | 今、エミルがいたんだよ。あの道を曲がってった。 |
レイヴン | エミル ? 見間違いじゃないの ?今回のメンバーに入ってないでしょが。 |
カロル | ううん、この目でちゃんと見たんだ。どうしてもボクたちと行きたくて黙ってついてきちゃったのかも。 |
ガイ | そ、それは考えにくいと思うけどな……。 |
ユーリ | ま、とにかく探してみるか。ラピード、エミルのにおい覚えてるか ? |
ラピード | ワン ! |
ユーリ | よし、それじゃ頼むぜ。オレたちもその辺見てまわるぞ。 |
キャラクター | 5話【5-4 静かな街道 2】 |
ベルベット | ……やっぱりいないわね。そっちはどう ? |
ユーリ | 駄目だな。ラピードも追えてねぇ。珍しいこともあるもんだ。 |
ラピード | クゥ~ン……。 |
ユーリ | つか、どうやらにおい自体が見つからねえって感じだな。 |
カロル | ……でもボク、本当に見たんだけどなあ。 |
ラピード | ―― !ワンワンッ ! |
ユーリ | どうした、見つけたか ? |
ラピード | グルルルルゥ……。 |
ユーリ | ―― !隠れろ ! なんか来るぞ ! |
ディスト | 結果から申し上げましょう。やはりアレに決定しました。すぐに連れてきて下さい。 |
神官 | よろしいのですか ? |
ディスト | 仕方がないでしょう。今の手持ちには、器となり得る鏡映点がいないのですから。 |
神官 | ですが、リヒター様は………。 |
ディスト | 焔獄をつけなさい !私のつけた美しき二つ名を無下にするとは。あなた……すりつぶしますよ ! |
神官 | も、申し訳ありません !焔獄のリヒター様はご存じなのですか ? |
ディスト | 奴は反対しています。ですがそんなことを言っていたら永遠に事は進みませんよ。 |
神官 | ……承知しました。それでは至急用意いたします。 |
ディスト | それから連れてくる時には、くれぐれもあの天使の坊やに見つからないように。いいですね ! |
ルーク | ……なんだよディストの奴、どこにでも現れやがって。1匹見たら100匹いるってか ? |
ガイ | ゴキブリかよ。まぁ、似たようなもんか。 |
ガイ | ――それよりもあいつ器の鏡映点がどうとか言ってたな。 |
ベルベット | 気分のいい話じゃなさそうね。で、どうすんの。聞き出すなら今のうちだけど。 |
ライフィセット | でもここで襲ったら、帝都全部が警戒体制に入っちゃうかもしれないよ。 |
ベルベット | そ、それもそうね。 |
カロル | エミルも気になるけど……。これ以上探すのは難しいよね。寄り道させちゃってごめん。 |
カロル | ディストたちに気づかれる前に帝都内に入ろう。ロゼの紹介状、無駄にできないからね。 |
ベルベット | ……まさか、フィーにいさめられるなんてね。 |
レイヴン | カロル君といい、少年の成長ってのはあっという間だからさ。おっさんが年とっちゃうわけだわ。 |
ユーリ | なにおっさん通り越してじいさんみたいなこと言ってんだよ。老けこむには、まだ早いぜ ? |
レイヴン | おっさんの老化もあっという間なの !だから大事にして ! |
ベルベット | ……本当、男の子っていつの間にか自分で色々考えて、動いて…… |
ベルベット | ……ラフィ……。 |
キャラクター | 6話【5-6 帝都イ・ラプセル 1】 |
ルーク | マジかよ……。 |
ガイ | 驚いたな……。 |
アスター | ようこそいらっしゃいました。ロゼさんの手紙、拝見しましたよ。 |
アスター | 私も最近帝都に移動してきたもので、セキレイの羽とは持ちつ持たれつやらせてもらってます。イヒヒヒヒ。 |
ルーク | 名前を聞いてまさかとは思ったけど、ケセドニアの商人のアスターじゃないか。笑いかたまで一緒だぜ。 |
ルーク | ……でもこの様子だと、俺たちのことは覚えてないみたいだな。 |
ガイ | ああ、鏡映点じゃない。ロイドの知り合いのポールって子と同じ、俺たちの記憶をもとに具現化された、この世界の住人だ。 |
ルーク | やっぱこういうのって……複雑だな。 |
カロル | ね、ねぇ……この人、信用して大丈夫 ? |
ユーリ | ルーク、ガイ。大丈夫なんだろ ? |
ルーク | あ、うん。いい人だよ。しゃべり方は怪しいけど。 |
アスター | それで宮殿内の事情が知りたいそうですね。確かに当方、ありがたいことに、宮殿からの取引を頂いてますよ。なにしろこれから―― |
? ? ? | アスター様、少々よろしいでしょうか。 |
アスター | おや、丁度いい。私の用心棒が戻ったようですね。ヒヒヒ。――どうぞ、お入りなさい。 |
レイヴン | ―― ! ! これはまたっ ! ! |
? ? ? | 失礼します。ただいま戻りました。………彼らはいったい ? |
アスター | セキレイの羽の紹介でいらっしゃったんですよ。 |
アスター | 彼女はヒルダ。私の用心棒をお願いしているんです。大した腕でしてね。ヒヒヒヒヒ。 |
レイヴン | なんちゅーうらやましい……。あんな美人が用心棒だなんて。 |
レイヴン | ――よろしくヒルダさん。私の名はレイヴン。どうぞお見知りおきを。 |
ユーリ | 伸びてんぞ。鼻の下。 |
ヒルダ | ……セキレイの羽。新たな市場の開拓ルートにもひと役買ってるっていう、あの ? |
アスター | ええ。おかげで仕入れが楽になってます。そのほかにも色々な面でね。ヒヒヒ。それで、その市場の方はどうでした ? |
ヒルダ | はい。帝国と救世軍との衝突の影響で足止めされた商人たちが多数出ています。 |
ヒルダ | 新たな輸送路の安全を確保して欲しいと騎士団のフレンに願い出ている商人もいるようです。 |
ユーリ | フレンだと ? おい、あんた。フレンのことで知ってることがあったら教えてくんねえか。 |
ヒルダ | 知ってることって言っても、兵士や商人たちの間での評判程度よ。 |
ユーリ | かまわねえ。なんでもいい。 |
ヒルダ | フレンは騎士団長という地位にもかかわらず民にも気さくで優しい。だからさっきの話の商人たちも、フレンを名指しで願い出てる。 |
ヒルダ | もちろん騎士としても有能。再建された帝国内の混乱を抑えて指揮をとってるのも彼のようね。 |
カロル | なんか、どこにいてもフレンはフレンだね。 |
ユーリ | ……他には ? |
ヒルダ | そうね……。兵士たちの話だと、ナーザ将軍とは親友なんですって。二人そろうと阿吽の呼吸だって話よ。 |
ユーリ | ……へぇ。 |
ヒルダ | しかも皇女メルクリア様のお気に入りで、暇さえあれば呼び出されてるとか……、 |
ヒルダ | まあ何にしろ、今の帝国には欠かせない重要人物ってことね。もうこれくらいでいい ? |
ユーリ | ……ああ、十分だ。 |
ヒルダ | それでアスター様。本日の芙蓉離宮への納品ですが、自ら出向くのですか ?でしたら私もお供しますが。 |
カロル | 芙蓉離宮って ? |
アスター | メルクリア様のいらっしゃる離宮ですよ。これから伺う予定になっておりまして。 |
ユーリ | ……なあ、その仕事にオレたちを連れてっちゃくれねえか。 |
ヒルダ | 連れてくって、いきなりなんなの ? |
ユーリ | なに、ちょいと騎士団長様に会いたくてね。あいつ、離宮にもしょっちゅう出入りしてんだろ ? |
ヒルダ | ……あんた、それはアスター様に手引きをしろってこと ? |
アスター | かまいません。協力しましょう。もともとロゼさんの手紙にも、便宜を図ってくれと書いてありましたから。 |
ベルベット | ずいぶん親切ね。セキレイの羽とどうこうだけで、負えるリスクじゃないと思うけど。何かあんたたちに得でもあるわけ ? |
アスター | まあ実の所、今回あなた方に協力するのは、我々としても帝国中枢の動きが気になるからでしてね。 |
アスター | 後でロゼさんを通じてでも情報を頂くつもりでいます。 |
ベルベット | なるほどね。手引きする代わりに、危ない橋はこっちが渡るってこと。ちゃっかりしてるわ。 |
アスター | 私は商人です。時勢を見極め、いくつもの道を用意しなければ、大きな仕事はできませんからね。イヒヒヒ。 |
アスター | そういうわけですから、ヒルダ、彼らを荷運びの使用人として一緒に離宮へ連れていって下さい。 |
ヒルダ | わかりました。それじゃあんたたち、すぐに準備してちょうだい。 |
ユーリ | 悪いな、無理言って。代わりといっちゃなんだが、相応の情報はつかんでくるからさ。 |
ヒルダ | ……雇い主であるアスター様に従ってるだけよ。慣れあう気はないからそのつもりでいて。 |
キャラクター | 7話【5-8 芙蓉離宮 1】 |
兵士 | ――いいぞ、通れ ! |
ヒルダ | どうも、毎度ご贔屓に。 |
ヒルダ | ――ここならひと息つけるわよ。とりあえず離宮内に入るだけは入ったから。 |
カロル | 確かに通用門は通れたけど……ここはどこ ? |
ヒルダ | 離れの貯蔵庫。離宮の内殿は向かいの建物よ。 |
ベルベット | ……やっぱり、あっちは見張りがいる。騒がれるとやっかいね。 |
レイヴン | あ~あ、女の子だったら、おっさんのテクでメロンメロンの一発通過なのに。 |
カロル | レイヴンが女の人に近寄ったら余計騒がれちゃうんじゃない ?見るからに怪しいし。 |
レイヴン | にゃにおう ! ?俺様の魅力にかかればだなあ ! |
ヒルダ | ……まったく、マオとティトレイを見てるみたい。 |
ヒルダ | 仕方ないわね。私が何とかするから、合図したら向かいの建物に走って。 |
ユーリ | あんたは大丈夫なのか ? |
ヒルダ | 適当にやるわよ。それよりも、あんたらがこんな所で騒ぎを起こしたら、アスター様に迷惑がかかる。だからさっさと行って。 |
ユーリ | そうか、恩に着るよ。頼んだぜ。 |
ヒルダ | ――ねえ、そこの兵士さん。納品予定のこのカードなんだけど、注文票の数と――あっ、ああぁ ! |
兵士 | おい、こんな所に変なカードをばらまくな。さっさと拾え。 |
ヒルダ | これはメルクリア様へのお届けものよ ?一枚でもなくしたら、一緒にいたあんただって責任が―― |
兵士 | チッ……仕方ない。 |
ヒルダ | ――― ! |
ユーリ | 今だ、行くぞ ! |
兵士 | ほら、これで全部か ? |
ヒルダ | ええ。ありがとう。……あら、一枚足りない。 |
兵士 | ああ、ここにもう一枚あったぞ。……まったく世話かけさせてくれる。納品のことなら担当の奴に聞いてくれ。 |
ヒルダ | ―― !このカード……月の正位置……。 |
兵士 | なにか言ったか ? |
ヒルダ | いえ、なんでもないわ……。 |
ガイ | で、ここからどう探りを入れるんだ ? |
ベルベット | 手っ取り早く、そこらの奴を捕まえて―― |
? ? ? | まだ見つからないのか ! ? |
ルーク | ヤベェ ! もうバレたのか ! ?隠れる所は―― |
カロル | みんな、この部屋入れるよ !誰もいない ! |
兵士 | 申し訳ありません、リヒター様 !いまだ行方が知れないままです。 |
リヒター | もっと人数を増やして捜せ !カレイドスコープに配備されてる騎士団もアステル捜索に参加するよう伝えろ ! |
カロル | ……ここの兵士、ボクたちじゃなくてアステルって人を探してるみたいだね。 |
ルーク | それよりもさ、今の話だとこの離宮にカレイドスコープがあるってことになるんじゃねえか ? |
ガイ | カレイドスコープ……。セールンドで壊れたものとは別ってことだよな。っていうと……。 |
ガイ | ファントムの残したカレイドスコープか !チェスターが持ってきた設計図の。 |
ライフィセット | そうだよ ! ファントムと戦ってる時に、新たな世界は、自分のカレイドスコープで作るって言ってたから。 |
レイヴン | そうだったそうだった !しかも、俺様たちにはわからない場所にあるって得意気にさ。 |
カロル | その隠し場所がここだったのか。偶然わかっちゃってボクたちラッキーだね ! |
ベルベット | ……なによ。何で今さらファントムの……冗談じゃないわ ! |
ベルベット | そんなものが出て来たら、またあの復讐鬼と出会う可能性だって……。 |
ライフィセット | ベルベット……大丈夫。どんな時だって、僕は一緒にいるから。 |
ベルベット | ……フィー。 |
ユーリ | ま、何にしろこれで土産ができた。それに騎士団がいるってのもわかったしな。後の情報は――やるか ? ベルベット。 |
ベルベット | あたしは最初からそう言ってるけど。 |
カロル | え……一体なんのこと ? |
ユーリ | そこらの兵士をとっ捕まえて、騎士団やカレイドスコープの場所を聞き出すんだよ。ほら、行くぜ ! |
キャラクター | 8話【5-10 地下研究所 1】 |
ジェイド | どうしました、ミリーナ。ナーザ将軍の件で、私たちに話があるとのことですが。 |
リフィル | イクスとそっくりの彼のことね。何か手がかりでもあった ? |
ミリーナ | はい……。ずっと気になっていたんです。ナーザの……イクスが少し大人びたようなあの顔立ち、どこか懐かしい気がするって。 |
ミリーナ | それで私の中にある、ゲフィオンの記憶をたどってみました。 |
ミリーナ | 思い当たったのは、最初のイクスが亡くなった日のことです。 |
リフィル | 最初のイクス……。一人目、とでも呼べばいいのかしらね。 |
ミリーナ | イクスは私――ゲフィオンをビフレストの兵士から守って命を落としました。当時のイクスは22才です。 |
ミリーナ | その時のイクスの顔だちは、ナーザ将軍と……とても良く似ています。 |
ジェイド | 22才のイクスですか。そう言えば、ナーザ将軍と会った者はみな口々に、イクスよりも少々大人びて見えたと言ってますね。 |
ミリーナ | はい。私もそう見えました。 |
リフィル | イクスは既に二回、具現化されているわ。現時点での理論上、三度目の具現化は難しいはず。 |
リフィル | ……まさかとは思うけど、過去からではなく不確定な未来をアニマサーチして具現化したなんてことは……。 |
ミリーナ | ごめんなさい。言い遅れました。そのことなんですけど……。 |
ミリーナ | ゲフィオンを守って死んだイクスはその時に右腕を負傷しました。 |
ミリーナ | 私の見間違いでなければ、ナーザ将軍の右腕は……義手なんです。 |
ジェイド | 22才のイクスが、腕に負傷した状態……。 |
ジェイド | つまり、あのナーザという男は一人目のイクスが死んだ瞬間の状態とほぼ同じである――と。 |
ミリーナ | ……はい。 |
ジェイド | ならば可能性として高いのはナーザ将軍は一人目のイクスその人、ということでしょうね。 |
ジェイド | しかし理論上、具現化ではあり得ない。ならば―― |
ジェイド | 当時のイクスの遺体を、何らかの理由でビフレストが保存しており、今利用している……そんなところでしょうか。 |
ミリーナ | ……死体を保存、ですか。 |
リフィル | ミリーナ、どうかした ? |
ミリーナ | いえ、その……少し引っかかって……。 |
ミリーナ | イクスが亡くなった直後のゲフィオンの記憶が、とても曖昧で……。 |
ミリーナ | 何度思い返しても、イクスの体がまるでカレイドスコープのせいで光の砂になって消えたように見えるんです。 |
ミリーナ | あの時点で、カレイドスコープは開発されていません。そんなことはありえない。なのに……。 |
リフィル | 心理的な衝撃が、ゲフィオンの記憶を混乱させてしまったのかしら。 |
リフィル | 自分をかばったせいで亡くなったイクスと自分が開発したカレイドスコープで多くの人々を殺めた自責の念。 |
リフィル | それが交錯してしまった結果――というのは考えすぎかしらね。 |
ミリーナ | ……すみません。大事なことなのにはっきりしなくて。 |
ジェイド | ……まだ再考の余地があるようですね。ですが、ナーザの件はイクスの死体であることを前提に考えていきましょう。 |
ジェイド | 正直な所、結論が出ないうちにこういったことを口にするのは少々不本意ですが……。 |
ジェイド | あなたにとっても、私たちにとってもイクスとナーザの関係に対して心構えはしておかねばなりませんから。 |
リフィル | ああ……そういうことなのね。可能性の段階で言葉にするなんて珍しいと思ったのだけれど、少し見直したわ。 |
ジェイド | おやおや、なんのことでしょう。 |
セシリィ | ミリーナ、ここにいたのね。相談したい事があるんだけど――……お話し中 ? |
ミリーナ | あ、大丈夫だけど、ちょっとだけ待っててもらえる ? |
ジェイド | いえ、セシリィにも聞いてもらいましょう。彼女はビフレストの魔鏡技術を研究していたのですから。 |
セシリィ | え…… ? |
セシリィ | そう。ナーザ将軍はイクスの……。 |
リフィル | ええ。現状とミリーナの記憶を比較すると可能性は高いわ。 |
セシリィ | ……遺体を保存していたことはあり得るかも知れない。 |
ミリーナ | え ! ? どうしてそう思うの ? |
セシリィ | ビフレストがオーデンセに攻め入ったのはセールンドにしかない魔鏡技術を奪うためと聞いているから……。 |
ミリーナ | そうだったの ? ……ごめんなさい。私、ゲフィオンとしての記憶が所々曖昧で。 |
ミリーナ | ゲフィオンはビフレストが攻め入った理由を知っていそうだと思って、記憶を探ってみたんだけど、よくわからなくて……。 |
セシリィ | あ、ううん。あの、えっと、私も帝国で研究させられてたときにそんな話をちょっと……。 |
ジェイド | ………………。 |
リフィル | ……セシリィが言いたいのは、ビフレストがセールンド側の魔鏡技術を探る手がかりに鏡士であるイクスの遺体を持ち帰った―― |
リフィル | そういうことよね。 |
セシリィ | はい。もしイクスの遺体であることが間違いないなら、ナーザはリビングドールの最初の被験者なんじゃないかな。 |
セシリィ | メルクリアなら……やりそうな気がする。 |
ミリーナ | リビングドール……。空の体に別のアニマを入れる……。 |
ジェイド | なるほど。一人目のイクスの死体に別のアニマが入りこんだ存在。それがナーザの正体と見るべきでしょうね。 |
リフィル | そういえば、あなたは確かメルクリアに会ったことがあるのよね。 |
セシリィ | はい……。あの方――あの人はとても無邪気な人で、無邪気だから残酷で。それに鏡士のことがとても好きなんです。 |
セシリィ | ビフレストの皇族はみんな鏡士だし……。 |
ジェイド | 確か終戦後、死の砂嵐が発生してから二人目のイクスとミリーナを具現化するまで10年ほどの時間を費やしたそうですね。 |
ジェイド | ということは、メルクリアは現在12、3歳ぐらいでしょうか ? |
セシリィ | それぐらいだと思います……。 |
ジェイド | その年齢ではいくら早熟でも、大人を従えるのは難しい。メルクリアの背後にはデミトリアスがいるのは間違いないですね。 |
ミリーナ | ……メルクリア。終戦後に人質としてセールンドに来たなら、ゲフィオンは知っている筈ですよね。 |
ミリーナ | でもそれに関しても記憶がないんです。どうしてなのかしら。 |
リフィル | あなたの中のゲフィオンの記憶に関しても調査が必要なのかも知れないわね。 |
ミリーナ | ……はい。 |
キャラクター | 9話【5-12 地下研究室 1】 |
ユーリ | ――おし、ここだな。確かにでけえ研究施設がある。 |
ベルベット | あの兵士、嘘は言ってなかったみたいね。 |
ルーク | そりゃこの二人にあの勢いで凄まれたら誰だって……。 |
ガイ | ……なあ、少し静かすぎないか ?アステルって奴の捜索でここは手薄になってると考えても……。 |
ユーリ | だな。カレイドスコープらしきものも見当たらねえし……ちと探ってみるか。できるだけ静かにな。 |
| ――ッ ! |
ユーリ | どうした、あっちが気になるか ? |
? ? ? | ――ない――それでも――。 |
ユーリ | 話し声……、この奥だ。 |
ガイ | 行ってみよう。みんな、見つからないように気を付けろよ。 |
ユーリ | ―― ! ! |
カロル | フレンだ…… ! |
ベルベット | 話をしているのがナーザみたいね。聞いたとおり、イクスそっくり。 |
ライフィセット | うん。やっぱり少し大人っぽいね。 |
ナーザ | ――今のままリビングドールを増やしても死んだビフレスト国民を甦らせることは難しいだろうな。 |
フレン ? | はい。私もそれを懸念しています。 |
フレン ? | 確かにリチャードとラムダはいいひらめきをくれましたが、ラムダのような特性をアニムス粒子に持たせるのは難しい。 |
フレン ? | 私はこの鏡映点の体を使うことでしかアニムス粒子を取り込めませんでしたから。 |
ユーリ | この体…… ? |
ナーザ | ……俺など、すでに死んだ体だからな。 |
フレン ? | わかっています。だからこそ、この鏡映点のアニマは―― |
ユーリ | なるほどね。……ざけやがって。 |
レイヴン | ……落ち着け青年。らしくないよ。 |
ユーリ | ……わりぃな、おっさん。そいつぁ無理ってもんだ ! |
レイヴン | おい、ユーリ !チッ――仕方ねえなぁ、あのあんちゃんは ! |
| ワウッ ! ! |
カロル | ちょ、待ってよ ! |
ガイ | まずい、俺たちも出るぞ ! |
ルーク | あいつ、なにやってんだよ ! |
ライフィセット | ユーリ、いつも冷静そうなのにあんなに怒って……。 |
ベルベット | ……大事な人が踏みにじられれば、ああなるわよ。 |
ナーザ | ――貴様はっ ! ? |
フレン ? | あなたは後ろへ―― ! |
フレン ? | 何者だ ! どこから入った ! |
ユーリ | てめえこそ何者だよ。少なくともオレのダチのフレンじゃねえな。 |
フレン ? | ……そうか、お前はこの体の……。 |
ユーリ | てめえらがなに企んでんのかは後でじっくり教えてもらうが……今はこっちのが先だ。 |
ユーリ | お前、フレンに取り憑いてんだろ ?とっとと出ていけ。 |
フレン ? | 取り憑いている ?それは訂正させて欲しいな。私は―― |
ユーリ | どうでもいいんだよ、んなことは !嫌なら力づくで返してもらうぜ ! |
フレン ? | くっ…… ! |
ユーリ | 他人の体乗っ取って好き勝手か ?どんだけ偉いんだよてめえらは。 |
ユーリ | そいつなら……その体の持ち主ならな、自分の傲慢な鼻っ柱へし折って止めてくれっていうはずだぜ ! |
フレン ? | 何を…… ! |
カロル | ユーリの魔鏡が光ってる ! ! |
ルーク | セシリィが言ってたのってこれのことか ! ? |
ナーザ | なんだこの異様なアニマは…… !おい、下がれバルド ! |
バルド | ―― ! ! |
レイヴン | ……おいおい、なによこの光魔、でかすぎでしょ ! ?んなサービスいらないっての ! |
ナーザ | 貴様らの相手はこいつだ ! |
キャラクター | 11話【5-15 地下研究室 4】 |
兵士 | もっと援軍を呼べ ! |
ユーリ | チッ、次から次へと……。てめえら、どきやがれっ ! |
ガイ | ユーリ、ライフィセットが術で援護する !無茶しないで一旦下がれ ! |
ユーリ | 無茶なんかしてねえよ。すぐに終わらせるさ ! |
ガイ | ユーリ ! |
ユーリ | こいつで――最後だ ! |
ライフィセット | すごい、本当にすぐ終わっちゃった !……だけど……。 |
カロル | ……ユーリ、今のは駄目だよ。 |
ユーリ | 何がだ ?そんなことより、さっさと―― |
カロル | そんなことよりって……ユーリのバカッ ! |
ユーリ | カロル…… ? |
カロル | さっきユーリが飛び出した時、レイヴンは止めたんだよ ! ? |
カロル | 今だってガイが戦況を見てくれてた。なのに……。ユーリ、なんで一人で戦ってるのさ ! |
カロル | 一人はギルドのために、ギルドは一人のために――でしょ ?ユーリは今、一人じゃないんだ ! |
ユーリ | ―――― ! |
カロル | フレンのことが心配なのもわかってる。でもさ……でも、こんなユーリ……。 |
ユーリ | ……ったく、情けねぇ。 |
カロル | ……え ? |
ユーリ | すまねぇ。頭に血がのぼってた。おかげで目が覚めたぜ。 |
ユーリ | ありがとな、首領。 |
カロル | ユーリ…… ! |
レイヴン | 首領の面目躍如だな。少年 !……ホント、おっさん増々年とっちゃうよ。 |
ルーク | ……。 |
ガイ | ルーク、どうした ? |
ルーク | 俺、イクスと会ったばっかの時に、似たようなこと言ったことがあってさ。 |
ルーク | 「一人じゃない。仲間を信じろ」って。それ思い出して……少し懐かしくなった。 |
ガイ | お前が ?そうか……。なんかちょっと感慨深いな。 |
ルーク | なんだよ、それ。 |
ガイ | なら、その言葉を裏切らないためにも、早くイクスを助けないとな !――ユーリ、行けるか ? |
ユーリ | ああ。みんなにも迷惑かけたな。もう大丈夫だ。ラピード、奴らを追ってくれ ! |
ラピード | ワンッ ! ! |
ユーリ | ……しかしあの二人、思ったよりもヤバいこと考えてんな。死んだビフレスト国民を甦らせるだとよ。 |
レイヴン | ったく、お国の再興どころか、過去のビフレスト丸ごとって感じだね。ありゃ。 |
ガイ | 死者を復活させて、滅びた国を甦らせるか。……バカげてる。 |
ルーク | ……ガイ。 |
ユーリ | しかもあいつら、その計画に生きてる人間を使いやがって。……くそっ ! |
カロル | ……フレン、元にもどるよね ? |
ユーリ | たりめーだ ! ここでフレンに戻せねえならあいつを捕まえてアジトに連れ帰る。 |
ユーリ | そこでゆっくり、バルドってのを追い出してやるさ。 |
レイヴン | 追い出す、か。……なあ青年、あいつらフレンのアニマがどうとか言ってたよね。ちょいと気にならない ? |
ユーリ | フレンのアニマ……。 |
ラピード | ―― !グルルルルッ……。 |
ミトス | ……へぇ、なんでこんな所にいるの ?お前たちが入ってきていい場所じゃないんだけど。 |
ベルベット | なによあんた。そこどきなさい。怪我してもしらないわよ。 |
ユーリ | 待て、こいつ……。そうかお前、ミトスだろ ?金髪の妙に落ち着いたガキ。 |
ミトス | ――だから何 ?黒髪の短気な劣悪種。 |
ユーリ | ナーザたちはどこに行った。こっちに来たはずだぜ。 |
ミトス | 追いかけたって無駄だよ。どうせ会えない場所にいるから。それじゃあね。 |
ルーク | じゃあねって……おい !ナーザの居場所を言ってけよ ! |
ミトス | ――うるさいよ。出来損ないのお人形さん。こっちは急いでるんだ。見逃してあげるから、後は好きにすれば。 |
ディスト | おやおやおやおや~ ?今なんと言いましたか ? 飛天のミトス。 |
ミトス | 空飛ぶゾウリムシか。 |
ディスト | キィィィィィィィ ! !何なんですか、その言い種は ! |
ディスト | 大体、忍び込んだ汚らしいドブネズミに、後は好きにしろですって ?偉大なる四幻将の言葉とは思えませんねえ。 |
ディスト | このことは早速、メルクリアに報告をしなければ。さて、どんなお仕置きが下るでしょうねぇ。 |
ディスト | あなたの姉上に。 |
ミトス | ――劣悪種にネズミ退治を命じられるとはね。 |
ユーリ | ――来るぞ ! |
キャラクター | 12話【5-15 地下研究室 4】 |
ミトス | ……あーあ、負けちゃった。強いね君たち。これじゃボクは引き下がるしかないな。 |
ディスト | お待ちなさい ! あなた手を抜きましたね ? |
ミトス | 文句があるなら自分でやれば。 |
ディスト | そういう問題じゃありません ! |
ミトス | ――そんなことよりさっきお前、劣悪種の分際で姉さまのことを口にしたな。 |
ディスト | ……はぁ ? |
ミトス | さっきのが手抜きかどうか――自分で確かめたら。 |
ディスト | え、ちょ、ミトス――あなた ! ! |
ミトス | ――次元斬 ! ! |
ディスト | ピギャアアアアアッ ! ! |
ミトス | 何なら、永遠に寝てればいいよゾウリムシさん。 |
ベルベット | どうなってるのよ。仲間割れ ? |
ミトス | 仲間 ? 冗談でしょ。一緒にしないでくれる ? |
ユーリ | 仲間じゃないってのは、このイカれた博士のことか ?それともナーザのほうかね。 |
ユーリ | ……お前もビフレスト国民を甦らせようとしているのか ? |
ミトス | ビフレストね。興味はないけど邪魔するつもりもなかったよ。……少なくとも今までは。 |
ユーリ | おまえ……。 |
ミトス | ボクは急いでるんだって言ったよね。これ以上時間をとるなら今度は――本気でやるよ ? |
ユーリ | ……わかった、ここで手打ちだ。 |
カロル | 行っちゃった……。でもこれで自由に捜せるんじゃない ? |
ユーリ | いや、やめとこう。ミトスの奴、ナーザたちは会えない場所にいるって言ってたからな。 |
ユーリ | 手がかりは手に入れたんだ。これ以上は無駄足になる。 |
カロル | 手がかりって、何かあった ? |
ユーリ | おいおい、カロル先生、ナーザは立ち去る時に「ゲートを閉じる」って言ってたじゃねえか。 |
ユーリ | 最近のオレたちも、しょっちゅうつかってるよな ?『ゲート』を。 |
カロル | ――あ ! |
ライフィセット | 仮想鏡界 !いつもカーリャがゲートを開いてくれてる ! |
ガイ | そうか。もしも奴らが仮想鏡界を作っていたとしたら、簡単には出入りできない。 |
カロル | ボクたちがミリーナの仮想鏡界の中で守られてるのと同じことだね。会えない場所にいるってそういう意味か。 |
ユーリ | ま、そんなとこだろ。 |
レイヴン | 合点がいったわ。ここまで奴ら追ってきて、どこにもカレイドスコープがないってのはなーんかおかしいと思ってたのよ。 |
ベルベット | ってことは、カレイドスコープも仮想鏡界の中なのね ? |
ユーリ | 仮定の話だけどな。とにかく、こうなったらオレたちじゃ手も足も出ねえ。 |
ルーク | だから撤退……か。 |
ガイ | 仕方ないさ。今回わかった情報をミリーナたちと共有しないと。ユーリの浄玻璃鏡の報告もあるしな。 |
カロル | でも、ここのどこかにフレンがいるのに、帰らなきゃいけないなんて……やっぱり悔しいね。 |
レイヴン | なに、こんだけ情報が集まったんだ。これを元手に、倍増しで取り返してやればいいだけよ。 |
ユーリ | おっさんにしちゃ謙虚だな。倍程度で満足するとは。 |
ユーリ | ……オレは倍じゃ足りねぇよ。その何倍、何十倍で取り返してやる。 |
ミリーナ | …………。 |
セシリィ | ミリーナ、大丈夫 ?イクスの話は辛かったよね。 |
ミリーナ | ありがとう。でも大丈夫よ。それよりセシリィも相談があったのよね ?私の話を優先させちゃってごめんなさい。 |
セシリィ | ううん、ナーザのことも気になるから、話が聞けて良かった。 |
セシリィ | 私の相談っていうのはね、アミィのこと。なんとか治してあげたくて……。 |
ミリーナ | ……そうね。 |
セシリィ | だから、私の分野からも色々考えてみて、それである方法を思いついたの。 |
ミリーナ | セシリィ、それって…… ! |
セシリィ | ええ。もしかしたら、アミィの心を取り戻せるかもしれないわ ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【6-1 精霊研究所 1】 |
クラトス | (ここは……精霊の研究施設か ? ) |
クラトス | (帝都の芙蓉離宮の近くにこんな研究室を作っていたとは……。) |
クラトス | (どうりでアスガルド城でデミトリアスの姿を見かけない訳だ) |
デミトリアス | 特異鏡映点亜種03のアニマの調査はどうなっているのかな ? |
ジュニア | ……確かにスパーダさんのアニマには武器として生きていた痕跡が残っていました。 |
ジュニア | 前世のアニマが具現化の時のエンコードで現在のアニマと混濁しているみたいです。 |
リヒター | もしかしたらスパーダの前世というのはリオンという奴が持っていたシャルティエと言う剣と似た存在だったのかもしれない。 |
リヒター | 正確には違うことはわかっているが武器であり人のような意思を持つという点は近いものとして扱ってもいいだろう。 |
ジュニア | リオンさんたちの世界から、該当の技術を持っている専門家を具現化するという計画が持ち上がっています……。 |
クラトス | (シャルティエと言うのはゼロスが話していた喋る剣のことか。何故命を持つ武器に固執するのだ……) |
デミトリアス | そうか……。ではリヒターとアステルが進めている精霊の研究の方を報告してもらおうか。 |
リヒター | アステルをここへ連れてくるつもりはない。報告は俺がする。 |
デミトリアス | 警戒されているようだが私はアステルに何もしないよ。 |
デミトリアス | どうにかするつもりならとっくに捕らえている。機会はいくらでもあるからね。 |
デミトリアス | 何しろ彼はきみの目を盗んでよく出歩いているそうじゃないか。 |
デミトリアス | この間も大変な剣幕でアステルを捜していたらしいね。 |
リヒター | ……お前はそうでもメルクリアは違う。貴様はメルクリアに甘すぎる。 |
リヒター | 俺はアステルをアミィのようにしたくはない。 |
デミトリアス | それを言われると心が痛むよ。まぁ、その話は別の機会にしようか。 |
デミトリアス | 虚無の保護のためには太陽神ダーナと精霊の力が必要だ。君たちの研究には期待をしているんだよ。 |
デミトリアス | ダーナを降ろす計画にも悉く失敗している。ディストは妙なこだわりも強い。ダーナの巫女を見つけた方が早いと思うんだよ。 |
デミトリアス | ダーナの巫女こそダーナの器にもっとも適する筈だからね。 |
リヒター | 俺とアステルが見つけた文献にはこう書かれていた。 |
リヒター | アイフリードが精霊の封印地なる場所でオリジンと共にダーナの巫女を守っているのだと。 |
リヒター | 場所の特定はまだだが簡単に行ける場所ではないだろう。死の砂嵐で消滅している可能性もある。 |
デミトリアス | いや、精霊のいる場所に限ってそれはない。精霊住まう場所が崩壊すれば、この世界は完全に虚無に飲まれているだろう。 |
リヒター | もしまだ精霊の封印地が存在しているなら貴様がサレとハスタに命じて回収に行かせた例の鏡映点が役に立つだろう。 |
サレ | 呼んだかな、リヒター君。 |
ハスタ | 見つけたポン。空っぽのマクスウェルちん ! |
クラトス | (空のマクスウェル…… ? この世界のマクスウェルはまだ目覚めていないがロイドたちの元にいたミラのことか ? ) |
クラトス | (いや、しかし『空』というのは……) |
リヒター | ……こいつらが戻ったなら、俺は失礼する。 |
サレ | 嫌われたもんだね。僕はジェイドジェイドとうるさいあの鼻たれトカゲよりキミの方がマシだけれど。 |
アスガルド兵士 | 大変です ! 四幻将のミトス様が死神ディストの研究所で暴れて、手がつけられません ! |
アスガルド兵士 | ディストは重傷、シング様も負傷しカイウス様ですら近づけない状態です ! |
クラトス | (――ミトスが暴れている ! ? ) |
ハスタ | 何ィ ! 血沸き肉躍る饗宴の宴だと……オレっちも参加させろぃ ! |
サレ | 僕が殺してこようか ? |
デミトリアス | やめておく方がいいね。それに君たちにはマクスウェルの抜け殻の件を聞きたい。リヒターならミトスを止められるだろう ? |
リヒター | ……分からんが、ここにいるよりはマシだ。俺が行く。 |
クラトス | (そろそろマークたちと落ち合う時間だがミトスを放っておくことはできぬな。……リヒターを追跡させてもらおう) |
キャラクター | 2話【6-2 精霊研究所 2】 |
ゼロス | あのおっさんまだ合流地点に戻ってこないのかよ ! ? |
マーク | おいおい、ゼロスさんよ。あんた、クラトスにはあたりがきついな。あの人、いい人じゃねぇか。 |
ゼロス | はー。お前もか、マーくんよ。あいつホント受けがいいな、むかつくわー。 |
ゼロス | ク~ル~とか言われてるけどありゃただの人でなしだっつーの ! |
シンク | へぇ……。 |
ゼロス | あ、シンク ! ? てめぇ、笑ったな ! ? |
シンク | そりゃ嗤うでしょ。アンタのそれは単なる甘えだからね。パパが恋しいのかい、赤毛の神子様。 |
ゼロス | ………………。 |
マーク | シンク。そうやって的確に人の傷抉っていくのもほどほどにしてくれや。 |
マーク | ゼロス、悪かったな。子供は加減をしらねぇんだよ。 |
ゼロス | ……いや、俺さまもまだまだだわ。殆ど面識のないがきんちょに痛いとこ突かれてマジになっちまうとは。 |
フィリップ | 楽しそうなところ失礼するよ。 |
ゼロス | 楽しい ! ?俺さまフィル君の感覚疑ってもいい ? |
フィリップ | ごめんごめん。病人の経過を共有しようと思って。 |
シンク | 死に損ないのジジイとぴくりとも動かない眠り姫のことか。 |
フィリップ | ジジイなんて言葉は良くないよ、シンク。ローエンさんはだいぶ安定してきた。 |
フィリップ | もうすぐ起きられると思うけれど何しろ特異鏡映点だからね。慎重に経過を見る必要がある。 |
フィリップ | それからコハクは……正直かなり危険だね。 |
ゼロス | おいおいおいおい、じーさんはともかく女の子は助けてやってくれよ~ ! |
マーク | お前ら、お年寄りは大事にしろって……。で、フィル。どういうことなんだよ。容体は安定してるように見えたけどな。 |
フィリップ | 彼女の症状は鏡士にまれに起こるある疾患に似ていてね。気になったから魔鏡学の方向からアプローチしてみたんだ。 |
フィリップ | その結果、彼女のアニマとアニムスをつなぐコア――つまり心を失っていることがわかった。 |
マーク | 心核喪失状態か ! |
シンク | 何それ。心なんてあやふやなものどうやって観測するのさ。 |
マーク | 鏡士ってのは、心を魔鏡に映して具現化を行うんだ。そのときに一瞬心を具現化している……らしい。 |
マーク | そのあたりの原理は俺もよく分からないが……。 |
フィリップ | 鏡士が鏡精を具現化するときも心の一部を魔鏡に映して行ういわば心の具現化だからね。 |
フィリップ | でもコハクにはその心に当たる部分が存在しないんだ。 |
フィリップ | コアが存在しなければアニマとアニムス……つまり魂と記憶が分離し体が保てなくなる。非常に危険だ。 |
フィリップ | 神降ろしには心を消し去る作業が必要なのかもしれないね。 |
ゼロス | ……心が消える、か。コレットちゃんのことを思い出すな。 |
ゼロス | マーテルを宿すために人としての感覚を失って、心まで無くしちまったらしくてな。まるで人形みたいで見てられなかったぜ。 |
シンク | ――ねぇ、神降ろしはミトスの発案の可能性があるんだったよね。 |
ゼロス | あ ? まぁ、可能性はあるな。発想がマーテル復活にそっくりだ。 |
シンク | ――クラトスと合流しよう。次の器の鏡映点が誰かわかった。 |
マーク | どういうことだ ? |
シンク | 前に聞いた話だと、コレットってのはミトスの姉のマーテルに近い存在だったんだろ。 |
ゼロス | まさかマーテルが次の器だって言うのか ! ?そりゃ、ファントムが生前マーテルを具現化したらしいとは聞いてるけどよ。 |
ゼロス | ただコレットちゃんとマーテルは近い存在かもしれないがマーテルは心を失った訳じゃねぇぞ。 |
ゼロス | むしろ心だけになっちまったからミトスが体を作ろうとしてた訳で……。 |
フィリップ | ……いや、なるほど。さすがシンクは目の付け所がいいね。 |
フィリップ | マーテルは体を失い、心だけの存在になったことがある……という事実が重要だ。 |
フィリップ | かつてのビフレストには、アニマに刻まれた過去や未来――あらゆる可能性を呼び出す浄玻璃鏡という魔鏡があったそうだ。 |
フィリップ | つまりマーテルがどの時代から具現化されていたにせよ、体と心が分離しやすい性質を内包していることになる。 |
フィリップ | 分離できるなら、話は簡単だ。 |
ゼロス | マジかよ……。念のためクラトスに伝えるか。 |
ゼロス | あいつから聞いた、天使の羽の痕跡を辿る方法ってのを使えば、奴が空を飛んだ時に居所がわかる筈だ。 |
マーク | 悪いな。あんたは客分なのに、こき使っちまって。 |
ゼロス | しゃーねぇな。あの我が儘天使がロイド君に合流するのを嫌がるんだもんよ。 |
シンク | でも文句を言いながら、アルヴィンみたいに一人であっちに合流はしないんだね。 |
マーク | そりゃ、ゼロスが意外と善人な上に意外と卑怯者だからだな。 |
ゼロス | でひゃひゃ、よくわかってるじゃねーの。 |
マーク | とはいえ、あんたが客分なのは変わらないからな。シンク、一緒に行ってくれ。 |
シンク | ……はいはい、めんどくさ。 |
ゼロス | 何だよ、シンくん冷たいじゃん。 |
シンク | 殺すよ、バカ神子。 |
キャラクター | 3話【6-3 芙蓉離宮】 |
ミトス | 良かった。姉さまのオゼット風邪が快復に向かってて。……姉さまがいなくなったらボク、本当にひとりぼっちになっちゃうから。 |
クラトス | ……お前は一人ではない。私もユアンもいる。 |
ミトス | ユアンは別にどうでもいいけど……。クラトスは……人間じゃない。人間はボクよりずっと早く死んじゃうんだよ ? |
クラトス | そうだな。確かに私はお前よりは早く死ぬだろう。だが……私が死んでも私の魂はお前に託すつもりだ。 |
ミトス | 魂 ? あはは、それって、クラトスが幽霊になってボクのそばにいてくれるってこと ? |
クラトス | いや、そうではない。できるものならそうしてやりたいが死後のことなど私にはわからぬ。 |
クラトス | だが、どう生きるのかという指針を……。いや、言葉にすると陳腐だな。やめておこう。 |
ミトス | ……ううん。わかったよ。ボクの心にクラトスの生き方が残るってことだよね。 |
ミトス | そんな風にボクを導いてくれるってことでしょ ? そうしたらボクも少しは寂しくなくなるね。 |
クラトス | そのように導けるのかはわからぬが……。 |
ミトス | ふふ、期待してます。クラトス先生 ! |
クラトス | (結局私はミトスを導けなかった。だが、せめてこの世界では――) |
ゼロス | おい、クラトス ! やっと見つけたぞ !なんでこんなところを飛んでたんだよ。捜すの大変だったんだぞ。 |
シンク | 迷子のパパを見つけられて良かったねバカ神子。 |
クラトス | ……私は神子の父親になった記憶はないが。 |
ゼロス | 奇遇だな。俺さまも息子になったおぞましい記憶はねーよ。で、何してんだよ。 |
クラトス | すまない。少し時間をくれ。行かねばならないところがあるのだ。 |
ミトス | そこをどけ ! ! |
カイウス | ミトス ! どうしちまったんだよ !いつものお前らしくないぞ ! |
ミトス | いつものボク ?お前にボクの何がわかるって言うんだ ! |
シング | ……くっ。カイウス、お前だけでも逃げろ。オレは……足が……。 |
カイウス | 逃げられる訳ないだろ ! |
カイウス | なぁ、ミトス。この世界でオレのレイモーン……獣人の姿を認めてくれたのはお前とメルクリアが最初だっただろ ! ? |
カイウス | それで十分だ ! 他のことなんか知らないけどお前はいい奴だ ! |
ミトス | いい奴だって言われて喜ぶほど子供じゃない。どかないなら殺す ! ! |
クラトス | やめろ、ミトス ! |
カイウス | え…… ? |
ミトス | ! ? |
クラトス | それは無意味な剣だ。 |
ミトス | ――よくも……よくもボクの前に顔を出せたな。裏切り者の薄汚い人間 ! ! |
クラトス | その通りだ。だが、どれだけ恨まれ憎まれても、これ以上お前にこのような愚かな剣を振るわせるつもりはない。 |
ミトス | 今更、偉そうに師匠ヅラするな !一度は見逃してあげたのに二回もボクを裏切って ! |
クラトス | それでも私はやり直すと決めた。それはこの異世界でも変わらぬ。 |
クラトス | 私がやるべきだったのは、お前の望みを叶えるために共に墜ちることでもお前を裏切り追い詰めることでもなかった。 |
クラトス | お前を苦しみから救う努力をすることを私は怠っていた。 |
ミトス | ………………。 |
クラトス | 時を巻き戻せるならと何度も思った。しかしそれはできぬ。そしてここでは私もお前も単なる影にすぎぬ。 |
クラトス | それでも――いや、だからこそ過ちを正す機会をくれ。 |
ミトス | ……ボクは、間違ってなんていない。他人に害を与えた者は、その報いを受ける覚悟をするべきだ。 |
ミトス | クラトスもわかってる筈だよ。自分だって仇を討った。クヴァルを殺したんだから。ロイドと一緒に。 |
クラトス | ……そうだな。私は妻を殺された復讐心を抑えられなかった。その結果、私に生まれたのは一瞬の高揚感と達成感だった。 |
クラトス | しかしそれはすぐに消える。消えた後に残るのはむなしさだ。どれだけ手を尽くしてもアンナは……妻は戻らぬ。 |
ミトス | ……それで ? 復讐は何も生まないなんて綺麗事を言うの ? |
クラトス | そうだな。自らの欲望を果たした私には復讐そのものを否定することはできない。 |
クラトス | だが、ミトス。もし復讐が許されるとしてもお前がその気持ちを向けるべき者はすでに死んだ。 |
クラトス | お前は憎しみという感情を、マーテルを救うための免罪符にしてしまった。私もそれを認めてしまった。 |
クラトス | すまなかった。私が間違っていた。 |
クラトス | …………。 |
二人 | …………。 |
ミトス | ……もういい。気がそがれた。クラトス、シングを回復して。それぐらいはやってくれるでしょう。 |
ミトス | あとゼロス、そこの仮面の奴をつれて飛んで。ボクはカイウスをクラトスはシングをつれて飛ぶ。 |
ミトス | 少し先に、帝国の連中が滅多に来ない丘があるからそこへ行く。 |
シンク | へぇ……。案外やるね。アンタたちの痴話喧嘩の間に、帝国の伝令兵がここへ来てたこと、気づいてたんだ。 |
二人 | ! ? |
ゼロス | まぁ、気配を消すのが下手くそな兵士だったしな。 |
クラトス | あれはどこの部隊の兵士なのだ ? |
ミトス | 腕章からしてリヒターだ。見逃してくれそうな気もするけど色々面倒だからね。逃げるよ。 |
カイウス | なぁ、兵士なんてきてたか ? |
シング | いや、突然訳のわからない喧嘩が始まったから、全然気づかなかったよ……。 |
キャラクター | 4話【6-3 芙蓉離宮】 |
シング | まず、色々事情を聞く前に――ミトス。さっきのことみんなに謝れよ。 |
ミトス | 人間がボクの邪魔をするからいけないんだよ。 |
シング | 何だよその態度は !オレだけじゃなく、カイウスも大怪我するところだったんだぞ ! |
ミトス | カイウスには、まだ手を出していなかったけどね。 |
ミトス | そんなに腹が立つなら、その傷が癒えてから特別にボクを殴らせてあげるよ。人間がボクを殴れるなんてありがたく思ってよね。 |
シング | ふざけるな ! |
カイウス | ミトス……人間人間って差別するような言い方するなよ ! |
ミトス | 差別してるんだからいいでしょ。 |
ゼロス | はいはい、また揉めるからそこまでにしようや。で、何があったのよ。 |
ミトス | 裏切り者のアホ神子は黙ってて。 |
シンク | フフ……。 |
ゼロス | そこ、笑うとこかよ、シンク ! ? |
クラトス | 話が進まぬな。私はミトスが暴れていると聞いた。何故そんなことになった ? |
シング | それはこっちが聞きたいよ。アステル――リヒターの友達にディストの様子を見るように頼まれたんだ。 |
シング | で、カイウスと二人で来てみたらミトスがディストをボコボコに……。 |
ミトス | お前たちが止めに入らなければあいつにとどめを刺せるところだったのに。 |
シンク | へぇ、それは惜しいことをしたな。で、なんであの死神を殺したいのさ。まぁ、殺したくなる気持ちはわかるけど。 |
ミトス | ……あのウジ虫が姉さまに手を出したからだ。 |
ゼロス | ディストってのは、確か色々やばい研究をしてるイカレ野郎だったよな。……おい、嫌な予感がしてきたぞ。 |
クラトス | ミトス、神降ろしはお前の発案か ? |
ミトス | 確かにボクが元の世界で進めていたことは話したよ。でも神降ろしを実行しているのはリヒターとディストだ。 |
ミトス | ボクが関わっているならマーテル姉さまを関わらせる訳がない ! |
シンク | おっと、一足遅かったか。こっちもマーテルを次の神降ろしに使う可能性に思い当たったんだけどね。 |
ミトス | あいつはボクを足止めしている間に姉さまを攫ったんだ。だから殺してやろうとしたのに……。 |
シング | ……ん ? 神降ろしはコハクの治療のために行ってたんだろ ? どうしてマーテルさんが巻き込まれるの ? |
ミトス | ああ……そうだったね。もう隠すのも馬鹿馬鹿しいから話してあげるよ。シングは騙されてるんだ。 |
シング | ど、どういうことだよ。だって神降ろしは虚無に飛ばされたコハクの心を取り戻す儀式なんだろ ! ? |
クラトス | お前はコハクの知り合いか ! |
シング | コハクを知ってるの ! ?コハクはオレの仲間だ ! |
シング | メルクリアがコハクを助けてくれるって言ったから、オレは気が乗らないことも必死で我慢してきたのに……。 |
シング | メルクリアの言ってたことは全部嘘だったのか…… ? |
ミトス | 全部嘘……とはいえないかもね。あの通りのお嬢様だから。でも隠していることはある。 |
ミトス | ……もっともボクも同じことをされた訳だけどね。姉さまには手を出させないって約束だったのに……。 |
クラトス | シングと言ったか。コハクは救世軍が預かっている。彼女は心を失って危険な状態にあると聞いている。 |
シング | スピリアを失って……。そこの部分は本当なの ! ? |
カイウス | メルクリアの奴、どうしてこんなことを。フレンをリビングドールにしたのも信じられなかったし……。 |
カイウス | あいつ、変わっちまったのかな。 |
クラトス | 少し整理しよう。マーテルはディストが攫ったのだったな。ディストはミトスの攻撃を受けて、その後どうした ? |
ミトス | あいつはカイウスたちに止められている間に変なロボットに運ばれていったよ。追いかけようとしたらこの有様だけどね。 |
クラトス | よし、そちらは救世軍にも応援を要請して捜索にあたろう。シング、コハクは何故心を失うことになったのだ ? |
シング | リチャードって人が苦しんでたから助けようとしたんだ。 |
シング | ソーマでスピルリンクして、ゼロムみたいな奴を倒そうとしたんだけど、スピルリンクに問題があったのか、コハクが突然倒れて―― |
ゼロス | なるほどなるほど……ってその説明訳わかんねーよっ ! |
ゼロス | 何も知らない人間にもわかるように説明してくれっかなー。 |
シング | えっと、つまりオレたちはこの武器で人のスピリア――心の中に入れるんだ。 |
シング | リチャードのスピリアの中に魔物みたいな奴がいたから、それを退治しようと思ってコハクと中に入ったんだ。 |
シング | でも、何かがいつもと違っててコハクが倒れちゃったんだよ。 |
シング | そのときにメルクリアが助けてくれてコハクのスピリアを取り戻してくれるって言ったんだ。 |
シング | でもコハクはもう帝国にいないし騙されてたのなら今更ここにとどまる理由はないよ。 |
クラトス | ……もし帝国を離れるつもりがあるなら我らと協力しないか ? そしてしばらくの間帝国に留まったままで力を貸してほしい。 |
シンク | 敵の懐にいる奴は利用できるからね。 |
シング | お前らまでオレを利用するつもりなのか ! ? |
ミトス | チェスターの代わりにスパイをしろってことでしょ ? |
ゼロス | まぁ、チェスターは俺たちじゃなくてミリーナちゃんたちからのスパイだったけどな。 |
カイウス | オレは……力を貸すことはできないけどシングはいいんじゃないか ? シングがスパイとして動くなら、オレも協力するぞ。 |
カイウス | ルキウスとルビアのことがあるからばれない範囲でになるけど。 |
シング | 本当は今すぐコハクの傍に行きたいんだ。だから……少し考えさせてくれ。 |
クラトス | 構わぬ。無理強いするつもりはない。ただ、帝国の内情を知る人間は我らにとって大きな戦力になる。 |
クラトス | だから利用するのではない。お互い同等の立場として協力して欲しい。 |
シング | わかった。その言葉が信じられるのかちゃんと考えてみる。もうメルクリアの時みたいに慌てて飛びつくのは懲りたからさ。 |
クラトス | それから――カイウス、だったな。立場もあるだろうが、我らのことを見逃してくれるとありがたい。 |
クラトス | そしてもしも我らで力になれることがあれば言ってくれ。どうやらお前も理由があって帝国に従わされているようだ。 |
カイウス | ……ありがとう。オレも何もしてない訳じゃないんだ。知り合いと一緒にどうにかしようって動いてる。 |
カイウス | 何かの時には……頼むよ。 |
クラトス | ……ミトス。我らのところに来ないか ? |
ミトス | …… ! |
クラトス | マーテルを助けるために協力しよう。今度こそ、私もマーテルを救いたい。 |
ミトス | ――そうやっていろんな人の話を聞いて色々指示出して……。そういうとこ、昔と変わらないね。 |
クラトス | そうだろうか……。人は成長する生き物でありながら、凝り固まった自分を捨てられぬ生き物だからな。 |
ミトス | そうだね。だから……ボクは行けない。ボクはクラトスと一緒にはいられない。 |
ミトス | もうクラトスはボクの師匠じゃない。部下でもない。ここは異世界だ。ボクはクラトスの支配者であることをやめたんだ。 |
ミトス | ボクに捧げられた騎士の誓いはとっくに無効だよ。それにボクももう昔のボクには戻れない。 |
ミトス | だからボクはボクで姉さまを捜して助ける。もちろん協力はしてもいいよ。 |
キャラクター | 5話【6-4 帝都イ・ラプセル】 |
キール | それじゃあ聞かせて貰おうか。セシリィが思いついたアミィを救う方法について。 |
セシリィ | 魔鏡学の方向からアプローチしてみたの。ミリーナも知ってるわよね。鏡士に起きる心核喪失現象のこと。 |
ミリーナ | ええ。一応習ったことはあるわ。魔鏡によって心がエネルギー不足になって機能しなくなる現象よね。 |
セシリィ | ええ。心核喪失状態になると鏡士は心の一部に変調を来すんだけど時に感情の一部を喪失したようになるの。 |
ジュード | もしかしたら、アミィの場合は笑顔になるような感情だけが残っているってこと ? |
セシリィ | ええ。私は……魔鏡技師でしかないから鏡士のように心を覗き込むことはできないけれど、ミリーナなら……。 |
ミリーナ | 心を覗く……。それは私では無理だわ。やり方は知っているけれど人の心を覗くのは、とても高度な技なの。 |
ミリーナ | 私は今仮想鏡界を維持するので精一杯でそこまで繊細な力の制御はできないと思う。 |
セシリィ | そう……。だったらフィリップさんに協力して貰うのがいいかもしれない。 |
チェスター | フィリップに頼めばアミィは元に戻るのか ! ? |
セシリィ | ううん。それはアミィの症状を確認する為の手段なの。治療にはソーマっていう異世界の武器が必要になると思う。 |
リタ | 何、ソーマって。武器で治療なんてできんの ? |
セシリィ | 私も聞いた話だけど、ソーマは心の中に入れる機能があるみたいなの。 |
リタ | 何それ ! ? どういう理屈な訳 ! ? |
チェスター | ……待てよ。ソーマって確かシングの武器じゃなかったか ? |
セシリィ | うん。だからアミィを助けるためにはシングの力が必要不可欠なのよ。 |
チェスター | だったらオレがシングを連れてくる !ミリーナたちは何とかして救世軍と連絡を取ってくれ。 |
チェスター | セネルもシャーリィのことでジリジリしてるしな。 |
コーキス | けど、救世軍と連絡を取る方法はないんですよね……。 |
ミリーナ | ええ。世界中に魔鏡結晶があるから魔鏡通信が干渉を受けてしまうのよね……。 |
リタ | 通信強度を上げるように改造はしてるんだけど中々上手くいかないのよねー。 |
キール | パスカルとリタが二人がかりでも糸口をつかめないんだ。 |
リタ | 悔しいけど、心っていうつかみ所のないものを相手にしてるから勝手が違うのよ。 |
カーリャ | ミリーナさま ! 大変です !フィリップさまから魔鏡通信が来てますっ ! |
一同 | ! ? |
マーク | ――OK。ミリーナたちと落ち合う約束を付けたぞ。向こうもこっちに用事があったみたいだから丁度良かった。 |
フィリップ | ……ありがとう、マーク。これでコレットや他の鏡映点の器の素養がありそうな人たちに警告することができる。 |
ガロウズ | ビクエ様……。 |
フィリップ | わかってるよ、ガロウズ。僕も気になっている。これは確認しないといけないだろうね。 |
マーク | だとよ、シャーリィ。あんた……何者なんだ ? |
マーク | フィルもガロウズも手を焼いていた魔鏡通信の送受信機を直しちまうなんて普通の人間じゃねぇよな ? |
シャーリィ ? | あー……。やっぱりそうなっちゃうわよね。うん。 |
マーク | どうも不自然だったんだよな。 |
マーク | 器の鏡映点として、神降ろしの器にされていた筈なのに、自分は鏡映点じゃないなんて言い出すし。 |
ゼロス | おーっと、俺さまたち絶妙なタイミングで戻ってきたみたいね。 |
ゼロス | 俺さまも気になってたんだよなぁ。あんた……普通じゃない。 |
シンク | へぇ……。じゃあやっぱりリビングドールなの ? だとしたら帝国側の間者って可能性もあるよね。 |
クラトス | シャーリィ。ここは空の上、逃げ場はない。全て話してはくれぬか ? |
シャーリィ ? | ……色々お世話になったから恩返ししたかったんだけどそれが仇になっちゃったわね。 |
シャーリィ ? | 本当はちゃんと説明してあげたいんだけど――ちょっと無理みたい。 |
ゼロス | どういうことだ ? |
シャーリィ ? | 招かれざる客が来ちゃったみたいなの。ちょっと忙しくなるからこれで失礼するわね、お兄様たち♪ |
マーク | お、おい ! ? 気を失ったのか ! ? |
シンク | 待って。シャーリィの隣に誰かいる。 |
? ? ? | ごめんなさい。その子の体、ちょっと借りていたわ。 |
? ? ? | 心核をいじられていたから治療もしておいたわよ。これは出血大サービス。 |
フィリップ | 心核を治療した ! ? |
クラトス | 何者だ ? |
? ? ? | 私はヨウ・ビクエ。まだビクエ制度が続いていたのには驚いちゃったけど当代ビクエはまあまあ優秀ね。 |
ヨウ・ビクエ | これからも頑張って。それじゃあね。 |
ガロウズ | 消えた ! ? |
シンク | ……気配もない。転送 ? |
クラトス | いや、先ほどの姿は何らかの精神体だったのだろう。 |
クラトス | 存在を保つため、心をいじられていたシャーリィの体を利用していた……のではないか ? |
マーク | ……もしそうだとしたらえらいことになるんじゃないか ? |
ゼロス | うん ? どういうことだ ? |
フィリップ | ヨウ・ビクエは鏡士の始祖の名前だ。正確にはヨーランド・ビクエ・オーデンセ。 |
フィリップ | つまり彼女は精霊が目覚めるためのきっかけである「ダーナの巫女」だ。 |
シンク | ……だったら、この世界はもうすぐ滅びるってことだね。 |
シンク | ダーナの巫女は、世界が滅びに直面したときに目を覚ますんだろ ? |
ガロウズ | しかし本物……なのか ? |
クラトス | わからんな。大昔の人間が生きているという事例は……少なくとも私の世界ではあり得たことだ。 |
シャーリィ | ……ん……。 |
ゼロス | おっと、シャーリィが目を覚ますぜ。 |
シャーリィ | ………… ? |
ゼロス | お、シャーリィちゃん、おはよう♪ |
シャーリィ | ……お、おはよう……ございます。……え ? あの……皆さんはセールンドの方ですか ? |
クラトス | セールンド、か。この娘が具現化され心核をいじられたのは鏡殻変動の前のことなのかも知れぬな。 |
シャーリィ | ………… ? |
フィリップ | 僕から状況を説明しよう。きみの仲間がきみを捜しているそうだからね。 |
キャラクター | 6話【6-6 ひとけのない草原】 |
ゼロス | ……なぁ、お前のご主人様頭はいいのに、ちょっと腰抜け過ぎない ? |
ゼロス | ミリーナちゃんとの通信だってお前に任せてこの待ち合わせの場所でも姿を隠してよ。 |
ゼロス | ガロウズだって気まずいだろうにちゃんとここにいるんだぜ。 |
ガロウズ | そりゃまぁ気まずいが……あの時ゲフィオン様を連れ出したのはゲフィオン様との約束だったからな。 |
ガロウズ | まぁ、ビクエ様もそろそろミリーナと会った方がいいとは思うけどな。 |
ゼロス | ほれ、ガロウズもこう言ってるぜ。 |
マーク | じゃあ聞くが、あんたには逃げたくなるものが一つもないのか ? |
ゼロス | そりゃ逃げたいものだらけよ、俺さまは。けど、ここでミリーナちゃんと対面しないでいつ会うんだよ。 |
ゼロス | その点見てみろクラトスをよ。 |
ゼロス | 色々気に入らねぇが、こういう時にロイドを避けないところだけは認めてやってもいいぜ。 |
クラトス | ………… ! |
シンク | 今度はパパを庇うんだね、バカ神子。 |
ゼロス | はぁ ! ? お前大概にしとけよ ! ? |
シャーリィ | ……あの。わたし……少しだけわかります。会わなければいけない人から逃げてしまう気持ち。 |
シャーリィ | フィリップさんもきっと本当はわかっているんじゃないでしょうか。あと少しの勇気さえあれば、きっと……。 |
クラトス | ……少しの勇気か。 |
ゼロス | はぁ…… ! シャーリィちゃん、可愛い !健気 ! 一生懸命 !俺さま守ってあげたくなっちゃう ! |
マーク | シャーリィ、こっちに来てな。飢えた野獣の近くにいるのは危ないからよ。 |
ゼロス | 俺さまが危険な男だって ?フッ、わかってるじゃないの、マーク君。そう、俺さまは危険と色香を―― |
クラトス | ――ミリーナたちが来たようだ。 |
ゼロス | えー ! ?俺さまこのメンバーでもこういう扱い ! ? |
ミリーナ | マーク ! ! フィリップは ! ? |
マーク | 察してくれると嬉しいねぇ……。 |
ミリーナ | ……そう。 |
マーク | で、話の前にこの子を引き渡す。 |
セネル | シャーリィ ! ! |
シャーリィ | ……お兄ちゃん ! |
セネル | 良かった……無事だったんだな ! |
シャーリィ | この人たちが助けてくれたの。 |
セネル | ありがとう。 |
ゼロス | いいってことよ。 |
ロイド | ……クラトス。本当にクラトスなんだな。 |
クラトス | ……壮健なようだな。 |
ロイド | ……そう……け…… ?あ、いや、それよりどうして救世軍にいるんだ ? |
クラトス | ……色々とな。 |
ロイド | …………。 |
クラトス | …………。 |
クラトス | ……ところでアミィを預からせてくれ。フィリップに見せる。 |
チェスター | だったらオレも一緒に行く。アミィを一人にはさせられない。 |
クレス | 僕も行かせてもらいます。 |
チェスター | クレス……。 |
クラトス | 構わぬだろう、マーク。 |
マーク | ああ、心配するのは当然だろうからな。 |
ミリーナ | あら、そういえばセシリィは ? |
ガロウズ | セシリィも来てるのか ! ? |
コーキス | ――あ、隠れてる。ほら、セシリィ何恥ずかしがってるんだよ ! |
セシリィ | ……あ……。 |
ガロウズ | セシリィ ! 悪かったな、俺のせいで帝国に酷い目に遭わされたみたいで……。 |
セシリィ | ……ん、ううん。あの……お久しぶり、師匠。 |
ガロウズ | 師匠 ! ? お前いつから俺のことそんな風に呼ぶようになったんだ ! ? |
セシリィ | え ? あ、だ、だって師匠だから……。でも……ふふ……。ガロウズ……師匠、老けたね。 |
ガロウズ | はぁぁぁ ! ? |
セシリィ | ご、ごめんなさい。あの、これ、通信でミリーナが話していた、ソーマを利用した心核へのアプローチをまとめたもの。 |
セシリィ | 確認してね、師匠。 |
ガロウズ | …… ? お、おう……。 |
マーク | それじゃあ、そろそろ行くか。アミィのことがわかったら魔鏡通信で連絡する。 |
ロイド | あ、ま、待ってくれ。と……クラトス、あの―― |
クラトス | ――元気でな、ロイド。 |
ロイド | クラトス ! ! ちゃんと話をさせてくれ !あんた、俺の親父なんだろ ! ? |
クラトス | ……行くぞ。 |
ゼロス | ……ハニー。そんなしょげた顔するなって。あのおっさんは俺さまが見張っとくからよ。 |
ロイド | ……うん。ゼロス、ありがとう。 |
キャラクター | 7話【6-8 帝都イ・ラプセル】 |
マーク | どうだ、ガロウズ。セシリィからの資料は。 |
ガロウズ | ……シングの持つソーマにセシリィが言うような機能があるなら心核へのアプローチと修復は可能だ。 |
ガロウズ | ただ―― |
マーク | ただ ? 何だよ、妙な顔して。 |
ガロウズ | 何でセシリィがこんなに魔鏡や魔鏡術に詳しいのかと思ってな。それもビフレストの魔鏡術に……。 |
マーク | 何でって、あんたが教えたんじゃないのか ? |
ガロウズ | 弟子にしてくれと押しかけられはしたがまだ子供だぞ。基本的な技術しか教えてない。 |
ガロウズ | こんなレベルの研究ができるような奴じゃないんだ。 |
マーク | おっと、フィル。アミィはどうだった ? |
フィリップ | 確認できたよ。確かに心核が傷ついていた。何らかの形で心核に接触したんだろう。 |
フィリップ | 僕の魔鏡術でも修復可能かも知れないがここは安全第一にチェスターの帰りを待つつもりだ。 |
クレス | チェスターたちは大丈夫でしょうか。 |
マーク | いま帝国にあいつが潜入するのは危険かもしれないな。だがシンクもいるしクラトスもゼロスもかなり腕が立つ。 |
マーク | きっとシングに接触してくれる筈だ。 |
クレス | そうだね……。チェスター、頑張れ…… ! |
チェスター | ……はぁぁぁ。 |
クラトス | ……フフッ。 |
チェスター | 笑うな ! ! |
シンク | そりゃ、笑うでしょ。野太い悲鳴上げてクラトスにしがみついてたんだから。 |
チェスター | いきなり背負われたと思ったらケリュケイオンのハッチから空にダイブされたんだぞ ! ? 驚くのは当たり前だろ ! ? |
ゼロス | わりぃなぁ。顔が割れてる奴を連れてるから正面から帝都に入る訳には行かなかったんだよ。四幻将・魔弓のチェスター様。 |
チェスター | その名前で呼ぶな馬鹿野郎っ ! |
アスター | 随分と賑やかでございますなぁイヒヒヒヒ ! |
チェスター | あ、悪い……。突然庭に侵入して匿って貰ったのに、騒いだりして。 |
アスター | いえいえ、全てはセキレイの羽の方からご連絡をいただいております。 |
アスター | 帝国軍のシング・メテオライト様とつなぎを取りたいとのことでしたね。 |
クラトス | その通りだ。しかし、我らに荷担して大丈夫なのか ? |
アスター | 私どもも慈善事業ではございませんからそれなりの対価を求めるつもりではおりますよ。 |
クラトス | 我らに資金がないことは想像が付いていると思うがそれ以外のものを求めると言うことか。 |
アスター | 救世軍の方々も補給無しでは苦しゅうございましょう。少なくともその為の資金は残しておられる筈。 |
アスター | 私どもはその補給のお手伝いをさせて頂ければと思う次第でございます。イヒヒヒヒヒヒ。 |
シンク | ……この世界でもアスターは商魂たくましいってことか。 |
ヒルダ | ……この、世界 ? |
シンク | ……何でもないよ。で、シングはどこにいるのさ。 |
アスター | シング様とはヒルダが親しくしております。全てはヒルダにお任せ下さい。私は所用にてこれで失礼致します。 |
アスター | では、ヒルダ。後は頼みますよ。 |
ヒルダ | ……セキレイの羽ってのはアスター様を何だと思ってるのよ。 |
チェスター | 悪い。前回はカロルたちが力を借りたんだったな。 |
ヒルダ | で、どうしてシングに会いたいのか説明してくれるかしら。それによって引き合わせ方も違ってくるから。 |
ヒルダ | ……そう。だとしたら、アステルからミトスに当てた伝言も、あんたたちに伝えておいた方がよさそうね。 |
シンク | アステル ? 確かそれって四幻将のリヒターの知り合いじゃなかった ? |
チェスター | ああ。リヒターが元の世界で亡くしたダチだって言ってたな。 |
ヒルダ | ええ。色々と自由な子でね。 |
ヒルダ | 帝国で精霊の研究をしてるんだけどしょっちゅう抜け出して帝都をふらふらしてるのよ。 |
ヒルダ | ミトスにマーテルが攫われたことを知らせたのもアステルなの。 |
クラトス | ……ヒルダ。アステルからミトスへの伝言というのは ? |
ヒルダ | ――マーテルの居場所よ。 |
ゼロス | マジかよ ! ? どうやって調べたんだ ! ? |
ヒルダ | さぁ。確率がどうとか心理的距離がどうとか色々言ってたけれど……。 |
ヒルダ | それよりあんたたちの話を聞く限りミトスを放っておくのは危険でしょう。 |
クラトス | ……そうだな。あれは元の世界でもマーテルを失って、怒りと悲しみが理性を押し流した。 |
クラトス | この世界でもマーテルを失えばもう誰もミトスを止められぬ。 |
クラトス | それに私もマーテルを守れなかった。この世界では救ってやりたい。たとえここが影の国であってもな。 |
ヒルダ | ハーフなんでしょう、あの子。エルフと人間の。 |
クラトス | ああ、その為に何度も傷つけられてきた。 |
ヒルダ | ……そう。不思議ね。何故か私の周りにはハーフの子たちが集まってくるみたい。 |
シンク | ミトスの他にもハーフエルフがいるの ? |
ヒルダ | ……エルフじゃないけどね。異世界のヒトが色々集まると妙なこともあるもんだわ。 |
ヒルダ | さて、それじゃあ行きましょうか。シングはいまイ・ラプセル城にいるのよ。 |
ヒルダ | 地下通路が使えれば良かったんだけど今は警備が厳しくなってるから多少危険でも街を抜けていくわ。 |
ヒルダ | 城にさえ着けば、中に入るのは簡単よ。 |
シンク | 城の警備が手薄ってこと ? |
ヒルダ | 警備担当の人間がアスター様の手の者なのよ。 |
ゼロス | よっしゃ、それじゃあ行くとするか。俺さまの華麗な活躍を見て惚れるなよヒルダちゃん ! |
ヒルダ | ――ヒルダ、ちゃん…… ? |
ゼロス | あー、その冷たい目がたまらない。俺さまもだえちゃう ! |
ヒルダ | これといい、前のレイヴンとか言う奴といいあんたたちのところは深刻な人材不足みたいね。 |
シンク | むしろ人材が豊富なんじゃない ?悪い意味で。 |
クラトス | ……す、すまぬ。 |
キャラクター | 8話【6-10 芙蓉離宮 2】 |
| イ・ラプセル城内武器庫 |
ゼロス | ヒルダちゃん、大丈夫かね。やっぱ俺さまも一緒に行ってあげたかったぜ~。 |
チェスター | そりゃ無理だろ。ヒルダは出入りの商人の使いだって顔ができるけど、オレたちは単なる侵入者だぞ。 |
シンク | しかも裏切り者がいるしね。 |
三人 | ………………。 |
ヒルダ | お待たせ――って、何 ?みんな妙な顔してるけど。 |
シンク | さぁね。それよりそこにいるのはシングじゃなくてカイウスだよね ? |
カイウス | シングならメルクリアに呼び出されたから当分会えないと思う。 |
チェスター | どういうことだ ! ? |
カイウス | ミトスの件で、メルクリアが怒ってるんだ。 |
カイウス | オレは事情を聞かれてすぐに解放されたけどシングはコハクの件で色々文句を言っちまったから……。あの馬鹿……。 |
チェスター | くそっ ! シングがいなきゃアミィはどうなっちまうんだよ ! |
カイウス | 確かヒルダの話だとソーマが必要なんだろ ?シングはいないけど、代わりにコハクのソーマを持ってきた。 |
カイウス | 勝手に持ってきたから、あとでシングに怒られるかも知れないけど、役に立つか ? |
クラトス | きっと参考になるだろう。預からせて貰えるだろうか。 |
カイウス | もちろん。壊したりしないでくれよ。 |
クラトス | 約束する。 |
カイウス | それと……前に言ってた力を貸してくれるかも知れないって話。あれ、本気か ? |
ゼロス | ん ? 何かあったのか ? |
カイウス | まだ何とも……。でもそうなりそうな気がしてる。 |
ヒルダ | ルビア――この子の仲間が反逆者として戦士の館から連行されちゃったのよ。 |
ヒルダ | 何処に収容されているのか私の方で調べてたんだけどようやくいくつか候補が挙がってきたの。 |
チェスター | ルビアが……。くそっ ! |
クラトス | ……まだルビアの居場所は特定できぬのだな。 |
ヒルダ | ええ。絞り込みにはもう少しだけ時間がかかりそうなのよ。 |
クラトス | ならばカイウス、これを持っておけ。 |
カイウス | この鏡は…… ? |
クラトス | 通信装置だ。鏡殻変動以降使い物にならなくなっていたがまた使えるようになった。 |
クラトス | 必要があればそれを使って我らに声を掛けてくれ。 |
カイウス | ……ああ。ありがとう ! |
シンク | ……はぁ、お人好しだね。ほんとゴクロウサマ。 |
カイウス | そうだ !みんな、そろそろ城を出た方がいい。ナーザとチーグルがこっちに来るって話だ。 |
シンク | チーグル ?……ああ、あの金髪の妙な男か。ブサイクな魔物のことかと思った。 |
チェスター | ナーザと鉢合わせすると面倒だぞ。 |
ゼロス | そうだな。さくっと脱出するか。ヒルダちゃんはどうすんのよ。 |
ヒルダ | ――その呼び方、いい加減やめてくれない ? |
ゼロス | ええ~ ! ? じゃあヒルダ様~ ! |
ヒルダ | ぶつよ ! |
ゼロス | ぶつ前に言ってくれるなんて優しすぎるぜ、ヒルダ様~ ! |
ヒルダ | あー……。この馬鹿何とかしてくれない ? |
クラトス | すまぬな。神子……ゼロスはあなたとじゃれ合いたいだけなのだ。 |
ゼロス | 真面目な顔でそーゆーこというのやめてくれねーかな ! ? |
ヒルダ | ――とにかく !私はカイウスとルビアの捜索についてもう少し打ち合わせしていくわ。 |
ヒルダ | あんたたちは先に逃げなさい。 |
クラトス | ……カイウス。ミトスはどこにいる ? |
カイウス | ミトス ? ……多分近くの森に作った避難所にいると思う。 |
シンク | 避難所って何。 |
カイウス | ……マーテルさんを匿うために準備してたらしいんだ。その前に攫われちゃったけどさ。 |
クラトス | 詳しい場所を教えてくれ。 |
カイウス | ……まぁ、あんたたちなら大丈夫か。今、地図を書くよ。 |
クラトス | ヒルダ。アステルからの伝言は私から伝えておく。それでいいか ? |
ヒルダ | そうね。そうしてくれると助かるわ。 |
チェスター | 待った。オレはミトスに会いに行ってる暇なんてないぞ ! |
シンク | だったら、ゼロスがチェスターをケリュケイオンへ送ってやればいい。 |
クラトス | シンクは私と共にくるのか ? |
シンク | アンタ一人残して帰ったらマークが怒るからね。 |
シンク | まぁ、それでもいいけどしつこくくどくど言われるのも面倒だ。アンタに付き合えば義理は果たせるだろ。 |
クラトス | ……フッ。 |
シンク | ……チッ。何もかもわかってますって澄まし顔か。ゼロスがアンタを嫌う理由がわかったよ。 |
ゼロス | でひゃひゃひゃひゃ。だろー ? 仲間になれて嬉しいよ、シンくん。 |
シンク | アンタと仲間になるのもお断りだねバカ神子。 |
チェスター | ……何でもいいから急ぐぞ !アミィが待ってるんだ。 |
キャラクター | 9話【6-12 森にある避難所】 |
シンク | ……カイウスの地図によるとこの辺りにミトスの避難所があるんだろ ?それらしいものが見当たらないけど。 |
クラトス | ……すんなりと見つかるようには作らないだろう。ミトスと私たちはかつての旅の間ずっと敵に追われていた。 |
クラトス | どのようにすれば身を隠せるかはよく心得ている。 |
シンク | ――待った。何かいるよ。 |
クラトス | この気配は……。 |
シンク | 魔物…… ! ? |
クラトス | ノイシュ…… ! ? |
ノイシュ | ワォーン……。 |
シンク | ……何、この変な生き物。アンタのペット ? |
クラトス | まぁ……そんなようなものだ。 |
クラトス | ノイシュ、お前も具現化されていたのか。何故ここにいる ?ロイドと一緒ではないのか ? |
ノイシュ | キュウーンキュンキュン……。 |
クラトス | ……まさか、ミトスと一緒にいるのか ? |
シンク | は…… ? 何、この変なのと会話できる訳 ? |
クラトス | ノイシュは高度な知能を持つ知的生命体だ。 |
クラトス | 付いてこいと言っているようだ。 |
シンク | まぁ、アリエッタみたいなものか……。 |
ノイシュ | ワォーン ! |
ミトス | ノイシュ、大きな声で鳴いちゃ駄目だよ ? |
クラトス | ミトス……。 |
ミトス | ……ノイシュが連れてきたのか。お前はお節介だね。 |
ノイシュ | ワフ ! |
ミトス | 何か用 ? 偶然なんてことはないでしょう ? |
クラトス | アステルという人物からの伝言を預かってきた。マーテルは海鳴りの神殿にいるとのことだ。 |
ミトス | ! ? |
クラトス | お前は海鳴りの神殿の場所を知っているか。 |
ミトス | ……知ってるよ。メルクリアの離宮から繋がる神殿だ。 |
シンク | 行って暴れてくるつもり ? |
ミトス | 姉さまに何かしていればね。 |
クラトス | 私も共に行こう。 |
ミトス | ………………。 |
クラトス | 戦力が増えて困ることはあるまい。 |
シンク | ねぇ、アンタが行くってことは自動的にボクも行かなきゃいけないんだけど。 |
ミトス | こいつも来るの ? 足手まといなんじゃない ? |
シンク | 言ってくれるね。何なら試してみる ? |
ミトス | 身の程知らずも大概にしたら ?お前なんか剣を使わなくてもすぐ殺せるよ。 |
シンク | だったら殺してみせてよ、シスコン坊や。 |
クラトス | ――いい加減にしないか。ミトス、シンクは手練れだ。それがわからぬお前ではないだろう。 |
ミトス | ボクの力も見誤るような雑魚は邪魔だと思っただけだよ。 |
シンク | ――貴様っ ! |
クラトス | ミトス ! シンク ! やめなさい。本当に力を持つ者は、むやみにそれを振り回したりはしないものだ。 |
クラトス | そういう意味ではお前たちは二人とも弱者だ。 |
二人 | ………………。 |
クラトス | ――ミトス。一つ尋ねて構わぬか ?ここには随分古い書物も集めているようだが何か調べているのか ? |
ミトス | 精霊について、ちょっとね。 |
クラトス | 精霊 ? やはりデミトリアスの計画に関することなのか ? |
ミトス | あんな死に損ないの考える計画なんてどうでもいい。ただボクは心配してるだけ。精霊マーテルの存在の可能性について。 |
クラトス | 精霊マーテル ? 何を言っている。マーテルは精霊ではないだろう。 |
ミトス | ――クラトスは知らないんだね。うん……そうだったね。だったら知る必要はないよ。今のところはね。 |
ミトス | それより海鳴りの神殿へ行こう。ボクが案内する。 |
シンク | このノイシュとか言う変なのはどうするのさ。 |
クラトス | ノイシュは魔物が苦手だ。この家にいた方がいい。あるいは……。 |
クラトス | ――いや、いい。ここでミトスの帰りを待っていてくれ。 |
ノイシュ | キューン……。 |
ミトス | ノイシュ、いい子にしているんだよ。 |
シンク | ……変な顔。知恵があるようには見えないな。 |
ノイシュ | ワフン……。 |
キャラクター | 10話【6-15 海鳴りの神殿 3】 |
シンク | ……嫌なところだな。じめじめして。 |
ミトス | 姉さまは……。 |
チーグル | 待っていたよ、ミトス。 |
ミトス | リチャードか……。 |
チーグル | それはこの体の持ち主の名前だ。僕はチーグル。高貴な北方の虎だよ。いい加減名前で呼んで欲しいなぁ。 |
チーグル | きみだって元の世界でこうやって魂を違う体に移そうとしていたんだろう ?だったら僕は待望の成功例じゃないか。 |
チーグル | 仲良くしようよ。 |
ミトス | ……姉さまはどこだ。 |
? ? ? | ――聞こえるか、ミトス。 |
クラトス | 子供の声…… ? |
ミトス | メルクリアだ。 |
メルクリア | そうじゃ。あはは ! わらわの声忘れたわけではないのだな ! よかったぞ。 |
ミトス | メルクリア ! どこにいる ! ? |
メルクリア | 捜しているのはわらわではないだろう ? |
ミトス | ふざけるなっ ! |
メルクリア | ミトス……。わらわを失望させてくれるな。そなたはわらわと同じじゃ。だからこそマーテルを具現化してやったのではないか。 |
ミトス | お前たちのくだらない計画に姉さまを巻き込むなと言っただろう ! |
メルクリア | チーグル。説明してやれ。 |
チーグル | はい、メルクリア様。ミトス、神降ろしはデミトリアス陛下の大願なんだよ。 |
チーグル | 何、全て終われば、神はまたいずこかへお戻りになる。 |
ミトス | 神降ろしだろうと何だろうとやることはリビングドールと変わらない。姉さまの心を消すなんて許さない ! |
チーグル | 消さないよ、ミトス。心核――心の物質化に成功したんだ。壊さずに取り出す。 |
チーグル | でも、もしもここでメルクリア様の意思に背くなら、メルクリア様は今すぐ心核を取り出して壊す……と仰っている。 |
ミトス | ! ! |
シンク | ……そういうことか。 |
クラトス | ミトス……。 |
チーグル | 僕が見届けてあげるよ。反逆の意思がないことを見せてくれ。 |
ミトス | ――クラトス。 |
クラトス | お前がそうせねばならぬと言うならそれでもいい。だが、それでも私は今度こそお前たち姉弟を守りたい。 |
ミトス | ………………っ ! |
シンク | アンタ、馬鹿か ! ?少しは攻撃を避けてよね ! |
ミトス | ……邪魔をするな。 |
シンク | この馬鹿に死なれるとこっちが困るんだよ。 |
シンク | クラトス。アンタがここで死んだらロイドはどうすると思う。 |
クラトス | ロイドはものの道理がわかる男だ。 |
シンク | 歪んだ情報に触れなきゃそうかもね。ボク、そういう操作は得意なんだけど。 |
シンク | こいつとロイドを戦わせたくなかったらしっかり戦ってくれない ? |
シンク | 客分傷つけてうるさく言われるのはボクなんだ。死ぬなら勝手にのたれ死んでよ。 |
ミトス | ……クラトスはあの女の子供に弱いからね。いいよ。ボクも本気で殺しにいくから ! |
キャラクター | 11話【6-15 海鳴りの神殿 3】 |
シンク | ……やったか。 |
ミトス | ――残念だったね。 |
シンク | 傷が癒えていく…… ! ? |
クラトス | 天使とはそういう体の構造をしている。体につけた輝石を壊さぬ限り死ぬことはない。 |
シンク | ちっ。面倒な奴らだ。 |
チーグル | ミトス。もっとだよ。きみの本気はこんなものじゃないよね ? |
ミトス | ………………っ ! |
ゼロス | 見て行きな !俺の全力 !ディバイン・インペイル ! ! |
チーグル | ぐぉぉぉぉぉぉっ ! ? |
ゼロス | ……横から茶々入れて煽ってんじゃねぇよ。 |
マーク | お、ゼロス。ナイス働きだな。おい、クラトス、シンク。無事か ? |
シンク | 来るのが遅いね、マーク、ゼロス。 |
ゼロス | お前、もう少し感謝の気持ちを持てない訳 ? |
メルクリア | ……何じゃ。興ざめじゃな。 |
ゼロス | 何だ、この声は……。 |
メルクリア | まあいい。ディストからの報告と違ってちゃんと戦ってくれたようじゃな。わらわは満足したぞ。 |
ミトス | 姉さまは何処だ。 |
メルクリア | ジュニア、ミトスを連れて戻ってまいれ。チーグル、撤退じゃ。よいな。 |
チーグル | ……承知しました、メルクリア様。 |
シンク | 消えた……。転送か ? |
ゼロス | そんなものあるのかよ。チートじゃねぇか ! |
マーク | ……おっと、小さいフィリップじゃねぇか。何でこんなに可愛かったのにあんなになっちまったかねぇ……。 |
ジュニア | マーク……。 |
ミトス | やぁ、ジュニア。メルクリアの狗になった気分はどう ? |
ジュニア | ……あの、ミトス。ごめん。 |
ミトス | ――別に劣悪種の人間には何も期待してない。 |
クラトス | ミトス、行くのか。 |
ミトス | ………………。 |
ミトス | ――……期待してないけど今度は……信じていいの ? |
クラトス | ! |
ゼロス | ――そういうときはよ、ミトス。「信じてる」って言うんじゃねぇの ? |
ミトス | ボクはもう……動けない。だから……姉さまを助けて……。 |
クラトス | もちろんだ。約束する。必ずお前たちを救う。 |
ジュニア | あの、フィルに伝えて下さい。「僕らの始まりの場所に行って」って。それでわかるから。 |
マーク | ……なぁ、クラトス、ゼロス。この際、はっきりさせないか。 |
クラトス | どういうことだ。 |
マーク | あんたたちは、俺たち救世軍の客分だ。 |
マーク | だが、本格的に帝国と対立するならいつまでも二人だけで独立部隊気取るのも厳しいだろ。 |
マーク | かといって、ミリーナたちのところへ合流する気はない。 |
ゼロス | 俺さまは別に合流してもいいんだぜ。つーか、むしろ合流したい。あっち、美人がわんさかいるんだもんよ。 |
シンク | バカ神子、黙って。 |
マーク | 正式に救世軍へ来いよ。ミトスの姉ちゃんを助けるなら人手が必要だろ。 |
マーク | フィルもそうして欲しいって願ってる。あんたらは頼りになるとさ。 |
マーク | 俺はフィルから離れて活動できないから救世軍の指揮を執る人間が必要だ。 |
シンク | ……クラトスが指揮官か。現場に出られる分、マークよりは助かるね。 |
マーク | だろ ? |
ゼロス | 俺さまは ? |
マーク | 美女手当をつけてやるよ。雑兵には美人もいるぜ。 |
ゼロス | ……ま、しゃーねぇかなぁ。 |
ゼロス | 冗談はともかく、実際のところ、俺さまロイドたちのところには居づらいんでね。色々影でやらかしてきたからな。 |
ゼロス | 今の状態じゃ謝ることもできやしねぇ……。 |
クラトス | ……ミトスは現在の新生救世軍にとって裏切り者だ。それを助けるのに協力してくれるというのか。 |
マーク | んなこと言ってたら俺はミリーナを殺そうとしてたんだぜ ?昨日の敵は今日の友。ま、そんな感じかね。 |
クラトス | わかった。世話になろう。貴公らには色々と助けられた。私で力になるなら共に戦おう。 |
ゼロス | 三食昼寝美女手当尽きで手を打っておくわ。頼むぜ、マーくん。 |
ゼロス | おっと、フィリップから通信だ。どうした ? |
フィリップ | アミィが……―― |
? ? ? | 暗くて……冷たい……。虚無が近づいてくる……。 |
フィリップ | ――……だ。 |
クラトス | 何だ、今のは ? |
シンク | 混線…… ? そんなことってある ? |
ゼロス | 今の……イクスの声じゃないか ? |
フィリップ | ……てるのかい ?アミィが意識を取り戻したんだ ! |
三人 | ! ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【7-1 ひとけのない雪山1】 |
コーキス | アミィ様の治療、進んでるのかな……。 |
ミリーナ | ソーマ……という装置 ? があるのは帝国側だからまずはそれを奪ってくることに成功しないとね。 |
ジェイド | その点は大丈夫でしょう。セシリィの言葉を信じるならソーマとやらを持っているシングという人物は、何らかの理由があって帝国に留まっているだけのようです。 |
ジェイド | 彼の目的が死者の復活でないならこちらに協力してくれる可能性は十二分にある。 |
セシリィ | シングは、仲間のコハクさんという鏡映点を助けたいだけだと言ってたわ。だから、救世軍がコハクさんを預かっていることを知れば、きっと力を貸してくれる。 |
ジェイド | ………………。 |
カーリャ | でもチェスターさまとクレスさまが、アミィさまとケリュケイオンに向かってから結構時間が経ちますよね。やっぱり心配ですよぅ……。 |
コーキス | そうだな……。やっぱ俺も一緒に行くべきだったかも。そうしたら、魔鏡通信で状況を知らせられたのに。 |
ミリーナ | 大丈夫よ。何かあればフィルたちが連絡をくれるわ。 |
ジェイド | ……セシリィ。ちょっと伺いたいことがあるのですがよろしいですか ? |
セシリィ | 何でしょうか ? 浄玻璃鏡のことですか ? |
ジェイド | ああ、そちらも興味深いですが、今はカロルたちが持ち帰った情報のことについてお尋ねしたい。 |
ジェイド | カロルたちが言っていた、もう一つのカレイドスコープとそれを隠している仮想鏡界のことについて。 |
セシリィ | ……ああ、はい。 |
ジェイド | 我々のアジトであるこの仮想鏡界は、ミリーナが創りカーリャと二人で維持している特殊な空間です。 |
ジェイド | あー、まぁ、このような曖昧な定義しかできないことをお許し下さい。原理は理解しましたが、説明が大変なのでね。 |
ジェイド | 帝国側の仮想鏡界も誰かが創っている空間であることは間違いない。しかしこれは非常に難しい魔鏡術の筈です。 |
ジェイド | ミリーナもゲフィオンとしての記憶を共有することで初めて成し得たことだと言っていました。 |
ジェイド | つまり帝国にもゲフィオンクラスの鏡士がいると判断して差し支えないでしょう。それは誰だと思いますか ? |
コーキス | は ? そんなことセシリィに聞いてわかるのか ? |
セシリィ | ……わからない。ナーザ将軍がメルクリア様の兄君――ウォーデン様なのだとしたらウォーデン様が鏡士であることは間違いないわ。 |
セシリィ | でも、イクスさんのご遺体を奪っているのなら本来の力は出せない筈。メルクリア様はまだ仮想鏡界を作れるほどではないと思うし……。 |
ミリーナ | この世界で生き残っている鏡士の中で仮想鏡界を使えるクラスの人物となると私はフィリップしか思い当たらないわ。 |
ミリーナ | あとは……シャーリィに宿っていたというヨウ・ビクエが本当にあのヨーランド様なのだとしたら……彼女には簡単なことでしょうね。 |
ジェイド | やはりそうか……。 |
コーキス | え ? ま、まさかジェイド様帝国の仮想鏡界を作った人間に心当たりがある……とか ? |
ジェイド | ええ、まぁ。カロルの報告書を読んだ限りでは一人――いえ、二人の顔が思い浮かびました。 |
ジェイド | ただ、私は帝国の内部には明るくありません。ですから、二人以外の可能性があるのか排除する必要があったんですよ。 |
セシリィ | あ、でも、私も帝国のこと何でも知ってる訳じゃないですよ ? |
セシリィ | 私も突然メルクリア様に呼び出されてビフレスト式の魔鏡術を復活させるように言われただけで……。 |
ジェイド | つまり、メルクリアはあなた以上の鏡士を知らないと言うことですね。 |
セシリィ | ……それは、そうかも知れません。 |
ミリーナ | ――待って。セシリィ、あなた鏡士じゃないわよね ?魔鏡技師でしょう ? |
セシリィ | ! ! |
ジェイド | ああ、失礼。言葉のあやですよ。メルクリアは魔鏡技師であるセシリィに頼らざるを得ないぐらい、鏡士のあてがないという意味です。 |
ジェイド | いやぁ、失礼しました。 |
コーキス | ――え……、な、何だ、そういうことかよ。びっくりしたぜ ! |
セシリィ | ………… ! |
ジェイド | ………………。 |
カーリャ | うおおおおお、ブルってきたぁ ! ?魔鏡通信です、ミリーナさま ! |
マーク | カーリャ先輩、邪魔するぜ。 |
カーリャ | はぁ ! ?私はマークの先輩になった覚えはありませんよ ! |
コーキス | そうだぞ ! パイセンは俺のパイセンだからな ! |
マーク | つれないこというなよ。それよりウチの繊細なご主人様がミリーナに助けを求めてるぜ。 |
ミリーナ | フィルが ? どういうこと ?まさかアミィちゃんに何かあったの ! ? |
マーク | そういうことだ。あんたの助けが欲しいとさ。魔弓のチェスターくんの為にも一つ力を貸してやってくれ。 |
ミリーナ | 当然だわ。今、どこにいるの ? |
マーク | とりあえず、帝国の目を避けるために人気のない雪山で落ち合いたい。詳しい座標は―― |
ミリーナ | ――ケリュケイオンと落ち合う場所がわかったわ。私、行ってきます。 |
コーキス | ミリーナ様、俺も行きます。連れて行って下さい。 |
ミリーナ | ええ、もちろんそのつもりよ。 |
カーリャ | カーリャも……と言いたいところですが私はここを離れられません。コーキス、ミリーナさまをちゃんとお守りするんですよ ! |
コーキス | 任せとけって ! |
ジェイド | 腕の立つのと、頭の回るのを何人か連れていくといいでしょう。それと……セシリィ。あなたも行った方がいい。 |
セシリィ | え……。でも私はここで、みなさんの武器のお手入れを手伝ったり、キール研究室のお手伝いをしたり……。 |
ジェイド | 私は……あなたとガロウズの関係を察することしかできません。もしかしたら彼は知らない方が幸せなのかも知れない。 |
ジェイド | ですが、アミィの症状がリビングドール化の失敗によるものなのだとしたらあなたのことも話しておいた方がいい。 |
ジェイド | 二人にとってつらい話になるかも知れませんがそれがアミィや他のリビングドール化された人々への救いになる。 |
ミリーナ | ……ジェイドさん。どういうことですか ?何を知っているんですか ? |
ジェイド | 知っているのではなく、推察したのです。おそらく正しい……と思いますがセシリィの口から話した方がいい。 |
ジェイド | ミリーナ、あなたがゲフィオンであったことをリフィルがぎりぎりまで隠したようにね。 |
ジェイド | 人には暴かれるのではなく自ら告白した方がいいこともある。 |
セシリィ | ……そうですね。でも……ジェイドさん。あなたは怖い人ですね。 |
ジェイド | そうでしょうか ? |
セシリィ | いつからご存じだったんですか ? |
ジェイド | ……あー、いえ、そういうのはやめておきましょう。さぁ、急いでケリュケイオンに向かって下さい。 |
ジェイド | 雪山は年寄りには応えますので私はここでお待ちしていますよ。 |
キャラクター | 2話【7-2 ひとけのない雪山2】 |
フィリップ | ……久しぶり、だね。 |
ミリーナ | ……フィル。どうしてずっと会ってくれなかったの ? |
フィリップ | 今のきみがゲフィオンだった頃の記憶を共有しているミリーナだから、かな。 |
フィリップ | 見た目は僕が子供の頃と何も変わらないのに、きみは僕がどれだけひどいことをしてきたのか知っている。……正直なところ、それがつらかった。 |
ミリーナ | フィル……ううん、本当に酷いことをしたのは私よ。この世界を滅ぼしたのは私なの。あなたじゃない。 |
フィリップ | いや、違うよ。ゲフィオンと僕がやったことだ。きみはあのミリーナとは違うんだ。違う道を歩んで欲しい。 |
ミリーナ | ……そう思えれば……いいんだけれど……。 |
ユリウス | 俺たちの世界で言う、分史世界の自分の記憶を内包しているようなものか。 |
ルドガー | それは……苦しいな。 |
アーチェ | んー、まぁ、でもそれって、この先を生きていくことで薄れていくんじゃないの ?すごくリアルな夢みたいなもんだって。 |
アーチェ | 囚われすぎない方がいいんじゃない ? |
コーキス | ミリーナ様……。アーチェ様の言う通りですよ。 |
ミリーナ | ――ああ、ごめんなさい。私のことはいいのよ。アーチェの言う通りかも知れないし。そんなことよりアミィちゃんのことよね。何があったの ? |
フィリップ | それが……あの子は沈静化させたのにずっと涙を流しているんだ。 |
セシリィ | 感情が一部戻ってきているってこと ! ? |
フィリップ | ……そうなるね。しかも暴走しているんだと思う。何が原因か突き止めて、早急に対処した方がいい。 |
エル | 原因……。ずっと涙を流してるって悲しいからじゃないかな ?つらい夢を見てるのかも……。 |
ルドガー | 大丈夫だ、エル。アミィを助けるためにみんなここに来たんだから。 |
コーキス | だけど、アミィ様の治療にはソーマってのが必要なんだろ ?チェスター様たちが取りに行ってるんじゃないのか ? |
フィリップ | ああ。だが、待っている方が危険だと判断した。僕の魔鏡術で心核にアプローチする。 |
フィリップ | だからミリーナの……ゲフィオンの記憶を持つミリーナに頼る必要があったんだ。 |
ミント | ……アミィちゃんを助けましょう。ミリーナさん、お願いします ! |
ミリーナ | ええ。必ずアミィちゃんを助け出してみせるわ。 |
ガロウズ | ――お、セシリィも来たのか。 |
セシリィ | 師匠……じゃなくてボスって呼んだ方がいいんだっけ ? |
ガロウズ | そりゃ、どっちでもいいんだが……。 |
ユリウス | セシリィ。状況はジェイドから聞いている。まずはアミィを助けてからにしよう。 |
セシリィ | はい。師匠、アミィちゃんは ? |
クレス | アミィちゃんはここだよ。さっき医務室のベッドをここに運んできたんだ。 |
コーキス | ホントだ、涙がずっと溢れてる……。どうして……。 |
ミント | ……アミィちゃん。 |
アーチェ | そっか。クレスがアミィちゃんを守ってチェスターが帝国に向かったんだ。 |
クレス | うん。だけど今このことをチェスターに伝えるとチェスターが動揺する。ここは僕たちでアミィちゃんを助けよう。 |
フィリップ | 僕が魔鏡術でアミィちゃんの心核を鏡に映す。ミリーナはそれをつなぎ止めて維持してくれ。 |
ミリーナ | フィリップが鏡越しにアミィちゃんの心核の傷ついた部分を修復するのね。 |
フィリップ | 繊細な作業になる。治癒の力を持つミントにはここに残ってサポートをお願いしたい。 |
フィリップ | それと、アミィちゃんのことをよく知っているクレスにもサポートを頼む。 |
ミント | わかりました。 |
クレス | 何でもやります。アミィちゃんとチェスターのためにも……。 |
フィリップ | 他のメンバーは待機していてくれ。 |
コーキス | わかった。 |
ユリウス | ……だったら、少し外で話をしないか。セシリィがガロウズに話があるそうだ。 |
ガロウズ | ! ! |
フィリップ | ……そうか。やっぱりセシリィもビフレストの関係者なんだね。 |
ルドガー | え ? どういうことだ ? |
ユリウス | とにかく場所を移そう。ケリュケイオンの中には救世軍の一般兵がたくさんいる。デリケートな話は外の方がいいだろう。 |
ユリウス | 少しだけケリュケイオンから離れるがすぐ戻れる場所にいる。何かあったら魔鏡通信をくれ。 |
フィリップ | 何もないことを祈っていてくれ。 |
キャラクター | 3話【7-3 ひとけのない雪山3】 |
ガロウズ | ……それで、俺に話ってのはなんだ ? |
ガロウズ | ――いや、セシリィ。俺からも聞かせてくれ。お前、いつの間にあんな研究ができるほど魔鏡と魔鏡術に詳しくなったんだ ? |
セシリィ | ……まず、最初に謝らなければいけません。これは師匠……ガロウズだけじゃなくて他の皆さんにも……。 |
セシリィ | 私はセシリィではありません。 |
エル | え ! ? どういうこと ? |
コーキス | ――も、もしかして、フレン様って人と同じリビングドール……。 |
セシリィ | はい。リビングドールは、心核を取り外し、そこに人工心核を取り付けて、虚無に漂うアニムス粒子を閉じ込めることでキメラ結合させた存在。 |
セシリィ | 私はセシリィの体を借りている死者です。 |
ガロウズ | じゃ、じゃあ、セシリィは ! ?あの子の心核は何処にあるんだ ! ? 無事なのか ! ? |
セシリィ | ……無事だと思います。心核が壊れたら体は存在を保てない。だからきっと無事です。 |
ユリウス | 君は誰なんだ、セシリィ。 |
ユリウス | ジェイドからは敵ではないと言われている。あの男が言うのだから、君が敵である可能性は極めて低いのだろう。だが、もしも敵なのだとしたら―― |
セシリィ | ……私はビフレスト皇国魔鏡庁の正階鏡士シドニー・ミラー。 |
ガロウズ | ――う、嘘だ……。 |
シドニー | ……ごめんなさい、ガロウズ。言えなかった。言えばあなたを苦しめると思ったから。何も言わずにミリーナさんたちに協力すれば、事態は収拾できるって―― |
ガロウズ | やめろ ! やめてくれ ! どうしてこんな……。 |
コーキス | な、何だよ ? ガロウズの知り合いなのか ? |
シドニー | 私とガロウズは結婚の約束をしていたの。もうずっと昔のことだけど……。 |
一同 | ! ? |
シドニー | ガロウズの両親は商人で、ビフレストにも家を持っていたんです。その家が私の家のすぐ近くで……。 |
シドニー | その頃はまだ戦争も始まっていなかったから敵同士になるなんて思ってもいなかった。 |
ガロウズ | ……しばらくして魔鏡戦争が始まってな。シドニーは俺との関わりからスパイだと疑われて前線に送り込まれたんだ。 |
ガロウズ | その時俺はセールンドの志願兵として前線に出ていた。驚いたよ。敵にシドニーがいたんだ。俺はシドニーとは戦えなくてな……。 |
シドニー | ガロウズは私を助けようとして、腕を失ったの。 |
ガロウズ | ……でも、助けられなかった。自暴自棄になったところをゲフィオン様に拾われたんだ。 |
シドニー | ……カレイドスコープに粉々にされた私は虚無をずっと漂っていた。もう何を考えていたのかも思い出せない。 |
シドニー | でもある時、何かの力に引き寄せられて、気付いたらセシリィの中にいた。リビングドールにされたのよ。……メルクリア様によって。 |
コーキス | (この場にミリーナ様がいなくてよかった。でも、いずれは説明しないといけないんだよな……。くそ、ミリーナ様がまた傷つくじゃねーかよ ! ) |
ユリウス | きみはビフレストの人間なんだな。なら、どうして自国の王子や王女のいる帝国側に協力しないんだ。 |
シドニー | この私の状態……自然なものと言える ? この子はメルクリア様の遊び相手として城に呼ばれていたらしいの。 |
シドニー | そんな子の体を使って……。その理由が、鏡士が好きだから鏡士の力を学びたいから。ただそれだけ……。 |
ルドガー | ……前から気になっていたんだが、リビングドールにするための……その……死者の魂みたいなものはどうやって選別して呼び寄せているんだ ? |
ルドガー | 聞いていると、都合よく、欲しい人材をリビングドールとして復活させているみたいだ。 |
シドニー | それは……。 |
チェスター | うおおおおおおおお ! ? |
アーチェ | ちょっと、何よ、今の野太い悲鳴は ! ? |
ゼロス | いよっ、アーチェちゃん ! 今日も可愛いねー !ポニーテールがキュート ! うなじがセクシー ! |
チェスター | お……お前なぁ…… ! ? 急降下するときは声をかけろって……え…… ? アーチェ…… ? |
アーチェ | お姫様抱っこ ! ? あはははは、随分ふっとい声のお姫様じゃん ! そんなに空を飛ぶのが怖いんだー ? |
チェスター | ち、違うぞ !こいつが前置きもなく急降下するから―― |
ゼロス | はいはいはいはい。じゃれ合いは後にしてくれ。俺さま、またクラトスたちのところへ戻るわ。シンクとクラトスだけってのもなーんか心配なんでな。 |
ゼロス | マーク借りてくぞ。戦力が欲しいからな。 |
コーキス | マークを借りてくって……フィリップ様は今、動ける状況じゃないぞ ! ? |
ゼロス | 大丈夫だよ。鏡精が動ける範囲内だ。 |
ゼロス | それじゃあね、アーチェちゃんとエルちゃんとセシリィちゃんとその他大勢共 ! |
コーキス | あ……相変わらずやかましい人だな……。 |
エル | なに、エルちゃんって。エルのこと、子供扱いしないでよね。 |
ユリウス | あれは危険だ。気をつけろ、ルドガー。 |
ルドガー | いや、さすがにエルぐらいの歳の子にまで色目を使うってことは……。 |
チェスター | ――そうだ。そんなことより、ソーマを持ってきたぞ。これでアミィを助けられるんだろ ! ? |
アーチェ | あー、それなら、もう始まってるよ。クレスたちがアミィちゃんの治療を手伝っててあたしたちは待機中。 |
シドニー | でも、ソーマがあるならフィリップさんたちの助けになると思う。ケリュケイオンに戻りましょう。 |
コーキス | でもシドニーの話の続きは…… ? |
チェスター | シドニー ? |
セシリィ | ……後にしましょう。今はアミィちゃんが最優先よ。それから、私のことはセシリィって呼んで。その方が……色々と混乱しないと思うから。 |
キャラクター | 4話【7-3 ひとけのない雪山3】 |
救世軍兵士 | ――チェスター様 ! ! |
チェスター | おい、こいつらに聞いたぞ。アミィは大丈夫なのか ! ? |
救世軍兵士 | 丁度よかった ! フィリップ様がチェスター様と連絡を取るように仰っていたんです。こちらへ来て下さい ! |
ミリーナ | チェスター ! よかった……。アミィちゃんの心があなたとクレスさんを捜しているの。 |
チェスター | アミィがオレたちを…… ? |
クレス | アミィちゃんは、チェスターが帝国へ行ったことがわかって、心が不安定になってしまったんだ。それで先に治療を始めるしかなかったんだけど……。 |
ミント | ……あの、今アミィちゃんの心は、トーティス村が襲われたときのことを思い出しているそうなんです。 |
チェスター | マルスがオレたちの村を襲ったときの…… ! |
フィリップ | 僕は詳しいことを知らないが、アミィちゃんは村を襲われたときに亡くなったんだね ? |
チェスター | ……ああ。だけどファントムの奴が具現化したのはまだ村が襲われる前の時間のアミィだった筈だ。 |
フィリップ | ……ファントムは恐らく、チェスターの心を通じてカレイドスコープの照準を絞ったんだろう。 |
フィリップ | これは推測だけれど、彼は無断でアミィちゃんを具現化したんじゃないのかな ? |
チェスター | どうしてそれを ! ? |
フィリップ | ……やっぱりね。ファントムは勝手にチェスターの心をサーチしてアミィちゃんを見つけ出し具現化したんだよ。 |
フィリップ | だからチェスターの中の不安が残ってしまって照準を甘くしたんだと思う。 |
フィリップ | アミィちゃんは知らない筈の感情に戸惑っているんだ。村が襲撃されたことは知らないのにその時の不安や恐怖だけが心に残っている。 |
フィリップ | ここで彼女の心を救わないと、彼女は戻ってこない。 |
チェスター | どうすればいいんだ ! ? |
ミリーナ | 私がサポートするわ。チェスター、鏡を通じて悪夢から目を覚ますようにアミィちゃんに伝えてあげて。 |
チェスター | わ、わかった。 |
チェスター | (アミィ……。帰ろう。オレと一緒に……。オレがお前をこんな目に遭わせちまった) |
チェスター | (でも……今度こそ、救わせてくれ。影の世界でもいい。お前を守らせてくれ…… ! ) |
ユリウス | ――おい、ソーマが何か反応しているようだぞ。微かだが光ったような……。 |
ガロウズ | 魔鏡に反応してる…… ?いや、ビクエ様の魔鏡術に反応してるのか ? |
シドニー | これは……確かコハクさんのソーマよね。コハクさんにつけてみる。持ち主が身につけることで何か変わるかも知れない。 |
コーキス | うわ ! ? ソーマがコハク様に触れただけでビカビカ光り出したぞ ! ? |
ミリーナ | 待って。そのソーマという装置からすごいエネルギーを感じる。これは私たちの魔鏡術がソーマに増幅されている…… ? |
フィリップ | ソーマというのは魔鏡による具現化に似た機構があるようだ。これなら一気に心核を修復できるぞ ! |
チェスター | アミィ ! 戻ってこい ! ! |
アミィ | ……お兄ちゃん…… ? そこにいたの ? |
アミィ | ――……お兄ちゃん ? |
チェスター | アミィッ ! ! |
メルクリア | ……なんじゃ、ミトスの奴め。わらわがこれほどまでに可愛がってやったというのに。 |
バルド | お言葉ですが、メルクリア様。メルクリア様も兄君を同じようにされたら、お怒りになるのでは ? |
メルクリア | 何を言うか。心は取り出すのじゃ。そしてよき器をあてがう。 |
メルクリア | 何、神降ろしとやらが終われば、また体を返して貰えばよいではないか。ミトスも元の世界でそのようなことをしてきたのであろう ? |
メルクリア | わらわが同じことをして何故怒るのじゃ。体があるだけマシじゃぞ。兄上様は滅びの鏡士の体を間借りしておるのじゃからな。 |
メルクリア | わらわの力が至らぬばかりに兄上様には申し訳ない限りじゃ……。 |
バルド | メルクリア様……。 |
メルクリア | バルド。そなたは、兄上様のために甦らせたのじゃ。兄上様のことを頼むぞ。 |
メルクリア | さて、わらわはミトスと話をつけねばならぬ。出迎えの準備をするぞ。 |
メルクリア | ミトスはお気に入りなのじゃ。やっと大人しくなったのだし丁重に迎えてやらぬとな。 |
バルド | (……やはり、幼い。何故このように歪んでしまわれたのか) |
バルド | (我々の誰かが生きてお側に仕えることができていれば……このようなことには……) |
? ? ? | (それでも、できることはあるんじゃないか) |
バルド | (……そうですね。あなたの言う通りなのでしょうね) |
キャラクター | 5話【7-5 ひとけのない雪山5】 |
ジュード | ……うん。大丈夫。救世軍の医療スタッフと一緒に簡単な検査をしたけれど、アミィちゃんは健康だよ。 |
ミリーナ | ごめんなさいね、ジュードさん。うちにも医療スタッフがいればジュードさんの負担を少しは減らせるのに……。 |
ジュード | ううん。みんなができることをやってるだけでしょ。気にしないで。 |
エル | ねぇ、アミィは ? |
ルドガー | チェスターとクレスと三人で話してるよ。 |
ミント | ここは元の世界とは違う場所ですから色々お話ししなければならないこともありますし。 |
アーチェ | 村が襲われたって事も……話すことになるんだよね。 |
ミント | ……そうですね。 |
エル | アミィ、猫好きかな ?ルルのことぎゅっとしたらきっと元気出るのに。 |
ルドガー | 後で聞いてみよう。 |
エル | うん。 |
フィリップ | よし、クラトスさんたちに連絡しておこう。クラトスさんも、アミィちゃんのことを気にしていたみたいだからね。 |
フィリップ | クラトスさん、ゼロスさん、聞こえるかな ? |
ゼロス | どうした ? |
フィリップ | アミィが目を覚ましました。治療が上手くいったんです。 |
フィリップ | ……あれ ?急に通信の状態が……。 |
フィリップ | 聞こえるかな、ゼロスさん。アミィの治療が上手くいったんだ。 |
フィリップ | うーん。聞こえてるのかい ?アミィが意識を取り戻したんだ ! |
? ? ? | 暗くて……冷たい……。虚無が近づいてくる……。 |
フィリップ | ! ? |
ミリーナ | イクス ! ? |
? ? ? | 万華鏡の裂け目を塞がないと……。……でも、力がどんどん拡散して……。 |
コーキス | マスター ! ? なぁ、マスターなのか ! ? |
ジュード | これは……どういうことなの ?どうしてイクスが魔鏡通信に……。 |
アーチェ | もしかして、イクスの心と繋がっちゃってるとか ? |
フィリップ | ……ああ、そのようだね。通信が混線してるんだ。魔鏡通信は心と魔鏡を繋いで映像を送る。 |
フィリップ | ヨウ・ビクエに直してもらうまで使えなかったのはこの世界にイクスの力と心が拡散しきって魔鏡通信の力を遮断していたからなんだ。 |
フィリップ | でもそこをヨウ・ビクエは、その強烈な力で強引に突き抜けるように改良したんだろう。その結果……イクスの心をキャッチしたんじゃないかな。 |
ミリーナ | ……待って。だとしたら、コーキスならイクスと会話ができるんじゃないかしら。コーキスはイクスの心の一部なんだもの。 |
フィリップ | 理論的にはそうなるね。 |
コーキス | 俺、やってみます ! |
コーキス | マスター ! 俺です、コーキスです !聞こえたら、返事をして下さい ! マスター ! ! |
ルドガー | ……駄目か。 |
コーキス | 何でだよ……。 |
ガロウズ | なぁ、このコハクのソーマだけど魔鏡器具で解析して見ようと思うんだが―― |
コーキス | マスターってば ! 返事してくれよ ! 会いたいよ ! ! |
セシリィ | ソーマがまた光り出したわ ! ? |
コーキス | な……何だ ! ? 左目の奥が刺すように痛い―― |
ミリーナ | コーキスが ! ? |
ジュード | 誰か、担架を ! !頭を打ってはいないみたいだけどすぐに医務室へ運ぼう。 |
コーキス | ……あれ ? ここはどこだ ?ミリーナ様は…… ? |
コーキス | ミリーナ様 ! カーリャ先輩 ! |
ミリーナ | コーキス。落ち着いて聞いてね。ここはあなたとイクスの心の世界。そして私はあなたが生み出したミリーナの影。 |
コーキス | え ? え ? |
ミリーナ | 現実のあなたは倒れてしまったの。でもそれは、あなたがイクスの心と繋がったから。 |
ミリーナ | さぁ、行きましょう。この先にきっとイクスがいるわ。 |
カーリャ | コーキス。しっかり頑張るんですよ ! |
キャラクター | 6話【7-6 ひとけのない草原1】 |
コーキス | これが俺とマスターの心の中…… ?何だか不思議なところだな。 |
コーキス | ミリーナ様、これはどういう原理なんでしょう ?俺も心の具現化で、この場所も心が具現化したようなものなんでしょう ? |
ミリーナ | ふふ、それを私に聞かれても困るわ。私はあなたが造り出した幻のミリーナなのよ。あなたが知らないことは私も知らないわ。 |
コーキス | ……そうか。俺が馬鹿だからこのミリーナ様も頭が悪くなっちゃってるのか……。 |
コーキス | あれ……ミリーナ様と先輩が…… ! ? |
? ? ? | ……あははははっ ! |
コーキス | ――だ、誰だ ! ? |
コーキス | マ……マスター ! ? |
イクス | コーキスは馬鹿じゃないよ。おかしな奴だなぁ。 |
コーキス | 本当に……マスターなのか ?俺が造り出した幻とかじゃなくて ? |
イクス | ああ、大丈夫。本物だよ。……って、でも証明する方法がないな。どうすればいいんだろう……。 |
イクス | 俺とコーキスしか知らない秘密……ってそんなのコーキスが造り出した幻なら当然知ってるもんな。 |
イクス | 弱ったな……。身分証明書……なんて持ってないし本物である証明って案外難しいな。 |
イクス | 綺麗なジェイドさんの時はルークが見破ってくれたけどベルベットさんの時はどちらもベルベットさんだったし……。 |
イクス | そもそも何をもって本物というかって定義も曖昧だ。この場合の本物は心だけの存在ではなく―― |
コーキス | ……あー、もういいや。そのめんどくささ、本物のマスターだわ。 |
イクス | え ! ? |
コーキス | でも……よかった。マスター、ちゃんと生きてるんだな。 |
コーキス | 俺が消えてないから大丈夫だとはわかっていたけど……寂しかったよ……。 |
イクス | うん、ごめんな。色々任せきりにしちゃって。それにしても……大きくなったなぁ。 |
イクス | 最初に見たときは、本当にコーキスなのかちょっと不安だったよ。 |
イクス | でも格好いいな。俺、そういう服とか眼帯とかちょっと憧れてるんだよなぁ。 |
コーキス | マジかよ ! ? マスターの趣味、微妙だな ! ?この眼帯、超うぜーのに ! |
イクス | あはは……ごめん……。それで……えっと……ミリーナたちは元気か ? 鏡映点のみんなは ?俺、迷惑かけちゃったから……。 |
コーキス | ……はぁ。そういうとこ相変わらずだな。みんな、元気にやってるしマスターを助けようと頑張ってるよ。 |
コーキス | まぁ……ミリーナ様は元気なふりしてるだけだけどさ。 |
イクス | ……そうだよな。ごめんな。 |
コーキス | あああ、そうだった。マスターはこういう奴だった。なんでそんな、いちいち謝るんだよ、もー ! |
イクス | ごめ……じゃなくて、気をつける。そういえばどうして急にコーキスが俺の心の中に現れたんだ ?何が起きてるのか教えてくれないか。 |
イクス | ここでは、ずっと虚無から届く悲鳴しか聞こえなかったんだ。 |
コーキス | えっと……上手く伝えられるかわからないけど今までのことを全部話すよ。 |
イクス | ……そうか。魔鏡通信の出力が上がったのか……。それで……。 |
コーキス | なぁ、みんなのことばっか気にしてるけどマスターの方は大丈夫なのかよ ? |
コーキス | マスターの力がどんどん魔鏡結晶になってるって聞いてるぞ。このままだと……。 |
イクス | あーうん……。そうみたいだな。俺、干からびちゃうかも、あはは……。 |
コーキス | はぁぁぁぁぁ ! ?そんな呑気なこと言ってる場合かよ ! ? |
イクス | でもゲフィオン……様の人体万華鏡から溢れる死の砂嵐を食い止める方法が見つからないんだ。俺もずっと考えてるんだけど……。 |
イクス | ――いや、もしかしたらこれならって思うことはあるにはあるんだけど……。 |
コーキス | え ! ? ど、どうすればいいんだ ! ? |
イクス | いや、まだわからないことが多いんだ。何とかして調べることができればいいんだけど石の中にいるようなものだからなぁ……。 |
コーキス | 何を調べるんだ ? 俺、マスターの代わりに調べるよ !本読むのは苦手だけど……。 |
イクス | ……コーキスが読む…… ?そうか……もしかしたら……。 |
イクス | ――なぁ、コーキス。現実の俺のところへ来てくれないか。俺に考えがあるんだ。 |
コーキス | 壊れたカレイドスコープのところに行けばいいのか ? |
イクス | ああ。頼む。そこならソーマって言う機械がなくてもきっと―― |
コーキス | ――え ! ? マスター ! ? |
ミリーナ | ――コーキス ! ! よかった……。大丈夫 ?どこか痛いところはない ? |
コーキス | ……夢……じゃないよな。うん……。あれは夢じゃない。 |
アーチェ | ちょっと……コーキス、あんた大丈夫 ?やっぱ倒れたときに頭打ったんじゃないの ? |
コーキス | だ、大丈夫だよ ! それよりマスターが呼んでるんだ !マスターのところへ連れていってくれ ! |
キャラクター | 7話【7-7 ひとけのない草原2】 |
メルクリア | よくぞ戻ったな、ミトス。ディストの報告ほどの反抗の意思はないようで安心したぞ。 |
ミトス | ……出来損ないの食虫植物の話はどうでもいい。 |
メルクリア | 酷いことを言うな。お前のせいで、あのトカゲ男は死ぬのだぞ。 |
ミトス | まだ生きてるの。図々しい。 |
メルクリア | 生命維持装置がなければとうに死んでおる。あれは必要なコマじゃ。ファントム同様、死なれては困る。 |
ミトス | ………………。 |
メルクリア | 何じゃ……。そんな顔をするでない。わらわが何をした ? そなたが望むものは何でも与えてきたではないか。 |
メルクリア | マーテルも取り上げようというのではない。父上もダーナ神の言葉が聞ければすぐに解放してくれようぞ ? |
ミトス | 姉さまをモノ扱いするな ! |
メルクリア | ――あまり意地を張るとシングやルビアのようになるぞ。 |
ミトス | ……逆らいはしないさ。それでいいんだろう ? |
メルクリア | そなたも自分が住む土地を追われた同志じゃ。 |
メルクリア | わらわはビフレストを……そこに住む人々を甦らせそなたが異世界で造り出そうとした千年王国をこのティル・ナ・ノーグに興す。 |
メルクリア | そなたの力が必要なのじゃ。決して裏切ってはならぬぞ。よいな ? |
ミトス | ………………。 |
メルクリア | ……わらわより年上であろうに子供のような振る舞いじゃな。 |
メルクリア | もうよい。わらわはこれからラムダの様子を見に行くがそなたも来るか ? |
ミトス | ――ルキウスに会うの ? |
メルクリア | うむ。カイウスも誘ったのじゃがカイウスは渋りおってな。あれもルキウスの扱いが気に入らぬようじゃ。 |
メルクリア | わからぬのぅ……。命を取った訳でなし。生きているなら問題なかろうに。 |
ミトス | ……可哀想だね。 |
メルクリア | うむ。生きていることに価値を見い出せぬとは哀れじゃ。 |
カイウス | ……ミトス、メルクリアに会ったんだろ ? |
ミトス | ああ……。ルキウスのこと、大丈夫なの ? |
カイウス | 大丈夫なもんか ! |
カイウス | でも……メルクリアには言葉が通じないんだ。何を話しても、穴のあいたバケツに水を汲むみたいで……。 |
ミトス | ……潮時じゃない ?カイウスまで縛られることはない。 |
ミトス | 血に縛られて、世界に縛られて言葉の通じないお姫様に縛られるの ? |
カイウス | オレは血に縛られてなんかいない。これがオレだ。ミトスこそ、このままだと本当に言いなりになるしかないだろ。 |
カイウス | もし……助けを求めるなら、オレが時間を作る。ルキウスのところに一緒に行くふりをしてメルクリアたちを引きつけておく。 |
ミトス | 姉さまの居場所がわからないと動けない……。クラトスたちが見つけてくれるなら話は別だけど……。 |
カイウス | それなんだけどさ……。ヒルダとアステルから情報を貰ったんだ。マーテルさんの居場所について。 |
ミトス | ! ! |
カイウス | 確証はない。罠かも知れない。それぐらい精度は低いって、二人は言ってた。でも、知らせた方がいいと思って。 |
ミトス | ……ありがとう。 |
カイウス | クラトスさんたちにもオレから連絡しておく。気をつけて行けよ。 |
ミトス | うん。カイウスもね。 |
キャラクター | 8話【7-10 カレイドスコープ前】 |
ロイド | 何とかここまで来られたな。 |
コーキス | ロイド様、ありがとう。わざわざ一緒に来てくれて……。 |
ロイド | そりゃ、一緒に行くさ。イクスが呼んでるんだろ ?しかもずっと虚無から聞こえる悲鳴を聞いてたって……。 |
コーキス | うん……。 |
ロイド | 俺、イクスを助けようとして、虚無に近づいたことがあるけど、あの時聞こえた声はすげぇ嫌な感じだった。呪われるって言うか……。 |
ロイド | あの人たちはティル・ナ・ノーグの人間だったんだから嫌な感じとか言っちゃ可哀想なんだけどさ。でも……鳥肌が立ったよ。 |
ロイド | あんな声をずっと聞いてるんだとしたら……やっぱり心配だよ。 |
ミリーナ | ……その声を聞くのは【私たち】の仕事だったのに。イクス……ごめんなさい……。 |
ロイド | そんな仕事誰もしなくていい。イクスだってきっとそう思ってる筈だぜ。 |
ミリーナ | そうね……。イクスならそうよね。 |
ロイド | ところで、イクスはまだあの鏡の石の中にいるみたいだけど、ここに来てどうやって話をするんだ ?イクスが石の中から声をかけてくるのか ? |
コーキス | それは……わからないけど……。 |
ミトス | ――そんなあやふやな情報を元に、ここへ来たの。 |
ロイド | ミトス ! ? |
コーキス | ミリーナ様、下がって下さい。 |
ミリーナ | 大丈夫。コーキスはイクスの声に集中して。ここは私とロイドで―― |
ミトス | 見くびられたものだね。まだ世界を滅ぼす力を持つ前の鏡士風情が偉そうに。 |
ミリーナ | ! |
ロイド | ミトス……。どうしてここに……。 |
ミトス | それはどっちの意味かな ? この場所に ?それとも、この世界に ? |
ロイド | お前……この世界でもマーテルを甦らせるために動いてたんだよな。 |
ミトス | ――姉さまは生きてる ! ! |
ロイド | この世界に具現化したんだろ。生きてた頃のマーテルを。本当によかったのか ! ? |
ミトス | 本当に絶望を知らないお前らしい台詞だねロイド・アーヴィング。 |
ミトス | お前は傲慢だ。ボクらはこんな影の国ですら居場所を求めちゃいけないとでもいうのか ! |
ロイド | そんなことは言ってないだろ ! |
ロイド | ここに具現化されるって事は、マーテルはお前以外の大切な人がいない世界に放り出されたって事だぞ ! ?しかもそれを望んだのが弟のお前だなんて。 |
ミトス | それがなんだ。ボクはもう四千年以上それを望んできたんだ !大体、ボクと姉さまにはお互いしか―― |
ミトス | ……少なくとも、元の世界にはもうお互いしか残っていなかった。だからここに具現化されたって何も変わらない。それぐらいボクらは孤独だった。 |
ロイド | ……俺たちといたときも、孤独だったのかよ。ほんの少しだったけど、お前、俺たちと一緒に旅をしただろ ?ジーニアスやリフィル先生と話してたときも ? |
ロイド | 俺は確かに人間だし、強すぎるって言われることもあるけど、先生たちはお前に寄り添っていたんじゃないのか ? |
ミトス | ……ジーニアスなんてどうでもいい。リフィルだって、ボクの邪魔をするなら始末するだけだ。 |
ロイド | お前……まだそんなことを言うのか ! ?ジーニアスは……俺の親友はお前のことでものすごく傷ついたんだぞ ! ! |
ロイド | ……お前が俺たちの世界でやったこと俺は許しちゃいけないって思ってる。でも……やり直す機会があってもいい。 |
ロイド | 元の世界でだって、俺たちと一緒にいていいんだ。居場所なんて何処にでもある。 |
ロイド | もし本当にないって言うなら、俺たちが作る。俺やジーニアスが居場所になるよ。 |
ミトス | お前が作る居場所なんて反吐が出る。 |
ミトス | それにそんなこと、ここで論じても無駄だよ。ボクらは帰れない。ボクよりも手ひどく世界を滅ぼした鏡士のせいでね。 |
ミリーナ | ………………。 |
ロイド | わからないだろ ! ……本当に帰れなかったとしてもそれでも何か伝わるかも知れない。ここと向こうは繋がっているのかも知れない。俺は希望を捨てない。 |
ミトス | 帰れたとしても……ボクの結論は変わらない。お前とは永遠に交わらない。 |
ロイド | お前が交わる気がなくても、俺は違うぞ !絶対にあきらめない。 |
ロイド | なぁ、ミトス。世界は変わらなくても自分は変えられるんだぜ ?自分が変われば、世界は変わるんだ ! |
ナーザ | ……なるほど。これが鏡映点か。強いな。そして傲慢だ。ミトスのいったようにな。 |
コーキス | お前は……っ ! |
ミトス | ! ! |
ナーザ | この場所に侵入者がいると聞いてきてみれば……またお前たちか。それにミトス。メルクリアが悲しんでいたぞ。 |
ナーザ | ……やはり裏切るのか、と。 |
ミトス | ……そう。もうバレたんだ。 |
ミリーナ | ナーザ、あなたのその姿……。それはイクスの体なのよね。 |
ナーザ | そうだ。災いを呼ぶ滅びの鏡士の体を借りるとはな。本末転倒な話だ。 |
コーキス | マスターの体を返せ ! ! |
ナーザ | ――甘いな、鏡精。なるほど、確かに人のような姿をしているが所詮はまがい物か。 |
ミトス | …………っ ! |
コーキス | 何だとっ ! |
? ? ? | 『やめるんだ、コーキス ! 』 |
コーキス | ………… ! ? |
コーキス | (い、今の声は……マスターか ! ? ) |
ナーザ | ……来ないのか ? まぁいい。ならばこちらから行くぞ。セールンドの鏡士は生きていてはならないのだ。 |
ナーザ | 鏡精を生み出すおぞましき悪鬼たち。やはりあの戦いは何としても勝たねばならなかった。父上たちがし損じたセールンドの鏡士を、俺が仕留める ! |
キャラクター | 9話【7-10 カレイドスコープ前】 |
コーキス | ……やったか ? |
ナーザ | ……まだ体が上手く動かないな。だが――準備運動としては十分だった。次は本気で行く ! |
コーキス | しまった……っ ! ? |
ロイド | コーキス ! 危ない ! |
ナーザ | 貰った ! |
ミトス | 空間翔転移 ! |
ナーザ | ……くっ ! ? |
? ? ? | 魔鏡転送陣 ! |
ミトス | 転送術――メルクリアか ! |
ミリーナ | メルクリア ! ? ビフレストの ! ? |
メルクリア | おお ! バルド ! わらわにもできるようになったぞ ? |
バルド | はい。お見事です。メルクリア様には鏡士としての才がございますね。 |
メルクリア | うむ。わらわはビフレストの皇女じゃからな。 |
コーキス | あいつがメルクリア……。 |
イクス | 『コーキス。先走るな。ゲフィオンが言ってる。メルクリアは危険だって』 |
コーキス | ……えっ ! ? |
メルクリア | ……ん ? 何じゃ ? 鏡精というのは一人で百面相をする生き物か ? |
メルクリア | まぁ、いい。兄上様を危険な目に遭わせるのは許さぬ。それにミトス。――わらわは裏切るなと言ったぞ ? |
ミトス | ……お前は、姉さまに手を出した。姉さまの心を抜き出したな ! ! 人間の皇女風情が ! |
ミトス | 現実を歪んだ像でしか捕らえられない哀れなお姫様。せいぜい死者の国でも妄想して果てるんだな ! |
メルクリア | ――もう貴様はわらわの人形ではないわ ! !自分がしでかしたことの末路を知って悔やむがいい ! |
ロイド | ……あいつら、何をしにここへ来たんだ ? |
ミトス | ……ボクを追ってきたんだ。くそっ ! |
イクス | 『コーキス、ミトスを引き留めよう ! 』 |
ロイド | おい、何処に行くんだ、ミトス ! |
ミトス | ……ボクが何処に行こうと勝手でしょ。 |
コーキス | か、勝手かも知れねーけどもう帝国にも戻れないんだろ。マスターが……俺たちと来た方がいいって……。 |
ミリーナ | ――え ! ? イクスの声が聞こえるの ! ? |
コーキス | はい。さっきから俺の中でマスターの声がするんです。マスターが、ミトス……様は帝国の中枢にいた人だから協力をお願いするべきだって。 |
ロイド | 俺もそう思う。ミトス、俺たちと来いよ。 |
ミトス | 断る。 |
ミリーナ | だったら、せめて話を聞かせて。私たちにはわからないことだらけなの。話をする時間ぐらいは与えてくれてもいいでしょう ? |
ミトス | ………………。 |
ロイド | さっきマーテルの心を抜き出したって言ってたよな ?マーテルは神降ろしの器にされちまったのか ! ? |
ミトス | …………姉さま…………。 |
ロイド | ……ミトス、教えてくれ。クラトスだって、きっと心配してる。 |
ミトス | …………姉さまを――……姉さまの体を取り戻すまでだ。 |
ミリーナ | それでもいいわ。ありがとう。ひとまず私たちのアジトへ行きましょう。 |
ミトス | ……待って。その前に寄って欲しいところがあるんだ。 |
ミリーナ | もちろん構わないわ。 |
ロイド | どこへ行くんだ ? |
ミトス | ノイシュのところ。 |
ロイド | ノイシュ ! ? あいつもこの世界にいるのか ! ?……っていうか、何でミトスとノイシュが一緒にいるんだ ! ? |
ミトス | ……別にいいでしょ、そんなことどうだって。 |
リフィル | ミリーナ。聞こえるかしら。救世軍から連絡が入ったの。至急アジトへ戻ってもらえないかしら。 |
ミリーナ | ――あ……。でも……。 |
ミトス | ……いいよ。だったら一度お前たちのアジトに寄ろう。 |
リフィル | ――ミトス ! ? |
ミトス | ………………。 |
ミリーナ | えっと……詳しいことは戻って説明しますね。 |
リフィル | ……ええ、わかったわ。気をつけてね。 |
ロイド | よし、それじゃあ引き上げるか。早くノイシュにも会いたいしさ。 |
コーキス | (俺……何もできなかった) |
コーキス | (ミトスに助けられて、どうしてマスターの声が届いたかもわからない。ロイド様みたいに強い信念もないしミリーナ様みたいに冷静でもない……) |
コーキス | (じゃあ、俺は何をすればいい ?どうしたら……役に立てるんだろう) |
コーキス | (考えろ、俺。馬鹿でもまがい物でもマスターの鏡精として、恥ずかしくないようにもっと頑張るんだ……) |
キャラクター | 10話【7-11 ひとけのない草原】 |
ミリーナ | ――お待たせ。救世軍からソーマの解析に人が欲しいと言われたわ。私も、もう一度ケリュケイオンへ行った方がよさそう。 |
ミリーナ | コーキスが聞いているイクスの声のことをちゃんと知ってからだけれどね。それに、ミトスのこともあるし……。 |
ミリーナ | そうそう。リフィルさんたちにも事情を説明したわ。ミトスはリフィルさんと話があるから少し待ってくれって。 |
ロイド | ミトスか……。何か、不思議な気分だよ。あのミトスが……俺たちと一緒にいるなんて。 |
ロイド | この気持ちってクレスの世界の話を聞いたときとも似てるな。 |
ミリーナ | ああ……。とても似ているんですってねロイドの世界とクレスさんの世界って。 |
ロイド | そうなんだよな。エターナルソードとか、精霊とか、世界樹とか。 |
ロイド | あとデリスエンブレムも、だな。ミリーナ、覚えてるか ? |
ミリーナ | ええ。クレスさんたちが元の世界で持っていた物よね。ダオスという人のところに行くのに必要だったとか。チェスターと出会ったときに教えて貰ったわよね。 |
ミリーナ | カレイドスコープの封印にも使われていたわ。 |
ロイド | それが俺たちの世界にもあるらしいんだ。ラタトスクの話だと、あいつが作ったものなんだって。 |
ミリーナ | ラタトスクはロイドたちの世界の未来から来た精霊なんですものね。だったらロイドの世界にもあるってことよね。 |
ミリーナ | そう……そんなに共通する物が……。 |
ロイド | デリスエンブレムの話を聞いたとき、なんか……胸がざわっとしたっていうか……。リフィル先生もまずいコーヒー飲んだみたいな顔してたしなぁ……。 |
コーキス | でもざわっとするのは当然じゃないのか ?確かミトス様って、ロイド様の世界をぐちゃぐちゃにした張本人なんだろ ? |
ロイド | ぐちゃぐちゃか……。うん……。そうだな。酷いことをたくさんした奴だってことは間違いない。 |
ロイド | だけど、大昔は勇者って呼ばれてた奴なんだ。俺たちの世界には差別があって……。ミトスはずっと迫害されてきた側だった。 |
ミリーナ | リフィルさんに聞いたことがあるわ。ハーフエルフが差別されている世界なんだって。 |
ロイド | ……うん。だからミトスもつらい思いをしてきたんだと思う。 |
ロイド | 俺には……想像することしかできないけどでもつらかったんだろうなってことはわかる。 |
ロイド | それでも……やっぱりあいつのやったことは間違ってる……とも思うんだ。 |
ミリーナ | ……ミトスはわかっているんじゃないかしら。私は――正確には私ではないけれどゲフィオンがしてきたことを知っているわ。 |
ミリーナ | この世界を滅ぼしてしまった。その時のとてつもない後悔が、ゲフィオンを突き動かしていた。 |
ミリーナ | その後にやろうとしたことも……褒められたことではないと思うの。間違っていると言われれば否定はできない。 |
ミリーナ | でも、ゲフィオンは気付いていて飲み込んでいたんじゃないかしら。そうするしかないと。 |
ミリーナ | ミトスも……まったく同じとは言わないけれど似た感情はあるんじゃないかしら。 |
ロイド | ……そうだな。あいつさ、コーキスを庇っただろ ? |
コーキス | ああ……。ミトス様が助けてくれなきゃ、俺……危なかった。 |
ロイド | あいつ、多分ナーザに怒ったんだ。コーキスのこと、まがい物って言っただろ。そういうとこ……あるんだなって。 |
ロイド | だから、あいつは平行線だって言ったしきっとそうなんだろうけど……。 |
ロイド | でも……ここが異世界だからこそ、万に一つの可能性を信じてもいいんじゃないかって思うんだ。 |
リフィル | ――みんな、ミトスを知らない ? |
ミリーナ | え ! ? リフィルさんとお話ししていたんじゃないんですか ? |
リフィル | それが……私が飲み物を取りに行っている間にいなくなってしまったの。 |
イクス | 『コーキス。ミトスはアジトを抜け出した。――あれは……どこだ ?魔物とカーリャと一緒に森の奥にいるのが見える』 |
コーキス | 大変です ! マスターがミトス様を見つけました。カーリャ先輩と何かの魔物も一緒みたいです ! |
ミリーナ | カーリャに無理矢理出口を作らせたのね。 |
ミリーナ | ……私は追いかけられないわ。カーリャがいないなら私が残らないと、この仮想鏡界は維持できないの。コーキス、追いかけて ! |
コーキス | もちろんです。 |
ロイド | ――いや、俺が行く。俺が行かなきゃいけないと思うんだ。 |
キャラクター | 11話【7-13 森の奥の草原】 |
マーテル | ……ミトス。 |
ミトス | 姉さま……。ごめんね、つらい思いをさせて。でももう大丈夫だよ。今度こそ、姉さまを守るから。 |
マーテル | ミトス……。つらい思いをしたのはあなたでしょう ?ごめんなさいね、ずっと一人にして……。 |
ノイシュ | ワォーーーン……。 |
ミトス | (ノイシュの声……。どうしてノイシュの声が…… ?) |
ミトス | ……あれ ? ここは一体……。 |
ノイシュ | きゅーん……。ワフッワフッ。 |
ミトス | ふふ、そうか。お前の不思議な力のせいだね、ノイシュ。 |
ミトス | お前のプロトゾーンの力が、ボクを一時的に未来に追いやったんだ。違う ? |
ノイシュ | ワフッワフッ ! |
ロイド | ……ミトス、それにノイシュも。ここにいたのか。 |
ミトス | ………………。 |
ロイド | アジトからいなくなったからみんな心配してるぞ。 |
ミトス | ……そう。もう少ししたら戻るよ。 |
ロイド | ……ミトス。 |
ロイド | お前がマーテルさんを助けるために命を削る覚悟で俺たちのところに来たのはわかってる。 |
ロイド | でも……俺は、お前の本心が聞きたい。 |
ミトス | ロイド……。 |
ミトス | (ああ……そうだ。姉さまを助けるためにボクはまたボクであることをやめようとしたんだ) |
ミトス | (いや、ボクらしい選択なのか……) |
ミトス | (どこまでも無駄なあがきをしてあきらめきれない……) |
ミトス | (あの時だってそうだった。もう四千年以上も前まだ姉さまもクラトスも一緒だった頃……) |
ミトス | ……どうして。ボクたちの言葉にほんの少しでも耳を貸してくれていればこんなことにはならなかったのに。 |
マーテル | ミトス……。 |
ミトス | ヘイムダールでもそうだった。ボクらとは関わり合いのない事件も全部ボクらの責任にされて |
ミトス | ハーフエルフが厄災の原因だって村を追われて…… ! |
クラトス | ミトス……。 |
ミトス | シルヴァラントはハーフエルフを重用していると聞いて行ってみたけど、奴隷同然の扱い…… ! |
ミトス | テセアラだって、他の国だって、みんなハーフエルフを追い立てる ! |
クラトス | ミトス……泣くな……。 |
ミトス | それならボクたちはどこへ行けばいいの ! ? |
ミトス | (あの時からボクはあきらめないことを選んだ) |
ミトス | (選んで選んで、選び続けて、いつの間にか――こんなところまで来てしまったんだ) |
ロイド | なぁ、ミトス。元の世界で俺たちを監視するつもりで近づいたんだよな。 |
ロイド | だとしても、ジーニアスのことは本当に友達だと思ってたんだろ ?そうだよな ? |
ミトス | ……さあね。 |
ロイド | ――ふざけろっ ! 本当にあいつの気持ちを踏みにじったっていうなら俺はお前を許さない ! 許せない ! |
ミトス | だったら、ボクを追い出すの ? |
ミトス | メルクリアのことやリビングドールのことお前たちが今一番知りたいであろう情報を持っているのはボクだよ ? |
ミトス | それとも感情を優先するの ?アハハ、だとしたらとんだ大馬鹿野郎だね。父親そっくりの大馬鹿野郎だ。 |
ロイド | ――……許さないし、許せない。 |
ロイド | でも……俺はお前が助けを求めてきたことを知ってる。だからここにいればいい。 |
ミトス | ………………。 |
ロイド | 元の世界でお前がしてきたこと俺には理解できない。 |
ロイド | でも――お前が本心を話してくれれば……。どうしてそうするしかなかったのか話してくれれば……。そうしたら……。 |
ミトス | ボクが許しを請うと……思っているの ?馬鹿馬鹿しい。 |
ロイド | 誰もそんなこといってない。 |
ロイド | お前がやるべきなのはもう一度やり直すことだ。信じることだ。それが償うことになるって俺は思う。 |
ミトス | ……っ ! |
ロイド | この世界でお前がやり直しても、元の世界では何も変わらないのかも知れない。 |
ロイド | でも、この世界でお前がやり直せたら今のお前の未来だって変わるだろ。 |
ミトス | ボクは……変わらない。 |
ロイド | だったら変わらなくてもいい。やり直すんだ。 |
ロイド | 俺は元の世界で勇者ミトスの話を聞いてきた。墜ちた英雄ミトス・ユグドラシルって。 |
ロイド | でもさ、墜ちたらまた飛べばいいだろ。お前がそうすると決めればまた飛べる。 |
ミトス | ……そういう綺麗事は大嫌いなんだよ !正義ごっこはうんざりだ。知ってる ?綺麗過ぎる水に魚は棲めないんだ。 |
ロイド | 忘れるなよ。俺はお前を許さないって言ってるんだ。 |
ロイド | 俺は正義なんかじゃないし正義って言葉は一番嫌いだ。第一、俺は俺自身が濁ってるって知ってる。 |
ロイド | でもそれだからお前の言う綺麗事を口にするんだ。 |
ミトス | ――平行線だね。いいよ、ならこうしよう。ボクを倒して見せてよ。どれだけ魂が薄汚いのか、ボクに見せてよね。 |
ミトス | それでお前を――お前たちを見定めてやるよ。 |
キャラクター | 12話【7-13 森の奥の草原】 |
ミトス | ……フ……フフ……。 |
ロイド | ミトス…… ? |
ミトス | ……不思議だね。元の世界でボクたちはこんな風に――戦うのかもしれない。 |
ミトス | そしてその結果は―― |
ミトス | (……そうだ。ボクは知ってしまった。遠い故郷でボクが敗れたことを……) |
ミトス | (その後、ロイドがどう生きようとしたのかを) |
ミトス | (もし、この世界の記憶を持ってあの大地に戻れるのなら――) |
ミトス | (ああ……それでもボクは自分を曲げはしないだろう。やり直すには、あまりに遅すぎた) |
ミトス | (そしてきっとあの世界でもロイドはボクに言うんだろう。やり直せると) |
ミトス | ……お前は、ボクの影だ。 |
ロイド | え ? |
ミトス | あきらめず前を向いて馬鹿みたいにひたすら歩いていく。ボクの選ばなかった道の最果てにいる存在。 |
ロイド | だったら、ここでは選ばなかった道を選んでみろよ。 |
ロイド | 一緒に歩こうぜ。 |
ミトス | ………………はぁ。 |
ロイド | な、何だよ。 |
ミトス | ……そういうだろうと思ったよ。お前、つまらないよ。想像通りの言葉しか吐き出さない。 |
ロイド | な、何だよ ! 仕方ないだろ !俺国語苦手なんだし……。 |
ロイド | ! ! |
ミトス | 許してもらおうとは思わない。でもお前なら、メルクリアを止められるかも知れない。 |
ロイド | 一緒に飛ぶ気になったんだな。 |
ミトス | 羽根も生えてないくせに偉そうに言わないでよね。 |
ロイド | 仕方ないだろ。俺は天使じゃないんだから。 |
ミトス | ……それは、お前が母親の形見の輝石を使いこなせていないだけだよ。何かきっかけがあればきっと飛べる。 |
ミトス | ……いや、天使になんてならない方がいいのかもね。天使は裏切り者が多いから。 |
ロイド | え ? |
ミトス | ――ボクは見ているから。お前が本当に自分が信じる生き方を貫けるのか。 |
ロイド | ああ、見てろ。俺はあきらめないからな。 |
ノイシュ | ワフッ ! |
? ? ? | むぎゅゅゅゅゅ ! ! ! ! ! |
ロイド | ……何だ、今の声 ? ノイシュか ? |
ミトス | ああ……忘れてた。今さるぐつわをほどくよ。 |
カーリャ | 何なんですか ! ? いくらカーリャが美少女だからって誘拐するのは駄目ですよ ! ? |
カーリャ | も~ ! ! せっかく外に出られたと思ったらこんなの酷いです~っ ! ! |
ミトス | ……フフ。ごめんね。 |
カーリャ | ぐぅぅぅ、素直に謝られると怒れないじゃないですか !それにロイドさまも酷いです !カーリャのこと、心配じゃなかったんですか ! ? |
ロイド | いや、だって、カーリャは無事だってイクスが言ってたらしいから。 |
ミトス | ……待って。この場所、どうやって見つけたの ?コーキスを通じてあのイクスって奴が教えたの ? |
ロイド | ああ、そうだ。何か、世界中の魔鏡結晶を通じて見えるとか感じるとか……。 |
ミトス | ――ロイド、アジトに戻ろう。イクスに姉さまの体がある場所を見つけてもらう。 |
ロイド | え ! ? ちょ、ちょっと待ってくれ。一体どういうことだよ。 |
ミトス | ボクは姉さまがいると聞いてセールンドの城へ行ったんだ。 |
ミトス | でもそこにいたのは姉さまじゃなくて姉さまの心――心核だった。 |
ミトス | だから心核は回収したけれど、体を取り戻さないとボクはお前たちを裏切ることになる。 |
ロイド | そんな正面から裏切るって言われるの裏切りじゃなくて表切りだろ……。 |
ロイド | それに魔鏡結晶がないところにマーテルさんの体が隠されてたら、イクスでもわからないんじゃ……。 |
ミトス | どうでもいいことで頭が回るね、お前は。でも、そのどうでもいいことの後の指摘は正しいよ。 |
ミトス | ただ、魔鏡術や魔鏡技術は、魔鏡結晶の近くで行う方が効率がいいらしい。それに心核を失った体は時間が経つと消滅してしまうそうだ。 |
ミトス | だから心核を奪った姉さまには、何らかの処置が施してあるはずだし、安全に隠すなら魔鏡結晶の傍に置くはずだ。 |
カーリャ | 今の話、ミリーナさまにも伝えました ! |
ミトス | いい子だね、カーリャ。よし、イクスに場所をサーチさせて、ボクらは直接そこへ向かおう。カーリャはノイシュと一緒にアジトに戻って。 |
カーリャ | りょ、了解です ! |
ミトス | ロイド、少しは役に立ってくれるんだろうね。 |
ロイド | 当たり前だ ! |
キャラクター | 13話【7-15 キラル純結晶精製所】 |
チェスター | ……おい。本当にここだって、イクスは言ってるのか ? |
コーキス | ああ。ミトス様から聞いたマーテル様の特徴によく似た人がここにいるってマスターが……。 |
コレット | マーテル様と会えるんだ……。ドキドキしてきちゃった。私、マーテル様になるかもしれなかったから……。 |
リフィル | そうね……。信仰の対象だった――神だとされてきた女性に、まさか会うことになるなんてね。 |
クレス | そちらでは女神と呼ばれていたんですよね。僕らの世界の精霊と同じ名前の女の人か……。 |
クレス | ロイドたちの世界は僕たちの世界の鏡写しみたいだ。完全に一致する訳じゃないけど、限りなく近い……。 |
ミント | 不思議ですね。まさか異世界でこんな気持ちになるなんて思いませんでした。 |
チェスター | それによ。似てるだけに、他人事には思えねぇんだよな。 |
チェスター | ロイドの世界の奴が困ってるなら助けてやらねぇとってさ。 |
リフィル | ……ありがとう。そうね。私たちの世界とあなたたちの世界は一種の並行宇宙なのだと思うわ。 |
リフィル | これだけ様々な世界があるなら、並行宇宙の人々と接触するなんてたいしたことじゃないように思えてしまうもの。 |
コーキス | でもチェスター様、アミィ様はいいのか ? |
チェスター | まぁ……アーチェとクラースが見ててくれるって言うしエルも気にかけてくれてるしな。 |
チェスター | それにアミィをあんな目に遭わせた奴らに一矢報いてやらねぇと気が済まねぇ。 |
チェスター | ミトスも……まぁ、四幻将としては一応、仲間、だったしよ……。 |
チェスター | ま、つまりこういうことだ。勇敢にも敵に立ち向かわんとする流浪の戦士たちが今一同に―― |
ミトス | ……相変わらずその変なナレーション癖が抜けないんだ。 |
コーキス | うおっ、ミトス様とロイド様。 |
ロイド | お待たせ、みんな。 |
コーキス | よし、これで全員そろったな。 |
イクス | 『――コーキス、気をつけろ。俺……ナーザがいる。なんか、変な気分だよ。あれ……最初の俺の体なんだよな』 |
イクス | 『自分の死体を見るだけでもあり得ないのに、死体が動いてるって……』 |
コーキス | マスターが……中にナーザがいるって言ってる。メルクリアに転送された筈なのにまた戻ってきたのかな。 |
コーキス | もしかして、メルクリアも近くに……。 |
イクス | 『いや、他に人はいないみたいだよ』 |
コーキス | ……いや、他に人はいないって、マスターは言ってる。マーテル様とナーザだけみたいだ。 |
ミトス | ……カレイドスコープの間で、ナーザがタイミングよく現れたのが気にかかるけど。 |
リフィル | 逆かしら……。ナーザの目的はこちらだった、とか ?だとしたら、転送されようが負傷しようがすぐに引き返して、ここに来るでしょう。 |
イクス | 『それにしても、あの服と髪型ちょっと格好いいな。俺もあんな格好してみたいよ。顔が同じだからああいう格好も、似合うかも知れないよな』 |
コーキス | あー、駄目だ。マスター、全然緊張感ねーわ……。 |
クレス | え ? イクスは何を言ってるんだい ? |
コーキス | いや、聞いたらみんな怒りそうだから俺の胸の中に留めておく。 |
イクス | 『ごめん……コーキス。でも今ならいける。マーテルさんを助けてあげてくれ』 |
コーキス | わかったよ、マスター。 |
コーキス | ――みんな、行こう ! |
ナーザ | ……チッ。お前たちか。どうしてここがわかった。 |
コーキス | 答える義理はない。それよりマーテル様を返せ ! |
ナーザ | ……返すも何も、元々マーテルはこちらが具現化した鏡映点だ。お前たちに渡す義理はない。それにマーテルに生きていられると迷惑でな。 |
ミトス | 何…… ! ? |
ナーザ | 俺がデミトリアスと同じ意思で動いていると思い込んでいたようだな。だがあいにくと俺はセールンド王国の連中に与するつもりはない。 |
コーキス | お前の目的は何なんだ ! ?ビフレストを甦らせたいんじゃないのか ! ? |
ナーザ | それは愚かなメルクリアの世迷い言。デミトリアスもそんな戯言を真に受ける愚か者に過ぎない。俺にとっては呆れた大罪人だ。 |
ナーザ | 多少の遊びには付き合ってもやるが奴らがダーナのゆりかごを壊すなら奴らは俺の敵になる。 |
リフィル | ダーナのゆりかご ? それは何 ?何を指している言葉なの ? |
イクス | 『気をつけろ ! ナーザの義手がマーテルさんの方を狙ってるぞ ! 』 |
コーキス | ――マーテル様が危ない ! |
ナーザ | 俺の動きを読んだ ! ? お前、一体―― |
ミトス | やらせるか ! ! |
キャラクター | 1話【8-1 ひとけのない草原1】 |
ゼロス | …………。 |
クラトス | 疲れたか ? |
ゼロス | ちげーよ。アミィちゃんが目覚めたって聞いても俺たちはイクスの混線騒ぎからそのままセールンド行きだぜ ? |
ゼロス | 一目アミィちゃんに会いたかった~って思ったらため息も出るでしょーよ。 |
シンク | ふーん。女好きが高じるとあんな子供にも手を出したくなるんだ。変態だね。 |
ゼロス | はぁ~ ? シンくんはわかってねぇなぁ。俺さま、がきんちょには興味ねーのよ。10年後のロマンチックな再会に期待してるの。 |
シンク | 期待って裏切られるために存在するものだよね。ご愁傷サマ。 |
ゼロス | ……色々言いたいことはあるが今は空を飛んでる最中だから、胸に秘めとくわ。 |
マーク | 大人だねぇ、ゼロスくんは。――それにしても、なんでそんなにアミィを気にするんだ ? |
ゼロス | ……さーて、何でだろーな。チェスターがアミィちゃんのために必死なのを見て思い入れができちまった……ってところかな。 |
ゼロス | ……チェスターみたいな兄貴を持った妹は幸せなんだろうな。 |
クラトス | ………。 |
ゼロス | ま、可愛いアミィちゃんとのご対面は帰ってからのお楽しみってことで我慢するわ。イクスの呼び出しを放っておくわけにもいかねぇし。 |
マーク | そうしてくれ。フィルからの通信じゃ、コーキスたちもセールンドへ出発したって話だ。俺たちも早いとこ合流した方がいい。 |
マーク | ただでさえ魔鏡通信の混線だの、コーキスがぶっ倒れただの、妙なことが続いてる。イクスにも何が起こるかわからないしな。 |
? ? ? | ……るか ? ……さん ! |
ゼロス | おいおい、このタイミングで魔鏡通信って !混線じゃねえよな ? |
クラトス | いや、これは……。 |
カイウス | あ、クラトスさん ! これ、繋がってるか ?オレ、使い方間違ってないよな ? |
クラトス | カイウスか。大丈夫だ。ちゃんと通信できている。 |
カイウス | 良かった。この鏡すごいな !――っと、そんな場合じゃなかった。 |
カイウス | マーテルさんについて、新しい情報がある。それと……ミトスを助けて欲しい。 |
クラトス | ミトスだと ? 何があった。 |
カイウス | マーテルさんがセールンドにいるってわかったんだ。それでさっきミトスが向かった。 |
ゼロス | マジかよ ! ? 俺さまたちも今セールンドへ向かってるところだぜ。 |
カイウス | そうか ! それならミトスと合流できるな。 |
カイウス | あ、でも……もしかしたら、マーテルさんは心核を抜き出されているかもしれなくて……。 |
クラトス | ―― !どういうことだ。詳しく聞かせてくれ。 |
カイウス | あ、ごめん。ちゃんと報告しないとな。 |
カイウス | 情報だと、セールンドにいるマーテルさんはもう心核を抜きとられているかもしれない。 |
カイウス | だとしたら、心核は城のカレイドスコープの間にある地下の保管庫に収められてるだろうって話だった。 |
カイウス | でも、この情報をくれたアステルやヒルダは、情報の精度も低いし、裏付けも弱いから、罠かもしれないって。 |
ゼロス | おいおいおい、何だよそれは。めちゃめちゃヤバそうじゃねーのよ。 |
カイウス | うん……正直、オレも罠じゃないかって疑ってる。 |
マーク | 確かに、海鳴りの神殿で待ち伏せされてたって前例もあるからな。 |
シンク | ああ。いけ好かない『高貴な虎』サマにね。 |
クラトス | カイウス、ミトスは罠である可能性を知っているのか ? |
カイウス | もちろん、ちゃんと話したよ。それをわかってて、あいつはセールンドへ向かった。 |
カイウス | だから……頼む。助けてやって欲しい。ミトスは、オレがこの世界に来て、最初にできた友達なんだ。 |
カイウス | 友達が苦しむ姿なんて、これ以上見たくないよ。 |
クラトス | ……そうだな。ミトスのことは任せてくれ。それで、お前はこれからどうするつもりだ ? |
カイウス | オレは、ミトスのことがバレないようになるべく時間を稼いでみる。 |
カイウス | あいつが裏切ろうとしているのは、遅かれ早かれメルクリアに伝わっちまうだろうしさ。 |
クラトス | そうか、くれぐれも気をつけろ。必要があれば、いつでも連絡をくれ。 |
カイウス | ああ、ありがとう ! |
クラトス | それと……、ミトスを友人と言ってくれて感謝する。 |
カイウス | そんなの当たり前だろ !じゃあ、クラトスさんたちも気を付けて。 |
カイウス | (……さて、メルクリアはルキウスの所だったな) |
カイウス | (……ルキウス。いつか絶対に、お前のことも……) |
キャラクター | 2話【8-2 ひとけのない草原2】 |
マーク | まずいことになったな。早いとこフィルやミリーナにミトスのことを知らせないと―― |
クラトス | ……いや、少し待ってもらえるだろうか。考えをまとめたい。 |
マーク | 考えるって何をだよ。 |
クラトス | ……セールンドにマーテルの心核があるという話が罠だとしたら、それを仕掛けた奴の意図はなんだ。何故、そのようなことをする必要があるのか――と。 |
ゼロス | そりゃ……ミトスが裏切ってるか確認するためのエサなんでねーの ?あの、海鳴りの神殿の時と同じでさ。 |
マーク | ああ。ミトスを試してるってことだな。 |
クラトス | 試す……。そもそも、そこから腑に落ちない。 |
マーク | なんだよ、引っかかってることがあるならはっきり言ってくれ。 |
クラトス | ……一時的とはいえ、何故、ミトスはメルクリアに力を貸したのだろう。 |
ゼロス | ああん ? どういうことだ ? |
クラトス | 力を貸すということは、ミトスなりの好意や同情があったはずだ。逆に言えば、そういったものがなければミトスは相手を信じない。 |
クラトス | ましてや、信じぬ相手が仕掛けた罠に、それと知って飛び込むほど無鉄砲でもない。 |
クラトス | マーテルを使って自分を試し、更には陥れようと企む相手など、はなから信じて受け入れる筈がないのだ。 |
ゼロス | あ~……つまり、ミトスが好意だか同情だかを寄せたメルクリアと、今のメルクリアの行動には、矛盾があるっていいたい訳 ? |
クラトス | 矛盾、というよりは違和感だな。故に、今思いつくのは二つ。 |
クラトス | メルクリア自身が、ミトスをも懐柔し手のひらで転がすほどの手腕を持っていたか。 |
クラトス | もしくは幼いメルクリアを、今現在のような行動へと駆り立てる第三者の存在があったか。 |
ゼロス | まあ、メルクリアの年齢を考えると第三者の方がしっくりくるわな。 |
クラトス | ここで最初の疑問に戻るぞ。もし第三者の場合、何故マーテルを使ってミトスを罠にはめる必要があったのか、その意図だ。 |
クラトス | ミトスを裏切らせたいのか。それとも狙いは別に………。 |
クラトス | ……まさか、な。 |
ゼロス | どうした、クラトス。 |
クラトス | いや、考え過ぎかもしれないが、狙いはミトスではなく、マーテルの方なのでは、と……。 |
マーク | マーテル ? それって何の意味があるんだ ? |
ゼロス | マーテルは帝国が捕まえてるんだぜ ?なのに、マーテルを狙うためにミトスを裏切らせるって意味わかんねーでしょーよ。 |
クラトス | そうなのだが……。 |
マーク | ……よし、わかった。どうしても引っかかるなら、ミリーナたちとは合流しないで独自に動いてみるか。 |
マーク | ただし、フィルにだけは情報を共有してもらう。その上で、セールンドに潜入して帝国の動きを確認するっていうのはどうだ ? |
クラトス | ああ。すまないがそうさせてくれ。 |
ゼロス | とすると、もうしばらくはケリュケイオンに帰れねぇのかよ……。ますますアミィちゃんの笑顔が遠のくぜ。 |
シンク | あの子にとっては幸せなんじゃない ? 病み上がりに、バカ神子のバカ面を見なくて済んでさ。 |
ゼロス | かもな。代わりにシンくんのカワイイお顔でも見せてあげたらいいんじゃねーの ?その『謎の美少年拳士』の仮面を外してよ。 |
シンク | ……いいねぇ。ボクが仮面を外したらボクと同じ世界から来た連中がどんな顔をするか楽しみすぎてゾクゾクするよ。 |
マーク | シンク、ゼロス。その辺にしておこうぜ。クラトスに雷落とされるのは嫌だろ ? |
二人 | …………。 |
クラトス | 別に雷など落とすつもりはない。これ以上遊びが過ぎるのなら置いていくだけだ。 |
マーク | ……だとよ。クラトスを単独行動させたらフィルに怒られるからな。シンクもゼロスもお口チャックで頼むぜ ? |
キャラクター | 3話【8-4 ひとけのない草原4】 |
カイウス | おーい、メルクリア ! |
メルクリア | おお、カイウスではないか。 |
カイウス | フレ――じゃない、バルドも一緒なのか。 |
バルド | 表向きはフレンで通っているんだ。フレンで構わない。 |
カイウス | ……オレが構うんだよ。 |
メルクリア | どうした、カイウス。ここには来ないのではなかったか ? |
カイウス | あ、いや、そのな……。 |
メルクリア | うむうむ、言わぬでもよい。やはり弟のことは気になるか。美しき兄弟愛じゃの。なあ、バルド。 |
バルド | はい。カイウスは情に厚く、メルクリア様にとっても良き臣下かと。 |
カイウス | …………。 |
メルクリア | なんじゃ、うつむきおって。照れておるのか ?賛辞は惜しみなく受け取るがよい。それだけの価値が、そなたにはあるのじゃからな。 |
カイウス | オレに ? |
メルクリア | うむ。そなたや、ルキウスにミトス。リチャードやラムダにも。 |
メルクリア | そなたらの存在があったからこそ、リビングドール計画は生まれた。 |
メルクリア | これが成功すれば、皆が幸せになれる。故に、わらわはそなたらに感謝しておるのじゃ ! |
メルクリア | まぁ、そなたはルキウスの扱いに思うところがあるようじゃが。 |
カイウス | ……やっぱり、ルキウスは今も眠らされたままなのか。 |
メルクリア | 仕方なかろう。そうでなければ、ラムダが暴れて手が付けられぬ。 |
メルクリア | ゆくゆくはラムダが望む体を用意してやるつもりじゃが父上様はラムダを解き放つことに反対しておるでな。今はルキウスごと封じておかねば。 |
メルクリア | ことが成就したあかつきには、そなたの大事なルキウスと共に、わらわの下で仲良く暮らすがよい。 |
カイウス | ――ルビアも一緒に……って訳にはいかないか ? |
メルクリア | ルビア ?……裏切り者のことなど知らぬわ。 |
カイウス | ―― ! |
メルクリア | あやつのせいで、一時的とはいえ大事な計画が滞ってしまったのじゃぞ ! |
メルクリア | せっかくわらわが良くしてやったのに、勝手な振る舞いをして……。 |
カイウス | そりゃ、ルビアはじゃじゃ馬だし突っ走りがちなとこがあるけどさ、あいつは、メルクリアやみんなのことを考えて―― |
メルクリア | 知らぬ、知らぬ !あーあー聞こえんのじゃ ! |
バルド | メルクリア様……。 |
メルクリア | 酷いぞカイウス ! 先ほど、わらわの後を追いかけてきた時は、子犬のように愛らしかったのに、いきなり噛みつくようなことを……。 |
バルド | メルクリア様、カイウスも悪気があったわけではありません。心優しいだけなのですよ。 |
バルド | ですが、カイウスの話からすると、ルビアはずいぶんと気性が荒い娘のようですね。 |
バルド | また何かしでかしていなければよいのですが……。 |
メルクリア | 安心せよ。リヒターからは何の報告もない。ちゃんと研究所に囲っておるわ。 |
カイウス | ――え ? 研究所って……リヒターがいる精霊研究所か ? |
メルクリア | ――あ ! ? こら、バルド !余計なことを言うてしまったではないか。 |
バルド | 申し訳ありません。 |
カイウス | ……そうか。ルビアはそこにいるんだな。 |
メルクリア | そうじゃ、もう満足したであろう ?わらわはルキウスの所へ行くぞ ! |
アスガルド兵 | ――こちらでしたか、メルクリア様。ご報告が ! |
カイウス | (まさか、もうミトスのことが…… ? ) |
カイウス | メ、メルクリア ! 早くルキウスの様子を見に行こう。せっかくメルクリアが誘ってくれたんだ。オレ、一緒に行きたい ! |
メルクリア | わらわと一緒に ?まったく、最初から素直にそう言えば良いものを。 |
メルクリア | バルド、その兵を下がらせよ。カイウス、ついて参れ。 |
アスガルド兵 | ご無礼ながら ! 報告は飛天のミトスのことでして― |
カイウス | ! ! |
メルクリア | ミトスじゃと ?――聞かせよ。何があった。 |
アスガルド兵 | 飛天のミトスが離宮より抜け出しました。セールンド方面へ向かった模様です。 |
カイウス | (くそっ……もうバレちまった ! ) |
メルクリア | セールンド……。そうか、エサに喰いついたか。兄上様の仰った通りじゃ。 |
カイウス | 兄上様 ? それにエサって……。どういうことだよ。ミトスが出てったことと関係あるのか ? |
メルクリア | ふむ、そうじゃな。そなたに理解できるかわからんが教えてやろう。今の素直なカイウスにご褒美じゃ。 |
メルクリア | おそらくミトスは方々を嗅ぎまわり、心核を抜かれたマーテルの話を仕入れたのじゃろう。 |
メルクリア | じゃがな、まだマーテルの心核は抜いておらぬのじゃ。 |
カイウス | ……心核を抜くとか、抜いてないとか、結局それって何が目的なんだよ。 |
メルクリア | そなたにわからぬのも無理はない。兄上様には深いお考えがあるのじゃ。 |
カイウス | 何言ってるかわからないよ。オレにも詳しく説明してくれ。 |
メルクリア | すまぬが、今は時間が惜しい。 |
カイウス | メルクリア ! もう少しでいいから―― |
メルクリア | これよりミトスに引導を渡す。行くぞ ! |
アスガルド兵 | はっ ! |
カイウス | 引導 ! ? 待ってくれ、メルクリア ! ! |
カイウス | (……ごめんミトス。時間、かせげなくて……) |
バルド | カイウス、きみも宮殿に戻ったほうがいい。 |
カイウス | (……待てよ、もしかしてこの隙に、ルキウスを助けられるんじゃないか ? ) |
バルド | ――やめたほうがいいね、カイウス。 |
カイウス | ―― !な……何のことだよ。 |
バルド | 今、ルキウスを目覚めさせるのは危険だ。 |
カイウス | オレは別に、そんなこと考えて―― |
バルド | フレンのようにはしたくないだろう。 |
カイウス | ! ! |
バルド | 眠らせておいた方がいいんだ。ルキウスのためにも、今はこのまま……いいね ? |
カイウス | …………。 |
キャラクター | 4話【8-6 精霊研究所 牢屋】 |
シング | ……ハァ、腹へったなぁ……。食事抜かれて、どれくらいたつんだろう……。 |
シング | (結局、何を話しても、メルクリアにはわかってもらえなかったな。オレも熱くなって、言い過ぎたかもしれないけど……) |
シング | (カイウスは無事かな。オレみたいに牢に入れられてないよな。ミトスはどうなったんだろう……それに……) |
シング | (オレが側にいたのに、コハクにまた辛い思いをさせてしまった……。ゴメンよ、コハク……) |
| ぐうぅ~…… |
シング | ハァ……。このまま何も食べさせてもらえないと、本当にヤバイかも……。 |
シング | (……いや、弱気になってちゃダメだ。何とかここを抜け出して、コハクを助けなくちゃ ! ) |
シング | (でも、ここを出る方法、か。……病気にでもなれば出してもらえるかな) |
シング | (――誰かくる ! ? ……よし、イチかバチか ! ) |
シング | あいたたたたたーー ! ! |
? ? ? | な、なにっ ! ? |
シング | そこのひとー、おなかがいたくて……いたくて…… ?……あれ ? |
? ? ? | ちょっと、おなかが何 ? 痛いの ? |
シング | ……きみ……どこかでオレと会った ? |
? ? ? | はぁ ? ないわよ。人をからかって、囚人はヒマなのね。 |
シング | どこだったかなぁ……でもその特徴的な髪型は見た覚えがあるんだよなぁ……。 |
? ? ? | 見たって……、ねえ、まさかあなた、もう一人の私を知ってるの ? |
シング | もう一人 ? ごめん、よくわからないけど。でも見たことあるんだよ……。待ってて、思い出すから。 |
シング | ……………………………。 |
? ? ? | ……長い ! いい加減に―― |
シング | あ、手配書だ ! 空のマクスウェルだろ ?軍の捜索命令で回って来たんだっけ。きみ、ここにいたのか。 |
? ? ? | 軍の……。はぁ、期待して損した。 |
? ? ? | しかも何よ、あの下手くそな似顔絵の手配書で、よく私だってわかったわね。 |
シング | はは、ありがとう ! |
? ? ? | 褒めてない……。まったく、素直なんだか抜けてるんだか。脳ミソがプリンで出来てるんじゃない ? |
? ? ? | でも、……そうね。さっきの感じだと、あなた、脱獄したいんでしょ。仮病で外に連れ出された隙に――とでも考えてた ? |
シング | うん……。オレ、どうしてもここを出て仲間を助けなくちゃいけないんだ。だから……。 |
? ? ? | わかった。ここから逃がしてあげる。 |
シング | 本当に ! ? |
? ? ? | ええ。その代わり私にも協力して。 |
シング | 協力 ? 言っとくけどオレ、人を苦しめたり、悲しませることには力を貸さないよ。 |
? ? ? | そんなことじゃなくて、私も助けたい人がいるの。……傷ついた私を回復させるために犠牲になった子。ルビアっていうんだけど。 |
シング | ルビアだって ! ? |
? ? ? | 知ってるの ? |
シング | ああ。オレの友達の大事な仲間なんだ。でも、なんでそんなことに……。 |
? ? ? | ……さっき言ったでしょ。私のために犠牲になったって。 |
? ? ? | ルビアは、この世界のマクスウェルを『纏わされて』しまったの。 |
シング | マクスウェル ? きみの名前と同じだね。そういえば、リヒターから精霊にもそんな名前のがいるって聞いたけど。 |
? ? ? | 後で詳しく説明してあげる。とにかく、ルビアは傷ついていた私を見て、帝国が施した『精霊装』を使って治療してくれたの。 |
? ? ? | でも、あれは危険な技術みたいなのよ。あの子、みるみるうちに衰弱して……。 |
? ? ? | だから、ルビアをここから助け出したい。 |
シング | ……わかった。協力するよ。放っておけないもんな。 |
シング | (コハク……もう少しだけ待っててくれ。必ず助けるから) |
? ? ? | それじゃ契約成立ね。待ってて。鍵を壊すわ。 |
? ? ? | ほら、開いたわよ。ここを出たら、この先は見張りが……、って、ちょっとあなた、フラフラじゃない ! |
シング | うん……、しばらく食べてなくてさ……。逃げようとして、食事の時に何度か暴れたんだよ。そうしたら何も持ってきてくれなくなって……。 |
? ? ? | 馬鹿ね。動ける ? |
シング | ああ、なんとか。気合いでガンドコ行くよ ! |
? ? ? | ガンドコ…… ? まあいいわ。脱出できたら、何か作って食べさせてあげるから。 |
シング | ありがとう、えっと……きみのことはマクスウェルって呼べばいいのかな ?オレはシング。 |
ミラ | シングね。私のことは……、今は……ミラって呼んでもらえる ? |
キャラクター | 5話【8-7 セールンドの街】 |
ゼロス | 遅いな、マークたち。何かあったんじゃねぇの ? |
クラトス | ここから見る限り、兵士たちに動きはない。偵察はうまくいっていると見ていい。 |
クラトス | 何かあったとしても、共にいるのはシンクだ。うまく立ち回ってくれるだろう。シンクはマークによく懐いているようだからな。 |
ゼロス | ……それ、シンくんの前では絶対に言わない方がいいぜ ? |
カイウス | クラトスさん ! ミトスと合流できたか ? |
クラトス | カイウスか。済まぬがまだだ。そちらはどうなった ? |
カイウス | あまり時間は引き延ばせなかったよ。ミトスのことは、もうばれてる。 |
カイウス | でも、新しい情報があるぞ。マーテルさんの話、やっぱりあれは罠だったんだ。 |
クラトス | 何だと ? |
カイウス | ――で、メルクリアは「兄上様の仰った通り」って。 |
クラトス | ……なるほど。メルクリアを動かした第三者はナーザか。 |
ゼロス | 当たりだな、クラトス。嬉しくもねぇだろうが。 |
カイウス | 当たりって ? |
ゼロス | このおっさん、ミトスを罠にはめようとしているのはメルクリアの裏にいる奴じゃねえかって言ってたんだ。 |
ゼロス | その罠も、本当の狙いはマーテルの可能性があるってんで俺さまたちは現在進行形で調査中な訳。 |
カイウス | マーテルさんを…… ?――そうか !なぁ、クラトスさんはリヒターを知ってるか ? |
クラトス | ああ。精霊の研究施設にいたな。 |
カイウス | オレ、リヒターから聞いたことがあるんだよ。ナーザは神降ろしの計画に否定的なんだって。 |
二人 | ―― ! |
カイウス | マーテルさんは、その神降ろしの器になるんだろ ?これって……。 |
ゼロス | ああ、やだねぇ。俺さまわかっちゃった気がするわ。 |
クラトス | ……ナーザはマーテルを始末する気なのかもしれん。 |
クラトス | 器がなければ神降ろしはできない。阻止したければ、一番確実な方法だ。 |
カイウス | やっぱりマーテルさん、危険なんだな。ミトスが知ったら……。 |
ゼロス | それにしたって、ナーザはなんでこんな面倒くさい方法とってるんだか。 |
クラトス | デミトリアスを筆頭に、帝国は神降ろしに積極的だ。ナーザにとってはやりにくい状況なのだろうな。 |
カイウス | うん。神の器に決まってから、マーテルさんの居場所はわからなくなったし、話も聞かない。オレだってアステルやヒルダがいなきゃ情報も手に入らないんだ。 |
カイウス | マーテルさんを……えっと……始末するなら、その厳重な警備をなんとかしないといけないだろうな。 |
ゼロス | それでナーザは、ミトスへの制裁だのなんだのでメルクリアを上手く言いくるめて、マーテルを引きずり出すための計画を練ったのか。 |
クラトス | それもまだ仮説の域だがな。これからはマーテルの安全の確保、それと心核の有無の真偽についても念頭に入れて動かねばなるまい。 |
マーク | 悪い、待たせたな !――っと、カイウスと通信中だったか。 |
シンク | いつにもまして辛気くさい顔してるね。あんまりいい報せじゃないってことか。 |
クラトス | カイウスからの情報については後で説明する。先にお前たちの報告を聞かせてくれ。 |
マーク | 了解。セールンド城にはナーザの奴がいたぜ。ミトスを待ち伏せしてるのかもな。つまり罠の確率が高くなったってことだ。 |
ゼロス | ああ。こっちも今カイウスの話でミトスが罠にはめられたってのがわかったところだ。ナーザが黒幕じゃねぇかってのも予想が付いてる。 |
ゼロス | で、ナーザは何をしてたのよ。 |
シンク | 部下にキラル純結晶精製所での研究について聞いてたよ。しつこいくらいにね。 |
ゼロス | 精製所って、セシリィが脱出してきた所だな。 |
マーク | ああ。あのゴタゴタの後でも帝国の研究施設として稼働してるらしいぜ。 |
クラトス | ナーザが精製所の研究を気にかけている……。あそこはリビングドールとも関係がありそうだったがもしやマーテルもあそこに囚われているのでは……。 |
ゼロス | 行ってみる価値はありそうだな。万が一、精製所にマーテルがいたら儲けもんだろ。 |
クラトス | ならば精製所へは私が向かおう。もしもこちらでナーザが動いたときには連絡をくれ。それと、ミトスを見つけたら手助けを頼む。 |
ゼロス | 一人で大丈夫か ? |
クラトス | ああ。一刻も早く向かうには、一人で身軽な方がいい。神子はマークとシンクの機動力として残ってくれ。 |
クラトス | ではマーク、この場は任せたぞ。カイウスも自分の身を案じて動いてくれ。 |
カイウス | わかった。 |
ゼロス | それじゃあ、授業に遅れたマーくんとシンくんにこの俺さまが今までの話を分かりやすく説明し―― |
シンク | カイウス、説明して。 |
ゼロス | 俺さま、やっぱりそういう扱いな訳 ! ? |
マーク | ――なるほど。バルドって奴も何考えてるかわかんねえし。もう帝国はヤバそうなニオイしかしないな。 |
マーク | なあカイウス、これ以上は危険だ。お前もこっちに来いよ。 |
マーク | 救世軍じゃなくてもいい。ミリーナたちの所だったらチェスターもいる。どうだ ? |
カイウス | …………。 |
ゼロス | ――ルキウスのことが心配なんだろ ?けど、目覚めさせない方がいいってのが本当なら、一旦引いて、他の方法を探すのも手だと思うぜ。 |
カイウス | ……でも、仲間の――ルビアのいる場所がもっと詳しく絞り込めそうなんだ。 |
ゼロス | 精霊研究所にいるんだっけか。 |
カイウス | うん。それに研究所の中にはシングもいるはずだ。メルクリアとやりあった後、そこへ送られたって聞いたから。 |
カイウス | オレは二人を助けたら、そっちに合流するよ ! |
ゼロス | 麗しい友情だねぇ……。ま、無理だけはするなよ。 |
キャラクター | 6話【8-8 精霊研究所 牢屋】 |
ミラ | この辺りに閉じ込められてるはずなんだけど……。ねえ、そっちはどう ? |
シング | いや、この部屋にはいなかった。 |
ミラ | ……もう時間がない。急いで見つけて ! |
シング | あとはこの一番奥の牢――……いた !いたよ、ミラ ! |
シング | ルビア、大丈夫 ! ? 返事してくれ ! |
ミラ | どいて、鍵を壊す ! |
シング | 開いたぞ ! ルビア ! |
ルビア | シ……グ…… ? |
シング | おい、しっかり ! ここから出よう ! |
ルビア | …………。 |
シング | どうしよう、こんなにぐったりして……。 |
ミラ | ルビア、ちょっとごめんなさい。 |
シング | ミラ、なにを―― |
ミラ | ない……。マクスウェルの指輪が外されてる……。 |
シング | マクスウェルの指輪……って何 ?無いとまずいの ? |
ミラ | ……ルビアを連れて逃げましょう。これ以上ここにいたら危ない。もうすぐ面倒な奴らが戻ってくる頃だから。 |
シング | え、指輪はいいの ?それに面倒な奴って―― |
ミラ | 指輪はもういい。面倒な奴らっていうのは嫌味なしゃべり方する奴と、まともな会話ができない変人。これでいい ? |
ミラ | あいつらに捕まったら本気でまずいのよ ! |
シング | サレとハスタか…… ! わかった、すぐに出よう。ルビアはオレが背負っていくよ。 |
ミラ | 私が背負うわ。あなただって体が……。 |
シング | 平気だよ。それにジィちゃんに言われたんだ。「胸の大きな美人が困ってたら、死んでも助けろ」ってさ。ミラみたいな人なら、なおさら助けなきゃ。 |
ミラ | む、胸 ! ? あなた一体どこ見て―― |
シング | ほら、ルビア。背中に乗って。辛いかもしれないけど、一緒に頑張ろう。 |
ミラ | ……シング。 |
シング | よし、準備できた。逃げよう、ミラ。力を合わせれば、絶対にここから脱出できるよ ! |
ミラ | 絶対――ね。その言葉、信じるわよ ? |
ミラ | 追っ手はないようね。 |
シング | うん。サレもハスタもいないみたいだ。このまま一気に―― |
ミラ | 待って、シング ! |
シング | リヒター…… ! |
ミラ | 知り合い ? 見逃してくれる感じじゃないけど。 |
リヒター | ……我ながらつくづく因果だな。また精霊と戦うとは。 |
ミラ | ―― ! |
シング | 戦うって……、やめてくれリヒター ! |
ミラ | いいから、この男の相手は私に任せて。ルビアを連れて先に行きなさい。 |
シング | 何言ってんだ。ミラを置いていけるもんか ! |
ミラ | シング、あなた絶対脱出するって言ったでしょ。あれは嘘 ? |
シング | でも ! |
ミラ | ルビアまで危険にさらす気 ?どうせフラフラでろくに戦えないんだから早く行って ! |
リヒター | その通りだ。邪魔をするなシング。空のマクスウェルだけは逃がす訳に行かない。 |
シング | え……、リヒター…… ? |
リヒター | お前たちはさっさと行け ! |
シング | ――っ、わかったよ !ごめん、ミラ ! |
シング | ――やった、出口だ ! |
? ? ? | その声……シングか ! ? |
シング | ――誰だ ! ! |
カイウス | シング、無事だったか ! |
シング | カイウス ! なんでここに ? |
カイウス | リヒターが連れてきてくれたんだ。上手くいけば、シングたちがいるかもしれないって。 |
シング | リヒターが……。 |
カイウス | シング、もしかして背負ってるのは――。 |
シング | ああ、ルビアだよ。かなり弱ってるんだ……。早くどこかで治療しないと ! |
カイウス | ルビア、ルビア !……クソッ、こんなことって……。 |
カイウス | ……ルビアはオレが背負う。シングもかなり辛そうだからな。さあ行こう。こっちだ。 |
ヒルダ | カイウス、シング、ここよ ! |
シング | ヒルダも来てたのか ! |
ヒルダ | 来たわよ。本当にあんたたち、人使いが荒いんだから !ほら、ぐずぐずしないで、この馬車に乗りなさい。 |
シング | ありがとう、ヒルダ ! |
ヒルダ | みんな……、気を付けて。 |
キャラクター | 7話【8-9 キラル純結晶精製所1】 |
| キラル純結晶精製所 |
クラトス | (稼働中の研究施設だけあって、やはり人が多いな) |
クラトス | (仕方がない、まずは人気のない所から見て回り、徐々に捜索場所を狭めていこう) |
クラトス | (なんだ……この部屋は……) |
クラトス | (……たくさんの宝石……。こんな場所になんとも不似合いなものを並べて……) |
クラトス | (一つずつ丁寧にラベリングされている。名前に、身体的特徴 ? まるで人間のように……) |
クラトス | (―― ! ! まさか、これが心核か ? ) |
クラトス | (この様々な色や形をした石の全てが、人の心を物質化したものだと…… ? ) |
クラトス | (……だとすると、もしマーテルの心核が抜かれているのならば、ここにあるはずだが……) |
クラトス | (……見当たらない。やはりメルクリアの言うとおり、マーテルはまだ心核を抜かれては――) |
兵士 | 早く避難しろ !身の周りの物など気にするな ! |
クラトス | (――何だ ? ) |
研究者A | 待って下さい ! この資料を揃えたら避難しますから ! |
兵士 | 後にしろ ! 諸君らの避難と、安全の確保を優先せよとナーザ将軍のご命令だ !――あ、お前、戻るな ! |
研究者B | この奥には、器の鏡映点が置き去りのままなんです。連れて出ないと ! |
兵士 | そのままでいい !一刻も早く、全員この施設から退避だ ! |
クラトス | (器の鏡映点……。やはりマーテルはここにいたか ! ) |
クラトス | (…………静かになったな。研究者たちもいなくなったと見える。今のうちに……) |
クラトス | (マーテルは確か、施設の奥の方に――) |
クラトス | (誰もいない……。全員避難したのか。ナーザの命令と言っていたが……) |
クラトス | (……もしや、邪魔な研究者たちを排除して、マーテルに近づくための画策か ? ) |
クラトス | ! ! |
クラトス | ――そこにいるのは誰だ。退避命令が出ているはずだが ? |
? ? ? | ククク……こそこそと忍び込んでおいてその態度とは。厚顔無恥にも程があるぞ、侵入者。 |
クラトス | ――っ ! ! |
? ? ? | ほう、我が一撃と渡りあうか。久しぶりに面白い戦いが出来そうだ ! ! |
クラトス | (この男――強い ! !だがこんな所で、足止めを食らっている場合では――) |
? ? ? | ――っ、誰だ ! |
シンク | なに遊んでんのさ、こっちに面倒押し付けて ! |
クラトス | お前たち―― ! |
ゼロス | あんたに報告があるんだよ。こいつ、さっさと倒しちまおうぜ ! |
? ? ? | さっさと、だと ?貴様ら――――――っ ! ! |
キャラクター | 8話【8-9 キラル純結晶精製所1】 |
? ? ? | くっ、この程度の輩に……やはりまだ馴染まぬのか。――貴様ら、この屈辱は忘れんぞ ! ! |
シンク | フン、お約束の捨て台詞。脳がないね。アイツのとどめはどうする ? |
ゼロス | 深追いは面倒だ。クラトスも無事だったしな。 |
クラトス | ああ、助かった。ところで、そちらは何が起きたんだ ? |
ゼロス | コーキスたちがここに来ている。ミトスも一緒だ。 |
クラトス | ミトスがここに ? |
ゼロス | ああ。あんたが精製所に向かった後、ミトスはセールンドでコーキスたちと合流したんだ。 |
ゼロス | 今は詳細を省くが、コーキスたちはここにマーテルがいると知って来てるぜ。うまくいきゃ、姉弟の感動のご対面になるかもな。 |
シンク | ……ところでさ、なんでここには誰もいないの ?研究施設になってるって聞いたけど。 |
クラトス | まずい…… !急ぐぞ、マーテルを保護せねば ! |
シング | ここでフィリップさんと待ち合わせなのか。 |
カイウス | ああ。マークたちを通じて色々助けてくれたんだ。 |
シング | すごいなカイウス。オレが牢に入ってる間に……。協力できなくてごめん。 |
カイウス | なに言ってるんだよ。シングが連れ出してくれなかったら、ルビアはどうなってたかわからないよ。ありがとな。 |
シング | 脱出できたのは、オレだけの力じゃないんだ。ミラっていう協力者がいてさ。それにリヒターも。 |
シング | あいつ、オレとルビアを見逃がしてくれたんだよ。でもミラとリヒターは戦うことになっちゃって……。もっと話す時間があれば、わかってもらえたのかな。 |
カイウス | ……今回の作戦、リヒターも誘ったんだ。アステルを連れて帝国を出ようって。 |
カイウス | でもあいつ、「鏡士たちの所へ行くことは絶対にできない」って言って、オレたちに協力だけしてくれた。 |
カイウス | リヒターはいい奴だから、あのままじゃ辛いと思うんだけどな……。 |
フィリップ | やあ、シング、カイウス。無事に脱出できて良かった。 |
カイウス | フィリップさん ! |
シング | フィリップさん。ありがとうございます。あのままだったらオレ、飢え死にしちゃってたかも。 |
フィリップ | いや、お礼を言うのは僕のほうだ。改めて――あの時、マークを助けてくれてありがとう。 |
シング | あの時…… ?あ ! マークがチェスターを連れて逃げ出した時か。 |
カイウス | メルクリアからもらった鏡で切り抜けたっけ。……あの頃はまだ、あいつの所を離れるなんて考えてもいなかったな。 |
シング | うん。メルクリアの所にいればコハクだって元気になると思ってた。なのに、オレたちを騙すなんて…… ! |
カイウス | ……フィリップさんの言う通りだったよ。メルクリアは歪んでいるんだ。オレたちの言葉が、気持ちが届かない。 |
カイウス | 結局、ルキウスどころか、ルビアもこんな風にされちまって……。 |
カイウス | ……頼む。フィリップさん。ルビアを助けてくれ。 |
フィリップ | もちろん、そのつもりだよ。安心して欲しい。こちらで預かってるコハクも早く治してあげたいと思っているんだ。 |
シング | やっぱり、コハクはスピリアを失ったまま ? |
フィリップ | ああ、まだ眠っている。それでシング、君に頼みがあるんだ。マーテルの件は知っているね。 |
シング | カイウスに聞いたよ。心核の話とか、色々と大変なことになってるんだろ。 |
フィリップ | ああ。だが今の段階では、本当にマーテルが心核を外されているかは不明で、マークたちが調査中なんだよ。 |
フィリップ | そして、もしも本当に外されているとしたらセールンド側の鏡士ではどうにもできない。我々は心核を外す技術をもっていないからね。 |
フィリップ | けれど、君にならできる。心に入り込むソーマという武器、それを操る力があれば恐らくは心核を戻すことも可能だろう。 |
フィリップ | どうか、協力をお願いできないだろうか。 |
シング | ……心核っていうのはスピルーンみたいなものなんだよな。みんなが言う『心』がスピリア……。 |
シング | つまり、これってコハクの時と状況が似てるんだな……。 |
シング | ――わかった。オレにできることなら、やらせてくれ ! |
キャラクター | 9話【8-10 キラル純結晶精製所2】 |
ゼロス | 今の音……コーキスたち戦ってんのか ?何が始まったってんだよ ! |
クラトス | (頼む……間にあってくれ ! ) |
クラトス | ―― ! ! |
ナーザ | この【現実】こそが……貴様の末路だ―― |
マーテル | ……ミトス……。ごめんなさ……い……。あなたを……また一人にしてしま…… |
ミトス | 嘘……嘘だ……。嫌だよ姉さま……。どうして……こんな……【二度】もこんな…… ! ? |
マーテル | さよな……―― |
ミトス | 姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ ! ? |
クラトス | マーテル ! ! |
ロイド | ――クラトス ! ? |
ミトス | クラ……トス ? |
クラトス | ……まだだ、諦めるな。私のマナをマーテルに分け与える…… ! |
ミトス | な……何してるの……。クラトスは人間なんだよ ! ? |
ミトス | ハーフエルフだって危険が伴うのに人間がそんなことをしたら死ぬってわかってるでしょ ! ? |
ロイド | ! ? |
クラトス | ……救うと約束した。今度こそ……お前たち姉弟を……。 |
マーテル | ――う………ん……。 |
コレット | マーテルさんが…… ! |
ミント | ……信じられません。回復術でも間に合わないほど、あの怪我は致命傷でした。命の灯はほとんど消えていたのに、それを――……。 |
クレス | あれが、マナを分け与えるってことなのか。 |
リフィル | ……でも、それは代わりに……。 |
クラトス | ――よか……った……。 |
ミトス | ―――― ! |
ロイド | クラトス ! ! |
ロイド | 嘘だろクラトス ! ? 俺はまだあんたのこと―― |
チーグル | ナーザ…… !……君たち、これはどういうことかな。 |
ミトス | ……お前…… ! |
チーグル | ミトス、メルクリア様のご寵愛を足蹴にするだけじゃ気が済まないようだね。 |
チーグル | ……この方への無礼は死をもって償ってもらう。 |
コレット | あの人……前にエルをさらおうとした人 ! |
チェスター | やばいぞ !あいつが呼ぶ光魔はキリがねぇって話だ。 |
シンク | あのスカした顔をみたらドジ神子たちの後始末をさせられたってことまで思い出したよ。 |
コレット | ド……ドジ神子……って私のこと、だよね ?ご、ごめんね、シンク。 |
チーグル | ん ? ……そこの弓兵、見たことがあるな。 |
チーグル | ああ、メルクリア様のもとを脱走した――確か魔弓のチェスターだったか。どいつもこいつも不敬な奴らだ。 |
チーグル | 丁度いい。まとめて光魔共に一掃させよう ! |
クレス | ――なっ、こんな大量の光魔を…… ! ? |
チーグル | それじゃ、ナーザは返してもらうよ。本来ならば、こんな地べたに寝かせていいお方じゃないんだ。 |
ミリーナ | このままじゃ囲まれるわ !コーキスもダメージを負って動けないし布陣を組んで、負傷したみんなを守らないと ! |
クレス | ロイド、クラトスさんは無事か ! ? |
ロイド | 息はしてる……と思う……。 |
クレス | よし、そのままクラトスさんの側にいてくれ !ミトスは、マーテルさんをミリーナはコーキスを頼む ! |
クレス | ゼロスとシンクはクラトスさんとミトスを守ってくれ !リフィルさんたちは後方支援をお願いします !チェスターはミリーナとコーキスについててくれ ! |
チェスター | でもクレス、斬り込み役がいなきゃ防戦一方だぜ ! |
クレス | わかってる……。それは僕が―― ! |
マーク | 本当にクレスは勇者様って感じだな。けど一人で――なんて格好いい役はこっちにもまわしてくれなきゃな。 |
ミリーナ | マーク、それにフィリップも !どうしてここに ! ? |
ゼロス | ようやく追いついたか、遅刻魔のマーくんめ ! |
マーク | 悪いな。主役は遅れて現れるもんだろ ?それにこっちは、ちゃんと戦力補充してきてるぜ。 |
カイウス | 久しぶり、チェスター ! |
チェスター | お前ら、こっちに来たのか !よく無事だったな。 |
シング | チェスターも――って、挨拶してる状況じゃなさそうだな。 |
シング | でも、マーテルさんが見つかって良かった。な、ミトス ! |
ミトス | シング、カイウス……ボクは……。 |
カイウス | いいから、一緒に戦うぞ !みんなを……マーテルさんを守り抜くんだ ! |
ミトス | ――うん。 |
フィリップ | すまなかった、ミリーナ。後でちゃんと話をするよ。 |
ミリーナ | わかったわ。今はここを乗り切りましょう ! |
フィリップ | では、僕は光魔の増殖を抑えてみよう。クレス、シング、カイウス、マークを先陣にして、この光魔を全て掃討する ! |
キャラクター | 10話【8-13 キラル純結晶精製所5】 |
シング | これがソーマの力だ ! |
カイウス | 楽勝、楽勝 ! |
クレス | 強いな、二人とも。 |
チェスター | だろ ? だからこそ、シングたちにお前への連絡を託せたって訳さ。 |
チェスター | あの時はオレも立場的に微妙だったからさ、本当に助けられたよ。 |
カイウス | ミトス。マーテルさん、気を失っているのか ? |
ミトス | ……ああ。一瞬目を覚ましたんだけど、今は眠ってる。 |
カイウス | 心核、やっぱり抜かれてなかったのか。 |
シング | もしもの場合はオレが戻すことになってたんだ。それでフィリップさんたちと、ここに来たんだよ。 |
ミトス | 心核……、そう言えばこれ――え ? |
ミリーナ | ――シングさんに反応してる…… !そうだったのね……。その心核コハクさんのものだったんだわ ! |
シング | コハクの…… ! ? |
ミリーナ | ナーザはこれを、前回の器のものだと言ってたでしょ。だとしたら……。 |
シンク | ボクたちがコハクってのを連れ帰ってから神降ろしが行われてないならまぁ、間違いないんじゃない ? |
シング | ……フィリップさんの話が本当なら、オレはコハクを助けられるはずだ ! |
シング | 頼む。コハクの所へ連れてってくれ ! |
ミリーナ | もちろんよ。それにコーキスも、クラトスさんもすぐに治療が必要だわ。マーテルさんも休ませなくちゃいけないし。 |
ロイド | リフィル先生、クラトスはどうなんだ ! |
リフィル | わからない……治癒術をかけ続けることで何とか命をつなぎ止めている状態よ。 |
ロイド | そんな…… ! |
リフィル | 大丈夫。治癒術を扱えるメンバーで交代しながら、治療を続けるわ。ただ、それでは根本的な解決にならないけれど……。 |
ミトス | ……クラトスは人間だけど、天使化しているから最悪……体を失っても生き続けることはできる。 |
ミトス | クルシスの輝石……クラトスがつけているその宝石みたいな石に心を宿してね。 |
ロイド | そんなの……生きてるって言えるのか ! ? |
ミトス | ……わかってるよ ! お前に言われなくたってその状況がどれほど苦しいものなのかボクは嫌と言うほど知ってるさ ! |
コレット | クラトスさんを助ける方法はないの ? |
チェスター | そうだ !たしかミトスもマナをわけるってのができたよな。それでオレも助けてもらったんだから……。 |
チェスター | あ、でも、その後倒れちまったんだっけ。やっばり危険を伴うやり方なんだな……。 |
ミトス | ……試してみてもいいよ。でも……多分……。 |
ロイド | な、何だよ。多分……何なんだよっ ! ? |
ミトス | とにかく一度試してみるよ。どこか落ち着ける場所の方がいい。 |
フィリップ | よし、それじゃあケリュケイオンに行こう。ミリーナも一緒に来てくれ。これまでの救世軍側の動きを説明するよ。 |
シング | ……コハク、やっと会えたね。絶対にオレが助けるから。 |
ミリーナ | はい。これがコハクさんの心核。 |
シング | 心核って……本当にスピルーンみたいだ。これをコハクのスピリアに置いて来ればいいんだね。 |
ミリーナ | そう。コハクさんの心――シングさんたちの世界で言うスピリアの、一番奥に。 |
ミリーナ | それ以上の助言ができなくてごめんなさい。今回は、全てシングさんの経験頼りになるわ。 |
シング | スピルメイズの奥ってことかな。エンコードで勝手が違ってると困るけど――やってみる。 |
フィリップ | それと、スピリア――いや、スピルメイズかな。とにかく心を具現化したその内部には魔物のようなものがでるみたいだね。 |
フィリップ | 君一人では危険だ。他にも誰かいた方がいい。 |
シング | でも、ソーマがないとスピルリンクはできないんだ。 |
ミリーナ | そのことだけど、アミィちゃんの時には、コハクさんのソーマが魔鏡術の力を増幅してくれたの。 |
ミリーナ | どちらも心に働きかける力だから影響を与えているんだと思うわ。だから、今回もそれを利用するの。 |
フィリップ | 今度は僕たちの魔鏡術でシングのソーマの力を増幅し、ソーマを持たない者も一緒に行動できるようにする。 |
ミリーナ | でも数名が限度よ。特に今回は初めてだし、予測不可能なことが多いわ。絶対に安全とは言いきれない。 |
シング | そんな危険に、みんなを巻き込めないよ !オレ一人で大丈夫だから。 |
カイウス | ……オレ、行くよ。ルビアは治療中で、オレは何もしてやれない。じっとしてるのが、もどかしいんだ。 |
チェスター | だったらオレも行く。二人には世話になったし、一歩間違えば、アミィだってコハクと同じだったかもしれない。協力させてくれ。 |
クレス | 僕も。アミィちゃんが回復したのはコハクのソーマのおかげなんだ。今度は僕たちが力になる番だよ。 |
シング | ……みんな、ありがとう ! |
ミリーナ | それじゃみんな、お願いね。シングさん、準備はいい ? |
シング | うん。あとさ、ミリーナ、今度からはシングってよんで。コハクのことも「コハクさん」じゃなくてさ。 |
ミリーナ | ……わかったわ、シング。それにコハクが目覚めるのがとても楽しみ。頑張ってね。 |
シング | ああ。それじゃ行ってくる。みんな、スピルリンクするぞ ! |
三人 | ああ ! |
クレス | これが人の心の中……。きれいだけど、まるで迷路だ。 |
シング | うん。オレたちはスピルメイズって言ってる。 |
シング | さあ、進もう。スピリアの――コハクの心の一番奥深くへ。 |
キャラクター | 11話【8-15 スピルメイズ2】 |
カイウス | ここで行き止まりだ。……ここには敵が出てこないな。 |
クレス | ああ。敵どころか何の気配もない。 |
チェスター | ……それにしても心の具現化した場所に敵が出てくるってどういう理屈なんだろうな。シングの世界でもそうだったのか ? |
チェスター | ――シング ? |
シング | ……きっと、ここだ。コハクの心核は、ここにあったんだ。 |
カイウス | わかるのか ? |
シング | なんとなくだけどね。それに、前にコハクの中に入った時とスピルメイズの形が似てるし。 |
シング | それじゃ心核を置くよ。 |
シング | ――ようやく戻ってこれたね、コハク。……お帰り。 |
カイウス | 心核が…… !すげえ、でかい花が咲いたみたいだ ! |
クレス | なんてきれいなんだろう……。これが、コハクのスピリアなんだね。 |
チェスター | これ、成功だよな ? な ! ?こんな花咲いたら、そうに決まってる ! |
シング | まだわからない。でも……。 |
シング | (……オレは信じてるよ、コハク目を覚ますのを信じて……待ってるから ! ) |
カイウス | うわ、オレたち、戻って来た…… ! ? |
チェスター | なんか、すげえ体験したぜ……。 |
ミリーナ | みんな、無事でよかったわ !心核は置いてきたの ? |
カイウス | ああ、でかくて立派な花が咲いて――あれ ? もしかしてコハクは……。 |
フィリップ | ……まだ目覚めないんだよ。 |
クレス | ……そんな。 |
シング | ……目覚めるよ。今じゃなくても。 |
シング | そうさ。コハクは絶対に戻る ! オレは諦めない ! |
コハク | シン……グ……。 |
シング | ……コハク ? コハク ! ! |
ミリーナ | 意識が戻った…… ! |
チェスター | やっぱり成功してたじゃねぇか !ほら、オレの言った通りだろ ? |
クレス | ああ、本当だった ! |
シング | コハク……良かった…… ! |
シング | でもオレ、またコハクを辛い目に合わせて……なんて言っていいか……本当に……ごめ―― |
コハク | ……たの。 |
シング | ……え ? |
コハク | ……聞こえたの。心の中で……。シングが、「お帰り」って……。 |
コハク | すごく嬉しくて……安心した……。だから……わたし……それが聞きたい。 |
コハク | ねえ、もう一度、言って ? |
シング | ……ああ、何度だって言うよ !お帰り ! コハク ! |
コハク | うん。ただいま……、シング。 |
ミリーナ | どう、コハク ? 体に異常はない ? |
コハク | ずっと寝てたから体は痛いけど、動けば平気だよ。それよりも、わたしのことで色んな人に迷惑かけて……ごめんなさい。 |
シング | なに言ってるんだよ。コハクは悪い事をした訳じゃないんだ。リチャードを助けようとしただけなんだからさ。 |
ミリーナ | リチャード……。みんなからの話を総合すると、チーグルと名乗っている、あの人のことよね ? |
シング | ああ。リチャードもリビングドールにされたんだよ。 |
フィリップ | ……確か、クラトスさんたちからの報告では、リチャードへのスピルリンクの途中で、意識を失ったという話だったね。 |
コハク | はい……。 |
ミリーナ | そのことも含めて、色々と話を聞かせてもらえるかしら。もちろん、ちゃんと体が戻ってからでいいわ。 |
コハク | 大丈夫。みんなにとって大事な話かもしれないんでしょ ?だったら―― |
マーテル | ……お取込み中の所、失礼します。 |
ミトス | …………。 |
二人 | マーテルさん ! |
シング | 一時はどうなるかと思ったよ。傷は平気 ? |
カイウス | そんな風に歩いてさ、まだ寝てたほうがいいって。 |
マーテル | 大丈夫よ。相変わらず優しいのね。二人とも。 |
ミリーナ | マーテルさん。無理はしないで下さいね。それで、どうしてここに―― |
ロイド | ミリーナ ! またミトスがいないんだ !マーテルさんも―― |
ロイド | ……なんだここにいたのか。びっくりしたよ。マーテルさんの部屋に行ったら誰もいないからさ。 |
マーテル | あなたが、ロイド……。クラトスの子供……なのよね。 |
ロイド | ……あ、ああ。この世界に具現化される直前に聞いた話だから正直……まだピンと来てないけど……。 |
マーテル | ごめんなさい。あなたにも辛い思いをさせて。……私を助けるためにクラトスが払った代償は大きすぎました。 |
ロイド | え…… ? |
ミトス | ……クラトスはボクのマナを拒絶したんだ。このままじゃ助からない……。 |
ロイド | 何だよ、それ……。 |
ミトス | クラトスは、ボクと姉さまを必ず救うといった。そして約束を守ってくれた。……自分の命と引き換えに……。 |
ミトス | ボクはもう嫌だよ。大事な人たちを失いたくない。姉さまを……そして、クラトスを……。 |
ミトス | だから、シングのところへ来たんだ。 |
シング | え、オレ ! ? |
ミトス | まず、謝らせて。……この間はごめんなさい。怪我をさせて、危険な目に遭わせたこと。 |
ミトス | ボクのことはシングの気が済むようにして構わない。ボクはどうなってもいいから……お願いだよ、クラトスを助けて ! |
マーテル | 私からもお願いします。シング。 |
シング | ちょ、ちょっと待って ! |
ミトス | クラトスは死のうとしてるんだ。だから……マナを受け付けない。 |
ミトス | 今のクラトスを救えるのはシングとロイドだけなんだ。 |
ロイド | 俺も ! ? |
ミトス | だから……お願い……お願い……します……。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【9-1 帝国への道1】 |
カーリャ | お帰りなさい、ミリーナさま。ロイドさまはお元気でしたか ? |
カーリャ | もう長いことケリュケイオンに行きっぱなしでカーリャ心配です。 |
ミリーナ | 明るく振る舞っていたけれど、内心は不安だと思うわ。でもコレットも傍にいるし、ケリュケイオンにはゼロスくんもいるから、きっと大丈夫よ。 |
ミリーナ | コーキスの方は ? もうすっかり元気になったとは思うけれど、毒が抜けるまで時間がかかったから……。 |
コーキス | 俺なら大丈夫です。ただ、むやみに眼帯を外さないようにって――。 |
イクス | ……まだゲフィオンからその力のことを詳しく聞けてないんだ。だから眼帯は絶対外しちゃ駄目だぞ。 |
コーキス | ……主にマスターから、今も言われてます。 |
ミリーナ | イクス……。そう、イクスらしいわね。自分も大変なのに、人の心配ばっかりしちゃって……。 |
ミリーナ | でも、イクスはあの時どうして私たちを呼び寄せたのかしら。 |
イクス | その説明はもう少し待ってくれ。ちゃんと成功したら報告するから。 |
コーキス | 何か、理由はあるみたいですけど成功するまで待ってくれって言ってます。 |
ミリーナ | そう……。無理はしないでね、イクス……。 |
コーキス | それで……クラトス様の治療はまだできないんですか ? |
ミリーナ | 今、フィルがソーマを使って安定的にソーマ使い以外もスピルリンクできる魔鏡を造っているの。私も確認してきたけれど、あと少しで完成すると思うわ。 |
コーキス | そうすれば今は眠らせておくしかないクラトス様を治療できるようになるんですね。 |
コーキス | ……でもどうしてクラトス様は死のうとしてるんだろう。そんな感じの人には見えなかったけどな。 |
ユーリ | そうか ? オレにはいかにもらしいと思ったけどな。 |
コーキス | え ? 何で ? |
ユーリ | 何でって……まぁ、逃げてるからじゃねぇの ? |
コーキス | 何から ? |
ユーリ | 何で何でってガキじゃあるまいし……。実際のとこはミトスかリフィルにでも聞いてくれ。同じ世界から来たヤツの方がわかってるだろうよ。 |
ユーリ | それよりミリーナカロルが例の準備終わったって言ってたぜ。 |
ミリーナ | ありがとう。じゃあ早速みんなを集めましょう。 |
コーキス | 例の準備って何ですか、ミリーナ様。 |
ミリーナ | みんなを集めたら説明するわね。 |
ミリーナ | みんな、忙しいところ集まってくれてありがとう。今日集まってもらったのは鏡映点候補のリストを確認してもらうためなの。 |
ルカ | 鏡映点候補って、カロルが聞き込みに来た僕たちの元の世界での仲間のこと ? |
ミリーナ | ええ、そうよ。カロル調査室とキール研究室で鏡映点として具現化された可能性のありそうな人たちを聞き込みしてリストにしたの。 |
ミリーナ | さっき渡したリストには名前と特徴と写真を並べてあるわ。 |
ルドガー | 写真って言っても、かなりぼやけてるな。これだと本人を知ってる人間じゃないとわからないかも……。 |
キール | これが精一杯なんだよ。 |
キール | それぞれが心に思い浮かべた鏡映点候補の顔を、魔鏡を通じてミリーナのカメラに転写する装置を作ったんだが人の心はあやふやでどうしても像がぶれてしまうんだ。 |
パスカル | もっと焦点をシュンってできればパキッとなるんだけどね。 |
リタ | それでも、ないよりは全然マシよ。 |
コーキス | それにしても随分たくさん候補がいるんだな。この資料の厚さ、武器になりそうだよ。 |
ミリーナ | 念のため、敵対していた人たちもリストに加えてもらったから……。ちょっと大変だと思うけど目を通しておいて欲しいの。 |
ミリーナ | ファントムは死ぬ前にかなりの数の鏡映点を具現化していたようだし、帝国も具現化を続けているみたいだから、こちらでも鏡映点を捜して助けたいわ。 |
カロル | 敵対してる相手が、ボクたちの誰かの仲間の体だってこともあり得るもんね。 |
ユーリ | …………。 |
エル | ……ねぇ、ルドガー。これってエルのことユーカイしようとした人に似てる。 |
ルドガー | え ? このリチャードって人か ? あ、そういえばセシリィがリチャードって言っていたような……。 |
一同 | ! ? |
ソフィ | リチャードもこの世界にいるの ? |
エル | わかんないけど、似てるよね ? |
カイウス | リチャードって、あのリチャードのことか ? |
アスベル | カイウス ! リチャードのことを知ってるのか ! ? |
カイウス | リチャード……って、金髪のちょっと……えっと、変わってる人だよな ? |
アスベル | 変わってる……かな ?ええっと、その人は鏡映点なのか ? |
カイウス | どうだろう……。シングが倒れていたリチャードを助けたのは知ってるけど、オレも詳しくはないんだ。多分セシリィなら知ってるんじゃないかな。 |
ルカ | セシリィもまだケリュケイオンだよね……。 |
カーリャ | あ、エミルさまとマルタさまとロゼさまが戻られましたよ。 |
カイウス | え……。ロゼはともかく、残りの名前は初めて聞くな。まだ他にも仲間がいたのか。 |
コーキス | そういえば、エミル様たちはしばらく闘技場の方に詰めてたんだったな。 |
ミリーナ | 随分大所帯になったから顔と名前を一致させるのが大変よね。 |
ロゼ | ただいまー。はー疲れたー。 |
エミル | 闘技場の方、何とか上手くいってるみたいだったよ。 |
カイウス | ――えっ ! ? |
エミル | ……な、何 ! ? 僕の顔に何か付いてる ? |
カイウス | あ、いや、ごめん。知り合いにそっくりで……。いや、アステルがこっちにいる訳ないよな……。あれ、もしかして、あんたはアステルの双子の兄弟か ? |
エミル | アス……テル…… ! ? |
カロル | え ? エミルって双子だったの ? あ、もしかしてボクが帝都に行ったとき見かけたエミルってそのアステルって人だったのかな ? |
エミル | ア、アステル……さんが具現化されてるの ? |
マルタ | 嘘……。だってアステルさんって、確か……。 |
エミル | えっと……。詳細は置いておくけど、その……僕は精霊で、人間の姿になるときに参考にしたのがアステルさんなんだ。 |
コーキス | ……この調子だと、まだまだ他にも気付いていない鏡映点がいるかも知れないな。 |
ミリーナ | ええ、そうね……。 |
ミリーナ | それじゃあ、みんなリストを読んでもらって鏡映点として具現化された仲間がいる可能性のある人たちは残ってちょうだい。 |
ミリーナ | 残ったのは―― |
エミル | アステルさんは仲間だった訳じゃないけど……でも、もし会えるなら話したいことがあるんだ。 |
ソフィ | リチャード……。 |
アスベル | まずはリチャード本人か確認する必要がありそうだな。 |
ヴェイグ | カイウスやユーリたちの話を聞く限り、アスターの下にいたヒルダというのは、オレの仲間のヒルダ・ランブリングで間違いないと思う。 |
ルカ | 特異鏡映点亜種03っていうのは僕の仲間のスパーダのことじゃないかなって……。 |
カイウス | オレはリストとは関係ないけど、帝国に長くいたから何か役に立てるかも知れないからさ。 |
ユーリ | まずはこんなところか。 |
ミリーナ | それじゃあ、このメンバーでアスターさんに会いに行きましょう。ヒルダさんがそこにいるそうだしアステルさんもよく出入りしているんでしょう ? |
カロル | ボクも行くよ。室長だからね。 |
コーキス | さすがに帝都の警備が厳重になってる可能性があるな。慎重に行こうぜ。 |
キャラクター | 2話【9-3 アスガルド帝国】 |
ルカ | うわ……。街の入り口に兵士がたくさんいる。やっぱり警戒されてるのかな。 |
ユーリ | いや、警備にしちゃ数が多すぎる。何かあったのか ? |
アスベル | もしかしたら、どこかに進軍する予定があるのかもしれない。 |
ヴェイグ | 進軍といってもこの世界に帝国と敵対する国はない筈だ。 |
ヴェイグ | となると救世軍か ?全員がケリュケイオンにいる訳じゃないだろう。 |
イリア | ねぇ、どっかから侵入できないの ? |
ユーリ | さすがに地下はもう使えねぇだろうしな。 |
イクス | あ、フィルがこっちに気付いた。 |
コーキス | え ? フィル様がこっちに気付いた ?マスター、どういうことですか ? |
カイウス | あ、ホントだ。ジュニアが街から出て、こっちに走ってくる。 |
エミル | え ! ? ちゃんと隠れてたのに……。 |
ジュニア | ……ミリーナ ? いるんでしょ ? |
ミリーナ | ………………。 |
ジュニア | 誰にも言わないよ。ミリーナが近くにいるって僕の持ってる守護魔鏡の欠片が教えてくれたからそれでここに来たんだ。 |
ミリーナ | ……フィル。 |
ジュニア | ……その名前で呼ばれるのは久しぶり。今はみんなジュニアって呼ぶから。 |
ミリーナ | フィル、どうして帝国にいるの ? |
ジュニア | ……その話をする前にミリーナに会わせたい人がいるんだ。よければ仲間の人たちも一緒に。 |
ミリーナ | それは誰 ? |
ジュニア | バルドだよ。フレンさんって鏡映点の体を使ってリビングドールとして復活したビフレストの騎士なんだ。 |
ユーリ | ……案内してもらおうじゃねーか。 |
ジュニア | 確か、ユーリさん、ですよね。バルドから聞いています。フレンさんの親友だって。 |
ジュニア | 大切な人をリビングドールにされて腹が立つのはわかります。でも、まずはバルドの話を聞いてあげて下さい。 |
コーキス | なぁ、ユーリ様、話を聞いてみないか? |
ユーリ | こいつが罠じゃないって保証があるならな。 |
ジュニア | 罠にはめるより、ここで兵士たちを呼んだ方が簡単じゃありませんか。 |
ユーリ | ――だろうな。まぁ、念のため確認しただけだ。 |
ジュニア | はい。そういう性分だろうなと思いました。 |
ユーリ | ナリは子供でも、おっさんのフィリップと同じだな。いい性格してるぜ。まぁ、とりあえず、話ぐらいは聞いてやるよ。 |
ミリーナ | ………………。 |
カロル | ……ユーリはいつもそうだよね。 |
カロル | 本当はすごく悔しい筈なのに、それでもフレンの尊厳を奪った奴と手を組むってことを平気な顔して飲み込もうとするんだ。 |
カロル | ボクにはわかるよ。だからボクも今回のこと飲み込んでみせる。 |
ミリーナ | ……二人ともありがとう。それじゃあ、バルドさんに会いましょう。他の鏡映点の情報も聞き出せるかも知れないわ。 |
バルド | ご足労頂き、ありがとうございます。 |
ユーリ | …………。 |
コーキス | ミリーナ様に会ってどうするつもりだ。 |
バルド | ……鏡精、ですね。ビフレストでは、鏡精は悪しきモノとして伝えられてきました。あなたを見ていると、とても信じられませんが。 |
コーキス | 悪しきモノ…… ? 俺が…… ? |
イクス | 悪しきモノ…… ? そんなの聞いたことがないな。 |
ミリーナ | どうして鏡精が悪しきモノなの ? |
バルド | 世界を滅ぼすのは鏡精だと、ビフレストでは伝えられていたんですよ。あなたはご存じかと思いましたが……。 |
ミリーナ | 私 ? いいえ……。ゲフィオンから受け継いだ記憶が不完全みたいで……。 |
バルド | そうでしたか。――失礼、話がそれましたね。本題に入りましょう。 |
バルド | 私が信頼する人物が、次々帝国からあなた方の下へ降っています。そしてあなた方はリビングドールという存在を否定している。 |
ルカ | だって、体を奪っているってことですよね。元の持ち主の存在を無視して……。 |
バルド | ええ。体を奪われた側からすれば尊厳を奪われるも同然です。 |
バルド | そして……リビングドールとして生き返らされた側からしても、また同じなのです。 |
ミリーナ | 生き返ったことが嬉しくはないんですか ? |
バルド | それが自分の体と共にであれば……喜ばしいことだったでしょうね。 |
バルド | 勿論リビングドールとして復活して喜んでいる者もいます。ですが、私は……今のこの状態に疑問を抱いている。 |
バルド | だから、皆さんに協力をお願いしたいんです。メルクリア様のリビングドール計画を止めるために。 |
ソフィ | バルドもわたしたちの仲間になるの ? |
バルド | そちらの陣営には行けません。どちらかというとカイウスたちの代わりに、私が帝国側の情報を流す役割を受け持つという感じになりますね。 |
ユーリ | 都合のいい話だな……。 |
ミリーナ | それを信じると思う ? |
バルド | ジュニアから聞いていた通りだ。あなたは簡単にはこちらを信じてくれないだろうと。 |
バルド | ですから私を信じてもらえるようある情報を持ってきました。 |
エミル | 情報って ?帝国への侵入方法だと助かるんだけど……。 |
バルド | 特異鏡映点亜種03――スパーダという鏡映点の居場所です。 |
二人 | ! ? |
キャラクター | 3話【9-5 アジトへの道2】 |
ミクリオ | 遅いな、ライラ。 |
スレイ | きっとまた誰かと話こんでるんだよ。この前なんか、クレスと盛り上がってたし。内容はよく聞こえなかったけどさ。 |
ミクリオ | そう言えば僕も見たよ。その時は、二人の間に火花が散ってるようにも見えたけど……。 |
スレイ | え、ケンカしてたのか ! ? |
ミクリオ | いや、クレスもライラもすごく楽しそうだった。 |
スレイ | なら良かった ! ライラは、オレたちと合流するまでこの世界では人と会うことがなかったみたいだし。馴染めるか、ちょっと心配だったんだ。 |
ミクリオ | あの時、かめにんを追いかけてなかったら、会うのはもっと先、いや、出会えていなかったかもしれないね。 |
スレイ | 本当、かめにんには感謝だよ。ライラみたいに、誰にも知られていない鏡映点がまだ世界にはたくさんいるんだろうな……。 |
ミクリオ | そうだね。そんな鏡映点を帝国はリビングドールとして利用している。 |
スレイ | ……力を取り戻さなくちゃ。みんなを救うためにも。 |
ベルベット | それじゃ、頼んだわよ。 |
ライラ | ええ、おまかせ下さい。 |
ライラ | ――お待たせしてすみません。スレイさん、ミクリオさん。 |
スレイ | ライラ、もしかしてベルベットと用事でもあった ?だったらオレたちの方は後でもいいけど。 |
ライラ | 大丈夫ですよ。今すぐというわけではありませんから。後で焼き菓子のコツを教えて欲しいといわれたんです。……ふふふ。 |
ミクリオ | 何がおかしいんだ ? |
ライラ | だって、災禍の顕主と一緒に料理だなんて、思いもしませんでしたもの。しかもあんなに上手なんですよ ? |
スレイ | うん、ベルベットの料理って美味いよな !なんだっけ、あのシチュー。えっと…… |
ライラ | ウリボアの肉たっぷり、なのにさっぱりシチュー。ですよね ? お姉さんの直伝だそうですよ。 |
スレイ | そうそう ! あれを食べた後に、ミクリオのバニラソフトクリームがまた最高なんだ。 |
ミクリオ | 言っとくけど今日は作らないぞ。 |
スレイ | じゃあ、明日ならいいってことだよな ? |
ミクリオ | ……まったくもう。 |
ライラ | ふふっ。スレイさんもミクリオさんもどこにいてもお二人は変わりませんね。 |
スレイ | ライラもね。このアジトにも馴染んだみたいで良かったよ。 |
ライラ | ええ、おかげさまで。最初は、私たち天族の姿が普通の方々にも見えるということに、少し戸惑いましたけれど、それもだいぶ慣れました。 |
ライラ | 今はライバルもできて、日々充実しています ! |
二人 | ライバル ? |
ライラ | い、いえ、こちらの話ですわ。それよりも本題に戻りましょう。 |
ミクリオ | そうだな。他のみんなもそれぞれ出来ることを探って動いている。僕たちもやらないと。 |
スレイ | ああ !――それじゃライラ、行くよ ! |
ライラ | はい ! |
スレイ | フォエス=メイマ ! ! |
スレイ | ――くっ……、やっぱり何度やっても駄目か。 |
ミクリオ | 陪神の僕はともかく、主神のライラだったら神依も可能かと思ったけど……。 |
ライラ | 私の力が足りないのでしょうか……。 |
スレイ | オレの方に原因があるのかも。 |
ミクリオ | いや、これだけ試してもできないんだ。やっぱりエンコードの影響なんじゃないかな。 |
ライラ | エンコード、ですか。そのおかげで、私たち天族が皆さんに見えるようになったのは良いことのようにも思えていましたが…… |
ライラ | こんな形で妨げになるなんて……。 |
スレイ | 帝国には強力な光魔を呼び出す奴もいるっていうし、神依ができれば対抗手段も増えると思ったんだけどな。 |
セシリィ | ――ただいま帰りました !……あら、スレイさんたち、随分疲れた顔をしているけど大丈夫 ? |
スレイ | セシリィか。神依ができるか試してたんだよ。だけど……。 |
セシリィ | ……駄目だった ? |
ライラ | はい……。セシリィさん、この浄玻璃鏡をもってしてもやはり神依は難しいのでしょうか。 |
セシリィ | 以前、スレイさんたちの世界のことを聞いたとき浄玻璃鏡の力があっても、神依がこの世界で成功する確率はゼロに近いと思ったの。 |
セシリィ | それは、この世界に主神であるライラさんがいないことが大きかった。 |
セシリィ | 今なら浄玻璃鏡がスレイさんだけでなく、ミクリオさんやライラさんの現在過去未来、あらゆる可能性を映すことで神依が使えるようになるかも知れない。 |
セシリィ | ただ、それにはきっかけが必要なの。ユーリさんやルドガーさんのように、何か皆さんの心を動かすものがあればきっと……。 |
スレイ | きっかけかあ。それって何なんだろうな。 |
ミクリオ | どっちにしろ、諦めるのはまだ早いってことだろ。 |
スレイ | だよな。もっと色々試してみるか ! |
ミクリオ | そうだ、スレイ。また息でも止めてみるかい ?アリーシャに初めて僕たちの声を聞かせた時みたいに。 |
ライラ | いいですね ! まずは初心に戻って、感覚を研ぎ澄ませましょう。それではスレイさん、今から息をしちゃ駄目ですよ ? 目も閉じて下さいね。 |
スレイ | ええ ! ? 待って待って ! |
ルーティ | あ、いたいた !ちょっとあんたたち、一緒に来てくんない ? |
スレイ | ルーティ、どうしたの ? |
ルーティ | さっきエミルたちが戻って来たんだけど、なんか妙な話になってるみたいでさ。すぐに動けそうな奴らに集まってもらってんの。 |
ルーティ | 他にも声かけてくるから、先にミリーナたちの所に行っててもらえる ? |
スレイ | わかった、すぐに行くよ ! |
キャラクター | 4話【9-6 アジトへの道3】 |
スレイ | 話は聞いたよ。ルカの仲間の居場所がわかったんだって ? |
ミリーナ | ええ。まだ信じていいのかわからないけれど……。 |
セシリィ | バルドさんなら……信頼できるわ。 |
ルカ | セシリィはバルドのこと詳しいの ? |
セシリィ | ……生前、お世話になったから。 |
イリア | そっか、セシリィは確か本当はシドニーっていう名前の鏡士なんだっけ。 |
セシリィ | ええ。私……ガロウズと親しかったからセールンドとの戦争が始まったとき内通を疑われてしまったの。 |
セシリィ | でもその時、私の言葉を信じて庇ってくれたのがバルドさんだった。 |
セシリィ | 結局は、陛下の命令で前線に送られてしまったけれどバルドさんもナーザ将軍――ウォーデン殿下も私を気遣ってくれたわ。 |
ソフィ | ナーザもいい人なの ? |
セシリィ | 厳しい方だったけれど、ビフレストのことを思う素晴らしい皇太子殿下だったわ。 |
セシリィ | あの方が、今リビングドールとして、何をしようとしているのかはわからないけれど、メルクリア様のリビングドール計画には乗り気ではない筈よ。 |
スレイ | だったら協力し合えるといいよね。戦わなくてすむなら、それが一番だよ。 |
ミリーナ | ええ。私たちも協力できるならそうしたい。その方がフレンさんを助ける道にも繋がるんじゃないかと思うの……。 |
ミリーナ | だからまずはバルドさんのくれた情報が本当かどうか確認しないとね。 |
コーキス | ヴェイグ様はユーリ様やエミル様たちとヒルダ様に会いに行ったから、スレイ様たちが一緒に来てくれると助かるよ。 |
スレイ | オレたちもライラと会えたときすごく嬉しかったからルカのためにも是非協力させてよ。 |
ルカ | ありがとう、スレイ…… ! |
ルーティ | ちょっと、ルカ。あたしたちのこと忘れてない ? |
ミラ=マクスウェル | わざわざ主張しなくても構わないと思うのだが。 |
クレス | うん。それに僕らの気持ちはスレイと同じだからね。僕も仲間と再会できたときは嬉しかった。 |
ミント | ええ。私も合流できて安心しました。スパーダさんにも安心してもらいたいです。 |
イリア | まぁ、スパーダがそう簡単に弱るってことはないと思うけど、酷い扱い受けてるなら助けないとね。 |
ミリーナ | それじゃあ、急ぎましょう。どうやらスパーダさんは精霊研究所から、別の施設へ運ばれるそうなの。 |
ミリーナ | 輸送の時はどうしても隙ができるわ。イリアの時と同じように助けられる筈よ。 |
セシリィ | あ、待って。私ミリーナを呼びに来たの。魔鏡通信でもよかったんだけど私も荷物を取りに来る必要があったから……。 |
ミリーナ | え ? 私 ? |
セシリィ | フィリップさんがスピルリンクに共鳴する魔鏡を完成させたの。 |
セシリィ | クラトスさんの治療のためにミリーナとできれば治癒術を使える人たちに来て欲しいって。 |
ミリーナ | あ、でもスパーダさんを連れた輸送隊がもうすぐ出発するって……。 |
コーキス | ミリーナ様。こっちは俺たちに任せて下さい。ルカ様にイリア様、アスベル様とソフィ様それにスレイ様やクレス様たちもいます。 |
イクス | 俺もコーキスのサポートをするよ。 |
コーキス | マスターもサポートしてくれるって。 |
アスベル | 俺たちもさっきヒューバートに声をかけたんだ。ミリーナはクラトスさんの方へ行ってくれ。 |
ルーティ | 確か回復役が必要なのよね。あたしとミントもミリーナと一緒に行きましょう。 |
ミント | ええ、そうですね。 |
クレス | その方がいいね。こちらは十分戦力が整ってる。 |
アスベル | 確かシェリアも残ってる筈だ。声をかければ同じような治癒術を使えるメンバーを集めてくれると思う。 |
ミリーナ | ……そうね。そうさせてもらうわ。 |
ライラ | あちらも大変だと思います。頑張って下さい。 |
ミリーナ | ありがとう、ライラ。それとスパーダさんはかなり特殊な存在として、帝国でも厳重な警備をされているらしいの。だから、ライラも気をつけてね。 |
ライラ | 承知しました。しっかり役目を果たしますわ。 |
コーキス | よし、俺たちはスパーダ様を取り戻そう。 |
ミリーナ | 私たちはクラトスさんの命をつなぎ止めましょう。 |
キャラクター | 5話【9-7 スピルメイズ 入口】 |
フィリップ | ミリーナ。それにミントさん、ルーティさんシェリアさん、リフィルさん。ご協力感謝します。 |
ルーティ | 勿論、お礼の方はもらえるのよね ? |
フィリップ | お金……ですか ? |
ミント | ルーティさん ! ? |
ルーティ | ウソウソ、ジョーダンよ。こっちの世界でそこまで必死にお金集めたところでね……。 |
ルーティ | それにみんな深刻そうな顔してるからちょっと和ませようと思っただけ。硬くなってちゃ上手くいくものもしくじるわよ。 |
シェリア | ルーティらしいわね。で、私たちは何をすればいいの ? |
マーテル | 皆さんには私と一緒にクラトスの治療をお願いしたいんです。 |
リフィル | マーテル……。 |
マーテル | クラトスは今、生命維持装置の中にいます。ここから出すと、死へのカウントダウンが始まる。これを遅らせるために、ミトスがマナを分け与えます。 |
マーテル | その間、治癒術を施すことで肉体の崩壊を食い止めるのが私たちの役目です。 |
ミトス | クラトスはボクのマナを受け付けない。それはもう自分は役目を終えて死ぬとクラトスが心の奥底で決めてしまっているからだ。 |
ミトス | クラトスはずっと死に場所を探していた。姉さまを助けたことで、クラトスはもう自分の役目は終わったと思ってるんだ。 |
ミトス | そうじゃないってことを教えられるのは……ロイドだけだ。ロイドがクラトスを説得する間ボクらでクラトスの命を繋ぎ止める。 |
ロイド | ………………。 |
フィリップ | ミトスと皆さんがクラトスさんの命を繋ぐ間シングとロイドとミリーナにクラトスさんのスピルメイズに入ってもらいます。 |
フィリップ | ミトスの言う通り、クラトスさんの心に呼びかけて生きる気持ちを取り戻してもらう。 |
ミリーナ | 私も ? |
フィリップ | 僕が作ったスピルリンク魔鏡は、これが最初の稼働になるからね。何か起きたときのための安全弁として鏡士の同行は不可欠だ。 |
フィリップ | シングはソーマがあるから問題ないけれどロイドの存在はスピルリンク魔鏡でしか保てない。 |
ミリーナ | 何かあったときに、ロイドの存在をクラトスさんの心の中で具現化させ続けるのが私の役目なのね。 |
フィリップ | スピルリンク魔鏡を使っても、ソーマのない人間が心――いや、スピリアと呼ぼうか。 |
フィリップ | ソーマの無い人間がスピリアの中に入れるのは三人まで。あと一人の人選はロイドに任せるよ。 |
ロイド | ……でも、クラトスを説得するのに誰がいいかなんてよくわからないよ。 |
ゼロス | クラトスを説得する為のメンバーじゃなくてロイドくんの心を支える仲間を選べばいいんでねーの。コレットちゃんとか。 |
ロイド | コレットか……。そういえば……コレットも、あの時見てたもんな。 |
コレット | あの時 ? 何のこと ? |
ロイド | 元の世界にいた頃、クラトスが親父だってわかったとき、あいつ俺を庇っただろ。コレットが「ロイドはロイドだ」って言ってくれた。 |
ミトス | ………………。 |
コレット | ……うん。だってロイドがいつも言ってくれたでしょ。神子だろうと天使だろうとコレットはコレットだって。同じだよ。 |
ロイド | うん。もしまた俺が取り乱したら、ガツンと言ってくれよな。 |
コレット | まかせて ! |
ミトス | ロイド・アーヴィング。 |
ロイド | え ? な、何だよ、急に……。 |
ミトス | クラトスをお願い。古代大戦の英雄や天使なんかじゃなくて一人の人間として生きていいんだって教えてあげて。 |
ロイド | ――わかった。けど、それはお前も同じだと思うぜ、ミトス。 |
ミトス | ……ボクはいいんだ。ボクは許されなくていい。とにかくクラトスを助けて。 |
ロイド | 助けるさ、必ず ! |
フィリップ | それじゃあ、シング、ロイド、コレット、ミリーナでクラトスさんのスピルメイズへ向かってもらおう。 |
マーテル | ただし、私たちの治癒術には限界があります。時間は余り多くない。魔鏡通信用の鏡が光ったら限界が来たと思って下さい。 |
シング | その時はスピルメイズから出るんだよな。 |
フィリップ | ええ、その通りです。――ローエンさん、準備は ? |
ローエン | 万全です。 |
シング | よし、始めよう。 |
キャラクター | 6話【9-12 スピルメイズ 第5層】 |
ロイド | ここがクラトスの心の中か……。 |
コレット | 何か不思議な場所だね。綺麗で……清らかな感じ。聖域って感じがする。 |
シング | うーん……。確かに、何だかちょっと普通のスピルメイズとは違うな。なんでこんな雰囲気なんだろう。 |
ミリーナ | 気のせいかしら。上手く言えないけどミラやエミルや天族のみんなから感じる感覚に近いような気がするわ。 |
コレット | あ、確かにそうかも……。 |
ロイド | ……もしかしてオリジン ? 確か元の世界でクラトスはオリジンの封印に関係してたよな。その影響なのかも。 |
シング | 待った ! 誰かいるぞ。きっと……。 |
クラトス | 何故お前たちがここにいる。ここは私の心の中だ。今すぐ出ていけ。どうせこの場所も朽ち果てる。私という存在と共にな。 |
ロイド | どうしてだ。ミトスのマナを分けてもらえばまだ生きられるんだぞ。 |
クラトス | ……何故、これ以上私に生きろと望むのだ。私はもう四千年以上生き存えてきた。もう十分だ。 |
シング | 四千年…… ! ?クラトスさんってそんなに長く生きてきたの ! ? |
ミリーナ | この場所に精霊や天族と同じものを感じたのはクラトスさんが彼らと同じくらい長く生きてきた人だからなのかしら……。 |
ロイド | 何で……。何でそんな風に言えるんだよ。 |
ロイド | 俺はたった17年しか生きてないからわかんねぇけどでも誰かが生きていて欲しいって思ってくれるなら何としても生き続けたいよ。 |
クラトス | ……ロイド。お前は若い。私もかつては若かった。マーテルとミトスを救う――それが私が旅に出た最初の動機であり願いだった。 |
クラトス | 元の世界では決して叶うことのなかった願いが果たされたのだ。影の存在であってもな。 |
ロイド | 願いが叶ったならミトスたちのその後を見届けてやれよ ! |
クラトス | しかし元の世界では、私はマーテルもミトスも最愛の妻すらも救えなかった。 |
クラトス | どのような形であれ、世界が救われるならそれを見届け、朽ちる――それが私の死ぬときだとそう思っていたのだ。 |
クラトス | しかし異世界に具現化された身では元の世界を救うことも見届けることも叶わぬ。 |
クラトス | それでも若かりし頃の大願は成就した。もう私にやるべきことはない。 |
ロイド | あんたにはなくても俺にはある。 |
ロイド | 俺は……俺はまだ何も知らない。父親がどんな人間だったか母さんがどんな人だったのか。 |
ロイド | あんた……父さんがどうして元の世界でミトスの千年王国計画に荷担したのか ! |
ロイド | 俺は、父さんから何も聞いてない !目の前にいるのに、話す機会もあったのに父さんは何も言わないで死ぬのか ! ? |
クラトス | ………… ! |
ロイド | あんたは確かに願いを叶えたのかも知れない。 |
ロイド | でも、本当にミトスやマーテルを救いたいなら自分たちが生きてることに負い目を感じさせるような死に方はするなよ ! |
ロイド | 死にたいなら、自分のやったことに始末をつけてからにしろ ! |
シング | ロイドの言う通りだ。本当に誰かを救おうと思ったら命だけじゃなくてスピリアも守らなきゃ。 |
ミリーナ | …………。 |
クラトス | ……死に場所を得たいと思うことは、罪なのか。 |
コレット | 違います。そうじゃない。ロイドはただクラトスさんに生きていて欲しいんです。だってお父様だもん。 |
ロイド | あんたはどうして生きることが苦しいと思うんだ ?長く生きてきたからか ? だったら―― |
ミリーナ | ロイド ! ? どうして武器を構えるの ! ? |
ロイド | 戦うんだ。過去の英雄クラトスを倒す。これは息子である俺の役目だ。 |
クラトス | ……よかろう。これが最期の戦いだ。お前がどれほどの腕前になったのか見せてもらおう。 |
キャラクター | 7話【9-12 スピルメイズ 第5層】 |
クラトス | ……強く、なったな。さあ、とどめを刺せ。 |
ロイド | ……とどめなら刺したよ。今、あんたの心に。スピリアにさ。 |
ロイド | あんたはクラトスの心だろ。俺はクラトスの心を――いや、過去の英雄クラトスの心を倒した。 |
ロイド | だから、いまスピリアに残っているのは俺たちの旅を導いてくれた傭兵クラトスの心だけだ。 |
クラトス | 何……。 |
ロイド | 屁理屈だなんて言うなよ。屁理屈だって理屈のうちだ。 |
ロイド | 後悔して苦しんできた英雄クラトスには、生きる希望が見つからなかったのかも知れない。だから生きることが苦しかったのかも知れない。 |
ロイド | でも、本当は希望なんてどこにでも転がってるんだと俺は思う。 |
クラトス | ……その希望が見つからないから苦しいのだと思わないか ? |
ロイド | 希望が見つかれば苦しくないんだろ ? |
ロイド | それって要するに希望が見つからないから苦しくて死にたいって思うだけで要するに苦しいことから逃げたいんだろ。 |
ロイド | 苦しくなければ逃げないんだから結局死にたくないんじゃないのか ? |
クラトス | お前は……本当に……。 |
ロイド | 馬鹿だって言うんだろ。みんなそう言うし、それでいいよ。あんたが生きる気になるのなら。 |
ロイド | 大体難しく考えすぎなんだよ、クラトスは。生きるって単純なんだぜ。息を吸って吐いてればいいんだ。 |
ロイド | 後は笑って何とかなると思ってればそれでいい。もしどうしてもそんな風に思えないならあんたの苦しさを俺も背負うよ。 |
ロイド | 一人で背負うよりはマシだぜ、きっと。 |
ミリーナ | ……クラトスさん。私はかつて世界を滅ぼしました。生きている時間こそ、クラトスさんとは違うけれど大切な人を亡くした記憶もあります。 |
ミリーナ | それでも私は何とかやり直そうとしている。クラトスさんにだってきっとできると思います。だって大切な息子さんが一緒にいるんですもの。 |
クラトス | ……四千年生きてきても私は何も知らないのだと思い知らされる。 |
シング | 知らないなら、これから知ればいいですよね。 |
クラトス | そうだな。……私ももう一度向き合わねばならぬのかもしれぬな。スピリアに。 |
ミトス | クラトスが……マナを受け入れた ! |
ファントム | それじゃあ、ロイドたちは成功したんだね。 |
ミトス | ……うん。だから後は……お願い……。 |
ルーティ | ちょ、ちょっと ! ? ミトスが倒れちゃったけど ! ? |
マーテル | 大丈夫。マナを分け与えて衰弱していますがこの子は無事です。 |
マーテル | マナを人に譲るという行為は命を削り取るようなもの。この子は二度目ですから負担も大きいのでしょう。 |
ミント | それでも……クラトスさんを助けたかったんですね。 |
マーテル | ……しばらくは安静が必要ですが、大丈夫。あとはクラトスが目を覚ませば―― |
リフィル | みんな ! お帰りなさい。クラトスがマナを受け入れたわよ。 |
シング | やったね、ロイド ! |
コレット | クラトスさんもう一回生きるって決めてくれたんだね。 |
ゼロス | はぁ……。手の掛かる天使様だぜ。 |
ミリーナ | あら、もうクラトスさんは天使じゃないのよ、ゼロスくん。 |
ゼロス | は ? どういうことよ。 |
ファントム | クラトスさんが目を覚ましたようだ。 |
ロイド | クラトス ! |
クラトス | ……ロイド。それに神子にミリーナに……シングだったな。世話をかけたようだ。すまない。 |
ロイド | 俺たちだけじゃないぜ。マーテルさんもミトスもルーティもミントもシェリアも、救世軍のみんなももう、あんた色んな人に迷惑かけたんだからな ! |
クラトス | そのようだ。すまなかった。 |
マーテル | クラトス。気にしないで。むしろ私が謝らなければ。四千年前、私があなたを言葉の呪いで縛ってしまった。 |
マーテル | ミトスを守って欲しいという私の願いを、あなたはこんなにも長い間守ろうとしてくれた。ごめんなさい。そして……ありがとう。 |
マーテル | あなたはもう私たち姉弟の呪縛から解き放たれるべきだわ。ロイドのためにも。 |
クラトス | ……そうだな。だが、あれは呪縛ではない。騎士としての契約だ。それぐらいの矜持は残っている。強がらせて欲しい。 |
マーテル | ありがとう、クラトス。あなたは昔から優しいままね。 |
クラトス | ロイド……。改めて私に時間をくれ。私には……まだお前に伝えねばならないことがたくさんある。 |
クラトス | 父親としてはすでに失格しているがそれでもまだ間に合うこともあるだろう。 |
ロイド | 誰が失格だなんて決めたんだよ。そんなの誰にも決められないし俺は失格だなんて思ったことはないぜ。 |
クラトス | そうか……。 |
ロイド | そうだよ。だから……生きててくれてありがとう……。父さん。 |
キャラクター | 8話【9-14 静かな平原2】 |
コーキス | バルドの話だと、スパーダ様の輸送隊はこの辺りを通る予定なんだよな。 |
ソフィ | リチャードも輸送隊の中にいるのかな ? |
アスベル | もしリチャード本人だとしてリビングドールにされているんだとしたら……ラムダはどうなってるんだろう。 |
スレイ | ラムダって ? |
アスベル | ラムダは俺たちの住んでいた星とは違う星から来た生命体、っていうのかな。リチャードの中に取り憑くような形で融合していた。 |
ミクリオ | ……取り憑く、か。リビングドールに通じるものがあるね。偶然なのかな。 |
スレイ | 帝国は鏡映点の世界の技術を学んで応用しているところがあるみたいだからもしかしたらヒントになっているのかも知れない……。 |
コーキス | その辺りはバルドが教えてくれるんじゃないか ? |
ヒューバート | ……ところで布陣はどうしますか ? |
ヒューバート | この辺りの地形を考えると、左の丘側から側面を突く形で輸送隊を襲うのが適切のようですが。街道を通ってくる輸送隊側からは死角になります。 |
クレス | そうだね。もしかしたらバルドもその辺りを考慮してこのポイントを知らせてきたのかも知れない。 |
ヒューバート | ……それはどうでしょう。バルドを信じすぎるのは危険です。 |
ヒューバート | ミリーナさんもユーリも気にしていたようにぼくたちを罠にかけるには襲撃ポイントを指定する方が簡単ですから。 |
コーキス | 一応、周辺を見て回ったけど伏兵とかはいなかったよな。 |
ヒューバート | こちらに知られないように伏せているのかもしれません。ここは慎重になりすぎて困ることはないと思います。 |
ルカ | でも、バルドも言ってた通り今更罠にはめるぐらいなら、ジュニアに見つかった時に僕たちを捕まえるなり倒すなりできたと思うんだけど。 |
イリア | 前から思ってたけど、ヒューバートって慎重通り越して石橋を壊すタイプってことない ? |
イリア | スパーダを助け出せるかどうかって瀬戸際なんだしガチガチに疑ってかかって救出のタイミングを無くすなんてのは勘弁してよね。 |
ヒューバート | 敵対していた相手と手を組むかも知れないんですよ。今慎重にならないで、いつなるのか教えて頂きたいぐらいです。 |
スレイ | まぁまぁ。どっちの言い分もわかるよ、オレ。 |
スレイ | 相手の言うことを全て鵜呑みにすることと信じるってことは違うんだろうし相手を信じることで始まる関係もあるんじゃないかな。 |
スレイ | それに今回の作戦は、オレたちがバルドを見極めるだけじゃなくて、バルドもオレたちを見極めようとしてるような気がするんだ。 |
ヒューバート | ……それは、確かにそうかも知れませんね。全ての出来事には当事者の数だけ視点がある。 |
ミラ=マクスウェル | バルドがこちらを見極めようとしているのならこちらが罠の可能性を考慮して、周辺の調査を入念に済ませたことは好意的に取られるのではないか ? |
ミラ=マクスウェル | 手を取り合う相手に、相応の技量と知性を求めるのはおかしなことではない。 |
アスベル | なら、俺たち全員が、スパーダを助けるためにそれぞれ正しい方向を見ていたってことだな。 |
ミクリオ | それぞれ違う個性が集まっていいチームになっているってことか。 |
コーキス | そりゃ、最高のチームだって !みんな自分の世界のことじゃないのに命がけでマスターたちを助けてくれるんだからさ。 |
イクス | ああ、そうだよ。みんな本当にありがとう。 |
イクス | それに俺も魔鏡結晶を通じて敵のおかしな動きは見張れると思う。 |
イクス | だからみんなはバルドの思惑にあまり囚われずにそれぞれが出来ることを真摯にやっていけばきっと大丈夫だよ。 |
イクス | 心配性なのは俺だけでいいからさ。 |
コーキス | えっと……。マスターが長々色々言ってたけど要するに、みんなありがとうだって。 |
コーキス | あと、敵のことはマスターも見張るからあんまバルドが何考えてるかとか気にしないでやってくれって。 |
イクス | お、大雑把になってる……。 |
ライラ | そうですわね。仮にバルドという人が何か害を成すようなことをしたらしばるといいと思います♪ |
クレス | ! 『バルド』だけに ! |
ソフィ | ? ? ? |
イリア | うわぁぁ……サッッムイ……。 |
ミラ=マクスウェル | ――待て。四大が教えてくれた。輸送隊が近くまで来ているようだ。ソフィたちが気にしていたリチャードもいるようだな。 |
三人 | ! ! |
イクス | 俺も輸送隊を確認した。 |
コーキス | マスターも輸送隊が来るって ! |
クレス | よし。ヒューバートの作戦通り、あの丘から攻め込むぞ ! |
クレス | 可能ならリチャードは捕虜という形で連れて帰ろう。それでいいかな ? |
ソフィ | ……わかった。 |
帝国軍兵士 | チーグル様 ! 敵襲です !数は多くありませんがとてつもなく強い連中でしかも【マクスウェル】が向こうについています ! |
チーグル | 何 ! ? 急いでケージを確認しろ ! |
ソフィ | いた…… ! リチャード ! |
チーグル | ――この体の知り合いか。 |
ソフィ | ラムダを、感じない……。 |
ソフィ | あなたは誰なの ?リチャードを返して ! ! |
チーグル | お前たちの相手は僕がするまでもない。光魔と戯れていろ ! |
キャラクター | 9話【9-15 静かな平原3】 |
クレス | ……くっ ! 倒しても倒しても光魔が現れる。 |
イクス | 急げ ! リチャードが馬車に乗り込んだ !きっとスパーダを連れて離脱するつもりだ ! |
コーキス | リチャードがスパーダ様を連れて逃げようとしてるって ! |
ルカ | スパーダが―― |
コーキス | ルカ様、イリア様、アスベル様もソフィ様もヒューバート様も、一緒にリチャードを追いかけて下さい。 |
コーキス | ここは俺が引き受けます ! |
イクス | コーキス ! 魔眼は駄目だぞ !またコーキスの体に負担が―― |
コーキス | ここで使わないでいつ使うんだ !俺だってマスターがさらわれたら全力で取り返しに行く ! みんなだってそうだろ ! |
アスベル | ――行こう。ここで二人を取り逃がしたらバルドの情報も無駄になる。 |
ルカ | うん。コーキス、後はお願い。 |
ミラ=マクスウェル | コーキス。魔眼の解放はぎりぎりまで待て。まだ私もクレスもスレイもミクリオも十分戦える。 |
クレス | ああ。焦らずに行こう ! |
スレイ | ……ミクリオ。 |
ミクリオ | わかってる。コーキスの言葉じゃないがここで使わないで、いつ使うんだ。 |
ライラ | お二人とも ! 浄玻璃鏡が ! |
スレイ | 光り出した…… ! |
ミクリオ | スレイ、今だ ! |
コーキス | な、何だ ! ? スレイ様とミクリオ様が合体した ! ? |
スレイ | ――ぐっ…… ! ? |
ライラ | いけない…… ! |
二人 | うわぁぁぁぁぁぁぁ ! ? |
ライラ | 神依が強制的に解除された ! ? そんなことが…… ! ? |
? ? ? | え ! ? 今のって……精霊装…… ! ? |
クレス | ……光魔はスレイとミクリオが殲滅してくれたけど一体何が起こったんだろう。 |
ライラ | あれは【神依】ですわ。天族と導師が融合して戦う術です。エンコードの影響で使えなくなっていたのですが……。 |
ミクリオ | ……いや、今のはいつもの神依じゃなかった。 |
スレイ | ああ。途中で神依を保てなくなって強引に解除されちゃったんだよ。 |
? ? ? | ……それって、多分天族の存在が、元の世界とは少し違うものとして定義されたからだと思うよ。 |
コーキス | 誰だ――って、エミル様 ! ?アスターのところに行ったんじゃないのか ! ? |
ミラ=マクスウェル | ……いや、待て。あれはエミルではない。姿形は同じだが、少なくとも精霊ではない。 |
? ? ? | 精霊 ? あはは、僕は精霊を研究する側の人間だよ。アステル・レイカーです。よろしく。 |
コーキス | アステルって、確かエミル様たちが捜していた鏡映点の名前じゃ……。 |
アステル | え ? そっちに僕を捜している人がいるとは思わなかったな。 |
ライラ | そっちとおっしゃいましたわね。私たちが何者でどこに属しているのかご存じなのですか ? |
アステル | そりゃ、精霊マクスウェルを抱えてるのは黒衣の鏡士の人たちでしょ ? |
アステル | あ、気にしないで。僕、帝国の側にいるけど君たちのことをどうこうしようとか思ってないから。 |
アステル | さっきの輸送隊の馬車に乗ってたんだけど戦闘のどさくさで馬車から落ちちゃって……あははは。 |
コーキス | 軽…… ! ? |
スレイ | ねぇ、さっき天族の定義がどうとか言ってなかった ? |
アステル | あ、そうそう。その話だった。エンコードは外部の情報をこの世界の法則に馴染ませることが目的の機構だからね。 |
アステル | 天族の存在は限りなく精霊に近しいものとして定義されているんじゃないかな。 |
ミクリオ | どうして君が天族の定義が変わったと言えるんだ。それが言えるのは天族の存在を理解している人間だけだが、君はエミルの世界の人間なんだろう ? |
アステル | それは僕にもわからないよ。天族のデータは帝国から提供されたんだ。だから知っているってだけ。 |
アステル | で、話を戻すけど、天族が疑似的精霊――もしくは精霊亜種のように定義された結果、その神依という融合術の仕組みにそぐわなくなっているんだ。 |
アステル | そのままだと神依を制御するのは難しいと思うよ。 |
スレイ | そんな……。この力があれば、みんなを守れると思ったのに……。 |
アステル | ……んー、バレなきゃ怒られないよね。 |
アステル | えっと、この指輪をはめて、もう一度神依してみて。浄玻璃鏡があるから、神依をオーバーレイ能力と定義しなおして、浄玻璃鏡に記録できると思う。 |
コーキス | え ?何か難しいこと言っててよくわかんねーんだけど……。 |
アステル | つまり、本来の神依は難しいけれど魔鏡に神依化能力をコピーすれば、その魔鏡を使うことで神依できるようになるよってこと。 |
アステル | ただ、魔鏡に神依化能力をコピーするためには完全な神依を実行して魔鏡に映さないといけないんだ。 |
アステル | だから完璧な神依を実行するためにこの指輪をつけてみてって言ってるんだよ。 |
クレス | どうしてその指輪をはめると神依ができるようになるんだ ? |
クレス | 天族が精霊と同じような存在と定義されている事実は変わらない筈だけど。 |
アステル | これは……簡単に言うと、精霊と神依するための指輪なんだ。精霊輪具っていうんだけどね。 |
アステル | 天族の定義が精霊と近しいものとして定義されているなら、これが役に立つと思うんだ。 |
イクス | それは危険な物じゃないのか ? |
コーキス | それ、危ねーんじゃねぇの ? |
アステル | 長時間身につけると危険だけど神依を魔鏡に映す間だけなら大丈夫だよ。まぁ、無理にとは言わないけど。 |
スレイ | ……ミクリオ、やってみないか。 |
ミラ=マクスウェル | いいのか ? アステルは帝国の人間だぞ。 |
スレイ | でも、オレたちを陥れるのが目的ならこんなやり方はしないと思うんだ。 |
スレイ | それに、これからの戦いで神依が必要になる局面がきっと出てくると思う。 |
ミクリオ | そうだな……。何も出来ないまま手をこまねくのはもうごめんだ。 |
コーキス | でも浄玻璃鏡が光らないと駄目なんじゃないか ? |
ライラ | ……それには心当たりがあります。 |
ライラ | スレイさんとミクリオさんが神依で戦うという意思を固めるのが条件として重要なのだと思います。 |
ライラ | ですから、必要なのは神依したお二人と戦ってくれる存在ですわ。 |
アステル | あ、僕は無理。運動オンチなんだ。 |
ミラ=マクスウェル | そういうことなら、ここでクレス道場を開けばいいのではないか。私も協力するぞ。 |
クレス | そうだね。僕も構わないよ。 |
コーキス | あ、俺も、俺も ! |
アステル | えー。同士討ちさせて弱らせてから伏兵どーんみたいな展開があるかも知れないでしょ。こういう時は、戦力を残しておくのが重要だと思うよ。 |
コーキス | ちぇ……。つまんねーの。俺もスレイ様とミクリオ様の神依と手合わせしたかったなー。 |
スレイ | 神依をちゃんと取り戻せたらいつでも手合わせするよ。 |
ミラ=マクスウェル | では、本気で行くぞ ! |
スレイ | こっちこそ ! |
ライラ | また浄玻璃鏡が輝き出しましたわ。今です ! |
ミクリオ | スレイ ! |
スレイ | ああ ! 今度こそ成功させる ! |
二人 | 『ルズローシヴ=レレイ』 ! |
キャラクター | 10話【9-15 静かな平原3】 |
コーキス | 上手くいった……のか ? |
ライラ | ええ ! |
スレイ | やったな、ミクリオ ! |
ミクリオ | ああ……。でも、何だかいつもより疲れた……。 |
アステル | あ、精霊輪具の影響だと思う。急いで外して ! |
ミクリオ | わ、わかった……。 |
アステル | うん。上手くいったみたいでよかった。精霊輪具は返してもらうね。これを無くすと怒られちゃうからさ。 |
クレス | 神依……。すさまじい力だったよ。僕ももっと修行しないとな。 |
ミラ=マクスウェル | ああ、スレイとミクリオが頼もしい力を得て私も嬉しいよ。 |
バルド | 皆さん ! よかった……ご無事でしたか。 |
アステル | あれ、バルドさん ? |
バルド | レイカー博士 ! |
コーキス | 博士 ! ? |
アステル | やだなー。アステルでいいって言ってるのに。 |
バルド | は、はい。アステルさん。まさかあなたがこちらにいらっしゃるとは思わなかったものですから……。 |
アステル | 急に【空のマクスウェル】を運べって言われて輸送隊に混ぜられちゃったんだよ。 |
バルド | …… ?あの輸送隊は特異鏡映点亜種03の物ではなかったのですか ? |
ミラ=マクスウェル | 待て。空のマクスウェルとは何だ ? |
スレイ | それに、今の話だと、あの輸送隊の馬車にはスパーダがいなかったってことになるけど……。 |
アステル | スパーダの輸送なら後回しになったんだ。……って、ああ、そうか。マクスウェルじゃなくてスパーダが狙いだったんだ。 |
ミラ=マクスウェル | マクスウェル ?この世界の精霊マクスウェルのことか ? |
アステル | ……バルドさん、話していいの ? |
バルド | アステルさんは関わらない方がいい。リヒターの立場もあるでしょう。 |
クレス | リヒターって、たしか四幻将の……。 |
アステル | 四幻将 ! それ ! ダサいよねー。リヒターに会う度に『焔獄さん』って指さして笑っちゃう。 |
コーキス | うーわー……。いい性格してるぜ。エミル様とえらい違いだな。 |
ミラ=マクスウェル | 話をそらすな。空のマクスウェルとはなんだ ? |
バルド | 帝国は限りなくあなたに似たマクスウェルを異世界からサーチして具現化したのです。 |
ミクリオ | 何のために、そんなことを。 |
バルド | ……この世界の精霊マクスウェルを殺したからです。 |
ミラ=マクスウェル | ! ? |
アステル | ……デミトリアス陛下は、ダーナの巫女と精霊の力を利用しようとしているみたいなんだ。 |
アステル | 詳しい事情はわからないけれど僕もその為の研究を命じられてる。だから忠告しておくよ、精霊マクスウェル。 |
アステル | クルスニクの鍵だけじゃなくてあなたも帝国には近づかない方がいい。きっと精霊装の道具にされる。 |
バルド | 特異鏡映点亜種03の行方はこちらで再度確認しておきます。これは私の不手際だ。次は必ず彼を――スパーダを皆さんの下に戻します。 |
クレス | あ、仲間が輸送隊を追いかけていってるんです。僕らもこの後追いかけるつもりですがもしできるなら、そちらからも助けてもらえませんか。 |
バルド | 承知しました。手配します。 |
アステル | けど、バルドさんも気をつけた方がいいよ。 |
アステル | 空のマクスウェルの輸送はあまりに急過ぎた。きっとサレ辺りの横やりだと思う。バルドさんの動きを知られているのかもしれない。 |
コーキス | バルドが裏切ろうとしてるってことアステルも知ってるのか ! ? |
アステル | うん、知ってるよ。僕はややバルドよりの中立。秘密は守るから安心して。 |
バルド | アステルさん、お送りします。あなたがはぐれたことをリヒターが知ったら……。 |
アステル | なーんか、こっちの世界に来てからリヒターが妙に過保護なんだよね。まぁ、仕方ないのかな。 |
アステル | それじゃあ、僕はこれで。スレイ、ミクリオ、おめでとう。これからも頑張ってね。 |
アステル | あ、あとマクスウェル、頼みがあるんだけど。 |
ミラ=マクスウェル | 何だ ? |
アステル | 握手してもらえるかな。 |
ミラ=マクスウェル | 構わないぞ。 |
アステル | やったー !しばらくこの手を洗わないでおきたい…… ! |
バルド | では、改めてご連絡致します。 |
コーキス | よし、ミクリオ様が元気になったら俺たちもアスベル様たちを追いかけよう ! |
ミクリオ | 見くびるなよ。もうすっかり大丈夫だ。 |
スレイ | また強がってる。 |
ミクリオ | 強がりなんかじゃない ! |
イクス | アスベルたちはここから北の方角にいるみたいだ。 |
コーキス | マスターがアスベル様たちを見つけてくれたぞ。行こう ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【10-1 帝都へ続く街道1】 |
セシリィ | ……よしっと。こっちの探し物も見つかったしそろそろ私もまたケリュケイオンへ行ってくるね。 |
カーリャ | はい。ゲートはいつでもオッケーですよ。 |
カーリャ | あっと……。魔鏡通信です。ちょっと待って下さい。これはコーキスですね。 |
カーリャ | こちらアジトで待ちぼうけのカーリャちゃんです。どーぞ ? |
コーキス | ――カーリャ先輩か ?スパーダ様を助けるのに、色々と問題が発生してさ。一旦情報を共有しようと思って。 |
カーリャ | い、色々 ! ? 何があったんですか ! ?まさか、また誰かが怪我とか ! ? |
コーキス | いや、トラブルとか行き違いはあったけど負傷者はいないよ。 |
カーリャ | そうですか……良かった。 |
コーキス | ちょっと動揺しすぎだろ、パイセン。それじゃ、後輩に示しがつかねえぜ ? |
カーリャ | だって、この前はクラトスさまやマーテルさま、それにコーキスだって倒れたじゃないですか !帰ってくるたびに、誰かが命を落としかけて……。 |
コーキス | ……そっか。そうだよな。先輩はアジトから出られないから、余計心配だよな。ごめん……からかったりして……。 |
カーリャ | いいんですよ。この仮想鏡界を維持して守るのがカーリャのお仕事ですから。 |
カーリャ | ……確かに、コーキスみたいに、もっと力があればって思う時もありますけどね。 |
セシリィ | …………。 |
カーリャ | それで、そちらはどうなったんですか ? |
コーキス | ああ、こっちの状況が変わったんだ。スレイ様たちも神依化できたから―― |
セシリィ | え、スレイさんたち、神依化できたの ! ? |
スレイ | セシリィもそこにいるのか ?丁度よかった。聞きたいことがあるんだ ! |
ミクリオ | スレイ、報告が先だろ。セシリィ、神依のことは順を追って話すよ。まずは今回の目的、スパーダの奪還なんだけど―― |
カーリャ | ――そうですか。輸送隊はスパーダさまのものじゃなかったんですね。 |
カーリャ | それに、やっぱりチーグルがリチャードさまだったなんて……。アスベルさまたち……複雑でしょうね。 |
セシリィ | ……私、アスベルさんたちに謝らないと。チーグルとリチャードの関係をわかってたのにリチャードの仲間を探そうとまでは考えなかった……。 |
セシリィ | そこに思い当たっていればもっと早くリチャードのことも解決できたかもしれないのに……。 |
スレイ | 仕方ないさ。誰が誰の知り合いだとか、今まではわからなかったんだから。リストだって、ここ最近でようやく作ったくらいだし。 |
セシリィ | ……でも、やっぱり責任はあると思う。だから私も、全力でリチャードを助けるために動くわ。 |
ミラ=マクスウェル | そうだな。後悔よりも、その方が彼らのためになる。 |
セシリィ | よし、しっかりしないと !それで、アスベルさんたちはルカさんたちと一緒にリチャードを追っていったのね。 |
コーキス | ああ。スパーダ様のことはバルドに任せてあるから、俺たちはこれから合流するつもりだ。 |
スレイ | それでセシリィ、ミクリオとの神依だけどどう思う ? 成功したけど、精霊輪具がないままじゃ他の天族とは神依はできないってことだよな。 |
セシリィ | そうね。そうなると思う。それに……そもそもその精霊輪具、かなり危険なもののような気がする。 |
セシリィ | 精霊輪具さえあれば他の天族とも神依化できる可能性は高まると思うけれど慎重に調べた方がいいんじゃないかしら。 |
ライラ | では私とスレイさんが神依できるようになるのにもまだしばらく時間が掛かると言うことですわね……。 |
セシリィ | 気を落とさないで、ライラさん。精霊装のことを調べてみればきっと神依化への手がかりも見つかると思うから。 |
セシリィ | ――それとミクリオさん、体の調子はどう ? |
ミクリオ | ああ、今は平気だよ。神依化直後は疲労が激しかったけどね。 |
スレイ | ……ミクリオ、無理してないよな ? |
ミクリオ | してないよ、スレイじゃあるまいし。僕がここで強がったら、精霊輪具の正確な情報をセシリィに伝えられなくなるだろ。 |
セシリィ | さすがミクリオさん。その通りよ。 |
セシリィ | 精霊輪具を実際に体験したミクリオさんの感想はとても重要だわ。だから正直な話が聞きたいの。落ち着いたら話を聞かせてね。 |
カーリャ | カーリャは精霊を殺したって話も気になりますよぅ……。 |
ミラ=マクスウェル | ああ……。バルドたちは、この世界のマクスウェルが殺されたと言っていた……。そして私にも「精霊装の道具になるから帝国には近づくな」と。 |
クレス | あの指輪は、精霊が犠牲になるような危険な技術が使われているってことだね。あの時は、アステルがいたからアドバイスをくれたけど……。 |
セシリィ | もし精霊輪具が手に入っても、知識のない私じゃ何かあったときに対処できないでしょうね。 |
セシリィ | そのためにも精霊装のことをもっと知る必要がある。大体、この技術が「どこ」の「誰」からもたらされたものかってことさえ、わからないんだから。 |
ミラ=マクスウェル | 元々、ティル・ナ・ノーグにあった技術ではないのか。 |
セシリィ | うーん……。精霊と同化するなんて技術私は初めて聞いたわ……。私の死後に開発されたものかも知れないけれど……。 |
セシリィ | 私はクロノスの力を魔鏡に落とし込む研究をさせられていたから、そんな技術があればとっくに教えられている筈よ。 |
セシリィ | 帝国はクルスニク一族を研究対象にしていたし精霊装も、異世界の技術を利用して開発している可能性が高いと思う。 |
セシリィ | 神依に似た技術だから、スレイさんの世界から来た神依を知る人物の情報が元じゃないかな。 |
スレイ | オレたち以外に神依を知る人物って……まさか……ザビーダ…… ? |
ライラ | ……ええ、こちらも調べてみないと。 |
セシリィ | とりあえず、帝国内部に詳しそうなミトスやシングたちに話を聞いてみるね。 |
セシリィ | いつかスレイさんが完全な神依を取り戻せるように私の方でも調査を進めておくから。 |
スレイ | ありがとう。頼んだよ。 |
コーキス | えーっと……とりあえずこれで報告終了、だよな ? |
カーリャ | ……コーキス、話についてきてました ? |
コーキス | も、もちろん !……ってゆーか、カーリャパイセンはどうなんだよ ! |
カーリャ | ……あーっと、この話をミリーナさまにも伝えないと。それじゃあコーキス、しっかり頑張るんですよ ! |
コーキス | あー、パイセンも全然わかってねー―― |
セシリィ | ……あはは、カーリャったら。 |
カーリャ | こ、これは先輩としての威厳を保つためですから ! |
キャラクター | 2話【10-2 帝都へ続く街道2】 |
ヴェイグ | ……ヒルダはこの屋敷で雇われていたのか。 |
カロル | うん。もっと早く教えてあげられれば良かったね。ボクたち、ヒルダとは前に会ってたのに。 |
ラピード | クゥ~ン……。 |
ヴェイグ | ……いいんだ。気にするな。 |
エミル | さっきから浮かない顔だね、ヴェイグさん。何か気になることでもあるの ? |
ヴェイグ | いや、そんなことはない……が……。 |
マルタ | ほら、男ならはっきりする !もしかしてヒルダさんのこと ? |
ヴェイグ | ……ああ。ヒルダがここで酷い仕打ちを受けていないか、気になっていた。 |
エミル | 酷いって ? |
ヴェイグ | 利用されてたり、何か従わざるを得ない条件を出されて無理に仕えているんじゃないかと……。 |
ユーリ | 別に、いやいやアスターに従ってたようには見えなかったぜ。 |
カロル | うん。むしろボクたちが潜入するときに、「アスター様に迷惑かけるな」って言われちゃったくらいだよ。ね ? |
ラピード | ワン ! |
ヴェイグ | ヒルダがそんなことを…… ! ? |
マルタ | それって驚くようなこと ?雇われてるなら、雇用主に敬意を払うのは普通でしょ。それになんで虐げられてるなんて思ったの ? |
ユーリ | 前例があったってことだろ。ヒルダには。 |
ヴェイグ | ……ああ。器用な奴じゃないから……その分、辛い思いをたくさんしている。 |
ヴェイグ | それでも、オレたちの世界では、やっと新しい一歩を踏み出すところだったんだ。……なのにここに来て、また同じような苦しみを繰り返していたら……。 |
カロル | 大丈夫だよ !ヒルダが仕えてるアスターって、結構いい人だから !……うさんくさいけどね。 |
アスター | 皆さまお待たせしました。ヒルダと、アステル様のことでご用だとか。 |
エミル | ……はい。 |
アスター | なるほど……本当にアステル様にそっくりでいらっしゃいますねえ。ヒヒヒ。まずはヒルダのことから参りましょう。 |
アスター | 大変申し訳ございませんがヒルダはここにはおりません。 |
ヴェイグ | いない ? それならいつ戻るんだ。 |
アスター | いえ、もう戻らないかもしれませんよ。場合によってはね。イヒヒヒヒ。 |
ユーリ | ……そりゃ一体どういうこった。 |
アスター | ご存じでしょうが、ヒルダは帝国幹部のシング様やカイウス様と親しくしておりました。 |
アスター | その繋がりが帝国への反乱に関わるものだとわかっても、私は今まで目をつぶってきたのですよ。 |
アスター | ですが、ここ最近での相次ぐ幹部たちの脱走以降、その周囲にいたヒルダも監視対象になりつつあると情報が入ってまいりました。ですから―― |
カロル | だから、ヒルダを追い出したの ! ? |
ヴェイグ | おまえも、やはり…… ! |
アスター | まあまあ、慌てる何とかは貰いが少ないと申しますよ ?そのような情報がありましたので、ヒルダを遠方へ避難させました。 |
ヴェイグ | 避難……。 |
アスター | はい。表向きには仕事と称し、ヒルダに新たな仕入れ先を見つけてきて欲しいと伝え遠方の街に向かってもらいました。 |
ユーリ | なるほどね。ヒルダは帝国の目から逃れられるし上手く行けば本当に新たな仕入れ先を確保できるって寸法か。ほんと、抜け目のないことで。 |
アスター | 動くならば相応の利益がありませんと。イヒヒヒヒ。 |
アスター | ほとぼりが冷めた頃に、こちらに呼び戻すつもりでおりましたが……。お仲間の方が迎えに来たのであれば後はそちらにお任せするとしましょう。 |
アスター | その方が彼女も幸せでしょうからね。 |
ヴェイグ | ……ヒルダを、大事にしてくれていたんだな。 |
アスター | 雇用主ならば、当たり前のことでございます。ヒヒヒ。 |
ヴェイグ | ありがとう……アスター。 |
マルタ | 良かったね、ヴェイグ ! それにしてもアスターの説明の仕方、少し意地悪じゃない ? |
カロル | そうだよ ! ヒルダのこと追い出したのかと思ったじゃないか。 |
アスター | これは失礼しました。ですがこちらも優秀な人材を放出する以上、少々の意趣返しを、と。イヒヒヒヒヒ。 |
ラピード | ワフ~……。 |
アスター | それとアステル様の件ですが、最近はお見えになっていません。 |
アスター | ヒルダであれば、アステル様とはどこかしらで会っていたかもしれませんがね。 |
エミル | ……そう、ですか。 |
アスター | エミル様とおっしゃいましたか。アステル様とはご兄弟ですか ? |
エミル | え ? ……その……。 |
ヴェイグ | エミル、ヒルダはアステルの情報を持っているかもしれない。一緒にヒルダの所へ行かないか ? |
エミル | あ……うん ! そうさせて ! |
ヴェイグ | わかった。それなら、すぐにでも出発しよう。道中でヒルダに追いつけるかもしれない。 |
アスター | では、ヴェイグ様たちにはヒルダへの言伝をお願いします。あちらで頼んだ仕事も引き継ぎをしないといけませんのでね。 |
アスター | 用意してまいりますので、少々お待ちを。 |
エミル | ……助かったよ、ヴェイグさん。アステルさんとのこと、なんて言っていいか、わからなかったから……。 |
ヴェイグ | いいんだ。でもアステルに会えなくて残念だったな。 |
エミル | え ? ……うん。 |
ユーリ | おい、ヴェイグ。もしこのままヒルダを追うなら、一度アジトに連絡入れとかねえと。 |
ヴェイグ | ああ、そうだな。 |
マルタ | ……エミル。もしかして少しほっとしてる ?アステルさんと会わなくて。 |
エミル | そんなこと……。 |
マルタ | あのね……私もエミルと同じだよ。だからお願い、無理しないで。 |
エミル | ……ありがとう、マルタ。 |
エミル | うん、そうだね。ちょっと怖かった。衝動だけで来ちゃったけど……何を言えばいいのかわからなくて。 |
マルタ | ……うん、そうだよね。私もエミルも……ラタトスクも心の準備をしておかないとね。 |
キャラクター | 3話【10-3 ひとけのない山岳1】 |
カーリャ | ――なるほど。ヒルダさまは安全のために違う街へ行かれたんですね。連絡ありがとうございます、ヴェイグさま。 |
ヴェイグ | いや……。こっちも他のみんなの状況が聞けてよかった。クラトスが助かったのは吉報だ。 |
ヴェイグ | それで……ミリーナたちはまだ救世軍にいるのか ? |
カーリャ | いえ、今こちらに向かってます。 |
カーリャ | 代わりにジュードさまが向こうに残っているルビアさまやローエンさまの容態を確認しに向かいましたけど……。 |
ユーリ | 何だかみんなバタバタしてるな。 |
カーリャ | ですねー。スパーダさまの奪還もグダグダになってますし……。 |
カロル | チー……じゃなくて、リチャードや、それにアステルまであっちにいたんでしょ ?コーキスたちも大変だよね。 |
カーリャ | でもコーキスは私の後輩ですから !最終的にはちゃんとスパーダさまを連れて戻ってくる筈です。 |
カーリャ | で――えっと、皆さんはこのままヒルダさまの捜索に向かうんですよね ? |
ユーリ | ……カーリャ、悪いが少し待ってくれるか。 |
カロル | どうしたの、ユーリ ? |
ユーリ | ……なんか気持ち悪いんだよな。 |
カロル | 具合悪いの ! ? |
ユーリ | 違うって。あいつの持ってきた計画がだよ。自信満々で持ち込んだもんが、こんな頭っから崩れるもんかね。 |
カロル | あいつの計画って……バルドの ? |
ユーリ | ああ。信じてくれとかほざいてたわりに随分とお粗末だと思わないか ?……不自然なくらいにさ。 |
カロル | ってことはやっぱり、バルドの計画は罠ってこと ? |
ヴェイグ | 罠だったら、もっと大きな戦力でコーキスたちを潰しに来てたんじゃないか ? |
エミル | そうだよね。おとりを使うにしてもあっちで重要視されている空のマクスウェルを使うなんて危険だし……。 |
エミル | でも、もしそれがバルドの計画を台無しにすることが目的なら……。 |
ユーリ | だよな……。あんまり認めたくねえがやっぱりここは素直にバルド自身が見張られていたと考えるべきか。 |
カーリャ | 確かに、コーキスたちもそれっぽいことを話していましたが……。 |
ユーリ | ……よし !ヴェイグ、悪いがオレはここで別れる。もう少し帝都周りを調べたいんでね。 |
マルタ | 調べるって、バルドのために ? |
ユーリ | 別に、あいつがどうとかじゃねえよ。このまま偽情報ばっかり掴まされたらこっちが危険だろ ? |
カロル | そうだね。それにバルドに何かあったらフレンだって……。 |
マルタ | ……そっか。 |
ユーリ | ま、稽古相手が減っちまうのは困るからな。 |
エミル | でも、ユーリさん一人で行くつもり ?それはちょっと危ないよ。 |
ラピード | ワオン ! ! |
エミル | あ、ごめん。頼もしい相棒がいるんだったね。 |
カロル | ボクも行くからね !ボスとして、ちゃんとメンバーをサポートしないと。 |
ユーリ | おう、頼むぜ。首領 ! |
カーリャ | それじゃあ、ユーリさまとカロルさま、ラピードさまは帝都周辺の調査。 |
カーリャ | ヴェイグさま、エミルさま、マルタさまはヒルダさまの捜索ということで。ミリーナさまに伝えておきますね ! |
キャラクター | 4話【10-5 ひとけのない山岳3】 |
ミリーナ | ただいま ! |
カーリャ | ミリーナさま ! ロイドさま !それにシングさまにマーテルさま !お疲れ様です ! ミトスさまは大丈夫ですか ? |
マーテル | ありがとう、カーリャ。大丈夫よ。しばらくは安静が必要だけれど、命には別状がないわ。天使体は生命維持機構がしっかりしているの。 |
カーリャ | よかったです…… !えっと、ミントさまとシェリアさまとルーティさまは……。 |
ロイド | ジュードが働き過ぎで倒れたら困るから手伝っていくってさ。 |
カーリャ | ははぁ……。確かにジュードさまの労働環境はブラックですもんねぇ……。 |
カーリャ | ――あ、そうだ !ヴェイグさまたちの報告をしなきゃ ! |
ミリーナ | ――そう。ヴェイグさんとユーリさんは、二手に分かれたのね。 |
カーリャ | はい。ミリーナさまたちのことやコーキスたちの動きも知らせてあります。 |
マーテル | カーリャは本当に働きものなのね。このアジトも、ミリーナと二人で維持してるんでしょう ? すごいわ。 |
カーリャ | ふわあ……お褒めの言葉と癒しのオーラがしみわたりますぅ。そういえば、クラトスさまはこちらに来ないんですか ? |
シング | クラトスさんはケリュケイオンに残ってるんだよ。自分は救世軍の指揮官だからって言ってさ。 |
シング | ロイドだって、クラトスさんとゆっくり話がしたかっただろ ?もう少しあっちにいてもよかったのに。 |
ロイド | ありがとなシング。でも俺には俺のやることがあるからさ。クラトスだって同じだ。 |
マーテル | やっぱり似てるわね、あなたたち親子は。 |
ロイド | そうかな。俺、あんなに頑固じゃないと思うけど。 |
マーテル | ふふふ。そういうことにしておきましょう。それでミリーナさん。私やシングに聞きたいのは精霊装のことでしたよね。 |
ミリーナ | はい。それと空のマクスウェルのことも。 |
シング | あれ ? マクスウェルって……。もしかしてミラのことかな。 |
ミリーナ | ミラ…… ? このアジトにいるミラのこと ? |
シング | ミラがここにいるの ! ? 無事なんだね !良かったぁ……。リヒターに捕まったんじゃないかと思ってたからさ。 |
ミリーナ | ちょっと待ってシング。話が見えないんだけど―― |
エル | みんなー、お茶持ってきたよ ! |
アミィ | エル、もう少しそっと入ろうね。お話の邪魔になっちゃうから。 |
エル | は~い。 |
ミリーナ | ありがとう、二人とも。私も手伝うわ。 |
アミィ | あ、いいんです。そのまま続けてください。 |
ミリーナ | それじゃお願いするわね。――それでシング、ミラとはどこで会ったの ? |
エル | ――……ミラ ? |
シング | 帝国の研究所から脱出する時だよ。オレと同じ場所に捕まってたルビアを助けに来たんだ。 |
シング | あ、もしかして、あれもミリーナたちの作戦だったの ? |
ミリーナ | ……いえ、ミラはもちろん、私たちもそんな作戦は知らないわ。研究所って所にも行ってないけれど……。 |
シング | 変だな……それじゃまるでミラが二人いるみたいじゃないか。 |
エル | ねえ、ミラが二人って言った ! ? |
ミリーナ | ――そう言えばエルたちの世界には分史という概念が…… ! |
ミリーナ | シング、見て欲しいものがあるの !今、鏡映点リストを―― |
アミィ | 私、持ってきます ! |
ミリーナ | ありがとうアミィ。それと悪いんだけれどクラースさんも呼んできてもらえると嬉しいわ。 |
アミィ | わかりました ! |
ミリーナ | カーリャ、セシリィはまだこっちに残っているかしら ? |
カーリャ | は、はい。出がけにコーキスたちから連絡があったのでそこで思いついたらしい資料を追加で荷物に入れていらっしゃいます。 |
ミリーナ | よかった。それじゃあセシリィも大至急ここへ呼んでちょうだい。 |
カーリャ | はい ! ミリーナさま ! |
ミリーナ | シング、この写真を見てくれる ?あと、こっちのリストに書いてあるもう一人のミラの特徴も……。 |
シング | このアジトにいるっていうミラの写真は確かにオレが会ったミラにそっくりだよ。でも……何か足りないって言うか……。 |
エル | ねえねえ、この辺の髪のピョンっていうのあった ? |
シング | いや、なかったと思うよ。でも優しくて強い人だったな。腹ペコだったオレに後でなんか作ってあげるって言ってさ。 |
エル | エルの知ってるミラかも…… ! |
シング | そういう意味では、このリストの方に書いてあるミラの特徴の方が似てるような気がするなぁ。 |
セシリィ | その人は確かに、空のマクスウェルって呼ばれてたのね ? |
シング | ああ。間違いないよ。それに帝国軍内ではミラの似顔絵が出回って、捜索対象になってたんだ。ミラはその似顔絵、下手くそだって怒ってたけど。 |
エル | うんうん、ますますミラっぽい ! |
ミリーナ | そうなると、コーキスたちが追ってるのはシングが出会ったミラさんってことになるわね。 |
セシリィ | でも、いま輸送されている空のマクスウェル――もう一人のミラさんって……。 |
クラース | この世界のマクスウェルが本当に殺されているならその代わりということだろうな。 |
クラース | 帝国は、異世界をサーチして、マクスウェルに値する存在をさらっているのかもしれない。だとしたら、なんて冒涜だ…… ! |
シング | 大変だ、ミラを助けないと !あ、こっちのミラ ? も危ないよな。 |
セシリィ | どうするミリーナ。今もコーキスたちは空のマクスウェルを追い続けてるわ。 |
セシリィ | 上手くいけば、空のマクスウェルも、リチャードも助け出せるかもしれない。だけど、もしものことがあったら……。 |
ミリーナ | ……呼び戻す方がいいわよね。ミラと、精霊輪具を使ったミクリオさんは。 |
クラース | だが、この状況で、コーキスたちから更に戦力を分散させるとなると……。 |
コンウェイ | そうだね。今から二人だけを呼び戻すのは逆に危険かもしれない。彼らを守るならあちらに戦力を増やす方が得策じゃないかな。 |
ミリーナ | コンウェイさん !鏡映点の調査から帰ってたんですね。 |
コンウェイ | ああ。ボクと一緒に戻ったスタンくんやカイルくんも待機している。すぐに出発できるけど……どうかな ? |
ミリーナ | ……わかりました。その方向で、ミラたちに連絡をとってみます。 |
キャラクター | 5話【10-7 静かな森林 中央】 |
兵士 | 今日はここまでだ。さっさと入れ ! |
ジョニー | ……ううっ……。 |
スパーダ | ジョニー !……てめェ、人を物みたいに投げ込みやがって ! |
兵士 | うるさいぞ。これ以上騒ぐ気なら―― |
スパーダ | ああ ? やんのかコラ !上等だよ、秒で潰してやるぜ ! |
兵士 | 好きなだけほざけ。牢の中では何もできまい。 |
スパーダ | ……クソみてえなそのツラ、覚えたからな。次ここに顔見せた時には―― |
ジョニー | よせ、スパーダ……俺は大丈夫だ。 |
兵士 | ……フン。お前もそろそろ素直にならないと次はこの牢に戻って来られないかもしれないぞ。 |
スパーダ | ……行ったか。ったく、ひでェ扱いだぜ。しかし、あんたも頑張るな。道化のジョニーさんよ。 |
ジョニー | ……まあな。俺は……絶対に……奴らに屈するわけには……いかないんでね。 |
スパーダ | わかってるよ。大事な人のため、ってやつだろ。 |
ジョニー | ゴホゴホッ……ああ。俺の心が折れれば……あいつは具現化されて……人質として使われるだろう……。 |
ジョニー | そんなことになったら……俺は俺を許せない……。あいつだけは……もう……辛い思いを……ゴホッ……。 |
スパーダ | あんたの方が辛そうだぜ。無理しないでもう休めって。 |
ジョニー | 無理じゃないさ……。おまえさんとこうして話している時が……唯一、気がまぎれるんだよ。 |
スパーダ | けどよ……。 |
ジョニー | ……スパーダも……俺と同じなのか ?誰かを具現化させないように……。 |
スパーダ | いや、オレはちょっと違うんだ。 |
スパーダ | ……オレには前世ってやつがあってさそれが、剣だったんだ。人間みたいに意思を持った剣さ。 |
スパーダ | んで、奴らはその前世のオレを、具現化したいらしい。会話を聞いてると、魂を切り分けるだのなんだの……。オレは肉や野菜じゃねーってんだよ。 |
スパーダ | 多分、前世のオレみたいに意思を持った武器とか人間そのものを武器にするとか……あいつらの研究って、そんなところじゃねェのか。 |
ジョニー | 驚いたな……。まるでソーディアンだ。 |
スパーダ | ソーディアン ? |
ジョニー | 意思を持つ剣……おまえさんの前世みたいな剣が俺の世界にもあったんだよ。 |
ジョニー | 俺の仲間は、その剣の使い手だったんだ。 |
スパーダ | マジか ! ! 会ってみたいぜ。 |
ジョニー | はは……具現化されていれば是非会ってもらいたいよ。でもそれはきっと……彼らにとっては不幸だ……。 |
スパーダ | ……だな。こんな世界にダチが勝手に連れて来られるなんて冗談じゃねェよ。 |
ジョニー | でも、なんだか懐かしいぜ……。スタ……、ルー……、リ……オ……みんな……元の世界で元気に……して…………。 |
スパーダ | ……おい、ジョニー…… ? |
ジョニー | ……………………。 |
スパーダ | ジョニー ! しっかりしろって、おい ! |
スパーダ | んだよ、眠っただけか。驚かせやがって。……しっかし、ひでェ熱だな。 |
スパーダ | (こいつ、このブレスレットをはめられてから、どんどん弱っていく……。もしかしてこれが原因なのか ? ) |
スパーダ | (早くここから出してやらねえとマジで死んじまう) |
スパーダ | (けど脱出なんて、オレ一人だってチャンスがなかったのにこんなボロボロのジョニーを連れていくとなると……) |
スパーダ | クソッ ! ルカやアンジュがいればなんかいいアイディアを―― |
? ? ? | 良かった、まだここにいた……。別棟にでも移されてしまったかと心配していました。 |
スパーダ | ―― !……誰だよ、お前。 |
バルド | ……彼はかなり弱っているようですね。急がないと命が危ない。 |
スパーダ | 誰だって聞いてんだよ ! 答えろ ! ! |
バルド | 私はバルド。あなたを迎えにきました。急いでここを出ましょう。 |
スパーダ | は ? 何言ってんだ ? |
バルド | あなたの仲間が待っているんです。さあ、脱出しますよ。 |
スパーダ | 仲間…… ? |
キャラクター | 6話【10-8 静かな森林 道沿い1】 |
ルカ | 随分スピードが落ちてるみたいだけど……。 |
ヒューバート | こんな脇道に入れば、どうしても馬車のスピードは落ちる。我々を巻くために選んだんでしょうが、悪手ですよ。 |
イリア | あいつら、随分と手間取らせてくれたじゃない。跡形もなくぶっつぶしてやるわ ! ! |
ソフィ | イリア、リチャードは潰しちゃダメ。 |
イリア | う…… ! |
ルカ | そうだよ。アスベルたちの仲間なんだから。それに馬車にはスパーダがいるんだよ ? |
イリア | そ、そんなのわかってるわよ !そのくらいの勢いでやればいいって言ってんの。さっさと行くわよ ! |
ヒューバート | 待って下さい。また大量の光魔でも出されたら、戦力的にはこちらが不利だ。コーキスたちを待つべきです。 |
イリア | もう、いちいち水差すんだから !真面目な方々は気にすることが多くてほーんと大変でございますわね~。 |
アスベル | ……そうだな。イリアの言うとおり、今行こう。 |
ヒューバート | なにを言ってるんですか、兄さん ! |
アスベル | ヒューバート。リチャードが光魔を呼ぶところを見たか ? |
ヒューバート | ええ。ミリーナたちの話では、チーグル――リチャード陛下は、魔鏡結晶のような石で光魔たちを召喚していると。 |
アスベル | 今までリチャードと戦う時には、あっちからの不意打ちが多かったらしいな。だけど、今は状況が違う。 |
ヒューバート | ……そうか !こちらがリチャード陛下を標的にできるなら、最初からその石を狙えばいい。 |
ヒューバート | ですが、チャンスは光魔を呼び出そうとする一瞬だ。近づく間もないでしょう。小さな石を狙えるくらい、緻密で的確な遠距離攻撃が必要です。 |
ヒューバート | 石を彼の手から排除、その後ならば近接攻撃へと持ち込むことも可能ですが……。 |
全員 | 遠距離攻撃……。 |
イリア | ……ま、待ってよ。その視線、もしかして……。 |
ヒューバート | ぼくも銃を扱いますからわかります。ここは狙撃に慣れたイリアさんが適任でしょうね。 |
ルカ | 大丈夫だよイリア。君なら必ずできるよ ! |
イリア | なに無責任なこと言ってんのよ ! |
ルカ | ご、ごめん……でも……。 |
イリア | あたしが失敗したら、また山ほど光魔呼ばれて逃げられちゃうのよ ! ? もしかしたら、リチャードに当てちゃうかもしれないし ! |
イリア | それにあたしの銃だと、それほど距離はとれない。場合によっては、敵の真っただ中まで入りこまないと……。 |
ルカ | だったら、イリアが狙える位置まで行けばいいよ。僕が側にいるから。光魔を出すタイミングも僕が見る。命に代えても……君を……その…… |
イリア | ……バカ。あんたの命に代えていいものなんてどこにもないんだからね ! |
イリア | けどまぁ……よっしゃわかった ! やってやろうじゃないの ! |
ソフィ | イリア、頑張って ! |
イリア | はあー……。狙撃のコツ、リカルドに教わっとくんだったわ。 |
ヒューバート | それでは、改めて確認します。 |
ヒューバート | ぼくとソフィで撹乱し、馬車の周囲の敵を封じます。イリアさんは狙える位置にきたら石を撃ってください。ルカさんはイリアさんの援護をお願いします。 |
ヒューバート | 光魔の召喚を封じたら、兄さんは陛下を確保。ルカさんたちは馬車にいる、スパーダさんを救出。いいですね。 |
ヒューバート | 言っておきますが、これは酷くおざなりな計画です。誰かが負傷、もしくは大量に光魔を呼ばれた時点で中止、撤退します。……いいですね ? |
アスベル | わかった。ルカ、イリア、ソフィ、行くぞ ! |
キャラクター | 7話【10-11 静かな森林 道沿い4】 |
帝国軍兵士 | 敵襲 ! 先ほどの奴らが追ってきたようです ! |
チーグル | チッ、だからこんな悪路じゃスピードが落ちると言っただろう !誰がこのルートへの指示を出したんだ ! |
帝国軍兵士 | それは……フレン様からの伝令で……。 |
チーグル | フレン ! ? バルドにしては酷い命令だな。仕方ない。ここで始末をつける。 |
ルカ | ――リチャードが馬車から出て来た ! |
ヒューバート | ここはぼくたちに任せて下さい !二人はそのまま駆け抜けて ! |
二人 | 了解 ! |
ルカ | リチャードとの距離は ? |
イリア | オッケー、ここからならイケる ! |
帝国軍兵士 | くたばれっ ! |
イリア | ―― ! ! |
ルカ | こっちは気にしないで ! そのまま狙って ! |
イリア | ……敵は任せたわよ ! |
チーグル | すでに兵士もほとんどが使いものにならないか。ならば光魔で―― |
ルカ | 今だ、イリア ! |
イリア | この……当たれーーーーっ ! ! |
チーグル | ――痛っ ! 石が ! |
イリア | やりぃ ! あたしって天才 ! |
チーグル | クッ、これでは光魔が…… ! |
ソフィ | たあっ ! ! |
チーグル | なめるな ! 小娘一人くらい―― ! |
ソフィ | アスベル ! |
アスベル | すまない、リチャード ! |
チーグル | うっ……。 |
ソフィ | リチャード、大丈夫かな。 |
アスベル | ああ。当て身は上手くいった。しばらく目は覚まさないと思う。あとは、光魔を呼んでいた石を見つけないと……。 |
ソフィ | …………。 |
ソフィ | (やっぱり、リチャードの中にラムダがいない……) |
アスベル | ……あった、この石だな。リチャードと魔鏡結晶は確保したぞ !ルカ、馬車へ ! |
ルカ | わかった ! |
ルカ | ――スパーダ、助けに来たよ ! |
サレ | 頑張ってるねえ。好きだよ、そういう人。 |
ルカ | ――っ ! ? |
イリア | 何よあんた、邪魔 ! |
アスベル | 新手か ! ? |
ソフィ | アスベルは、リチャードの側にいて。わたしが―― ! |
サレ | ああ、いいねえ。みんな必死でさ。そういうの大好きだけど、その顔が絶望に変わるのは……もっと好きなんだ ! |
コーキス | ソフィ様、みんな ! ! |
ヒューバート | コーキスたち、追いついてくれましたか……! |
サレ | ……チッ、せっかくの楽しみを……。仕方ないね。 |
クレス | ―― ! 馬車が走り出したぞ ! |
アスベル | あいつ、いつの間に ! |
ルカ | まだスパーダが中にいるのに !スパーダーーーーッ ! ! |
イリア | そんな……、あともう少しだったのに……。 |
ルカ | ……ごめん……スパーダ……僕……。 |
ミラ=マクスウェル | 落ち着くんだ、ルカ。あの馬車にスパーダは乗っていない。 |
ルカ | ……え ? |
コーキス | 説明するよ。あの馬車には―― |
? ? ? | ――……ス、コーキス。 |
コーキス | なんだよこのタイミングで魔鏡通信――ってバルド ! ? |
バルド | はい。皆さんに頂いた魔鏡通信装置はきちんと機能しているようですね。 |
コーキス | そっか、あの時ミリーナ様が渡してたんだっけ。 |
バルド | 手短に報告します。特異鏡映……いえ、スパーダの救出に成功しました。それと、ジョニーという人物も一緒です。 |
ルカ | スパーダを救出って…… ? |
バルド | 彼らを引き渡します。落ち合う場所は―― |
ルカ | ――それじゃ、あの馬車にはミラさんに似た人……【空のマクスウェル】って人が乗ってたんだね。 |
ミラ=マクスウェル | そうだ。……助け出したかったが、この状況では仕方がない。 |
クレス | とにかく今は、スパーダとジョニーさんを迎えに行こう。あ、でもリチャードは……。 |
アスベル | 俺がアジトに連れて行くよ。ヒューバート、一緒に頼めるか。 |
ヒューバート | もちろん。途中で目を覚ましたら大変なことになるでしょうからね。 |
ソフィ | わたしも行く。もしリチャードが暴れてもみんなのことはわたしが守るから。 |
クレス | 頼むよソフィ。アスベルもヒューバートも気を付けて。 |
コーキス | それじゃ、オレたちはこのまま待ち合わせ場所に行こう。 |
イリア | ったく、本当に手間かけさせてくれるわね、あいつ。でも、今度は絶対に……。 |
ルカ | うん。スパーダを助けよう ! |
キャラクター | 8話【10-13 ひとけのない街道2】 |
バルド | ――スパーダとジョニーは先に指定の地点へ向かっています。そちらもどうかご無事で。では後ほど。 |
バルド | (よし、連絡はついた。私も早くスパーダたちに追いつかないと) |
? ? ? | そこにいるのは誰だ。 |
バルド | ―― ! |
ナーザ | ……バルド ? |
バルド | ナーザ……様……。 |
ナーザ | 何故お前がここにいる。 |
バルド | ナーザ様こそ、なぜこのような場所に……。お怪我の具合はよろしいのですか ? |
ナーザ | 仕方ないだろう。空のマクスウェルの輸送隊が襲われたとの連絡が入ったからな。念のため、こちらで確保している鏡映点の所在を確認していた。 |
ナーザ | ……ところで、これはどういうことなんだ。ここにいた特異鏡映点、特異鏡映点亜種03ともにいなくなっているようだが。 |
バルド | 彼らは、私が逃がしました。 |
リヒター | 逃がした…… ? お前、何を考えている。 |
ナーザ | 話は俺が聞く。リヒターはすぐに逃げた奴らを追え。俺はまだ、思うように動けないからな。 |
リヒター | ……わかった。 |
ナーザ | ……さあ、話せ。 |
バルド | (さすがにまだ、チーグルが捕まったとの報告は上がっていないようだな。ならば……) |
バルド | 輸送隊襲撃の件は私も報告を受けました。このままでは、空のマクスウェルやチーグルまでも敵の手に落ちる可能性があります。 |
バルド | ですから、奴らの仲間を一時的に解放することを持ちかけ、今のうちに味方として入り込み後に鏡映点たちを奪還する計画を立てました。 |
ナーザ | ――……そうか、わかった。正攻法を好むお前らしくない方法に思えるがな。 |
バルド | 買いかぶり過ぎです。私はそれほど、正しい性根の持ち主ではありません。 |
バルド | ……何もかも生前と同じという訳ではないのですから。 |
ナーザ | ………………。 |
ジョニー | ハァ……ハァ……。 |
スパーダ | ジョニー、辛れェだろうが、もうひと踏ん張り頼むぜ。合流場所に着きゃ、仲間ってのがいるはずだ。 |
スパーダ | (……仲間、バルドって奴はオレたちの仲間と言ってた。まさか……) |
ジョニー | 悪いが……お前さん、先に行ってくれ……。俺は……少し、休んでからにする。 |
スパーダ | ハァ ? ふざけてんのかよ。そう言われて「はい、そーですか」ってわけに行くか ! |
スパーダ | オラ、背負ってやるから乗れ。 |
ジョニー | ……こんなでかい荷物背負ってたら、助かるものも助からないぞ。 |
スパーダ | うッせーなー ! 引きずられて皮ズルムケになりたくなきゃさっさとしろ ! |
ジョニー | 強引な男だね、お前さんも……。 |
帝国軍兵士 | いました ! 特異鏡映点、特異鏡映点亜種03を確認 ! |
スパーダ | クソッ、見つかっちまったか。バルドの野郎は何してんだよ ! |
ジョニー | スパーダ……走れ。俺が奴らの気を引く。今なら、お前だけならきっと…… |
スパーダ | ハッ、残念ながら染みついちまってんだよなァ。「心に剣を持ち、誰かの楯となれ」って家訓がよ。 |
リヒター | 追え ! 生かして捕らえろ ! |
スパーダ | あんな生き地獄、戻ってたまるかよ !絶対に逃げのびて――うわっ ! |
帝国軍兵士 | 馬鹿め。人ひとり担いで、逃げきれるものか ! |
スパーダ | ここまでかよ、っきしょーーーー ! ! |
帝国軍兵士 | なんだ ! ? |
? ? ? | うおおおおおっ ! ! |
スパーダ | ―― ! ! |
帝国軍兵士 | うっ…… ! きさ……ま……は…… |
スパーダ | (この太刀筋……忘れねえ、忘れるわけがねえ…… ! ) |
スパーダ | (あれは……オレの魂に刻み込まれたモノ。オレが守るべき使い手――) |
ルカ | スパーダ ! 助けに来たよ ! |
スパーダ | マジでおまえかよ……、ルカ ! ! |
イリア | 寝ぼけてんじゃないわよ。ホラ、しっかりして ! |
スパーダ | イリアもか ! ? |
リヒター | ……黒衣の鏡士側の鏡映点か。その二人を返してもらおう。 |
スパーダ | ざけんな ! オレはてめェらの持ち物じゃねえ ! |
コンウェイ | そうだよ、無粋な人。久しぶりの友との再会を邪魔するならボクが相手だ。 |
スパーダ | コンウェイ ! ? |
スタン | ジョニーさん ! しっかりして下さい ! |
ジョニー | はは、夢……じゃないよな……スタン。 |
カイル | この人がジョニーさん……。英雄たちの仲間……。 |
スタン | ああ、絶対に助けるぞ ! |
カイル | はい ! |
リヒター | ……再会の挨拶とやらは終わったか ?ならば『無粋な敵』と手合わせしてもらおう ! |
キャラクター | 9話【10-13 ひとけのない街道2】 |
リヒター | ……多勢に無勢か……。やむを得ん。――全員、引くぞ ! ! |
コーキス | これだけの鏡映点相手に……なんて強さだよ、あいつ。 |
ルカ | スパーダ ! ! |
スパーダ | おいおい、なんだよ。また泣き虫ルカに逆戻りかぁ ? |
ルカ | だって、やっと……やっとスパーダを助けられたんだ。何度も失敗して……だから……。 |
スパーダ | そうだったのか。オレがおまえを守るって言ったのに、逆になっちまったな。まったく情けねェぜ。けどよ……。 |
スパーダ | ……久しぶり。会えて嬉しいぜ、ルカ。 |
ルカ | うん……僕もだよ。 |
イリア | うわ~……、また暑っ苦しいもの見せつけて。うっとうしいったらないわ、もう ! |
スパーダ | おめェも相変わらずの口の悪さじゃねーか、イリア。安心したぜ。 |
イリア | 口が悪いのは、お互いさまじゃございませんこと~ ?おほほのほ~。 |
コンウェイ | 二人とも似た物同士ってことだね。口の悪さも、ルカくんが大切なのも。 |
ルカ | えっ ? |
イリア | ちょ、ちょっと、いい加減なこと言わないでよね ! |
スパーダ | コンウェイまで具現化かよ。この調子じゃ、他に知った顔がゾロゾロ出てきてももう驚かねえぜ。 |
コンウェイ | 残念、これで打ち止めだよ。今後どうなるかはわからないけどね。とりあえず大きな怪我がないようで良かったよ。 |
スパーダ | 怪我……そうだ ! ジョニーは……ジョニーはどうした ! |
スタン | ああ、気を失ってるけど大丈夫。でも……顔色がすごく悪いんだ。 |
スパーダ | なんかその腕輪つけてから、どんどん弱ってんだよ。外してみたらどうだ ? |
スタン | 腕輪…… ?これ、マリアンさんが付けられていたアンチ・ミラージュブレスじゃないか ! |
スパーダ | なんだそりゃ ? |
カイル | これを付けてると、どんどん体が弱っちゃうんだよ。 |
スパーダ | だったら早く外してやれって ! |
スタン | 駄目なんだ。下手に外したらジョニーさんは死んでしまう。何か方法は……。 |
コーキス | すぐにミリーナ様に連絡とるよ ! |
カイル | ――ミリーナ、どうすればいいって ? |
コーキス | やっぱり、この場でどうにかするのは無理みたいだ。すぐにケリュケイオンの停泊地へ向かって欲しいってさ。 |
スタン | わかった。合流地点の待機組にも知らせてケリュケイオンに行こう。 |
スパーダ | 待機組 ? そういや合流地点はもっと先だったな。なんでこんな場所にいたんだよ。 |
ルカ | 僕たちは斥候だよ。待ち合わせ場所で二手に分かれたんだ。 |
スパーダ | なるほどな ! おかげで助かったぜ。 |
スタン | そうだ。こっちもお礼が遅くなった。ジョニーさんを助けてくれて、ありがとう。スパーダ。 |
スパーダ | 同じ牢に入ったよしみってヤツさ。気にすんなよ。 |
ルカ | スパーダ、なんか優しいね。初対面の人には、ナメられないようにガツンといくって言ってなかった ? |
スパーダ | あいつ、ジョニーのお仲間だろ ?んな必要ねーよ。いいヤツっぽいしな。 |
ルカ | それって、初対面の僕がいいヤツに見えなかったってことにならない…… ? |
コンウェイ | フッ、ルカくん、言うじゃないか。 |
スパーダ | いやおまえ……あの時は……。あ ! そういやおまえ、天術みたいなの使ってたよな。 |
ルカ | みたいな、じゃなくて天術だよ。スパーダもきっと使えるよ。 |
スパーダ | マジか ! それ知ってたらおまえを守って戦ったのによ。 |
イリア | そうそう、ルカってばあたしの時もそうだったのよ。全部終わってから「知らなかったの ? 使えるよ~」って ! |
イリア | ならさっさと言いなさいっての !ほんっとに気が利かないんだから。だからあんたはおたんこルカなのよ ! |
ルカ | そ、そんなぁ。八つ当たりしないでよ……。それに僕、そんな言い方してないし……。 |
スパーダ | あ~、お前らのこの感じ……。なんか懐かしくてホッとするわ。 |
コンウェイ | ふふふ……。夫婦喧嘩は犬も食わないってね。 |
キャラクター | 10話【10-14 ひとけのない街道3】 |
レイア | ……ルビアの治療はまだかかりそうだね。カイウス、心配してるだろうな。 |
ジュード | うん……。でも運ばれてきた時よりはだいぶ落ち着いてるよ。今は時間が必要なんだと思う。 |
レイア | しばらくは定期的にこっちに通うの ? |
ジュード | そのつもり。もしもルビアがアジトに来た場合は僕が責任をもって診ないといけないし患者の状態は把握しておきたいんだ。 |
レイア | ホント真面目だね、ジュードは。後は、フィリップさんにローエンの様子を確認するだけ ? |
ジュード | うん。えっと、フィリップさんの部屋は確かこっち……。 |
ローエン | ――それと、資料等はまとめてありますので、後ほどフィリップさんのお部屋にお持ちします。 |
二人 | ロ、ローエン ! ? |
ローエン | おや、ジュードさんにレイアさん。いやはや、早々に見つかってしまいましたか。ほっほっほ。 |
ジュード | 目が覚めていたの ! ? |
フィリップ | フフ、驚いたかい? |
ジュード | あ、当たり前じゃないですか ! |
レイア | どういうこと ! ? いつから ! ? |
フィリップ | 実は、ローエンさんには少し前に無理をして目を覚ましてもらったんだ。 |
ジュード | 無理って…… ? |
フィリップ | クラトスさんの治療のためにローエンさんが使っていた重症者用の治療ベッドを空ける必要があったんだよ。 |
フィリップ | それで、ローエンさんの状態がだいぶ安定していたから覚醒を促してみたら上手くいってね。 |
ローエン | はい。おかげさまでこのとおりピンシャンしております。 |
ローエン | しかもフィリップさんが懇切丁寧に説明をして下さったおかげで、すぐに状況も把握できました。具現化とは、実に興味深い現象ですね。 |
ジュード | さ、さすがローエン……。すごい順応力だね。 |
フィリップ | そうなんだ。しかも各方面への理解も早い。クラトスさんへのスピルリンクを開始する頃には治療のサポートができるほどでね。驚いたよ。 |
ローエン | いえ、私の手伝いなど初歩の初歩。フィリップさんの話と、用意してあった資料で彼への施術の段取りを確認したまでです。 |
フィリップ | いや、それは謙遜ですよ。ミリーナにローエンさんがサポートに入ると知らせた時は、本当に驚いていましたから。 |
レイア | あ、それならミリーナたちは、ローエンと会ってたんだよね。だったらなんで教えてくれなかったんだろ。 |
ローエン | 私が頼んだのです。皆さんには、しばらく伏せておいて欲しいと。 |
レイア | え、なんで ! ? |
フィリップ | ……実は、ローエンさんの体はまだ回復しきっていないんだ。これは無理に目覚めさせた僕のせいでもある。 |
フィリップ | 今はこうしていられても、容体によってはまた意識を失うことがあるかもしれない。 |
ローエン | ようやく目覚めたかと、皆さんにご足労頂いても結局、つまらない老人の寝顔しかみられなかったでは申し訳ありませんからね。 |
レイア | ……そっか。わたしたちをがっかりさせないように完全に回復するまでは伏せておいたんだね。 |
ローエン | ぶっちゃけますと、情けない姿を晒したくはないというジジイのワガママなのですよ。ほほほ。 |
ジュード | ねえローエン、フィリップさんにローエンの治療法を教えてもらうからさこのまま一緒に、アジトへ帰らない ? |
ローエン | お気持ちは嬉しいのですが……。 |
フィリップ | ジュード。ローエンさんが特異鏡映点だということは知っているね。 |
ジュード | ええ、もちろん。でも、ガロウズたちが開発したキラル分子の流出を反転させるブレスレットでその影響を抑えられるんですよね ? |
フィリップ | いや……。今のローエンさんの体ではそのブレスレットの負荷に耐えられない。 |
フィリップ | そして君たちのアジトは、ミリーナの作り出した仮想鏡界の中だ。アニマを逆流させる特異鏡映点が及ぼす影響力は未知数なんだよ。 |
フィリップ | わずかな期間の滞在であれば可能かもしれないがブレスレット無しで長期となると不安があってね。 |
フィリップ | 今は治療を続けながら、ブレスレットをつけられる状態まで、根気よく待つしか無いんだ。力不足で申し訳ない。 |
ローエン | ……ケリュケイオンでしたらこのままの状態でおりましても、さほどの影響はないとのことですので、お世話になることにしました。 |
ジュード | そうだったのか……。無理を言ってごめん、ローエン、フィリップさん。 |
ローエン | いいえ、そのお気持ちは嬉しいのですよ。ジュードさん。 |
ローエン | まあ、そんなわけでして、しばらくはリハビリがてら救世軍で執事まがいのことをさせて頂いてました。 |
フィリップ | ゆっくり休んで欲しいんだけど、聞いてくれないんだ。ジュードやレイアからも説得して―― |
ミリーナ | フィル ! |
フィリップ | すまない、ミリーナから通信だ。――どうしたんだ、ミリーナ。 |
ミリーナ | ルーティとミントとシェリアはまだ残ってる ? |
フィリップ | ああ、いるよ。もうすぐ帰るようだけど。 |
ミリーナ | そのままそこで待つように言って。治癒術を使える人が必要なの。 |
フィリップ | 何があったんだい ? |
ミリーナ | コーキスたちが、特異鏡映点のジョニーさんを救出したんだけど、アンチ・ミラージュブレスをつけられているわ。 |
ミリーナ | これからケリュケイオンに運び込むから解除をお願い ! |
ミント | それでは、交代で治癒術をかける方がいいですね。 |
シェリア | ええ。強い術よりは弱い術をゆっくり長くかけた方が、体への負担も―― |
スタン | ジョニーさん、大丈夫かな……。 |
ルーティ | ガロウズに任せておけば大丈夫よ。マリアンの時だって、ちゃんと外してくれたでしょ。 |
スタン | でも、あんな弱った姿を見るとさ。もっと早く助け出せたらって……。 |
ルーティ | あんたは自分のやれることをやった。それでいいじゃない。 |
ガロウズ | 待たせたな、アンチ・ミラージュブレスは外れたぜ。すぐに治療を始めてくれ。 |
二人 | はい ! |
ルーティ | さ、ここからはあたしたちの出番。自分のやれることをやってくるわ ! |
スタン | ああ、ジョニーさんのことを頼んだぜ ! |
キャラクター | 11話【10-15 ひとけのない街道4】 |
ミリーナ | フィル ! ジョニーさんはどう ? |
フィリップ | アンチ・ミラージュブレスが解除できたからミントたちが治療に入ったよ。こちらに来ていたジュードも診てくれている。 |
ミリーナ | 良かった。あれは一刻を争うから……。他のみんなは ? |
フィリップ | クレスとミラさん、スタンは、ジョニーのところだ。後はみんな、あちらの部屋で待機してるよ。 |
ミリーナ | そう、待たせちゃったみたいね。それじゃスパーダさんの話を聞きにいきましょう。 |
スパーダ | ――だから、帝国が興味持ってるのはオレの前世ってわけ。 |
スパーダ | あの胸クソ悪ィ実験じゃ、魂の分離だの融合だの憑依だの、そんな話ばっかしてたぜ。 |
スパーダ | 研究者の野郎ども、オレに聞こえないようにコソコソ話してたからそれ以上、詳しいことはわかんねェな。 |
ルカ | 大変だったんだね。スパーダ。 |
スパーダ | まあな。けど、おまえやイリアだってヤバかったって話じゃねぇか。 |
ルカ | うん、危ない状態だったって言われたよ。 |
スパーダ | チッ、あいつらマジで許せねェ……。 |
ミリーナ | 剣である前世の具現化……。魂の分離、融合、憑依……。 |
フィリップ | 意思を持った武器や、武器に意思を宿らせる実験じゃないかというスパーダの予想は確かにありえる話だね。 |
フィリップ | 事実、異世界にはソーディアンという例もある。ただ気になるのは、『魂』に固執している点だ。 |
ミリーナ | そうね。あくまでソーディアンは人の記憶や人格を武器に投射したものだから。 |
ミリーナ | 一つの体、一つの物質に複数の魂を内包している状態を目指しているのかしら。 |
スレイ | ……なんかそれって、神依に似てるよな。 |
ミリーナ | ……それよ、スレイさん ! |
ミリーナ | ルカが転生者の話をしてくれた時にクラースさんが言ってたの。一つの体に、魂が分裂して存在しているみたいだって。 |
ミリーナ | これって、見方を変えれば、神依と似た状態じゃない ? |
ミクリオ | そうだね。天族である僕たちは器であるスレイの体なら融合することができる。 |
ライラ | はい。しかも、個たる意識はきちんとありますから神依に近い形と言えますわ。 |
ミリーナ | 精霊と融合するなんて神依と似た発想を帝国はどこから得たのか、セシリィも気にしてたけれど……。 |
ミリーナ | もしかしたら、ルカたち転生者がそのヒントになったのかもしれないわね。 |
スレイ | う~ん……。単純に、オレたちと同じ世界からきた鏡映点の知識って可能性の方が高くないかな ? |
スレイ | ほら、古代語の解読なんかでよくあるだろ ?ひっかかったところを裏読みや深読みして結局書いてあるままでしたってことがさ。 |
ミクリオ | ああ。でも、そうだとすると帝国に僕たちの世界の知識が流れてるっていうのがね……。 |
ライラ | ええ。つまりそれは、その「誰か」は捕まっているか、敵になっているということですから。 |
スレイ | ……うん。 |
ミリーナ | もしかしたらスレイさんたちは、帝国側にも天族がいると考えているの ? |
スレイ | ……ああ。リストにも載せたザビーダって仲間が捕まってるんじゃないかって……。でも……。 |
ミリーナ | ――確かザビーダさんって……ベルベットたちが出したリストにも……。 |
ライラ | ……まぁ、その話は一旦置いておきましょう。 |
ライラ | あくまで可能性ですが、私たちがこうして具現化されている以上、他の仲間も……と考えるのはおかしくないですよね ? |
ミリーナ | 確かにそうですね……。 |
イリア | ……ねえ、この人たち何言ってんの ? |
スパーダ | バカ、オレに聞くんじゃねェよ !なあル―― |
ルカ | 話を聞いてて思ったんだけど帝国にいる鏡映点が――とかじゃなくて、こっちの情報が漏れてるってことはない ? |
二人 | (参加してる ! ? ) |
コンウェイ | つまりルカくんはこちらにスパイがいると思うのかい ? |
ルカ | ううん、そういうわけじゃなくて、わざとじゃなくても、知らず知らずに相手に情報を渡しちゃってることもあるのかなって。 |
フィリップ | ……そうだね。こちらが帝国側に内通者を置いていたように、こちらの情報も―― |
コーキス | あ、ちょっと待った、魔鏡通信が……。ミリーナ様、バルドからの通信です ! |
スパーダ | バルド ! ? あいつ何してんだよ。後から追うって言って、それっきりだったんだぜ ? |
ミリーナ | バルドさん、今どこにいるの ? |
バルド | ――お話があります。どこかで落ち合えませんか ? |
ミリーナ | わかったわ。こちらも聞きたいことがあるし今からそちらに向かいます。 |
キャラクター | 12話【10-15 ひとけのない街道4】 |
コーキス | ……なぁ、さっきの話じゃないけどユーリ様たちもスパイの可能性を気にしてたしこれからバルドに会うのも見られてたりしねぇかな。 |
イクス | 『少なくとも、俺が見える範囲には怪しい奴の姿は無いみたいだけど……』 |
コーキス | 心配性のマスターがそう言うなら平気か……。 |
マーク | あ ? イクスの奴なんだって ? |
コーキス | 周りに怪しい奴はいないって……。 |
フィリップ | イクスがそう言うならひとまず信じていいとは思うが……。 |
ミリーナ | 情報漏れが内通者の場合は……ってことね。 |
マーク | その為に鏡映点サマにはケリュケイオンに残ってもらったんだ。ひとまずは大丈夫だろう。 |
マーク | これで情報が漏れるなら、鏡士かバルドかセシリィが裏切り者ってこったな。 |
セシリィ | そうね……。私は一番怪しい立場だから……。 |
コーキス | おい、マーク。お前、感じ悪いぞ。 |
マーク | 仕方ねぇだろ。用心するに越したことはないんだから。 |
バルド | ……お待たせしました。 |
ミリーナ | 今回は無事に会えたわね。スパーダさんが心配していたわよ。 |
バルド | そうですか……。私の不手際で落ち合えなかったことを謝っておいて下さい。 |
ミリーナ | 何があったの ? |
バルド | ……スパーダさんたちを逃がしたことをウォーデン……ナーザ様に知られてしまいました。それで少々事態の収拾に手間取ってしまったんです。 |
フィリップ | 今回の救出劇は不測の事態が起きすぎではありませんか ? |
バルド | ……ええ。私自身も帝国の誰かに疑われているのかも知れません。それでも……私はあなた方に協力するつもりです。 |
コーキス | リビングドール計画を止めるために、か ? |
バルド | ええ。リビングドール計画とは、カレイドスコープによって光る砂となって失われたビフレストの民を甦らせるための計画。 |
バルド | もしもこれが、亡くなった世界中の人々を甦らせる計画だというのなら、私も……もしかしたらメルクリア様にお仕えし続けたかもしれません。 |
バルド | 現状のリビングドールは酷いものですが研究次第で、犠牲を強いることなく死者の甦りを可能にできるかも知れない。 |
バルド | でもメルクリア様が救いたいのはビフレストの民だけです。そしてその為の手段としてリビングドールの手段について見直すつもりもない。 |
フィリップ | ……ああ、そういうことか。彼女に感じた違和感は。これはメルクリア皇女なりの、セールンド――いや、僕やゲフィオンへの復讐でもあるんだね。 |
バルド | ええ。自分の国を奪った女性が、自分のために世界を甦らせようとして、自分の願いを叶える為だけにもう一人の自分すらも生み出した。 |
バルド | ゲフィオンがしたことをメルクリアは自分もしようとしているのです。 |
ミリーナ | ………………。 |
イクス | 『それは違う ! ミリーナ……いやゲフィオンは贖罪の気持ちから世界を救おうと思った。最初からエゴだけのメルクリアとは違う』 |
コーキス | マスターが言ってます。贖罪の気持ちから世界を救おうとしたゲフィオンとエゴだけのメルクリアは違うって。 |
マーク | そいつはどうかな。結局はどっちもエゴなんだと俺は思うぜ。だが、リビングドールって手段は気に入らねぇ。 |
マーク | ――今はそういうことにしておこうや。 |
コーキス | ………………。 |
バルド | リビングドール計画の阻止には、カレイドスコープで光る砂――アニムス粒子となったビフレストの人々に接触できないようにするしかありません。 |
バルド | 現状、ゲフィオンとイクスさんが、死の砂嵐の流出を止めていますが、こちら側からアプローチしてアニムス粒子を取り出すことはできるのです。 |
ミリーナ | つまり、死の砂嵐の完全な消滅――もしくは封印が必要ということね。でもその前にイクスを助け出さないと……。 |
バルド | ええ。仮に完全に消滅させたり封じることができてもあの場にイクスさんがいる限りイクスさんを失うことになってしまう。 |
バルド | 何より、そろそろイクスさんがもたないのでは……と考えています。 |
ミリーナ | ! ! |
バルド | どうやらコーキスさんはイクスさんと繋がっているようですが……イクスさんは苦しんでいませんか ? |
コーキス | え ! ? いや、何も……。なぁ、マスター。どこか痛かったり苦しかったりするのか ? |
イクス | 『い、いや ? 別に特に何も……』 |
コーキス | ――いてぇっ ! ? 何だ……また左目が……。 |
バルド | ……やはり。その目の痛みは、イクスさんが感じている痛みをコーキスさんが感じ取っているのだと思います。 |
フィリップ | 鏡精のリンク機能か !僕も古い書物でしかその理論を確認していないが……。そういえばあれはビフレスト側の禁書だった。 |
バルド | ビフレストでは鏡精が世界を滅ぼすと信じられていた。ですから、鏡精の研究は禁忌であると同時に皇室の課題でもあったのです。 |
バルド | 今のコーキスさんは、イクスさんの力が暴走しているために、マスター側で本来独立しているはずの感覚がリンクしてしまっている。 |
バルド | だから、コーキスさんの目や耳がイクスさんの目や耳ともなり得ている訳です。 |
バルド | 恐らくイクスさんがここまで自在にコーキスさんの目と耳を利用できるのは、このリンクを意識的に強化したはずですが……。 |
ミリーナ | イクス ! 本当なの ! ? まさかコーキスをカレイドスコープの間に呼び出したのもリンクを強めるため ! ? |
イクス | 『……ああ。まだ完全じゃないけど、最終的には俺の力をコーキスに送り込めるようにしようと思って。上手くいくまで黙ってるつもりだったんだ』 |
コーキス | はぁ ! ? つーか、そっちより体が痛むってのは本当なのかよ ! ? |
イクス | 『い、痛むこともあるよ。確かにさ。でも今は……我慢できてるんだ。大丈夫だよ』 |
コーキス | じゃあやっぱり実はずっと痛かったってのか ! ?何でそういうこと隠すんだよ ! ! |
イクス | 『お、怒るなよコーキス。心配……かけたくなかったんだ』 |
セシリィ | ……コーキスの様子を見ているとバルドさんの指摘は全てあっているみたいね。だったら一刻も早くイクスさんを助け出さないと。 |
ミリーナ | 魔鏡結晶に穴をあけてイクスを助け出すという計画を今キール研究室がまとめてくれているわ。 |
ミリーナ | でも、イクスがいなくなることによって死の砂嵐は外に漏れてしまう。その点だけが、どうしても解決できないの。 |
バルド | ……私にアイディアがあります。ですが、その為にはいくつかやらなければならないことがある。 |
バルド | まずは……私をフレンさんから分離すること。 |
コーキス | フレン様を解放してくれるのか ! ? |
バルド | ……解放……というか……。実は、私はフレンさんにこの体を借りているのです。 |
マーク | ん ? 結局は同じことだろう ? |
バルド | ……いえ、この体の中には、今もフレンさんがいます。私やチーグルは初期のリビングドールなので心核を取り外すというアプローチがなかったんです。 |
バルド | そしてフレンさんは……敢えて私を受け入れてくれました。 |
コーキス | 今の話……ユーリ様に聞かせるのが怖いぞ……。 |
フィリップ | でもどうして今フレンと離れる必要があるのかな ? |
ミリーナ | ……もしかして、スパイの目を欺くため ? |
バルド | 仰る通りです。フレンさんと二人で考えました。 |
バルド | フレンさんはバルドとして帝国に残り私は別の体を一時的に借りてイクスさん救出のための準備を行います。 |
バルド | それにはセシリィ――いえ、シドニーの力が必要です。 |
セシリィ | え ? |
バルド | 危険は承知の上で、私と共に帝国へ来てくれませんか ? |
フィリップ | しかしそれではガロウズが納得しないだろう。 |
セシリィ | ……いえ。行きます。 |
ミリーナ | セシリィ ! ? 危険なのよ ! ? |
セシリィ | でも、私はもう死んでいますから。 |
セシリィ | それに私が帝国へ行けば、きっと精霊装の詳しい情報を見ることができます。スレイさんたちの力にもなれるし精霊たちの命を守ることにも繋がる。 |
セシリィ | だから――行きます。 |
フィリップ | ……そう、か。 |
バルド | ありがとう、シドニー。あなたにはいつもつらい思いばかりさせてしまいますね。 |
セシリィ | ……いえ、いいんです。 |
ミリーナ | ……一ついいかしら。あなたのしていることはナーザへの裏切りよね。本当に構わないの ? |
バルド | ナーザ様は……メルクリア様と目指すものが違います。ナーザ様はこの世界を――ダーナの揺り籠を守るために動いておられる。 |
バルド | ビフレストの復活には否定的です。 |
フィリップ | ……ダーナの揺り籠。それは創世神話の言葉だね。 |
フィリップ | この世界はダーナの揺り籠である。罪を背負った人々は、罪を贖い、浄化しダーナの揺り籠に生まれ落ちた。 |
フィリップ | ……………… ! |
フィリップ | (ジュニアからの伝言の『僕らの始まりの場所』というのは……あの【石碑】のことか ! ) |
バルド | あなた方を……特にコーキスさんあなたを見ていると信じられない。 |
バルド | でもダーナは予言しています。鏡精がこの世界を滅ぼす、と。 |
バルド | だからビフレストの鏡士は鏡精を復活させたセールンドの鏡士を憎んだ。その行いを止めようとした。 |
バルド | それが……魔鏡戦争の始まりです。 |
ミリーナ | そして……オーデンセを襲ってイクスを手にかけた…… ! |
バルド | ……そうです。世界を滅びから守るため、鏡精と鏡精を生み出す鏡士を殺すこと――それが今も昔もナーザ……いえウォーデン殿下のご意思なのです。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【11-1 ひとけのない街道1】 |
| アスガルド帝国 芙蓉離宮 |
バルド | シドニー、協力を願っておいて今更ですが、本当にいいんですね ? |
セシリィ | もちろんです。そのために色々と準備を進めてきたんですから。……もしかして私、怖気づいてるように見えました ? |
バルド | いいえ。ただ、ケリュケイオンにはあなたの大切な人がいるでしょう。 |
バルド | これは危険な作戦です。ちゃんとガロウズと話はしてきましたか ? |
セシリィ | ……姿は変わっても、優しい所は変わりませんね。生前、私をかばってくれたバルドさんのまま。 |
バルド | そんなことは……。 |
セシリィ | ガロウズとのことは気にしないでください。私自身が決めたことですから。 |
セシリィ | それに、私は『体』を粗末にするつもりはありません。この体の持ち主である、セシリィのためにも。 |
バルド | ……わかりました。では、行きましょう。 |
メルクリア | よくセシリィを連れ戻してくれたな。さすがバルドじゃ ! |
バルド | 私の力だけではありません。彼女自身も帝国に戻りたいと望んでおりましたので。 |
バルド | ただ、チーグルも一緒に連れ戻せなかったのは私の不徳の致すところです。 |
メルクリア | そなたは十分やってくれたぞ、バルド。確かにチーグルがいないのは残念じゃが今は良しとしよう。 |
メルクリア | さて……黒衣の鏡士どもにさらわれたと聞いて心配しておったのだぞ ?セシリィ――いや、シドニーよ。 |
セシリィ | ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。 |
メルクリア | 無事ならば良い。良いが……さらわれる直前に、そなたはチーグルを連れて精製所からの脱走騒ぎを起こしたそうじゃな。 |
セシリィ | ――っ ! ! それは……。 |
メルクリア | 隠さなくてもよい。全部知っておる。 |
メルクリア | あんなことをするくらいなら素直に申せば良かったのじゃ。「チーグルを連れて、この離宮へ戻りたかった」と。 |
セシリィ | え ? |
メルクリア | あの頃のそなたは、不安定なチーグルの容体も見ながらクロノスの研究を進めていた。 |
メルクリア | そこへ特異鏡映点亜種の調査のために離宮から慣れぬ施設に移されて、ずいぶんと参っていたそうではないか。 |
セシリィ | 私は……その……。 |
バルド | シドニー。遠慮をせずに「そうだ」と頷いてよいのですよ。メルクリア様は寛容な方ですから。 |
セシリィ | (バルドさん…… ! 嘘の報告を――) |
セシリィ | は、はい。恐れながら……。 |
メルクリア | バルドから、シドニーが思い詰めていたとの報告を受けた。それゆえ、チーグルの容体が悪化した際に、この離宮に戻るため暴挙に走ったのだと。 |
メルクリア | そなたに無理をさせてしまったのじゃな。……わらわのことが嫌いになったか ? |
セシリィ | いいえ、そのようなことはありません。 |
メルクリア | 本当か ? ならば今までどおり、魔鏡術について話を聞かせてくれるのじゃな ! |
セシリィ | もちろんです。この体――セシリィと同様、メルクリア様のお話相手として頂けるのならばこれ以上の喜びはありません。 |
メルクリア | うむ ! ならば我がビフレストの民を救うため再びこの離宮での研究に励むがよいぞ ! |
セシリィ | はい、ありがとうございます。 |
メルクリア | これで一安心じゃ。シドニーが戻ってきたことでバルドが裏切っていないことも証明されたからの ! |
バルド | 裏切りなど、一体どこからそのような話を ? |
メルクリア | なんといったかのう……。すこし前にリビングドールとして甦らせた、浅黒い肌で、屈強な男の体を使っておる…… |
バルド | ローゲ、ですか ? |
メルクリア | そう、ローゲじゃ。バルドの動きに不審な点がみられるゆえくれぐれも気をつけろ、とな。 |
バルド | 彼がそのようなことを……。 |
メルクリア | い、言っておくが、わらわはそんなはずはないと突っぱねたぞ ! じゃが……。 |
メルクリア | ……わらわが気に入った者は、ことごとく離れて行く。チェスター、ミトス、シング、カイウス、ルビア……。皆、わらわを裏切った。 |
メルクリア | だからその……ローゲの言ったことを気にしているのは用心のためなのじゃ。わかるな ? |
バルド | …………。もちろん、承知しております。 |
メルクリア | ならば良い ! バルド、そなたは下がって休め。シドニーはわらわと共に来るのじゃ。久しぶりに魔鏡術の話を聞かせてくれ。 |
メルクリア | そなたがいなくなって寂しくて仕方がなかったのだ。セシリィとシドニーを同時に失ったのじゃからな……。でも、今日からは共に過ごせる ! |
メルクリア | 落ち着いたら、またぱじゃまぱーてぃーとやらを開こうぞ ! |
バルド | (まずはひとつ、関門を突破した――か) |
ナーザ | メルクリアとの謁見はすんだのか。 |
バルド | はい。メルクリア様も大変お喜びでした。 |
ナーザ | そうか。お前の立てた策が成功して何よりだ。メルクリアに良からぬ噂を持ち込んだ奴がいたようだからな。 |
バルド | ローゲのことでしょうか。私の行動を疑っているとメルクリア様からうかがいました。 |
バルド | ですが、あれは仕方がありません。彼は生前から私を恨んでいました。 |
バルド | この世に舞い戻っても、その気持ちに変わりはなかった……それだけのことです。 |
ナーザ | ローゲは才気溢れる臣下だった。そして簡単に獲物をあきらめるような男ではない。 |
ナーザ | それに、あのローゲに鏡士の情報を渡しているものがいるようだ。恐らくその者から情報が筒抜けになっている。 |
バルド | ! ! |
ナーザ | ……色々と策を弄するのも結構だが、足をすくわれぬよう、気をつけて事を進めた方がいい。 |
ナーザ | お前のやっていることは、間違ってはいないのだからな。 |
バルド | ―― !ナーザ様……、あなたは……。 |
ナーザ | ……もはや死者である我々が何をしてもすべては理から外れた行為。ダーナの意思に背くに違いない。 |
バルド | わかっておられるのでしたら、もう―― |
ナーザ | だがな、世界を救うために戦い死んでいったビフレストの民はどうなる。その志を、犠牲を、無駄にすることなど俺にはできぬ ! |
ナーザ | せめて我らビフレストの本懐だけでも遂げずして我が民たちに顔向けができようか。 |
ナーザ | ……バルド。お前がどう動こうと構わない。だが、これだけは言っておくぞ。 |
ナーザ | 俺は必ず鏡精を滅ぼす。それを生み出すセールンドの鏡士もな。 |
バルド | …………。 |
キャラクター | 2話【11-1 ひとけのない街道1】 |
カロル | 待って、ユーリ ! |
ユーリ | まだ休んでろって。今回はあっちこっち連れまわしちまったからな。 |
カロル | そんなに疲れてないし平気だよ。それにボクは室長だから、責任もってミリーナに報告しないと。 |
ユーリ | へえ、すっかり室長が板についてきたな。頼もしいこった。 |
ラピード | ワオン ! |
カロル | ミリーナお待たせ !報告に来た――って、あれ、みんな ! ? |
エステル | ユーリ、カロル、ラピード、お帰りなさい !無事で何よりです ! |
リタ | ずいぶん遅かったじゃない。どこ寄り道してたのよ。 |
レイヴン | いいじゃないの、寄り道結構。で、お土産は ? |
ユーリ | なんだよ、勢ぞろいでお出迎えか。どうした ? |
コーキス | えっと……、ユーリ様に色々と伝えることがあって……。 |
ジェイド | まあまあコーキス、それは後にしましょう。まずは彼らの報告を聞いてからです。 |
ユーリ | ふうん……。あんたとコーキスの顔みてたらろくでもねえ話だってことは分かったぜ。 |
ミリーナ | とりあえず座って、ユーリさん。カロルもラピードさんもお疲れ様。ヴェイグさんたちと別れたあと、どうしたか気になってたの。 |
ユーリ | 悪いな。方々回ってたんで時間がかかっちまった。そういやヴェイグたちは ? |
ミリーナ | ヒルダさんと一緒に、こっちに戻ってるわ。 |
カロル | よかった、ちゃんと会えたんだね !ヴェイグ、すごく心配してたから。 |
ミリーナ | そうね。クレアさんも喜んでたわ。それで何かわかった ? |
カロル | うん。精製所とか出入りの商人とか、色々と調べたよ。ユーリなんか、酒場で衛兵や研究所関係者とうまく飲み仲間になってさ。そこで―― |
ユーリ | 経緯はいいから、結論が先な。コーキスたちもオレに話があるみたいだし。 |
カロル | そうだね。えっと、フレン――バルドの事を調べたんだ。そしたら兵士の間でも評判がいいフレンを悪く言う男がいるって話を聞いたんだ。 |
カロル | ローゲって名乗ってるらしいけど最近いきなり幹部になったんだって。どこから来たのかは、みんな知らないみたい。 |
カロル | 今まで幹部クラスになったのって鏡映点が多かったでしょ ?だから怪しいってユーリと話してたんだけど……。 |
ミリーナ | リストは用意してあるわ。特徴を教えてもらえる ? |
カロル | 髪が長くてうねうねしてて、いかつくて、背はユーリよりも高いって言ってたよね ? |
ユーリ | ああ。それに肌や髪の色と――聞いた限りだと、こいつに近いな。 |
ミリーナ | ……バルバトス。カイルの敵ね。そう言えば、クラトスさんが精製所で戦ったのも似た特徴の男だったって報告を受けてるわ。 |
ジェイド | 精製所には、様々な心核が保管されていたと聞いています。名を偽っていないのだとしたら、彼はリビングドールにされている可能性が高いですね。 |
ミリーナ | そうすると、バルドさんかフレンさんが、ローゲという人に敵意を持たれていることになるけど……。 |
ユーリ | バルドがらみって線が濃厚だろ。こいつが表に出て来た頃には、フレンはもう乗っ取られていたはずだ。 |
コーキス | ……乗っ取られたっていうか……。 |
ユーリ | なんだ ? 何か―― |
ジェイド | わかりました。帝国内部でバルドを妨害している人物は彼である可能性が高いということですね。他には ? |
カロル | 精霊の話もあるよ。帝国は精霊を小さな入れ物にいれて持ち運べるんだって。 |
カロル | なんとかケイジって名前の入れ物らしいんだけど、詳しいことまでは調べきれなかった。 |
リタ | 待って、それってクレーメルケイジじゃない ?キールから聞いたことがある。あっちの世界では精霊じゃなくて晶霊ってのを入れてたらしいけど。 |
ジェイド | ティル・ナ・ノーグ仕様に開発されているのかもしれません。後でキールを呼んで、詳しい仕組みを聞くとしましょう。 |
ジェイド | ですがそうなると、捕まっている空のマクスウェルにはそのクレーメルケイジが使われていることも考えなければいけませんね。 |
エステル | 人ひとり捜すのも大変なのに、ますます捜索がしにくくなりますね……。 |
レイヴン | ったく、厄介な上に、人様の世界の技術をよくもまあいいように利用するもんだ。その技術もどこから仕入れたんだか。 |
ミリーナ | 神依、クレーメルケイジ、転生者にソーディアン……。帝国はどれだけ情報を持ってるのかしら。 |
カロル | そこまでわかれば良かったんだけど、今回報告できるのはこれくらいなんだ。 |
ミリーナ | いいえ、ありがとう。大きな手がかりよ ! |
ユーリ | それで、そっちの話ってのはなんだ ? |
三人 | …………。 |
ユーリ | なるほど、まあ検討はつくさ。フレンのことだろ。で、なんだって ? |
ミリーナ | レイヴンさんたちには、すでに話してありますが、これから言う話も、作戦内容も、今ここにいる人たちだけに止めておいて欲しいんです。 |
ミリーナ | 私たち、あれからまたバルドさんに会ってきたんです。そこで新たな作戦の話になったんですが――……。 |
キャラクター | 3話【11-2 ひとけのない街道2】 |
ミリーナ | ――それで、フレンさんはバルドさんと入れかわりに帝国に残る手筈になっています。 |
ユーリ | ………………。 |
コーキス | カ、カロル様、ちょっといいか ? |
カロル | な、なに ? |
コーキス | ユーリ様、大丈夫か ?なんか声かけてやった方がいいんじゃ……。 |
カロル | えっと……リ、リタ、ちょっと来て ! |
カロル | ユーリになんて声をかけてあげればいいかな。 |
リタ | 何の反応もないのにどうしろってのよ !あんた考えなさい。ほら、頭使え ! |
カロル | ボクだってフレンの話にびっくりしてるんだよ ! ?きっとユーリだって……。 |
エステル | リタもカロルもコーキスも、どうしたんです ? |
リタ | ちょ、エステル ! あのユーリ見てよく普通で……。 |
エステル | ユーリですか ? 笑ってますけど。 |
三人 | え ? |
ユーリ | …………くくっ、…………はははははっ !まいったね、ったく ! |
レイヴン | だよねえ。さすがの青年もそりゃ笑うしかねえわなあ。 |
ユーリ | ああ。あいつはそういうヤツだったぜ。なに簡単に乗っ取られてんだと思ったけど異世界ボケしてたのはオレの方だったわ。 |
ユーリ | 抵抗するどころか受け入れて、乗っ取った奴と協力ね。どこまで正攻法が好きなんだよ。 |
エステル | でも、とてもフレンらしいと思います。 |
レイヴン | 不利な状況の中で対処していくってのはフレンにとっちゃ慣れたことだろうからな。あの手のタイプは案外したたかよ ? |
ユーリ | 知ってるよ。嫌ってくらいさ。ったく、慣れない心配なんざするもんじゃねえな。 |
ジェイド | 楽観視するには早いですよ。フレンはバルドとして帝国に残らねばなりません。万が一彼の正体がばれた場合は……。 |
レイヴン | ちょっと大将、あんまウチの子いじめないでくれる ? |
ユーリ | 構わねえよ。どうせそのことも含めて、色々と策をこねくり回してんだろ ? |
ジェイド | さてどうでしょう。ともかく、バルドが無事に我々の下に来て、そこからようやくイクスの救出計画が実行に移せるわけですからね。 |
ジェイド | まずはバルドが別の体を手に入れなければ始まりません。 |
ユーリ | 別の体ね……。その作戦、大丈夫なのか ?『ファントム』の体を使うだなんてよ。 |
カロル | あいつ、本当にまだ生きてるの ? |
ジェイド | バルドからも聞きましたから、間違いありません。それに以前、帝国に潜入したあなたたちの報告を受けた時から予想はしていました。 |
ジェイド | カレイドスコープを隠した仮想鏡界の存在は、ファントムの生存を意味しているだろう、と。 |
ジェイド | あの戦いで倒れた後は彼と同じ存在であるジュニアがサポートをして仮想鏡界を維持しているのだと思われます。 |
ユーリ | ちと気になったんだが、仮想鏡界は、作った鏡士か鏡精が中に残らないと維持できないんじゃなかったっけ ? |
リタ | それ、あたしも引っかかってたの。ファントムの存在で仮想鏡界を維持してるとしたらその体を奪って出て来るなんて無謀よ。 |
リタ | ジュニアがサポートしてるだろうとか言ってたけど、下手したら鏡界が維持できなくなって帝国にばれるんじゃないの ? |
ミリーナ | 私がカーリャを置いてるのは、まだ未熟だからなの。この仮想鏡界はゲフィオンの知識によるものだから、今の力じゃ制御が難しくて……。 |
ミリーナ | でもビクエであるフィル――ファントムがつくった仮想鏡界なら、そんな必要はないはずよ。変わらずに場を保つことも可能だと思う。 |
ユーリ | なるほどね。んじゃその辺は解決か。それで、セシリィはもう出発したんだな ? |
ミリーナ | ええ。今頃は帝国内に入っているはずです。バルドさんが手引きをしてくれてるから、大丈夫だと思います。 |
リタ | そこまでバルドってのに任せきりで平気 ?フレンと協力してるって話も、あいつが言ってるだけなんでしょ ? 警戒しといた方がいいわよ。 |
カロル | でも、リビングドール計画を止めたいって言ったあの時のバルドは本気にみえたけどな。それに生き返っても、こんなんじゃ嬉しくないって。 |
レイヴン | そうねえ。リタっちの言うとおり警戒はしないといけないけど、その言葉だけは、信じてやりたいね。 |
レイヴン | ……だいたい、勝手に死んだ人間甦らせて、それが当人の幸せだと思ってんならとんだお門違いってやつさ。 |
カロル | レイヴン……。 |
レイヴン | しかしバルドくんはぜーたくだわ !あのモテモテフレンちゃんの顔で嬉しくないとか !俺様なら即ナンパに行くね ! |
リタ | 人が真面目に話してるのに……あんたは結局そこか ! |
レイヴン | ひっ ! ? |
エステル | リタ、ここで術はだめですよ ? |
リタ | わ、わかってるわよ……。 |
レイヴン | あー嬢ちゃんがいて助かったわ……。フレンちゃんと会う前に死ぬところだった……。 |
エステル | 死なれては困ります。みんなでフレンを出迎えてあげないと。ね、ユーリ ! |
ユーリ | 出迎えなんて、こいつで十分さ。 |
リタ | 剣 ? またあんたらは……。 |
ラピード | ワフ~。 |
ジェイド | ……やれやれ、騒がしい。フレンが関わることだからと彼らに話を通したのですが、うかつでしたか。 |
ミリーナ | いいえ、ジェイドさんの判断は間違っていません。表には出さなくても、今までみんなフレンさんのことで不安だったでしょうし。 |
ジェイド | 士気が下がるのは避けねばなりませんので、相応の対処をしたまでですよ。 |
ミリーナ | ふふ、そうですね。 |
コーキス | でも、ユーリ様が案外普通でよかったですね。フレン様が帝国に残ってバルドの身代わりになるなんてもっと何か言われるかと思った。 |
ミリーナ | そうね。フレンさんを信じているんでしょうけど、でも、きっと……。 |
キャラクター | 4話【11-4 静かな山岳2】 |
ソフィ | あ、アイゼン。 |
アイゼン | なんだ。お前たちも船の改造にかりだされたのか。 |
アスベル | 船 ? いいえ。俺たちは仲間の様子を見にきたんです。アイゼンさんは、フィリップさんに呼ばれたんですか ? |
アイゼン | まあな。……ところで、エドナは元気にしているか ? |
シェリア | もちろんです。今は大変な時だけど、たまにエドナの主催でお茶会を開いたりしてて、みんなのいい息抜きになってますよ。 |
ソフィ | お茶会、楽しかった。エドナはパルミエが食べたいって言ってたよ。 |
アイゼン | フッ、そうか。 |
フィリップ | わざわざ来てもらって済まないね。アイゼン。ケリュケイオンのこと、よろしく頼むよ。 |
アイゼン | 物好きな奴らだ。死神の呪いを背負った俺に頼むとは。何が起こっても知らんぞ。 |
ガロウズ | 起こってほしいくらいだぜ。ちょいと行き詰まってるんだよ。 |
ガロウズ | 船乗りとしての意見とか、魔鏡技師とは別方面からのアプローチが欲しいんだ。早速頼むぜ。 |
フィリップ | さて、こちらはリチャードのことだね。 |
アスベル | ……はい。 |
フィリップ | 君たちには聞きたいことがある。一緒に行こう。 |
シェリア | 陛下……眠ってる顔は穏やかなのに……。 |
アスベル | リチャードは、このまま眠らせておくしかないんですか ? |
フィリップ | ……そうだね。彼の場合、リビングドールとはいっても、本人の心核をとりはずしている訳じゃない。 |
フィリップ | 心核をいじられていて、リチャードとチーグルが、一つの体に存在している状態なんだよ。 |
シェリア | クラトスさんの時のようにスピルメイズに入れば、どうにかなりませんか ? |
フィリップ | それはもちろん考えている。ただ、少し時間をかけて検証したいことがあるんだ。 |
フィリップ | (バルドとフレン、彼らの結果を見てみないと……) |
アスベル | 結局リチャードの状況は、ラムダがいた時と変わってないってことか。 |
シェリア | そうね。ラムダの代わりに、チーグルが取りついただけだもの……。 |
フィリップ | その『ラムダ』のことだけど、カイウスから話は聞いたね ? |
ソフィ | 今はルキウスって人の中に入ってるんだよね ?ラムダが暴れるから、ずっと眠ったままだって。 |
フィリップ | 少しラムダについて説明してもらえるかい。何故、リチャードにとりついているのか。彼はどういう存在で、肉体はどうなっているのか。 |
アスベル | 元々ラムダに肉体はありません。他人に取りつくことで存在していたんです。そしてラムダは……人間を憎んでいます。 |
アスベル | リチャードはそんなラムダを受け入れてしまった……。 |
フィリップ | 彼らは、望んで共存していたわけだね。 |
シェリア | 確かに、陛下は一度は離れかけたラムダを呼び戻したことがあります。望んで一緒にいるといえばそうなのかもしれないけど……。 |
シェリア | だけど、あんなの悲しすぎるわ……。 |
アスベル | ……ああ。俺たちはまだリチャードのこともラムダのこともわかっていない。 |
アスベル | ただ、俺たちの世界を滅ぼそうとしていたラムダも、そしてリチャードも、人に虐げられていた。それだけは確かです。 |
フィリップ | ……なるほど。そして今、リチャードと引きはなされたラムダは、この世界で再び、勝手な実験にさらされている。 |
フィリップ | これはかなり危険な状態だね。ルキウスが目覚めてしまったら大変なことになるかもしれない。 |
ソフィ | ……その時は、わたしが消す。 |
アスベル | ソフィ ! お前またそんなことを ! |
ソフィ | でも、ラムダが暴れたらきっとこの世界も滅ぶ。そんなの絶対にダメ。だから、わたしがやらなきゃ。 |
フィリップ | どういうことだい ? |
シェリア | ラムダは、ソフィにしか消すことはできません。そしてその方法は……対消滅です。 |
フィリップ | 対消滅……ということは……。 |
ソフィ | ラムダを消して、わたしも消える。わたしはそのために作られたの。 |
キャラクター | 5話【11-6 静かな山岳4】 |
メルクリア | なるほどのう。未来におこりえる可能性までも現在の力にすることができるのか。 |
メルクリア | その鏡、わらわも作りたい !未来のわらわはきっと強いぞ ! |
セシリィ | そうですね。ですが、この魔鏡の作成には高度な技術が必要なんです。 |
メルクリア | そうか。ならばどれくらい修行が必要かの ? |
セシリィ | 力を持っている鏡士でも技術の習得には相当かかりますので―― |
バルド | 失礼します、メルクリア様。 |
メルクリア | バルドか、入れ。何の用じゃ ? |
バルド | セシリィをそろそろ下がらせてもよいでしょうか。 |
メルクリア | なんでじゃ。もっとゆっくりしておればよい。なんならバルドも一緒にどうじゃ ?お茶もお菓子も用意してあるぞ。 |
バルド | お誘いは大変ありがたいことですが、セシリィには仕事がありますので。 |
セシリィ | 申し訳ありません。メルクリア様。国のための研究なのです。ご理解ください。 |
メルクリア | いやじゃ ! わらわに話を聞かせる方がよっぽど国のためになる ! |
セシリィ | また、お部屋に伺いますから―― |
メルクリア | いーーやーーじゃーー ! ! |
ナーザ | 外まで声が響いているぞ。はしたない。 |
メルクリア | あ、兄上様 ! |
ナーザ | また駄々をこねているのか。 |
メルクリア | 駄々ではございませぬ !シドニーがわらわを置いて研究に戻るというから……。 |
セシリィ | 申し訳ありません。ですが……。 |
メルクリア | わらわは無理を言っているか ?そなたの魔鏡術の話を聞いてもっと鏡士としての知識を深めたいだけじゃぞ ? |
ナーザ | お前は少し我慢というものを知るといい。度が過ぎると相手にされなくなるぞ。 |
メルクリア | ……わらわは早く一人前の鏡士になって、ビフレスト皇国を甦らせたいのです。だから……。 |
ナーザ | 何故、そこまでこだわる。ビフレストのことなど何も覚えていないだろう。 |
メルクリア | 覚えていないから !だからこそ、我が故郷をこの目で見たいのです。 |
メルクリア | 亡くなった母上とて、心の底からビフレストの復活を願っておりました。 |
ナーザ | それは母上の望みだ。お前自身ではあるまい。 |
メルクリア | いいえ、わらわの望みです。あの憎きゲフィオンが、魔鏡術で大陸を生み出したと聞いた時に決意しました。 |
メルクリア | あの女よりも優れた鏡士となり、わらわもビフレストを復活させてみせると。これは母上の望みで、わらわの夢なのです。 |
メルクリア | 兄上様は違うのですか ?もしや、ビフレストはもう過去のものと ? |
ナーザ | そうは言っていない。俺には俺の目的がある。ただ、お前はこの世界の『生者』だ。死人の俺たちとは違うだろう。 |
二人 | …………。 |
ナーザ | ビフレストに囚われることはない。望むまま、普通に生きて、普通に暮らせ。 |
メルクリア | 普通…… ? よくわかりませぬが、これがわらわの普通です。兄上様。 |
ナーザ | …………。 |
メルクリア | 兄上様……なぜそのようなお顔をなさいます ?怒っておいでなのですか ? |
ナーザ | ……違う。 |
メルクリア | そ、そうじゃ、聞いて下され、兄上様 !確かに今は、カレイドスコープで光る砂になった者しかリビングドール化できませぬ。 |
メルクリア | ですが、いずれはゲフィオンのように、過去からビフレストの民を甦らせて見せますゆえ ! |
メルクリア | そうすれば、全ては元通りじゃ !きっと、兄上様にもお喜び頂けます。 |
メルクリア | ……ん。その時のために研究は必要じゃな。わらわも我慢する。シドニー、研究に戻ってよいぞ !バルドも下がってよい。 |
セシリィ | ……ありがとうございます。 |
メルクリア | これでよいでしょう ? 兄上様。 |
ナーザ | ……ああ。 |
ナーザ | ……お前たちは、あれをどう思う。 |
セシリィ | ……根はお優しい方です。それだけは間違いありません。 |
バルド | ……ええ。そしてウォーデン様と故郷を一途に慕っております。 |
ナーザ | わかっている。だからこそ……哀れだ。何故こうなったのか……。デミトリアスの仕業か……。 |
ナーザ | メルクリアが生まれたとき、誰もが夢見た未来はこのような姿ではなかった筈だ……。……それが口惜しい。 |
キャラクター | 6話【11-7 静かな山岳5】 |
| アスガルド帝国 仮想鏡界内 |
セシリィ | ここがファントムの仮想鏡界……。 |
バルド | そういえば、あなたは初めてでしたね。 |
セシリィ | ええ。私は知らされていませんでしたから。ところで、ジュニアは ? |
バルド | 打ち合わせ通りなら、そろそろ来るはずです。 |
ジュニア | バルド、セシリィ ! |
バルド | ジュニア、ここです。 |
ジュニア | 今なら安置室には誰もいないよ。すぐに行って処置を始めよう。 |
セシリィ | あそこで眠っているのがファントムなのね。他にもケースに入れられている人たちがいるけど、もしかして……。 |
バルド | ええ。こちらはルキウス、そしてリーガル。彼らは鏡映点です。 |
セシリィ | この人がカイウスの……。鏡映点がこんなにもたくさん眠っていたなんて。この人も……。 |
ジュニア | 彼女は違うよ。ヨーランドだ。 |
セシリィ | ヨーランドって、まさか、ヨーランド・ビクエ・オーデンセ ?初代ビクエの ! ? |
ジュニア | そう。ダーナの巫女だよ。 |
セシリィ | そんな人までここに……。一体どうなってるの ? |
ジュニア | ……ごめんセシリィ。今はバルドを移すことを優先して。 |
セシリィ | ……わかったわ。 |
セシリィ | ――バルドさん。ファントムの側に。 |
バルド | はい。 |
ジュニア | それじゃ、ファントムを覚醒させるね。 |
セシリィ | 本当に目覚めさせても大丈夫なの ? |
ジュニア | ……見ていればわかるよ。 |
セシリィ | ……ファントムが目を開けたわ。 |
ファントム | ……。 |
セシリィ | ……ファントム ? |
ファントム | ……。 |
ジュニア | ……このとおり、ファントムの人格はひどく希薄になってしまったんだ。今は何もできない。ただ、生きているだけ。 |
セシリィ | ……そう。 |
ジュニア | でもね、この状態だからこそ心核への侵入がしやすいと思う。 |
セシリィ | そうね。やってみる。 |
ジュニア | 頼むね。ビフレストの鏡士。これは君たちの国の技術だから任せるよ。手順は大丈夫 ? |
セシリィ | ええ。ちゃんと確認済みよ。まずファントムの心核を解放して、その後に、バルドさんを移動させるわ。 |
セシリィ | では――行きます ! |
? ? ? | おい、こんな辛気臭い部屋で何をしている。 |
セシリィ | ―― ! ! |
ジュニア | ――セシリィ、彼は僕が相手をするから、バルドが無事か確認して。 |
ジュニア | どうしたの、ローゲ。なんでこんなところに ? |
ローゲ | コソコソと動き回っているネズミを見かけたのでな。追って来たまでよ。 |
ジュニア | ネズミってなんのこと ? 詳しく聞かせてもらえる ? |
セシリィ | ……バルドさん。 |
バルド | 大丈夫、私はまだフレンさんの中にいます。 |
セシリィ | 良かった、中断しちゃったから何かあったらと思って……。 |
バルド | あれはローゲですね。恐らく私の後をつけて来たのでしょう。 |
ローゲ | どけ。今は小僧に用はない。――おい、いるんだろう ? バルド ! |
バルド | ここにいるよ、ローゲ。いったい何の騒ぎだ ? |
ローゲ | バルド、貴様ここで何をしていた。 |
バルド | 鏡映点の安否を確認していたんだ。ここのところ、鏡映点の流出が激しかったからね。 |
ローゲ | ハン、貴様が言うか。この前は作戦などと言って、鏡映点を二人も逃がしただろう。 |
バルド | ああ。それが功をそうして、セシリィを取り戻せた。そのうちチーグルも救出するつもりだよ。 |
ローゲ | ぬけぬけと……。その物言い、死ぬ前よりも癇に触る。 |
バルド | それは済まなかったね。だがここは貴重な鏡映点が眠る場所だ。話なら別の場所でしよう。 |
ローゲ | フン、鏡映点などいくらでも具現化すればいい。実験さえ終われば、我らが器でしかないわ !……いや、そう言えばこいつは違ったか ? |
ローゲ | ルキウス……。確かこいつの中にはラムダとかいう寄生生命体がいるらしいな。強大な力があると聞いて興味があった。 |
ローゲ | こんな所で眠らせておくとは、もったいないことをする。 |
バルド | ――っ ! !ローゲ。ルキウスのケースには不用意に触れない方がいい。 |
ローゲ | ほう ? 珍しいな。お前がそれほど焦るとは。こいつを起こせば、随分と面白い物が見られそうだ。クククッ。 |
ローゲ | ならば目覚めてみるか ? ルキウス。そして……ラムダよ ! |
バルド | 何を…… ! やめろ、ローゲ ! ! |
セシリィ | そんな……ルキウスのケースが開いて……。 |
ジュニア | まだだ ! ルキウスの意識があればラムダは少しの間おさえられるはず !その間に、僕とセシリィで強制的に眠らせれば…… ! |
バルド | ならば私はローゲを ! |
セシリィ | 待って ! ルキウスの体から、何か黒いもやのような物が……。 |
? ? ? | 声なき声の叫び……生にしがみつく者…… |
バルド | これは…… ? |
? ? ? | そうか……声の主は……お前だな……。 |
バルド | 霧が、ファントムに吸い込まれた ? |
ファントム | ……………………。死に……たくない……。 |
セシリィ | ファントム……意識がないはずなのに ! ? |
ジュニア | 違う……これは…… ! |
ファントム | ……死にたくない……。私は……我は……。 |
ローゲ | ……お前、ラムダとか言う奴か ?そうか、さっきの黒い霧がお前だったか !ハッハッハッ ! 随分と滑稽だな ! |
ラムダ | ……貴様ごときが、我を笑うか ! ! |
ローゲ | ぐああああああっッ ! |
セシリィ | キャアアッ ! |
ジュニア | うわああっ ! |
バルド | グッ…… ! |
ラムダ | なるほど……。この体、使い勝手はいいが……。死にたくないという意思以外、ほとんど残っていない。 |
ラムダ | だが、それでいい。我はお前の体で復讐を果たそう。 |
ラムダ | 実験と称して我を貶め、冒涜したこの世界にな ! |
キャラクター | 7話【11-7 静かな山岳5】 |
フィリップ | ――ソフィとラムダの対消滅か。確かにそれは、到底納得の行く方法ではないだろうね。 |
シェリア | ……はい。それにソフィだって、私たちの気持ちはわかってくれたはずでしょう。あの花畑でのこと覚えてる ? |
アスベル | そうだ。あの時にマリク教官も言っただろう。二度とソフィが、犠牲になろうと考えないように、みんなで全力を尽くすと。 |
アスベル | 俺の考えだって変わっていない。たとえこの世界でも、お前一人を犠牲にする気はないからな。もちろんリチャードだって救う。 |
アスベル | 約束したよな ? 最後まで俺たちは一緒だって。 |
ソフィ | ……そう、だよね。……ごめんなさい。 |
フィリップ | ラムダの件はこちらでも対策を考えてみよう。ソフィのためにもね。 |
ソフィ | ……うん。 |
フィリップ | ――さて、そろそろリチャードに次の鎮静剤を投与する時間だ。 |
シェリア | それじゃ、私たちは帰りましょうか。 |
アスベル | そうだな。フィリップさん、リチャードのことをよろしくお願いします。 |
フィリップ | ああ、任せてくれ。 |
ヒューバート | 失礼します。こちらにフィリップさんはいらっしゃいますか ? |
パスカル | も~、いるって聞いたから来たんでしょ ?ほ~ら入っちゃえ ! |
ヒューバート | ちょっ、どうしてあなたはそう――ああっ ! |
パスカル | ちわーっす ! お届けものだよ~ん。 |
ヒューバート | 失礼します。騒がしくてすみません。 |
アスベル | ヒューバート、パスカル。どうしてここに ? |
ヒューバート | ミリーナさんに届け物を頼まれたんですよ。 |
ヒューバート | フィリップさん、確認をお願いできますか ?陛下が――いえ、チーグルが使っていた魔鏡結晶です。 |
フィリップ | ああ、ご苦労様。わざわざ悪かったね。 |
アスベル | 確か、その光魔を呼ぶ石はキールの研究室で調べるはずじゃなかったのか ? |
パスカル | 一応、こっちでも出来る限りの解析はしたよ ?けどケリュケイオンの方が解析装置の種類も多いしさ。 |
パスカル | だからミリーナとも相談した結果、こっちに預けてチャッチャカ終わらせちゃおってことになったんだ !急いで持って来たんだよ~。 |
シェリア | 急いでいたのはわかるけど、ここには陛下が休んでらっしゃるのよ ?もう少し静かにしないと。 |
パスカル | ごめんごめん。でもこの魔鏡結晶の波長と、それを使ってたリチャー……じゃなくてチーグルの波長を調べれば、二人の分離の手がかりになるかなって。 |
パスカル | いつまでもリチャードを、こんな風にしておけないもんね。 |
シェリア | そう……。急いでいたのはリチャード陛下の為なのね。 |
シェリア | でも、それとこれとは話が別 ! |
パスカル | ひえ~~~っ !シェリアが怖いよ~ソフィ~ ! |
ソフィ | パスカル、静かにしないと―― |
ソフィ | あれ ? アスベル、ミリーナから通信が来てるよ。 |
ミリーナ | アスベルさん、緊急事態よ。今から説明するから落ち着いて聞いて。 |
アスベル | 何があったんだ ! ? |
ミリーナ | ラムダが目を覚ましたわ。 |
全員 | ラムダ ! ? |
ミリーナ | 覚醒直後に暴走状態になって、帝国を脱走したって報告が入ったの。 |
アスベル | それじゃラムダはルキウスを操っているのか ! ? |
ミリーナ | ……いいえ。今のラムダはファントムの体に乗り移っているわ。 |
シェリア | ファントムですって ?みんなで倒したはずでしょ ! ? |
ミリーナ | ファントム自身の意識はほとんどないようだけど、……死んではいなかったの。 |
フィリップ | リーパ……。 |
ミリーナ | シェリアたちが疑問に思うのはわかるわ。でも今は詳しい説明はできない。勝手なことを言ってごめんなさい。 |
アスベル | 何かあるんだろう。わかった。無理に話さなくていい。俺たちはすぐにラムダを追う。 |
ミリーナ | ありがとう、アスベルさん。 |
ミリーナ | ラムダは、この世界に復讐すると言い残して出ていったそうよ。今はセールンドに向かってる。 |
ヒューバート | なぜラムダはセールンドへ ? |
ミリーナ | イクスのいる、巨大魔鏡結晶が目的だと思う。多分ラムダは、死の砂嵐を呼びこむ気なのよ。 |
シェリア | 死の砂嵐って、イクスが命がけで封じてるのよね ?それを解放したらこの世界は…… ! |
ソフィ | そんなことさせない。絶対に止める ! |
ミリーナ | お願い。私たちもすぐに追いかけるわ。 |
アスベル | フィリップさん ! ケリュケイオンでセールンドへ先回りさせてもらえますか ? |
フィリップ | もちろんだ。ブリッジに行こう。すぐに進路を変更する。 |
ローエン | 失礼します。リチャードさんのお薬をお持ちしました。 |
フィリップ | 丁度よかった。ローエンさん、リチャードを見ていてもらえますか ? |
ローエン | 承知しました。お任せください。 |
フィリップ | それとこの荷物も頼みます。魔鏡結晶ですので、扱いには気をつけてください。 |
ローエン | 確かにお預かりしました。……どうやら何かあったようですね。くれぐれもご用心を。 |
ローエン | さて、何事もなければよいのですが……。 |
リチャード | ……。 |
ローエン | (何か……気配が…… ? ) |
リチャード | …………。 |
ローエン | リチャードさん…… ! ? |
キャラクター | 8話【11-12 セールンドへ続く街道2】 |
アスガルド兵A | こんなはずじゃ……。やめろ、来るな…… ! |
ラムダ | 来るなだと ? 先程までは我を捕らえにきたとほざいていたようだが。 |
アスガルド兵B | くそっ、総員、突撃―― |
アスベル | 今の音―― ! |
シェリア | この先よ ! |
ヒューバート | あれがラムダの仕業なら、まだ魔鏡結晶にはたどり着いてはいないはずです !急ぎましょう ! |
パスカル | うわ、何これ !この倒れてる人たち、みんなアスガルド兵じゃない ! ? |
シェリア | ……だめだわ。もう、息がない。こっちの人も……。 |
ヒューバート | 全滅ですか……。 |
ソフィ | ―― ! みんな気を付けて、あそこにいる ! |
ファントム | また追っ手か。何度でも打ちのめしてくれる ! |
アスベル | ファントム……いやラムダ ! ! |
ソフィ | これ以上は、進ませない。 |
ラムダ | 貴様は……。……そうか。貴様たちも具現化されていたか。この世界でも我の邪魔をするというのだな。 |
ラムダ | 何度我の前に立ちふさがれば気が済む !プロトス1 ! |
ソフィ | ―― ! |
アスベル | 待てソフィ !……お前、ファントムか ? それともラムダなのか ? |
ラムダ | ……リチャードと違い、この男の自我はほとんどない。残ったのは生きる意思のみ。ゆえに我は我だ。 |
パスカル | やっぱり、普通に話できるんだ !ほらね、あの時あたしが言ったとおりだったでしょ ?ラムダとは意思の疎通が可能かもって ! |
ファントム | 可能かもだと ?フォドラでも、エフィネアでも、この世界でも我の声に耳を傾けなかったのは貴様たち人間の方だ ! |
アスベル | 聞いてくれラムダ、俺はお前と話がしたい ! |
ラムダ | その言葉を信じられると思うか ?異なる世界に来てさえ、人間という生き物は変わらなかったのだぞ。 |
ラムダ | ひとたび異端と断じれば非道な行いさえ辞さぬ。我欲のために他者を利用し、必要なければ排除する。争い、憎しみ、平和を望むといいながらまた争う。 |
ラムダ | リチャードは我と同じ思いを持つ者だった。そのリチャードでさえ、奴らは我から奪った ! |
ファントム | ……許せるわけがない ! |
アスベル | ――うっ ! なんだ……この力はっ ! |
ヒューバート | 体が……っ、押しつぶされそうです ! |
ソフィ | ラムダ~~~~ッ ! ! |
ラムダ | ――っ ! |
ソフィ | みんな、大丈夫 ! ? |
シェリア | っ、はあ……はあ……、ソフィのおかげで、なんとか……ね。 |
パスカル | 今の……原素(エレス) ? この世界ならアニマ ?とにかくすごいエネルギーだよ。ラムダとファントムの力が混ざってるのかも……。 |
アスベル | それでも、俺たちはラムダを止めなきゃいけない ! |
ラムダ | やってみるがいい。我は必ず目的を果たす。 |
ファントム | 人を滅ぼし、我は生きる ! ! |
ソフィ | させない……。この世界も、みんなも、絶対に守る ! |
キャラクター | 9話【11-13 セールンドへ続く街道3】 |
アスベル | 倒した……のか ? |
ラムダ | この体滅ぼそうとも……我に勝つことなど……出来はしない……。 |
ラムダ | 我は必ず……我の望む世界……を……「私」が望む世界を……。 |
ラムダ | ……フィル。 |
アスベル | ―― ! ? ラムダ、お前…… ? |
ラムダ | この男……自我が…… ! ?……ミリーナ……ゲフィ……オン……。 |
ヒューバート | まさか、ファントムの意識が覚醒しつつあるというのですか ! ? |
パスカル | 魔物を生み出すラムダの力が、ファントムの回復力や生命力に変換されちゃってる……とか ? |
シェリア | それって、二人がお互いの力を奪いあってるってこと ? |
パスカル | わかんない。今わかるのは、どっちが主導権をとってもこのままじゃまずいってことだけ ! |
アスベル | ラムダ、ファントムから離れろ ! |
ラムダ | 貴様らの……言葉など……。この程度、支配下に…… ! イ……クス…… !ぐああああああああっ ! |
アスベル | くそっ、どうすれば…… ! |
ソフィ | ……アスベル、シェリア、ヒューバート、パスカル。今までありがとう。 |
全員 | ソフィ ! ? |
ソフィ | ファントムから離れてもラムダは消えない。長い眠りを経た後、再び力を取り戻す。 |
ソフィ | ファントムだって、ラムダの力を取り入れてたとしたら、どんな脅威になるかわからない。 |
ソフィ | だから、ファントムごとわたしが消さなきゃ。……約束、守れなくてごめんね。 |
アスベル | 駄目だ ! ソフィもリチャードも犠牲にはしないと言っただろう ! |
アスベル | ラムダ、お前もだ ! 生きるんじゃないのか ! ? |
ラムダ | 貴様などに、言われずとも…… ! ! |
シェリア | なに、あの黒い霧……。ファントムの体から湧き上がってる ? |
アスベル | あれが……ラムダなのか ? |
ソフィ | そう。でも、ファントムの体から離れきれてない。もしかして、わたしたちと戦って弱ってるから…… ? |
アスベル | それなら、他に寄生する体があれば引っ張り出せるかもしれないよな。 |
ヒューバート | 何を言ってるんですか ! ? |
アスベル | ――こっちへ来い、ラムダ ! |
ラムダ | ……我の器になろうというのか ?この得体の知れない鏡士ならばともかく、貴様の自我程度ならば、簡単にねじ伏せるぞ。 |
シェリア | アスベル、陛下のようになったらどうするの ! ? |
アスベル | 乗っ取られるつもりはない。それに俺も確かめたいんだ。 |
アスベル | ……ラムダ、俺たちは元の世界であるものを見た。酷い実験にさらされ続けた中で、お前に唯一「生きろ」と言ってくれた人がいたな。 |
ラムダ | 貴様、何を……。 |
アスベル | 俺はその人の言葉を信じて、この先の可能性にかける。お前が来ないなら、俺が迎えに行くぞ ! |
ソフィ | アスベル ! ? |
ヒューバート | やめて下さい ! 兄さん ! |
パスカル | ラムダに直接触れるなんて…… ! |
シェリア | アスベル…… ! 嫌ああああああっ ! ! |
アスベル | ここは……どこだ ? |
ラムダ | お前でもなく、我でもない。我とお前が共有する領域。 |
アスベル | ラムダ…… ! |
ラムダ | 我はお前をこの領域から排除して、お前の領域を圧迫する。最終的にお前の肉体を我が支配下に置く。 |
ラムダ | お前ごときが、二度とコーネルの言葉を口にしないように。 |
アスベル | やっぱりあれは、お前の心だったんだな。 |
ラムダ | ……他者の不幸な過去は、さぞ楽しかったことだろう。……満足したか ? |
アスベル | そんなわけないだろう。 |
ラムダ | ……だがな、今はお前も我と同じだ。身勝手な鏡士に勝手に具現化され、二度と己の世界に戻ることの叶わぬ、哀れな異端者だ。 |
ラムダ | 憎いだろう ? 簡単に納得などできたはずがない。 |
アスベル | 確かに、一人だったらこの状況には耐えられなかったかもしれない。だけど、俺には仲間がいたからな。 |
アスベル | それに、鏡士のイクスもミリーナも精一杯その責任をとろうとしてくれている。 |
アスベル | お前はリチャードから引き離され、帝国に実験材料として扱われていた。だから、それを知ることができなかっただけだ。 |
ラムダ | 鏡士とて同じだ。全ては利用するための方便だとしたらどうする。人間など、いくらでも嘘はつく。 |
アスベル | そんな人間だけじゃないことを、お前はよく知ってるはずだろう。 |
ラムダ | ……。 |
アスベル | ラムダ、俺と一緒に生きよう。そして確かめればいい。 |
アスベル | 人間という存在や、なぜコーネルさんがお前に生きろといったのか、その答えを一緒に探そう。この世界を見てみるんだ。 |
ラムダ | もの好きな……。そんなことをしている間に、我はお前を乗っ取るぞ。 |
アスベル | 悪いが、簡単にそうなるつもりはないさ。こっちも必死だ。だから―― |
アスベル | さあ、手を取れ。 |
ラムダ | ……断る。 |
アスベル | だったら、「うん」というまで、とことん付き合う。 |
ラムダ | 要領の悪い奴だ。具現化されて愚かさが増したか ? |
アスベル | そうかもしれない。元の世界ではもっと上手くお前の手を取れているかもしれないな。だけど、今はこれが精一杯なんだ。 |
ラムダ | ……ならば話はここまでだ。お前の手は取らぬ。だが、限界が近い……。今はここで……しばし眠る。 |
アスベル | わかった。俺は待つよ、お前が目覚めるのを。ラムダ――……。 |
アスベル | う……。 |
三人 | アスベル ! ! |
ヒューバート | 良かった、気がつきましたか ! |
ソフィ | アスベル、片目だけ色が違う…… ? |
シェリア | 大丈夫 ? 体はなんともない ! ? |
アスベル | ああ。みんな……、今、ラムダと……。 |
ヒューバート | 兄さんとラムダの話は聞こえていました。ソフィの力のせいかもしれません。 |
ソフィ | ラムダ、すごく静かになってるよ。すごいね、アスベル。 |
アスベル | 分かり合うとまではいかなかったけどな。でも、俺は諦めない。必ず―― |
パスカル | あれ ? アスベル、なんかピカピカしてない ! ? |
アスベル | 浄玻璃鏡が光ってる…… ! ? |
キャラクター | 10話【11-14 ひとけのない街道1】 |
コーキス | マスター、ファントムはマスターの所まで辿りついてないよな ! ? |
イクス | 『大丈夫だ。アスベルたちはこの草原をもっと進んだ先にいると思う。ただ詳しい様子まではわからない』 |
コーキス | アスベル様たち、無事かな……。魔鏡通信ができればいいのに。 |
ミリーナ | 今は我慢よ。もしもラムダと戦っている最中なら邪魔することになる。小さな隙が、命とりになるかもしれないもの。 |
ルドガー | そんな危険な奴を追うのに本当に俺たちの他には、知らせなくていいのか ? |
ミリーナ | ……ええ。 |
ユリウス | もしかして、俺やルドガーを選んだのは今現在、帝国に近寄れない人物だから、かな ? |
ミリーナ | ……さすがですね。 |
ユリウス | やはり情報漏えいを恐れてか。それなら納得だ。 |
ミリーナ | なるべく今の作戦は、明確にしないでおきたいんです。ユリウスさんとルドガーさんには協力をお願いします。 |
ルドガー | それはわかったけど……、なあミリーナ、あっちで何か光ってないか ? |
ミリーナ | ―― !あの輝き、まさか誰かの浄玻璃鏡が発動してる…… ? |
ルドガー | アスベルたちが戦っているのかもしれない。急ごう ! |
ミリーナ | アスベルさん、みんな ! |
アスベル | ミリーナ、いい所に来てくれたな ! |
コーキス | あそこで倒れてるの……ファントムだ !いや、それともラムダかな ? |
ユリウス | どちらにしろアスベルたちが倒したのか。念のため、俺たちは近寄らない方がいいな。 |
セシリィ | やっぱり、あれは浄玻璃鏡の光だったのね ! |
ミリーナ | セシリィ、バルドさん !二人とも、大きな怪我はないようね。吹き飛ばされたって聞いて心配したわ。 |
バルド | ええ。フレンさんの鍛えあげられた体には感謝するばかりです。 |
セシリィ | 私は、バルドさんがかばってくれたから。それでアスベルさん。ラムダとファントムはどうなったの ? |
アスベル | ラムダは今、俺の中で眠ってる。ファントムは―― |
ミリーナ | ……そう。それで、ラムダはこのままで大丈夫なの ? |
ソフィ | ……ラムダ、今までみたいな反応じゃないの。今は消す必要がないラムダ。でも、ずっとこのままかはわからない。 |
コーキス | それじゃいつか、また暴れ出すかもしれないのか。 |
アスベル | ……あいつはまだ、俺を信用したわけじゃない。差し出した手は握ってもらえなかったからな。 |
ミリーナ | でもラムダがアスベルさんに入った後で、浄玻璃鏡が光ったのよね ? |
アスベル | ああ。どういうことだろう。 |
セシリィ | ……やっぱり、可能性かな。もしかしたら未来、もしくは元の世界で起こりえることが、浄玻璃鏡を反応させたんだと思う。 |
パスカル | あ~なるほどね。ラムダがアスベルを好きになっちゃうってことか。 |
シェリア | す、好きって、どういうこと ! ? |
パスカル | だから~、ラムダがアスベルと仲良くなって力を貸してくれるかもってことだよ。でしょ ? |
セシリィ | ええ。アスベルさんの可能性の中に、『ラムダの力を使って戦う』という未来が存在してるのね。 |
ヒューバート | そんなことが……、信じられません。 |
パスカル | 何言ってんの。可能性なんてその人次第で無限だよ ?明日のことなんてわかんないんだから。 |
シェリア | そうね。いつかパスカルが、お風呂が面倒だなんて言わなくなるかもしれないし。 |
パスカル | それはどうかな~。そんなのより、弟くんと一緒にお風呂に入る方が可能性は高いかも ? |
ヒューバート | そっ、そんなこと、あるわけがないでしょう ! |
セシリィ | とにかく、アスベルさんは、ラムダに関する力が使えるはずよ。 |
ミリーナ | オーバーレイは一時的なものだけど、本当にラムダとわかりあった時には、もっとすごいことになりそうね。 |
ソフィ | そうすれば、ずっと消さなくていいラムダになる ? |
アスベル | ああ。いつか必ず―― |
イクス | 『コーキス ! 大量の光魔がここへ押し寄せてる ! 』 |
コーキス | なんだって ! ?みんな、すごい量の光魔が来るって ! |
ミリーナ | いつの間に集まったの ! ? そんな気配なかったのに ! |
イクス | 『突然、湧いて出て来たんだ。ほら、もう来る ! 』 |
アスベル | みんな、構えろ ! |
シェリア | アスベル、あなたはさっきまで倒れてたのよ。無茶しないで ! |
アスベル | 大丈夫。それに俺は確かめなくちゃならないんだ。ラムダの力を。 |
アスベル | (この力が前借りなのはわかってる。だが、この可能性をいつか本物にするため、お前を理解するために――) |
アスベル | 行こう、ラムダ ! ! |
キャラクター | 11話【11-14 ひとけのない街道1】 |
アスベル | これが、ラムダの力なのか。 |
ミリーナ | すごいわね。あれだけ大量の光魔だったからもっと手こずるかと思ったわ。 |
ルドガー | あの光魔……。 |
ユリウス | お前も気が付いたか。湧くように押し寄せるあの様子、チーグルがエルをさらった状況と似ていた。 |
シェリア | 待って下さい。陛下はケリュケイオンにいるんですよ ?それにまだ眠ったままです。 |
ミリーナ | ……念のためフィルに連絡をとるわ。リチャードさんの様子を確認してもらいましょう。 |
セシリィ | それなら今のうちにバルドさんを移してもいいかしら。 |
バルド | ラムダの時のように、何が起こるかわかりません。早い方がいいと思います。 |
ミリーナ | そうね。コーキス、周囲を警戒してもらえる ? |
コーキス | わかりました。絶対に二人の邪魔はさせません ! |
パスカル | なになに ? 何が始まるの ? |
ヒューバート | ぼくたちは下がっていましょう。そうじゃなくても、あなたは何かと騒がしいんですから。 |
セシリィ | ファントムの状態は問題ないし、ラムダの影響もない。アスベルさんがラムダの全てを引き受けてくれたおかげね。 |
バルド | 強いですね、彼は。私は寄生するというラムダの特性を知っていましたがあの時は対処のしようがなかった。 |
セシリィ | 仕方ありませんよ。それにあれは、私がバルドさんを移すために行った、心核解放作業の影響です。 |
セシリィ | 解放されたファントムの心を、ラムダが読み取ってしまったようですから。 |
バルド | 生きるという意思、ですね。 |
セシリィ | ええ。――さあ、準備ができました。バルドさん、始めてもいいですか ? |
バルド | はい。お願いします。 |
ソフィ | 何の術かな、まぶしい…… ! |
パスカル | ね、今の見た ! ? バルドの体からファントムの中に光が移動したよ ! |
ヒューバート | ええ。どことなく、ラムダの寄生を思わせる光景ですね。 |
アスベル | まさか…… ! |
セシリィ | ……終わったわ。バルドさん、どう ? |
バルド | ……はい。私の方は問題ないようです。フレンさんは ? |
ヒューバート | ファントムが起きあがりましたよ ! ? |
アスベル | いや、あれはきっと…… ! |
セシリィ | ……フレンさん ? |
フレン | …………。 |
バルド | フレンさん ? そんなまさか……フレンさん ! |
フレン | 大丈夫、起きてるよ。 |
バルド | 良かった……。あなたを失うことだけは絶対にできませんから。 |
フレン | 心配をかけたね。けど大丈夫。僕の頑丈さは君が身をもって知った通りだ。 |
バルド | ええ。随分と助けられました。 |
フレン | ……バルド、こうして向かい合って話すのはなんだか新鮮だよ。 |
バルド | ……ええ。 |
コーキス | よかった。ミリーナ様、セシリィたち成功しましたよ !……ミリーナ様、どうしたんですか ? |
ミリーナ | 変なの……。ケリュケイオンに通信が繋がらない。さっきから何度もためしているのに……。 |
イクス | 『コーキス、みんなを連れて隠れろ ! 今すぐに ! 』 |
コーキス | え ! ? えっと、みんなすぐに隠れろ ! |
全員 | ! ? |
ミリーナ | もしかして、イクスの警告 ? |
コーキス | はい。すごく焦ってたみたいです。……あれ ? 向こうから来るのって…… ? |
アスベル | リチャード ! ? |
コーキス | なんでこんな所に、すぐに捕まえないと ! |
バルド | 動かないで下さい。ここは―― |
フレン | 僕たちに任せてくれ。行こう、セシリィ。 |
セシリィ | はい ! |
フレン | チーグル……無事だったんだな。 |
チーグル | バルド ! シドニーまで。お前たちもファントムを追ってきたのか。 |
フレン | ……なぜ、それを知っているんだ ? |
チーグル | フン、ただ捕まっていたわけじゃないさ。奴ら、この体の心核を調査するために半覚醒状態にしたんだ。その時に、術で鎮静剤の分解を速めた。 |
チーグル | おかげで、ラムダを宿したファントムのことも知れたよ。僕が起きているとも知らずにベラベラとよくしゃべってくれた。 |
チーグル | ところで、僕が呼んだ光魔はどうした。それにラムダは ? |
フレン | ……光魔は黒衣の鏡士たちが倒した。ラムダは、彼らの妨害もあって……。 |
チーグル | チッ、何をしてるんだ !マクスウェルの輸送の時といい、最近のお前は失態が多いんじゃないか ? |
フレン | 済まない。確かにあの指示は私のミスだ。結果、助けにもいけず、君を一人で救世軍から脱出させることになってしまった。 |
セシリィ | バルドさんは、私と一緒にチーグルさんを助けるために力を尽くしていました。だから責めないで下さい……。 |
チーグル | ……まあ、いいさ。おかげで救世軍を壊滅させることもできたんだ。 |
フレン | 壊滅……だって ? いったい何を ? |
チーグル | 奴らの航行データをいじってやったんだ。『魔の空域』に飛び込むように設定してある。恐らくもう、戻ってこれないはずさ。くっはははは ! |
セシリィ | ……な……なんてこと―― |
フレン | ――さ……すがだね。捕らわれの身で、そこまでやってのけるとは。 |
チーグル | ああ、おかげでクタクタだよ。 |
フレン | なら、早く帝国へ戻ろう。少し休んだ方がいい。――シドニーも……いいね ? |
セシリィ | は、はい……。 |
コーキス | フレン様、行っちまった……。 |
バルド | それでいいんです。フレンさんが戻るのは予定どおりですから。 |
コーキス | そうだ、ミリーナ様、結局ケリュケイオンはどうなってるんですか ? |
ミリーナ | 通信が繋がらなかったのは魔の空域のせいなのね……。どうしよう……。どうやったらみんなを助けられるのかしら……。 |
コーキス | ミリーナ様……。 |
キャラクター | 12話【11-15 ひとけのない街道2】 |
アスベル | リチャード……。せっかく助けだせたのに、また振り出しか。 |
ヒューバート | 陛下の居場所がわかっただけでも良しとしましょう。それに今は救世軍が心配です。 |
ソフィ | 魔の空域ってなに ? 怖い所なの ? |
ミリーナ | ……一度入ってしまったら、永遠に迷い続ける場所だと言われているわ。 |
ミリーナ | ガロウズさんが言っていたの。空を飛ぶときは絶対に避ける空域なんだって。 |
ソフィ | 帰って来た人はいないの ? |
ミリーナ | ……いないそうよ。 |
ミリーナ | そもそも、空を飛べる乗り物は一般的ではないから魔の空域のこともあまりよくわかっていないみたいで……。 |
シェリア | ミリーナ、大丈夫 ?あなた一人じゃないんだからみんなで考えましょう。ね ? |
ミリーナ | ……ありがとう、シェリア。 |
コーキス | (ミリーナ様、珍しくうろたえてる……) |
イクス | 『俺のことで大変な時に、ミリーナを影から支えてたのはフィルだからさ。動揺するのも仕方ないよ』 |
バルド | ……救世軍のことは確かに心配です。ですが、ここで立ち止まるわけには行きません。 |
ミリーナ | バルドさん……。 |
パスカル | なんだか変な感じだね。ファントムで、ラムダで、今はバルドだなんて。 |
バルド | そうですね。こんなことは異常だ。リビングドール計画は早く止めなければならない。 |
バルド | ミリーナさん、冷たいことを言うようですが、すぐにでも次の行動に移さないといけません。わかってくれますね。 |
ミリーナ | ……そうね。アスベルさんたちにお願いがあるの。大変だとは思うけど、アジトに帰って全員の所在を確認してもらえる ? |
ミリーナ | もしかしたら、こちらからケリュケイオンに行ったままの人がいるかもしれないから。 |
アスベル | わかった。みんな行こう ! |
ユリウス | 君たちの様子だと、この計画は、随分と切羽詰まってるようだな。 |
バルド | はい。もう時間がありません。帝国はさらなる鏡映点の具現化と、リビングドールの作成を行うために、死の砂嵐を利用しようとしています。 |
バルド | 救世軍の助けを得られないのは痛手ですが、早急にイクスさんを助け出さなければなりません。 |
ミリーナ | わかっているわ。……でも、ケリュケイオンを放っておくことはできない。何か手は打っておかないと……。 |
ルドガー | ……わかった。ミリーナ、ケリュケイオンの調査は俺たちに任せてくれないか ? |
ユリウス | いい判断だ、ルドガー。どうせ俺たちは帝国には近づけない。だったら救世軍捜索に当たった方がいいだろう。 |
ミリーナ | ルドガーさん、ユリウスさん……。ありがとうございます。よろしくお願いします。 |
バルド | お二人だけで大丈夫ですか ? |
ミリーナ | ユーリさんたちは、この計画を知っています。カロル調査室と組んで捜索してください。 |
ルドガー | ああ、任せてくれ ! |
ミリーナ | それからバルドさん、イクスを助け出す手順を教えてもらえるかしら。この間、アイディアがあるとだけは聞いたけど……。 |
バルド | イクスさんがいなくなることで、死の砂嵐が外に漏れだすのを、どう食い止めるかという話でしたね。 |
バルド | 簡単に言うと、私とセシリィがビフレスト式の封印強化術を知っているので、イクスさんの救出後、それを発動させるつもりです。 |
バルド | 詳しい話は、あなたたちのアジトでしましょう。準備が整い次第、すぐに作戦を開始できるように。 |
ミリーナ | わかったわ。行きましょう、みんな。 |
リヒター | バルド、チーグルを救出してきたそうだな。 |
チーグル | リヒター、何か誤解があるようだけど僕は自分で脱出してきたんだ。バルドとは偶然、行き会っただけだよ。そうだろう ? バルド。 |
フレン | ああ、その通りだ。それに私はラムダも取り逃がしてしまった。メルクリア様のお叱りを受けなくては。 |
リヒター | そのラムダの件で、ローゲとジュニアが謹慎をくらったぞ。 |
フレン | なぜ ?ローゲはともかく、ジュニアは関係ないじゃないか。 |
リヒター | 俺に言われても困る。不満なら自分で上にかけあえ。 |
リヒター | それとチーグル、メルクリアが呼んでいる。一緒に来い。 |
チーグル | 相変わらずぶっきらぼうだな。もっと愛想よく誘ってくれないか ?君の可愛いアステル博士のようにさ。 |
リヒター | お前に振りまく愛想などない。アステルのことも構わないでもらおうか。 |
チーグル | わかったよ。帰って早々、面倒に巻き込まれたくないからね。じゃあね。バルド。 |
フレン | ああ。お疲れ様、チーグル。 |
リヒター | …………。 |
フレン | どうしたリヒター、まだ何かあるのかい ? |
リヒター | ……お前……。 |
リヒター | ――いや、何でもない。セシリィを早く休ませてやれ。顔色が悪い。 |
セシリィ | あ、ありがとうございます……。 |
フレン | ………。大丈夫かい ? セシリィ。 |
セシリィ | え、ええ。ごめんなさい、少し気分が悪くて。 |
フレン | ケリュケイオンのことだね。君の恋人だった人が乗ってるんだろう ? |
セシリィ | ………それだけじゃありません。鏡映点の人や、大勢の救世軍が乗ってます。その人たちが……みんな……。 |
フレン | バルドやミリーナたちを信じよう。それに、あっちには僕の仲間もいる。あいつならきっと――……。 |
フレン | ……そこにいるんだな ? |
セシリィ | フレンさん ? |
? ? ? | ああ。 |
セシリィ | だ……誰 ! ? |
フレン | 大丈夫、落ち着いて。――ヴィクトル。ミラは ? |
ヴィクトル | 安心しろ。もう助け出してある。 |
フレン | わかった。それじゃ、セシリィのことを頼む。 |
セシリィ | フレンさん、どういうことですか…… ?この人は…… ? |
| to be continued |
キャラクター | 1話【12-1 ひとけのない街道】 |
ナーザ | (……これで、できることはした。あとは――) |
? ? ? | ナーザ将軍か。驚いたな。イ・ラプセル城に立ち寄るとは珍しい。 |
ナーザ | ! ? |
? ? ? | ああ……。この姿に戻ってからは、初めての顔合わせかな。 |
ナーザ | ……デミトリアス帝、か。アニマ汚染の治療はマクスウェルでもできなかったと聞いていたがどうやって治療を施した ? |
デミトリアス | アプローチを変えることにした。マクスウェルの力と共に、クロノスの力を加えることでアニマ汚染された細胞の時間を逆行させたんだよ。 |
ナーザ | 精霊を殺し、利用してまで生にしがみつくか。 |
デミトリアス | その通り。私は生きる。生きてこの世界を存続させる。真実を知った以上セールンドの過ちを正さねばならない。 |
ナーザ | 皮肉なものだな。祖国ビフレストが滅びてから意見の一致を見るとは……。 |
ナーザ | この世界がダーナの揺り籠であることは魔鏡戦争の前から知らせていたことだ。鏡精の危険についてもな。 |
デミトリアス | ……しかし父――先代のセールンド王も私もダーナの揺り籠など、単なるおとぎ話としかとらえていなかった。 |
デミトリアス | セールンドは鏡士と鏡精の力に大きく依存していたからね。オーデンセの鏡士を見殺しにすることはできなかった。 |
ナーザ | 【死の砂嵐】こそが【フィンブルヴェトル】だと知ってようやく考えを改めたという訳か。 |
デミトリアス | そう……。鏡士がもたらす死の季節【フィンブルヴェトル】。よもやセールンドが引き起こすとは思いもしなかった。 |
ナーザ | ……笑えないな。我らもダーナの予言の全てを理解していた訳ではない。 |
ナーザ | ただ伝承を守ることが、ダーナに仕える祭司の末裔である我ら皇族の使命だと考えていただけだ。 |
デミトリアス | しかしナーザ将軍は私の計画には反発しておいでのようだ。 |
ナーザ | そうだな。世界を救えるなら過程はどうでもいいのかも知れない。だが貴殿のやり方は好きにはなれない。 |
ナーザ | メルクリアを巻き込んだことも、な。 |
デミトリアス | その批判は甘んじて受けることとしよう。 |
デミトリアス | ……ところでなぜこの城に ? |
ナーザ | ――別れを告げに。貴殿が精霊の封印地へ向かう前に。 |
デミトリアス | ゲフィオン――いや、ミリーナと鏡精を殺すのか。 |
ナーザ | 我が一族に与えられた使命は、鏡精を生み出した鏡士への粛正だ。鏡士と鏡精を消滅させれば予言は覆される。ダーナもそれを望んでいるだろう。 |
ナーザ | それとも邪魔立てするつもりか ? |
デミトリアス | ――ナーザ……いや、ウォーデン殿。私はあなたが事を成し得なかったときの安全弁と心得ている。 |
デミトリアス | 騎士として前線で指揮を執る貴殿を私は敵ながら尊敬していた。 |
デミトリアス | あの当時、私は既に研究によるアニマ汚染で起き上がることもままならなかったからね。 |
ナーザ | ……デミトリアス王子は文武両道の智者だとは俺も聞き及んでいた。同じ年に生まれた王子だからな。噂は気になったものだ。 |
ナーザ | 俺の邪魔をしないというなら結構だが俺にはオーデンセの鏡士を思いやる理由がない。 |
ナーザ | 黒衣の鏡士に真実を告げるかも知れないがそれも構わないのか。 |
デミトリアス | 真実を知れば、苦しむのはミリーナだ。できればこれ以上苦しませたくはない。 |
デミトリアス | 彼女は――一人目の彼女はセールンドのために尽くしてくれたからね。 |
ナーザ | ……真実を知る方が本人のためだと思うがな。 |
デミトリアス | ウォーデン殿。 |
ナーザ | ……ナーザと呼べ。ウォーデンは死んだ。 |
デミトリアス | ナーザ将軍。――ご武運お祈り申し上げる。 |
ナーザ | そちらこそ。 |
キャラクター | 2話【12-1 ひとけのない街道】 |
コーキス | ……ミリーナ様、少し休んだ方がいいと思います。 |
ミリーナ | でも、フィルたちのことが心配で……。 |
ミリーナ | 魔鏡通信も繋がらないし、コーキスが鏡士の神殿からフィルの魔鏡を追いかけようとしても途中で痕跡が消えちゃうみたいだし……。 |
コーキス | すみません……。俺の力不足です。 |
ミリーナ | 違うわ。コーキスのせいじゃない。きっと魔の空域というのがそれだけ特殊な場所なのよ……。 |
イクス | 『コーキス。ミリーナに伝えてくれ。いつものミリーナに戻れって。やたらと心配するのは俺のほうだった筈だろって』 |
イクス | 『救世軍はルドガーさんたちが捜してくれてるんだろ。仲間を信じるんだってこと俺たちは学んできたんだからさ』 |
コーキス | ミリーナ様。マスターが……えっと……。いつものミリーナ様に戻れって。 |
コーキス | んーと、心配性なのはマスターだけで十分でルドガー様たちが捜してるから、仲間を信じろって。大体そんな感じのことを伝えてくれって言ってます。 |
カーリャ | コーキス。もしかしてイクスさまの言葉を適当に省略して伝えてるんじゃないですか ? |
コーキス | だ、だって、マスターの言葉長いんだぜ ! ?ちょいちょい難しいこと言うし ! |
ミリーナ | ………………ふふっ。 |
二人 | ミリーナさま…… ? |
ミリーナ | ごめんなさい、二人とも。そうよね……。私が心配していても状況は変わらないんだもの。 |
ミリーナ | バルドさんがイクス救出の準備を済ませるまで私は私で自分にできることをしないとね。 |
イクス | 『それが、今は休むことなんじゃ――』 |
イクス | 『――っっ ! ? 』 |
コーキス | マスター ? どうしたんだ ? |
イクス | 『ぐぅ…………なん……だ…… ?痛みが……どんどん強く…… ! ? 』 |
コーキス | ―――― ! ? |
コーキス | う、うぅぅぅぅぅっ ! ?いてぇ……。左目の奥がっ ! ?裂けるみたいに……っ ! |
カーリャ | コーキス ! ? しっかり ! |
コーキス | これ……。確か、マスターの痛みが……俺にまでリンクしてるんだったよな……。 |
コーキス | マスター ! ? マスターは……ぐぅ……。 |
バルド | お待たせしました――どうしたんです ? |
ミリーナ | コーキスがイクスの痛みに反応して苦しんでいるんです ! |
バルド | リンクはこちらでは断ち切れない。せめてコーキスの痛覚を抑えられれば……。 |
ジェイド | 痛みの神経経路をブロックすればいいのですね。目の奥……群発頭痛のようなものか。――失礼。 |
カーリャ | コーキスの首を絞めてどうするんですかっ ! ? |
ルカ | 待って、カーリャ。違うよ。多分ジェイドさんは星状神経節ブロックみたいなことをしようとしているんじゃないかな。 |
カーリャ | ふぁ ? それは一体…… ? |
コーキス | うわぁっ ! ? |
ミリーナ | コーキス ! ? |
カーリャ | た、た、倒れちゃいましたけど大丈夫ですか ! ? |
ジェイド | 気絶しているだけです。ジュードがケリュケイオンに行ったままで、医療行為がまともにできる人間がいませんからね。乱暴な手段を執らせて頂きました。 |
ジェイド | 譜術でコーキスの交感神経節の一部をマヒさせました。薬物を使う処置と違って強制的な遮断を行いましたから副作用があるかも知れませんが、痛みは治まります。 |
ジェイド | ルカ、後は頼みます。あなたも医者の卵でしたよね。 |
ルカ | わ、わかりました。ジュードみたいに勉強はしてないけど……。 |
リフィル | 手伝うわ。コーキスをあちらのソファーに運びましょう。 |
ミリーナ | コーキス……。 |
バルド | コーキスがあそこまで痛みに苦しんでいると言うことはイクスさんはもっとひどい痛みに襲われている筈です。 |
ミリーナ | ! ? |
リオン | コーキスは時々左目の奥が痛むと言っていたがそれはイクスとリンクして、イクスの痛みを感じ取っているからだったな。 |
リオン | どうしてイクスはそんな痛みに襲われているんだ ? |
バルド | どういった仕組みかは私も把握していませんが虚無では痛覚が過敏に反応するようです。 |
リオン | それはお前の体験談か。 |
バルド | ……ええ。私はカレイドスコープによってアニマを抜かれ、アニムス粒子に分解されました。アニムス粒子になっても感覚は残っています。 |
バルド | 真っ暗な闇の中で、同じようにアニムス粒子となった人々の怨嗟の声を聞き続け、飢餓感と激しい痛みに苛まれながら、消えることもできず漂っている。 |
バルド | アニムス粒子と化した人々は虚無で皆同じ体験をしています。恐らく、今も。 |
ミリーナ | ……イクスもアニムス粒子たちと同じ体験をしている ? |
バルド | ええ。彼はアニマを有して身体を保っていますから私たちとはまた違う感じ方かも知れませんが……。魔鏡結晶の中は虚無と繋がっていますから。 |
リオン | 地獄だな。 |
ミリーナ | ………………。 |
ルカ | 何とかしてあげられないのかな。イクスだけじゃなくてアニムス粒子になってしまった人たちも可哀想だよ。 |
バルド | ……少なくとも、今は何もできません。ただコーキスにここまで痛みが伝わるということはイクスさんには耐えがたい痛みが伝わっている筈です。 |
バルド | 原因は……恐らく帝国が死の砂嵐にアクセスしているからでしょう。 |
バルド | 私がフレンさんの体にリビングドールとして移された時も、耐えがたい痛みに襲われました。 |
リオン | 帝国が外部から、魔鏡結晶の中のイクスにアクセスしているということか。 |
ジェイド | では、全てはバルドの予測通りに進んでいるようですね。 |
ミリーナ | どういうことですか ? |
ジェイド | 説明しましょう。 |
ジェイド | カーリャ、すみませんがカロル調査室のメンバーを呼び出して下さい。 |
キャラクター | 3話【12-2 ひとけのない海岸1】 |
カロル | お待たせ。ユーリも連れてきたよ。 |
カーリャ | あれ ? カロルさまとユーリさまだけですか ? |
カロル | リタはキール研究室の方の準備があるから動けないしレイヴンにはたまたまアジトに来てた救世軍の様子を見てもらってるから。 |
ミリーナ | そうよね……。突然自分たちの仲間が乗っている船が行方知れずになったなんて、パニックになるわよね。 |
ミリーナ | きちんと状況を説明したくてもこちらも何もわかっていないし。 |
カロル | クラースが何とか落ち着かせてたんだけど調査室の情報をすぐに共有できるようにレイヴンにもついていてもらおうと思って。 |
リオン | ふん。今慌てて騒いだところで状況が変わる訳でもないだろう。 |
シャルティエ | そんな風に割り切って考えられるもんじゃないですよ。ケリュケイオンに仲間が乗り込んだままという人も多いですし、浮き足立つのは当然だと思いますよ。 |
ユーリ | とはいえ、リオンの言う通り、こっちでああだのこうだの言ってても何も始まらないからな。 |
ユーリ | 調査室で調べた情報はルドガーたちに預けた。後はあいつらに任せるしかないだろ。 |
ユーリ | で、オレたちの方は何から手をつける ?イクスを取り戻しに行くって話はまとまったのか ? |
ジェイド | ええ。すぐに動き出す必要があります。バルド、説明を。 |
バルド | はい。まずはイクスさんの救出を急ぐ理由から説明させて下さい。ご存じの通り、アスガルド帝国ではリビングドールを生み出し続けています。 |
バルド | 目的はビフレスト皇国の国民を甦らせ皇国を再興することです。その為に使われているのがイクスさんが世界中に作り出した魔鏡結晶です。 |
カロル | 魔鏡結晶でどうやってリビングドールを作るの ? |
バルド | 正確には、魔鏡結晶に封じられた死の砂嵐――アニムス粒子を利用している、ということになります。 |
バルド | 私や他のリビングドールたちは、カレイドスコープによってアニマを失い、アニムス粒子となりました。 |
バルド | 死者を生者の中に宿らせるためには、死者の粒子であるアニムス粒子を選別し、死の砂嵐から取り出して生者にキメラ結合させる必要があります。 |
ジェイド | まぁ、細かな技法については今は置いておきましょうか。 |
ジェイド | 要するに魔鏡結晶の中から、ビフレスト皇国の亡くなった人々の欠片を取り出すことがリビングドールには必要不可欠なんですよ。 |
ジェイド | ただ魔鏡結晶は、あくまでイクスの暴走による力の具現化に過ぎません。死の砂嵐と虚無そのものはゲフィオンとイクスによって封じられています。 |
ジェイド | 仮に魔鏡結晶を全て破壊し尽くしたところで死の砂嵐に触れることはできない。 |
ユーリ | あのどでかい魔鏡結晶が死の砂嵐を閉じ込めてるって訳じゃないんだな。 |
ユーリ | 死の砂嵐そのものはイクスとゲフィオンが封じていて魔鏡結晶は単に力が具現化しただけの代物ってことか。じゃあどうやってリビングドールは作り出されたんだ ? |
バルド | イクスさんにアプローチしていると聞いています。 |
ミリーナ | どういうこと ? |
ミリーナ | ――まさか、イクスの放出している魔鏡術の力を外部から操っているってこと ! ? |
カロル | え ! ? そんなことできるの ! ? |
ミリーナ | ……イクスは三人目だから。帝国には最初のイクスの体があるでしょう。 |
ミリーナ | 本来過去から具現化された人間は、同一人物からの具現化でも意識を共有することはないの。 |
ミリーナ | でもフィルとファントムは手法を誤ってしまって意識を共有してしまっていたわ。 |
ミリーナ | それがどの程度の共有なのかはわからないけれど自分の考えが漏れるからこそ、フィルは三人目のジュニアを作り出した訳だし……。 |
ミリーナ | だから後天的に最初のイクスと三人目のイクスをリンクさせることもできるんじゃないかって……。 |
ジューダス | …………。 |
バルド | ええ、まさにその発想です。ビクエとファントムから着想を得て、ナーザ様――最初のイクスさんの体と魔鏡結晶の中のイクスさんを繋ぎました。 |
バルド | その結果、意識の共有まではできなかったもののわずかですが、イクスさんの魔鏡術を外部から操れるようになりました。 |
バルド | ただ、それを行うと、イクスさんの防御機構が弱まるようで虚無からもたらされる苦痛がダイレクトにイクスさんに伝わるようなのです。 |
ミリーナ | ! ! |
コーキス | ――じゃあ、マスターが苦しがってたのはお前らがマスターを操って死者の欠片を死の砂嵐から抜き出してたせいなのか ! ? |
カーリャ | コーキス ! 目が覚めてたんですか ! ? |
コーキス | 答えろ、バルド ! ! |
バルド | その通りです。 |
コーキス | くそっ ! 何なんだよお前ら ! ! |
ユーリ | ビフレストってのは下衆の集団か ?人の体を好き勝手にいじり回しやがって ! |
リオン | 下衆であることには同意だが、余計な口を挟むな。時間がないんだ。バルド、続けろ。 |
バルド | はい。先ほどコーキスが感じていた痛みの様子からして帝国はリビングドールの大量生産計画を実行に移したのだと考えられます。 |
ミリーナ | だからイクスの激しい痛みがコーキスに伝わった……。 |
バルド | セシリィが帝国へ戻ったことで計画の目処がついたのでしょう。これは予測していたことです。 |
バルド | 今帝国はイクスさんにアプローチしている。これは好機です。イクスさんはこの世界と虚無との間で存在が曖昧になっている。 |
バルド | ですが、ナーザ様の体とリンクすることで一時的にこの世界の方に存在が固着する。 |
バルド | その瞬間なら、魔鏡結晶を物理的に破壊することでイクスさんを助け出すことができるでしょう。 |
バルド | 逆にこのまま放置すれば、イクスさんは痛みによって廃人と化すかも知れない。 |
ミリーナ | 物理的に破壊といっても、セールンドのあの魔鏡結晶はあまりにも大きすぎて、簡単には壊せないわ。 |
ミリーナ | あの魔鏡結晶はイクスの力の具現化であり命でもあるのよ。ただ壊して取り出すだけではイクスを助けることはできない……。 |
ミリーナ | それにイクスがいなくなることでゲフィオンから漏れる死の砂嵐を止められなくなってしまう……。 |
バルド | 前にアイデアがあると言いましたよね。ビフレスト皇国に伝わる魔鏡術が役に立つ筈です。幸い、ファントムには魔鏡術の力がある。 |
バルド | キール研究室で開発していた、イクスさんを魔鏡結晶から取り出すための装置と、私とセシリィが持つ技術があれば、問題の大部分はクリアになります。 |
ジェイド | ただ、それでも問題が一つ。アスガルド帝国がセールンドの魔鏡結晶の守りを固めています。まぁ、当然だとは思いますが。 |
ジェイド | リビングドールを作り出すためには、イクスにアプローチしなければならないのですから、当然セールンドには相当数の帝国軍が駐留している筈です。 |
ジューダス | ……陽動作戦をとるのか ? それは危険だろう。 |
リオン | ――どうだ、ジェイド。こいつも僕と同じ意見だ。僕たちの情報は何らかの形で帝国に流れている。陽動作戦そのものが成り立たない。 |
ジェイド | それは同じ意見でしょうねぇ。あなた方はよく似ていますから。 |
ジェイド | ――まぁ、その話は置いておきましょうか。陽動作戦だと看破されたところで構わないんですよ。セールンドの戦力を少しでも減らせればね。 |
ジェイド | こちらが帝都へ攻め入ると知ればあちらも戦力の一部を帝都に戻すことになる。 |
ユーリ | そのごたごたの隙に、セールンドへ潜入するってか。そう簡単にいくとも思えねぇが、それでもごり押しするってことは、何か勝算があるんだろ ? |
リフィル | あら、ユーリ。それは愚問でしょう。詳しいことを口に出すと―― |
ユーリ | 情報漏れ、か。ややこしいな。まぁ、そこら辺はあんたら頭脳労働組に任せておくさ。 |
ユーリ | で、陽動組か救出組か、どっちに加わるかは選ばせてくれるんだろうな。 |
ジェイド | 話が早くて結構。ですが、あなたなら救出組を選んでくれると思っています。そちらの方が危険ですから。 |
ミリーナ | 私も行きます ! |
コーキス | 俺も ! |
ジェイド | ミリーナには是非とも。コーキス。あなたは陽動部隊に回ってもらいます。 |
コーキス | 何でだよ ! ? |
ジェイド | またイクスからの連絡が届く可能性があるからです。陽動部隊側に救出部隊の状況がわかる人間がいた方がいい。 |
コーキス | ………………。 |
ジェイド | 救出部隊はリオン、ミリーナ、ユーリ、バルドの四名。バックアップはしますが基本この四人でお願いします。後はリオンの指示に従って下さい。 |
リフィル | 他は陽動作戦の実行とバックアップに回ってもらうわ。カロル、あなたに仕切りを任せてもいいかしら ? |
カロル | それでここに呼ばれたんだね。わかったよ。 |
リオン | 救出部隊はついてこい。計画を伝える。 |
リフィル | コーキス、動けるようならカロルと一緒に陽動部隊の人選をしてくれるかしら。 |
カロル | コーキス、行ける ? |
コーキス | ……ああ。こんな時に俺だけ寝てるなんて嫌だしさ。 |
カロル | それじゃあ、ボクの部屋に行こう。 |
ミリーナ | ジェイドさんたちは…… ? |
ジェイド | 若い者に仕事を振りましたから後は高みの見物ですよ。 |
リフィル | そういう言い方はやめなさい。それと、ジューダスとルカにはもう少し話があるの。ここに残って頂戴ね。 |
ユーリ | ミリーナ、行くぞ。 |
ミリーナ | え……。ええ……。 |
ジェイド | それじゃあ、皆さん、よろしくお願いします♪ |
キャラクター | 4話【12-3 ひとけのない海岸2】 |
ルドガー | ……ケリュケイオンが消失したのはあの空域か。 |
エル | ねぇ、魔のクウイキってどんなところなの ? |
ルドガー | 詳しいことはわからないんだよ。 |
ユリウス | ――ルドガー。あの大きな雲の端を見てみろ。 |
ルドガー | ……何だ ? 蜃気楼…… ? |
エル | ホントだ。なんか白いものがゆらゆらしてる……。 |
? ? ? | ……か……。……け……て…… ! |
エル | マキョーツーシン ! |
ルドガー | ジュードの声……じゃないか ? |
ルドガー | ジュード ! ジュードか ! ? どこにいるんだ ! ? |
? ? ? | ル…… ! ? ……ケ……くう……―― |
エル | 切れちゃった……。 |
ユリウス | ……空の蜃気楼も消えた。 |
ルドガー | 何だったんだ…… ? |
ユリウス | ……魔の空域に関して、いくつかの仮説がある。 |
ユリウス | 精霊界に通じるゲートだとか何らかの影響で計器が狂ってしまい、正しい方角がわからなくなってしまう空間だとか。 |
ユリウス | 過去と繋がるワープゾーンだという話もあるそうだ。この世界は具現化で造られた世界だから、空間のひずみのようなものが発生していても不思議ではないな。 |
ルドガー | 空間のひずみにケリュケイオンが飛び込んでしまった……のだとしたら、さっきの蜃気楼がケリュケイオンって可能性もあるのか。 |
ユリウス | あの蜃気楼のようなものが現れた途端ケリュケイオンにいるはずのジュードと魔鏡通信が繋がった。 |
ユリウス | アレがケリュケイオンと関わりがある可能性は高い。 |
エル | 助けられないの ? |
ルドガー | うかつに近づくのは危険だ。せめて魔鏡通信が繋がれば……。 |
ユリウス | 受信感度を上げてみよう。 |
エル | ………………。 |
エル | ……雑音しか聞こえないね。 |
? ? ? | ……来る……な……。みん……な……。 |
エル | あ ! ? なんか聞こえてきた ! |
ユリウス | イクス……の声か ? |
ルドガー | そうか……。出力を上げるとイクスの声が混線するのか……。 |
ユリウス | ……様子が変だな。 |
? ? ? | 情報……が……。お……れと……フ……。 |
ユリウス | ! ! |
ユリウス | ルドガー。アジトに連絡だ !ミリーナたちは根本的に間違っていた。情報漏れは誰かの裏切りじゃない。 |
ルドガー | ……まさか ! |
エル | 何 ? どういうこと ? |
ルドガー | コーキスとフィリップか ! |
ルカ | あの、僕とジューダスに用って……。 |
ジェイド | すみません。ミリーナたちには聞かれたくなかったものですから。 |
ジューダス | どういうことだ ? |
ジェイド | 情報漏洩のことですよ。誰しも自分から情報が漏れてるとは思わないものですからね。 |
ルカ | え ! ?ミリーナたちが敵に情報を伝えてるんですか ! ? |
リフィル | 意図せずにね。 |
リフィル | さっきミリーナたちが話していたでしょう ?ファントムとフィルは繋がっている。そしてイクスとナーザも繋がっている。 |
ルカ | でもイクスとコーキスが繋がったのは最近の話ですよね。それにファントムは確かずっと植物状態だったって……。 |
ジューダス | ……ジュニアか。 |
ジェイド | その通りです。恐らく帝国への情報漏れはフィリップからファントムを経由してジュニアへ。ナーザへの情報漏れはコーキスからイクスを通じて。 |
ジェイド | 幸か不幸か、帝国とナーザは互いの情報を秘匿しているようなので、それぞれに伝わっている情報と伝わっていない情報があるのではと考えています。 |
ジューダス | 今はバルドがファントムの体を使っている。結局陽動作戦の件は敵に伝わっているということだろう。何故計画を実行させようとする ? |
ジェイド | せっかく情報が筒抜けなので裏の裏をかこうと思いまして。 |
ジューダス | ……だからコーキスは救出部隊に入れなかったんだな。 |
ジェイド | ええ。こちらの情報漏洩をコントロールしたい。あなたには陽動部隊についてもらいたいんです。それと、リオンの動きを読んでもらうためにも。 |
ジューダス | ――どういう意味だ ? |
ジェイド | 実はリオンたちにもこの話はしていないんですよ。 |
ジェイド | 可能性は低いと思っていますが、例えば敵がミリーナを具現化したら……ミリーナからも情報が漏れるでしょう。私ならそうします。 |
ジューダス | つまり、リオンはこの計画がずさんなものだと知っている状態で敵地に飛び込むのか。 |
ジェイド | ええ。そんな時リオンならどう動くか。あなたにはよくわかるのではないかと愚考しました。 |
ジューダス | ………………。 |
リフィル | そして、ルカ。あなたは帝国に狙われている。だからアジトに残って救出部隊のバックアップをお願いしたいの。 |
ルカ | でも、リフィルさんやジェイドさんは―― |
リフィル | 陽動部隊の手が足りないから、出撃することになるわ。ここには負傷者を含めたごく少数しか残せない。何よりカーリャにも情報を知られたくないの。 |
リフィル | ここに残るメンバーの中で、状況を一番冷静に見られるのはあなただと思うわ。だから全てを話しておきたかったのよ。 |
リフィル | あら……。私宛に魔鏡通信が……。 |
ルドガー | リフィル。話しておきたいことがあるんだ。 |
リフィル | ! |
キャラクター | 5話【12-5 セールンドへ続く森林1】 |
メルクリア | ――兄上様もセシリィも大丈夫であろうか。 |
メルクリア | 今までは1人ずつのリビングドール化だったが今度は一度に12人じゃ……。お体に負担などなければよいのじゃが……。 |
チーグル | ご安心を。ナーザ将軍は素晴らしい魔鏡術の持ち主。 |
チーグル | それより喜ぶべきことではありませんか ? あれほどリビングドールの大量製造に反対しておいでだったのに今回は受け入れて下さったのですから。 |
メルクリア | そうじゃな……。 |
リヒター | それより、黒衣の鏡士の部隊が帝都に向かっているという話はどうする ? |
リヒター | 進路を見る限り、この芙蓉離宮を目指していると思った方がいい。数はそう多くないが恐ろしく腕の立つ連中ばかりだ。 |
ローゲ | 失礼しますぞ、メルクリア殿下。 |
メルクリア | ローゲか。どうした、ジュニアの腕を引っ張って。痛そうにしておるではないか。放してやれ。 |
ローゲ | お優しいことで……。そら、ジュニア。報告しろ。 |
ジュニア | ……あ、あの。 |
フレン | ――ジュニア。その手に持っている鏡は魔鏡かい ? |
ジュニア | ……ファントムの心核とリンクさせた魔鏡です。 |
フレン | ! ? |
ローゲ | その魔鏡はジュニアにしか使えないがファントムを通じてビクエの考えを読むことができる。 |
ジュニア | 全てじゃないよ。あくまで断片だから……。 |
フレン | なるほど……。きみはなかなか『情報通』のようだね。 |
ジュニア | ……す……すみま……せん……。 |
メルクリア | 何を謝ることがある。フィリップを通じて黒衣の鏡士の動向がわかるのなら、我らの役に立つ。誇るべきことじゃ。 |
ジュニア | ………………。 |
ローゲ | 報告はどうした、ジュニア。 |
ジュニア | ……ミリ……黒衣の鏡士の進軍は……陽動作戦、だそうです。本当の目的はセールンドのイクスを奪還すること……。 |
ローゲ | ――だ、そうだ。 |
メルクリア | 兄上様が危ないではないか ! |
フレン | 大丈夫です。第一連隊がセールンドを防衛しています。それにナーザ将軍は腕が立ちますから。 |
チーグル | ナーザ将軍に知らせよう。――伝令兵 ! |
ジュニア | (ミリーナ……イクス……。ごめん……。僕は……僕は――) |
ローゲ | ジュニア。お前は見所があるぞ。これからも俺のために役に立て。いいな。 |
ジュニア | …………はい。 |
ナーザ | ――なるほど。伝令ご苦労だった。ここへは転送魔法陣で来たのか ? |
伝令兵 | その通りであります ! |
ナーザ | ならば、メルクリアに伝えよ。こちらに考えがある。黒衣の鏡士たちを討つために俺の計画に協力するようにとな。 |
伝令兵 | はっ ! |
ナーザ | 詳しい作戦は、別途こちらから連絡する。まずは敵の陽動作戦に気付かぬふりをして敵を迎え撃つように伝えろ。 |
伝令兵 | 了解であります ! |
セシリィ | あの……ナーザ将軍。リビングドールの新たな製造は一時停止しますか ? |
ナーザ | ……そうだな。そうしよう。これ以上犠牲者を増やすこともない。 |
ナーザ | シドニー――いや、今はセシリィか。お前も同じ思いだろう。 |
セシリィ | は、はい……。 |
ナーザ | ……お前も、バルドと同じ事をしようとしているのか。 |
セシリィ | ! ! |
ナーザ | お前たちは……愚かだな。だが、潔い。俺は好ましいと思う。 |
セシリィ | ナーザ将軍、考え直してもらえませんか。ミリーナたちと話せばきっと―― |
ナーザ | ――いや、皆まで言うな。俺が生きていて、国がまだ残っていたなら、そんな選択肢もあったかも知れない。だが、もう遅い。 |
ナーザ | それに俺は死者だ。死者が現世に介入すること自体間違っている。間違っているものが、異議を唱えるなど笑えぬ話だ。 |
ナーザ | 俺は世界を破滅に導く黒衣の鏡士たちを憎んでいる。だから殺す。それでいい。 |
ナーザ | セシリィ。ここはいい。お前はお前のなすべきことをしろ。だが、俺はお前たちに手は貸さないぞ。 |
セシリィ | ……わかりました。ありがとうございます、ウォーデン殿下。今までもこれからも尊敬しています。 |
ナーザ | ――早く行け。 |
セシリィ | 失礼します。 |
キャラクター | 6話【12-8 セールンドへ続く山岳2】 |
ジュード | 駄目だ……。さっき魔鏡通信でルドガーの声が聞こえたような気がしたんだけどすぐ途切れちゃって……。 |
フィリップ | でも、外と連絡がついたということはまだ希望があるということだよ。 |
ゼロス | 希望ねぇ……。どう見ても絶体絶命な感じだけど。見ろよ、ブリッジの外。空間がうねうねしてるっつーかヤバい匂いしかしねぇぞ。 |
シンク | 絶体絶命と思っている割には口調が軽いね、バカ神子。 |
ゼロス | そういうシンくんも、随分落ち着いてるじゃねぇか。 |
シンク | 元々地獄みたいな世界だったんだ。地獄から地獄に移動したところで大したことはないでしょ。 |
マーク | あー、まいった。慌ててた連中もようやく落ち着いてきたぜ。――お、ジュード。ローエンの怪我はどうだった ? |
ジュード | うん、かなり血が出ていたけど、大丈夫。ルビアも他の負傷者も今のところみんな安定してるよ。 |
マーク | そいつはよかった。 |
フィリップ | すまない……。僕が気を抜いていたせいでチーグルにつけいる隙を与えてしまって……。まったく情けないよ。 |
マーク | まぁ、起きちまったことを悔やんでも仕方ねぇしなぁ。――ん ? クラトスはどうした ? |
ジュード | ガロウズさんのところ。アイゼンと3人でこの妙な空間から脱出する手段がないか考えてみるって。 |
シンク | アイゼンね。あいつのせいでしょケリュケイオンがこんなことになったの。 |
シンク | 死神の呪いだか何だか知らないけど他人まで巻き込むのはカンベンして欲しいね。 |
マーク | でもこれって呪いのせいじゃねぇだろ ?本人はちょっと気にしてたけど、あの呪いってアイゼンを成長させるための障害的なやつなんだろ ? |
シンク | 逆だろ。奴の周りの連中を成長させるとか何とか上から目線のお節介な呪いだよ。 |
マーク | でもこの状況が続くと、魔の空域に閉じ込められたままになっちまうからなぁ。障害なんてレベルじゃねぇし。 |
マーク | やらかしたのはフィルだしな。 |
フィリップ | ……そうだね。僕のせいだよ。 |
ジュード | はは……。な、なんか、みんな落ち着いてるね。 |
ゼロス | まぁ、慌てたってどうにもなんねぇしなぁ……。 |
シンク | ここは死にたがりの集まりだからね。別にどうなってもいいんだろ。 |
ゼロス | お前と一緒にするなっつーの。 |
マーク | ……いや、あながち間違いじゃないかもな。死にたがりっつーか自分の命を大事にしてない奴が多いだろ。 |
フィリップ | ど、どうして僕を見るんだ、マーク。 |
マーク | ……別に。それより、フィル。この場所は何なんだ ?ガロウズは魔の空域だって言ってたけど。 |
フィリップ | 魔の空域のことは本当によくわかっていないんだよ。世界の具現化によるひずみじゃないかと仮定したことはあるんだけれど……。 |
クラトス | ――なるほど。ならば調査が必要かも知れぬな。 |
ゼロス | 調査って……。おい、クラトス、まさか外に出るつもりか ! ? |
クラトス | 天使体なら、多少の状況は耐えられるだろう。天使としての力の使い方は、神子より私の方が上だ。 |
ジュード | 何言ってるんですか ! ?クラトスさんは本調子じゃないんですよ ! ? |
マーク | じゃあ、俺が行こうか ? 俺は鏡精だから最悪致命的ダメージ食らってもフィルが何とかしてくれるだろ。 |
アイゼン | 待て。これが死神の呪いなら俺が外を調べに出れば何か様子の変化が起きるだろう。その時は―― |
ジュード | ――ねぇ、みんなもう少し命を大切にしようよ。 |
ジュード | それに、これどう考えても死神の呪いがどうとかじゃなくて、リチャードさんの中に入ってるチーグルって人のせいだよね ? |
ガロウズ | まぁまぁ、ジュード。こいつらの軽口に本気で付き合ってると神経すり減っちまうぞ。 |
ガロウズ | それより、こっちも話があってブリッジまで来たんだ。 |
フィリップ | 何か、ここを抜け出す手がかりが見つかったのか ? |
ガロウズ | 船窓から一瞬見えたんですが、どうも魔の空域に島みたいな物が浮いてるみたいなんです。 |
フィリップ | 島…… ? 計器が死んでるからこちらでは把握できていないが……。 |
ガロウズ | ちょっと降りてみませんか ? このまま飛び続けていると、燃料が切れる可能性もあります。ケリュケイオンの自動操縦も挙動が怪しいし……。 |
ガロウズ | だから、俺がエンジンの調整をして、クラトスに目視で距離を測ってもらって、アイゼンがケリュケイオンを着陸させるって形でチャレンジしてみてもいいですか ? |
フィリップ | そうだね。危険かも知れないけれど何もしないよりいい。お願いするよ。 |
アイゼン | よし、始めるぞ ! どうなるかわからねえからな。みんな、体を船にくくりつけとけよ ! |
シンク | はぁ……サイアクだよ……。 |
ジュード | 待って、他の人にも知らせてくる ! |
ゼロス | しゃあねぇな。マーク、俺らも手分けして胴体着陸のこと知らせに行くぞ。 |
マーク | 了解だ。胴体着陸で怪我でもされたら大変だからな。 |
アイゼン | お前ら、何胴体着陸だって決めつけてんだ !ぶん殴るぞ ! |
クラトス | 胴体着陸を安全に行えるというのは操縦士の技術の高さの証明でもある。褒められたと思っておくといい。 |
アイゼン | ……あんた、意外と天然だな。 |
キャラクター | 7話【12-9 セールンドへ続く街道】 |
アイゼン | ……無事に着陸できたな。 |
ゼロス | やっぱり胴体着陸だったじゃねーか ! ? |
アイゼン | 死人が出なかったんだ。文句ないだろう。 |
ゼロス | ああ……もう、俺さまつらい……。こんなデリカシーのない連中と、訳のわからない空間に閉じ込められて。女の子……女の子に会いたい……。 |
フィリップ | 申し訳ないです、ゼロスさん。僕が至らないばかりに……。 |
ゼロス | あ、いや、マジなトーンで返されると余計に辛いんだけど……。 |
シンク | バカ神子のことはどうでもいいけどこの島は一体何なのさ。得体の知れない空間に浮く島なんて胡散臭い。 |
ジュード | …… ?島の中央に、何かあるような……。双眼鏡とかありますか ? |
マーク | クラトス。あんたなら遠くのものでもよく見えるんだろ ? |
クラトス | ――石だな。石碑……いや、墓か ?【アイフリードここに眠る。揺り籠を守るために……】と書いてある。 |
アイゼン | アイフリードだと ! ?……いや、この世界にもアイフリードという名の海賊がいるんだったな。そいつの墓なのか ? |
? ? ? | 『――フィル ! 』 |
フィリップ | ! ? |
マーク | どうした、フィル。ぎょっとした顔で。 |
フィリップ | い、いや……。今誰かに……。 |
? ? ? | 『僕、三人目のフィリップだよ』 |
フィリップ | フィル ! ? |
アイゼン | フィルは自分だろうが……。 |
クラトス | ―― ! ! |
ジュニア | 『よかった……。やっと声が届いた。ごめんなさい。ファントムを通じて勝手にあなたの心を繋いでたんだ……』 |
フィリップ | ……そうか。僕だったのか。帝国に情報を漏らしていたのは。 |
ジュニア | 『ごめんなさい。でも、おかげで今度はあなたを助けられる』 |
ジュニア | 『魔の空域はビフレストの伝承に伝わる【この世の果て】に相当するらしいんだ。この世の果てを守っているのはアイフリードで――』 |
フィリップ | (――そうか。今、きみの心を読んだ。脱出する方法がわかったよ) |
ジュニア | 『 ! ? 』 |
フィリップ | (驚いているのかい ? そちらが心を繋いだんだよ。そちらにできることが僕にできないとでも ? ) |
フィリップ | (きみと僕は同じ潜在能力を持っているが使える力は僕の方が上だ) |
ジュニア | (体が……勝手に…… ! ? ) |
フィリップ | 『その魔鏡……きみの手で壊してもらう。例え自分でも、ミリーナを裏切るなら僕の敵だ』 |
ジュニア | ! ! |
ジュニア | (僕だって、本当は――) |
フィリップ | 『さようなら、フィリップ』 |
ジュニア | 待って ! あの場所へ行って !わかるでしょう ! ? |
ジュニア | ――あ ! ? |
ジュニア | (僕を操って……魔鏡を壊した……) |
マーク | おい、フィル ! どうした ? 顔が真っ青だぞ。またいつもの発作か ? 薬飲むか ! ? |
ジュード | え ? フィリップさん、どこか悪いんですか ? |
フィリップ | ……いや、大丈夫。 |
フィリップ | それよりここから脱出する方法がわかった。アイフリードの墓が目印だ。あの場所に向けてケリュケイオンを飛ばしてみてくれ。 |
シンク | 根拠は ?ちゃんと話しておいてくれないと困るんだけど。 |
クラトス | ジュニアに心を読まれていたか。 |
マーク | ! ! |
フィリップ | ……ええ。その通りです。でももう大丈夫。逆にこちらからジュニアの心を読んで彼を一時的に乗っ取りました。 |
フィリップ | 僕の心とリンクさせていた魔鏡は壊しておきましたし、同じような魔鏡を作られる前に、防衛手段を講じます。 |
フィリップ | それに、ジュニアがこの場所からの脱出方法を知っていました。 |
アイゼン | それがアイフリードの墓に突っ込むってことなのか ? |
フィリップ | ええ。あの場所が魔の空域とティル・ナ・ノーグを結ぶゲートなんです。 |
ゼロス | よし、こんな辛気くさい場所とはおさらばしようぜ。 |
ガロウズ | わかった。エンジン動かすぞ ! |
マーク | ……フィル。大丈夫か ? |
フィリップ | 自分に裏切られるのは二回目だからね。さすがに堪えたよ。でも、いいんだ。そういう弱さも僕らしい。 |
マーク | 馬鹿野郎。お前は弱くなんかねぇよ。 |
アイゼン | お前ら、位置につけ ! |
アイゼン | さっき無理をさせた船だからな。ガタが来てるかも知れねえ。しっかり掴まってないと怪我するぞ ! |
ガロウズ | エンジン再始動完了だ ! |
アイゼン | 行くぞっ ! ! |
キャラクター | 8話【12-10 カレイドスコープの間】 |
ミリーナ | ………………。 |
ユーリ | そんな風に硬くなってちゃ上手くいくものも行かなくなるぜ、ミリーナ。 |
ミリーナ | ……そう、ですね。気合いが入りすぎるのも空回っちゃいますね。 |
バルド | ――そろそろ時間ですね。行きましょう。 |
リオン | その前に、一つだけ取り決めておきたいことがある。僕たちの計画が敵に漏れていて窮地に陥った場合の優先順位だ。 |
ユーリ | そんなもの今決めるのかよ。 |
リオン | ここでは僕がリーダーだ。僕の指示に従ってもらう。まず第一に優先するのはイクスの救出だ。これが計画の目的である以上、異論はないな。 |
バルド | もちろんです。彼を残していてはリビングドールを次々と生み出されてしまいます。 |
リオン | ミリーナはアジトの維持を考えるとどうしても生かして帰す必要がある。だからイクスの次に命を保証するのはミリーナだ。 |
リオン | それから戦闘狂。 |
ユーリ | なんだよその呼び方は。 |
リオン | 返事をしておいて文句を言うな。 |
リオン | お前はミリーナとイクスを必ずアジトへ連れ帰れ。お前の腕は信用できる。頭もそれなりにマシなようだしな。 |
ユーリ | そりゃどうも。素直じゃないね、この坊やは。で、お前とバルドはどうするんだよ。 |
リオン | バルドと僕は、生きて帰れなかったとしても問題はない。 |
ミリーナ | そんな…… ! |
シャルティエ | 坊ちゃん……。 |
リオン | 勘違いするな。もとより死ぬつもりはない。僕に勝てるような敵がいるとも思えないしな。 |
リオン | だが何が起こるかわからないのも事実だ。最悪のことを考えておくのは当然だろう。 |
ミリーナ | ………………。 |
バルド | ――では、そろそろ行きましょうか。 |
ミリーナ | ……はい。コーキスたちに突入を知らせますね。 |
コーキス | (マスター……。ミリーナ様……。どうか無事で……) |
スタン | そんな顔するなって、コーキス。 |
コーキス | スタン様……。 |
スタン | 大丈夫。上手くいくって。ここだけじゃなくて海岸線はカロルたちの部隊が準備してるし街の方はアスベルたちが待機してる。 |
エドナ | そうね。珍しく大佐のボーヤも前線に出てきているから危険な状況ではあるみたいだけれど。 |
スタン | エドナ~。せっかくコーキスを元気づけてるのにそれはないだろ~。 |
エドナ | あら、現実を知っておいた方がいいんじゃないかしら。この陽動作戦自体、敵にバレているのかも知れないのよね。 |
エドナ | まぁ、それを承知でしかけるってことは……何か策があるんでしょうけれど。 |
コーキス | エドナ様……。あの、エドナ様はここに来てよかったのか ?アイゼン様がケリュケイオンにいるのに……。 |
エドナ | ……別に大したことじゃないわ。ドラゴンになっているよりよっぽどね。 |
コーキス | え ? |
エドナ | スタンだって、向こうには仲間がいるのよ。ロイドもカイウスもミラも。あっちはあっちで何とかしてもらわないと。 |
スタン | ケリュケイオンのみんなを信じてるってことだよな。 |
コーキス | そうか……。やっぱ鏡映点ってすげーなぁ……。うん。俺も腹を決めた。 |
コーキス | マスターのこともミリーナ様のことも信じてる。だからきっと大丈夫だし、俺たちがここでしくじったら救出部隊に迷惑がかかるってことだもんな。 |
コーキス | よし、気合い入ったぜ ! |
エドナ | 単純ね、眼帯ボーヤ。 |
コーキス | 眼帯ボーヤ ! ? |
エドナ | あら、魔鏡通信だわ。 |
ミリーナ | こちら救出部隊です。準備完了です ! |
スタン | あっちも準備が整ったみたいだな。 |
コーキス | よし、俺たちも始めよう !みんなに合図だ。芙蓉離宮に攻め込むぞ ! |
ユーリ | ……見張りの兵たちがばたつき始めたな。 |
リオン | 陽動部隊が動き出したんだろう。行くぞ。 |
ミリーナ | ……上手く忍び込めたみたい。 |
バルド | ――いや、待って下さい。 |
リオン | なんだこの音は ? |
バルド | 魔術障壁の起動音です。恐らくこの建物の周囲を魔術による壁で囲んだのでしょう。 |
ユーリ | 袋のネズミって訳かよ。壁を壊す方法はないのか ? |
バルド | 魔鏡術の一種ですからどこかにこれを仕掛けた魔鏡装置がある筈です。 |
リオン | なら、それは僕が見つけて壊す。ミリーナたちはイクスを助けろ。 |
ミリーナ | ――はい。 |
リオン | こういう場合のお前は、話が早くて助かるな。 |
バルド | 陽動部隊やバックアップ部隊に状況を知らせなくていいんですか ? |
リオン | 余計なことをするな。知らせたところで何もできないんだ。それより早く行け。僕も装置を探す。 |
ユーリ | ……リオンは行ったな ? |
ミリーナ | え ? ええ……。もう姿は見えないわ。 |
ユーリ | よし。ミリーナとバルドは先に行ってセシリィと合流してくれ。俺はちょっと野暮用を済ませてから追いかける。 |
バルド | まさか、こちらの状況を連絡するんですか ?リオンさんは連絡しないようにと言っていましたが。 |
ユーリ | 陽動部隊に直接知らせるのは俺も反対だ。だが、バックアップの連中には話をしておかないといざというときの連携が取れないだろ。 |
ミリーナ | ……わかったわ。お願いします、ユーリさん。 |
ミリーナ | バルドさん、行きましょう。掘削装置のセットに時間がかかることを考えると、急いだ方がいいわ。 |
バルド | わかりました。 |
キャラクター | 9話【12-11 芙蓉離宮】 |
帝国軍兵士A | 急げ ! 海岸線と帝都西門にそれぞれ敵の隊が攻め込んできている !迎撃しろ ! |
帝国軍兵士B | ――お、おい、お前の後ろに転送魔法陣が ! ? |
帝国軍兵士A | な、何―― |
コーキス | ――隙あり ! |
帝国軍兵士A | うわぁぁぁぁぁっ ! ? |
スタン | ――悪いな。こっちもだ ! |
帝国軍兵士B | ぐふ……っ ! |
エドナ | 便利ね。この転送魔法陣って。 |
コーキス | バルドに設置の仕方を教わって助かったな。いつでもどこへでもって訳じゃないのは残念だけど出口さえ設定できればすぐワープできるなんてさ。 |
スタン | 他の隊もどんどん来るぞ。これなら撹乱には十分だな。 |
カロル | 敵の圧力が弱まったような……。 |
スレイ | うん、今なら芙蓉離宮の裏門へたどり着ける。 |
ミクリオ | このまま押し切ろう !たどり着くのが遅れると、コーキスたちが危険だ。 |
スレイ | ミクリオ、一緒に行こう ! |
ミクリオ | ああ ! |
二人 | ルズローシヴ=レレイ ! |
カロル | 何度見ても神依って不思議だよね。 |
レイヴン | 元の世界じゃ女の子とも合体できるんでしょ。ああ~うらやましい~ ! |
アスベル | 芙蓉離宮にコーキスたちが攻め込んだみたいだな。 |
ヒューバート | ではこちらも前進しましょう。少しでも敵の数をこちらに引きつけないとコーキスたちが撤退できなくなりますよ。 |
アスベル | よし、少し派手に動くぞ ! |
ラムダ | 『アスガルド帝国と……戦っているのか…… ?』 |
アスベル | ラムダ ! ? |
ソフィ | ラムダが目を覚ましたの…… ! ? |
アスベル | (ああ。彼らがやっている非道なことを許してはいけないから) |
ラムダ | 『……それなら――我の力を使うといい。今までも勝手に使っていたようだがな』 |
アスベル | ――ご、ごめん。でもありがとう、ラムダ ! |
ルカ | ――え ! ? ルドガーさん、それは本当ですか ! ? |
ルドガー | ああ、本当だ。ケリュケイオンが魔の空域から脱出した。通信器機がやられているらしくて俺が代わりに連絡したんだ。 |
ルカ | ジェイドさんって……予知能力でもあるんですか…… ? |
ルドガー | え ? どういうことだ ? |
イリア | あのイヤミ眼鏡、もうすぐケリュケイオンが見つかるから、空を飛べるメンバーをケリュケイオンに集めろって言ってきたのよ。 |
ユリウス | ……困った男だが、味方でいる内は頼もしいな。 |
スパーダ | ああ、くそっ ! オレもこんなところでくすぶってないで戦いたいぜ。守られるなんてのは性に合わねェからな。 |
ユリウス | 気持ちはわかるが、俺たちが不測の事態で帝国に囚われたら、余計に場を混乱させる。今は我慢してくれ。 |
スパーダ | わかってる ! だから余計イライラすんだろ ! |
エル | ねぇ、空を飛べる人ってアーチェとコレット ? |
ルカ | うん。アーチェにチェスター、コレットにロイドを組ませて、そっちに向かってもらったから。三人はこっちに戻ってきて。 |
ルドガー | ああ。アーチェたちが救世軍と合流したらすぐ戻るよ。 |
カイル | よし、上手くいってるな ! |
ジューダス | 気を抜くな。まだ作戦は始まったばかりなんだぞ。 |
ラタトスク | はっ ! こんな歯ごたえのない連中が相手じゃ退屈であくびが出るぜ。 |
マルタ | もう……。そんなこと言ってもっと強い敵が出てきちゃったらどうするの。 |
コーキス | カイル様たちにエミル様たち ! |
ラタトスク | 俺はエミルじゃねぇ ! |
コーキス | あ、ラタトスク様の方か。ややこしいなぁ。 |
ラタトスク | 何だと ! ? |
エドナ | ――待ちなさい。何か聞こえるわ。 |
リアラ | 見て。離宮の上 ! |
スタン | ホークの集団に……ドラゴンパピーか ! |
ラタトスク | フン。あんな奴ら、単なる雑魚だろ。 |
ジューダス | いや……待て ! あの人影は―― |
カイル | バルバトス ! ? |
ラタトスク | それにリヒターかよ、面白い。 |
リアラ | ……待って。あの二人、何かが変だわ。 |
マルタ | そういえば……。リヒターがラタトスクを見て顔色一つ変えないなんて……。 |
ラタトスク | 構うもんかよ。さっさと叩きつぶすぞ。 |
ジューダス | まったく……血の気の多い連中だ。スタン、コーキス、エドナ。そっちはドラゴンパピーを頼む。 |
ジューダス | 僕とカイルとリアラはバルバトスをマルタとラタトスクはリヒターを迎え撃つ。それでいいな。 |
コーキス | よし ! 行くぞ、みんな ! |
キャラクター | 10話【12-14 芙蓉離宮】 |
コーキス | これで ! |
二人 | 終わりだ ! ! |
カイル | な、何 ! ? |
ラタトスク | あいつら、幻だったのか……。くそっ ! |
メルクリア | ――ぬぅっ。これまでか。 |
ローゲ | くだらんな。影など送り込まなくても俺が乗り込んでいけば、鏡精やら鏡映点など軽くねじ伏せてやったものを。 |
メルクリア | まあ、そう言うな。チーグルがわらわのことを案じてバルドだけでなく、そなたとリヒターを側に残すように懇願したのじゃ。 |
メルクリア | そなた、チーグルとは親しいのであろう ?友の言うことは聞き入れてやらねば。 |
メルクリア | それにわらわの影捌きは中々上手であろう ?ローゲもリヒターも元の力が優れている故幻を生み出して操るのも楽しかった。 |
リヒター | ――頃合いだな。伝令 ! 増援を出せ !奴らもそろそろ疲れてくる頃だ。 |
伝令兵 | 了解 ! |
メルクリア | 兄上様の方は大丈夫か ? 黒衣の鏡士を閉じ込めてなぶり殺しにする策じゃぞ。なのに、こちらからの増援を拒まれるなど、兄上様はどうかしておられる。 |
メルクリア | やはりバルドを送り出してやった方がいいのではないか。 |
フレン | お許し頂けるのなら、すぐにでも向かいますが。 |
リヒター | ……俺は賛成できんな。 |
ローゲ | 俺もだ。バルドなどどこにいても役には立たぬ。 |
メルクリア | しかしセシリィもあちらにいったままじゃ。巻き込まれて怪我でもしたら可哀想ではないか。バルドだけを行かせるのが不安なら、わらわも共に―― |
伝令兵 | 失礼します ! チーグル様から黒衣の鏡士の増援が現れたとの知らせにございます ! |
フレン | ! ! |
リヒター | 奴らの戦力は限界まで引き出している筈だぞ ! ? |
伝令兵 | それが……救世軍が東の空から現れたとのことで……。 |
リヒター | チーグルが魔の空域に追いやったんじゃなかったのか ! ? |
ローゲ | フン。しぶといゴキブリ共だ。砲台を東に向けろ ! 打ち落とせ ! |
伝令兵 | 了解 ! |
メルクリア | ――バルコニーに出る。 |
フレン | それは危険です。 |
メルクリア | 一騎当千の騎士が三人もわらわの側にいるのじゃ。それよりここに攻め入った間抜け共の顔を見ておきたい。行くぞ。 |
ジューダス | くっ ! また増援か ! |
リアラ | フレンさんが増援を止めてくれる筈なんじゃ……。 |
ジューダス | ……敵の中枢に近すぎるからな。逆に思ったようには動けないんだろう。 |
ジューダス | コーキス、スタン、エドナ。一緒に来い !フレンを捜す。カイルたちは他の隊と合流して持ちこたえてくれ ! |
カイル | わかった ! |
ラタトスク | しくじるなよ ! |
ジューダス | 見くびるな。僕を誰だと思ってる。行くぞ ! |
コーキス | ……なんか変だな。戦ってても手応えがない。 |
エドナ | やはりこちらの作戦が漏れているのかしら。時間を稼がれている感じね。 |
スタン | でも、異変があったら連絡が来る手筈だろ。向こうにはリオンもいるしむざむざやられる訳がない。 |
ジューダス | ……どうかな。 |
スタン | ジューダス……。お前がそんなことを言うなんて……。 |
コーキス | とにかく早くフレン様を見つけないと。……くそ ! これ以上建物には近づけないか。こうなったら魔眼で―― |
ジューダス | バカか、お前は ! 切り札は最後までとっておけ。 |
エドナ | ――三人とも。あそこのバルコニーを見て。 |
メルクリア | どうした、黒衣の鏡士の手先よ。わらわはここじゃ。殺せるものなら殺してみよ ! |
フレン | ……メルクリア様。東の空を。 |
メルクリア | ケリュケイオン…… ! |
リヒター | 救世軍を足止めしきれなかったか。 |
エドナ | ……見て。フレンがこっちに合図しているわよ。 |
ジューダス | ――どうやらこちらの悪い予測が当たっていたな。 |
コーキス | それじゃあ、ミリーナ様たちが危険なんじゃ…… ! ? |
ジューダス | そうだろうな。僕たちをここで潰すよりミリーナを始末した方が後々楽になるからな。 |
スタン | だったらどうしてリオンたちは連絡してこないんだ。 |
ジューダス | こちらの戦力を本隊の救出に割かせないため敢えて何も知らせてこないんだろう。僕ならそうする。あいつもきっとそうすると思う。 |
スタン | ……なら、俺の方からリオンを助けに行く。 |
コーキス | 俺もだ。ミリーナ様を守るってマスターと約束したんだから。 |
ジューダス | それは駄目だ。お前たちが抜けると、ここの戦線を維持できない。リオンが危惧した通りになる。 |
エドナ | ――結局、大佐のボーヤの掌の上って訳ね。 |
コーキス | え ? それは一体どういう―― |
アイゼン | フン。くだらねぇな。死神がお前らに味方してるんだ。計画なんざ、崩壊して当たり前だろう。 |
エドナ | ――お帰りなさい、お兄ちゃん。 |
アイゼン | 待たせたな。 |
コーキス | え ! ? アイゼン様 ! ?でも救世軍は動けない筈じゃ……。 |
アイゼン | 計画計画って、そんなものがそんなに大事か ?守りたいものも守れなくて、何のために生きてるんだ。 |
スタン | 見ろ ! ケリュケイオンだ ! ! |
アイゼン | 行くぜ ! 野郎共 ! 救世軍の殴り込みだ ! |
メルクリア | こちらが出し抜いているはずなのに何故こうも計算違いが起き続けるのじゃ ! ? |
リヒター | ……こちらにも内通者がいるのだろう。 |
フレン | ………………。 |
メルクリア | 兄上様が心配じゃ。わらわはセールンドへ向かう。 |
フレン | メルクリア様、向こうは危険です ! |
メルクリア | だからこそじゃ ! バルド、ローゲ、リヒター。そなたらもついてまいれ。この場はチーグルに任せておけばよい。 |
リヒター | ――メルクリアの足止めには失敗したようだな。この先は……もうお前の裏切りを見逃してはやれないぞ。 |
フレン | ……君は相変わらずだね。でも、ありがとう。 |
フレン | (――コーキスたちは……) |
エドナ | ――フレンだわ。 |
コーキス | 合図してる…… ? |
スタン | フレンが魔法陣に入って……消えた ! |
ジューダス | 転送魔法陣だ。――そうか、あれはセールンドに通じているんだ。 |
エドナ | 行きなさい。ここの戦力はもう十分よ。救世軍が来てから、形勢は逆転したわ。 |
コーキス | よし、スタン様、行こう ! |
スタン | ああ ! リオンたちを助けるんだ ! |
ジューダス | ――僕が転送魔法陣までの最短ルートを切り開く。そこから先はお前たちに任せるぞ。 |
キャラクター | 11話【12-15 カレイドスコープの間】 |
セシリィ | ――ミリーナさん、バルドさん。こっち ! |
ミリーナ | セシリィ。ありがとう。色々協力してくれて。ガロウズのことも心配だと思うのに……。 |
セシリィ | ……だからこそ、ミリーナさんの気持ちがわかるから。 |
バルド | それじゃあ、ここから先の手順を確認しておこう。 |
バルド | この先は、敵に発見されても逃げる訳には行かない。作業はセシリィに任せる。僕とミリーナさん、それと後から合流してくるユーリさんとで敵を蹴散らすしかない。 |
ミリーナ | これが、ビフレスト式の魔鏡術を組み込んだ掘削装置よ。 |
セシリィ | 掌サイズまで小さくしてくれたんだ。さすがキールさんたち。 |
ミリーナ | この装置が魔鏡結晶を分解しながらその中に凝縮されているイクスのアニマを吸収してくれる。 |
ミリーナ | イクスが体を保てる最低限のアニマを補充したら―― |
セシリィ | 装置を取り外して、イクスさんを確保。この装置をイクスさんの体に取り付ける。 |
バルド | その後は、僕とセシリィで、イクスさんが抜けた後の人体万華鏡の穴を外部から修復します。 |
バルド | 少し時間がかかりますからミリーナさんたちは先に脱出して下さい。 |
セシリィ | でも、この建物の周りには魔術障壁が―― |
バルド | そこはリオンさんが対処してくれている。彼を信じよう。 |
ミリーナ | でも二人は本当に逃げられるの ? |
セシリィ | ……転送魔法陣を用意してあります。 |
セシリィ | 本当はミリーナさんたちをそれで脱出させてあげられればいいんですけどイクスさんの体に負担がかかるから。 |
ミリーナ | わかったわ。それじゃあ、一気に魔鏡結晶の側へ行きましょう。 |
フレン | (――……間に合ってくれ) |
? ? ? | はぁぁぁぁぁぁっ ! |
フレン | ! ? |
フレン | ユーリ ! ?どうしていきなり斬りかかってくるんだ ! ? |
ユーリ | わからねぇのか ? 自分の顔を鏡で見てみたらどうだ。 |
フレン | ……ああ、そうだな。確かに僕は自分のふがいなさに自分で呆れているよ。 |
フレン | せっかくバルドと入れ替わったのにその好機を生かせなかった。 |
ユーリ | 自分のことをそんなに器用なタイプだと思ってたのか。 |
フレン | できると思った訳じゃない。でも――そうだな。柄にもないことをしたのかも知れないね。 |
ユーリ | まだ目が覚めないみたいだな。へこむのは全部終わってからにしな。 |
ユーリ | それとももう一度『こいつ』で喝を入れてやろうか。一勝負すれば、そのしけたツラも変わるだろ。 |
フレン | そうか……そうだったな。君はいつもそうだ。 |
フレン | ………………。 |
フレン | ……いや、それこそ全部終わってからだ。イクスを助け出さないと今までやってきたことが無駄になる。 |
フレン | そういえば、君はどうして一人でここにいるんだ。 |
ユーリ | ここでナーザを片付けても問題は片付かねぇだろ。 |
ユーリ | 本当なら陽動部隊の方に入って、デミトリアスに接触するチャンスを狙いたかったんだがジェイドの奴がオレの動きを察したみたいでな。 |
ユーリ | こっちに回されちまった。 |
フレン | まさかミリーナたちを置いて帝都へ潜入するつもりだったのか ? |
ユーリ | そこまで無責任だと思ってるのかよ。ナーザを片付けたら、すぐ帝都へ行けるように準備しておこうと思ったんだよ。 |
ユーリ | ……にしても、この様子じゃ帝都への転送魔法陣は無いみたいだな。 |
フレン | ああ。入り口はあっても出口はない。 |
ユーリ | ……ちっ。それじゃあ仕方ねぇな。ミリーナたちを追いかけるか。 |
フレン | ああ。急いだ方がいい。ここにはメルクリアたちと来たんだ。リヒターとローゲも一緒にね。 |
ユーリ | ! |
フレン | 彼らがナーザと合流すると分が悪い。その前にイクスを助け出さないと。 |
ユーリ | ――よし、行くぞ ! |
バルド | セシリィ、装置を ! |
セシリィ | はい ! |
ミリーナ | イクス……。待ってて。今助けるわ。 |
ナーザ | ――そうはいかない。 |
ミリーナ | ナーザ !……いえ、ウォーデン・ロート・ニーベルング。 |
ナーザ | では、俺はお前のことをゲフィオンと呼べばいいか。ミリーナ・ヴァイス。 |
ナーザ | 本当にこんな少数で飛び込んでくるとはな。その度胸には感心する。 |
ミリーナ | ゲフィオンは私の未来であり過去の残像よ。彼女と私は違う。違う道を進む。 |
ナーザ | 違わないさ。お前はイクスの為なら世界すら滅ぼせる女だ。 |
ミリーナ | ではあなたは何なの ?滅びたビフレストの復讐のために私を殺すの ? |
ナーザ | そうだ。そして――この世界の未来を守るために貴様を……いや、セールンドの鏡士を根絶やしにする ! |
ミリーナ | 何故……。魔鏡戦争の発端も、あなたたちが私たちセールンドの鏡士を皆殺しにしようとしたことだったのに ! |
ナーザ | 違うな。セールンドが再三の忠告を無視して鏡精を生み出し続けていたからだ。 |
ナーザ | セールンド王もオーデンセの長も鏡精が禁忌の魔鏡術と知りながら使い続けた。鏡精はキラル分子を大量に生み出せるからな。 |
ミリーナ | キラル分子を…… ?そんなの初めて聞いたけれど……。 |
ナーザ | ……そうか。お前の側にカーリャがいないことを不審に思っていたが、【切り離した】か。記憶と共に。 |
ミリーナ | な、何 ? カーリャなら今も一緒にいるわ。 |
ナーザ | 二人目にはわからぬことか。だが構わん。お前は――いや、ゲフィオンは二度目の世界を滅ぼした。ダーナとヨウ・ビクエが案じた未来を招き寄せた。 |
ミリーナ | 二度目……の世界 ? |
ファントム | ウォーデン様 !今の彼女にそれを伝えるのはあまりに―― |
ナーザ | 甘いな、バルド。お前は昔から女に甘い。それにこの女の肝は中々どうして図太いぞ。 |
ナーザ | だが、こうして話している間にもセシリィがイクスを助け出してしまうな。 |
ナーザ | イクスこそ、最終的な世界の破滅をもたらす鏡士。ここで永遠に眠っていてもらわねばならない。 |
ナーザ | バルド、手を出すなよ。どのみち、死にかけた男の体では、ろくに戦えまい。ミリーナはここで排除する。 |
ユーリ | ――おっと、美味しいところで追いついたみたいだな。 |
フレン | バルド。君はセシリィをサポートしてくれ。ここは僕とユーリで十分だ。 |
ミリーナ | フレンさん ! ? |
ナーザ | ……フレンか。バルドをそそのかすとは大した奴だ。 |
ユーリ | だろ ? オレも話を聞いたときは呆れて笑いしか出なかったぜ。 |
フレン | ナーザ将軍。例えセールンドに非があったにせよ最初にオーデンセを攻めたのはあなた方ビフレストだ。道理をねじ曲げるのはおかしい。 |
ユーリ | つーか、こっちはお前らの事情なんか知ったことじゃねぇ。 |
ユーリ | ろくな説明もなしで、やってることと言えば人の体を奪うだの滅んだ国を甦らせるだの手前勝手にもほどがあるだろうがよ ! |
ミリーナ | ――私は私の勝手を通させてもらうわ。イクスを助け出す。その邪魔をするならこちらこそ、あなたを排除するだけよ ! |
キャラクター | 12話【12-15 カレイドスコープの間】 |
ナーザ | う……ぐぅ……っ |
ナーザ | ……まだだ。まだ戦える―― |
メルクリア | 兄上様―― ! ? |
メルクリア | 兄上様 ! ? これは一体…… ! ? |
ナーザ | 来るな、メルクリア ! |
メルクリア | ですが―― |
ナーザ | ローゲ ! ! |
バルバトス | ……ちっ。嫌な役を命じる。 |
メルクリア | は、放せ、ローゲ ! ! |
バルバトス | 無駄だ。皇女よ、ウォーデン殿下のアニムス粒子が乖離し始めている。 |
メルクリア | ! ? |
ナーザ | イクスが……目覚めた、か。死の砂嵐へのゲートが開いた……。 |
リヒター | イクスが目覚め、死の砂嵐が漏れ始めた。今のナーザでは……キメラ結合していたアニムス粒子が分離するのを抑えられない……。 |
メルクリア | 兄上様が……消えるのか ! ? |
ミリーナ | な、何…… ?バルドさんとセシリィも光り出した…… ! ? |
ユーリ | おい、魔鏡結晶にヒビが入ったぞ。このままじゃ魔鏡結晶の欠片がこの辺りに降ってくる ! |
リヒター | ローゲ、後退しろ ! |
ローゲ | わかっている ! |
フレン | ミリーナ ! 君もそこを離れろ ! |
ユーリ | バルド ! セシリィ ! お前らもだ ! |
バルド | ――いえ。私たちはこのまま人体万華鏡の損傷を修復します。 |
セシリィ | 私たちは大丈夫。この体は、傷つけたりしませんから。 |
ミリーナ | 二人が消えた…… ! ? |
バルド | さぁ、イクスを―― |
ミリーナ | ――今行くわ、イクス ! ! |
ユーリ | おい ! 無茶するな ! 当たり所が悪けりゃ―― |
ミリーナ | イクスっ ! |
イクス | ……ミリーナ……。ごめ……ん……。 |
ユーリ | 無茶しやがって。 |
ユーリ | イクスはオレが運ぶ。――フレン ! |
フレン | わかってる。ミリーナ、脱出しよう ! |
メルクリア | ……兄上……様…… ? |
メルクリア | ……放せ……放せ、ローゲッ ! ! |
メルクリア | 兄上様……大丈夫ですか、兄上様…… ? |
ナーザ | ……メルクリア……。すまない……。 |
メルクリア | ……嫌じゃ。それは母上が亡くなられたときと同じ言葉じゃ……。 |
ナーザ | ……母上が……お前に呪いを……かけた……。だが、それは……本心では、ない……。母上もお前の幸せを祈っていた筈だ……。 |
ナーザ | ビフレストは滅んだ……。それでいい……。死したものを甦らせるなど……やめろ……。 |
メルクリア | 嫌じゃ、兄上様 ! わらわを置いていかないで !母上はわらわを連れていこうとして失敗したのじゃ !兄上様、今度はわらわも連れていって ! |
ナーザ | 駄目だ……。生きろ……。俺が行くのは……虚無……。永遠の絶望と苦しみが巣くう死の砂嵐の中だ。お前は……生き……ろ……。 |
メルクリア | 兄上様 ! ?……嫌じゃ……嫌じゃっ !わらわはもう独りになりとうない ! ! 兄上様ぁっ ! ! |
リヒター | ……メルクリア。 |
メルクリア | ………………。 |
ローゲ | 泣いて、その場に座り込んでいるだけか、皇女よ。 |
メルクリア | ……………………。 |
メルクリア | …………………………許さぬ。 |
メルクリア | わらわから兄上様を奪った鏡士もバルドのふりをしていたあの男も……。 |
メルクリア | 許さぬ……許さぬぞ…… ! |
キャラクター | 12話【12-15 カレイドスコープの間】 |
ユーリ | バルドとセシリィはどうなったんだ ?姿が消えちまったがあれは転送魔法陣か何かのせいなのか ? |
フレン | わからない。バルドからは体を傷つけるような真似だけはしないとしか聞いていないんだ。 |
ミリーナ | セシリィも言っていたわ。体を傷つけたりはしないって……。 |
ユーリ | ……あいつら、まさか。 |
フレン | ………………。 |
ミリーナ | コーキスにスタンさん ! ? どうしてここに ! ? |
ミリーナ | ――待って。コーキス、あなたまた魔眼を使ったのね ! ? |
コーキス | あ……えっと……すみません。それより……マスターは ! ? |
ユーリ | 後ろでぐっすり眠ってるのが見えねぇか ? |
コーキス | それじゃあ…… ! |
リオン | そんな話は後にしろ。早くここを出るんだ。 |
フレン | ――ヴィクトル。魔術障壁は ? |
ヴィクトル | 三人が無効化した。今なら脱出できる。 |
ユーリ | フレン、こいつは誰だ ? |
フレン | ヴィクトルだ。イクスの救出計画をサポートしてくれた。バルドが雇った鏡映点だよ。 |
コーキス | ……誰か来るぞ ! |
ミリーナ | メルクリアだわ……。 |
メルクリア | ……よくも兄上様を殺したな ! 黒衣の鏡士 ! |
メルクリア | それにフレン ! わらわを裏切るとは万死に値するぞ ! |
フレン | ……メルクリア。君は間違っている。 |
メルクリア | わらわに意見するな、裏切り者 !今ここで、お前たちを八つ裂きにしてくれるわ ! ! |
リヒター | ……悪いが、命はもらい受けるぞ。 |
ローゲ | この俺さまの手にかかって死ねることを光栄に思え ! |
ヴィクトル | ――ここは引き受ける。行け ! |
スタン | 俺も残る ! |
ヴィクトル | むしろ足手まといだ。一人でやらせてもらう。早く行け ! |
メルクリア | 仲間割れか ? ならば全員始末してやろうぞ ! |
メルクリア | ――ビッグバン ! ! |
ヴィクトル | ……くっ ! |
ローゲ | 中々やるじゃないか。だが――これで終わりだ ! |
スタン | させるか ! |
リオン | ――フン。力任せの無駄な攻撃だ。 |
ローゲ | 貴様らぁっ ! |
リオン | ――最初に取り決めたことを忘れるなよ、ミリーナ。優先するべき事は何か。 |
ミリーナ | イクスの救出、ね。 |
スタン | 俺とリオンが残れば、三対三。いい勝負だろ。 |
スタン | コーキスは手負いだ。ミリーナたちと逃げろ ! |
ヴィクトル | 勝手なことを……。 |
リオン | むしろ僕の足手まといにならないようにするんだなヴィクトル。 |
ユーリ | ――一緒に暴れたいところだが、ここは任せるぜ。 |
ミリーナ | どうか無事で…… ! |
フレン | コーキス、大丈夫かい ? |
コーキス | あ……ああ。大丈夫 ! |
ミリーナ | 見て ! 魔術障壁が消えてるわ ! |
コーキス | よかった…… ! |
コーキス | あれ ? ミリーナ様、魔鏡通信が……。 |
ミリーナ | …… ?光っているだけで、何も映っていないけれど……。 |
? ? ? | ――……リーナ……ん……。ミリーナ……さ……。 |
コーキス | …… ? 女の人の声 ? |
? ? ? | ……よかった……。最後に言葉を……届けられる。 |
セシリィ | この声で話しかけるのは初めてだからわからないかも知れないけれど私は……セシリィの体を借りていたシドニーです。 |
ミリーナ | シドニー ! ? どういうこと ! ? |
シドニー | すみません。計画の全容を伝えていなくて。人体万華鏡を封じるには魔鏡術を使う必要があります。 |
シドニー | でも……私が魔鏡術を使うためにはセシリィの体から離れないといけなかった。 |
シドニー | 私は……ゲフィオンさんとキメラ結合する形でここに残ります。そしてゲフィオンさんの中から死の砂嵐を封じます。 |
ミリーナ | そんな―― ! ? |
シドニー | 私は……もう死んでいる人間です。でも、せめて私が生きた世界を守るお手伝いはさせて下さい。 |
シドニー | できることなら……いつか死の砂嵐を……カレイドスコープに砕かれた人々の魂を解放して欲しい……。 |
シドニー | 彼らを永遠の牢獄から解き放ってくれれば……。 |
ミリーナ | 待って ! 他に方法はないの ! ? |
シドニー | ……今は……。でも……きっとミリーナさんなら……見つけ……ら……れ……。 |
ミリーナ | 待って、セシ……シドニー ! 行かないで !ねぇ、バルドさんは ?バルドさんもゲフィオンとキメラ結合するの ? |
シドニー | バルドさんは……鏡士では……ありませんから。あの方は……ウォーデン様と共に……死の砂嵐に戻りました……。 |
シドニー | 私たちの……体は……そちら……に……。 |
シドニー | これで……いい……。 |
シドニー | ガロウズに……会えたら……しあわ……せに……と……―― |
ミリーナ | ………………。 |
コーキス | ………………。 |
ユーリ | ……帰るぞ、二人とも。 |
コーキス | けど、ユーリ様……。 |
ユーリ | シドニーの言葉を思い出せ。体をこっちに送ったって言ってただろうが。きっとアジトだろうよ。 |
ミリーナ | ……そうね。目が覚めたセシリィに話をしないといけないわね。それにファントムをどうするか考えないと。 |
フレン | コーキス。泣いてばかりはいられないよ。まだやるべきことはたくさんあるんだから。 |
コーキス | わかってるよっ !けど、なんか涙が止まんねぇんだよ ! |
コーキス | バルドなんか……さよならも言えなかった……。 |
コーキス | 二人がこうするつもりだって最初から言ってくれれば何か考えてあげられたかも知れねーのに。 |
ユーリ | わからねぇのか ? だから言わなかったんだよ。 |
ミリーナ | 時間が無かったから……。それに……二人とも自分たちは死者だから、ここにいるべきではないとずっと思っていたんだわ。 |
ミリーナ | (……二人を殺して、世界を奪ったのは……私なのに) |
ユーリ | 今度こそ行くぞ。もしここで敵に捕まったらスタンたちが壁になってくれてる意味がねぇからな。 |
コーキス | ……うん。 |
キャラクター | 12話【12-15 カレイドスコープの間】 |
ルカ | ――ジェイドさん。ミリーナたちが戻りました。イクスも無事です。スタンとリオンはまだセールンドにいるらしくて、連絡がありません。 |
ジェイド | 了解しました。それでは陽動部隊には撤退命令を出しましょう。 |
ルカ | ……あの、一つ聞いてもいいですか ? |
ジェイド | 何でしょう ? |
ルカ | どうしてケリュケイオンが魔の空域から脱出するタイミングがわかったんですか ? |
ジェイド | 話すと長くなりそうですが……。 |
ルーク | あ、俺もそれ聞きたいぞ !なんかエドナの話だと、色々裏で動いてたんだろ。 |
ジェイド | ……情報漏れの片方がフィリップからだとわかったからですよ。 |
ジェイド | ファントムは活動停止状態なのだから、盗聴の真似事をしていたのはジュニアだと当たりがつきます。 |
ジェイド | ジュニアもフィリップと同じような性格ならフィリップを裏切るような行為には後ろめたさがある筈です。 |
ジェイド | そこに自分の情報を元に、ミリーナたちを罠にはめる計画が持ち上がる。ミリーナ想いのジュニアなら何とかして助けたいと思うでしょうねぇ。 |
ルカ | つまり……ジュニアの心の動きを読んだって事ですか。でもジュニアが魔の空域の脱出方法を知っているって確証はなかったですよね。 |
ジェイド | いえ、可能性は高いと思っていましたよ。チーグルが何故魔の空域にケリュケイオンを飛ばしたのか。 |
ジェイド | 帝国は恐らく魔の空域という場所がどんな場所なのか知っているんですよ。 |
ジェイド | そうでなければ、確実にケリュケイオンをその場所へ導くことはできませんから。 |
ルーク | 駄目だ……。説明されてもよくわかんねー。だって全部想像だろ ? |
スパーダ | ルーク、気が合うな。オレもだ ! |
イリア | あたしも ! |
エドナ | 大佐のボーヤ。どや顔で自分の計画の成功をひけらかしている暇があったら撤退の準備を手伝いなさい。 |
エドナ | こっちの戦いはまだ終わっていないのよ。 |
ジェイド | おや、これはこれは。相変わらずあなたは小姑のように香ばしい発言をなさいますねぇ。 |
エドナ | 香ばしいのはどちらの方かしら。大人になるのが怖くて道化のように振る舞っているけれど、実は自分が本当に道化だとは気付いていないようね。 |
ルカ | ……は……はは……。それじゃあ、僕色々やることがあるから……失礼します ! |
イリア | ちょっと ! 何で通信を切っちゃうのよ。今から面白くなるとこだったのに ! |
ルカ | ええ ! ? あの二人の言い合いとてもじゃないけど聞いていられないよ……。 |
スパーダ | そうか ? あれはあれで楽しそうにやってるみたいだけどな。 |
ルカ | そうなのかなぁ……。……あ、そうだ。セシリィとファントムの様子は ? |
イリア | 二人とも眠ったままよ。マーテルが見てくれてるしミトスもいるから大丈夫でしょ。 |
ルカ | そう……。 |
イリア | 何情けない顔してんのよ。ちゃんと処置したんでしょ ? |
ルカ | けどジュードみたいに慣れてる訳じゃないから……。イクスだって……点滴ぐらいしかしてあげられなかったし。 |
カーリャ | ルカさま ! ここにいたんですか ! |
ルカ | カーリャ、どうしたの ? まさか、イクスに何か―― |
カーリャ | そうじゃないですけどそうなんです !とにかく来て下さい ! |
ルカ | え ! ? 何、どういうこと ! ? |
カーリャ | イクスさまが目覚めそうなんです ! ! |
イクス | ……ん…………。 |
ミリーナ | イクス…… ! お願い……目を覚まして…… ! |
コーキス | マスター……。 |
イクス | …………やめろ……くるな……っ ! |
コーキス | マスター ! しっかり ! |
ユーリ | うなされてるな。 |
ミリーナ | イクス……夢の中でも死の砂嵐に苦しめられているんだわ……。 |
コーキス | カーリャ先輩、何してるんだよ。俺もルカ様を捜しに―― |
カーリャ | ルカさまを連れてきました ! |
ルカ | イクスが目を覚ましそうなんだって ? |
コーキス | ルカ様 ! マスターが苦しそうなんだ ! |
ルカ | 待って。今、脈を診るから……。 |
イクス | ――や、やめろっ ! ? |
ルカ | わぁっ ! ? な、何 ! ? |
イクス | …………え………… ? |
フレン | 急に腕に触れられて、驚いたのかも知れないね。 |
ルカ | ……目が……覚めた…… ! よかった…… ! |
ユーリ | おい、カーリャ。魔鏡通信じゃないか ? |
カーリャ | ホントだ ! ? こんな時に誰ですか、もー ! ! |
イクス | ……何……だ…… ?俺……どうしたんだ…… ? |
ミリーナ | ――イクスッ ! ! |
イクス | ……ここは…… ? |
コーキス | マスター ! ! ! |
イクス | な……何…… ?二人とも……抱きついて……。く、苦しい……。 |
イクス | (……そう……か……。俺……魔鏡結晶から出られた、のか) |
イクス | (もう……あの声を聞かなくてすむんだ……) |
イクス | (カレイドスコープで命を落とした人たちの……苦しみの声……。それに……全身が引き裂かれそうな……あの、痛み……) |
イクス | (俺……助かったんだ……。生きてるんだ……) |
カーリャ | ――通信、スタンさまとリオンさまでした !お二人とも無事だそうです ! |
ユーリ | だろうと思った。あんなところでくたばるような連中じゃないしな。 |
イクス | (そうか……。みんな……俺を助けるために、命がけで……) |
ミリーナ | イクス……。本当によかった……。 |
イクス | ミリーナ……。 |
ミリーナ | お帰りなさい、イクス ! |
イクス | ――うん。ただいま ! |