キャラクター1話【1-1 仮想鏡界1】
ジュニア――仮想鏡界、設置完了しました。でも本当にいいんですか ?
ナーザ我らの知る情報を持ち合わせた限り帝国に鏡士はいないことは間違いない。
ナーザ鏡士がいなければ仮想鏡界を襲われる可能性は低いだろう。死鏡精もほとんど消えた。
バルドはい。いま地上のどこかに隠れ家をもってそこを拠点にするというのは難しいところです。
バルド我々はどうしても遊撃的な動きしか出来ませんので拠点が足かせになってしまいます。
リヒター……バルドの言うことはもっともだ、が。
バルド…… ? どうかしましたか ?
リヒタージュニアもナーザも鏡士だ。メルクリアも正式ではないが、鏡士の術を学んでいる。
リヒター突然お前の声が聞こえるのも気にならないだろうが……。
メルクリアいや、わらわとて驚くぞ。
バルドそれは……そうですよね。申し訳ありません。ですが人工心核に宿るだけの存在ですので魔鏡越しに声をお届けするので精一杯なのです。
ナーザ姿が見えていれば問題ないのか ?
リヒターどういう意味だ ? 何か考えでもあるのか ?
ナーザ魔鏡術で幻体を作る。
ナーザ幻体の元となる魔鏡とバルドの人工心核をリンク。幻体の制御をバルドの人工心核と同期させる。
メルクリア兄上様、これは――
バルドこ、この体は…… ?
ナーザ単なる幻だ。声だけがどこからともなく聞こえるから驚くのだ。幻でも喋れる姿が見えていれば、気にならぬだろう。
コーキス……マジかよ…… ?
バルドコーキス……。やっと口を開いてくれたね。
コーキス……別に喋ることがなかっただけだし。
メルクリアこれが……バルドの本当の姿なのか ?
バルドはい……。幻体故、メルクリア様に触れることは叶いませんが、恥ずかしながらこの姿こそ生前の私の姿です。
リヒターフレン……のような姿を想像していたが、違ったな。
バルド相性のいいアニマの持ち主の体でないとリビングドールにはなれません。ですから何かが……フレンさんに近かったのでしょうね。
バルド私は彼のような心の強さを持っているようには思えませんが……。
ナーザ――どうした、頭を垂れて。
バルド生前、祖国を守れず、こうして心だけが甦っても一度はウォ――ナーザ様を裏切った騎士失格の男にかような姿を与えていただけた。
バルドそのお慈悲に感謝を申し上げます。
ナーザ死んでからもなお忠誠を求める程、俺は愚かではない。
ナーザそれにあの時、黒衣の鏡士たちに力を貸したのはそれがお前の騎士としての生き方に恥じぬ行為だという自覚があったからだろう。
ナーザならば、謝罪は不要だ。
バルドありがとうございます、ナーザ様。
マークⅡ仮想鏡界をざっと見て来たぞ。綻びはない。所々ビフレスト風にしてあるんだな――っとそちらさんは ?
バルドバルドです。マーク。
マークⅡ幻体、か。へえ……随分と優男だったんだな。
ナーザメルクリア、バルドの姿を維持するのには魔鏡に鏡士の力を常に注いでおく必要がある。この魔鏡をお前に預けておこう。
メルクリアは、はい !
ナーザバルドの幻体はその魔鏡からメルクリアの力を感じ取れる位置までは自由に動ける。
マークⅡ鏡精みたいなモンってことか。マスターから離れすぎると消えちまう。
コーキス………………。
マークⅡん ? どうした、コーキス。もうホームシックか ?
コーキスち、違う !
マークⅡそうかあ ? ま、切り離されもしないのにマスターのところを飛び出す鏡精なんて前代未聞だからな。
ジュニアマーク。コーキスをいじめないでよ。
マークⅡはいはい。了解しましたよ、マスター。
メルクリア兄上様。わらわがバルドの魔鏡を持っていては兄上様がバルドと話を出来ぬのではありませぬか ?
ナーザバルドの心核は俺が持つ。必要があれば、俺は心核と直接対話する。
バルドそういえば、そろそろレイカー博士がこちらに来るのでは ?
コーキスアステル様がこっちに来るのか ! ?
リヒター救世軍を通じてイクスたちと話をつけた。馴れ合うことはしないが、帝国という敵に立ち向かうための情報共有は行う。
リヒター無論ビフレストの情報や、我々が帝国にいた時の情報も受け渡す。その代わりに向こうはアステルをこちらに引き渡す。
マークⅡ引き渡し地点に向かったらどうだ。俺は例によって、ここで留守番でもしとくわ。
ナーザでは……メルクリアとバルドとリヒターに同行してもらう。
コーキス俺は…… ?
ナーザ来たければ付いてきても構わない。だが、貴様は自分が俺たちの側に着いた理由をきちんとイクスたちに説明できるのか ?
コーキス……それは……。
ナーザ無理だろうな。貴様はバロールの魔眼について知るために付いてきたと言った。しかし、それは真に貴様が求めていることではないだろう。
ナーザ自分が本当は何を求めているのかそれを自分で納得させないことにはイクスたちを納得させることもできない。
ナーザ己を知れ、鏡精。貴様はまだ未熟だ。

キャラクター2話【1-2 仮想鏡界2】
ジュニア……みんな行っちゃったね。
コーキス………………。
ジュニアコーキス、あの……焦ることはないと思うよ。
コーキスうん……。けど、俺の持っている力がニーベルングを滅ぼした力だなんて……。
マークⅡ俺たち鏡精が兵器だったって話も聞いちまったんだったな。
コーキスマークは知ってたのか ?
マークⅡフィル……ジュニアは、最初のフィリップの記憶を少しずつ共有してるからな。教えて貰ったよ。
コーキスミリーナ様みたいに、記憶を失ってるところがあったりはしないのか ?
ジュニアミリーナの場合は、ゲフィオンがカーリャ……今はネヴァンか。ネヴァンを切り離した時に記憶を預けてしまったからね。
コーキス……くそ。どうしたらいいのかな。俺、馬鹿だから何から手をつけたらいいのかよくわからないんだ。
マークⅡバロールの魔眼ね……。ビフレストの連中から話を聞いて、その後は……やっぱりゲフィオンにあたるしかねえだろ。
ジュニアイクスの話だと、魔鏡結晶の中にいたときにはゲフィオンと会話出来てたみたいだから何か手段はあると思うんだよね。
ジュニアこんな時最初のフィルがいれば……。
マークⅡは ? お前を自分の都合で具現化した挙げ句ゴミみたいに捨てた奴だぞ ?
マークⅡ今はダーナと話をするために精霊の封印地にいるんだっけ ?あれから全然連絡がねぇらしいけど何していやがるのかね。
ジュニアう、うん……。でも知識も技術もあっちのフィルの方が確かだから。
コーキスけど、フィル様の記憶少しずつジュニア様も共有してるんだろ ?だったらいい勝負なんじゃないか ?
マークⅡうちのマスターの方が若い分脳のひらめきがいい筈だ。
ジュニア……待って。それだ !
二人
ジュニアミリーナなら、ゲフィオンと会話出来るのかも知れない…… !
セネルイクス、ちょっといいか。
イクスああ……えっと、用件は ?
セネル……何か急ぎの用事でもあるみたいだな。
イクスあ、ああ……ごめん。アステルがナーザ将軍たちのところに行くことになってその手配でちょっとバタバタしてたんだ。
ジェイイクスさんですね。ジェイです。きちんとお目にかかるのは初めてですね。先程ウェルテス領の調査から戻りました。
セネル俺たちがウェルテス領から引き上げた後も色々と帝国の状況を調べてくれていたんだ。
イクスああ ! 話は聞いてるよ。ようこそ浮遊島アジトに。俺はイクス・ネーヴェだ。
ジェイウェルテス領に関する情報は、資料にまとめてキール研究室とカロル調査室、リオン警備部に共有しました。これはイクスさんたちの分です。
イクスありがとう、助かる。文書になってると早いんだ。
ジェイ瞬間記憶能力ですよね。その辺りはこちらも把握しています。
イクス本当にすごいな ! ?
セネルジェイは頼りになるからな。
セネルそれより色々と大変なことが続いて気が休まらないんじゃないか ?コーキスのこともあるし。
イクス――いや、コーキスは……コーキスなりに考えがあってのことだと思うから……。っていうか、セネルたちにまで心配かけてごめん。
セネル仲間だろ。そんなことで謝るぐらいなら悩み事はきちんと相談して、しっかり休んでくれ。つらい時はつらいって言っていいんだ。
イクス……ありがとう、セネル。
セネルそれで……こんな時に空気が読めないと思われそうなんだが、うちの連中がジェイの歓迎会をしたいって言い出して。
イクスああ、いいんじゃないか ?
セネルいいのか ? せっかくだから、今年のクリスマス会も兼ねられればと思ったんだが……。
イクスそうか……もうすぐクリスマスだもんな。他のみんなも喜ぶと思うから、話をしてみてくれ。
セネルわかった。じゃあ、行こうか、ジェイ。
ジェイあ、すみません。ぼくはこの後カロル調査室の方へ顔を出そうと思います。
セネルそうか ? わかった。それじゃあ、イクス。無理するなよ。
イクスああ、ありがとう。ジェイ、これからよろしく。
ジェイええ、こちらこそ、イクスさん。
イクス(またクリスマスが来るのか……。コーキスが一緒にいたら、パーティーの準備張り切っただろうな……)
イクス(コーキス。ちゃんとお前と話したいよ……)
ミリーナイクス、こんなところにいたのね。そろそろ出発の時間よ。
カーリャ急ぎましょう。コーキスも待ち合わせ場所に来ているかも知れません。
カーリャ・Nイクス様。イクス様がお望みでしたらなんとしても、コーキスをこちらに連れ戻しますが。
イクスいや、それは駄目だ。コーキスなりに考えて決めたことだと思うから、まずはその話を聞きたい。
カーリャそうですよ、ネヴァン先輩。コーキスのやったことは馬鹿無限大の所行ですけど、それでも最初から本人の意志を無視するのはよくないです。
カーリャ・Nそ、そうですね……。すみません。小さいカーリャの言う通りです。
カーリャ・N私はミリーナ様とイクス様に関わることだとどうも頭に血が上ってしまうようですね。カーリャ、ありがとう。
ミリーナねえ、ネヴァン。アステルさんを送り届けたら、あなたにお話があるの。
カーリャ・Nすみません、小さいミリーナ様。実はこの後――
ミリーナいいえ、何かの調査ならカロル調査室に任せましょう。もうそろそろ、ちゃんと向き合ってもいいんじゃないかしら。私たち。
カーリャ・N何に……でしょうか。
ミリーナゲフィオン――最初のミリーナに。

キャラクター3話【1-3 静かな平原1】
リヒターアステルはどうした。
イクスもうすぐ来るよ。アジトを出る前に研究資料を共有するって駆け回ってたから。その……コーキスは…… ?
ナーザ来るつもりはないそうだ。
イクス……だったら伝えてもらえませんか。話がしたいって。
ナーザ俺はメッセンジャーではない。
バルドナーザ様。イクスもそんなつもりではないのですから気持ちを汲んでやっていただけませんか ?
ミリーナ……え ? その声、もしかして……。
バルドはい。バルドです。メルクリア様救出のおりにはお力添え、ありがとうございました。
三人! ?
ミリーナバルドさん……こういう姿をしていたんですね。あの時――イクスの救出の時は、きちんとお別れの挨拶もできないままだった……。
バルドあの時は不義理をしてすみません。本当はシドニーも連れてこられればよかったのですが事情があって……。
ミリーナシドニーはまだ虚無にいるのね……。
メルクリア………………。
バルドそれからカーリャ――いえ、ネヴァン。お久しぶりです。
カーリャ・Nえ……ええ……。でもバルド……。あなたの体は魔鏡戦争の時、カレイドスコープによって消滅したはず。それがどうして……。
バルド幻体です。姿が見えない状態では色々とご迷惑をお掛けするようなので、ナーザ様がこのような形でかりそめの体をご用意下さいました。
バルドもっとも、幻の存在故、あなたのその美しい手に唇を寄せることも叶いませんが……。
カーリャええ ! ? キャラが違いませんか ! ? バルドさま ! ?
ナーザこれは昔からこうだ。
バルドフレンさんの心核にいた頃はフレンさんから色々と止められていて……。あの方は本当に真面目な方ですね。
イクス(色々と……って、フレンさんが止めなければ何をするつもりだったんだろう……)
ミリーナナーザ将軍、教えて頂けませんか。ビフレストは何を知っているのか。
ミリーナデミトリアス陛下は、どうして異世界の技術を使って非道な実験を繰り返すのか。
ナーザ聞かれるだろうと思っていた。故にバルドとメルクリアを同行させた。
メルクリアわらわ……でございますか ?
ナーザメルクリア。ビフレストのことを知らないのはお前も同じだ。今日はその話をしようと思う。だが……ここで立ち話というのもな。
イクスあ、それはそうですね。アジトに来て貰う……のは大変か……。
メルクリアわらわたちの拠点に案内してはどうでしょう。……こやつらのことは好きではありませぬが助けてもらった恩がございます。
メルクリアそれに鏡精への伝言など、兄上様のお手を煩わせずともマスターが自ら声がけすればよいではありませぬか。
カーリャ・Nビフレストの拠点……ですか。
ミリーナ不満そうね、ネヴァン。
カーリャ・N……私にとってはたとえ死者でもこの者たちは仇ですから。
メルクリアわらわにとってもミリーナ・ヴァイスは仇じゃぞ。
ミリーナそうよね……。でも私……ゲフィオンは、イクスを救うためなら手段を選ばないと決めていた。恨まれても仕方ないわ。
バルド我々は、それぞれ対立する国に属していた存在。色々と思うところもあるでしょう。ですがそれでも、協力しあうことはできる筈です。
バルド拠点では、私が皆さんの身の安全を保証します。
イクスありがとうございます。それに俺もバルドさんと同じ意見です。
ミリーナバルドさんは私たちを助けてくれた人だもの。信じない方が失礼よね。
カーリャはい ! それにイケメンですし !
バルドあなたもとても愛らしいですよ、カーリャ。見た目だけではなく、中身もきら星の如く輝いている。そして願わくば私の中身のことも、是非知って下さい。
カーリャカカカカカーリャ……く、口説かれてる…… ! ?
ミリーナちょ……バルドさん ! ?
カーリャ・N小さいカーリャに色目を使うのはやめなさい !
バルド叱られてしまいました。
バルドすみません、ミリーナさん、ネヴァン。あなた方を困らせるつもりはなかったのです。どうかその――
ナーザバルド ! 貴様は相変わらずだな。なぜ息をするように女を口説く。それで何度も痛い目に遭っているだろう。
バルド口説くなどと、とんでもない。私は自分が美しいと思うものを称えたいだけです。
バルド私にとって女性は皆美しく、強く気高い神のような存在。称えずにはいられません。
バルドもちろん、この世で一番美しく気高いのはウォ……ナーザ様ですが。
ナーザ――やめろ。だから貴様はローゲに毛嫌いされるのだ。乳兄弟とはいえ、虫酸が走る。
メルクリアバルド、その辺にしておけ。兄上様が怒りのあまりそなたの幻体を消すかも知れぬぞ。
バルドはい、承知しました。メルクリア様。
メルクリア兄上様がお望みなら、すぐにでもこの者たちを拠点へ案内させますが。
ナーザ……わかった。リヒター、お前はここに残りアステルと合流してから来るがいい。
リヒター言われずともそうするつもりだ。
カーリャ・Nでは、私もここに残り一緒にアステル様の到着を待ちます。
リヒター………………。
ミリーナそう……。ええ、わかったわ。それじゃあ、お願いね、ネヴァン。
イクス(ネヴァン……。やっぱりゲフィオンの話になりそうなところは避けるんだな)
イクス(でも、これでコーキスに会える…… !コーキス、今、すごくお前と話がしたいよ)

キャラクター4話【1-4 仮想鏡界3】
イクスアジトって、ジュニアの仮想鏡界だったんですね。
バルドええ。今の時世を考えれば、どこよりも安全でしょう。
カーリャすごーい ! カーリャたちのアジトとは雰囲気が違います。
ミリーナええ。この造りはビフレスト様式ね。
バルドジュニアが気遣ってくれたようです。故郷のものと、ほぼ同じと言ってもいい出来ですよ。
ミリーナさすが小さいフィル。細やかだわ。
カーリャあっ、見てください、ミリーナさま。あっちもすごいですよ。ほらほら !
ミリーナフフッ、あまりウロウロしちゃ駄目よ、カーリャ。
メルクリア……どの鏡精とマスターも仲が良いのじゃな。
バルドメルクリア様……。
メルクリアきっ、気づかいは無用じゃぞ !――皆、こちらへ。兄上様のお話を拝聴する。
カーリャはーい。イクスさま。見学は終わりですよ。
イクスえっ ?
カーリャあ~、聞いてませんでしたね。
イクスいや、その……。
ナーザコーキスでも探していたか。
イクス! !
ナーザあの鏡精は己の意思で俺の下へ来た。今ここに姿を見せぬのも、また奴の意思だ。
イクス…………。
ナーザコーキスを呼ぶか ?
イクス……いえ。俺たちの目的は、ビフレストの話を聞くことですから。
ナーザそうか。では始めるぞ。まずは、あの魔鏡戦争で何があったのか話すとしよう。
魔鏡戦争当時 ビフレスト軍
ウォーデン――バルド、戦況は ?
バルド現在、我が軍が優勢です。セールンド王国軍は相当数の兵を失い戦線は大きく後退しています。
ウォーデンそうか。だが油断はするなよ。蟻も這い出ぬほど、徹底的に攻め続けろ。
ウォーデンいくら敵兵を減らし、勢いをそいだとて禁忌に触れたセールンドの鏡士と鏡精を排除しなければ、我らの勝利とは言えない。
バルド…………承知しました。
ウォーデン……言いたいことがあれば手短に言え。鏡士でないお前と話すために、魔鏡術で無理に繋いだ通信だ。あと僅かな時間しか持たんぞ。
バルド……ウォーデン様この戦争は正しいものなのでしょうか。
ウォーデンどういう意味だ。
バルドこの戦では、セールンド王国に家族や想う相手を残している者が大勢います。
バルドこの通信を繋いでくれている鏡士のシドニーもその一人です。彼女の話を聞くにつけ争うほかに何か道はないのだろうかと……。
ウォーデン……なるほど、シドニーか。やはりお前は女に甘いな。
ウォーデンこの戦争は俺たち一族の使命だ。鏡精を作っただけでは飽き足らず、バロールの力を甦らせようとしたセールンド王国を許すわけにはいかない。
ウォーデンバルド、俺とお前は共に育った。それがわからないお前ではないはずだ。義兄ならば義兄らしく、物の道理をわきまえろ。
バルド……そうだね、ウォーデン。きみの言う通りだ。それでも……何かできることはなかったかと考えてしまうんだ。
バルドこの選択を選ばざるをえなかったきみの苦悩を、僕も知っているからね。
ウォーデンもはや、過ぎたことだ。
ビフレスト軍兵士バルド様、前方より接近するセールンド軍を確認 !我が軍の中央を突破してきます。恐ろしいほどの強さです !
バルドこの状況で切り込んで来るだと ? まさか……。
ウォーデン兵が必要ならば、こちらでも準備をするぞ。
バルド御心配にはおよびません。私にお任せを。ウォーデン様は良き報告をお待ちください。
ウォーデンバルド、重ねて言うが用心しろ。そして、迷うな。
バルド承知しました。
バルド――出るぞ、皆続け !
バルドカーリャ ! ! やはりあなたか !
カーリャ…………。
バルド降伏しなさい ! この状況では全滅は免れない !
カーリャふざけたことを ! 降伏などありえません。イクス様を殺したあなたたちに、せめて一矢報いねば !
バルドよく考えなさい ! セールンド王国が鏡精に対して非道な扱いをしていることを知っているだろう。
バルド虐げられた鏡精であるあなたが何故そこまでして仕える必要がある !
カーリャ私を愚弄するな !このカーリャ、一度たりとも虐げられたことなどない !
カーリャ非道というのなら、あなたたちの行いこそが私にとっては非道そのもの !そのせいでイクス様は……、イクス様は…… !
カーリャ今日であなたの顔も見納めです。――全員、突撃 !
セールンド軍兵士たちうおおおおおおっ !
バルド残念です、美しき鏡精カーリャ。もっと別の出会い方をしていれば、私は……。
バルドしかし、私はあなたをこの手で倒さねばならない。ウォーデン様のために !
ビフレスト軍兵士いいぞ、追い込め ! セールンドの奴らは逃げ腰だ !
バルド(……妙だ。特攻しておきながら、攻め入るどころかこんな自陣の奥まで戦線を後退させている……)
バルド皆、止まれ ! これ以上深追いするな !
セールンド兵士カーリャ様、あっちの大将が動かなくなりました。気づかれたかもしれません。ゲフィオン様から連絡は ?
カーリャいいえ、まだです。もうじき……あっ !
カーリャ………………来ました。
セールンド兵士では !
カーリャええ。――全兵に告ぎます ! 撤退してください !
セールンド兵士撤退 ! 急げ ! 撤退ーー !
バルド撤退だと ? カーリャ、あなたは―― !
カーリャ罠にはまりましたね。ビフレストの悪鬼共。今こそ、反撃ののろしを上げる時 !
バルド…………彼女にしてやられました。カーリャたちに気を取られている隙に、手薄になった後方の軍勢へ魔鏡兵器が撃ち込まれたのです。
ミリーナまさか、それって……。
ナーザそうだ。お前たちもよく知っているはずだ。我らビフレストの多くの民を虚無へと還し世界を滅ぼす原因となった魔鏡兵器。
ナーザカレイドスコープだ。
二人! !

キャラクター5話【1-5 静かな平原2】
カーリャ・N…………。
リヒター……遅いな。何をしているんだ、アステルは。
カーリャ・N……色々と準備があるのでしょう。気長に待つのがよろしいかと。
リヒター本当に返してくれるんだろうな。
カーリャ・Nご心配なく。ですが、アステル様は私たちのアジトでも研究の助言をくださっていましたから残念に思う方々は多いでしょうね。
リヒターまったくあいつは……。人がいいにも程がある。
カーリャ・N大事になさっているのですね、アステル様を。
リヒター否定はしない。この世界に来なければ俺はあいつを失ったままのはずだからな。
リヒターアステルを亡くした後は、後悔と憎悪に蝕まれ気が休まることはなかった。
カーリャ・N…………。
リヒター今のままでは、お前もそうなる。
カーリャ・Nなんのことですか ?
リヒターわからん奴だな。このままでいいのかと言っているんだ。
リヒターお前は鏡士たちと別れてからずっと浮かない顔をしている。
カーリャ・N……リヒター様の気のせいでしょう。
リヒターそう取り繕うつもりなら顔に出さない訓練でもするんだな。
リヒター伝えたいことがあるなら、伝えておけ。いつまでも相手が傍にいるとは限らない。……俺がアステルを失ったように。
カーリャ・N…………。
リヒター勇気を持て。そうすれば、お前自身も前へと進めるはずだ。
カーリャ・N勇気……。
アステルあ、いた ! やっほー、リヒター ! 相変わらず不機嫌そうだね !
リヒター――ええい、アステル ! 遅いぞ !
アステルごめん、ごめん !みんなとお別れの挨拶してたら長引いちゃったんだ。ほら、僕って人気者だから !
リヒターお前も相変わらずふてぶてしいな……。で、お前たちは付き添いというところか。
クラース護衛兼見送りだよ。イクスたちはどうした ?
カーリャ・N込み入った話があるとのことでビフレスト側のアジトへ行きました。安全は保障されている……と思います。
リヒターお前たちの到着が遅れていたからな。俺たちを残して先に向かった。
クラースそれは申し訳ない。アステルの精霊に関する知識がとても興味深くてね。道々、つい話しこんでしまったんだ。
キールもうしばらくこっちにいて研究を続けて欲しかったよ。
アステル僕ももっと話がしたかったんだけどさ。これ以上はリヒターがうるさいから。
リヒター誰がうるさいだと ?俺の手を煩わせるからだろう。だいたいお前は――。
アステルほらね ? うるさいと思わない ?
キールな、なんでぼくに聞く !見ろ、睨まれてるじゃないか !
リヒターいや、睨んではいないが……。
アステルあはは、リヒターはこれが普通なんだよ。怖がらせてごめんね。ほら、リヒターも謝って。
リヒターなんでそうなる……。
カーリャ・N………………。
クラース羨ましい……いや、懐かしいといった顔かな。
カーリャ・N――あ……いえ、あの……。
クラースそれにしても、引き渡し交渉だというから身構えていたんだが……ずいぶんと和やかで拍子抜けしたよ。
クラースネヴァン、きみもご苦労だったな。
カーリャ・Nはい。……リヒター様も、アステル様もとても穏やかな顔をしていますね。
クラースああ。あのリヒターという男アステルがいると雰囲気がだいぶ違うな。
クラース少し羨ましいよ。そういう相手が側にいるのは。
カーリャ・N…………。
クラースきみもそうなんじゃないか ?
カーリャ・Nわ、私は…………。それよりも、クラース様が側にいて欲しいというのはどんな方なのですか ?
クラースえっ ! ? い、いやまあ、その、何というかだな……。
キールおい、アステルたち、そろそろ行くそうだ。
クラースおっと、そうか。気をつけてな !
アステルはい。色々とお世話になりました。
リヒターネヴァン、お前はどうするんだ。
カーリャ・N……このままクラース様たちと戻ろうと思います。小さいミリーナ様たちには、連絡を入れますので。
リヒター……そうか。では行くぞ、アステ――…… ?
アステルリヒター、何してるの。おいてっちゃうよ。
リヒターおい待て、そうやっていつもフラフラと !アジトの場所も知らないだろう !
キール……さて、ぼくたちも帰ろう。やることは山ほどあるぞ。
クラースアステルの話だと、帝国がレムとヴォルトの居場所にあたりを付けているらしいからな。これも含めて調査を進めないといけないだろう。それと他には……
キールシャドウについてはスレイたちが確認済みのはずだ。
クラースああ。レムとヴォルトも、カロル調査室が集めた各地の異変と照らし合わせて、確実に押さえよう。しかし……こうなると手が足りないな。
キールだったら、手分けして精霊との契約を進めればいいさ。こっちはメルディに協力してもらう。
クラースそうだな。では頼む。シングたちがヨウ・ビクエに言われたように一刻も早く「精霊を味方につける」ことが第一だ。

キャラクター6話【1-6 ジェイ】
ノーマはいは~い、注目~ ! それじゃあ、ジェージェーの歓迎会 & クリスマス会の計画は、あたし主導で進めるからね~ ! 当日は派手にやっちゃうよ !
シャーリィ気合入ってるね。ノーマ。
ノーマそりゃそうでしょ ! や~っとジェージェーが正式に仲間になったんだもん。
ノーマウェルテス領から撤退する時に、一緒にアジトに帰るかと思ったのにさ。残るとか言い出すし。肩透かしくらったこっちの身にもなれっての。
ジェイ仕方ないでしょう。まだ調査中の案件もあったんですから。それに他にもいろいろと。
セネル他ってのにはイクスたちのことも含まれてたんだろ ?
ジェイええ。以前から彼らの情報は仕入れていましたけど改めて調査した上で納得できなければ合流する気はありませんでした。
ジェイぼくにとっては付き合いのない方たちです。万が一……ということだってありえますので。
クロエジェイらしいな。用心深い。
ジェイ……まあ、皆さんが、イクスさんたちと一緒に行動してる時点で、その心配は低かったんですけどね。
グリューネありがとうジェイちゃん、信用してくれて。お姉さん嬉しいわ。
ノーマはいはい、とにかくパーティーの計画 !ジェージェーの紹介には大掛かりな演出が欲しいよね。レッちゃんに頼んで、ババ~ンと空から舞い降りるとか !
セネルレッちゃんてコレットか ? 大丈夫かよ、それ。
ノーマもう、セネセネってば、ハロウィンでのあたしの活躍っぷり、もう忘れちゃったの ?
セネル忘れてないから不安なんだよ。演出される方の気持ちも考えてやれよ……。
グリューネあら、ジェイちゃん、なんだか嬉しそうね。
ノーマあたしたちに会えて嬉しさを隠し切れないんでしょ ?今まで寂しかったんだねぇ、ジェージェー。
ジェイち、違いますよ。ここにモーゼスさんがいなくてほっとしただけです。あの人がいたら、もっとうるさかったでしょうからね。
シャーリィモーゼスさん……どこにいるのかな。ウィルさんの情報も未だに入らないし……。
セネルウィルが具現化されていたとしてもどこかで堅実に生活してそうな気がするな。
クロエそれを言うならシャンドルも、どこかで逞しくやってそうだぞ。
セネルははっ、ジェイの時みたいにいきなりキュッポたちから連絡がきたりしてな。
クロエまさか、そこまで都合のいい展開など――
キュッポセネルさん、セネルさん !モーゼスさんを見つけたキュ !
全員……………………。
シャーリィつ、都合……よかったね ?
ノーマいや、よすぎだわ !
ポッポ聞いてるキュ ! ? 大変なんだキュ !
ジェイ落ち着いて。ちゃんと順を追って話すんだ。
ピッポピッポたち、オルバース領を調査してたキュ。その途中で、モーゼスさんが帝国軍に追われているのを見たんだキュ !
キュッポキュッポたちも後を追ってる途中だキュ。皆さん、こっちに来られるキュ ?
クロエシャンドルが帝国に…… !クーリッジ、すぐに助けに行こう !
セネルああ ! みんな、準備をしてくれ !
ジェイ待ってください。助けに行くのは結構ですがグリューネさんは残った方がいいと思います。
グリューネどうして ? みんなと一緒にモーゼスちゃんを助けに行きたいわ。
ジェイさっき、カロル調査室と情報を共有してきました。その中に気になる話があったんです。
ジェイグリューネさんのことはジュニアという人が具現化したそうですね。
グリューネええ、そうよ。また会いたいわねぇ、ジュニアちゃん。
ジェイその一連の事件には、セネルさんたちも立ち会っていたと聞いています。
セネルああ。グリューネさんは神の『奇跡の力』を具現化する過程で偶然具現化されたんだ。
セネルけど、ジュニアの研究は結果的には失敗してシュヴァルツまで現れた。なんとか抑え込んだけどな。
ジェイどうやら、その時のジュニアさんの研究結果に帝国が興味を示しているらしいんです。
全員! !
クロエそれは、グリューネさんに目をつけたということか ?
ジェイ何にしろ詳しいことはわかりません。わからないからこそ、今は用心するべきです。
グリューネわかったわ。残念だけど仕方ないわよね。みんな、モーゼスちゃんのこと、お願いね。
セネルああ、任せてくれ。そういうわけだからノーマ、パーティーの計画は後回しだ。あと、他のメンバーの意見も聞きながらにしてくれよ !
ノーマセネセネ、なんでちょっと嬉しそうなのさ !
ノーマはぁ、仕方ない……この持てあますやる気はモーすけ救出に回しますか。もったいないけどね !
ジェイ全く、あの人は本当に世話がかかるんですから。まあ、恩を売るには丁度いい機会でしょう。
ジェイキュッポ、ピッポ、ポッポ大至急そっちに向かうから位置を詳しく教えて。
キュッポたち了解だキュ !
セネルそれじゃグリューネさん。後をよろしく。
グリューネええ。お留守番は任せてちょうだい。みんな、いってらっしゃ~い。

キャラクター7話【1-7 オルバース領 街道1】
オルバース領
ピッポジェイ、皆さん ! 待ってたキュ !
セネル連絡ありがとうな。それでモーゼスはどうなった ?
キュッポモーゼスさんはあの後すぐに捕まってしまったキュ……。
全員ええっ ! ?
ジェイそれで ?
キュッポそのまま、帝国の研究施設に連れていかれたのを確認したキュ !
クロエでは、その施設に入らねばならないな。どう潜入する ?
ポッポ心配ないキュ ! ポッポが発明したこの『モフモフドリル』で秘密の抜け道を作ってる途中だキュ。
ポッポもう少しで開通だキュ。掘りながら潜入するキュ !
ノーマやるじゃん、ホタテ三兄弟 !まあ、モフモフドリルって名前は柔らかそうでちょっと不安だけどさ。
キュッポホタテじゃないキュ !
ピッポモフモフドリルもモフモフ族らしい、詩的で美しい名前だキュ !
ポッポドリルだってピッカピカでカッチカチだキュ !耐摩耗性も高くて掘削能力は今までの――
ノーマわ~かったわかった、ごめんて !
ジェイありがとう、みんな。これで警備に見つからずに入れるよ。
キュッポジェイたちのためなら、たとえ火の中、土の中だキュ !それじゃ皆さん、潜入開始だキュ !
クロエどうだ ? 警備はいないか ? ゴホッ……。
セネルああ、大丈夫だ。この辺りは兵士も少ないみたいだ。シャーリィ、大丈夫か……ゲホゲホッ……。
シャーリィうん……、ケホッケホッ……。
ノーマそんじゃこのままモーすけを探し……ゲホガホゲホホッ ! !
ジェイノーマさん、大声は控えてください。見つかりますよ。
ノーマ煙で目も鼻も喉もやられてんの !なにあのドリル、欠陥品じゃん ! つ~か、なんでジェージェーは平気なのさ……ゲホッ……。
ジェイ鍛え方が違いますから。………………けほ。
三人(ちょっとやられてる……)
ポッポすまないキュ……。でも煙を噴く程度で良かったキュ。
セネル煙程度……。そういや、ポッポ三世号の時も成功確率1割で俺たちを乗せようとしてたっけな。
ポッポ今回も一つ間違えば大爆発だったキュ。 煙くらいなら大成功だキュ ! キュキュキュ !
クロエば、爆……。これ以上は聞かない方がいいな……。とにかくシャンドルを捜そう。
キュッポ待って欲しいキュ。こっちの方から人の声が聞こえるキュ !
セネル警備兵に見つかったか ! ?
キュッポう~ん……違うようだキュ。普通に話してるキュ。
ジェイ闇雲に探すよりはマシですね。行ってみましょう。
セネル話し声ってのはこの部屋からだな。
グラスティン――おい、背中を出せ。そのまま大人しくしていろよ。
一同! !
セネルグラスティン…… !それにグラスティンの前にいる二人、見覚えが……。
クロエそうだ ! 鏡映点リストで見た顔だ。ええと……
ジェイリッドさんの世界の人ですね。確かレイスという名前だったはずです。それともう一人はフォッグ。
グラスティンでは始めようか。リビングドールβとはいえ痛みで暴れるかもしれん。こいつらをしっかり押さえておけよ。
帝国兵はっ。
セネルグラスティン、何をするつもりだ……。
クロエ奴が手にしているのは、焼印のようにも見えるが……まさか…… !
グラスティンヒヒヒ……いくぞお。
レイスぐっ ! ああああっ !
グラスティンよし、次はお前だ。
フォッグ……ぐおおおおっ ! !
グラスティンヒヒヒ。さあ、終わったぞ。領主の館へ運んでやれ。
帝国兵はっ。
グラスティンこれで【贄の紋章】を目印に【ルグの槍】を発動できる。
シャーリィ嘘、本当に焼印……。背中に押してた…… !
セネルあいつら…… ! すぐにリッドたちに連絡する !
ジェイ待ってください。あれは……。
帝国兵グラスティン様。捕らえた賊を連れてきました。
モーゼス離せっ ! 離せ言うちょるんじゃ ! この悪党がっ !ここらの人間をさらっとったんはワレらじゃろ ! ?
セネルモーゼス ! !

キャラクター8話【1-8 オルバース領 研究施設1】
グラスティンお前か。サレの『仕事』を邪魔していた奴は。
モーゼス何が仕事じゃ。アレは人さらい言うんじゃ !このゲスが !
グラスティン……ん ? そうか、お前は鏡映点だな。その下品な顔、資料で見たぞ。
モーゼス誰がきょーえーてんじゃ !ワイにはモーゼスって立派な名ぁがあるわ !
グラスティンそうそう、モーゼス・シャンドル。間違いないようだ。ヒヒヒ……。
四人(あのバカ…… ! )
グラスティンヒヒヒ……面白いものが引っかかったな。おい、こいつを俺のところへ運べ。
シャーリィどうしよう ! グラスティンのところへ連れていかれたら何をされるか…… !
セネルくそっ !
セネル待てっ ! モーゼスは返してもらうぞ !
モーゼスセの字…… ? 何でこがあなところに !
グラスティン羽虫が入り込んでたか。まあ一匹程度なら――
ノーマ誰が一人だって ?――シャボン・スパークリングー !
グラスティンうっ ! ?
モーゼスシャボン娘 ! ? 当たる ! ワイに当たる !
クロエシャンドル、今のうちにこっちへ !
ジェイ少しくらい当たっても多分死にませんから。早く !
モーゼスクッちゃんにジェー坊 ! ってか多分てなんじゃ !
グラスティンおおっ ! 黒 ! 黒髪だぁ !ヒヒヒ、楽しくなってきたじゃないか。
ノーマ気持ちわる ! もう一発くらえ !
シャーリィ私が ! アビサル・スクウィーズ !
グラスティンぐあああっ………… !くっ……この力……。ヒヒヒッ……そうか、お前…… !
ノーマなにあいつ、リッちゃんの技くらって笑ってるよ。ホント、キモ !
グラスティン予定変更だ。――お前にしよう。そろそろ大人しくなる頃合いだしな。
シャーリィな、なに…… ! ?
セネルシャーリィ ! こっちに――……うっ…… ?
クロエなんだ……体が……動かな…………。
ジェイこれは……ガス……。
グラスティンヒヒヒ、当たりだ、黒髪の坊や。もう一人のお嬢さんと一緒に後でゆっくり可愛がってやるから待ってろよ。
セネルくそっ……いつの……間に……。
グラスティンこいつは侵入者用のトラップでなぁ。お前が現れた時に作動させておいたんだよ。
クロエなぜ……お前は……。
グラスティン不思議かあ ? 綺麗な黒髪のお嬢さん。俺はガスを吸ってもクロノスの力で回復する。精霊装さまさまだよ。ヒヒッ。
セネルくそっ…… !
グラスティンさて、神降ろしの器だったお嬢さん。また面白いものを宿しているようだ。その力はウンディーネ、か ?
シャーリィいや……来ないで…… !
モーゼスおいワレ ! くっ……ワレは……ワイを連れてくんじゃろが…… !だったら嬢ちゃんじゃなく……ワイを…… !
グラスティンお前は後回しだ。『こっち』が優先でな。
クロエ焼印…… ! ? まさか…… !
シャーリィあ……、いや……。
セネルや……めろ ! シャーリィ…… ! シャーリィ ! !
ノーマリッちゃ……逃げ……て…… !
グラスティン歯を食いしばっておけよ。ヒヒヒ……。
シャーリィきゃああああああああっ ! !
セネルシャーリィーーーーッ ! !
グラスティンああ、金髪のわりには、いい声で鳴くなぁ。ヒヒヒッ !
シャーリィっ……はぁ……はぁ……おにい……ちゃん……、おにい……。
グラスティンヒヒッ、気を失うほどよかったか ?さて、黒髪は後の楽しみにとっておくとして先につまらん肉共を――
セネルお前は……お前は絶対に許さないっ ! !
グラスティンこの光は…… !
クロエ……オーバー……レイ…… ?
モーゼスセの字……ワレ……なんで動けるんじゃ……。
セネルうおおおおおおおおっ !
グラスティンぐっ ! 浄玻璃鏡の力か……やっかいな……。
セネルお前だけは……俺がこの手でぶちのめす ! !

キャラクター9話【1-9 オルバース領 研究施設2】
セネルくらえーーーーッ ! !
グラスティンぐああああああっ ! !
モーゼス壁ごと吹き飛ばしよった…… !なんちゅう威力じゃ……。
クロエ……なんだ ? 体が楽になったぞ。
ジェイ壁が壊れて、充満してたガスが散ったんでしょう。キュッポたちは平気 ?
キュッポ動けるキュ !
ノーマあたしも何とか。クー ! リッちゃんは ! ?
クロエ気を失っている。すぐに手当てをしないと !
帝国兵侵入者を確認。グラスティン様と交戦中の模様。
ノーマやば ! 兵士が集まって来た !
ジェイこの騒ぎですからね。すぐに脱出しましょう。モーゼスさん、動けますよね。
モーゼスお、おう。じゃがセの字が…… !おい、撤退じゃセの字 ! 聞いとんかワレ !
セネル立てよグラスティン ! まだこんなもんじゃないぞ !
グラスティンはぁ……はぁ……五月蠅い虫め。
帝国兵たちグラスティン様。ご無事ですか。
グラスティン丁度いい。お前ら、俺が回復するまで盾になれ。なんだったら奴を殺しても――……ん ?
グラスティンこのキラル反応は…… !
グラスティンヒヒヒ、悪いな『お兄ちゃん』♪おまえの相手をしている暇はなくなった。本命が色々悪さをしているみたいでなあ。
グラスティンおい、俺はアスガルド城に行く。後始末は任せたぞ。
帝国兵はっ。
セネル――っ ! ! 逃がすか ! !
グラスティンククク……。しつこいのは嫌いじゃないぞ ?そこの黒髪の二人と一緒なら、また遊んでやるさ。じゃあな、『お兄ちゃん』。ヒヒヒヒヒッ !
セネルふざけるな ! 待てよ、今ここで決着を――
セネルくそっ、お前ら邪魔だ ! どけーーっ !
モーゼス待てや ! セの字 ! !
セネルモーゼス ! !
モーゼスちいと落ち着け !今は嬢ちゃん助けるんが先とちゃうんか ! !
セネルっ…………。
モーゼスこいつらはワイが足止めするけえ。早う嬢ちゃんの側に行っちゃれ。
セネル……ああ、頼んだ !
帝国兵たち待て。
モーゼスワレらの相手はワイじゃ。さっきはようもネチネチと追い回してくれたのう。
モーゼス礼はたっぷりとさせてもらうけえのお !
セネル――シャーリィ !
クロエクーリッジ ! シャーリィがまだ目を覚まさないんだ。
セネルわかった。俺が背負う。
ジェイキュッポたちが道を確保しています。こっちです !
ノーマモーすけ ! 準備完了。てったーーい !
モーゼスわかっちょる ! こっちもこいつで最後じゃ !
帝国兵ぐああっ ! !
ノーマあらら、さっきの警備兵、みんな倒しちゃったわけ ?
モーゼスああ、この程度なら楽勝じゃ !こいつら数に頼んで、大した技も持っとらん。
ジェイさっきまで『この程度』に捕まってましたけど ?
モーゼスえ、ええから、新手が来んうちにさっさと逃げえ !

キャラクター10話【1-13 モーゼス】
モーゼスどうやら追っ手はまいたようじゃの。
クロエこれでようやく一息つけるな。
キュッポキュッポたちが見張っておくキュ。シャーリィさんを休ませてあげてほしいキュ。
セネルああ、ありがとう。
セネル……シャーリィ。
ノーマ大丈夫、呼吸は落ち着いてるよ。安心して。
セネルみんな……俺、さっきは取り乱して……迷惑かけたよな、ごめん……。
クロエいや、クーリッジのオーバーレイで私たちも助かったんだ。
ノーマそ~そ~、それでチャラ。
セネルモーゼス、あの時、止めてくれてありがとな。
モーゼスクカカ ! 礼を言うんはワイの方じゃ。まさかワレらが助けに来るとはの。
セネル助けるつもりだったけど、逆に助けられちまった。
ジェイモーゼスさんに説教されるなんてセネルさん、一生の不覚ですね。
モーゼスなんじゃああいっかわらずの憎まれ口じゃの、ジェー坊。
ジェイそういうモーゼスさんも、相変わらず考えなしに行動していたようですね。
モーゼスしゃあないじゃろ。知らん場所に放り出されてからあちこち旅して調べまわっとったんじゃ。
ノーマあ~……見つからなかったのはそれが理由か~。せめて具現化された場所にいてくれりゃ……。
モーゼスぐげんか ? なんのことじゃ。
ジェイ後でぼくがゆっくり説明します。モーゼスさんレベルに納得してもらうには時間がかかりそうですから。
ジェイそれよりも、セネルさん。今のうちにリッドさんに連絡を入れたらどうですか ?
セネルああ、そうするよ。
リッドマジかよ……。じゃあ、オレたちの大陸の領主と従騎士は、フォッグとレイスなのか。シゼルのことが解決したばかりだってのに……。
ファラレイスが……。
リッドファラ、大丈夫か。
ファラう、うん。リッド、わたしたちもオルバース領に行こう。
リッドそうだな。セネル、オレたちはフォッグとレイスが送られたっていう領主の館へ向かってみる。
セネル了解。気を付けろよ。
セネルさて、俺たちはどうするか……。
クロエクーリッジ ! シャーリィが目を覚ました !
シャーリィお兄……ちゃん……。
セネルシャーリィ ! 気分はどうだ、痛みは ?
シャーリィうん、もう大丈夫だよ。みんなも、心配かけてごめんね。
ノーマ…………。リッちゃん、ちょっとごめんね ?
シャーリィえっ、なに…… ? キャッ ! !
クロエな、何をしてるんだノーマ !
モーゼスコラ、シャボン娘 !なに嬢ちゃんの服、脱がそうとしとんじゃ !追いはぎか ! ?
クロエわーー ! シャンドル、見るな !あっちを向け !クーリッジも、ジェイもだ !
三人は、はいっ ! !
シャーリィノ……ノーマ ? なんなの…… ?
ノーマ……やっぱり。焼印の痕がどこにもない。リッちゃんの背中、きれいなままだよ。
全員えっ ! ?
ノーマおかしいと思ったんだ。酷いやけどを負ったはずなのにさっきは仰向けになってたからさ。
シャーリィなんでだろう……。確かに痛みはあったのに……。
ジェイ……その印、グラスティンは【贄の紋章】と言ってましたよね。もしかしたら特別な力が働いているのかもしれません。
セネル【贄の紋章】……。
シャーリィわたし、何か変わっちゃったのかな。どこか変 ?
セネル大丈夫だ。シャーリィはどこも変わってない。けど……アジトに戻って詳しく調べてもらおう。な、シャーリィ。
シャーリィうん……。

キャラクター11話【1-14 精霊の封印地】
フィリップ…………っ。……はぁ……はぁ……。
ヴィクトル駄目だったか……。
フィリップああ。……すまない。
マーク少し休め。ぶっ続けじゃ体が持たねえぞ。
フィリップうん……。でも、帝国の動きを考えればあまり時間をかけてもいられないからね。
マークそれは置いとけよ。どうせここじゃ、時間なんて概念どうにかなっちまってるんだろう ?
ヴィクトル私たちにとっては数時間でも、外では数日もしくは数分かもしれないと聞いたがどういう仕組みなんだ ?
フィリップ魔の空域特有の空間の歪みが一番近いこの場にも影響しているみたいだね。
フィリップ僅かな間であればともかく既に長時間滞在した僕たちには作用してるだろう。
ヴィクトル……そうか。
マーク娘さんのことが心配か ?
ヴィクトルいや、あいつが側にいるなら必ず守るだろう。それに……ユリウスもいる。
ヴィクトルそれよりも、なぜダーナの心核にアクセスできないのかもう一度調べたほうがいいのではないか ?
フィリップそうだね。手順自体は問題ないはずなんだ。ダーナの心核があった場所に描いた魔鏡陣にも間違いはない。
フィリップ……やっぱり、人が神に直接接触するなんて無謀な考えなのかもしれないな。
ヴィクトル行き詰まるにはまだ早い。接触できる可能性はゼロではないんだろう ?君は諦めが悪い方ではなかったか ?
マークそうそう、これが駄目ならさっさと次の手だ。
フィリップはは、そうだね。じゃあ、次のアプローチを――
? ? ?我らの壁に触れようとしてるのはあなたでしたか……。
フィリップ声が…… ?
マークああ、俺にも聞こえるぜ。
ヴィクトルその声、ヴェリウスか。
ヴェリウスお久しぶりですね。ヴィクトル。そして当代ビクエに、鏡精マーク。
? ? ?私たちの作った防心壁を突破するのは当代ビクエでも難しかったみたいね。
フィリップその声はヨーランド ! ではアクセスできなかったのはあなたたちの力のせいか。心核へのアプローチならば繋がるかと思ったが……。
ヨウ・ビクエ残念だけど、そこまで守りは甘くないわ。
フィリップお願いです。ダーナに会わせて下さい。
フィリップ僕は幼い頃に、ダーナと出会ったはずなんだ……。それが真実なのか、会って確かめたいんです。
ヨウ・ビクエあなたが……なるほどね……。わかったわ。接触を許可しましょう。ヴェリウスはどう ?
ヴェリウスええ。異存はありません。
フィリップありがとうございます !
ヨウ・ビクエ私とヴェリウスの力を使えば、魔の空域に精神を飛ばすことができるわ。ただし、あなた一人だけ。それもほんの僅かな時間だけど、それでもいい ?
フィリップええ、十分です。
マーク一人で大丈夫か ? 相手はこの世界の神様だぜ ?
フィリップ世界を救うなら、神との交渉くらいは上手くやってみせないとね。
マークおー、よく言ってのけた。さすがは俺のマスターだ。
ヴェリウスでは、すぐに始めましょう。ヨーランド、準備はいいですか ?
ヨウ・ビクエええ。いくわよ。
ヨウ・ビクエ魔の空域へ繋がる路を開いたわ。あなたの精神を飛ばすから集中して !
フィリップはい !
マーク………… ?何だ ? 妙な気配が……。
光魔たち……ウゥ~……ハルルルルル !
ヴィクトル光魔か !
ヨウ・ビクエ魔の空域への路を開いたせいで虚無と精霊の封印地の境界が曖昧になっているのね。
フィリップマーク、ヴィクトル !
ヴィクトルこの程度なら私たち二人で十分だ。
マークフィル、さっさと行ってこい。お前の体はちゃんと守ってやる。
マーク俺たちの強さ、良くわかってるだろ ?
フィリップああ、もちろん。二人とも、後は任せるよ。
ヨウ・ビクエフィリップ、もういいわよ。目を開けて。
フィリップヨーランド…… ! ここは……魔の空域…… ?
ヨウ・ビクエそうよ。そのまま待っていて。
? ? ?……久しぶりですね。オーデンセの鏡士。フィリップ・レストン。
フィリップこの声……どこかで聞いたことが……。
フィリップ(そうだ、この声はあの時の……。あの懐かしい、水鏡の森の湖で……)
フィリップ魔物が出るって言われてるけどやっぱりここの景色はきれいだな……。
フィリップここでピクニックとかしたらミリーナが喜びそう……。
? ? ?……――フィ……。――こっち――。
フィリップえっ、誰かいるの…… ? この声、湖の方…… ?
? ? ?――フィリップ……。
フィリップ何だろう、湖が眩しい…… ?――わあああっ !
フィリップ……すごい ! 光の粒が湖から立ち上ってる !キラキラして、なんて綺麗なんだろう……。
フィリップここにミリーナを連れてきたらどんな顔してくれるかな。そうだ、今度ミリーナを誘ってみよう…… !
? ? ?やっと……――見つけ……――約束の子供たち……よ……。定めの……子……――――――
フィリップ――え ?光が……消えた ?
フィリップ――あの時の声とあの光……。当時は気付かなかったけどあれはダーナの予言に記されたものと一致していた。
フィリップやはり、あれがダーナ……あなただったんですね。
フィリップならばどうか教えていただきたい。この世界は、どうしたら救われるのですか。

キャラクター12話【1-15 アスガルド城】
デミトリアスそうか。フィリップはダーナの心核への接触に成功したのか。
グラスティンああ。キラル分子の揺らぎを観測装置が確認した。ダーナの心核信号の数値が跳ね上がっている。間違いないさ。
グラスティンさすがフィリップだろう ?あいつは俺たちの一歩も二歩も先を行くんだ。 ヒヒヒッ、素晴らしい才能だよ。
デミトリアスそうだね。だが【ルグの槍】を打ち込もうという今ではその才能が邪魔になる。
デミトリアスフィリップには大人しくしてもらわないとな。精霊の封印地へ兵を派遣しておこう。間に合うかどうかはわからないが……。
グラスティンヒヒヒ、そこは安心しろ。神との対面を邪魔する手筈は整えてある。兵士たちは、フィリップを連行するだけでいい。
グラスティンなあ、フィリップは絶対に殺すなよ。生きて捕らえて、俺にくれ。
デミトリアス――それよりも、オルバース領主たちへの【贄の紋章】はどうなったんだ ?
グラスティンああ、処置は問題なく終えた。おまけに思わぬ収穫があってなぁ。いやあ、楽しみが増えたよ。ヒヒヒッ。
デミトリアスそうか。こちらも一部を除いて各領の領主と従騎士に【贄の紋章】を付け終えた。
デミトリアスこれは、きみの今日の成果と合わせたリストだ。確認してくれ。
グラスティンどれどれ。――アセリア領。領主ルーングロム、従騎士モリスン。ファンダリア領。領主エルレイン、従騎士イレーヌ。
グラスティンオルバース領。領主フォッグ、従騎士レイス。テセアラ領。領主リーガル、従騎士ブルート。カレギア領。領主アガーテ、従騎士ミルハウスト。
グラスティンウェルテス領。領主マウリッツ、従騎士ワルター。オールドラント領。領主ピオニー、従騎士ヴァン。アレウーラ領。領主ロミー、従騎士フォレスト。
グラスティンレグヌム領。領主マティウス、従騎士チトセ。テルカ・リュミレース領。領主アレクセイ、従騎士イエガー。
グラスティンセルランド領。領主パライバ、従騎士カルセドニー。エフィネア領。領主カーツ、従騎士ヴィクトリア。
グラスティンリーゼ・マクシア領。領主ウィンガル、従騎士プレザ。グリンウッド領。領主ヘルダルフ、従騎士セルゲイ。ミッドガンド領。領主アルトリウス、従騎士オスカー。
グラスティン……おい。エルレインとアルトリウスには――
デミトリアスああ。大丈夫。彼らには【贄の紋章】はつけてないよ。
グラスティンそうか。他に問題はないだろうな。
デミトリアス実は少々面倒が起きたんだ。グリンウッド領の領主ヘルダルフが私に対して謀反を起こした。
グラスティン何だと ? だから言っただろう ! 他の奴ら同様さっさとリビングドールにすれば良かったんだ。あの手の奴を野放しにすると厄介だぞ。
アルトリウスその点は問題ない。私が対処させてもらった。
グラスティンアルトリウス ! なんだ……、お前もいたのか。黙っているとは、デミトリアスも人が悪いな。
グラスティンそれで、対処とはなんだ。
アルトリウス導師の力で、奴に呪いをかけた。
グラスティン呪い ?
アルトリウス業魔……いや、あの者たちの世界では憑魔と呼んでいたか。いずれにせよ、穢れに満ちた存在となるだろうが、計画に支障はない。
アルトリウス今は従騎士のオスカーに動向を見張らせている。安心して事を進めるといい。
グラスティンならばいい。――これで準備は整った。あとは計画通りに進めるぞ。デミトリアス。
デミトリアスああ。みな、よく働いてくれた。いよいよだ。
デミトリアスこの計画をもってティル・ナ・ノーグは、ニーベルングへと回帰する !
to be continued
キャラクター1話【2-1 魔の空域1】
魔の空域
フィリップ――どうか教えて頂きたい。この世界は、どうしたら救われるのですか。
フィリップ女神ダーナ。ティル・ナ・ノーグを創造し滅びをも予言したあなたならば救う方法もご存じなのではありませんか ?
ヨーランドフィリップ。幼い頃にダーナ様と会ったかどうか確かめるだけじゃなかったかしら ?
フィリップこの機を逃すわけにはいかないんです。それに確かめる『だけ』とは言っていませんよ。どうか悪しからず。
ヨーランドあら、意外にふてぶてしいのね。
フィリップ自分でも重々承知していますよ。以前にも……面の皮が厚いと言われましたから。
ヨーランドふふっ。【ビクエ】なら、それくらいで丁度いいわ。
ヨーランド――ダーナ様、もうしばらくお付き合い頂けるでしょうか。
ダーナもちろんです、ヨーランド。心核の修復も進んでいます。この程度であれば問題はありません。
ダーナ何より私の方こそ、この子に話があるのですから。
フィリップ(この子 ! ?)
ダーナフィリップ。あなたの質問に答えるためにはまず、ティル・ナ・ノーグが誕生した経緯を話さねばならないでしょう。
ダーナそれに、この世界で神と呼ばれる者たちについても。
フィリップ神と呼ばれる者たち…… ?
ダーナええ。私が神と呼ばれるようになる前はニーベルングに生まれた人間であったことはすでに承知のことと思います。
フィリップあ……まさか、ナーザやバロールも…… ! ?
ダーナあなたの考えているとおりです。私同様、バロールとナーザもニーベルングの生き残りなのです。
フィリップではこの世界は全て人間が造り出したものなのか…… ?
ヨーランド驚くことじゃないでしょう ? あなたたちだって似たようなことをやっているんだから。
ヨーランド世界の創造なんて、鏡士以外から見れば神にも等しい所業じゃない ?
フィリップ…………。
ダーナ私とあなたは『同じ』です。フィリップ。在り方も、その行いさえも。
フィリップ……何故ニーベルングは滅びたのですか。それも私たちと同じように国同士の争いが原因なのですか ?
ダーナ確かに原因は戦争……と言えるかも知れませんね。ですが、私たちが戦っていた相手は人間ではありません。
ダーナ鏡精です。
フィリップ人間が鏡精と ! ?
ダーナ……ええ。最初は鏡士と鏡精の対立でした。それは徐々に激しさを増し、やがて人間と鏡精の決定的な対立へと発展してしまったのです。
フィリップ………………。
フィリップ……あなたも、鏡精と戦ったのですか ?
ダーナええ。私もナーザも……そうせざるを得なかった。でもバロールは違った。バロールは人でありながら鏡精側へとつきました。
フィリップ! ?
ダーナそのバロールの選択が、ニーベルングを滅びの道へと誘うことになってしまった……。
ダーナ生き残った私とナーザは、ある計画を立てました。私の力と、ナーザが使役していた精霊の力を合わせ生き残った人々を、別の世界へ移そうと考えたのです。
ダーナ新たな世界――人々を守る揺り籠の世界への移住。それが――
フィリップダーナの揺り籠、ティル・ナ・ノーグ……。
ダーナそのとおりです。
フィリップ……この世界はダーナの揺り籠である。罪を背負った人々は、罪を贖い、浄化しダーナの揺り籠に生まれ落ちた。
フィリップあの創世神話は、歴史そのものを伝えていたのか…… !
ヨーランド神話やおとぎ話に歴史が織り込まれるのはよくある手法でしょう ?私も最初に真実を知ったときは驚いたけどね。
フィリップええ。まだにわかには信じがたいです……。バロール神が鏡精と共に戦った鏡士でナーザ神は召喚士……。
フィリップそういえば、アイフリードの墓にも揺り籠の文言がありました。精霊を封印しているのであればやはり創世の関係者なのですか ?
ダーナもちろん。アイフリードはナーザですから。
フィリップは……ええっ! ?でもあの墓は確か……。
ヨーランドああ、混乱しちゃうわよね。じゃあ、わかりやすく説明してあげる。
ヨーランドナーザ神はアイフリード、これはいいわね。そしてあの墓の主は私の幼馴染でもある召喚士のルイス・アイフリードの方よ。
ヨーランド召喚士ルイス・アイフリードはナーザ神の鏡精の子孫なの。鏡精が主の名を頂いたって感じかしら。
フィリップナーザは鏡士ではなく召喚士だと聞きましたがどうして鏡精が出てくるのですか ?
ダーナナーザは召喚士であると同時に鏡士でもありました。いえ、【想像】の力によって精霊を創ったと言った方がいいかもしれません。
フィリップ精霊を……創る ! ?
ダーナその話はとても長い話になってしまいます。今は置いておきましょう。
ダーナとにかく私とナーザはこの世界に万が一があったときのことを考え自分たちの力を自らの鏡精に移したのです。
フィリップあなた方は鏡精と戦ったのではないのですか ?それなのに……。
ダーナフィリップ……私も鏡精と争いたくはなかった……。鏡精は自らの分身でもありますから。
ダーナ鏡精に味方したバロールとは逆に鏡士に味方した鏡精もいました。……ひどい時代だったのです。
フィリップ……申し訳ありません。出過ぎたことを口にしました。
フィリップそれにしても……鏡士の始祖であるヨーランドがダーナの鏡精の子孫でアイフリードはナーザの鏡精の子孫……。
フィリップ創世の神々は、こんな形で私たち鏡士に繋がっていたんですね。
ダーナええ。そしてフィリップ、あなたはどの鏡士よりも私と近い縁を持っています。
ダーナあなたは、私の血を引いているのですからね。
フィリップえ…… ?
ダーナだからこそ、この声が届いたのでしょう。フィリップ・レストン。我が子孫であり、融合の鏡士よ。
フィリップぼ……いや、私が、あなたの ! ?
ダーナさて、世界を救うためにはどうしたらいいか、でしたね。
ダーナ私にあなたの力を貸してください。それが世界を救うための方法になるでしょう。

キャラクター2話【2-2 魔の空域2】
フィリップ(僕がダーナの子孫…… ?)
ヨーランドフィリップ。固まっちゃってるけど大丈夫 ?
フィリップい、いや、あまりにもその……予想外で。今まで神とされていた方からその血を引いていると言われても……。
フィリップそれに、このティル・ナ・ノーグは、女神ダーナの【創造】の力で生み出されたと聞いていました。
フィリップ僕……いえ、私は融合の鏡士です。
ダーナええ。驚くのも無理はありません。全ての始まりはニーベルングでの争いに端を発します。
フィリップ…… ? 今、何かおかしな気配がしたような……。
ヨーランドええ。初めてよ、こんなの。
ダーナあなた――……は――……の……イフ……に……。
フィリップダーナの声が……。
ヨーランドダーナ様 ! ? このノイズはなに ! ?
ダーナ……ヨーラン……すぐにフィリ――を――……。
ヨーランドこれ、魔の空域とのアクセスが妨害されているんだわ !
フィリップ私の体に何か異変があったのでしょうか。
ヨーランドいいえ、これは魔鏡機器によるジャミングね。この空間に影響を及ぼすことが出来るなんて……。
フィリップ魔鏡機器 ? だとするとグラスティンかもしれない。僕の動きに勘付いたのか。
ダーナヨー……一刻もはやく――……安全……かえ――……。
ヨーランド……ここまでね。
フィリップ待ってください ! 肝心な話が聞けていない。ダーナの声はまだ届いています。
ヨーランド駄目よ。このままだとあなたの意識もここから戻れなくなる可能性がある。
ダーナフィリップ、帰り……さい。あなたが――無事に……。
フィリップ…… !
ヨーランド聞こえたでしょう。ダーナ様のご命令よ。あなたの安全が最優先なの。
フィリップ……わかりました。
ダーナフィリ――……お願い――……。アイフリードを……守って……。
フィリップダーナ ! ?
ヨーランドあなたの意識を魔の空域から離すわ。準備はいい ?
フィリップ……はい。
フィリップ(アイフリードを守る…… ?)

キャラクター3話【2-3 精霊の封印地1】
マークうおおおりゃあっ !
光魔……ウゥ~……ハルルルルル !
マークこいつら、まだ沸くのかよ !
ヴィクトルマーク、後ろだ !
マーク危ねぇ…… ! ありがとな。
ヴィクトルさすがに疲れてきたか ?
マークご心配――どうもっ !
ヴィクトル! !済まない。助かった。
マークははっ、お互いちょいとバテがきてるな。
ヴィクトルフィリップはまだ目覚めないか ?
マーク……まだだ。けど苦しそうな様子はない。神様とのご対面てやつは上手くいってるはずだ。
ヴィクトルそうか。もうしばらくかかるかもしれないな。光魔もまだ沸いて――……。
二人…………。
マーク沸いて……来ないな。まさか、さっきので打ち止めか ?
フィリップ……ん……マーク……。
マークフィル、戻ったか ! 体は平気か ?
フィリップ大丈夫。どこも異常はないよ。守ってくれてありがとう。
ヴィクトル意識もしっかりしているようだな。無事でよかった。
フィリップ……二人とも、かなり疲れているね。あれだけの光魔を相手に持久戦は大変だったろう。
ヴィクトルそれなんだが、ついさっき光魔の出現が止まった。君がこちらに戻ったせいか ?
フィリップそれもあるだろうけど……おそらく魔の空域とのアクセスが途切れたからだろうね。
マーク途切れたって、何があった ? ダーナとは会えたのか ?
フィリップああ、ちゃんと話もできたよ。でも横槍が入って、魔の空域とのアクセスを妨害されてしまったんだ。
フィリップダーナとヨーランドが僕の安全を優先してくれて急遽こちらに戻ってきた。
マーク女神ダーナがねぇ……。お前、本当に神様と会ったんだな。で、その妨害ってのは何だったんだ ?
フィリップヨーランドは、魔鏡機器を使ってのジャミングだと言っていた。間違いなく帝国の仕業だろう。
マークあいつら、魔の空域にまで干渉してきたのか !
ヴィクトルそんな物まで造っているとは……。帝国の魔鏡技師は厄介だな。
フィリップ昔から魔鏡技師としては優秀だったんだよグラスティンは。それに今は異世界の技術もあるだろうしね。
マークおいおい、敵を誉めてる場合か ?
フィリップそうだった。ひとまずここを離れよう。帝国に嗅ぎつけられた以上、この地は危険だ。それに今は長くいていい場所ではないからね。
ヴィクトル了解した。魔の空域の影響が薄いといいが……。
マークどうだろうな。外と上手く時間が噛み合ってることを祈ろうぜ。
ヴィクトルところで、ダーナから有益な情報は得られたのか ?
フィリップ……そうだね。成果はあったよ。でも肝心なところで邪魔をされて全てを聞くことはできなかった。
フィリップでも、指針は示してもらえたと思う。後で詳しく話すよ。
フィリップそれと、ダーナから聞いた話をイクスたちにも伝えないと。
マークわかった。ケリュケイオンに戻ったらイクスたちのアジトへ直行するぞ。

キャラクター4話【2-7 アスガルド城】
デミトリアスこちらが送り込んだ兵たちは、精霊の封印地には入れなかったようだ。おかげでフィリップたちの足取りは掴めていない。
グラスティンそうか……。何か仕掛けがあるんだな。まあいいさ。自分で手に入れた方が何倍も興奮するからなぁ。ヒヒヒッ。
デミトリアスきみの方は上手くやってくれたようだね。
グラスティンああ。今は心核信号の数値も落ち着いている。ダーナはまた雲隠れしたらしい。
デミトリアス一体何をしたんだ ?「神との対面を邪魔する手筈」と言っていたが。
グラスティンあれか ? 開発中の【魔導砲】を応用した魔鏡機器を使ったんだよ。
グラスティン異世界の技術は素晴らしいよなあ。あの妨害波は、かなりの威力だった筈だぞお。神へも影響を及ぼすほどになぁ。ヒヒッ !
グラスティンこれがある限り、今後はフィリップもダーナへの接触が難しくなるだろうよ。
デミトリアス『今後』はな。だがフィリップはすでにダーナとの接触を成功させて私たちに不利となる情報を掴んだかもしれない。
デミトリアス……やはり、あの時にダーナの心核を破壊できていれば……。
グラスティンそんな泣き言、今更何になる。
デミトリアスそうは言ってもね……。心核さえ破壊していればあの時点でティル・ナ・ノーグの精霊たちを強制的に目覚めさせることができていた。
デミトリアスそうすればアイフリード……ナーザ神の復活ももっと早い段階で実現できていただろう。
グラスティン早かろうが遅かろうが、目的を達成すれば関係ない。
グラスティンお前は心核の破壊にこだわっているようだがあの時に必要だったのはダーナの心核の『欠片』だぞ。そいつは目的通りに達成した。
グラスティン何より最大の狙いはヨーランドの『目覚め』だった。全て俺たちの計算通りに進んでいる。
グラスティンお前が悔いる要素がどこにあるというんだ ?
デミトリアス…………。
グラスティン確かに、フィリップがダーナに接触したのは厄介だがあいつのことは俺に任せておけ。むしろその方が好都合だしなぁ。ヒヒヒッ。
グラスティン俺たちは精霊を従えるためにこのままナーザ神の復活に着手すればいいんだよ。
デミトリアス……そうだね。
グラスティン……納得してないって顔だな。だったらもう一つ面白い話を聞かせてやる。
グラスティン小さいフィリップが残した研究資料を探っていたら興味深いものを見つけたんだ。
デミトリアスエルレインの奇跡の力の研究だろう ?成果は芳しくなかったと聞いたが。
グラスティン確かに『神の力の具現化』としては失敗だった。だがあいつは、シュヴァルツという異世界の神を具現化している。
グラスティンこの研究記録を応用すれば、ナーザ神の復活がもっと早く叶うかもしれないぞ。
デミトリアス本当か !
グラスティン少し前から俺の方で研究を進めている。何しろ神の復活という難業だ。アプローチは多い方がいいだろう ?
デミトリアス素晴らしい。きみのおかげで更に展望が開けそうだ。
グラスティンヒヒヒ、陛下の憂いは払拭できましたかな ?
デミトリアスああ。礼を言うよ、グラスティン。研究に必要な物があれば何でも言ってくれ。
グラスティン必要か……。あえて言うなら、あの聖女様だな。
デミトリアスエルレインか ?
グラスティンナーザ神の具現化にはエルレインの協力が欠かせない。だが、あいつが素直に従うかどうか。
グラスティンあの女の口癖は知っているだろう ?
デミトリアス遍く人々の救済……。そのために彼女はフォルトゥナ神の力を求めていたのだったな。
デミトリアスふむ……。ならば下手に事を荒立てるよりもエルレインには『そう思って』動いてもらう方がいいのだろうね……。
グラスティン回りくどいな。つまり、エルレインにはフォルトゥナ神の具現化と偽ってナーザ神の復活に協力させろということだろう ?
グラスティンあの女を騙せとはっきり言え。
デミトリアス耳が痛いよ。彼女の希望を裏切るようで心苦しいんだ。……しかし私の目的も、ある意味救済ではある。彼女とは規模と手段が違うだけだ。そうだろう ?
デミトリアス……いや、これが欺瞞であることもわかっているがね。
グラスティン……いびつだなぁ、デミトリアス。まあ、そこがお前の面白いところさ。ヒヒヒヒッ !

キャラクター5話【2-8 ミッドガンド領 領主の館】
ミッドガンド領 領主の館
テレサお帰りなさいませ、アルトリウス様。
アルトリウステレサ。こちらに戻っていたのか。
テレサはい。ヘルダルフの様子をご報告に参りました。
アルトリウスあいつはどうしている。
テレサグリンウッド領、領主の館にて幽閉しております。呪いの力で穢れが溢れてきていますが業魔化する様子もなく、周囲にも――
アルトリウス――影響はない、か。すぐにも業魔と化すと思っていたがグラスティンの言っていた通りだな。
アルトリウスこの世界にとって穢れはどういう意味を持たされているのか……。
テレサオスカーが監視を続けておりますので変化があればすぐに報告が入ります。どうかご心配なきよう。
アルトリウスそうか、ご苦労。
テレサもったいないお言葉です。
アルトリウスああ、いい機会だ。お前にこれを渡しておこう。これから行う【ルグの槍】の計画の為にデミトリアス帝から預かったものだ。
テレサこれは……指輪ですか ?
アルトリウス精霊輪具という。こちらの指輪はマクスウェルもう一つはクロノスの精霊の力が宿ったものだ。
アルトリウスこれを使うと精霊装が纏えるようになる。後でオスカーにも届けておけ。
テレサ精霊装とはどのようなものなのでしょう。
アルトリウスそうだな……。神依のような力が使えると思えばいい。
テレサ神依と同じ……。
アルトリウスどうした ?
テレサいいえ、その……、この世界に来る以前ですが神依は術者の命に関わるものと耳にしておりましたので……。
アルトリウスあのような未完成な術とは似て非なるものだ。この精霊輪具を使うのであれば、体に負担もなく纏う者の安全も保障されている。
テレサそうなのですね。余計なことを申しました。ですが、何故このような貴重なものを私たちに ?
アルトリウスこの力は、ニーベルングという分史世界を創るための足掛かりとなる。
テレサ世界を創るとはどういう意味なのでしょう。
アルトリウスそのままの意味だ。新たな世界を生み出すのだよ。それが我々の役割だ。
テレサ世界を生み出す…… ! ?
アルトリウスこの計画を成し遂げてこそ私が目指すべき世界がある。
テレサ……あまりにも壮大で、私には考えも及びません。
アルトリウスいずれお前にもわかる。事が進めばな。
アルトリウスまずはオリジンという精霊を探さねばならない。我々の知る聖隷との違いは、すでに学んでいるな ?
テレサはい。心得ております。アルトリウス様の理想のため弟オスカーと共に尽力いたします。

キャラクター6話【2-9 仮想鏡界1】
イクス魔鏡兵器カレイドスコープか……。話には聞いてたけど、本当に具現化装置とは正反対の存在なんだな。
ミリーナ…………ええ。
ナーザカレイドスコープはそれまでの戦況を覆した。我がビフレスト軍は見る間に劣勢へ転じ……。最終的には消滅した。
ナーザ文字どおり、人も、国も、大地も、全てが消えたのだ。もちろん俺とバルドもな。
メルクリア…………っ。
ナーザその後のことは、虚無に飲まれた俺よりもお前たちの方が詳しいだろう。
二人……はい。
カーリャ…………。
ミリーナカーリャ、大丈夫 ? 震えてるわ。
カーリャカ……カーリャが、ビフレストに攻め込んで……。
イクスカーリャじゃない。俺と最初のイクスさんが違うようにさ。
バルドカーリャ、今の話を聞いて恐れや悲しみを感じているのならばそれはあなたの心が清く純粋だからですよ。
バルド何より私たちに心を寄せてくれている証拠でもある。ありがとうございます。愛らしいカーリャ。
カーリャバルドさま……。
バルドあなたは泣き顔さえも可愛らしいですね。かりそめの体でなければ、その涙を拭って――
ナーザそういう一言が余計なのだ、お前は。だからローゲに疎まれたことを忘れるなよ。
バルドすみません。 ――何にしろ、あなたに罪はありませんよ、カーリャ。
メルクリア確かに、その鏡精……カーリャに罪はない。だが、わらわの国が消滅した事実は変わらぬ。
メルクリアセールンドは、攻められる切っ掛けを作ったうえにビフレストを消滅させたということじゃ。
ミリーナ…………。
イクス……最初のイクスさんも、バロールの魔眼を継いだ自分が鏡士にならなければ、おそらく戦争は起きなかったと言ってたよ。
バルド彼の選択が世界の命運を左右したのは確かです。ですが、開戦へ至った理由はそれだけではありません。
ナーザああ。オーデンセとビフレストとの停戦協定がかろうじて守れていた当時でもセールンドは何かがおかしかった。
ナーザ魔鏡戦争前、まだセールンドの先王が健在だった頃のことだ。
バルドお呼びですか、ウォーデン様。
ウォーデン来たか。早速だがこれを見てくれ。魔鏡技師フリーセルからの報告書だ。
バルド今はセールンドへ派遣されていましたね。
ウォーデン……人払いは済ませてある。お前の率直な感想を聞かせて欲しい。
バルド……わかった。
バルド…………。これは…… !
バルドウォーデン !ここに書かれたことが事実ならば…… !
ウォーデン事実だ。セールンド国王はオーデンセに接触しバロールの力を取り戻そうとしている。
ウォーデンしかも、バロールの一族にも力を取り戻すことに応じた人物がいるようだ。
バルド何ということを……。明らかに停戦協定を反故にした行為だ !
バルドオーデンセの鏡士もなぜこのような愚かな選択をしたんだ。
ウォーデンわからん。オーデンセが我々の領土だったのは昔の話だ。
ウォーデン100年戦争時代にセールンドに奪われて以降何が起こっているか詳しく調査することも叶わない。
バルドだが、その100年戦争の停戦の際セールンドへ多大な譲歩をする代わりに、バロールの血族に対しては固い取り決めをかわしたはず。
バルドなのに今になって、古の盟約を破ろうとは……。セールンドへの正式な確認はしたのかい ?
ウォーデンもちろん、外交ルートで書簡を送っている。しかしセールンドからは相手にされなかった。何度問い合わせても、知らぬ存ぜぬばかりだ。
バルド何度も……そうか。ウォーデン、最近きみの顔色が優れなかったのはこの件に奔走していたからだね。
ウォーデン……本当に余計な所ばかりよく見ているな。お前は。
バルドいや、愛する義弟の苦悩に気付かないとは情けないよ。すまなかった。
ウォーデン愛するだの何だのといちいち大げさだぞ。そんなだから貴様の周囲では厄介事が絶えないんだ。
バルドこれでも相当自重しているつもりだよ。特にきみに対してはね。何しろ将来の皇主であらせられる。
ウォーデンならばもっと自重しろ。俺の乳兄弟というだけでもいらぬ嫉妬を買うのだからな。
バルド――だけど悪い癖だよ、ウォーデン。すぐに一人で抱え込もうとして。
ウォーデン今回は仕方がなかった。この話を大事にすればただでは済まないだろう。内々に対処できればと思っていた。
ウォーデン……だが、そうも言っていられなくなった。バロールの魔眼を持つ鏡精が出現すれば世界は終わる。
ウォーデン今この瞬間でさえ、セールンドは和平を謳いながら鏡精という兵器を造り続けている。
ウォーデン女神ダーナの言葉も言い伝え程度にしか受け取らずダーナを殺そうとしたバロールさえも、未だ神として崇める始末。
ウォーデンこの上、我々の言葉も通じないとなればこれ以上は看過できない。
ウォーデンもう……力で抑え込むしかない。
バルド攻める気なんだね、セールンドを。だが、きみはまだ迷っている。違うかい ?
ウォーデン…………。
バルドここに僕を呼んだのは、背中を押して欲しいから ?
ウォーデンうぬぼれるな。決めるのは皇太子であるこの俺だ。
バルドそうだね。それでいい。けれど、僕も求められたとおり、率直に言わせてもらう。――開戦には反対だ。
ウォーデン……お前が争いを嫌うのはよく知っている。だが心構えはしておけ。
ウォーデンビフレストはセールンドへの最後通牒の後返答次第では正式に宣戦布告をする。
ウォーデン目標はオーデンセ島。【バロール狩り】の開始だ。

キャラクター7話【2-10 仮想鏡界2】
ミリーナ……その【バロール狩り】にあったのが最初のイクスだったのね。
ナーザあの時点では、バロールの血を引く者の手がかりは『銀髪』という情報だけだった。
ナーザ故にビフレストはオーデンセ島に住む銀髪の人間を片っ端から狩って、その遺体を回収した。
メルクリア! !
カーリャ銀髪っていうだけで襲ったんですか ! ?
メルクリア兄上様、その……、お話のとおりであればほとんどの者は無関係だったのではありませぬか ?
ナーザ……無関係の者を巻き込んでも成すべき事だと思った。あの時はな。
カーリャそれでも酷いです……。
イクスそれだけバロールの力が脅威だったって証拠だよ。
メルクリアイクス ? おぬしは腹が立たぬのか。今の話は怒って当然だと思ったぞ。
イクス……メルクリア、なんか感じが変わってきたよな。
メルクリアな、なんじゃ、いきなり ! 馬鹿にしておるのか !
二人…………。
イクスバロール狩りのやり方に納得なんかしてないよ。俺は当時のことを知らないけど想像しただけでも怒りが沸く。
イクス……でも、オーデンセの話は、メルクリア奪還作戦の時に、少しだけナーザ将軍から聞いているからさ。多少冷静になれたってだけだ。
イクスそうだ。ナーザ将軍、オーデンセ侵攻と虐殺はバロールの血筋がどこに潜んでいるかわからないからだと、あの時に言ってましたよね。
ナーザああ。そんな話をしたな。
ナーザバロールの血筋はオーデンセの鏡士のどこに潜んでいるかわからぬ。
ナーザイクス・ネーヴェ以外にも、バロールの血を受け継いだ者がいた可能性がある。
ナーザ――だが、確かに言葉が過ぎた。我が国も問題解決のため、力に訴えたことは事実だ。
ミリーナ……待って。そんなに恐ろしいものならそもそもどうしてバロールの血筋を残しておいたの ?
ミリーナ最初のイクスの遺体を保存していたのもバロールの魔眼と関係があるの ?
ナーザ遺体を残したのは、バロールの血筋を滅ぼしてもバロールの力を残しておく必要があったからだ。
ナーザ大事なのはバロールの魔眼をもつ鏡精を作らせないことだったからな。
イクスなぜバロールの力を残しておく必要があったのかまだ答えを聞いていません。
ナーザ脅威ではあっても、失ってはいけない力だとビフレストの皇族に伝えられていたからだ。
ナーザこの世界からバロールの力が失わなれないように銀髪の遺体――最初のイクスを『保存』し厳重に管理することが必要だった。
ミリーナバロールの力……。
イクスミリーナ、どうしたんだ ?
ミリーナ……あの時も思っていたの。どうして私は、バロールの話を知らないのかって。
ミリーナ鏡士やイクスに関わる重要な情報でしょう ?なのに……。
イクスゲフィオンは【バロールの魔眼】を知っていたはずだ。コーキスとナーザ将軍が戦っていた時に俺に教えてくれたから。
ナーザあの時か。魔鏡結晶の中でそんな真似を……。
イクス多分、ゲフィオンが今のミリーナを具現化した時に意図的に記憶を引き継がなかったんじゃないかな。
ミリーナ……やっぱり私、最初のミリーナと向き合わなきゃいけないわね。
ミリーナごめんなさい、話を中断させて。それで、バロールに関して他にどんな言い伝えがあるんですか ?
ナーザバロールについてはビフレストでも情報が少ない。こちらが知る話も、ほぼ伝承のみだな。
ナーザバロールは神話から抹消された空の神だ。それと同時に、世界を滅ぼす嵐の神とも伝えられている。
ナーザビフレストに残る伝承によれば神々を滅ぼした【フィンブルヴェトル】を引き起こしたのがバロールだ。
ナーザその力は魔眼として、バロールの血筋に受け継がれたと言われている。
ナーザだが、バロールの魔眼がどのような形で死を呼ぶのかはビフレストでもわかっていない。
イクス死を呼ぶ……か。バロールの魔眼を持つ鏡精がフィンブルヴェトルでニーベルングを破壊したって話が関係するのかな……。
ナーザわからん。だがそれも相まってか、バロールは鏡精の守り神としても語られていて――
コーキス何だよそれ ! ニーベルングを滅ぼした奴が俺たちの守り神のわけ――
全員えっ ! ?
イクスコーキス ! ?
コーキスヤバッ…… !
ナーザはぁ……たわけ者め。

キャラクター8話【2-11 仮想鏡界3】
カーリャコーキス、やっぱりいたんですね !
ミリーナ心配してたのよ ! 会えて良かったわ。
コーキス……あ……えっと……。
メルクリアコーキス、そなた、イクスに会わないようにとマークと一緒に出かけたのではなかったかのう ?
イクスえっ…… ?
コーキスそ、それは……あれ、あれだよ……ええと……。
コーキス(どうしよう、マスター傷ついたかな。けど言えねえ……。やっぱりマスターたちが気になって隠れてこっそり様子を見てたなんて……)
コーキスお……俺、忘れものを取りにきたんだ ! じゃあな !
メルクリア何も持っておらんが、忘れ物とはなんじゃ ?
コーキスうっ……。いや、だから……。
イクスもういいよ、コーキス。ひとまず元気そうで安心した。
コーキス……う、うん。
イクスずっとコーキスと話がしたかったんだ。……アジトを出て行った理由ちゃんとお前の口から聞きたかったからさ。
コーキス……今は話したくない。
カーリャコーキス ! みんな心配してるんですよ ?
コーキスそれは……ごめん。
イクスじゃあ、理由は後でもいいよ。なんで今は話したくないんだ ?
コーキス話したくないんだから仕方ねーじゃん !しつこいよ、マスター !
イクス……ど、どうしてだよ ! 話してくれなきゃ俺だって何もわからないだろ !
コーキスマスターだって俺と同じだろ ! 色々隠し事して肝心なことは何も話しちゃくれないくせに !
イクス隠し事ってなんだよ ! そんなことしたつもりは――
コーキスしてただろ。バロールの魔眼のことや、鏡精の秘密もそうだ !
コーキス俺、こんなヤバい力を受け継いでるんだぜ ! ?だったらなおさら離れてた方がいいよ。マスターの負担になるだけだ。
イクス……俺はそんな風に思ってない。
コーキスマスターが思ってなくたって、そもそも俺みたいなのは生まれちゃいけない存在だったんだろ ! ?
イクスそんなわけないだろう !いい加減にしろよ、コーキス ! 俺は…… !
ナーザ双方落ち着け ! 見苦しい !
二人! !
ナーザくだらぬ争いをしている場合か ?続けたければ、ここを出て行け。
イクス……すみませんでした。
コーキス…………。
カーリャコーキスも言うことがあるんじゃありませんか ?
コーキス……邪魔してすみません。
バルド二人とも、冷静に話し合える状況ではありませんね。落ち着くまでは、コーキスもこちらにいたほうがいいと思いますが、いかがでしょう ?
二人………………。
ナーザでは、話を戻すぞ。……と言っても、これ以上バロールに関する目ぼしい情報はない。
ナーザ今後、バロールについてはこちらで調査を進める。お互い、新たな情報が入った際は共有しようと思うがそちらに異存はあるか ?
イクスいいえ。俺たちも助かります。
ナーザでは今日はここまでだ。バルド、メルクリア。出口まで案内してやれ。
バルド承知しました。
メルクリア皆の者、ついて来るがよい。
コーキス…………待ってくれ、マスター。
イクス……どうした ?
コーキスアジトを出る時にも言ったけど俺、ここでやらなきゃいけないことがあるんだ。
イクス……そうか。だったら、そのやることを済ませたらちゃんと帰って来るって約束してくれ。
イクス俺は信じて待ってるからさ、コーキス。
コーキス…………。マスター、ミリーナ様、パイセン気を付けて帰れよ。
カーリャあっ、コーキ――
イクスいいんだ、カーリャ。
カーリャでも、せっかく会えたんですよ ! ?
イクスさっきのコーキスの目は真剣だった。あいつはただ迷ってるだけじゃないと思う。
イクス今更だけど、しばらくの間はコーキスの好きにさせてやりたい。ミリーナも、カーリャも、それでいいか ?
ミリーナわかったわ。イクスが決めたことだもの。コーキスの意思を尊重しましょう。
ミリーナカーリャも寂しいだろうけど、しばらくの我慢ね。
カーリャ……わかりました。でも、こんなにみんなに心配かけているんですから帰ってくる時は、お土産持ってこなきゃ許しません !
イクスそういうわけなんで……すみませんがコーキスのこと、宜しくお願いします。
バルドええ。どうかご心配なく。
メルクリア召使い代わりに丁度良いのじゃ。気兼ねなく置いて行くがよい。
イクス(コーキス……、これでいいんだよな ?)
ナーザ奴らは帰ったぞ。お前を頼むと言ってな。
コーキスうん……。
コーキス(俺はまだ帰れないんだよ、マスター)
コーキス(わかってるんだ。バロールの魔眼の話を隠していたのは、俺を思ってのことだって……)
コーキス(なのに俺は、そんなマスターを信じきれなかった。マスターを疑って、魔眼に不安を感じてそこを死鏡精に付け込まれた……)
コーキス(こんな弱い心の俺じゃ、きっとマスターを危険な目に合わせちまう。それだけは絶対に嫌だ)
コーキス(まずこの不安を……バロールの魔眼が何なのかを解き明かさなきゃ。これからもずっと、マスターと一緒にいるために)

キャラクター9話【2-15 アジト】
カーリャはぁ……。なんだか疲れましたねぇ。
ミリーナそうね。まさかビフレスト側のアジトに行くなんて思わなかったわ。
カーリャそういえば、先輩はどうしてるんでしょう。合流はしないで、クラースさまたちと戻るって連絡は来ましたけど……。
ミリーナ……きっと忙しいのよ。ネヴァンには後でゆっくり話すわ。話さなければ……いけないんだから。
ミリーナねえイクス、今日の報告だけど――
イクス…………。
ミリーナ……イクス、大丈夫 ?
イクスああ、うん、報告だろ ? ええと……。
ミリーナ無理しないで。疲れた顔してるわ。やっぱりコーキスのことが気になるのね。後は私がやるから、イクスは少し休んで。
イクス……ありがとう。じゃあ悪いけど――
ノーマあ~、イっくん、リナっち、カーりゃん !帰ってきてるじゃん !
イクスただいま。遅くなってごめんな。そっちの企画はまとまったか ?クリスマス兼歓迎会。
セネルそれどころじゃなかったんだ。捜してた俺の仲間が、帝国と揉めてるって聞いて救出に行ってた。こっちも今帰って来たところだよ。
二人ええっ ! ?
イクスみんな無事なのか ! ?
セネル……まあ、一応。ただ、行った先で――
モーゼスおう、ワレがここの頭か。世話んなるのう !ワイはモーゼ――
ジェイモーゼスさんはちょっと黙っててください。そんなことよりも大事な話なんですから。
モーゼスそんな ! ? ま、まあええわ。今は嬢ちゃんの体が心配じゃけぇの。
シャーリィすみません、モーゼスさん。
ミリーナシャーリィ ? 何かあったの ?
セネル実は、モーゼスを助けに行ったところでグラスティンに会ったんだ。
二人グラスティン ! ?
イクスリッドの仲間に、シャーリィまでか……。【贄の紋章】なんて、聞いたことがないな。
ミリーナ大丈夫なの ? 痛んだりしない ?
シャーリィはい。今は不思議なくらい何ともないんです。
クロエでも、まだ顔色が悪いぞ。私たちに心配をかけまいと我慢しているんじゃないか ?
シャーリィクロエってば、心配しすぎだよ。ちゃんと医務室で診てもらうから大丈夫。
イクス念のために、ジェイドさんやハロルドさんにも診てもらった方がいいな。
セネルああ、そのつもりだ。何かわかったら報告する。行こう、シャーリィ。
シャーリィうん。それじゃ、失礼します。
モーゼスなあ、ところでワイの紹介は――
ノーマ心配ご無用。ジェージェーの歓迎会も兼ねたパーティーを計画してるからさ一緒にモーすけもやっちゃおう !
ジェイあ、ぼくはその日、絶対に間違いなく予定が入ります。モーゼスさんおひとりでどうぞ。
モーゼスクカカ ! ワイに主役を譲るっちゅうんか !ええとこあるのう、ジェー坊 !
ジェイあはは、無知って怖いですね。
カーリャモーゼスさま、でしたっけ ?見た目は完全に山賊ですけど、愉快な人ですね。
ミリーナええ。でも……シャーリィもみんなも平気そうな顔してるけど、きっと不安よね。
イクスああ……。――ん ? 通信だ。
リッドイクスか ?
イクスリッド ! セネルたちから聞いたぞ。仲間が見つかったんだって ?
リッドなんだ、聞いてたのか。レイスとフォッグの救出に動いてるから連絡しとこうと思ったんだよ。
イクスそっちの様子はどうだ ? 救援はいるか ?
リッドいや、オレたちの方は心配すんな。すぐに二人を連れて帰る。じゃあな。
イクスわかった。そっちは頼む。
ミリーナフォッグさんとレイスさんも印を押されているのよね。贄の紋章の情報を、何か知ってるんじゃないかしら。
イクスリビングドールにされてたようだし、どうかな……。
? ? ?よお、パイセン !
カーリャえっ、コー…… ! ?……って、マークじゃないですか !
マークおっと、パイセン呼びはコーキスに怒られちまうか。
イクスマーク ! フィルさん ! 無事に戻ったんですね。
ミリーナ良かった……。連絡がなかったからどうしたのかと思ってたのよ。
フィリップ出発の時に言ったじゃないか。しばらく連絡はとれなくなるって。
ミリーナそれはわかってるけど……でも魔の空域よ ?何日も連絡がなければ心配に決まってるじゃない。
マークあ~、あれから一週間以上たってたみたいだな。ま、その程度の誤差で済んで良かったぜ。
カーリャ誤差 ?
マークま、その辺は後で説明するよ。
イクスそれで、ダーナには会えたんですか ?
フィリップもちろん。その報告に来たんだよ。
ミリーナすごいわ、フィル ! 本当に神様に会えたのね。
フィリップ神様……か。ところで、こちらで変わったことは ?
イクス今日はナーザ将軍と会ってきました。そこで新しい情報と、他にも色々……。それに今、グラスティン絡みで問題が起きています。
ファントムやはり彼が動いてるんだな……。わかった。まずはお互いに情報をすり合わせよう。
ミリーナええ。でもその前に。
イクスあ、そうか。まだだったよな。
フィリップ何がだい ?
イクスおかえり、フィルさん。マーク。
ミリーナおかえりなさい。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。
フィリップえ…… ! ? う、うん……。ありがとう……――ただいま。

キャラクター10話【2-15 アジト】
イクス…………。
ミリーナイクス……。
イクス……それじゃ、バロールという神は元々人間で俺はその力を継いだ末裔。フィルさんはダーナの血を引いた子孫……ってことになるのか ?
フィリップイクスたちの情報と、僕がダーナから聞いた話を突き合わせるとそうなるね。
カーリャあわわわ……神様の子孫……。ええと、フィルさまには何をお供えしたらいいですかね ?
マーク……だいぶ混乱してるな。ちっこいカーリャ先輩。
フィリップ今聞いたナーザ将軍の話だと、神とは言ってもビフレスト皇国とセールンド王国の神話では捉え方や認識にずれがあるようだね。
イクスあの……俺の家系がバロールの力を継いでるってフィルさんは知っていたんですか ?
フィリップバロールの力や魔眼の件は、伝承程度にしか知らなかった。ネーヴェの家系のこともビクエになった後に知ったんだよ。
フィリップそんな認識だったから、魔鏡戦争の件もビフレストが伝承をたてに攻め込んだようにしか見えなかったな。
ミリーナ……毎度のことだけれど私たちには知識も情報も足りないのね。これじゃまだ何もわからないわ。
フィリップ確かなこともある。帝国が本格的にニーベルング復活に着手したということだ。
フィリップ救世軍は引き続き、アイフリードであるナーザ神の調査をしようと思う。ダーナの別れ際の言葉も気になるからね。
ミリーナバロール神のほうは、ビフレスト側が調べると言っていたわ。
イクスじゃあ俺たちは、フィルさんとナーザ将軍が掴んだ情報を共有しながら、その他の調査を進めていこう。
ミリーナそうね。だったら聖核の調査に出ているカロル調査室のメンバーにも招集をかけましょう。一度、全ての情報を整理した方がいいわ。
マークよし ! それぞれやることは決まったな。
マーク――で、コーキスは今後ナーザの配下で動くのか ?
イクス……今は、多分。
マークおい、あからさまに沈んだ顔するなよ。
カーリャ仕方ないんです ! イクスさまはお疲れなんですよ。
マークはは、こっちのパイセンもイクスびいきか。すまなかったよ。
マークしかしまぁ、姿が見えねえと思ったら家出かよ。鏡精にとっちゃ贅沢な話だぜ。
イクス贅沢 ?
マークそうだろう ? あいつは魔鏡結晶のおかげで一人でも、この世界のほとんどの場所に行ける。だから家出なんて出来るんだぜ ? うらやましい話さ。
フィリップうらやましいって……マーク、家出したいのかい ?
マークして欲しくてもやらねえぞ。ダメおっさん放り出して家出とか逆にこっちが心労で死ぬっての。
マーク一般的な鏡精の認識ってやつだ。俺の願いじゃねえ。
カーリャですね。私もミリーナさまから離れたくはないですけど……コーキスの気持ちもちょっとだけわかっちゃいます。
カーリャカーリャも、具現化されたビフレストで話を聞いて動揺しちゃいましたから。
ミリーナカーリャ……。
イクスそうだよな……。コーキスは魔眼も持ってるからあの話を知ったら、色々考えるのは仕方ないよな……。
マークまあ、普段使わねー頭を使ったせいで余計なこと考えちまったんだろうよ。頭が冷えたら帰ってくるさ。
カーリャ安心してください、イクスさま。コーキスが帰ってきたらカーリャがガツンと言ってやりますから !
ミリーナそんなに怒ったら、今度はカーリャが怖くて家出しちゃうかもしれないわよ ?
カーリャ平気ですよ。そんな軟弱者に育てた覚えはありません。
イクス育てたって……ははははっ !コーキスが聞いたらどんな顔するかな。
マークなんだ、持ち直したか ?
イクスあ……。
フィリップイクス、コーキスは必ず戻ってくる。だから今は僕たちがやるべきことをやろう。
ミリーナ一緒に頑張りましょう。コーキスが安心して戻って来られるように。
イクスありがとう……みんな。
イクスそうだよな。コーキスが何か目的を持って動いているなら、俺だって止まってちゃいけない。
ミリーナでも、その前にちゃんと休んでね。それも今やるべきことなんだから。
イクスわかってる。無理はしないよ。それでフィルさん、調査についてですけど――
フィリップええ ? 休むんじゃないのかい ?
カーリャイクスさまのやる気がすごいです……。さっきはあんなにグッタリしてたのに……。
マークいいじゃねえか。マスターたちが元気なら鏡精としては言うことなしだ。
カーリャですよね !……早く帰って来るんですよ、コーキス。
to be continued
キャラクター1話【3-1 仮想鏡界1】
ナーザ……駄目だな。リヒター、そっちの資料はどうだ ?
リヒター一通り目を通したがバロールに関する記述は見当たらなかった。
ジュニアこちらも預かった分を見終わりましたけど伝承に繋がりそうなものはありません。
マークⅡ伝承ねえ……。ビフレストのご先祖様がもっとわかりやすく伝えてくれてりゃなぁ。
マークⅡ『バロールの滅びの力は脅威だが失ってはいけない力』なんて言われてもその力が何か分からないんじゃ、どうしようもねえ。
ナーザ長い歴史の中では様々な理由で情報が消えていくものだ。過去の人間にあたったところでどうにもなるまい。
マークⅡそりゃそうだ。つっても文句の一つも言いたくなるけどな。
ジュニア伝承どおりなら、バロールの滅びの力には世界にとって重要な役割があると思うんだけど力の詳細どころか、名前もみつからないなんて……。
ナーザ……再調査だな。レイカー博士、こちらの資料は返しておこう。
アステル残念だけど、僕が帝国から持ち出した資料は役に立たなかったみたいだね。
ナーザいや、先の混乱の中では相当に無茶な脱出を図ったと聞いている。これだけの資料を持ち出しただけでも大した功績だ。
リヒター……確かディストの奴アステルの研究室の壁をぶち抜いたんだったな。
アステルあれは流石にびっくりしたなあ !でも、おかげで帝国から脱出できたから今度会ったらリヒターからもお礼を言ってね。
リヒターいや、もう会うこともないだろう。奴は例の浮遊島で捕まっているんだろう ?
アステル案外、今頃脱走してたりして♪
マークⅡやめとけやめとけ。縁起でもない。イカレた博士の話もいいけどよ。バロールはどうするんだ。当てはあるのか ?
ジュニアう~ん……思い当たりそうな所は調べたし……。
バルド失礼します。皆さん、少し休まれてはいかがですか ?
ナーザバルド、どこへ行っていた。それにメルクリアとコーキスはどうした ?
バルドええ、こちらに。さあ、メルクリア様。
メルクリアう、うむ……。兄上様、お茶などいかがでしょうか。
ナーザお茶…… ?
コーキスおっと、危ね ! こぼすところだったぜ。
メルクリアコーキス、気をつけよ ! 給仕も満足にできぬのか ?
コーキス慣れてないんだから仕方ないだろう。メルクリアだって、お茶を淹れるのに苦労してたくせに。
メルクリアな、慣れてないのだから仕方ないじゃろう。
マークⅡははっ、何だよ、お前ら気が合うじゃないか。仲良くお茶汲み係とはな。
コーキス俺は真面目に資料調べしてたんだぜ。それをメルクリアが……。
メルクリア何を言うか。飽きて欠伸をしておったくせに。気分転換にと連れ出してやったのだから感謝せよ。
ナーザメルクリア……これはお前が淹れたのか ?
メルクリアはい、バルドに教わりました。今の兄上様のお体ではあまり必要のないものかもしれませんが気が休まればと思って。
バルドええ。僭越ながら手ほどきを。さあ、皆さんもどうぞ。
ナーザこの香りは……。
バルドお好きでしたよね。このお茶。
ナーザ……そうだったな。忘れていた。何しろ、食事をしなくても問題ない身体だからな。
メルクリアあの ! もしも昔と感覚が違うようであれば無理をしなくても――
ナーザいや、……うん、美味い。ありがとう、メルクリア。
メルクリア兄上様…… ! この程度、造作もありませぬ。お望みであれば毎日でも。
メルクリアもちろん、リヒター、ジュニア、アステルにも振る舞ってやろうぞ !
リヒター……フッ。では、遠慮せずこれからも頼もうか。
ジュニア驚いたよ。メルクリアがこんなことをするなんて。お茶、すごく美味しいよ ! ありがとう !
メルクリア皆が疲れているようだったのでな。何かできぬものかと考えていたらバルドが相談に乗ってくれたのじゃ。
メルクリアしかし、兄上様の……皆の喜ぶ顔がこれほどまでに嬉しいものとはおもわなかった……。
バルドそうおっしゃるメルクリア様の笑顔も尊く、美しく眩いばかりに輝いておられますよ。そのようなお姿を拝見できて、私も――
二人バルド !
バルドおや、お二人とも息がぴったりですね。
メルクリアめげぬ奴め……。とにかく、わらわはこれからも皆の笑顔を見るために励むぞ。のう、コーキス !
コーキス俺も ! ?
マークⅡここにいるうちに上達するんじゃねえか ?そうだと助かるぜ。コーキス先輩。
マークⅡ何しろこのメンツだろ ? 衣食住の世話なんて俺くらいしかできないと思ってたからな。皇女様でも鏡精でも、助っ人は大歓迎だ。
ジュニアいつもごめんね、マーク。僕も、もっと自分のことは自分でできるようにならないといけないよね。メルクリアと一緒に勉強しようかな……。
メルクリア何を言う。そなたはそなたのやるべきことをやればよいのだ。
ジュニアありがとう、メルクリア。――よし、メルクリアのおかげでいい息抜きになったし改めて調査の方針を考えましょう。
アステルけど、調査って言っても……。バロールについての文献ってビフレストにはどのくらいあったんですか ?
ナーザビフレスト皇国のみに伝わる神話に名前があるだけでそれ以上詳しい記述はないはずだ。
バルドその神話に関する文献も、カレイドスコープによって、国ごと消滅してしまいましたからね。今ではもう、現物を手に入れる手段はないでしょう。
リヒター鏡士側や救世軍から、新たな情報は入らないのか ?
バルド救世軍のフィリップさんがダーナとの接触に成功したという連絡が最後ですね。今のところは、これが一番の成果になるでしょう。
アステルでも、核心に迫る前に邪魔されたんですよね ?バロールの情報、もっと知りたかったなぁ。
コーキスマジで手掛かりなしかよ……。いっそダーナみたいにバロールも直接話してくれたらいいのにさ。
メルクリア突拍子もないことを。それが出来れば、こんな苦労はせぬわ。
ジュニア……バロールと話す……。そうか、直接……いや直接じゃなくても、ミリーナとゲフィオンの為に考えてたアプローチを使えば――
ジュニアアステルさん ! アステルさんが持ってきた資料のええと、どこだっけ、フォミクリー実験の項目は……。
アステルああ、これかな ?精霊ローレライとクロノスを使ったレプリカの遡行実験の――
ジュニアそれです ! もう一度見せてください !
アステルその資料、持ち出したはいいけどレプリカが絡んでいるから僕の管轄外だったんだよね。ディスト博士の方が詳しいと思うけど、連絡取る ?
ジュニアいいえ、今は大丈夫です。……やっぱり、精霊を使ったレプリカ遡行実験に最初のイクスのレプリカを使ったデータがある……。
アステルそれ、ディスト博士のファイルとは別になってるから帝国の誰かが独自に進めたものかもしれない。
リヒター遡行実験ということはレプリカの時間を巻き戻すつもりだったのか。何のために ?
ジュニアディストさんの目的は不明ですね。でも、イクスの方は……。
ジュニア……うん。やっぱりこのデータはそうだ。ってことは、イクスの遺体のレプリカを増やして人体万華鏡に改造する他にも、何か別の目的で……。
ジュニア(帝国が、イクスのレプリカを実験に使っているのは『最初のイクスという存在』が必要になったから ?)
ジュニア(だとすると、最初のイクスだけが持つもの……。記憶……かな。過去にセールンドがバロールの力を欲していたのなら、今の帝国もバロールを……)
メルクリアジュニア。ブツブツ言っていないで説明せよ。……聞こえておらぬのか ?
マークⅡ没頭するとこれだからなぁ。どうした、マスター。……フィル ? …………おい、フィリップ !
ジュニアあっ、ごめん。色々考え始めたら止まらなくなっちゃって……。
マークⅡそれで ? 何か思いついたんだろう。
ジュニアうん。最初のイクスの遺体……ナーザ将軍の体を使ってバロールの記憶を探ることができるかもしれない。

キャラクター2話【3-2 仮想鏡界2】
コーキスバロールの記憶を探るってナーザ将軍の体でそんなことができるのか ?
ナーザジュニア、詳しく説明しろ。
ジュニアはい。バロールの血を引くその体には何かしらの『記憶』として、バロールの情報が残っている可能性があるのではないかと思うんです。
ジュニア最初のイクスの体は、具現化されたものとは違い最初のフィルから受けた記憶操作のノイズもない。
ジュニア本来のイクスが持っている情報を引き出しやすい状態にある筈です。
ナーザなるほど。それで、どういった方法で探るつもりだ ?
ジュニアそれは、コーキスにお願いするつもりです。
コーキスえ、俺 ! ?
ジュニアコーキスは具現化イクスの鏡精だけど『イクスの鏡精』であることには違いない。だから最初のイクスにも入り込みやすい存在なんだよ。
ジュニアコーキスならば、最初のイクスの体に残っているバロールの記憶を探せるかもしれない。
コーキスええと、それってシング様たちのスピルリンクみたいなやつってことか ?
ジュニア似てはいるけどちょっと違う。今回は『心』じゃなくて『体』に残る記憶を探るから。
メルクリアなるほど。アニマとアニムスの違いじゃな。命の設計図を調べるというわけか。
コーキスあ~……、ええと、つまりどういうこと ?
マークⅡ大まかにいえば、お前がいてくれたお陰でバロールについて何か分かるかもしれねえってことさ。
コーキス俺がいたおかげで…… ? そうか……へへっ。
メルクリア何をにやけておる。理解したのか ?
コーキスいや、まだよく分かんねえけど手掛かりになるなら良かったなって。
コーキスよし ! そのバロールの記憶だか情報を探るってやつすぐに始めようぜ。俺は何をすればいい ?
ジュニアこの方法だと、最初のイクスのアニマサーチデータが必要になるんだ。バロールの末裔である、『イクス』の生前のデータを取り込む必要があるから。
マークⅡん ? 待てよ。そのデータがある場所ってのは……。
ジュニア……最初のイクスのデータが残っているのはセールンドにある壊れたカレイドスコープだよ。だから、セールンドに潜入しないといけない。
リヒター厄介だな。あの場所は帝国が目を光らせているぞ。
ジュニアはい……。それに、コーキスにはその場で最初のイクスの体にリンクしてもらうことになります。
ジュニアそれを考えると、かなり危険なんです。提案しておいてなんですが本当に決行していいものか……。
ナーザ迷うことはない。バロールに繋がる可能性がある以上は危険を承知でもやる価値はあるだろう。
ジュニア……そうですね。このままじゃ何も進まない。
リヒター俺も賛成だ。
アステル僕も賛成 ! みんなで行けばきっと――
リヒターアステル、お前は留守番だ。
アステルわかってるよ。凄く興味深いけどみんなの足は引っ張りたくないからね。
ナーザでは、コーキス、ジュニア、リヒター。準備をしろ。すぐに出発する。
メルクリアえ…… ? お待ちください、兄上様 !わらわは……。
ナーザお前はここで待っていろ。
メルクリアそんな、わらわも参ります !
ナーザ勝手は許さない。危険だと話したばかりだろう。
バルドお気持ちはわかりますがどうかご理解ください、メルクリア様。兄君は御身を案じておられるのですよ。
メルクリアそれこそ、兄上様の勝手なのではありませぬか ?
ナーザ! !
メルクリアジュニアの計画が危険なことは承知しております。ですが、敵地の只中で、ジュニアは手筈を整えコーキスがバロールの記憶を探らねばならない。
メルクリアこうしてアジトを作った以上、マークも仮想鏡界の維持の為に残らざるを得ぬ状況です。今までのようには頼れませぬ。
メルクリア戦えるのがリヒターだけではセールンドでの守りは手薄になるでしょう。
メルクリア兄上様、わらわも戦えるのです。使える戦力を、私情で切り捨てるおつもりですか ?
ナーザ…………。
メルクリア待つのが最良の策であれば、そういたします。ですが今は違うように思えるのです。
メルクリアお願いにございます。わらわは、兄上様たちの力になりたい。……皆を助けたい。
メルクリアそうあらねば、わらわの手でルキウスらを救うことなど叶いませぬ !
メルクリア未熟なまま守られるだけでは申し訳が立たぬのじゃ。ルキウスにも、これまで尽くしてくれた者にも。
リヒターメルクリア……。
メルクリア兄上様、どうかご一考を !
バルド……ナーザ様、私たちは感謝せねばなりませんね。これまでメルクリア様を諫め、助言をくれた方々に。
ナーザ……そうだな。
リヒター………………。
ナーザ……メルクリア、俺の私情であったことを認めよう。済まなかったな。
メルクリア兄上様……それでは !
ナーザああ。改めて頼む。セールンドへ共に来てくれ。
メルクリアはい、喜んで !

キャラクター3話【3-3 アスガルド城】
デミトリアスよく来てくれたね、エルレイン。
グラスティン……なぜサレが一緒なんだ ?新しい従騎士はどうした。
エルレインイレーヌには領都で執務を任せている。それにサレは元々私の部下だ。従者として連れてくることに何ら問題はないだろう。
サレ……ええ。まったくもってそのとおり。
グラスティンなるほどな……。ヒヒヒッ。
エルレイン火急の用と聞いて応じたのだ。早々に要件を聞かせてもらおうか。
デミトリアスきみの望みを叶える準備ができた。ようやく奇跡の力の復活だ。
エルレイン何と…… ? それはまことか ?
デミトリアスこのティル・ナ・ノーグに異世界の神フォルトゥナを顕現することになった。きみにも手伝って欲しい。
エルレインフォルトゥナを……。しかし、異世界の神の具現化は不可能に近いと聞き及んでいる。
グラスティン小さなフィリップの研究資料が役に立った。お前はあいつから、実験は失敗だったと報告を受けていたんだろう ?
グラスティンだが、あれは実のある失敗だった。おかげで神の具現化理論が構築できたんだ。ヒヒヒ。
エルレイン…………。
デミトリアスこれらの結果を受けて、帝国が行う世界救済にはフォルトゥナの力が必要だと判断した。
デミトリアスそして、奇跡の力を使いこなせるきみという存在もね。エルレイン。
エルレイン再び、奇跡の力が我が手に……。
デミトリアスきみの望んだフォルトゥナ神の降臨と世界の救済が同時に行える。この好機を逃さぬためにも、力を貸してほしい。
エルレイン……なるほど。よくわかった。
エルレイン世界の救済がフォルトゥナによるものならばこれほど喜ばしいことはない。もちろん協力を約束しよう。
デミトリアス感謝するよ、エルレイン。
エルレインであれば、今後は私が帝都へ滞在することも増えるであろうな。
エルレイン他の者に領都を任せるには何かと準備がいる。私はこれで帰らせてもらうぞ。
デミトリアス忙しい思いをさせてすまないね。共に世界を救う日を楽しみにしているよ。
サレ…………。
サレ――フォルトゥナ神の顕現か。さて、あなたは本当にあいつらの話を信じたのかな ?
エルレイン随分と持って回った言い方をする。ならばお前は嘘だと思うのか ?
サレ嘘か本当かなんて僕には興味がないね。今、興味があるというなら、あなたの方だよ。
エルレインどういう意味だ。
サレもう色々とわかってるんでしょ ?僕のことも、グラスティンのことも。
サレここのところ、イレーヌじゃなくて僕を連れ回すのは動きを封じておきたいからじゃない ?
エルレイン…………。
サレフフ、まあいいさ。あの男と僕は『同族』だ。
サレそれをわかっていながらなおも救済しようとしている聖女様はこれからどんな行動をとるのかな。いやあ、見物だね。
エルレインサレ、これは命令だ。今すぐ領都へ戻るがいい。
サレははっ、聖女様はご機嫌ななめか。それでは、お言葉に甘えて退散いたしましょう。
エルレイン……哀れな男よ。
エルレイン(……だがこれで身軽になった。今であれば――)
デミトリアス――エルレインは納得したと思うか ?
グラスティンまあ、半信半疑だろうよ。だがあの様子じゃ、奇跡の力への期待も残っている。そこをくすぐってやるさ。
グラスティンともあれ、話は通した。これでナーザ神を呼び出すことができる。
デミトリアスならば次の準備にかかるぞ。
グラスティンああ。俺はこれからセールンド山の研究施設に行く。お前も一緒に来てくれ。
伝令兵失礼いたします ! 急ぎ、グラスティン様にご報告したいことが……。

キャラクター4話【3-4 セールンド 街中】
コーキス結構あっさり入れちまったな。セールンドにつくまでは警備兵がウロウロしてたけど街の中はそうでもねえじゃん。
メルクリアそうじゃな。だがカレイドスコープの間にたどり着くまでは油断するでないぞ。ですよね、兄上様。
ナーザ……ああ。
バルド…………。
リヒター二人とも難しい顔をしているな。
バルドええ。何というか……あまりにも容易すぎると。
ナーザバルドもそう感じたか。
コーキス警備のきつい所を突破しただけじゃないのか ?
ナーザいや、今のセールンドには違和感がある。普段よりも兵が少なく、警戒が薄い。俺たちにとって都合が良すぎる状況だ。
ジュニアどうしましょう。引き返しますか ?
ナーザいや、帝国が動き出している以上こちらも猶予はない。用心は怠らず、このまま進む。
ナーザいいか、周囲全てに警戒しろ。俺は先行して様子を見ながら、お前たちを誘導する。
バルドお待ちを。私も参ります。幻体ならば危険もありませんしメルクリア様にもすぐに報告ができますので。
ナーザ……そうだな。ついて来い。
ナーザこの辺りまでは問題ないようだ。真っすぐカレイドスコープの間へ行けるだろう。バルド、メルクリアへ伝えろ。
バルド承知しました。
ナーザそれと、お前に少し話がある。
バルド何でしょう。
ナーザもし、俺に何かあった場合はメルクリアを頼む。
バルド……何を言い出すかと思えば。
ナーザ念のためだ。イクスの体を探る過程で何かあれば俺はこの体に戻れなくなるかもしれないからな。
バルドそれは……。確かに今回の作戦ではナーザ様の意識がノイズにならぬよういったん心核を抜く手筈ですが……。
ナーザ杞憂とでも思うか ?
バルド……いえ。仰る通りかと思います。
ナーザジュニアの才覚は認めているが万が一ということもある。しかもこの状況だ。帝国の妨害が入る可能性も否めん。
ナーザそうなった場合は俺にかまうな。メルクリアを守ることを優先して――
バルドお断りします。あなたも、そしてメルクリア様もお守りするのが私の使命です。例え幻体であっても。
ナーザ……俺の頼みでもか。
バルド頼みと言うなら、なおさらだよ。何より、その言葉は義兄として受け入れ難い。
バルド今の話を聞いたら、メルクリア様も同じことを言うんじゃないかな。
ナーザ…………。
バルド僕もメルクリア様もきみを失うようなことはしないし、したくない。
ナーザ……そうか。お前の気持ちはよくわかった。
ナーザだが、嫌でも選ばねばならぬこともある。その時に、生者のメルクリアと死者の俺どちらを優先すべきか考えておけ。
ナーザバルドなら、間違うことはないと信じている。
バルド……僕を困らせるのが得意だね、きみは。
セールンド カレイドスコープの間
ナーザ俺とジュニアは、カレイドスコープからデータを回収する。見張りは頼んだぞ。
バルドお任せを。
メルクリア…………。
リヒターどうした。不機嫌そうな顔をして。……ああ、ゲフィオンの鏡像を見ていたのか。
メルクリア……わらわにとっては真の仇である女じゃぞ。不機嫌にもなるわ。
コーキス(マスターもこの魔鏡結晶に閉じ込められていたんだよな。……マスター、今頃どうしてるだろう……)
ジュニア良かった……。カレイドスコープ本体の破損は酷いけどデータは無事だ。
ジュニアすぐに始めます。コーキス、ナーザ将軍、こちらへ。
コーキス……いよいよか。
ナーザ頼むぞ、コーキス。ではジュニア、始めてくれ。
ジュニアはい。ではまず、ナーザ将軍の心核を外しますね。
メルクリア…………。
リヒター……様子を見に行くか ?
メルクリア……よい。わらわは、兄上様やコーキスたちを守るためについて来たのだからな。わらわもわらわにできることをするまでじゃ。
リヒターそれでいい。
ジュニアよし、上手くいってる……。
ジュニアコーキス、ナーザ将軍の心核を外したから今度はきみの意識と、イクスの体をリンクさせる。いくよ ?
コーキスう、うん。やってくれ !
コーキス……うわっ !
ジュニアリンクできた ! どうコーキス、きみの意識は――
コーキス……いっ ! 痛ぇ……。
ジュニアえっ、コーキス ?
コーキスなんか痛いんだよ……左目が……これ……前といっしょ……うあああああああああっ !
ジュニアコーキス ! コーキスッ ! ?

キャラクター5話【3-5 ???】
コーキス(…………音がする…………)
コーキス(何だろう……時計の音 ? だんだん大きく………)
コーキス……うるせっ !……………………あれ ?
コーキスここ、魔都ビフレストか ?いつの間に……。
? ? ?それは魔眼に対する『滅び』の意識が投影されたものだ、鏡精。
コーキス誰だ !
コーキス……マスター……いや、ナーザ将軍 ?
? ? ?……俺は……言うなればバロールの記憶の欠片。バロールの残滓が形となった存在だ。
コーキスバロール ! ? ってことは俺、ちゃんと成功したのか。よっしゃー !
コーキスけどその恰好、驚いたぜ。体と同じ姿なんだな。一瞬マスターがいるのかと思った。
バロールの残滓…………。
コーキスおい、聞いてるか ? 俺はあんたに会いに――
バロールの残滓……貴様、その目は……。
コーキスああ、うん。バロール……いや、その記憶の欠片か。とりあえずバロールでいいよな。俺はこの魔眼のことが聞きたくて来たんだ。
コーキスそれとバロールのこと、何でもいいから教えてくれ。どんな奴で、何の力を持ってて――
バロールの残滓鏡精よ、どうやらお前は魔眼の力を使いこなせていないようだ。
コーキスああ、わかってるよ。だからそれを……痛てっ !また左目が……。
バロールの残滓……痛みから逃れるため、痛覚を切り離していたか。なるほどな……。その痛みは貴様の未熟さゆえだ。
コーキスんなこと言っても……どうすりゃ……うあああっ !
バロールの残滓暴走しつつあるな。
コーキスこれ、どうすれば……痛みと……何かが……体の中から溢れて……。
バロールの残滓魔眼を制御しろ。力の使い方を知れ。
コーキス駄目だ ! 何も考えられ……ううううっ ! !誰か……この痛みを消してくれ ! !
バロールの残滓無理だ。その暴走は自分自身で抑えこむしかない。鏡精、己を見つめ、己を知れ。
コーキス目の奥が、疼く……。ぐ……うぁああああ ! !
バロールの残滓……正気を失ったか。
コーキス消エロ……、オマエモ消エロ…… !

キャラクター6話【3-5 ???】
コーキス(……変だな。なんでバロールと戦ってるんだろう。それにこの光景、どこかで……)
コーキス(そうか、モリアンに操られた時と似てるんだ)
コーキス(あの時はマスターと戦って……マスターの声が聞こえて、戻れたんだ)
コーキス(……なんだっけ、魔眼……、制御…… ?くそっ、意識がぼやけて、体がいうこと聞かねえ)
コーキス(俺はあれから何も変わってないのか。……情けねえ、一人じゃ何も……)
バロールの残滓鏡精、俺――言葉も――か ?
コーキス(誰だ……何を言ってる ? よく聞こえねえよ……)
コーキス(やっぱり、俺がマスターの側にいたら危険だ。いつこうなるか、わかんないもんな)
コーキス(ごめん、マスター。俺、きっともう帰れな――)
イクスちゃんと帰ってくるって、約束してくれ。
イクス俺は信じて待ってるからさ、コーキス
コーキス……マス……タ……。
バロールの残滓! !
コーキス(帰れないって、なに言ってんだ俺……。マスターが待ってるのに ! 信じてくれてるのに !)
コーキス(あの言葉に応えたい……。応えるために、俺はここにいる !)
コーキスっ……マスタ――――ッ !
バロールの残滓……ようやくか。
コーキスはあっ……はあっ……。俺、戻った…… ?
バロールの残滓暴走の制御に成功したな。どうやら魔眼の力を使いこなしつつあるようだ。鏡士との間に結ばれた信頼を忘れるな。
コーキスバロール……。
バロールの残滓バロールの魔眼は、死を呼ぶ時は毒を放ち命を生む時は炎を燃やす。
バロールの残滓鏡精よ、その力を使いこなせ。
コーキス待ってくれ ! まだ消えないでくれ !もっと聞きたいことが――
バロールの残滓お前に――バロール……あ……ける……。
コーキス…………あ。
ナーザ目が覚めたか ?
コーキスバロール ! よかった、消えてなかったのか !
ナーザ……何を言ってるんだ、貴様は。
コーキス…………何だ、ナーザ将軍か。
メルクリア何だとは何じゃ ! ? 失礼な奴め !
ジュニアコーキス ! 良かった、目が覚めて……。目の痛みは ? 体は何ともない ?
コーキスあ、ああ。大丈夫。そうか、俺、突然目が痛みだして……。
リヒター酷い悲鳴を上げていたが……今は落ち着いているようだな。
コーキスああ……うん。大丈夫みたいだ。そういえばナーザ将軍は平気なのか ? 心核を外してただろ。
ナーザこのとおりだ。今のところ異常は見られない。
バルドナーザ様も、コーキスも、無事で何よりです。しかし、これからどうしますか ?
バルドコーキスの苦しみ方を見る限りもう一度同じ手法でバロールを探らせるのは……。
メルクリア……無理であろうな。
コーキスあ、ごめん。報告が遅れたけどバロール……みたいな人には会えたんだ。
全員! !
メルクリアなんと、成功しておったか ! それで何がわかった ?
コーキスええと……。
バルド死を呼ぶ時は毒を放ち命を生む時は炎を燃やす……とは、意味深ですね。
メルクリア何のことやらさっぱりじゃ。ほかにバロールは何か言っておらぬのか ?
コーキスさっき話したので全部だよ。あー、消える前に、俺にバロールの……なんとかって言いかけてたけど、よく聞こえなかった。
コーキスもしかして……あんま役に立たなかったか ?
ジュニア……ううん、バロールの残滓はとても重要なことを伝えてくれたと思う。
バルドそうですね。何かの比喩という可能性もありますが我々が伝え聞く『滅びの力』といわれるものが『毒を放ち』に相当するのだとすると……。
ナーザ言葉どおりに受け取るならばバロールの魔眼は、我々の知らない『命を生む』力も秘めているということだ。
ナーザそれこそが、バロールの『失ってはいけない力』なのかもしれない。
ジュニアそれじゃ、イクスの遺体を失ってはいけないのもそれが理由ってことなのかな……。
リヒター興味深いが、いったん議論は打ち止めだ。この場所に長居をしない方がいい。
メルクリアリヒターの言う通りじゃ。特にこの場所は落ちつかぬ。すぐに脱出するぞ。
? ? ?いや、もっとゆっくりしておいで。メルクリア。
全員! !
メルクリアまさか……。
デミトリアス会えてうれしいよ、メルクリア。元気そうで何よりだ。
メルクリア……ち……義父上っ…… !
ナーザデミトリアス…… !

キャラクター7話【3-6 カレイドスコープの間】
帝国兵動くな。大人しくしろ。
コーキスくそっ、気が付かなかった…… !
デミトリアスナーザ将軍、いや……ウォーデン殿。イクスの遺体の紛失から予想はしていたがその姿で再び相まみえるとは。
デミトリアスジュニアには、してやられたよ。
ジュニア…………。
デミトリアスメルクリア、よく顔を見せておくれ。心配していたんだ。
メルクリア義父上……あなたという人は…… !
バルドメルクリア様、どうかお心を鎮めて下さい。
デミトリアス話を聞くに、きみがバルドのようだね。私の側近の『フレン』でいた頃とはだいぶ姿も在り方も違うようだ。
デミトリアスやはりジュニアの仕業かい ?それともウォーデン殿かな。とかく鏡士とは想像もつかぬことをする。
ナーザ……襲撃は予想していたが貴殿自らこの場に現れるとはな。
デミトリアスあなた方がセールンドへ侵入したと報告を受けた。
デミトリアス危険を冒してまでこの場に来るとなればさぞかし重要な情報を得るためだろうと思ってね。それに、メルクリアの様子も気になっていた。
コーキスくそっ……それじゃあやっぱり警備が手薄だったのもわざとかよ。
デミトリアスきみたちが無事に目的を果たせて何よりだ。おめでとう。流石だよ。
デミトリアスおかげで私も、最も必要としていたバロールの根源に近づく方法を知ることができた。心から感謝する。
リヒター泳がせて覗き見か。いい趣味をしているな。
デミトリアス確かにぶしつけだったね。失礼したよ。私は争うために来たのではない。きみたちと話し合いに来たんだ。
ナーザ今更何を話し合う。
デミトリアスそれでも――私はきみたちに同盟を申し込みたい。皇太子ウォーデン・ロート・ニーベルング殿。
ナーザ同盟だと ? 何のために。
デミトリアス貴君が受け継ぐその名にもあるニーベルングへの回帰を果たすためだ。
デミトリアスこれまではお互いの理解が及ばず相容れぬこともあっただろう。あなたが我らに不信を抱かれるのも当然だ。
デミトリアスだが以前に申し上げたとおり、私の成すことはあなたが成し得なかったときの安全弁であった。ゆくゆくの目的は同じと考えている。
デミトリアスどうか今一度我らと手を結んではくれぬだろうか。
ナーザふっ……。
デミトリアス……ウォーデン殿 ?
ナーザ滑稽だな。死人に同盟を申し入れるとは。俺も以前に言った筈だ。我が名はナーザ。ウォーデンは死んだ。
ナーザそれでも返答を求めるならば、あえて言おう。貴殿の申し出は断る !
ナーザ我らはビフレスト聖騎士団。今やアスガルド帝国を打倒せんとする者だ。
デミトリアス……なるほど。ナーザ殿のお考えはわかった。メルクリア、お前もかい ?
メルクリア……無論じゃ。
デミトリアス私が無体を強いたことは自覚している。幼いきみを悩ませぬためにと黙って計画を進めたことは間違いだった。謝罪しよう。
デミトリアスだからもう一度、私の手を取っておくれ、メルクリア。昔のように、私の側で共に暮らそう。
メルクリア……義父上、わらわはあなたの優しさが毒じゃと気づいた。
メルクリア気づきながら、その毒を食らう者がいるとお思いか ?
デミトリアス私の優しさが毒 ? 何を言っているんだい ?
メルクリアモリアンのこと、ルキウスのこと !わらわは、義父上の全てが許せぬと言っておるのじゃ !
デミトリアス……すまなかった。きみには、その辛さを忘れるほどの幸せを約束しよう。
メルクリア違う……違うのじゃ、義父上……。
デミトリアスだったら何が違うのか、よく話し合おう。私はきみを本当の娘と思って愛している。
デミトリアスだが、このまま交渉が決裂すればきみたちを無事に帰すわけにはいかなくなってしまう。
ナーザ脅しか ?
デミトリアス……私は話し合いで終わらせたい。手荒な真似はしたく――
メルクリアミゼラブル・トーチャー ! !
デミトリアス――っ ! !
メルクリア今じゃ、皆、逃げよ ! !
デミトリアス待ちなさい、メルクリア !
メルクリア……さらばじゃ、デミトリアス。
デミトリアス! !
デミトリアスメルクリア……本気で私から離れるのか……。
帝国兵陛下。いかがいたしましょう。
デミトリアス……残念だが、見ての通りだ。これより彼らを、帝国の敵対勢力と見なす。ビフレスト聖騎士団一行を捕らえよ !

キャラクター8話【3-8 セールンド城内2】
帝国兵A――ビフレスト聖騎士団を発見。捕縛せよ。
帝国兵B了解。捕縛開始。
コーキスまた来た ! こいつらどんだけ隠れてたんだよ !
メルクリアええい、きりのない !命が惜しいものは道を開けよ ! さもなくば――
ジュニア逃げて、メルクリア !その兵士には無駄――うわっ !
リヒター危ないぞ、ジュニア !
ジュニアあ、ありがとうございます……リヒターさん !
メルクリアす、すまぬ。だが、この兵士たちは一体……。
バルド脅しも説得も無駄です。この兵士たちはリビングドールβの処置を施されています。
メルクリアこのところ感情の見えぬ兵が多いのはそういうことであったか……。リビングドールを、このような者にまで……。
ナーザ気を抜くな、まだ来るぞ !
帝国兵Cビフレスト聖騎士団を発見。
魔物ウォオオオオオン !
コーキス魔物 ! ? なんでここに !
アリエッタ見つけた……。
コーキスアリエッタ ! じゃあこの魔物も全部…… !
バルド確か、彼女は魔物を自在に扱えるのでしたね。帝国内では、あまり会ったことはありませんでしたが……。
ナーザ相変わらず、女のことはよく覚えているな。
アリエッタ裏切者、見つけた ! 早く来てください……です !
ルキウス ?…………。
メルクリアルキウス…… ? ルキウスか ! 無事であったか !
ジュニア待って、メルクリア ! あの様子だとルキウスは……。
ルキウス ?死にたくなければ全員動かないで。
メルクリア! !
ジュニア……リビングドールβ ? でもそれにしては……。
アリエッタもう逃げられません。大人しく捕まる……です。
コーキスくそっ、どうする ? 魔物に囲まれちまってるけど突っ切るか ?
ナーザ難しいな。突破できても、魔獣の速さではほどなく追い付かれるのは目に見えている。
バルド(……ナーザ様、ナーザ様私の心核の声に耳を済ませてください)
ナーザ! !
バルド(あなたには申し訳ないことを提案いたします。屈辱ではありましょうが――)
ナーザ…………。
コーキスなあ、どうする ? ここで捕まる気かよ。
ナーザ……………………。…………わかった。そうしよう。
リヒター何を言っている ! ? 降伏するつもりか ! ?
ルキウス ?賢明だね。アリエッタ、兵士が近づけるよう魔物を退かせて――
ナーザ魔神皇剣 !
アリエッタきゃああっ ! !
ナーザ走れ ! 俺に続け !
コーキスへ…… ? ど、どこへ ! ?
ナーザ後で説明する ! ついて来い !
ジュニアメルクリア、早く !今ルキウスを助け出すのは無理だ !
メルクリアくっ……済まぬ……ルキウス !
ルキウス ?魔物の統率を乱して逃げる気か。無駄なことを。アリエッタ。彼らを追え !
アリエッタわかってる。絶対に逃がしません…… !裏切者を捕まえて……イオン様に会うんだから…… !
ナーザこの部屋に入れ。扉を閉めろ !
バルドナーザ様……申し訳ありません。あなたにこのようなことを押し付けるなど……。
コーキスおい、何のことだよ !
ナーザよく聞け。この先、立ち止まることは許されんぞ。あの魔物たちから逃げ切るために、俺を――

キャラクター9話【3-9 セールンド城内3】
ルキウス ?どこかに隠れているかもしれない。片っ端から部屋を開けろ !
帝国兵はっ !
アリエッタ絶対逃がさない……絶対……あっ !
ナーザ…………。
アリエッタいた ! みんな、来て !
アリエッタ他の人……どこ、です ? あなただけ…… ?
ナーザそうだ。
ルキウス ?自分を犠牲に仲間を逃がしたのか。自己犠牲なんて愚かだね。でもまあ、いいよ。一人でもいいから捕まえろとの指示だから。
アリエッタお願いです。このまま捕まってください。そうすればアリエッタの仕事は終わり。今度こそ、イオン様に会える筈……です。
ナーザ貴様はリビングドールにされていないようだな。なぜ帝国に従う。
アリエッタそれが……イオン様のためだって。
ナーザその言葉が真実だと、嘘ではないと言い切れるか ?
アリエッタ嘘じゃない ! グラスティンが言ったもん !イオン様は生きてるっ !だから……だからアリエッタは…… !
ナーザグラスティン…… ? あの男を信用するのか。イオンが本当にグラスティンの所にいると実際に確認はしたのか ?
アリエッタっ…… ! もう、やめて ! なんで意地悪言うの…… ?
ナーザ……辛くても考えろ、アリエッタ。
ルキウス ?そこまでだよ。この男を拘束するんだ。
魔物…………。
アリエッタ待って、みんなが困ってる……。なにか変……です。
ルキウス ?これ以上は待たない。やれ !
帝国兵βはっ !
ルキウス ?! ?
帝国兵β…… ? この男に触れません。
アリエッタみんなが、その人から生き物の匂いがしないって……。
ナーザそう……。この身はまぼろし。悲しみに震えるあなたに手を差し伸べても触れることすら叶わない存在です。
ルキウス ?姿が消える…… ! ?
ナーザアリエッタ、あなたはそこにいるべきではない。どうか、真実を知る勇気を――………………。
ルキウス ?消えた。……捕獲失敗か。アリエッタ、報告に戻るよ。
アリエッタ…………。
ジュニアはぁ……はぁ……。
リヒター疲れたか ?
ジュニア大丈夫 ! まだ走れるよ。メルクリアだって平気なんだから。
リヒター――おい、ナーザ。このままだとジュニアとメルクリアが遅れる。
ナーザわかった。少し速度を落とす。
メルクリア……あっ ! 兄上様、バルドが !
バルド――ただいま戻りました。
ナーザ残してきた幻体が消えたか。
ジュニアメルクリアの力が届かなくなったんだね。バルドの幻体を保つには、この距離が限界なのか。
メルクリア……わらわの力はこの程度なのじゃな。
ナーザいや、十分な距離を稼いだ。このまま逃げ切れるだろう。よくやった。バルド、メルクリア。
コーキス驚いたなぁ。ナーザ将軍そっくりに化けて敵を引き付けるなんてさ。
ナーザバルドの幻体のイメージを、俺の姿にしただけだ。考えたのはバルドだがな。
バルド申し訳ありません。私ごときがナーザ様を真似るなど屈辱以外の何ものでもないでしょう。
バルドあなたという高貴なる存在を汚してしまったこと本当に心苦しいばかりです。
ナーザ……わかった。もういい。お前はもう少しフレンの中にあったときのように慎ましくできないのか。
バルドすみません、ナーザ様。
メルクリアバルド、ルキウスはどんな様子であった ?
バルドリビングドールであることは間違いなさそうですが詳細はわかりませんでした。ただ、怪我などはしていないようです。
メルクリアそうか。無事……ではないが生きていてくれて良かった……。
バルドそういえば、アリエッタの方はリビングドールにはされていませんでした。おそらく、帝国に利用されているのでしょう。
バルド彼女は心から苦しんでいます。どうにか救ってあげたいとも思いますが何もできぬこの身が口惜しくて……。
ナーザバルド ! 余計なことを考えるな。人にはわきまえるべき分というものがある。全てを救いたいと思うのは思い上がりだ。
ナーザ貴様はそうやっていらぬ苦しみを背負いたがる。……やめておけ。
バルド……はい。
ナーザ拠点へ戻るぞ。
コーキス厳しいな、ナーザ将軍って。
バルドそう見えるのでしょうね。まったく……不器用な方です。
バルドあの方はとても厳しくて、不器用でそして優しい方なのですよ。

キャラクター10話【3-10 アジト1】
ミリーナイクス、会議の時間が……あっ、みんなもう集まってたのね。
カーリャ・N小さいミリーナ様、お待ちしていました。
ミリーナ私が一番遅かったみたい。ごめんなさいね。
カロル大丈夫、ボクたちもさっき来たところ。
ラピードワオン !
イクスセシリィの引っ越し準備どうなってた ?もうすぐフィルさんたちが来るぞ。
ミリーナもう荷物はまとまっていたから大丈夫。今、みんなにお別れの挨拶をしているところよ。
イクス色々あったけど、セシリィがここにいる間にいい友達ができて良かったよな。
カーリャ前にチャットさまと盛り上がってるのを見ましたよ !機械の崇高さがどうとか。何言ってるのかさぱらんでしたけど。
ユーリそういや、キール研究室にも顔出してたって ?
カロルうん。セシリィは魔鏡技師見習いだからリタやパスカルに色々と聞いてたみたい。
ユーリ技術はともかく、妙な影響うけてなきゃいいけどな。あいつら性格がぶっとんでるから。
ミリーナあら、リタならガロウズさんのお気に入りだもの。逆に喜ばれるんじゃないかしら。
カーリャ・Nあの……そろそろ会議を始めないと本当に時間がなくなってしまうのでは……。
ユーリっと、そうだった。じゃあ、さっさと報告しちまうか。カロル先生、頼んだぜ。
カロルうん。ええと、各大陸で帝国が管理する領主の館を調べていたんだ。
カロルでも、ここ最近ですごく警備が厳しくなってる。配備される兵士もかなり増えたよ。
ユーリああ。これから領主の館に潜入することも増えるだろ ?今までと同じだと思うと痛い目みるぜ。
カロルあ、そうだ。オールドラント領でもグラスティンが関わってそうな事件が起きてたからリオ……浮遊島警備部に伝えておいたよ。
カロルこっちで調査しようかと思ってたけどガイがルークたちを誘って調べてみるって。
イクスじゃあ、ルークたちもオールドラント領に向かうかもしれないんだな。
カーリャ・Nすみません。その話で思い出したのですが確か少し前から、シング様たちが原界(セルランド)領に向かわれていましたよね。
イクスああ。カロルたちの調査で領主の名前がわかったからな。
カーリャパライバさまと、カルセドニーさまですよね。
カーリャクリードさまの件が何とかなった途端今度は領主の救出に向かわなきゃいけなくなって……。シングさまたち大丈夫でしょうか。
カーリャ・N何か連絡は入っていますか ?
イクス潜入調査だから、こちらからの連絡は控えてるんだ。……けど、向こうからの定時報告も遅れてる。
カーリャえ……大丈夫なんですか、シングさまたち。
ミリーナそうね。信じてないわけじゃないけどカロルたちの報告を聞くと……。
ユーリ嫌な予感がするな……。わかった、ちっと様子見に行ってくるわ。
イクスいいんですか ?調査から帰ってきたばかりなのに。
ユーリここであーだこーだ言ってても仕方ねえだろ。カロルもいくか ?
カロル当然 ! もうこんなの慣れっこだよ。
ラピードワンワン !
ミリーナええ。お願いするわね、ラピードさん。
イクスそれじゃゲートであっちに降りたら一度連絡を――っと……ごめん、通信が入った。
カーリャシングさまたちですかね ! ?
イクス……えっ ? あ、あなたは…… !

キャラクター11話【3-11 原界領 領主の館1】
帝国兵β侵入者を発見。侵入者を発見。排除せよ。
クンツァイト敵勢力を視認。排除を開始。
クンツァイト排除を確認。他に敵影なし。リチアさま、こちらへ。
リチアええ。コハク、わたくしとクンツァイトが周囲を見張ります。今のうちに出口へ。
コハクありがとう。リチア、クンツァイト。みんな、敵が来る前に早く !
ベリルあ~も~、この館、なんでこんなに兵士がいるのさ !過保護 ! 過剰警護 ! 何様だよー !
クンツァイト回答する。領主様だ。
ベリル知ってるよ !
ヒスイくっちゃべってねえで行け !おい、シング、モタモタすんじゃねえぞ !
シングわかってる。けど、どこかにカルやマリンさんがいるかもしれないと思うと……。
ヒスイ今日はもう無理だっつってんだろ !オラ、さっさと行け !
コハクあそこ、出口が見えたよ ! 兵士もいない !
ベリルやった ! 助かった―― !
? ? ?と、思う子豚のあわれなるかな~。
コハク誰 ! ? 外から ?
シングあの声…… ! 出るな、コハク、ベリル !そいつは――
ハスタ解体ショーだヨ ! 善人集合 !
二人! ?
シングくそっ ! 間に合えっ !
シングかはっ……ごふっ……。
ハスタん~、いい声、いい音、夢気分 !ハスタ選手、やりました !ありがとう……、お母さんのおかげデス !
コハクうそ……シング ! しっかりして !
ベリルボクたちをかばって…… !
クンツァイト警告。バイタルの異常を検知。かなりの深手だ。動かさないほうがいい。
コハクシング……シング ! すぐに治すから !
リチアわたくしも一緒に回復術を !
ヒスイてめえ…… ! よくもやりやがったな !
ハスタう~ん、見た目どおりのハジケる弾力。ちょうどリビングドールで聖核を増やすのに飽きていたところだったにょん。
ハスタそんな時です !なんということでしょう、お城で素敵な舞踏会が !ハスタ姫は槍を片手に乗り込んだのでした~。
ヒスイああそうかよ、イカレ野郎が !その気色悪ぃクチ、きけなくしてやる !
シング駄目だヒスイ……。みんな、逃げ……ゴホッ…… !ハスタは……ダメ……だ……。
リチアしゃべってはいけません !
コハクシングはわたしが…わたしたちが絶対に守るから !
帝国兵β隊侵入者を確認。
ハスタおかわりだぷー ! さあさあ遠慮せず腹一杯かっさばいて、召されませいっ !
ベリルな、なに ! ? いきなりみんな吹っ飛んじゃった !
リチアこの術は―― !
リチアクリード兄さま ! なぜここに……。
クリード好きで来たわけではない。
フローラあなた方が領主の館に潜入すると知ってクリードに助けを頼んだのです。きっと、力になれることがあるからと。
リチアありがとうございます。フローラ姉さま、クリード兄さま。
クリード……帝国の輩に、私の残した研究資料を利用されるのは気にいらんのでな。潰しておこうと思っただけだ。
クリードイクスたちには、お前が押し付けてきた魔鏡通信機で状況を伝えてやった。すぐに援軍がくるだろう。
ハスタふぅ、すがすがしい目覚めだ……。そして一杯の『紅血ゃ』を飲むオレ。
ベリルヤバイよ ! アイツ復活した !
クリード聞こえるか、シング・メテオライト。私に偉そうな口を聞いておいて貴様はこんなところでくたばるつもりか ?
クリードフッ、所詮は脆い原界人ということか。
シングクリ……ド……。
フローラリチア、シングに回復術が効いているようであれば今すぐ連れて逃げなさい。
リチア……わかりました。ありがとうございます、フローラ姉さま。
リチア行きましょう、みんな。クンツァイト、シングをお願いします。
クンツァイト承知しました。シングの生命維持を最優先しこの場を離脱します。
コハククリード、ありがとう !
ヒスイ……死ぬんじゃねえぞ。
クリードさっさと行け。目障りだ。
ハスタああ……いっちまった。据え敵喰えぬは男の恥。しかし次の日には元気に殺戮にまい進するハスタくんなのでした。
フローラ……クリード、私たちの常識が通用する相手ではないようです。十分に気をつけてください。
クリード心配するなフローラ。私の思念術の前では塵一つ残ってられんさ。

キャラクター12話【3-13 アジト2】
フィリップそうか。各地の警備がそれほどまで……。
マーク原界(セルランド)領の方も心配だな。救世軍の地上部隊にも一報入れとくか。何かあったら協力するよう言っておく。
カーリャ・Nありがとう、マーク。気が利きますね。……なんです、そのゆるんだ顔は。
マークいや、ネヴァンパイセンに褒められるなんて珍しいからさ。嬉しくてねぇ。
カーリャふざけてる場合じゃありませんよ、マーク !シングさまたちがピンチなんですからね。
マーク今度はちっこいパイセンに怒られるのかよ……。
イクス大丈夫だよ、カーリャ。クリードさんもいるしユーリさんたちも応援に向かった。何かあれば報告が入る手筈だから。
マークしかし参ったぜ……。そんなに帝国兵の監視が厳しくなったんじゃうちの地上部隊の連中にも警戒させないといけねえな。
イクスそれと、これはシャーリィたちが付けられた【贄の紋章】と呼ばれるものの解析結果です。
フィリップありがとう。確認させてもらうよ。
フィリップ…………なるほど。
イクスそこにあるとおり、現段階でですが贄の紋章は、対象者に身体的影響は与えていないようです。
イクスそれと、特殊な術式が組み込まれていることをジェイドさんとハロルドさんが発見しました。
フィリップ術式……。その術式がどういう方向性のものかは判明してるかい ?
イクスいいえ。何のためにつけたのかその意図までは、まだ……。
イクスただ、領主だったフォッグさんやレイスさんにも付けられているので、帝国がその紋章を重要視しているのは間違いありません。引き続き調べるつもりです。
フィリップわかった。その検証には僕も協力させて欲しい。
イクス是非、お願いします。
ガロウズビクエ様、お待たせしました。
フィリップああ、ガロウズ。準備はできたかい ?
ガロウズおかげさまで。ほらセシリィ、ビクエ様に挨拶しろ。
セシリィあ、あの ! これからよろしくお願いします。
フィリップああ。ガロウズの下でしっかり学ぶんだよ。
マークおい、荷物ってのはそのおもちゃ箱みたいなやつか ?
ガロウズああ。こいつときたら色んな部品を集めちゃ何か作ってたみたいでさ。このおもちゃを全部ケリュケイオンに持ってくんだと。
セシリィボス酷い ! すごいのもあるんだから。これなんかチャカチャカっとやってピューっとすると……あれ ? 動かないな……。
ガロウズお前……随分と変わった物言いするようになったな。
カーリャパスカルさまの影がチラつきます……。
ミリーナふふっ、ユーリさんの言ったとおりね。
エルあ、セシリィいた ! ほらアミィ、早く !
アミィセシリィ、間に合って良かった。これ、渡すの忘れてたから。
セシリィこれって、アミィのマーボーカレーのレシピ……。ありがとう。私も頑張って作れるようになるね !
エルねえねえ、もうガロウズには怒られたの ?ハモンされなかった ?
セシリィあ……ええと……。なんとか……。
ガロウズはははっ ! そりゃもう、こってりしぼってやったぜ。魔鏡技術知りたさに、自分からリビングドールに志願したバカ弟子だからな。
ガロウズこれに懲りたんなら、俺のところで真面目に魔鏡技師の勉強をすることだ。
セシリィは~い……。
アスベルイクス、会議中に済まない。ちょっと話がしたいんだ。フィリップさんも交えて。
イクスアスベル ? いいよ、どうしたんだ ?
アスベル俺たちが預かっているチーグルの心核をビフレスト側に返しに行きたいんだ。
リチャード彼に……チーグルに約束したんだよ。必ずメルクリア皇女のもとへ届けるとね。その約束を果たしたい。
リチャードだがそれは、ビフレスト陣営の仲間を増やす行為でもある。僕たちの一存で決めていいものか考えていた。
リチャード君たちと、そして救世軍の意見を聞かせてもらえないかな。
ソフィイクス、ミリーナ、どう思う ?メルクリアたちは、まだ敵 ? それとも味方 ?
イクス……正直に言うと、味方……ではないと思う。そうなって欲しいけど、今はまだ利害が一致しただけの共闘みたいなものだ。
イクスだけど、心核を返すのは賛成する。何となく、今のメルクリアなら大丈夫だと思うんだ。
ミリーナええ。私もそう思う。フィルはどう ?
フィリップ僕も賛成しよう。それに、約束を果たそうとする彼らの意志を尊重したい。
イクスそれじゃ、キール研究室で保管されているローゲの心核も一緒に返そうか。そっちは少し……心配だけど。
イクスとにかくナーザ将軍とメルクリアには俺から連絡を入れておくから、後は任せるよ。
アスベルわかった。みんな、承諾してくれてありがとう。キール研究室へ行って来るよ。
セシリィあ、あの ! ちょっといいですか ?
ソフィなに ?
セシリィメルクリア様に会ったら、伝えてもらえますか ?いつか会いに行くから、その時にはいっぱいお話しましょうって。
ソフィわかった。セシリィが……友達が会いたがってるって、伝えるね。
セシリィはい、お願いします !
ソフィ行こう、アスベル、リチャード。
二人ああ。
マークさて、セシリィも回収したし、一度戻るか ?
フィリップそうだね。それじゃイクス、僕たちは――
アニーイクスさん ! イクスさんはいますか ! ?
マークなんだよさっきから。賑やかなアジトだなぁ。
ミリーナどうしたの二人とも、そんなに慌てて。
ジュード落ち着いて聞いて。――ファントムの意識が戻った。
一同ええっ ! ?
アニー今、アトワイトさんが診ています。一緒に来てください。
ファントム……イク……ス……、ミリ……ナ……。
イクス本当に目が覚めたのか……。
アトワイトあなたたちを見てしゃべっているわけではないの。さっきから同じことを呟いているから明確な意識はないと思うわ。
ミリーナどうして目覚めたのかしら……。何かきっかけでもあったんですか ?
アトワイトいいえ。わからないの。突然目覚めた……それだけよ。
フィリップこれは……そんな……。
マークどうした、フィル。
フィリップリーパ……ファントムからダーナの力を感じるんだ……。

キャラクター13話【3-14 仮想鏡界3】
マークⅡ何が同盟だ。デミトリアスめ、アタマ沸いてんな ! ?
アステルまあまあ。何にしろ、全員無事で何よりだよ。
メルクリア……のう、リヒターわらわは義父上と話していて恐ろしくなった。まるで話が通じぬ気がしたのじゃ。
メルクリアもしや、わらわも以前は義父上と同じだったのか ?
リヒター……お前はもう違う。気づいたんだからな。
メルクリアやはりそうか……。皆がわらわから離れていったのもよくわかる。
メルクリアしかし、いつから義父上はあのように……。
バルドメルクリア様、少し休まれては。デミトリアス陛下やルキウスのことで酷くお疲れになったでしょう。
メルクリアいや、心配は無用じゃ。話の腰を折ってすまなかった。バロールの話を進めてくれ。
ジュニアうん。今回のコーキスとバロールの記憶との接触は一応成功といっていいと思う。コーキスの魔眼も落ち着いてるみたいだしね。
コーキスああ。制御できそうだって言われた。けど、あれがもう一度できるかな……。
アステル大丈夫。コーキスの魔眼の力については僕も研究を進めておくから。何でも話して !
コーキスありがとな、アステル様。
リヒターしかし……今回の潜入で思い知らされたな。俺たちは圧倒的な戦力不足だ。
ナーザそうだな。デミトリアスとは完全に決別した。今後は更に厳しい戦いになる。
バルド協力者が必要、ということですね。
コーキスあのさ……俺が言うのもあれだけどマスターや救世軍とは仲間になれないのか ?
ナーザ我々は、セールンドの鏡士とも救世軍とも思想が違う。
ナーザ時に共闘もあるだろうが決して同志ではない。境界を見誤ると後悔することになる。鏡精、お前自身もな。
コーキスう……わかったよ。とにかく、即戦力になる協力者を見つけないといけないんだよな。
ジュニアうん。やっぱり強さで言うと鏡映点の人たちだろうけど、そう簡単には見つからないよね。
マークⅡお、それなら俺、鏡映点っぽい奴がいるって噂を調査中に聞いてるぜ。
ナーザどんな奴だ、詳しく聞かせろ。
マークⅡ確かテセアラ領の救世軍の地上部隊にいるのがどうも鏡映点らしいってさ。
バルドそれは、すでに救世軍のお仲間なのでは ?
マークⅡそれが違うらしいんだよな。俺も詳しくは聞いてねえからちょっと確認に行ってくるわ。
コーキスあのさ、その仕事、俺にやらせてくれないか ?
マークⅡお前が ?
コーキスここでアステル様やジュニア様の難しい話聞いてても俺じゃあんまり役に立ちそうにないし。手伝うったって、何していいか、わかんねえからさ。
コーキス頭使うより、外で仲間集めの方が俺には向いてると思うんだけど。
ナーザなるほど……。方々へ行くのなら落ち着かない貴様向きの仕事かもしれん。
ナーザではコーキス、お前には鏡映点捜索の任務を与える。
ナーザただし、くれぐれも帝国の監視には気をつけろ。いいな。
コーキスわかったよ。ボス。
メルクリアボス ? なんじゃ、その呼び方は。
コーキス任務を与えられたからさ。今の俺は、仮だけどナーザ将軍の部下みたいなものってことだろ ?
メルクリアふむ……。なれど兄上様は高貴な御方故――
コーキスそれに、マスターと同じ顔だからなんか間違えて呼びそうなんだよ。俺のマスターはマスターだけだ。
コーキスだからナーザ将軍のことは、ボスって呼ぶ。
メルクリア鏡精とはそういうものなのかのう……。よいのですか、兄上様。
ナーザ……好きにしろ。
コーキスよっし。了解、ボス !

キャラクター14話【3-15 セールンド山 調整施設】
グラスティンそうか、交渉は決裂したか。
デミトリアスああ……残念だよ。
デミトリアスナーザ将軍とコーキスがこちらにつけばすぐにでもバロールの根源に到達できただろうに……。上手くはいかないものだ。
グラスティンどうでもいいだろう、そんなこと。だいたい、奴らと手を組むなんて最初から計算には入れていない。
グラスティンむしろ決裂したのならこちらにとって都合がいいじゃないか。ヒヒヒヒッ。
デミトリアスどういう意味だ。
グラスティン……そもそもこの計画では、最初のイクスのレプリカを使って、バロールを甦らせる手筈だった。
グラスティンだが、バロールの根源に近づくとローレライの存在とクロノスの力にぶつかって根源まではたどり着けなかった。
グラスティンやはり最初のイクスの死体が必要だとはわかったがナーザに味方でいられたら、お優しい陛下は非情な手段をとりきれなかっただろう ?
グラスティンナーザと敵対した今なら遠慮なく奴らを叩いて死体を回収できるよなぁ ?
デミトリアスだが…………、いやそれもやむなし、か。
グラスティンヒヒヒヒ、よし、決まりだな。
グラスティンとなると、こちらの情報を渡した連中にもそろそろ成果を出してもらわないとなぁ。
デミトリアス心配せずとも、彼らは非常に優秀だ。もうすぐ吉報が届くだろう。
グラスティンそうあって欲しいねぇ。ヒヒヒッ……。
テレサテレサ・リナレスです。アルトリウス様の召喚に応じ参上いたしました。
帝国兵β奥へ。アルトリウス様がお待ちだ。
テレサ……はい。
帝国兵βアルトリウス様。テレサ・リナレスが参りました。
アルトリウス通せ。
テレサお呼びでしょうか。アルトリウス様。
アルトリウス……表情が硬いな。何があった。
テレサ……申し訳ありません。アルトリウス様に命じられたオリジンの捜索が難航しております。
テレサ何ひとつ良い報せが出来ぬままこの館に足を踏み入れるのが心苦しく……。
アルトリウスそんなことか。生真面目なやつだ。
アルトリウスでは、この情報はお前のためになるだろう。オリジンを引きずり出す方法がようやく判明した。それを伝えるために、今日は呼び寄せたのだ。
テレサアルトリウス様…… ! 感謝いたします。それで、その方法とは。
アルトリウスオリジンを呼び出すにはナーザ、ダーナ、バロールの三柱の神の力が必要だ。
アルトリウスさらに、それらの神の力を内包する器も用意しなければならない。
テレサ器、ですか。
アルトリウスその神々の力に適した人物がいる。アイフリードの関係者だ。
テレサあの野蛮な海賊ではなく、このティル・ナ・ノーグのアイフリードのことですか ?
アルトリウスそうだ。
テレサしかし、私の知る限り、この世界のアイフリードははるか遠い過去の人物です。その子孫や血族をたどるということでしょうか。
アルトリウスそう難しく考えなくていい。
アルトリウス情報によれば、鏡映点の中にも異世界のアイフリードの関係者がいる。それらが具現化された際の傾向も調査した。
アルトリウス結果、その者たちはエンコードの影響を受けこの世界のアイフリードとしての性質を持つ可能性が高いという結論に至った。
テレサでは、その器となる鏡映点がいればオリジンは現れるのですね。
アルトリウステレサ、お前はこれから鏡映点の中にいるアイフリードの関係者を捕らえよ。よい報告を期待している。
テレサはい ! この任務、必ず遂行してご覧にいれます。
テレサ(確実にやり遂げなければ。オスカー……あなたのためにも…… !)
to be continued
キャラクター1話【4-1 アジト1】
浮遊島アジト
ファントム……イ……クス……ミリーナ……。
ミリーナファントム……。
フィリップ間違いない。やはりこの気配はダーナの力だ。どうしてファントムから……。
マークどういうことだよ。こいつが目覚めたのと関係があるのか ?
フィリップわからない。心当たりもないし、理由だって……。
ファントムうっ…… !
全員! !
カーリャ・Nどうしたのでしょう。今までよりも苦しそうです。
アトワイトバイタルに異常が出てるわ。ファントムさん、わかりますか ? ファントムさん !
ファントム……………………。
アニー駄目です、反応がありません。このままでは、また昏睡状態に戻ってしまいます。
イクスフィルさん、まだダーナの力を感じますか ?
フィリップああ。むしろさっきよりも強くなってる。
ジュードアニー、ちょっとごめん。瞳孔を診るからライトを――
ファントム ?…………あら、カワイイお顔。
ジュードひっ !
全員! !
カーリャお、起きた ! ファントムが起きましたよ !
ファントム ?よかった、上手くいったみたい。悪くない目覚めね。
フィリップリーパ…… ?
イクス……ジュード、離れて。何かおかしい。
ジュードわかってる。あなたは誰 ?
ファントム ?お久しぶりね。可愛い坊や。確か、ジュードだったかしら。グラスティンの研究所を逃げ出した時以来 ?
ジュードグラスティンの ?
ファントム ?忘れちゃったの ? 寂しいわ。 アトワイトもお久しぶり。
アトワイトあなた、もしかして……。
フィリップヨーランド……ですか ?
ヨウ・ビクエええ。騒がせてごめんなさいね。
イクスヨウ・ビクエ !?それじゃ、ファントムが目覚めたのはあなたが身体を使っているからですか ?
ヨウ・ビクエそうみたい。
アトワイトみたいって、どういうこと ?
ヨウ・ビクエフィリップに連絡を取るためには魔の空域から精神体を飛ばして乗り移れる身体が必要だったのよ。
ヨウ・ビクエ今回はダーナ様のお力を借りて身体を探したんだけどそのせいでダーナ様に近しい存在の彼に引き寄せられたみたい。
フィリップそうでしたか……。
アニーファントムさんが回復したわけじゃなかったんですね……。残念です……。
マークそれ、本気で言ってるのか ?
アニーどういう意味ですか ?
マークこいつが何をしたか知ってるだろう。目覚めない方が都合がいいと思わねえのか ?
アニー……話は聞いています。でもわたしは、助けられる命は助けたい。
アニーそれに、命に色はありませんから。
フィリップ…………。
マーク……そうか。そいつは綺麗で正しい理屈だ。けど、俺はまだそこまで人間――いや、鏡精ができてないんでな。
マークで、ヨウ・ビクエ。フィルに連絡ってのは ?
イクスあの……俺たちは席を外したほうがいいかな。
ヨウ・ビクエいいえ、むしろ居てくれて好都合よ。話が早く済むから一緒に聞いてちょうだい。
ヨウ・ビクエあなたたち全員ティル・ナ・ノーグの三柱の神の話は聞いてるわね。
イクスはい。ダーナ神と、ナーザ神、バロール神ですね。
ヨウ・ビクエ帝国が、その神の一人であるナーザ神の復活を進めているわ。
全員! !
ヨウ・ビクエあなたたちには、その阻止をお願いに来たの。

キャラクター2話【4-2 アジト2】
イクスナーザ神の復活って……それが帝国の目的だったんですか ?
ヨウ・ビクエそれだけではないわ。まずは順を追って話しましょう。
ヨウ・ビクエ帝国は今、ナーザ神、ダーナ神、バロール神の『三柱の復活』を目論んでいるわ。
ヨウ・ビクエそのために、神に繋がるものを手に入れようとしている。
ヨウ・ビクエまずはダーナ様に関してだけど以前の精霊の封印地での戦いでダーナ様の心核の欠片が奪われてしまったわ。
カーリャ欠片とはいえ、神様本人の心核なんて一番大事なものを持っていかれちゃったんですね。
ヨウ・ビクエそうなのよ。そして次にバロール神。バロールの力は――
イクスもしかして俺……ですか ?
ヨウ・ビクエええ。彼らはバロール神の力を手に入れるためにその血を引き継ぐ、あなたを狙ってくる可能性が高い。
カーリャ・N冗談ではありません !また『イクス様』を利用するなんて !
ミリーナそんなことさせない。イクス、絶対に……絶対にあなたを守って見せるから。
イクスありがとな、二人とも。
イクスけど……帝国には元々最初の俺の遺体があったんだからすでにバロール復活に繋がる何かを持っていそうな気もするけど……。
ヨウ・ビクエええ。その可能性もあるわ。けれど、あなた自身のことも警戒しておくに越したことはないと思うのよ。
イクスこれは……ナーザ将軍にも知らせた方がいいのか……。
イクス――あ、いや。そうか。ナーザ将軍で思い出した。神様の方のナーザに繋がる人も俺みたいに狙われるんじゃありませんか ?
ヨウ・ビクエその通りよ。これがまた厄介なところなんだけど……。
ヨウ・ビクエフィリップ、ナーザ神がアイフリードだということはイクスたちに伝えてあるわね ?
フィリップはい。あっ……そうか ! 帝国は鏡映点を…… !
ヨウ・ビクエ気づいたみたいね。帝国は、この世界のアイフリードと近しい性質を持った、『異世界のアイフリード』の血族を使うんじゃないかと思うの。
ミリーナだとすれば、狙われるのはチャットとパティだわ。早く知らせなくちゃ。
フィリップ今はどこに ?
イクス確認します。それといつでも会議が開けるようにみんなに連絡もしないとな。
アニーイクスさんたちはこのまま話を続けてください。わたしが二人の安否確認の手配をしますから。
ジュード僕は、今の話を共有できるようみんなに通達するよ。会議の準備も進めておくね。
イクスありがとう、助かるよ。こっちが長引きそうだったら連絡するからその時は各班のリーダーたちで先に始めてくれ。
ジュードわかった。それじゃアトワイトさん、医務室をお願いします。
アトワイトええ、任せて。
ヨウ・ビクエアイフリードの件は、もっと早く知らせてあげられたら良かったんだけど……。
ヨウ・ビクエ魔の空域にいると、なかなか今までどおりには動けないのよ。ごめんなさいね。
イクスいいえ。俺たちだけじゃ、ここまでの情報を掴むことはできませんでした。感謝しています。
ヨウ・ビクエふふっ、こうして改めて話すのは初めてね、イクス。なかなかの好青年じゃない。
イクスそ、そうですか ?
ヨウ・ビクエええ。素朴そうなところも可愛いし何だか頭をなでたくなっちゃう。
ミリーナさすがヨウ・ビクエですね。イクスの魅力をお見通しだなんて。
イクスミリーナ、真顔で言うことじゃないぞ……。
ヨウ・ビクエそういえばこの身体……ファントムのことだけど彼を精霊の封印地まで連れてきてくれない ?治療を施すから。
フィリップ治療 ? できるんですか ! ?
ヨウ・ビクエ多分ね。それに、今後もあなたたちと連絡を取るためには『ファントム』の存在が役に立ってくれるはずよ。
マーク……それは、こいつがフィルと繋がっている存在だからか ?
ヨウ・ビクエさすが、よくわかっているわね。魔の空域から連絡を取るには、ダーナ様に近しいフィリップを経由するのが一番なの。
ヨウ・ビクエそのフィリップと繋がっている存在が魔の空域にいてくれれば、こちらも助かるのよね。
フィリップ……イクス、ファントムは救世軍で預かるよ。これから彼を連れて、精霊の封印地に行ってくる。
イクスわかりました。それじゃ俺たちはアイフリードの件も含めて今後の動きを詰めておきます。
フィリップマーク、ケリュケイオンへ連絡を入れて受け入れ態勢を整えておいてくれ。
マーク……了解。搬送準備は頼んだぜ。
アトワイトところで、ヨーランドさんはこの身体に入ったまま ?それなら搬送の仕方を変えるけど。
ヨウ・ビクエいいえ、私はファントムに身体を返して先に精霊の封印地に行くわ。
アトワイトそう。いつかあなた自身の身体でゆっくり話ができるといいわね。
ヨウ・ビクエそうできたら楽しいでしょうね。そんな日が来たら、一晩中おしゃべりにつきあってもらうわよ ?
アトワイトええ、喜んで。
ヨウ・ビクエそれじゃフィリップ、待ってるわね。
カーリャあ……ファントムが眠りました。
アトワイトヨーランドさんが出ていったのよ。大丈夫、容体は落ち着いているから。それでは準備を始めましょう。
フィリップリーパ……。

キャラクター3話【4-3 アジト3】
カーリャ・N(良かった、このゲート周辺には誰もいない。これなら気づかれないうちに浮遊島を出られる)
カーリャ・N(今ならまだ、イクス様も小さいミリーナ様もフィリップ様の見送りをしているはず……)
カーリャ先輩、どこに行くんですか。
カーリャ・N! !カーリャ ! ? 小さいミリーナ様まで…… !
ミリーナネヴァン……。
カーリャ・N……フィリップ様の見送りはどうしたのですか ?早くしないと行ってしまわれますよ。
ミリーナいいの。今はネヴァンと話がしたいから。
カーリャ・Nすみませんが、できれば後にしてください。今は調査に向かわなければなりませんので。
ミリーナ何の調査 ?
カーリャ・Nそれは……先ほどのヨウ・ビクエ様の話の裏付けも兼ねて帝国の動向を調べるため……です。
カーリャ・Nアイフリードの血族の方々や、イクス様の安全にも関わります。ですから、そこを通していただけますか ?
ミリーナ理由はわかったけど、少しだけ私につきあって。最近のネヴァンは調査を理由にすぐにいなくなってしまうんだもの。
カーリャ・N……すみませんが、急ぎますので。
カーリャおーっと、他のゲートには行かせませんよネヴァン先輩っ !
カーリャ・Nどきなさい、小さいカーリャ。
カーリャどきません ! いいかげん先輩も『ミリーナ様』とちゃんと向き合ったらどうですか !
カーリャ・N! !
ミリーナネヴァン、言ったでしょ。私たちはゲフィオンに……最初のミリーナに向き合わなきゃいけないって。
カーリャ・N……はい。
ミリーナあなたの知っていることを聞かせて。話したくない訳があるなら、ちゃんと言って欲しいの。
カーリャ・N…………。
ミリーナ前に、ゲフィオンにはイクスに関する記憶を託されたと言っていたわね。
ミリーナもしかしたらそこにティル・ナ・ノーグを救う手掛かりがあるかもしれない。
ミリーナなぜ、ゲフィオンがあなたを切り離したのかそうしてまで託された記憶が何なのか私には知る必要があるんじゃないかしら。
ミリーナミリーナの記憶を見られるのはミリーナだけなんでしょう ?
カーリャ先輩、観念しちゃったらどうですか ?こうなったミリーナさまは引き下がりませんよ。
カーリャ・N……そうですね。よく知っています。それでも今はまだ……。
リヒター伝えたいことがあるなら、伝えておけ。
カーリャ・N……いえ、わかりました。お話ししましょう。
ミリーナありがとう、ネヴァン !
カーリャ・Nここで話さなければ、怒られてしまいそうですから。
カーリャえ ? 誰にですか ?
ミリーナカーリャ、いいから。――それじゃネヴァン、お願い。
カーリャ・Nこれからお話しするのは私がまだミリーナ様――ゲフィオン様の鏡精だった時のことです。
カーリャ・Nゲフィオン様、こちらにいらしたのですね。大事な用件があるとのことですが何でしょう。
ゲフィオンごめんなさい、ちょっと待っててね。すぐに終わらせるから。
ゲフィオンそれと、今はミリーナでいいわよ。ここには誰もいないから。
カーリャ・Nまたカレイドスコープのチェックですか ?
ゲフィオンもうすぐアイギス計画が本格的に始動するでしょう ?なるべく調整は丁寧にしておきたいの。
カーリャ・N……本当にアイギス計画を行うのですね。
ゲフィオンええ。それがこのティル・ナ・ノーグを救う唯一の方法だもの。
カーリャ・N私は……まだ納得していません。
ゲフィオンふふっ、せっかく世界が救われるというのにそんな顔されたら困ってしまうわ。
ゲフィオン美味しいお菓子をごちそうしたら納得してもらえる ?
カーリャ・N冗談はやめてください ! この計画は最終的にミリーナ様が人体万華鏡に……世界のために犠牲になるものでしょう ? 喜べるはずがありません !
カーリャ・Nそれに、イクス様を具現化させるという話は今もどうかと思っています。
ゲフィオン…………。
カーリャ・Nイクス様は、亡くなったイクス様ただ一人です。失礼ですが、あの方を具現化するのは、ミリーナ様やフィリップ様の感傷に過ぎないのではありませんか ?
ゲフィオン…………そうね。あなたの言うとおりだわ。
カーリャ・Nだったら――
ゲフィオンだけどもう決めたことなの。私は私のエゴを貫き通すわ。
ゲフィオン相手の気持ちなんて振り返ろうともしない。そういう、ズルくて嫌な人間なの。
カーリャ・Nそんなことありません! ミリーナ様は魔鏡戦争のことを心から悔いておいででした。私はそれをずっと横で――
カーリャ・N――え、ミリーナ様…… ? まさか、この術は !
ゲフィオンもう少しだけ、もう少しだけと思いながら先延ばしにしてしまった。あなたと一緒にいたくて……。
カーリャ・Nまさか、用件って……待ってください、ミリーナ様 !
ゲフィオンあなたには、私に何かあった時のために『記憶』を託しておくわ。だけど、それを見られるのは『ミリーナ』だけ。
カーリャ・N嫌です、ミリーナ様 !お願いですから術を止めてください !
カーリャ・N私を……カーリャを切り離さないで !
ゲフィオン責任を負うのも、死の砂嵐で苦しむのも私一人でいい。あなたを巻き込みたくはないの。
ゲフィオン今までありがとう、私の鏡精、カーリャ。あなたは生きて…… !ずっと大好きよ……。
カーリャ・Nミリーナ様――――っ !

キャラクター4話【4-4 アジト4】
ミリーナ…………。
カーリャ辛かったですよね、先輩……。
カーリャ・N……ゲフィオン様が私を切り離したのは人体万華鏡になる際に、鏡精である私を巻き込まないようにするためだと思います。
ミリーナそうね……。私だってそうすると思う。
カーリャやめてください ! ミリーナさまから切り離されたらと思うと、怖くて悲しくてどうにかなっちゃいそうです……。
カーリャ・Nほとんどの鏡精はそうですよ。私たちはマスターの心から生まれたのですから。
カーリャ・Nでも、そんな存在だからこそ私はゲフィオン様の記憶を預かることができたのです。
カーリャ・Nそして、ゲフィオン様の言葉どおりなら小さいミリーナ様であれば私の中から記憶を引き出すことができるはずです。
ミリーナだったら、私はいつでも――
カーリャ・Nですが、私は記憶を引き出すことには反対です。
ミリーナどうして ?
カーリャ・Nゲフィオン様の記憶を見るためには、私と小さいミリーナ様の心を繋ぐ必要があります。
カーリャ・Nけれど、それを行ってしまうとゲフィオン様の心が、小さいミリーナ様の心に影響を及ぼす恐れがあるのです。
カーリャどうなっちゃうんですか ?
カーリャ・Nお互いの心が作用しあって小さいミリーナ様か、あるいはゲフィオン様の心が消えてしまうかもしれません。
ミリーナ心が消える…… ?
カーリャそ、そんなの絶対に駄目ですっ !反対 ! 断固反対っ !
ミリーナ落ち着いて、カーリャ。
カーリャネヴァン先輩だって、ゲフィオンさまの心が消えたら嫌でしょう ! ?
カーリャ・Nもちろんです。そうさせないために別の手段で記憶を見る方法を探していたのです。
カーリャ・N解決策がみつかるまで小さいミリーナ様とは、ゲフィオン様の話をしないつもりでいました。
ミリーナ何故なの ? ちゃんと話してくれれば私だって……。
カーリャ・Nあなたは『ミリーナ』様です。ご自身を犠牲にしてでも記憶を引き出そうと考えるでしょう。
ミリーナ…………。
カーリャ・N私はもう、『ミリーナ』様が苦しむ姿は見たくありません。
カーリャ先輩……、だからずっと話し合いを避けていたんですね。
カーリャ・Nすみません。私が至らないばかりにあなた方を煩わせることになって……。
ミリーナいいえ、謝るのは私の方よ。ネヴァンはずっと私たちのために頑張ってくれていたのね。
ミリーナありがとう。そして『ミリーナ』のこと一人で抱えさせてごめんなさい。
カーリャ・Nそんな……私は……。
ミリーナでも、もういいの。これからはみんなで一緒にどうすればいいのか考えましょう。
ミリーナあなたは一人じゃないわ、ネヴァン。ほら、こんなふうに――
カーリャ・Nあ……。
ミリーナあなたの手を取る人がここにはたくさんいるんだから。
カーリャ・N(温かい手……私のミリーナ様と同じ……)
カーリャ・N……わかりました。改めてお願いします。
カーリャ・N私と一緒に記憶を取り出す手段を探してください。

キャラクター5話【4-5 アジト5】
イクス……そうだったのか。話してくれてありがとな、ネヴァン。
カーリャ・Nイクス様にまでご心配をおかけしてすみません。
イクスでも難しいよなぁ。ネヴァンの中にあるゲフィオンの記憶を安全に引き出す方法か……。
イクスミリーナがゲフィオンの影響を受けないようにすればいいんだよな ?
カーリャ・Nええ。でもお二人は同一人物ですし水と水を混ぜるようなもので……。
イクス最悪、心を失う……か。
ミリーナでも、何事もなく成功する可能性だってあるのよね ?
カーリャ・N否定はしませんが、リスクの方が高いかと。
カーリャあっ ! 心の中なら、シングさまたちの力を借りるのはどうですか ! ?
イクスソーマ使いの力か。心には入れるけど異物を排除したり治したりするわけじゃないからなぁ。
カーリャむむむ……そうですか。難しいですね……。
カーリャはぁ、カーリャもミリーナさまのお力になりたいのに……。
ミリーナ何言ってるの。こうして考えてくれているじゃない。カーリャは十分、私の力になってくれているわ。
カーリャ・N小さいカーリャ、自信を持ちなさい。あなたは小さいミリーナ様の心の一部なのですから。
イクスうーん……。ネヴァンとカーリャは二人のミリーナの心の具現化なんだから、二人の力があれば何とかなりそうなのにな……。
イクス心の一部が具現化されてるんだから心が混ざり合ったり、消えてしまうこともなくなりそうな気もするんだけど。
イクスカーリャっていう存在が二人のミリーナの心の防護壁になるっていうか……。
カーリャ・N……そうですね。一時的に小さいミリーナ様の中にカーリャを戻し、ミリーナ様の中でカーリャが意識を持てば……心を守れるかも知れません。
カーリャ本当ですか ! ? だったらカーリャも頑張りますよ !ミリーナさまの心は絶対に守ります !
ミリーナありがとう、カーリャ。ネヴァンもありがとう !
カーリャ・Nいえ……。もちろん、検証は必要ですが。
イクスひとまずとっかかりが見つかって良かったよ。けど、本当にこの案で大丈夫かな。何か引っかかる気も……。
カーリャ・N方向性は間違っていません。鏡精を使うのはいい案だと思います。
ミリーナでも、カーリャを私の中に戻すって聞いた時にイクスは渋い顔をするかと思ってたわ。
カーリャですね。コーキスを心の中には戻したくないってこだわりがあったみたいですし。
イクスあれは……俺自身鏡士の常識をよくわかってないから何となくああ感じただけなんだよ……。
イクスミリーナやカーリャみたいな関係が普通の鏡士と鏡精なんだってことはちゃんと理解してるよ。
カーリャそれなら、このアイディアには文句なしですね !
カーリャ・N(……確かにこの方法ならば、小さいミリーナ様の心は小さいカーリャが守れる)
カーリャ・N(けれど、鏡精だった私を切り離したゲフィオン様には守る者がいない。もしも想定以上の強い影響が及べば心が消えてしまう)
カーリャ・N(そもそも、何故ゲフィオン様ほどの力を持ちながらこんなリスクのある方法をとったのだろう)
カーリャ・N(…… !まさか、それこそがゲフィオン様の望み…… ?)
カーリャ先輩、どうしたんですか ?何か気になります ?
カーリャ・N……いいえ、その方法でやってみましょう。
カーリャ…………。
ミリーナええ。ここから先はフィルが帰って来てからね。
イクスそれにアイフリードの件もみんなと話し合わないと――
イクス――っと、ジェイドさんから通信だ。ジェイドさん、どうしました ?
ジェイドあなたとミリーナに話があります。今はどちらに ?
イクス俺の部屋ですけど。あ、ミリーナも一緒です。
ジェイドそれは丁度よかった。今からアッシュと向かいたいのですが都合はいかがですか ?
イクスアッシュさんと ? あの、何かあったんですか ?確かディストさんの取り調べ中ですよね。
ジェイドおや、今ここで聞いてしまいますか ?後悔しても知りませんよ ?
イクスど、どういう意味ですかそれ……。
ジェイドはっはっは、冗談はさておき。私は伺ってもいいのでしょうか。
イクスあ、はい。もちろんです。
ジェイドありがとうございます。では後程。
イクスなんか、用件をはぐらかされたような……。
カーリャただイジワルしたいだけじゃないですか ?悪いメガネだし。
イクスはは……、カーリャ、ジェイドさんとは相性が悪いな。
ミリーナ私は、カーリャとジェイドさんの相性はいいと思うんだけど。だってカーリャは私が好きでしょう ?
カーリャ大好きですけど、なんでそれがジェイドさまと関係あるんですか ! まったくさぱらんです !
イクスまあまあ。とりあえずジェイドさん待ちだな。
カーリャ・N…………。
ミリーナネヴァン、大丈夫 ? 顔色が悪いけど。
カーリャ・Nえ……そうですか ?
ミリーナええ。少し休んだら ?
カーリャ・Nでも、ジェイド様のことも気になりますし。
カーリャメガネの相手はカーリャたちで十分ですよ。こう来たら ! こうして ! こうです !
イクスやる気満々だな……。ジェイドさん、話しに来るだけなのに……。
ミリーナあれじゃ逆に喜ばせてしまいそうね。
イクスとにかく、本当に無理するなよ、ネヴァン。その……ゲフィオンのこととか色々と辛い話をさせたからさ。
カーリャ・Nお気遣いありがとうございます。では、アジトの見回りも兼ねて少し気分転換をしてきますね。
ミリーナネヴァン……少しでも息抜きができるといいんだけど。
イクスそうだな。それにしてもジェイドさんの話ってなんだろう。

キャラクター6話【4-6 アジト6】
リフィル――みんな、今の説明でナーザ神とアイフリードの話は理解できて ?
リフィルリーダーが不在で代理の人もいるでしょうけれどここに出席してる者が自分の班のメンバーに伝えるのだから、いい加減では駄目よ。
ライフィセット大丈夫。すごくわかりやすかったから。
レイアうん。さすがリフィル先生だね。スパーダはどう ?
スパーダギ、ギリギリだな……。つまり、ユーリんとこのチビとリッドのとこのチビを敵に渡さなきゃいいんだろ ?
チャットチビチビ言わないでください !
リッドったく、やっとフォッグやレイスを取り戻したってのに、今度はチャットかよ……。
チャットボクだって不本意です。誇り高きアイフリードの子孫がこそこそ隠れなければいけないなんて。
チャットですが、状況は理解しました。しばらくは浮遊島にこもってキール研究室のサポートにでも回ります。
アリーシャ念のため島の警備を強化しておこう。万が一、アジト内で襲われたとあっては浮遊島警備部の名折れだ。
エレノアそうですね。しばらくはチャットに護衛を付けるのもいいかもしれません。
ヴェイグ後はパティか。今はどこにいるんだ ?
リフィル彼女はカロル調査室だから、魔核の調査よ。フレンたちが同行していると聞いているわ。
ジーニアスねえ、さっき姉さんたち、ユーリやパティと魔鏡通信が繋がらないって話してたよね。あれ本当 ?
リフィルええ。実験的に導入している魔鏡通信文も送ったけれど、その返信もないの。
リフィルまあ、通信文に関しては通知音を切っていたらわからないだろうけれど……。
マルタ後は定時連絡を待つしかないのかな。ちょっと不安だね。
ヒューバート魔核の調査ならば、領主の館周辺は確実に彼らの調査対象になりますよね。
ヒューバート地上に降りているメンバーに周辺の捜索を任せてはどうでしょう。
リフィルええ。丁度、ルークたちがオールドラント領へ向かっていたからパティと出会ったら保護してくれと伝えたわ。
リフィルそれと、反帝国組織との情報交換に行ったカイルたちとも連絡が取れたからそちらにも捜索を頼んであります。
チェスターオールドラント領と、ファンダリア領か。他の領地でも、近くにいる奴に頼まねえとな。
ヒューバートでしたら、こちらで捜索隊を派遣した方が早いかもしれませんね。
リフィルそうね。異論がある人は挙手を。
リフィルなし……と。では決定します。
ユリウス俺の方からもひとつ。領主と従騎士についてだ。
ユリウス現在、領主と従騎士が不明なのはアレウーラ領、リーゼ・マクシア領ミッドガンド領。
ユリウス従騎士が不明なのはテルカ・リュミレース領。
ユリウスグリンウッド領は領主が不明。訂正はあるか ?
マルタ……訂正じゃないけど、テセアラ領は従騎士だったパパ……ブルートが領主代理で執務を行っているそうです。
チェスター家族が利用されてる状態はたまらねぇよな……。気をしっかり持てよ、マルタ。
マルタありがとう。でも大丈夫。この間リーガルさんを助け出したときにパパの心核も取り戻したし。
マルタそれに、みんなそれぞれ縁のある人たちが巻き込まれてるから、大変だと思う。
ユリウス……その通りだな。
ユリウスところで領主と従騎士が不明な領地は該当する人物を調査してもらっているはずだがしばらくは控えたほうがいいかもしれない。
カイウスえっ ! ?
ユリウス贄の紋章の件もあるし、危険性も増しているからな。
セネル……そうだな。
カイウスそんな……。
ユリウスカイウス、そう気を落とすな。君たちの安全のためでもあるんだ。
レイア仕方ないよ。カイウスのところは領主か従騎士かもって人にたどり着いてたんでしょ ?フォレストさんだっけ ?
カイウスああ。帝国にいるらしいんだ……。
レイアあと一歩って思ってたら、そりゃガックリくるよね。
ガイアスそうだな。未だに両方とも判明しない俺たちの方が幾分諦めもつくというものだ。
カイウス危険でも、出来れば早く助けたかったよ……。ルキウスも帝国に捕まったままだし……。
スレイそうだよな……。大事な人が苦しんでるって思ったら少しくらい無茶してもって気持ちになるの、わかるよ。
ミクリオスレイ……。今は無茶するときじゃない。
スレイうん、それもちゃんとわかってるから、大丈夫。カイウス、みんなで協力して頑張ろう !
カイウスああ。ありがとな、スレイ。
ベルベット……判明した領主や従騎士が『助けるべき相手』だったらいいけど。
ライフィセットベルベット、それって……。
ベルベット何 ?
ライフィセットあ……ううん、何でもない……。
ユリウス納得してもらえたようだな。では、捜索隊の派遣メンバーを決めよう。決まったら、イクスたちに報告する。

キャラクター7話【4-7 ファンダリア領 森】
フレン――この辺りなら、もう大丈夫か………。
エステルはあ……はあ……フレン、帝国の兵士は ?
フレンご安心を。今のところは追ってきていません。
エステル驚きました。こんな森の中にまで兵がいるなんて。
パティどこからともなく出てきおって。フナムシみたいな奴らなのじゃ。
フレンそれにしても妙だな。どこも警戒が厳しくなってはいるけど今のファンダリア領は異常だ。
エステル何か理由がありそうですけどこの状況で調査の続行は無理でしょうね。
フレンええ。ユーリには今の件だけ報告して一旦、引き揚げましょう。どうせあいつも浮遊島に戻っているはずですから。
エステルそういえば、イクスに報告があると言ってましたね。
パティではうちがユーリに連絡するのじゃ。先刻のユーリへの通信はエステルに譲ったからの。
エステル譲ったって、パティが連絡しろって言ったんですよ ?
パティそれは作戦じゃ。会えない時間が長いとさらに思いを募らせるじゃろ ?今頃ユーリの頭は、うちのことでいっぱいなのじゃ。
フレンはは、そんな可愛げはないと思うよ……。
パティフッ、まだまだじゃのうフレン。ならばしかと目に焼き付けるといいのじゃ。フレンもびっくりのラブラブ通信を…………ん ?
フレンどうしたんだい ?
パティ魔鏡通信に通信文が来ているのじゃ。追われていて気づかんかったの。
エステル通信文なんて珍しいですね。いったい何の連絡です ?
フレン――静かに、誰か来ます !
テレサそこにいるのはわかっています。出てきなさい。
エステル女性…… ? 一人のようですね。
テレサそのまま隠れているのなら敵意があるとみなし攻撃します。
パティ少なくとも味方ではないようじゃの。敵意がハリセンボン以上にチクチクなのじゃ。
パティどうする。相手は一人、制圧も可能じゃが。
フレンいや……二人はそのままで。僕が彼女の気をそらすから、その隙に逃げるんだ。エステリーゼ様も、いいですね ?
テレサやっと出てきましたね。
フレン……君は帝国の人間か ?
テレサ他にもいますね。出てきなさい。
フレン話を聞いてくれ。そちらが危害を加えなければ、僕は一切手を出さない。
テレサ交渉の余地はありません。言うとおりになさい。あと二人いるはずです。
フレン……君は、何を焦っている ?
テレサっ ! ! ――かかりなさい !
フレンなにっ ! ?
帝国兵βはっ ! !
フレン帝国兵 ! やはり君は―― !
エステルフレン ! わたしたちも戦います !
パティこっちは任せるのじゃ !
テレサ…… !
フレンくっ ! 今までの兵士よりも強い…… !
エステル倒しても起き上がってきます ! このままじゃ…… !
テレサ…………。
パティせいっ ! !
テレサ! !
パティ高みの見物を決め込んで安心してたか ?油断大敵なのじゃ。
テレサあなたもですよ。アイフリード。私を狙うのを待っていました。
パティなんじゃと…… ! ?
テレサその子をこちらへ ! 早く !
エステルフレン ! あの人、撤退して行きま――……あっ !
フレンあれは、パティ ! ?
テレサ目標の少女は確保しました。残党が追跡できぬよう足止めなさい !
帝国兵βはっ !
フレン初めからパティを狙ってたのか ! ?
エステルパティ、今いきます !
エステルきゃあっ !
フレンエステリーゼ様 ! くっ、これじゃ追うどころか……。
カイル――爆炎剣 !
ナナリー龍炎閃 !
帝国兵βぎゃああああっ !
カイルフレンさん、大丈夫 ! ?
ナナリー何の騒ぎかと思ってきてみりゃ……。あんたたち、ファンダリア領にいたんだね。
ロニしかしなんだよ、この兵士の数は。よく二人だけで耐えてたな !
リアラええ、無事でよかったわ。
エステルいいえ、たった今、パティがさらわれたんです !追いかけないと !
カイルパティがここにいたの ! ?
ジューダスしまった、遅かったか !
ハロルドなるほど、それでリビングドールβの兵士が大量投入されてんのね。ったく、用意周到だわ。
フレン一体何の話を……。
ジューダスここを突破するのが先だ。――行くぞ !

キャラクター8話【4-8 静かな平原】
ナーザメルクリア、先を急ぎすぎだ。あまり離れるな。
メルクリアですが兄上様、早く心核を受け取りに行かねばアスベルとやらの気が変わってしまうやもしれませぬ !
バルド大丈夫です。敵対していたチーグルとローゲの心核をずっと大事に保管していた方々ですよ。今更そんなことは言い出しません。
メルクリアなんじゃ、お前は随分とセールンドの鏡士たちに肩入れするのう。
バルドやきもちですか ? ふふ、光栄ですね。
メルクリアうむ、やいておる。
バルド
メルクリア……なるほど、こう返せばお前の軽口を塞げるわけじゃな。兄上様のご助言どおりじゃ。
ナーザよくやった、メルクリア。
バルドまったく、あなた方は……。
ナーザだが、今のような戯言でなくお前のそうした発言を、本気で嫌悪する者もいる。今後は気を付けることだ。
バルド……ローゲたちですね。
メルクリアそういえば、バルドとローゲは犬猿の仲と聞いた。また一緒になるが、よいのか。
バルド慣れていますので。それに私は、ローゲを嫌ってはおりません。
メルクリアそうなのか ?
バルド私も、ローゲも、チーグルもあなた方を誇りに思い、仕える気持ちは同じですから。
バルド中でも、ことさらローゲは愛国心が強かった。生前は、ビフレストを強き国たらしめんと尽力していたことも知っています。
バルド彼のそんな所を、私は好ましく思っていました。……残念ながら、なかなか伝わりませんでしたが。
メルクリアそうか……。まあ、わらわに任せておけ。心核を受け取ったあかつきにはローゲたちによく言い含めてやろう !
ソフィあ、来たよ。
メルクリアお前は、チーグル…… !
リチャード……お初にお目にかかる。メルクリア皇女殿下。僕はリチャード。こちらはアスベル、そしてソフィだ。
メルクリアそうか……そうであったな。
アスベルそれじゃ、用件を済ませよう。これがチーグルの心核、こっちがローゲだ。
メルクリアこの心核が……。チーグル、ローゲ、二人とも虚無へと帰ったものとばかり……。
アスベル受け取ってくれ、メルクリア。
ナーザ待て。その前に聞かせてもらおうか。
ナーザこの心核を返しても、お前たちには何の利益にもならないはずだ。何故このようなことをする。
アスベル利益は関係ない。俺たちはチーグルとの約束を果たしたいだけだ。
メルクリア約束じゃと ? 貴様、あやつと何があった。
アスベルチーグルは、メルクリアが望んでいるはずだと言って自分からリチャードを解放してくれたんだ。そして人工心核に移った。
メルクリア! !
ソフィその時に、いつかローゲと一緒にメルクリアのところに返してくれってチーグルが言ってたの。
メルクリアそれが約束……。
アスベルああ。俺とチーグル……トルステン・ドンナーとの約束だ。
ナーザそうか……、チーグルは貴様に名を教えたのか。
バルドナーザ様、それほどチーグル――トルステンが信頼した相手です。十分な理由ではありませんか。
ナーザそうだな。わかった。その厚意、ありがたく受け取ろう。
アスベルよかった ! これでやっと約束が果たせる。
メルクリア受け取る前に、わらわも言わねばならぬことがあった。――ありがとう、アスベル。ソフィ。
メルクリアそして、リチャード。そなたには本当に済まぬことをした。ラムダのこともじゃ……。
リチャード……アスベル、ラムダは何か言ってるかい ?
アスベルいや……何の反応もない。
リチャード……そうか。メルクリア皇女、君の気持ちはわかった。それだけ言っておこう。
メルクリア……承知した。
アスベルそれじゃ、手を出して、メルクリア。……確かに返したぞ。
メルクリアチーグル、ローゲ……よく戻って来たな。大儀であった。
メルクリア…………………… ?おかしいのう……。
バルドどうしました ?
メルクリア心核から二人の声がせんのじゃ。チーグル、ローゲ、返事をせぬか !
ソフィメルクリアは心核の声が聞こえるの ?
メルクリア鏡士の技を使えばな。だが、この心核からは何の反応もない。兄上様、どういうことでしょう。
ナーザ……恐らく、人工心核として肉体から離れた時間が長すぎたのかもしれない。
ナーザ虚無にいた俺やバルドと違って人工心核から意志を伝える力も弱まっているようだ。
メルクリアでは、もう二人とは話せぬのですか ?
ソフィそれじゃメルクリアがかわいそう。何か方法はないの ?
メルクリアソフィ……。
ナーザしばらく休ませつつ人工心核に魔鏡術でアニマを供給する必要がある。
ナーザただ、そのためには術者もかなりの力が必要となるが……。
メルクリアならばその役目、わらわにお任せください !
ナーザ……お前がやるならばビフレスト式魔鏡術をさらに磨かねばならない。それに人工心核の回復は負担が大きいぞ。
メルクリア覚悟の上です。チーグルも、ローゲもわらわを見守り助けてくれた大切な臣下じゃ。
メルクリア今度こそ、わらわの手で助けたいのです。
ナーザそうか。ではお前に任せよう。
メルクリアはい ! 必ずや成し遂げてご覧にいれます。
ソフィよかったね。頑張って、メルクリア。
リチャードもしも人工心核が回復したら僕もチーグルと話がしてみたいよ。
メルクリア……承知した。
バルドでは、我々はそろそろ参りましょうか。
メルクリアそうじゃな。吹雪にでもなったら厄介じゃ。
アスベル吹雪 ? 雪なんて降りそうにないぞ。
メルクリアこれからオールドラントの雪山へ行くのじゃ。救世軍からの援助物資を回収せねばならぬからな。
ナーザメルクリア、おしゃべりが過ぎるぞ。
メルクリアあっ…… ! い、今のは忘れるのじゃ……。
バルドフフ……。まあ、このくらいは問題ないでしょう。
ソフィそうだ。メルクリアのともだちから伝言。
メルクリアわらわの、友達…… ?
ソフィうん。セシリィが、いつか会いにいくからいっぱい話そうって。
メルクリアセシリィは、わらわを友達だと言ったのか ?
ソフィそうだけど、違った ?
メルクリアいや……もうそのようには思ってもらえぬものと……。わらわはセシリィにも酷いことをした故……。
バルドよかったですね、メルクリア様。
メルクリア……うむ。皆、世話になったな。
ソフィうん、またね。
リチャードいい報せを待っている。
アスベル気を付けて。
ナーザアスベル、リチャード、ソフィ。メルクリアのことそして我が臣下たちを届けてくれたこと、感謝する。
ソフィ心核、返してよかったね。
リチャードそうだね。また彼らと戦う日が来るとしても後悔はないよ。
アスベルああ。だけど……いつかメルクリアたちとも手を取り合える日が来るといいな。

キャラクター9話【4-9 オールドラント領 雪山1】
メルクリア……なんじゃ、これは。
バルドこれは雪だるまです。
メルクリア知っておる ! 何故に救世軍の援助物資が雪だるまなのかと言っておるのじゃ。
ナーザ随分と大きいな。中に何か入れてあるのかもしれん。
バルドということは生ものでしょうか。
メルクリアなるほど ! であれば、ジュニアたちに美味なるものを食させてやれるな。どれどれ――
メルクリアひいぃっ、ディスト ! ?
ナーザ何故、この男がここに…… !
バルド氷漬けですが生きています。恐ろしい生命力です。
メルクリア早う助けねば !
ナーザしかし、この状況はあまりに不自然だ。何かの罠かもしれん。改めて救世軍を呼んで――
メルクリアその間に死んで……いや、多分死にませんがともかく、こやつは元々わらわに仕えていた者です。せめて一度、連れ帰ることをお許しください。
バルドそうですね。それにディストの知識は我々にも有益なものかと。
メルクリアお願いです。わらわが面倒を見ますから !
バルド確かに、生き物を育てるのは情操教育の一環でもありますね。
ナーザ仕方がない。ちゃんと責任は持つんだぞ。
ディストヘークショッ ! ヘークショーイ ! !ジェ、ジェ……ジェイドめぇ……。
ナーザなるほど。事の経緯はわかった。しかし、よく生きているな貴様……。
メルクリアジェイド……何と恐ろしい……。その者は悪魔か……。
バルド多分、彼に対してだけなのでは ?本人に会ったことがありますが理性的な人物と見受けましたよ。
ディストああああなたにジェイドの何がわかるといいいい言うんです !あれを理解するのは、わわ私だけ――
バルドええ、そうですね。それよりも、もっと火にあたるといいですよ。震えがとまりますからね。
ディスト幻体ごときが余計なお世話ですよ !どうせ魔鏡術あたりで思念映像を投影してるのでしょうが。
バルド……驚きました。さすが研究者だ。一目で私の状態を見抜くとは。
ナーザそれで結局のところこいつが援助物資ということなのか ?
バルドおそらく救世軍としては、この者を引き取る代わりに資金を提供するという腹づもりなのでは……。
メルクリアおぬし……、えらく嫌われたものじゃな。
ディスト愚か者どもには私の価値がわからな……は……ハークショーイ !
メルクリアわかったわかった。鼻水をふけ、垂れておるぞ。
ナーザこいつの価値云々はどうでもいいが俺たちに押し付けられたのは都合が良かったかもしれん。
ナーザディスト、貴様に聞きたいことがある。
ナーザ今のデミトリアスは、本当に『デミトリアス』なのか ?
ディストはぁ ? 知るわけないでしょう。くだらない話で私の体力を消耗させる気ですか ?
ディストだいたい、本当のデミトリアスなどと言われても比較対象が不明瞭すぎます。その『本当』とやらが私には何かもわからないというのに、愚問ですよ。
メルクリア兄上様、火を消しましょう。
ディストま、待ちなさい ! 私が知っているのはデミトリアスがアニマ汚染に冒された体を若返らせたことくらいです。
ディストですが、その反動で何かしらのダメージを負っている可能性はありえるでしょう。
メルクリアダメージ ? じゃが、若返る以前はともかく今の義父上が苦しそうな様子など見たことがないぞ。
ディストこれ以上は知りませんよ。私には興味がありませんから。後は自分たちで勝手に調べなさい。
ナーザ……なるほど。
バルドどうしますか ? 気になるようであれば探ってみる価値はあると思いますが。
ナーザそうだな。セールンドに行って、王宮内を調査してみよう。
バルド私たちが騒ぎを起こしたばかりですから逆に盲点かもしれませんね。
メルクリアでは兄上様、すぐにここを発ちましょう。寒くてかないませぬ。
メルクリアディスト、貴様も行くのだぞ。
ディストなぜ私が ? あなた方とは関係ないでしょう。
メルクリアわらわが世話をすると言ってしまったからな。責任をもって面倒をみるのは、主たる者の務めじゃ。
メルクリアそれに、さすがの貴様もこのままでは凍死するぞ。寒いのは嫌じゃろう ?
バルドディスト博士。あなたの知識と力を是非ともお借りしたいのです。いかがでしょうか ?
ディスト……まあ、そこまでいうのであれば特別に力を貸してあげましょう。いいですか ? 特別ですからね !

キャラクター10話【4-11 精霊の封印地1】
フィリップマーク、ヴィクトルファントムをここへ寝かせてくれ。
ヴィクトル承知した。
マークったく……この厄介な場所にとんぼ返りとはな。
ヨウ・ビクエあまり嫌わないで欲しいわ。大切な場所なんだから。
フィリップヨーランド、おまたせしました。
ヨウ・ビクエいいえ。ここまでファントムを運んでくれてありがとう。
シンクそういう挨拶はいらないからさっさと用件を済ませてよね。
ヨウ・ビクエあら、元気がいいのね。
シンクそれが余計なんだよ。無駄話してる余裕があるの ?
マークまあ、シンクの言い方はアレだけどな。確かに精霊の封印地周辺は帝国軍の巡視船も待機していた。
マーク俺たちがここに来たことはそのうちデミトリアスに知られるだろうよ。
ヨウ・ビクエまあ、彼らはここへ近づけない筈だけれど時間を無駄にするのもよくないわよね。ファントムの治療に取りかかりましょうか。
マーク俺たちは、治療中のあんたらを護衛してればいいんだよな ?
ヨウ・ビクエええ。その間は魔の空域との通路が開くわ。そこから発生する光魔も、あなたたちにお願いしてしまうことになるけれどいいかしら。
ヴィクトル承知の上だ。前回の件で要領は得ている。
マーク今回は助っ人も連れてきたからな。頼りにしてるぜ、シンク。
シンクあんたも大変だね。あっちだこっちだと、機嫌をとってさ。
マークお気遣いどうも。
マークってわけだから、こっちはいつでもいいぜ。始めてくれ。
フィリップごめん、ちょっとだけ待ってくれるかい ?
マーク……さっさと済ませろよ。
フィリップヨーランド、ファントムを……リーパをよろしく頼みます。
ヨウ・ビクエどうしたのフィリップ。深刻な顔しちゃって。
フィリップ……リーパは許されないことをしました。今のような状態もある意味自業自得だと思います。
フィリップ彼が目覚めることを懸念する者も大勢いるでしょう。
フィリップですがリーパは僕のエゴの犠牲者です。だからこそ彼のことも救いたい。……最近、ようやくそう思えるようになりました。
フィリップこの考えもまた、僕のエゴかもしれませんが……。
ヨウ・ビクエ……ふふっ、当代ビクエは本当にふてぶてしいわね。いいわ、あなたのお望み通りの言葉を言ってあげる。
ヨウ・ビクエ誰かを助けたいと思う気持ちはエゴなんかじゃないわ。あなたは素直に、彼の回復を願っていいのよ。
フィリップヨーランド……。リーパを助けてください。お願いします。
ヨウ・ビクエ任せなさい。

キャラクター11話【4-13 ファンダリア領 領都1】
エステルどうです ? 館の様子は見えますか ?
フレンええ、警戒が強まっています。こちらの襲撃を予測してのことでしょう。
ロニくそっ、領主の館なんて面倒な場所に逃げ込みやがって。
ナナリーああ、もう ! もどかしいったらないね。こうして隠れて見てるだけじゃパティは助けられないってのに。
カイルここにいる全員で一気に攻め込んだら何とかなんないかな。
ジューダスやめておけ。さっき戦った兵士たちは並みの強さじゃなかった。
ハロルドあれは精霊装を扱えるリビングドールβ兵よ。きっとこの館にも、同等の兵士が配備されてるわね。闇雲に攻め入ると返り討ちよ。
カイルそうか……。その中でパティを捜すならもっと人数が必要だよね。
フレンカイル、イクスたちとの通信は繋がらないままかい ?
カイルうん。何かあったのかも……。でも通信文で状況は伝えたから読んでいればすぐに来てくれるはずだよ。
イクスみんな、ここにいたのか !
カイル噂をすれば、イクス、ミリーナ !通信が繋がらないから心配してたんだ。
ミリーナごめんなさい。問題が発生してオールドラント領へ行ってたの。
フレンそっちはもういいのかい ?
イクスはい、解決しました。それでさっき通信文を見て急いで来たんですけど……どんな状況ですか ?
エステルパティは領主の館に拉致されたままです……。
フレン突入には戦力を増やす必要があったから二人が来てくれて助かったよ。
ユーリ戦力ね。じゃあオレたちはいいタイミングで到着したってわけだ。
ラピードワンワン !
フレンユーリ、ラピード ! みんなも来てくれたのか。
リタ当たり前でしょ。さっさとあいつ助けて帰るわよ。
カイルリタ、なんか怒ってる ?
レイヴン違う違う。ありゃ動揺を隠してんの。パティちゃんたちが襲われたって聞いてさっきまで青ざめてたからね。
エステルごめんなさい……心配させて。
リタ違っ、エステルのせいじゃ……おっさんが悪い !
レイヴンいてっ、リタっち横暴 !ナナリーちゃん、かわいそーなおっさんを助け……。
レイヴンぐはあっ !
ナナリーへえ、結構体が柔らかいね。もうちょっと締め上げてもよさそうだ。
ロニレイヴン、逃げ込む先を間違えやがって……。
ジューダスまったく、一気に緊張感が失せたな。
ジュディス肩の力が抜けて丁度いいわね。
イクスあの、ユーリさんシングたちは無事だったんですよね ?
ユーリまあ、一応はな。全員アジトへ戻ってる。
ミリーナ一応って、何かあったんですか。
カロルシングが大怪我しちゃったんだ。ハスタって奴にやられて……。
エステル大丈夫なんです ! ?
カロルすぐに治癒術をかけたから命に別状ないって。領主の館は、今までよりもずっと危険みたいだね。
エステルそれじゃパティは……。
リタちょっと、ガキんちょまで不安にさせるようなこと言わないでよ。
カロルご、ごめん !
リタエステルもしっかりしなさい !あいつ、魔物のお腹の中にいたってピンピンしてたような奴よ ?
エステルでも、もっと早く通信に気づいてパティを避難させていたらと思うと……。
フレンエステリーゼ様に責任はありません。敵を甘く見た、私の慢心が原因です。
ジュディスそこまでにしたら ? 反省もいいけど今はやることがあるでしょ。
ユーリだな。過ぎたことは仕方ねえ。パティを取り戻せばいいだけの話だ。
ハロルドこの人数なら、リビングドールβ兵も何とかなりそうね。あとはまあ……入ってから確かめなきゃいけないことが、一つ二つってとこね。
リタ……嫌なこと考えてるでしょ。
ハロルドあんたもね。だから慌てたんでしょ ?優しいのね~リタっち♪
リタうっさい、リタっち言うな !
エステルなんのことです ?
ハロルドパティの心核をいじられる可能性があるって話。まあ、この館に魔鏡技師が詰めてなきゃできないはずだけど。
エステルそんな…… !
ユーリまたかよ……。いい加減にしろってんだ。
フレンユーリ ?
ユーリ帝国の奴ら、人なんて便利な道具かなんかだと思ってんだろ。んで邪魔なら殺す。
レイヴン…………。
ユーリシングの傷もひでえもんだったぜ。あれをやった奴は躊躇もなんもねえ。確実に殺すつもりで刺した傷だ。
ユーリああいう奴らを止めるなら大本の頭を潰しちまうのが一番手っ取り早いんだろうな。
フレン……ユーリ、おかしなこと考えるなよ。
ユーリ安心しな。お前ほどじゃねえさ。
フレン本当に ?
ユーリ……おい、イクス。人数はこれで十分だろ。そろそろ行こうぜ。
イクスはい。潜入の手筈はジューダスとハロルドさんが考えて……。
? ? ?(聞こえ……バロー……末裔……)
イクスなんだ ?
ミリーナどうしたの、イクス。
イクス今誰か、俺に話しかけたよな ?
ミリーナいいえ、誰も。
イクスそうか……。ごめん、気のせいだ。集中しないと。
フレン疲れてるならバックアップに回るかい ?
イクスいいえ、大丈夫です。それで、潜入の方法ですけど――
ミリーナ…………。

キャラクター12話【4-15 ファンダリア領 領主の館】
パティ…………。
魔鏡技師A心核除去終了。心拍は ?
魔鏡技師B正常値です。このまま人工心核の埋め込みを開始します。
エルレインこれでフォルトゥナが復活するのだな ?
魔鏡技師Bはい。この聖核で造った人工心核にフォルトゥナ神を宿すことで神の具現化が可能になります。
エルレイン神の具現化、か。
エルレイン(この話が真実であれば、何故この娘を……)
伝令兵エルレイン様、敵襲です !この場所に向かっています !
エルレイン! !
ラピードウーッ……ワフ。
フレンそうか、いないんだね。ユーリ、次だ。
ユーリはいよ。カイル、こっちの部屋にパティはいねえ。一番奥を目指すぞ。
カイルわかった ! じゃあ、この廊下を真っすぐ進んで。
エステルカイルたちがいてくれて助かりましたね。以前、潜入した時と造りは同じです ?
カイルうん。変わってなくて良かったよ。
リアラ他のチームも調べ終わってるかもしれないわ。早く合流しましょう。
帝国兵侵入者発見、排除する。
リアラ! !
カイルリアラ !
帝国兵ぐあっ ! !
リアラえ…… ?
ジュディス遅かったのね。この辺の警備兵はみんな片づけておいたわ。
ユーリそりゃご苦労さん。
ロニこっちにパティはいなかったぜ。
ナナリーイクスたちの方でみつかってりゃいいけど。
レイヴンそん時は魔鏡通信が入る予定でしょ。この分じゃおそらく……。
カロルあっ、イクスたち来たよ !
イクスこっちは駄目だった !
ジューダス領主の部屋も空だ。エルレインもいない。
カロルじゃあ、残るはあの奥の部屋だけだね。そこにパティがいる !
リアラエルレインも一緒かもしれないわ。
二人…………。
ミリーナすぐに他の兵士が来るはずよ。今のうちに踏み込みましょう。
エステルパティを見つけたら、すぐに撤退でいいんです ?
ジューダスああ、上手く行けばな。時と場合によっては臨機応変だ。
レイヴンま、そん時の采配は騎士団長代行に任せましょ。頼むぜ、大将。
フレンレイヴンさんに言われると緊張しますね。では、みんな準備を。行きますよ !
帝国兵βうおおおっ !
ユーリおっと ! 手荒な歓迎だな。
ロニこっちは任せろ ! パティを捜せ !
エステルパティ ! パティ、どこです ! ?
カロル変だよ、部屋のどこにもいない !もう捜せそうな場所なんて……。
リタ……やっぱり。
カイルやっぱり ? どういうこと ?
2人まさか !
ユーリもう別の場所につれてかれちまったってことか。
ハロルドそういうこと。その可能性もあるとは思ってたけど実際そうだと厄介よね。
カロルでも、どこへ――うわっ!?
イレーヌ ?……避けられたか。
イクス! !
ジューダスお前は……イレーヌ !
ナナリーイレーヌ ? ってことは従騎士だね。
イレーヌ ?貴様らはここで始末する。
カイルあれがイレーヌ……さん ?
ジューダスいや、違うな。『中身』はイレーヌじゃない。
ナナリーリビングドールβだね。
ユーリだったら話は早え。ぶっ倒してパティの居場所吐かせて、それから戻す。行くぞ !
? ? ?(我が末裔よ……)
イクス……え…… ?
ラピードワウッ ! ワンワンワン !
カイル何してんだ、イクス ! 危ないよ !
ミリーナイクス ! ?
イクス頭の中……声がして……。
ミリーナ声 ? 声ってなに ! ?
イクスうううっ、目、目が……痛っ……うううっ !
ミリーナイクス !
フレンカイル、ナナリー、ジュディス ! イクスを守れ !
ジュディスわかったわ !
ナナリーいったいどうしたってんだい !
ミリーナわからない。声が聞こえるって言って倒れたの。
イクス…………。
ミリーナイクス、良かった、気が付いた ! ?
イクス ?やはり、あの者が宿すルグの槍に反応したか……。
全員! ?
ミリーナあなた……イクスじゃない。誰なの ! ?
イクス ?……バロール。

キャラクター13話【4-15 ファンダリア領 領主の館】
エルレイン貴様が侵入者か。
デューク今すぐその聖核をこちらに渡してもらおう。
エルレイン聖核を手に入れて何とする。
デューク答える義理はない。
エルレイン聖核は、すでにこの娘の心核として移植されている。
パティ…………。
デューク……そうか。ならばその体ごともらい受けるまでだ。
エルレイン触れるな !
デューク力ずくでも回収させてもらうぞ。
エルレイン貴様、なぜそこまで聖核にこだわる。
デューク聖核をこのように利用するなど冒涜でしかないからだ。
エルレイン……今はまだ、渡すわけにはいかぬ。疾く立ち去れ。さもなくば後悔するぞ。
デュークそうか。ならばやはり力で――
サレ『素材』は確保した。撤退ですよ、聖女様 !
パティ…………。
二人! !
サレほら、早くしてくださいよ。
エルレイン先に行け。
サレ困りますねえ……。そいつを相手にするよりフォルトゥナ神の具現化が優先だと思いますけど。
エルレイン……貴様、私に命じるか。
サレいいえ、これはお願いですよ。でも僕の言うとおりにしてくれないならこの聖核、この子ごと壊しちゃうかもね。
デューク! !
エルレイン…………。
エルレイン……行くぞ。
サレふふっ、御意に。
デュークどこまでも聖核を利用するつもりか、人間。
デューク……必ず取り戻す。待っていてくれ、友よ。
to be continued
キャラクター1話【5-1 ファンダリア領 領主の館】
ミリーナバロール……そんな……だって、バロールは……。
カイルバロール ? バロールって確か……。
ハロルドニーベルングを滅ぼした張本人よ。まさか、そっちから出てきてくれるなんてとんだサプライズだわ。
ミリーナでも、どうしてイクスの身体に……。
バロールこの者は俺の力を受け継ぐ者。流れる血に……そしてアニマに、俺の残滓は溶けている。魔眼を持つ鏡精が、俺を俺たらしめた。
ロニな、何言ってやがるんだ、こいつは…… ?
ナナリーあたしも、あんたと同じ意見だけどそんなことより……。
ミリーナイクスは無事なの ! ?もしイクスに何かをしたのなら私はあなたを許さない。
バロール心配するな、鏡精の末裔。すぐに終わらせる。
イレーヌβぐっ ! ! か、身体が…… ! ?
レイヴンちょっとちょっと !あちらさん、どうしちゃったのよ ! ?
ジュディス随分と苦しそうにしているわね。
フレンまさか、イクス……バロールの力なのか ?
バロールあの者に刻まれた【ルグの槍】を利用する。これで、お前たちが知りたかったことがわかるはずだ。
イレーヌβ……ンダ………にある、けん……つ。
カロル待って ! 何か言ってるよ !
イレーヌβ……ファンダリア領……南西にある……研究施設。……そこに、アイフリードの器を……連れていった。
ユーリ……アイフリードの器。パティのことだな。
イレーヌβ……エルレインは……アイフリードの器を使い異世界の神の具現化を行う……つもりだ……。
ナナリー異世界の神……。それって……。
リアラ……その話が本当ならエルレインは、この世界にフォルトゥナを具現化させるつもりなのかもしれない。
三人! ?
バロール異世界の神、か。ならば奴らの狙いは……そういうことか。
バロール聞け。お前たちは、すぐにアイフリードの器を追え。
ユーリバロールだかなんだか知らねえが言われなくても、こっちは最初からそのつもりだ。
ラピードワンッ !
バロールそれから鏡精の末裔よ。俺の意識は長くはもたない。だが、俺は――とつな――者を――。
イクス……ぐっ ! ! ミ、ミリー……ナ…… ! !
ミリーナイクス ! ?
エステルいけません ! ! すぐに回復を…… ! !
イレーヌβ――敵に不確定要素の存在を確認。これ以上の足止めは危険と判断、撤退する。
カイルしまった !
リアライクスが倒れて動けるようになったんだわ…… !
ジューダス追うぞ、カイル !まだ間に合うはずだ。
ロニ俺たちも行くぜ !美女を追いかけるのは、美男の役目だからな !
ナナリー馬鹿なこと言ってないで、さっさと追いかけるよ !
ハロルドこりゃ、流れ的に私も行かないと駄目っぽいわね。そんじゃ、そっちは任せるわよ。
フレンユーリ、僕たちは……。
ユーリあっちはあいつらに任せて大丈夫だろ。だが、イクスをこのままって訳にはいかねえ。
エステルミリーナ、イクスは大丈夫ですか ?
ミリーナ……ええ。意識はまだないみたいだけど呼吸も安定しているし、脈拍も正常よ。
リタでも、すぐ目が覚める保証もないし一度安全な場所にイクスを連れて行ったほうがいいんじゃない ?
ミリーナええ。だから、私がイクスと一緒にアジトまで戻るわ。みんなはそのままパティがいる場所に向かって。
リタちょ、待ちなさいよ !一人でどうやって…… !あんた、まさか……。
ミリーナ……転送ゲートを使うわ。それなら、私一人だけでもすぐにイクスを連れてアジトに帰還できるから。
エステルでも、確か転送ゲートの使用は使用者の負担が著しいはずでは……。
レイヴンおっさんは反対よ。ミリーナちゃんにそんなことさせちゃイクスくんに合わせる顔ないわ。
ミリーナ……ありがとうございます、レイヴンさん。でも、今は一刻の猶予もありません。
ユーリオレたち全員で止めてもか ?
ミリーナ……はい。例え、この場にいる全員に反対されても私はやります。きっと、イクスなら同じ判断をすると思います。
エステル……ミリーナ。
ユーリ……カロル。さっき言ってたファンダリア領の施設場所心当たりあるか ?
カロルユーリ……いいの ?
ユーリここまで言われちゃ、オレたちにミリーナを止める権利なんてねえよ。だろ ?
ラピードワフッ ! ワフッ !
ジュディスそうね。今はミリーナの覚悟に私たちも応えるべきじゃないかしら ?
エステル……。
エステルリタ。ミリーナはパティのことを……。いいえ、わたしたちみんなのことを心配して言ってくれているんだと思います。
エステルだったらわたしは、その想いを尊重したいです。
レイヴン……リタっち。こりゃおっさんたちに分が悪いわ。
リタだぁー、もう、わかったわよ !ほんっと、無茶ばっかりする奴が周りにいるとろくなことにならないんだからっ !
エステルリタ、落ち着いてくださいっ !
リタ言っとくけど、あたしはあんたのことも言ってんだからね !
エステルええっ ! ?
ミリーナふふっ、ありがとう、リタ。でも、私は大丈夫だから。だからみんな、パティのことはお願いね。
ユーリああ、任せとけ。ミリーナ、イクスのことは頼んだぞ。
ミリーナええ。それじゃあ、みんなも気を付けて。――転送ゲート、展開 !
ユーリ……オレたちも急がねえとな。カロル、道案内は任せたぜ。
カロルうん、了解 !
フレン…………。
レイヴンど~しちゃったの、フレンちゃん ?ミリーナちゃんならきっと大丈夫よ。もちろん、パティちゃんもね。
フレンレイヴン、さん……。いえ、僕は……。
レイヴン青年のことかい ?
フレン! ?……やはり、気づいてたんですね。
レイヴンまぁ、この館に入る前にあんなこと言われちゃ気になるでしょーよ。本人はあれでも相当我慢してるみたいだけどさ。
レイヴン……けど、仲間が傷つけられた上にパティちゃんまで利用されようもんなら青年だって黙っちゃいない。
レイヴンフレン。いざとなったらユーリを止められるのはお前さんだけだ。頼んだぞ。
フレン! ?
リタちょっと、おっさん !さっきから何コソコソ話してるわけ ?来ないなら置いてくわよ。
レイヴンはいはい~。……んじゃ、青年のことは宜しくね、フレンちゃん。
フレンはい。騎士として……いいえ、あいつの友としてもう二度と、手を汚すようなことはさせません。

キャラクター2話【5-4 仮想鏡界】
ジュニアコーキス、定時連絡ありがとう。どう、鏡映点捜しは順調に進んでる ?
コーキスああ、マークが教えてくれた通り救世軍の地上部隊の中に鏡映点っぽい人を見つけたぜ。
マークⅡそいつは良かった。んで、そいつとの交渉は上手くいったのか ?
コーキスそれが、そのアリスって人取り巻きが何人もいて、なかなか近づけなくてさ。結局、会えないまま別のところに行っちまったんだ。
コーキスあっ ! でも他の鏡映点の情報はゲットできたぜ !えっと、その人はデカい刀みたいなのを持ってて猫と一緒にいるんだってさ。
マークⅡ猫と一緒ねえ……。随分と悠長な旅をしてる鏡映点もいたもんだな。
コーキス俺、その人のことも捜してみようと思ってボスに相談したかったんだけどアジトにはいないのか ?
ジュニアうん、今はメルクリアたちと一緒に外に出てるよ。あっ、でもちょっと待って。コーキスって、今テセアラ領にいるんだよね ?
コーキスああ、今は港で鏡映点の情報を集めてるところだけど、どうかしたのか ?
ジュニア実は、ナーザ将軍たちもセールンドに向かうためにその港に向かっているんだ。もしかしたら、もう港に着いてるかも。
コーキスん ? なんでボスたちセールンドに行こうとしてんだ ?この間行ったばかりじゃん。
ジュニアそれが、僕たちも詳しい事はまだ教えてもらってないんだ。気になることができたからとしか……。
コーキスでも、セールンドって俺たちが潜入したせいでまた帝国の警備が厳しくなったんだろ ?ボスたち、大丈夫なのか ?
マークⅡそれがわかってて行くんだからよっぽどのことなんだろ。
コーキスわかった。俺、ボスに連絡取ってみるよ。それで合流したほうがいいのか聞いて……ぐうっ ! !
ジュニアコーキス ! ? どうしたの ! ?
コーキスいてぇ…… ! また、左目が急に…… ! !
ジュニアコーキス ! ? コーキス ! ?
マークⅡおい、一体何があったんだ ?
ジュニアわからない……けど、左目が痛むって……。
マークⅡってことは、また【魔眼】絡みかよ。どうする、フィル。助けに行くか ?
ジュニアそうしたいけど……テセアラ領の港までは一番近いゲートを使っても時間がかかるから……。
ジュニアあ、そうか ! ナーザ将軍たちが近くにいるんだ !連絡してみよう !
ナーザ――どうした、ジュニア ?
メルクリアおおっ、ジュニアからの連絡ですか、兄上様。さてはジュニアよ、わらわたちがいなくて寂しがっておるな。
メルクリアよかろう。わらわがジュニアの話し相手に……。
ジュニアナーザ将軍、大変ですっ !コーキスが……連絡の途中で通信が途絶えました。
メルクリアなんじゃと ! ?
ナーザ……詳しく話せ。
ジュニアそれが……突然苦しそうな声がして……。あと、左目のことを言ってたので、バロールの魔眼が関係していると思います。
バルド魔眼がらみなら危険かもしれませんね。コーキスと通信が途絶えた場所はわかりますか ?
ジュニアテセアラ領の港です。
メルクリアもしや、わらわたちが向かっている港か ! ?
ナーザなるほど、そういうことか。コーキスのことはこちらに任せろ。見つけ次第、連絡する。
ジュニアはい、宜しくお願いします。
ジュニアコーキス……無事だといいんだけど……。
マークⅡ俺たちは連絡を待つしかねえな……。ん ? どうした ?
ジュニア……うん。前にコーキスが目の痛みを訴えた時はバロールの記憶に触れようとしたときだった。
ジュニアもしかしたら、今回もバロールの力と何か関係があるんじゃないかって……。
マークⅡああ、それはそうだろうな。その辺りはじきにわかるだろ。
マークⅡつーか、何か他に気になることがあるんじゃないのか ?いつにも増して、不安そうな顔してるぜ。
ジュニアうん……でも上手く言葉にできないんだ。コーキスとバロール……。二人が接触すると……よくないことが起きるんじゃないかって。
マークⅡ……なあ、グラスティンの『仕掛け』はどうした ?
ジュニア……まだ大丈夫。ありがとう、マーク。
マークⅡそう、か……。

キャラクター3話【5-7 ???】
イクス(……あれ、ここはどこだ ?確か俺……みんなと一緒に……)
? ? ?なるほど。お前が目覚めたから俺がはじき飛ばされたのか。
イクスえっ、ナーザ将軍 ? いや、前にも同じことが……。もしかしてここって【アニマの坩堝】 ?だとしたら、あなたはイクスさん ?
? ? ?俺は……そうだな、バロールの記憶。お前の身体に受け継がれてきたバロールの記憶の残滓だ。
イクスバロールの記憶……?俺の体にバロールの記憶が……?
バロールの残滓そうだ。もっとも俺が目覚めることができたのはお前の鏡精が、本来のお前の中から俺を見つけた為だがな。
イクス本来の俺…… ?もしかして、それってナーザ将軍の体のことですか ?
バロールの残滓そうだ。お前は本来のイクス・ネーヴェとはあり方が異なるようだからな。俺の声が聞こえないだろうと思っていたが……。
バロールの残滓僅かな時間とはいえ、こちらからの呼びかけにも反応しているところをみると、お前の中に残っている私の力も目覚めつつあるようだ。
イクス呼びかけ……。そうか、ずっと俺が聞いていた声はあなただったのか……。
イクスいや、待てよ。俺がこうして自分の意識の中にいるってことは、また現実の俺は意識を失っているんじゃ…… !
イクスあの、バロールさん ! ミリーナは…… !俺の仲間たちは大丈夫なんですか ! ?
バロールの残滓案ずるな。お前の仲間たちは皆無事だ。お前自身も、今は安全な場所にいる。
イクスそうですか……良かった……。
バロールの残滓だが、いずれお前たちは……。いや、この世界は再び滅びの道を歩むことになる。それも、近いうちにな。
イクスえっ ! ?
バロールの残滓ネーヴェの血を継ぎし者、我が末裔よ。今からお前の中に刻まれた我が記憶を授ける。
イクス記憶……うっ ! ?な、なんだ…… ! ! 目がッ…… ! !
ビクトリエバロール様、死鏡精がすぐそこまで迫っています !
イクス(え ! ? ヨウ・ビクエ ! ? 何だ、これは…… ?これがバロールの記憶 ? )
バロールやはり浄化しきれなかったか。ビクエ、ダーナはこれを知っているのか ?
ビクトリエもちろんです。
バロールそうだったな……。お前は俺の死を見届けるために残ったんだったな。
ビクトリエまだそんなことを……。ダーナ様はあなたにも生きて欲しいと仰っていたではありませんか。
ビクトリエあなたは鏡精のために立ち上がった。ただその行動が……結果的にニーベルングという星を枯れさせた。
バロールそうだ。だから俺は箱船にはふさわしくない。
ビクトリエそう言うだろうと思っていました。ですが新しい世界ティル・ナ・ノーグのためにもニーベルングのためにも、あなたの力が必要なんです。
ビクトリエふさわしいとかふさわしくないなんてこの際どうでもいいこと。
バロール俺が死なねば、フィンブルヴェトルは消えないぞ。
ビクトリエ死んでも消える保証はありません。だから今は、時間を稼ぐんです。箱船に乗って。
バロールルグの槍を起動させるのか。
ビクトリエそうです。いつか、ニーベルングも死鏡精も救うために。
バロールその為に……新しい世界の礎石になれと言うんだな。ダーナと共に。
ビクトリエ急ぎましょう。死鏡精がフィンブルヴェトルを呼び寄せる前に命を生む炎を燃やして下さい。
イクス………………い、今のは……。
バロールニーベルングが死の砂嵐――フィンブルヴェトルによって滅びる直前の記憶だ。
バロールの残滓この後、ダーナやアイフリードと共にティル・ナ・ノーグという箱船を作り生き残った人々を移住させた。
イクスそれが……【ダーナの揺り籠】。この世界か……。
バロールの残滓俺はニーベルングと共に滅ぶはずであったが生かされることになった。フィンブルヴェトルを鎮めるためにな。
イクス死の砂嵐を鎮める ! ?それは死の砂嵐を消すということですか ! ?
バロールの残滓何を驚く。一度はフィンブルヴェトルを鎮めたからこそこの世界はここまで生き存えてきたのだ。
バロールの残滓それをビクトリエの末裔が、再びフィンブルヴェトルを発生させてしまった。
イクスビクトリエの末裔…… ?
バロールの残滓ダーナの鏡精の末裔だ。今、自らを鏡として虚無を封じている。
イクスゲフィオンのことか !
バロールの残滓あの者を利用して、フィンブルヴェトルを我らが手に取り戻す。
イクス取り戻す ? それは一体――
バロールの残滓フィンブルヴェトルは我が鏡精の力。そこに鏡精ではない者たちが紛れたせいで我が制御をはねのけている。
バロールネーヴェの末裔。お前の鏡精を借り受ける。本来のお前には不要な者が宿り力が歪められてしまう。
バロールお前を通じて、フィンブルヴェトルの異物を取り除くための尖兵を造る。
イクス……えっ ?
バロールの残滓『鏡精コーキス』よ。命の炎を燃やせ !虚無とこの世界に通じる存在を呼び起こせ !

キャラクター4話【5-7 ???】
イクス死の砂嵐を鎮める ! ?それは死の砂嵐を消すということですか ! ?
バロールの残滓ネーヴェの末裔。お前の鏡精を借り受ける。本来のお前には不要な者が宿り力が歪められてしまう。
バロールの残滓お前を通じて、フィンブルヴェトルの異物を取り除くための尖兵を造る。
イクス……えっ ?
コーキス(バロールが俺を、見てる…… ? )
バロールの残滓『鏡精コーキス』よ。命の炎を燃やせ !虚無とこの世界に通じる存在を呼び起こせ !
コーキスはぁ ! ? 何言ってんだよ ! ?さっぱり意味がわかんねーよ !
? ? ?――キ――。コ――スッ ! !
コーキス今度は誰だよ…… !
? ? ?起きろ、コーキス ! ! しっかりするのじゃ ! !
コーキス……あ……メル……クリア…… ?
メルクリアコーキス ! ! 兄上様 ! !コーキスが目を覚ましました !
ナーザ起きたか。
コーキスボス ! ? いや、バロール ! ?あ、いや、やっぱボスか。ボスたちがこの辺りにいるってジュニアが言ってたもんな……。
バルド目覚めたばかりのところをすみません。コーキス、やはりあなたが倒れた原因はバロールなのですか ?
コーキスえっ、いや……バロールは見たんだけど会ってたのはマスターというか……。いや、でも最後は俺に話しかけていたような……。
メルクリア何を言っておるのじゃ ?
コーキスだから、俺にもよくわかんねーんだよ。ゲフィオンがどうとか、死の砂嵐がどうとかって……。そんで、最後は……誰かを呼べ……とか何とか。
ナーザ……まったく要領を得ないな。
ディストふん、これだから凡人は困るのですよ。自分に起きたことすら説明できないとはどうしようもありませんねえ。
コーキスうわっ、ディスト様いたのかよ !
ディスト私は最初からいましたよ ! !この華麗で美しい私に気付かないとは節穴にもほどがありますね !
コーキスでも、ディスト様ってアジトで捕まってたんだよな ?まさか、ジェイド様に捨てられたのか ?
ディスト誰が捨てられたですって ! ?
メルクリア止めよ、ディスト。これ以上騒いでは、兄上様の気に障るぞ。また雪山に戻りたくなければ大人しくしておるのじゃ。
ディスト無理矢理連れてきたのはあなたたちでしょう ! ?
バルド気高いディスト博士が苛立つのもわかりますがこらえて頂けませんか。あなたは私たちに必要な存在なのです。
ディスト……私が……必要…… ! ?そ、そうでしょうとも。凡夫が私に憧れ、欲するのは仕方のないことですからねえ。
ディストですが ! 私は断じてジェイドに捨てられたわけではありませんからね ! !
ナーザコーキス、お前はジュニアたちの通信中に意識を失ったそうだが、その時のことは憶えているか ?
コーキスえっと……確かジュニア様に定期連絡を入れてその途中でまた左目が痛くなって……。
コーキス――あ、そうだ。ボスたちこれからセールンドに行くんだろ ?俺も付いていったほうがいいのか ?
メルクリアコーキス、お主、身体は大丈夫なのか ?
コーキスああ、左目も今は全然痛くねえし敵陣に乗り込むなら、戦力が必要だろ ?
バルドナーザ様。我々の戦力を考えるとコーキスの言う通り、彼を連れていったほうがいいかと思います。
ナーザそうだな。それに、お前の身に何が起こったのかもう少しわかるように聞きたい。セールンドへ向かう道中で話せ。
コーキスえー、俺、あれ以上ちゃんと説明できるかな……。
ディスト主人の方はもう少し頭が回りそうなのに鏡精というのは不思議なものですねえ。
メルクリアコーキスを悪く言うでない。人には――まあ、鏡精じゃがとにかく人には向き不向きがあるというものじゃ。
バルドコーキス。無理に説明しようとしないで起きたことを順番に話していってごらん。そうすれば、こちらにも伝わるものがあると思うよ。
ディストそうですね。馬鹿は馬鹿なりに事実を淡々と伝えればいいのです。馬鹿の解釈など意味がありません。
コーキス馬鹿馬鹿いうなよ ! 馬鹿だけど……。
コーキスつーか、ディスト様もアドバイスしてくれるならバルドみたいにもっと素直に優しくしてくれよ。そんなんだと、ずっとジェイド様に嫌われたままだぜ ?
ディスト誰が嫌われているもんですかっ !ジェイドにとっていかに私が特別な存在であるかをみっちり教えて差し上げますよっ ! !
メルクリアええい、うるさいわ ! 二人とも !
コーキス俺はうるさくないだろっ ! 第一、ディスト様が――。
ナーザ…………。
バルド立派に成長しておいでですね、メルクリア様は。
ナーザなんのことだ ?
バルドそれはあなたが一番よくおわかりでしょう。臣下や仲間を大切にするのは、皇族の人間として必要不可欠な素養ですよ。あなたのように。
ナーザコーキスは鏡精で、ディストは補給の担保だ。今は俺たちの下に置いてはいるが臣下でもなければ、仲間でもない。
バルドフフ……。それでもメルクリア様なりに少しずつ学んでおられることナーザ様も好ましく思われているのでは ?
ナーザ……さあ、どうだろうな。

キャラクター5話【5-8 アジト】
イクス……あれ、ここは ?
ミリーナイクス ! 良かった…… ! 目が覚めたのね !
カーリャ・Nイクス様…… !あの、どこか痛むところなどはありませんか ?
イクスう、うん……、今はなんともないよ。俺……また倒れたんだよな……。みんな、心配かけてごめん……。
カーリャもうっ、ホントですよっ !ミリーナさまと一緒に帰ってきたときにカーリャたちがどれだけ心配したと思ってるんですか !
カーリャイクスさまはもう少しお菓子を食べて体力をつけた方がいいと思いますよ。
カーリャ・Nそうですね。お菓子で体力をつけるのはいいと思います。
イクスいや、お菓子で体力がつくかは……。
イクス……そうだ、ミリーナ !他のみんなは ! ? パティは見つかったのか ! ?
ミリーナそれは……。
ジェイドそちらについては、私たちから説明しますよ。
イクスジェイドさん。それに、ユリウスさんも……。
ユリウスすまない、イクス。目が覚めてすぐのところ申し訳ないが俺たちも今回の事態を把握しておきたくてね。
イクスいえ、俺は構いません。それで、パティの件はどうしたんですか ?
ユリウス残念だが、まだ救出には至っていない。だがユーリたちからは、パティが連れて行かれたファンダリア領の研究施設に到着したと連絡があった。
イクスファンダリア領の研究施設 ?
ジェイド記憶にありませんか ?あなたがファンダリア領の従騎士から聞き出した情報だと伺っていますが ?
イクスいえ……。
ジェイドやはり、バロールの意識が出ていたときの記憶はないようですね。
イクスバロール…… ! そうだ、俺、バロールと話しました !えっと、正確には俺の身体に残っていたバロールの記憶……って言ってましたけど……。
カーリャええええっ ! ?イクスさままで神さまに会っちゃったんですか ! ?神さまたち、気軽すぎませんか ! ?
ジェイドはっはっはっ。まあ、神とは名ばかりの人間ですからね。さて、イクス。詳しく教えて頂けますか ?
イクスは、はい。勿論です。
ジェイド成程。つまり、バロールは死の砂嵐を鎮めるために尖兵を造ると言ったのですね ?
イクスはい。でも、それが何なのか俺にはわからなくて……。最後にコーキスに言っていた言葉からしてコーキスが尖兵を造るってことなんでしょうか。
ユリウスどう思う、ジェイド ?
ジェイドまだ情報が不足しているので私の嫌いな憶測になってしまいますが……。
ジェイドイクスの説明をそのまま理解するならバロールらしき存在が、コーキスを自分の鏡精として使役する、ということなのでしょう。
ジェイドコーキスに尖兵を『造らせる』というのが……。まさか……。
ユリウスしかし、イクスがバロールの末裔だとしてもバロールそのものではないだろう。バロールとコーキスが繋がるのは危険じゃないのか ?
カーリャ・N本来鏡精は、マスターにしか使役できない存在です。
カーリャ・Nただ、コーキスの場合、複数のイクス様の存在があることが前提で生まれていますから……。一般的な鏡精とは何か違うのかもしれません。
ミリーナ確か、マークもそうだったわね。フィルとファントム、両方と繋がっていた。
ミリーナファントムはテストケースだったから特殊だったけれどもしかしたらイクスとバロールも、フィルたちと同じような繋がりができているのかもしれません。
ミリーナだとすれば、コーキスが何かのきっかけでイクスの鏡精ではなく、バロールの鏡精として具現化される可能性もありますよね……。
イクスそんな…… !
ジェイド……色々と気になることもありますしビフレスト側とも連絡を取ったほうが賢明でしょうね。
ジェイドさて、それはそれとして。何が起きてここにいるのかあなたはわかっていますか ?
イクス確か……ファンダリア領の領主の館に潜入する途中だったと思います。そこで気を失ってからのことは……。
ユリウス君が意識を失ったので、安全を確保するためミリーナが転送ゲートを使用して戻ってきたんだ。
イクス転送ゲート ! ? ミリーナ、大丈夫だったのか ! ?
ミリーナええ、問題ないわよ。使ったときは少し疲れたけど……。ほら、今はこの通りなんともないから平気よ。
ジェイドこの件については、イクスの代わりに私がミリーナにきつく言っておいたのでご安心を。
二人…………。
イクス(カ……カーリャたちのジェイドさんを見る目が怖い……。ミリーナ、相当ジェイドさんに怒られたんだな、きっと……)
イクスありがとう、ミリーナ。それに……ごめんな。俺のせいでミリーナに負担をかけちゃって……。
ミリーナいいのよ、イクス。イクスはいつも頑張ってくれてるんだから私だって頑張らないと。
カーリャ・N……ですが、小さいミリーナ様。今後は無理をなさらないでください。何かあれば、私がすぐに駆け付けます。
カーリャもちろん、カーリャだってミリーナさまを助けます !
ミリーナふふっ、ありがとう、二人とも。頼りにしてるわね。
ユリウス反省もちゃんと頭に入ったところで、話を続けようか。先ほども言ったが、ユーリたちは引き続きパティの救出に向かっている。
ユリウスそれと、ファンダリア領の従騎士、イレーヌの追跡もカイルたちが行っている。
イクスそうですか……。従騎士の人たちも早く解放してあげられるといいんだけど……。
ユリウスその件については、先ほどのリーダー会議でも議題にあげておいた。助けたいのは山々だがみんなにはあまり無理はしないようにと通達してある。
ユリウスユーリたちとカイルたちにも、そのことは伝えてある。シングのこともあるので、こちらへの連絡もこまめにしてもらっているが……。
ユリウス……と、言ってるそばから魔鏡通信だ。こちら、アジトのユリウスだ。
ディムロスユリウスくん。こちら、対帝国部隊のディムロスだ。
イクスディムロスさん ?
ディムロスイクスくんも一緒か。丁度いい。きみたちに伝えておきたいことがあるんだ。
ディムロスきみたちに共有してもらった魔核についてだが帝国が各地で生産された魔核をファンダリア領に運び込んでいるという情報が入った。
全員! ?
ジェイドこのタイミングでファンダリア領に魔核の運搬ですか。偶然とは思えませんね。
イクス帝国は一体何をしようとしているんだ……。

キャラクター6話【5-9 ファンダリア領 研究施設1】
サレこっちは無事、施設に到着したよ。
グラスティンヒヒヒ……。そうか、よくやった。お前は引き続き、エルレインに同行しろ。
サレわかったよ。それで、僕たちを襲ってきた男はこのまま放っておいていいのかい ?どうやら、聖核を狙っているみたいだったけど。
グラスティンまた邪魔をしにくるようなら始末すればいい。黒髪なら多少は興味をそそられたんだがなぁ。
サレ良かったよ。またキミの悪趣味なコレクション集めに付き合わされることはなさそうだ。
グラスティンその割には、よく働いてくれているじゃないか。まあいい、今はアイフリードの器だ。これで次の段階へ進める。
サレもういいかい ? そろそろ戻らないと聖女様の機嫌を損ねてしまうからね。
グラスティンああ。何か動きがあればまた報告してくれ。じゃあな。
エルレインサレ、誰と話していた ?
サレこれはこれは、聖女様ともあろうお方が盗み聞きですか。
エルレイン私の質問に答えろ。
サレ最近導入された通信装置の実験をかねてグラスティンへの報告ですよ。それが何か ?
エルレインやはり、お前はあの男の指示で動いていたようだな。
サレまさか。僕はただ自分が面白くなるように動いているだけですよ。
エルレインならば、余計なことはするな。今は私の指示に従え。
サレ分かりましたよ、聖女様。
エルレイン……では、私はあの器の少女の元へ戻る。サレ、施設の警備は任せたぞ。
サレええ、承知しました。彼女は大事な器ですからね。
エルレイン…………。
ユーリ……くそっ、どこもかしこも警備兵だらけだぜ。
フレンそれに、おそらく全員が精霊輪具を装備したリビングドールβだ。
エステル……わたしたちを襲ってきた兵と同じですね。
カロルこれじゃあ、施設に近づくことも一苦労だよ。
ジュディスけど、これではっきりしたんじゃないかしら ?
ユーリああ、これだけ警備を厳しくしてりゃあ、この中に大事なもんがあるって言ってるようなもんだぜ。
ラピードワンッ ! ワンッ !
リタ今度こそ、パティを取り返すわよ !
レイヴンさてと。リタっちも気合十分みたいだしおっさんも、ちと本気を出しましょうかね。
カロルあっ、待って。魔鏡通信だ。きっとアジトからだよ。
イクス――カロル、今、大丈夫か ?
カロルイクス ! 目が覚めたんだね !
イクスああ、心配かけてごめん。それより、こっちにディムロスさんから連絡があったから、みんなにも先に伝えておく。
イクス帝国軍が各地で生産した魔核をファンダリア領に運んでいるそうなんだ。
全員! ?
レイヴン……こりゃ、パティちゃんの件と関係がないって言うほうが無理な話だわ。
リタ魔核が集められてるってことは当然、聖核も運んでるわよね……。でも、どうして……。
ユーリんなもん、直接帝国の奴らに聞きゃいいだけの話だ。
イクスそれで、俺たちもすぐにファンダリア領に向かうことにしたけど、先にディムロスさんたちが到着すると思うから、しばらく待機しておいてくれ。
カロル了解。イクス、無理しないでね。
イクスありがとう。それじゃあ、また連絡する。
エステル……イクス、休まなくて平気なんでしょうか ?
リタあっちにはジェイドやユリウスもいるんだから止めなかったってことは、大丈夫な証拠よ。
レイヴンそれに、ぶっちゃけ増援に来てくれるのは願ったり叶ったりだわ。
カロルそうだね。みんな、パティを助けるために動いてくれてるんだよ。絶対に失敗できない。
ユーリああ、帝国の連中……今度こそ逃がさねえからな。

キャラクター7話【5-10 精霊の封印地】
ヨウ・ビクエ――終わったわ。これで、しばらくすればファントムは目を覚ますはずよ。
フィリップ……ありがとうございます。これで僕も、少しは自分と向き合えるかもしれません。
ヨウ・ビクエ本当に真面目ね、あなたは。でも、そういうところが気に入ってるんだけど♪
マーク悪りぃが、ウチのマスターをナンパするのはまた今度にしてくれ。こっちは光魔の相手すんのにそろそろ飽きてきたところだ。
ヨウ・ビクエそうね、それじゃあ―― ! ?
ヴィクトルどうした ?
ヨウ・ビクエ……ダーナ様からの言伝よ。バロールが目を覚ましたって……。
フィリップバロールだって ! ?
ヨウ・ビクエフィリップ。私はファントムと一緒に魔の空域に戻るわ。あなたたちも、すぐにここから離れなさい。
シンク来いって言ったり、離れろって言ったり随分と勝手な奴なんだね、ビクエっていうのはさ。
マークシンク、小言は後で俺が聞いてやるから今は言うことを聞いてやってくれ。フィル、それでいいんだろ ?
フィリップああ、だけど……。
ヨウ・ビクエ詳しい状況は、後でちゃんと説明するわ。ファントムの身体がこちらにあればあなたへの通信も可能になるから。
ヨウ・ビクエそれに……狂化止めを施したから彼……きっと自分のしたことを思い出して混乱すると思うわ。
ヨウ・ビクエまずは私たちからこれまでの話をして落ち着かせたいの。
フィリップ……そう、ですか。わかりました。みんな、一度ケリュケイオンに戻ろう。
アイゼン……そうか。ファントムは預けてきたんだな。それで、これからどうするつもりだ。
フィリップそうだね、ひとまずイクスたちに連絡をとって……。すまない、誰かからの魔鏡通信だ。
ローエンどうやら、あちらから先に連絡が来たようですね。
ミリーナフィル、今、どこにいるの ?
フィリップミリーナかい。良かった、丁度きみたちに連絡を入れようとしていてね。僕たちは今、精霊の封印地から離れたところだ。
ミリーナごめんなさい……こっちも色々起こっていて大変なの。長くなるかもしれないけど……。
フィリップ大丈夫、ミリーナ、話してくれ。
ミリーナええ。それが――。
マーク――バロールが目覚めたってのはヨーランドが言ってた通りだがまさかイクスが先に会ってるなんてな。
フィリップイクスはバロールの血族だ。ダーナ神が僕に接触してきたように、バロールがイクスに接触してきたとしても不思議じゃない。
フィリップただ、バロールに関してはまだ分からないことのほうが多い。ヨーランドからの連絡が欲しいところだけど……。
マークあっちから連絡するって言われてるしこっちは待つしかねえな。そんで、もう一つの問題はどうするつもりだ ?
フィリップもちろん、僕たち救世軍も手助けしよう。ファンダリア領にいる地上部隊にも手配を掛けてくれ。
シンク都合のいい男だね、フィリップ・レストン。救世軍はアンタがミリーナにアピールするための駒ってわけかい?
フィリップこれはミリーナのためじゃない。巻き込んでしまった鏡映点の人たちに報いるためだよ。
ゼロスシンくんはケリュケイオンで昼寝でもしてれば ?ついでにバルバトスが余計なことをしないか見張っておいてくれても――
シンク冗談でしょ ? あいつの相手ができるのなんてマークかあんたかヴィクトルぐらいじゃない ?
ゼロスえええええ ! ? 俺さまだってバルバトスの相手なんざごめんだっつーの !
ヴィクトル別に私も好き好んで相手をしているわけではない。
クラトスしかし、手助けすると言っても何か具体的な策でもあるのか ?
マークイクスたちの方で、算段はつけてあるらしい。計画書をユリウスから転送してもらうことになってる。
ヴィクトル……ユリウス……。
クラトスでは、フィリップよ。我々も戦うための準備をしておこう。
フィリップありがとう、みんな。ガロウズ、ケリュケイオンの操縦は任せたよ。
ガロウズ了解です、ビクエ様。目的地はファンダリア領ですよね。まくりますよっ !

キャラクター8話【5-11 ファンダリア領 研究施設2】
イクスごめん、みんな。遅くなった !
ディムロスいや、我々も先ほど合流したばかりだ。
ジュディス思ったよりも元気そうねイクス。それにミリーナも。安心したわ。
ミリーナええ、次はあまり無茶をしないようにするから心配しないで。
カーリャご安心を ! カーリャも一緒ですから !
ジュディスそう、頑張ってね、小さなナイトさん。
レイヴンジュディスちゃん。俺様もジュディスちゃんのナイトにな~りた~いな~。
ジュディスふふっ、頼りにしてるわよ、おじさま。
レイヴンうっひゃ~ !ジュディスちゃんに頼られるなんてサイコー !おじさま、張り切っちゃうわよ !
リタうっさい ! 今すぐ黙らないと燃やすわよっ !
レイヴンリタっち、ストップストップ !潜入前に大怪我とか洒落になんないから !
カーリャ・N……こほんっ !それで、こちらの状況に何か進展はありましたか ?
カロルいや、誰かが出入りしている様子はなかったよ。
シャルティエですが、僕たちが掴んだ情報によるとファンダリア領に運ばれた魔核がこの施設に集められているみたいです。
リタパティのこともあるけど、魔核も回収しておきたいわ。帝国の奴らがふざけた使い方をする前にね。
エステルリタ……。
ディムロスそれだけではない。この施設には帝国が所持する大量のレンズが保管されていることがわかった。
フレンレンズ……ディムロスさんたちの世界では資源エネルギーとして使用されていたものですね。
ディムロスそうだ。使い方次第では強力な兵器のエネルギー源にもなってしまう代物だ。
ディムロスエンコードの特性を考えれば、レンズはキラル分子を大量に生み出す……ということになるのだろう。こちらもろくな使われ方はするまい。
シャルティエ僕たちとしては、今回の潜入でレンズの回収も同時におこなうつもりです。
ディムロスすでにアジト側と連絡を取って計画は纏めてある。基本的には陽動作戦をとる。
ディムロス現在、反帝国組織の部隊を待機させている。こちらを攻め込ませ、施設への警備を手薄にする。
カロルってことは、ボクたちでパティを助けて魔核とレンズを回収するってこと ! ?
イクスいや、陽動部隊は俺が指揮する。ディムロスさんたちには、魔核とレンズの回収を担当してもらう手筈だ。
フレンイクス、いいのかい ?かなり危険な役目だよ。
イクスはい。それに自分で言うのもおかしいですけど俺と……俺の魔鏡は特別だって話ですから。
イクスそんな俺が出て行ったら、帝国側も絶対に無視はしないはずなので、警備が手薄になる確率が上がると思うんです。
ミリーナもちろん、私もイクスと一緒に行くわ。
カーリャ・N私もイクス様と小さいミリーナ様に同行します。
カーリャカーリャもですっ !
ディムロス……ということだ。他の者も異論はないか ?
ユーリああ。イクス、ありがとな。ちとキツイかも知れねえが、そっちは任せたぜ。
ラピードワフッ !
ディムロスでは、私とシャルティエは途中までユーリくんたちと共に行動させてもらおう。
ユーリ決まりだな。そんじゃ、派手に暴れてやろうぜ。
エルレインサレは警備に出ているな ?
帝国兵βはい。
エルレインでは私が指示をするまで、ここから先は誰も通すな。
帝国兵β了解。
パティ……………………。
エルレイン必要なレンズは用意してある。グラスティンの言うことが本当なのであればこの娘を使いフォルトゥナを降臨させることができる。
エルレイン(……あの者どもの話は未だ疑わしいが万に一つでも可能性があるのならば――)
エルレイン――始めよう。人々の救済を。
パティ………… !
エルレイン大いなる神の御魂を、ここに !そして、人々に永遠の幸福を !
エルレイン――出でよ、フォルトゥナ !

キャラクター9話【5-12 ファンダリア領 研究施設3】
パティ ?…………………… ! ?
エルレイン成功……したのか ?
パティ ?ここは……。私は何故……目を覚ました ?
エルレインフォルトゥナではない…… !お前は、何者だ ?
アイフリード私は……アイフリード……。
エルレインアイフリード、だと ?
アイフリード精霊たちの楔が解け始めている…… !まさか……私だけでなく、目覚めているのか……ヨーランド !
エルレインこの力は…… !
アイフリード我、アイフリードの名において命ずる。集え、我が精霊たちよ ! !
エルレインくっ…… ! !
アイフリード精霊たちが……こない、だと ! ?馬鹿な。いや、そうか……これが狙いか !
アイフリード行かねば。我が精霊たちの下に !
エルレイン待てっ !
帝国兵βエルレイン様。先ほどの少女は。
エルレインあなたたちも、今すぐあの少女を追いなさい。決して逃がしてはなりません。
帝国兵β了解。施設内の全警備兵たちに伝達。逃走中の少女の確保にあたれ。
エルレイン何故……フォルトゥナではなく、アイフリードが……。まさか初めから……。いや、まずはあの少女を捕らえなくては !
サレふふっ、どうやらあいつの筋書き通りの展開になったみたいだね。
サレさあ、もっと僕を楽しませてくれよ、聖女様。
クラース――というわけでイクスたちはパティの救出に向かった。随時連絡が来るだろう。
クラースまあ、我々は我々の成すべきことをするしかない。報告は以上だ。各自、引き続き精霊の調査にあたってくれ。
テネブラエしかし、短期間で精霊との契約がこれほど順調に進むとは、いやはや素晴らしい限りです。
キールだが、まだ契約できていない精霊たちも残っている。それに、領主たちに付けられた贄の紋章についても分からない点が多い。課題は山積みさ。
しいな確かに、贄の紋章は身体には影響がないみたいだけど放っておくわけにもいかないからね。
クラース贄の紋章については、引き続きハロルドたち解析班が動いてくれている。結果を待つしかない。
しいなけど、あたしは心配だよ……。コレットのときもそうだったけど何も知らなかった、なんてことは嫌だからサ。
エミルしいな……。
ミラ=マクスウェル……そうだな。だが、私たちには私たちが為すべきことがある。今は彼女たちのことを信じよう。
ライラはい、皆さん頼りになる方たちばかりですし。
テネブラエええ、特にジェイドさんは私と同じ闇属性ですからねえ。
エミルそれは関係ないと思うけど……。
シャーリィあの、皆さん。失礼します。
キールシャーリィにセネル。どうしたんだ ?
シャーリィえっと、パンが焼きあがったので持ってきました。
セネル良かったら、みんなで食べてくれ。忙しくて、まだ飯も食べてないだろ ?
クラースおっ、差し入れか。助かるよ。
ライラまぁ ! どのパンの焼き加減もバッチリ !まさに職人技ですね。
ミラ=マクスウェルパンは焼き立てを食べるのが一番だからな。ありがとう、二人とも。では、早速頂くと……くっ ! !
キールミラ ?
シャーリィううっ……この……声……もし……か……。
セネルシャーリィ ! おい、しっかりしろ、シャーリィ !
しいなミラ ! それにシャーリィまでどうしちまったんだい ! ?
ラタトスクテネブラエ !
テネブラエええ、私にも感じます !これは…… ! !
しいな何だい ! ? 分かることがあるならあたしたちにも説明しとくれよ !
ラタトスクこの世界の精霊の力が急激に動き出しやがった !
3人! ?
ミラ=マクスウェルああ……。私もその力の影響を受けてしまっているようだ……。
ミラ=マクスウェル四大は……駄目だ、何も反応がない……。
ライラ私も感じます……。影響は少ないかもしれませんが天族もこの世界では精霊としてエンコードされていますから……。
セネル待ってくれ ! それならどうしてシャーリィまで…… !
シャーリィ…………。
セネルシャーリィ ! その髪の光は…… !
シャーリィ……滄我の声が……聞こえる。
セネルなんだって ! ? どうしてそんなことが……。
シャーリィこの世界で滄我の力を宿す海神アイフリードの言葉を伝えたいそうです……。
クラースアイフリードだと !まさか、精霊の力が活発化したことにアイフリードが関係しているのか ! ?
シャーリィはい。アイフリードが目覚めたことで同じ力を持つ滄我も共鳴した、と。
ミラ=マクスウェルあの時……聖核を見つけた時にウンディーネが話していたことか。
シャーリィ急がないと。このままだと精霊たちが暴走してこの世界がどんどん滅亡に近づいていくって…… !その前に……精霊たちを――
セネルシャーリィ ! ?
シャーリィ……滄我の声が、聞こえなくなった……。
しいなあんた、なんともないのかい ?
シャーリィは、はい……。
キールどういうことだ。これも帝国の仕業なのか ! ?
クラース至急、アジトにいる全員を集めてくれ !外に出ているイクスたちへの連絡は私がおこなう。
ライラはい ! すぐにお呼び致しますわ !
テネブラエ私たちは引き続き、精霊の動向を探ってみましょう。
クラース頼む。もし、先ほどのシャーリィの言葉が本当ならば、アイフリードの目覚めと同時に各地に封印された精霊たちが目覚めたことになる。
クラースそれが帝国の目的だったのならば……やはり帝国の狙いは、精霊たちなのか ?精霊で何をしようとしている…… ?

キャラクター10話【5-13 セールンド 街中】
メルクリア……相変わらず、この辺りは寂しいのう。
ナーザアスガルド帝国を復興したときにセールンドの住民も帝都へ移したからな。この辺りに残っているのは一部の関係者だけだ。
バルドとはいえ、兵士や研究者たちの姿もないというのは……。
バルド――ああ、コーキスが戻ってきたようです。
コーキスただいま。街の周りを一通り見て来たけどやっぱり警備兵どころか、ネズミ一匹いなかったぜ。
ナーザこれもデミトリアスの指示なのか……。だが、何故このタイミングで…… ! ?
コーキスうわっ、なんだ、あの光の柱 ! ?
メルクリアこっちもじゃ ! ? あちこちで光の柱が発生しておる !
バルドまるで、この街を囲んでいるようですね。
ディストこれは…… ! そうですか……。あなたたち、今すぐここから撤退しますよ !
メルクリアディスト ! お主、あの光が何なのか分かっておるのか ! ?
ディストあれはこの街を巨大なクレーメルケイジにするための術式ですよ。私が帝国にいた頃から研究を進めていたようですが、完成させていましたか。
コーキスクレーメルケイジって、キール様やメルディ様たちが持ってるやつだよな ?
ディストええ、それを応用した拡張版と考えればいいでしょう。私からすれば、模倣しただけの芸のない代物ですがね。
ナーザお前の主観などどうでもいい。ディスト、帝国は何をする気だ ?
ディスト簡単ですよ。この巨大なクレーメルケイジを使って精霊たちを捕らえるつもりなのでしょう。
ナーザなんだと ! ?
メルクリアん ? 兄上様 ! ジュニアからの通信です !
ジュニアメルクリア ! 大変だ !
メルクリアジュニア、どうしたのじゃ ! ?まさか、アジトで何かあったのか ! ?
ジュニアいや、僕たちは大丈夫。それより聞いて。さっきクラースさんから連絡があって精霊たちの力が活性化しているんだ !
三人! ?
ジュニアそれで、アステルさんとリヒターさんが調べた結果精霊たちの力が、セールンドに集まってる !
ジュニアメルクリア、もうセールンドに着いているなら今すぐそこから離れて ! 精霊の力が暴走して巻き込まれるかもしれないってアステルさんが……。
メルクリアう、うむ……わかったのじゃ !
ジュニアそれじゃあ、気を付けてね、みんな……。
ディストふっ、どうやら私の判断が正しかったようですね。
バルド……どうしますか、ナーザ様。ジュニアやディストの言う通り一度ここから離れるべきでは……。
ナーザいや、連中は精霊を目覚めさせることに執着していた。それが果たされた今、精霊を帝国の手に委ねることはティル・ナ・ノーグを危機に陥れる可能性が高い。
メルクリア義父上……。
ナーザディスト。この術式を解除する方法を話せ。
ディスト無駄ですよ。術式の解除は街の周囲に設置されている十八箇所もの魔法陣を無効化しなくてはなりません。
メルクリアあの光の柱が発生しているところじゃな。
ディストまぁ、無効化自体は魔法陣を維持する装置を壊せばいいだけでしょうが、数が多すぎます。時間を掛けるわけにはいきませんからね。
コーキスは ? 十八箇所なら……えっと一人……四つ……いや、五つぐらい壊せばいいだけだしそんなに時間はかからないだろ ?
ディスト精霊を捕らえるのに、クレーメルケイジを使ったということは、目的はフリンジでしょう。
ディストフリンジにはあまり時間がかからないはず。この人数では間に合うはずがありません。
コーキスそんなの、やってみなきゃわかんねえだろ!せめてギリギリまでチャレンジしてみようぜ。
ナーザ……ならば、ディストはメルクリアと南西を。俺と鏡精は北東を担当する。
ナーザ撤退のタイミングはディストに見極めを頼む。その時が来たら、合図と共にメルクリアを連れて避難しろ。
ディストなるほど。あなたは死者、鏡精は死んでも甦る。だからギリギリまで作業するというのですね。
バルド……私が……幻体などでなければ…… !
? ? ?『……こちらの方か……。力を求めたのは』
コーキスえ ? 誰だ ?
メルクリアコーキス ! 何を寝ぼけておる !兄上様を死なせるなど、わらわは納得せぬぞ !
コーキスでも、今、声が――
? ? ?『魔眼の力を――、鏡精。虚無に――者――い――をあた――』
コーキスこの声……まさか、バロールか ! ?って、うわああああああっ ! !
ナーザコーキス ! ? これは…… ! ?
メルクリアひ、左目が燃えておるぞっ ! !
コーキスあっっっつつつつ……くねえっ ! ?ど、どうなってんだ、コレ ! ?
バロールの残滓『フィンブルヴェトルに取り込まれたアニムス粒子を呼び寄せる。コーキス、命の炎を燃やせ ! 』
コーキス! !
ディスト――な ! ? 王宮の方から金色の砂が ! ?
バルド死の砂嵐 ! ? しかし……あれは……。
メルクリアこちらに来ます ! 兄上様 !
メルクリアきゃっ ! ? 何じゃ ! ? 懐のバルドの心核が熱くなっております ! ?
コーキス心核はもらい受けるぞ、娘。
メルクリアな、何じゃ ? コーキス ! ?それはバルドの――
ナーザ死の砂嵐がバルドの人工心核に引き寄せられているのか ! ?
コーキス我が魔鏡によって散りし者よ。我の炎を持って具現化せよ !
バルドコーキスの炎が私の心核に ! ?
メルクリアバルド ! !
バルドそんな……私の身体が……実体化している ! ?
メルクリアバルド…… ! ?一体何が起きたのじゃ ! ?
メルクリアコーキス、これはお主がやったことなのか ?
コーキス――え ! ? な、何だ ! ?何が起きた ! ? 何かバロールの声が聞こえて……命の炎がどうとか……。
ナーザバロールか……。バロールの魔眼は、死を呼ぶ時は毒を放ち命を生む時は炎を燃やす。
ナーザまさか、バロールがバルドの『命を生み出した』のか ?バロールには死んだ人間を甦らせる力があるとでもいうのか…… ?
ナーザそれにあの金色の砂……。あれは死の砂嵐に取り込まれ、虚無に漂うアニムスの欠片。だが、虚無への道はゲフィオンが封じていた筈だ。
バルドナーザ様。詮索は後にしましょう。私が実体を得られたのは好機です。これを生かさなくては。
バルドディスト博士、私が動けるようになったことで装置の破壊の実現性は増しましたよね ?
ディストあなた一人が増えたところでさして変わりませんがそれでもいないよりはマシでしょうね。あなたが人並み以上の働きをするのなら、ですが。
バルド約束しますよ。私が二、三人……いや、五人分は働く、とね。
ディスト随分と大口を叩きますね。
ナーザこいつは、やると言ったらやる男だ。それに、己の力を過信するようなマヌケでもない。
バルド光栄です。ナーザ様。
コーキスよし。何が起きたかわかんねーけどとにかく装置を壊そうぜ !
バルドそうですね。ですが、その前に少しだけ失礼します。……メルクリア様。
メルクリアな、なんじゃ、バルドよ ! ?わらわの手を取って…… !
バルド生前、私は祖国を守ることができませんでした。騎士としてこれ以上の屈辱はありません。しかし、こうして実体を得ました。
バルドビフレストは失いましたが、せめてメルクリア様――知の乙女たるあなた様のことは全力でお守りします。我が誇りにかけて。

キャラクター11話【5-14 ファンダリア領 研究施設4】
帝国兵β施設近辺にて、鏡士イクス・ネーヴェ及び黒衣の鏡士ミリーナ・ヴァイス以下数名の存在を確認。現場の各隊と合流し、捕獲の任務にあたれ。
帝国兵β隊了解。
カロルイクスたち、上手くやってるみたいだね。お陰で警備が薄くなってきたよ。
ユーリんじゃ、そろそろオレたちも行くか。
ディムロスここからは別行動になるが何かあれば、すぐに魔鏡通信に連絡をしてくれ。
シャルティエ僕たちも、あなたたちの仲間を見つけたら連絡します。
ユーリああ。けど、気を付けてくれ。パティがいるってことは他の従騎士や帝国側の人間がいるかもしれねえからな。
ディムロス我々も無茶をするつもりはない。厳しい戦場ほど、全員無事に帰還しなくてはな。
シャルティエそれでは、また後程。
ジュディスあの二人、随分慣れた様子だったわね。
フレン彼らは元軍人だと聞いている。元の世界でもかなりの場数を踏んできたんだろう。
レイヴンそうそう。おまけにアトワイトちゃんみたいな可愛い子ちゃんも一緒だったっていうんだから羨ましい限りだわ。
リタ結局あんたが気になるのはそこかっ !
ユーリオレたちだって負けちゃいねえだろ。散々好き勝手やらせてもらってたからな。
エステルはいっ ! わたしたちも敵のアジトに潜入なんて慣れっ子です。
リタエステル……あんた完全にユーリに毒されてるわよ。見なさいよあのフレンの顔。思いっ切り引きつってるじゃない。
エステルフレン、そうなんです ?
フレンい、いえ……決してそのようなことは……。
ジュディスエステルも逞しくなった証拠ね。
ユーリそんじゃ、いつも通りってことで軽く一暴れしてやるか。
ラピードワオーン ! !
エルレインサレ ! どこにいる ! ?
サレおやおや、どうされましたか聖女様 ?
エルレイン貴様……始めからこうなることを知っていたな。
サレさて、何のことでしょう ?
エルレインとぼけるな。フォルトゥナの降臨は私を協力させる餌に過ぎず、本当の目的はアイフリードを呼ぶことだったのかと聞いているのだ。
サレだとしたら、どうなんです ?僕には全く関係のない話ですよ。
エルレインなに ?
帝国兵βエルレイン様、サレ様。先ほど、施設内にて何者かの侵入がありました。
エルレイン白髪の男か ?
帝国兵βいえ、対帝国軍組織の者と黒衣の鏡士の仲間たちと思われます。
サレどうやら、大事な仲間の救出に来たようだね。美しい助け合いの精神じゃないか。気持ち悪くて不愉快だよ。
エルレインサレ、どこに行くつもりだ ?
サレもうここには用はない。僕は一足先に撤退させてもらいますよ。
エルレイン待て ! まだ私からの話は終わっていないぞ。
サレ僕とお喋りするのは勝手だけどあなたの大事な器が逃げてしまいますよ ?
エルレインくっ……。
サレそれじゃあ、僕はこれで。また会えることを楽しみにしていますよ、聖女様。
帝国兵βエルレイン様、我々に指示を。
エルレイン……止むをえん。各隊、侵入者の対応にあたりなさい。あの少女の捜索は私が引き受けます。
帝国兵β了解。
ユーリカロル ! 次はどっちだ !
カロルこの先を右だよ ! そこに部屋があるはず !
ラピードウウッ……ワオン ! !
ユーリどうした、ラピード ! ?な…… ! ?
アイフリード……………………。
エステルパティ !
リタ待って、エステル ! 近づいちゃ駄目 ! !
エステルえっ ! ? どうして……。
フレンリタの言う通りです、エステリーゼ様……。彼女がリビングドールにされている可能性があります。
エステルそんな…… !
ユーリお前……パティなのか ?
アイフリード退け……。私は行かねばならぬ。
ユーリ! ?
レイヴンこりゃ、悪い方の予想が当たっちまったみたいね。
ユーリ……ざけやがって。何回おんなじことすりゃ気が済むんだ、あいつらはよ…… !
カロルでも、なんだか様子が変じゃない ?領主の館で会った従騎士の人と雰囲気が全然違うような……。
アイフリード……邪魔をするな。
ジュディス来るわ !
フレンみんな、構えろ !
ユーリ上等だ ! その身体、力ずくでも返してもらうぜ !

キャラクター12話【5-15 ファンダリア領 研究施設5】
アイフリード……手強いな。
ユーリこっちはいつまでも付き合ってらんねえんだよ。これで決めさせてもらうぜっ !
アイフリードくっ ! !
帝国兵β目標、確認。総員、侵入者及び実験体の確保に移れ。
帝国兵β隊了解。
フレン帝国兵か ! ? ユーリ、一旦下がるんだ ! !
アイフリード――行かねば。精霊たちを解放するために……。
ユーリおい、待ちやがれっ !
エステル精霊を、解放…… ?
リタエステル ! 何ぼぉーっとしてるの !帝国兵の奴ら、こっちにも来るわよ !
エステルは、はいっ !
ジュディス一通り片付いたかしら。
レイヴンけど、その間にパティちゃんは完全に逃げちゃったみたいね。
ユーリ……また追いかけっこの再開かよ。
ラピードクゥーン……。
フレンこの音…… ! みんな、また帝国兵だ !
リタこれ以上相手するのも面倒だわ。こうなったら……。ガキんちょ ! これ被って適当に追っ払って !それ以外の全員は近くの部屋に隠れるわよ !
カロルえっ、ちょっとリタ ?なんで兵士の兜なんて拾って……ってうわああああああっ !
ジュディス大丈夫。あなたならやれるわ。
カロルえっ ! ? なになに ! ?ちょっとみんな ! どこに行ったの ! ?暗くてよく見えないんだけど…… !
帝国兵βおい、侵入者たちはどうした。
カロルえ、え…… !あ、あっち ! あっちのほうに凄い速さで逃げていったよ ! !
帝国兵β了解。追跡を開始する。
カロル…………。
カロルひ、ひどいよリタ ! 急にあんなことさせるなんて !
レイヴンけど、お陰でこっちも余計な戦いせずに済んだじゃないの。
ユーリそうだぜ、カロル先生。お手柄だ。
カロルえっ ? そ、そうかなぁ~。って、リタ。さっきから何してるの ?
リタちょっと黙ってて ! 今大事なところだから…… !
エステル部屋で見つけた資料を読み始めてからずっとあの調子で……。
リタ……嘘。もし本当にこんなことをするつもりなら……。冗談じゃないわ ! !
エステルどうしたんです、リタ ! ?
リタどうしたもこうしたもないわよ !ここに置いてあった研究資料を読んでわかったわ !あいつら聖核を使って新しい精霊を創り出すつもりよ !
ユーリ精霊を創るだと ?
ジュディス…………。
フレン! すまない、みんな。アジトから連絡が入った。繋げるよ。
クラースフレン、至急伝えたいことがある。他のみんなは ?
フレン大丈夫です。全員一緒にいます。
クラースそうか。では、早速本題に入るが今、ティル・ナ・ノーグにいる精霊たちの力が活性化している。原因はアイフリードの覚醒だ。
リタアイフリードですって ! ? まさか…… !
エステルそういえば、先ほどパティが言ってました !精霊たちを解放する……と。
カロルってことは、もしかしてパティの身体の中にいたのはアイフリードだったってこと ! ?
クラース……やはり、帝国側の仕業か。聞いてくれ。こちらでも分かったことがいくつかある。
クラースまず、アイフリードには滄我の力が宿っているそうだ。それが原因で、シャーリィを通じて我々も情報を入手することができた。
エステル滄我の力……。もしかして、以前ウンディーネが言っていたことでしょうか…… ?シャーリィにはこの世界の海神と同じ力があると……。
クラースその通りだ。そして、このままでは精霊たちが暴走し世界は滅亡の危機に瀕することになる。この事態はなんとしても止めなくてはいけない。
クラースいずれにせよ、精霊だけでなくアイフリードの力も帝国は利用しようとしている可能性が極めて高い。パティ……アイフリードは帝国側にいるのか ?
フレンいえ……。帝国側の監視をすり抜けて逃走しています。
クラースそうか……わかった。きみたちは引き続きパティ……アイフリードの行方を追ってくれ。何か分かればこちらからも連絡を入れる。
フレンはい、了解しました。
ユーリ中身が誰だろうと関係ねえ。パティはオレたちの仲間だ。これ以上、勝手なことはさせてたまるか……。
エステル……ユーリ。
ジュディス行きましょう。このままだと、追い付けなくなるわ。
ユーリ……ああ。
バルド――これで最後です。はああっ ! !
コーキスすげえ ! ?
コーキスおおーい ! こっちは終わったぞ !
バルド――それはよかった。私も今担当分の装置を全て壊したところです。
メルクリアな、なんじゃと ?バルドはわらわたちより二つも多く担当していたではないか ! ?
ディストなるほど。大口を叩いただけあってとりあえず二人分程度の仕事はこなしてくれたようですね。
バルドナーザ様 !
ナーザ相変わらず荒事は得意だな、バルド。見ろ。光の柱が消えていく。
ディスト……何とかフリンジは阻止できましたか。まあ、私にかかればこんなものですよ!
コーキスえ? ディスト様は特に何も――
バルドいいえ、コーキス。フリンジ完成のタイミングを読めたのはディスト博士のおかげですよ。
コーキスそれもそっか! 案外やるじゃん、ディスト様!
コーキスな ! ? 今度はなんだ ! ? 地面が……揺れる ! ?
メルクリア突風まで吹き荒れてきたぞ ! !なんじゃ……これは…… ! !
バルド! ? ナーザ様 ! ! 上です ! !
ナーザなにっ ! ? あの火球は…… !
バルド伏せてください ! !あれは私が引き受けます !
ナーザよせっ、バルド ! !
バルド風刃・峰牙 ! !
メルクリアバルド ! !
バルドくっ…… ! ! はあああああっ ! ! ! !
ディスト消えた ! ? あの巨大な火の玉をあの男が相殺したというんですか ! ?
メルクリアじゃが、このままではバルドが地面に落下するぞッ ! !
コーキス俺に任せろ ! !
コーキスギリギリ間に合った ! おい、大丈夫か ! ?
バルド……コーキス。助かりました。ありがとう。
ナーザバルド ! !
メルクリア何という無茶をするのじゃ ! ?
バルド……着地する余力を残せなかったとは無様ですね。ナーザ様、メルクリア様……。不甲斐ないところをお見せして申し訳ありません。
ナーザ愚か者が ! 魔鏡戦争の時と同じではないか ! しかも俺はあの時とは違う。死者だ !俺がメルクリアを庇えばそれで事は済んだ !
バルド……フフ、愚か者はどちらかな、ウォーデン。きみがメルクリア様を庇って死ねばメルクリア様が心に傷を負う。
バルド僕はメルクリア様を守ると誓いを立てた。メルクリア様を守るということはきみを守るということでもあるんだよ。
バルド今度こそ……僕はきみたち兄妹を守る。必ずね。
メルクリアバルド……そなたは……。
ナーザ……うつけめ。
コーキスえ ! ? その光……メルクリアとボスのそれって……浄玻璃鏡か ! ?
ナーザシドニーから渡されていたサンプルか……。しかし何故今これが光る ?
コーキスそれはオーバーレイだよ !えっと……マスターがやってたオーバーレイの――
ナーザ元々我が国の技術だ。説明はいらぬ。しかし……今光ったということは……。
バルド……フフ。浄玻璃鏡が光るほどに私を案じて下さった。私の存在も、お役に立つということでしょうか。
ナーザ相変わらずふてぶてしい奴だ。
イフリート―――― ! !
メルクリア兄上様 ! あれは…… ! !
コーキス精霊 ! ? けど、なんか様子がおかしいぞ ! ?
ディストおそらく、暴走しているのでしょう。あのクレーメルケイジに何か仕掛けがあったのかも知れません。
ディストさっさと逃げるに限るのですがどうも簡単には見逃してくれないようですねえ……。
メルクリア兄上様 ! バルドから託されたわらわたちの秘められし力で――
ナーザよかろう。俺たちの手で精霊の暴走を食い止める !
メルクリアはい、兄上様 ! ! たとえ精霊であろうと我が臣下を傷つけた罪は重いぞ ! !
バルド……コーキス。我々も戦いましょう。
コーキス戦うって、火球を消したときの怪我は大丈夫なのか ! ?
バルドこの程度の傷、造作もありません。ディスト博士も、お力をお借りできますね ?
ディストまあ、いいでしょう。せいぜい足を引っ張らないことですね。
ナーザ死神――いや、薔薇殿もとんだお人好しのようだ。ならば、遠慮なく行かせてもらう !
ナーザ鎮まれ、荒ぶる精霊たちよ ! !

キャラクター13話【5-15 ファンダリア領 研究施設5】
ウンディーネ……ありが……とう……――。
コーキス精霊たちが……消えた ! ?
ディスト心配いりません。正気を取り戻したのですよ。暴走で力を使った分、休息をとっているのでしょう。
ナーザしかし……立て続けに無理をしたな。だが、肝心のデミトリアスの調査が終わっていない。メルクリア、動けるか ?
メルクリアわ、わらわは、大丈夫です !
ナーザ……とてもそうは見えぬな。
コーキスディスト様の椅子にメルクリアを乗せてやればいいじゃん。
ディストお断りです !
バルドメルクリア様は私が背負いましょう。
メルクリアそのようなこと、怪我人には頼めぬ !
コーキスだったら俺が――
コーキスうわ ! ? 静電気 ! ?バルド、痛くなかったか ?――あれ ? バルド ?
バルド……これは…… ?コーキスに触れた瞬間何かが……。
? ? ?尖兵よ。ようやく捕らえた。
バルド尖兵――この声は、バロールか ?
バロールの残滓察しがいい。それにしても、俺の尖兵となるのはあのナーザと名乗る男だと思っていたがな。
バロールの残滓頑ななまでに自らを死者と律しこちらに応えなかった。だがお前は違う。生きることに執着している。
バルド私が命を惜しんでいると ?
バロールの残滓心残りとでも言えばいいか……。喜べ尖兵。俺の魔鏡で滅びた命は俺の炎で具現化できる。
バルドそれは……まさかビフレストの民を甦らせることができるということか ! ?
バロールの残滓さあな。俺の魔鏡で失われたものにビフレストの民とやらが入っているならそうなのだろう。
バルドどうすればいい ! ?
バロールの残滓そう急くな。時間が必要だ。二枚目の俺の魔鏡を捜せ……――
メルクリア――バルド ! ? 大丈夫か ! ?
バルド……今のは……。
ナーザ何かあったようだな、バルド。詳しく話せ。
バルドは、はい。ですが、場所を移した方がいいかと。
ナーザそうだな……。ならば王宮へ向かうぞ。荒れていても休める場所ぐらいはあるだろう。メルクリアは私が背負う。
メルクリアあ、兄上様…… !
カーリャ・Nイクス様、小さいミリーナ様。陽動作戦は無事、順調に進んでいるようです。
イクスありがとう、ネヴァン。あとは、ユーリさんやディムロスさんたちがちゃんと施設内に侵入できたかどうかだな……。
カーリャまだ連絡は来ていませんしカーリャは少し心配です……。
ミリーナ大丈夫よ、カーリャ。ユーリさんたちなら、きっと上手くやってるわ。
イクスそうだな。よし、俺たちも次のポイントへ向かおう。
ミリーナええ、そうね……――……く…………っ。
イクスミリーナ ?
ミリーナご、ごめんなさい。少し立ち眩みしたみたい……。
イクス大丈夫か ? やっぱり、まだ転送ゲートを使った影響が残ってるんじゃないか ?
ミリーナううん、違うの……。なんだか……さっきから変な……あ……っ ! !
イクスミリーナ ! ?気を失ってる……。
カーリャミ……ミリーナ……さま……。
カーリャ・Nカーリャ ! ? もしかして、あなたにも何か影響が…… !
カーリャわ、わかりません…… !で、でも……カーリャもなんだか変な感じがするんです…… !
イクスカーリャが何か感じるってことは……ミリーナの心で、何かが起こっているのか ?
カーリャ・N……可能性は高いと思います。ですが、一体何が原因で……。
カーリャあの……ネヴァン先輩 !カーリャ、一度ミリーナさまの心の中に戻って原因を調べてきますっ !
イクスそうか ! カーリャならミリーナの心の中に入れるから……。
カーリャ・Nそれだけではありません。もし小さいミリーナ様の心に異変が起こっているのなら、カーリャの力で小さいミリーナ様の心を守ることができます。
カーリャだったら、尚更カーリャがミリーナさまを助けなきゃいけないじゃないですか !
カーリャ・Nそうですね……。今、小さいミリーナ様を助けられるのはカーリャだけです。
イクス頼む、カーリャ !ミリーナのこと、守ってやってくれ !
カーリャはいっ ! !
カーリャここがミリーナさまの心の中……。具現化した状態で入るのは初めてです。なんだか落ち着きます……。
カーリャって、落ち着いてる場合じゃありませんっ !早くミリーナさまが倒れた原因を調べないと…… !
ミリーナ……えっ、カーリャ ?
カーリャミリーナさま ! !うわああああ~ん ! ! ミリーナさまぁ~ ! !
ミリーナど、どうしたのカーリャ ?
カーリャだ、だって ! ミリーナさまが急に倒れるから……。そうだ、ミリーナさま ! ! 何ともないんですか ! ?
ミリーナえ、ええ……。私、目が覚めたらここにいて……。カーリャ、一体ここはどこなの ?イクスとネヴァンは一緒じゃないの ?
カーリャここはミリーナさまの心の中です !それで、ミリーナさまが倒れた原因が心の中で何か異変があったんじゃないかって……。
ミリーナ異変…… ?
? ? ?カーリャの言う通りだ。そして、その原因は私にある。
ミリーナ誰 ! ?
ゲフィオン久しいな、ミリーナ。こうして素顔を晒して喋るのは初めてか。
カーリャあわわわわ、あ、あなたは…… !
ミリーナ…………ゲフィオン ! ?
to be continued
キャラクター1話【6-1 アジト】
リフィル――イクス、イクス、聞こえて ?
リフィル………………駄目ね。あなたの魔鏡通信はどう ?
ユリウスこっちも繋がらない。イクスだけじゃなくカイルやユーリたちにもだ。
ジェイドどうやら魔鏡通信そのものが使えないようですね。他の計器にも異常が出ています。観測装置も役に立たない。
リフィルいったい何が起きているのかしら。さっきの通信では、ミリーナが突然倒れたと言っていたわよね。
ジェイドとにかく、通信が途絶える直前までの状況を整理しましょう。
ユリウスそうだな。まずイクスたちだ。
ユリウスパティ救出のために陽動部隊として動いているがミリーナが倒れたことで体制が崩れている。
ユリウスそのために、現在はおびき出した敵を相手に持ちこたえるのが精一杯で、今後立て直しが必要――とさっきの通信で聞けたのはここまでだった。
ユリウスレンズと魔核回収班のディムロスたちは突入後連絡なし。パティ救出班のユーリたちもクラースが精霊の件で連絡を取ったきりだ。
リフィル精霊ね……。まさかアイフリードが目覚めるなんて。
ジェイドそのことですが、計器類が止まる直前に精霊たちがセールンドに集まって大きな力になろうとしていたのを観測しています。
ジェイド精霊研究室のメンバーは、アイフリードの覚醒による暴走を疑っているようですが、果たしてそれだけなのか気になるところです。
リフィルそうね。もしかして魔鏡通信や計器の不調は精霊が原因なのかしら。
ジェイド可能性は高いでしょうが――
ジェイド……まあ、今は精霊専門家たちが検討しているところです。見解を待ちましょう。
リフィルジェイド、また悪い癖が出てるわよ。何か言いかけたでしょう。
ジェイドおや、そうでしたか ?改めようと努力はしているのですが。不出来な生徒ですみません、リフィル先生♪
リフィル誤魔化さないでちょうだい。それと何度も言うけどあなたを生徒に持った覚えはありません。
ジェイド手厳しいですねぇ。今は推測よりも、確実な情報だけを追った方がいいと思いますよ。
ユリウス現状把握とは別にして考える。聞かせてくれ。
ジェイドユリウスもですか。二人が相手ではさすがに分が悪い。仕方ありません。
ジェイド以前にも同じように魔鏡通信が繋がらなくなった時のことを覚えているでしょう。
ユリウスああ。あれはイクスからあふれた力が結晶化してノイズになったことが原因……。
二人……あっ ! !
ジェイドそういうことです。もしかすると今回のノイズは――
アニスお邪魔しまーす。大佐、ちょっといいですか ?
ジェイドアニス、イオン様。どうしました ?
イオン取り込み中のところをすみません。ついさっき、ローレライの声を聞いたのですが内容が不穏なものなので報告に来たんです。
ジェイド……詳しく聞かせてください。
イオンはい。イクスたちがパティを救出している土地の周辺にクロノスの力が集まりつつあるというんです。
ユリウスクロノスだと ! ?
イオンええ。しかもその場に近づけるのは精霊かもしくは、近しい力を持つ者だけのようです。
イオンそしてそこでは、何か『恐ろしいモノ』が生まれようとしていると……。
ユリウス確かに不穏だな。イクスたちがいるなら間違いなくファンダリア領だろう。
ジェイドええ。ですがもう少し場所を絞りたい。イオン様、他に何か分かりますか ?
イオン周囲は平原らしいのですが、僕には土地勘がないもので正確な場所までは……すみません。
アニスイオン様が謝ることないですよぉ。どう考えてもローレライの説明不足ですって。
イオンそれだけならいいのですが。ローレライの様子がいつもと違う気がして……。
ミラ=マクスウェルローレライも精霊だ。暴走の影響を受けているのかもしれないな。
ユリウス君たちか。丁度いいところに来てくれた。
ユリウス計器類がやられてしまってね。全体への通達もままならないところだよ。
クラースやっぱりな。イクスたちに連絡しようとしたら魔鏡通信が使えなくなっていた。
リフィル観測機器も役に立たないからあなたたちの感覚が頼りよ。何か感じた ?
ライラ先ほどよりは少し落ち着いたように思えますが異様な気配は変わりません。
ライラ私だけではなく、ラタトスクさんや、ミラさんのようにこの世界の精霊と同一化していない精霊や天族は皆さん同じ気配を感じています。
ミラ=マクスウェルああ。それに四大も消えたまま戻らない。
クラースセルシウスもだ。アイフリードの覚醒の他にも何か要因があるのかもしれん。
ジェイドその件と関わりのありそうな報告を受けたところです。どうやらファンダリア領で――
ミラ=マクスウェルなるほど。恐ろしいモノ、か……。
クラース確かめに行きたいところだが精霊か、それに近しい者しか近づけないとなるとな。
ミラ=マクスウェル何を悩む必要がある。私たちが行けばいい。精霊の気配を辿れば場所もわかるだろう。
ライラそうですね。それにイクスさんたちも苦戦しているようですから、いざとなれば援軍にもなれます。
クラース馬鹿を言うな。魔鏡通信が使えない中で精霊の君たちが帝国に向かうのは危険だ。
クラース……と、言いたいところだが今回ばかりは仕方がないか。四大のことも心配だろう。
クラースそれに、精霊の力による『恐ろしいモノ』の誕生など何より君たちが望んでいないはずだからな。
ミラ=マクスウェルさすがクラースだ。私たちのことをよくわかっているな。
クラースおかげで振り回されっぱなしだよ。
リフィルでは、ライラたち天族とミラを中心に仲間を募ってファンダリアへ向かってもらいましょう。それでよくて ?
クラースああ。それとセネルたちにも話をしてくる。シャーリィからの話だと滄我はアイフリードと共鳴しているようだからな。
リフィルそうね。もし彼らも動いてくれるなら心強いわ。それとセールンドの調査も必要ね。そちらへは……。
ユリウス待ってくれ。俺もファンダリアへ行かせてくれないか。
リフィルユリウスも ?
ユリウスみんなには行動を控えろと言っておいて何だが今回はクロノス絡みだ。
ユリウス何か起きるというなら……取り返しがつかなくなる前に阻止したい。
イオンだったら僕も同行しましょう。ローレライが何か伝えてくるかもしれませんし。
ジェイドいいえ、イオン様には留守番をお願いします。
アニスですね。そうじゃなくてもオールドラント領に行ったばっかりなんですよ。……無理してほしくありません。
イオン……わかりました。では大人しくしています。僕もアニスが悲しむ顔は見たくありませんから。
アニスはぅあ ! ちょっと何言い出すんですかぁ ! ?
ジェイド闇属性には眩しすぎる笑顔でしたねぇ。アニス。
アニス誰が闇属性か ! バリバリの光属性ですよ !
ジェイドそんなことを言うと、テネブラエが出てきて凄まじい勢いで闇属性の押し売りをされますよ ?
リフィル……テネブラエ、ね。丁度いいわ。セールンドの方も精霊絡みだし、あちらの調査にはテネブラエやラタトスクたちに行ってもらいましょう。
リフィルでは各々準備をして。魔鏡通信が回復する見込みが立たないからみんな無理はせず、気を付けて行動するのよ。

キャラクター2話【6-2 ケリュケイオン】
マークよし、ファンダリア領上空だ。なんとか待機ポイントまで無事到着したな。
マークアイゼン、地上の様子を確認したい。少しづつ高度を下げられるか ?
アイゼンああ。ガロウズ並みとまではいかないが手動操縦にもだいぶ慣れてきた。
マーク無茶言って悪いな。計器類が死んじまってんのに。
マークせめて、魔の空域に入った時みたいに自動操縦が少しでも生きてりゃサポートに使えたんだけどな。
シンクああ、あのサイアクな胴体着陸をやらかした時か。今回は絶対やめてよね。
アイゼン何を言う。あれは最高の結果だった。死人もでなかったしな。この際だ。胴体着陸を究めるのもいいかもしれん。
ゼロスなに言ってんの ! ?妙なところで凝り性発揮すんなって !
アイゼン心配するな。冗談だ。
シンクアンタって、笑いのセンスがないって言われたことあるんじゃない。
マークははっ、 みんながいつも通りで安心するぜ。ケリュケイオンがシステムダウンした時にはさすがに焦ったからな。
クラトス先ほど様子を見てきたが、艦内の混乱はローエンが上手く収めてくれている。こちらも問題ないだろう。
ヴィクトルふっ、ローエンなら朝飯前だろう。後はフィリップとガロウズが原因を究明してくれれば――
フィリップすまない、待たせたね。
マーク噂をすれば、だ。どうだ、原因はわかったか ?
ガロウズいや、機器類に物理的な問題はなかった。ビクエ様にも確認してもらったから間違いない。
フィリップ多分、何か大きなエネルギーが干渉しているんだ。それも複数の要素が絡み合っている。この状況だし、今すぐに解析するのは難しいね。
マークじゃあ、魔鏡通信も使えないままか。参ったな。
ゼロスどうするよ、マーくん。ユリウスが送ってきた計画書どおりには動けねえぞ ?
ヴィクトル潜入したディムロスたちからの合図で共にレンズと魔核を回収する手筈だったな。
マーク……仕方ねえ。こっちが独自で動くことも考えて準備するか。
アイゼン! !おい、お前ら、下を見ろ !
マーク帝国兵と反帝国組織の連中……陽動部隊だな。……っておいおい、帝国側に押されてんじゃねえか !陽動どころか、あのままじゃ攻め込まれて全滅だぜ ! ?
クラトスイクスたちが指揮をしている筈だが二人に何かあったのだろうか。
フィリップ陽動部隊を助けに行く。マーク、降下準備を !
マーク了解 ! どっちにしろ、このまま空にいたってディムロスたちとは連絡がとれねえしな !
ディムロスここにもない、か……。
シャルティエあちらの保管庫も同じでしたよ。レンズは僅かしか残っていません。
ディムロス恐らくほとんど使われてしまったのだろう。
シャルティエあんな大量のレンズを何に使ったんでしょうね。嫌な予感がするなぁ……。
ディムロスそれにしても妙だ。先ほどから魔核がまったく見当たらない。使い残したレンズはあるのに、おかしくはないか ?
シャルティエかけらも残さず使い切った……というのは少々無理がありますよね。他の場所に運ばれているんでしょうか。
ディムロスそうだな……よし、探すぞ。
シャルティエ待ってください。今からまた他の場所を探すんですか ?時間がかかりすぎなんじゃ……。ずっと救世軍を待機させとくつもりですか ?
ディムロスやむをえまい。私たちが敵陣で自由に動けるのは陽動部隊が兵を引き付けている今しかないのだからな。
シャルティエそれはそうですけど……。
ディムロスでは救世軍への連絡を頼んだぞ。私は先行して探索を進めておく。
シャルティエ……別の場所だなんて余計なこと言っちゃったかなぁ。連絡もな……計画変更して文句言われないかなぁ……。あっちにはバルバトスもいるし……。
シャルティエあれ ? 魔鏡通信が通じない……。
? ? ?グルルルルル !
ディムロス待て ! それは――
シャルティエどうしたんです、ディムロス !
ルキウス ?なんだ、他にも仲間がいたんだね。
アリエッタ誰……ですか ? 仕事の邪魔、しないで !
シャルティエ魔物 ! ? それにあれは……魔核 ! ?
ディムロスシャルティエ、お前の言ったとおりだった。彼らが魔核を運び出していた !
陽動部隊本陣 仮設砦
カーリャ・Nイクス様、小さいミリーナ様をこちらへ !
イクスありがとう、ネヴァン !
カーリャ・Nまだお目覚めになりませんね。小さいカーリャはどうしているのでしょう……。
イクス信じて待つしかないよ。今のうちに陽動部隊の立て直しを考える。
カーリャ・Nでしたら、私は前線に戻ってイクス様の指示が出るまで時間を稼ぎます。
カーリャ・Nこの砦はしばらく安全かと思いますがくれぐれも気をつけてください。今は魔鏡通信も使えませんので。では、私は――
イクスちょっと待ってくれ。気になったんだけどミリーナのことが切っ掛けとはいえ戦況の覆り方が異様に早くないか ?
イクス敵の数が、あの研究所に配備されていた人数よりも増えている気がするんだ。
カーリャ・Nそう言われてみると……。
陽動部隊隊員伝令 ! 皆さんが探していたパティという少女がこの先の森で目撃されたそうです !
イクスパティが ! ? なんでこんな所に…… !
カーリャ・Nどうしましょう、私が追いますか ?
イクス(……ここでネヴァンを行かせたら、戦力が分散して立て直しどころじゃなくなる。でも……)
ミリーナ……うっ……。
カーリャ・Nミリーナ様 ! ?イクス様 ! ミリーナ様の様子が !
イクスミリーナ !くっ……せめて応援を呼べたら…… !
フィリップイクス、ここにいたのか。みんな無事かい ! ?
イクスフィル……さん ? どうしてここに…… !
マークどうしてって、助けにきたんだよ。なんだ、呆けたツラして。
イクスいや……まるで俺の声が届いたみたいで……驚いた。
カーリャ・Nマーク、よく来てくれましたね。
マークパイセン、ミリーナはどうしたんだよ。誰かにやられたのか ?
フィリップ状況を聞かせてくれ。僕たちが協力する。
イクスは、はい ! さっき突然、ミリーナが倒れて――
フィリップ……わかった。救世軍の戦力を一部こちらに回そう。マークはイクスに協力して。
マーク了解。イクス、采配はどうするよ。今回はお前に従ってやるぜ ?
イクス俺とマークでパティを追いかけよう。軍隊を動かすのは正直俺よりネヴァンの方が信頼できる。
イクスネヴァンには、戦線を維持しながら陽動部隊の指揮をして欲しい。当初の目的どおり敵を引き付けられればそれでいいから。
カーリャ・N承知しました。あの、小さいミリーナ様のことは……。
イクスあの、フィルさん、お願いがあるんですけど。
フィリップわかっているよ。ミリーナのことは僕が請け負う。魔鏡術でミリーナの心の中にアクセスしてみよう。
イクスありがとうございます。魔鏡術のことはビクエであるフィルさんが一番信頼できます。ミリーナのこと、お願いします !
フィリップ……信頼してくれるんだね。こちらこそ、ありがとう。
イクスよし、行こう、マーク。

キャラクター3話【6-3 ファンダリア領 森1】
フィリップさて……始めようか。ミリーナ、カーリャ、聞こえるかい ?
フィリップっ ! ? 術が拒絶された…… ?これほどの力がミリーナに……そんな筈は……。
フィリップ――まさか !
カーリャふえ~ゲフィオンさまの顔本当にミリーナさまとそっくりです。
ミリーナ……ずっとあなたと話がしたいと思っていたわ。ゲフィオン。
ゲフィオン……そうであろうな。
ミリーナゲフィオン、どうして私はこんなことになっているの ?さっき、原因はあなたにあるって――
ミリーナ今のは ! ?
カーリャきゃああああっ ! !
二人カーリャ ! ?
ミリーナカーリャ、どこに行ったの、カーリャ !
ゲフィオンこれは……。
ミリーナゲフィオン、カーリャが消えてしまったわ。どうして ! ?
ゲフィオン恐らく『ミリーナ』が『ミリーナ』だけではなくなったせいかもしれない。
ゲフィオン何らかの外的要因でミリーナとゲフィオンの境界が徐々に曖昧になっているのだろう。
ゲフィオンお前が倒れたのも、私がここにいるせいだ。
ミリーナそれじゃ『私のカーリャ』はもう私の中にはいられないの ! ?
カーリャいたたた……。なんですか、今の……。
カーリャへ…… ? ここってセールンド…… ?もしかして、ミリーナさまの心の中から追い出されちゃったんですか ! ?
カーリャあわわわわ……どうしよう……。ミリーナさまー ! カーリャの声、聞こえますかー ! ?
コーキスパイセン ? やっぱパイセンじゃねーか !
カーリャコーキス ! ? なんでここにいるんですか ! ?
コーキスそりゃこっちのセリフだぜ。休憩場所探してたら、パイセンの声が聞こえてさ。
メルクリアコーキス、どうしたのじゃ。誰ぞそこにいるのか ?
バルドおや、その可愛らしい姿、カーリャではありませんか。もしやミリーナさんもここにいるのですか ?
カーリャバルドさま~~~っ !違うんです ! カーリャだけここに飛ばされてしまったんです……。
ナーザ飛ばされた ? 鏡精、何があったのか話してみろ。
コーキス――なんだよそれ !めちゃくちゃ大変なことになってんじゃねーか !
バルドナーザ様、確認しました。やはり魔鏡通信は使えません。
バルド残念ですがカーリャ、イクスさんたちに連絡を取るには直接向かうしかないようです。どうか、気を落とさずに。
カーリャバルドさま、イケメンな上に優しいです……。手も温かくて……――え ! ?なんでカーリャの手を握れてるんです ! ? 生身 ! ?
バルドええ。これからは文字通り、この体を張ってあなたを守ることもできますよ。可愛い人。
カーリャ……あわわわわわ ?色々起こりすぎて、頭がついていきません……。
コーキスつーか、バルドもいつまでパイセンの手握ってんだよ !
バルドこれは失礼。カーリャを元気づけようとしただけですよ。他意はありません。
ナーザはぁ……。鏡精、お前がここに飛ばされたのはミリーナがゲフィオンに近づいた瞬間で間違いないのだな ?
カーリャそうですけど……それが何か ?
ナーザ二人が近づくほど、片方が作った鏡精が異物として扱われている。ということは……。
ディスト同化している可能性がありますね。経年による肉体的な差異はあれど存在は完全同位体のようなものですから。
カーリャ同化って、つまりミリーナさまとゲフィオンさまが一つになっちゃうってことですかあ ! ?そんなのダメですよう !
カーリャ早くミリーナさまの中に戻ってミリーナさまを守らないと !
コーキスなあ、どうにかパイセンをミリーナ様の中に戻せないのか ! ?みんな、俺より頭いいじゃんか !
メルクリア落ち着かぬか、コーキス。むしろ、同じ鏡精であるお前でこそわかることがあるのではないのか ?
コーキスそりゃそうだけど、俺はパイセンと少し違う……ってあれ ? そういやパイセン、なんで消えないんだ ?ミリーナ様はファンダリア領にいるんだろ ?
カーリャはっ、そういえば !いつもこれだけ離れたら消えちゃう距離なのに。
ディスト鏡精には間抜けが多いのですねぇ。ここにゲフィオンがいるからですよ。
カーリャへ…… ?
ナーザそうか。お前は今、このカレイドスコープの間にいる人体万華鏡になったゲフィオンの力で存在しているのだろう。
ナーザゲフィオンとミリーナの力は混じっているようだからな。
ディストそれを踏まえれば、その小さなおつむでもあなたがセールンドに飛ばされた理由がわかるでしょう。
カーリャゲフィオンさまを通じてここに出た…… ?じゃあ、反対に戻れるかもしれませんよね ! ?
コーキスよーし ! 試してみようぜ、パイセン !
カーリャむむむむむ~……。
コーキスどうだ、いけそうか ?
カーリャ……だめでした。やっぱり入れません。もうこうなったら自力で飛んで帰ります !
ディストさて、その小さな体で、どれほど時間がかかるやら。
カーリャう……。
ラタトスクチッ……妙な面子が揃ってるな。ここで何をしている。
マルタコーキスにカーリャまでいるじゃない。驚いた !
メルクリアアステル ! ? 何故アステルが鏡士の郎党と共に……。
エミルあ、ええと……それはね……。
メルクリアいや、待て。そうか……。リヒターが話していたエミルとラタトスクとやらか……。
エミルそうか……。リヒターさん……僕らのこと話してくれてるんだ……。
コレットねえ、カーリャ、どうしてここにいるの ?ミリーナが大変だって聞いてたけどもしかして、ミリーナもセールンドに来てるの ?
カーリャコレットさま……。
カーリャ――ああああああ ! !そうだ ! そうですよ ! コレットさまなら !
コレット

キャラクター4話【6-4 ファンダリア領 森2】
マークいたぞ ! あいつで間違いねえよな !
イクスああ !――パティ、俺だよ、イクスだ ! 助けに来た !
アイフリード来るな !
マーク危ねえ、イクス !
マークうわっ ! !
イクスマーク ! ?
マークっ……大丈夫だ……いいからパティを追え !すぐに追いつく !
イクスわかった !
アイフリード……まだ追ってくるか ! 仕方がない。
アイフリード私は捕まるわけにはいかぬ。確実に足止めさせてもらうぞ。
アイフリード檻から解き放たれたばかりですまない。四大よ ! ここへ !
イクスなにっ ! ?
イクスうわああああっ ! !
アイフリード……なるほど、四大ほどの力を持つ精霊たちでもこの程度の威力か。まだ回復しきれぬのだな……可哀想に。
アイフリード精霊たちに、負担をかける訳にはいかない。これ以上、私に力を使わせるな。
イクスくっ……。四大精霊を操っていた…… ?それじゃパティはもう、心核を……。
イクスだったら、絶対に……連れ戻す…… !
アイフリード動くな ! 本当に命を落とすことに――
? ? ?シャイニングスピア。
アイフリードっ ! ノーム !
エルレイン……精霊で防いだか。アイフリードであれば当然だな。なるほど、では貴様はこの世界の海神ナーザ・アイフリードか。
イクスなんでここにエルレインが…… ?
エルレイン異世界の神よ。その体を渡すことはできぬ。返しなさい。
マークイクス、無事か ! ? って、エルレイン ! ?
アイフリードウンディーネ ! イフリート !
全員! !
マーク逃げられたか ! ……くそっ。
エルレイン邪魔をしてくれたな。ジュニアの鏡精。
マークジュニア ? 期待にそえなくて悪いな。俺はおっさんフィリップの方の、鏡精マークだよ。
イクスエルレイン……さん。助けてくれてありがとうございます。
エルレインお前が鏡士イクスか。
エルレインその傷は浅くはない。鏡精共々、ここで大人しくしているがよい。
イクス待ってください ! パティの中にいるのはアイフリード――ナーザ神なんですね ?
エルレインそうだ。このようなことにならなければこの世界は今頃、あの娘に降臨するはずであった我が神フォルトゥナによって救われていたであろう。
イクスあなたが、パティを ! ?
マークイクス。
イクス……ああ、わかってる。聞いてください、エルレインさん。
イクスもし、帝国がフォルトゥナ降臨を計画したのなら帝国はエルレインさんを、その……利用しているだけ……だと思う。
イクス神降ろしが失敗したのはわざとそうさせられたんじゃないでしょうか。
エルレイン……なぜそう思う。
イクスエルレインさんは、この世界を救うと言いました。でも俺たちの知っている帝国の計画は正反対だ。
イクス帝国の真の目的は、ティル・ナ・ノーグ以前にあったニーベルングという世界の復活です。
イクス滅んだニーベルングのレプリカを造り今の世界と置き換える。つまり――ティル・ナ・ノーグは滅ぼされます。
エルレイン……そうか。やはりな。
イクスってことは、信じてくれるんですね。だったら、俺たちと一緒に――
エルレインいや、私にはすべきことがある。お前たちには、これを預けておこう。
イクス……心核 ?
エルレインあの娘のものだ。今は休眠状態にある。しかし鏡士ならばその心核を目覚めさせ、娘の中に戻すこともできよう。
イクスもしかして、あなたはパティを救おうとしていたんですか ?
エルレイン救済は全てに等しく与えられるもの。その一つだと思いなさい。
イクス待ってください、エルレインさん !……痛っ !
マークここまでだ、イクス。今の俺たちにはあいつらを追う力も余裕もねえ。砦に帰るのが精一杯だ。
イクス……ああ。
ディムロス――その魔核をどこに運ぶつもりだ。
ルキウス ?困ったな。事を荒立てたくないんだけど。
アリエッタ早くしないと、敵の陽動作戦、終わっちゃう……です。
ディムロスなんだと ! ?
ルキウス ?アリエッタ、余計なことを言うな。
アリエッタご、ごめんなさい……。
ルキウス ?まあいいよ。こっちも鏡士たちの陽動を逆手にとってずいぶん楽に魔核を運ばせてもらったからね。
シャルティエ知ってたっていうのか……全部。
ルキウス ?そうだよ。お前たちが仲間の救出に集中していたから邪魔をされずに済んだ。
ディムロスだが今は違う。魔核はこちらに渡してもらうぞ。行くぞ、シャルティエ !
シャルティエ了解 !
アリエッタ絶対に渡さない……です !みんな、やっつけて !
シャルティエくっ、どこからこんなに魔物が…… !これじゃ魔核に近づけない !
ディムロス魔物を操っている少女を先に抑えろ !
ルキウス ?……これだけ魔物を出しても、まだやる気なんだ。仕方ないな。
ルキウス ?お前たち、ここまで楽に魔核を運ばせてもらったお礼にいいことを教えてあげるよ。
ルキウス ?お前たちの陽動はバレている。だから今、帝国は次々に兵士を増員しているんだ。
ルキウス ?想定以上の敵が現れたら、お友達は驚くだろうね。もしかしたら、もう配備されているかもしれない。
二人! !
ルキウス ?それでもこのまま魔核を追うのかな ?それとも今の情報を持って仲間を救いに行く ?好きな方を選ぶといいよ。
ディムロス…………シャルティエ、行け。
シャルティエディムロス ! ? 信じるんですか ! ?
ディムロス嘘だと言い切れまい。
ディムロス救世軍でも、イクスくんたちでもいい。お前はとにかく情報を広めろ。私は魔核を追う。
シャルティエでも…… !……いえ、了解です。無事でいてくださいよ !
ルキウス ?どっちも選ぶなんて欲張りだね。それが命とりになるかもしれないよ。
ディムロス生憎だが、全員生きて帰るのが信条だ。――行くぞ !

キャラクター5話【6-5 ファンダリア領 研究施設】
ディムロス炎牙昇脚 !
魔物グルルルル……。
ディムロス(どうしたことだ、魔物が引いて行く…… ?)
ディムロス――っ !あの少女たちはどこに行った ! ?
ディムロス(転送魔法陣か。まだ完全に消えてはいないな。ならば――)
ディムロス逃しはせん !
シャルティエやっぱり魔鏡通信が通じない……。なんでこんな時に !
シャルティエ……考えている暇はない。砦へ向かおう。
ヴィクトルいたぞ、シャルティエだ。
クラトスすまぬ、待たせたようだな。
シャルティエ救世軍の皆さん ! 連絡が取れなくて困ってたんです !
ゼロス今は魔鏡通信が使えないんだよ。つーわけで、直接出向いてきぜ。
シャルティエよかった ! 各陣営に伝えてください。今回の作戦、帝国側にばれているんです。
ヴィクトルなんだと ?
シャルティエ今も兵を増員して送り込んでいるとの話もあります。そうなるとこちらは数で敵いません。
ゼロスマジかよ ! 陽動部隊が押されてたのもそれが理由かもしれねえな。
シャルティエ陽動部隊が ! ?あいつの話は嘘じゃなかったのか……。
クラトスわかった。イクスたちには私が報せに行こう。ゼロス、お前はケリュケイオンへの連絡を頼む。
クラトスそれで、レンズと魔核は見つかったのか ?ディムロスがいないようだが。
シャルティエすみません、報告が遅れました。レンズはほぼ使用されていて、魔核は別の場所へ運び込まれている最中です。ディムロスが奪還に当たっています。
ヴィクトル一人でか。
シャルティエええ。僕は増員の情報を皆さんに伝えるために一時離脱しました。すぐにディムロスの所へ戻るつもりです。
ヴィクトルそうか。ならば私も共に行こう。
シャルティエお願いします !
アイフリード精霊たちは幾分か落ち着いたようだが……。この辺り……気配が……。
グラスティンヒヒッ、何かお探しかな ?
アイフリード……誰だ。貴様も私の邪魔をするのか。
グラスティンとんでもない。これを渡そうと思ってな。
アイフリードそれは……ダーナの心核 !
グラスティンそう、その欠片だ。大事なものだろう ?
アイフリードなぜそんなものを !ダーナは心核を傷つけられているのか !
グラスティンまあまあ、まずはこれを返そう。ほら。
アイフリード…………。
グラスティンなんだ、いらないのか ?
アイフリード……何を企んでいる。
グラスティンそうだよなぁ。疑うのも無理はない。特別サービスだ。説明してやろう。話せば長くなるんだが――……っと、ここで終わりだ。
グラスティンもう、準備が整ったからなぁ ! !
アイフリードなっ ! うああああっ ! ?
グラスティンお前のために作ったクロノスの【魔鏡陣】さ。よく味わってくれよ ?
グラスティン発動までに少々時間はかかったが……ダーナの心核の欠片がいい足止めになったな、ヒヒヒッ。
ライラあれは……パティさん ! ?
グラスティンあぁ ? なんだお前たちは ?
エドナ答える必要あるのかしら。
グラスティンああ、お前たちは天族か。この一帯は精霊しか入れないようにした筈だがお前たちは精霊みたいなものだったなあ。
ミラ=マクスウェルグラスティン、何をするつもりだ !
グラスティンほう ! これはこれは、異世界のマクスウェル。
ミュゼなんなの、あなた。ミラに近づかないで !
グラスティンしかも、そこにいるのは『あの時』のお嬢さんじゃないかあ。ヒヒヒ、大盤振る舞いだな。
シャーリィっ !
グラスティン人間のお兄ちゃんは一緒に入れなかっただろう ?だが寂しがることはない。俺が相手をしてやる。
ザビーダ俺の後ろに下がってな、お嬢ちゃん。こんなゲス野郎のツラ見てると目が腐っちまうぜ ?
シャーリィありがとうございます。でも、それよりパティさんを !
ルドガー兄さん、パティを捕らえている魔鏡陣……あの中に集まっている力は――
ユリウスああ、感じる。クロノスの力だ。
シャーリィそれに、あの陣に配置されているのは聖核です。間違いありません。
ユリウスグラスティンは、ただアイフリードを捕らえているだけではないようだ。
ミクリオだったら、あいつを倒すより魔鏡陣を消すのが先だな。解除するには――
エドナぐだぐだ言ってないで、ぶっ壊せばいいでしょ。――ロックランス !
ミクリオ効いてない…… ?
グラスティンこの魔鏡陣はな、その程度の術でどうにかなるものじゃないんだよ。ヒヒヒ。
グラスティンさて、そろそろ頃合いのようだ。今回は特別に見物を許してやろう。
ルドガークロノスの力が凝縮していく !
ユリウスこれほどの力が集まるだと…… ! ?ルドガー、今は骸殻を使うなよ !……念のためだ。
ルドガー兄さん ?
グラスティンくくく、今までとは段違いの速さで吸収できるはずだ。いいぞ、どんどん食って成長しろ。
ミクリオクロノスの力が聖核を包み込んでいるのか ! ?
ライラ『成長』と言っていました。もしこれが、これから生まれようとしている『恐ろしいモノ』なのだとしたら…… !
ザビーダ冗談じゃねえ。んなもんお出しされたって受け取り拒否だっての !――おりゃあっ !
グラスティンくっ、ヒヒヒ……。いいぜ、今のうちだ。こいつが完全に完成したらそんな風に抵抗することもできなくなるだろうよ。
グラスティン大人しくなった頃にお前たち全員『材料』として持ち帰ってやるよ。
ミュゼ本当に嫌な人。あなたにだけは、死んでも使役されたくないわね。
グラスティンヒヒヒ。さあ、一緒に祝ってくれ。【鏡の精霊】の誕生をなぁ !

キャラクター6話【6-6 ファンダリア領 街道1】
セネル……まだか。遅いな。
スレイシャーリィのこと、心配だよな。贄の紋章もあるし……。
アルヴィン精霊様たちが勢ぞろいでご出陣なんだ。何かあったって、どうにかしてくれるだろ。
ティポアルヴィンはイイカゲンだな~。
アルヴィン『いい加減』か。お褒めの言葉、ありがとよ。
エリーゼアルヴィン、自分に都合よく受け取りすぎです !
アルヴィンうは、おっかねぇ。とにかく、それくらいでいた方が落ち着いて行動できるぜ、セネル。
セネルそうだな。ありがとう、アルヴィン。
スレイけどさ、クラースさんは、無理に出陣しないでアジトでサポートしてくれればいいって言ってたんだろ ? なのにシャーリィはなんで……。
セネルいつ滄我の声が聞こえるかわからないからなるべく精霊のみんなと一緒にいてすぐに言葉を伝えたいんだってさ。
エリーゼシャーリィは責任感の強い人ですね。
ティポマジメすぎて、ユーヅーきかないね~。
セネルははっ、そうだよな。意外と頑固なんだよ。グリューネさんは、ちゃんと待機してくれてるのにさ。
レイアそういえば、エルは今回大人しかったね。いつもはルドガーにお留守番って言われると少し拗ねてたじゃない ?
ジュードミラさんが一緒に留守番してるからね。エルも安心できるんだと思う。
ジュードそれよりも妙なのはユリウスさんだよ。ルドガーが一緒に行くことを渋ってたから。
ガイアス……ユリウスにはクロノス絡みで気掛かりなことがあるのだろう。
レイアなんかルドガーたちって、ちょっと特別っぽいよね。わたしたちはこの先から入れなかったけどミラたちと一緒に進めちゃったし。
全員! !
ジュード今、何か変な感じが……。
レイアねえ、みんな ! この先に進めるようになってるよ !
スレイオレたちも近づけるようなったのか ! 行こう !
スレイこれ……どうなってるんだ ! ?
ミクリオスレイ ! 入れたのか !
グラスティンはぁ……はぁ……、結界が……弱まっちまったか……。だいぶやられたからな………。
セネルグラスティン ! 貴様 !
グラスティンだが……ここからだ……ヒヒヒ……。
ルドガークロノスで回復する気だ !
セネルさせるか ! うおぉおおおっ ! !
グラスティンぐはっっ……、はは、これは効いた……。けどな……もうすぐ……もうすぐ……………… ?
全員
グラスティンなんでだ……クロノス……… !早くしないと…………本当に………… !
ガイアスもしや、クロノスの精霊装が作用してないのか ?
ユリウスだとすれば回復はできない。こいつはこのまま――
グラスティンなぜ戻らない……いや………もう、いい……。これくらいの痛みならまだ………………。
ジュード無理だよ。その傷ではもう……。
グラスティン黒髪…… ! ? 俺のだ……俺のもの…… !
ミラ=マクスウェルお前のものじゃない。この世界の誰もがな。
グラスティンどけよぉ…………俺の……黒…………俺の……フィ……………………………。
ユリウス……こいつも終わりか。
ザビーダちっ、しつっけえ奴だったぜ。
シャーリィパティさん ! しっかりしてください !
ジュードあ、待って ! 今はそのままにして。目が覚めた時に、どうなるかわからないから。
ラピードワン、ワンワン !
ユーリおい、お前ら !
ルドガーユーリたちだ ! みんな、早くこっちへ !
ユーリ一体何を――って、こいつは…… ?
セネルグラスティンだ。……死んだよ。
フレンどうなってるんだい ? ここで何があったんだ。
カロルねえ、こっちにパティが来なかっ………パティ ! ?
エステルパティ ! 良かった、無事だったんですね !
フレンエステリーゼ様、用心を。今のパティはアイフリードですから。
ユリウスそのことだが――
シャーリィあっ、パティさんが目を開けました !
ラピードグルルルル……。
? ? ?――出でよ。
全員! ?
カロル今地面から出てきたあれ……魔鏡 ! ? 凄くでっかい !
ミラ=マクスウェルなんだ……この感覚は…… !
ミュゼ意識を強くもたないと……、頭が……。
シャーリィあっ、パティさん !
エステル待ってください、行っちゃ駄目です !パティー ! !

キャラクター7話【6-7 ファンダリア領 街道2】
エリーゼ今の……何なんですか……。
ティポパティがおっきな魔鏡を作ってその中に入って消えちゃったよー !
アルヴィンおい ! 精霊のお歴々、大丈夫か !
エドナええ……もう何ともないわ。あいつが消えたせいかも。
ミクリオ嫌な感覚だったな……。心も体も囚われてしまうような……。
ライラパティさんはどこへ消えたのでしょう。
カロルさっきの巨大魔鏡に景色が映ってたよ。あれは、ファンダリア領の帝国軍基地だったと思う。
ジュディス単純に考えれば、そこに行ったんでしょうね。
レイヴンしかし何よあれ、アイフリードってのはあんなことまで出来ちゃうわけ ?
ルドガー……パティは今、アイフリードじゃないと思う。
レイヴンえ ? んじゃ、どうなっちゃってんのよ !
ユリウスグラスティンは【鏡の精霊】と言っていたな。
フレン鏡の精霊 ? 聞いたことがないな。
リタ……ちょっと、この術式の跡なによ。
ユリウスあの男曰く【魔鏡陣】だそうだ。陣の中には聖核がいくつも配置されて、クロノスの力が集まっていた。パティ――アイフリードは、そこに囚われていたんだ。
ユーリ聖核と精霊っていや……おいリタ。
リタ……聖核が複数で、となるとこの術式は……。…………嘘でしょ、なんでこんなのが成立するのよ。
リタだとしたら、この世界ではエンコードに関わらずマナもエアルも区別がないってことになるじゃない !循環がないから法則が無視できるっての ?
カロルちょ、リタ ! なに言ってるかわかんないよ。
リタさっきの施設で研究資料を見つけたでしょ。パティは新たな精霊として創られたのよ。あいつのいう【鏡の精霊】にね。
全員っ ! !
エステルで、でも戻せますよね ?リタなら何か方法を見つけられるはずです !
リタ何となくあたりはつくけど……。
リタ多分、アイフリードの魂をベースに複数の聖核をキメラ結合させてるのよ。
リタざっと見たけど、精霊として生み出すためにリゾマータの公式も利用されてたわ。こんな使い方、メチャクチャよ !
カロルまさか不機嫌の理由って……。
リタうっさい、黙ってて !多分、今パティに入っているのは、心核じゃなくて聖核なんだと思う。そこに色々くっついてんの。
リタだから、パティの心核と、聖核を元の状態に戻せば状況は変わるはずよ。
カロルキメラ結合しちゃったのを戻すの ?
リタその方法も、この術式の跡を調べればわかるわ。
リタあんたたちはそこで待ってて。今から全部解析するから。
ラピードワウッ ! ワオーン !
アーチェいたー ! みんなー、伝令ー !
カロルアーチェ ! どうしたの ? 伝令って、魔鏡通信使えばいいのに。
アーチェうそ、カロルたちまだ気づいてないの ?魔鏡通信が使えないから空を飛べる組は伝令になってんの。
ユーリマジかよ。原因はわかってんのか ?
アーチェえっと、複数の要素が絡んでるとか何とか ?とにかく、今はこの上のケリュケイオンを臨時拠点にして、情報集めてるところ。
ユリウスご苦労さま。それで、伝令っていうのは ?
アーチェ陽動部隊がかなり押されちゃっててこの辺りも戦いに巻き込まれるみたい。今すぐ退避するようにって。
フレン陽動って、イクスたちが ! ?
リタあっそ。じゃあこの術式の解析が終わったら行くわ。
アーチェえー ! ? 今すぐって言ってるでしょ。ほら、早く~ !
リタ術式が残っている今を逃したらパティは助けられない。――あんたらは先に行きなさい。
ユーリはいはい。ってことだ。アーチェ、何かあったら伝令飛ばしてくれ。
アーチェは ! ?
ミクリオはぁ……スレイもだよな。
スレイもちろん !
ミラ=マクスウェル恐らく、ここにいる全員、同じ答えだと思うぞ。
アーチェもー……、わかったわよ ! みんなのことは報告しておくから。
アーチェただ、他のところの状況を聞いてると今はこっちを手伝える余裕はないと思う。だから、ぜーったい無理しないでよね !
ユーリおう ! んじゃ耐久戦といくか。へばるんじゃねえぞ。
フレン誰に言ってるんだい ?
ジュディスふふっ、面白くなってきたわ。不謹慎だけど。
レイヴンかーっ、これだから血の気の多い若者は。
ルドガー――みんな、リタを囲め。来るぞ !

キャラクター8話【6-8 ファンダリア領 森3】
イクスはあっ……、はあっ……。
マークイクス、一回、止まって休むか ?
イクス大丈夫。四大の攻撃を受けてこの程度で済んでるんだからまだマシだよ。
マークまあな。アイフリードが万全じゃなくて助かった。
イクスそれもあるだろうけど精霊が弱ってるようなことも言ってたよな。……どこかで何か起きてるのかもしれない。
マークとにかく砦に帰るのが優先だ。……ふうっ。
イクスマークこそ平気なのか ?俺をかばったせいでモロに攻撃くらっただろ ?……ごめんな。
マーク俺は鏡精だからいいんだよ。それにお前に何かあったらフィルが悲しむ。
イクスフィルさんが……。
クラトスイクス、マーク !
イクスクラトスさん !
マーク連絡役お疲れさん。何かあったか ?
クラトスああ、問題が起きてな。お前たちの砦に行くところだった。……どうしたのだ、ひどい傷ではないか。
イクスさっきパティを――いえ、後で説明します。問題ってなんですか ?
クラトス今回の作戦だが、帝国側に知られているようだ。当初、我々が想定した以上の兵が投入されているらしい。早急に対策が必要だ。
イクスやっぱり !途中から帝国兵が増えてる気がしてたんです。
クラトス他にもこちらの動きを想定して裏で事を進めているようだ。魔核も運び出されているらしい。
イクスわかりました。すぐに砦に戻って、対応策を取ります。
クラトス無理をするな。臨時拠点のケリュケイオンでローエンが情報収集しながら指揮を執っている。今は任せておいていい。
イクスそうですか……。ローエンさんなら安心です。しばらく戦線は維持できそうですね。
クラトスああ。そこから少しずつ撤退へと持ち込むといい。それにしても随分と酷くやられているな。何があった。
イクスパティ……いえ、アイフリードです。パティは心核を抜き取られ、体にはアイフリードが入っています。連れ戻そうとしたんですけど……。
クラトスアイフリードの件は承知している。なるほど、相手が悪かったようだな。
クラトスアイフリードのことは今もユーリたちが追っているはずだ。任せておけ。
イクスだったら、ユーリさんたちに伝えてもらえますか。パティの心核を手に入れたって。
クラトス心核だと ? どういうことだ ?
イクスエルレインさんが渡してくれました。ただ、今は休眠状態にあるとかで鏡士の力がないと心核を目覚めさせられないそうです。
クラトスエルレイン……。なるほど、帝国でもひずみが生じているようだな。
イクス今、フィルさんがミリーナを治療してくれています。それが終わったら、すぐパティの心核を持ってユーリさんたちの下に向かいますから。
クラトス……お前たちは無茶ばかりするな。伝言は確かに伝える。しかし無理をするなよ。
ロミー――セールンドにおいて発動させた、フリンジによる転送魔法の生成は失敗。でも、エネルギーは十分に抽出できたそうよ。
デミトリアスそうか。残念だが、得たものがあるのなら十分だ。
ロミーそうかしら。あれだけ準備をしておいて術の一つも作れなかったなんて無駄な労力だったんじゃない ?
ロミー一番肝心なオリジンも捕獲できなかったんだから。
デミトリアス確かにオリジンの件は残念だったがまだ機会はある。何しろ召喚士アイフリードの始祖でもあるナーザ神が目覚めたのだからね。
デミトリアスそれにフリンジは、精霊同士を干渉させ新たな術を作り出すことができる素晴らしい技術だ。失敗とはいえ、試す価値はあったと思うよ。
ロミーふうん、のんきな皇帝様なのね。それじゃ、私はこれで失礼するわ。
デミトリアスもうアレウーラに帰るのかい ?
ロミーいいえ、ルキウスからの報告が途絶えているの。確認のために現地へ調査に向かうつもりよ。
デミトリアス待て。きみにはアレウーラ領の領主としての仕事があるはずだ。
ロミー領主の仕事なんて後回しでいいでしょ ?
デミトリアスそれはいけない。従騎士のフォレストも聖核の捜索に出ているのだろう ?鏡映点たちの襲撃も頻繁に起きている。
デミトリアス私はアレウーラ領の治安が心配なのだよ。
ロミー今さら治安の話 ? とんだ偽善者ね。
デミトリアス愛する自国を心配することの、何が偽善なのかね ?
ロミーあなたと問答する気はないわ。
デミトリアスロミー、待て。
ロミーお断り。だいたい、なんでフォレストを聖核探しに派遣したと思っているの ?
ロミー聖核を使った人工精霊を創る計画は上手くいったのにあなたたちが欲張って、予備の聖核まで欲しがったからでしょ ?
ロミーこれ以上文句は聞かないわ。やることはやっているんだから。それじゃあね。
デミトリアス……なるほど。適材適所とは中々に難しい。彼女は扱いを考えねばならないな。

キャラクター9話【6-9 ファンダリア領 街道3】
フレンみんな、大丈夫か !
アルヴィンこっちは順調 ! これ以上、敵が増えなきゃな。
ザビーダとは言え、そろそろ見通しくらいは知りたいねぇ。
ルドガーリタ ! あとどれくらいだ ! ?
リタ邪魔 !
ルドガーわ、悪い !
エステル気にしないでください。ルドガーは悪くありません。リタは今、必死なんです。
ガイアス口を動かす前に手を動かせということだ。リタの方から声がかかるまで放っておけ。
エドナ邪魔なルドガー、略してジャガー。……ちょっとカッコいいから却下ね。
カロル良かったね、ルドガー……って !そっちから敵が来るよ ! 気を付けて !
ユーリ余裕あんじゃねえか、エドナ。
エドナそんなことないわ。その証拠にミボクラスの略し方が出てこないもの。
ミクリオどういう基準なんだ !
スレイいいからほら、集中集中 !
ミラ=マクスウェル………… ?
ミュゼミラ ! ? そっちに行ってはダメよ、敵が !
アルヴィンおいおい !
ミラ=マクスウェル―― ! !アルヴィンか。すまない、助かった。
アルヴィンお仕事中にぼんやりしちゃダメだぜ。
セネルこっちは俺たちが引き受ける。シャーリィ、ミラの側に行って必要なら回復してやってくれ。
シャーリィわかった !
ジュード突然どうしたの、ミラ。
ミラ=マクスウェルたった今、四大が戻った。
ジュードえっ !
セルシウス……どうにか抜け出せたわ……。
シャーリィセルシウスさん !
ミラ=マクスウェル何があった。四大もお前もかなり弱っているぞ。
セルシウスええ。フリンジで力を奪われたから……。
シャーリィフリンジ…… ?とにかく無事でよかったです。
セルシウス無事かどうか、まだわからないわ。
セルシウスアイフリード……と言っていいのかしら。新しい精霊……あの存在が近くに来ると精霊は意識を支配されそうになるみたい。
ジュード鏡の精霊だね。さっきミラたちにも同じような症状が出ていたよ。
? ? ?――え――ます――。聞こえ――か ?
ライラ魔鏡通信です !まだノイズ混じりですけど、誰かの声が聞こえます !
ユリウスそのまま繋げておいてくれ。はっきり聞こえるようになるかもしれない。
エステルセルシウス、鏡の精霊が使っている体は――パティは無事なんです ?
セルシウス……あの子は、何か恐ろしいものになりかけているわ。一刻も早く助けないと大変なことになる。パティも――私たち精霊も。
エステルそんな…… !
リタ――そう、その通りよ !『なりかけている』だけなんだわ。
ライラえ ? ど、どうしたんですか ?
リタだからこの術式は……うん、間違いないわね。パティは、まだ鏡の精霊になりきっていないのよ。状態としてはリビングドールβだと思っていい。
エステルそれってつまり――
リタまだ間に合うってこと。今ならまだパティが恐ろしいモノ――鏡の精霊になる前に助けられる。
エステルリタ !
リタさあ、終わったわ ! 大事なことは写したしデータも十分 !パティを助けに行くわよ。
ミラ=マクスウェルみな、聞こえたな。解析は終わった。撤退しよう !
ユーリそうしたいところだが、ちっと、難しくなりそうだ。
ジュードどうしました ! ?
レイヴンあれを見な。この距離で見積もっても今までの倍の兵士が来る。
レイアこっちからも ! もう囲まれちゃうよ !
ガイアス今、我々が陣形を崩せばそのまま一気に畳みかけられるだろう。
ローエン聞こえますか ? 応答して……さい。
ガイアスその声、ローエンか !
ローエンガイアスさん、ご無事で何よりです。まだノイズは交じ……すがこの通り、魔鏡通信は回復しつつあります。
ローエン皆さんの状況は確認しています。救世軍の兵をそちらへ向かわせているところです。もう少しだけ耐えてください。
リタ少しってどれくらいよ !早くパティを追わないと間に合わなくなるわ !
スレイ……わかった。ユーリたちは先に行ってくれ。今ならまだ、オレたちで退路を確保できる。
フレンスレイ ! でも今だって――
セネル時間がないんだ。急げ !
ルドガー心配するな。これだけ揃っているんだ。そうそうやられないよ。
ジュードうん、僕たちの力を信じて。行って !
ミラ=マクスウェルパティのあのような姿精霊としても仲間としても見るに堪えない。早く助けてやって欲しい。
ユーリ……おう。んじゃ、頼むわ !
フレン……ありがとう、みんな。
フレン――行こう。手薄なところを突っ切って何があっても構わず走り抜く !
全員了解 !

キャラクター10話【6-11 ファンダリア領 街道5】
カロルはぁ……何とか突破できた……。スレイやみんなのおかげだね。
ジュディス彼らのところにも早く援軍が来てくれるといいのだけど。
フレン大丈夫。ローエンさんの采配があるんだ。僕たちはパティを助けることに専念しよう。
エステル鏡の精霊の魔鏡に映っていた帝国の基地ってこの先なんです ?
ユーリああ、この森を突っ切るのが最短距離のはずだ。だよな、カロル。
カロルうん、ばっちり調べてあるよ !調査しながら、各地の地図を作ったりしてるからね。
ラピードグルルルル……。
レイヴンちょい待ち ! あれって……。
ジュディス増援の兵士が待機しているみたいね。このまま進むなら、戦わないといけなくなるわ。
リタそれじゃ最短距離の意味がないじゃない。別ルートは ?
ユーリここまで来て迂回となると、相当時間がかかる。何とかすり抜けちまおうぜ。
ジュディスそれもいいけど、彼らが何のためにいるのか調べておいた方がいいんじゃないかしら。
フレンそうだね。ユーリ。あそこに集められている兵士ってリビングドール兵じゃないよね ?
ユーリああ。好き勝手にくっちゃべってるからな。リビングドール兵は人間味っつーのがねえから見てりゃわかる。
フレンなるほど。だったら情報収集しておこうか。
ユーリへえ、お前から言い出すとは思わなかったぜ。
レイヴンんじゃ、早速お話しちゃいましょ。無理やり。
帝国兵くっ……くるし……。
ユーリ大人しくしてろって。悪いようにはしねえよ。
レイヴンほらほら、リラーックス。あんまり動くと、もっと締まっちゃうわよ ?
エステルあの、ほどほどにしないとこの人もしゃべれませんから、ね ?
カロルユーリの締め技、エグいなぁ……。
リタ絵面だけ見てると悪人そのものね……。
ラピードグルルルルルルゥ……。
ジュディスあら、ラピードもやる気満々ね。
帝国兵待ってくれ ! 何でも話すから !
フレンそうか。では、まずは兵の手薄な箇所と――
フレン――魔導砲 ? その兵器の最終テストというのはこの近くで行われるのか ?
帝国兵は、はいっ ! そちらにも兵を割くことになるのでこの辺りの兵数も減るはずです……。
二人魔導砲……。
リタマナを高出力で撃ち出す、とんでもない威力の兵器よ。クラースたちから聞いたことがあるわ。
エステルマナというと、私たちの世界ではエアルと物質の間のようなものでしたよね ?
リタそうよ。これでわかったわね。帝国が魔核を集めていた理由が。
エステル魔核はエアルが凝縮したものだから、ですね。
フレン魔導砲のために、魔核は集められていたのか。
カロル……ねえ、ユーリ。その魔導砲と似た話、どっかで聞いたよね。
ユーリああ、異世界の兵器を使って精霊を実弾に使用するって計画だろう ?オレもそれを思い出していたところだ。
レイヴンおいおい、それが魔導砲と同じ話なら、パティちゃんはその実弾として使われるんじゃ…… !
ユーリおい ! 他に何か聞いてねえか ?
帝国兵他には――ぐはっ ! !
全員! !
ロミーおしゃべりが過ぎると死んじゃうわよ ?そいつみたいに。
ユーリお前がやったのか ! ?
ロミーええ、そうよ。仕事だもの。それともう一つ。
ロミー――ここにネズミがいるわ ! 早く駆除しなさい !さて、これであなたたち、逃げられないわね。
リタちょっ、なにしてくれんのよ、あんた !
ロミーうふふ、仕事を楽しんでいるだけよ。
ルキウス ?ロミー、ここにいたのか。
全員! !
カロルあの顔……カイウスとそっくりだ。
エステルじゃあ、あの人がルキウス ! ?
ロミールキウス ! 連絡がないからわざわざ出向いてあげたのよ。
ルキウス ?ふーん、そう。そんなことよりこれからもっと面白いものが見られる。ついて来るといいよ。
ロミーなによ、いいところなのに。仕方ないわね。
ロミーああ、そうそう。ネズミさんたちのことは雑兵共が相手をしてくれるから安心して。――ほら、もう来たわ。
帝国兵いたぞ ! こっちだ !
ロミーふふふ、あなたたちも楽しんで。
ユーリおい、待ちやがれ !

キャラクター11話【6-12 ファンダリア領 街道6】
ユーリったく ! これじゃ、あいつら追うどころじゃねえ。
ジュディスせめて意表をつく手があればこの場から抜け出せそうだけど。
レイヴン意表ってったって、そうそう簡単には――
? ? ?ジャッジメント・トライ !
帝国兵たちぎゃああああっ !
エステルクラトス ! ?
クラトスこの先へ向かって走れ ! 兵が少ないはずだ !
ユーリ助かったぜ ! 行くぞ。
レイヴンはー、やれやれ。今日は逃げて走っての繰り返し !忙しいったらもう。
クラトスローエンからお前たちの話を聞いてきた。こちらも苦戦を強いられているようだな。
フレンお陰で助かりました。ありがとうございます。
レイヴンそれで何、そっちは何か連絡あって来たんでしょ ?
クラトスああ。イクスからお前たちに伝言がある。パティの心核を回収したそうだ。
全員! !
リタ驚いた……。いつの間に手に入れたのよ。
エステルありがとうございます !これで一歩、パティを取り戻すのに近づきました !
カロルそれで、パティの心核は ! ?
クラトス心核は休眠状態にあるという。それがどのような状態かはわからぬが、鏡士の力で目覚めさせることができるようだ。
クラトスイクスはあとで心核を持ってお前たちと合流すると言っていた。
ユーリ大丈夫なのか ?陽動部隊が苦戦しているってのは聞いてるが。
クラトス陽動部隊は救世軍が介入したことで徐々に立て直しに入っている。そちらは何とかなるだろう。
クラトスただ、ミリーナが倒れて意識不明の状態だ。イクスはフィリップが治療していると言っていたがどうも、簡単にはいかないようだ。
クラトス先程、魔鏡通信が回復した際にローエンから聞いた話ではカーリャの存在も観測できないらしい。
エステルええっ、そんなことになっているんですか ! ?
ジュディスそれじゃあこっちに来るどころの話じゃなさそうね。
クラトスかもしれん。実際カーリャがいないことがミリーナを救うための弊害になっているようだ。
レイヴンそれってつまり、カーリャちゃんが見つかればミリーナちゃんは目を覚ますってこと ?
クラトスどうもそのようだな。ただ、事態がどのような形になるにせよイクスは約束を果たそうとする筈だ。
カロル確かにそうかも……。イクスって真面目だし頑張り過ぎちゃうから心配だよ。
フレン思っていたよりも状況は深刻ですね。
クラトスああ、しかも魔鏡通信が使えなかったせいで皆、上手く連携がとれなかったからな。
カロル魔鏡通信が直ったなら、クラトスも連絡役はおしまい ?
クラトスいや、まだ通信が安定したわけではない。私はこのまま各陣営への連絡を続ける。
クラトス先ほどのお前たちのように魔鏡通信が使えない状況に陥った者たちへの助けになることもあるからな。
カロル本当だね。さっきみたいに敵がいっぱいだと通信なんてしてられないもん。
クラトスそれともうひとつ、この先の丘に大規模な陣が張ってあった。お前たちが戦っていたのはそこへ投入される兵だったのだろう。
クラトス気になるのは、その軍隊の側に、我々の世界にあった魔導砲によく似た塔が立っていたことだ。本物だとは思いたくないが……。
リタ本物 ! それ、本物よ !
クラトスなんだと ! ?
ユーリしかもその魔導砲、精霊を使って撃ち出すもっとヤバイもんになってるかもしれねえ。
フレンパティを保護して魔導砲に近づけないようにしないと。
カロルちょっと待って ! 地図地図…… !
クラトス地図 ?
ユーリカロル調査室で独自に調べて作った地図さ。
カロルえっと……ここがパティが行ったはずの基地でこの丘が魔導砲があるっていう本陣。で、ボクたちはここ。
カロル基地から魔導砲へパティが移動するとして……。この森に行けば、パティが本陣と合流する前に先回りして押さえられないかな ?
クラトスなるほど……さすがカロル調査室の室長だな。この位置関係なら、十分間に合うだろう。ただし、相手が徒歩ならば、だが。
リタ知ってるのね、あの鏡を使ったワープのこと。
クラトスジュードたちから報告が入ったそうだ。話が事実なら、距離など何の意味もない。
リタそれなら問題ないわよ。
リタ魔鏡陣に残ってた術式を見る限り精霊になりきれてない今のパティに同じ事をやってのける力は残ってない筈だから。
クラトスなるほど。ならばお前たちの方は時間の余裕が生まれそうだな。
レイヴンここから逆転といきたいところよね。
ユーリよし、んじゃカロル先生の案を採用だ。オレたちは森へ先回りしてパティを待ち伏せる。
クラトスでは、私は魔導砲の偵察に向かおう。
マークおいフィル、戻ったぞ !イクスに治療を――……。
マーク……おい、なんだよこれ。
イクスミリーナの周りに魔鏡結晶が…… ! ?どうしたんだよ、ミリーナ !
カーリャ・Nイクス様、落ち着いてください。それに酷い傷です。無理をしては――
イクスフィルさん、何が起きたんですか ! ?
フィリップミリーナの魔鏡の力がスタックされているんだ。魔鏡結晶も徐々に大きくなり始めている。
イクスそれって、俺の時と同じ……。
フィリップああ。ミリーナの場合はゲフィオンの影響だ。この力のせいで、ミリーナの心にアクセスしようとしたら弾かれてしまった。
イクスカーリャは ! ?
カーリャ・Nいいえ、戻りません……。フィル様の話では、消えたか、どこかへ飛ばされたのか判断がつかないとかで。
イクスそんな……。まさか、このままじゃ俺と同じように魔鏡結晶に閉じ込められるんじゃないですか ! ?
イクス俺はミリーナにあんな辛い思いをさせたくない !
フィリップイクス、まず治療を受けてくれ。きみが万全でなければ、ミリーナは救えない。
イクスえ…… ?
カーリャ・N治癒術をかけます。その間に説明を。マークもこちらへ来て下さい。
フィリップ聞いてくれ、イクス。確かに僕一人ではアクセスできなかった。
フィリップだけどイクス、きみとなら……。ミリーナの心に触れられるかもしれない。
イクス俺とフィルさんで、ですか ?
フィリップああ。一緒にミリーナの心へアクセスするんだ。

キャラクター12話【6-13 ファンダリア領 街道7】
スレイみんな無事 ! ? まだいけそう ! ?
ルドガーああ ! けど少しキツくなってきたな。
セネル確かに。だが援軍が来るまでの我慢だ !
ジュード…………。
ミラ=マクスウェルどうしたジュード、疲れたか ?
ジュード……みんな、聞いて。このままじゃ持たない。方針を変えよう。
アルヴィンそうだな。こんな防戦一方じゃジリ貧間違いなしだ。
エリーゼ援軍、待たないんですか ?
レイア待って、ローエンに連絡するね !
ライラではレイアさんの守りは私が。
レイアありがとう、ライラ !――ローエン ? 急いでるの ! ジュードの話を聞いて。
ジュード敵は今、僕たちが防戦一方だと思っているはずだ。だからこそ、こちらから攻撃に転じる。不意をついて怯んだところを突破。これ、どうかな ?
ザビーダ一点突破か。いいね、嫌いじゃないぜ。
ローエン承知しました。援軍の到着にもまだかかります。危険は伴いますが、皆さんの呼吸さえ合えば可能でしょう。
ユリウスでは、実行はこちらのタイミングで進める。問題はないな ?
ローエンええ。それと、近くに大きな川の堰があります。それを切ってください。
ローエン皆さんへの追っ手を止められますし、救世軍としても敵を追い込めるので動きやすくなりますから。
スレイわかった。その辺はオレたちで上手くやるよ。
ルドガーけど兄さん、タイミングって言っても今は――
? ? ?ぁぁあああああああああっ !
ユリウス何か落ちてくる ! 避けろ、ルドガー !
ルドガーいや、あれは――――痛いっ !
カーリャきゅぅ……。
全員カーリャ ! ?
カーリャはっ ! ここは…… ?
ジュードちょっ、どうしたのカーリャ !ミリーナのところに居なくてていいの ?
カーリャそ、そうなんです !ミリーナさまを助けに行く途中なんです !カーリャは、コレットさまに運んでもらってて !
カーリャでも、コレットさまの手がすべってカーリャは真っ逆さまに――
ジュードま、待って、よくわからないよ !ここを抜けたら、ちゃんと聞くから。
カーリャは……ミリーナさま…… ?
セネルどうした、カーリャ。目の焦点が合ってないぞ ?
ルドガー俺の頭に落ちてきたときの影響か ?
カーリャち、違うんです。今までミリーナさまの心からはじかれていたのに、急に声が聞こえて……。
カーリャ――ミリーナさまが呼んでる…… !今なら、心の中に戻れます !ミリーナさま、今カーリャが助けに行きますからねっ !
ジュードカーリャ ! ? 消えちゃった……。
エドナ考えても仕方ないでしょ。敵は休まず来てるのよ。こっちを手伝いなさい !
コレットえ ! ? う、うん、わかったよ !ごめんね、エドナ。えっと――ジャッジメント ! !
帝国兵なっ、上 ! ? うわあああっ ! !
ルドガー今度は空からコレットが ! ?けど、このタイミングなら !
ユリウスああ。――全員、コレットと同じ場所を狙って攻撃だ !そのまま突破するぞ !
カロルねえ、ユーリ。パティと会う前にみんなの状況を確認しておかない ?今、どうなってるか心配だし……。
ユーリそうだな。イクスもこっちに来るとは言ってるが状況によっちゃ難しいかもしれねぇし。んじゃ…………。
ユーリ――…………駄目だ、出ねぇ。
カロルそれじゃ、スレイたちは ?駄目ならジュードかとにかく他にも連絡してみようよ。
ユーリああ。今、やってる…………やっぱ繋がらねえな。
レイヴン魔鏡通信が不安定なのかそれとも出られない状況なのか……。
エステルどうなっているんでしょう。心配です……。
ジュディス人の心配もいいけれど、もう目的地の森よ。
フレンそうだね。気を引き締めて――
ラピードグルルルルル……。
フレンどうしたんだい、ラピード。
ラピードワンワンワン !
全員! !
リタなに、これ……。
カロル倒れているの、みんな帝国兵だ。こんなにたくさん。
帝国兵Aううっ……。
全員! !
帝国兵A貴様らは……絶対に、逃がさん……。
フレン警笛だ ! 兵士が来るぞ !
カロルこれ、ボクたちがやったんじゃないのに !
ユーリ今更通じねぇよ。逃げんぞ !
フレンこのまま森の中に入って潜もう !
フレンみんな走れ ! 帝国兵を巻かなきゃパティの待ち伏せどころじゃない !
ラピードワンワンワン !
ユーリあ ? この先に誰かいるってのか ?
カロルねえ、あれって――
全員! !
デュークお前たちか……。
ユーリデューク !
レイヴン具現化されてたのか……。
ジュディスさっき倒れていた兵士もあなたの仕業ね ?
帝国兵Bいたぞ ! 銀髪の男だ !
ユーリおいおい、お前も追われてるのかよ。
デュークいや、私は追っているのだ。
エステル追っている…… ?あっ、待ってください ! デューク !
帝国兵Bあっちにいったぞ !
リタまさかあいつ、敵を連れてってくれた ?
ジュディス彼、そこまで甘くないわよ。自分の敵は自分でってことじゃないかしら。
レイヴンだわな。らしいっちゃらしいけど。
帝国兵Cいました !
カロルこっちも来た !
ユーリよし、だったらオレたちも自分で自分のケツをふくか !
フレンもう、追って来る兵士はいないな。
ラピードワン、ワンワン !
ユーリまだその辺にいるってよ。様子見に……お、イクスから魔鏡通信文が来てるぞ。
カロル見せて見せて !
イクスイクスです。声が届けられないから通信文を送ります。パティの心核の休眠状態を解除できました。
イクス事情はあとで説明します。場所は把握しているので三十分程度でそちらに着くと思います。
エステルイクス、やっぱり来てくれるんですね !心核の休眠状態も解除できたって !
ジュディスだったら私たちもパティを確実に連れ戻さないと。
フレンユーリ、僕はこの辺りを偵察してくる。この先は見晴らしがよさそうだから、平原に残っているスレイたちの状況も確認できるかもしれない。
カロルあ、ボクも行く !イクスが来てるかもしれないしね。
ユーリああ、頼むわ。こっちは先に陣取りしとくぜ。……恐らく戦うことになるだろうからな。

キャラクター13話【6-14 ファンダリア領 森4】
ジュディスこの辺、いいんじゃないかしら。
ユーリああ。隠れ場所もあるしそこそこ開けてて戦いやすそうだ。
エステルそれじゃ、この場所のことフレンたちに連絡しておきますね。
リタガキんちょの思い付き、結構当たってたみたいね。これだけ兵士が多いってことは、パティが確実にここを通るってことだし……なかなかの読みだわ。
ユーリそれ、カロルに直接言ってやったらどうだ ?喜ぶぜ。
レイヴンいや~、珍しすぎて逆に怯えちゃうんじゃないの ?
リタそうね。あんたも怯えさせてあげましょうか ?
レイヴンちょっ、術の無駄撃ち禁止 !
ジュディス静かに。誰か来るわ。
サレ……本当にしつこいね。
デューク友を取り返すまで私はどこまでもお前たちを追う。
ユーリあいつ、鏡映点名簿で見た顔だな。
レイヴン確かサレだったかね。ヴェイグの世界の奴だ。
ユーリああ。シングやカイウスは帝国で一緒だったらしいな。悪い噂しか聞かなかったらしいぜ。
レイヴンとりあえず加勢しとく ?恩を売るのも悪くないでしょ。
デューク……。
エステル今、デュークに睨まれました !こっちに気づいてます !
ユーリ今のは出てくんなって意味か ? ったく……。
サレそこ、出ておいでよ。不意打ちなんて無駄なこと考えてないでさ。
ジュディス……あっちも気づいたみたいね。
サレ……へえ、あいつが大喜びしそうな上玉の黒髪がいるじゃないか。まあ、別に持って帰ってやる義理もないけど。
ユーリグラスティンか ? あいつは死んだぜ。
サレ死んだ、ねえ……。そうなんだ。そういうことか。ははは……。
サレまあ、どうでもいいけどね。
リタずいぶん余裕じゃない。けどこの辺の兵士、ほとんどいないわよ。
ユーリどうやらデュークに倒されちまったみたいだな。今の戦力じゃ、オレらが上じゃねえの ?
サレ……なんだ、こいつのお仲間か。こいつ変だよねぇ。あんな石ころがお友達なんだって ?随分とご執心なことで。
ユーリおいデューク、まさかあんたが追ってるのは……。
デューク…………。
サレもう僕を追うのは無駄だから諦めてくれない ?だって、あの子に入っている聖核はもう元の状態じゃないんだよ ?
デュークなんだと ?
サレ色々いじくりまわされてさぁ。いろんな物が混じって、くっついて。しかも今は精霊様になりつつある。もう戻らないね、あれは。
デューク人間っ ! !
サレっ ! ! ぐあああっっ !
デューク……っ。致命傷ではないはずだ。答えろ。聖核を持ったあの娘は今どこにいる。
サレははっ……、思ったより手が早いね……。
サレでも、これでどうにか操れそうだ。
デューク! !
リタちょっと、何やってるのエステル !
ユーリおい、エステル ! お前――
デューク離れろ !
ユーリデューク ! ?
レイヴンちょっと今の ! デュークが防がなきゃ青年の首がやばかったわよ !
エステル……あなたたちは、敵……。
サレ面白くなってきた……だろう……。
ユーリてめぇ、エステルに何しやがった !
サレちょっとした暗示をかけたのさ。この子、色んな不安を抱えているみたいだからそこそこ簡単だったよ。
リタやめてよ……これじゃあの時と同じじゃない !あんなのもう…… !
レイヴン……嫌なこと思い出させてくれるじゃないの。
サレそうか、嫌か ! はは、嬉しいなぁ !さあ、お嬢さん、僕のかわりに相手を頼むよ !
ユーリてめぇ ! どこに行く !
デューク待て !
ユーリエステル、しっかりしろ !
エステルデューク……、ユーリ……、貴方たちを……。
ユーリまたお前と戦うのかよ……くそっ !
エステル…………。
デューク! ! そうか、お前はまだ完全には……。魔物とは勝手が違うが……試す価値はあるか。
リタなんなの、あんた ! エステルに何を―― !
レイヴン待て、リタっち。
デューク…………。
エステルえ……今の声……デューク…… ? わたし……。
リタエステル ! ! 戻った、良かった…… !
デューク暗示が浅かったようだ。あの男も焦っていたのだろう。
エステルあ、ありがとうございます……。わたし、操られていたんですね。
ユーリあんた、さっき何したんだ ?エステルの前に手をかざしただけなのにさ。
デューク…………。
ラピードグルルル、ワンワンワン !
レイヴンおいおい、団体様が押し寄せてるわよ !
ジュディスあの男が呼んだのね。
ユーリ礼は後でな、デューク。こっちを先に片付ける !

キャラクター14話【6-15 ファンダリア領 森5】
ユーリデューク。またあんたに命、救われるとはな。さっきは助かった、礼を言わせてくれ。
デューク私は友を救うため動いたまでだ。
ユーリやっぱりダチの……エルシフルの聖核が目的だったか。
レイヴンつまりうちらと目的は同じ、と。
リタ帝国はエルシフルの聖核から新たな精霊を生み出そうとしている。あたしたちとしても帝国に聖核を渡すわけにはいかない。
デューク世界の危機……か。
エステルそれだけじゃなくリビングドールβにされてしまったパティも今度こそ助けてあげないと……。
ジュディスもちろんよ。そのためにも私たちはここにいるのだから。
レイヴンカロル調査室の情報によるともう少ししたらパティちゃんは本陣と合流するためにこの先の森を抜ける。
レイヴンそこをうちらが抑えて、パティちゃんとパティちゃんが持ってるエルシフルの聖核も回収っと。
リタけど、失敗すればどちらも失うことになる。それにリビングドールβにされたパティを連れ戻すには鏡士の力が必要不可欠なのよ。
ジュディス戦力はこちらに分がある。けど私たちだけでは目的を完遂できない。
レイヴン油断できないことに変わりはない、と。一石二鳥と簡単に片付きそうにはないわね。
エステルイクスたちも大丈夫でしょうか。まだ時間があるとはいえもう到着してもいい頃だと思いますが……。
ユーリイクスたちだけじゃなくジュード、スレイたちとも魔鏡通信が繋がらねぇ。やっぱ何かあったんじゃ……。
デューク…………。
カロルみんな ! フレンと丘に登ってあたりの様子を見てきたよ !
フレンジュードとスレイたちがいる方へ帝国兵たちが進行していた。敵本陣の一部が差し向けられたみたいだ。
ユーリそれじゃあジュードとスレイたちが危ねぇぞ。
フレンあっちは少人数……。僕たちと戦うことになった際に足元をすくわれないよう先に倒しておくのが帝国の考えなんじゃないかな。
ユーリくそっ。ここは任せてくれって言葉に甘えてパティを追わせてもらったけどやっぱ何人か残るべきだったか。
レイヴン兵が向かってるってことはこりゃイクスくんたちも巻き込まれてるな。
エステル助けに行きましょう !まだパティが森を通るまで時間があります !
ジュディス気が合うわね。パパっと片付けてこっちに戻ってきましょう。
カロルうん。いまのボクたちならできるよ。もちろんちょっと頑張る必要はありそうだけど。
ラピードワオーン !
ユーリさすがラピード。イクスたちの場所までしっかり案内してくれるみたいだぜ。
リタちょっと待ちなさいよ。もし何かあって戻ってこられなかったらどうするの ?パティも聖核も帝国に持っていかれることになるのよ。
デュークそれは起こりえない事象だ。
ユーリ……デューク。
デューク友の聖核は、この私が必ず回収する。
レイヴンま、あんたはうちらがどう動こうが関係ない。ここに残ってそうするわな。
フレンですが今はとても心強い。
ユーリデューク、1つだけいいか ?
デューク聞こう。
ユーリオレたちは必ずここに戻ってくる。けど……もし遅れちまった場合あんたにパティのことを頼みたい。
フレン……ユーリ。
カロルボクからもお願い。少しでいいから戦いを引き伸ばして欲しいんだ。
エステル図々しいかもしれませんが……どうかわたしからもお願いします !
デューク…………。
ユーリ頼む。
デューク戦いになろうともあの娘の命を取るつもりはない。
デュークだが、私があの娘を救う道理もない。甘えるな。
エステルそれはわかります。ですが今、わたしたちと貴方は――
ユーリもういい、エステル。こいつの言ってることは筋が通ってる。
ジュディスそうね。それにいまはこの時間さえ惜しいわ。ここまでにしておきましょう。
ユーリデューク、悪かった。さっきの言葉は忘れてくれ。
フレンそれじゃあ僕たちは急ぎ出発を――
デュークまたそれも見過ごせん。
リタちょっと。どきなさいよ。あたしたちが行こうとそれこそあんたには関係ないじゃない。
ユーリさっきの話、聞こえてただろ。オレたちは仲間を助けに行かなくちゃならない。
デューク……もしそれでも間違ったら。
ユーリ
デュークやはり記憶にないか。
リタ何がいいたいのよ。言いたいことがあればハッキリ言ってくれる ?
デュークお前たちとどれだけ言葉を重ねようと螺旋のように交わらぬまま虚ろに時が過ぎてゆくのみ。
レイヴンおいおい、どういうつもり。まさかやるっていうんじゃないでしょうね。
ユーリ…………。
デューク…………。
ユーリわかった。あんたなりにオレたちに伝えたいことがあるわけだな。
フレンなら無下にはできないね。
ジュディスそうね。それに私こういう会話の仕方も好きよ。
リタまったく……あんたたち戦闘バカは。
エステルけどせっかくデュークが話しかけてくれたんです。
カロルちゃんと、わかりあいたいよね。
ワンワン !
レイヴン若人だけじゃ物足りないっしょ。人魔戦争のよしみでおっさんも混ぜてよ。
デュークひとりではなくひとつの強さ。それはひとつになる者たちによって変わりそして未来も変えてゆく……か。
デューク…………。
ユーリデューク。あんた…………。
ユーリいや。何でもねぇ。こいつで語り合うとしようぜ。
デュークいくぞ。
ユーリおう ! 受けて立つぜ、デューク !

キャラクター15話【6-15 ファンダリア領 森5】
ユーリまだ全然余裕みたいだな。さすがだぜ、デューク。
デューク…………。
カロルけどボクたちだってまだ大丈夫だよ。
ユーリああ、わかってるよ。
デューク……やはり、か。
デュークお前たちが見るべきは私ではない。
ユーリなに ?
デューク……未来は創り出すもの。
ユーリ
カロルえっと……どういう意味 ?
ジュディス自分で選び、歩んでいく。それが大切ということじゃないかしら。
デュークそれはお前たちに限った話だけではないはず。遥か彼方に双眸を向けねば暗闇を一人往くと同義だ。
エステル遥か彼方に……双眸を……。
レイヴンもっと遠くを見ろ。そうしないと周りも見えなくなる……と。ご尤もな意見だわ。
ユーリああ。こりゃ痛いとこ突かれたな。
エステル痛いとこ……です ?
ラピードワン !
ユーリ来たみたいだな。
ジュードよかった ! みんな、無事だったんだね !
カロルえっ ! ? みんな、どうしてここに ! ?
スレイもちろん、助けにきたんだよ。な、ミクリオ ?
ミクリオまさか帝国軍を強行突破するとジュードが言い出したときは驚いたけどね。
ミラ=マクスウェル敵は私たちが防戦にまわると考えていた。そこを逆に打って出ることで敵の不意を突く。私は見事な策だったと思っている。
ミクリオああ。敵は僕たちを逃さないように包囲してくる。だからこそ陣形が整う前に一点突破で切り抜ける。そんな咄嗟に出てくる策じゃない。
スレイミクリオが川の堰を切ってくれたから敵が追ってくる心配もないしな。ジュードのおかげで何とかなったよ。
ジュードそんな……僕は提案しただけだよ。みんながいてくれたから乗り越えられたんだ。
ミラ=マクスウェル謙遜することはないと思うがな。君らしいといえばそうではあるが。
フレンみんな……自分たちも大変だったのに僕たちのことを助けに来てくれてたんだね。本当に感謝するよ。
ジュード当然だよ。僕たちは仲間なんだから。
スレイそれに、先にパティを追ってくれって言ったのはオレたちなんだしさ。
ジュードイクスとミリーナももうじき到着するはずだよ。いまカーリャが助けに向かっているからね。
エステルカーリャが ! ?
ジュディスなら心配することもなさそうね。
カロル……ユーリ。
ユーリうん ?
カロルボクもわかったよ。ボクたちは互いのことをわかっているし信じ合える。けれどそれだけでは足りないんだ。
カロルこっちには新しくできた仲間が大勢いてボクたちはその仲間と未来に向かって歩んでいる。その仲間、みんなのことをちゃんと信じないとだよね。
エステルそのために遠くを見る。そうしたら視野も広がってみんなとも足並みを揃えることができますしね。
リタま、言いたいことはわかるわ。当然の理屈よね。
レイヴンそれが意外と難しいってことよ。
エステルですね。今回のわたしたちがいい例です。
ユーリデュークのおかげで頭冷やせたみたいだな。オレだけじゃなく、全員。
カロルうん ! ありがとう、デューク !またひとつ勉強になったよ !
エステルわたしもです !
デューク私は役目を果たしたまで。
ユーリ……未来は創り出すものってなかなかいい言葉だったな。
デュークふっ……私の言葉ではないがな。
スレイあれ ? そういえばその人は ?
ジュード鏡映点リストで見かけた気がする。確か元の世界ではユーリさんたちと――
ユーリこいつはデューク。オレたちの、新しい仲間だ。
デューク……・。
ジュード……うん、わかった。よろしくお願いします、デュークさん。
スレイよろしくね、デュークさん !
デューク構えろ。
ジュードえっ ! ?
ラピードワン ! ワンワン !
フレン来たみたいだね。
ユーリ予定時刻より早い……。やっぱ残って正解だったみたいだ。
パティ…………。
エステルパティ ! !
デューク……。
ユーリいくぞ。
to be continued
キャラクター1話【7-1 ファンダリア領 森1】
パティ…………。
エステルパティ ! !
デューク……。
ユーリいくぞ。
待ち伏せていたユーリたちの前にようやく姿を現したパティ。双方が相まみえようとしている、その少し前のこと。
心の中からカーリャが消えてしまったミリーナは――
ミリーナゲフィオン、カーリャが消えてしまったわ。どうして ! ?
ゲフィオン恐らくお前――つまりミリーナが『ミリーナ単独』の存在ではなくなってしまったからだろう。
ゲフィオン何らかの外的要因でミリーナとゲフィオンの境界が徐々に曖昧になっている。お前が倒れたのも、私がここにいるせいだ。
ミリーナそれじゃ『私のカーリャ』はもう私の中にはいられないの ! ?
ゲフィオン落ち着きなさい。先ほども言ったが今はゲフィオンとミリーナが混ざり合おうとしている。そのせいで一時的にはじかれてしまっただけだろう。
ゲフィオンあのカーリャは……私の鏡精ではないからな。
ゲフィオンだがこのままでは『一時的』では済まなくなる。これ以上の影響が及ぶ前に何らかの処置を施さねばなるまい。
ミリーナ処置と言っても、原因がわからないんじゃ……。
ゲフィオン心当たりはある。この現象には、バロールの力が影響しているのだろう。
イクスミリーナ !
ミリーナイクス ! ? フィル、ネヴァンも !
フィリップようやくきみの心にアクセスできたよ、ミリーナ。
ミリーナフィル……みんな、ありがとう。迷惑をかけてごめんなさい。こんなところまで来てくれるなんて……。
イクス当たり前だろう。『二人』を救うためだからな。
ゲフィオン…………。
フィリップミ――ゲフィオン……。
カーリャ・Nミリーナ様 !良かった、ミリーナ様がご無事で……。
ゲフィオン私をミリーナと…… ? お前は誰だ。
カーリャ・Nっ !……そう……ですよね。
フィリップゲフィオン、彼女はきみの鏡精『カーリャ』だよ。
ゲフィオンカーリャ ! ? あなたが…… ?
ミリーナやっぱり……覚えていないのね。
ゲフィオン……記憶を切り離した私は『私のカーリャ』という存在を知らぬ。
ゲフィオン私にはそういった鏡精がいたと周囲の者から聞いてはいたが……。そうか、お前が私のカーリャ……。
ゲフィオンすまない……。
カーリャ・Nいいえ ! いいえ……。ミリーナ様が……ゲフィオン様がご無事なら私はそれで十分です。
カーリャ・Nそれよりも、早くこの状況を打開する方法を考えましょう。
ゲフィオン……そうだな。
ミリーナさっき、私たちが交じり合った原因はバロールの力だと言っていたわよね ?
イクスバロールが ?
ゲフィオンそうだ。バロールは、人体万華鏡となって死の砂嵐を封じている私に接触してきたのだ。恐らくは、死の砂嵐を操るためにな。
ゲフィオン上手く言えないが、バロールの接触によって私は自らが世界に融けそうな感覚を覚えた。そのせいか、私自身の存在が曖昧になろうとしている。
ゲフィオンそれがミリーナとゲフィオンの境界が危うくなった原因だろう。
ミリーナ死の砂嵐を操る……。ねえイクス、倒れた時にバロールと会ったのよね ?
イクス俺も今、そのことを思い出してたよ。
イクスゲフィオン様。俺はバロールの記憶の残滓……という存在に会っているんです。その時――
ゲフィオン――死の砂嵐を鎮めるために尖兵を作る、か。
イクスはい。それと、俺の心の中にも関わらずバロールは明らかにコーキスに語り掛けていました。「鏡精コーキスよ、命の炎を燃やせ」と。
ゲフィオン鏡精と鏡士の心は繋がっている。本当にコーキスに命じていたのかも知れない。
ゲフィオンこの推測が正しければ、すでにバロールはコーキスを使って、死の砂嵐を操っているのだろう。それがバロールの接触として感じられたのか……。
ゲフィオン……もしや、コーキスは私の近くに来ているのか ?
イクスコーキスが……。あいつ、バロールに何をさせられてるんだ……。
ゲフィオン何が目的であれ、その強引なアクセスによってゲフィオン――私という人格が崩壊しようとしておりその結果が、ミリーナに影響を及ぼしている。
ゲフィオン鏡精がいないゲフィオンには人格を――心を守る存在がいないからな。
フィリップ……妙だな。バロールの接触が強引だったとはいえなぜそこまで深刻な影響を受けているんだい ?
ゲフィオン……当時の記憶がないから確実なことは言えないけれど……。
ゲフィオンおそらく『ある目的』のために心を閉じる作業を行わなかったんだと思うわ。そして、新たな鏡精を作ることもしなかった。
ゲフィオンだから今の私は、心にずっと穴が開いた状態なのよ。それで影響を受けやすくなっているのかもしれない。
フィリップ穴って…… !どうして無防備な状態のままで放置したんだ。手段はあったはずだろう !
フィリップ手段――そうか……だから……。
ゲフィオン…………。
カーリャ・N……やはり、そういうことでしたか。
ミリーナネヴァン ?
カーリャ・Nゲフィオン様の計画では、私は今よりもっと早い段階で小さいミリーナ様に記憶をお渡ししている筈だった。本来ゲフィオン様が人体万華鏡になる時期に……。
フィリップそうか……。ファントムの存在でゲフィオンが人体万華鏡になるタイミングが狂ったんだね。
カーリャ・Nはい。本来は記憶の継承と共に、人体万華鏡は真の完成を迎え、死の砂嵐の外部流出を防ぐことができた筈でした。
カーリャ・Nおそらくその場合は鏡精のいないゲフィオン様の心は小さいミリーナ様に吸収され、消えていたでしょう。つまりゲフィオン様の心は死んでいた筈です。
三人! !
ゲフィオン…………。
イクス待ってくれ、記憶を受け渡す時にカーリャがミリーナの心を守れば、二人の消滅を防げるかもしれないって話し合ったじゃないか。
カーリャ・Nええ。確かにあの方法であれば小さいミリーナ様の心は確実に守れます。ですがゲフィオン様の心を確実に守る手段はありません。
カーリャ・N心の穴を塞ぐためには、新しい鏡精を作らなければいけないんです。でもゲフィオン様はそうしなかった。
カーリャ・N仮に心が残っても、ゲフィオン様を待っているのは永遠の死です。砂防堤として気の狂うような痛みに耐え永遠に『死に続ける』という運命……。
フィリップそれに新しい鏡精を巻き込みたくなかったからあえて心の穴を残していた……。
ゲフィオン…………。
カーリャ・N今回、お二人の心を守る方法を考えている時にこれは手段がなかった訳ではなくわざと残さなかったのでは、と気付いたんです。
フィリップそうか……ある意味ファントムが、ゲフィオンの心を延命した形になったんだね。
カーリャ・N……ええ。少なくともゲフィオン様は、こんな形で小さいミリーナ様を巻き込むつもりはなかった筈です。バロールの件は不測の事態ですから。
カーリャ・Nそれに……今のこの状況を招いてしまったのは記憶の移行を渋った私にも責任があります。
ミリーナそんな……。ネヴァンは何も……。
カーリャ・Nいいえ。私が悪いんです。そもそも私は記憶の受け渡しを防ぎたかった。
ミリーナどういうこと ?
カーリャ・Nお二人の心が消えないように安全な方法を探っていたのは本当です。
カーリャ・Nですが、そんな危険を冒す前に、ゲフィオン様を人体万華鏡から救い出す手段を見つけたかった。だから記憶の受け渡しを先延ばしにしてしまった。
ゲフィオンカーリャ……。
カーリャ・Nだって、このままだとゲフィオン様は永遠に動かない鏡の体の中で、自我を失い、終わらない激痛に苛まれるんです。
カーリャ・N『死ぬ』のではない。『生きている』のでもない。『死に続ける』んですよ ! ?カーリャはそんなの嫌です !
ゲフィオン……それは私が殺した世界や人々も同じなのよ。私の過ちのせいで命を落とした後も苦しんでいる人々がいる。
ゲフィオンそれにこの世界を守るためには、死の砂嵐を封じなければならないのよ。誰かがやらなければならないなら、この役目は私が引き受けるべきだわ。
カーリャ・Nわかってます、ミリーナ様。あなたが助けなんて望んでないことも。それでも私は、生きていて欲しかったんです。
カーリャ・Nたとえあなたが世界中から非難される極悪人だったとしてもミリーナ様は私のただ一人のマスターだから。

キャラクター2話【7-2 ミリーナの心1】
カーリャ・N身勝手なことばかり言って申し訳ありません……。
ミリーナ身勝手じゃないわ。そうよね、ゲフィオン。
ゲフィオン……ああ。しかし、バロールの影響はさらに強まるだろう。記憶の受け渡しさえできればミリーナだけは助かるはず。それなら――
イクスあの ! ちょっといいかな。バロールはコーキスを使っているんですよね。自分の鏡精のように。
ゲフィオンそのようだ。
イクスちょっと違うかもしれないけどフィルさんとファントムもそうでしたよね ?その、マークとの関係というか繋がりというか……。
フィリップああ、僕とファントムは、マークを共有していた。
フィリップただ、僕とファントムは同一人物を同一時空に具現化する為のテストケースだったからね。参考にはならないかもしれないよ。
イクスでも、同じ存在なら鏡精を共有できる可能性が高いってことですよね。
フィリップそれはゲフィオンとミリーナ、二人分の心をカーリャに守ってもらえないかってことかい ?
イクス無理でしょうか……。記憶を受け渡して心の穴を修復する間だけでも。
フィリップできるとは断言できない。でも……。
ゲフィオンいいえ。できたとしても私にそのつもりはないわ。
フィリップゲフィオン !
ゲフィオンもう決めたことなの。
ゲフィオンイクス、ミリーナ、聞いて欲しい。私はあなたたちを騙し異世界や鏡映点たちを具現化させた。
ゲフィオン巻き込まれた鏡映点たちには償おうにも、償いきれぬ苦しみを今も強いている。
ゲフィオンそして、あなたたち二人には、尊厳を踏みにじり冒涜するような生み出し方をしてしまった。本来の記憶を改ざんし、心を捻じ曲げてしまった。
ミリーナ私たちを具現化するときに手を加えたという記憶はネヴァン――あなたのカーリャに預けた筈ですよね。どうして知っているんですか ?
ゲフィオンそう……。知っているのね。……何もかも。
イクスフィルさんから聞きました。
ゲフィオンそう……。ええ、確かに記憶は残っていない。でも、二人を見ていればわかるわ。それに、私ならやりかねないことだもの。
ゲフィオン全て、私の責任です。謝って済むことではないけれど――
フィリップ待ってくれ、それなら僕も一緒だ !
ゲフィオンいいえ。イクス、ミリーナ、フィルを責めないで。
ゲフィオンフィルはただ、魔女と幼馴染であったというだけでこんな外道に付き合わされてしまっただけ。巻き込まれたことを考えれば、むしろ被害者よ。
ゲフィオン全ては私一人が背負うべき罪。だから――
フィリップそうじゃないっ ! !
ゲフィオンフィル……。
フィリップ一人だって…… ?確かに覚えていないんだね。あれは、二人で一緒にやったことだ ! きみと僕で !
フィリップむしろ、イクスを甦らせようとしたときイクスが危険に巻き込まれないように性格を変えようと積極的に提案したのは僕だった筈だ。
フィリップ僕は卑怯で、臆病で愚かだったから自分の罪を隠したかったんだ。生み出される命を物みたいに考えて……。
ゲフィオン……だとしても、私もそれに乗ったのよ。そしてきっと、私が決めた。だから、フィルはそんな風に――
フィリップ――もう僕をそんな風に甘やかさないでくれ !僕は心底薄汚い人間なんだ。ミリーナの優しさにつけ込んで甘えていた。
フィリップ僕はね、ミリーナ。昔イクスが憎くて羨ましくて……彼を殺そうとしたことがあったんだ。あのピクニックの日のことだよ。
ゲフィオン! !
フィリップ知ってるよ。あの時、きみは後悔した。僕がきみを誘って、きみは珍しくイクスが一緒にいなくても平気だと思ってしまった。
フィリップ僕らは二人とも、イクスの忠告を軽く考えて……そこで魔物に襲われた。
ゲフィオンあの時……いつもならイクスも一緒にって言ったのにフィルが久々にセールンドから帰ってきたのが嬉しくて少しなら……大丈夫って思ってしまった。
ゲフィオン私はお姉さんだから一人でもフィルのことを守れるって……。
フィリップあの時からきみは、イクスに罪悪感を抱いてイクスを守ると決めたんだよね。そして無意識に僕を遠ざけるようになった。
ゲフィオンごめんなさい……。あなたを見ていると、私の弱さが思い出されてつらかった……。
フィリップ……うん、知ってたよ。でも、イクスが殺されて色々あって、イクスを具現化しようと決めた時これは全てをやり直すチャンスだと思ったんだ。
フィリップ僕の罪を消して、ミリーナの罪悪感を消して二人目のイクスとミリーナが幸せになれば……きみは僕を振り向いてくれるんじゃないかって。
フィリップ僕はイクスが好きだったけどミリーナのことも好きだった。ミリーナに……きみに振り向いて欲しかったんだよ。
ゲフィオン――え…… ?
二人…………。
フィリップそうだよね……。気付いてないと思ってた。
フィリップ勇気が無くて今まで一度も口にできなかったけど僕は、ミリーナが好きなんだ。
ゲフィオン…………。
フィリップ……ミリーナ ?
ゲフィオン酷い……。
フィリップ……ごめん、困らせて。
ゲフィオンいいえ……違うの。私が……酷いの……。私……本当に何も見えていなかった……。
ミリーナイクス、私……。
イクスあれはフィルさんとゲフィオンの話だよ。ミリーナは、ミリーナだ。
ミリーナえ、ええ……。
ゲフィオンありがとう、フィル。私のことを好きでいてくれて。でも……。
フィリップ……うん。
ゲフィオンあなたをずっと、弟のように大事に思っていたわ。だから巻き込んではいけないと考えていた。
ゲフィオン……なのに、結果的に酷く傷つけることになってしまった。
ゲフィオンだからこそ、全ての責任は姉である私が引き受けるつもりでいたの。
ゲフィオンでも……それも私の独りよがりだったのね。あなたに対して、とても失礼なことをしていたんだわ。……ごめんなさい。
ゲフィオン私、やっぱりイクスが……最初のイクスが好きなの。だからあなたの気持ちには応えられない。
フィリップ……うん。
ゲフィオンけれど、一緒に世界を歪めた者としてあなたには生きて責任を果たして欲しい。
フィリップ『一緒に』って……。今、それを言うんだね。
ゲフィオンええ。私、魔女だもの。
ゲフィオンそれと……カーリャ。
カーリャ・Nは、はい !
ゲフィオンあなたの記憶がなくて、ごめんなさい。
カーリャ・Nですから、それはもう――
ゲフィオンでもね、私がカーリャに全てを託したのなら私は間違いなくあなたを愛し、信頼していたのよ。だからきっと二人目の鏡精を作らなかったんだわ。
ゲフィオン私を救おうとしてくれて、ありがとう、カーリャ。
カーリャ・Nゲフィオン様……そんなお別れみたいな言葉は嫌です。
ゲフィオン困ったわね。でもきっと、人間になったあなたの心にはかつての私が――ゲフィオンが生きているわ。いつも一緒なのよ。
ゲフィオンだからどうか、『小さな』ミリーナを守るためにあなたの持つ記憶を託してあげてちょうだい。
カーリャ・N……………………はい。
ゲフィオンありがとう、カーリャ。
ゲフィオン――ではミリーナ、カーリャを呼び戻そう。お前の心を守って貰わねばならない。
ミリーナ無理よ。カーリャを感じることができないの。
ゲフィオン私に考えがある。
イクス何をする気ですか。
ゲフィオンミリーナの心には、バロールの接触で暴走した私の力が流れ込んでいる。今からそれを止める。
ゲフィオンほんの僅かな時間だがミリーナの心は安定するはずだ。その間にカーリャを呼び戻してもらう。
イクス待ってください !
ゲフィオンこれ以上長引けば、私が力を制御できなくなる。――ミリーナ、始めるぞ。

キャラクター3話【7-3 ミリーナの心2】
ミリーナカーリャ、私はここよ。聞こえているなら答えて……。
カーリャ……さま。ミリーナさまっ ! !
ミリーナカーリャ ! 戻って来たのね !
カーリャミリーナさまーっ ! 会いたかったですぅ !どうしても心の中に戻れなくて……。
イクス良かった、カーリャは元気みたいだ。
カーリャはれ ? イクスさまに、先輩に、フィルさま ! ?めちゃくちゃ人数増えてますけど ! ?
ゲフィオン……くっ……。ミリーナ、早く記憶の受け渡しを……。
ミリーナカーリャ、詳しい説明は後でするわ。ネヴァン、お願い。
カーリャ・Nはい。――小さいカーリャ、今から私はゲフィオン様の記憶を、小さいミリーナ様に渡します。あなたは小さいミリーナ様の心を守りなさい。
カーリャえ ? でも、ゲフィオンさまは ?
ゲフィオンカーリャ、ミリーナをお願いね。
カーリャ! !
カーリャ……わかりました。全力で守ります !
カーリャ・N……では小さいミリーナ様、ご用意を。
ミリーナええ……。
カーリャ・N……記憶の移行は終了しました。
イクスミリーナ ! ?
ゲフィオン……大丈夫、上手くいったわ。これが証拠。
イクス姿が薄れて……心が消えているからか ! ?
ゲフィオンこれで、やっと……。
フィリップゲフィオン、こんなのはずるいよ……。
イクス……そうだよ。フィルさんの言う通りだ。生きて償うのは、あなたも同じじゃないか !
ゲフィオン! !
イクスあなたが苦しむのは――俺はそんなこと必要ないと思うけど、それでもあなたの自由だ。
イクスでも、あなたが苦しめたと自覚している人たちが実際にまだ苦しんでいるなら何か助ける方法を探しましょう。
イクス万策尽きてから『死に続ける』選択をしても遅くはない筈だ !
ゲフィオンイクス……。
カーリャ・N……ミリーナ様、やっぱりカーリャは納得できません。ミリーナ様をこのまま消えさせはしない。
フィリップネヴァン、何をするつもりだ ?
カーリャ・N私はもう鏡精ではありませんが人間になったことで、ゲフィオン様と同じ想像の魔鏡術の力を受け継いでいます。
カーリャ・Nこの力で、ゲフィオン様の心を守れないかやってみます。
フィリップま、待て ! それは危険――
カーリャ・Nあなたを守ってみせます ! ミリーナ様 !
ゲフィオン駄目…………カー……リャ……………。
二人! !
イクス二人とも消えた……。まさか、一緒に消滅したのか ! ?
フィリップいや、ネヴァンがゲフィオンの心の中に残った、のか ? 今の彼女にそんなことができる筈がないのに……。
カーリャううっ……二人とも、推測は外でしてください !
イクスカーリャ ! ?
カーリャゲフィオンさまの記憶を受け止めるためにミリーナさまの心に大きな負荷がかかっているんです !
フィリップすまないカーリャ !
フィリップ――イクス。ミリーナにとって僕たちは異物だ。すぐに出よう。
イクスはい !
イクスう……戻ったのか ? フィルさんは……。
フィリップ僕もついさっき戻ったんだよ。
マークよし、これで二人とも無事に目が覚めたな。
マーク正直なところ、ミリーナのことやら、突然消えたネヴァンパイセンのことやら、聞きたいことは山ほどあるんだが……とりあえずはこっちが先だ。
マーク――おい、イクスたち、戻ってきたぞ。
コレットよかった…… !おはよう、イクス。大丈夫 ?
イクスコレット ! ? どうしてここに……。
コレットカーリャに頼まれてセールンドからこの砦まで送ることになってたの。
イクスセールンド ! ?カーリャはそんなところにいたのか。
コレットうん。けど私、飛んでる途中でカーリャを落としちゃって……。
イクス落としたって……。カーリャも飛べる筈なのにさては気を抜いてたな……。
コレットでもね、偶然ルドガーやジュードたちが戦っている真上だったから、カーリャのこと受け止めてくれたの。
コレットそのあと、カーリャが消えちゃったって聞いたからもしかしてここにいるのかもと思って様子を見に来たんだ。
イクスそうだったのか。カーリャは今、ミリーナの心の中にいるよ。送ってくれてありがとう。
コレットそっか、ちゃんと戻れたんだね ! 良かった !
イクスところで、ジュードたちは何かの作戦中なのか ?ミリーナが倒れた時に、魔鏡通信が繋がらなくなったから、今どんな状況かわからないんだ。
コレット精霊関連で問題が起きたから、みんなで手分けして調査をしてるところだよ。
コレットでもジュードたちは、途中でパティ奪還作戦の戦闘に巻き込まれたみたいで、敵に囲まれてたの。
イクス大丈夫なのか ! ?
コレットうん、みんな無事だよ。
コレットただ、みんな「こっちは大丈夫だからカーリャの方へ行ってあげて」って言ってたけど何だか心配なの。
イクスそうなのか……。
コレットカーリャが無事だったことがわかったから私、今からジュードたちの様子を見に行ってみるね。カーリャのことを心配してたから伝えてあげたいし。
フィリップいや、直接出向かなくてももう、魔鏡通信が使えるんじゃないかな。
イクス本当ですか ! ?
フィリップこの砦付近での大きな障害はミリーナがゲフィオンの力の影響を受けたことだ。そのせいで魔鏡結晶ができてしまったしね。
フィリップでもそれはもう……解決した。
マークそういやさっき、ローエンから通信が入ったぜ。ノイズが酷くて、何を言ってるかまでは聞き取れなかったけどな。
マークけど、原因は複数あるんだろう ?ローエンからの通信のノイズもそいつのせいか ?
フィリップ多分ね。けれど、一番大きな要因はゲフィオンの力だと思う。だから、魔鏡通信は回復しつつあると見ていい。
フィリップコレット、ジュードに繋いでごらん。
コレットはい。
コレット――ジュード、ジュード、繋がってる ?
ジュードコレット ! そっちは無事 ?
コレットうん。カーリャはミリーナの所へ帰れたって。イクスも隣にいるよ。
イクス心配かけてすまない。そっちの状況を教えてくれ。

キャラクター4話【7-3 ミリーナの心2】
バルド――簡単ですが、事の経緯はこんなところです。
ロイドバルドの実体化も驚いたけどセールンドではそんな大変なことが起こってたのか。
ラタトスク……精霊を無理やり集めてフリンジかよ。帝国の野郎、ろくでもねえこと考えやがって。
しいなまったくだね。こっちには精霊関係者も多いしフリンジが成功して、何か悪い影響でもあったら今頃どうなってたかわかりゃしないよ。
ジーニアスけど、フリンジって新しい魔術を作り出すんでしょ ?何を作るつもりだったんだろう。
ナーザディスト博士、心当たりはあるか ?
ディストさあ、帝国のくだらない研究には興味がありません。この薔薇のディスト様の関心を惹きたければもっと面白い題材を用意していただかないと。
ロイドディストが関心ありそうな研究…… ?ジェイドの研究……とか ?
マルタ確かに。ジェイドさんなら興味あるでしょ ?
ディスト何故私がジェイド如きを研究しなければならないのですか ! ?
バルドまあまあ。ジェイドさんは優秀な方ですからそれを研究できる博士はもっと優秀だということでは ?
ディスト私が…… ! 優秀…… !ええ……ええ ! 優秀ですとも !
ジーニアス結局、フリンジで何をする気だったかは不明なんだね。ともかく、コーキスたちが阻止してくれて助かったよ。
テネブラエはい。助けられた精霊たちに代わってお礼を申し上げます。
メルクリア…………。
コーキスなんだよ、メルクリア。さっきからテネブラエ様のことじっと見つめてさ。
メルクリアいいや、珍しいものじゃと思ってな。獣が話すのじゃぞ ?
テネブラエ獣ではありません。私は誇り高きセンチュリオンです。この世界では精霊に属していますが本来は魔物の王たるラタトスク様のしもべとして高貴なる闇を司り――
メルクリアよ、よくしゃべるな。
エミル僕も最初は驚いたよ。でも、すごく頼りになるんだ。ちょっとクセが強いけどね……。
メルクリアそういうお前も、さきほどからコロコロと人格が入れ替わっておるぞ ?鏡映点は変わり者が多いのう。
テネブラエはぁ……自己紹介を遮ったばかりかクセが強いだの変わり者だのと、あんまりです。私には語り切れないほどの魅力があるというのに。
プレセアテネブくんの魅力……。肉球を自在に作れることでしょうか。ふにふにすると気持ちがいいです。
テネブラエプレセアさんは、またそれですか ?
メルクリアまた ?そんなに何度も触りたくなるほど良いものなのか。
プレセアはい。テネブくんは、私のいた時代よりも未来の存在ですが、その時に出会った未来の私も同じように触っていたそうです。
メルクリアなるほど、肉球……。
プレセア……テネブくん。今、作ってもらえませんか ?メルクリアが触りたそうなので。
メルクリアなんと ! よいのか ! ?
テネブラエか、構いませんが、あのふにふにはくすぐったいんですよねぇ……。
プレセアリーガルさんの体がよくなったらその時にもお願いします。きっと喜ぶと――
全員! !
メルクリアゲフィオンの鏡像が光ったぞ ! ?
カーリャ・N………っ!
コーキスうおわおあ ! ?鏡像からネヴァンパイセンが飛び出してきたぞ ! ?
バルドネヴァン !
カーリャ・Nあ……バル、ド…… ?
バルドこれは……酷い傷だ。無理に動かないで。
コーキスネヴァンパイセン、どうしたんだよ !
カーリャ・Nゲフィオン様の……心の防御壁を……作って…………………………。
コーキスネヴァンパイセン ?おい、しっかりしろよ、死ぬなって !
バルド落ち着くんだ、コーキス。
バルド――誰か、回復術が使える方は ! ?
マルタは、はい、少しだけなら!
バルド状態はどうですか ?
マルタなんとも言えない。もっと強い回復術が使えたらよかったんだけど……。
エミルさっき『心の防御壁』って言ってたよね。それを作ってこんなことになったのかな。
バルドしっかりしてください、ネヴァン。あなたのこんな姿は見るに堪えない……。
バロールの残滓(まったく、余計なことをしてくれた)
バルドこの声……。
ナーザどうした、バルド。
バルドお待ち下さい、ナーザ様。今、バロールが話しかけてきています。
コーキスそれ、頭の中に声がするやつか ?
バルドええ。後で話そうと思っていましたが先ほども同じように話しかけてきたのです。私のことを尖兵と言っていました。
ナーザ尖兵だと ?
コーキスあいつ、俺だけじゃなくてバルドにまでちょっかい出してんのかよ。何て言ってるんだ ?
バルド………………。バロールによれば、カーリャ……ネヴァンのせいで死の砂嵐にアクセスできなくなった、と。
ナーザバルド、バロールにこちらの声は聞こえているのか ?
バルドええ、恐らく。
ナーザそうか。
ナーザ――バロール、いや、その残滓とやらよ。バルドは貴様の所有物ではなく俺の部下だ。俺の許可無く利用するな、無礼者め。
バルドナーザ様……。ご存じかと思いますが、相手は神ですよ ?
ナーザバルド、お前もわきまえろ。人を駒としか思わぬ神など無視すればいい。我らが奉る神はダーナ神のみ。それを忘れるな。
バルド御意。元より私は御身とメルクリア様のためにある存在。どうかご心配なさいませんように。
ナーザ心配などしていない。――それで、そちらの元鏡精はどうだ。しゃべれそうか。
マルタううん、まだ無理。ちゃんとアジトで治療しないと。
ナーザならば待っても無駄だな。後は貴様たちに任せる。我らは調査に赴かねばならない。
ナーザ――行くぞ。バルド、メルクリア。それにコーキスとディスト博士も。
バルド……このような状態のネヴァンを残して去らなければならないのは、身を裂かれる思いです。どうか彼女を……ネヴァンをお願いします。
コーキスネヴァンパイセンのこと絶対の絶対の絶対に、元気にしてやってくれよな。
ロイドああ、任せてくれ。
しいなコーキス、ちょっと待ちな。
コーキスえ、なんだ ?
しいなあんまり意地張らないほうがいいんじゃないのかい ?
コーキス意地って、何が ?
しいな余計なおせっかいかもしれないけどさ。もしもイクスたちに伝言があるなら引き受けるよ ?
コーキス…………いい。
しいなコーキス……。
コーキスごめん……。ありがとな、しいな様。

キャラクター5話【7-4 ファンダリア領 森2】
ミリーナ……私……は…… ?
イクスミリーナ、目が覚めたか !
ミリーナイクス……、傍にいてくれたのね……。
マークってことは、こっちもそろそろか ?
カーリャただいま戻りましたっ !
マークよう、ちっこいパイセン。お疲れ様。鏡精の底力、見せてもらったぜ。
カーリャこのくらい当然ですよ。
コレットカーリャ ! 無事でよかったよぉ。
カーリャコレットさま、来てくれたんですね。さっきはありがとうございました。
コレットううん、お礼なんていいよ。私こそ途中で落としちゃってごめんなさい。凄いスピード出しながら放りだしちゃって……。
カーリャいいえ、あれはカーリャがコレットさまを無理に急がせてしまったからです。
マークそれで飛べるはずの鏡精が真っ逆さまか。
カーリャそういうこともあるんですよ ! マークだって幼体のまま全速力のコレットさまに運んでもらえばわかります !
フィリップどうやらカーリャの方は問題なさそうだね。ミリーナ、異常はないかい ?
ミリーナ……ええ、大丈夫。あの、フィル、私……。
フィリップミリーナ、『その記憶』はゲフィオンのものだ。
ミリーナ…………。
フィリップ勝手に作られてしまった『今のミリーナ』が体験したことじゃない。決して取り込まれてはいけないよ。
ミリーナ……努力します。
フィリップそれと、ネヴァンのこともだ。今は目の前のことに対処しないといけない。わかるね ?
ミリーナええ……。
フィリップ……まあ、その、僕も色々と恥ずかしかったりみっともなかったり、情けないことを言ったから正直……かなり居心地が悪いんだけれど……。
マーク……なんだ。また恥の上塗りをしたのか?
イクス恥ずかしくなんてないって、俺は思います。
フィリップそう言われると余計に……。
イクスわ……そ、そうですか、すみません !
イクスえ、えっと……ミリーナ、少し休んでくれ。まだ混乱してるだろう?
ミリーナいいえ、大丈夫よ。戦況はどうなっているの ?
イクス陽動部隊は救世軍の力を借りて立て直し中だ。それと、パティの心核を手に入れたからユーリさんに渡さないといけない。
フィリップそのことだけど、休眠中だったパティの心核を目覚めさせておいたよ。ほら、これだ。
イクスあ、ありがとうございます、フィルさん !さすが、仕事が早いですね。じゃあ、俺、ユーリさんに連絡してみます。
イクス…………あれ ?通信が届いていないのかな。反応しない。
ミリーナ出られないのかも。通信文だけでも送っておいたらどうかしら ?
イクスそうだな。ええと、到着までの時間も考えないと……。
コレット私、先にユーリたちのところへ行ってみるよ。飛んでいった方が断然早いでしょ ?
イクス助かるよ ! パティのことは一刻を争うんだ。
イクスミリーナとカーリャも、コレットと一緒に行ってくれ。心核を扱うから鏡士が必要だ。俺も後から追いかける。
ミリーナええ、わかったわ。コレット、よろしくね。
コレットうん。頑張ればイクスも一緒に運べるけど今はスピード重視だもんね。
ミリーナところでユーリさんたちの居場所はわかっているの ?
イクスああ。ジュードたちの情報で目安はついている。そこから先は、魔鏡通信が繋がるチームと連絡を取りながら行動しよう。
コレットわかった。ミリーナ、カーリャ、行こう。
イクス気を付けてな !
イクスええと、後は――
フィリップイクス、きみも今すぐに発つといい。砦のほうは僕たちで持たせておくよ。
マークってことだ。さっさと片付けて来いよ。
イクス……フィルさん、マーク、ありがとう。俺、二人がいてくれて本当によかったって思ってる。
イクス――じゃあ、行ってきます。
フィリップ……僕がいてよかったって。
マークそう思ってる奴は他にもたくさんいるんだぜ ?いい加減、気づけっての。
カイルあっ、あそこだ !
リアライレーヌ、あんな所に隠れていたのね。
ナナリーったくなんなんだい !もうずっと逃げちゃ隠れ、逃げちゃ隠れ……。子供の遊びじゃあるまいし。
ロニおい、イレーヌさんよ !もういい加減に観念しろって !
ジューダスそう言われて諦める馬鹿はいない。
ロニうるせー、わかって言ってんだって !
ジューダス美女を追いかけるのは役得だとか言ってたがさすがのお前でも我慢の限界か。
ハロルドけど、おかげでだいたい読めたわ。あいつの目的はこの先にある帝国軍の基地よ。
ハロルドあちこち隠れながらだけど確実にある場所へ近づいているから。
ジューダスそこが帝国軍の基地というわけか。
ハロルドそういうこと。領主の館が襲撃を受けた今この辺りじゃ一番守りが固くて兵が多いはず。逃げ込むには妥当でしょ。
ハロルドでも、それだけじゃ腑に落ちないことがあるのよね。
エルレインイレーヌ、やはり基地に向かっていたか。
イレーヌβ――エルレイン様。
カイルエルレイン ! ?
エルレイン…………。
リアラエルレイン、何故あなたがここに !
エルレインイレーヌ、デミトリアスはどこか。
ロニ無視かよ……なめやがって。
イレーヌβデミトリアス陛下であればアスガルド城でしょう。向かわれますか ?
エルレインええ。今すぐに。
イレーヌβ承知しました。
ハロルド転送魔法陣…… !そんなものが使えるなら、なんで今まで――
ナナリーあいつ、逃げちまうよ !
ロニ逃がすか !
カイルオレたちも――うわっ !
ジューダス魔法陣が消えた ! ?おい、もう一度展開できないのか !
ハロルドこれは無理ね。痕跡がまったくないもの。ということは……そもそもエルレインだけを……そうするために準備していた……?
リアラねぇ、エルレインはデミトリアスの所に行こうとしていたわよね。
ジューダスああ。このままだと、ロニとナナリーは二人だけで敵地の只中に放り出されてしまう。
カイルロニ、ナナリー…… !

キャラクター6話【7-5 アスガルド城1】
イレーヌβそれではエルレイン様私は謁見の申し入れをして参ります。
エルレイン必要ない。デミトリアスは何処か。
イレーヌβ今時分であれば謁見の間かと。
エルレインでは直接赴く。行くぞ。
イレーヌβ承知しました。
イレーヌβ――………… ?
エルレインどうした。
イレーヌβ転送魔法陣がまだ閉じない……。申し訳ありません、どうやら賊が侵入したようです。
エルレイン構うな、捨て置け。
ロニここは…… ?――って、今の後ろ姿、エルレインだ !
ナナリーカイルたちは来られなかったみたいだね。転送魔法陣は消えちまったし……。あんたと二人だけか。
ロニなんだよ、不満か ?
ナナリーいいや、頼りにしてるよ。
ロニお ! ? ……おお。イレーヌを捕まえるのは難しくなっちまったができるだけ情報収集はしておこうぜ。
エルレインデミトリアスはいるか !
帝国兵エルレイン様 ! ? どうかお待ちを――
デミトリアス……エルレインか。
帝国兵申し訳ありません。お止めしたのですが。
デミトリアスいや、いい。彼女とはゆっくり話がしたい。謁見の間の周囲の人払いを。警備兵も今だけは下がらせておけ。
帝国兵はっ。
デミトリアス――さて、随分と急な訪問だ。良い報告だと嬉しいのだがね。
エルレインよくもぬけぬけと。貴様、フォルトゥナ神を具現化する気など最初からなかったのだろう。
デミトリアスそんなことはない。ただ、この世界ではどう足掻いても異世界の神はエンコードで矮小化してしまう。
デミトリアスそれは、きみの力が酷く弱まっていることで身をもって実感しているはずだ。弱体化した神など望んではいないだろう ?
エルレインその話と、貴様たちがフォルトゥナ神の降臨を騙ったことに何の関係がある。
デミトリアス大いにある。私たちは、まずこの世界の神と呼ばれる存在を引きずり出し、神という概念を書き変えるしかないと考えたのだ。
デミトリアスそうすれば、異世界の神も具現化できるようになるかもしれない。
デミトリアスその時こそ、真のフォルトゥナ神の降臨となるだろう。きみの望む救済はそこから始まる。奇跡の力が、人々に救いをもたらすんだ。
エルレイン全てを消滅させた後で神を具現化したとしてそれが救済と言えるのか ?
デミトリアス……どこまで知っているのかね ?
エルレイン帝国が救うべき人々を見捨てこの世界を滅ぼそうとしていること。
エルレインすでに滅びた世界であるニーベルングを造ろうとしていること。
エルレインそして、皇帝を名乗るあなたが孤独で侘しく、誰よりも救われたいと願う弱い人間だということです。
デミトリアス…………。
グラスティン全てお見通しとは、さすが聖女様だ。しかも皇帝陛下をも憐れむ心をお持ちでいらっしゃる。
エルレイン……グラスティン。
グラスティンそんな聡明なお方が、俺たちの目を盗んであっちこっち嗅ぎまわっていたらしいなぁ。犬のように。
エルレイン犬を使って私を探っていたのは貴様であろう。
グラスティンヒヒヒッ。聖女様の頭が固すぎるからだよ。人々の救済とやらに執着しすぎだ。
グラスティン世界を消滅させた後だって救済はできるだろう ?新たに救済するべき『人』を作ればいいんだからな。
エルレイン貴様……、本気で言っているのか。
グラスティンお気に召さないか? それじゃあ仕方がないなあ。聖女様には最後の役割を務めてもらおう。
エルレインこれは…… ! ?
グラスティン【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。
エルレイングラスティ――
グラスティン聖女様出棺だあ。よくやったな、イレーヌ。
イレーヌβありがとうございます。
デミトリアスイレーヌはよく働いているようだね。
グラスティンああ。聖女様は、俺がサレを使っていることに気を取られていたから、従順なイレーヌが裏切るとは思わなかっただろうよ。
グラスティンおかげでこの魔鏡陣にも気づかれずに誘導することができた。ヒヒヒッ。
デミトリアスそう、だな……。
グラスティンおーい、あの女の言うことを真に受けるなよお ?
デミトリアスわかっている。わかってはいるが彼女の望みを叶えて上げられなかったことが悲しいのだ。
グラスティンヒヒヒ、お前は本当に面白いなあ……。目に入る範囲の全てに同情し手の届く範囲全てに手を差し伸べる。
グラスティンそうして、結局は手に負えなくなって手放すんだ。『誰かいい人に拾われてね』ってな。最高の絶望演出家さあ !
デミトリアス…………っ !
帝国兵伝令グラスティン様 ! 至急お戻りください。
グラスティンあ ? 何が起きた。
帝国兵伝令それは……来ていただいた方がよいかと思います。グラスティン様の私的な件でもありますので。
グラスティン……なるほど。ちょっとヤボ用が出来た。今から出てくる。
デミトリアスわかった……。後は引き受けるよ。
グラスティンそうそう、外に出るついでに『レプリカの心核』も回収しておかなきゃな。イレーヌ、お前も来い。
イレーヌβはい。グラスティン様。
ロニおい……、俺たち、ヤバイもの見ちまったんじゃねえか ?
ナナリー嘘だろ、あのエルレインが……。
ロニあいつら、奇跡の力がどうとか言ってたよな。エルレインはそのために嵌められたのか ?
ナナリーあっ、グラスティンとイレーヌが行っちまうよ !
ロニ考える時間もないってか。くそっ、追うぞ !

キャラクター7話【7-6 アジト】
リフィル浮遊島全域で、魔鏡通信の復活を確認したわ。
リフィル外部との通信が安定するにはもう少しかかるでしょうけどこの分ならほぼ問題なく繋がる筈よ。
ジェイド根本的な原因が解消されたのでしょう。これでようやく地上に降りているチームに連絡が取れる。
リフィルあら、言っている間に連絡が来たみたい。――カイル、そちらは無事 ?
カイルリフィル先生 ! ロニとナナリーが大変なんだ !
リフィルでは、二人はアスガルド城にいる可能性が高いのね。
カイルうん。オレたちも助けに行きたいけどここからじゃ遠すぎるんだ。
リフィルわかっています。彼らの救出はスタンたちのチームに動いてもらうわ。
ジェイドそれと、ケリュケイオンにも連絡を。ローエンがいれば何かしらの際に対処してくれるでしょう。カイルたちも、それでいいですね ?
カイル了解。それとスタンさんたちに伝えて欲しいんだ。ロニとナナリーを頼みますって。
リアラ良かった……。少しだけ安心したわ。
カイルでもさ、オレたちが魔法陣に飛び込むのがもう少し早ければこんなことにはならなかったのにって思うと……。
ハロルドいいえ、行かなくて正解かも。イレーヌは転送魔法陣を使っていたけど自分が逃げる時には使わなかったでしょ。
ハロルド普通の転送魔法陣より消えるのも早かったし痕跡も残らなかった。なんか不自然なのよねぇ。
ジューダス確かに。むしろエルレインが来なければ使う予定さえなかったようにも思えるな。
リアラ……まさか、エルレインは……。
ハロルドま、今考えても出ない答えは後回ししましょ。それで、これからどうする気 ?
カイルイクスたちに合流しようと思ってる。
ジューダス――待て。……誰かいる。
カイルあれは、ディムロスさんだ !
ディムロス……………………。
カイルえ ? 何かのサイン ?
ハロルドそのまま静かに、この先の茂みに身を隠せって。行くわよ。
ディムロス驚かせてすまない。あの辺りは帝国兵が頻繁に現れるからな。
カイルどうしてディムロスさんがここにいるんですか ?
ディムロスそうか、きみたちはイクスくんと別行動だったな。どこまで把握している ?
カイルついさっき、ジェイドさんたちから聞いて大まかな動きだけは知っています。
カイルけど、さっきまで魔鏡通信が使えなかったから少し前の情報ばかりなので詳しいことは調査中だそうです。
ハロルドちなみに今は通信可能よ。まだ不安定だけどね。で、そっちは ?
ディムロスファンダリア領の研究施設に魔核が大量に運び込まれたとの情報を得てイクスくんたちと協力しつつ回収作戦に当たっていた。
ディムロスだが、魔核の保管場所を移されてしまってな。ちょうど輸送中の敵と鉢合わせして戦ったんだが転送魔法陣で逃げられた。
ハロルドで、後を追っかけて魔法陣に飛び込んだわけ ?
ディムロスああ。転送先は帝国の基地だった。さすがに身を隠さざるを得ず輸送していた者たちを見失ってしまった。
カイルだったら捕まえましょう !どんな奴らだったんですか ?
ディムロスカイルくんたちと同じくらいの少年と少女だ。少女の方は魔物使いで、アリエッタと呼ばれていたな。
ハロルドアリエッタ……。ふうん……そう。
ジューダスそれで、基地を脱出して今に至るというわけか。
ディムロスそんなところだ。だが、魔核の行方は突き止めた。【魔導砲】に使用するために運ばれているらしい。今も基地から魔導砲への輸送隊が送り出されている。
ハロルドちょっ、魔導砲 ! ?
ディムロスあまり大きな声を出すな。今も言ったが、輸送隊と護衛の兵がこの辺にも――
ハロルド出さずにいらんないって ! キール研究室ではね魔導砲は虚無を破壊する装置じゃないかって推測されてるんだから。
カイル虚無を破壊っていうと……。
リアラ虚無はティル・ナ・ノーグを取り巻く空間よ。死の砂嵐……カレイドスコープで消えた人々の魂はそこに捕らえられて苦しんでいるわ。
カイルそうそう、それ !それを壊せるなら、いいことなんじゃないの ?
ハロルドバカね。もしも虚無が消えたらティル・ナ・ノーグそのものが消滅するわよ。
カイルええっ ! ?
ハロルド帝国の目的が、ティル・ナ・ノーグの破壊とニーベルングの復活ならもう計画は最終段階ってことね。
ジューダスだとすれば、アリエッタたちを追うよりも魔核の輸送隊を追った方がいいだろう。
ディムロスああ。魔導砲の稼働を止めねばならん。
その頃、魔核の輸送隊とともに魔導砲へと向かっていたパティは――
? ? ?タイダルウェーブ !
帝国兵たちうわああっ !
輸送隊隊員A弓兵だ !
輸送隊隊員Bくそっ、足を……。動けな……。
帝国兵待ち伏せされたか ! ?狙われているぞ ! 少女を渡すな !
パティ…………。
帝国兵いったいどこ……から……。……………………。
パティ…………。
ユーリさっきの奴が最後の護衛ってとこか。
レイヴン取り巻きは全部片付けたわよ。
ユーリ――パティ、今度こそ迎えに来たぜ。
パティ! !
デュークあの娘、戦う気だぞ。
ユーリやっぱそうなるか。仕方ねぇ。パティ、悪いがちょっと痛いぜ !

キャラクター8話【7-7 ファンダリア領 森3】
ユーリふぅ……やっと大人しくなってくれたな。
レイヴン結構きつかったわ……。おっさんヘトヘト。
カロルボクも……。リタ、パティにはそんなに力が残ってないって言ってたのに……。
リタそれだけ【鏡の精霊】としての力が強いってこと。
ジュディス手加減しながら戦っていたのも原因じゃないかしら ?パティに大きな怪我はさせられないものね。
カロルジュディス……手加減してた ?
ジュディスふふふ。それなりに。
エステルあとはイクスたちが来てくれればパティも元通りですね !
フレンその筈ですが……、まだ姿は見えないようです。
カロル今はジュードたちが手分けして監視してくれてるけどここには長く居ないほうがいいよね ?
ユーリああ。だが、ギリギリまで待ってみようぜ。イクスたちを信じてな。
コレットミリーナ、ユーリたち、あそこにいるよ。
ミリーナみんな、待たせてごめんなさい !
全員ミリーナ !
カロルコレットに送ってもらってきたんだね。イクスは ?
ミリーナ後から追いかけてくる筈よ。パティの心核を持ってきたからすぐに交換しましょう。
エステルどうです ? 上手くいったでしょうか。
ミリーナええ、交換終了よ。パティの心核はちゃんと戻したから、安心して。
エステルありがとうございます !
ミリーナもう少し遅かったらパティの肉体も作り替えられていたかもしれない。ギリギリだったわ。
リタそう、急いでよかった……。
ミリーナそれとこれが、今までパティに入っていた疑似心核――聖核よ。
デュークこれが我が友だと…… ?
ミリーナこんな状態、私も初めて見たわ。キメラ結合でこうなってしまっているのね。
ユーリくそっ、サレの言った通りかよ。
エステルミリーナ、この聖核はデュークにとって掛け替えのない大事な友人なんです。何とかなりませんか ?
ミリーナ大事な友人……。あの……デュークさん。あなたのご友人をお預かりしてもいいでしょうか。
デューク元に戻せるのか ?
ミリーナ……かなり複雑な結合状態ですが、私たちの拠点で結合を解くことができないか確認してみます。
ミリーナもちろん、デュークさんも一緒にアジトへ来て頂いて構いません。
デューク……拠点とやらまでは、私が我が友を運ぶ。
スレイお前は !
カロル今の声、スレイだ !
ユーリ行くぞ、襲撃かもしれねえ。
フレンミリーナはパティを見ていてくれ。
ユーリおい、いったい何が――
全員! !
グラスティンほう ! お前いいな、最高だ !長さといい艶といい……ヒヒッ、ヒヒヒッ !
ラピードグルルルルゥ…… ! ワンワンワン !
ユーリ……死んだんじゃねえのかよ。
カロルニ、ニセモノとか…… ?
リタあのキモい反応、間違いなく本物よ。
スレイ突然現れたんだ。まさか生きてたなんて。
ザビーダんなわけねえ。あの時は呼吸だって止まってたぜ。
ユーリあの時……。そうか、その後、死体がどうなったか確認しちゃいなかったな。
ユーリてめえのレプリカでも作ったか。グラスティン。
スレイレプリカ ! ?
ユーリお前らもリーガルの一件、聞いてるだろ。
ライラこの世界で作られたレプリカは、不完全でも被験者の記憶を共有できる可能性がある――でしたよね。
リタそう。ロイドたちの話では、レプリカの心核が崩壊したのと一緒に、身体も消えたらしいけど。もし、こいつの死体に心核が残っていたら ?
エドナ死体は残る……。じゃああの時死んだのはレプリカというわけね。
グラスティンヒヒッ。さて、どうだろうなぁ。
フレンどちらにしろ、お前にパティは渡さない。その悪趣味な黒髪狩りも止める。
グラスティン心配しなくても、あの聖核はもう用済みだ。娘ごと、そのまま返してやるよ。
グラスティンそこの黒髪は……本当なら意地でも手に入れて持ち帰るところだがな。惜しいが今だけは見逃してやる。
ユーリそりゃどうも。で、てめぇの目的はなんだ。
グラスティン聖核もお前も見逃してやる代わりにサレの行方を話せ。
ユーリ…………なんのことだよ。
グラスティンとぼけなくていい。この森に来た筈だ。銀髪の男が追っていたと、目撃情報がある。
デューク…………。
グラスティンやはり戦ったんだな ? その後、どこに行った。
ユーリだから知んねえって。
グラスティンふん……どちらにしろ役立たずか。いっそお前らが息の根を止めてくれればよかったのによぉ……。
グラスティンまあいい。サレがいないなら、ここに用はない。また会おうぜ、ヒヒヒッ。
ミクリオ転送魔法陣か。どうりで突然現れたように見えたわけだ。
ユーリみんな、周辺の警備に行ってる奴らにも連絡して集まってくれ。今後について話がある。
ミリーナそう。パティを連れてケリュケイオンへ行くのね。
ユーリああ、心核の交換は済んでるがしばらく目は覚めないだろ。安全な所で休ませる。
ユリウス今なら魔鏡通信も繋がっているようだ。ケリュケイオンに連絡をとってみよう。
カロルよし、全員で撤退準備だね。
ユーリいや、オレは残る。気になることがあるんでな。
フレンまた君は……。何を調べる気だい。
ユーリあいつが言ってただろ。「聖核は用済み」って。パティのことも気にかけちゃいなかった。
ユーリ自分のレプリカ使ってまで【鏡の精霊】を作る準備をしてたんだぜ ?なのに、全く執着がねえってのもおかしな話だ。
ユーリで、思ったんだけどよすでに【鏡の精霊】を手に入れていたとしたらどうだ ?レプリカで。
スレイ【鏡の精霊】のレプリカ ! ?
フレン突拍子もないな。それを確かめるために残るっていうのか。
ユーリ他にもあるぜ。あいつのレプリカが死んだ理由と意味がわからねえ。
レイヴン死の意味ねぇ……。何にしろ、パティちゃんを回収して「はい解決」ってわけじゃないのは確かだけどさ。
スレイう~ん……。ユーリ、その調査オレたちが引き受けるのはどうかな。
ユーリお前らが ?聞いた通り、これは全部オレの推測だ。空振りかもしんねえぞ。
スレイうん。でもさ、やっぱりユーリたちはみんなでパティの側にいた方がいいと思う。
ミリーナそうね。だってユーリさんたちはパティを救いに来たんでしょう ?
ミリーナだったら、聖核もパティもユーリさんたちみんなも無事に帰還することでようやく救出作戦のゴールだと思うの。
ユーリ……なるほどな。オレの仕事は中途半端ってわけか。
ミリーナそういうわけじゃないわ。でも……。
フレンいや、スレイやミリーナの言う通りだよ。一本取られたね、ユーリ。
ユーリああ、確かにこいつはオレの負けだ。スレイ、後は頼んだぜ。
スレイああ、任せてくれ。――それじゃみんなオレたちは帝国の基地へ調査に行ってくる。
ユーリデューク、あんたにも一緒に来てもらうぜ。
デューク……やむを得ぬ。
ユリウスではジュードたちにも一緒にケリュケイオンへ移動してもらおう。パティには医療の力が必要だろう。
ジュードうん、そうだね。それに救世軍側も戦力不足だろうし調査班は最小限にした方がいいかもしれない。
ルドガーそうか……。あっちも人手が足りない様子だったな。とはいえ、スレイたちだけを残すのも心配だが……。
ミリーナだったら私がスレイさんたちと一緒に行くわ。イクスがこっちに向かっているし連絡して、基地で合流しようと思うの。
コレット私もミリーナたちと一緒に行くよ。きっと役に立てると思うから。
セネル俺とシャーリィはケリュケイオンに戻る。グラスティンがうろついてるとなると、シャーリィに何か悪影響があるかも知れないからな。
シャーリィお兄ちゃん。わたしなら、大丈夫。【鏡の精霊】のことを調べるならわたしも役に立てるかも――
ミクリオいや、セネルの判断が正しい。シャーリィ、僕たちを信じてくれ。
シャーリィ……そうですね。わかりました。皆さん、気を付けて下さいね。

キャラクター9話【7-9 アスガルド城2】
ウッドロウさすが帝国の本拠地、アスガルド城だ。警備が固いな。
スタンやべっ、あんなところにも兵士がいる。一瞬、目が合ったかと思ったぜ。
リオン気をつけろ ! 見つかっていないだろうな。
スタンああ、大丈夫 ! ……だと思うぜ、多分。
ルーティそれより、デクスはまだなの ?
フィリアジェイドさんが連絡をつけてくれている筈ですがこの警戒網の中です。自由がきかないのかもしれません。
帝国兵おい、そこの !
スタンまずい ! さっきの帝国兵だ !
デクスオレだ、愛の使者デクス !さっきスタンの顔が見えてな、探す手間が省けたぜ。
ルーティあんた、やっぱり見つかってたんじゃない !
スタンけ、結果オーライだって。な ?
デクス時間がないから聞け。ロニたちはグラスティンに捕まったぜ。二人は今から別の城に運ばれる。
帝国兵おい、そこ、誰かいるのか !
デクス――くそっ !もう少しで裏門の方から馬車が出る。二台目を襲え。いいな !
フィリアあ、慌ただしいですね……。
ウッドロウ私たちもここを離れよう !
スタンは、はい !
リオンこの辺りなら大丈夫だろう。城の裏門も見える。
スタンよし ! 今のうちにアジトへ連絡を入れておこう。
スタンスタンです。デクスに会えました。
リフィルそう、良かったわ。それでロニたちは大丈夫 ?
スタンそれが……二人はグラスティンに捕まったそうです。別の城へ運ばれるのでこれから救出作戦に入ります。
リフィルわかったわ。みんな、気を付けてね。
クレアリフィルさん ! さっきの観測データに間違いはありません。
マリアンこちらもです。やはり異常値を示しています !
リオンマリアン…… ?おい、後ろが騒がしいようだが、何があった。
リフィル耳聡いわね。実はファンダリア領で、また新たに正体不明の精霊の力を観測したの。しかも精霊の力が凝縮した、とてつもない力よ。
リオン計器は直っていた筈だな。発生源はどこだ。
リフィルイクスや救世軍が戦闘をしている辺りね。
ルーティスタン、裏門の様子が変よ。兵士が集まって来てる。
スタンわかった。――リフィルさん、また後で連絡します !
フィリアファンダリア領で何が起きているのでしょう……。
スタンイクスたち、大丈夫かな。
ウッドロウ心配は尽きないが、今の我々にできるのはロニ君とナナリー君の救出だけだ。
ルーティそうよ。カイルたちに言われたでしょ。二人を頼むって。
スタンそうだな。まずは俺のやるべきことをやる !
リオンおい、馬車が出てきたぞ。一台……二台目 ! あれだ !
スタン行こう ! 待ってろよ、ロニ、ナナリー !
グラスティン【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。
カイルペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! !
エルレイン(またか……。もう何十回、いや、何百回、この言葉を聞いただろう)
リアラエルレイン ! あなたはまちがっているわ !こんなやり方で、人々は救えはしない !
エルレイン(私は、フォルトゥナから生まれ【クロノスの檻】に落とされるこの生を何百――いや何千回繰り返したのか……)
エルレイン(上も下もなく、永劫人生の記憶を見せられる。これが……【クロノスの檻】……)
リアラいいえ、わたしは信じているわ。人間の強さを……カイルたちを !
エルレイン(本当にそうだろうか)
? ? ?ううっ、痛い……苦しい……。なんでこんな目に……。
? ? ?辛いんだ……助けてくれ……。もう楽にしてくれ……。
? ? ?憎い……羨ましい……妬ましい……。アニマを……アニマをよこせぇえええっ !
エルレイン(いや、リアラが思うほど、人間は強くない。その証拠に、この場に漂う人々の残滓はいまだ救われぬまま悲鳴を上げているではないか)
エルレイン(そうか……。ここは……虚無、なのか ?)
ジューダス……なぜ ? …………フッ、貴様は……やはりなにも……わかっていない。
グラスティン【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。
カイルペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! !
エルレイン(ああ、まただ。同じようにまたペンダントを……)
エルレイン(ペンダント……。精霊クロノスの力が私のペンダントに反応して暴走している……。グラスティン、お前は一体、何が目的で……)
ハロルド明らかに論理が破たんしてるわね。救うために破壊する ?そんなことはありえないわ。
デミトリアスティル・ナ・ノーグがニーベルングと同じ過ちを犯さぬように、あらゆる手を尽くす必要がある。それが非道であったとしても。
エルレイン(あの男の救済……。私の救済……。救済とはなんだ…… ?)
エルレイン案ずることはない。
エルレインお前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。
エルレインそして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。
エルレインいまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。
エルレイン(私は、元の世界であの者と同じことを……言うのか…… ?)
エルレイン(帝国の行いは愚かだ。だがそれはフォルトゥナを呼べぬ世界で破壊を選んだからだ。私は違う……私は……)
イクス神降ろしが失敗したのはわざとそうさせられたんじゃないでしょうか。
リアラいいえ……ふたりの聖女は神より生み出されしもの。いうなれば神の化身……神の存在が消滅するときわたしとエルレインもまた……。
エルレイン(リアラ……もう一人の聖女……)
ディムロス見ろ、あれが魔導砲だ。
カイルうわぁ、まるで塔みたいだ。
ハロルドズルい ! 私も作りたかったー !
リアラハロルドったら、そんなこと言ってる場合じゃ…………えっ…… ?
カイルどうしたの、リアラ。
リアラ今、エルレインの声が聞こえた気がして……。
ジューダス近くにいるのか ! ?
ディムロス警戒しろ。ここで邪魔をされるわけにはいかない !
クラトスお前たち ! 何故ここにいる。
カイルクラトスさん ! そっちこそなんで ?
クラトス魔導砲の情報を聞いて、周辺を探っていたのだ。
ハロルド丁度いいわ。その辺にエルレインいなかった ?他にも何か変わったこととか。
クラトスエルレインの姿は見ていない。だが、私の体内のマナがざわつくような妙な気配は感じている。
ハロルドマナか……。魔導砲と関係があるのかしら。他に何か魔導砲に関連することは ?
クラトス先ほど魔導砲に、魔核と【精霊石】なるものが届いたようだ。
ハロルド精霊石 ! ? 帝国はもう、そんなものまで作ってたのね。
クラトス知っているのか ?
ハロルド精霊石は、精霊を砲弾にしたものよ。
クラトス砲弾…… ! ユーリたちから魔導砲で精霊を撃ち出す計画があるとは聞いていたがそういうことだったか。
カイルどうしよう。魔導砲が使われたらティル・ナ・ノーグが滅ぶかもしれないんだろ ?
ハロルド多分、それはまだよ。実験もしないで本番だなんて、リスク高いでしょ ?あいつらもそこまで馬鹿じゃない筈よ。
ハロルドけど、そこまで準備が整っているなら実験する気満々でしょうね。街一つくらいは吹っ飛ぶわよ。
ジューダスならば実験を阻止すればいい。精霊石を奪えば、今回の計画は止められるだろう。
カイルなら決まりだね。魔導砲の砲台に向かおう !
クラトスよし、私もお前たちに協力する。魔導砲の内部へ案内しよう。

キャラクター10話【7-11 ファンダリア領 研究施設】
ヴィクトルシャルティエ、ディムロスはここで戦っていたのか ?
シャルティエええ。間違いありません。どこに行ったんだろう……。まさか負けたわけじゃないよな。
ヴィクトルこれは…… !見ろ。転送魔法陣の跡だ。
シャルティエ敵はこれで逃げたのかもしれませんね。……ってことはまさか、ディムロスは追っていったのか ! ?
ヴィクトル単身でか。無茶をする。
シャルティエそうなんですよ、あの突撃兵。これじゃどこに行ったのかわからないじゃないか。
ヴィクトル……この転送魔法陣、かなり雑に閉じているな。敵も相当焦っていたか。これならば、もう一度くらい起動できるかもしれない。
シャルティエ本当ですか ! ? お願いします、ヴィクトルさん。
ヴィクトルやってみよう。もし起動したら、すぐに陣に飛び込め。
ヴィクトル成功だ、行くぞ !
シャルティエはい !
シャルティエここは……帝国軍の基地だ。
ヴィクトルこのままでは兵士に見つかる。一度、人気のない所へ隠れよう。
シャルティエこの辺りなら――
ミリーナこの辺りなら――
全員ええっ ! ?
ミリーナヴィクトルさんに、シャルティエさん ! ?ディムロスさんと研究施設に潜入中だったんじゃないんですか ?
シャルティエその筈だったんだけどね。ディムロスが敵と遭遇したあと転送魔法陣でここに来たようなんだ。
ヴィクトル我々はその後を追って来たんだ。君たちは何を ?
ミリーナここへは調査に来たんです。これからイクスと合流する予定なんですがまさかシャルティエさんたちと会うなんて。
シャルティエイクスくんと合流 ? 少し前と状況が違うな。そっちも複雑な経緯があるみたいだし今のうちに互いの情報の交換を――
ヴィクトルしっ、誰か来る。
帝国兵魔導砲の試射が始まるぞ !
帝国兵衝撃に備えろ !
全員魔導砲 ! ?
ルキウス ?いいね。ここならよく見えそうだ。
ロミー面白いものを見せるって、魔導砲の試射だったのね。
ルキウス ?試射とはいえ、島一つが消し飛ぶ威力だ。見ごたえがあると思うよ。
ロミーそれはさぞ爽快でしょうね。ふふふ……。
カイルはあ……はあ……ここが魔導砲の最上部 ! ?結構敵を倒してきたけど……。
ディムロスどうやらそのようだ !
クラトスまだ敵がいる。気を抜くなよ。
帝国兵――き、貴様ら、何者だ ! ?
リアラエアプレッシャー !
帝国兵ううっ ! !
リアラしばらく動けない筈よ。今のうちに !
ハロルドサンキュー !ええと、多分あそこがコントロールルームね。ん~、この感じ、わくわくするわ♪
ジューダスするな ! それで精霊石の場所はどこだ !
ハロルド砲弾として装填済みでしょうね。取り出すにはまず、発射停止命令を出さないと。
ハロルドなるほど。オートモードになってるのか。となると、解除には、ここが、これで……。
ハロルド……何これ、性格悪っ。
カイルどうしたの ?
ハロルド今回の試射実験、自動操縦での停止命令プログラム自体がないわ。開始したら最後、絶対に発射するようになってる。
ディムロスつまり、もう止める方法がないということか ?
リアラそんな……。やっとここまで来られたのに。
ハロルドさせないわよ。せめて出力を最低まで弱めて被害を抑えるわ。あいつらに一泡吹かせてやりましょ。
リアラハロルド……。
全員! !
カイルリアラのペンダントが光ってる !
? ? ?(リアラ……)
リアラ今のはエルレインの声……ペンダントから ?エルレイン、あなたなの ?
エルレインリアラ……。
リアラやっぱり。はっきり聞こえるわ !
カイルあっ、魔鏡通信が !
ジューダスこんな時に誰だ。間の悪い奴め。
ロニカイル ! ようやく繋がったぜ !
カイルロニ ! 良かった、無事だったんだね !
ロニああ、スタンさんたちのおかげで俺もナナリーもピンピンしてる。
ジューダスフッ、確かにお前らしい間の悪さだ。とりあえず無事ならそれでいい。こっちは立て込んでいるんだ。切るぞ。
ロニちょっ、待て待て ! リアラは無事か ! ?
カイルリアラ ? 無事だけど。なんで ?
ロニエルレインがグラスティンの罠に嵌められて魔鏡陣とかいうのに吸い込まれちまったんだ !
ロニもしかしたら、同じ力を持ってるリアラも狙われるんじゃねえかと思ってさ。
リアラエルレイン…… !
ハロルドその魔鏡陣について、他になんかわかんない ?
ロニええと確か【クロノスの檻】とか言ってたような……。
ハロルドクロノス、それだわ !だとしたらターゲットを変更で……。
ロニおい、そっちじゃ何が起こってんだよ !
カイルえっと、なんかわかんないけどすごい勢いでハロルドが機械をいじってる !
リアラハロルド、何をするつもりなの ?
ハロルドいいから、あんたはそのペンダントの声をしっかり捕まえてなさい。
ハロルドペンダントから探知できるエネルギーの発生元を特定魔導砲の威力と照射バランスを……。
ディムロスクロノスと魔導砲に何の関係があるんだ。
ハロルド多分、エルレインが吸い込まれたのは精霊クロノスを閉じ込めておくクレーメルケイジよ。
ハロルドそれをこの魔導砲でぶっ壊す。どうせこいつを止められないなら有効利用してやんなきゃね。
ハロルドリアラ、ペンダントにエルレインに強く呼び掛けて。
リアラええ。――エルレイン、わたしの声が聞こえる ?エルレイン ! !
リアラ……エル…………聞こえ…………。
エルレイン(また、繰り返すのか)
リアラエルレイン ! !
エルレイン(リアラ…… ? 違う……これは外界の声か…… ? )
カイルオレもみんなと同じ気持ちだ。だから、ここまで来られたんだ…… !
カイルオレたちは、神の救いなんか必要としていない !もう迷ったりはしない !オレたちの手でかならず、神を倒す !
エルレイン(これはなんだ…… ?これまでのような、私の生の繰り返しではない。私にこのような記憶はない)
エルレイン(もしや、リアラの記憶が流れ込んでいるのか ?)
エルレイン私……は…………人々を…………救う……ため……神の…………ち……から…………だけが…………それを…………可能にす……る……。
エルレイン(……私は……、カイルたちに負けた……のか ?まさか、そんな筈はない。神の救いはそんなものでは……)
リアラカイル ! レンズを砕いてッ !
エルレイン(……そうか……。リアラ、お前も自ら死を……)
エルレイン(だとすれば、これはリアラの記憶でもない。私もリアラも『生きて』いるのだから)
エルレイン(ならばこれは、あり得た未来の記憶。私のやり方では、人々の救済には至らぬと言うのか)
? ? ?愚かな……。
エルレイン…… ?
? ? ?あの世界同様、人は愚かな生き物だ。人の欲は歪んだ神すら生み出し、自らを否定し世界が滅びても自らだけは浅ましく生き残ろうとする。
? ? ?人など救うに値しない。
エルレイン愚かであろうと、人々は遍く救済されるべきもの。浅ましきは、もたらされる救いを拒む心です。
? ? ?……お前は……一体…… ?そうか……人の希望から生まれ出たモノ……。
ハロルド【クロノスの檻】発見 !
リアラエルレイン !
エルレインお前は……リアラ…… ?
リアラそうよ、エルレイン。ペンダントが導いてくれた。あなたを助けにきたの。
エルレイン……我が救済を否定したお前が、この私を救うと ?この世界では、フォルトゥナ神を呼ぶこともできぬと言うのに ?
リアラやっぱり異世界の神はここには呼べないのね。
エルレインそうだ……。具現化は徒労に終わった……。
リアラそれでも……わたしは手を伸ばせる限りあなたを救いたい。だってわたしたち、目指したものは一緒だもの。
リアラわたしも、あなたもただ人々を幸せにしたい……そうでしょう ?
エルレイン道は違えども、か。
エルレイン……そうだな。その一点においてならばお前の手を取るのも悪くはない。
リアラさあ、エルレイン。わたしの手を掴んで――

キャラクター11話【7-12 セールンド 街中】
ロイドみんな、早く !
ジーニアス待ってよ、ロイド !ネヴァンを背負ってるくせに、一番早いんだから。
ロイド当たり前だろ。早く治してやらないと……あれ ?
エミルどうしたの ?
ロイドあの光、何だろう。すげえ眩しい。
マルタファンダリア領の方角だね。あっちで何かあったのかな。
エミルここはセールンドだよ ?ファンダリア領とは距離があるし相当強い光じゃなきゃ、見える筈ないと思うけど。
しいな気になるね。どこかで見覚えがあるような……。
しいなそうか ! 魔導砲を発射した時の光に似てるんだ !
ジーニアス魔導砲って、怖いこと言わないでよ。
ラタトスク妙だな。光から精霊のマナを……違うな、精霊そのものの気配を感じる。
しいな精霊 ! ?――ってことは、まさかあれは本当に魔導砲だってのかい ! ?
ラタトスクチッ、だとしたらここに撃って来るぞ。あの精霊の意識――光は、セールンドに向いている。
マルタなんでここが狙われるの ! ?
テネブラエわかりません。ですが、セールンドには虚無を封じるゲフィオンの人体万華鏡がありますね。それが狙いかもしれません。
ラタトスク時間がねえ ! あれが精霊なら……。
テネブラエ…………。
ラタトスクいや、何か他に……クソッ !
テネブラエいいえ、わかっている筈です。精霊には精霊をぶつけるしかないでしょう。私にお任せください。
ジーニアスそういえばボクたちの世界でも、相反する精霊の力をぶつけてエネルギーを中和させた !でもその方法だと……。
ロイドテネブラエ、自分をぶつける気か ! ?
テネブラエご心配なく、センチュリオンは死にません。あの程度の光など私の闇で塗りつぶして見せますよ。何しろ闇属性は不死身ですから。
ラタトスクふざけるな ! この世界ではセンチュリオンも精霊に組み込まれてるんだぞ。元の世界とは違う。しかも本家本元の精霊より弱いんだ。
ラタトスク精霊同士なら対消滅したところでエネルギーさえ十分なら死ぬことはないが精霊に格上げされたお前が助かるかは保証が――
テネブラエでは、他に皆さんを救う方法でも ?
ラタトスクだったら俺が行く !
プレセア光が……来ます !
テネブラエラタトスク様。また後程。
ロイドおい、テネブ――
? ? ?(――待て)
ロイド頭の中に声が…… ? 誰だ ! ?
ラタトスクテネブラエ――ッ ! !
テネブラエっ ! これは一体…… ?
ロイド魔導砲が……消えた…… ?
ファンダリア領 帝国軍基地
イクスよし、潜入成功。ミリーナに連絡だ。
帝国兵Aああああっ ! 体が……消え…… !
イクスなんだ ! ?
帝国兵B早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… !
帝国兵Cこれはいったい……何が起きた !
帝国兵D基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです !
イクス(消滅 ! ?ミリーナの無事を確認しないと――)
イクス(――いや、あの雹を止めるのが先だ。俺にできることは……そうだ ! 魔鏡結晶を作って屋根代わりにこの辺りを覆えば――)
イクス慎重にいけよ……また石の中に入るのはごめんだからな……。
イクススタックオーバーレイ ! !
イクスはぁ、はぁ……。この基地一帯は魔鏡結晶で包めた筈だ。雹は……よし、防げているみたいだな。
イクスあれ、通信文が届いてる…… ?
こちらはディムロス。魔鏡通信が繋がらない。通信文だけでも届いていることを願う。
イクス魔核を確保……、作戦完了か !良かった、ディムロスさんの方は上手くいったんだ。
イクス(通信文が来たのはたった今だ。ってことは、魔鏡通信が繋がらないのは俺がスタックオーバーレイで魔鏡結晶を作ったせいか)
イクス……でも、この雹が止まるまでは魔鏡結晶のドームを維持するしかない。
一方、アスガルド帝国では――
ウッドロウ追っ手の兵は片付けたぞ !
フィリアこちらもです !
スタンよし、このまま残りの敵を倒しつつ撤退しよう !
ロニはい……。
ナナリーなんだい、カイルたちのこと気にしてんのかい ?
ロニあっちも大変なことが起きてるみたいなんだよ。そんなんで突然通信が切れたら気になるだろうが !
ルーティ景気の悪い顔してんじゃないの。カイルたちならきっと大丈夫 !
ロニ……はい、そうですね !
ナナリー……今度は打って変わって、随分と素直じゃないか。
リオンおい、無駄口よりも目の前の敵を叩け !
フィリア待ってください、敵が撤退しています !
? ? ?引け ! こちらの被害が増すだけだ。
ウッドロウどうやら我々のことは諦めたようだな。冷静な指揮官のようだ。
全員! !
スタンあの指揮官って……イレーヌさん ! ?――待ってくれ、イレーヌさん !
リオンおい、スタン ! あいつを追う気か !
スタン当たり前だろう !
ルーティ何言ってんの !今は安全に逃げられる絶好のチャンスなのよ !あたしたちの目的は何 ! ?
スタン……っ ! !そう……だよな。ごめんルーティ。ロニ、ナナリー。悪かったよ。早くここを離脱しよう。
ロニスタンさん……すまねえ……。
ローエンお帰りなさいませ、フィリップさん、マークさん。
フィリップローエンさんの采配のおかげで陽動部隊の立て直しもできた。さすがの手腕だよ。
マークローエンが派遣してくれた手勢で砦の辺りの戦闘もなんとか収まったしな。
マークあのままずっとあそこで戦ってたら命がいくつあっても足りないところだった。
ローエン枯れたジジイがお役に立って何よりです。今の帝国軍は浮足立っています。このままであれば、無事に撤退できるでしょう。
マークけど、また魔鏡通信が使えなくなっちまってるよな。今撤退に持ち込んで大丈夫か ?
ローエンええ。ケリュケイオンの計器類は無事ですし通信文も送信可能です。
フィリップでは、作戦参加者全員に通信文で撤退命令とケリュケイオンの着地点を送信しよう。彼らを回収したら作戦終了だ。
ローエン承知しました。
マークなあフィル、魔鏡通信の障害ってことはミリーナに何かあったんじゃねえのか ?
フィリップいや、今の魔鏡通信の障害はイクスの力だ。ただしミリーナのような暴走ではなくちゃんと制御しているみたいだね。
フィリップでも、それだけの力を使わなければいけない事態ならイクスのことが心配だな……。
マーク……やれやれ、わかったよ。俺が行ってくるからフィルはここで指示を頼む。
フィリップ……ごめん。ありがとう、マーク。イクスの魔鏡術を感知したのは帝国軍の基地だ。頼んだよ。
マーク了解。お前も、薬飲んどけよ。さっき発作が出てたろ ?
フィリップ……上手く誤魔化したつもりだったのにばれてたのか。
マークまた無茶して力を使ったからな。しばらくは絶対安静だぞ。
ローエン私が見張っておきますよ。
マークこいつは頼もしいぜ。それと力が有り余ってる奴らを連れて行くぞ。構わないよな ?
フィリップ力ということはバルバトスか。大丈夫かい ?
マークああ。色んな意味で骨は折れるだろうが強さで言ったらダントツだしな。
フィリップさすがマーク。彼らとも上手くやってくれて感謝してるよ。
マーク俺だって、あいつを連れて戦うたびに緊張するんだぜ ?バルバトスの手綱を握れる奴がいたら即スカウトしたいよ……。

キャラクター12話【7-13 ファンダリア領 帝国軍基地1】
ミリーナ今放たれた光が魔導砲だったのかしら…… ?
ヴィクトル方角的にはセールンドを目指しているようだった。
スレイセールンドには確かロイドたちがいるんだよね ! ?
コレット……ロイド ! ? ロイド ! ? 聞こえる ! ?
ロイド――コレットか ! ?
コレットロイド ! ? 今、そっちに魔導砲が――
ロイドああ、それなら大丈夫だ !
テネブラエせっかく私が魔導砲を無効化して闇の力の神髄をご覧に入れようとしたのですが突然消えてしまったのですよ。
ミリーナそれじゃあ、そちらはみんな無事なのね ?
ロイドああ、それで――
帝国兵Aああああっ ! 体が……消え…… !
帝国兵B早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… !
帝国兵Cこれはいったい……何が起きた !
帝国兵D基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです !
ライラ帝国兵の声ですわ。それに……雹…… ?
ザビーダ上だ ! 何か降って来やがったが……あれは雹なんかじゃねえぞ ! ?精霊の力の塊だ !
シャルティエ見て下さい ! その雹だか何だかが落ちたところ !そこにあったものが『消えて』いってますよ ! ?
ヴィクトルこれは……この力は『奴』の…… !
帝国伝令兵くっ、消えてしまう前にこのサンプルを運び出さねば……。
帝国伝令兵……ん ! ? お前たちは――
ヴィクトル――避けろ ! クロノスの力がこちらに来る !
帝国伝令兵いてぇっ ! ? し、しまった、雹が…… ! ?わ、わああああああ ! ?足が……腕が……ああっ ! ?
ライラそんな……。消えてしまいましたわ……。
ヴィクトルこれは……消えた兵士が持っていた箱、か。
シャルティエヴィクトルさん ! ?箱なんて拾って、何ぼーっとしてるんです ! ?危ないですよ !
ザビーダちぃっ ! 俺が風であの妙なブツを吹き飛ばす !ミクリオ !
ミクリオそれを水で押し流せばいいんだろう ! 任せろ !
エドナ大地を揺り起こして盾にするわ。どこまで持つかわからないけれど、無いよりマシな筈よ。みんな、来なさい。
ヴィクトル……スレイ君。これは、君たちが探していたもののようだ。持っておくといい。
スレイえ ? この箱は――
ヴィクトル消えてしまった兵士が持っていた物だ。おそらく、鏡の精霊の心核だろう。
スレイ! !
ロイドおい ! ? そっちで何が起きてるんだ ! ?
スレイ――あ、ああ。ロイド、大丈夫。ちょっとばたついてるけど、対処できそうだよ。それより何か言いかけていたようだけど……。
ロイドああ ! そうだ !さっき急にネヴァンがゲフィオンの鏡像から飛び出してきたんだ。
ミリーナネヴァンがセールンドに ! ?
ロイドああ。カーリャの時と同じ感じだよ。ただあちこち傷だらけで気を失って……ひとまず…………あれ……聞こえて……
ヴィクトルまた通信障害か。今度は何が起きた ?
ミリーナ待って、魔鏡術の力が集まってきている――
ライラ空を見て下さい !魔鏡結晶のドームができていますわ !
ミリーナまさか、イクス ! ? 近くにいるんだわ !
リアラ――ここは…… ?
エルレイン…………くっ……。
リアラエルレイン ! ? どうしたの ! ?
エルレインいや……目眩がしただけだ。
リアラ……ねえ、エルレイン。あなたはあの場所にずっといたの ? あの【クロノスの檻】っていう場所に……。
リアラあの場所は……異様だったわ。クレーメルケイジだって聞いていたけど……。一瞬なのに永遠のような気がして、寒気がした。
エルレイン……だろうな。あの場所は精霊クロノスの力に満ちていた。時が何度も巻き戻り……寄せては返し……。
リアラ永遠という時間を……終わらない無間地獄の中を彷徨っていた…… ?
エルレイン我々は神の代理者だ。精霊の操る時間の流れなど神の力の前では無意味でしかない。
カイルリアラ――ッ !
ジューダスクラトスの言っていた通り、帝国の基地にいたな。天使の視覚と聴覚、大したものだ。
リアラカイル ! ? どうしたの ! ? 凄い傷だわ ! ?
エルレイン
カイルちょっとここまで来るのに帝国の連中とやり合ったから。
カイルそれより突然姿が消えちゃったから心配したんだよ !無事で良かった。エルレインが傍にいるみたいだって話だったから……。
リアラええ……わたしは大丈夫。それで、ハロルドは ?
ジューダスディムロスとクラトスと三人で魔導砲から魔核を運び出している。
リアラそう……。きっとハロルドのおかげよ。わたしとエルレインが、あの恐ろしい【クロノスの檻】から出られたのは。
ジューダスならば、魔導砲は【クロノスの檻】とやらを破壊したんだな。
エルレイン……そうか……お前たちが……私を……。
カイルこれで危機は回避できたよ。あとは――痛 ! ?
カイルな、なんだ ! ?ガラスみたいな見えない壁があるぞ ?
ジューダス……これは……魔鏡結晶、か ?
カイルえ ! ?リアラたち、魔鏡結晶に閉じ込められちゃったの ! ?どうして ! ?
エルレイン――いや、これは……【クロノスの檻】の代償から守ろうとしたのだろうな。あの鏡士の仕業、か ?
リアラ【クロノスの檻】の代償 ? それは一体――
エルレインお前も感じていたとおり、【クロノスの檻】には精霊クロノスの力が満ちていた。おそらく長い間あの場所にクロノスを閉じ込めていたのだろう。
リアラわたしたちが脱出したときに、破壊された檻の欠片のようなものも、この場所に出現してしまった……ってこと ?
ジューダス……しかし今はそれらしい物は降っていないぞ。
エルレインなるほど……。【クロノスの檻】があった場所とこの世界を繋いだ次元穴は……修復されたのだな。ならば……鏡士の傘ももはや必要は無い。
リアラエルレイン、何を――
エルレインインディグネイト・ジャッジメント !
コレット……え ? 今、カイルたちの声が聞こえたみたい……。
エドナ――それに関係があるのかしら。上の魔鏡結晶にヒビが入ったわ。
ザビーダ何てこった。あの欠片に俺たちの力が触れると互いに打ち消し合っちまって思ったようには吹き飛ばせねえんだぞ !
ヴィクトルそれはおそらくあの欠片が精霊クロノスの力を帯びているからだろう。
スレイ精霊クロノス ! ?
コレットあ、でも、もうクロノスの欠片……みたいなものは降ってこないんじゃないかな。空のどこにもそれらしい物がないもの。
ライラ魔鏡結晶も……消えましたわ。確かに、例の欠片はもう降ってこないみたいですね。
ミリーナあ、イクスから通信文よ。魔鏡通信が復活したのね。私たちのこと、見つけてくれたみたい。こっちに来てくれるって。
シャルティエよし、魔鏡通信が復活したなら、僕たちはディムロスと連絡を取って合流するよ。行こう、ヴィクトルさん。
ヴィクトル……ああ。
マーク――おっと、やっと繋がったか。
マークミリーナ。通信文も送ったが、撤退の準備が完了した。やり残したこともあるかも知れないが、今回は引き上げようぜ。指定した合流地点まで来てくれ。
エドナバタバタと忙しいわね。
ミクリオ仕方が無いさ……。想定外のことばかり起きている。それにしてもこのままだと、ユーリたちとの約束を違えることになってしまうな……。
スレイいや、大丈夫。ヴィクトルさんが凄い物を見つけてくれたよ。

キャラクター13話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】
カイル魔鏡結晶が壊れた ! これで――
ジューダス待て、カイル。慌てなくても、エルレインの方から――来る。
エルレインお前たちが【クロノスの檻】を破壊したのならここは、礼を言うべきなのでしょうね。
カイルえ……。いや、それはハロルドが……。
エルレイン……久しぶりですね。
エルレインいや……この感覚もまた懐かしい……。まるで遠い昔のことのように感じられるが……これもあの檻の中にいたせいか。
カイルな、何 ? 何を言ってるんだ ?
エルレイン……そうか。あれは精霊クロノス……であったな。
エルレインペンダントが……。まさかこのペンダントには……。もし『そう』なら、空間という制限のない時の力で――
エルレイン……………… !
ジューダスまずい ! カイル ! 避けろ !
エルレインディバインセイバー !
カイルぐはっ―― ! !
ジューダスくっ !
リアラカイル ! ! ジューダス ! !エルレイン、どうしてなの ! ?
エルレイン今ならば――
エルレイン案ずることはない。
エルレインお前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。
エルレインそして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。
エルレインいまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。
エルレイン(……フォルトゥナ神を呼べたとして……それが、遍く救済となるのか……)
エルレイン(私の救いとあの者たちの救いは同じだというのか。いや、そうではないはずだ――)
? ? ?時の流れに制限はなくとも人の子のある場所に空間という制限は存在する。時空の壁は突き破れない。
エルレインならばやはり、ここでは救いをもたらすことは――
リアラカイル ! レンズを砕いてッ !
エルレイン……自ら消滅してまで望む強さが……あるというのか。それが人間の強さだと…… ?
エルレイン……………………。
イクスミリーナ、遅くなってすまない。ディムロスさんから作戦完了の通達があったぞ。
ミリーナこっちもスタンさんたちと連絡がついたわ。みんな無事みたい。私たち陽動部隊も急いで撤退をしましょう。
イクスマークとの合流地点まで帝国軍から逃げ切れれば俺たちの勝ちだ。急いで、カイルたちにも知らせなきゃ――
? ? ?ぐはっ―― ! !
ミリーナ! いまの声って…… ?
イクスカイルだよな ! ? まさか……。
コレットうん ! 魔鏡結晶が壊れたから、はっきり聞こえる。カイルたち……誰かと戦ってるみたい !
イクスどっちだ、コレット !
コレットえっと……あっち !
イクス2時の方角か。よし――
コレット待って ! 逆の方から大勢の足音が――あ ! ? 帝国軍がたくさん !何か……大事な物を探してるみたい。
ミクリオスレイ、それって――
スレイああ。
スレイイクス、帝国兵は俺たちに任せて。多分探してるのはヴィクトルさんが見つけてくれた精霊の心核だ。
スレイこれで、帝国兵を引きつけながら撤退する。ケリュケイオンで会おう。
イクスコレット。念のため、スレイたちと一緒に行ってくれ。
コレット何かあったときの連絡係だね。任せて !
イクスミリーナ ! カイルたちのところへ行ってみよう !
カイルくっ……。
リアラカイル。しっかりして。
カイルだ、大丈夫だよ。
ジューダスお前はさがっていろ。帝国軍との連戦で消耗しきっているんだ。
カイルそれはジューダスも同じだろ。まだオレは戦える。
エルレイン……ならば、続けよう。カイル。お前たちの言う人間の強さとやらを示してみせろ。
イクス待ってください !
カイルイクス ! ミリーナ !
エルレイン鏡士の。久しいな。
イクスエルレインさん、どういうことですか。ここにいるということは俺たちがした話――帝国の真の目的を信じてくれたんじゃないんですか ! ?
エルレインああ。お前たちの話は真実だった。帝国はニーベルング世界の再建を目論んでいる。ニーベルングの神々の復活すらも秘密裏に進めていた。
エルレイン本当に、この世界を、全てを滅ぼし真なるニーベルングの甦りを――この世に生きる者を捨て去ろうと画策していたとは。
エルレインいったいこの何が救済であろうか。救済とは遍く人々に注がれるべきもの。嘆かわしいにもほどがある。
イクス……俺には救済とか難しいことはわからない。けど…………。
イクス俺自身や鏡映点、そして貴女も含めて……今この世界にはニーベルング世界の住人ではない人帝国の考える偽りの人々がたくさんいるんだ。
イクスそんな人たちを帝国は切り捨てようとしている。確かに偽りだけど……存在していることは事実だ。だから俺は、その全てを守りたい。
エルレインどうやって ?
イクス決まってる。カイルと同じです。
カイル掴み取る。オレたち自身の手で。
エルレイン神による救済ではなく、か。
エルレインならば――
カイル……ぐっ。
リアラカイル !
イクスやめろっ ! !何故戦わなくちゃならない ! ?
エルレイン確かにお前たちには感謝している。これ以上、聖女としての使命に反する行いを――帝国の偽りの救済に荷担せずに済んだ。
エルレイン聖女の力をほぼ失った私の今やるべきことそれは救済の対象である遍く人々の保護。つまりは帝国の野望の阻止であろう。
ミリーナ私たちは同じ敵と戦っているわ。そして、帝国の野望を阻止するためには私たちは貴女の、貴女は私たちの協力が必要不可欠。
エルレインその通り。
エルレインだが、フォルトゥナを具現化すると言った場合お前たちはどう反応するだろう。
カイルフォルトゥナだと ! ?
イクス神の具現化は不可能のはずだ。
エルレイン……ふふっ。それはどうだろう。幸いこの世界にはエンコードされているとはいえレンズも具現化されている。
リアラフォルトゥナの具現化には失敗したはずなのに可能性はゼロではないというの ! ?
エルレイン……お前たちはただ待てばいい。フォルトゥナの降臨を。すべての魂が救済されるその時を。
ジューダス本当の楽しみや喜びを代償にした永遠を夢の中で過ごす苦しみや悩み、痛みのない世界……。
ジューダスお前は神による完全なる幸福をこの世界でも実現しようというのか !
カイルそんなことオレは絶対に許さない ! !フォルトゥナを降臨させるというのならオレたちはお前を止めてみせる !
ジューダスカイル ! 無茶をするな !これ以上は――
カイルジューダス、止めないでくれ !まずはオレが証明しなくちゃなんだ。
カイル人間は弱くなんかないって ! !
ジューダス……カイル。
ジューダスふっ、いいだろう !僕も付き合ってやる !
リアラわたしもよ ! カイルの選択は、わたしの選択だもの !
イクスミリーナ、俺たちも加勢するぞ !もう一踏ん張りだ。
ミリーナ援護は任せて。みんなで切り抜けましょう。
エルレイン愚かな。どれだけ束になろうと無駄だ。――人間は弱い。私もお前たちに身を以て証明してくれよう。

キャラクター14話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】
カイルくっ……足がっ。
リアラカイル !
ジューダスくそっ。エンコードによりエルレインの力は制限されているとはいえ……厳しいか。
イクス帝国軍との連戦で疲弊しきっているんだ。みんなもう限界か……。
エルレインやはり人間は弱い。これが現実だ。さぁ、諦めて降伏しろ。そうすれば命までは取るまい。
イクスカイル ! いま助けに――
カイル来るな ! !
イクスえっ ! ?
カイル言っただろ、
カイル人間は弱くないって ! !
カイルくっ……。
エルレイン……それがお前の選択か。いまのお前にこの私を倒すことはできない。わかっているだろう ?
カイルそれはどうかな ?リアラ ! ジューダス !
ジューダスいくぞ、リアラ !
リアラええ ! ジューダスにあわせるわ !
エルレインなるほど。お前は囮か。だが私の二の太刀の方が速い。そしてそれを、いまのお前は防ぎきれまい。
カイルそんなことわかってるよ。最悪、オレはここまでってことも。
エルレイン……わかって飛び込んできただと ?何故だ。死ぬことが怖くないというのか。
カイル怖いさ ! けどここを乗り越えればお前を倒すことができるかもしれない !
エルレインできなければ ?
カイルそのときはまた考えればいいだけだ !たとえ今、そして未来に苦しみが待ち受けていようと更に先には大きな幸福がきっとある ! だから――
カイル人間は辛い未来すら選べる !それが人間の強さだ ! !
エルレイン―― ! !
二人――くらえっ ! !
イクスな、なんて威力だ……。
ミリーナ……けど。
エルレイン無駄だと言っただろう。
リアラカイル ! !
エルレイン動くな。
ジューダス
カイルはぁ……ぐっ。
エルレインもうこれで終わりだ。
ジューダスエルレイン ! 貴様ッ !
リアラ! ?ジューダス、待って。
ジューダスなに……。
エルレイン治癒魔法だ。少しは楽になっただろう。
カイルえっ…………あ、ありがとう。けど、どうして ?
エルレイン……言っておくべきことがある。
エルレインお前たちの強さは認めよう。だが、すべての人間がお前たちのように強いとは限らない。
カイルそうかもしれないけど――
エルレイン聞け。
カイル……わ、わかった。
エルレインここはフォルトゥナが……私たちを救う神がいない世界。お前たちが望む世界のありさまだ。
エルレインお前たちが理想とする幸せな世界に私とリアラは本来存在しない。だが幸か不幸か、いま私たちは神なき世界にいる。
エルレイン滅びと絶望に包まれたこの世界であってもお前の言うように人々は苦難を乗り越え幸福を手に入れることができるのか。
エルレイン神の御使いたる聖女としてそして神を失った力なき一人の人間としてこの世界の人々の行く末を観測するのも悪くはない。
カイルえっと……つまりどういうこと ?
イクス力を貸してくれるのか ! ?
エルレイン帝国の野望は阻止せねばなるまい。そして私の信じる神がいないこの世界でも今の私にできうる救済を行う。
エルレインそう、判断したまで。
カイルつまり協力してくれるんだね ! ?
リアラエルレイン……ありがとう。カイルに、いえ人間の強さに可能性を見出してくれて。
エルレイン私はしばらく観測をしようと決めただけだ。そのために一時的にお前たちに協力するが――
エルレイン人は、もろく、はかない存在。その事実が証明されたならばお前たちを切り捨て私はフォルトゥナによる救済を選ぶ。
カイルわかった ! じゃあオレたちはそうならないよう頑張るよ !
エルレインいいでしょう。
リアラ…………。
帝国兵見つけたぞ !
イクス敵の追っ手だ !
エルレインいきなさい。
ジューダスお前一人で大丈夫なのか ?
マーク安心しろって。俺たちもいるからよ。
バルバトス虫けら、ウジ虫どもが。捻りつぶしてくれる。
イクスマーク ! ?
カイルバルバトスも ! ?
マークったく、遅いからなにやってるかと思えば。あんたも相当面倒な女だな。
エルレインあなたは、フィリップの鏡精でしたね。
マーク覚えててくれてどうも。イクス、この先でフィルたちが待ってる。他の奴らと一緒に先に行け。
イクスわかった。ありがとうマーク。みんな、行こう。
マークそれじゃあ一仕事はじめますか。バルバトス、頼んだぜ。
バルバトス俺に命令すんじゃねぇ ! !俺はこの雑魚共を捻りつぶしたいだけだ ! !
マーク元気が良いねぇ。――さて、茶番は済んだかい、聖女様。納得したならあんたにも働いてもらいたいんだがね。
エルレイン茶番ではない。救済の遂行を担えるかの審判だ。全ては世界の救済のため。
エルレイン……人々の幸せがあらんことを。
マークはは、だったらこっちにも救済を頼むよ。あんたなりのけじめの儀式を大人しく見ていてやったんだからな。
マークまあ昔、俺にもそういうことがあったんでね。鏡精と聖女様じゃ葛藤の度合いが違うかも知れないが。
エルレイン……フ、バルバトスを押さえるのは苦労したでしょう。
バルバトスはき違えるなよ、女。俺は俺のやりたいようにやっている。
バルバトスあのカイルとかいう小僧は俺の信奉者だ。非力なゴミくずだが、見所はある。その踊る様を見ていたまでよ。
マークそうだとも。それにあの茶番劇をスルーすればこの辺りの帝国兵が寄ってくることはわかってた。そいつを待ってたんだよな、我らがバルバトス殿は。
マークま、それは俺も願ったりでね。合流ポイントにたどり着けてない連中を助けるために大立ち回りして、帝国の連中を引きつけたいんだ。
バルバトスくだらん !自ら救えぬ非力な奴は捨て置けばいいのだ。
エルレインお前はここでもそのような生き様か。
バルバトスなんだ ? 何が言いたい !
エルレインお前が真に英雄であるというなら、その証ここで見せてみるがいい。
バルバトスほう……。そうか、お前……英雄に惹かれたか !ならば篤と見るがいいわ !

キャラクター15話【7-15 ファンダリア領 山岳】
グラスティンヒッヒッヒッ、特等席じゃないか。だが、これ以上ここで待っていても無駄だぞ。魔導砲の試射は失敗した。
ロミーそうなの ? たいそうな仕掛けの割にお粗末ね。
ルキウス ?大山鳴動して鼠一匹、かな ? だらしないね。せっかく面白いものが見られると思ったのに。
ロミーフフ……。
グラスティンいいんだよ。問題なく発射できるってことは確認できたんだしなあ。それより、サレの奴を見かけなかったか ?
ロミーサレ ? この辺じゃ見てないわね。
グラスティン……やっぱり逃げ出したかあ。ヒヒヒ……だったら追いかけるしかないよなあ。黒髪じゃないから、面白みには欠けるがな。
ロミーあんたたち、随分仲が良さそうだったのにどうしたのよ。
グラスティン俺の大事な玩具を壊しやがったんだよ。
グラスティンせっかく可愛いジュニアを、毒でじわじわいたぶっていたのに、サレの奴、ジュニアに使った刻印器を壊して持って行きやがった……。
グラスティン俺とジュニアの楽しいコミュニケーションが台無しだ。サレにはお仕置きが必要だなあ……。ヒヒヒヒ……。
アリエッタ――グラスティン !
グラスティンん ? アリエッタかあ。こんなところまで俺を捜しに来たのか ?
アリエッタ約束……果たした、です !魔核運んだ、です !イオン様に会わせて !
ロミーイヤねえ。この子、まだ気付いてないの ?本当に滑稽ね。笑っちゃうわ。ねえ、ルキウス ?
ルキウス ?僕のペットを馬鹿にするな。アリエッタが可哀想だろう ?
ロミーあーあ、そうだった。『こっち』も、何も知らないんだったわね。
ルキウス ?何 ? どういうことだ ?
ロミーグラスティンそろそろ種明かししてもいいんじゃない ?『こっち』の実験も終わったんでしょ ?
ロミー何も知らないイオンもどきを観察してるのも面白かったけれど、そろそろ飽きてきたわ。
ルキウス ?イオンもどき…… ?
アリエッタイオン様 ? イオン様がいるの ! ? どこ ! ?
グラスティンそうかあ……そうだったな。実験も成功したし、そろそろ頃合いかあ。
グラスティンアリエッタ、お前の大事なイオン様はこのルキウスの中にいるんだぜえ ?
アリエッタルキウスの……中…… ?何 ? どういうこと…… ?
グラスティンお前の大事なイオンサマはなあ、どうしても健康な体が欲しかったんだよ。ところがレプリカを何体作っても満足いく健康な体が作れなくてなあ。
グラスティン挙げ句、シンクとかいうレプリカを捕まえるって勝手に色々画策しだしたんだ。
アリエッタ……シンク ? シンクが何か関係あるの ?
グラスティンまあ、その辺りは些末なことか。
グラスティンとにかく、お前のご主人様は、自分の欲を満たすために、ハロルドを鏡士へ引き渡すような失態をやらかしたんでな。お仕置きしてやったんだよ。
アリエッタイ、イオン様に何をした、ですか ! ?
グラスティン心核を抜いてやった。わかるか ? 心だ。心だけ取り出して、体は魔物にくれてやった。
アリエッタ! ?
ルキウス ?アリエッタ。大丈夫だよ。僕は生きている。この体は仮の入れ物だが……。
アリエッタえ ? じゃあ、イオン様はルキウスになった、の ?生きてる……ですか ?
ルキウス ?ああ、生きてるよ。この体の中に入っている心がイオン――僕だ。
ロミー――なーんて、それも嘘。
アリエッタ・ルキウス ?! ?
グラスティンあーあ、そこまでバラしちまうかあ……。まあ、仕方ない。本当の事を知らないままなのは『可哀想』だもんなあ。
グラスティン心核ってのは、体が死んじまうと存在を保てなくなる。体が死ねば心も死ぬんだよ。
ロミーでも、イオンの心に別の体を与えたところでまた勝手なことをするでしょう ?だから実験に使ったんですって。
グラスティン死ぬ前の心核からデータを抽出して限りなくイオンに近い疑似人格を作ったんだ。その疑似人格を疑似心核に転写した。
グラスティン被験者イオンの人格のコピーを疑似心核に与えたんだからこのルキウスの心は「ほぼ」イオンだ。
ロミーグラスティンも作ったんでしょ。自分のレプリカに自分の人格を転写した疑似心核を入れてそいつをグラスティンとして戦場に送り込んだのよね。
ロミーアイフリード神の転生体である鏡の精霊のデータも狙い通り疑似心核に移せたんでしょう?自分のレプリカを使って仕掛けるなんて変態ね。
ルキウス ?待て…… !な、何…… ? 僕が疑似人格…… ?
アリエッタ……え……何……わからない…… ?
ロミー簡単よ、アリエッタ。
ロミー失礼、イオンもどき。
ルキウス ?ぐっ ! ?
グラスティンおいおい……沈静化もさせずに人間から心核を抜くなよ。相当な痛みだぞ。
ロミー大丈夫よ。ルキウスの心核は、ちゃんと別のところに保存してあるし、死にはしないわ。
ロミーほら、アリエッタ。これが疑似心核よ。イオンだと思い込んでいた可哀想な疑似人格が宿っているわ。
アリエッタじゃあ……それは……イオン様の偽物…… ?
ロミーアリエッタは本当に頭の回転が鈍いのね。そもそも私たちは具現化された存在なんだから偽物も本物もないじゃない。
ロミーそれを言うならアリエッタも偽物みたいなものだし被験者イオンなんて最初から死んでるようなものよ。
グラスティン死んだ人間をコピーしてそれも死にそうだったからコピーしたってところか。
ロミーコピーのコピーって、もうそれ、なんの価値があるのかしら。まあ、人格を持った玩具だと思えば価値はあるのかも知れないわね。
アリエッタ……イ、イオン様は死んでないもん !イオン様は生きてる ! イオン様は――
ロミーあ、心核が壊れちゃったわ。
グラスティン壊したんだろう。
ロミーなんでもいいでしょ。まあ、これで疑似人格も死んだわね。まあ、被験者はとっくに死んでるわけだけど。
アリエッタあ――――――
グラスティンほら、形見だ、アリエッタ。
ロミー何 ? その黒くて汚い石。
グラスティン被験者イオンの心だった石の欠片だよ。体が死んで心も死んじまったから、単なる石ころなんだがデミトリアスが捨てずに残してやれとさ。
グラスティンほら、お前のイオン様だ。受け取れ。
アリエッタい、いやあああああああああああああっ ! ?
マーク――待たせたな。なんとか帰り着いたぜ。バルバトスが暴れて暴れて……。まあ、おかげでいい攪乱になった筈だ。
ヴィクトル……確かに、あの辺りの帝国軍は大打撃を受けたようだったな。
フィリップおかげで、イクスたちもほら、ここにいるよ。
イクスありがとうマーク。あのあと、なんとかフィルさんと合流できたよ。
スレイオレも、お礼を言わないと。ありがとう、マーク。オレたちも帝国兵の多さに手こずってたけど途中からほとんどの兵士がそっちに行ってくれて……。
ライラむしろ大変な負担になったのではと心配していましたわ。
ローエンみなさんご無事で何よりです。そういえば、エルレインさんはどちらに ?
マークバルバトスの手綱を握ってもらったんで一足先に船室にお入りいただいた。あしらいには慣れてたようだが、疲れただろうしな。
マークバルバトス担当として末永くここにいてもらいたいぜ……。あとできっちりスカウトしとくわ。マジで。
イクスは、ははは……。
イクスローエンさん、これで全員そろったでしょうか ?
ローエンはい。この地点で回収予定の人員は全てケリュケイオンに乗船しました。
ローエン念のため、ファンダリア領の状況が落ち着くまでディムロスさんたちにも乗り込んでもらっています。
ゼロス魔核も回収できたしあとはスタンたちと合流すれば終わりだな。
ミリーナやっと一息つけそうね、イクス。
イクスああ。想定外のことが色々と起きてしまったし状況の確認と情報の精査が必要だけどまずは浮遊島に戻ろう。
アイゼン気を抜くなよ。最後まで何が起きるかわからないぞ。
イクスそ、そうですね。先の心配をしないなんて俺らしくなかった……。
マークそんなところは、らしくなくていいんだよ。まったく……。
イクスご、ごめん……。
イクスそれじゃあ、ガロウズ !あとはよろしく頼むよ !
ガロウズイクスの指示ってのも懐かしいな。よし、エンジン始動だ !
イクス――ケリュケイオン、発進 !
to be continued
キャラクター1話【8-1 オールドラント領 領主の館】
領主補佐官領主様。領民台帳のまとめが終わりました。
ピオニーβごくろう。台帳を置いて下がれ。
ピオニーβヴァン、後は頼むぞ。
ヴァンβ承知しました。移民を保護区へ移送し亜人は放逐する方針で進めます。
ピオニーβ私は会議の準備に入る。
ヴァンβそれでは――
ヴァンβ! ?
ピオニーβどうした ?
ヴァンβグッ……胸が……クルシ……――
ピオニーβ心核の不具合か ? しかし、何故……。
? ? ?私の力に反発した……。この者はユリアの縁者ではないのか…… ?
ピオニーβ! ?
ピオニーβ何者だ ? 姿が見えぬが……。
ローレライ私はローレライ。この者の核を戻すのだ。さもなくば、この者は命を落とす。
カーリャ・Nイクス様、少しお時間をいただけますか ?
イクス――ネヴァンか。ああ、大丈夫だよ。
カーリャ・N鏡映点の皆さんのファイル、ですか ?
イクスうん。パティを救出した後、色々あっただろ。状況を整理しながら、鏡映点のみんながどこで何をしているのかまとめておこうと思って。
カーリャ・Nイクス様らしいですね。
イクスはは、性分なんだな。まとめておかないと心配なんだ。
イクス色々なことがあっただろ。デュークさんから預かった聖核のキメラ結合の解析に、スレイたちが見つけてくれた鏡の精霊の心核、それに魔導砲や贄の紋章……。
イクスまあ……何一つ解決していないことばかりだけど。
カーリャ・N聖核のキメラ結合に関してはフィル様とリタ様が取り組んでおられますね。
カーリャ・Nデューク様も心配なようでよくアジトに顔を出されています。
イクス魔導砲はハロルドさんとリフィルさんとクラースさんが贄の紋章のことは、パスカルとキールとジュードがそれぞれ本格的な調査を進めてくれてる。
イクスだから俺は、鏡の精霊の心核を調べてみたんだ。ジェイドさんの意見も聞いたけどあれは心核のレプリカと考えて間違いなさそうだよ。
カーリャ・Nレプリカなんですね。だから簡単にこちらの手に渡ったのでしょうか。
イクスああ。帝国にとって、あの心核はサンプルに過ぎないんだろうな。
イクス大本のデータ、もしくはオリジナルを握ってるからレプリカの心核には執着していないんだと思う。
カーリャ・Nでも何故、鏡の精霊の心核をレプリカで増やしたんでしょうか。いえ、そもそも鏡の精霊というのは……。
カーリャ・N彼らはナーザ神――ナーザ・アイフリードを甦らせようとしていたのでは……。
イクスうーん。おそらくこういうことだと思う。
イクス帝国は、パティに複数の聖核をキメラ結合させた物を入れて、ナーザ・アイフリードを甦らせた。
イクスそしてそのナーザ・アイフリードを鏡の精霊という別の存在に書き換えたんだ。
カーリャ・N別の存在に書き換える…… ?そんなことが可能なんでしょうか。
イクス帝国は一つの魂に二つの存在があるという状況にこだわっていた。
イクスこれはそこから導いた推測に過ぎないんだけど……ナーザ・アイフリードを、鏡の精霊の前世として定義したんじゃないかな。
イクスだからあの心核は、ナーザ・アイフリードでもあり鏡の精霊でもある。
カーリャ・N何故ナーザ・アイフリードを鏡の精霊にする必要があったんでしょう ?回りくどいように感じます。
イクスナーザ・アイフリードを甦らせたかったのは恐らく精霊の力を完全に支配下に置きたいから、かな。精霊はナーザ神が創ったという話だから。
イクスでもナーザ神は恐らく帝国の自由にはならない。だから、帝国が自由にできる存在を造る必要があった。
カーリャ・Nそれが、鏡の精霊…… ?
イクス……だと思うんだけど。本当のところはまだわからないよ。
イクスひょっとすると帝国は鏡の精霊をオリジンの代わりにしようとしているのかも知れない――とも思うし。
カーリャ・Nあの……ちょっと理解が……。
イクス追いつかないよな。俺も正直なところ自分で言っている意味がよくわからないんだ。
イクスただ、状況を読み取ろうとするとそうなっちゃうっていうか……。はー、わかりそうでわからないなあ……。
イクス――あ、ごめん。俺に用だったんだよな。どうしたんだ ?
カーリャ・Nあ、はい。あの……ミリーナ様が準備ができたと仰っています。
イクスゲフィオンの記憶の件か ?
カーリャ・Nそうです。ミリーナ様の中で、ご自身の記憶とゲフィオン様の記憶の整理がついて時系列のまとめが終わったそうです。
カーリャ・N私も……少しお手伝いしました。
イクスそうか……。
カーリャ・Nミリーナ様が、イクス様に記憶の共有をしたいと仰っています。不愉快な話もあるかも知れませんが……。
イクスいや、それがどんなに苦しい話でも俺も知らなきゃいけないことだからな。どうしよう、どこで話す ?
カーリャ・N談話室で、とのことです。
イクスよし、それじゃあ行くか――
カーリャた、大変です ! イクスさま !
イクスカーリャ ! ? どうしたんだ、そんなに慌てて……。
カーリャイオンさまが倒れちゃいましたあっ !
二人! ?

キャラクター2話【8-2 アジト1】
イクスイオンが倒れたって ! ?
アニスイクス……うん。カロル調査室からもらったオールドラント領内のめぼしい事件をみんなでチェックしてたら、急に……。
アトワイト――確認が終わったわ。少なくとも、大きな外傷はないし今は呼吸や脈拍も正常よ。落ち着いているわ。
イクスイオンが倒れた原因は何かわかったんですか ?
アトワイトその点は、今ジェイドとハロルドが確認しているところよ。魔鏡片の異常かも知れないと考えたみたいね。
ミリーナ私もアニスたちと一緒に談話室にいたんだけれど突然胸を押さえて苦しみだしたように見えたわ。
セルシウス……それだけじゃないかも知れないわ。
カーリャ・Nセルシウス様 ? 何か思い当たることでも ?
セルシウスアイフリードの封印が消えたせいかも知れない……。それで精霊ローレライと同調しているイオンも影響を受けたのだとしたら……。
イクスそれは、ナーザ神が目覚めたからってことか ?以前滄我もそう言っていたらしいけど……。
イクスあ、いや、精霊を封じたのはルイスか。この間目覚めたのはナーザ神の方のアイフリード……。うーん。ややこしいな。
セルシウスええ、そうね。神であるナーザ・アイフリードとその鏡精の末裔である召喚士のルイス・アイフリード。
セルシウスただ封印に関してはどちらでも同じことなのよ。
セルシウス本来精霊の封印をしたのはルイスだけれどそれはナーザ・アイフリードの力を使った封印だから帝国はナーザ神を目覚めさせようとしたのね。
イクスでも、あれは目覚めたって言っちゃっていいのかな。
イクス確かに、目覚めた後、鏡の精霊にされてそれを俺たちが解除した状態だから目覚めたという状況ではあるんだろうけど……。
セルシウスええ。単にアイフリードが目覚めただけなら良かったんでしょうけど、帝国によって色々と存在を弄られてしまったから……。
セルシウスもしかしたら、本来とは違う形で、精霊の封印が解けてしまったのかも知れないわ。
セルシウスただ少なくとも、わたしの中に封じられていた『ティル・ナ・ノーグの精霊としての記憶』が甦ってきたことは確かよ。
全員! ?
ミリーナいつ記憶が戻ったの ?パティが連れさられたときはそんな状態じゃなかったわよね。
セルシウスここに連れてくるために、イオンを抱き上げた時よ。
アニスはぅあ ! ? なんでそんな時に ! ?
カーリャ・Nそれって、アイフリード神に創られたこの世界の精霊としての記憶ってことですよね ! ?もしかしてニーベルングの記憶もあるんですか ! ?
セルシウスええ、まあ……。それに……思わぬ副産物もあったの――
イオン……うぅ……。
アニス――イオン様 !
イオン……アニ……ス……。それに皆さん……。……ああ、僕は倒れてしまったんですね。すみません……ご迷惑をお掛けしました。
アニスあ、まだ起きちゃ駄目ですよ !
イオン大丈夫。急に息が苦しくなって気を失ってしまいましたが病気というわけではないと思います。
イオンこの感覚は預言を詠んだ時に近い。ローレライの力が暴走した……という感じです。
ジェイドああ、お目覚めでしたか。
イオンジェイド……僕の体の魔鏡片が取り外されているようですが……。
ジェイドはい。ハロルドの解析が終わったので持ってきました。今、装着します。
イクス魔鏡片に異常があったんですか ?
ジェイドというより、魔鏡片を通じて、ローレライの力の激流に巻き込まれた……という感じでしょうか。
ジェイドこの辺りは取り出したデータの精査が必要なのでもう少し時間がかかります。
ジェイドイオン様に大きな問題はないと思いますが後ほど検査を行う必要はあるでしょうね。
セルシウスやっぱり……。ローレライも影響を受けたんだわ。でも、ローレライは本来この世界にはいなかった精霊の筈……。
セルシウス同じくこの世界にいなかったラタトスクやこの世界のマクスウェルと融合していないミラにも変わった様子がないということは……。
セルシウス………………。
ミリーナセルシウス、どうしたの ? 私たちには言えないこと ?
セルシウスいいえ、そうじゃないのよ。説明が難しいけれど確かにアイフリードによる精霊の封印は解けた。
セルシウスでも単に解けたのではなくて、精霊クロノスの力が影響したんじゃないかと思うの。
セルシウス――あ、待って !主……いえ、グリューネが大変だわ !
全員
グリューネあら~。ここは一体どこかしら。綺麗なお花が咲いているわぁ。
? ? ?お前は何者だ ?
グリューネええと……あなたはだあれ ?
? ? ?そうか……。世界の理によって記憶を奪われているのか……。我は精霊クロノスの分霊だ。
グリューネまあ、クロノスちゃんっていうのね。初めまして。
チトセああ……マティウスさまが仰った通りだわ。クロノスの分霊の反応があるもの。
レグヌム領帝国兵チトセ様。クレーメルケイジの準備、完了しております。
クロノス分霊――追っ手が来たか。いずれ、また見えよう。
グリューネそう、元気でね~。クロノスちゃん。
チトセ反応が……消えた ! ?
グリューネまあ、あなたはクロノスちゃんのお友達かしら ?
チトセ……まさか、あなたはクロノスの分霊と会話ができるの ?
グリューネ寂しそうに見えたけれどあなたみたいなお友達がいるならお姉さん安心だわ。
ウェルテス領帝国兵ワルター様、クロノスの分霊が消失しました。
ワルターβレグヌム領の従騎士チトセか。何故ここにいる。ここは我々の管轄だ。クロノスの分霊をよこせ。
レグヌム領帝国兵チトセ様に無礼な !
チトセリビングドールが口出しをしないで。私はマティウスさまのためにクロノスの分霊を集めるの。どこの領地であっても……。
チトセそれにクロノスの分霊なら私たちが捕獲する前に消えてしまったわ。
グリューネまあ。よかったわ。クロノスちゃんにはこんなにたくさんのお友達がいるのね。
ワルターβ貴様は……鏡映点だな。クロノスを知っているのか。
グリューネそういえば、誰かに呼ばれている気がしたんだけどクロノスちゃんだったのかしら。
チトセ彼女はマティウスさまのところへ連れて行くわ。
ワルターβふざけるな。ここはウェルテス領。マウリッツ様のところへ連れて行くのが筋だ。
チトセ……だったら、デミトリアスさまに話を聞きましょう。そちらの領都の通信装置を借りるわ。
チトセただし、捕獲して連行するのはこちらの兵に任せてもらいます。最初に彼女を見つけたのは私たちの方だもの。
ワルターβ……良かろう。
グリューネみんなでピクニックなんて、と~っても素敵ねぇ。クロノスちゃんも一緒だったらもっと楽しいのに残念だわぁ。
チトセこの人、自分の状況がわかっているのかしら……。

キャラクター3話【8-3 アジト2】
セネル――遅くなった。
イクスシャーリィの検査の途中にすまない。
セネルいや、どうせ男の俺は検査に立ち会えないしな。
イクスけど、シャーリィもセネルが傍にいれば安心だろう。贄の紋章の状況を調べるってことはあの時のことを思い出してしまうだろうし……。
クロエ…………そうだな。
セネルグラスティン……あいつだけは絶対に許さない。
ジェイところでイクスさん、一体どうしたんですか ?慌ててぼくたちを呼び出したからにはあまりいい話とも思えませんが。
イクスセルシウスから伝言だ。どうも、グリューネさんがこの浮遊島を抜け出したらしい。
セネルまさか、一人でか ?
イクスああ。しかもどうやら帝国の連中に捕まったようなんだ。
クロエ何ということだ。すぐに助けに向かわなければ !
ジェイ待って下さい。セルシウスさんからの伝言と言っていましたがどうしてそれがわかったんですか ?
イクスセルシウスが察知したんだ。どうもセルシウスとグリューネさんは元の世界で関わりがあったみたいで――
クロエセルシウスの記憶が戻った ? しかもセルシウスに私たちの世界の記憶がある、というのか ?そんな馬鹿な……。
ジェイ……いえ、でも確か、元の世界にいた頃グリューネさんはセルシウスの種を植える……と言っていたことがありましたね。
ジェイそれだけじゃない。他の精霊の名前も口にしていた。今になってみれば、あれは植物ではなく精霊の種……だったのかもしれません。
セネルセルシウスがグリューネさんを主と呼ぶならグリューネさんもクラースのような召喚士か或いはミラのような精霊なんだろうか。
ジェイセルシウスさんがその点を詳しく話してくれなかったのは気になりますね。
ジェイそれに、確か異世界の神として呼び出されたシュヴァルツという存在も、グリューネさんと関わりがあるかもしれないんでしたっけ。
クロエああ、そうだったな。
ジェイ………………。
イクスとにかく、今、セルシウスが先行してグリューネさんを追いかけてくれているから俺たちもグリューネさんの救出に向かおう。
イクスシュヴァルツのことがある以上グリューネさんを帝国に渡すのは危険だ。まして精霊も絡んでくるならなおさらだろう。
セネルわかった。でもイクスはここに残った方がいい。
イクスえ ?
クロエ私もクーリッジの意見に賛成だ。ミリーナとの大切な話があるのだろう。
イクスあ、ああ……。だけど――
クロエミリーナも色々と悩んでいたんだ。この機会を大切にした方がいい。
イクス………………。
ジェイ精霊との関わりのことを考えると少々危険ですがシャーリィさんも連れて行くべきでしょう。
セネルああ。ノーマとモーゼスにも声を掛けてくる。
ジェイああ……モーゼスさんもここにいたんでしたね。忘れていました。
ミリーナイクス、お待たせ。イオンさんのことはアニスたちに任せたわ。
カーリャグリューネさまを助けに行くんですよね !
イクス……いや、それはセネルたちに任せることにしたよ。俺はミリーナから話を聞きたい。
ミリーナ
ミリーナイクス……。
ミリーナええ、わかったわ。私の受け取ったゲフィオンの記憶のこときちんと話すわね。
ナーザ定時連絡だ。皆、変わりないか。
メルクリアはい、兄上様やバルドもお変わりありませぬか ?義父……いえ、デミトリアスのことを探るためにお二人が別行動をされて二ヶ月にもなります。
メルクリアやはりわらわもご一緒すれば良かったと……。
ナーザいや、お前たちにはそれぞれやってもらわねばならぬことがあった。人手も足りぬ。手分けをして事に当たるのは当然だ。
メルクリア……………………はい。
コーキスあ、ボス。言われてたアリス……様って鏡映点の様子を見てきたけど、あれは駄目だよ。
リヒターだからそう言った。奴は大人しく従うようなタマじゃない。
コーキスああ。それにあの人、結局ケリュケイオンに行ったみたいだから。
ナーザふむ……。そういえば、猫を連れた鏡映点というのはどうした ?
コーキスアリス様の調査が終わった後また調べてみたけど、めぼしい手かがりがないんだ。もしかしたら帝国に行ったのかもしれない。
ナーザならば、敵になるな。では、もういい。捨て置け。それより、こちらの調査の手伝いをしてもらおう。
メルクリアでしたらわらわが――
ナーザいや、これはコーキスに頼む。
メルクリア
ナーザデミトリアスの幼少期に関わる情報を掴んだ。どうやら幼い頃、秘密裏にセールンド諸島の小さな村へ、一年近くも滞在している。
ナーザこの村が今でも残っているかはわからぬが当時のデミトリアスの足跡を調査して欲しい。
コーキス了解 !
ナーザリヒター、例の巨大クレーメルケイジに関する調査は進んでいるか ?
リヒターああ。アステルとディストがそれぞれ装置と術式の両方からアプローチしている。もう少しでまとめ終わるだろう。
ナーザ流石だな。期待している。
ナーザ……ん ? ジュニアとマークはどうした ?
コーキスジュニアの奴……倒れたんだ。帝国にいた頃、グラスティンになんかされてたみたいで……。
メルクリアはい。何やら刻印器なるものを使われたのだとか。解除方法を一人で調べていたようです。今、マークが看病しております。
ナーザ相変わらず無茶をする……。しかし、わかった。ならばジュニアが担当していたバロールに逆アクセスする方法に関しては保留だな。
コーキスボスたちはどうするんだ ?
ナーザ一通りの調査は終わった。ついでに帝都の様子を調べてから戻る。
メルクリア……………………。
バルドフフ、メルクリア様が大層ご不満な様子でしたよ。
ナーザバルド。メルクリアを甘やかそうとするな。
バルド甘やかすつもりはありません。ただ、締め付けすぎれば、子供は反発するものです。
ナーザそれはそうだが……。
バルド――おっと、ナーザ様。例の男に動きがあったようです。
ナーザデミトリアスの手の者か。
バルドはい。あの民家で何か受け取ったようです。包みを抱えています。襲いますか ?
ナーザああ、しかし用心しろ。兵を伏せているやもしれぬ。
バルドはい。ですが、ここは帝都から離れた小さな街です。駐留兵も少ない筈。
ナーザよし、お前は回り込んで退路を断て。挟み撃ちにするぞ。
バルド承知しました。

キャラクター4話【8-4 仮想鏡界】
ジュニア――やめて……やめてよっ、サレっ !
マークⅡど、どうした、フィル ! ?
ジュニア…………え ? ここは……仮想鏡界…… ?じゃあ、今のは夢…… ?
マークⅡおい、フィル。どうした。買い出しに行くって言ったきり帰ってこないんで心配してたんだぞ。
ジュニアえ…… ! ? じゃあ、僕はどうやってここに……。
マークⅡゲートの近くの街の宿屋で寝込んでたんだ。それをリヒターが見つけてくれて――
ジュニア! ?
マークⅡ……おい、本当に何があった ?俺はてっきり、グラスティンの奴が仕掛けた例の刻印器の呪いのせいだと思ってたんだが……。
ジュニアいけない……。僕、また取り返しのつかないことをしてしまったかも……。
マークⅡ何だよ。わかるように話せ。でないと対処できねえぞ。
ジュニア……具現化を……させられた。
マークⅡは ? グラスティンにか ?
ジュニアち、違うよ ! サレにだよ !買い出しに行った街で、ディストさんとはぐれて……。
マークⅡそこでサレの野郎に会ったのか ?具現化させられたって、何を具現化したんだ ?
ジュニアフリーセル、だよ……。
マークⅡ! ?
コーキス大変だ ! マーク、もう一度ゲートを開けてくれ !
マークⅡうるせえっ ! 今、それどころじゃ……ってちょっと待て。
マークⅡコーキス、お前、なんでまだアジトにいるんだ ?ナーザに言われた調査のためにセールンド諸島に向かった筈だろ ?
リヒターメルクリアだ。あの馬鹿、コーキスに用事を言いつけてその隙に魔鏡術で眠らせたんだ。
ジュニアえ ! ? まさか、メルクリア一人で行っちゃったの ! ?
コーキス多分な。一緒に連れて行けって言うから俺、断ったんだよ。
コーキスだから、一人でゲートを使ってセールンド諸島に向かったんじゃないかと思うんだ。魔鏡通信にも全然出ないしさ。
マークⅡだったら追いかければいいだろ――ってあいつも鏡士だったな。俺が開けたゲートを強制的に閉じたのか。
マークⅡくそ、ジュニアのことで手一杯でそこまで感知できなかった。まったく、次から次へと……。
リヒターどうした ? 何があった ?
ジュニアそれが……あの……。
マークⅡいや、説明は後だ。今、ゲートを開く。二人はメルクリアを追ってくれ。その間に俺はうちのご主人様のやらかしを確認して整理しておく。
コーキスお、おう…… ?わかった。リヒター様、行こう !
メルクリア(ふっふっふっ。コーキスめ。そろそろ目を覚ました頃かの。わらわも連れて行ってくれと言ったのに、強情な奴め)
メルクリア(いや……強情なのはわらわの方か……。勝手をして、皆、怒っているだろうな……。それでもわらわは、義父上のことを知りたいのじゃ)
魔物グルルル……ッ !
メルクリアまた魔物か ! ?何故この島にはこのように魔物が多いのじゃ !
メルクリアミゼラブル・トーチャー !
メルクリアふう……。やはり一人では無理があったか……。いや、しかしわらわの力はこんなものでは――
メルクリアええいっ、またか !術式・十三――
ウィル何、子供だと ! ?
メルクリア何、人だと ! ?
魔物――グォォォォォォッ !
メルクリアし、しまった ! 先程の生き残りか ! ?
ウィル危ないっ !
ウィルラスレスハンマー ! !
魔物ギィィ……。
メルクリアた、助かった……。
ウィル他に生き残りは……いないようだな。怪我はないか ?
メルクリアいや……大丈夫じゃ。すまぬ、世話を掛けた。感謝するぞ。そなたは大事ないか ?
ウィルオレなら心配には及ばない。こういったことには慣れている。
ウィルしかし……大陸では見かけない種類の魔物だな。ウルフ系だが爪の形が独特だ。
ウィルそうか……さっき見つけたプルメリアの群生地を荒らしていた足跡はこいつらだな。ということは――
メルクリアふむ…… ? このようなところに人がいるのはおかしいと思ったが、もしやお主は学者か ?
ウィルおっと……。そうだった。調査のことよりまず、きみのことを何とかしなければな。
ウィルオレはウィル・レイナード。この隣の島で村長代行を務めている。博物学の研究の為この辺りの島々を回っていた。
ウィルきみは何者だ ? どうしてこんなところにいる ?この島には、もう人は住んでいないと聞いていたが……。
メルクリアわらわはメル――
メルクリア(いや、本名を名乗っては危険か。この者が親帝国か反帝国かもわからぬ……)
メルクリアメル、じゃ。メルという。その……ち、父上の育った村がこの島にあると聞いて探しに来たのじゃ。
ウィル父親の……。
ウィル……しかし、こんな無人島に一人で来たわけではないだろう。
メルクリア島には……あ、兄と一緒に来たのじゃがはぐれてしまったのじゃ……。
ウィル……フッ。
メルクリアな、何じゃ ? 何がおかしい ?わらわは嘘などついておらぬぞ !
ウィルいや、友人のことを思い出しただけだ。
ウィルよし、それなら、一緒にきみのお兄さんを捜そう。子供が一人でうろついていい場所ではないからな。
メルクリアわらわは子供ではない !
ウィル
メルクリア……いや、子供じゃな。こんな振る舞いは。すまぬ……大声を出して。
ウィル……素直に謝れるとは感心だな。
メルクリアう……た、確かにわらわは子供じゃ。なれど、あまり子供扱いをしないで欲しい。わらわはわらわなりに――あっ ! ?
ウィルやれやれ、今度はどうした ?
メルクリアじょ、浄玻璃鏡がない…… ! ?

キャラクター5話【8-5 帝都イ・ラプセル 郊外】
デミトリアスの使いくっ……離せっ !
バルド――失礼。
ナーザ気を失ったか。
バルド騒がれても困りますから。ところでナーザ様この男が持っていた包みは……。
ナーザこれは……キラル純結晶、か ?
ナーザ――いや、これは鏡精エネルギーの結晶体か ! ?
バルド馬鹿な ! ? もはや帝国に鏡士はいない筈です !
ナーザなんだ、この音は。
バルドこの使いの者が持っている魔鏡通信機の呼び出し音ですね。これは……もしやデミトリアス帝からの私信でしょうか ?
ナーザ帝国の魔鏡通信……。おそらく仕組みは俺たちが使っているものと同じようなものだろう。よし、魔鏡術でハックできるか試してみよう。
デミトリアス――待たせたね。使いの者が戻らずに難儀していた。時間も無いことだし、会議を始めるとしよう。
ピオニーβ承知した。すでに報告をしたとおり従騎士ヴァンが倒れた。
ピオニーβ疑似心核が崩壊し、体が保てない恐れがあるため本人の心核を戻して沈静化させている。
アルトリウススペアの疑似心核の埋め込みはどうなった ?
ピオニーβ受け付けない。ヴァンの体内にある精霊ローレライが活性化しているようだ。
マウリッツβ精霊クロノスの解放に影響されたのでは ?
デミトリアスその可能性は大いにあるね。
ロミー魔導器を埋め込んだらどう ? なんて言ったかしら……ヘルメス式とかなんとか……。あれなら元の心核と組み合わせてリビングドールにできるんでしょう ?
マウリッツβワルターに施したものと同じか。しかしワルターも完全とは言いがたい。時折元の心核が動き出す。定期的な調整も必要だ。
デミトリアスその点も考慮して、領主の館の地下に魔核工場を作らせたのだが……やはり手間になるようだね。
ピオニーβ地下工場といえば、カレギア領内の汎用型カレイドスコープを、帝国を出奔したサレが勝手に利用していた件はどうなった。
アルトリウス今、調査させているところだ。ところで当のサレは、今どこで何をしている ?
デミトリアスグラスティンが追っている。今日はその報告もある筈だったんだがね。
アルトリウス…………なるほど。
マウリッツβデミトリアス様。クロノスの分霊についても報告があります。
マウリッツβワルターとレグヌム領の従騎士がクロノスの分霊に接触。取り逃がしたものの、代わりにクロノスの分霊と会話する鏡映点を捕獲しました。
? ? ?つまり、その鏡映点をどちらの領地で預かるか裁可して欲しいんだね。だったら話は簡単だ。鏡映点は帝都で預かる。それで問題ないだろう。
? ? ?そちらに迎えの兵を出そう。その鏡映点の名前は ?
? ? ?グリューネだそうです。
バルド――ナーザ様、確かこの名前には聞き覚えがあります。イクスさんたちの下にいる鏡映点の女性かと。
ナーザよく覚えているな。まさか、親切心を出すつもりか ?
バルドお許しがいただけるならば。
ナーザ……ならば、今少し待て。今グリューネとやらの身柄を拘束している場所について話しているようだ。
デミトリアス……わかった。墳墓で受け渡しだ。その時に、例のオリジンの報告も――
アルトリウス待て。ネズミが紛れ込んでいるようだ。
ナーザちっ、誰だかわからぬが、勘のいい奴め。アクセスできなくなった。だがグリューネとやらの場所は特定できたぞ。
バルドありがとうございます、ナーザ様。お慈悲に感謝致します。
セネル――イクスからの連絡によるとこの辺りだな。グリューネさんが連れて行かれた墳墓というのは。
クロエまさかバルドたちからグリューネさんの行方について連絡が来るとはな。
シャーリィ結局、セルシウスさんからの連絡はなかったね。無事ならいいんだけれど……。
ジェイええ……。イクスさんから聞いた話を総合するとセルシウスさんはグリューネさんの居所をある程度把握できるようです。
ジェイそれなのに連絡がないというのはセルシウスさんかグリューネさんのどちらかが危険な状態なのかも知れません。
モーゼスのう、そこじゃないかのう。探しちょる墳墓の入り口ちゅうのは。
ノーマそうかな~ ?だって墳墓って【人食い遺跡】のことじゃないの ?構造も雰囲気も全然違うみたいだけど……。
クロエエンコード、とやらが影響しているんじゃないか ?
モーゼスなんじゃ、そのエンコードちゅうのは。
ジェイさすが、モーゼスさん。大事なことは何一つ覚えていませんね。
モーゼスほうじゃろほうじゃろ――って、貶しとるんか ! ?
ジェイモーゼスさんに褒めるところなんて何一つありませんからね。
モーゼスなんじゃと ! ?
シャーリィねえ、お兄ちゃん。確か【人食い遺跡】って元の世界でお兄ちゃんたちが、グリューネさんに出会った場所だよね。関係があるのかな ?
セネルどうかな。あの時、ワルターは【人食い遺跡】にはいなかった。もしも何かあるとすれば――
ノーマエバーライト !
ジェイ帝国の奴らは、エバーライトすらも何かに利用しようとしているのかもしれませんね。
ノーマそんなことさせない !
クロエ落ち着け、ノーマ。今はグリューネさんを助けに来たんだ。
セネルそれにこの世界にエバーライトがあると確定したわけでもないからな。
ノーマわかってるよ~ !けど『ある』かもしれないんだからよ~く調べながら進まないとね。
モーゼスお、おい、シャボン娘……。まさかまたトラップを片っ端から発動させるつもりじゃ……。
ノーマまさか~。モーすけってば心配しすぎ。ここってどう見てもトラップなんてなさそうだし――
三人あ……。
モーゼスぎょえええええ~~~~~っ !
ジェイこうなると思ってました。
モーゼスいい加減にせんか、シャボン娘 ! ?毎度毎度、次から次へとトラップに引っかかりおって !
モーゼスワイのケツの穴が二つに増えたらどうするつもりじゃ ! ?
ジェイ最高に笑えますよね。
モーゼスなんじゃ、ジェー坊。何か言ったか ! ?
ジェイ――しっ。うるさいですよ、モーゼスさん。
モーゼス誤魔化そうとしてもそうはいかん。ワイは――
セネルいや、待て、モーゼス。本当に誰かいる。
四人
ワルターはあ……はあ……。
ワルター……く……どういう……ことだ…… ?俺は……どうして……。
シャーリィワルターさん !
ワルター
ワルターメル……ネス…… !
ワルターセネル・クーリッジ…… !
セネルリビングドール状態じゃなくなっているのか ! ?
クロエそれに、様子がおかしいぞ ! 随分苦しそうだが……。
ワルター貴様……まだ、メルネスの……隣に……。
ワルター貴様…… ! 貴様――貴様ァァァァァッ ! !
セネルおい、落ち着け ! 話をさせてくれ !
シャーリィワルターさん ! 私からもお願いです !
ワルター貴様だけは、貴様だけは――絶対に許さんッ ! !

キャラクター6話【8-6 ウェルテス領 遺跡1】
ワルター何故……貴様だったのだ。
ワルター何故……メルネスは、貴様を選んだのだ。
ワルターβもうやめろ。それは貴様が敗北した際の無様な記憶。私の活動の邪魔だ。
ワルター貴様に何がわかる ! 水の民でもなく陸の民ですらない、人形兵士同然の貴様に俺の……この俺の憎しみなどわかってたまるか !
ワルター俺の体を返せ ! 奴を……セネルを殺す !そしてマウリッツと共に、メルネスを――
ワルターβあの小娘を取り返してどうなる。
ワルターβこの世界に、貴様の言う『本当の』水の民はなく『本当の』滄我とやらもない。所詮は異世界の影。使い捨ての道具だ。
ワルターだ、黙れっ ! 黙れ黙れ黙れっ !
シャーリィワルターさん ! お兄ちゃん、ワルターさんが !
セネル聞こえるか、ワルター。悪いが拘束させてもらった。だが、危害を加えるつもりはない。話をしたいんだ。
ワルター ?――――――――
モーゼス大丈夫かのう。こいつ、目の焦点が合っちょらんぞ。
? ? ?その声はセネルたち ?
ジェイセルシウスさんの声です !
セネルどこだ ! ?
セルシウス主……グリューネの壺の中よ。
モーゼスどういうこっちゃ ! ?
セルシウスあなたたちが来てくれたならもう安心ね。
クロエグリューネさんも、寝ていないで起きてくれ !
グリューネあらぁ、クロエちゃん、それにセネルちゃんたちも。みんなもピクニックに参加しに来てくれたのねぇ。お姉さん嬉しいわぁ。
ノーマやっぱりグー姉さん、何もわかってない ?
グリューネセルシウスちゃん。セルシウスちゃんも目が覚めたのね。
セルシウスセネルたちと会えたから、先に出ていたの。主……いえやはりグリューネと呼びましょうか。助けてくれてありがとう。
セネルセルシウス、何があったんだ。
セルシウスグリューネを見つけたところでワルターたちと交戦になったのよ。
セルシウス向こうがクレーメルケイジにわたしを入れようとしたときにグリューネがこっちの方が居心地がいいと言って……わたしも危険を感じて壺の中に避難していたの。
ノーマちょ ! ?グー姉さんの壺、ど~なってんの~ ! ?
ジェイセルシウスさん。あなたとグリューネさんはどういった関係なんですか ?おおよその予想はついていますけれど。
モーゼスジェー坊 ! ? そいつは本当か ! ?
ジェイセネルさんだって、シャーリィさんだってノーマさんやクロエさんだってわかっていると思いますよ。モーゼスさんと違って。
モーゼス! ?
セルシウスそうね。でもいつまでもここにいるのは危険よ。すぐにここへ帝国の連中がやってくるわ。
セルシウスいったん外に脱出しましょう。話はその後よ。それと、アジトから応援を呼んだ方がいいわね。
セネルワルターの心核を戻す為か ?やっぱりイクスたちにも来てもらうべきだったか……。
セルシウスこれは鏡士より、リタの方が適任だと思うわ。私の聞いた話だと、ワルターの中の心核は特殊な状況らしいのよ。
ノーマリタっち ?リタっちは今ケリュケイオンの方にいるよね。
ジェイ好都合です。アジトから来るより早く合流できるでしょう。今連絡します。
ジェイモーゼスさん、ワルターさんを運んで下さい。
モーゼス仕方ないのう。ワイが背負うちゃる !
セネルグリューネさん、行こう。
グリューネええ、ピクニックの続きよね。やっぱりピクニックは大勢の方が楽しいものねぇ。
クロエグリューネさん、これはピクニックじゃないんだ。それにグリューネさんにも色々と聞かなければならないことがある。
グリューネわかったわ。じゃあ、最近ミラちゃんから聞いた面白いお話をしてあげるわねぇ。
シャーリィあ……それは……ちょっと興味があるかも……。
ノーマあ~、グー姉菌恐るべし !
ウィル……ないな。
メルクリア……ないのう。
ウィルこの自然の森の中では落とした物を見つけるのも簡単ではない。諦めて、お兄さんとの合流を優先してはどうだ。
メルクリア………………嫌じゃ。
ウィルしかしきみは森を探索する装備もない。たかが鏡、それも壊れた鏡の破片など――
メルクリア単なる鏡ではない !
メルクリアあれは……わらわの友達の形見のようなものなのだ……。
ウィル形見のようなもの、か。土足で踏み込むつもりはないがもし良ければ事情を聞かせてもらえないか ?
メルクリア……う、うむ。その……わらわには、自分の我が儘と幼さ故に迷惑を掛けてしまった友が二人いるのじゃ。
ウィル……フ。
メルクリアまた、笑ったな ? わらわはそんなにおかしいか ?
ウィルいや、すまない。これはオレが悪いな。だが、きみは――少なくともオレから見ればまだ幼い子供だ。
ウィル先程からきみの話を聞いているときみは無理をして大人のように振る舞おうとしているように感じられる。
メルクリア他の者にも似たようなことを言われたことがある。じゃが、わらわは……子供らしくすることができないのじゃ。
ウィルオレにしてみれば、きみは十分子供らしい。言葉遣いは独特だが、それでもきみは子供だ。むしろ聞き分けが良すぎるぐらいだな。
メルクリアそ、そうであろうか ?兄上様はわらわを我が儘じゃとお叱りになり軽挙妄動を慎めと――
ウィルははははは ! 確かに軽挙妄動とは言い得て妙だな。一人でこんな無人島をうろついているのだ。しかも家出のような形で。
メルクリア! ?
ウィルオレが気付かないとでも思ったか ?きみの嘘はわかりやすい。それにオレにも娘が……――娘がいたんだ。ハリエットと言ってな。
ウィルあの子も無茶をする子だった。だからすぐにピンと来たんだよ。
ウィルすまない、話の腰を折ってしまったな。良かったら続きを聞かせてくれ。
メルクリア……どちらの友にも酷いことをしてしまったがわらわがなくしてしまったのは、シドニーという友が残してくれた鏡の破片じゃ。
メルクリアシドニーが最初にわらわのために作ってくれた鏡でな。もっといいものを作ると話していたのじゃが約束が果たされることはなかった……。
メルクリア二度と会えないところに行ってしまったのでな。
ウィル……そうか。その鏡がきみにとって特別なものであることはわかった。
ウィルだが、その鏡を探すことできみが命を落とすようなことになるのはそのシドニーという友達の本意ではないだろう。
ウィル夕暮れまでに見つからなければいったん諦めた方がいい。オレがきみを家まで――ん ?
メルクリアどうした ?
ウィルいや、今森の奥で何かが光ったような……。
メルクリアもしや浄玻璃鏡ではないか ! ? すぐに探しに行こう !
ウィルしかし、あの方向は……。
メルクリア何じゃ ? 何か問題でもあるのか ?
ウィル……仕方ない。洗いざらい話すしかないか。おそらくこの先にはきみの父親が育ったという村の跡地がある筈だ。
メルクリア何じゃと ! ? ならば何故教えてくれなかったのじゃ !
ウィル危険な魔物の棲家になっているんだ。うかつには近づけない。
メルクリアそれでもわらわは行かねばならない !でなければ……わらわは本当に役立たずじゃ。兄上様にも見捨てられてしまう……。
ウィル兄妹なのだろう ? そんなことは――
メルクリア兄妹にもいろいろある ! それにわらわは母上様に先立たれ、義父上……とも対立し、一人ぼっちじゃ。
ウィルそうか……。
メルクリア兄上様とも最近になって初めて顔を合わせた故お役に立ちたいのにどうしていいのかわからぬ。
メルクリア兄上様は義父上の情報を欲しがっているのじゃ。わらわがそれを手に入れればもう少し……わらわのことを……。
ウィル……きみは寂しいんだな。
メルクリアわ、わらわには仲間がいる ! 新しい友もいる !寂しいなどと言っては罰が当たる !
ウィル罰など当たるか ! 寂しくていいんだ。
メルクリア! ?
ウィルその素直な気持ちをもっとお父さんやお兄さんや仲間にぶつけてみろ。そうやって子供は大人になる。
メルクリアで、でも、それは我が儘……。
ウィル我が儘でもいい。ためらって気持ちをため込みその結果、大切な人を失うぐらいなら自分の素直な気持ちを口にしたほうがいい。
メルクリア……ぅ…………。
ウィル泣いてもいいんだ。
メルクリアうう……わらわは寂しいのじゃ ! 母上様に会いたい !兄上様とも離れたくない !
メルクリアそれに……義父上のことも……。何故こうなってしまったのじゃ !わらわはわらわは……皆と一緒にいたかったのじゃ ! !

キャラクター7話【8-7 ウェルテス領 街道1】
リタ――みんな、お待たせ。念のため、フィリップにも来てもらったわよ。お供もね。
マークお供ってのは結構な言い種だな。せめて護衛と言ってくれ。
フィリップ心核のことが関わっているなら僕もいた方がいいかと思って。イクスたちは……今大変みたいだから。
セネル助かる。
リタで ?ヘルメス式魔導器が埋め込まれてるって、本当なの ?
ノーマセルるんの話によるとね。
リタちょっと待って。今調べる。フィリップ、あんたもさっさと手伝う。
フィリップああ、わかってるよ。
ジェイ墳墓での話の続きですが――
セルシウスその前に、話しておきたいことがあるの。グリューネは、以前シュヴァルツと接触し記憶が戻りかかったことがあるわね。
セルシウス彼女の記憶が戻るということは再びシュヴァルツを甦らせかねない。
セルシウスわたしはあなたたちの世界のセルシウスでありこの世界のセルシウスでもある。だから、この世界を守らなければならないの。
モーゼスつまり、どういうことじゃ。
セルシウスグリューネの正体を知っても今まで通りに接すること。そして記憶を無理に取り戻そうとさせないこと。それを約束して欲しいのよ。
セネル仮にグリューネさんが自分の正体を知りたがったとしてもか ?
セルシウスグリューネは思い出せないだけで『知っている』わ。
セネル……わかった。
ジェイでは、単刀直入に伺います。グリューネさんはぼくらの世界の神に類する存在……ということでしょうか。
セルシウスええ。本来の力を失っているけれどそう考えていいと思うわ。
モーゼス神……じゃと ! ?
セルシウスティル・ナ・ノーグではエンコードの力が働いて実際には神としての力は発揮できないでしょうね。それはこの世界の防御機構だからどうにもできないわ。
モーゼスみんな、気付いとったんか ! ?
シャーリィシュヴァルツのことや、精霊であるセルシウスさんが主って呼んでいたから、もしかしたらとは……。
クロエだが、まだ半信半疑だ。急にグリューネさんが神だと言われても……。
ジェイまあ、在り方は違いますがこの世界の神もこちらにコンタクトを取ってきました。
ジェイここはそういう世界だ、そういうこともあると割り切っておくぐらいでいいんじゃないですか。本当はこういうのは気持ち悪いんですけどね。
ノーマけど、ジェージェーの言う通りだよ。だって、グー姉さんはこれからもグー姉さんなんだし。
グリューネお姉さんのことを話しているの ?
モーゼスお、おう……。まあ……どこからどう見ても姉さんは姉さんじゃからのう……。
グリューネあらぁ、わたくしのことを見たいの ?どうぞ、モーゼスちゃん。じっくり見てちょうだい。
モーゼス
クロエだからといって本当にじっくり見ようとするな、シャンドル !
ジェイですが、これではっきりしました。グリューネさんは一刻も早く浮遊島に連れ帰った方がいい。
ジェイもしかしたら、今回のことで帝国はグリューネさんの利用価値に気付いてしまったかも知れません。
セネルああ、そうだな。
セネルどうだ、ワルターの方は。もし長引くならアジトに連れ帰った方がいいかもしれない。
フィリップ魔導器の方は僕にはわからないけれど彼の元々の心核と一緒に付けられている疑似心核なら外すことはできそうだよ。
シャーリィえ ? 疑似心核が埋め込まれているんですか ?でもさっきのワルターさんはリビングドール状態には見えませんでしたけど……。
フィリップどうやら疑似心核と心核を魔導器で連結しているようだね。
フィリップ心核が大きなダメージを負っているから具現化された時、肉体的にも精神的にも瀕死だったんじゃないかな。
セネルまさか……ワルターが具現化されたタイミングはあの時の――
クロエワルターが命を落としたあの時か ! ?
ジェイまずいですね。疑似心核を取り除けばあの状態のワルターさんが現れる。
ジェイ会話になんてなりませんよ。アジトに連れ帰ることすら危険だ。
リタそっちの事情はよくわからないけど魔導器の方は何とかなりそうよ。
リタそれにしても、帝国の奴らあいかわらずメチャクチャな使い方をするわね。
リタきっと治療と実験をかねて魔導器と心核を繋いだんでしょうけどこんな乱暴な使われ方、この子たちが可哀想だわ。
フィリップリタ、僕の見立てではワルターの体はまだ完全に癒えていないと思うんだがどうかな。
リタでしょうね。心核が崩壊寸前なのを魔導器がかろうじて守ってる状態だから。
リタ心核のダメージが修復されて魔導器を取り外せるようにならない限り体の方も癒えないと思う。
リタ酷い話よね。死にかけた体のままずっと働かされてるのよ、こいつは。
シャーリィそんな…… !
セネル本当にあの時のまま、か。
モーゼスどうする、セの字。
セネル…………わからない。どうすれば……。
ノーマやってみようよ、セネセネ。
セネルノーマ ?
ノーマあの時はどうにもならなかったけど話す時間ができたってことじゃん !
ノーマリッちゃんだって、あれから水の民と陸の民の間をつなごうとして頑張ってきた。
ノーマ会話になるとかならないってことを心配するより前にセネセネが伝えたいことをちゃんと伝えてワルちんの気持ちもちゃんと知ろうよ。
グリューネセネルちゃん、喧嘩はダメよ。ワルターちゃんもまっすぐなとてもいい子なんだから仲良くしましょう。
ノーマああ、こういう時はむしろグー姉菌がありがたい~ !セネセネ、グー姉菌に感染しよう !
シャーリィお兄ちゃん、わたしも、ちゃんとワルターさんと話したい。もう水の民を一人も失いたくないから。
シャーリィわたし、ワルターさんも守りたい。メルネスとして……それからワルターさんに何度も助けられたシャーリィとして。
セネル――リタ、フィリップ。ワルターの疑似心核を外して、目覚めさせてくれ。それから、拘束も解いて欲しい。
モーゼスみんな ! ワシらはいざというときにワの字を止められるよう、準備じゃ !
クロエ任せろ。クーリッジ、シャーリィ私たちのことは気にするな。ワルターのことだけ考えるんだ。
マークリタとフィルは俺が守る。二人とも頼むぜ。
リタOK。それじゃ、行くわよ。魔導器最終確認。再起動開始 !
フィルでは、疑似心核を外そう。行くよ !
ワルター……………… !
セネルワルター。話をさせて欲しい。お前は話なんてないというかも知れないが――
ワルター――どけ !
セネルくっ ! ?
シャーリィワルターさん ! 待って下さい !
ワルターメルネス……何故だ……。俺はメルネスを守るために生きてきた。メルネスのそばにいるのは俺の筈だった !
シャーリィどこへ行くんですか ?ワルターさんのお話、聞かせて下さい。それにわたしの水の民への気持ちも――
ワルターメルネス……もう水の民を一人も失いたくないと言ったな。
セネルお前……あの状態でも俺たちの声が聞こえていたのか !
ワルターもしその気持ちが本当なら、ご託を並べる前に何故陸の民どもに拘束されているマウリッツを助けようとしない ?
シャーリィマウリッツさんが近くにいるんですか ! ?
ワルター――俺は行く。セネル、貴様を葬り去るのはその後だ !
ワルターこのままではルグの槍の贄となってマウリッツも死ぬ。俺はもう、陸の民どもに水の民を殺させはしない !
シャーリィ待って ! ワルターさん !
シャーリィお兄ちゃん ! ワルターさんを追いかけましょう !
リタそうした方がいいわね。あいつ、これ以上無茶すると、本当に死ぬわよ。
フィリップああ。アジトでも僕たちのところでもいい。連れ帰って、心核の治療をするべきだ。
ノーマセネセネ、行こう !
セネルああ !

キャラクター8話【8-9 ウェルテス領 街道3】
セネルこの方角……。まさかワルターが向かったのはさっきの【人食い遺跡】か ?
ジェイそのようですね。このままグリューネさんを連れて行くのは危険だと思いますよ。
セルシウスそうね。グリューネはわたしが連れて帰るわ。
グリューネあらぁ、もうピクニックはおしまいなの ?
ノーマグー姉さん、続きは浮遊島でやろ~よ。
グリューネまあ、それも素敵ねぇ。
セネルワルターのことがあるからリタとフィリップとマークには遺跡の前で待っていて欲しい。頼めるか。
マークああ。帝国の奴らが来るかも知れないんだったな。いざとなったらヘルプを出してくれ。
セネル助かる。
ワルター……はあ……はあ……。確かここには……マウリッツの心核が……。
ワルター(くそ……胸が……苦しい……。疑似心核があった頃はここまで弱っていなかった……。陸の民どもめ……)
ワルター(…………陸の民、か。ここには本当の水の民も陸の民もいない。全てがニセモノのまやかしだ…… !)
ワルターだが、せめてマウリッツは…… !
帝国兵現れました、領主様 !
マウリッツβワルターか。遅かったな。会議に参加していた私の方が先に着くとは。
マウリッツβ例のクロノスの分霊と話せる鏡映点はどこだ ?何故、お前の麾下の兵士たちが倒れていた ?
ワルターはあ……はあ……。
マウリッツβ魔導器の不具合か。
ワルターマウリッツ…… !
マウリッツβなるほど。やはり貴様、また元の人格が出ていたのだな。面倒な奴め。
マウリッツβワルターを捕らえよ !帝都からの迎えが来る前に、ワルターを正気に戻して鏡映点の居場所を聞き出さねばならぬ。
ワルター俺は正気だ…… !これが俺だ !マウリッツを解放しろ !
ワルターぐあああああああっ ! ?
帝国兵捕獲魔法陣、発動しました !
マウリッツβ鏡映点のために用意していたものだがワルターに使うことになるとはな。
シャーリィワルターさん ! ?
セネルお前たち、ワルターに何をした ! ?
マウリッツβあやつは、グラスティン様が言っていた贄の紋章を植え付けた娘……。
ワルター! ?
マウリッツβ皆、ワルターはもう良い。生きてさえいれば、贄の紋章は機能する。それよりその金髪の娘を捕らえるのだ !
帝国兵承知しました !
シャーリィキャ ! ?
ワルター! ?
セネルシャーリィ ! 危ない ! !
ワルターメルネス ! ! やらせるものかっ ! !
二人ぐっ……。
シャーリィお兄ちゃん、ワルターさん !
シャーリィやめて !お兄ちゃんもワルターさんもわたしの大切な人たち。わたしが……二人を守る !
シャーリィセラフィック・バード !
マウリッツβ増援だ ! 奴らを囲め !
ジェイくっ ! このままここで戦っていても消耗するだけです。ワルターさんを連れて退避できるような場所はありませんか、ノーマさん !
ノーマあたしぃ ! ? そんなこと聞かれても……。
モーゼスなんか仕掛けとかないんか ! ?
ノーマはあ ! ?ここは元の世界の遺跡とは全然違……――あ !
クロエどうした、ノーマ !
ノーマあれ ! さっきモーすけに発動した罠と同じ奴だ !
モーゼス何じゃと ! ?
ノーマ一か八か……それ~っ ! ポチッとな !
全員! ?
全員うわあああああああ ! ?
メルクリア何だか目が腫れぼったいわ……。
ウィルあれだけ泣けばそうだろうな。
メルクリア見ず知らずの人間の前であんなにも泣こうとは……。
ウィル案外、何も知らない人間の前の方が素直になれることもある。
メルクリア……そうかも知れぬな。あの……ありがとう……。
ウィルいや、オレは何もしていない。
メルクリアそんなことはない。わらわは感じ入った。また一つ学びを得た。そなたに何か礼をしたいとすら思うておる。
ウィル大げさな奴だな。だが……そうだな。ではこうしよう。オレはオレと家族に誓ってメルをメルの家族の下へ帰す。
ウィルその時に、改めて礼を言ってもらおう。
メルクリアどうしてもそなたはわらわを帰したいのだな。まあ、よい。ならば約束しよう。
メルクリア――しかし、だんだん景色が開けてきたな。
ウィルそろそろ村のあった辺りだからな。見ろ、奥には建物もある。
メルクリアでは、ここが義父上の……。
ウィルやはり……この奥だな。何か光ったように見えたのは。
ウィルもし鏡の破片がここにあるのなら魔物が拾って持ち帰ったのか…… ?光るものにでも興味があるのか……。
メルクリア(……なんじゃ…… ? 胸が苦しいような…… ?)
ウィル気を付けろ、メル。ここには光魔という危険な魔物が巣食っている。それも大量にな。オレはこの光魔の生態を調査するために来たんだ。
メルクリア光魔じゃと ? 何故このような場所に……。
ウィル驚いたな。光魔を知っているのか ?
メルクリアそれは……その……。
メルクリアん ? ウィル、あの茂みの奥が光ったぞ !
ウィル……よし。オレが見てくる。メルはここを動くなよ。
メルクリアぐっ……。
ウィルメル ? どうした ?
メルクリア……なん……じゃ…… ?胸が……痛い……。痛くて……息が……。
ウィルメル ! ?
ウィルくっ、光魔か ! 何もこんな時に !
ウィル光魔の体が光った ! ? まさか、鏡の破片か ! ?ならば――取り返すまで !

キャラクター9話【8-11 ウェルテス領 海岸2】
シャーリィ……お兄ちゃん、大丈夫 ?
セネル……う……ここは……。
ジェイ墳墓の遺跡の下が海岸線に繋がっていたんです。
クロエノーマが装置を発動させてくれて何とかここへ逃げ込めたが……。ここからどう動けばいいものか。
ワルター……フ……フフ……。
モーゼスうおっ ! ? 何じゃ、気付いとったんか、ワレ ! ?
ワルター逃げ込んだ、だと。愚か者共め。帝都からくる船はこの海岸に着けられる。
ワルター貴様らの仲間のグリューネとかいう女を運ぶための船だが、こうなるとメルネスを運ぶ船に変わるだろうな。
ジェイつまり、下手をするとマウリッツさんと帝国の船に挟み撃ちにされるということですね。
シャーリィワルターさん、体の方は大丈夫ですか ?
ワルター……俺のことはどうでもいい。それよりメルネス、贄の紋章を刻まれたというのは本当か ?
シャーリィえ、ええ……。あのこてのようなものですよね。今は痕も残っていないですけど……。
ワルターセネル ! !貴様が付いていながら、何故そんなことになった ! ?
セネルすまない……。俺がシャーリィを守れなかったんだ。
ワルターだから陸の民など信用できんのだ !あれはメルネスの命を奪う恐ろしい呪いだぞ ! ?
五人! ?
セネルそれはどういうことだ ! ?贄の紋章ってのは一体何なんだ ! ?
ワルター贄の紋章は、文字通り生け贄の印だ。刻印器と呼ばれる装置で紋章を刻むと紋章を通じて生体エネルギーが集められる。
シャーリィ生け贄……。
ワルターエネルギーの搾取が少量なら、相手を暗示に掛けてコントロールできるし、量が多ければ生体エネルギーを固形化させて、レプリカのような模造品作りに使える。
クロエなんだ、そのおぞましい装置は…… ! ?
ワルター最大限まで出力を高めるとルグの槍と呼ばれるエネルギーの柱になる。
ワルタールグの槍は、このまやかしの世界を破壊してニーベルングという星を召喚するための転送装置だ。メルネスは人柱にされたんだ !
シャーリィ! !
モーゼス信じられん……。なんちゅうものを帝国の奴らは……。
セネル解除する方法はないのか ! ?
ワルター俺にはそこまでの知識は与えられていない !それに贄の紋章は俺にも埋め込まれている。領主と従騎士はほぼ全員紋章を刻まれている筈だ。
ジェイそれが本当だとして、この世界を壊せば帝国も滅びるのではありませんか ?
ワルター奴らの目的は貴様ら陸の民の祖先と同じだ。自分たちだけは箱船に乗ってニーベルングへ移住するつもりだ !
ワルター鏡士どもに具現化された人間はこの世界と共に消滅しもともとこの世界に生まれていたわずかな生き残りだけを移民させる計画らしい。
ジェイニーベルングの復活、どんな手段を執るのかと思っていたら……つくづく帝国らしいですね。
ノーマ……え ? どういうこと ? あたし、わかんないよ。だって、この世界を救うためにイっくんたちは具現化を始めたんでしょ ?
ノーマそれってデミトリアスも承知してたことなんでしょ ?
ノーマせっかく作ったのに、異世界からあたしらみたいに帰れなくなる人たちまで生み出して、壊します置いていきますとか、あたしらの存在は何なのよ !
ワルター俺の知ったことか ! くそっ !こんな……せっかく自分を取り戻したというのに……俺はまた自分の使命を果たせないのか……。
ワルターどうしてこうなった ! ?答えろ、セネル ! !
ウィルメル ! しっかりしろ ! 鏡の破片を見つけたぞ !
メルクリア ?………………無駄じゃ。
ウィルな、何だ ?
メルクリア ?この娘は心に穴があいたまま。我の恨みを晴らすに丁度いい……。
ウィル貴様、メルではないな ! ?
メルクリア……く……ウィル、か……。
ウィルメル ! 大丈夫か ! ?
メルクリア……すまぬ……。わらわは……特異な体質になっていてな……。
メルクリア何と言えばいいか……心に隙があり……得体の知れぬものにのっとられやすいのじゃ。
メルクリアわらわを置いて立ち去れ……次に意識を失うと……わらわは……恩人であるそなたを……手に掛けるやも……。
メルクリア ?――中々にしぶとい。さすがは鏡士よ。だが、もはや抵抗はできまい !
ワルター答えろ ! セネル ! !セネル・クーリッジ ! ! !
セネル俺にだってわかるかよ !だがそれでも何とかしないと――
ワルター何をどうするというんだ ! ?メルネスの傍にいながら、メルネスを守ることもできず戯言ばかり口にするな !
シャーリィ待って ! ワルターさん ! 違うの。わたしはもうお兄ちゃんに守られるだけの存在じゃない。
シャーリィわたし……わたしもどうしたらいいのかわからないけどでも自分がルグの槍になるのも嫌だしワルターさんがそうなるのも嫌。
シャーリィそれにこの世界が壊れたら、お兄ちゃんも、みんなもこの世界で出会った人も、この世界に生まれた水の民もみんな死んでしまう。そんなの駄目だよ。
シャーリィわたしは……みんなを守りたい。わたしはメルネスであり、シャーリィだから。
ワルター………………。メルネス……無駄だ。贄の紋章を消す方法はない。一度刻めば、二度と消えることはないと聞いた。
ノーマそんな筈ない !
ワルター何 ! ?
ノーマあんたさ、メルネスメルネスって騒ぐならリッちゃんのことちゃんと見なよ !リッちゃん震えてるじゃん !
ワルター
ノーマリッちゃんは怖いんだよ。怖くて怖くて仕方ないのに頑張って自分の足で立ってみんなを守る方法を探したいって言ってんの !
ワルター………………。
ノーマワルちん、贄の紋章の知識、ぜ~んぶ持ってるって訳じゃないんだよね ? だったら、贄の紋章を消す方法がないなんて言い切れる訳ないじゃん !
ノーマまだまだ調べてないことたくさんあるんでしょ。やれることやって調べて調べて調べ抜いたらなにか見つかるかも知れない。
ワルターそんな都合のいい話があるか !
ノーマあるかもしれない。ううん、あるんだよ !
ウィル何者かは知らんが、メルから離れろ !
メルクリア ?愚か者。小娘に騙されているのじゃぞ ?この娘の本当の名は――
ウィルメルではない。そんなことは知っている。だが、メルが流した涙は本物だ。オレはあの涙と叫びを信じる !
ウィルそしてその子を待つ家族や仲間の下に帰してやる !オレは――
ノーマあたしは諦めない。リッちゃんやみんなのこと諦めない。帝国の奴らの好きになんてさせない。
ノーマ何かあるよ、何か。調べもしないうちに決めてかかるな !あたしは――
二人諦めない ! !
帝国兵いたぞ !
ワルターくっ、追っ手か――
シャーリィワルターさん。大丈夫。わたしが戦います。あなたは水の民の仲間。何より、命の恩人です。
ワルター! !
ノーマリッちゃん ! あたしも一緒に戦うよ !今、浄玻璃鏡、輝いちゃったもんね~ !
モーゼスくそぅ ! なしてワイの浄玻璃鏡は輝かんのじゃ ! ?じゃが帝国の連中なんぞワイの聖爪術で一掃しちゃる !
ジェイ張り切りすぎて空回りしないで下さいね。
セネル皆、ワルターを巻き込まないように動くぞ !
ワルター貴様に守られるいわれはない !
セネルだったら、まずその体を治せ !文句はその後で聞いてやる !
クロエ来るぞ !

キャラクター10話【8-14 ウェルテス領 海岸5】
セネル何とか片付けたが……。
ジェイええ。ここに留まるのは危険です。外のフィリップさんたちに連絡はしてあるので合流してここを離れましょう。
クロエいつの間に……。
ジェイ当然でしょう。救援が遅れては意味がありませんから。
シャーリィ待って、お兄ちゃん。
シャーリィワルターさん。マウリッツさんを助けるためにここに来たということは、もしかしたらマウリッツさんの心核を持っているんじゃないですか ?
ワルター……いや、持っていない。だが、ここではルグの槍の起動のための準備が進められていて、マウリッツの心核はその一環として、ここに安置されている。
ワルター元々はエバーライトを求めていたようだがそれはまだ見つかっていないようだな。
クロエそうか……。シャーリィはマウリッツさんを助けたいんだな。
セネルワルター、心当たりの場所を教えてくれ。俺たちで探してくる。
ワルター貴様らなど信用できるか。俺も行く。メルネスを守るのもマウリッツを助けるのも陸の民の貴様ではなく、水の民である俺の責務だ。
セネル……なあ、水の民だとか陸の民だとかはいったん置いておけないか。
ワルター貴様 ! ?
セネル聞いてくれ ! ……お前は知らないことだと思うがお前と俺たちが戦った後、色々あって……シャーリィは水の民と陸の民の調和を目指してきたんだ。
セネルまだまだ道は半ばだ。それなのに、そんな時にこの世界に連れてこられてしまった。自分の責務を果たせずに苦しんでいるのはシャーリィも同じなんだ。
セネルその辛さは……お前ならわかるんじゃないのか ?
セネルノーマも言ってたろ。シャーリィを見てくれって。メルネスがいてシャーリィがいるんじゃない。シャーリィの一部分がメルネスなんだ。
セネルそんなシャーリィだから、二つの種族の架け橋になろうとしていた。そのシャーリィの気持ちを汲んでくれ。
シャーリィワルターさん。この世界でもわたしのやることは変わりません。
シャーリィ水の民と陸の民……ううん、それだけじゃない。沢山の種族がいて、この世界で生まれた人がいてこの世界に具現化された人がいて、鏡映点がいる。
シャーリィ一緒に歩いて行けるように……支え合って生きられるようにしたい。
シャーリィそうすることが、この世界の水の民を守ることにもなると思うんです。わたしはメルネスとして、水の民を守りたいんです。
ワルター……メルネスがマウリッツを助けるというならそれには協力する。だが、それだけだ。後のことは知らん。
メルクリア……この光は…… ?
メルクリアさっきまで、何かよくわからないものがわらわの中にいて……まるで話に聞く虚無のようであった……のに……。
ウィル俺は――諦めない !
メルクリアウィルの声か。あやつめ、逃げよと言ったのに……。見ず知らずのわらわのために……。何という奴じゃ……。
? ? ?メルクリア様、こちらに来てはいけません……。
シドニーその声は……シドニーか ! ?
シドニーここは死鏡精がたくさん生み出された忌み地。今のメルクリア様が来ては危ない。わずかですが、死鏡精が残っています。
メルクリアわらわの中にいるのは死鏡精か……。しかし何故そなたの声が聞こえるのじゃ ?
シドニー私にもわかりません……。浄玻璃鏡の輝きで気付きました。
シドニーメルクリア様の探しているものは、一番奥の建物にあるようです。それを手に入れたら、早くここを離れて下さい。死鏡精は私が祓っておきます。
メルクリアわかった。シドニー、ありがとう――
ウィル気がついたか、メル !
メルクリアウィル……また迷惑を掛けてしまったな。
ウィルやれやれ、今度はメル本人のようだな。
メルクリア……ん ?ウィル、その手に持っている鏡の破片は……。
ウィルああ、メルが落としたのはこの鏡の破片か ?
メルクリアう、うむ、そうじゃ。それぞシドニーの……。
メルクリアそうか……これを通じてシドニーはわらわを……。
ウィルならば、この破片はきみに返そう。
ウィルしかし何とも不思議な鏡だな。光魔に囲まれて厳しい状況だったがその鏡が突然輝いて、オレに力を与えてくれた。
ウィル以前、似たようなことがあったのを思い出したよ。
メルクリア光った……のか ? そうか……。
ウィルさて、ここで何か探し物があるんだったな。オレも手伝おう。
メルクリアそれなら大丈夫じゃ。見当はついているからのう。
ワルター……ここがルグの槍の起動室だ。
ノーマお~ ! ? 台座の上でキラキラしてる心核を発見 !ああして置いてあると、お宝感マシマシだね~ !
モーゼスあれを手に入れてマウリッツを助け出せばええんじゃな ?
マウリッツβやはりこの部屋に現れたか。その心核もエネルギーの一部となる。帝国の邪魔をするものは排除する !
クロエそれでいいのか ? ルグの槍が発動すればマウリッツさんだけではなく疑似心核であるお前も死ぬんだぞ !
マウリッツβ疑似心核をなんだと思っている ?生命ではない。目的を全うするための装置にすぎぬ。
ジェイ装置が自我を持つとこうなるわけですね。哀れだ。
シャーリィマウリッツさんを返してもらいます !
セネル勝手に人の心を奪ってゴミのように捨てるようなことはさせない !
ワルター……同胞の体、返してもらうぞ !

キャラクター11話【8-15 ウェルテス領 遺跡2】
モーゼスよし、光魔は倒した。あとはマウリッツを――
マウリッツβ――くっ !
リタちょーっと待った ! ここから先は行かせないわよ !
ジェイみなさん、計算通りに来てくれましたね !
ワルターマウリッツ ! 待て !
ワルター俺がマウリッツを拘束しておく。その間に――
フィリップわかった。疑似心核を抜き出して、元の心核に入れ換えよう。
セネルどうだ ! ? フィリップ !
フィリップ――ああ、大丈夫。無事に心核を入れ換えられた。今はまだ眠っているが、じきに目が覚めるだろう。しばらくは安静が必要だろうけどね。
ワルター……そう…………か……。
シャーリィワルターさん ! ?
リタやっぱり……相当無茶したわね。
マークケリュケイオンに運んで、心核の治療を開始しよう。その後は絶対安静なのは、このマウリッツっておっさんと同じだな。
マークで、どうする ?この二人は治療をした後、どこへ連れて行けばいい ?
セネルいったん浮遊島の方へ連れて行こうと思う。マウリッツさんが意識を取り戻してくれればワルターの説得に力を貸してくれるはずだ。
シャーリィうん……。そうだよね。
クロエワルターが水の民を守りたいと思うなら我々と利害は一致している筈だ。
クロエまあ……ワルターの抱えている陸の民への憎しみが簡単に癒えるとは思わないが……。
ノーマそれもそうだけど、ワルちんってばセネセネのいるところで暮らせるのかな ?
モーゼス目が覚めたら怒り狂って飛び出して行くかもしれんのう。
セネル敵対しなくてすむなら、それでいい。
シャーリィわたし、ワルターさんが目を覚ましたら元の世界の滄我の話をしてあげられたらって思うんだ。
シャーリィそれで納得はできないかも知れないけれど滄我も調和を目指そうとしたんだって……知って欲しいから。
ジェイ……ということのようです。マウリッツさんとワルターさんを運ぶ手伝いをしてくれますよね ?
マーク了解だ。肉体労働は俺の役目だからな。
ジェイもちろん、モーゼスさんも手伝って下さいよ。
モーゼスまたワイか ! ?
セネル俺も手伝うよ。
リタ乱暴に運ぶんじゃないわよ。相手は重病人みたいなもんなんだから。
ノーマねえ……。ウィルっち……元気かなぁ。
ジェイどうしたんです、急に。
ノーマん~ ? あはは、なんかさ~。浄玻璃鏡が光ったときにウィルっちの声を聞いた気がするんだよね。
ノーマん~、ちょっと違うか。心が繋がったっていうかさ。違う世界にいるのに、おかしいよね。
ジェイはぐれ鏡映点として具現化されている可能性はありますよ。
セネルもしそうだとして、ウィルに会えるなら歓迎したいがウィルの場合は、この世界に来てしまうとなると……。
クロエハリエットと離ればなれになるということだからな。複雑だ……。
ノーマそうだよね。でも……なんか、むしょ~に会いたくなっちゃったよ。
コーキス――あー、いたいた。何やってんだよ、メルクリア !
メルクリアコ、コーキス ! ? その名を呼ぶでない ! !
コーキスへ ?
リヒター俺はリヒター、こっちはコーキス。メルクリアの保護者だ。迷惑を掛けたようで、申し訳ない。
ウィルこれで約束を果たせて、オレも安心した。それに……長く離れている娘のことを思い出して懐かしい気持ちにさせてもらった。気にしないでくれ。
メルクリアすまぬ、ウィル。名前まで嘘をついていて……。
ウィルどうせそんなことだろうと思っていた。しかしメルクリア、か……。
メルクリアおおおおお ! そ、それより、この鏡の破片に宿ったお主の力を、改めて別の鏡に映して進呈したいのじゃ。もらってくれるか ?
ウィルそれは……さっきの強力な力のことを言っているのか ?
メルクリアうむ。少し時間がかかるが、待っていてくれるか ?そなたにもらって欲しいのじゃ。出来上がったらそなたが村長代行をしているという村に送ろうぞ。
ウィル(あの鏡の破片が光ったとき、ノーマの気配を感じた。ひょっとしてノーマが近くにいるのか…… ?あの鏡があれば、もしかしたら――)
ウィル……わかった。楽しみにしている。
コーキスウィルさん、ありがとうございました !
メルクリアそれではな。
リヒターでは、失礼する。
ウィルやれやれ、何とも騒がしかったな。
ウィル(こんな騒がしさは、セネルたちといたとき以来だな。やはり……ここは……オレの知っている世界ではないのだろう)
ウィル(セネル、シャーリィ、クロエ、ノーマ、モーゼスジェイ、グリューネさん。それに――ハリエット)
ウィル(お前たちが懐かしいよ。きっと今も、賑やかにやっているんだろう)
バルド――ナーザ様。メルクリア様が見つかったようです。
ナーザまったく、油断も隙もない。帰ったら厳しく言い聞かせねば。
バルドどうか、お手柔らかにお願いします。デミトリアス帝の幼少期の医療カルテを見つけたそうですので。
ナーザ中は確認したのか ?
バルドはい。リヒターの話ではやはり鏡精のエネルギーをデミトリアス帝に注いでいたようです。
ナーザなるほど、これで納得がいった。俺たちの調査結果とも符合する。
ナーザデミトリアスは自身が受けていた延命措置に気付き悩み――贖罪を考えた、というところか。
バルドセールンド王も嫡男を失いたくなかったのでしょう。
ナーザそうだろうな。老齢になってからやっと授かった子だと聞いている。まあ、詳しいことは資料待ちだ。
ナーザ――さて、ではジュニアの方の話を聞こうか。
ジュニア……はい。
ナーザフリーセルを具現化した、と言ったな。それは、あのフリーセルのことか ?
ジュニアそうです。サレが言っていました。グラスティンのアキレス腱を見つけたって。
ジュニアグラスティンに何か仕掛けるなら、一人目の僕かフリーセルなのは間違いありません。だから――
ナーザフリーセルの具現化、か……。
to be continued
キャラクター1話【9-1 ファンダリア領 雪山】
ドロワットやったー ! また私たちの勝ちなの !
小さな男の子くっそー。今日の雪合戦は絶対勝てると思ったんだけどな……。
ゴーシュ甘いぞ、エリック。だが、ちゃんと作戦を組み立ててきたのは感心だ。
ドロワット雪の壁を作って、太陽の光を反射させてきたときはビックリ ! 目の前がピカピカ~ってなって危なかったのよ。
エリックだって、ボクも負けっぱなしは悔しいからさ。それに、イクスお兄ちゃんも戦う前の準備は大切だって教えてくれたもん。
ドロワットエリック、またそのお兄ちゃんの話なのん。
ゴーシュ私たちも耳にタコができるくらい聞かされたな。
エリックだって、イクスお兄ちゃんは本当に凄いんだよ !優しくてカッコよくて、ボクを助けてくれたヒーローなんだから !
ゴーシュわかった、わかった。話はあとでゆっくり聞いてあげるから今日はもう帰るぞ。
ドロワットお腹もペコペコになってきたのよ。
エリックううっ……。じゃあ、ご飯のときに二人にもいっぱい聞いてもらうんだからね !
女性おかえりなさい、みんな。エリック、今日もゴーシュとドロワットに遊んでもらっていたのね。
気弱な男の子いいなぁ……エリックお兄ちゃん。ぼくも一緒に雪合戦したかったのに……。
エリック仕方ないだろ、ライアン。熱は下がったみたいだけど、まだ安静にしなさいってお医者さんに言われたんだから。
ゴーシュエリックの言う通りだ、ライアン。しっかり休むことも大事なことだ。
ドロワット元気になったらまた私たちが一緒に雪合戦してあげるのん !
ライアンホントに ! ?
女性ふふっ。良かったわね、ライアン。あなたには優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんがいてくれて。
ライアンうん ! ぼく、ここにいるみんなのこと大好きだよ !
女性そう言ってくれると私も嬉しいわ。それじゃあ、みんな戻ってきたことだし食事の準備をしないと……。
エリック待って。準備ならしばらくボクたちがやるって約束だったでしょ ?
女性だけど……。
エリック大丈夫だよ ! ボクたちだって役に立ちたいんだから。ライアンもみんなを呼んできて。手分けすれば、すぐに終わるからさ。
ライアンうん、わかった !
女性……本当に、優しい子たちだわ。
ドロワットみんな、足の怪我のこと心配してくれてるの。もう大丈夫なの ?
女性ええ、あなたたちが助けてくれたお陰でもうすっかり平気よ。
女性だけど、あのときは驚いたわ。まさか、こんな子供たちまで戦いに巻き込まれているのかと思ったから……。
ゴーシュそれは……。
女性いいの。話したくない事情があるのなら無理に話さなくても。
女性だけど、領主であるエルレイン様も以前と比べて表に顔を出さなくなってしまって、それが原因なのかファンダリア領の治安も悪くなってしまっているわ。
女性だから、あなたたちが良かったらずっとここにいてくれてもいいからね。
二人…………。
――コンコン。
女性はい、どなたかしら ?
商人失礼。こちら『セキレイの羽』の者です。物資の運送に来ました。
女性いつもありがとうございます。すぐに扉を開けますので、少し待ってくださいね。
ゴーシュあっ、荷物なら私たちが運ぶ。いいな、ドロワット。
ドロワットはいなの~。ゴーシュちゃんと一緒にやればちょちょいのちょい~、だよ。
女性ありがとう。だったら、悪いけどあとは二人にお願いするわね。
ゴーシュ……ふぅ。物資はこれで全部運べたな。
商人しかし、凄いな、きみたち……。大人でも重たい荷物をあんな軽々持ち上げるなんて。
ドロワット私たちは魔導器があるから平気なのだわん。
商人ぶら……なんだ、それは ?
ゴーシュき、気にするな !それより、最近は物資の調達も大変だと聞いている……のですが…… ?
商人そうなんだよ。以前のこの領での戦いに加えてテルカ・リュミレース領でも大規模なクーデターが起こったみたいだからな。
商人しかも、そのクーデターを起こした首謀者であるアレクセイという男が、また兵を集めて帝国に戦いを仕掛けるって噂だ。
二人! ?
商人おっと、すまない。こんなこと、子供のきみたちに話しても怖がらせてしまうだけか……。
商人だが、安心してくれ。この施設への物資供給はうちのリーダー直々の依頼だからな。ここにいれば、きみたちも安全だよ。
商人さて、荷物も運び終わったし、挨拶を終えたら俺も帰るとするか。じゃあ、また来たときは宜しく頼むよ。
ドロワットゴーシュちゃん……。今の話……。
ゴーシュアレクセイ…… !一体何をするつもりだ…… !
ドロワットけど、アレクセイが帝国と戦っているのはおかしいの。あいつもイエガー様と同じように洗脳されてたはず。
ゴーシュ考えられるのは、その洗脳が解けて反乱を起こしているってことだ。
ゴーシュだが、イエガー様も一緒にいるとは限らない。グラスティンって奴を追って、この大陸に来てみたが結局手がかりも掴めないままだ……。
ドロワットどうしよう、ゴーシュちゃん ?
ゴーシュ決まっている。アレクセイのところに私たちも行く。今は少しでもイエガー様に関わる情報が欲しい。
ゴーシュそれに……アレクセイのことだからまたイエガー様を酷い目に遭わせるかもしれない。そんなこと、絶対にさせるものか !
ドロワット私も、イエガー様がアレクセイに利用されるなんて嫌なのよ。
ゴーシュドロワット、すぐに支度するぞ。港まで行けば、アレクセイのいる大陸まで貨物船で移動できる。
ドロワット了解だよ。だけど、ここの人たちにはさよならを言わなくていいの ?
ゴーシュ……ああ。言ったら止められるだろうしみんなに心配をかけてしまう。
ドロワットゴーシュちゃんがそう言うなら私もそうするの。
ゴーシュ……明日の早朝には出発する。それまでは、みんなにも悟られないようにな。
ライアンエリックお兄ちゃん……。今の話……。
エリックしっ ! 二人に気付かれるだろ。……けど、もう行ったみたいだな。
ライアン……ねえ、さっきの話、本当なの ?ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもここからいなくなっちゃうの ?
エリック……それは。
ライアンぼく、そんなの嫌だよ !また雪合戦して遊ぶ約束だってしたのに !
エリックライアン……。ボクだって二人のことは心配だよ。
エリックそれでも、ボクたちに何も言わないで出て行かなきゃいけないくらい、きっと二人にとっては大切なことなんだ。
ライアンだけど、戦いがあるって言ってたよ……。そんな危険な場所に行ったら、お姉ちゃんたちが……。
エリック……わかってる。だから、ボクがなんとかする。ライアンは何も心配しなくていい。
ライアンエリックお兄ちゃん…… ?
エリックボクも、イクスお兄ちゃんみたいになるよ。大事な人たちを守れるヒーローにね。

キャラクター2話【9-3 アジト1】
フレンみんな、急な招集にも関わらず集まってもらってすまない。感謝するよ。
チェスター気にすんなって。ここにいる奴らは丁度オレたちみたいにアジトに残ってた連中だろうしな。
リッドそうだぜ、フレン。そんな固い顔してねえでもっと気楽にいこうぜ……っていうのは流石に無理か。
ジーニアス最近は色々なことが立て続けに起こって大変だったもんね……。
マルタうん……エミルたちも、ずっと精霊のこと調べてるみたいだし、私も力になれればいいんだけど……。
ライラマルタさん。人の言葉には「適材適所」というものがあります。きっと、マルタさんもエミルさんたちの為にできることがあるはずです。
マルタ……そうだね。ありがとう、ライラさん。
ジーニアスねえ、フレン。それで、ボクたちにも話しておきたいこと、って何 ?
フレンああ、今カロルたちがテルカ・リュミレース領の様子を調査しているんだが、そこでアレクセイ一派に新しい動きがあったみたいなんだ。
マルタアレクセイって、確か魔導砲を使おうとしてた人のことだよね ?
リッドまさか、また懲りずに何かやってんのか ?
フレン詳しいことはまだわかっていないけど噂では領都を攻め落とす為の準備をしているんじゃないかという話だ。
ライラ領都を攻めるとなると当然、帝国軍と衝突することになりますわね。
フレンそうなると、かなり大規模な戦いになると思う。おそらく、その為の人員と物資を集めているんだろう。
フレン彼の優秀な采配は、僕も嫌という程知っている。無策で帝国に戦いを挑むようなことはしないはずだ。
ジーニアスじゃあ、アレクセイには何か勝算があるってことだね。
フレンその通り。そこでカロル調査室が調べてくれた結果アレクセイの部下たちが頻繁に出入りしているという遺跡が見つかったんだ。
フレンその遺跡周辺に、何かアレクセイにとって必要なものがあるんじゃないかと僕たちは睨んでいる。
リッド遺跡か……。まぁ、そういうところにすげえもんがあるってのはお約束だな。
ジーニアスけど、それを突き止めてどうするの ?アレクセイのことなら、救世軍預かりなんでしょ ?
フレンアレクセイの目的を突き止めて、場合によっては戦いそのものを止める必要があると思っている。救世軍も情報を集めてくれているんだ。
チェスターということは、アレクセイが必要としてるかも知れない何かってのを見つけてオレたちが手に入れちまえばいいんじゃないか ?
フレンああ。実は、そのつもりで既にユーリたちが動いてくれていて、僕もすぐに合流する予定なんだ。
フレンだから、また暫くアジトを離れてしまう前にできるだけ情報を共有しておこうと思ってね。
マルタわかった。みんなには私たちから伝えておくね。
エステルフレン。みんなとの会議は終わったんです ?
フレンはい、丁度伝え終わったところです。それで、パティの容体は ?
エステルはい……身体的には問題ないそうですがまだ本調子ではないみたいで今回はアジトに残るそうです。
チェスター……そのほうがいいだろうな。心核を抜かれたうえに、鏡の精霊なんてものに体をのっとられちまったんだからな。
フレンリタもまだケリュケイオンから離れることはできないでしょうし、我々だけでユーリたちのところへ向かいましょう。
ジーニアス二人とも、気を付けてね。
リッド何かあったら、オレたちもすぐに駆け付けるからな。
フレンありがとう。それじゃあ、行ってくる。
ゴーシュ……なんとか船には上手く乗り込めたな。
ドロワットかくれんぼは得意だもんね、私たち。
ゴーシュこのまま、この貨物船に乗っていればテルカ・リュミレース領に到着するはず……。
ゴーシュ誰か来る ! ドロワット、荷物に紛れて隠れろ !
ドロワットま、待ってなの、ゴーシュちゃん !見て見てなの !
ゴーシュなんだ一体…… ! ?そんな……まさか ! お前たちは…… !
エリックゴーシュお姉ちゃん ! ドロワットお姉ちゃん !良かった ! この船に乗ったのは見間違いじゃなかったんだね。
ゴーシュエリック ! それにライアンまで……。お前たち、どうしてこんなところに……。
エリックごめんなさい……ボクたち、お姉ちゃんたちが話をしているところを聞いちゃったんだ……。
ゴーシュだからって追いかけてきたのか…… !どうして、そんな馬鹿なことをしたんだ !
ゴーシュ話を聞いていたのなら、危険なことだってわかっていたはずだ !それなのに、どうして付いてきた !
ドロワットゴーシュちゃん……。
ライアン……嫌だったから。
ゴーシュ……なに ?
ライアンぼく、嫌だったんだよ !ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもお父さんたちみたいにいなくなっちゃうのが…… !
ゴーシュライアン……そうか……。お前は戦争で家族を失っていたんだったな……。
エリック……最初はボクだけで二人を追いかけようとしたんだ。だけど、ライアンがどうしても自分も付いていきたいっていうから、一緒に来たんだ。
エリックねえ、お願い ! ボクたちも一緒に連れて行って !絶対、お姉ちゃんたちの力になるから !
ドロワットゴーシュちゃん……どうしよう……。
ゴーシュ……今さら戻れといったところで危険なことに変わりはない。それなら……まだ私たちと一緒にいたほうが安全だ。
エリックゴーシュお姉ちゃん…… !
ゴーシュだが、一つだけ約束しろ。本当に危険になったら、エリックとライアンは私たちを置いて逃げるんだ。
ライアンそ、そんなことできないよ !
ゴーシュ約束できないのなら、無理にでもファンダリア領行きの船に乗せて帰ってもらう。
ライアンそんな・・…。
エリック……わかったよ。約束する。そしたら、ボクたちも付いていっていいんだね ?
ゴーシュ……交渉成立だな。では、船が到着するまで隠れるぞ。テルカ・リュミレース領までは、あと少しのはずだ。

キャラクター3話【9-4 アジト2】
イクス――じゃあ、始めようか。ミリーナ、ネヴァン、カーリャ。
二人……はい。
ミリーナ私たちとの違いを明確にするために最初から話すわね。
ミリーナ最初の私たち――一人目のイクスとフィルと私はセールンド王国のオーデンセ島で生まれたわ。
ミリーナ鏡士は大抵セールンド島にある王立研究所で働くから島で生まれる子供は少なかった。
イクス俺の母さんは、珍しく里帰り出産だったんだよな。二人とも、一年ぐらいでセールンド島に戻っていったらしいけど。
イクス……あ、これ、一人目から受け継いだ記憶だよな。俺たちは作られた存在だから……母親から生まれたわけじゃないだろうし。
ミリーナええ、そうね。そこはゲフィオン……最初のミリーナの記憶とも一致しているわ。
ミリーナ私のお母様は私を産んですぐに亡くなってしまったしお父様も病気で死んでしまって……。だからなんとなく私たち、お互いに親近感を覚えていたわよね。
イクスうん……。ミリーナはいつも俺の姉さんとして振る舞ってくれてたよな。あれ、結構嬉しかったよ。……まあ、一人目の記憶だけど。
二人………………。
ミリーナ三人の関係が変わったのは、あのピクニックの日よ。フィルがセールンド島に引っ越してから一年と少し過ぎた頃だった。
ミリーナあの日はフィルがオーデンセ島に遊びに来ていたわ。水鏡の森に見せたいものがあるって私をピクニックに誘ってくれたの。
ミリーナ今思えば、あれは女神ダーナの存在を示す光だったのかも知れないわね。
ミリーナイクスと同じで、この時の私の記憶も改ざんされているの。だから今から話すのはゲフィオンの――最初のミリーナの記憶よ。
ミリーナあ、イクス !
イクスミリーナ、フィル、どこに行くんだ ?
ミリーナ水鏡の森までピクニックに行くの。イクスも一緒に行かない ?
フィリップ
イクスいや、俺は港に行かないと……。
イクスそういえば、このところ水鏡の森には物騒な魔物が出てるみたいだぞ。
ミリーナフィルも一緒だから大丈夫。イクスもお仕事が終わったら合流して ! ね ?
イクスだったら俺の仕事が終わるまで待っててくれないか。二人だけじゃ心配だから一緒に行くよ。
ミリーナ……そう ?
フィリップ大丈夫だよ。イクスは心配性だね。僕もミリーナも鏡士なんだよ ?先に行って準備してるよ。
ミリーナ……そうよね。うん、大丈夫 !私お姉さんなんだしちゃんとフィルのこと守れるわ。
イクスわかった。でも危ないところには行くなよ。二人とも案外抜けてるんだから。
ミリーナ失礼ね、大丈夫だってば。さ、行きましょう、フィル !
ミリーナこの時のことを、ミリーナはずっと後悔していたわ。イクスの忠告を気にとめなかったことやイクスを巻き込んでしまったことを。
ミリーナイクスは私たちを心配して、漁に出ないで追いかけてきてくれた。そして私たちを助ける為に、秘伝魔鏡術を使った。
ミリーナイクスの力が暴走して……止まらない !私が、私がイクスの言うことを聞いてもっと気を付けていれば…… !
ミリーナ私が……イクスのことをちゃんと待ってれば……。
フィリップ大丈夫、ミリーナ。僕の守護魔鏡を使えば止められる !
ミリーナえっ ! ?
フィリップ僕の鏡士としての力を弱める封印なんだ。これを使えばきっと――
ミリーナ駄目よ、フィルは体が弱いからわざと力を弱めているんでしょう ?
フィリップでもこのままじゃイクスが死んじゃうよ !
ミリーナ――わかった。でも、私にやらせて。バックファイアを受けるのは私だけでいいから !
フィリップミリーナ ! ?
ミリーナあの時のバックファイアで、ミリーナは心の一部を破壊された。ミリーナは鏡士の訓練を中止して心の治療に専念したの。
ミリーナそしてイクスも酷い怪我を負った。フィルも……。
イクス……ああ。フィルはセールンド島に戻ってそのまま音信不通になった。最初の俺は、何度も手紙を送ってたみたいだけど。
ミリーナええ。イクスは自分も大怪我をしたのにフィルに連絡を取ろうとしながら心に穴のあいたミリーナを何度も見舞ってくれた。
ミリーナそうして、単なる幼なじみだったミリーナとイクスは付き合うようになっていったの。
ミリーナミリーナは過去の罪悪感からフィルを避けていてフィルも私たちを避けて……。イクスだけが、何とか幼なじみの糸が切れてしまわないように動いていた。
ミリーナやがて心を修復したミリーナは鏡士の訓練を再開してやっと鏡精を作れるようになったわ。イクスも傷が癒えて、長期の漁に出るようになった。
イクス……これで全部、か。手伝ってくれてありがとな、ミリーナ。
イクス1人で遠くの海への漁に出るのは初めてだからどうも、勝手がわからなくて。
ミリーナううん。全然 !──帰ってくるのは4日後だっけ。
イクスああ。その予定だ。長く待たせることになっちゃうな。一人で大丈夫か ?
ミリーナふふっ。イクスったら相変わらず心配性なんだから。大丈夫。カーリャがいてくれるもの。
イクスあれ、そういえばカーリャはどこだ ?いつもなら俺たちの傍をグルグル飛んでるのに。
ミリーナ……気を……利かせてくれてるみたい。
イクスハハ、そうか。相変わらず可愛いところがあるな、カーリャは。
イクス――ミリーナ。漁に出る前に伝えておきたいことがあるんだ。
ミリーナえ…… ?
イクス俺……やっぱり鏡士を目指す。
ミリーナイクス !それはお祖父様に止められているんでしょう ?
イクスわかってる。それでも祖父ちゃんを説得して俺は鏡士になるよ。そうしたら、ミリーナの心の傷を治療できるかも知れない。
イクス俺の血統は【創造】だし……それに、どうも祖父ちゃんは何かを隠してるみたいなんだ。
ミリーナそうなの ?
イクス……まあ、そのことはあとでいいか。
イクスとにかく、俺は鏡士になると決めた。だから俺が鏡士になったら……結婚して欲しい。ミリーナを守りたいんだ。この先もずっと。
ミリーナイクス…… !
イクスいいだろ ?
ミリーナ……ずるいわ、イクス。そんな風に聞かれたら断れない。
イクス自分のことじゃないとはいえ顔から火が出そうだよ……。
ミリーナそ、そうね……。こんなに詳細に話す必要なかったかしら……。
カーリャ最初のイクスさまはイケメン力が高いですね……。
カーリャ・Nふふ……。こちらのイクス様も素敵ですよ。

キャラクター4話【9-4 アジト2】
ミリーナ漁から帰ったイクスは、お祖父様を説得しようとした。でも、最初は中々認めてもらえなくて……鏡士になる許可をもらうのに三年ぐらいかかったの。
カーリャ・Nでも最後には根負けしてイクス様のご両親の遺言を見せて下さったそうです。
イクス両親の遺言か……。俺の魔鏡に遺言が残されてるらしいんだけど、どこに記録されてるのか全然わからないんだよな。
イクス前にるつぼで会った最初のイクスさんから話を聞いてすぐ調べてみたんだけど……。ゲフィオンは遺言のこと、何か聞いてるのかな ?
ミリーナイクスと婚約した当時は、世界を守るための方法を知らせてくれていた、とだけ聞いていたみたい。
ミリーナ当時はビフレストと戦争になるって噂があってミリーナはそれに関係することかと思っていた。でも、そうじゃなかった。
ミリーナ混乱させないために、順番に進めるわね。
カーリャ・Nそうですね。とにかくイクス様は無事に鏡士となりお二人は結婚の準備に入られました。その頃です。ビフレストがセールンドを襲撃したのは。
イクス……くそ。雨か。
ビフレスト皇国軍A――見つけたぞ ! 鏡士だ !
ミリーナ! ?
イクスミリーナ、走れ !港まで行けばセールンドへ逃げられる !
ミリーナイクス、だけど――
イクスミリーナに手を出すな !
ビフレスト皇国軍Aどけ !
ミリーナイクス ! ?
ビフレスト皇国軍A邪魔だー ! !
イクスミリーナは俺が守る ! !
イクスぐぅ……やらせ……ない……っ !スタック・オーバーレイ ! ! !
ビフレスト皇国軍Aこれは――秘伝魔鏡術か ! ?離魂術を急げ ! こいつかもしれん !
ミリーナそんな……うそ……。
ミリーナイクス……うそ、だよね……。
ミリーナイクス……目をあけてよ……。お願い……お願いだからっ ! !
ミリーナやだよ……。
ミリーナいや……。
ミリーナいやーーーー ! ! ! !
ビフレスト皇国軍B離魂術成功しました !
ビフレスト皇国軍A次はあの女だ !
ビフレスト皇国軍B銀髪ではありません。ウォーデン殿下のご命令は、銀髪を取りこぼすな、と。
ビフレスト皇国軍Aだが、鏡士だ。ローゲ様はセールンドの鏡士は全て始末せよと仰せになった。
カーリャ――ミリーナさま ! 逃げましょう !イクスさまの命を無駄にしたら駄目です !
ミリーナこの時、カーリャがミリーナを必死に促してくれて彼女は半死半生で港まで逃げたの。何とか命を繋ぐことができたけれど、体中に消えない傷が残ったわ。
ミリーナ島の大人も大部分が殺されて、ミリーナは数少ないオーデンセの生き残りとして王都に辿り着いた。
イクスビフレスト皇国は、バロールの血を引く銀髪の鏡士だけを皆殺しにするつもりだった。殺して、離魂術とかいう方法で、遺体を保存した。
イクス少なくともナーザ将軍はそう言っていた。けど実際の現場では鏡士たちはほとんどが殺されたんだよな。
カーリャ・Nはい。恐らくはローゲの判断でしょう。セールンドの鏡士を生かしておくことは後の遺恨になると考えたのかも知れません。
ミリーナそれから離魂術だけど、あれはアニマだけを消滅させてアニムスを残す技術なの。だから最初のイクスの遺体を残すために使われたのね。
ミリーナミリーナはその離魂術をカレイドスコープの開発に転用したのよ。カレイドスコープで亡くなった人と最初のイクスの亡くなり方が似ていたのはそのせいだった。
ミリーナ話を元に戻しましょうか。
ミリーナセールンド島でフィルが出迎えてくれて、ミリーナはオーデンセの生き残りとして王室に保護された。そこで王立魔鏡科学研究所に入ることになったの。
フィリップミリーナ、魔鏡科学研究所に入るって本当 ?
ミリーナどうしてそれを知ってるの ?
カーリャカ、カーリャじゃありませんよ !カーリャはマークに何も話してません !
ミリーナまあ、カーリャが話したのね。すっかりマークと仲良くなって。何でも筒抜けなんだから。
フィリップアハハ、カーリャはいつもマークに先輩風を吹かせてるよね。少しだけカーリャの方が生まれたのが早かったから。
カーリャマークは一緒じゃないんですか ?
フィリップマークがいることがバレたら切り離すように言われちゃうから心の中に入ってもらってるんだ。
カーリャ……そうですか。私は免除されてますからね。エネルギー変換されること。
フィリップよかったよ。ミリーナは前に心が崩壊しかけていたから宮廷鏡士の人たちも鏡精を切り離すのは危険だと判断してくれたんだね。
ミリーナ知らなかったわ……。鏡精がエネルギーに変換されているなんて。
フィリップ……そのことは、キラル分子研究に関わる鏡士たちしか知らないんだ。
デミトリアスフィリップ、珍しいな。王宮に来るなんて。
フィリップ殿下 !
デミトリアスこの間の論文を読んだ。流石、フィリップだ。魔鏡技術科の連中も色めき立っていたよ。
デミトリアス――きみは、ミリーナだったな。オーデンセのことは残念だった。
ミリーナ痛み入ります、デミトリアス殿下。
デミトリアスそうかしこまらないでくれ。ビフレスト皇国の暴挙は許しがたい。父も対抗手段に出ると言っている。
ミリーナはい。微力ながら、私も鏡士としてお役に立ちたいと思っています。
フィリップそのことだけど、僕も王立大学を中退して研究所に移ろうと思うんだ。
三人! ?
フィリップミリーナは魔鏡兵器の開発をするんでしょう。僕だってビフレストのことは許せない。研究所からも内諾は貰ってる。
デミトリアスそうか……。国を預かる立場としては歓迎すべきことだが、学友としては寂しいな。フリーセルやグラスティンも悲しむだろう。
フィリップ大学にも顔は出します。研究に関しては共同で行うことも多いでしょうし僕が研究所に籍を置いて、橋渡しができれば……。
デミトリアスうん、それはいい考えだ。
デミトリアスそれとフィリップ、軍部から気になる報告が上がっている。きみが許可を得ずに鏡精を作ったのではないか、と。
フィリップおかしいですね。何かの間違いじゃないですか。僕は今のエネルギーシステムには反対の立場です。鏡精を作ろうなんて思いません。
デミトリアスああ、私もそう信じている。だが、あえて言うよ。くれぐれも気を付けて欲しい。私の庇護の手も限界がある。父上に知られたら最後だ。
フィリップはい。ご忠告ありがとうございます。
ミリーナフィルはミリーナがビフレストへの復讐のために魔鏡兵器研究を行うと知っていた。それで一緒に研究所に入ってくれたの。
ミリーナ王立学問所から王立大学、そして魔鏡省の宮廷鏡士になるというエリートコースを捨てて軍部の一組織に過ぎない研究所の研究者に……。
イクスフィル……。

キャラクター5話【9-5 アジト3】
ミリーナフィルの協力を得たミリーナは学問所でみるみる成果を上げていったわ。
ミリーナイクスの仇を討つために、寝る間を惜しんで研究と実験を繰り返した。
フィリップミリーナ、まだ研究所にいたのか。もう夜も遅いよ。帰った方がいい。
ミリーナカーリャが知らせに行ったのね。私がまだここにいるって。
フィリップ……お見通しだね。そうだよ。カーリャが心配してマークと僕に相談してきたんだ。ミリーナがもう三日も寝てないって。
ミリーナまだイクスの仇を討てていないのよ。もっと頑張らないと。それに、ビフレストとの戦局も厳しい状態だわ。
フィリップああ。ビフレスト皇国の魔鏡兵士には驚かされたよ。
フィリップ戦闘人形の中に一時的にアニマを憑依させて前線へ送り込む。あんなものと戦っていてはこちらが疲弊するばかりだ。
ミリーナセールンドの戦力が足りずに、大勢のセールンドの人が亡くなったわ。沢山の街が制圧されて、そこに住む何の罪もない人々が殺されていった。
ミリーナオーデンセ島と同じように、老若男女を問わず非力な子供達まで……。あいつらはやりたい放題で略奪を行っている。あの戦闘人形を使って。
フィリップアニマに直接働きかける武器がなければ僕らは負けてしまう。
フィリップデミトリアス殿下もアニマの研究のせいでアニマ汚染されて動けなくなってしまわれた。
ミリーナ……ビフレスト皇国に対抗するために色々なアニマ研究が行われたけれどやはり一番有力なのは、私たちのカレイドスコープよ。
ミリーナイクスのご両親が研究していたあの魔鏡兵器を発展させれば、ビフレストは戦闘人形を操ることもできなくなる。だから完成を急がないと。
フィリップミリーナは頑張りすぎだよ。カーリャも成体になってきみの体はアニマに汚染され始めた。何もかも早すぎる。
ミリーナそれはフィルも同じよね。
ミリーナ……まあ、私にはフィルほどの力はないからこれ以上アニマ汚染が進行すると使い物にならなくなってしまうけれど。
フィリップそれがわかっているならもう少し自分の体を労ってくれ。
ミリーナ……大丈夫。イクスの仇を討つまでは生きるわ。
フィリップその後も、だ。ビフレストを倒したら次は鏡精を救う為のエネルギー装置を開発するんだよ。カーリャだってそれを望んでいただろう ?
フィリップ鏡精を殺してエネルギーにするシステムは止めるんだ。鏡精を切り離した鏡士は、少しずつ心を失っていく。
フィリップそれがどれほど苦しいことかはミリーナもよく知ってるはずだ。イクスの力のバックファイアで、ミリーナの心は壊れかけたんだ。
ミリーナカーリャのためにも、エネルギー問題は解決しないといけないわね。
フィリップデータが出てくるのを待っているんだろう ?続きは僕が確認しておく。ミリーナは休んでくれ。
ミリーナ……わかったわ。ありがとう、フィル。あなたがいてくれてよかった。フィルがいなかったら私は暴走してばかりだったでしょうね……。
フィリップ……いいんだよ。お休み、ミリーナ。
イクスデミトリアス陛下も兵器開発の研究に関わっていたんだな。
ミリーナあの方は研究の前線で指揮を執っていたの。鏡士ではないけれど、よく勉強なさっていたわ。
ミリーナそのせいで、別のチームが行っていたアニマのキメラ結合に関する研究の事故に巻き込まれてしまったの。それでアニマ汚染に……。
カーリャアニマ汚染って体がしおしおになっちゃうんですよね。
カーリャ・N正確に言うと、汚染された細胞が老化し同時に周囲の正常な細胞を攻撃するんです。その為に精神すらも病んでいきます。
カーリャ・N鏡士なら魔鏡の力でそれを食い止められますがそうでない人間は、著しく弱ってしまいます。
イクス俺が初めて会ったデミトリアス陛下はものすごく老け込んで見えたもんな……。
ミリーナあの頃は、大勢の鏡士たちがアニマ汚染と戦いエネルギー供給のために心を削り鏡精を生み出して……地獄だった。
ミリーナそして、ようやくカレイドスコープが完成したの。その時の話は――ナーザ将軍からも聞いたわよね。
イクスああ。
カーリャミリーナ様。カレイドスコープの試射、成功しました。セールンド軍の被害は軽微です。
ミリーナええ。私も確認したわ。人形兵士たちは崩れてあれを操っていた鏡士も倒れた。敵の撤退も早かったわね。
カーリャ敵に、あのバルドの姿もありました。あの男なら逃げ足も速いかと。
ミリーナカーリャ……。あなた、すっかり軍人みたいね。
カーリャみたい、ではなく、軍人です。ミリーナ様を守るために王宮騎士の地位を頂きました。カーリャはミリーナ様にどこまでもお供します。
ミリーナ……何度止めても言うことを聞いてくれなかったものね。
ミリーナ心の中に戻しても、ずっと文句を言っていたから根負けしちゃったわ。
カーリャもしオーデンセが襲撃されたときカーリャに今の力があればイクス様を助けられたかも知れない。
カーリャ……そう思うと、自分だけ何もしないのが嫌なんです。
ミリーナカーリャは、何度か戦場でバルドと戦っているのよね。彼はどう出てくると思う ?
カーリャ……ウォーデンが考えを変えない限り完全に撤退することはないと思います。
カーリャただ、戦闘人形が無力になったとわかった今戦力が足りないのはわかっている筈です。
カーリャビフレスト本国に援軍を求める間は大人しくしているのでは。
ミリーナそう……。だったら、今が攻め時ね。
カーリャバルドを追撃しますか ?
ミリーナいいえ。西に展開しているローゲの軍を潰すことを提案するつもりよ。
カーリャ……いよいよ、敵討ちの始まりですね。
ミリーナええ。

キャラクター6話【9-5 アジト3】
ミリーナカレイドスコープは、恐ろしいほどの威力だった。劣勢だったセールンド王国は息を吹き返したわ。
ミリーナけれど、やがて王都を中心に、カレイドスコープの開発者は魔女だという噂が流布するようになった。
ミリーナあとでわかったことだけれど、それはビフレスト皇国の攪乱作戦の一環で、主導していたのは国内に入り込んでいたビフレストの工作員だった。
カーリャ・Nフリーセルの一派ですね。
イクスフリーセルって、確か救世軍の創始者だった人だよな。
カーリャ・Nはい。あの男は、正体を隠して魔鏡技師としてセールンドに入り込んだビフレストの工作員でした。
カーリャ・N何度か告発もあったのですが、情報の出所が怪しいのとデミトリアス殿下のご学友だったために監視を強化するに留められたのです。
ミリーナセールンド軍内部でもミリーナに対する評価は二分されていた。ガロウズと出会ったのもその頃よ。
セールンド軍兵士――大変です ! カレイドスコープの目標地点に我が軍の兵士が一名走って行きます !
セールンド軍部隊長何 ! ? どこの部隊の兵士だ ! ?
セールンド軍兵士第三補給部隊の少年兵と思われます !
セールンド軍部隊長くっ、すでにカレイドスコープへのエネルギー充填は始まっている。計画を止めることはできないぞ。
セールンド軍部隊長敵の総大将はウォーデン・ロート・ニーベルングだ。この機を逃すわけには――
ミリーナ待って下さい。キラル分子の流入量を絞れば起動まで多少の時間は稼げます。
セールンド軍部隊長ミリーナさん。あなたは素人だ。新しいビクエ様からの推挙で、司令官と同等の権限を持っていようとも、この場の指揮権は私にある。
ミリーナ承知しています。ですが、ここで味方を見殺しにすれば前線の兵士たちの士気に関わります。
ミリーナ私に行かせて下さい。カレイドスコープへのエネルギー充填が完了したら、私が戻るのを待たずに即座に撃って構いません。
カーリャミリーナ様 ! ?
ミリーナカーリャ、充填完了のタイミングを知らせて。それで何とかできる。
セールンド軍部隊長……魔女め。雑兵たちのご機嫌取りか。
セールンド軍部隊長まあ、いいでしょう。ご自由にどうぞ。
ミリーナ(少年兵が向かったというのはこの辺り……)
カーリャミリーナ様 ! カレイドスコープのエネルギー充填が完了しました !60秒後に発射です !
ミリーナカーリャ ! 少年兵はどこ ! ?
カーリャ10時の方向ですが、これ以上進むとカレイドスコープの効果範囲に入ってしまいます !
ミリーナ――まだ間に合う !
カーリャあと30秒 ! 無理です ! 戻って下さい !
少年兵うわああああっ ! ?
ミリーナ今の声は――
バルドガロウズ ! 逃げなさい !
シドニー逃げてっ ! ! ガロウズ ! !
カーリャ発射されました ! ミリーナ様っ ! !
ミリーナ(見つけた ! あの子だわ ! )
ミリーナ手を伸ばして ! 早く !
少年兵! !
ミリーナ――……そう。ビフレスト軍に恋人がいたのね。
少年兵軍規違反……ですよね。構いません。処分して下さい。俺は……あいつを……シドニーを助けられなかった……。
ミリーナ……あなた、名前は ?
少年兵ガロウズ……。
ミリーナガロウズ、帰りましょう。腕の治療が必要よ。それに、ここでの戦いは終わったわ。カレイドスコープが全てを消し去ってしまった。
ガロウズカレイドスコープ……あんなもの !いきなり攻め込んできたビフレストもあんなものを造ったセールンドも、みんな狂ってる ! !
ミリーナ……そうね。あなたの言う通りよ。
ガロウズ……すみません。あなたは……ええっと――
ミリーナ私はミリーナ・ヴァイスよ。
ガロウズカ、カレイドスコープを造った魔女…… ! ?
イクスバルドさんとシドニーが戦死した戦いか……。
ミリーナええ。そして、この時だったわ。ビフレスト軍のいた地点で、妙な空間のひずみを観測したのは。それが死の砂嵐の予兆だったの。
カーリャ・Nミリーナ様とフィリップ様はカレイドスコープ使用の即時停止を訴えました。
カーリャ・Nですが、デミトリアス殿下はアニマ汚染で臥せっており国王陛下はお二人の言葉を聞き入れてはくれませんでした。
カーリャ・N戦場に引きずり出したビフレストの皇太子ウォーデンを消滅させるために、カレイドスコープは乱発されひずみは世界中で観測されるようになりました。
ミリーナウォーデンの死後、しばらくしてビフレストが降伏したわ。皇妃とまだ小さな皇女――メルクリアが、人質としてセールンドへやってきた。
ミリーナ死の砂嵐が発生したのは、その直後よ。
ミリーナ……お疲れ様、フィル。ビフレストの皇族の様子はどう ?
フィリップうん……。皇女の方は元気だけれど、皇妃がね……。食事もろくに手を付けないらしい。
ミリーナここは敵国ですものね。
フィリップミリーナ……王都を出るって本当 ?
ミリーナまたカーリャとマークね。二人ともお喋りなんだから。
フィリップオーデンセ島に戻るの ?
ミリーナええ……。イクスの仇は討ったわ。もう十分すぎるほどに。魔女はそろそろ表舞台から消えないと。
カーリャミリーナ様 ! フィリップ様 ! 大変です !セールンドの上空に、ギラギラと虹色に光るオーロラのようなものが発生しています !
フィリップ……待ってくれ。まさかそれはキラル分子の異常収縮現象か ! ?
ミリーナ――ひずみは ! ?
カーリャマークが今情報を集めています ! ただ――
マークフィル ! ヤバいぞ ! セールンドの真裏にあった次元亀裂κが急速に広がってる ! こいつはお前が予測していたアニムス崩壊じゃないのか ! ?
ミリーナフィル ! アイギスを展開しましょう !
フィリップ迷ってる暇はなさそうだ。やろう !
イクスその時、もうアイギスがあったのか !
ミリーナええ。ひずみを研究して、それが次元の亀裂だと仮説を立てたミリーナとフィルはいざというときの為の防御装置を準備していたの。
ミリーナでもアイギスの展開より、死の砂嵐のスピードの方が遥かに速かった。守れたのはセールンド諸島の周辺だけだった。
ミリーナその時外遊に出ていた国王陛下も亡くなってしまってセールンド王国は混乱したわ。
ミリーナそしてミリーナはゲフィオンになってフィルと一緒に過去から世界を具現化することに決めたの。

キャラクター7話【9-6 アジト4】
ミリーナこれがゲフィオンの歩んできた道よ。私たちとゲフィオンたちの違いでもあるわね。
イクスああ。やっぱりオーデンセでのピクニックから枝分かれしている感じだよな。
イクスミリーナが受け継いだ記憶の中で他に重要そうなことはあるか ?
ミリーナそうね。やっぱり、バロールに関する記憶かしら。
イクスやっぱり、ゲフィオンはバロールのことを知っていたのか ! ?
ミリーナええ。彼女がバロールに関わる情報を入手したのは過去から世界を具現化する時のことよ。
ミリーナ過去のオーデンセ島をサーチしようとした時に一瞬、紋章が魔鏡に浮かび上がったの。
ミリーナゲフィオンはその紋章に心当たりがあった。イクスから貰った婚約指輪に刻まれていたから。
ミリーナその指輪をはめて魔鏡に触れたときイクスの両親からのメッセージが再生されたの。
イクス母さんたちの遺言か !
ミリーナええ。それでバロールのことを知ったんだけど……。多分あの指輪がないとメッセージは再生されないわよね。
ミリーナ指輪はゲフィオンが持っているから……。
イクス指輪……。指輪って……あれ、か ?
カーリャへ ? イクスさま、何か心当たりがあるんですか ?
イクス俺、ゲフィオンと一緒に魔鏡結晶の中にいただろ。あの時、ゲフィオンが指にはめていた指輪のことかなって……。
イクス待ってくれ。今、具現化してみる。
イクス(思い出せ……。あの時のあの指輪……)
ゲフィオンその目はイクスと繋がっている。自分のアニマとイクスのアニマを重ねて合わせて、死を放て。それこそが鏡精に与えられた禁断の魔眼だ。
イクス(……そういえば、あの時のゲフィオンの言葉。あれは……何だ ?)
イクス(あの時は酷い痛みで、きちんと考えられなかったけどあの時だけ、やけにゲフィオンの言葉がはっきり聞こえた気がする)
イクス(それに、記憶を切り離したゲフィオンが何故あんなことを言えたんだろう)
イクス(もしかしてあれは……ゲフィオンじゃなかったのか ?だとしたら、あの言葉は――)
カーリャ・Nイクス様 ! ?
イクス! !
女性の声イクス。20歳の誕生日、おめでとう。あなたがこのメッセージを見ているということは私たちはあなたの傍にいられない状態なのでしょうね。
男性の声でも、お父さんが――お前にとってのお祖父さんがきっとお前を立派に育ててくれたと信じているよ。
イクスえ ! ? 魔鏡から声が……。
女性の声あなたは知っているかしら。自分がバロールの血を引きバロールの魔眼を受け継ぐ子供だということを。
男性の声オーデンセという島は、この世界の原初からある島だ。伝承によれば、この地にバロールの血族がいるのは罪人を留め置くためだという。
男性の声今ではバロールの力が罪であるかのように言われているが、決してそうではない。そのことを私たちは、セールンドに来て知り得た。
男性の声だからイクス、お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。
イクス(これがイクスさんが言っていた母さんたちの遺言…… ?)
女性の声この世界は大きく揺らぎ始めているわ。セールンドで作り出されたキラル分子供給のしくみが罪人の揺り籠であるこの世界を滅ぼそうとしているの。
女性の声世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。
男性の声成人したお前に伝える言葉が、こんなものになってしまったことが残念だ。なんの憂いもなくただお前を祝ってやりたかった。
男性の声鏡精を生み出せる力を得たら、墓守の街へ行きなさい。私たちの言葉の意味がわかるだろう。
女性の声私たちはいつも祈っているわ。あなたが健やかであることを。イクス、どうか、いつまでも元気で……。
イクス……今のは……。
ミリーナゲフィオンが聞いたメッセージと同じよ !でもどうして ?
イクスわからない……。ゲフィオンのしていた指輪を具現化しようと思って……。それで記憶を探っていたときに、突然……。
イクス(あれはゲフィオンじゃなくて……俺の中のバロールだったのか ?それがゲフィオンからの言葉のように感じた ?)
ミリーナゲフィオンも今のメッセージを聞いたの。そしてオーデンセ島が襲われた時のことを思い出してビフレストの狙いがイクスだったことに気付いた。
ミリーナそこから彼女のバロールに関する調査が始まったわ。
カーリャ・N墓守の街と呼ばれる場所にも調査に向かわれました。すでに廃村になっていて、バロールのこともルグの槍に関する手かがりも見つからなかったそうです。
イクスルグの槍……。バロールの残滓から受け渡された記憶でも聞いた言葉だ。
イクス今まで色んな人たちから聞いた話を総合するとルグの槍はニーベルングとティル・ナ・ノーグを繋ぐ何かのことじゃないか ?
ミリーナバロールは、リビングドールにされたイレーヌさんの体に、ルグの槍が刻まれているとも言っていたわよね。
イクスゲフィオンは、何か他にバロールに関することを知らなかったのか ?
ミリーナバロールのことを知ったのが、死の砂嵐の後だったから辿れそうな資料はほとんど残っていなかったの。唯一セールンドの王宮で古い写本を見つけたぐらいね。
ミリーナティル・ナ・ノーグの創世神話の古い形の書記よ。ゲフィオンは解読を試みていたのだけれど中断することになってしまって……。
イクスどうしてだ ?
カーリャ・N解読は、世界の具現化と並行して行われていました。けれど、アイギスが破壊され、せっかく過去から具現化した世界も消失してしまった。
カーリャ・N異世界からの具現化に舵を切るためバロールの情報を辿ることを中断せざるを得なかったんです。
イクス二人目の俺が……死んだときか。写本はまだ残ってるのかな ?
ミリーナええ、多分。だけどデミトリアス陛下が持っているんじゃないかしら。
イクスくそっ。王宮にあった本なら、そうなるか……。
イクスいや、でも、まだ王宮を探したわけじゃないよな。
ミリーナええ。この記憶のパーツを組み合わせることができたのがついこの間だから。
イクスだとしたら、その写本を探してみないか ?
ミリーナええ、そうね。けど、その前に――
イクス
ミリーナ私、イクスや自分が生み出されたときの記憶も受け継いだわ。確かに記憶を改ざんしようと提案したのはフィルだった。
ミリーナでも……結局はゲフィオンも過去の後悔から逃れようとして『イクスを優先しなかった』記憶を改ざんした。
ミリーナ私に、何においてもイクスを優先するように植え付けたわ。
イクス……うん。
ミリーナ私は……滅びの夢を見るようになってから少しずつゲフィオンの――最初のミリーナの記憶に侵蝕されて、境界が曖昧になっていった。
ミリーナ私は常に最初のミリーナで、ゲフィオンでそして二人目のミリーナでもあった。
イクスうん、ミリーナも苦しいよな……。
ミリーナ……苦しい、とはちょっと違うかも知れないわ。どちらかというと、申し訳ないの。
ミリーナゲフィオンの気持ちを切り離せなくて私はイクスに色々な感情を重ねてきた。
イクスミリーナ……。それは、どういう意味だ ?
ミリーナ私は今のイクスが好きよ。前にも言った通り。けど、私が受け継いだ記憶と感情はイクスに違うイクスを重ねようとする。
ミリーナそして歪められた記憶はイクスを不必要なまでに守ろうとしてしまう。だから、イクス、お願い。本当の気持ちを言って。
イクス! !
ミリーナそれで、私の中のゲフィオンを葬り去るわ。
イクス……気付いてたのか、ミリーナ。
ミリーナわかるわよ。だって、私、イクスのことが本当に好きなんだもの。だから……わかっちゃうの。
イクス……ごめん、ミリーナ。俺は、ミリーナが好きだよ。大切だし、守りたいって思ってる。でもそれは姉弟とか親友みたいな……そんな気持ちなんだ。
イクス前にミリーナがオーデンセで、今の俺のことを好きだって言ってくれたとき、俺は救われた。だけど……俺は、多分、ミリーナを愛してない。
ミリーナ……ええ、そうね。多分最初からそうだったのよね。
ミリーナでも、私はそれでいいと思っていた。私がイクスを好きなのは当然のことで見返りもいらないし、イクスが幸せであればいいって。
ミリーナでもそれこそが、ゲフィオンの感情だったの。ありがとう、イクス。これで私は、ちゃんと私になっていけると思う。
イクスミリーナ……ごめん。俺……。
ミリーナ私こそ、ごめんなさい。言いにくいことを言わせて。
カーリャ・Nミリーナ様……。
カーリャ………………。
ミリーナ――さ、これで記憶の確認はおしまい。今の私は、ゲフィオンの知識をフル活用できる存在よ。きっと帝国に対抗する力になれるわ。
イクス……あ、ああ、わかった。

キャラクター8話【9-6 アジト4】
ルーティねえ、リリス。こっちのスープ、ちょっと味見してくれない ?
リリスはい、わかりました。それじゃあ、いただきますね。
リリス――うん ! バッチリ !さすがルーティさんですね。
ルーティよし、これでお腹空かせて帰って来る連中にたっぷり食べさせてやれるわね。
リリスそういえば、ルーティさん。どうしてルーティさんはお兄ちゃんたちと一緒に行かなかったんですか ?
ルーティん ? まぁ、ディムロスたちの部隊の訓練に付き合うってのも柄じゃないしね。何か報酬が出るなら別だったんだけど。
ソーディアン・アトワイトもう、ルーティったら。スタンさんもカイルさんも残念そうにしてたわよ。
ルーティえっ ? そうだっけ ? 全然気づかなかったわ。
リリスそれなら、お兄ちゃんたちが好きな料理を一品増やしておきましょうか。
リリス二人とも、ルーティさんが作ってくれたって言ったらきっと喜びますよ。
ルーティそうね……あいつらも色々と頑張ってるみたいだしそれくらいはしてあげようかしら。
ルーティあれ ? 魔鏡通信ね。噂をすればあいつらのほうから連絡が来たかも。
ロゼルーティ、あたし。今、話しても大丈夫 ?
ルーティロゼ ? 別にこっちは平気だけど、どうしたの ?
ロゼそれが、セキレイの羽のネットワークであたしのところにSOSが来てさ。ルーティたちにも少し関係ある話なんだよね。
ルーティあたしに ?
ロゼうん。ルーティに頼まれてセキレイの羽でも支援してた施設があったでしょ ? そこから連絡があって子供が何人かいなくなったらしいの。
ルーティえっ、チビたちが ! ? どうして ! ?まさか……誰かに誘拐されたとか ! ?
ロゼううん。子供たちは手紙を残してったみたいでね。「すぐに帰って来るから心配しないで」って書いてあったから、自分たちで出て行ったんだと思う。
ロゼそれでさ、いなくなった子供の中にルーティやイクスたちの知ってる子もいたから一応、先に連絡しておくことにしたんだよ。
ルーティあたしたちが知ってる子って、まさかエリック ! ?
リリスエリック ?
ルーティああ、そっか……。リリスたちには詳しく話してなかったわね。
ソーディアン・アトワイトまだ私たちが具現化されたばかりの頃に見つけた迷子の男の子のことよ。その子、特にイクスさんによく懐いていたわね。
ロゼどうする ? ぶっちゃけ、子供だし行動範囲も限られるだろうから、あたしたちセキレイの羽だけでなんとか見つけられると思うけど……。
ルーティ……ううん。あたしも捜しに行く。それにあのチビ……ちょっと無茶するところがあるから心配なのよね……。
ロゼ了解。あっ、それともう一つ。今、あたしたちは周辺の街を捜してるんだけど気になることがあってさ。
ルーティ気になること ?
ロゼそのいなくなった子供たちに、ウチのメンバーがテルカ・リュミレース領のことを話したんだって。今思えば、その時ちょっと様子がおかしかったみたい。
リリスじゃあ、その子供たちはテルカ・リュミレース領へ向かったかもしれないってことですか ?
ソーディアン・アトワイトだけど、ファンダリア領から随分と距離があるわよ。行くとすれば、船を使うことになるわ。
ルーティってことは、貨物船か何かに勝手に乗り込んだかもしれないわね。
ソーディアン・アトワイトでも、子供たちだけでそんなことできるかしら ?
リリス多分、できると思いますよ。お兄ちゃんだって、飛行竜に勝手に乗り込んでましたし。
ルーティそうね。あのスタンにできて、チビたちにできないってことはないはずよ。
ソーディアン・アトワイトスタンさんって、あなたたちの中ではまだ子供扱いなのね……。
ロゼオッケー。一応、港の貨物船の便もこっちで調べとくけど、ルーティもあたしたちと合流する ?
ルーティううん。あたしはアジトからテルカ・リュミレース領に向かうわ。そっちのほうが手分けして捜せるでしょ ?
ルーティそれに、多分ファンダリア領にはまだスタンたちがいると思うから、ロゼたちと合流できないか連絡してみるわ。
ロゼわかった。それじゃあ、一旦切るよ。新しい情報が入ったら、すぐ連絡入れるから。
リリスあの、ルーティさん。私も一緒に行きましょうか ?
ルーティありがとう。けど、そしたらお腹空かせて帰ってきた奴らががっかりするだろうしリリスはそのままご飯の準備を頼めるかしら。
ルーティそれに、迷子探しなんて昔はよくやってたしあたしの手ですぐチビたちを見つけてくるから。
ソーディアン・アトワイトルーティ、念のため、イクスさんたちには連絡しておいたほうがいいんじゃないかしら ?
ルーティそうね。きっとイクスも心配するわよね。あのチビのことだし……。
イクスルーティ ? 俺がどうかしたのか ?
ルーティイクス ! 丁度良かったわ !ちょっと話したいことがあるの。
イクス……わかった。ルーティ、俺も一緒にエリックを捜しに行くよ。
ミリーナイクス、私も行くわ。あの子がいなくなったのなら私だって無関係じゃないもの。
イクスミリーナ。だけど……。
ミリーナ……大丈夫よ。それに、今は不思議と落ち着いているの。だから、心配しないで。
カーリャ・Nでは、私も小さいミリーナ様たちに同行します。
カーリャ当然、カーリャも一緒に行きます。それに、カーリャがいないとイクスさまも子供の相手は大変ですからね。
イクスカ、カーリャ……。俺だって成長してるんだからな。
ルーティじゃあ、これで決まりってことで。リリス、悪いけど後のことはお願いね。
リリスわかりました。では、みなさん、美味しいご飯を作って待ってますので、無事に帰って来てくださいね。

キャラクター9話【9-7 テルカ・リュミレース領 遺跡1】
エステルみんな、お待たせしました。
カロルエステル、フレン。いや、ボクたちもさっき着いたところなんだけど……。
フレン……何かあったのかい ?
ユーリ口で説明するよりあいつらの様子を見たほうが早いかもな。
帝国兵A増援だと ? ふざけるな。ここの持ち場は我々だけで十分のはずだ。お前たちのような【亜人】と一緒に行動するなど不愉快だ !
帝国兵B我々は【亜人】ではないと言っているだろう !そういう貴様たちこそ【亜人】ではないのか ?
帝国兵Aなんだと ! 俺たちを侮辱してやがるのか !
帝国兵B先に侮辱してきたのは貴様らのほうだろう !命令が聞けないのならば、相応の対処をさせてもらう !
帝国兵Aそっちがその気なら、俺たちも容赦せんぞ !
フレン……彼らは一体、どうしたんだ ?
ジュディスさあ ? 私たちが来たときからずっとあんな感じよ。
レイヴンはぁ……。どこの部隊もいざこざがあるのかねえ。おっさん、ああいうの見ると、ちょっと悲しくなるわ。
ユーリけど、おかげで警備なんてあってないようなもんだ。悪ぃが、そのままあいつらには揉めてもらってたほうが都合がいいぜ。
カロルそうだね。これならボクたちが勝手に遺跡に入ってもバレないだろうし。
ラピードワンッ !
ユーリさて、アレクセイの奴が何企んでんのか知らねえが反省してねえようなら、また熱いお灸を据えてやらねえとな。
レイヴンあ~、随分と奥まで来たけどそれらしいものは何もないんじゃない ?
カロルもしかして、アレクセイたちが先に目的のものを持ち出しちゃったのかな ?
ユーリそれが持ち出せる代物かもわかんねえぜ ?なんたって、あのザウデを復活させたやつの考えることだ。
レイヴンこっちでも、魔導砲なんて物騒なもん奪い取ろうとしてたしね。
フレンとにかく、帝国兵だけじゃなく、アレクセイの部隊とも鉢合わせる可能性がある。警戒は怠らないようにしよう。
ジュディス待って。誰かいるみたいよ。
ラピードグルルルル…… !
ユーリおっと、やっとおでましか ?
? ? ?誰だ、お前たちは ?
ジュディスあら、人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るものじゃないかしら ?
レイヴンそうそう、ジュディスちゃんの言う通りよ。ちなみに、おっさんたちは怪しい者じゃないんでそこんとこ宜しく。
カロルうわぁ……一番レイヴンに似合わない台詞……。
レイヴンちょっと少年、聞こえてるわよ。
? ? ?帝国の者ではないか……。ならば、お前たちに用はない。
エステルあっ……行ってしまいました……。
カロル誰だったんだろう…… ?
ユーリあの口ぶりからするとあいつも帝国の人間、ってわけじゃなさそうだったな。だが……。
フレンユーリ、きみも気付いてたんだね。
ユーリああ……。さっきのやつ、只者じゃねえな。
ジュディス考えたって仕方ないわ。私たちは私たちのすべきことをしましょう。
ユーリ……だな。よし、行くぞ、みんな。この奥の部屋で最後だ。
フレンそんな…… ! これは…… !
カロルな、なっ………… !
レイヴン……少年。それに嬢ちゃんはあまり見ないほうがいい。
エステルわ、わたし ! すぐに治療を…… !
ジュディス駄目よ、エステル。もう手遅れよ。
エステルそんな…… !
ユーリどいつもこいつも、派手にやられてやがる。だが、まだ血が固まってないところをみるとそんなに時間は経ってねえってことか……。
ラピードクゥーン……。
フレンユーリ、どう思う ?
ユーリ状況から考えて、一番怪しいのはさっきの男だが断言はできねえし、目的もわからねえ。
フレンやられた人たちは、帝国兵ではないね。だとしたら、アレクセイの部下である可能性も……。
ユーリさっきのやつを追いかけて問い詰めりゃあ何かわかるかもしれねえな。
カロルユ、ユーリ。あれ…… !
ユーリどうした、カロル ?
カロルあの台座みたいな場所に何かあるよ。
ユーリみたいだな。ちょっと待ってろ。オレが取ってくる。
ユーリよっと。こいつは……心核か ?
エステル心核 ? ですが、どうしてこんなところに ?
ユーリわからねえことだらけだな。この部屋だって、ほかのところと違って随分と仰々しい感じになってるしな。
ジュディスそうね。しいて言えば、何か儀式をするような祭壇って感じかしら ?
エステルこんなとき、リタがいてくれたら助かるんですが……。
ユーリこの心核の正体を調べてもらう為にも一旦ここを離れてアジトに連絡を入れたほうがよさそうだ。
フレン僕も賛成だ。それに、これだけの騒ぎがあればさすがに帝国兵たちも異変に気が付くはずだしね。
エステル…………。
フレンエステリーゼ様、どうされましたか ?やはり、このような光景を見てしまっては具合が……。
エステルいいえ……。わたしは大丈夫です。ですが……この人たちにも、家族や友人がいたかと思うと……。
ユーリ……エステル。オレたちはそういう奴らが犠牲にならねえように帝国と戦ってる。今は落ち込んでる場合じゃねえぞ。
エステル……はい。
フレンエステリーゼ様。あなたのその優しさが必ず多くの人を救うことになります。どうか、その心を大切にしてください。
エステルフレン……。
ジュディスそうね。優しさは時に甘さになるけれどあなたの場合は、それを強さに変えられる力があるわ。
レイヴンそうそう、嬢ちゃんみたいな子がいるおかげで世の中が平和になっていくんじゃない ?
ラピードワンッ !
カロルうん、ユーリもエステルにそう言いたかったんだよね ?
ユーリ……ったく、カロル先生には敵わねえな。
エステルユーリ、みんな……。本当に、ありがとうございます。
ユーリんじゃ、まずはさっきの奴を追いかけるとしようぜ。

キャラクター10話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】
ゴーシュ――よし、港に到着したな。
エリックゴーシュお姉ちゃん、これからどうするの ?
ゴーシュまずはこの港町で情報を集める。エリックとライアンは私たちと一緒に付いてこい。
ライアン……ぼくたち、勝手に船に乗ったことバレたりしないかな ?
ドロワットへ~きへ~き。このままバレずに、逃げろや、逃げろ~。すたこら逃げろ~ !
警備兵……ん ? おい、待て、お前たち。
四人! ?
警備兵今、この船から降りてきたようだがお前たちだけで乗船していたのか ?
ゴーシュ……そうだけど、何 ?
警備兵いや、先ほど船に密航しようとした男がいてな。その男の行方を調査しているところだ。
ゴーシュ生憎だが、私たちは無関係だ。早くその男を見つけることだな。
警備兵そうしたいところだが、念のため、お前たちの乗船券を見せて貰えないか ?
ゴーシュ! ? な、なぜそんなことを確認する必要がある ?
警備兵言っただろう。念のためだ。なんせ、その密航者は警備兵を殺して逃走している。事が事だけに、捜査は入念にしておきたい。
警備員お前たちはまだ子供のようだがその密航者の関係者という可能性もある。さあ、乗船券を見せて貰おうか ?
ゴーシュ……くっ。
ミリーナ時刻表通りなら、ファンダリア領からの船はもう到着しているはずね。
ルーティええ、まずはその船を探しましょう。
イクス………… ?
カーリャ・Nイクス様 ? どうかされましたか ?
イクスいや、少し港の様子がおかしいというか変な緊張感が漂っている気がするんだ。
カーリャう~ん、確かに警備兵みたいな人たちが沢山いますね。
カーリャ・N前にアレクセイ様がテルカ・リュミレース領で大規模なクーデターを起こしましたからその影響なのかもしれません。
ルーティあたしたちも帝国兵に見つかったら厄介だわ。早いとこ停泊場に行きましょう。
イクスああ。でも、停泊場はすぐそこに――
警備兵――どうした ? 早く乗船券を見せろ。
ドロワットえっと、えっと……。
警備兵まさか、お前たち。本当に……。
イクスルーティ ! あそこにいる子供って…… !
ルーティあれは……間違いないわ ! あのチビよ !
カーリャで、でも、なんか空気がピリピリしてませんか ?
ミリーナイクス、行ってみましょう !
イクスああ !
ルーティちょっと、チビ ! あんた、こんなところで何してんのよ ! ?
エリック……えっ ? ルーティお姉ちゃん ! ?それに…… !
イクスエリック……。良かった、無事だったんだな !
警備兵なんだ、お前たちは ?この子供たちのことを知っているのか ?
ルーティ知ってるも何も、あたしらはこの子たちを捜してたのよ。
ミリーナあの、何かあったんですか ?
警備兵いや、保護者がいたのならいいんだがさっきから、なかなか乗船券を見せてくれなくてな。この子たちが密航者ではないかと疑っていたところだ。
イクス乗船券……。
警備兵だが、やはりこの目で確認はしておきたい。さあ、乗船券を見せろ。
ゴーシュそれは…… !
イクスあ、あの ! それ、俺がみんなの分を預かってます !
五人えっ ! ?
警備兵そうか。ならば、確認させてもらおう。
イクスはい、どうぞ。ちなみに、俺たちの分の乗船券もあります。
警備兵……ふむ。確かに、先ほどの便の乗船券の半券だな。しかし、わざわざ貨物船に乗らなくても客船を選べばよかっただろうに。
イクスはは、そうですよね。俺、前に海の仕事をしていて客船とは違う船をみんなに見せたくて……。色々と誤解させたみたいですみません。
警備兵変わった奴らだな……。
警備兵そうそう。先ほど子供たちには伝えたが、まだ密航者が近くにいるかもしれないから、気を付けるんだぞ。
ドロワットあ、危なかったの…… !助けてくれてありがとなのぉ !
ゴーシュだが、お前たちは……。エリックの知り合いなのか ?
エリック……お兄ちゃん ? 本当に、イクスお兄ちゃんなの ! ?
イクスえ…… ? ああ、そうか。最初に会ったときと服装と髪型が少し変わったから気付きにくいか。
イクス久しぶりだな、エリック。ごめんな、なかなか会いに行けなくてさ。
ライアンこの人が、イクスお兄ちゃん……。
エリックそうだぞ、ライアン ! ボクの言った通りだろ !イクスお兄ちゃんは、ボクを助けてくれるヒーローなんだ !
イクスヒーローって、そんな大袈裟な……。けど、無事で安心したよ。
ルーティほんと、心配かけさせんじゃないわよ。あとでたっぷり説教してあげるから覚悟しなさい。
エリックうっ……ご、ごめんなさい……。
カーリャあ、あの、イクスさま ?カーリャ、どうしてイクスさまが乗船券なんて持ってたのか、さっぱりなんですけど……。
カーリャ・N具現化の力、ですね。
イクスああ、咄嗟に思いついたことだけど上手くいって良かったよ。
ミリーナ瞬時に状況を把握して動くなんて、さすがイクスね。
ルーティそれより、チビ。あんたたちが、こんなところにいる理由を話してもらうわよ。
ルーティって言っても、そこにいる女の子たちを追いかけていったってところまではあたしたちも知ってるんだけどね。
イクスあれ ? この二人……。
ゴーシュな、なんだ。人の顔をジロジロと……。
ドロワット私たち、怪しい者じゃないだわん。
イクスあの、もしかして二人はゴーシュさんとドロワットさんじゃないか ?
二人! !
カーリャ・Nイクス様、お知り合いですか ?
イクスいや、鏡映点リストの特徴とぼやけた写真が二人と一致するんだ。ユーリさんたちの世界の人だと思うんだけど……。
ゴーシュユーリ……だと !お前たち、ユーリ・ローウェルを知っているのか !
ルーティど、どうしたのよ急に !
ドロワット答えてほしいの !私たちにとっては、とっても重要なことなのよ !

キャラクター11話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】
ゴーシュ――つまり、私たちは鏡映点という存在で本来の私たちは元の世界に存在しているのか ?
ドロワットう~ん、難しすぎてよくわかんないなのよ~。
ゴーシュだが、これでアレクセイが生きている理由もわかった。そして、イエガー様のこともな……。
イクス俺たちもゴーシュとドロワットの事情はわかったよ。できる限り、イエガーさんの救出に協力させてもらう。
ドロワット本当なの ! ?
ゴーシュだが、お前たちはあの『凛々の明星』の仲間。あいつらが、私たちに協力などしてくれるはずが……。
ユーリったく、オレたちも信用がねえな。まあ、当然といえば当然なんだが。
ゴーシュユーリ・ローウェル !
レイヴンお久しぶりね~。元気そうで何よりだわ。
ルーティあんたたち、どうしてこんなところにいるの ?もしかして、ロゼから聞いた ?
カロルううん、ボクたちがここに来たのは偶然。けど、ミリーナがいてくれて助かったよ。
エステル実は、調査していた遺跡で心核を見つけたんです。ミリーナならこの心核が誰のものなのかわかるんじゃないでしょうか ?
ルーティ心核 ? どうしてそんなのが遺跡なんかにあったのよ ?
ジュディスさあ ? 私たちも知りたいくらいよ。
ユーリんで、それを知ってそうな奴を追いかけてここまで来たらお前たちがいたって訳だ。
フレンミリーナ、早速で悪いんだけど誰の心核なのか調べることはできそうかい ?
ミリーナはい、私が持っている魔鏡を使えば誰の心核なのか、すぐにわかると思います。
ライアンエリックお兄ちゃん……。ぼく、あの人たちが何を話してるのか全然わからないよ……。
エリックボクもわからないけど……きっと、大事な話をしてるんだよ。だから、邪魔しないようにするんだぞ。
ミリーナ……では、この魔鏡と私の魔鏡術を使って鏡の中に心核の持ち主を写します。
二人イエガー様 !
レイヴンってことは、この心核はイエガーのものってわけね。
ゴーシュならば、その心核をイエガー様の身体に戻せば元のイエガー様に戻るんだな ! ?
ドロワットやった、やった !これでイエガー様を助けられるの !
カーリャおおっ ! ゴーシュさまとドロワットさまに会ったタイミングで心核が見つかるなんてラッキーじゃないですかあ !
ユーリ……ああ、随分と都合が良すぎるくらいにな。
ラピード……グルル。
イクスそう……ですよね。まるで、誰かに仕組まれているような……。
カロルそれって、誰かがボクたちにイエガーの心核を手に入れられるように仕向けてるってこと ?いくら何でも考えすぎじゃない ?
カロルそれに、イエガーの心核は帝国が持っていたものだろうし、それをわざわざボクたちに渡すようなことはしないと思うんだけど。
フレンいや、もし帝国の人間ではない誰かの手によって仕組まれたことなのだとすれば……。
ゴーシュ何をごちゃごちゃと……。イエガー様を助けることができるのならばそれが仕組まれたことだろうが、私たちには関係ない。
ドロワット待ってて、イエガー様。今度こそ、私たちがイエガー様を助けるの !
レイヴンおっさんたちが口を挟むことじゃないみたいね。どうするよ、青年。
ユーリどうって言われてもな……。その心核がイエガーのものだってんなら元に戻してやるのが先決だろうが……。
カーリャ・Nですが、その肝心のイエガー様は一体どこにいらっしゃるのでしょうか ?
帝国兵βA総員。至急、持ち場を離れ集合せよ。繰り返す。至急、各自持ち場を離れて集合せよ。
フレンその話はあとにしよう。見回りの帝国兵だ。
レイヴンなに、なに ? 急に慌ただしくなっちゃって。
フレン僕たちのことを捜している感じもしないな……。今の内に、路地に入って様子を見よう。
帝国兵βB例の密航者が見つかったのか ?
帝国兵βAいや、密航者のことは後回しでいい。本部からイエガー様の部隊がアレクセイ一派に襲撃されているという情報が入った。
帝国兵βA至急、我々もイエガー様の部隊と合流する。場所はすぐ隣の都市だ。
帝国兵βB了解。
ジュディス……行ったみたいね。
ユーリここでアレクセイまで出てきやがんのか。ますますタイミングが良すぎて気持ち悪いぜ。
ゴーシュそんなことはどうでもいい !アレクセイがイエガー様を狙っているというのなら許してはおけるものか !
レイヴンどの道、俺たちだってアレクセイが絡んでるならほっとけないでしょ。
イクスだったら、俺たちもユーリさんたちと一緒にイエガーさんのところへ行きます。
ルーティ待って。その前に、チビたちはあたしが施設に帰してもいいわよね ?
ライアンえっ…… ?
ミリーナそうね……。そっちのほうが安全だし施設の人たちも心配しているものね。
ルーティチビたちも、それでいいわね ?
エリックうん……わかった。イクスお兄ちゃんが一緒ならお姉ちゃんたちも大丈夫だと思うし……。
ライアンま、待ってよ ! ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんも用事が終わったら、戻って来るんだよね…… ?
ドロワットえっと……それは……。
ゴーシュ……いや。多分、私たちは戻らない。お前たちとは、ここでお別れだ。
ライアンそんな…… ! 約束したでしょ !またぼくと一緒に遊んでくれるって !
ドロワットごめんなさいなの……。だけど、私たちはイエガー様と一緒に……。
ライアン……お姉ちゃんたちの馬鹿ッ !
エリックおい、ライアン ! ?
ルーティちょっと、いきなり走ったら人にぶつかるわよ !
ライアンわっ ! ?
カーリャあちゃあ……本当に人とぶつかっちゃいましたね……。
ルーティ全く、あんたも世話のかかるチビね……。
? ? ?……また、見つけたぞ。
ユーリおい、ちょっと待て ! あいつは…… !
ライアンえっ ? わああああっ…… ! !
エリックライアン ! !
? ? ?セールンドの残党め……。お前たちの好きにはさせん…… !
カーリャ・N待ちなさい !
エステルユーリ ! 先ほどの人はもしかして…… !
ユーリああ、間違いねえ !オレたちが追ってきた男だ !
イクスユーリさん ! あの男とライアンは俺たちが追います !ミリーナはユーリさんたちと一緒にイエガーさんの心核を戻してきてくれ !
ミリーナわかったわ !ネヴァン、私の代わりにイクスに付いていってくれないかしら。お願い !
カーリャ・N畏まりました ! すぐにあの男を捕獲します。
ルーティあたしも行くわ ! チビを傷つけたらただじゃおかないんだから !
ドロワットゴ、ゴーシュちゃん……。私たち、どうしよう…… !
ゴーシュこのままだとイエガー様が危険なんだ……。だが、ライアンは私たちのせいで…… !
エリック大丈夫だよ ! ゴーシュお姉ちゃん !
ゴーシュエリック…… !
エリックライアンは、ボクとイクスお兄ちゃんたちが絶対に連れて帰って来るから !だから、二人はそのイエガーって人のところに行って !
エリック二人にとって、とても大切な人なんでしょ…… ?だったら、絶対助けてあげなきゃ !
ドロワットそうなの……。イエガー様は、私たちの大切な人…… !
ゴーシュ……ありがとう、エリック。イクス、といったな。すまないが、ライアンのことを頼む !
イクスああ、絶対にあの子は俺たちが連れ戻す !

キャラクター12話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】
カロルみんな、こっち ! この道を使えば上手く隠れながら先に行けるはずだよ。
レイヴンはぁ…… ! はっ…… !ちょ、ちょっと待ってよ、少年…… !おっさん、もうヘロヘロ…… ! !
エステル頑張ってください、レイヴン。もう少しでイエガーを見つけられるはずです。
ドロワットイエガー様、大丈夫かな…… ?それに、ライアンのことだって……。
ミリーナ心配いらないわ。ライアンはきっとイクスたちが何とかしてくれるはずよ。
ゴーシュドロワット、今は自分のことに集中しろ。私たちでイエガー様を助けると誓ったはずだ。
ドロワットうん……ごめんね、ゴーシュちゃん……。もう、大丈夫なの。
ジュディスそれにしても、思ったより静かね。もっと派手にお互い暴れてると思ったんだけど。
フレンおそらく、イエガーが率いている帝国軍の部隊が分断されているんだ。
フレン敵の戦力を削ってから、一気に奇襲をかける彼らしいやり方だ。
ユーリそのおかげで、オレたちも堂々と敵の懐に入ってこられたってわけか。
ゴーシュ暢気なことを言っている場合か !それだけ、イエガー様の身が危ないということだろ !
ユーリ落ち着けよ。戦いが終わってねえってことはアレクセイも、まだイエガーのところまでは辿り着いてねえって考えられねえか ?
ドロワットうっ……、確かにその通りだわん。
ジュディスみんな、バウルが確認してくれたわ。イエガーたちの部隊の一つが戦線から離脱するように動いているみたい。
フレン従騎士は帝国軍にとっても失ってはいけない人材のはず。きっと彼もその部隊にいるはずだ。
ユーリサンキュー、バウル。最近はオレたちに付き合わせてばかりで悪いな。
ジュディス気にしなくていいですって。あなたたちを運べない分自分も力になりたいみたいよ。
ユーリなら、バウルにばっか頼らねえおかげでおっさんの運動不足も解消できそうだって伝えといてくれ。
ジュディスええ、そうするわ。
レイヴン青年……いつか自分もおっさんの体力になることを覚悟しときなさいよ……。
ミリーナそういえば、みんなはバウルが運んでくれるフィエルティア号って船で、空を飛んでいたのよね。
レイヴンよく船の名前まで覚えてたわね、ミリーナちゃん。あ~、おっさん……なんだか懐かしくなってきたわ。
カーリャカーリャも、バウルさまと一緒に空のお散歩してみたいです !
ジュディスふふっ、バウルもきっと喜ぶと思うわ。
ユーリさてと、盛り上がってきたところ悪ぃがオレたちも、ちと気合入れとかねえとな。
カロルそうだね。行こう、みんな。ボクたちでアレクセイより先にイエガーを見つけるんだ。
帝国兵βイエガー様、申し訳ありません。敵の部隊がすぐそこまで迫っています。すぐに撤退を。
イエガーβ小賢しい真似を……。だが、まあいい。クロノスの分霊はクレーメルケイジで確保した。もうここには用がない。
? ? ?……フッ。小賢しい、か。まさか、お前にそのようなことを言われるとはな。
イエガーβ誰だ ?
アレクセイ久しいな、イエガー。今なお帝国に好きなよう使われてしまっているとは実に不憫だ。
帝国兵β敵襲 ! 総員、迎撃態勢 !
アレクセイ邪魔だ !
帝国兵β隊ぐはあああああああっ ! !
アレクセイ雑魚共は引っ込んでいろ。それとも、手負いで我々の部隊と戦うか ?
アレクセイ一派アレクセイ様 ! いつでもご指示を !
イエガーβ仕方ない。手駒をいくらか捨てることになるが代わりはいくらでも用意できる。
イエガーβお前たち、まだ動けるだろう。私が逃げるまで、こいつらを足止めしろ。
帝国兵β隊――了解。
アレクセイ一派こいつら ! ? 致命傷を負ってもまだ動くのか ! ?
アレクセイ……ふっ、まさに痛ましい人形の姿だ。
アレクセイだが、我々の邪魔をするのならば躊躇う必要などない !
ゴーシュアレクセイ ! !
ドロワットやっと見つけたの ! !
アレクセイお前たちは……。
ジュディスどうやら、間一髪間に合ったみたいね。
アレクセイ……貴様たちまで一緒か。
ユーリてめえが派手に暴れてるって聞いてな。わざわざ来てやったぜ、アレクセイ !
ラピードワンッ ! ワンッ !
イエガー鏡士共の仲間か。こんなときに厄介な……。
ゴーシュイエガー様…… !待っていて下さい。すぐに私たちが元に戻します !
ドロワット今度こそ……今度こそイエガー様を助けるの !
イエガーβ子供か……。ならば、あの男はリビングドール兵で足止めし、私はこいつらを処分して退散することにしよう。
エステルそんなこと、絶対にさせません !
ユーリオレたちのこと、甘く見てると痛い目見るぜ。今のお前にはわからねえだろうがな !

キャラクター13話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】
イエガーβ……くっ。こんなところで、倒れるわけ……には…… !
ゴーシュイエガー様 ! ?
ミリーナ大丈夫。気絶しているだけよ。待ってて、すぐに心核を取り換えるわ。
エステルミリーナ、わたしも治癒術で補助します。
アレクセイふん。無様だな。駒の役割も果たせないなど、哀れな男だ。
ドロワットアレクセイ…… !
アレクセイああ、お前たちの顔を見るのも久しぶりだな。
ゴーシュアレクセイ…… ! 覚悟しろッ !
ドロワットイエガー様の仇、今ここで取らせて貰う !
ユーリっと、お前たち。再会の挨拶にしちゃあちと派手にやりすぎだ。
レイヴンそうそう。上の立場にいた人間ってのはどうも礼儀作法にうるさいんだわ。
ゴーシュお前たち…… ! !何故、止める ! ! この男は私たちの仇だ ! !
フレンだからといって、殺していいわけじゃない。少し落ち着くんだ。
アレクセイフレン、お前は相変わらずだな。騎士道精神にあふれる素晴らしい考えだよ。
フレン勘違いしないでくれ。あなたに確認しておきたいことがある。そうだろ、ユーリ ?
ユーリああ。なあ、アレクセイ。お前、オレたちを利用しただろ ?
アレクセイはて、一体なんのことやら。私には皆目見当がつかんな。
ユーリとぼけんじゃねえよ。お前が何か企んでるって情報が入ってから全部が上手くいきすぎてんだよ。
カロルユーリ、それって……港町でも言ってた「仕組まれてるような感じがする」って話のこと ?
ジュディスそれで、その犯人はアレクセイだった、ってことでいいのかしら ?
ユーリこいつは、初めからイエガーを帝国から取り戻すことが狙いだったんだ。
アレクセイなぜ、そう思う ?
レイヴン戦争を始めようって割には戦力が少なすぎんのよ。それに、この前痛い失敗したのに、すぐに攻め込むなんて真似をするのは、あんたらしくない。
ユーリだが、イエガーだけはすぐに助けなきゃいけねえ理由があったんじゃねえか ?
アレクセイどうやら、きみたちは勘違いをしているようだ。今回私が動いたのは、従騎士たちがクロノスの分霊を集めているという情報が入ってきたからに過ぎない。
カロルクロノスの分霊って……もしかしてイエガーが大事そうに持っていたクレーメルケイジがそうなの ?
アレクセイその通り。これ以上、帝国にカードを握られるのは私としても不本意だった。
カロルだから、クロノスの分霊を集めていたイエガーを止めようとしたってこと ?
フレンいや、イエガーを止めるだけじゃなくイエガーを自らの部隊に引き入れようとしていたのなら彼の心核が必要だった。
ユーリだが、肝心のイエガーの心核回収はリスクを避ける為に、オレたちにやるよう仕向けやがったんだ。
ジュディス随分と信頼されているわね、私たち。
ドロワット本当に……イエガー様を助けようとしたの ?
アレクセイ下らん。全て証拠もない机上の空論に過ぎぬ。
アレクセイ……と、言いたいところだが、まあいいだろう。確かに、イエガーを利用できると思い盗賊を使って心核を手に入れようとしたのは事実だ。
アレクセイしかし、何者かによる邪魔が入ってしまってね。そこで、きみたちを利用させて貰ったのだよ。
フレンやはり、全てはあなたの思い通りに進んだということか。
アレクセイどうかな、私の掌で踊らされていた気分は ?
ユーリおいおい、今日は随分とお喋りじゃねえか。
アレクセイなに、きみたちに一泡吹かせることができて私も機嫌がいいのだよ。
レイヴン本当、いい性格してるわ。
イエガー……んんっ。 ここは……。
カーリャミリーナさま ! 目を覚ましたみたいです !やりましたね !
ミリーナええ。だけど、心核を入れ替えてすぐはまだ体力が回復していないはず……。
ゴーシュイエガー様ッ ! !
ドロワットイエガー様 ! ! 本当に本当に本当のイエガー様なんですよね ! ?
イエガーゴーシュ、ドロワット……。ワイ…… ? あなたたちとは、随分とロングタイム 会っていなかったように感じます……。
エステルイエガー、まだあまり動かないでください。無理をすれば、また意識が……。
イエガーオウ……。実にファンタスティックな面々ですね。ミーはドリームを見ているのでしょうか……。
レイヴンまぁ、当たらずとも遠からずってやつかね。けど安心しな。今じゃあ、こっちが俺たちの現実よ。
イエガーそうですか……。では、やはりユーたちとのバトルは、お預けみたいですね。
カロル……やっぱりザウデでボクたちと戦う前までの記憶しかないんだね。
イエガー……ですが、ノットフォーゲット。アレクセイ、ミーとのプロミスは守ってもらいますよ。
アレクセイそこにいる二人の子供の命のことか ?今さら人質として扱うつもりなどない。
アレクセイなにせ今のお前は駒としても使えんようだからな。まったく、興醒めだ。
ゴーシュアレクセイ……貴様ッ ! ?
ドロワットイエガー様のこと、悪く言うのは私たちが許さないの !
レイヴン待ちなって。こんなところでお互いやりあっても無益よ、無益。
ユーリアレクセイ、お前はどうするつもりだ。こんだけ手の込んだことをしておいてあんたの手元には何一つ残っちゃいないぜ ?
アレクセイ浅いな、ローウェル君。此度の戦果を聞けば帝国に対して猜疑心を抱いている連中が私の元へ集まってくる。
レイヴンまあ、あんたならスパイの一人や二人紛れ込ませてるだろうからな。上手く唆して、仲間を増やそうって魂胆か。
ユーリ喰えねえ野郎だぜ……ったく。
アレクセイそういうことだ。よって手負いの駒など不要。お前たちもその男を連れて、どこへなりと行け。
レイヴンはいはい、んじゃ、そうさせてもらうわ。
アレクセイきみたちもせいぜい帝国の人間に利用されないことだな。
ジュディス嫌味な人ね。それとも自虐だったのかしら ?
レイヴン両方でしょ。平気な顔してるけどリビングドールのときにやらされてたことが結構堪えてるみたいだったしね。
カロルもしかして……だからイエガーのことも助けようとしたのかな ?
イエガーミーのことを…… ?インポッシブル……。アレクセイはそんな男ではありません。
エステルいえ、彼も変わろうとしているのかもしれません。少なくとも、あなたを帝国から助けようとしたのは事実だと思います。
イエガー……ブラボー。その話が本当ならば、実にファンタジー、です……。
ドロワットイエガー様 ! ?
ミリーナ大丈夫、気を失っただけよ。やっぱり、まだリビングドールのときの負荷が身体に残ってしまっているのね。
ジュディスだったら、一度アジトで診て貰ったほうがいいわね。
ミリーナええ。だけど、まだイクスたちから連絡が……。
フレンそれなら、イエガーは僕たちがこのままアジトまで運ぶよ。ミリーナはイクスたちのところへ行ってくれ。
ラピードワンッ !
ミリーナありがとう、みんな。イエガーさんのこと、宜しくお願いします。
ゴーシュ……待て ! すまないが、一つだけライアンとエリックに伝えてほしいことがある。
ドロワット私たち、また必ず二人に会いに行くから。だから、一緒に雪合戦する約束は忘れないって……そう伝えてほしいの。
ミリーナええ、わかったわ。私がちゃんと、伝えておくわね。二人の気持ちも一緒に。

キャラクター14話【9-15 テルカ・リュミレース領 海岸3】
ルーティこの先はもう海じゃない。まさか、船でも待たせてるのかしら。
イクス港に現れたってことは自前の船は持ってないんじゃないかな。小型のボートみたいな物を隠してる可能性もあるけど……。
カーリャ・Nイクス様、ルーティ様 ! あの岩の先を !
エリック眩しくて見えないよ……。これ、逆光って言うんでしょ ?
ルーティエリック、あんたは下がってなさい。確かにこの先にいるのは、ライアンをさらった男だわ。
イクス待て !
? ? ?………………。
イクスその子を返せ !
? ? ?断る。それより、お前は何者だ ?何故、鏡精を連れている ?
イクスえ…… ?
カーリャ・Nその声、どこかで聞き覚えがあります。私が鏡精だった頃に……。
ルーティあいつが何者なのかは、ライアンを助けてからよ。
? ? ?動くな ! 動けばどうなるかわかっているな。
ルーティ卑怯者 ! 子供を盾に取るつもり ! ?
カーリャ・N傷つけることも辞さないというのなら何故その子をさらったのですか !
? ? ?この子供はリストにある同胞であり、救出目標だ。
ルーティ人質にしておいて、何が救出よ !
イクス(救出とは言っているけど生かして助けるって意味とは限らない。せめて何とか隙を作れれば……)
エリックイクスお兄ちゃん……。
イクス大丈夫だ、エリック。何とか――
イクス(――そうか !)
イクスネヴァン、ルーティ。俺が合図したら、ライアンを頼む。
二人! !
イクス俺が何者か教えてやる !
? ? ?………………。
イクスこの顔をよく見るんだな。
イクス(このまま、腕を太陽の方に……)
イクス俺は鏡士のイクス・ネーヴェだ !
? ? ?……ぐっ ! ? 鏡の反射かっ ! ?
イクス今だ !
カーリャ・N鏡転身 !
カーリャ・Nライアンは返してもらいます !
カーリャ・Nルーティ様 !
ルーティオッケー ! チビ、こっちよ !
ライアンお姉ちゃん !
? ? ?くっ、やらせるか !
イクスネヴァン、避けろ ! 裂燕迅 ! !
? ? ?ぐっ ! ?
イクスよし、このままお前を捕まえる !
? ? ?――そうか、お前がイクス・ネーヴェ。魔女が甦らせた二人目という訳か。
イクス! ?
? ? ?全ては奴の言う通り……。ならば、また相見えよう !
ルーティな……海に飛び込んだの ! ?
カーリャ・Nお二人とも ! 後ろに敵が―― !
盗賊Aボスの代わりに俺たちが相手だ。
盗賊B逃げられると思うなよ !
ルーティもう、雑魚がうじゃうじゃと !
イクスここは危険だ。何とか敵の数を減らして、この場所から離れよう。
ルーティええ、そうね。エリック、ライアン。あたしたちからはぐれるんじゃないわよ !
子供たちうん !
カーリャ・N敵が来ます !

キャラクター15話【9-15 テルカ・リュミレース領 海岸3】
イクス……追っ手は……来ないみたいだな。ライアン、エリック、大丈夫か ?
エリックうん !
ライアン……う……えぐ……。
イクスあ……え…… ? な、な、泣かないでくれよ……。ええっと、ルーティ……、ネヴァン……ど、どうしよう……。
ルーティ大丈夫よ。安心したら泣けてきちゃっただけよね ?
ライアンう……うん……。ごめんなさい……。
カーリャ・Nあの……大丈夫ですか ?飴、食べますか ? 甘くて元気が出ますよ。
ライアンありが……とう……。
イクスそ、そうだ。エリック、ありがとう。エリックのお陰でライアンを助けられたよ。
エリックえ ?
イクスほら、逆光で眩しいって言ってただろ。それで太陽の光を反射させようって思いついたんだよ。
エリックあ ! そうか ! イクスお兄ちゃんも僕と同じこと思いついたんだ !
イクス同じこと ?そうか、エリックもあの時鏡で光を反射させたらいいって思ったんだな。
エリックううん、さっきじゃなくて雪合戦の時にね。
イクスえ ? 雪合戦 ?
エリックへへ、僕、イクスお兄ちゃんみたいになりたいって思ってたから、ちょっと嬉しいな。
イクス? ? ?
ミリーナイクス ! みんな !
カーリャ・Nミリーナ様 !
ミリーナよかった !無事にライアンを助けられたのね。
ルーティええ、何とかね。そっちは ?わざわざ駆けつけてくれたってことはもちろん首尾よくいったのよね。
ミリーナええ。イエガーさんを助けることができたわ。それから、エリックとライアンに伝言よ。
二人
ミリーナゴーシュとドロワットから。また必ず二人に会いに行くって。一緒に雪合戦する約束は忘れないって。
施設の女性……この度は色々とありがとうございました。また皆さんに助けられてしまいましたね。
イクスいえ、そんな……。
ルーティさっきも話した通り、怪しい盗賊たちからライアンの身柄を守るためにこの辺りの警護をするわね。
ルーティだから子供たちにも遠出しないように言い聞かせてくれる ?
施設の女性はい。ライアンが帝都に移るまでは、十分に気を付けます。
カーリャ・Nそれにしても、帝国がわざわざライアンを帝都に呼び寄せているというのはどういうことなんでしょうか。
ルーティ確か……ライアンは移民だから帝都に行かなくちゃいけないのよね。
施設の女性ええ。一体何のことやら……。
施設の女性ライアンの亡くなったお祖父さんはビフレスト皇国から旧セールンド王国へやってきた移民だそうですけど、ライアンは別に……。
カーリャ・Nビフレスト……まさか……。
イクスネヴァン ? 何か心当たりがあるのか ?
カーリャ・Nあ、いえ、ライアンのことではないんです。ライアンをさらった盗賊の正体に……。
カーリャ・Nでも、そんな筈は……。
ミリーナネヴァン ? よかったら話してみて。
カーリャ・Nは、はい。あの盗賊ですが、声や背格好が……フリーセルに似ているんです。
ミリーナフリーセル……。救世軍の創始者で、ビフレストの工作員だった男……。
カーリャ・Nですが、マークからフリーセルは死んだと聞いています。
ミリーナ………………。
セネルイクス、今大丈夫か ?
イクスセネル ! グリューネさんは見つかったか ?
セネルああ、こっちは問題ない。みんな無事だ。
セネルそれより、いつ頃アジトに戻る ?共有しておきたいことがたくさんあるんだ。
イクスああ、こっちも大体片付いたからすぐに戻るよ。
セネルそうか、じゃあ戻ったら知らせてくれ。
ルーティ何だか、深刻な感じだったわね。
イクスああ。さっきの男の正体がフリーセルなのかどうかも含めてアジトで検討した方がいいな。
カーリャ・Nはい。マークにも連絡を取ってみます。
イクス(『移民』を集めている帝国、怪しい盗賊の男……。何かが起きているのは確かなのに上手く線が繋がらない……)
イクス……とにかく、アジトに戻ろう。セネルたちの話を聞くんだ。
to be continued
キャラクター1話【10-1 アジト】
カーリャ最近平和ですね……。
イクスまあ……そうだな。正確には、何かが起きているけど動きようがないってだけなんだけど……。
ミリーナ私たちが新たにわかったことと言ったら帝国の目的、贄の紋章の正体、バロールの力についてぐらいだものね。
カーリャ・N全ては繋がっていると推測できましたね。帝国の目的は、ティル・ナ・ノーグを滅ぼして代わりにニーベルングを甦らせ、移住すること。
カーリャ・Nその際、異世界からの具現化で生み出された人々も見捨てられる。
イクス帝国が帝都に集めている【移民】って言葉もセネルの報告で何となく見えたよな。
イクス帝国はティル・ナ・ノーグ生まれの人間を選別してニーベルングに連れて行こうとしているんだと思う。
ミリーナその為に使われるのが【贄の紋章】。【贄の紋章】を刻まれた人は、【ルグの槍】と呼ばれるエネルギーの柱になって、ニーベルングの転送に利用される。
ミリーナニーベルングの転送……というのがまだはっきりしないけれど……。
ミリーナゲフィオンの記憶と照らし合わせるとこのティル・ナ・ノーグのある場所に、ニーベルングという星を丸ごと移動させるんだと思うわ。
イクスただ、父さんたちの遺言だと、ティル・ナ・ノーグはセールンドが行っていた鏡精のエネルギーシステムのせいで、限界を迎えていたみたいだよな。
イクスそれを救う為に【ルグの槍】を解放しろと言っていた。まだ【ルグの槍】そのものがよくわかってないからなんとも言えないけど――
イクス【ルグの槍】の解放が帝国の目的を阻む対抗手段であってくれるならまだ状況を変えられるかも知れない。
カーリャ・N【贄の紋章】を刻まれたのが、各地の領主と従騎士それにシャーリィ様とマオ様、でしたね。解除の方法はわからないままですが……。
ミリーナ……そういえばサレの行方もわからないままだったわね。
カーリャ・Nはい。ヴェイグ様たちが自警団に監視をお願いした後浮遊島警備部の皆様に連絡をとっている間に自警団の人たちが襲われ、サレも消えていたそうです。
カーリャ・Nおびただしい量の血痕が残されていたそうですが……。
ミリーナ今もヴェイグさんたちと警備部であの村周辺の捜索と調査を行っているわ。あそこには何かがある……。
ミリーナそれに各地の領主の奪還の準備も進めているけれど……上手くはいっていないわね。
イクス領主たちが消えた地域もあるみたいだし……。そもそも領主の正体がはっきりしない地域もあるから……。
カーリャ・Nミッドガンド領ですね。領主はテレサという女性だ……と言われているそうですが、まだ裏が取れていないとカロル様も言っていました。
カーリャあ、カロルさまといえば、ビフレストの皆さんには連絡がついたんですか ?情報共有しようって言ってましたよね ?
イクスいや、まだだよ。こちらからの通信に応えてくれないんだ。
イクス単にこっちの連絡を無視してるだけならいいんだけど。いや、それはそれで良くないか。もっとちゃんと協力できればそれに越したことはないんだし。
ジェイドまあ、あちらはあちらで感情の整理がつかないのかも知れませんねぇ。
カーリャで、で、で、出たーーーーーーーっ ! ? 鬼畜眼鏡 ! !
ジェイドおや、カーリャ。相変わらず熱烈に歓迎していただけてとても嬉しいですよ ♪
カーリャしっしっ !
ミリーナカーリャ……。気持ちはわかるけれど、やめなさい。
イクスジェイドさん、どうしたんですか ?何か新しいことがわかったんですか ?
ジェイドええ。まず墓守の街の件ですが候補が見つかりました。
イクスえ ! ? 大した情報も無かったのに ! ?
ジェイド礼なら、この間ここにやってきたウィルに伝えて下さい。彼の話にそれらしき場所が出てきたんですよ。
ジェイドとはいえ、今は廃村になっているようなので海凶の爪の皆さんに調査を依頼しています。
カーリャ・Nイエガー様はもう動けるんですか ?
ジェイドええ。まあ、それに次々と病人や怪我人が運ばれてくるので、気を遣って病床を空けて下さったようですね。
ジェイドそれと、コーキスの姿が目撃されました。
イクスどこですか ! ? 俺、すぐに――
ジェイドイクス。コーキスとの関係をこれ以上こじらせないためにも今は、あなたが動いてはいけません。
ジェイドコーキスに関してはカロルに一任してあります。今はベルベットたちが向かっている筈です。
イクス……はい。
ジェイドそして、これが最後のご報告になりますが……。オールドラント領の領主が動くようなので奪還したいと思います。構いませんね ?
ミリーナオールドラント領ってことは……ジェイドさんの……。
ジェイドまあ、これでも一応アレの部下ということになっていますので、善人の私としては異世界で見捨てるのも心苦しいのですよ。
カーリャ今しれっと嘘をついてましたよ、この人 !
イクス――わかりました。俺たちも一緒に行きます。
ジェイドそうですね。イクスとネヴァンには来ていただきましょうか。
ミリーナイクスが行くなら私も行きます。
ジェイドいえ、今カーリャに来られるとつい解剖したい気持ちになってしまうのであなたはカーリャの為にも残って下さい。
ジェイドここにいれば、あなたの中のゲフィオンの記憶をキール研究室の為に活用できますしね。
ミリーナ………………。
ジェイドでは、イクス、ネヴァン。行きましょうか。
イクスは、はい !
カーリャ・N……小さいミリーナ様、失礼します。カーリャ、後は頼みますよ。
カーリャ……むむ。あの眼鏡、もしかしたら綺麗な方に入れ替わっているんじゃ……。
ミリーナ………………。
カーリャ……ミリーナさま。あの……ですね。カーリャが思うに、もっといい男は沢山いますよ !
カーリャ例えばロイドさまとか、アスベルさまとかユリウスさまとか、フレンさまとか……。
ミリーナそれは全部カーリャの好みでしょう ?というか、カーリャに優しい人たちよね ?
カーリャはっ、バレましたか ! ?
ミリーナふふ……。でも、ありがとう。大丈夫よ。
ミリーナ大丈夫だけど、少しだけカーリャをぎゅっとさせてくれるかしら ?
カーリャもちろんですとも !カーリャはいつだって、ミリーナさまの味方です !

キャラクター2話【10-2 オールドラント領 街道】
イクス………………。
ジェイド――イクス、今の話、聞いていましたか ?
イクスえ ! ? あ、えっと……すみません。ちょっとボーッとしていて、聞き逃しました……。
ジェイド……だ、そうです。ガイ、もう一度説明を。
ガイなんだなんだ ? イクスらしくない。
イクスすみません……。
ガイいや、別に構わないさ。
ガイさて、俺たちの任務はピオニー陛下の奪還と心核の回収にある。どうやら帝国側は一部の領主や従騎士を帝都付近に集めているらしい。
ガイ今回はピオニー陛下の番って訳だな。カロル調査室に集まった情報を総合すると、ここ数日のうちにピオニー陛下が帝都へ運ばれるのは間違いない。
ガイ俺たちは二手に分かれて心核の捜索とピオニー陛下の奪還を行う。
イクスピオニー陛下の心核はどこにあるかわかっているんでしょうか ?
ジェイド手がかりになりそうな情報はワルターから聞き出しています。
イクスえ ! ? ジェイドさんワルターと話ができたんですか ! ?俺なんていまだに口をきいてもらえないのに。
ルークいや、ジェイドがワルターと話してまともな会話になると思うか ?
イクスですよね ?
ナタリアシャーリィとマウリッツさんのおかげですわ。ワルターが帝国にいた頃の情報を聞き出せたのは。
ジェイド私とリオンでさっと話を聞き出すという形でも良かったのですが、後々のことを考えて穏便に済む方向でまとめました。
カーリャ・N賢明な判断です。
ティア領主や従騎士の心核は、養液に浸した状態で各地の【ルグの槍】起動地点に置かれているらしいの。
ティア中々その場所が特定できなかったのだけれどピオニー陛下に関してはワルターが設置場所に繋がる情報を持っていたわ。
アニスあー、ティア、いいよ。その先は私が話すから。
アニスあのね、ヴァン総長――ティアのお兄さんの疑似心核が壊れたらしいんだ。
アニスそれで他の疑似心核も受け付けないから一時的に本当の心核をヴァン総長に戻すことになったんだって。
イオンつまり、今現在ヴァンは、心核を取り戻している筈なんです。そしてセルシウスの予測では、ヴァンの中にローレライの本体が宿っているそうです。
イオン僕なら、ヴァンの中のローレライと話ができる。ローレライなら、ヴァンの心核がどこに保管されていたかわかる筈です。
イクスつまりピオニー陛下の心核もヴァンさんの心核があった場所と同じ場所にあるという推測ですね。
イオンはい。ですから、心核捜索班はヴァンに接触する必要があります。僕がローレライを任意に呼び出せれば話は簡単だったのですが……。
ガイまあ、アッシュと協力して呼び出すって方法もあるんだろうが危険な手段には変わりないからな。
カーリャ・Nそういえばアッシュ様の姿がありませんが……。
ナタリアアッシュなら、先行してヴァンの捜索にあたっていますわ。
イクスわかりました。つまり、この作戦はヴァンさんの救出作戦でもある訳ですね。
ジェイドええ。さすが、イクス。飲み込みが早いですね。
ジェイドここからは二手に分かれますよ。
ジェイドティアとアニスとイオン様はアッシュと合流して下さい。残りはピオニー陛下の方へ向かいます。
ガイしかし、ヴァンの担当はアッシュも入れて四人だけだろ。俺もヴァンの方に向かった方がいいんじゃないか ?
ジェイドいえ……まあ、恐らく戦力は十二分ですよ。
デミトリアス……やっと姿を見せたね。グラスティン。心配していたよ。
グラスティン悪いなあ。ちょっと気になることがあって帝都に戻れなかった。で、話ってのは、オリジンの件か ?
デミトリアスああ。オリジンを呼び出すための器をどうするかそろそろはっきりさせておきたいんだ。
グラスティンその件なら、前にも話しただろう。小さいフィリップで決まりだ。まあ……手違いが起きてはいるが、何とかなるだろう。
デミトリアス……やはり、私では駄目だろうか。
グラスティンお前は駄目だ。アニマ汚染の回復のために他の精霊の力を使った。
グラスティンそれとも、まだ下らん正義感に囚われているのか ?お前が生まれる前からセールンドは鏡精をエネルギーにしてきた。
グラスティン揺り籠の崩壊がたまたま、お前の代だっただけだ。
デミトリアス……グラスティン。今日は、いつもより苛ついているようだね。
グラスティンああ、まあな。サレのせいで色々と計算が狂った。あいつ……一体何のつもりで……。
デミトリアス………………。
グラスティン話が以上なら、俺は行くぞ。
デミトリアスあ、ああ……。
グラスティン――おっと、そうだ。
グラスティンデミトリアス。アルトリウスには気を付けろ。奴に鏡の精霊の心核を渡すなよ。
グラスティン奴とお前はまったく正反対だがやろうとしていることは近しいものがある。
グラスティン俺は、他でもないお前が、どんな風にこの世界で踊るのかを楽しみにしてるんだ。
デミトリアスそうだな……。いっそアルトリウスのようになれていたなら、私は悩みはしないよ……。

キャラクター3話【10-3 オールドラント領 浜辺1】
アニスあ、アッシュみっけ !
アッシュ……見事にローレライ教団の関係者しかいないな。
イオンやはり、ガイにも来てもらうべきだったでしょうか。
ティアナタリアにも来てもらった方がよかったのかも知れないわね。
アッシュだ、誰もそんなことは言ってないだろう !
アニスひっひっひっ、柄にもなく照れちゃって。うい奴よのう……。
アッシュええい、お前ら全員ここから帰れ !
シンクアッシュ。貴重な戦力だ。勝手に分散させないでよね。
イオンシンク…… ! どうしてここに……。
リグレット導師イオン。シンクは私が協力を依頼した。お互い遺恨があるとは思うが、飲み込んでもらう。
アリエッタ総長の為だから……アニスがいても……我慢する。
アニスはああああ ! ?
イオンアニス、いけませんよ。
イオンアリエッタ、ありがとうございます。
アリエッタ……あなたのことは……導師って呼ぶ、です。コンランする、です。
イオンはい、わかりました。あなたにとってのイオンは一人だけですしね。
ティア教官、どういうことですか ?ビフレスト陣営とは連絡が取れないと聞いていました。
リグレットだろうな。今は……ジュニアを守るために仮想鏡界に通信が届かないようにしている。
アニスほえ ? それってどういうこと ?
リグレットサレという男に暗示を掛けられた。他にもグラスティンという男が何か仕掛けをしていたらしい。
リグレット調査と保護のために外界からの接触を避けている。
アリエッタグラスティン……。イオン様を殺して、ジュニアにも酷いことをした。絶対に許しません…… !
アッシュ俺も、リグレットたちに連絡が取れなくてな。ヴァンの調査にシンクの手を借りようとしたところすでにリグレットがシンクと連携して動いていた。
シンクそこにアンタたちが便乗してきたって訳。つまりアンタたちはオマケなんだよ。付いてくるのは勝手だけど、足を引っ張らないでよね。
ティア意外だわ。シンクが兄さんの救出に協力するなんて……。
シンクそう ? ボクからすれば、アンタたちよりヴァンの方がずっとマシだよ。いつまでも死なせてくれないしつこさ以外はね。
リグレットお前たちもこちらに来たからには戦力として利用させてもらう。わかっているな ?
ティアも、もちろんです、教官 !
アニスアニスちゃんも了解。まあ、六神将と一緒の作戦なんて変な感じだけど……。
イオン僕も精一杯頑張ります。
ディストハーッハッハッハッ ! 皆、安心なさい。この薔薇のディスト様が華麗なる勝利を約束して差し上げましょう !
アニスえ ! ? こいつもいるの ?
アッシュ何の話だ、アニス。
アニスえ ? だからこいつ――
リグレットそろそろ時間だ。移動するぞ。
ディストちょ、ちょっと待ちなさい !また私を無視するんですか ! ?
アッシュ船はどこだ ?
シンクこの先だ。救世軍から拝借してきた。
アリエッタお友達……呼ぶ ?
シンク今はまだいい。
ディストキィィィィィィ ! 私の話を聞きなさい !
リグレットアッシュ、ティア、導師イオン、こちらだ。
リグレットディスト、話ならアニスが聞きたいそうだ。
アニスはあああああ ! ?ちょっと、なんでアニスちゃんがこいつの面倒を見ることになってんの ! ?
ディストそうでしたか ! 今回の計画は私の情報が無ければ始まらなかったのですよ。つまり、今作戦は私がいてこそ成り立つのです。
ディストその私の世話係を命じられるとは……あなたも幸せ者ですねえ、アニス。
アニスさーいーあーくーなーんーでーすーけーどー ! ?
ルーク何度見ても飽きねーな、これ。
ミュウはいですの ! ジェイドさん、格好いいですの !
ナタリアお土産も色々種類が増えていますわね。
ガイけど、いいのかジェイド。こんなに堂々と領都に入っちまって。最近、かなり警戒が厳重だって話だが――
帝国兵貴様ら !見慣れない顔だが、こんなところで何をしている !
イクス(ま、まずい……。俺の魔鏡を見られたら……)
帝国兵……おい、そこの銀髪の男。前に出ろ。
イクス
ジェイドどうか、落ち着いて下さい。私は争いごとを避けるべきだと皆さんに訴えてきたつもりですよ ?
帝国兵何だ、お前は……ん ?お前……いや、あなたは……。
ジェイド私はジェイド。旅の者です。最近私の名を騙る鏡士の一派の男が帝国に刃向かい悪事を働いていると聞きました。
ジェイドどうやら私の偽者というのは私によく似ているようですね。
ジェイド私と同じ姿の人間が、皆さんに迷惑を掛けているとは……情けない限りですよ。
全員! ? ! ? ! ?
街の女性もしかして……聖人ジェイド様 ! ?
ジェイド聖人だなんて……とんでもない。私はただ、人としてよく生きる術を皆さんに伝えるべく世界中を旅しているしがない伝道師に過ぎません。
街の女性やっぱり聖人ジェイド様だわ !
街の男性何 !ジェイド様がダアトに戻って来て下さったのか ! ?
子供僕、ジェイド様を見るの初めて !
街の人々――ジェイド様 ! ジェイドさま ! ジェイさまーっ ! ――
イクス知ってる……これ……知ってるぞ……。
ルークマジかよ……やばい……また体が震えてきた……。
カーリャ・Nな……いつもの黒いオーラが消えています ! ?
ナタリアな、何なんですの ? 大佐が気持ち悪いですわ…… ?
ガイまさか、偽者の方に寄せていくとは……。いや、しかしこいつはマジで不気味だな。

キャラクター4話【10-4 オールドラント領 海上1】
ティア教官、兄の行方をどうやって掴んだんですか ?
リグレットナーザとバルドが持っていた情報だ。あの二人はデミトリアス帝のことを調査していたらしくてな。その時に、閣下の話を聞きつけたらしい。
リグレット内容はお前も知っている通りだ。だが、我々はお前たちより早く調査に入ったからな。閣下の足取りを掴むのは、そう難しくはなかった。
ティア兄さんは……今、どんな状態なんでしょうか。
リグレットマルクトの皇帝を回収する役目を閣下が担ったという話だ。
リグレットしかし閣下が帝国に与するとは考えにくい。心核が戻されたことは間違いないようだから恐らくリビングドール化されているのだろう。
ティア心核が戻されているのに、ですか ?
リグレットディストからは、疑似心核に入れ換えなくてもリビングドールにする手段があると聞いている。
リグレットならば、そういった処置を施されていると考えるのが自然ではないか ? それともお前は閣下が帝国に賛同すると考えているのか ?
ティアいえ……。違う、と思いたいです。でも帝国はこの世界を滅ぼし、ニーベルングという新たな世界に移住することを目的にしていると聞きました。
ティア兄がオールドラントでしようとしていたことと……似ています。
リグレット形は同じでも、信念は違う。
ティア……そうだと思います。思いたいけれど私には兄がわからなくなってしまった。わからないまま、この世界に具現化されて……。
リグレット……まあ、わかり合うことはできないだろうな。
ティアえ ?
リグレットわかり合えるならお前と閣下が対立することはなかった。
リグレットだが……ここはオールドラントではなく、預言もない。預言がなければ、お前も閣下もただの兄妹として話せるのではないか ?
ティア………………。
アッシュ――おい、帝国の船影が見えてきた。決行だ。
リグレット行くぞ、ティア。
ティアはいっ !
シンク最終確認するよ。目的は帝国船の拿捕及びヴァンの回収だ。船は傷つけるなよ。計画が狂う。
アッシュ気を付けろよ、死神。
ディストフン、私に言うのはお門違いですよ。
シンク手順はこうだ。まずはアリエッタに、飛行系の魔物を呼んでもらう。
アリエッタうん……わかった。
シンク帝国船が魔物の迎撃を行っている間にこっちの船を接舷させて、帝国船を拿捕する。
シンク先陣を切るのはボクとアッシュだ。リグレットとティアは支援役を、ディストとアニスはイオンと一緒にヴァンの確保に向かう。
アニスえ ! ? イオン様はともかくディストの面倒まで見てらんないよ~ ! ?
ディスト面倒を見るのは私の方ですよ !
イオンまあまあ、仲良く頑張りましょう。ところでシンク、ヴァンの状態次第では戦闘になりかねませんが……。
シンク――というか、十中八九戦闘になるだろうね。だろ、ディスト。
ディストそうですね。こちらに来る前にコーキスから得た情報ですが、帝国は研究中だった簡易型のリビングドールを完成させたようです。
ディストリビングドールγと呼ばれていた代物ですがこれなら心核を抜かなくてもリビングドールにできます。
イオン解除の方法は何かあるのでしょうか ?
ディスト最近施されたものであれば強い刺激ですぐに解除できます。強力な暗示のようなものですから。
ディストただ、長時間暗示に晒されていたとすれば厄介なことになるでしょうねぇ。
アニスそんな時のためのディストでしょ ?何かすごい音機関的なもの、用意してないの ?
ディストもちろん、抜かりはありません。せいぜい楽しみにしていなさい。
シンクヴァンと遭遇したら、足止めしてボクたちを呼ぶんだ。ヴァンは内側にローレライを飼ってる。刺激しないでよね。面倒なことになるから。
帝国兵A――た、大変です !12時の方向から魔物の大群がやってきます !
ヴァンγ慌てるな。砲撃の準備だ。蹴散らせ。
帝国兵A了解 !
ヴァンγ――どうした ?
帝国兵B敵襲 ! 敵襲です !
アニスよっしゃ、敵船侵入 !
イオン帝国の兵士たちはアッシュたちが引きつけてくれていますね。
ディスト当然です。彼らは神の使者たる薔薇のディスト様の露払いなのですからね。
アリエッタイオ……導師、ディスト、アニス。こっち !
イオンアリエッタ !
アリエッタヴァン総長、いた。この先の……艦橋、です。
ディストご苦労様ですね、アリエッタ。さあ、アッシュたちに連絡しましょう。
アニス待った ! 隠れて ! 艦橋から総長が出てくる !
三人! !
ヴァンγ魔物に気をとられて、船の接舷を許すとは愚か者が。
帝国兵B申し訳ありません !
アニス(総長が背中を向けた…… !)
アニスアリエッタ。魔物に頼んでシンクたちに連絡して。
アリエッタわかった……です。
アニスディスト、総長に突っ込んで。
ディストな、何を言っているのです。そういう役目は――
アニスええい、いいから行けーっ !
ディストぎゃーっ ! ?
ヴァンγ後ろからかっ ! ?
アニスアリエッタ ! イオン様 ! ヴァンを足止めするよ !
アリエッタ総長……ごめんなさい !
イオン行きましょう !

キャラクター5話【10-5 オールドラント領 海上2】
アニスちょっ、まだ起き上がれるの ! ?アリエッタ、シンクたちは ! ?
アリエッタわかんない……けど……ちゃんと呼びに行ってくれた筈だもん……。
アニスはぅあ !魔物の言葉、通じてないのかな。
アニスちょっと、ディストすごい音機関的なやつはどうなってんの ?
ディストヴァンを気絶させてくれないと無理ですね。
アニスはああ ! ?
イオンアニス、僕が何とかします !
アニス駄目です !イオン様はすぐ無茶するんだから、絶対駄目ですよ !
リグレットバーストレーザー !
ヴァンγ! ?
アッシュ紅蓮襲撃 !
二人そこだ ! /そこです !
二人ダアト式 ! 八卦硬衝 ! !
ヴァンγぐぅっ ! ?
ティア兄さんっ !
シンク……余計なことを。ボク一人で十分だった。
イオンそうですね、すみません。
リグレットティア、閣下は ?
ティア気絶しています。
ディストよろしい。ならばこの【タルロウC・ケイジ】の出番ですね。さあ、くらいなさい、ローレライ !
? ? ?ここは……一体……。
ディストやりましたよ !私の作った仮想クレーメルケイジにローレライを捕らえました。
アニス仮想クレーメルケイジ ? どういうこと ?
シンクローレライは、存在が不安定な精霊なんだよ。本来は精霊で無い物がエンコードされた存在だからね。
シンクローレライは音の精霊であり未来への指向性を強く持ち時の精霊に似た側面がある。
ディストそれ以外にも第一から第六の音素の性質が混在しています。つまり音素の精霊とも言える訳です。
ディスト様々な力が内包されているせいでローレライは誰かに寄生していないと存在が希薄になる。
ディストローレライを観測しやすくするために一時的にヴァンから切り離すための装置がこの仮想クレーメルケイジなのです。
アニスなるほど~、わからん。
アリエッタアリエッタも……わかんない……。
アッシュお前たちの頭はルーク並みか ?
リグレットわからなくていい。要するにローレライを一時的に閣下の外へ引きずり出すための装置だ。
アニスなるほど~、今度はわかった。
アッシュイオン、奴からヴァンの心核があった場所を聞き出してくれ。
イオンわかりました。
シンクこの場はイオンとティアとディストに任せるよ。残りは雑魚どもの掃討だ。
シンクそれと地図か海図があったら持ってきて。気になることがあるから。
帝国兵――では、ジェイド様とお弟子の皆さんはこちらの部屋でお待ち下さい。今から上司に報告してきます。
ジェイドありがとうございます。よろしくお願いしますね。
ナタリアまあ……いつの間にか大佐の弟子にされてしまいましたわ。
ガイさて、旦那――いや、聖人ジェイド様。こいつはどういうことなのか、説明してもらえるかい ?
ジェイドどういうつもりか、と言われましても。せっかく聖人ジェイドが厚い信頼を得ているのですからそれを利用した方がいいと考えたのですよ。
ジェイド聖人ジェイドが悪の権化の鏡士を改心させて帝国に協力するように説得して連れてきたと聞けば帝国側も無碍には出来ないでしょう。
ガイまあ、それで実際、こうして警備が厳重になって近寄れなかった領主の館にすんなり入れちまったからなあ……。
カーリャ・Nですが、罠ではないのでしょうか ?
ジェイド罠でも構わないんですよ。ピオニー陛下に会えればいいんですから。
ジェイドそれに、上層部はこちらを疑うでしょうが末端の兵士たちは市民と同じように聖人ジェイドの信奉者です。
ジェイドあまり心配しなくても大丈夫でしょう。
カーリャ・Nた、確かに……。
ガイこんなに簡単に事が運ぶなら他の領地でも……と思ったがそもそもダアトが特別なのか。
ジェイドええ。聖人ジェイドの存在があってこそ大胆な行動に出られるのです。
ジェイド皆さん、日頃の行いは大事ですよ ?常に隣人には優しく、家族や友人を大切にして愛をもって接しましょう。
ミュウ愛ですの !
ルークううう……じんましんが……っ !
イクスお、俺も、何か体中がかゆい……。
ナタリアまあ、二人ともさっきからどうしたのです ?いくら聖人のジェイドが不気味だからといってそこまで嫌がらなくても……。
ジェイドルークはともかく、イクスまで聖人ジェイドに拒否反応を示すとは、驚きましたね。
ジェイド以前は随分慕っていたではありませんか。私の振りをしていた光魔のことを。
イクスす、すみません……。長年ジェイドさんを見ている内にすっかり悪――手段を選ばないジェイドさんに慣れてしまって……。
イクスまあ、今回のも手段を選んでいないといえばそうですけど……。
ルークな ! ? あの時、俺が気持ち悪いって言ったのわかるだろ ! ?綺麗なジェイドを見てると、ぞわぞわするんだよ !
イクスああ、わかるよ、ルーク。すごくよくわかる。
ジェイドそうですか。もし、今この場にミリーナがいたら何と言ったでしょうねぇ。
イクス……え ?
ジェイド――なーんて。どうです ? かゆみは治まりましたか ?
イクス………………ジェイドさん。あの……どこまでご存じなんですか ?
ジェイドいえ。別に、何も。
二人……………………。
ナタリアどうしたんですの ?ミリーナに何かありましたの ?
ジェイドまあ、その話は置いておきましょうか。
ジェイドこちらに鏡士のイクスがいるのですから領主であるピオニーは、必ず何か動いてくる筈です。まずはあちらの出方を待ちましょう。
ルークお、おう…… ?
ルークでもさ、もしいきなり兵士が踏み込んできたらどうするつもりなんだ ?
ジェイドこの部屋の広さなら、兵士が取り囲んできてもたかが知れていますよ。まあ、兵士を一人人質にとって領主の元に案内してもらえばいいのでは ?
ガイ聖人が聞いて呆れるな……。

キャラクター6話【10-6 オールドラント領 海上3】
イオンローレライ、僕の声が聞こえますか ?あなたに聞きたいことがあるんです。
ローレライ導師か……。私に何を問う ?
イオンマルクト皇帝ピオニー・ウパラ・マルクト9世の心核のありかです。
ローレライそうか……。核のありかだな。今、そなたに見せよう……。
イオンこれは……地下神殿…… ?
ローレライだが、私の観測できる未来ではすでにこの場所に核はない。核は地下水脈に乗って運ばれる。
イオンえ ! ? それは預言でしょうか。
ローレライ否。私の観測できる範囲の確定せぬ未来の一つ。これまでも、そなたに見せてきた可能性の未来だ。
ローレライこの星は造られた星。星ならざる星。私とは違う理にある。
イオンそれは僕たちが未来を変えられる――ということですね。
ローレライだが、気を付けよ。クロノスによって、私の力が暴走する。未来を確定させ、強引に招こうとする力がある。
イオンそれは一体どういうことです。
ローレライこの世界に上書きしようとしているもう一つの世界――あれは呪われた星だ。時が歪められている。クロノスを鎮めねばならぬ。
ローレライ分かたれたクロノスを集めよ。
ローレライ……ユリアの縁者が目覚める。私はまた彼の者の中に沈む。
ローレライそうすることでこの世界への干渉を抑えられるだろう。導師よ、また会おう。
ヴァン……く……。
ティア兄さん !
ディストヴァンが目覚めましたか。導師イオン、仮想クレーメルケイジは効果を失ったのですね。
イオンええ。この装置はヴァンが覚醒状態では作用しないんですね。
ディストその通りです。ヴァンはローレライを内包した状態で具現化しました。切り離すことはできません。
ディストヴァンが心核を失っていた間、ローレライはあなたの存在を宿り木にすることで存在を安定させようとしていたんですよ。
ディストですが、ヴァンが目覚めれば話は違う。今まであなたが不規則に見せられていた未来も今後は違う形で訪れるでしょうね。
ヴァン……そうか。そういうことか。
二人
ヴァンティア、世話を掛けたな。
ティア兄さん…… ! 本当に……兄さんなの ?
ディストリビングドールγのことならもう大丈夫ですよ。仮想クレーメルケイジに入れたことで、ローレライはこの世界の精霊として、一時的に安定した。
ディストローレライが安定すればその力によってヴァンの暗示も解ける。こうなることは全て計算済みです。
イオンさすがディストですね。
ディスト当然ですよ。
ティア兄さん……。だったら、今の状況はわかるの ?
ヴァン私はローレライの記憶も内包している。忌々しいことだが、今は奴の記憶が助けになっている。
ヴァン私に何が行われたか、どうしてここにいるのか全てははっきりしている。
ヴァンティア、アッシュたちを呼びなさい。
ティアえ ? でも、どうして……。
ヴァンどうやら、この絵を描いたのは死霊使い殿のようだ。ならば……礼をせねばなるまい。
ヴァン――ディスト。預言に呪われた地での離反は水に流そう。今回は良くやってくれた。
ディスト私は私の目的のためにローレライの性質を掴みたかっただけですよ。
ヴァン知っている。貴様がこの地で何をしてきたかもローレライが見聞きした範囲で、全てな。
ディスト
ヴァン私に従え、ネイス博士。そうすれば、ローレライの観測も容易くなるぞ。
ディスト……いいでしょう。
ヴァン導師イオン。帝国はピオニー9世の心核を運ぶため別働隊を動かしている。
ヴァンあなたがローレライから教えられた場所と私が知っている作戦を付き合わせたいのだが構わないだろうか。
イオンもちろんです。
アニスはぅあ ! ヴァン総長……ホントに目が覚めてる !
ヴァンアニスか。まさかお前に助けられるとはな。アリエッタとリグレットが世話になった。
アリエッタ総長 ! 総長、元気になったの ! ?
ヴァンアリエッタ……。つらい思いをさせてしまったな。
アリエッタ総長、力を貸して。アリエッタ……イオン様の仇をとる、です !
ヴァン無論だ。私に任せておけ。
シンク相変わらずだね、アンタは。
ヴァンシンク、良くやってくれた。お前こそ、相変わらず見事な働きぶりだ。
アッシュ……ヴァン……。
ヴァンアッシュ、いい子だ。
アッシュこ、子供扱いするなっ !
ヴァンフフ、そうだったな。助かったぞ。感謝する。
アッシュ………………。
リグレット閣下、ご命令を。
ヴァン船をダアトの南に向けよ。これより、マルクト帝国ピオニー9世の心核を奪還する !

キャラクター7話【10-7 オールドラント領 地下】
シンクこれ、帝国の船で見つけた地図だ。ローレライからイオンが聞いた地下神殿と水脈の位置が重なってる。
ヴァンふむ。これは領都のすぐ脇を通っているな。ダアトの中で、地下水道と繋がっているのだろう。
リグレットやはり、閣下の見立て通り敵はこの進路で心核を運ぶと考えて間違いないかと。
ディスト出発地点は間違いないのですか ?そこがずれていたら、全ての計算が狂います。
ヴァン導師の話と私が持つローレライの記憶は合致している。この水路を遡った地下神殿に心核はあった筈だ。
アリエッタ総長、お友達から連絡が来たよ。誰か来るって。いっぱい。えっと……八人。
アッシュ当たりだな。どうする。ルークに連絡するか ?
シンクいや、待て。確実に心核を入手するまで余計な報告をしない方がいい。
ティア……すごい。
ヴァンどうした ? ティア。
ティアあ……。ううん。兄さんと六神将がそうやって作戦行動をしているのを初めてちゃんと見たから……。
ヴァン元の世界では敵対していたからな。
アニスさすが、私のヴァンお兄ちゃん !私、やっぱりお兄ちゃんが好き !……みたいな~ ?
ティアな ! ?
アニスわかる~、わかるな~。普段と違う一面を見るとこうキュンってなるんだよねぇ。
イオンアニスもそうですよね。いつもはニコニコしてますけど時々ドスのきいた声で敵を威嚇してくれます。
アニスそ、それは違いますっ !
ティアわ、私も違うわよ !
リグレット違うのか、ティア ?
ティア教官 ! ?
ヴァン……フ。違うのならば残念だな、ティア。
ティア兄さん ! あ、違わないの ! あ、違うわ。アニスが言ってることが違うだけで私は兄さんのことが嫌いなわけじゃ……。
アッシュ何を慌ててるんだ、貴様は。
ティアあ、慌ててなんていないわ。
シンク良かったね、ヴァン。導師とアニスはともかく六神将とティアがいるのはアンタが望んだ『最期』の光景だろ。
ヴァンこの地においては、もはや潰えた夢だ。それに、ここにはラルゴがいない。
アリエッタ……お友達から、連絡。あと曲がり角二つのところまで来てる。
シンクさあ、馬鹿馬鹿しい馴れ合いは切り上げてくれる ?計画の総仕上げだ。
ヴァンティア、支援を頼む。お前にはすでに十分な力があるはずだ。
ティア――はい、兄さん !
ヴァンリグレット、アッシュとアリエッタを連れて後方から挟撃準備だ。一人も逃がすなよ。
リグレットお任せ下さい。アッシュ、アリエッタ、行くぞ。
アッシュ……ヴァン、あんたは病み上がりみたいなもんだ。無理はするなよ。
ヴァンフ……。ここにはお前がいるのだ。私が本気を出すまでもなかろう。違うか ?
アッシュ……当然だ。
アリエッタ待っててね、総長。いっぱい敵……倒してくるから。
ヴァンディスト。お前は我々の頭脳であり切り札だ。前線を任せるのは厳しいかも知れないが――やってくれるな。
ディストま、まあ、今はコマとなる雑兵もいませんからね。特別に戦ってあげましょう。
ヴァン導師、無理はしないように。アニス、導師守護役として存分に働け。期待している。
アニスはぅあ ! これか……これにみんなやられるのか……。人たらしだわ……。
イオンふふ、そうですね。ヴァンは相変わらずです。
ヴァンシンク、指揮は任せたぞ。お前の分析が一番信頼できる。できるな ?
シンク……ホント、アニスじゃないけどさ。アンタのそういうところだよ。ボクが嫌いなのは。
シンクさあ、位置に付いて ! さっさと終わらせるよ !
ピオニーβ聖人ジェイド殿とその弟子、か。
ルークピオニー陛下……。
ピオニーβ……この体の知り合いか。なるほど、ではやはり貴様たちは鏡映点で銀髪の鏡士はイクス・ネーヴェだな。
ピオニーβどういうつもりだ ? 何故のこのこと現れた。
ジェイドおや、話が伝わっていなかったようですね。この聖人ジェイドが、悪辣な鏡士たちを説得し帝国に忠誠を尽くすよう導いたのです。
ピオニーβそんな戯言を信じるとでも思ったか ?
ジェイドでも、あなたはこの部屋に入ってきた。あわよくばイクス・ネーヴェを捕らえるなり、彼の魔鏡を手に入れるなりできる……と考えたのでしょう ?
ピオニーβ私を捕まえたところで【ルグの槍】は止められないぞ。
ジェイドええ、知っています。それどころか、恐らく【ルグの槍】の発動は、【贄の紋章】を刻まれた人間がどこにいようと関係が無いのでしょう。
ジェイドだから、領主たちが次々と我々に連れ去られても帝国はさして気にとめていなかった。
ピオニーβそうだ。領主たちに心核を戻させないよう尽力していたのは、時間稼ぎに過ぎない。この体が欲しいのならくれてやるぞ ?
ジェイドおや、いいのですか ?我々はフリーセルと手を結んでいるのですよ ?
全員! ?
ピオニーβな……んだと…… ?
ジェイドもっとお話をしたいのですが人払いをお願いできませんか。
ルーク……いってぇ……。まさか、これ……。
ガイルーク ! どうした ? あ、もしかして……。
ルークああ、アッシュだ……。……――え ?
帝国兵 ?領主様 ! 心核の輸送隊が襲われました !
ピオニーβやはり来たか。大方そんなところだろうと思っていた。だが、こちらも準備をしていた。聖人ジェイド、お前たちは袋のネズミだ。
ピオニーβこの部屋には――
帝国兵 ?――この部屋に仕掛けていた魔鏡陣ならとっくに無効化してあるよ。
シンクおい、死霊使い。全ては手筈通りだ。これで文句はないだろうな。
ジェイド結構。では、皆さん、ピオニーを捕まえましょうか。
カーリャ・Nえ ? な、何が起こったんですか ! ?
ナタリア何でシンクがこんなところにいますの ! ?
ルークあ、それはアッシュだよ。さっき連絡が来たんだ。アッシュがシンクたちに協力を頼んで心核を取り戻して――
ジェイド話は後です。さあ、日頃の恨み――いえいえ、友情のために、非常に心苦しいのですがピオニーを痛めつけましょう ♪
イクスな、なんか、綺麗なジェイドさんと戦ったときのルークみたいだな……。ていうか、相手は皇帝陛下で幼なじみなんですよね ! ? いいんですか ! ?
ガイまあ……何というかジェイドの気持ちもわからなくはない。
ガイ俺もこの際だから、元の世界での『復讐』と『恩返し』をさせてもらうとするか。
ルークはは……。ごめん、陛下 !

キャラクター8話【10-8 オールドラント領 領主の館】
シンク終わったみたいだね。はい、これ。
イクスこれ、ピオニーさんの心核 ! ?
シンク多分ね。確認できないから知らないけど。
ジェイドまあ、何でもいいですからとりあえず入れてしまって下さい。
イクスそんな ! ? ジェイドさん、雑すぎませんか ! ?
ジェイドいえ、自分の作戦に自信があるだけです。それはピオニーの心核ですよ。まあ、別人でも面白いですが……。
カーリャ・Nジェイド様……。聖人のままでいてくれた方が……。いえ、アレはアレでやはりちょっと……。
イクス……わかりました。とりあえず戻しますよ。
シンク心核を戻したら脱出だ。皇帝は――
ガイ俺とイクスで運ぼう。どうせジェイドはやらないだろうからな。
ジェイド私がそんなに薄情な人間だとでも思っているのですか ?
ガイいやいや、意外と情には厚いが肉体労働が嫌いなだけだよな。知ってるよ。
ナタリアそうですわよね。今回、なんだかんだ言って大佐にしてはかなり積極的に動いていましたもの。
ルークここを出たら、そもそも何がどうなってたのかちゃんと教えてくれよ、ジェイド。
ルーク……つまり、全部六神将組にやらせる手筈だったってことか ?
ジェイドいやですね、人聞きの悪い。適材適所ですよ。こちらはワルターからの情報でヴァンの行方を追っていた。
ジェイド同時にリグレットたちもヴァンの行方を追っていた。手を組めると考えるのは当然でしょう。
アッシュほとんどの仕事をこちらに押しつけておいて何だ、その言い種は。
ナタリアアッシュ ! ご無事で何よりですわ。大佐の話では、何もかもそちらにお任せだったようで……申し訳ないですわ。
アッシュいや、お前の方は戦わなくて済んでよかった。
ナタリアあら ? 私、ピオニー陛下と戦いましたわよ ?
アッシュな……、話が違うぞ、死霊使い !
シンクこいつを信じるアンタが馬鹿なんじゃない、アッシュ。
イクスすみません、話を戻しますけど、ジェイドさんは結局どこまで状況を把握していたんですか ?フリーセルと繋がっているって話も……。
ジェイドそうですね……。わからなかったのはピオニー陛下の心核のありかだけです。
ジェイドただ、それに関しては、ヴァンもしくはヴァンの中のローレライが知っているのは予想できましたからね。
ジェイドですから、リグレットたちにまずヴァンを取り戻すよう焚きつけました。
アッシュ俺たちは、ヴァンがピオニー9世の回収に動くという情報を仕入れた。それをジェイドに知らせたところジェイドはピオニー9世を足止めすると言ってきた。
ジェイド帝国がピオニー陛下の心核を回収することは予測できました。ただ、タイミングまではわからない。
ジェイドヴァンにやらせるのか、別働隊が行くのかピオニー陛下自身に行かせるのか。
ジェイドただ、ピオニー陛下を領主の館に置いておけば最終的には心核もピオニーかヴァンに届けられると考えました。
ジェイドあとは……そうですね。ヴァン謡将のような方なら私に助けられたと察知すれば義理を果たしてくれるとも考えましたね。
ガイ相変わらずとんでもない先読みの仕方をするなジェイドは。
イクスでも、フリーセルの件は……。
ジェイドあれは、でまかせです。
五人! ?
ジェイドさっき少し話しましたが、帝国は本来、我々に領主を奪われても痛くもかゆくもない。それが、最近になって領主たちを帝都に集めて保護するようになった。
ジェイド何か状況が変わったのでしょうね。ユーリたちの話では、フリーセルらしき男が心核のある遺跡に姿を見せていた。
ジェイド何か繋がりがあるかもと思い、あそこで足止めもかねてカマをかけてみたんですよ。
カーリャ・Nなるほど……。
ルークつーか、だったら最初からわざとピオニー陛下に捕まって時間稼ぎするって言っといてくれよ !
ナタリアそうですわ ! そうしたらもっと上手く立ち回れたかも知れませんのに。
ガイ……まあ、ルークとナタリアなら、何も知らせない方が都合がいいと思ったんだな、旦那は。で、ついでに俺やイクスたちにも隠すことにした、と。
ルーク何でだよ !
ガイそりゃお前、嘘が下手だからだよ。
ピオニー……うう……。
ナタリアまあ、陛下が目を覚ましましたわ。大丈夫ですか ? どこかお怪我は……。
ピオニーナタリア……王女…… ?
ナタリアええ、そうですわ。どうやら、あの心核はピオニー陛下の物で間違いなかったようですわね。
ピオニー……綺麗だ。
ナタリアえ ?
ピオニーナタリア王女、成人したら結婚しよう。ピオくん……と呼んでほしい、さあ……。俺の耳元で !
アッシュジェイド ! 何なんだこいつは ! ?
ジェイド……目が覚めるなりこれですか。
ピオニー……なんだ、いたのか。可愛くない方。
ジェイドピオくん ♪ 元気を出して下さい ♪
ピオニーきも……。ああ……死ぬ。あまりの気持ち悪さに俺は今にも死にそうだー。ナタリア王女俺を抱きしめてこの世に引き止めてくれないか。
アッシュナタリア、離れろ ! ガイ、止めろ !
ガイ陛下。そういう嫌がらせをやるようになったら人間終わりです。
ピオニーガイ……。そんな冷たいこと言うなよ。マジで体が動かないんだって。
ジェイド口は回るようですね。うるさいので心核を抜きましょう。
イクスルーク、あれが皇帝陛下…… ? 本当に ?
ルークははは……。だってジェイドの幼なじみで親友だぞ。
カーリャ・Nそうですね。ジェイド様の親友がまともな訳がありませんね……。

キャラクター9話【10-9 オールドラント領 浜辺2】
ティア……兄さん。これからどうするの ?
ヴァンさて……どうするか。
ティアアスガルド帝国のやろうとしていることは……。
ヴァン……私と同じ、か ?
ティア……違う。違うことはわかっているの。でも、起こそうとしている事象は同じよね。
ヴァンまあ、我々のやろうとしてきたことを利用されてはいるのだろうな。
ティア兄さん……私、兄さんと戦いたい訳じゃなかった。未来は変えられるって兄さんに伝えたかった。
ヴァンいや、変えられない。変わらないと、私は知っているのだよメシュティアリカ。
ティア……ルークは預言に詠まれていない存在よ。枝葉が違えば――少しずつ変えていけば大きなうねりだって変えられる。
ヴァン……メシュティアリカ。すまなかったな。私はお前を傷つけることしかできなかった。
ルークヴァン師匠 !
ヴァンルークか。ティアを頼むぞ。
ルーク待ってくれよ、師匠 !
ヴァン何を話すことがある ?
ルークあるよ ! 沢山ある !あなたになくても、俺には沢山あるんだ !
アニスルーク……。
アニスヴァン総長 !逃げないで、ちゃんとルークと向き合ってよ !
ヴァン………………。
アニスルークを作ったのは総長でしょ !ルークの話、ちゃんと聞いてよ !
ティア兄さん !
ヴァン……ルーク。
ルーク師匠、俺……俺は……生きてる。ちゃんと生きてる。レプリカだけど……ちゃんと人間だ。
ヴァン……私に認めて欲しいのか ?
ルーク
ルーク……そうだよ。ずっとそうだったよ !俺には師匠しかいなかったから……。そう思い込んでたから。
ルークずっとアッシュが羨ましくて……俺だって……俺だってって。けど、もう……それはいい。
ルークこの世界に来て、記憶や感情だって他人に振り回されてる仲間がそれでも必死に立ち上がってくるのを見た。
ルークだから、俺も思ったんだ。俺が俺であるためには他人の物差しで生きてちゃだめなんだって。
ヴァンならば、私に言うべき言葉は一つだけだろう。
ルークそれは……。
ヴァンためらいや迷いがあるならお前はまだ何もわかっていない。
ルークためらうよ ! ヴァン師匠は俺の師匠で……。
アッシュおい、ヴァン。お前こそ、言うべき言葉がある筈だ。
ルークアッシュ…… ?
ヴァン――ルーク。剣を抜け。
ティア兄さん ! ?
ヴァン最後の稽古を付けてやろう。証明して見せろ、お前が自分を単なる模造品ではないと言うのならな。
ルークああ――やってやるっ !

キャラクター10話【10-10 オールドラント領 浜辺3】
ルーク……か、勝った、のか ?
ヴァン……フ、二度もお前に負けるとはな、ルーク。見事だ……。
ヴァン……ウッ……。
リグレット閣下 !
ヴァン……大丈夫だ。
ヴァンルーク、私を憎めないのは、お前の甘さだ。だが……それがお前という存在の強さなのだろうな。
ルーク師匠…… !
ヴァン何故、まだ私を師と呼ぶのだ。それはお前の望みではないだろう。お前は私と決別するために来たのではないのか ?
ルークそうです……。
ヴァンならば、告げよ。
ルークヴァン師匠……。さよう……なら……。
ヴァン……さらばだ、ルーク。
ヴァン次の機会には、お前の師のヴァンではなく同志たちを守る騎士ヴァンデスデルカとしてまみえよう。
ルーク……はい、師匠。
ヴァンまだ言うか、愚か者が。
ヴァン……ガイラルディア様。そろそろ姿をお見せになってはいかがですか ?
ガイ……おっと、気付かれてたか。
ルークガイ ! ?な、何だよ ! 付いてくるなって言ったじゃん !
ガイいや、まあ、色々と気になっちまってな。悪かったよ。
ガイヴァン――いやヴァンデスデルカ。お前が騎士としての本分に立ち戻るのなら俺たちももう一度やり直せるよな。
ガイこの世界じゃ、ホドの生き残りはお前とティアだけだ。
ヴァン……今はまだお約束はできかねます。私はまだ、この世界で何をなすか見つけられてはいない。
ヴァン何より、私はあなたたちの仇だ。
ガイそうさ。お前は俺たちの敵で仇だ。罪のない沢山の命を刈り取ってきた。
ガイだが、互いに許し合えなくても、理解が及ばなくても同じ方向を向くことはできるんじゃないのか ?
ガイ何より、お前は俺の幼なじみだしな。だから、待つよ。
ヴァンガイラルディア様……。あなたという人は……。
リグレット……閣下、そろそろ行きましょう。お体に障ります。
ガイ――リグレット、ジェイドから伝言だ。ナーザたちに連絡を寄越せとよ。
リグレット承知した。――シンク、行くぞ。
シンクボク、一応救世軍所属なんだけど。
ヴァンシンク、戻って構わんぞ。
シンク……ビフレストの連中のところまでは付き合う。その後でケリュケイオンに戻るけどね。
アニスおおおおお……なんか、こう、盛り上がってた~ !海辺で仇敵との熱い会話か~ !
アッシュ見世物じゃねぇんだぞ。それに、お前もヴァンに叫んでたじゃねぇか。
アニスいやいや、あれは、こうその場のノリっていうか。でも、いいものを見せてもらいましたー !
イオンアニス……。そういうところジェイドに影響されていませんか ?
アニスぶーぶー ! 心外ですぅ !
ティアガイ……ありがとう。兄さんに歩み寄ってくれて。
ガイ最初に歩み寄ったのは、あっちだぜ。
ティアえ ?
ガイヴァンの奴、ルークに歩み寄ってただろ。
ティアええ……。そうね。
ルーク……うん。屋敷にいた頃みたいな嘘……じゃないよな ?俺を利用するための、さ。
ティアええ、きっと……。
ルーク……なんか、ガイもティアもいいな。ヴァン師匠と繋がりがあって。
ルーク俺も師匠と幼なじみだったら良かったな。それか師匠の弟とか……。
ガイ……お前のヴァン贔屓も大概だなぁ。
ルークだって……やっぱ、師匠だからさ。
アッシュ……言っておくが、てめえだけの師匠じゃねぇからな。
ルークな、なんだよ ! お前こそ、六神将だからって師匠と一緒に行動してズルいぞ !
アニスルーク、ヴァン総長と決別したんじゃなかったの~ ?
イオンそうですよ。師と弟子の関係にこだわるのではなく一人の戦士としてヴァンの横に立つというのもいいじゃないですか。
ルークおお、そうだよな ! そっちのがカッケーよな ! ?
アッシュ馬鹿が……。下らんことを言ってないでさっさとアジトに引き上げるぞ。
ルークお、余裕じゃん。今頃ナタリアがピオニー陛下に口説かれてるかも知れないのに。
アッシュ! !
ガイまったく、お前ら、本当に子供だなあ……。
イクス……ジェイドさん。あの、ミリーナのことですけど。
ジェイドああ、いえ、説明は結構。
イクスあ……はい……。
ジェイドまあ、ミリーナは今まで通りに振る舞っていますが――
イクス俺も、そうしていたつもりなんですけど……。
ジェイドああ、違います。周りは気付いていないと思いますよ。あなたもミリーナも、今まで通りに振る舞えています。
ジェイド二人がそうしようと思ったのなら私が口出しすることではありません。
ジェイドただ、ミリーナもあなたも、今より少しだけ一人になれる時間を作ってはどうかと思いましてね。
イクスえ ?
ジェイドミリーナも一人で泣きたい時もあるでしょう。あなたも、ミリーナに気を使いすぎる必要はない。
ジェイドまあ、恋愛というのは脳の錯覚ですから深く考えすぎないことです。
イクスはは……。
ナタリア大佐 ! イクス ! ピオニー陛下を何とかして下さい !
ジェイドおや、呼ばれてしまいました。まあ、そういうことです。
イクスはい……ありがとうございます。
to be continued
キャラクター1話【11-1 ミッドガンド領 領主の館1】
アルトリウス集まったな。では、互いの報告を始めよう。
チトセちょっと待って。この通信の内容は本当にあいつらにはバレていないのね ?
ロミー心外ね。傍聴対策ならとっくに済ませてるわ。だから、ここで話したことが帝国に流れるようなことはないから安心しなさい。
チトセ……そう。だったらいいわ。
ロミー用心深いのね。まぁ、それくらいのほうが手を組む価値があるんだけど。
アルトリウスチトセ。当然だが現段階で我々の計画をデミトリアスに悟られるわけにはいかない。君も今後の行動には十分気を付けてくれ。
チトセ大丈夫。そんなヘマはしないわ。むしろ、帝国は私たちなんかより、今は他の領内のトラブルに追われているみたいだし。
アルトリウスオールドラント領のことか。領主と従騎士を心核と共に奪われたようだな。
チトセそのせいなのかリビングドールにされている領主たちは帝都で保護することになったみたいね。マティウスさまも今は帝都にいる……。
ロミー黒衣の鏡士たちも本格的に領主たちの奪還に踏み切っているのかしら ?そんなことをしても無駄なのにね。
チトセ無駄…… ?
ロミーこっちの話よ。それより、あなたが帝国に頼まれているっていうクロノスの分霊集めはどんな感じなのかしら ?
チトセそうね、回収した分霊は帝国に全部管理されないよう量は誤魔化してるけど、集めているのは私だけじゃないから、それなりに進んでいると思うわ。
ロミーだったら、こっちも急いだほうがいいわね。アルトリウス、あなたが管理していたあいつの状態は、どんな感じ ?
アルトリウス計画はおおむね順調だ。やはり、元々の素質があったのだろうな。
ロミーなら、私もそろそろ動くことにするわ。丁度、ルキウスの身体も回復してきたことだし。
ロミーチトセ。あなたは引き続き帝国の監視と鏡士たちの捜索をお願いするわ。
チトセわかったわ。何かあればあなたたちにも連絡する。……もういいかしら ?
アルトリウスああ、ご苦労だった。
チトセ……全てマティウスさまの為よ。
ロミーどこまでも忠実な犬ね。そんなにマティウスってやつが大事なのかしら ?
アルトリウスそれが心核を戻された理由の一つだろう。少なくとも表向きには逆らわないと判断された。特異鏡映点亜種は利用価値も高い。
ロミーマティウスのリビングドール化を解除するために帝国に従っている振りをしているってことよね。
ロミーまぁ、そんな見え透いた嘘はグラスティンあたりにバレているでしょうけど……。
ロミーそれにしても、その大事なご主人様もルグの槍の犠牲者になるなんて知ったらあの子、どんな顔をするのかしら ?
アルトリウス帝国も情報操作を上手くやっているようだ。彼女の場合は、それで正解なのかもしれん。
アルトリウスだが、知らぬ間は我々も彼女を利用することができる。
ロミーお気楽なものよね。あなたやエルレインのような先に具現化された人たちは、贄の紋章がつけられていないんだから。
アルトリウスその割には、同じように贄の紋章をつけられたお前には焦りがないようだが ?
ロミー言ったでしょう ? 私たちの計画が上手くいけばデミトリアスもルグの槍を発動させるどころじゃなくなるわ。
ロミーそうすれば、結果的にあのチトセって子も大好きなマティウス様を助けられていいじゃない。
ロミーまぁ、そのあとのことは私も保証する気はないけどね。
アルトリウスいずれは彼女たちの処遇も考えるつもりだ。他の領主たちのことも含めてな。
ロミーあなたの作る理想郷には興味ないわ。私はただ、自分の目的が果たせればそれでいいのよ。
アルトリウス……私も理解して貰おうとは思っていない。
ロミーその辺はお互い様ってところね。まあいいわ。それじゃあ、話の続きは直接会ってからにしましょう。
アルトリウスああ、承知した。
アルトリウス……いよいよだな。
アルトリウス伝令。至急、テレサにこちらへ来るよう伝えろ。
伝令兵βはっ !
テレサアルトリウス様、お呼びでしょうか ?
アルトリウステレサよ。お前にはこれからグリンウッド領の領主の館へ向かってもらいたい。
テレサグリンウッド領ですか ?それに、領主の館ということは……。
アルトリウスああ。ヘルダルフに関することだ。オスカーからの報告によると、私の呪いによって随分と身体に負荷がかかっているらしい。
テレサそれは……自業自得ではないでしょうか。彼はデミトリアス帝に謀反を起こしただけでなくアルトリウス様まで屠ろうと企てていた人物です。
アルトリウスだが、今あの男を失うわけにはいかない。そこで、お前にはこの魔導器を使って延命措置を施してきてほしいのだ。
テレサこれは確か、ヘルメス式魔導器と呼ばれるものですね。
アルトリウスこれを奴の心核に繋げば、穢れによる身体の負荷も軽減することができるはずだ。
アルトリウスそれと、もうひとつ。念のため、お前にはこれも渡しておこう。
テレサこれは、心核ですか ?
アルトリウスああ、グリンウッド領の従騎士のものだ。
テレサ! ? な、なぜアルトリウス様がこのようなものを…… ?
アルトリウス予定よりルグの槍の発動が早まった際の保険だ。いずれは心核を持ち出したことが知られるかもしれんが今はまだ、疑われている様子もない。
アルトリウスそれでも、我々の行動を帝国に勘付かれてお前が狙われる可能性もゼロではない。いざとなれば、脅しの材料として使え。
テレサ畏まりました。私の為にそこまでご配慮していただき感謝いたします。
アルトリウスああ。よい報告を待っているぞ、テレサ。

キャラクター2話【11-2 仮想鏡界】
バルド――時間ですね。ナーザ様、いかが致しましょう ?
ナーザ仕方ない。我々だけで先に始めよう。
ディスト全く、新参者だというのに早々に遅刻とは態度がなっていませんね。
コーキスおかしいな……。シグレ様にはちゃんと時間も伝えたはずなんだけど……。
アステルあはは。もしかしたら、どこかのリゾート地で遊んで忘れちゃってるのもしれないね。
リヒターお前じゃないんだぞ……。それに、ああいう奴だ。気が向けば来るしそうでなければ来ないだけだろう。
ナーザそうだな。しかし貴重な戦力であることには違いない。実際、コーキスと共に、監獄島で開発されていたリビングドールγの装置の破壊に尽力してくれた。
アステルそれだけじゃないよ。持って帰ってきてくれた資料のおかげで、リビングドールγの仕組みについて詳しく知ることができたからね。
ディスト当然、この私の知識があってこそ解読に成功したのですがね !はーはっはっはっ !
ナーザコーキス、今回の会議の内容はあとでお前が共有しておけ。
コーキスりょ、了解 !
ジュニア……すみません。僕のせいで魔鏡通信が使えないから……。
マークⅡそれは仕方ねえだろ。仮想鏡界への通信を遮断しておかねえと、お前が操られる可能性があるんだからよ。
メルクリアマークの言う通りじゃ、ジュニア。お主をこれ以上、グラスティンの好きにはさせん。お主のことは、わらわたちが守るのじゃ。
ジュニアメルクリア……うん、ありがとう。
メルクリア礼などいらぬ。当然のことをしているまでじゃ。わらわは……それが当然であることを知らなかった。知ったからには、なすべきことをなすだけじゃ。
メルクリアそれにしてもジュニアの件といいグラスティンの行動は目に余る。何故義父上はあのような者を重用するのじゃ……。
コーキス何かアレだろ。友達なんだろ ? あの二人。ジェイド様とディスト様みたいな。
ディスト私とジェイドをあの二人と一緒にしないで下さい !我々は金の貴公子銀の貴公子と――
リヒター魔鏡工学を研究していたんだったな、デミトリアスは。それでグラスティンやフィリップと出会った。
バルドデミトリアス帝は、自分の生い立ちから魔鏡工学を研究する道に入ったのでしょう。
アステルデミトリアス陛下の子供の頃のカルテに目を通したよ。生まれつき体が弱かったせいで、鏡精を殺して得たエネルギーを使った魔鏡機器で命を繋いできたって。
バルドセールンドはエネルギーシステムとしても王家の嫡男の命を繋ぐという意味でも鏡精に依存していた。
メルクリアわからぬ……。わらわの知る義父上……いや、デミトリアスならば、自分が鏡精によって生かされていたからこそを重く受け止める筈じゃ。
メルクリアまして、グラスティンのような男を重用するなど……。
ナーザ上に立つ者なれば時に非道な者の力を借りることもあろう。それは俺とて同じだ。しかし必ずどこかで線引きする。
ナーザだがデミトリアスは違う。無計画に禁忌の技術を使い邪悪な技術を使うということに対して覚悟というものが感じられない。
ナーザだからこそ毒なのだが……一国の王子として育てられながら、何故だ…… ?
リグレット私はデミトリアス帝とやらのことはよく知らないがこれまでの話を先入観なく聞いていると見えてくるものはある。
ナーザお前にはどう見えている ?
リグレット市井の人、とでも言えばいいだろうか。とにかく私が話を聞く限り、デミトリアス帝とやらはごく『普通』の人間のように見える。
ジュニア普通ってことはないと思うけど……。セールンドの王様でアスガルド帝国の皇帝なんだし。
コーキスそうだよ。リビングドールとか色々酷いこともやってるんだぞ。
リグレットしかし、リビングドールはそもそもメルクリアやビフレストの人間が持ち込んだ技術なのだろう ?酷いのはお前たちビフレストの方ではないのか ?
メルクリアそ、それは……その通りじゃ……。
リグレット別に罪を糾弾したくて言っているのではない。私も世界を滅ぼす側にいた人間だ。この世界ではそうする必要がないというだけでな。
リグレットそれに計画を承認したデミトリアス帝に非があることは間違いないだろう。
ナーザリグレット。お前は何をもってデミトリアスが『普通』だというのだ ?
リグレット貴公が自分で言っていたではないか。覚悟がない、と。帝王学を学んだ人間とは思いがたい。近視眼的だと言い換えてもいい。
バルド視野の狭さ……ですか。
リグレット私にはお前たちのようにデミトリアス帝の知識がない。だからあの者の行動だけを追いかけてみた。
リグレットイクスたちに親切であったかと思えばファントムとやらに同情する。メルクリアを庇護しスジの悪い学友を側近にする。
リグレットそのくせ、どれも困難に直面すると切り捨てる。支配階級の人間だから行動が読めないと思ってしまうが村のよき隣人と思えば、そういう人間もいると気付く。
ディスト凡人、ということですか。
ディスト隣の家の子供たちに親切にし、村の不幸には心を痛めなんとかしようと心を砕くが、遠くで起きている不幸には「ああ、可哀想に」と言うだけ。
リグレットそうだ。目に見える範囲の不幸には心を砕く。本気で案じ、助けようとする。
リグレットしかしそれは破綻する。何故ならデミトリアスは支配者の立場にあるからだ。
リヒター……世界と救済を秤に掛けたとき救いたかった者は救えなくなる。だから切り捨てる、ということか。
リグレット捨てられた子犬を拾ったが、途中で飼いきれなくなって捨てに行くようなものだ。そういう人間だから行動がちぐはぐに見えるのではないか。
リグレット私も凡人だ。デミトリアス帝の行動は弟が生きていた頃の……かつての自分が取りそうなものだと思えた。
ヴァン……興味深い話をしているな。
リグレット閣下 ! もう起きて大丈夫なのですか ?
ヴァン大事ない。疑似心核を入れられていた者とは違う。
アリエッタリグレット、ごめんなさい。総長にちゃんと寝ててって言ったんだけど……。
ヴァン凡夫ほど厄介な者はない。奴らは感情で動く。善意に勝る悪意はないぞ。
ナーザヴァン……。随分顔色がよくなったな。リグレットたちがお前を連れてきたときは回復するのに時間がかかるように思えたが……。
ナーザどうだ、考えは決まったか ?
ヴァン調べたいことがある。それは恐らく貴公らの目的に合致するだろう。
ナーザつまり目的が一致する限りは助力を得られると考えていいのだな。
ヴァンああ。暫し、貴公らと共に歩ませてもらおう。
ナーザリグレットたちはどうする ?
リグレット私には、閣下の考えていることがわかります。調査の結果が出るまでは、閣下と共にあるつもりです。
リグレットそれにアリエッタの生きる場所を作ってやらねばなりません。
アリエッタ何 ? 帝国と戦うんじゃない……ですか ?
ヴァンああ、戦うことになるだろう。アリエッタの敵討ちにも力を貸す。安心しなさい。
ヴァンそれと、ディスト。お前は引き続き、私に力を貸さざるを得ないだろう。
ディストローレライ、ですか。
ヴァンそれにクロノスも、だ。
ディスト結構。実に楽しみです。
コーキスへ ? ヴァン様、何をするつもりなんだ ?
ヴァンコーキスだったか。何、精霊の調査だ。お前たちのやってきたことと大差なかろう ?むしろ先を行く者として、我らに指導して欲しい。
コーキスえ ! ? そ、そんな……指導なんて……。
ヴァンフ……謙遜することはない。よろしく頼むぞ。
コーキスは、はい、ヴァン様 !
マークⅡ……チョロいな、コーキスは。
バルドフフ……中々油断のならない方のようですね。
ナーザ鏡映点というのは多かれ少なかれそういうものだろう。
ナーザさて、ヴァンの動向が決まったのならそろそろ黒衣の鏡士共の呼びかけに応じてやるか。
リグレットそうしてくれると私も肩の荷が下りる。連絡を寄越すようにと伝言を頼まれていたからな。
メルクリア黒衣の鏡士に……。
バルドでは、私が伝令役を引き受けましょう。
メルクリアま、待つのじゃ !アジトへの連絡は、わらわが行ってくる !
バルドメルクリア様、しかし……。
メルクリアバルドがアジトへ行けば、また女たちにうつつを抜かすのではないか ?
バルドそれは誤解です。それにあちらにはフレンさんもいるでしょうから……。
ナーザよほどフレンが恐ろしいと見えるな。しかしメルクリア一人では……。
アリエッタメルクリア……もしかして……。
メルクリアいけませんか、兄上様……。わらわも、せめてそれくらいは力になりたいのです。
アリエッタあ、あの ! アリエッタも一緒に行く……です。それなら、心配ない……です。
ナーザ……わかった。では、アジトへの連絡はメルクリアに任せ護衛としてアリエッタについていってもらおう。
ナーザでは、会議はこれくらいで終わるとしよう。各自、元の仕事に戻ってくれ。
メルクリアアリエッタ。さっきは護衛役を買って出てくれて助かったぞ。わらわ一人では、兄上様も許可を出してくれなかっただろうからな。
アリエッタうん……。だって、メルクリア……。ウィルって人に、大事なもの……届けたかった、です。
メルクリアやはり、覚えておったのじゃな。その通りじゃ。ウィルとは浄玻璃鏡を渡すと約束しておったからのう。
アリエッタメルクリア、夜遅くまで、その鏡作ってた……です。だから、アリエッタも力になる、です。
メルクリアアリエッタ…… !うむ、感謝するぞアリエッタよ !
バルドなるほど、そういうことか。きみがメルクリア様の外出を許可した理由がわかったよ。
ナーザ……また勝手に外に出られては迷惑だからな。それだけのことだ。

キャラクター3話【11-3 グリンウッド領 領都】
ロゼどう、デゼル ? なんか動きあった ?
デゼルああ。これからテレサって奴がこっちに来るらしい。
ロゼオッケー。それじゃあ、セキレイの羽から入ってきた情報は正しかったって訳だ。
デゼルそうみたいだな。――来たぞ、あの馬車だ。
テレサテレサ・リナレスです。私のことは、もう連絡が入っているはずですが。
リビングドールβお待ちしておりました、テレサ様。オスカー様がお待ちです。
ロゼビンゴ。さっきの奴、ミッドガンド領のテレサで間違いないよ。
デゼルどうする ? このまま俺たちも潜入するか ?
ロゼ当然。ミッドガンド領の領主かもしれない奴が何しに来たのか、ちゃんと見ておかないとね。
ロゼついでに、まだ分かっていないグリンウッド領の領主の正体も拝んでいけるかもしれないでしょ ?
デゼル……どうだかな。今まで一度も顔を出してないんだろ ?
ロゼらしいね。セキレイの羽だけじゃなくてカロル調査室ですら情報が全く手に入らないなんてよっぽど上手く隠してるんじゃないかな。
デゼルあるいは、外に出ない理由が別にあるってことか。
ロゼそれを知る為にも、今がチャンスってわけ。門番たちが馬車に気を取られている内にあたしたちも潜入するよ。
デゼル……待て。他にも誰か出てきやがった。
セルゲイβ――待たせたな。私も同行しよう。
ロゼセルゲイ…… !
テレサわざわざ従騎士のあなたも迎えに来てくれるとは。
セルゲイβ当然だ。領主様に関わることとなれば私も立ち会わせてもらう。何か問題があるのか ?
テレサ……いいえ。なら、案内はあなたにお願いします。
セルゲイβ承知した。
デゼル……あの様子じゃあ、リビングドールになってるのは間違いなさそうだな。
ロゼうん……。分かってたつもりだけど実際に見ると結構キツイかも。
デゼルスレイたちに連絡するか ?
ロゼいや、それはナシ。スレイなら一緒に行きたいって言いそうだし、人数が増えると逆に潜入しにくくなる。いつも通り、あたしとデゼルだけでいこう。
ロゼそれに、もし領主の正体が分かったとしてセルゲイみたいに助けなきゃいけない奴とは限らないでしょ ?
デゼルお前、まさか……。
ロゼ……ま、あたしたちで上手くやろうってこと。いくよ、デゼル。
デゼル……ああ、わかった。
コーキスう~ん、やっぱ繋がらないな……。シグレ様、一体どこに行ったんだ ?
シグレああ ? なんだよ、さっきからうっせえぞ。
コーキスあっ ! やっと繋がった !シグレ様、今どこにいるんだよ ?会議があるからアジトに来てくれって伝えただろ ?
シグレああ ? そんなの覚えてるわけねぇだろ ?
コーキス覚えてるわけないって……まあ、いいや。シグレ様にも話しときたいことがあるんだけど……やべっ、俺、ちゃんと上手く説明できるかな……。
シグレあぁ ? 何ごちゃごちゃ言ってんだ ?用が終わったなら切るぞ。こっちは忙しいんだからよ。
コーキス忙しいって、シグレ様、今なにかしてるのか ?
シグレこれから領主の館ってとこに乗り込むんだよ。
コーキスふーん、領主の館に……って、はああああぁ ! ?
シグレお前、この前ミッドガンド領の領主ってのはテレサって女かもしれないって言ってただろ ?
コーキスそういや、言った気もするけど……。
シグレそいつ、俺の知り合いなんだよ。近くに来たついでに、ちと挨拶してくるわ。
コーキス挨拶って……あれ ? シグレ様 ? シグレ様ー !……駄目だ、通信切れてる。
コーキス(シグレ様の居場所はわかったけど……。このままだと絶対やばいって……)
コーキス(ボスに相談したいけど、連絡は取れないし……。シグレ様なら帝国の奴らに捕まることはないと思うけど念のため、俺も様子を見に行ったほうがいいよな)

キャラクター4話【11-4 グリンウッド領 領主の館1】
デゼル気を付けろ、ロゼ。警備兵が想像以上に配置されているぞ。
ロゼ了解。けど、隠れて任務をこなすのはあたしたちの得意分野でしょ ?ヘマはしないって。
デゼルだといいがな。――おい、いたぞ。セルゲイたちだ。
ロゼわざわざ、こんな地下室に来て何しようってわけ ?
デゼル待て。足音が近づいてきた。どうやら、部屋の奥に誰かいるようだ。
オスカー久しぶりですね、姉上。
テレサオスカー。ごめんなさい。なかなかあなたにも会いにいく時間が作れなくて……。
オスカー仕方ありませんよ。姉上だって、アルトリウス様から任されている任務があるのですから。
オスカーだけど、正直に言うと姉上が来てくれるという連絡があったときは嬉しかったです。
デゼルあいつがこの領の領主、ってわけじゃなさそうだな。
ロゼけど、鏡映点リストの中に似たような顔があったのは覚えてるよ。確か、ベルベットたちのリストにあったはず。
デゼル……もう少し様子を見るか。
セルゲイβ姉弟の再会に口を挟むようで悪いが至急、作業に取り掛かってもらいたい。
テレサわかっているわ。オスカー、案内してちょうだい。
オスカーはい。こちらです、姉上。
デゼルこのまま奥の部屋に行くようだな。
ロゼ……あたしたちも行こう。
ロゼなに、ここ…… ?地下牢みたいになってるけど……。
デゼル他の領主の館には心核を精製する工場があると聞いていたが、ここはどうやら違うようだな。
オスカーこちらです、姉上。
二人! ?
ロゼそんな、あれって…… !
テレサヘルダルフ……。初めて会ったときとは随分と姿が変わってしまっていますね。
オスカーええ。アルトリウス様の呪いの効果によって想像以上の穢れを生み出してしまったようです。
テレサそれでこのような姿に……。まるで業魔と変わりありませんね。
オスカーいえ、僕にはそれ以上に恐ろしいモノに見えます。この世界では穢れが増えたり広がることがないとは聞いていますが、それにしても……。
セルゲイβ念のため、今は魔鏡陣によって力を封印している。生きてはいるが、もう自らの意思も希薄になっているかもしれん。
セルゲイβだが、これでもこの者は領主だ。帝都に連れて行くには、疑似心核を入れるか身体の負担を軽減し、移動に耐えさせるしかない。
セルゲイβデミトリアス様のご命令を実行するためすぐに処置を願いたい。
テレサええ、その為に私が派遣されたのですから。
デゼルくそっ……どうなってやがる。あのヘルダルフが捕まってるだと ?しかも、あいつが領主だったなんて……。
ロゼ……けど、これってチャンスだよ。
デゼルなに ?
ロゼあいつらも言ってたでしょ ?もし、本当に今のヘルダルフに意思がないってんならあたしとデゼルだけで始末できる。
デゼル……やるのか、ロゼ。
ロゼ場合によっては……かな。けど、デゼルも気付いてるでしょ。
ロゼここには何か仕掛けがあって穢れの存在を外に感知させないようになってる。だからここに来るまで気付かなかったけど……。
ロゼあいつが纏ってる穢れの量は多いよ。もしかしたら、スレイでも浄化が難しいかも。
デゼル……わかった。お前の判断に任せる。だが、当然あそこにいる三人は俺たちの邪魔をしてくるはずだ。
ロゼどっちみち、戦いは避けられないか。なら、せめて隙を見て一瞬で終わらせる。デゼル、そのときはサポート任せたよ。
デゼル……リビングドールのセルゲイはともかくあの二人には手加減できねえだろうな。
ロゼうん……あの二人、かなりの使い手っぽい。本気でやらなきゃ、こっちがやられる。
デゼルったく。ただの偵察のつもりだったがとんでもねえ大仕事になりそうだ。
テレサオスカー。私が心核に魔導器を繋げるわ。その間、あなたはこの男に異変がないか見張っていて。
オスカー姉上、気を付けてください。
テレサ問題ないわ。取り付けるだけなら作業もすぐに終わるはずだから。
テレサ…………よし、接続は完了したわ。あとは心核と魔導器がちゃんと適合するかどうか……。
ヘルダルフ…………このときを待っていたぞ。
テレサ……えっ ?
オスカー姉上 ! ?
ヘルダルフはあああっっ ! !
オスカー……ぐあっ ! !
テレサオスカー ! ?
ヘルダルフ女を庇いおったか。まあいい、ワシの相手はお前たちではない。
オスカーそんな…… ? お前の動きは魔鏡陣の結界によって封じていた筈だ。
ヘルダルフそのような術でワシを封じていたつもりか ?笑止。我が力を見くびっていたようだな。
ヘルダルフだが、この忌々しい呪いがワシの身体を蝕んでいたのは事実だ。だからこそ、お前たちが手を打つのをずっと待っていた。
オスカーまさか……。ずっとこの機会を狙って…… !
ヘルダルフ無論だ。これでワシの心核が壊れることはない。今こそ『奴』を奈落の底へと落としてやろう。
オスカー姉上……早くここから、逃げ……。
テレサオスカー ! オスカー、しっかりして ! ?
ヘルダルフ感謝するぞ、女よ。さて、お前にはあの男がいる場所まで案内してもらおうか。
セルゲイβ待て ! 領主といえど、他の従騎士たちへの攻撃は帝国への反乱と判断する !
ヘルダルフリビングドールか。意思を持たぬ人形などに興味はない !
セルゲイβ――覚悟 !
ヘルダルフ邪魔をするな ! !
セルゲイβぐはあああああっ ! !
ヘルダルフやはり、所詮は人形だな。だが、死んでいないところを見るに身体は余程鍛えられている者のようだ。
テレサ……くっ !
ヘルダルフほう、まだ武器を取るか。それに、その憎悪に満ちた目……。いいぞ、少しは楽しませてくれそうだ。
ロゼ――その前に、地獄に行くのはあんただよ。ヘルダルフ ! !
ヘルダルフなにっ ?
ロゼ嵐月流・啄木鳥 ! !
ヘルダルフくっ !
テレサお前は…… ?
ロゼ話はあと !デゼル ! セルゲイとその二人のことは頼んだ !
デゼルこの馬鹿がッ ! お前ひとりで戦うつもりか ! ?
ヘルダルフ……鼠が潜んでいたか。
帝国兵β――何事ですか、セルゲイ様。
帝国兵βこれは…… ! ?ヘルダルフが覚醒した ! 兵を集めろ !
ヘルダルフ……フン、雑兵共が。どけ ! 貴様たちの相手などしている暇はない !
帝国兵βうっ ! ? ぐはっ ! ?
テレサ待ちなさい !
デゼルまずいぞ、このままだとヘルダルフが逃げちまう。
ロゼわかってる !絶対逃がさない !

キャラクター5話【11-5 グリンウッド領 領主の館2】
帝国兵β――何者だ、お前たちは !
帝国兵βぐはっ ! ?
ロゼまったく、あんたたちの相手はヘルダルフでしょ ! ?こっちの邪魔しないで !
デゼル――待て、ロゼ !一旦立て直すぞ。
ロゼ何言ってんの ! ?このままだと逃げられるって !
デゼル帝国兵にしてみりゃ、俺たちは侵入者だ。この先はもっと兵の数が多い。ヘルダルフに追いつくどころかこっちが疲弊する。
デゼルそれにロゼ、お前も気付いたはずだ。俺たちだけじゃあ、ヘルダルフには勝てねえ。たとえ、神依の力を使ってもな。
ロゼ……ッ !
テレサ神依…… ? あなたたちは、一体……。
デゼルおっと。こいつらも来てたのか……。どうする ?
ロゼそうだね……聞きたいことは山ほどあるけどあんた、傷の具合は ?
テレサ私は平気です……。ですが、オスカーは…… !
オスカー…………ぐっ !
ロゼ意識はあるっぽいけど、こっちは重傷か……。セルゲイも酷い状態だったし……。
ロゼ――デゼルの言う通りだね。立て直した方がいい。デゼルは戻ってセルゲイをお願い。あたしはこっちの治療を手伝うから。
デゼルわかった。
テレサ……助けてくれるのですか ?
ロゼ……あたしは、あんたたちから話を聞きたいだけ。それに、応急処置くらいしかできないからそのあとは、ちゃんとした医者に診て貰って。
テレサ……感謝します。
ロゼ……うん。一応、これで命に別状はないと思う。もう少ししたら、ちゃんと意識も戻るはずだよ。
テレサ……オスカー。ごめんなさい、私のせいで。
デゼル……おい、こっちも終わったぜ。ひどい傷だが、まあ大丈夫だろう。だが、セルゲイは目を覚ますと厄介だぞ。
ロゼだね。リビングドール状態なのは変わりないだろうし……。
テレサ…………。
ロゼテレサ、だよね ?悪いけど、知ってることは全部話してもらうよ。
テレサ…………申し訳ありませんが、それはできません。
ロゼちょ ! 話が違うじゃん !
テレサあなたたちは、黒衣の鏡士の仲間ですね。ならば、敵であるあなたたちに話せることはありません。
デゼルおい、勘違いするなよ。これは交渉じゃなく命令だ。どうしても従いたくないってんならそれなりの覚悟を持ってもらうぜ。
テレサわかっています。オスカーを助けていただいた礼は尽くすつもりです。
ロゼだったら……。
テレサしかし、それが情報ではなく今のあなたたちに最も価値のあるものだとしたらどうですか ?
デゼルなんだと ?
テレサ……あなたたちには、こちらをお渡し致します。
ロゼこれって……心核 ! ?
テレサええ、従騎士であるセルゲイの心核です。
デゼル……何故、そんなものをお前が持ってやがる ?
テレサ元々、私たちは帝国に仕えているわけではありません。私が仕えている方は別にいて、私もオスカーもその方の指示で動いています。
ロゼそれって、あんたたちは帝国を裏切ってるってこと ?
テレサそうなりますね。ですが、それを今、帝国に知られるわけにはいかない。この心核は、いざというときの為の交渉材料でした。
ロゼなるほどね。帝国がやろうとしてるルグの槍の発動って領主や従騎士たちの心核が必要なんじゃないかって予測されてたけど、やっぱりそうなんだ……。
デゼルその心核を人質がわりにしておけば帝国もお前に手が出せないというわけか。
デゼルだが、いいのか ? そんなものを俺たちに渡して。
テレサ失態になってしまうのは承知の上です。ですが、私は今、あなたたちに捕まるわけにはいかない。
ロゼ……わかった。セルゲイの心核を渡してくれたらあたしたちも、今はあんたたちに手を出さない。
デゼルいいのか ?大体、心核が本物かどうかも怪しいぞ。
ロゼかもね。けど、あたしには彼女が嘘をついてるとは思えない。
デゼル根拠は ?
ロゼそりゃあ、商売人としての勘。
デゼル……だろうな。俺はお前がいいなら、それでいい。
ロゼじゃ、交渉成立ってことで。セルゲイの心核は渡してもらうよ。あっ、それともう一つ……。
ロゼもし、次に会ったとき、あたしたちの敵だったら容赦はしない。
テレサ……ええ、わかっています。
ロゼそれじゃあ、あたしたちもそろそろ撤退しなきゃ。デゼル、セルゲイを運ぶ準備をして。
デゼルやれやれ、俺が背負うことになるのか。
ロゼアジトまでの辛抱だって。……まあ、アジトに戻ってからのほうが色々と大変だろうけどさ。

キャラクター6話【11-8 アジト】
ライラ――お待たせしましたわ。
スレイライラ ! アリーシャ !セルゲイの様子、どうだった ! ?
ライラ今は容体も安定しています。
ライラですが、本来の心核と離れている時期が長かったこともあり、目を覚ますにはもう少し時間がかかるとのことです。
アリーシャ心核についてはミリーナも含めて治療に当たっている。だが、肉体にも相当なダメージが残っているそうだ。
スレイ……そっか。
ミクリオスレイ……。
エドナ少なくとも、騙されて別人の心核を持ち帰ってきたなんてマヌケなことは起こらなかったわね。
ロゼうっ……。やっぱそこは引っ掛かるかぁ……。
ザビーダまぁ、いいじゃないの。結果的には、あのセルゲイって奴を助けることができたんだからよ。
ミクリオ良くない !ロゼ、どうしてそんな無茶をしたんだ !
ロゼそ、そんな怒らないでよ !そりゃあ、勝手に動いたことは謝るけどさ……。
スレイ……違うよ、ロゼ。きっと、ミクリオが怒ってる理由はオレと一緒なんじゃないかな ?
ロゼえっ…… ?
スレイロゼ、本当はわかってたんじゃないか ?グリンウッド領の領主がヘルダルフだってこと。
全員! ?
アリーシャそうなのか、ロゼ ! ?
ロゼ……違うよ。あたしだって、さすがにヘルダルフがいたのは予想外だった。
ロゼけど、もし領主があたしたちの知ってるやつでそいつが自分の意思で帝国に従ってたとしたら ?
ミクリオロゼ、まさか…… !
ロゼ相手が『悪』だとわかったらあたしは躊躇しないつもりだった。
ザビーダだが、ヘルの野郎が相手じゃ無謀ってもんだぜ。
ロゼ……うん。それもちゃんと実感した。大丈夫、もう勝手なことはしないって。
スレイ……だとしても聞いてくれ、ロゼ。ロゼならきっと、一人でも上手くやれることがたくさんあるんだと思う。
スレイけど、オレはもっとロゼには仲間を頼ってほしいんだ。
ロゼ! ?
スレイロゼがオレたちのことも考えてくれてるのは知ってる。だからこそ、一人で全部を背負わないでくれ。
デゼル…………。
ロゼ…………はぁ。スレイって、そういうところズルいよね。
スレイええっ ! ? オレ、変なこと言ったかな ?
アリーシャいや、実にスレイらしい言葉だと思うぞ。
ライラですね。
ロゼわかったよ、スレイ。これからは、ちゃんとみんなのことも頼りにする。
スレイロゼ…… ! ああ、オレも信じるよ、ロゼのこと。
エドナさてと、ミボが騒いだせいで話が逸れたけど肝心なことを忘れてないかしら ?
ミクリオなんで、僕のせいになってるんだ…… !まあいい。それより、ヘルダルフのことだな。
ライラロゼさんの話によると、誰かを捜しているようなことを言ってたんですね ?
ロゼうん。それが誰なのかは判断できなかったけど……。
ザビーダこうなったら、手あたり次第捜してみるか ?
エドナ面倒ね。
スレイけど、今やれることはそれしかないんだ。オレたちでヘルダルフを見つけよう。
ベルベット話してるところ悪いけど、ちょっといいかしら ?
ザビーダおいおい、全員揃ってどうしちゃったの。
エレノアそれが、ベルベットが気になることがあるようで……。
ベルベットねえロゼ、確認しておきたいんだけどあなたが会ったテレサとオスカーはリビングドールにされていなかったのね ?
ロゼうん。オスカーって人とは直接話せなかったけどテレサは間違いなくリビングドールじゃなかったよ。
ベルベットそう……わかった。
ロクロウおいおい、どうしたんだお前 ?さっきから様子がおかしいぞ ?
ベルベット…………。
マギルゥベルベットや。そろそろ儂らにも教えてくれんかのう。お主が何を考えているのか。
ベルベット……この前、フレンたちがテレサに会ってたでしょ。そのときはリビングドールかどうかはまだ判断ができなかった。
ベルベットけど、もしあいつらがリビングドールじゃなかった場合自分の危険を冒してまで、帝国に残っている理由は何 ?
ベルベット少なくとも、帝国がやろうとしていることに賛同しているわけじゃないのは確かなんでしょ ?
ライフィセットベルベット……もしかして……。
ベルベットそれに、テレサは誰かの指示で動いているって言ってたのなら、そんな奴は一人しかいないわ。
エレノアまさか……アルトリウス様 ! ?
ロクロウ……成程。そう考えれば、あいつらも帝国に残っている辻褄は合うな。
マギルゥしかし、根拠が乏しいのう。全てがお主の机上の空論かも知れぬぞ。
ベルベット別に、それでもいいわ。けど、確かめないと気が済まない。
ビエンフーど、どうするつもりでフか。
ベルベット決まってるわ。そんなの……。
ロクロウん ? ちょっと待ってくれ。魔鏡通信だ。
エレノア私のところにもきています。というより、私たち全員のところに連絡がきているのでは ?
ミクリオ出たほうがいいんじゃないか ?もしかしたら、緊急の連絡かもしれない。
ベルベット……そうね。
アイゼン俺だ。少しお前たちにも関係がある情報が入ってきたんだが、今、大丈夫か ?
ベルベットええ。それで、その情報って何 ?
アイゼン救世軍の地上部隊から、ミッドガンド領領主の館が襲撃にあっているという情報が入ってきた。
エレノア襲撃 ! ?
アイゼン詳しいことはまだわかっていないがミッドガンド領ということで俺が向かうことになった。
ベルベット……丁度いいわ。
アイゼン……何 ?
ベルベットアイゼン、あたしたちもそっちに行くわ。少し、確かめたいことがあるの。
アイゼンわかった。お前たちとは現地で合流しよう。何かあれば、そっちからも連絡してくれ。
ベルベットええ、それじゃあ、一旦切るわよ。
マギルゥほほう、まるで狙ったようなタイミングじゃのう。
エレノアしかし、襲撃なんて一体誰が……。
ベルベット別に誰でもいいわ。こっちに都合がいいのなら、利用するまでよ。
ライフィセット……ベルベット。
ベルベット……大丈夫よ。
ライフィセットえっ ?
ベルベット一人でなんとかしようなんて思ってないから。だから……頼りにしてるわよ、フィー。
ライフィセット…………うん !

キャラクター7話【11-9 ミッドガンド領 領主の館2】
シグレおりゃあああああ ! !
帝国兵βぐはっ ! ?
シグレ……ったく。手応えねぇな。もっと楽しめると思ったのによ。
ムルジムシグレ。あまりやりすぎないようにね。この子たちだって、ただ操られてるだけなんだから。
コーキス――あっ ! やっと見つけた !
シグレん ? コーキスじゃねえか。お前、こんなところに何しに来たんだ ?
コーキス何しに来たって……シグレ様に会いに来たんだよ !
シグレはぁ ? なんでだよ ?
ムルジムあなたのことを心配して迎えに来てくれたんじゃないの ?
コーキスムルジム様の言う通りだけど……やっぱシグレ様だよな。心配することなかった。ほとんどの帝国兵を倒しちまってるし……。
シグレ応。全く歯ごたえがなくて退屈してたところだ。
シグレおい、コーキス。本当にテレサの奴がここにいるんだろうな ?
コーキスうーん、どうだろう……。もしその人が本当に領主だったとしてもずっと館にいるってわけじゃないと思う。
シグレつまんねぇな。折角、俺から会いに来てやったのによ。
コーキスところで、シグレ様とそのテレサって人はどういう関係なんだ ?
シグレ別に大したもんじゃねえよ。前の同僚ってだけの話だ。
シグレけどよ、テレサが具現化されてるってことは『あいつ』もこの世界にいるんじゃないかと思ってな。
コーキスあいつ…… ?
シグレまぁ、こっちの話だよ。しかし、ちっとは暇つぶしができると思ったんだがとんだ期待外れだぜ。
? ? ?そうか……ならば、少し相手をしてやろう。
シグレ! ?
コーキスだ、誰だ ! ?
アルトリウス久しいな、シグレ。
シグレ……ははっ ! !マジでいやがったのか、アルトリウス ! !
コーキスアルトリウス…… !まさか、この人がベルベット様の……。
アルトリウス……お前がバロールの眼を持つ鏡精か。ならば、丁度いい。
アルトリウスシグレ。また私の元へと来ないか ?お前の力があれば、私の計画にも抜かりがなくなる。
コーキスな、何言ってんだよ !シグレ様は俺たちの仲間だ !
アルトリウス鏡精よ。ならばお前も私の元へ来い。そのバロールの力は使えるかもしれん。
シグレ……はぁ ! しばらく見ねぇ間に随分と丸くなっちまったもんだな。
アルトリウス何 ?
シグレ自分に従わせてぇのなら無理やりにでも、従わせればいいだろうがぁ ! !
アルトリウス…… !
シグレ安心したぜ ! 剣の腕は鈍っちゃいねぇようだな !
コーキスシグレ様 ! ?
シグレ手を出すなよ、コーキス !こいつは俺の獲物だ !
アルトリウス私と対立することを選ぶのか ?
シグレ生憎、俺はもうどっちに付くか決めてんだよ。それに、この坊主には借りがあるからな。
シグレあんたと真っ向から対立するってのも面白そうだしよぉ ! !
アルトリウスそうか……お前らしい回答だ。ならば、ここでお前の命はもらい受ける。
シグレやれるもんならやってみな ! !
コーキスすげぇ……。二人の動き、目で追うのがやっとだ…… !
ムルジム気を付けて、コーキス。あたしたちも巻き込まれないようにしないと。
シグレどうした ! どうした !こんなもんじゃねぇだろ ! アルトリウスッ !
アルトリウスよかろう。ならば――
? ? ?――サンダーブレイド !
シグレなにっ ! ?
コーキス今の術は…… ! ?シグレ様、大丈夫か ! ?
シグレ誰だ ! ? 俺たちの邪魔をしやがったのは ! !
ロミー仕方ないでしょ。こっちは急いでるの。あなたたちの遊びに付き合ってる暇はないわ。
アルトリウスお前たちか。どうやら、迎えの兵たちもシグレにやられてしまったようだな。
ロミーどうでもいいわ、そんなことは。それより、あなたの部下が下手を打ってヘルダルフを逃がしたみたいよ。
アルトリウスそうか……。しかし、あの男ならいずれ私を殺しにくるだろう。そのときに再び捕獲すればいいだけだ。
ロミー随分と冷静ね。殺されるかもしれないっていうのに。
アルトリウス私の命を狙う者などいくらでもいる。そこにいる男のようにな。
シグレおいおい、勝手に話を進めんじゃねぇよ。まだ勝負は始まったばかりだろうが。
アルトリウス悪いが、事情が変わった。お前との勝負は預けておこう。
ルキウスγロミー様、アルトリウス様。転送魔法陣の準備ができました。
ロミー行くわよ、アルトリウス。
シグレ待てよ ! みすみす逃がすわけ…… !ん ? なんだ、この壁みてえなもんは…… !
ロミー簡単な防御魔術よ。あなたみたいな馬鹿力ならすぐ壊せるでしょうけど、転送魔法陣が発動する時間くらいは稼げるわ。
アルトリウスシグレ。そして、バロールの鏡精よ。いずれ、また会おう。
ベルベット……やっぱり、あんただったのね。
コーキスベルベット様 ! ? どうして…… !
エレノアアルトリウス様……本当にあなたが……。
ロクロウおい、ありゃ転送魔法陣ってやつじゃねえか ?
ベルベット逃がすか ! !
ライフィセットベルベット ! !
ベルベットあんたは……あたしがこの手で決着をつける ! !
アルトリウス……ベルベット。お前は何も変わらないな。
ベルベットな、に…… ! ?
マギルゥどうやら、少し遅かったようじゃの。
ベルベット待て ! ! 逃げるな、アルトリウス ! !アルトリウス―― ! !

キャラクター8話【11-11 ミッドガンド領 森2】
コーキス――それじゃあ、アイゼン様の連絡でベルベット様たちもここに来たってことなんだな。
ロクロウああ、アイゼンより俺たちが先に着いたから乗り込んではみたものの、まさか暴れている奴がシグレだったとはな。
シグレんなことはどうでもいいだろ。お前たちだって、興味があるのはあいつのことなんだろ ?
エレノア……アルトリウス様のことですね。
ライフィセットコーキス、アルトリウスは何か言ってた ?
コーキスいや、話って言ってもその前にシグレ様が斬りかかって……。
ロクロウだろうな。俺たちがもう少し早ければ違ったんだろうが。
シグレうるせぇな。お前んとこの奴もすぐ突っ込んでたろ。お互い様じゃねえか。
ベルベット……そうね。あんたが先にアルトリウスを斬ってたらあたしはあんたを許さなかった。
シグレおう、怖え怖え。いや……案外そっちも面白ぇかもな。
エレノアシグレ様 ! あまり茶化さないでください。
マギルゥしかし、何じゃ。アルトリウスもテレサたち同様にリビングドールにされておらんかったようじゃのう。
シグレ応。そいつは間違いねぇ。ありゃ、正真正銘のアルトリウスだ。
マギルゥふむ。となると、ベルベットの予感が的中しておったということじゃな。目的は未だにわかっておらんが。
ビエンフーね、姐さんが真面目に考えるなんて珍しいでフ……。きっとこのあと、大雨どころか雷が降って来るでフよ。
マギルゥビエンフーや。儂は最近裁縫に凝っておってな。丁度、お主の口くらいの隙間をがっちりと縫ってみたいのじゃが、練習台になってくれるかの ?
ビエンフーび、ビエ~~ン !やっぱり、いつもの姐さんでフー ! !
ムルジムあなたたち、随分楽しそうね。
コーキスなんか、マギルゥ様とビエンフー様のやりとり見るとパイセンとジェイド様のこと思い出すんだよな……。
コーキス(そういや、マスター。俺が監獄島に行ったこと知ってるのかな ? もしかしたら、ロクロウ様に剣を向けたことも……)
コーキス(いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃないだろ、俺……。俺は、俺のやるべきことをやらなきゃいけないんだ…… !)
ライフィセット……でも、マギルゥの言う通りアルトリウスは何をしようとしてるのかな。
ベルベット理由なんてどうでもいいわ。あいつがこの世界にいるっていうなら今度こそ、この手で決着をつけるだけよ。
ライフィセット……僕も一緒に行くよ、ベルベット。それが、僕の『意思』だから。
ロクロウ当然、俺も付いていくぜ。俺の恩返しは、まだ終わってねえからな。
エレノアええ、今さら置いて行かれても困りますしね。
ベルベットあんたたち……。
マギルゥここまで来れば、今さらじゃろうて。仕方ないから儂も付き合ってやるわい。
ロクロウ決まりだな。そんじゃあ、アイゼンが来たらケリュケイオンを借りて、アルトリウスを捜し出すか。
シグレ……おいおい。黙って聞いてりゃ勝手に話を進めてんじゃねぇよ。
コーキスシグレ様 ?
シグレ自分の獲物が取られそうだっていうのに黙って見てるやつがどこにいんだよ。
コーキスシグレ様…… ! まさか、またベルベット様たちと戦うわけじゃないよな ! ?
シグレ俺は別に構わねぇぜ。それに、負けっぱなしってのも癪だしな。
コーキスそんな…… !
ベルベット邪魔をするなら、あたしも容赦はしないわ。
ロクロウ……待て、ベルベット。シグレとは俺が話をつける。
シグレなんだ ? またお前が俺と斬りあうってのか ?
ロクロウそうしたいのは山々だが今はベルベットの用事が先なんだ。お前とやりあうつもりはない……今はまだ、な。
シグレほぅ……他に何か言いたいことがあるような台詞だな。
ロクロウお前がアルトリウスを斬りたい気持ちは分かる。だが、俺はベルベットの復讐に付き合う。先にお前にアルトリウスを斬られると困るんだ。
シグレだから、ここで白黒つけようって言ってんじゃねえか。どっちがアルトリウスを斬るかをよ。
ロクロウいや、お前にはもっと面白い選択肢が残ってるぜ。『アルトリウスを斬った俺』と戦うって選択肢がな。
シグレ! !
ロクロウどうだ、悪くない条件だろ ?もしも俺たちがやられたらお前がアルトリウスを斬ればいい。
シグレ……くっくっくっ ! 応 ! !そいつは確かに面白ぇな ! !
シグレいいぜ ! その条件、乗ってやろうじゃねえか !
ロクロウ悪いな、楽しみを一つ奪っちまって。
シグレおいおい、本気で勝つ気でいんのかよ。そんな甘い相手じゃねえぞ ?
ロクロウ勝つさ。またお前と本気の戦いができるならな。
シグレ……けっ、言うようになったじゃねえか。おい、コーキス ! 引きあげんぞ !帰ったらお前にも久々に稽古つけてやる !
コーキスあ、ああ…… ! けど、ちょっと待ってくれ !
エレノアどうしたんですか、コーキス。
コーキスあのさ……アルトリウスって奴を捜すにしてもちゃんとマスターたちには連絡を取っておいてほしいんだ。
コーキスほら、マスターってすげー心配性だろ ?だから、ベルベット様たちのことも絶対心配するというか……。
マギルゥなんじゃ。自分は家出をしておるのに他人の心配かえ ?
コーキスい、いいだろ ! 別に !
ライフィセット大丈夫だよ、コーキス。イクスたちには、ここに来ることも伝えてあるしこれからのことだって話すつもりだよ。
コーキスそれならいいけど……。
ムルジムコーキス。そろそろシグレを追わないとまたどこか行っちゃうわよ。
コーキスいけね ! そんじゃあ、よろしくな !
エレノアコーキスらしいお願いでしたね。
ベルベットそれよりロクロウ。あんた、よかったの ? あんな約束して。
ロクロウ別にいいさ。どの道、近いうちにあいつとは戦うことになるだろうからな。
ライフィセット…………あっ、この音。
ロクロウケリュケイオンも着いたみたいだな。それじゃあ、アイゼンにケリュケイオンが使えるか頼んでみるか。
マギルゥ何を言っておる。あの飛空艇は元々儂らのもんじゃぞ。好き勝手に使えて当然じゃ。
エレノアいえ、決してそういうわけではなかったはずですが……。
ベルベットとにかく、一旦アイゼンたちと交渉ね。それから今後のことを決めるわよ。

キャラクター9話【11-12 グリンウッド領 救世軍基地】
救世軍兵士Aエルレイン様……本当にありがとうございました。エルレイン様の奇跡の力のお陰で、私だけでなく多くの仲間たちが生きながらえることができました。
エルレイン顔を上げなさい。私が望むのは、人々の救済。その為には、あなた方の力も必要なのです。
救世軍兵士Aなんと慈悲深いお言葉…… !はい、必ずや救世軍の為……いいえこの世界の為、私は戦い続けます。
エルレインええ、期待しています。
救世軍兵士Aでは、私は任務に戻ります。
サイモン……ふっ、さすがは聖女と呼ばれる者だな。か弱い人間たちを助ける行為はさぞ気持ちが良いのだろうな。
エルレイン全ては救済の為。そこに私個人の感情など存在しない。
サイモン成程、自らに見返りを求めぬとはますます恐れ入るよ。
サイモンだが、果たしてそれはお前が望む幸せに繋がる行為だろうか ?
エルレインどういうことだ ?
サイモン簡単なことだよ。一度奇跡に触れれば人はそれを幾度も求める生き物だ。
サイモンたとえば、先ほどの兵士はどうだ ?一度お前に助けられたからといって今後も生き続けられる保証など、どこにもない。
サイモンそれどころか、もっと深い絶望を味わい死ぬ可能性もある。何せ、ここは滅びゆく世界なのだからな。
エルレインならば、あの兵士は死んだほうが良かったと ?
サイモン更なる絶望を味わうことになるのならあるいはそうだったかもしれぬ。
エルレインサイモン、あなたの考えもまた生きていく人間たちに起こり得ることなのかもしれません。
エルレインですが、生き続けることで、自らの足で立ち自らの力で希望を掴むことができる者もいる。
サイモン……戯言だな。
エルレインそう、私も以前までは与えることこそが『幸福』なのだと思っていました。そしてそれが間違っているとは思いません。
エルレインしかし、自らの手で未来を掴み取ることができると信じる者もいて、それができる者もいる。あの者がそうなれなければ私が救いましょう。
エルレインあの者に救済が訪れるまで、何度でも。
サイモン……どうだかな。人の業は、そんな単純なものではない。
サイモンお前の神がいない世界で……さてどこまでの救済が叶うのだろうな。
エルレインそれは、あなた自身の目で確かめることです。
サイモンだから私を連れ回していると。物好きな聖女様だ。
エルレイン……ん ? 魔鏡通信か。サイモン、話の続きは後でしましょう。
ローエン失礼。エルレインさん、まだグリンウッド領の地上部隊基地におられますか ?
エルレインええ、サイモンも一緒です。何かありましたか ?
ローエン先ほど、グリンウッド領の領主が逃亡したという連絡がイクスさんたちから入りました。
エルレイングリンウッド領の領主……あの男か。
ローエンやはり、知っておられたのですね。
エルレインあなたたちにも共有しておくべきでしたね。だが、あの男は既にアルトリウスという男の手によって瀕死状態だと聞いていました。
エルレイン確かその男の名は……ヘルダルフ。
サイモン! !
ローエンその通りです。ですが、今は魔導器を装着されたようで自由に動くことができています。
ローエンこちらも情報を集めているところですがどうやら、逃走した彼を捕らえようとした帝国兵は全員が返り討ちにあっているようです。
エルレインもし、本当に彼が復活しているのなら並の兵士では捕らえることはできないでしょう。
ローエンはい。そして、彼の目的がわからない以上今のグリンウッド領に留まることは危険だと判断しました。
ローエンただ、我々は現在ミッドガンド領にいますのでケリュケイオンが到着するまで、もう少しだけお待ちください。
エルレインでは、その間にここにいる兵たちにも避難指示を出しておきましょう。
ローエンはい、申し訳ありませんが現場の指揮はお任せします。それでは、何かありましたらすぐにご連絡ください。
エルレインサイモン、話は聞こえていましたね。あなたにも、兵たちの避難指示を手伝って貰います。
サイモン……ああ、わかった。では、私は周辺を巡回している警備兵たちを連れ戻してくるとしよう。
エルレイン……随分と素直ですね。
サイモン……ただの気まぐれだ。
エルレイン……そうですか。では、頼みましたよ。
サイモン…………我が主 !この世界におられたのか !何故気付くことができなかった…… ! ?
サイモンお待ちください、すぐに迎えに上がります !

キャラクター10話【11-15 グリンウッド領 森3】
ミクリオ……グリンウッド領に入ったけど特に穢れは感じないな。
ライラこの世界では、穢れの在り方が違いますから……。かの者にかなり近づかなければ感じ取ることはできないでしょうね。
エドナあのひげネコ、どの辺りにいるのかしら。
デゼル手がかりといえば、あいつが倒していった帝国兵の死体くらいだからな。
ザビーダだが、そいつも途中でなくなってた。こりゃ、ヘルの野郎を捜すのは思った以上に時間がかかりそうだぜ。
エドナあなたたち、風の天族なんだからなんとかしなさいよ。気配を読むのとか得意でしょ ?
ザビーダそりゃあ、俺様だってエドナちゃんの期待には全力で応えたいが、ちと厳しいな。
ザビーダけど、エドナちゃんがもっと俺様に優しくお願いしてくれたら……。
エドナお兄ちゃんに言いつけるわよ。
ザビーダはいはい、おふざけはこれくらいってわけね。
アリーシャスレイ。やはり、君も天族の方々と同じなのか ?
スレイうん。多分、ヘルダルフの領域に入ればさすがに分かると思うんだけど……。
ロゼなら、やっぱ地道に捜すしかないか。
スレイ…………。
ミクリオどうしたんだ、スレイ ?
スレイうん……もし、ヘルダルフを見つけられたとして今のオレが、ちゃんと浄化できるのかなって思ってさ。
ロゼスレイ……。
スレイわかってる。たとえ浄化ができなかったとしてもオレはヘルダルフを止めなきゃいけない。
ミクリオ……大丈夫だ、スレイ。僕たちだって、最初の頃に比べたら随分強くなったはずだ。
ライラそうですわ、スレイさん。今の私たちならきっと、かの者を浄化することができるはずです。
エドナこっちはあんな面倒くさい試練まで受けたのよ。負けたら只じゃおかないから。
スレイありがとう、みんな。
ザビーダうしっ、気合も入ったみてえだし導師様ご一行で、ヘルの野郎を退治しに行きますか。
? ? ?――そのようなことは決してさせぬぞ、導師共。
デゼルなに ! ? 今の声は…… !
サイモン……久しいな、導師よ。
デゼル! !
アリーシャあなたは…… !
ミクリオ確かサイモン、だったな。すまないが、僕たちは今急いでいるんだ。
サイモンそれはこちらの台詞だ。
ミクリオなんだって ?
エドナちょっと、どうなってるの ?この不思議ちゃん、ワタシたちとやる気みたいだけど。
ロゼミクリオたちの知り合いかなんか知らないけど邪魔するって言うなら……。
デゼル……てめえもこの世界にいやがったのか !
スレイデゼル ! ?
サイモン……やはり、お前は私を憎むか。
デゼル当たり前だ ! まさか、俺の復讐を果たせる日が来るとは思わなかったぜ ! !
スレイ復讐…… ! まさか、デゼルの復讐の相手って。
ライラやめてください、デゼルさん !その方は、私たちと同じ天族です !
デゼル関係あるか ! ダチを憑魔にし風の傭兵団を貶めたこいつは、俺の手で絶対殺す !
ロゼ……何言ってんの ? デゼル ?
ザビーダくそっ…… ! 厄介な奴が割り込んで来やがった。
サイモンお前は、同じ道を歩むのだな……。
スレイデゼル ! やめるんだ !
デゼル黙ってろ、スレイ !俺はこの時のためだけに生きてきた !
アリーシャあのようなデゼル様の姿は一度も……。一体何が……。
ロゼちょっと ! いい加減感じ悪いぞ !スレイ ! デゼル ! 何なわけ ? !
サイモン娘よ、知りたいか ? ならば、教えてやろう。この男と共に、真実をな。
アリーシャこれは…… !
ミクリオ幻術か…… ! スレイ、気を付け――
ロゼスレイ ! みんな ! !
サイモン安心しろ。私の力で導師共にはしばらく席を外してもらっただけだ。これで、心置きなく目的が果たせるだろう ?
デゼル上等だ ! てめえは絶対殺す !それこそが俺の存在理由 !
サイモンさあ、見せてくれ !果たしてお前の業は、どうしたら救われるのかをな !
to be continued
キャラクター1話【12-1 グリンウッド領 森1】
サイモン娘よ、知りたいか ? ならば、教えてやろう。この男と共に、真実をな。
アリーシャこれは…… !
ミクリオ幻術か…… ! スレイ、気をつけろ !
スレイ…… ? ロゼ、デゼル ! ?
アリーシャ二人が消えたぞ ! ?
エドナ不思議ちゃんもいないわ。まんまと分断されたみたいね。
ライラいけません ! 今のデゼルさんは冷静さを失っています。このままでは本気でサイモンさんを……。
ミクリオまさか ! だとしても、ロゼがついてるだろう。
ザビーダいや、あの馬鹿、頭に血がのぼってたからな。早く見つけねえと面倒なことになるぜ。
スレイけど、どこを探せば――
アリーシャっ ! ! スレイ、後ろ !
スレイ憑魔 ! ? いつの間に…… !助かったよ、アリーシャ。
エドナあの憑魔、不思議ちゃんが残した足止めってとこかしら。
アリーシャええ、恐らくは。私もあの方と初めて会った時にスレイの幻で惑わされました。
スレイ確かにあの時と似てる。だとしたら、あの憑魔を消せば術が解けるはずだ。
ザビーダなら、さっさと片付けようぜ。こちとら急いでんだ !
デゼルうおおおおおっ !
サイモンやはり怒りに身を任せるか。
ロゼデゼル、ストップ ! !
デゼルどけ ! お前は引っ込んでろ。
ロゼできるか ! あたしはまだ何も聞いて――
ロゼうっ !
デゼルっ ! ! てめえ、ロゼを離せ !
サイモンこうさせたのはお前であろう ?己が業に目を閉じた者よ。
デゼル何のことだ !
サイモンそれは己で確かめるがいい。では約束どおり娘と共にお前の『本当の過去』を見せてやるとしよう。
デゼル本当もクソもあるか。貴様が俺の仲間を――
サイモンその続きは真実を知った後に聞いてやる。果たして同じ言葉が吐けるかどうか、楽しみだ。
ロゼ(……えっ ? なんで風の傭兵団――あたしたちが ?それに……)
ラファーガあいつらとの旅は本当、楽しい……。
ラファーガ冥利に尽きるだろ ?
デゼルああ。感謝してる。
ロゼ(デゼルだ ! 隣にいる人は…… ?)
コナン皇子大陸一の風の傭兵団を是非ともローランスに連ねたいのです。
ロゼあたしがコナン皇子と婚約 ? 夢みたい !
ラファーガよかった。旅が終わっちまうのは残念だがな。
デゼル……イヤだ。
デゼル終わらないでくれ……。
デゼル(…… !)
ロゼコナン皇子 ! 団長が居ないんです。
コナン皇子…………。
デゼルその子に近づくんじゃねえ。
コナン皇子私に指図する貴様は何者か。
ラファーガこいつ……すでに憑魔に……。
デゼル(そうだ……すでに憑魔になっていた皇子がロゼたちを嵌めた。そして、あいつが……サイモンが現れた…… !)
サイモン(何故これほどの短期間で憑魔と化したのだろうな ?)
ロゼ(それって、どういう意味 ?)
コナン皇子衛兵 ! 逆賊がここに !
コナン皇子風の傭兵団、団長ブラドは第一皇子レオンを殺害。身柄をペンドラゴ守警隊によって拘束された。よって貴様ら全員も拘束する。
サイモン(わかるだろう ? コナン皇子が憑魔と化し我欲に従い、邪魔者を除こうと考えたからだ)
サイモン(そして……コナン皇子が憑魔になった原因もわかっていよう ?)
デゼル(…………)
サイモン(『彼』だ)
ロゼ(デゼル ! ? まさか……。もしかして、この過去はサイモンの幻術で作って……)
コナン皇子お前は私のものとなるなら特別に赦免しよう。
ロゼなっ !
ロゼ(……やっぱり、この記憶は間違ってない。この後あたしは思わずコナン皇子に切りかかって……)
ロゼこんのー !
ラファーガ間に合え !
ラファーガぐ、うぅぅああ !
ロゼ(―― ! !あの人、コナン皇子からあふれ出した穢れからあたしを守ってくれたんだ……)
サイモンすべて貴様の加護の賜物……人はその力を持つものを何というか知っているか ?
サイモン疫病神だ。
デゼル……俺のせい……だった ?
デゼル全て……俺の…… ?
サイモン――私への濡れ衣は晴れたようだ。さて、偽りの殻を破った感想はいかがかな ?
デゼル……俺……は……俺が……全部っ……。

キャラクター2話【12-2 グリンウッド領 森2】
ロゼデゼルの友達ってあたしをかばったせいで……。
デゼルそうじゃねえ ! そもそもの原因は俺だ……。全部最初から……。
サイモン真実を知って、己の業とどう向き合う ?私と同じ業を背負う、哀れな天族よ。
デゼルお前と同じだと…… ?
サイモン『あの時』とは違う。『考える時間』がある『今のお前』がどんな答えを出すか教えてくれないか。
ロゼこいつ、何言って――
サイモン意図せずとも『悪』となり周囲を不幸へとおとしいれるお前は存在すべきか、否か。
デゼル…………俺は…………。
ロゼそんなの――
スレイロゼを離せ ! サイモン !
サイモン導師…… ! もう術を破ってきたか。
ライラデゼルさん ! よかった、間に合って。……デゼルさん ?
デゼル…………。
ザビーダデゼル、まさか、お前……。
ザビーダちっ……、おら立て ! 腑抜けてる暇ねえぞ。今のてめえが、一番大事なもんはなんだ !
デゼル俺の……。
デゼル……うるせぇ、そんなのは百も承知だ !サイモン、ロゼを返せ !
サイモン……邪魔が入ったか。まあいい。導師共々、しばらく遊んでいくといい。
アリーシャ分裂…… ! ? これも幻術か !
エドナ一人でもうっとうしいのに、何人増える気よ。
サイモンさあ、楽しんでくれたまえ !

キャラクター3話【12-2 グリンウッド領 森2】
サイモン導師たちを食い止めるのは難しいか。だがあの男……。
デゼルはあっ、はあっ……、くそっ !
ザビーダおい、どうした、動きわりぃぞ !
アリーシャロゼ ! デゼル様に何かあったのか !
ロゼちょっとね。けど今はサイモンが先 !
サイモン……答えは聞けずじまいか。だがあの様子であれば、しばらくの足止めとなろう。
サイモンすぐに参じます。我が主 !
エドナなに…… ? 不思議ちゃんたちが消えてくわ。
ライラこれは……、どうやらサイモンさんはこの場を離れたようですね。
スレイそっか……。ひとまず、みんな無事で良かった。ロゼ、デゼル、怪我はない ?
ロゼ平気。サンキュー、みんな。
デゼルこっちも……何ともねえ。
エドナ何ともないって顔じゃないでしょ。ちゃんと説明しなさい。
エドナ仕掛けてきたのはあっちだけどあなた、復讐を優先して突っ走ろうとしたのよ。
デゼル……悪かった。
スレイそれで、デゼルの復讐相手ってやっぱりサイモンだったのか ?
デゼル………………俺だ。
スレイ『俺』って ?
ロゼあのさ、その話する前にちょっといい ?デゼルの復讐のこと、今まで知らなかったのってあたしだけ ?
スレイえっ ? あ……えっと、ごめん、黙ってて。
ロゼ違う違う。謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ、知りたいだけだから。
ロゼ昔のあたし、風の傭兵団にデゼルやその友達も出てきてさ。あんなの突然見せられて、正直戸惑ってるんだ。
ザビーダなるほどね。あいつの術で記憶を見せられたのか。
ロゼうん。まあ、その辺の話はきちんと後でする。でさ、デゼルはずっとあたしと一緒にいたってことだよね ?
デゼル……ああ。俺は風の傭兵団と一緒に旅をしてた。それが終わろうとした時、願ってしまったんだ。……まだ、続けばいいってな。
デゼルそのせいで、風の傭兵団は崩壊した。
二人えっ ! ?
アリーシャデゼル様が願ったのは悪いことではないかと……。
デゼルそれが俺の呪われた加護だ。ロゼが不幸になったのも、あいつが死んだのも !
デゼルなのに俺は……その記憶を全部封じ込めて復讐という『嘘』に逃げこんだ…… !
デゼルロゼのことも、復讐のための器として育てた。スレイたちに俺の目的を口止めさせたのも都合よく使うためだ !
デゼル……全部俺が発端だ。
ロゼなるほどね、話はわかった。
デゼル……本当にわかってんのか ?俺がお前を不幸にした原因だって言ってんだぞ。
ロゼだから、何 ?
エドナ随分と軽く流すのね。
ロゼ今さら騒いだって仕方ないでしょ。それに軽く流してるわけじゃない。
ロゼ何も言ってくれなかったことや利用しようとしてたってのはムカついてる。
デゼル…………。
ロゼけど、それ以上に、今まで知らないところでずっとデゼルが助けてくれてたってわかったんだ。
ロゼ事件の後だって、風の骨として旅ができた。だからあたしは、デゼルが一緒にいてくれて感謝してる。
ロゼデゼルの友達だって命をかけてあたしを助けてくれた。だから……。
ロゼそういうの、全部わかってよかった。以上 !
デゼル以上って……それだけかよ !サイモンの言葉を忘れたわけじゃないだろう。
デゼル俺はあいつと同じ業を背負った天族、疫病神だ !存在することが『悪』になるんだぞ。
デゼルこれから先、一緒にいてどうなるかわかんねえ。なのにお前はそれでいいのかよ。
ロゼいいよ。今までだって、デゼルが側にいて不幸だなんて思ったことないし。昔のことも、ずっと引きずってらんないでしょ。
デゼルけどな……。
ザビーダなんだよ、煮え切らねえなぁ。このままじゃ全部許されちまったようで納得できねえってか ?
デゼル……うるせぇ。
ザビーダまあ、手酷く責めてくれた方が楽になるわな。お前の罪悪感が薄れてよ。
ザビーダけどな、ロゼの言葉をどう受け取るかはお前次第だ。これからの生き方も含めて自分でケジメつけなきゃなんねえことだろ。
デゼル……っ !
スレイえっと……あのさデゼル、ロゼの言ってること今はそのまま受け止めていいんじゃないか ?
スレイオレも、デゼルがどうするべきか他人が決めることじゃないと思う。
スレイけど、決めるのはデゼルでも、その結論を出すまでみんな一緒に悩むことはできるよ。『業』ってやつのことも。
デゼルスレイ……。
スレイそれにさ、このティル・ナ・ノーグには他の世界の人たちが集まってる。色んな知恵が集まってるんだ。
スレイオレたちの世界ではあり得ない新たな道を見つけられるかもしれない。そういう可能性だって、ゼロじゃないよな ?
デゼル可能性……か。
ザビーダおっ、ちょっとは腑に落ちたか ?さすがは導師様のお言葉だねぇ。ありがたい、ありがたい !
スレイザビーダ、何か馬鹿にしてない ?
エドナまったく、将来のことで悩むとかまだまだ子供の証拠ね。子供デゼル、略して子ゼル。
アリーシャ子ゼル……それは何とも可愛らし……い、いえ、失礼しました !
デゼルチッ……。
ミクリオみんな、調子が戻って来たみたいだな。
ライラええ。どんな時も希望を見出そうとするスレイさんの言葉が届いたようです。
ミクリオそれにしても……業を背負った天族か。
ライラアイゼンさんも死神と呼ばれる加護を持っていますがあの方は素晴らしい出会いを経てから割り切れたと聞いています。
ライラ願わくば、デゼルさんもそうあって欲しいのですが。そしてサイモンさんも……。
ザビーダサイモンはともかく、あいつは平気じゃないかね。全部知った上で付き合うって言うお人よし共が一緒だからな。
スレイあーあ、すっかり足止めくらっちゃったよ。
アリーシャそうだな。すぐにヘルダルフの捜索を再開しよう。またいつ、妨害が入るかわからない。
ロゼってかさ、サイモンって、ヘルダルフの仲間なのかな。助けるみたいなこと言ってたし。
エドナそれもひげネコを探し出せばはっきりするでしょ。――で、一応聞くけど、あなたはどうするの ?
デゼル俺はもう一度サイモンに会わなきゃならない。自分自身の落とし前をつけるためにもな。
デゼルお前たちについて行くぜ。
スレイよし、決まり ! それじゃ、出発しよう。
ロゼ行こう、デゼル !
デゼルああ。それとな、ロゼ……。
ロゼん ?
デゼル………………。
デゼル……すまなかった。
ロゼおう !

キャラクター4話【12-4 静かな平原1】
アリエッタ待ち合わせ場所、もうすぐ、です。
メルクリアうむ…………。
アリエッタ……メルクリア、疲れたの ?アリエッタのお友達に、運んでもらう ?
メルクリア平気じゃ。
アリエッタでも、平気じゃない……です。さっきから歩くのが遅くなってる。
メルクリアう……、バレておったか。
アリエッタどうして ? 待ち合わせに来るのがウィルって人じゃないから ?
メルクリアいや、そうではない……わけでもないが当たらずとも遠からず……ううむ……。
アリエッタごめんなさい、何言ってるかわからない……。
メルクリアじゃな、すまぬ !実は、あちら側の連絡係として来ることになったのがカイウスという者なのじゃ……。
アリエッタカイウス ?
メルクリアアリエッタはルキウスを知っておるな。その兄弟じゃ。顔を見ればすぐわかる。
メルクリア以前、わらわは、カイウスたちに酷い仕打ちをしてしまった。
アリエッタそれじゃ、カイウスは怒ってるの ?
メルクリアそれが、カイウスとは最近魔鏡通信で連絡を取るようになったのじゃ。ありがたいことに和解にも応じてくれた。
メルクリアじゃが、直に会うのは久しぶりでな。どのような顔で会えばよいものか考えると気が重い……。
アリエッタ気が重い……のは嫌いってこと ?会いたくない、です ?
メルクリアまさか、むしろ大好きじゃ !わらわにとっては、大事な友。会いたいに決まっておる。
アリエッタそれなら、カイウスも同じかも……。
メルクリアそうかのぅ……。
アリエッタでも、メルクリアが今みたいな暗い顔で来たらカイウスは、会いたくなかったのかなって思って悲しくなるかも……です……。
メルクリアあ……。
アリエッタアリエッタ、好きな人に笑ってほしいもん……。
メルクリア……そうじゃな。わらわは自分のことばかりでカイウスの気持ちを忘れておった。
メルクリアありがとう、アリエッタ。心配をかけたな。
アリエッタよかった ! じゃあ、急いで――
アリエッタの魔物グルルルルゥ…… !
メルクリアアリエッタ、友人たちが騒いでおるが ?
アリエッタ……誰か来る、です !メルクリア、アリエッタの側にいるです !
ロミー見つけたわ。情報どおり。よくやったわね、チトセ。
チトセあなたに褒められたくてやってるわけじゃない。
ロミーマティウス様の為でしょ。わかってるわよ。さて……。
ロミー久しぶりね、アリエッタ。石ころイオンと一緒に消えちゃったけど元気にしてるみたいじゃない。
アリエッタお前……お前は……っ !
メルクリアアリエッタ…… ?なんじゃ貴様らは。
アリエッタこいつらは敵っ ! お前……許さないからっ !
チトセ……ロミー、あなたこの子に何かしたの ?
ロミー大事な人との再会をロマンチックに演出してあげただけよ ?
チトセ悪趣味ね……。
メルクリア落ち着くのじゃ、アリエッタ !
ロミーそうよ、大人しくしてて。用があるのは『鏡士』なんだから。――かかりなさい !
帝国兵β皇女を確保せよ !
メルクリアっ ! ?
アリエッタ駄目っ ! みんな、お願い !
帝国兵βぐはあっ !
チトセ魔物…… ! 厄介ね。
チトセねえ皇女さま、あなたが一緒に来てくれれば手荒なことはしないわ。
アリエッタうるさい !お前たちなんかに、メルクリアは渡さないから !
メルクリアわらわとて、大人しく捕まる気などさらさらないわ !
チトセまったく……。やるしかないようね。

キャラクター5話【12-5 静かな平原2】
アリエッタクリムゾンライオット !
ロミーふふっ、あの時は廃人みたいだったのにずいぶんと元気じゃない。
アリエッタメルクリアに近づかないで !
ロミーそんなに皇女様が大事だなんてイオン様はもう、どうでもいいのね。
アリエッタっ ! そんなことないもん !
ロミー無理ないわ。あんな汚い石ころになっちゃったんだもの。もう捨てちゃった ?
アリエッタうるさい ! ここに、ちゃんといるっ !
ロミーそう……、――そこねっ !
アリエッタあっ !
ロミー本当ね。ちゃんと持ってた。
アリエッタあっ…… ! 返して、イオン様っ !
メルクリアアリエッタ !
ロミーいつまでも思い続けるのは辛いでしょう ?
ロミーこの石ころも消して未練を断ち切ってあげるわね。
アリエッタいやっ、やめてーーーーっ !
メルクリアミゼラブル・トーチャー ! !
ロミーきゃあっ !
メルクリア返してもらうぞ !受け取れ、アリエッタ !
アリエッタイオン様っ !
メルクリアよかった……――っ ! ?
ロミー――つかまえた。
メルクリアすまぬ、アリエッタ。そなたの責ではない。煽られているのはわかっていたがわらわが黙って見ておれなかった……。
カイウスメルクリア――――っ !
チトセ援軍 ?
ロミーカイウスだわ。他も懐かしい顔ばっかりね。
メルクリア――離せっ !カイウスーっ !
全員ロミー ! ?
ロミーふふっ、お久しぶりね。
チトセロミー、まだ戦うつもり ?
ロミーまさか。挨拶だけよ。鏡士は確保済みだもの。――転送魔法陣展開 !
メルクリア………………。
カイウスメルクリアを返せ ! 餓狼――
カイウスなっ……消えた ! ?
ルビア転送魔法陣よ !もう少し早く騒ぎに気付いてたら間に合ったのに…… !
アリエッタアリエッタのせい、です……どうしよう……。
アーリア大丈夫 ? 怪我はない ?
アリエッタごめんなさい……。メルクリア、攫われちゃった……。総長たちに連絡しないと……。
カイウス何があったか教えてくれ。どうしてメルクリアは連れていかれたんだ。
アリエッタわからない、です……。でも、ロミーは鏡士に用があるって……。
ティルキスだとすると、メルクリア個人でなく鏡士を狙ったということになるな。
カイウス嫌な予感がする……。すぐに助けに行こう !
アーリアでも、後を追うにも転送魔法陣は閉じてるわ。他の手がかりを探さないと。
ティルキス後を追えないとなると……。アリエッタ、君の魔物の嗅覚で敵の匂いを追うことはできるか ? 襲撃前のでいい。
フォレストなるほど、消えた先ではなく奴らがここへ来るまでの匂いをたどるということですね。
アリエッタ無理です……。みんな、ロミーの……あいつらの匂いはないって……。
ティルキスそうか。襲撃時も、転送魔法陣を使ったのかもしれない。
フォレストこの兵士たちもリビングドール兵のようでした。恐らく情報は得られないでしょう。
ティルキス参ったな……手詰まりか。
全員! !
カイウス今のは…… ?
ルビア転送魔法陣が起動してるわ。どうして……。
アーリアみんな、ここで待っていて。調べてみるから――あっ !
ルビアカイウス ! ? 何する気よ !
全員カイウス !
アリエッタカイウス、行っちゃった…… !
ティルキス俺たちも転送魔法陣へ ! カイウスを追うぞ !

キャラクター6話【12-6 セールンド城内1】
フォレストここは…… ?
アリエッタ……この部屋、見覚え、ある……です。カレイドスコープの間…… ?
カイウスみんな、来たんだな。わっ、アリエッタの魔物も一緒か !
ルビアカイウスのバカっ ! 勝手に行動して !罠だったらどうする気よ ! ?
カイウスなんだよ、いきなり !
ティルキスルビア、もう少し静かに、な ?
アーリア気持ちはわかるけど落ち着いて。
ルビアごめんなさい……。でも、一人で飛び込むなんて……。
カイウスわかったわかった。気を付ける。けど、ちゃんと転送されたんだからいいだろ ?
フォレストカイウス、そういうことじゃない。どうしてルビアが怒っていると思う ?
カイウスそれは……オレが勝手に……。
ルビア…………。
カイウス……そうだよな。心配かけてごめん。ルビア、みんな。
ルビアいいの。あたしもカッとなっちゃって、ごめんなさい。
ルビア考えてみれば、カイウスの無茶はいつものことだもの。これくらいで怒ってたら身がもたないわよね。
カイウスいつものことって無茶するのはお前のほうだろ ?
ルビアあたしがいつ無茶したっていうのよ !
アーリアはいはい、いつもどおりね。よかったわ。
ティルキス喧嘩してると安心するっていうのも妙な話だな。
フォレストさて、では今のうちに状況を整理しましょう。
フォレストアリエッタ、先ほど言っていたがこの場所がカレイドスコープの間だというのは間違いないか ?
アリエッタ多分……です。でもメルクリアはここにいる。みんな――アリエッタのお友達が言ってる、です。匂いがするって。
ティルキスよし、ではこのままアリエッタの魔物に匂いをたどらせて捜索しよう。
アーリアこんなに上手くいくなんて、少し心配ね。やっぱり罠の可能性も捨てきれないわ。
カイウス大丈夫だよ、きっと。勘だけど、転送魔法陣が再起動したのはメルクリアがやったんじゃないかって思うんだ。
ルビアどうして ?
カイウスメルクリアがつかまってるとき、それまで抵抗してたのにさ、連れ去られる直前に大人しくなって何か唱えてたように見えたんだ。
カイウスだから転送魔法陣が再起動したときにメルクリアかもって。
フォレストそれが本当なら大したものだがな。あの状況でロミーの目を盗むのは簡単ではない。
アーリアロミー……スポットに乗っ取られたままなのね。可哀そうな子……。元に戻してあげられたらいいのに……。
ティルキス……メルクリアを探そう。アリエッタ、頼む。
アリエッタ待ってください。敵が…… !
帝国兵βたち侵入者発見。これより排除を開始する。
メルクリア(カイウスたち、転送魔法陣の再起動に気づいてくれたであろうか……)
ロミーお待たせ、ルキウス。
メルクリアルキウス ! ? 無事であったか !
ルキウスγ準備はできています。ロミー様。チトセ様。
メルクリアルキウス……そなた、また……。
ロミーそう、ご苦労様。では皇女様、こちらへ。
メルクリア離せ !お前たち、わらわに何をするつもりか !
ロミーあなたは何も知らなくていいわ。さて、始めましょうか。
メルクリア何を――あああああっ !
ロミーふふっ、ルキウスとおそろいになれるわよ ?喜んでもらえるかしら。
チトセリビングドールγ……本当に趣味の悪い術式ね。私はこれで失礼するわ。
ロミーせっかくいいところなのに、最後まで見ていかないの ?
チトセ生憎だけど興味ないの。それより、あなたの部隊が集めたクロノスの分霊を渡してちょうだい。
ロミーええ、もちろん。――ルキウス、持ってきて。
ルキウスγはい、こちらです。
チトセ確かに預かったわ。それじゃ。
ロミー……つれないわねぇ。この楽しみが分からないなんて、可哀そう。
ロミーさて、と。アルトリウスのほうは準備に手こずっているみたいだしこっちは先にやらせてもらいましょうか。
ロミーさあ、皇女様。その鏡士の力で新たな大地を具現化してちょうだい。

キャラクター7話【12-8 アジト】
イクスそれじゃ、ベルベットさんたちはミッドガンド領でアルトリウスと会ったけど転送魔法陣で逃走された、ってわけか。
マークああ。そんで俺たちはベルベットたちを回収してグリンウッド領へ向かってるところだ。
カーリャグリンウッド領 ? アルトリウスを追ってるのになんでミッドガンド領で探さないんですか ?
フィリップロゼの報告や、ベルベットたちの話を総合するとヘルダルフを監禁していたのは帝国から離反寸前のアルトリウス一派だ。
フィリップ彼ら一派は、逃走中のヘルダルフを捕獲するためにグリンウッド領に現れるはず――ベルベットたちはそう考えているようだね。
ミリーナそれなら、目的が同じスレイさんたちと合流したほうがいいわ。
イクスああ。下手をしたら帝国、アルトリウス、ヘルダルフの三勢力と戦うことになるかもしれないしな。
ミリーナネヴァン、スレイさんたちと連絡はとれた ?
カーリャ・Nいいえ。やはり先ほどから途絶えたままです。何かあったのかもしれません。
マークそっちもゴタついてんな。とりあえず、合流の話は連絡が取れたらにしようぜ。こっちも動きがあったらすぐに連絡する。
マークそれとイクス、ベルベットたちが言ってたぜ。コーキスがお前のこと話してたってさ。
イクスえっ ?
マークイクスは心配性だから、ちゃんと連絡してから行動してくれって言ってたらしい。
カーリャはああっ ! ? どの口が言いやがってんですかぁ !
マークははっ、だよな ! こじらせすぎなんだよ、あいつ。
カーリャ・Nあなたたちも人のこと言えませんよ ?
二人どの口が……。
イクスそうか、コーキス……。
カーリャうっ ! !
ミリーナカーリャ、どうしたの ?
カーリャ何かが来ます ! この感覚……気持ち悪い……。
マーク俺も感じる……こいつは……。
フィリップマーク、大丈夫か ? 何が起きてるんだ ?
ガロウズビクエ様 ! 地上に大規模な揺れを観測中 !こいつは相当でかいですよ。
フィリップ地震 ? マーク、まさか……。
マークそのまさかだよ。これは地震じゃない。【鏡震】だ。
二人鏡震 ! ?
イクス異世界の大陸が具現化されたのか ! ?
マーク多分な。被害がないか、地上軍に連絡取らねえと。お互い浮遊島とケリュケイオンじゃ揺れの度合いもわからねえ。
フィリップガロウズ、今の震源地がどのあたりか調べて全ての観測データを過去の鏡震時と照合してくれ。
ガロウズ了解です。
ガロウズ――数値、ほぼ全て一致しました。間違いなく大陸具現化によるものです。
ミリーナそんな……誰が具現化したのかしら。帝国 ?
フィリップだとしても、今さら異世界を具現化する目的がわからない。まずは大陸そのものを調べてみないと。
イクス俺たちで調査に向かいます。何度も新大陸の確認に行ったことがあるし適任でしょう ?
イクスガロウズに新大陸の位置情報を送るよう伝えてください。
ガロウズ聞こえてるぜ。今、送った。
イクスありがとう !それじゃ、ケリュケイオンはそのままベルベットさんたちをお願いします。
フィリップああ、そちらは頼んだよ。何かあったらすぐに連絡してくれ。

キャラクター8話【12-9 セールンド城内3】
メルクリアγ具現化……成功……しました……。
ロミー私たちの世界もこうして具現化されたのね。興味深いわ。
メルクリアγう……うっ……。
ロミーあら、倒れるほど大変だった ? ご苦労様。
ルキウスγ…………っ。
ロミーあとは、あの大陸のエネルギーを搾り取るだけね。
カイウスいたぞ ! メルクリアを返せ、ロミー !
ロミーあなたたち…… ! どうやってここを嗅ぎつけたのよ。
ルキウスγ…………。
カイウスなっ、ルキウス ! ? お前…… !
アリエッタ違う……きっとルキウスじゃない、です。
ティルキスリビングドール化されてるんだろう。
カイウスくそっ !
ルビア見て、あそこ ! メルクリアが倒れてるわ。
ティルキス彼女に何をした ! さっきの揺れも、お前の仕業か。
ロミー答える必要ある ?ルキウス、彼らを始末して。
ルキウスγ…………。
ロミー聞こえないの ? 始末なさい !
ルキウス……サンダーブレイド !
カイウスルキウスッ !
ロミーきゃあああっ ! !
全員! ?
ロミールキウス……まさか自力でリビングドール状態を解除したっていうの…… ! ?
ロミーくっ、まともに術をくらうなんて……。
ルキウス頼む、兄さ……、メルクリア……を……。
カイウスっ…… ! ルキウスを頼む !
アリエッタメルクリア、目を開けて ! 死なないで !
ルビア大丈夫、息はしてるわ。
カイウスよかった。ルキウスはどうだ ! ?
アーリアこっちも気を失ってるだけ。今のうちに二人を運び出しましょう。
ティルキスフォレスト、頼めるか。
フォレスト承知しました。
ロミーくっ……。
全員! !
ロミーグラスティンの技術は完璧に盗んだと思ってたのに……まだ術式が甘かったのね……。
アーリアロミー……。
ロミー――転送魔法陣、展開。
カイウスあいつ、逃げる気だ !
フォレストいや、待て。転送魔法陣に人影が…… !
フォレスト兵士を呼び出したのか !
ロミーふふ……あらかじめ仕込んでいればこういう使い方もできるのよ。――さあ、やって !
帝国兵βたち排除。排除。排除。
ティルキスできるだけ相手にするな。撤退を優先するぞ !

キャラクター9話【12-11 セールンド 街道1】
フォレスト追っ手は来ていません。どうやら振り切ったようですね。
ティルキスそうか。さて、これからどうするか。ルキウスもメルクリアも、まだ目が覚めないしなぁ。
アーリアビフレスト側との連絡は取れないし……一旦、アジトへ連れていきましょうか。
メルクリアγうっ……私……は……。
カイウスあっ、目が覚めたぞ !
メルクリアγ ?……お前たち……何者……いや……違う…………。
ティルキス―― ? なんだか様子がおかしいぞ ?
フォレストまさか、この皇女もリビングドールなのでは ?
メルクリア ?私……いや、わらわは……一体……。くぅ……。体に力が……入らぬ……。
アリエッタメルクリア……だよね ?痛いの ? 大丈夫…… ?
カイウス……うん、今はちゃんとメルクリア、だと思う。どういうことなのかよくわからないけどリビングドールではなさそうだ。
ルビアメルクリア、気分はどう ?
メルクリアル、ビア…… ?
メルクリアルビア ! カイウス ! アリエッタ !そなたたちが助けてくれたのか。
カイウスああ。けど、一番頑張ったのは、こいつだよ。
メルクリアルキウス…… ! 気を失っておるのか ?
アーリアええ。ロミーを攻撃した後、倒れたの。
メルクリア何故じゃ……。ルキウスは、リビングドールになっておったはずじゃが。
ルビア自力で解除したみたい。ロミーも驚いてたわ。
ティルキス多分、リビングドールγだったんじゃないか ?
ティルキスあれは心核の入れ替えがなくてもリビングドール化できるんだろう ?強力な暗示を施すようなものだって聞いてるぜ。
メルクリアうむ、お主の言うとおりじゃ。わらわもリビングドールγにされたが今は我を取り戻しておる。
メルクリアリビングドールγは心核を抜かぬ故暗示が解けてしまえば、どうということはない。
アリエッタそれじゃ、今のルキウスは…… ?
メルクリアそうか ! 心核がある筈じゃな ! 調べてみよう。
メルクリア…………うむ、確かにきちんと戻っておるな。
ティルキスやっぱりそうか。ある意味、運が良かったかもしれないな。リビングドールγで。
アーリアメルクリア、あなたが捕まったことが切っ掛けになったのかもしれない。あれは強い刺激を受けると解除に至ると聞いてるわ。
アーリア捕まったあなたを見てどうしても助けたかったんでしょうね。
メルクリア…………。
アリエッタメルクリア、嬉しくない、です ?
メルクリア……嬉しいに決まっておる。じゃが、そこまでルキウスを追いつめたのかと思うとな。
カイウス違うよ。メルクリアがいてくれたからルキウスは元に戻れたんだ。きっとルキウスも安心してると思う。
メルクリアそうであれば、よいのじゃが……。
カイウスなあ、ルキウスが元気になったら会いに来てくれよ。
メルクリア……いや、その約束をする前に言わねばならぬことがある。
メルクリアカイウス、ルビア、そなたたちにはこれまで酷いことをしたな。そしてティルキスにもじゃ。
カイウスえっ…… ?
メルクリア帝国では、そなたたちの助言も聞き入れずルビアやルキウス、それにティルキスも巻き込んで辛い目にあわせた。
メルクリアすまぬ……。まこと、わらわは愚かであった。この償いは必ずする。
カイウスま、待ってくれよ。もういいって言っただろ ?魔鏡通信でさ。
メルクリアそれでも、きちんと顔を合わせて謝るべきことじゃ。
メルクリアそれから、フォレストであったか。そなたのことは……わらわもよく知らぬ。だがリビングドールになっていたことは知っている。
メルクリアわらわの浅慮が、そなたを巻き込む一因であったことは否めない。許してくれとは言わぬが償わせて欲しい。
フォレストい、いや……。そんなことを言われても……。
ルビアねえ、メルクリア。あなたがわかってくれたならもういいの。償いなんて言わないで。
ルビアそれに元々、この世界で最初に助けてくれたのはメルクリア、様……なんだし。それについては感謝してるの。
メルクリア様、などいらぬ。ルビアはわらわの家臣ではない。それに……――
カイウスわかった。なら、もう一度、出会い直そう。ここからスタートだ。
ルビアそうね !カイウスにしてはいいアイディアじゃない。
メルクリアそれは……どういうことじゃ ?
ルビア友達として出会いましょうってこと。よろしくね、メルクリア。
カイウスこれで、気軽に遊びに来られるよな ?そしたら、ルキウスにも会ってやってくれ。
メルクリア……お主らは……。
メルクリアありがとう…… !これから……よろしく頼む。
アリエッタ友達増えて、よかったね。
メルクリアうむ、よき出会いに感謝せねばな。
カイウスそれじゃティルキス、フォレストさんメルクリアたちをよろしく。
フォレストああ、そちらもな。アジトに帰ったらすぐにルキウスを診てもらうんだぞ。
メルクリアルキウスの回復を祈っておる。ウィルにも、よろしく伝えてくれ。もし……ウィルが嫌でなかったら、会いたい、と。
カイウスわかった。この浄玻璃鏡を渡してちゃんと伝言も伝えるよ。
ルビアじゃあね。メルクリア、アリエッタ !
アリエッタ私たちも帰ろう ? メルクリア、歩ける ?
メルクリア歩く程度ならば問題ない。しかし、なぜこんなにも力が入らぬのか……。
ロミーあなたは何も知らなくていいわ。
メルクリアわらわは何をした…… ?
デミトリアスそうか……。やはり、新たな大陸の出現はきみの計画ではなかったか。
グラスティンああ。目下調査中だ。さて、犯人はフィリップか、イクスかそれともビフレストの仕業か。
帝国兵申し上げます !調査隊からの報告です。
グラスティン来たか、どうなってる ?
帝国兵現在、新大陸への進軍は順調とのことです。それぞれの領からリビングドール兵を――
グラスティンあ ? 何の話だ ?
帝国兵ですから、アレウーラ領、レグヌム領、グリンウッド領ミッドガンド領から、新大陸へ向けてリビングドール兵が進軍しているとの報告です。
グラスティンそんな命令は出していない。デミトリアス、お前か ?
デミトリアスいや、私もだ。
帝国兵それでは、中止命令を出しますか。
グラスティン……今はいい。調査を続けろ。
帝国兵承知しました。失礼します。
グラスティン……糸を引いているのはアルトリウスに違いない。あいつは以前から妙な動きをしていた。
デミトリアス信念のある有能な人材だと思ったが裏切りもそれ故ということか。残念だよ……。
グラスティンとなると、腐った肉は削ぎ落とさないとな。すぐに蛆が湧いちまう。いいだろう ?
デミトリアス……………………。
デミトリアス仕方がないね……。アルトリウスへの【贄の紋章】の刻印を許可しよう。

キャラクター10話【12-13 グリンウッド領 森4】
サイモン今の揺れは…… ?
サイモン……いや、些末なことに心を砕く暇はない。我が主を追うのが先だ。
サイモン感じる……この力は間違いなくヘルダルフ様のもの。しかも以前にも増して領域が強まっている。
サイモンもしや、魔導器とやらが影響しているのか ?
アルトリウスこれ以上は近づかぬ方がいいぞ。聖隷よ。
サイモン誰だ。
アルトリウスこの周辺には業魔が潜んでいる。会えば無事では済むまい。
サイモン……いらぬ世話だ。退け。
アルトリウス哀れな業魔の餌になりたくないだろう。
サイモン哀れと言ったか ? 我が主への侮辱、許さぬぞ !
アルトリウス主だと ?お前はヘルダルフに縁のある者か。
アルトリウスであれば、聖隷――いや天族の娘よ。一緒に来てもらう。
サイモンふざけたことを。我が行く手を阻んだこと夢幻の狭間で悔やむがいい !
アルトリウス小賢しい真似をする。
サイモン何っ !
アルトリウスこの程度の幻術で、私が惑うとでも ?
サイモン貴様は一体……。
アルトリウスこれ以上、付き合う気はない。クレーメルケイジにでも入っていてもらおう。
サイモンくっ…… !
アルトリウス逃がしはせん。
サイモンなっ、体が吸い込まれ――…… !
アルトリウス無事収まったか。思わぬ収穫だったな。
ロゼはぁ、びっくりした……。今の地震、結構大きかったね。
アリーシャああ。この揺れ、鏡震を思い出したよ。
ロゼまた大陸ができたとか ?なーんて……って、どうしたみんな ! 顔怖い !
デゼル妙だ……。風が乱れている。
ミクリオああ。さっきから様子がおかしい。揺れの後から精霊の力が強まってる。
ライラやはり、みなさんも異常を感じていたんですね。気のせいかと思ったのですが……。
エドナちなみに、ここにも様子のおかしいのがいるけど。
スレイ……うん、ちょっと待ってて。
エドナワタシのツンツンに動じないなんてホントに異常事態のようね。
スレイ感じたんだ、ヘルダルフの領域をさ。強い穢れが集まってる方向を探ってた。
ザビーダマジかよ。いよいよご対面か。
スレイ見つけた ! こっちだ。
スレイこの辺りに…… !
スレイ見つけたぞ、ヘルダルフ !

キャラクター11話【12-14 グリンウッド領 山岳1】
スレイ見つけたぞ、ヘルダルフ !
ヘルダルフ誰だ、貴様は。
全員! ?
ミクリオ僕たちを知らないなんて……。まさか、リビングドールなのか ?
デゼルそんなはずねぇ。領主の館じゃヘルダルフ本人に見えたぜ。
ロゼうん。初期型ってヤツならともかく今のリビングドールじゃあそこまで明確な意志は現れないと思う。
ヘルダルフそうか。貴様たちはあの時の鼠だな。ワシの命を欲して、ここまで追ってきたか。
ロゼ確かにあの時はそうだったけど今はあたしの出番じゃない。あんたを止めたい奴がいるから。
ヘルダルフ止めるだと…… ?
スレイ穢れが増していく…… !
ヘルダルフ我が歩みを阻むか。貴様の連れ共々、相応の覚悟はできていような。
ザビーダスレイが『連れ』かよ。ヘルの野郎、本気で俺らの記憶が抜け落ちてやがる。
エドナ抜けてるんじゃなくて、『無い』んだとしたら ?あれは、ワタシたちの知ってるひげネコじゃないかもしれない。
エドナここはティル・ナ・ノーグ。具現化された存在が、どの時点のどんな存在なのかわかったものじゃないわ。
アリーシャでは、今のヘルダルフは災禍の顕主ではないと…… ?
スレイだとしても放っておけない。あいつの浄化は導師であるオレの役目だ。
ヘルダルフ導師と言ったか ? 貴様のような小童が ?笑わせてくれる。
ライラその言葉、必ず訂正する時が来ますわ。
ヘルダルフそうか。ならば、その導師の力をもって見事うち果たしてみせよ !
アリーシャくっ、なんという強さだ…… !
ライラアリーシャさん、気を付けて !かの者は、力も穢れの量も災禍の顕主であった時と変わりません。
エドナ変わらないどころか、少しづつ穢れが増してるわ。長引かせると厄介よ。
ザビーダ同感 ! おいスレイ、全力でいけ !
ミクリオ聞こえたな ?
スレイああ !
ロゼデゼル、あたしらも !
デゼルおう !
スレイルズローシヴ=レレイ !
ロゼルウィーユ=ユクム !
スレイヘルダルフ、お前はオレが浄化する !

キャラクター12話【12-15 グリンウッド領 山岳2】
ヘルダルフ……くっ……。
スレイこれなら――いける !
ヘルダルフくっ……、くくく、はっはははは !
スレイ! ?
ヘルダルフこの程度か、導師。あの男に比べれば何とも可愛らしいものよ。
アリーシャ効いてないのか ! ?
エドナ効いてないどころかますます穢れが膨張していくわ !
ザビーダ領域の影響力も強まってやがる。
ヘルダルフくくく……魔導器とは素晴らしいな。力が溢れるようだ !
ロゼあっ、あの時の !
ライラやはり……穢れの増え方がおかしいと思っていたのです。
ライラあの魔導器のせいで、かの者の憎悪や野心までもが糧となり、穢れを永続的に増やしているのでしょう。このままでは……。
スレイうおおおおっ !
ヘルダルフ来い、導師 !
スレイ獅子戦吼 ! !
ヘルダルフそれが……獅子戦吼だと ? 笑わせるわ !
ヘルダルフこれが ! !
ヘルダルフ本当の ! !
ヘルダルフ獅子戦吼だ ! !
全員うわああああっ ! !
スレイこんな……こんなに力の差が……。
スレイ(やっぱり、今のオレじゃ災禍の顕主に匹敵する穢れは浄化できないのか…… ?)
ヘルダルフ貴様ら全員、己が無力を嘆いて死ぬがよい。
ザビーダくそっ、仕方ねえ。
ライラザビーダさん、何を !
ザビーダ大事にとっておいたが一発はお前のためにくれてやるぜ、ヘルダルフ。
ザビーダ憑魔は地獄へ連れてってやらねえとな !
ヘルダルフ! !
ライラ待ってください、ザビーダさん !かの者の領域が解かれていきます !
アリーシャどうして…… ! ?
ヘルダルフここまでだ。今回は見逃してやろう。
ザビーダへっ、殺されるとわかってビビったか ?
ヘルダルフ貴様ごときに殺せるものかよ。だが、その得体のしれぬ力は避けねばならぬ。
エドナ勘のいいひげネコね。
ヘルダルフ万が一この力を損なえば、我が身を呪いにかけたあの男への報復が叶わぬのでな。
ヘルダルフ導師よ、いずれ貴様とも雌雄を決するときが来よう。
デゼル満身創痍だな。
ロゼ……認めるよ。今回はこっちの負け。
ミクリオスレイ……。
スレイ…………。
テレサいけません、オスカー !傷が開いたらどうするのですか。
オスカー大丈夫、もう動けます……。一刻も早く、ヘルダルフを……っ !
テレサ痛むのですね。さあ、横になって。
オスカーすみません、姉上……。
テレサなぜ謝るのです。私をかばって負った怪我なのに。
テレサ謝らなければいけないのは私の方です。あなたに傷を増やしてしまった……。
オスカー姉上を守った証の傷です。これほど誇らしいものはありません。
テレサオスカー……。お願いだから、今は回復に専念して。あなたを失いたくないのです。
オスカー……わかりました。
テレサありがとう。言うことを聞いてくれて。ゆっくりお休みなさい。
テレサオスカー……、本当に無事でよかった。
アルトリウステレサ、領主の館での騒動は聞いた。その後どうなっている。
テレサアルトリウス様 !申し訳ございません。ヘルダルフの逃走を許してしまいました。
テレサ現在捜索を続けていますが未だに行方は掴めておりません。
テレサ今回の件、全て私の失態です。申し開きのしようもありません。
アルトリウスヘルダルフの件については咎めん。それよりも、オスカーはすぐに動けそうか ?
テレサしばらくの間はお役に立つのが難しいかと思います。
アルトリウスでは、次の計画はお前だけでも動いてもらおう。
テレサお任せください。それで、計画とはどのようなものでしょうか。
アルトリウス今回具現化した新大陸のエネルギーを使ってミッドガンド領の地脈を目覚めさせる。そして……。
アルトリウスこのティル・ナ・ノーグでカノヌシを復活させるのだ。
to be continued
キャラクター1話【13-1 グリンウッド領 森】
アルトリウス――これで、計画の全容は以上だ。理解したな ?
テレサは、はい……。
アルトリウスどうした。
テレサい、いえ ! その……聖主カノヌシの復活が叶うと知って驚いておりました。この世界にも地脈があるとは存じませんでしたので。
アルトリウス正確に言えば地脈の代用となるものだ。
アルトリウス鏡士たちがこの世界を具現化する時に使ったという魔鏡術の根源、オリジンの力が大地の奥底に封じられていた。
テレサオリジン……。それほどの力を持つ存在なのですね。
アルトリウス『創造』と『想像』を『融合』させてできたこの世界の命の源だ。オリジンの力は地脈のように広がっている。
アルトリウスこれを目覚めさせることで地脈に見立てることが可能となるのだ。
テレサそこに聖主カノヌシは眠っておられるのですか。
アルトリウスああ。本来、神と同等の力を持つ聖隷カノヌシはこの世界での具現化は叶わぬ。具現化がなったとしても力が矮小化されるだろう。
アルトリウスだが、聖隷――天族は精霊として具現化可能だ。事実、カレイドスコープに残された情報に拠ればカノヌシは具現化されている。
アルトリウスだが、帝国も鏡士たちもカノヌシを観測していない。考えられるのは、カノヌシの心と体が分離しているためこの世界の精霊に取り込まれたという可能性だ。
テレサ確かに、この世界の多くの精霊は同等の力を有するティル・ナ・ノーグの精霊と統合されて具現化されています……。
アルトリウスならば、世界の在り方に作用するカノヌシの力はこの世界を構築するオリジンに内包されていると考えた。それはグラスティンの調査からも推測できた。
テレサ………………。
アルトリウステレサ、先ほどから心ここにあらずのようだな。
テレサい、いいえ、そんなことはありません !ただ、先ほどのお話がどうしても気になるのです。この計画では、まるで……。
アルトリウス……そういうことか。落ち着きなさい、テレサ。そんな有様では、この計画は成し得ない。
テレサ申し訳ありません……。
アルトリウスいいか、私が話したのはあくまでも邪魔が入った場合を想定しての話だ。
アルトリウスどこまでも冷静に、自分の使命が何かを考えろ。
テレサ承知しました。必ずや、ご期待に沿う働きをお約束します。
アルトリウス私は引き続きヘルダルフを探す。後は手筈どおりに。いいな ?
テレサはい。アルトリウス様も、どうかお気をつけて。
アルトリウスさて……。
アルトリウスどうやら探す手間が省けたようだ。待っていたぞ。
アルトリウスヘルダルフ。
ヘルダルフその言葉、そのまま返してやろう。ようやく会えたな、導師よ。
アルトリウス……なるほど。随分と様変わりしたな。魔導器の影響か、力も驚くほど増したようだ。
ヘルダルフ貴様への怒りと憎しみ故にな。
アルトリウスそうか。やはり人が業によって穢れた姿は愚かで醜い。
ヘルダルフ醜いか。ククッ……フハハハハハハッ !
ヘルダルフ呪いをかけた張本人がよくもぬけぬけと言えたものよ !
アルトリウス謀反人に正統な裁きを与えたまでだ。
ヘルダルフ裁きだ ? あの掴みどころのない皇帝のためか。嘘も大概にしておけ。
ヘルダルフ呪いなどかけずともワシをリビングドールとやらにして意思を奪えば済んだであろうが。
ヘルダルフ貴様、腹の底に何を隠している。
アルトリウス何も。私が私であるが故に導師としての務めを果たしているだけだ。
ヘルダルフその務めが、貴様の言う業によって穢れたワシを否定することか。
アルトリウスそうだ。それが理だ。
ヘルダルフ愚かな。業とは欲、欲は生きる力よ。業を背負って生きることこそ、人が人である所以。貴様とて同じだろう。
ヘルダルフ理という傲慢な理想の押し付けこそが貴様の欲そのものではないか !
アルトリウスわかっている。だからこそ、私は全てを背負う。
ヘルダルフならば死ね。愚かな理想と共に !
ヘルダルフっ ! ?
アルトリウス戦訓その一、策戦は堅実に。対応は柔軟に。
ヘルダルフ……体が…… !
アルトリウス拘束のみに特化させた術式だ。今の貴様でも簡単には解けん。
ヘルダルフいつの間に……ぐおおおっ !
アルトリウスあれほどの穢れだ。気配を感じる者であれば対策の一つもするさ。
アルトリウスだが、お前は私への警戒を怠った。本来ならば、そこに考えが至らぬ程愚かでもなかっただろうに。
アルトリウス急激に力を増したことで、己の強さに溺れたあげく私への怒りが目を曇らせたのだ。やはり業とは醜いものだな。
ヘルダルフおのれぇぇっ ! 導師ーーーーっ !ぐああああああっ !
アルトリウス大人しくしておけ。苦しむだけだ。
アルトリウス――事は済んだ。転送魔法陣の準備はできているか ?
帝国兵βはい。ミッドガンド領内聖主の御座への転送確認を完了しております。
ヘルダルフくっ……聖主の御座……だと…… ?
アルトリウスグリンウッド領ではセルゲイの手前帝都へ運ぶという話になっていただけだ。
アルトリウスその忌まわしき穢れはカノヌシへの贄とさせてもらう。腐抜けたベルベットの代わりにな。

キャラクター2話【13-2 ケリュケイオン1】
エルレイン治療は終わりました。もう痛みはないはずですよ。
スレイありがとう、エルレインさん。
ザビーダいやー聖女様の治癒術はまた格別だな !今度お礼するぜ、個人的に。
エルレイン俗な見返りなど不要です。
ザビーダ怖っ……。
マークハハッ、冗談が通じる相手じゃねえって。しかしハデにやられたな。
フィリップヘルダルフは予想以上の強さだったようだね。
ライラええ。かの者の強さは魔導器によって引き上げられていました。あのまま戦っていたら、こちらが危なかったでしょう。
スレイ……いや、勝てなかったのは魔導器のせいだけじゃないよ。
スレイあいつを浄化するためにはきっと、知らなきゃいけないことや足りないものがたくさんあるんだ。
スレイヘルダルフに何があったのかとかオレ自身の実力とかさ。
エルレイン………………。
ミクリオ……そうだな。けど、それはスレイだけじゃない。僕たちみんなに言えることだ。
全員…………。
ビエンフーく、空気が激重でフー……。
エドナミボのせいよ。責任とって何とかしなさい。
ミクリオ何とかって言っても……。
エドナ踊りでも踊って場を盛り上げればいいでしょ。協力してあげる。ほら、ほら、ほーら。
ミクリオちょっ、くすぐったいだろ !傘はやめろ !
ビエンフーああっ、エドナさんにあんなツンツン……。うらやましいでフー。ボクも優しくツンツンされ――
アイゼンビエンフー……、てめえ、後で倉庫に来い。
ビエンフービ、ビエ~~~~ン ! 姐さん、お助け~~ !
マギルゥ自業自得じゃ。しかも益々空気を悪くしおって。ベルベット、こんな時こそお主のアレをブチかましてやれい !
ベルベットは ? アレってなによ。
マギルゥまたまたぁ、出し惜しみせんでいいんじゃよー ?伝説のモノマネを披露する絶好の機会であろうが。
マギルゥこの重っ苦しい空気の中お主が「ポッポ~ ♪ 」と一声鳴けば泣いたカラスも怒って笑い、ドカンドカンの大爆笑 !
ベルベットっ ! !
ライフィセットベルベット、大丈夫 ? 顔が赤いよ。
ロクロウなんだ、ハトじゃなくてタコのモノマネか ?
マギルゥそうか !ブルナーク間欠泉から飛び出す茹でダコじゃな ?ニッチな新ネタを仕込んで来るとは、侮れんヤツめ。
エレノアいい加減にしてください、あなたたち !こんな時に何をふざけているのですか。
エレノアベルベットも、芸を披露するならもっと相応しい場所でやってください。
ベルベットやるわけないでしょ !まったく、疲れるったらないわね……。
ライラ芸を『披露』するのに『疲労』してしまった……というわけですね !
ベルベットそれやめて。ホントおじさん臭い。
ライラ酷いです、ベルベットさん。ダジャレはおじさんだけのものではありませんわ !
アリーシャふふっ、さすがライラ様だな。
スレイっていうか、怒るとこずれてるし。
ロゼでさ、結局あたしら何の話してたんだっけ ?
3人っ……あっはははははは !
マギルゥどうじゃなご一同。泣いてばかりの子ガラスも我らマギルゥ奇術団にかかればあっという間にこのとおり。
スレイうん、ありがとう。気を遣わせちゃってごめん。落ち込んでる場合じゃなかった。
アリーシャそうだな。次のことを考えよう。ヘルダルフに勝てるように。
デゼル賛成だ。それにサイモンのこともな。
エルレインそのことですが、あなた方には迷惑をかけましたね。
デゼルなんであんたが謝る。
エルレイン先ほどまでサイモンは私の管轄下にありました。あの者を御することができなかった私の不始末です。
マークまあ、うちの鏡映点はクセ者揃いだからな。素直に言うこと聞くやつの方が貴重だよ。
フィリップだからといってヘルダルフと繋がりがあるとわかった以上このままサイモンを放っておくわけにはいかない。
ロゼうん。あの二人は合流させたらまずいよ。サイモンは、あたしたちが知らない未来のことを知ってるみたいだし、今のうちに何とかしないと。
フィリップでは二人の捜索にはこのままケリュケイオンを使ってくれ。機動力は必要だからね。
マーク使うのはいいとして、どこを捜すか当てはあるのか ?
スレイ当てはないけど、気になることはある。ケリュケイオンが迎えに来る前にほんの一瞬だけヘルダルフの領域を感じたんだ。
ミクリオ本当か ! ? 気がつかなかったな。
スレイ感じた……んだと思う。すぐ消えちゃったし気のせいかもしれないけどいつもの感じとは違うっていうか……。
スレイとにかく、ヘルダルフに繋がる手掛かりがあるなら何でも知りたいんだ。
ミクリオそうだな。サイモンの様子じゃ聞いても答えてくれそうにない。自分たちで情報を集めないと。
マークんじゃ、スレイの言うあたりを探ってみるか。
エルレイン…………。スレイ。サイモンの見てきた世界を知りたいか ?
スレイえ ? どういう意味 ?
エルレイン私は以前、クロノスの檻で元の世界の自分が辿るであろう生涯を何度も繰り返し見せつけられた。
スレイ自分の未来を見たのか !元の世界の……。
エルレインそうだ。もしもそのような機会があったとしたらお前はそれを望むか ?
スレイう~ん…………。自分の未来が知りたいっていうかそれがヘルダルフを浄化するための手がかりになるなら知りたいって感じかな。
エルレイン自分のためではなく、敵のためだと ?
スレイうーん、自分の未来は自分で体験したいんだ。まあ、元の世界のことはもう体験できないんだけど。
スレイそれに、あのヘルダルフってアルトリウスの呪いや魔導器のせいであんなに穢れちゃってるんだろ ?
スレイこの世界は穢れが存在していても憑魔として具現化された奴以外は本来憑魔になるはずがない世界だし。
スレイそもそもの条件が違うこの世界でならヘルダルフの穢れをどうにかできるかもしれない――……あれ ? よく考えるとやっぱり自分のためかも。
ライラふふっ、本当に、スレイさんらしいですわね。
クラトスフィリップ、マーク、取り込み中すまない。
フィリップクラトスさん、どうしましたか ?
クラトスこのデータを見てくれないか。ミッドガント領を中心に妙な数値が――
エルレインあっ…… !
クラトス失礼。肩が当たってしまった。怪我はないだろうか ?
エルレインいや、大事ない――
二人う…………。
スレイエルレインさん ! ?
マーククラトス ! ? どうした !
クラトス急に……めまい…………が……………………。
フィリップ二人とも、意識がない。すぐに医務室へ !
ライフィセットえっ ! ?
フィリップライフィセット ! きみもか ! ?
ライフィセットううん……大丈夫。けど、今の感覚……。そんなわけないのに……。
ベルベットどうしたの ! ?
ライフィセットかすかだけど、今、地脈のようなものを感じた……。
全員! !

キャラクター3話【13-2 ケリュケイオン1】
ヘルダルフ……ぐっ……。
ヘルダルフ(おかしい……。力が湧き上がるそばから奪われていく……)
アルトリウス苦しいか。力が吸い取られるように感じるはずだ。
ヘルダルフ…………。
アルトリウス……まあいい。その様子であればお前の穢れは地脈へと注ぎ込まれているだろう。
アルトリウスしかし……やはり念には念を入れるべきか。餌が足りなくては困る。
ヘルダルフ餌……だと ?
アルトリウスお前には、オリジンから分離するに十分な穢れをカノヌシに与えてもらわねばならん。
アルトリウスその力、『神依』によりさらに高めてもらうぞ。
ヘルダルフ何 ?
アルトリウス今からこのクレーメルケイジに入った聖隷――いや、天族と精霊輪具で神依化してもらう。
アルトリウスお前を『我が主』と呼んでいた天族の娘だ。見知った者であれば、より神依化もしやすいだろう。
ヘルダルフ知らぬ ! 何が天族だ !
アルトリウスそうか。お前には、あの者の記憶がないのか。
アルトリウス片割ればかりが記憶と想いを募らせたままか。この天族も哀れだな。
アルトリウス天族よ、せめて一つとなって、主の力となるがいい。
ヘルダルフ何をする……やめろ ! ぐああああああっ ! !
アルトリウス(こちらの準備は整った。後は……)
ロミーアルトリウス、話があるの。
アルトリウスロミーか。どうした。
ロミー知ってると思うけど新たな大陸の具現化は成功したわ。そっちはどう ?
アルトリウスこちらも順調だ。おかげで地脈は活性化した。喰魔を介さずにカノヌシへ穢れを送る術式も起動している。
ロミーそう。『穢れの質』っていうのはちゃんと高めてから送りこんでる ?「憎悪」とか「傲慢」とか色々あるって話だったけど。
アルトリウス魔導器で全ての要素は十分高められているが先ほど念のために手も打った。
ロミーよかったわ。苦労してグラスティンから盗んだ術式の一つだもの。ちゃんと役立ててくれないとね。
アルトリウス問題ない。全ては順調だ。
ロミーだったら、もういいわね。しばらくは連絡も手助けも出来ないからそのつもりでいて。
アルトリウス何かあったか ?
ロミーちょっと面倒が起きて怪我をしたの。帝国もこっちを嗅ぎつけてるだろうし回復がてら身を隠すわ。
ロミーそれともう一つ。新大陸の調査で面白いものが見つかったわよ。
ロミー『霊石』と『集霊器』っていうんだけど集霊器を使って、霊石を取り付けた人間からエネルギーを回収できるの。
アルトリウス人間から……。
ロミー何か引っかかる ?
アルトリウスいや。では新大陸で回収したエネルギーはこちらで預かるぞ。
ロミーいいけど、何に使う気 ?
アルトリウス【ルグの槍】の対抗エネルギーとして使用する。
ロミーそう、お好きにどうぞ。……フフッ。
アルトリウスなんだ ?
ロミー造反したあなたが仕組んだ計画って結局、帝国の連中と同じなんだもの。具現化した世界を利用しつくそうとするところとかね。
アルトリウス確かに、私は『全』を生かすために『個』への犠牲を強いている。
アルトリウスだが、いずれはこの世界に具現化された人間たち全てを、救われるべき『全』にする。
アルトリウスそれが私の『理』だ。
ロミーご立派な思想だこと。あなたの理想とする世界がどんなものか見るのが楽しみだわ。
ロミーそれじゃ、さようならアルトリウス。お互いまた無事に会えるといいわね。フフフッ。
ロミー(その時まで『ここ』にいるかどうかはわからないけど)

キャラクター4話【13-3 ケリュケイオン2】
ベルベット地脈って……。フィー、どういうことなの ! ?
アイゼンもう一度、落ち着いて感じてみろ。
ライフィセット待って、地脈とは何かが違うんだ。似てるけど、何かもっと特別な力のような……。
フィリップ…………。
マークどうした、フィル。お前も調子悪いのか。
フィリップ……いや、大丈夫。ちょっとしたアニマ酔いだよ。でも、ライフィセットの感じているものがわかった。
ライフィセットえ ! ?
フィリップライフィセットが感じている特別な力っていうのは魔鏡術の融合の力だ。とてつもない融合の力が突然、地中で活性化したせいだと思う。
ライフィセットこれが魔鏡術の融合の力…… ?だったらなんで地脈みたいに感じるんだろう。それに僕は鏡士じゃないのに……。
フィリップごめん、僕宛てに通信だ。
フィリップ――……えっ、なんで君が ! ?
ファントムなんでとは、ご挨拶ですね。フィル。
フィリップリーパ……、目が覚めていたんだね。良かった。
マークファントム…… !
三人ファントム ! ?
フィリップ意識ははっきりしているんだね。体はどうだい ?
ファントムあなたからそう聞かれるのは複雑ですね。こちらとしても、連絡したかった訳ではありませんし。さて……用件を伝えましょうか。
ファントム今、ティル・ナ・ノーグの具現化に関わった三人の鏡士とオリジンの力が活性化して暴走し始めています。
ファントムヨーランドたちは、それらを抑えながら『オリジンの存在を保つ』ので精一杯なんです。
フィリップオリジン ? これは融合の力ではないのか ?
フィル融合の力ですよ。あなたが感じている通りにね。
マーク相変わらず持って回った言い方しやがって。さっさと詳しいことを説明しやがれ !
ファントム詳しいことも何も、オリジンの力は融合の力と同義なのですよ。オリジンは、ナーザ・アイフリードがダーナの力を元に造りだした最初の精霊ですから。
ファントムこの世界には、世界の具現化を保つための原初の力が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。そしてうかつに触れられないよう封じられていた。
ファントムしかし、原初の力を制御する筈のオリジンが『狂った』ようですね。エンコードによって、オリジンに異世界の『何か』が吸収された。それが今になって暴れている。
マークそれだけじゃ、何が何だか見当がつかねえぞ……。
ファントム仕掛け人はミッドガンド領とやらにいるようです。さっさとこの首謀者を何とかしなさい。
マークチッ。
ベルベット……アルトリウスよ。
エレノアベルベット、あまりに早計じゃありませんか ?
ベルベット地脈――まあ正確には違う物みたいだけどそんなものが関わるような騒ぎを起こす奴なんて他に誰がいるの ?
エレノアそれは……。
マークともかく、ミッドガンド領へ向かうぞ。スレイたちはどうする ?
スレイオレたちも行くよ。ベルベットたちの話だとアルトリウスとヘルダルフは同じ場所にいるかもしれないし。
スレイそれに、一瞬だけ感じたヘルダルフの領域……。なんて言ったらいいかわかんないけど変な感じだったから。
ベルベットそのヘルダルフってのもアルトリウスに呪われてたんでしょ。今回の件に関わっているかもしれないわよ。
スレイうん……。なあ、ベルベットアルトリウスって人は導師なんだよな ?
ベルベットええ。前にも言ったでしょ。あんたとは似ても似つかない導師であたしの仇。
ロクロウアルトリウスが糸を引いているなら十中八九カノヌシ絡みだろうな。
ザビーダここでその名前が出るかよ。ったく懐かしくて涙が出るぜ。
エレノアだとしたらアルトリウス様の目的は、この世界で……。
マークちょっと待て。悪いがその、地脈とかカノヌシのあたり俺たちにもわかるように説明しといてくれるか ?
アイゼンそうだな、すまなかった。手短に話すぞ。
アイゼン俺たちの世界で地脈というのは大地を流れる自然の力だ。その地脈を通じてカノヌシは力を取り入れていた。
アイゼンそしてカノヌシは穢れを、その根源である意思ごと喰らう聖隷で、これによって人間を鎮静化させる。アルトリウスはこの力が狙いだった。
マギルゥかなりザックリじゃのー。
マーク十分だ。けど、なんでアルトリウスは鎮静化なんて力が必要だったんだ ?
マギルゥ大量の穢れを生まない世界を造るため、じゃな。
スレイえっ ! ? できるのか ? そんなこと。
アリーシャ実現するのなら、理想の世界と言えそうだが……。
アイゼン俺はごめんだ。反吐が出る。
アリーシャ何故ですか ?
アイゼンお前たちも知ってるだろう。穢れがなぜ生まれるか。
マギルゥ憎悪、執着、愛欲、絶望……人の感情によって穢れは増える。だからと言って切り離せるものでもなかろう。
フィリップ…………そうだね。それを切り離せたらきっと楽になれるんだろうけれど僕は僕ではなくなってしまうだろうな。
二人………………。
マギルゥそこで人の意思を奪うカノヌシじゃよ。奴の領域ならば、人間がすべてリビングドールβに置き換わったがごとき世界に早変わり。
マギルゥ決められた理に逆らわない。逆らう意思もない。感情の高ぶりがないから人間味がない。理から外れれば、自死さえ選ぶ。
アリーシャそんな ! それは人として生きていると言えるのか ! ?
マギルゥじゃが、それが唯一つ世界を救う方法だとしたら、お主はどうする ?
アリーシャそ、それは……。
エレノアマギルゥ ! アリーシャを惑わせないでください。
マギルゥ儂らの視点だけで話しては偏りが出ると思うての ♪
ベルベット誰がどう思おうとあたしにはあいつを倒す理由がある。マーク、あんたたちも好きに動けばいいわ。
マークまあ、ざっくりと事情はわかった。率直に言えば俺はアルトリウスの理想ってのが肌に合わねえ。鏡精はマスターの心――感情から生まれるもんだしな。
マークフィルはどうだ ?
フィリップさっきも言った通り、僕は今まで散々感情に流され惑わされて、ここまで来た。それを否定されることは僕という存在を否定されるようなものだよ。
フィリップこれまでの在り方を否定するような世界は望まない。
スレイオレもだよ。それに少なくともここでは、世界を救う方法がアルトリウスの考える手段だけじゃない筈だ。……いや、オレたちの世界だってきっと――
ライラ………………。
ミクリオ僕も……いや、みんなも同じだ。
ライラ……ええ ! そうですわ。
フィリップでは全員一致でいいね。
フィリップ……今の話の通りなら、カノヌシは世界の在り方に関わる者とも思える。だが聖隷は精霊としてエンコードされるという法則があるから、神として判定されず――
ファントムしかし、神に近い力を持っていたが故に矮小化され最も性質の近い精霊オリジンと同一視されてオリジンの中に取り込まれたのかもしれ――
ファントム……まあいいでしょう。私はこれで失礼しますよ。
フィリップあっ、リーパ !
マーク……ほっとけ。何かあれば連絡が来るだろ。今はミッドガンド領へ急ぐぞ。

キャラクター5話【13-3 ケリュケイオン2】
帝国兵1――以上が、新大陸出現に関する調査報告になります。
デミトリアスそうか。ご苦労だった。
グラスティン予想どおりだったな。今回の主導はアルトリウスでそこにロミーやチトセが一枚噛んでいるというわけか。
デミトリアス我々のオリジン覚醒計画を盗んだあげくすでに実行に移しているとはね。
グラスティンしかも勝手に筋書きを変えやがった。オリジンの覚醒には、鏡の精霊の心核を入れたジュニアを器にする予定だったのに……。
グラスティン――おい、ロミーとチトセの居場所は判ったか ?
帝国兵1それが、お二人とも連絡がつかず目下捜索中であります。
デミトリアス警戒して姿をくらましたようだね。
グラスティンまあ、あいつらはいい。贄の紋章でどうとでも出来る。問題はアルトリウスだ。
グラスティンあいつは聖主の御座を奪って立てこもっている。まずはあの場を、奴から取り戻すぞ。
デミトリアスわかった。ではすぐに兵を向かわせよう。
グラスティンおい、伝令だ ! すぐにミッドガンド領へ部隊を――
帝国兵2申し上げます ! ただいまミッドガンド領よりテレサ・リナレス様がおいでになりました。
グラスティンテレサだと ? アルトリウスの子飼いが見計らったようなタイミングでご登場か。ヒヒヒ……どうする ?
デミトリアス構わん。テレサをここへ。
テレサテレサ・リナレスにございます。この度は拝謁を賜り――
グラスティン上辺だけの口上ならその辺にしておくんだなあ。
テレサっ……。
デミトリアステレサ、私たちはミッドガンド領の状況を知っている。それを心にとめた上で話すがいい。
テレサはい……。では包み隠さず申し上げます。まずお尋ねしますが、帝国はアルトリウス様の捕縛、もしくは討伐をお考えでしょうか。
デミトリアス無論。彼の暴走は止めねばならない。仕えていたきみには酷な話だろうがね。
テレサ…………。
グラスティンヒヒッ、許しを請うつもりか ?だったらアルトリウス本人を連れて来るんだな。
テレサいいえ。アルトリウス様をかばうつもりは毛頭ございません。
デミトリアスでは、きみの用件とはなんだい ?
テレサ恐れながら……陛下と、取引をしたいのです。
デミトリアス……聞こうか。
テレサ恐らくご存じとは思いますが、現在、アルトリウス様は聖主の御座におられます。そしてその周囲には多数の罠が仕掛けられているのです。
テレサこのまま帝国軍が聖主の御座へと攻め込めば相応の被害が出ることは間違いありません。
テレサですが、私であれば、アルトリウス様も心を許されるはずです。攻め込む隙を作ることもできましょう。
デミトリアスなるほど。きみはこちらに協力をすると言うのか。それで、見返りは何だ。何か要求があるのだろう ?
テレサ……私の弟、オスカー・ドラゴニアに付けられた贄の紋章の解除です。
デミトリアスそうか。ミッドガンド領の従騎士だったね。
グラスティンヒッヒッヒッ、弟のために主を裏切るのか。
テレサええ。私にとって一番大事なのは弟です。オスカーが自由になれるのならばどんな汚い手でも使います。
テレサそれに、このままアルトリウス様の下にいれば弟は遠からず命を落とすでしょう。……とても耐えられません。
テレサ私は、オスカーだけでも助けたいのです。
デミトリアスそうか……。きみの気持ちはよくわかった。ではアルトリウスの件は、きみに一任するとしよう。
グラスティンおっと……本気か ?
デミトリアスこちらの戦力も随分と削られている。テレサの申し出を無下にすることはない。
デミトリアスそれに、きみはフリーセルの捜索を優先するべきだ。違うかい ?
グラスティン……そうだな。
テレサでは、取引は成立ということでしょうか。
グラスティン皇帝陛下のご意思ならば仕方がないだろう。さっさとアルトリウスを連れてこい。
グラスティン上手く事が運べばオスカーの贄の紋章を解除してやる。
デミトリアステレサ、私はきみの言葉を信じよう。きみが弟への愛を忘れなければ任務は間違いなく成功するはずだ。
テレサはい、必ずや証明してご覧にいれます。
テレサ(やった…… ! 私が襲撃を仕切れるならばミッドガンド領侵攻への時間稼ぎができる)
テレサ(アルトリウス様……、全ては計画どおりです。どうか今のうちにカノヌシ復活を成し遂げてください)
グラスティン………あの女は行ったか。
グラスティン――おい、テレサに監視をつけろ。あの女は信用ならんからな。
帝国兵β承知しました。
グラスティン構わないよな ? お優しい皇帝陛下。
デミトリアス……ああ。やってくれ。
グラスティンほう、即答か。お前も肝が据わってきたな。
デミトリアスどういう意味かな ?
グラスティン疑うのは心苦しいだの、裏切るとは思いたくないだのひとしきりゴネてから渋々承諾ってのがお前のお決まりだったからな。
グラスティンそういう矛盾したところが面白かったんだが今回ばかりは決断が早くて助かる。
デミトリアス肝が据わったと言われればそうかもしれない。けれど、私は今だって彼女が裏切らないことを祈っているよ……。
グラスティンまあ、裏切ったら裏切ったで弟に最高の地獄を見せてやればいいだけさ。
グラスティンああ、その方が面白いかもなあ。何か仕掛けを考えておこう。ヒヒヒヒッ。

キャラクター6話【13-4 ミッドガンド領 聖主の御座1】
スレイこの気配、やっぱり間違いない。聖主の御座の奥にヘルダルフがいるはずだ。けど……やっぱり変な感じがするよな ?
ミクリオうん……。スレイの言ってた通りだ。なんだろうな、今までと違う。
ライラ先に入ったベルベットさんたち、大丈夫でしょうか。
ロゼうちらだって人のこと心配してる場合じゃないかもよ。
デゼルともかく、一番濃い穢れをたどってきゃヘルダルフのところまで行けるだろう。
エドナそうね。見当がついたならさっさと進む。
ザビーダなんだ、ご機嫌斜めだな。お兄ちゃんが先に行っちまって寂しかったか ?だったら俺様が代わりに――
エドナゲスの勘ぐりね。あっちはアルトリウス捜索、こっちはヘルダルフ。やるべきことをやってるだけでしょ。
ロゼ――ねえ、あれ ! あそこにいるのって !
スレイフィリップさんだ。周辺の警護をするって言ってたのにこんなところにいるなんて何かあったのかな ?
アリーシャ待て、スレイ。罠かもしれない。
アリーシャフィリップ殿。何故あなたがいらっしゃるのですか ?
ファントムそれは私がファントムだからですよ。アリーシャ殿下。
スレイファントム ! ? なんでここにいるんだ。
ファントム自分のしたことの落とし前をつけに、ね。
スレイ落とし前って ?
ファントムこのミッドガンド領は、私が具現化したものです。私は、ゲフィオンとフィルが生きるための世界を造ろうとした。
ファントムけれど、そうして具現化した中に私の望む世界とは違う、独自の世界を生み出そうとするアルトリウスを呼びこんでしまった。
スレイじゃあ、アルトリウスを倒すためにここに来たってこと ?
ファントムアルトリウスの始末はベルベットたちに任せますよ。それが彼らの望みでしょう。
ファントムですが、アルトリウスを倒しただけでは、この世界を守ることはできません。ダーナの近くにいたせいで色々と……事情通になってしまいましてね。
ファントムまあ、簡単に言えば、私には私のそして導師には導師の役目がある、ということです。
スレイオレの役目って ?
ファントムこれから教えて差し上げますよ。
全員! !
スレイこれは……転送魔法陣 ! ?
? ? ?導師スレイ。我が声が聞こえるか。
スレイ(ここは…… ? 誰の声…… ?)
オリジン我が名はオリジン。クロノスの力添えのもと、お前の中にある『あり得た未来』を見せる機会を設けた。
スレイオリジン ! ?えっと……どうなってるか説明してくれるとありがたいんだけど。
オリジンまずはお前の成すべきことを伝えよう。我の中には、エンコードによって統合された異世界の神に等しい存在がある。
オリジンしかし、この世界の理を変えるために異世界の存在は我から切り離されようとしているのだ。導師には、これを阻止して欲しい。
スレイそれって多分理を変えようとしているのがアルトリウスで異世界の神様みたいなのがカノヌシ、だよな。
スレイでも、それならベルベットたちが動いてる。アルトリウスを倒せばいいんだろ ?
オリジンいや、アルトリウスを討ち果たしたところでティル・ナ・ノーグに僅かでも異世界の存在が確立して残れば、世界の理は変わってしまう。
オリジン今までのように、我らが安定して統合し続けるためにヘルダルフの穢れを消し去らねばならない。
スレイヘルダルフを…… !
オリジンそのためにも、お前の望むとおり災禍の顕主へと至るヘルダルフの過去を見せることにした。
スレイえっ ! ? なんでそれを……うわあっ !
スレイあれは……過去のヘルダルフなのか ?大地の記憶を見てる時みたいだな。
スレイ………………。これって…………。
オリジン今のがヘルダルフの過去だ。どう思った、導師。
スレイ……わからない。ううん、違うな。ただ『過去がわかった』って言い方しかできないよ。
スレイ確かに、将軍だったヘルダルフのやり方に賛成なんかできない。
スレイ守ると言った村を利用したあげく敵の侵攻を知りながら見捨てて、全滅させた。
スレイ先代導師に呪われて災禍の顕主になった理由もわかった。けど…………。
スレイ呪いのせいで、大事な人たちはみんな死んでどんどん孤独になって、自分だけは死ねなくて……。
オリジンそれは『元の世界のヘルダルフ』の話。この世界に具現化されたヘルダルフは、ミケルとやらの呪いを受けておらず、災禍の顕主ですらない。
オリジン全ての事柄を踏まえた上で、お前たちにはこの世界で具現化された『スレイ』と『ヘルダルフ』として対峙して欲しい。
オリジンこの前提ならば、お前でも浄化できるだろう。
スレイオレ『でも』…… ?じゃあ元の世界では……オレは……。…………そっか。
ファントムスレイ、あなたは未だ道半ばの未熟な導師だ。それでも――やりますか ?
スレイファントム ! ? みんなは ?
ファントム全員が同じ体験をしていますよ。ですが、私はあなたに聞いているのです。それで、あなたの答えは ?
スレイわからない。でも、やってみるしかない。今のオレとして、今のヘルダルフと向き合う。
ファントム結構。では、行きますよ。
スレイ……ふぅ。もしかして転送完了 ?
ファントムええ。みなさんも揃っています。
ミクリオスレイ !
スレイミクリオ ! みんなも !ヘルダルフの過去、見たんだよな ?
アリーシャああ。我が国とヘルダルフの過去にあんな繋がりがあったなんて驚いたよ。スレイもだろう ?
スレイうん。先代導師との因縁とか、色々と。
ライラ…………。
ミクリオ導師ミケル……か……。
スレイミクリオ ? 何かあったのか ?
ミクリオえ ? ああ、大丈夫。ちょっと気になることがあったんだ。後でゆっくり考えるよ。
エドナで、ここはどこよ。
ファントムこの先の部屋が、あなた方の目的地です。進みますよ。
ヘルダルフ……………………。
スレイヘルダルフ ! ?
ミクリオこの気配……姿こそ変わりがないけどまさか神依…… ?
ロゼうそ……ヘルダルフが神依化してるってこと ! ?
ミクリオ……ああ。そうだと思う。ヘルダルフがはめているあれは精霊輪具だ。恐らく無理やりに神依させられてる。
デゼルチッ、気配が変わるはずだぜ。ってことは、力も増してるってことか。
ヘルダルフドウシ……ユルサ……コロ……コロォオオオオオス ! !
ザビーダうおおっと、正気じゃねえな。
ファントムどこかにあるはず……。あれか !
エドナ危ないでしょ ! 何してるの !
ファントムヘルダルフの術式を起動させている装置を止めます !この『場』自体が、奴の穢れをカノヌシに流し込んでいるのです !
ファントム戦って穢れを増せば、それだけ多くの力をカノヌシに与えてしまうでしょう !
アリーシャならば――たああっ ! 逆雲雀 ! !
ファントム……フ、さすがに荒事はお手の物ですね。ひとまず、装置の動きは止められた。あとは……導師、あなたの役目ですよ。
スレイわかってる、行くぞ !

キャラクター7話【13-5 ミッドガンド領 聖主の御座2】
ベルベット邪霊雷牙 !
帝国兵βたちぐおっ…… !
ライフィセットすごい、ベルベット。みんな倒しちゃった。
エレノア気合いが入ってますね。
ロクロウなあ、ベルベット。一人で全部倒さんでも俺に任せていいんだぞ。これでは恩返しもできん。
ベルベットそれって自分が斬りたいだけじゃないの ?
ロクロウはは、バレたか !
ベルベットわかったわよ。次はあんたに任せる。
ロクロウ応 ! この程度の兵士を倒しても恩返しのおの字にもならんからな。もっとじゃんじゃん出て来て欲しいもんだ。
エレノア敵が少なくて物足りないと言ってるように聞こえるのですが……。
マギルゥ仕方なかろうて。ファントムに尻を叩かれ坊の感じるままにミッドガンド領へ来てみれば聖主の御座がどどーんじゃぞ ?
マギルゥうじゃうじゃ敵がおると期待してしまうのが人情というものじゃよ。
ビエンフー姐さんの人情ってなんなんでフかね……。
アイゼンしかし妙だな。領主の館よりも警備兵が少ない。
ロクロウアルトリウスも、これほど早く襲撃されるとは思ってなかったんじゃないか ?
ベルベットそれはどうかしら。あいつはフィーの力を知ってるわ。地脈を利用した時点でフィーが勘付くことはわかってるはずよ。
アイゼンとなると、ますます怪しいな。考えてみれば外からして警戒網が薄かった。
ライフィセットもしかして罠 ?
エレノアわかりませんが……やはり、スレイたちと一緒に対策を講じてから突入すべきだったかもしれませんね。
ベルベット獲物が違うんだから、やり方もそれぞれでしょ。ほら、行くわよ。
ライフィセット待って、ベル――
ライフィセットうわあああっ !
全員っ ! !
ベルベットっ……何が……。
アルトリウス敵陣で一瞬でも気を抜くとはな。
ベルベットアルトリウスッ…… ! !
ライフィセット…………。
アルトリウスカノヌシの器は気を失ったか。だが、傷はついていないな。
ベルベットカノヌシ…… ! ? フィー、起きて、フィー !
ベルベットフィーから離れろ、アルトリウスッ ! !
アルトリウス――転送魔法陣、展開。
ベルベット待てっ ! フィーを返せ !
エレノアベルベット !
マギルゥ無駄じゃよ。魔法陣は消えておる。
エレノアですが、ライフィセットとベルベットが !
ロクロウ落ち着け、エレノア。今さら慌てても仕方ない。
エレノアわかってはいますが……。痛っ……。
ロクロウ無理して動かんほうがいいぞ。さっきの攻撃は強烈だったからな。
マギルゥとにかく、仕切り直しじゃな。ビエンフー、生きとるかー。
ビエンフーダメでフ~……せめて最後はエレノア様の腕の中で……。
マギルゥ元気そうじゃな。治療もいらんじゃろ。
ビエンフービエ~~ン !
ロクロウしかし不思議だ。さっきの攻撃不意打ちには違いないがそれにしたって体がうまく動かなかった。
マギルゥなんぞ仕掛けておったんじゃろ。
エレノアどういうことですか ?
マギルゥ恐らく、攻撃と同時に簡単な拘束術でも放ったんじゃろうて。
マギルゥま、ベルベットはそれをねじ伏せて坊を追ったわけじゃが。
アイゼン拘束術か。用意周到だな。
エレノア用意……。もしかして、アルトリウス様はライフィセットを捕らえるためにわざと私たちの侵入を見逃していたのでしょうか。
マギルゥああっ ! 言ってしまったなお主 !それはフラグというやつじゃよ~……。
エレノアふらぐ…… ?
マギルゥわからんか ? お主の話が正解としてあやつが目的のものを手に入れた今邪魔者となった儂らはな……。
ロクロウなるほど、そういうことか。
アイゼン来るぞ。
エレノア帝国兵があんなに !それに……ドラゴン ! ?
マギルゥ邪魔者はここで始末というわけじゃ。くわばらくわばら。
ロクロウ丁度いい。斬り足りなくてうずいてたところだ。付き合ってもらうぞ、帝国兵ども !

キャラクター8話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】
ライフィセットう…………。
アルトリウス……もうしばらく気を失っているといい。苦しまずに済む。
アルトリウスっ ! !カノヌシへの穢れの供給が途絶えた…… ?
アルトリウス(ヘルダルフを繋いだ部屋は封じているはずだが……)
ヘルダルフグォオオオオオオオッ !
ザビーダあいつヤベーぞ !倒すどころか近づくのもやっとだぜ。
ライラスレイさん ! 神依化したヘルダルフは危険です。こちらも神依化して、まずは精霊輪具を壊しましょう !
スレイ了解 !
デゼルロゼ ! 俺たちも――…………っ。
? ? ?聞こえ……。たの……ど……し。
デゼル今の声は……。
ロゼねえ ! 今なんか聞こえなかった ! ?
スレイオレも聞こえた ! サイモンの声だ !
エドナあの不思議ちゃんいきなり何なの ?こっちはひげネコで手一杯なのに……――インブレイスエンド !
ミクリオまさか…… !ヘルダルフと神依しているのはサイモンなのか ! ?
全員! !
スレイサイモン ! ヘルダルフの中にいるのか ! ?
サイモン……主が……私と主は……強引な神依化で……自我が失われ……。
ヘルダルフドォオシィイイイイイ ! ドォオシィイイイイイ !
スレイぐっ……。
サイモンああ、主……このような姿……本意では……。
スレイサイモン、しっかりしろ ! オレたちはどうすればいい。
サイモンあの銃で……ジークフリートで主と私を撃て…… !あれは……穢れとの結びつきを防ぐ……。
ザビーダよく知ってんじゃねえの。穢れたヘルダルフに撃ちこみゃ神依が解除されるかもってか。
スレイザビーダ ! やれるか ! ?
ザビーダおうよ、ここが使いどころってな !――うおっと !
ヘルダルフコロスコロスコロスコロス…… !
ザビーダ……目も当てらんねえな。絶対に外したくねえ。足止め頼むぜ !
スレイわかった !ミクリオ、どう行く ?
ミクリオ手数で攻めて攪乱、大きく一発。
スレイよし。みんな、いい ?
全員了解 !
ライラ行きます ! 焼くは赤銅 ! フォトンブレイズ !
アリーシャ葬炎雅 ! みんな下がれ !――エドナ様 !
エドナロックトリガー !
ヘルダルフ! !
スレイ今だ ! ルズローシヴ=レレイ !
二人蒼の四連 ! 蒼海の八連 ! 蒼穹の十二連 !
ヘルダルフウ……ウォオオオッ !
サイモンもう……もたな……。
デゼル! !
ロゼなにあいつ、まだ元気 ! ? デゼルあたしらも――
デゼルサイモン ! あきらめてんじゃねえ ! ――まだ終わらねぇぜ !
デゼルリーサル・サウザンド ! !
ヘルダルフおおおっ…………。
スレイ脚が止まった、今だ、ザビーダ !
ザビーダとっておきだ。よく味わえよ !
ヘルダルフがあああああっ !
サイモンうっ…………。
スレイサイモン ! 神依が解けたんだ !
ライラスレイさん ! かの者が虚ろなうちに今こそ浄化を !
スレイああ !………………。
ファントムどうした、導師。
スレイ駄目だ……。どうして浄化できないんだ……。
ファントム……やはりそうですか。では今のうちに奴を虚無へと送り込みましょう。
スレイなっ ! ? やめてくれ !
ファントム何故止めるのです。
スレイそんなことをしたら、この世界でもヘルダルフに永遠の孤独を与えることになる !
ヘルダルフ孤独……そうか……。
スレイヘルダルフ ! ?
ヘルダルフ――サイモン !
サイモンうっ……御意…… !
スレイここは……、サイモンの幻術か ?何のつもりだ、サイモン ! ?
ヘルダルフここにはワシと貴様しかおらぬ。
スレイヘルダルフ…… !
ヘルダルフ導師スレイよ、ワシは貴様を知らぬ。だがワシは『いずれ貴様と相まみえる存在』のようだな。
スレイ! !お前も『知って』るのか ?
ヘルダルフそうだ。サイモンの幻術で元の世界でワシが歩む未来を見た。
スレイ……そうか。
ヘルダルフ先の言葉から察するにお前もワシのことを知ったようだな。して、どう思った ?
ヘルダルフ貴様は、ワシが呪われるべき存在だと確信したのではないか ?
スレイ……それでも、オレは導師として災禍の顕主のお前を救いたいって思った。
スレイだから、『今のお前』のことはもっと救いたいって思う。
ヘルダルフ笑止千万 !
スレイ! !
ヘルダルフ元の世界のワシを呪ったのが導師ならばこの世界で呪ったのも導師。
ヘルダルフ貴様もまた導師であるならば決してワシを救えぬ !
スレイやってみなきゃわからない !
ヘルダルフいいや、同じだ。貴様はワシの穢れを浄化できなかった !
スレイ――浄化……。そう、か……。そうだ、ここはティル・ナ・ノーグだ……。
ヘルダルフ惚けている暇はないぞ。ワシは導師という存在を憎悪する。貴様もここで潰えよ !

キャラクター9話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】
スレイはあっ……、はあっ……。
ロゼスレイ ! 幻術が解けたんだ……ってヘルダルフと戦ってたの ! ?
スレイ……ああ。
スレイ立てるか、ヘルダルフ。
ヘルダルフ……何だ、その手は。
スレイオレは戦いたいわけじゃない。それに、決着はついたんじゃないか。
ヘルダルフ……わかっているのか ?貴様の差し伸べる手がどれほど残酷か。ワシへの侮辱以外の何ものでもない。
スレイ救いたいって……、元の世界みたいに孤独になって欲しくないって思うのは駄目なのか。
ヘルダルフ未来がどうであれ、ワシに貴様の救いはいらぬ。それに貴様はワシを浄化できなかった。
スレイオレは『浄化』したいんじゃない。『救い』たいんだ。
ヘルダルフ同じことだ !
スレイ同じじゃない。結果が同じだったとしても違う筈だ。
スレイ元の世界でお前のしてきたことは理解できないけどだからって元の世界みたいに――いや、それ以上の孤独の中で生き続けるようにはなって欲しくない。
スレイ生きるにしろ、死ぬにしろ、世界の中であって欲しい。虚無に封じるなんてしたくはない。
スレイこの世界でどうするのか、どうなるのかの選択肢があってもいいだろ ?
スレイだから救いたい。その為に浄化する。ここではお前はまだ災禍の顕主じゃない。ただのヘルダルフとして生きられる。
ヘルダルフ断絶された世界に独り閉じ込められて生きることが救いになると思うのか。
スレイ一人かも知れないけど独りじゃ――孤独じゃないだろ。
ロゼ少なくともサイモンはあんたを救おうと頑張ってた。精霊輪具の影響でボロボロなのに幻術まで使ってさ。
サイモン………………。
ヘルダルフ……この娘なら己を道具として使えと言うから使ったまでよ。
アリーシャなんてことを……。 それではあまりにサイモン様が報われない。
ヘルダルフ知ったことを抜かすでないわ。貴様にこの娘の何がわかる。
ヘルダルフワシも、この娘も、互いの益を求めあったに過ぎん。導師、お前も同じだ。天族を利用し、天族に利用される。
ヘルダルフいつの世も何ら変わることのない世の理だ。
エドナそれを本気で言ってるなら呪われて災禍の顕主になる前からあなたは孤独だったってことね。
ヘルダルフだからこそ救いなどいらぬと言っている。
スレイそれ、本気じゃないだろ。
ヘルダルフまだ言うか。
スレイ本気でそう思ってたらオレに未来を見てどう思ったかなんて聞いたりしない。
ヘルダルフ! !
スレイお前は、自分の未来に僅かでも『後悔』したんじゃないのか ?
ヘルダルフ……あの時のワシの選択は間違っていない。ハイランドが動いた以上あの村を、カムランを放棄するのは妥当な策だ。
ヘルダルフ人は未来を見通せはせん。なればこそ何度でもワシは同じ選択をするだろう。それが災禍の顕主へと至る道になろうとな。
ミクリオだったら、お前を呪った導師ミケルも間違ってないということになるな。
ヘルダルフ小僧……。
スレイ辿らなかった人生のことより、オレは、今のお前がこの世界でどうしたいか知りたいよ、ヘルダルフ。このままじゃお前は元の世界と同じになる。
ヘルダルフフフ……そうだろうな。
ヘルダルフ言っただろう。呪いなどなくてもこの世界に具現化された時点でワシは孤独だ。慈しみ、愛したものは、この世界にいない。
スレイ家族……か。
ミクリオヘルダルフ、お前と同じように、導師ミケルも家族や大切なものを失う悲しみを負ったんだ。いや……それ以上の絶望を。
スレイうん……。そして憎しみのままにヘルダルフを呪った。
スレイオレだって、ミクリオやみんな……家族を失ったらどうなるかわからない。相手を憎んで、その憎しみで戦うかもしれない。
ヘルダルフだが……それでも貴様は、あの選択をした、か。
スレイえっ ?
ヘルダルフ……ふっ、はははは……。そうか……お前は、堕ちなかった……。家族を失うという絶望に……。
ヘルダルフ……貴様は……違うのかも知れぬ。
スレイ………………。
ヘルダルフ今一度、ワシを――
スレイな、なんだ ! ?
サイモン――っ ! また装置が起動した……。アルトリウス…… !
ヘルダルフぐっ…… !
ファントムヘルダルフの穢れがカノヌシに…… !残念ですが、これ以上は引き延ばせない。もはや猶予はありません。
ヘルダルフ………………。
サイモン……主。
ファントムスレイ、これが最後です。浄化するか、虚無に封じるか――うっ ! ?
サイモン動いているのがやっとのお前など捕まえるのは造作もない。
スレイサイモン ! ? 何を――
ヘルダルフサイモン、よくやった。
ヘルダルフ導師よ。ワシをこの部屋から解放しアルトリウスのもとへ連れていけ。
ファントムスレイ、奴の口車に乗ってはいけない。今の状態のヘルダルフを浄化するのは無理です。ここで虚無に送るしかない !
ヘルダルフ黙れ。今のワシでもまだ貴様の首ぐらいは簡単に折れるぞ。
スレイ
ファントムスレイ、あなたにはわからないでしょうがどうあがいても、救われない人間はいる。
ファントム救われたくない人間も救うべきではない人間もいる。私もこいつもそういう存在だ ! 早くやれ !
スレイ……どうして、わからないって思うんだ。
ミクリオ! ?
スレイわかるから――わかるけど、それでも救いたいんだ。
三人………………。
スレイそれに――
ヘルダルフ………………。
スレイ……それが、お前の望みなんだな。
ヘルダルフそうだ。
スレイ――向こうに転送魔法陣がある。そこからなら、出られるはずだ。
五人スレイ !
スレイ一緒にアルトリウスのところへ行こう。ヘルダルフ。それが、お前の救いに繋がるのなら……。

キャラクター10話【13-12 ミッドガンド領 聖主の御座9】
ベルベットアルトリウス !
アルトリウス……ベルベット。
ベルベットフィーはどこ ! フィーを……。
ベルベット! !
ライフィセット……ベルベット……逃げ、て……。
ライフィセット(お姉ちゃん ! 逃げて !)
ベルベットあ……ラフィ……、フィー !
ベルベットフィーを返せええええええっ !
アルトリウス変わらんな、お前は。
ベルベット黙れ ! またあたしから奪うつもりか ! ?
アルトリウスそうだ。ライフィセットはカノヌシの完全復活に必要な器だ。
ライフィセットうっ ! うああああっ !
ベルベットフィー ! ?
ライフィセットベルベット……僕……ごめ……。
アルトリウス地脈に眠るカノヌシとの融合が始まったのだ。
ベルベットだったら全てが終わる前にあんたを殺してフィーを解放する !
アルトリウス無駄だ。すでに儀式は行われた。私も本来の力を取り戻しつつある。
ベルベットっ……今の力……カノヌシの…… !
アルトリウスもう諦めろ、ベルベット。
ベルベットふざけるな ! 一体、何が目的よ。この世界でも同じことをする気 ! ?
アルトリウスここでは穢れが世界へ影響を及ぼすことはなく業魔も生まれない。
アルトリウスだが、穢れが影響せずとも人は争い世界は滅亡を免れぬところまで追いつめられている。
アルトリウス知っているか ? この世界の成り立ちを。ここは滅亡から逃れるために作られた欺瞞の世界だ。
アルトリウス作られた世界は脆弱で、だからこそ自らの世界を滅ぼした愚かな人間が、この世界をも破壊しないように世界を生み出した原初の力を封じて隠していた。
アルトリウスにもかかわらず、人は原初の力に手を伸ばした。それが魔鏡術であり、鏡精であり、この世界の精霊だ。
アルトリウスそして人は再び世界を壊し、あげく異世界をも具現化し喰いつくさんとしている。穢れていなくとも、すでに業魔のようなものだ。
アルトリウスならば、誰かが世界を変えねばならん。
ベルベットそれがフィーを犠牲にする理由 ?あんたが世界を救うためには何を犠牲にしてもいいってわけ ! ?
アルトリウス個よりも全。何度も繰り返した言葉だがお前にはわからんようだな。
ベルベットわかってたまるかああああっ !
ベルベットっ ! !
アルトリウス……やはり、怒りに身を任せる姿は愚かだな。自分の痛みばかりに目をむけ世界の痛みを知ろうとしない。
ベルベット……そうね。それがあんたの言う、個よりも全。 だけどあたしは、この世界で別の答えをもらったわ。
ベルベット全ての個をとって、いずれ全にするってね !
アルトリウス大した夢想家がいたものだ。
ベルベットどっちが――
ライフィセットううっ !
ベルベットフィー ! ?
ベルベットあ……。
アルトリウス戦訓その二だ。やはりお前は感情的すぎる。
ベルベットアルト……リウス……。
アルトリウス……ベルベットよ、なぜ鳥は、空を飛ぶのだと思う ?
ベルベットと……り…………は…………。……………………。
ライフィセットあ……、ベルベット…… ? ベルベットーーーーッ !

キャラクター11話【13-13 ミッドガンド領 聖主の御座10】
ライフィセットベルベット……死なないで…… !
アルトリウス……カノヌシの影響が薄れているな。まさか、また……。
ヘルダルフここにおったか、アルトリウス。
スレイあの人が導師アルトリウス……。
ロゼねえ、あれライフィセットだよ !捕まってるってこと ?
アリーシャ倒れてるのは……ベルベットだ ! 早く助けないと !
ヘルダルフ待て。
ヘルダルフ――サイモン、その男を解放しろ。再び神依とやらを行うぞ。
サイモン御意。
エドナちょっと、何してるの、ひげネコ !
ファントムそんなことをしたら、またカノヌシに――
ヘルダルフアルトリウスゥッ ! !
アルトリウスお前はっ ! ?
アルトリウス……くっ………。
ヘルダルフフハハハハハッ !ようやく見ることができたわ。貴様が膝をつく姿をな !
デゼルあいつ、正気を保ってやがる !
ザビーダジークフリートの効果が効いてんのかもな。穢れと結びつきが弱くなった分、制御しやすいのかね。
ミクリオああ。それに、本人たちの意思も関係しているかもしれない。
ライフィセットカノヌシ……お前に……僕は渡さないっ…… !
ライフィセット僕は……、僕だーーーーっ ! !
ライフィセットっ、はぁ……はぁ……解けた……。今の光、浄玻璃鏡…… ?
ライフィセット――そうだ、ベルベット !
ライフィセットベルベット、すぐに治すから ! しっかりして !
ライラライフィセットさん、私もお手伝いしますわ。頑張ってください……ベルベットさん !
アルトリウス………………。
ヘルダルフどうした、さすがの導師も不意打ちには泡を食ったか !
アルトリウス…………そうか。お前が逃げ出したからカノヌシの分離が中断されたのか。
アルトリウスまあいい。仕切り直しだ。餌となるお前を捕らえるところから始めるとしよう。ヘルダルフ。
ヘルダルフくくく、餌か。――導師スレイよ !
スレイえっ ! ?
ヘルダルフ貴様が、ワシを呪ったあの男と違うと言うならば見事ワシを浄化して見せよ !
アルトリウス何のつもりだ。
スレイ――わかってる ! 行くぞ、ヘルダルフ !
アルトリウス馬鹿なことを。やれるものならやってみろ。魔導器の力で増え続ける穢れを浄化などできはしない。
スレイ………くっ !
ロゼああっ、まずいよあれ。浄化した端からまた穢れが増えてる !
ファントム……一時的に穢れを虚無へ流し込みます。
アリーシャそれはどういうことだ ?
ファントム私が何度もヘルダルフを虚無に封じると言ったことをお忘れですか ?
ファントム今、虚無はゲフィオンの人体万華鏡と彼女の心を守るカーリャの防御壁で守られている。
ロゼカーリャ……ネヴァンのことか。
ファントムですがカーリャの想像の力は創造のバロールには触れられなくても融合の私なら穴をあけられるんですよ。
ファントム魔導器が増やす穢れを虚無に流せれば少しは浄化の助けになるでしょう。ただし、長くはできません。せいぜい10秒ほどです。
スレイファントム ! ?
ファントム……あなたは理解できない。だが、永遠の地獄に誰かを追いやりたくないという気持ちは、私にもわかるのですよ。悔しいですがね。
ファントムそのまま浄化を続けて下さい。やれますね、スレイ。
スレイああ、ありがとう、ファントム !
アルトリウス…………。
ザビーダおっと、妙な気はおこすなよ、導師殿。俺たちの得物は、みーんなあんたを狙ってるぜ。
アルトリウス邪魔はしない。お前たちの行為は、所詮絶望の再確認だからな。
ヘルダルフぐっ……、導師……スレイ…… !
スレイわかってる。必ずお前の穢れを浄化する。
スレイ戻ろう。人間、ゲオルク・ヘルダルフに――
アルトリウスまさか…… !
ロゼねえ、これってさ……これって…… !
ミクリオああ。やったな、スレイ。浄化成功だ。
ベルベットあ……。
シアリーズ目が覚めましたね、ベルベット。
ベルベットシアリーズ…… ! ?なんであんたがここに ?
シアリーズいてはいけませんか ?
ベルベットだって、あんたはもうあたしの中にはいないはずだもの。
シアリーズそうですね。ですから今の私はあなたが見ている幻影のようなものです。
ベルベットそっか。本当のあんたじゃないのね。でもまた会えて良かった。それに……謝らなきゃいけないことがあったから。
シアリーズなんでしょう。
ベルベットアルトリウスを止めるっていう約束、果たせなかった。ごめんなさい。
シアリーズいいえ、終わってはいない。あなたには、まだ待っている人たちがいるでしょう ?
ベルベットどこに ?
シアリーズほら、あの小さな光。
ベルベットあっ……。
? ? ?ベルベット……。 ベルベット !
ベルベット……本当だ。あたし、まだたくさんやり残してる。
ベルベット行ってくるね。約束、ちゃんと守るから。
シアリーズええ。いってらっしゃい、ベルベット。

キャラクター12話【13-14 ミッドガンド領 聖主の御座11】
ベルベット…………。
ライフィセットベルベット…… ?
ベルベットフィー……。
ライフィセットベルベット、良かった ! 気が付いた !
ベルベットありがとう……、フィー。
ライフィセットううん、ベルベットの傷を治したのは僕だけじゃない。ライラも一緒だったんだ。
ベルベットそういう意味だけじゃないんだけど……。
ライラ傷はふさがっていますが、立てますか ?
ベルベットええ。ライラもありがとう。もう大丈夫。
ベルベットフィー、あんたは平気なの ?
ライフィセットうん。スレイたちが来てくれたおかげで拘束術が解けたんだ。
ベルベットえっ、今のなに ?
ライラすごい……スレイさんついに、かの者の浄化を果たしましたわ !
ベルベットやったのね、あいつ……。あれが本物の導師、か。
ライラええ、そのとおりですわ !
スレイやったよ、ヘルダルフ ! 浄化成功だ !
ヘルダルフワシは……、戻れたのか……。
アルトリウスこんなことが……。
ヘルダルフふっ……、ふははははっ !ざまを見ろ、導師アルトリウス ! 餌はもうない !貴様の計画もこれまでよ !
ヘルダルフはははははっ……はっ…………ごふっ……。
スレイヘルダルフ !
アルトリウス私に一矢報いるために、己が命と交換か。高くついたな。
ヘルダルフふっ、こうなることは全てわかっていた。
アルトリウス呪いによって弱った心核に、魔導器による穢れの増幅。精霊輪具を使った神依と、カノヌシへの力の譲渡。
アルトリウスこれほどまでに積み重ねられた負荷は憑魔であったからこそ耐えられたのだ。
アルトリウスそれが浄化によって人の身へと返れば当然のごとく死を迎える。それが理だ。
スレイ………………。
アルトリウス憑魔にその手でとどめを刺した、それだけのことだ。我が同胞、導師スレイよ。
ベルベット違うわ !
スレイベルベット……。
ベルベットそいつは、あんたとは違う。一緒にしないで。
アルトリウス……死に損なったか。
エレノアベルベット、ライフィセット !無事でしたか。
マギルゥなんじゃ、勢ぞろいではないか。まあ、主役は後から以下略 !
ライフィセットみんな !
アルトリウスもう片付けてきたのか。
ロクロウああ、あのドラゴンゾンビか ?少々食い足りなかったな。次はもう少し骨太なのを頼む。
アイゼンベルベット、ここで片をつけるぞ。
ベルベットええ。今度こそ決着をつける。
アルトリウス私を殺すか。だがお前たちもすぐにスレイと同じ絶望を味わうだろう。
ヘルダルフふ……ふはははは…… !貴様には……わからないだろうよ……。この導師が、貴様とは違うということを……。
ヘルダルフそうだろう、導師スレイ。お前はこうなることを知っていた。これが……ワシの望み。ワシの選んだ『救い』よ。
ファントムあなたは……まさか……。
ロゼスレイ……。
スレイ――ヘルダルフ、それでもオレはこの世界を生きて欲しかったよ。
ヘルダルフ……行け、スレイ。
スレイああ。
スレイオレは絶望なんてしていない。戦うよ、ベルベット !
ベルベット好きにしなさい。
スレイああ、好きにする !
エドナそうね。他人に左右なんてされないわ。自分の舵は、自分で取るんだから。
アイゼンフッ……。そういうことだ !
アルトリウスどこまでいっても理を壊すか。
アルトリウスわかっているのか、ベルベット。不十分とはいえ、カノヌシの力はまだ繋がっている。何度やっても先ほどの二の舞だぞ。
ライフィセット今度はさせないよ。ベルベットを傷つける奴は絶対に許さない。
アルトリウスやめておけ。お前には器としての価値がある。
ベルベット……アーサー義兄さん。『なぜ鳥は空を飛ぶのか』答えがわかったわ。
アルトリウス……。
ベルベット鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。理由なんてなくても。翼が折れて死ぬかもしれなくても。
ベルベット他人のためなんかじゃない。誰かに命令されたからでもない。
ベルベット鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ !
アルトリウス異世界に来てまで得た答えがそれか ?
ベルベットどこにいたって、きっと答えは同じ。
ベルベットそう、それが『あたし』よ !
アルトリウスその愚かさが業魔を生むのだ。悲劇は遥か後世まで続きやがて『憑魔』と呼ばれるようになる。
スレイ………………。
アルトリウス導師スレイ。貴様の隣に立つ者たちは世界に悲劇をもたらす元凶だ。お前もその一端を担う気か。
スレイあなたが実現しようとするものもオレには悲劇のように思える。
スレイ人が生きる限り悲劇は生まれるのかも知れない。変えようのない現実があるのかも知れない。それでもオレは、現実に正面から立ち向かう。
スレイ人の心が生むのは穢れだけじゃないと思うから。
ベルベットアルトリウス、あんたはあたしたちを止められない。
アルトリウスお前たちも私を止められん。
アルトリウスベルベット。今度は確実にとどめをさす。
ベルベット上等よ。殺すなら、しっかり殺せ !
ベルベットさもないと……あたしが、あんたを喰らう ! !

キャラクター13話【13-15 ミッドガンド領 聖主の御座12】
アルトリウス成長したな。だが !
アルトリウス私は、世界の痛みを止めねばならんのだ ! !
ベルベットあたしは、あんたを殺す ! 殺して、止める !――約束だからっ ! !
ライフィセット浄玻璃鏡が !
ベルベットうおおおおおおっ ! !
アルトリウスっ !
アルトリウスがはっっ ! !
ロクロウ入った。
エレノア油断は禁物です。
マギルゥいや、あれで決まりじゃ。カノヌシは力の供給を絶たれておるでの。……回復も間に合わん。
ベルベット…………。
アルトリウスオーバーレイ、か……。異世界の力に……負けた、な。
ベルベット……ええ。ついでに聞かせて。
ベルベットこの世界では具現化という力があるわ。それでセリカ姉さんを生み出そうとは思わなかったの ?
アルトリウス……たとえ、セリカを具現化しても俺が失った時間は戻らない。何より……。
アルトリウスあのセリカが、そんなことを……望むと思うか ?
ベルベット……そうね。
アルトリウスベルベット、俺は、ずっと思っていたよ。死んだのがセリカたちではなく……。
アルトリウス『お前たちだったらよかったのに』……と……。
ベルベット…………。
アルトリウスこの世界に来て、思いはもっと、強くなった……。
アルトリウスお前たちが死んでいたなら迷わず……具現化して……幸せな生活を……。
ベルベットええ……そうだったら良かったのに。
アルトリウス……ベル、ベット……。
ベルベットなに ?
アルトリウス元の世界……俺は……世界を……救えただろ……か……。
ベルベットいいえ。あたしたちが止めたはずよ。何度倒れて、挫けようとあたしは立ち上がる。
ベルベットあきらめるなって、教えてくれたじゃない。……あの開門の日に。
アルトリウス……………………。
ベルベット……もう、聞こえないのね。さよなら……アーサー義兄さん。
ヘルダルフ……はっ、あの男は、先に逝ったか。これで、心残りも……なくなったわ……。
スレイヘルダルフ……。
ヘルダルフサイモン……どこだ……。
サイモン我が主……お側におります……。
ヘルダルフお前は、どこへなりと失せよ……。
サイモンっ !
ヘルダルフもう、ワシに縛られるな。ワシはお前の主であった『ヘルダルフ』ではない……。
サイモンいいえ ! 私には尊き方に違いありません。僅かばかりのお仕えでしたが御身はすでに我が主なのです !
サイモンどうか、お側に置いてください…… !
ヘルダルフならば申し付ける。ワシの代わりにお前が導師たちの行く末を見届けるのだ。
スレイ! !
ヘルダルフ己が志を貫くもよし、闇に堕ちるもまたよし……。面白い、見世物と……なる……。……いや、堕ちぬか……。この導師は……。
サイモンああ、主 ! ! お待ちください !私を置いていかないで !
ヘルダルフワシを、楽しませよ……、導師スレイ……。…………。
サイモン主……。
スレイヘルダルフ……。
サイモン――主に触れるな。
スレイサイモン……。
サイモン……主の望みを叶えてくれたことには感謝する。だが、主の最期の言葉を叶えるには……まだ……。
アリーシャ消えた ! ?
エドナお得意の幻術でしょうね。
ライラサイモンさん、かの者の遺体をどこに……。
ロゼ救世軍へ戻っていればいいんだけどそういう感じでもなさそうだよね。
スレイ…………。
ミクリオ大丈夫か、スレイ。
スレイえ……ああ。
ザビーダおいおい、胸を張れよ、導師殿。お前はあのヘルダルフを浄化したんだぜ ?
スレイ確かに浄化はできた。けど、オレ……ヘルダルフを救えたのかな。
ライラかの者にとって何が救いかは誰にもわかりません。本人にすらそれが本当に救いであったのかわからないこともあります。
ライラですが、かの者は自ら浄化を望み、受け入れました。それだけは事実ですわ。
スレイ……オレ、へルダルフとファントムの話を聞いて何となくわかった気がするんだ。オレに欠けていたもの……。オレに必要なもの……。
ロゼそれって――
スレイ……覚悟、かな。
ザビーダそう、か。
エドナ………………。
スレイ誰かや何かを救いたいと思うなら、救う対象を選別することはできない。あれは救うけどこれは救わないなんて誰にも決められない。
スレイだからヘルダルフも救いたかった。だけど、本気でそれを貫くためには、オレ自身が理想を貫いた先の結果に目を背けない覚悟を持たなきゃいけないんだ。きっと。
テレサあなたたち…… !
エレノアテレサ ! ?
ベルベット…… !本当に、あんたなのね。
テレサアルトリウス様はどうしたのです !
ベルベットそこよ。あたしが殺した。
テレサ――ああ……恐れていたことが…… !
テレサ業魔ベルベット !よくもアルトリウス様をっ !
ベルベットいいわよ。恨みなら全部買うわ。――さあ、来なさい。
テレサ…………っ。いいえ、今の私では、あなたたちには到底敵わない。
ベルベットそう、なら手間が省けたわ。
テレサけれど、アルトリウス様のご意志はこのテレサが受け継ぎます。
テレサベルベット、あなたは私の仇。必ずうち果たしてみせます !
ベルベット仇、か。また言われちゃったわね。
ライフィセットベルベット……。
ベルベット大丈夫。もう聞きなれてる。
ベルベットあんたたちも、用は済んだんでしょ。
スレイああ。終わったよ……。
ベルベットだったらもう帰るわよ。
ベルベットあたしたちは、こんなところで立ち止まっていられないんだから。
to be continued
キャラクター1話【14-1 アセリア領 領都】
アセリア領・領都アルヴァニスタ郊外
帝国兵お待ちしておりました。グラスティン様。
グラスティンアルヴァニスタの様子はどうだ ?
帝国兵反乱兵はどんどん数を増やしており勢いは収まる気配がありません。
グラスティン従騎士のモリスンが心核を取り戻して反乱の先頭に立っているという話だったな。
帝国兵はい。今、帝国側で動いているのはリビングドールβ兵のみです。
帝国兵γ兵たちは元々がレプリカで、最低限の刷り込みしか与えておりませんでしたので、機能不全に陥ったところを反乱兵たちが戦力として囲い込み――
グラスティン――待て。リビングドールγは確かに暗示が解けやすいが、そんなに簡単に大勢の兵の暗示を解くことはできない筈だ。
グラスティン誰かが意図的にやったんだろう。
帝国兵モリスンではないのですか ?
グラスティンそいつは俺が聞きたいなあ。その為にお前が情報収集役を任されたんだろう ?
帝国兵し、失礼しました !
帝国兵グラスティン様の求める情報かはわかりませんが妙な男が反乱兵たちと接触していたという情報を掴んでおります。
グラスティン言い訳はいらない。詳細を話せ。
帝国兵はっ ! 身長はおよそ2メートル。魔鏡技師風の出で立ちでジェイソンと名乗っていたようです。
グラスティン……ヒ……ヒヒヒ……――やっぱりそうか。隠すつもりはないってことだな、あのエセ野郎め !
帝国兵では、やはりお捜しの男でしょうか。本名を名乗るような浅はかな真似をするか疑問だったのですが……。
グラスティンいや、奴は見つけて欲しいんだよ。だから帝国に嫌がらせをしてるって訳だ。
グラスティンヒヒヒ、嬉しいよ。奴をこの手で捌く機会が訪れるとはなあ。まあ……どうせ二人目だろうが。
グラスティンよし。今すぐ、デミトリアス陛下に連絡を取れ。
デミトリアス――それは本当なのか、グラスティン。
グラスティンああ。アセリア領の反乱にはジェイソン・フリーセル様が一枚噛んでいるようだぞ。
グラスティンヒヒヒ、アルトリウスたちが新大陸に兵を集めたせいで各領地に隙ができたところを狙って来るとはさすがビフレストのスパイは鼻が利くよなあ ?
デミトリアス……やはり、あちこちで情報が上がっていた通りフリーセルが動いていたのか。
デミトリアスしかし、フリーセルはファントムが殺した筈だ。そうなると……。
グラスティンああ。具現化だろうな。問題は誰が何のためにそれをやったのか、だ。今更、奴を具現化することに何の意味がある ?
グラスティンビフレストの連中か ? それともフィルか ?ミリーナたちは二人目と三人目だ。フリーセルのことは知らないだろう。
デミトリアス……ジュニアではないのか ?
グラスティン小さいフィリップ ? どうしてジュニアが……――
グラスティン……まさか……サレの奴か…… !あいつ……どこまで俺の足を引っ張るつもりだ…… !死んでからも亡霊のように、俺の計画を邪魔してくる。
デミトリアスグラスティン、他の領都でも反乱が起きている。これを収めなくては。
グラスティン……知ったことか。
デミトリアスグラスティン ! ?
グラスティンはき違えるなよ、デミトリアス。
グラスティンお前がやろうとしているのはこの世界を正しく治めることじゃない。ニーベルング復活まで持たせることだ。
グラスティンどうせもうすぐこの世界は終わる。お前がやりたい『正しい治世』とやらはニーベルングへ移住した後にするんだな。
デミトリアスしかし、このままでは……。
グラスティン帝都のあるイ・ラプセル島だけ確保出来ていればいい。無駄なことは考えるな。
デミトリアスだが――ぐぅ……。
グラスティン……アニマ汚染か。クロノスで時間を巻き戻しても体は恒常性を保とうとするようだな。
デミトリアスこれでは……結局私は昔と何も変わらない。
グラスティンヒヒ、お前は何も変わらないよ。変わらなくていいんだ。その方が面白いからなあ。
グラスティンまあ、大人しく鏡精を喰らうかクロノスを再利用しろ。俺はフリーセルの足取りを追う。
デミトリアス……ぐぅぅ……。はあ、はあ……。薬を――
デミトリアス鏡精を喰らう、か……。私は……いつもこうだ。私は……私は……――

キャラクター2話【14-1 アセリア領 領都】
デミトリアス…………はあ……はあ……。
フィリップあ……あの、大丈夫…… ?
デミトリアスだ、誰だ ! ?
フィリップえ……あ、ご、ごめんなさい……。苦しそうにしてたから……。あの……、誰か人を呼んでこようか ?
デミトリアスや、やめろ !
フィリップ! ?
デミトリアス――すまない。いつもの……発作だ。それより……このことは誰にも言うな。誰にもだ。
フィリップは、はい……。
デミトリアスきみは……見かけない顔……だな。
フィリップあの……僕、オーデンセから出てきたばかりで……。
デミトリアスオーデンセ……。鏡士の島……。そうか……。だからきみは私のことを知らないんだな。
デミトリアスきみの名前は ?
フィリップフィリップ・レストン。あの、きみは……。
デミトリアス私はデミトリアス・ダナン・アースガルズだ。
フィリップデミトリアス……様…… ! ?
デミトリアス(フィリップ……。私と同じ病を抱えて生まれた鏡士。きみの意見を聞いていたら何か変わっていたのだろうか……)
フィリップデミトリアス殿下。起きていて大丈夫なんですか ?倒れたと聞いていましたけれど……。
デミトリアス……ああ。心配を掛けてすまない。単なる過労だ。
フィリップ……それは、嘘ですね。アニマ汚染が始まっているのでは ?
デミトリアス………………。
フィリップどうしてそこまで無茶をするんですか。あなたはセールンドの王子なんですよ。まして、僕と同じ先天性アニマ欠乏症なら、余計に――
デミトリアスそのことは口にするなと言った筈だ。初めて出会ったときに。
フィリップそれは……。
デミトリアス誰に聞かれているかわからない。そのことを知っているのは父ときみ、それから……――
グラスティンデミトリアス。そこまでだ。さっきフリーセルが王宮に入った。下手なことを話せば、ビフレストに筒抜けだあ……。
デミトリアス……グラスティン。ジェイソンも我々の仲間だ。それに彼は私が呼んだんだ。
グラスティンヒ……ヒヒ……。お優しい殿下は、あのエセ野郎を切れないって訳か。
フィリップグラスティン、そういう言い方は止めた方がいい。
グラスティンフィ……フィル……。そんな目で俺を見ないでくれ……。俺たちは……ここにいる三人は……同類だろ…… ?
デミトリアスどういう意味だ。
グラスティンヒヒ……ヒヒヒ……。だってそうだろ。みんな……誰かの魂を喰らった仲間じゃないか……。
デミトリアスフィルは違う。それに私も――そうと知っていた訳ではない。知っていればあんな薬……。
グラスティンだからその罪滅ぼしって訳か ?今度のエネルギー政策は。
デミトリアス……そうだ。キラル分子を20%減産する。そうすれば……鏡士たちの負担も減る。
デミトリアス生活に不便な点も出てくるだろうがどこかで今のキラル分子生産体制を止めなければ状況は好転しない。
フィリップそれはその通りでしょう。けれど、王宮の中でも反対論が根強いと聞いています。イジアス陛下もあまり乗り気ではないとか……。
デミトリアス父上は鏡士を道具としか思っていない。父上を諫めるのも私の役目だ。ジェイソンもそう言ってくれている。
グラスティンジェイソン・フリーセル、か。デミトリアス……お前は奴に騙されているんだ。
フィリップ………………。
デミトリアスフィル、きみもグラスティンと同じ考えなのか ?
フィリップフリーセルの言っていることは正しい、とは思います。このままではセールンドのエネルギーシステムは破綻するでしょう。
フィリップただ、彼が反戦論者である以上、今の僕はフリーセルとは相容れない。僕は……ミリーナと共にイクスの仇を取ると決めていますから。
デミトリアス私だって、ビフレストの侵略を黙って見過ごすつもりはない。
デミトリアスだが、間違った政策は正さねばならないし例え思想に違いがあっても良い意見は吸い上げるべきだろう ?
グラスティンそれがビフレストのスパイの言葉でも……か ?
フリーセルどうしたどうした ? 三人ともしけた顔して。
フィリップフリーセル……。いや、なんでもないんだ。
フリーセルそうか ? まあ、フィルがそう言うならそういうことにしておくが……。
フリーセルそれより、デミトリアス。病み上がりなのに大丈夫なのか ?国立養育院の件で俺に聞きたいことがあるって話だが。
デミトリアスああ。ジェイソンの提案通り、我が国に留まっているビフレストの生活困窮者も国立養育院に収容しようと思ってね。
二人! ?
グラスティン正気か ! ?
フリーセル何か問題でもあるのか ?
グラスティン敵国の人間を救うってのか ?ドンパチやってるさなかに ?
デミトリアス人道的には敵も味方もないだろう。
フィリップそれは……そうだとは思います。でも、今、それを国立の施設でやるのは……。
デミトリアス民間の施設がビフレストの人間に手を差し伸べると思うか ?
フィリップけれど、時期が悪すぎます。ついこの間もハンザ半島をビフレストの魔鏡兵士が襲撃して多数の死者が出たばかりだ。
フィリップその上キラル分子の減産を強行すれば国民の大多数が殿下をビフレストに利する裏切り者と見なす恐れがあります。もっと段階を踏むべきだ。
フリーセルフィル。お前のその弱腰はいたずらに鏡精の犠牲を増やすだけだ。
グラスティンお前如きがフィルに意見するな。お前こそ、そのやり口はセールンドの国内に不和をまき散らすだけだ。
フリーセル俺はそんなことをするつもりはない。そもそも戦争が止まればそいつが一番なんだ。
グラスティン攻めてきてるのは、ビフレストの方なんだがなあ…… ?
デミトリアスみんなやめてくれ。父上も私も、ビフレストに対して折れるつもりはない。だが、弱っている民に手を差し伸べることも間違っているとは思わない。
デミトリアスそれが敵国の人間であっても、だ。
グラスティンヒ……ヒヒ……デミトリアス。お前のその考えは、いずれお前を殺しにくるぞ ?正しさは必ずしも救いにはならないんだからなあ ?
帝国兵――陛下 ! ? どうなさいましたか ! ?
デミトリアス……大事……ない。いつもの発作だ。今、薬を飲んだ……。
デミトリアス(私が選んだのは、フリーセルの手だった)
デミトリアス(あの後、私はキメラ結合の研究中に事故に巻き込まれアニマ汚染が一気に進行した。グラスティンがかばってくれなければ、命すら危うかっただろう)
デミトリアス(だが、あの事故は――仕組まれたものだった……)

キャラクター3話【14-2 雪原1】
リグレット……ここが新しく具現化された大陸、か。
リグレット私も具現化された身だ。元の世界では具現化に似た力を利用していた立場でもあるから技術を疑っていたわけではないが――
バルド機械の力に頼っているとはいえ、一人の人間が生み出したものだと考えると、鏡士という存在の持つ強大な力を思い知らされますね。
コーキスこれ、メルクリアが造ったんだよな。造らされた、だけど。
リグレットああ。これだけの仕事をさせられたのだ。かなり弱っているように見えたが皇女殿下は大丈夫なのか ?
バルド……弱っておられるのは、リビングドール状態で具現化を行ったためでしょう。心を操られた状態では魔鏡術の力も弱まってしまうそうなので。
バルドメルクリア様の本来のお力ならこの新大陸ももっと広大なものを造れた筈ですよ。
リグレット……確かに島よりは大きいが、他の大陸に比べると面積は小さいようだな。となると帝国の手に落ちるのも時間の問題か。
リグレット具現化されたばかりだというのに抵抗勢力がしっかりと力を持っているようなのは驚いたが。
バルドその点は、私も気になっています。
バルド帝国が具現化したのですから、帝国への帰属意識を植え付けられていてもおかしくない筈ですがそうはなっていない。
バルドとするとこの大陸は一体何のために具現化されたのか。
コーキスマスターたちは、異世界のアニマを補充するために具現化をしてただろ。帝国もそうなんじゃないのか ?
バルドいや、コーキス。よく考えてごらん。帝国はニーベルングを甦らせようとしている。この世界を維持する必要はない筈だよ。
コーキスあ……そうか……。壊しちゃうつもりなんだもんな。
コーキスディスト様なら何かわかるのかな。
バルドそうだね。博士からなら何かしら有益な意見をいただけるかも知れない。
バルド………………。
リグレット………………。
リグレット……その点に異論はないが、あまり頼りすぎるなよ。ディストは敵対すると厄介だが味方にするともっと厄介な存在だ。
リグレットそれより――
バルド――ええ。
バルドそこに隠れている者。出てきなさい。
コーキスえ ! ? え ! ?
? ? ?…………生きて……おられたのですか…… ?
バルドその声は……フリーセル……。ジェイソン・フリーセルか ! ?
フリーセル――ご無沙汰しております。バルド様。
コーキスえ ! ? こいつがジュニアが具現化させられたっていう……。
フリーセル何故それを知っている ! ?
コーキス何故って――
バルドいや、コーキス。私から説明するよ。
バルドジュニアのことは知っているんだな。今、私とウォーデン殿下はそのジュニアと共に行動しているんだ。
フリーセルウォーデン殿下がリビングドールで甦ったことは私も存じております。しかしバルド様までとは……。
バルドここできみに会えるとは思わなかった。きみは何故ここにいる ?そして何をしようとしているんだい ?
バルドそもそもきみは何をどこまで知っているのかそれを教えてくれないだろうか。
フリーセル私が知っているのは、セールンドの鬼畜共が再び世界を滅ぼそうとしていることだけです。
フリーセル全ては私が……最初の私がデミトリアスと奴の取り巻きを処理しきれなかった手落ち。申し訳ございません。
バルド処理、とはどういうことだ ?それが暗殺を指しているなら、少なくとも私はきみにそんなことを命じた覚えはない。
フリーセルウォーデン様が薨御なされた後皇后陛下より勅命を賜りました。
バルド皇后陛下が……。あの方なら、確かに……。
リグレットバルド。場所を移してはどうだ。こんな雪原では、いつ敵対勢力に発見されるかわからない。
バルド確かにそうですね。
バルドフリーセル。我々と共に来てくれないか。ウォーデン様にもご挨拶するといい。それに聞きたいことが山のようにある。
フリーセル……ありがたきお言葉。ですが、私はウォーデン様の下に参じることはできません。
バルド何故だ。
フリーセル私は……過去の亡霊です。ですが、やり残した仕事を片付ける機会を得たとも思っています。
フリーセルこの命は皇后様のために捧げるつもりです。
コーキスそれってデミトリアスを殺すってことか ?
リグレットいや、その取り巻きとも言っていたな。デミトリアス、グラスティンの両名だけならナーザ――ウォーデンらにも有益だろうが……。
バルド……ええ。皇后様のご命令であれば当代ビクエやマークやゲフィオン、それにゲフィオンのカーリャも、ということになりますね。
バルド二人目三人目まで標的にするつもりかはわかりませんが。
コーキスミリーナ様も狙われるってことかよ ! ?
バルド考え直してはくれないか、フリーセル。今の状況でビクエたちに手を掛けられるのはウォーデン殿下にとっても不都合だ。
フリーセルそれはできません。私を具現化させたサレへの恩義もある。
フリーセルどうしようもなく救いがたい男ではありましたが私が行っていることの醜悪さが奴への手向けとなるでしょう。
バルド醜悪とわかっているなら、何故止めようとしないんだ。
フリーセル私はビフレストのスパイでしたが同時にデミトリアスらの学友でもありました。止めるべきだった。デミトリアスが毒に染まる前に。
フリーセルですから、私は私のやり方で落とし前をつけるつもりです。
バルドフリーセル !
フリーセルビフレスト皇国とウォーデン殿下に栄光あれ。
フリーセル――失礼します。
コーキスなあ、行かせていいのか ?
リグレットまずいだろうな。
リグレット仕方がない、こちらで監視をする。
コーキスえ ! ? どうやって ! ?
リグレット当面はアリエッタの魔物に協力してもらうほかはないだろうな。
リグレットそれに私やコーキスは面が割れてしまったが誰かをフリーセルのところに送り込みたい。
バルド……となると、救世軍やイクスたちに協力を頼む必要がありそうですね。
リグレットそうなるな。まさか、閣下やディストを送り込むわけにもいかない。
コーキスヴァン様やディスト様が近づいてきたらフリーセルにめちゃくちゃ疑われるもんな。
バルド……どうでしょう。ディスト博士はともかくヴァンは……案外上手く懐に潜り込みそうな気もしますが。
リグレット閣下にそのようなことはさせられない。
バルドもちろんです。あの方の中には精霊ローレライが存在している。
バルドそれに……ナーザ様からもヴァンから目を離すなと言われております。
リグレットフ……。それは賢明なことだ。

キャラクター4話【14-4 アジト1】
スパーダ――でよ、原因はまだよくわかんねえけどレグヌム領は、新大陸への侵攻だけじゃなくて帝国側とも争っているみたいなんだよな。
イクスそうか。報告ありがとう。もしも大事になりそうだったら応援を送るからすぐに連絡してくれ。
スパーダ了解。こっちは、もうちょい調べてみるわ。
イクスええと、次は新大陸の調査の進行状況を確認して――
ミリーナイクス、カロル調査室からの報告よ。今度はアセリア領で反乱が起きたって。
イクスアセリア領 ? ってことはクレスたちの世界が元になった大陸か。
ミリーナええ。新大陸具現化のせいで帝国側でも混乱が起きているみたい。その隙をついたようね。
イクス領民の反乱かな。それともレジスタンスか。
ミリーナいいえ、あちらでも他の領と同じで、一部の兵士たちが帝国に対して反旗を翻したんですって。
イクス兵士が ? 領主や従騎士は帝国側 ? それとも……。
ミリーナ詳しいことはまだわからないけれど従騎士はすでに心核を取り戻しているそうよ。
イクスアセリア領の従騎士はモリスンさんって人だったよな。
ミリーナええ。それとカロルたちだけど他にもアセリア領内で確認したいことがあるから詳しい情報がわかり次第、連絡するって言ってたわ。
イクス確認 ? 何だろう……。
ミリーナ領都周辺の魔物の様子が変だって言っていたからそのことかもしれないわね。
イクス心配だな……。とにかくクレスたちに報告しておこう。その後でネヴァンに連絡をとってから、各大陸の――
ミリーナイクス、魔鏡通信が来てるわよ。
イクスおっと、今度は誰からだ ?……あれ、映らない ?
? ? ?……クス……リーナ。
ミリーナまさか、また通信障害 ?
ヨーランドイクス、ミリーナ。
ミリーナヨーランド様 ! ?
ヨーランド良かった ! 通じてるわね。今、手が離せなくて魔鏡通信に干渉できるか不安だったのよ。
イクス手が離せないって、何があったんですか ?
ヨーランドオリジンの力が暴走を始めたわ。このままでは、ティル・ナ・ノーグの存続にさえ影響を及ぼすことになる。
二人! ?
ヨーランド私は今、その暴走を抑えながらオリジンの存在を保つためにほとんどの力を費やしている状態なの。
イクスどうしてそんなことに…… !
ヨーランド原因となる鏡映点がミッドガンド領にいるはず。どうやらアルトリウスという人物らしいわね。
イクスアルトリウス……ベルベットさんが追ってる相手だ。すぐに連絡しなくちゃ !
ヨーランド大丈夫。ケリュケイオンにはすでにファントムが連絡してくれたから。
二人ファントム ! ?
ヨーランドあら、私がこうして魔鏡通信に干渉できるのもファントムがティル・ナ・ノーグに戻っているからなのよ。

キャラクター5話【14-5 アジト2】
イクスファントムは目が覚めていたんですか ! ?
ヨーランドええ。まだ回復しきってはいないけれどね。私の手が回らない所は彼にお願いしているの。
ミリーナファントムが協力してくれるなんて……。
ヨーランドそう驚くことでもないわ。狂化止めで冷静さを取り戻しているし。
ミリーナええ……そうですね。
ヨーランドただ、だからこそ心配だともいえるけれど――
イクスどうしました ?
ヨーランド…………やっぱり変ね。少し前からオリジンの力を強く感じる……。
イクスまさか、アルトリウスが何かしたんじゃ…… !
ヨーランドいいえ、違う。これは……。
ミラ=マクスウェル済まない、邪魔をするぞ。
ミリーナミラ、どうしたの ?
ミラ=マクスウェルさっきから精霊の気配がおかしい。何というか、妙な感触がするんだ。
ヨーランドあなたも察知していたのね。異世界のマクスウェル。
ミラ=マクスウェル驚いたな。通信相手はヨウ・ビクエか ?
ヨーランドお邪魔しているわ。マクスウェル、あなたが感じ取ったのはきっと私と同じものよ。
ヨーランドあれはオリジンと、そしてクロノスの力。二人がどこかで邂逅し、接触したんだわ。
ミラ=マクスウェルなるほど。この気配は彼らだったのか。
イクスオリジンとクロノスって……、何が起きてるんだ。
フィリップイクス、聞こえるかい ?ベルベットたちについて報告がある。
イクスフィルさん、ええと、今……。
ヨーランド丁度いいわ。報告してちょうだい。
フィリップヨーランド ! ?魔鏡通信に干渉しているのか ! ? いや、それよりあなたは手が離せない状況だとリーパが――
ヨーランドええ、今もそうよ。こうして話すのも結構ギリギリ。だからイクスにはオリジンのことも大まかにしか話していないの。
ヨーランドあなたはファントムから説明を受けたでしょ。イクスたちにも聞かせてあげて。
フィリップわ……わかりました。
フィリップ――イクス、まずベルベットとスレイたちだが先ほどミッドガンド領へ向かったよ。
イクス――そうですか。本当にファントムは協力してくれているんですね。
フィリップああ。この状況もあってまともに話すことはできなかったけどね。それに、クラトスさんとエルレインも心配だ。
ミリーナ二人が軽くぶつかっただけで倒れたなんて変よね。何かの影響を受けたのかしら。
ミラ=マクスウェルフィリップが話したとおりなら私が妙な気配を感じ始めたのと同じ頃だな。
ミリーナ妙な気配……オリジンとクロノスの接触のことね。
イクスクロノス……か。確かエルレインさんは【クロノスの檻】に閉じ込められたことがあるよな。
ヨーランド……なるほど、そういうことか。彼女はクロノスと会っているのね。もしかしてクラトスもオリジンと関係があるのかしら ?
ミトスあるよ。
イクスミトス ? いつの間に……。 あっ、そうか。ミトスもオリジンと契約していたって言ってたよな。
ミラ=マクスウェルなるほど。それでお前も異変を感じたのだな。今の話も聞いていたのだろう ?
ミトス聞こえちゃったんだよ。天使は耳がいいからね。
ミトス余計な口出しはしないつもりだったけどクラトスのことなら話は別。
ミトス元の世界で、ボクはオリジンを封じていた。クラトスの命を使ってね。
ミトスもしその時の状態のまま、この世界に具現化されたならクラトスはオリジンと繋がりを持った者としてこの世界に認識されているんじゃない ?
ヨーランドオリジンを封じていた……。それは、このティル・ナ・ノーグと同じ状況ね。ここでもオリジンは封じられている……。
ヨーランド………………。
ヨーランド――話してくれてありがとう。これでおおよその予測が付いたわ。
ヨーランドオリジンとクロノスに縁を持った者同士が接触した。つまり彼らを通じて、オリジンとクロノスが接触を果たした……んでしょうね。
フィリップその衝撃で二人は倒れたのか。まずは原因がわかっただけでも良かったよ。
フィリップ後は、スレイやベルベットたちがどう動くかでオリジンの状況も変わっていくはずだ。
ミラ=マクスウェル本当にアルトリウスとやらが原因であれば思いとどまってくれれば済む話だが……。
ミトス思いとどまる、ね。それは簡単なことじゃないんだよ、マクスウェル。
ミトスボクは奴を知らないけど、他にどんな選択肢があろうと戻れないし、戻ってはいけない道もあるんだ。世界の仕組みを変えようなんて思い至った段階でね。
ミリーナ…………。
イクス……やっぱり、俺たちもスレイやベルベットさんの加勢に行った方がいいんじゃないか ?
ヨーランドいいえ、彼らに任せた方がいい。それにあなたには、やるべきことがあるのよ、イクス。
イクス俺に、ですか…… ?
ヨーランドええ。あなたにしかできないことなの。

キャラクター6話【14-6 アジト3】
イクス俺が……っていうことはもしかしてバロール絡みですか ?
ヨーランドそれも含めた面倒事になる予定よ。ただ、まだわからないことが多いからあなたたちからも情報が欲しいの。
ミラ=マクスウェルオリジンで手一杯で情報収集が追い付かないか。
ヨーランドええ。何しろ新大陸の現状把握さえままならない状態なのよ。
イクス新大陸ならネヴァンが先行して調査に向かっています。すぐに連絡をとって――
ミリーナ待って、魔鏡通信が……バルドさんからだわ !
バルドミリーナさん ? 通じてよかった。イクスさんもそちらにいますか ?
ミリーナええ。
バルドそうですか。何もないなら良いのですが何故かイクスさんとの魔鏡通信が通じにくくて……心配していたんです。
イクスああ、多分、魔鏡通信への干渉が――
ヨーランド待って、私やフィリップの話は込み入ってるから後回しで。まずは彼の用件を聞いてちょうだい。
バルド失礼、誰かと通信中でしたか ?
イクスええ、まあ……。後で詳しく話します。そちらの用件を先に聞かせてください。
バルドわかりました。まず確認をさせてください。最近、私たちのアジトと魔鏡通信が通じなかった理由はそちらに伝わっていますか ?
イクスはい。ヴァンさんの救出の際にリグレットさんたちから事情を聞いたと報告がありました。
イクスサレに暗示をかけられたジュニアを保護するために外界との接触を避けているんですよね ?
バルドええ。ご存知の通り我々のアジトはジュニアの仮想鏡界です。彼に何かあったらひとたまりもありませんからね。
イクス確かに、サレがどうなったかもわからないしなぁ。
ミリーナヴェイグさんたちも気にしているのよね。最後に会った村の周辺も継続して調べているけど消息はわからないって……。
バルドなるほど。ともあれ、こちらの事情が伝わっているようで安心しました。これから話すのは、その件を踏まえてのことです。
バルドサレに暗示をかけられたジュニアがある人物を具現化していたんです。
バルドその人物は、私たちの同胞にして救世軍の初代指導者、フリーセル。
二人フリーセル ! ?
フィリップ! !
バルドええ。私は先ほど調査中の新大陸で彼と出会いました。
イクスやっぱりそうだったのか…… !
バルドということは、彼とはすでに ?
イクスはい。この間、テルカ・リュミレース領で戦った盗賊がフリーセルに似ているとネヴァンが言っていました。
バルドネヴァンが言うのであれば具現化されたフリーセルに間違いないかと思いますよ。
ミリーナバルドさん……、フリーセルとは何か話を ?
バルドええ。その内容を伝えるために連絡を取りました。
バルド今の彼は、あなたたちや、ネヴァンそれに当代ビクエやマークにも害を及ぼしかねません。
三人! !
ミリーナフリーセルはそんなことを……。
イクス事情はわかりました。それなら救世軍には俺たちの方から連絡します。潜入できそうなメンバーも見繕っておきますね。
バルドええ、お願いします。こちらではアリエッタの魔物たちに監視を頼んでいますので。
イクス他には何かありますか ?
バルド我々としてはそちらの状況が気になるのですが察するにイクスさんたちの方も色々と慌ただしいご様子ですね。
イクス実は……そうなんです。
バルドでは、後程詳しく伺うことに致しましょう。私たちも新大陸の調査とフリーセルの件がありますからお互いに目途が付き次第、情報をすり合わせればいい。
バルドこちらもなるべく定期的にアジトを離れて魔鏡通信を確認しますね。
バルドでは、また――……えっ ?
イクスバルドさん ? どうかしたんですか ?
コーキスマ、マスター ! ミリーナ様 ! パイセンも !気を付けてくれよなっ !
三人! !
バルド――だそうです。では失礼します。
イクスコーキスの奴……。
ミリーナふふ、心配してくれているのね、コーキス。
カーリャまったく、コーキスは早く帰ってくればいいんです。
フィリップ…………。
ミリーナフィル、どうしたの ? 顔色が悪いみたいだけど……。
フィリップああ、すまない。覚悟はしていたけど、本当にフリーセルが……。
ミリーナそうね……ビフレストのスパイだったとはいえフィルにとっては友人ですものね。
フィリップその友人をファントムが殺し、ジュニアが具現化して……僕は再び敵対しようとしている。正直、やりきれないよ。
フィリップヨーランド、ファントムには……リーパにはまだこのことを伝えないでもらえますか。
ヨーランドええ。今の彼を動揺させたくないもの。仕事も任せていることだしね。
イクスフィルさん、ファントムはどうしてフリーセルを殺したんですか ?
イクスそもそも、どうして同一人物だったフィルさんとファントムはこんなにも違ってしまったんでしょう。俺と最初のイクスのような感じですか ?
フィリップそれは……。
イクスあ ! あの、フィルさんを責めようとかそういうことじゃないんです。すみません。あの……話しにくいことならまた改めてでも……。
フィリップい、いや、責められて当然なんだ。ただ、その……。
ヨーランド……オリジンはまだ動かないわね。いいわ。今のうちに私からファントムについて少し話をしましょうか。
フィリップえ ! ? あなたが ?
ミトスだったらボクたちは行こう、マクスウェル。どうせ胸が悪くなる話なんだ。聞くことないでしょ。
ミラ=マクスウェルそうだな。私たちはフリーセルを偵察できそうな者に当たりをつけるとしよう。オリジンに変化があったらすぐに呼んでくれ。
ヨーランドふふっ、いい子たち。気を遣ってくれたのね。
フィリップヨーランド、どういうことですか ?リーパはあなたに何か話したんですか ?
ヨーランドいいえ。ただ、彼を治療している時に私に流れ込んでしまったのよ。彼の思考――思いがね。
ヨーランド恐らく、ミリーナの中のゲフィオンの記憶やフィリップの記憶と照らし合わせると彼の狂気への道筋が見えるはずよ。
フィリップであれば、まずは僕から話をさせて下さい。あなたが感じたリーパの思いはなるべく公開しないであげて欲しい。
フィリップ彼を自分の付随物としか思っていなかった僕ですが……今は悔いています。リーパにも隠しておきたいことはある筈ですから。
ヨーランドそうね。その通りだわ。じゃあ、最低限、必要と思えたことだけ補足するようにするわね。

キャラクター7話【14-7 アジト4】
ヨーランドフィリップがファントム――リーパを具現化したのは同一時空に同一存在を具現化する実験のためだった。そうよね ?
フィリップ……ええ。同一存在は記憶を共有してしまう。具現化された二つの存在を別人として確立するためにはその繋がりを断ち切る必要があった。
フィリップそうしないと、具現体と具現元の双方の心が互いに過干渉して、【狂化】と言われる状態に陥ってしまう。
イクス【狂化】 ? そういえば具現化の教本の中に、魔鏡術のバックファイアを受けたことによる【狂乏症】という症状について書かれているのを読んだことがあります。
イクス語感が似ていますけど同じようなものなんでしょうか。
ミリーナ……ええ。心を扱う技術だからこそ心の調子が狂うような症状も起きることがあるの。
ミリーナゲフィオンがイクスを助けようとして心が壊れてしまったのも【狂乏症】の症状の一つよ。
フィリップ【狂化】というのは、ゲフィオンとミリーナの境界が曖昧になった状態が近いかもしれないね。僕とリーパは鏡精であるマークを共有していた。
フィリップつまりリーパは僕と心が繋がった状態で具現化された。そのせいで、お互いの存在を食い合う状態になっていたんだ。
フィリップリーパと僕なら、僕の方が存在の強度が強い。リーパには固有の鏡精がいなかったからね。
フィリップだからリーパは僕に侵蝕されて、彼の中の願いや希望が先鋭化して歯止めがきかなくなる傾向があった。
ヨーランドリーパを食い殺さないために、フィリップは自分とリーパの心に狂化止めという術式を組み込んだのよね。
ヨーランドでもフィリップは当時すでにアニマ汚染が始まっていたから、心身の老化現象で狂化止めの術式を今までより強力なものに変更する必要があった。
ヨーランドそれが、リーパがファントムへと変わるきっかけよ。
フィリップリーパ。僕たちに仕掛けた狂化止めの術式が弱まってきている。それはきみも感じているよね。
ファントム……ええ。
フィリップだから僕は、狂化止めの術式をより強いものに変えられないかやってみるつもりだ。
フィリップこれが上手くいけば、過去から具現化を行っても心を分断し、記憶の共有を断ち切れるかも知れない。
ファントムそれはやめて下さい。
フィリップ……え ?
ファントムもし新たな狂化止めで私とあなたの繋がりが断ち切れたら、私はあなたの望みを叶えてあげられなくなってしまう。
フィリップ……いや、それは駄目だよ。リーパの言いたいことはわかっているけれどそれは容認できない。
ファントムいや、わかっていない ! イクス・ネーヴェは死んだ。あなたがすることは、イクスを過去から具現化することではなくて、ミリーナとの未来を構築することです。
フィリップミリーナは……僕なんか眼中にないよ。それに僕だって、イクスのことが好きなんだ。
フィリップイクスとミリーナが幸せになってくれれば……僕はそれで……。
ファントム欺瞞だ !私にはあなたの心がわかるのですよ。鏡精であるマーク以上に。
フィリップリーパに伝わっているのは、【狂化止め】で歪んだ僕の心だ。それに、人には相反する感情や思考が存在しうるものだよ。
ファントムつまり、私が感じているあなたの思いはあなたが隠している欲望というわけだ。
ファントムそれの欲望は犯罪ではありませんよ。イクスを過去から甦らせるほうがよっぽど道義に反している。
ファントムあなたはかつてイクスに鏡の欠片を突き刺した事実を消し去りたいだけだ。
フィリップやめてくれ……。
ファントムカーリャもマークもイクスを具現化することに反対しています。作り出された側の存在は皆同じ結論に辿り着いている。
ファントムフィルがどうしても計画を実行するというのなら、私はフリーセルを利用してあなたとミリーナの計画を止めますよ。
フィリップまさか……救世軍を動かすつもりか ?あれは休戦後の治安維持のために組織した自警団なんだよ。それを――
ファントム――それを、なんです ? 私利私欲のために使うな ?冗談ではありませんよ。イクスの具現化も私利私欲だ。
ファントム救世軍だって、ミリーナに対しておかしな動きを見せているフリーセルをガス抜きして同時に監視するための組織だ。
ファントム何もかも私利私欲でしょう。
フィリップああ、そうさ。きみも僕ならわかって欲しいよ。僕は、やっとミリーナの共犯者になれたんだ。
フィリップ僕を邪魔するならきみが僕であっても……僕は許さないよ。
ファントムそれでも私は諦めない。あなたを救うためには私が救われる世界を構築するべきなんだ。そこにイクス・ネーヴェはいらない !
ファントム邪魔なものは排除するだけです。それがあなたを守り願いを叶えることになる。私は私のために私の願いを叶えます。
フィリップ! ?
フィリップその時だったよ。リーパが自分と僕を同一視し始めていることに気付いたのは。
フィリップその頃から、僕の願いを感じ取ったリーパが願いを自分のものと考えるようになりそれを叶えるために行動するようになっていったんだ。
ヨーランドそれはちょっと違うわね、フィル。それはあなたが見た真実。リーパの真実とは違う。
フィリップえ ?
ヨーランドリーパは確かに狂化が進んで自分とフィルの境界が曖昧にはなっていた。
ヨーランドけれど彼は自分とフィルをまだ完全には同一視はしていなかったのよ。
ヨーランドいずれはそうなるかも知れなかったけれど、彼は本気で「あなたとミリーナが幸せになる世界」を作ることが自分の願いだと思っていたの。今でもきっと、ね。
フィリップ………………。

キャラクター8話【14-8 アジト5】
イクス……少し気になったんですけど、救世軍はフリーセルのガス抜きをするための組織だったんですよね。
イクスということは、当時からフリーセルがスパイとして危険な行動を取ろうとしていることはわかっていたんですね。
フィリップ確たる証拠はなかったけれど、ね。彼は友情をもって僕らと交流してくれていたし弱者に対しての優しさも本心だったと思うよ。
フィリップ……僕がそう信じたいだけかも知れないけど。
マーク救世軍を結成してからのフリーセルの話なら俺の方が詳しいかもな。
マークゲフィオンは救世軍の結成にフィルが関わっていることを知らなかったしフィルもファントムや俺に任せきりになっちまってた。
ミリーナそうね……。ゲフィオンは救世軍にマークが関わっていることをイクスから聞いて驚いたぐらいだから……。
マーク実際、救世軍に関しては失敗だったよ。あ、いや、今の救世軍がどうこうって話じゃないぜ。当時の『フリーセルのガス抜きと監視』って名目がな。
マーク俺たちの見込みが甘かった。ファントムとフリーセルが化学反応を起こして、まるでテロ組織みたいになりかけてたからな。
マーク当時のフィルはアニマ汚染でかなりやばい状態だったし俺も……まあ、ファントムの計画に荷担してたしな。
イクス以前の救世軍はゲフィオンに反抗していたもんな……。
マークフリーセルはゲフィオンが世界を壊したと思っていたからな。まあ、正確にはゲフィオンとうちのマスターの仕業なんだが――
イクスそれはそうかも知れないけど、カレイドスコープを推進したセールンドにも、セールンドに攻め入ったビフレストにも責任はあるんじゃないかな。
イクス戦争って……どちらか片方だけが悪いなんてことはないと思うし、兵器を作った人間だけが悪いってこともないだろう ?
ミリーナビフレストにはビフレストの大義がセールンドにはセールンドの大義があった……ということよね。
カーリャビフレストの大義って……バロールの血族に鏡精を作らせないってことですよね ?
イクス結局、そこに突き当たるんだな。やっぱり創世神話の写本を見つけないと。
イクス――いや、ヨーランドさんなら何か知っているんじゃないですか ?
ヨーランド何の話 ?
イクス俺の両親が残していた遺言なんですけど――
女性の声あなたは知っているかしら。自分がバロールの血を引きバロールの魔眼を受け継ぐ子供だということを。
男性の声オーデンセという島は、この世界の原初からある島だ。伝承によれば、この地にバロールの血族がいるのは罪人を留め置くためだという。
男性の声今ではバロールの力が罪であるかのように言われているが、決してそうではない。そのことを私たちは、セールンドに来て知り得た。
男性の声だからイクス、お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。
イクス(これがイクスさんが言っていた母さんたちの遺言…… ?)
女性の声この世界は大きく揺らぎ始めているわ。セールンドで作り出されたキラル分子供給のしくみが罪人の揺り籠であるこの世界を滅ぼそうとしているの。
女性の声世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。
イクスバロールの力って……いえ、バロールはこの世界にとってどういう存在なんですか ?
ヨーランド女神ダーナやナーザと共にこの世界を創った鏡士。そしてバルドが言っていたように、命を生み出す存在……だという話よ。
ヨーランドナーザの想像の力がティル・ナ・ノーグという巨大な仮想鏡界を創り、バロールの創造の力がその仮想鏡界を現実に変えた。
ヨーランドそれら二つの力を繋いだのがダーナ様の融合の力。バロールの力が失われればこの世界は本当に単なる幻になってしまう。
イクスそうか、ティル・ナ・ノーグそのものがこの浮遊島アジトと同じ成り立ちなんだ……。
ヨーランドええ、そういうことね。――あら ? でも……。
イクスどうしたんですか ?
ヨーランドいえ、そうじゃなくて。おかしいと思わない ?
ヨーランドセールンドの王室では創世神話をおとぎ話のように思っていたのよね。でもご両親の遺言は、私が今話した情報を知った上での言葉のように聞こえたわ。
ヨーランドううん、或いは私以上の情報を知っていたのかも知れない。
イクスえ、ええ……。それが創世神話の写本の可能性があると思ったんです。セールンドの王宮にあったらしいんですけど……。
ヨーランドだったらセールンド王家の人間も、その本を読んでいた筈よね。写本が核心に迫る内容だったのだとしたら王家の人間も知っていなければおかしい。
ヨーランドおとぎ話だと思っていたという証言とは矛盾するわ。だとすれば……セールンド王家の人間は『知っていて』世界を壊そうとした…… ?
ミリーナ世界を壊してしまったのはゲフィオンですよね ?
ヨーランドけれど、ビフレストとの約束を反故にしてバロールの魔眼を受け継ぐ最初のイクスを鏡士にしたのよね。
ミリーナそれは、最初のイクスがゲフィオンの心の傷を治すために志願したことです。セールンド王家の意向では――
ミリーナあ、でも、鏡士になるための登録はする筈だわ。王国からの認可証が届いたからイクスとゲフィオンは結婚することになったんだし……。
フィリップイクスが正式に鏡士になったのなら宮廷鏡士たちに伝わる筈だ。当然僕にも。
フィリップけどイクスが鏡士になったという話を聞いたのはゲフィオンがセールンドに避難してきた後だ。
フィリップつまり、王家や先代のビクエは最初のイクス――バロールの魔眼を受け継いだ血族が鏡士になったことを知っていた。
フィリップそれを……恐らくフリーセルは察知してビフレストに報告した……のかもしれない。
ヨーランド一刻も早くその写本とやらを見つけた方がいいわね。それと、ルグの槍に関してだけれど……。
イクスルグの槍――ニーベルングを転送するための転送装置ですよね ?
ヨーランド帝国がその目的で使おうとしているだけ。本来はバロールと彼の鏡精ルグを結ぶアニマの通り道と聞いているわ。
イクスバロールの鏡精……。
ヨーランド――あ ! オリジンの暴走が……止まった ?
ミリーナベルベットたちだわ !
ヨーランド――そのようね。私はこの隙に、オリジンの存在を安定させる作業に戻るわ。また連絡します。
ヨーランドイクス、あなたがやるべきこと――あなたにしかできないことを伝えておくわ。
イクスは、はい !
ヨーランドルグの槍を手に入れて。恐らくご両親もそれを伝えようとしていたのだと思うわ。
ヨーランドさっきも言った通り、ルグの槍はバロールと鏡精を繋ぐアニマの道。あなたとコーキスならその道を奪って、操ることができる筈。
ヨーランドルグの槍を支配下におければこの世界を守ることができるわ。その為の手段は、きっとあなたの中にある筈よ。

キャラクター9話【14-9 雪原3】
フリーセル………………。
グラスティン………………。
フリーセルどういうつもりだ、グラスティン。さっきから人をつけ回して。
グラスティンヒヒ……同じ魔鏡技師同士じゃないかあ。仲良くしよう……。
フリーセル断る。俺はお前が嫌いだ。
グラスティンそんなことは知ってるさ。俺だって同じだよお……。だがお前は、好き嫌いで人を切り捨てるタイプじゃないだろう ?
フリーセルああ。だが、友に害を与える存在なら、俺は容赦はしない。
グラスティン友、ねえ。そいつはフィルのことかあ ?それともデミトリアスのことかあ ?
フリーセルどちらもだ。
グラスティンヒヒヒ、出たよ、心にもない台詞だ。どうせお前は、祖国のために大切なお友達も切り捨てるんだ。そうだろう ?
フリーセル何のことだ。
グラスティン俺は知ってるんだ。お前がビフレストのスパイだってなあ。
フリーセル俺も知っているぞ、グラスティン。お前がフィルに執着する理由を。
グラスティン
フリーセル屍蝋化したママの死体はそんなにも魅惑的だったか ?グラスティン坊や。
グラスティンヒ……ヒヒ……。そうか。見たのか……。やっぱりお前、ビフレストのスパイだったんだな。
フリーセルバロールの巫女が突然行方知れずになったことでビフレスト皇国とセールンド王国の間に大きな溝ができたんだぞ。
フリーセル何故巫女を……実の母親を殺した ?墓守の街で何があった ?
グラスティン俺が殺したと思ってるならお前はやっぱりマヌケだよ。
フリーセルどういう意味だ。
グラスティン確かに俺は殺そうとはしたが、『殺せなかった』んだ。鏡精の墓を守りながら、だんだんと壊れていくあの女がただただ恐ろしくてなあ。
グラスティンでも、殺ってくれた奴がいたんだよお。
フリーセル……デミトリアスか ! ?
グラスティンヒヒ……ヒヒヒ……。だから特別なのさ。デミトリアスとフィリップはなあ !
フリーセル(……感謝するぜ、サレ。俺を具現化してくれて。グラスティンはもっと早くデミトリアスから引き離しておくべきだったんだ)
フリーセル(デミトリアスはフィリップとは違う。グラスティンに蝕まれている)
フリーセル(最初の俺がやり残した仕事は、必ず遂行する。そして――デミトリアスにも、グラスティンにもフィリップにも、けりをつけさせる)
セールンド王探せ ! なんとしてもデミトリアスの命を繋ぐ方法を探し出すのだ !
魔鏡学者本来、アニマ欠乏症は決して命を奪うほどの病ではありません。
魔鏡学者ですが近頃では、従来とは明らかに違う様相を示すものが増えております。殿下もそういったⅡ型の欠乏症でありまして――
メイドねえ、今度呼ばれた魔鏡学者と鏡士の夫婦とても危険な力の持ち主なんですって。ビクエ様が警戒しておられるとか。
メイドそれもこれも殿下の為なんでしょうけれど……。
騎士団長殿下。どうかご辛抱下さい。この墓守の街ならば、殿下のお命を繋ぐ薬が作れます。ここで静養なさることが肝要なのです。
グラスティンヒヒ…… ! 残念だよお !お前をかばって死ぬのは悪くないがどう生きてどう死ぬのかは見たかった…… !
グラスティンああ、それにフィリップ……。フリーセルに殺されると思うと悔しくてたまらない。俺が……俺が綺麗に保存したかったのに…… !
デミトリアス
デミトリアス(……夢、か)
デミトリアス(近頃、過去のことばかり夢に見る。これもクロノスの影響なのかもしれないな……)
? ? ?クロノスの影響じゃと ?もっとそなたに影響を与えているものがあるではないか。
デミトリアスメルクリア ! ?
? ? ?わらわはメルクリアではない。わからぬか。我らを喰らって生き存えた死人よ。
デミトリアスきょ、鏡精……か…… ?
? ? ?わらわはかつてモリアンであったもの。
モリアンの影オリジンが覚醒した。止まっていた時計の針が動き出したのじゃ。
モリアンの影これから、お前が喰らい、体に取り込んできた鏡精たちが、時の流れと共にそなたの中で甦る。覚悟せよ。
デミトリアス……覚悟など、疾うにできている。我が父の過ち。私に費やされた膨大な命とエネルギー。
デミトリアス奪った物は返す。私にできるのはそれぐらいだ。
モリアンの影ならば貴様も、バロール様の尖兵となれ !

キャラクター10話【14-10 アジト6】
パスカル【贄の紋章】の基礎データを元にしたアニマの放出計算表が出てきたよ~ !
ハロルド早かったじゃない !
リフィルまだ概算だもの。それでも大筋のところは十分でしょう ?
ハロルドもちろん。どれどれ~ ?
ジェイド……なるほど。こう来ましたか。まあ、想定内ではありますが。
ハロルドそうね。予想通りではあるけれど、処理するのは大変よ。
ハロルド前世って概念をどう処理しているのかはもう少し検証が必要だけど、分史世界の方は確定ね。もう計画は進み始めてるんだわ。
ジェイドそのようですね。手段を講じる必要がありそうです。ルドガーたちの世界と法則が同じならば分史世界に行けるのはルドガーとユリウス、それに――
ハロルド……まあ、メンバーに関してはイクスたちとも相談した方がいいわね。行けるなら私も行きたいぐらい。
ジェイド確かに興味深いですね。並行世界というのは。
ジェイドもっとも、今回はティル・ナ・ノーグの前世として仮定されたニーベルングの分史世界……というややこしい代物です。
ジェイド厳密な分史世界という概念とはいささか趣が異なるのでしょうが。
パスカルあー、疲れたよ~。ちょっと休憩してもいいよね。
リフィルふふ、そうね、パスカル。あとはお風呂に入ってゆっくりするといいわ。
パスカルええ~、お風呂は別にいいかな。それより、このままフカフカ布団にダイブして……。
リフィルそう言うと思って既にシェリアには声をかけておきました。
パスカルええ~。お風呂なんていいよ~。
リフィルいけません。ちゃんとお風呂に入ってから休むこと。いいわね ?
パスカルわかったよぉ~。逃げると怖いからなぁ、シェリア。
リフィルさて、私はこの結果をキール研究室のみんなにも共有してくるわ。
ハロルドじゃあ、私はクラースたちに話してくるわね。クロノスのこともあるし。
ジェイドつまり、私がイクスたちへの連絡役、ですか……。
リフィルあら、適任ね。しっかり説明してくるといいわ。
パスカル頑張れ~ジェイド~ ♪
ジェイドやれやれ……。
コーキスマスターたち……大変そうだったな……。
バルド戻って、力を貸してあげたらどうだい ?
コーキスこっちだって人手が足りないだろ !それに……まだ……俺は……。
バルドコーキス。自分がよくない存在で、イクスさんたちに迷惑を掛けるのではないかと不安に思っていることは想像できるよ。
バルドけれど、自分が『どんな存在なのか』を決めるのは他でもない自分自身なんだ。きみの心一つで決まる。本当はね、とてもシンプルなことなんだよ。
コーキス……うん。だけど、中途半端にはしたくない。マスターのところを飛び出してボスたちと一緒に行動して……。
コーキスここまでしたんだから、なんかわかんねーけどこれっていう答えを見つけないといけないと思うんだよ。
リグレット――待たせたな。
リグレットヴァン総長宛てに魔鏡通信文を出しておいた。定時確認で見てもらえればアリエッタを派遣してくれるだろう。
リグレット私は念のため、フリーセルを追跡してみる。雪原なのが幸いだな。消そうとしても痕跡が残る。この後、雪が強くならなければ、だが。
バルドお願いします。私とコーキスはもう少しこの大陸の調査を行ってから仮想鏡界に戻るつもりです。
二人! ?
リグレット…… ? どうした ? 二人とも、妙な顔をして……。
バルドいえ、何か、悪寒のようなものが……。
コーキスああ。空気がビリビリして……――いてぇっ ! ?
リグレットコーキス ! ? バルド ! ?どうした ! ? しっかりしろ !
リグレット……まずい……二人とも意識を…………大丈……――
バロール目を覚ませ、鏡精に尖兵。
コーキス……ここ……は……。
バロール気付いたか。
コーキスボス ! ?
バルド――いえ、これはウォ……ナーザ様ではありません。
バロールナーザ様、か。自分が甦ったことを否定したいが為にナーザの名前を使うとは。確かナーザは、海神であり死者の世界の神として祭り上げられているのだったか。
バロールあのアイフリードが神とは……。笑えるな。
コーキスそれにしても何なんだよ。またなんか面倒なことやらせようとしてるのか ?
バロール死の砂嵐の異物を取り除く。
バルドどういうことですか。死の砂嵐に触れるためのゲフィオンの心の穴は、カーリャ――ネヴァンが守ったはずです。
コーキスそうだよ。パイセンのパイセンがなんかしたから死の砂嵐にアクセスできなくなったんだろ。
バロール……コーキス。お前は俺の子孫の鏡精にしては頭が悪すぎるな。
コーキス何だと ! ? た、確かに頭は良くないけどその分マスターはめちゃくちゃ頭いいからな !記憶力とかすげーいいし !
バロール記憶力……。そうか、鏡士の資質には長けているということか。
バロール……まあいい。ダーナの子孫がやってくれた。
バロール人間の感情の澱を虚無へ流すために、融合の力でカーリャとやらが作った防御壁を崩したのだ。これで俺も再び死の砂嵐に手を伸ばすことができる。
バルド我々に何をさせようというのですか。
バロールすぐにわかる。
二人…………………………。
コーキス(マスター……。頭が……ぼーっとして…………)
バルド………………ビフレストの民を……救う……。
コーキス………………マス……ター…………助け……て……。
to be continued
キャラクター1話【15-1 雪原1】
二人! ?
リグレット…… ? どうした ? 二人とも、妙な顔をして……。
バルドいえ、何か、悪寒のようなものが……。
コーキスああ。空気がビリビリして……――いてぇっ ! ?
リグレットコーキス ! ? バルド ! ?どうした ! ? しっかりしろ !
リグレットまずいな。二人とも意識を失ってしまったようだ。
リグレット大丈夫か ! ?
二人…………。
リグレットこのままでは……。
リグレット………………。
リグレット――やむを得ん。
リグレットイクス、緊急連絡だ。
イクスリグレットさん、どうしました ?
リグレットバルドとコーキスが突然倒れてしまってな。意識が戻る気配がない。救世軍にも伝え――
リグレットうっ ! !
イクスリグレットさん…… ? リグレットさん !
カーリャどうしました ? 今のリグレットさまの通信ですよね ?
イクスコーキスとバルドさんが倒れたって……。でも途中からリグレットさんの姿も消えちゃってそれっきり返事もないんだ。
カーリャええっ ! ? ど、どういうことですか ! ?三人は一体どうなって……。
ミリーナ――静かに。まだ通信が繋がっているみたいよ。ほら、声が聞こえる。
コーキスバルド、お前はフリーセルを追え。
イクスその声、コーキスか !どうした、何があったんだ。
コーキスまだ通信が繋がっていたのか。
コーキス――イクスか。お前の鏡精は借り受けた。
イクスコーキス……じゃないな ?お前は誰だ ! ? コーキスをどうするつもりなんだ !
コーキス ?――早くこのリグレットとかいう女を回収しに来い。凍え死んでも知らんぞ。
ミリーナ待って、コーキス !
カーリャイクスさま、もう一度コーキスに繋いでください !
イクスわかってる !
イクス――……駄目だ、出ない。
カーリャそんなあ……。
ミリーナあのコーキスは「お前の鏡精は借り受けた」って言っていたわね。
イクスたぶん何かに意識を乗っ取られてるんだ。もしかしたら、一緒にいたバルドさんも同じような状態なのかもしれない。
カーリャコーキス……。バルドさま……。
ミリーナ操っているとしたら、やっぱりバロールかしら。以前も意識を奪われたことがあったわよね。
イクス……俺の事を知っているようだったし、そうかもな。
イクスけど、それより今は、リグレットさんの救出だ。
イクス救世軍はベルベットさんたちを回収しなきゃいけない。連絡だけ入れておいて、こっちは俺たちで進めよう。
ミリーナそうね。新大陸にはネヴァンもいるわ。先行して向かってもらいましょう。
カーリャイクスさま……、コーキスは無事ですよね ?
イクス大丈夫。コーキスと俺は繋がってるんだ。何かあったらちゃんとわかるよ。
コーキスお前の鏡精は借り受けた。
イクス(……そうさ、わかるはずだ。コーキスは、俺の鏡精なんだから……)

キャラクター2話【15-4 ミッドガンド領 聖主の御座1】
ムルジムなんてこと……。聖主の御座が崩れて行くわ。
シグレってことは、負けたのか。アルトリウス。
シグレ…………あいつ、どんな顔で戦ったんだろうな。
ムルジムシグレ……、やっぱり自分の手でアルトリウスを倒したかったんじゃないの ?
シグレ今となっちゃどうでもいいさ。――さてと、約束を果たしてもらいに行くか。
ムルジム約束 ?
シグレロクロウたちはあいつを倒した。となりゃ、今度は俺の番だろう。
ムルジムあれ、本気だったのね。
シグレ当たり前だ。楽しみにしてたんだからな。体が疼いて仕方ねえ。
ムルジムもう少しだけ待ってあげたら ?あの子たちだってきっと心を落ち着けたいんじゃないかしら。
シグレおいおい、水を差してくれるなよ。可愛い弟が遊んで欲しくて待ってるんだぜ ?
ムルジム遊んで欲しいのはあなたの方じゃないの。本当、寂しがりやなんだから。
ムルジムあら、通信が来てるわ。
シグレわかってる、リグレットだ。さっきから連絡よこせって通信文が来てるんだよ。面倒だから放ってある。
ムルジム駄目じゃない、返事くらいしてあげなさい。新大陸で何かあったのかもしれないわ。
シグレそういやコーキス連れて調査に行ってたっけな。よし、面白い奴がいたか聞いてみるか。
ムルジム『面白い奴』じゃなくて『強い奴』でしょ ?
シグレ応よ。でなきゃ面白くねぇ。
シグレどうした。何か面白いもんでも見つけたか ?
リグレット―――――……。
ムルジム変ね。誰も映ってないわ。……遠くに見えるのはコーキス ?
シグレシッ、黙ってろ。
リグレット……う……。
コーキス…………。
二人! ?
ムルジムあっ、通信が……。
シグレ切られちまったか。なあ、今の気づいたか ?
ムルジムええ。魔鏡越しでも感じたわ。さっきのコーキスは異様な気配を発してた。
シグレ俺も久々に鳥肌が立ったぜ。
ムルジム何が起きてるのかしら。少なくともリグレットは生きているみたいだけど。……ちょっとシグレ、何で笑ってるの ?
シグレこれが笑わずにいられるかよ。
ムルジムもしかして、さっきの鳥肌ってそういう意味の方 ?
シグレああ。予定変更だ。新大陸へ行くぞ。
ムルジムリグレットを助けに――ってだけじゃなさそうね。まさか……。
シグレおう。面白くなってきたじゃねえか。
シグレ俺は決めたぜ。ロクロウの前にコーキスから先に『片付け』る。

キャラクター3話【15-7 ミッドガンド領 聖主の御座2】
帝国兵テレサ様、全兵、聖主の御座より撤退完了です !
テレサご苦労でした。念のため崩壊に巻き込まれた者がいないか再度確認を。
帝国兵承知しました !
テレサ(亡骸の回収さえ間に合わなかった……)
テレサ申し訳ありません、アルトリウス様……。
グラスティンおいおい、相手が違うだろう。謝罪なら皇帝陛下へ捧げるべきだぞ。
テレサグラスティン !
グラスティンああ、聖主の御座もボロボロだ。哀れな末路だなぁ、アルトリウス。
グラスティン結局、裏切者が手に入れたのは己の死だけだ。欲を張るとろくなことがない。そう思うだろう、テレサ。
テレサ…………。
グラスティンまぁ、あいつが死んでくれたおかげで計画をかき回す奴が減った。これで良しとしよう。
テレサ……では、オスカーの贄の紋章を消してくださいますか ?
グラスティンそれは無理な話だなぁ。皇帝陛下はアルトリウスを連れて来いと言ったんだぞ。死んじまったんじゃ、取引はパァってことだ。
テレサそれは…… !
グラスティンだが、もう一度チャンスをやる。贄の紋章を消す代わりにフリーセルという男を捕まえて来い。
グラスティン成功すれば、今度こそ弟の紋章を消してやる。
テレサ……フリーセルですね。わかりました。ただ、新たな使命を受ける代わりにこちらの質問にも答えて頂きたいのです。
グラスティン気が向いたらな。言ってみろ。
テレサあの紋章は本当に消えるのですか ?
グラスティン当然だ。
テレサそれはどのような方法で ?後遺症はないのですか ?
グラスティン……それを聞いてどうする。贄の紋章を消す手段だけを聞き出してオスカーの贄の紋章を除去して逃げるつもりか ?
テレサ……そんなつもりはありません。
テレサただ、本当にあなたに除去できるのか確認しておきたかったのです。
グラスティン傷つくなぁ。ここに来て人をウソつき呼ばわりとは。
テレサ私はただ、確証が欲しいだけです。
グラスティンはっ、本当に無駄なことばかり考える。聞いたところで、知識も技術も持っていないお前がどうやってそれが真実だと確認するつもりなんだ ?
グラスティン何をしようと、アルトリウスが死んだ今お前は俺の命令に従わざるを得ないんだよ。
テレサ…………。
グラスティンお前が捜すのは『ジェイソン・フリーセル』って男だ。人相と風体はこの資料にまとめてある。
テレサ……具現化された魔鏡技師 ?何故この男を捕らえる必要があるのですか ?
グラスティンビフレストの亡者だからさぁ。
グラスティンいいか、今度は必ず生かして連れて来いよ ?撤退は部下に任せて、今すぐフリーセルを追うんだ。いいな ? 弟思いの、無能なお姉ちゃん。
テレサ(今はまだ我慢しなければ……。贄の紋章の除去方法さえわかればあの男に従う理由などないのだから)
テレサ(そういえば……、何故グラスティンは「アルトリウスが死んだ今」などと言ったのだろう)
テレサ(私がアルトリウス様にお仕えしているから ?)
テレサ(けれど、アルトリウス様の生死に関わらずオスカーに贄の紋章がある限り私を従わせることはできるはずなのに)
テレサ…………もしかして…… !
テレサ(アルトリウス様が生きていたら贄の紋章を無効化できる可能性があったということ ?)
テレサ(……アルトリウス様が残された物を調べてみよう。生前に預かった命令も遂行せねばならないのだから)
帝国兵テレサ様、聖主の御座周辺の確認が完了しました。
テレサご苦労でした。あなた方はこのまま引き上げなさい。
帝国兵あっ、テレサ様、どちらへ !
テレサ先ほど別命を受けました。これ以上の詮索は無用です。
テレサ(まずは、転送魔法陣で領主の館へ戻らなければ――)

キャラクター4話【15-7 ミッドガンド領 聖主の御座2】
テレサ(ミッドガンド領の館はほぼ調べた。他に目ぼしいところといえばこの地下くらいだけれど……)
テレサ(ここで何も見つからなければ次はグリンウッドの方へ出向いてみようかしら)
テレサ(……アルトリウス様は、ご自分が命を落とした後も事が進むように計画なさっていた)
テレサ(必ず何か手掛かりを残しているはず)
テレサっ ! ! ここは !
テレサ(この部屋……全体がエネルギー貯蔵庫のようになっている)
テレサ(もしや、新大陸の具現化で得たエネルギーの一部をここに運んで保管していた ?)
テレサ(それにこの魔鏡陣……一体何の為かしら。もしかして、これがアルトリウス様の二の矢……)
テレサ(あの時おっしゃっていた「邪魔が入った場合」を想定しカノヌシの具現化がならなかった際の次の策――)
テレサ(それが、このエネルギーを利用して第二のカノヌシを生む計画だった…… ?)
グラスティンほう、やっぱりアルトリウスはまだ隠し事をしていたか。
テレサ! ?
テレサ……なっ、何故あなたが ! ?
グラスティンさあ、どうしてだろうなあ ?
グラスティンそれにしても、どうしてこんなところにいるのかな ?俺は『フリーセル』捕縛を命じたはずなんだがなあ ?まさか、ここにフリーセルが現れるのか ?
テレサこちらにも準備というものがあります。フリーセルに関する情報も精査しなければいけません。
テレサいったん領主の館に戻るだけで何故このように非難されるのですか。
グラスティン非難 ? 俺はただ確認しただけだ。お前こそ、過剰に反応すると裏があると思われるぞ ?
テレサ(グラスティンは私をつけてきたのかしら。それとも……この場所に何か……)
テレサ(まさかオスカーを捕まえるつもりでは…… !)
グラスティンそれにしてもこの貯蔵されたエネルギーと魔鏡陣……なるほどねぇ。
グラスティンお前たちも可哀そうに。アルトリウスに忠誠を尽くしたところで結局はただの駒だったんだなぁ。
テレサなっ、何を……。どういう意味ですか !
グラスティンやっぱり何も知らされていないんだなあ。
グラスティンアルトリウスはな、お前の大事な弟の心核を『鏡の精霊の心核のレプリカ』と繋いでいるのさぁ。魔導器で結合させてな。
テレサ………………え ?
グラスティン俺の作った鏡の精霊のレプリカ心核が盗まれた。その中の一つがここにあることはすでに確認している。
グラスティンアルトリウスはオスカーを疑似的な鏡の精霊にしてそれと神依することで、カノヌシ――いや、オリジンを使役しようと考えていたんだろうな。
テレサう……嘘を吹き込もうとしても無駄です !私は知っていますから !
テレサ鏡の精霊になるには、アイフリードの血を引いた者でなければならないはず。
テレサアルトリウス様を貶め、私を騙そうとしてもそうはいきません !
グラスティンそれは鏡の精霊へと至る『心核』を作る工程の話だ。出来上がった以上、アイフリードの血など関係ない。
グラスティンお前の弟は、アルトリウスにとって都合のいい生贄だったってわけさ。
テレサ嘘…………。
グラスティンそれでだ。そんな妙な物をくっつけられて弟の容体はちゃんと安定しているのかねぇ。
テレサ! !
グラスティンいつどうなるか、俺は心配でならないよ。
テレサそんな……、オスカー、オスカー ! !
グラスティンヒヒヒ、慌てて転ぶなよ、お姉ちゃん。
グラスティン(さて、アルトリウスの奴がこの場所に異世界のアニマをため込んでいたのは単にカノヌシの代わりを作るってだけじゃないはずだ)
グラスティンテレサのいない間に調べさせてもらうか……。クックックッ。

キャラクター5話【15-8 ケリュケイオン】
フィリップ……そうか。ではひとまずカノヌシとアルトリウスの融合は避けられたんだね。
ベルベット……ええ。
マークあとはヨウ・ビクエがオリジンの存在を安定させてくれれば、カノヌシがオリジンから分離することもなくなるって訳か。
フィリップ報告ありがとう。ベルベット、ライフィセット、スレイ。
ベルベットあたしとフィーとスレイをブリッジに呼び寄せたのはこの報告を聞くためだけって訳じゃないんでしょう ?用があるならさっさと言いなさい。
フィリップそうだね。実はさっきイクスたちと連絡を取ったときにこのケリュケイオンに精霊のオリジンとクロノスがいた――いや、いるという可能性に気付いたんだ。
スレイどういうこと ?
フィリップクラトスさんとエルレインが倒れたことは覚えているよね。クラトスさんはオリジンにエルレインはクロノスに縁があるんだそうだ。
フィリップ二人が倒れたのは、精霊同士の接触に二人の体が衝撃を受けたからだと思う。
フィリップ二人はまだ目覚めないんだ。少し荒療治が必要なのかも知れない。
スレイあ……そうか。カノヌシがオリジンの一部として具現化されたなら、ライフィセットも……。
ライフィセット僕の存在がクラトスやエルレインに影響を与えられるかも知れないってことだね。
フィリップああ。ライフィセットを呼び出すならベルベットにも立ち会ってもらった方がいいかなと思ってね。
スレイえ ? それなら、オレは ?
フィリップファントムから報告を聞いたんだ。オリジンがきみに接触してきたとね。
スレイあれ、そういえばファントムは ?ケリュケイオンに戻ってから姿が見えないけど……。
フィリップ部屋で休ませているよ。相当無理をしたみたいだし。
スレイそうか……。それならよかった。
フィリップそれじゃあ、三人とも僕と一緒に医務室まで来てもらえるかな。
ライフィセットそれで――どうしたらいいの ?
フィリップ二人の体に触れてみてもらえるかな。ライフィセットはクラトスさんに。スレイはエルレインに。
ベルベット危険はないんでしょうね。
フィリップ逆なら反動があるかも知れないけれどクラトスさんが内包しているのはオリジンだそうでライフィセットとは親和性があるからね。
フィリップそれに、スレイはティル・ナ・ノーグのオリジンと接触した存在であってオリジンを内包しているわけじゃない。
フィリップだから、仮にクロノスとの接触による衝撃があったとしてもごく微量だと考えられる。神依よりははるかに負担が少ない筈だよ。
スレイわかった。
スレイそれじゃあ、ライフィセット。二人で同時にクラトスさんとエルレインさんに触れてみよう。
ベルベット気を付けなさいよ、フィー。
ライフィセットうん、大丈夫。
スレイよし、行くよ。
二人………………。
ベルベット……様子がおかしいわね。
クラトス ?ベルベット、そして――ライフィセット。カノヌシの件では世話になった。感謝する。
スレイクラトスさん……じゃない ?
ライフィセットもしかして精霊オリジン ?
オリジンそうだ。今はこの者の体を借りている。この者のアニマには異世界の我が溶け込んでいるのでな。
スレイそれじゃあエルレインさんも目覚めたわけじゃなくて――
オリジンこれはクロノスだ。どうやらそのエルレインという者は本来人間が体験することができないほどの長い時間をクロノスと共に過ごしたようだな。
クロノス――元々この者は、時間という概念と親和性がある。故に、分霊となった我をアニマの中に取り込むことができたのだろう。
オリジンさて、導師スレイ。お前には感謝とともに、謝罪もしなければならないな。
スレイ謝罪 ? どうして ?
オリジン我はお前の力量を見誤っていた。いや……お前の心の在り方を見くびっていたのだろう。
オリジン我はお前が本当にヘルダルフを浄化できるかどうか危ぶんでいた。だがお前はあの者の穢れを浄化した。
スレイ浄化……。いや、オレは――
オリジン導師。我は信じる。この世界に具現化されたお前はこの世界に具現化されたヘルダルフを『救った』のだと。
スレイ! !
オリジンそして、ライフィセット。我はまたお前も信じる。お前はカノヌシのように我と融合する形ではなくライフィセットとして具現化された。
オリジン異世界でのお前の在り方が影響したのかエンコードの影響なのかはわからぬがお前は我に限りなく近しい存在だ。
オリジンそのお前たちが鏡士の末裔たちに力を貸しているのなら我もまた鏡士の末裔たちを信じようと思う。
スレイそれはイクスたちに力を貸してくれるってこと ?
オリジン無論、力を貸すことはやぶさかではないが……。
クロノスオリジンは悩んでいたのだ。封印が解かれ久方ぶりに目にしたティル・ナ・ノーグは見るも無惨な姿になっていた。
クロノスしかも我らの主であるナーザとは連絡が取れない状況だ。ナーザとの連絡はマクスウェルの役目であったからな。
オリジン今の我は……いや、我だけではなく全ての精霊は非力な存在だ。
オリジン帝国はまがい物のナーザ様を鏡の精霊に仕立て上げた。あの存在がある限り我らはいつ自由を奪われるかわからない。
オリジン我らはナーザ様には逆らえないように造られている。
クロノス故に、頼みがある。鏡の精霊を無力化して欲しい。我ら精霊はティル・ナ・ノーグを維持するための安全弁なのだ。
クロノス鏡の精霊の心核を破壊してくれ。それで我らは自由に動けるようになる。
フィリップわかりました。やってみます。
オリジンこのままでは、我の力はまた帝国に利用されるだろう。
オリジン目覚めてしまった以上、存在を消すことは叶わぬがそれでも彼奴らによる悪用を防ぐために我は暫しヨウ・ビクエの元に身を寄せる。
オリジン我の力が必要になったときは異世界の我と縁を持つ者らを通じて語りかけよ。
クロノス我は引き続きエルレインの中にある。そうせざるを得ない状態だ。
クロノス魔導砲によって解き放たれた際に身を分かたれてしまったからな。
クロノスできれば我の分霊も集めて欲しい。いくつかはすでに帝国に囚われているようだ。
オリジン帝国はクロノスの分霊を使って分史世界を造ろうとしている。
オリジン全ては滅びたニーベルングを甦らせるためだ。計画はすでに進行している。もはや止めることは叶わない。
クロノスこの世界にもクルスニクの一族が具現化されているだろう。彼らなら帝国の造る分史世界を破壊できる。
オリジン頼んだぞ、新たな揺り籠の住人たちよ……。
クラトス…………ここ……は…… ?
エルレイン…………この……感覚は……。
フィリップ今度こそ、クラトスさんとエルレインですね ! ?
クラトス『今度こそ』とはどういうことだ ?
エルレイン何者かが私たちの中にいた……ということでしょう。
フィリップ詳しいことは後でお話しします。それより――
ベルベット分史世界のことね。
ライフィセットルドガーたちに伝えないと。
スレイ魔鏡通信で連絡しよう。
フィリップお願いします。僕はケリュケイオンを浮遊島に向かわせます !

キャラクター6話【15-9 アジト1】
ミリーナイクス ! ネヴァンに連絡が取れたわ。リグレットさんからの通信が途切れた場所を知らせたら、かなり近くにいるみたい。
カーリャすぐに向かってくれるそうですよ !
イクスそうか。俺たちは一番近いゲートを使っても数時間はかかってしまうだろうから助かるな。
イクス……あれ ? ジェイドさん ?
ジェイドやあ、イクス。ミリーナ。それに可愛いカーリャじゃありませんか。上手く先回りできたようですね。
カーリャで、出たー ! 悪メガネ ! やるんですかー ! ?
ミリーナカーリャ。まだ何もされていないでしょう。落ち着いて。
カーリャ油断しちゃいけませんよ、ミリーナさま。抉るように打つべしッ ! ですッ !
ジェイドああ、カーリャ。あなたを可愛がりたいのは山々なのですが今は他に優先しなければいけないことがありまして。
イクスどうしたんですか ?もしかしてリグレットさんの救出に関することですか ?
ジェイドいえ、別件です。ですが、非常に重要なことですのでここで皆さんをお待ちしていました。
イクス移動しながらで構いませんか ?リグレットさんを助けに行かないと。それにコーキスだって――
ジェイドその件でしたら、すでに別働隊を向かわせています。
三人! ?
ミリーナ相変わらず手回しがいいですね、ジェイドさん。
ジェイドここで抜かってはハロルドやリフィルから叱られてしまいますからね。
ジェイドイクス、あなたにしてみれば、大事な鏡精の危機です。すぐにも駆けつけたいでしょう。ですが、鏡精はあなたの一存で心に戻すことができる。
イクスそれは……そうかも知れませんけどバロールが関与しているなら――
ジェイドそれでも、あなたが生きていればコーキスは死なない。今は別働隊に任せてこちらの話を聞いて頂けませんか ?
ジェイドようやく贄の紋章の構造が見えてきたんです。
イクス……ということは、キール研究室からの報告ですか ?
ジェイドええ。手短に言います。
ジェイド帝国側が動き出したようです。帝都付近にクロノスの力を帯びたアニマがあふれ出しています。
ジェイド恐らく帝国は何らかの手段をもって分史世界を生み出そうとしているのでしょう。
イクス分史世界……。ルドガーさんたちの世界にあったという並行世界のことですね。
ミリーナ確か帝国はニーベルングの分史世界を創ってニーベルングを甦らせようとしているのよね。
イクスああ。
イクスルカたちの世界の前世の概念と分史世界という概念を掛け合わせようとしているんじゃないかっていう見立てでしたよね、ジェイドさん。
ジェイドその通りです。そしてルグの槍は分史世界に創りだしたニーベルングの大地をティル・ナ・ノーグに転送するための装置だ。
ジェイドつまり、ルグの槍の起動も近い。
ジェイドルグの槍が起動するということは贄の紋章を刻まれた人々が世界を繋ぐエネルギーの柱として消費されるということです。
イクスこのままじゃ、贄の紋章を刻まれたみんなが危険だってことですね。くそっ、まだ写本も探せてないのに……。
ジェイド仕方がありません。どのみちルグの槍の起動は帝国に主導権があるのです。我々にはそれを止める手立てはない。
ジェイドですが、紋章を無効化する方法を見つけました。
三人! !
カーリャす、すごいじゃないですか !だったら、ルグの槍の起動なんて怖くありませんね !
ジェイドことはそう簡単ではないのですよ。手段は見つけましたがまだ実用化には至っていません。
カーリャそんな~ ! ? ぬか喜びさせないで下さい~ !
ミリーナでもジェイドさんは、何の方策もないのに私たちを引き止めたりはしませんよね。
ジェイドおや、随分信頼されていますねえ。
カーリャジェイドさまはともかくキールさまたちは信頼できますからねっ !
ジェイドおや、妬けますねえ。まあ、それはともかく――
ジェイド今キール研究室で、贄の紋章を無効化するための準備を始めています。少しでも時間を確保したい。そこで、帝都に奇襲を掛けてはどうかと思いまして。
イクス奇襲、ですか ? でもどうやって……。帝都を攻めるとなるとそれなりの兵力が必要ですよね。
イクス救世軍の手を借りるにしても兵力を移動させるための時間がかかります。そう簡単にはいかないと思うんですけど……。
ジェイド救世軍の手は借りません。
ミリーナそれじゃあ、アジトの戦力だけで奇襲ですか ?でも帝都に一番近いゲートを使っても――
ジェイドいえ、この浮遊島をぶつけます。
イクスなるほど……――
イクス――え ?
ジェイドこの浮遊島アジトを帝都のイ・ラプセル島にぶつけるんですよ。
ジェイドどちらもオーデンセを元に具現化された島ですから大きさも質量もいい勝負でしょう。
三人ええっ ! ?

キャラクター7話【15-10 雪原4】
カーリャ・N――そうですか。では、イクス様たちは浮遊島に残りティア様たちが向かって下さっているのですね。
ティアええ。急なことでごめんなさい。
ガイ俺たちも突然ジェイドに声を掛けられてな。ビフレストのアジトへ行ってジュニアに会わなけりゃならないんだよ。
カイウスネヴァンは今どの辺りにいるんだ ?
カーリャ・Nそろそろ、リグレット様からの通信が途絶えた地点に着きます。
ルキウス……ボクたちが追いつくにはまだ少し掛かるね。
ティアネヴァン、教官をお願い。それにコーキスのことも……。
カーリャ・Nはい、心得ています。万事お任せ下さい。
テネブラエコーキスさんやリグレットさんのこともですが……この辺りの空気も気になりますね。どうも周辺に生息している筈の魔物が少なすぎる。
テネブラエ強大な力を持った何かがいて、避難しているのでは。
カイウスその何かがリグレットさんを襲ったってことか ?
テネブラエ恐らく……。
ガイだとしたら気を引き締めていかないとな。
ガイところでルキウス。体調はどうだ ?
ルキウス大丈夫。ボクのことは心配しないで。今は一刻も早くネヴァンと合流することを優先しよう。
カイウスルキウス……。
ルキウス本当に無理をしている訳じゃないよ、兄さん。
カイウスうーん……。でも、まだ万全な状態って訳じゃないからなあ……。
ガイ俺たちも気を配るが、くれぐれも無理はするなよ。メルクリアに会いたいんだろ ?
ルキウス……そうだね。ありがとう。
ジェイド――私からの説明は以上です。
イクス………………。
ミリーナ………………。
カーリャ………………。
ジェイドどうしたんですか、三人とも。おかしな顔をして。
イクスい、いえ……。まだ信じられなくて。
カーリャそ、そうですよ ! この浮遊島を動かすなんて !
ジェイド発案者はハロルドとパスカルです。文句は彼女たちにお願いします♪
ミリーナけど、確かに帝国は驚くでしょうね。ケリュケイオン以外に空を飛べる乗り物はありません。
ミリーナ上空の守りが甘いことは以前、芙蓉離宮を攻めたときにわかっています。
ジェイドええ、その通りです。原動機はパスカルが開発しすでに島の各所に取り付けを完了しています。
ジェイドただし燃料となるキラル分子は、鏡士であるイクスとミリーナに作りだしてもらわなければなりません。ですから、島を操縦できるのは鏡士だけです。
イクスだから俺たちはアジトに残っていなければいけなかったんですね。
ジェイドええ。あなた方の許可さえ得られればすぐにでも作戦を決行したい。
イクスわかりました。俺とミリーナはパスカルの作ってくれた原動機を動かす準備をします。ジェイドさんは浮遊島のみんなに――
ジェイド――今作戦について周知せよ、ですね。その辺りは抜かりありません。ハロルドとリフィルがすでに動いています。
ミリーナさすが、準備は万端ですね。
ジェイドただ、私たちができるのは、この島を動かし帝国の中枢を一時的に混乱に陥れることだけです。
ジェイドその先――つまり、贄の紋章の無効化にはイクスとミリーナの魔鏡術が不可欠になります。
イクスそれが、今キールたちが最終調整してくれているという『逆しまの魔導砲』ですね。
ジェイドはい。魔鏡術で擬似的な魔導砲を放ち贄の紋章と正反対の紋章を打ち込み、力を相殺する。これで、いったんは贄の紋章を無効化できる筈です。
ミリーナでも完成させるためにはジュニアのもつ情報が不可欠……。
ジェイド情報がなくても、仕上げられないことはありませんが精度は落ちます。なるべく万全を期したい。
ジェイドそれに、この作戦が上手くいけばルドガーやユリウスに負担を掛けなくて済みます。
カーリャユリウスさま ?
ジェイド分史世界ですよ。帝国が分史世界を創り、ルグの槍でティル・ナ・ノーグと繋いでしまったら、彼らには分史世界に行ってもらわなければならないでしょう。

キャラクター8話【15-11 雪原5】
カーリャ・N(リグレット様はどこに……。イクス様から聞いている位置情報ではこの辺りの筈ですが……)
カーリャ・N(ティア様たちの到着にはまだ時間がかかるでしょう。早くリグレット様を見つけて安全を確保しなければ……)
カーリャ・Nっ ! !
コーキス ?ようやく来たか。
カーリャ・Nコーキス…… !
コーキス ?女はそこだ。まだ生きているぞ。
カーリャ・Nリグレット様っ ! ?
リグレット…………。
カーリャ・N意識がない。それになんて酷い傷。でも……。
カーリャ・N…………。
コーキス ?なんだ。俺を睨む暇があったら、その女を連れて帰れ。早くしないと間に合わんぞ。
カーリャ・Nなぜ、リグレット様にとどめを刺さなかったのです ?
コーキス ?………………。
カーリャ・N確かにひどい傷ですが、致命傷ではない。それに傷つけておきながら放置はせず、迎えを待った。凍死や魔物の襲撃から守る意図があったのでしょう。
カーリャ・Nどういう魂胆なのですか。――バロール。
バロールの尖兵……バロール、か。俺はバロール様ではない。バロール様の眷属――尖兵だ。
バロールの尖兵鏡精ではなくなったお前には俺の気配を正確には掴めぬのだろうな。
カーリャ・N何でも構いません。コーキスの体を奪い、リグレット様を傷つけ何をしようとしているのです。
カーリャ・Nそれに、バルドはどこにいるのですか ?
バロールの尖兵もう一人の尖兵のことか。バロール様の命令を遂行するために先行している。お前たちが知る必要はない。
カーリャ・N人の意志を……体を奪っておいて何という言い種ですか !
カーリャ・N二人を解放しなさい !彼らには彼らの意志がありそれぞれ仕えるべき主がいるのですよ !
バロールの尖兵お前のようにか ? ゲフィオンの元鏡精。
カーリャ・N! !
バロールの尖兵この女を迎えに来たのがお前でよかった。話しておきたいことがあったからな。
カーリャ・Nな、何です…… ?
バロールの尖兵何、バロール様に代わって忠告しておこうと思っただけだ。
バロールの尖兵お前もかつて鏡精であったなら我らを救うために尽力して下さったバロール様の意に背くような真似をするな。
カーリャ・Nどういう意味です。
バロールの尖兵お前がゲフィオンに施した術のせいでバロール様は死の砂嵐にアクセスできなかった。つい先ほどまでだがな。随分と面倒をかけてくれた。
カーリャ・Nついさっき『まで』…… ?
バロールの尖兵いいか、死の砂嵐に関する全てに対してもう余計な手出しはするなよ。後はバロール様が全て終わらせてくれる。
カーリャ・Nまさか、すでに死の砂嵐にアクセスを…… ?ゲフィオン様の心の防御壁を壊したのですか ! ?
バロールの尖兵ダーナの子孫が、異世界から持ち込まれた人の感情の澱を虚無へ流し込むためにお前の作った防御壁をこじ開けた。
バロールの尖兵それをバロール様は見逃さなかったのだ。
カーリャ・Nなんてことを !それではゲフィオン様の意識が……。
バロールの尖兵諦めろ。人の身でフィンブルヴェトルを引き受けたのだ。もはやどう足掻いても救うことはできない。
カーリャ・N認めませんっ !
バロールの尖兵ならば勝手にしろ。俺はもう行くぞ。ルグの槍をバロール様の手に戻さなければならない。
カーリャ・N待ちなさい、コーキス !――バロールの手の者っ !
バロールの尖兵俺に構うより、そのリグレットとかいう女を助けた方がいいのではないか ?
カーリャ・Nくっ…… !
バロールの尖兵バロール様に任せておけ。揺り籠の罪人がこの世界を壊そうとしてもバロール様が阻止して下さる。
カーリャ・N――くっ !
カーリャ・N……落ち着きなさい、カーリャ。今はリグレット様の治療が先。優先するべきことを間違えては駄目です。
カーリャ・Nメディカルシェル !
カーリャ・N(どうかご無事で、ゲフィオン様…… ! )

キャラクター9話【15-14 雪原8】
テネブラエあっ、あちらですよ !
カイウスおーい、ネヴァーーン !
カーリャ・N皆さん、お待ちしていました !
ガイよかった、無事に合流できたな。
ティア教官の容体は ! ?
カーリャ・N負傷していますが、命に別状はないようです。
ルキウスでもこれは……かなり深い傷だね。
カーリャ・Nええ。私も先ほどから回復術を試みていたのですがまだここまでしか治癒できていません。
ティアだったら、私も一緒に――
リグレットあ……ティ……ア…… ?
ティア教官 ! 気が付かれたのですね。
リグレット私は……、そうか……コーキスたちに……うっ……。
ティア動かないでください。まだ傷がふさがっていません。
リグレット傷……、あの状況で私は生きていたのか……。
カーリャ・N命を取るつもりはなかったのだと思います。コーキスは先ほどまでリグレット様の側にいましたから。
ガイ……バロールの尖兵、か。何にしても、意図的に急所を外したことは間違いないようだな。
テネブラエ無事にリグレットさんの意識も戻りましたしひとまず安心ということでよさそうですね。
ルキウス……バロールの尖兵、いやバロールの目的がはっきりしないところは不安要素だけれどね。
ガイ……そうだな。
ガイティア、リグレットを動かせるようになるまであとどのくらいかかりそうかな ?
ティアそんなに時間は取らせないわ。もう少し術をかければ、負担も少なくなる筈だから。
ガイわかった。ティアの処置が終わったらリグレットをビフレストのアジトへ連れていこう。
リグレット……待て。私はフリーセルという男を追わねばならない。それに、コーキスやバルドのことも……。
カイウス追うって、その体で ! ?
ティア失礼ながら、教官。それは誤った判断です。ご自分の状態をよく考えて下さい。いつもの教官なら、そんな無茶はしない筈です !
リグレット……お前に叱られるとは思わなかったな。
ティアす、すみません……。つい……。口が過ぎました。
リグレットいや、どうやら私は、自分で思っていたよりも動揺していたようだ。お陰で頭が冷えた。今の言葉は効いたぞ。
リグレット泣きそうな顔でなければ、なお良かったがな。
ティアあ……。
ガイそれじゃ、治療が終わったら出発だ。できれば背負ってやりたいが……その……。俺は……ちょっと……。
カイウスいいよ。もしリグレットさんが歩けないようならオレが運ぶって !
リグレット……ありがたい話だが、私のことであれば心配はない。フリーセルの追跡は諦めるにしても回復すれば一人で戻るつもりだ。
ルキウスこちらに気を遣っているのなら無用です。それとも、不用意に外部の者をアジトに近づけるのは心配ですか ?
リグレットフッ、聡いな。それもある。
ガイなるほどね。けど、こっちもビフレストのアジトに用があるんだ。
ガイウチの研究室の依頼でジュニアに会わなきゃならなくてな。ついでに道案内も頼めるとありがたい。
ルキウスそれに、これは個人的な理由ですがメルクリアが心配なんです。側にいるつもりだったのに、こんなことになって……。
リグレットそうか。お前がルキウスか。皇女がいつも気にかけていたな。
カイウスこいつ、目が覚めたばっかりでフラフラのくせにリグレットさんやビフレストの件を知ったら一緒に行くって聞かなくて。
カイウス……でも、気持ちはよくわかるからさオレも一緒に来たんだけど。
ルキウスごめん……。兄さんまで巻き込んで。
カイウスいいって。けど、絶対に無理はするなよ。ルビアたちを説得するの、大変だったんだからな。
ルキウスうん、感謝してるよ。
リグレットそうか。そういうことならば承知した。
テネブラエリグレットさんフリーセルの話は我々も聞いています。追跡は私が引き受けましょう。
テネブラエ私なら周囲の魔物たちから話を聞くこともできますし。
テネブラエこれならば、心置きなくアジトへ向かって頂けるのでは ?
リグレット異世界には不思議な生き物がいるものだな。だが助かる。すまないが頼まれてくれるか ?
テネブラエお任せを。
カイウスそれじゃ、テネブラエ以外はビフレストのアジトへ向かうってことでいいよな。
カーリャ・Nカイウス様、申し訳ありませんが私はご一緒できません。
カーリャ・Nゲフィオン様に危機が迫っているのです。私はこれからセールンドへ向かいます。
カイウスわかった。でも、必ず連絡だけは取れるようにしておいて欲しいんだ。オレたちじゃなくても、イクスたちには必ず。
ガイ気をつけろよ。今はあっちこっちで混乱してるからな。
カーリャ・Nはい、ありがとうございます。皆様もお気をつけて。
バロールの尖兵おい、その船を貸せ。
船主貸せだ ? 船なら金を払えば出してやるがね。
バロールの尖兵そうか。着いたら倍額払ってやる。目的地は墓守の街だ。
船主墓守 ? 知らないな。
バロールの尖兵ならばセールンド諸島付近でいい。俺の言う場所へ船を着けろ。
シグレおおっと、その船待った !――ムルジム、当たりだぜ。良くやった。
ムルジムありがとう。『あの気配』が濃い方を辿ってみたけどまさか本当に出会えるとは思わなかったわ。
ムルジム一応、あたしもこの世界の精霊だからこれで面目躍如ね。
シグレおい、そこの船長さんよ巻き込まれないように逃げときな。
シグレこれからそいつと、一戦交えるんでね。
船主ひぃーーーっ !
バロールの尖兵……逃げられたか。まあ、却って都合がいい。これで自由に船が使える。
バロールの尖兵おい、お前。俺は戦うつもりはない。『俺』との因縁があるなら、後で相手をしてやる。
シグレいや、今の『お前』じゃなきゃ駄目だ。その気配と……強い奴と戦いたくてここまで追って来たんだからな。
シグレそれで、何て呼べばいい ?お前は『コーキス』じゃねぇもんなぁ ?
バロールの尖兵なるほど、事情を知ってて挑むか。やめておけ、死ぬぞ。
シグレ上等。死ぬ気で斬り合わんでどうする。手心なんぞ加えたら面白くねぇだろうが。
シグレそれにコーキスは鏡精だ。死んでもまた具現化されるって聞いてるぜ。
シグレお前を倒せば、元に戻るかもしれねぇ。
バロールの尖兵貴様はそれでいいかもしれん。だが、こいつはどうだ。お前が負けた時己の手で知己を斬ったと知れば、どう思うだろうな。
シグレさあな。だいたい、これからやり合うのは『コーキス』じゃなくて『お前』だろ。あいつが気にすることじゃねぇよ。
バロールの尖兵話が通じない奴だ。正気の沙汰ではないな。
シグレ百も承知 ! 付き合ってもらうぜ !
バロールの尖兵っ ! !

キャラクター10話【15-15 港町】
バロール……尖兵とのリンクが切れたか。
死鏡精バロール様、バロール様。帝都にて、デミトリアスを捕まえました。
バロールそうか。しかし、ルグの代わりになる鏡精を失った。
バロールいや…… ? 来るか ? あの男なら。
死鏡精始めましょう。バロール様。ルグの槍を手に入れましょう。
バロール……よかろう。
バロールルグの槍を起動する !
コーキス(……な……んだ ? 体中がひどく痛い……)
ムルジムちょっと、大丈夫 ?
コーキスムルジム……さ……ま…… ?
シグレおっと……。どうやら本体には逃げられちまったみたいだな。
コーキス…………………………あ !
コーキスそうだ ! 俺、バロールにのっとられたんだ !
ムルジム思い出したみたいね。どう ? 動ける ?
コーキス大丈夫……っじゃない、かも。ひどいよ、シグレ様 !本気で俺のこと倒そうとしただろ !
ムルジムシグレが最後まで本気だったらそんな口もきけなかったと思うわよ。
コーキスう……そうか……。
シグレおい、コーキス。お前、バロールにのっとられていたときの記憶はあるのか ?
コーキス……うん。
コーキスどうしよう……。俺、リグレット様に酷いことしちゃった……。
シグレそんなことはどうでもいい。お前、ここからどこへ行こうとしてたんだ ?
コーキスそんなことって言い方はないだろ。
シグレリグレットなら大丈夫だ。さっき鏡士の仲間たちが回収していったからな。それより俺の質問に答えろ。
コーキスえっと……墓守の街だよ。そこにバロールがいるみたいなんだ。
シグレだったら話は早え。コーキス、俺をバロールのところへ連れていけ。
コーキスえ ! ? だけどバルドを助けないと……。バルドものっとられたみたいだから。
ムルジムさっき感じた、弱い方の気配かしら。
コーキス気配 ? のことはよくわかんねーけど……。
シグレバルドがお前みたいにバロールにのっとられたのならバロールのところに行って奴を倒せば全部解決するな。
コーキスは ?
コーキスいやいやいや、何言ってんだよ、シグレ様 !バロールは倒しちゃ駄目なんだよ。
コーキスなんか、えっと……この世界を守るためにはバロールを――
シグレあー、わかったわかった。死なないように殺せばいいんだろ。さあ、早く船に乗れ。墓守の街とやらまで案内しろ。
コーキス死なないように殺すってどういうことだよ ! ?
シグレ地鳴りか ?
三人! ?
コーキスうわ ! ? 地震 ! ?
ムルジムまずいわね。目の前が海よ。津波でも来たらひとたまりもないわ。
シグレいや、こいつは地震じゃなさそうだ。
コーキスえ ? どうしてそんな風に言い切れるんだ ?
シグレ見ろよ。あの真っ赤な火柱を。
コーキス! ?
メイドAきゃあああああああ ! ?
メイドBルーングロム様 ! ? ブルート様 ! ?ウィンガル様 ! ?
三人! ?
メイドA領主の皆様が……みんな……火の……柱に……。
マティウス! !
チトセマティウスさま ! ?どうして……どうしてマティウスさまが炎に包まれて――
チトセい、いやあぁぁぁぁぁぁ ! ?
ロミー(【贄の紋章】が反応した。予想より早いわね。でもこのタイミングを逃せば後がないわ。ルグの槍の力を使ってプリセプツを――)
ロミーくっ…… ! ?
テレサオスカー ! オスカー ! !
オスカー姉……――
テレサオスカーッッ ! ?
グラスティン(オスカーが火柱になった……だと ?早い。早すぎるぞ。まだルグの槍を起動させる時じゃない)
グラスティン(どうなってる、デミトリアス ! ?)
マークな……何だ…… ! ?帝都から火柱が噴き上がった ! ?
シンク十柱あるね。それに他の場所からもいくつか火柱が上がってる――
シンク! ?
シンク鏡士たちのアジトが……飛んでる ! ?な、何なんだよ、アレは ! ?
アリスねえ、なんで浮遊島が動いてるのよ ! ?非常識過ぎじゃない ! ?
フィリップマーク、今のアニマの暴発は一体――ってな、何…… ?一体何が起きてるんだ…… ?
セシリィ……ね、ねえ、マーク !もしかしてあの浮遊島帝都の火柱に向かって飛んでるんじゃ……。
マークマジかよ ! ?
マークおい、浮遊島 ! ! こちら救世軍 ! 応答しろ !一体何が起きてるんだ ! ?
ハロルドあちゃー……。ちょーっと遅かったみたいね。
ジェイドええ。ですが、まだ取り返せますよ。
リフィルジュニアと連絡さえ取れれば、だけれど……。
フリーセル――何なんだ、あの火柱は ! ?
バロールの尖兵バロール様がデミトリアスを取り込みルグの槍を起動させたのだ。もっともあの火柱を仕掛けたのは帝国の連中だがな。
フリーセルバルド様――ではないな。お前は一体……。
バロールの尖兵俺はバロール様の尖兵。バロール様の命令でお前が集めているものを受け取りに来た。
フリーセル何 ?
バロールの尖兵バロール様は命の選別はしない。ビフレストの生き残りだけを救おうなどという卑しい真似はやめろ。
イクスこっちの準備が終わる前にルグの槍が起動するなんて……。
カーリャどうするんですか ! ?まだカイウスさまたちからの連絡はありませんよ ! ?
イクス見切り発車になるけど、やるしかない。
イクス行くぞ、ミリーナ。
ミリーナええ !ジェイドさんたちの作戦通り【贄の紋章】を無効化して、ルグの槍を鎮めましょう !
to be continued
キャラクター1話【16-1 アジト1】
セルゲイ……く……。
シャーリィセルゲイさん、大丈夫ですか ?
ジュード目が覚めたばかりですぐ移動させるのは体に良くないんだけれど……。
アニー急に贄の紋章を刻まれた人たちを外に集めろだなんて一体何をするつもりなんですか ?
リフィル無茶をお願いしたことは謝るわ。ごめんなさい。けれど、帝国内が混乱している今がチャンスだと考えたの。
マオチャンスって、何のコト ?
キール贄の紋章を無効化するための千載一遇の好機ってことさ。
ワルターメルネスを助けることができるのか ! ?
リフィルそういうことね。
アトワイト詳細を教えてくれるかしら。
キールその前に、今の状況を振り返っておきたい。目下のところ、ぼくたちに課せられているのは『帝国からティル・ナ・ノーグを守ること』だ。
ユリウス帝国はティル・ナ・ノーグを滅ぼして滅びた世界ニーベルングを甦らせようとしている。
ユリウス贄の紋章はニーベルングとティル・ナ・ノーグを繋ぐ橋……魂の橋のようなものだ。
ユリウス起動したが最後、贄の紋章を刻まれた者のアニマを燃焼し、かつてニーベルングが存在していた空間とこの世界とを繋いでしまう。
ルドガー魂の橋……。
ユリウス……少なくとも、計測されているアニマの数値や位置情報から、帝国が分史世界を創るための準備に着手したことが見て取れた。
ユリウスアルトリウスの騒ぎが落ち着いたらすぐにでも奴らはニーベルングを甦らせるだろう。
リフィルこれを防ぐために贄の紋章を無効化します。本当は消し去ることができればいいのだけれどそれは難しいの。
リフィルキール研究室では、時間を稼ぐためにも無効化を優先するべきだと考えました。
キール無効化の手順は極めて簡単だ。
キールそもそも贄の紋章というのは、この世界の人間の中にあるアニマの指向性をキラル分子によって自在に変化させる仕組みを指す。心核の鏡像異性体を体内に作って――
ルカま、待ってよ、キール。何を言っているのかその……わからないというか……。
リフィルキール、あなたの話はとても重要なものだけれど今は誰にでも簡潔にわかることを優先しましょう。あなたならそれもできるわ。そうでしょう ?
キールも、もちろんだ。
キール――つまり、お前たちにもわかるように話すなら贄の紋章と逆の作用を持つ紋章を刻むことで贄の紋章の作用を打ち消すんだ。
カルセドニーそんなことができるのか。ならば、すぐにそれを行ってくれ !
キールそ、そうしたいのはやまやまなんだが打ち消すための逆しまの紋章がまだ未完成なんだ。
マウリッツしかし、我々をこの浮遊島の広場に集めたということはまったくなす術がない、ということでもないのだろう。違うかね ?
リフィルその通りです。逆しまの紋章は九割完成しています。残りの一割を埋めるために、今カイウスたちがビフレスト側にいるジュニアに接触しています。
フォレストカイウスが……。それで、カイウスたちからの連絡はまだなのか ?
リフィルええ。本来は彼らからの連絡を待って、逆しまの紋章を完成させてから、個別に紋章を刻めばいいのだけれどそれとは別に、今好機が訪れつつあるのよ。
レイス好機、か。それは今地上で帝国内部が混乱していることが関係しているのかな。
フォッグアレだ。帝国のアレがアレを裏切ってベルベットとスレイがアレしてるやつだな。
キールそうさ。今、帝国の戦力は各地に分散して帝都の守りは手薄になっている。
キール今なら帝都に集められた鏡映点も救い出せるしニーベルングを甦らせるための装置も止めることができる。
キールそれどころかデミトリアスを叩くことだって可能だ。
ピオニーつまり、ベルベットたちをおとりにして帝都を急襲人質の確保を行い、大将の首も取ろうって魂胆か。
ユリウスそう簡単にことが運ぶかはわからないがそれが最善なのは間違いない。加えて逆しまの紋章を完成させ、刻む必要もある。
リフィルですから、今回は戦力を四分割します。
リフィル一つ目はスレイとベルベットたちのチーム。彼らはアルトリウスを撃破後救世軍と合流する筈。
リフィルそこで救世軍と共に、今浮遊島を離れているモリスンイエガー、アレクセイの保護に向かってもらいます。
キール二つ目はカイウス、ルキウス、ガイ、ティアの四人のチーム。
キール目的はジュニアの体内に残されている、贄の紋章のデータを解析することだ。これが逆しまの紋章の完成に繋がる。
ジュード少し気になってたんだけど贄の紋章のデータっていうのはジュニアのものでないと駄目なの ?
リフィルハロルドの推測ではそのようね。ビフレスト側の話を聞く限り、ジュニアはグラスティンによってすでに贄の紋章を起動させられていたのだと思うわ。
リフィルここにいるメンバーの贄の紋章はマオのもの以外まだ起動していない。
マオボクはサレに一回利用されてるからネ……。
ユリウスこんな言葉は慰めにはならないかもしれないが一度使われているからこそ他のみんなを救う手助けとなるんだ。
ユリウスマオのデータとジュニアのデータを参照することで逆しまの紋章が完成する。
マオうん、ありがとう。みんなの役に立つのは大歓迎だヨ。
キール話を戻すぞ。三つ目のチームはお前たち――つまり浮遊島にいる贄の紋章を刻まれたメンバーだ。
キール逆しまの紋章はハロルドの開発した【逆しまの魔導砲】を使ってここにいる全員と帝都の鏡映点全員に刻み込む。
カルセドニー帝都の鏡映点……それはパライバさまたちのことだな ?
キールああ。各領地の領主と従騎士たちのことだ。それぞれ手分けして刻むのでは効率が悪いし時間もかかる。
キールだからぼくたちは、帝国の魔導砲の技術を転用して逆しまの紋章を広範囲に打ち込む方法を思いついた。
キールこの浮遊島の地下に逆しまの魔導砲を設置してある。この広場の下辺りだ。
リフィルみんなにはここで待機してもらいます。
リフィル逆しまの紋章が完成したらすぐに逆しまの魔導砲を起動してみんなの贄の紋章を無効化するわ。
リーガル先程も言っていたが、浮遊島にもおらず帝都にもいない鏡映点の贄の紋章はどうなるのだ ?
ユリウスそれは、個別に助けていくしかないな。
ルカ今の話の流れからすると四つ目のチームが帝都への潜入班ってこと ?
ユリウスその通りだ。今帝都には、領主や従騎士と彼らの心核が集まっている状態だ。可能な限り回収したい。
リッド帝都へは誰が行くんだ ?
リフィル今は浮遊島を離れているメンバーも多いから残っている人員を二分するしかないわね。
リフィルただ、ルカたちレグヌム領にゆかりのあるメンバーとユリウス、ルドガー、エルは浮遊島に残ってもらいます。
ルドガーニーベルングの具現化に利用されるかも知れないからだな。
アトワイト今がチャンスであるという話はわかったわ。まだ療養が必要な人たちがこの場所にいなければならないという理由も。
アトワイトけれど、今から帝都に向かうのならまだ焦る必要はなかったわよね。ゲートを使っても帝都まではかなり時間がかかる筈よ。
リフィル普通に考えればその通りなんだけれど……。
ユリウスキール研究室は異世界の異能の集まりだからな……。
キールパスカルとハロルドがこの浮遊島に推進装置をつけたんだ。つまり――
二人島が動く。
アトワイト! ?

キャラクター2話【16-2 アジト2】
イクスそれにしても、妙な気分です。
ジェイドおや、浮遊島を動かすことがですか ?それとも――まだ何もわかっていないから、ですか ?
イクスやっぱりジェイドさんは何でもお見通しなんですね。
イクス帝国の目的はわかっています。けれどその為に手間暇を掛けている動機――いえ、そもそもデミトリアス陛下の動機がわからない。
イクス何故ティル・ナ・ノーグを滅ぼしてしまうのか。ニーベルングを甦らせることに固執するのか。
イクスそれに、帝国以外の思惑はさらにわかりません。バロールやダーナがどうしたいと思っているのか。フリーセルは何の目的を持って動いているのか。
ミリーナフリーセルに関しては、想像がつくような気がするわ。
イクスミリーナ、それは…… ?
ミリーナ復讐よ。以前のメルクリアと同じ。セールンドへの復讐とビフレストの再興。
ミリーナフリーセルが具現化された存在だとしたらフリーセルの記憶は具現化された時代で止まっている。
ミリーナそこに今現在のティル・ナ・ノーグの情報を入れたらセールンド王国――ゲフィオンとその仲間がこの世界を玩具にしているようにしか見えないでしょうね。
ミリーナだからどう動くのか、までは読めないけれど……。
ジェイドええ、そうですね。とはいえ、私はフリーセルの存在に関しては大勢に影響がないと考えています。
ジェイドただ、些末な部分では問題になりえるでしょう。だからテネブラエを監視に向かわせました。
イクスそうですか……。
ジェイドおや、久々に心配性の虫が騒ぎ出しましたか ?ではもう少しだけ。デミトリアスの動機などわからなくても構いません。
ジェイド人間はわからないものに不安や恐怖を感じる。だから動機を知って、理解したつもりになって安心したいのです。
ジェイドわからないものに囚われすぎる必要はない。動機がわかったところで理解できるとも限りません。
イクスつまり、今できることに最善を尽くせってことですか ?
カーリャむむ、ジェイドさまのくせにまともなことを言いますね。
ミリーナカーリャったらすぐそうやってジェイドさんに突っかかって。本当はジェイドさんが好きなんじゃない ?
カーリャはああああああ ! ?
ジェイドおや、それはそれは。光栄ですね。私もカーリャが好きですよ。ええ、もう、解剖したいぐらいに♪
カーリャいやああああ ! ? ミリーナさま ! ?カーリャ、『鏡精のひらき』にされちゃいますよ ! ?
アトワイトこの浮遊島を飛空挺のように改造したということ ! ?
リッドこの島が動くのかよ ! ?
フォッグぐわははは ! そいつはすげえな ! ?
アニー島が動く……。でも、確かにそれなら地上を移動するより遙かに早いです。
リフィルええ。だから、すぐ帝都上空へつけることができるわ。もっとも現時点でこの浮遊島を動かせるのは魔鏡術が使える鏡士だけだけれど……。
セルゲイ――ん…… ? な、何だ…… ?
シャーリィセルゲイさん ? どうしたんですか ?
ルカセルゲイさんの顔色が悪い……。まだ車椅子も負担なのかも……。
ジュードここに待機しなければいけないならベッドを持ってこよう。テントか何かもあればいいんだけど。
リーガルベッドは医務室のものを運べばいいだろう。テントはイクスたちに―― ! ?
リーガルなん……だ…… ? 胸が…………ッ !
マウリッツグゥ……。
シャーリィマウリッツさん ! ?
レイス……っ、リッド……。
リッドおい、レイス、どうした ! ?
カルセドニーこれは……スピリアが……――
フォレスト息が……カハッッ ! ?
アニーカルセドニーさん ! フォレストさん !
アニー駄目です ! 脈が速すぎて――
ピオニーまず……い……。ジェイドを……呼べ――
フォッグぐっ……。
マオピオニーとフォッグまで ! どういうこと ! ?
ワルターメルネス……メル……ネス……ッ !
シャーリィワルターさん ! ? ワルターさ……――
マオあ……ボクも……きゅうにねむく……――
キールな、なんだ…… ! ? 人体発火…… ! ?
リフィルみんなが炎の柱に…… ! ?いえ、シャーリィとマオは気絶しているだけみたいだわ。
リッド一体どうなってんだ ! ?
ジュード……この炎は熱くないみたいだ。ただの炎じゃない。
イクス――な、何ですか ! ? 炎の柱がこんなに沢山 ! ?
ミリーナ熱を感じない……それにこの感覚……。アニマを放出しているんだわ。
カーリャうう……ぶるるるるるるるるっ ! ? き、きまひた ! ?ひしゃびしゃにブルブル来てましゅよお ! ?
ジェイドカーリャのこの反応は、光魔の鏡や鏡映点を発見した時と同じですね。しかもその時より激しく震えています。
ジェイド……とすると、これがルグの槍なのでしょうね。
一同! ?
ユリウス何故そう断言できる ?
ジェイド光魔の鏡は虚無とこの世界を繋ぐゲートでした。鏡映点も元の世界からアニマをこの世界に届ける存在です。
ジェイドつまりどちらも異世界や異次元との繋がりを持ち恐らく鏡精はそういうものに反応するのでしょう。
ジェイドルグの槍もまた分史世界とティル・ナ・ノーグを繋ぐ存在ですから。
ユリウス分史世界が創られたのか ?
ジェイドそれは観測機を見てみないことにはなんとも言えませんが――
ジェイドルドガー、エルを捜してきて下さい。大至急です。
ルドガーえ ? あ、ああ、わかった !
ユリウス俺も行こう !
アニーあの ! みんなは大丈夫なんですか ! ?
ジェイドこちらの計算通りであれば、まだ大丈夫な筈です。
ジェイドアトワイト、ルカ。管制棟へ向かって下さい。ハロルドがいる筈です。ルグの槍が起動したと伝えればあらかじめ準備していた観測器を渡してくれます。
ジェイドそれを持ってきて下さい。
アトワイト了解。――ルカ、行きましょう。
ルカは、はい !
リフィルそれにしても、帝国の動きが予測より遙かに早いわ。計画を前倒しするしかなさそうね。
イクスこっちの準備が終わる前にルグの槍が起動するなんて……。
カーリャどうするんですか ! ?まだカイウスさまたちからの連絡はありませんよ ! ?
イクス見切り発車になるけど、やるしかない。
イクス行くぞ、ミリーナ。
ミリーナええ !ジェイドさんたちの作戦通り【贄の紋章】を無効化して、ルグの槍を鎮めましょう !
アニーでも、本当にルグの槍が起動したんですか ?だとしたら、どうしてシャーリィさんとマオだけは無事なんでしょうか ?
ジェイド……想像は付きます。ですが、その話は後にしましょう。今は時間が惜しい。
ジェイドイクス。浮遊島を帝都上空へ !やり方は先程教えた通りです。
イクスはい、やってみます !
イクスミリーナ。俺はしばらく操縦に集中する。何かあったら浮遊島の指示はミリーナに任せるよ。
ミリーナ了解よ。ジェイドさん、イクスに付いていてあげて下さい。
ジェイドええ、そのつもりですよ。

キャラクター3話【16-5 テルカ・リュミレース領 森】
アレクセイなるほど、あの盗賊……フリーセルは新大陸にいたか。その後の足取りはどうなった。
デクスわからない。救世軍に回ってきたのは奴と遭遇したって話までだ。
デクスで、そっちは何か見つかったか ?イエガーって奴の一件からずっとフリーセルを追ってるんだろ。
アレクセイ共有できるような情報は特にない。
デクスそりゃないだろ。色々動いているのはわかってるんだ。
デクスいつもオレたちの情報ばっか吸い上げて。お前らは一応救世軍と提携してるんだぞ。その辺、ちゃんとわかってるか ?
アレクセイああ。きみたちには感謝しているよ。この領土で騒いでいた輩の正体がわかったことで我らが帝国に先手を打つ方法も見えてきたのだからな。
アレクセイ定時連絡ご苦労だった。お引き取り願おう。
デクスううっ……なんてことだ。手ぶらで帰ったらアリスちゃんをがっかりさせてしまうじゃないか !
デクスアリスちゃんにあんなことやこんなことをしてもらう計画がああああ !
アレクセイ私の知ったことではない。せいぜいご機嫌をとってやりたまえ。
デクス仕方ない。そろそろレイヴンが来るはずだしそっちから何か情報をもらうか……。
アレクセイレイヴンだと ?
デクスはっはっはっ ! 気になるのか騎士団長殿 !実はここで落ち合う約束をしてるんだ。あいつも各地の情報を集めて回ってるからな。
アレクセイまったく、お前たちは……。私の拠点を勝手に――
アレクセイ一派兵士A失礼します、アレクセイ様。
アレクセイどうした。
アレクセイ一派兵士A捜索中のフリーセルですがアジトと思われる場所を突き止めました。
デクスおおっ ! ?
アレクセイそうか、よくやった。
アレクセイ一派兵士Aついては、周辺の監視を強化したく――
アレクセイ待て。――デクス、ここからは席を外してもら……。
デクス……どうした、アレクセイ ?何だか急に顔色が……。
アレクセイ……っ !
レイヴンだからぁ、ここで救世軍のデクスと待ち合わせしてんの !おたくの大将だって知ってるはずよ ? ……多分。
アレクセイ一派兵士Bわかったから、もう少し待て。今は大事な報告を――
レイヴンなんだありゃ ! ? 火…… ! ?
アレクセイ一派兵士Aアレクセイ様っ ! アレクセイ様ーー ! !
アレクセイ一派兵士Bあれは…… ! ? あ、貴様、待てっ !
レイヴンおい、どうした ! 何が起きた ! ?
レイヴン! ?
デクスレイヴン ! ア、アレクセイが !アレクセイが突然火柱になった !
レイヴンこれが……アレクセイ…… ?
同時刻 アレウーラ領
ゴーシュいい仕入れができたな。この商品なら高値で取引ができそうだ。
ドロワットでも大量に買いすぎ~。すっごく重いのねん……。イエガー様は大丈夫 ?
イエガーイエース。ノープロブレムね。
ゴーシュですが、まだお体が辛いでしょう ?ここからは私が預かります。
ドロワットあっ、ゴーシュちゃんずるい !イエガー様の荷物なら私が預かるのよん。
ゴーシュさっきまで重いと愚痴を言っていたくせに。
イエガーフフフ……ユーたちとこうしているとまるで普通の商人のようですね。
イエガーこんなドリームのような日が――………………。
ゴーシュイエガー様 ?
ドロワット……止まって、ゴーシュちゃん。あそこにいる人、見覚えあるぬん。鏡映点リストにあった、え~っと……ロミー ?
ゴーシュだとしたら敵だぞ。イエガー様を守れ !
ロミーくっ…… ! ? 間に合わない――
二人! ?
ゴーシュイエガー様、見ましたか ! ?あの人、火の柱に !
イエガーっ ! !
ゴーシュえ…… ? あ……あああっ ! !
ドロワットイエガー様あああああっ ! !
同時刻 アセリア領
クレスモリスンさん ! モリスンさん ! ?ミント、この火は術でどうにかならないのか ! ?
ミント術が効きません !火のようですが、何かが変です……。クレスさん、すぐにアジトへ連絡をお願いします !
クレスわかった !
クレアこちら浮遊島のクレアです。クレスさんですね ?
クレスクレア、緊急なんだ。モリスンさんが突然火に包まれた !術ではどうにもならないらしい。
クレアモリスンさんも ! ?さっきから同じ報告をいくつも受けているの。
クレス他にも火柱になった人がいるのか !
クレアええ。少しだけ待ってて。――マリアンさん、そっちはどう ?
マリアンはい。準備できました !
マリアンクレスさん、今から報告のあった方たちと通信回線を開きます。皆さんと状況の確認をお願いできますか。
クレスわかった。すぐに繋いでくれ !
レイヴン――突然の発火、本人以外周囲に被害はなし、か。アレクセイと同じだな。
ゴーシュイエガー様もだ。ロミーと思われる人物とほぼ同時に……っ。
ドロワットううっ、イエガー様ぁ……。
マークお前らの話だと、火柱化したのは全員領主か従騎士だった奴らみたいだな。
マークケリュケイオンでは帝都から上がる火柱を確認した。あっち側にいる領主たちかもしれねえ。
マークとはいえ、ウチの聖女様は問題ないんだが……。
クレスエルレインさんか。他の領主との違いはなんだろう。
マーク違い……そうか、【贄の紋章】だ。エルレインは紋章を入れられてないって話だぜ。
キールその通り。贄の紋章を入れられた者が火柱になっているんだ。
マークキールか ! どうなってんだか説明しろ。通信は急に途絶えるわ、浮遊島は動いてるわ……。そっちにいる元領主や従騎士はどうした。
キール同じだよ……。火柱になった。
全員! !

キャラクター4話【16-6 アジト5】
ファラレイス……フォッグ……。本当にこの火の柱が二人なの…… ?
メルディキールたち、すごく頑張ってるよ。きっと何とかしてくれる !
チャットそうですね……。今はキール研究室の指示を待つしかありません……。
リッドオレたちは何もできないのかよ !
? ? ?……頼む……助け……。
リッドえっ ! ?
ファラどうしたの ?
リッドレイスの声がした。
ファラレイス ! ? わたしには何も聞こえないよ ?
メルディメルディも。リッドにだけ聞こえてるか ?
チャットフォッグさんは ! ?フォッグさんの声は聞こえるんですか ! ?
リッド悪ぃ、ちょっと静かにしててくれ。――おい、レイスだよな。返事してくれ !
レイスリッド……、私の声が届いているのか。
リッドああ、聞こえてるぜ。オレだけみたいだけどな。
レイスそうか。だとすると極光術……セイファートの試練が関係しているのかもしれない。
リッドなんにしろ無事……じゃねえかもしんねえが意識はしっかりしてんだな。
リッドレイスも含めて、贄の紋章を付けられた奴は火柱になっちまったんだ。覚えてるか ?
レイスああ、朧気に。それに贄の紋章の者たちとは意識で――心の世界で繋がっているようだ。
リッドってことは、フォッグや他の連中も ?
レイスああ。フォッグは側にいる。他にも何人か。今、姿が見えない者たちともすぐに出会えるだろう。
レイス私を介せば、心の世界にいる他の者にも状況を伝えられる。そちらではどうなっているのか、教えてくれないか。
リッドわかった。さっきも言ったけどあの時集められた連中は突然火柱になったんだ。
リッドん ? 違うな。シャーリィとマオは無事だった。
レイスシャーリィとマオ…… ?おかしいな。二人ともこちらにいるぞ。
リッドそんなはずねぇよ。気は失ったけど、火柱にはなってない。……あ、もしかして…… !
リッドレイス、ちょっと待っててくれ。
ファラちょ、ちょっと、リッド ! ?
メルディ一人でぶつぶつ言って、どうかしたか ?
リッドミリーナに話があるんだ !
リッドソーマ使いをここに呼んでくれ !レイスたちを助けられるかもしんねぇ。
リフィルそう……。レイスの声が聞こえたのね。
ミリーナ確かに、マオやシャーリィにスピルリンクすればその心の中で、火柱になった人たちと会えるかもしれないわ。
リッドまあ、オレの思い付きだから上手くいくかわかんねぇけど……。
シング大丈夫、まかせて。オレも早くカルを助けたいんだ。
シングけど、いつもと状況が違うからイクスかミリーナも一緒に来てもらえるかな ?
ミリーナもちろんよ。イクスは今浮遊島を動かしているから私だけになるけど、いいかしら。
シングうん。じゃあ、まずはマオからリンクしてみよう。上手くできなかったら次はシャーリィってことで。
ミリーナそうね、それで行きましょう。イクスと、それにヴェイグさんやセネルさんにも話を通さなくちゃね。
カーリャそれではカーリャはイクスさまに知らせてきますね !
ミリーナええ、お願い。
ファラミリーナ、わたしも一緒に心の中に行くよ。
チャットあっ、ボクも行きます ! カーリャさんは鏡精だから人数にカウントされないとして、あと二人は心の中に連れてってもらえますね ?
アニーそれなら、わたしも連れて行って下さい。マオと話ができるかも知れないんですよね。
ミリーナみんな……ごめんなさい。正直、リスクがないとは言えないの。今回は私とシングだけで入るわ。
ファラでも、ここでじっとしてるなんて……。
チャットボクもです……。さっきは待つしかないって言いましたけど本当は、何もできない自分が悔しかったんです……。
メルディ気持ちわかるよ。メルディも行きたい。
チャットそうですよね !
メルディでも、ここで無茶して何かあったらレイスやフォッグは悲しむな。
ジュードアニーもだよ。僕たちはシャーリィとマオの体に異変がないか見ていてあげよう。そうすることがみんなの助けになる筈だよ。
三人…………。
アニーそうですね。ジュードさんの言うとおりです。こういう時こそ、何が大事なのかしっかり見極めないといけませんよね。
チャットすみません……。ボクとしたことが、冷静ではありませんでした。
ファラわたしも、困らせてごめん。
リッドそう思うんならオレたちはこっちで、やれることをやろうぜ。
ファラリッドは冷静で凄いね……。
リッドそうでもねぇって。オレは今、レイスと繋がってるからお前らより落ち着いてるってだけだ。
リッド仲間を……誰かを失うかもって思うとさやっぱ怖ぇよ。
ファラそうだよね。みんな同じなんだよね。
リフィルあら、私が説得するまでもなかったわね。偉いわ、みんな。今はあらゆる状況に対応できるよう、冷静でいなくてはね。
ファラはい。
ファラミリーナ、シング、気を付けて行ってきて。みんなをお願い。
ミリーナええ、ファラたちも浮遊島の方を頼むわね。

キャラクター5話【16-9 仮想鏡界1】
マークⅡじゃあ、お前らはこっちで待っててくれ。俺はジュニアの様子を見てくる。
ガイなんだ、早かったな。メルクリアには会えたのか ?
ルキウスうん。だけど、まだ体調がよくないみたいだから少しだけ話をして、あとは横にならせたんだ。また後で様子を見てくるよ。
カイウスなあ、リグレットさんの方はどうなってる ?治療は上手くいってるのかな。
ガイまあ、心配ないだろ。ティアとヴァンもいるし。――っと、噂をすればだ。
ティア待たせてごめんなさい。教官の傷はすっかりふさがったわ。
ティア今、ナーザ将軍たちにバルドやコーキスたちのことを報告しているところよ。
カイウスそうか ! 安心したよ。
ガイな、心配なかっただろ ?
ヴァンガイラルディア様、ご面倒をおかけしました。リグレットを連れてきて頂き、感謝申し上げる。
ガイ別に面倒なんて思っちゃいないよ。ついでと言うと語弊はあるがこっちも用があって来てるからな。
ジュニア皆さん、お待たせしてすみません。
マークⅡおい、待てってジュニア。本当にもういいのかよ。
ジュニア大丈夫だってば。さっきはおかしなアニマの動きで一瞬気持ち悪くなっただけ。
ディストまったく、なんなんですか。忙しい私を呼び出すからには納得いく理由と、その対価が必要ですよ !
ガイ理由も対価もあると思うぜ ? ま、とりあえずこの手紙を読んでくれ。
ジュニアキール研究室からですね。拝見します。
ジュニアこれは……。
ジュニア――本当に、こんなことが可能なんでしょうか。逆しまの紋章で贄の紋章の作用を相殺するなんて……。
ガイ俺の知識じゃ可能かどうかを論じることはできないが少なくともジェイドは分の悪い賭けをするような人間じゃないぜ。
ガイ今日はその計画のための計測装置も持ってきた。
ジュニアでも、扱うには相当の知識が必要ですよね ?
ガイそうなんだよ。そこで、だ。
ガイディスト、受け取れ。ジェイドからお前さん宛ての手紙だ。
ディストジェイドから……私に ! ?
ガイああ。是非とも頼むだとさ。今回の件はお前に託したってことだろ。親友の、な。
ディスト親友の私に……。そうですか ! そうでしょうとも ! ジェイドの思惑を理解し、成し遂げ得る頭脳の持ち主がこの薔薇のディスト様以外にいるものですか !
ディスト仕方ありません、これほど私を欲するというのなら少しくらいは手伝ってあげましょう。――マーク、まずは手紙を飾る額縁を用意なさい !
カイウスなあ、なんかすげえ嬉しそうだけどあれって利用されてるだけなんじゃ……。
ルキウス兄さん、しーっ。いいんだよ、これで。
ガイまあ、今のところ誰も損しちゃいないからな。若干気が引けるが機嫌よくやってくれるなら何よりだ。
ティアそういえば、兄さんも贄の紋章が入っているでしょう ?この作戦の間だけでも、私たちのアジトにいた方がいいんじゃないかしら。
ガイそうだな。ここじゃ魔鏡通信も繋がらないし。どうだ、ヴァン。
ヴァン確かにここはジュニアの仮想鏡界――心の中だ。万一のことを考えると、外に出た方がいいのだろうな。だが、鏡士たちの下へ行く必要は――
ヴァン! ?
ティアどうしたの ?
ヴァン今……何かが私の精神に……心に触れてきた。
ティア心って、ローレライ ?
ヴァンいや、これは別の……。誰かが呼んで…………。
ティア兄さん ! ?
ガイおい、ヴァン ! 目を開けろ、ヴァン !

キャラクター6話【16-10 心の世界1】
? ? ?こっちだ。私たちのところへ早く――
ヴァンここは…… ?
? ? ?おーい、おーい、やっほー !
? ? ?聞こえていたら返事をして !
ヴァンこの声たちか、呼んでいたのは。――私はここだ。
レイスああ、来たようだ。ミリーナ、こっちだ。
ミリーナヴァンさんだわ !やっぱりここにいたんですね。
ヴァン鏡士のミリーナか。
ミリーナそうです。直接お会いしたのは初めてなのによくおわかりですね。
ヴァンそれはお前が初対面で私が『ヴァン』だと気付いたのと同じことだ。
ヴァンお前たちが用意した鏡映点リストとやらには一通り目を通してある。無論鏡士の情報にも、な。
ヴァンそれで、「ここにいた」とはどういう意味だ。
ミリーナ火柱になった贄の紋章の人たちはこの心の世界――スピルメイズで繋がっているんです。
マオヴァンも、気が付いたらここにいたんでしょ ?
ヴァンいや、私はビフレストの拠点にいたのだが心の中で、お前たちの声が聞こえたのでな。その声を辿ってみたらここに着いたというわけだ。
マオそれじゃ、火柱にはならなかったの ?
ヴァン火柱 ?
ピオニーそこにいるのは、ヴァン・グランツ……か…… ?
ヴァンピオニー陛下 ?そうか、あなたも領主でしたな。直接お目に掛かるのは何年ぶりか。
ピオニーはは……。これが直接かはわからんが……な……。
シャーリィミリーナさん、あっちにカルセドニーさんとセルゲイさんがいました !今、シングさんが連れてきてくれます。
シャーリィまだ見つからない人もいますしシングさんが戻ったらわたし、もう少し先まで捜してきますね。
ワルター待て、メルネス……これ以上は危険だ……。俺が……。
シャーリィわたしは大丈夫ですから。ワルターさんこそ、無理はしないでください。
シャーリィマウリッツさんも、ワルターさんと一緒にここにいてくださいね。
マウリッツ力になれず……すまないな……。
ヴァン……黒衣の鏡士。いや、ミリーナと呼ぶべきか。
ヴァン一体何が起きている。
ミリーナはい、わかる範囲で説明しますね。
ヴァン――なるほど。そのソーマ使いの話どおりならばスピルーン……心核のある場所が、贄の紋章の者たち全員で繋がってしまっているわけだな。
ミリーナはい。ですから多少のバラつきはあっても全員この付近にいる筈なんです。
ヴァンそれで捜して回っていると。――貴公は外への連絡役を担っているのだな。
レイスああ。だが、他の者よりは動けるもののやはり体の方は思うようではないんだ。そういう意味では、あまり役に立てそうもない。
フォッグ何言ってんだぁ……。今は、お前がアレなんだぜ……。
カーリャアレ ? 頼り、ですかね。
フォッグおぅ……ソレだ……ソレ……。ぐあははっ……はは……。
カーリャ大丈夫ですか ! ?カラ元気が過ぎますよ、フォッグさま。
ヴァン事情はわかった。しかし、君たちも紋章付きの筈だが何事もなかったというのは不思議だな。
マオないわけじゃないヨ。火柱にはならなかったけどボクとシャーリィは気を失って倒れちゃったんだ。ヴァンは何も感じなかった ?
ヴァンリグレットの治療に当たっている時にわずかに眩暈を感じたが……。特に変化はなかった。
ヴァン私はジュニアの仮想鏡界の中にいたからな。外にいるのとは何か作用が違っているのかも知れない。
シャーリィ不思議ですね。紋章を付けられたのは同じなのにわたしたち、他の人と何が違うんでしょう。
マオそれに、ヴァンの話だとジュニアの方も特に異変がないみたいだよね。でも、ジュニアにも贄の紋章があるんでしょ ?
ヴァン先程ガイたちが、ジュニアの贄の紋章のデータを求めて訪ねてきた。
ヴァンつまり、アジトの研究者たちは、ジュニアの贄の紋章が他の者とは違う状態だと察していたのだろう。
ヴァンジュニアがこの場にいないことは不自然ではないのかも知れぬな。
カーリャ違うといえば、シャーリィさまやマオさまは領主でも従騎士でもありませんよね。確か、グラスティンやサレに――
二人……。
カーリャす、すみません !嫌なことを思い出させちゃって。
シャーリィううん、大丈夫。あの時のことはもう……。
シャーリィ……あっ ! そういえばグラスティンはわたしとウンディーネとの繋がりに気づいて紋章をいれたみたいだった。
ミリーナそうだったわ。シャーリィはウンディーネと深く繋がっているのよね。確か、ヴァンさんも――
ヴァンああ。私の中にはローレライがいる。
マオじゃあ、きっとボクも精霊関係だヨ。こっちの世界でいう精霊がボクのお母さんなんだ。
ミリーナそうか……そうだったのね。何らかの形で精霊の加護を受けた人が火柱にならなかったのかもしれない……。
マオあれ、でもレイスは ? 火柱になっちゃったケド他の人よりは元気だし。やっぱり精霊に関係あるの ?
レイスいや、ないな。だが、私は元の世界でセイファートの……神の試練を受けている最中だった。そのおかげか、リッドとも通じている。
シャーリィじゃあ、それ以外の人たちはこのまま……。
カーリャあっ、シングさまです !
シングカル、しっかり ! ミリーナたちの所までもうすぐだ。
カルセドニーシング……、僕より、セルゲイの様子が……。
セルゲイ…………。
シングセルゲイさん ?
全員! ?
マオセルゲイの姿が崩れて……消えちゃった !
シングセルゲイさん ! そんな……。
カルセドニーいや……消えた跡を……よく見ろ……。
シング跡…… ? これ、心核だ !
シャーリィミリーナさん、どういうことでしょう……。
マウリッツ…………うう。
ワルター………。
シャーリィマウリッツさん、ワルターさん !
カーリャミリーナさま、みんなどんどん弱ってます……。
レイス私も感じる。少しづつだが力が失われているんだ……。
シングそれじゃ、みんなセルゲイさんみたいに姿が保てなくなるの ! ?
カーリャどうにかなりませんか、ミリーナさま !
ミリーナ……隠していても仕方がないからはっきり言うわね。
ミリーナルグの槍を起動すると、贄の紋章を持った人は世界を創るエネルギーの柱として消費されるとジェイドさんも言っていたわ。
ミリーナみんなの体から放たれていたあの炎はアニマの放出現象なの。
ミリーナアニマは人の魂。精神エネルギーよ。これを放出しているということは徐々に精神的な死を迎えようとしている。
ミリーナだからまず、心の世界で存在が保てなくなった。
カーリャセルゲイさまは元々回復しきってなかったから最初に消えちゃったんですね。
ミリーナええ。やがてこれは心核に影響を及ぼすと考えられるわ。
ヴァンつまり、心核も消費され、消滅するということだな。
ミリーナええ。恐らくは心核が燃え尽きてしまうでしょうね。
シャーリィそんな…… !
レイス今の話をリッドに伝えよう。私の意識がはっきりしているうちに……。

キャラクター7話【16-12 アジト8】
リッド――さっきレイスから届いた話は、これで全部だ。この通信でアジト全体に話は伝わると思うけど聞いてなさそうな奴には直接教えてやってくれ。
ジーニアスあんな状態だけどリーガルは心の世界の中にいるんだね。
プレセアですが、弱っていると言ってました。一刻も早く元に戻さないと取り返しのつかないことになるかもしれません。
しいな……試してみるか。
ジーニアスしいな ? 何する気。
しいなヴェリウスを呼んでみるのサ。
ジーニアスヴェリウスって心の精霊の ?
しいなああ。前にあいつと会った時あたしとは繋がりがあるって言ってたんだよ。手を貸してもらえないか頼んでみる。
プレセアお願いします。
しいな……ヴェリウス、あたしだ、しいなだよ !答えとくれ。仲間が危ないんだ !
しいな……………………。
? ? ?……………………。
ジーニアスどう ? ヴェリウスの声、聞こえた ?
しいな…………駄目みたいだ。何か気配は感じる気がするんだけどね。ダメ元でもう少し声をかけ続けてみるよ。
ジーニアスうん、頑張ってね、しいな。
しいなああ。大勢の仲間を目の前で失うのはごめんだからね。
しいなヴェリウス……頼むよ…… !
イクス帝都上空、停止します !
ジェイドお見事。ぴったり真上のようですね。
ジェイドミリーナの補助がなかった分、キラル分子の不足による出力低下の恐れもありましたが問題なかったようで良かったです。
リフィル浮遊島が停止したから、様子を見に来たわ。イクス、大丈夫 ?
イクスはい、俺の方は全然。あの、みんなの様子はどうですか ?
リフィルええ。そのことも伝えなくてはと思って。
イクスそうですか……。早く贄の紋章を無効化しないと。ジュニアの方はどうですか ?何か連絡は来ましたか ?
リフィルいいえ、残念ながらまだよ。本来はもう少し余裕のある中で進める計画だったから時間がかかるのは仕方がないわ。
ジェイドそうですね。あちらのアジトは外界を遮断していますし今の状況を知らない可能性も高い。
ジェイドまあ、それでもデータはすぐに来ると思いますよ。念のために手は打ってありますから。
リフィル手 ? そういえばあなたガイたちに手紙を渡していたけれど、それのこと ?
ジェイドええ。作業が早まるおまじないです♪
リフィルでは、ジュニアのデータが届いたらすぐに起動システムを解除できるように準備しておきましょう。
イクスそれじゃあ、俺の方も始めますね。
リフィルごめんなさいね。敵の動きが変わった以上本来は計画を練り直すべきなんでしょうけれど……。
イクスいえ、火柱になったみんなを助けるためにもできることをやらないと。
ジェイド不本意ながら、やや確度の低い作戦になってしまいますが、これは仕方がありません。ただ、やることは同じです。
ジェイドイクスはバロールの血族ですからね。あなたの中にはバロールの残滓が存在している。今度はこちらがバロールの力を拝借します。
イクスはい。父や母の遺言が本当なら俺にはルグの槍に干渉する力があるはずですから。
女性の声世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。
イクスバロールの力で、ルグの槍を起動する装置が帝都のどこにあるか感知して、装置を解除、破壊する。それでいいんですよね。
リフィルええ。こちらはギリギリまでジュニアからの連絡を待つわ。
リフィルルグの槍や分史世界の動向次第では、ジュニアのデータなしで、逆しまの魔導砲を撃つことになる。
イクスその前に、俺が起動装置をなんとかできれば危うい状態で、逆しまの紋章を打ち込む必要はありませんよね。
リフィルそれはそうだけれど……無理をしては駄目よ。バロールの力を使うことも帝都へ潜入することも危険なんですからね。
イクスはい。みんなに迷惑は掛けませんし無茶も……なるべくしません。
リフィル迷惑なんていくらだって掛けていいのよ。だからなるべくではなく、絶対に無茶はしないこと。よくって ?
イクスはい、リフィル先生。
ジェイドあなたの生徒は問題児が多いですねぇ。
リフィル素行で言えば、誰かさんよりは遥かに優秀です。
イクスあはは !
イクスそれじゃあ、まず浮遊島周辺のアニマの流れを観測します。
ジェイド浮遊島には、様々な観測装置が設置してあります。あなたの足下の魔鏡陣は、浮遊島の操縦だけでなく観測装置とも連携していますので、利用して下さい。
ジェイド鏡士であるあなたなら、特別な装置がなくてもアニマの流れは感じ取れるでしょうが補助的にでも装置を使う方が負担が少ないでしょう。
ジェイドちなみに少し前まで、リタやパスカルが改良を加えていましたから、性能の方もかなり上がっている筈ですよ。
イクスありがとうございます。本当に、みんなには感謝だな。――さて、と。
イクス(火柱……アニマ……、浮遊島……帝国……。テルカ・リュミレース……アセリア……アレウーラと――)
イクス(……ん ? 周りが発するアニマに比べて火柱から感じるアニマは『歪んで』いるみたいだ)
イクス(どういうことだ ? これがルグの槍特有のアニマなのか ? だとしたらこれと同じようなアニマが帝都から出ていないか確認すれば――)
イクス(――見えた ! )
バロール(――邪魔だ)
イクス(この感じ……バロールか ! ? )
バロール(ルグの槍に手を伸ばしてきたか。これは俺の得物だ。気配を辿ることすら不敬である ! )
バロール(どけ ! )
イクスくっ ! ?
二人イクス ! ?

キャラクター8話【16-13 墓守の街】
バロール――大人しくなったか。我が末裔にも拘わらず勝手をするからだ。
バロールさて……、聞こえるか、鏡精喰いの王よ。ルグの槍は起動した。
バロールその槍は、俺がルグと共にこの世界を創った時に振るった武器だ。返してもらう。
バロール起動システムから、『槍の本体』を外せ。
デミトリアスそれはできない。本体を外せばこれから創る分史世界とティル・ナ・ノーグを繋ぐ道がなくなってしまう。
バロールなぜ拒む。お前の望みは世界への贖罪ではないのか ?
デミトリアス……その通りだ。この世界は罪人の方舟だ。だからこそ、世界をあるべき姿に戻すしかない。
イクスあれ……、ここはスピルメイズか ?確か声がして……。
イクスそうだ、あの声 ! あれはバロール……。
? ? ?気が付いたな。
イクスえっ、ナーザ将軍 ?
? ? ?違うよ。俺を覚えてないのか ?
イクスっ ! まさかバロール ! ?
? ? ?だから違うって。もしかして久しぶり……なのかな ?また会えてうれしいよ、もう一人のイクス。
イクスあ…… ! 最初のイクス……さん ?
イクス1stああ。俺もさっき目が覚めたばっかりでさ。
二人一体どうなって――
二人えっ?
イクスもしかして、イクスさんもわからないんですか ?
イクス1stああ。きみの目が覚めたら聞こうと思ってた。俺も突然自我が回復して驚いてたんだ。
イクスイクスさんがいるってことはここは【アニマのるつぼ】ですか ?俺は死にかけてるのか……。
イクス1stいや、ここはきみの心の中だ。【アニマのるつぼ】で溶けていた俺がここにいる方が変なんだよ。
イクス1st切っ掛けがあった筈だけどそっちでは何があったんだ ?
イクス切っ掛け……。ルグの槍の起動に干渉しようとしたらバロールの声が聞こえて……。
イクス1stやっぱりバロールか。よし、最初からきちんと説明してくれ。
イクス1st――間違いなくルグの槍が原因だな。ルグの槍が起動したことで俺のいた集合的無意識も外側と繋がったんだ。
イクス1stそれで【アニマのるつぼ】にいる筈の俺がきみの心と繋がって目が覚めたんだろう。
イクス1stそれにしても、俺たちはバロールの子孫なんだろ ?邪魔だの何だのと……。そういう性格だからバロールもビフレストから疎まれていたのかもなあ。
イクスはは……。
イクス(あ、相変わらずだな……この人……)
イクス何にしろ、イクスさんと会えて良かったですよ。
イクス1stああ。でも、こうなるとミリーナが心配だな。心の世界――贄たちのスピルメイズにいるんだろう ?きっとあっちも混乱してる筈だ。
イクスそう思います。でも、仲間がついていますから。あっちはミリーナに任せるつもりです。
イクス1st任せる、か……。
イクスえ ? まずかったですか……。
イクス1stいや、そうじゃないんだ。改めてきみたちは、俺とミリーナとは違う別の俺たちなんだなって思ってね。
イクス別に、見えますか ?
イクス1stああ。俺はミリーナを守ることを第一にしてきた。フィルのこともだ。
イクス1stこれ以上傷つけないようにとか危険な目にあわせないようにとか悲しい思いをさせないように……なんてね。
イクス1stでも、今のきみは――きみに絡みついたしがらみを断ち切ったんだなって。
イクス俺もミリーナも、みんなと出会って、影響を受けて色んなことを教わりましたから。
イクス1stああ。きみには自分だけの道が見えてきたんだな。
イクス前にイクスさんも言ってくれましたからね。全部捨てたっていい。俺たちは自由なんだって。
イクス1stそうだったな。俺もきみも違って当然なんだ。だからこそ……。
イクスイクスさん ?
イクス1st……頼みがある。俺たちの『後始末』を手伝ってくれないか。
イクス後始末 ?
イクス1stこうして自我を取り戻しても俺はやっぱり死者なんだ。外界に影響を与えることはできない。
イクス1stでも、イクスに力を貸すことはできる。だから、しばらくここに居候させて欲しいんだ。
イクスここって、俺の心の中に ?
イクス1stああ。色々と便利になると思う。例えば……、今、きみの鏡精がバロールのところへ向かってる。
イクスコーキスが ! ? 何でわかるんですか ! ?
イクス1st本当はきみもわかってる筈なんだ。バロールと『イクス』は繋がっている。感知していても気づいてないだけだよ。
イクス俺にも……。本当に俺にもわかるのか……。
イクス1stそれで居候の件は ? 家賃分は働くよ ?
イクスはは……。もちろん、構いません。
イクス1stよし、決まりだ。となると、まずはきみに目覚めてもらわないとな。
イクス1stそうしたら、バロールの心を手繰ってルグの槍を譲ってもらおう !
イクス譲って……はあ ! ?
イクス1st驚くことかな ? 父さんたちの遺言でもあるし君がやろうとしている計画にも必要なことだろ ?頑張ってくれよ、イクス !

キャラクター9話【16-14 心の世界3】
カーリャモリスンさま ! アレクセイさま !カーリャの声、聞こえますか ?
モリスン……どう……にか……。
アレクセイ…………イエガー、は……。
イエガー…………。
カーリャイエガーさまの姿さっきより薄れている気がします……。
マオどんどん精神エネルギーが使われちゃってるんだ……。
ミリーナとにかく心核の燃焼を防がないと。何か手はないかしら。
マオ精霊が守ってくれればボクたちみたいに意識や姿を保っていられるのに……。
ヴァン……精霊の力か。精霊の加護があれば、火柱にならず姿も保てる。
ヴァンならば、今からでもその力を施せば心核の燃焼を防ぐか、できずとも遅らせる為の防御壁にはなるかもしれない。
シャーリィそれなら、わたしとマオさんとヴァンさんがこの場で精霊の力を使えば、その防御壁というものができるかもしれませんよね。
マオナイスアイディア ! やってみようヨ !
ヴァンだが、その効果がどれだけの範囲に及ぶかもわからん。心核がある筈だというこの場所を中心に術を展開するべきだ。
カーリャでは、急いで他の人たちも集めないとですね !
シングおーい、いたよー !
ミリーナフォレストさん、リーガルさん、会えてよかったです。
フォレストミリーナ……これを預かってくれ……。
ミリーナこれは、心核だわ。
フォレスト途中で……見つけた……。
リーガル私もだ……。……この二つ……。
ミリーナありがとうございます。二人とも、ここで休んでいてください。
シャーリィ全部で四つ……心核だけになってるということはこの人たちも弱っていたんでしょうね……。誰なんでしょう。
カーリャミリーナさま、わかりますか ?
ミリーナええ。以前は難しかったけど今はゲフィオンの記憶があるから読み取ってみるわね。
ミリーナこれは……オスカーという人。確かミッドガンド領の従騎士ね。
ミリーナこっちは……ロミーとチトセ。
カーリャアレウーラ領とレグヌム領の方ですね。
ミリーナそれにこっちは……。何かしら、声が聞こえる。
ミルハウスト私……は、ミルハウスト……。
マオミルハウスト ! ?
ミリーナミルハウストさん、心核だけどまだ意識があるんだわ !
ミルハウスト……陛下を……救い……心核を……取り戻して……。
マオ陛下の心核ってアガーテ様のコト ! ?
ミルハウスト……アガーテ様……守って……どうか…………。…………………………………………………。
マオミルハウスト ! ねえ、ミルハウストってば !
ミリーナマオ。落ち着いて。今ここでは姿を保てず心核になっているだけで彼はまだ生きているわ。
マオ……わかってる。
カーリャ心核の状態で伝えてくるなんて驚きました。こんなことができたのは心の中だからですかね。
シャーリィ……ミルハウストさんのアガーテさんを思う気持ちが強かったからじゃないでしょうか。こんなに必死で訴えて……。
マオボクもそう思う。けど、こうなるってことはミルハウストは帝国で弱るような仕打ちを受けてたってコトだよね……。
マオでも心核が見つかってよかったヨ。ここで守ってあげられるもん !
ミリーナ後は帝国側にいる筈の領主や従騎士たちね。早く探さないと。
シング……あのさ、少し気になるんだけどこれだけ集まってるのに、帝国でリビングドールになってる人って、まだ見つかってないよな ?
マオそうだね。アガーテ様は見つかってないし……。
シングオレ、ここにマリンさんがいるかと思ってたんだ……。
ヴァン疑似心核を入れられたまま火柱となっているのなら本来の心核は体の外に置かれている筈だ。故にここには居ないのだろう。
マオそれじゃ帝国の人は保護できないってコト ! ?
カーリャあーもー、魂と体が別って本当にややこしいです !ちゃっちゃと元に戻せればいいのに !
シングそりゃ、心核さえあれば……あれ ?
カーリャどうしました ?
シングここはさ、スピリアの一番奥で、今は贄の紋章の人たちみんなが繋がってるんだけど……。
シングスピリアの一番奥はスピルーンの――心核の置き場所だ。ってことは……。
シングリビングドールにされた人たちの心核を持ってくれば今なら元に戻せるし保護できるかも……。
全員! !
シャーリィシングさん、すごいです !
ミリーナ帝国から取り返した心核がいくつかアジトにあるわ。それをソーマ使いの誰かに持ってきてもらいましょう。
ヴァンだが、それ以外は物理的に心核を取り返さない限り救えないということになる。何か策を講じねばならんぞ。
ミリーナええ。それもわかっています……。
ヴァン水を差してすまない。ともあれ、まずは外へ連絡をしてもらおう。レイス、体は問題ないかね ?
レイスああ。いい報せは伝えがいがあるよ。
ヴァンでは、シャーリィ、マオ。私たちは精霊エネルギーによる防御壁の構築に取り掛かるとしよう。

キャラクター10話【16-15 仮想鏡界2】
カイウスガイさん !ヴァンさんは気が付いた ?
ガイいや、まだだ。今はティアが付いてる。精霊絡みかも知れないからアステルも一緒だ。
カイウスリヒターとナーザは ?
ガイメルクリアの様子を見てから来るってさ。
ジュニア心配だな……。何が起きてるんだろう……。
マークⅡ心配もいいが、今はやることがあるだろう。お前はこっちに集中しろって。
マークⅡ――で、その装置はどうなんだ。
カイウス運んできてなんだけどさこんなに小さい機械で本当に計れるのか ?掌に収まるサイズだぞ。
ディスト愚問です。ふむ……この計測装置はハロルドのものですね。
ガイお、ご名答。さすがだな。
ディストフン、当たり前でしょう。音機関でも機械でも、作り手の個性というものは案外隠しきれないものです。
ガイ確かに、それは言えてるな。根性ねじ曲がった奴の音機関なんざ回路の繋がり方すら捻くれてることがあるしなあ。
ルキウスそれで、計測装置のセットアップにはどれぐらい掛かりそうなの ?
ディストもう終わりました。始めますよ。
カイウスえっ ! ? いつの間に……。
ディストではジュニア、こちらへ。計測を開始しますよ。
ディストこれで、贄の紋章の構造と進行具合、それにルグの槍起動装置への通信信号が計測できました。
ディストおや…… ?
マークⅡ……おい、どうした。失敗したなんて言うなよ ?
ディスト失礼な ! 私がこの程度の計測に失敗するはずがありませんよ !しかしこれは……。
ジュニアあの……、もしかして時間が掛かりそうとか ?
ディストいいえ、計測は成功です。こちらに情報を出しましょう。
ガイこんなに早く済むとはな。情報が届いたらジェイドもきっと喜ぶぜ。
ディストでは、もう一つ伝えなさい。ジュニアに刻まれた贄の紋章ですが対になる紋章がもう一つある筈です。
ジュニアえっ ! ?
ディスト本来はもう一人別の人物に刻まれた紋章と共に発動することでルグの槍へと変化するようですね。
ジュニア対になる紋章…… ?
ディストええ。何故かあなたの贄の紋章は本来の半分の能力しか有していないようです。
ディストどこかにもう半分の贄の紋章を刻まれた――あるいは、刻まれようとしている人物がいるということですよ。
ジュニア半分……。どうして半分なんだ ?もう半分は誰が……。
ガイもう半分の贄の紋章の持ち主が誰だか目星はつかないのか ?
ディストそんなことを私に聞かれても困りますね。
ジュニア僕をルグの槍にする意味……。ニーベルングの具現化、かな。やっぱり。いや、でも、それならルグの槍にする必要はないのか。
マークⅡまあ、言うことを聞かせるだけなら他にも色々と方法はありそうだからな。
マークⅡわざわざお前をルグの槍にする意味と半分の贄の紋章には関連がありそうだ。
ジュニア……そうだね。
ジュニア――皆さん、今から仮想鏡界の封鎖を解除します。そうしたら、すぐにこの計測データを浮遊島へ送信してください。
ガイいいのか ? これ以上グラスティンにつけ込まれないために外部との通信ができないようにしていたんだろう ?
ガイ俺たちはこの仮想鏡界を出てから通信をしても構わないんだぜ ?
ジュニアううん。こうなってくると、みんなと密に連絡を取れないことの方が問題だと思うから。
カイウスありがとな、ジュニア。
マークⅡとはいえ、ある程度の防御はしとかないとな。
ジュニアうん。もちろんそのつもり。それじゃ――行くよ。
ガイよし、魔鏡通信が繋がった。
ガイ――ジェイド、聞こえるか !データが取れた。今から送る。
ジュニア……あれっ ?
マークⅡどうした、フィル。
ジュニア仮想鏡界の防御を解除したときに、何か違和感が……。
マークⅡまさか、もう帝国の連中が何かしてきたってのか ! ?
ジュニアいや、外からの刺激じゃないよ。内側の方だったような……。
ナーザ(……上手く誤魔化したつもりだったがバレるのは時間の問題か。しかし、少しのあいだ時が稼げればいい)
ナーザ――待っていろ、バルド。
ジェイド――なるほど。あなたの心の中に、最初のイクスがいる、と。全くこの世界のいびつさときたら、頭が痛いですね。
イクスまあ、そんな訳なのでもう一度あの歪んだアニマを辿ってみます。
リフィルそんなすぐに大丈夫なの ?
イクスええ。問題ありません。
リフィルでも、ほんの数分とはいえ気を失っていたのよ。本当にこのまま続けてよくて ?
イクス本当に大丈夫です。最初のイクスさんもいますし次はバロールが干渉してきても対抗できると思います。
ジェイドそうですね。どのみちこの計画はあなたの存在ありきのものです。よろしくお願いします。
イクスわかりました。
ジェイドまずは、何としてもルグの槍の起動装置の場所を特定する。それから帝都に降下してもらいます。
イクス起動装置の破壊と、心核の回収ですね。それに可能なら鏡映点を救出する。優先順位もこの順序でいいですよね。
ジェイドええ、大変結構です。あなたは地頭がいいので、話が早くて助かりますよ。
リフィルイクス、気を付けなさい。あなたの頭の良さと物わかりの良さは悪い大人に利用されてしまうこともあるのだから。
イクスそ、そうですね。あの……それ、ジェイドさんのことじゃないですよね ?
リフィルええ、ジェイドのことです。
ジェイドはっはっはっ。相変わらず手厳しいですねえ。
イクス――っと、コハクだ。
コハクイクス、こっちの準備はできたよ。今から行ってくるね。ちゃんと保管庫の心核も持ってきたから !
イクスああ、頼んだ。心核の交換になるだろうから大変だと思うけどよろしくな。
コハクまかせて ! みんなをガンドコ助けてくるね !イクスたちも頑張って !
イクス……さて、俺たちも始めましょう !
バロールデミトリアス、これが最後の通告だ。起動装置から槍を外せ。
デミトリアス断る ! 私には私の信念がある !
バロールそうか。お前の意志はそれなりに尊重するつもりだったが、肝心なところで我が意に逆らうのならば自由意志など邪魔なだけだな。
バロール貴様は山ほど鏡精を喰らった。ならば此度は――
デミトリアス! ?
バロールお前が喰われろ。
グラスティンおい、デミトリアス、どういうことだ !何故ルグの槍が起動している !お前の命令か ! ?
デミトリアスああ、そうだ。
グラスティン何を考えている ! これでは計画が台無しだろう !今からでも起動装置を止めろ !
デミトリアスできんな。あれは俺の槍だ。
グラスティン…………あ ?
デミトリアスお前はこのまま見ていればいい。手出しは無用だ。
グラスティン……………誰だ、お前。
デミトリアス……………。
グラスティンああ、そうか。『俺の槍』か。ヒヒヒ。お前、バロールだな。
バロールわかったか。ならば下がれ。
グラスティンヒヒヒ…………ヒャハハハハッ !おいおい、それならデミトリアスはどうした、あ ?
バロール俺が喰った。
グラスティン………………喰った ?
グラスティンそうか……ヒヒッ……あいつを……。これはまた、ヒヒッ……。
バロールいらんだろう。あのような邪魔な意識など。
グラスティン…………貴様ァアアアアアア ! !
バロール無駄なことを。
グラスティン喰ったなら吐き出せ !デミトリアスを返してもらう !
to be continued
キャラクター1話【17-1 アジト1】
コハクイクス、こっちの準備はできたよ。今から行ってくるね。ちゃんと保管庫の心核も持ってきたから !
イクスああ、頼んだ。心核の交換になるだろうからミリーナのことをよろしくな。
コハクまかせて ! みんなをガンドコ助けてくるね !イクスたちも頑張って !
イクス……さて、俺たちも始めましょう !
イクスさっきの歪んだアニマの感覚が残っているうちに起動装置の場所を突き止めます。
リフィルええ、お願い。それと何度も言うけれど、無理だけはしないこと。あなたの中の、もう一人のイクスもね。
イクスありがとうございます、リフィル先生。
イクス1st(へえ、先生、か……。優しくて素敵な人だな。俺のことまで気にしてくれるなんて)
イクス1st(こんないい先生に指導してもらえてイクスは幸せ者だな)
イクスははっ、確かに。
リフィルどうしたの ?
イクスいや、イクスさんがリフィル先生を褒めてたんで。優しくて素敵な、いい先生だって。
リフィルあら、そんな……、ありがとう、もう一人のイクス。
ジェイドええ。リフィル先生は本当に優しくて素敵な遺跡大好き先生ですからね♪
イクス1st(遺跡って ?)
イクスそ、それはまあ置いといて !
ジェイドそうですね。ではイクス、お願いします。
イクスあはは……。じゃあ、始めます。
イクス(あの時に見えた歪んだアニマ。帝都のこのあたりだったっけ。さっきはバロールに邪魔されたけど……)
イクス(……変だな。何の干渉もない。さっきの様子なら俺たちを見逃すはずないのに)
イクス1st(罠か、もしくはバロールの気が逸れてるか、だな)
イクス(気が逸れる……。まさかコーキスか ?確かバロールの所に向かってるんですよね)
イクス1st(いや、コーキスが接触した気配は感じない。何にしろ、こっちを見ていないなら絶好の機会だ)
イクス(そうですね。罠だとしても、どうせ引き返す余裕はないんだ。このままアニマを辿ります)
イクス――ふぅ……。お待たせしました。
リフィルお疲れ様。今回は無事に戻ってこられたようね。
イクスはい。なぜかバロールの妨害がなくて。
ジェイドそれは気になるところですが先に成果の方を伺っておきましょうか ?
イクスはい。起動装置の場所は確認できました。芙蓉離宮の地下です。
ジェイド芙蓉離宮なら潜入経験者がいますね。かつて宮殿にいた鏡映点たちから情報を得て見取り図も作ってあります。かなり大まかですが。
イクス十分です。すぐに降下に入ります。ゲートじゃ遠回りだから飛べる人を探して頼まないとな。
ジェイドいいえ。その必要はありません。リフィル、例の物は用意できてますか ?
リフィルええ、問題なくてよ。突貫で作ってもらったけれど数もそれなりに揃っているわ。
イクス例の物 ?
ジェイドキール研究室が自動制御付きのパラシュートを作ってくれました。これを使えば浮遊島から狙ったポイントへ降下できます。
イクスいつの間に !魔導砲やら浮遊島の推進装置やら贄の紋章の調査だって抱えてたのに。
ジェイドパスカル曰く「いい気分転換になったよ~」だそうです。
リフィル気を遣ってくれたんでしょうけど実際、研究室メンバーにとっては息抜きみたいなレベルなんでしょうね。
ジェイド天才というのは恐ろしいものですねえ。非常識な事を簡単にやってのける。
イクスそれ、ジェイドさんが言いますか……。
ジェイドもちろん、自分のことも含めての客観的な意見です。さて、本題に戻りましょう。
ジェイド降下メンバーの選抜はあなたにお任せしますがクルスニクの関係者や転生者などは外してください。彼らには何が起こるかわかりませんので。
ジェイドそれと、口うるさいようですがくれぐれも目標の優先順位を間違えないように。
ジェイドあくまでも第一は、ルグの槍の制御装置の破壊。次いで、領主や従騎士たちの心核の回収。更に可能であれば、彼らの肉体――鏡映点の救出です。
イクス……そこに釘を刺すのは、降下メンバーに帝国に仲間が囚われている人が手を挙げることを見越してのことですね ?
ジェイドええ。あちらで仲間を目にすれば連れて帰りたくなるでしょう。ですが、二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますから。
ジェイドもしもの時は、非情な決断を下す必要があることを忘れないでください。
イクス…………肝に銘じておきます。じゃあ、みんなの所に行ってきますね。
ジェイドええ。準備ができたら声をかけてください。
リフィル……辛いわね。目の前の人間を見捨てろという決断は。
ジェイドそうですね。そういう決断をしなくてすむように方針を立てられるのが、本当の意味で優れた人間なのでしょうね。

キャラクター2話【17-2 アジト2】
リフィルイクスたちは順調 ?
ジェイド観測した限りでは。予定どおり着地できそうですよ。
リフィル良かったわ。正直なところ気になってたのよ。あの自動制御付きパラシュート。
ジェイドおや、我らが誇る頭脳集団が信用ならないと ?
リフィルそうじゃないわ。でも、パスカルが話していたの。いつの間にか、落下軌道の数値設定が変わってたって。
リフィル修正はすぐに終わったけれど、一緒に話を聞いていたハロルドがため息をついていたから、何か知っている――いえ、何かしたんじゃないかと思って。
ジェイド……なるほど。カイルたちが言ってた例のアレですか。偶然にもパスカルが未然に防いでしまったとはハロルドもがっかりでしょうねぇ。
リフィル例の ?
ジェイドご存じありませんでしたか。でしたらお気になさらず。パラシュートがドッタンバッタンしなくて良かった――という程度の話です。
ジェイド――おっと、来ましたね。
ガイジェイド、聞こえるか !データが取れた。今から送る。
ジェイドありがとうございます。今、確認中です。思ったよりも早くて助かりました。おまじないは効きましたか ?
ガイ効きすぎだ。計測なんてあっという間だったぜ。あとディストの奴、あんたの手紙を飾るために最高級の額縁を探してる。
ジェイドそうですか。あの手紙は開封後一定時間を過ぎると消滅する仕組みなんですよ。無駄な出費をさせて嬉し――心苦しいばかりです。
ガイ旦那……、ディストにはホント容赦がないな。
ジェイドところで、私が送った通信文は見て頂けましたか ?
ガイ通信文 ? ああ、悪い。ジュニアの仮想鏡界の防御を解いてすぐ連絡したんだ。今、そっちも確認して……って……。
ガイなんだこりゃ ! ? ルグの槍が起動してるのか ! ?贄の紋章たちが炎の柱……って、どういうことだよ !
ジェイド諸々状況が変わりまして。後ほど詳しく説明します。データの他に何か報告はありますか ?
ガイあ、ああ。こっちでも色々と問題が起きてる。まず、ジュニアの贄の紋章だが、ディストの話だと――
ジェイド――なるほど。ミリーナたちはスピルリンク中ですからネヴァンの件は通信文に入れておきましょう。ヴァンの方は、このまま様子を見てください。
ジェイドそれと、ジュニアと対になるという紋章ですがデータから見るに、この値は……。
ガイ心当たりがあるのか ?
ジェイド……今はまだ、何とも。
ハロルドもったいぶっちゃって。どうせ見当はついてんでしょ ?
ガイハロルド ! ?
ジェイドハロルド、個人回線の傍受はマナー違反ですよ。
ハロルド今さら ? 傍受程度は織り込み済みのクセに。だいたい、あんたが言い渋ってなきゃ口出すつもりもなかったわよ。
ハロルドそれよりこのデータ、ユリウスに見せて話を聞いた方がいいんじゃない ?
ジェイド勿論、そうしたいのは山々ですが恐らく彼は口を割らないでしょう。
ハロルド……そう。まあ、わからないでもないけどね。
ハロルドいいわ。こっちは忙しくなるし、面倒なのは任せる。
パスカルふぁ~……何 ? ハロルド、誰と話してるの ?
ジェイドパスカル、お休みのところすみません。立て続けに無茶な注文をこなして頂いたので少しでも休息をとってもらうつもりだったんですが。
ガイ悪いな。研究室の連中には頭があがらないよ。
パスカルジェイドにガイ……ってことはデータ取れた ! ?
ハロルドええ。やっと主役が到着したとこ。作業再開するからリタにも声掛けといて。
ハロルド【逆しまの魔導砲】、超特急で仕上げるわよ。
イクス――ふぅ、着地成功。
セネル全員揃ってるか ?
アスベルああ、問題ない。見張りの兵士は……見当たらないな。
レイアみんな炎の柱の方へ集まってるんじゃない ?
スタン……。
ソーディアン・ディムロスどうした、スタン。
スタンあの柱のどれかが、イレーヌさんなんだよな……。
ルーティでしょうね。けど、そればっかりに気を取られるんじゃないわよ。――そっちもね。
マリクああ……、もちろんだ。
アスベル教官……。
マリク……すまないな。教え子にそんな顔させるようじゃ教官失格だ。
アスベルいいえ、カーツさんを思う気持ちはわかります。それにヴィクトリア教官だって……。
マリクルーティも言ってるだろう。『それはそれ』だと。大丈夫だ、任務に私情を交える気はない。
マリクさて、イクス。地下への潜入経路だが事前の打ち合わせどおりで問題ないか。
イクスはい。見たところ地図との相違もなさそうです。スタンさんは ?
スタンああ。俺が前に潜入した時と変わってない。今回はあの通用口から宮殿の中に入って地下へ降りればいいんだよな。
マリクよし。だったら目標地点へ急ぐぞ。これだけ派手に降りてきたんだ奴らが見逃すはずがない。
帝国兵いたぞ ! 中庭にて侵入者を発見 !侵入者を――
帝国兵ぐあっ !
ジェイ言ってるうちに、ですね。
帝国兵くっ ! 総員中庭へ !
帝国兵たちおおおおおおっ !
ルーティなによ、あっちこっちから !全員相手にしてたらキリがないわ。
レイア通用口からも敵が出て来てる !これじゃ中に入れないよ。どうする ! ?
イクス……みんな !このまま時間を稼げるか ! ?
ルーティ何する気 ?
イクス歪なアニマを強く感じる所……――あそこだ。あの場所まで行って、創造の魔鏡術で地下への入口を作る。
ジェイ作ったとしても、入口の先がどうなってるかはわかりませんよ !それに術の途中で敵に囲まれたら――
イクス一か八かだ。みんな、援護を頼む !
ジェイあっ、イクスさん !仕方ないな、こうなったら……。
ジェイスタンさん、アスベルさん !イクスさんの目指す方向へ同時に魔神剣を放てますか !
アスベルイクスの道をひらくんだな。わかった !
スタンああ、まかせろ。いくぞ、アスベル !
二人魔神剣 ! !
帝国兵たちうわあああっ ! !
イクスありがとう !――いくぞ、魔鏡の力よ…… !
帝国兵見ろ、鏡士のイクス・ネーヴェだ ! 鏡士がいるぞ !
セネル行かせるかよっ !
マリク全員、イクスを囲んで陣を組め !

キャラクター3話【17-4 心の世界1】
シャーリィ――そうですね。心核の燃焼を防ぐにはこの方法が一番確実だと思います。
ヴァンでは、防御壁の構築法は決まりだな。各々、手順はいいか ?
マオうん。ヴァンはローレライを呼んでメルネスの力を使ったシャーリィと一緒に精霊力を放出する。
マオボクは二人の力に炎のフォルスを纏わせてみんなを囲むように壁を作る――だよネ。バッチリだヨ !
カーリャマオさまが言うと簡単そうに聞こえちゃいますけどこれって大変なんじゃないですか ?
レイスああ。ヴァンやシャーリィは大きな力を放出し続けることになるだろうしマオはそれを制御しなければならない。
ミリーナかなりの力を消耗することになるわね。私は何もできなくて……ごめんなさい。
シャーリィミリーナさん。わたし、自分にできることがあって嬉しいんです。
シャーリィマウリッツさんや、ワルターさんや、みんなを……メルネスとしての力を、誰かを傷つけるためじゃなく守るために使えることが嬉しい。
シャーリィだから、そんな風に思わないでください。
マオそうそう。下なんか向いてないでボクたちのカッコいいところ、ちゃんと見ててよネ !
ミリーナシャーリィ、マオ……、ありがとう。三人とも、お願いします。
ヴァン承知した。では始めよう。――聞こえるか、ローレライよ。その力、我が身が耐えうる限り解き放て。
シャーリィ滄我……ウンディーネ……あなたたちの声を聞かせて。そしてわたしに力を。
シングシャーリィの髪が輝いてる。きれいだなぁ !
マオよーし、仕上げはボク !――炎よ……心を護る壁となれ !
カーリャ炎がカーリャたちの周りを……わっ、上まですっぽり覆われちゃいました !
レイスドーム状の防御壁か。ああ……僅かだが体が楽になった気がするな。
ヴァン僅か ? それは妙だな……。かなり負担は軽減されるはずだが……。
マオとにかく、あとは集中しながらこれを出来るだけ長く維持……あれっ ?
ミリーナどうしたの ?
マオどうしても覆い切れない部分があるんだ。穴があいてるみたいな感じで……多分、あのへん。
カーリャあ、こっちこっち !ここ、他よりも炎が薄くないですか ?
ミリーナ本当、確かに穴みたい。オスカーさんの心核のすぐ側だわ。
シングこれじゃ穴から生命エネルギーが流れ出ちゃうよ。一旦、オスカーの心核を避難させよう。とりあえず、あっちに――
ミリーナ動かさないで、シング !心核と一緒に穴も移動してるわ !
シングえっ ! ?じゃあ、壁の穴はオスカーの心核が原因 ! ?
ミリーナ私によく見せて。……これかしら。心核に小さな亀裂が入ってる。
シングその傷が防御壁に影響してるのかな。
ミリーナわからない……。でもこのままだとオスカーさんが危険よ。防御壁だって穴があいたままではきっと十分に機能しないわ。
ミリーナ穴との関連性も含めて傷の原因を調べて修復しないと……。
シングじゃあ、オスカーのスピルメイズを調べに行こう。みんなのスピリアが繋がって入り組んでるけどこのまま地続きで入れる筈だ。
カーリャ待ってください。それだと防御壁を維持するマオさまたちや、弱ったみなさんを置いていくことになります。もし何かあったら……。
ヴァン構わん、行け。この状況が長引く方が危険だ。
ミリーナ…………。
コハクシング、ミリーナ、そこにいる ?アジトに保管されてた心核を持ってきたよ !
シングコハクだ !――コハク、ちょっと待ってて !
シングマオ、コハクたちは入れる ?
マオうん。物理的な通過は制限してないからネ。そのままどうぞ。
シングこの火の壁は安全だ ! そのまま入って来て。
ベリルうわ、この火の壁、本当に熱くない !
リチアこれがリッドが話していた防御壁なのですね
ヒスイおい ! 贄の紋章の奴ら、大丈夫かよ。全員ぶっ倒れてるぞ。
クンツァイト生命維持機能の極端な低下を確認。危険な状態だ。
シングみんな、来てくれたんだ。イネスとガラドは ?
コハクアジトで待機してる。こっちで何かあっても外から援護してもらえるでしょ ?
コハクあと、これが心核。保管してあったのは3つで間違いない ?
ミリーナええ。ありがとう、すぐに誰のものか確認するわ。
ベリルその心核、劣化防止の封印がしてあるんだよね ?解き方とか大丈夫 ?
ミリーナ今はゲフィオンの記憶のおかげで封印の解除も、心核が誰かもわかるわ。少し待ってて。
ミリーナ……これはイレーヌさん。スタンさんの知り合いね。こっちは……エフィネア領主のカーツさん。アスベルさんたちの関係者だったかしら。
ミリーナそしてこれは……レグヌム領主のマティウスさん。ルカたちは敵対していたって言ってたから伝えておかないと。
カーリャこの場所に心核があるんだからその三人はリビングドール状態から解放されたってことでいいんですよね ?
ベリルうん。目を覚ませば元通りのはずだよ。心核の封印も解けたしね。
ヒスイで、俺らはどうすんだ。紋章付きの奴らを守りゃいいのか ?
三人「そうなんだ !」「そうなの !」「それですよ !」
ミリーナ――オスカーさんのスピルメイズ進むにつれて荒れてる気がするわね。先行してるシングやヒスイさんたちは大丈夫かしら。
リチア心配いりません。こういった状況に対応するためにわたくしたちが来たのですから。
ミリーナありがとう。本当に助かったわ。おかげで手分けして調査ができるし防御壁にはコハクやベリルがいてくれるから安心――
ミリーナあっ !
ミリーナあ、ありがとう、クンツァイトさん。
クンツァイト警告。このスピルメイズは劣化が激しい。リチアさまも、足元にお気をつけください。
リチアええ。この方のスピリアは相当弱っていますね。スピルーンが欠けた時のようなスピルメイズの縮小は始まっていないようですが。
リチア疑似心核を植え付けられた時と同様に外部から心核への接触があったとしか思えません。
ミリーナ変ね。聞いた限りでは、オスカーさんに疑似心核は入っていなかったようだけど……。
シングおーい、こっちに来てくれ !ヒスイが何か見つけたみたいだ。
ヒスイ――こいつだ。ここに落ちてた。
ミリーナこれ……ロゼが見たっていう魔導器に似てるけど……。ヘルダルフのものと同じなのかしら。リタがいればすぐにわかるのに。
クンツァイト自分が確認しよう。ロゼとデゼルによる証言はデータ化してある。キール研究室のデータベースを参考に――
ヒスイいいから結果だけ教えろって。魔導器か、違うのか ?
クンツァイトデータ照合。完全ではないが構造的には魔導器との判断が可能だ。
ミリーナじゃあ、これはオスカーさんの心核に取り付けてあったと見るべきね。なぜこんなスピルメイズの外れに落ちていたのかしら。
リチア……確か、ルグの槍は生命エネルギーを消費しているのでしたね。
リチアこの魔導器は、エネルギーの吸引を妨げる異物としてルグの槍に認識されたのかもしれません。
リチア本来はスピリア――こちらでいう心の中に異物があっていいはずがないのですから。
シング魔導器は、オレたちの世界でいうゼロムみたいなものだってこと ?
リチアそうですね。ですから、ルグの槍の起動時に心の世界にあるべきではない異物として、心核から強引に外されてしまったのではないでしょうか。
ミリーナ確かに、それで傷ができたのかもしれないわね。だからスピルメイズもこんなに荒れて……。
シング防御壁に穴ができるのもこの魔導器がオスカーの心核に影響しているせいかな。
リチアこの方の心核を正常に戻すことでそれもわかるはずです。
リチアこの振動はまさか……スピルメイズの縮小が始まったのですか ! ?
ヒスイだとしたら、あんま長くは持たねえかもしれねえぞ。こいつのスピリアはもうボロボロだ。
ミリーナ……シング。ソーマなら、この場所からオスカーさんの体の外へ出られるわよね。私、この魔導器を持って外へ出るわ。
シングわかった。オレが一緒にリンクアウトするよ。
シングただ、今のオスカーがどんな場所にいるかはわからない。戦う準備だけはしておいて。
リチアでしたらクンツァイト、あなたもミリーナと一緒に行ってください。先ほどのようにあなたの持つ情報が役に立つかもしれません。
リチアわたくしはこちらに残ってコハクのところへ戻ります。
クンツァイト否。今戻るのは危険です。
リチアわかっています。ですが、誰かがこの状況を伝えないと。一人のスピルメイズの崩壊が他の方にも影響を及ぼすかもしれないのですから。
ヒスイごちゃごちゃ言ってねぇで早く行け !リチアには俺がついてる。
リチアヒスイ…… ! ありがとうございます。
ミリーナシング、オスカーさんを助けに行きましょう。クンツァイトさんも、それでいいかしら。
クンツァイト……肯定。ヒスイ、リチアさまを頼む。

キャラクター4話【17-5 ミッドガンド領 領主の館1】
テレサオスカー ! お願いだから目を開けて !
テレサなっ ! ?
シング火が ! この人がオスカーだ。
テレサ誰 ! ? いつの間に入ったのですか !
シング驚かせてごめん。オレたち、きみが抱きしめてるその人を助けに――
テレサ近寄らないでっ ! 弟に何をする気です !
ミリーナ弟……。やっぱりあなたは……。
クンツァイト警告。彼女は極度の興奮状態にある。これ以上刺激すると錯乱状態に陥りかねない。
ミリーナわかったわ。まずは私一人で話させて。
ミリーナあなたはテレサさんですね。私は鏡士のミリーナです。
テレサ鏡士 ? 確かにその顔は黒衣の鏡士……。そうよ、あなたたちのせいで……。
テレサあなたたちがこの世界に呼んだからオスカーはこんな目にあったのです !
ミリーナ……確かにその通りです。ごめんなさい。恨み事はいくらでも受けます。だけど今は、オスカーさんの命を優先させて下さい。
テレサ! !
ミリーナこれを見て下さい。何かわかりますか ?
テレサそれは……魔導器 ?
ミリーナやっぱりそうなんですね。これはオスカーさんの心の中にあったものです。何か心当たりはありますか ?
テレサグラスティンが……弟の心核には魔導器が取り付けられていた、と……。
ミリーナそうだったのね……。でも、こうして取り出したから魔導器については、もう心配いりません。
テレサでは、この炎は ! ?熱くもない、けれど消えもしないのですよ ! ?
ミリーナこれは贄の紋章のせいです。心のエネルギーを燃焼している状態が炎のように具現化されているの。
ミリーナこのまま放置するとオスカーさんは命を燃やし尽くしてしまう。そうさせないために、私たちは動いています。
テレサオスカーを、死なせないために……。
ミリーナそう。だからお願いです、テレサさん。私たちにオスカーさんを助けさせて下さい。
テレサなぜ、あなたがそこまでするのです。オスカーを気にするのもどうせ自分たちの利益のためなのでしょう ?
ミリーナ……ええ、それはもちろんそうです。オスカーさんを助けるのは私たちのため。何があろうと救わなければならない。
テレサ
ミリーナその理由も、今までの経緯も、全て説明します。オスカーさんとテレサさんが納得するまで。
ミリーナけれど……救いたいという気持ちも本当なの。大切な人を目の前で失う怖さ……私も知ってるから。
テレサ………………。信じていいのですね。
ミリーナええ。オスカーさんに触れてもいいですか ?心核の治療をします。
テレサ……お願いします。
アスベル裂空刃 !
帝国兵ううっ……。
アスベルみんな無事か !
セネルああ。後ろも追っ手は無しだ。
マリク中庭の兵もまだ追い付かないだろう。魔鏡術で作った入口はイクスがすぐに閉じたからな。
レイアじゃあ、相手はこの地下通路の警備兵だけだね。っていっても、さっきからかなりの数だけど。
ジェイしかも進むたびに増えています。この先に何かあるようですね。
イクスああ。このまま進もう。
スタンうわ、でかいな ! この鉄の扉。
マリク巨大な鉄扉に、あの警備兵の数だ。どう見ても重要施設だろう。どうだ、イクス。
イクス俺も歪なアニマを強く感じます。中に入りましょう。ええと……どうやって開けるんだろう。
ルーティこういうのって、たいがいどこかに凝った仕掛けがあるのが定番なのよね。
レイアじゃあ、みんなで探そう !
ルーティ……おかしいわね。レンズハンターの勘ではこの辺にあるはずなんだけど。えい、えいっ !
ソーディアン・ディムロスアトワイト、ルーティを止めなくていいのか ?罠がないとも限らんぞ。
ソーディアン・アトワイトそうなったら、またスタンさんに助けてもらえばいいわ。
ルーティもう、嫌なこと思い出させないで !
スタンしかし見つからないなぁ。
アスベル……まずいな。いつまでもここにいると中庭の兵士たちが追いつくぞ。
イクスよし、魔鏡術でこの鉄扉に穴を開けよう。
アスベルそんな頻繁に創造の魔鏡術を使ってもいいのか ?
イクス確かに消耗はするけど、今は時間との勝負だしな。みんな、下がっててくれ。
イクス――えっ ?
セネルどうした、失敗したのか ?
イクス術が阻まれたんだ。っていうか、力が抑え込まれたような……。妨害しそうな魔鏡陣も見当たらないのに。
ジェイ術が阻まれる……ですか。イクスさん、この世界のエネルギー制御って鏡士以外では、魔鏡技師の作る機械が主なんですよね ?
イクスえ ? ああ、そうだな。ケリュケイオンや、カレイドスコープとかアンチ・ミラージュブレスみたいな器機は……あっ !
ジェイええ。まさにアンチ・ミラージュブレスなんて術や力の影響を抑え込むものだと聞いています。
ジェイだとすると、イクスさんの術をはねのけたのもそういった類のものかもしれません。いっそ専門家に相談してみては ?
フィリップ――そうか。贄の紋章たちは心の世界で繋がっているのか。
ゴーシュじゃあ、イエガー様もいるんだな ! ?
ドロワット助かるのよねん ! ?
キール……そのためには、みんなの力が必要だ。
レイヴン……なるほどね。事態は切迫してると。
フィリップもちろん協力するよ。こちらは何をすればいい ?
キール救世軍には、各地で火柱となった人たちを回収した後浮遊島に連れてきて欲しいんだ。
キールさっき説明した【逆しまの魔導砲】がじきに完成するはずだ。それを打ち込めば贄の紋章を無効化できる。
マーク目印はあの炎の柱だな。近づくことで計器類への影響はありそうか ?
キールいや、あの炎自体は幻のようなものだ。外界には影響しない。
ミントどうりで術が通じないはずですね。
クレスああ。ミントの言うとおりだったよ。それで、僕たちは何を ?
キールみんなは救世軍が到着するまで贄の紋章たちの保護を頼む。きっと帝国側も火柱を目指して駆けつけるはずだからな。
マークとなると、回収作業は荒事になるかもな。丁度いいのがウチに乗り込んでて良かったぜ。
フィリップよし、すぐに出発する。近場だと――
イクス応答せよ、ケリュケイオン。こちらイクス。大至急ガロウズに聞きたいことがあるんだ !
二人イクス ! ?
ガロウズ――なるほど。確かにこれは俺たち技師の分野だ。気付いたヤツ、いい勘してるぜ。
イクスだってさ。ありがとな、ジェイ。ガロウズ、開けるにはどうすればいい ?
ガロウズもう少し引いて、扉を全体的に映してくれ。……よし、そこだ。左右に制御盤が隠れているはずだ。
レイアあれ ? そこ、さっきルーティが触ってた場所じゃない ?
ルーティふふん、レンズハンターの勘は正しかったってことね。
ガロウズへえ、勘のいい奴ばっかりで頼もしいねぇ。
ガロウズさて、その制御盤を出すのが最初の難関だ。俺が言うとおりに操作しろよ。まずは――
帝国兵警備兵がやられてるぞ ! 奴らはこの先だ !
セネル来たぞ、追っ手だ !
イクス急いでくれ、ガロウズ ! 敵が来た !
ガロウズ了解。やり直しはねぇぞ。絶対に間違えるな。
イクスああ。みんなは後を――
アスベルわかってるさ。イクスは解除に集中してくれ。必ず守って見せる !

キャラクター5話【17-8 芙蓉離宮4】
グラスティンっ ! ゲフッ…………。………………………………。
バロール今度こそ死んだな ?さすがにもう復活はできぬ――
グラスティン……ヒ、ヒヒ……ヒャッハハーッ !残念だな。これでまた『ふりだし』だぁ !
バロールまだクロノスの力を使えるか。常人ならば負荷に耐えられずに死ぬかとうの昔に力の制御を失うはずだが。
バロール貴様のクロノスの力、流れがどうも歪に見える。
グラスティンヒヒヒ、神相手に研究成果が検証できるとは研究者冥利に尽きるねぇ。
バロールはあ……。いい加減、目障りだっ !
グラスティン……………………。
バロールしつこくたかる虫ほど不快なものはない。
グラスティンヒヒッ、いくらでも復活するぜ。お前がデミトリアスを返すまで付きまとってやる。
グラスティン勝手に人の楽しみを奪いやがって…… !
バロールなるほど、見えたぞ。クロノスの力の負荷が他に流れていくのを。
バロール貴様、『何人』いる ?
グラスティンほう、流石はバロール様だあ。まあ、バレたところで痛くも痒くもないがな。
グラスティン『俺』ならレプリカって便利な技術で増やし放題だ。何人だって用意できる。ヒヒヒ !
バロールなるほど。複製した自分の心核を外付けしてダメージを流したと見える。異世界の知識を小賢しく組み合わせたか。
グラスティンヒヒッ、その通り。異世界が混じったことでここはお前たち古い神が知る世界じゃなくなった。
グラスティンお前たちは大人しく俺に……デミトリアスに使われていればいいんだよぉ !
バロール勝手に神と祀り上げその力を好きに使おうなどとは浅ましい所業だ。貴様らのような者がいるから、世界は……。
バロール……よくわかった。貴様は徹底的に殺しきる。
バロール――コーキス ! 今一度、我が声に応えよ !
シグレコーキス、こっちは何もねぇぞ。
コーキスう~ん……。けど、バロールの気配を強く感じるのは地面の下からなんだ。絶対に地下があるはずなんだけどなぁ。
シグレおいおい、こんな廃墟まで連れてきて空振りなんて御免だぜ ?
コーキス墓守の街に連れてけって言ったの、シグレ様じゃん !
ムルジムごめんなさいね。炎の柱や、バルドのことだって気になるでしょうにシグレのわがままに付き合ってもらって。
コーキスあっ、ごめん ! そんなつもりじゃないよ。ここに来たのも俺の意志だし、シグレ様にはバロールから解放してもらった恩もあるからさ。
シグレあれはお前への恩返しの一つだ。気にすんな。それに俺の趣味も兼ねてたしな。
シグレとにかく気合い入れて探せ。ムルジムも気配程度はたどれるがお前ほどじゃない。頼りにしてるぜ。
コーキスそ、そうか ! ? わかった ! よーし、入口、入口っと……。
ムルジムたん――……素直な子ね。
シグレフッ、単純馬鹿ほど強くなるんだよ。
メルクリアコーキス、わらわじゃ ! 無事なのじゃな ! ?
コーキスっと、メルクリアだ。俺の通信文見たのかな。――メルクリア、こちらコーキス。
メルクリアおぬしからの報告、確認したぞ。まずは無事で何よりじゃ !
コーキス心配させてごめんな。リグレット様は ?
メルクリアイクスの使いの者たちが仮想鏡界まで運んでくれた。治療も済ませてある。
コーキスそうか、良かった……。ん ? ってことは、もしかして今は仮想鏡界から ?通信とか遮断してなくていいのかよ。
メルクリア緊急時にてジュニアが解放した。実はその折に兄上様が何も言わずにお一人で外に出たようでな。連絡がつかぬのじゃ……。
コーキスえっ、何で ! ?
メルクリアわからぬ。ただ、姿を消す直前におぬしたちが操られたと報告を受けておった。
コーキスまさか、俺やバルドを追って……。
メルクリア心当たりはそれしかない。故にバルドにも連絡したが繋がらぬ。おぬしもその様子だと、見かけてはおらぬようだな。
コーキスああ。もしボスを見かけたらすぐに連絡するよ。きっとここに来るはずだから。
メルクリアこことは、どこにおるのじゃ。
コーキス墓守の街だよ。ほら、前にメルクリアが一人で出てった時にリヒター様と一緒に迎えに行ったろ ?
コーキスあそこからさらに奥に行った潰れた村だよ。バロールに操られている時にここへ呼ばれてたんだ。
メルクリアなっ…… ! その場所は危険じゃぞ !未だ死鏡精の生き残りが潜んでおる。わらわは危ないところをウィルに救われたのじゃ。
コーキス死鏡精 ! ?
メルクリアコーキスも奴らに乗っ取られたことがあったのじゃろう ?何があるかわからぬ。重々気をつけよ。
コーキスう、うん……。いや、でも、もしかしたら…… !
コーキスメルクリア、死鏡精に襲われた場所ってどこだ ?
コーキスメルクリアの話じゃ、この辺りなんだけど……。シグレ様、ムルジム様、草むらの中を探してみてくれ。
シグレ応。けどよなんで死鏡精と入口探しが関係あるんだ。
コーキスバロールは俺たちを操る時に「これで死の砂嵐に手を伸ばせる」って言ってたんだ。死鏡精は死の砂嵐の一部、みたいな感じだったと思う。
コーキスそれが現れてた場所ならバロールの力に一番近いんじゃないかって思ってさ。
ムルジムあったわ ! こっちよ。
シグレさすが猫。茂みを探るのが上手いぜ。
ムルジムどういう褒め方よ。――コーキス、地下への入り口って、これかしら。
コーキスああ ! ありがとな、ムルジム様。
シグレへえ、地下水道に繋がってるのか。よし、行くぞ。
コーキス待ってよ、シグレさ――
バロール――コーキス ! 今一度、我が声に応えよ !
コーキス! ?
コーキス……あれ…… ? どうなったんだ ?ここは、スピルメイズ…… ?
コーキス ?そうだ。バロール様に呼ばれたんだよ。魔眼の使用をご所望だ。
コーキス俺 ! ?
コーキス ?ああ、俺だよ。さあ、早く行くぞ。
コーキス嫌だ ! なんでマスターでもないバロールに従わなきゃいけないんだよ !俺のマスターは一人だけだ !
コーキス ?そのマスターだってお前は信じきれてなかったくせに。
コーキス! !
コーキス ?思い出せよ、コーキス。
コーキス ?……俺の魔眼が……バロールの魔眼 ?
コーキス! !
コーキス ?マスターは……俺を作っちゃいけないって知ってた…… ?
コーキス ?マスター……俺……生まれちゃいけなかった…… ?
コーキスやめろっ ! 今さらそんなもの見たくない !そんな弱い俺…… !
コーキス ?だよな。でも、そういう俺をバロール様は必要としてくれてる。嬉しいよな。
コーキス ?俺はバロール様に力を貸す。お前も行こう。
コーキス駄目だっ ! 俺は行かない……。お前も行かせないっ !

キャラクター6話【17-9 芙蓉離宮5】
スタン鳳凰天駆 ! !
ソーディアン・ディムロスいいぞ、スタン。敵もだいぶ片付いてきたようだ。
スタンああ。増援の前に扉が開けば全員逃げ込めるな。イクス、扉はどうなってる ?
イクスああ、これで――……解除だ !
ルーティやった、扉が開いたわ !
マリクしんがりはオレが務める。――連弾、行かせてもらおうか ! 出でよ、爆炎 !
アスベル今のうちだ ! みんな駆け込め !
ガロウズイクス、全員入ったら内側からロックだ。しばらくは外側からの操作を受け付けないから敵の足止めになる。
イクス了解 !
イクスロック完了。ありがとうございます、マリクさん。
マリクいや、これで時間が稼げればいいがな。
セネルおい ! みんなこっちに来てくれ !
マリクどうした ! そっちにも警備兵が――
イクス火柱 ! 贄の紋章の人たちだ !
イクスくそっ、これ以上近づけない。この床の紋様は魔鏡陣か ! ?
ルーティスタン ! あそこに倒れてる人って…… !
スタンイレーヌさんだ !
アスベルあれは……ヴィクトリア教官 !
マリクカーツ……、おい、カーツ !
レイア…………。
ジェイ大丈夫ですか ?レイアさんのところは、まだ領主も従騎士も判明してませんでしたよね。
ジェイやっぱり、あの中に知り合いが ?
レイアうん……。ここに来たのがわたしで良かった。きっと、二人が見たら動揺すると思うから。
レイアプレザ……、ウィンガル……。アルヴィンとガイアスに伝えないと。
ルーティイクス、これってどうすれば近づけるのよ。あたしやレイアの仕事ができないわ。
レイアそうだね。せめてみんなが怪我してないかだけでも確認したい。
イクス近づけないのはこの魔鏡陣のせいだと思うんだけど……。
フィリップガロウズ、ちょっとごめん。――イクス、魔鏡でその部屋の様子を映してくれないか。
イクスフィルさん !これです。どうやれば解除できますか ?
フィリップこれは……。今は無理だ。ルグの槍の起動を止めないことにはこの魔鏡陣は消せないようになっている。
二人…………。
イクスだとしても、このままじゃ――
ジェイイクスさん、歪んだアニマはどうです ?
イクスえ ? ああ、今のところ、ここが一番強いな。
ジェイでは、この周辺が目標地点ですね。起動装置を探しましょう。それが第一目標のはずです。
セネルそうだな。みんなを助けるにも、それが一番早い。
ジェイセネルさんはそのために、倒れたシャーリィさんから離れてここにいるんですもんね。一刻も早く、贄の紋章から解放するために。
セネル!おい、ジェイ…… !
イクスそうか。シャーリィだってあっちで頑張ってるんだよな。
イクスありがとう。危うく優先順位を忘れるところだった。早く起動を止めないと。
スタンイクス、ごめん。俺、驚いて……。でも、もう大丈夫だ。
アスベルこの辺りで起動装置を探すんだろう ?俺はあっちを見てくるよ。
イクスああ、頼んだ。
イクスそれらしきものは無いな。ここは本ばっかりだし……別の場所を見てみるか。
イクス……あれ ?
イクス(この本…… ?セールンドの王立図書館のマークが入ってる。しかも相当古いな。なんでこんなところに……)
イクス(そういえばゲフィオンは王宮で見つけた創世神話の古い形の書記を解読中だったって言ってたけど)
イクスまさか……。
イクス1st(イクス、まずいぞ ! コーキスが危ない !)
イクスえっ ! ?
イクス1st(今まではどれだけ操られても『イクスの鏡精コーキス』だった)
イクス1st(けど今は『バロールの鏡精コーキス』として使おうとしてる !このままじゃコーキスが乗っ取られるぞ ! )
イクスコーキスを守らないと !でも、どうすれば……。
イクス1st(コーキスの心に触れろ。鏡精とマスターは繋がってるんだ。そのまま自分の心から辿ればいい)
イクス1st(さっきも言ったはずだ。俺にわかるなら、イクスにだってわかる。必ずコーキスのところへ辿り着ける)
イクスそうか。スピルメイズのイメージで行けばいいのか。けど、このままじゃ俺も気を失って倒れちゃうな。
イクスイクスさん、俺の体、お願いできますか ?
イクス1st(任せろ。こっちも時間はないからイクスとしてみんなと行動しておくよ)
イクス助かります。それじゃ行ってきます。
イクス1st(ああ。絶対コーキスを渡すなよ ! )
コーキスこれで終わりだ !
コーキス ?くっ……俺はバロール様の下へ……俺を本当に必要としてくれる人の側に……。
コーキス ?…… ? なんで……ここに……。
コーキス……消えた…… ? なんだよこいつ。
コーキスくそっ、本当に必要としてくれるのはマスターだ。俺はマスターを信じてる ! 本当に……。
コーキス…………本当に ?
イクスいた ! コーキス、無事だったか ! ?
コーキス…… ? なんで……ここに……。ここ、俺の心の中で……。
イクス良かった……大丈夫か ?バロールの鏡精になってないよな。
コーキスマスター、知ってたのか ?それでここまで来てくれたのか ?
イクスああ。お前を守りたくてさ。ごめんな、操られてた時にも何もしてやれなくて。
コーキスもしかして、さっきの俺が消えたのは……。――……ははっ、そういうことか。
コーキス俺……マスターやみんなに助けられてばっかりだ。弱い心の自分を鍛えなおすためにマスターから離れたのに……。
イクスコーキスが弱い、か。俺の鏡精なんだから、弱いのは当たり前だろ ?
コーキスへ…… ?
イクス俺もみんなに助けられてばっかりだ。けどさ、そういうマスターと鏡精だからこそ一緒に支え合っていくのが一番だと思わないか ?
コーキスけど俺は、本当は生み出されちゃいけない鏡精だぞ !
イクスそれ、懐かしいなぁ。あの時は二人でナーザ将軍に怒られたっけ。……やっぱり、ずっと気にしてたのか。
コーキス…………。
イクスなぁコーキス、俺にはお前が必要なんだ。弱い者同士、支え合う存在がさ。
イクスだからお前が生み出されちゃいけないなんて世界中の誰にもそんなこと言わせない。
イクスコーキスは望まれて生まれたんだよ。俺に。
コーキス……マスター ! お、俺――
? ? ?ウオオオオオオオオ ! ?
イクスなんだ、今の叫び声は ! ?
コーキスあれはバロールだ !
イクスコーキス !
コーキスマスター !
コーキスマスター……。
ムルジム起きた ? 心配したのよ。
コーキスムルジム様 ? マスターは ! ?
ムルジムマスター ? やだ、頭を打ったかしら。あたしのしっぽ、何本に見える ?
コーキス……ええと、そうか ! ここ、地下水道の入口だ。入った瞬間にバロールに意識を持ってかれたんだ……。シグレ様は ?
ムルジムシグレは先にバロールの下へ向かったわ。もう我慢の限界だって。
コーキスマジかよ ! 早く追いかけよう !

キャラクター7話【17-13 ミッドガンド領 領主の館2】
カーリャオスカーさまの体の傷、治ってませんね……。治癒術をかけたのに。
ミリーナええ……。クンツァイトさんも診てもらえる ?
クンツァイト肯定。細胞レベルでの再生箇所は見られるものの施した治癒術に比例した治療効果は得られていない。
テレサどういうことです ?
ミリーナ体の傷は心核への負担にもなるのでまずは治癒術を試みました。でも、思ったよりも術の効きが弱いんです。
ミリーナやはりオスカーさんの心の中に戻って心核の治療を先に試みます。
テレサでしたら、私も連れていってください。
ミリーナそれは……。
テレサもう嫌なのです !この子が傷つき、命を削って行くのをただ見ているだけなんて。
シング連れていくことはできる。けど――
クンツァイト警告、動体反応 !複数名がこちらへ接近中。
シング帝国兵か ! ?
クンツァイト肯定。突然現れたことから転送魔法陣による侵入と推測される。さらに外部より数名が侵入。
ミリーナオスカーさんの確保に来たんだわ !
テレサグラスティン……。いつの間にか消えたと思ったらこういうことだったのですね !
クンツァイト全員でスピルリンクすれば脱出は可能。ただし、オスカーの肉体はこの場に置いていかなければならない。
テレサいいえ、それはできません !
ミリーナテレサさん ! ?
テレサあなたたちは早くオスカーの心へ。この子は私が守ります !
カーリャ無茶ですよ !
帝国兵βテレサ・リナレス、オスカー・ドラゴニアを確認。両名の捕縛を――
ベルベットラファティ・レイヴン !
テレサあなた…… !
ベルベット……間に合ったようね。
ミリーナベルベット ! ? どうしてここに ! ?
ベルベットあんたたちこそ、なんでいるの。
ベルベットああ、片付いたかしら。
ライフィセットベルベット、こっちは終わったよ !
テレサ二号……。
ライフィセットテレサ様、やっぱりここにいたんだ……。
エレノアテレサ、早くしてください。敵の援軍が来ないうちにオスカーを保護――
エレノアそこにいるのはミリーナですか ! ?それにシングたちも。あなた方はスピルリンク中と聞いていましたが。
ミリーナええ。オスカーさんの心核が危険だったから一時的に外に出て対処してたの。またすぐに戻るつもりよ。
エレノアそうですか。私たちは、火柱となった外部の贄の紋章たちを保護して、ケリュケイオンでアジトへ連れて来るよう要請を受けているんです。
ベルベット説明はそのくらいにして。あまり時間がないんだから。
ベルベットそれで、あんたはどうするの。
テレサベルベット…… !
ミリーナテレサさん、オスカーさんの心は私が守るから体の方をお願いします。
テレサ私に、ベルベットたちと一緒に行けと ?
シングオレもその方がいいと思う。それにさ、オスカーが目覚めた時にお姉さんが横にいた方が安心するんじゃないかな。
テレサ
エレノアテレサ、お願いです。ここは一旦収めてください。オスカーのために。
テレサ……わかっています。ここで争うほど愚かではありません。
テレサあの子が助かるなら私はどんな憎しみも屈辱も、呑み込んでみせます。
ベルベットそうね……。弟を守るのは、姉の役目だもの。
テレサでも、それではオスカーの心の中で何かあっても私は助けることができないのですね……。
シングだったらオレ、テレサさんと行くよ。ケリュケイオンにもソーマ使いがいたほうが何かと便利だろうし。
テレサあなたはそれでいいのですか ?
シングああ。女の子の笑顔を守るのもソーマ使いの役目だからね。
ライフィセットテレサ様が面食らってる……。
シングミリーナ、クンツァイト、あっちは頼んだ。コハクにもよろしく言っといて。
ミリーナわかったわ。ありがとうシング。それじゃみんな、お願いします。
クンツァイトでは行こう。ミリーナ。
ナーザ(バルドは新大陸で姿を消した。後を追うにも時間も当てもない)
ナーザ(やはり奴を救うにはこの場から直接介入するほか手だてはないか……)
ナーザふっ……。
ナーザ(『これ』を使ったことがバルドに知れたら大目玉だな。しばらくは小言が続くことを覚悟せねば)
ナーザ(死人の体でこの奥義を使って果たしてその後があるかは疑問だが……)
ナーザ(元より死した身の上だ。このかりそめの命は、生者のためにこそある)
ナーザバルド、すぐに助けてやるぞ。
ナーザ秘伝魔鏡術【ギエラ・ビフレスト】 !
バロールの尖兵なるほど。この船の方角はセールンド諸島か。あの辺りには沢山の小島がある。そこが貴様の根城だな。
バロールの尖兵しかし、ずいぶんと大人しく言うことを聞いたな。もっと暴れるかと思ったぞ ?
フリーセル俺如き腕前で、バルド様に敵う筈もない……。たとえバロールの尖兵と成り果てようとな。
フリーセル……それより貴様、何故バルド様の体を奪った ?
バロールの尖兵この男は何より生に執着している。故に器として使いやすい。
バロールの尖兵我らの作ったこの世界に留まりたいという強い意志があるからこそ、命を生む俺には従順になる。
フリーセル貴様が何を言っているのかさっぱりわからん。
バロールの尖兵わからなくていい。俺はお前が集めているものを――この世界で生まれた、ティル・ナ・ノーグの住民を我が手に取り戻すまで。
フリーセル………………。
バロールの尖兵しかし、お前は何故ビフレストの生存者だけを集めているのだ ?
フリーセル帝国の歪んだ目的から同胞を解放するためだ。奴らは本来のティル・ナ・ノーグで生まれた人間だけを集めて、この世界から逃げようとしている。
バロールの尖兵崩壊しつつある世界を捨てるのはまあ、考えそうなことだ。だが、お前は逃げようと思わないのか ?
フリーセル……咎人の揺り籠から解放されるのは虹の橋が架けられた時だ。
フリーセルその前まで、我々はこのティル・ナ・ノーグで生きねばならない。
フリーセルそれが先代の知の乙女であるエルダ皇后陛下の残した遺言――
バロールの尖兵くっ……、ああああああっ ! !
フリーセル! ?
バロールの尖兵くっ……、ああああああっ ! !これは……何が…… !
ナーザ苦しいか。ならば早々に立ち去るがいい。
バロールの尖兵お前は…… !……俺の、体が、言うことをきかん……
ナーザ俺のだと ?何をほざくか。痴れ者が。
ナーザこの体の主の名はバルド。我が愛する乳兄弟でありこれより長きに渡りメルクリアの守護を担う者。
ナーザお前ごときで代えがきくものか !
バロールの尖兵なぜ、体が動かない…… ! これは心核への直接攻撃か…… ?
ナーザ心と心を虹の橋で繋いだ。どれだけ距離が離れていようとその自由を拘束できる。
バロールの尖兵虹の…… ? 想像の魔鏡術【ギエラ・ビフレスト】か !貴様、ナーザ・アイフリードの子孫だな ! ?
ナーザそんなことはどうでもいい。
ナーザバルドから手を引け !

キャラクター8話【17-14 心の世界2】
ミリーナ待たせてごめんなさい !
ベリルミリーナ !無事に帰ってこられてよかったよ。オスカーの心核の調査は ?
ミリーナええ。事情はだいたい確認できたわ。
コハク…… ? ミリーナと、クンツァイトだけ ?
クンツァイトシングはテレサと一緒にケリュケイオンに行った。彼女の笑顔を守りたいそうだ。
二人はぁ ! ?
コハクシング……。
ヒスイ野郎、コハクにこんな顔させやがって !ボコボコにしてやる !
ベリルどこの女だよ、そのテレサってのは !
カーリャ酷い誤解が生じてます !
ミリーナ誤解はとくけど、まずはオスカーさんの心核よ。早く処置を始めましょう。
ミリーナ……これで何とかなるかしら。魔鏡術で一時的に心核の傷を覆ってみたんだけど。
リチアそうですね。今はこれで凌ぎましょう。心核の完全治癒には時間を要しますから。
ミリーナそれじゃ、ヴァンさん、シャーリィ、マオお願いします。
ヴァンでは、穴をふさぐために全員で出力を一時的に上げよう。成功したら再び今の状態に戻す。いいな ?
二人「了解 !」「はい !」
カーリャあっ、穴がふさがってます ! 大成功ですよ !
四人やったーー !
ミリーナ良かった…… ! 後は【逆しまの魔導砲】が完成すれば……。
マークよお、お疲れ。マギルゥたちも戻ってるぜ。
ベルベットそう。ミッドガンド領オスカー、回収完了よ。後はよろしく。
テレサ…………。
マークおいおい、そう怖い顔しなさんな。さて、オスカーはこっちに運んでくれ。
シングテレサさん、こっちだって。
テレサあの人たちも、大切な人をオスカーと同じように…… ?
テレサこれは ! ?
クレス炎が弱まった…… ?
ゴーシュまさか生命エネルギーが燃え尽きたんじゃ――
レイヴンっ ! ば、バカ言わないでよ。
フィリップみんな、落ち着いてくれ。浮遊島から連絡が入った。
フィリップ今起きた現象だが、これは精霊力を使って心核の生命エネルギーを守る作業が行われた結果だそうだ。
フィリップ浮遊島の贄の紋章たちも炎が抑えられてうっすらと発光する程度らしい。こちらとも一致しているから、安心してくれ。
フィリップとはいえ、予断は許さない状況だ。何かあったらすぐにブリッジへ連絡を頼むよ。
シング防御壁が完成したんだ !
ミントそうだったんですね……。驚きました。
ドロワット心臓に悪いにょ~……。
レイヴンホント、こっちが余計なエネルギー消費したわ。
ライフィセットみんなも少し休んで。飲み物持ってきたから。
ライフィセットあの……、テレサ様も、どうぞ。
テレサ二号……。いいえ、あなたたちと慣れ合うつもりは――
ライフィセットもしかして、今のテレサ様はまだ……。
テレサなんです ?
ライフィセット……ううん、何でもない。
ライフィセット僕が言いたいのは……。僕の名前はライフィセット。二号じゃありません。
テレサ……あなたのことはアルトリウス様から聞いていました。
テレサ聖隷が名を名乗り人のように振る舞う様は奇妙なものですね。
ライフィセット…………。
テレサけれど、ここは異世界ですしそういうこともあるのでしょう。
テレサ……飲み物を頂けますか。ライフィセット。
ライフィセットはい !
レイアこれだけ探しても見つからないなんて……。
セネル他の場所を探すにしてもイクスのアンテナに引っかからなきゃ意味ないしな。
マリクイクス、他にアニマの歪みを感じる場所はあるか ?
イクス(1st)いや、俺もここ以外は考えられません。
ジェイとなると、上か下ですね。ただ地図上で見ると、この上にある可能性は低い。となると――
イクス(1st)おお、俺と一緒だ ! さすがジェイだな。ここって、構造的に地下がありそうなんだよ !そうだろ ?
ジェイえ、ええ。その通りです。
イクス(1st)贄の紋章の人たちの位置から考えても魔鏡陣まで施しておいて、起動装置だけを遠くに配置する意味はあまりないと思う。
ルーティけど、下に降りられそうな場所はなかったわよ ?
イクス(1st)そこは――俺がなんとかする。
イクス(1st)………………。
アスベルイクス、大丈夫か ?負担になるなら他の手を考えよう。
イクス(1st)アスベル……。君はいい奴なんだな ! うん、やっぱり仲間っていいよなあ。
アスベルイクス ?
イクス(1st)――よし、やってみよう !
イクス(1st)(俺は以前、オーバーレイで暴走を起こしている。『このイクス』も、スタックオーバーレイで魔鏡結晶を大量に具現化させてしまった)
イクス(1st)(この体で俺が制御できるかは未知数だ。でもこの体は今までイクスが鍛えてきた体だからな。俺は一人の鏡士として君を――そして自分を信じる)
イクス(1st)――魔鏡の力よ !
イクス(1st)(よし、成功した――)
バロールの尖兵こんなことが……うおおおおおっ ! !
ナーザ聞くに堪えんな。疾く失せよ。
ナーザバルド……。
バルドウォーデン様…… !
ナーザお前はまた……、まあ、今はいい。よくぞ戻った。
バルドはい。誠に申し訳ございません。この度の失態には恥じ入るばかりです。尊き御身を私のような者のために――
ナーザお前が無事ならばそれでいい。それとも、俺のしたことが不満だったか ?
バルド……いや、心の底から嬉しいよ。ありがとう。
バルドけれど、あれだけは頂けないな。
ナーザ! !
バルドその体で奥義を使うなんてこちらの肝が冷えたよ。こんな注意ができるのは、奥義の存在を知る僕しかいないのに。だいたい昔から自分を大事にしろと――
ナーザ説教は後で聞く。フリーセルのことは任せるぞ。
バルドあっ、ウォーデン !
ナーザ……よし、どうやら戻れたようだな。しかし、バルドの奴め……。
? ? ?――あ、ええと、お帰り。
ナーザ! ? 誰だ !
イクス1stあ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ?
ナーザなっ、まさかお前は…… !

キャラクター9話【17-15 墓守の街4】
コーキス…………ふへっ。
シグレなんだよ気持ち悪ぃ。お前本当に大丈夫か ?
ムルジムそうよ。さっきから突然変な笑い声出して。
コーキスえ ? へーきへーき。
コーキス(あれは夢じゃないよな……。会いたいよ、マスター……)
シグレまぁ、お前がバロールのところまで連れてってくれりゃどんなニヤけたツラしてたって構わねえけどよ。
コーキスちゃんと気配は追ってるって。この先から強い力を――あ…… !
ムルジムここ、何かしら。神殿みたいね。
コーキスあそこ、女の人が倒れてる !
シグレ待て。ありゃ死人だ。しかもずいぶん前のな。
コーキスえ ? 生きてるみたいに見えるけど……。
ムルジム屍蝋よ。ほら、ぬめっと光ってるように見えるでしょ。気温や湿度とか、特殊な条件を満たした環境に死体があった場合、あんな状態で保存されることがあるの。
シグレま、人間蝋燭ってとこだな。で――問題はその死体の奥にいる奴だ。出て来いよ。
コーキスえっ ! ?
ロクロウ…………。
二人! !
シグレなんでお前がここにいる。
コーキスびっくりした…… !そりゃ会いたいとは思ってたけどさ。
シグレそういやコーキスもこいつとは存分に斬り合うって約束だったか。
コーキスえ ? 何言ってんだよ、シグレ様 !斬り合うって――
コーキス(マスターと…… ?)
シグレけど、俺が先だ。アルトリウスを倒したこいつを倒す。そういう約束なんでな。
コーキス(そうか、シグレ様にはマスターがロクロウ様に見えてるんだ ! )
コーキス待ってくれ、シグレ様 !あいつはロクロウ様じゃない !
シグレあ ? ならなんだってぇんだよ。
コーキス俺に見えているのはマスターだよ。けど、あれは――
イクス俺にはお前が必要なんだ。弱い者同士、支え合う存在がさ。
イクスコーキスは望まれて生まれたんだよ。俺に。
コーキス(今なら使いこなせる ! この魔眼を ! )
シグレコーキス、お前、その眼…… !
コーキス視える…… ! やっぱりあいつ人じゃない。何かビカビカ光るエネルギー体だ !きっとこいつはバロールだ !
シグレ……そうか。気配まで擬態してくるとはな。だがありがとよ、コーキス。どうやら俺たちは『目的』にたどり着いたようだ。
シグレその姿、俺にとっちゃいい余興だ。ロクロウの時も尖兵の時も最後はコーキスに邪魔されたからな。
シグレここはきっちり決着つけさせてもらうぜ !バロール !
イクス………………あれ ?
スタン階段だ ! 下にも空間があるぞ !
アスベルやっぱり地下があったのか。大成功だな、イクス !
イクスあ、ああ…………。
イクス(イクスさん……、イクスさん…… ? )
マリクよし、オレが先に降りよう。後ろは任せたぞ。
アスベルはい ! みんな、行こう。
イクス(イクスさん、どこに行ったんですか ?俺、戻ってきましたよ ! )
レイアねえ、これ、もしかして ! !
イクス(行かないと……。そうだ、あの王立図書館のマークが入った本は確保しておいたほうがよさそうだな)
イクスごめん、みんな。遅れ……――これは !
ジェイええ。本当に当たりのようです。
レイアわたしもそう思う。だって、この装置から繋がってるあれ……心核だよね。
イクスこれがルグの槍の起動装置……。いや、ちゃんと確認しないとな。――ガロウズ、これを見てもらえないか。
ガロウズ――よし、概ねわかったぞ。その装置はエネルギーを引き入れている。で、エネルギーってのが、マクスウェルの残滓だ。
イクスマクスウェル ! ? どうしてルグの槍に !
ガロウズルグの槍を固定するエネルギーに利用してるようだな。
ガロウズしかも、ただ精霊の力ってだけじゃなくマクスウェルの残滓は、死んだマクスウェルの残りかすつまり本体そのものだ。そりゃ強力だろうよ。
マリクガロウズ、心核を取り外すためにも起動装置はなるべく安全に停止させたい。どうすればいい ?
? ? ?ヒヒヒッ ! ヒャーッハハハハ !
セネル今の声……グラスティンか ! ?奥の方からだ。
イクス確認してくる。ジェイとルーティは来ない方がいいな。黒髪はまずい。
マリクわかった。オレはジェイたちと一緒に起動装置の停止を進めておく。あっちは頼んだぞ。
グラスティンヒャーハハハハッ !ほら、また最初から殺してみろよ !
バロール……やはり、答えぬか。
イクスグラスティンとデミトリアス陛下…… ! ?
スタンあいつら、仲間割れか ! ?
セネルスタン、声が大きい。気づかれるぞ。
バロールコーキスさえ我が声に答えていれば貴様など魔眼で存在自体を消し去れたものを。
グラスティンなんだ、調子が悪いのか ?デミトリアスを喰ったりするからだ。さっさと吐いてすっきりしろよぉ。ヒヒヒ !
イクスコーキス…… ! ?じゃあ、あの陛下はバロール !
アスベルだとすると、グラスティンはデミトリアスを取り返そうとしてるのか。
ラムダ(滑稽だな。あのグラスティンという男は気づいているのか ? 己が人に与えてきた苦痛を今まさに自分が受けているのだと)
ラムダ(悪意も、善意も、巡るものだな)
アスベルラムダ……。
グラスティンデミトリアスさえ戻せば勝手にルグの槍を起動して計画をブチ壊したことは許してやるぜ。
バロールあれは我が槍だ。貴様の愚劣な口から名を呼ばれるだけでも怖気がする。
スタンあれ ? じゃあ贄の紋章の火柱はバロールがやったってことか ?
レイアええっ ! これってどうすればいいの ?バロールが勝っても、グラスティンが勝ってもまずいよね ?
バロール今のは…… !フッ、どうやら決着がついたようだ。貴様の負けだな。
グラスティンなに…… ?
バロールたった今、【ギエラ・ビフレスト】が我が尖兵に打ち込まれた。これで虹の橋が架かる。
グラスティン【ギエラ・ビフレスト】…… ?
バロール小賢しい貴様でもさすがに知らぬか。創世の鏡士がそれぞれ受け継いだ三つの奥義の一つだ。
バロールティル・ナ・ノーグからニーベルングへ虹の橋が架かれば、我が鏡精ルグとの再会が叶う。
バロールルグさえいれば、共に死の砂嵐の中の遺物をこの地に降らすことができる。今日までの貴様らが重ねた歴史は消し去ってくれよう。
グラスティン歴史を…… ? 何を言ってる…… ?
バロールわからぬか ? 魔鏡戦争による大陸消滅前と同じ状況を作るのだ。
バロールこの世界の時間を巻き戻すでもなく今の世界を壊して、元の世界を甦らせる。そういうことだ。
バロール貴様らは今の世界を捨てて自分たちは生き延びようとしているようだが、俺はこの揺り籠世界の全てを守る。異世界の異物は消してしまえばいい。
グラスティンヒヒヒ…… ! 傑作だ !それで事態が変わるとでも思っているのかあ ?またフィリップとあの女が同じことを……――
グラスティン……あ…… ?
バロール本体にもダメージは蓄積していたようだな。どれだけ複製を作ろうと全てを受け流せるはずもない。お前は世界より先に死ね。
バロール……く、雑魚に手間取った。これでは……この体の持ち主も持たない、な……。
バロール……我が末裔か。手を出さぬよう言ったはずだが。
イクス話は全部聞いた。なおさら俺が止めなきゃならない。
バロール異世界の仲間とやらを巻き込んでか。
スタン巻き込まれてなんかない。俺たちも自分の意志でここに立ってる。
レイア全部無くなるのを知ってて楽しく過ごせるわけないでしょ。
アスベルああ。ここで終わらせたりしない。あいつに見せてやらなきゃならないんだ。俺たちの『これから』を。
バロールなるほど。だが、お前たちだけでこの世界の終わりが止められるものか。
セネル俺たちだけじゃないぜ。心の中でも戦ってる奴らがいるからな。
イクスああ。俺たちが積み重ねた思いで、お前を止める !
バロール仕方が無い。……光魔よ。俺が虹の橋を架け終わるまで奴らを足止めしろ !

キャラクター10話【17-15 墓守の街4】
パスカルリタ、そこの丸いのギューンってしたら上へパチンでポチポチドン ! で、お願い。
リタったく、いつもそれなんだから。はい、これでいいわ。キール、後はあんたよ。
キールなんであれで通じるんだ……っと、よし、結果が出たぞ。
キールジュニアの紋章データも含めたパラメータ領域での安定性が確認できた。ハロルド、いけるぞ !
ハロルド了解。これを組み込めば―― !はい、【逆しまの魔導砲】、完成ーー !
リタ……なに、今の ?
キールおい、浮遊島の計器類全てに異常値が出てるぞ !
テレサオスカーの炎が七色に…… !
レイヴンおい、ブリッジ !アレクセイたちの様子がおかしい。すぐに来てくれ !
ジュードなんなんだ……。みんなの七色の炎が螺旋を描いて空へ伸びていく……。
アニーどうしたらいいんでしょう……。一時は落ち着いたと思ったのに。
リッドレイスからだ !レイス、なんかこっちのお前らヤバイことになってるぞ ! え……それマジかよ !
リッドおい、あっちの防御壁何かの力で侵食されてるらしい !
プレセアそんな、せっかく作ったのに…… !
しいなその何かの力ってのは、なんなんだい ! ?
? ? ?その力、以前感じたものとよく似ています。アイフリード……鏡の精霊の力に。
しいなあんた、ヴェリウスかい ! ?
ヴェリウスええ。あなたの声が聞こえました。
しいなヴェリウス、心の精霊のあんたならあっちで何が起きてるのかもわかるだろ ?力を貸して欲しいんだ。頼むよ。
ヴェリウスええ。もちろんそのつもりです。まずは、残念なことを伝えねばなりません。
ヴェリウス彼らから立ち上る虹のオーラで虹の橋は完成してしまいました。
ヴェリウスこのままでは、この世界は消えてなくなります。
ヴェリウスですが、今、虹の橋を制御しているのは帝国の装置ではなくバロールです。まだ贄の紋章たちの命が使われたわけではありません。
しいなけど、そのアイフリードだか鏡の精霊だかの力ってのに防御壁は破られそうなんだろ ?
ヴェリウス正確には『似た力』です。恐らくはアイフリードの残した奥義をバロールが使っているのでしょう。
ヴェリウス贄の紋章たちを守る壁は精霊の力。ですからアイフリードの魔鏡術に引きずられてしまう。
しいなつ、つまりどうすればいいのサ ! ?
ヴェリウス私の力で防御壁を補強しましょう。
ヴェリウスただし、防御壁を構築している者たちも疲弊しています。私の力で支えられるのはわずかな間かもしれない。
ヴェリウス今のうちに装置を破壊し【逆しまの魔導砲】を放ってください。
しいなわかった。ありがとう、ヴェリウス。あたしの声に応えてくれて。
しいなよかったよ……。少しはあたしでも役に立てたみたいでサ……。
? ? ?しいなはいつだって頑張ってるよ。大丈夫、これからもヴェリウスの中でしいなのこと応援してるから……。
しいな――いまのは…… !
バロールフ、遅かったな。もはや虹の橋は我が手に――
バロールなんだ……これは…… !
? ? ?【ギエラ・ビフレスト】、か。すごいな。こうして人の心に侵入できるなんて。
バロール貴様……貴様は俺の末裔か ! ?何故だ ? 貴様はもう死んだはずだろう ! ?本来のイクス・ネーヴェ !
イクス(1st)離魂術だよ。ビフレスト皇国が受け継いだ力で俺の体だけが生かされ続けてきた。
バロール離魂術……ダーナの秘伝魔鏡技か。しかし何故我が血を明け継ぐ貴様が【ギエラ・ビフレスト】を……。
イクス(1st)さっき知り合った友達が親切な人でね。俺とお前の心を繋いで送り込んでくれたんだよ。
バロールそうか、貴様の死体を使っていた奴が……。
イクス(1st)諦めろ、バロール。ルグの槍を解除するんだ。
バロール揃いも揃って同じことを…… !ぐっ…… !
イクス(1st)無駄だよ。【ギエラ・ビフレスト】の拘束はお前の力を使う尖兵も敵わなかったって話だ。
バロール尖兵か……、我が力の一部を下した程度でつけ上がるなあああっ !
イクス(1st)拘束がゆるんだ ! ?
バロール貴様はバロールの血族だ。【ギエラ・ビフレスト】を使いこなせると思うなよ !
イクス(1st)くっ…… !
バロール我が血に連なる者よ。貴様は絶対俺には逆らえないと教えてやる。俺の糧となるがいい !
ロクロウの幻……っ !
シグレつまんねぇな。期待はずれもいいとこだ。お前、本物よりもずっと弱かったぜ。
コーキスあっ、バロールの光が消えた…… !
バロールふん、さすが同じ一族だ。よくなじむ。イクスよ、このまま俺の中に溶けていけ。
バロールっ ! 今のは……。ぐおおおおおおおっ ! !
バロール俺の核が…… ! 力が……削がれる…… !そうか……俺の神殿に踏み込んできた奴らか !
イクス(1st)はぁ……はぁ……喰われるとは思わなかった。けど……フフ、いいザマだな、バロール。今のお前、俺より弱ってるじゃないか。
バロール! !
バロール……ぐっ……。
スタンバロールが……倒れた ! ?
イクスあれ……めまいが………。
セネルおい、どうした !
レイアイクス、大丈夫 ! ?
イクスああ、平気だ。なんだろう……。
イクス1st(やったな、イクス……)
イクス(イクスさん !どこに行ってたんですか、心配しましたよ)
イクス1st(うん、ナーザ将軍のところに飛ばされてそれからバロールを取り込んできた)
イクス(は…… ! ? あの……言っている意味がよくわからないんですけど ! ?)
イクス1st(ははっ、俺の記憶を覗いてくれ。それでわかる。家賃分の仕事はできたと思うよ ?)
イクス1st(ただ、バロールを掌握するのに時間がかかりそうだ。ちょっと……休む……………………)
アスベルイクス、おい、イクス ?
イクスごめん、少しボーッとしてた。
アスベル……イクス、もしかして『中』に誰かいるんじゃないか ?
イクスそうか……、アスベルもラムダが一緒だもんな。後で説明するよ。今はバロール……じゃなくてデミトリアス陛下を……あれ ?
スタンバロールがいないぞ !
セネルグラスティンが連れていったのか ! ?あいつ、生きていたとは…… !
イクスくそっ、いつの間に !
ヴェリウス(待ちなさい、イクス。すぐにルグの槍の解除に向かうのです。時間がありません)
イクスえっ、ヴェリウス ?
イクスマリクさん、ジェイ、ルーティ !起動装置に繋がった心核は ! ?
マリクああ、つい今しがた取り外すことができた。後はこいつを停止させるだけだ。
イクス急ぎましょう。贄の紋章の人たちの防御壁が壊れそうです。ガロウズ、解除手順は ?
ガロウズばっちり確認できたぜ。まずは――
ジェイドキール、イクスから連絡が入りました。今すぐ【逆しまの魔導砲】を !
キール了解 ! よし、それじゃいよいよだl我らキール研究室の英知を結集したこの、逆しまの――
ハロルドポチっとな。
キールあ。
ファラ……今のが、逆しまの魔導砲 ?
チャット見てください !贄の紋章のみなさんの炎が消えていきます !
メルディほらな、キールたち。ちゃんとやってくれた !みんな助かったよ !
ファラうん……うん !
クロエよかった、これでシャーリィたちも戻ってこられるんだな。
ルカそうだね。それにみんなから出てた虹の橋も――……あれ ?
グリューネまあ、お空がきれいねぇ。ゆらゆら虹色がたなびいて。
ルカ虹の橋が、消えていない……。みんなの体から出る炎は消えたのに……。
to be continued
キャラクター1話【18-1 アジト1】
浮遊島アジト 会議室
ルーングロム遅いぞ、エドワード。
モリスンなんだ、グロム。もう来ていたのか。
ルーングロム私だけじゃない。もう全員揃っているよ。
モリスンこれは申し訳ない。少し寄り道が過ぎたようだ。
イクスアセリア領内の視察でしたっけ。クレスたちはどうしてます ?
モリスン今はアルヴァニスタ領都から離れた街で小競り合いを収めているよ。じきに浮遊島へ戻るはずだ。
マウリッツもしや、帝国兵たちかね ?
モリスンいえ、住民同士のいざこざです。このところ街の雰囲気もピリピリしています。
カーツ不安を募らせているのだろう。続けざまに異変が起きているからな。
マウリッツ帝国兵と反帝国組織との争いが激化しているうえにあの『空』だ。仕方あるまい。
パライバ虹の橋ですか……。事情を知らない方にとってはとても奇妙に映ることでしょう。
イレーヌあの虹、私たちがイクス君に救出されてからずっと空に漂い続けていますからね。
イクスあれからもう、ひと月以上経つのか……。
ミリーナええ。あの時は本当に大変だったわね……。
マオう……ううっ……。
ヴェイグマオ ! 目が覚めたのか ! ?
ヴェイグ今のは ! ?
ガラド安心しろ。マオのスピリアからリンクアウトしたんだ。ミリーナたちが出て来るぞ。
カーリャ浮遊島に戻れましたね……って、何ですかあの空 !
ミリーナ本当だわ……。とにかく、先にみんなの無事を確認しましょう。マオはどう ?
イネス贄の紋章持ち以外、マオからリンクアウトしてるからこれで目は覚めるはずだけど……。
マオあれ……みんな…… ?
アニーマオ ! 良かった……。意識はしっかりしているわね。
ヴェイグユージーンたちにも知らせてこよう。
シャーリィう……。
クロエシャーリィ ! 私がわかるか ! ?
ノーマねえ、こっち ! ワルちんも目が覚めそうだよ。
ウィルマウリッツもだ。
ルカ医療班のみんな !贄の紋章の人たちの意識が戻ったよ !
ジュード軽い治癒術だけで動かせそうならどんどん医務室に運んで !
アトワイト重傷者は私がその場で診ますから申し出てください。
エリーゼあ、あのっ !
ティポセルゲイの顔が真っ青だよー ! 手伝ってー !
ワルターう……、メルネスは……。
シェリア安心して。シャーリィも目が覚めてるわ。――誰か、ワルターを運んでもらえる ?
モーゼスよっしゃ、力仕事ならワイに任せい !ヒョォォォォッ !
グリューネワルターちゃん手も足もぶーらぶらさせて楽しそうねぇ。
ウィルモーゼス ! 患者を肩に担ぐんじゃない !
五人(……扱いが雑っ ! )
ルビアフォレストさん、気分はどう ?
ナタリア陛下、ご無理をなさらないで。
ガラド待て待て、いくら羽の兄さんとはいえそんなヘロヘロじゃ飛べねぇだろ。大人しく運ばれとけって。
ミリーナみんな、意識が戻ってきているわね。よかった……。
しいなミリーナ、お疲れさま。うちのリーガルも目が覚めたよ。
リッドフォッグとレイスもだ。
ミリーナよかったわ。リッドさんも交信ありがとう。
リッドそれだけど、防御壁はどうなったんだ ?レイスとの交信は途中で途絶えちまって。
ミリーナ侵食はされていたけれどヴェリウスが力を貸してくれてどうにか耐えられたの。
しいなそうかい、頑張ってくれたんだね。……あのさ、ヴェリウスはあたしのこと、何か……。
ミリーナしいな ?
しいな……いや、なんでもないよ。ミリーナもシャーリィもマオも大変だったろ。ゆっくり休んどくれ。
シャーリィ大丈夫です。これくらい……あっ……。
シャーリィ力が……入らない……。
マオ実はボクも……。フォルスの大盤振る舞いだったもんネ……。
アニー急いで医務室へ運びます ! 誰か手を――
モーゼス次に運ぶのはどいつじゃ ! そいつか !
ノーマ来んなモーすけ ! 犠牲者はワルちんで十分だっ !
ジェイド逆しまの魔導砲は間に合ったようですね。
ミリーナジェイドさん、リフィルさんこの空はどうなってるんですか。イクスたちから連絡は――
ジェイド失礼、ハロルドから連絡です。――ハロルド ?
ハロルド逆しまの魔導砲を発射完了よ。贄の紋章、無効化できたでしょ ?
ジェイドええ、今、その確認中です。贄たちの意識が戻り始めていますよ。今回は多くの無理を聞いて頂いて本当に助かりました。
ハロルドそう ? だったらお礼はあんたの解剖ってことでよ・ろ・し・く・ね☆
カーリャきゃー ! やっちゃってください、ハロルドさま- !
ジェイド私の中が見たいなんて、照れますねえ、ハロルド。まあ、贄の紋章が完全に消去できたらその時に改めてお礼をしますよ。
ミリーナそうだったわ……。今回はあくまで贄の紋章を『無効化』しただけで完全に『消去』できたわけじゃない……。
リフィルええ。これからもう一仕事必要になるわね。
イクス――そういえば、イレーヌさんたちの紋章もキール研究室が解析したんですよね。何か聞いていますか ?
イレーヌ特には。贄の紋章は無効化できたけれど紋章自体が消えたわけではないし……。
全員…………。
パライバ……この紋章を背負い続ける限りわたくしたちに不安はつきまとったままです。
パライバですが、不安に囚われ続けることが何より危険です。それはわたくしが身をもって知っています。
パライバ贄の紋章の除去については信じて待ちましょう。他にも考えるべきことは山のようにあるのですから。
カーツそうだな。今回の芙蓉離宮の一件にしても帝国側にとっては予想外だったはずだ。その証拠に、あれから帝国側に大きな動きはない。
カーツ今のうちに、各大陸の反乱勢力と手を結んで反帝国の志を持つ地域を広めてはどうだろう。アセリア領の領都アルヴァニスタのように。
ルーングロム確かに、あの都は民と反帝国兵が協力体制にある。反帝国組織を盛り立てて行く上で良い前例となるだろう。
カーツああ。だが、戦いが長引くほど国民は疲弊し追いつめられる。今日起こったという住民の小競り合いも、その始まりなのかもしれん。
モリスンなるほど。長期戦は組織の内部崩壊も引き起こしかねん。その前に決着をつけよう、というところか。
マウリッツもしや、そういった経験がおありかね ?
カーツ……それなりに。
モリスン結びつきを強くするなら、各地方組織の詳細が必要だ。カロル調査室の情報を元に、更に掘り下げてみよう。
ルーングロムそういえば、新大陸にも反帝国組織が存在したと聞いているが、そちらとは手を組めそうかな ?
イクスはい。新大陸で出会った鏡映点のアルフェンさんとシオンさんが仲介してくれました。
カーリャ新しい鏡映点が増えると心強いですよね !目が覚めない鏡映点の方々も早く元気になるといいんですけど……。
ミリーナそうね。ミルハウストさんや、ブルートさんウィンガルさんにプレザさんにヴィクトリアさんも……。
イレーヌ帝国派閥の鏡映点も眠ったままよね。今はともかく、あの人たちが目覚めたらどうするの ?
ミリーナロミーたちへの対処は……正直な所、悩んでいるんです。話が通じるといいんですけど。
カーリャ問題の種はつきませんねぇ……。
イクスああ。他にネヴァンとゲフィオンの件もあるしな。あっちもどうにか――
二人…………。
イクス……ごめん、話が逸れた。
イクス改めて、俺もアセリア領を中心に反帝国の領土を広げることには賛成です。
イクスここに集まっているのは、元の世界でも指揮を執る立場にあった方々だと聞いています。どうか皆さんの力を貸してください !

キャラクター2話【18-3 アジト3】
浮遊島アジト 医務室にて
アガーテ……。
セルゲイアガーテさん、少し休んだらどうだ。ミルハウスト殿は自分が見ておこう。
アガーテお気遣いありがとうございます。でも、できる限りそばにいたいのです。
セルゲイなんと健気な……。
アガーテこの程度、ミルハウストの献身に比べれば大したことではありません。
マルタ失礼します。あ、やっぱりいた。アガーテさんにセルゲイさん。
セルゲイ今日もブルート殿の見舞いか。
マルタうん、相変わらず眠ったままだけどね。いつになったらパパと話せるんだろう……。
セルゲイ気を落とすことはない。先ほどジュードが回診に来たが皆の容体は安定しているそうだ。
マルタそっか。教えてくれてありがとう。そういえばセルゲイさんってずっと医務室周辺の警護をしてるけど、体は平気 ?
マルタ奥の部屋はロミーたちもいるし警戒するのもわかるけど……。
セルゲイ心遣い、痛み入る。贄の紋章の無効化以来十分な休息のおかげか、体調はすこぶる良い。むしろ動かないと体がなまってしまう。
セルゲイこの警護も皆に世話をかけた分少しでも役に立ちたくて自ら申し出たことだ。どうか気にしないで欲しい。
マルタ真面目だなぁ。でも無理は禁物だよ。アガーテさんもね。
マルタミリーナたちから聞いたけどミルハウストさんは心核だけになってもアガーテさんを助けて欲しいって訴えてきたんでしょ ?
マルタなのに、付きっきりで看病して体を壊しちゃったらミルハウストさん、悲しむんじゃないかな。
アガーテ……以前、同じことを言われました。
マルタ以前って ?
アガーテイクスさんが、わたくしたちを助けに来てくれた時です。
イクス――はい。たった今、起動装置の停止を確認しました。逆しまの魔導砲の発射をお願いします。
ジェイド承知しました。一度切ります。
アスベルイクス、起動装置が停止すれば上の階の魔鏡陣も解除できるんだよな。
イクスああ、そのはずだ。――ですよね、フィルさん。
ガロウズビクエ様は席を外している。ついさっきだが、贄の紋章たちに異常が出たとかで呼び出されたんだ。
イクス異常…… ! ? わかった。――みんな、急いで上に戻ろう !
セネル見ろよ ! 贄の紋章のみんな、炎が消えてるぞ。
スタン逆しまの魔導砲は大成功ってことか。やったぜ !これで近づくことができれば――
二人……………っ。
アスベル今、かすかに、カーツさんが…… !
スタンなあ、ルーティ !イレーヌさん、動いたぞ。今の見たよな ! ?
ルーティ見たってば !けど、起きたところでリビングドールのままなのよ ?心核が戻ってないんだから。
マリクああ、用心しろ。下手をすれば戦闘になりかねん。そうなったとしても、手は抜くなよ。
アスベル……わかっています。
イクスそれじゃ、魔鏡陣を解除するぞ。
イクスよし、床の紋様が消えた。もう大丈夫だ !
マリクカーツ ! ヴィクトリア !
スタンイレーヌさん !
ルーティレイア、先に自分の仲間のところに行って。他は、あたしが確認しておくから。
レイアありがとう、ルーティ。――ウィンガル、プレザ !
セネル俺たちはこっちだ。鏡映点リストのとおりならこっちはルーングロムでこの女の人はアガーテだよな ?
ジェイええ、間違いありません。その隣の金髪の男性は、ミルハウストさんです。だいぶ怪我が目立ちますね。
イクスこの人はブルートさん、それとパライバさんもいるな。後は……。
ガロウズケリュケイオンでも帝国側にいた奴らを保護してるぜ。マティウス、チトセ、オスカー、ロミーだ。
スタンイレーヌさん、しっかり !
イレーヌ…………スタン…………君………… ?
ルーティ今、スタン『君』って言った ! ?
スタン俺のことわかるんですか ! ?イレーヌさんなんですね ! ?
イレーヌわかるわ……。忘れるわけ……ない……。
アスベルだとしたら…… !
マリクカーツ ! しっかりしろ ! 目を覚ませ、カーツ !
カーツっ…………マリク、か。
マリクカーツ……、お前、生きてるんだな。
カーツ馬鹿を言え……。勝手に殺すな。
マリクすまん……。本当にすまなかった……カーツ……。オレは……。
ジェイどういうことですか、イクスさん。あの人たちの心核、まだ戻していませんよね ?
イクスああ。――ヴェリウス、聞こえるか。心の世界で何があったんだ、ヴェリウス。
イクス…………応答なし、か。ざっと見たところ、意識があるのはカーツさんとイレーヌさんだけだな。
イクス……仕方ない。さっき手に入れた心核を確認してこの場に肉体がある人は元に戻そう。
セネルここで ?
ジェイあれですか、本人の肉体に近づけて心核の反応や光り具合で誰のものか判断するっていう。
イクスよく調べてるなぁ。さすが不可視のジェイだ。
イクスでも、それだとコハクの時みたいにシングのソーマに反応する例もあるからな。
イクス今回はミリーナに教わったやり方でやってみるよ。ゲフィオンの知識から修得してるからより確実なはずだ。
セネルわかった。頼むぞ。
イクス――ふぅ。終わった。全員分当てはまったな。
ジェイこれでわかりました。アジトで保管していた心核はカーツさんとイレーヌさんのものだったんですね。
セネル何があったか知らないがシャーリィたちの方で心核が戻せたんだろうな。だから先に目が覚めたんだ。
アスベルイクス、ヴィクトリア教官は……今、心核を戻した人たちはいつ目覚めるんだ ?
イクスごめん、そこまでは。その人によるとしか――
アガーテあ…………。ここは………… ?
イクスアガーテさん、気がついたんですね !
アガーテ……あなたは…… ?
イクス俺は鏡士のイクスです。あなたたちを助けに来ました。
ルーティイクス、ミルハウストって人の治療、終わったわよ。まだ目は覚めないけどね。
アガーテミルハウスト…… ? ミルハウスト ! !
ルーティちょ、ちょっと何 ? 落ち着きなさいって。
ジェイドイクス、こちらは無事に逆しまの魔導砲を発射できました。そちらの状況は ?
イクス贄の紋章の鏡映点、十名を保護しました。手に入れた心核も、すでに戻してあります。
ジェイドとなると、ケリュケイオンと合わせて全員保護したことになりますね。予想以上の成果ですが、連れ出せそうですか ?
イクスこれだけの人数ですし、意識のない人がほとんどです。奪還成功時のプランどおりに転送ゲートを使います。
ジェイド……やはり、そうなりますか。イクス、転送ゲートを使用する前に外で何が起きているか、状況を伝えます。
ジェイド逆しまの魔導砲の発射前、贄の紋章たちから虹のようなオーラが立ち昇り、空へと照射されました。
ジェイドこれはルグの槍が生み出したものと考えています。そして現在、逆しまの魔導砲が発射された後もその虹は空に漂ったままです。
イクス(虹……バロールが言っていた虹の橋か ! でも……)
イクス消えないって、どういうことだろう。装置は停止させたのに。
ガロウズすまん、割り込むぞ。虹はケリュケイオンでも確認している。
ガロウズイクス、脱出する前に起動装置からデータを抜き出そう。何かわかるかもしれない。
ジェイドそうですね。出来る範囲でお願いします。
ジェイド話を戻しますが、転送ゲートでの脱出の際この虹がどう影響するかは不明です。
ジェイドただでさえ、個人で展開する転送ゲートは術者への負担が大きいうえに、それだけの人数です。失敗すれば二度目は難しいでしょう。
ジェイドその場合はわかっていますね ?行使する際には、万難を排して挑んでください。
イクス……わかりました。
ジェイドこちらでも救出班を用意しています。ミリーナもつい先ほど戻りましたので、いざとなれば浮遊島を降下させて救出にいきますよ。
イクスそれ……ぶつけてどうにかするとか言いませんよね ?
ジェイドお望みであれば、物理的にそうしても構いませんが。
ガロウズイクス、余計なこと言うな。この御仁、本気でやりそうだぞ。
ジェイドまあ、冗談はともかくとして。どうか無事の帰還を。
イクスはい、必ず戻ります。

キャラクター3話【18-5 芙蓉離宮2】
イクスガロウズ、他に抜き出すデータは ?
ガロウズいや、いい。これ以上は危険だから脱出だ。それと、できれば転送ゲートは地上に出てから使ったほうがいい。
イクスどうして ?
ガロウズ起動装置のある周辺じゃ、なんのエネルギーが絡むかわからねぇ。ルグの槍の他に、台座にはマクスウェルの残滓も供給されてただろ ?
イクスそうは言っても、中庭へ戻るには相当距離があるんだ。敵も多いし、今のみんなを連れてはいけないよ。
ジェイイクスさん、地上にいけるかもしれませんよ。
セネルジェイ、どこにいたんだ。ふっと消えちまって。
ジェイグラスティンが逃走した経路を探っていたんです。そうしたら、奥の突き当りで隠し通路を見つけました。
ジェイ軽く偵察しましたが上り坂になっていて、空気の流れも違います。外へ繋がっているかもしれません。
イクスわかった。ありがとう、ジェイ。
イクスレイア、みんなの容体は ?
レイアルーングロムさんと、パライバさんの目が覚めたよ。
イクス意識が戻った人たちは歩けそうかな。
レイア待ってて、聞いてみる。
レイア――……みんな、なんとか歩けるって。もしかして移動するの ?
イクスああ。みんなに伝えてくれ。歩ける人には歩いてもらって、まずこの地下を出る。目覚めない五人は、俺たちで背負って運ぼう。
レイアわかった。準備しておくね。
ジェイいいんですか ? 一か八かの賭けですけど。
イクスジェイが俺に報告した時点で勝算はあると思ってるよ。
セネルへえ、信用されてるな、ジェイ。
ジェイべ、別に……。今日のイクスさん、何か変ですよ。この地下への階段を作った時も、妙に明るかったし。
イクスえっ、そうだったか ?
イクス(イクスさん、何を言ったんだ……)
セネルほら、いいからみんなの所へ行こうぜ。準備が出来しだい脱出だ。
アガーテはぁ……はぁ……。
アスベル大丈夫か !
イクスアスベルたちは先に行って、出口を確認してくれ。ジェイ、先導頼むぞ !
レイアアガーテさん、もう少し治癒術をかけてみるね。
イクス元の身体に戻ったばかりなのに無理をさせてすみません。
アガーテ……きっと、こんなことになったのも……わたくしが心と体を弄んだ報い……。
レイアえっ、なに ?
アガーテわたくしは置いていって……。足手まといになります。でも彼は……、ミルハウストだけは救って……。
イクス俺が背負ってる人は、アガーテさんにとって大事な人なんですね。
イクスだったら、絶対に一緒に脱出しましょう。自分を助けるためにアガーテさんが犠牲になったらミルハウストさんは悲しむんじゃないですか ?
アガーテわからない……。悲しんでくれるのかしら……。
レイアお願い、諦めないで。わたしも頑張って回復させるから !
アガーテあなたたち……。
ジェイイクスさん、外へ出られましたよ !ここからほんの少し先です !
アガーテまぶしい……。
レイア出られた !けど、あの空なに…… ?オーロラみたいな、変なのが浮かんでる。
イクスあれが虹の橋か…… !
アガーテ……あの異変の最中にも拘わらず、イクスさんたちはミルハウストが悲しむから諦めるなとずっと励ましてくれました。
マルタすごいよね、イクス。誰一人残さずに、全員連れ帰ってくれたんだもん。おかげでパパを取り戻せた。
マルタ後は、目が覚めてくれればなぁ……。
ルキウス失礼します。アガーテさん、いますよね。
アガーテええ。何か ?
ルキウスこれ、クレアさんから差し入れです。きっと食べる暇も惜しんで付き添っているだろうからって。
アガーテピーチパイですね。ありがとうございます。
マルタルキウスは、ロミーのところ ?今朝も来てたよね。
ルキウスロミーは問題を抱えているからなるべく目を離したくないんだ。後からアルヴィンさんやルカたちも来るよ。
セルゲイそうか。では、ひと悶着始まる前に見舞いが来ると声をかけて来よう。
マルタチトセとイリア、いっつも言い合いになるもんね。イリアも喧嘩するくせに、どういうわけか必ずルカと一緒にお見舞いに来るし。
アガーテフフッ。結局、いつもの顔ぶれが揃ってしまいましたね。
マルタけど、ちょっとほっとする。一人で目が覚めるのを待つのはやっぱり辛いもん……。
ルキウスそうだね……。
アガーテこのパイ、みんなで分けましょう。美味しそうな匂いにつられて目が覚める方がいるかもしれないわ。
マルタ賛成 ! クレアのピーチパイ、大好き !

キャラクター4話【18-6 ケリュケイオン1】
フィリップうん、顔色がいいね。体も心核の傷も、順調に回復しているようだ。食欲はどうだい ?
オスカーおかげさまで、全て残さず頂いています。ここの料理人は良い腕をしていますね。特に今日出て来たシチュー、あれは絶品でした。
テレサそうですね。私も気に入りました。さっぱりして、けれど食べ応えもあって。
フィリップああ、あれはね、ベル――
マークそうかそうか ! そりゃ良かった !どんどん食って、体力つけないとな !フィル、お前もだぞ~ ?
フィリップちょ、やめてよマーク !髪がグシャグシャ……ああ、もう……。
マーク後で直してやるから黙ってろ。それにしても、よくここまで回復したもんだ。
フィリップそうだね。ケリュケイオンに収容した中ではきみが一番危なかったから……。
オスカーあなた方や、鏡士のミリーナたちには感謝しています。
テレサ本当に……あの時はどうなることかと……。
マーク――そうか、わかった。連絡ありがとな、キール。
マークフィル、お前の見立てどおりだったな。
フィリップうん。――みんな、聞いて欲しい。先ほど逆しまの魔導砲が発射されたそうだ。
シングそれじゃ、みんなから炎や虹色の光が消えたのも贄の紋章が無効化されたおかげなんだね !
マークああ。浮遊島じゃ目覚める奴も出てきてるって――
モリスンううっ……。
二人モリスンさん !
モリスン君たち……。そうか、私は生きているのか……。
クレス当たり前です !モリスンさんを死なせたりしません。あんな思いは……。
ミントクレスさん……。
ミントモリスンさん、少しでも楽になるように術で体力を回復させますね。
ドロワット羨ましいわん……。
ゴーシュっ ! 見ろ、ドロワット !
イエガー…………ぅう。
二人イエガー様っ ! ?
イエガーゴーシュ……。ドロワット……。グッ…………モーニン。
二人イエガー様ぁ~~~~っ ! !
レイヴンやれやれ、どこまでも女泣かせな奴だねぇ。ったくアレクセイの旦那もさっさと起きてくれりゃ……。
アレクセイ……起きていたら、なんだ ?
レイヴンっ !……目が覚めてんなら、それらしい反応してよね。で、気分はどうよ。
アレクセイ体は思うようではないが……、気分は悪くない。お前の情けない顔を見られて胸がすいた。
レイヴン性格悪っ!
テレサ(どうしよう……オスカーが目を覚まさなかったら……)
テレサオスカー、お願い……。私を置いていかないで……。あなたがいくのなら、一緒に……。
オスカーあね……うえ……。
テレサ
オスカー大丈夫……、あなたを一人にはしません……。
テレサオスカー ! そうよ、一人にしないで……あなたがいない世界では、私は生きていられない……。
シングよかったね、テレサさん。
テレサシング、でしたね。ありがとうございます。救けてくれたミリーナにもお礼を言わなくては。
ベルベットちょっといいかしら。あっちの部屋でチトセって子が目を覚ましたんだけど。
フィリップわかった。行ってくるよ。
シング見てよ、ベルベット、ライフィセット !オスカーの目が覚めたよ !
ライフィセット本当だ ! 良かったね、ベルベット。
ベルベット……そうね。
オスカーベルベット…… ! ?
テレサ……彼女たちが、あなたの救出にあたったのです。
オスカー業魔が ?
テレサ…………。
ベルベット……戻るわよ、フィー。
ライフィセットあっ、…………うん。
オスカー姉上、これはどういう……。うっ !
テレサオスカー ! ?
ミント失礼します。これは……かなり衰弱していますね。
シングオスカーの心核には傷がついていたんだ。今は、ミリーナが何とかしてくれてるはずだけど。
ミントそうなのですね。だとすると、オスカーさんの治療は他の人よりも時間がかかるかもしれません。
テレサわかっています。それでも、命さえあれば――
テレサ……あの頃のオスカーを思うと今は見違えるようです。
オスカーミントさんの見立てどおり医務室には最後まで居残ってしまいましたけどね。
マークどん尻ってわけでもないぜ。マティウスとロミーは目が覚めないまんまで浮遊島に移されてるしな。
マークイエガーやチトセも浮遊島で療養するっていうしアレクセイは回復そこそこで船を降りちまうし。
フィリップ大丈夫かな、彼。自分の軍を放っておけないのはわかるけど……。
マーク救世軍で派遣した奴らが様子を見てるし何か異常があるなら連絡くらい来るだろ。
マークまあ、そういうわけだから、ここでちゃんと回復に努めているのは、元々オスカーくらいのもんだ。
テレサそのことですけれど、オスカーも随分と動けるようになってきましたし私たちも船を降りようと思います。
フィリップまた急だね。こちらは居てもらっても構わないんだよ ?
テレサありがたいお言葉ですが……。長居するには思うところもありますので。
マークそういうことか……。確かに因縁を乗り越えるにしてもこの距離は近すぎるもんな。お互いのためにもいいだろう。
フィリップそれで、今後はどうする。帝国へ戻るつもりかい ?
テレサいいえ。それだけは決して。オスカーが危険にさらされるだけですから。
オスカーアルトリウス様の一件は聞きました。僕に仕掛けていた魔導器のこともです。ですが、あの方のお考えは僕ごときが及ぶべくもない。
オスカーアルトリウス様の崇高な目的の礎となるならばこの命など喜んで差し出す。何より姉……大事な人や人々の為にもなるのだと思っていました。
オスカーけれど、その計画が更なる苦しみを招いてしまった。それに気づいた今、僕たち二人が帝国へ戻ることはありません。
マークだったら、俺たちと手を組まないか。
テレサ救世軍とですか ?
マークああ。あんたらの地上での暮らしを保障する代わりに各地で起き始めている、対帝国への包囲網としてその力を貸して欲しいんだ。
テレサ……その話については、考えさせてください。
マークそうか。無理強いはしないさ。まあ、最近まで帝国内部に通じてた奴がいると何かとありがたいってのが本音だけどな。
テレサ帝国に通じている者……。そういえば、チトセは浮遊島でどうしていますか ?
フィリップチトセなら、目覚めないマティウスに付き添ったまま傍を離れないらしいよ。
テレサそうですか……。チトセはマティウスを助けるためにアルトリウス様と共に行動していました。ある意味では、私と同じ境遇です。
テレサ非情な行いにも割り切っているように見えますが根は優しい子だと感じました。ですから……。
フィリップ大丈夫。あちらで酷い扱いを受けるようなことはないよ。
マークチトセの出方次第だがな。さてと、こういう話になったならあれを渡しておいた方がいいだろう。フィル。
フィリップそうだね。テレサ、オスカー。これはミリーナからだよ。魔鏡通信機器と、当面の資金だ。
テレサえ…… ?
フィリップミリーナから預かっていたんだ。きみたちはきっと救世軍に協力はしないだろうからその時はこれを渡して欲しいって。
マークあんたらが地上で落ち着けそうな場所もすでに見繕ってあるそうだ。これからは二人で静かに暮らせばいい。
テレサミリーナ……。私たちは敵だというのに、どうしてそこまで……。
マークさあね。あんたにどこか同じものを感じたんじゃないか ?大事なもののために、なりふり構わないところとか。
フィリップ理由はともかく、こうなったのはきみたちの幸せを心から願う人たちがいたからだよ。ミリーナや、僕たちや、それに他にもね。
テレサ他…… ? まさか……。
オスカー……姉上、僕たちは様々な認識を変えなければいけないようです。
テレサええ……。私たちに心を砕いてくださった方々に感謝申し上げます。
マーク伝えとくよ。さて、地上に降りたらここの美味いメシともおさらばだ。今のうちに、たらふく食っておけよな。
テレサそこは問題ありません。私、料理の腕には少々覚えがあるのです。ここの味にも負けませんよ。
オスカーええ。姉上のキッシュは絶品です。ずっと食べたいと思っていました。下に降りたら作ってもらえますか ?
テレサええ、毎日でも。

キャラクター5話【18-7 セールンド城1】
カーリャ・Nゲフィオン様……。
ファントムまだここに通っているんですか。こりない人ですね。
ファントムあなたはもう鏡精ではないのだから自由に生きればよいものを。いまだにゲフィオンに縛られて。
カーリャ・Nそれは、あなたも同じでは ? ファントム。
ファントムどういう意味でしょう。
カーリャ・N私が新大陸の調査を終えてここへ戻ったときあなたがここにいたのには驚きました。
カーリャ・Nケリュケイオンで休んでいるように言われていた筈なのに勝手に抜け出して……。
カーリャ・Nまだ体も本調子ではないというのにゲフィオン様の『壁』をどうにかしようとここに残り続けている……。
ファントムそれは……私がヘルダルフの穢れを虚無に流し込んだことで、あなたが作ったゲフィオンの心の防御壁が壊れてしまったからです。
ファントム自分がしでかした『事』の始末をつけている。それだけのことですよ。
カーリャ・Nでも――
ファントム勘違いしないでください。ゲフィオンを守っているのはあなたと同じ理由じゃない。
ファントム確かに、ミリーナに飲み込まれて消滅しかけているゲフィオンの意識は私の対処によって、まだ多少は保っている。
ファントムけれど、ゲフィオンの意識が消えることはもう防ぎようがない。
カーリャ・N…………。
ファントム私にとって重要なのは、バロールの干渉によって内側から崩壊しつつある『人体万華鏡であるゲフィオン』の対処です。
ファントムせめて人体万華鏡の崩壊だけでも遅らせなければ、死の砂嵐が再び吹き出してしまう。
ファントム鏡精でもないあなたが食い止められることではない。いるだけ無駄ですから、さっさと帰りなさい。
カーリャ・N嫌です。
ファントムでは、はっきり言います。邪魔です。
カーリャ・N切り離されたとはいえ、私はゲフィオン様の元鏡精。ゲフィオン様の心に干渉しやすい力を持っている筈です。
カーリャ・Nお願いです、ファントム。ゲフィオン様の崩壊を食い止めるためにも協力させてください。
ファントム……ここはバロールが付け狙う危険な場所です。しかもゲフィオンが死ねば真っ先に消滅します。
ファントム鏡精じゃないあなたは、死んだら終わりなんですよ。わかっていますか ?
カーリャ・Nええ。危険は元より承知です。
カーリャ・Nでも、その危険をわかっていながらあなただってここにいるじゃないですか。
カーリャ・N恐らく、この世界でまだゲフィオン様のことを本気で生かしたいと思っているのは、私とあなただけ。
カーリャ・N違いますか ?ファントム……いいえ、『リーパ』。
ファントム…………。
ファントムフィルは……前を向くようになった。
カーリャ・Nええ。最近ではマークとの在り方にも腹を決めたようです。
ファントムもうフィルには……ゲフィオンがいなくてもいいんでしょうね。
カーリャ・Nええ。今のフィル様には必要ないのだと思います。
ファントム私は生きている人間の過去からの具現化第一号でした。だからあらゆる意味で、他の具現化された存在とは違っていた。
ファントムフィルの記憶や感情を共有し、そこに自我が入り込み自分の考えや想いが、どこまでフィルのものなのかと区別を付けるのが大変だった。
カーリャ・Nあなたの在り方は、鏡精に近いものでしたよね。フィル様はあなたの人格を保つために何度も狂化止めを施したと聞いています。
ファントムマークからですか ? 相変わらずお喋りな鏡精だ。
ファントム私の人格などどうでもよかった。フィルが報われれば私も報われる――そう思っていましたから。
ファントムですが、今はヨーランドとダーナによって私の人格が補強されている。記憶の共有も、今はいったん止められている。
ファントムこうなってくると……私はまるで抜け殻だ。もう私がフィルを救わなくてもフィルは……。
カーリャ・N悲しい……のですか ?
ファントムどうでしょう。ホッとしている自分もいます。フィルの希望を叶えたかったのは本当です。ただ――
ファントムそれが私の望みだったのかフィルの望みだと感じていたのか今はもうわかりません。
ファントム今の私は『終わり』が見たいと思っています。過去が過去として消え去るのを、見届けたい。その象徴がゲフィオンなのではと思うのです。
ファントム狡くて卑怯で、フィルのことなど欠片ほども心に留め置かなかった最初のミリーナが消える。その時私の願いも消える……。
ファントム或いは……私も……。
ヨウ・ビクエファントム、やっぱりここにいたのね。あら、ネヴァンも一緒 ?
カーリャ・Nヨウ・ビクエ様 !
ファントムどうしました、また何か問題でも ?
ヨウ・ビクエそんな顔しないで。私がいつもトラブルしか伝えないみたいじゃない。
ヨウ・ビクエ今回は朗報よ。ダーナ様の心核の修復が終わったわ。

キャラクター6話【18-9 ケリュケイオン2】
ガロウズユリウス、観測は一旦休止だ。ちょいとヤボ用でケリュケイオンを下へ降ろすことになった。
ユリウスわかった。すまないな。ブリッジを占拠してしまって。
ガロウズこっちこそ悪い。調査に集中するためにここの鏡映点たちが出払うのを待って乗り込んだんだろ ? なのに結局中断させちまって。
ユリウスいや、それは……気にしないでくれ。
ガロウズしかし、ケリュケイオンまで出張とはご苦労さんだな。虹の橋の観測なんて、浮遊島からでも十分なのに。
ガロウズま、あのジェイドの依頼だから何か考えがあるんだろうが。
ユリウス…………。
ユリウス俺がケリュケイオンへ ?
ジェイドええ。あちらからも報告は入りますがあなたに実際に赴いてもらってあらゆる方面から調べて欲しいんですよ。
ジェイドこれまでの観測で、あの虹の橋の幻影の向こうには何らかの空間があると予測されています。
ジェイドそれがニーベルングの分史世界ではないかとの推論もされていますが今一歩、『決め手』に欠けて真実に近づけない。
ジェイド私もほとほと困り果ててましてね。ユリウス。
ユリウス…………。
ジェイドそこで、分史世界に詳しいあなたに、機動力のあるケリュケイオンでの観測をと思ったのですがお忙しいようならルドガーにお願いしても――
ユリウスわかった。行って来よう。
ユリウス(奴の言うこともわかる。俺がクルスニク一族の全てを話さない限り推論で動くことはできない)
ユリウス(だが、ルドガーやエルには……)
ガロウズどうした ?ジェイドのこと、聞いちゃまずかったか。
ユリウスいや、そんなことはないさ。あいつの魂胆もわかってるしな。
ユリウス(俺をここでヴィクトルと会わせて、揺さぶりをかけようとしているんだろうが、生憎とお見通しだ。ヴィクトルがいない事は確認している)
ユリウス(あいつらを巻き込まない形で解決できる手掛かりをつかむまで、今はまだ……)
ガロウズお、いたいた。マークだ。下へ降りてあいつを回収したら調査を再開しても――
ユリウスすまない。通信が入った。――どうした、ルドガー。
ルドガー兄さん ! 今、虹の橋の観測は ! ?
ユリウスそれなら一時中断している。何かあったか ?
ルドガー虹の橋が実体化し始めてるんだ !
ユリウスなんだって ! ?『橋』が実体化……まさか……。
ルドガー何か知ってるのか ?
ユリウス…………。
マークただいま。テレサとオスカー、送ってきたぜ。
ヴィクトル
ユリウスヴィクトル…… ! ?
マークああ、途中で合流したんだ。ユリウスは虹の橋の調査だっけ ?……っておい、空気悪いぞ。どうした。
ガロウズそれが……。
ハロルドユリウス、時間切れよ。
ルドガーハロルド ! ?
ハロルドクルスニク一族のことあんたから話してくれるの、ずっと待ってたわ。
ハロルドけどもう、そうも言ってられない状況なの。わかるでしょ。
ユリウス…………。
ハロルド……そう。だったら、私の推論で語るわ。あんたが黙ってる理由って――
ユリウス待ってくれ !……すまない……今だけは……。
ルドガー兄さん !
ヴィクトルまた黙るつもりか、兄さん !
ユリウス! !
ルドガー兄さん……って…… ?
ヴィクトルそうやって……また『俺』には何も知らないでいろっていうのか !
ヴィクトルあんたはずっとそうだ。正史でも分史でも、この世界でも、何も変わらない !
ヴィクトル以前、俺に聞いたよな。この世界で「どう生きるつもりだ」と。だったら兄さんはどうなんだ。
ユリウス……ルドガー、俺は……。
ルドガーまさかヴィクトルさんは……。
ヴィクトルそうだ。私はルドガー・ウィル・クルスニク。分史世界の君だよ。数年ほど先の、だがね。
ルドガー
ヴィクトル退路は断たれたぞ。どうする、兄さん。
ルドガー兄さん……。
ユリウス……話すよ。元の世界で、俺たちに課せられていた呪いの全てを。
ユリウス――これで、俺が知っていることは全部だ。
マーク……ちょっと整理していいか ? 正史世界から分かれた【可能性の世界】が分史世界。で、それが存在すると正史世界のエネルギーが拡散して世界は死に絶える。
マークあんたたちの骸殻能力で分史世界に入って、その世界が生まれた原因、【時歪の因子】(タイムファクター)ってのを壊せば、世界を消すことができるわけだな。
ユリウスああ。そして増えすぎた分史世界を消滅させるためになんでも願いが叶う『カナンの地』にたどり着くのが元の世界での目的だった。
マークけど、その骸殻の力を使い続けると【時歪の因子】(タイムファクター)になってまた新たな分史世界が作り出されると。
ユリウスそうだ。だがこの世界ではエルが特異鏡映点だったせいで、骸殻による負荷は虚無へと吸い込まれていたらしい。
ユリウスだから問題はないと、セシリィが……いや、シドニーが教えてくれた。
ガロウズそうか、あいつが……。
ルドガー【時歪の因子】化なんてそんな話……俺は全然……。
ヴィクトルだが、ルドガー君も気づいていることはあった筈だ。私のことや、エルのことで。
ルドガー……ヴィクトルさんが分史世界の人間だろうってことは何となく。自分自身だとは思わなかったけど。
ルドガーそれで、あなたの娘であるエルももしかしたらとは……思ってた。
ガロウズそうか、ヴィクトルがそうならエルも分史世界の存在だよな。じゃあエルはルドガーの未来の娘でもあって――
ヴィクトルエルは私の娘だ !
ガロウズわ、悪い ! つい考えなしに……。
マークこの世界にいる以上、ヴィクトルはヴィクトルルドガーはルドガーだ。そこはもう揺らがねえから安心しろ。
マークっと、あんたら鏡映点にしてみれば勝手に具現化されて安心しろもねえか。俺も考えなしだったな。
ヴィクトル……いや、むしろもっと早くにこうなっていれば……。
ユリウス…… ?
ヴィクトルすまない……話を逸らしてしまった。
マークそういや、エルがクルスニクの鍵なら分史世界から正史世界へ物質を持ち出せるんだろ。グラスティンたちは、それに気づいてるんだよな ?
ハロルド……なるほど。何を企んでるか見えてきたわ。
ハロルドあと気になるのは、ユリウスの世界でいう『魂の橋』ってやつね。カナンの地に渡るためのものらしいけど、どことなく虹の橋と似てて嫌な感じ。
ヴィクトルああ。あれを架けるには、強い力を持つクルスニク一族の命が必要だ。それと似た物が今実体化しようとしている。
ハロルド……クルスニクの鍵、魂の橋ジュニアの贄の紋章の数値……。
ルドガーハロルド、何かわかったことでも――……ん ?
ユリウスどうした。
ルドガー物音がしたけど、気のせいかな。
エル(どうしよう……どうしよう……。エルもパパもニセ物で……、ルドガーとパパは……)
二人きゃっ !
チトセびっくりした……。前を見ないと危ないわよ ?
エルご、ごめんなさい……。エル、わかんなくて……。あたまの中、グチャグチャで……。
チトセ大丈夫、落ち着いて。怪我はない ?
エルうん……。
チトセ何かあったのかしら ?
エルエルは……………………。
チトセ……ねえ、エルはきれいな物は好き ?
エルきれいな……。貝とか、石とか、好きだけど。
チトセ花はどう ? 私、これからマティウスさまの……大切な人のために花を探しに行くところだったの。
エル花……。
チトセええ。美しい花がわずかでもマティウスさまの癒しになればと思って。
チトセエルも見たらきっと元気になるわ。一緒に探しに行きましょう ?

キャラクター7話【18-11 仮想鏡界】
ナーザバルドか。首尾はどうだ。
バルド本日をもって、フリーセルの拠点にいたビフレスト皇国の住民たちの移送が完了しました。
バルド中には私の姿を見て驚かれる方もおられましたが……。
ナーザだろうな。生前のバルドを知る者なら魔鏡戦争で戦死したことも知っているだろう。
ナーザいや、知らなかったとしても微塵も歳を取っていないのではな……。
バルドええ……そうですね。
ナーザフリーセルはどうした ?
バルドあれから動きがありません。
ナーザ見失ってはいないのだな。
バルドアリエッタとテネブラエの監視網の中にいますので。
ナーザそうか……。
バルドフリーセルも連れて来られればよかったのですが……。
バロールの尖兵くっ……、ああああああっ ! !
フリーセル! ?
バルド…………くっ。……フリーセル、か…… ?
フリーセルバルド様か ! ?バロールの尖兵とやらは消えたのですか ! ?
バルド……ああ……。ウォーデン様が……助けて下さったようだ。きみは……無事のようだね。
フリーセルよかった……。私を追ってきたせいでバルド様がバロールに乗っ取られたのではウォーデン殿下に顔向けができません。
バルドいや……。バロールが私を狙うのはきみを追ったせいではないよ。この体はバロールが作ったものだからね。
バルド彼の者にとっては、私も作品の一つなんだろう。
フリーセルバルド様。お望みの港に船を着けます。どちらに向かえばよろしいですか ?
バルドそれは、私をきみの拠点に連れて行くことはできない……ということかな ?
フリーセル………………。
バルドバロールに体を奪われていたおかげできみがやろうとしていることにも気付くことができた。
バルドビフレスト皇国の生き残りの民を帝国から匿っているんだね。
フリーセル……はい。帝国は異世界から具現化された人間ではなくこのティル・ナ・ノーグで生まれた人々を集めています。共にニーベルングへと移り住むために。
フリーセルまだ虹の橋は架かっていないというのに……。
バルドどうしてそのことを私たちに話してくれなかったんだい ?
フリーセルウォーデン殿下の下には帝国の眼が入り込んでおります。
フリーセルですから、そこにビフレストの民を連れて行くわけにはいきませんでした。
バルドそれは間者がいるということかな ?
フリーセル間者……とは違うかも知れません。世界を壊すための鍵となる存在がそちらにいるようです。
バルドそれは誰だ ? 情報の出所は ?
フリーセル私を具現化させた男――サレの残した情報です。鍵というのは三人目のフィリップのことを指しています。
バルドジュニアか……。
バルド――ならばこういうのはどうかな。ビフレストの生き残りに関しては、ジュニア――三人目のフィリップの耳には入らないように処理しよう。
バルドだからフリーセル。きみの持つ情報を私に共有して欲しい。ウォーデン様のためにも。
フリーセル……わかりました。ですが、やはり合流することだけはできません。私は滅びたビフレスト皇国の亡霊のようなものです。
フリーセル一人目の私ができなかったことを成すためだけに生み出された存在だ。
バルドそれはフリーセルの考え方一つで変えられる筈だよ。私の周りには具現化によって生まれた存在が数多くいる。
バルド彼らは一人目とは違う道を進もうとしているんだ。フリーセルだってそうできるんじゃないかな ?
ナーザ――それでも合流を拒み一人目の意志を継ぐと言うのなら奴の好きにさせるほかはあるまい。
バルド……はい。
ナーザしかも虹の橋は架かってしまったからな。俺の責任だが……。
バルド誰も知らなかったことです。バロールが想像の魔鏡術の奥義を使いこなせるなどとは――
ナーザ何であれ、俺は私情を優先した。その結果バロールは虹の橋の架け方を知ってしまった。
ナーザたった一度、尖兵となったお前の心に虹の橋を架けただけで、奥義の全てを見切るなどと……俺がうかつであった。
バルド……そうだね。きみは僕を切り捨てるべきだった。それが正解だったんだと思う。
バルドけれど虹の橋はまだ実体化していない。まだ橋が架かったとは言えないよ。
ナーザイクス・ネーヴェに救われた。俺が殺した男にな。
? ? ?――あ、ええと、お帰り。
ナーザ! ? 誰だ !
イクス1stあ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ?
ナーザなっ、まさかお前は…… !
イクス1st俺はイクス・ネーヴェ。この体の本当の持ち主だ。初めましてだな。ナーザ将軍――ウォーデン・ロート・ニーベルング。
ナーザ体を取り戻しに来たか。
イクス1stいや、もう戻れないのは知っているだろ。俺を殺して、体だけを残しておいたんだから。
ナーザならば何故ここにいる。
イクス1stやっぱり元々いた体だからなのかな。何故か引き寄せられちゃって。
ナーザ【ギエラ・ビフレスト】のせいでアニマが引き寄せられたか……。
イクス1stけど、丁度よかったよ。きみと話がしたいと思ってたんだよね。
ナーザ何を話すというのだ。
イクス1st俺を殺した理由だよ、皇太子殿。
ナーザ――まあいい。
ナーザビフレストの生き残りを匿っている村だが守りの方は万全なのか ?
バルドヴァンに任せています。手段は問わない、と。浮遊島で組織されたセキレイの羽に協力を仰いでいるようです。
バルドあそこのロゼという可愛らしいお嬢さんがアリエッタを気に掛けてくれていましたからその縁もあるのかも知れません。
ナーザそうか。くれぐれもジュニアとマークには気取られるな。それと、不用意に異性に近寄る真似も慎め。
バルドフフ、承知しております。それでは失礼致します。
バルド(……いけないな、私は。また話を切り出せなかった)
バルド彼らは一人目とは違う道を進もうとしているんだ。フリーセルだってそうできるんじゃないかな ?
フリーセルですがバルド様、あなたも死ぬ前のご自身に囚われておいでなのではありませんか ?
バルド――それはどういう意味だい ?
フリーセル記憶を引き継いだ具現化と甦りにどれほどの差があるのでしょう。
フリーセル私が二人目なら、一度亡くなったあなたも二人目のようなものではありませんか ?
バルド(フリーセルの言う通りだ。私もまた、過去に縛られている)
バルド(切り替えるべきなのか……。ビフレストの民として犯した過ちを受け止めるためにも)
アリエッタバルド。お友達から連絡……来た、です。
バルドアリエッタ。まさか、フリーセルが動き出したのですか?
アリエッタそう。あの人……また墓守の街に向かった、です !

キャラクター8話【18-12 墓守の街1】
グラスティンどうだ、バロールの影響は。
デミトリアスありがとう。だいぶ回復したようだ。ほとんど影響はないと思う。
グラスティン体は、だろう ?俺が言ってるのは『中身』の方だ。意識を喰われて廃人同然だったんだぞ。
デミトリアスこの通り、きみとも会話できている。問題はないよ。
グラスティンどうだかなあ ? 俺としては、お前のフリをしたバロールって可能性もまだ捨てちゃいないぜえ。
デミトリアス困ったね。どうすれば信用してもらえるのか。
グラスティンそうだなぁ。俺がフィリップに何をしようが口を出さないって言うなら信じてやってもいい。
デミトリアスそれは、友であるフィリップときみを天秤にかけろということかい ?
グラスティンここまでやっておいて、まだフィリップの友人面か。なるほど、間違いなくお前はデミトリアスだよ。ヒヒヒッ !
デミトリアスだったらもういいだろう。分史世界の創造計画は後れを取ってるんだ。急いで進めよう。
ハスタデミトリアスとグラスティンが話し始めたその時エルとチトセを捕らえたハスタがあらわれる。
ハスタト書きに呼ばれてジャジャジャジャーン !えんやっとっと、お届けものでごじゃるよ。
二人…………。
デミトリアス彼女たちは !
グラスティンクルスニクの鍵 ! それに裏切者まで捕まえたか。ご苦労だったな。
ハスタさて、ここでクイズです。ヒントは『窓辺のマーガレット』だぴょん。正解は……イッチバーン !
グラスティン相変わらず何のことかわからんがこいつらの捕獲は丁度よかった。
ハスタけどさぁ……足りねえんだよ……生鮮食品が。あんたもわかるだろ ?グラ……グラなんとか……グラたん ?
ハスタワンパターンな仕事と食事は健康に悪いんだポン。体にはもっとビタミンや殺人が必要でありんす。わっちの欲望は、すくすく成長期でありんすゆえ~。
グラスティンそうだなぁ。だったらお前に丁度いい任務があるんだが……。いいか、デミトリアス。
デミトリアスああ。遅れを取り戻すためにもすぐに分史世界の構築を始めよう。
ハスタっ ! ?三十六計ホニャラララ !
ハスタクソッ ! 体が動かねぇ…… !
グラスティンヒヒヒ、逃げようとするとは勘がいいな。本能で悟ったか ?
グラスティンまあ、聞けよ。お望みどおり新たな任務をくれてやる。お前はこれから【時歪の因子】化して世界を創るんだ。
ハスタ……タイムなんだって ?
グラスティンそうか、わからないか。俺もお前の話は大概わからなかったなぁ。話が通じてりゃ、肉のすばらしさを語り合えたのに。
グラスティンじゃあ、頑張って俺たちのために死んでくれ。ヒヒヒッ。
ハスタ誰かのために死ぬ…… ? ありえねぇ……。
ハスタでも、ボクは死にましぇん ! なぜならボクが、皆殺しにするからぁ !ハハハ ! ハハハハハ !
エルうっ……、あ……あれ ?
ハスタくそぉおおおおっ ! 動け、動けよ~~~ !お前ら殺すっ ! ガチ殺すっ ! コロス ! コロ……。
グラスティンヒヒッ。
チトセあ……。
エルチトセ ! おきた !
チトセエル……大丈夫 ?あれってハスタなの…… ?
エルうん……けどあの人目が赤くなって、体が黒くなってる……。エルの世界で見た、怖いのと同じ……。
ハスタマタ……次……生マレ……。
デミトリアス……グラスティン、どうだ ?
グラスティンああ、上手くいった。ハスタを中心に分史世界が誕生している。これで舞台は整った。
エルブンシセカイ…… !
デミトリアスすまない、ハスタ……。
グラスティン何を言ってるんだ。お前は相変わらずだな。いずれ特異点亜種を【時歪の因子】にする必要があった。
グラスティン01たちが捕まらなかったときにはこいつを使うのが、最初からの取り決めだろう ?
デミトリアス……そうだな。
グラスティンああ、それでいい。さて、本番はここからだ。
デミトリアスきみがエルだね。
チトセエル、下がって !
デミトリアスエル、チトセも、怯えなくていいんだよ。私はエルに協力をお願いしたいだけなんだ。
エルエルに…… ?
デミトリアスああ。きみのクルスニクの力を使って私たちを分史世界へ連れて行って欲しい。
エルそんなの、エルには――
フリーセル待て !
デミトリアスきみは…… ! ?
グラスティンフリーセル…… !
フリーセル……お前たち、どういうつもりだ。
グラスティンヒヒヒヒッ、いいぞいいぞ !そっちから出向いてくれるとはなぁ !
フリーセルやはり、あの時きちんと始末しておけばよかった。
グラスティンヒヒヒヒ、やっぱりあの事故はお前の仕組んだものだったか。
グラスティンあの時の恨み、今晴らしてやるぜえ !

キャラクター9話【18-14 アジト4】
ルドガー――これが、俺たちの世界でいう分史世界の仕組みだ。
全員…………。
イクス何て言っていいか……。
イリアけ、けどアレでしょ ! ? 【時歪の因子】(タイムファクター)っての ?
イリアルドガーもユリウスも、そうなる前にこっちに具現化されてるし、問題ないわよね ! ね ?
ルドガーああ、俺も兄さんも何ともないよ。心配してくれてありがとう。
コンウェイ…………。
スパーダへえ、お前、ちゃんと話についてきてたんだな。
イリアふふん、当たり前よ。あんたこそ、わかってんでしょうね ?
コーダコーダもわかってるぞ。腹が減ってるということがな、しかし。
ルドガーじゃあ、後で何か作ろうか。
コーダルドガーはいい奴なんだな ! しかし !
ミリーナルドガーさん、大丈夫ですか ?その……ヴィクトルさんのこととか……。
ルドガー正直、混乱はしてる。けど大丈夫だ。動揺してる暇もないしな。
ルカ僕たちが呼ばれたのは、その分史世界の成り立ちに関係しているからですか ?
ルドガーああ。これで、兄さんやジェイドたちが前世のあるルカたちのことをずっと気にしていた理由がわかったよ。
アンジュティル・ナ・ノーグでの私たちはこの世界の前世ともいえるニーベルングの人間として定義されている。
アンジュその私たちを核に――【時歪の因子】化させて分史世界を生み出すつもりなんでしょうね。
キュキュでも、キュキュ不思議。あいつら、どやてルカたち【時歪の因子】にするか ?
エルマーナそうやで。骸殻はルドガー兄ちゃんたちしか使われへんのやろ ?
リカルド骸殻の代償、【時歪の因子】化の原因をどこから持ってくるかってことか。
イクスそれなんですけど、グラスティンは骸殻の力の元であるクロノスの力を操ることができます。
イクスとなると、グラスティンにも骸殻に似た負荷や制限があるはずなんです。そのマイナス面を利用してるとしたら……。
コンウェイ自分への負荷を溜めておいて一気に対象にぶつけ【時歪の因子】化させることも可能かもね。
イリアそれなら、あたしらが捕まらなきゃいいってだけの話よ。
スパーダそうそう ! そんなヘマは……。……いや、帝国にいるじゃねえか、前世持ちが !
ルカあ、ハスタ !
イリアそうだったわ ! キモすぎて記憶から消してた !
アンジュそうね。ハスタを使えばいつでも分史世界のニーベルングを具現化できる。
アンジュそして次に彼らが必要とするのはきっとクルスニクの鍵よ。
ルカ本来持ち込めないはずの分史世界の物質を正史世界に持ってこられる存在、だよね ?
ルドガーああ。そうだ。
アンジュきっと、分史世界のニーベルングから正史世界のティル・ナ・ノーグに持ち込みたいものがあるのね。
リカルドそうなると、むしろ危ないのは俺たちよりもお前たちクルスニク一族だろう。
リカルド特にクルスニクの鍵だと断定されているエルは厳重に保護しておくべきだ。
コンウェイん ? 外に……ちょっと待ってくれ。
コンウェイ――やあ、キミか。どうしたんだい ?
ルルナァ~……。
ルドガールル ? どうした、お腹がすいたのか ?
コーダコーダと同じなんだな ! しかし !
ルルナァ ! ナァ~……。
コンウェイ……ルドガーくん、エルは今どこ ?
ルドガーどこって、ルルがいるなら一緒にその辺にいるはずだけど。エル。……エル ?
ルドガー――エル ! エル、そこにいるんだろ ! ?
ルルナァ~、ナァ~。
コンウェイあそこ ? うん、確かに何か落ちてるね。これは……貝殻かな ?
エルマーナあーっ ! それ、変なキレイな貝殻やん !
イリア何それ。変なのかキレイなのかはっきりしないわね。
エルマーナ言うたのはエルやで ?あ、ウチやのうて、ルドガー兄ちゃんとこのエルな。
リカルドややこしいな……。それで、その貝が何なんだ。
エルマーナこれな、前にエルと一緒に海辺で拾ってん。宝物にするいうて大事にしとったのに……。
リカルド落としたことに気づかないほど動揺していたのかもしれん。
イクスまさか……ここでこっそりユリウスさんたちの話を聞いてたんじゃ……。
ルドガーごめん、ちょっと探してくる !
ルカ待ってください、ルドガーさん。僕たちも行きます。
ミリーナそうね。浮遊島のみんなにも手分けして聞いて回りましょう。
ジュード――それじゃ、目撃情報だとチトセさんも一緒なんだね。わかった。帰ってきたらすぐに連絡するよ。他の病室のみんなにも伝えてくるね。
ルドガーああ、頼む !
マティウス………チトセ。
ルカここだね。チトセさんがエルを連れて向かったって場所。
カーリャきれいな花畑ですね。チトセさまが来たがるのもわかります。
ミリーナええ。でも、誰もいないわね。
ルドガーエル ! いたら返事をしてくれ ! 俺だ !
ルドガーくそっ、ここで見つからなきゃどこを探せば……。
イリアもう、なんなのよ、あの性悪女 !こんな所までエルを連れ出してやっぱり何か魂胆があるとしか思えないわ。
エルマーナ魂胆いうても、チトセは浮遊島を出る時に出会った人らには行き先言うてたんやろ ?ホンマに花を探しに来ただけとちゃう ?
アンジュ……私も、そんな気がするのよね。マティウスのために花を探すと言ってたって話も本当なんじゃないかしら。
イリア浮遊島にだって花はたくさん咲いてるじゃない。なのに、わざわざ地上にまで降りてさ。怪しいわよ !
ルカい、言われてみればそうだけどでも、マティウスが目覚めるまでは敵対しないって言ってたし。
スパーダ相変わらず甘いな、ルカは。あいつのイカれっぷりが直ったわけじゃねえんだぞ ?
イリアそうそう ! あんた、たまにイイこと言うじゃない。
アンジュでも、あれだけ執着してるルカくんやマティウスを使ってまで嘘はつかないと思うんだけどな。
コンウェイ……一途だからね。不遇の花姫は。
コーダフグがなんだ ?コーダもフグは好きだぞ。刺身も鍋も最高なんだな、しかし !
カーリャそんなこと言ってる場合じゃないですよ、コーダさま !……じゅる。
リカルドおい、こっちに来てみろ !
ルドガーっ ! これは…… !
リカルドああ。明らかに戦った跡だ。
キュキュ足跡みる。男、女、子供。三人いた。
イクスそれと、これが落ちてたんだ。
ルドガー折り紙 ? 何か書いてあるけど……読みにくいな。
アンジュ走り書きね。ええと……、ハスタ、墓守の街……、エル、チトセ。
ルドガーエルとチトセはハスタに襲われたのか ! ?
イクス墓守の街へ行こう。エルたちはそこに連れて行かれたかもしれない !
マティウス…………。

キャラクター10話【18-15 墓守の街3】
イクスこっちだ ! この森を抜ければ墓守の――
ルドガー今のは ! ?
リカルド誰か戦っているようだな。もし『ヤツ』だとしても闇雲に飛び出したりするなよ。
ルドガー……わかってる。
グラスティン目障りな肉がぁっ !さっさとくたばれ ! !
フリーセル俺は俺に課した役目を全うする ! それだけだ !
グラスティンデミトリアス ! こいつは俺が殺す !お前はさっさとそのガキに力を使わせろ !ジュニアとの連結はあとからやる !
デミトリアス――わかった。やむを得まい。
チトセエル、逃げて――
デミトリアス邪魔だよ、お嬢さん !
チトセきゃああっ !
エルチトセ ! やだーーーーっ ! !
デミトリアスうっ…… !
イリアちっ、外した !
ルドガーエルーーーーッ !
デミトリアスぐああっ !
二人! ?
エルえ、ルドガー…… ?
ルドガーエル、怪我はないか ! ?
アンジュもう、二人とも !リカルドさんが様子を見ろって言ってたのに。
スパーダ突っ込んじまったもんは仕方ねえって !行くぞ、ルカ !
ルカうん !アンジュ、チトセさんの怪我を頼むね。チトセさんは動けるまで後ろに下がってて。
チトセルカくん…… ! それに……。
イリアあーあ、外しちゃった。ま、エルやあんたに当たんなかっただけよしとしましょ。
チトセなんで……、あなたになんか助けられたくなかった。
イリアこっちだってそうよ !けど、あんたがエルをかばったから……。
チトセ…………。
グラスティンくそっ、あいつら、デミトリアスから引き離さ――
キュキュはーーーっ !
フリーセルなっ ! ?
グラスティンどこまでも邪魔しやがって…… !
イクスやっぱりグラスティンもデミトリアス陛下も無事だったんだな。それにあの人は――
ミリーナええ、フリーセルだわ。
フリーセルイクス・ネーヴェと魔女ミリーナか…… !
イクスま、待って下さい !俺たちとあなたが戦うことに意味があるんですか ! ?
バルド彼らは一人目とは違う道を進もうとしているんだ。フリーセルだってそうできるんじゃないかな ?
フリーセル………………ッ !
エルマーナなあ、これどっちと戦えばええの ! ?ハスタはおらんし、わけわからん !
コンウェイボクたちの目的は最初から一つだよ。エルを連れ帰ることだけだ。
リカルドその通り。――ルドガー ! エルが無事なら速やかに撤退だ !
グラスティンあーあ、黒髪が二人もいるっていうのに。こんな時でなけりゃあなあ…… !
フリーセル哀れだな。執着もそこまでになると呪いだ。
グラスティン黙れよ、ビフレストの犬が。
デミトリアス――グラスティン。立て直そう。残念だが、エルに配慮する時間も余力もない。少し強引だが、ジュニアは遠隔操作すればいい。
グラスティンヒヒヒ、決心したか。なら、まかせろぉっ !
グラスティン恨むなよお、クルスニクの鍵 !ヒャハハハ ! !
ルドガー危ない、エルッ !
エルルドガーーーーッ ! !
イクス…………あれ ? ここは ?
ルカ今の、なに ?景色が歪むような、変な感じだった。
リカルド! !おい、デミトリアスは……、奴らはどこへ行った。
エルマーナホンマや。黒髪~言うてたヤバいのやムキムキも消えてしもた。
イリアキュキュやコンウェイ、コーダもいない。どうなってんの ?
アンジュねえ、みんなよく見て。ここって……。
スパーダおい……天上界じゃねえか ! どうなってんだよ !
イクスルドガー、まさか……。
ルドガー……ああ。さっき攻撃を受けて無意識に分史世界へ入ってしまったんだと思う。
エルうん。エルもさっきのヘンな感じ知ってるからわかるよ。
アンジュ……だとしたら、帝国が創った分史世界ね。そして分史世界が天上界に似ているということは中心人物は一人しかいない。
ルカじゃあ、この世界はハスタの分史世界なんだね。
スパーダってことは、ハスタの野郎は……。
リカルドおそらく、そういうことだろう。自業自得だ。
エルマーナしかし、懐かしいなぁ !分史世界ゆうても本物とそっくりやん。あっちに行くとな、お気に入りの昼寝場所があるんよ。
チトセ天上界……。アスラさま……。
サクヤ私のこの想いは深く沈めねば……。
サクヤ深く……。海よりも……奈落よりも……。この世のどこよりも……深く……。決して浮かばぬように……。
エルチトセ……。大丈夫 ?
チトセあ……。ええ、大丈夫よ。怪我はもう心配ないわ。
エルケガも心配だけど、なんか……泣きそうだったから。
チトセありがとう……。エル。
エルエルも、助けてくれてありがとう !
エルねえ、ルカー ! チトセのケガ、平気だって !
チトセルカくん……。
ルカチトセさん、よかった……動けるみたいだね。けど、無理はしちゃだめだよ。
チトセありがとう。ルカくんはいつだって優しいね。
ルカそんな……。
イリアはー ! ? なにイチャイチャしてんのよ !よくこの状況で、こっぱずかしい空気つくれるわね !ホント、どうかしてるわ !
チトセ優しい人に、優しいって言うのはそんなに恥ずかしいことかしら。あなたの方がおかしいんじゃない ?
イリアうっ…… !だ、だいたいね、あんたがエルを連れ出したりするからこんな面倒なことに――
ミリーナ今の音は ! ?
イクス行こう、あっちだ !
? ? ?ぐあああああっ !
スパーダ悲鳴だ !
リカルド気を付けろ。血の臭いが濃いぞ。
ルカ見て、あの坂の上 !誰か戦って――え…… ?
ルドガーエル ! 俺の後ろに ! 目をつぶってろ !
イリアあれ、坂じゃない……。この山みたいに積み上げられてるのって、人……。
リカルドああ。全部死体だ。なりたてのな。
? ? ?ぐはっ…… !やめ……そいつ……だけ……は…………。
? ? ?さすが ! しぶとい !そんなアナタに、今ならもう一突きプレゼント !ご連絡は今すぐ ! テロリロリン !
分史スパーダにげ………ろ…………。ル…………カ…………。……………………。
スパーダオレ…… ?
イクスなあ……あっちのスパーダの足元 !
イリアウソ、あたしがいる……死んでる……。
エルマーナウチもおる……。アンジュ姉ちゃんも……リカルドのおっちゃんも !
アンジュルカくんは ! ?
スパーダルカ……、そうだよさっきのオレは「ルカ」って……。
スパーダ助けねえと ! あの野郎はこれからルカを―― !
? ? ?うああああああああっ !
分史ハスタん~~~~素敵なホタルの断末魔 !閉店告知は数あれど、今日でホントに店じまい !ありやっとござました~~~~ !
分史ハスタハーッハハハハッ ! ヒーッヒヒヒヒ !
分史ルカごふっ…………。……………………。
ルカ僕が、殺された……。
イクスあれが、【時歪の因子】化したハスタ…… !
to be continued
キャラクター1話【19-1 分史世界1】
分史ハスタハーッハハハハッ ! ヒーッヒヒヒヒ !
分史ルカごふっ…………。……………………。
ルカ僕が、殺された……。
イクスあれが、【時歪の因子】化したハスタ…… !
エルルドガー……。エル、気持ち悪い……。
カーリャエ……エルさま、大丈夫ですか ?カーリャもお側についてますからね。
ルドガー……ミリーナ、カーリャ、聞いてくれ。分史世界を破壊するには、俺がハスタにとどめを刺さないといけない。戦っている間、エルを頼めるか。
ミリーナ――ええ、任せて。
スパーダあの野郎…… !
スパーダルカーーーー !
分史ハスタおっと !
分史ハスタ……おや ? さっき「そいつだけは~」とか命乞いしてた……ええと、みっともなし太郎くん ?おかしいな、息の根止めたはずだよなぁ。
スパーダうるせえ !よくも…… ! よくもオレの前でルカを !
分史ハスタああ、このかば焼きくんね。串打ち三年、裂き八年。どうだい、この見事な刺しっぷり。
分史ハスタでも、素材がこんなゴミじゃハスタくんの腕が号泣ですよ。というわけで、この雑魚ウナギは廃棄だポイ !
スパーダ! ! てめぇッ !
カーリャひっ ! こっちに投げて――
二人きゃあああっ !
三人「ルカ ! 」「ルカくん ! 」「ルカ兄ちゃん ! 」
スパーダおい、ルカ ! しっかりしろ !
イリアどいて、スパーダ ! 手当てするから !
チトセ傷口を押さえるわ。止血してる間に術を !
イリアわかってる !
ルカ待って、みんな !……もういいよ。力は温存して。
イリア馬鹿言わないで !ルカが……もう一人のあんたが死んじゃう !
エルマーナせやで !別の世界のルカ兄ちゃんでも見捨てることなんてできへん !
アンジュそうじゃないわ。わかってるでしょう ?分史のルカくんは、もう……。
四人……………………。
リカルド! !切り替えろ。奴が来るぞ。
分史ハスタあれれ~ ? 飛んだ死体を追っかけたらブッコロリンしたリカルド先生がいるよ~。おかしいなぁ~。どうやって生き返ったのかなぁ~ ?
リカルド貴様……、輪をかけてイカレてるようだな。この死体の山、目に入った奴らを片っ端から殺したか。
分史ハスタおい、聞いてるのはオレだぜ ?質問に答えられない先生なんて、先生じゃないやい !クビですよ、クビ ! 首チョンパ !
分史ハスタぎゃひん !
エルマーナ……ええ加減にしや、自分。
アンジュエル !
エルマーナ止めんといて !子どもが目の前で殺されて、腹煮えくり返っとんねん。ウチも、ウチの中のヴリトラもな !
アンジュ誰が止めるなんて言った ?エル、やるなら徹底的によ。
リカルドさすが俺の元雇い主だ。こいつは一気に殺らんと逃げられるからな。
イリア言われなくても、最初から全力でやってやるわ !
ルカはーーーっ ! !
分史ハスタうわ、かば焼きくん、もう復活 ! ? さっきのあんまり痛くなかった ?
ルカ痛かったよ。みんなが悲しむ姿も、みんなが死んでいた姿も。
ルカあんな光景、二度と繰り返すもんか !
スパーダルカ…… !
分史ハスタ次から次へと蘇る、これぞわんこ敵 !最高のおもてなしに、ハスタ、感謝。
分史ハスタではでは~楽しい殺戮タイムセールの再開だー !
コンウェイ……ここは ?
キュキュ景色、変わた ! ……みんな、いない。
コーダうう……突然周りがぐんにゃりしたぞ。コンニャクみたいで増々ハラが減ったんだな、しかし。
コンウェイこの現象……もしかするとここは分史世界かもしれないな。
キュキュブンシ……。ルカたち、はぐれたか ?
コンウェイルドガーくんたちもいないのを見るにはぐれたのはボクたちのほうだろうね。
コンウェイボクたちとルドガーくんとの位置関係によるものかそれとも他に違いが……。
コンウェイとにかく、まずはみんなを捜さないと。ここを中心に、少しづつ捜索範囲を広げていこう。
キュキュ……わかた。
コンウェイなんだい ? なにか言いたそうだけど。
キュキュイヌテブ。アゴヌル シエリエ マゲアモエ カディアナリ イニク。
コンウェイイイ エツカノケチ ウタラナイ。
二人…………。
コーダなに言ってるのかわからんぞ、しかし。メシの相談ならもっと楽しくしろ。しかし。
キュキュ……はい、ごめん。
コンウェイボクも、少し大人気なかったかな。
キュキュ誰 ! そこいるのわかる。出ろ !
コンウェイそれじゃ脅迫だよ。――そこの人、出てきてもらえるかな。ボクたちも話がしたいんだ。
マティウス……。
コンウェイあなたは……。

キャラクター2話【19-2 分史世界2】
マティウス……。
キュキュマティウス !
コーダギャー ! こいつはマズイんだな、しかし !
キュキュ止まれ ! そこから動く。キュキュ、攻撃する !
コンウェイ待つんだ。彼女に確認したいことがある。――あなたは、ボクたちを追ってきたの ?
マティウス……そうだ。
コンウェイということは、分史世界のマティウスじゃないのか。ここまでついてきたからには何か目的があるはずだけど、聞かせてもらえないかな。
マティウス……。チトセはどこにいる。
コンウェイさあね。ここにいるのかもわからないよ。
マティウスならばお前たちに用はない。
キュキュ待て ! お前、ルカたちに悪いことする気か ?それならキュキュ、ぜたい許さない !
マティウス奴らが私の邪魔をするのならあるいはそうなるかもしれんな。
キュキュそうか。ならお前、行かすことできない。
コンウェイやれやれ……本当に血の気が多いね、キミは。けれどキュキュの言うことにも一理ある。
コンウェイあなたが目的を話さない以上野放しにするのは危険すぎる。一緒にいてくれないかな。
マティウス断る。邪魔するのなら、お前たちから――
死鏡精死ヲ……、カガミ……シ……。
コンウェイ死鏡精 ! ?
マティウスなんだこいつらは ! なぜ、天上界にこんなものが ! ?
コンウェイ天上界 ? やっぱりそうか !この分史世界が天上界なら、なぜ死鏡精が……。
コーダわー ! コーダ、食うのはいいけど喰われるのは嫌なんだな、しかしー !
死鏡精……ミツケタ。カガミシ……。イル…… !
死鏡精アッチ……。イル……。カガミシニ……死ヲ……。
二人! !
キュキュコンウェイ、考える、後 !こいつら排除する !
コーダあっ、あいつ逃げるぞ、しかし !
キュキュコンウェイ、コーダ連れてマティウス追え !キュキュ、死鏡精倒しながらついてく !
コンウェイわかった、そうしよう。
キュキュアウォヌリ ケディエリ エミン コンウェイエンヌビ キイ !
コンウェイアソ ムコブ。
キュキュ……ホントか ?
コンウェイああ。さあ、行こう。
分史ハスタぎゃひいいん !
スパーダオラオラオラオラァ !どうしたよ、さっきの勢いは !
分史ハスタ寄ってたかって攻撃だなんて恥ずかしくないのか、君たちは !
リカルド貴様が言うか、この外道が !
分史ハスタぎゃあっ !おいおい……いつも冷静なリカルド先生らしくないでおじゃるよ ?
リカルドああ、そうかもしれん。守ると誓ったガキどもの死体がしっかり目に焼き付いちまったんでな。
リカルド己の不甲斐なさに嫌気が差す !
分史ハスタなるほど八つ当た――ぐはっ…… !
イリア怯んだ ! 今よ、ルカ !
ルカ行くよ、スパーダ !
スパーダおう !
二人爆嵐業刹衝 ! !
分史ハスタまだ……、足りな…………殺した…………。……………………。
エルマーナよっしゃ ! 倒したで !
ルカルドガーさん !
ルドガーああ ! とどめを――
ルドガーうわあっ ! !
エルルドガー ! !
チトセダメ、危ないわ !
ミリーナ落ち着いて、エル。ほら、ルドガーさんは無事よ。
ルドガーくっ……。邪魔をされた…… ?今のはいったい……。
ルカお前は !
チトセマティウス……さま ?
マティウスまだ、こやつを殺すわけにはいかぬ。
コーダそいつ、ルカたちを追ってきたんだな ! しかし !
コンウェイ正確にはチトセさんを追っていたらしいけどね。
ルカコンウェイ、コーダ !やっぱりこっちに来てたんだ。キュキュさんは ?
コンウェイすぐに追いつくはずだよ。見たところ、あれが【時歪の因子】化したハスタのようだね。
ルドガーああ。あいつを倒さないと俺たちも帰れない。
イリア聞いたでしょ、マティウス ! そいつを渡しなさい !
マティウス……チトセ、ここにいたのか。
チトセマティウスさま !お目覚めになったのですね。この日をどれだけ待ち焦がれたか。
イリアちょっと、あんたたち、無視すんじゃないわよ !
イクスマティウスさん ! 俺たちの話を聞いてください。
キュキュコンウェイ ! 死鏡精、倒しきれなかた !みんな ! 逃げる !
三人死鏡精 ! ?
死鏡精カガミシ、イタ !
キュキュバニシングストーム !
イクスあ、ありがとう ! キュキュさん !
キュキュ死鏡精、イクスたち、狙てる。
ミリーナエル、一旦私から離れていて。チトセさん、エルをお願い !
チトセえっ ? ……わかったわ。だったらお願い、マティウスさまを――きゃあっ !
死鏡精カガミシ、ナカマ ! ジャマ ! ジャマ !
エルマーナあかん、こいつら何とかせんと !
マティウスハスタは確保した。行くぞ、チトセ。
チトセ行くって……マティウスさま ?
スパーダ! !マティウス、てめぇ ! ハスタを置いてきやが――
スパーダくそっ、死鏡精が…… ! 邪魔すんな !
マティウスチトセ、早くしろ ! ここから離れるぞ。
チトセでも、私はこの子を……。
マティウス……チトセ、まさか、お前まで私を裏切るのか ?
チトセ! !
チトセいいえ ! 私はイナンナとは違う !決して、アスラさまを失望させるようなことはしません !
チトセそうよ、私だけは絶対に…… !
エルチトセ…… ?
チトセ……エル。周りの死鏡精だけは倒すからその間にみんなのところに行って。
エルチトセ、待って !
チトセマティウスさま。今、お傍に参ります !
エル行っちゃダメだってば、チトセ !
チトセ来ないで、邪魔よ !
エル! !
ルドガーエル、大丈夫か !
マティウスよく来た。さあ、行くぞ、チトセ。
チトセはい……、マティウスさま。
エルチトセーーーーッ !
イクスチトセさん ! くそっ、ハスタも取り戻さないと――
リカルド死鏡精に集中しろ !今ここで奴らを倒さないとこの先ずっと付きまとわれるぞ。
イクス……はい !

キャラクター3話【19-4 仮想鏡界1】
ナーザ――それで、イクスたちが消えた後フリーセルはどうなった。
アリエッタデミトリアスたちに、捕まった……です。今、アリエッタのお友達が……後を追ってます。
ナーザわかった。ご苦労だったな、アリエッタ。引き続き動向を探ってくれ。
アリエッタわかった……、です !
ナーザ……ここまで急激に事が動くとはな。
ジュニアはい……。心構えはしていましたけど……。
バルドフリーセルとデミトリアスが交戦との一報を受けたので皆さんには情報共有のために集まって頂きましたがそれだけでは済まなくなりましたね。
リヒターああ。フリーセルだけじゃなく、イクスたちも本当に分史世界へ行ったのか確かめようもない。さて、どうするか。
アステルう~ん、分史世界に関しては下手に手を出すより浮遊島に任せるのがいいんじゃない ?あっちはクルスニクの一族もいるし。
コーキス…………。
メルクリアコーキス、やはりイクスが心配か ?
コーキスそりゃ当たり前だろ。けど……マスターなら大丈夫だから。
メルクリアなんと、自信満々じゃな。
コーキスまあな。今も確かめてたんだけど俺の身体には何の変化もない。感覚も正常だ。だったら、マスターだって無事ってことだよ。
マークⅡへえ。なんだよ、鏡精っぽいこと言いやがって。
コーキス鏡精だっての !っていうか、マークより俺のが先輩だからな ?
メルクリア……コーキス、おぬし何やら変わったな。
コーキスえっ、マジで ! ? どこが ! ?まさかマスターに何かあったのか…… !
メルクリア違うわ ! 見た目は変わっておらぬから安心せい。まったく……、一瞬、頼もしく見えたがわらわの気のせいであったか。
バルドいいえ、メルクリア様。素晴らしい観察眼かと。やはりあなたはナーザ様と同じように上に立つ素質をお持ちです。
バルドあなたにお仕えする者は、きっと……。
メルクリアバルド ?
バルド……いえ、話を戻しましょう。
バルドアリエッタの報告から鑑みるにフリーセルが墓守の街に向かった理由は分史世界の誕生を阻止するためだったのでしょうね。
ナーザああ。しかもそれは、フリーセルにとっても単身で挑まねばならぬほど急ぐ必要がありにも関わらず、阻止はできなかった。
ナーザそう考えると、今の状況はこちらにとって相当まずい方向へ動いているということだ。
メルクリアならば、わらわたちは、まず何をすべきでしょうか。
ナーザそれはもう決まっている。だが、これは俺の勝手ですることだ。
ナーザ俺はフリーセルを救出する。
リヒターこちらは構わんが奴はジュニアも敵視する可能性があると聞いているぞ。
マークⅡああ。俺としちゃ危険人物はなるべく遠ざけておきたいぜ。
ジュニアマーク、僕なら大丈夫だよ。
マークⅡったく、お前は……。そう来ると思ったよ。けど一応、言うべきことは言っとかねえとな。
マークⅡそれに、あいつは二人目だろ。俺らにとっちゃ、一人目のフリーセルだってよくわからねえ奴なのに、二人目ともなるとな。
マークⅡビクエの方のフィルから聞いたフリーセルの話をベースにして、二人目のフリーセルの動きを予測しても同じように動くとは限らねえ。
マークⅡ警戒ぐらいさせて欲しいぜ。
バルド二人目が同じとは限らない……ですか。
ナーザ一人目か二人目かなど関係ない。フリーセルは我がビフレストの民だ。
ナーザ俺たちと手段は違えど今も祖国のために戦い続ける忠臣を見捨てるのは俺の望むところではない。
ナーザマークの懸念は承知している。故にフリーセルを助け出した暁には膝を突き合わせて話すつもりだ。
ナーザそれでも変わらぬとあれば……俺が責任を取る。
マークⅡわかった、わかった。まあ、フィル……ジュニアも了承してるしな。
バルドでは、すぐにでも向かいましょう。メンバーはどうします ?
ナーザこうなった今、デミトリアスとグラスティンの狙いはジュニアだろうな。
ナーザ虹の橋が実体化し、奴らはニーベルングへの移住とティル・ナ・ノーグの破壊を試みるはずだ。
バルドはい。そしてその鍵はジュニアだという話です。
ジュニア………………。
ナーザ贄の紋章は無効化された。しかし消えたわけではない。
リヒターそもそもジュニアの贄の紋章は前回、他の紋章持ちとは違って発動しなかった。つまり性質が違うと考えられる。
リヒターであれば、ジュニアの紋章はまだ生きている可能性が高い。
ナーザああ。なればこそ、お前は今一度仮想鏡界にこもり外部との接触を断つのだ。
ナーザフリーセルの救出は俺の独断だ。救出には最小限――俺とバルドで向かうとしよう。
ジュニア……………。

キャラクター4話【19-5 仮想鏡界2】
メルクリア――な ! ?兄上様、それはあまりにも危険ではありませぬか ! ?
ナーザ案ずるな。バルドもいる。
ジュニア……ま、待って……。
ジュニア待ってください、ナーザ将軍 !僕も……僕もお二人に同行させてください !
マークⅡお、お前、何言ってんだ ! ?
ナーザどういうつもりだ、ジュニア。
ジュニア虹の橋が架かって、分史世界も創られてしまいました。みんなが言うとおり、これから帝国は僕の捜索に全勢力を傾けるはずです。
ジュニア魔の空域にまで干渉したグラスティンだ。このまま仮想鏡界に隠れていても見つかる可能性だってある。
ジュニアだったら僕を交渉材料にしてください。僕がおとりになって隙を作る計画を立てた方が相手の意表を突けると思います。
マークⅡ駄目だ、危険すぎる !何されるかわかんねえぞ !
ジュニア嫌なんだ ! そうやって怯え続けるのは !
ジュニアマーク、僕はもう利用されるためだけに生まれた僕のままでいたくない。
マークⅡ! !
メルクリアよう言うた。ジュニア。
マークⅡ……参ったな。俺のご主人様、意外にカッコいいわ。
アステルふふっ、だったら僕たちも協力しないと。
バルドレイカー博士、何か良い策でも ?
アステル策はないよ。でもジュニアの贄の紋章の抑制コードみたいなものはできそうかなって。
アステル確かジュニアの贄の紋章には対になる紋章があるんだったね。
アステル帝国がジュニアを捕まえたならきっと対になる贄の紋章とセットで起動させる筈だ。
アステルだから、ジュニアの贄の紋章に相手の贄の紋章の発動を抑えるコードを上書きしてみようかと思うんだ。
コーキスえ~と……、つまり ?
リヒターアステル、わかりやすく説明してやれ。
アステルわかりやすく ? う~ん……、例えるならディスト博士がジェイドさんと遭遇しても何もできずに指をくわえて見てるだけになるコード。
コーキスますますわかんねえ !
ディスト心外ですよ、レイカー博士 !私とジェイドの部分を逆にしなさい !
コーキスいたのか、ディスト様 !
ディスト最初からいましたよ。救出だの何だのと興味がなかったので黙っていただけです。
アステルあはは、ごめんなさい。とにかく、そういう対策はできると思うんだ。
アステル浮遊島で所持しているデータやリヒターとディスト博士の力があればすぐにでもジュニアの贄の紋章に上書きできると思う。
アステルでも、そもそも対の紋章の性質まではわかってないから相手の贄の紋章が効果を発動させるのを遅らせることしかできないけどね。
ジュニア対になる贄の紋章……、元々贄の紋章はルグの槍の力を利用して虹の橋を架けるものだった。
ジュニアなら、僕と誰かの持つ『対の贄の紋章』もルグの槍の力を利用していて虹の橋に似た効果を持っているのかな……。
アステル基本的には贄の紋章なんだからそうだろうね。
ディスト簡単なことですよ。わざわざ二人の人間を対にする――つまり二人の人間の力を寄り合わせる必要があるのでしょうね。
リヒタージュニアをわざわざ使うのなら当然鏡士としての力か。
ジュニア……少し見えてきた気がします。帝国は何かを具現化したいんだ。
ジュニアアステルさん。対の紋章が誰に施されているのか突き止めるためにも是非その上書きをお願いします。
バルドナーザ様、いかがなさいますか ?だいぶ盛り上がっているようですが。
ナーザ……わかっている。歩みを進めんとする者たちに水を差すほど無粋ではない。
ナーザレイカー博士、ジュニアへの処置を急いでくれ。
アステル了解です。
ジュニアナーザ将軍、ありがとうございます !
ナーザ何を言う。感謝するのはこちらの方だ。
アステルディスト博士、力を貸して貰えませんか ?僕だけじゃ難しい作業ですしどちらかといえばディスト博士の得意分野ですよね。
ディストいいでしょう。対の紋章には私も興味があります。浮遊島でも研究をしているはずですよ。
ディストさあ、早く連絡しなさい。我が友ジェイドなら快く情報を共有してくれるでしょう。
ナーザメルクリア、コーキス、俺たちに同行しろ。いざとなれば、お前たちがジュニアを連れて逃げるのだ。わかったな。
コーキス了解 !へへっ、ボスも結構優しくなったよな。
メルクリア馬鹿者 ! 兄上様は元からお優しい方じゃ。――よし、わらわも準備をせねばのぅ !
リヒター気負いすぎるな。足を掬われるぞ。
メルクリアわかっておる。リヒターは本当に心配性じゃの。
ナーザリヒター、お前もついてきてもらえるか。ジュニアの処置後に対処できる者が欲しい。
リヒターわかった。だが、ここの守りはどうする。仮想鏡界はほぼ安全だとは思うが……。
ナーザマークとディストならアステルを守ってそれなりに立ち回れるだろう。外に出ている者も、じき戻るしな。
ナーザ紋章の上書きが終わり次第、墓守の街に出発する。それぞれ備えを進めておけ。

キャラクター5話【19-6 分史世界4】
イクス洸牙衝 !
イクス……よし、これで全部かな。
リカルドああ。見た限りではな。しばらくは邪魔されずに済むだろう。
イクスミリーナ、カーリャも無事か ?
ミリーナええ !
ミリーナカーリャ、大丈夫よね ?
カーリャはい、このとおり !乗っ取られたりしてませんよ。
イクスよかった。コーキスの例もあるからさ。心配したよ。
カーリャそれにしてもなぜ分史世界に死鏡精が現れたんでしょう。もしかして、天上界にもいたんですか ?
アンジュいないはずよ。天上界に鏡士みたいな存在がいたら嫌でも戦争に引きずり出されてるはずだもの。
イクスう~ん……。この分史世界はハスタの記憶の中にある前世の天上界を再現しているはずだ。
イクスでも、エンコードのせいでティル・ナ・ノーグでの『前世』の概念はニーベルングへと置き換わっている。
イクスそのせいで、二つの世界が歪に混ざり合った分史世界が生まれたのかもしれない。
カーリャそれなら死鏡精が現れても不思議じゃないですね。
ミリーナこれからも何が起きるかわからないわ。早く脱出しないと。
スパーダああ。ルドガーにハスタのとどめを刺してもらってこんな世界とはおさらばだ。さあ、マティウスを追おうぜ !
ルドガーああ、でも……。
エル…………どうしたの ? エルなら平気だよ。早くチトセを迎えにいこう。
ルドガー本当に大丈夫か ?何か気になることがあるなら――
エルなにもないよ ! 本当に大丈夫だから……。
アンジュねえ、みんな。立ち話程度でいいからマティウスを追う前に今の状況を整理しておかない ?
ミリーナそうね ! その間、エルとルドガーさんは休んだらどうかしら。
ルドガーありがとう、そうさせてもらうよ。
エルマーナせや、忘れるとこやった !エル、これ返しとくな。
エルあ、これ……エルがエルと拾った貝殻 !
エルマーナこれな、あの部屋の……管制室の前で拾ってん。ルドガー兄ちゃんから話を聞いたあとに。
エル! !あ、それじゃ……。
エルマーナ一人で抱えるんがしんどいなら相談してみるのもええんちゃう ?エルには何でも話せる相棒がおるんやろ ?
エルアイボー……。そうだよね。ルドガーは、エルの相棒。
エルマーナせやで ! そんで、それでもしんどい時にはアンジュ姉ちゃんに抱っこしてもらい。ルドガー兄ちゃんと違ってフッカフカやで ?
エルうん、わかった。ルルとどっちがフカフカか、比べてみる !
アンジュうっ、そこはルルに勝って欲しいかな……。
イクスそれにしても、マティウスがいたのは予想外だったな。
コンウェイボクも最初は分史世界のマティウスかと疑ったよ。
リカルドしかし、何故あいつはハスタをかばったんだ。
コンウェイ彼女にとって、この分史世界の中に都合のいい何かがあるんじゃないかな。それが何かといわれても、ボクにはわからないけどね。
イリアそんな小難しいこと、どうでもいいわよ。とにかくマティウスを止めないとあいつ、また都合のいいように利用されるだけよ。
ルカあいつって、チトセさんだよね ?
イリア当たり前でしょ。他に誰がいるのよ。
ルカ……それって利用されるチトセさんが心配ってこと ?
イリアはぁ ? どこをどう聞いたらそうなんのよ !あんたほんっと、おたんこルカね !
コーダコーダもそう聞こえたぞ、しかし。
イリア違うって言ってるでしょ !……けどさ、あたしたちはみんなあいつの最期を見てるじゃない。
イリアもうあんな想いをさせるわけにはいかないでしょ。こっちも後味悪いしね。
イリアそういうわけだからくれぐれも勘違いするんじゃないわよ ! ?
ルカイリア、顔が赤――
スパーダおい、ルカ ! やめとけって !
ルカえ ?
エルマーナアスラもそうやったけど、ルカ兄ちゃんてたまにおっそろしく空気読めん時あるなぁ。そう思わん ? アンジュ姉ちゃん。
アンジュ…………。
エルマーナアンジュ姉ちゃん ? なに考えとるん ?
アンジュえっ ? ああ、ごめんね、エル。さっきコンウェイさんが言ってたことが気になって。
アンジュマティウスに都合のいいことは何なのかって考えてたの。
エルマーナふうん。で、わかったん ?
アンジュそれが全然。やっぱり、まずはマティウスの目的をはっきりさせないといけないのよね。でも、それも全く思い浮かばないの。
アンジュだって、今のマティウスの行動って帝国側に都合のいいことばかりでしょ ?
アンジュ自我を取り戻したマティウスが自分をリビングドールにした人たちの利益になることなんてするかしら。
エルマーナまあそうやな。帝国に味方してないならそうに見える行動をするんはなんでかを突き止めて……、ええと……。
エルマーナあーー、なんや頭痛なってきたわ !
アンジュごめんね。私だって考えがまとまってないのに混乱させるだけよね。
リカルドおい、そろそろ行くぞ。さすがにこれ以上は奴らから離れ過ぎる。
アンジュわかりました。さ、行きましょうか、エル。
エルマーナ全然わからんままやけど、ええの ?
アンジュええ。立ち止まって考えるよりもエルの言うとおり今は彼女たちを止めるのが先決よね。

キャラクター6話【19-9 分史世界7】
チトセ――そうして帝国から連れ出された後鏡士のもとに身を寄せ、マティウスさまが回復されるのをお待ちしていたのです。
マティウスそうであったか。……帝国め、よくもここまで愚弄してくれたものよ。
マティウスそれで、ロミーと行動を共にしている間奴は何か言っていたか ?
チトセはい。ルグの槍が発動したときこそ自分が世界を超える機会だと。
チトセ帝国とも、アルトリウスとも違う発言をしたのはそれだけです。
マティウスそうか。これで確信できた。フフフ、あのロミーという女はしたたかだな。
チトセマティウスさまは、何かご存じなのですか ?
マティウスあの者は、ティル・ナ・ノーグという世界から脱出しようと目論んでいたのだ。
チトセ脱出…… ?それは、自分の世界に戻るという意味ですか ?
マティウスそうだ。私もリビングドールにされる直前に知った話だがな。奴は今もその計画のために動いているとみえる。
チトセ『今も』とおっしゃいましたがロミーはまだ目覚めてはおりません。
マティウスよい。それで構わぬ。
チトセそう、ですか……。
マティウスともあれ、ティル・ナ・ノーグから抜け出せるか否かはルグの槍の力の発現である虹の橋にかかっている。
マティウス分史世界に虹の橋が架かっている限り閉じた世界に風穴が空いた状態になるのだ。
マティウスチトセ、この分史世界という場所を消させてはならぬ。
チトセはい !それで、あの……、差し出がましいようですがお体はいかがでしょうか。
マティウス問題はない。このとおり、目覚めてすぐに動くこともできた。
チトセそうですか。本当に……本当によかった…… !必ずお元気になられると信じていました。
マティウス行くぞ、チトセ。私にはやることがある。
チトセはい、マティウスさま !
チトセ(ああ、マティウスさまについて来てよかった。これで私の思いは報われるわ。もう、何も憂いはない)
チトセ(…………何も ?)
分史ルカごふっ…………。……………………。
ルカ僕が、殺された……。
チトセ(大丈夫、アスラさまは……、ルカくんは強いわ。分史世界のようにはならないはず……)
エル行っちゃダメだってば、チトセ !
チトセ(でも、あの子は……)
マティウス……どうした、チトセ。顔色がすぐれぬようだが、何を気にしている。
チトセい、いいえ、何も !マティウスさまが気にされるようなことではございません !
マティウス私には話せぬと ?
チトセそれは……。
マティウス話せ。
チトセ……先ほどの死鏡精の襲撃がどうなったか考えておりました。
マティウスああ、そのようなことか。そうだな、ヤツらがあそこで倒れてくれればこちらには都合がよいのだがな。
チトセえっ…… ?
マティウス私の思惑どおりに事が運べばルカたちは恐らく邪魔をしてくるだろう。
マティウス共にいた鏡士は、我らをここに閉じ込めた元凶だ。直接恨みを晴らすことはできぬが死鏡精とやらと相打ちになれば手間が省ける。
チトセおっしゃる通りですがそれでも、あの人たちはマティウスさまの御身を救い保護いたしました。
チトセルカくんや、他の者も毎日のようにマティウスさまの容体を気にして訪れてくれたのです。
チトセそれに、エル……、私と共にいた子は先ほどまで、マティウスさまのために一緒にお見舞いの花を探していました。
チトセあの子、それは懸命に選んでくれて――
マティウスそれが一体なんだ。
チトセ
マティウス奴らが私を救出し保護したのは自らの目的を果たすためであろう ?
マティウスそして、お前を懐柔するために献身と愛情を見せつけているのだ。
マティウスあのイナンナのようにな。
マティウス優しさや愛など偽りにすぎない。奴らの示す偽善に満ちた感情に惑わされるな。早く忘れろ。
チトセ……はい。
チトセ(……だけど)
サクヤアスラさまが正しいのよ。
チトセ! !
サクヤイナンナのせいで天上界は崩壊しアスラさまも全てを失ってしまった。
サクヤあの女の偽りの愛のせいで !
サクヤだから今度は『私』がアスラさまの傍にいなければ。
チトセそうよ、私が……。私がマティウスさまの傍にいなくちゃいけない !
マティウスチトセ、ハスタを匿える場所を探すぞ。
チトセはい !
チトセ(ハスタ……、この人が来なければ今頃私はエルと花を摘んで――)
チトセ……忘れなきゃ。

キャラクター7話【19-10 墓守の街1】
コーキス驚いたな。ここまでめちゃくちゃスムーズだぜ。
メルクリアうむ。墓守の街に近づくほど帝国兵か死鏡精あたりに出くわすかと思ったのじゃが。
ナーザアリエッタの魔物たちのおかげだ。いざという時の脱出経路も確保するよう頼んである。
コーキスすげえ ! あ、いいこと思いついた。アリエッタ様がこの世界の魔物を全部仲間にできたら他の魔物とも戦わなくて済むよな !
リヒターアリエッタの魔物は、あくまで『友人』だろう。お前、心を通わせるほどの友をそう簡単に手に入れられるとでも思っているのか ?
コーキスう……。
メルクリアリヒター、話はもっともじゃがもそっと優しく言えぬか ? コーキスがしょぼくれておる。
リヒターそんなつもりはなかったんだが……。すまなかったな。
コーキスいや、リヒター様の話は勉強になるからさ、うん。
ナーザお前たち、じきに目的地だぞ。気を引き締めろ。
バルドふふっ、多少は敵が出たほうが緊張感があったでしょうか。
ジュニアでも、おかげで少し落ち着きました。
ジュニア……この作戦、必ず成功させます。フリーセルを取り戻して、みんな無事で帰りましょう。
グラスティンまったく、どこまでも邪魔しやがって。貴様のせいで、奴らだけが分史世界に行っちまっただろうが !
フリーセルぐっ !
デミトリアスやめるんだ、グラスティン。
フリーセルデミトリアス……。
グラスティン絆されるなよ、デミトリアス。復讐するチャンスだぞ。
グラスティン友人面して近づいて、お前を殺そうとした男だ。生かしておく必要があるか ?
フリーセルゲホッ……。俺を殺したいのは……誰よりお前なんじゃないか ?グラスティン。
グラスティン貴様――
ナーザそこまでにしてもらおう。
デミトリアス貴殿は…… !
ナーザ久しぶりだな、デミトリアス帝。
デミトリアスウォーデン殿…… !それにメルクリアも。
フリーセル! !
デミトリアス懐かしいよ……、変わらず元気なようだね。
メルクリア……お久しゅうございます。
グラスティンおいおい、これはどういうことだぁ ?ビフレストの皇族方がおそろいで。しかも……。
ジュニア…………。
グラスティンヒヒヒッ、小さいフィリップまでいるじゃないか。かくれんぼは終わりか ?
ジュニアそうだね。いい加減飽きたんだ。
グラスティンもう少し遊んでいてもよかったんだぞ ?お前の大事なものを順番に痛めつけたところで許しを請いながら俺に下るのも一興と思っていたのに。
リヒター下衆が……。
グラスティンまあ、手間は省けたんだ。文句は言わんさ、ヒヒヒッ。それで、用件はなんだ。
ナーザ我が臣下を迎えに来た。
フリーセルウォーデン様 !御自らがお出ましになることではございません !どうかお捨て置き下さい !
バルド捨て置けと言われて帰るような御方であれば最初からここには来ないよ、フリーセル。
メルクリアそうじゃな。兄上様をみくびるでないわ。
フリーセルバルド様、メルクリア様……。
フリーセル申し訳ありません。私の失態ゆえに尊き方々を巻き込んでしまった……。
グラスティンいやぁ、価値ある失態だぞ ?その尊き方々が大事に隠しておいた小さいフィリップまで引きずり出したんだからなぁ !
フリーセルくっ……。
ナーザフリーセル、お前は思い違いをしている。
ナーザむしろ、最初に巻き込んだのは俺たち皇族の人間だ。お前はただ、その渦中でひたすらに責を果たそうと奔走した。
ナーザその忠義に報いるためにここへ来た。全ては俺の身勝手な思い故。お前が悔いることなど何ひとつない。
フリーセル……殿下……。
グラスティンよかったなぁ。お前みたいな駄犬でもご主人様はまだ飼う気でいるらしい。
グラスティンだが、俺はどうしてもこいつを殺したいんだよなぁ。
デミトリアスグラスティン、待て。――ウォーデン殿、ならば取引をしようではないか。
グラスティンヒヒッ、そういうことだ。こいつの命と、ジュニアの身柄を交換といこう。
リヒターそうまでしてジュニアを手に入れたい理由は特殊な贄の紋章のせいか ?
グラスティン……なるほど。お前やアステル、ディストにハロルドもいる。その程度の調べはついて当然か。
リヒターやはりな。だが、対になるもうひとつの紋章はまだ誰にも刻めていないはずだ。
リヒター鏡映点は、ほぼイクスたちの手中にある。その全員を調べたからな。しかもすでに刻まれた紋章は全て無効化してある。
リヒター今さらジュニアを手に入れたところで無駄な話だ。ここからどうする気か見物だな。
コーキス……リヒター様、探りを入れてるのか。
メルクリアうむ。少しでも対の相手がわかればよいが。
グラスティンくっくっくっ……ご忠告どうも。そうか、対の紋章が刻まれてないこともバレてると。
グラスティンだがな、なくて当たり前なんだよ。紋章を刻んだのは、ついさっきだ。
グラスティンあれは本人も気づいてないだろうなぁ。
ジュニアさっきだって ! ?
リカルドいいか、よく探せよ。あいつらは気絶したハスタを抱えてる。不自然な足跡があるはずだ。
キュキュ足跡、見つけた ! こっち !
ルドガーよし、行こう、エル。
エルうん。……ねえ、ルドガー、エルってジャマかな。
ルドガー邪魔なわけないだろう ?
ルドガー……あ、そうか。あの時の――
エル行っちゃダメだってば、チトセ !
チトセ来ないで、邪魔よ !
ルドガー……エルは、チトセのことどう思う ?
エルチトセは優しいよ。マティウスのために花を摘んだりエルにも折り紙見せてくれたり、色々話してくれたしさっきもエルのこと守ってくれた。
エル花もね、本当は摘むよりも自然に咲いてるのを見るのが好きなんだって。動物も好きって言ってて……。
エル……だからね、ジャマって言われて悲しかったけど本当は、エルが危ないから来ないようにするためかもって……。
エルけど、すごく怖い顔してたし……、よくわかんない。
ルドガーそうか。だったら、ちゃんと会って話さないとな。みんなでチトセを迎えに行こう。
エルうん !戻れたら、またチトセとあの花畑に行きたい。今度はミラもいっしょに。
エル……エルね、今すごく、エルのミラと話がしたいんだ。
ルドガーそうだな……。チトセを助けて、早く帰ろう。ミラや、兄さんや、エルのパパのところに。

キャラクター8話【19-11 分史世界8】
マティウス崖か……。一度戻らねばならんな。
チトセ申し訳ありません。私が不案内なばかりに。
マティウス天上界と似ているとはいえ場所によって地形がだいぶ違っているな。
チトセここまでの道沿いに廃屋らしきものがありました。とりあえずハスタは、そこにでも閉じ込めて――
エルマーナあっ、おったで ! マティウスや !
ルカチトセさん、探したよ !
チトセルカくん……。
マティウスやはり生きていたか。
イリア当たり前でしょ。あのくらいで死んでたらティル・ナ・ノーグじゃ生きていけないっての !
チトセまた私の邪魔をするのね、裏切者のイナンナ。アスラさまは渡さないわ。
イリア頼まれたっていらないわよ。それとイナンナは前世。あたしはイリア。ごっちゃにしないで。
イリアで ? あんたはどっちよ。イナンナに負けたほう ?それとも――
チトセっ !この―― !
アンジュ待って !マティウス、あなたに聞きたいことがあります。
アンジュあなたがハスタを庇うことで、帝国は有利になるわ。それを知っての行動かしら。
マティウスそうだ。
アンジュあなたを利用しようとした帝国に協力するというの ?
マティウス協力などしていない。ただ、今は手段を同じくしているだけのこと。
マティウス私はヤツらを利用しているにすぎない。
イリアあーーもったいぶった会話ってイライラする !さっさと話しなさいよ !
マティウスふっ、いいだろう。どちらにせよ、お前たちには手出しのできぬことだからな。
マティウス私はティル・ナ・ノーグを脱しあの忌まわしい世界へと帰還を果たした後――破滅させる。
スパーダ……やめとけよ。それ、絶対に上手くいかねえぜ。
コンウェイこの鏡に護られし創造の世界でなら違う可能性を見つけられるはずなのにそれでもキミは繰り返すというのか。
マティウスどこにいようと我が願いは変わらぬ。腐った世界の破壊のみ。
コンウェイそう……。これも魂に刻まれた因果ゆえか……。
マティウスふっ、何とでも言うがいい。
ルカでも、それは本当に叶わない願いなんだ、マティウス。――そうだよね、イクス。
イクスああ。ティル・ナ・ノーグは閉ざされた世界だ。あなたはもう二度と、元の世界には戻れない。
マティウスそのようなことは百も承知よ。知ったうえで私は計画を進めているのだ。
マティウスこうしている今もロミーは私の目的を達するために動いている。本人が自覚しているかは知らぬがな。
イクス何を言っているんだ。ロミーはまだ眠っているのに。
マティウスあの者の魂はすでに肉体から離れている。お前たちは気づいていないようだがな。
ミリーナ離れているですって ! ?ロミーの身体にはアニマがない…… ?
カーリャまさか、ロミーさまはもう亡くなって……。
マティウス正確には、ロミーとやらの体を奪っていたものが離れていったのだろうな。
イクスそうか……。確かロミーは本来のロミーではないってルキウスが言っていた。
イクスでもロミーの中にいた魂はどうして急にロミーから離れたんだ…… ?
マティウスもちろん、ティル・ナ・ノーグを脱出するためだ。
ルカまさか、本当に……。
マティウス興味が沸いたか? ルカ、私に協力するのなら共に来い。
ルカそんなの……。
マティウスもっと詳しく話してやろう。
マティウス帝国にいた頃だ。私はロミーが『故郷』と呼ぶ場所に戻ろうと動き出したことを知った。
マティウスしかし、探りを入れようとしたところでグラスティンという男にリビングドールにされたのだ。だが、チトセが動いてくれた。
チトセええ。前もってのご指示どおりに万が一、マティウスさまに何かあればまずはデミトリアスにつく。
チトセそして、デミトリアスの様子をうかがいつつロミーが帝国軍の意図に反して動いているようであればそちらへつくようにと。
チトセロミーがアルトリウスについたからこちらもアルトリウスに協力することにした。
マティウスこれまでの帝国の動き、そしてチトセからの情報加えて、アジトからお前たちをつけて来た際に聞いたデミトリアスとの話。
マティウスそれら全てを合わせて私は理解した。
マティウスルグの槍は隔てられた二つの世界――この分史世界とティル・ナ・ノーグとを虹の橋を作ることで繋いでいる。
マティウスつまり、ルグの槍には世界を越える力がある。ロミーはこの力を利用して奴の故郷へ戻ろうとしているのだ。
マティウス虹の橋の実体化はこの分史世界の誕生と連動している。ロミーの脱出が成功し、私が脱出するまで分史世界を守り、虹の橋を保たなければならない。
マティウスさぁ、行こう。我が半身よ。元の世界に戻り、我々に与えられた責務を果たすのだ。
エルマーナ待ちぃ ! さっきから黙って聞いてれば勝手なことばっか言うて !
アンジュ帝国はこの分史世界から何かを持ち込むことでティル・ナ・ノーグを消滅させようとしている。分史世界をこのままにはしておけないわ。
マティウスこの世界のことなどどうでもいい。聞けば元より具現化を繰り返した継ぎはぎの世界だ。歪さは私たちの世界の比ではない。消えて当然だ。
マティウスしかも、お前たちは勝手に具現化されたのだぞ ?守ってやる価値がどこにある。
リカルドそれはお前が決めることじゃない。価値など自分で決める。
キュキュそう ! キュキュの大事、キュキュが決める !
マティウスお前はどうなのだ、ルカ。
ルカ僕もみんなと同じだよ。
ルカこの世界で結んだ絆を……ティル・ナ・ノーグで出会ったみんなを犠牲にしてまで帰ろうなんて思わない。
マティウスそうか。ならば私を止めてみることだな。
スパーダああ、やってやるよ !ルドガー、こっちはオレらが抑える。スキ見てハスタのほう頼むぜ。
ルドガーわかった !
チトセさせないわ !
ルドガーチトセ…… !
エルお願いチトセ、ルドガーと戦わな――
エル……あれ…… ?なんで……胸……くるし……。
二人エル ! ?

キャラクター9話【19-14 墓守の街4】
ジュニア紋章を刻んだのがさっきって、どういうこと ! ?
フリーセルまさか……あの鏡士たちとの戦いの時か ! ?
グラスティンヒヒヒ、今頃気付くなんてのろまだなあ。だからお前は駄犬なんだよぉ。
デミトリアスグラスティン、仕掛けをペラペラと話すのはいささか危険なのでは ?
グラスティンそうだなぁ。ジュニアを前にして昂ぶったのかもしれないな。ヒヒヒヒ、この辺にしておくかぁ。
デミトリアスそれで、ウォーデン殿。返答はいかに。
グラスティンどうするんだ ? あんまり長く待たせると手が滑ってうっかり刺しちまうぞ ?
ナーザ――ジュニア、行ってもらえるか。
ジュニア……わかりました。
デミトリアス交渉成立だな。
ナーザでは、フリーセルの解放を確認した後に同時に互いのほうへ歩かせる。それでいいな。
デミトリアス承知した。グラスティンフリーセルの足の拘束を解いて放してやれ。
グラスティン……わかった。ただし――
フリーセルぐあっ ! !
グラスティン大げさだな。片足刺したくらいで。さて、これで派手な動きはできないだろう。――行け。
バルドジュニア、くれぐれも気を付けて。
フリーセル……すまない。
ジュニア大丈夫。任せてください。
ナーザよくぞ戻った。大儀であった。
バルド出血が酷い。応急手当だけでもしておかないと。
フリーセル申し訳ありません……。
ナーザ手当が済んだら下がっていろ。ことはすぐに起きるかもしれん。
フリーセルこと…… ?
グラスティンああ、よく帰ってきたなぁ、小さいフィリップ。――それで、何を企んでいる ?
ジュニア! !
グラスティン隠れてた奴がノコノコ出てきてしかも素直にこっちに来た。上手く運びすぎて疑いたくもなるだろう ?
ジュニア……そうだね、企んでるよ。僕はもう、あなたの思い通りになんかならないってね。何をされたって、全力で抗ってみせる。
グラスティンヒヒヒッ、可愛いことを言うじゃないか。ならやってみせてくれよ !お前に刻んだ贄の紋章は特別だとわかってるんだろう ?
ジュニアうあああっ ! !
グラスティン決意だけでその紋章の発動は止められないぞ ?さあ、次元を越えるルグの槍――いや、クルスニクの槍が生まれるぞおっ !
グラスティン…………あ ?
グラスティン何だこれは……対の紋章が同期しない ! ?
リヒター始まったぞ ! 今だ !
ナーザ行け ! ジュニアを奪還しろ !
二人「了解 ! 」「承知 !」
デミトリアス邪魔はさせない !
デミトリアス衛兵 ! !
デミトリアス兵たちが来ない…… ?
デミトリアスそうか……。貴殿らの仕業か。ウォーデン殿、メルクリア。ならば――私が貴殿らを食い止める !
グラスティンクソッ、紋章に変なコードを上書きしてやがる !こいつの解除は……チッ、面倒なロックかけやがって !このやり方じゃ時間がかかりすぎる !
ジュニア言っただろ……。思い通りになんて……させ……ない……。
グラスティン馬鹿が。対の紋章との結合は終わってるんだ。対の方に負担はかかるが、強引にでも――
ジュニアうっ !
グラスティン俺が直接上書きして強制的に紋章の効果を発動させてやる !
ジュニアうわああああ ! ?
コーキスジュニアが炎に包まれた ! ?
エル痛っ ! ! はあっ……はあっ……。
ルドガーエル ! ? エル、どうしたんだ ! !体が異常に熱い ! ?
ミリーナえ ! ? 今、一瞬エルの体が炎に包まれたような…… ! ?
イクス炎…… ! ?まさか……贄の紋章 ! ?でも、エルに紋章が刻まれた筈は……。
イクスいや、そうか。エルとチトセは帝国にさらわれたんだ。まさかその時に――
マティウスそうか。【クルスニクの鍵】に贄の紋章を仕込んでこの分史世界を丸ごとティル・ナ・ノーグに運び込むつもりか。
三人! ?
マティウスならばルグの槍の再起動も近いな。これでティル・ナ・ノーグを抜け出せる !
イクスエルの贄の紋章が完全に発動したらエルもティル・ナ・ノーグも危険だ !ルドガーさん、早くハスタを !
マティウスさせぬ ! クルスニクの一族、貴様さえ倒せば――
ルドガー! !
マティウスうっ…… ! 死神め……。
チトセマティウスさま !
リカルド動くなよ。次は頭をぶち抜く。
キュキュキュキュも、容赦しない。
マティウスチトセ、起動するまで分史世界を守るのだ !そいつらを……ルドガーを殺せ !
チトセは、はい !
エルルド……ガー……、だめ、チトセを、助け……。
ルドガーわかってる。無理にしゃべるな。
チトセっ……。
ルカ……チトセさん、手が震えてるよ。それじゃ戦えない。
チトセ(どうして体が動かないの…… ?マティウスさまの命令ならあの子が苦しんでようが構わないはずのに……)
チトセ(そうよ、私は元の世界でだって他人を犠牲にしながらルカくんを――アスラさまを手に入れようとしてたじゃない。なのに……)
マティウスやれ、チトセ !
エルチト……セ……。
チトセ(これは……本当に正しいことなの ?)
サクヤ(そうよ。正しいに決まってる。私は、アスラさまの期待に応えなければ)
チトセ私は……アスラさまの……期待に……。
イリアあんた、それでいいわけ ! ?
チトセ! !
イリアあいつの願いは知ってるでしょ。世界の破滅よ ?あんたもそれを望んでるっての ?
チトセアスラさまが……望むなら……。
イリアアスラじゃなくて、あんたの望みを聞いてんの !自分の気持ちにくらいちゃんと正直になりなさいよ !
サクヤあんな女の言葉なんて聞いては駄目。あの女さえいなければ、アスラさまは滅びを望むほどの絶望に苛まれることなどなかったのだから。
サクヤ今度こそ私がアスラさまを支えるのよ。
チトセそう、サクヤが支える、アスラさまを……。マティウスさまを支えるのは……。
チトセ私は、誰のために…… ?
サクヤまず、あの女を裁きましょう。さあ、早く !
マティウス早く ! やれ、チトセ !
チトセ……る……い。
チトセうるさい ! 私はあなたじゃない !
サクヤ何をしているの ! あなたは私、私は――
チトセ私は……サクヤ……。私は……アスラさまを……支えて……。
チトセアスラ……さま……じゃない。あの人は……マティウスさま…… ?
サクヤアスラさまよ。アスラさまを支えるの。私は――
チトセ違う……違う…… !あの方はマティウスさま…… !
チトセ私の……チトセの大切なマティウスさまなの !あなたの気持ちを私に押し付けないで !
イリアあんた……。
マティウス何をしている、チトセ !ルドガーを殺せ !
チトセ――……私には、できません……。
マティウスチトセ……。
チトセマティウスさまの願いはマティウスさま自身も失ってしまいます……。だから……。
マティウスやはりお前も……、お前までも裏切るのか ! !
二人! !
チトセきゃあっ ! !
マティウス私を裏切る者など不要だ !
チトセ! !
スパーダお前、何もわかっちゃいねェ。
イリア今のチトセの気持ちがわかんないならあんたは一生独りよ。
アンジュマティウス、あなたは彼女を裏切者と言ったけれど私にはむしろ『あなた』を選んだように見えたわ。
マティウス知った口を叩くな !全てを失うこの絶望を、お前たちは知りはしまい !
エルマーナ全部なくした言うんなら、また集めればええやん !ウチらみんな、そうしてきてんで ?
マティウス戯言を…… !
リカルドガキの戯言ってのは案外当たってるもんだ。侮ると痛い目を見るぞ。
キュキュキュキュ、帰れないは辛い。でも、この世界好きになた。とても大事 !
コンウェイああ。せっかく未知の世界の物語を楽しんでるんだ。結末は先延ばしにさせてもらうよ。
ルカマティウス僕は君の未来を知っている。でも、今ならまだ変えられるんだ。
ルカ止めてみせるよ、絶対に !
マティウスほざけ !天上界も、地上界も、ティル・ナ・ノーグもすべて消し去ってくれるわ !

キャラクター10話【19-15 分史世界9】
マティウスこんなことが……なぜ、私が……お前たちなどに…… !
ルカ僕たちには仲間がいるからだよ。
ルカどんな時でも信じあって、助け合える仲間の存在が僕たちの強さなんだ。
マティウス認めん……。そんなものが強さだなどと…… !
イクス何にしろ、あなたの負けです。マティウスさん。
マティウスくっ…………。
チトセマティウスさま……。
エルううっ !
イクス!ルドガーさん、ミリーナ、エルは ?
ミリーナ苦しそうよ。治癒術じゃどうにもならないわ。早く逆しまの紋章を打ち込まないと…… !
ルドガーミリーナ、エルを頼んだ。すぐに【時歪の因子】を破壊する。
ルドガー……ハスタはどこだ ?
イクスいない ! ? さっきまでそこにいたのに――
チトセマティウスさまっ !
チトセきゃあああああっ !
マティウスチトセ ! ?
ハスタバッキャロ~イ !ハスタは急に止まれないって常識でしょうが !
チトセマティウス……さま、ご無事……で……。
マティウス何を…… !
ハスタまったくこのバカちんが !オレ様の復活記念の獲物はマティウスって相場が決まってんですよ~おい !
ハスタってわけで、いただきまーゲボッ ! ?
スパーダお前にはやらせねぇよ !
マティウスなぜ……なぜ助ける !
スパーダ今のオレは剣じゃねェ。守りたいと思えば、自分で動いて守れるんだよ。
スパーダデュランダルもそうしたかったんじゃねえの。アスラは最高の相棒だからな。
マティウス……。
ハスタ病み上がりにきつい迎え傷……。さすがご同輩、ざっくりいってくれますなぁ。
ハスタいいぜいいぜ、殺戮ショーの再々演、はっじまっる――
ハスタギャッ !
キュキュ始まる、ない。もう終わり。――イクス、ミリーナ、今 !
ミリーナ魔鏡の霧よ !
イクスよし、今のうちに魔鏡結晶でハスタの足下を !はーーっ ! !
コーダハスタの足下が固まったんだな、しかし!
ハスタくっ……こんなシナリオはボツでリテイク !次だ次 ! 次行ってみよー !
コンウェイ悪いけど……キミに次はもうないんだ。解放しよう、永劫の苦しみから !
ハスタ
コンウェイ頼むよ、ルドガーくん !
ルドガーああ、これで……終わりだ !
ハスタ槍 ! 槍はいいぞ ! 懐か――
ルカ……あれ ? 真っ暗だ。僕、何してたっけ……。
マティウス……お前は、ルカか ?
ルカマティウス ! ?……そうだ、ハスタを倒して分史世界が破壊されて……。
ルカどうして、僕たちだけここに……。
マティウス……分史世界の破壊を切っ掛けにお前と私、同じアスラの魂を持つ者同士が共鳴したのかもしれん。
? ? ?そこにいるな、分かたれし我が魂たちよ。
二人アスラ ! ?
マティウス……そうか。私はまた、絶望を抱えたまま生まれ変わるのだな。
マティウスそして『私』は消滅する……。
アスラそれは違う。
アスラお前は絶望という輪廻からは解放されている。
アスラよく考えろ。心当たりがあるはずだ。今のお前の魂は絶望に染まってはいない。
マティウス…………。
アスラお前はルカと同じように前世に縛られることなく生きられるだろう。
ルカマティウス、君は絶望から生まれてしまったけどこの世界で――ううん、本当は元の世界でも君を慕っている人はいたんだ。
ルカだから、僕たちといっしょに新しい世界で一から始めようよ。
マティウス黙れ !
ルカあっ……。
マティウス私に新しい生き方など、できるはずがない。
ルカマティウス…… ? 姿が薄れてる…… !
マティウスこれは……。
アスラ心配するな。お前たちが元の世界に戻る兆しだろう。
ルカマティウス、消えちゃった。
アスラお前もじきに消える。目覚めればな。
ルカごめん、アスラ……。マティウスを説得できなくて。
アスラそれだけあの者に刻まれた絶望が深いということだ。
アスラだが、お前たちならあの者の魂を救うことができるだろう。
ルカうん。やってみるよ。
アスラ……また前世の因縁を背負わせてしまったな。
アスラお前もまた、もうひとりのマティウスの痛みをその身に宿しているというのに。
ルカ平気だよ。辛くたって僕には支えてくれる仲間がたくさんいるから。
アスラそうか。ならば、これ以上は何も言うまい。
ルカあれ……アスラの姿が透けてる……。
アスラお前が透けているのだ。目覚めるようだな。
ルカうん。じゃあね、アスラ。
アスラああ。頼むぞ、ルカ。
ルカ…………あ、戻った ?
スパーダルカー ! なんだよ、心配したぜ !お前だけ目が覚めなくてよぉ !
ルカ痛い、痛いって、スパーダ。
エルマーナスパーダ兄ちゃんは熱烈すぎて乱暴やねん。ウチが可愛がり方、教えたるわ。こうやで、こう !
アンジュもう、エルもスパーダくんも、一旦離れてくれる ?ルカくん、異常はない ?
キュキュルカ、起きた !キュキュ、嬉しい ! ルカのため踊る !
コーダコーダも踊るんだな、しかし。
リカルドそれどころじゃないんだがな……。まあ、今だけはよしとしよう。
コンウェイイリアさん、こっちに来たら ?もう乾いたでしょ ?
イリア……ぐすっ、ったく、なんの話だか。
ルカイリア……。
イリア……お帰り、おたんこルカ。
ルカうん、ただいま、みんな !
to be continued
キャラクター1話【20-1 墓守の街1】
ジュニアうっ、あああああああっ !
グラスティンもっと鳴いてくれよ、小さいフィリップ。分史世界の対の紋章に届くようになぁ ! ヒヒヒ !
メルクリアあやつ、ジュニアと共に炎に包まれて笑っておる !
コーキスあの火、シグレ様と見た炎の柱と同じだ !
ナーザ怯むな ! あれは幻影のようなものだとイクスたちから聞いただろう。
リヒターあの炎は対の紋章と繋がり始めている証拠だ。ジュニアをグラスティンから引き離すぞ !
コーキスわかってる !
デミトリアスさせぬと言っているだろう。
グラスティンいいぞ、デミトリアス。そのまま時間を稼げ。このまま対の紋章と呼応させ続けてクルスニクの槍を――
ジュニアはあっ、はぁ……。
コーキス炎が !
グラスティン消えた ! ?
デミトリアスなんだと ! ?ルグの……、クルスニクの槍はどうなった !
グラスティン……そいつも消えちまったな。おそらく原因は『あっち』だ。
ジュニアそうだよ……、分史世界は……消えた……。
コーキスマスターだ !やっぱりマスターたちが分史世界に行ってたんだよ。
グラスティンくそっ、面倒なことに……。
ナーザお前たちの計画も終わりだな。
メルクリアジュニアッ !
グラスティン目障りな小娘が――
デミトリアス駄目だ、グラスティン !
メルクリアジュニアは返してもらった !――リヒター、ジュニアを頼む !
グラスティンはぁ、お前が止めるから……。まだ『娘』に未練があるのか ?
デミトリアス……槍は消えた。すぐに奥の手を使う。行くぞ。
グラスティンわかったよ。
コーキス転送魔法陣だ ! どうする、ボス。
ナーザ俺たちが追えるような痕跡など残すまい。ここまでだ。
コーキスけど、あいつら奥の手とか言ってたぞ。
ナーザああ。まだ次の手があるのか、それとも撤退するためのはったりか……。
バルド何にしろ、我々の目的は達成です。フリーセルも無事でしたしジュニアも奪還できましたからね。
フリーセル……ウォーデン殿下。
ナーザやっと会えたな、フリーセル。長の務め、大儀であった。辛い役目を背負わせたな。
フリーセルおやめください !殿下こそ、かような器に閉じ込められどれほどの屈辱であったことか。
メルクリアやめよ ! それは、わらわのせいなのじゃ !
フリーセルメルクリア様。お目通りが叶い嬉しゅうございます。エルダ皇后のご逝去以降、御身の行方は宮殿の奥深くへと隠されておりました故。
フリーセルこれも全て、私の不徳と致すところです。あの者たちを仕留めていれば……。
ナーザ……フリーセル、今ここで我らに下れとは言わん。ただ少しの間、俺の話に付き合え。
メルクリアわらわからも頼む。わらわには、そなたの話が必要なのじゃ、フリーセル。
フリーセルなぜ、私の話などを。
メルクリアわらわは何も知らぬが故に過ちを犯した。リビングドールもその一つじゃ。
メルクリア無知は罪だと知ったからには、知らねばならぬ。そなたは母上を知り、かつては義父上とも友だったと聞いておる。
メルクリア聞けば理解できるやもしれぬ。わらわを置いて死んだ母上のことや先ほどわらわを助けた義父上の心のうちもな。
メルクリアもちろん、フリーセルのこともじゃぞ。わらわにそなたのことを教えて欲しい。聞いて、知って、理解したい。
フリーセルメルクリア様……。
ナーザまずはその傷を治さねばならん。今だけは同行しろ。
ナーザそれと、これだけは言っておく。この体の主を悪く言うことは許さぬ。これは我が友の体だ。
フリーセルあなた方は……。
バルド驚いたかい ?
フリーセルええ。もしや幼いフィリップも……。
バルドああ。きみの知る彼とは違うかもしれないね。誰しも新たな可能性を秘めているのだろう。
バルドきみも、そして僕も。
エル(ここ、どこだろう。ルドガーは ?)
? ? ?見つけた ! きみはエル、だったよね。
エルエルもあなたのこと知ってる。ジュニアでしょ ?
ジュニアうん。エルはどこか痛いところはある ?火柱……火に焼かれたみたいにならなかった ?
エルうん。さっきまですごく苦しかったけど、今は平気。ここってどこ ?
ジュニアきみと僕の心の中。僕たちは贄の紋章で繋がっていたから心の中も繋がっていたんだ。
ジュニアでも、安心して。僕たちを繋ぐ贄の紋章は消えた。もう苦しいことはないから。
エルよかった ! ジュニアは大丈夫 ?
ジュニアうん。優しいね、エルは。
エルどういたしまして。あと、エル、ルドガーのところに戻りたいんだけど。
ジュニア僕たちのリンクはもうすぐ切れる。そうしたらエルの目が覚めるからきっと、すぐそばに――…………。
ルドガーエル、エル !
エル本当だ……。ルドガー、いた。
ルドガーエル ! よかった……。どうだ、痛いところはないか ?
エルうん、何ともないよ。ふふっ、ルドガー、ジュニアと同じこと言ってる。
ルドガージュニア ?
エル夢の中で会ったんだ。ニエのモンショーは消えたからもう大丈夫って言ってた。
イクス消えた ? 贄の紋章が ?
ミリーナそういえば、逆しまの紋章は打ち込んでいないのに症状が治まっているわ。どういうことかしら。
エルあれ ? ここってティル・ナ・ノーグ ?じゃあチトセは ? ルドガー、チトセと戦ったの ! ?
ルドガー安心しろ。ほら、あそこだ。マティウスに付き添ってる。
エルチトセ !
チトセエル…… ?
エルチトセ ! 大丈夫だったんだ !
チトセエル ! 気が付いたのね。よかっ……うっ……。
エルチトセ ! ? どうしたの ?
ミリーナマティウスさんをかばって怪我をしたの。治癒術で傷は塞がったけど傷が深かったからまだ痛むはずよ。
エルチトセ……。
チトセ私は大丈夫。でも、まだマティウスさまが目を覚まさないの。
カーリャルカさまもです……。
チトセマティウスさまとルカくん二人だけが気を失ったまま……。
エルもしかしたら、エルとジュニアみたいに夢の中で話してるのかも。
チトセ二人が ?……そうね。そうかもしれないわ。
エルねえチトセ、エルもマティウスが起きるの一緒に待ってもいい ?
チトセええ、お願い。

キャラクター2話【20-2 墓守の街2】
マティウス私に新しい生き方など、できるはずがない。
ルカマティウス…… ? 姿が薄れてる…… !
マティウスこれは……。
アスラ心配するな。お前たちが元の世界に戻る兆しだろう。
マティウス……私に……できるはずが……。
チトセマティウスさま !
マティウスチトセ……。
チトセ本当に……ご無事で何よりです。
マティウス……なぜ泣いている。
エルそんなの、うれしいからだよ。ね、チトセ。
チトセええ。もしもマティウスさまの目が覚めなかったら……私……。
スパーダルカー ! なんだよ、心配したぜ !お前だけ目が覚めなくてよぉ !
ルドガールカも無事みたいだな。
エルルドガー、これでみんな分史世界から戻ったんだよね ?
ルドガーああ。全員無事で安心したよ。ティル・ナ・ノーグと俺たちの世界じゃ状況が違うからな。
マティウス分史世界は消えた、か。
イクスマティウスさん……。
マティウスさぞや私は滑稽に見えているだろうな。お前たちからも、ルカたちからも。
イクスそう見えていたなら、みんなあんな必死にあなたを救おうとしていませんよ。
ミリーナええ。チトセさんは命まで投げだして。
エルそうだよ ! だからもう心配かけちゃだめだよ ?マティウスはチトセのアイボーなんだから。
マティウス相棒…… ?
ミリーナふふっ、エルったら。
ルカマティウス、君も目が覚めたんだね。
マティウス…………。
ルカあのさ、『さっき』の話だけど――
マティウスあれが全てだ。他に語ることはない。
ルカあっ、マティウス、待って !
カーリャマティウスさま、行っちゃいました……。
チトセ……私も――
イリアあんた、まだあいつに拘るわけ ?
チトセあなたには関係ないわ。指図しないで。
イリアはぁ ? なんなのよ、その態度 !
ルカチトセさん、マティウスのこと、お願い。
チトセルカくん……。
エルチトセ……行くの ?
チトセええ。私もエルたちみたいな素敵な関係になれるように頑張りたいから。
エルなれるよ ! エルも応援してるし !
チトセありがとう。元気でね。
エルマーナ……結局、マティウスと行ってしもたなぁ。
イリアせいせいするわ !ホント気が合わないったら。
イリア……まぁ、その方があいつらしいけど。
アンジュそうそう。いがみ合っているならまだ平和よ。あなたたちの気が合う時なんてよほどの緊急事態なんだから。
イリアげ~、緊急事態でもそんなのありえな~い。
アンジュあら、でもあの時……。
リカルドやめておけ。忘れているなら、その方がいい。
アンジュ意外と繊細ですね、リカルドさん。
キュキュでもあの二人、このまま行かせていいか ?
ルカ『今の』チトセさんが一緒ならきっと大丈夫じゃないかな。
ルカそれにさ、何か悪いことを考えるようならまた僕たちで止めればいいよ。
イリアルカ……。
エルマーナルカ兄ちゃん、カッコいいで !
スパーダ言うようになったじゃねぇか。で ? 誰へのアピールだよ。
ルカそんなんじゃないってば……。
イリアそ、そうね。その程度じゃカッコつけにもならないわ。
コンウェイふうん。
イリア……なによ、言いたいことがあるならはっきりしなさいよ !
コーダじゃあ言うぞ ! 腹がへったんだな、しかし !
カーリャコーダさまはたくましいですねぇ。色々ありすぎてカーリャはお腹空くのも忘れてました。
ミリーナそうよね。でも、まだ気は抜けないわ。
イクスああ。分史世界からは戻ってこられたけどデミトリアス陛下たちも、フリーセルもいない。あれからどうなったのか――
イクス通信 ? ナーザ将軍からだ。――イクスです。
ナーザお前たち、ティル・ナ・ノーグにいるんだな ?分史世界に行っていたのか。
イクスはい。分史世界は消滅させました。
ナーザそうか。ジュニアの言ったとおりだな。
イクスその話なんですけど俺たち分史世界から戻ったばかりでこっちの世界で何が起きたのかわかっていないんです。
ナーザ承知している。こちらもその件で連絡した。まず現在の状況を伝える。
ナーザグラスティンたちだが分史世界の消滅を知って撤退した。
イクスやっぱり、分史世界がなければニーベルングの具現化ができないからか。
ミリーナだとしたら、これで帝国の計画は頓挫したことになるわね。
ナーザいや、奴らは諦めていない。まだ手があるような口ぶりだった。
イクスまだ ! ? 帝国は何を考えているんですか ?
ナーザそれを知るための情報交換だ。互いにこれまで起こった事を整理するぞ。

キャラクター3話【20-4 墓守の街4】
チトセマティウスさま !
マティウスなぜ追って来る。ついて来いと言った覚えはないぞ。
チトセ私がマティウスさまと一緒にいたいだけです。
マティウス帰れ ! 何の役にも立たんお前など不要だ。
チトセ……。それでも、私はあなたと共にいると決めました。
マティウスそれは私が『アスラ』でお前が『サクヤ』だからか ?
チトセいいえ、あなたが『マティウス』で私が『チトセ』だからです。
チトセあなたが世界に絶望するのならその想いがなくなるまで、私はそばにいたいんです。私たちが前世に縛られる必要なんてありません。
マティウス全てに裏切られたアスラの絶望だぞ。簡単に消えるとでも思っているのか !
チトセ……その消えぬ恨みはマティウスさまの心に染みついたものです。
チトセだから私は、マティウスさまの心に寄り添いたい。
マティウス……。
アスラお前はルカと同じように前世に縛られることなく生きられるだろう。
ルカマティウス、君は絶望から生まれてしまったけどこの世界で――ううん、本当は元の世界でも君を慕っている人はいたんだ。
チトセ私の……チトセの大切なマティウスさまなの !
マティウス(私を慕う…… ? 命まで投げ打って ?それほどの強い想いなど……)
マティウス(いや、それこそが私が捨てたはずの感情ならば……)
マティウス……馬鹿馬鹿しい。
チトセあっ、マティウスさま ! うっ……。
マティウス……待たぬぞ。お前が勝手についてきたのだからな。
チトセえっ…… ? では、お供してもよいのですか ?
マティウス勝手にしろ。
チトセはい !
ロミーモウスコシダトイウノニ……。
ロミーケイカクドオリキョムノハザママデハ、タドリツケタガコレイジョウハ、ススメヌカ。
ロミールグノヤリノハツドウガトチュウデトマッタセイダ。
ロミーデミトリアスタチハフタタビ、ルグノヤリヲハツドウサセルハズ。
ロミーソノトキコソ『コキョウ』ヘツヅクトビラヲアケテミセル……。

キャラクター4話【20-7 アジト1】
ジェイドでは、あなた方とビフレスト側の話を総合すると対の紋章は発動しかけたものの分史世界を消滅させたことにより阻止した、と。
三人「でもあの虹は――」「けどよ、あの空――」「虹の橋がまだ――」
リフィル言いたいことはわかるけど全回線を繋げてみんなに聞いてもらっているのだからいっぺんに話さないでちょうだい。
イクスカイルたちが言ったとおり、虹の橋は消えていない。分史世界が消滅したなら消えていいはずなのにな。
イクスもしかしたら、帝国が打つ『次の手』ってやつに関係していて消えないのかもしれないし別の理由があるのかもしれない。
カーリャわからないことだらけですねぇ……。
ミラ=マクスウェル少し気になることがある。あの虹の橋の方からマクスウェルの残滓を感じるのだ。
ミラ=マクスウェル確か、この世界のマクスウェルは虹の橋の守護者だったのだろう ?そこから何か探れないか ?
クラースなるほど。では、精霊研究室のメンバーと精霊諸君で調査を進めるとしよう。天族のみんなも準備を頼む。
エドナわかったわ。次回のお茶会の差し入れと余興が楽しみね。
ミクリオおい、クラースに何をさせる気だ。
エドナあら、それじゃミボが代わりになるのね。余興、期待しているわ。
クラースミクリオが余興なら私は差し入れを考えておこう。
ミクリオクラース ! ?
セルシウスうまく逃げたわね、クラース。
シャーリィあの……その調査ですけどお邪魔でなければ、わたしも同行させてください。
セネルシャーリィ ?
マオあ、ボクもボクも !シャーリィに先越されちゃったヨ。
ヴェイグマオもか。どうしてだ ?
マオ虹の橋を架けるのに必要な贄の紋章の人たちってみんな領主だったよね。けど、ボクとシャーリィだけ例外。
マオしかもルグの槍が起動した時ボクたちだけは精霊の力で守られていた。これって関係ありそうじゃない ?
シャーリィそう思います。グラスティンもウンディーネと近しいわたしには、意味があって贄の紋章を入れたようですから。
シャーリィもしかすると、精霊の力を利用しようと考えていたのかもしれません。
クラース確かに。だがそうなると……。
セネル今度は俺も一緒に行く。
ヴェイグオレもだ。
クラースやはりそうなるか。では、君たちにも加わってもらおう。大所帯になりそうだ。
クラースおっと、こちらで勝手に進めてしまったが構わないかね ?
イクスもちろんです。助かります !
ジェイド私からもいいでしょうか。贄の紋章を持つ方々はすでに検査を受けて承知のことと思いますが念のためこの会議で報告をさせてください。
ジェイドジュニアと対になっていたエルの贄の紋章ですが逆しまの紋章で封じるまでもなく完全に消去されていたことが判明しました。
ジェイドそれに伴い、他の方々の検査も行ったところ全ての贄の紋章が消滅していました。相違ありませんね、ハロルド。
ハロルドええ。きれいさっぱり消えてたわ。
リフィルどうしたの ? 不機嫌ね。
キールハロルドは自分で紋章を消したかったんだ。
カーリャハロルドさま…… !そこまで皆さんのことを思って研究していたんですね。感動です !
ハロルドっていうか、ルドガーが分史世界を消滅させたことで連動して消えたじゃない ?
ハロルド消える瞬間とか、データとして残したかったのよねぇ。こんなことなら一人くらい隔離して装置に繋いで常時データ収集でもしとけばよかった。
カーリャもうしゃべらないでください、ハロルドさま……。感動がモリモリ減っていきます……。
ジェイドもはや言動が悪役ですねぇ。
カーリャジェイドさまだけには言われたくないと思います。
カーリャ・Nイクス様、ミリーナ様、会議中失礼します。
イクスネヴァン、お帰り……え、ヨウ・ビクエも ! ?
ヨウ・ビクエお邪魔するわね ! イクス。
リフィルヨウ・ビクエが来たということは込み入った話がありそうね。会議は一旦休憩にしましょうか。
カーリャ・Nすみません。みなさんもお忙しいでしょうに。
ミリーナいいのよ。ゲフィオンに何かあった ?
カーリャ・Nゲフィオン様は……人体万華鏡は内側から崩壊し始めています。
カーリャ先輩……。
カーリャ・N今は外からの封印を強化していますが崩壊は時間の問題かと思われます。
ミリーナまずいわね。ゲフィオンの人体万華鏡が崩壊したら虚無から死の砂嵐が流れ込んでしまう。
イクス死の砂嵐、か……。
ミリーナイクス、まさかまたスタックオーバーレイで塞ごうなんて考えていないわよね。
イクスいや、それは大丈夫だから安心してくれ。
ヨウ・ビクエ一応、いい話もあるのよ ?ダーナ様の心核の修復が終わったの。
ヨウ・ビクエこれまでは不安定だったティル・ナ・ノーグも世界の要であるダーナ様の心核が強固であれば今すぐに崩壊するということはないわ。
カーリャそれは確かにいい話ですね !
ヨウ・ビクエそれでね、今日ここに来たのはダーナ様からイクスに話があるからなの。
イクスダーナ ! ?
ヨウ・ビクエそれとイクスの中のバロールも一緒に話を聞いてもらわないと。
イクスやはり知っているんですね。確かにバロールはいますがなんていうか、今はちょっと複雑な状態で……。
ヨウ・ビクエ大丈夫よ。さ、私と手を合わせて。私とあなたの心を連結させるわ。
イクスこうですか ?
ヨウ・ビクエええ。では、行ってらっしゃい、イクス。

キャラクター5話【20-8 イクスの心1】
イクスさて、心の中に入ったはいいけどダーナはどこにいるんだろう。
ヨウ・ビクエ ?待たせましたね、イクス。
イクスヨウ・ビクエ。ダーナから話があるって言ってましたけどどうしたらいいんですか ?
ダーナ私がダーナです。今はヨーランドの姿を借りています。
イクスあなたが、ダーナ……様。
ダーナそんなに畏まらなくてよいのですよ。
イクス(1st)イクス、何があったんだ ?
イクスイクスさん ! 目が覚めたんですね。
イクス(1st)起きるよ、そりゃ。そこにいるの女神ダーナ……だよな ?
ダーナイクスの中の、さらに奥深く……あなたの中にいるのですね、バロールは。
イクスダーナ様から俺やバロールに話があるそうです。それで心の中に来てもらいました。
イクス(1st)そうだったのか。じゃあ俺、バロールに代わった方がいいんだよな ?
イクス代わるって、大丈夫ですか ?そのまま乗っ取られたりとか……。
イクス(1st)今は俺の力が勝ってるから何かあっても抑え込めると思うよ。
イクス神であった人に勝ってるなんてすごいですよね……。
イクス(1st)それ、本気で言ってるのかい ?
イクスえ…… ?
ダーナ二人とも。少しお待ちなさい。私の話には、あと二人必要なのです。もうすぐ現れます。
フィリップえっ ! ? あれ ! ? ここって…… ?
イクスフィルさん !
フィリップイクス ! じゃあここは……。
イクス俺の心の中です。もしかして予告なしで飛ばされました ?
フィリップうん。分史世界の件で浮遊島に向かっている途中だったんだ。
フィリップそうしたら、何か声が聞こえて気が付いたらここに……。
フィリップヨーランド ? いや、あなたは……ダーナ、ですか ?
ダーナええ。察しがいいですね、フィリップ。久し振りです。魔の空域で話をして以来ですね。アイフリード……ナーザの件ではありがとう。
フィリップいえ、あれは僕だけではなくてイクスや異世界の皆が力を合わせたおかげで……。それに結局ナーザの心核を利用されてしまいましたし。
ダーナ……それについては、あとで話しましょう。
フィリップわかりました。あの……そっちにいるのはナーザ将軍――いや、違うような気がするな。きみは…… ?
イクス(1st)…………。
イクスあ……ええと、あの……。フィルさん、こちらは――
イクス(1st)待て、イクス。
バロール……ダーナ、久しいな。
イクス(イクスさん、バロールに代わったのか)
ダーナバロール。もう一人、ここへ来ます。ナーザの血を引く子供が。
ウォーデンここは…… ?
フィリップ! あなたは、まさか……。
ウォーデンイクスか。これはどういうことだ ?
イクス…… ?あの、どちら様でしたっけ…… ?
ウォーデン何を言っている。俺はナーザ……。
ウォーデンこの髪……、この姿は……。
イクスナーザって……あなたはナーザ将軍ですか ! ?
フィリップうん、間違いない。ビフレスト皇太子ウォーデン・ロート・ニーベルング。ナーザ将軍の本来の姿だよ。
ウォーデンどういうことだ。イクス、いやビクエでもいい。説明しろ。
イクスここは俺の心の中です。ナーザ将軍を呼んだのはこちらにいる……今はヨウ・ビクエの姿ですけど女神ダーナが、俺たちを呼び出したんです。
ダーナようこそ、ウォーデン。此度は本来のあなたとして向き合ってもらえるようその姿で招きました。
ウォーデンダーナ……、では先ほどのお声が !
ウォーデンご無礼仕りました。太陽神ダーナよ。御身を祀る一族でありながら、かような不甲斐なき顛末を迎えたこと、伏してお詫び申し上げます。
イクスお詫びって、ナーザ将軍……。
ウォーデンビフレスト皇族は女神ダーナの祭司の末裔。ダーナの教えを守り、伝えるのが使命だ。だが力及ばず、世界は破滅へと踏み出してしまった。
バロール貴様らは真理を理解せず愚直に守るばかりだったからな。
ウォーデン……貴様、バロールか。
イクスあの……。
ウォーデンわかっている。今はダーナ様の御前。見苦しい真似はすまい。
ダーナでは、始めましょうか。今世の『約束の子供たち』よ。希望の灯火を絶やさぬ為に。
ダーナあなたたちはすでに私やバロールから伝えられていますね。何故、このティル・ナ・ノーグが作られたのか。
ダーナここはかつて自らの星を滅ぼした罪人たちの揺り籠。ですが、単なる星ではありません。ティル・ナ・ノーグは私の仮想鏡界の中の星です。
ウォーデンこの世界そのものがダーナの仮想鏡界……。だから『ダーナの』揺り籠、か。
ダーナ私はまず、できうる限り広大な仮想鏡界を作り出しました。
ダーナその中で、私は自らの体を大地に変え心は心核として残すことでティル・ナ・ノーグを生み出したのです。
ダーナこの計画には、想像を創造に変え命を生み出すバロールの力が必要不可欠でした。
ダーナそしてバロールは、仮想鏡界の中の想像に過ぎなかったティル・ナ・ノーグを仮想鏡界ごと星として具現化してくれました。
ダーナ星という巨大なものを創るためには、仮想鏡界――心の壁すらも具現化する必要があったのです。
ダーナそして最後に、ナーザが虹の橋をかけて人々を移住させ精霊たちを新たな地の守護者にしました。
ダーナこうして、ティル・ナ・ノーグは完成に至ったのです。
イクス浮遊島と同じ……いや、仮想鏡界そのものを具現化しているんだから、それ以上か……。
イクスでは、ティル・ナ・ノーグという世界はあなたそのもの、ということですか ?
ダーナええ。鏡士である私の仮想鏡界の中だからこそ鏡士が神のごとき力を使うことができるのです。
ダーナですが、私の心の中だからこそいくつか危険なこともありました。その一つが鏡精の存在です。
イクスそうか。人の心の中で、別の人の心を具現化している……ってことだから鏡写しの繰り返しみたいになるのか。
ウォーデン鏡精を作る度、異常なエネルギーが発生しスタックされ続ける……。
ダーナええ。この環境の中で鏡精を生み出し続けると何が起こるかわかりませんでした。
ダーナそのために、この地に移住した者たちには決して鏡精を生み出さないよう告げました。
フィリップ…………。
ダーナもちろん、私もナーザも自らの鏡精を切り離し今後は人間としてこの世界を見守ってくれるよう頼みました。
ダーナこうしてティル・ナ・ノーグを鏡精がいない世界としたのです。
ウォーデン鏡精を禁じた世界ならばなぜ『バロールの鏡精』だけ名指しで伝承が伝わっているのでしょう。
ダーナバロールだけは特別だったのです。
バロール……俺はルグを自分の鏡精をニーベルングに残していた。
バロールニーベルングの文明は滅びたが星そのものは、まだかろうじて生きている。
バロールニーベルングが再び人の住める星となった時にそれを伝えに来る役目を我が鏡精が請け負っているのだ。
ダーナナーザの虹の橋を正しく機能させるためには精霊と鏡精の力が必要です。
ダーナそれ故に、バロールの血族には限定的に鏡精を作ることが許されていました。
ダーナですが、この決まり事は時を経て拡大解釈され世界の危機であると感じたのなら鏡士は鏡精を作ってもよいと思われたようです。
フィリップそれが……今に至ると。
ダーナええ。私たちが神にされてしまったようにあらゆる事が歪んで伝わってしまった。
ウォーデン我らの祈りが間違っていたと仰せか ?
ダーナいいえ。私たちの配慮が足らなかったのです。世界を創造するということが、どのように人々に伝わっていくのかを。
バロールダーナもナーザも、世界の成り立ちやニーベルングへの回帰を、後の世に伝えることを放棄していたわけではない。
ダーナティル・ナ・ノーグは仮想鏡界の具現化。どれだけ補強しても脆い存在なのです。
ダーナ世界に綻びが出るかも知れない。その時には鏡士たちに修復の協力を依頼しなければならない。
ダーナその時に力を貸してくれる存在こそが私たちの力を受け継ぐ子供――『約束の子供たち』だったのです。
ダーナ私はこの世界の創った目的や想いをそして『約束の子供たち』の役割を伝えるべく何百年かに一度顕現できるように務めました。
ダーナ世界が滅びに瀕したときに、力を貸してもらえるよう。いつかニーベルングへ戻る日までこの世界を受け継いでもらうために。
フィリップそして僕たちがこの時代の『約束の子供たち』なのですね。
ダーナええ。バロールの子孫、イクス。ナーザ・アイフリードの子孫、ウォーデン。そして私の子孫、フィリップ。
ダーナ私の顕現の時は、すぐそこまで近づいていました。ですが、その前に、本来予測していた仮想鏡界の異常とは違う滅びの予兆を感じ取りました。
ダーナ鏡精の増殖と死滅です。
イクスセールンドのエネルギー政策か……。
ダーナ私は少しでも早く顕現しようとオーデンセにいる私の子孫に接触しようとしたのです。
フィリップそれが、あの水鏡の森で僕が見たあなたですか。
ダーナええ。私と近しいあなたでもわずかに声を聞き取るのが精いっぱいだったでしょう ?やはりあの時では力が足りなかったのです。
ダーナ私からは縁が遠いナーザの子孫に言葉を伝えるのはもっと時間がかかりました。
ウォーデン知の乙女たる我が母エルダが受けた託宣か。我が国はダーナの言葉に従い脅威を取り除こうと考えた。
ウォーデン鏡精を生み続けるセールンドを何としても止めねばならぬ、と。しかしそれが――
ダーナ……ええ。本来は手を取り合って進むべき者たちが剣を突きつけ、破滅へと向かってしまった。
ダーナこの顛末は、何よりあなたこそが不本意であったでしょう、バロール。
バロール…………。
ダーナあなたは、私との約束どおりあるべき世界の形を守ろうとしていた。
バロール……ルグを一人ニーベルングへと置き去りにしながら己はおめおめと生き延びそしてお前を犠牲にし……そうまでして創った世界だ。
バロール俺が守りたかった世界はお前やナーザと創ったティル・ナ・ノーグのみ。
バロールこのようにいびつな継ぎはぎのティル・ナ・ノーグではない。
ダーナええ。あなたが私たちのティル・ナ・ノーグを大事に思ってくれていること、嬉しく思います。

キャラクター6話【20-9 イクスの心2】
イクス待ってください !女神ダーナ、あなたもバロールと同じ考えなのですか ?
ダーナ…………。
イクスもしそうなら、俺はあなたたちとも対立することになります。
イクス俺は、継ぎはぎだらけでも、この世界を存続させたい。そのために戦っています。
バロールダーナは世界そのものだ。お前は世界に弓引くつもりか ?
イクスさっきの話で、俺たちは世界の在り方を知った。鏡士である俺も、この世界の内側でならあなたたちと同等の力を使うことができる筈だ。
フィリップイクス、落ち着いて。ダーナはまだ何も言ってないだろう ?
イクス…………。
フィリップ大丈夫。僕たちを滅ぼすつもりならもうとっくにしているはずだ。
フィリップそれに、鏡士を三人も呼んでおいて『自分が不利になる話』はしないはずだよ。
イクスえっ、それって……フィルさん。
バロールつまり、お前もイクスの肩を持つということか。当代のビクエよ。
フィリップダーナの話を聞こうと言っているだけです。
ウォーデン…………。
ダーナフィリップの言うとおりです。皆、私の話を聞いてください。
ダーナ私は、今あるティル・ナ・ノーグを見捨てはしません。安心してください、イクス。
ダーナ私は今のこの世界も過去の世界も救いたいと思っています。そのためにここにいる約束の子供たちやバロールやイクスの力を貸して欲しいのです。
ダーナ今のティル・ナ・ノーグが本当に目指すべき未来へ進むために。
イクスよかった……。そういうことならもちろん協力させてください。
フィリップああ。僕たちにできることなら。
ウォーデンあなたが神であることを否定しても、我らにとっては国の礎たる太陽神であることに変わりはない。
ウォーデンあなたの意向を正しく汲み取れなかったは祭司として未熟でありました。太陽神ダーナ。あなたの望みのままに。
ダーナありがとう。今、世界には二つの危機が迫っています。一つはアスガルド帝国による新たなニーベルングの創造と移住です。
バロールまだルグ――俺の鏡精からニーベルングに戻れるという報告は来ていない。戻れる状態ではないのだろう。
バロールそれを知っているから、帝国とやらも、ニーベルングを新たに創ろうとしているのだろうな。
ダーナ彼らが何のために、ニーベルングへの回帰を早めようとしているのかはわかりません。
ダーナですが彼らがやろうとしていることは私の仮想鏡界を破壊することに他なりません。それは何としても食い止めなければ。
ウォーデンもう一つの危機というのは死の砂嵐のことでしょうか。
ダーナええ、そうです。かつてバロールが生み出したフィンブルヴェトル。これはバロールあなたにお任せしても構いませんね。
バロール今の俺には無理だ。ルグと同じ魔眼を持つ鏡精が俺のコントロールをはねのけた。
バロールフィンブルヴェトルの中にある邪魔な異物を消さない限り、どうすることもできぬ。
イクスえ ! ? ルグと同じ魔眼を持つ鏡精ってコーキスのことですか ! ?
ウォーデンそういえば、バルドが肉体を取り戻したときコーキスはバロールの力を使ったな。
バロールそうだ。しかし今の奴には俺の声が届かない。知らぬ間に、鏡士との絆が強固になった。何かが奴の心持ちを変えた。
イクスえ…… ?
ウォーデンコーキスをコントロールすれば死の砂嵐が消せるというならイクス・ネーヴェがバロールの力を使えばいい。
ウォーデンこの者も『約束の子供たち』であるならできるのではないか ?
ダーナそれは……――
イクス俺、やります。俺にできるというならやらせてください !ゲフィオンもそれを望んでいる筈です !
バロールいいだろう。お前がやるというなら力を貸してもいい。どれだけの負担がお前に掛かるかわからないがそれでもいいと言うのならな。
イクスそれは……正直不安ですけど……。具体的な方法や結果について事前に共有してもらえるんですよね ?
バロール……お前は本当に俺の血を引いているのか ?
イクスな、何ですか ? 詳しい話を聞いて準備をするのは当然のことじゃないですか。
ダーナバロール……。その子を苦しめないで。
バロールわかっている。だが、このいびつな世界を守る役目はいびつな存在にこそふさわしかろう。
バロールイクス。俺は今のティル・ナ・ノーグは好かん。だが、元のティル・ナ・ノーグを取り返すためならば力を貸してもいい。
バロールまずはフィンブルヴェトルから異物を取り除け。その為の尖兵がお前の鏡精コーキスと俺の力を分け与えたバルドだ。
ウォーデンまだバルドを勝手に使うつもりか ! ?
バロールあの者が望んだことだ。あの者は生きたい――生きて故国を取り戻したいという感情に蓋をしていた。
バロール奴を使わねば、フィンブルヴェトルの異物を取り除くことはできない。
イクスウォーデンさん、まずは俺にやらせてみてください。バロールから詳しい話を聞いて、問題のない計画だとわかれば、あなたやバルドさんから許可を取ります。
ウォーデン………………わかった。
ダーナ死の砂嵐はイクスとバロールに任せます。また、帝国の計画を止めるには精霊たちの力を借りる必要があるでしょう。
フィリップ精霊、ですか ?
ダーナこの世界を守る最終防衛圏が精霊なのです。ですが、クロノスの力は帝国に抑えられマクスウェルは死にました。
ダーナマクスウェルを甦らせるのです。その為にはオリジンの助けが必要になる。帝国にオリジンを奪われてはなりません。
ダーナこちらはウォーデンあなたにお願いしたいと思います。
ウォーデンそれは私がナーザ神の血を受け継いでいるからでしょうか。
ダーナその通りです。ナーザは精霊の生みの親。
ダーナ鏡の精霊にナーザが――ナーザ・アイフリードが取り込まれている今、対抗し得るとすればあなたの存在しかあり得ない。
ダーナマクスウェルを甦らせれば、鏡の精霊の前世として取り込まれた彼を呼び戻せるはずです。
ダーナ精霊たちと彼が揃えばこの世界の防衛圏が本来の力を取り戻しニーベルングの創造を阻止できる筈。
フィリップ僕は何をすればいいでしょうか。
ダーナあなたにはもう一つのティル・ナ・ノーグを創造してもらいます。
三人! ?
ダーナ詳しくはヨーランドが知っています。ヨーランドはその為にダーナの巫女として今まで眠りについていたのですから。
フィリップそういえばヨウ・ビクエはあなたの鏡精の子孫だと聞きましたが、人間である彼女がどうしてこんなにも長命なのでしょうか。
ダーナ彼女は私の鏡精ビクトリエにかなり近い存在でした。そして魔鏡術に長けていた。故に顕現していない私の心の声を感じ取ることができたのです。
ダーナ私はいつか訪れる危機に備え、ヨーランドを擬似的な鏡精として取り込みました。彼女は人間ですが、私の心と繋がっています。
イクスそんなことができるなんて……。
ダーナこの世界は私の仮想鏡界ですからね。
ダーナけれど、ヨーランドはまだ目覚める時ではなかった。私が予測した滅びの時は――私の心が限界を迎えるのはもっとずっと後になる筈でした……。
バロールまさか、この世界に住む人間がお前の体を消滅させてフィンブルヴェトルを生み出すとは思わなかった。つくづく業が深い。
イクス………………。

キャラクター7話【20-10 イクスの心3】
ダーナ私は自分の体を――この世界を維持することを優先しなければなりません。あなたたちへの助力は僅かなものになってしまいます。
ダーナですが、ヨーランドを通じてできる限りのことはするつもりです。
フィリップあなたの心核は大丈夫でしょうか。意識をヨウ・ビクエに飛ばしておくと無防備になってしまうのでは……。
ダーナ心の精霊ヴェリウスに管理を任せていますから何かあればすぐに知らせてくれる筈です。
バロールそうやって、また己をないがしろにするか。
ダーナバロール、勝手を許してください。できればあなたも、もう少しだけこの子たちに心を開いてくれるとよいのだけれど。
バロール……俺が守るティル・ナ・ノーグは、もう滅びた。今世を生きる愚か者たちによってな。
イクスバロール……。
ダーナイクス、そして約束の子供たちよ。あなたたちには辛い役目を背負わせました。本当に申し訳なく思います。
ダーナそれでも私はあなた方に願います。どうか一緒にこの世界を救ってください。
イクスはい !
ウォーデン御意。
フィリップ承知しました。
バロール ?…………。
ダーナでは、私はこれで。あなた方もすぐに自分の体に戻るでしょうから心配はいりませんよ。
イクス……はぁ。何だか色々あったなぁ……。フィルさん、さっきはありがとうございました。
フィリップ…………。
イクスフィルさん ?
フィリップ……君は……イクス、だよね。
イクス! ?フィ、フィルさん、何を――
イクス1stははっ、バレてたか。せっかくバロールっぽくしてたのにな。
イクス1st久しぶり、フィル。
フィリップイクス……、本当にイクスなんだね。
イクス1stああ。けど、なんで俺だってわかった ?
フィリップダーナが、約束の子供たちと三人目のイクスを分けて話していたように感じたんだ。
フィリップそれでここにバロールの血族がもう一人いると思った。となると、最初のイクスしかいない。
イクス1stさすがフィルだ !さっきもバロールの中から見てたけどさビクエになって頼もしくなったよな。
イクス1st特にイクスの味方したところとか、格好よかったよ。
フィリップ今どういう状態なの ? 生きてるの ?
イクス1stいや、ちゃんと死んでるよ。今の俺は幽霊みたいなものなんだ。いずれ消える。
フィリップ消える……。………………イクス、ごめん。
イクス1stフィル ? 消えるのは別にお前のせいじゃ――
フィリップ僕はイクスを刺した ! 殺そうとした……。それでもかばってくれたのに僕はイクスと向き合わずに逃げた。
フィリップ手紙も、勇気がなくて読んだのは最近だ。僕はずっと逃げ続けてたんだ。
フィリップ今さら遅いのはわかっている。でも、ちゃんと言わなきゃ駄目だ。だから聞いてほしい。
フィリップ僕はイクスにもミリーナにも好かれたくて自分のことしか考えられなかった。
フィリップ傷つけてごめんなさい、イクス。
イクス1stフィル……。
イクス1stやっと、俺の目を見て言ってくれたな。
フィリップイ、イクス ? 痛いよ……。
イクス1stはははっ、だって嬉しくてさ !つい力が入っちゃったよ。
イクス1stあのさ、フィル。さっきから自分のこと逃げたって言ってるけど結局こうして俺の前にいるじゃないか。
イクス1st誰だって間違えることはあるよ。その間違いを悔やんでいると、ちゃんと伝えてくれた。逃げ出さなかったフィルは、やっぱり格好いいんだよ。
フィリップイクス……僕……。
イクスあっ、フィルさんが !
イクス1st身体の方が目覚めたのかもな。もう少し話したかったけど。
ウォーデンならば俺もそろそろ消えるだろう。……しかし、お前の寛容さには調子を狂わされるな。お前のような者が側にいてはビクエも苦労したろうよ。
イクス1st俺が寛容 ? 言うべきことは言ってるよ。『この前』みたいにね。皇太子殿。
ウォーデンなるほど。確かにな。
イクス(珍しい……。ナーザ将軍が笑ってる)
ウォーデンああ、そうだ。イクス、コーキスのことだがそろそろ戻るかもしれないぞ。
イクス本当ですか ! ? いつ戻るって言ってました ?
ウォーデンさあな。あれを見ていてそう感じただけだ。それに死の砂嵐を消すためにはコーキスとバルドはお前の下に向かう必要があるだろう――
イクス1stナーザ将軍も戻ったか。それじゃあイクス、また後で――
イクス…………あれ、俺も戻ったのか。
ミリーナお帰りなさい。気分はどう ?
イクスうん、問題ないよ。ここ、医務室か。
ミリーナええ。みんなが気絶したイクスを運んでくれたの。
イクスそうか、お礼言わないと。しかし色々びっくりしたなぁ……。
ミリーナダーナ様の話よね ? 聞いてもいい ?
イクスああ、もちろん。心の中でダーナと会ったんだけどさそこにはフィルさんや、ナーザ将軍も呼ばれていて――
ミリーナそう。最初のイクスとフィルがそんな形で出会えるなんて……。
ミリーナ最初のイクスのことはフィルにとっての心残りだったはずよ。これで一つ、解消されたのよね。よかった……。
イクスところで、俺が寝てる間に何か変わったことは ?
ミリーナあの後、各班の代表者と元領主たちの会議になって帝国への反転攻勢を試みることになったの。まだ今も話し合ってるところよ。
ミリーナ今までは帝国の目的がわからなくて手をこまねいていたでしょう ?
ミリーナでも分史世界を破壊したことで、前世を持った人たちやクルスニクの鍵であるエルを使った帝国の計画は暗礁に乗り上げたと見ていいわ。
イクスああ。けど、次の手が来る可能性もあるってナーザ将軍たちは言ってたよな。
ミリーナええ。だからこそ、このわずかな隙に帝国を足元から崩してしまおうというわけ。
ミリーナ以前の会議で出たとおり、アセリア領を中心に反乱作戦を実行する手筈よ。
イクスわかった。俺たちも準備しないとな。
マルタイクス、起きてたらこっちの病室に来てもらえないかな。
イクスマルタ、どうしたんだ ?
ミリーナブルートさんに何かあったの ?
マルタううん、パパは大丈夫。いつかちゃんと目を覚ますってヨウ・ビクエが言ってくれたし。
ミリーナヨウ・ビクエ様も目を覚ましていたのね。
マルタついさっきね。ついでにって言って、眠ってるみんなを診てくれたんだけど、ロミーが……。
ルキウスロミー……。
イクスルキウス、ロミーの容体はどうだ ?
ヨウ・ビクエあら、イクス。起きたのね。
イクスヨウ・ビクエ。ロミーがかなり衰弱していると聞きました。
ヨウ・ビクエええ。この子、ファントムのように心核が崩壊寸前なのよ。
ルキウス……このままだと、ロミーはどうなるんですか。
ヨウ・ビクエ確実に命を落とすわ。
ルキウス……そうですか。覚悟はしておきます。
マルタルキウス ! 諦めちゃうの ! ?
ルキウス元々ロミーは『スポット』という怪物に乗っ取られていた。元の世界でも戻すことはできなかったんだよ。
ルキウスだから、もし目を覚ましてみんなを襲うようならボクが何とかしようと思っていた。
マルタそれってロミーを……。
イクスルキウス、今のロミーからはその『スポット』って怪物が離れているかもしれないんだ。
ルキウスえっ ! ?
ミリーナ私たちも、さっき知ったばかりなの。もしもロミーを助けることができたら、あるいは……。
ヨウ・ビクエそうね。幸い私の中にはダーナ様もいらっしゃることだしお力を借りて治療してみましょうか。
ルキウスお願いします !
ヨウ・ビクエそういうわけだから、こっちは任せて。あなたたちは自分の仕事をしてらっしゃい。
イクスはい !

キャラクター8話【20-12 海上1】
ナーザ……戻ったか。
メルクリア兄上様 ! 気がつかれましたか !
ナーザ……どうした、メルクリア。何を泣いている。
メルクリアあ、兄上様が突然、お、お倒れになったので……。
ナーザだからと言って……。いや、それほどまでに心配させたのだな。すまなかった。
メルクリアいいえ、わらわこそ見苦しいところをお見せして恥ずかしい限りです。
バルド見苦しいなどとんでもない。その美しい涙はビフレストの至宝です。故に、あまり流されてはもったいのうございますよ。
メルクリア言われるまでもないわ。今ので涙が引っ込んでしもうた。
バルドフフフ、それは何よりです。
ナーザバルド、船は予定通りに進んでいるか ?
バルドええ。救世軍の地上基地へ身を寄せるべく向かっております。
バルド先ほどヴァンからも、地上基地で合流するとの通信文が入りました。
バルドそれで、誰に『呼ばれた』のですか ?
ナーザ気づいていたのか。
バルドええ。倒れる直前に「声が」と呟いておられましたので。
バルド私やコーキスがバロールに呼ばれたように何者かがナーザ様に接触してきたのではないかと。
コーキスそうか。それでバルドは冷静だったんだな。
バルドフフ、そう見えていたなら何よりです。まあ、事と次第によってはぶしつけに接触してきた者を許しはしませんが。
ナーザその言葉、後悔するぞ ?俺を呼んだのは、女神ダーナだ。
フリーセルダーナ ! ?
バルド驚きました。直接お言葉を賜ったのですか。
ナーザああ。イクスの心の中に呼ばれてな。ビクエやバロールも一緒であった。
コーキスええっ、マスターの ! ? ずるいよボスだけ……。
ジュニア今の話、本当ですか ?
ナーザジュニア、もう動いていいのか ?
ジュニアはい。リヒターさんにも確認してもらいました。
リヒターグラスティンに上書きされた際のダメージはあるが今のところ問題はないようだ。
ジュニアナーザ将軍、大きいフィリップとイクスがダーナに会ったという話、聞かせてください。
ナーザ無論、皆に聞いてもらう。我が神から託されたお言葉だ。心して聞け。
コーキスええと……何か途方もない話だったな。俺たちの住むティル・ナ・ノーグが女神ダーナの体で……ええと……。
リヒター何にせよ、今の話は帝国も知っているだろうな。奴らはルグの槍を切り札にしていた。
リヒターあればかりはティル・ナ・ノーグの成り立ちを知らねば使い道さえわからないものだ。
バルドええ。問題は、どこから情報を得ていたかです。ビフレストでさえおぼろげな神代の話がセールンドに伝わっていたとは思えない。
メルクリア精霊はどうじゃ ?帝国はマクスウェルを捕らえていた。そこから情報は得ていたとは考えられぬか ?
リヒターあり得なくもないが、少なくとも俺はそういった記録を見た覚えはない。
ジュニアティル・ナ・ノーグの古い話を仕入れるとしたら王立図書館とかになるけど、僕の中の大きいフィリップの記憶では見た覚えもないし……。
フリーセルバロールの巫女であればどうだろう。
コーキスなんだそれ ?
フリーセルバロールに連なる鏡精でも知らないのか。
コーキス全然知らない。教えてくれ。
フリーセル……素直だな。当代のバロールの巫女は、グラスティンの母親だ。
メルクリアなんと……。母親とな ?
フリーセルはい。そのような家系であれば何かしらの情報が伝えられている可能性があります。
バルドしかし巫女の知る情報であればビフレストの情報網にも掛かっていておかしくないのでは。
バルドそれとも一子相伝の口伝のようなものなのでしょうか。
ジュニアそれにデミトリアス陛下は、ニーベルングが今もまだ人の住めない環境であることを知っているんですよね?
ジュニアいつ、どうやって知ったんだろう……。
メルクリア本当に、義父上はどこまで知っておいでなのか。そのお考えが見えぬがゆえに、わらわは……。
フリーセル…………。
ジュニア少しづつ『何か』が足りないのがもどかしいですね。こうしている間にも帝国は次の一手を打つかもしれないのに。
ナーザこうなっては、我々が優先すべきはその一手を止めることだ。そして帝国そのものを瓦解させねばならん。
ナーザまずはオリジンに接触する必要がある。確かイクスたちとの情報共有によればオリジンは――
バルドナーザ様、通信が。
ナーザヴァンからだ。――こちらナーザ。どうした。
ヴァン少々立て込んでいるので手短に説明する。
ヴァン先ほど連絡を受けた『帝国の次の一手』とやらの話だが何を目論んでいるか見当がついた。ゆえに合流地点とは別の場所にいる。
ナーザなんだと ? 今はどこだ。
ヴァン帝都内に隠されているカレイドスコープの傍だ。
一同なっ ! ?
コーキスヴァン様、いつの間に !どうやってそんなところ入ったんだよ !
ヴァンローレライの力を使えば造作もない。
コーキス怖っ……。敵じゃなくてよかったぜ……。
ナーザそれで、何がわかった。
ヴァンカレイドスコープの構造を確認したのだが帝国はレプリカ情報を抜き取るための装置として使った形跡がある。それも膨大なデータ量だ。
ヴァンこれは一つの世界に匹敵する。帝国は虹の橋を利用して、分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取っていたのかもしれん。
コーキスレプリカ情報ってそっくり同じ物をつくるためのものだよな ?
ナーザ……まずいぞ。ヴァン、これより俺たちも帝都に――
ヴァン!誰か来る。切るぞ。
メルクリアヴァン……。無事であろうか。
ナーザバルド、今の話を救世軍に伝えろ。俺はイクスに連絡する。精霊の話もそこでしておこう。
ナーザ針路変更だ。これよりヴァンのもとへ向かう !

キャラクター9話【20-15 アジト2】
リーガル――本当に大丈夫なのか ?まだ休んでいてもいいんだぞ。
イクスありがとうございます。でも体調は万全ですから。俺の方こそ、大事な計画の立案を皆さんに任せてしまってすみません。
ピオニー気にするな。ここにいる連中はそういうのを仕事にしていた奴らばかりなんだろう ?使えるものは使っておけ。
パライバええ、そのとおりです。贄の紋章が消えたことで目下の不安も解消されました。もはや縛られるものもありません。
カルセドニーとはいえ、あまりご無理をなさいませんよう。パライバさまの足も、まだ本調子ではないはずです。
パライバありがとう、カル。でも、やれることがあるなら全力で成し遂げたいの。そう思えるのも、あなたが傍にいるからなのですよ。
カルセドニーパライバさま……。
カーリャむむ、これは……。
フォッグおぅ、こりゃアレだな、アレ !
カーリャあれっ ?そこにいるのはフィルさまじゃありませんか ?
イクス到着してたんですね。声をかけてくれればよかったのに。
フィリップ会議中のようだったからね。それに、その……、少し個人的な話もしたかったし。
ミリーナふふっ。今ね、各大陸の領主や騎士のみんなと帝国への反乱計画をまとめているところなの。よければフィルも一緒に聞いてちょうだい。
キールイクス、例の王立図書館の本なんだが――あ、フィリップも来てるのか。いいタイミングだ !
イクスキール、何かわかったのか ?
キール内容としては、一般の歴史書でも見かけるような大昔の歴史が記されているだけだ。めぼしいことは書かれていなかった。
キールだが、様々な形で解析した結果何らかの魔鏡術による封印が施されているとわかった。これを解くことで本当の内容がわかるかもしれない。
イクス魔鏡術 !
フィリップなるほど、それで僕というわけか。
キールああ。術式体系に造詣が深い鏡士がいるとありがたい。
フィリップイクス、僕はキールに協力した方が役に立てそうだ。ちょっと行ってくるよ。
イクスありがとうございます。よろしくお願いします。
イクスそれじゃ、こちらも続きを始めましょうか。
ルーングロムでは、反撃への流れを説明しよう。まずアセリア領だが、以前話があったように蜂起の土台はできている。
ルーングロムそれを踏まえ、まずはアセリア領と、その両隣にあたるオールドラント領、カレギア領を中心に大規模な反乱を起こし、領主たちが一時的に実効支配する。
ミリーナということは、一時的とはいえ領主は浮遊島を離れることになりますが……。アガーテさん、大丈夫ですか ?
アガーテええ。ミルハウストのことは浮遊島の方々を信じて託します。
ルーングロム我々三領と同時に蜂起する大陸はファンダリア領だったな。
イレーヌええ。ディムロスたちが所属するファンダリア領の対帝国部隊やケリュケイオンとも協力する手筈です。
パライバファンダリア領と隣接する原界(セルランド)領も共に蜂起します。
イクス最初にアセリア、カレギア、オールドラントファンダリアと原界(セルランド)が動くんですね。何か狙いがあるんですか ?
カーツこの五領は帝都からの距離やアセリア領との関係もあって、すでに半数以上の帝国兵が反帝国派に転じている。落とすのは難しくない。
カーツそしてこの反乱を鎮圧するために帝国が兵を動かせば帝国側は手薄となり、他の地域も蜂起しやすくなる。
フォレスト言葉は悪いが、彼らがおとりとなることで他領は蜂起のための力をつけることもできるだろう。
マウリッツそうやって帝国の兵力を削ぎながら帝都への侵攻準備を進めるというわけだ。
イクスなるほど、それなら――っと、通信が入ってる。ちょっとすみません。
ナーザイクス、差し迫った事態ゆえ用件だけ伝える。帝国はカレイドスコープを使って分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取っている。
イクス本当ですか ! ?
ナーザああ。ヴァンが帝都に潜入して確認した。俺たちも今、向かっているところだ。帝国がレプリカ作成を実行に移す前に阻止する。
ナーザオリジンとの接触も急がねばならない。オリジンの関係者に話を通しておいてくれぬか。
ナーザ俺もバルドとコーキスにはいずれお前から声がかかることは伝えてある。以上だ。
ミリーナイクス、今の話って……。
イクスうん。同時蜂起の計画はこのまま任せて俺たちも帝都に向かった方がよさそうだな。
――帝国内 イ・ラプセル城 カレイドスコープの間
デミトリアス分史ニーベルングのレプリカを作るのにどれくらいかかる。
グラスティン膨大な量のキラル分子が必要だ。鏡精を何匹殺しても間に合わん。そもそも鏡士がいなけりゃ鏡精は生み出せん。
デミトリアスならばどうやってキラル分子を手に入れればいい。
グラスティン腹は立つがあの魔女がかつてやった悪行に倣うとするさ。
デミトリアスゲフィオンのことか。
グラスティンああ。ティル・ナ・ノーグそのものを分解してそこからキラル分子を抽出すればエネルギーは何とかなる。
グラスティンあとはキラル分子にローレライの属性を付与すればいいんだが、今は手元にないからなぁ。ローレライの精霊片を集める必要がある。
ヴァン安心するといい。ローレライならば私の中にいる。
デミトリアスヴァン ! ?
グラスティンどこから入りこんだ――と言いたいところだがヒヒヒッ、歓迎するぜ ?
デミトリアスヴァン、先ほどの言葉はどういう意味だ。私たちに協力すると ?
ヴァン利害が一致する間は。
デミトリアス利害 ? きみにとっての利とはなんだ。
ヴァン預言に縛られぬ【被験者】たちを守ること。
グラスティンつまり具現化されたわけじゃない人間の世界を守るってことだな ?確かにデミトリアスの目的とは合致しているが……。
ヴァン(この世界に【星の記憶】はない。だが、この先もそうであるとは限らぬ。ならば――見極めねばなるまい)
ヴァンこのまま計画を進めるならば、ティル・ナ・ノーグが消えた後、ニーベルングのレプリカが出来上がるまで他の人間たちはどうする。
ヴァン生かそうとする者たちを集めているのだろう ?その者たちを守る場所が必要だ。
グラスティンヒヒヒッ、それならば準備はできているさ。

キャラクター10話【20-15 アジト2】
ロミーヤクタタズドモガ……。ハヤク、ルグノヤリヲ……。
ロミー! !ハスタ、ダト…… ! ?タイムファクターニナッタハズダ…… !
デミトリアス贈り物は届いたかな ?
ロミーソノコエ、デミトリアスカ !ドウイウコトダ !
デミトリアス私はロミーが……、いや、今はロミーではないのかな。『きみ』が自分の世界に戻ろうとしていたことを知っている。
デミトリアスそれほどまでに願うなら、叶えてあげたかった。
デミトリアスそれに、もしも閉じた世界の外へ行けるのなら鏡映点を戻し、この世界を救う切っ掛けになるかもしれないと考えていた。
デミトリアスだが、『きみ』は結局抜け出せていない。ルグの槍の力でも、それをクルスニクの槍に変化させても。
デミトリアスティル・ナ・ノーグの外に広がる虚無は飛び越えることができないと『きみ』のおかげで判明した。
デミトリアス虚無はまだティル・ナ・ノーグの理に支配された場所だ。ロミーの心の一部として定義されて具現化した『きみ』は、このまま体を失えば消滅するしかない。
ロミーナンダト…… ! ?
デミトリアスだが、ロミーが死んでも『きみ』が残る方法はある。スポットとしての能力で誰かに寄生すればいいんだ。――たとえば、そこにいるハスタとか。
ロミー! !……コイツハ、イキテイルノカ ?
デミトリアス彼が前世持ちなのは知っているだろう。生まれ変わりを繰り返す前世の魂と今のハスタの魂、二つを持っているようなものだ。
デミトリアス分史世界の消滅と共に、ハスタの魂の一部である生まれ変わりの力は消滅した。だが、『ハスタ』はまだかろうじて生きている。
ロミー……ナゼ、イキタニンゲンガキョムニイルノダ。
デミトリアスクルスニクの娘、エルの力だよ。特異鏡映点だからね。
デミトリアス彼女は骸殻の反動だけでなく分史世界消滅の際に【時歪の因子】となったハスタそのものを虚無へと追いやったんだ。
デミトリアスだが、このまま放置すれば死んでしまう。
デミトリアスロミーの身体にとりついたようにスポットである『きみ』が寄生して体を動かせば『きみ』は助かるかもしれない。ハスタもだ。
デミトリアスそれに寄生すればハスタを侵食することになる。いずれは『きみ』の体になるだろう。
ロミーキサマノハナシナド、シンジラレルカ !ダガ……。
ロミーシヌヨリハ、マシダ !
ロミーナンダコレハ ! ?ハスタノカラダニ、モンショウガ !
ロミーマキョウジンダト ! ? デミトリアス、キサマ !
デミトリアス…………。
セールンド カレイドスコープの間
デクスおーい、ファントム。救世軍からの差し入れだ。ちゃんと食べてくれよ。
ファントム必要ないと言っているでしょう。早く帰りなさい。
デクスそれじゃ連絡役であるオレの面子が立たないんだ。そんなオレを見たらアリスちゃんがどんなに悲しむか――
デクスなんだ、今の音は ! ?
ファントムゲフィオン !
デクスうわ、ゲフィオンにでかいヒビが ! ? 砕けるぞ !
ファントムくっ……駄目だっ…… ! まだ……砕けるな !
デクスファントム !
ファントム今すぐ……私が食い止めている間に部屋を出なさい……。そしてイクスに伝えるのです……早く !
デクスわ、わかった ! 無理するなよ !オレが怒られるんだからな ! ?
デクスよし、部屋は出た ! イクスに連絡を――
デクス! ? 今の光は…… ?おいファントム、無事か ! ? おい !
デクス部屋に近づけない…… ?ファントムのやつカレイドスコープの間を封じたのか ?
バルド帝都が見えてきましたね。みなさん準備をしてくさい。
リヒター…… ?あれは何の光だ ?
コーキス本当だ、何か気持ち悪い色してるぜ。こういうの、マスターならなんて言うだろう……。禍々しい…… ?
フリーセルあの場所は帝都の中心だ。イ・ラプセル城のあたりになるはずだが。
ナーザあれは…… !
メルクリアはい、わらわも感じました。
ジュニアあの光の場所に、具現化の力が集中している…… !
ミリーナねえイクス、今、感じたわよね ?おかしな気配。
イクスああ。何かが具現化される時の空気に似ている。力がどこかに集中してるんだ。
クレアこちら管制室です。緊急連絡につき、全回線に通知します。
クレア帝都上空に島の具現化を確認。詳細は不明。現在観測データを収集し――
イクス本当に具現化だったのか !それに帝都の『上空』に『島』って……。
ミリーナ誰なのかしら。フィルはここにいるしナーザ将軍もメルクリアもジュニアも一緒にいるって、ついさっき確認が取れているわ。
イクスそうなると、他に鏡士は……。
二人ファントム…… ?
to be continued
キャラクター1話【21-1 セールンド城1】
ファントム(くっ……、ゲフィオンの崩壊が止まらない……)
ファントム(私の作った防御壁も崩れた。このままでは死の砂嵐が溢れてしまう)
ゲフィオンわ……たし……の……。
ファントムゲフィオン ! ?
ゲフィオン私の力が……使われる…… !
ファントム力だと ?
ゲフィオンあああああああああっ ! !
ファントム(誰かがゲフィオンの力を使っている ?いや、それよりもゲフィオンを守るには――)
ファントムゲフィオン ! これからこの部屋ごとあなたを私の仮想鏡界に取り込みます !
ゲフィオンだめ、あなたが――
ファントム黙って ! 行きますよ !
デミトリアス。
デミトリアスその声は……。
幼いグラスティンデミトリアス、来たぞ。
幼いデミトリアスグラスティン、その傷 !前より随分痩せてるし……。
幼いグラスティン騒ぐなよ。怪我なんていつものことだろ。
幼いデミトリアスまた、きみの母君の仕業か。しばらく会えなかったから心配してたんだよ。もしかして、今日は抜け出してきた ? そのせいで……。
幼いグラスティン……あいつが、簡単に俺を外に出すと思うか ?
幼いデミトリアス無理しないでくれ。私だって、体調のせいで外に出られない時もある。
幼いデミトリアスきみに会いたいのは、私のわがままだから。だから……。
幼いグラスティン違う。あのままだと……俺も変に……なりそうで……。
幼いデミトリアスグラスティン、しっかりするんだ。どうにかならないのか……。
幼いグラスティン無理だろ。バロールの声か俺の声か、もうわからないくらいだし。
幼いデミトリアス……最近の巫女殿は、以前よりもバロールの声が聞こえるそうだね。そのせいか言動が怪しいと父上が言っていたよ。
幼いグラスティン最近? お前ら、今頃そんな話してるのか。もうずっと前から頭おかしいだろ、あいつ。
幼いグラスティン俺と勘違いして黒髪の子供追いかけたりさ。
幼いデミトリアスでも、心が落ち着いている時は優しい母君なんだろう ?いつかきっと元に戻るはずだよ。そうすれば、きみが酷い扱いを受けることも――
幼いグラスティンいつかって、いつ ?
幼いデミトリアスそれは……。
幼いグラスティンお前って口先だけで慰めて、いいこと言ってけどその場限りだよな。目の前のことしか見えてない。
幼いグラスティンどうせ何もしないなら希望を持たせること言うなよ。
幼いデミトリアスグラスティン、私は本当にきみが心配で……。
幼いグラスティンくそっ……なんで俺の親がバロールの巫女なんだよ……。なんで……。
デミトリアス(――ああ。これは『過去の私たち』だ)
幼いデミトリアスこれで自由だ。グラスティン。
幼いグラスティンお前…………。
幼いグラスティンこいつは……国にとって必要な巫女なんじゃないのか ?なのに……。
幼いデミトリアスきみを助けたかったんだ。そして巫女殿も。
幼いデミトリアスこれでバロールの声を聞くこともない。
幼いグラスティン……本当に目先のことしか見ていないな。でも……。
幼いグラスティン。死んだんだ。こいつ。やっと。
幼いグラスティン……ハハッ。ハハハハッ。確かにお前の言うとおりだなぁ。これならバロールの声に苦しむこともない。
幼いグラスティンもう怒鳴らないし殴らない !静かで優しい、きれいな『ママ』だ !
幼いグラスティンいいなぁ、死体って ! ヒヒヒヒッ !
幼いデミトリアス……早くどこかに隠さないと。
幼いグラスティンいいところがある。バロールの巫女以外、誰も寄り付かない洞窟だ。
幼いデミトリアスわかった。一緒に運ぼう。
幼いグラスティン俺は頭の方を持つから、お前は足を頼む。それから……。
幼いグラスティンありがとう、デミトリアス。
デミトリアス(グラスティンの言うとおり、死体は誰にも見つからずバロールの巫女は行方不明とされた)
デミトリアス(鏡精エネルギー推進派だった父上は、反対していた巫女の失踪をこれ幸いと、エネルギー変換用の鏡精を大量に生み出させ、多くの鏡精が犠牲となった)
デミトリアス(セールンドの動きを察知したビフレストから質問状が来ても、抗議が来ても、そして……)
幼いデミトリアスグラスティン ! バロールの巫女の行方についてビフレストからまた問い合わせが来たんだ。
幼いデミトリアスどうしよう……私があんなことをしたから……。あれが見つかったら戦争に……。
幼いグラスティンヒヒッ、大丈夫。問題ないって。お前はそのまま――……。
デミトリアス……またか。なぜこうも昔の夢ばかり……。
デミトリアス(父上は私を生かすためにさらに鏡精エネルギーを必要とした)
デミトリアス(独善的ともいえる国策に歯止めをかけていたのがバロールの巫女であったのに、私は……)
デミトリアス(思えば、この世界の惨状はバロールの巫女を殺したことから始まったのかもしれない)
デミトリアス(いや、私の存在こそが……)
グラスティンデミトリアス、例のスポットだが――……どうした、疲れた顔して。例の発作か ?
デミトリアスいや。考え事をしていただけだよ。それで、上手くいったかい ?
グラスティンああ。【ゲイボルグの島】とアイフリードの墓への道が完成した。
グラスティンロミーに寄生していたスポットのお陰だ。尊い犠牲だったなぁ。ヒヒヒッ。
デミトリアスそうか。『本来のティル・ナ・ノーグ』の民たちも移動を開始している。こちらも滞りなく進んでいるよ。
グラスティンもっと住民たちを急がせろ。【ゲイボルグの島】は、ゲフィオンの力で作ったんだからな。時間がない。
グラスティン人体万華鏡は間もなく崩壊する。死の砂嵐が現れるぞ。

キャラクター2話【21-2 アジト1】
キールその本の封印はどうだ ?フィリップの魔鏡術で解除できそうか ?
フィリップこれは…… ! でも間違いない……。
パスカル見覚えあるの ?
フィリップこの封印、旧型カレイドスコープに施されていたものと同じ種類だ。
キール旧型 ? 兵器の方のカレイドスコープか ?
フィリップいや、さらにその前だよ。キラル分子を鏡写しにして増やす装置でイクスの両親が研究していたものだ。
リタツインミラーシステムね。修理したことあるけどあの辺のシステム周りを開発してたんだ。
フィリップああ。僕とゲフィオンは旧型カレイドスコープを魔鏡兵器に転用するためにイクスの両親がかけた封印を解いたんだ。
キールじゃあ、手順はわかるんだな ! 早速始めよう。
フィリップそれが……封印の解除にはイクスの魔鏡が必要なんだ。旧型カレイドスコープは、最初のイクスの形見の魔鏡で封印を解いたけど、これは……。
ハロルドええ、変ね。ゲフィオンもその本を調べてたんでしょ ?なのに解除できてない。
フィリップそのとおり。ゲフィオンだって気づくはずなのに。となると、イクスの形見の魔鏡だけでは本の封印は解けなかったことになる。
フィリップとにかく、イクスのところに行こう。実際に魔鏡を…………あれ ?
キールフィリップ ?
フィリップくっ……胸が……痛っ…………。
四人フィリップ ! ?
クレアこちら管制室です。緊急連絡につき、全回線に通知します。帝都上空に島の具現化を――
カーリャ・Nこちらでしたか !あの帝都の上に浮かんだ島はなんなのですか ?
イクスまだ確認中なんだ。でもあの地形、セールンド城の周辺によく似てる。
カーリャ・Nセールンド……。誰が具現化したのでしょう。
ミリーナタイミング的にはファントムしかいないんだけど……。
カーリャ・Nそんなはずは――
マークイクス ! あの島見てるな ?すぐにケリュケイオンからの観測データを送る。
マークそれと、デクスから通信がきている。お前にも一緒に聞いて欲しいそうだ。――デクス、繫いだぞ。
デクス人体万華鏡が崩壊した ! でっかいヒビが入ったんだ !
カーリャ・Nそんな ! 崩壊はまだ内部に留めていたはずです !
デクス知らん ! でもそのヒビの段階で留めるためにファントムが対処してる。
イクスファントム ! ? まだゲフィオンの傍にいるのか ! ?
デクスああ。でもオレがカレイドスコープの間から出た後は部屋に近づけなくなった。今どうなってるかはわからない。
デクス何とか助けたいんだが、どうにかならないか ?オレの名誉、ひいてはアリスちゃんのためにも !
マークファントム、何を考えて………………。
カーリャマーク ? どうしたんです ?
マークっ…… ! 嘘だろ……フィル……。
カーリャ・Nフィリップ様に何かあったのですか ! ?
マーク……俺の存在が一瞬消えかけた。今も少しづつ薄れている。フィルはどこだ。
イクスキール研究室だ !ミリーナ、俺たちもすぐにフィルさんのところへ――
マークいい。お前らはやることがあるだろう。――ガロウズ、俺は浮遊島に降りる。ここは任せるぞ。
ガロウズああ。ビクエ様を頼む。お前も消えんじゃねえぞ。
カーリャマーク……。
イクス……話を進めよう。その方がマークもフィルさんに集中できる。
ガロウズ了解。で、具現化されたあの島だが観測データを見ると数分前に異常値が出ている。
デクス人体万華鏡が壊れたのも、そのくらいだった。
ミリーナほぼ同時ってことかしら。それなら具現化はファントムじゃないわ。
イクス……もしかすると、具現化にはゲフィオンの力が使われているのかもしれない。
イクスギリギリで耐えていたところを外部の干渉で力を使われたとしたら崩壊が早まったのも頷ける。
カーリャだったらミリーナさまは ! ?ミリーナさまは大丈夫なんですか ! ?
ミリーナええ、何ともないわ。私にはカーリャの防御壁があるもの。
ミリーナそれに、ゲフィオンは防御壁も壊れて意識も私に侵食されているから……。きっと私に影響を及ぼすほどの力が、もう……。
カーリャ・Nセールンドへ降りて確認します。私がゲフィオン様とファントムの救出にあたります !
アッシュおい、待て、ルーク !
ルーク急げよ、アッシュ !――イクス、緊急連絡だ !
イクス二人とも、丁度よかった。さっきナーザ将軍から、ヴァンさんが帝都に乗り込んでるって連絡が来たんだ。
ルークそれだよ ! 俺たちにもローレライが伝えてきたんだ。
ルークええと、ヴァン師匠からの伝言でレプリカを作るのに必要なのがキラル分子で世界を分解して手に入れてニーベルングを――
カーリャすみませんルークさま、ものすごくわかりにくいです !
アッシュ俺がついて来て正解だったな。イクス、ナーザからはどこまで聞いている ?
イクス帝国がカレイドスコープを使って分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取ったって話までだ。
アッシュそうか。ヴァンからの伝言によるとニーベルングのレプリカ作成には大量のキラル分子が必要だそうだ。
アッシュ奴らはそれを、ティル・ナ・ノーグを分解して調達する計画らしい。
イクスこの世界を素材にする気か !そんなことをしたら自分たちだって無事じゃすまないのに。
アッシュだろうな。そのための避難先として作られたのがさっき具現化された島というわけだ。
アッシュあの浮島は、セールンド島とアイギスシステムを具現化している。死の砂嵐からの守りも兼ねているそうだぞ。
ルークそう、そういうわけだ !ありがとな、アッシュ。やっぱついて来てもらってよかったぜ。
アッシュふん、ローレライから連絡受けた途端一人で駆け出しやがって。ヴァンのことだからといって焦りすぎだ、馬鹿が。
ルークそういうお前だって――
イクスわかった。ありがとう、二人とも。今の話、すぐにみんなに知らせるよ。

キャラクター3話【21-3 アジト2】
イクス――以上が、今の俺たちが置かれている状況だ。これを踏まえて今後の方針を聞いてもらいたい。
イクスまず、ゲフィオンのところにはケリュケイオンとネヴァンで向かってもらう。
イクス精霊研究室のメンバーはマクスウェルの残滓の調査を続行。
イクス同時蜂起作戦の領主たちは地上に降りて反乱計画を進めて欲しい。
イクス他のみんなはそれぞれ、どの持ち場につくか申告してくれ。
イクスその上でだけど、俺たちと一緒に浮遊セールンド島へ向かう人員が欲しい。
イクス目的は大きく二つある。分史ニーベルングのレプリカ作成の阻止と具現化されたアイギスシステムだ。
イクスあれをティル・ナ・ノーグ全体に利用できればゲフィオンの人体万華鏡が完全に崩壊しても死の砂嵐から守ることができるかもしれない。
ジェイドかもしれない、ですか ?
イクス……言いたいことはわかります。でももう、それに賭けるしかありません。
イクスこんな計画では、みんなが不安に思うのもわかります。それでも俺は――
クレス了解だよ、イクス !
イクスクレス……。
チェスターよし ! となるとオレたちは反乱計画の協力だな。
ミントええ。アセリア領は蜂起の要ですからね。
スタンじゃあ、俺たちも反乱組だな !カイルはどうする ?
カイルディムロスさんたちもいるしオレたちも反乱組で !みんな、とりあえず同じでいいよね ?
リオンお前たち、食事の注文じゃないんだぞ。気軽に決めすぎだ !
ルーティいいじゃない。あたしも反乱組一丁 !
リアラわたしも、カイルと同じで !
メルディイクスの方、まだ誰もいないな。なぁ、リッド ?
リッドわかってるよ。オレたちはイクスと一緒に行く。アイギスシステムに関しちゃ確かに不安もあるけどまあ……。おいファラ、いつもの頼むぜ。
ファラうん ! ――イクス、ミリーナ。イケる、イケる !
ミリーナファラ……、ありがとう。
コレットねえロイド、イクスたちにも機動力が必要だよね ?私、飛べるし、力持ちだし。ね、カーリャ ?
カーリャはい。その節はお世話になりました !
ロイドこんな時こそ『ドワーフの誓い第1番』ってわけか。よし、俺たちも浮遊セールンド島にしよう。
ジーニアス『平和な世界が生まれるようにみんなで努力しよう』だね。ボクも賛成 !
マルタええと、私たちはどっち ?
ラタトスク俺は精霊だからな。マクスウェルの残滓の調査に決まってる。お前たちもだったな ?
ヴェイグああ。今度マオに何かあったら全員で立ち向かえるようにしたい。
ティトレイそうだな。クレアもサポートで頑張ってるしおれたちだって――って、何笑ってんだよ、ヒルダ。
ヒルダふふっ、この状況で出来すぎだと思って。占い、『死の使い』の逆位置のカードが出たの。これ、覚えてる ?
ティトレイ縁起悪っ……くないんだよな。『大いなる転機、再生』――あの時のカードだ。忘れねぇよ。
エミル再生か……。いい意味のカードなんだね。マルタ、お父さんのことも含まれてるかもしれないよ。
マルタエミル……、ありがとう ! 大好き !
二人いいなぁ……。
シャーリィわ、わたしたちもマクスウェルの調査頑張らないとね。
クロエそ、そうだな !いいかクーリッジ、私たちも気を引き締めて任務にあたるぞ。
セネルあ、ああ……。やけに気合い入ってるな。他に精霊調査に行くのはどのチームだ ?
シングセネル、オレたちもそっちに行くよ。ミラの時みたいに、マクスウェルの残滓がスピリアに影響するかもしれない。
コハクそういえば、マクスウェルの残滓が心の世界に広がるかもってヴェリウスが言ってたよね。
ヒスイよし、今回できっちりケリつけてやろうぜ。
ミクリオ僕たちは天族だから精霊調査だけどスレイはどうする ?
スレイもちろん、みんなと一緒に行くに決まってるだろ !
ライラそうですね。スレイさんも『一緒』に『一所』懸命頑張りましょう !
ルークダジャレとか余裕あるよなぁ。俺なんかヴァン師匠のこと聞いただけで慌てちまったのに。
ティアルーク、兄さんのことを気にしているのね。それなら私たちは浮遊セールンド島にしましょうか。
ガイだな。ついでだからまとめて浮遊セールンド島希望者を確認しとこうぜ。何があるかわからないから、荒事覚悟の奴らで――
二人はい !
フレン君たち……、魂胆が丸見えだよ。
エステル大丈夫です。ユーリたちが無茶をしないようにわたしが頑張りますから。
イリアねえ、見た ? ユーリたち。「お前が言うな」って顔してた。
ルカあはは……そうだね。とにかく、僕たちも浮遊セールンド島で !
スパーダお前、勢いで決めたろ。けどまあ、アイギスシステムっての逆手にとって帝国の奴らに吠え面かかせるのも面白そうだ !
ルキウスそうか……。浮遊セールンド島にはグラスティンたちがいるかもしれないんだ。ロミーを目覚めさせる手掛かりが掴めるかも……。
カイウスだったら、オレたちも浮遊セールンド島に行こう。ロミーのこと、ルキウスだけが背負うことないさ。
ルビアカイウスったら、お兄さんぶっちゃって。でも、あたしも同じ気持ちよ。やれるだけやりましょう !
ルドガー兄さんも、ひとりで背負うことないからな。もう全部バレてるんだから。
ユリウスわかってる。『お前たち』には敵わないと思い知らされたしな。ところで俺たちはどうする。エルもいるが……。
ミラ何度も帝国から狙われてるし下手に置いていくより一緒にいる方が安心じゃない ?
ルドガー決まりだ。俺たちも浮遊セールンド島に行く。
マギルゥなるほど。もう人員は十分のようじゃな !ならば儂らは待機ということで――
ライフィセット僕も浮遊セールンド島に行きたい。全勢力でしかけなきゃ、きっと手遅れになると思う。
ベルベットそうね。あたしたちは浮遊セールンド島で。そういうわけだから、よろしく、マギルゥ。
ソフィあれ ? ビエンフーの声が聞こえるけど……気のせいかな ?それで、わたしたちはどうするの ?
ヒューバートここまでの勢力配分を見ると、反乱軍への参加が少ないように思えます。市民兵も多いでしょうし指揮を取れる者が必要でしょうね。
アスベルそうだな。お前も、マリク教官も、リチャードもいる。イクス、俺たちは地上反乱軍に加わるよ。残りのみんなもそうしてもらえると助かるんだが。
ジュードそうだね。僕たちも反乱軍に加わった方が勢力的にバランスが取れると思う。みんなも、それでいい ?
アルヴィンああ。あいつの目が覚める前に掃除は終わらせておきたいしな。けど、おたくは ? 精霊調査だから離ればなれだろう。
ミラ=マクスウェル離れていても、ちゃんと繋がっている。たとえ触れ合えなくてもな。
アルフェン……触れ合えなくても、か。なんだか、わかる気がする。
シオン私は……まだよくわからないわ。それより、この流れだと最後の私たちも反乱軍に加わることになりそうね。
アルフェンそうだな。初めて顔を合わせる人も多いだろうけどみんな、よろしく頼む !
カーリャ配置、難航するかと思いましたけどあっさり決まっちゃいましたね。さすが鏡映点たちです。
ミリーナええ。どんな困難があっても思いを力に変えて立ち向かえる人たち。それが鏡映点――世界を動かす人たちなのよ。
イクス……だからこそ具現化対象として選ばれてしまったんだよな。
イクスティル・ナ・ノーグに呼んでしまった俺たちは絶対にみんなの気持ちを無駄にしちゃいけない。
イクスみんな ! 聞いてのとおり、配置は決まった。これからすぐに持ち場へ向かって欲しい。
イクスその前に、一言だけ言わせて欲しいんだ。みんな……。
イクスこの世界に来てくれて、本当にありがとう。
イクスそれじゃ、作戦開始だ !

キャラクター4話【21-4 セールンド 浜辺】
ナーザそうか。それでお前たちは具現化された浮遊セールンド島のアイギスシステムを目指しているんだな。
イクスはい、今は浮遊島を動かして接岸させるべく向かっているところです。
ナーザわかった。俺たちはすでに帝都に上陸している。このまま先行して、ヴァンとの合流を目指すつもりだ。少しでも時間が惜しい。切るぞ。
イクスわかりました。気を付けて。
バルド浮遊島を動かせるようになったとは聞いていましたが今回もまた大胆な作戦に出ましたね。
コーキスふふん、鏡映点のみんなにかかれば朝飯前だぜ !マスターたちも来てくれるし俺たちも動きやすくなるな。
ジュニアうん。でも絶対に油断しないで。ゲフィオン……人体万華鏡にまで手を出したんだ。
ジュニアデミトリアス陛下やグラスティンはもう後戻りはできない。どんな手でも使ってくるよ。
フリーセルグラスティン……。
フリーセル(……微かに松明が燃える匂いがする。……やはりこのバロールの洞窟に誰かが出入りしているな)
フリーセル(松明だけじゃない。なんだ、この……腐った脂のような匂いは……。奥の方から漂ってくる……)
グラスティン……やあ、ママ。今日も綺麗だね。
フリーセル(この声は……グラスティンか)
グラスティン昨日もまた俺を連れ去って閉じ込めようとしただろう ?俺にはわかるんだあ。俺の代わりに沢山家族を作ってやったじゃないか。それともまだ足りないのか ?
グラスティンさあ、お引っ越しだよ。ママのことを知られた。それにあいつがママを殺したことに怯えてるんだ。
フリーセル(そうか……奴はバロールの巫女の息子だったな。前の調査の時、ここに奴の母親の遺体が隠されていた。やはり母親がここで死んでいるのを知っていたんだな)
フリーセル! ?
フリーセル(何だ ! ? 死体の山が…… ! ?前に来た時はこんなものはなかったぞ ! ?)
グラスティン――誰だ。
グラスティンフリーセル…… ! やっぱりここを嗅ぎ回っていたか。
フリーセルグラスティン……。何だその死体の山は……。ここは一体……。
グラスティンヒヒ……立ち聞きしていたんだろう ?しつけのなっていない鼠だな。さすがビフレストのスパイだ。
フリーセル何の話だ。それよりここの死体はお前が集めたものか ?それともお前が手をかけたものか ?
フリーセルくっ ! ? いきなり刃物を出してくるとはな ! ?
グラスティンヒヒヒ、安心しろ。お前の髪は黒くない。ママは黒髪がお気に入りなんだ。昔の俺みたいな黒髪がなあ。
グラスティンだからちゃーんとお前の死体は海に捨ててやるよお !
グラスティン死ね ! 死ね !
フリーセル(こいつは、バロールの巫女がああなった経緯を知っている筈だ。何とか生け捕りに――)
グラスティンな、何だ…… ! ? 何を打ち込んだ ! ? 魔鏡陣か ! ?貴様は……くっ……。
フリーセル逃げても無駄だ !
フリーセル――消えた ? いや、転送魔鏡陣か。だがあの刻印があれば居場所はすぐに突き止められる。
フリーセル(これは俺の記憶ではない。一人目の俺の記憶だ。そしてこの記憶に、グラスティン――お前は殺される)
バルドフリーセル、どうしました ?
フリーセル……いいえ。
メルクリアして兄上、いかにしてヴァンを見つけるおつもりですか ?
ナーザ問題ない。手は打ってある。
アステルナーザ将軍 ? どうです、帝都には着きましたか ?
ナーザああ。それで、ヴァンにつけていた発信機はどうだ。
リグレット閣下に発信機だと ?
ナーザリグレット、戻っていたか。
リグレットついさっきな。私のあずかり知らぬところでそんなものをつけていたのか。
ナーザヴァンの目的が明確でなかった以上何かしらの保険は必要だったからな。
バルドええ。それにあなたたち六神将は彼に与する可能性がありましたので。
リグレット……確かに否定はできない。
バルド互いに、想う主を持つゆえのこと。どうか悪しからず。
リヒター……俺は六神将ではないが、知らなかったぞ。
アステルあれ ? リヒターに言ってなかったっけ。ごめんね ?
ディスト総長に発信器など無駄ではありませんかねえ。
バルドフフ、そうかもしれませんね……。
アステルっと、よし、拾えた !ここは……帝都……イ・ラプセル城の真上…… ?さっき具現化された島にいますね。
ナーザ奴らに飛空艇はない。浮遊セールンド島に移動する入口のようなものが城内にあるはずだ。行くぞ。
マークⅡ悪ぃ、ちょっとだけ待ってくれ。――ジュニア、お前も一緒に潜入するんだな ?
ジュニア帰って来いなんて、言わないよね。
マークⅡ……だよな。逃げないって決めたんだもんな。
マークⅡ引き留めて悪かった。仮想鏡界の維持は任せとけ。お前は、お前の思うとおり、好きにやって来い !
ジュニアうん ! 行ってきます !
マークⅡちょっと目を離すとすぐに逞しくなっちまうんだよなぁ。
マークⅡ……死ぬなよ、フィル。
マークフィル……。
フィリップマ……ク…… ?
マークここにいる。そのまま寝てていいぞ。
フィリップ意識……保たないと……、マークが、消え……。
マーク俺のことはいい !頼むから、もう自分のことだけ考えろよ !
フィリップごめ……マーク……。
マーク(おかしい……。なんなんだ、この焦燥感と不安。俺でもフィルでもない感情に気持ちが影響される……)
キールおい、来たぞ !
ヨーランドフィリップ !マークもいるわね。話は聞いたわ。
マークヨウ・ビクエ ! 頼む !
アトワイト呼吸が浅い……。まずいわ……。
ヨーランドこれは……。マーク、あなたに変化はあった ?
マーク存在の希薄化はあった。それと、今も俺の中に不安と焦燥感が溢れている。けど、こいつがフィルのものとは思えないんだ。
ヨーランドやっぱり……。さすが鏡精ね。それはファントムの感情よ。
マークファントムだと ! ?
ヨーランド狂化止めを施して切り離した筈だけど彼の心に何らかの負荷が掛かってまたフィリップと繋がりかけているわ。
マークじゃあ、どうすればいい !
ヨーランドいったんフィリップの心に防御を施すわ。――アトワイト、私が防御壁を作っている間フィリップの様子を見ておいて。
アトワイトええ。準備できてるわ。いつでもどうぞ。
フィリップ……あ……あれ ? 治った……。
ヨーランド成功ね。これで動けるはずよ。
フィリップなんか大げさになって、すみません……。
マーク馬鹿野郎 ! いいんだよ大げさで !マジで一瞬覚悟しちまったくらいだぞ !
ヨーランドそうよ。あなた、本当に危険だったわ。それは今も変わらない。
フィリップえ…… ?
ヨーランド私が施した心の防御は長くはもたないわ。こうして動けているうちにゲフィオンとファントムのところへ行きましょう。
フィリップ……わかりました。
リタゲフィオンのところへはネヴァンたちが行くって話よ。急げば一緒に行けるんじゃない ?
パスカルでも、無茶しちゃダメだよ ? マークが泣いちゃうから。
フィリップふふっ、ありがとう。きみたちにも迷惑かけたね。本の封印も、解除に至らなくてすまない。
フィリップそれと、アトワイトにお願いしたいことがあるんだ。ええと……、これでよし。
フィリップアトワイト、この本をイクスに。お願いします。
アトワイトわかりました。お預かりします。
ハロルドってことは、本の封印に関してはお役御免ね。となると……。
キールああ。しばらくは自分たちが所属しているチームで役目を果たすとしよう。
ハロルド私は地上行きかぁ。久しぶりにディムロスたちでもおちょくろうかしら。
パスカルあ、あたしも地上組だよ。リタのとこは確か……。
リタ浮遊セールンド島。アイギスシステムとかね。
二人うらやましいー !
キール……この研究室も、少し静かになるな。

キャラクター5話【21-5 ケリュケイオン】
ガロウズセールンド上空だ。準備してくれ。
マークよし。みんな、よろしく頼む。目標は人体万華鏡があるカレイドスコープの間だ。――デクス、待機してるか ?
デクスちょっと待ってくれ。ケリュケイオンの着陸ポイントに移動中だ。
アリス早くしなさい。デクスのくせに、アリスちゃんを待たせる気 ?
デクスアリスちゃん ! ? アリスちゃんもいるのか !もしかして、頑張っているオレを応援に ! ?
アリス逆よ。文句言いに来たの。あんた「自分の命はアリスちゃんのものだ」って言ったくせに勝手に無駄遣いしそうだから。
デクス大丈夫。オレはアリスちゃんのものだよ。アリスちゃんのためにしか死なないから !
アリス本当に話の通じない奴ね。バカじゃない ?
アイゼンふっ、確かにバカだが芯の通ったバカは嫌いじゃない。
カーリャ・Nええ。アリス様は幸せな方です。
クラトスマーク、潜入メンバーにはローエンもいるのだろう ?姿が見えないようだが。
マークさっき預かった奴らの様子を見てくるって言ってた。すぐに戻るはずだ。
アイゼン浮遊島から受け入れた負傷者と、非戦闘員か。
フィリップこれから浮遊島のアジトを横付けして浮遊セールンド島に乗り込む手筈だからね。下手をすると戦場になる。
フィリップそうなった場合、鏡士しか動かせない浮遊島よりはケリュケイオンの方が安全だろう ?
ローエン遅れて申し訳ありません。
マークローエン !……と、クレアにマリアンに、アミィもか ?どうしたんだ。
ローエン少々……とは言えない問題が起きております。みなさん、まずは状況の説明をお願いします。
マリアンはい。ブルートさんとウィンガルさんとプレザさんヴィクトリアさん、ミルハウストさんの姿がどこにも見当たらないんです。
フィリップそんなはずは……彼らは眠ったままなんだろう ?
クレアええ。浮遊島から運び出す際に確認をしています。
フィリップまさか、このタイミングで目覚めたのか ?ありえないことじゃないけど……。
アミィそう思って、艦内を捜しましたがどこにもいないんです。今も、セシリィとリベラが見回ってくれてるんですけど……。
ヨーランドもしかして、さっき私が診たせいで劇的に回復したのかしら。な~んて……。
マークそれ !ありえるんだよ、あんたの場合 !
セシリィボス ! ボス、大変 !
ガロウズお前たち、誰か見つかったか ! ?
リベラううん。見つからなかった……。それとバルバトスも見つからない。シンクも一緒に捜してくれたけど……。
シンクこっちのせいにされても困るからね。
マークバルバトス ! ? あいつ、艦内にいないのか ! ?
セシリィごめんなさい。バルバトスさんが船に居る時には行動に気をつけろってボスにもマークさんにも言われてたのに。
マークいや、謝るのはこっちだ。エルレインと分けちまった俺の配置ミスだ。まさか、あいつが負傷者たちを……。
ローエンいえ、バルバトスさんが彼らを連れ出す理由がありません。この件は分けて考えるべきでしょう。
クラトスバルバトスが出て行ったのは先ほど浮遊島に停泊していた時だろう。
アイゼンああ。それに負傷者たちが回復して出て行ったとすれば収容した後に船が発つまでのわずかな間だな。
デクス着陸ポイントに到着したぞ ! アリスちゃーん !
マーク……時間がない。イクスに伝えて、こっちは潜入を開始する。
フィリップクレア、マリアン、アミィ、セシリィ、リベラ君たちは引き続き彼らの足取りを追って欲しい。ガロウズ、何かあればすぐに連絡を入れてくれ。
フィリップそれとシンク、艦内の守りは頼んだよ。
シンクいいから、死にたくないならさっさと行きなよ。
フィリップでは行こう。ゲフィオンとリーパのところへ。
キールそろそろ、浮遊セールンド島に接岸するぞ。
フォッグおぅ。イクスの腕の見せ所だな。
チャットそうですね、ぶつからないようにでもボクたちが渡れるくらい近くに寄せてもらわないと――
クィッキー! クィッキー !
メルディバイバ ! どした、クィッキー !
ファラしっ ! チャット。悲鳴だけはダメ。
リッドこらえろ。他の奴らも突入のタイミングを計って隠れてるんだ。ここで台無しにはできねぇ。
メルディでも、クィッキー、へん。なに感じたか ?
ラピード、ノイシュ、ルル、ミュウ! !
コーダヘソがピリピリするんだな、しかし !
バルバトスここだな ! なるほど、だいぶ近い。
ルックバルバトスさん、なんでこんなことを……。
バルバトスメルクリアはあの島へ来るんだろう ?復讐の機会がやっと訪れたというのに逃すわけないだろうが !
ルックなんでそれを…… !
ルキウスあいつ、またメルクリアを狙ってるのか !
カイウスルキウス、今はだめだ !
バルバトスこれまで小娘の情報を上手く隠していたんだろうが今回ばかりは、わきが甘かったようだな。
バルバトスマークめ、俺を飼いならせたと思ったら大間違いだ !腰ぎんちゃくも案内ご苦労。どこへでも失せろ。
ルックくそっ……行かせるか !
バルバトス触るなウジ虫が !俺の誇りを汚したあの小娘は殺す !貴様はそこで、一生地べたを這っていろ !
ロイドあいつ !
ジーニアスまずいよ、バルバトスの奴浮遊セールンド島に飛び移っちゃった !
ヴィクトルしまった ! 遅かったか !ルック、大丈夫か ?
ルックヴィクトルさん……すみません。接岸場所まで連れていかないとケリュケイオンの連中を殺すと言われて……。
エルパパ ! ?
ユリウスル……ヴィクトル、どうなってる ! ?
ヴィクトル今回の作戦を進めるなかで、メルクリアたちの情報がバルバトスに漏れたのだ。奴は復讐を果たすために勝手にケリュケイオンを降りた。ルックを脅してな。
ティア骨が折れてるみたい。すぐに治療するわ。
ルビアあたしも一緒に !
ゼロスルック、ルビアちゃんとティアちゃんの二人がかりで治療してもらえるなんて幸せな奴め。
ルークなあ、つい勢いで俺たちも飛び出しちまったけどこれ、どうすんだ ?
ユーリおい、先に突入するぞ !
ガイユーリ ! ?
ルカえ ! ? タイミングを見てこっそり潜入って作戦は ! ?
ベルベットさっきの見たでしょ。あいつが乗り込んで大人しくメルクリアを捜すと思う ?
ジュディスそうよ。どうせバルバトスに大暴れされるんだもの。タイミングも何もないでしょう。
ライフィセットこういうの何て言うんだっけ。乗りかかった船 ?
パティなのじゃ ! さあ、みな続け !これだけの面子じゃぞ ?大船に乗った気で突入なのじゃーー !
マギルゥええい、もうどーでもいいわい ! マギンプイ !
ビエンフービエ~~~ン !姐さーん、置いてかないで欲しいでフー !
カロルあはは……もうめちゃくちゃだけど、そっちは大丈夫 ?
ロクロウ応 !できればバルバトスと斬り合いたいもんだ !
エレノアロクロウ……、またそれですか。あなたは本当にぶれませんね。
エステルエレノア、みんなのブレーキ役、頑張りましょう !
リタ言っとくけど、あんたもブレーキかけられる側よ ?
エステルそうなんです ! ?
プレセア……行ってしまいました。
エルマーナなんや、止めるヒマもあらへん。
ヴィクトル私も引き続きバルバトスを追う。
エルパパ、エルも一緒に行く !
ルドガー俺も行きます。俺たち全員でエルを守る !
ユリウスああ。家族でこの子を守ることが何より安心だと思わないか ?
ヴィクトル……行こう。
リーガルこうなっては仕方あるまい。まずは指令室に連絡だな。
リカルドああ。――こちら浮遊セールンド島潜入チーム。潜入直前にトラブルが起きた。
ジェイド状況はわかりました。すでに突入したチームにはそのまま先行してもらいます。リフィル、そちらはどうです ?
リフィル目標への接岸を確認したわ。アンジュ、行ける ?
アンジュはい、すぐに。――コンウェイさん、キュキュさん。始めてください。
コンウェイ了解。
キュキュはい、わかた !
アンジュみなさん、コンウェイさんとキュキュさんがアジトの防衛機構を起動しています。
アンジュ現在待機しているチームは、起動が完了してから行動開始。独自の行動を控えてください。特にイリアとスパーダくん。
イリアスパーダはともかく、なんであたしなのよ。
スパーダお前、自分のこと棚に上げすぎだろ……。
アンジュこの前の墓守の街ではどうだったかしら ?最初の一発、あなたが放った気がするんだけど。
イリア……自重します。
ジェイドさすがアンジュ。この調子で、彼らの指揮をお願いしますよ。
ミリーナさすがね、イクス !目標地点にぴったり横付けできてるわよ。
イクスはぁ……。船とは勝手が違うけどとりあえず漁師の面目躍如だな。
アトワイトイクスさん、フィリップさんからこの本を渡すよう言付かったわ。どうぞ。
イクスありがとうございます。フィルさん、自分が大変な時に、こっちまで……。
ミリーナ経過は聞いているけど、本当に大丈夫かしら。
アトワイトヨーランドさんたちが動いているし何かあればすぐに連絡が来るはずよ。それと、フィリップさんが何かメモを挟んでいたわ。
イクス本当だ。ええと……。「この本の封印が解けるのはイクスだけだろう。方法を以下に記す」か。
アトワイトそれじゃ、何かあったら呼んでちょうだい。
ミリーナありがとうございました。――イクス、やってみましょうか。
イクスいや……ちょっと待ってくれ。腕の魔鏡を押し当てると反応……その後に解呪の文言を唱える…… ?
イクスそれなら、これまで俺が調べている最中に俺の魔鏡に反応してもいいはずだ……。
イクス……そうか。そういうことか。だったら……。
イクス1stわかったよ、イクス。やってみる。
ミリーナえ ? イクス…… ?
イクス1stやあ、ミリーナ。久しぶり……じゃないな。始めまして、最初のイクスだ。
ミリーナあなたが……イクスさん。
イクス1st本当はミリーナやカーリャともたくさん話したいよ。でも、今はフィルが届けてくれたこの本を優先させる。――イクス、始めるぞ。
イクス1st本に、腕の魔鏡を近づける、と。
カーリャあ、本がうっすら光ってます !
イクス1stよし。そして解呪の呪文……。『――――――』
ミリーナ本が……書き代わっていくわ !
イクス1st「本日、バロールとの交信にて、鏡士の……」これ、バロールの巫女の手記だ !
ミリーナ大成功よ、イクス ! ……さん。
リフィルイクス ? いいかしら。作戦変更になりそうなの。
イクス1stこれ、魔鏡通信だよな ?
ミリーナ私が話します。――こちら、ミリーナです。作戦変更って、何があったんですか ?
ミリーナ……わかりました。では計画はその方向で先に進めてください。お願いします。
イクス(バルバトスさん…… ! こんな時に)
イクス1stイクスに代わるか ?
ミリーナいいえ。イクスさんのままじゃないとまた封印が復活するかもしれませんから。今はそのまま、手記を読み進めてください。

キャラクター6話【21-6 アジト3】
カーリャどうですか ? なにが書いてあるんです ?
ミリーナしっ、今はイクスさんに集中させてあげて。
イクス1st……いいよ。一通り目は通した。
イクス1st書かれていたのはバロールとの交信記録だ。俺の一族と、俺が生まれた時のことも書いてある。
ミリーナイクスの……。
イクス1st順を追って話そう。
イクス1st手記によると、俺たちの一族に子供ができるとその子がバロールの因子を受け継いでいるかどうかバロールの巫女に伺いを立てるんだ。
ミリーナイクスの一族全員がバロールの因子を持つとは限らないんですね。
イクス1stああ。その因子を調べる方法だけど、バロールの巫女が遠く離れた地にいる『鏡精ルグ』と交信して因子の有無を尋ねていたそうだ。
イクス1st因子を継いだ子供だと確認できた場合その子供は鏡士になることを禁じられる。
イクス1stそして、その子は年に一度、バロールの巫女の元へ赴くことになっていた。
イクス1st俺の両親も慣例に従い、俺を身ごもった時にバロールの巫女に会いにいってそこでルグに告げられた。
イクス1st俺が、祖父以来のバロールの因子を受け継ぐ『バロールの血族』だって。
ミリーナだからお祖父様は鏡士ではなく、漁師になっていたんですね。
イクス1stうん。けど俺は、何百年かぶりの極めてバロールに近い存在だったらしい。それを聞いた俺の両親はひどく怯えていたって書いてある。
イクス1stでも、ルグはこうも言ってくれている。
イクス1st「極めてバロールに近いからこそ、鏡精をエネルギーとして使う今の状況に変革をもたらして、かつてのバロールのように鏡精を救ってくれるかもしれない」
イクス1stルグからティル・ナ・ノーグの創世の経緯を聞かされたことで、不安がっていた両親も落ち着いたそうだ。
イクス1stそれどころか、むしろバロールの力を使うことで鏡精を使わずにエネルギーを生み出せるのではと考えるようになった。
ミリーナそれが、イクスのご両親の研究……。
イクス1st――で、この辺りまでは普通に読めた。
カーリャ普通って、どういうことです ?
イクス1stバロールの巫女の交信頻度がものすごく上がってるんだ。それに伴うように、内容が不明瞭になっている。
イクス1stどうやら、ルグとの交信のせいで鏡精との交信感受性が高まりすぎたらしいな。
イクス1stそのせいで、セールンドの凄まじい鏡精殺しで生まれた死鏡精に、度々心を奪われるようになった。
イクス1st当初は本人も自覚はあったみたいだ。まともに交信できているか悩んでいると書いてある。でも、最後の方は何を書いているかも意味不明で……。
ミリーナ……。
イクス1stけど、その辺りの状況は父さんたちが補足として書いている。
ミリーナなぜイクスのご両親が…… ?あっ、ごめんなさい、続けてください。
イクス1st俺が生まれて、慣例だった年に一度の訪問に行く頃にはバロールの巫女の精神状態は更に悪くなっていた。
イクス1st幻聴、幻視、妄想に妄言。しまいには鏡精の子を孕んだとか言いふらしたりまともに話も通じなくなっていたらしい。
イクス1stでも、巫女がかろうじて正気を戻した時にルグとの最後の交信を記録したこの手記を父さんたちに託したそうだ。
イクス1st父さんと母さんは手記を持ってセールンドに戻りルグから受けた言葉を信じて研究を続けていた。
イクス1stでも、いつも危機感を抱いていたらしい。バロールの因子を持つ俺は、王宮やビフレストから監視されるだろうって。
イクス1stそれに、父さんたちは鏡精エネルギー反対派でセールンド王とは対立する立場だった。
イクス1stいつ命を狙われるかわからないし、そうでなくてもカレイドスコープ開発は危険な実験の繰り返しでこの先も無事でいられる保証がない。
イクス1st俺を守れないかもしれないって……。
イクス1stそれでも、カレイドスコープの最終起動には俺の力が必要になる。それで、遺言を残すことにしたそうだ。
ミリーナそれが、イクスの魔鏡に込められたメッセージ……。
イクスの父お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。
イクスの母私たちはいつも祈っているわ。あなたが健やかであることを。イクス、どうか、いつまでも元気で……。
イクス、イクス1st父さん、母さん……。
ミリーナこの手記は、命の危険を感じていたご両親がイクスさんだけが読めるように封印をかけていたんですね。
イクス1stああ。手記の内容は大体こんな感じだけど……。――イクスも一緒に読めてるよな ?……なあ、イクス ?
イクス(俺とバロール……ルグの言葉を元に目指した形がカレイドスコープなら……ってことは……)
イクス1st!イクス、代わろう。
イクス……あれ、イクスさん ? どうして ?
イクス1st(なにか考えついたんだろう ?ミリーナも一緒に聞かせてやりたいからさ)
ミリーナイクス……なのね ?
イクスああ。考え事してたらミリーナにも聞かせてやれって、代わられた。
ミリーナそうだったの。ありがとう、イクスさん。
ミリーナそれで、イクスは何を考えていたの ?
イクス俺とバロールは近い存在なんだよな。死の砂嵐――フィンブルヴェトルに干渉できる。魔眼の鏡精を持ち、炎を燃やして命を生む……。
イクスそれを知った父さんたちは俺の力を利用する装置――カレイドスコープを作っていた。
イクス多分、命を生むってところをヒントにエネルギー問題と結びつけたのかもしれない。
イクスとすると、同時にセールンドに蔓延していた死鏡精の問題だって解決できる。バロールの力なら、死の砂嵐に対抗できるだろう。
イクスってことはだ。父さんたちの理論がベースならカレイドスコープという装置にはバロールの力を使う『力』があるんじゃないか ?
カーリャややこしいけど、言いたいことはわかります !
ミリーナカレイドスコープで死の砂嵐に対抗……そうね、可能性は高いわ !
イクスバロールの力を持つ俺と、カレイドスコープを改造したゲフィオンの記憶を持つミリーナがいればカレイドスコープを本来の形に戻せるかもしれない。
イクスどうかな、バロール。これならあなたが力を貸してくれなくても俺たちの手で俺たちの世界を守れるんじゃないかな。
バロール(…………)
イクス1st(否定しないってことは ?)
イクス肯定、ですね !
ミリーナそれなら、ニーベルングのレプリカ作成阻止と並行して帝国のカレイドスコープへ向かいましょう。それでも駄目だったときはアイギスを頼りましょう。
カーリャでも、帝国のカレイドスコープはゲフィオンさまが改造したものとは違います。大丈夫でしょうか……。
イクスファントムやグラスティンの手が入っていても基本設計と思想は本来のカレイドスコープと変わらない筈だ。
イクス父さんと母さんは、きっと応えてくれるよ。

キャラクター7話【21-7 ゲイボルグの島1】
デミトリアスいよいよだ。ここから虹の橋を延ばしこのゲイボルグの島をアイフリードの墓と連結する。
グラスティンアイフリードの墓は惑星ニーベルングのある次元と繋がる唯一無二の場所だ。あの場所と繋がることで存在が安定する。
グラスティンティル・ナ・ノーグが消えてもこのゲイボルグの島だけは存在が保たれるって訳だ。
グラスティンスポットもここまで待てばティル・ナ・ノーグを脱出できたのになあ。
デミトリアスああ。あとは死の砂嵐が、アイギスで守られたこの島以外の全てを消してくれるのを待つだけでいい。
グラスティンやっと消えるなあ ?お前の望み通りに、偽物の世界が。
デミトリアス長かった……。私がバロールの監視の目を解き放ってしまってから世界はあっという間に崩壊した。
デミトリアス今思えば、崩壊してしまえばよかったのだ。偽りの世界を生み出すぐらいなら。
グラスティンだがお前はこのつぎはぎの世界を一度は許容したんだろう ?
デミトリアス……この世界が滅ぶ原因になった魔鏡戦争はイクス・ネーヴェが鏡士になろうとしたことがきっかけで始まった。
デミトリアスそしてイクス・ネーヴェが鏡士になるのを止められなかったのは、それを止めるはずのバロールの巫女が殺されたからだ。
デミトリアスその因果を、ウォーデン殿ときみからそれぞれ話を聞いて、私はやっと知ることができた。
デミトリアス父の犯した過ち、そして自らの罪を贖うためには世界をあるべき形に戻すしかない。
デミトリアス壊れた世界を延命するために偽りの存在を生み出しては、歪みが広がるばかりだ。
グラスティンヒヒ……鏡映点共も可哀想になあ。
デミトリアス彼らの元の世界には鏡士の力が関与しない『本物』がいて、唯一無二の歴史を生み出している。
デミトリアス彼らこそが真なる存在であり、この世界の鏡映点などまやかしに過ぎない。本物を守るためにはまやかしの存在など消し去るしかないさ。
グラスティン本物……本物かあ……ヒヒヒヒ。まあいいさ。デミトリアス、お前のいう本物の世界を守るためにハスタの魂を使ってやれ。
デミトリアスそうだな。ルグの槍の代わりにゲイボルグの槍を使って虹の橋を操る ! マクスウェルの精霊装の力でな !
浮遊島アジト 観測室
クラース虹の橋が動き出したぞ ! ?
スレイあれは……帝国の作った浮遊島に向かって延びている ?
ウィルそのせいか。マクスウェルの残滓がものすごい勢いで増え始めているようだ。
テネブラエはい。どうやらダーナの心核が隠されているアイフリードの墓へと延びているようです。虹の橋を動かすにはマクスウェルの力が必要です。
ラタトスクテネブラエ ! ?
テネブラエフリーセルさんの監視が終わりましたのでこちらに戻ってきました。
しいな――そうか。今あたしにも声が届いたよ、テネブラエ。ヴェリウスが伝えてきた。虹の橋が延びてきたって。
ロゼごめん、遅くなった !あたしたちは、こっちでいいんだよね ?
スレイロゼ、デゼル、待ってたよ !
イネスセキレイの羽のほうは大丈夫 ?地上はだいぶ混乱してるでしょ。
ロゼまあね。けど、そのへんはアスターに頼んであるから。ヒルダにもよろしくってさ。
ヒルダそう。さすがアスター様、頼りになるわ。
ティトレイヒルダが『様』づけで呼ぶとはねぇ……。そいつ、かなり怪しいって聞いてるけど本当に大丈夫かよ。
ヴェイグああ。いい奴だったぞ。ヒルダを大事にしてくれた。
ティトレイ大事ねぇ。
マオなになに ? ティトレイってばやきもち ?
ティトレイ焼くかそんなもん ! ただちょっと心配なだけで……。
デゼル気持ちはわかる。
ザビーダなになに ? デゼルくんもやきもち ?
デゼルうるせぇ ! ロゼの警戒心がなさすぎるからだ。それより、マクスウェルの残滓調査はどうなってる。
しいなリチアたちの見立てだと、マクスウェルの残滓はマクスウェルの精霊片になって集合的無意識に広がってるそうだよ。
ウィルちょうど君たちがこちらに到着する直前に虹の橋が動いた。
セルシウスそれ以降、精霊片がさらに増えているの。誰かがマクスウェルの精霊装を使っているようね。
ロゼ精霊装か……。その話って、ミラがマクスウェルの残滓に取り付かれそうになった時にヴェリウスが教えてくれたやつだっけ ?
ミラ=マクスウェルああ。帝国がマクスウェルの精霊装を使うたびにその残滓が心の世界に広がっていく。
ミラ=マクスウェルだが、その残滓が精霊輪具に帰る前に回収できれば帝国の精霊装の力を削ぐことができると言っていた。
クンツァイトここまでの観測でも、残滓の増量と虹の橋の動きは連動している。マクスウェルの精霊装が作用していると見て、ほぼ間違いないだろう。
ベリルでね、精霊装の力を削げばあの虹の橋も存在を保てなくなるかもしれないってみんなで話してたとこなんだ。
ロゼそれで今は精霊片吸引器で精霊片を集めてるってわけか。収集率は ?
ミクリオ順調だよ。だけどこの程度で本当に帝国の精霊装の力を削れているかは疑問だな。
スレイう~ん……もっと積極的に集めに行ったほうがいいかもしれない。
セネル精霊装を作る時みたいに精霊片の多い場所まで行くってことか ?
モーゼスなるほど、攻めに転じるっちゅうわけじゃな !スの字のアイディア、ワイも乗っちゃる !
グリューネまあ、お出かけ ?それなら、お弁当と~、お茶と~デザートも欲しいわね~。
ノーマグー姉さん、ストップ !話の腰がボッキボキに折れてる !
エドナそのボキボキ、戻してあげるから一生恩に着なさい。
エドナそれで、集めに行くという話だけど精霊片が多い場所に当てはあるの ?
リチア心当たりはあります。わたくしたちであれば『そこ』に入れるはずです。
三人あっ ! !
リチアええ、そうです。ヴェリウスの言葉どおりなら残滓が広がる集合的無意識はスピリア――心の世界と通じています。
シングそうだよ ! あの時は、ミラが戦った場所で傷ついたダーナの心核からマクスウェルの残滓が流れ込んでファントムを通じてミラさんに集まっちゃって…… !
ミラわ、私が何 ! ?何言ってるのか全然わからないんだけど ! ?
ガラド簡単にいやぁ、スピリアの中にはマクスウェルの残滓がたんまり漂っている場所があるってことさ。
ガラドただし、誰にスピルリンクするかが問題だ。もちろん帝国でマクスウェルの精霊装を使っている奴が一番なんだが……。
コハク今、シングが言ってたよね。前は、ダーナの心核の傷からマクスウェルの残滓が流れ込んでミラに影響したって。つまり、ええと……
ユージーンつまりダーナの心核は、残滓が広がっている集合的無意識とも通じやすいということか。この世界自体も、ダーナの仮想鏡界だからな。
アニーダーナの心核なら浮遊島にあります。以前、スレイさんたちが持ち帰った、鏡の精霊の心核のレプリカにはダーナの心核の一部が使われているんですよね ?
クラースよし、それで行こう !ソーマを持っているメンバーはスピルリンクを頼む。残滓を探るのは……。
クラース……君たちはやめた方がいいな。残滓の『おとり』としては持ってこいだが危険すぎる。
ミラ=マクスウェル確かに、マクスウェルの残滓に囚われる可能性は否定できない。私も以前は自我を失いかけた。だが、やらせてもらえないだろうか。
ミラそうよ、危険は承知の上。それに、マクスウェルの残滓が何をしようと私は『私』を手放さないわ。
ミラあの子が待ってるって思えば……。
ラタトスク同じ精霊として忠告するぜ。そいつは無謀だ。
ミュゼそうよ、行っちゃダメよ !私の可愛いミラたちを危険な目に遭わせるわけにはいかないわ !
キュッポ観測室はここだキュ ? 間に合ったキュ !
ピッポジェイ、皆さん、お届け物だキュ。
ジェイキュッポにピッポにポッポ !地上の情報を集めに行ったんじゃなかった ?
キュッポその途中でハロルドさんから預かったキュ。
ポッポこれはクレーメルケイジを転用したミラさんたち専用の防御シールドだキュ。
ポッポ何かあったときには、一時的にミラさんたちをマクスウェルの残滓から守ってくれるんだキュ。これで囚われずに済むらしいキュ !
ライラさすがハロルドさんですわ !いつの間にか、こんな物を作っていたなんて。
ピッポでも、精霊調査の話を聞いてチャチャッと作ったから効果が短時間なのが不本意らしいキュ。
エミルチャチャッと……。
マルタあれで不本意なんだ……。
ミラ=マクスウェルありがとう、モフモフたち。――さて、これでどうだ ?
クラースまったく、なんてタイミングだ……。わかったよ。行ってもらえるか ?
ミラええ、任せなさい。
クラースただし、シールドは一時的なものという話だ。守りはいつも以上に、しっかり固めてくれよ。ちなみに、マオやシャーリィも……。
二人「行きます ! 」「行くヨ !」
ベリルとなると、かなりの人数だね。鏡士の協力もないし。
ヒスイヴェイグやセネルのとこはまるっと全員だろ ?スレイのとこも精霊関係ばっかだしな。よっし、今回はソーマ使い総出でやるか !
クロエだが、そうなると外からの観測が手薄になってしまうな。
クラース私がこちらに残ろう。それと、しいな、セルシウス、エミルたちにも手伝ってもらおうか。
三人了解 !
ジェイドなるほど。では、死の砂嵐対抗策としてカレイドスコープを優先すべきだと。
イクスはい。具現化アイギスシステムを一から調べるより成功する可能性が高いと思います。
ジェイドわかりました。では、バルバトスについては先行して乗り込んだチームでそのまま追跡してください。
リフィル現在待機中のロイド、ルークたちのチームはレプリカ装置の捜索リッドたちは虹の橋へ向かってちょうだい。
アンジュルカくん、カイウスくんたちはイクスさんと一緒にカレイドスコープに向かってね。
イクスありがとうございます。それじゃ俺たちはルカやカイウスと合流でき次第、突入しますね。
ジェイドああ、待ってください。こちらからも報告があります。先ほど、私たちをどうしても手伝いたいという方々がやってきましてね。
ジェイド相手は回復しきっていない病人も同然でしたがかといって無下に断ると問題を起こしかねないので一部、仕事をお任せしておきました。
イクスはあ。それはつまり……どういうことですか ?
カーリャ鬼畜の臭いがします !
ジェイド今、その件について関係者に連絡を入れています。ですが、この混乱です。報せを受け取れないチームは彼らが現れたら驚くでしょうねぇ……。

キャラクター8話【21-8 アセリア領】
――アセリア領、A地点
ナタリア……侵攻してくる兵の数が尋常ではありませんわ。このままでは、こちらの地上反乱軍の兵たちが危険です。
アニスあーもう ! なんで倒しても倒しても帝国兵が減らないわけ ! ?
イオンおそらく、敵兵の殆どは人工心核を使ったレプリカリビングドールなのでしょう。
ピオニーどおりでこんな無茶苦茶な戦い方をするわけだ。奴らは全く怯むことなくこちらを攻撃してくる。自分たちの意思がない分、厄介だな。
アッシュちっ。どうせこの世界を捨てると決めてレプリカも大量製造しているんだろう。あいつらにとっては使い捨ての駒同然だ。
イオンこちらも、何か打開策を打ちたいところですが……。
ピオニー状況はどこの部隊も同じだろう。増援を呼ぶとしても時間がかかる。今は俺たちだけでなんとかするしか――
? ? ?――いえ、すでに手は打っています。
ピオニーあんたは…… !
アガーテ到着が遅くなって申し訳ありません。先ほど、救世軍の方々に送っていただきここまで来ました。
アニスえっ、救世軍の兵もこっちに来たの ?
アガーテはい。皆さんの戦況を知り、他の地点にいた兵たちをこちらに回すように手配いたしました。
アガーテそれに、敵の兵力の要であるフォミクリー装置の場所も特定できました。それを破壊さえできればこの状況を打破できるはずです。
ピオニーそいつは助かる。だが、いつの間にそんなことまで……。まさか、あんたが全部一人でやったわけじゃないよな ?
アガーテええ、わたくしがここに来るまでにも多くの方々が手を貸してくださいました。
アガーテそして、フォミクリー装置の捜索はわたくしが最も信頼している人物が担ってくれています。
アガーテ彼ならば必ず、その責務を果たしてくれるはずです。
――アセリア領、別地点。
帝国兵レプリカリビングドール――敵、発見。排除する。
モリスンしまった ! まだ兵が潜んでいたか !
チェスターどうする ? 囲まれちまったぞ ! ?
クレスはぁはぁ…… ! みんな、怯んじゃ駄目だ !僕が先陣を切って……くっ !
ミントクレスさんっ !
チェスターおい、クレス ! お前、やっぱり無理してたのを隠してやがったな…… !
ルーングロム君だけでも、倒した敵の兵は百人を超えている。それだけ戦い続けて立っていられるほうが不思議なくらいだ……。
すず今度は私が前へ出ます !その間にクレスさんは体力の回復を――
帝国兵レプリカリビングドール――目標、殲滅開始。
チェスター来るぞ ! !
? ? ?――ダオスレーザー ! !
チェスターなっ ! ?
モリスンそんな…… ! この技は…… !
ダオス……所詮、意思を持たぬ人形か。
クレスダオス ! ? どうしてお前が ! ?
アーチェ……もしかして、あたしたちを助けてくれたの ?
チェスター馬鹿言うな。こいつがそんなことするはずねぇ !
ミントでは、一体何故……。
ミルハウストみんな ! 無事か ! ?
クレスミルハウストさん ! ?
ミルハウストよかった……どうやら間に合ったみたいだな。
チェスターなんであんたがここに……。いや、それよりも身体は大丈夫なのかよ ?心核がボロボロで動くのもやっとなんだろ ?
ミルハウスト……ああ、正直、まだ私自身は戦えない。だが、この状況でそんなことを言っている余裕がないのは、君たちも十分理解しているはずだ。
ミントでは、ミルハウストさんは私たちを助けにこちらへ来たのですか ?
ミルハウストそれもあるが、救世軍が掴んだフォミクリー装置の場所を特定し、その破壊の任務を担っていたんだ。
ミルハウストダオスと出会ったのもその道中だ。彼は私と共に、フォミクリー装置の破壊を手伝ってくれたのだ。
ダオス勘違いするな。私はただ、あの下劣な装置を野放しに出来ぬだけだ。
ダオスそして、この星を破滅させようとしている帝国の連中も同じこと。
ミルハウスト理由はどうであれ、私が助けてもらったのは事実だ。他にもファンダリア領にあるフォミクリー装置の場所も特定して、ディムロスたちに伝えることができた。
モリスン……わかった。今はそれで納得しよう。他の領の状況はわかるかね ?
ミルハウストああ、私が知っている限りだとウェルテス領、テルカ・リュミレース領エフィネア領、グリンウッド領に増援が送られた。
ミルハウスト皆、この世界を守るために戦ってくれている。これ以上、帝国の思い通りにさせてなるものか。
――ウェルテス領
水の民ここは俺たちが生きていく場所だ !
陸の民ああ ! 共に戦おう !我らが居場所を守るために !
マウリッツ見えるか、ワルター。水の民と陸の民が、共に手を取り合う姿を……。
ワルター……奴らは、俺たちの知る水の民と陸の民ではない。
マウリッツわかっている。だが、我々が見ているのは可能性だと思わないか ? このような未来があったのかもしれないという可能性なのだ。
レイアワルター、マウリッツさん !あの人たちが戦ってくれている間にわたしたちも早く怪我の治療をしなきゃ !
エリーゼレイア、こっちはわたしたちに任せてください !悪い敵は全部やっつけちゃいます !
ティポぼくも本気出しちゃうぞー !
アルヴィン助かったぜ。ここを抜けられるとファンダリア領まで侵攻されちまうからな。まさかお前たちに礼を言う日が来るとは思わなかった。
プレザなに ? 文句なら受け付けないわよ、アル。
アグリアあははっ ! ババアたちにしちゃあ上出来だぜ !助けられたなんてこれっぽっちも思ってねえけどな !
ウィンガルお待たせしました、陛下。既に敵軍はこちらで包囲しております。なんなりとご命令を。
ガイアスお前たち……。いや、今は何も言うまい。よくやった。
ジュード……うん、二人がこの領に住む人たちを説得して連れて来てくれたおかげで、状況は一変した。ここからは僕たちの役目だ。
ガイアスいくぞ !我らが道を阻む者は、何人たりとも容赦はせん !
――テルカ・リュミレース領
アレクセイこの辺りのレプリカリビングドールは一掃した。我が兵がこの領を制圧するのも時間の問題だな。
レイヴンおたくがそんな台詞を言っちゃうとどうにも悪役感が拭えないわ。
フレン……ですが、僕たちがこうして無事でいられるのも彼らの働きのお陰です。
レイヴンわかってるよ。一応、礼は言っとくわ。そちらさんにもね。
デューク私は世界を乱す者を討つだけだ。
シゼルだが、まだ油断はできぬ。今の内に他の領の情報も入手しておくべきだろう。
アーリアええ、シゼルさんの言う通りだと思うわ。気を緩めないようにしましょう。
レイスところで、あなたはメルディと行動を共にしていると聞いていたんだが ?
シゼルメルディにはあの者たちが付いている。心配は無用だろう。ならば、私も戦況を見て動くべきだと判断したのだ。
ティルキス何はともあれ、心強い味方だ。
フォレストはい、我々も後れを取らないようにしましょう。
――エフィネア領
ヴィクトリアアスベル、ここは私たちが帝国軍の相手をするわ。その間にあなたたちはフォミクリー装置の破壊に向かいなさい。
アスベルヴィクトリア教官、どうしてここに ! ?
ヴィクトリア救世軍の地上部隊を連れて来るためよ。私自身はまだ全力で戦えるまでの身体に戻っていないから、出来ることはこれが限界だけど。
シェリアそんな…… ! だったら尚更危険です !
カーツでは、私が残って彼女のサポートに回ろう。それで問題はないはずだ。
リトルクイーンだったら、まずはわたしたちが道を開く !
ソフィうん ! いくよ !
二人――ツイン・ディゾルヴァー ! !
パスカルおお~ ! ! 今のかっこいいー ! !いいなぁ~あたしも一緒にやりたいよ~ !
ヒューバートパスカルさん !今はふざけている場合じゃないですよ !
リチャード……アスベル。ここは彼女たちのことを信じるんだ。
アスベル教官……俺たちは行きます!どうか、ご無事で。
ヴィクトリアええ、心配してもらわなくていいわ。それより、マリク。あなたがちゃんと、私たちの教え子を守ってね。
マリク……ああ、任せておけ。
――グリンウッド領
セルゲイ獅子戦吼 ! !
アリーシャ……なんという気迫だ。さすがはスレイに技を伝授した者の腕前だな。
セルゲイまだ本調子ではないのが悔やまれるな。それに、頼りになるという賛辞ならばあの者たちに向けて送るべきだろう。
オスカー姉上 ! こちらは任せてください !
テレサええ、お願いします ! オスカー !
マティウスいくぞ、チトセ。これ以上、奴らの好きにさせるのは癪だ。
チトセはい、マティウスさま。私たちを利用した借りは今ここで返しましょう。
セルゲイそれぞれの思いがあるのだろうが今はこうして共に戦うことができている。自分はそれを嬉しく思う。
アリーシャああ、だからこそ、決して負けるわけにはいかない !私の全てをかけて、帝国の野望を止めてみせる !
ディムロスこちらディムロス。ファンダリア領A地区の制圧に成功した。
シャルティエそれと、ミルハウストさんの情報のお陰でフォミクリー装置の破壊も無事に完了しましたよ。
エルレイン同じく、B地区の制圧、及び住民たちの安全は確保しています。
イレーヌC地区も問題ありません。今は負傷した反乱軍の人たちの治療に当たっているところよ。
シグレったく、つまんねぇな。こっちに来りゃあ少しは面白れぇと思ったんだががっかりだぜ。
ムルジムごめんなさい、血の気が多い子なの。だけど、あなたたちが望む結果にはなっていると思うわよ。
リフィル報告ありがとう。他の部隊の状況はどうかしら ?
パライバはい、こちらももうじき制圧が完了するかと思います。
カルセドニーしかし、まさか物資の手配までしていたとはな。この戦禍の中で、よくここまで手を回せたものだ。
イエガーイエース。ミーたちはプロフェッショナル。どんなミッションも完璧にこなしてみせます。
ゴーシュお前たちも、イエガー様にもっと感謝しろ。この戦果は、イエガー様の活躍なしでは成し遂げられなかったものだ。
ドロワット私たちもしっかりお手伝いしたんだワン。
ジェイドええ、助かりましたよ。皆さんには、引き続き持ち場をお任せします。
リオン先ほど、アセリア領にオールドラント領それにカレギア領の制圧も無事に終わったと言っていたな ?
アンジュええ、みんな順調に作戦を進めてくれているわ。
コングマンおう ! この俺様がいれば百人力よ !なんたって、チャンピオンだからな !
チェルシーいえいえ、確かにコングマンさんのご活躍もお見事でしたが、一番はなんといってもウッドロウさまです !
ウッドロウチェルシーも見事な弓の腕前だったよ。先生が見たら、きっと褒めてくださることだろう。
ジョニーだが、勝利の歌を奏でるにはちょいと早いんじゃないか ?
フィリアはい、イクスさんたち潜入組……それに、マクスウェルについて調べている方々の状況も気になりますね。
ハロルドそっちは専門にしてる奴らに任せましょう。私もちょ~~っとお邪魔したかったけど。
ジューダスお前がいたら場を乱すだけだ。何かを解剖したいのならロニだけにしておけ。
ロニそうだそうだ ! ……って !なんで俺が解剖される前提になってんだよ ! ?
ナナリーちょっと、こんな時くらい静かに出来ないのかい ?馬鹿は死んでも直らないっていうけど限度ってものがあるよ。
マリーははっ。だが、こっちのほうがわたしたちらしくていいと思うぞ。
ルーティそうね、難しい顔して湿っぽくなるよりスタンの暢気な顔を見てるほうが落ち着くわ。
スタンええ~、酷いなルーティ。けど、そうだな……全部終わったら俺腹いっぱいご飯食べて、ぐっすり寝たいよ。
リリスもう、お兄ちゃんてば……。でも、仕方ないから全部片付いたときにはエルロン家直伝のマーボーカレーを作ってあげる。
カイルあっ、それオレも食べたいです !リリスさんのマーボーカレーって何杯でも食べられますから !
リムルよくわかっているわね、カイル。かあさ……リリスさんの作るマーボーカレーはいつだって最高なんだから。
リアラふふっ、楽しみが増えてよかったわね、カイル。
S・ディムロス……全く、緊張感のない奴らだ。
S・クレメンテディムロスよ、小言ばかり口にしておると年寄り扱いされてしまうぞ。
S・シャルティエあはは、言われてますよ、ディムロス。
S・アトワイトもう……これじゃあ、私たちも似たり寄ったりね。
S・イクティノスだが、いざとなれば頼りになる者たちばかりさ。この世界の運命を託すには、十分なほどにな。

キャラクター9話【21-11 セールンド城2】
ファントム(……限界……かっ……)
ヨウ・ビクエ聞こえるかしら、ファントム。
ファントムお前は…………。
ヨウ・ビクエ間に合ったみたいね。全く、仮想鏡界の中にゲフィオンを取り込むなんて……あなたの心が死の砂嵐によって崩壊するわよ。
フィリップファントム。これからきみの狂化止めを一時的に外す。
ファントムそんなことをすれば私とあなたの心が一つに――
マーク俺がフィルの心に戻って防御壁を作る。死の砂嵐相手じゃそう長くは持たせられないがギリギリまでフィルの自我は俺が守る。
カーリャ・Nフィリップ様の中にマークが戻りました。これで少し時間は稼げましたが……。
デクスこの後はどうするんだ ?
ヨウ・ビクエ私とネヴァンもファントムの仮想鏡界に入るわ。そこで内側から死の砂嵐を食い止める。ギリギリまでね。
帝国兵貴様たち。そこで何をしている。
カーリャ・N帝国兵 !
ヨウ・ビクエ時間がないわ。私とネヴァンはファントムの仮想鏡界に入るからここはよろしくね。
アリスちょっと ! ? 二人で対処しろって言うの ! ?冗談でしょ ! ?
アリスデクス ! ケリュケイオンの連中を呼んでちょうだい。アリスちゃんだけが働くなんておかしいでしょ !
デクス了解だよ、アリスちゃん !
コーキス……おかしいな。さっきから城内に兵士の姿がない。
バルドナーザ様 ! これをご覧ください !
メルクリアこれは……発信器の信号が壁の向こうから出ているようじゃが……。そこの壁の奥にヴァンがいるというのか ?
リヒターいや、奴はこの城の上空に具現化された島にいる筈だ。発信器の最初の信号もそれを示していた。
ジュニアどういうことなんでしょうか。ここに移動してきた、とか ?
ナーザそういうことになるな。いや、正確に言えばヴァンはここへ来て、壁の向こう側に発信器を置いていった……のだろう。
ナーザ壁の向こうに留まっているとは思えないからな。
メルクリアもしや、あの者は発信器に気付いていたのでしょうか ?
ナーザだろうな。しかもわざわざこの場所に置いていったということには意味があるはずだ。単に捨てるのならば『壁の向こう』などという妙な場所には置くまい。
フリーセル……殿下。この壁、動きます。
5人
フリーセル装置を動かしてみます。
メルクリア壁が……開いた ! ?
ジュニア魔鏡陣がある !
リヒターヴァンに付けた発信器も見つけたぞ。この魔鏡陣へ案内したかったということか ?
バルド私が先に潜入して様子を見て参ります。
ゲイボルグの島
ジーニアスこの辺りだよね。ジェイドさんと姉さんが調べろって言ってた場所は。
ティアええ……。でも建物らしいものは何もないしフォミクリーの装置もないわ。
コレット空を飛んで見てこようか ?
ガイいや、もしかして……地下、にあるんじゃないか ?
ヴァンその通りです。ガイラルディア様。
ティア兄さん ! ? どうしてここに ! ?
ヴァン死霊使い殿はいないようだな。直接島を見なくてもどこがフォミクリーの設置場所としてふさわしいかわかるのは、さすが生みの親と言うべきか。
ルーク師匠 ! フォミクリー装置を無効化したいんです。入り口は何処にあるんですか ?
ヴァン無邪気なものだな、ルーク。私が味方だと思って疑いもしないとは。
ガイ――おい、ヴァンデスデルカ。まさかお前……。
ティア帝国に味方するつもりなの ?
ヴァンいや、違う。私はこの世界に私とローレライが具現化された事による変化を調べていた。ずっとな。
ルークローレライの具現化……。もしかして第七音素の具現化を…… ?
ヴァン第七音素が本来の形で具現化された場合預言もまたこの世界に生まれることになる。この世界に預言が誕生したのなら――
ティアこの世界も滅ぼすつもりなの ! ?
リーガルティアもルークも落ち着け。まずはヴァンの話を最後まで聞こう。
プレセアはい。この人から敵意は感じません。敵対するつもりなら接触してこないはず、です。
ガイああ、確かにそうだ。――ヴァン、どうなんだ ?
ヴァンローレライが未来を見せてきた。もうすぐこの世界は滅びニーベルングに書き換えられるとな。
全員! ?
ロイドそんなこと……あるはずがない !イクスも俺たちも負けない !
ヴァン……もしもお前たちの敗北が確定したときは私を殺せ。
ティア兄さん ! ? 何を言っているの ! ?
ヴァンいざというときには私ごとローレライを消滅させるように、ディストに命じてある。
ヴァンだが――あれが中々素直に言うことを聞くとも限らない。だからお前たちにも頼んでおくのだ。
ルークだからって、ティアに……実の妹にそんなことさせようとするな !
ヴァン――この先の魔鏡陣から地下施設に辿り着く。封印は解いておいた。ローレライの見た未来を覆すために……頼んだぞ、ルーク。
バルド――ナーザ様。妙な仕掛けはありません。こちらにお越しください。
ナーザご苦労だったな、バルド。ここは何処だ ?
バルドはい。ここは帝国の上空に具現化された島のようです。
リヒターここは居住区画か ?
コーキス沢山人がいるけど……兵士じゃないよな。みんな普通の人みたいだけど……。
フリーセルもしや、デミトリアスたちが集めていた『本来の』ティル・ナ・ノーグの住民ですか ?
バルドああ。そうみたいだ。
バルバトスうおおおおおおおおっ !
メルクリアああっ ! ?
ナーザメルクリア ! ?
バルバトス――ククク……ハーッハッハッハッ ! 喜べ小娘 !この俺の手ずから命を刈り取られることをな !
バルド貴様 ! !
バルバトス邪魔だ ! そいつの首をねじ切るまで俺の復讐は終わらんぞ !
リヒターちぃっ !
リヒターコーキス ! 俺とバルドがこいつを止める !
コーキスわ、わかった !
ジュニア今、止血しました ! ナーザ将軍 !
ナーザしかし逃げると言っても――
フリーセルウォーデン様! あちらをご覧ください !
ユーリ峻円翔華斬 ! !
バルバトスぐぁっ ! ! ……貴様らっ ! ?
エステルナーザ将軍、こちらへ !
ヴィクトル兄さん、ルドガー君、バルバトスを囲むぞ !
ユリウス任せろ !
ルドガーエル ! リタとエステルの所に !
エルわかった ! パパもルドガーもユリウスも頑張って !
ユーリおっと、オレのことも頭数に入れといてくれよ。
ジュディスあら、抜け駆けなんてずるいわ。私も暴れさせてもらうわよ。
ロクロウ面白いじゃねぇか ! 俺も混ぜろ !
リタあいつらが本気でやり合うと、周りが危ないわ !
ベルベット仕方ないわね。フィー、マギルゥ、カロル。あたしたちは周りの人間を戦闘狂の連中から守りながら避難させるわよ。
マギルゥええい、次から次にやることを増やしおって !カロル ! 避難指示はお主に任せたぞ !
カロルわかった !みんな !ボクたちと一緒に、ここから離れて !
ゲイボルグの島
イクス――結構、敵の兵士がいるな。皆が先に上陸して、進路を確保してくれたはずなのにそれでもまだいるのか……。
カーリャお二人とも、コーキスたちです !
コーキスマスター ! みんな ! 助けてくれ !メルクリアが――
ミリーナメルクリア ! ? ひどい傷だわ ! 今治療するわね !
イクスどうしたんですか ! ?
ナーザバルバトスに襲われた。鏡映点たちが助けてくれて事なきを得たが……。
メルクリアすみ……ません……兄上様……。
ナーザ謝るのは俺の方だ。お前を守れなかった……。
ミリーナ大丈夫。急所は外れているしすぐに止血したみたいだから……治癒術も効きがいいわ。
ジュニアよかった…… !
バルドイクスさんたちは――
イクスカレイドスコープを探しています。キラル分子の反応を見る限りこの島まで運び込まれたことは間違いないんですけど、反応が途切れてしまって。
ヨウ・ビクエイクス、ミリーナ。聞こえてる ?あら、バルドもそこにいるのね。助かるわ。
バルドどういうことでしょうか ?
ヨウ・ビクエ単刀直入に伝えるわね。死の砂嵐が危険な状態なの。このままだとファントムの心を食い破ってこの世界を飲み込むわ。
フィリップ今は僕らがファントムの仮想鏡界を何とかフォローしているが、それほど長くは持たない。
カーリャ・N今のままではバロールであってもカレイドスコープであっても死の砂嵐を消せない可能性が高いそうです。
バルド――そうか。『異物』か……。
ヨウ・ビクエそうよ。かつてゲフィオンとフィルのカレイドスコープが消滅させた人々や世界の欠片が死の砂嵐に紛れ込んでいる。
ヨウ・ビクエそれらを全て集めてどかさなければならないの。その為に、バルドの力を――命を貸してちょうだい。
ナーザバルドに何をさせようというのだ。
フィリップ死の砂嵐の中に入ってもらいたい。それができるのはバロールの尖兵であり、死の砂嵐の中にいたことのあるきみだけだ。
メルクリアならぬ ! そ、そんなことをしたらせっかく甦ったバルドがまた死んでしまうではないか !
カーリャ・Nコーキスがあなたを守ります。そしてナーザ将軍も。
ヨウ・ビクエあなたが知っている二つの秘伝魔鏡技がこの作戦には必要不可欠なのです。
ヨウ・ビクエ【ギエラ・ビフレスト】であちらにいるシドニーと心を繋ぎ、そこからバルドとコーキスが死の砂嵐の中に飛び込みます。
ヨウ・ビクエ【ギエラ・ビフレスト】による虹の橋が繋がっている間はバルドもコーキスも存在を保てる筈です。
バルドでもそこからどうやって世界の欠片を集めるというのです ?
ナーザ【アナム・セパレート】。最初のイクス・ネーヴェの体を保存するために使った術だな。
ナーザあれはアニムスとアニマを切り分ける術。いわば魔鏡技版のカレイドスコープのようなものだ。
ヨウ・ビクエそう。それでバルドの元に世界の欠片を集めるの。同じカレイドスコープによって破壊されたバルドには世界の欠片と同じ傷痕がある。
ヨウ・ビクエ傷跡を辿って欠片たちが集まってくるはずよ。
イクスでも、その後は ? 世界の欠片ってとてつもなく膨大なんじゃありませんか ?それをどうやって死の砂嵐からどかすんですか ?
バロール俺にやらせようというのだろうヨーランド。いや、ダーナ。
バルドこの声は…… ! ? バロールですか ! ?
バロール――お前たちが、それ相応の犠牲を覚悟するというのなら、集めた世界の欠片は俺の方で処理してやってもいい。
バロールだがそうなると、死の砂嵐を消すことはできないぞ。それはお前たちがカレイドスコープで行うんだ。
バルドわかりました。やりましょう。
ナーザバルド ! ? 貴様、正気か ! ?
バルドナーザ様。私はずっと考えていたのです。私という存在が甦った意味を。
バルド本来人間が死を超越するなどあり得ないこと。それがこの身に起きたのは生前の贖罪をせよということなのでは、と。
フリーセル! !
ナーザ贖罪、だと ?
バルドセールンド王国の行為は正しいものではなかった。ですが、オーデンセに攻め入ったこともまた正しい行為ではなかった。
バルド我らもまた、失われた世界と命に向き合わねばならないのでしょう。私はビフレスト皇室の為に生きると誓いました。でもそれだけでは駄目なのです。
バルドウォーデン様やメルクリア様を正しく守るためにはそれ以外のものも守らねばならない。
ナーザ……そんなこと、お前は受肉する前から行っていたではないか。俺を裏切って黒衣の鏡士に与した。
ナーザお前はそれでいい。そのような部下を持ったことを誇りに思うぞ。
バルドウォーデン様…… !
ダーナイクス、ミリーナ。あなたたちはこの先へ進みなさい。目指すカレイドスコープは虹の橋を越えたところ――私の心核を封じたアイフリードの墓の中にあります。
ダーナデミトリアスがそこでニーベルングのレプリカを作ろうとしています。
三人
コーキス行ってくれ、マスター。俺、マスターが死の砂嵐を消せるようちゃんと準備するから。
イクスああ、わかった。頼んだぞ、コーキス !行こう、ミリーナ ! カーリャ !
ナーザでは、こちらも始めよう。ジュニア、フリーセル。メルクリアを頼むぞ。
ジュニアはい !
フリーセル承知しました。
ナーザコーキス。お前には【アナム・セパレート】のやり方を伝授する。練習する時間はない。なんとしても成功させよ。
コーキスわかってる。やってみせる !
デミトリアス……遅いな。
グラスティンああ。死の砂嵐が動かない。ゲフィオンはゲイボルグの島を作ったことで致命的一撃を食らったはずだが……。
グラスティン様子を見てこよう。まだ人体万華鏡が壊れていないなら魔導砲で奴の体を破壊する。
デミトリアスそうか……。任せるよ、グラスティン。
グラスティンああ、全て俺に任せておけ。お前の願いはなんでも叶えてやるさあ。

キャラクター10話【21-12 ???】
シングスピルリンクは無事成功したね。でも、ここって……。
シャーリィはい……。ルグの槍を止めるために入った皆さんのスピルメイズとは少し感覚が違いますね。
マオうん、ボクもそう思う。この広い空間が、ずっとずっと続いていくような……。
リチアはい、いわばここはティル・ナ・ノーグ全体のスピルメイズですから、どこまで続いているのかわたくしも完全には把握できません。
ジェイなるほど。聞きましたか、モーゼスさん ?走り回って迷子にならないでくださいよ。
モーゼスなんでワイが迷子になる前提なんじゃ ! ?そがあなことするわけないじゃろ ! ?
クンツァイト測定。モーゼスの脈拍、体温が共に上昇。安全のためにも、すぐに正常に戻すことを推奨する。
ノーマちょっとモーすけ、みんな真剣なんだから真面目にやってよね !
モーゼスワイが悪いんか ! ?
ウィルいい加減にしろ ! !全く、こんなときまでお前たちは……。
クロエだが、いつも通りだと不思議と落ち着くな。正直、現状に不安がないとは言えないからな。
セネルああ。だが、その不安を取り除くためにもまずはマクスウェルの力が集まっている場所を探そう。
ミラ=マクスウェルそのことだが、予想通りこのスピルメイズにはマクスウェルの残滓が大量に溢れている。
ミラええ、私でも感じとれる程の量ね。
ヒスイおい、それってお前らに問題はねえのか ?さっきのモフモフ三兄弟も防御がどうとか言ってただろ ?
ミラ=マクスウェルああ、その点は何も異常ない。彼らの装置が正常に作動してくれている証拠だな。
ロゼけど、長居してると影響は出るだろうし仕事はささっと終わらせたほうがいいでしょ。
デゼルお前の口振りくらい、簡単なことならいいんだがな。
ミラ=マクスウェル私からは何とも言えないが、マクスウェルの残滓がある一定の方向へ流れているのは確認できた。間違いなく、人為的なものだ。
ユージーンとなると、その流れを追えばマクスウェルの精霊装を扱っている人物のところへ辿り着けるのだな。
ザビーダオーケイ。んじゃ、気合い入れていこうぜ !
ゲイボルグの島 アジト接岸地点
ラタトスクおい、こっちの帝国兵たちは全員倒したぞ。浮遊島の防衛機能はまだ回復しねえのか ?
コンウェイ残念だけど、まだ原因は判明していないんだ。もしかしたら、帝国側から何か仕掛けられた可能性があるね。
ユアンこちらでも防衛に回っているが正直、あまり長くは持ちそうにない。
ミトス……いいよ、ボクが全員倒してあげるから。雑魚がいくら集まっても無駄だってことを教えてあげる。
マーテルいけません、ミトス。あなたも相当疲弊しているはずです。これ以上の無茶は……。
マルタ! ? ラタトスク ! ! 前 ! ?
ラタトスク……ちっ。また出やがったか。一旦通信を切るぞ。まずはこいつらを片付ける !
帝国兵レプリカリビングドールA――排除、開始。
ラタトスクやれるもんなら、やってみやがれ !
マルタラタトスク ! 私も !
帝国兵レプリカリビングドールB―――― ! !
マルタこれ以上、勝手なことはさせないんだから !
ラタトスク……無理はすんじゃねえぞ、マルタ。
マルタはぁはぁ……。ううん、平気。みんなも戦ってるんだから、私だって…… !
帝国兵レプリカリビングドールたち――増員、確認。殲滅対象二名を排除せよ。
マルタそんな ! ? まだこんなにいたの ! ?
エミルマルタ ! 逃げて !ここは僕たちが食い止めるからマルタだけでも…… !
マルタ駄目 ! エミルたちを置いていくなんてできないよ !
ラタトスク俺たちのことは気にするな !いいから逃げろ !
帝国兵レプリカリビングドールたち攻撃、開始 !
? ? ?……うるさい蠅どもが。消え失せろ ! !
二人! ?
ロンドリーネふぅ~、間一髪 !二人とも、平気 ?
マルタロディ ! ?じゃあ、今の魔術って……。
ロンドリーネあー、違う違う。君たちを助けてくれたのは、この人ね。
クリード……助けたわけではない。邪魔な連中を消し飛ばしただけだ。
エミルあなたは……クリードさん ?
ディオくそ~ ! また先越されちまったぜ !今度こそオレがかっこよく登場できると思ったのに !
メルもう、ディオ ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ !でも、無事でよかったです。
クルールクルール ! クルール !
ラタトスクお前ら、どうしてここに……。地上軍に合流してたんじゃなかったのか ?
ディオそうなんだけどさ、なんかこっちもヤバイって聞いて急いで戻ってきたんだよ。あと、それから――
メル待って。詳しいことはわたしたちよりあの人に説明してもらったほうがいいかも。クリードさん、魔鏡通信はまだ繋がっていますよね ?
クリード……勝手に使え。通信はそのままだ。
ブルート――マルタ、そこにいるのか ?
マルタパパ ! ? ねえ、今どこにいるの ! ?ローエンたちの話だと、ケリュケイオンからいなくなったって……。
ブルートすまない……。だが、こんな身体でもお前たちに手を貸したかったのだ。幸い、兵を動かすことには慣れているからな。
ブルートだが、地上軍と合流した時にお前たちの浮遊島の防衛機能をジャミングする装置を帝国の地上基地で見つけたのだ。
ロンドリーネ私と双子ちゃんたちも、その装置に気付いて動いていた時にブルートやクリードと合流できたってわけ。
ブルートだが、地上の装置を停止させても防衛機能が受けたダメージが戻るわけではない。機能の再起動にはそちら側で技術的な手を加える必要があった。
フローラそれなら、私たちが直せるんじゃないかと思って浮遊島に行くことにしたの。
クリード……いいか。フローラのために私は動いているだけだ。わかったら、さっさと防衛機能がある場所まで案内しろ。
ディオそんな偉そうにしなくても、ちゃんと案内するって。けど、あれはどうすんだ ? 防衛機能を戻すためにキラル分子ってヤツが必要なんだろ。
P・カノンノそれも問題ないよ。今から、私たちも戻ってすぐに届けるから。
カノンノ・Eジェイドさんが言ってた通り帝国軍の基地に少しだけキラル分子が残ってたの。それを使えば、多分大丈夫だと思う。
カノンノ・Gだから心配しないで。それじゃあ、浮遊島に戻ったらまた連絡を入れるね。
ブルートマルタ、私が出来るのはここまでだ。他の者たちの手を借りることになってしまったがお前たちの無事を祈る。
マルタ……うん、ありがとう、パパ。
ゲイボルグの島 虹の橋前
イクス……くそっ、虹の橋はもうすぐそこなのに敵の数が全然減らない !
リッドこのまま固まって戦っててもジリ貧か……。
ファラねえ、リッド――
リッドああ、多分考えてることは一緒だぜ。
イクスリッド ? ファラ ?
リッドなあ、イクス。このまま全員で戦ってても虹の橋まで辿り着くには時間がかかりすぎる。
ファラ敵は全部わたしたちのほうに引き付けるよ。だから、その隙にイクスとミリーナは先に行って !
メルディバイバ ! メルディも賛成 !
キールああ、それがもっとも効率的で可能性が高い。ぼくたちの負担は大きくなるが、その分はリッドに働いてもらうさ。
リッドお前もやるんだよ、ったく。けど、ここまで来たら退けねぇよな。
ミリーナみんな……。
チャットご安心ください、ミリーナさん。キャプテンのボクがついていますからね !
フォッグがははははっ ! よく言った、坊主 !ここはひとつ、景気づけに俺さまが派手に吹き飛ばしてやるぜ !
フォッグ――くらいな ! エレメンタルマスター ! !
リッド行け、イクス、ミリーナ !あとはオレたちに任せろ !
イクスリッド…… !ああ ! みんなの想いは決して無駄にはしない !行こう、ミリーナ !
ミリーナ……ええ !
グラスティンおっと……。ゲフィオンの様子を見る前にお前らに鉢合わせするとはなあ……。
イクス……グラスティン ! ?
グラスティンああ ? 何驚いた顔してんだよ ?俺がデミトリアスのところにいると思ったか ?
グラスティンどうせお前らが余計なことをしたせいで死の砂嵐が動かないんだろうなあ。
グラスティンそれにしても、ここに来たのはお前らだけか ?それなりにレプリカを配置しといた筈なんだがなあ。
グラスティンなぁ ? 一体どれだけの鏡映点たちを犠牲にしてここまで来たんだ ?
イクス犠牲になんてしていない…… !皆それぞれの場所で戦ってるんだ !
グラスティンヒヒヒッ ! ものは言い様だなあ、イクス・ネーヴェ !
カーリャそっちこそ、どれだけの命を犠牲にしているんですか ! ?
ミリーナあなたは、どうして非道なことをしてまで陛下のやろうとすることに協力しているの ?この世界を滅ぼしてまで。
グラスティンどうして ? ヒヒヒッ ! 面白いことを聞くな !そんなの、決まってるじゃねえか。
グラスティンデミトリアスがそれを望んでいるからだよ。だから俺は、あいつの願いを叶えてやってるのさ。
グラスティン俺はな、あいつが望むならお前たちを殺すことや世界を壊すことだって手を貸してやる。
グラスティンあいつは俺を地獄から解放してくれた唯一の人間なんだからな。
イクス地獄…… ?
グラスティンああ、そうだ。俺にとって、それ以上の理由はいらないんだよ。そして、お前たちは俺たちにとっては邪魔者だ。
グラスティンだから、さっさと死んでくれ。
ミリーナイクス ! ?
イクスああ、凄い殺気だ…… !気を付けろ、ミリーナ。もしかしたら、まだ後ろに兵士たちがいるかもしれない !
グラスティンヒヒヒッ ! 安心しろよ !ここにいるのは俺だけだ !だが――
グラスティンレプリカ「『俺』が一人とは限らねえけどな ! 」「『俺』が一人とは限らねえけどな ! 」「『俺』が一人とは限らねえけどな ! 」
カーリャな、なんですか ! ?
イクスグラスティンのレプリカか ! ?
グラスティンヒヒヒッ ! ! さあ、来いよ鏡士共 ! !その身体を、ズタズタに切り裂いてやるからよぉ ! !

キャラクター11話【21-13 ゲイボルグの島2】
イクスはああああっっ ! !
グラスティンヒヒヒッ ! 楽しませてくれるなぁ !だが、その程度のダメージじゃあ俺を殺すことはできねえぞ !
カーリャそんな……あんなにイクスさまとミリーナさまの攻撃を受けているのに…… !
ミリーナクロノスの力のせいよ……。それで私たちから受けたダメージを無効化してるんだわ。
グラスティンそういうことさ。だから、いくら俺を倒したって無駄なんだよ。わかったら、大人しく肉の塊になりな。
イクス……いや、違う。無駄なんかじゃない。
グラスティンあぁ ? お前、今なんて言った ?
イクスグラスティン……。本当に俺たちの攻撃が無駄ならどうして回復時間が遅くなっているんだ ?
グラスティンヒヒ…… !
イクス図星か……。お前の力のことはルドガーさんやヴィクトルさんたちから聞いていた。
イクスけど、どんなエネルギーでも使えば必ず消耗する。回復が遅くなっているのは、クロノスの力が弱まっているからじゃないのか ?
グラスティン半分正解ってとこだな。だがな、俺がクロノスの力を完全に使えないのはその力をデミトリアスへ回しているからさ。
イクスなんだって ?
グラスティンあいつ自身がオリジンの力を手に入れるために必要なことなんだよ。だが、もう一つ準備することがあってなあ。
グラスティンお前たちとの遊びも、ここまでだ !
イクス1st! ? マズい ! イクス ! !すぐにここから離れろ !魔鏡陣が仕掛けられてる ! !
イクスそんな ! ? 動け……ない !
グラスティンようやく捕まえたぞ !本当はもっと痛ぶってから始めようと思ったんだがこれ以上長引くと厄介だからなあ !
ミリーナやめて ! イクスに近づかないで !
グラスティン邪魔するな ! 今は貴様に 用はないんだよ ! !
ミリーナきゃあああああ !
イクスミリーナ ! !
グラスティンああ、そうか。大事な幼なじみだったなあ。いや、お前たちは揃ってあの魔女に作られた可哀想な偽物かぁ。
イクスだま……れ !
グラスティンヒヒヒッ、聞こえないなあ。さて、お前があのジュニアの代わりなのは不服だがより優秀な鏡士が必要なんだから仕方ない。
イクス1stジュニアの代わり…… ! ?
グラスティンお前に鏡の精霊の心核を埋め込めば新しい精霊王オリジンが誕生する。そうすれば、俺たちはニーベルングに辿り着く !
カーリャイクスさま ! ?
グラスティンじゃあな、イクス・ネーヴェ !俺たちのために死んでくれ !
グラスティンな、なんだ ! ? この揺れは ! ?
カーリャはっ…… ! イクスさまたちの頭上の空間に亀裂が入ってますよ ! ?
グラスティン死の砂嵐か ! ?しかし、ここに影響が出るわけが…… !
コーキスマスターから離れろ ! !グラスティン ! ! ! !
二人コーキス ! ?
イクスコーキス……どうして…… ! ?
コーキス今は説明してる状況じゃないだろ ! ?とにかく、まずは魔眼の力で魔鏡陣を無力化する !
コーキスどうだ、マスター ? ちゃんと動けるか ! ?
イクスあ、ああ……。けど……。
バロールイクス。コーキスの死の砂嵐での作業は終わった。故に、お前のために呼び寄せてやったのだ。感謝するのだな。
グラスティン……鏡精の分際で俺の邪魔しやがって。そんなに死にたいなら、お前もまとめて殺してやるよ !
イクスコーキス !
コーキス平気だ、マスター !こいつは俺が倒す !
グラスティンなんだ ? バロールの魔眼でも使うつもりか ?言っておくが、そんなものは俺には通用しないぞ ?
バロールコーキス。この者の言う通りだ。魔眼だけではクロノスの力で無効化されるぞ。
コーキスわかってるよ。だから、ボスに教えてもらった『あの術』でクロノスの力を取り除く !
カーリャこ、今度はなんですか ! ?
死鏡精カガミシニシヲ ! カガミシニシヲ !
グラスティンチッ ! ? 死鏡精の群れ共か !死の砂嵐の亀裂からこっちへ来やがったな ! !
コーキスマスター、ミリーナ様 !パイセンも早く俺の後ろに !
カーリャコ、コーキス ! 平気なんですか ! ?
コーキスああ ! 俺の魔眼の炎で防御壁を作る !はああああっっ ! !
イクス凄い……これが本来のコーキスの力、なのか……。
死鏡精カガミシニシヲ ! カガミシニシヲ !
グラスティンウザい羽虫共が…… ! !そんなに死にたきゃ、クロノスの檻の中にでも飼ってや………… ! ! ! !
グラスティンな、なんだ……これは…… ! !お、おい…… ! ! 一体どうなってやがる…… ! !
イクスグラスティンの身体が燃えてる!?いや、違う……あの炎は……。
ミリーナええ……贄の紋章を付けられた人たちが火柱になってしまったときと同じだわ……。でも、どうして……。
グラスティン贄の紋章 ! ? 馬鹿な ! ? 俺の体に刻印されたのはビフレストが開発した追跡用の発信器の筈 ! ?
グラスティンそれにフリーセルに付けられた刻印は解除した筈だ。それが、何故今になって発動する…… ! ?
グラスティン(これは……何だ。俺にこんな記憶はないぞ ! ?)
サレ……なるほどね。贄の紋章はビフレストの刻印が元になってたのか。やっぱりキミはグラスティンのアキレス腱だったんだね。
サレキミを具現化して正解だったよ、フリーセル。
サレじゃあ、この刻印をグラスティンのレプリカの一人に付けてこよう。そうすれば、ほかのレプリカに呪いの力は分散されて、奴は気付かない。
フリーセルだが、本当にいいのか ? もし、それがバレたらお前も帝国にはいられなくなるぞ。
サレ平気だよ。刻印は殺したあとに付けてもいいんだろ ?だったら、僕が帝国を出て行くついでに一体くらいはあいつのレプリカを殺しておくさ。
サレあとは、レプリカ同士で共有している力が分散するから呪いの力も他のレプリカに分散する。そのせいであいつはクロノスの力を使い続ける限り――
フリーセル……いずれは本体の身体に刻印の力が蓄積されていく、というわけか。
サレそう、少しずつ毒を盛られていると知らずに、ね。
フリーセル確かに、理論上は可能だ。俺があいつを殺すのに失敗したときの保険にもなるだろう。
サレそうさ、何事も準備を怠らないほうがいい。ああ、それと、この会話を呪いが発動したときに奴に見せられるようにできるかい ?
フリーセル……構わないが、それに何の意味がある ?
サレ意味なんてないさ。ただ、そうだね……意味があるんだとすれば……。
サレ――僕はあいつのことが、大っ嫌いなんだよ。
グラスティンあのクソ野郎どもがああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ ! ! ! ! ! !
死鏡精カガミシニシヲ ! カガミシニシヲ !
コーキスグラスティンの周りに死鏡精が…… !
バロール……もう遅い。奴は死鏡精にアニマごと憑りつかれて終わりだ。
グラスティンふざけるなあああああああああっ ! ! ! ! !オレハ……オレハ…… ! ! ! ! ! ! !
カーリャな、なんですか ! ?今度は真っ黒な球体みたいなものになっちゃいましたけど ! ?
バロール自らクロノスの檻の中に閉じ籠ったか。血迷った真似を……。
死鏡精カガミシ、ニ、シヲ。カガミ、シニ、シヲ――。
ミリーナ……死鏡精たちが球体ごと虚無に戻っていったわ。
イクス……なあ、バロール。グラスティンは、いったいどうなったんだ ?
バロールクロノスの檻ごと、虚無へと連れていかれた。もう戻ってくることはないだろう。
バロールクロノスの檻の中で流れる時間は『永遠』だ。たとえ檻の力が解除されても、もうその時にはアニマも形を保つことなく、虚無へと消えていく。
バロール奴は死鏡精に精神を侵され肉体的にも刻印の激痛から逃れられず永遠に『死に続ける』ことになる。
イクスそんな……。
バロール奴が本能的に生きようとした結果だ。たとえ、その意思が歪んだものへと変わってしまったとしてもな。
ミリーナ行きましょう、イクス。私たちに立ち止まっている時間はないわ。
イクス……ああ。まだ何も解決していないからな。
イクス……そうか。じゃあ、コーキスは死の砂嵐を辿って俺たちのところまで駆けつけてくれたわけなんだな。
コーキスああ、バロールに道案内されながらだったけどなんとか間に合ってよかったよ。
カーリャホントですよ ! あんなにギリギリに出て来るなんてカーリャはびっくりしましたよ !
コーキスわ、悪かったって ! けど、グラスティンが持ってた鏡の精霊の心核は、ちゃんと回収できてよかったよ。
コーキスぶっちゃけ、死鏡精に虚無の中まで持っていかれてたら、また戻らないといけなくなっちまうからな。
カーリャそれじゃあ、コーキスはその鏡の精霊の心核を取り戻すためにこっちへ来たんですか ?
コーキスいや、それは偶然でさ。マスターたちがデミトリアスを倒すために必要な術をボスから教えてもらって……。
バロール待て、コーキス。その話は後だ。この先、誰かいるぞ。
コーキス誰かって…… !あ、あれは…… !
ヴァン来たか、鏡士諸君。
コーキスヴァン様 ! ? こんなところにいたのかよ !ボスもみんなも心配してたんだぜ ! ?
ヴァン……そうか。だが、そのような気遣いは無用だ。
イクスヴァンさん ! どうして剣を…… !
カーリャも、もしかして、ヴァンさまはあっちに寝返っちゃったんですか ! ?
ヴァン……それが私の中にいるローレライが見せた未来だ。
コーキスな、なに言ってんだよヴァン様 ! ?ローレライってなんのことだ ! ?
ヴァンお前たちも聞いているだろう。我々の世界では、預言と呼ばれる絶対的な未来が存在していた。
ヴァンそして、この世界にもローレライが存在し私に一つの星の結末を見せた。それが、新たなる星の誕生だ。
イクスそれって……今のティル・ナ・ノーグが滅びて新生ニーベルングが誕生する未来ということですか ?
ヴァンその通りだ。そして、お前たちはここで私に倒されデミトリアス帝の悲願は成就される。それが、この星の辿る未来だ。
ヴァンもし、それがこの星の惑星預言なのだとしたら覆すことは出来ない。我々人間が、どれだけ足掻こうともな。
ミリーナそんな……。私たちは、本当に戦わないといけないんですか ?
ヴァンそれが預言ならば、避けられないことだ。
ヴァン――だが、もしここで私がお前たちを通しデミトリアス帝を倒すことができれば、ローレライの未来予知は完全なものではないと証明できる。
カーリャ……は、はい ?えっと……すみません、カーリャ、なんだか話がこんがらがってきちゃったんですけど……。
イクス……つまり、俺たちがデミトリアス陛下を倒してニーベルングの誕生を阻止できればヴァンさんの望む結果が得られるんですね。
ヴァンそうだ。私が見た未来の結末は惑星預言に該当するものだろう。本来ならば、その預言を覆すことは不可能だ。
イクスだったら、俺たちは絶対にティル・ナ・ノーグを守ります。一緒に戦ってくれている、みんなの為にも。
ヴァンああ、私もそう願いたいものだ。
ミリーナ……ヴァンさん。もし、私たちが負けてしまってデミトリアス陛下を止められなかった場合はどうするつもりだったんですか ?
ヴァンその時はローレライごと私を殺してもらう手筈を整えてある。
コーキスな、何言ってんだよ ! ?
ヴァンとにかく、私が望む世界は預言のない世界。ただ、それだけだ。
イクス……その理由を聞いてよかったです。尚更、俺たちは負けられなくなりましたから。
コーキスああ、ヴァン様が死ぬなんて知ったらリグレット様やアリエッタ様が悲しむからな。
ミリーナそれにティアは絶対にそんなことを許さないと思うわ。ルークさんやアッシュさんだって……。
ヴァンならば、私の望む結果を示してくれ。ここが、守るべき価値がある世界ということをな。
イクスここは、アイフリードの墓なのか ?
バロールああ。元々はニーベルングが甦ったときに揺り籠から戻るため、虹の橋を架けるための島だったがこれを帝国の奴らが利用しているのだろう。
ミリーナじゃあ、やっぱりここにデミトリアス陛下が――
カーリャミリーナさま ! あれ !あの中心に置いてあるものって…… !
イクスカレイドスコープ !こんな場所に運び出していたのか。
デミトリアスそうだよ。久々だね、ミリーナ。そして、イクスとその鏡精、コーキス。
イクスデミトリアス……陛下。
デミトリアスここからティル・ナ・ノーグを分離させ新生ニーベルングを作るためのキラル分子を調達するつもりだからね。
デミトリアスそして、本来ならばここに君たちを通すつもりはなかったのだが、やはりヴァンは私の味方をしてくれなかったようだ。
デミトリアス一つ、念のために君たちに聞いておこう。グラスティンは……死んだのか ?
イクス……死んだ、とは言えないけれど多分、もうここには戻って来られない。残っているのは、あなただけだ。
デミトリアス……そうか。私は多くの友を失ってきたつもりだが本当に友と呼ぶべき相手は、あの男だったのかもしれない。
デミトリアス思えば……ただ生きることしかできなかった私を『何者』かにしてくれたのも彼だったよ。
イクスデミトリアス陛下。だったら俺たちにも教えてください。そんな人を失ってまであなたは、この世界を滅ぼすつもりなのか ! ?
デミトリアスそうだ。これは、私がやらなければならないことだ。
ミリーナ待ってください ! もし、滅びから逃れる方法がないと思っているのなら、それは違います !
イクスそうです ! そのカレイドスコープにも本来のバロールの力が使える機能があるはずなんです ! それを俺とミリーナが使えば――
デミトリアス使えば……フィンブルヴェトルを止められるのか ?
イクスはい、だから――
デミトリアス……イクス。それでは意味がないんだよ。私の望む結果ではない。
イクスどうしてですか ! ? 世界も守れて全員が助かる道があるのに……。
デミトリアスならば教えてやろう、イクス。私が望んでいるのは、世界の救済などではない。
デミトリアス君たちのような偽りの存在を私の手で終わらせてあげたいんだ。

キャラクター12話【21-14 ゲイボルグの島3】
イクス偽りの存在を終わらせるって……。
デミトリアスそのままの意味だよ。君やミリーナ、そして鏡映点たちもそうだが本来、君たちは存在していない人間のはずだ。
デミトリアスそれなのに、他人の都合で生まれてしまった君たちに世界の行く末までをも託す結果となった。果たして、これが健全な世界だと言えるのだろうか ?
デミトリアス――いや、それは本来のあるべき姿ではない。本当の彼らには、その者たちだけが持つ使命や人生そして最後があったはずなのに、歪められたのだ。
デミトリアスそれは、本来の彼らの存在に対する冒とくだ。そして、このティル・ナ・ノーグという世界がある限り偽りの世界が続いてしまう。
デミトリアスだからこそ、この虚言にまみれた世界を誰かが終わらせなければならないのだ。
コーキスふざけるなっ ! !だったら……その為ならマスターたちが死んだっていいって言うのかよ ! ?
デミトリアス……イクス・ネーヴェという男はもう死んでいる。そこにいるのは、ゲフィオンたちが生み出した幻影だ。
コーキスマスターを……俺の大事なマスターを侮辱するな ! !
イクスやめろ、コーキス ! ?むやみに突っ込むな ! !
デミトリアス……理解してもらおうとは思っていない。だから、私が責任を持って終わらせるのだ。
コーキスうわああああああっ ! !
カーリャコーキス ! ?
デミトリアスよく見ておけ。私は、そのためにマクスウェルたちの力を手に入れたのだ ! !
デミトリアス……流石はグラスティンだ。お前が残したクロノスの力のお陰でマクスウェルの力も最大限に引き出せる。
カーリャミリーナさま……カーリャでもわかります…… !
ミリーナ……ええ。今まで感じたことのない力だわ。
イクスそれでも、俺たちはあなたを止める !コーキス !
コーキスああ ! 俺は大丈夫だ !さっきやられた分は、ここできっちり返す ! !
二人うおおおおおおおおおおおっっ ! !
デミトリアス……無駄だよ。
コーキスダメージがない ! ?もしかして、グラスティンの奴と一緒か ! ?
イクス違う…… !そもそも俺たちの攻撃が効いてない ! ?
ミリーナだったら、私の魔鏡術と精霊装の力で…… !――月鏡・継黒陣 ! !
デミトリアス……同じ精霊装でも、力の差は歴然だよ。
ミリーナそんな……。
バロールあの者の言う通りだ。イクス、コーキス、奴の纏う力はマクスウェル……いや、オリジンをも凌駕する力となっている。
バロールたとえ、我が魔眼を解放したところで奴の力を消すことはできない。秘伝魔鏡術でも打ち消されてしまう。
イクス……そんな、だったらどうやって。
デミトリアスさあ、グラスティンから奪った鏡の精霊の心核は返してもらうぞ。イクス、君がオリジンとなり新生ニーベルングを誕生させるためにもな。
ミラ=マクスウェル見つけたぞ ! ここがマクスウェルの残滓が集まっている場所だ。
? ? ?……お前は……そうか、別の世界に生きるマクスウェルなのだな。
ロゼひぃぃ ! な、なに ! ? 今の声 ! ?あたしの聞き間違い……じゃないよね ?
アニーは、はい。わたしにも、はっきりと聞こえました…… !
グリューネあらあら~、どこかに新しいお友達がいるのかしら ?
ミラ=マクスウェル……そこにいるのだな。マクスウェル。
マクスウェルああ、よくここまで来れたものだ。そして、お前たちがここに来た理由もすでにわかっておる。
ミラ=マクスウェルならば、単刀直入に用件を伝える。今、お前の力は帝国側で使われる精霊装に流れている筈だ。
ミュゼここに集まっているあなたの残滓を集めればその精霊装の力も解除される。違うかしら ?
マクスウェル……その通りだ。
ティトレイよっしゃあ ! んじゃ、持ってきた精霊片吸引器で集めようぜ !
マクスウェルいや、その必要はない。既にここには私を新たに実体化させるほどの残滓が集まっている。そうすれば、力の流れも止めることができる。
ヒルダだったら、それを早くやればよかったんじゃないの ?
マクスウェル……いや、私だけでは実体化は不可能だった。だからこそ、必要な物をお前たちから借りたい。
ベリルな、なんだって ! ?ここまで来て変なものを要求したら承知しないからな ! ?
イネスそうね、できれば今の私たちで用意できるものだとありがたいんだけど。
マクスウェル私が実体化するためには、ここにある残滓を繋ぎ合わせなくてはならない。そのために、お前たちの力を貸してほしい。
ライラ具体的には、何をすればよいのですか ?
マクスウェルお前たちが纏った精霊片そして、精霊自身の力が必要だ。
スレイそれって、つまり……。
ミクリオ僕たちの力を、マクスウェルの残滓に取り込ませるということか。
ウィル待ってくれ。纏っている精霊片はともかく精霊の力を持つ者たちに害はないのか ?
マクスウェルああ、少しずつお前たちの力を分けてもらうだけだ。問題はない。
エドナじゃあ、ワタシの分はミボから取っておいて。
ミクリオちょっと待て ! 僕は納得しないぞ !
ザビーダなんなら、このザビーダ様がエドナちゃんの分も引き受けるぜ ?
フェニックスその必要はない !何故なら、エドナには我がいるからだ !
フェニックスそう ! 我は不死鳥 !我が名はフェニ――
マクスウェルでは、始めるぞ。
コハクなに……下から光が……。
シングなんだろう……凄く温かくて、安心する。
ガラドまるでスピリア同士が繋がったときみたいだ。
ミラ=マクスウェルこれが人間や精霊たちの想いなのだろう。さあ……応えてくれ。マクスウェル。
マクスウェル――――無事、実体化に成功したようだな。
スレイそれじゃあ、帝国の精霊装の力も…… !
マクスウェルいずれ、私の力が費える時が来よう。だが、奪われた力まで取り戻すことはできん。
マクスウェルこの世界の行く末は、やはり最後は人間たちの手に委ねられたのだ。
コーキス――駄目だ ! 何度やっても攻撃が無効化される !
デミトリアスいや、よくここまで耐えたものだ。これだから、鏡士や鏡精は侮れない。
イクスうおおおおおっっ ! !
デミトリアス……無駄だと言っているのが――ん ?
デミトリアスくっ…… !
ミリーナイクスの攻撃が……通じた ?
デミトリアス馬鹿な……何故マクスウェルの力が弱まっている。こんなことが起こるはずが…… !
デミトリアスいや、そうか……。君たちは鏡の精霊の心核のレプリカを所持していたね。そこからアプローチをかけてきたのか。見事だよ。
コーキスなんかよくわかんねえけどこれなら勝てる !それに、こっちにはまだ切り札があるんだ !
デミトリアス……ふっ。この程度で形勢が逆転したつもりかね ?だったら少し、本気を出させてもらおう !
ミリーナ嘘…… ! まだこんなに力が…… !
デミトリアス私も出し渋っている訳ではなかったさ。強すぎる力は、時にコントロールが難しくてね。だが、もう充分身体は馴染んだ。
デミトリアス――さて、一人くらいは、この辺りで退場してもらうとしようか。
イクス消えた ! ?
デミトリアス……まずは君からだ、鏡精コーキス。
コーキスうわあああああああああああああああっっっっ ! !
イクスコーキスーーーーーーー ! ! ! !
デミトリアス即死は避けたか。だが、致命傷であることには違いない。
イクスデミトリアスーーーーーーーー ! ! ! ! ! ! ! !
イクス1st駄目だ、イクス ! ? 冷静になれ !このままじゃあ、相手の思うつぼだ !
イクスよくも……よくもコーキスを ! ! ! !
デミトリアス……哀れだな。我を失う程の怒りに支配されるとは。やはり、お前はただの幻影だ。
イクスうおおおおおおおおおおっっっっ ! !
イクス1st(いや……違う ! イクスは咄嗟にデミトリアスをコーキスから遠ざけたんだ ! 何故なら――)
カーリャミリーナさま !コーキスが…… ! コーキスが…… !
ミリーナしっかりして、コーキス !お願い、目を覚まして…… !
ミリーナ(イクスは、私がコーキスに治癒術をかけられるようにしてくれたのに……それなのに、私はイクスのために何の力にもなれていない…… !)
ミリーナ(私に力があれば、コーキスだって守れたかもしれないのに…… !)
ミリーナ結局……私はイクスに守られてばかり…… !どうして…… !
? ? ?(泣くな、ミリーナ。お前には、イクスを守るための力があるはずだ)
ミリーナ……えっ、誰……なの ?
? ? ?(私の声に耳を傾けろ。そうすれば、私の力をお前も引き出せるようになる)
ミリーナまさか……あなたは…… !
ヨーランド死の砂嵐の勢いが弱まったわ。バルドとコーキスが世界の欠片を集めてくれたおかげで死の砂嵐も凪いで、ゲフィオンも意識を取り戻せた。
カーリャ・Nミリーナ様……。
ゲフィオン大丈夫よ。あと少し……あと少しだから……。なんとかこの仮想鏡界を守っていて……。
ゲフィオンそれから……ありがとうフィル。上手くミリーナとの意識を繋げることができたわ。
フィリップ本当によかったのかい ?こんなことをすれば、きみは……。
ゲフィオンええ……私の意識ごとミリーナに取り込まれる。そうなれば、私のアニマは消滅するでしょうね。
ゲフィオンだけど、どの道、防御壁が壊れてしまえば私の存在は消滅するわ。だったら最後くらい責任を果たさないと。
フィリップ責任……か。それは僕も背負わなければいけないことだよ。
ゲフィオン……いいえ。あなたはもう充分よ、フィル。最後まで、あなたを巻き込んでごめんなさい。
フィリップ……ずるいよ、ミリーナ。きみからそんな風に言われたら……僕は自分のことを許してしまうかもしれない。
ゲフィオン……それでいいのよ。だって、それは私が望んでいることなのだから。
フィリップいや、それじゃあ駄目なんだ。僕はこれからも自分を許すことはない。そうやって……生きていくって約束したんだ。
ゲフィオン……ごめんなさい。何もかもあなたに押しつけてしまって。それから、ありがとう。
ゲフィオンそれじゃあ、始めて……。
カーリャ・N――待ってください、ミリーナ様 !
ゲフィオン……ごめんなさい、カーリャ。だけど、私は……。
カーリャ・N……わかっています。もう、今のカーリャにミリーナ様たちを止める術はありません。
カーリャ・Nそして、それがミリーナ様の望んでいることだということもです…… !
ゲフィオン……ありがとう、カーリャ。それじゃあ、最後にもう一度だけ私のわがままを聞いてくれるかしら ?
カーリャ・N……なんでしょうか ?
ゲフィオンミリーナを……彼女たちを助けてあげて。それが私の……最後のお願いよ。
カーリャ・N……ええ、畏まりました。
ゲフィオンそれじゃあ、フィル。今度こそ、お願い…… !
フィリップああ……さようなら、ミリーナ。
カーリャ・Nミリーナ様 ! カーリャは…… !カーリャはミリーナ様のことが大好きです ! !ずっとずっと…… ! カーリャは大好きです ! !
ゲフィオンええ、私もよ。私の鏡精として生まれてきてくれて本当にありがとう、カーリャ。
ゲフィオン(ミリーナ。私の力は全てお前に託した。あとは、お前自身がこの力をどう使うかだ)
ゲフィオン(お前たちは一人ではない。お前たち自身で繋ぎ育んできた時間があるのだ)
ミリーナ……ええ。私たちには仲間がいる。この世界で出会って、一緒に過ごしてきた仲間が。
ミリーナ……お願い、みんな !私たちを、助けて ! !
デミトリアス複数の巨大な鏡を具現化したのか ?だが、あれはいったいなんだ ?
ミリーナこれが、私の望んだ力…… !みんなを守るための力よ !
全員イクス ! ミリーナ !
イクスみんな…… !どうして鏡の中から…… ! ?
カーリャ・Nミリーナ様が具現化した鏡が鏡映点の皆様をここに呼んだのです。
カーリャ・Nあの鏡は、鏡士だけが使える転送ゲートの力を具現化したものでした。お陰で、私たちはこうしてイクス様たちのところへ駆けつけることができました。
スタンいきなり目の前に鏡が出てきたときは正直、驚いたけど。
リッドけど、敵の罠って感じでもなかったしな。それに、イクスたちが戦ってる姿も写ってたぜ ?
カイルあっ、それオレも見たよ !だから急いで鏡の中に入ったんだ。
ロイドなんだ、やっぱみんな考えることは一緒だったんだな。
エミルでも、他のみんなは来られなかったみたいだね。
ミリーナそれは……多分、私の力だと一つの鏡で一人を呼ぶのが精一杯だったからだと思うわ。
スレイそっか。けど、オレたちだけでもこうして駆けつけられたんだからミリーナは凄いよ !
ユーリああ、これだけ集まれば十分だ。仲間を傷つけられた借りはきっちり返させてもらうぜ。
デミトリアス仲間か……君たちは哀れな被害者だ。その者たちを助ける義理などない。
セネルおい、あんた。何か勘違いしてないか。俺たちは別に、被害者なんかじゃない。
ヴェイグオレたちはイクスたちを助けたいと思ったからここに来た。
ルカその絆が、僕たちの力になっているんだ。
ルークああ、それをお前に否定される理由はねえ !
ベルベットそうね、あと、散々迷惑をかけたのはあんたたちの方なんだけど。
ミラ=マクスウェルお前のやっていることが正しいというのなら私はそれを認めるわけにはいかないな。
ジュード僕たちは、自分の為すべきことを為すだけだよ。
ルドガーそれが、俺たちの選択だからな。
デミトリアスそうであったとしても、ここにいるのは本来の君たちではない。ただの偽物だ。
カイウスそれでも、オレはイクスたちに出会えてよかったと思ってる。
アルフェンあんたの言っていることは、ただ自分の理解を相手に押し付けようとしているだけじゃないのか ?
シングオレたちのスピリアは偽物なんかじゃない。それはオレたち自身がよくわかっている。
アスベルだからこそ、俺たちは一緒に戦ってこられたんだ。
デミトリアス……私は、君たちのことを思って言っていたつもりだがそこまで偽物の世界が望ましいのか ?
クレスそんなことは問題じゃない。このティル・ナ・ノーグは僕たちが守るべき場所なんだ !
コーキス……へへっ、俺もクレス様たちに負けてられないや。
カーリャコーキス ! ? 動いて平気なんですか ! ?
コーキスああ、ミリーナ様のおかげでバッチリだぜ !
イクスデミトリアス陛下。たとえ、あなたが俺たちの存在を否定したとしても俺たちはこうして生きているんだ。
イクスだから、俺は全てが嘘でもその真実と共に生きると決めた !
イクスそれが――俺たちの答えだ !

キャラクター13話【21-15 ゲイボルグの島4】
デミトリアス……まだだ ! まだ私は…… !
イクスくそっ……。これだけ押しててもデミトリアスが倒れない…… !
バロールマクスウェルの力がまだ残っているからだ。だが、勝機は見えた。お前たちの持つ秘伝魔鏡術があれば、奴を倒すことができる。
イクス秘伝魔鏡術 ! ?でも『お前たち』って、秘伝魔鏡術は俺のスタック・オーバーレイしか……。
コーキス大丈夫だ、マスター !俺も秘伝魔鏡術をボスから教えてもらってるだろ !そいつを叩き込んで、マクスウェルの力を切り離す !
デミトリアスそうか。ならば……またお前から倒すだけだ !
イクスコーキス ! ?
デミトリアスなに ! ? これは…… !
ミリーナあなたが攻撃をしたのは、私が作ったコーキスの幻よ。
コーキスサンキュー、ミリーナ様 !ようやく隙ができたぜ !
デミトリアスしまっ―― !
コーキス秘伝魔鏡術 !【アナム・セパレート】 ! !
デミトリアスば、馬鹿な…… ! マクスウェルの力が…… !
イクス ?【アナム・セパレート】ビフレストに伝承される離魂術だ。まさか、お前にも使うことになるとはな。
デミトリアスお前は……イクスではないな ?まさか、ナーザ将軍なのか ! ?
ナーザああ、最初のイクスのアニマを通して俺の意識を一時的に反映させた。そして、これが我が王家に伝わる秘伝魔鏡術―― !
ナーザ【ギエラ・ビフレスト】 ! !
デミトリアスがあああああああっっっっ ! !
イクス1st(イクス ! あとはお前の秘伝魔鏡術をデミトリアスにぶつけろ !)
イクスはいっ !
イクス秘伝魔鏡術――【スタック・オーバーレイ】 !
デミトリアスこんなところで…… ! !私は…… ! ! ! !
イクスうおおおおおおっ ! これで、終わりだぁぁぁっ !
デミトリアスぐぁっ…… !
コーキスデミトリアスが、膝をついた…… !マスター !
デミトリアスどういう、ことだ…… ?体に、力が入らない……ゴホッ ! まさか……。
ミリーナマクスウェルの力が完全に失われてその反動が体に返ってきたんだわ。
デミトリアス……そうか。道理で、急に……手足が萎びるようだ。ここまで、なのか……。
デミトリアスこれで……終わりか。何もかも……。
イクス……デミトリアス。俺たちの勝ちだ。
デミトリアスどうやら、そのようだね……。偽りの、歪んだ世界が残り……真実の世界は戻らぬまま……か。
デミトリアスいや……こうして私が敗れたということはきみたちもまた、真実だということなのかな……。
デミトリアスふ、ふふ……。私は、きみたちが羨ましいよ。
イクス……羨ましい ?
デミトリアス結局、私には……自分の生まれや運命を受け入れられる強さが、なかったのだな……。
デミトリアスそうして、全てに否定を続け……目の前のものだけを救うことで自分を正当化しようとして……。
デミトリアスそれが……私の『毒』だったということか。ナーザ将軍やメルクリアの言ったこと……理解を拒んでいたが、今はわかるような気がする。
デミトリアス……イクス、ミリーナ。カレイドスコープを使うといい。
ミリーナじゃあ、やっぱりこのカレイドスコープで死の砂嵐は消せるのね ! ?
デミトリアス……やってみなければ……わからないがな。だが……やらねばならないのだろう ?歪みから生み出された偽物が真実になるためには。
イクスええ。俺はこの世界を、自分を、全ての嘘を真実に変える。それが歪んでいてもこの歪みが俺たちなんです。
イクス……こんな終わり方になってしまって、残念です。デミトリアス陛下。
デミトリアス……フフ……私にふさわしい末路だよ。私が良かれと思ってしてきたことは……いつも……誰かを、何かを、歪ませてしまった。
デミトリアスでも、今度だけは……違った……或いは君たちが……歪みから生み出されたものだからなのかもしれないな……フフ……。
デミトリアス……私にも自分の歪みを真実だと言い抜けるふてぶてしさが……欲しかったものだ……。
デミトリアスグラスティン……私……も……。…………。
ヴェイグ……逝ったか。
ミリーナこの人のこと、理解できたとは言い難いけど……この人なりに壊してしまった世界に向き合おうとしていたのかもしれないわね。
イクス……急ごう。まだ死の砂嵐は残ってるんだ。
スタンうわ……っ ! なんだ ! ?
スレイアイフリードの墓が揺れている…… ?嫌な感じがするよ。
フィリップイクス ! もう限界だ !ゲフィオンの意識は消えた。もう人体万華鏡が崩壊するのを止められない !
イクスフィルさん ! こちらのカレイドスコープが使えることはわかりました。
イクスあとはカレイドスコープを起動させて父さんたちが残した機能を使えば死の砂嵐は消せるはずです。
ナーザまだだ、イクス ! バルドがまだ戻らない !【ギエラ・ビフレスト】はまだ維持しているのだが奴からの返事がない !
コーキスマスター ! だったら、俺が行くよ。俺が向こうに行って、バルドを助けてくる !
ミリーナ駄目よ ! あなたはデミトリアスの槍で受けた傷がまだ治り切っていないのよ。そんな状態で入れば、身体が持たないわ。
バロールそれに、お前の身体は秘伝魔鏡術を使ったことで体力が著しく低下しているはずだ。
コーキスバロール ! ? じゃあどうしろって言うんだよ !
ルークまた揺れた ! ? このままここにいるとまずいんじゃないか ?
ロイドけど、カレイドスコープはここにあるんだろ ! ?逃げ出したら、死の砂嵐を消せなくなる !
カーリャ! ? あれ…… ?ぶるぶるぶるぶるぶるぶる !
カーリャ・Nどうしました、小さいカーリャ ?震えていますよ ?
カーリャな、なんだかおかしいんです。絶対あり得ないんですけど、でも、でも…… !
ミリーナカーリャ、落ち着いて説明して。
カーリャミリーナさまの中から、ちょこっとだけですけど……光魔の鏡の……死の砂嵐の気配を感じるんです !
イクスそんな馬鹿な ! ?
フィリップ……おそらく、ゲフィオンがミリーナに吸収されてミリーナの心がゲフィオンの人体万華鏡に近いところにあるからじゃないかな。
フィリップミリーナの鏡精であるカーリャはそれを感じたんだ。鏡精は幼体の方が感受性が強いから――……ああ、そうか ! いや、でも……。
ミリーナフィル、どういうことなの ?
フィリップ……今ならカーリャも、ミリーナの心から死の砂嵐の中に入れるかもしれない。
フィリップミリーナは今、ゲフィオンの助力を受けて力が強まっている。虚無の中でも加護を受けて身体を保てるはずだ。
ミリーナカーリャが…… ! ? でも……。
カーリャミリーナさま ! 迷ってる時間はありません。カーリャはやりますよ !
カーリャ私を信じてください、ミリーナさま。カーリャにしかできないことならカーリャがやらなきゃ駄目なんです !
ミリーナ……わかったわ。私たち、待ってるから。
カーリャええ、どーんとお任せください !いざとなればミリーナさまの心に戻ればいいんですから !
バロールあの尖兵がそこまで大事か。俺は犠牲も覚悟しろと言った筈だ。
カーリャ犠牲なんて出していい訳ありませんよ !
バロール……面白い。では虚無へと向かうがいい。【ギエラ・ビフレスト】の虹色の輝きを辿れば死の砂嵐に取り込まれずにすむだろう。
カーリャわかりました !では、行ってきます !
カーリャ(うう……ここが虚無……。すぐ手前までは、イクスさまと来たことがありますが中に入るのは初めてですね……)
バルド…… ! ?そこにいるのは――
カーリャバルドさま、見つけました !カーリャが助けに来ましたよ !
バルドこれは……可愛らしい救援ですね。しかし、ご覧の通り私は、身動きがとれなくて――
カーリャバルドさま ! ?
バルドどうやら、何かの力に巻き込まれてしまったようなのです。このままでは、私も虚無に逆戻りかもしれません。
カーリャそんな…… !
バルド私の近くにある、重なった二つのアニマ……何があったか知りませんが、彼らには贄の紋章が刻まれているようです。
バルドおそらく、ぶつかり合う二つの紋章の力が周りに悪影響を及ぼしているのではないでしょうか。
カーリャこれは……。アニマが燃えているせいでわかりにくいですけど、これは心核です。
カーリャ待ってください。今、これを【ギエラ・ビフレスト】の虹の橋に乗せて、ティル・ナ・ノーグに移します !
バルド――ありがとうカーリャ。おかげで動けるようになりました。
カーリャよかった……。これで、後は脱出するだけですね !
バロール……待て。
バロールミリーナの鏡精よ。お前はそこに留まらなければならん。
カーリャ――え ! ?
カーリャミリーナさま ! 聞こえますか ?今、バルドさまを【ギエラ・ビフレスト】の虹に乗せて救出しました。
ミリーナよかった ! じゃあ、カーリャも早く戻っていらっしゃい。
カーリャそれが、駄目なんです。バロールに言われました。カレイドスコープの照準点を死の砂嵐の中に設ける必要があるって。
カーリャ本当はコーキスの魔眼を目印にさせるつもりだったみたいですけど、イクスさまたちを助けるために外に出してしまったから、新しい目標が必要だって。
カーリャだから、カーリャが目標になります。
ミリーナ何を言っているの ! ?
カーリャ大丈夫です。カーリャは鏡精ですから……存在が消えてもちゃんとミリーナさまの元に戻れます。
イクスどうした、ミリーナ ! 顔が真っ青だぞ !
ミリーナカーリャが……死の砂嵐の中に残るって。
ミリーナカレイドスコープで死の砂嵐を消すためには照準となる的が必要だからカーリャがそれになるって言うのよ !
ミリーナ鏡精だから、消えても大丈夫だって言って…… !
バルドいけません ! ミリーナさん !バロールは言っていました !
バルド確かにミリーナさんの元には戻れるかもしれません。ですが、バロールの鏡精ではないカーリャでは本来残るはずの記憶すらも奪いかねないと !
コーキスそれって……結局カーリャパイセンが消えちまうのと変わらねーじゃん ! ?だったら俺が行く ! 俺なら――
バロール無理だ。今のお前では、虚無に入ったところですぐ死の砂嵐に取り込まれて死鏡精になるだろう。
カーリャ時間がありません ! カーリャを目標にしてカレイドスコープを発動させてください !カーリャなら大丈夫ですから !
ミリーナ大丈夫じゃないわよ !世界を救っても、あなたが消えてしまったら――
カーリャでも、ミリーナさま。ここでカーリャが踏ん張らないとミリーナさまもみんなも消えちゃって……カーリャが帰る場所、なくなっちゃうじゃないですか。
ミリーナ…………。
カーリャ……だから、今だけは戻れません。でも、その後はぜ~ったい、ミリーナさまのところへ戻ってきますから !
カーリャえへへ……カーリャがいないと、コーキスやマークのことも心配ですからね !
ミリーナカーリャ……。
イクスバロール ! 本当に、他に方法はないのか ! ?命を生み出せるほどの力を持つならカーリャの記憶も守れないなんてことがあるか ! ?
バロール俺とて万能ではない。だが、お前がミリーナと心を繋ぎカーリャを一時的に自分の鏡精にできるならカーリャの記憶は守れるだろう。
ミリーナ
イクスそれはどうすればいいんだ !
バロール全てを――お前とミリーナの心の全てを深層まで一つにする。知られたくないことも知られるし知りたくないことも知るだろう。
ミリーナイクス。私は構わないわ。カーリャを守るためなら !
イクス――……わかった。やろう !
バロールイクス。お前は体験したはずだ。ナーザ――ウォーデンの意識がお前の体をもって発動した【ギエラ・ビフレスト】を。
バロール【ギエラ・ビフレスト】でお前の心とミリーナの心を重ね、【スタック・オーバーレイ】で力を増幅しカレイドスコープを起動する。
バロール全てが終わってから【アナム・セパレート】で重ねた心をまた二つに分ける。これはコーキスに頼むといいだろう。
コーキスわかった。全てが終わったら俺がマスターとミリーナ様の心を二つに分ける。
イクスうん、頼むぞ、コーキス。
イクス行くぞミリーナ。俺の心をミリーナに預ける !
ミリーナ受け止めるわ。イクス、お願い !
2人この世界を……守るために !

キャラクター13話【21-15 ゲイボルグの島4】
リオン……各大陸、ほぼ全ての制圧が完了か。終わってみれば他愛もないな。
ディムロスまだ気を抜くには早いぞ。浮遊島の状況がわからない。
シオン……待って。空を見て !光が――
チェスターうわっ ! ?なんだ、あの光…… ?
レイア空から落ちてくる…… ?流れ星……じゃないよね。
ヒューバートこれは……少なくとも、帝国の仕業ではなさそうですね。ということは―― !
カナタミゼラ、見てよあの空 !あれってきっと、イクスたちが上手くやったんだよね !
ミゼラうん、きっとそうだね。青空に銀色の月が現れるなんて……。でも……綺麗。
サイモン……導師は、鏡士と共に帝国を滅したか。我が主よ、私は必ず見届けます。かの導師の行く末を……。
フィリップ……なんとか、無事に脱出できたね。
ナーザ礼を言わねばならんな。ケリュケイオンで脱出できなければ島の崩壊に巻き込まれるところだった。
フィリップそれは機転を利かせて皆を助けにいったガロウズたちに言ってあげて欲しい。
マーク……フィル。ゲフィオンのこと……残念だったな。
フィリップああ……彼女を救うことはできなかった。おそらく、彼女のアニマはもう完全に消滅しただろう。跡形もなく……。
マーク大丈夫か ?
フィリップああ、うん……大丈夫だよ。心配いらない。ちゃんと別れは済ませたからね。大丈夫だって……。
マーク大丈夫なら、泣くんじゃねえぞ。
フィリップんっ……泣かないよ。今は、堪えてみせる。
メルクリア浮遊島は、完全に崩壊してしもうたな……イクスたちは無事なのじゃろうか ?死の砂嵐はどうなったのじゃ…… ?
ナーザ……ここからは何もわからんな。だが、少なくともまだ世界は存続したようだ。それに、先ほどの光…… ?
バルド魔鏡通信で、イクスたちと連絡を取ってみま――! ? ナーザ様 !
? ? ?何だ…… ! ? これは――
メルクリアあ、兄上様 ! ?そのお姿…… ! !
フリーセルウォーデン様 ! ?
ウォーデン俺の肉体が、戻ったのか…… ! ?これは……どういうことだ。
バルドお二人とも、周囲を見てください…… !光が…… ! ?
ガロウズ…… ! おい、そこにいるのは……。まさか…… ! !
? ? ?ガロウズ…… ? なの ?
ガロウズ……シドニー !
シドニーガロウズ ! !
ガロウズシドニー ! ああ、シドニー。こんな奇跡が起きるなんて……。
バルド ?約束は果たしたぞ。世界の欠片――死の砂嵐の中の異物はまとめてティル・ナ・ノーグの隣に再具現化しておいた。
ウォーデン貴様、バロールか ! ?再……具現化だと ! ?
メルクリアこ、今度はなんじゃ…… ! !わらわが光っておる ! ?
ウォーデンいや、違う。光っているのはお前の持っている人工心核だ。
メルクリアチーグルとローゲの…… ! ?あっ !
メルクリア光が……空に消えた ?どういうことじゃ ! あの二人はどこへ――
バロール慌てるな。あいつらは、自ら別の場所への具現化を望んでここを離れただけだ。
バロール今起きていることを察知し、新たな大地に具現化した同胞たちに状況を説明するのだそうだ。
メルクリアいったい何が起こっているのじゃ……。
ユリウス――どういうことだ ! ? 新しい衛星が発見された ! ?
ローエンこれは……確かに、ティル・ナ・ノーグに二つ目の月が出来ています !
ウォーデンまさか……バロール、貴様の仕業か ! ?
バロール集めた異物を虚無に捨て置くわけにもいかぬだろう。
バロール死の砂嵐を消すためには、一時的にでもゲフィオンのカレイドスコープで命を絶たれた存在を再具現化せねばならなかった。
バロールアイフリードの墓を基礎として、もう一つのティル・ナ・ノーグを具現化した。ダーナも二つ目の大地を維持するため、再び眠りにつくことになる。
ウォーデンバロール。俺がこの肉体に戻ったということは――今まで借りていた一人目のイクスの体はどうなった ?
バロールそれなら、俺が処分しておいた。他ならぬ本人の望みだったのでな。
ウォーデン……そうか。それで、俺の命はどれほど持つのだ ?
バロール聡い奴だな。貴様は人工心核に長く留まりすぎた。まあそれでも十年ほどは生きるだろう。精々後始末を付けておくのだな。
メルクリア! ?
バロールこれが命を弄んだ代償だ、皇女よ。
フリーセル命を弄んだ代償だというのならグラスティンはどうなった ! ?デミトリアスは――
バロールデミトリアスは時の力に飲み込まれ存在を消失することになった。
バロールグラスティンは、貴様が望んだようになったと言えばわかる筈だろう。
フリーセルそう……か……。サレの仕掛けは発動したんだな……。
バロール……ダーナが呼んでいる。さらばだ、揺り籠の命たちよ。
バルド…………。
ウォーデンバルド、お前か ?
バルド……はい。バロールの意識はもう感じられません。彼の言った通り、本当に最後だったようですね。
ウォーデンそうか……。
バルドウォーデン様……。
メルクリア兄上様…… !
ウォーデンまだ時間は残されている。せめてその間に、俺は俺の為すべき事をせねばな。
ウォーデンバロールの言うことが事実ならゲフィオンの死の砂嵐によって滅びた世界が新しい月となって具現化したことになる。
ウォーデン今度こそ……あの世界を滅ぼさぬよう俺は全ての命を使うつもりだ。
イクス1st……ん ? ここは、どこだ ?
イクス1stおーい、バロール ?てっきり死んだつもりだったんだけどな。
? ? ?その声……イクス ?イクスなの…… ! ?
イクス1st…………ミリーナ !これは……どういうことだ ?
ダーナ私たちからの、せめてもの餞別です。イクス・ネーヴェ。そして、ミリーナ・ヴァイス。
ダーナ最期の時くらいは……あなたたちに話す時間を与えても許されるでしょう。
イクス1st女神ダーナ……ありがとう。この上ない贈り物だよ。
イクス1st……久しぶり、ミリーナ。
ゲフィオン……イクス。やっと、また会えたのね。
イクス1stああ。最期にこうして会えてよかった。……これで、俺たちの役目も終わりだな。
ゲフィオンええ……そうね。ごめんなさい、イクス……何もかも。
イクス1stはは……驚いたよ。ミリーナがこんなに情熱的だったなんて。
イクス1st確かに……許されないことだったと思う。世界中がミリーナを非難するだろう。でも――
イクス1st俺のミリーナへの気持ちは変わらないよ。先に逝ってしまってごめんな。今度は……一緒だ。
ゲフィオンええ、そうね……。行きましょう、イクス。
イクス1stああ、ミリーナ。ありがとう――
アルフェンふぅ……危なかったな。全員、無事か ?
カイルあいたたた……うん。勢いで足をぶつけちゃったけど、なんとか。
シングみんなも大丈夫そうだね。さっきはびっくりしたよ。
セネルいつの間にか、マクスウェルが俺たちをここに転送してくれたんだな。ここは――
ルドガー精霊の封印地、かな ?見たところ、世界の崩壊も起こってはいないし……ちゃんと世界は守れたわけだな。
イクスああ。これで、全部終わった……んだよな。まだ、実感が湧かないな……。
ユーリそりゃ、何も終わっちゃいねえからだろ。世界の復興、これからの生き方――まだまだ考えることは山ほどあるぜ。
イクス……確かに、そうだな。何もかも、これからだ。むしろ、やっと始められるんだよな。
ジュードでも、今日ぐらいは休んでいいんじゃない ?ずっと辛い戦い続きだったんだから。
ミラ=マクスウェルああ。休息を取ってから、また始めればいい。焦ることは何もない。
クレスその時は、僕たちもまたいくらでも手を貸すよ。
イクスありがとう、みんな。…………。
カイウスん ? どうしたんだよ、イクス ?
イクス……カーリャは、まだ戻って来ないんだな。
エミルそうだね……。周りを捜してみたけどやっぱり、見つからなかったよ。ごめん……。
コーキスパイセン……。
ミリーナ……大丈夫。約束したもの。絶対に、帰ってくるって。
ミリーナだから、だから……。
イクス……ミリーナ。
ミリーナ慰めてくれなくても大丈夫よ、イクス。私……。
イクス違う、ミリーナ。あそこを見るんだ !湖の中心に――
ミリーナ……え ?
? ? ?ミリーーーナさまぁぁぁぁぁっ ! !
ミリーナカーリャ ! !
カーリャうわぁぁーん ! ミリーナさま !ミリーナさまぁ ! カーリャ、帰ってきましたよぅ~ !
ミリーナよかった……ぐすっ。おかえりなさい ! カーリャ !
コーキスパイセン…… !もうっ、心配させるなよな !
イクスカーリャ、言葉通りに戻ってきてくれたんだな。
カーリャえへへ……。
アスベルイクスとミリーナが心を重ねたおかげだな。
カーリャですね。イクスさまって、なんか冴えない人だなーって思ってましたけど、カーリャの見る目がなかっただけみたいです。
イクスひ、酷いなあ……。
コーキスやっとマスターの良さがわかるなんてパイセンもまだまだだな。
カーリャむっ ! その言い方、カーリャを馬鹿にしてますね ! ?偉大な先輩に対して失礼ですよ !
カーリャ・Nふふ……。何事もなく戻ってきてくれて本当によかったです。
コーキス――あっ ! そうだ、パイセンを危ない目に遭わせたこと、バロールの奴に文句言ってやる !
ミリーナいいわね。私の分も伝えて欲しいわ。
コーキス……あれ ? おかしいな。全然返事がない……。
イクス……そういえば、俺もさっきからずっと最初のイクスさんの声が聞こえないんだ。
イクスいや、この感じ……もう、どこにも気配がない。俺の中から、完全に消えてしまったみたいだ。
コーキス……バロールも、最初のマスターもこの世界にはもういないってことなのかな ?
イクス……かもしれないな。きっと、もう俺たちを手伝う必要がなくなったと思ってくれたんだろう。
イクスあとは俺たちの力だけで何とかしろって――そういうメッセージなんだと思う。
コーキスそっか……うん、なんかやる気湧いてきた !一緒に頑張ろうぜ、マスター !
イクス……ああ。
コーキスん ? どうしたんだよ、マスター ?俺の顔じっと見て。
イクスいや、今更だけど……そういえば、まだちゃんと言ってなかったな、と思ってさ。
コーキス…… ?
イクスおかえり、コーキス。
コーキス! ……ああ !
コーキスただいま、マスター。
カーリャふふっ、長い反抗期でしたねぇ。
イクス……そうだ。ミリーナ、ちょっといいかな。その……話したいことがあるんだ。
ミリーナ私 ? ええ、いいけど――
リッドあー、オレたちはこの辺で行くとするか。
ベルベットそうみたいね。行きましょう。邪魔する気はないから。
ルカあ、僕もイリアたちと連絡を取らなきゃ…… !イクス、また後でね。
コーキス? なんで、みんな急に帰るんだ ?
カーリャいいから、コーキスもこっちに !
カーリャ・Nええ、私たちと一緒に来てください。
コーキスわ、わかったから引っ張るなよ…… !なんだ、なんだ ?
イクス……みんなに、変な気を遣わせちゃったかな。
ミリーナそれで、イクス――私に話、って ?
イクスうん。今までのことと、これからのこと。俺の気持ちをミリーナに伝えたいんだ。
イクス心を重ね合わせたとき、色んな感情が伝わってきたよ。ミリーナの喜びや悲しみ……怒りも。
ミリーナ……私もよ、イクス。あなたの絶望や希望、それに私への……感情も。
イクス俺……ミリーナを信頼してるよ。支えていきたいと思ってる。嘘偽りのない感情だよ。
ミリーナええ、知ってるわ。ちゃんと感じたもの。それがイクスの私に対する気持ちなんだって。
イクス俺は……やっぱり、イクスさんとは違う人間だ。ミリーナも、ゲフィオンじゃない。
イクス今の気持ちだって、永遠じゃない。きっと変わっていく。もっと俺たちらしく。心を重ねなくても重なっていけるよ。
ミリーナイクス……。
イクス……もう過去の俺たちに囚われたりしない。だから――
イクス過去の自分たちとは違う関係をこれから新しく築いていきませんか。
ミリーナ――ええ、イクス。喜んで。
キャラクター1話【Ep1-1 アジト】
イクスデミトリアス帝との戦いから一週間。俺たちは帝国の崩壊という現実に立ち向かうため必死に動き続けていた。
クレス――こんなところかな。アセリア領に関する報告は以上だ。
イクスありがとう、クレス。また何かあったら教えてくれ。
ミリーナまだ帝国の兵士たちは動きを止めていないのね。
イクスああ。ハロルドさんも言ってたけど、今の帝国兵の殆どはレプリカ兵で、帝国を守るという刷り込みだけが行われている状態だから、降伏って考えがないんだよ。
ミリーナなんとか刷り込みから解放してあげて一人の人間として生きていけるようにしないとね。
カーリャただいま戻りましたー !
コーキスマスター、ミリーナ様 !今のところ浮遊島には異常なかったぞ。
ミリーナお疲れ様、カーリャ、コーキス。みんな、疲れたでしょう ?少し休憩しましょうよ。
イクスありがとう。確かにちょっと疲れたかな。けど、俺はもう少しだけ……。
コーキス無理すんなって。一息入れようぜ。
イクス……わかったよ。けど、すぐに仕事に戻るぞ ?やりたいことが山積みなんだ。
イクス各領地の戦況も知りたいし浮遊島の警備体制も見直さないといけないし……。
カーリャ鏡映点のほとんどが地上に降りちゃってますからね。みなさん、お忙しいようでなかなか戻ってこられないですし。
ミリーナいずれ、この浮遊島を離れてそれぞれの土地に移る人も多くなると思うわ。このアジトも、どうするか決めないといけないわね。
カーリャ寂しくなりますねぇ……。
コーキスパイセン、元気出せよ。前に話したヴァン様のたまご丼作ってもらえるように、俺が話つけてやるからさ !
カーリャ噂に聞くあの…… !いやいや、食欲で寂しさを誤魔化せると思ったら大間違いです ! でもお願いします !
イクスそれは、戦況が落ち着いてからにしてくれよ ?今はたまご丼作ってくれなんて連絡しづらいからさ……。
コーキスわ、わかってるって。今だって、みんな大変なんだろ ?
イクスああ。さっきもクレスから連絡が来たところだ。残党の兵士はまだ多いけど領内の鎮圧は計画通り進んでるってさ。
カーリャさすがクレスさまたちです。他の領地はどうなってるんでしょうね。
イクスそっちも報告が来てるよ。各領とも、帝国の影響下から脱しつつあるそうだ。
イクスやっぱりアセリア領を筆頭にした五領の蜂起がいい切っ掛けになったみたいだな。
イクスとはいえ、解放した各領地をこれからどんな風にまとめていくか……。まだまだ問題は山積みだよ。時間がいくらあっても足りない。
コーキス時間、か……。
二人…………。
カーリャやっぱり、このまま『時間』は止まっていた方が……。
ミリーナカーリャ。
カーリャわかってます ! けど……。
イクスなあ、カーリャ。帝国を倒したことでクロノスの力で停止していた時間がやっと動かせるようになったんだぞ ?
イクスこれで鏡映点のみんなも『俺』もこの世界の人と同じ時の中で年を重ねることができるんだ。
イクスどれだけ月日が経っても、何一つ変わらないままなんてやっぱり歪じゃないか。時間は動かさないと。
カーリャそれでも、イクスさまだけは鏡映点のみなさんと条件が違うじゃないですか。
カーリャゲフィオンさまと魔鏡結晶の中にいた時にイクスさまは時間が操作されたって聞きましたよ。
イクスああ。ゲフィオンは俺とイクスさんの年齢のズレを無意識に修正しようとしたらしいな。それだけ、イクスさんへの思いが強かったんだ……。
ミリーナええ。私とイクスの記憶を重ねたことで状況がよくわかったわ。
ミリーナそれが……どれだけイクスの『時間』に負荷をかけてしまったかということも。
カーリャそうですよ ! このままじゃイクスさまの体は無理やり進められた時間経過と、正常に戻ろうとする時の流れに耐え切れなくなって……。
イクス崩壊するかもしれない、だろ ?
イクスわかってるよ。止まっていた時間を一気に戻さずに数年かけて少しづつ進めたほうがいいってフィルさんも言ってた。
ミリーナ私も、負荷の緩和策がないかゲフィオンの記憶から情報を集めているわ。それはカーリャも知ってるでしょう ?
カーリャはい……。でも、考え出すと不安になっちゃうんです。ミリーナさまや、イクスさまや、コーキスがいてそれが普通になればなるほど……。
イクスありがとな、カーリャ。でも昔と逆だな。心配するのは俺の仕事みたいなものだったのにさ。
コーキス――あー、もう、ほら !また仕事の話になってるぞ !
イクスあっ、悪い。そういえば一息入れようって言ってたんだったな。
コーキス俺がお茶淹れるよ ! あっちにいる時はバルドやメルクリアと淹れてたんだ。期待していいぜ、マスター !
イクス嬉しいな。コーキスのお茶、楽しみだ。
コーキス(マスター、顔色悪いな……。最近疲れ気味だし……)
イクスどうした ?
コーキスいや、なんでもない。ほら、ミリーナ様もパイセンも、休憩、休憩 !

キャラクター2話【Ep1-2 ケリュケイオン1】
カーリャ・N失礼します。
ファントム……また、あなたですか。
カーリャ・N起きていましたか。調子はどうです ?
ファントムまあまあですよ。
カーリャ・Nふふっ。「問題ない」と言わなくなっただけ素直になりましたね。その調子なら、今日はゆっくり話せそうです。
ファントム聞きますよ。逃げられそうにありませんし。
カーリャ・Nあなたに改めて伝えたかったんです。
カーリャ・Nゲフィオン様を守ってくださりありがとうございました。
ファントム…………。
カーリャ・Nあなたは命がけで、ゲフィオン様を自分の仮想鏡界に取り込んでくれました。
カーリャ・Nそのお陰で、私もフィリップ様も最後に言葉を交わすことができたんです。
ファントム……全部、終わりましたね。
カーリャ・Nええ。終わりを見届けたいというあなたの願いは叶いましたか ?
ファントムどうでしょう。ただ、すっきりはしました。これで私には何もなくなった。
ファントム何も……。
カーリャ・N……一つ、提案があります。
カーリャ・N私と一緒に、新しい月に――もう一つのティル・ナ・ノーグに行きませんか ?
ファントム
カーリャ・Nあの場所には、私たちと同じ時代を生き私たちが関わった罪に苦しめられた当時の人々がいる筈です。
カーリャ・Nバロールの命の炎によって甦った人々が。
カーリャ・N私は向こうのセールンドでその人々を助けたいと思っています。力を貸してくれませんか ?
ファントム月とは……。あなたには、こちらの世界に帰る場所があるでしょう。
カーリャ・Nええ。ですがそこにはちゃんと『カーリャ』がいます。
ファントム……フィルにマークがいるように ?
カーリャ・Nええ。あの方たちに任せればこの世界はきっと良い方向へ歩み出すでしょう。
カーリャ・Nならば私は、ゲフィオン様への怨嗟が残るあの月でその後始末をしたい。
カーリャ・Nそれが、憎しみや悲しみに包まれた戦乱の時代を知りなおかつ歩むべき未来を垣間見た者の役目ではないかと思うのです。
ファントム憎しみと悲しみを知る者ですか。では、私たちなら適任だ。
カーリャ・Nええ。ですから誘っています。
ファントム嫌だと言ったら ?
カーリャ・Nそうですね。いっそ、さらってしまいましょうか。フィリップ様の許可が下りればですが。
ファントムでは、さらわれてしまいましょう。
カーリャ・N……いいのですか ?
ファントム望むところです。
カーリャ・Nありがとう、リーパ。
マーク……パイセン。リーパと随分話し込んでるな。
フィリップフフ、気になるのかい ?
マーク別にそういうわけじゃねーよ。パイセンなら、後でちゃんと俺に話してくれる筈だし。
フィリップそうだった。二人とも、秘密の話まで共有するぐらい仲良しだったよね。
マーク……まあな。そういや、フリーセルはどうした ?何か話があったんだろう ?
フィリップさっきケリュケイオンを降りたよ。ナーザ将軍……いや、ウォーデン殿下への伝言を預けたんだ。
マークああ……。アスガルド帝国崩壊後の世界についてってやつか。
フィリップそうさ。本当はウォーデン殿下本人と話したかったんだけど、彼らもすぐに船を降りてしまっただろう ?
フィリップだからフリーセルに託したんだ。
マーク構想はあるのか ?
フィリップまあね。独裁的な一国家として全体をまとめるよりそれぞれの領地が国として機能できればそれが一番じゃないかと思ってるんだ。
マークなるほどね。色んな世界から具現化されてるしエンコード済みとはいえ人種も文化もバラバラだ。その辺は出身の鏡映点に任せるのがベストなのかもな。
フィリップその上で、これまでの統一感を失わないようにアスガルド連邦国――なんてどうかなって思ってるんだけど。
マークいいじゃねえか !言い出したからには投げ出させねえぞ。ちゃんと樹立まで働いてもらうからな。
フィリップわ、わかってるよ。救世軍のことも何とかしないといけないし。ゆくゆくは解散することになるけれど……。
マークああ。それでもまだ数年、この組織は維持しねえとな。紛争はしばらく続くはずだ。各領をまたいで対処できる組織は必要だろう。
マーク……ん ? コーキスから ?
コーキスマーク、フィル様に相談があるんだ。そっち行っていいか ?
マークよお、どうしたコーキス。また家出か ?
コーキスんな訳ねーだろ ! 俺はもう決めてるんだ。マスターを丸ごと全部抱え込んで守るってな。
フィリップ頼もしいね。それで、僕に相談があるんだって ?
コーキスあ、うん。ええと……フィル様はマスターの『時間』の話、聞いてるよな ?
フィリップああ。こちらでもミリーナと情報共有しながら今後の時間の進め方を研究している。何かあったかい ?
コーキス最近マスターの顔色が悪くてさ。ここ数日は特に疲れやすくなってる気がする。
コーキスミリーナ様も気づいているみたいだけど何も言わないんだ。きっと下手に騒いで俺たちの不安をあおりたくないんだと思う。
コーキス俺もなるべく普通にしようとは思うんだけど何かマスターの体に影響が出てるんじゃないかと思って心配でさ。
フィリップイクスの時間……か。だったら、エルレインに会ってみるかい ?
コーキスエルレイン様 ? なんで ?
フィリップ彼女の中には時の精霊クロノスがいる。そう簡単に精霊と話せるわけじゃないけれど試してみる価値はあるはずだ。
コーキスやるよ ! エルレイン様はどこだ ! ?
フィリップちょうどケリュケイオンに乗ってるよ。救世軍の地上部隊について話をしたばかりだ。
マークよし、待ってろ。今、呼び出してみる。

キャラクター3話【Ep1-3 ケリュケイオン2】
エルレイン――わかりました。では、私の意識を深く沈めてクロノスに届きやすくしてみましょう。
マーク助かるぜ。さすが聖女様だ。
エルレインこれも救済と思えばこそ。ただし、成功するか否かは保証しかねます。あなたの呼びかけ次第と思いなさい。
コーキスはい、お願いします !
エルレイン始めます。……………………。
コーキスええと……、クロノス、出てきて欲しい。クロノス、聞こえるか ?
クロノス……聞こえている。
コーキス早っ ! こんな簡単に ! ?
クロノス簡単ではない。この体の主が、我の出現を強く願った故。負担もあるだろうから、手短にしてやりたい。
コーキスエルレイン様……。
クロノス鏡精よ、事情は察している。イクスの時間のことであろう。
コーキスああ。実際、今はどんな状況なんだ ?
クロノス魔導砲によって分かたれた我の分霊を鏡映点たちが集めているのは知っているな。
クロノスその分霊が全て戻った時に、再び時の流れを緩やかに動かす。鏡士たちもそのように事を運ぶ算段をつけているはずだ。
フィリップええ。あなたが力を取り戻しエルレインから離れることができたらそう願うつもりでした。
コーキスそれで、マスターはどうなる ? 大丈夫なのか ?
クロノス我にもわからぬ。
コーキスわからないって、そりゃねえよ !マスター、調子悪そうなんだ。今も何か影響してるんじゃないのか ! ?
クロノスあの者の不調は、数多の理由が重なった故だ。
クロノスゲフィオンの干渉で時を急激に早められ心核にはバロール、そしてもう一人の己を宿していた。本人の思う以上に、体も心も疲弊している。
コーキスマスター……。
クロノス時間経過による崩壊はともかくとしてまずはオリジンの元で治療するといいだろう。
フィリップとなると、オリジンを呼び出さないといけないのか。クラトスさんに連絡してみよう。
クロノスいや、オリジンを呼び出したいのならスレイの方が適任かもしれぬ。
コーキススレイ様 ?
クロノスこの世界のオリジンは、ヘルダルフの一件以降スレイに一目置いている。故に声も届きやすい。
クロノスあの者が使う【神依】を利用すればエルレインのように苦しませることもないだろう。
クロノスクラトスは存在そのものがオリジンを封じる檻でもある。檻を解き放つ時までいたずらに刺激せぬ方がよかろう。
エルレイン…………っ。
クロノスそろそろ体を返す頃合いだ。
コーキスありがとう、クロノス ! オリジンに会ってみるよ。
エルレイン……話は、できたようですね。
コーキスありがとう、エルレイン様 !無理させてごめん。
エルレイン為すべきことを為したまで。……っ。
マークっと、危ねぇ。
フィリップエルレイン、少し休んでいるといい。
カーリャ・Nでは、私が部屋へお連れします。
コーキスパイセンのパイセン !
カーリャ・Nあなたたち、スレイ様をお迎えに行くのでしょう ?その後はイクス様のところへ ?
マーク聞いてたのか。
カーリャ・Nええ。エルレイン様を部屋へお連れしたら私もあなたたちと一緒に行きます。
コーキスケリュケイオンでの用事はもういいのか ?
カーリャ・Nはい。話はつきましたので。それに、気になることはきちんと解消しておきたいんです。
マークわかった。フィル、後を頼むな。パイセンもコーキスも、降りる準備しとけよ。
スレイ――っていうわけで来たんだ。
イクス……コーキス、お前それで出かけてたのか。
コーキスうん。ちょっとフィル様に相談したらトントン拍子にこうなった。
イクス心配させてたんだな……。ごめん。
マーク鏡精としては「ありがとう」って言って欲しいところだぜ ?
カーリャ・Nええ。申し訳なさそうにされると心苦しいです。マスターの笑顔が見たくてやっているのですから。
カーリャ鏡精の心、マスター知らずですねぇ。
コーキスおおっ ! 言いたいこと全部言ってくれた !
イクスそうか……。ありがとう、コーキス。
ミリーナイクス、オリジンに会ってみましょうよ。
イクスああ。スレイ、頼む。でも、何かあったらすぐやめてくれよ ?
スレイ大丈夫。神依のような感覚でやればきっと………………。
オリジン……イクス、バロールの子孫よ。
イクスオリジン !
オリジンその気配……、随分とバロールに近づいたな。
イクス! !
オリジン案ずるな。悪いことではない。それだけお前の力が強まったということだ。
オリジン時の流れの負荷も懸念しているようだが心核の力さえ回復すれば体の負担は耐えられるだろう。
コーキス本当か ! ? やったな、マスター !
オリジンだが、憂慮すべき点もある。イクスの力の強さに、鏡精が追い付いていない。
コーキス俺が…… ?
オリジンマスターと鏡精の強い繋がりにおいての僅かな相違と言うべきか。
オリジンイクスに告げていないことがあるのではないか ?
コーキス…………。
イクスコーキス…… ?
コーキス……うん、考えていることはある。もっとゆっくり話して、それからって思ってたけどそれが原因なら……言うよ。
コーキスマスター、俺を切り離して欲しい。
イクスえ……なんで……。
コーキス俺だって、ずっとマスターと繋がっていたいよ。繋がっていると嬉しいし安心する。助けられることだって沢山ある。
コーキスけどさ、マスターに何か起きた時に……たとえば俺を具現化している力もなくなったら俺に何ができる ?
マーク…………。
コーキス消えてしまったら、俺は何もできない。マスターを助けられない。
コーキスもし、ネヴァンパイセンみたいに切り離されていればマスターに何かあっても動けるんじゃないか ?
カーリャ・N…………。
コーキス俺はさ、一人の人間としてマスターをずっと守りたい。
コーキス……そう、思うようになった。
イクス……ごめん。何て言っていいかわからない……。
コーキスだよな。俺もこんな風に打ち明けるとは思わなかった。でも、マスターの命に関わる話になったからさ。
コーキスこれが今の俺の、正直な気持ちなんだ。マスター。
イクスコーキス……俺は………。
to be continued
キャラクター1話【Ep2-1 セールンド城1】
ウォーデン……母上に祈っていたのか。
メルクリア兄上様 !
メルクリアはい。せっかくセールンド城に戻って参りました故……。
ウォーデンそうか……。母上も喜ぶだろう。
メルクリア兄上様は何故こちらに ?
ウォーデンこの者が母上に挨拶をしたいと申してな。
フリーセルメルクリア様。祈りを妨げてしまいまして申し訳ございません。
メルクリアそなたは……フリーセルであったな。
ウォーデンこの者はビフレストがセールンドに送り込んだ間者だ。戦後は母上の手足となって動いていたらしい。
フリーセル正確には……一人目の私が、ということになります。私はサレの命令によって具現化された存在ですから。
メルクリア過去からの具現化……。そなたもジュニアたちと同じ立場なのじゃな。
フリーセル私はグラスティンへの嫌がらせのために作り出された存在です。彼らよりもっと空虚だ。
ウォーデンだから、母上の言葉を実行しようとしたのか ?
フリーセル……そうですね。そうだったのかも知れません。
フリーセル私は自分の無意味さを埋めるために一人目が果たせなかった皇后陛下の遺言を果たしたかったのでしょう。
メルクリア今もそうなのか ?あのミリーナ・ヴァイスを討つつもりか ?
フリーセル……本日は、皇后陛下に謝罪するために参りました。ビフレストを滅ぼした魔女を討ち取れなかったこととこの先も本懐を遂げることは叶わぬことを。
メルクリア
ウォーデンこの者はビクエから俺への伝言を持ってきた。帝国が崩壊したこの地をまとめるための草案と共にな。
メルクリア伝言……でございますか ?
ウォーデンビフレスト皇国と和平交渉を持ちたいそうだ。
メルクリア和平交渉…… ?
ウォーデンあの月にあるビフレスト皇国だ。あそこにはカレイドスコープで滅ぶ前のビフレスト皇国がまだ存在している。
ウォーデンいや、ビフレストだけではない。他の小国もセールンドも存在している。その全てと和平を結ぶつもりなのだろう。
ウォーデンビクエは俺が新しい月へ移住することを確信しているようだな。
メルクリア新しい月……。あの空に浮かぶもう一つのティル・ナ・ノーグですね。
ウォーデンそうだ。俺に残された時間は多くはない。
ウォーデン未来を生きるもののためになるべく早く道筋を付けたいと考えていたがビクエも同じであったようだ。
フリーセル恐れながら、私もウォーデン殿下にお力添えしたいと考えております。
フリーセル先程、ドンナー卿からの魔鏡通信が届きました。彼の地では、カレイドスコープで命を落とした者たちが甦りを果たし、混乱に陥っているそうです。
フリーセルドンナー卿らが事態を収めようとしておられるそうですが、セールンドのものはビフレストの民の言葉に中々耳を貸そうとはしないとか。
フリーセル私もセールンドで長く暮らした身。
フリーセル――いえ、それも一人目の記憶ではありますが。しかし他のビフレストの方々よりは、セールンドの民の気持ちがわかるのではないかと思うのです。
メルクリアそなた……まさかセールンドの民として月に渡ると言うのか ! ?
フリーセル私が真実セールンドの民であるかといえば……それは違いますが……。
フリーセル彼の地で再びセールンドとビフレストが――いえその他の国々も、皆、争いを起こさぬよう尽力したいのです。
メルクリアそうか……。そなたは母上様の呪いから解き放たれたのじゃな……。
ウォーデンメルクリア。先程、ジュニアたちが城に入った。会ってくるといい。
メルクリアジュニアが ! ?では、行って参りまする !
ウォーデンフリーセル。本当にいいのか ?王を失った彼の地のセールンドはますます荒れる。
ウォーデン貴様の正体が発覚すれば命を落とすことにもなりかねない。
フリーセル命を落とすつもりはございませんが覚悟はしています。それにあちらにも、腕のいい魔鏡技師は必要でしょう。
ウォーデンそうか。ならば力を貸してくれ。『友』との誓いを果たすためにも彼の地を平和に導かねばならぬからな。
フリーセル友……ですか ?
ウォーデンフッ……。勝手に友を名乗る面倒な男がいてな。色々と面倒事を押しつけられたのだ。

キャラクター2話【Ep2-2 セールンド城2】
ナーザ! ? 誰だ !
イクス1stあ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ?
ナーザなっ、まさかお前は…… !
イクス1st俺はイクス・ネーヴェ。この体の本当の持ち主だ。初めましてだな。ナーザ将軍――ウォーデン・ロート・ニーベルング。
ナーザ体を取り戻しに来たか。
イクス1stいや、もう戻れないのは知っているだろ。俺を殺して、体だけを残しておいたんだから。
ナーザならば何故ここにいる。
イクス1stやっぱり元々いた体だからなのかな。何故か引き寄せられちゃって。
ナーザ【ギエラ・ビフレスト】のせいでアニマが引き寄せられたか……。
イクス1stけど、丁度よかったよ。きみと話がしたいと思ってたんだよね。
ナーザ何を話すというのだ。
イクス1st俺を殺した理由だよ、皇太子殿。
ナーザ死者から自らの死の理由を尋ねられるとはな。今更それを知ったところで何が変わる訳でもなかろう。
イクス1st驚いたな。恥じてるのか。
ナーザ何 ?
イクス1st言葉通りだよ。俺を殺したことを恥じている――もしくは悔いているのかな ?
ナーザ恥などとは思わぬ。バロールの血族を鏡士にしてはならぬというのが古からの取り決めだ。
イクス1stああ……そうか。『戦争になることを承知で』俺を殺したことを悔いているのか。
ナーザ………… !
イクス1stそれは悔いるべきだな。
イクス1stというか、殺す前にこっそり話してみようとか思わなかったのか ? どうして禁忌を破ってまで鏡士になろうとしたのかって。
ナーザそんな必要はない。理由が何であれバロールの血族が鏡精を作る可能性のある鏡士になることは認められぬ。
ナーザかつてオーデンセが我が国の領土であった頃からそれは変わらない。
ナーザ人が定めた法ならば見直すこともできようがこれは神の定めた法だ。
イクス1stその神様も、元は人間だったけどね。
ナーザ何が言いたい。
イクス1st俺たちは似たもの同士だってことかな。
イクス1st俺は俺の力でセールンドの鏡士の在り方を変えられると思っていた。きみはきみのやり方でセールンドの鏡士の在り方を変えられると思っていた。
イクス1st独善的だったんだろうね。少し立ち止まってみればよかったんだ。俺たちは自分を過信し過ぎたんだよ。
ナーザ……それで ? 俺に謝罪しろとでも言うのか ?
イクス1st謝罪なんていらないけど、そうだなあ……。
イクス1stとりあえず、友達になるってのはどうかな ?
ナーザな……何…… ?
イクス1st俺を殺したんだ。憐れな死者の願い事ぐらい叶えてくれてもいいだろう ?
ナーザ馬鹿なことを……。
イクス1stそうかな。まあ、順序は逆になるけど、きみは『友達』を大義のために殺したことになる。
イクス1stその大義が本当に正しかったのかどうかきみはこれから『この顔』を見る度に自問自答する。
イクス1stそしてこう思う。『この顔』の持ち主のように広く仲間の知恵を借りる人間でありたい……ってね。
ナーザそれは三人目のことか。
イクス1stああ。俺はあいつを買ってるんだ。
イクス1st体を貸してるよしみで、イクスのことを頼むよ。あいつは俺たちとは違う。違う道を切り開ける思慮深い男だ。
ナーザ……そう、かもしれぬな。
イクス1stさすが皇太子殿、話がわかるな。
イクス1stじゃあ、これから俺たちは『友達』だ。友達なら、体を使われても仕方ない。そこは目を瞑っておくよ。
ナーザ待て。三人目のイクス・ネーヴェが本当に世界の為になるのならば協力は惜しまぬと約束してもいい。
ナーザだが、少しでも毒になるのであれば、俺は――
イクス1st――おっと、その前に鏡を見てくれよ。誰よりも自分が自分の大義を疑うんだ。これは友達としての忠告だよ。
ウォーデン(イクス・ネーヴェはこの記憶を見たのだろうか。それとも――)

キャラクター3話【Ep2-3 セールンド城3】
マークⅡどうした、フィル。疲れたか ?
ジュニアうん……少しね。
バルドそれはそうでしょう。ようやく仮想鏡界の整理が終わりセールンド城へ着いたところで月からの魔鏡通信らしき反応を感知したのですから。
マークⅡ宇宙からの通信を何とか聞こえるような形に安定させるのに、結構な力を使っちまったからな。
バルドしかし……バロールは本当にカレイドスコープで命を落とした人々を甦らせたのですね。
マークⅡ暗い顔だな。故郷が甦ったってのに。
バルドこれからが大変です。
バルドカレイドスコープで命を落とした者が甦ったということは、それ以外の死因の者は存在していないのでしょう。
バルドとなれば、あちらのセールンドには王族がいない筈ですし、政変が起きる可能性もあります。各国の対立感情も頭の痛いところだ。
バルドこの状態でウォーデン様が月へ向かうのは危険でしょうしね。
ジュニアでもナーザ……じゃなかった、ウォーデン様は一刻も早く月に行きたいって言ってましたよね。
バルドご自身の命の期限を気にしておいでなのでしょう。せめて、最初は私が彼の地の様子をこの目で見てから――
メルクリアジュニアが帰ったとはまことか ! ?
ジュニアメルクリア ! うん、ただいま !
メルクリアうむ。仮想鏡界の始末、ご苦労であったな。マークもよくジュニアを支えてくれた。
メルクリア……ん ? ヴァンたちはどうした ?
ジュニアオールドラント領に向かったよ。落ち着く場所を見つけたら連絡をくれるって。
メルクリアそう……か……。そうじゃな。もう帝国は事実上崩壊した。あの者たちも我らと共に来る必要などないしな……。
マークⅡ何だよ、姫さん。そんな悲しい顔するなって。俺とフィルだけじゃ不服か ?
メルクリアさようなことはないが、おぬしらともいずれは離ればなれになるではないか……。
ジュニアえ ? どうして ?
メルクリアわらわたちは、いずれ新しき月へ向かうことになる。そうなればそなたたちともお別れじゃ。
ジュニア僕たち、一緒に行ったら駄目なの ?
メルクリア! ?
バルドメルクリア様、ジュニアとマークも共に月へ行きたいと申し出てくれているのですよ。
メルクリアな……何故じゃ…… ?ここにはそなたたちの知己もおろうが……。
ジュニアそれはもちろんそうだけど、僕にとってはメルクリアたちも大事な仲間だよ。
マークⅡうちのご主人様はさ、新しい月とここを繋ぐゲートを作りたいって考えてるんだよ。
メルクリアゲート……とな ?
ジュニアうん。転送魔鏡陣のようなものを魔鏡機器として設置出来れば、向こうとの行き来が楽になるでしょう ?
ジュニアその為には向こうの状況も確認する必要があるからね。リヒターさんとアステルさんも協力してくれるって。
メルクリアリヒターたちが !なんと……それは心強い……。
ジュニアそれよりメルクリアバルバトスにやられた傷は大丈夫 ?
メルクリアうむ……。傷は治癒術でふさがっておるがまだ奥がじくじくと痛むのじゃ。
メルクリア自業自得ではあるのじゃが、わらわも殺される訳にはいかぬからな。早く傷を癒やしていつでも動けるようにしておかねば。
バルド大丈夫ですよ、メルクリア様。御身はこのバルドが必ずお守り致します。
マークⅡまあ、いざとなれば色々逃げようもあるしな。ところで勝手にこの城を占拠していいのか ?
バルドいえ、いつまでもという訳にはいかないでしょうね。いずれはどこかの街に屋敷を構えるかあるいは浮遊島をお借りするという手も……。
メルクリア浮遊島か……。
ジュニアやっぱりいや ?
メルクリア……いや、そうではない。いずれはミリーナ・ヴァイスとしっかり向き合わねばならないと……そう思うておるだけじゃ。
ミリーナ……イクス、大丈夫かしら。
カーリャ・N随分とショックを受けておられましたからね。
マークおかしなもんだな。鏡精の方が切り離されるって聞いてショックを受けるのならまだわかるんだが。
ミリーナそうね……。イクスはコーキスを独立した存在として扱っているように感じていたからあんな風に不安そうな顔になるとは思わなかったわ。
カーリャ私たち鏡精にはよくわからないんですけど鏡精の切り離しって鏡士的にはどれぐらい負担になるんですか ?
ミリーナそうね……。鏡精の切り離し自体は難しいことじゃないのよ。
ミリーナ以前のセールンドでは、鏡精をエネルギーに変換するため、たくさんの鏡精を作る必要があったから鏡士が鏡精を忘れる術式を組み込んでいたけれど。
ミリーナそれは自ら生み出した命を殺すという心理的な負担を軽減するための措置だからコーキスの場合はそんなことをする必要もないし。
ミリーナでも――今のイクスの状態だと術式を組み込まなくても……コーキスのことを忘れてしまう可能性はゼロではないわね。
ミリーナ切り離すにしても心核が回復するのを待った方がいいと思う。
カーリャむむ……。中々大変なんですね。
カーリャ・N……ミリーナ様。よろしければミリーナ様もカーリャと一緒にお休み下さい。私とマークがコーキスの帰りを待ちますので。
ミリーナ……そうね。そうさせてもらおうかしら。
ミリーナスレイさんを送り届けるとなると帰りはかなり遅くなる筈だから二人も隙を見て休んでちょうだいね。
マークパイセン。何か話でもあるのか ?二人きりになろうとするなんて。
カーリャ・N……ええ。マークには話しておかなければいけないと思って。
マークはいはい。聞きましょう ?
カーリャ・N私は新しい月へ行きます。
マーク………………え ?
カーリャ・Nあちらはきっと混乱しているでしょう。彼らに何が起きたのか説明できる人間が必要です。私は――
マーク――嫌だっ !
カーリャ・N……マーク ?
マークファントムと何か話してやがるなと思ったらそういうことかよ。そんなの、絶対認めねえからな !
to be continued
キャラクター1話【Ep3-1 アジト1】
カーリャ・N……マーク、落ち着いてください。
マーク落ち着く ? そりゃあ、パイセンは落ち着いていられるだろうさ。いつだってそうだった。一人で何でも決めて、さっさと実行しちまう。
マークセールンド軍に入るって決めた時もゲフィオンの前から姿を消すって決めた時もイクスたちと合流するって決めた時も。
マーク今回だって !
マーク俺はいつも置いてけぼりだ。俺は世間には『作られていないことになっている』鏡精だったからな。
カーリャ・Nでもマーク、私はマークを忘れたことは一度もありませんよ。
マーク俺だってそうだよ !
カーリャ・Nもう、そんな幼体のように駄々をこねないでください。でも……あなたがそんな風に接してくるのはカーリャにだけですものね。
マーク……なあ、行くなよ、パイセン。こっちのティル・ナ・ノーグで一緒に暮らそう。
カーリャ・Nフィル様の面倒を見るのはマークの仕事でしょう。
マーク同じ家で暮らそうなんて言ってねえよ。わかってるだろ。
カーリャ・N……すぐに月に行くわけじゃありませんし戻ろうと思えばいつだって戻って来られます。マークにだっていつでも会えます。
マーク会えねえよ。俺は死ぬ。フィルの寿命が尽きたときに消えちまう。
マークパイセンと会える時間はもうほんの少ししか残ってないんだよ。
カーリャ・N鏡精は……死んだらどうなるのでしょうね。普通の人と同じように消えるのでしょうか。それとも……。
マークパイセン……――カーリャ !
カーリャ・Nねえ、マーク。カーリャはマークのことが大好きです。一番はミリーナ様ですけれどマスターを除けば一番好きなのはマークですよ。
マーク『イクス』に似てるからか ?
カーリャ・Nそれを言うなら、あなただってミリーナ様が好きでしょう ? でもそれはカーリャたちがマスターから受け継いでいるマスターの感情に過ぎません。
カーリャ・Nそれに、あなたは自分が気にしているほど最初のイクス様には似ていませんよ。
カーリャ・N似ていないから、きっとカーリャはマークのことが可愛いんです。
カーリャ・N約束しますよ、マーク。あなたが消えるときはすぐにあなたの傍へ駆けつけます。だから、あなたもカーリャが来るまで頑張りなさい。
カーリャ・Nカーリャがきっとフィル様もマークも看取ってあげますから。
マーク結局行くのかよ……。俺がこんなにかっこわりい姿を見せて頼んだのに……。
カーリャ・Nここでほだされて残るようなカーリャはマークの先輩として失格ですからね。
マーク……そうだよな。勝手じゃないカーリャは俺のパイセンじゃねえ、か。
カーリャ・Nマ、マーク ! ?どうしたんですか、急にしがみついてきて。
マーク抱きついてんだよ、馬鹿。
マーク……ちゃんと連絡くれよ ?困ったことが起きたら呼んでくれ。フィルを引きずってそっちに行くから。
マークあと、変な虫に気を付けろよ。特にビフレスト産のタチの悪い奴にはな。
カーリャ・Nビフレストにそんな怖い虫がいたでしょうか…… ?まあ、マークがそこまで言うのなら虫除けスプレーを持ち歩くようにします。
カーリャ……あれ ? ミリーナさま。休むんじゃないんですか ?
ミリーナええ……ちょっと。フィルと話がしておきたくて。まだイクスには知られたくないから今が丁度いいと思うの。
フィリップど、どうしたんだい ?ミリーナが僕を訪ねて来てくれるなんて。
フィリップあ、いや、変な意味じゃないよ。ごめん……気持ち悪いおじさんで……。
ミリーナだ、大丈夫よ、フィル。あ……私の方こそ、やっぱり節度を持ってフィリップさんって呼んだ方がいいのかしら……。
フィリップい、いいよ ! えっと……ミリーナの好きなように呼んでくれていい。それで、どうしたんだい ?
ミリーナあの……私、ゲフィオンの記憶を完全に受け継いだでしょう ?
フィリップああ……そうだね。何か気になることがあったのかな。
ミリーナええ……。あの……イクスのことなの。
ミリーナ……本当なら二人目の私が愛して守るようにゲフィオンに仕組まれていた、二人目のイクスのこと。
フィリップそれは……。
カーリャああ……そ、そうでした……。カーリャが港で挨拶したあのイクスさまは本当は二人目……。
ミリーナあのイクスが、私をアイギスの崩壊による火球から助けてくれたから、私は生きている。
ミリーナ全てが終わった今だから改めてあのイクスにお礼が言いたいの。
フィリップでも、彼はもう亡くなっているよ。
ミリーナええ。でもゲフィオンは彼の遺体を回収して荼毘に付した。セールンドに彼のお墓があるの。
二人! ?
ミリーナフィル、今度一緒にお墓参りに行って欲しいの。私の記憶が確かなら二人目はあなたが最初に具現化したイクスよね。
ミリーナ三人目のイクスは、アイギスの事故の後に急遽具現化して、海から引き上げたことにした。
ミリーナ私たち……二人目のイクスにもちゃんと謝罪して向き合わないと。
フィリップそうだね……。ああ、そうしよう。このことをイクスは……。
ミリーナ今はコーキスのことがあるから……。でもきちんと話すつもりよ。そうしたら三人で……いいえ、カーリャとコーキスとマークも一緒に。
ミリーナそれまでは私とフィルでお墓を守ってあげられたらって思うの。
フィリップ……話してくれてありがとう。そうだね、是非そうしよう。
コーキス――よし。スレイ様も送り届けたし急いで浮遊島に戻らなきゃな。
コーキスん、魔鏡通信だ。
コーキスはい――って……え ! ? 誰 ! ?
ウォーデンたわけが。ウォーデンだ。
コーキスあ、そうか、ボスか。顔が違うからうっかりしてた……。
ウォーデン少し話がある。こちらに来てもらえぬか。
コーキスえー ! ?俺、早くマスターのところに帰りたいんだけど。
ウォーデン俺もイクス・ネーヴェに用がある。
ウォーデン浮遊島に繋がる転送ゲートの位置さえ共有してもらえれば、別に貴様が来ずとも構わぬがそれでは失礼にあたろうと思ってな。
コーキスえ……。まさかボス、マスターと喧嘩するつもりじゃ……。
ウォーデン……もういい。こちらで勝手に調べて勝手に向かわせてもらおう。
コーキスわー ! ? わかったよ、迎えに行くよ !

キャラクター2話【Ep3-2 アジト2】
イクス……ん……もう朝か……。
イクス(コーキスのベッド、綺麗なままだ。まだ帰ってないのか……)
イクスはあ……。やらなきゃいけないことは山盛りなのに……。何だか力が出ないや。
イクス何なんだろう……。なんでこんなに気持ちが沈むんだ……。
イクス……ん ? 庭の方からミリーナの声がする…… ?
ミリーナ……ここのお花はね、クレアさんやマリアンさんやアミィちゃんや、主に後方支援を請け負ってくれていた皆が育てていたの。
ミリーナ小さい子たちはここに来るのが好きでね。何故かいつも一緒にアルヴィンさんまでいたけれどアルヴィンさんは心が少年だからかも知れないわね。
メルクリア……う、うむ。
カーリャいいんじゃないですかあ ?お花は大人にも子供にも平等に綺麗ですし食べられるお花は美味しいです。
イクス(どうしてメルクリアがここに…… ?)
イクスとにかく着替えてから、状況を聞かないと……。
イクスおはよう !
ウォーデン邪魔しているぞ、イクス。
イクスええ ! ? ウォーデンさん ! ?あ、いや、様 ? 殿下 ?
バルドフフ、イクスさん。落ち着いてください。こちらが勝手にお邪魔しているのです。
ウォーデンコーキスに連れて来てもらった。
イクスあ、そういえばコーキスは……。
バルドシャワーを浴びて来るそうですよ。
マークで、何故か俺が茶を出してるって訳だ。
イクスわあ ! ? ごめん、マーク !
ウォーデンこちらのマークの茶もなかなか美味い。まあ、ジュニアのマークの方がより繊細な味を出すが……。
マーク大味で悪かったな。
バルドイクスさんも目を覚まされましたしメルクリア様とミリーナさんを呼びに行きましょうか。
バルドじきにカーリャ――ネヴァンがフィリップさんを連れて来るでしょうし。
マーク悪いな。うちのご主人様は朝が苦手でね……。
バルドでしたらあなたが起こしに行けばよかったのでは……。
マークいやいや。ここにパイセンを一人残す訳にはいかないからな。
イクスな、なんか、微妙に空気が尖っているような……。
ウォーデンバルドのくだらん悪癖のせいだろう。放っておけ。
イクスそ、そうですか…… ?
イクスところでミリーナたちなら俺の部屋の近くの庭にいたんで呼んできますよ。
ミリーナ……ごめんなさい、メルクリア。
メルクリアな……っ。
ミリーナ私はゲフィオンではないわ。二人目のミリーナ・ヴァイス。
ミリーナでも……ゲフィオンの記憶は私の中にある。私のあり得た未来がゲフィオンでもある。
ミリーナ別人だと罪を切り捨てるには近すぎてでも彼女の罪は私の罪だと言い切るには遠すぎる。
メルクリアならば……何故謝るのじゃ。
ミリーナ近くて遠い私がそう望んでいて、私もそうしたいから。それから……あなたと友達になりたいから、かしら。
メルクリアわ、わらわはそんなことは望んでおらぬ !
ミリーナなら、メルクリアの気が変わるまで待つわ。いつまでも。
メルクリア………………。
メルクリア……黒衣の鏡士よ。おぬしの記憶の中には義父上のことも残っているのか。
ミリーナもちろん。
メルクリアあの者は……わらわをどう思っていたのじゃろうか。
ミリーナ魔鏡戦争の終戦を迎えて、エルダ皇后とあなたを人質として預かることになったとき、デミトリアス陛下の側近は、あなたたちを監獄に幽閉するよう進言した。
ミリーナけれど陛下は、まだ小さなあなたをそのように扱うのは不憫だと、離宮を与えるよう命じられたわ。そして成人まではご自身の娘として育てるとおっしゃった。
ミリーナもしも死の砂嵐が発生しなかったら……いいえせめてアイギスの崩壊がなければ、成人したあなたにビフレストを返還するつもりだったんじゃないかしら。
ミリーナだって……そういう方だったもの。その優しさが為政者として正しかったかはまた別の話なのでしょうけれど。
メルクリアそうか……。わらわに向けられていた優しさも……偽りではなかったのじゃな。
メルクリア……わらわには実の父の記憶がない。二つの頃にはもうセールンドにいた故、わらわにとってはデミトリアスが父親であった。
メルクリア母上様を失ってからは……世界の全てであったとも言える。故に、デミトリアスが理解できなくなったときわらわは世界を失ったように感じた。
メルクリアあれが……孤独というものだったのであろうな。
イクス(孤独……。そうだよな……。俺にもわかる気がする)
イクス(俺は三人目で、イクスさんの両親は俺の両親とは言えなくて……。俺に繋がるものはこの世界には何一つ無くて……)
イクス……繋がり……。
メルクリアミリーナよ。わらわは……――わらわもまた罪人じゃ。それに子供でもある。何故なら……わらわはまだ心からおぬしを受け入れられるとは思えぬからじゃ。
メルクリアなれど、それは他の鏡映点たちも同じであろう。リチャード、バルバトス、フレン……他にも大勢の者たちを苦しめてきた。
メルクリア故に、わらわはここで区切りを付けようと思う。我、メルクリアはこの世界に生きる者たちの良き友良き隣人となれるよう努力する。
メルクリアまずはおぬしに謝りたい。
メルクリア……今までの数々の無礼、そして非道大変申し訳ございませぬ。
ミリーナもう二度と争いにならないよう一緒に手を取り合っていきましょう、メルクリア。
イクス……あの……。そろそろいいかな。
メルクリアあ、兄上様――ではなかった……。イクスか……。
メルクリアええい、どうもその顔を見ると兄上様と呼ぶ癖がついてしまった……。
メルクリアそれにしても人が悪いの。ずっと見ておったのか。
イクスはは……。ご、ごめん……。えっと、ウォーデンさんが呼んでるよ。
メルクリアそ、そうか。
ミリーナイクス、おはよう。呼びに来てくれてありがとうね。ふふ、驚いたでしょう ?起きたらウォーデンさんたちがいて。
イクスああ。何が起きたのかと思った。
ミリーナウォーデンさんから、まだお話は聞いていないの ?
イクスえ ? 何が ?
ミリーナウォーデンさん、あなたに話があるんですってよ ?
イクス俺に…… ?

キャラクター3話【Ep3-3 アジト3】
イクスただいま帰りました。
メルクリア兄上様、お待たせ致しました。
ミリーナ……あら ? フィルはまだなの ?
マークあいつ……。起きないときはとことん起きないからな。ちょっと見てくるわ。
コーキスふー、さっぱりした !
コーキス――あ、マスター。ただいま ! おはよう !
イクスコーキス……。
コーキス……マスター。やっぱ、俺の言ったこと、まだ……。
ウォーデンコーキス。先に俺の方から話をさせてもらう。
ウォーデンイクス・ネーヴェ。今日は貴公に頼みがあって来た。しかし、その前に一つ確認したい。
ウォーデン貴公は最初のイクス・ネーヴェがこの俺と共にお前について話した会話を知っているか ?
イクスえ ? ウォーデンさんいつの間にイクスさんと話をしたんですか ?
ウォーデンなるほど……。あの者はあの場で話したことをイクスにも共有すると言っていたが……。
イクスあ……。もしかして帝都に潜入したあの時のことかな…… ?詳しいことは記憶を見てくれって言われたような……。
ウォーデンうん ? ならば何故見ていないのだ ?
イクスいや、それは……人の記憶をのぞき見しちゃいけないと思って……。
ウォーデンこの愚か者 !何か重要な伝達事項があったかも知れないではないか !
イクスえ ! ? 何かあったんですか ! ?も、もしかしてそれで致命的な問題が発生してこの世界の存続に影響が出たとか…… ?
イクスまさか、また死の砂嵐が――
ミリーナイクス、落ち着いて。そんな騒ぎだったらウォーデンさんたちもこんなにのんびりしていないと思うわ。
コーキスボス ! マスターは繊細なんだから脅すなよ !
ウォーデン……む……まさかここまで先回りして心配するタイプとは思わなかった。貴様……いや貴公は一人目とは全く違うな。
イクス(……はは、あの人に似た人がゴロゴロいたら大変だよ……。俺の一人目だけど……)
ウォーデン……だが、わかった気がする。仲間を尊重するというお前の心の在り方が。
イクスな、何を話したんですか…… ?
ウォーデン気になるなら自分であの者の記憶を見るといい。だが、そんな貴公が、何故コーキスの気持ちを察することができないのだ。
ウォーデンコーキスは貴公の鏡精――心の具現化であろう。
コーキスボス ! ?
ウォーデン余計な口出しとはわかっている。しかしコーキスの決心はそこまで貴公の心を揺らすものだったのか ?
イクス……ウォーデンさん。コーキスと話をしてもいいですか。
ウォーデン当然だ。むしろせよ。
イクスコーキス……ごめん。
コーキスえ ? それはどういう意味だ ?嫌な意味……じゃないよな。マスターから感じる感情がなんか複雑で……。
イクス俺が切り離すと、そういう俺の感情もコーキスには届かなくなる。
コーキス
イクス……でも、それが人間同士なんだよな。他人の気持ちなんて誰もわからない。わからないから、大切にしたいと思う。
イクス俺は……怖かったんだ。きっと。
ファントムな、何故私まで連れて来るのだ。
カーリャ・N当事者意識を持ってもらうためです。
フィリップみ、みんな、おまたせ……って――
マークしっ。フィル、ここは控えたほうがよさそうだぜ。
イクス俺は具現化された存在で自分であることも何度も疑い続けた……。
イクスそんな中で俺を三人目の俺だから特別だと言ってくれたミリーナがいて
イクス何人目かなんて気にしないいつも明るいカーリャがいて
イクス敵だなんて言いながらたくさん助けてくれたマークがいて
イクス俺たちの知らないゲフィオンのことを伝えてくれたネヴァンがいて
イクス俺をこの世に生み出してくれたフィルさんがいて
イクス俺はこの仲間たちがいる世界でなら俺という嘘が生きていてもいいんだって思えた。
イクスけどコーキスは違うんだ。コーキスは俺の心の具現化で嘘の存在の俺にとって唯一の真実だった。
イクス俺の家族で友達で、俺が俺である証だったから……それが失われるのが怖いと思ってしまった。
コーキス俺は消えるんじゃないぞ !ずっとずっとマスターを守るために――
イクスわかってるよ。大丈夫。これは俺の心の問題なんだ。確かに俺は自分の存在を疑ってきた。でもいつまでもその存在証明をコーキスに求めていちゃ駄目なんだ。
イクスそれを突きつけられた。
イクスだから――コーキスを切り離すよ。コーキスと生きるために。
コーキスマスター ! ! !
コーキスああ、ああ ! 俺、マスターを守る !マスターが守りたいって思ってるミリーナ様のこともカーリャパイセンのことも !
コーキス独立しても、俺はマスターの鏡精だ !
ミリーナよかった……。イクス、さすがだわ。やっぱり格好いい。
カーリャまあ、今のは中々よかったと思います。
フィリップうう……うううう……。イクス……凄いよ……なんて立派になって…… !
マークおいおい、何でお前が泣くんだよ。しかもなんで子供の成長を見守る親目線なんだよ……。
カーリャ・Nふふ、コーキスは私と同じ道を進むのですね。後輩として厳しく指導してあげますよ。
バルドイクスさん、やはりあなたは強い人ですね。私はあなたを尊敬します。私もあなたのようにありたいものです。
メルクリアかくも鏡精とマスターの繋がりは強いのじゃな……。わらわにはもう鏡精はおらぬがわらわの中のモリアンを決して忘れまいぞ。
ウォーデン……切り離しはいつ行うのだ ?
イクス俺の心の修復を待ってからになるので一ヶ月ぐらい先かなと思います。
ウォーデンならば、まだ我らはこの星にいるな。切り離しの際は立ち会わせて欲しい。
イクスはい !
コーキスその時はパーッと派手にお祝いしようぜ、マスター !
イクスええ…… ?なんか泣いちゃいそうだからやだなあ……。
フィリップうう……そうだよね……泣いてしまうよね……。
ウォーデンビクエよ……。俺は貴公にも用があったのだが……。
フィリップうう……。ご、ごめん。
フィリップ――ええっと……もう大丈夫。あの……何かな ?もしかしてフリーセルに託した手紙の件かな。
ウォーデンまあ、広義の意味ではそうなるな。ビクエ殿の提案は興味深い。同時に我らは月へ行くため様々な準備が必要だ。ビクエ殿の知識も必要になろう。
ウォーデンついては……イクスよ、月に行くまでこの浮遊島に我らビフレスト聖騎士団を受け入れてもらいたい。
ウォーデンそしてこの場を月へ向かうための拠点としてはどうかと思っているのだ。どうだろう、イクス、そしてビクエ殿。
フィリップ僕が協力できることなら何でもしますよ。ただこの場所はイクスたちの場所だから――
イクスいえ、いいと思います。鏡映点のみんなはいずれはそれぞれの大陸へ降りていくだろうからこの場所は空いてしまいますし。
イクスそれに、俺たちもきっとセールンドへ降りると思うから……だからむしろ月への拠点になるのは大歓迎です。
ウォーデン心より感謝する。バロールの血を引きし鏡士、イクス・ネーヴェよ。
バルドジュニア、マーク。交渉は上手く行きましたよ。
ジュニアわ、よかった !大きいフィルの力も借りられれば助かるよ !
マークⅡじゃあ、荷物をまとめて移動の準備をしておくわ。フリーセル、あんたも手伝ってくれ。
フリーセル承知した。
ヨウ・ビクエ……あら、皆楽しそう。私も仲間に入れて欲しいわ。
ミリーナあなたは…… !
ヨウ・ビクエごめんなさいね。フィリップに提案があって来たんだけれど凄くワクワクすることを話していたから。
ヨウ・ビクエねえ、あなたたちのこれからの悪巧み私も混ぜてもらえないかしら。
イクス相変わらずですね……。でも、もちろんかまいません。鏡士の始祖であるヨウ・ビクエが俺たちに力を貸してくれるなら、心強いですから。
コーキスなんかさ、みんなマスターのところに集まってくるな。鏡映点のみんなだって、ここを離れてもきっとまたふらっと連絡くれそうな気がするし。
ミリーナだって、イクスが最高だから当然だわ。
カーリャでた、ミリーナさまのイクスさま上げ……。
イクスはは……。これからも皆と手を取り合っていけるように俺、頑張るよ。
イクス(これからも世界には色々なことが起こるだろうけど……俺は俺という嘘を真実にすると決めたから)
ミリーナ……クス。……イクス ?
ミリーナイクス聞こえてる ?
イクス……あ、ああ。聞こえてるよ。ごめん、ちょっと考え事してた。
ミリーナ考え事 ?
イクス真実ってとても揺らぎやすいものなんだなって。あらゆるものにいくつもの真実がある。誰かの真実は誰かの嘘なのかも知れない。
イクスでも俺は自分を信じる。俺っていう嘘を真実に変えてその真実を信じてみんなと繋がっていければきっとこの先も大丈夫だって思えるんだ。
イクスみんな、これからもよろしく !