キャラクター | 1話【1-1 仮想鏡界1】 |
ジュニア | ――仮想鏡界、設置完了しました。でも本当にいいんですか ? |
ナーザ | 我らの知る情報を持ち合わせた限り帝国に鏡士はいないことは間違いない。 |
ナーザ | 鏡士がいなければ仮想鏡界を襲われる可能性は低いだろう。死鏡精もほとんど消えた。 |
バルド | はい。いま地上のどこかに隠れ家をもってそこを拠点にするというのは難しいところです。 |
バルド | 我々はどうしても遊撃的な動きしか出来ませんので拠点が足かせになってしまいます。 |
リヒター | ……バルドの言うことはもっともだ、が。 |
バルド | …… ? どうかしましたか ? |
リヒター | ジュニアもナーザも鏡士だ。メルクリアも正式ではないが、鏡士の術を学んでいる。 |
リヒター | 突然お前の声が聞こえるのも気にならないだろうが……。 |
メルクリア | いや、わらわとて驚くぞ。 |
バルド | それは……そうですよね。申し訳ありません。ですが人工心核に宿るだけの存在ですので魔鏡越しに声をお届けするので精一杯なのです。 |
ナーザ | 姿が見えていれば問題ないのか ? |
リヒター | どういう意味だ ? 何か考えでもあるのか ? |
ナーザ | 魔鏡術で幻体を作る。 |
ナーザ | 幻体の元となる魔鏡とバルドの人工心核をリンク。幻体の制御をバルドの人工心核と同期させる。 |
メルクリア | 兄上様、これは―― |
バルド | こ、この体は…… ? |
ナーザ | 単なる幻だ。声だけがどこからともなく聞こえるから驚くのだ。幻でも喋れる姿が見えていれば、気にならぬだろう。 |
コーキス | ……マジかよ…… ? |
バルド | コーキス……。やっと口を開いてくれたね。 |
コーキス | ……別に喋ることがなかっただけだし。 |
メルクリア | これが……バルドの本当の姿なのか ? |
バルド | はい……。幻体故、メルクリア様に触れることは叶いませんが、恥ずかしながらこの姿こそ生前の私の姿です。 |
リヒター | フレン……のような姿を想像していたが、違ったな。 |
バルド | 相性のいいアニマの持ち主の体でないとリビングドールにはなれません。ですから何かが……フレンさんに近かったのでしょうね。 |
バルド | 私は彼のような心の強さを持っているようには思えませんが……。 |
ナーザ | ――どうした、頭を垂れて。 |
バルド | 生前、祖国を守れず、こうして心だけが甦っても一度はウォ――ナーザ様を裏切った騎士失格の男にかような姿を与えていただけた。 |
バルド | そのお慈悲に感謝を申し上げます。 |
ナーザ | 死んでからもなお忠誠を求める程、俺は愚かではない。 |
ナーザ | それにあの時、黒衣の鏡士たちに力を貸したのはそれがお前の騎士としての生き方に恥じぬ行為だという自覚があったからだろう。 |
ナーザ | ならば、謝罪は不要だ。 |
バルド | ありがとうございます、ナーザ様。 |
マークⅡ | 仮想鏡界をざっと見て来たぞ。綻びはない。所々ビフレスト風にしてあるんだな――っとそちらさんは ? |
バルド | バルドです。マーク。 |
マークⅡ | 幻体、か。へえ……随分と優男だったんだな。 |
ナーザ | メルクリア、バルドの姿を維持するのには魔鏡に鏡士の力を常に注いでおく必要がある。この魔鏡をお前に預けておこう。 |
メルクリア | は、はい ! |
ナーザ | バルドの幻体はその魔鏡からメルクリアの力を感じ取れる位置までは自由に動ける。 |
マークⅡ | 鏡精みたいなモンってことか。マスターから離れすぎると消えちまう。 |
コーキス | ………………。 |
マークⅡ | ん ? どうした、コーキス。もうホームシックか ? |
コーキス | ち、違う ! |
マークⅡ | そうかあ ? ま、切り離されもしないのにマスターのところを飛び出す鏡精なんて前代未聞だからな。 |
ジュニア | マーク。コーキスをいじめないでよ。 |
マークⅡ | はいはい。了解しましたよ、マスター。 |
メルクリア | 兄上様。わらわがバルドの魔鏡を持っていては兄上様がバルドと話を出来ぬのではありませぬか ? |
ナーザ | バルドの心核は俺が持つ。必要があれば、俺は心核と直接対話する。 |
バルド | そういえば、そろそろレイカー博士がこちらに来るのでは ? |
コーキス | アステル様がこっちに来るのか ! ? |
リヒター | 救世軍を通じてイクスたちと話をつけた。馴れ合うことはしないが、帝国という敵に立ち向かうための情報共有は行う。 |
リヒター | 無論ビフレストの情報や、我々が帝国にいた時の情報も受け渡す。その代わりに向こうはアステルをこちらに引き渡す。 |
マークⅡ | 引き渡し地点に向かったらどうだ。俺は例によって、ここで留守番でもしとくわ。 |
ナーザ | では……メルクリアとバルドとリヒターに同行してもらう。 |
コーキス | 俺は…… ? |
ナーザ | 来たければ付いてきても構わない。だが、貴様は自分が俺たちの側に着いた理由をきちんとイクスたちに説明できるのか ? |
コーキス | ……それは……。 |
ナーザ | 無理だろうな。貴様はバロールの魔眼について知るために付いてきたと言った。しかし、それは真に貴様が求めていることではないだろう。 |
ナーザ | 自分が本当は何を求めているのかそれを自分で納得させないことにはイクスたちを納得させることもできない。 |
ナーザ | 己を知れ、鏡精。貴様はまだ未熟だ。 |
キャラクター | 2話【1-2 仮想鏡界2】 |
ジュニア | ……みんな行っちゃったね。 |
コーキス | ………………。 |
ジュニア | コーキス、あの……焦ることはないと思うよ。 |
コーキス | うん……。けど、俺の持っている力がニーベルングを滅ぼした力だなんて……。 |
マークⅡ | 俺たち鏡精が兵器だったって話も聞いちまったんだったな。 |
コーキス | マークは知ってたのか ? |
マークⅡ | フィル……ジュニアは、最初のフィリップの記憶を少しずつ共有してるからな。教えて貰ったよ。 |
コーキス | ミリーナ様みたいに、記憶を失ってるところがあったりはしないのか ? |
ジュニア | ミリーナの場合は、ゲフィオンがカーリャ……今はネヴァンか。ネヴァンを切り離した時に記憶を預けてしまったからね。 |
コーキス | ……くそ。どうしたらいいのかな。俺、馬鹿だから何から手をつけたらいいのかよくわからないんだ。 |
マークⅡ | バロールの魔眼ね……。ビフレストの連中から話を聞いて、その後は……やっぱりゲフィオンにあたるしかねえだろ。 |
ジュニア | イクスの話だと、魔鏡結晶の中にいたときにはゲフィオンと会話出来てたみたいだから何か手段はあると思うんだよね。 |
ジュニア | こんな時最初のフィルがいれば……。 |
マークⅡ | は ? お前を自分の都合で具現化した挙げ句ゴミみたいに捨てた奴だぞ ? |
マークⅡ | 今はダーナと話をするために精霊の封印地にいるんだっけ ?あれから全然連絡がねぇらしいけど何していやがるのかね。 |
ジュニア | う、うん……。でも知識も技術もあっちのフィルの方が確かだから。 |
コーキス | けど、フィル様の記憶少しずつジュニア様も共有してるんだろ ?だったらいい勝負なんじゃないか ? |
マークⅡ | うちのマスターの方が若い分脳のひらめきがいい筈だ。 |
ジュニア | ……待って。それだ ! |
二人 | ? |
ジュニア | ミリーナなら、ゲフィオンと会話出来るのかも知れない…… ! |
セネル | イクス、ちょっといいか。 |
イクス | ああ……えっと、用件は ? |
セネル | ……何か急ぎの用事でもあるみたいだな。 |
イクス | あ、ああ……ごめん。アステルがナーザ将軍たちのところに行くことになってその手配でちょっとバタバタしてたんだ。 |
ジェイ | イクスさんですね。ジェイです。きちんとお目にかかるのは初めてですね。先程ウェルテス領の調査から戻りました。 |
セネル | 俺たちがウェルテス領から引き上げた後も色々と帝国の状況を調べてくれていたんだ。 |
イクス | ああ ! 話は聞いてるよ。ようこそ浮遊島アジトに。俺はイクス・ネーヴェだ。 |
ジェイ | ウェルテス領に関する情報は、資料にまとめてキール研究室とカロル調査室、リオン警備部に共有しました。これはイクスさんたちの分です。 |
イクス | ありがとう、助かる。文書になってると早いんだ。 |
ジェイ | 瞬間記憶能力ですよね。その辺りはこちらも把握しています。 |
イクス | 本当にすごいな ! ? |
セネル | ジェイは頼りになるからな。 |
セネル | それより色々と大変なことが続いて気が休まらないんじゃないか ?コーキスのこともあるし。 |
イクス | ――いや、コーキスは……コーキスなりに考えがあってのことだと思うから……。っていうか、セネルたちにまで心配かけてごめん。 |
セネル | 仲間だろ。そんなことで謝るぐらいなら悩み事はきちんと相談して、しっかり休んでくれ。つらい時はつらいって言っていいんだ。 |
イクス | ……ありがとう、セネル。 |
セネル | それで……こんな時に空気が読めないと思われそうなんだが、うちの連中がジェイの歓迎会をしたいって言い出して。 |
イクス | ああ、いいんじゃないか ? |
セネル | いいのか ? せっかくだから、今年のクリスマス会も兼ねられればと思ったんだが……。 |
イクス | そうか……もうすぐクリスマスだもんな。他のみんなも喜ぶと思うから、話をしてみてくれ。 |
セネル | わかった。じゃあ、行こうか、ジェイ。 |
ジェイ | あ、すみません。ぼくはこの後カロル調査室の方へ顔を出そうと思います。 |
セネル | そうか ? わかった。それじゃあ、イクス。無理するなよ。 |
イクス | ああ、ありがとう。ジェイ、これからよろしく。 |
ジェイ | ええ、こちらこそ、イクスさん。 |
イクス | (またクリスマスが来るのか……。コーキスが一緒にいたら、パーティーの準備張り切っただろうな……) |
イクス | (コーキス。ちゃんとお前と話したいよ……) |
ミリーナ | イクス、こんなところにいたのね。そろそろ出発の時間よ。 |
カーリャ | 急ぎましょう。コーキスも待ち合わせ場所に来ているかも知れません。 |
カーリャ・N | イクス様。イクス様がお望みでしたらなんとしても、コーキスをこちらに連れ戻しますが。 |
イクス | いや、それは駄目だ。コーキスなりに考えて決めたことだと思うから、まずはその話を聞きたい。 |
カーリャ | そうですよ、ネヴァン先輩。コーキスのやったことは馬鹿無限大の所行ですけど、それでも最初から本人の意志を無視するのはよくないです。 |
カーリャ・N | そ、そうですね……。すみません。小さいカーリャの言う通りです。 |
カーリャ・N | 私はミリーナ様とイクス様に関わることだとどうも頭に血が上ってしまうようですね。カーリャ、ありがとう。 |
ミリーナ | ねえ、ネヴァン。アステルさんを送り届けたら、あなたにお話があるの。 |
カーリャ・N | すみません、小さいミリーナ様。実はこの後―― |
ミリーナ | いいえ、何かの調査ならカロル調査室に任せましょう。もうそろそろ、ちゃんと向き合ってもいいんじゃないかしら。私たち。 |
カーリャ・N | 何に……でしょうか。 |
ミリーナ | ゲフィオン――最初のミリーナに。 |
キャラクター | 3話【1-3 静かな平原1】 |
リヒター | アステルはどうした。 |
イクス | もうすぐ来るよ。アジトを出る前に研究資料を共有するって駆け回ってたから。その……コーキスは…… ? |
ナーザ | 来るつもりはないそうだ。 |
イクス | ……だったら伝えてもらえませんか。話がしたいって。 |
ナーザ | 俺はメッセンジャーではない。 |
バルド | ナーザ様。イクスもそんなつもりではないのですから気持ちを汲んでやっていただけませんか ? |
ミリーナ | ……え ? その声、もしかして……。 |
バルド | はい。バルドです。メルクリア様救出のおりにはお力添え、ありがとうございました。 |
三人 | ! ? |
ミリーナ | バルドさん……こういう姿をしていたんですね。あの時――イクスの救出の時は、きちんとお別れの挨拶もできないままだった……。 |
バルド | あの時は不義理をしてすみません。本当はシドニーも連れてこられればよかったのですが事情があって……。 |
ミリーナ | シドニーはまだ虚無にいるのね……。 |
メルクリア | ………………。 |
バルド | それからカーリャ――いえ、ネヴァン。お久しぶりです。 |
カーリャ・N | え……ええ……。でもバルド……。あなたの体は魔鏡戦争の時、カレイドスコープによって消滅したはず。それがどうして……。 |
バルド | 幻体です。姿が見えない状態では色々とご迷惑をお掛けするようなので、ナーザ様がこのような形でかりそめの体をご用意下さいました。 |
バルド | もっとも、幻の存在故、あなたのその美しい手に唇を寄せることも叶いませんが……。 |
カーリャ | ええ ! ? キャラが違いませんか ! ? バルドさま ! ? |
ナーザ | これは昔からこうだ。 |
バルド | フレンさんの心核にいた頃はフレンさんから色々と止められていて……。あの方は本当に真面目な方ですね。 |
イクス | (色々と……って、フレンさんが止めなければ何をするつもりだったんだろう……) |
ミリーナ | ナーザ将軍、教えて頂けませんか。ビフレストは何を知っているのか。 |
ミリーナ | デミトリアス陛下は、どうして異世界の技術を使って非道な実験を繰り返すのか。 |
ナーザ | 聞かれるだろうと思っていた。故にバルドとメルクリアを同行させた。 |
メルクリア | わらわ……でございますか ? |
ナーザ | メルクリア。ビフレストのことを知らないのはお前も同じだ。今日はその話をしようと思う。だが……ここで立ち話というのもな。 |
イクス | あ、それはそうですね。アジトに来て貰う……のは大変か……。 |
メルクリア | わらわたちの拠点に案内してはどうでしょう。……こやつらのことは好きではありませぬが助けてもらった恩がございます。 |
メルクリア | それに鏡精への伝言など、兄上様のお手を煩わせずともマスターが自ら声がけすればよいではありませぬか。 |
カーリャ・N | ビフレストの拠点……ですか。 |
ミリーナ | 不満そうね、ネヴァン。 |
カーリャ・N | ……私にとってはたとえ死者でもこの者たちは仇ですから。 |
メルクリア | わらわにとってもミリーナ・ヴァイスは仇じゃぞ。 |
ミリーナ | そうよね……。でも私……ゲフィオンは、イクスを救うためなら手段を選ばないと決めていた。恨まれても仕方ないわ。 |
バルド | 我々は、それぞれ対立する国に属していた存在。色々と思うところもあるでしょう。ですがそれでも、協力しあうことはできる筈です。 |
バルド | 拠点では、私が皆さんの身の安全を保証します。 |
イクス | ありがとうございます。それに俺もバルドさんと同じ意見です。 |
ミリーナ | バルドさんは私たちを助けてくれた人だもの。信じない方が失礼よね。 |
カーリャ | はい ! それにイケメンですし ! |
バルド | あなたもとても愛らしいですよ、カーリャ。見た目だけではなく、中身もきら星の如く輝いている。そして願わくば私の中身のことも、是非知って下さい。 |
カーリャ | カカカカカーリャ……く、口説かれてる…… ! ? |
ミリーナ | ちょ……バルドさん ! ? |
カーリャ・N | 小さいカーリャに色目を使うのはやめなさい ! |
バルド | 叱られてしまいました。 |
バルド | すみません、ミリーナさん、ネヴァン。あなた方を困らせるつもりはなかったのです。どうかその―― |
ナーザ | バルド ! 貴様は相変わらずだな。なぜ息をするように女を口説く。それで何度も痛い目に遭っているだろう。 |
バルド | 口説くなどと、とんでもない。私は自分が美しいと思うものを称えたいだけです。 |
バルド | 私にとって女性は皆美しく、強く気高い神のような存在。称えずにはいられません。 |
バルド | もちろん、この世で一番美しく気高いのはウォ……ナーザ様ですが。 |
ナーザ | ――やめろ。だから貴様はローゲに毛嫌いされるのだ。乳兄弟とはいえ、虫酸が走る。 |
メルクリア | バルド、その辺にしておけ。兄上様が怒りのあまりそなたの幻体を消すかも知れぬぞ。 |
バルド | はい、承知しました。メルクリア様。 |
メルクリア | 兄上様がお望みなら、すぐにでもこの者たちを拠点へ案内させますが。 |
ナーザ | ……わかった。リヒター、お前はここに残りアステルと合流してから来るがいい。 |
リヒター | 言われずともそうするつもりだ。 |
カーリャ・N | では、私もここに残り一緒にアステル様の到着を待ちます。 |
リヒター | ………………。 |
ミリーナ | そう……。ええ、わかったわ。それじゃあ、お願いね、ネヴァン。 |
イクス | (ネヴァン……。やっぱりゲフィオンの話になりそうなところは避けるんだな) |
イクス | (でも、これでコーキスに会える…… !コーキス、今、すごくお前と話がしたいよ) |
キャラクター | 4話【1-4 仮想鏡界3】 |
イクス | アジトって、ジュニアの仮想鏡界だったんですね。 |
バルド | ええ。今の時世を考えれば、どこよりも安全でしょう。 |
カーリャ | すごーい ! カーリャたちのアジトとは雰囲気が違います。 |
ミリーナ | ええ。この造りはビフレスト様式ね。 |
バルド | ジュニアが気遣ってくれたようです。故郷のものと、ほぼ同じと言ってもいい出来ですよ。 |
ミリーナ | さすが小さいフィル。細やかだわ。 |
カーリャ | あっ、見てください、ミリーナさま。あっちもすごいですよ。ほらほら ! |
ミリーナ | フフッ、あまりウロウロしちゃ駄目よ、カーリャ。 |
メルクリア | ……どの鏡精とマスターも仲が良いのじゃな。 |
バルド | メルクリア様……。 |
メルクリア | きっ、気づかいは無用じゃぞ !――皆、こちらへ。兄上様のお話を拝聴する。 |
カーリャ | はーい。イクスさま。見学は終わりですよ。 |
イクス | えっ ? |
カーリャ | あ~、聞いてませんでしたね。 |
イクス | いや、その……。 |
ナーザ | コーキスでも探していたか。 |
イクス | ! ! |
ナーザ | あの鏡精は己の意思で俺の下へ来た。今ここに姿を見せぬのも、また奴の意思だ。 |
イクス | …………。 |
ナーザ | コーキスを呼ぶか ? |
イクス | ……いえ。俺たちの目的は、ビフレストの話を聞くことですから。 |
ナーザ | そうか。では始めるぞ。まずは、あの魔鏡戦争で何があったのか話すとしよう。 |
| 魔鏡戦争当時 ビフレスト軍 |
ウォーデン | ――バルド、戦況は ? |
バルド | 現在、我が軍が優勢です。セールンド王国軍は相当数の兵を失い戦線は大きく後退しています。 |
ウォーデン | そうか。だが油断はするなよ。蟻も這い出ぬほど、徹底的に攻め続けろ。 |
ウォーデン | いくら敵兵を減らし、勢いをそいだとて禁忌に触れたセールンドの鏡士と鏡精を排除しなければ、我らの勝利とは言えない。 |
バルド | …………承知しました。 |
ウォーデン | ……言いたいことがあれば手短に言え。鏡士でないお前と話すために、魔鏡術で無理に繋いだ通信だ。あと僅かな時間しか持たんぞ。 |
バルド | ……ウォーデン様この戦争は正しいものなのでしょうか。 |
ウォーデン | どういう意味だ。 |
バルド | この戦では、セールンド王国に家族や想う相手を残している者が大勢います。 |
バルド | この通信を繋いでくれている鏡士のシドニーもその一人です。彼女の話を聞くにつけ争うほかに何か道はないのだろうかと……。 |
ウォーデン | ……なるほど、シドニーか。やはりお前は女に甘いな。 |
ウォーデン | この戦争は俺たち一族の使命だ。鏡精を作っただけでは飽き足らず、バロールの力を甦らせようとしたセールンド王国を許すわけにはいかない。 |
ウォーデン | バルド、俺とお前は共に育った。それがわからないお前ではないはずだ。義兄ならば義兄らしく、物の道理をわきまえろ。 |
バルド | ……そうだね、ウォーデン。きみの言う通りだ。それでも……何かできることはなかったかと考えてしまうんだ。 |
バルド | この選択を選ばざるをえなかったきみの苦悩を、僕も知っているからね。 |
ウォーデン | もはや、過ぎたことだ。 |
ビフレスト軍兵士 | バルド様、前方より接近するセールンド軍を確認 !我が軍の中央を突破してきます。恐ろしいほどの強さです ! |
バルド | この状況で切り込んで来るだと ? まさか……。 |
ウォーデン | 兵が必要ならば、こちらでも準備をするぞ。 |
バルド | 御心配にはおよびません。私にお任せを。ウォーデン様は良き報告をお待ちください。 |
ウォーデン | バルド、重ねて言うが用心しろ。そして、迷うな。 |
バルド | 承知しました。 |
バルド | ――出るぞ、皆続け ! |
バルド | カーリャ ! ! やはりあなたか ! |
カーリャ | …………。 |
バルド | 降伏しなさい ! この状況では全滅は免れない ! |
カーリャ | ふざけたことを ! 降伏などありえません。イクス様を殺したあなたたちに、せめて一矢報いねば ! |
バルド | よく考えなさい ! セールンド王国が鏡精に対して非道な扱いをしていることを知っているだろう。 |
バルド | 虐げられた鏡精であるあなたが何故そこまでして仕える必要がある ! |
カーリャ | 私を愚弄するな !このカーリャ、一度たりとも虐げられたことなどない ! |
カーリャ | 非道というのなら、あなたたちの行いこそが私にとっては非道そのもの !そのせいでイクス様は……、イクス様は…… ! |
カーリャ | 今日であなたの顔も見納めです。――全員、突撃 ! |
セールンド軍兵士たち | うおおおおおおっ ! |
バルド | 残念です、美しき鏡精カーリャ。もっと別の出会い方をしていれば、私は……。 |
バルド | しかし、私はあなたをこの手で倒さねばならない。ウォーデン様のために ! |
ビフレスト軍兵士 | いいぞ、追い込め ! セールンドの奴らは逃げ腰だ ! |
バルド | (……妙だ。特攻しておきながら、攻め入るどころかこんな自陣の奥まで戦線を後退させている……) |
バルド | 皆、止まれ ! これ以上深追いするな ! |
セールンド兵士 | カーリャ様、あっちの大将が動かなくなりました。気づかれたかもしれません。ゲフィオン様から連絡は ? |
カーリャ | いいえ、まだです。もうじき……あっ ! |
カーリャ | ………………来ました。 |
セールンド兵士 | では ! |
カーリャ | ええ。――全兵に告ぎます ! 撤退してください ! |
セールンド兵士 | 撤退 ! 急げ ! 撤退ーー ! |
バルド | 撤退だと ? カーリャ、あなたは―― ! |
カーリャ | 罠にはまりましたね。ビフレストの悪鬼共。今こそ、反撃ののろしを上げる時 ! |
バルド | …………彼女にしてやられました。カーリャたちに気を取られている隙に、手薄になった後方の軍勢へ魔鏡兵器が撃ち込まれたのです。 |
ミリーナ | まさか、それって……。 |
ナーザ | そうだ。お前たちもよく知っているはずだ。我らビフレストの多くの民を虚無へと還し世界を滅ぼす原因となった魔鏡兵器。 |
ナーザ | カレイドスコープだ。 |
二人 | ! ! |
キャラクター | 5話【1-5 静かな平原2】 |
カーリャ・N | …………。 |
リヒター | ……遅いな。何をしているんだ、アステルは。 |
カーリャ・N | ……色々と準備があるのでしょう。気長に待つのがよろしいかと。 |
リヒター | 本当に返してくれるんだろうな。 |
カーリャ・N | ご心配なく。ですが、アステル様は私たちのアジトでも研究の助言をくださっていましたから残念に思う方々は多いでしょうね。 |
リヒター | まったくあいつは……。人がいいにも程がある。 |
カーリャ・N | 大事になさっているのですね、アステル様を。 |
リヒター | 否定はしない。この世界に来なければ俺はあいつを失ったままのはずだからな。 |
リヒター | アステルを亡くした後は、後悔と憎悪に蝕まれ気が休まることはなかった。 |
カーリャ・N | …………。 |
リヒター | 今のままでは、お前もそうなる。 |
カーリャ・N | なんのことですか ? |
リヒター | わからん奴だな。このままでいいのかと言っているんだ。 |
リヒター | お前は鏡士たちと別れてからずっと浮かない顔をしている。 |
カーリャ・N | ……リヒター様の気のせいでしょう。 |
リヒター | そう取り繕うつもりなら顔に出さない訓練でもするんだな。 |
リヒター | 伝えたいことがあるなら、伝えておけ。いつまでも相手が傍にいるとは限らない。……俺がアステルを失ったように。 |
カーリャ・N | …………。 |
リヒター | 勇気を持て。そうすれば、お前自身も前へと進めるはずだ。 |
カーリャ・N | 勇気……。 |
アステル | あ、いた ! やっほー、リヒター ! 相変わらず不機嫌そうだね ! |
リヒター | ――ええい、アステル ! 遅いぞ ! |
アステル | ごめん、ごめん !みんなとお別れの挨拶してたら長引いちゃったんだ。ほら、僕って人気者だから ! |
リヒター | お前も相変わらずふてぶてしいな……。で、お前たちは付き添いというところか。 |
クラース | 護衛兼見送りだよ。イクスたちはどうした ? |
カーリャ・N | 込み入った話があるとのことでビフレスト側のアジトへ行きました。安全は保障されている……と思います。 |
リヒター | お前たちの到着が遅れていたからな。俺たちを残して先に向かった。 |
クラース | それは申し訳ない。アステルの精霊に関する知識がとても興味深くてね。道々、つい話しこんでしまったんだ。 |
キール | もうしばらくこっちにいて研究を続けて欲しかったよ。 |
アステル | 僕ももっと話がしたかったんだけどさ。これ以上はリヒターがうるさいから。 |
リヒター | 誰がうるさいだと ?俺の手を煩わせるからだろう。だいたいお前は――。 |
アステル | ほらね ? うるさいと思わない ? |
キール | な、なんでぼくに聞く !見ろ、睨まれてるじゃないか ! |
リヒター | いや、睨んではいないが……。 |
アステル | あはは、リヒターはこれが普通なんだよ。怖がらせてごめんね。ほら、リヒターも謝って。 |
リヒター | なんでそうなる……。 |
カーリャ・N | ………………。 |
クラース | 羨ましい……いや、懐かしいといった顔かな。 |
カーリャ・N | ――あ……いえ、あの……。 |
クラース | それにしても、引き渡し交渉だというから身構えていたんだが……ずいぶんと和やかで拍子抜けしたよ。 |
クラース | ネヴァン、きみもご苦労だったな。 |
カーリャ・N | はい。……リヒター様も、アステル様もとても穏やかな顔をしていますね。 |
クラース | ああ。あのリヒターという男アステルがいると雰囲気がだいぶ違うな。 |
クラース | 少し羨ましいよ。そういう相手が側にいるのは。 |
カーリャ・N | …………。 |
クラース | きみもそうなんじゃないか ? |
カーリャ・N | わ、私は…………。それよりも、クラース様が側にいて欲しいというのはどんな方なのですか ? |
クラース | えっ ! ? い、いやまあ、その、何というかだな……。 |
キール | おい、アステルたち、そろそろ行くそうだ。 |
クラース | おっと、そうか。気をつけてな ! |
アステル | はい。色々とお世話になりました。 |
リヒター | ネヴァン、お前はどうするんだ。 |
カーリャ・N | ……このままクラース様たちと戻ろうと思います。小さいミリーナ様たちには、連絡を入れますので。 |
リヒター | ……そうか。では行くぞ、アステ――…… ? |
アステル | リヒター、何してるの。おいてっちゃうよ。 |
リヒター | おい待て、そうやっていつもフラフラと !アジトの場所も知らないだろう ! |
キール | ……さて、ぼくたちも帰ろう。やることは山ほどあるぞ。 |
クラース | アステルの話だと、帝国がレムとヴォルトの居場所にあたりを付けているらしいからな。これも含めて調査を進めないといけないだろう。それと他には…… |
キール | シャドウについてはスレイたちが確認済みのはずだ。 |
クラース | ああ。レムとヴォルトも、カロル調査室が集めた各地の異変と照らし合わせて、確実に押さえよう。しかし……こうなると手が足りないな。 |
キール | だったら、手分けして精霊との契約を進めればいいさ。こっちはメルディに協力してもらう。 |
クラース | そうだな。では頼む。シングたちがヨウ・ビクエに言われたように一刻も早く「精霊を味方につける」ことが第一だ。 |
キャラクター | 6話【1-6 ジェイ】 |
ノーマ | はいは~い、注目~ ! それじゃあ、ジェージェーの歓迎会 & クリスマス会の計画は、あたし主導で進めるからね~ ! 当日は派手にやっちゃうよ ! |
シャーリィ | 気合入ってるね。ノーマ。 |
ノーマ | そりゃそうでしょ ! や~っとジェージェーが正式に仲間になったんだもん。 |
ノーマ | ウェルテス領から撤退する時に、一緒にアジトに帰るかと思ったのにさ。残るとか言い出すし。肩透かしくらったこっちの身にもなれっての。 |
ジェイ | 仕方ないでしょう。まだ調査中の案件もあったんですから。それに他にもいろいろと。 |
セネル | 他ってのにはイクスたちのことも含まれてたんだろ ? |
ジェイ | ええ。以前から彼らの情報は仕入れていましたけど改めて調査した上で納得できなければ合流する気はありませんでした。 |
ジェイ | ぼくにとっては付き合いのない方たちです。万が一……ということだってありえますので。 |
クロエ | ジェイらしいな。用心深い。 |
ジェイ | ……まあ、皆さんが、イクスさんたちと一緒に行動してる時点で、その心配は低かったんですけどね。 |
グリューネ | ありがとうジェイちゃん、信用してくれて。お姉さん嬉しいわ。 |
ノーマ | はいはい、とにかくパーティーの計画 !ジェージェーの紹介には大掛かりな演出が欲しいよね。レッちゃんに頼んで、ババ~ンと空から舞い降りるとか ! |
セネル | レッちゃんてコレットか ? 大丈夫かよ、それ。 |
ノーマ | もう、セネセネってば、ハロウィンでのあたしの活躍っぷり、もう忘れちゃったの ? |
セネル | 忘れてないから不安なんだよ。演出される方の気持ちも考えてやれよ……。 |
グリューネ | あら、ジェイちゃん、なんだか嬉しそうね。 |
ノーマ | あたしたちに会えて嬉しさを隠し切れないんでしょ ?今まで寂しかったんだねぇ、ジェージェー。 |
ジェイ | ち、違いますよ。ここにモーゼスさんがいなくてほっとしただけです。あの人がいたら、もっとうるさかったでしょうからね。 |
シャーリィ | モーゼスさん……どこにいるのかな。ウィルさんの情報も未だに入らないし……。 |
セネル | ウィルが具現化されていたとしてもどこかで堅実に生活してそうな気がするな。 |
クロエ | それを言うならシャンドルも、どこかで逞しくやってそうだぞ。 |
セネル | ははっ、ジェイの時みたいにいきなりキュッポたちから連絡がきたりしてな。 |
クロエ | まさか、そこまで都合のいい展開など―― |
キュッポ | セネルさん、セネルさん !モーゼスさんを見つけたキュ ! |
全員 | ……………………。 |
シャーリィ | つ、都合……よかったね ? |
ノーマ | いや、よすぎだわ ! |
ポッポ | 聞いてるキュ ! ? 大変なんだキュ ! |
ジェイ | 落ち着いて。ちゃんと順を追って話すんだ。 |
ピッポ | ピッポたち、オルバース領を調査してたキュ。その途中で、モーゼスさんが帝国軍に追われているのを見たんだキュ ! |
キュッポ | キュッポたちも後を追ってる途中だキュ。皆さん、こっちに来られるキュ ? |
クロエ | シャンドルが帝国に…… !クーリッジ、すぐに助けに行こう ! |
セネル | ああ ! みんな、準備をしてくれ ! |
ジェイ | 待ってください。助けに行くのは結構ですがグリューネさんは残った方がいいと思います。 |
グリューネ | どうして ? みんなと一緒にモーゼスちゃんを助けに行きたいわ。 |
ジェイ | さっき、カロル調査室と情報を共有してきました。その中に気になる話があったんです。 |
ジェイ | グリューネさんのことはジュニアという人が具現化したそうですね。 |
グリューネ | ええ、そうよ。また会いたいわねぇ、ジュニアちゃん。 |
ジェイ | その一連の事件には、セネルさんたちも立ち会っていたと聞いています。 |
セネル | ああ。グリューネさんは神の『奇跡の力』を具現化する過程で偶然具現化されたんだ。 |
セネル | けど、ジュニアの研究は結果的には失敗してシュヴァルツまで現れた。なんとか抑え込んだけどな。 |
ジェイ | どうやら、その時のジュニアさんの研究結果に帝国が興味を示しているらしいんです。 |
全員 | ! ! |
クロエ | それは、グリューネさんに目をつけたということか ? |
ジェイ | 何にしろ詳しいことはわかりません。わからないからこそ、今は用心するべきです。 |
グリューネ | わかったわ。残念だけど仕方ないわよね。みんな、モーゼスちゃんのこと、お願いね。 |
セネル | ああ、任せてくれ。そういうわけだからノーマ、パーティーの計画は後回しだ。あと、他のメンバーの意見も聞きながらにしてくれよ ! |
ノーマ | セネセネ、なんでちょっと嬉しそうなのさ ! |
ノーマ | はぁ、仕方ない……この持てあますやる気はモーすけ救出に回しますか。もったいないけどね ! |
ジェイ | 全く、あの人は本当に世話がかかるんですから。まあ、恩を売るには丁度いい機会でしょう。 |
ジェイ | キュッポ、ピッポ、ポッポ大至急そっちに向かうから位置を詳しく教えて。 |
キュッポたち | 了解だキュ ! |
セネル | それじゃグリューネさん。後をよろしく。 |
グリューネ | ええ。お留守番は任せてちょうだい。みんな、いってらっしゃ~い。 |
キャラクター | 7話【1-7 オルバース領 街道1】 |
| オルバース領 |
ピッポ | ジェイ、皆さん ! 待ってたキュ ! |
セネル | 連絡ありがとうな。それでモーゼスはどうなった ? |
キュッポ | モーゼスさんはあの後すぐに捕まってしまったキュ……。 |
全員 | ええっ ! ? |
ジェイ | それで ? |
キュッポ | そのまま、帝国の研究施設に連れていかれたのを確認したキュ ! |
クロエ | では、その施設に入らねばならないな。どう潜入する ? |
ポッポ | 心配ないキュ ! ポッポが発明したこの『モフモフドリル』で秘密の抜け道を作ってる途中だキュ。 |
ポッポ | もう少しで開通だキュ。掘りながら潜入するキュ ! |
ノーマ | やるじゃん、ホタテ三兄弟 !まあ、モフモフドリルって名前は柔らかそうでちょっと不安だけどさ。 |
キュッポ | ホタテじゃないキュ ! |
ピッポ | モフモフドリルもモフモフ族らしい、詩的で美しい名前だキュ ! |
ポッポ | ドリルだってピッカピカでカッチカチだキュ !耐摩耗性も高くて掘削能力は今までの―― |
ノーマ | わ~かったわかった、ごめんて ! |
ジェイ | ありがとう、みんな。これで警備に見つからずに入れるよ。 |
キュッポ | ジェイたちのためなら、たとえ火の中、土の中だキュ !それじゃ皆さん、潜入開始だキュ ! |
クロエ | どうだ ? 警備はいないか ? ゴホッ……。 |
セネル | ああ、大丈夫だ。この辺りは兵士も少ないみたいだ。シャーリィ、大丈夫か……ゲホゲホッ……。 |
シャーリィ | うん……、ケホッケホッ……。 |
ノーマ | そんじゃこのままモーすけを探し……ゲホガホゲホホッ ! ! |
ジェイ | ノーマさん、大声は控えてください。見つかりますよ。 |
ノーマ | 煙で目も鼻も喉もやられてんの !なにあのドリル、欠陥品じゃん ! つ~か、なんでジェージェーは平気なのさ……ゲホッ……。 |
ジェイ | 鍛え方が違いますから。………………けほ。 |
三人 | (ちょっとやられてる……) |
ポッポ | すまないキュ……。でも煙を噴く程度で良かったキュ。 |
セネル | 煙程度……。そういや、ポッポ三世号の時も成功確率1割で俺たちを乗せようとしてたっけな。 |
ポッポ | 今回も一つ間違えば大爆発だったキュ。 煙くらいなら大成功だキュ ! キュキュキュ ! |
クロエ | ば、爆……。これ以上は聞かない方がいいな……。とにかくシャンドルを捜そう。 |
キュッポ | 待って欲しいキュ。こっちの方から人の声が聞こえるキュ ! |
セネル | 警備兵に見つかったか ! ? |
キュッポ | う~ん……違うようだキュ。普通に話してるキュ。 |
ジェイ | 闇雲に探すよりはマシですね。行ってみましょう。 |
セネル | 話し声ってのはこの部屋からだな。 |
グラスティン | ――おい、背中を出せ。そのまま大人しくしていろよ。 |
一同 | ! ! |
セネル | グラスティン…… !それにグラスティンの前にいる二人、見覚えが……。 |
クロエ | そうだ ! 鏡映点リストで見た顔だ。ええと…… |
ジェイ | リッドさんの世界の人ですね。確かレイスという名前だったはずです。それともう一人はフォッグ。 |
グラスティン | では始めようか。リビングドールβとはいえ痛みで暴れるかもしれん。こいつらをしっかり押さえておけよ。 |
帝国兵 | はっ。 |
セネル | グラスティン、何をするつもりだ……。 |
クロエ | 奴が手にしているのは、焼印のようにも見えるが……まさか…… ! |
グラスティン | ヒヒヒ……いくぞお。 |
レイス | ぐっ ! ああああっ ! |
グラスティン | よし、次はお前だ。 |
フォッグ | ……ぐおおおおっ ! ! |
グラスティン | ヒヒヒ。さあ、終わったぞ。領主の館へ運んでやれ。 |
帝国兵 | はっ。 |
グラスティン | これで【贄の紋章】を目印に【ルグの槍】を発動できる。 |
シャーリィ | 嘘、本当に焼印……。背中に押してた…… ! |
セネル | あいつら…… ! すぐにリッドたちに連絡する ! |
ジェイ | 待ってください。あれは……。 |
帝国兵 | グラスティン様。捕らえた賊を連れてきました。 |
モーゼス | 離せっ ! 離せ言うちょるんじゃ ! この悪党がっ !ここらの人間をさらっとったんはワレらじゃろ ! ? |
セネル | モーゼス ! ! |
キャラクター | 11話【1-14 精霊の封印地】 |
フィリップ | …………っ。……はぁ……はぁ……。 |
ヴィクトル | 駄目だったか……。 |
フィリップ | ああ。……すまない。 |
マーク | 少し休め。ぶっ続けじゃ体が持たねえぞ。 |
フィリップ | うん……。でも、帝国の動きを考えればあまり時間をかけてもいられないからね。 |
マーク | それは置いとけよ。どうせここじゃ、時間なんて概念どうにかなっちまってるんだろう ? |
ヴィクトル | 私たちにとっては数時間でも、外では数日もしくは数分かもしれないと聞いたがどういう仕組みなんだ ? |
フィリップ | 魔の空域特有の空間の歪みが一番近いこの場にも影響しているみたいだね。 |
フィリップ | 僅かな間であればともかく既に長時間滞在した僕たちには作用してるだろう。 |
ヴィクトル | ……そうか。 |
マーク | 娘さんのことが心配か ? |
ヴィクトル | いや、あいつが側にいるなら必ず守るだろう。それに……ユリウスもいる。 |
ヴィクトル | それよりも、なぜダーナの心核にアクセスできないのかもう一度調べたほうがいいのではないか ? |
フィリップ | そうだね。手順自体は問題ないはずなんだ。ダーナの心核があった場所に描いた魔鏡陣にも間違いはない。 |
フィリップ | ……やっぱり、人が神に直接接触するなんて無謀な考えなのかもしれないな。 |
ヴィクトル | 行き詰まるにはまだ早い。接触できる可能性はゼロではないんだろう ?君は諦めが悪い方ではなかったか ? |
マーク | そうそう、これが駄目ならさっさと次の手だ。 |
フィリップ | はは、そうだね。じゃあ、次のアプローチを―― |
? ? ? | 我らの壁に触れようとしてるのはあなたでしたか……。 |
フィリップ | 声が…… ? |
マーク | ああ、俺にも聞こえるぜ。 |
ヴィクトル | その声、ヴェリウスか。 |
ヴェリウス | お久しぶりですね。ヴィクトル。そして当代ビクエに、鏡精マーク。 |
? ? ? | 私たちの作った防心壁を突破するのは当代ビクエでも難しかったみたいね。 |
フィリップ | その声はヨーランド ! ではアクセスできなかったのはあなたたちの力のせいか。心核へのアプローチならば繋がるかと思ったが……。 |
ヨウ・ビクエ | 残念だけど、そこまで守りは甘くないわ。 |
フィリップ | お願いです。ダーナに会わせて下さい。 |
フィリップ | 僕は幼い頃に、ダーナと出会ったはずなんだ……。それが真実なのか、会って確かめたいんです。 |
ヨウ・ビクエ | あなたが……なるほどね……。わかったわ。接触を許可しましょう。ヴェリウスはどう ? |
ヴェリウス | ええ。異存はありません。 |
フィリップ | ありがとうございます ! |
ヨウ・ビクエ | 私とヴェリウスの力を使えば、魔の空域に精神を飛ばすことができるわ。ただし、あなた一人だけ。それもほんの僅かな時間だけど、それでもいい ? |
フィリップ | ええ、十分です。 |
マーク | 一人で大丈夫か ? 相手はこの世界の神様だぜ ? |
フィリップ | 世界を救うなら、神との交渉くらいは上手くやってみせないとね。 |
マーク | おー、よく言ってのけた。さすがは俺のマスターだ。 |
ヴェリウス | では、すぐに始めましょう。ヨーランド、準備はいいですか ? |
ヨウ・ビクエ | ええ。いくわよ。 |
ヨウ・ビクエ | 魔の空域へ繋がる路を開いたわ。あなたの精神を飛ばすから集中して ! |
フィリップ | はい ! |
マーク | ………… ?何だ ? 妙な気配が……。 |
光魔たち | ……ウゥ~……ハルルルルル ! |
ヴィクトル | 光魔か ! |
ヨウ・ビクエ | 魔の空域への路を開いたせいで虚無と精霊の封印地の境界が曖昧になっているのね。 |
フィリップ | マーク、ヴィクトル ! |
ヴィクトル | この程度なら私たち二人で十分だ。 |
マーク | フィル、さっさと行ってこい。お前の体はちゃんと守ってやる。 |
マーク | 俺たちの強さ、良くわかってるだろ ? |
フィリップ | ああ、もちろん。二人とも、後は任せるよ。 |
ヨウ・ビクエ | フィリップ、もういいわよ。目を開けて。 |
フィリップ | ヨーランド…… ! ここは……魔の空域…… ? |
ヨウ・ビクエ | そうよ。そのまま待っていて。 |
? ? ? | ……久しぶりですね。オーデンセの鏡士。フィリップ・レストン。 |
フィリップ | この声……どこかで聞いたことが……。 |
フィリップ | (そうだ、この声はあの時の……。あの懐かしい、水鏡の森の湖で……) |
フィリップ | 魔物が出るって言われてるけどやっぱりここの景色はきれいだな……。 |
フィリップ | ここでピクニックとかしたらミリーナが喜びそう……。 |
? ? ? | ……――フィ……。――こっち――。 |
フィリップ | えっ、誰かいるの…… ? この声、湖の方…… ? |
? ? ? | ――フィリップ……。 |
フィリップ | 何だろう、湖が眩しい…… ?――わあああっ ! |
フィリップ | ……すごい ! 光の粒が湖から立ち上ってる !キラキラして、なんて綺麗なんだろう……。 |
フィリップ | ここにミリーナを連れてきたらどんな顔してくれるかな。そうだ、今度ミリーナを誘ってみよう…… ! |
? ? ? | やっと……――見つけ……――約束の子供たち……よ……。定めの……子……―――――― |
フィリップ | ――え ?光が……消えた ? |
フィリップ | ――あの時の声とあの光……。当時は気付かなかったけどあれはダーナの予言に記されたものと一致していた。 |
フィリップ | やはり、あれがダーナ……あなただったんですね。 |
フィリップ | ならばどうか教えていただきたい。この世界は、どうしたら救われるのですか。 |
キャラクター | 12話【1-15 アスガルド城】 |
デミトリアス | そうか。フィリップはダーナの心核への接触に成功したのか。 |
グラスティン | ああ。キラル分子の揺らぎを観測装置が確認した。ダーナの心核信号の数値が跳ね上がっている。間違いないさ。 |
グラスティン | さすがフィリップだろう ?あいつは俺たちの一歩も二歩も先を行くんだ。 ヒヒヒッ、素晴らしい才能だよ。 |
デミトリアス | そうだね。だが【ルグの槍】を打ち込もうという今ではその才能が邪魔になる。 |
デミトリアス | フィリップには大人しくしてもらわないとな。精霊の封印地へ兵を派遣しておこう。間に合うかどうかはわからないが……。 |
グラスティン | ヒヒヒ、そこは安心しろ。神との対面を邪魔する手筈は整えてある。兵士たちは、フィリップを連行するだけでいい。 |
グラスティン | なあ、フィリップは絶対に殺すなよ。生きて捕らえて、俺にくれ。 |
デミトリアス | ――それよりも、オルバース領主たちへの【贄の紋章】はどうなったんだ ? |
グラスティン | ああ、処置は問題なく終えた。おまけに思わぬ収穫があってなぁ。いやあ、楽しみが増えたよ。ヒヒヒッ。 |
デミトリアス | そうか。こちらも一部を除いて各領の領主と従騎士に【贄の紋章】を付け終えた。 |
デミトリアス | これは、きみの今日の成果と合わせたリストだ。確認してくれ。 |
グラスティン | どれどれ。――アセリア領。領主ルーングロム、従騎士モリスン。ファンダリア領。領主エルレイン、従騎士イレーヌ。 |
グラスティン | オルバース領。領主フォッグ、従騎士レイス。テセアラ領。領主リーガル、従騎士ブルート。カレギア領。領主アガーテ、従騎士ミルハウスト。 |
グラスティン | ウェルテス領。領主マウリッツ、従騎士ワルター。オールドラント領。領主ピオニー、従騎士ヴァン。アレウーラ領。領主ロミー、従騎士フォレスト。 |
グラスティン | レグヌム領。領主マティウス、従騎士チトセ。テルカ・リュミレース領。領主アレクセイ、従騎士イエガー。 |
グラスティン | セルランド領。領主パライバ、従騎士カルセドニー。エフィネア領。領主カーツ、従騎士ヴィクトリア。 |
グラスティン | リーゼ・マクシア領。領主ウィンガル、従騎士プレザ。グリンウッド領。領主ヘルダルフ、従騎士セルゲイ。ミッドガンド領。領主アルトリウス、従騎士オスカー。 |
グラスティン | ……おい。エルレインとアルトリウスには―― |
デミトリアス | ああ。大丈夫。彼らには【贄の紋章】はつけてないよ。 |
グラスティン | そうか。他に問題はないだろうな。 |
デミトリアス | 実は少々面倒が起きたんだ。グリンウッド領の領主ヘルダルフが私に対して謀反を起こした。 |
グラスティン | 何だと ? だから言っただろう ! 他の奴ら同様さっさとリビングドールにすれば良かったんだ。あの手の奴を野放しにすると厄介だぞ。 |
アルトリウス | その点は問題ない。私が対処させてもらった。 |
グラスティン | アルトリウス ! なんだ……、お前もいたのか。黙っているとは、デミトリアスも人が悪いな。 |
グラスティン | それで、対処とはなんだ。 |
アルトリウス | 導師の力で、奴に呪いをかけた。 |
グラスティン | 呪い ? |
アルトリウス | 業魔……いや、あの者たちの世界では憑魔と呼んでいたか。いずれにせよ、穢れに満ちた存在となるだろうが、計画に支障はない。 |
アルトリウス | 今は従騎士のオスカーに動向を見張らせている。安心して事を進めるといい。 |
グラスティン | ならばいい。――これで準備は整った。あとは計画通りに進めるぞ。デミトリアス。 |
デミトリアス | ああ。みな、よく働いてくれた。いよいよだ。 |
デミトリアス | この計画をもってティル・ナ・ノーグは、ニーベルングへと回帰する ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【2-1 魔の空域1】 |
| 魔の空域 |
フィリップ | ――どうか教えて頂きたい。この世界は、どうしたら救われるのですか。 |
フィリップ | 女神ダーナ。ティル・ナ・ノーグを創造し滅びをも予言したあなたならば救う方法もご存じなのではありませんか ? |
ヨーランド | フィリップ。幼い頃にダーナ様と会ったかどうか確かめるだけじゃなかったかしら ? |
フィリップ | この機を逃すわけにはいかないんです。それに確かめる『だけ』とは言っていませんよ。どうか悪しからず。 |
ヨーランド | あら、意外にふてぶてしいのね。 |
フィリップ | 自分でも重々承知していますよ。以前にも……面の皮が厚いと言われましたから。 |
ヨーランド | ふふっ。【ビクエ】なら、それくらいで丁度いいわ。 |
ヨーランド | ――ダーナ様、もうしばらくお付き合い頂けるでしょうか。 |
ダーナ | もちろんです、ヨーランド。心核の修復も進んでいます。この程度であれば問題はありません。 |
ダーナ | 何より私の方こそ、この子に話があるのですから。 |
フィリップ | (この子 ! ?) |
ダーナ | フィリップ。あなたの質問に答えるためにはまず、ティル・ナ・ノーグが誕生した経緯を話さねばならないでしょう。 |
ダーナ | それに、この世界で神と呼ばれる者たちについても。 |
フィリップ | 神と呼ばれる者たち…… ? |
ダーナ | ええ。私が神と呼ばれるようになる前はニーベルングに生まれた人間であったことはすでに承知のことと思います。 |
フィリップ | あ……まさか、ナーザやバロールも…… ! ? |
ダーナ | あなたの考えているとおりです。私同様、バロールとナーザもニーベルングの生き残りなのです。 |
フィリップ | ではこの世界は全て人間が造り出したものなのか…… ? |
ヨーランド | 驚くことじゃないでしょう ? あなたたちだって似たようなことをやっているんだから。 |
ヨーランド | 世界の創造なんて、鏡士以外から見れば神にも等しい所業じゃない ? |
フィリップ | …………。 |
ダーナ | 私とあなたは『同じ』です。フィリップ。在り方も、その行いさえも。 |
フィリップ | ……何故ニーベルングは滅びたのですか。それも私たちと同じように国同士の争いが原因なのですか ? |
ダーナ | 確かに原因は戦争……と言えるかも知れませんね。ですが、私たちが戦っていた相手は人間ではありません。 |
ダーナ | 鏡精です。 |
フィリップ | 人間が鏡精と ! ? |
ダーナ | ……ええ。最初は鏡士と鏡精の対立でした。それは徐々に激しさを増し、やがて人間と鏡精の決定的な対立へと発展してしまったのです。 |
フィリップ | ………………。 |
フィリップ | ……あなたも、鏡精と戦ったのですか ? |
ダーナ | ええ。私もナーザも……そうせざるを得なかった。でもバロールは違った。バロールは人でありながら鏡精側へとつきました。 |
フィリップ | ! ? |
ダーナ | そのバロールの選択が、ニーベルングを滅びの道へと誘うことになってしまった……。 |
ダーナ | 生き残った私とナーザは、ある計画を立てました。私の力と、ナーザが使役していた精霊の力を合わせ生き残った人々を、別の世界へ移そうと考えたのです。 |
ダーナ | 新たな世界――人々を守る揺り籠の世界への移住。それが―― |
フィリップ | ダーナの揺り籠、ティル・ナ・ノーグ……。 |
ダーナ | そのとおりです。 |
フィリップ | ……この世界はダーナの揺り籠である。罪を背負った人々は、罪を贖い、浄化しダーナの揺り籠に生まれ落ちた。 |
フィリップ | あの創世神話は、歴史そのものを伝えていたのか…… ! |
ヨーランド | 神話やおとぎ話に歴史が織り込まれるのはよくある手法でしょう ?私も最初に真実を知ったときは驚いたけどね。 |
フィリップ | ええ。まだにわかには信じがたいです……。バロール神が鏡精と共に戦った鏡士でナーザ神は召喚士……。 |
フィリップ | そういえば、アイフリードの墓にも揺り籠の文言がありました。精霊を封印しているのであればやはり創世の関係者なのですか ? |
ダーナ | もちろん。アイフリードはナーザですから。 |
フィリップ | は……ええっ! ?でもあの墓は確か……。 |
ヨーランド | ああ、混乱しちゃうわよね。じゃあ、わかりやすく説明してあげる。 |
ヨーランド | ナーザ神はアイフリード、これはいいわね。そしてあの墓の主は私の幼馴染でもある召喚士のルイス・アイフリードの方よ。 |
ヨーランド | 召喚士ルイス・アイフリードはナーザ神の鏡精の子孫なの。鏡精が主の名を頂いたって感じかしら。 |
フィリップ | ナーザは鏡士ではなく召喚士だと聞きましたがどうして鏡精が出てくるのですか ? |
ダーナ | ナーザは召喚士であると同時に鏡士でもありました。いえ、【想像】の力によって精霊を創ったと言った方がいいかもしれません。 |
フィリップ | 精霊を……創る ! ? |
ダーナ | その話はとても長い話になってしまいます。今は置いておきましょう。 |
ダーナ | とにかく私とナーザはこの世界に万が一があったときのことを考え自分たちの力を自らの鏡精に移したのです。 |
フィリップ | あなた方は鏡精と戦ったのではないのですか ?それなのに……。 |
ダーナ | フィリップ……私も鏡精と争いたくはなかった……。鏡精は自らの分身でもありますから。 |
ダーナ | 鏡精に味方したバロールとは逆に鏡士に味方した鏡精もいました。……ひどい時代だったのです。 |
フィリップ | ……申し訳ありません。出過ぎたことを口にしました。 |
フィリップ | それにしても……鏡士の始祖であるヨーランドがダーナの鏡精の子孫でアイフリードはナーザの鏡精の子孫……。 |
フィリップ | 創世の神々は、こんな形で私たち鏡士に繋がっていたんですね。 |
ダーナ | ええ。そしてフィリップ、あなたはどの鏡士よりも私と近い縁を持っています。 |
ダーナ | あなたは、私の血を引いているのですからね。 |
フィリップ | え…… ? |
ダーナ | だからこそ、この声が届いたのでしょう。フィリップ・レストン。我が子孫であり、融合の鏡士よ。 |
フィリップ | ぼ……いや、私が、あなたの ! ? |
ダーナ | さて、世界を救うためにはどうしたらいいか、でしたね。 |
ダーナ | 私にあなたの力を貸してください。それが世界を救うための方法になるでしょう。 |
キャラクター | 4話【2-7 アスガルド城】 |
デミトリアス | こちらが送り込んだ兵たちは、精霊の封印地には入れなかったようだ。おかげでフィリップたちの足取りは掴めていない。 |
グラスティン | そうか……。何か仕掛けがあるんだな。まあいいさ。自分で手に入れた方が何倍も興奮するからなぁ。ヒヒヒッ。 |
デミトリアス | きみの方は上手くやってくれたようだね。 |
グラスティン | ああ。今は心核信号の数値も落ち着いている。ダーナはまた雲隠れしたらしい。 |
デミトリアス | 一体何をしたんだ ?「神との対面を邪魔する手筈」と言っていたが。 |
グラスティン | あれか ? 開発中の【魔導砲】を応用した魔鏡機器を使ったんだよ。 |
グラスティン | 異世界の技術は素晴らしいよなあ。あの妨害波は、かなりの威力だった筈だぞお。神へも影響を及ぼすほどになぁ。ヒヒッ ! |
グラスティン | これがある限り、今後はフィリップもダーナへの接触が難しくなるだろうよ。 |
デミトリアス | 『今後』はな。だがフィリップはすでにダーナとの接触を成功させて私たちに不利となる情報を掴んだかもしれない。 |
デミトリアス | ……やはり、あの時にダーナの心核を破壊できていれば……。 |
グラスティン | そんな泣き言、今更何になる。 |
デミトリアス | そうは言ってもね……。心核さえ破壊していればあの時点でティル・ナ・ノーグの精霊たちを強制的に目覚めさせることができていた。 |
デミトリアス | そうすればアイフリード……ナーザ神の復活ももっと早い段階で実現できていただろう。 |
グラスティン | 早かろうが遅かろうが、目的を達成すれば関係ない。 |
グラスティン | お前は心核の破壊にこだわっているようだがあの時に必要だったのはダーナの心核の『欠片』だぞ。そいつは目的通りに達成した。 |
グラスティン | 何より最大の狙いはヨーランドの『目覚め』だった。全て俺たちの計算通りに進んでいる。 |
グラスティン | お前が悔いる要素がどこにあるというんだ ? |
デミトリアス | …………。 |
グラスティン | 確かに、フィリップがダーナに接触したのは厄介だがあいつのことは俺に任せておけ。むしろその方が好都合だしなぁ。ヒヒヒッ。 |
グラスティン | 俺たちは精霊を従えるためにこのままナーザ神の復活に着手すればいいんだよ。 |
デミトリアス | ……そうだね。 |
グラスティン | ……納得してないって顔だな。だったらもう一つ面白い話を聞かせてやる。 |
グラスティン | 小さいフィリップが残した研究資料を探っていたら興味深いものを見つけたんだ。 |
デミトリアス | エルレインの奇跡の力の研究だろう ?成果は芳しくなかったと聞いたが。 |
グラスティン | 確かに『神の力の具現化』としては失敗だった。だがあいつは、シュヴァルツという異世界の神を具現化している。 |
グラスティン | この研究記録を応用すれば、ナーザ神の復活がもっと早く叶うかもしれないぞ。 |
デミトリアス | 本当か ! |
グラスティン | 少し前から俺の方で研究を進めている。何しろ神の復活という難業だ。アプローチは多い方がいいだろう ? |
デミトリアス | 素晴らしい。きみのおかげで更に展望が開けそうだ。 |
グラスティン | ヒヒヒ、陛下の憂いは払拭できましたかな ? |
デミトリアス | ああ。礼を言うよ、グラスティン。研究に必要な物があれば何でも言ってくれ。 |
グラスティン | 必要か……。あえて言うなら、あの聖女様だな。 |
デミトリアス | エルレインか ? |
グラスティン | ナーザ神の具現化にはエルレインの協力が欠かせない。だが、あいつが素直に従うかどうか。 |
グラスティン | あの女の口癖は知っているだろう ? |
デミトリアス | 遍く人々の救済……。そのために彼女はフォルトゥナ神の力を求めていたのだったな。 |
デミトリアス | ふむ……。ならば下手に事を荒立てるよりもエルレインには『そう思って』動いてもらう方がいいのだろうね……。 |
グラスティン | 回りくどいな。つまり、エルレインにはフォルトゥナ神の具現化と偽ってナーザ神の復活に協力させろということだろう ? |
グラスティン | あの女を騙せとはっきり言え。 |
デミトリアス | 耳が痛いよ。彼女の希望を裏切るようで心苦しいんだ。……しかし私の目的も、ある意味救済ではある。彼女とは規模と手段が違うだけだ。そうだろう ? |
デミトリアス | ……いや、これが欺瞞であることもわかっているがね。 |
グラスティン | ……いびつだなぁ、デミトリアス。まあ、そこがお前の面白いところさ。ヒヒヒヒッ ! |
キャラクター | 6話【2-9 仮想鏡界1】 |
イクス | 魔鏡兵器カレイドスコープか……。話には聞いてたけど、本当に具現化装置とは正反対の存在なんだな。 |
ミリーナ | …………ええ。 |
ナーザ | カレイドスコープはそれまでの戦況を覆した。我がビフレスト軍は見る間に劣勢へ転じ……。最終的には消滅した。 |
ナーザ | 文字どおり、人も、国も、大地も、全てが消えたのだ。もちろん俺とバルドもな。 |
メルクリア | …………っ。 |
ナーザ | その後のことは、虚無に飲まれた俺よりもお前たちの方が詳しいだろう。 |
二人 | ……はい。 |
カーリャ | …………。 |
ミリーナ | カーリャ、大丈夫 ? 震えてるわ。 |
カーリャ | カ……カーリャが、ビフレストに攻め込んで……。 |
イクス | カーリャじゃない。俺と最初のイクスさんが違うようにさ。 |
バルド | カーリャ、今の話を聞いて恐れや悲しみを感じているのならばそれはあなたの心が清く純粋だからですよ。 |
バルド | 何より私たちに心を寄せてくれている証拠でもある。ありがとうございます。愛らしいカーリャ。 |
カーリャ | バルドさま……。 |
バルド | あなたは泣き顔さえも可愛らしいですね。かりそめの体でなければ、その涙を拭って―― |
ナーザ | そういう一言が余計なのだ、お前は。だからローゲに疎まれたことを忘れるなよ。 |
バルド | すみません。 ――何にしろ、あなたに罪はありませんよ、カーリャ。 |
メルクリア | 確かに、その鏡精……カーリャに罪はない。だが、わらわの国が消滅した事実は変わらぬ。 |
メルクリア | セールンドは、攻められる切っ掛けを作ったうえにビフレストを消滅させたということじゃ。 |
ミリーナ | …………。 |
イクス | ……最初のイクスさんも、バロールの魔眼を継いだ自分が鏡士にならなければ、おそらく戦争は起きなかったと言ってたよ。 |
バルド | 彼の選択が世界の命運を左右したのは確かです。ですが、開戦へ至った理由はそれだけではありません。 |
ナーザ | ああ。オーデンセとビフレストとの停戦協定がかろうじて守れていた当時でもセールンドは何かがおかしかった。 |
ナーザ | 魔鏡戦争前、まだセールンドの先王が健在だった頃のことだ。 |
バルド | お呼びですか、ウォーデン様。 |
ウォーデン | 来たか。早速だがこれを見てくれ。魔鏡技師フリーセルからの報告書だ。 |
バルド | 今はセールンドへ派遣されていましたね。 |
ウォーデン | ……人払いは済ませてある。お前の率直な感想を聞かせて欲しい。 |
バルド | ……わかった。 |
バルド | …………。これは…… ! |
バルド | ウォーデン !ここに書かれたことが事実ならば…… ! |
ウォーデン | 事実だ。セールンド国王はオーデンセに接触しバロールの力を取り戻そうとしている。 |
ウォーデン | しかも、バロールの一族にも力を取り戻すことに応じた人物がいるようだ。 |
バルド | 何ということを……。明らかに停戦協定を反故にした行為だ ! |
バルド | オーデンセの鏡士もなぜこのような愚かな選択をしたんだ。 |
ウォーデン | わからん。オーデンセが我々の領土だったのは昔の話だ。 |
ウォーデン | 100年戦争時代にセールンドに奪われて以降何が起こっているか詳しく調査することも叶わない。 |
バルド | だが、その100年戦争の停戦の際セールンドへ多大な譲歩をする代わりに、バロールの血族に対しては固い取り決めをかわしたはず。 |
バルド | なのに今になって、古の盟約を破ろうとは……。セールンドへの正式な確認はしたのかい ? |
ウォーデン | もちろん、外交ルートで書簡を送っている。しかしセールンドからは相手にされなかった。何度問い合わせても、知らぬ存ぜぬばかりだ。 |
バルド | 何度も……そうか。ウォーデン、最近きみの顔色が優れなかったのはこの件に奔走していたからだね。 |
ウォーデン | ……本当に余計な所ばかりよく見ているな。お前は。 |
バルド | いや、愛する義弟の苦悩に気付かないとは情けないよ。すまなかった。 |
ウォーデン | 愛するだの何だのといちいち大げさだぞ。そんなだから貴様の周囲では厄介事が絶えないんだ。 |
バルド | これでも相当自重しているつもりだよ。特にきみに対してはね。何しろ将来の皇主であらせられる。 |
ウォーデン | ならばもっと自重しろ。俺の乳兄弟というだけでもいらぬ嫉妬を買うのだからな。 |
バルド | ――だけど悪い癖だよ、ウォーデン。すぐに一人で抱え込もうとして。 |
ウォーデン | 今回は仕方がなかった。この話を大事にすればただでは済まないだろう。内々に対処できればと思っていた。 |
ウォーデン | ……だが、そうも言っていられなくなった。バロールの魔眼を持つ鏡精が出現すれば世界は終わる。 |
ウォーデン | 今この瞬間でさえ、セールンドは和平を謳いながら鏡精という兵器を造り続けている。 |
ウォーデン | 女神ダーナの言葉も言い伝え程度にしか受け取らずダーナを殺そうとしたバロールさえも、未だ神として崇める始末。 |
ウォーデン | この上、我々の言葉も通じないとなればこれ以上は看過できない。 |
ウォーデン | もう……力で抑え込むしかない。 |
バルド | 攻める気なんだね、セールンドを。だが、きみはまだ迷っている。違うかい ? |
ウォーデン | …………。 |
バルド | ここに僕を呼んだのは、背中を押して欲しいから ? |
ウォーデン | うぬぼれるな。決めるのは皇太子であるこの俺だ。 |
バルド | そうだね。それでいい。けれど、僕も求められたとおり、率直に言わせてもらう。――開戦には反対だ。 |
ウォーデン | ……お前が争いを嫌うのはよく知っている。だが心構えはしておけ。 |
ウォーデン | ビフレストはセールンドへの最後通牒の後返答次第では正式に宣戦布告をする。 |
ウォーデン | 目標はオーデンセ島。【バロール狩り】の開始だ。 |
キャラクター | 7話【2-10 仮想鏡界2】 |
ミリーナ | ……その【バロール狩り】にあったのが最初のイクスだったのね。 |
ナーザ | あの時点では、バロールの血を引く者の手がかりは『銀髪』という情報だけだった。 |
ナーザ | 故にビフレストはオーデンセ島に住む銀髪の人間を片っ端から狩って、その遺体を回収した。 |
メルクリア | ! ! |
カーリャ | 銀髪っていうだけで襲ったんですか ! ? |
メルクリア | 兄上様、その……、お話のとおりであればほとんどの者は無関係だったのではありませぬか ? |
ナーザ | ……無関係の者を巻き込んでも成すべき事だと思った。あの時はな。 |
カーリャ | それでも酷いです……。 |
イクス | それだけバロールの力が脅威だったって証拠だよ。 |
メルクリア | イクス ? おぬしは腹が立たぬのか。今の話は怒って当然だと思ったぞ。 |
イクス | ……メルクリア、なんか感じが変わってきたよな。 |
メルクリア | な、なんじゃ、いきなり ! 馬鹿にしておるのか ! |
二人 | …………。 |
イクス | バロール狩りのやり方に納得なんかしてないよ。俺は当時のことを知らないけど想像しただけでも怒りが沸く。 |
イクス | ……でも、オーデンセの話は、メルクリア奪還作戦の時に、少しだけナーザ将軍から聞いているからさ。多少冷静になれたってだけだ。 |
イクス | そうだ。ナーザ将軍、オーデンセ侵攻と虐殺はバロールの血筋がどこに潜んでいるかわからないからだと、あの時に言ってましたよね。 |
ナーザ | ああ。そんな話をしたな。 |
ナーザ | バロールの血筋はオーデンセの鏡士のどこに潜んでいるかわからぬ。 |
ナーザ | イクス・ネーヴェ以外にも、バロールの血を受け継いだ者がいた可能性がある。 |
ナーザ | ――だが、確かに言葉が過ぎた。我が国も問題解決のため、力に訴えたことは事実だ。 |
ミリーナ | ……待って。そんなに恐ろしいものならそもそもどうしてバロールの血筋を残しておいたの ? |
ミリーナ | 最初のイクスの遺体を保存していたのもバロールの魔眼と関係があるの ? |
ナーザ | 遺体を残したのは、バロールの血筋を滅ぼしてもバロールの力を残しておく必要があったからだ。 |
ナーザ | 大事なのはバロールの魔眼をもつ鏡精を作らせないことだったからな。 |
イクス | なぜバロールの力を残しておく必要があったのかまだ答えを聞いていません。 |
ナーザ | 脅威ではあっても、失ってはいけない力だとビフレストの皇族に伝えられていたからだ。 |
ナーザ | この世界からバロールの力が失わなれないように銀髪の遺体――最初のイクスを『保存』し厳重に管理することが必要だった。 |
ミリーナ | バロールの力……。 |
イクス | ミリーナ、どうしたんだ ? |
ミリーナ | ……あの時も思っていたの。どうして私は、バロールの話を知らないのかって。 |
ミリーナ | 鏡士やイクスに関わる重要な情報でしょう ?なのに……。 |
イクス | ゲフィオンは【バロールの魔眼】を知っていたはずだ。コーキスとナーザ将軍が戦っていた時に俺に教えてくれたから。 |
ナーザ | あの時か。魔鏡結晶の中でそんな真似を……。 |
イクス | 多分、ゲフィオンが今のミリーナを具現化した時に意図的に記憶を引き継がなかったんじゃないかな。 |
ミリーナ | ……やっぱり私、最初のミリーナと向き合わなきゃいけないわね。 |
ミリーナ | ごめんなさい、話を中断させて。それで、バロールに関して他にどんな言い伝えがあるんですか ? |
ナーザ | バロールについてはビフレストでも情報が少ない。こちらが知る話も、ほぼ伝承のみだな。 |
ナーザ | バロールは神話から抹消された空の神だ。それと同時に、世界を滅ぼす嵐の神とも伝えられている。 |
ナーザ | ビフレストに残る伝承によれば神々を滅ぼした【フィンブルヴェトル】を引き起こしたのがバロールだ。 |
ナーザ | その力は魔眼として、バロールの血筋に受け継がれたと言われている。 |
ナーザ | だが、バロールの魔眼がどのような形で死を呼ぶのかはビフレストでもわかっていない。 |
イクス | 死を呼ぶ……か。バロールの魔眼を持つ鏡精がフィンブルヴェトルでニーベルングを破壊したって話が関係するのかな……。 |
ナーザ | わからん。だがそれも相まってか、バロールは鏡精の守り神としても語られていて―― |
コーキス | 何だよそれ ! ニーベルングを滅ぼした奴が俺たちの守り神のわけ―― |
全員 | えっ ! ? |
イクス | コーキス ! ? |
コーキス | ヤバッ…… ! |
ナーザ | はぁ……たわけ者め。 |
キャラクター | 8話【2-11 仮想鏡界3】 |
カーリャ | コーキス、やっぱりいたんですね ! |
ミリーナ | 心配してたのよ ! 会えて良かったわ。 |
コーキス | ……あ……えっと……。 |
メルクリア | コーキス、そなた、イクスに会わないようにとマークと一緒に出かけたのではなかったかのう ? |
イクス | えっ…… ? |
コーキス | そ、それは……あれ、あれだよ……ええと……。 |
コーキス | (どうしよう、マスター傷ついたかな。けど言えねえ……。やっぱりマスターたちが気になって隠れてこっそり様子を見てたなんて……) |
コーキス | お……俺、忘れものを取りにきたんだ ! じゃあな ! |
メルクリア | 何も持っておらんが、忘れ物とはなんじゃ ? |
コーキス | うっ……。いや、だから……。 |
イクス | もういいよ、コーキス。ひとまず元気そうで安心した。 |
コーキス | ……う、うん。 |
イクス | ずっとコーキスと話がしたかったんだ。……アジトを出て行った理由ちゃんとお前の口から聞きたかったからさ。 |
コーキス | ……今は話したくない。 |
カーリャ | コーキス ! みんな心配してるんですよ ? |
コーキス | それは……ごめん。 |
イクス | じゃあ、理由は後でもいいよ。なんで今は話したくないんだ ? |
コーキス | 話したくないんだから仕方ねーじゃん !しつこいよ、マスター ! |
イクス | ……ど、どうしてだよ ! 話してくれなきゃ俺だって何もわからないだろ ! |
コーキス | マスターだって俺と同じだろ ! 色々隠し事して肝心なことは何も話しちゃくれないくせに ! |
イクス | 隠し事ってなんだよ ! そんなことしたつもりは―― |
コーキス | してただろ。バロールの魔眼のことや、鏡精の秘密もそうだ ! |
コーキス | 俺、こんなヤバい力を受け継いでるんだぜ ! ?だったらなおさら離れてた方がいいよ。マスターの負担になるだけだ。 |
イクス | ……俺はそんな風に思ってない。 |
コーキス | マスターが思ってなくたって、そもそも俺みたいなのは生まれちゃいけない存在だったんだろ ! ? |
イクス | そんなわけないだろう !いい加減にしろよ、コーキス ! 俺は…… ! |
ナーザ | 双方落ち着け ! 見苦しい ! |
二人 | ! ! |
ナーザ | くだらぬ争いをしている場合か ?続けたければ、ここを出て行け。 |
イクス | ……すみませんでした。 |
コーキス | …………。 |
カーリャ | コーキスも言うことがあるんじゃありませんか ? |
コーキス | ……邪魔してすみません。 |
バルド | 二人とも、冷静に話し合える状況ではありませんね。落ち着くまでは、コーキスもこちらにいたほうがいいと思いますが、いかがでしょう ? |
二人 | ………………。 |
ナーザ | では、話を戻すぞ。……と言っても、これ以上バロールに関する目ぼしい情報はない。 |
ナーザ | 今後、バロールについてはこちらで調査を進める。お互い、新たな情報が入った際は共有しようと思うがそちらに異存はあるか ? |
イクス | いいえ。俺たちも助かります。 |
ナーザ | では今日はここまでだ。バルド、メルクリア。出口まで案内してやれ。 |
バルド | 承知しました。 |
メルクリア | 皆の者、ついて来るがよい。 |
コーキス | …………待ってくれ、マスター。 |
イクス | ……どうした ? |
コーキス | アジトを出る時にも言ったけど俺、ここでやらなきゃいけないことがあるんだ。 |
イクス | ……そうか。だったら、そのやることを済ませたらちゃんと帰って来るって約束してくれ。 |
イクス | 俺は信じて待ってるからさ、コーキス。 |
コーキス | …………。マスター、ミリーナ様、パイセン気を付けて帰れよ。 |
カーリャ | あっ、コーキ―― |
イクス | いいんだ、カーリャ。 |
カーリャ | でも、せっかく会えたんですよ ! ? |
イクス | さっきのコーキスの目は真剣だった。あいつはただ迷ってるだけじゃないと思う。 |
イクス | 今更だけど、しばらくの間はコーキスの好きにさせてやりたい。ミリーナも、カーリャも、それでいいか ? |
ミリーナ | わかったわ。イクスが決めたことだもの。コーキスの意思を尊重しましょう。 |
ミリーナ | カーリャも寂しいだろうけど、しばらくの我慢ね。 |
カーリャ | ……わかりました。でも、こんなにみんなに心配かけているんですから帰ってくる時は、お土産持ってこなきゃ許しません ! |
イクス | そういうわけなんで……すみませんがコーキスのこと、宜しくお願いします。 |
バルド | ええ。どうかご心配なく。 |
メルクリア | 召使い代わりに丁度良いのじゃ。気兼ねなく置いて行くがよい。 |
イクス | (コーキス……、これでいいんだよな ?) |
ナーザ | 奴らは帰ったぞ。お前を頼むと言ってな。 |
コーキス | うん……。 |
コーキス | (俺はまだ帰れないんだよ、マスター) |
コーキス | (わかってるんだ。バロールの魔眼の話を隠していたのは、俺を思ってのことだって……) |
コーキス | (なのに俺は、そんなマスターを信じきれなかった。マスターを疑って、魔眼に不安を感じてそこを死鏡精に付け込まれた……) |
コーキス | (こんな弱い心の俺じゃ、きっとマスターを危険な目に合わせちまう。それだけは絶対に嫌だ) |
コーキス | (まずこの不安を……バロールの魔眼が何なのかを解き明かさなきゃ。これからもずっと、マスターと一緒にいるために) |
キャラクター | 9話【2-15 アジト】 |
カーリャ | はぁ……。なんだか疲れましたねぇ。 |
ミリーナ | そうね。まさかビフレスト側のアジトに行くなんて思わなかったわ。 |
カーリャ | そういえば、先輩はどうしてるんでしょう。合流はしないで、クラースさまたちと戻るって連絡は来ましたけど……。 |
ミリーナ | ……きっと忙しいのよ。ネヴァンには後でゆっくり話すわ。話さなければ……いけないんだから。 |
ミリーナ | ねえイクス、今日の報告だけど―― |
イクス | …………。 |
ミリーナ | ……イクス、大丈夫 ? |
イクス | ああ、うん、報告だろ ? ええと……。 |
ミリーナ | 無理しないで。疲れた顔してるわ。やっぱりコーキスのことが気になるのね。後は私がやるから、イクスは少し休んで。 |
イクス | ……ありがとう。じゃあ悪いけど―― |
ノーマ | あ~、イっくん、リナっち、カーりゃん !帰ってきてるじゃん ! |
イクス | ただいま。遅くなってごめんな。そっちの企画はまとまったか ?クリスマス兼歓迎会。 |
セネル | それどころじゃなかったんだ。捜してた俺の仲間が、帝国と揉めてるって聞いて救出に行ってた。こっちも今帰って来たところだよ。 |
二人 | ええっ ! ? |
イクス | みんな無事なのか ! ? |
セネル | ……まあ、一応。ただ、行った先で―― |
モーゼス | おう、ワレがここの頭か。世話んなるのう !ワイはモーゼ―― |
ジェイ | モーゼスさんはちょっと黙っててください。そんなことよりも大事な話なんですから。 |
モーゼス | そんな ! ? ま、まあええわ。今は嬢ちゃんの体が心配じゃけぇの。 |
シャーリィ | すみません、モーゼスさん。 |
ミリーナ | シャーリィ ? 何かあったの ? |
セネル | 実は、モーゼスを助けに行ったところでグラスティンに会ったんだ。 |
二人 | グラスティン ! ? |
イクス | リッドの仲間に、シャーリィまでか……。【贄の紋章】なんて、聞いたことがないな。 |
ミリーナ | 大丈夫なの ? 痛んだりしない ? |
シャーリィ | はい。今は不思議なくらい何ともないんです。 |
クロエ | でも、まだ顔色が悪いぞ。私たちに心配をかけまいと我慢しているんじゃないか ? |
シャーリィ | クロエってば、心配しすぎだよ。ちゃんと医務室で診てもらうから大丈夫。 |
イクス | 念のために、ジェイドさんやハロルドさんにも診てもらった方がいいな。 |
セネル | ああ、そのつもりだ。何かわかったら報告する。行こう、シャーリィ。 |
シャーリィ | うん。それじゃ、失礼します。 |
モーゼス | なあ、ところでワイの紹介は―― |
ノーマ | 心配ご無用。ジェージェーの歓迎会も兼ねたパーティーを計画してるからさ一緒にモーすけもやっちゃおう ! |
ジェイ | あ、ぼくはその日、絶対に間違いなく予定が入ります。モーゼスさんおひとりでどうぞ。 |
モーゼス | クカカ ! ワイに主役を譲るっちゅうんか !ええとこあるのう、ジェー坊 ! |
ジェイ | あはは、無知って怖いですね。 |
カーリャ | モーゼスさま、でしたっけ ?見た目は完全に山賊ですけど、愉快な人ですね。 |
ミリーナ | ええ。でも……シャーリィもみんなも平気そうな顔してるけど、きっと不安よね。 |
イクス | ああ……。――ん ? 通信だ。 |
リッド | イクスか ? |
イクス | リッド ! セネルたちから聞いたぞ。仲間が見つかったんだって ? |
リッド | なんだ、聞いてたのか。レイスとフォッグの救出に動いてるから連絡しとこうと思ったんだよ。 |
イクス | そっちの様子はどうだ ? 救援はいるか ? |
リッド | いや、オレたちの方は心配すんな。すぐに二人を連れて帰る。じゃあな。 |
イクス | わかった。そっちは頼む。 |
ミリーナ | フォッグさんとレイスさんも印を押されているのよね。贄の紋章の情報を、何か知ってるんじゃないかしら。 |
イクス | リビングドールにされてたようだし、どうかな……。 |
? ? ? | よお、パイセン ! |
カーリャ | えっ、コー…… ! ?……って、マークじゃないですか ! |
マーク | おっと、パイセン呼びはコーキスに怒られちまうか。 |
イクス | マーク ! フィルさん ! 無事に戻ったんですね。 |
ミリーナ | 良かった……。連絡がなかったからどうしたのかと思ってたのよ。 |
フィリップ | 出発の時に言ったじゃないか。しばらく連絡はとれなくなるって。 |
ミリーナ | それはわかってるけど……でも魔の空域よ ?何日も連絡がなければ心配に決まってるじゃない。 |
マーク | あ~、あれから一週間以上たってたみたいだな。ま、その程度の誤差で済んで良かったぜ。 |
カーリャ | 誤差 ? |
マーク | ま、その辺は後で説明するよ。 |
イクス | それで、ダーナには会えたんですか ? |
フィリップ | もちろん。その報告に来たんだよ。 |
ミリーナ | すごいわ、フィル ! 本当に神様に会えたのね。 |
フィリップ | 神様……か。ところで、こちらで変わったことは ? |
イクス | 今日はナーザ将軍と会ってきました。そこで新しい情報と、他にも色々……。それに今、グラスティン絡みで問題が起きています。 |
ファントム | やはり彼が動いてるんだな……。わかった。まずはお互いに情報をすり合わせよう。 |
ミリーナ | ええ。でもその前に。 |
イクス | あ、そうか。まだだったよな。 |
フィリップ | 何がだい ? |
イクス | おかえり、フィルさん。マーク。 |
ミリーナ | おかえりなさい。無事に帰ってきてくれて嬉しいわ。 |
フィリップ | え…… ! ? う、うん……。ありがとう……――ただいま。 |
キャラクター | 10話【2-15 アジト】 |
イクス | …………。 |
ミリーナ | イクス……。 |
イクス | ……それじゃ、バロールという神は元々人間で俺はその力を継いだ末裔。フィルさんはダーナの血を引いた子孫……ってことになるのか ? |
フィリップ | イクスたちの情報と、僕がダーナから聞いた話を突き合わせるとそうなるね。 |
カーリャ | あわわわ……神様の子孫……。ええと、フィルさまには何をお供えしたらいいですかね ? |
マーク | ……だいぶ混乱してるな。ちっこいカーリャ先輩。 |
フィリップ | 今聞いたナーザ将軍の話だと、神とは言ってもビフレスト皇国とセールンド王国の神話では捉え方や認識にずれがあるようだね。 |
イクス | あの……俺の家系がバロールの力を継いでるってフィルさんは知っていたんですか ? |
フィリップ | バロールの力や魔眼の件は、伝承程度にしか知らなかった。ネーヴェの家系のこともビクエになった後に知ったんだよ。 |
フィリップ | そんな認識だったから、魔鏡戦争の件もビフレストが伝承をたてに攻め込んだようにしか見えなかったな。 |
ミリーナ | ……毎度のことだけれど私たちには知識も情報も足りないのね。これじゃまだ何もわからないわ。 |
フィリップ | 確かなこともある。帝国が本格的にニーベルング復活に着手したということだ。 |
フィリップ | 救世軍は引き続き、アイフリードであるナーザ神の調査をしようと思う。ダーナの別れ際の言葉も気になるからね。 |
ミリーナ | バロール神のほうは、ビフレスト側が調べると言っていたわ。 |
イクス | じゃあ俺たちは、フィルさんとナーザ将軍が掴んだ情報を共有しながら、その他の調査を進めていこう。 |
ミリーナ | そうね。だったら聖核の調査に出ているカロル調査室のメンバーにも招集をかけましょう。一度、全ての情報を整理した方がいいわ。 |
マーク | よし ! それぞれやることは決まったな。 |
マーク | ――で、コーキスは今後ナーザの配下で動くのか ? |
イクス | ……今は、多分。 |
マーク | おい、あからさまに沈んだ顔するなよ。 |
カーリャ | 仕方ないんです ! イクスさまはお疲れなんですよ。 |
マーク | はは、こっちのパイセンもイクスびいきか。すまなかったよ。 |
マーク | しかしまぁ、姿が見えねえと思ったら家出かよ。鏡精にとっちゃ贅沢な話だぜ。 |
イクス | 贅沢 ? |
マーク | そうだろう ? あいつは魔鏡結晶のおかげで一人でも、この世界のほとんどの場所に行ける。だから家出なんて出来るんだぜ ? うらやましい話さ。 |
フィリップ | うらやましいって……マーク、家出したいのかい ? |
マーク | して欲しくてもやらねえぞ。ダメおっさん放り出して家出とか逆にこっちが心労で死ぬっての。 |
マーク | 一般的な鏡精の認識ってやつだ。俺の願いじゃねえ。 |
カーリャ | ですね。私もミリーナさまから離れたくはないですけど……コーキスの気持ちもちょっとだけわかっちゃいます。 |
カーリャ | カーリャも、具現化されたビフレストで話を聞いて動揺しちゃいましたから。 |
ミリーナ | カーリャ……。 |
イクス | そうだよな……。コーキスは魔眼も持ってるからあの話を知ったら、色々考えるのは仕方ないよな……。 |
マーク | まあ、普段使わねー頭を使ったせいで余計なこと考えちまったんだろうよ。頭が冷えたら帰ってくるさ。 |
カーリャ | 安心してください、イクスさま。コーキスが帰ってきたらカーリャがガツンと言ってやりますから ! |
ミリーナ | そんなに怒ったら、今度はカーリャが怖くて家出しちゃうかもしれないわよ ? |
カーリャ | 平気ですよ。そんな軟弱者に育てた覚えはありません。 |
イクス | 育てたって……ははははっ !コーキスが聞いたらどんな顔するかな。 |
マーク | なんだ、持ち直したか ? |
イクス | あ……。 |
フィリップ | イクス、コーキスは必ず戻ってくる。だから今は僕たちがやるべきことをやろう。 |
ミリーナ | 一緒に頑張りましょう。コーキスが安心して戻って来られるように。 |
イクス | ありがとう……みんな。 |
イクス | そうだよな。コーキスが何か目的を持って動いているなら、俺だって止まってちゃいけない。 |
ミリーナ | でも、その前にちゃんと休んでね。それも今やるべきことなんだから。 |
イクス | わかってる。無理はしないよ。それでフィルさん、調査についてですけど―― |
フィリップ | ええ ? 休むんじゃないのかい ? |
カーリャ | イクスさまのやる気がすごいです……。さっきはあんなにグッタリしてたのに……。 |
マーク | いいじゃねえか。マスターたちが元気なら鏡精としては言うことなしだ。 |
カーリャ | ですよね !……早く帰って来るんですよ、コーキス。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【3-1 仮想鏡界1】 |
ナーザ | ……駄目だな。リヒター、そっちの資料はどうだ ? |
リヒター | 一通り目を通したがバロールに関する記述は見当たらなかった。 |
ジュニア | こちらも預かった分を見終わりましたけど伝承に繋がりそうなものはありません。 |
マークⅡ | 伝承ねえ……。ビフレストのご先祖様がもっとわかりやすく伝えてくれてりゃなぁ。 |
マークⅡ | 『バロールの滅びの力は脅威だが失ってはいけない力』なんて言われてもその力が何か分からないんじゃ、どうしようもねえ。 |
ナーザ | 長い歴史の中では様々な理由で情報が消えていくものだ。過去の人間にあたったところでどうにもなるまい。 |
マークⅡ | そりゃそうだ。つっても文句の一つも言いたくなるけどな。 |
ジュニア | 伝承どおりなら、バロールの滅びの力には世界にとって重要な役割があると思うんだけど力の詳細どころか、名前もみつからないなんて……。 |
ナーザ | ……再調査だな。レイカー博士、こちらの資料は返しておこう。 |
アステル | 残念だけど、僕が帝国から持ち出した資料は役に立たなかったみたいだね。 |
ナーザ | いや、先の混乱の中では相当に無茶な脱出を図ったと聞いている。これだけの資料を持ち出しただけでも大した功績だ。 |
リヒター | ……確かディストの奴アステルの研究室の壁をぶち抜いたんだったな。 |
アステル | あれは流石にびっくりしたなあ !でも、おかげで帝国から脱出できたから今度会ったらリヒターからもお礼を言ってね。 |
リヒター | いや、もう会うこともないだろう。奴は例の浮遊島で捕まっているんだろう ? |
アステル | 案外、今頃脱走してたりして♪ |
マークⅡ | やめとけやめとけ。縁起でもない。イカレた博士の話もいいけどよ。バロールはどうするんだ。当てはあるのか ? |
ジュニア | う~ん……思い当たりそうな所は調べたし……。 |
バルド | 失礼します。皆さん、少し休まれてはいかがですか ? |
ナーザ | バルド、どこへ行っていた。それにメルクリアとコーキスはどうした ? |
バルド | ええ、こちらに。さあ、メルクリア様。 |
メルクリア | う、うむ……。兄上様、お茶などいかがでしょうか。 |
ナーザ | お茶…… ? |
コーキス | おっと、危ね ! こぼすところだったぜ。 |
メルクリア | コーキス、気をつけよ ! 給仕も満足にできぬのか ? |
コーキス | 慣れてないんだから仕方ないだろう。メルクリアだって、お茶を淹れるのに苦労してたくせに。 |
メルクリア | な、慣れてないのだから仕方ないじゃろう。 |
マークⅡ | ははっ、何だよ、お前ら気が合うじゃないか。仲良くお茶汲み係とはな。 |
コーキス | 俺は真面目に資料調べしてたんだぜ。それをメルクリアが……。 |
メルクリア | 何を言うか。飽きて欠伸をしておったくせに。気分転換にと連れ出してやったのだから感謝せよ。 |
ナーザ | メルクリア……これはお前が淹れたのか ? |
メルクリア | はい、バルドに教わりました。今の兄上様のお体ではあまり必要のないものかもしれませんが気が休まればと思って。 |
バルド | ええ。僭越ながら手ほどきを。さあ、皆さんもどうぞ。 |
ナーザ | この香りは……。 |
バルド | お好きでしたよね。このお茶。 |
ナーザ | ……そうだったな。忘れていた。何しろ、食事をしなくても問題ない身体だからな。 |
メルクリア | あの ! もしも昔と感覚が違うようであれば無理をしなくても―― |
ナーザ | いや、……うん、美味い。ありがとう、メルクリア。 |
メルクリア | 兄上様…… ! この程度、造作もありませぬ。お望みであれば毎日でも。 |
メルクリア | もちろん、リヒター、ジュニア、アステルにも振る舞ってやろうぞ ! |
リヒター | ……フッ。では、遠慮せずこれからも頼もうか。 |
ジュニア | 驚いたよ。メルクリアがこんなことをするなんて。お茶、すごく美味しいよ ! ありがとう ! |
メルクリア | 皆が疲れているようだったのでな。何かできぬものかと考えていたらバルドが相談に乗ってくれたのじゃ。 |
メルクリア | しかし、兄上様の……皆の喜ぶ顔がこれほどまでに嬉しいものとはおもわなかった……。 |
バルド | そうおっしゃるメルクリア様の笑顔も尊く、美しく眩いばかりに輝いておられますよ。そのようなお姿を拝見できて、私も―― |
二人 | バルド ! |
バルド | おや、お二人とも息がぴったりですね。 |
メルクリア | めげぬ奴め……。とにかく、わらわはこれからも皆の笑顔を見るために励むぞ。のう、コーキス ! |
コーキス | 俺も ! ? |
マークⅡ | ここにいるうちに上達するんじゃねえか ?そうだと助かるぜ。コーキス先輩。 |
マークⅡ | 何しろこのメンツだろ ? 衣食住の世話なんて俺くらいしかできないと思ってたからな。皇女様でも鏡精でも、助っ人は大歓迎だ。 |
ジュニア | いつもごめんね、マーク。僕も、もっと自分のことは自分でできるようにならないといけないよね。メルクリアと一緒に勉強しようかな……。 |
メルクリア | 何を言う。そなたはそなたのやるべきことをやればよいのだ。 |
ジュニア | ありがとう、メルクリア。――よし、メルクリアのおかげでいい息抜きになったし改めて調査の方針を考えましょう。 |
アステル | けど、調査って言っても……。バロールについての文献ってビフレストにはどのくらいあったんですか ? |
ナーザ | ビフレスト皇国のみに伝わる神話に名前があるだけでそれ以上詳しい記述はないはずだ。 |
バルド | その神話に関する文献も、カレイドスコープによって、国ごと消滅してしまいましたからね。今ではもう、現物を手に入れる手段はないでしょう。 |
リヒター | 鏡士側や救世軍から、新たな情報は入らないのか ? |
バルド | 救世軍のフィリップさんがダーナとの接触に成功したという連絡が最後ですね。今のところは、これが一番の成果になるでしょう。 |
アステル | でも、核心に迫る前に邪魔されたんですよね ?バロールの情報、もっと知りたかったなぁ。 |
コーキス | マジで手掛かりなしかよ……。いっそダーナみたいにバロールも直接話してくれたらいいのにさ。 |
メルクリア | 突拍子もないことを。それが出来れば、こんな苦労はせぬわ。 |
ジュニア | ……バロールと話す……。そうか、直接……いや直接じゃなくても、ミリーナとゲフィオンの為に考えてたアプローチを使えば―― |
ジュニア | アステルさん ! アステルさんが持ってきた資料のええと、どこだっけ、フォミクリー実験の項目は……。 |
アステル | ああ、これかな ?精霊ローレライとクロノスを使ったレプリカの遡行実験の―― |
ジュニア | それです ! もう一度見せてください ! |
アステル | その資料、持ち出したはいいけどレプリカが絡んでいるから僕の管轄外だったんだよね。ディスト博士の方が詳しいと思うけど、連絡取る ? |
ジュニア | いいえ、今は大丈夫です。……やっぱり、精霊を使ったレプリカ遡行実験に最初のイクスのレプリカを使ったデータがある……。 |
アステル | それ、ディスト博士のファイルとは別になってるから帝国の誰かが独自に進めたものかもしれない。 |
リヒター | 遡行実験ということはレプリカの時間を巻き戻すつもりだったのか。何のために ? |
ジュニア | ディストさんの目的は不明ですね。でも、イクスの方は……。 |
ジュニア | ……うん。やっぱりこのデータはそうだ。ってことは、イクスの遺体のレプリカを増やして人体万華鏡に改造する他にも、何か別の目的で……。 |
ジュニア | (帝国が、イクスのレプリカを実験に使っているのは『最初のイクスという存在』が必要になったから ?) |
ジュニア | (だとすると、最初のイクスだけが持つもの……。記憶……かな。過去にセールンドがバロールの力を欲していたのなら、今の帝国もバロールを……) |
メルクリア | ジュニア。ブツブツ言っていないで説明せよ。……聞こえておらぬのか ? |
マークⅡ | 没頭するとこれだからなぁ。どうした、マスター。……フィル ? …………おい、フィリップ ! |
ジュニア | あっ、ごめん。色々考え始めたら止まらなくなっちゃって……。 |
マークⅡ | それで ? 何か思いついたんだろう。 |
ジュニア | うん。最初のイクスの遺体……ナーザ将軍の体を使ってバロールの記憶を探ることができるかもしれない。 |
キャラクター | 2話【3-2 仮想鏡界2】 |
コーキス | バロールの記憶を探るってナーザ将軍の体でそんなことができるのか ? |
ナーザ | ジュニア、詳しく説明しろ。 |
ジュニア | はい。バロールの血を引くその体には何かしらの『記憶』として、バロールの情報が残っている可能性があるのではないかと思うんです。 |
ジュニア | 最初のイクスの体は、具現化されたものとは違い最初のフィルから受けた記憶操作のノイズもない。 |
ジュニア | 本来のイクスが持っている情報を引き出しやすい状態にある筈です。 |
ナーザ | なるほど。それで、どういった方法で探るつもりだ ? |
ジュニア | それは、コーキスにお願いするつもりです。 |
コーキス | え、俺 ! ? |
ジュニア | コーキスは具現化イクスの鏡精だけど『イクスの鏡精』であることには違いない。だから最初のイクスにも入り込みやすい存在なんだよ。 |
ジュニア | コーキスならば、最初のイクスの体に残っているバロールの記憶を探せるかもしれない。 |
コーキス | ええと、それってシング様たちのスピルリンクみたいなやつってことか ? |
ジュニア | 似てはいるけどちょっと違う。今回は『心』じゃなくて『体』に残る記憶を探るから。 |
メルクリア | なるほど。アニマとアニムスの違いじゃな。命の設計図を調べるというわけか。 |
コーキス | あ~……、ええと、つまりどういうこと ? |
マークⅡ | 大まかにいえば、お前がいてくれたお陰でバロールについて何か分かるかもしれねえってことさ。 |
コーキス | 俺がいたおかげで…… ? そうか……へへっ。 |
メルクリア | 何をにやけておる。理解したのか ? |
コーキス | いや、まだよく分かんねえけど手掛かりになるなら良かったなって。 |
コーキス | よし ! そのバロールの記憶だか情報を探るってやつすぐに始めようぜ。俺は何をすればいい ? |
ジュニア | この方法だと、最初のイクスのアニマサーチデータが必要になるんだ。バロールの末裔である、『イクス』の生前のデータを取り込む必要があるから。 |
マークⅡ | ん ? 待てよ。そのデータがある場所ってのは……。 |
ジュニア | ……最初のイクスのデータが残っているのはセールンドにある壊れたカレイドスコープだよ。だから、セールンドに潜入しないといけない。 |
リヒター | 厄介だな。あの場所は帝国が目を光らせているぞ。 |
ジュニア | はい……。それに、コーキスにはその場で最初のイクスの体にリンクしてもらうことになります。 |
ジュニア | それを考えると、かなり危険なんです。提案しておいてなんですが本当に決行していいものか……。 |
ナーザ | 迷うことはない。バロールに繋がる可能性がある以上は危険を承知でもやる価値はあるだろう。 |
ジュニア | ……そうですね。このままじゃ何も進まない。 |
リヒター | 俺も賛成だ。 |
アステル | 僕も賛成 ! みんなで行けばきっと―― |
リヒター | アステル、お前は留守番だ。 |
アステル | わかってるよ。凄く興味深いけどみんなの足は引っ張りたくないからね。 |
ナーザ | では、コーキス、ジュニア、リヒター。準備をしろ。すぐに出発する。 |
メルクリア | え…… ? お待ちください、兄上様 !わらわは……。 |
ナーザ | お前はここで待っていろ。 |
メルクリア | そんな、わらわも参ります ! |
ナーザ | 勝手は許さない。危険だと話したばかりだろう。 |
バルド | お気持ちはわかりますがどうかご理解ください、メルクリア様。兄君は御身を案じておられるのですよ。 |
メルクリア | それこそ、兄上様の勝手なのではありませぬか ? |
ナーザ | ! ! |
メルクリア | ジュニアの計画が危険なことは承知しております。ですが、敵地の只中で、ジュニアは手筈を整えコーキスがバロールの記憶を探らねばならない。 |
メルクリア | こうしてアジトを作った以上、マークも仮想鏡界の維持の為に残らざるを得ぬ状況です。今までのようには頼れませぬ。 |
メルクリア | 戦えるのがリヒターだけではセールンドでの守りは手薄になるでしょう。 |
メルクリア | 兄上様、わらわも戦えるのです。使える戦力を、私情で切り捨てるおつもりですか ? |
ナーザ | …………。 |
メルクリア | 待つのが最良の策であれば、そういたします。ですが今は違うように思えるのです。 |
メルクリア | お願いにございます。わらわは、兄上様たちの力になりたい。……皆を助けたい。 |
メルクリア | そうあらねば、わらわの手でルキウスらを救うことなど叶いませぬ ! |
メルクリア | 未熟なまま守られるだけでは申し訳が立たぬのじゃ。ルキウスにも、これまで尽くしてくれた者にも。 |
リヒター | メルクリア……。 |
メルクリア | 兄上様、どうかご一考を ! |
バルド | ……ナーザ様、私たちは感謝せねばなりませんね。これまでメルクリア様を諫め、助言をくれた方々に。 |
ナーザ | ……そうだな。 |
リヒター | ………………。 |
ナーザ | ……メルクリア、俺の私情であったことを認めよう。済まなかったな。 |
メルクリア | 兄上様……それでは ! |
ナーザ | ああ。改めて頼む。セールンドへ共に来てくれ。 |
メルクリア | はい、喜んで ! |
キャラクター | 3話【3-3 アスガルド城】 |
デミトリアス | よく来てくれたね、エルレイン。 |
グラスティン | ……なぜサレが一緒なんだ ?新しい従騎士はどうした。 |
エルレイン | イレーヌには領都で執務を任せている。それにサレは元々私の部下だ。従者として連れてくることに何ら問題はないだろう。 |
サレ | ……ええ。まったくもってそのとおり。 |
グラスティン | なるほどな……。ヒヒヒッ。 |
エルレイン | 火急の用と聞いて応じたのだ。早々に要件を聞かせてもらおうか。 |
デミトリアス | きみの望みを叶える準備ができた。ようやく奇跡の力の復活だ。 |
エルレイン | 何と…… ? それはまことか ? |
デミトリアス | このティル・ナ・ノーグに異世界の神フォルトゥナを顕現することになった。きみにも手伝って欲しい。 |
エルレイン | フォルトゥナを……。しかし、異世界の神の具現化は不可能に近いと聞き及んでいる。 |
グラスティン | 小さなフィリップの研究資料が役に立った。お前はあいつから、実験は失敗だったと報告を受けていたんだろう ? |
グラスティン | だが、あれは実のある失敗だった。おかげで神の具現化理論が構築できたんだ。ヒヒヒ。 |
エルレイン | …………。 |
デミトリアス | これらの結果を受けて、帝国が行う世界救済にはフォルトゥナの力が必要だと判断した。 |
デミトリアス | そして、奇跡の力を使いこなせるきみという存在もね。エルレイン。 |
エルレイン | 再び、奇跡の力が我が手に……。 |
デミトリアス | きみの望んだフォルトゥナ神の降臨と世界の救済が同時に行える。この好機を逃さぬためにも、力を貸してほしい。 |
エルレイン | ……なるほど。よくわかった。 |
エルレイン | 世界の救済がフォルトゥナによるものならばこれほど喜ばしいことはない。もちろん協力を約束しよう。 |
デミトリアス | 感謝するよ、エルレイン。 |
エルレイン | であれば、今後は私が帝都へ滞在することも増えるであろうな。 |
エルレイン | 他の者に領都を任せるには何かと準備がいる。私はこれで帰らせてもらうぞ。 |
デミトリアス | 忙しい思いをさせてすまないね。共に世界を救う日を楽しみにしているよ。 |
サレ | …………。 |
サレ | ――フォルトゥナ神の顕現か。さて、あなたは本当にあいつらの話を信じたのかな ? |
エルレイン | 随分と持って回った言い方をする。ならばお前は嘘だと思うのか ? |
サレ | 嘘か本当かなんて僕には興味がないね。今、興味があるというなら、あなたの方だよ。 |
エルレイン | どういう意味だ。 |
サレ | もう色々とわかってるんでしょ ?僕のことも、グラスティンのことも。 |
サレ | ここのところ、イレーヌじゃなくて僕を連れ回すのは動きを封じておきたいからじゃない ? |
エルレイン | …………。 |
サレ | フフ、まあいいさ。あの男と僕は『同族』だ。 |
サレ | それをわかっていながらなおも救済しようとしている聖女様はこれからどんな行動をとるのかな。いやあ、見物だね。 |
エルレイン | サレ、これは命令だ。今すぐ領都へ戻るがいい。 |
サレ | ははっ、聖女様はご機嫌ななめか。それでは、お言葉に甘えて退散いたしましょう。 |
エルレイン | ……哀れな男よ。 |
エルレイン | (……だがこれで身軽になった。今であれば――) |
デミトリアス | ――エルレインは納得したと思うか ? |
グラスティン | まあ、半信半疑だろうよ。だがあの様子じゃ、奇跡の力への期待も残っている。そこをくすぐってやるさ。 |
グラスティン | ともあれ、話は通した。これでナーザ神を呼び出すことができる。 |
デミトリアス | ならば次の準備にかかるぞ。 |
グラスティン | ああ。俺はこれからセールンド山の研究施設に行く。お前も一緒に来てくれ。 |
伝令兵 | 失礼いたします ! 急ぎ、グラスティン様にご報告したいことが……。 |
キャラクター | 4話【3-4 セールンド 街中】 |
コーキス | 結構あっさり入れちまったな。セールンドにつくまでは警備兵がウロウロしてたけど街の中はそうでもねえじゃん。 |
メルクリア | そうじゃな。だがカレイドスコープの間にたどり着くまでは油断するでないぞ。ですよね、兄上様。 |
ナーザ | ……ああ。 |
バルド | …………。 |
リヒター | 二人とも難しい顔をしているな。 |
バルド | ええ。何というか……あまりにも容易すぎると。 |
ナーザ | バルドもそう感じたか。 |
コーキス | 警備のきつい所を突破しただけじゃないのか ? |
ナーザ | いや、今のセールンドには違和感がある。普段よりも兵が少なく、警戒が薄い。俺たちにとって都合が良すぎる状況だ。 |
ジュニア | どうしましょう。引き返しますか ? |
ナーザ | いや、帝国が動き出している以上こちらも猶予はない。用心は怠らず、このまま進む。 |
ナーザ | いいか、周囲全てに警戒しろ。俺は先行して様子を見ながら、お前たちを誘導する。 |
バルド | お待ちを。私も参ります。幻体ならば危険もありませんしメルクリア様にもすぐに報告ができますので。 |
ナーザ | ……そうだな。ついて来い。 |
ナーザ | この辺りまでは問題ないようだ。真っすぐカレイドスコープの間へ行けるだろう。バルド、メルクリアへ伝えろ。 |
バルド | 承知しました。 |
ナーザ | それと、お前に少し話がある。 |
バルド | 何でしょう。 |
ナーザ | もし、俺に何かあった場合はメルクリアを頼む。 |
バルド | ……何を言い出すかと思えば。 |
ナーザ | 念のためだ。イクスの体を探る過程で何かあれば俺はこの体に戻れなくなるかもしれないからな。 |
バルド | それは……。確かに今回の作戦ではナーザ様の意識がノイズにならぬよういったん心核を抜く手筈ですが……。 |
ナーザ | 杞憂とでも思うか ? |
バルド | ……いえ。仰る通りかと思います。 |
ナーザ | ジュニアの才覚は認めているが万が一ということもある。しかもこの状況だ。帝国の妨害が入る可能性も否めん。 |
ナーザ | そうなった場合は俺にかまうな。メルクリアを守ることを優先して―― |
バルド | お断りします。あなたも、そしてメルクリア様もお守りするのが私の使命です。例え幻体であっても。 |
ナーザ | ……俺の頼みでもか。 |
バルド | 頼みと言うなら、なおさらだよ。何より、その言葉は義兄として受け入れ難い。 |
バルド | 今の話を聞いたら、メルクリア様も同じことを言うんじゃないかな。 |
ナーザ | …………。 |
バルド | 僕もメルクリア様もきみを失うようなことはしないし、したくない。 |
ナーザ | ……そうか。お前の気持ちはよくわかった。 |
ナーザ | だが、嫌でも選ばねばならぬこともある。その時に、生者のメルクリアと死者の俺どちらを優先すべきか考えておけ。 |
ナーザ | バルドなら、間違うことはないと信じている。 |
バルド | ……僕を困らせるのが得意だね、きみは。 |
| セールンド カレイドスコープの間 |
ナーザ | 俺とジュニアは、カレイドスコープからデータを回収する。見張りは頼んだぞ。 |
バルド | お任せを。 |
メルクリア | …………。 |
リヒター | どうした。不機嫌そうな顔をして。……ああ、ゲフィオンの鏡像を見ていたのか。 |
メルクリア | ……わらわにとっては真の仇である女じゃぞ。不機嫌にもなるわ。 |
コーキス | (マスターもこの魔鏡結晶に閉じ込められていたんだよな。……マスター、今頃どうしてるだろう……) |
ジュニア | 良かった……。カレイドスコープ本体の破損は酷いけどデータは無事だ。 |
ジュニア | すぐに始めます。コーキス、ナーザ将軍、こちらへ。 |
コーキス | ……いよいよか。 |
ナーザ | 頼むぞ、コーキス。ではジュニア、始めてくれ。 |
ジュニア | はい。ではまず、ナーザ将軍の心核を外しますね。 |
メルクリア | …………。 |
リヒター | ……様子を見に行くか ? |
メルクリア | ……よい。わらわは、兄上様やコーキスたちを守るためについて来たのだからな。わらわもわらわにできることをするまでじゃ。 |
リヒター | それでいい。 |
ジュニア | よし、上手くいってる……。 |
ジュニア | コーキス、ナーザ将軍の心核を外したから今度はきみの意識と、イクスの体をリンクさせる。いくよ ? |
コーキス | う、うん。やってくれ ! |
コーキス | ……うわっ ! |
ジュニア | リンクできた ! どうコーキス、きみの意識は―― |
コーキス | ……いっ ! 痛ぇ……。 |
ジュニア | えっ、コーキス ? |
コーキス | なんか痛いんだよ……左目が……これ……前といっしょ……うあああああああああっ ! |
ジュニア | コーキス ! コーキスッ ! ? |
キャラクター | 6話【3-5 ???】 |
コーキス | (……変だな。なんでバロールと戦ってるんだろう。それにこの光景、どこかで……) |
コーキス | (そうか、モリアンに操られた時と似てるんだ) |
コーキス | (あの時はマスターと戦って……マスターの声が聞こえて、戻れたんだ) |
コーキス | (……なんだっけ、魔眼……、制御…… ?くそっ、意識がぼやけて、体がいうこと聞かねえ) |
コーキス | (俺はあれから何も変わってないのか。……情けねえ、一人じゃ何も……) |
バロールの残滓 | 鏡精、俺――言葉も――か ? |
コーキス | (誰だ……何を言ってる ? よく聞こえねえよ……) |
コーキス | (やっぱり、俺がマスターの側にいたら危険だ。いつこうなるか、わかんないもんな) |
コーキス | (ごめん、マスター。俺、きっともう帰れな――) |
イクス | ちゃんと帰ってくるって、約束してくれ。 |
イクス | 俺は信じて待ってるからさ、コーキス |
コーキス | ……マス……タ……。 |
バロールの残滓 | ! ! |
コーキス | (帰れないって、なに言ってんだ俺……。マスターが待ってるのに ! 信じてくれてるのに !) |
コーキス | (あの言葉に応えたい……。応えるために、俺はここにいる !) |
コーキス | っ……マスタ――――ッ ! |
バロールの残滓 | ……ようやくか。 |
コーキス | はあっ……はあっ……。俺、戻った…… ? |
バロールの残滓 | 暴走の制御に成功したな。どうやら魔眼の力を使いこなしつつあるようだ。鏡士との間に結ばれた信頼を忘れるな。 |
コーキス | バロール……。 |
バロールの残滓 | バロールの魔眼は、死を呼ぶ時は毒を放ち命を生む時は炎を燃やす。 |
バロールの残滓 | 鏡精よ、その力を使いこなせ。 |
コーキス | 待ってくれ ! まだ消えないでくれ !もっと聞きたいことが―― |
バロールの残滓 | お前に――バロール……あ……ける……。 |
コーキス | …………あ。 |
ナーザ | 目が覚めたか ? |
コーキス | バロール ! よかった、消えてなかったのか ! |
ナーザ | ……何を言ってるんだ、貴様は。 |
コーキス | …………何だ、ナーザ将軍か。 |
メルクリア | 何だとは何じゃ ! ? 失礼な奴め ! |
ジュニア | コーキス ! 良かった、目が覚めて……。目の痛みは ? 体は何ともない ? |
コーキス | あ、ああ。大丈夫。そうか、俺、突然目が痛みだして……。 |
リヒター | 酷い悲鳴を上げていたが……今は落ち着いているようだな。 |
コーキス | ああ……うん。大丈夫みたいだ。そういえばナーザ将軍は平気なのか ? 心核を外してただろ。 |
ナーザ | このとおりだ。今のところ異常は見られない。 |
バルド | ナーザ様も、コーキスも、無事で何よりです。しかし、これからどうしますか ? |
バルド | コーキスの苦しみ方を見る限りもう一度同じ手法でバロールを探らせるのは……。 |
メルクリア | ……無理であろうな。 |
コーキス | あ、ごめん。報告が遅れたけどバロール……みたいな人には会えたんだ。 |
全員 | ! ! |
メルクリア | なんと、成功しておったか ! それで何がわかった ? |
コーキス | ええと……。 |
バルド | 死を呼ぶ時は毒を放ち命を生む時は炎を燃やす……とは、意味深ですね。 |
メルクリア | 何のことやらさっぱりじゃ。ほかにバロールは何か言っておらぬのか ? |
コーキス | さっき話したので全部だよ。あー、消える前に、俺にバロールの……なんとかって言いかけてたけど、よく聞こえなかった。 |
コーキス | もしかして……あんま役に立たなかったか ? |
ジュニア | ……ううん、バロールの残滓はとても重要なことを伝えてくれたと思う。 |
バルド | そうですね。何かの比喩という可能性もありますが我々が伝え聞く『滅びの力』といわれるものが『毒を放ち』に相当するのだとすると……。 |
ナーザ | 言葉どおりに受け取るならばバロールの魔眼は、我々の知らない『命を生む』力も秘めているということだ。 |
ナーザ | それこそが、バロールの『失ってはいけない力』なのかもしれない。 |
ジュニア | それじゃ、イクスの遺体を失ってはいけないのもそれが理由ってことなのかな……。 |
リヒター | 興味深いが、いったん議論は打ち止めだ。この場所に長居をしない方がいい。 |
メルクリア | リヒターの言う通りじゃ。特にこの場所は落ちつかぬ。すぐに脱出するぞ。 |
? ? ? | いや、もっとゆっくりしておいで。メルクリア。 |
全員 | ! ! |
メルクリア | まさか……。 |
デミトリアス | 会えてうれしいよ、メルクリア。元気そうで何よりだ。 |
メルクリア | ……ち……義父上っ…… ! |
ナーザ | デミトリアス…… ! |
キャラクター | 7話【3-6 カレイドスコープの間】 |
帝国兵 | 動くな。大人しくしろ。 |
コーキス | くそっ、気が付かなかった…… ! |
デミトリアス | ナーザ将軍、いや……ウォーデン殿。イクスの遺体の紛失から予想はしていたがその姿で再び相まみえるとは。 |
デミトリアス | ジュニアには、してやられたよ。 |
ジュニア | …………。 |
デミトリアス | メルクリア、よく顔を見せておくれ。心配していたんだ。 |
メルクリア | 義父上……あなたという人は…… ! |
バルド | メルクリア様、どうかお心を鎮めて下さい。 |
デミトリアス | 話を聞くに、きみがバルドのようだね。私の側近の『フレン』でいた頃とはだいぶ姿も在り方も違うようだ。 |
デミトリアス | やはりジュニアの仕業かい ?それともウォーデン殿かな。とかく鏡士とは想像もつかぬことをする。 |
ナーザ | ……襲撃は予想していたが貴殿自らこの場に現れるとはな。 |
デミトリアス | あなた方がセールンドへ侵入したと報告を受けた。 |
デミトリアス | 危険を冒してまでこの場に来るとなればさぞかし重要な情報を得るためだろうと思ってね。それに、メルクリアの様子も気になっていた。 |
コーキス | くそっ……それじゃあやっぱり警備が手薄だったのもわざとかよ。 |
デミトリアス | きみたちが無事に目的を果たせて何よりだ。おめでとう。流石だよ。 |
デミトリアス | おかげで私も、最も必要としていたバロールの根源に近づく方法を知ることができた。心から感謝する。 |
リヒター | 泳がせて覗き見か。いい趣味をしているな。 |
デミトリアス | 確かにぶしつけだったね。失礼したよ。私は争うために来たのではない。きみたちと話し合いに来たんだ。 |
ナーザ | 今更何を話し合う。 |
デミトリアス | それでも――私はきみたちに同盟を申し込みたい。皇太子ウォーデン・ロート・ニーベルング殿。 |
ナーザ | 同盟だと ? 何のために。 |
デミトリアス | 貴君が受け継ぐその名にもあるニーベルングへの回帰を果たすためだ。 |
デミトリアス | これまではお互いの理解が及ばず相容れぬこともあっただろう。あなたが我らに不信を抱かれるのも当然だ。 |
デミトリアス | だが以前に申し上げたとおり、私の成すことはあなたが成し得なかったときの安全弁であった。ゆくゆくの目的は同じと考えている。 |
デミトリアス | どうか今一度我らと手を結んではくれぬだろうか。 |
ナーザ | ふっ……。 |
デミトリアス | ……ウォーデン殿 ? |
ナーザ | 滑稽だな。死人に同盟を申し入れるとは。俺も以前に言った筈だ。我が名はナーザ。ウォーデンは死んだ。 |
ナーザ | それでも返答を求めるならば、あえて言おう。貴殿の申し出は断る ! |
ナーザ | 我らはビフレスト聖騎士団。今やアスガルド帝国を打倒せんとする者だ。 |
デミトリアス | ……なるほど。ナーザ殿のお考えはわかった。メルクリア、お前もかい ? |
メルクリア | ……無論じゃ。 |
デミトリアス | 私が無体を強いたことは自覚している。幼いきみを悩ませぬためにと黙って計画を進めたことは間違いだった。謝罪しよう。 |
デミトリアス | だからもう一度、私の手を取っておくれ、メルクリア。昔のように、私の側で共に暮らそう。 |
メルクリア | ……義父上、わらわはあなたの優しさが毒じゃと気づいた。 |
メルクリア | 気づきながら、その毒を食らう者がいるとお思いか ? |
デミトリアス | 私の優しさが毒 ? 何を言っているんだい ? |
メルクリア | モリアンのこと、ルキウスのこと !わらわは、義父上の全てが許せぬと言っておるのじゃ ! |
デミトリアス | ……すまなかった。きみには、その辛さを忘れるほどの幸せを約束しよう。 |
メルクリア | 違う……違うのじゃ、義父上……。 |
デミトリアス | だったら何が違うのか、よく話し合おう。私はきみを本当の娘と思って愛している。 |
デミトリアス | だが、このまま交渉が決裂すればきみたちを無事に帰すわけにはいかなくなってしまう。 |
ナーザ | 脅しか ? |
デミトリアス | ……私は話し合いで終わらせたい。手荒な真似はしたく―― |
メルクリア | ミゼラブル・トーチャー ! ! |
デミトリアス | ――っ ! ! |
メルクリア | 今じゃ、皆、逃げよ ! ! |
デミトリアス | 待ちなさい、メルクリア ! |
メルクリア | ……さらばじゃ、デミトリアス。 |
デミトリアス | ! ! |
デミトリアス | メルクリア……本気で私から離れるのか……。 |
帝国兵 | 陛下。いかがいたしましょう。 |
デミトリアス | ……残念だが、見ての通りだ。これより彼らを、帝国の敵対勢力と見なす。ビフレスト聖騎士団一行を捕らえよ ! |
キャラクター | 9話【3-9 セールンド城内3】 |
ルキウス ? | どこかに隠れているかもしれない。片っ端から部屋を開けろ ! |
帝国兵 | はっ ! |
アリエッタ | 絶対逃がさない……絶対……あっ ! |
ナーザ | …………。 |
アリエッタ | いた ! みんな、来て ! |
アリエッタ | 他の人……どこ、です ? あなただけ…… ? |
ナーザ | そうだ。 |
ルキウス ? | 自分を犠牲に仲間を逃がしたのか。自己犠牲なんて愚かだね。でもまあ、いいよ。一人でもいいから捕まえろとの指示だから。 |
アリエッタ | お願いです。このまま捕まってください。そうすればアリエッタの仕事は終わり。今度こそ、イオン様に会える筈……です。 |
ナーザ | 貴様はリビングドールにされていないようだな。なぜ帝国に従う。 |
アリエッタ | それが……イオン様のためだって。 |
ナーザ | その言葉が真実だと、嘘ではないと言い切れるか ? |
アリエッタ | 嘘じゃない ! グラスティンが言ったもん !イオン様は生きてるっ !だから……だからアリエッタは…… ! |
ナーザ | グラスティン…… ? あの男を信用するのか。イオンが本当にグラスティンの所にいると実際に確認はしたのか ? |
アリエッタ | っ…… ! もう、やめて ! なんで意地悪言うの…… ? |
ナーザ | ……辛くても考えろ、アリエッタ。 |
ルキウス ? | そこまでだよ。この男を拘束するんだ。 |
魔物 | …………。 |
アリエッタ | 待って、みんなが困ってる……。なにか変……です。 |
ルキウス ? | これ以上は待たない。やれ ! |
帝国兵β | はっ ! |
ルキウス ? | ! ? |
帝国兵β | …… ? この男に触れません。 |
アリエッタ | みんなが、その人から生き物の匂いがしないって……。 |
ナーザ | そう……。この身はまぼろし。悲しみに震えるあなたに手を差し伸べても触れることすら叶わない存在です。 |
ルキウス ? | 姿が消える…… ! ? |
ナーザ | アリエッタ、あなたはそこにいるべきではない。どうか、真実を知る勇気を――………………。 |
ルキウス ? | 消えた。……捕獲失敗か。アリエッタ、報告に戻るよ。 |
アリエッタ | …………。 |
ジュニア | はぁ……はぁ……。 |
リヒター | 疲れたか ? |
ジュニア | 大丈夫 ! まだ走れるよ。メルクリアだって平気なんだから。 |
リヒター | ――おい、ナーザ。このままだとジュニアとメルクリアが遅れる。 |
ナーザ | わかった。少し速度を落とす。 |
メルクリア | ……あっ ! 兄上様、バルドが ! |
バルド | ――ただいま戻りました。 |
ナーザ | 残してきた幻体が消えたか。 |
ジュニア | メルクリアの力が届かなくなったんだね。バルドの幻体を保つには、この距離が限界なのか。 |
メルクリア | ……わらわの力はこの程度なのじゃな。 |
ナーザ | いや、十分な距離を稼いだ。このまま逃げ切れるだろう。よくやった。バルド、メルクリア。 |
コーキス | 驚いたなぁ。ナーザ将軍そっくりに化けて敵を引き付けるなんてさ。 |
ナーザ | バルドの幻体のイメージを、俺の姿にしただけだ。考えたのはバルドだがな。 |
バルド | 申し訳ありません。私ごときがナーザ様を真似るなど屈辱以外の何ものでもないでしょう。 |
バルド | あなたという高貴なる存在を汚してしまったこと本当に心苦しいばかりです。 |
ナーザ | ……わかった。もういい。お前はもう少しフレンの中にあったときのように慎ましくできないのか。 |
バルド | すみません、ナーザ様。 |
メルクリア | バルド、ルキウスはどんな様子であった ? |
バルド | リビングドールであることは間違いなさそうですが詳細はわかりませんでした。ただ、怪我などはしていないようです。 |
メルクリア | そうか。無事……ではないが生きていてくれて良かった……。 |
バルド | そういえば、アリエッタの方はリビングドールにはされていませんでした。おそらく、帝国に利用されているのでしょう。 |
バルド | 彼女は心から苦しんでいます。どうにか救ってあげたいとも思いますが何もできぬこの身が口惜しくて……。 |
ナーザ | バルド ! 余計なことを考えるな。人にはわきまえるべき分というものがある。全てを救いたいと思うのは思い上がりだ。 |
ナーザ | 貴様はそうやっていらぬ苦しみを背負いたがる。……やめておけ。 |
バルド | ……はい。 |
ナーザ | 拠点へ戻るぞ。 |
コーキス | 厳しいな、ナーザ将軍って。 |
バルド | そう見えるのでしょうね。まったく……不器用な方です。 |
バルド | あの方はとても厳しくて、不器用でそして優しい方なのですよ。 |
キャラクター | 10話【3-10 アジト1】 |
ミリーナ | イクス、会議の時間が……あっ、みんなもう集まってたのね。 |
カーリャ・N | 小さいミリーナ様、お待ちしていました。 |
ミリーナ | 私が一番遅かったみたい。ごめんなさいね。 |
カロル | 大丈夫、ボクたちもさっき来たところ。 |
ラピード | ワオン ! |
イクス | セシリィの引っ越し準備どうなってた ?もうすぐフィルさんたちが来るぞ。 |
ミリーナ | もう荷物はまとまっていたから大丈夫。今、みんなにお別れの挨拶をしているところよ。 |
イクス | 色々あったけど、セシリィがここにいる間にいい友達ができて良かったよな。 |
カーリャ | 前にチャットさまと盛り上がってるのを見ましたよ !機械の崇高さがどうとか。何言ってるのかさぱらんでしたけど。 |
ユーリ | そういや、キール研究室にも顔出してたって ? |
カロル | うん。セシリィは魔鏡技師見習いだからリタやパスカルに色々と聞いてたみたい。 |
ユーリ | 技術はともかく、妙な影響うけてなきゃいいけどな。あいつら性格がぶっとんでるから。 |
ミリーナ | あら、リタならガロウズさんのお気に入りだもの。逆に喜ばれるんじゃないかしら。 |
カーリャ・N | あの……そろそろ会議を始めないと本当に時間がなくなってしまうのでは……。 |
ユーリ | っと、そうだった。じゃあ、さっさと報告しちまうか。カロル先生、頼んだぜ。 |
カロル | うん。ええと、各大陸で帝国が管理する領主の館を調べていたんだ。 |
カロル | でも、ここ最近ですごく警備が厳しくなってる。配備される兵士もかなり増えたよ。 |
ユーリ | ああ。これから領主の館に潜入することも増えるだろ ?今までと同じだと思うと痛い目みるぜ。 |
カロル | あ、そうだ。オールドラント領でもグラスティンが関わってそうな事件が起きてたからリオ……浮遊島警備部に伝えておいたよ。 |
カロル | こっちで調査しようかと思ってたけどガイがルークたちを誘って調べてみるって。 |
イクス | じゃあ、ルークたちもオールドラント領に向かうかもしれないんだな。 |
カーリャ・N | すみません。その話で思い出したのですが確か少し前から、シング様たちが原界(セルランド)領に向かわれていましたよね。 |
イクス | ああ。カロルたちの調査で領主の名前がわかったからな。 |
カーリャ | パライバさまと、カルセドニーさまですよね。 |
カーリャ | クリードさまの件が何とかなった途端今度は領主の救出に向かわなきゃいけなくなって……。シングさまたち大丈夫でしょうか。 |
カーリャ・N | 何か連絡は入っていますか ? |
イクス | 潜入調査だから、こちらからの連絡は控えてるんだ。……けど、向こうからの定時報告も遅れてる。 |
カーリャ | え……大丈夫なんですか、シングさまたち。 |
ミリーナ | そうね。信じてないわけじゃないけどカロルたちの報告を聞くと……。 |
ユーリ | 嫌な予感がするな……。わかった、ちっと様子見に行ってくるわ。 |
イクス | いいんですか ?調査から帰ってきたばかりなのに。 |
ユーリ | ここであーだこーだ言ってても仕方ねえだろ。カロルもいくか ? |
カロル | 当然 ! もうこんなの慣れっこだよ。 |
ラピード | ワンワン ! |
ミリーナ | ええ。お願いするわね、ラピードさん。 |
イクス | それじゃゲートであっちに降りたら一度連絡を――っと……ごめん、通信が入った。 |
カーリャ | シングさまたちですかね ! ? |
イクス | ……えっ ? あ、あなたは…… ! |
キャラクター | 11話【3-11 原界領 領主の館1】 |
帝国兵β | 侵入者を発見。侵入者を発見。排除せよ。 |
クンツァイト | 敵勢力を視認。排除を開始。 |
クンツァイト | 排除を確認。他に敵影なし。リチアさま、こちらへ。 |
リチア | ええ。コハク、わたくしとクンツァイトが周囲を見張ります。今のうちに出口へ。 |
コハク | ありがとう。リチア、クンツァイト。みんな、敵が来る前に早く ! |
ベリル | あ~も~、この館、なんでこんなに兵士がいるのさ !過保護 ! 過剰警護 ! 何様だよー ! |
クンツァイト | 回答する。領主様だ。 |
ベリル | 知ってるよ ! |
ヒスイ | くっちゃべってねえで行け !おい、シング、モタモタすんじゃねえぞ ! |
シング | わかってる。けど、どこかにカルやマリンさんがいるかもしれないと思うと……。 |
ヒスイ | 今日はもう無理だっつってんだろ !オラ、さっさと行け ! |
コハク | あそこ、出口が見えたよ ! 兵士もいない ! |
ベリル | やった ! 助かった―― ! |
? ? ? | と、思う子豚のあわれなるかな~。 |
コハク | 誰 ! ? 外から ? |
シング | あの声…… ! 出るな、コハク、ベリル !そいつは―― |
ハスタ | 解体ショーだヨ ! 善人集合 ! |
二人 | ! ? |
シング | くそっ ! 間に合えっ ! |
シング | かはっ……ごふっ……。 |
ハスタ | ん~、いい声、いい音、夢気分 !ハスタ選手、やりました !ありがとう……、お母さんのおかげデス ! |
コハク | うそ……シング ! しっかりして ! |
ベリル | ボクたちをかばって…… ! |
クンツァイト | 警告。バイタルの異常を検知。かなりの深手だ。動かさないほうがいい。 |
コハク | シング……シング ! すぐに治すから ! |
リチア | わたくしも一緒に回復術を ! |
ヒスイ | てめえ…… ! よくもやりやがったな ! |
ハスタ | う~ん、見た目どおりのハジケる弾力。ちょうどリビングドールで聖核を増やすのに飽きていたところだったにょん。 |
ハスタ | そんな時です !なんということでしょう、お城で素敵な舞踏会が !ハスタ姫は槍を片手に乗り込んだのでした~。 |
ヒスイ | ああそうかよ、イカレ野郎が !その気色悪ぃクチ、きけなくしてやる ! |
シング | 駄目だヒスイ……。みんな、逃げ……ゴホッ…… !ハスタは……ダメ……だ……。 |
リチア | しゃべってはいけません ! |
コハク | シングはわたしが…わたしたちが絶対に守るから ! |
帝国兵β隊 | 侵入者を確認。 |
ハスタ | おかわりだぷー ! さあさあ遠慮せず腹一杯かっさばいて、召されませいっ ! |
ベリル | な、なに ! ? いきなりみんな吹っ飛んじゃった ! |
リチア | この術は―― ! |
リチア | クリード兄さま ! なぜここに……。 |
クリード | 好きで来たわけではない。 |
フローラ | あなた方が領主の館に潜入すると知ってクリードに助けを頼んだのです。きっと、力になれることがあるからと。 |
リチア | ありがとうございます。フローラ姉さま、クリード兄さま。 |
クリード | ……帝国の輩に、私の残した研究資料を利用されるのは気にいらんのでな。潰しておこうと思っただけだ。 |
クリード | イクスたちには、お前が押し付けてきた魔鏡通信機で状況を伝えてやった。すぐに援軍がくるだろう。 |
ハスタ | ふぅ、すがすがしい目覚めだ……。そして一杯の『紅血ゃ』を飲むオレ。 |
ベリル | ヤバイよ ! アイツ復活した ! |
クリード | 聞こえるか、シング・メテオライト。私に偉そうな口を聞いておいて貴様はこんなところでくたばるつもりか ? |
クリード | フッ、所詮は脆い原界人ということか。 |
シング | クリ……ド……。 |
フローラ | リチア、シングに回復術が効いているようであれば今すぐ連れて逃げなさい。 |
リチア | ……わかりました。ありがとうございます、フローラ姉さま。 |
リチア | 行きましょう、みんな。クンツァイト、シングをお願いします。 |
クンツァイト | 承知しました。シングの生命維持を最優先しこの場を離脱します。 |
コハク | クリード、ありがとう ! |
ヒスイ | ……死ぬんじゃねえぞ。 |
クリード | さっさと行け。目障りだ。 |
ハスタ | ああ……いっちまった。据え敵喰えぬは男の恥。しかし次の日には元気に殺戮にまい進するハスタくんなのでした。 |
フローラ | ……クリード、私たちの常識が通用する相手ではないようです。十分に気をつけてください。 |
クリード | 心配するなフローラ。私の思念術の前では塵一つ残ってられんさ。 |
キャラクター | 12話【3-13 アジト2】 |
フィリップ | そうか。各地の警備がそれほどまで……。 |
マーク | 原界(セルランド)領の方も心配だな。救世軍の地上部隊にも一報入れとくか。何かあったら協力するよう言っておく。 |
カーリャ・N | ありがとう、マーク。気が利きますね。……なんです、そのゆるんだ顔は。 |
マーク | いや、ネヴァンパイセンに褒められるなんて珍しいからさ。嬉しくてねぇ。 |
カーリャ | ふざけてる場合じゃありませんよ、マーク !シングさまたちがピンチなんですからね。 |
マーク | 今度はちっこいパイセンに怒られるのかよ……。 |
イクス | 大丈夫だよ、カーリャ。クリードさんもいるしユーリさんたちも応援に向かった。何かあれば報告が入る手筈だから。 |
マーク | しかし参ったぜ……。そんなに帝国兵の監視が厳しくなったんじゃうちの地上部隊の連中にも警戒させないといけねえな。 |
イクス | それと、これはシャーリィたちが付けられた【贄の紋章】と呼ばれるものの解析結果です。 |
フィリップ | ありがとう。確認させてもらうよ。 |
フィリップ | …………なるほど。 |
イクス | そこにあるとおり、現段階でですが贄の紋章は、対象者に身体的影響は与えていないようです。 |
イクス | それと、特殊な術式が組み込まれていることをジェイドさんとハロルドさんが発見しました。 |
フィリップ | 術式……。その術式がどういう方向性のものかは判明してるかい ? |
イクス | いいえ。何のためにつけたのかその意図までは、まだ……。 |
イクス | ただ、領主だったフォッグさんやレイスさんにも付けられているので、帝国がその紋章を重要視しているのは間違いありません。引き続き調べるつもりです。 |
フィリップ | わかった。その検証には僕も協力させて欲しい。 |
イクス | 是非、お願いします。 |
ガロウズ | ビクエ様、お待たせしました。 |
フィリップ | ああ、ガロウズ。準備はできたかい ? |
ガロウズ | おかげさまで。ほらセシリィ、ビクエ様に挨拶しろ。 |
セシリィ | あ、あの ! これからよろしくお願いします。 |
フィリップ | ああ。ガロウズの下でしっかり学ぶんだよ。 |
マーク | おい、荷物ってのはそのおもちゃ箱みたいなやつか ? |
ガロウズ | ああ。こいつときたら色んな部品を集めちゃ何か作ってたみたいでさ。このおもちゃを全部ケリュケイオンに持ってくんだと。 |
セシリィ | ボス酷い ! すごいのもあるんだから。これなんかチャカチャカっとやってピューっとすると……あれ ? 動かないな……。 |
ガロウズ | お前……随分と変わった物言いするようになったな。 |
カーリャ | パスカルさまの影がチラつきます……。 |
ミリーナ | ふふっ、ユーリさんの言ったとおりね。 |
エル | あ、セシリィいた ! ほらアミィ、早く ! |
アミィ | セシリィ、間に合って良かった。これ、渡すの忘れてたから。 |
セシリィ | これって、アミィのマーボーカレーのレシピ……。ありがとう。私も頑張って作れるようになるね ! |
エル | ねえねえ、もうガロウズには怒られたの ?ハモンされなかった ? |
セシリィ | あ……ええと……。なんとか……。 |
ガロウズ | はははっ ! そりゃもう、こってりしぼってやったぜ。魔鏡技術知りたさに、自分からリビングドールに志願したバカ弟子だからな。 |
ガロウズ | これに懲りたんなら、俺のところで真面目に魔鏡技師の勉強をすることだ。 |
セシリィ | は~い……。 |
アスベル | イクス、会議中に済まない。ちょっと話がしたいんだ。フィリップさんも交えて。 |
イクス | アスベル ? いいよ、どうしたんだ ? |
アスベル | 俺たちが預かっているチーグルの心核をビフレスト側に返しに行きたいんだ。 |
リチャード | 彼に……チーグルに約束したんだよ。必ずメルクリア皇女のもとへ届けるとね。その約束を果たしたい。 |
リチャード | だがそれは、ビフレスト陣営の仲間を増やす行為でもある。僕たちの一存で決めていいものか考えていた。 |
リチャード | 君たちと、そして救世軍の意見を聞かせてもらえないかな。 |
ソフィ | イクス、ミリーナ、どう思う ?メルクリアたちは、まだ敵 ? それとも味方 ? |
イクス | ……正直に言うと、味方……ではないと思う。そうなって欲しいけど、今はまだ利害が一致しただけの共闘みたいなものだ。 |
イクス | だけど、心核を返すのは賛成する。何となく、今のメルクリアなら大丈夫だと思うんだ。 |
ミリーナ | ええ。私もそう思う。フィルはどう ? |
フィリップ | 僕も賛成しよう。それに、約束を果たそうとする彼らの意志を尊重したい。 |
イクス | それじゃ、キール研究室で保管されているローゲの心核も一緒に返そうか。そっちは少し……心配だけど。 |
イクス | とにかくナーザ将軍とメルクリアには俺から連絡を入れておくから、後は任せるよ。 |
アスベル | わかった。みんな、承諾してくれてありがとう。キール研究室へ行って来るよ。 |
セシリィ | あ、あの ! ちょっといいですか ? |
ソフィ | なに ? |
セシリィ | メルクリア様に会ったら、伝えてもらえますか ?いつか会いに行くから、その時にはいっぱいお話しましょうって。 |
ソフィ | わかった。セシリィが……友達が会いたがってるって、伝えるね。 |
セシリィ | はい、お願いします ! |
ソフィ | 行こう、アスベル、リチャード。 |
二人 | ああ。 |
マーク | さて、セシリィも回収したし、一度戻るか ? |
フィリップ | そうだね。それじゃイクス、僕たちは―― |
アニー | イクスさん ! イクスさんはいますか ! ? |
マーク | なんだよさっきから。賑やかなアジトだなぁ。 |
ミリーナ | どうしたの二人とも、そんなに慌てて。 |
ジュード | 落ち着いて聞いて。――ファントムの意識が戻った。 |
一同 | ええっ ! ? |
アニー | 今、アトワイトさんが診ています。一緒に来てください。 |
ファントム | ……イク……ス……、ミリ……ナ……。 |
イクス | 本当に目が覚めたのか……。 |
アトワイト | あなたたちを見てしゃべっているわけではないの。さっきから同じことを呟いているから明確な意識はないと思うわ。 |
ミリーナ | どうして目覚めたのかしら……。何かきっかけでもあったんですか ? |
アトワイト | いいえ。わからないの。突然目覚めた……それだけよ。 |
フィリップ | これは……そんな……。 |
マーク | どうした、フィル。 |
フィリップ | リーパ……ファントムからダーナの力を感じるんだ……。 |
キャラクター | 13話【3-14 仮想鏡界3】 |
マークⅡ | 何が同盟だ。デミトリアスめ、アタマ沸いてんな ! ? |
アステル | まあまあ。何にしろ、全員無事で何よりだよ。 |
メルクリア | ……のう、リヒターわらわは義父上と話していて恐ろしくなった。まるで話が通じぬ気がしたのじゃ。 |
メルクリア | もしや、わらわも以前は義父上と同じだったのか ? |
リヒター | ……お前はもう違う。気づいたんだからな。 |
メルクリア | やはりそうか……。皆がわらわから離れていったのもよくわかる。 |
メルクリア | しかし、いつから義父上はあのように……。 |
バルド | メルクリア様、少し休まれては。デミトリアス陛下やルキウスのことで酷くお疲れになったでしょう。 |
メルクリア | いや、心配は無用じゃ。話の腰を折ってすまなかった。バロールの話を進めてくれ。 |
ジュニア | うん。今回のコーキスとバロールの記憶との接触は一応成功といっていいと思う。コーキスの魔眼も落ち着いてるみたいだしね。 |
コーキス | ああ。制御できそうだって言われた。けど、あれがもう一度できるかな……。 |
アステル | 大丈夫。コーキスの魔眼の力については僕も研究を進めておくから。何でも話して ! |
コーキス | ありがとな、アステル様。 |
リヒター | しかし……今回の潜入で思い知らされたな。俺たちは圧倒的な戦力不足だ。 |
ナーザ | そうだな。デミトリアスとは完全に決別した。今後は更に厳しい戦いになる。 |
バルド | 協力者が必要、ということですね。 |
コーキス | あのさ……俺が言うのもあれだけどマスターや救世軍とは仲間になれないのか ? |
ナーザ | 我々は、セールンドの鏡士とも救世軍とも思想が違う。 |
ナーザ | 時に共闘もあるだろうが決して同志ではない。境界を見誤ると後悔することになる。鏡精、お前自身もな。 |
コーキス | う……わかったよ。とにかく、即戦力になる協力者を見つけないといけないんだよな。 |
ジュニア | うん。やっぱり強さで言うと鏡映点の人たちだろうけど、そう簡単には見つからないよね。 |
マークⅡ | お、それなら俺、鏡映点っぽい奴がいるって噂を調査中に聞いてるぜ。 |
ナーザ | どんな奴だ、詳しく聞かせろ。 |
マークⅡ | 確かテセアラ領の救世軍の地上部隊にいるのがどうも鏡映点らしいってさ。 |
バルド | それは、すでに救世軍のお仲間なのでは ? |
マークⅡ | それが違うらしいんだよな。俺も詳しくは聞いてねえからちょっと確認に行ってくるわ。 |
コーキス | あのさ、その仕事、俺にやらせてくれないか ? |
マークⅡ | お前が ? |
コーキス | ここでアステル様やジュニア様の難しい話聞いてても俺じゃあんまり役に立ちそうにないし。手伝うったって、何していいか、わかんねえからさ。 |
コーキス | 頭使うより、外で仲間集めの方が俺には向いてると思うんだけど。 |
ナーザ | なるほど……。方々へ行くのなら落ち着かない貴様向きの仕事かもしれん。 |
ナーザ | ではコーキス、お前には鏡映点捜索の任務を与える。 |
ナーザ | ただし、くれぐれも帝国の監視には気をつけろ。いいな。 |
コーキス | わかったよ。ボス。 |
メルクリア | ボス ? なんじゃ、その呼び方は。 |
コーキス | 任務を与えられたからさ。今の俺は、仮だけどナーザ将軍の部下みたいなものってことだろ ? |
メルクリア | ふむ……。なれど兄上様は高貴な御方故―― |
コーキス | それに、マスターと同じ顔だからなんか間違えて呼びそうなんだよ。俺のマスターはマスターだけだ。 |
コーキス | だからナーザ将軍のことは、ボスって呼ぶ。 |
メルクリア | 鏡精とはそういうものなのかのう……。よいのですか、兄上様。 |
ナーザ | ……好きにしろ。 |
コーキス | よっし。了解、ボス ! |
キャラクター | 14話【3-15 セールンド山 調整施設】 |
グラスティン | そうか、交渉は決裂したか。 |
デミトリアス | ああ……残念だよ。 |
デミトリアス | ナーザ将軍とコーキスがこちらにつけばすぐにでもバロールの根源に到達できただろうに……。上手くはいかないものだ。 |
グラスティン | どうでもいいだろう、そんなこと。だいたい、奴らと手を組むなんて最初から計算には入れていない。 |
グラスティン | むしろ決裂したのならこちらにとって都合がいいじゃないか。ヒヒヒヒッ。 |
デミトリアス | どういう意味だ。 |
グラスティン | ……そもそもこの計画では、最初のイクスのレプリカを使って、バロールを甦らせる手筈だった。 |
グラスティン | だが、バロールの根源に近づくとローレライの存在とクロノスの力にぶつかって根源まではたどり着けなかった。 |
グラスティン | やはり最初のイクスの死体が必要だとはわかったがナーザに味方でいられたら、お優しい陛下は非情な手段をとりきれなかっただろう ? |
グラスティン | ナーザと敵対した今なら遠慮なく奴らを叩いて死体を回収できるよなぁ ? |
デミトリアス | だが…………、いやそれもやむなし、か。 |
グラスティン | ヒヒヒヒ、よし、決まりだな。 |
グラスティン | となると、こちらの情報を渡した連中にもそろそろ成果を出してもらわないとなぁ。 |
デミトリアス | 心配せずとも、彼らは非常に優秀だ。もうすぐ吉報が届くだろう。 |
グラスティン | そうあって欲しいねぇ。ヒヒヒッ……。 |
テレサ | テレサ・リナレスです。アルトリウス様の召喚に応じ参上いたしました。 |
帝国兵β | 奥へ。アルトリウス様がお待ちだ。 |
テレサ | ……はい。 |
帝国兵β | アルトリウス様。テレサ・リナレスが参りました。 |
アルトリウス | 通せ。 |
テレサ | お呼びでしょうか。アルトリウス様。 |
アルトリウス | ……表情が硬いな。何があった。 |
テレサ | ……申し訳ありません。アルトリウス様に命じられたオリジンの捜索が難航しております。 |
テレサ | 何ひとつ良い報せが出来ぬままこの館に足を踏み入れるのが心苦しく……。 |
アルトリウス | そんなことか。生真面目なやつだ。 |
アルトリウス | では、この情報はお前のためになるだろう。オリジンを引きずり出す方法がようやく判明した。それを伝えるために、今日は呼び寄せたのだ。 |
テレサ | アルトリウス様…… ! 感謝いたします。それで、その方法とは。 |
アルトリウス | オリジンを呼び出すにはナーザ、ダーナ、バロールの三柱の神の力が必要だ。 |
アルトリウス | さらに、それらの神の力を内包する器も用意しなければならない。 |
テレサ | 器、ですか。 |
アルトリウス | その神々の力に適した人物がいる。アイフリードの関係者だ。 |
テレサ | あの野蛮な海賊ではなく、このティル・ナ・ノーグのアイフリードのことですか ? |
アルトリウス | そうだ。 |
テレサ | しかし、私の知る限り、この世界のアイフリードははるか遠い過去の人物です。その子孫や血族をたどるということでしょうか。 |
アルトリウス | そう難しく考えなくていい。 |
アルトリウス | 情報によれば、鏡映点の中にも異世界のアイフリードの関係者がいる。それらが具現化された際の傾向も調査した。 |
アルトリウス | 結果、その者たちはエンコードの影響を受けこの世界のアイフリードとしての性質を持つ可能性が高いという結論に至った。 |
テレサ | では、その器となる鏡映点がいればオリジンは現れるのですね。 |
アルトリウス | テレサ、お前はこれから鏡映点の中にいるアイフリードの関係者を捕らえよ。よい報告を期待している。 |
テレサ | はい ! この任務、必ず遂行してご覧にいれます。 |
テレサ | (確実にやり遂げなければ。オスカー……あなたのためにも…… !) |
| to be continued |
キャラクター | 2話【4-2 アジト2】 |
イクス | ナーザ神の復活って……それが帝国の目的だったんですか ? |
ヨウ・ビクエ | それだけではないわ。まずは順を追って話しましょう。 |
ヨウ・ビクエ | 帝国は今、ナーザ神、ダーナ神、バロール神の『三柱の復活』を目論んでいるわ。 |
ヨウ・ビクエ | そのために、神に繋がるものを手に入れようとしている。 |
ヨウ・ビクエ | まずはダーナ様に関してだけど以前の精霊の封印地での戦いでダーナ様の心核の欠片が奪われてしまったわ。 |
カーリャ | 欠片とはいえ、神様本人の心核なんて一番大事なものを持っていかれちゃったんですね。 |
ヨウ・ビクエ | そうなのよ。そして次にバロール神。バロールの力は―― |
イクス | もしかして俺……ですか ? |
ヨウ・ビクエ | ええ。彼らはバロール神の力を手に入れるためにその血を引き継ぐ、あなたを狙ってくる可能性が高い。 |
カーリャ・N | 冗談ではありません !また『イクス様』を利用するなんて ! |
ミリーナ | そんなことさせない。イクス、絶対に……絶対にあなたを守って見せるから。 |
イクス | ありがとな、二人とも。 |
イクス | けど……帝国には元々最初の俺の遺体があったんだからすでにバロール復活に繋がる何かを持っていそうな気もするけど……。 |
ヨウ・ビクエ | ええ。その可能性もあるわ。けれど、あなた自身のことも警戒しておくに越したことはないと思うのよ。 |
イクス | これは……ナーザ将軍にも知らせた方がいいのか……。 |
イクス | ――あ、いや。そうか。ナーザ将軍で思い出した。神様の方のナーザに繋がる人も俺みたいに狙われるんじゃありませんか ? |
ヨウ・ビクエ | その通りよ。これがまた厄介なところなんだけど……。 |
ヨウ・ビクエ | フィリップ、ナーザ神がアイフリードだということはイクスたちに伝えてあるわね ? |
フィリップ | はい。あっ……そうか ! 帝国は鏡映点を…… ! |
ヨウ・ビクエ | 気づいたみたいね。帝国は、この世界のアイフリードと近しい性質を持った、『異世界のアイフリード』の血族を使うんじゃないかと思うの。 |
ミリーナ | だとすれば、狙われるのはチャットとパティだわ。早く知らせなくちゃ。 |
フィリップ | 今はどこに ? |
イクス | 確認します。それといつでも会議が開けるようにみんなに連絡もしないとな。 |
アニー | イクスさんたちはこのまま話を続けてください。わたしが二人の安否確認の手配をしますから。 |
ジュード | 僕は、今の話を共有できるようみんなに通達するよ。会議の準備も進めておくね。 |
イクス | ありがとう、助かるよ。こっちが長引きそうだったら連絡するからその時は各班のリーダーたちで先に始めてくれ。 |
ジュード | わかった。それじゃアトワイトさん、医務室をお願いします。 |
アトワイト | ええ、任せて。 |
ヨウ・ビクエ | アイフリードの件は、もっと早く知らせてあげられたら良かったんだけど……。 |
ヨウ・ビクエ | 魔の空域にいると、なかなか今までどおりには動けないのよ。ごめんなさいね。 |
イクス | いいえ。俺たちだけじゃ、ここまでの情報を掴むことはできませんでした。感謝しています。 |
ヨウ・ビクエ | ふふっ、こうして改めて話すのは初めてね、イクス。なかなかの好青年じゃない。 |
イクス | そ、そうですか ? |
ヨウ・ビクエ | ええ。素朴そうなところも可愛いし何だか頭をなでたくなっちゃう。 |
ミリーナ | さすがヨウ・ビクエですね。イクスの魅力をお見通しだなんて。 |
イクス | ミリーナ、真顔で言うことじゃないぞ……。 |
ヨウ・ビクエ | そういえばこの身体……ファントムのことだけど彼を精霊の封印地まで連れてきてくれない ?治療を施すから。 |
フィリップ | 治療 ? できるんですか ! ? |
ヨウ・ビクエ | 多分ね。それに、今後もあなたたちと連絡を取るためには『ファントム』の存在が役に立ってくれるはずよ。 |
マーク | ……それは、こいつがフィルと繋がっている存在だからか ? |
ヨウ・ビクエ | さすが、よくわかっているわね。魔の空域から連絡を取るには、ダーナ様に近しいフィリップを経由するのが一番なの。 |
ヨウ・ビクエ | そのフィリップと繋がっている存在が魔の空域にいてくれれば、こちらも助かるのよね。 |
フィリップ | ……イクス、ファントムは救世軍で預かるよ。これから彼を連れて、精霊の封印地に行ってくる。 |
イクス | わかりました。それじゃ俺たちはアイフリードの件も含めて今後の動きを詰めておきます。 |
フィリップ | マーク、ケリュケイオンへ連絡を入れて受け入れ態勢を整えておいてくれ。 |
マーク | ……了解。搬送準備は頼んだぜ。 |
アトワイト | ところで、ヨーランドさんはこの身体に入ったまま ?それなら搬送の仕方を変えるけど。 |
ヨウ・ビクエ | いいえ、私はファントムに身体を返して先に精霊の封印地に行くわ。 |
アトワイト | そう。いつかあなた自身の身体でゆっくり話ができるといいわね。 |
ヨウ・ビクエ | そうできたら楽しいでしょうね。そんな日が来たら、一晩中おしゃべりにつきあってもらうわよ ? |
アトワイト | ええ、喜んで。 |
ヨウ・ビクエ | それじゃフィリップ、待ってるわね。 |
カーリャ | あ……ファントムが眠りました。 |
アトワイト | ヨーランドさんが出ていったのよ。大丈夫、容体は落ち着いているから。それでは準備を始めましょう。 |
フィリップ | リーパ……。 |
キャラクター | 3話【4-3 アジト3】 |
カーリャ・N | (良かった、このゲート周辺には誰もいない。これなら気づかれないうちに浮遊島を出られる) |
カーリャ・N | (今ならまだ、イクス様も小さいミリーナ様もフィリップ様の見送りをしているはず……) |
カーリャ | 先輩、どこに行くんですか。 |
カーリャ・N | ! !カーリャ ! ? 小さいミリーナ様まで…… ! |
ミリーナ | ネヴァン……。 |
カーリャ・N | ……フィリップ様の見送りはどうしたのですか ?早くしないと行ってしまわれますよ。 |
ミリーナ | いいの。今はネヴァンと話がしたいから。 |
カーリャ・N | すみませんが、できれば後にしてください。今は調査に向かわなければなりませんので。 |
ミリーナ | 何の調査 ? |
カーリャ・N | それは……先ほどのヨウ・ビクエ様の話の裏付けも兼ねて帝国の動向を調べるため……です。 |
カーリャ・N | アイフリードの血族の方々や、イクス様の安全にも関わります。ですから、そこを通していただけますか ? |
ミリーナ | 理由はわかったけど、少しだけ私につきあって。最近のネヴァンは調査を理由にすぐにいなくなってしまうんだもの。 |
カーリャ・N | ……すみませんが、急ぎますので。 |
カーリャ | おーっと、他のゲートには行かせませんよネヴァン先輩っ ! |
カーリャ・N | どきなさい、小さいカーリャ。 |
カーリャ | どきません ! いいかげん先輩も『ミリーナ様』とちゃんと向き合ったらどうですか ! |
カーリャ・N | ! ! |
ミリーナ | ネヴァン、言ったでしょ。私たちはゲフィオンに……最初のミリーナに向き合わなきゃいけないって。 |
カーリャ・N | ……はい。 |
ミリーナ | あなたの知っていることを聞かせて。話したくない訳があるなら、ちゃんと言って欲しいの。 |
カーリャ・N | …………。 |
ミリーナ | 前に、ゲフィオンにはイクスに関する記憶を託されたと言っていたわね。 |
ミリーナ | もしかしたらそこにティル・ナ・ノーグを救う手掛かりがあるかもしれない。 |
ミリーナ | なぜ、ゲフィオンがあなたを切り離したのかそうしてまで託された記憶が何なのか私には知る必要があるんじゃないかしら。 |
ミリーナ | ミリーナの記憶を見られるのはミリーナだけなんでしょう ? |
カーリャ | 先輩、観念しちゃったらどうですか ?こうなったミリーナさまは引き下がりませんよ。 |
カーリャ・N | ……そうですね。よく知っています。それでも今はまだ……。 |
リヒター | 伝えたいことがあるなら、伝えておけ。 |
カーリャ・N | ……いえ、わかりました。お話ししましょう。 |
ミリーナ | ありがとう、ネヴァン ! |
カーリャ・N | ここで話さなければ、怒られてしまいそうですから。 |
カーリャ | え ? 誰にですか ? |
ミリーナ | カーリャ、いいから。――それじゃネヴァン、お願い。 |
カーリャ・N | これからお話しするのは私がまだミリーナ様――ゲフィオン様の鏡精だった時のことです。 |
カーリャ・N | ゲフィオン様、こちらにいらしたのですね。大事な用件があるとのことですが何でしょう。 |
ゲフィオン | ごめんなさい、ちょっと待っててね。すぐに終わらせるから。 |
ゲフィオン | それと、今はミリーナでいいわよ。ここには誰もいないから。 |
カーリャ・N | またカレイドスコープのチェックですか ? |
ゲフィオン | もうすぐアイギス計画が本格的に始動するでしょう ?なるべく調整は丁寧にしておきたいの。 |
カーリャ・N | ……本当にアイギス計画を行うのですね。 |
ゲフィオン | ええ。それがこのティル・ナ・ノーグを救う唯一の方法だもの。 |
カーリャ・N | 私は……まだ納得していません。 |
ゲフィオン | ふふっ、せっかく世界が救われるというのにそんな顔されたら困ってしまうわ。 |
ゲフィオン | 美味しいお菓子をごちそうしたら納得してもらえる ? |
カーリャ・N | 冗談はやめてください ! この計画は最終的にミリーナ様が人体万華鏡に……世界のために犠牲になるものでしょう ? 喜べるはずがありません ! |
カーリャ・N | それに、イクス様を具現化させるという話は今もどうかと思っています。 |
ゲフィオン | …………。 |
カーリャ・N | イクス様は、亡くなったイクス様ただ一人です。失礼ですが、あの方を具現化するのは、ミリーナ様やフィリップ様の感傷に過ぎないのではありませんか ? |
ゲフィオン | …………そうね。あなたの言うとおりだわ。 |
カーリャ・N | だったら―― |
ゲフィオン | だけどもう決めたことなの。私は私のエゴを貫き通すわ。 |
ゲフィオン | 相手の気持ちなんて振り返ろうともしない。そういう、ズルくて嫌な人間なの。 |
カーリャ・N | そんなことありません! ミリーナ様は魔鏡戦争のことを心から悔いておいででした。私はそれをずっと横で―― |
カーリャ・N | ――え、ミリーナ様…… ? まさか、この術は ! |
ゲフィオン | もう少しだけ、もう少しだけと思いながら先延ばしにしてしまった。あなたと一緒にいたくて……。 |
カーリャ・N | まさか、用件って……待ってください、ミリーナ様 ! |
ゲフィオン | あなたには、私に何かあった時のために『記憶』を託しておくわ。だけど、それを見られるのは『ミリーナ』だけ。 |
カーリャ・N | 嫌です、ミリーナ様 !お願いですから術を止めてください ! |
カーリャ・N | 私を……カーリャを切り離さないで ! |
ゲフィオン | 責任を負うのも、死の砂嵐で苦しむのも私一人でいい。あなたを巻き込みたくはないの。 |
ゲフィオン | 今までありがとう、私の鏡精、カーリャ。あなたは生きて…… !ずっと大好きよ……。 |
カーリャ・N | ミリーナ様――――っ ! |
キャラクター | 4話【4-4 アジト4】 |
ミリーナ | …………。 |
カーリャ | 辛かったですよね、先輩……。 |
カーリャ・N | ……ゲフィオン様が私を切り離したのは人体万華鏡になる際に、鏡精である私を巻き込まないようにするためだと思います。 |
ミリーナ | そうね……。私だってそうすると思う。 |
カーリャ | やめてください ! ミリーナさまから切り離されたらと思うと、怖くて悲しくてどうにかなっちゃいそうです……。 |
カーリャ・N | ほとんどの鏡精はそうですよ。私たちはマスターの心から生まれたのですから。 |
カーリャ・N | でも、そんな存在だからこそ私はゲフィオン様の記憶を預かることができたのです。 |
カーリャ・N | そして、ゲフィオン様の言葉どおりなら小さいミリーナ様であれば私の中から記憶を引き出すことができるはずです。 |
ミリーナ | だったら、私はいつでも―― |
カーリャ・N | ですが、私は記憶を引き出すことには反対です。 |
ミリーナ | どうして ? |
カーリャ・N | ゲフィオン様の記憶を見るためには、私と小さいミリーナ様の心を繋ぐ必要があります。 |
カーリャ・N | けれど、それを行ってしまうとゲフィオン様の心が、小さいミリーナ様の心に影響を及ぼす恐れがあるのです。 |
カーリャ | どうなっちゃうんですか ? |
カーリャ・N | お互いの心が作用しあって小さいミリーナ様か、あるいはゲフィオン様の心が消えてしまうかもしれません。 |
ミリーナ | 心が消える…… ? |
カーリャ | そ、そんなの絶対に駄目ですっ !反対 ! 断固反対っ ! |
ミリーナ | 落ち着いて、カーリャ。 |
カーリャ | ネヴァン先輩だって、ゲフィオンさまの心が消えたら嫌でしょう ! ? |
カーリャ・N | もちろんです。そうさせないために別の手段で記憶を見る方法を探していたのです。 |
カーリャ・N | 解決策がみつかるまで小さいミリーナ様とは、ゲフィオン様の話をしないつもりでいました。 |
ミリーナ | 何故なの ? ちゃんと話してくれれば私だって……。 |
カーリャ・N | あなたは『ミリーナ』様です。ご自身を犠牲にしてでも記憶を引き出そうと考えるでしょう。 |
ミリーナ | …………。 |
カーリャ・N | 私はもう、『ミリーナ』様が苦しむ姿は見たくありません。 |
カーリャ | 先輩……、だからずっと話し合いを避けていたんですね。 |
カーリャ・N | すみません。私が至らないばかりにあなた方を煩わせることになって……。 |
ミリーナ | いいえ、謝るのは私の方よ。ネヴァンはずっと私たちのために頑張ってくれていたのね。 |
ミリーナ | ありがとう。そして『ミリーナ』のこと一人で抱えさせてごめんなさい。 |
カーリャ・N | そんな……私は……。 |
ミリーナ | でも、もういいの。これからはみんなで一緒にどうすればいいのか考えましょう。 |
ミリーナ | あなたは一人じゃないわ、ネヴァン。ほら、こんなふうに―― |
カーリャ・N | あ……。 |
ミリーナ | あなたの手を取る人がここにはたくさんいるんだから。 |
カーリャ・N | (温かい手……私のミリーナ様と同じ……) |
カーリャ・N | ……わかりました。改めてお願いします。 |
カーリャ・N | 私と一緒に記憶を取り出す手段を探してください。 |
キャラクター | 5話【4-5 アジト5】 |
イクス | ……そうだったのか。話してくれてありがとな、ネヴァン。 |
カーリャ・N | イクス様にまでご心配をおかけしてすみません。 |
イクス | でも難しいよなぁ。ネヴァンの中にあるゲフィオンの記憶を安全に引き出す方法か……。 |
イクス | ミリーナがゲフィオンの影響を受けないようにすればいいんだよな ? |
カーリャ・N | ええ。でもお二人は同一人物ですし水と水を混ぜるようなもので……。 |
イクス | 最悪、心を失う……か。 |
ミリーナ | でも、何事もなく成功する可能性だってあるのよね ? |
カーリャ・N | 否定はしませんが、リスクの方が高いかと。 |
カーリャ | あっ ! 心の中なら、シングさまたちの力を借りるのはどうですか ! ? |
イクス | ソーマ使いの力か。心には入れるけど異物を排除したり治したりするわけじゃないからなぁ。 |
カーリャ | むむむ……そうですか。難しいですね……。 |
カーリャ | はぁ、カーリャもミリーナさまのお力になりたいのに……。 |
ミリーナ | 何言ってるの。こうして考えてくれているじゃない。カーリャは十分、私の力になってくれているわ。 |
カーリャ・N | 小さいカーリャ、自信を持ちなさい。あなたは小さいミリーナ様の心の一部なのですから。 |
イクス | うーん……。ネヴァンとカーリャは二人のミリーナの心の具現化なんだから、二人の力があれば何とかなりそうなのにな……。 |
イクス | 心の一部が具現化されてるんだから心が混ざり合ったり、消えてしまうこともなくなりそうな気もするんだけど。 |
イクス | カーリャっていう存在が二人のミリーナの心の防護壁になるっていうか……。 |
カーリャ・N | ……そうですね。一時的に小さいミリーナ様の中にカーリャを戻し、ミリーナ様の中でカーリャが意識を持てば……心を守れるかも知れません。 |
カーリャ | 本当ですか ! ? だったらカーリャも頑張りますよ !ミリーナさまの心は絶対に守ります ! |
ミリーナ | ありがとう、カーリャ。ネヴァンもありがとう ! |
カーリャ・N | いえ……。もちろん、検証は必要ですが。 |
イクス | ひとまずとっかかりが見つかって良かったよ。けど、本当にこの案で大丈夫かな。何か引っかかる気も……。 |
カーリャ・N | 方向性は間違っていません。鏡精を使うのはいい案だと思います。 |
ミリーナ | でも、カーリャを私の中に戻すって聞いた時にイクスは渋い顔をするかと思ってたわ。 |
カーリャ | ですね。コーキスを心の中には戻したくないってこだわりがあったみたいですし。 |
イクス | あれは……俺自身鏡士の常識をよくわかってないから何となくああ感じただけなんだよ……。 |
イクス | ミリーナやカーリャみたいな関係が普通の鏡士と鏡精なんだってことはちゃんと理解してるよ。 |
カーリャ | それなら、このアイディアには文句なしですね ! |
カーリャ・N | (……確かにこの方法ならば、小さいミリーナ様の心は小さいカーリャが守れる) |
カーリャ・N | (けれど、鏡精だった私を切り離したゲフィオン様には守る者がいない。もしも想定以上の強い影響が及べば心が消えてしまう) |
カーリャ・N | (そもそも、何故ゲフィオン様ほどの力を持ちながらこんなリスクのある方法をとったのだろう) |
カーリャ・N | (…… !まさか、それこそがゲフィオン様の望み…… ?) |
カーリャ | 先輩、どうしたんですか ?何か気になります ? |
カーリャ・N | ……いいえ、その方法でやってみましょう。 |
カーリャ | …………。 |
ミリーナ | ええ。ここから先はフィルが帰って来てからね。 |
イクス | それにアイフリードの件もみんなと話し合わないと―― |
イクス | ――っと、ジェイドさんから通信だ。ジェイドさん、どうしました ? |
ジェイド | あなたとミリーナに話があります。今はどちらに ? |
イクス | 俺の部屋ですけど。あ、ミリーナも一緒です。 |
ジェイド | それは丁度よかった。今からアッシュと向かいたいのですが都合はいかがですか ? |
イクス | アッシュさんと ? あの、何かあったんですか ?確かディストさんの取り調べ中ですよね。 |
ジェイド | おや、今ここで聞いてしまいますか ?後悔しても知りませんよ ? |
イクス | ど、どういう意味ですかそれ……。 |
ジェイド | はっはっは、冗談はさておき。私は伺ってもいいのでしょうか。 |
イクス | あ、はい。もちろんです。 |
ジェイド | ありがとうございます。では後程。 |
イクス | なんか、用件をはぐらかされたような……。 |
カーリャ | ただイジワルしたいだけじゃないですか ?悪いメガネだし。 |
イクス | はは……、カーリャ、ジェイドさんとは相性が悪いな。 |
ミリーナ | 私は、カーリャとジェイドさんの相性はいいと思うんだけど。だってカーリャは私が好きでしょう ? |
カーリャ | 大好きですけど、なんでそれがジェイドさまと関係あるんですか ! まったくさぱらんです ! |
イクス | まあまあ。とりあえずジェイドさん待ちだな。 |
カーリャ・N | …………。 |
ミリーナ | ネヴァン、大丈夫 ? 顔色が悪いけど。 |
カーリャ・N | え……そうですか ? |
ミリーナ | ええ。少し休んだら ? |
カーリャ・N | でも、ジェイド様のことも気になりますし。 |
カーリャ | メガネの相手はカーリャたちで十分ですよ。こう来たら ! こうして ! こうです ! |
イクス | やる気満々だな……。ジェイドさん、話しに来るだけなのに……。 |
ミリーナ | あれじゃ逆に喜ばせてしまいそうね。 |
イクス | とにかく、本当に無理するなよ、ネヴァン。その……ゲフィオンのこととか色々と辛い話をさせたからさ。 |
カーリャ・N | お気遣いありがとうございます。では、アジトの見回りも兼ねて少し気分転換をしてきますね。 |
ミリーナ | ネヴァン……少しでも息抜きができるといいんだけど。 |
イクス | そうだな。それにしてもジェイドさんの話ってなんだろう。 |
キャラクター | 6話【4-6 アジト6】 |
リフィル | ――みんな、今の説明でナーザ神とアイフリードの話は理解できて ? |
リフィル | リーダーが不在で代理の人もいるでしょうけれどここに出席してる者が自分の班のメンバーに伝えるのだから、いい加減では駄目よ。 |
ライフィセット | 大丈夫。すごくわかりやすかったから。 |
レイア | うん。さすがリフィル先生だね。スパーダはどう ? |
スパーダ | ギ、ギリギリだな……。つまり、ユーリんとこのチビとリッドのとこのチビを敵に渡さなきゃいいんだろ ? |
チャット | チビチビ言わないでください ! |
リッド | ったく、やっとフォッグやレイスを取り戻したってのに、今度はチャットかよ……。 |
チャット | ボクだって不本意です。誇り高きアイフリードの子孫がこそこそ隠れなければいけないなんて。 |
チャット | ですが、状況は理解しました。しばらくは浮遊島にこもってキール研究室のサポートにでも回ります。 |
アリーシャ | 念のため島の警備を強化しておこう。万が一、アジト内で襲われたとあっては浮遊島警備部の名折れだ。 |
エレノア | そうですね。しばらくはチャットに護衛を付けるのもいいかもしれません。 |
ヴェイグ | 後はパティか。今はどこにいるんだ ? |
リフィル | 彼女はカロル調査室だから、魔核の調査よ。フレンたちが同行していると聞いているわ。 |
ジーニアス | ねえ、さっき姉さんたち、ユーリやパティと魔鏡通信が繋がらないって話してたよね。あれ本当 ? |
リフィル | ええ。実験的に導入している魔鏡通信文も送ったけれど、その返信もないの。 |
リフィル | まあ、通信文に関しては通知音を切っていたらわからないだろうけれど……。 |
マルタ | 後は定時連絡を待つしかないのかな。ちょっと不安だね。 |
ヒューバート | 魔核の調査ならば、領主の館周辺は確実に彼らの調査対象になりますよね。 |
ヒューバート | 地上に降りているメンバーに周辺の捜索を任せてはどうでしょう。 |
リフィル | ええ。丁度、ルークたちがオールドラント領へ向かっていたからパティと出会ったら保護してくれと伝えたわ。 |
リフィル | それと、反帝国組織との情報交換に行ったカイルたちとも連絡が取れたからそちらにも捜索を頼んであります。 |
チェスター | オールドラント領と、ファンダリア領か。他の領地でも、近くにいる奴に頼まねえとな。 |
ヒューバート | でしたら、こちらで捜索隊を派遣した方が早いかもしれませんね。 |
リフィル | そうね。異論がある人は挙手を。 |
リフィル | なし……と。では決定します。 |
ユリウス | 俺の方からもひとつ。領主と従騎士についてだ。 |
ユリウス | 現在、領主と従騎士が不明なのはアレウーラ領、リーゼ・マクシア領ミッドガンド領。 |
ユリウス | 従騎士が不明なのはテルカ・リュミレース領。 |
ユリウス | グリンウッド領は領主が不明。訂正はあるか ? |
マルタ | ……訂正じゃないけど、テセアラ領は従騎士だったパパ……ブルートが領主代理で執務を行っているそうです。 |
チェスター | 家族が利用されてる状態はたまらねぇよな……。気をしっかり持てよ、マルタ。 |
マルタ | ありがとう。でも大丈夫。この間リーガルさんを助け出したときにパパの心核も取り戻したし。 |
マルタ | それに、みんなそれぞれ縁のある人たちが巻き込まれてるから、大変だと思う。 |
ユリウス | ……その通りだな。 |
ユリウス | ところで領主と従騎士が不明な領地は該当する人物を調査してもらっているはずだがしばらくは控えたほうがいいかもしれない。 |
カイウス | えっ ! ? |
ユリウス | 贄の紋章の件もあるし、危険性も増しているからな。 |
セネル | ……そうだな。 |
カイウス | そんな……。 |
ユリウス | カイウス、そう気を落とすな。君たちの安全のためでもあるんだ。 |
レイア | 仕方ないよ。カイウスのところは領主か従騎士かもって人にたどり着いてたんでしょ ?フォレストさんだっけ ? |
カイウス | ああ。帝国にいるらしいんだ……。 |
レイア | あと一歩って思ってたら、そりゃガックリくるよね。 |
ガイアス | そうだな。未だに両方とも判明しない俺たちの方が幾分諦めもつくというものだ。 |
カイウス | 危険でも、出来れば早く助けたかったよ……。ルキウスも帝国に捕まったままだし……。 |
スレイ | そうだよな……。大事な人が苦しんでるって思ったら少しくらい無茶してもって気持ちになるの、わかるよ。 |
ミクリオ | スレイ……。今は無茶するときじゃない。 |
スレイ | うん、それもちゃんとわかってるから、大丈夫。カイウス、みんなで協力して頑張ろう ! |
カイウス | ああ。ありがとな、スレイ。 |
ベルベット | ……判明した領主や従騎士が『助けるべき相手』だったらいいけど。 |
ライフィセット | ベルベット、それって……。 |
ベルベット | 何 ? |
ライフィセット | あ……ううん、何でもない……。 |
ユリウス | 納得してもらえたようだな。では、捜索隊の派遣メンバーを決めよう。決まったら、イクスたちに報告する。 |
キャラクター | 7話【4-7 ファンダリア領 森】 |
フレン | ――この辺りなら、もう大丈夫か………。 |
エステル | はあ……はあ……フレン、帝国の兵士は ? |
フレン | ご安心を。今のところは追ってきていません。 |
エステル | 驚きました。こんな森の中にまで兵がいるなんて。 |
パティ | どこからともなく出てきおって。フナムシみたいな奴らなのじゃ。 |
フレン | それにしても妙だな。どこも警戒が厳しくなってはいるけど今のファンダリア領は異常だ。 |
エステル | 何か理由がありそうですけどこの状況で調査の続行は無理でしょうね。 |
フレン | ええ。ユーリには今の件だけ報告して一旦、引き揚げましょう。どうせあいつも浮遊島に戻っているはずですから。 |
エステル | そういえば、イクスに報告があると言ってましたね。 |
パティ | ではうちがユーリに連絡するのじゃ。先刻のユーリへの通信はエステルに譲ったからの。 |
エステル | 譲ったって、パティが連絡しろって言ったんですよ ? |
パティ | それは作戦じゃ。会えない時間が長いとさらに思いを募らせるじゃろ ?今頃ユーリの頭は、うちのことでいっぱいなのじゃ。 |
フレン | はは、そんな可愛げはないと思うよ……。 |
パティ | フッ、まだまだじゃのうフレン。ならばしかと目に焼き付けるといいのじゃ。フレンもびっくりのラブラブ通信を…………ん ? |
フレン | どうしたんだい ? |
パティ | 魔鏡通信に通信文が来ているのじゃ。追われていて気づかんかったの。 |
エステル | 通信文なんて珍しいですね。いったい何の連絡です ? |
フレン | ――静かに、誰か来ます ! |
テレサ | そこにいるのはわかっています。出てきなさい。 |
エステル | 女性…… ? 一人のようですね。 |
テレサ | そのまま隠れているのなら敵意があるとみなし攻撃します。 |
パティ | 少なくとも味方ではないようじゃの。敵意がハリセンボン以上にチクチクなのじゃ。 |
パティ | どうする。相手は一人、制圧も可能じゃが。 |
フレン | いや……二人はそのままで。僕が彼女の気をそらすから、その隙に逃げるんだ。エステリーゼ様も、いいですね ? |
テレサ | やっと出てきましたね。 |
フレン | ……君は帝国の人間か ? |
テレサ | 他にもいますね。出てきなさい。 |
フレン | 話を聞いてくれ。そちらが危害を加えなければ、僕は一切手を出さない。 |
テレサ | 交渉の余地はありません。言うとおりになさい。あと二人いるはずです。 |
フレン | ……君は、何を焦っている ? |
テレサ | っ ! ! ――かかりなさい ! |
フレン | なにっ ! ? |
帝国兵β | はっ ! ! |
フレン | 帝国兵 ! やはり君は―― ! |
エステル | フレン ! わたしたちも戦います ! |
パティ | こっちは任せるのじゃ ! |
テレサ | …… ! |
フレン | くっ ! 今までの兵士よりも強い…… ! |
エステル | 倒しても起き上がってきます ! このままじゃ…… ! |
テレサ | …………。 |
パティ | せいっ ! ! |
テレサ | ! ! |
パティ | 高みの見物を決め込んで安心してたか ?油断大敵なのじゃ。 |
テレサ | あなたもですよ。アイフリード。私を狙うのを待っていました。 |
パティ | なんじゃと…… ! ? |
テレサ | その子をこちらへ ! 早く ! |
エステル | フレン ! あの人、撤退して行きま――……あっ ! |
フレン | あれは、パティ ! ? |
テレサ | 目標の少女は確保しました。残党が追跡できぬよう足止めなさい ! |
帝国兵β | はっ ! |
フレン | 初めからパティを狙ってたのか ! ? |
エステル | パティ、今いきます ! |
エステル | きゃあっ ! |
フレン | エステリーゼ様 ! くっ、これじゃ追うどころか……。 |
カイル | ――爆炎剣 ! |
ナナリー | 龍炎閃 ! |
帝国兵β | ぎゃああああっ ! |
カイル | フレンさん、大丈夫 ! ? |
ナナリー | 何の騒ぎかと思ってきてみりゃ……。あんたたち、ファンダリア領にいたんだね。 |
ロニ | しかしなんだよ、この兵士の数は。よく二人だけで耐えてたな ! |
リアラ | ええ、無事でよかったわ。 |
エステル | いいえ、たった今、パティがさらわれたんです !追いかけないと ! |
カイル | パティがここにいたの ! ? |
ジューダス | しまった、遅かったか ! |
ハロルド | なるほど、それでリビングドールβの兵士が大量投入されてんのね。ったく、用意周到だわ。 |
フレン | 一体何の話を……。 |
ジューダス | ここを突破するのが先だ。――行くぞ ! |
キャラクター | 8話【4-8 静かな平原】 |
ナーザ | メルクリア、先を急ぎすぎだ。あまり離れるな。 |
メルクリア | ですが兄上様、早く心核を受け取りに行かねばアスベルとやらの気が変わってしまうやもしれませぬ ! |
バルド | 大丈夫です。敵対していたチーグルとローゲの心核をずっと大事に保管していた方々ですよ。今更そんなことは言い出しません。 |
メルクリア | なんじゃ、お前は随分とセールンドの鏡士たちに肩入れするのう。 |
バルド | やきもちですか ? ふふ、光栄ですね。 |
メルクリア | うむ、やいておる。 |
バルド | ! |
メルクリア | ……なるほど、こう返せばお前の軽口を塞げるわけじゃな。兄上様のご助言どおりじゃ。 |
ナーザ | よくやった、メルクリア。 |
バルド | まったく、あなた方は……。 |
ナーザ | だが、今のような戯言でなくお前のそうした発言を、本気で嫌悪する者もいる。今後は気を付けることだ。 |
バルド | ……ローゲたちですね。 |
メルクリア | そういえば、バルドとローゲは犬猿の仲と聞いた。また一緒になるが、よいのか。 |
バルド | 慣れていますので。それに私は、ローゲを嫌ってはおりません。 |
メルクリア | そうなのか ? |
バルド | 私も、ローゲも、チーグルもあなた方を誇りに思い、仕える気持ちは同じですから。 |
バルド | 中でも、ことさらローゲは愛国心が強かった。生前は、ビフレストを強き国たらしめんと尽力していたことも知っています。 |
バルド | 彼のそんな所を、私は好ましく思っていました。……残念ながら、なかなか伝わりませんでしたが。 |
メルクリア | そうか……。まあ、わらわに任せておけ。心核を受け取ったあかつきにはローゲたちによく言い含めてやろう ! |
ソフィ | あ、来たよ。 |
メルクリア | お前は、チーグル…… ! |
リチャード | ……お初にお目にかかる。メルクリア皇女殿下。僕はリチャード。こちらはアスベル、そしてソフィだ。 |
メルクリア | そうか……そうであったな。 |
アスベル | それじゃ、用件を済ませよう。これがチーグルの心核、こっちがローゲだ。 |
メルクリア | この心核が……。チーグル、ローゲ、二人とも虚無へと帰ったものとばかり……。 |
アスベル | 受け取ってくれ、メルクリア。 |
ナーザ | 待て。その前に聞かせてもらおうか。 |
ナーザ | この心核を返しても、お前たちには何の利益にもならないはずだ。何故このようなことをする。 |
アスベル | 利益は関係ない。俺たちはチーグルとの約束を果たしたいだけだ。 |
メルクリア | 約束じゃと ? 貴様、あやつと何があった。 |
アスベル | チーグルは、メルクリアが望んでいるはずだと言って自分からリチャードを解放してくれたんだ。そして人工心核に移った。 |
メルクリア | ! ! |
ソフィ | その時に、いつかローゲと一緒にメルクリアのところに返してくれってチーグルが言ってたの。 |
メルクリア | それが約束……。 |
アスベル | ああ。俺とチーグル……トルステン・ドンナーとの約束だ。 |
ナーザ | そうか……、チーグルは貴様に名を教えたのか。 |
バルド | ナーザ様、それほどチーグル――トルステンが信頼した相手です。十分な理由ではありませんか。 |
ナーザ | そうだな。わかった。その厚意、ありがたく受け取ろう。 |
アスベル | よかった ! これでやっと約束が果たせる。 |
メルクリア | 受け取る前に、わらわも言わねばならぬことがあった。――ありがとう、アスベル。ソフィ。 |
メルクリア | そして、リチャード。そなたには本当に済まぬことをした。ラムダのこともじゃ……。 |
リチャード | ……アスベル、ラムダは何か言ってるかい ? |
アスベル | いや……何の反応もない。 |
リチャード | ……そうか。メルクリア皇女、君の気持ちはわかった。それだけ言っておこう。 |
メルクリア | ……承知した。 |
アスベル | それじゃ、手を出して、メルクリア。……確かに返したぞ。 |
メルクリア | チーグル、ローゲ……よく戻って来たな。大儀であった。 |
メルクリア | …………………… ?おかしいのう……。 |
バルド | どうしました ? |
メルクリア | 心核から二人の声がせんのじゃ。チーグル、ローゲ、返事をせぬか ! |
ソフィ | メルクリアは心核の声が聞こえるの ? |
メルクリア | 鏡士の技を使えばな。だが、この心核からは何の反応もない。兄上様、どういうことでしょう。 |
ナーザ | ……恐らく、人工心核として肉体から離れた時間が長すぎたのかもしれない。 |
ナーザ | 虚無にいた俺やバルドと違って人工心核から意志を伝える力も弱まっているようだ。 |
メルクリア | では、もう二人とは話せぬのですか ? |
ソフィ | それじゃメルクリアがかわいそう。何か方法はないの ? |
メルクリア | ソフィ……。 |
ナーザ | しばらく休ませつつ人工心核に魔鏡術でアニマを供給する必要がある。 |
ナーザ | ただ、そのためには術者もかなりの力が必要となるが……。 |
メルクリア | ならばその役目、わらわにお任せください ! |
ナーザ | ……お前がやるならばビフレスト式魔鏡術をさらに磨かねばならない。それに人工心核の回復は負担が大きいぞ。 |
メルクリア | 覚悟の上です。チーグルも、ローゲもわらわを見守り助けてくれた大切な臣下じゃ。 |
メルクリア | 今度こそ、わらわの手で助けたいのです。 |
ナーザ | そうか。ではお前に任せよう。 |
メルクリア | はい ! 必ずや成し遂げてご覧にいれます。 |
ソフィ | よかったね。頑張って、メルクリア。 |
リチャード | もしも人工心核が回復したら僕もチーグルと話がしてみたいよ。 |
メルクリア | ……承知した。 |
バルド | では、我々はそろそろ参りましょうか。 |
メルクリア | そうじゃな。吹雪にでもなったら厄介じゃ。 |
アスベル | 吹雪 ? 雪なんて降りそうにないぞ。 |
メルクリア | これからオールドラントの雪山へ行くのじゃ。救世軍からの援助物資を回収せねばならぬからな。 |
ナーザ | メルクリア、おしゃべりが過ぎるぞ。 |
メルクリア | あっ…… ! い、今のは忘れるのじゃ……。 |
バルド | フフ……。まあ、このくらいは問題ないでしょう。 |
ソフィ | そうだ。メルクリアのともだちから伝言。 |
メルクリア | わらわの、友達…… ? |
ソフィ | うん。セシリィが、いつか会いにいくからいっぱい話そうって。 |
メルクリア | セシリィは、わらわを友達だと言ったのか ? |
ソフィ | そうだけど、違った ? |
メルクリア | いや……もうそのようには思ってもらえぬものと……。わらわはセシリィにも酷いことをした故……。 |
バルド | よかったですね、メルクリア様。 |
メルクリア | ……うむ。皆、世話になったな。 |
ソフィ | うん、またね。 |
リチャード | いい報せを待っている。 |
アスベル | 気を付けて。 |
ナーザ | アスベル、リチャード、ソフィ。メルクリアのことそして我が臣下たちを届けてくれたこと、感謝する。 |
ソフィ | 心核、返してよかったね。 |
リチャード | そうだね。また彼らと戦う日が来るとしても後悔はないよ。 |
アスベル | ああ。だけど……いつかメルクリアたちとも手を取り合える日が来るといいな。 |
キャラクター | 9話【4-9 オールドラント領 雪山1】 |
メルクリア | ……なんじゃ、これは。 |
バルド | これは雪だるまです。 |
メルクリア | 知っておる ! 何故に救世軍の援助物資が雪だるまなのかと言っておるのじゃ。 |
ナーザ | 随分と大きいな。中に何か入れてあるのかもしれん。 |
バルド | ということは生ものでしょうか。 |
メルクリア | なるほど ! であれば、ジュニアたちに美味なるものを食させてやれるな。どれどれ―― |
メルクリア | ひいぃっ、ディスト ! ? |
ナーザ | 何故、この男がここに…… ! |
バルド | 氷漬けですが生きています。恐ろしい生命力です。 |
メルクリア | 早う助けねば ! |
ナーザ | しかし、この状況はあまりに不自然だ。何かの罠かもしれん。改めて救世軍を呼んで―― |
メルクリア | その間に死んで……いや、多分死にませんがともかく、こやつは元々わらわに仕えていた者です。せめて一度、連れ帰ることをお許しください。 |
バルド | そうですね。それにディストの知識は我々にも有益なものかと。 |
メルクリア | お願いです。わらわが面倒を見ますから ! |
バルド | 確かに、生き物を育てるのは情操教育の一環でもありますね。 |
ナーザ | 仕方がない。ちゃんと責任は持つんだぞ。 |
ディスト | ヘークショッ ! ヘークショーイ ! !ジェ、ジェ……ジェイドめぇ……。 |
ナーザ | なるほど。事の経緯はわかった。しかし、よく生きているな貴様……。 |
メルクリア | ジェイド……何と恐ろしい……。その者は悪魔か……。 |
バルド | 多分、彼に対してだけなのでは ?本人に会ったことがありますが理性的な人物と見受けましたよ。 |
ディスト | ああああなたにジェイドの何がわかるといいいい言うんです !あれを理解するのは、わわ私だけ―― |
バルド | ええ、そうですね。それよりも、もっと火にあたるといいですよ。震えがとまりますからね。 |
ディスト | 幻体ごときが余計なお世話ですよ !どうせ魔鏡術あたりで思念映像を投影してるのでしょうが。 |
バルド | ……驚きました。さすが研究者だ。一目で私の状態を見抜くとは。 |
ナーザ | それで結局のところこいつが援助物資ということなのか ? |
バルド | おそらく救世軍としては、この者を引き取る代わりに資金を提供するという腹づもりなのでは……。 |
メルクリア | おぬし……、えらく嫌われたものじゃな。 |
ディスト | 愚か者どもには私の価値がわからな……は……ハークショーイ ! |
メルクリア | わかったわかった。鼻水をふけ、垂れておるぞ。 |
ナーザ | こいつの価値云々はどうでもいいが俺たちに押し付けられたのは都合が良かったかもしれん。 |
ナーザ | ディスト、貴様に聞きたいことがある。 |
ナーザ | 今のデミトリアスは、本当に『デミトリアス』なのか ? |
ディスト | はぁ ? 知るわけないでしょう。くだらない話で私の体力を消耗させる気ですか ? |
ディスト | だいたい、本当のデミトリアスなどと言われても比較対象が不明瞭すぎます。その『本当』とやらが私には何かもわからないというのに、愚問ですよ。 |
メルクリア | 兄上様、火を消しましょう。 |
ディスト | ま、待ちなさい ! 私が知っているのはデミトリアスがアニマ汚染に冒された体を若返らせたことくらいです。 |
ディスト | ですが、その反動で何かしらのダメージを負っている可能性はありえるでしょう。 |
メルクリア | ダメージ ? じゃが、若返る以前はともかく今の義父上が苦しそうな様子など見たことがないぞ。 |
ディスト | これ以上は知りませんよ。私には興味がありませんから。後は自分たちで勝手に調べなさい。 |
ナーザ | ……なるほど。 |
バルド | どうしますか ? 気になるようであれば探ってみる価値はあると思いますが。 |
ナーザ | そうだな。セールンドに行って、王宮内を調査してみよう。 |
バルド | 私たちが騒ぎを起こしたばかりですから逆に盲点かもしれませんね。 |
メルクリア | では兄上様、すぐにここを発ちましょう。寒くてかないませぬ。 |
メルクリア | ディスト、貴様も行くのだぞ。 |
ディスト | なぜ私が ? あなた方とは関係ないでしょう。 |
メルクリア | わらわが世話をすると言ってしまったからな。責任をもって面倒をみるのは、主たる者の務めじゃ。 |
メルクリア | それに、さすがの貴様もこのままでは凍死するぞ。寒いのは嫌じゃろう ? |
バルド | ディスト博士。あなたの知識と力を是非ともお借りしたいのです。いかがでしょうか ? |
ディスト | ……まあ、そこまでいうのであれば特別に力を貸してあげましょう。いいですか ? 特別ですからね ! |
キャラクター | 11話【4-13 ファンダリア領 領都1】 |
エステル | どうです ? 館の様子は見えますか ? |
フレン | ええ、警戒が強まっています。こちらの襲撃を予測してのことでしょう。 |
ロニ | くそっ、領主の館なんて面倒な場所に逃げ込みやがって。 |
ナナリー | ああ、もう ! もどかしいったらないね。こうして隠れて見てるだけじゃパティは助けられないってのに。 |
カイル | ここにいる全員で一気に攻め込んだら何とかなんないかな。 |
ジューダス | やめておけ。さっき戦った兵士たちは並みの強さじゃなかった。 |
ハロルド | あれは精霊装を扱えるリビングドールβ兵よ。きっとこの館にも、同等の兵士が配備されてるわね。闇雲に攻め入ると返り討ちよ。 |
カイル | そうか……。その中でパティを捜すならもっと人数が必要だよね。 |
フレン | カイル、イクスたちとの通信は繋がらないままかい ? |
カイル | うん。何かあったのかも……。でも通信文で状況は伝えたから読んでいればすぐに来てくれるはずだよ。 |
イクス | みんな、ここにいたのか ! |
カイル | 噂をすれば、イクス、ミリーナ !通信が繋がらないから心配してたんだ。 |
ミリーナ | ごめんなさい。問題が発生してオールドラント領へ行ってたの。 |
フレン | そっちはもういいのかい ? |
イクス | はい、解決しました。それでさっき通信文を見て急いで来たんですけど……どんな状況ですか ? |
エステル | パティは領主の館に拉致されたままです……。 |
フレン | 突入には戦力を増やす必要があったから二人が来てくれて助かったよ。 |
ユーリ | 戦力ね。じゃあオレたちはいいタイミングで到着したってわけだ。 |
ラピード | ワンワン ! |
フレン | ユーリ、ラピード ! みんなも来てくれたのか。 |
リタ | 当たり前でしょ。さっさとあいつ助けて帰るわよ。 |
カイル | リタ、なんか怒ってる ? |
レイヴン | 違う違う。ありゃ動揺を隠してんの。パティちゃんたちが襲われたって聞いてさっきまで青ざめてたからね。 |
エステル | ごめんなさい……心配させて。 |
リタ | 違っ、エステルのせいじゃ……おっさんが悪い ! |
レイヴン | いてっ、リタっち横暴 !ナナリーちゃん、かわいそーなおっさんを助け……。 |
レイヴン | ぐはあっ ! |
ナナリー | へえ、結構体が柔らかいね。もうちょっと締め上げてもよさそうだ。 |
ロニ | レイヴン、逃げ込む先を間違えやがって……。 |
ジューダス | まったく、一気に緊張感が失せたな。 |
ジュディス | 肩の力が抜けて丁度いいわね。 |
イクス | あの、ユーリさんシングたちは無事だったんですよね ? |
ユーリ | まあ、一応はな。全員アジトへ戻ってる。 |
ミリーナ | 一応って、何かあったんですか。 |
カロル | シングが大怪我しちゃったんだ。ハスタって奴にやられて……。 |
エステル | 大丈夫なんです ! ? |
カロル | すぐに治癒術をかけたから命に別状ないって。領主の館は、今までよりもずっと危険みたいだね。 |
エステル | それじゃパティは……。 |
リタ | ちょっと、ガキんちょまで不安にさせるようなこと言わないでよ。 |
カロル | ご、ごめん ! |
リタ | エステルもしっかりしなさい !あいつ、魔物のお腹の中にいたってピンピンしてたような奴よ ? |
エステル | でも、もっと早く通信に気づいてパティを避難させていたらと思うと……。 |
フレン | エステリーゼ様に責任はありません。敵を甘く見た、私の慢心が原因です。 |
ジュディス | そこまでにしたら ? 反省もいいけど今はやることがあるでしょ。 |
ユーリ | だな。過ぎたことは仕方ねえ。パティを取り戻せばいいだけの話だ。 |
ハロルド | この人数なら、リビングドールβ兵も何とかなりそうね。あとはまあ……入ってから確かめなきゃいけないことが、一つ二つってとこね。 |
リタ | ……嫌なこと考えてるでしょ。 |
ハロルド | あんたもね。だから慌てたんでしょ ?優しいのね~リタっち♪ |
リタ | うっさい、リタっち言うな ! |
エステル | なんのことです ? |
ハロルド | パティの心核をいじられる可能性があるって話。まあ、この館に魔鏡技師が詰めてなきゃできないはずだけど。 |
エステル | そんな…… ! |
ユーリ | またかよ……。いい加減にしろってんだ。 |
フレン | ユーリ ? |
ユーリ | 帝国の奴ら、人なんて便利な道具かなんかだと思ってんだろ。んで邪魔なら殺す。 |
レイヴン | …………。 |
ユーリ | シングの傷もひでえもんだったぜ。あれをやった奴は躊躇もなんもねえ。確実に殺すつもりで刺した傷だ。 |
ユーリ | ああいう奴らを止めるなら大本の頭を潰しちまうのが一番手っ取り早いんだろうな。 |
フレン | ……ユーリ、おかしなこと考えるなよ。 |
ユーリ | 安心しな。お前ほどじゃねえさ。 |
フレン | 本当に ? |
ユーリ | ……おい、イクス。人数はこれで十分だろ。そろそろ行こうぜ。 |
イクス | はい。潜入の手筈はジューダスとハロルドさんが考えて……。 |
? ? ? | (聞こえ……バロー……末裔……) |
イクス | なんだ ? |
ミリーナ | どうしたの、イクス。 |
イクス | 今誰か、俺に話しかけたよな ? |
ミリーナ | いいえ、誰も。 |
イクス | そうか……。ごめん、気のせいだ。集中しないと。 |
フレン | 疲れてるならバックアップに回るかい ? |
イクス | いいえ、大丈夫です。それで、潜入の方法ですけど―― |
ミリーナ | …………。 |
キャラクター | 1話【5-1 ファンダリア領 領主の館】 |
ミリーナ | バロール……そんな……だって、バロールは……。 |
カイル | バロール ? バロールって確か……。 |
ハロルド | ニーベルングを滅ぼした張本人よ。まさか、そっちから出てきてくれるなんてとんだサプライズだわ。 |
ミリーナ | でも、どうしてイクスの身体に……。 |
バロール | この者は俺の力を受け継ぐ者。流れる血に……そしてアニマに、俺の残滓は溶けている。魔眼を持つ鏡精が、俺を俺たらしめた。 |
ロニ | な、何言ってやがるんだ、こいつは…… ? |
ナナリー | あたしも、あんたと同じ意見だけどそんなことより……。 |
ミリーナ | イクスは無事なの ! ?もしイクスに何かをしたのなら私はあなたを許さない。 |
バロール | 心配するな、鏡精の末裔。すぐに終わらせる。 |
イレーヌβ | ぐっ ! ! か、身体が…… ! ? |
レイヴン | ちょっとちょっと !あちらさん、どうしちゃったのよ ! ? |
ジュディス | 随分と苦しそうにしているわね。 |
フレン | まさか、イクス……バロールの力なのか ? |
バロール | あの者に刻まれた【ルグの槍】を利用する。これで、お前たちが知りたかったことがわかるはずだ。 |
イレーヌβ | ……ンダ………にある、けん……つ。 |
カロル | 待って ! 何か言ってるよ ! |
イレーヌβ | ……ファンダリア領……南西にある……研究施設。……そこに、アイフリードの器を……連れていった。 |
ユーリ | ……アイフリードの器。パティのことだな。 |
イレーヌβ | ……エルレインは……アイフリードの器を使い異世界の神の具現化を行う……つもりだ……。 |
ナナリー | 異世界の神……。それって……。 |
リアラ | ……その話が本当ならエルレインは、この世界にフォルトゥナを具現化させるつもりなのかもしれない。 |
三人 | ! ? |
バロール | 異世界の神、か。ならば奴らの狙いは……そういうことか。 |
バロール | 聞け。お前たちは、すぐにアイフリードの器を追え。 |
ユーリ | バロールだかなんだか知らねえが言われなくても、こっちは最初からそのつもりだ。 |
ラピード | ワンッ ! |
バロール | それから鏡精の末裔よ。俺の意識は長くはもたない。だが、俺は――とつな――者を――。 |
イクス | ……ぐっ ! ! ミ、ミリー……ナ…… ! ! |
ミリーナ | イクス ! ? |
エステル | いけません ! ! すぐに回復を…… ! ! |
イレーヌβ | ――敵に不確定要素の存在を確認。これ以上の足止めは危険と判断、撤退する。 |
カイル | しまった ! |
リアラ | イクスが倒れて動けるようになったんだわ…… ! |
ジューダス | 追うぞ、カイル !まだ間に合うはずだ。 |
ロニ | 俺たちも行くぜ !美女を追いかけるのは、美男の役目だからな ! |
ナナリー | 馬鹿なこと言ってないで、さっさと追いかけるよ ! |
ハロルド | こりゃ、流れ的に私も行かないと駄目っぽいわね。そんじゃ、そっちは任せるわよ。 |
フレン | ユーリ、僕たちは……。 |
ユーリ | あっちはあいつらに任せて大丈夫だろ。だが、イクスをこのままって訳にはいかねえ。 |
エステル | ミリーナ、イクスは大丈夫ですか ? |
ミリーナ | ……ええ。意識はまだないみたいだけど呼吸も安定しているし、脈拍も正常よ。 |
リタ | でも、すぐ目が覚める保証もないし一度安全な場所にイクスを連れて行ったほうがいいんじゃない ? |
ミリーナ | ええ。だから、私がイクスと一緒にアジトまで戻るわ。みんなはそのままパティがいる場所に向かって。 |
リタ | ちょ、待ちなさいよ !一人でどうやって…… !あんた、まさか……。 |
ミリーナ | ……転送ゲートを使うわ。それなら、私一人だけでもすぐにイクスを連れてアジトに帰還できるから。 |
エステル | でも、確か転送ゲートの使用は使用者の負担が著しいはずでは……。 |
レイヴン | おっさんは反対よ。ミリーナちゃんにそんなことさせちゃイクスくんに合わせる顔ないわ。 |
ミリーナ | ……ありがとうございます、レイヴンさん。でも、今は一刻の猶予もありません。 |
ユーリ | オレたち全員で止めてもか ? |
ミリーナ | ……はい。例え、この場にいる全員に反対されても私はやります。きっと、イクスなら同じ判断をすると思います。 |
エステル | ……ミリーナ。 |
ユーリ | ……カロル。さっき言ってたファンダリア領の施設場所心当たりあるか ? |
カロル | ユーリ……いいの ? |
ユーリ | ここまで言われちゃ、オレたちにミリーナを止める権利なんてねえよ。だろ ? |
ラピード | ワフッ ! ワフッ ! |
ジュディス | そうね。今はミリーナの覚悟に私たちも応えるべきじゃないかしら ? |
エステル | ……。 |
エステル | リタ。ミリーナはパティのことを……。いいえ、わたしたちみんなのことを心配して言ってくれているんだと思います。 |
エステル | だったらわたしは、その想いを尊重したいです。 |
レイヴン | ……リタっち。こりゃおっさんたちに分が悪いわ。 |
リタ | だぁー、もう、わかったわよ !ほんっと、無茶ばっかりする奴が周りにいるとろくなことにならないんだからっ ! |
エステル | リタ、落ち着いてくださいっ ! |
リタ | 言っとくけど、あたしはあんたのことも言ってんだからね ! |
エステル | ええっ ! ? |
ミリーナ | ふふっ、ありがとう、リタ。でも、私は大丈夫だから。だからみんな、パティのことはお願いね。 |
ユーリ | ああ、任せとけ。ミリーナ、イクスのことは頼んだぞ。 |
ミリーナ | ええ。それじゃあ、みんなも気を付けて。――転送ゲート、展開 ! |
ユーリ | ……オレたちも急がねえとな。カロル、道案内は任せたぜ。 |
カロル | うん、了解 ! |
フレン | …………。 |
レイヴン | ど~しちゃったの、フレンちゃん ?ミリーナちゃんならきっと大丈夫よ。もちろん、パティちゃんもね。 |
フレン | レイヴン、さん……。いえ、僕は……。 |
レイヴン | 青年のことかい ? |
フレン | ! ?……やはり、気づいてたんですね。 |
レイヴン | まぁ、この館に入る前にあんなこと言われちゃ気になるでしょーよ。本人はあれでも相当我慢してるみたいだけどさ。 |
レイヴン | ……けど、仲間が傷つけられた上にパティちゃんまで利用されようもんなら青年だって黙っちゃいない。 |
レイヴン | フレン。いざとなったらユーリを止められるのはお前さんだけだ。頼んだぞ。 |
フレン | ! ? |
リタ | ちょっと、おっさん !さっきから何コソコソ話してるわけ ?来ないなら置いてくわよ。 |
レイヴン | はいはい~。……んじゃ、青年のことは宜しくね、フレンちゃん。 |
フレン | はい。騎士として……いいえ、あいつの友としてもう二度と、手を汚すようなことはさせません。 |
キャラクター | 2話【5-4 仮想鏡界】 |
ジュニア | コーキス、定時連絡ありがとう。どう、鏡映点捜しは順調に進んでる ? |
コーキス | ああ、マークが教えてくれた通り救世軍の地上部隊の中に鏡映点っぽい人を見つけたぜ。 |
マークⅡ | そいつは良かった。んで、そいつとの交渉は上手くいったのか ? |
コーキス | それが、そのアリスって人取り巻きが何人もいて、なかなか近づけなくてさ。結局、会えないまま別のところに行っちまったんだ。 |
コーキス | あっ ! でも他の鏡映点の情報はゲットできたぜ !えっと、その人はデカい刀みたいなのを持ってて猫と一緒にいるんだってさ。 |
マークⅡ | 猫と一緒ねえ……。随分と悠長な旅をしてる鏡映点もいたもんだな。 |
コーキス | 俺、その人のことも捜してみようと思ってボスに相談したかったんだけどアジトにはいないのか ? |
ジュニア | うん、今はメルクリアたちと一緒に外に出てるよ。あっ、でもちょっと待って。コーキスって、今テセアラ領にいるんだよね ? |
コーキス | ああ、今は港で鏡映点の情報を集めてるところだけど、どうかしたのか ? |
ジュニア | 実は、ナーザ将軍たちもセールンドに向かうためにその港に向かっているんだ。もしかしたら、もう港に着いてるかも。 |
コーキス | ん ? なんでボスたちセールンドに行こうとしてんだ ?この間行ったばかりじゃん。 |
ジュニア | それが、僕たちも詳しい事はまだ教えてもらってないんだ。気になることができたからとしか……。 |
コーキス | でも、セールンドって俺たちが潜入したせいでまた帝国の警備が厳しくなったんだろ ?ボスたち、大丈夫なのか ? |
マークⅡ | それがわかってて行くんだからよっぽどのことなんだろ。 |
コーキス | わかった。俺、ボスに連絡取ってみるよ。それで合流したほうがいいのか聞いて……ぐうっ ! ! |
ジュニア | コーキス ! ? どうしたの ! ? |
コーキス | いてぇ…… ! また、左目が急に…… ! ! |
ジュニア | コーキス ! ? コーキス ! ? |
マークⅡ | おい、一体何があったんだ ? |
ジュニア | わからない……けど、左目が痛むって……。 |
マークⅡ | ってことは、また【魔眼】絡みかよ。どうする、フィル。助けに行くか ? |
ジュニア | そうしたいけど……テセアラ領の港までは一番近いゲートを使っても時間がかかるから……。 |
ジュニア | あ、そうか ! ナーザ将軍たちが近くにいるんだ !連絡してみよう ! |
ナーザ | ――どうした、ジュニア ? |
メルクリア | おおっ、ジュニアからの連絡ですか、兄上様。さてはジュニアよ、わらわたちがいなくて寂しがっておるな。 |
メルクリア | よかろう。わらわがジュニアの話し相手に……。 |
ジュニア | ナーザ将軍、大変ですっ !コーキスが……連絡の途中で通信が途絶えました。 |
メルクリア | なんじゃと ! ? |
ナーザ | ……詳しく話せ。 |
ジュニア | それが……突然苦しそうな声がして……。あと、左目のことを言ってたので、バロールの魔眼が関係していると思います。 |
バルド | 魔眼がらみなら危険かもしれませんね。コーキスと通信が途絶えた場所はわかりますか ? |
ジュニア | テセアラ領の港です。 |
メルクリア | もしや、わらわたちが向かっている港か ! ? |
ナーザ | なるほど、そういうことか。コーキスのことはこちらに任せろ。見つけ次第、連絡する。 |
ジュニア | はい、宜しくお願いします。 |
ジュニア | コーキス……無事だといいんだけど……。 |
マークⅡ | 俺たちは連絡を待つしかねえな……。ん ? どうした ? |
ジュニア | ……うん。前にコーキスが目の痛みを訴えた時はバロールの記憶に触れようとしたときだった。 |
ジュニア | もしかしたら、今回もバロールの力と何か関係があるんじゃないかって……。 |
マークⅡ | ああ、それはそうだろうな。その辺りはじきにわかるだろ。 |
マークⅡ | つーか、何か他に気になることがあるんじゃないのか ?いつにも増して、不安そうな顔してるぜ。 |
ジュニア | うん……でも上手く言葉にできないんだ。コーキスとバロール……。二人が接触すると……よくないことが起きるんじゃないかって。 |
マークⅡ | ……なあ、グラスティンの『仕掛け』はどうした ? |
ジュニア | ……まだ大丈夫。ありがとう、マーク。 |
マークⅡ | そう、か……。 |
キャラクター | 3話【5-7 ???】 |
イクス | (……あれ、ここはどこだ ?確か俺……みんなと一緒に……) |
? ? ? | なるほど。お前が目覚めたから俺がはじき飛ばされたのか。 |
イクス | えっ、ナーザ将軍 ? いや、前にも同じことが……。もしかしてここって【アニマの坩堝】 ?だとしたら、あなたはイクスさん ? |
? ? ? | 俺は……そうだな、バロールの記憶。お前の身体に受け継がれてきたバロールの記憶の残滓だ。 |
イクス | バロールの記憶……?俺の体にバロールの記憶が……? |
バロールの残滓 | そうだ。もっとも俺が目覚めることができたのはお前の鏡精が、本来のお前の中から俺を見つけた為だがな。 |
イクス | 本来の俺…… ?もしかして、それってナーザ将軍の体のことですか ? |
バロールの残滓 | そうだ。お前は本来のイクス・ネーヴェとはあり方が異なるようだからな。俺の声が聞こえないだろうと思っていたが……。 |
バロールの残滓 | 僅かな時間とはいえ、こちらからの呼びかけにも反応しているところをみると、お前の中に残っている私の力も目覚めつつあるようだ。 |
イクス | 呼びかけ……。そうか、ずっと俺が聞いていた声はあなただったのか……。 |
イクス | いや、待てよ。俺がこうして自分の意識の中にいるってことは、また現実の俺は意識を失っているんじゃ…… ! |
イクス | あの、バロールさん ! ミリーナは…… !俺の仲間たちは大丈夫なんですか ! ? |
バロールの残滓 | 案ずるな。お前の仲間たちは皆無事だ。お前自身も、今は安全な場所にいる。 |
イクス | そうですか……良かった……。 |
バロールの残滓 | だが、いずれお前たちは……。いや、この世界は再び滅びの道を歩むことになる。それも、近いうちにな。 |
イクス | えっ ! ? |
バロールの残滓 | ネーヴェの血を継ぎし者、我が末裔よ。今からお前の中に刻まれた我が記憶を授ける。 |
イクス | 記憶……うっ ! ?な、なんだ…… ! ! 目がッ…… ! ! |
ビクトリエ | バロール様、死鏡精がすぐそこまで迫っています ! |
イクス | (え ! ? ヨウ・ビクエ ! ? 何だ、これは…… ?これがバロールの記憶 ? ) |
バロール | やはり浄化しきれなかったか。ビクエ、ダーナはこれを知っているのか ? |
ビクトリエ | もちろんです。 |
バロール | そうだったな……。お前は俺の死を見届けるために残ったんだったな。 |
ビクトリエ | まだそんなことを……。ダーナ様はあなたにも生きて欲しいと仰っていたではありませんか。 |
ビクトリエ | あなたは鏡精のために立ち上がった。ただその行動が……結果的にニーベルングという星を枯れさせた。 |
バロール | そうだ。だから俺は箱船にはふさわしくない。 |
ビクトリエ | そう言うだろうと思っていました。ですが新しい世界ティル・ナ・ノーグのためにもニーベルングのためにも、あなたの力が必要なんです。 |
ビクトリエ | ふさわしいとかふさわしくないなんてこの際どうでもいいこと。 |
バロール | 俺が死なねば、フィンブルヴェトルは消えないぞ。 |
ビクトリエ | 死んでも消える保証はありません。だから今は、時間を稼ぐんです。箱船に乗って。 |
バロール | ルグの槍を起動させるのか。 |
ビクトリエ | そうです。いつか、ニーベルングも死鏡精も救うために。 |
バロール | その為に……新しい世界の礎石になれと言うんだな。ダーナと共に。 |
ビクトリエ | 急ぎましょう。死鏡精がフィンブルヴェトルを呼び寄せる前に命を生む炎を燃やして下さい。 |
イクス | ………………い、今のは……。 |
バロール | ニーベルングが死の砂嵐――フィンブルヴェトルによって滅びる直前の記憶だ。 |
バロールの残滓 | この後、ダーナやアイフリードと共にティル・ナ・ノーグという箱船を作り生き残った人々を移住させた。 |
イクス | それが……【ダーナの揺り籠】。この世界か……。 |
バロールの残滓 | 俺はニーベルングと共に滅ぶはずであったが生かされることになった。フィンブルヴェトルを鎮めるためにな。 |
イクス | 死の砂嵐を鎮める ! ?それは死の砂嵐を消すということですか ! ? |
バロールの残滓 | 何を驚く。一度はフィンブルヴェトルを鎮めたからこそこの世界はここまで生き存えてきたのだ。 |
バロールの残滓 | それをビクトリエの末裔が、再びフィンブルヴェトルを発生させてしまった。 |
イクス | ビクトリエの末裔…… ? |
バロールの残滓 | ダーナの鏡精の末裔だ。今、自らを鏡として虚無を封じている。 |
イクス | ゲフィオンのことか ! |
バロールの残滓 | あの者を利用して、フィンブルヴェトルを我らが手に取り戻す。 |
イクス | 取り戻す ? それは一体―― |
バロールの残滓 | フィンブルヴェトルは我が鏡精の力。そこに鏡精ではない者たちが紛れたせいで我が制御をはねのけている。 |
バロール | ネーヴェの末裔。お前の鏡精を借り受ける。本来のお前には不要な者が宿り力が歪められてしまう。 |
バロール | お前を通じて、フィンブルヴェトルの異物を取り除くための尖兵を造る。 |
イクス | ……えっ ? |
バロールの残滓 | 『鏡精コーキス』よ。命の炎を燃やせ !虚無とこの世界に通じる存在を呼び起こせ ! |
キャラクター | 4話【5-7 ???】 |
イクス | 死の砂嵐を鎮める ! ?それは死の砂嵐を消すということですか ! ? |
バロールの残滓 | ネーヴェの末裔。お前の鏡精を借り受ける。本来のお前には不要な者が宿り力が歪められてしまう。 |
バロールの残滓 | お前を通じて、フィンブルヴェトルの異物を取り除くための尖兵を造る。 |
イクス | ……えっ ? |
コーキス | (バロールが俺を、見てる…… ? ) |
バロールの残滓 | 『鏡精コーキス』よ。命の炎を燃やせ !虚無とこの世界に通じる存在を呼び起こせ ! |
コーキス | はぁ ! ? 何言ってんだよ ! ?さっぱり意味がわかんねーよ ! |
? ? ? | ――キ――。コ――スッ ! ! |
コーキス | 今度は誰だよ…… ! |
? ? ? | 起きろ、コーキス ! ! しっかりするのじゃ ! ! |
コーキス | ……あ……メル……クリア…… ? |
メルクリア | コーキス ! ! 兄上様 ! !コーキスが目を覚ましました ! |
ナーザ | 起きたか。 |
コーキス | ボス ! ? いや、バロール ! ?あ、いや、やっぱボスか。ボスたちがこの辺りにいるってジュニアが言ってたもんな……。 |
バルド | 目覚めたばかりのところをすみません。コーキス、やはりあなたが倒れた原因はバロールなのですか ? |
コーキス | えっ、いや……バロールは見たんだけど会ってたのはマスターというか……。いや、でも最後は俺に話しかけていたような……。 |
メルクリア | 何を言っておるのじゃ ? |
コーキス | だから、俺にもよくわかんねーんだよ。ゲフィオンがどうとか、死の砂嵐がどうとかって……。そんで、最後は……誰かを呼べ……とか何とか。 |
ナーザ | ……まったく要領を得ないな。 |
ディスト | ふん、これだから凡人は困るのですよ。自分に起きたことすら説明できないとはどうしようもありませんねえ。 |
コーキス | うわっ、ディスト様いたのかよ ! |
ディスト | 私は最初からいましたよ ! !この華麗で美しい私に気付かないとは節穴にもほどがありますね ! |
コーキス | でも、ディスト様ってアジトで捕まってたんだよな ?まさか、ジェイド様に捨てられたのか ? |
ディスト | 誰が捨てられたですって ! ? |
メルクリア | 止めよ、ディスト。これ以上騒いでは、兄上様の気に障るぞ。また雪山に戻りたくなければ大人しくしておるのじゃ。 |
ディスト | 無理矢理連れてきたのはあなたたちでしょう ! ? |
バルド | 気高いディスト博士が苛立つのもわかりますがこらえて頂けませんか。あなたは私たちに必要な存在なのです。 |
ディスト | ……私が……必要…… ! ?そ、そうでしょうとも。凡夫が私に憧れ、欲するのは仕方のないことですからねえ。 |
ディスト | ですが ! 私は断じてジェイドに捨てられたわけではありませんからね ! ! |
ナーザ | コーキス、お前はジュニアたちの通信中に意識を失ったそうだが、その時のことは憶えているか ? |
コーキス | えっと……確かジュニア様に定期連絡を入れてその途中でまた左目が痛くなって……。 |
コーキス | ――あ、そうだ。ボスたちこれからセールンドに行くんだろ ?俺も付いていったほうがいいのか ? |
メルクリア | コーキス、お主、身体は大丈夫なのか ? |
コーキス | ああ、左目も今は全然痛くねえし敵陣に乗り込むなら、戦力が必要だろ ? |
バルド | ナーザ様。我々の戦力を考えるとコーキスの言う通り、彼を連れていったほうがいいかと思います。 |
ナーザ | そうだな。それに、お前の身に何が起こったのかもう少しわかるように聞きたい。セールンドへ向かう道中で話せ。 |
コーキス | えー、俺、あれ以上ちゃんと説明できるかな……。 |
ディスト | 主人の方はもう少し頭が回りそうなのに鏡精というのは不思議なものですねえ。 |
メルクリア | コーキスを悪く言うでない。人には――まあ、鏡精じゃがとにかく人には向き不向きがあるというものじゃ。 |
バルド | コーキス。無理に説明しようとしないで起きたことを順番に話していってごらん。そうすれば、こちらにも伝わるものがあると思うよ。 |
ディスト | そうですね。馬鹿は馬鹿なりに事実を淡々と伝えればいいのです。馬鹿の解釈など意味がありません。 |
コーキス | 馬鹿馬鹿いうなよ ! 馬鹿だけど……。 |
コーキス | つーか、ディスト様もアドバイスしてくれるならバルドみたいにもっと素直に優しくしてくれよ。そんなんだと、ずっとジェイド様に嫌われたままだぜ ? |
ディスト | 誰が嫌われているもんですかっ !ジェイドにとっていかに私が特別な存在であるかをみっちり教えて差し上げますよっ ! ! |
メルクリア | ええい、うるさいわ ! 二人とも ! |
コーキス | 俺はうるさくないだろっ ! 第一、ディスト様が――。 |
ナーザ | …………。 |
バルド | 立派に成長しておいでですね、メルクリア様は。 |
ナーザ | なんのことだ ? |
バルド | それはあなたが一番よくおわかりでしょう。臣下や仲間を大切にするのは、皇族の人間として必要不可欠な素養ですよ。あなたのように。 |
ナーザ | コーキスは鏡精で、ディストは補給の担保だ。今は俺たちの下に置いてはいるが臣下でもなければ、仲間でもない。 |
バルド | フフ……。それでもメルクリア様なりに少しずつ学んでおられることナーザ様も好ましく思われているのでは ? |
ナーザ | ……さあ、どうだろうな。 |
キャラクター | 5話【5-8 アジト】 |
イクス | ……あれ、ここは ? |
ミリーナ | イクス ! 良かった…… ! 目が覚めたのね ! |
カーリャ・N | イクス様…… !あの、どこか痛むところなどはありませんか ? |
イクス | う、うん……、今はなんともないよ。俺……また倒れたんだよな……。みんな、心配かけてごめん……。 |
カーリャ | もうっ、ホントですよっ !ミリーナさまと一緒に帰ってきたときにカーリャたちがどれだけ心配したと思ってるんですか ! |
カーリャ | イクスさまはもう少しお菓子を食べて体力をつけた方がいいと思いますよ。 |
カーリャ・N | そうですね。お菓子で体力をつけるのはいいと思います。 |
イクス | いや、お菓子で体力がつくかは……。 |
イクス | ……そうだ、ミリーナ !他のみんなは ! ? パティは見つかったのか ! ? |
ミリーナ | それは……。 |
ジェイド | そちらについては、私たちから説明しますよ。 |
イクス | ジェイドさん。それに、ユリウスさんも……。 |
ユリウス | すまない、イクス。目が覚めてすぐのところ申し訳ないが俺たちも今回の事態を把握しておきたくてね。 |
イクス | いえ、俺は構いません。それで、パティの件はどうしたんですか ? |
ユリウス | 残念だが、まだ救出には至っていない。だがユーリたちからは、パティが連れて行かれたファンダリア領の研究施設に到着したと連絡があった。 |
イクス | ファンダリア領の研究施設 ? |
ジェイド | 記憶にありませんか ?あなたがファンダリア領の従騎士から聞き出した情報だと伺っていますが ? |
イクス | いえ……。 |
ジェイド | やはり、バロールの意識が出ていたときの記憶はないようですね。 |
イクス | バロール…… ! そうだ、俺、バロールと話しました !えっと、正確には俺の身体に残っていたバロールの記憶……って言ってましたけど……。 |
カーリャ | ええええっ ! ?イクスさままで神さまに会っちゃったんですか ! ?神さまたち、気軽すぎませんか ! ? |
ジェイド | はっはっはっ。まあ、神とは名ばかりの人間ですからね。さて、イクス。詳しく教えて頂けますか ? |
イクス | は、はい。勿論です。 |
ジェイド | 成程。つまり、バロールは死の砂嵐を鎮めるために尖兵を造ると言ったのですね ? |
イクス | はい。でも、それが何なのか俺にはわからなくて……。最後にコーキスに言っていた言葉からしてコーキスが尖兵を造るってことなんでしょうか。 |
ユリウス | どう思う、ジェイド ? |
ジェイド | まだ情報が不足しているので私の嫌いな憶測になってしまいますが……。 |
ジェイド | イクスの説明をそのまま理解するならバロールらしき存在が、コーキスを自分の鏡精として使役する、ということなのでしょう。 |
ジェイド | コーキスに尖兵を『造らせる』というのが……。まさか……。 |
ユリウス | しかし、イクスがバロールの末裔だとしてもバロールそのものではないだろう。バロールとコーキスが繋がるのは危険じゃないのか ? |
カーリャ・N | 本来鏡精は、マスターにしか使役できない存在です。 |
カーリャ・N | ただ、コーキスの場合、複数のイクス様の存在があることが前提で生まれていますから……。一般的な鏡精とは何か違うのかもしれません。 |
ミリーナ | 確か、マークもそうだったわね。フィルとファントム、両方と繋がっていた。 |
ミリーナ | ファントムはテストケースだったから特殊だったけれどもしかしたらイクスとバロールも、フィルたちと同じような繋がりができているのかもしれません。 |
ミリーナ | だとすれば、コーキスが何かのきっかけでイクスの鏡精ではなく、バロールの鏡精として具現化される可能性もありますよね……。 |
イクス | そんな…… ! |
ジェイド | ……色々と気になることもありますしビフレスト側とも連絡を取ったほうが賢明でしょうね。 |
ジェイド | さて、それはそれとして。何が起きてここにいるのかあなたはわかっていますか ? |
イクス | 確か……ファンダリア領の領主の館に潜入する途中だったと思います。そこで気を失ってからのことは……。 |
ユリウス | 君が意識を失ったので、安全を確保するためミリーナが転送ゲートを使用して戻ってきたんだ。 |
イクス | 転送ゲート ! ? ミリーナ、大丈夫だったのか ! ? |
ミリーナ | ええ、問題ないわよ。使ったときは少し疲れたけど……。ほら、今はこの通りなんともないから平気よ。 |
ジェイド | この件については、イクスの代わりに私がミリーナにきつく言っておいたのでご安心を。 |
二人 | …………。 |
イクス | (カ……カーリャたちのジェイドさんを見る目が怖い……。ミリーナ、相当ジェイドさんに怒られたんだな、きっと……) |
イクス | ありがとう、ミリーナ。それに……ごめんな。俺のせいでミリーナに負担をかけちゃって……。 |
ミリーナ | いいのよ、イクス。イクスはいつも頑張ってくれてるんだから私だって頑張らないと。 |
カーリャ・N | ……ですが、小さいミリーナ様。今後は無理をなさらないでください。何かあれば、私がすぐに駆け付けます。 |
カーリャ | もちろん、カーリャだってミリーナさまを助けます ! |
ミリーナ | ふふっ、ありがとう、二人とも。頼りにしてるわね。 |
ユリウス | 反省もちゃんと頭に入ったところで、話を続けようか。先ほども言ったが、ユーリたちは引き続きパティの救出に向かっている。 |
ユリウス | それと、ファンダリア領の従騎士、イレーヌの追跡もカイルたちが行っている。 |
イクス | そうですか……。従騎士の人たちも早く解放してあげられるといいんだけど……。 |
ユリウス | その件については、先ほどのリーダー会議でも議題にあげておいた。助けたいのは山々だがみんなにはあまり無理はしないようにと通達してある。 |
ユリウス | ユーリたちとカイルたちにも、そのことは伝えてある。シングのこともあるので、こちらへの連絡もこまめにしてもらっているが……。 |
ユリウス | ……と、言ってるそばから魔鏡通信だ。こちら、アジトのユリウスだ。 |
ディムロス | ユリウスくん。こちら、対帝国部隊のディムロスだ。 |
イクス | ディムロスさん ? |
ディムロス | イクスくんも一緒か。丁度いい。きみたちに伝えておきたいことがあるんだ。 |
ディムロス | きみたちに共有してもらった魔核についてだが帝国が各地で生産された魔核をファンダリア領に運び込んでいるという情報が入った。 |
全員 | ! ? |
ジェイド | このタイミングでファンダリア領に魔核の運搬ですか。偶然とは思えませんね。 |
イクス | 帝国は一体何をしようとしているんだ……。 |
キャラクター | 6話【5-9 ファンダリア領 研究施設1】 |
サレ | こっちは無事、施設に到着したよ。 |
グラスティン | ヒヒヒ……。そうか、よくやった。お前は引き続き、エルレインに同行しろ。 |
サレ | わかったよ。それで、僕たちを襲ってきた男はこのまま放っておいていいのかい ?どうやら、聖核を狙っているみたいだったけど。 |
グラスティン | また邪魔をしにくるようなら始末すればいい。黒髪なら多少は興味をそそられたんだがなぁ。 |
サレ | 良かったよ。またキミの悪趣味なコレクション集めに付き合わされることはなさそうだ。 |
グラスティン | その割には、よく働いてくれているじゃないか。まあいい、今はアイフリードの器だ。これで次の段階へ進める。 |
サレ | もういいかい ? そろそろ戻らないと聖女様の機嫌を損ねてしまうからね。 |
グラスティン | ああ。何か動きがあればまた報告してくれ。じゃあな。 |
エルレイン | サレ、誰と話していた ? |
サレ | これはこれは、聖女様ともあろうお方が盗み聞きですか。 |
エルレイン | 私の質問に答えろ。 |
サレ | 最近導入された通信装置の実験をかねてグラスティンへの報告ですよ。それが何か ? |
エルレイン | やはり、お前はあの男の指示で動いていたようだな。 |
サレ | まさか。僕はただ自分が面白くなるように動いているだけですよ。 |
エルレイン | ならば、余計なことはするな。今は私の指示に従え。 |
サレ | 分かりましたよ、聖女様。 |
エルレイン | ……では、私はあの器の少女の元へ戻る。サレ、施設の警備は任せたぞ。 |
サレ | ええ、承知しました。彼女は大事な器ですからね。 |
エルレイン | …………。 |
ユーリ | ……くそっ、どこもかしこも警備兵だらけだぜ。 |
フレン | それに、おそらく全員が精霊輪具を装備したリビングドールβだ。 |
エステル | ……わたしたちを襲ってきた兵と同じですね。 |
カロル | これじゃあ、施設に近づくことも一苦労だよ。 |
ジュディス | けど、これではっきりしたんじゃないかしら ? |
ユーリ | ああ、これだけ警備を厳しくしてりゃあ、この中に大事なもんがあるって言ってるようなもんだぜ。 |
ラピード | ワンッ ! ワンッ ! |
リタ | 今度こそ、パティを取り返すわよ ! |
レイヴン | さてと。リタっちも気合十分みたいだしおっさんも、ちと本気を出しましょうかね。 |
カロル | あっ、待って。魔鏡通信だ。きっとアジトからだよ。 |
イクス | ――カロル、今、大丈夫か ? |
カロル | イクス ! 目が覚めたんだね ! |
イクス | ああ、心配かけてごめん。それより、こっちにディムロスさんから連絡があったから、みんなにも先に伝えておく。 |
イクス | 帝国軍が各地で生産した魔核をファンダリア領に運んでいるそうなんだ。 |
全員 | ! ? |
レイヴン | ……こりゃ、パティちゃんの件と関係がないって言うほうが無理な話だわ。 |
リタ | 魔核が集められてるってことは当然、聖核も運んでるわよね……。でも、どうして……。 |
ユーリ | んなもん、直接帝国の奴らに聞きゃいいだけの話だ。 |
イクス | それで、俺たちもすぐにファンダリア領に向かうことにしたけど、先にディムロスさんたちが到着すると思うから、しばらく待機しておいてくれ。 |
カロル | 了解。イクス、無理しないでね。 |
イクス | ありがとう。それじゃあ、また連絡する。 |
エステル | ……イクス、休まなくて平気なんでしょうか ? |
リタ | あっちにはジェイドやユリウスもいるんだから止めなかったってことは、大丈夫な証拠よ。 |
レイヴン | それに、ぶっちゃけ増援に来てくれるのは願ったり叶ったりだわ。 |
カロル | そうだね。みんな、パティを助けるために動いてくれてるんだよ。絶対に失敗できない。 |
ユーリ | ああ、帝国の連中……今度こそ逃がさねえからな。 |
キャラクター | 7話【5-10 精霊の封印地】 |
ヨウ・ビクエ | ――終わったわ。これで、しばらくすればファントムは目を覚ますはずよ。 |
フィリップ | ……ありがとうございます。これで僕も、少しは自分と向き合えるかもしれません。 |
ヨウ・ビクエ | 本当に真面目ね、あなたは。でも、そういうところが気に入ってるんだけど♪ |
マーク | 悪りぃが、ウチのマスターをナンパするのはまた今度にしてくれ。こっちは光魔の相手すんのにそろそろ飽きてきたところだ。 |
ヨウ・ビクエ | そうね、それじゃあ―― ! ? |
ヴィクトル | どうした ? |
ヨウ・ビクエ | ……ダーナ様からの言伝よ。バロールが目を覚ましたって……。 |
フィリップ | バロールだって ! ? |
ヨウ・ビクエ | フィリップ。私はファントムと一緒に魔の空域に戻るわ。あなたたちも、すぐにここから離れなさい。 |
シンク | 来いって言ったり、離れろって言ったり随分と勝手な奴なんだね、ビクエっていうのはさ。 |
マーク | シンク、小言は後で俺が聞いてやるから今は言うことを聞いてやってくれ。フィル、それでいいんだろ ? |
フィリップ | ああ、だけど……。 |
ヨウ・ビクエ | 詳しい状況は、後でちゃんと説明するわ。ファントムの身体がこちらにあればあなたへの通信も可能になるから。 |
ヨウ・ビクエ | それに……狂化止めを施したから彼……きっと自分のしたことを思い出して混乱すると思うわ。 |
ヨウ・ビクエ | まずは私たちからこれまでの話をして落ち着かせたいの。 |
フィリップ | ……そう、ですか。わかりました。みんな、一度ケリュケイオンに戻ろう。 |
アイゼン | ……そうか。ファントムは預けてきたんだな。それで、これからどうするつもりだ。 |
フィリップ | そうだね、ひとまずイクスたちに連絡をとって……。すまない、誰かからの魔鏡通信だ。 |
ローエン | どうやら、あちらから先に連絡が来たようですね。 |
ミリーナ | フィル、今、どこにいるの ? |
フィリップ | ミリーナかい。良かった、丁度きみたちに連絡を入れようとしていてね。僕たちは今、精霊の封印地から離れたところだ。 |
ミリーナ | ごめんなさい……こっちも色々起こっていて大変なの。長くなるかもしれないけど……。 |
フィリップ | 大丈夫、ミリーナ、話してくれ。 |
ミリーナ | ええ。それが――。 |
マーク | ――バロールが目覚めたってのはヨーランドが言ってた通りだがまさかイクスが先に会ってるなんてな。 |
フィリップ | イクスはバロールの血族だ。ダーナ神が僕に接触してきたように、バロールがイクスに接触してきたとしても不思議じゃない。 |
フィリップ | ただ、バロールに関してはまだ分からないことのほうが多い。ヨーランドからの連絡が欲しいところだけど……。 |
マーク | あっちから連絡するって言われてるしこっちは待つしかねえな。そんで、もう一つの問題はどうするつもりだ ? |
フィリップ | もちろん、僕たち救世軍も手助けしよう。ファンダリア領にいる地上部隊にも手配を掛けてくれ。 |
シンク | 都合のいい男だね、フィリップ・レストン。救世軍はアンタがミリーナにアピールするための駒ってわけかい? |
フィリップ | これはミリーナのためじゃない。巻き込んでしまった鏡映点の人たちに報いるためだよ。 |
ゼロス | シンくんはケリュケイオンで昼寝でもしてれば ?ついでにバルバトスが余計なことをしないか見張っておいてくれても―― |
シンク | 冗談でしょ ? あいつの相手ができるのなんてマークかあんたかヴィクトルぐらいじゃない ? |
ゼロス | えええええ ! ? 俺さまだってバルバトスの相手なんざごめんだっつーの ! |
ヴィクトル | 別に私も好き好んで相手をしているわけではない。 |
クラトス | しかし、手助けすると言っても何か具体的な策でもあるのか ? |
マーク | イクスたちの方で、算段はつけてあるらしい。計画書をユリウスから転送してもらうことになってる。 |
ヴィクトル | ……ユリウス……。 |
クラトス | では、フィリップよ。我々も戦うための準備をしておこう。 |
フィリップ | ありがとう、みんな。ガロウズ、ケリュケイオンの操縦は任せたよ。 |
ガロウズ | 了解です、ビクエ様。目的地はファンダリア領ですよね。まくりますよっ ! |
キャラクター | 8話【5-11 ファンダリア領 研究施設2】 |
イクス | ごめん、みんな。遅くなった ! |
ディムロス | いや、我々も先ほど合流したばかりだ。 |
ジュディス | 思ったよりも元気そうねイクス。それにミリーナも。安心したわ。 |
ミリーナ | ええ、次はあまり無茶をしないようにするから心配しないで。 |
カーリャ | ご安心を ! カーリャも一緒ですから ! |
ジュディス | そう、頑張ってね、小さなナイトさん。 |
レイヴン | ジュディスちゃん。俺様もジュディスちゃんのナイトにな~りた~いな~。 |
ジュディス | ふふっ、頼りにしてるわよ、おじさま。 |
レイヴン | うっひゃ~ !ジュディスちゃんに頼られるなんてサイコー !おじさま、張り切っちゃうわよ ! |
リタ | うっさい ! 今すぐ黙らないと燃やすわよっ ! |
レイヴン | リタっち、ストップストップ !潜入前に大怪我とか洒落になんないから ! |
カーリャ・N | ……こほんっ !それで、こちらの状況に何か進展はありましたか ? |
カロル | いや、誰かが出入りしている様子はなかったよ。 |
シャルティエ | ですが、僕たちが掴んだ情報によるとファンダリア領に運ばれた魔核がこの施設に集められているみたいです。 |
リタ | パティのこともあるけど、魔核も回収しておきたいわ。帝国の奴らがふざけた使い方をする前にね。 |
エステル | リタ……。 |
ディムロス | それだけではない。この施設には帝国が所持する大量のレンズが保管されていることがわかった。 |
フレン | レンズ……ディムロスさんたちの世界では資源エネルギーとして使用されていたものですね。 |
ディムロス | そうだ。使い方次第では強力な兵器のエネルギー源にもなってしまう代物だ。 |
ディムロス | エンコードの特性を考えれば、レンズはキラル分子を大量に生み出す……ということになるのだろう。こちらもろくな使われ方はするまい。 |
シャルティエ | 僕たちとしては、今回の潜入でレンズの回収も同時におこなうつもりです。 |
ディムロス | すでにアジト側と連絡を取って計画は纏めてある。基本的には陽動作戦をとる。 |
ディムロス | 現在、反帝国組織の部隊を待機させている。こちらを攻め込ませ、施設への警備を手薄にする。 |
カロル | ってことは、ボクたちでパティを助けて魔核とレンズを回収するってこと ! ? |
イクス | いや、陽動部隊は俺が指揮する。ディムロスさんたちには、魔核とレンズの回収を担当してもらう手筈だ。 |
フレン | イクス、いいのかい ?かなり危険な役目だよ。 |
イクス | はい。それに自分で言うのもおかしいですけど俺と……俺の魔鏡は特別だって話ですから。 |
イクス | そんな俺が出て行ったら、帝国側も絶対に無視はしないはずなので、警備が手薄になる確率が上がると思うんです。 |
ミリーナ | もちろん、私もイクスと一緒に行くわ。 |
カーリャ・N | 私もイクス様と小さいミリーナ様に同行します。 |
カーリャ | カーリャもですっ ! |
ディムロス | ……ということだ。他の者も異論はないか ? |
ユーリ | ああ。イクス、ありがとな。ちとキツイかも知れねえが、そっちは任せたぜ。 |
ラピード | ワフッ ! |
ディムロス | では、私とシャルティエは途中までユーリくんたちと共に行動させてもらおう。 |
ユーリ | 決まりだな。そんじゃ、派手に暴れてやろうぜ。 |
エルレイン | サレは警備に出ているな ? |
帝国兵β | はい。 |
エルレイン | では私が指示をするまで、ここから先は誰も通すな。 |
帝国兵β | 了解。 |
パティ | ……………………。 |
エルレイン | 必要なレンズは用意してある。グラスティンの言うことが本当なのであればこの娘を使いフォルトゥナを降臨させることができる。 |
エルレイン | (……あの者どもの話は未だ疑わしいが万に一つでも可能性があるのならば――) |
エルレイン | ――始めよう。人々の救済を。 |
パティ | ………… ! |
エルレイン | 大いなる神の御魂を、ここに !そして、人々に永遠の幸福を ! |
エルレイン | ――出でよ、フォルトゥナ ! |
キャラクター | 9話【5-12 ファンダリア領 研究施設3】 |
パティ ? | …………………… ! ? |
エルレイン | 成功……したのか ? |
パティ ? | ここは……。私は何故……目を覚ました ? |
エルレイン | フォルトゥナではない…… !お前は、何者だ ? |
アイフリード | 私は……アイフリード……。 |
エルレイン | アイフリード、だと ? |
アイフリード | 精霊たちの楔が解け始めている…… !まさか……私だけでなく、目覚めているのか……ヨーランド ! |
エルレイン | この力は…… ! |
アイフリード | 我、アイフリードの名において命ずる。集え、我が精霊たちよ ! ! |
エルレイン | くっ…… ! ! |
アイフリード | 精霊たちが……こない、だと ! ?馬鹿な。いや、そうか……これが狙いか ! |
アイフリード | 行かねば。我が精霊たちの下に ! |
エルレイン | 待てっ ! |
帝国兵β | エルレイン様。先ほどの少女は。 |
エルレイン | あなたたちも、今すぐあの少女を追いなさい。決して逃がしてはなりません。 |
帝国兵β | 了解。施設内の全警備兵たちに伝達。逃走中の少女の確保にあたれ。 |
エルレイン | 何故……フォルトゥナではなく、アイフリードが……。まさか初めから……。いや、まずはあの少女を捕らえなくては ! |
サレ | ふふっ、どうやらあいつの筋書き通りの展開になったみたいだね。 |
サレ | さあ、もっと僕を楽しませてくれよ、聖女様。 |
クラース | ――というわけでイクスたちはパティの救出に向かった。随時連絡が来るだろう。 |
クラース | まあ、我々は我々の成すべきことをするしかない。報告は以上だ。各自、引き続き精霊の調査にあたってくれ。 |
テネブラエ | しかし、短期間で精霊との契約がこれほど順調に進むとは、いやはや素晴らしい限りです。 |
キール | だが、まだ契約できていない精霊たちも残っている。それに、領主たちに付けられた贄の紋章についても分からない点が多い。課題は山積みさ。 |
しいな | 確かに、贄の紋章は身体には影響がないみたいだけど放っておくわけにもいかないからね。 |
クラース | 贄の紋章については、引き続きハロルドたち解析班が動いてくれている。結果を待つしかない。 |
しいな | けど、あたしは心配だよ……。コレットのときもそうだったけど何も知らなかった、なんてことは嫌だからサ。 |
エミル | しいな……。 |
ミラ=マクスウェル | ……そうだな。だが、私たちには私たちが為すべきことがある。今は彼女たちのことを信じよう。 |
ライラ | はい、皆さん頼りになる方たちばかりですし。 |
テネブラエ | ええ、特にジェイドさんは私と同じ闇属性ですからねえ。 |
エミル | それは関係ないと思うけど……。 |
シャーリィ | あの、皆さん。失礼します。 |
キール | シャーリィにセネル。どうしたんだ ? |
シャーリィ | えっと、パンが焼きあがったので持ってきました。 |
セネル | 良かったら、みんなで食べてくれ。忙しくて、まだ飯も食べてないだろ ? |
クラース | おっ、差し入れか。助かるよ。 |
ライラ | まぁ ! どのパンの焼き加減もバッチリ !まさに職人技ですね。 |
ミラ=マクスウェル | パンは焼き立てを食べるのが一番だからな。ありがとう、二人とも。では、早速頂くと……くっ ! ! |
キール | ミラ ? |
シャーリィ | ううっ……この……声……もし……か……。 |
セネル | シャーリィ ! おい、しっかりしろ、シャーリィ ! |
しいな | ミラ ! それにシャーリィまでどうしちまったんだい ! ? |
ラタトスク | テネブラエ ! |
テネブラエ | ええ、私にも感じます !これは…… ! ! |
しいな | 何だい ! ? 分かることがあるならあたしたちにも説明しとくれよ ! |
ラタトスク | この世界の精霊の力が急激に動き出しやがった ! |
3人 | ! ? |
ミラ=マクスウェル | ああ……。私もその力の影響を受けてしまっているようだ……。 |
ミラ=マクスウェル | 四大は……駄目だ、何も反応がない……。 |
ライラ | 私も感じます……。影響は少ないかもしれませんが天族もこの世界では精霊としてエンコードされていますから……。 |
セネル | 待ってくれ ! それならどうしてシャーリィまで…… ! |
シャーリィ | …………。 |
セネル | シャーリィ ! その髪の光は…… ! |
シャーリィ | ……滄我の声が……聞こえる。 |
セネル | なんだって ! ? どうしてそんなことが……。 |
シャーリィ | この世界で滄我の力を宿す海神アイフリードの言葉を伝えたいそうです……。 |
クラース | アイフリードだと !まさか、精霊の力が活発化したことにアイフリードが関係しているのか ! ? |
シャーリィ | はい。アイフリードが目覚めたことで同じ力を持つ滄我も共鳴した、と。 |
ミラ=マクスウェル | あの時……聖核を見つけた時にウンディーネが話していたことか。 |
シャーリィ | 急がないと。このままだと精霊たちが暴走してこの世界がどんどん滅亡に近づいていくって…… !その前に……精霊たちを―― |
セネル | シャーリィ ! ? |
シャーリィ | ……滄我の声が、聞こえなくなった……。 |
しいな | あんた、なんともないのかい ? |
シャーリィ | は、はい……。 |
キール | どういうことだ。これも帝国の仕業なのか ! ? |
クラース | 至急、アジトにいる全員を集めてくれ !外に出ているイクスたちへの連絡は私がおこなう。 |
ライラ | はい ! すぐにお呼び致しますわ ! |
テネブラエ | 私たちは引き続き、精霊の動向を探ってみましょう。 |
クラース | 頼む。もし、先ほどのシャーリィの言葉が本当ならば、アイフリードの目覚めと同時に各地に封印された精霊たちが目覚めたことになる。 |
クラース | それが帝国の目的だったのならば……やはり帝国の狙いは、精霊たちなのか ?精霊で何をしようとしている…… ? |
キャラクター | 10話【5-13 セールンド 街中】 |
メルクリア | ……相変わらず、この辺りは寂しいのう。 |
ナーザ | アスガルド帝国を復興したときにセールンドの住民も帝都へ移したからな。この辺りに残っているのは一部の関係者だけだ。 |
バルド | とはいえ、兵士や研究者たちの姿もないというのは……。 |
バルド | ――ああ、コーキスが戻ってきたようです。 |
コーキス | ただいま。街の周りを一通り見て来たけどやっぱり警備兵どころか、ネズミ一匹いなかったぜ。 |
ナーザ | これもデミトリアスの指示なのか……。だが、何故このタイミングで…… ! ? |
コーキス | うわっ、なんだ、あの光の柱 ! ? |
メルクリア | こっちもじゃ ! ? あちこちで光の柱が発生しておる ! |
バルド | まるで、この街を囲んでいるようですね。 |
ディスト | これは…… ! そうですか……。あなたたち、今すぐここから撤退しますよ ! |
メルクリア | ディスト ! お主、あの光が何なのか分かっておるのか ! ? |
ディスト | あれはこの街を巨大なクレーメルケイジにするための術式ですよ。私が帝国にいた頃から研究を進めていたようですが、完成させていましたか。 |
コーキス | クレーメルケイジって、キール様やメルディ様たちが持ってるやつだよな ? |
ディスト | ええ、それを応用した拡張版と考えればいいでしょう。私からすれば、模倣しただけの芸のない代物ですがね。 |
ナーザ | お前の主観などどうでもいい。ディスト、帝国は何をする気だ ? |
ディスト | 簡単ですよ。この巨大なクレーメルケイジを使って精霊たちを捕らえるつもりなのでしょう。 |
ナーザ | なんだと ! ? |
メルクリア | ん ? 兄上様 ! ジュニアからの通信です ! |
ジュニア | メルクリア ! 大変だ ! |
メルクリア | ジュニア、どうしたのじゃ ! ?まさか、アジトで何かあったのか ! ? |
ジュニア | いや、僕たちは大丈夫。それより聞いて。さっきクラースさんから連絡があって精霊たちの力が活性化しているんだ ! |
三人 | ! ? |
ジュニア | それで、アステルさんとリヒターさんが調べた結果精霊たちの力が、セールンドに集まってる ! |
ジュニア | メルクリア、もうセールンドに着いているなら今すぐそこから離れて ! 精霊の力が暴走して巻き込まれるかもしれないってアステルさんが……。 |
メルクリア | う、うむ……わかったのじゃ ! |
ジュニア | それじゃあ、気を付けてね、みんな……。 |
ディスト | ふっ、どうやら私の判断が正しかったようですね。 |
バルド | ……どうしますか、ナーザ様。ジュニアやディストの言う通り一度ここから離れるべきでは……。 |
ナーザ | いや、連中は精霊を目覚めさせることに執着していた。それが果たされた今、精霊を帝国の手に委ねることはティル・ナ・ノーグを危機に陥れる可能性が高い。 |
メルクリア | 義父上……。 |
ナーザ | ディスト。この術式を解除する方法を話せ。 |
ディスト | 無駄ですよ。術式の解除は街の周囲に設置されている十八箇所もの魔法陣を無効化しなくてはなりません。 |
メルクリア | あの光の柱が発生しているところじゃな。 |
ディスト | まぁ、無効化自体は魔法陣を維持する装置を壊せばいいだけでしょうが、数が多すぎます。時間を掛けるわけにはいきませんからね。 |
コーキス | は ? 十八箇所なら……えっと一人……四つ……いや、五つぐらい壊せばいいだけだしそんなに時間はかからないだろ ? |
ディスト | 精霊を捕らえるのに、クレーメルケイジを使ったということは、目的はフリンジでしょう。 |
ディスト | フリンジにはあまり時間がかからないはず。この人数では間に合うはずがありません。 |
コーキス | そんなの、やってみなきゃわかんねえだろ!せめてギリギリまでチャレンジしてみようぜ。 |
ナーザ | ……ならば、ディストはメルクリアと南西を。俺と鏡精は北東を担当する。 |
ナーザ | 撤退のタイミングはディストに見極めを頼む。その時が来たら、合図と共にメルクリアを連れて避難しろ。 |
ディスト | なるほど。あなたは死者、鏡精は死んでも甦る。だからギリギリまで作業するというのですね。 |
バルド | ……私が……幻体などでなければ…… ! |
? ? ? | 『……こちらの方か……。力を求めたのは』 |
コーキス | え ? 誰だ ? |
メルクリア | コーキス ! 何を寝ぼけておる !兄上様を死なせるなど、わらわは納得せぬぞ ! |
コーキス | でも、今、声が―― |
? ? ? | 『魔眼の力を――、鏡精。虚無に――者――い――をあた――』 |
コーキス | この声……まさか、バロールか ! ?って、うわああああああっ ! ! |
ナーザ | コーキス ! ? これは…… ! ? |
メルクリア | ひ、左目が燃えておるぞっ ! ! |
コーキス | あっっっつつつつ……くねえっ ! ?ど、どうなってんだ、コレ ! ? |
バロールの残滓 | 『フィンブルヴェトルに取り込まれたアニムス粒子を呼び寄せる。コーキス、命の炎を燃やせ ! 』 |
コーキス | ! ! |
ディスト | ――な ! ? 王宮の方から金色の砂が ! ? |
バルド | 死の砂嵐 ! ? しかし……あれは……。 |
メルクリア | こちらに来ます ! 兄上様 ! |
メルクリア | きゃっ ! ? 何じゃ ! ? 懐のバルドの心核が熱くなっております ! ? |
コーキス | 心核はもらい受けるぞ、娘。 |
メルクリア | な、何じゃ ? コーキス ! ?それはバルドの―― |
ナーザ | 死の砂嵐がバルドの人工心核に引き寄せられているのか ! ? |
コーキス | 我が魔鏡によって散りし者よ。我の炎を持って具現化せよ ! |
バルド | コーキスの炎が私の心核に ! ? |
メルクリア | バルド ! ! |
バルド | そんな……私の身体が……実体化している ! ? |
メルクリア | バルド…… ! ?一体何が起きたのじゃ ! ? |
メルクリア | コーキス、これはお主がやったことなのか ? |
コーキス | ――え ! ? な、何だ ! ?何が起きた ! ? 何かバロールの声が聞こえて……命の炎がどうとか……。 |
ナーザ | バロールか……。バロールの魔眼は、死を呼ぶ時は毒を放ち命を生む時は炎を燃やす。 |
ナーザ | まさか、バロールがバルドの『命を生み出した』のか ?バロールには死んだ人間を甦らせる力があるとでもいうのか…… ? |
ナーザ | それにあの金色の砂……。あれは死の砂嵐に取り込まれ、虚無に漂うアニムスの欠片。だが、虚無への道はゲフィオンが封じていた筈だ。 |
バルド | ナーザ様。詮索は後にしましょう。私が実体を得られたのは好機です。これを生かさなくては。 |
バルド | ディスト博士、私が動けるようになったことで装置の破壊の実現性は増しましたよね ? |
ディスト | あなた一人が増えたところでさして変わりませんがそれでもいないよりはマシでしょうね。あなたが人並み以上の働きをするのなら、ですが。 |
バルド | 約束しますよ。私が二、三人……いや、五人分は働く、とね。 |
ディスト | 随分と大口を叩きますね。 |
ナーザ | こいつは、やると言ったらやる男だ。それに、己の力を過信するようなマヌケでもない。 |
バルド | 光栄です。ナーザ様。 |
コーキス | よし。何が起きたかわかんねーけどとにかく装置を壊そうぜ ! |
バルド | そうですね。ですが、その前に少しだけ失礼します。……メルクリア様。 |
メルクリア | な、なんじゃ、バルドよ ! ?わらわの手を取って…… ! |
バルド | 生前、私は祖国を守ることができませんでした。騎士としてこれ以上の屈辱はありません。しかし、こうして実体を得ました。 |
バルド | ビフレストは失いましたが、せめてメルクリア様――知の乙女たるあなた様のことは全力でお守りします。我が誇りにかけて。 |
キャラクター | 11話【5-14 ファンダリア領 研究施設4】 |
帝国兵β | 施設近辺にて、鏡士イクス・ネーヴェ及び黒衣の鏡士ミリーナ・ヴァイス以下数名の存在を確認。現場の各隊と合流し、捕獲の任務にあたれ。 |
帝国兵β隊 | 了解。 |
カロル | イクスたち、上手くやってるみたいだね。お陰で警備が薄くなってきたよ。 |
ユーリ | んじゃ、そろそろオレたちも行くか。 |
ディムロス | ここからは別行動になるが何かあれば、すぐに魔鏡通信に連絡をしてくれ。 |
シャルティエ | 僕たちも、あなたたちの仲間を見つけたら連絡します。 |
ユーリ | ああ。けど、気を付けてくれ。パティがいるってことは他の従騎士や帝国側の人間がいるかもしれねえからな。 |
ディムロス | 我々も無茶をするつもりはない。厳しい戦場ほど、全員無事に帰還しなくてはな。 |
シャルティエ | それでは、また後程。 |
ジュディス | あの二人、随分慣れた様子だったわね。 |
フレン | 彼らは元軍人だと聞いている。元の世界でもかなりの場数を踏んできたんだろう。 |
レイヴン | そうそう。おまけにアトワイトちゃんみたいな可愛い子ちゃんも一緒だったっていうんだから羨ましい限りだわ。 |
リタ | 結局あんたが気になるのはそこかっ ! |
ユーリ | オレたちだって負けちゃいねえだろ。散々好き勝手やらせてもらってたからな。 |
エステル | はいっ ! わたしたちも敵のアジトに潜入なんて慣れっ子です。 |
リタ | エステル……あんた完全にユーリに毒されてるわよ。見なさいよあのフレンの顔。思いっ切り引きつってるじゃない。 |
エステル | フレン、そうなんです ? |
フレン | い、いえ……決してそのようなことは……。 |
ジュディス | エステルも逞しくなった証拠ね。 |
ユーリ | そんじゃ、いつも通りってことで軽く一暴れしてやるか。 |
ラピード | ワオーン ! ! |
エルレイン | サレ ! どこにいる ! ? |
サレ | おやおや、どうされましたか聖女様 ? |
エルレイン | 貴様……始めからこうなることを知っていたな。 |
サレ | さて、何のことでしょう ? |
エルレイン | とぼけるな。フォルトゥナの降臨は私を協力させる餌に過ぎず、本当の目的はアイフリードを呼ぶことだったのかと聞いているのだ。 |
サレ | だとしたら、どうなんです ?僕には全く関係のない話ですよ。 |
エルレイン | なに ? |
帝国兵β | エルレイン様、サレ様。先ほど、施設内にて何者かの侵入がありました。 |
エルレイン | 白髪の男か ? |
帝国兵β | いえ、対帝国軍組織の者と黒衣の鏡士の仲間たちと思われます。 |
サレ | どうやら、大事な仲間の救出に来たようだね。美しい助け合いの精神じゃないか。気持ち悪くて不愉快だよ。 |
エルレイン | サレ、どこに行くつもりだ ? |
サレ | もうここには用はない。僕は一足先に撤退させてもらいますよ。 |
エルレイン | 待て ! まだ私からの話は終わっていないぞ。 |
サレ | 僕とお喋りするのは勝手だけどあなたの大事な器が逃げてしまいますよ ? |
エルレイン | くっ……。 |
サレ | それじゃあ、僕はこれで。また会えることを楽しみにしていますよ、聖女様。 |
帝国兵β | エルレイン様、我々に指示を。 |
エルレイン | ……止むをえん。各隊、侵入者の対応にあたりなさい。あの少女の捜索は私が引き受けます。 |
帝国兵β | 了解。 |
ユーリ | カロル ! 次はどっちだ ! |
カロル | この先を右だよ ! そこに部屋があるはず ! |
ラピード | ウウッ……ワオン ! ! |
ユーリ | どうした、ラピード ! ?な…… ! ? |
アイフリード | ……………………。 |
エステル | パティ ! |
リタ | 待って、エステル ! 近づいちゃ駄目 ! ! |
エステル | えっ ! ? どうして……。 |
フレン | リタの言う通りです、エステリーゼ様……。彼女がリビングドールにされている可能性があります。 |
エステル | そんな…… ! |
ユーリ | お前……パティなのか ? |
アイフリード | 退け……。私は行かねばならぬ。 |
ユーリ | ! ? |
レイヴン | こりゃ、悪い方の予想が当たっちまったみたいね。 |
ユーリ | ……ざけやがって。何回おんなじことすりゃ気が済むんだ、あいつらはよ…… ! |
カロル | でも、なんだか様子が変じゃない ?領主の館で会った従騎士の人と雰囲気が全然違うような……。 |
アイフリード | ……邪魔をするな。 |
ジュディス | 来るわ ! |
フレン | みんな、構えろ ! |
ユーリ | 上等だ ! その身体、力ずくでも返してもらうぜ ! |
キャラクター | 12話【5-15 ファンダリア領 研究施設5】 |
アイフリード | ……手強いな。 |
ユーリ | こっちはいつまでも付き合ってらんねえんだよ。これで決めさせてもらうぜっ ! |
アイフリード | くっ ! ! |
帝国兵β | 目標、確認。総員、侵入者及び実験体の確保に移れ。 |
帝国兵β隊 | 了解。 |
フレン | 帝国兵か ! ? ユーリ、一旦下がるんだ ! ! |
アイフリード | ――行かねば。精霊たちを解放するために……。 |
ユーリ | おい、待ちやがれっ ! |
エステル | 精霊を、解放…… ? |
リタ | エステル ! 何ぼぉーっとしてるの !帝国兵の奴ら、こっちにも来るわよ ! |
エステル | は、はいっ ! |
ジュディス | 一通り片付いたかしら。 |
レイヴン | けど、その間にパティちゃんは完全に逃げちゃったみたいね。 |
ユーリ | ……また追いかけっこの再開かよ。 |
ラピード | クゥーン……。 |
フレン | この音…… ! みんな、また帝国兵だ ! |
リタ | これ以上相手するのも面倒だわ。こうなったら……。ガキんちょ ! これ被って適当に追っ払って !それ以外の全員は近くの部屋に隠れるわよ ! |
カロル | えっ、ちょっとリタ ?なんで兵士の兜なんて拾って……ってうわああああああっ ! |
ジュディス | 大丈夫。あなたならやれるわ。 |
カロル | えっ ! ? なになに ! ?ちょっとみんな ! どこに行ったの ! ?暗くてよく見えないんだけど…… ! |
帝国兵β | おい、侵入者たちはどうした。 |
カロル | え、え…… !あ、あっち ! あっちのほうに凄い速さで逃げていったよ ! ! |
帝国兵β | 了解。追跡を開始する。 |
カロル | …………。 |
カロル | ひ、ひどいよリタ ! 急にあんなことさせるなんて ! |
レイヴン | けど、お陰でこっちも余計な戦いせずに済んだじゃないの。 |
ユーリ | そうだぜ、カロル先生。お手柄だ。 |
カロル | えっ ? そ、そうかなぁ~。って、リタ。さっきから何してるの ? |
リタ | ちょっと黙ってて ! 今大事なところだから…… ! |
エステル | 部屋で見つけた資料を読み始めてからずっとあの調子で……。 |
リタ | ……嘘。もし本当にこんなことをするつもりなら……。冗談じゃないわ ! ! |
エステル | どうしたんです、リタ ! ? |
リタ | どうしたもこうしたもないわよ !ここに置いてあった研究資料を読んでわかったわ !あいつら聖核を使って新しい精霊を創り出すつもりよ ! |
ユーリ | 精霊を創るだと ? |
ジュディス | …………。 |
フレン | ! すまない、みんな。アジトから連絡が入った。繋げるよ。 |
クラース | フレン、至急伝えたいことがある。他のみんなは ? |
フレン | 大丈夫です。全員一緒にいます。 |
クラース | そうか。では、早速本題に入るが今、ティル・ナ・ノーグにいる精霊たちの力が活性化している。原因はアイフリードの覚醒だ。 |
リタ | アイフリードですって ! ? まさか…… ! |
エステル | そういえば、先ほどパティが言ってました !精霊たちを解放する……と。 |
カロル | ってことは、もしかしてパティの身体の中にいたのはアイフリードだったってこと ! ? |
クラース | ……やはり、帝国側の仕業か。聞いてくれ。こちらでも分かったことがいくつかある。 |
クラース | まず、アイフリードには滄我の力が宿っているそうだ。それが原因で、シャーリィを通じて我々も情報を入手することができた。 |
エステル | 滄我の力……。もしかして、以前ウンディーネが言っていたことでしょうか…… ?シャーリィにはこの世界の海神と同じ力があると……。 |
クラース | その通りだ。そして、このままでは精霊たちが暴走し世界は滅亡の危機に瀕することになる。この事態はなんとしても止めなくてはいけない。 |
クラース | いずれにせよ、精霊だけでなくアイフリードの力も帝国は利用しようとしている可能性が極めて高い。パティ……アイフリードは帝国側にいるのか ? |
フレン | いえ……。帝国側の監視をすり抜けて逃走しています。 |
クラース | そうか……わかった。きみたちは引き続きパティ……アイフリードの行方を追ってくれ。何か分かればこちらからも連絡を入れる。 |
フレン | はい、了解しました。 |
ユーリ | 中身が誰だろうと関係ねえ。パティはオレたちの仲間だ。これ以上、勝手なことはさせてたまるか……。 |
エステル | ……ユーリ。 |
ジュディス | 行きましょう。このままだと、追い付けなくなるわ。 |
ユーリ | ……ああ。 |
バルド | ――これで最後です。はああっ ! ! |
コーキス | すげえ ! ? |
コーキス | おおーい ! こっちは終わったぞ ! |
バルド | ――それはよかった。私も今担当分の装置を全て壊したところです。 |
メルクリア | な、なんじゃと ?バルドはわらわたちより二つも多く担当していたではないか ! ? |
ディスト | なるほど。大口を叩いただけあってとりあえず二人分程度の仕事はこなしてくれたようですね。 |
バルド | ナーザ様 ! |
ナーザ | 相変わらず荒事は得意だな、バルド。見ろ。光の柱が消えていく。 |
ディスト | ……何とかフリンジは阻止できましたか。まあ、私にかかればこんなものですよ! |
コーキス | え? ディスト様は特に何も―― |
バルド | いいえ、コーキス。フリンジ完成のタイミングを読めたのはディスト博士のおかげですよ。 |
コーキス | それもそっか! 案外やるじゃん、ディスト様! |
コーキス | な ! ? 今度はなんだ ! ? 地面が……揺れる ! ? |
メルクリア | 突風まで吹き荒れてきたぞ ! !なんじゃ……これは…… ! ! |
バルド | ! ? ナーザ様 ! ! 上です ! ! |
ナーザ | なにっ ! ? あの火球は…… ! |
バルド | 伏せてください ! !あれは私が引き受けます ! |
ナーザ | よせっ、バルド ! ! |
バルド | 風刃・峰牙 ! ! |
メルクリア | バルド ! ! |
バルド | くっ…… ! ! はあああああっ ! ! ! ! |
ディスト | 消えた ! ? あの巨大な火の玉をあの男が相殺したというんですか ! ? |
メルクリア | じゃが、このままではバルドが地面に落下するぞッ ! ! |
コーキス | 俺に任せろ ! ! |
コーキス | ギリギリ間に合った ! おい、大丈夫か ! ? |
バルド | ……コーキス。助かりました。ありがとう。 |
ナーザ | バルド ! ! |
メルクリア | 何という無茶をするのじゃ ! ? |
バルド | ……着地する余力を残せなかったとは無様ですね。ナーザ様、メルクリア様……。不甲斐ないところをお見せして申し訳ありません。 |
ナーザ | 愚か者が ! 魔鏡戦争の時と同じではないか ! しかも俺はあの時とは違う。死者だ !俺がメルクリアを庇えばそれで事は済んだ ! |
バルド | ……フフ、愚か者はどちらかな、ウォーデン。きみがメルクリア様を庇って死ねばメルクリア様が心に傷を負う。 |
バルド | 僕はメルクリア様を守ると誓いを立てた。メルクリア様を守るということはきみを守るということでもあるんだよ。 |
バルド | 今度こそ……僕はきみたち兄妹を守る。必ずね。 |
メルクリア | バルド……そなたは……。 |
ナーザ | ……うつけめ。 |
コーキス | え ! ? その光……メルクリアとボスのそれって……浄玻璃鏡か ! ? |
ナーザ | シドニーから渡されていたサンプルか……。しかし何故今これが光る ? |
コーキス | それはオーバーレイだよ !えっと……マスターがやってたオーバーレイの―― |
ナーザ | 元々我が国の技術だ。説明はいらぬ。しかし……今光ったということは……。 |
バルド | ……フフ。浄玻璃鏡が光るほどに私を案じて下さった。私の存在も、お役に立つということでしょうか。 |
ナーザ | 相変わらずふてぶてしい奴だ。 |
イフリート | ―――― ! ! |
メルクリア | 兄上様 ! あれは…… ! ! |
コーキス | 精霊 ! ? けど、なんか様子がおかしいぞ ! ? |
ディスト | おそらく、暴走しているのでしょう。あのクレーメルケイジに何か仕掛けがあったのかも知れません。 |
ディスト | さっさと逃げるに限るのですがどうも簡単には見逃してくれないようですねえ……。 |
メルクリア | 兄上様 ! バルドから託されたわらわたちの秘められし力で―― |
ナーザ | よかろう。俺たちの手で精霊の暴走を食い止める ! |
メルクリア | はい、兄上様 ! ! たとえ精霊であろうと我が臣下を傷つけた罪は重いぞ ! ! |
バルド | ……コーキス。我々も戦いましょう。 |
コーキス | 戦うって、火球を消したときの怪我は大丈夫なのか ! ? |
バルド | この程度の傷、造作もありません。ディスト博士も、お力をお借りできますね ? |
ディスト | まあ、いいでしょう。せいぜい足を引っ張らないことですね。 |
ナーザ | 死神――いや、薔薇殿もとんだお人好しのようだ。ならば、遠慮なく行かせてもらう ! |
ナーザ | 鎮まれ、荒ぶる精霊たちよ ! ! |
キャラクター | 13話【5-15 ファンダリア領 研究施設5】 |
ウンディーネ | ……ありが……とう……――。 |
コーキス | 精霊たちが……消えた ! ? |
ディスト | 心配いりません。正気を取り戻したのですよ。暴走で力を使った分、休息をとっているのでしょう。 |
ナーザ | しかし……立て続けに無理をしたな。だが、肝心のデミトリアスの調査が終わっていない。メルクリア、動けるか ? |
メルクリア | わ、わらわは、大丈夫です ! |
ナーザ | ……とてもそうは見えぬな。 |
コーキス | ディスト様の椅子にメルクリアを乗せてやればいいじゃん。 |
ディスト | お断りです ! |
バルド | メルクリア様は私が背負いましょう。 |
メルクリア | そのようなこと、怪我人には頼めぬ ! |
コーキス | だったら俺が―― |
コーキス | うわ ! ? 静電気 ! ?バルド、痛くなかったか ?――あれ ? バルド ? |
バルド | ……これは…… ?コーキスに触れた瞬間何かが……。 |
? ? ? | 尖兵よ。ようやく捕らえた。 |
バルド | 尖兵――この声は、バロールか ? |
バロールの残滓 | 察しがいい。それにしても、俺の尖兵となるのはあのナーザと名乗る男だと思っていたがな。 |
バロールの残滓 | 頑ななまでに自らを死者と律しこちらに応えなかった。だがお前は違う。生きることに執着している。 |
バルド | 私が命を惜しんでいると ? |
バロールの残滓 | 心残りとでも言えばいいか……。喜べ尖兵。俺の魔鏡で滅びた命は俺の炎で具現化できる。 |
バルド | それは……まさかビフレストの民を甦らせることができるということか ! ? |
バロールの残滓 | さあな。俺の魔鏡で失われたものにビフレストの民とやらが入っているならそうなのだろう。 |
バルド | どうすればいい ! ? |
バロールの残滓 | そう急くな。時間が必要だ。二枚目の俺の魔鏡を捜せ……―― |
メルクリア | ――バルド ! ? 大丈夫か ! ? |
バルド | ……今のは……。 |
ナーザ | 何かあったようだな、バルド。詳しく話せ。 |
バルド | は、はい。ですが、場所を移した方がいいかと。 |
ナーザ | そうだな……。ならば王宮へ向かうぞ。荒れていても休める場所ぐらいはあるだろう。メルクリアは私が背負う。 |
メルクリア | あ、兄上様…… ! |
カーリャ・N | イクス様、小さいミリーナ様。陽動作戦は無事、順調に進んでいるようです。 |
イクス | ありがとう、ネヴァン。あとは、ユーリさんやディムロスさんたちがちゃんと施設内に侵入できたかどうかだな……。 |
カーリャ | まだ連絡は来ていませんしカーリャは少し心配です……。 |
ミリーナ | 大丈夫よ、カーリャ。ユーリさんたちなら、きっと上手くやってるわ。 |
イクス | そうだな。よし、俺たちも次のポイントへ向かおう。 |
ミリーナ | ええ、そうね……――……く…………っ。 |
イクス | ミリーナ ? |
ミリーナ | ご、ごめんなさい。少し立ち眩みしたみたい……。 |
イクス | 大丈夫か ? やっぱり、まだ転送ゲートを使った影響が残ってるんじゃないか ? |
ミリーナ | ううん、違うの……。なんだか……さっきから変な……あ……っ ! ! |
イクス | ミリーナ ! ?気を失ってる……。 |
カーリャ | ミ……ミリーナ……さま……。 |
カーリャ・N | カーリャ ! ? もしかして、あなたにも何か影響が…… ! |
カーリャ | わ、わかりません…… !で、でも……カーリャもなんだか変な感じがするんです…… ! |
イクス | カーリャが何か感じるってことは……ミリーナの心で、何かが起こっているのか ? |
カーリャ・N | ……可能性は高いと思います。ですが、一体何が原因で……。 |
カーリャ | あの……ネヴァン先輩 !カーリャ、一度ミリーナさまの心の中に戻って原因を調べてきますっ ! |
イクス | そうか ! カーリャならミリーナの心の中に入れるから……。 |
カーリャ・N | それだけではありません。もし小さいミリーナ様の心に異変が起こっているのなら、カーリャの力で小さいミリーナ様の心を守ることができます。 |
カーリャ | だったら、尚更カーリャがミリーナさまを助けなきゃいけないじゃないですか ! |
カーリャ・N | そうですね……。今、小さいミリーナ様を助けられるのはカーリャだけです。 |
イクス | 頼む、カーリャ !ミリーナのこと、守ってやってくれ ! |
カーリャ | はいっ ! ! |
カーリャ | ここがミリーナさまの心の中……。具現化した状態で入るのは初めてです。なんだか落ち着きます……。 |
カーリャ | って、落ち着いてる場合じゃありませんっ !早くミリーナさまが倒れた原因を調べないと…… ! |
ミリーナ | ……えっ、カーリャ ? |
カーリャ | ミリーナさま ! !うわああああ~ん ! ! ミリーナさまぁ~ ! ! |
ミリーナ | ど、どうしたのカーリャ ? |
カーリャ | だ、だって ! ミリーナさまが急に倒れるから……。そうだ、ミリーナさま ! ! 何ともないんですか ! ? |
ミリーナ | え、ええ……。私、目が覚めたらここにいて……。カーリャ、一体ここはどこなの ?イクスとネヴァンは一緒じゃないの ? |
カーリャ | ここはミリーナさまの心の中です !それで、ミリーナさまが倒れた原因が心の中で何か異変があったんじゃないかって……。 |
ミリーナ | 異変…… ? |
? ? ? | カーリャの言う通りだ。そして、その原因は私にある。 |
ミリーナ | 誰 ! ? |
ゲフィオン | 久しいな、ミリーナ。こうして素顔を晒して喋るのは初めてか。 |
カーリャ | あわわわわ、あ、あなたは…… ! |
ミリーナ | …………ゲフィオン ! ? |
| to be continued |
キャラクター | 1話【6-1 アジト】 |
リフィル | ――イクス、イクス、聞こえて ? |
リフィル | ………………駄目ね。あなたの魔鏡通信はどう ? |
ユリウス | こっちも繋がらない。イクスだけじゃなくカイルやユーリたちにもだ。 |
ジェイド | どうやら魔鏡通信そのものが使えないようですね。他の計器にも異常が出ています。観測装置も役に立たない。 |
リフィル | いったい何が起きているのかしら。さっきの通信では、ミリーナが突然倒れたと言っていたわよね。 |
ジェイド | とにかく、通信が途絶える直前までの状況を整理しましょう。 |
ユリウス | そうだな。まずイクスたちだ。 |
ユリウス | パティ救出のために陽動部隊として動いているがミリーナが倒れたことで体制が崩れている。 |
ユリウス | そのために、現在はおびき出した敵を相手に持ちこたえるのが精一杯で、今後立て直しが必要――とさっきの通信で聞けたのはここまでだった。 |
ユリウス | レンズと魔核回収班のディムロスたちは突入後連絡なし。パティ救出班のユーリたちもクラースが精霊の件で連絡を取ったきりだ。 |
リフィル | 精霊ね……。まさかアイフリードが目覚めるなんて。 |
ジェイド | そのことですが、計器類が止まる直前に精霊たちがセールンドに集まって大きな力になろうとしていたのを観測しています。 |
ジェイド | 精霊研究室のメンバーは、アイフリードの覚醒による暴走を疑っているようですが、果たしてそれだけなのか気になるところです。 |
リフィル | そうね。もしかして魔鏡通信や計器の不調は精霊が原因なのかしら。 |
ジェイド | 可能性は高いでしょうが―― |
ジェイド | ……まあ、今は精霊専門家たちが検討しているところです。見解を待ちましょう。 |
リフィル | ジェイド、また悪い癖が出てるわよ。何か言いかけたでしょう。 |
ジェイド | おや、そうでしたか ?改めようと努力はしているのですが。不出来な生徒ですみません、リフィル先生♪ |
リフィル | 誤魔化さないでちょうだい。それと何度も言うけどあなたを生徒に持った覚えはありません。 |
ジェイド | 手厳しいですねぇ。今は推測よりも、確実な情報だけを追った方がいいと思いますよ。 |
ユリウス | 現状把握とは別にして考える。聞かせてくれ。 |
ジェイド | ユリウスもですか。二人が相手ではさすがに分が悪い。仕方ありません。 |
ジェイド | 以前にも同じように魔鏡通信が繋がらなくなった時のことを覚えているでしょう。 |
ユリウス | ああ。あれはイクスからあふれた力が結晶化してノイズになったことが原因……。 |
二人 | ……あっ ! ! |
ジェイド | そういうことです。もしかすると今回のノイズは―― |
アニス | お邪魔しまーす。大佐、ちょっといいですか ? |
ジェイド | アニス、イオン様。どうしました ? |
イオン | 取り込み中のところをすみません。ついさっき、ローレライの声を聞いたのですが内容が不穏なものなので報告に来たんです。 |
ジェイド | ……詳しく聞かせてください。 |
イオン | はい。イクスたちがパティを救出している土地の周辺にクロノスの力が集まりつつあるというんです。 |
ユリウス | クロノスだと ! ? |
イオン | ええ。しかもその場に近づけるのは精霊かもしくは、近しい力を持つ者だけのようです。 |
イオン | そしてそこでは、何か『恐ろしいモノ』が生まれようとしていると……。 |
ユリウス | 確かに不穏だな。イクスたちがいるなら間違いなくファンダリア領だろう。 |
ジェイド | ええ。ですがもう少し場所を絞りたい。イオン様、他に何か分かりますか ? |
イオン | 周囲は平原らしいのですが、僕には土地勘がないもので正確な場所までは……すみません。 |
アニス | イオン様が謝ることないですよぉ。どう考えてもローレライの説明不足ですって。 |
イオン | それだけならいいのですが。ローレライの様子がいつもと違う気がして……。 |
ミラ=マクスウェル | ローレライも精霊だ。暴走の影響を受けているのかもしれないな。 |
ユリウス | 君たちか。丁度いいところに来てくれた。 |
ユリウス | 計器類がやられてしまってね。全体への通達もままならないところだよ。 |
クラース | やっぱりな。イクスたちに連絡しようとしたら魔鏡通信が使えなくなっていた。 |
リフィル | 観測機器も役に立たないからあなたたちの感覚が頼りよ。何か感じた ? |
ライラ | 先ほどよりは少し落ち着いたように思えますが異様な気配は変わりません。 |
ライラ | 私だけではなく、ラタトスクさんや、ミラさんのようにこの世界の精霊と同一化していない精霊や天族は皆さん同じ気配を感じています。 |
ミラ=マクスウェル | ああ。それに四大も消えたまま戻らない。 |
クラース | セルシウスもだ。アイフリードの覚醒の他にも何か要因があるのかもしれん。 |
ジェイド | その件と関わりのありそうな報告を受けたところです。どうやらファンダリア領で―― |
ミラ=マクスウェル | なるほど。恐ろしいモノ、か……。 |
クラース | 確かめに行きたいところだが精霊か、それに近しい者しか近づけないとなるとな。 |
ミラ=マクスウェル | 何を悩む必要がある。私たちが行けばいい。精霊の気配を辿れば場所もわかるだろう。 |
ライラ | そうですね。それにイクスさんたちも苦戦しているようですから、いざとなれば援軍にもなれます。 |
クラース | 馬鹿を言うな。魔鏡通信が使えない中で精霊の君たちが帝国に向かうのは危険だ。 |
クラース | ……と、言いたいところだが今回ばかりは仕方がないか。四大のことも心配だろう。 |
クラース | それに、精霊の力による『恐ろしいモノ』の誕生など何より君たちが望んでいないはずだからな。 |
ミラ=マクスウェル | さすがクラースだ。私たちのことをよくわかっているな。 |
クラース | おかげで振り回されっぱなしだよ。 |
リフィル | では、ライラたち天族とミラを中心に仲間を募ってファンダリアへ向かってもらいましょう。それでよくて ? |
クラース | ああ。それとセネルたちにも話をしてくる。シャーリィからの話だと滄我はアイフリードと共鳴しているようだからな。 |
リフィル | そうね。もし彼らも動いてくれるなら心強いわ。それとセールンドの調査も必要ね。そちらへは……。 |
ユリウス | 待ってくれ。俺もファンダリアへ行かせてくれないか。 |
リフィル | ユリウスも ? |
ユリウス | みんなには行動を控えろと言っておいて何だが今回はクロノス絡みだ。 |
ユリウス | 何か起きるというなら……取り返しがつかなくなる前に阻止したい。 |
イオン | だったら僕も同行しましょう。ローレライが何か伝えてくるかもしれませんし。 |
ジェイド | いいえ、イオン様には留守番をお願いします。 |
アニス | ですね。そうじゃなくてもオールドラント領に行ったばっかりなんですよ。……無理してほしくありません。 |
イオン | ……わかりました。では大人しくしています。僕もアニスが悲しむ顔は見たくありませんから。 |
アニス | はぅあ ! ちょっと何言い出すんですかぁ ! ? |
ジェイド | 闇属性には眩しすぎる笑顔でしたねぇ。アニス。 |
アニス | 誰が闇属性か ! バリバリの光属性ですよ ! |
ジェイド | そんなことを言うと、テネブラエが出てきて凄まじい勢いで闇属性の押し売りをされますよ ? |
リフィル | ……テネブラエ、ね。丁度いいわ。セールンドの方も精霊絡みだし、あちらの調査にはテネブラエやラタトスクたちに行ってもらいましょう。 |
リフィル | では各々準備をして。魔鏡通信が回復する見込みが立たないからみんな無理はせず、気を付けて行動するのよ。 |
キャラクター | 2話【6-2 ケリュケイオン】 |
マーク | よし、ファンダリア領上空だ。なんとか待機ポイントまで無事到着したな。 |
マーク | アイゼン、地上の様子を確認したい。少しづつ高度を下げられるか ? |
アイゼン | ああ。ガロウズ並みとまではいかないが手動操縦にもだいぶ慣れてきた。 |
マーク | 無茶言って悪いな。計器類が死んじまってんのに。 |
マーク | せめて、魔の空域に入った時みたいに自動操縦が少しでも生きてりゃサポートに使えたんだけどな。 |
シンク | ああ、あのサイアクな胴体着陸をやらかした時か。今回は絶対やめてよね。 |
アイゼン | 何を言う。あれは最高の結果だった。死人もでなかったしな。この際だ。胴体着陸を究めるのもいいかもしれん。 |
ゼロス | なに言ってんの ! ?妙なところで凝り性発揮すんなって ! |
アイゼン | 心配するな。冗談だ。 |
シンク | アンタって、笑いのセンスがないって言われたことあるんじゃない。 |
マーク | ははっ、 みんながいつも通りで安心するぜ。ケリュケイオンがシステムダウンした時にはさすがに焦ったからな。 |
クラトス | 先ほど様子を見てきたが、艦内の混乱はローエンが上手く収めてくれている。こちらも問題ないだろう。 |
ヴィクトル | ふっ、ローエンなら朝飯前だろう。後はフィリップとガロウズが原因を究明してくれれば―― |
フィリップ | すまない、待たせたね。 |
マーク | 噂をすれば、だ。どうだ、原因はわかったか ? |
ガロウズ | いや、機器類に物理的な問題はなかった。ビクエ様にも確認してもらったから間違いない。 |
フィリップ | 多分、何か大きなエネルギーが干渉しているんだ。それも複数の要素が絡み合っている。この状況だし、今すぐに解析するのは難しいね。 |
マーク | じゃあ、魔鏡通信も使えないままか。参ったな。 |
ゼロス | どうするよ、マーくん。ユリウスが送ってきた計画書どおりには動けねえぞ ? |
ヴィクトル | 潜入したディムロスたちからの合図で共にレンズと魔核を回収する手筈だったな。 |
マーク | ……仕方ねえ。こっちが独自で動くことも考えて準備するか。 |
アイゼン | ! !おい、お前ら、下を見ろ ! |
マーク | 帝国兵と反帝国組織の連中……陽動部隊だな。……っておいおい、帝国側に押されてんじゃねえか !陽動どころか、あのままじゃ攻め込まれて全滅だぜ ! ? |
クラトス | イクスたちが指揮をしている筈だが二人に何かあったのだろうか。 |
フィリップ | 陽動部隊を助けに行く。マーク、降下準備を ! |
マーク | 了解 ! どっちにしろ、このまま空にいたってディムロスたちとは連絡がとれねえしな ! |
ディムロス | ここにもない、か……。 |
シャルティエ | あちらの保管庫も同じでしたよ。レンズは僅かしか残っていません。 |
ディムロス | 恐らくほとんど使われてしまったのだろう。 |
シャルティエ | あんな大量のレンズを何に使ったんでしょうね。嫌な予感がするなぁ……。 |
ディムロス | それにしても妙だ。先ほどから魔核がまったく見当たらない。使い残したレンズはあるのに、おかしくはないか ? |
シャルティエ | かけらも残さず使い切った……というのは少々無理がありますよね。他の場所に運ばれているんでしょうか。 |
ディムロス | そうだな……よし、探すぞ。 |
シャルティエ | 待ってください。今からまた他の場所を探すんですか ?時間がかかりすぎなんじゃ……。ずっと救世軍を待機させとくつもりですか ? |
ディムロス | やむをえまい。私たちが敵陣で自由に動けるのは陽動部隊が兵を引き付けている今しかないのだからな。 |
シャルティエ | それはそうですけど……。 |
ディムロス | では救世軍への連絡を頼んだぞ。私は先行して探索を進めておく。 |
シャルティエ | ……別の場所だなんて余計なこと言っちゃったかなぁ。連絡もな……計画変更して文句言われないかなぁ……。あっちにはバルバトスもいるし……。 |
シャルティエ | あれ ? 魔鏡通信が通じない……。 |
? ? ? | グルルルルル ! |
ディムロス | 待て ! それは―― |
シャルティエ | どうしたんです、ディムロス ! |
ルキウス ? | なんだ、他にも仲間がいたんだね。 |
アリエッタ | 誰……ですか ? 仕事の邪魔、しないで ! |
シャルティエ | 魔物 ! ? それにあれは……魔核 ! ? |
ディムロス | シャルティエ、お前の言ったとおりだった。彼らが魔核を運び出していた ! |
| 陽動部隊本陣 仮設砦 |
カーリャ・N | イクス様、小さいミリーナ様をこちらへ ! |
イクス | ありがとう、ネヴァン ! |
カーリャ・N | まだお目覚めになりませんね。小さいカーリャはどうしているのでしょう……。 |
イクス | 信じて待つしかないよ。今のうちに陽動部隊の立て直しを考える。 |
カーリャ・N | でしたら、私は前線に戻ってイクス様の指示が出るまで時間を稼ぎます。 |
カーリャ・N | この砦はしばらく安全かと思いますがくれぐれも気をつけてください。今は魔鏡通信も使えませんので。では、私は―― |
イクス | ちょっと待ってくれ。気になったんだけどミリーナのことが切っ掛けとはいえ戦況の覆り方が異様に早くないか ? |
イクス | 敵の数が、あの研究所に配備されていた人数よりも増えている気がするんだ。 |
カーリャ・N | そう言われてみると……。 |
陽動部隊隊員 | 伝令 ! 皆さんが探していたパティという少女がこの先の森で目撃されたそうです ! |
イクス | パティが ! ? なんでこんな所に…… ! |
カーリャ・N | どうしましょう、私が追いますか ? |
イクス | (……ここでネヴァンを行かせたら、戦力が分散して立て直しどころじゃなくなる。でも……) |
ミリーナ | ……うっ……。 |
カーリャ・N | ミリーナ様 ! ?イクス様 ! ミリーナ様の様子が ! |
イクス | ミリーナ !くっ……せめて応援を呼べたら…… ! |
フィリップ | イクス、ここにいたのか。みんな無事かい ! ? |
イクス | フィル……さん ? どうしてここに…… ! |
マーク | どうしてって、助けにきたんだよ。なんだ、呆けたツラして。 |
イクス | いや……まるで俺の声が届いたみたいで……驚いた。 |
カーリャ・N | マーク、よく来てくれましたね。 |
マーク | パイセン、ミリーナはどうしたんだよ。誰かにやられたのか ? |
フィリップ | 状況を聞かせてくれ。僕たちが協力する。 |
イクス | は、はい ! さっき突然、ミリーナが倒れて―― |
フィリップ | ……わかった。救世軍の戦力を一部こちらに回そう。マークはイクスに協力して。 |
マーク | 了解。イクス、采配はどうするよ。今回はお前に従ってやるぜ ? |
イクス | 俺とマークでパティを追いかけよう。軍隊を動かすのは正直俺よりネヴァンの方が信頼できる。 |
イクス | ネヴァンには、戦線を維持しながら陽動部隊の指揮をして欲しい。当初の目的どおり敵を引き付けられればそれでいいから。 |
カーリャ・N | 承知しました。あの、小さいミリーナ様のことは……。 |
イクス | あの、フィルさん、お願いがあるんですけど。 |
フィリップ | わかっているよ。ミリーナのことは僕が請け負う。魔鏡術でミリーナの心の中にアクセスしてみよう。 |
イクス | ありがとうございます。魔鏡術のことはビクエであるフィルさんが一番信頼できます。ミリーナのこと、お願いします ! |
フィリップ | ……信頼してくれるんだね。こちらこそ、ありがとう。 |
イクス | よし、行こう、マーク。 |
キャラクター | 3話【6-3 ファンダリア領 森1】 |
フィリップ | さて……始めようか。ミリーナ、カーリャ、聞こえるかい ? |
フィリップ | っ ! ? 術が拒絶された…… ?これほどの力がミリーナに……そんな筈は……。 |
フィリップ | ――まさか ! |
カーリャ | ふえ~ゲフィオンさまの顔本当にミリーナさまとそっくりです。 |
ミリーナ | ……ずっとあなたと話がしたいと思っていたわ。ゲフィオン。 |
ゲフィオン | ……そうであろうな。 |
ミリーナ | ゲフィオン、どうして私はこんなことになっているの ?さっき、原因はあなたにあるって―― |
ミリーナ | 今のは ! ? |
カーリャ | きゃああああっ ! ! |
二人 | カーリャ ! ? |
ミリーナ | カーリャ、どこに行ったの、カーリャ ! |
ゲフィオン | これは……。 |
ミリーナ | ゲフィオン、カーリャが消えてしまったわ。どうして ! ? |
ゲフィオン | 恐らく『ミリーナ』が『ミリーナ』だけではなくなったせいかもしれない。 |
ゲフィオン | 何らかの外的要因でミリーナとゲフィオンの境界が徐々に曖昧になっているのだろう。 |
ゲフィオン | お前が倒れたのも、私がここにいるせいだ。 |
ミリーナ | それじゃ『私のカーリャ』はもう私の中にはいられないの ! ? |
カーリャ | いたたた……。なんですか、今の……。 |
カーリャ | へ…… ? ここってセールンド…… ?もしかして、ミリーナさまの心の中から追い出されちゃったんですか ! ? |
カーリャ | あわわわわ……どうしよう……。ミリーナさまー ! カーリャの声、聞こえますかー ! ? |
コーキス | パイセン ? やっぱパイセンじゃねーか ! |
カーリャ | コーキス ! ? なんでここにいるんですか ! ? |
コーキス | そりゃこっちのセリフだぜ。休憩場所探してたら、パイセンの声が聞こえてさ。 |
メルクリア | コーキス、どうしたのじゃ。誰ぞそこにいるのか ? |
バルド | おや、その可愛らしい姿、カーリャではありませんか。もしやミリーナさんもここにいるのですか ? |
カーリャ | バルドさま~~~っ !違うんです ! カーリャだけここに飛ばされてしまったんです……。 |
ナーザ | 飛ばされた ? 鏡精、何があったのか話してみろ。 |
コーキス | ――なんだよそれ !めちゃくちゃ大変なことになってんじゃねーか ! |
バルド | ナーザ様、確認しました。やはり魔鏡通信は使えません。 |
バルド | 残念ですがカーリャ、イクスさんたちに連絡を取るには直接向かうしかないようです。どうか、気を落とさずに。 |
カーリャ | バルドさま、イケメンな上に優しいです……。手も温かくて……――え ! ?なんでカーリャの手を握れてるんです ! ? 生身 ! ? |
バルド | ええ。これからは文字通り、この体を張ってあなたを守ることもできますよ。可愛い人。 |
カーリャ | ……あわわわわわ ?色々起こりすぎて、頭がついていきません……。 |
コーキス | つーか、バルドもいつまでパイセンの手握ってんだよ ! |
バルド | これは失礼。カーリャを元気づけようとしただけですよ。他意はありません。 |
ナーザ | はぁ……。鏡精、お前がここに飛ばされたのはミリーナがゲフィオンに近づいた瞬間で間違いないのだな ? |
カーリャ | そうですけど……それが何か ? |
ナーザ | 二人が近づくほど、片方が作った鏡精が異物として扱われている。ということは……。 |
ディスト | 同化している可能性がありますね。経年による肉体的な差異はあれど存在は完全同位体のようなものですから。 |
カーリャ | 同化って、つまりミリーナさまとゲフィオンさまが一つになっちゃうってことですかあ ! ?そんなのダメですよう ! |
カーリャ | 早くミリーナさまの中に戻ってミリーナさまを守らないと ! |
コーキス | なあ、どうにかパイセンをミリーナ様の中に戻せないのか ! ?みんな、俺より頭いいじゃんか ! |
メルクリア | 落ち着かぬか、コーキス。むしろ、同じ鏡精であるお前でこそわかることがあるのではないのか ? |
コーキス | そりゃそうだけど、俺はパイセンと少し違う……ってあれ ? そういやパイセン、なんで消えないんだ ?ミリーナ様はファンダリア領にいるんだろ ? |
カーリャ | はっ、そういえば !いつもこれだけ離れたら消えちゃう距離なのに。 |
ディスト | 鏡精には間抜けが多いのですねぇ。ここにゲフィオンがいるからですよ。 |
カーリャ | へ…… ? |
ナーザ | そうか。お前は今、このカレイドスコープの間にいる人体万華鏡になったゲフィオンの力で存在しているのだろう。 |
ナーザ | ゲフィオンとミリーナの力は混じっているようだからな。 |
ディスト | それを踏まえれば、その小さなおつむでもあなたがセールンドに飛ばされた理由がわかるでしょう。 |
カーリャ | ゲフィオンさまを通じてここに出た…… ?じゃあ、反対に戻れるかもしれませんよね ! ? |
コーキス | よーし ! 試してみようぜ、パイセン ! |
カーリャ | むむむむむ~……。 |
コーキス | どうだ、いけそうか ? |
カーリャ | ……だめでした。やっぱり入れません。もうこうなったら自力で飛んで帰ります ! |
ディスト | さて、その小さな体で、どれほど時間がかかるやら。 |
カーリャ | う……。 |
ラタトスク | チッ……妙な面子が揃ってるな。ここで何をしている。 |
マルタ | コーキスにカーリャまでいるじゃない。驚いた ! |
メルクリア | アステル ! ? 何故アステルが鏡士の郎党と共に……。 |
エミル | あ、ええと……それはね……。 |
メルクリア | いや、待て。そうか……。リヒターが話していたエミルとラタトスクとやらか……。 |
エミル | そうか……。リヒターさん……僕らのこと話してくれてるんだ……。 |
コレット | ねえ、カーリャ、どうしてここにいるの ?ミリーナが大変だって聞いてたけどもしかして、ミリーナもセールンドに来てるの ? |
カーリャ | コレットさま……。 |
カーリャ | ――ああああああ ! !そうだ ! そうですよ ! コレットさまなら ! |
コレット | ? |
キャラクター | 4話【6-4 ファンダリア領 森2】 |
マーク | いたぞ ! あいつで間違いねえよな ! |
イクス | ああ !――パティ、俺だよ、イクスだ ! 助けに来た ! |
アイフリード | 来るな ! |
マーク | 危ねえ、イクス ! |
マーク | うわっ ! ! |
イクス | マーク ! ? |
マーク | っ……大丈夫だ……いいからパティを追え !すぐに追いつく ! |
イクス | わかった ! |
アイフリード | ……まだ追ってくるか ! 仕方がない。 |
アイフリード | 私は捕まるわけにはいかぬ。確実に足止めさせてもらうぞ。 |
アイフリード | 檻から解き放たれたばかりですまない。四大よ ! ここへ ! |
イクス | なにっ ! ? |
イクス | うわああああっ ! ! |
アイフリード | ……なるほど、四大ほどの力を持つ精霊たちでもこの程度の威力か。まだ回復しきれぬのだな……可哀想に。 |
アイフリード | 精霊たちに、負担をかける訳にはいかない。これ以上、私に力を使わせるな。 |
イクス | くっ……。四大精霊を操っていた…… ?それじゃパティはもう、心核を……。 |
イクス | だったら、絶対に……連れ戻す…… ! |
アイフリード | 動くな ! 本当に命を落とすことに―― |
? ? ? | シャイニングスピア。 |
アイフリード | っ ! ノーム ! |
エルレイン | ……精霊で防いだか。アイフリードであれば当然だな。なるほど、では貴様はこの世界の海神ナーザ・アイフリードか。 |
イクス | なんでここにエルレインが…… ? |
エルレイン | 異世界の神よ。その体を渡すことはできぬ。返しなさい。 |
マーク | イクス、無事か ! ? って、エルレイン ! ? |
アイフリード | ウンディーネ ! イフリート ! |
全員 | ! ! |
マーク | 逃げられたか ! ……くそっ。 |
エルレイン | 邪魔をしてくれたな。ジュニアの鏡精。 |
マーク | ジュニア ? 期待にそえなくて悪いな。俺はおっさんフィリップの方の、鏡精マークだよ。 |
イクス | エルレイン……さん。助けてくれてありがとうございます。 |
エルレイン | お前が鏡士イクスか。 |
エルレイン | その傷は浅くはない。鏡精共々、ここで大人しくしているがよい。 |
イクス | 待ってください ! パティの中にいるのはアイフリード――ナーザ神なんですね ? |
エルレイン | そうだ。このようなことにならなければこの世界は今頃、あの娘に降臨するはずであった我が神フォルトゥナによって救われていたであろう。 |
イクス | あなたが、パティを ! ? |
マーク | イクス。 |
イクス | ……ああ、わかってる。聞いてください、エルレインさん。 |
イクス | もし、帝国がフォルトゥナ降臨を計画したのなら帝国はエルレインさんを、その……利用しているだけ……だと思う。 |
イクス | 神降ろしが失敗したのはわざとそうさせられたんじゃないでしょうか。 |
エルレイン | ……なぜそう思う。 |
イクス | エルレインさんは、この世界を救うと言いました。でも俺たちの知っている帝国の計画は正反対だ。 |
イクス | 帝国の真の目的は、ティル・ナ・ノーグ以前にあったニーベルングという世界の復活です。 |
イクス | 滅んだニーベルングのレプリカを造り今の世界と置き換える。つまり――ティル・ナ・ノーグは滅ぼされます。 |
エルレイン | ……そうか。やはりな。 |
イクス | ってことは、信じてくれるんですね。だったら、俺たちと一緒に―― |
エルレイン | いや、私にはすべきことがある。お前たちには、これを預けておこう。 |
イクス | ……心核 ? |
エルレイン | あの娘のものだ。今は休眠状態にある。しかし鏡士ならばその心核を目覚めさせ、娘の中に戻すこともできよう。 |
イクス | もしかして、あなたはパティを救おうとしていたんですか ? |
エルレイン | 救済は全てに等しく与えられるもの。その一つだと思いなさい。 |
イクス | 待ってください、エルレインさん !……痛っ ! |
マーク | ここまでだ、イクス。今の俺たちにはあいつらを追う力も余裕もねえ。砦に帰るのが精一杯だ。 |
イクス | ……ああ。 |
ディムロス | ――その魔核をどこに運ぶつもりだ。 |
ルキウス ? | 困ったな。事を荒立てたくないんだけど。 |
アリエッタ | 早くしないと、敵の陽動作戦、終わっちゃう……です。 |
ディムロス | なんだと ! ? |
ルキウス ? | アリエッタ、余計なことを言うな。 |
アリエッタ | ご、ごめんなさい……。 |
ルキウス ? | まあいいよ。こっちも鏡士たちの陽動を逆手にとってずいぶん楽に魔核を運ばせてもらったからね。 |
シャルティエ | 知ってたっていうのか……全部。 |
ルキウス ? | そうだよ。お前たちが仲間の救出に集中していたから邪魔をされずに済んだ。 |
ディムロス | だが今は違う。魔核はこちらに渡してもらうぞ。行くぞ、シャルティエ ! |
シャルティエ | 了解 ! |
アリエッタ | 絶対に渡さない……です !みんな、やっつけて ! |
シャルティエ | くっ、どこからこんなに魔物が…… !これじゃ魔核に近づけない ! |
ディムロス | 魔物を操っている少女を先に抑えろ ! |
ルキウス ? | ……これだけ魔物を出しても、まだやる気なんだ。仕方ないな。 |
ルキウス ? | お前たち、ここまで楽に魔核を運ばせてもらったお礼にいいことを教えてあげるよ。 |
ルキウス ? | お前たちの陽動はバレている。だから今、帝国は次々に兵士を増員しているんだ。 |
ルキウス ? | 想定以上の敵が現れたら、お友達は驚くだろうね。もしかしたら、もう配備されているかもしれない。 |
二人 | ! ! |
ルキウス ? | それでもこのまま魔核を追うのかな ?それとも今の情報を持って仲間を救いに行く ?好きな方を選ぶといいよ。 |
ディムロス | …………シャルティエ、行け。 |
シャルティエ | ディムロス ! ? 信じるんですか ! ? |
ディムロス | 嘘だと言い切れまい。 |
ディムロス | 救世軍でも、イクスくんたちでもいい。お前はとにかく情報を広めろ。私は魔核を追う。 |
シャルティエ | でも…… !……いえ、了解です。無事でいてくださいよ ! |
ルキウス ? | どっちも選ぶなんて欲張りだね。それが命とりになるかもしれないよ。 |
ディムロス | 生憎だが、全員生きて帰るのが信条だ。――行くぞ ! |
キャラクター | 5話【6-5 ファンダリア領 研究施設】 |
ディムロス | 炎牙昇脚 ! |
魔物 | グルルルル……。 |
ディムロス | (どうしたことだ、魔物が引いて行く…… ?) |
ディムロス | ――っ !あの少女たちはどこに行った ! ? |
ディムロス | (転送魔法陣か。まだ完全に消えてはいないな。ならば――) |
ディムロス | 逃しはせん ! |
シャルティエ | やっぱり魔鏡通信が通じない……。なんでこんな時に ! |
シャルティエ | ……考えている暇はない。砦へ向かおう。 |
ヴィクトル | いたぞ、シャルティエだ。 |
クラトス | すまぬ、待たせたようだな。 |
シャルティエ | 救世軍の皆さん ! 連絡が取れなくて困ってたんです ! |
ゼロス | 今は魔鏡通信が使えないんだよ。つーわけで、直接出向いてきぜ。 |
シャルティエ | よかった ! 各陣営に伝えてください。今回の作戦、帝国側にばれているんです。 |
ヴィクトル | なんだと ? |
シャルティエ | 今も兵を増員して送り込んでいるとの話もあります。そうなるとこちらは数で敵いません。 |
ゼロス | マジかよ ! 陽動部隊が押されてたのもそれが理由かもしれねえな。 |
シャルティエ | 陽動部隊が ! ?あいつの話は嘘じゃなかったのか……。 |
クラトス | わかった。イクスたちには私が報せに行こう。ゼロス、お前はケリュケイオンへの連絡を頼む。 |
クラトス | それで、レンズと魔核は見つかったのか ?ディムロスがいないようだが。 |
シャルティエ | すみません、報告が遅れました。レンズはほぼ使用されていて、魔核は別の場所へ運び込まれている最中です。ディムロスが奪還に当たっています。 |
ヴィクトル | 一人でか。 |
シャルティエ | ええ。僕は増員の情報を皆さんに伝えるために一時離脱しました。すぐにディムロスの所へ戻るつもりです。 |
ヴィクトル | そうか。ならば私も共に行こう。 |
シャルティエ | お願いします ! |
アイフリード | 精霊たちは幾分か落ち着いたようだが……。この辺り……気配が……。 |
グラスティン | ヒヒッ、何かお探しかな ? |
アイフリード | ……誰だ。貴様も私の邪魔をするのか。 |
グラスティン | とんでもない。これを渡そうと思ってな。 |
アイフリード | それは……ダーナの心核 ! |
グラスティン | そう、その欠片だ。大事なものだろう ? |
アイフリード | なぜそんなものを !ダーナは心核を傷つけられているのか ! |
グラスティン | まあまあ、まずはこれを返そう。ほら。 |
アイフリード | …………。 |
グラスティン | なんだ、いらないのか ? |
アイフリード | ……何を企んでいる。 |
グラスティン | そうだよなぁ。疑うのも無理はない。特別サービスだ。説明してやろう。話せば長くなるんだが――……っと、ここで終わりだ。 |
グラスティン | もう、準備が整ったからなぁ ! ! |
アイフリード | なっ ! うああああっ ! ? |
グラスティン | お前のために作ったクロノスの【魔鏡陣】さ。よく味わってくれよ ? |
グラスティン | 発動までに少々時間はかかったが……ダーナの心核の欠片がいい足止めになったな、ヒヒヒッ。 |
ライラ | あれは……パティさん ! ? |
グラスティン | あぁ ? なんだお前たちは ? |
エドナ | 答える必要あるのかしら。 |
グラスティン | ああ、お前たちは天族か。この一帯は精霊しか入れないようにした筈だがお前たちは精霊みたいなものだったなあ。 |
ミラ=マクスウェル | グラスティン、何をするつもりだ ! |
グラスティン | ほう ! これはこれは、異世界のマクスウェル。 |
ミュゼ | なんなの、あなた。ミラに近づかないで ! |
グラスティン | しかも、そこにいるのは『あの時』のお嬢さんじゃないかあ。ヒヒヒ、大盤振る舞いだな。 |
シャーリィ | っ ! |
グラスティン | 人間のお兄ちゃんは一緒に入れなかっただろう ?だが寂しがることはない。俺が相手をしてやる。 |
ザビーダ | 俺の後ろに下がってな、お嬢ちゃん。こんなゲス野郎のツラ見てると目が腐っちまうぜ ? |
シャーリィ | ありがとうございます。でも、それよりパティさんを ! |
ルドガー | 兄さん、パティを捕らえている魔鏡陣……あの中に集まっている力は―― |
ユリウス | ああ、感じる。クロノスの力だ。 |
シャーリィ | それに、あの陣に配置されているのは聖核です。間違いありません。 |
ユリウス | グラスティンは、ただアイフリードを捕らえているだけではないようだ。 |
ミクリオ | だったら、あいつを倒すより魔鏡陣を消すのが先だな。解除するには―― |
エドナ | ぐだぐだ言ってないで、ぶっ壊せばいいでしょ。――ロックランス ! |
ミクリオ | 効いてない…… ? |
グラスティン | この魔鏡陣はな、その程度の術でどうにかなるものじゃないんだよ。ヒヒヒ。 |
グラスティン | さて、そろそろ頃合いのようだ。今回は特別に見物を許してやろう。 |
ルドガー | クロノスの力が凝縮していく ! |
ユリウス | これほどの力が集まるだと…… ! ?ルドガー、今は骸殻を使うなよ !……念のためだ。 |
ルドガー | 兄さん ? |
グラスティン | くくく、今までとは段違いの速さで吸収できるはずだ。いいぞ、どんどん食って成長しろ。 |
ミクリオ | クロノスの力が聖核を包み込んでいるのか ! ? |
ライラ | 『成長』と言っていました。もしこれが、これから生まれようとしている『恐ろしいモノ』なのだとしたら…… ! |
ザビーダ | 冗談じゃねえ。んなもんお出しされたって受け取り拒否だっての !――おりゃあっ ! |
グラスティン | くっ、ヒヒヒ……。いいぜ、今のうちだ。こいつが完全に完成したらそんな風に抵抗することもできなくなるだろうよ。 |
グラスティン | 大人しくなった頃にお前たち全員『材料』として持ち帰ってやるよ。 |
ミュゼ | 本当に嫌な人。あなたにだけは、死んでも使役されたくないわね。 |
グラスティン | ヒヒヒ。さあ、一緒に祝ってくれ。【鏡の精霊】の誕生をなぁ ! |
キャラクター | 6話【6-6 ファンダリア領 街道1】 |
セネル | ……まだか。遅いな。 |
スレイ | シャーリィのこと、心配だよな。贄の紋章もあるし……。 |
アルヴィン | 精霊様たちが勢ぞろいでご出陣なんだ。何かあったって、どうにかしてくれるだろ。 |
ティポ | アルヴィンはイイカゲンだな~。 |
アルヴィン | 『いい加減』か。お褒めの言葉、ありがとよ。 |
エリーゼ | アルヴィン、自分に都合よく受け取りすぎです ! |
アルヴィン | うは、おっかねぇ。とにかく、それくらいでいた方が落ち着いて行動できるぜ、セネル。 |
セネル | そうだな。ありがとう、アルヴィン。 |
スレイ | けどさ、クラースさんは、無理に出陣しないでアジトでサポートしてくれればいいって言ってたんだろ ? なのにシャーリィはなんで……。 |
セネル | いつ滄我の声が聞こえるかわからないからなるべく精霊のみんなと一緒にいてすぐに言葉を伝えたいんだってさ。 |
エリーゼ | シャーリィは責任感の強い人ですね。 |
ティポ | マジメすぎて、ユーヅーきかないね~。 |
セネル | ははっ、そうだよな。意外と頑固なんだよ。グリューネさんは、ちゃんと待機してくれてるのにさ。 |
レイア | そういえば、エルは今回大人しかったね。いつもはルドガーにお留守番って言われると少し拗ねてたじゃない ? |
ジュード | ミラさんが一緒に留守番してるからね。エルも安心できるんだと思う。 |
ジュード | それよりも妙なのはユリウスさんだよ。ルドガーが一緒に行くことを渋ってたから。 |
ガイアス | ……ユリウスにはクロノス絡みで気掛かりなことがあるのだろう。 |
レイア | なんかルドガーたちって、ちょっと特別っぽいよね。わたしたちはこの先から入れなかったけどミラたちと一緒に進めちゃったし。 |
全員 | ! ! |
ジュード | 今、何か変な感じが……。 |
レイア | ねえ、みんな ! この先に進めるようになってるよ ! |
スレイ | オレたちも近づけるようなったのか ! 行こう ! |
スレイ | これ……どうなってるんだ ! ? |
ミクリオ | スレイ ! 入れたのか ! |
グラスティン | はぁ……はぁ……、結界が……弱まっちまったか……。だいぶやられたからな………。 |
セネル | グラスティン ! 貴様 ! |
グラスティン | だが……ここからだ……ヒヒヒ……。 |
ルドガー | クロノスで回復する気だ ! |
セネル | させるか ! うおぉおおおっ ! ! |
グラスティン | ぐはっっ……、はは、これは効いた……。けどな……もうすぐ……もうすぐ……………… ? |
全員 | ? |
グラスティン | なんでだ……クロノス……… !早くしないと…………本当に………… ! |
ガイアス | もしや、クロノスの精霊装が作用してないのか ? |
ユリウス | だとすれば回復はできない。こいつはこのまま―― |
グラスティン | なぜ戻らない……いや………もう、いい……。これくらいの痛みならまだ………………。 |
ジュード | 無理だよ。その傷ではもう……。 |
グラスティン | 黒髪…… ! ? 俺のだ……俺のもの…… ! |
ミラ=マクスウェル | お前のものじゃない。この世界の誰もがな。 |
グラスティン | どけよぉ…………俺の……黒…………俺の……フィ……………………………。 |
ユリウス | ……こいつも終わりか。 |
ザビーダ | ちっ、しつっけえ奴だったぜ。 |
シャーリィ | パティさん ! しっかりしてください ! |
ジュード | あ、待って ! 今はそのままにして。目が覚めた時に、どうなるかわからないから。 |
ラピード | ワン、ワンワン ! |
ユーリ | おい、お前ら ! |
ルドガー | ユーリたちだ ! みんな、早くこっちへ ! |
ユーリ | 一体何を――って、こいつは…… ? |
セネル | グラスティンだ。……死んだよ。 |
フレン | どうなってるんだい ? ここで何があったんだ。 |
カロル | ねえ、こっちにパティが来なかっ………パティ ! ? |
エステル | パティ ! 良かった、無事だったんですね ! |
フレン | エステリーゼ様、用心を。今のパティはアイフリードですから。 |
ユリウス | そのことだが―― |
シャーリィ | あっ、パティさんが目を開けました ! |
ラピード | グルルルル……。 |
? ? ? | ――出でよ。 |
全員 | ! ? |
カロル | 今地面から出てきたあれ……魔鏡 ! ? 凄くでっかい ! |
ミラ=マクスウェル | なんだ……この感覚は…… ! |
ミュゼ | 意識を強くもたないと……、頭が……。 |
シャーリィ | あっ、パティさん ! |
エステル | 待ってください、行っちゃ駄目です !パティー ! ! |
キャラクター | 7話【6-7 ファンダリア領 街道2】 |
エリーゼ | 今の……何なんですか……。 |
ティポ | パティがおっきな魔鏡を作ってその中に入って消えちゃったよー ! |
アルヴィン | おい ! 精霊のお歴々、大丈夫か ! |
エドナ | ええ……もう何ともないわ。あいつが消えたせいかも。 |
ミクリオ | 嫌な感覚だったな……。心も体も囚われてしまうような……。 |
ライラ | パティさんはどこへ消えたのでしょう。 |
カロル | さっきの巨大魔鏡に景色が映ってたよ。あれは、ファンダリア領の帝国軍基地だったと思う。 |
ジュディス | 単純に考えれば、そこに行ったんでしょうね。 |
レイヴン | しかし何よあれ、アイフリードってのはあんなことまで出来ちゃうわけ ? |
ルドガー | ……パティは今、アイフリードじゃないと思う。 |
レイヴン | え ? んじゃ、どうなっちゃってんのよ ! |
ユリウス | グラスティンは【鏡の精霊】と言っていたな。 |
フレン | 鏡の精霊 ? 聞いたことがないな。 |
リタ | ……ちょっと、この術式の跡なによ。 |
ユリウス | あの男曰く【魔鏡陣】だそうだ。陣の中には聖核がいくつも配置されて、クロノスの力が集まっていた。パティ――アイフリードは、そこに囚われていたんだ。 |
ユーリ | 聖核と精霊っていや……おいリタ。 |
リタ | ……聖核が複数で、となるとこの術式は……。…………嘘でしょ、なんでこんなのが成立するのよ。 |
リタ | だとしたら、この世界ではエンコードに関わらずマナもエアルも区別がないってことになるじゃない !循環がないから法則が無視できるっての ? |
カロル | ちょ、リタ ! なに言ってるかわかんないよ。 |
リタ | さっきの施設で研究資料を見つけたでしょ。パティは新たな精霊として創られたのよ。あいつのいう【鏡の精霊】にね。 |
全員 | っ ! ! |
エステル | で、でも戻せますよね ?リタなら何か方法を見つけられるはずです ! |
リタ | 何となくあたりはつくけど……。 |
リタ | 多分、アイフリードの魂をベースに複数の聖核をキメラ結合させてるのよ。 |
リタ | ざっと見たけど、精霊として生み出すためにリゾマータの公式も利用されてたわ。こんな使い方、メチャクチャよ ! |
カロル | まさか不機嫌の理由って……。 |
リタ | うっさい、黙ってて !多分、今パティに入っているのは、心核じゃなくて聖核なんだと思う。そこに色々くっついてんの。 |
リタ | だから、パティの心核と、聖核を元の状態に戻せば状況は変わるはずよ。 |
カロル | キメラ結合しちゃったのを戻すの ? |
リタ | その方法も、この術式の跡を調べればわかるわ。 |
リタ | あんたたちはそこで待ってて。今から全部解析するから。 |
ラピード | ワウッ ! ワオーン ! |
アーチェ | いたー ! みんなー、伝令ー ! |
カロル | アーチェ ! どうしたの ? 伝令って、魔鏡通信使えばいいのに。 |
アーチェ | うそ、カロルたちまだ気づいてないの ?魔鏡通信が使えないから空を飛べる組は伝令になってんの。 |
ユーリ | マジかよ。原因はわかってんのか ? |
アーチェ | えっと、複数の要素が絡んでるとか何とか ?とにかく、今はこの上のケリュケイオンを臨時拠点にして、情報集めてるところ。 |
ユリウス | ご苦労さま。それで、伝令っていうのは ? |
アーチェ | 陽動部隊がかなり押されちゃっててこの辺りも戦いに巻き込まれるみたい。今すぐ退避するようにって。 |
フレン | 陽動って、イクスたちが ! ? |
リタ | あっそ。じゃあこの術式の解析が終わったら行くわ。 |
アーチェ | えー ! ? 今すぐって言ってるでしょ。ほら、早く~ ! |
リタ | 術式が残っている今を逃したらパティは助けられない。――あんたらは先に行きなさい。 |
ユーリ | はいはい。ってことだ。アーチェ、何かあったら伝令飛ばしてくれ。 |
アーチェ | は ! ? |
ミクリオ | はぁ……スレイもだよな。 |
スレイ | もちろん ! |
ミラ=マクスウェル | 恐らく、ここにいる全員、同じ答えだと思うぞ。 |
アーチェ | もー……、わかったわよ ! みんなのことは報告しておくから。 |
アーチェ | ただ、他のところの状況を聞いてると今はこっちを手伝える余裕はないと思う。だから、ぜーったい無理しないでよね ! |
ユーリ | おう ! んじゃ耐久戦といくか。へばるんじゃねえぞ。 |
フレン | 誰に言ってるんだい ? |
ジュディス | ふふっ、面白くなってきたわ。不謹慎だけど。 |
レイヴン | かーっ、これだから血の気の多い若者は。 |
ルドガー | ――みんな、リタを囲め。来るぞ ! |
キャラクター | 8話【6-8 ファンダリア領 森3】 |
イクス | はあっ……、はあっ……。 |
マーク | イクス、一回、止まって休むか ? |
イクス | 大丈夫。四大の攻撃を受けてこの程度で済んでるんだからまだマシだよ。 |
マーク | まあな。アイフリードが万全じゃなくて助かった。 |
イクス | それもあるだろうけど精霊が弱ってるようなことも言ってたよな。……どこかで何か起きてるのかもしれない。 |
マーク | とにかく砦に帰るのが優先だ。……ふうっ。 |
イクス | マークこそ平気なのか ?俺をかばったせいでモロに攻撃くらっただろ ?……ごめんな。 |
マーク | 俺は鏡精だからいいんだよ。それにお前に何かあったらフィルが悲しむ。 |
イクス | フィルさんが……。 |
クラトス | イクス、マーク ! |
イクス | クラトスさん ! |
マーク | 連絡役お疲れさん。何かあったか ? |
クラトス | ああ、問題が起きてな。お前たちの砦に行くところだった。……どうしたのだ、ひどい傷ではないか。 |
イクス | さっきパティを――いえ、後で説明します。問題ってなんですか ? |
クラトス | 今回の作戦だが、帝国側に知られているようだ。当初、我々が想定した以上の兵が投入されているらしい。早急に対策が必要だ。 |
イクス | やっぱり !途中から帝国兵が増えてる気がしてたんです。 |
クラトス | 他にもこちらの動きを想定して裏で事を進めているようだ。魔核も運び出されているらしい。 |
イクス | わかりました。すぐに砦に戻って、対応策を取ります。 |
クラトス | 無理をするな。臨時拠点のケリュケイオンでローエンが情報収集しながら指揮を執っている。今は任せておいていい。 |
イクス | そうですか……。ローエンさんなら安心です。しばらく戦線は維持できそうですね。 |
クラトス | ああ。そこから少しずつ撤退へと持ち込むといい。それにしても随分と酷くやられているな。何があった。 |
イクス | パティ……いえ、アイフリードです。パティは心核を抜き取られ、体にはアイフリードが入っています。連れ戻そうとしたんですけど……。 |
クラトス | アイフリードの件は承知している。なるほど、相手が悪かったようだな。 |
クラトス | アイフリードのことは今もユーリたちが追っているはずだ。任せておけ。 |
イクス | だったら、ユーリさんたちに伝えてもらえますか。パティの心核を手に入れたって。 |
クラトス | 心核だと ? どういうことだ ? |
イクス | エルレインさんが渡してくれました。ただ、今は休眠状態にあるとかで鏡士の力がないと心核を目覚めさせられないそうです。 |
クラトス | エルレイン……。なるほど、帝国でもひずみが生じているようだな。 |
イクス | 今、フィルさんがミリーナを治療してくれています。それが終わったら、すぐパティの心核を持ってユーリさんたちの下に向かいますから。 |
クラトス | ……お前たちは無茶ばかりするな。伝言は確かに伝える。しかし無理をするなよ。 |
ロミー | ――セールンドにおいて発動させた、フリンジによる転送魔法の生成は失敗。でも、エネルギーは十分に抽出できたそうよ。 |
デミトリアス | そうか。残念だが、得たものがあるのなら十分だ。 |
ロミー | そうかしら。あれだけ準備をしておいて術の一つも作れなかったなんて無駄な労力だったんじゃない ? |
ロミー | 一番肝心なオリジンも捕獲できなかったんだから。 |
デミトリアス | 確かにオリジンの件は残念だったがまだ機会はある。何しろ召喚士アイフリードの始祖でもあるナーザ神が目覚めたのだからね。 |
デミトリアス | それにフリンジは、精霊同士を干渉させ新たな術を作り出すことができる素晴らしい技術だ。失敗とはいえ、試す価値はあったと思うよ。 |
ロミー | ふうん、のんきな皇帝様なのね。それじゃ、私はこれで失礼するわ。 |
デミトリアス | もうアレウーラに帰るのかい ? |
ロミー | いいえ、ルキウスからの報告が途絶えているの。確認のために現地へ調査に向かうつもりよ。 |
デミトリアス | 待て。きみにはアレウーラ領の領主としての仕事があるはずだ。 |
ロミー | 領主の仕事なんて後回しでいいでしょ ? |
デミトリアス | それはいけない。従騎士のフォレストも聖核の捜索に出ているのだろう ?鏡映点たちの襲撃も頻繁に起きている。 |
デミトリアス | 私はアレウーラ領の治安が心配なのだよ。 |
ロミー | 今さら治安の話 ? とんだ偽善者ね。 |
デミトリアス | 愛する自国を心配することの、何が偽善なのかね ? |
ロミー | あなたと問答する気はないわ。 |
デミトリアス | ロミー、待て。 |
ロミー | お断り。だいたい、なんでフォレストを聖核探しに派遣したと思っているの ? |
ロミー | 聖核を使った人工精霊を創る計画は上手くいったのにあなたたちが欲張って、予備の聖核まで欲しがったからでしょ ? |
ロミー | これ以上文句は聞かないわ。やることはやっているんだから。それじゃあね。 |
デミトリアス | ……なるほど。適材適所とは中々に難しい。彼女は扱いを考えねばならないな。 |
キャラクター | 9話【6-9 ファンダリア領 街道3】 |
フレン | みんな、大丈夫か ! |
アルヴィン | こっちは順調 ! これ以上、敵が増えなきゃな。 |
ザビーダ | とは言え、そろそろ見通しくらいは知りたいねぇ。 |
ルドガー | リタ ! あとどれくらいだ ! ? |
リタ | 邪魔 ! |
ルドガー | わ、悪い ! |
エステル | 気にしないでください。ルドガーは悪くありません。リタは今、必死なんです。 |
ガイアス | 口を動かす前に手を動かせということだ。リタの方から声がかかるまで放っておけ。 |
エドナ | 邪魔なルドガー、略してジャガー。……ちょっとカッコいいから却下ね。 |
カロル | 良かったね、ルドガー……って !そっちから敵が来るよ ! 気を付けて ! |
ユーリ | 余裕あんじゃねえか、エドナ。 |
エドナ | そんなことないわ。その証拠にミボクラスの略し方が出てこないもの。 |
ミクリオ | どういう基準なんだ ! |
スレイ | いいからほら、集中集中 ! |
ミラ=マクスウェル | ………… ? |
ミュゼ | ミラ ! ? そっちに行ってはダメよ、敵が ! |
アルヴィン | おいおい ! |
ミラ=マクスウェル | ―― ! !アルヴィンか。すまない、助かった。 |
アルヴィン | お仕事中にぼんやりしちゃダメだぜ。 |
セネル | こっちは俺たちが引き受ける。シャーリィ、ミラの側に行って必要なら回復してやってくれ。 |
シャーリィ | わかった ! |
ジュード | 突然どうしたの、ミラ。 |
ミラ=マクスウェル | たった今、四大が戻った。 |
ジュード | えっ ! |
セルシウス | ……どうにか抜け出せたわ……。 |
シャーリィ | セルシウスさん ! |
ミラ=マクスウェル | 何があった。四大もお前もかなり弱っているぞ。 |
セルシウス | ええ。フリンジで力を奪われたから……。 |
シャーリィ | フリンジ…… ?とにかく無事でよかったです。 |
セルシウス | 無事かどうか、まだわからないわ。 |
セルシウス | アイフリード……と言っていいのかしら。新しい精霊……あの存在が近くに来ると精霊は意識を支配されそうになるみたい。 |
ジュード | 鏡の精霊だね。さっきミラたちにも同じような症状が出ていたよ。 |
? ? ? | ――え――ます――。聞こえ――か ? |
ライラ | 魔鏡通信です !まだノイズ混じりですけど、誰かの声が聞こえます ! |
ユリウス | そのまま繋げておいてくれ。はっきり聞こえるようになるかもしれない。 |
エステル | セルシウス、鏡の精霊が使っている体は――パティは無事なんです ? |
セルシウス | ……あの子は、何か恐ろしいものになりかけているわ。一刻も早く助けないと大変なことになる。パティも――私たち精霊も。 |
エステル | そんな…… ! |
リタ | ――そう、その通りよ !『なりかけている』だけなんだわ。 |
ライラ | え ? ど、どうしたんですか ? |
リタ | だからこの術式は……うん、間違いないわね。パティは、まだ鏡の精霊になりきっていないのよ。状態としてはリビングドールβだと思っていい。 |
エステル | それってつまり―― |
リタ | まだ間に合うってこと。今ならまだパティが恐ろしいモノ――鏡の精霊になる前に助けられる。 |
エステル | リタ ! |
リタ | さあ、終わったわ ! 大事なことは写したしデータも十分 !パティを助けに行くわよ。 |
ミラ=マクスウェル | みな、聞こえたな。解析は終わった。撤退しよう ! |
ユーリ | そうしたいところだが、ちっと、難しくなりそうだ。 |
ジュード | どうしました ! ? |
レイヴン | あれを見な。この距離で見積もっても今までの倍の兵士が来る。 |
レイア | こっちからも ! もう囲まれちゃうよ ! |
ガイアス | 今、我々が陣形を崩せばそのまま一気に畳みかけられるだろう。 |
ローエン | 聞こえますか ? 応答して……さい。 |
ガイアス | その声、ローエンか ! |
ローエン | ガイアスさん、ご無事で何よりです。まだノイズは交じ……すがこの通り、魔鏡通信は回復しつつあります。 |
ローエン | 皆さんの状況は確認しています。救世軍の兵をそちらへ向かわせているところです。もう少しだけ耐えてください。 |
リタ | 少しってどれくらいよ !早くパティを追わないと間に合わなくなるわ ! |
スレイ | ……わかった。ユーリたちは先に行ってくれ。今ならまだ、オレたちで退路を確保できる。 |
フレン | スレイ ! でも今だって―― |
セネル | 時間がないんだ。急げ ! |
ルドガー | 心配するな。これだけ揃っているんだ。そうそうやられないよ。 |
ジュード | うん、僕たちの力を信じて。行って ! |
ミラ=マクスウェル | パティのあのような姿精霊としても仲間としても見るに堪えない。早く助けてやって欲しい。 |
ユーリ | ……おう。んじゃ、頼むわ ! |
フレン | ……ありがとう、みんな。 |
フレン | ――行こう。手薄なところを突っ切って何があっても構わず走り抜く ! |
全員 | 了解 ! |
キャラクター | 10話【6-11 ファンダリア領 街道5】 |
カロル | はぁ……何とか突破できた……。スレイやみんなのおかげだね。 |
ジュディス | 彼らのところにも早く援軍が来てくれるといいのだけど。 |
フレン | 大丈夫。ローエンさんの采配があるんだ。僕たちはパティを助けることに専念しよう。 |
エステル | 鏡の精霊の魔鏡に映っていた帝国の基地ってこの先なんです ? |
ユーリ | ああ、この森を突っ切るのが最短距離のはずだ。だよな、カロル。 |
カロル | うん、ばっちり調べてあるよ !調査しながら、各地の地図を作ったりしてるからね。 |
ラピード | グルルルル……。 |
レイヴン | ちょい待ち ! あれって……。 |
ジュディス | 増援の兵士が待機しているみたいね。このまま進むなら、戦わないといけなくなるわ。 |
リタ | それじゃ最短距離の意味がないじゃない。別ルートは ? |
ユーリ | ここまで来て迂回となると、相当時間がかかる。何とかすり抜けちまおうぜ。 |
ジュディス | それもいいけど、彼らが何のためにいるのか調べておいた方がいいんじゃないかしら。 |
フレン | そうだね。ユーリ。あそこに集められている兵士ってリビングドール兵じゃないよね ? |
ユーリ | ああ。好き勝手にくっちゃべってるからな。リビングドール兵は人間味っつーのがねえから見てりゃわかる。 |
フレン | なるほど。だったら情報収集しておこうか。 |
ユーリ | へえ、お前から言い出すとは思わなかったぜ。 |
レイヴン | んじゃ、早速お話しちゃいましょ。無理やり。 |
帝国兵 | くっ……くるし……。 |
ユーリ | 大人しくしてろって。悪いようにはしねえよ。 |
レイヴン | ほらほら、リラーックス。あんまり動くと、もっと締まっちゃうわよ ? |
エステル | あの、ほどほどにしないとこの人もしゃべれませんから、ね ? |
カロル | ユーリの締め技、エグいなぁ……。 |
リタ | 絵面だけ見てると悪人そのものね……。 |
ラピード | グルルルルルルゥ……。 |
ジュディス | あら、ラピードもやる気満々ね。 |
帝国兵 | 待ってくれ ! 何でも話すから ! |
フレン | そうか。では、まずは兵の手薄な箇所と―― |
フレン | ――魔導砲 ? その兵器の最終テストというのはこの近くで行われるのか ? |
帝国兵 | は、はいっ ! そちらにも兵を割くことになるのでこの辺りの兵数も減るはずです……。 |
二人 | 魔導砲……。 |
リタ | マナを高出力で撃ち出す、とんでもない威力の兵器よ。クラースたちから聞いたことがあるわ。 |
エステル | マナというと、私たちの世界ではエアルと物質の間のようなものでしたよね ? |
リタ | そうよ。これでわかったわね。帝国が魔核を集めていた理由が。 |
エステル | 魔核はエアルが凝縮したものだから、ですね。 |
フレン | 魔導砲のために、魔核は集められていたのか。 |
カロル | ……ねえ、ユーリ。その魔導砲と似た話、どっかで聞いたよね。 |
ユーリ | ああ、異世界の兵器を使って精霊を実弾に使用するって計画だろう ?オレもそれを思い出していたところだ。 |
レイヴン | おいおい、それが魔導砲と同じ話なら、パティちゃんはその実弾として使われるんじゃ…… ! |
ユーリ | おい ! 他に何か聞いてねえか ? |
帝国兵 | 他には――ぐはっ ! ! |
全員 | ! ! |
ロミー | おしゃべりが過ぎると死んじゃうわよ ?そいつみたいに。 |
ユーリ | お前がやったのか ! ? |
ロミー | ええ、そうよ。仕事だもの。それともう一つ。 |
ロミー | ――ここにネズミがいるわ ! 早く駆除しなさい !さて、これであなたたち、逃げられないわね。 |
リタ | ちょっ、なにしてくれんのよ、あんた ! |
ロミー | うふふ、仕事を楽しんでいるだけよ。 |
ルキウス ? | ロミー、ここにいたのか。 |
全員 | ! ! |
カロル | あの顔……カイウスとそっくりだ。 |
エステル | じゃあ、あの人がルキウス ! ? |
ロミー | ルキウス ! 連絡がないからわざわざ出向いてあげたのよ。 |
ルキウス ? | ふーん、そう。そんなことよりこれからもっと面白いものが見られる。ついて来るといいよ。 |
ロミー | なによ、いいところなのに。仕方ないわね。 |
ロミー | ああ、そうそう。ネズミさんたちのことは雑兵共が相手をしてくれるから安心して。――ほら、もう来たわ。 |
帝国兵 | いたぞ ! こっちだ ! |
ロミー | ふふふ、あなたたちも楽しんで。 |
ユーリ | おい、待ちやがれ ! |
キャラクター | 11話【6-12 ファンダリア領 街道6】 |
ユーリ | ったく ! これじゃ、あいつら追うどころじゃねえ。 |
ジュディス | せめて意表をつく手があればこの場から抜け出せそうだけど。 |
レイヴン | 意表ってったって、そうそう簡単には―― |
? ? ? | ジャッジメント・トライ ! |
帝国兵たち | ぎゃああああっ ! |
エステル | クラトス ! ? |
クラトス | この先へ向かって走れ ! 兵が少ないはずだ ! |
ユーリ | 助かったぜ ! 行くぞ。 |
レイヴン | はー、やれやれ。今日は逃げて走っての繰り返し !忙しいったらもう。 |
クラトス | ローエンからお前たちの話を聞いてきた。こちらも苦戦を強いられているようだな。 |
フレン | お陰で助かりました。ありがとうございます。 |
レイヴン | それで何、そっちは何か連絡あって来たんでしょ ? |
クラトス | ああ。イクスからお前たちに伝言がある。パティの心核を回収したそうだ。 |
全員 | ! ! |
リタ | 驚いた……。いつの間に手に入れたのよ。 |
エステル | ありがとうございます !これで一歩、パティを取り戻すのに近づきました ! |
カロル | それで、パティの心核は ! ? |
クラトス | 心核は休眠状態にあるという。それがどのような状態かはわからぬが、鏡士の力で目覚めさせることができるようだ。 |
クラトス | イクスはあとで心核を持ってお前たちと合流すると言っていた。 |
ユーリ | 大丈夫なのか ?陽動部隊が苦戦しているってのは聞いてるが。 |
クラトス | 陽動部隊は救世軍が介入したことで徐々に立て直しに入っている。そちらは何とかなるだろう。 |
クラトス | ただ、ミリーナが倒れて意識不明の状態だ。イクスはフィリップが治療していると言っていたがどうも、簡単にはいかないようだ。 |
クラトス | 先程、魔鏡通信が回復した際にローエンから聞いた話ではカーリャの存在も観測できないらしい。 |
エステル | ええっ、そんなことになっているんですか ! ? |
ジュディス | それじゃあこっちに来るどころの話じゃなさそうね。 |
クラトス | かもしれん。実際カーリャがいないことがミリーナを救うための弊害になっているようだ。 |
レイヴン | それってつまり、カーリャちゃんが見つかればミリーナちゃんは目を覚ますってこと ? |
クラトス | どうもそのようだな。ただ、事態がどのような形になるにせよイクスは約束を果たそうとする筈だ。 |
カロル | 確かにそうかも……。イクスって真面目だし頑張り過ぎちゃうから心配だよ。 |
フレン | 思っていたよりも状況は深刻ですね。 |
クラトス | ああ、しかも魔鏡通信が使えなかったせいで皆、上手く連携がとれなかったからな。 |
カロル | 魔鏡通信が直ったなら、クラトスも連絡役はおしまい ? |
クラトス | いや、まだ通信が安定したわけではない。私はこのまま各陣営への連絡を続ける。 |
クラトス | 先ほどのお前たちのように魔鏡通信が使えない状況に陥った者たちへの助けになることもあるからな。 |
カロル | 本当だね。さっきみたいに敵がいっぱいだと通信なんてしてられないもん。 |
クラトス | それともうひとつ、この先の丘に大規模な陣が張ってあった。お前たちが戦っていたのはそこへ投入される兵だったのだろう。 |
クラトス | 気になるのは、その軍隊の側に、我々の世界にあった魔導砲によく似た塔が立っていたことだ。本物だとは思いたくないが……。 |
リタ | 本物 ! それ、本物よ ! |
クラトス | なんだと ! ? |
ユーリ | しかもその魔導砲、精霊を使って撃ち出すもっとヤバイもんになってるかもしれねえ。 |
フレン | パティを保護して魔導砲に近づけないようにしないと。 |
カロル | ちょっと待って ! 地図地図…… ! |
クラトス | 地図 ? |
ユーリ | カロル調査室で独自に調べて作った地図さ。 |
カロル | えっと……ここがパティが行ったはずの基地でこの丘が魔導砲があるっていう本陣。で、ボクたちはここ。 |
カロル | 基地から魔導砲へパティが移動するとして……。この森に行けば、パティが本陣と合流する前に先回りして押さえられないかな ? |
クラトス | なるほど……さすがカロル調査室の室長だな。この位置関係なら、十分間に合うだろう。ただし、相手が徒歩ならば、だが。 |
リタ | 知ってるのね、あの鏡を使ったワープのこと。 |
クラトス | ジュードたちから報告が入ったそうだ。話が事実なら、距離など何の意味もない。 |
リタ | それなら問題ないわよ。 |
リタ | 魔鏡陣に残ってた術式を見る限り精霊になりきれてない今のパティに同じ事をやってのける力は残ってない筈だから。 |
クラトス | なるほど。ならばお前たちの方は時間の余裕が生まれそうだな。 |
レイヴン | ここから逆転といきたいところよね。 |
ユーリ | よし、んじゃカロル先生の案を採用だ。オレたちは森へ先回りしてパティを待ち伏せる。 |
クラトス | では、私は魔導砲の偵察に向かおう。 |
マーク | おいフィル、戻ったぞ !イクスに治療を――……。 |
マーク | ……おい、なんだよこれ。 |
イクス | ミリーナの周りに魔鏡結晶が…… ! ?どうしたんだよ、ミリーナ ! |
カーリャ・N | イクス様、落ち着いてください。それに酷い傷です。無理をしては―― |
イクス | フィルさん、何が起きたんですか ! ? |
フィリップ | ミリーナの魔鏡の力がスタックされているんだ。魔鏡結晶も徐々に大きくなり始めている。 |
イクス | それって、俺の時と同じ……。 |
フィリップ | ああ。ミリーナの場合はゲフィオンの影響だ。この力のせいで、ミリーナの心にアクセスしようとしたら弾かれてしまった。 |
イクス | カーリャは ! ? |
カーリャ・N | いいえ、戻りません……。フィル様の話では、消えたか、どこかへ飛ばされたのか判断がつかないとかで。 |
イクス | そんな……。まさか、このままじゃ俺と同じように魔鏡結晶に閉じ込められるんじゃないですか ! ? |
イクス | 俺はミリーナにあんな辛い思いをさせたくない ! |
フィリップ | イクス、まず治療を受けてくれ。きみが万全でなければ、ミリーナは救えない。 |
イクス | え…… ? |
カーリャ・N | 治癒術をかけます。その間に説明を。マークもこちらへ来て下さい。 |
フィリップ | 聞いてくれ、イクス。確かに僕一人ではアクセスできなかった。 |
フィリップ | だけどイクス、きみとなら……。ミリーナの心に触れられるかもしれない。 |
イクス | 俺とフィルさんで、ですか ? |
フィリップ | ああ。一緒にミリーナの心へアクセスするんだ。 |
キャラクター | 12話【6-13 ファンダリア領 街道7】 |
スレイ | みんな無事 ! ? まだいけそう ! ? |
ルドガー | ああ ! けど少しキツくなってきたな。 |
セネル | 確かに。だが援軍が来るまでの我慢だ ! |
ジュード | …………。 |
ミラ=マクスウェル | どうしたジュード、疲れたか ? |
ジュード | ……みんな、聞いて。このままじゃ持たない。方針を変えよう。 |
アルヴィン | そうだな。こんな防戦一方じゃジリ貧間違いなしだ。 |
エリーゼ | 援軍、待たないんですか ? |
レイア | 待って、ローエンに連絡するね ! |
ライラ | ではレイアさんの守りは私が。 |
レイア | ありがとう、ライラ !――ローエン ? 急いでるの ! ジュードの話を聞いて。 |
ジュード | 敵は今、僕たちが防戦一方だと思っているはずだ。だからこそ、こちらから攻撃に転じる。不意をついて怯んだところを突破。これ、どうかな ? |
ザビーダ | 一点突破か。いいね、嫌いじゃないぜ。 |
ローエン | 承知しました。援軍の到着にもまだかかります。危険は伴いますが、皆さんの呼吸さえ合えば可能でしょう。 |
ユリウス | では、実行はこちらのタイミングで進める。問題はないな ? |
ローエン | ええ。それと、近くに大きな川の堰があります。それを切ってください。 |
ローエン | 皆さんへの追っ手を止められますし、救世軍としても敵を追い込めるので動きやすくなりますから。 |
スレイ | わかった。その辺はオレたちで上手くやるよ。 |
ルドガー | けど兄さん、タイミングって言っても今は―― |
? ? ? | ぁぁあああああああああっ ! |
ユリウス | 何か落ちてくる ! 避けろ、ルドガー ! |
ルドガー | いや、あれは――――痛いっ ! |
カーリャ | きゅぅ……。 |
全員 | カーリャ ! ? |
カーリャ | はっ ! ここは…… ? |
ジュード | ちょっ、どうしたのカーリャ !ミリーナのところに居なくてていいの ? |
カーリャ | そ、そうなんです !ミリーナさまを助けに行く途中なんです !カーリャは、コレットさまに運んでもらってて ! |
カーリャ | でも、コレットさまの手がすべってカーリャは真っ逆さまに―― |
ジュード | ま、待って、よくわからないよ !ここを抜けたら、ちゃんと聞くから。 |
カーリャ | は……ミリーナさま…… ? |
セネル | どうした、カーリャ。目の焦点が合ってないぞ ? |
ルドガー | 俺の頭に落ちてきたときの影響か ? |
カーリャ | ち、違うんです。今までミリーナさまの心からはじかれていたのに、急に声が聞こえて……。 |
カーリャ | ――ミリーナさまが呼んでる…… !今なら、心の中に戻れます !ミリーナさま、今カーリャが助けに行きますからねっ ! |
ジュード | カーリャ ! ? 消えちゃった……。 |
エドナ | 考えても仕方ないでしょ。敵は休まず来てるのよ。こっちを手伝いなさい ! |
コレット | え ! ? う、うん、わかったよ !ごめんね、エドナ。えっと――ジャッジメント ! ! |
帝国兵 | なっ、上 ! ? うわあああっ ! ! |
ルドガー | 今度は空からコレットが ! ?けど、このタイミングなら ! |
ユリウス | ああ。――全員、コレットと同じ場所を狙って攻撃だ !そのまま突破するぞ ! |
カロル | ねえ、ユーリ。パティと会う前にみんなの状況を確認しておかない ?今、どうなってるか心配だし……。 |
ユーリ | そうだな。イクスもこっちに来るとは言ってるが状況によっちゃ難しいかもしれねぇし。んじゃ…………。 |
ユーリ | ――…………駄目だ、出ねぇ。 |
カロル | それじゃ、スレイたちは ?駄目ならジュードかとにかく他にも連絡してみようよ。 |
ユーリ | ああ。今、やってる…………やっぱ繋がらねえな。 |
レイヴン | 魔鏡通信が不安定なのかそれとも出られない状況なのか……。 |
エステル | どうなっているんでしょう。心配です……。 |
ジュディス | 人の心配もいいけれど、もう目的地の森よ。 |
フレン | そうだね。気を引き締めて―― |
ラピード | グルルルルル……。 |
フレン | どうしたんだい、ラピード。 |
ラピード | ワンワンワン ! |
全員 | ! ! |
リタ | なに、これ……。 |
カロル | 倒れているの、みんな帝国兵だ。こんなにたくさん。 |
帝国兵A | ううっ……。 |
全員 | ! ! |
帝国兵A | 貴様らは……絶対に、逃がさん……。 |
フレン | 警笛だ ! 兵士が来るぞ ! |
カロル | これ、ボクたちがやったんじゃないのに ! |
ユーリ | 今更通じねぇよ。逃げんぞ ! |
フレン | このまま森の中に入って潜もう ! |
フレン | みんな走れ ! 帝国兵を巻かなきゃパティの待ち伏せどころじゃない ! |
ラピード | ワンワンワン ! |
ユーリ | あ ? この先に誰かいるってのか ? |
カロル | ねえ、あれって―― |
全員 | ! ! |
デューク | お前たちか……。 |
ユーリ | デューク ! |
レイヴン | 具現化されてたのか……。 |
ジュディス | さっき倒れていた兵士もあなたの仕業ね ? |
帝国兵B | いたぞ ! 銀髪の男だ ! |
ユーリ | おいおい、お前も追われてるのかよ。 |
デューク | いや、私は追っているのだ。 |
エステル | 追っている…… ?あっ、待ってください ! デューク ! |
帝国兵B | あっちにいったぞ ! |
リタ | まさかあいつ、敵を連れてってくれた ? |
ジュディス | 彼、そこまで甘くないわよ。自分の敵は自分でってことじゃないかしら。 |
レイヴン | だわな。らしいっちゃらしいけど。 |
帝国兵C | いました ! |
カロル | こっちも来た ! |
ユーリ | よし、だったらオレたちも自分で自分のケツをふくか ! |
フレン | もう、追って来る兵士はいないな。 |
ラピード | ワン、ワンワン ! |
ユーリ | まだその辺にいるってよ。様子見に……お、イクスから魔鏡通信文が来てるぞ。 |
カロル | 見せて見せて ! |
イクス | イクスです。声が届けられないから通信文を送ります。パティの心核の休眠状態を解除できました。 |
イクス | 事情はあとで説明します。場所は把握しているので三十分程度でそちらに着くと思います。 |
エステル | イクス、やっぱり来てくれるんですね !心核の休眠状態も解除できたって ! |
ジュディス | だったら私たちもパティを確実に連れ戻さないと。 |
フレン | ユーリ、僕はこの辺りを偵察してくる。この先は見晴らしがよさそうだから、平原に残っているスレイたちの状況も確認できるかもしれない。 |
カロル | あ、ボクも行く !イクスが来てるかもしれないしね。 |
ユーリ | ああ、頼むわ。こっちは先に陣取りしとくぜ。……恐らく戦うことになるだろうからな。 |
キャラクター | 13話【6-14 ファンダリア領 森4】 |
ジュディス | この辺、いいんじゃないかしら。 |
ユーリ | ああ。隠れ場所もあるしそこそこ開けてて戦いやすそうだ。 |
エステル | それじゃ、この場所のことフレンたちに連絡しておきますね。 |
リタ | ガキんちょの思い付き、結構当たってたみたいね。これだけ兵士が多いってことは、パティが確実にここを通るってことだし……なかなかの読みだわ。 |
ユーリ | それ、カロルに直接言ってやったらどうだ ?喜ぶぜ。 |
レイヴン | いや~、珍しすぎて逆に怯えちゃうんじゃないの ? |
リタ | そうね。あんたも怯えさせてあげましょうか ? |
レイヴン | ちょっ、術の無駄撃ち禁止 ! |
ジュディス | 静かに。誰か来るわ。 |
サレ | ……本当にしつこいね。 |
デューク | 友を取り返すまで私はどこまでもお前たちを追う。 |
ユーリ | あいつ、鏡映点名簿で見た顔だな。 |
レイヴン | 確かサレだったかね。ヴェイグの世界の奴だ。 |
ユーリ | ああ。シングやカイウスは帝国で一緒だったらしいな。悪い噂しか聞かなかったらしいぜ。 |
レイヴン | とりあえず加勢しとく ?恩を売るのも悪くないでしょ。 |
デューク | ……。 |
エステル | 今、デュークに睨まれました !こっちに気づいてます ! |
ユーリ | 今のは出てくんなって意味か ? ったく……。 |
サレ | そこ、出ておいでよ。不意打ちなんて無駄なこと考えてないでさ。 |
ジュディス | ……あっちも気づいたみたいね。 |
サレ | ……へえ、あいつが大喜びしそうな上玉の黒髪がいるじゃないか。まあ、別に持って帰ってやる義理もないけど。 |
ユーリ | グラスティンか ? あいつは死んだぜ。 |
サレ | 死んだ、ねえ……。そうなんだ。そういうことか。ははは……。 |
サレ | まあ、どうでもいいけどね。 |
リタ | ずいぶん余裕じゃない。けどこの辺の兵士、ほとんどいないわよ。 |
ユーリ | どうやらデュークに倒されちまったみたいだな。今の戦力じゃ、オレらが上じゃねえの ? |
サレ | ……なんだ、こいつのお仲間か。こいつ変だよねぇ。あんな石ころがお友達なんだって ?随分とご執心なことで。 |
ユーリ | おいデューク、まさかあんたが追ってるのは……。 |
デューク | …………。 |
サレ | もう僕を追うのは無駄だから諦めてくれない ?だって、あの子に入っている聖核はもう元の状態じゃないんだよ ? |
デューク | なんだと ? |
サレ | 色々いじくりまわされてさぁ。いろんな物が混じって、くっついて。しかも今は精霊様になりつつある。もう戻らないね、あれは。 |
デューク | 人間っ ! ! |
サレ | っ ! ! ぐあああっっ ! |
デューク | ……っ。致命傷ではないはずだ。答えろ。聖核を持ったあの娘は今どこにいる。 |
サレ | ははっ……、思ったより手が早いね……。 |
サレ | でも、これでどうにか操れそうだ。 |
デューク | ! ! |
リタ | ちょっと、何やってるのエステル ! |
ユーリ | おい、エステル ! お前―― |
デューク | 離れろ ! |
ユーリ | デューク ! ? |
レイヴン | ちょっと今の ! デュークが防がなきゃ青年の首がやばかったわよ ! |
エステル | ……あなたたちは、敵……。 |
サレ | 面白くなってきた……だろう……。 |
ユーリ | てめぇ、エステルに何しやがった ! |
サレ | ちょっとした暗示をかけたのさ。この子、色んな不安を抱えているみたいだからそこそこ簡単だったよ。 |
リタ | やめてよ……これじゃあの時と同じじゃない !あんなのもう…… ! |
レイヴン | ……嫌なこと思い出させてくれるじゃないの。 |
サレ | そうか、嫌か ! はは、嬉しいなぁ !さあ、お嬢さん、僕のかわりに相手を頼むよ ! |
ユーリ | てめぇ ! どこに行く ! |
デューク | 待て ! |
ユーリ | エステル、しっかりしろ ! |
エステル | デューク……、ユーリ……、貴方たちを……。 |
ユーリ | またお前と戦うのかよ……くそっ ! |
エステル | …………。 |
デューク | ! ! そうか、お前はまだ完全には……。魔物とは勝手が違うが……試す価値はあるか。 |
リタ | なんなの、あんた ! エステルに何を―― ! |
レイヴン | 待て、リタっち。 |
デューク | …………。 |
エステル | え……今の声……デューク…… ? わたし……。 |
リタ | エステル ! ! 戻った、良かった…… ! |
デューク | 暗示が浅かったようだ。あの男も焦っていたのだろう。 |
エステル | あ、ありがとうございます……。わたし、操られていたんですね。 |
ユーリ | あんた、さっき何したんだ ?エステルの前に手をかざしただけなのにさ。 |
デューク | …………。 |
ラピード | グルルル、ワンワンワン ! |
レイヴン | おいおい、団体様が押し寄せてるわよ ! |
ジュディス | あの男が呼んだのね。 |
ユーリ | 礼は後でな、デューク。こっちを先に片付ける ! |
キャラクター | 14話【6-15 ファンダリア領 森5】 |
ユーリ | デューク。またあんたに命、救われるとはな。さっきは助かった、礼を言わせてくれ。 |
デューク | 私は友を救うため動いたまでだ。 |
ユーリ | やっぱりダチの……エルシフルの聖核が目的だったか。 |
レイヴン | つまりうちらと目的は同じ、と。 |
リタ | 帝国はエルシフルの聖核から新たな精霊を生み出そうとしている。あたしたちとしても帝国に聖核を渡すわけにはいかない。 |
デューク | 世界の危機……か。 |
エステル | それだけじゃなくリビングドールβにされてしまったパティも今度こそ助けてあげないと……。 |
ジュディス | もちろんよ。そのためにも私たちはここにいるのだから。 |
レイヴン | カロル調査室の情報によるともう少ししたらパティちゃんは本陣と合流するためにこの先の森を抜ける。 |
レイヴン | そこをうちらが抑えて、パティちゃんとパティちゃんが持ってるエルシフルの聖核も回収っと。 |
リタ | けど、失敗すればどちらも失うことになる。それにリビングドールβにされたパティを連れ戻すには鏡士の力が必要不可欠なのよ。 |
ジュディス | 戦力はこちらに分がある。けど私たちだけでは目的を完遂できない。 |
レイヴン | 油断できないことに変わりはない、と。一石二鳥と簡単に片付きそうにはないわね。 |
エステル | イクスたちも大丈夫でしょうか。まだ時間があるとはいえもう到着してもいい頃だと思いますが……。 |
ユーリ | イクスたちだけじゃなくジュード、スレイたちとも魔鏡通信が繋がらねぇ。やっぱ何かあったんじゃ……。 |
デューク | …………。 |
カロル | みんな ! フレンと丘に登ってあたりの様子を見てきたよ ! |
フレン | ジュードとスレイたちがいる方へ帝国兵たちが進行していた。敵本陣の一部が差し向けられたみたいだ。 |
ユーリ | それじゃあジュードとスレイたちが危ねぇぞ。 |
フレン | あっちは少人数……。僕たちと戦うことになった際に足元をすくわれないよう先に倒しておくのが帝国の考えなんじゃないかな。 |
ユーリ | くそっ。ここは任せてくれって言葉に甘えてパティを追わせてもらったけどやっぱ何人か残るべきだったか。 |
レイヴン | 兵が向かってるってことはこりゃイクスくんたちも巻き込まれてるな。 |
エステル | 助けに行きましょう !まだパティが森を通るまで時間があります ! |
ジュディス | 気が合うわね。パパっと片付けてこっちに戻ってきましょう。 |
カロル | うん。いまのボクたちならできるよ。もちろんちょっと頑張る必要はありそうだけど。 |
ラピード | ワオーン ! |
ユーリ | さすがラピード。イクスたちの場所までしっかり案内してくれるみたいだぜ。 |
リタ | ちょっと待ちなさいよ。もし何かあって戻ってこられなかったらどうするの ?パティも聖核も帝国に持っていかれることになるのよ。 |
デューク | それは起こりえない事象だ。 |
ユーリ | ……デューク。 |
デューク | 友の聖核は、この私が必ず回収する。 |
レイヴン | ま、あんたはうちらがどう動こうが関係ない。ここに残ってそうするわな。 |
フレン | ですが今はとても心強い。 |
ユーリ | デューク、1つだけいいか ? |
デューク | 聞こう。 |
ユーリ | オレたちは必ずここに戻ってくる。けど……もし遅れちまった場合あんたにパティのことを頼みたい。 |
フレン | ……ユーリ。 |
カロル | ボクからもお願い。少しでいいから戦いを引き伸ばして欲しいんだ。 |
エステル | 図々しいかもしれませんが……どうかわたしからもお願いします ! |
デューク | …………。 |
ユーリ | 頼む。 |
デューク | 戦いになろうともあの娘の命を取るつもりはない。 |
デューク | だが、私があの娘を救う道理もない。甘えるな。 |
エステル | それはわかります。ですが今、わたしたちと貴方は―― |
ユーリ | もういい、エステル。こいつの言ってることは筋が通ってる。 |
ジュディス | そうね。それにいまはこの時間さえ惜しいわ。ここまでにしておきましょう。 |
ユーリ | デューク、悪かった。さっきの言葉は忘れてくれ。 |
フレン | それじゃあ僕たちは急ぎ出発を―― |
デューク | またそれも見過ごせん。 |
リタ | ちょっと。どきなさいよ。あたしたちが行こうとそれこそあんたには関係ないじゃない。 |
ユーリ | さっきの話、聞こえてただろ。オレたちは仲間を助けに行かなくちゃならない。 |
デューク | ……もしそれでも間違ったら。 |
ユーリ | ? |
デューク | やはり記憶にないか。 |
リタ | 何がいいたいのよ。言いたいことがあればハッキリ言ってくれる ? |
デューク | お前たちとどれだけ言葉を重ねようと螺旋のように交わらぬまま虚ろに時が過ぎてゆくのみ。 |
レイヴン | おいおい、どういうつもり。まさかやるっていうんじゃないでしょうね。 |
ユーリ | …………。 |
デューク | …………。 |
ユーリ | わかった。あんたなりにオレたちに伝えたいことがあるわけだな。 |
フレン | なら無下にはできないね。 |
ジュディス | そうね。それに私こういう会話の仕方も好きよ。 |
リタ | まったく……あんたたち戦闘バカは。 |
エステル | けどせっかくデュークが話しかけてくれたんです。 |
カロル | ちゃんと、わかりあいたいよね。 |
| ワンワン ! |
レイヴン | 若人だけじゃ物足りないっしょ。人魔戦争のよしみでおっさんも混ぜてよ。 |
デューク | ひとりではなくひとつの強さ。それはひとつになる者たちによって変わりそして未来も変えてゆく……か。 |
デューク | …………。 |
ユーリ | デューク。あんた…………。 |
ユーリ | いや。何でもねぇ。こいつで語り合うとしようぜ。 |
デューク | いくぞ。 |
ユーリ | おう ! 受けて立つぜ、デューク ! |
キャラクター | 1話【7-1 ファンダリア領 森1】 |
パティ | …………。 |
エステル | パティ ! ! |
デューク | ……。 |
ユーリ | いくぞ。 |
| 待ち伏せていたユーリたちの前にようやく姿を現したパティ。双方が相まみえようとしている、その少し前のこと。 |
| 心の中からカーリャが消えてしまったミリーナは―― |
ミリーナ | ゲフィオン、カーリャが消えてしまったわ。どうして ! ? |
ゲフィオン | 恐らくお前――つまりミリーナが『ミリーナ単独』の存在ではなくなってしまったからだろう。 |
ゲフィオン | 何らかの外的要因でミリーナとゲフィオンの境界が徐々に曖昧になっている。お前が倒れたのも、私がここにいるせいだ。 |
ミリーナ | それじゃ『私のカーリャ』はもう私の中にはいられないの ! ? |
ゲフィオン | 落ち着きなさい。先ほども言ったが今はゲフィオンとミリーナが混ざり合おうとしている。そのせいで一時的にはじかれてしまっただけだろう。 |
ゲフィオン | あのカーリャは……私の鏡精ではないからな。 |
ゲフィオン | だがこのままでは『一時的』では済まなくなる。これ以上の影響が及ぶ前に何らかの処置を施さねばなるまい。 |
ミリーナ | 処置と言っても、原因がわからないんじゃ……。 |
ゲフィオン | 心当たりはある。この現象には、バロールの力が影響しているのだろう。 |
イクス | ミリーナ ! |
ミリーナ | イクス ! ? フィル、ネヴァンも ! |
フィリップ | ようやくきみの心にアクセスできたよ、ミリーナ。 |
ミリーナ | フィル……みんな、ありがとう。迷惑をかけてごめんなさい。こんなところまで来てくれるなんて……。 |
イクス | 当たり前だろう。『二人』を救うためだからな。 |
ゲフィオン | …………。 |
フィリップ | ミ――ゲフィオン……。 |
カーリャ・N | ミリーナ様 !良かった、ミリーナ様がご無事で……。 |
ゲフィオン | 私をミリーナと…… ? お前は誰だ。 |
カーリャ・N | っ !……そう……ですよね。 |
フィリップ | ゲフィオン、彼女はきみの鏡精『カーリャ』だよ。 |
ゲフィオン | カーリャ ! ? あなたが…… ? |
ミリーナ | やっぱり……覚えていないのね。 |
ゲフィオン | ……記憶を切り離した私は『私のカーリャ』という存在を知らぬ。 |
ゲフィオン | 私にはそういった鏡精がいたと周囲の者から聞いてはいたが……。そうか、お前が私のカーリャ……。 |
ゲフィオン | すまない……。 |
カーリャ・N | いいえ ! いいえ……。ミリーナ様が……ゲフィオン様がご無事なら私はそれで十分です。 |
カーリャ・N | それよりも、早くこの状況を打開する方法を考えましょう。 |
ゲフィオン | ……そうだな。 |
ミリーナ | さっき、私たちが交じり合った原因はバロールの力だと言っていたわよね ? |
イクス | バロールが ? |
ゲフィオン | そうだ。バロールは、人体万華鏡となって死の砂嵐を封じている私に接触してきたのだ。恐らくは、死の砂嵐を操るためにな。 |
ゲフィオン | 上手く言えないが、バロールの接触によって私は自らが世界に融けそうな感覚を覚えた。そのせいか、私自身の存在が曖昧になろうとしている。 |
ゲフィオン | それがミリーナとゲフィオンの境界が危うくなった原因だろう。 |
ミリーナ | 死の砂嵐を操る……。ねえイクス、倒れた時にバロールと会ったのよね ? |
イクス | 俺も今、そのことを思い出してたよ。 |
イクス | ゲフィオン様。俺はバロールの記憶の残滓……という存在に会っているんです。その時―― |
ゲフィオン | ――死の砂嵐を鎮めるために尖兵を作る、か。 |
イクス | はい。それと、俺の心の中にも関わらずバロールは明らかにコーキスに語り掛けていました。「鏡精コーキスよ、命の炎を燃やせ」と。 |
ゲフィオン | 鏡精と鏡士の心は繋がっている。本当にコーキスに命じていたのかも知れない。 |
ゲフィオン | この推測が正しければ、すでにバロールはコーキスを使って、死の砂嵐を操っているのだろう。それがバロールの接触として感じられたのか……。 |
ゲフィオン | ……もしや、コーキスは私の近くに来ているのか ? |
イクス | コーキスが……。あいつ、バロールに何をさせられてるんだ……。 |
ゲフィオン | 何が目的であれ、その強引なアクセスによってゲフィオン――私という人格が崩壊しようとしておりその結果が、ミリーナに影響を及ぼしている。 |
ゲフィオン | 鏡精がいないゲフィオンには人格を――心を守る存在がいないからな。 |
フィリップ | ……妙だな。バロールの接触が強引だったとはいえなぜそこまで深刻な影響を受けているんだい ? |
ゲフィオン | ……当時の記憶がないから確実なことは言えないけれど……。 |
ゲフィオン | おそらく『ある目的』のために心を閉じる作業を行わなかったんだと思うわ。そして、新たな鏡精を作ることもしなかった。 |
ゲフィオン | だから今の私は、心にずっと穴が開いた状態なのよ。それで影響を受けやすくなっているのかもしれない。 |
フィリップ | 穴って…… !どうして無防備な状態のままで放置したんだ。手段はあったはずだろう ! |
フィリップ | 手段――そうか……だから……。 |
ゲフィオン | …………。 |
カーリャ・N | ……やはり、そういうことでしたか。 |
ミリーナ | ネヴァン ? |
カーリャ・N | ゲフィオン様の計画では、私は今よりもっと早い段階で小さいミリーナ様に記憶をお渡ししている筈だった。本来ゲフィオン様が人体万華鏡になる時期に……。 |
フィリップ | そうか……。ファントムの存在でゲフィオンが人体万華鏡になるタイミングが狂ったんだね。 |
カーリャ・N | はい。本来は記憶の継承と共に、人体万華鏡は真の完成を迎え、死の砂嵐の外部流出を防ぐことができた筈でした。 |
カーリャ・N | おそらくその場合は鏡精のいないゲフィオン様の心は小さいミリーナ様に吸収され、消えていたでしょう。つまりゲフィオン様の心は死んでいた筈です。 |
三人 | ! ! |
ゲフィオン | …………。 |
イクス | 待ってくれ、記憶を受け渡す時にカーリャがミリーナの心を守れば、二人の消滅を防げるかもしれないって話し合ったじゃないか。 |
カーリャ・N | ええ。確かにあの方法であれば小さいミリーナ様の心は確実に守れます。ですがゲフィオン様の心を確実に守る手段はありません。 |
カーリャ・N | 心の穴を塞ぐためには、新しい鏡精を作らなければいけないんです。でもゲフィオン様はそうしなかった。 |
カーリャ・N | 仮に心が残っても、ゲフィオン様を待っているのは永遠の死です。砂防堤として気の狂うような痛みに耐え永遠に『死に続ける』という運命……。 |
フィリップ | それに新しい鏡精を巻き込みたくなかったからあえて心の穴を残していた……。 |
ゲフィオン | …………。 |
カーリャ・N | 今回、お二人の心を守る方法を考えている時にこれは手段がなかった訳ではなくわざと残さなかったのでは、と気付いたんです。 |
フィリップ | そうか……ある意味ファントムが、ゲフィオンの心を延命した形になったんだね。 |
カーリャ・N | ……ええ。少なくともゲフィオン様は、こんな形で小さいミリーナ様を巻き込むつもりはなかった筈です。バロールの件は不測の事態ですから。 |
カーリャ・N | それに……今のこの状況を招いてしまったのは記憶の移行を渋った私にも責任があります。 |
ミリーナ | そんな……。ネヴァンは何も……。 |
カーリャ・N | いいえ。私が悪いんです。そもそも私は記憶の受け渡しを防ぎたかった。 |
ミリーナ | どういうこと ? |
カーリャ・N | お二人の心が消えないように安全な方法を探っていたのは本当です。 |
カーリャ・N | ですが、そんな危険を冒す前に、ゲフィオン様を人体万華鏡から救い出す手段を見つけたかった。だから記憶の受け渡しを先延ばしにしてしまった。 |
ゲフィオン | カーリャ……。 |
カーリャ・N | だって、このままだとゲフィオン様は永遠に動かない鏡の体の中で、自我を失い、終わらない激痛に苛まれるんです。 |
カーリャ・N | 『死ぬ』のではない。『生きている』のでもない。『死に続ける』んですよ ! ?カーリャはそんなの嫌です ! |
ゲフィオン | ……それは私が殺した世界や人々も同じなのよ。私の過ちのせいで命を落とした後も苦しんでいる人々がいる。 |
ゲフィオン | それにこの世界を守るためには、死の砂嵐を封じなければならないのよ。誰かがやらなければならないなら、この役目は私が引き受けるべきだわ。 |
カーリャ・N | わかってます、ミリーナ様。あなたが助けなんて望んでないことも。それでも私は、生きていて欲しかったんです。 |
カーリャ・N | たとえあなたが世界中から非難される極悪人だったとしてもミリーナ様は私のただ一人のマスターだから。 |
キャラクター | 2話【7-2 ミリーナの心1】 |
カーリャ・N | 身勝手なことばかり言って申し訳ありません……。 |
ミリーナ | 身勝手じゃないわ。そうよね、ゲフィオン。 |
ゲフィオン | ……ああ。しかし、バロールの影響はさらに強まるだろう。記憶の受け渡しさえできればミリーナだけは助かるはず。それなら―― |
イクス | あの ! ちょっといいかな。バロールはコーキスを使っているんですよね。自分の鏡精のように。 |
ゲフィオン | そのようだ。 |
イクス | ちょっと違うかもしれないけどフィルさんとファントムもそうでしたよね ?その、マークとの関係というか繋がりというか……。 |
フィリップ | ああ、僕とファントムは、マークを共有していた。 |
フィリップ | ただ、僕とファントムは同一人物を同一時空に具現化する為のテストケースだったからね。参考にはならないかもしれないよ。 |
イクス | でも、同じ存在なら鏡精を共有できる可能性が高いってことですよね。 |
フィリップ | それはゲフィオンとミリーナ、二人分の心をカーリャに守ってもらえないかってことかい ? |
イクス | 無理でしょうか……。記憶を受け渡して心の穴を修復する間だけでも。 |
フィリップ | できるとは断言できない。でも……。 |
ゲフィオン | いいえ。できたとしても私にそのつもりはないわ。 |
フィリップ | ゲフィオン ! |
ゲフィオン | もう決めたことなの。 |
ゲフィオン | イクス、ミリーナ、聞いて欲しい。私はあなたたちを騙し異世界や鏡映点たちを具現化させた。 |
ゲフィオン | 巻き込まれた鏡映点たちには償おうにも、償いきれぬ苦しみを今も強いている。 |
ゲフィオン | そして、あなたたち二人には、尊厳を踏みにじり冒涜するような生み出し方をしてしまった。本来の記憶を改ざんし、心を捻じ曲げてしまった。 |
ミリーナ | 私たちを具現化するときに手を加えたという記憶はネヴァン――あなたのカーリャに預けた筈ですよね。どうして知っているんですか ? |
ゲフィオン | そう……。知っているのね。……何もかも。 |
イクス | フィルさんから聞きました。 |
ゲフィオン | そう……。ええ、確かに記憶は残っていない。でも、二人を見ていればわかるわ。それに、私ならやりかねないことだもの。 |
ゲフィオン | 全て、私の責任です。謝って済むことではないけれど―― |
フィリップ | 待ってくれ、それなら僕も一緒だ ! |
ゲフィオン | いいえ。イクス、ミリーナ、フィルを責めないで。 |
ゲフィオン | フィルはただ、魔女と幼馴染であったというだけでこんな外道に付き合わされてしまっただけ。巻き込まれたことを考えれば、むしろ被害者よ。 |
ゲフィオン | 全ては私一人が背負うべき罪。だから―― |
フィリップ | そうじゃないっ ! ! |
ゲフィオン | フィル……。 |
フィリップ | 一人だって…… ?確かに覚えていないんだね。あれは、二人で一緒にやったことだ ! きみと僕で ! |
フィリップ | むしろ、イクスを甦らせようとしたときイクスが危険に巻き込まれないように性格を変えようと積極的に提案したのは僕だった筈だ。 |
フィリップ | 僕は卑怯で、臆病で愚かだったから自分の罪を隠したかったんだ。生み出される命を物みたいに考えて……。 |
ゲフィオン | ……だとしても、私もそれに乗ったのよ。そしてきっと、私が決めた。だから、フィルはそんな風に―― |
フィリップ | ――もう僕をそんな風に甘やかさないでくれ !僕は心底薄汚い人間なんだ。ミリーナの優しさにつけ込んで甘えていた。 |
フィリップ | 僕はね、ミリーナ。昔イクスが憎くて羨ましくて……彼を殺そうとしたことがあったんだ。あのピクニックの日のことだよ。 |
ゲフィオン | ! ! |
フィリップ | 知ってるよ。あの時、きみは後悔した。僕がきみを誘って、きみは珍しくイクスが一緒にいなくても平気だと思ってしまった。 |
フィリップ | 僕らは二人とも、イクスの忠告を軽く考えて……そこで魔物に襲われた。 |
ゲフィオン | あの時……いつもならイクスも一緒にって言ったのにフィルが久々にセールンドから帰ってきたのが嬉しくて少しなら……大丈夫って思ってしまった。 |
ゲフィオン | 私はお姉さんだから一人でもフィルのことを守れるって……。 |
フィリップ | あの時からきみは、イクスに罪悪感を抱いてイクスを守ると決めたんだよね。そして無意識に僕を遠ざけるようになった。 |
ゲフィオン | ごめんなさい……。あなたを見ていると、私の弱さが思い出されてつらかった……。 |
フィリップ | ……うん、知ってたよ。でも、イクスが殺されて色々あって、イクスを具現化しようと決めた時これは全てをやり直すチャンスだと思ったんだ。 |
フィリップ | 僕の罪を消して、ミリーナの罪悪感を消して二人目のイクスとミリーナが幸せになれば……きみは僕を振り向いてくれるんじゃないかって。 |
フィリップ | 僕はイクスが好きだったけどミリーナのことも好きだった。ミリーナに……きみに振り向いて欲しかったんだよ。 |
ゲフィオン | ――え…… ? |
二人 | …………。 |
フィリップ | そうだよね……。気付いてないと思ってた。 |
フィリップ | 勇気が無くて今まで一度も口にできなかったけど僕は、ミリーナが好きなんだ。 |
ゲフィオン | …………。 |
フィリップ | ……ミリーナ ? |
ゲフィオン | 酷い……。 |
フィリップ | ……ごめん、困らせて。 |
ゲフィオン | いいえ……違うの。私が……酷いの……。私……本当に何も見えていなかった……。 |
ミリーナ | イクス、私……。 |
イクス | あれはフィルさんとゲフィオンの話だよ。ミリーナは、ミリーナだ。 |
ミリーナ | え、ええ……。 |
ゲフィオン | ありがとう、フィル。私のことを好きでいてくれて。でも……。 |
フィリップ | ……うん。 |
ゲフィオン | あなたをずっと、弟のように大事に思っていたわ。だから巻き込んではいけないと考えていた。 |
ゲフィオン | ……なのに、結果的に酷く傷つけることになってしまった。 |
ゲフィオン | だからこそ、全ての責任は姉である私が引き受けるつもりでいたの。 |
ゲフィオン | でも……それも私の独りよがりだったのね。あなたに対して、とても失礼なことをしていたんだわ。……ごめんなさい。 |
ゲフィオン | 私、やっぱりイクスが……最初のイクスが好きなの。だからあなたの気持ちには応えられない。 |
フィリップ | ……うん。 |
ゲフィオン | けれど、一緒に世界を歪めた者としてあなたには生きて責任を果たして欲しい。 |
フィリップ | 『一緒に』って……。今、それを言うんだね。 |
ゲフィオン | ええ。私、魔女だもの。 |
ゲフィオン | それと……カーリャ。 |
カーリャ・N | は、はい ! |
ゲフィオン | あなたの記憶がなくて、ごめんなさい。 |
カーリャ・N | ですから、それはもう―― |
ゲフィオン | でもね、私がカーリャに全てを託したのなら私は間違いなくあなたを愛し、信頼していたのよ。だからきっと二人目の鏡精を作らなかったんだわ。 |
ゲフィオン | 私を救おうとしてくれて、ありがとう、カーリャ。 |
カーリャ・N | ゲフィオン様……そんなお別れみたいな言葉は嫌です。 |
ゲフィオン | 困ったわね。でもきっと、人間になったあなたの心にはかつての私が――ゲフィオンが生きているわ。いつも一緒なのよ。 |
ゲフィオン | だからどうか、『小さな』ミリーナを守るためにあなたの持つ記憶を託してあげてちょうだい。 |
カーリャ・N | ……………………はい。 |
ゲフィオン | ありがとう、カーリャ。 |
ゲフィオン | ――ではミリーナ、カーリャを呼び戻そう。お前の心を守って貰わねばならない。 |
ミリーナ | 無理よ。カーリャを感じることができないの。 |
ゲフィオン | 私に考えがある。 |
イクス | 何をする気ですか。 |
ゲフィオン | ミリーナの心には、バロールの接触で暴走した私の力が流れ込んでいる。今からそれを止める。 |
ゲフィオン | ほんの僅かな時間だがミリーナの心は安定するはずだ。その間にカーリャを呼び戻してもらう。 |
イクス | 待ってください ! |
ゲフィオン | これ以上長引けば、私が力を制御できなくなる。――ミリーナ、始めるぞ。 |
キャラクター | 3話【7-3 ミリーナの心2】 |
ミリーナ | カーリャ、私はここよ。聞こえているなら答えて……。 |
カーリャ | ……さま。ミリーナさまっ ! ! |
ミリーナ | カーリャ ! 戻って来たのね ! |
カーリャ | ミリーナさまーっ ! 会いたかったですぅ !どうしても心の中に戻れなくて……。 |
イクス | 良かった、カーリャは元気みたいだ。 |
カーリャ | はれ ? イクスさまに、先輩に、フィルさま ! ?めちゃくちゃ人数増えてますけど ! ? |
ゲフィオン | ……くっ……。ミリーナ、早く記憶の受け渡しを……。 |
ミリーナ | カーリャ、詳しい説明は後でするわ。ネヴァン、お願い。 |
カーリャ・N | はい。――小さいカーリャ、今から私はゲフィオン様の記憶を、小さいミリーナ様に渡します。あなたは小さいミリーナ様の心を守りなさい。 |
カーリャ | え ? でも、ゲフィオンさまは ? |
ゲフィオン | カーリャ、ミリーナをお願いね。 |
カーリャ | ! ! |
カーリャ | ……わかりました。全力で守ります ! |
カーリャ・N | ……では小さいミリーナ様、ご用意を。 |
ミリーナ | ええ……。 |
カーリャ・N | ……記憶の移行は終了しました。 |
イクス | ミリーナ ! ? |
ゲフィオン | ……大丈夫、上手くいったわ。これが証拠。 |
イクス | 姿が薄れて……心が消えているからか ! ? |
ゲフィオン | これで、やっと……。 |
フィリップ | ゲフィオン、こんなのはずるいよ……。 |
イクス | ……そうだよ。フィルさんの言う通りだ。生きて償うのは、あなたも同じじゃないか ! |
ゲフィオン | ! ! |
イクス | あなたが苦しむのは――俺はそんなこと必要ないと思うけど、それでもあなたの自由だ。 |
イクス | でも、あなたが苦しめたと自覚している人たちが実際にまだ苦しんでいるなら何か助ける方法を探しましょう。 |
イクス | 万策尽きてから『死に続ける』選択をしても遅くはない筈だ ! |
ゲフィオン | イクス……。 |
カーリャ・N | ……ミリーナ様、やっぱりカーリャは納得できません。ミリーナ様をこのまま消えさせはしない。 |
フィリップ | ネヴァン、何をするつもりだ ? |
カーリャ・N | 私はもう鏡精ではありませんが人間になったことで、ゲフィオン様と同じ想像の魔鏡術の力を受け継いでいます。 |
カーリャ・N | この力で、ゲフィオン様の心を守れないかやってみます。 |
フィリップ | ま、待て ! それは危険―― |
カーリャ・N | あなたを守ってみせます ! ミリーナ様 ! |
ゲフィオン | 駄目…………カー……リャ……………。 |
二人 | ! ! |
イクス | 二人とも消えた……。まさか、一緒に消滅したのか ! ? |
フィリップ | いや、ネヴァンがゲフィオンの心の中に残った、のか ? 今の彼女にそんなことができる筈がないのに……。 |
カーリャ | ううっ……二人とも、推測は外でしてください ! |
イクス | カーリャ ! ? |
カーリャ | ゲフィオンさまの記憶を受け止めるためにミリーナさまの心に大きな負荷がかかっているんです ! |
フィリップ | すまないカーリャ ! |
フィリップ | ――イクス。ミリーナにとって僕たちは異物だ。すぐに出よう。 |
イクス | はい ! |
イクス | う……戻ったのか ? フィルさんは……。 |
フィリップ | 僕もついさっき戻ったんだよ。 |
マーク | よし、これで二人とも無事に目が覚めたな。 |
マーク | 正直なところ、ミリーナのことやら、突然消えたネヴァンパイセンのことやら、聞きたいことは山ほどあるんだが……とりあえずはこっちが先だ。 |
マーク | ――おい、イクスたち、戻ってきたぞ。 |
コレット | よかった…… !おはよう、イクス。大丈夫 ? |
イクス | コレット ! ? どうしてここに……。 |
コレット | カーリャに頼まれてセールンドからこの砦まで送ることになってたの。 |
イクス | セールンド ! ?カーリャはそんなところにいたのか。 |
コレット | うん。けど私、飛んでる途中でカーリャを落としちゃって……。 |
イクス | 落としたって……。カーリャも飛べる筈なのにさては気を抜いてたな……。 |
コレット | でもね、偶然ルドガーやジュードたちが戦っている真上だったから、カーリャのこと受け止めてくれたの。 |
コレット | そのあと、カーリャが消えちゃったって聞いたからもしかしてここにいるのかもと思って様子を見に来たんだ。 |
イクス | そうだったのか。カーリャは今、ミリーナの心の中にいるよ。送ってくれてありがとう。 |
コレット | そっか、ちゃんと戻れたんだね ! 良かった ! |
イクス | ところで、ジュードたちは何かの作戦中なのか ?ミリーナが倒れた時に、魔鏡通信が繋がらなくなったから、今どんな状況かわからないんだ。 |
コレット | 精霊関連で問題が起きたから、みんなで手分けして調査をしてるところだよ。 |
コレット | でもジュードたちは、途中でパティ奪還作戦の戦闘に巻き込まれたみたいで、敵に囲まれてたの。 |
イクス | 大丈夫なのか ! ? |
コレット | うん、みんな無事だよ。 |
コレット | ただ、みんな「こっちは大丈夫だからカーリャの方へ行ってあげて」って言ってたけど何だか心配なの。 |
イクス | そうなのか……。 |
コレット | カーリャが無事だったことがわかったから私、今からジュードたちの様子を見に行ってみるね。カーリャのことを心配してたから伝えてあげたいし。 |
フィリップ | いや、直接出向かなくてももう、魔鏡通信が使えるんじゃないかな。 |
イクス | 本当ですか ! ? |
フィリップ | この砦付近での大きな障害はミリーナがゲフィオンの力の影響を受けたことだ。そのせいで魔鏡結晶ができてしまったしね。 |
フィリップ | でもそれはもう……解決した。 |
マーク | そういやさっき、ローエンから通信が入ったぜ。ノイズが酷くて、何を言ってるかまでは聞き取れなかったけどな。 |
マーク | けど、原因は複数あるんだろう ?ローエンからの通信のノイズもそいつのせいか ? |
フィリップ | 多分ね。けれど、一番大きな要因はゲフィオンの力だと思う。だから、魔鏡通信は回復しつつあると見ていい。 |
フィリップ | コレット、ジュードに繋いでごらん。 |
コレット | はい。 |
コレット | ――ジュード、ジュード、繋がってる ? |
ジュード | コレット ! そっちは無事 ? |
コレット | うん。カーリャはミリーナの所へ帰れたって。イクスも隣にいるよ。 |
イクス | 心配かけてすまない。そっちの状況を教えてくれ。 |
キャラクター | 4話【7-3 ミリーナの心2】 |
バルド | ――簡単ですが、事の経緯はこんなところです。 |
ロイド | バルドの実体化も驚いたけどセールンドではそんな大変なことが起こってたのか。 |
ラタトスク | ……精霊を無理やり集めてフリンジかよ。帝国の野郎、ろくでもねえこと考えやがって。 |
しいな | まったくだね。こっちには精霊関係者も多いしフリンジが成功して、何か悪い影響でもあったら今頃どうなってたかわかりゃしないよ。 |
ジーニアス | けど、フリンジって新しい魔術を作り出すんでしょ ?何を作るつもりだったんだろう。 |
ナーザ | ディスト博士、心当たりはあるか ? |
ディスト | さあ、帝国のくだらない研究には興味がありません。この薔薇のディスト様の関心を惹きたければもっと面白い題材を用意していただかないと。 |
ロイド | ディストが関心ありそうな研究…… ?ジェイドの研究……とか ? |
マルタ | 確かに。ジェイドさんなら興味あるでしょ ? |
ディスト | 何故私がジェイド如きを研究しなければならないのですか ! ? |
バルド | まあまあ。ジェイドさんは優秀な方ですからそれを研究できる博士はもっと優秀だということでは ? |
ディスト | 私が…… ! 優秀…… !ええ……ええ ! 優秀ですとも ! |
ジーニアス | 結局、フリンジで何をする気だったかは不明なんだね。ともかく、コーキスたちが阻止してくれて助かったよ。 |
テネブラエ | はい。助けられた精霊たちに代わってお礼を申し上げます。 |
メルクリア | …………。 |
コーキス | なんだよ、メルクリア。さっきからテネブラエ様のことじっと見つめてさ。 |
メルクリア | いいや、珍しいものじゃと思ってな。獣が話すのじゃぞ ? |
テネブラエ | 獣ではありません。私は誇り高きセンチュリオンです。この世界では精霊に属していますが本来は魔物の王たるラタトスク様のしもべとして高貴なる闇を司り―― |
メルクリア | よ、よくしゃべるな。 |
エミル | 僕も最初は驚いたよ。でも、すごく頼りになるんだ。ちょっとクセが強いけどね……。 |
メルクリア | そういうお前も、さきほどからコロコロと人格が入れ替わっておるぞ ?鏡映点は変わり者が多いのう。 |
テネブラエ | はぁ……自己紹介を遮ったばかりかクセが強いだの変わり者だのと、あんまりです。私には語り切れないほどの魅力があるというのに。 |
プレセア | テネブくんの魅力……。肉球を自在に作れることでしょうか。ふにふにすると気持ちがいいです。 |
テネブラエ | プレセアさんは、またそれですか ? |
メルクリア | また ?そんなに何度も触りたくなるほど良いものなのか。 |
プレセア | はい。テネブくんは、私のいた時代よりも未来の存在ですが、その時に出会った未来の私も同じように触っていたそうです。 |
メルクリア | なるほど、肉球……。 |
プレセア | ……テネブくん。今、作ってもらえませんか ?メルクリアが触りたそうなので。 |
メルクリア | なんと ! よいのか ! ? |
テネブラエ | か、構いませんが、あのふにふにはくすぐったいんですよねぇ……。 |
プレセア | リーガルさんの体がよくなったらその時にもお願いします。きっと喜ぶと―― |
全員 | ! ! |
メルクリア | ゲフィオンの鏡像が光ったぞ ! ? |
カーリャ・N | ………っ! |
コーキス | うおわおあ ! ?鏡像からネヴァンパイセンが飛び出してきたぞ ! ? |
バルド | ネヴァン ! |
カーリャ・N | あ……バル、ド…… ? |
バルド | これは……酷い傷だ。無理に動かないで。 |
コーキス | ネヴァンパイセン、どうしたんだよ ! |
カーリャ・N | ゲフィオン様の……心の防御壁を……作って…………………………。 |
コーキス | ネヴァンパイセン ?おい、しっかりしろよ、死ぬなって ! |
バルド | 落ち着くんだ、コーキス。 |
バルド | ――誰か、回復術が使える方は ! ? |
マルタ | は、はい、少しだけなら! |
バルド | 状態はどうですか ? |
マルタ | なんとも言えない。もっと強い回復術が使えたらよかったんだけど……。 |
エミル | さっき『心の防御壁』って言ってたよね。それを作ってこんなことになったのかな。 |
バルド | しっかりしてください、ネヴァン。あなたのこんな姿は見るに堪えない……。 |
バロールの残滓 | (まったく、余計なことをしてくれた) |
バルド | この声……。 |
ナーザ | どうした、バルド。 |
バルド | お待ち下さい、ナーザ様。今、バロールが話しかけてきています。 |
コーキス | それ、頭の中に声がするやつか ? |
バルド | ええ。後で話そうと思っていましたが先ほども同じように話しかけてきたのです。私のことを尖兵と言っていました。 |
ナーザ | 尖兵だと ? |
コーキス | あいつ、俺だけじゃなくてバルドにまでちょっかい出してんのかよ。何て言ってるんだ ? |
バルド | ………………。バロールによれば、カーリャ……ネヴァンのせいで死の砂嵐にアクセスできなくなった、と。 |
ナーザ | バルド、バロールにこちらの声は聞こえているのか ? |
バルド | ええ、恐らく。 |
ナーザ | そうか。 |
ナーザ | ――バロール、いや、その残滓とやらよ。バルドは貴様の所有物ではなく俺の部下だ。俺の許可無く利用するな、無礼者め。 |
バルド | ナーザ様……。ご存じかと思いますが、相手は神ですよ ? |
ナーザ | バルド、お前もわきまえろ。人を駒としか思わぬ神など無視すればいい。我らが奉る神はダーナ神のみ。それを忘れるな。 |
バルド | 御意。元より私は御身とメルクリア様のためにある存在。どうかご心配なさいませんように。 |
ナーザ | 心配などしていない。――それで、そちらの元鏡精はどうだ。しゃべれそうか。 |
マルタ | ううん、まだ無理。ちゃんとアジトで治療しないと。 |
ナーザ | ならば待っても無駄だな。後は貴様たちに任せる。我らは調査に赴かねばならない。 |
ナーザ | ――行くぞ。バルド、メルクリア。それにコーキスとディスト博士も。 |
バルド | ……このような状態のネヴァンを残して去らなければならないのは、身を裂かれる思いです。どうか彼女を……ネヴァンをお願いします。 |
コーキス | ネヴァンパイセンのこと絶対の絶対の絶対に、元気にしてやってくれよな。 |
ロイド | ああ、任せてくれ。 |
しいな | コーキス、ちょっと待ちな。 |
コーキス | え、なんだ ? |
しいな | あんまり意地張らないほうがいいんじゃないのかい ? |
コーキス | 意地って、何が ? |
しいな | 余計なおせっかいかもしれないけどさ。もしもイクスたちに伝言があるなら引き受けるよ ? |
コーキス | …………いい。 |
しいな | コーキス……。 |
コーキス | ごめん……。ありがとな、しいな様。 |
キャラクター | 5話【7-4 ファンダリア領 森2】 |
ミリーナ | ……私……は…… ? |
イクス | ミリーナ、目が覚めたか ! |
ミリーナ | イクス……、傍にいてくれたのね……。 |
マーク | ってことは、こっちもそろそろか ? |
カーリャ | ただいま戻りましたっ ! |
マーク | よう、ちっこいパイセン。お疲れ様。鏡精の底力、見せてもらったぜ。 |
カーリャ | このくらい当然ですよ。 |
コレット | カーリャ ! 無事でよかったよぉ。 |
カーリャ | コレットさま、来てくれたんですね。さっきはありがとうございました。 |
コレット | ううん、お礼なんていいよ。私こそ途中で落としちゃってごめんなさい。凄いスピード出しながら放りだしちゃって……。 |
カーリャ | いいえ、あれはカーリャがコレットさまを無理に急がせてしまったからです。 |
マーク | それで飛べるはずの鏡精が真っ逆さまか。 |
カーリャ | そういうこともあるんですよ ! マークだって幼体のまま全速力のコレットさまに運んでもらえばわかります ! |
フィリップ | どうやらカーリャの方は問題なさそうだね。ミリーナ、異常はないかい ? |
ミリーナ | ……ええ、大丈夫。あの、フィル、私……。 |
フィリップ | ミリーナ、『その記憶』はゲフィオンのものだ。 |
ミリーナ | …………。 |
フィリップ | 勝手に作られてしまった『今のミリーナ』が体験したことじゃない。決して取り込まれてはいけないよ。 |
ミリーナ | ……努力します。 |
フィリップ | それと、ネヴァンのこともだ。今は目の前のことに対処しないといけない。わかるね ? |
ミリーナ | ええ……。 |
フィリップ | ……まあ、その、僕も色々と恥ずかしかったりみっともなかったり、情けないことを言ったから正直……かなり居心地が悪いんだけれど……。 |
マーク | ……なんだ。また恥の上塗りをしたのか? |
イクス | 恥ずかしくなんてないって、俺は思います。 |
フィリップ | そう言われると余計に……。 |
イクス | わ……そ、そうですか、すみません ! |
イクス | え、えっと……ミリーナ、少し休んでくれ。まだ混乱してるだろう? |
ミリーナ | いいえ、大丈夫よ。戦況はどうなっているの ? |
イクス | 陽動部隊は救世軍の力を借りて立て直し中だ。それと、パティの心核を手に入れたからユーリさんに渡さないといけない。 |
フィリップ | そのことだけど、休眠中だったパティの心核を目覚めさせておいたよ。ほら、これだ。 |
イクス | あ、ありがとうございます、フィルさん !さすが、仕事が早いですね。じゃあ、俺、ユーリさんに連絡してみます。 |
イクス | …………あれ ?通信が届いていないのかな。反応しない。 |
ミリーナ | 出られないのかも。通信文だけでも送っておいたらどうかしら ? |
イクス | そうだな。ええと、到着までの時間も考えないと……。 |
コレット | 私、先にユーリたちのところへ行ってみるよ。飛んでいった方が断然早いでしょ ? |
イクス | 助かるよ ! パティのことは一刻を争うんだ。 |
イクス | ミリーナとカーリャも、コレットと一緒に行ってくれ。心核を扱うから鏡士が必要だ。俺も後から追いかける。 |
ミリーナ | ええ、わかったわ。コレット、よろしくね。 |
コレット | うん。頑張ればイクスも一緒に運べるけど今はスピード重視だもんね。 |
ミリーナ | ところでユーリさんたちの居場所はわかっているの ? |
イクス | ああ。ジュードたちの情報で目安はついている。そこから先は、魔鏡通信が繋がるチームと連絡を取りながら行動しよう。 |
コレット | わかった。ミリーナ、カーリャ、行こう。 |
イクス | 気を付けてな ! |
イクス | ええと、後は―― |
フィリップ | イクス、きみも今すぐに発つといい。砦のほうは僕たちで持たせておくよ。 |
マーク | ってことだ。さっさと片付けて来いよ。 |
イクス | ……フィルさん、マーク、ありがとう。俺、二人がいてくれて本当によかったって思ってる。 |
イクス | ――じゃあ、行ってきます。 |
フィリップ | ……僕がいてよかったって。 |
マーク | そう思ってる奴は他にもたくさんいるんだぜ ?いい加減、気づけっての。 |
カイル | あっ、あそこだ ! |
リアラ | イレーヌ、あんな所に隠れていたのね。 |
ナナリー | ったくなんなんだい !もうずっと逃げちゃ隠れ、逃げちゃ隠れ……。子供の遊びじゃあるまいし。 |
ロニ | おい、イレーヌさんよ !もういい加減に観念しろって ! |
ジューダス | そう言われて諦める馬鹿はいない。 |
ロニ | うるせー、わかって言ってんだって ! |
ジューダス | 美女を追いかけるのは役得だとか言ってたがさすがのお前でも我慢の限界か。 |
ハロルド | けど、おかげでだいたい読めたわ。あいつの目的はこの先にある帝国軍の基地よ。 |
ハロルド | あちこち隠れながらだけど確実にある場所へ近づいているから。 |
ジューダス | そこが帝国軍の基地というわけか。 |
ハロルド | そういうこと。領主の館が襲撃を受けた今この辺りじゃ一番守りが固くて兵が多いはず。逃げ込むには妥当でしょ。 |
ハロルド | でも、それだけじゃ腑に落ちないことがあるのよね。 |
エルレイン | イレーヌ、やはり基地に向かっていたか。 |
イレーヌβ | ――エルレイン様。 |
カイル | エルレイン ! ? |
エルレイン | …………。 |
リアラ | エルレイン、何故あなたがここに ! |
エルレイン | イレーヌ、デミトリアスはどこか。 |
ロニ | 無視かよ……なめやがって。 |
イレーヌβ | デミトリアス陛下であればアスガルド城でしょう。向かわれますか ? |
エルレイン | ええ。今すぐに。 |
イレーヌβ | 承知しました。 |
ハロルド | 転送魔法陣…… !そんなものが使えるなら、なんで今まで―― |
ナナリー | あいつ、逃げちまうよ ! |
ロニ | 逃がすか ! |
カイル | オレたちも――うわっ ! |
ジューダス | 魔法陣が消えた ! ?おい、もう一度展開できないのか ! |
ハロルド | これは無理ね。痕跡がまったくないもの。ということは……そもそもエルレインだけを……そうするために準備していた……? |
リアラ | ねぇ、エルレインはデミトリアスの所に行こうとしていたわよね。 |
ジューダス | ああ。このままだと、ロニとナナリーは二人だけで敵地の只中に放り出されてしまう。 |
カイル | ロニ、ナナリー…… ! |
キャラクター | 6話【7-5 アスガルド城1】 |
イレーヌβ | それではエルレイン様私は謁見の申し入れをして参ります。 |
エルレイン | 必要ない。デミトリアスは何処か。 |
イレーヌβ | 今時分であれば謁見の間かと。 |
エルレイン | では直接赴く。行くぞ。 |
イレーヌβ | 承知しました。 |
イレーヌβ | ――………… ? |
エルレイン | どうした。 |
イレーヌβ | 転送魔法陣がまだ閉じない……。申し訳ありません、どうやら賊が侵入したようです。 |
エルレイン | 構うな、捨て置け。 |
ロニ | ここは…… ?――って、今の後ろ姿、エルレインだ ! |
ナナリー | カイルたちは来られなかったみたいだね。転送魔法陣は消えちまったし……。あんたと二人だけか。 |
ロニ | なんだよ、不満か ? |
ナナリー | いいや、頼りにしてるよ。 |
ロニ | お ! ? ……おお。イレーヌを捕まえるのは難しくなっちまったができるだけ情報収集はしておこうぜ。 |
エルレイン | デミトリアスはいるか ! |
帝国兵 | エルレイン様 ! ? どうかお待ちを―― |
デミトリアス | ……エルレインか。 |
帝国兵 | 申し訳ありません。お止めしたのですが。 |
デミトリアス | いや、いい。彼女とはゆっくり話がしたい。謁見の間の周囲の人払いを。警備兵も今だけは下がらせておけ。 |
帝国兵 | はっ。 |
デミトリアス | ――さて、随分と急な訪問だ。良い報告だと嬉しいのだがね。 |
エルレイン | よくもぬけぬけと。貴様、フォルトゥナ神を具現化する気など最初からなかったのだろう。 |
デミトリアス | そんなことはない。ただ、この世界ではどう足掻いても異世界の神はエンコードで矮小化してしまう。 |
デミトリアス | それは、きみの力が酷く弱まっていることで身をもって実感しているはずだ。弱体化した神など望んではいないだろう ? |
エルレイン | その話と、貴様たちがフォルトゥナ神の降臨を騙ったことに何の関係がある。 |
デミトリアス | 大いにある。私たちは、まずこの世界の神と呼ばれる存在を引きずり出し、神という概念を書き変えるしかないと考えたのだ。 |
デミトリアス | そうすれば、異世界の神も具現化できるようになるかもしれない。 |
デミトリアス | その時こそ、真のフォルトゥナ神の降臨となるだろう。きみの望む救済はそこから始まる。奇跡の力が、人々に救いをもたらすんだ。 |
エルレイン | 全てを消滅させた後で神を具現化したとしてそれが救済と言えるのか ? |
デミトリアス | ……どこまで知っているのかね ? |
エルレイン | 帝国が救うべき人々を見捨てこの世界を滅ぼそうとしていること。 |
エルレイン | すでに滅びた世界であるニーベルングを造ろうとしていること。 |
エルレイン | そして、皇帝を名乗るあなたが孤独で侘しく、誰よりも救われたいと願う弱い人間だということです。 |
デミトリアス | …………。 |
グラスティン | 全てお見通しとは、さすが聖女様だ。しかも皇帝陛下をも憐れむ心をお持ちでいらっしゃる。 |
エルレイン | ……グラスティン。 |
グラスティン | そんな聡明なお方が、俺たちの目を盗んであっちこっち嗅ぎまわっていたらしいなぁ。犬のように。 |
エルレイン | 犬を使って私を探っていたのは貴様であろう。 |
グラスティン | ヒヒヒッ。聖女様の頭が固すぎるからだよ。人々の救済とやらに執着しすぎだ。 |
グラスティン | 世界を消滅させた後だって救済はできるだろう ?新たに救済するべき『人』を作ればいいんだからな。 |
エルレイン | 貴様……、本気で言っているのか。 |
グラスティン | お気に召さないか? それじゃあ仕方がないなあ。聖女様には最後の役割を務めてもらおう。 |
エルレイン | これは…… ! ? |
グラスティン | 【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。 |
エルレイン | グラスティ―― |
グラスティン | 聖女様出棺だあ。よくやったな、イレーヌ。 |
イレーヌβ | ありがとうございます。 |
デミトリアス | イレーヌはよく働いているようだね。 |
グラスティン | ああ。聖女様は、俺がサレを使っていることに気を取られていたから、従順なイレーヌが裏切るとは思わなかっただろうよ。 |
グラスティン | おかげでこの魔鏡陣にも気づかれずに誘導することができた。ヒヒヒッ。 |
デミトリアス | そう、だな……。 |
グラスティン | おーい、あの女の言うことを真に受けるなよお ? |
デミトリアス | わかっている。わかってはいるが彼女の望みを叶えて上げられなかったことが悲しいのだ。 |
グラスティン | ヒヒヒ、お前は本当に面白いなあ……。目に入る範囲の全てに同情し手の届く範囲全てに手を差し伸べる。 |
グラスティン | そうして、結局は手に負えなくなって手放すんだ。『誰かいい人に拾われてね』ってな。最高の絶望演出家さあ ! |
デミトリアス | …………っ ! |
帝国兵伝令 | グラスティン様 ! 至急お戻りください。 |
グラスティン | あ ? 何が起きた。 |
帝国兵伝令 | それは……来ていただいた方がよいかと思います。グラスティン様の私的な件でもありますので。 |
グラスティン | ……なるほど。ちょっとヤボ用が出来た。今から出てくる。 |
デミトリアス | わかった……。後は引き受けるよ。 |
グラスティン | そうそう、外に出るついでに『レプリカの心核』も回収しておかなきゃな。イレーヌ、お前も来い。 |
イレーヌβ | はい。グラスティン様。 |
ロニ | おい……、俺たち、ヤバイもの見ちまったんじゃねえか ? |
ナナリー | 嘘だろ、あのエルレインが……。 |
ロニ | あいつら、奇跡の力がどうとか言ってたよな。エルレインはそのために嵌められたのか ? |
ナナリー | あっ、グラスティンとイレーヌが行っちまうよ ! |
ロニ | 考える時間もないってか。くそっ、追うぞ ! |
キャラクター | 7話【7-6 アジト】 |
リフィル | 浮遊島全域で、魔鏡通信の復活を確認したわ。 |
リフィル | 外部との通信が安定するにはもう少しかかるでしょうけどこの分ならほぼ問題なく繋がる筈よ。 |
ジェイド | 根本的な原因が解消されたのでしょう。これでようやく地上に降りているチームに連絡が取れる。 |
リフィル | あら、言っている間に連絡が来たみたい。――カイル、そちらは無事 ? |
カイル | リフィル先生 ! ロニとナナリーが大変なんだ ! |
リフィル | では、二人はアスガルド城にいる可能性が高いのね。 |
カイル | うん。オレたちも助けに行きたいけどここからじゃ遠すぎるんだ。 |
リフィル | わかっています。彼らの救出はスタンたちのチームに動いてもらうわ。 |
ジェイド | それと、ケリュケイオンにも連絡を。ローエンがいれば何かしらの際に対処してくれるでしょう。カイルたちも、それでいいですね ? |
カイル | 了解。それとスタンさんたちに伝えて欲しいんだ。ロニとナナリーを頼みますって。 |
リアラ | 良かった……。少しだけ安心したわ。 |
カイル | でもさ、オレたちが魔法陣に飛び込むのがもう少し早ければこんなことにはならなかったのにって思うと……。 |
ハロルド | いいえ、行かなくて正解かも。イレーヌは転送魔法陣を使っていたけど自分が逃げる時には使わなかったでしょ。 |
ハロルド | 普通の転送魔法陣より消えるのも早かったし痕跡も残らなかった。なんか不自然なのよねぇ。 |
ジューダス | 確かに。むしろエルレインが来なければ使う予定さえなかったようにも思えるな。 |
リアラ | ……まさか、エルレインは……。 |
ハロルド | ま、今考えても出ない答えは後回ししましょ。それで、これからどうする気 ? |
カイル | イクスたちに合流しようと思ってる。 |
ジューダス | ――待て。……誰かいる。 |
カイル | あれは、ディムロスさんだ ! |
ディムロス | ……………………。 |
カイル | え ? 何かのサイン ? |
ハロルド | そのまま静かに、この先の茂みに身を隠せって。行くわよ。 |
ディムロス | 驚かせてすまない。あの辺りは帝国兵が頻繁に現れるからな。 |
カイル | どうしてディムロスさんがここにいるんですか ? |
ディムロス | そうか、きみたちはイクスくんと別行動だったな。どこまで把握している ? |
カイル | ついさっき、ジェイドさんたちから聞いて大まかな動きだけは知っています。 |
カイル | けど、さっきまで魔鏡通信が使えなかったから少し前の情報ばかりなので詳しいことは調査中だそうです。 |
ハロルド | ちなみに今は通信可能よ。まだ不安定だけどね。で、そっちは ? |
ディムロス | ファンダリア領の研究施設に魔核が大量に運び込まれたとの情報を得てイクスくんたちと協力しつつ回収作戦に当たっていた。 |
ディムロス | だが、魔核の保管場所を移されてしまってな。ちょうど輸送中の敵と鉢合わせして戦ったんだが転送魔法陣で逃げられた。 |
ハロルド | で、後を追っかけて魔法陣に飛び込んだわけ ? |
ディムロス | ああ。転送先は帝国の基地だった。さすがに身を隠さざるを得ず輸送していた者たちを見失ってしまった。 |
カイル | だったら捕まえましょう !どんな奴らだったんですか ? |
ディムロス | カイルくんたちと同じくらいの少年と少女だ。少女の方は魔物使いで、アリエッタと呼ばれていたな。 |
ハロルド | アリエッタ……。ふうん……そう。 |
ジューダス | それで、基地を脱出して今に至るというわけか。 |
ディムロス | そんなところだ。だが、魔核の行方は突き止めた。【魔導砲】に使用するために運ばれているらしい。今も基地から魔導砲への輸送隊が送り出されている。 |
ハロルド | ちょっ、魔導砲 ! ? |
ディムロス | あまり大きな声を出すな。今も言ったが、輸送隊と護衛の兵がこの辺にも―― |
ハロルド | 出さずにいらんないって ! キール研究室ではね魔導砲は虚無を破壊する装置じゃないかって推測されてるんだから。 |
カイル | 虚無を破壊っていうと……。 |
リアラ | 虚無はティル・ナ・ノーグを取り巻く空間よ。死の砂嵐……カレイドスコープで消えた人々の魂はそこに捕らえられて苦しんでいるわ。 |
カイル | そうそう、それ !それを壊せるなら、いいことなんじゃないの ? |
ハロルド | バカね。もしも虚無が消えたらティル・ナ・ノーグそのものが消滅するわよ。 |
カイル | ええっ ! ? |
ハロルド | 帝国の目的が、ティル・ナ・ノーグの破壊とニーベルングの復活ならもう計画は最終段階ってことね。 |
ジューダス | だとすれば、アリエッタたちを追うよりも魔核の輸送隊を追った方がいいだろう。 |
ディムロス | ああ。魔導砲の稼働を止めねばならん。 |
| その頃、魔核の輸送隊とともに魔導砲へと向かっていたパティは―― |
? ? ? | タイダルウェーブ ! |
帝国兵たち | うわああっ ! |
輸送隊隊員A | 弓兵だ ! |
輸送隊隊員B | くそっ、足を……。動けな……。 |
帝国兵 | 待ち伏せされたか ! ?狙われているぞ ! 少女を渡すな ! |
パティ | …………。 |
帝国兵 | いったいどこ……から……。……………………。 |
パティ | …………。 |
ユーリ | さっきの奴が最後の護衛ってとこか。 |
レイヴン | 取り巻きは全部片付けたわよ。 |
ユーリ | ――パティ、今度こそ迎えに来たぜ。 |
パティ | ! ! |
デューク | あの娘、戦う気だぞ。 |
ユーリ | やっぱそうなるか。仕方ねぇ。パティ、悪いがちょっと痛いぜ ! |
キャラクター | 8話【7-7 ファンダリア領 森3】 |
ユーリ | ふぅ……やっと大人しくなってくれたな。 |
レイヴン | 結構きつかったわ……。おっさんヘトヘト。 |
カロル | ボクも……。リタ、パティにはそんなに力が残ってないって言ってたのに……。 |
リタ | それだけ【鏡の精霊】としての力が強いってこと。 |
ジュディス | 手加減しながら戦っていたのも原因じゃないかしら ?パティに大きな怪我はさせられないものね。 |
カロル | ジュディス……手加減してた ? |
ジュディス | ふふふ。それなりに。 |
エステル | あとはイクスたちが来てくれればパティも元通りですね ! |
フレン | その筈ですが……、まだ姿は見えないようです。 |
カロル | 今はジュードたちが手分けして監視してくれてるけどここには長く居ないほうがいいよね ? |
ユーリ | ああ。だが、ギリギリまで待ってみようぜ。イクスたちを信じてな。 |
コレット | ミリーナ、ユーリたち、あそこにいるよ。 |
ミリーナ | みんな、待たせてごめんなさい ! |
全員 | ミリーナ ! |
カロル | コレットに送ってもらってきたんだね。イクスは ? |
ミリーナ | 後から追いかけてくる筈よ。パティの心核を持ってきたからすぐに交換しましょう。 |
エステル | どうです ? 上手くいったでしょうか。 |
ミリーナ | ええ、交換終了よ。パティの心核はちゃんと戻したから、安心して。 |
エステル | ありがとうございます ! |
ミリーナ | もう少し遅かったらパティの肉体も作り替えられていたかもしれない。ギリギリだったわ。 |
リタ | そう、急いでよかった……。 |
ミリーナ | それとこれが、今までパティに入っていた疑似心核――聖核よ。 |
デューク | これが我が友だと…… ? |
ミリーナ | こんな状態、私も初めて見たわ。キメラ結合でこうなってしまっているのね。 |
ユーリ | くそっ、サレの言った通りかよ。 |
エステル | ミリーナ、この聖核はデュークにとって掛け替えのない大事な友人なんです。何とかなりませんか ? |
ミリーナ | 大事な友人……。あの……デュークさん。あなたのご友人をお預かりしてもいいでしょうか。 |
デューク | 元に戻せるのか ? |
ミリーナ | ……かなり複雑な結合状態ですが、私たちの拠点で結合を解くことができないか確認してみます。 |
ミリーナ | もちろん、デュークさんも一緒にアジトへ来て頂いて構いません。 |
デューク | ……拠点とやらまでは、私が我が友を運ぶ。 |
スレイ | お前は ! |
カロル | 今の声、スレイだ ! |
ユーリ | 行くぞ、襲撃かもしれねえ。 |
フレン | ミリーナはパティを見ていてくれ。 |
ユーリ | おい、いったい何が―― |
全員 | ! ! |
グラスティン | ほう ! お前いいな、最高だ !長さといい艶といい……ヒヒッ、ヒヒヒッ ! |
ラピード | グルルルルゥ…… ! ワンワンワン ! |
ユーリ | ……死んだんじゃねえのかよ。 |
カロル | ニ、ニセモノとか…… ? |
リタ | あのキモい反応、間違いなく本物よ。 |
スレイ | 突然現れたんだ。まさか生きてたなんて。 |
ザビーダ | んなわけねえ。あの時は呼吸だって止まってたぜ。 |
ユーリ | あの時……。そうか、その後、死体がどうなったか確認しちゃいなかったな。 |
ユーリ | てめえのレプリカでも作ったか。グラスティン。 |
スレイ | レプリカ ! ? |
ユーリ | お前らもリーガルの一件、聞いてるだろ。 |
ライラ | この世界で作られたレプリカは、不完全でも被験者の記憶を共有できる可能性がある――でしたよね。 |
リタ | そう。ロイドたちの話では、レプリカの心核が崩壊したのと一緒に、身体も消えたらしいけど。もし、こいつの死体に心核が残っていたら ? |
エドナ | 死体は残る……。じゃああの時死んだのはレプリカというわけね。 |
グラスティン | ヒヒッ。さて、どうだろうなぁ。 |
フレン | どちらにしろ、お前にパティは渡さない。その悪趣味な黒髪狩りも止める。 |
グラスティン | 心配しなくても、あの聖核はもう用済みだ。娘ごと、そのまま返してやるよ。 |
グラスティン | そこの黒髪は……本当なら意地でも手に入れて持ち帰るところだがな。惜しいが今だけは見逃してやる。 |
ユーリ | そりゃどうも。で、てめぇの目的はなんだ。 |
グラスティン | 聖核もお前も見逃してやる代わりにサレの行方を話せ。 |
ユーリ | …………なんのことだよ。 |
グラスティン | とぼけなくていい。この森に来た筈だ。銀髪の男が追っていたと、目撃情報がある。 |
デューク | …………。 |
グラスティン | やはり戦ったんだな ? その後、どこに行った。 |
ユーリ | だから知んねえって。 |
グラスティン | ふん……どちらにしろ役立たずか。いっそお前らが息の根を止めてくれればよかったのによぉ……。 |
グラスティン | まあいい。サレがいないなら、ここに用はない。また会おうぜ、ヒヒヒッ。 |
ミクリオ | 転送魔法陣か。どうりで突然現れたように見えたわけだ。 |
ユーリ | みんな、周辺の警備に行ってる奴らにも連絡して集まってくれ。今後について話がある。 |
ミリーナ | そう。パティを連れてケリュケイオンへ行くのね。 |
ユーリ | ああ、心核の交換は済んでるがしばらく目は覚めないだろ。安全な所で休ませる。 |
ユリウス | 今なら魔鏡通信も繋がっているようだ。ケリュケイオンに連絡をとってみよう。 |
カロル | よし、全員で撤退準備だね。 |
ユーリ | いや、オレは残る。気になることがあるんでな。 |
フレン | また君は……。何を調べる気だい。 |
ユーリ | あいつが言ってただろ。「聖核は用済み」って。パティのことも気にかけちゃいなかった。 |
ユーリ | 自分のレプリカ使ってまで【鏡の精霊】を作る準備をしてたんだぜ ?なのに、全く執着がねえってのもおかしな話だ。 |
ユーリ | で、思ったんだけどよすでに【鏡の精霊】を手に入れていたとしたらどうだ ?レプリカで。 |
スレイ | 【鏡の精霊】のレプリカ ! ? |
フレン | 突拍子もないな。それを確かめるために残るっていうのか。 |
ユーリ | 他にもあるぜ。あいつのレプリカが死んだ理由と意味がわからねえ。 |
レイヴン | 死の意味ねぇ……。何にしろ、パティちゃんを回収して「はい解決」ってわけじゃないのは確かだけどさ。 |
スレイ | う~ん……。ユーリ、その調査オレたちが引き受けるのはどうかな。 |
ユーリ | お前らが ?聞いた通り、これは全部オレの推測だ。空振りかもしんねえぞ。 |
スレイ | うん。でもさ、やっぱりユーリたちはみんなでパティの側にいた方がいいと思う。 |
ミリーナ | そうね。だってユーリさんたちはパティを救いに来たんでしょう ? |
ミリーナ | だったら、聖核もパティもユーリさんたちみんなも無事に帰還することでようやく救出作戦のゴールだと思うの。 |
ユーリ | ……なるほどな。オレの仕事は中途半端ってわけか。 |
ミリーナ | そういうわけじゃないわ。でも……。 |
フレン | いや、スレイやミリーナの言う通りだよ。一本取られたね、ユーリ。 |
ユーリ | ああ、確かにこいつはオレの負けだ。スレイ、後は頼んだぜ。 |
スレイ | ああ、任せてくれ。――それじゃみんなオレたちは帝国の基地へ調査に行ってくる。 |
ユーリ | デューク、あんたにも一緒に来てもらうぜ。 |
デューク | ……やむを得ぬ。 |
ユリウス | ではジュードたちにも一緒にケリュケイオンへ移動してもらおう。パティには医療の力が必要だろう。 |
ジュード | うん、そうだね。それに救世軍側も戦力不足だろうし調査班は最小限にした方がいいかもしれない。 |
ルドガー | そうか……。あっちも人手が足りない様子だったな。とはいえ、スレイたちだけを残すのも心配だが……。 |
ミリーナ | だったら私がスレイさんたちと一緒に行くわ。イクスがこっちに向かっているし連絡して、基地で合流しようと思うの。 |
コレット | 私もミリーナたちと一緒に行くよ。きっと役に立てると思うから。 |
セネル | 俺とシャーリィはケリュケイオンに戻る。グラスティンがうろついてるとなると、シャーリィに何か悪影響があるかも知れないからな。 |
シャーリィ | お兄ちゃん。わたしなら、大丈夫。【鏡の精霊】のことを調べるならわたしも役に立てるかも―― |
ミクリオ | いや、セネルの判断が正しい。シャーリィ、僕たちを信じてくれ。 |
シャーリィ | ……そうですね。わかりました。皆さん、気を付けて下さいね。 |
キャラクター | 9話【7-9 アスガルド城2】 |
ウッドロウ | さすが帝国の本拠地、アスガルド城だ。警備が固いな。 |
スタン | やべっ、あんなところにも兵士がいる。一瞬、目が合ったかと思ったぜ。 |
リオン | 気をつけろ ! 見つかっていないだろうな。 |
スタン | ああ、大丈夫 ! ……だと思うぜ、多分。 |
ルーティ | それより、デクスはまだなの ? |
フィリア | ジェイドさんが連絡をつけてくれている筈ですがこの警戒網の中です。自由がきかないのかもしれません。 |
帝国兵 | おい、そこの ! |
スタン | まずい ! さっきの帝国兵だ ! |
デクス | オレだ、愛の使者デクス !さっきスタンの顔が見えてな、探す手間が省けたぜ。 |
ルーティ | あんた、やっぱり見つかってたんじゃない ! |
スタン | け、結果オーライだって。な ? |
デクス | 時間がないから聞け。ロニたちはグラスティンに捕まったぜ。二人は今から別の城に運ばれる。 |
帝国兵 | おい、そこ、誰かいるのか ! |
デクス | ――くそっ !もう少しで裏門の方から馬車が出る。二台目を襲え。いいな ! |
フィリア | あ、慌ただしいですね……。 |
ウッドロウ | 私たちもここを離れよう ! |
スタン | は、はい ! |
リオン | この辺りなら大丈夫だろう。城の裏門も見える。 |
スタン | よし ! 今のうちにアジトへ連絡を入れておこう。 |
スタン | スタンです。デクスに会えました。 |
リフィル | そう、良かったわ。それでロニたちは大丈夫 ? |
スタン | それが……二人はグラスティンに捕まったそうです。別の城へ運ばれるのでこれから救出作戦に入ります。 |
リフィル | わかったわ。みんな、気を付けてね。 |
クレア | リフィルさん ! さっきの観測データに間違いはありません。 |
マリアン | こちらもです。やはり異常値を示しています ! |
リオン | マリアン…… ?おい、後ろが騒がしいようだが、何があった。 |
リフィル | 耳聡いわね。実はファンダリア領で、また新たに正体不明の精霊の力を観測したの。しかも精霊の力が凝縮した、とてつもない力よ。 |
リオン | 計器は直っていた筈だな。発生源はどこだ。 |
リフィル | イクスや救世軍が戦闘をしている辺りね。 |
ルーティ | スタン、裏門の様子が変よ。兵士が集まって来てる。 |
スタン | わかった。――リフィルさん、また後で連絡します ! |
フィリア | ファンダリア領で何が起きているのでしょう……。 |
スタン | イクスたち、大丈夫かな。 |
ウッドロウ | 心配は尽きないが、今の我々にできるのはロニ君とナナリー君の救出だけだ。 |
ルーティ | そうよ。カイルたちに言われたでしょ。二人を頼むって。 |
スタン | そうだな。まずは俺のやるべきことをやる ! |
リオン | おい、馬車が出てきたぞ。一台……二台目 ! あれだ ! |
スタン | 行こう ! 待ってろよ、ロニ、ナナリー ! |
グラスティン | 【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。 |
カイル | ペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! ! |
エルレイン | (またか……。もう何十回、いや、何百回、この言葉を聞いただろう) |
リアラ | エルレイン ! あなたはまちがっているわ !こんなやり方で、人々は救えはしない ! |
エルレイン | (私は、フォルトゥナから生まれ【クロノスの檻】に落とされるこの生を何百――いや何千回繰り返したのか……) |
エルレイン | (上も下もなく、永劫人生の記憶を見せられる。これが……【クロノスの檻】……) |
リアラ | いいえ、わたしは信じているわ。人間の強さを……カイルたちを ! |
エルレイン | (本当にそうだろうか) |
? ? ? | ううっ、痛い……苦しい……。なんでこんな目に……。 |
? ? ? | 辛いんだ……助けてくれ……。もう楽にしてくれ……。 |
? ? ? | 憎い……羨ましい……妬ましい……。アニマを……アニマをよこせぇえええっ ! |
エルレイン | (いや、リアラが思うほど、人間は強くない。その証拠に、この場に漂う人々の残滓はいまだ救われぬまま悲鳴を上げているではないか) |
エルレイン | (そうか……。ここは……虚無、なのか ?) |
ジューダス | ……なぜ ? …………フッ、貴様は……やはりなにも……わかっていない。 |
グラスティン | 【クロノスの檻】だ。そこで大人しくしていろ。 |
カイル | ペンダントを返せ ! それは、あの子のだ ! ! |
エルレイン | (ああ、まただ。同じようにまたペンダントを……) |
エルレイン | (ペンダント……。精霊クロノスの力が私のペンダントに反応して暴走している……。グラスティン、お前は一体、何が目的で……) |
ハロルド | 明らかに論理が破たんしてるわね。救うために破壊する ?そんなことはありえないわ。 |
デミトリアス | ティル・ナ・ノーグがニーベルングと同じ過ちを犯さぬように、あらゆる手を尽くす必要がある。それが非道であったとしても。 |
エルレイン | (あの男の救済……。私の救済……。救済とはなんだ…… ?) |
エルレイン | 案ずることはない。 |
エルレイン | お前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。 |
エルレイン | そして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。 |
エルレイン | いまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。 |
エルレイン | (私は、元の世界であの者と同じことを……言うのか…… ?) |
エルレイン | (帝国の行いは愚かだ。だがそれはフォルトゥナを呼べぬ世界で破壊を選んだからだ。私は違う……私は……) |
イクス | 神降ろしが失敗したのはわざとそうさせられたんじゃないでしょうか。 |
リアラ | いいえ……ふたりの聖女は神より生み出されしもの。いうなれば神の化身……神の存在が消滅するときわたしとエルレインもまた……。 |
エルレイン | (リアラ……もう一人の聖女……) |
ディムロス | 見ろ、あれが魔導砲だ。 |
カイル | うわぁ、まるで塔みたいだ。 |
ハロルド | ズルい ! 私も作りたかったー ! |
リアラ | ハロルドったら、そんなこと言ってる場合じゃ…………えっ…… ? |
カイル | どうしたの、リアラ。 |
リアラ | 今、エルレインの声が聞こえた気がして……。 |
ジューダス | 近くにいるのか ! ? |
ディムロス | 警戒しろ。ここで邪魔をされるわけにはいかない ! |
クラトス | お前たち ! 何故ここにいる。 |
カイル | クラトスさん ! そっちこそなんで ? |
クラトス | 魔導砲の情報を聞いて、周辺を探っていたのだ。 |
ハロルド | 丁度いいわ。その辺にエルレインいなかった ?他にも何か変わったこととか。 |
クラトス | エルレインの姿は見ていない。だが、私の体内のマナがざわつくような妙な気配は感じている。 |
ハロルド | マナか……。魔導砲と関係があるのかしら。他に何か魔導砲に関連することは ? |
クラトス | 先ほど魔導砲に、魔核と【精霊石】なるものが届いたようだ。 |
ハロルド | 精霊石 ! ? 帝国はもう、そんなものまで作ってたのね。 |
クラトス | 知っているのか ? |
ハロルド | 精霊石は、精霊を砲弾にしたものよ。 |
クラトス | 砲弾…… ! ユーリたちから魔導砲で精霊を撃ち出す計画があるとは聞いていたがそういうことだったか。 |
カイル | どうしよう。魔導砲が使われたらティル・ナ・ノーグが滅ぶかもしれないんだろ ? |
ハロルド | 多分、それはまだよ。実験もしないで本番だなんて、リスク高いでしょ ?あいつらもそこまで馬鹿じゃない筈よ。 |
ハロルド | けど、そこまで準備が整っているなら実験する気満々でしょうね。街一つくらいは吹っ飛ぶわよ。 |
ジューダス | ならば実験を阻止すればいい。精霊石を奪えば、今回の計画は止められるだろう。 |
カイル | なら決まりだね。魔導砲の砲台に向かおう ! |
クラトス | よし、私もお前たちに協力する。魔導砲の内部へ案内しよう。 |
キャラクター | 10話【7-11 ファンダリア領 研究施設】 |
ヴィクトル | シャルティエ、ディムロスはここで戦っていたのか ? |
シャルティエ | ええ。間違いありません。どこに行ったんだろう……。まさか負けたわけじゃないよな。 |
ヴィクトル | これは…… !見ろ。転送魔法陣の跡だ。 |
シャルティエ | 敵はこれで逃げたのかもしれませんね。……ってことはまさか、ディムロスは追っていったのか ! ? |
ヴィクトル | 単身でか。無茶をする。 |
シャルティエ | そうなんですよ、あの突撃兵。これじゃどこに行ったのかわからないじゃないか。 |
ヴィクトル | ……この転送魔法陣、かなり雑に閉じているな。敵も相当焦っていたか。これならば、もう一度くらい起動できるかもしれない。 |
シャルティエ | 本当ですか ! ? お願いします、ヴィクトルさん。 |
ヴィクトル | やってみよう。もし起動したら、すぐに陣に飛び込め。 |
ヴィクトル | 成功だ、行くぞ ! |
シャルティエ | はい ! |
シャルティエ | ここは……帝国軍の基地だ。 |
ヴィクトル | このままでは兵士に見つかる。一度、人気のない所へ隠れよう。 |
シャルティエ | この辺りなら―― |
ミリーナ | この辺りなら―― |
全員 | ええっ ! ? |
ミリーナ | ヴィクトルさんに、シャルティエさん ! ?ディムロスさんと研究施設に潜入中だったんじゃないんですか ? |
シャルティエ | その筈だったんだけどね。ディムロスが敵と遭遇したあと転送魔法陣でここに来たようなんだ。 |
ヴィクトル | 我々はその後を追って来たんだ。君たちは何を ? |
ミリーナ | ここへは調査に来たんです。これからイクスと合流する予定なんですがまさかシャルティエさんたちと会うなんて。 |
シャルティエ | イクスくんと合流 ? 少し前と状況が違うな。そっちも複雑な経緯があるみたいだし今のうちに互いの情報の交換を―― |
ヴィクトル | しっ、誰か来る。 |
帝国兵 | 魔導砲の試射が始まるぞ ! |
帝国兵 | 衝撃に備えろ ! |
全員 | 魔導砲 ! ? |
ルキウス ? | いいね。ここならよく見えそうだ。 |
ロミー | 面白いものを見せるって、魔導砲の試射だったのね。 |
ルキウス ? | 試射とはいえ、島一つが消し飛ぶ威力だ。見ごたえがあると思うよ。 |
ロミー | それはさぞ爽快でしょうね。ふふふ……。 |
カイル | はあ……はあ……ここが魔導砲の最上部 ! ?結構敵を倒してきたけど……。 |
ディムロス | どうやらそのようだ ! |
クラトス | まだ敵がいる。気を抜くなよ。 |
帝国兵 | ――き、貴様ら、何者だ ! ? |
リアラ | エアプレッシャー ! |
帝国兵 | ううっ ! ! |
リアラ | しばらく動けない筈よ。今のうちに ! |
ハロルド | サンキュー !ええと、多分あそこがコントロールルームね。ん~、この感じ、わくわくするわ♪ |
ジューダス | するな ! それで精霊石の場所はどこだ ! |
ハロルド | 砲弾として装填済みでしょうね。取り出すにはまず、発射停止命令を出さないと。 |
ハロルド | なるほど。オートモードになってるのか。となると、解除には、ここが、これで……。 |
ハロルド | ……何これ、性格悪っ。 |
カイル | どうしたの ? |
ハロルド | 今回の試射実験、自動操縦での停止命令プログラム自体がないわ。開始したら最後、絶対に発射するようになってる。 |
ディムロス | つまり、もう止める方法がないということか ? |
リアラ | そんな……。やっとここまで来られたのに。 |
ハロルド | させないわよ。せめて出力を最低まで弱めて被害を抑えるわ。あいつらに一泡吹かせてやりましょ。 |
リアラ | ハロルド……。 |
全員 | ! ! |
カイル | リアラのペンダントが光ってる ! |
? ? ? | (リアラ……) |
リアラ | 今のはエルレインの声……ペンダントから ?エルレイン、あなたなの ? |
エルレイン | リアラ……。 |
リアラ | やっぱり。はっきり聞こえるわ ! |
カイル | あっ、魔鏡通信が ! |
ジューダス | こんな時に誰だ。間の悪い奴め。 |
ロニ | カイル ! ようやく繋がったぜ ! |
カイル | ロニ ! 良かった、無事だったんだね ! |
ロニ | ああ、スタンさんたちのおかげで俺もナナリーもピンピンしてる。 |
ジューダス | フッ、確かにお前らしい間の悪さだ。とりあえず無事ならそれでいい。こっちは立て込んでいるんだ。切るぞ。 |
ロニ | ちょっ、待て待て ! リアラは無事か ! ? |
カイル | リアラ ? 無事だけど。なんで ? |
ロニ | エルレインがグラスティンの罠に嵌められて魔鏡陣とかいうのに吸い込まれちまったんだ ! |
ロニ | もしかしたら、同じ力を持ってるリアラも狙われるんじゃねえかと思ってさ。 |
リアラ | エルレイン…… ! |
ハロルド | その魔鏡陣について、他になんかわかんない ? |
ロニ | ええと確か【クロノスの檻】とか言ってたような……。 |
ハロルド | クロノス、それだわ !だとしたらターゲットを変更で……。 |
ロニ | おい、そっちじゃ何が起こってんだよ ! |
カイル | えっと、なんかわかんないけどすごい勢いでハロルドが機械をいじってる ! |
リアラ | ハロルド、何をするつもりなの ? |
ハロルド | いいから、あんたはそのペンダントの声をしっかり捕まえてなさい。 |
ハロルド | ペンダントから探知できるエネルギーの発生元を特定魔導砲の威力と照射バランスを……。 |
ディムロス | クロノスと魔導砲に何の関係があるんだ。 |
ハロルド | 多分、エルレインが吸い込まれたのは精霊クロノスを閉じ込めておくクレーメルケイジよ。 |
ハロルド | それをこの魔導砲でぶっ壊す。どうせこいつを止められないなら有効利用してやんなきゃね。 |
ハロルド | リアラ、ペンダントにエルレインに強く呼び掛けて。 |
リアラ | ええ。――エルレイン、わたしの声が聞こえる ?エルレイン ! ! |
リアラ | ……エル…………聞こえ…………。 |
エルレイン | (また、繰り返すのか) |
リアラ | エルレイン ! ! |
エルレイン | (リアラ…… ? 違う……これは外界の声か…… ? ) |
カイル | オレもみんなと同じ気持ちだ。だから、ここまで来られたんだ…… ! |
カイル | オレたちは、神の救いなんか必要としていない !もう迷ったりはしない !オレたちの手でかならず、神を倒す ! |
エルレイン | (これはなんだ…… ?これまでのような、私の生の繰り返しではない。私にこのような記憶はない) |
エルレイン | (もしや、リアラの記憶が流れ込んでいるのか ?) |
エルレイン | 私……は…………人々を…………救う……ため……神の…………ち……から…………だけが…………それを…………可能にす……る……。 |
エルレイン | (……私は……、カイルたちに負けた……のか ?まさか、そんな筈はない。神の救いはそんなものでは……) |
リアラ | カイル ! レンズを砕いてッ ! |
エルレイン | (……そうか……。リアラ、お前も自ら死を……) |
エルレイン | (だとすれば、これはリアラの記憶でもない。私もリアラも『生きて』いるのだから) |
エルレイン | (ならばこれは、あり得た未来の記憶。私のやり方では、人々の救済には至らぬと言うのか) |
? ? ? | 愚かな……。 |
エルレイン | …… ? |
? ? ? | あの世界同様、人は愚かな生き物だ。人の欲は歪んだ神すら生み出し、自らを否定し世界が滅びても自らだけは浅ましく生き残ろうとする。 |
? ? ? | 人など救うに値しない。 |
エルレイン | 愚かであろうと、人々は遍く救済されるべきもの。浅ましきは、もたらされる救いを拒む心です。 |
? ? ? | ……お前は……一体…… ?そうか……人の希望から生まれ出たモノ……。 |
ハロルド | 【クロノスの檻】発見 ! |
リアラ | エルレイン ! |
エルレイン | お前は……リアラ…… ? |
リアラ | そうよ、エルレイン。ペンダントが導いてくれた。あなたを助けにきたの。 |
エルレイン | ……我が救済を否定したお前が、この私を救うと ?この世界では、フォルトゥナ神を呼ぶこともできぬと言うのに ? |
リアラ | やっぱり異世界の神はここには呼べないのね。 |
エルレイン | そうだ……。具現化は徒労に終わった……。 |
リアラ | それでも……わたしは手を伸ばせる限りあなたを救いたい。だってわたしたち、目指したものは一緒だもの。 |
リアラ | わたしも、あなたもただ人々を幸せにしたい……そうでしょう ? |
エルレイン | 道は違えども、か。 |
エルレイン | ……そうだな。その一点においてならばお前の手を取るのも悪くはない。 |
リアラ | さあ、エルレイン。わたしの手を掴んで―― |
キャラクター | 11話【7-12 セールンド 街中】 |
ロイド | みんな、早く ! |
ジーニアス | 待ってよ、ロイド !ネヴァンを背負ってるくせに、一番早いんだから。 |
ロイド | 当たり前だろ。早く治してやらないと……あれ ? |
エミル | どうしたの ? |
ロイド | あの光、何だろう。すげえ眩しい。 |
マルタ | ファンダリア領の方角だね。あっちで何かあったのかな。 |
エミル | ここはセールンドだよ ?ファンダリア領とは距離があるし相当強い光じゃなきゃ、見える筈ないと思うけど。 |
しいな | 気になるね。どこかで見覚えがあるような……。 |
しいな | そうか ! 魔導砲を発射した時の光に似てるんだ ! |
ジーニアス | 魔導砲って、怖いこと言わないでよ。 |
ラタトスク | 妙だな。光から精霊のマナを……違うな、精霊そのものの気配を感じる。 |
しいな | 精霊 ! ?――ってことは、まさかあれは本当に魔導砲だってのかい ! ? |
ラタトスク | チッ、だとしたらここに撃って来るぞ。あの精霊の意識――光は、セールンドに向いている。 |
マルタ | なんでここが狙われるの ! ? |
テネブラエ | わかりません。ですが、セールンドには虚無を封じるゲフィオンの人体万華鏡がありますね。それが狙いかもしれません。 |
ラタトスク | 時間がねえ ! あれが精霊なら……。 |
テネブラエ | …………。 |
ラタトスク | いや、何か他に……クソッ ! |
テネブラエ | いいえ、わかっている筈です。精霊には精霊をぶつけるしかないでしょう。私にお任せください。 |
ジーニアス | そういえばボクたちの世界でも、相反する精霊の力をぶつけてエネルギーを中和させた !でもその方法だと……。 |
ロイド | テネブラエ、自分をぶつける気か ! ? |
テネブラエ | ご心配なく、センチュリオンは死にません。あの程度の光など私の闇で塗りつぶして見せますよ。何しろ闇属性は不死身ですから。 |
ラタトスク | ふざけるな ! この世界ではセンチュリオンも精霊に組み込まれてるんだぞ。元の世界とは違う。しかも本家本元の精霊より弱いんだ。 |
ラタトスク | 精霊同士なら対消滅したところでエネルギーさえ十分なら死ぬことはないが精霊に格上げされたお前が助かるかは保証が―― |
テネブラエ | では、他に皆さんを救う方法でも ? |
ラタトスク | だったら俺が行く ! |
プレセア | 光が……来ます ! |
テネブラエ | ラタトスク様。また後程。 |
ロイド | おい、テネブ―― |
? ? ? | (――待て) |
ロイド | 頭の中に声が…… ? 誰だ ! ? |
ラタトスク | テネブラエ――ッ ! ! |
テネブラエ | っ ! これは一体…… ? |
ロイド | 魔導砲が……消えた…… ? |
| ファンダリア領 帝国軍基地 |
イクス | よし、潜入成功。ミリーナに連絡だ。 |
帝国兵A | ああああっ ! 体が……消え…… ! |
イクス | なんだ ! ? |
帝国兵B | 早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… ! |
帝国兵C | これはいったい……何が起きた ! |
帝国兵D | 基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです ! |
イクス | (消滅 ! ?ミリーナの無事を確認しないと――) |
イクス | (――いや、あの雹を止めるのが先だ。俺にできることは……そうだ ! 魔鏡結晶を作って屋根代わりにこの辺りを覆えば――) |
イクス | 慎重にいけよ……また石の中に入るのはごめんだからな……。 |
イクス | スタックオーバーレイ ! ! |
イクス | はぁ、はぁ……。この基地一帯は魔鏡結晶で包めた筈だ。雹は……よし、防げているみたいだな。 |
イクス | あれ、通信文が届いてる…… ? |
| こちらはディムロス。魔鏡通信が繋がらない。通信文だけでも届いていることを願う。 |
イクス | 魔核を確保……、作戦完了か !良かった、ディムロスさんの方は上手くいったんだ。 |
イクス | (通信文が来たのはたった今だ。ってことは、魔鏡通信が繋がらないのは俺がスタックオーバーレイで魔鏡結晶を作ったせいか) |
イクス | ……でも、この雹が止まるまでは魔鏡結晶のドームを維持するしかない。 |
| 一方、アスガルド帝国では―― |
ウッドロウ | 追っ手の兵は片付けたぞ ! |
フィリア | こちらもです ! |
スタン | よし、このまま残りの敵を倒しつつ撤退しよう ! |
ロニ | はい……。 |
ナナリー | なんだい、カイルたちのこと気にしてんのかい ? |
ロニ | あっちも大変なことが起きてるみたいなんだよ。そんなんで突然通信が切れたら気になるだろうが ! |
ルーティ | 景気の悪い顔してんじゃないの。カイルたちならきっと大丈夫 ! |
ロニ | ……はい、そうですね ! |
ナナリー | ……今度は打って変わって、随分と素直じゃないか。 |
リオン | おい、無駄口よりも目の前の敵を叩け ! |
フィリア | 待ってください、敵が撤退しています ! |
? ? ? | 引け ! こちらの被害が増すだけだ。 |
ウッドロウ | どうやら我々のことは諦めたようだな。冷静な指揮官のようだ。 |
全員 | ! ! |
スタン | あの指揮官って……イレーヌさん ! ?――待ってくれ、イレーヌさん ! |
リオン | おい、スタン ! あいつを追う気か ! |
スタン | 当たり前だろう ! |
ルーティ | 何言ってんの !今は安全に逃げられる絶好のチャンスなのよ !あたしたちの目的は何 ! ? |
スタン | ……っ ! !そう……だよな。ごめんルーティ。ロニ、ナナリー。悪かったよ。早くここを離脱しよう。 |
ロニ | スタンさん……すまねえ……。 |
ローエン | お帰りなさいませ、フィリップさん、マークさん。 |
フィリップ | ローエンさんの采配のおかげで陽動部隊の立て直しもできた。さすがの手腕だよ。 |
マーク | ローエンが派遣してくれた手勢で砦の辺りの戦闘もなんとか収まったしな。 |
マーク | あのままずっとあそこで戦ってたら命がいくつあっても足りないところだった。 |
ローエン | 枯れたジジイがお役に立って何よりです。今の帝国軍は浮足立っています。このままであれば、無事に撤退できるでしょう。 |
マーク | けど、また魔鏡通信が使えなくなっちまってるよな。今撤退に持ち込んで大丈夫か ? |
ローエン | ええ。ケリュケイオンの計器類は無事ですし通信文も送信可能です。 |
フィリップ | では、作戦参加者全員に通信文で撤退命令とケリュケイオンの着地点を送信しよう。彼らを回収したら作戦終了だ。 |
ローエン | 承知しました。 |
マーク | なあフィル、魔鏡通信の障害ってことはミリーナに何かあったんじゃねえのか ? |
フィリップ | いや、今の魔鏡通信の障害はイクスの力だ。ただしミリーナのような暴走ではなくちゃんと制御しているみたいだね。 |
フィリップ | でも、それだけの力を使わなければいけない事態ならイクスのことが心配だな……。 |
マーク | ……やれやれ、わかったよ。俺が行ってくるからフィルはここで指示を頼む。 |
フィリップ | ……ごめん。ありがとう、マーク。イクスの魔鏡術を感知したのは帝国軍の基地だ。頼んだよ。 |
マーク | 了解。お前も、薬飲んどけよ。さっき発作が出てたろ ? |
フィリップ | ……上手く誤魔化したつもりだったのにばれてたのか。 |
マーク | また無茶して力を使ったからな。しばらくは絶対安静だぞ。 |
ローエン | 私が見張っておきますよ。 |
マーク | こいつは頼もしいぜ。それと力が有り余ってる奴らを連れて行くぞ。構わないよな ? |
フィリップ | 力ということはバルバトスか。大丈夫かい ? |
マーク | ああ。色んな意味で骨は折れるだろうが強さで言ったらダントツだしな。 |
フィリップ | さすがマーク。彼らとも上手くやってくれて感謝してるよ。 |
マーク | 俺だって、あいつを連れて戦うたびに緊張するんだぜ ?バルバトスの手綱を握れる奴がいたら即スカウトしたいよ……。 |
キャラクター | 12話【7-13 ファンダリア領 帝国軍基地1】 |
ミリーナ | 今放たれた光が魔導砲だったのかしら…… ? |
ヴィクトル | 方角的にはセールンドを目指しているようだった。 |
スレイ | セールンドには確かロイドたちがいるんだよね ! ? |
コレット | ……ロイド ! ? ロイド ! ? 聞こえる ! ? |
ロイド | ――コレットか ! ? |
コレット | ロイド ! ? 今、そっちに魔導砲が―― |
ロイド | ああ、それなら大丈夫だ ! |
テネブラエ | せっかく私が魔導砲を無効化して闇の力の神髄をご覧に入れようとしたのですが突然消えてしまったのですよ。 |
ミリーナ | それじゃあ、そちらはみんな無事なのね ? |
ロイド | ああ、それで―― |
帝国兵A | ああああっ ! 体が……消え…… ! |
帝国兵B | 早くこいつを屋内に運び込め !ああっ、駄目だ、消える…… ! |
帝国兵C | これはいったい……何が起きた ! |
帝国兵D | 基地上空から雹のようなものが降っています !触れた者は急激に衰えた後、体が……体が消滅しているんです ! |
ライラ | 帝国兵の声ですわ。それに……雹…… ? |
ザビーダ | 上だ ! 何か降って来やがったが……あれは雹なんかじゃねえぞ ! ?精霊の力の塊だ ! |
シャルティエ | 見て下さい ! その雹だか何だかが落ちたところ !そこにあったものが『消えて』いってますよ ! ? |
ヴィクトル | これは……この力は『奴』の…… ! |
帝国伝令兵 | くっ、消えてしまう前にこのサンプルを運び出さねば……。 |
帝国伝令兵 | ……ん ! ? お前たちは―― |
ヴィクトル | ――避けろ ! クロノスの力がこちらに来る ! |
帝国伝令兵 | いてぇっ ! ? し、しまった、雹が…… ! ?わ、わああああああ ! ?足が……腕が……ああっ ! ? |
ライラ | そんな……。消えてしまいましたわ……。 |
ヴィクトル | これは……消えた兵士が持っていた箱、か。 |
シャルティエ | ヴィクトルさん ! ?箱なんて拾って、何ぼーっとしてるんです ! ?危ないですよ ! |
ザビーダ | ちぃっ ! 俺が風であの妙なブツを吹き飛ばす !ミクリオ ! |
ミクリオ | それを水で押し流せばいいんだろう ! 任せろ ! |
エドナ | 大地を揺り起こして盾にするわ。どこまで持つかわからないけれど、無いよりマシな筈よ。みんな、来なさい。 |
ヴィクトル | ……スレイ君。これは、君たちが探していたもののようだ。持っておくといい。 |
スレイ | え ? この箱は―― |
ヴィクトル | 消えてしまった兵士が持っていた物だ。おそらく、鏡の精霊の心核だろう。 |
スレイ | ! ! |
ロイド | おい ! ? そっちで何が起きてるんだ ! ? |
スレイ | ――あ、ああ。ロイド、大丈夫。ちょっとばたついてるけど、対処できそうだよ。それより何か言いかけていたようだけど……。 |
ロイド | ああ ! そうだ !さっき急にネヴァンがゲフィオンの鏡像から飛び出してきたんだ。 |
ミリーナ | ネヴァンがセールンドに ! ? |
ロイド | ああ。カーリャの時と同じ感じだよ。ただあちこち傷だらけで気を失って……ひとまず…………あれ……聞こえて…… |
ヴィクトル | また通信障害か。今度は何が起きた ? |
ミリーナ | 待って、魔鏡術の力が集まってきている―― |
ライラ | 空を見て下さい !魔鏡結晶のドームができていますわ ! |
ミリーナ | まさか、イクス ! ? 近くにいるんだわ ! |
リアラ | ――ここは…… ? |
エルレイン | …………くっ……。 |
リアラ | エルレイン ! ? どうしたの ! ? |
エルレイン | いや……目眩がしただけだ。 |
リアラ | ……ねえ、エルレイン。あなたはあの場所にずっといたの ? あの【クロノスの檻】っていう場所に……。 |
リアラ | あの場所は……異様だったわ。クレーメルケイジだって聞いていたけど……。一瞬なのに永遠のような気がして、寒気がした。 |
エルレイン | ……だろうな。あの場所は精霊クロノスの力に満ちていた。時が何度も巻き戻り……寄せては返し……。 |
リアラ | 永遠という時間を……終わらない無間地獄の中を彷徨っていた…… ? |
エルレイン | 我々は神の代理者だ。精霊の操る時間の流れなど神の力の前では無意味でしかない。 |
カイル | リアラ――ッ ! |
ジューダス | クラトスの言っていた通り、帝国の基地にいたな。天使の視覚と聴覚、大したものだ。 |
リアラ | カイル ! ? どうしたの ! ? 凄い傷だわ ! ? |
エルレイン | ! |
カイル | ちょっとここまで来るのに帝国の連中とやり合ったから。 |
カイル | それより突然姿が消えちゃったから心配したんだよ !無事で良かった。エルレインが傍にいるみたいだって話だったから……。 |
リアラ | ええ……わたしは大丈夫。それで、ハロルドは ? |
ジューダス | ディムロスとクラトスと三人で魔導砲から魔核を運び出している。 |
リアラ | そう……。きっとハロルドのおかげよ。わたしとエルレインが、あの恐ろしい【クロノスの檻】から出られたのは。 |
ジューダス | ならば、魔導砲は【クロノスの檻】とやらを破壊したんだな。 |
エルレイン | ……そうか……お前たちが……私を……。 |
カイル | これで危機は回避できたよ。あとは――痛 ! ? |
カイル | な、なんだ ! ?ガラスみたいな見えない壁があるぞ ? |
ジューダス | ……これは……魔鏡結晶、か ? |
カイル | え ! ?リアラたち、魔鏡結晶に閉じ込められちゃったの ! ?どうして ! ? |
エルレイン | ――いや、これは……【クロノスの檻】の代償から守ろうとしたのだろうな。あの鏡士の仕業、か ? |
リアラ | 【クロノスの檻】の代償 ? それは一体―― |
エルレイン | お前も感じていたとおり、【クロノスの檻】には精霊クロノスの力が満ちていた。おそらく長い間あの場所にクロノスを閉じ込めていたのだろう。 |
リアラ | わたしたちが脱出したときに、破壊された檻の欠片のようなものも、この場所に出現してしまった……ってこと ? |
ジューダス | ……しかし今はそれらしい物は降っていないぞ。 |
エルレイン | なるほど……。【クロノスの檻】があった場所とこの世界を繋いだ次元穴は……修復されたのだな。ならば……鏡士の傘ももはや必要は無い。 |
リアラ | エルレイン、何を―― |
エルレイン | インディグネイト・ジャッジメント ! |
コレット | ……え ? 今、カイルたちの声が聞こえたみたい……。 |
エドナ | ――それに関係があるのかしら。上の魔鏡結晶にヒビが入ったわ。 |
ザビーダ | 何てこった。あの欠片に俺たちの力が触れると互いに打ち消し合っちまって思ったようには吹き飛ばせねえんだぞ ! |
ヴィクトル | それはおそらくあの欠片が精霊クロノスの力を帯びているからだろう。 |
スレイ | 精霊クロノス ! ? |
コレット | あ、でも、もうクロノスの欠片……みたいなものは降ってこないんじゃないかな。空のどこにもそれらしい物がないもの。 |
ライラ | 魔鏡結晶も……消えましたわ。確かに、例の欠片はもう降ってこないみたいですね。 |
ミリーナ | あ、イクスから通信文よ。魔鏡通信が復活したのね。私たちのこと、見つけてくれたみたい。こっちに来てくれるって。 |
シャルティエ | よし、魔鏡通信が復活したなら、僕たちはディムロスと連絡を取って合流するよ。行こう、ヴィクトルさん。 |
ヴィクトル | ……ああ。 |
マーク | ――おっと、やっと繋がったか。 |
マーク | ミリーナ。通信文も送ったが、撤退の準備が完了した。やり残したこともあるかも知れないが、今回は引き上げようぜ。指定した合流地点まで来てくれ。 |
エドナ | バタバタと忙しいわね。 |
ミクリオ | 仕方が無いさ……。想定外のことばかり起きている。それにしてもこのままだと、ユーリたちとの約束を違えることになってしまうな……。 |
スレイ | いや、大丈夫。ヴィクトルさんが凄い物を見つけてくれたよ。 |
キャラクター | 13話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】 |
カイル | 魔鏡結晶が壊れた ! これで―― |
ジューダス | 待て、カイル。慌てなくても、エルレインの方から――来る。 |
エルレイン | お前たちが【クロノスの檻】を破壊したのならここは、礼を言うべきなのでしょうね。 |
カイル | え……。いや、それはハロルドが……。 |
エルレイン | ……久しぶりですね。 |
エルレイン | いや……この感覚もまた懐かしい……。まるで遠い昔のことのように感じられるが……これもあの檻の中にいたせいか。 |
カイル | な、何 ? 何を言ってるんだ ? |
エルレイン | ……そうか。あれは精霊クロノス……であったな。 |
エルレイン | ペンダントが……。まさかこのペンダントには……。もし『そう』なら、空間という制限のない時の力で―― |
エルレイン | ……………… ! |
ジューダス | まずい ! カイル ! 避けろ ! |
エルレイン | ディバインセイバー ! |
カイル | ぐはっ―― ! ! |
ジューダス | くっ ! |
リアラ | カイル ! ! ジューダス ! !エルレイン、どうしてなの ! ? |
エルレイン | 今ならば―― |
エルレイン | 案ずることはない。 |
エルレイン | お前たちがすべて死に絶えたとしても完全神の降臨さえ果たされれば新たなる人類を生み出すことができる。 |
エルレイン | そして、新たなる人類は完全なる世界で完全な幸福を手にすることができる。 |
エルレイン | いまこそ人類自身のためにすべてを振り出しに戻すべきなのだ。 |
エルレイン | (……フォルトゥナ神を呼べたとして……それが、遍く救済となるのか……) |
エルレイン | (私の救いとあの者たちの救いは同じだというのか。いや、そうではないはずだ――) |
? ? ? | 時の流れに制限はなくとも人の子のある場所に空間という制限は存在する。時空の壁は突き破れない。 |
エルレイン | ならばやはり、ここでは救いをもたらすことは―― |
リアラ | カイル ! レンズを砕いてッ ! |
エルレイン | ……自ら消滅してまで望む強さが……あるというのか。それが人間の強さだと…… ? |
エルレイン | ……………………。 |
イクス | ミリーナ、遅くなってすまない。ディムロスさんから作戦完了の通達があったぞ。 |
ミリーナ | こっちもスタンさんたちと連絡がついたわ。みんな無事みたい。私たち陽動部隊も急いで撤退をしましょう。 |
イクス | マークとの合流地点まで帝国軍から逃げ切れれば俺たちの勝ちだ。急いで、カイルたちにも知らせなきゃ―― |
? ? ? | ぐはっ―― ! ! |
ミリーナ | ! いまの声って…… ? |
イクス | カイルだよな ! ? まさか……。 |
コレット | うん ! 魔鏡結晶が壊れたから、はっきり聞こえる。カイルたち……誰かと戦ってるみたい ! |
イクス | どっちだ、コレット ! |
コレット | えっと……あっち ! |
イクス | 2時の方角か。よし―― |
コレット | 待って ! 逆の方から大勢の足音が――あ ! ? 帝国軍がたくさん !何か……大事な物を探してるみたい。 |
ミクリオ | スレイ、それって―― |
スレイ | ああ。 |
スレイ | イクス、帝国兵は俺たちに任せて。多分探してるのはヴィクトルさんが見つけてくれた精霊の心核だ。 |
スレイ | これで、帝国兵を引きつけながら撤退する。ケリュケイオンで会おう。 |
イクス | コレット。念のため、スレイたちと一緒に行ってくれ。 |
コレット | 何かあったときの連絡係だね。任せて ! |
イクス | ミリーナ ! カイルたちのところへ行ってみよう ! |
カイル | くっ……。 |
リアラ | カイル。しっかりして。 |
カイル | だ、大丈夫だよ。 |
ジューダス | お前はさがっていろ。帝国軍との連戦で消耗しきっているんだ。 |
カイル | それはジューダスも同じだろ。まだオレは戦える。 |
エルレイン | ……ならば、続けよう。カイル。お前たちの言う人間の強さとやらを示してみせろ。 |
イクス | 待ってください ! |
カイル | イクス ! ミリーナ ! |
エルレイン | 鏡士の。久しいな。 |
イクス | エルレインさん、どういうことですか。ここにいるということは俺たちがした話――帝国の真の目的を信じてくれたんじゃないんですか ! ? |
エルレイン | ああ。お前たちの話は真実だった。帝国はニーベルング世界の再建を目論んでいる。ニーベルングの神々の復活すらも秘密裏に進めていた。 |
エルレイン | 本当に、この世界を、全てを滅ぼし真なるニーベルングの甦りを――この世に生きる者を捨て去ろうと画策していたとは。 |
エルレイン | いったいこの何が救済であろうか。救済とは遍く人々に注がれるべきもの。嘆かわしいにもほどがある。 |
イクス | ……俺には救済とか難しいことはわからない。けど…………。 |
イクス | 俺自身や鏡映点、そして貴女も含めて……今この世界にはニーベルング世界の住人ではない人帝国の考える偽りの人々がたくさんいるんだ。 |
イクス | そんな人たちを帝国は切り捨てようとしている。確かに偽りだけど……存在していることは事実だ。だから俺は、その全てを守りたい。 |
エルレイン | どうやって ? |
イクス | 決まってる。カイルと同じです。 |
カイル | 掴み取る。オレたち自身の手で。 |
エルレイン | 神による救済ではなく、か。 |
エルレイン | ならば―― |
カイル | ……ぐっ。 |
リアラ | カイル ! |
イクス | やめろっ ! !何故戦わなくちゃならない ! ? |
エルレイン | 確かにお前たちには感謝している。これ以上、聖女としての使命に反する行いを――帝国の偽りの救済に荷担せずに済んだ。 |
エルレイン | 聖女の力をほぼ失った私の今やるべきことそれは救済の対象である遍く人々の保護。つまりは帝国の野望の阻止であろう。 |
ミリーナ | 私たちは同じ敵と戦っているわ。そして、帝国の野望を阻止するためには私たちは貴女の、貴女は私たちの協力が必要不可欠。 |
エルレイン | その通り。 |
エルレイン | だが、フォルトゥナを具現化すると言った場合お前たちはどう反応するだろう。 |
カイル | フォルトゥナだと ! ? |
イクス | 神の具現化は不可能のはずだ。 |
エルレイン | ……ふふっ。それはどうだろう。幸いこの世界にはエンコードされているとはいえレンズも具現化されている。 |
リアラ | フォルトゥナの具現化には失敗したはずなのに可能性はゼロではないというの ! ? |
エルレイン | ……お前たちはただ待てばいい。フォルトゥナの降臨を。すべての魂が救済されるその時を。 |
ジューダス | 本当の楽しみや喜びを代償にした永遠を夢の中で過ごす苦しみや悩み、痛みのない世界……。 |
ジューダス | お前は神による完全なる幸福をこの世界でも実現しようというのか ! |
カイル | そんなことオレは絶対に許さない ! !フォルトゥナを降臨させるというのならオレたちはお前を止めてみせる ! |
ジューダス | カイル ! 無茶をするな !これ以上は―― |
カイル | ジューダス、止めないでくれ !まずはオレが証明しなくちゃなんだ。 |
カイル | 人間は弱くなんかないって ! ! |
ジューダス | ……カイル。 |
ジューダス | ふっ、いいだろう !僕も付き合ってやる ! |
リアラ | わたしもよ ! カイルの選択は、わたしの選択だもの ! |
イクス | ミリーナ、俺たちも加勢するぞ !もう一踏ん張りだ。 |
ミリーナ | 援護は任せて。みんなで切り抜けましょう。 |
エルレイン | 愚かな。どれだけ束になろうと無駄だ。――人間は弱い。私もお前たちに身を以て証明してくれよう。 |
キャラクター | 14話【7-14 ファンダリア領 帝国軍基地2】 |
カイル | くっ……足がっ。 |
リアラ | カイル ! |
ジューダス | くそっ。エンコードによりエルレインの力は制限されているとはいえ……厳しいか。 |
イクス | 帝国軍との連戦で疲弊しきっているんだ。みんなもう限界か……。 |
エルレイン | やはり人間は弱い。これが現実だ。さぁ、諦めて降伏しろ。そうすれば命までは取るまい。 |
イクス | カイル ! いま助けに―― |
カイル | 来るな ! ! |
イクス | えっ ! ? |
カイル | 言っただろ、 |
カイル | 人間は弱くないって ! ! |
カイル | くっ……。 |
エルレイン | ……それがお前の選択か。いまのお前にこの私を倒すことはできない。わかっているだろう ? |
カイル | それはどうかな ?リアラ ! ジューダス ! |
ジューダス | いくぞ、リアラ ! |
リアラ | ええ ! ジューダスにあわせるわ ! |
エルレイン | なるほど。お前は囮か。だが私の二の太刀の方が速い。そしてそれを、いまのお前は防ぎきれまい。 |
カイル | そんなことわかってるよ。最悪、オレはここまでってことも。 |
エルレイン | ……わかって飛び込んできただと ?何故だ。死ぬことが怖くないというのか。 |
カイル | 怖いさ ! けどここを乗り越えればお前を倒すことができるかもしれない ! |
エルレイン | できなければ ? |
カイル | そのときはまた考えればいいだけだ !たとえ今、そして未来に苦しみが待ち受けていようと更に先には大きな幸福がきっとある ! だから―― |
カイル | 人間は辛い未来すら選べる !それが人間の強さだ ! ! |
エルレイン | ―― ! ! |
二人 | ――くらえっ ! ! |
イクス | な、なんて威力だ……。 |
ミリーナ | ……けど。 |
エルレイン | 無駄だと言っただろう。 |
リアラ | カイル ! ! |
エルレイン | 動くな。 |
ジューダス | ! |
カイル | はぁ……ぐっ。 |
エルレイン | もうこれで終わりだ。 |
ジューダス | エルレイン ! 貴様ッ ! |
リアラ | ! ?ジューダス、待って。 |
ジューダス | なに……。 |
エルレイン | 治癒魔法だ。少しは楽になっただろう。 |
カイル | えっ…………あ、ありがとう。けど、どうして ? |
エルレイン | ……言っておくべきことがある。 |
エルレイン | お前たちの強さは認めよう。だが、すべての人間がお前たちのように強いとは限らない。 |
カイル | そうかもしれないけど―― |
エルレイン | 聞け。 |
カイル | ……わ、わかった。 |
エルレイン | ここはフォルトゥナが……私たちを救う神がいない世界。お前たちが望む世界のありさまだ。 |
エルレイン | お前たちが理想とする幸せな世界に私とリアラは本来存在しない。だが幸か不幸か、いま私たちは神なき世界にいる。 |
エルレイン | 滅びと絶望に包まれたこの世界であってもお前の言うように人々は苦難を乗り越え幸福を手に入れることができるのか。 |
エルレイン | 神の御使いたる聖女としてそして神を失った力なき一人の人間としてこの世界の人々の行く末を観測するのも悪くはない。 |
カイル | えっと……つまりどういうこと ? |
イクス | 力を貸してくれるのか ! ? |
エルレイン | 帝国の野望は阻止せねばなるまい。そして私の信じる神がいないこの世界でも今の私にできうる救済を行う。 |
エルレイン | そう、判断したまで。 |
カイル | つまり協力してくれるんだね ! ? |
リアラ | エルレイン……ありがとう。カイルに、いえ人間の強さに可能性を見出してくれて。 |
エルレイン | 私はしばらく観測をしようと決めただけだ。そのために一時的にお前たちに協力するが―― |
エルレイン | 人は、もろく、はかない存在。その事実が証明されたならばお前たちを切り捨て私はフォルトゥナによる救済を選ぶ。 |
カイル | わかった ! じゃあオレたちはそうならないよう頑張るよ ! |
エルレイン | いいでしょう。 |
リアラ | …………。 |
帝国兵 | 見つけたぞ ! |
イクス | 敵の追っ手だ ! |
エルレイン | いきなさい。 |
ジューダス | お前一人で大丈夫なのか ? |
マーク | 安心しろって。俺たちもいるからよ。 |
バルバトス | 虫けら、ウジ虫どもが。捻りつぶしてくれる。 |
イクス | マーク ! ? |
カイル | バルバトスも ! ? |
マーク | ったく、遅いからなにやってるかと思えば。あんたも相当面倒な女だな。 |
エルレイン | あなたは、フィリップの鏡精でしたね。 |
マーク | 覚えててくれてどうも。イクス、この先でフィルたちが待ってる。他の奴らと一緒に先に行け。 |
イクス | わかった。ありがとうマーク。みんな、行こう。 |
マーク | それじゃあ一仕事はじめますか。バルバトス、頼んだぜ。 |
バルバトス | 俺に命令すんじゃねぇ ! !俺はこの雑魚共を捻りつぶしたいだけだ ! ! |
マーク | 元気が良いねぇ。――さて、茶番は済んだかい、聖女様。納得したならあんたにも働いてもらいたいんだがね。 |
エルレイン | 茶番ではない。救済の遂行を担えるかの審判だ。全ては世界の救済のため。 |
エルレイン | ……人々の幸せがあらんことを。 |
マーク | はは、だったらこっちにも救済を頼むよ。あんたなりのけじめの儀式を大人しく見ていてやったんだからな。 |
マーク | まあ昔、俺にもそういうことがあったんでね。鏡精と聖女様じゃ葛藤の度合いが違うかも知れないが。 |
エルレイン | ……フ、バルバトスを押さえるのは苦労したでしょう。 |
バルバトス | はき違えるなよ、女。俺は俺のやりたいようにやっている。 |
バルバトス | あのカイルとかいう小僧は俺の信奉者だ。非力なゴミくずだが、見所はある。その踊る様を見ていたまでよ。 |
マーク | そうだとも。それにあの茶番劇をスルーすればこの辺りの帝国兵が寄ってくることはわかってた。そいつを待ってたんだよな、我らがバルバトス殿は。 |
マーク | ま、それは俺も願ったりでね。合流ポイントにたどり着けてない連中を助けるために大立ち回りして、帝国の連中を引きつけたいんだ。 |
バルバトス | くだらん !自ら救えぬ非力な奴は捨て置けばいいのだ。 |
エルレイン | お前はここでもそのような生き様か。 |
バルバトス | なんだ ? 何が言いたい ! |
エルレイン | お前が真に英雄であるというなら、その証ここで見せてみるがいい。 |
バルバトス | ほう……。そうか、お前……英雄に惹かれたか !ならば篤と見るがいいわ ! |
キャラクター | 15話【7-15 ファンダリア領 山岳】 |
グラスティン | ヒッヒッヒッ、特等席じゃないか。だが、これ以上ここで待っていても無駄だぞ。魔導砲の試射は失敗した。 |
ロミー | そうなの ? たいそうな仕掛けの割にお粗末ね。 |
ルキウス ? | 大山鳴動して鼠一匹、かな ? だらしないね。せっかく面白いものが見られると思ったのに。 |
ロミー | フフ……。 |
グラスティン | いいんだよ。問題なく発射できるってことは確認できたんだしなあ。それより、サレの奴を見かけなかったか ? |
ロミー | サレ ? この辺じゃ見てないわね。 |
グラスティン | ……やっぱり逃げ出したかあ。ヒヒヒ……だったら追いかけるしかないよなあ。黒髪じゃないから、面白みには欠けるがな。 |
ロミー | あんたたち、随分仲が良さそうだったのにどうしたのよ。 |
グラスティン | 俺の大事な玩具を壊しやがったんだよ。 |
グラスティン | せっかく可愛いジュニアを、毒でじわじわいたぶっていたのに、サレの奴、ジュニアに使った刻印器を壊して持って行きやがった……。 |
グラスティン | 俺とジュニアの楽しいコミュニケーションが台無しだ。サレにはお仕置きが必要だなあ……。ヒヒヒヒ……。 |
アリエッタ | ――グラスティン ! |
グラスティン | ん ? アリエッタかあ。こんなところまで俺を捜しに来たのか ? |
アリエッタ | 約束……果たした、です !魔核運んだ、です !イオン様に会わせて ! |
ロミー | イヤねえ。この子、まだ気付いてないの ?本当に滑稽ね。笑っちゃうわ。ねえ、ルキウス ? |
ルキウス ? | 僕のペットを馬鹿にするな。アリエッタが可哀想だろう ? |
ロミー | あーあ、そうだった。『こっち』も、何も知らないんだったわね。 |
ルキウス ? | 何 ? どういうことだ ? |
ロミー | グラスティンそろそろ種明かししてもいいんじゃない ?『こっち』の実験も終わったんでしょ ? |
ロミー | 何も知らないイオンもどきを観察してるのも面白かったけれど、そろそろ飽きてきたわ。 |
ルキウス ? | イオンもどき…… ? |
アリエッタ | イオン様 ? イオン様がいるの ! ? どこ ! ? |
グラスティン | そうかあ……そうだったな。実験も成功したし、そろそろ頃合いかあ。 |
グラスティン | アリエッタ、お前の大事なイオン様はこのルキウスの中にいるんだぜえ ? |
アリエッタ | ルキウスの……中…… ?何 ? どういうこと…… ? |
グラスティン | お前の大事なイオンサマはなあ、どうしても健康な体が欲しかったんだよ。ところがレプリカを何体作っても満足いく健康な体が作れなくてなあ。 |
グラスティン | 挙げ句、シンクとかいうレプリカを捕まえるって勝手に色々画策しだしたんだ。 |
アリエッタ | ……シンク ? シンクが何か関係あるの ? |
グラスティン | まあ、その辺りは些末なことか。 |
グラスティン | とにかく、お前のご主人様は、自分の欲を満たすために、ハロルドを鏡士へ引き渡すような失態をやらかしたんでな。お仕置きしてやったんだよ。 |
アリエッタ | イ、イオン様に何をした、ですか ! ? |
グラスティン | 心核を抜いてやった。わかるか ? 心だ。心だけ取り出して、体は魔物にくれてやった。 |
アリエッタ | ! ? |
ルキウス ? | アリエッタ。大丈夫だよ。僕は生きている。この体は仮の入れ物だが……。 |
アリエッタ | え ? じゃあ、イオン様はルキウスになった、の ?生きてる……ですか ? |
ルキウス ? | ああ、生きてるよ。この体の中に入っている心がイオン――僕だ。 |
ロミー | ――なーんて、それも嘘。 |
アリエッタ・ルキウス ? | ! ? |
グラスティン | あーあ、そこまでバラしちまうかあ……。まあ、仕方ない。本当の事を知らないままなのは『可哀想』だもんなあ。 |
グラスティン | 心核ってのは、体が死んじまうと存在を保てなくなる。体が死ねば心も死ぬんだよ。 |
ロミー | でも、イオンの心に別の体を与えたところでまた勝手なことをするでしょう ?だから実験に使ったんですって。 |
グラスティン | 死ぬ前の心核からデータを抽出して限りなくイオンに近い疑似人格を作ったんだ。その疑似人格を疑似心核に転写した。 |
グラスティン | 被験者イオンの人格のコピーを疑似心核に与えたんだからこのルキウスの心は「ほぼ」イオンだ。 |
ロミー | グラスティンも作ったんでしょ。自分のレプリカに自分の人格を転写した疑似心核を入れてそいつをグラスティンとして戦場に送り込んだのよね。 |
ロミー | アイフリード神の転生体である鏡の精霊のデータも狙い通り疑似心核に移せたんでしょう?自分のレプリカを使って仕掛けるなんて変態ね。 |
ルキウス ? | 待て…… !な、何…… ? 僕が疑似人格…… ? |
アリエッタ | ……え……何……わからない…… ? |
ロミー | 簡単よ、アリエッタ。 |
ロミー | 失礼、イオンもどき。 |
ルキウス ? | ぐっ ! ? |
グラスティン | おいおい……沈静化もさせずに人間から心核を抜くなよ。相当な痛みだぞ。 |
ロミー | 大丈夫よ。ルキウスの心核は、ちゃんと別のところに保存してあるし、死にはしないわ。 |
ロミー | ほら、アリエッタ。これが疑似心核よ。イオンだと思い込んでいた可哀想な疑似人格が宿っているわ。 |
アリエッタ | じゃあ……それは……イオン様の偽物…… ? |
ロミー | アリエッタは本当に頭の回転が鈍いのね。そもそも私たちは具現化された存在なんだから偽物も本物もないじゃない。 |
ロミー | それを言うならアリエッタも偽物みたいなものだし被験者イオンなんて最初から死んでるようなものよ。 |
グラスティン | 死んだ人間をコピーしてそれも死にそうだったからコピーしたってところか。 |
ロミー | コピーのコピーって、もうそれ、なんの価値があるのかしら。まあ、人格を持った玩具だと思えば価値はあるのかも知れないわね。 |
アリエッタ | ……イ、イオン様は死んでないもん !イオン様は生きてる ! イオン様は―― |
ロミー | あ、心核が壊れちゃったわ。 |
グラスティン | 壊したんだろう。 |
ロミー | なんでもいいでしょ。まあ、これで疑似人格も死んだわね。まあ、被験者はとっくに死んでるわけだけど。 |
アリエッタ | あ―――――― |
グラスティン | ほら、形見だ、アリエッタ。 |
ロミー | 何 ? その黒くて汚い石。 |
グラスティン | 被験者イオンの心だった石の欠片だよ。体が死んで心も死んじまったから、単なる石ころなんだがデミトリアスが捨てずに残してやれとさ。 |
グラスティン | ほら、お前のイオン様だ。受け取れ。 |
アリエッタ | い、いやあああああああああああああっ ! ? |
マーク | ――待たせたな。なんとか帰り着いたぜ。バルバトスが暴れて暴れて……。まあ、おかげでいい攪乱になった筈だ。 |
ヴィクトル | ……確かに、あの辺りの帝国軍は大打撃を受けたようだったな。 |
フィリップ | おかげで、イクスたちもほら、ここにいるよ。 |
イクス | ありがとうマーク。あのあと、なんとかフィルさんと合流できたよ。 |
スレイ | オレも、お礼を言わないと。ありがとう、マーク。オレたちも帝国兵の多さに手こずってたけど途中からほとんどの兵士がそっちに行ってくれて……。 |
ライラ | むしろ大変な負担になったのではと心配していましたわ。 |
ローエン | みなさんご無事で何よりです。そういえば、エルレインさんはどちらに ? |
マーク | バルバトスの手綱を握ってもらったんで一足先に船室にお入りいただいた。あしらいには慣れてたようだが、疲れただろうしな。 |
マーク | バルバトス担当として末永くここにいてもらいたいぜ……。あとできっちりスカウトしとくわ。マジで。 |
イクス | は、ははは……。 |
イクス | ローエンさん、これで全員そろったでしょうか ? |
ローエン | はい。この地点で回収予定の人員は全てケリュケイオンに乗船しました。 |
ローエン | 念のため、ファンダリア領の状況が落ち着くまでディムロスさんたちにも乗り込んでもらっています。 |
ゼロス | 魔核も回収できたしあとはスタンたちと合流すれば終わりだな。 |
ミリーナ | やっと一息つけそうね、イクス。 |
イクス | ああ。想定外のことが色々と起きてしまったし状況の確認と情報の精査が必要だけどまずは浮遊島に戻ろう。 |
アイゼン | 気を抜くなよ。最後まで何が起きるかわからないぞ。 |
イクス | そ、そうですね。先の心配をしないなんて俺らしくなかった……。 |
マーク | そんなところは、らしくなくていいんだよ。まったく……。 |
イクス | ご、ごめん……。 |
イクス | それじゃあ、ガロウズ !あとはよろしく頼むよ ! |
ガロウズ | イクスの指示ってのも懐かしいな。よし、エンジン始動だ ! |
イクス | ――ケリュケイオン、発進 ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【8-1 オールドラント領 領主の館】 |
領主補佐官 | 領主様。領民台帳のまとめが終わりました。 |
ピオニーβ | ごくろう。台帳を置いて下がれ。 |
ピオニーβ | ヴァン、後は頼むぞ。 |
ヴァンβ | 承知しました。移民を保護区へ移送し亜人は放逐する方針で進めます。 |
ピオニーβ | 私は会議の準備に入る。 |
ヴァンβ | それでは―― |
ヴァンβ | ! ? |
ピオニーβ | どうした ? |
ヴァンβ | グッ……胸が……クルシ……―― |
ピオニーβ | 心核の不具合か ? しかし、何故……。 |
? ? ? | 私の力に反発した……。この者はユリアの縁者ではないのか…… ? |
ピオニーβ | ! ? |
ピオニーβ | 何者だ ? 姿が見えぬが……。 |
ローレライ | 私はローレライ。この者の核を戻すのだ。さもなくば、この者は命を落とす。 |
カーリャ・N | イクス様、少しお時間をいただけますか ? |
イクス | ――ネヴァンか。ああ、大丈夫だよ。 |
カーリャ・N | 鏡映点の皆さんのファイル、ですか ? |
イクス | うん。パティを救出した後、色々あっただろ。状況を整理しながら、鏡映点のみんながどこで何をしているのかまとめておこうと思って。 |
カーリャ・N | イクス様らしいですね。 |
イクス | はは、性分なんだな。まとめておかないと心配なんだ。 |
イクス | 色々なことがあっただろ。デュークさんから預かった聖核のキメラ結合の解析に、スレイたちが見つけてくれた鏡の精霊の心核、それに魔導砲や贄の紋章……。 |
イクス | まあ……何一つ解決していないことばかりだけど。 |
カーリャ・N | 聖核のキメラ結合に関してはフィル様とリタ様が取り組んでおられますね。 |
カーリャ・N | デューク様も心配なようでよくアジトに顔を出されています。 |
イクス | 魔導砲はハロルドさんとリフィルさんとクラースさんが贄の紋章のことは、パスカルとキールとジュードがそれぞれ本格的な調査を進めてくれてる。 |
イクス | だから俺は、鏡の精霊の心核を調べてみたんだ。ジェイドさんの意見も聞いたけどあれは心核のレプリカと考えて間違いなさそうだよ。 |
カーリャ・N | レプリカなんですね。だから簡単にこちらの手に渡ったのでしょうか。 |
イクス | ああ。帝国にとって、あの心核はサンプルに過ぎないんだろうな。 |
イクス | 大本のデータ、もしくはオリジナルを握ってるからレプリカの心核には執着していないんだと思う。 |
カーリャ・N | でも何故、鏡の精霊の心核をレプリカで増やしたんでしょうか。いえ、そもそも鏡の精霊というのは……。 |
カーリャ・N | 彼らはナーザ神――ナーザ・アイフリードを甦らせようとしていたのでは……。 |
イクス | うーん。おそらくこういうことだと思う。 |
イクス | 帝国は、パティに複数の聖核をキメラ結合させた物を入れて、ナーザ・アイフリードを甦らせた。 |
イクス | そしてそのナーザ・アイフリードを鏡の精霊という別の存在に書き換えたんだ。 |
カーリャ・N | 別の存在に書き換える…… ?そんなことが可能なんでしょうか。 |
イクス | 帝国は一つの魂に二つの存在があるという状況にこだわっていた。 |
イクス | これはそこから導いた推測に過ぎないんだけど……ナーザ・アイフリードを、鏡の精霊の前世として定義したんじゃないかな。 |
イクス | だからあの心核は、ナーザ・アイフリードでもあり鏡の精霊でもある。 |
カーリャ・N | 何故ナーザ・アイフリードを鏡の精霊にする必要があったんでしょう ?回りくどいように感じます。 |
イクス | ナーザ・アイフリードを甦らせたかったのは恐らく精霊の力を完全に支配下に置きたいから、かな。精霊はナーザ神が創ったという話だから。 |
イクス | でもナーザ神は恐らく帝国の自由にはならない。だから、帝国が自由にできる存在を造る必要があった。 |
カーリャ・N | それが、鏡の精霊…… ? |
イクス | ……だと思うんだけど。本当のところはまだわからないよ。 |
イクス | ひょっとすると帝国は鏡の精霊をオリジンの代わりにしようとしているのかも知れない――とも思うし。 |
カーリャ・N | あの……ちょっと理解が……。 |
イクス | 追いつかないよな。俺も正直なところ自分で言っている意味がよくわからないんだ。 |
イクス | ただ、状況を読み取ろうとするとそうなっちゃうっていうか……。はー、わかりそうでわからないなあ……。 |
イクス | ――あ、ごめん。俺に用だったんだよな。どうしたんだ ? |
カーリャ・N | あ、はい。あの……ミリーナ様が準備ができたと仰っています。 |
イクス | ゲフィオンの記憶の件か ? |
カーリャ・N | そうです。ミリーナ様の中で、ご自身の記憶とゲフィオン様の記憶の整理がついて時系列のまとめが終わったそうです。 |
カーリャ・N | 私も……少しお手伝いしました。 |
イクス | そうか……。 |
カーリャ・N | ミリーナ様が、イクス様に記憶の共有をしたいと仰っています。不愉快な話もあるかも知れませんが……。 |
イクス | いや、それがどんなに苦しい話でも俺も知らなきゃいけないことだからな。どうしよう、どこで話す ? |
カーリャ・N | 談話室で、とのことです。 |
イクス | よし、それじゃあ行くか―― |
カーリャ | た、大変です ! イクスさま ! |
イクス | カーリャ ! ? どうしたんだ、そんなに慌てて……。 |
カーリャ | イオンさまが倒れちゃいましたあっ ! |
二人 | ! ? |
キャラクター | 2話【8-2 アジト1】 |
イクス | イオンが倒れたって ! ? |
アニス | イクス……うん。カロル調査室からもらったオールドラント領内のめぼしい事件をみんなでチェックしてたら、急に……。 |
アトワイト | ――確認が終わったわ。少なくとも、大きな外傷はないし今は呼吸や脈拍も正常よ。落ち着いているわ。 |
イクス | イオンが倒れた原因は何かわかったんですか ? |
アトワイト | その点は、今ジェイドとハロルドが確認しているところよ。魔鏡片の異常かも知れないと考えたみたいね。 |
ミリーナ | 私もアニスたちと一緒に談話室にいたんだけれど突然胸を押さえて苦しみだしたように見えたわ。 |
セルシウス | ……それだけじゃないかも知れないわ。 |
カーリャ・N | セルシウス様 ? 何か思い当たることでも ? |
セルシウス | アイフリードの封印が消えたせいかも知れない……。それで精霊ローレライと同調しているイオンも影響を受けたのだとしたら……。 |
イクス | それは、ナーザ神が目覚めたからってことか ?以前滄我もそう言っていたらしいけど……。 |
イクス | あ、いや、精霊を封じたのはルイスか。この間目覚めたのはナーザ神の方のアイフリード……。うーん。ややこしいな。 |
セルシウス | ええ、そうね。神であるナーザ・アイフリードとその鏡精の末裔である召喚士のルイス・アイフリード。 |
セルシウス | ただ封印に関してはどちらでも同じことなのよ。 |
セルシウス | 本来精霊の封印をしたのはルイスだけれどそれはナーザ・アイフリードの力を使った封印だから帝国はナーザ神を目覚めさせようとしたのね。 |
イクス | でも、あれは目覚めたって言っちゃっていいのかな。 |
イクス | 確かに、目覚めた後、鏡の精霊にされてそれを俺たちが解除した状態だから目覚めたという状況ではあるんだろうけど……。 |
セルシウス | ええ。単にアイフリードが目覚めただけなら良かったんでしょうけど、帝国によって色々と存在を弄られてしまったから……。 |
セルシウス | もしかしたら、本来とは違う形で、精霊の封印が解けてしまったのかも知れないわ。 |
セルシウス | ただ少なくとも、わたしの中に封じられていた『ティル・ナ・ノーグの精霊としての記憶』が甦ってきたことは確かよ。 |
全員 | ! ? |
ミリーナ | いつ記憶が戻ったの ?パティが連れさられたときはそんな状態じゃなかったわよね。 |
セルシウス | ここに連れてくるために、イオンを抱き上げた時よ。 |
アニス | はぅあ ! ? なんでそんな時に ! ? |
カーリャ・N | それって、アイフリード神に創られたこの世界の精霊としての記憶ってことですよね ! ?もしかしてニーベルングの記憶もあるんですか ! ? |
セルシウス | ええ、まあ……。それに……思わぬ副産物もあったの―― |
イオン | ……うぅ……。 |
アニス | ――イオン様 ! |
イオン | ……アニ……ス……。それに皆さん……。……ああ、僕は倒れてしまったんですね。すみません……ご迷惑をお掛けしました。 |
アニス | あ、まだ起きちゃ駄目ですよ ! |
イオン | 大丈夫。急に息が苦しくなって気を失ってしまいましたが病気というわけではないと思います。 |
イオン | この感覚は預言を詠んだ時に近い。ローレライの力が暴走した……という感じです。 |
ジェイド | ああ、お目覚めでしたか。 |
イオン | ジェイド……僕の体の魔鏡片が取り外されているようですが……。 |
ジェイド | はい。ハロルドの解析が終わったので持ってきました。今、装着します。 |
イクス | 魔鏡片に異常があったんですか ? |
ジェイド | というより、魔鏡片を通じて、ローレライの力の激流に巻き込まれた……という感じでしょうか。 |
ジェイド | この辺りは取り出したデータの精査が必要なのでもう少し時間がかかります。 |
ジェイド | イオン様に大きな問題はないと思いますが後ほど検査を行う必要はあるでしょうね。 |
セルシウス | やっぱり……。ローレライも影響を受けたんだわ。でも、ローレライは本来この世界にはいなかった精霊の筈……。 |
セルシウス | 同じくこの世界にいなかったラタトスクやこの世界のマクスウェルと融合していないミラにも変わった様子がないということは……。 |
セルシウス | ………………。 |
ミリーナ | セルシウス、どうしたの ? 私たちには言えないこと ? |
セルシウス | いいえ、そうじゃないのよ。説明が難しいけれど確かにアイフリードによる精霊の封印は解けた。 |
セルシウス | でも単に解けたのではなくて、精霊クロノスの力が影響したんじゃないかと思うの。 |
セルシウス | ――あ、待って !主……いえ、グリューネが大変だわ ! |
全員 | ? |
グリューネ | あら~。ここは一体どこかしら。綺麗なお花が咲いているわぁ。 |
? ? ? | お前は何者だ ? |
グリューネ | ええと……あなたはだあれ ? |
? ? ? | そうか……。世界の理によって記憶を奪われているのか……。我は精霊クロノスの分霊だ。 |
グリューネ | まあ、クロノスちゃんっていうのね。初めまして。 |
チトセ | ああ……マティウスさまが仰った通りだわ。クロノスの分霊の反応があるもの。 |
レグヌム領帝国兵 | チトセ様。クレーメルケイジの準備、完了しております。 |
クロノス分霊 | ――追っ手が来たか。いずれ、また見えよう。 |
グリューネ | そう、元気でね~。クロノスちゃん。 |
チトセ | 反応が……消えた ! ? |
グリューネ | まあ、あなたはクロノスちゃんのお友達かしら ? |
チトセ | ……まさか、あなたはクロノスの分霊と会話ができるの ? |
グリューネ | 寂しそうに見えたけれどあなたみたいなお友達がいるならお姉さん安心だわ。 |
ウェルテス領帝国兵 | ワルター様、クロノスの分霊が消失しました。 |
ワルターβ | レグヌム領の従騎士チトセか。何故ここにいる。ここは我々の管轄だ。クロノスの分霊をよこせ。 |
レグヌム領帝国兵 | チトセ様に無礼な ! |
チトセ | リビングドールが口出しをしないで。私はマティウスさまのためにクロノスの分霊を集めるの。どこの領地であっても……。 |
チトセ | それにクロノスの分霊なら私たちが捕獲する前に消えてしまったわ。 |
グリューネ | まあ。よかったわ。クロノスちゃんにはこんなにたくさんのお友達がいるのね。 |
ワルターβ | 貴様は……鏡映点だな。クロノスを知っているのか。 |
グリューネ | そういえば、誰かに呼ばれている気がしたんだけどクロノスちゃんだったのかしら。 |
チトセ | 彼女はマティウスさまのところへ連れて行くわ。 |
ワルターβ | ふざけるな。ここはウェルテス領。マウリッツ様のところへ連れて行くのが筋だ。 |
チトセ | ……だったら、デミトリアスさまに話を聞きましょう。そちらの領都の通信装置を借りるわ。 |
チトセ | ただし、捕獲して連行するのはこちらの兵に任せてもらいます。最初に彼女を見つけたのは私たちの方だもの。 |
ワルターβ | ……良かろう。 |
グリューネ | みんなでピクニックなんて、と~っても素敵ねぇ。クロノスちゃんも一緒だったらもっと楽しいのに残念だわぁ。 |
チトセ | この人、自分の状況がわかっているのかしら……。 |
キャラクター | 3話【8-3 アジト2】 |
セネル | ――遅くなった。 |
イクス | シャーリィの検査の途中にすまない。 |
セネル | いや、どうせ男の俺は検査に立ち会えないしな。 |
イクス | けど、シャーリィもセネルが傍にいれば安心だろう。贄の紋章の状況を調べるってことはあの時のことを思い出してしまうだろうし……。 |
クロエ | …………そうだな。 |
セネル | グラスティン……あいつだけは絶対に許さない。 |
ジェイ | ところでイクスさん、一体どうしたんですか ?慌ててぼくたちを呼び出したからにはあまりいい話とも思えませんが。 |
イクス | セルシウスから伝言だ。どうも、グリューネさんがこの浮遊島を抜け出したらしい。 |
セネル | まさか、一人でか ? |
イクス | ああ。しかもどうやら帝国の連中に捕まったようなんだ。 |
クロエ | 何ということだ。すぐに助けに向かわなければ ! |
ジェイ | 待って下さい。セルシウスさんからの伝言と言っていましたがどうしてそれがわかったんですか ? |
イクス | セルシウスが察知したんだ。どうもセルシウスとグリューネさんは元の世界で関わりがあったみたいで―― |
クロエ | セルシウスの記憶が戻った ? しかもセルシウスに私たちの世界の記憶がある、というのか ?そんな馬鹿な……。 |
ジェイ | ……いえ、でも確か、元の世界にいた頃グリューネさんはセルシウスの種を植える……と言っていたことがありましたね。 |
ジェイ | それだけじゃない。他の精霊の名前も口にしていた。今になってみれば、あれは植物ではなく精霊の種……だったのかもしれません。 |
セネル | セルシウスがグリューネさんを主と呼ぶならグリューネさんもクラースのような召喚士か或いはミラのような精霊なんだろうか。 |
ジェイ | セルシウスさんがその点を詳しく話してくれなかったのは気になりますね。 |
ジェイ | それに、確か異世界の神として呼び出されたシュヴァルツという存在も、グリューネさんと関わりがあるかもしれないんでしたっけ。 |
クロエ | ああ、そうだったな。 |
ジェイ | ………………。 |
イクス | とにかく、今、セルシウスが先行してグリューネさんを追いかけてくれているから俺たちもグリューネさんの救出に向かおう。 |
イクス | シュヴァルツのことがある以上グリューネさんを帝国に渡すのは危険だ。まして精霊も絡んでくるならなおさらだろう。 |
セネル | わかった。でもイクスはここに残った方がいい。 |
イクス | え ? |
クロエ | 私もクーリッジの意見に賛成だ。ミリーナとの大切な話があるのだろう。 |
イクス | あ、ああ……。だけど―― |
クロエ | ミリーナも色々と悩んでいたんだ。この機会を大切にした方がいい。 |
イクス | ………………。 |
ジェイ | 精霊との関わりのことを考えると少々危険ですがシャーリィさんも連れて行くべきでしょう。 |
セネル | ああ。ノーマとモーゼスにも声を掛けてくる。 |
ジェイ | ああ……モーゼスさんもここにいたんでしたね。忘れていました。 |
ミリーナ | イクス、お待たせ。イオンさんのことはアニスたちに任せたわ。 |
カーリャ | グリューネさまを助けに行くんですよね ! |
イクス | ……いや、それはセネルたちに任せることにしたよ。俺はミリーナから話を聞きたい。 |
ミリーナ | ! |
ミリーナ | イクス……。 |
ミリーナ | ええ、わかったわ。私の受け取ったゲフィオンの記憶のこときちんと話すわね。 |
ナーザ | 定時連絡だ。皆、変わりないか。 |
メルクリア | はい、兄上様やバルドもお変わりありませぬか ?義父……いえ、デミトリアスのことを探るためにお二人が別行動をされて二ヶ月にもなります。 |
メルクリア | やはりわらわもご一緒すれば良かったと……。 |
ナーザ | いや、お前たちにはそれぞれやってもらわねばならぬことがあった。人手も足りぬ。手分けをして事に当たるのは当然だ。 |
メルクリア | ……………………はい。 |
コーキス | あ、ボス。言われてたアリス……様って鏡映点の様子を見てきたけど、あれは駄目だよ。 |
リヒター | だからそう言った。奴は大人しく従うようなタマじゃない。 |
コーキス | ああ。それにあの人、結局ケリュケイオンに行ったみたいだから。 |
ナーザ | ふむ……。そういえば、猫を連れた鏡映点というのはどうした ? |
コーキス | アリス様の調査が終わった後また調べてみたけど、めぼしい手かがりがないんだ。もしかしたら帝国に行ったのかもしれない。 |
ナーザ | ならば、敵になるな。では、もういい。捨て置け。それより、こちらの調査の手伝いをしてもらおう。 |
メルクリア | でしたらわらわが―― |
ナーザ | いや、これはコーキスに頼む。 |
メルクリア | ! |
ナーザ | デミトリアスの幼少期に関わる情報を掴んだ。どうやら幼い頃、秘密裏にセールンド諸島の小さな村へ、一年近くも滞在している。 |
ナーザ | この村が今でも残っているかはわからぬが当時のデミトリアスの足跡を調査して欲しい。 |
コーキス | 了解 ! |
ナーザ | リヒター、例の巨大クレーメルケイジに関する調査は進んでいるか ? |
リヒター | ああ。アステルとディストがそれぞれ装置と術式の両方からアプローチしている。もう少しでまとめ終わるだろう。 |
ナーザ | 流石だな。期待している。 |
ナーザ | ……ん ? ジュニアとマークはどうした ? |
コーキス | ジュニアの奴……倒れたんだ。帝国にいた頃、グラスティンになんかされてたみたいで……。 |
メルクリア | はい。何やら刻印器なるものを使われたのだとか。解除方法を一人で調べていたようです。今、マークが看病しております。 |
ナーザ | 相変わらず無茶をする……。しかし、わかった。ならばジュニアが担当していたバロールに逆アクセスする方法に関しては保留だな。 |
コーキス | ボスたちはどうするんだ ? |
ナーザ | 一通りの調査は終わった。ついでに帝都の様子を調べてから戻る。 |
メルクリア | ……………………。 |
バルド | フフ、メルクリア様が大層ご不満な様子でしたよ。 |
ナーザ | バルド。メルクリアを甘やかそうとするな。 |
バルド | 甘やかすつもりはありません。ただ、締め付けすぎれば、子供は反発するものです。 |
ナーザ | それはそうだが……。 |
バルド | ――おっと、ナーザ様。例の男に動きがあったようです。 |
ナーザ | デミトリアスの手の者か。 |
バルド | はい。あの民家で何か受け取ったようです。包みを抱えています。襲いますか ? |
ナーザ | ああ、しかし用心しろ。兵を伏せているやもしれぬ。 |
バルド | はい。ですが、ここは帝都から離れた小さな街です。駐留兵も少ない筈。 |
ナーザ | よし、お前は回り込んで退路を断て。挟み撃ちにするぞ。 |
バルド | 承知しました。 |
キャラクター | 4話【8-4 仮想鏡界】 |
ジュニア | ――やめて……やめてよっ、サレっ ! |
マークⅡ | ど、どうした、フィル ! ? |
ジュニア | …………え ? ここは……仮想鏡界…… ?じゃあ、今のは夢…… ? |
マークⅡ | おい、フィル。どうした。買い出しに行くって言ったきり帰ってこないんで心配してたんだぞ。 |
ジュニア | え…… ! ? じゃあ、僕はどうやってここに……。 |
マークⅡ | ゲートの近くの街の宿屋で寝込んでたんだ。それをリヒターが見つけてくれて―― |
ジュニア | ! ? |
マークⅡ | ……おい、本当に何があった ?俺はてっきり、グラスティンの奴が仕掛けた例の刻印器の呪いのせいだと思ってたんだが……。 |
ジュニア | いけない……。僕、また取り返しのつかないことをしてしまったかも……。 |
マークⅡ | 何だよ。わかるように話せ。でないと対処できねえぞ。 |
ジュニア | ……具現化を……させられた。 |
マークⅡ | は ? グラスティンにか ? |
ジュニア | ち、違うよ ! サレにだよ !買い出しに行った街で、ディストさんとはぐれて……。 |
マークⅡ | そこでサレの野郎に会ったのか ?具現化させられたって、何を具現化したんだ ? |
ジュニア | フリーセル、だよ……。 |
マークⅡ | ! ? |
コーキス | 大変だ ! マーク、もう一度ゲートを開けてくれ ! |
マークⅡ | うるせえっ ! 今、それどころじゃ……ってちょっと待て。 |
マークⅡ | コーキス、お前、なんでまだアジトにいるんだ ?ナーザに言われた調査のためにセールンド諸島に向かった筈だろ ? |
リヒター | メルクリアだ。あの馬鹿、コーキスに用事を言いつけてその隙に魔鏡術で眠らせたんだ。 |
ジュニア | え ! ? まさか、メルクリア一人で行っちゃったの ! ? |
コーキス | 多分な。一緒に連れて行けって言うから俺、断ったんだよ。 |
コーキス | だから、一人でゲートを使ってセールンド諸島に向かったんじゃないかと思うんだ。魔鏡通信にも全然出ないしさ。 |
マークⅡ | だったら追いかければいいだろ――ってあいつも鏡士だったな。俺が開けたゲートを強制的に閉じたのか。 |
マークⅡ | くそ、ジュニアのことで手一杯でそこまで感知できなかった。まったく、次から次へと……。 |
リヒター | どうした ? 何があった ? |
ジュニア | それが……あの……。 |
マークⅡ | いや、説明は後だ。今、ゲートを開く。二人はメルクリアを追ってくれ。その間に俺はうちのご主人様のやらかしを確認して整理しておく。 |
コーキス | お、おう…… ?わかった。リヒター様、行こう ! |
メルクリア | (ふっふっふっ。コーキスめ。そろそろ目を覚ました頃かの。わらわも連れて行ってくれと言ったのに、強情な奴め) |
メルクリア | (いや……強情なのはわらわの方か……。勝手をして、皆、怒っているだろうな……。それでもわらわは、義父上のことを知りたいのじゃ) |
魔物 | グルルル……ッ ! |
メルクリア | また魔物か ! ?何故この島にはこのように魔物が多いのじゃ ! |
メルクリア | ミゼラブル・トーチャー ! |
メルクリア | ふう……。やはり一人では無理があったか……。いや、しかしわらわの力はこんなものでは―― |
メルクリア | ええいっ、またか !術式・十三―― |
ウィル | 何、子供だと ! ? |
メルクリア | 何、人だと ! ? |
魔物 | ――グォォォォォォッ ! |
メルクリア | し、しまった ! 先程の生き残りか ! ? |
ウィル | 危ないっ ! |
ウィル | ラスレスハンマー ! ! |
魔物 | ギィィ……。 |
メルクリア | た、助かった……。 |
ウィル | 他に生き残りは……いないようだな。怪我はないか ? |
メルクリア | いや……大丈夫じゃ。すまぬ、世話を掛けた。感謝するぞ。そなたは大事ないか ? |
ウィル | オレなら心配には及ばない。こういったことには慣れている。 |
ウィル | しかし……大陸では見かけない種類の魔物だな。ウルフ系だが爪の形が独特だ。 |
ウィル | そうか……さっき見つけたプルメリアの群生地を荒らしていた足跡はこいつらだな。ということは―― |
メルクリア | ふむ…… ? このようなところに人がいるのはおかしいと思ったが、もしやお主は学者か ? |
ウィル | おっと……。そうだった。調査のことよりまず、きみのことを何とかしなければな。 |
ウィル | オレはウィル・レイナード。この隣の島で村長代行を務めている。博物学の研究の為この辺りの島々を回っていた。 |
ウィル | きみは何者だ ? どうしてこんなところにいる ?この島には、もう人は住んでいないと聞いていたが……。 |
メルクリア | わらわはメル―― |
メルクリア | (いや、本名を名乗っては危険か。この者が親帝国か反帝国かもわからぬ……) |
メルクリア | メル、じゃ。メルという。その……ち、父上の育った村がこの島にあると聞いて探しに来たのじゃ。 |
ウィル | 父親の……。 |
ウィル | ……しかし、こんな無人島に一人で来たわけではないだろう。 |
メルクリア | 島には……あ、兄と一緒に来たのじゃがはぐれてしまったのじゃ……。 |
ウィル | ……フッ。 |
メルクリア | な、何じゃ ? 何がおかしい ?わらわは嘘などついておらぬぞ ! |
ウィル | いや、友人のことを思い出しただけだ。 |
ウィル | よし、それなら、一緒にきみのお兄さんを捜そう。子供が一人でうろついていい場所ではないからな。 |
メルクリア | わらわは子供ではない ! |
ウィル | ! |
メルクリア | ……いや、子供じゃな。こんな振る舞いは。すまぬ……大声を出して。 |
ウィル | ……素直に謝れるとは感心だな。 |
メルクリア | う……た、確かにわらわは子供じゃ。なれど、あまり子供扱いをしないで欲しい。わらわはわらわなりに――あっ ! ? |
ウィル | やれやれ、今度はどうした ? |
メルクリア | じょ、浄玻璃鏡がない…… ! ? |
キャラクター | 5話【8-5 帝都イ・ラプセル 郊外】 |
デミトリアスの使い | くっ……離せっ ! |
バルド | ――失礼。 |
ナーザ | 気を失ったか。 |
バルド | 騒がれても困りますから。ところでナーザ様この男が持っていた包みは……。 |
ナーザ | これは……キラル純結晶、か ? |
ナーザ | ――いや、これは鏡精エネルギーの結晶体か ! ? |
バルド | 馬鹿な ! ? もはや帝国に鏡士はいない筈です ! |
ナーザ | なんだ、この音は。 |
バルド | この使いの者が持っている魔鏡通信機の呼び出し音ですね。これは……もしやデミトリアス帝からの私信でしょうか ? |
ナーザ | 帝国の魔鏡通信……。おそらく仕組みは俺たちが使っているものと同じようなものだろう。よし、魔鏡術でハックできるか試してみよう。 |
デミトリアス | ――待たせたね。使いの者が戻らずに難儀していた。時間も無いことだし、会議を始めるとしよう。 |
ピオニーβ | 承知した。すでに報告をしたとおり従騎士ヴァンが倒れた。 |
ピオニーβ | 疑似心核が崩壊し、体が保てない恐れがあるため本人の心核を戻して沈静化させている。 |
アルトリウス | スペアの疑似心核の埋め込みはどうなった ? |
ピオニーβ | 受け付けない。ヴァンの体内にある精霊ローレライが活性化しているようだ。 |
マウリッツβ | 精霊クロノスの解放に影響されたのでは ? |
デミトリアス | その可能性は大いにあるね。 |
ロミー | 魔導器を埋め込んだらどう ? なんて言ったかしら……ヘルメス式とかなんとか……。あれなら元の心核と組み合わせてリビングドールにできるんでしょう ? |
マウリッツβ | ワルターに施したものと同じか。しかしワルターも完全とは言いがたい。時折元の心核が動き出す。定期的な調整も必要だ。 |
デミトリアス | その点も考慮して、領主の館の地下に魔核工場を作らせたのだが……やはり手間になるようだね。 |
ピオニーβ | 地下工場といえば、カレギア領内の汎用型カレイドスコープを、帝国を出奔したサレが勝手に利用していた件はどうなった。 |
アルトリウス | 今、調査させているところだ。ところで当のサレは、今どこで何をしている ? |
デミトリアス | グラスティンが追っている。今日はその報告もある筈だったんだがね。 |
アルトリウス | …………なるほど。 |
マウリッツβ | デミトリアス様。クロノスの分霊についても報告があります。 |
マウリッツβ | ワルターとレグヌム領の従騎士がクロノスの分霊に接触。取り逃がしたものの、代わりにクロノスの分霊と会話する鏡映点を捕獲しました。 |
? ? ? | つまり、その鏡映点をどちらの領地で預かるか裁可して欲しいんだね。だったら話は簡単だ。鏡映点は帝都で預かる。それで問題ないだろう。 |
? ? ? | そちらに迎えの兵を出そう。その鏡映点の名前は ? |
? ? ? | グリューネだそうです。 |
バルド | ――ナーザ様、確かこの名前には聞き覚えがあります。イクスさんたちの下にいる鏡映点の女性かと。 |
ナーザ | よく覚えているな。まさか、親切心を出すつもりか ? |
バルド | お許しがいただけるならば。 |
ナーザ | ……ならば、今少し待て。今グリューネとやらの身柄を拘束している場所について話しているようだ。 |
デミトリアス | ……わかった。墳墓で受け渡しだ。その時に、例のオリジンの報告も―― |
アルトリウス | 待て。ネズミが紛れ込んでいるようだ。 |
ナーザ | ちっ、誰だかわからぬが、勘のいい奴め。アクセスできなくなった。だがグリューネとやらの場所は特定できたぞ。 |
バルド | ありがとうございます、ナーザ様。お慈悲に感謝致します。 |
セネル | ――イクスからの連絡によるとこの辺りだな。グリューネさんが連れて行かれた墳墓というのは。 |
クロエ | まさかバルドたちからグリューネさんの行方について連絡が来るとはな。 |
シャーリィ | 結局、セルシウスさんからの連絡はなかったね。無事ならいいんだけれど……。 |
ジェイ | ええ……。イクスさんから聞いた話を総合するとセルシウスさんはグリューネさんの居所をある程度把握できるようです。 |
ジェイ | それなのに連絡がないというのはセルシウスさんかグリューネさんのどちらかが危険な状態なのかも知れません。 |
モーゼス | のう、そこじゃないかのう。探しちょる墳墓の入り口ちゅうのは。 |
ノーマ | そうかな~ ?だって墳墓って【人食い遺跡】のことじゃないの ?構造も雰囲気も全然違うみたいだけど……。 |
クロエ | エンコード、とやらが影響しているんじゃないか ? |
モーゼス | なんじゃ、そのエンコードちゅうのは。 |
ジェイ | さすが、モーゼスさん。大事なことは何一つ覚えていませんね。 |
モーゼス | ほうじゃろほうじゃろ――って、貶しとるんか ! ? |
ジェイ | モーゼスさんに褒めるところなんて何一つありませんからね。 |
モーゼス | なんじゃと ! ? |
シャーリィ | ねえ、お兄ちゃん。確か【人食い遺跡】って元の世界でお兄ちゃんたちが、グリューネさんに出会った場所だよね。関係があるのかな ? |
セネル | どうかな。あの時、ワルターは【人食い遺跡】にはいなかった。もしも何かあるとすれば―― |
ノーマ | エバーライト ! |
ジェイ | 帝国の奴らは、エバーライトすらも何かに利用しようとしているのかもしれませんね。 |
ノーマ | そんなことさせない ! |
クロエ | 落ち着け、ノーマ。今はグリューネさんを助けに来たんだ。 |
セネル | それにこの世界にエバーライトがあると確定したわけでもないからな。 |
ノーマ | わかってるよ~ !けど『ある』かもしれないんだからよ~く調べながら進まないとね。 |
モーゼス | お、おい、シャボン娘……。まさかまたトラップを片っ端から発動させるつもりじゃ……。 |
ノーマ | まさか~。モーすけってば心配しすぎ。ここってどう見てもトラップなんてなさそうだし―― |
三人 | あ……。 |
モーゼス | ぎょえええええ~~~~~っ ! |
ジェイ | こうなると思ってました。 |
モーゼス | いい加減にせんか、シャボン娘 ! ?毎度毎度、次から次へとトラップに引っかかりおって ! |
モーゼス | ワイのケツの穴が二つに増えたらどうするつもりじゃ ! ? |
ジェイ | 最高に笑えますよね。 |
モーゼス | なんじゃ、ジェー坊。何か言ったか ! ? |
ジェイ | ――しっ。うるさいですよ、モーゼスさん。 |
モーゼス | 誤魔化そうとしてもそうはいかん。ワイは―― |
セネル | いや、待て、モーゼス。本当に誰かいる。 |
四人 | ! |
ワルター | はあ……はあ……。 |
ワルター | ……く……どういう……ことだ…… ?俺は……どうして……。 |
シャーリィ | ワルターさん ! |
ワルター | ! |
ワルター | メル……ネス…… ! |
ワルター | セネル・クーリッジ…… ! |
セネル | リビングドール状態じゃなくなっているのか ! ? |
クロエ | それに、様子がおかしいぞ ! 随分苦しそうだが……。 |
ワルター | 貴様……まだ、メルネスの……隣に……。 |
ワルター | 貴様…… ! 貴様――貴様ァァァァァッ ! ! |
セネル | おい、落ち着け ! 話をさせてくれ ! |
シャーリィ | ワルターさん ! 私からもお願いです ! |
ワルター | 貴様だけは、貴様だけは――絶対に許さんッ ! ! |
キャラクター | 6話【8-6 ウェルテス領 遺跡1】 |
ワルター | 何故……貴様だったのだ。 |
ワルター | 何故……メルネスは、貴様を選んだのだ。 |
ワルターβ | もうやめろ。それは貴様が敗北した際の無様な記憶。私の活動の邪魔だ。 |
ワルター | 貴様に何がわかる ! 水の民でもなく陸の民ですらない、人形兵士同然の貴様に俺の……この俺の憎しみなどわかってたまるか ! |
ワルター | 俺の体を返せ ! 奴を……セネルを殺す !そしてマウリッツと共に、メルネスを―― |
ワルターβ | あの小娘を取り返してどうなる。 |
ワルターβ | この世界に、貴様の言う『本当の』水の民はなく『本当の』滄我とやらもない。所詮は異世界の影。使い捨ての道具だ。 |
ワルター | だ、黙れっ ! 黙れ黙れ黙れっ ! |
シャーリィ | ワルターさん ! お兄ちゃん、ワルターさんが ! |
セネル | 聞こえるか、ワルター。悪いが拘束させてもらった。だが、危害を加えるつもりはない。話をしたいんだ。 |
ワルター ? | ―――――――― |
モーゼス | 大丈夫かのう。こいつ、目の焦点が合っちょらんぞ。 |
? ? ? | その声はセネルたち ? |
ジェイ | セルシウスさんの声です ! |
セネル | どこだ ! ? |
セルシウス | 主……グリューネの壺の中よ。 |
モーゼス | どういうこっちゃ ! ? |
セルシウス | あなたたちが来てくれたならもう安心ね。 |
クロエ | グリューネさんも、寝ていないで起きてくれ ! |
グリューネ | あらぁ、クロエちゃん、それにセネルちゃんたちも。みんなもピクニックに参加しに来てくれたのねぇ。お姉さん嬉しいわぁ。 |
ノーマ | やっぱりグー姉さん、何もわかってない ? |
グリューネ | セルシウスちゃん。セルシウスちゃんも目が覚めたのね。 |
セルシウス | セネルたちと会えたから、先に出ていたの。主……いえやはりグリューネと呼びましょうか。助けてくれてありがとう。 |
セネル | セルシウス、何があったんだ。 |
セルシウス | グリューネを見つけたところでワルターたちと交戦になったのよ。 |
セルシウス | 向こうがクレーメルケイジにわたしを入れようとしたときにグリューネがこっちの方が居心地がいいと言って……わたしも危険を感じて壺の中に避難していたの。 |
ノーマ | ちょ ! ?グー姉さんの壺、ど~なってんの~ ! ? |
ジェイ | セルシウスさん。あなたとグリューネさんはどういった関係なんですか ?おおよその予想はついていますけれど。 |
モーゼス | ジェー坊 ! ? そいつは本当か ! ? |
ジェイ | セネルさんだって、シャーリィさんだってノーマさんやクロエさんだってわかっていると思いますよ。モーゼスさんと違って。 |
モーゼス | ! ? |
セルシウス | そうね。でもいつまでもここにいるのは危険よ。すぐにここへ帝国の連中がやってくるわ。 |
セルシウス | いったん外に脱出しましょう。話はその後よ。それと、アジトから応援を呼んだ方がいいわね。 |
セネル | ワルターの心核を戻す為か ?やっぱりイクスたちにも来てもらうべきだったか……。 |
セルシウス | これは鏡士より、リタの方が適任だと思うわ。私の聞いた話だと、ワルターの中の心核は特殊な状況らしいのよ。 |
ノーマ | リタっち ?リタっちは今ケリュケイオンの方にいるよね。 |
ジェイ | 好都合です。アジトから来るより早く合流できるでしょう。今連絡します。 |
ジェイ | モーゼスさん、ワルターさんを運んで下さい。 |
モーゼス | 仕方ないのう。ワイが背負うちゃる ! |
セネル | グリューネさん、行こう。 |
グリューネ | ええ、ピクニックの続きよね。やっぱりピクニックは大勢の方が楽しいものねぇ。 |
クロエ | グリューネさん、これはピクニックじゃないんだ。それにグリューネさんにも色々と聞かなければならないことがある。 |
グリューネ | わかったわ。じゃあ、最近ミラちゃんから聞いた面白いお話をしてあげるわねぇ。 |
シャーリィ | あ……それは……ちょっと興味があるかも……。 |
ノーマ | あ~、グー姉菌恐るべし ! |
ウィル | ……ないな。 |
メルクリア | ……ないのう。 |
ウィル | この自然の森の中では落とした物を見つけるのも簡単ではない。諦めて、お兄さんとの合流を優先してはどうだ。 |
メルクリア | ………………嫌じゃ。 |
ウィル | しかしきみは森を探索する装備もない。たかが鏡、それも壊れた鏡の破片など―― |
メルクリア | 単なる鏡ではない ! |
メルクリア | あれは……わらわの友達の形見のようなものなのだ……。 |
ウィル | 形見のようなもの、か。土足で踏み込むつもりはないがもし良ければ事情を聞かせてもらえないか ? |
メルクリア | ……う、うむ。その……わらわには、自分の我が儘と幼さ故に迷惑を掛けてしまった友が二人いるのじゃ。 |
ウィル | ……フ。 |
メルクリア | また、笑ったな ? わらわはそんなにおかしいか ? |
ウィル | いや、すまない。これはオレが悪いな。だが、きみは――少なくともオレから見ればまだ幼い子供だ。 |
ウィル | 先程からきみの話を聞いているときみは無理をして大人のように振る舞おうとしているように感じられる。 |
メルクリア | 他の者にも似たようなことを言われたことがある。じゃが、わらわは……子供らしくすることができないのじゃ。 |
ウィル | オレにしてみれば、きみは十分子供らしい。言葉遣いは独特だが、それでもきみは子供だ。むしろ聞き分けが良すぎるぐらいだな。 |
メルクリア | そ、そうであろうか ?兄上様はわらわを我が儘じゃとお叱りになり軽挙妄動を慎めと―― |
ウィル | ははははは ! 確かに軽挙妄動とは言い得て妙だな。一人でこんな無人島をうろついているのだ。しかも家出のような形で。 |
メルクリア | ! ? |
ウィル | オレが気付かないとでも思ったか ?きみの嘘はわかりやすい。それにオレにも娘が……――娘がいたんだ。ハリエットと言ってな。 |
ウィル | あの子も無茶をする子だった。だからすぐにピンと来たんだよ。 |
ウィル | すまない、話の腰を折ってしまったな。良かったら続きを聞かせてくれ。 |
メルクリア | ……どちらの友にも酷いことをしてしまったがわらわがなくしてしまったのは、シドニーという友が残してくれた鏡の破片じゃ。 |
メルクリア | シドニーが最初にわらわのために作ってくれた鏡でな。もっといいものを作ると話していたのじゃが約束が果たされることはなかった……。 |
メルクリア | 二度と会えないところに行ってしまったのでな。 |
ウィル | ……そうか。その鏡がきみにとって特別なものであることはわかった。 |
ウィル | だが、その鏡を探すことできみが命を落とすようなことになるのはそのシドニーという友達の本意ではないだろう。 |
ウィル | 夕暮れまでに見つからなければいったん諦めた方がいい。オレがきみを家まで――ん ? |
メルクリア | どうした ? |
ウィル | いや、今森の奥で何かが光ったような……。 |
メルクリア | もしや浄玻璃鏡ではないか ! ? すぐに探しに行こう ! |
ウィル | しかし、あの方向は……。 |
メルクリア | 何じゃ ? 何か問題でもあるのか ? |
ウィル | ……仕方ない。洗いざらい話すしかないか。おそらくこの先にはきみの父親が育ったという村の跡地がある筈だ。 |
メルクリア | 何じゃと ! ? ならば何故教えてくれなかったのじゃ ! |
ウィル | 危険な魔物の棲家になっているんだ。うかつには近づけない。 |
メルクリア | それでもわらわは行かねばならない !でなければ……わらわは本当に役立たずじゃ。兄上様にも見捨てられてしまう……。 |
ウィル | 兄妹なのだろう ? そんなことは―― |
メルクリア | 兄妹にもいろいろある ! それにわらわは母上様に先立たれ、義父上……とも対立し、一人ぼっちじゃ。 |
ウィル | そうか……。 |
メルクリア | 兄上様とも最近になって初めて顔を合わせた故お役に立ちたいのにどうしていいのかわからぬ。 |
メルクリア | 兄上様は義父上の情報を欲しがっているのじゃ。わらわがそれを手に入れればもう少し……わらわのことを……。 |
ウィル | ……きみは寂しいんだな。 |
メルクリア | わ、わらわには仲間がいる ! 新しい友もいる !寂しいなどと言っては罰が当たる ! |
ウィル | 罰など当たるか ! 寂しくていいんだ。 |
メルクリア | ! ? |
ウィル | その素直な気持ちをもっとお父さんやお兄さんや仲間にぶつけてみろ。そうやって子供は大人になる。 |
メルクリア | で、でも、それは我が儘……。 |
ウィル | 我が儘でもいい。ためらって気持ちをため込みその結果、大切な人を失うぐらいなら自分の素直な気持ちを口にしたほうがいい。 |
メルクリア | ……ぅ…………。 |
ウィル | 泣いてもいいんだ。 |
メルクリア | うう……わらわは寂しいのじゃ ! 母上様に会いたい !兄上様とも離れたくない ! |
メルクリア | それに……義父上のことも……。何故こうなってしまったのじゃ !わらわはわらわは……皆と一緒にいたかったのじゃ ! ! |
キャラクター | 7話【8-7 ウェルテス領 街道1】 |
リタ | ――みんな、お待たせ。念のため、フィリップにも来てもらったわよ。お供もね。 |
マーク | お供ってのは結構な言い種だな。せめて護衛と言ってくれ。 |
フィリップ | 心核のことが関わっているなら僕もいた方がいいかと思って。イクスたちは……今大変みたいだから。 |
セネル | 助かる。 |
リタ | で ?ヘルメス式魔導器が埋め込まれてるって、本当なの ? |
ノーマ | セルるんの話によるとね。 |
リタ | ちょっと待って。今調べる。フィリップ、あんたもさっさと手伝う。 |
フィリップ | ああ、わかってるよ。 |
ジェイ | 墳墓での話の続きですが―― |
セルシウス | その前に、話しておきたいことがあるの。グリューネは、以前シュヴァルツと接触し記憶が戻りかかったことがあるわね。 |
セルシウス | 彼女の記憶が戻るということは再びシュヴァルツを甦らせかねない。 |
セルシウス | わたしはあなたたちの世界のセルシウスでありこの世界のセルシウスでもある。だから、この世界を守らなければならないの。 |
モーゼス | つまり、どういうことじゃ。 |
セルシウス | グリューネの正体を知っても今まで通りに接すること。そして記憶を無理に取り戻そうとさせないこと。それを約束して欲しいのよ。 |
セネル | 仮にグリューネさんが自分の正体を知りたがったとしてもか ? |
セルシウス | グリューネは思い出せないだけで『知っている』わ。 |
セネル | ……わかった。 |
ジェイ | では、単刀直入に伺います。グリューネさんはぼくらの世界の神に類する存在……ということでしょうか。 |
セルシウス | ええ。本来の力を失っているけれどそう考えていいと思うわ。 |
モーゼス | 神……じゃと ! ? |
セルシウス | ティル・ナ・ノーグではエンコードの力が働いて実際には神としての力は発揮できないでしょうね。それはこの世界の防御機構だからどうにもできないわ。 |
モーゼス | みんな、気付いとったんか ! ? |
シャーリィ | シュヴァルツのことや、精霊であるセルシウスさんが主って呼んでいたから、もしかしたらとは……。 |
クロエ | だが、まだ半信半疑だ。急にグリューネさんが神だと言われても……。 |
ジェイ | まあ、在り方は違いますがこの世界の神もこちらにコンタクトを取ってきました。 |
ジェイ | ここはそういう世界だ、そういうこともあると割り切っておくぐらいでいいんじゃないですか。本当はこういうのは気持ち悪いんですけどね。 |
ノーマ | けど、ジェージェーの言う通りだよ。だって、グー姉さんはこれからもグー姉さんなんだし。 |
グリューネ | お姉さんのことを話しているの ? |
モーゼス | お、おう……。まあ……どこからどう見ても姉さんは姉さんじゃからのう……。 |
グリューネ | あらぁ、わたくしのことを見たいの ?どうぞ、モーゼスちゃん。じっくり見てちょうだい。 |
モーゼス | ! |
クロエ | だからといって本当にじっくり見ようとするな、シャンドル ! |
ジェイ | ですが、これではっきりしました。グリューネさんは一刻も早く浮遊島に連れ帰った方がいい。 |
ジェイ | もしかしたら、今回のことで帝国はグリューネさんの利用価値に気付いてしまったかも知れません。 |
セネル | ああ、そうだな。 |
セネル | どうだ、ワルターの方は。もし長引くならアジトに連れ帰った方がいいかもしれない。 |
フィリップ | 魔導器の方は僕にはわからないけれど彼の元々の心核と一緒に付けられている疑似心核なら外すことはできそうだよ。 |
シャーリィ | え ? 疑似心核が埋め込まれているんですか ?でもさっきのワルターさんはリビングドール状態には見えませんでしたけど……。 |
フィリップ | どうやら疑似心核と心核を魔導器で連結しているようだね。 |
フィリップ | 心核が大きなダメージを負っているから具現化された時、肉体的にも精神的にも瀕死だったんじゃないかな。 |
セネル | まさか……ワルターが具現化されたタイミングはあの時の―― |
クロエ | ワルターが命を落としたあの時か ! ? |
ジェイ | まずいですね。疑似心核を取り除けばあの状態のワルターさんが現れる。 |
ジェイ | 会話になんてなりませんよ。アジトに連れ帰ることすら危険だ。 |
リタ | そっちの事情はよくわからないけど魔導器の方は何とかなりそうよ。 |
リタ | それにしても、帝国の奴らあいかわらずメチャクチャな使い方をするわね。 |
リタ | きっと治療と実験をかねて魔導器と心核を繋いだんでしょうけどこんな乱暴な使われ方、この子たちが可哀想だわ。 |
フィリップ | リタ、僕の見立てではワルターの体はまだ完全に癒えていないと思うんだがどうかな。 |
リタ | でしょうね。心核が崩壊寸前なのを魔導器がかろうじて守ってる状態だから。 |
リタ | 心核のダメージが修復されて魔導器を取り外せるようにならない限り体の方も癒えないと思う。 |
リタ | 酷い話よね。死にかけた体のままずっと働かされてるのよ、こいつは。 |
シャーリィ | そんな…… ! |
セネル | 本当にあの時のまま、か。 |
モーゼス | どうする、セの字。 |
セネル | …………わからない。どうすれば……。 |
ノーマ | やってみようよ、セネセネ。 |
セネル | ノーマ ? |
ノーマ | あの時はどうにもならなかったけど話す時間ができたってことじゃん ! |
ノーマ | リッちゃんだって、あれから水の民と陸の民の間をつなごうとして頑張ってきた。 |
ノーマ | 会話になるとかならないってことを心配するより前にセネセネが伝えたいことをちゃんと伝えてワルちんの気持ちもちゃんと知ろうよ。 |
グリューネ | セネルちゃん、喧嘩はダメよ。ワルターちゃんもまっすぐなとてもいい子なんだから仲良くしましょう。 |
ノーマ | ああ、こういう時はむしろグー姉菌がありがたい~ !セネセネ、グー姉菌に感染しよう ! |
シャーリィ | お兄ちゃん、わたしも、ちゃんとワルターさんと話したい。もう水の民を一人も失いたくないから。 |
シャーリィ | わたし、ワルターさんも守りたい。メルネスとして……それからワルターさんに何度も助けられたシャーリィとして。 |
セネル | ――リタ、フィリップ。ワルターの疑似心核を外して、目覚めさせてくれ。それから、拘束も解いて欲しい。 |
モーゼス | みんな ! ワシらはいざというときにワの字を止められるよう、準備じゃ ! |
クロエ | 任せろ。クーリッジ、シャーリィ私たちのことは気にするな。ワルターのことだけ考えるんだ。 |
マーク | リタとフィルは俺が守る。二人とも頼むぜ。 |
リタ | OK。それじゃ、行くわよ。魔導器最終確認。再起動開始 ! |
フィル | では、疑似心核を外そう。行くよ ! |
ワルター | ……………… ! |
セネル | ワルター。話をさせて欲しい。お前は話なんてないというかも知れないが―― |
ワルター | ――どけ ! |
セネル | くっ ! ? |
シャーリィ | ワルターさん ! 待って下さい ! |
ワルター | メルネス……何故だ……。俺はメルネスを守るために生きてきた。メルネスのそばにいるのは俺の筈だった ! |
シャーリィ | どこへ行くんですか ?ワルターさんのお話、聞かせて下さい。それにわたしの水の民への気持ちも―― |
ワルター | メルネス……もう水の民を一人も失いたくないと言ったな。 |
セネル | お前……あの状態でも俺たちの声が聞こえていたのか ! |
ワルター | もしその気持ちが本当なら、ご託を並べる前に何故陸の民どもに拘束されているマウリッツを助けようとしない ? |
シャーリィ | マウリッツさんが近くにいるんですか ! ? |
ワルター | ――俺は行く。セネル、貴様を葬り去るのはその後だ ! |
ワルター | このままではルグの槍の贄となってマウリッツも死ぬ。俺はもう、陸の民どもに水の民を殺させはしない ! |
シャーリィ | 待って ! ワルターさん ! |
シャーリィ | お兄ちゃん ! ワルターさんを追いかけましょう ! |
リタ | そうした方がいいわね。あいつ、これ以上無茶すると、本当に死ぬわよ。 |
フィリップ | ああ。アジトでも僕たちのところでもいい。連れ帰って、心核の治療をするべきだ。 |
ノーマ | セネセネ、行こう ! |
セネル | ああ ! |
キャラクター | 8話【8-9 ウェルテス領 街道3】 |
セネル | この方角……。まさかワルターが向かったのはさっきの【人食い遺跡】か ? |
ジェイ | そのようですね。このままグリューネさんを連れて行くのは危険だと思いますよ。 |
セルシウス | そうね。グリューネはわたしが連れて帰るわ。 |
グリューネ | あらぁ、もうピクニックはおしまいなの ? |
ノーマ | グー姉さん、続きは浮遊島でやろ~よ。 |
グリューネ | まあ、それも素敵ねぇ。 |
セネル | ワルターのことがあるからリタとフィリップとマークには遺跡の前で待っていて欲しい。頼めるか。 |
マーク | ああ。帝国の奴らが来るかも知れないんだったな。いざとなったらヘルプを出してくれ。 |
セネル | 助かる。 |
ワルター | ……はあ……はあ……。確かここには……マウリッツの心核が……。 |
ワルター | (くそ……胸が……苦しい……。疑似心核があった頃はここまで弱っていなかった……。陸の民どもめ……) |
ワルター | (…………陸の民、か。ここには本当の水の民も陸の民もいない。全てがニセモノのまやかしだ…… !) |
ワルター | だが、せめてマウリッツは…… ! |
帝国兵 | 現れました、領主様 ! |
マウリッツβ | ワルターか。遅かったな。会議に参加していた私の方が先に着くとは。 |
マウリッツβ | 例のクロノスの分霊と話せる鏡映点はどこだ ?何故、お前の麾下の兵士たちが倒れていた ? |
ワルター | はあ……はあ……。 |
マウリッツβ | 魔導器の不具合か。 |
ワルター | マウリッツ…… ! |
マウリッツβ | なるほど。やはり貴様、また元の人格が出ていたのだな。面倒な奴め。 |
マウリッツβ | ワルターを捕らえよ !帝都からの迎えが来る前に、ワルターを正気に戻して鏡映点の居場所を聞き出さねばならぬ。 |
ワルター | 俺は正気だ…… !これが俺だ !マウリッツを解放しろ ! |
ワルター | ぐあああああああっ ! ? |
帝国兵 | 捕獲魔法陣、発動しました ! |
マウリッツβ | 鏡映点のために用意していたものだがワルターに使うことになるとはな。 |
シャーリィ | ワルターさん ! ? |
セネル | お前たち、ワルターに何をした ! ? |
マウリッツβ | あやつは、グラスティン様が言っていた贄の紋章を植え付けた娘……。 |
ワルター | ! ? |
マウリッツβ | 皆、ワルターはもう良い。生きてさえいれば、贄の紋章は機能する。それよりその金髪の娘を捕らえるのだ ! |
帝国兵 | 承知しました ! |
シャーリィ | キャ ! ? |
ワルター | ! ? |
セネル | シャーリィ ! 危ない ! ! |
ワルター | メルネス ! ! やらせるものかっ ! ! |
二人 | ぐっ……。 |
シャーリィ | お兄ちゃん、ワルターさん ! |
シャーリィ | やめて !お兄ちゃんもワルターさんもわたしの大切な人たち。わたしが……二人を守る ! |
シャーリィ | セラフィック・バード ! |
マウリッツβ | 増援だ ! 奴らを囲め ! |
ジェイ | くっ ! このままここで戦っていても消耗するだけです。ワルターさんを連れて退避できるような場所はありませんか、ノーマさん ! |
ノーマ | あたしぃ ! ? そんなこと聞かれても……。 |
モーゼス | なんか仕掛けとかないんか ! ? |
ノーマ | はあ ! ?ここは元の世界の遺跡とは全然違……――あ ! |
クロエ | どうした、ノーマ ! |
ノーマ | あれ ! さっきモーすけに発動した罠と同じ奴だ ! |
モーゼス | 何じゃと ! ? |
ノーマ | 一か八か……それ~っ ! ポチッとな ! |
全員 | ! ? |
全員 | うわあああああああ ! ? |
メルクリア | 何だか目が腫れぼったいわ……。 |
ウィル | あれだけ泣けばそうだろうな。 |
メルクリア | 見ず知らずの人間の前であんなにも泣こうとは……。 |
ウィル | 案外、何も知らない人間の前の方が素直になれることもある。 |
メルクリア | ……そうかも知れぬな。あの……ありがとう……。 |
ウィル | いや、オレは何もしていない。 |
メルクリア | そんなことはない。わらわは感じ入った。また一つ学びを得た。そなたに何か礼をしたいとすら思うておる。 |
ウィル | 大げさな奴だな。だが……そうだな。ではこうしよう。オレはオレと家族に誓ってメルをメルの家族の下へ帰す。 |
ウィル | その時に、改めて礼を言ってもらおう。 |
メルクリア | どうしてもそなたはわらわを帰したいのだな。まあ、よい。ならば約束しよう。 |
メルクリア | ――しかし、だんだん景色が開けてきたな。 |
ウィル | そろそろ村のあった辺りだからな。見ろ、奥には建物もある。 |
メルクリア | では、ここが義父上の……。 |
ウィル | やはり……この奥だな。何か光ったように見えたのは。 |
ウィル | もし鏡の破片がここにあるのなら魔物が拾って持ち帰ったのか…… ?光るものにでも興味があるのか……。 |
メルクリア | (……なんじゃ…… ? 胸が苦しいような…… ?) |
ウィル | 気を付けろ、メル。ここには光魔という危険な魔物が巣食っている。それも大量にな。オレはこの光魔の生態を調査するために来たんだ。 |
メルクリア | 光魔じゃと ? 何故このような場所に……。 |
ウィル | 驚いたな。光魔を知っているのか ? |
メルクリア | それは……その……。 |
メルクリア | ん ? ウィル、あの茂みの奥が光ったぞ ! |
ウィル | ……よし。オレが見てくる。メルはここを動くなよ。 |
メルクリア | ぐっ……。 |
ウィル | メル ? どうした ? |
メルクリア | ……なん……じゃ…… ?胸が……痛い……。痛くて……息が……。 |
ウィル | メル ! ? |
ウィル | くっ、光魔か ! 何もこんな時に ! |
ウィル | 光魔の体が光った ! ? まさか、鏡の破片か ! ?ならば――取り返すまで ! |
キャラクター | 9話【8-11 ウェルテス領 海岸2】 |
シャーリィ | ……お兄ちゃん、大丈夫 ? |
セネル | ……う……ここは……。 |
ジェイ | 墳墓の遺跡の下が海岸線に繋がっていたんです。 |
クロエ | ノーマが装置を発動させてくれて何とかここへ逃げ込めたが……。ここからどう動けばいいものか。 |
ワルター | ……フ……フフ……。 |
モーゼス | うおっ ! ? 何じゃ、気付いとったんか、ワレ ! ? |
ワルター | 逃げ込んだ、だと。愚か者共め。帝都からくる船はこの海岸に着けられる。 |
ワルター | 貴様らの仲間のグリューネとかいう女を運ぶための船だが、こうなるとメルネスを運ぶ船に変わるだろうな。 |
ジェイ | つまり、下手をするとマウリッツさんと帝国の船に挟み撃ちにされるということですね。 |
シャーリィ | ワルターさん、体の方は大丈夫ですか ? |
ワルター | ……俺のことはどうでもいい。それよりメルネス、贄の紋章を刻まれたというのは本当か ? |
シャーリィ | え、ええ……。あのこてのようなものですよね。今は痕も残っていないですけど……。 |
ワルター | セネル ! !貴様が付いていながら、何故そんなことになった ! ? |
セネル | すまない……。俺がシャーリィを守れなかったんだ。 |
ワルター | だから陸の民など信用できんのだ !あれはメルネスの命を奪う恐ろしい呪いだぞ ! ? |
五人 | ! ? |
セネル | それはどういうことだ ! ?贄の紋章ってのは一体何なんだ ! ? |
ワルター | 贄の紋章は、文字通り生け贄の印だ。刻印器と呼ばれる装置で紋章を刻むと紋章を通じて生体エネルギーが集められる。 |
シャーリィ | 生け贄……。 |
ワルター | エネルギーの搾取が少量なら、相手を暗示に掛けてコントロールできるし、量が多ければ生体エネルギーを固形化させて、レプリカのような模造品作りに使える。 |
クロエ | なんだ、そのおぞましい装置は…… ! ? |
ワルター | 最大限まで出力を高めるとルグの槍と呼ばれるエネルギーの柱になる。 |
ワルター | ルグの槍は、このまやかしの世界を破壊してニーベルングという星を召喚するための転送装置だ。メルネスは人柱にされたんだ ! |
シャーリィ | ! ! |
モーゼス | 信じられん……。なんちゅうものを帝国の奴らは……。 |
セネル | 解除する方法はないのか ! ? |
ワルター | 俺にはそこまでの知識は与えられていない !それに贄の紋章は俺にも埋め込まれている。領主と従騎士はほぼ全員紋章を刻まれている筈だ。 |
ジェイ | それが本当だとして、この世界を壊せば帝国も滅びるのではありませんか ? |
ワルター | 奴らの目的は貴様ら陸の民の祖先と同じだ。自分たちだけは箱船に乗ってニーベルングへ移住するつもりだ ! |
ワルター | 鏡士どもに具現化された人間はこの世界と共に消滅しもともとこの世界に生まれていたわずかな生き残りだけを移民させる計画らしい。 |
ジェイ | ニーベルングの復活、どんな手段を執るのかと思っていたら……つくづく帝国らしいですね。 |
ノーマ | ……え ? どういうこと ? あたし、わかんないよ。だって、この世界を救うためにイっくんたちは具現化を始めたんでしょ ? |
ノーマ | それってデミトリアスも承知してたことなんでしょ ? |
ノーマ | せっかく作ったのに、異世界からあたしらみたいに帰れなくなる人たちまで生み出して、壊します置いていきますとか、あたしらの存在は何なのよ ! |
ワルター | 俺の知ったことか ! くそっ !こんな……せっかく自分を取り戻したというのに……俺はまた自分の使命を果たせないのか……。 |
ワルター | どうしてこうなった ! ?答えろ、セネル ! ! |
ウィル | メル ! しっかりしろ ! 鏡の破片を見つけたぞ ! |
メルクリア ? | ………………無駄じゃ。 |
ウィル | な、何だ ? |
メルクリア ? | この娘は心に穴があいたまま。我の恨みを晴らすに丁度いい……。 |
ウィル | 貴様、メルではないな ! ? |
メルクリア | ……く……ウィル、か……。 |
ウィル | メル ! 大丈夫か ! ? |
メルクリア | ……すまぬ……。わらわは……特異な体質になっていてな……。 |
メルクリア | 何と言えばいいか……心に隙があり……得体の知れぬものにのっとられやすいのじゃ。 |
メルクリア | わらわを置いて立ち去れ……次に意識を失うと……わらわは……恩人であるそなたを……手に掛けるやも……。 |
メルクリア ? | ――中々にしぶとい。さすがは鏡士よ。だが、もはや抵抗はできまい ! |
ワルター | 答えろ ! セネル ! !セネル・クーリッジ ! ! ! |
セネル | 俺にだってわかるかよ !だがそれでも何とかしないと―― |
ワルター | 何をどうするというんだ ! ?メルネスの傍にいながら、メルネスを守ることもできず戯言ばかり口にするな ! |
シャーリィ | 待って ! ワルターさん ! 違うの。わたしはもうお兄ちゃんに守られるだけの存在じゃない。 |
シャーリィ | わたし……わたしもどうしたらいいのかわからないけどでも自分がルグの槍になるのも嫌だしワルターさんがそうなるのも嫌。 |
シャーリィ | それにこの世界が壊れたら、お兄ちゃんも、みんなもこの世界で出会った人も、この世界に生まれた水の民もみんな死んでしまう。そんなの駄目だよ。 |
シャーリィ | わたしは……みんなを守りたい。わたしはメルネスであり、シャーリィだから。 |
ワルター | ………………。メルネス……無駄だ。贄の紋章を消す方法はない。一度刻めば、二度と消えることはないと聞いた。 |
ノーマ | そんな筈ない ! |
ワルター | 何 ! ? |
ノーマ | あんたさ、メルネスメルネスって騒ぐならリッちゃんのことちゃんと見なよ !リッちゃん震えてるじゃん ! |
ワルター | ! |
ノーマ | リッちゃんは怖いんだよ。怖くて怖くて仕方ないのに頑張って自分の足で立ってみんなを守る方法を探したいって言ってんの ! |
ワルター | ………………。 |
ノーマ | ワルちん、贄の紋章の知識、ぜ~んぶ持ってるって訳じゃないんだよね ? だったら、贄の紋章を消す方法がないなんて言い切れる訳ないじゃん ! |
ノーマ | まだまだ調べてないことたくさんあるんでしょ。やれることやって調べて調べて調べ抜いたらなにか見つかるかも知れない。 |
ワルター | そんな都合のいい話があるか ! |
ノーマ | あるかもしれない。ううん、あるんだよ ! |
ウィル | 何者かは知らんが、メルから離れろ ! |
メルクリア ? | 愚か者。小娘に騙されているのじゃぞ ?この娘の本当の名は―― |
ウィル | メルではない。そんなことは知っている。だが、メルが流した涙は本物だ。オレはあの涙と叫びを信じる ! |
ウィル | そしてその子を待つ家族や仲間の下に帰してやる !オレは―― |
ノーマ | あたしは諦めない。リッちゃんやみんなのこと諦めない。帝国の奴らの好きになんてさせない。 |
ノーマ | 何かあるよ、何か。調べもしないうちに決めてかかるな !あたしは―― |
二人 | 諦めない ! ! |
帝国兵 | いたぞ ! |
ワルター | くっ、追っ手か―― |
シャーリィ | ワルターさん。大丈夫。わたしが戦います。あなたは水の民の仲間。何より、命の恩人です。 |
ワルター | ! ! |
ノーマ | リッちゃん ! あたしも一緒に戦うよ !今、浄玻璃鏡、輝いちゃったもんね~ ! |
モーゼス | くそぅ ! なしてワイの浄玻璃鏡は輝かんのじゃ ! ?じゃが帝国の連中なんぞワイの聖爪術で一掃しちゃる ! |
ジェイ | 張り切りすぎて空回りしないで下さいね。 |
セネル | 皆、ワルターを巻き込まないように動くぞ ! |
ワルター | 貴様に守られるいわれはない ! |
セネル | だったら、まずその体を治せ !文句はその後で聞いてやる ! |
クロエ | 来るぞ ! |
キャラクター | 10話【8-14 ウェルテス領 海岸5】 |
セネル | 何とか片付けたが……。 |
ジェイ | ええ。ここに留まるのは危険です。外のフィリップさんたちに連絡はしてあるので合流してここを離れましょう。 |
クロエ | いつの間に……。 |
ジェイ | 当然でしょう。救援が遅れては意味がありませんから。 |
シャーリィ | 待って、お兄ちゃん。 |
シャーリィ | ワルターさん。マウリッツさんを助けるためにここに来たということは、もしかしたらマウリッツさんの心核を持っているんじゃないですか ? |
ワルター | ……いや、持っていない。だが、ここではルグの槍の起動のための準備が進められていて、マウリッツの心核はその一環として、ここに安置されている。 |
ワルター | 元々はエバーライトを求めていたようだがそれはまだ見つかっていないようだな。 |
クロエ | そうか……。シャーリィはマウリッツさんを助けたいんだな。 |
セネル | ワルター、心当たりの場所を教えてくれ。俺たちで探してくる。 |
ワルター | 貴様らなど信用できるか。俺も行く。メルネスを守るのもマウリッツを助けるのも陸の民の貴様ではなく、水の民である俺の責務だ。 |
セネル | ……なあ、水の民だとか陸の民だとかはいったん置いておけないか。 |
ワルター | 貴様 ! ? |
セネル | 聞いてくれ ! ……お前は知らないことだと思うがお前と俺たちが戦った後、色々あって……シャーリィは水の民と陸の民の調和を目指してきたんだ。 |
セネル | まだまだ道は半ばだ。それなのに、そんな時にこの世界に連れてこられてしまった。自分の責務を果たせずに苦しんでいるのはシャーリィも同じなんだ。 |
セネル | その辛さは……お前ならわかるんじゃないのか ? |
セネル | ノーマも言ってたろ。シャーリィを見てくれって。メルネスがいてシャーリィがいるんじゃない。シャーリィの一部分がメルネスなんだ。 |
セネル | そんなシャーリィだから、二つの種族の架け橋になろうとしていた。そのシャーリィの気持ちを汲んでくれ。 |
シャーリィ | ワルターさん。この世界でもわたしのやることは変わりません。 |
シャーリィ | 水の民と陸の民……ううん、それだけじゃない。沢山の種族がいて、この世界で生まれた人がいてこの世界に具現化された人がいて、鏡映点がいる。 |
シャーリィ | 一緒に歩いて行けるように……支え合って生きられるようにしたい。 |
シャーリィ | そうすることが、この世界の水の民を守ることにもなると思うんです。わたしはメルネスとして、水の民を守りたいんです。 |
ワルター | ……メルネスがマウリッツを助けるというならそれには協力する。だが、それだけだ。後のことは知らん。 |
メルクリア | ……この光は…… ? |
メルクリア | さっきまで、何かよくわからないものがわらわの中にいて……まるで話に聞く虚無のようであった……のに……。 |
ウィル | 俺は――諦めない ! |
メルクリア | ウィルの声か。あやつめ、逃げよと言ったのに……。見ず知らずのわらわのために……。何という奴じゃ……。 |
? ? ? | メルクリア様、こちらに来てはいけません……。 |
シドニー | その声は……シドニーか ! ? |
シドニー | ここは死鏡精がたくさん生み出された忌み地。今のメルクリア様が来ては危ない。わずかですが、死鏡精が残っています。 |
メルクリア | わらわの中にいるのは死鏡精か……。しかし何故そなたの声が聞こえるのじゃ ? |
シドニー | 私にもわかりません……。浄玻璃鏡の輝きで気付きました。 |
シドニー | メルクリア様の探しているものは、一番奥の建物にあるようです。それを手に入れたら、早くここを離れて下さい。死鏡精は私が祓っておきます。 |
メルクリア | わかった。シドニー、ありがとう―― |
ウィル | 気がついたか、メル ! |
メルクリア | ウィル……また迷惑を掛けてしまったな。 |
ウィル | やれやれ、今度はメル本人のようだな。 |
メルクリア | ……ん ?ウィル、その手に持っている鏡の破片は……。 |
ウィル | ああ、メルが落としたのはこの鏡の破片か ? |
メルクリア | う、うむ、そうじゃ。それぞシドニーの……。 |
メルクリア | そうか……これを通じてシドニーはわらわを……。 |
ウィル | ならば、この破片はきみに返そう。 |
ウィル | しかし何とも不思議な鏡だな。光魔に囲まれて厳しい状況だったがその鏡が突然輝いて、オレに力を与えてくれた。 |
ウィル | 以前、似たようなことがあったのを思い出したよ。 |
メルクリア | 光った……のか ? そうか……。 |
ウィル | さて、ここで何か探し物があるんだったな。オレも手伝おう。 |
メルクリア | それなら大丈夫じゃ。見当はついているからのう。 |
ワルター | ……ここがルグの槍の起動室だ。 |
ノーマ | お~ ! ? 台座の上でキラキラしてる心核を発見 !ああして置いてあると、お宝感マシマシだね~ ! |
モーゼス | あれを手に入れてマウリッツを助け出せばええんじゃな ? |
マウリッツβ | やはりこの部屋に現れたか。その心核もエネルギーの一部となる。帝国の邪魔をするものは排除する ! |
クロエ | それでいいのか ? ルグの槍が発動すればマウリッツさんだけではなく疑似心核であるお前も死ぬんだぞ ! |
マウリッツβ | 疑似心核をなんだと思っている ?生命ではない。目的を全うするための装置にすぎぬ。 |
ジェイ | 装置が自我を持つとこうなるわけですね。哀れだ。 |
シャーリィ | マウリッツさんを返してもらいます ! |
セネル | 勝手に人の心を奪ってゴミのように捨てるようなことはさせない ! |
ワルター | ……同胞の体、返してもらうぞ ! |
キャラクター | 11話【8-15 ウェルテス領 遺跡2】 |
モーゼス | よし、光魔は倒した。あとはマウリッツを―― |
マウリッツβ | ――くっ ! |
リタ | ちょーっと待った ! ここから先は行かせないわよ ! |
ジェイ | みなさん、計算通りに来てくれましたね ! |
ワルター | マウリッツ ! 待て ! |
ワルター | 俺がマウリッツを拘束しておく。その間に―― |
フィリップ | わかった。疑似心核を抜き出して、元の心核に入れ換えよう。 |
セネル | どうだ ! ? フィリップ ! |
フィリップ | ――ああ、大丈夫。無事に心核を入れ換えられた。今はまだ眠っているが、じきに目が覚めるだろう。しばらくは安静が必要だろうけどね。 |
ワルター | ……そう…………か……。 |
シャーリィ | ワルターさん ! ? |
リタ | やっぱり……相当無茶したわね。 |
マーク | ケリュケイオンに運んで、心核の治療を開始しよう。その後は絶対安静なのは、このマウリッツっておっさんと同じだな。 |
マーク | で、どうする ?この二人は治療をした後、どこへ連れて行けばいい ? |
セネル | いったん浮遊島の方へ連れて行こうと思う。マウリッツさんが意識を取り戻してくれればワルターの説得に力を貸してくれるはずだ。 |
シャーリィ | うん……。そうだよね。 |
クロエ | ワルターが水の民を守りたいと思うなら我々と利害は一致している筈だ。 |
クロエ | まあ……ワルターの抱えている陸の民への憎しみが簡単に癒えるとは思わないが……。 |
ノーマ | それもそうだけど、ワルちんってばセネセネのいるところで暮らせるのかな ? |
モーゼス | 目が覚めたら怒り狂って飛び出して行くかもしれんのう。 |
セネル | 敵対しなくてすむなら、それでいい。 |
シャーリィ | わたし、ワルターさんが目を覚ましたら元の世界の滄我の話をしてあげられたらって思うんだ。 |
シャーリィ | それで納得はできないかも知れないけれど滄我も調和を目指そうとしたんだって……知って欲しいから。 |
ジェイ | ……ということのようです。マウリッツさんとワルターさんを運ぶ手伝いをしてくれますよね ? |
マーク | 了解だ。肉体労働は俺の役目だからな。 |
ジェイ | もちろん、モーゼスさんも手伝って下さいよ。 |
モーゼス | またワイか ! ? |
セネル | 俺も手伝うよ。 |
リタ | 乱暴に運ぶんじゃないわよ。相手は重病人みたいなもんなんだから。 |
ノーマ | ねえ……。ウィルっち……元気かなぁ。 |
ジェイ | どうしたんです、急に。 |
ノーマ | ん~ ? あはは、なんかさ~。浄玻璃鏡が光ったときにウィルっちの声を聞いた気がするんだよね。 |
ノーマ | ん~、ちょっと違うか。心が繋がったっていうかさ。違う世界にいるのに、おかしいよね。 |
ジェイ | はぐれ鏡映点として具現化されている可能性はありますよ。 |
セネル | もしそうだとして、ウィルに会えるなら歓迎したいがウィルの場合は、この世界に来てしまうとなると……。 |
クロエ | ハリエットと離ればなれになるということだからな。複雑だ……。 |
ノーマ | そうだよね。でも……なんか、むしょ~に会いたくなっちゃったよ。 |
コーキス | ――あー、いたいた。何やってんだよ、メルクリア ! |
メルクリア | コ、コーキス ! ? その名を呼ぶでない ! ! |
コーキス | へ ? |
リヒター | 俺はリヒター、こっちはコーキス。メルクリアの保護者だ。迷惑を掛けたようで、申し訳ない。 |
ウィル | これで約束を果たせて、オレも安心した。それに……長く離れている娘のことを思い出して懐かしい気持ちにさせてもらった。気にしないでくれ。 |
メルクリア | すまぬ、ウィル。名前まで嘘をついていて……。 |
ウィル | どうせそんなことだろうと思っていた。しかしメルクリア、か……。 |
メルクリア | おおおおお ! そ、それより、この鏡の破片に宿ったお主の力を、改めて別の鏡に映して進呈したいのじゃ。もらってくれるか ? |
ウィル | それは……さっきの強力な力のことを言っているのか ? |
メルクリア | うむ。少し時間がかかるが、待っていてくれるか ?そなたにもらって欲しいのじゃ。出来上がったらそなたが村長代行をしているという村に送ろうぞ。 |
ウィル | (あの鏡の破片が光ったとき、ノーマの気配を感じた。ひょっとしてノーマが近くにいるのか…… ?あの鏡があれば、もしかしたら――) |
ウィル | ……わかった。楽しみにしている。 |
コーキス | ウィルさん、ありがとうございました ! |
メルクリア | それではな。 |
リヒター | では、失礼する。 |
ウィル | やれやれ、何とも騒がしかったな。 |
ウィル | (こんな騒がしさは、セネルたちといたとき以来だな。やはり……ここは……オレの知っている世界ではないのだろう) |
ウィル | (セネル、シャーリィ、クロエ、ノーマ、モーゼスジェイ、グリューネさん。それに――ハリエット) |
ウィル | (お前たちが懐かしいよ。きっと今も、賑やかにやっているんだろう) |
バルド | ――ナーザ様。メルクリア様が見つかったようです。 |
ナーザ | まったく、油断も隙もない。帰ったら厳しく言い聞かせねば。 |
バルド | どうか、お手柔らかにお願いします。デミトリアス帝の幼少期の医療カルテを見つけたそうですので。 |
ナーザ | 中は確認したのか ? |
バルド | はい。リヒターの話ではやはり鏡精のエネルギーをデミトリアス帝に注いでいたようです。 |
ナーザ | なるほど、これで納得がいった。俺たちの調査結果とも符合する。 |
ナーザ | デミトリアスは自身が受けていた延命措置に気付き悩み――贖罪を考えた、というところか。 |
バルド | セールンド王も嫡男を失いたくなかったのでしょう。 |
ナーザ | そうだろうな。老齢になってからやっと授かった子だと聞いている。まあ、詳しいことは資料待ちだ。 |
ナーザ | ――さて、ではジュニアの方の話を聞こうか。 |
ジュニア | ……はい。 |
ナーザ | フリーセルを具現化した、と言ったな。それは、あのフリーセルのことか ? |
ジュニア | そうです。サレが言っていました。グラスティンのアキレス腱を見つけたって。 |
ジュニア | グラスティンに何か仕掛けるなら、一人目の僕かフリーセルなのは間違いありません。だから―― |
ナーザ | フリーセルの具現化、か……。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【9-1 ファンダリア領 雪山】 |
ドロワット | やったー ! また私たちの勝ちなの ! |
小さな男の子 | くっそー。今日の雪合戦は絶対勝てると思ったんだけどな……。 |
ゴーシュ | 甘いぞ、エリック。だが、ちゃんと作戦を組み立ててきたのは感心だ。 |
ドロワット | 雪の壁を作って、太陽の光を反射させてきたときはビックリ ! 目の前がピカピカ~ってなって危なかったのよ。 |
エリック | だって、ボクも負けっぱなしは悔しいからさ。それに、イクスお兄ちゃんも戦う前の準備は大切だって教えてくれたもん。 |
ドロワット | エリック、またそのお兄ちゃんの話なのん。 |
ゴーシュ | 私たちも耳にタコができるくらい聞かされたな。 |
エリック | だって、イクスお兄ちゃんは本当に凄いんだよ !優しくてカッコよくて、ボクを助けてくれたヒーローなんだから ! |
ゴーシュ | わかった、わかった。話はあとでゆっくり聞いてあげるから今日はもう帰るぞ。 |
ドロワット | お腹もペコペコになってきたのよ。 |
エリック | ううっ……。じゃあ、ご飯のときに二人にもいっぱい聞いてもらうんだからね ! |
女性 | おかえりなさい、みんな。エリック、今日もゴーシュとドロワットに遊んでもらっていたのね。 |
気弱な男の子 | いいなぁ……エリックお兄ちゃん。ぼくも一緒に雪合戦したかったのに……。 |
エリック | 仕方ないだろ、ライアン。熱は下がったみたいだけど、まだ安静にしなさいってお医者さんに言われたんだから。 |
ゴーシュ | エリックの言う通りだ、ライアン。しっかり休むことも大事なことだ。 |
ドロワット | 元気になったらまた私たちが一緒に雪合戦してあげるのん ! |
ライアン | ホントに ! ? |
女性 | ふふっ。良かったわね、ライアン。あなたには優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんがいてくれて。 |
ライアン | うん ! ぼく、ここにいるみんなのこと大好きだよ ! |
女性 | そう言ってくれると私も嬉しいわ。それじゃあ、みんな戻ってきたことだし食事の準備をしないと……。 |
エリック | 待って。準備ならしばらくボクたちがやるって約束だったでしょ ? |
女性 | だけど……。 |
エリック | 大丈夫だよ ! ボクたちだって役に立ちたいんだから。ライアンもみんなを呼んできて。手分けすれば、すぐに終わるからさ。 |
ライアン | うん、わかった ! |
女性 | ……本当に、優しい子たちだわ。 |
ドロワット | みんな、足の怪我のこと心配してくれてるの。もう大丈夫なの ? |
女性 | ええ、あなたたちが助けてくれたお陰でもうすっかり平気よ。 |
女性 | だけど、あのときは驚いたわ。まさか、こんな子供たちまで戦いに巻き込まれているのかと思ったから……。 |
ゴーシュ | それは……。 |
女性 | いいの。話したくない事情があるのなら無理に話さなくても。 |
女性 | だけど、領主であるエルレイン様も以前と比べて表に顔を出さなくなってしまって、それが原因なのかファンダリア領の治安も悪くなってしまっているわ。 |
女性 | だから、あなたたちが良かったらずっとここにいてくれてもいいからね。 |
二人 | …………。 |
| ――コンコン。 |
女性 | はい、どなたかしら ? |
商人 | 失礼。こちら『セキレイの羽』の者です。物資の運送に来ました。 |
女性 | いつもありがとうございます。すぐに扉を開けますので、少し待ってくださいね。 |
ゴーシュ | あっ、荷物なら私たちが運ぶ。いいな、ドロワット。 |
ドロワット | はいなの~。ゴーシュちゃんと一緒にやればちょちょいのちょい~、だよ。 |
女性 | ありがとう。だったら、悪いけどあとは二人にお願いするわね。 |
ゴーシュ | ……ふぅ。物資はこれで全部運べたな。 |
商人 | しかし、凄いな、きみたち……。大人でも重たい荷物をあんな軽々持ち上げるなんて。 |
ドロワット | 私たちは魔導器があるから平気なのだわん。 |
商人 | ぶら……なんだ、それは ? |
ゴーシュ | き、気にするな !それより、最近は物資の調達も大変だと聞いている……のですが…… ? |
商人 | そうなんだよ。以前のこの領での戦いに加えてテルカ・リュミレース領でも大規模なクーデターが起こったみたいだからな。 |
商人 | しかも、そのクーデターを起こした首謀者であるアレクセイという男が、また兵を集めて帝国に戦いを仕掛けるって噂だ。 |
二人 | ! ? |
商人 | おっと、すまない。こんなこと、子供のきみたちに話しても怖がらせてしまうだけか……。 |
商人 | だが、安心してくれ。この施設への物資供給はうちのリーダー直々の依頼だからな。ここにいれば、きみたちも安全だよ。 |
商人 | さて、荷物も運び終わったし、挨拶を終えたら俺も帰るとするか。じゃあ、また来たときは宜しく頼むよ。 |
ドロワット | ゴーシュちゃん……。今の話……。 |
ゴーシュ | アレクセイ…… !一体何をするつもりだ…… ! |
ドロワット | けど、アレクセイが帝国と戦っているのはおかしいの。あいつもイエガー様と同じように洗脳されてたはず。 |
ゴーシュ | 考えられるのは、その洗脳が解けて反乱を起こしているってことだ。 |
ゴーシュ | だが、イエガー様も一緒にいるとは限らない。グラスティンって奴を追って、この大陸に来てみたが結局手がかりも掴めないままだ……。 |
ドロワット | どうしよう、ゴーシュちゃん ? |
ゴーシュ | 決まっている。アレクセイのところに私たちも行く。今は少しでもイエガー様に関わる情報が欲しい。 |
ゴーシュ | それに……アレクセイのことだからまたイエガー様を酷い目に遭わせるかもしれない。そんなこと、絶対にさせるものか ! |
ドロワット | 私も、イエガー様がアレクセイに利用されるなんて嫌なのよ。 |
ゴーシュ | ドロワット、すぐに支度するぞ。港まで行けば、アレクセイのいる大陸まで貨物船で移動できる。 |
ドロワット | 了解だよ。だけど、ここの人たちにはさよならを言わなくていいの ? |
ゴーシュ | ……ああ。言ったら止められるだろうしみんなに心配をかけてしまう。 |
ドロワット | ゴーシュちゃんがそう言うなら私もそうするの。 |
ゴーシュ | ……明日の早朝には出発する。それまでは、みんなにも悟られないようにな。 |
ライアン | エリックお兄ちゃん……。今の話……。 |
エリック | しっ ! 二人に気付かれるだろ。……けど、もう行ったみたいだな。 |
ライアン | ……ねえ、さっきの話、本当なの ?ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもここからいなくなっちゃうの ? |
エリック | ……それは。 |
ライアン | ぼく、そんなの嫌だよ !また雪合戦して遊ぶ約束だってしたのに ! |
エリック | ライアン……。ボクだって二人のことは心配だよ。 |
エリック | それでも、ボクたちに何も言わないで出て行かなきゃいけないくらい、きっと二人にとっては大切なことなんだ。 |
ライアン | だけど、戦いがあるって言ってたよ……。そんな危険な場所に行ったら、お姉ちゃんたちが……。 |
エリック | ……わかってる。だから、ボクがなんとかする。ライアンは何も心配しなくていい。 |
ライアン | エリックお兄ちゃん…… ? |
エリック | ボクも、イクスお兄ちゃんみたいになるよ。大事な人たちを守れるヒーローにね。 |
キャラクター | 2話【9-3 アジト1】 |
フレン | みんな、急な招集にも関わらず集まってもらってすまない。感謝するよ。 |
チェスター | 気にすんなって。ここにいる奴らは丁度オレたちみたいにアジトに残ってた連中だろうしな。 |
リッド | そうだぜ、フレン。そんな固い顔してねえでもっと気楽にいこうぜ……っていうのは流石に無理か。 |
ジーニアス | 最近は色々なことが立て続けに起こって大変だったもんね……。 |
マルタ | うん……エミルたちも、ずっと精霊のこと調べてるみたいだし、私も力になれればいいんだけど……。 |
ライラ | マルタさん。人の言葉には「適材適所」というものがあります。きっと、マルタさんもエミルさんたちの為にできることがあるはずです。 |
マルタ | ……そうだね。ありがとう、ライラさん。 |
ジーニアス | ねえ、フレン。それで、ボクたちにも話しておきたいこと、って何 ? |
フレン | ああ、今カロルたちがテルカ・リュミレース領の様子を調査しているんだが、そこでアレクセイ一派に新しい動きがあったみたいなんだ。 |
マルタ | アレクセイって、確か魔導砲を使おうとしてた人のことだよね ? |
リッド | まさか、また懲りずに何かやってんのか ? |
フレン | 詳しいことはまだわかっていないけど噂では領都を攻め落とす為の準備をしているんじゃないかという話だ。 |
ライラ | 領都を攻めるとなると当然、帝国軍と衝突することになりますわね。 |
フレン | そうなると、かなり大規模な戦いになると思う。おそらく、その為の人員と物資を集めているんだろう。 |
フレン | 彼の優秀な采配は、僕も嫌という程知っている。無策で帝国に戦いを挑むようなことはしないはずだ。 |
ジーニアス | じゃあ、アレクセイには何か勝算があるってことだね。 |
フレン | その通り。そこでカロル調査室が調べてくれた結果アレクセイの部下たちが頻繁に出入りしているという遺跡が見つかったんだ。 |
フレン | その遺跡周辺に、何かアレクセイにとって必要なものがあるんじゃないかと僕たちは睨んでいる。 |
リッド | 遺跡か……。まぁ、そういうところにすげえもんがあるってのはお約束だな。 |
ジーニアス | けど、それを突き止めてどうするの ?アレクセイのことなら、救世軍預かりなんでしょ ? |
フレン | アレクセイの目的を突き止めて、場合によっては戦いそのものを止める必要があると思っている。救世軍も情報を集めてくれているんだ。 |
チェスター | ということは、アレクセイが必要としてるかも知れない何かってのを見つけてオレたちが手に入れちまえばいいんじゃないか ? |
フレン | ああ。実は、そのつもりで既にユーリたちが動いてくれていて、僕もすぐに合流する予定なんだ。 |
フレン | だから、また暫くアジトを離れてしまう前にできるだけ情報を共有しておこうと思ってね。 |
マルタ | わかった。みんなには私たちから伝えておくね。 |
エステル | フレン。みんなとの会議は終わったんです ? |
フレン | はい、丁度伝え終わったところです。それで、パティの容体は ? |
エステル | はい……身体的には問題ないそうですがまだ本調子ではないみたいで今回はアジトに残るそうです。 |
チェスター | ……そのほうがいいだろうな。心核を抜かれたうえに、鏡の精霊なんてものに体をのっとられちまったんだからな。 |
フレン | リタもまだケリュケイオンから離れることはできないでしょうし、我々だけでユーリたちのところへ向かいましょう。 |
ジーニアス | 二人とも、気を付けてね。 |
リッド | 何かあったら、オレたちもすぐに駆け付けるからな。 |
フレン | ありがとう。それじゃあ、行ってくる。 |
ゴーシュ | ……なんとか船には上手く乗り込めたな。 |
ドロワット | かくれんぼは得意だもんね、私たち。 |
ゴーシュ | このまま、この貨物船に乗っていればテルカ・リュミレース領に到着するはず……。 |
ゴーシュ | 誰か来る ! ドロワット、荷物に紛れて隠れろ ! |
ドロワット | ま、待ってなの、ゴーシュちゃん !見て見てなの ! |
ゴーシュ | なんだ一体…… ! ?そんな……まさか ! お前たちは…… ! |
エリック | ゴーシュお姉ちゃん ! ドロワットお姉ちゃん !良かった ! この船に乗ったのは見間違いじゃなかったんだね。 |
ゴーシュ | エリック ! それにライアンまで……。お前たち、どうしてこんなところに……。 |
エリック | ごめんなさい……ボクたち、お姉ちゃんたちが話をしているところを聞いちゃったんだ……。 |
ゴーシュ | だからって追いかけてきたのか…… !どうして、そんな馬鹿なことをしたんだ ! |
ゴーシュ | 話を聞いていたのなら、危険なことだってわかっていたはずだ !それなのに、どうして付いてきた ! |
ドロワット | ゴーシュちゃん……。 |
ライアン | ……嫌だったから。 |
ゴーシュ | ……なに ? |
ライアン | ぼく、嫌だったんだよ !ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんもお父さんたちみたいにいなくなっちゃうのが…… ! |
ゴーシュ | ライアン……そうか……。お前は戦争で家族を失っていたんだったな……。 |
エリック | ……最初はボクだけで二人を追いかけようとしたんだ。だけど、ライアンがどうしても自分も付いていきたいっていうから、一緒に来たんだ。 |
エリック | ねえ、お願い ! ボクたちも一緒に連れて行って !絶対、お姉ちゃんたちの力になるから ! |
ドロワット | ゴーシュちゃん……どうしよう……。 |
ゴーシュ | ……今さら戻れといったところで危険なことに変わりはない。それなら……まだ私たちと一緒にいたほうが安全だ。 |
エリック | ゴーシュお姉ちゃん…… ! |
ゴーシュ | だが、一つだけ約束しろ。本当に危険になったら、エリックとライアンは私たちを置いて逃げるんだ。 |
ライアン | そ、そんなことできないよ ! |
ゴーシュ | 約束できないのなら、無理にでもファンダリア領行きの船に乗せて帰ってもらう。 |
ライアン | そんな・・…。 |
エリック | ……わかったよ。約束する。そしたら、ボクたちも付いていっていいんだね ? |
ゴーシュ | ……交渉成立だな。では、船が到着するまで隠れるぞ。テルカ・リュミレース領までは、あと少しのはずだ。 |
キャラクター | 3話【9-4 アジト2】 |
イクス | ――じゃあ、始めようか。ミリーナ、ネヴァン、カーリャ。 |
二人 | ……はい。 |
ミリーナ | 私たちとの違いを明確にするために最初から話すわね。 |
ミリーナ | 最初の私たち――一人目のイクスとフィルと私はセールンド王国のオーデンセ島で生まれたわ。 |
ミリーナ | 鏡士は大抵セールンド島にある王立研究所で働くから島で生まれる子供は少なかった。 |
イクス | 俺の母さんは、珍しく里帰り出産だったんだよな。二人とも、一年ぐらいでセールンド島に戻っていったらしいけど。 |
イクス | ……あ、これ、一人目から受け継いだ記憶だよな。俺たちは作られた存在だから……母親から生まれたわけじゃないだろうし。 |
ミリーナ | ええ、そうね。そこはゲフィオン……最初のミリーナの記憶とも一致しているわ。 |
ミリーナ | 私のお母様は私を産んですぐに亡くなってしまったしお父様も病気で死んでしまって……。だからなんとなく私たち、お互いに親近感を覚えていたわよね。 |
イクス | うん……。ミリーナはいつも俺の姉さんとして振る舞ってくれてたよな。あれ、結構嬉しかったよ。……まあ、一人目の記憶だけど。 |
二人 | ………………。 |
ミリーナ | 三人の関係が変わったのは、あのピクニックの日よ。フィルがセールンド島に引っ越してから一年と少し過ぎた頃だった。 |
ミリーナ | あの日はフィルがオーデンセ島に遊びに来ていたわ。水鏡の森に見せたいものがあるって私をピクニックに誘ってくれたの。 |
ミリーナ | 今思えば、あれは女神ダーナの存在を示す光だったのかも知れないわね。 |
ミリーナ | イクスと同じで、この時の私の記憶も改ざんされているの。だから今から話すのはゲフィオンの――最初のミリーナの記憶よ。 |
ミリーナ | あ、イクス ! |
イクス | ミリーナ、フィル、どこに行くんだ ? |
ミリーナ | 水鏡の森までピクニックに行くの。イクスも一緒に行かない ? |
フィリップ | ! |
イクス | いや、俺は港に行かないと……。 |
イクス | そういえば、このところ水鏡の森には物騒な魔物が出てるみたいだぞ。 |
ミリーナ | フィルも一緒だから大丈夫。イクスもお仕事が終わったら合流して ! ね ? |
イクス | だったら俺の仕事が終わるまで待っててくれないか。二人だけじゃ心配だから一緒に行くよ。 |
ミリーナ | ……そう ? |
フィリップ | 大丈夫だよ。イクスは心配性だね。僕もミリーナも鏡士なんだよ ?先に行って準備してるよ。 |
ミリーナ | ……そうよね。うん、大丈夫 !私お姉さんなんだしちゃんとフィルのこと守れるわ。 |
イクス | わかった。でも危ないところには行くなよ。二人とも案外抜けてるんだから。 |
ミリーナ | 失礼ね、大丈夫だってば。さ、行きましょう、フィル ! |
ミリーナ | この時のことを、ミリーナはずっと後悔していたわ。イクスの忠告を気にとめなかったことやイクスを巻き込んでしまったことを。 |
ミリーナ | イクスは私たちを心配して、漁に出ないで追いかけてきてくれた。そして私たちを助ける為に、秘伝魔鏡術を使った。 |
ミリーナ | イクスの力が暴走して……止まらない !私が、私がイクスの言うことを聞いてもっと気を付けていれば…… ! |
ミリーナ | 私が……イクスのことをちゃんと待ってれば……。 |
フィリップ | 大丈夫、ミリーナ。僕の守護魔鏡を使えば止められる ! |
ミリーナ | えっ ! ? |
フィリップ | 僕の鏡士としての力を弱める封印なんだ。これを使えばきっと―― |
ミリーナ | 駄目よ、フィルは体が弱いからわざと力を弱めているんでしょう ? |
フィリップ | でもこのままじゃイクスが死んじゃうよ ! |
ミリーナ | ――わかった。でも、私にやらせて。バックファイアを受けるのは私だけでいいから ! |
フィリップ | ミリーナ ! ? |
ミリーナ | あの時のバックファイアで、ミリーナは心の一部を破壊された。ミリーナは鏡士の訓練を中止して心の治療に専念したの。 |
ミリーナ | そしてイクスも酷い怪我を負った。フィルも……。 |
イクス | ……ああ。フィルはセールンド島に戻ってそのまま音信不通になった。最初の俺は、何度も手紙を送ってたみたいだけど。 |
ミリーナ | ええ。イクスは自分も大怪我をしたのにフィルに連絡を取ろうとしながら心に穴のあいたミリーナを何度も見舞ってくれた。 |
ミリーナ | そうして、単なる幼なじみだったミリーナとイクスは付き合うようになっていったの。 |
ミリーナ | ミリーナは過去の罪悪感からフィルを避けていてフィルも私たちを避けて……。イクスだけが、何とか幼なじみの糸が切れてしまわないように動いていた。 |
ミリーナ | やがて心を修復したミリーナは鏡士の訓練を再開してやっと鏡精を作れるようになったわ。イクスも傷が癒えて、長期の漁に出るようになった。 |
イクス | ……これで全部、か。手伝ってくれてありがとな、ミリーナ。 |
イクス | 1人で遠くの海への漁に出るのは初めてだからどうも、勝手がわからなくて。 |
ミリーナ | ううん。全然 !──帰ってくるのは4日後だっけ。 |
イクス | ああ。その予定だ。長く待たせることになっちゃうな。一人で大丈夫か ? |
ミリーナ | ふふっ。イクスったら相変わらず心配性なんだから。大丈夫。カーリャがいてくれるもの。 |
イクス | あれ、そういえばカーリャはどこだ ?いつもなら俺たちの傍をグルグル飛んでるのに。 |
ミリーナ | ……気を……利かせてくれてるみたい。 |
イクス | ハハ、そうか。相変わらず可愛いところがあるな、カーリャは。 |
イクス | ――ミリーナ。漁に出る前に伝えておきたいことがあるんだ。 |
ミリーナ | え…… ? |
イクス | 俺……やっぱり鏡士を目指す。 |
ミリーナ | イクス !それはお祖父様に止められているんでしょう ? |
イクス | わかってる。それでも祖父ちゃんを説得して俺は鏡士になるよ。そうしたら、ミリーナの心の傷を治療できるかも知れない。 |
イクス | 俺の血統は【創造】だし……それに、どうも祖父ちゃんは何かを隠してるみたいなんだ。 |
ミリーナ | そうなの ? |
イクス | ……まあ、そのことはあとでいいか。 |
イクス | とにかく、俺は鏡士になると決めた。だから俺が鏡士になったら……結婚して欲しい。ミリーナを守りたいんだ。この先もずっと。 |
ミリーナ | イクス…… ! |
イクス | いいだろ ? |
ミリーナ | ……ずるいわ、イクス。そんな風に聞かれたら断れない。 |
イクス | 自分のことじゃないとはいえ顔から火が出そうだよ……。 |
ミリーナ | そ、そうね……。こんなに詳細に話す必要なかったかしら……。 |
カーリャ | 最初のイクスさまはイケメン力が高いですね……。 |
カーリャ・N | ふふ……。こちらのイクス様も素敵ですよ。 |
キャラクター | 4話【9-4 アジト2】 |
ミリーナ | 漁から帰ったイクスは、お祖父様を説得しようとした。でも、最初は中々認めてもらえなくて……鏡士になる許可をもらうのに三年ぐらいかかったの。 |
カーリャ・N | でも最後には根負けしてイクス様のご両親の遺言を見せて下さったそうです。 |
イクス | 両親の遺言か……。俺の魔鏡に遺言が残されてるらしいんだけど、どこに記録されてるのか全然わからないんだよな。 |
イクス | 前にるつぼで会った最初のイクスさんから話を聞いてすぐ調べてみたんだけど……。ゲフィオンは遺言のこと、何か聞いてるのかな ? |
ミリーナ | イクスと婚約した当時は、世界を守るための方法を知らせてくれていた、とだけ聞いていたみたい。 |
ミリーナ | 当時はビフレストと戦争になるって噂があってミリーナはそれに関係することかと思っていた。でも、そうじゃなかった。 |
ミリーナ | 混乱させないために、順番に進めるわね。 |
カーリャ・N | そうですね。とにかくイクス様は無事に鏡士となりお二人は結婚の準備に入られました。その頃です。ビフレストがセールンドを襲撃したのは。 |
イクス | ……くそ。雨か。 |
ビフレスト皇国軍A | ――見つけたぞ ! 鏡士だ ! |
ミリーナ | ! ? |
イクス | ミリーナ、走れ !港まで行けばセールンドへ逃げられる ! |
ミリーナ | イクス、だけど―― |
イクス | ミリーナに手を出すな ! |
ビフレスト皇国軍A | どけ ! |
ミリーナ | イクス ! ? |
ビフレスト皇国軍A | 邪魔だー ! ! |
イクス | ミリーナは俺が守る ! ! |
イクス | ぐぅ……やらせ……ない……っ !スタック・オーバーレイ ! ! ! |
ビフレスト皇国軍A | これは――秘伝魔鏡術か ! ?離魂術を急げ ! こいつかもしれん ! |
ミリーナ | そんな……うそ……。 |
ミリーナ | イクス……うそ、だよね……。 |
ミリーナ | イクス……目をあけてよ……。お願い……お願いだからっ ! ! |
ミリーナ | やだよ……。 |
ミリーナ | いや……。 |
ミリーナ | いやーーーー ! ! ! ! |
ビフレスト皇国軍B | 離魂術成功しました ! |
ビフレスト皇国軍A | 次はあの女だ ! |
ビフレスト皇国軍B | 銀髪ではありません。ウォーデン殿下のご命令は、銀髪を取りこぼすな、と。 |
ビフレスト皇国軍A | だが、鏡士だ。ローゲ様はセールンドの鏡士は全て始末せよと仰せになった。 |
カーリャ | ――ミリーナさま ! 逃げましょう !イクスさまの命を無駄にしたら駄目です ! |
ミリーナ | この時、カーリャがミリーナを必死に促してくれて彼女は半死半生で港まで逃げたの。何とか命を繋ぐことができたけれど、体中に消えない傷が残ったわ。 |
ミリーナ | 島の大人も大部分が殺されて、ミリーナは数少ないオーデンセの生き残りとして王都に辿り着いた。 |
イクス | ビフレスト皇国は、バロールの血を引く銀髪の鏡士だけを皆殺しにするつもりだった。殺して、離魂術とかいう方法で、遺体を保存した。 |
イクス | 少なくともナーザ将軍はそう言っていた。けど実際の現場では鏡士たちはほとんどが殺されたんだよな。 |
カーリャ・N | はい。恐らくはローゲの判断でしょう。セールンドの鏡士を生かしておくことは後の遺恨になると考えたのかも知れません。 |
ミリーナ | それから離魂術だけど、あれはアニマだけを消滅させてアニムスを残す技術なの。だから最初のイクスの遺体を残すために使われたのね。 |
ミリーナ | ミリーナはその離魂術をカレイドスコープの開発に転用したのよ。カレイドスコープで亡くなった人と最初のイクスの亡くなり方が似ていたのはそのせいだった。 |
ミリーナ | 話を元に戻しましょうか。 |
ミリーナ | セールンド島でフィルが出迎えてくれて、ミリーナはオーデンセの生き残りとして王室に保護された。そこで王立魔鏡科学研究所に入ることになったの。 |
フィリップ | ミリーナ、魔鏡科学研究所に入るって本当 ? |
ミリーナ | どうしてそれを知ってるの ? |
カーリャ | カ、カーリャじゃありませんよ !カーリャはマークに何も話してません ! |
ミリーナ | まあ、カーリャが話したのね。すっかりマークと仲良くなって。何でも筒抜けなんだから。 |
フィリップ | アハハ、カーリャはいつもマークに先輩風を吹かせてるよね。少しだけカーリャの方が生まれたのが早かったから。 |
カーリャ | マークは一緒じゃないんですか ? |
フィリップ | マークがいることがバレたら切り離すように言われちゃうから心の中に入ってもらってるんだ。 |
カーリャ | ……そうですか。私は免除されてますからね。エネルギー変換されること。 |
フィリップ | よかったよ。ミリーナは前に心が崩壊しかけていたから宮廷鏡士の人たちも鏡精を切り離すのは危険だと判断してくれたんだね。 |
ミリーナ | 知らなかったわ……。鏡精がエネルギーに変換されているなんて。 |
フィリップ | ……そのことは、キラル分子研究に関わる鏡士たちしか知らないんだ。 |
デミトリアス | フィリップ、珍しいな。王宮に来るなんて。 |
フィリップ | 殿下 ! |
デミトリアス | この間の論文を読んだ。流石、フィリップだ。魔鏡技術科の連中も色めき立っていたよ。 |
デミトリアス | ――きみは、ミリーナだったな。オーデンセのことは残念だった。 |
ミリーナ | 痛み入ります、デミトリアス殿下。 |
デミトリアス | そうかしこまらないでくれ。ビフレスト皇国の暴挙は許しがたい。父も対抗手段に出ると言っている。 |
ミリーナ | はい。微力ながら、私も鏡士としてお役に立ちたいと思っています。 |
フィリップ | そのことだけど、僕も王立大学を中退して研究所に移ろうと思うんだ。 |
三人 | ! ? |
フィリップ | ミリーナは魔鏡兵器の開発をするんでしょう。僕だってビフレストのことは許せない。研究所からも内諾は貰ってる。 |
デミトリアス | そうか……。国を預かる立場としては歓迎すべきことだが、学友としては寂しいな。フリーセルやグラスティンも悲しむだろう。 |
フィリップ | 大学にも顔は出します。研究に関しては共同で行うことも多いでしょうし僕が研究所に籍を置いて、橋渡しができれば……。 |
デミトリアス | うん、それはいい考えだ。 |
デミトリアス | それとフィリップ、軍部から気になる報告が上がっている。きみが許可を得ずに鏡精を作ったのではないか、と。 |
フィリップ | おかしいですね。何かの間違いじゃないですか。僕は今のエネルギーシステムには反対の立場です。鏡精を作ろうなんて思いません。 |
デミトリアス | ああ、私もそう信じている。だが、あえて言うよ。くれぐれも気を付けて欲しい。私の庇護の手も限界がある。父上に知られたら最後だ。 |
フィリップ | はい。ご忠告ありがとうございます。 |
ミリーナ | フィルはミリーナがビフレストへの復讐のために魔鏡兵器研究を行うと知っていた。それで一緒に研究所に入ってくれたの。 |
ミリーナ | 王立学問所から王立大学、そして魔鏡省の宮廷鏡士になるというエリートコースを捨てて軍部の一組織に過ぎない研究所の研究者に……。 |
イクス | フィル……。 |
キャラクター | 5話【9-5 アジト3】 |
ミリーナ | フィルの協力を得たミリーナは学問所でみるみる成果を上げていったわ。 |
ミリーナ | イクスの仇を討つために、寝る間を惜しんで研究と実験を繰り返した。 |
フィリップ | ミリーナ、まだ研究所にいたのか。もう夜も遅いよ。帰った方がいい。 |
ミリーナ | カーリャが知らせに行ったのね。私がまだここにいるって。 |
フィリップ | ……お見通しだね。そうだよ。カーリャが心配してマークと僕に相談してきたんだ。ミリーナがもう三日も寝てないって。 |
ミリーナ | まだイクスの仇を討てていないのよ。もっと頑張らないと。それに、ビフレストとの戦局も厳しい状態だわ。 |
フィリップ | ああ。ビフレスト皇国の魔鏡兵士には驚かされたよ。 |
フィリップ | 戦闘人形の中に一時的にアニマを憑依させて前線へ送り込む。あんなものと戦っていてはこちらが疲弊するばかりだ。 |
ミリーナ | セールンドの戦力が足りずに、大勢のセールンドの人が亡くなったわ。沢山の街が制圧されて、そこに住む何の罪もない人々が殺されていった。 |
ミリーナ | オーデンセ島と同じように、老若男女を問わず非力な子供達まで……。あいつらはやりたい放題で略奪を行っている。あの戦闘人形を使って。 |
フィリップ | アニマに直接働きかける武器がなければ僕らは負けてしまう。 |
フィリップ | デミトリアス殿下もアニマの研究のせいでアニマ汚染されて動けなくなってしまわれた。 |
ミリーナ | ……ビフレスト皇国に対抗するために色々なアニマ研究が行われたけれどやはり一番有力なのは、私たちのカレイドスコープよ。 |
ミリーナ | イクスのご両親が研究していたあの魔鏡兵器を発展させれば、ビフレストは戦闘人形を操ることもできなくなる。だから完成を急がないと。 |
フィリップ | ミリーナは頑張りすぎだよ。カーリャも成体になってきみの体はアニマに汚染され始めた。何もかも早すぎる。 |
ミリーナ | それはフィルも同じよね。 |
ミリーナ | ……まあ、私にはフィルほどの力はないからこれ以上アニマ汚染が進行すると使い物にならなくなってしまうけれど。 |
フィリップ | それがわかっているならもう少し自分の体を労ってくれ。 |
ミリーナ | ……大丈夫。イクスの仇を討つまでは生きるわ。 |
フィリップ | その後も、だ。ビフレストを倒したら次は鏡精を救う為のエネルギー装置を開発するんだよ。カーリャだってそれを望んでいただろう ? |
フィリップ | 鏡精を殺してエネルギーにするシステムは止めるんだ。鏡精を切り離した鏡士は、少しずつ心を失っていく。 |
フィリップ | それがどれほど苦しいことかはミリーナもよく知ってるはずだ。イクスの力のバックファイアで、ミリーナの心は壊れかけたんだ。 |
ミリーナ | カーリャのためにも、エネルギー問題は解決しないといけないわね。 |
フィリップ | データが出てくるのを待っているんだろう ?続きは僕が確認しておく。ミリーナは休んでくれ。 |
ミリーナ | ……わかったわ。ありがとう、フィル。あなたがいてくれてよかった。フィルがいなかったら私は暴走してばかりだったでしょうね……。 |
フィリップ | ……いいんだよ。お休み、ミリーナ。 |
イクス | デミトリアス陛下も兵器開発の研究に関わっていたんだな。 |
ミリーナ | あの方は研究の前線で指揮を執っていたの。鏡士ではないけれど、よく勉強なさっていたわ。 |
ミリーナ | そのせいで、別のチームが行っていたアニマのキメラ結合に関する研究の事故に巻き込まれてしまったの。それでアニマ汚染に……。 |
カーリャ | アニマ汚染って体がしおしおになっちゃうんですよね。 |
カーリャ・N | 正確に言うと、汚染された細胞が老化し同時に周囲の正常な細胞を攻撃するんです。その為に精神すらも病んでいきます。 |
カーリャ・N | 鏡士なら魔鏡の力でそれを食い止められますがそうでない人間は、著しく弱ってしまいます。 |
イクス | 俺が初めて会ったデミトリアス陛下はものすごく老け込んで見えたもんな……。 |
ミリーナ | あの頃は、大勢の鏡士たちがアニマ汚染と戦いエネルギー供給のために心を削り鏡精を生み出して……地獄だった。 |
ミリーナ | そして、ようやくカレイドスコープが完成したの。その時の話は――ナーザ将軍からも聞いたわよね。 |
イクス | ああ。 |
カーリャ | ミリーナ様。カレイドスコープの試射、成功しました。セールンド軍の被害は軽微です。 |
ミリーナ | ええ。私も確認したわ。人形兵士たちは崩れてあれを操っていた鏡士も倒れた。敵の撤退も早かったわね。 |
カーリャ | 敵に、あのバルドの姿もありました。あの男なら逃げ足も速いかと。 |
ミリーナ | カーリャ……。あなた、すっかり軍人みたいね。 |
カーリャ | みたい、ではなく、軍人です。ミリーナ様を守るために王宮騎士の地位を頂きました。カーリャはミリーナ様にどこまでもお供します。 |
ミリーナ | ……何度止めても言うことを聞いてくれなかったものね。 |
ミリーナ | 心の中に戻しても、ずっと文句を言っていたから根負けしちゃったわ。 |
カーリャ | もしオーデンセが襲撃されたときカーリャに今の力があればイクス様を助けられたかも知れない。 |
カーリャ | ……そう思うと、自分だけ何もしないのが嫌なんです。 |
ミリーナ | カーリャは、何度か戦場でバルドと戦っているのよね。彼はどう出てくると思う ? |
カーリャ | ……ウォーデンが考えを変えない限り完全に撤退することはないと思います。 |
カーリャ | ただ、戦闘人形が無力になったとわかった今戦力が足りないのはわかっている筈です。 |
カーリャ | ビフレスト本国に援軍を求める間は大人しくしているのでは。 |
ミリーナ | そう……。だったら、今が攻め時ね。 |
カーリャ | バルドを追撃しますか ? |
ミリーナ | いいえ。西に展開しているローゲの軍を潰すことを提案するつもりよ。 |
カーリャ | ……いよいよ、敵討ちの始まりですね。 |
ミリーナ | ええ。 |
キャラクター | 6話【9-5 アジト3】 |
ミリーナ | カレイドスコープは、恐ろしいほどの威力だった。劣勢だったセールンド王国は息を吹き返したわ。 |
ミリーナ | けれど、やがて王都を中心に、カレイドスコープの開発者は魔女だという噂が流布するようになった。 |
ミリーナ | あとでわかったことだけれど、それはビフレスト皇国の攪乱作戦の一環で、主導していたのは国内に入り込んでいたビフレストの工作員だった。 |
カーリャ・N | フリーセルの一派ですね。 |
イクス | フリーセルって、確か救世軍の創始者だった人だよな。 |
カーリャ・N | はい。あの男は、正体を隠して魔鏡技師としてセールンドに入り込んだビフレストの工作員でした。 |
カーリャ・N | 何度か告発もあったのですが、情報の出所が怪しいのとデミトリアス殿下のご学友だったために監視を強化するに留められたのです。 |
ミリーナ | セールンド軍内部でもミリーナに対する評価は二分されていた。ガロウズと出会ったのもその頃よ。 |
セールンド軍兵士 | ――大変です ! カレイドスコープの目標地点に我が軍の兵士が一名走って行きます ! |
セールンド軍部隊長 | 何 ! ? どこの部隊の兵士だ ! ? |
セールンド軍兵士 | 第三補給部隊の少年兵と思われます ! |
セールンド軍部隊長 | くっ、すでにカレイドスコープへのエネルギー充填は始まっている。計画を止めることはできないぞ。 |
セールンド軍部隊長 | 敵の総大将はウォーデン・ロート・ニーベルングだ。この機を逃すわけには―― |
ミリーナ | 待って下さい。キラル分子の流入量を絞れば起動まで多少の時間は稼げます。 |
セールンド軍部隊長 | ミリーナさん。あなたは素人だ。新しいビクエ様からの推挙で、司令官と同等の権限を持っていようとも、この場の指揮権は私にある。 |
ミリーナ | 承知しています。ですが、ここで味方を見殺しにすれば前線の兵士たちの士気に関わります。 |
ミリーナ | 私に行かせて下さい。カレイドスコープへのエネルギー充填が完了したら、私が戻るのを待たずに即座に撃って構いません。 |
カーリャ | ミリーナ様 ! ? |
ミリーナ | カーリャ、充填完了のタイミングを知らせて。それで何とかできる。 |
セールンド軍部隊長 | ……魔女め。雑兵たちのご機嫌取りか。 |
セールンド軍部隊長 | まあ、いいでしょう。ご自由にどうぞ。 |
ミリーナ | (少年兵が向かったというのはこの辺り……) |
カーリャ | ミリーナ様 ! カレイドスコープのエネルギー充填が完了しました !60秒後に発射です ! |
ミリーナ | カーリャ ! 少年兵はどこ ! ? |
カーリャ | 10時の方向ですが、これ以上進むとカレイドスコープの効果範囲に入ってしまいます ! |
ミリーナ | ――まだ間に合う ! |
カーリャ | あと30秒 ! 無理です ! 戻って下さい ! |
少年兵 | うわああああっ ! ? |
ミリーナ | 今の声は―― |
バルド | ガロウズ ! 逃げなさい ! |
シドニー | 逃げてっ ! ! ガロウズ ! ! |
カーリャ | 発射されました ! ミリーナ様っ ! ! |
ミリーナ | (見つけた ! あの子だわ ! ) |
ミリーナ | 手を伸ばして ! 早く ! |
少年兵 | ! ! |
ミリーナ | ――……そう。ビフレスト軍に恋人がいたのね。 |
少年兵 | 軍規違反……ですよね。構いません。処分して下さい。俺は……あいつを……シドニーを助けられなかった……。 |
ミリーナ | ……あなた、名前は ? |
少年兵 | ガロウズ……。 |
ミリーナ | ガロウズ、帰りましょう。腕の治療が必要よ。それに、ここでの戦いは終わったわ。カレイドスコープが全てを消し去ってしまった。 |
ガロウズ | カレイドスコープ……あんなもの !いきなり攻め込んできたビフレストもあんなものを造ったセールンドも、みんな狂ってる ! ! |
ミリーナ | ……そうね。あなたの言う通りよ。 |
ガロウズ | ……すみません。あなたは……ええっと―― |
ミリーナ | 私はミリーナ・ヴァイスよ。 |
ガロウズ | カ、カレイドスコープを造った魔女…… ! ? |
イクス | バルドさんとシドニーが戦死した戦いか……。 |
ミリーナ | ええ。そして、この時だったわ。ビフレスト軍のいた地点で、妙な空間のひずみを観測したのは。それが死の砂嵐の予兆だったの。 |
カーリャ・N | ミリーナ様とフィリップ様はカレイドスコープ使用の即時停止を訴えました。 |
カーリャ・N | ですが、デミトリアス殿下はアニマ汚染で臥せっており国王陛下はお二人の言葉を聞き入れてはくれませんでした。 |
カーリャ・N | 戦場に引きずり出したビフレストの皇太子ウォーデンを消滅させるために、カレイドスコープは乱発されひずみは世界中で観測されるようになりました。 |
ミリーナ | ウォーデンの死後、しばらくしてビフレストが降伏したわ。皇妃とまだ小さな皇女――メルクリアが、人質としてセールンドへやってきた。 |
ミリーナ | 死の砂嵐が発生したのは、その直後よ。 |
ミリーナ | ……お疲れ様、フィル。ビフレストの皇族の様子はどう ? |
フィリップ | うん……。皇女の方は元気だけれど、皇妃がね……。食事もろくに手を付けないらしい。 |
ミリーナ | ここは敵国ですものね。 |
フィリップ | ミリーナ……王都を出るって本当 ? |
ミリーナ | またカーリャとマークね。二人ともお喋りなんだから。 |
フィリップ | オーデンセ島に戻るの ? |
ミリーナ | ええ……。イクスの仇は討ったわ。もう十分すぎるほどに。魔女はそろそろ表舞台から消えないと。 |
カーリャ | ミリーナ様 ! フィリップ様 ! 大変です !セールンドの上空に、ギラギラと虹色に光るオーロラのようなものが発生しています ! |
フィリップ | ……待ってくれ。まさかそれはキラル分子の異常収縮現象か ! ? |
ミリーナ | ――ひずみは ! ? |
カーリャ | マークが今情報を集めています ! ただ―― |
マーク | フィル ! ヤバいぞ ! セールンドの真裏にあった次元亀裂κが急速に広がってる ! こいつはお前が予測していたアニムス崩壊じゃないのか ! ? |
ミリーナ | フィル ! アイギスを展開しましょう ! |
フィリップ | 迷ってる暇はなさそうだ。やろう ! |
イクス | その時、もうアイギスがあったのか ! |
ミリーナ | ええ。ひずみを研究して、それが次元の亀裂だと仮説を立てたミリーナとフィルはいざというときの為の防御装置を準備していたの。 |
ミリーナ | でもアイギスの展開より、死の砂嵐のスピードの方が遥かに速かった。守れたのはセールンド諸島の周辺だけだった。 |
ミリーナ | その時外遊に出ていた国王陛下も亡くなってしまってセールンド王国は混乱したわ。 |
ミリーナ | そしてミリーナはゲフィオンになってフィルと一緒に過去から世界を具現化することに決めたの。 |
キャラクター | 7話【9-6 アジト4】 |
ミリーナ | これがゲフィオンの歩んできた道よ。私たちとゲフィオンたちの違いでもあるわね。 |
イクス | ああ。やっぱりオーデンセでのピクニックから枝分かれしている感じだよな。 |
イクス | ミリーナが受け継いだ記憶の中で他に重要そうなことはあるか ? |
ミリーナ | そうね。やっぱり、バロールに関する記憶かしら。 |
イクス | やっぱり、ゲフィオンはバロールのことを知っていたのか ! ? |
ミリーナ | ええ。彼女がバロールに関わる情報を入手したのは過去から世界を具現化する時のことよ。 |
ミリーナ | 過去のオーデンセ島をサーチしようとした時に一瞬、紋章が魔鏡に浮かび上がったの。 |
ミリーナ | ゲフィオンはその紋章に心当たりがあった。イクスから貰った婚約指輪に刻まれていたから。 |
ミリーナ | その指輪をはめて魔鏡に触れたときイクスの両親からのメッセージが再生されたの。 |
イクス | 母さんたちの遺言か ! |
ミリーナ | ええ。それでバロールのことを知ったんだけど……。多分あの指輪がないとメッセージは再生されないわよね。 |
ミリーナ | 指輪はゲフィオンが持っているから……。 |
イクス | 指輪……。指輪って……あれ、か ? |
カーリャ | へ ? イクスさま、何か心当たりがあるんですか ? |
イクス | 俺、ゲフィオンと一緒に魔鏡結晶の中にいただろ。あの時、ゲフィオンが指にはめていた指輪のことかなって……。 |
イクス | 待ってくれ。今、具現化してみる。 |
イクス | (思い出せ……。あの時のあの指輪……) |
ゲフィオン | その目はイクスと繋がっている。自分のアニマとイクスのアニマを重ねて合わせて、死を放て。それこそが鏡精に与えられた禁断の魔眼だ。 |
イクス | (……そういえば、あの時のゲフィオンの言葉。あれは……何だ ?) |
イクス | (あの時は酷い痛みで、きちんと考えられなかったけどあの時だけ、やけにゲフィオンの言葉がはっきり聞こえた気がする) |
イクス | (それに、記憶を切り離したゲフィオンが何故あんなことを言えたんだろう) |
イクス | (もしかしてあれは……ゲフィオンじゃなかったのか ?だとしたら、あの言葉は――) |
カーリャ・N | イクス様 ! ? |
イクス | ! ! |
女性の声 | イクス。20歳の誕生日、おめでとう。あなたがこのメッセージを見ているということは私たちはあなたの傍にいられない状態なのでしょうね。 |
男性の声 | でも、お父さんが――お前にとってのお祖父さんがきっとお前を立派に育ててくれたと信じているよ。 |
イクス | え ! ? 魔鏡から声が……。 |
女性の声 | あなたは知っているかしら。自分がバロールの血を引きバロールの魔眼を受け継ぐ子供だということを。 |
男性の声 | オーデンセという島は、この世界の原初からある島だ。伝承によれば、この地にバロールの血族がいるのは罪人を留め置くためだという。 |
男性の声 | 今ではバロールの力が罪であるかのように言われているが、決してそうではない。そのことを私たちは、セールンドに来て知り得た。 |
男性の声 | だからイクス、お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。 |
イクス | (これがイクスさんが言っていた母さんたちの遺言…… ?) |
女性の声 | この世界は大きく揺らぎ始めているわ。セールンドで作り出されたキラル分子供給のしくみが罪人の揺り籠であるこの世界を滅ぼそうとしているの。 |
女性の声 | 世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。 |
男性の声 | 成人したお前に伝える言葉が、こんなものになってしまったことが残念だ。なんの憂いもなくただお前を祝ってやりたかった。 |
男性の声 | 鏡精を生み出せる力を得たら、墓守の街へ行きなさい。私たちの言葉の意味がわかるだろう。 |
女性の声 | 私たちはいつも祈っているわ。あなたが健やかであることを。イクス、どうか、いつまでも元気で……。 |
イクス | ……今のは……。 |
ミリーナ | ゲフィオンが聞いたメッセージと同じよ !でもどうして ? |
イクス | わからない……。ゲフィオンのしていた指輪を具現化しようと思って……。それで記憶を探っていたときに、突然……。 |
イクス | (あれはゲフィオンじゃなくて……俺の中のバロールだったのか ?それがゲフィオンからの言葉のように感じた ?) |
ミリーナ | ゲフィオンも今のメッセージを聞いたの。そしてオーデンセ島が襲われた時のことを思い出してビフレストの狙いがイクスだったことに気付いた。 |
ミリーナ | そこから彼女のバロールに関する調査が始まったわ。 |
カーリャ・N | 墓守の街と呼ばれる場所にも調査に向かわれました。すでに廃村になっていて、バロールのこともルグの槍に関する手かがりも見つからなかったそうです。 |
イクス | ルグの槍……。バロールの残滓から受け渡された記憶でも聞いた言葉だ。 |
イクス | 今まで色んな人たちから聞いた話を総合するとルグの槍はニーベルングとティル・ナ・ノーグを繋ぐ何かのことじゃないか ? |
ミリーナ | バロールは、リビングドールにされたイレーヌさんの体に、ルグの槍が刻まれているとも言っていたわよね。 |
イクス | ゲフィオンは、何か他にバロールに関することを知らなかったのか ? |
ミリーナ | バロールのことを知ったのが、死の砂嵐の後だったから辿れそうな資料はほとんど残っていなかったの。唯一セールンドの王宮で古い写本を見つけたぐらいね。 |
ミリーナ | ティル・ナ・ノーグの創世神話の古い形の書記よ。ゲフィオンは解読を試みていたのだけれど中断することになってしまって……。 |
イクス | どうしてだ ? |
カーリャ・N | 解読は、世界の具現化と並行して行われていました。けれど、アイギスが破壊され、せっかく過去から具現化した世界も消失してしまった。 |
カーリャ・N | 異世界からの具現化に舵を切るためバロールの情報を辿ることを中断せざるを得なかったんです。 |
イクス | 二人目の俺が……死んだときか。写本はまだ残ってるのかな ? |
ミリーナ | ええ、多分。だけどデミトリアス陛下が持っているんじゃないかしら。 |
イクス | くそっ。王宮にあった本なら、そうなるか……。 |
イクス | いや、でも、まだ王宮を探したわけじゃないよな。 |
ミリーナ | ええ。この記憶のパーツを組み合わせることができたのがついこの間だから。 |
イクス | だとしたら、その写本を探してみないか ? |
ミリーナ | ええ、そうね。けど、その前に―― |
イクス | ? |
ミリーナ | 私、イクスや自分が生み出されたときの記憶も受け継いだわ。確かに記憶を改ざんしようと提案したのはフィルだった。 |
ミリーナ | でも……結局はゲフィオンも過去の後悔から逃れようとして『イクスを優先しなかった』記憶を改ざんした。 |
ミリーナ | 私に、何においてもイクスを優先するように植え付けたわ。 |
イクス | ……うん。 |
ミリーナ | 私は……滅びの夢を見るようになってから少しずつゲフィオンの――最初のミリーナの記憶に侵蝕されて、境界が曖昧になっていった。 |
ミリーナ | 私は常に最初のミリーナで、ゲフィオンでそして二人目のミリーナでもあった。 |
イクス | うん、ミリーナも苦しいよな……。 |
ミリーナ | ……苦しい、とはちょっと違うかも知れないわ。どちらかというと、申し訳ないの。 |
ミリーナ | ゲフィオンの気持ちを切り離せなくて私はイクスに色々な感情を重ねてきた。 |
イクス | ミリーナ……。それは、どういう意味だ ? |
ミリーナ | 私は今のイクスが好きよ。前にも言った通り。けど、私が受け継いだ記憶と感情はイクスに違うイクスを重ねようとする。 |
ミリーナ | そして歪められた記憶はイクスを不必要なまでに守ろうとしてしまう。だから、イクス、お願い。本当の気持ちを言って。 |
イクス | ! ! |
ミリーナ | それで、私の中のゲフィオンを葬り去るわ。 |
イクス | ……気付いてたのか、ミリーナ。 |
ミリーナ | わかるわよ。だって、私、イクスのことが本当に好きなんだもの。だから……わかっちゃうの。 |
イクス | ……ごめん、ミリーナ。俺は、ミリーナが好きだよ。大切だし、守りたいって思ってる。でもそれは姉弟とか親友みたいな……そんな気持ちなんだ。 |
イクス | 前にミリーナがオーデンセで、今の俺のことを好きだって言ってくれたとき、俺は救われた。だけど……俺は、多分、ミリーナを愛してない。 |
ミリーナ | ……ええ、そうね。多分最初からそうだったのよね。 |
ミリーナ | でも、私はそれでいいと思っていた。私がイクスを好きなのは当然のことで見返りもいらないし、イクスが幸せであればいいって。 |
ミリーナ | でもそれこそが、ゲフィオンの感情だったの。ありがとう、イクス。これで私は、ちゃんと私になっていけると思う。 |
イクス | ミリーナ……ごめん。俺……。 |
ミリーナ | 私こそ、ごめんなさい。言いにくいことを言わせて。 |
カーリャ・N | ミリーナ様……。 |
カーリャ | ………………。 |
ミリーナ | ――さ、これで記憶の確認はおしまい。今の私は、ゲフィオンの知識をフル活用できる存在よ。きっと帝国に対抗する力になれるわ。 |
イクス | ……あ、ああ、わかった。 |
キャラクター | 8話【9-6 アジト4】 |
ルーティ | ねえ、リリス。こっちのスープ、ちょっと味見してくれない ? |
リリス | はい、わかりました。それじゃあ、いただきますね。 |
リリス | ――うん ! バッチリ !さすがルーティさんですね。 |
ルーティ | よし、これでお腹空かせて帰って来る連中にたっぷり食べさせてやれるわね。 |
リリス | そういえば、ルーティさん。どうしてルーティさんはお兄ちゃんたちと一緒に行かなかったんですか ? |
ルーティ | ん ? まぁ、ディムロスたちの部隊の訓練に付き合うってのも柄じゃないしね。何か報酬が出るなら別だったんだけど。 |
ソーディアン・アトワイト | もう、ルーティったら。スタンさんもカイルさんも残念そうにしてたわよ。 |
ルーティ | えっ ? そうだっけ ? 全然気づかなかったわ。 |
リリス | それなら、お兄ちゃんたちが好きな料理を一品増やしておきましょうか。 |
リリス | 二人とも、ルーティさんが作ってくれたって言ったらきっと喜びますよ。 |
ルーティ | そうね……あいつらも色々と頑張ってるみたいだしそれくらいはしてあげようかしら。 |
ルーティ | あれ ? 魔鏡通信ね。噂をすればあいつらのほうから連絡が来たかも。 |
ロゼ | ルーティ、あたし。今、話しても大丈夫 ? |
ルーティ | ロゼ ? 別にこっちは平気だけど、どうしたの ? |
ロゼ | それが、セキレイの羽のネットワークであたしのところにSOSが来てさ。ルーティたちにも少し関係ある話なんだよね。 |
ルーティ | あたしに ? |
ロゼ | うん。ルーティに頼まれてセキレイの羽でも支援してた施設があったでしょ ? そこから連絡があって子供が何人かいなくなったらしいの。 |
ルーティ | えっ、チビたちが ! ? どうして ! ?まさか……誰かに誘拐されたとか ! ? |
ロゼ | ううん。子供たちは手紙を残してったみたいでね。「すぐに帰って来るから心配しないで」って書いてあったから、自分たちで出て行ったんだと思う。 |
ロゼ | それでさ、いなくなった子供の中にルーティやイクスたちの知ってる子もいたから一応、先に連絡しておくことにしたんだよ。 |
ルーティ | あたしたちが知ってる子って、まさかエリック ! ? |
リリス | エリック ? |
ルーティ | ああ、そっか……。リリスたちには詳しく話してなかったわね。 |
ソーディアン・アトワイト | まだ私たちが具現化されたばかりの頃に見つけた迷子の男の子のことよ。その子、特にイクスさんによく懐いていたわね。 |
ロゼ | どうする ? ぶっちゃけ、子供だし行動範囲も限られるだろうから、あたしたちセキレイの羽だけでなんとか見つけられると思うけど……。 |
ルーティ | ……ううん。あたしも捜しに行く。それにあのチビ……ちょっと無茶するところがあるから心配なのよね……。 |
ロゼ | 了解。あっ、それともう一つ。今、あたしたちは周辺の街を捜してるんだけど気になることがあってさ。 |
ルーティ | 気になること ? |
ロゼ | そのいなくなった子供たちに、ウチのメンバーがテルカ・リュミレース領のことを話したんだって。今思えば、その時ちょっと様子がおかしかったみたい。 |
リリス | じゃあ、その子供たちはテルカ・リュミレース領へ向かったかもしれないってことですか ? |
ソーディアン・アトワイト | だけど、ファンダリア領から随分と距離があるわよ。行くとすれば、船を使うことになるわ。 |
ルーティ | ってことは、貨物船か何かに勝手に乗り込んだかもしれないわね。 |
ソーディアン・アトワイト | でも、子供たちだけでそんなことできるかしら ? |
リリス | 多分、できると思いますよ。お兄ちゃんだって、飛行竜に勝手に乗り込んでましたし。 |
ルーティ | そうね。あのスタンにできて、チビたちにできないってことはないはずよ。 |
ソーディアン・アトワイト | スタンさんって、あなたたちの中ではまだ子供扱いなのね……。 |
ロゼ | オッケー。一応、港の貨物船の便もこっちで調べとくけど、ルーティもあたしたちと合流する ? |
ルーティ | ううん。あたしはアジトからテルカ・リュミレース領に向かうわ。そっちのほうが手分けして捜せるでしょ ? |
ルーティ | それに、多分ファンダリア領にはまだスタンたちがいると思うから、ロゼたちと合流できないか連絡してみるわ。 |
ロゼ | わかった。それじゃあ、一旦切るよ。新しい情報が入ったら、すぐ連絡入れるから。 |
リリス | あの、ルーティさん。私も一緒に行きましょうか ? |
ルーティ | ありがとう。けど、そしたらお腹空かせて帰ってきた奴らががっかりするだろうしリリスはそのままご飯の準備を頼めるかしら。 |
ルーティ | それに、迷子探しなんて昔はよくやってたしあたしの手ですぐチビたちを見つけてくるから。 |
ソーディアン・アトワイト | ルーティ、念のため、イクスさんたちには連絡しておいたほうがいいんじゃないかしら ? |
ルーティ | そうね。きっとイクスも心配するわよね。あのチビのことだし……。 |
イクス | ルーティ ? 俺がどうかしたのか ? |
ルーティ | イクス ! 丁度良かったわ !ちょっと話したいことがあるの。 |
イクス | ……わかった。ルーティ、俺も一緒にエリックを捜しに行くよ。 |
ミリーナ | イクス、私も行くわ。あの子がいなくなったのなら私だって無関係じゃないもの。 |
イクス | ミリーナ。だけど……。 |
ミリーナ | ……大丈夫よ。それに、今は不思議と落ち着いているの。だから、心配しないで。 |
カーリャ・N | では、私も小さいミリーナ様たちに同行します。 |
カーリャ | 当然、カーリャも一緒に行きます。それに、カーリャがいないとイクスさまも子供の相手は大変ですからね。 |
イクス | カ、カーリャ……。俺だって成長してるんだからな。 |
ルーティ | じゃあ、これで決まりってことで。リリス、悪いけど後のことはお願いね。 |
リリス | わかりました。では、みなさん、美味しいご飯を作って待ってますので、無事に帰って来てくださいね。 |
キャラクター | 9話【9-7 テルカ・リュミレース領 遺跡1】 |
エステル | みんな、お待たせしました。 |
カロル | エステル、フレン。いや、ボクたちもさっき着いたところなんだけど……。 |
フレン | ……何かあったのかい ? |
ユーリ | 口で説明するよりあいつらの様子を見たほうが早いかもな。 |
帝国兵A | 増援だと ? ふざけるな。ここの持ち場は我々だけで十分のはずだ。お前たちのような【亜人】と一緒に行動するなど不愉快だ ! |
帝国兵B | 我々は【亜人】ではないと言っているだろう !そういう貴様たちこそ【亜人】ではないのか ? |
帝国兵A | なんだと ! 俺たちを侮辱してやがるのか ! |
帝国兵B | 先に侮辱してきたのは貴様らのほうだろう !命令が聞けないのならば、相応の対処をさせてもらう ! |
帝国兵A | そっちがその気なら、俺たちも容赦せんぞ ! |
フレン | ……彼らは一体、どうしたんだ ? |
ジュディス | さあ ? 私たちが来たときからずっとあんな感じよ。 |
レイヴン | はぁ……。どこの部隊もいざこざがあるのかねえ。おっさん、ああいうの見ると、ちょっと悲しくなるわ。 |
ユーリ | けど、おかげで警備なんてあってないようなもんだ。悪ぃが、そのままあいつらには揉めてもらってたほうが都合がいいぜ。 |
カロル | そうだね。これならボクたちが勝手に遺跡に入ってもバレないだろうし。 |
ラピード | ワンッ ! |
ユーリ | さて、アレクセイの奴が何企んでんのか知らねえが反省してねえようなら、また熱いお灸を据えてやらねえとな。 |
レイヴン | あ~、随分と奥まで来たけどそれらしいものは何もないんじゃない ? |
カロル | もしかして、アレクセイたちが先に目的のものを持ち出しちゃったのかな ? |
ユーリ | それが持ち出せる代物かもわかんねえぜ ?なんたって、あのザウデを復活させたやつの考えることだ。 |
レイヴン | こっちでも、魔導砲なんて物騒なもん奪い取ろうとしてたしね。 |
フレン | とにかく、帝国兵だけじゃなく、アレクセイの部隊とも鉢合わせる可能性がある。警戒は怠らないようにしよう。 |
ジュディス | 待って。誰かいるみたいよ。 |
ラピード | グルルルル…… ! |
ユーリ | おっと、やっとおでましか ? |
? ? ? | 誰だ、お前たちは ? |
ジュディス | あら、人に名前を尋ねるときはまず自分から名乗るものじゃないかしら ? |
レイヴン | そうそう、ジュディスちゃんの言う通りよ。ちなみに、おっさんたちは怪しい者じゃないんでそこんとこ宜しく。 |
カロル | うわぁ……一番レイヴンに似合わない台詞……。 |
レイヴン | ちょっと少年、聞こえてるわよ。 |
? ? ? | 帝国の者ではないか……。ならば、お前たちに用はない。 |
エステル | あっ……行ってしまいました……。 |
カロル | 誰だったんだろう…… ? |
ユーリ | あの口ぶりからするとあいつも帝国の人間、ってわけじゃなさそうだったな。だが……。 |
フレン | ユーリ、きみも気付いてたんだね。 |
ユーリ | ああ……。さっきのやつ、只者じゃねえな。 |
ジュディス | 考えたって仕方ないわ。私たちは私たちのすべきことをしましょう。 |
ユーリ | ……だな。よし、行くぞ、みんな。この奥の部屋で最後だ。 |
フレン | そんな…… ! これは…… ! |
カロル | な、なっ………… ! |
レイヴン | ……少年。それに嬢ちゃんはあまり見ないほうがいい。 |
エステル | わ、わたし ! すぐに治療を…… ! |
ジュディス | 駄目よ、エステル。もう手遅れよ。 |
エステル | そんな…… ! |
ユーリ | どいつもこいつも、派手にやられてやがる。だが、まだ血が固まってないところをみるとそんなに時間は経ってねえってことか……。 |
ラピード | クゥーン……。 |
フレン | ユーリ、どう思う ? |
ユーリ | 状況から考えて、一番怪しいのはさっきの男だが断言はできねえし、目的もわからねえ。 |
フレン | やられた人たちは、帝国兵ではないね。だとしたら、アレクセイの部下である可能性も……。 |
ユーリ | さっきのやつを追いかけて問い詰めりゃあ何かわかるかもしれねえな。 |
カロル | ユ、ユーリ。あれ…… ! |
ユーリ | どうした、カロル ? |
カロル | あの台座みたいな場所に何かあるよ。 |
ユーリ | みたいだな。ちょっと待ってろ。オレが取ってくる。 |
ユーリ | よっと。こいつは……心核か ? |
エステル | 心核 ? ですが、どうしてこんなところに ? |
ユーリ | わからねえことだらけだな。この部屋だって、ほかのところと違って随分と仰々しい感じになってるしな。 |
ジュディス | そうね。しいて言えば、何か儀式をするような祭壇って感じかしら ? |
エステル | こんなとき、リタがいてくれたら助かるんですが……。 |
ユーリ | この心核の正体を調べてもらう為にも一旦ここを離れてアジトに連絡を入れたほうがよさそうだ。 |
フレン | 僕も賛成だ。それに、これだけの騒ぎがあればさすがに帝国兵たちも異変に気が付くはずだしね。 |
エステル | …………。 |
フレン | エステリーゼ様、どうされましたか ?やはり、このような光景を見てしまっては具合が……。 |
エステル | いいえ……。わたしは大丈夫です。ですが……この人たちにも、家族や友人がいたかと思うと……。 |
ユーリ | ……エステル。オレたちはそういう奴らが犠牲にならねえように帝国と戦ってる。今は落ち込んでる場合じゃねえぞ。 |
エステル | ……はい。 |
フレン | エステリーゼ様。あなたのその優しさが必ず多くの人を救うことになります。どうか、その心を大切にしてください。 |
エステル | フレン……。 |
ジュディス | そうね。優しさは時に甘さになるけれどあなたの場合は、それを強さに変えられる力があるわ。 |
レイヴン | そうそう、嬢ちゃんみたいな子がいるおかげで世の中が平和になっていくんじゃない ? |
ラピード | ワンッ ! |
カロル | うん、ユーリもエステルにそう言いたかったんだよね ? |
ユーリ | ……ったく、カロル先生には敵わねえな。 |
エステル | ユーリ、みんな……。本当に、ありがとうございます。 |
ユーリ | んじゃ、まずはさっきの奴を追いかけるとしようぜ。 |
キャラクター | 10話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】 |
ゴーシュ | ――よし、港に到着したな。 |
エリック | ゴーシュお姉ちゃん、これからどうするの ? |
ゴーシュ | まずはこの港町で情報を集める。エリックとライアンは私たちと一緒に付いてこい。 |
ライアン | ……ぼくたち、勝手に船に乗ったことバレたりしないかな ? |
ドロワット | へ~きへ~き。このままバレずに、逃げろや、逃げろ~。すたこら逃げろ~ ! |
警備兵 | ……ん ? おい、待て、お前たち。 |
四人 | ! ? |
警備兵 | 今、この船から降りてきたようだがお前たちだけで乗船していたのか ? |
ゴーシュ | ……そうだけど、何 ? |
警備兵 | いや、先ほど船に密航しようとした男がいてな。その男の行方を調査しているところだ。 |
ゴーシュ | 生憎だが、私たちは無関係だ。早くその男を見つけることだな。 |
警備兵 | そうしたいところだが、念のため、お前たちの乗船券を見せて貰えないか ? |
ゴーシュ | ! ? な、なぜそんなことを確認する必要がある ? |
警備兵 | 言っただろう。念のためだ。なんせ、その密航者は警備兵を殺して逃走している。事が事だけに、捜査は入念にしておきたい。 |
警備員 | お前たちはまだ子供のようだがその密航者の関係者という可能性もある。さあ、乗船券を見せて貰おうか ? |
ゴーシュ | ……くっ。 |
ミリーナ | 時刻表通りなら、ファンダリア領からの船はもう到着しているはずね。 |
ルーティ | ええ、まずはその船を探しましょう。 |
イクス | ………… ? |
カーリャ・N | イクス様 ? どうかされましたか ? |
イクス | いや、少し港の様子がおかしいというか変な緊張感が漂っている気がするんだ。 |
カーリャ | う~ん、確かに警備兵みたいな人たちが沢山いますね。 |
カーリャ・N | 前にアレクセイ様がテルカ・リュミレース領で大規模なクーデターを起こしましたからその影響なのかもしれません。 |
ルーティ | あたしたちも帝国兵に見つかったら厄介だわ。早いとこ停泊場に行きましょう。 |
イクス | ああ。でも、停泊場はすぐそこに―― |
警備兵 | ――どうした ? 早く乗船券を見せろ。 |
ドロワット | えっと、えっと……。 |
警備兵 | まさか、お前たち。本当に……。 |
イクス | ルーティ ! あそこにいる子供って…… ! |
ルーティ | あれは……間違いないわ ! あのチビよ ! |
カーリャ | で、でも、なんか空気がピリピリしてませんか ? |
ミリーナ | イクス、行ってみましょう ! |
イクス | ああ ! |
ルーティ | ちょっと、チビ ! あんた、こんなところで何してんのよ ! ? |
エリック | ……えっ ? ルーティお姉ちゃん ! ?それに…… ! |
イクス | エリック……。良かった、無事だったんだな ! |
警備兵 | なんだ、お前たちは ?この子供たちのことを知っているのか ? |
ルーティ | 知ってるも何も、あたしらはこの子たちを捜してたのよ。 |
ミリーナ | あの、何かあったんですか ? |
警備兵 | いや、保護者がいたのならいいんだがさっきから、なかなか乗船券を見せてくれなくてな。この子たちが密航者ではないかと疑っていたところだ。 |
イクス | 乗船券……。 |
警備兵 | だが、やはりこの目で確認はしておきたい。さあ、乗船券を見せろ。 |
ゴーシュ | それは…… ! |
イクス | あ、あの ! それ、俺がみんなの分を預かってます ! |
五人 | えっ ! ? |
警備兵 | そうか。ならば、確認させてもらおう。 |
イクス | はい、どうぞ。ちなみに、俺たちの分の乗船券もあります。 |
警備兵 | ……ふむ。確かに、先ほどの便の乗船券の半券だな。しかし、わざわざ貨物船に乗らなくても客船を選べばよかっただろうに。 |
イクス | はは、そうですよね。俺、前に海の仕事をしていて客船とは違う船をみんなに見せたくて……。色々と誤解させたみたいですみません。 |
警備兵 | 変わった奴らだな……。 |
警備兵 | そうそう。先ほど子供たちには伝えたが、まだ密航者が近くにいるかもしれないから、気を付けるんだぞ。 |
ドロワット | あ、危なかったの…… !助けてくれてありがとなのぉ ! |
ゴーシュ | だが、お前たちは……。エリックの知り合いなのか ? |
エリック | ……お兄ちゃん ? 本当に、イクスお兄ちゃんなの ! ? |
イクス | え…… ? ああ、そうか。最初に会ったときと服装と髪型が少し変わったから気付きにくいか。 |
イクス | 久しぶりだな、エリック。ごめんな、なかなか会いに行けなくてさ。 |
ライアン | この人が、イクスお兄ちゃん……。 |
エリック | そうだぞ、ライアン ! ボクの言った通りだろ !イクスお兄ちゃんは、ボクを助けてくれるヒーローなんだ ! |
イクス | ヒーローって、そんな大袈裟な……。けど、無事で安心したよ。 |
ルーティ | ほんと、心配かけさせんじゃないわよ。あとでたっぷり説教してあげるから覚悟しなさい。 |
エリック | うっ……ご、ごめんなさい……。 |
カーリャ | あ、あの、イクスさま ?カーリャ、どうしてイクスさまが乗船券なんて持ってたのか、さっぱりなんですけど……。 |
カーリャ・N | 具現化の力、ですね。 |
イクス | ああ、咄嗟に思いついたことだけど上手くいって良かったよ。 |
ミリーナ | 瞬時に状況を把握して動くなんて、さすがイクスね。 |
ルーティ | それより、チビ。あんたたちが、こんなところにいる理由を話してもらうわよ。 |
ルーティ | って言っても、そこにいる女の子たちを追いかけていったってところまではあたしたちも知ってるんだけどね。 |
イクス | あれ ? この二人……。 |
ゴーシュ | な、なんだ。人の顔をジロジロと……。 |
ドロワット | 私たち、怪しい者じゃないだわん。 |
イクス | あの、もしかして二人はゴーシュさんとドロワットさんじゃないか ? |
二人 | ! ! |
カーリャ・N | イクス様、お知り合いですか ? |
イクス | いや、鏡映点リストの特徴とぼやけた写真が二人と一致するんだ。ユーリさんたちの世界の人だと思うんだけど……。 |
ゴーシュ | ユーリ……だと !お前たち、ユーリ・ローウェルを知っているのか ! |
ルーティ | ど、どうしたのよ急に ! |
ドロワット | 答えてほしいの !私たちにとっては、とっても重要なことなのよ ! |
キャラクター | 11話【9-9 テルカ・リュミレース領 港町】 |
ゴーシュ | ――つまり、私たちは鏡映点という存在で本来の私たちは元の世界に存在しているのか ? |
ドロワット | う~ん、難しすぎてよくわかんないなのよ~。 |
ゴーシュ | だが、これでアレクセイが生きている理由もわかった。そして、イエガー様のこともな……。 |
イクス | 俺たちもゴーシュとドロワットの事情はわかったよ。できる限り、イエガーさんの救出に協力させてもらう。 |
ドロワット | 本当なの ! ? |
ゴーシュ | だが、お前たちはあの『凛々の明星』の仲間。あいつらが、私たちに協力などしてくれるはずが……。 |
ユーリ | ったく、オレたちも信用がねえな。まあ、当然といえば当然なんだが。 |
ゴーシュ | ユーリ・ローウェル ! |
レイヴン | お久しぶりね~。元気そうで何よりだわ。 |
ルーティ | あんたたち、どうしてこんなところにいるの ?もしかして、ロゼから聞いた ? |
カロル | ううん、ボクたちがここに来たのは偶然。けど、ミリーナがいてくれて助かったよ。 |
エステル | 実は、調査していた遺跡で心核を見つけたんです。ミリーナならこの心核が誰のものなのかわかるんじゃないでしょうか ? |
ルーティ | 心核 ? どうしてそんなのが遺跡なんかにあったのよ ? |
ジュディス | さあ ? 私たちも知りたいくらいよ。 |
ユーリ | んで、それを知ってそうな奴を追いかけてここまで来たらお前たちがいたって訳だ。 |
フレン | ミリーナ、早速で悪いんだけど誰の心核なのか調べることはできそうかい ? |
ミリーナ | はい、私が持っている魔鏡を使えば誰の心核なのか、すぐにわかると思います。 |
ライアン | エリックお兄ちゃん……。ぼく、あの人たちが何を話してるのか全然わからないよ……。 |
エリック | ボクもわからないけど……きっと、大事な話をしてるんだよ。だから、邪魔しないようにするんだぞ。 |
ミリーナ | ……では、この魔鏡と私の魔鏡術を使って鏡の中に心核の持ち主を写します。 |
二人 | イエガー様 ! |
レイヴン | ってことは、この心核はイエガーのものってわけね。 |
ゴーシュ | ならば、その心核をイエガー様の身体に戻せば元のイエガー様に戻るんだな ! ? |
ドロワット | やった、やった !これでイエガー様を助けられるの ! |
カーリャ | おおっ ! ゴーシュさまとドロワットさまに会ったタイミングで心核が見つかるなんてラッキーじゃないですかあ ! |
ユーリ | ……ああ、随分と都合が良すぎるくらいにな。 |
ラピード | ……グルル。 |
イクス | そう……ですよね。まるで、誰かに仕組まれているような……。 |
カロル | それって、誰かがボクたちにイエガーの心核を手に入れられるように仕向けてるってこと ?いくら何でも考えすぎじゃない ? |
カロル | それに、イエガーの心核は帝国が持っていたものだろうし、それをわざわざボクたちに渡すようなことはしないと思うんだけど。 |
フレン | いや、もし帝国の人間ではない誰かの手によって仕組まれたことなのだとすれば……。 |
ゴーシュ | 何をごちゃごちゃと……。イエガー様を助けることができるのならばそれが仕組まれたことだろうが、私たちには関係ない。 |
ドロワット | 待ってて、イエガー様。今度こそ、私たちがイエガー様を助けるの ! |
レイヴン | おっさんたちが口を挟むことじゃないみたいね。どうするよ、青年。 |
ユーリ | どうって言われてもな……。その心核がイエガーのものだってんなら元に戻してやるのが先決だろうが……。 |
カーリャ・N | ですが、その肝心のイエガー様は一体どこにいらっしゃるのでしょうか ? |
帝国兵βA | 総員。至急、持ち場を離れ集合せよ。繰り返す。至急、各自持ち場を離れて集合せよ。 |
フレン | その話はあとにしよう。見回りの帝国兵だ。 |
レイヴン | なに、なに ? 急に慌ただしくなっちゃって。 |
フレン | 僕たちのことを捜している感じもしないな……。今の内に、路地に入って様子を見よう。 |
帝国兵βB | 例の密航者が見つかったのか ? |
帝国兵βA | いや、密航者のことは後回しでいい。本部からイエガー様の部隊がアレクセイ一派に襲撃されているという情報が入った。 |
帝国兵βA | 至急、我々もイエガー様の部隊と合流する。場所はすぐ隣の都市だ。 |
帝国兵βB | 了解。 |
ジュディス | ……行ったみたいね。 |
ユーリ | ここでアレクセイまで出てきやがんのか。ますますタイミングが良すぎて気持ち悪いぜ。 |
ゴーシュ | そんなことはどうでもいい !アレクセイがイエガー様を狙っているというのなら許してはおけるものか ! |
レイヴン | どの道、俺たちだってアレクセイが絡んでるならほっとけないでしょ。 |
イクス | だったら、俺たちもユーリさんたちと一緒にイエガーさんのところへ行きます。 |
ルーティ | 待って。その前に、チビたちはあたしが施設に帰してもいいわよね ? |
ライアン | えっ…… ? |
ミリーナ | そうね……。そっちのほうが安全だし施設の人たちも心配しているものね。 |
ルーティ | チビたちも、それでいいわね ? |
エリック | うん……わかった。イクスお兄ちゃんが一緒ならお姉ちゃんたちも大丈夫だと思うし……。 |
ライアン | ま、待ってよ ! ゴーシュお姉ちゃんもドロワットお姉ちゃんも用事が終わったら、戻って来るんだよね…… ? |
ドロワット | えっと……それは……。 |
ゴーシュ | ……いや。多分、私たちは戻らない。お前たちとは、ここでお別れだ。 |
ライアン | そんな…… ! 約束したでしょ !またぼくと一緒に遊んでくれるって ! |
ドロワット | ごめんなさいなの……。だけど、私たちはイエガー様と一緒に……。 |
ライアン | ……お姉ちゃんたちの馬鹿ッ ! |
エリック | おい、ライアン ! ? |
ルーティ | ちょっと、いきなり走ったら人にぶつかるわよ ! |
ライアン | わっ ! ? |
カーリャ | あちゃあ……本当に人とぶつかっちゃいましたね……。 |
ルーティ | 全く、あんたも世話のかかるチビね……。 |
? ? ? | ……また、見つけたぞ。 |
ユーリ | おい、ちょっと待て ! あいつは…… ! |
ライアン | えっ ? わああああっ…… ! ! |
エリック | ライアン ! ! |
? ? ? | セールンドの残党め……。お前たちの好きにはさせん…… ! |
カーリャ・N | 待ちなさい ! |
エステル | ユーリ ! 先ほどの人はもしかして…… ! |
ユーリ | ああ、間違いねえ !オレたちが追ってきた男だ ! |
イクス | ユーリさん ! あの男とライアンは俺たちが追います !ミリーナはユーリさんたちと一緒にイエガーさんの心核を戻してきてくれ ! |
ミリーナ | わかったわ !ネヴァン、私の代わりにイクスに付いていってくれないかしら。お願い ! |
カーリャ・N | 畏まりました ! すぐにあの男を捕獲します。 |
ルーティ | あたしも行くわ ! チビを傷つけたらただじゃおかないんだから ! |
ドロワット | ゴ、ゴーシュちゃん……。私たち、どうしよう…… ! |
ゴーシュ | このままだとイエガー様が危険なんだ……。だが、ライアンは私たちのせいで…… ! |
エリック | 大丈夫だよ ! ゴーシュお姉ちゃん ! |
ゴーシュ | エリック…… ! |
エリック | ライアンは、ボクとイクスお兄ちゃんたちが絶対に連れて帰って来るから !だから、二人はそのイエガーって人のところに行って ! |
エリック | 二人にとって、とても大切な人なんでしょ…… ?だったら、絶対助けてあげなきゃ ! |
ドロワット | そうなの……。イエガー様は、私たちの大切な人…… ! |
ゴーシュ | ……ありがとう、エリック。イクス、といったな。すまないが、ライアンのことを頼む ! |
イクス | ああ、絶対にあの子は俺たちが連れ戻す ! |
キャラクター | 12話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】 |
カロル | みんな、こっち ! この道を使えば上手く隠れながら先に行けるはずだよ。 |
レイヴン | はぁ…… ! はっ…… !ちょ、ちょっと待ってよ、少年…… !おっさん、もうヘロヘロ…… ! ! |
エステル | 頑張ってください、レイヴン。もう少しでイエガーを見つけられるはずです。 |
ドロワット | イエガー様、大丈夫かな…… ?それに、ライアンのことだって……。 |
ミリーナ | 心配いらないわ。ライアンはきっとイクスたちが何とかしてくれるはずよ。 |
ゴーシュ | ドロワット、今は自分のことに集中しろ。私たちでイエガー様を助けると誓ったはずだ。 |
ドロワット | うん……ごめんね、ゴーシュちゃん……。もう、大丈夫なの。 |
ジュディス | それにしても、思ったより静かね。もっと派手にお互い暴れてると思ったんだけど。 |
フレン | おそらく、イエガーが率いている帝国軍の部隊が分断されているんだ。 |
フレン | 敵の戦力を削ってから、一気に奇襲をかける彼らしいやり方だ。 |
ユーリ | そのおかげで、オレたちも堂々と敵の懐に入ってこられたってわけか。 |
ゴーシュ | 暢気なことを言っている場合か !それだけ、イエガー様の身が危ないということだろ ! |
ユーリ | 落ち着けよ。戦いが終わってねえってことはアレクセイも、まだイエガーのところまでは辿り着いてねえって考えられねえか ? |
ドロワット | うっ……、確かにその通りだわん。 |
ジュディス | みんな、バウルが確認してくれたわ。イエガーたちの部隊の一つが戦線から離脱するように動いているみたい。 |
フレン | 従騎士は帝国軍にとっても失ってはいけない人材のはず。きっと彼もその部隊にいるはずだ。 |
ユーリ | サンキュー、バウル。最近はオレたちに付き合わせてばかりで悪いな。 |
ジュディス | 気にしなくていいですって。あなたたちを運べない分自分も力になりたいみたいよ。 |
ユーリ | なら、バウルにばっか頼らねえおかげでおっさんの運動不足も解消できそうだって伝えといてくれ。 |
ジュディス | ええ、そうするわ。 |
レイヴン | 青年……いつか自分もおっさんの体力になることを覚悟しときなさいよ……。 |
ミリーナ | そういえば、みんなはバウルが運んでくれるフィエルティア号って船で、空を飛んでいたのよね。 |
レイヴン | よく船の名前まで覚えてたわね、ミリーナちゃん。あ~、おっさん……なんだか懐かしくなってきたわ。 |
カーリャ | カーリャも、バウルさまと一緒に空のお散歩してみたいです ! |
ジュディス | ふふっ、バウルもきっと喜ぶと思うわ。 |
ユーリ | さてと、盛り上がってきたところ悪ぃがオレたちも、ちと気合入れとかねえとな。 |
カロル | そうだね。行こう、みんな。ボクたちでアレクセイより先にイエガーを見つけるんだ。 |
帝国兵β | イエガー様、申し訳ありません。敵の部隊がすぐそこまで迫っています。すぐに撤退を。 |
イエガーβ | 小賢しい真似を……。だが、まあいい。クロノスの分霊はクレーメルケイジで確保した。もうここには用がない。 |
? ? ? | ……フッ。小賢しい、か。まさか、お前にそのようなことを言われるとはな。 |
イエガーβ | 誰だ ? |
アレクセイ | 久しいな、イエガー。今なお帝国に好きなよう使われてしまっているとは実に不憫だ。 |
帝国兵β | 敵襲 ! 総員、迎撃態勢 ! |
アレクセイ | 邪魔だ ! |
帝国兵β隊 | ぐはあああああああっ ! ! |
アレクセイ | 雑魚共は引っ込んでいろ。それとも、手負いで我々の部隊と戦うか ? |
アレクセイ一派 | アレクセイ様 ! いつでもご指示を ! |
イエガーβ | 仕方ない。手駒をいくらか捨てることになるが代わりはいくらでも用意できる。 |
イエガーβ | お前たち、まだ動けるだろう。私が逃げるまで、こいつらを足止めしろ。 |
帝国兵β隊 | ――了解。 |
アレクセイ一派 | こいつら ! ? 致命傷を負ってもまだ動くのか ! ? |
アレクセイ | ……ふっ、まさに痛ましい人形の姿だ。 |
アレクセイ | だが、我々の邪魔をするのならば躊躇う必要などない ! |
ゴーシュ | アレクセイ ! ! |
ドロワット | やっと見つけたの ! ! |
アレクセイ | お前たちは……。 |
ジュディス | どうやら、間一髪間に合ったみたいね。 |
アレクセイ | ……貴様たちまで一緒か。 |
ユーリ | てめえが派手に暴れてるって聞いてな。わざわざ来てやったぜ、アレクセイ ! |
ラピード | ワンッ ! ワンッ ! |
イエガー | 鏡士共の仲間か。こんなときに厄介な……。 |
ゴーシュ | イエガー様…… !待っていて下さい。すぐに私たちが元に戻します ! |
ドロワット | 今度こそ……今度こそイエガー様を助けるの ! |
イエガーβ | 子供か……。ならば、あの男はリビングドール兵で足止めし、私はこいつらを処分して退散することにしよう。 |
エステル | そんなこと、絶対にさせません ! |
ユーリ | オレたちのこと、甘く見てると痛い目見るぜ。今のお前にはわからねえだろうがな ! |
キャラクター | 13話【9-12 テルカ・リュミレース領 森】 |
イエガーβ | ……くっ。こんなところで、倒れるわけ……には…… ! |
ゴーシュ | イエガー様 ! ? |
ミリーナ | 大丈夫。気絶しているだけよ。待ってて、すぐに心核を取り換えるわ。 |
エステル | ミリーナ、わたしも治癒術で補助します。 |
アレクセイ | ふん。無様だな。駒の役割も果たせないなど、哀れな男だ。 |
ドロワット | アレクセイ…… ! |
アレクセイ | ああ、お前たちの顔を見るのも久しぶりだな。 |
ゴーシュ | アレクセイ…… ! 覚悟しろッ ! |
ドロワット | イエガー様の仇、今ここで取らせて貰う ! |
ユーリ | っと、お前たち。再会の挨拶にしちゃあちと派手にやりすぎだ。 |
レイヴン | そうそう。上の立場にいた人間ってのはどうも礼儀作法にうるさいんだわ。 |
ゴーシュ | お前たち…… ! !何故、止める ! ! この男は私たちの仇だ ! ! |
フレン | だからといって、殺していいわけじゃない。少し落ち着くんだ。 |
アレクセイ | フレン、お前は相変わらずだな。騎士道精神にあふれる素晴らしい考えだよ。 |
フレン | 勘違いしないでくれ。あなたに確認しておきたいことがある。そうだろ、ユーリ ? |
ユーリ | ああ。なあ、アレクセイ。お前、オレたちを利用しただろ ? |
アレクセイ | はて、一体なんのことやら。私には皆目見当がつかんな。 |
ユーリ | とぼけんじゃねえよ。お前が何か企んでるって情報が入ってから全部が上手くいきすぎてんだよ。 |
カロル | ユーリ、それって……港町でも言ってた「仕組まれてるような感じがする」って話のこと ? |
ジュディス | それで、その犯人はアレクセイだった、ってことでいいのかしら ? |
ユーリ | こいつは、初めからイエガーを帝国から取り戻すことが狙いだったんだ。 |
アレクセイ | なぜ、そう思う ? |
レイヴン | 戦争を始めようって割には戦力が少なすぎんのよ。それに、この前痛い失敗したのに、すぐに攻め込むなんて真似をするのは、あんたらしくない。 |
ユーリ | だが、イエガーだけはすぐに助けなきゃいけねえ理由があったんじゃねえか ? |
アレクセイ | どうやら、きみたちは勘違いをしているようだ。今回私が動いたのは、従騎士たちがクロノスの分霊を集めているという情報が入ってきたからに過ぎない。 |
カロル | クロノスの分霊って……もしかしてイエガーが大事そうに持っていたクレーメルケイジがそうなの ? |
アレクセイ | その通り。これ以上、帝国にカードを握られるのは私としても不本意だった。 |
カロル | だから、クロノスの分霊を集めていたイエガーを止めようとしたってこと ? |
フレン | いや、イエガーを止めるだけじゃなくイエガーを自らの部隊に引き入れようとしていたのなら彼の心核が必要だった。 |
ユーリ | だが、肝心のイエガーの心核回収はリスクを避ける為に、オレたちにやるよう仕向けやがったんだ。 |
ジュディス | 随分と信頼されているわね、私たち。 |
ドロワット | 本当に……イエガー様を助けようとしたの ? |
アレクセイ | 下らん。全て証拠もない机上の空論に過ぎぬ。 |
アレクセイ | ……と、言いたいところだが、まあいいだろう。確かに、イエガーを利用できると思い盗賊を使って心核を手に入れようとしたのは事実だ。 |
アレクセイ | しかし、何者かによる邪魔が入ってしまってね。そこで、きみたちを利用させて貰ったのだよ。 |
フレン | やはり、全てはあなたの思い通りに進んだということか。 |
アレクセイ | どうかな、私の掌で踊らされていた気分は ? |
ユーリ | おいおい、今日は随分とお喋りじゃねえか。 |
アレクセイ | なに、きみたちに一泡吹かせることができて私も機嫌がいいのだよ。 |
レイヴン | 本当、いい性格してるわ。 |
イエガー | ……んんっ。 ここは……。 |
カーリャ | ミリーナさま ! 目を覚ましたみたいです !やりましたね ! |
ミリーナ | ええ。だけど、心核を入れ替えてすぐはまだ体力が回復していないはず……。 |
ゴーシュ | イエガー様ッ ! ! |
ドロワット | イエガー様 ! ! 本当に本当に本当のイエガー様なんですよね ! ? |
イエガー | ゴーシュ、ドロワット……。ワイ…… ? あなたたちとは、随分とロングタイム 会っていなかったように感じます……。 |
エステル | イエガー、まだあまり動かないでください。無理をすれば、また意識が……。 |
イエガー | オウ……。実にファンタスティックな面々ですね。ミーはドリームを見ているのでしょうか……。 |
レイヴン | まぁ、当たらずとも遠からずってやつかね。けど安心しな。今じゃあ、こっちが俺たちの現実よ。 |
イエガー | そうですか……。では、やはりユーたちとのバトルは、お預けみたいですね。 |
カロル | ……やっぱりザウデでボクたちと戦う前までの記憶しかないんだね。 |
イエガー | ……ですが、ノットフォーゲット。アレクセイ、ミーとのプロミスは守ってもらいますよ。 |
アレクセイ | そこにいる二人の子供の命のことか ?今さら人質として扱うつもりなどない。 |
アレクセイ | なにせ今のお前は駒としても使えんようだからな。まったく、興醒めだ。 |
ゴーシュ | アレクセイ……貴様ッ ! ? |
ドロワット | イエガー様のこと、悪く言うのは私たちが許さないの ! |
レイヴン | 待ちなって。こんなところでお互いやりあっても無益よ、無益。 |
ユーリ | アレクセイ、お前はどうするつもりだ。こんだけ手の込んだことをしておいてあんたの手元には何一つ残っちゃいないぜ ? |
アレクセイ | 浅いな、ローウェル君。此度の戦果を聞けば帝国に対して猜疑心を抱いている連中が私の元へ集まってくる。 |
レイヴン | まあ、あんたならスパイの一人や二人紛れ込ませてるだろうからな。上手く唆して、仲間を増やそうって魂胆か。 |
ユーリ | 喰えねえ野郎だぜ……ったく。 |
アレクセイ | そういうことだ。よって手負いの駒など不要。お前たちもその男を連れて、どこへなりと行け。 |
レイヴン | はいはい、んじゃ、そうさせてもらうわ。 |
アレクセイ | きみたちもせいぜい帝国の人間に利用されないことだな。 |
ジュディス | 嫌味な人ね。それとも自虐だったのかしら ? |
レイヴン | 両方でしょ。平気な顔してるけどリビングドールのときにやらされてたことが結構堪えてるみたいだったしね。 |
カロル | もしかして……だからイエガーのことも助けようとしたのかな ? |
イエガー | ミーのことを…… ?インポッシブル……。アレクセイはそんな男ではありません。 |
エステル | いえ、彼も変わろうとしているのかもしれません。少なくとも、あなたを帝国から助けようとしたのは事実だと思います。 |
イエガー | ……ブラボー。その話が本当ならば、実にファンタジー、です……。 |
ドロワット | イエガー様 ! ? |
ミリーナ | 大丈夫、気を失っただけよ。やっぱり、まだリビングドールのときの負荷が身体に残ってしまっているのね。 |
ジュディス | だったら、一度アジトで診て貰ったほうがいいわね。 |
ミリーナ | ええ。だけど、まだイクスたちから連絡が……。 |
フレン | それなら、イエガーは僕たちがこのままアジトまで運ぶよ。ミリーナはイクスたちのところへ行ってくれ。 |
ラピード | ワンッ ! |
ミリーナ | ありがとう、みんな。イエガーさんのこと、宜しくお願いします。 |
ゴーシュ | ……待て ! すまないが、一つだけライアンとエリックに伝えてほしいことがある。 |
ドロワット | 私たち、また必ず二人に会いに行くから。だから、一緒に雪合戦する約束は忘れないって……そう伝えてほしいの。 |
ミリーナ | ええ、わかったわ。私がちゃんと、伝えておくわね。二人の気持ちも一緒に。 |
キャラクター | 15話【9-15 テルカ・リュミレース領 海岸3】 |
イクス | ……追っ手は……来ないみたいだな。ライアン、エリック、大丈夫か ? |
エリック | うん ! |
ライアン | ……う……えぐ……。 |
イクス | あ……え…… ? な、な、泣かないでくれよ……。ええっと、ルーティ……、ネヴァン……ど、どうしよう……。 |
ルーティ | 大丈夫よ。安心したら泣けてきちゃっただけよね ? |
ライアン | う……うん……。ごめんなさい……。 |
カーリャ・N | あの……大丈夫ですか ?飴、食べますか ? 甘くて元気が出ますよ。 |
ライアン | ありが……とう……。 |
イクス | そ、そうだ。エリック、ありがとう。エリックのお陰でライアンを助けられたよ。 |
エリック | え ? |
イクス | ほら、逆光で眩しいって言ってただろ。それで太陽の光を反射させようって思いついたんだよ。 |
エリック | あ ! そうか ! イクスお兄ちゃんも僕と同じこと思いついたんだ ! |
イクス | 同じこと ?そうか、エリックもあの時鏡で光を反射させたらいいって思ったんだな。 |
エリック | ううん、さっきじゃなくて雪合戦の時にね。 |
イクス | え ? 雪合戦 ? |
エリック | へへ、僕、イクスお兄ちゃんみたいになりたいって思ってたから、ちょっと嬉しいな。 |
イクス | ? ? ? |
ミリーナ | イクス ! みんな ! |
カーリャ・N | ミリーナ様 ! |
ミリーナ | よかった !無事にライアンを助けられたのね。 |
ルーティ | ええ、何とかね。そっちは ?わざわざ駆けつけてくれたってことはもちろん首尾よくいったのよね。 |
ミリーナ | ええ。イエガーさんを助けることができたわ。それから、エリックとライアンに伝言よ。 |
二人 | ? |
ミリーナ | ゴーシュとドロワットから。また必ず二人に会いに行くって。一緒に雪合戦する約束は忘れないって。 |
施設の女性 | ……この度は色々とありがとうございました。また皆さんに助けられてしまいましたね。 |
イクス | いえ、そんな……。 |
ルーティ | さっきも話した通り、怪しい盗賊たちからライアンの身柄を守るためにこの辺りの警護をするわね。 |
ルーティ | だから子供たちにも遠出しないように言い聞かせてくれる ? |
施設の女性 | はい。ライアンが帝都に移るまでは、十分に気を付けます。 |
カーリャ・N | それにしても、帝国がわざわざライアンを帝都に呼び寄せているというのはどういうことなんでしょうか。 |
ルーティ | 確か……ライアンは移民だから帝都に行かなくちゃいけないのよね。 |
施設の女性 | ええ。一体何のことやら……。 |
施設の女性 | ライアンの亡くなったお祖父さんはビフレスト皇国から旧セールンド王国へやってきた移民だそうですけど、ライアンは別に……。 |
カーリャ・N | ビフレスト……まさか……。 |
イクス | ネヴァン ? 何か心当たりがあるのか ? |
カーリャ・N | あ、いえ、ライアンのことではないんです。ライアンをさらった盗賊の正体に……。 |
カーリャ・N | でも、そんな筈は……。 |
ミリーナ | ネヴァン ? よかったら話してみて。 |
カーリャ・N | は、はい。あの盗賊ですが、声や背格好が……フリーセルに似ているんです。 |
ミリーナ | フリーセル……。救世軍の創始者で、ビフレストの工作員だった男……。 |
カーリャ・N | ですが、マークからフリーセルは死んだと聞いています。 |
ミリーナ | ………………。 |
セネル | イクス、今大丈夫か ? |
イクス | セネル ! グリューネさんは見つかったか ? |
セネル | ああ、こっちは問題ない。みんな無事だ。 |
セネル | それより、いつ頃アジトに戻る ?共有しておきたいことがたくさんあるんだ。 |
イクス | ああ、こっちも大体片付いたからすぐに戻るよ。 |
セネル | そうか、じゃあ戻ったら知らせてくれ。 |
ルーティ | 何だか、深刻な感じだったわね。 |
イクス | ああ。さっきの男の正体がフリーセルなのかどうかも含めてアジトで検討した方がいいな。 |
カーリャ・N | はい。マークにも連絡を取ってみます。 |
イクス | (『移民』を集めている帝国、怪しい盗賊の男……。何かが起きているのは確かなのに上手く線が繋がらない……) |
イクス | ……とにかく、アジトに戻ろう。セネルたちの話を聞くんだ。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【10-1 アジト】 |
カーリャ | 最近平和ですね……。 |
イクス | まあ……そうだな。正確には、何かが起きているけど動きようがないってだけなんだけど……。 |
ミリーナ | 私たちが新たにわかったことと言ったら帝国の目的、贄の紋章の正体、バロールの力についてぐらいだものね。 |
カーリャ・N | 全ては繋がっていると推測できましたね。帝国の目的は、ティル・ナ・ノーグを滅ぼして代わりにニーベルングを甦らせ、移住すること。 |
カーリャ・N | その際、異世界からの具現化で生み出された人々も見捨てられる。 |
イクス | 帝国が帝都に集めている【移民】って言葉もセネルの報告で何となく見えたよな。 |
イクス | 帝国はティル・ナ・ノーグ生まれの人間を選別してニーベルングに連れて行こうとしているんだと思う。 |
ミリーナ | その為に使われるのが【贄の紋章】。【贄の紋章】を刻まれた人は、【ルグの槍】と呼ばれるエネルギーの柱になって、ニーベルングの転送に利用される。 |
ミリーナ | ニーベルングの転送……というのがまだはっきりしないけれど……。 |
ミリーナ | ゲフィオンの記憶と照らし合わせるとこのティル・ナ・ノーグのある場所に、ニーベルングという星を丸ごと移動させるんだと思うわ。 |
イクス | ただ、父さんたちの遺言だと、ティル・ナ・ノーグはセールンドが行っていた鏡精のエネルギーシステムのせいで、限界を迎えていたみたいだよな。 |
イクス | それを救う為に【ルグの槍】を解放しろと言っていた。まだ【ルグの槍】そのものがよくわかってないからなんとも言えないけど―― |
イクス | 【ルグの槍】の解放が帝国の目的を阻む対抗手段であってくれるならまだ状況を変えられるかも知れない。 |
カーリャ・N | 【贄の紋章】を刻まれたのが、各地の領主と従騎士それにシャーリィ様とマオ様、でしたね。解除の方法はわからないままですが……。 |
ミリーナ | ……そういえばサレの行方もわからないままだったわね。 |
カーリャ・N | はい。ヴェイグ様たちが自警団に監視をお願いした後浮遊島警備部の皆様に連絡をとっている間に自警団の人たちが襲われ、サレも消えていたそうです。 |
カーリャ・N | おびただしい量の血痕が残されていたそうですが……。 |
ミリーナ | 今もヴェイグさんたちと警備部であの村周辺の捜索と調査を行っているわ。あそこには何かがある……。 |
ミリーナ | それに各地の領主の奪還の準備も進めているけれど……上手くはいっていないわね。 |
イクス | 領主たちが消えた地域もあるみたいだし……。そもそも領主の正体がはっきりしない地域もあるから……。 |
カーリャ・N | ミッドガンド領ですね。領主はテレサという女性だ……と言われているそうですが、まだ裏が取れていないとカロル様も言っていました。 |
カーリャ | あ、カロルさまといえば、ビフレストの皆さんには連絡がついたんですか ?情報共有しようって言ってましたよね ? |
イクス | いや、まだだよ。こちらからの通信に応えてくれないんだ。 |
イクス | 単にこっちの連絡を無視してるだけならいいんだけど。いや、それはそれで良くないか。もっとちゃんと協力できればそれに越したことはないんだし。 |
ジェイド | まあ、あちらはあちらで感情の整理がつかないのかも知れませんねぇ。 |
カーリャ | で、で、で、出たーーーーーーーっ ! ? 鬼畜眼鏡 ! ! |
ジェイド | おや、カーリャ。相変わらず熱烈に歓迎していただけてとても嬉しいですよ ♪ |
カーリャ | しっしっ ! |
ミリーナ | カーリャ……。気持ちはわかるけれど、やめなさい。 |
イクス | ジェイドさん、どうしたんですか ?何か新しいことがわかったんですか ? |
ジェイド | ええ。まず墓守の街の件ですが候補が見つかりました。 |
イクス | え ! ? 大した情報も無かったのに ! ? |
ジェイド | 礼なら、この間ここにやってきたウィルに伝えて下さい。彼の話にそれらしき場所が出てきたんですよ。 |
ジェイド | とはいえ、今は廃村になっているようなので海凶の爪の皆さんに調査を依頼しています。 |
カーリャ・N | イエガー様はもう動けるんですか ? |
ジェイド | ええ。まあ、それに次々と病人や怪我人が運ばれてくるので、気を遣って病床を空けて下さったようですね。 |
ジェイド | それと、コーキスの姿が目撃されました。 |
イクス | どこですか ! ? 俺、すぐに―― |
ジェイド | イクス。コーキスとの関係をこれ以上こじらせないためにも今は、あなたが動いてはいけません。 |
ジェイド | コーキスに関してはカロルに一任してあります。今はベルベットたちが向かっている筈です。 |
イクス | ……はい。 |
ジェイド | そして、これが最後のご報告になりますが……。オールドラント領の領主が動くようなので奪還したいと思います。構いませんね ? |
ミリーナ | オールドラント領ってことは……ジェイドさんの……。 |
ジェイド | まあ、これでも一応アレの部下ということになっていますので、善人の私としては異世界で見捨てるのも心苦しいのですよ。 |
カーリャ | 今しれっと嘘をついてましたよ、この人 ! |
イクス | ――わかりました。俺たちも一緒に行きます。 |
ジェイド | そうですね。イクスとネヴァンには来ていただきましょうか。 |
ミリーナ | イクスが行くなら私も行きます。 |
ジェイド | いえ、今カーリャに来られるとつい解剖したい気持ちになってしまうのであなたはカーリャの為にも残って下さい。 |
ジェイド | ここにいれば、あなたの中のゲフィオンの記憶をキール研究室の為に活用できますしね。 |
ミリーナ | ………………。 |
ジェイド | では、イクス、ネヴァン。行きましょうか。 |
イクス | は、はい ! |
カーリャ・N | ……小さいミリーナ様、失礼します。カーリャ、後は頼みますよ。 |
カーリャ | ……むむ。あの眼鏡、もしかしたら綺麗な方に入れ替わっているんじゃ……。 |
ミリーナ | ………………。 |
カーリャ | ……ミリーナさま。あの……ですね。カーリャが思うに、もっといい男は沢山いますよ ! |
カーリャ | 例えばロイドさまとか、アスベルさまとかユリウスさまとか、フレンさまとか……。 |
ミリーナ | それは全部カーリャの好みでしょう ?というか、カーリャに優しい人たちよね ? |
カーリャ | はっ、バレましたか ! ? |
ミリーナ | ふふ……。でも、ありがとう。大丈夫よ。 |
ミリーナ | 大丈夫だけど、少しだけカーリャをぎゅっとさせてくれるかしら ? |
カーリャ | もちろんですとも !カーリャはいつだって、ミリーナさまの味方です ! |
キャラクター | 2話【10-2 オールドラント領 街道】 |
イクス | ………………。 |
ジェイド | ――イクス、今の話、聞いていましたか ? |
イクス | え ! ? あ、えっと……すみません。ちょっとボーッとしていて、聞き逃しました……。 |
ジェイド | ……だ、そうです。ガイ、もう一度説明を。 |
ガイ | なんだなんだ ? イクスらしくない。 |
イクス | すみません……。 |
ガイ | いや、別に構わないさ。 |
ガイ | さて、俺たちの任務はピオニー陛下の奪還と心核の回収にある。どうやら帝国側は一部の領主や従騎士を帝都付近に集めているらしい。 |
ガイ | 今回はピオニー陛下の番って訳だな。カロル調査室に集まった情報を総合すると、ここ数日のうちにピオニー陛下が帝都へ運ばれるのは間違いない。 |
ガイ | 俺たちは二手に分かれて心核の捜索とピオニー陛下の奪還を行う。 |
イクス | ピオニー陛下の心核はどこにあるかわかっているんでしょうか ? |
ジェイド | 手がかりになりそうな情報はワルターから聞き出しています。 |
イクス | え ! ? ジェイドさんワルターと話ができたんですか ! ?俺なんていまだに口をきいてもらえないのに。 |
ルーク | いや、ジェイドがワルターと話してまともな会話になると思うか ? |
イクス | ですよね ? |
ナタリア | シャーリィとマウリッツさんのおかげですわ。ワルターが帝国にいた頃の情報を聞き出せたのは。 |
ジェイド | 私とリオンでさっと話を聞き出すという形でも良かったのですが、後々のことを考えて穏便に済む方向でまとめました。 |
カーリャ・N | 賢明な判断です。 |
ティア | 領主や従騎士の心核は、養液に浸した状態で各地の【ルグの槍】起動地点に置かれているらしいの。 |
ティア | 中々その場所が特定できなかったのだけれどピオニー陛下に関してはワルターが設置場所に繋がる情報を持っていたわ。 |
アニス | あー、ティア、いいよ。その先は私が話すから。 |
アニス | あのね、ヴァン総長――ティアのお兄さんの疑似心核が壊れたらしいんだ。 |
アニス | それで他の疑似心核も受け付けないから一時的に本当の心核をヴァン総長に戻すことになったんだって。 |
イオン | つまり、今現在ヴァンは、心核を取り戻している筈なんです。そしてセルシウスの予測では、ヴァンの中にローレライの本体が宿っているそうです。 |
イオン | 僕なら、ヴァンの中のローレライと話ができる。ローレライなら、ヴァンの心核がどこに保管されていたかわかる筈です。 |
イクス | つまりピオニー陛下の心核もヴァンさんの心核があった場所と同じ場所にあるという推測ですね。 |
イオン | はい。ですから、心核捜索班はヴァンに接触する必要があります。僕がローレライを任意に呼び出せれば話は簡単だったのですが……。 |
ガイ | まあ、アッシュと協力して呼び出すって方法もあるんだろうが危険な手段には変わりないからな。 |
カーリャ・N | そういえばアッシュ様の姿がありませんが……。 |
ナタリア | アッシュなら、先行してヴァンの捜索にあたっていますわ。 |
イクス | わかりました。つまり、この作戦はヴァンさんの救出作戦でもある訳ですね。 |
ジェイド | ええ。さすが、イクス。飲み込みが早いですね。 |
ジェイド | ここからは二手に分かれますよ。 |
ジェイド | ティアとアニスとイオン様はアッシュと合流して下さい。残りはピオニー陛下の方へ向かいます。 |
ガイ | しかし、ヴァンの担当はアッシュも入れて四人だけだろ。俺もヴァンの方に向かった方がいいんじゃないか ? |
ジェイド | いえ……まあ、恐らく戦力は十二分ですよ。 |
デミトリアス | ……やっと姿を見せたね。グラスティン。心配していたよ。 |
グラスティン | 悪いなあ。ちょっと気になることがあって帝都に戻れなかった。で、話ってのは、オリジンの件か ? |
デミトリアス | ああ。オリジンを呼び出すための器をどうするかそろそろはっきりさせておきたいんだ。 |
グラスティン | その件なら、前にも話しただろう。小さいフィリップで決まりだ。まあ……手違いが起きてはいるが、何とかなるだろう。 |
デミトリアス | ……やはり、私では駄目だろうか。 |
グラスティン | お前は駄目だ。アニマ汚染の回復のために他の精霊の力を使った。 |
グラスティン | それとも、まだ下らん正義感に囚われているのか ?お前が生まれる前からセールンドは鏡精をエネルギーにしてきた。 |
グラスティン | 揺り籠の崩壊がたまたま、お前の代だっただけだ。 |
デミトリアス | ……グラスティン。今日は、いつもより苛ついているようだね。 |
グラスティン | ああ、まあな。サレのせいで色々と計算が狂った。あいつ……一体何のつもりで……。 |
デミトリアス | ………………。 |
グラスティン | 話が以上なら、俺は行くぞ。 |
デミトリアス | あ、ああ……。 |
グラスティン | ――おっと、そうだ。 |
グラスティン | デミトリアス。アルトリウスには気を付けろ。奴に鏡の精霊の心核を渡すなよ。 |
グラスティン | 奴とお前はまったく正反対だがやろうとしていることは近しいものがある。 |
グラスティン | 俺は、他でもないお前が、どんな風にこの世界で踊るのかを楽しみにしてるんだ。 |
デミトリアス | そうだな……。いっそアルトリウスのようになれていたなら、私は悩みはしないよ……。 |
キャラクター | 3話【10-3 オールドラント領 浜辺1】 |
アニス | あ、アッシュみっけ ! |
アッシュ | ……見事にローレライ教団の関係者しかいないな。 |
イオン | やはり、ガイにも来てもらうべきだったでしょうか。 |
ティア | ナタリアにも来てもらった方がよかったのかも知れないわね。 |
アッシュ | だ、誰もそんなことは言ってないだろう ! |
アニス | ひっひっひっ、柄にもなく照れちゃって。うい奴よのう……。 |
アッシュ | ええい、お前ら全員ここから帰れ ! |
シンク | アッシュ。貴重な戦力だ。勝手に分散させないでよね。 |
イオン | シンク…… ! どうしてここに……。 |
リグレット | 導師イオン。シンクは私が協力を依頼した。お互い遺恨があるとは思うが、飲み込んでもらう。 |
アリエッタ | 総長の為だから……アニスがいても……我慢する。 |
アニス | はああああ ! ? |
イオン | アニス、いけませんよ。 |
イオン | アリエッタ、ありがとうございます。 |
アリエッタ | ……あなたのことは……導師って呼ぶ、です。コンランする、です。 |
イオン | はい、わかりました。あなたにとってのイオンは一人だけですしね。 |
ティア | 教官、どういうことですか ?ビフレスト陣営とは連絡が取れないと聞いていました。 |
リグレット | だろうな。今は……ジュニアを守るために仮想鏡界に通信が届かないようにしている。 |
アニス | ほえ ? それってどういうこと ? |
リグレット | サレという男に暗示を掛けられた。他にもグラスティンという男が何か仕掛けをしていたらしい。 |
リグレット | 調査と保護のために外界からの接触を避けている。 |
アリエッタ | グラスティン……。イオン様を殺して、ジュニアにも酷いことをした。絶対に許しません…… ! |
アッシュ | 俺も、リグレットたちに連絡が取れなくてな。ヴァンの調査にシンクの手を借りようとしたところすでにリグレットがシンクと連携して動いていた。 |
シンク | そこにアンタたちが便乗してきたって訳。つまりアンタたちはオマケなんだよ。付いてくるのは勝手だけど、足を引っ張らないでよね。 |
ティア | 意外だわ。シンクが兄さんの救出に協力するなんて……。 |
シンク | そう ? ボクからすれば、アンタたちよりヴァンの方がずっとマシだよ。いつまでも死なせてくれないしつこさ以外はね。 |
リグレット | お前たちもこちらに来たからには戦力として利用させてもらう。わかっているな ? |
ティア | も、もちろんです、教官 ! |
アニス | アニスちゃんも了解。まあ、六神将と一緒の作戦なんて変な感じだけど……。 |
イオン | 僕も精一杯頑張ります。 |
ディスト | ハーッハッハッハッ ! 皆、安心なさい。この薔薇のディスト様が華麗なる勝利を約束して差し上げましょう ! |
アニス | え ! ? こいつもいるの ? |
アッシュ | 何の話だ、アニス。 |
アニス | え ? だからこいつ―― |
リグレット | そろそろ時間だ。移動するぞ。 |
ディスト | ちょ、ちょっと待ちなさい !また私を無視するんですか ! ? |
アッシュ | 船はどこだ ? |
シンク | この先だ。救世軍から拝借してきた。 |
アリエッタ | お友達……呼ぶ ? |
シンク | 今はまだいい。 |
ディスト | キィィィィィィ ! 私の話を聞きなさい ! |
リグレット | アッシュ、ティア、導師イオン、こちらだ。 |
リグレット | ディスト、話ならアニスが聞きたいそうだ。 |
アニス | はあああああ ! ?ちょっと、なんでアニスちゃんがこいつの面倒を見ることになってんの ! ? |
ディスト | そうでしたか ! 今回の計画は私の情報が無ければ始まらなかったのですよ。つまり、今作戦は私がいてこそ成り立つのです。 |
ディスト | その私の世話係を命じられるとは……あなたも幸せ者ですねえ、アニス。 |
アニス | さーいーあーくーなーんーでーすーけーどー ! ? |
ルーク | 何度見ても飽きねーな、これ。 |
ミュウ | はいですの ! ジェイドさん、格好いいですの ! |
ナタリア | お土産も色々種類が増えていますわね。 |
ガイ | けど、いいのかジェイド。こんなに堂々と領都に入っちまって。最近、かなり警戒が厳重だって話だが―― |
帝国兵 | 貴様ら !見慣れない顔だが、こんなところで何をしている ! |
イクス | (ま、まずい……。俺の魔鏡を見られたら……) |
帝国兵 | ……おい、そこの銀髪の男。前に出ろ。 |
イクス | ! |
ジェイド | どうか、落ち着いて下さい。私は争いごとを避けるべきだと皆さんに訴えてきたつもりですよ ? |
帝国兵 | 何だ、お前は……ん ?お前……いや、あなたは……。 |
ジェイド | 私はジェイド。旅の者です。最近私の名を騙る鏡士の一派の男が帝国に刃向かい悪事を働いていると聞きました。 |
ジェイド | どうやら私の偽者というのは私によく似ているようですね。 |
ジェイド | 私と同じ姿の人間が、皆さんに迷惑を掛けているとは……情けない限りですよ。 |
全員 | ! ? ! ? ! ? |
街の女性 | もしかして……聖人ジェイド様 ! ? |
ジェイド | 聖人だなんて……とんでもない。私はただ、人としてよく生きる術を皆さんに伝えるべく世界中を旅しているしがない伝道師に過ぎません。 |
街の女性 | やっぱり聖人ジェイド様だわ ! |
街の男性 | 何 !ジェイド様がダアトに戻って来て下さったのか ! ? |
子供 | 僕、ジェイド様を見るの初めて ! |
街の人々 | ――ジェイド様 ! ジェイドさま ! ジェイさまーっ ! ―― |
イクス | 知ってる……これ……知ってるぞ……。 |
ルーク | マジかよ……やばい……また体が震えてきた……。 |
カーリャ・N | な……いつもの黒いオーラが消えています ! ? |
ナタリア | な、何なんですの ? 大佐が気持ち悪いですわ…… ? |
ガイ | まさか、偽者の方に寄せていくとは……。いや、しかしこいつはマジで不気味だな。 |
キャラクター | 4話【10-4 オールドラント領 海上1】 |
ティア | 教官、兄の行方をどうやって掴んだんですか ? |
リグレット | ナーザとバルドが持っていた情報だ。あの二人はデミトリアス帝のことを調査していたらしくてな。その時に、閣下の話を聞きつけたらしい。 |
リグレット | 内容はお前も知っている通りだ。だが、我々はお前たちより早く調査に入ったからな。閣下の足取りを掴むのは、そう難しくはなかった。 |
ティア | 兄さんは……今、どんな状態なんでしょうか。 |
リグレット | マルクトの皇帝を回収する役目を閣下が担ったという話だ。 |
リグレット | しかし閣下が帝国に与するとは考えにくい。心核が戻されたことは間違いないようだから恐らくリビングドール化されているのだろう。 |
ティア | 心核が戻されているのに、ですか ? |
リグレット | ディストからは、疑似心核に入れ換えなくてもリビングドールにする手段があると聞いている。 |
リグレット | ならば、そういった処置を施されていると考えるのが自然ではないか ? それともお前は閣下が帝国に賛同すると考えているのか ? |
ティア | いえ……。違う、と思いたいです。でも帝国はこの世界を滅ぼし、ニーベルングという新たな世界に移住することを目的にしていると聞きました。 |
ティア | 兄がオールドラントでしようとしていたことと……似ています。 |
リグレット | 形は同じでも、信念は違う。 |
ティア | ……そうだと思います。思いたいけれど私には兄がわからなくなってしまった。わからないまま、この世界に具現化されて……。 |
リグレット | ……まあ、わかり合うことはできないだろうな。 |
ティア | え ? |
リグレット | わかり合えるならお前と閣下が対立することはなかった。 |
リグレット | だが……ここはオールドラントではなく、預言もない。預言がなければ、お前も閣下もただの兄妹として話せるのではないか ? |
ティア | ………………。 |
アッシュ | ――おい、帝国の船影が見えてきた。決行だ。 |
リグレット | 行くぞ、ティア。 |
ティア | はいっ ! |
シンク | 最終確認するよ。目的は帝国船の拿捕及びヴァンの回収だ。船は傷つけるなよ。計画が狂う。 |
アッシュ | 気を付けろよ、死神。 |
ディスト | フン、私に言うのはお門違いですよ。 |
シンク | 手順はこうだ。まずはアリエッタに、飛行系の魔物を呼んでもらう。 |
アリエッタ | うん……わかった。 |
シンク | 帝国船が魔物の迎撃を行っている間にこっちの船を接舷させて、帝国船を拿捕する。 |
シンク | 先陣を切るのはボクとアッシュだ。リグレットとティアは支援役を、ディストとアニスはイオンと一緒にヴァンの確保に向かう。 |
アニス | え ! ? イオン様はともかくディストの面倒まで見てらんないよ~ ! ? |
ディスト | 面倒を見るのは私の方ですよ ! |
イオン | まあまあ、仲良く頑張りましょう。ところでシンク、ヴァンの状態次第では戦闘になりかねませんが……。 |
シンク | ――というか、十中八九戦闘になるだろうね。だろ、ディスト。 |
ディスト | そうですね。こちらに来る前にコーキスから得た情報ですが、帝国は研究中だった簡易型のリビングドールを完成させたようです。 |
ディスト | リビングドールγと呼ばれていた代物ですがこれなら心核を抜かなくてもリビングドールにできます。 |
イオン | 解除の方法は何かあるのでしょうか ? |
ディスト | 最近施されたものであれば強い刺激ですぐに解除できます。強力な暗示のようなものですから。 |
ディスト | ただ、長時間暗示に晒されていたとすれば厄介なことになるでしょうねぇ。 |
アニス | そんな時のためのディストでしょ ?何かすごい音機関的なもの、用意してないの ? |
ディスト | もちろん、抜かりはありません。せいぜい楽しみにしていなさい。 |
シンク | ヴァンと遭遇したら、足止めしてボクたちを呼ぶんだ。ヴァンは内側にローレライを飼ってる。刺激しないでよね。面倒なことになるから。 |
帝国兵A | ――た、大変です !12時の方向から魔物の大群がやってきます ! |
ヴァンγ | 慌てるな。砲撃の準備だ。蹴散らせ。 |
帝国兵A | 了解 ! |
ヴァンγ | ――どうした ? |
帝国兵B | 敵襲 ! 敵襲です ! |
アニス | よっしゃ、敵船侵入 ! |
イオン | 帝国の兵士たちはアッシュたちが引きつけてくれていますね。 |
ディスト | 当然です。彼らは神の使者たる薔薇のディスト様の露払いなのですからね。 |
アリエッタ | イオ……導師、ディスト、アニス。こっち ! |
イオン | アリエッタ ! |
アリエッタ | ヴァン総長、いた。この先の……艦橋、です。 |
ディスト | ご苦労様ですね、アリエッタ。さあ、アッシュたちに連絡しましょう。 |
アニス | 待った ! 隠れて ! 艦橋から総長が出てくる ! |
三人 | ! ! |
ヴァンγ | 魔物に気をとられて、船の接舷を許すとは愚か者が。 |
帝国兵B | 申し訳ありません ! |
アニス | (総長が背中を向けた…… !) |
アニス | アリエッタ。魔物に頼んでシンクたちに連絡して。 |
アリエッタ | わかった……です。 |
アニス | ディスト、総長に突っ込んで。 |
ディスト | な、何を言っているのです。そういう役目は―― |
アニス | ええい、いいから行けーっ ! |
ディスト | ぎゃーっ ! ? |
ヴァンγ | 後ろからかっ ! ? |
アニス | アリエッタ ! イオン様 ! ヴァンを足止めするよ ! |
アリエッタ | 総長……ごめんなさい ! |
イオン | 行きましょう ! |
キャラクター | 5話【10-5 オールドラント領 海上2】 |
アニス | ちょっ、まだ起き上がれるの ! ?アリエッタ、シンクたちは ! ? |
アリエッタ | わかんない……けど……ちゃんと呼びに行ってくれた筈だもん……。 |
アニス | はぅあ !魔物の言葉、通じてないのかな。 |
アニス | ちょっと、ディストすごい音機関的なやつはどうなってんの ? |
ディスト | ヴァンを気絶させてくれないと無理ですね。 |
アニス | はああ ! ? |
イオン | アニス、僕が何とかします ! |
アニス | 駄目です !イオン様はすぐ無茶するんだから、絶対駄目ですよ ! |
リグレット | バーストレーザー ! |
ヴァンγ | ! ? |
アッシュ | 紅蓮襲撃 ! |
二人 | そこだ ! /そこです ! |
二人 | ダアト式 ! 八卦硬衝 ! ! |
ヴァンγ | ぐぅっ ! ? |
ティア | 兄さんっ ! |
シンク | ……余計なことを。ボク一人で十分だった。 |
イオン | そうですね、すみません。 |
リグレット | ティア、閣下は ? |
ティア | 気絶しています。 |
ディスト | よろしい。ならばこの【タルロウC・ケイジ】の出番ですね。さあ、くらいなさい、ローレライ ! |
? ? ? | ここは……一体……。 |
ディスト | やりましたよ !私の作った仮想クレーメルケイジにローレライを捕らえました。 |
アニス | 仮想クレーメルケイジ ? どういうこと ? |
シンク | ローレライは、存在が不安定な精霊なんだよ。本来は精霊で無い物がエンコードされた存在だからね。 |
シンク | ローレライは音の精霊であり未来への指向性を強く持ち時の精霊に似た側面がある。 |
ディスト | それ以外にも第一から第六の音素の性質が混在しています。つまり音素の精霊とも言える訳です。 |
ディスト | 様々な力が内包されているせいでローレライは誰かに寄生していないと存在が希薄になる。 |
ディスト | ローレライを観測しやすくするために一時的にヴァンから切り離すための装置がこの仮想クレーメルケイジなのです。 |
アニス | なるほど~、わからん。 |
アリエッタ | アリエッタも……わかんない……。 |
アッシュ | お前たちの頭はルーク並みか ? |
リグレット | わからなくていい。要するにローレライを一時的に閣下の外へ引きずり出すための装置だ。 |
アニス | なるほど~、今度はわかった。 |
アッシュ | イオン、奴からヴァンの心核があった場所を聞き出してくれ。 |
イオン | わかりました。 |
シンク | この場はイオンとティアとディストに任せるよ。残りは雑魚どもの掃討だ。 |
シンク | それと地図か海図があったら持ってきて。気になることがあるから。 |
帝国兵 | ――では、ジェイド様とお弟子の皆さんはこちらの部屋でお待ち下さい。今から上司に報告してきます。 |
ジェイド | ありがとうございます。よろしくお願いしますね。 |
ナタリア | まあ……いつの間にか大佐の弟子にされてしまいましたわ。 |
ガイ | さて、旦那――いや、聖人ジェイド様。こいつはどういうことなのか、説明してもらえるかい ? |
ジェイド | どういうつもりか、と言われましても。せっかく聖人ジェイドが厚い信頼を得ているのですからそれを利用した方がいいと考えたのですよ。 |
ジェイド | 聖人ジェイドが悪の権化の鏡士を改心させて帝国に協力するように説得して連れてきたと聞けば帝国側も無碍には出来ないでしょう。 |
ガイ | まあ、それで実際、こうして警備が厳重になって近寄れなかった領主の館にすんなり入れちまったからなあ……。 |
カーリャ・N | ですが、罠ではないのでしょうか ? |
ジェイド | 罠でも構わないんですよ。ピオニー陛下に会えればいいんですから。 |
ジェイド | それに、上層部はこちらを疑うでしょうが末端の兵士たちは市民と同じように聖人ジェイドの信奉者です。 |
ジェイド | あまり心配しなくても大丈夫でしょう。 |
カーリャ・N | た、確かに……。 |
ガイ | こんなに簡単に事が運ぶなら他の領地でも……と思ったがそもそもダアトが特別なのか。 |
ジェイド | ええ。聖人ジェイドの存在があってこそ大胆な行動に出られるのです。 |
ジェイド | 皆さん、日頃の行いは大事ですよ ?常に隣人には優しく、家族や友人を大切にして愛をもって接しましょう。 |
ミュウ | 愛ですの ! |
ルーク | ううう……じんましんが……っ ! |
イクス | お、俺も、何か体中がかゆい……。 |
ナタリア | まあ、二人ともさっきからどうしたのです ?いくら聖人のジェイドが不気味だからといってそこまで嫌がらなくても……。 |
ジェイド | ルークはともかく、イクスまで聖人ジェイドに拒否反応を示すとは、驚きましたね。 |
ジェイド | 以前は随分慕っていたではありませんか。私の振りをしていた光魔のことを。 |
イクス | す、すみません……。長年ジェイドさんを見ている内にすっかり悪――手段を選ばないジェイドさんに慣れてしまって……。 |
イクス | まあ、今回のも手段を選んでいないといえばそうですけど……。 |
ルーク | な ! ? あの時、俺が気持ち悪いって言ったのわかるだろ ! ?綺麗なジェイドを見てると、ぞわぞわするんだよ ! |
イクス | ああ、わかるよ、ルーク。すごくよくわかる。 |
ジェイド | そうですか。もし、今この場にミリーナがいたら何と言ったでしょうねぇ。 |
イクス | ……え ? |
ジェイド | ――なーんて。どうです ? かゆみは治まりましたか ? |
イクス | ………………ジェイドさん。あの……どこまでご存じなんですか ? |
ジェイド | いえ。別に、何も。 |
二人 | ……………………。 |
ナタリア | どうしたんですの ?ミリーナに何かありましたの ? |
ジェイド | まあ、その話は置いておきましょうか。 |
ジェイド | こちらに鏡士のイクスがいるのですから領主であるピオニーは、必ず何か動いてくる筈です。まずはあちらの出方を待ちましょう。 |
ルーク | お、おう…… ? |
ルーク | でもさ、もしいきなり兵士が踏み込んできたらどうするつもりなんだ ? |
ジェイド | この部屋の広さなら、兵士が取り囲んできてもたかが知れていますよ。まあ、兵士を一人人質にとって領主の元に案内してもらえばいいのでは ? |
ガイ | 聖人が聞いて呆れるな……。 |
キャラクター | 6話【10-6 オールドラント領 海上3】 |
イオン | ローレライ、僕の声が聞こえますか ?あなたに聞きたいことがあるんです。 |
ローレライ | 導師か……。私に何を問う ? |
イオン | マルクト皇帝ピオニー・ウパラ・マルクト9世の心核のありかです。 |
ローレライ | そうか……。核のありかだな。今、そなたに見せよう……。 |
イオン | これは……地下神殿…… ? |
ローレライ | だが、私の観測できる未来ではすでにこの場所に核はない。核は地下水脈に乗って運ばれる。 |
イオン | え ! ? それは預言でしょうか。 |
ローレライ | 否。私の観測できる範囲の確定せぬ未来の一つ。これまでも、そなたに見せてきた可能性の未来だ。 |
ローレライ | この星は造られた星。星ならざる星。私とは違う理にある。 |
イオン | それは僕たちが未来を変えられる――ということですね。 |
ローレライ | だが、気を付けよ。クロノスによって、私の力が暴走する。未来を確定させ、強引に招こうとする力がある。 |
イオン | それは一体どういうことです。 |
ローレライ | この世界に上書きしようとしているもう一つの世界――あれは呪われた星だ。時が歪められている。クロノスを鎮めねばならぬ。 |
ローレライ | 分かたれたクロノスを集めよ。 |
ローレライ | ……ユリアの縁者が目覚める。私はまた彼の者の中に沈む。 |
ローレライ | そうすることでこの世界への干渉を抑えられるだろう。導師よ、また会おう。 |
ヴァン | ……く……。 |
ティア | 兄さん ! |
ディスト | ヴァンが目覚めましたか。導師イオン、仮想クレーメルケイジは効果を失ったのですね。 |
イオン | ええ。この装置はヴァンが覚醒状態では作用しないんですね。 |
ディスト | その通りです。ヴァンはローレライを内包した状態で具現化しました。切り離すことはできません。 |
ディスト | ヴァンが心核を失っていた間、ローレライはあなたの存在を宿り木にすることで存在を安定させようとしていたんですよ。 |
ディスト | ですが、ヴァンが目覚めれば話は違う。今まであなたが不規則に見せられていた未来も今後は違う形で訪れるでしょうね。 |
ヴァン | ……そうか。そういうことか。 |
二人 | ! |
ヴァン | ティア、世話を掛けたな。 |
ティア | 兄さん…… ! 本当に……兄さんなの ? |
ディスト | リビングドールγのことならもう大丈夫ですよ。仮想クレーメルケイジに入れたことで、ローレライはこの世界の精霊として、一時的に安定した。 |
ディスト | ローレライが安定すればその力によってヴァンの暗示も解ける。こうなることは全て計算済みです。 |
イオン | さすがディストですね。 |
ディスト | 当然ですよ。 |
ティア | 兄さん……。だったら、今の状況はわかるの ? |
ヴァン | 私はローレライの記憶も内包している。忌々しいことだが、今は奴の記憶が助けになっている。 |
ヴァン | 私に何が行われたか、どうしてここにいるのか全てははっきりしている。 |
ヴァン | ティア、アッシュたちを呼びなさい。 |
ティア | え ? でも、どうして……。 |
ヴァン | どうやら、この絵を描いたのは死霊使い殿のようだ。ならば……礼をせねばなるまい。 |
ヴァン | ――ディスト。預言に呪われた地での離反は水に流そう。今回は良くやってくれた。 |
ディスト | 私は私の目的のためにローレライの性質を掴みたかっただけですよ。 |
ヴァン | 知っている。貴様がこの地で何をしてきたかもローレライが見聞きした範囲で、全てな。 |
ディスト | ! |
ヴァン | 私に従え、ネイス博士。そうすれば、ローレライの観測も容易くなるぞ。 |
ディスト | ……いいでしょう。 |
ヴァン | 導師イオン。帝国はピオニー9世の心核を運ぶため別働隊を動かしている。 |
ヴァン | あなたがローレライから教えられた場所と私が知っている作戦を付き合わせたいのだが構わないだろうか。 |
イオン | もちろんです。 |
アニス | はぅあ ! ヴァン総長……ホントに目が覚めてる ! |
ヴァン | アニスか。まさかお前に助けられるとはな。アリエッタとリグレットが世話になった。 |
アリエッタ | 総長 ! 総長、元気になったの ! ? |
ヴァン | アリエッタ……。つらい思いをさせてしまったな。 |
アリエッタ | 総長、力を貸して。アリエッタ……イオン様の仇をとる、です ! |
ヴァン | 無論だ。私に任せておけ。 |
シンク | 相変わらずだね、アンタは。 |
ヴァン | シンク、良くやってくれた。お前こそ、相変わらず見事な働きぶりだ。 |
アッシュ | ……ヴァン……。 |
ヴァン | アッシュ、いい子だ。 |
アッシュ | こ、子供扱いするなっ ! |
ヴァン | フフ、そうだったな。助かったぞ。感謝する。 |
アッシュ | ………………。 |
リグレット | 閣下、ご命令を。 |
ヴァン | 船をダアトの南に向けよ。これより、マルクト帝国ピオニー9世の心核を奪還する ! |
キャラクター | 7話【10-7 オールドラント領 地下】 |
シンク | これ、帝国の船で見つけた地図だ。ローレライからイオンが聞いた地下神殿と水脈の位置が重なってる。 |
ヴァン | ふむ。これは領都のすぐ脇を通っているな。ダアトの中で、地下水道と繋がっているのだろう。 |
リグレット | やはり、閣下の見立て通り敵はこの進路で心核を運ぶと考えて間違いないかと。 |
ディスト | 出発地点は間違いないのですか ?そこがずれていたら、全ての計算が狂います。 |
ヴァン | 導師の話と私が持つローレライの記憶は合致している。この水路を遡った地下神殿に心核はあった筈だ。 |
アリエッタ | 総長、お友達から連絡が来たよ。誰か来るって。いっぱい。えっと……八人。 |
アッシュ | 当たりだな。どうする。ルークに連絡するか ? |
シンク | いや、待て。確実に心核を入手するまで余計な報告をしない方がいい。 |
ティア | ……すごい。 |
ヴァン | どうした ? ティア。 |
ティア | あ……。ううん。兄さんと六神将がそうやって作戦行動をしているのを初めてちゃんと見たから……。 |
ヴァン | 元の世界では敵対していたからな。 |
アニス | さすが、私のヴァンお兄ちゃん !私、やっぱりお兄ちゃんが好き !……みたいな~ ? |
ティア | な ! ? |
アニス | わかる~、わかるな~。普段と違う一面を見るとこうキュンってなるんだよねぇ。 |
イオン | アニスもそうですよね。いつもはニコニコしてますけど時々ドスのきいた声で敵を威嚇してくれます。 |
アニス | そ、それは違いますっ ! |
ティア | わ、私も違うわよ ! |
リグレット | 違うのか、ティア ? |
ティア | 教官 ! ? |
ヴァン | ……フ。違うのならば残念だな、ティア。 |
ティア | 兄さん ! あ、違わないの ! あ、違うわ。アニスが言ってることが違うだけで私は兄さんのことが嫌いなわけじゃ……。 |
アッシュ | 何を慌ててるんだ、貴様は。 |
ティア | あ、慌ててなんていないわ。 |
シンク | 良かったね、ヴァン。導師とアニスはともかく六神将とティアがいるのはアンタが望んだ『最期』の光景だろ。 |
ヴァン | この地においては、もはや潰えた夢だ。それに、ここにはラルゴがいない。 |
アリエッタ | ……お友達から、連絡。あと曲がり角二つのところまで来てる。 |
シンク | さあ、馬鹿馬鹿しい馴れ合いは切り上げてくれる ?計画の総仕上げだ。 |
ヴァン | ティア、支援を頼む。お前にはすでに十分な力があるはずだ。 |
ティア | ――はい、兄さん ! |
ヴァン | リグレット、アッシュとアリエッタを連れて後方から挟撃準備だ。一人も逃がすなよ。 |
リグレット | お任せ下さい。アッシュ、アリエッタ、行くぞ。 |
アッシュ | ……ヴァン、あんたは病み上がりみたいなもんだ。無理はするなよ。 |
ヴァン | フ……。ここにはお前がいるのだ。私が本気を出すまでもなかろう。違うか ? |
アッシュ | ……当然だ。 |
アリエッタ | 待っててね、総長。いっぱい敵……倒してくるから。 |
ヴァン | ディスト。お前は我々の頭脳であり切り札だ。前線を任せるのは厳しいかも知れないが――やってくれるな。 |
ディスト | ま、まあ、今はコマとなる雑兵もいませんからね。特別に戦ってあげましょう。 |
ヴァン | 導師、無理はしないように。アニス、導師守護役として存分に働け。期待している。 |
アニス | はぅあ ! これか……これにみんなやられるのか……。人たらしだわ……。 |
イオン | ふふ、そうですね。ヴァンは相変わらずです。 |
ヴァン | シンク、指揮は任せたぞ。お前の分析が一番信頼できる。できるな ? |
シンク | ……ホント、アニスじゃないけどさ。アンタのそういうところだよ。ボクが嫌いなのは。 |
シンク | さあ、位置に付いて ! さっさと終わらせるよ ! |
ピオニーβ | 聖人ジェイド殿とその弟子、か。 |
ルーク | ピオニー陛下……。 |
ピオニーβ | ……この体の知り合いか。なるほど、ではやはり貴様たちは鏡映点で銀髪の鏡士はイクス・ネーヴェだな。 |
ピオニーβ | どういうつもりだ ? 何故のこのこと現れた。 |
ジェイド | おや、話が伝わっていなかったようですね。この聖人ジェイドが、悪辣な鏡士たちを説得し帝国に忠誠を尽くすよう導いたのです。 |
ピオニーβ | そんな戯言を信じるとでも思ったか ? |
ジェイド | でも、あなたはこの部屋に入ってきた。あわよくばイクス・ネーヴェを捕らえるなり、彼の魔鏡を手に入れるなりできる……と考えたのでしょう ? |
ピオニーβ | 私を捕まえたところで【ルグの槍】は止められないぞ。 |
ジェイド | ええ、知っています。それどころか、恐らく【ルグの槍】の発動は、【贄の紋章】を刻まれた人間がどこにいようと関係が無いのでしょう。 |
ジェイド | だから、領主たちが次々と我々に連れ去られても帝国はさして気にとめていなかった。 |
ピオニーβ | そうだ。領主たちに心核を戻させないよう尽力していたのは、時間稼ぎに過ぎない。この体が欲しいのならくれてやるぞ ? |
ジェイド | おや、いいのですか ?我々はフリーセルと手を結んでいるのですよ ? |
全員 | ! ? |
ピオニーβ | な……んだと…… ? |
ジェイド | もっとお話をしたいのですが人払いをお願いできませんか。 |
ルーク | ……いってぇ……。まさか、これ……。 |
ガイ | ルーク ! どうした ? あ、もしかして……。 |
ルーク | ああ、アッシュだ……。……――え ? |
帝国兵 ? | 領主様 ! 心核の輸送隊が襲われました ! |
ピオニーβ | やはり来たか。大方そんなところだろうと思っていた。だが、こちらも準備をしていた。聖人ジェイド、お前たちは袋のネズミだ。 |
ピオニーβ | この部屋には―― |
帝国兵 ? | ――この部屋に仕掛けていた魔鏡陣ならとっくに無効化してあるよ。 |
シンク | おい、死霊使い。全ては手筈通りだ。これで文句はないだろうな。 |
ジェイド | 結構。では、皆さん、ピオニーを捕まえましょうか。 |
カーリャ・N | え ? な、何が起こったんですか ! ? |
ナタリア | 何でシンクがこんなところにいますの ! ? |
ルーク | あ、それはアッシュだよ。さっき連絡が来たんだ。アッシュがシンクたちに協力を頼んで心核を取り戻して―― |
ジェイド | 話は後です。さあ、日頃の恨み――いえいえ、友情のために、非常に心苦しいのですがピオニーを痛めつけましょう ♪ |
イクス | な、なんか、綺麗なジェイドさんと戦ったときのルークみたいだな……。ていうか、相手は皇帝陛下で幼なじみなんですよね ! ? いいんですか ! ? |
ガイ | まあ……何というかジェイドの気持ちもわからなくはない。 |
ガイ | 俺もこの際だから、元の世界での『復讐』と『恩返し』をさせてもらうとするか。 |
ルーク | はは……。ごめん、陛下 ! |
キャラクター | 8話【10-8 オールドラント領 領主の館】 |
シンク | 終わったみたいだね。はい、これ。 |
イクス | これ、ピオニーさんの心核 ! ? |
シンク | 多分ね。確認できないから知らないけど。 |
ジェイド | まあ、何でもいいですからとりあえず入れてしまって下さい。 |
イクス | そんな ! ? ジェイドさん、雑すぎませんか ! ? |
ジェイド | いえ、自分の作戦に自信があるだけです。それはピオニーの心核ですよ。まあ、別人でも面白いですが……。 |
カーリャ・N | ジェイド様……。聖人のままでいてくれた方が……。いえ、アレはアレでやはりちょっと……。 |
イクス | ……わかりました。とりあえず戻しますよ。 |
シンク | 心核を戻したら脱出だ。皇帝は―― |
ガイ | 俺とイクスで運ぼう。どうせジェイドはやらないだろうからな。 |
ジェイド | 私がそんなに薄情な人間だとでも思っているのですか ? |
ガイ | いやいや、意外と情には厚いが肉体労働が嫌いなだけだよな。知ってるよ。 |
ナタリア | そうですわよね。今回、なんだかんだ言って大佐にしてはかなり積極的に動いていましたもの。 |
ルーク | ここを出たら、そもそも何がどうなってたのかちゃんと教えてくれよ、ジェイド。 |
ルーク | ……つまり、全部六神将組にやらせる手筈だったってことか ? |
ジェイド | いやですね、人聞きの悪い。適材適所ですよ。こちらはワルターからの情報でヴァンの行方を追っていた。 |
ジェイド | 同時にリグレットたちもヴァンの行方を追っていた。手を組めると考えるのは当然でしょう。 |
アッシュ | ほとんどの仕事をこちらに押しつけておいて何だ、その言い種は。 |
ナタリア | アッシュ ! ご無事で何よりですわ。大佐の話では、何もかもそちらにお任せだったようで……申し訳ないですわ。 |
アッシュ | いや、お前の方は戦わなくて済んでよかった。 |
ナタリア | あら ? 私、ピオニー陛下と戦いましたわよ ? |
アッシュ | な……、話が違うぞ、死霊使い ! |
シンク | こいつを信じるアンタが馬鹿なんじゃない、アッシュ。 |
イクス | すみません、話を戻しますけど、ジェイドさんは結局どこまで状況を把握していたんですか ?フリーセルと繋がっているって話も……。 |
ジェイド | そうですね……。わからなかったのはピオニー陛下の心核のありかだけです。 |
ジェイド | ただ、それに関しては、ヴァンもしくはヴァンの中のローレライが知っているのは予想できましたからね。 |
ジェイド | ですから、リグレットたちにまずヴァンを取り戻すよう焚きつけました。 |
アッシュ | 俺たちは、ヴァンがピオニー9世の回収に動くという情報を仕入れた。それをジェイドに知らせたところジェイドはピオニー9世を足止めすると言ってきた。 |
ジェイド | 帝国がピオニー陛下の心核を回収することは予測できました。ただ、タイミングまではわからない。 |
ジェイド | ヴァンにやらせるのか、別働隊が行くのかピオニー陛下自身に行かせるのか。 |
ジェイド | ただ、ピオニー陛下を領主の館に置いておけば最終的には心核もピオニーかヴァンに届けられると考えました。 |
ジェイド | あとは……そうですね。ヴァン謡将のような方なら私に助けられたと察知すれば義理を果たしてくれるとも考えましたね。 |
ガイ | 相変わらずとんでもない先読みの仕方をするなジェイドは。 |
イクス | でも、フリーセルの件は……。 |
ジェイド | あれは、でまかせです。 |
五人 | ! ? |
ジェイド | さっき少し話しましたが、帝国は本来、我々に領主を奪われても痛くもかゆくもない。それが、最近になって領主たちを帝都に集めて保護するようになった。 |
ジェイド | 何か状況が変わったのでしょうね。ユーリたちの話では、フリーセルらしき男が心核のある遺跡に姿を見せていた。 |
ジェイド | 何か繋がりがあるかもと思い、あそこで足止めもかねてカマをかけてみたんですよ。 |
カーリャ・N | なるほど……。 |
ルーク | つーか、だったら最初からわざとピオニー陛下に捕まって時間稼ぎするって言っといてくれよ ! |
ナタリア | そうですわ ! そうしたらもっと上手く立ち回れたかも知れませんのに。 |
ガイ | ……まあ、ルークとナタリアなら、何も知らせない方が都合がいいと思ったんだな、旦那は。で、ついでに俺やイクスたちにも隠すことにした、と。 |
ルーク | 何でだよ ! |
ガイ | そりゃお前、嘘が下手だからだよ。 |
ピオニー | ……うう……。 |
ナタリア | まあ、陛下が目を覚ましましたわ。大丈夫ですか ? どこかお怪我は……。 |
ピオニー | ナタリア……王女…… ? |
ナタリア | ええ、そうですわ。どうやら、あの心核はピオニー陛下の物で間違いなかったようですわね。 |
ピオニー | ……綺麗だ。 |
ナタリア | え ? |
ピオニー | ナタリア王女、成人したら結婚しよう。ピオくん……と呼んでほしい、さあ……。俺の耳元で ! |
アッシュ | ジェイド ! 何なんだこいつは ! ? |
ジェイド | ……目が覚めるなりこれですか。 |
ピオニー | ……なんだ、いたのか。可愛くない方。 |
ジェイド | ピオくん ♪ 元気を出して下さい ♪ |
ピオニー | きも……。ああ……死ぬ。あまりの気持ち悪さに俺は今にも死にそうだー。ナタリア王女俺を抱きしめてこの世に引き止めてくれないか。 |
アッシュ | ナタリア、離れろ ! ガイ、止めろ ! |
ガイ | 陛下。そういう嫌がらせをやるようになったら人間終わりです。 |
ピオニー | ガイ……。そんな冷たいこと言うなよ。マジで体が動かないんだって。 |
ジェイド | 口は回るようですね。うるさいので心核を抜きましょう。 |
イクス | ルーク、あれが皇帝陛下…… ? 本当に ? |
ルーク | ははは……。だってジェイドの幼なじみで親友だぞ。 |
カーリャ・N | そうですね。ジェイド様の親友がまともな訳がありませんね……。 |
キャラクター | 10話【10-10 オールドラント領 浜辺3】 |
ルーク | ……か、勝った、のか ? |
ヴァン | ……フ、二度もお前に負けるとはな、ルーク。見事だ……。 |
ヴァン | ……ウッ……。 |
リグレット | 閣下 ! |
ヴァン | ……大丈夫だ。 |
ヴァン | ルーク、私を憎めないのは、お前の甘さだ。だが……それがお前という存在の強さなのだろうな。 |
ルーク | 師匠…… ! |
ヴァン | 何故、まだ私を師と呼ぶのだ。それはお前の望みではないだろう。お前は私と決別するために来たのではないのか ? |
ルーク | そうです……。 |
ヴァン | ならば、告げよ。 |
ルーク | ヴァン師匠……。さよう……なら……。 |
ヴァン | ……さらばだ、ルーク。 |
ヴァン | 次の機会には、お前の師のヴァンではなく同志たちを守る騎士ヴァンデスデルカとしてまみえよう。 |
ルーク | ……はい、師匠。 |
ヴァン | まだ言うか、愚か者が。 |
ヴァン | ……ガイラルディア様。そろそろ姿をお見せになってはいかがですか ? |
ガイ | ……おっと、気付かれてたか。 |
ルーク | ガイ ! ?な、何だよ ! 付いてくるなって言ったじゃん ! |
ガイ | いや、まあ、色々と気になっちまってな。悪かったよ。 |
ガイ | ヴァン――いやヴァンデスデルカ。お前が騎士としての本分に立ち戻るのなら俺たちももう一度やり直せるよな。 |
ガイ | この世界じゃ、ホドの生き残りはお前とティアだけだ。 |
ヴァン | ……今はまだお約束はできかねます。私はまだ、この世界で何をなすか見つけられてはいない。 |
ヴァン | 何より、私はあなたたちの仇だ。 |
ガイ | そうさ。お前は俺たちの敵で仇だ。罪のない沢山の命を刈り取ってきた。 |
ガイ | だが、互いに許し合えなくても、理解が及ばなくても同じ方向を向くことはできるんじゃないのか ? |
ガイ | 何より、お前は俺の幼なじみだしな。だから、待つよ。 |
ヴァン | ガイラルディア様……。あなたという人は……。 |
リグレット | ……閣下、そろそろ行きましょう。お体に障ります。 |
ガイ | ――リグレット、ジェイドから伝言だ。ナーザたちに連絡を寄越せとよ。 |
リグレット | 承知した。――シンク、行くぞ。 |
シンク | ボク、一応救世軍所属なんだけど。 |
ヴァン | シンク、戻って構わんぞ。 |
シンク | ……ビフレストの連中のところまでは付き合う。その後でケリュケイオンに戻るけどね。 |
アニス | おおおおお……なんか、こう、盛り上がってた~ !海辺で仇敵との熱い会話か~ ! |
アッシュ | 見世物じゃねぇんだぞ。それに、お前もヴァンに叫んでたじゃねぇか。 |
アニス | いやいや、あれは、こうその場のノリっていうか。でも、いいものを見せてもらいましたー ! |
イオン | アニス……。そういうところジェイドに影響されていませんか ? |
アニス | ぶーぶー ! 心外ですぅ ! |
ティア | ガイ……ありがとう。兄さんに歩み寄ってくれて。 |
ガイ | 最初に歩み寄ったのは、あっちだぜ。 |
ティア | え ? |
ガイ | ヴァンの奴、ルークに歩み寄ってただろ。 |
ティア | ええ……。そうね。 |
ルーク | ……うん。屋敷にいた頃みたいな嘘……じゃないよな ?俺を利用するための、さ。 |
ティア | ええ、きっと……。 |
ルーク | ……なんか、ガイもティアもいいな。ヴァン師匠と繋がりがあって。 |
ルーク | 俺も師匠と幼なじみだったら良かったな。それか師匠の弟とか……。 |
ガイ | ……お前のヴァン贔屓も大概だなぁ。 |
ルーク | だって……やっぱ、師匠だからさ。 |
アッシュ | ……言っておくが、てめえだけの師匠じゃねぇからな。 |
ルーク | な、なんだよ ! お前こそ、六神将だからって師匠と一緒に行動してズルいぞ ! |
アニス | ルーク、ヴァン総長と決別したんじゃなかったの~ ? |
イオン | そうですよ。師と弟子の関係にこだわるのではなく一人の戦士としてヴァンの横に立つというのもいいじゃないですか。 |
ルーク | おお、そうだよな ! そっちのがカッケーよな ! ? |
アッシュ | 馬鹿が……。下らんことを言ってないでさっさとアジトに引き上げるぞ。 |
ルーク | お、余裕じゃん。今頃ナタリアがピオニー陛下に口説かれてるかも知れないのに。 |
アッシュ | ! ! |
ガイ | まったく、お前ら、本当に子供だなあ……。 |
イクス | ……ジェイドさん。あの、ミリーナのことですけど。 |
ジェイド | ああ、いえ、説明は結構。 |
イクス | あ……はい……。 |
ジェイド | まあ、ミリーナは今まで通りに振る舞っていますが―― |
イクス | 俺も、そうしていたつもりなんですけど……。 |
ジェイド | ああ、違います。周りは気付いていないと思いますよ。あなたもミリーナも、今まで通りに振る舞えています。 |
ジェイド | 二人がそうしようと思ったのなら私が口出しすることではありません。 |
ジェイド | ただ、ミリーナもあなたも、今より少しだけ一人になれる時間を作ってはどうかと思いましてね。 |
イクス | え ? |
ジェイド | ミリーナも一人で泣きたい時もあるでしょう。あなたも、ミリーナに気を使いすぎる必要はない。 |
ジェイド | まあ、恋愛というのは脳の錯覚ですから深く考えすぎないことです。 |
イクス | はは……。 |
ナタリア | 大佐 ! イクス ! ピオニー陛下を何とかして下さい ! |
ジェイド | おや、呼ばれてしまいました。まあ、そういうことです。 |
イクス | はい……ありがとうございます。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【11-1 ミッドガンド領 領主の館1】 |
アルトリウス | 集まったな。では、互いの報告を始めよう。 |
チトセ | ちょっと待って。この通信の内容は本当にあいつらにはバレていないのね ? |
ロミー | 心外ね。傍聴対策ならとっくに済ませてるわ。だから、ここで話したことが帝国に流れるようなことはないから安心しなさい。 |
チトセ | ……そう。だったらいいわ。 |
ロミー | 用心深いのね。まぁ、それくらいのほうが手を組む価値があるんだけど。 |
アルトリウス | チトセ。当然だが現段階で我々の計画をデミトリアスに悟られるわけにはいかない。君も今後の行動には十分気を付けてくれ。 |
チトセ | 大丈夫。そんなヘマはしないわ。むしろ、帝国は私たちなんかより、今は他の領内のトラブルに追われているみたいだし。 |
アルトリウス | オールドラント領のことか。領主と従騎士を心核と共に奪われたようだな。 |
チトセ | そのせいなのかリビングドールにされている領主たちは帝都で保護することになったみたいね。マティウスさまも今は帝都にいる……。 |
ロミー | 黒衣の鏡士たちも本格的に領主たちの奪還に踏み切っているのかしら ?そんなことをしても無駄なのにね。 |
チトセ | 無駄…… ? |
ロミー | こっちの話よ。それより、あなたが帝国に頼まれているっていうクロノスの分霊集めはどんな感じなのかしら ? |
チトセ | そうね、回収した分霊は帝国に全部管理されないよう量は誤魔化してるけど、集めているのは私だけじゃないから、それなりに進んでいると思うわ。 |
ロミー | だったら、こっちも急いだほうがいいわね。アルトリウス、あなたが管理していたあいつの状態は、どんな感じ ? |
アルトリウス | 計画はおおむね順調だ。やはり、元々の素質があったのだろうな。 |
ロミー | なら、私もそろそろ動くことにするわ。丁度、ルキウスの身体も回復してきたことだし。 |
ロミー | チトセ。あなたは引き続き帝国の監視と鏡士たちの捜索をお願いするわ。 |
チトセ | わかったわ。何かあればあなたたちにも連絡する。……もういいかしら ? |
アルトリウス | ああ、ご苦労だった。 |
チトセ | ……全てマティウスさまの為よ。 |
ロミー | どこまでも忠実な犬ね。そんなにマティウスってやつが大事なのかしら ? |
アルトリウス | それが心核を戻された理由の一つだろう。少なくとも表向きには逆らわないと判断された。特異鏡映点亜種は利用価値も高い。 |
ロミー | マティウスのリビングドール化を解除するために帝国に従っている振りをしているってことよね。 |
ロミー | まぁ、そんな見え透いた嘘はグラスティンあたりにバレているでしょうけど……。 |
ロミー | それにしても、その大事なご主人様もルグの槍の犠牲者になるなんて知ったらあの子、どんな顔をするのかしら ? |
アルトリウス | 帝国も情報操作を上手くやっているようだ。彼女の場合は、それで正解なのかもしれん。 |
アルトリウス | だが、知らぬ間は我々も彼女を利用することができる。 |
ロミー | お気楽なものよね。あなたやエルレインのような先に具現化された人たちは、贄の紋章がつけられていないんだから。 |
アルトリウス | その割には、同じように贄の紋章をつけられたお前には焦りがないようだが ? |
ロミー | 言ったでしょう ? 私たちの計画が上手くいけばデミトリアスもルグの槍を発動させるどころじゃなくなるわ。 |
ロミー | そうすれば、結果的にあのチトセって子も大好きなマティウス様を助けられていいじゃない。 |
ロミー | まぁ、そのあとのことは私も保証する気はないけどね。 |
アルトリウス | いずれは彼女たちの処遇も考えるつもりだ。他の領主たちのことも含めてな。 |
ロミー | あなたの作る理想郷には興味ないわ。私はただ、自分の目的が果たせればそれでいいのよ。 |
アルトリウス | ……私も理解して貰おうとは思っていない。 |
ロミー | その辺はお互い様ってところね。まあいいわ。それじゃあ、話の続きは直接会ってからにしましょう。 |
アルトリウス | ああ、承知した。 |
アルトリウス | ……いよいよだな。 |
アルトリウス | 伝令。至急、テレサにこちらへ来るよう伝えろ。 |
伝令兵β | はっ ! |
テレサ | アルトリウス様、お呼びでしょうか ? |
アルトリウス | テレサよ。お前にはこれからグリンウッド領の領主の館へ向かってもらいたい。 |
テレサ | グリンウッド領ですか ?それに、領主の館ということは……。 |
アルトリウス | ああ。ヘルダルフに関することだ。オスカーからの報告によると、私の呪いによって随分と身体に負荷がかかっているらしい。 |
テレサ | それは……自業自得ではないでしょうか。彼はデミトリアス帝に謀反を起こしただけでなくアルトリウス様まで屠ろうと企てていた人物です。 |
アルトリウス | だが、今あの男を失うわけにはいかない。そこで、お前にはこの魔導器を使って延命措置を施してきてほしいのだ。 |
テレサ | これは確か、ヘルメス式魔導器と呼ばれるものですね。 |
アルトリウス | これを奴の心核に繋げば、穢れによる身体の負荷も軽減することができるはずだ。 |
アルトリウス | それと、もうひとつ。念のため、お前にはこれも渡しておこう。 |
テレサ | これは、心核ですか ? |
アルトリウス | ああ、グリンウッド領の従騎士のものだ。 |
テレサ | ! ? な、なぜアルトリウス様がこのようなものを…… ? |
アルトリウス | 予定よりルグの槍の発動が早まった際の保険だ。いずれは心核を持ち出したことが知られるかもしれんが今はまだ、疑われている様子もない。 |
アルトリウス | それでも、我々の行動を帝国に勘付かれてお前が狙われる可能性もゼロではない。いざとなれば、脅しの材料として使え。 |
テレサ | 畏まりました。私の為にそこまでご配慮していただき感謝いたします。 |
アルトリウス | ああ。よい報告を待っているぞ、テレサ。 |
キャラクター | 2話【11-2 仮想鏡界】 |
バルド | ――時間ですね。ナーザ様、いかが致しましょう ? |
ナーザ | 仕方ない。我々だけで先に始めよう。 |
ディスト | 全く、新参者だというのに早々に遅刻とは態度がなっていませんね。 |
コーキス | おかしいな……。シグレ様にはちゃんと時間も伝えたはずなんだけど……。 |
アステル | あはは。もしかしたら、どこかのリゾート地で遊んで忘れちゃってるのもしれないね。 |
リヒター | お前じゃないんだぞ……。それに、ああいう奴だ。気が向けば来るしそうでなければ来ないだけだろう。 |
ナーザ | そうだな。しかし貴重な戦力であることには違いない。実際、コーキスと共に、監獄島で開発されていたリビングドールγの装置の破壊に尽力してくれた。 |
アステル | それだけじゃないよ。持って帰ってきてくれた資料のおかげで、リビングドールγの仕組みについて詳しく知ることができたからね。 |
ディスト | 当然、この私の知識があってこそ解読に成功したのですがね !はーはっはっはっ ! |
ナーザ | コーキス、今回の会議の内容はあとでお前が共有しておけ。 |
コーキス | りょ、了解 ! |
ジュニア | ……すみません。僕のせいで魔鏡通信が使えないから……。 |
マークⅡ | それは仕方ねえだろ。仮想鏡界への通信を遮断しておかねえと、お前が操られる可能性があるんだからよ。 |
メルクリア | マークの言う通りじゃ、ジュニア。お主をこれ以上、グラスティンの好きにはさせん。お主のことは、わらわたちが守るのじゃ。 |
ジュニア | メルクリア……うん、ありがとう。 |
メルクリア | 礼などいらぬ。当然のことをしているまでじゃ。わらわは……それが当然であることを知らなかった。知ったからには、なすべきことをなすだけじゃ。 |
メルクリア | それにしてもジュニアの件といいグラスティンの行動は目に余る。何故義父上はあのような者を重用するのじゃ……。 |
コーキス | 何かアレだろ。友達なんだろ ? あの二人。ジェイド様とディスト様みたいな。 |
ディスト | 私とジェイドをあの二人と一緒にしないで下さい !我々は金の貴公子銀の貴公子と―― |
リヒター | 魔鏡工学を研究していたんだったな、デミトリアスは。それでグラスティンやフィリップと出会った。 |
バルド | デミトリアス帝は、自分の生い立ちから魔鏡工学を研究する道に入ったのでしょう。 |
アステル | デミトリアス陛下の子供の頃のカルテに目を通したよ。生まれつき体が弱かったせいで、鏡精を殺して得たエネルギーを使った魔鏡機器で命を繋いできたって。 |
バルド | セールンドはエネルギーシステムとしても王家の嫡男の命を繋ぐという意味でも鏡精に依存していた。 |
メルクリア | わからぬ……。わらわの知る義父上……いや、デミトリアスならば、自分が鏡精によって生かされていたからこそを重く受け止める筈じゃ。 |
メルクリア | まして、グラスティンのような男を重用するなど……。 |
ナーザ | 上に立つ者なれば時に非道な者の力を借りることもあろう。それは俺とて同じだ。しかし必ずどこかで線引きする。 |
ナーザ | だがデミトリアスは違う。無計画に禁忌の技術を使い邪悪な技術を使うということに対して覚悟というものが感じられない。 |
ナーザ | だからこそ毒なのだが……一国の王子として育てられながら、何故だ…… ? |
リグレット | 私はデミトリアス帝とやらのことはよく知らないがこれまでの話を先入観なく聞いていると見えてくるものはある。 |
ナーザ | お前にはどう見えている ? |
リグレット | 市井の人、とでも言えばいいだろうか。とにかく私が話を聞く限り、デミトリアス帝とやらはごく『普通』の人間のように見える。 |
ジュニア | 普通ってことはないと思うけど……。セールンドの王様でアスガルド帝国の皇帝なんだし。 |
コーキス | そうだよ。リビングドールとか色々酷いこともやってるんだぞ。 |
リグレット | しかし、リビングドールはそもそもメルクリアやビフレストの人間が持ち込んだ技術なのだろう ?酷いのはお前たちビフレストの方ではないのか ? |
メルクリア | そ、それは……その通りじゃ……。 |
リグレット | 別に罪を糾弾したくて言っているのではない。私も世界を滅ぼす側にいた人間だ。この世界ではそうする必要がないというだけでな。 |
リグレット | それに計画を承認したデミトリアス帝に非があることは間違いないだろう。 |
ナーザ | リグレット。お前は何をもってデミトリアスが『普通』だというのだ ? |
リグレット | 貴公が自分で言っていたではないか。覚悟がない、と。帝王学を学んだ人間とは思いがたい。近視眼的だと言い換えてもいい。 |
バルド | 視野の狭さ……ですか。 |
リグレット | 私にはお前たちのようにデミトリアス帝の知識がない。だからあの者の行動だけを追いかけてみた。 |
リグレット | イクスたちに親切であったかと思えばファントムとやらに同情する。メルクリアを庇護しスジの悪い学友を側近にする。 |
リグレット | そのくせ、どれも困難に直面すると切り捨てる。支配階級の人間だから行動が読めないと思ってしまうが村のよき隣人と思えば、そういう人間もいると気付く。 |
ディスト | 凡人、ということですか。 |
ディスト | 隣の家の子供たちに親切にし、村の不幸には心を痛めなんとかしようと心を砕くが、遠くで起きている不幸には「ああ、可哀想に」と言うだけ。 |
リグレット | そうだ。目に見える範囲の不幸には心を砕く。本気で案じ、助けようとする。 |
リグレット | しかしそれは破綻する。何故ならデミトリアスは支配者の立場にあるからだ。 |
リヒター | ……世界と救済を秤に掛けたとき救いたかった者は救えなくなる。だから切り捨てる、ということか。 |
リグレット | 捨てられた子犬を拾ったが、途中で飼いきれなくなって捨てに行くようなものだ。そういう人間だから行動がちぐはぐに見えるのではないか。 |
リグレット | 私も凡人だ。デミトリアス帝の行動は弟が生きていた頃の……かつての自分が取りそうなものだと思えた。 |
ヴァン | ……興味深い話をしているな。 |
リグレット | 閣下 ! もう起きて大丈夫なのですか ? |
ヴァン | 大事ない。疑似心核を入れられていた者とは違う。 |
アリエッタ | リグレット、ごめんなさい。総長にちゃんと寝ててって言ったんだけど……。 |
ヴァン | 凡夫ほど厄介な者はない。奴らは感情で動く。善意に勝る悪意はないぞ。 |
ナーザ | ヴァン……。随分顔色がよくなったな。リグレットたちがお前を連れてきたときは回復するのに時間がかかるように思えたが……。 |
ナーザ | どうだ、考えは決まったか ? |
ヴァン | 調べたいことがある。それは恐らく貴公らの目的に合致するだろう。 |
ナーザ | つまり目的が一致する限りは助力を得られると考えていいのだな。 |
ヴァン | ああ。暫し、貴公らと共に歩ませてもらおう。 |
ナーザ | リグレットたちはどうする ? |
リグレット | 私には、閣下の考えていることがわかります。調査の結果が出るまでは、閣下と共にあるつもりです。 |
リグレット | それにアリエッタの生きる場所を作ってやらねばなりません。 |
アリエッタ | 何 ? 帝国と戦うんじゃない……ですか ? |
ヴァン | ああ、戦うことになるだろう。アリエッタの敵討ちにも力を貸す。安心しなさい。 |
ヴァン | それと、ディスト。お前は引き続き、私に力を貸さざるを得ないだろう。 |
ディスト | ローレライ、ですか。 |
ヴァン | それにクロノスも、だ。 |
ディスト | 結構。実に楽しみです。 |
コーキス | へ ? ヴァン様、何をするつもりなんだ ? |
ヴァン | コーキスだったか。何、精霊の調査だ。お前たちのやってきたことと大差なかろう ?むしろ先を行く者として、我らに指導して欲しい。 |
コーキス | え ! ? そ、そんな……指導なんて……。 |
ヴァン | フ……謙遜することはない。よろしく頼むぞ。 |
コーキス | は、はい、ヴァン様 ! |
マークⅡ | ……チョロいな、コーキスは。 |
バルド | フフ……中々油断のならない方のようですね。 |
ナーザ | 鏡映点というのは多かれ少なかれそういうものだろう。 |
ナーザ | さて、ヴァンの動向が決まったのならそろそろ黒衣の鏡士共の呼びかけに応じてやるか。 |
リグレット | そうしてくれると私も肩の荷が下りる。連絡を寄越すようにと伝言を頼まれていたからな。 |
メルクリア | 黒衣の鏡士に……。 |
バルド | では、私が伝令役を引き受けましょう。 |
メルクリア | ま、待つのじゃ !アジトへの連絡は、わらわが行ってくる ! |
バルド | メルクリア様、しかし……。 |
メルクリア | バルドがアジトへ行けば、また女たちにうつつを抜かすのではないか ? |
バルド | それは誤解です。それにあちらにはフレンさんもいるでしょうから……。 |
ナーザ | よほどフレンが恐ろしいと見えるな。しかしメルクリア一人では……。 |
アリエッタ | メルクリア……もしかして……。 |
メルクリア | いけませんか、兄上様……。わらわも、せめてそれくらいは力になりたいのです。 |
アリエッタ | あ、あの ! アリエッタも一緒に行く……です。それなら、心配ない……です。 |
ナーザ | ……わかった。では、アジトへの連絡はメルクリアに任せ護衛としてアリエッタについていってもらおう。 |
ナーザ | では、会議はこれくらいで終わるとしよう。各自、元の仕事に戻ってくれ。 |
メルクリア | アリエッタ。さっきは護衛役を買って出てくれて助かったぞ。わらわ一人では、兄上様も許可を出してくれなかっただろうからな。 |
アリエッタ | うん……。だって、メルクリア……。ウィルって人に、大事なもの……届けたかった、です。 |
メルクリア | やはり、覚えておったのじゃな。その通りじゃ。ウィルとは浄玻璃鏡を渡すと約束しておったからのう。 |
アリエッタ | メルクリア、夜遅くまで、その鏡作ってた……です。だから、アリエッタも力になる、です。 |
メルクリア | アリエッタ…… !うむ、感謝するぞアリエッタよ ! |
バルド | なるほど、そういうことか。きみがメルクリア様の外出を許可した理由がわかったよ。 |
ナーザ | ……また勝手に外に出られては迷惑だからな。それだけのことだ。 |
キャラクター | 3話【11-3 グリンウッド領 領都】 |
ロゼ | どう、デゼル ? なんか動きあった ? |
デゼル | ああ。これからテレサって奴がこっちに来るらしい。 |
ロゼ | オッケー。それじゃあ、セキレイの羽から入ってきた情報は正しかったって訳だ。 |
デゼル | そうみたいだな。――来たぞ、あの馬車だ。 |
テレサ | テレサ・リナレスです。私のことは、もう連絡が入っているはずですが。 |
リビングドールβ | お待ちしておりました、テレサ様。オスカー様がお待ちです。 |
ロゼ | ビンゴ。さっきの奴、ミッドガンド領のテレサで間違いないよ。 |
デゼル | どうする ? このまま俺たちも潜入するか ? |
ロゼ | 当然。ミッドガンド領の領主かもしれない奴が何しに来たのか、ちゃんと見ておかないとね。 |
ロゼ | ついでに、まだ分かっていないグリンウッド領の領主の正体も拝んでいけるかもしれないでしょ ? |
デゼル | ……どうだかな。今まで一度も顔を出してないんだろ ? |
ロゼ | らしいね。セキレイの羽だけじゃなくてカロル調査室ですら情報が全く手に入らないなんてよっぽど上手く隠してるんじゃないかな。 |
デゼル | あるいは、外に出ない理由が別にあるってことか。 |
ロゼ | それを知る為にも、今がチャンスってわけ。門番たちが馬車に気を取られている内にあたしたちも潜入するよ。 |
デゼル | ……待て。他にも誰か出てきやがった。 |
セルゲイβ | ――待たせたな。私も同行しよう。 |
ロゼ | セルゲイ…… ! |
テレサ | わざわざ従騎士のあなたも迎えに来てくれるとは。 |
セルゲイβ | 当然だ。領主様に関わることとなれば私も立ち会わせてもらう。何か問題があるのか ? |
テレサ | ……いいえ。なら、案内はあなたにお願いします。 |
セルゲイβ | 承知した。 |
デゼル | ……あの様子じゃあ、リビングドールになってるのは間違いなさそうだな。 |
ロゼ | うん……。分かってたつもりだけど実際に見ると結構キツイかも。 |
デゼル | スレイたちに連絡するか ? |
ロゼ | いや、それはナシ。スレイなら一緒に行きたいって言いそうだし、人数が増えると逆に潜入しにくくなる。いつも通り、あたしとデゼルだけでいこう。 |
ロゼ | それに、もし領主の正体が分かったとしてセルゲイみたいに助けなきゃいけない奴とは限らないでしょ ? |
デゼル | お前、まさか……。 |
ロゼ | ……ま、あたしたちで上手くやろうってこと。いくよ、デゼル。 |
デゼル | ……ああ、わかった。 |
コーキス | う~ん、やっぱ繋がらないな……。シグレ様、一体どこに行ったんだ ? |
シグレ | ああ ? なんだよ、さっきからうっせえぞ。 |
コーキス | あっ ! やっと繋がった !シグレ様、今どこにいるんだよ ?会議があるからアジトに来てくれって伝えただろ ? |
シグレ | ああ ? そんなの覚えてるわけねぇだろ ? |
コーキス | 覚えてるわけないって……まあ、いいや。シグレ様にも話しときたいことがあるんだけど……やべっ、俺、ちゃんと上手く説明できるかな……。 |
シグレ | あぁ ? 何ごちゃごちゃ言ってんだ ?用が終わったなら切るぞ。こっちは忙しいんだからよ。 |
コーキス | 忙しいって、シグレ様、今なにかしてるのか ? |
シグレ | これから領主の館ってとこに乗り込むんだよ。 |
コーキス | ふーん、領主の館に……って、はああああぁ ! ? |
シグレ | お前、この前ミッドガンド領の領主ってのはテレサって女かもしれないって言ってただろ ? |
コーキス | そういや、言った気もするけど……。 |
シグレ | そいつ、俺の知り合いなんだよ。近くに来たついでに、ちと挨拶してくるわ。 |
コーキス | 挨拶って……あれ ? シグレ様 ? シグレ様ー !……駄目だ、通信切れてる。 |
コーキス | (シグレ様の居場所はわかったけど……。このままだと絶対やばいって……) |
コーキス | (ボスに相談したいけど、連絡は取れないし……。シグレ様なら帝国の奴らに捕まることはないと思うけど念のため、俺も様子を見に行ったほうがいいよな) |
キャラクター | 4話【11-4 グリンウッド領 領主の館1】 |
デゼル | 気を付けろ、ロゼ。警備兵が想像以上に配置されているぞ。 |
ロゼ | 了解。けど、隠れて任務をこなすのはあたしたちの得意分野でしょ ?ヘマはしないって。 |
デゼル | だといいがな。――おい、いたぞ。セルゲイたちだ。 |
ロゼ | わざわざ、こんな地下室に来て何しようってわけ ? |
デゼル | 待て。足音が近づいてきた。どうやら、部屋の奥に誰かいるようだ。 |
オスカー | 久しぶりですね、姉上。 |
テレサ | オスカー。ごめんなさい。なかなかあなたにも会いにいく時間が作れなくて……。 |
オスカー | 仕方ありませんよ。姉上だって、アルトリウス様から任されている任務があるのですから。 |
オスカー | だけど、正直に言うと姉上が来てくれるという連絡があったときは嬉しかったです。 |
デゼル | あいつがこの領の領主、ってわけじゃなさそうだな。 |
ロゼ | けど、鏡映点リストの中に似たような顔があったのは覚えてるよ。確か、ベルベットたちのリストにあったはず。 |
デゼル | ……もう少し様子を見るか。 |
セルゲイβ | 姉弟の再会に口を挟むようで悪いが至急、作業に取り掛かってもらいたい。 |
テレサ | わかっているわ。オスカー、案内してちょうだい。 |
オスカー | はい。こちらです、姉上。 |
デゼル | このまま奥の部屋に行くようだな。 |
ロゼ | ……あたしたちも行こう。 |
ロゼ | なに、ここ…… ?地下牢みたいになってるけど……。 |
デゼル | 他の領主の館には心核を精製する工場があると聞いていたが、ここはどうやら違うようだな。 |
オスカー | こちらです、姉上。 |
二人 | ! ? |
ロゼ | そんな、あれって…… ! |
テレサ | ヘルダルフ……。初めて会ったときとは随分と姿が変わってしまっていますね。 |
オスカー | ええ。アルトリウス様の呪いの効果によって想像以上の穢れを生み出してしまったようです。 |
テレサ | それでこのような姿に……。まるで業魔と変わりありませんね。 |
オスカー | いえ、僕にはそれ以上に恐ろしいモノに見えます。この世界では穢れが増えたり広がることがないとは聞いていますが、それにしても……。 |
セルゲイβ | 念のため、今は魔鏡陣によって力を封印している。生きてはいるが、もう自らの意思も希薄になっているかもしれん。 |
セルゲイβ | だが、これでもこの者は領主だ。帝都に連れて行くには、疑似心核を入れるか身体の負担を軽減し、移動に耐えさせるしかない。 |
セルゲイβ | デミトリアス様のご命令を実行するためすぐに処置を願いたい。 |
テレサ | ええ、その為に私が派遣されたのですから。 |
デゼル | くそっ……どうなってやがる。あのヘルダルフが捕まってるだと ?しかも、あいつが領主だったなんて……。 |
ロゼ | ……けど、これってチャンスだよ。 |
デゼル | なに ? |
ロゼ | あいつらも言ってたでしょ ?もし、本当に今のヘルダルフに意思がないってんならあたしとデゼルだけで始末できる。 |
デゼル | ……やるのか、ロゼ。 |
ロゼ | 場合によっては……かな。けど、デゼルも気付いてるでしょ。 |
ロゼ | ここには何か仕掛けがあって穢れの存在を外に感知させないようになってる。だからここに来るまで気付かなかったけど……。 |
ロゼ | あいつが纏ってる穢れの量は多いよ。もしかしたら、スレイでも浄化が難しいかも。 |
デゼル | ……わかった。お前の判断に任せる。だが、当然あそこにいる三人は俺たちの邪魔をしてくるはずだ。 |
ロゼ | どっちみち、戦いは避けられないか。なら、せめて隙を見て一瞬で終わらせる。デゼル、そのときはサポート任せたよ。 |
デゼル | ……リビングドールのセルゲイはともかくあの二人には手加減できねえだろうな。 |
ロゼ | うん……あの二人、かなりの使い手っぽい。本気でやらなきゃ、こっちがやられる。 |
デゼル | ったく。ただの偵察のつもりだったがとんでもねえ大仕事になりそうだ。 |
テレサ | オスカー。私が心核に魔導器を繋げるわ。その間、あなたはこの男に異変がないか見張っていて。 |
オスカー | 姉上、気を付けてください。 |
テレサ | 問題ないわ。取り付けるだけなら作業もすぐに終わるはずだから。 |
テレサ | …………よし、接続は完了したわ。あとは心核と魔導器がちゃんと適合するかどうか……。 |
ヘルダルフ | …………このときを待っていたぞ。 |
テレサ | ……えっ ? |
オスカー | 姉上 ! ? |
ヘルダルフ | はあああっっ ! ! |
オスカー | ……ぐあっ ! ! |
テレサ | オスカー ! ? |
ヘルダルフ | 女を庇いおったか。まあいい、ワシの相手はお前たちではない。 |
オスカー | そんな…… ? お前の動きは魔鏡陣の結界によって封じていた筈だ。 |
ヘルダルフ | そのような術でワシを封じていたつもりか ?笑止。我が力を見くびっていたようだな。 |
ヘルダルフ | だが、この忌々しい呪いがワシの身体を蝕んでいたのは事実だ。だからこそ、お前たちが手を打つのをずっと待っていた。 |
オスカー | まさか……。ずっとこの機会を狙って…… ! |
ヘルダルフ | 無論だ。これでワシの心核が壊れることはない。今こそ『奴』を奈落の底へと落としてやろう。 |
オスカー | 姉上……早くここから、逃げ……。 |
テレサ | オスカー ! オスカー、しっかりして ! ? |
ヘルダルフ | 感謝するぞ、女よ。さて、お前にはあの男がいる場所まで案内してもらおうか。 |
セルゲイβ | 待て ! 領主といえど、他の従騎士たちへの攻撃は帝国への反乱と判断する ! |
ヘルダルフ | リビングドールか。意思を持たぬ人形などに興味はない ! |
セルゲイβ | ――覚悟 ! |
ヘルダルフ | 邪魔をするな ! ! |
セルゲイβ | ぐはあああああっ ! ! |
ヘルダルフ | やはり、所詮は人形だな。だが、死んでいないところを見るに身体は余程鍛えられている者のようだ。 |
テレサ | ……くっ ! |
ヘルダルフ | ほう、まだ武器を取るか。それに、その憎悪に満ちた目……。いいぞ、少しは楽しませてくれそうだ。 |
ロゼ | ――その前に、地獄に行くのはあんただよ。ヘルダルフ ! ! |
ヘルダルフ | なにっ ? |
ロゼ | 嵐月流・啄木鳥 ! ! |
ヘルダルフ | くっ ! |
テレサ | お前は…… ? |
ロゼ | 話はあと !デゼル ! セルゲイとその二人のことは頼んだ ! |
デゼル | この馬鹿がッ ! お前ひとりで戦うつもりか ! ? |
ヘルダルフ | ……鼠が潜んでいたか。 |
帝国兵β | ――何事ですか、セルゲイ様。 |
帝国兵β | これは…… ! ?ヘルダルフが覚醒した ! 兵を集めろ ! |
ヘルダルフ | ……フン、雑兵共が。どけ ! 貴様たちの相手などしている暇はない ! |
帝国兵β | うっ ! ? ぐはっ ! ? |
テレサ | 待ちなさい ! |
デゼル | まずいぞ、このままだとヘルダルフが逃げちまう。 |
ロゼ | わかってる !絶対逃がさない ! |
キャラクター | 5話【11-5 グリンウッド領 領主の館2】 |
帝国兵β | ――何者だ、お前たちは ! |
帝国兵β | ぐはっ ! ? |
ロゼ | まったく、あんたたちの相手はヘルダルフでしょ ! ?こっちの邪魔しないで ! |
デゼル | ――待て、ロゼ !一旦立て直すぞ。 |
ロゼ | 何言ってんの ! ?このままだと逃げられるって ! |
デゼル | 帝国兵にしてみりゃ、俺たちは侵入者だ。この先はもっと兵の数が多い。ヘルダルフに追いつくどころかこっちが疲弊する。 |
デゼル | それにロゼ、お前も気付いたはずだ。俺たちだけじゃあ、ヘルダルフには勝てねえ。たとえ、神依の力を使ってもな。 |
ロゼ | ……ッ ! |
テレサ | 神依…… ? あなたたちは、一体……。 |
デゼル | おっと。こいつらも来てたのか……。どうする ? |
ロゼ | そうだね……聞きたいことは山ほどあるけどあんた、傷の具合は ? |
テレサ | 私は平気です……。ですが、オスカーは…… ! |
オスカー | …………ぐっ ! |
ロゼ | 意識はあるっぽいけど、こっちは重傷か……。セルゲイも酷い状態だったし……。 |
ロゼ | ――デゼルの言う通りだね。立て直した方がいい。デゼルは戻ってセルゲイをお願い。あたしはこっちの治療を手伝うから。 |
デゼル | わかった。 |
テレサ | ……助けてくれるのですか ? |
ロゼ | ……あたしは、あんたたちから話を聞きたいだけ。それに、応急処置くらいしかできないからそのあとは、ちゃんとした医者に診て貰って。 |
テレサ | ……感謝します。 |
ロゼ | ……うん。一応、これで命に別状はないと思う。もう少ししたら、ちゃんと意識も戻るはずだよ。 |
テレサ | ……オスカー。ごめんなさい、私のせいで。 |
デゼル | ……おい、こっちも終わったぜ。ひどい傷だが、まあ大丈夫だろう。だが、セルゲイは目を覚ますと厄介だぞ。 |
ロゼ | だね。リビングドール状態なのは変わりないだろうし……。 |
テレサ | …………。 |
ロゼ | テレサ、だよね ?悪いけど、知ってることは全部話してもらうよ。 |
テレサ | …………申し訳ありませんが、それはできません。 |
ロゼ | ちょ ! 話が違うじゃん ! |
テレサ | あなたたちは、黒衣の鏡士の仲間ですね。ならば、敵であるあなたたちに話せることはありません。 |
デゼル | おい、勘違いするなよ。これは交渉じゃなく命令だ。どうしても従いたくないってんならそれなりの覚悟を持ってもらうぜ。 |
テレサ | わかっています。オスカーを助けていただいた礼は尽くすつもりです。 |
ロゼ | だったら……。 |
テレサ | しかし、それが情報ではなく今のあなたたちに最も価値のあるものだとしたらどうですか ? |
デゼル | なんだと ? |
テレサ | ……あなたたちには、こちらをお渡し致します。 |
ロゼ | これって……心核 ! ? |
テレサ | ええ、従騎士であるセルゲイの心核です。 |
デゼル | ……何故、そんなものをお前が持ってやがる ? |
テレサ | 元々、私たちは帝国に仕えているわけではありません。私が仕えている方は別にいて、私もオスカーもその方の指示で動いています。 |
ロゼ | それって、あんたたちは帝国を裏切ってるってこと ? |
テレサ | そうなりますね。ですが、それを今、帝国に知られるわけにはいかない。この心核は、いざというときの為の交渉材料でした。 |
ロゼ | なるほどね。帝国がやろうとしてるルグの槍の発動って領主や従騎士たちの心核が必要なんじゃないかって予測されてたけど、やっぱりそうなんだ……。 |
デゼル | その心核を人質がわりにしておけば帝国もお前に手が出せないというわけか。 |
デゼル | だが、いいのか ? そんなものを俺たちに渡して。 |
テレサ | 失態になってしまうのは承知の上です。ですが、私は今、あなたたちに捕まるわけにはいかない。 |
ロゼ | ……わかった。セルゲイの心核を渡してくれたらあたしたちも、今はあんたたちに手を出さない。 |
デゼル | いいのか ?大体、心核が本物かどうかも怪しいぞ。 |
ロゼ | かもね。けど、あたしには彼女が嘘をついてるとは思えない。 |
デゼル | 根拠は ? |
ロゼ | そりゃあ、商売人としての勘。 |
デゼル | ……だろうな。俺はお前がいいなら、それでいい。 |
ロゼ | じゃ、交渉成立ってことで。セルゲイの心核は渡してもらうよ。あっ、それともう一つ……。 |
ロゼ | もし、次に会ったとき、あたしたちの敵だったら容赦はしない。 |
テレサ | ……ええ、わかっています。 |
ロゼ | それじゃあ、あたしたちもそろそろ撤退しなきゃ。デゼル、セルゲイを運ぶ準備をして。 |
デゼル | やれやれ、俺が背負うことになるのか。 |
ロゼ | アジトまでの辛抱だって。……まあ、アジトに戻ってからのほうが色々と大変だろうけどさ。 |
キャラクター | 6話【11-8 アジト】 |
ライラ | ――お待たせしましたわ。 |
スレイ | ライラ ! アリーシャ !セルゲイの様子、どうだった ! ? |
ライラ | 今は容体も安定しています。 |
ライラ | ですが、本来の心核と離れている時期が長かったこともあり、目を覚ますにはもう少し時間がかかるとのことです。 |
アリーシャ | 心核についてはミリーナも含めて治療に当たっている。だが、肉体にも相当なダメージが残っているそうだ。 |
スレイ | ……そっか。 |
ミクリオ | スレイ……。 |
エドナ | 少なくとも、騙されて別人の心核を持ち帰ってきたなんてマヌケなことは起こらなかったわね。 |
ロゼ | うっ……。やっぱそこは引っ掛かるかぁ……。 |
ザビーダ | まぁ、いいじゃないの。結果的には、あのセルゲイって奴を助けることができたんだからよ。 |
ミクリオ | 良くない !ロゼ、どうしてそんな無茶をしたんだ ! |
ロゼ | そ、そんな怒らないでよ !そりゃあ、勝手に動いたことは謝るけどさ……。 |
スレイ | ……違うよ、ロゼ。きっと、ミクリオが怒ってる理由はオレと一緒なんじゃないかな ? |
ロゼ | えっ…… ? |
スレイ | ロゼ、本当はわかってたんじゃないか ?グリンウッド領の領主がヘルダルフだってこと。 |
全員 | ! ? |
アリーシャ | そうなのか、ロゼ ! ? |
ロゼ | ……違うよ。あたしだって、さすがにヘルダルフがいたのは予想外だった。 |
ロゼ | けど、もし領主があたしたちの知ってるやつでそいつが自分の意思で帝国に従ってたとしたら ? |
ミクリオ | ロゼ、まさか…… ! |
ロゼ | 相手が『悪』だとわかったらあたしは躊躇しないつもりだった。 |
ザビーダ | だが、ヘルの野郎が相手じゃ無謀ってもんだぜ。 |
ロゼ | ……うん。それもちゃんと実感した。大丈夫、もう勝手なことはしないって。 |
スレイ | ……だとしても聞いてくれ、ロゼ。ロゼならきっと、一人でも上手くやれることがたくさんあるんだと思う。 |
スレイ | けど、オレはもっとロゼには仲間を頼ってほしいんだ。 |
ロゼ | ! ? |
スレイ | ロゼがオレたちのことも考えてくれてるのは知ってる。だからこそ、一人で全部を背負わないでくれ。 |
デゼル | …………。 |
ロゼ | …………はぁ。スレイって、そういうところズルいよね。 |
スレイ | ええっ ! ? オレ、変なこと言ったかな ? |
アリーシャ | いや、実にスレイらしい言葉だと思うぞ。 |
ライラ | ですね。 |
ロゼ | わかったよ、スレイ。これからは、ちゃんとみんなのことも頼りにする。 |
スレイ | ロゼ…… ! ああ、オレも信じるよ、ロゼのこと。 |
エドナ | さてと、ミボが騒いだせいで話が逸れたけど肝心なことを忘れてないかしら ? |
ミクリオ | なんで、僕のせいになってるんだ…… !まあいい。それより、ヘルダルフのことだな。 |
ライラ | ロゼさんの話によると、誰かを捜しているようなことを言ってたんですね ? |
ロゼ | うん。それが誰なのかは判断できなかったけど……。 |
ザビーダ | こうなったら、手あたり次第捜してみるか ? |
エドナ | 面倒ね。 |
スレイ | けど、今やれることはそれしかないんだ。オレたちでヘルダルフを見つけよう。 |
ベルベット | 話してるところ悪いけど、ちょっといいかしら ? |
ザビーダ | おいおい、全員揃ってどうしちゃったの。 |
エレノア | それが、ベルベットが気になることがあるようで……。 |
ベルベット | ねえロゼ、確認しておきたいんだけどあなたが会ったテレサとオスカーはリビングドールにされていなかったのね ? |
ロゼ | うん。オスカーって人とは直接話せなかったけどテレサは間違いなくリビングドールじゃなかったよ。 |
ベルベット | そう……わかった。 |
ロクロウ | おいおい、どうしたんだお前 ?さっきから様子がおかしいぞ ? |
ベルベット | …………。 |
マギルゥ | ベルベットや。そろそろ儂らにも教えてくれんかのう。お主が何を考えているのか。 |
ベルベット | ……この前、フレンたちがテレサに会ってたでしょ。そのときはリビングドールかどうかはまだ判断ができなかった。 |
ベルベット | けど、もしあいつらがリビングドールじゃなかった場合自分の危険を冒してまで、帝国に残っている理由は何 ? |
ベルベット | 少なくとも、帝国がやろうとしていることに賛同しているわけじゃないのは確かなんでしょ ? |
ライフィセット | ベルベット……もしかして……。 |
ベルベット | それに、テレサは誰かの指示で動いているって言ってたのなら、そんな奴は一人しかいないわ。 |
エレノア | まさか……アルトリウス様 ! ? |
ロクロウ | ……成程。そう考えれば、あいつらも帝国に残っている辻褄は合うな。 |
マギルゥ | しかし、根拠が乏しいのう。全てがお主の机上の空論かも知れぬぞ。 |
ベルベット | 別に、それでもいいわ。けど、確かめないと気が済まない。 |
ビエンフー | ど、どうするつもりでフか。 |
ベルベット | 決まってるわ。そんなの……。 |
ロクロウ | ん ? ちょっと待ってくれ。魔鏡通信だ。 |
エレノア | 私のところにもきています。というより、私たち全員のところに連絡がきているのでは ? |
ミクリオ | 出たほうがいいんじゃないか ?もしかしたら、緊急の連絡かもしれない。 |
ベルベット | ……そうね。 |
アイゼン | 俺だ。少しお前たちにも関係がある情報が入ってきたんだが、今、大丈夫か ? |
ベルベット | ええ。それで、その情報って何 ? |
アイゼン | 救世軍の地上部隊から、ミッドガンド領領主の館が襲撃にあっているという情報が入ってきた。 |
エレノア | 襲撃 ! ? |
アイゼン | 詳しいことはまだわかっていないがミッドガンド領ということで俺が向かうことになった。 |
ベルベット | ……丁度いいわ。 |
アイゼン | ……何 ? |
ベルベット | アイゼン、あたしたちもそっちに行くわ。少し、確かめたいことがあるの。 |
アイゼン | わかった。お前たちとは現地で合流しよう。何かあれば、そっちからも連絡してくれ。 |
ベルベット | ええ、それじゃあ、一旦切るわよ。 |
マギルゥ | ほほう、まるで狙ったようなタイミングじゃのう。 |
エレノア | しかし、襲撃なんて一体誰が……。 |
ベルベット | 別に誰でもいいわ。こっちに都合がいいのなら、利用するまでよ。 |
ライフィセット | ……ベルベット。 |
ベルベット | ……大丈夫よ。 |
ライフィセット | えっ ? |
ベルベット | 一人でなんとかしようなんて思ってないから。だから……頼りにしてるわよ、フィー。 |
ライフィセット | …………うん ! |
キャラクター | 7話【11-9 ミッドガンド領 領主の館2】 |
シグレ | おりゃあああああ ! ! |
帝国兵β | ぐはっ ! ? |
シグレ | ……ったく。手応えねぇな。もっと楽しめると思ったのによ。 |
ムルジム | シグレ。あまりやりすぎないようにね。この子たちだって、ただ操られてるだけなんだから。 |
コーキス | ――あっ ! やっと見つけた ! |
シグレ | ん ? コーキスじゃねえか。お前、こんなところに何しに来たんだ ? |
コーキス | 何しに来たって……シグレ様に会いに来たんだよ ! |
シグレ | はぁ ? なんでだよ ? |
ムルジム | あなたのことを心配して迎えに来てくれたんじゃないの ? |
コーキス | ムルジム様の言う通りだけど……やっぱシグレ様だよな。心配することなかった。ほとんどの帝国兵を倒しちまってるし……。 |
シグレ | 応。全く歯ごたえがなくて退屈してたところだ。 |
シグレ | おい、コーキス。本当にテレサの奴がここにいるんだろうな ? |
コーキス | うーん、どうだろう……。もしその人が本当に領主だったとしてもずっと館にいるってわけじゃないと思う。 |
シグレ | つまんねぇな。折角、俺から会いに来てやったのによ。 |
コーキス | ところで、シグレ様とそのテレサって人はどういう関係なんだ ? |
シグレ | 別に大したもんじゃねえよ。前の同僚ってだけの話だ。 |
シグレ | けどよ、テレサが具現化されてるってことは『あいつ』もこの世界にいるんじゃないかと思ってな。 |
コーキス | あいつ…… ? |
シグレ | まぁ、こっちの話だよ。しかし、ちっとは暇つぶしができると思ったんだがとんだ期待外れだぜ。 |
? ? ? | そうか……ならば、少し相手をしてやろう。 |
シグレ | ! ? |
コーキス | だ、誰だ ! ? |
アルトリウス | 久しいな、シグレ。 |
シグレ | ……ははっ ! !マジでいやがったのか、アルトリウス ! ! |
コーキス | アルトリウス…… !まさか、この人がベルベット様の……。 |
アルトリウス | ……お前がバロールの眼を持つ鏡精か。ならば、丁度いい。 |
アルトリウス | シグレ。また私の元へと来ないか ?お前の力があれば、私の計画にも抜かりがなくなる。 |
コーキス | な、何言ってんだよ !シグレ様は俺たちの仲間だ ! |
アルトリウス | 鏡精よ。ならばお前も私の元へ来い。そのバロールの力は使えるかもしれん。 |
シグレ | ……はぁ ! しばらく見ねぇ間に随分と丸くなっちまったもんだな。 |
アルトリウス | 何 ? |
シグレ | 自分に従わせてぇのなら無理やりにでも、従わせればいいだろうがぁ ! ! |
アルトリウス | …… ! |
シグレ | 安心したぜ ! 剣の腕は鈍っちゃいねぇようだな ! |
コーキス | シグレ様 ! ? |
シグレ | 手を出すなよ、コーキス !こいつは俺の獲物だ ! |
アルトリウス | 私と対立することを選ぶのか ? |
シグレ | 生憎、俺はもうどっちに付くか決めてんだよ。それに、この坊主には借りがあるからな。 |
シグレ | あんたと真っ向から対立するってのも面白そうだしよぉ ! ! |
アルトリウス | そうか……お前らしい回答だ。ならば、ここでお前の命はもらい受ける。 |
シグレ | やれるもんならやってみな ! ! |
コーキス | すげぇ……。二人の動き、目で追うのがやっとだ…… ! |
ムルジム | 気を付けて、コーキス。あたしたちも巻き込まれないようにしないと。 |
シグレ | どうした ! どうした !こんなもんじゃねぇだろ ! アルトリウスッ ! |
アルトリウス | よかろう。ならば―― |
? ? ? | ――サンダーブレイド ! |
シグレ | なにっ ! ? |
コーキス | 今の術は…… ! ?シグレ様、大丈夫か ! ? |
シグレ | 誰だ ! ? 俺たちの邪魔をしやがったのは ! ! |
ロミー | 仕方ないでしょ。こっちは急いでるの。あなたたちの遊びに付き合ってる暇はないわ。 |
アルトリウス | お前たちか。どうやら、迎えの兵たちもシグレにやられてしまったようだな。 |
ロミー | どうでもいいわ、そんなことは。それより、あなたの部下が下手を打ってヘルダルフを逃がしたみたいよ。 |
アルトリウス | そうか……。しかし、あの男ならいずれ私を殺しにくるだろう。そのときに再び捕獲すればいいだけだ。 |
ロミー | 随分と冷静ね。殺されるかもしれないっていうのに。 |
アルトリウス | 私の命を狙う者などいくらでもいる。そこにいる男のようにな。 |
シグレ | おいおい、勝手に話を進めんじゃねぇよ。まだ勝負は始まったばかりだろうが。 |
アルトリウス | 悪いが、事情が変わった。お前との勝負は預けておこう。 |
ルキウスγ | ロミー様、アルトリウス様。転送魔法陣の準備ができました。 |
ロミー | 行くわよ、アルトリウス。 |
シグレ | 待てよ ! みすみす逃がすわけ…… !ん ? なんだ、この壁みてえなもんは…… ! |
ロミー | 簡単な防御魔術よ。あなたみたいな馬鹿力ならすぐ壊せるでしょうけど、転送魔法陣が発動する時間くらいは稼げるわ。 |
アルトリウス | シグレ。そして、バロールの鏡精よ。いずれ、また会おう。 |
ベルベット | ……やっぱり、あんただったのね。 |
コーキス | ベルベット様 ! ? どうして…… ! |
エレノア | アルトリウス様……本当にあなたが……。 |
ロクロウ | おい、ありゃ転送魔法陣ってやつじゃねえか ? |
ベルベット | 逃がすか ! ! |
ライフィセット | ベルベット ! ! |
ベルベット | あんたは……あたしがこの手で決着をつける ! ! |
アルトリウス | ……ベルベット。お前は何も変わらないな。 |
ベルベット | な、に…… ! ? |
マギルゥ | どうやら、少し遅かったようじゃの。 |
ベルベット | 待て ! ! 逃げるな、アルトリウス ! !アルトリウス―― ! ! |
キャラクター | 8話【11-11 ミッドガンド領 森2】 |
コーキス | ――それじゃあ、アイゼン様の連絡でベルベット様たちもここに来たってことなんだな。 |
ロクロウ | ああ、アイゼンより俺たちが先に着いたから乗り込んではみたものの、まさか暴れている奴がシグレだったとはな。 |
シグレ | んなことはどうでもいいだろ。お前たちだって、興味があるのはあいつのことなんだろ ? |
エレノア | ……アルトリウス様のことですね。 |
ライフィセット | コーキス、アルトリウスは何か言ってた ? |
コーキス | いや、話って言ってもその前にシグレ様が斬りかかって……。 |
ロクロウ | だろうな。俺たちがもう少し早ければ違ったんだろうが。 |
シグレ | うるせぇな。お前んとこの奴もすぐ突っ込んでたろ。お互い様じゃねえか。 |
ベルベット | ……そうね。あんたが先にアルトリウスを斬ってたらあたしはあんたを許さなかった。 |
シグレ | おう、怖え怖え。いや……案外そっちも面白ぇかもな。 |
エレノア | シグレ様 ! あまり茶化さないでください。 |
マギルゥ | しかし、何じゃ。アルトリウスもテレサたち同様にリビングドールにされておらんかったようじゃのう。 |
シグレ | 応。そいつは間違いねぇ。ありゃ、正真正銘のアルトリウスだ。 |
マギルゥ | ふむ。となると、ベルベットの予感が的中しておったということじゃな。目的は未だにわかっておらんが。 |
ビエンフー | ね、姐さんが真面目に考えるなんて珍しいでフ……。きっとこのあと、大雨どころか雷が降って来るでフよ。 |
マギルゥ | ビエンフーや。儂は最近裁縫に凝っておってな。丁度、お主の口くらいの隙間をがっちりと縫ってみたいのじゃが、練習台になってくれるかの ? |
ビエンフー | び、ビエ~~ン !やっぱり、いつもの姐さんでフー ! ! |
ムルジム | あなたたち、随分楽しそうね。 |
コーキス | なんか、マギルゥ様とビエンフー様のやりとり見るとパイセンとジェイド様のこと思い出すんだよな……。 |
コーキス | (そういや、マスター。俺が監獄島に行ったこと知ってるのかな ? もしかしたら、ロクロウ様に剣を向けたことも……) |
コーキス | (いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃないだろ、俺……。俺は、俺のやるべきことをやらなきゃいけないんだ…… !) |
ライフィセット | ……でも、マギルゥの言う通りアルトリウスは何をしようとしてるのかな。 |
ベルベット | 理由なんてどうでもいいわ。あいつがこの世界にいるっていうなら今度こそ、この手で決着をつけるだけよ。 |
ライフィセット | ……僕も一緒に行くよ、ベルベット。それが、僕の『意思』だから。 |
ロクロウ | 当然、俺も付いていくぜ。俺の恩返しは、まだ終わってねえからな。 |
エレノア | ええ、今さら置いて行かれても困りますしね。 |
ベルベット | あんたたち……。 |
マギルゥ | ここまで来れば、今さらじゃろうて。仕方ないから儂も付き合ってやるわい。 |
ロクロウ | 決まりだな。そんじゃあ、アイゼンが来たらケリュケイオンを借りて、アルトリウスを捜し出すか。 |
シグレ | ……おいおい。黙って聞いてりゃ勝手に話を進めてんじゃねぇよ。 |
コーキス | シグレ様 ? |
シグレ | 自分の獲物が取られそうだっていうのに黙って見てるやつがどこにいんだよ。 |
コーキス | シグレ様…… ! まさか、またベルベット様たちと戦うわけじゃないよな ! ? |
シグレ | 俺は別に構わねぇぜ。それに、負けっぱなしってのも癪だしな。 |
コーキス | そんな…… ! |
ベルベット | 邪魔をするなら、あたしも容赦はしないわ。 |
ロクロウ | ……待て、ベルベット。シグレとは俺が話をつける。 |
シグレ | なんだ ? またお前が俺と斬りあうってのか ? |
ロクロウ | そうしたいのは山々だが今はベルベットの用事が先なんだ。お前とやりあうつもりはない……今はまだ、な。 |
シグレ | ほぅ……他に何か言いたいことがあるような台詞だな。 |
ロクロウ | お前がアルトリウスを斬りたい気持ちは分かる。だが、俺はベルベットの復讐に付き合う。先にお前にアルトリウスを斬られると困るんだ。 |
シグレ | だから、ここで白黒つけようって言ってんじゃねえか。どっちがアルトリウスを斬るかをよ。 |
ロクロウ | いや、お前にはもっと面白い選択肢が残ってるぜ。『アルトリウスを斬った俺』と戦うって選択肢がな。 |
シグレ | ! ! |
ロクロウ | どうだ、悪くない条件だろ ?もしも俺たちがやられたらお前がアルトリウスを斬ればいい。 |
シグレ | ……くっくっくっ ! 応 ! !そいつは確かに面白ぇな ! ! |
シグレ | いいぜ ! その条件、乗ってやろうじゃねえか ! |
ロクロウ | 悪いな、楽しみを一つ奪っちまって。 |
シグレ | おいおい、本気で勝つ気でいんのかよ。そんな甘い相手じゃねえぞ ? |
ロクロウ | 勝つさ。またお前と本気の戦いができるならな。 |
シグレ | ……けっ、言うようになったじゃねえか。おい、コーキス ! 引きあげんぞ !帰ったらお前にも久々に稽古つけてやる ! |
コーキス | あ、ああ…… ! けど、ちょっと待ってくれ ! |
エレノア | どうしたんですか、コーキス。 |
コーキス | あのさ……アルトリウスって奴を捜すにしてもちゃんとマスターたちには連絡を取っておいてほしいんだ。 |
コーキス | ほら、マスターってすげー心配性だろ ?だから、ベルベット様たちのことも絶対心配するというか……。 |
マギルゥ | なんじゃ。自分は家出をしておるのに他人の心配かえ ? |
コーキス | い、いいだろ ! 別に ! |
ライフィセット | 大丈夫だよ、コーキス。イクスたちには、ここに来ることも伝えてあるしこれからのことだって話すつもりだよ。 |
コーキス | それならいいけど……。 |
ムルジム | コーキス。そろそろシグレを追わないとまたどこか行っちゃうわよ。 |
コーキス | いけね ! そんじゃあ、よろしくな ! |
エレノア | コーキスらしいお願いでしたね。 |
ベルベット | それよりロクロウ。あんた、よかったの ? あんな約束して。 |
ロクロウ | 別にいいさ。どの道、近いうちにあいつとは戦うことになるだろうからな。 |
ライフィセット | …………あっ、この音。 |
ロクロウ | ケリュケイオンも着いたみたいだな。それじゃあ、アイゼンにケリュケイオンが使えるか頼んでみるか。 |
マギルゥ | 何を言っておる。あの飛空艇は元々儂らのもんじゃぞ。好き勝手に使えて当然じゃ。 |
エレノア | いえ、決してそういうわけではなかったはずですが……。 |
ベルベット | とにかく、一旦アイゼンたちと交渉ね。それから今後のことを決めるわよ。 |
キャラクター | 9話【11-12 グリンウッド領 救世軍基地】 |
救世軍兵士A | エルレイン様……本当にありがとうございました。エルレイン様の奇跡の力のお陰で、私だけでなく多くの仲間たちが生きながらえることができました。 |
エルレイン | 顔を上げなさい。私が望むのは、人々の救済。その為には、あなた方の力も必要なのです。 |
救世軍兵士A | なんと慈悲深いお言葉…… !はい、必ずや救世軍の為……いいえこの世界の為、私は戦い続けます。 |
エルレイン | ええ、期待しています。 |
救世軍兵士A | では、私は任務に戻ります。 |
サイモン | ……ふっ、さすがは聖女と呼ばれる者だな。か弱い人間たちを助ける行為はさぞ気持ちが良いのだろうな。 |
エルレイン | 全ては救済の為。そこに私個人の感情など存在しない。 |
サイモン | 成程、自らに見返りを求めぬとはますます恐れ入るよ。 |
サイモン | だが、果たしてそれはお前が望む幸せに繋がる行為だろうか ? |
エルレイン | どういうことだ ? |
サイモン | 簡単なことだよ。一度奇跡に触れれば人はそれを幾度も求める生き物だ。 |
サイモン | たとえば、先ほどの兵士はどうだ ?一度お前に助けられたからといって今後も生き続けられる保証など、どこにもない。 |
サイモン | それどころか、もっと深い絶望を味わい死ぬ可能性もある。何せ、ここは滅びゆく世界なのだからな。 |
エルレイン | ならば、あの兵士は死んだほうが良かったと ? |
サイモン | 更なる絶望を味わうことになるのならあるいはそうだったかもしれぬ。 |
エルレイン | サイモン、あなたの考えもまた生きていく人間たちに起こり得ることなのかもしれません。 |
エルレイン | ですが、生き続けることで、自らの足で立ち自らの力で希望を掴むことができる者もいる。 |
サイモン | ……戯言だな。 |
エルレイン | そう、私も以前までは与えることこそが『幸福』なのだと思っていました。そしてそれが間違っているとは思いません。 |
エルレイン | しかし、自らの手で未来を掴み取ることができると信じる者もいて、それができる者もいる。あの者がそうなれなければ私が救いましょう。 |
エルレイン | あの者に救済が訪れるまで、何度でも。 |
サイモン | ……どうだかな。人の業は、そんな単純なものではない。 |
サイモン | お前の神がいない世界で……さてどこまでの救済が叶うのだろうな。 |
エルレイン | それは、あなた自身の目で確かめることです。 |
サイモン | だから私を連れ回していると。物好きな聖女様だ。 |
エルレイン | ……ん ? 魔鏡通信か。サイモン、話の続きは後でしましょう。 |
ローエン | 失礼。エルレインさん、まだグリンウッド領の地上部隊基地におられますか ? |
エルレイン | ええ、サイモンも一緒です。何かありましたか ? |
ローエン | 先ほど、グリンウッド領の領主が逃亡したという連絡がイクスさんたちから入りました。 |
エルレイン | グリンウッド領の領主……あの男か。 |
ローエン | やはり、知っておられたのですね。 |
エルレイン | あなたたちにも共有しておくべきでしたね。だが、あの男は既にアルトリウスという男の手によって瀕死状態だと聞いていました。 |
エルレイン | 確かその男の名は……ヘルダルフ。 |
サイモン | ! ! |
ローエン | その通りです。ですが、今は魔導器を装着されたようで自由に動くことができています。 |
ローエン | こちらも情報を集めているところですがどうやら、逃走した彼を捕らえようとした帝国兵は全員が返り討ちにあっているようです。 |
エルレイン | もし、本当に彼が復活しているのなら並の兵士では捕らえることはできないでしょう。 |
ローエン | はい。そして、彼の目的がわからない以上今のグリンウッド領に留まることは危険だと判断しました。 |
ローエン | ただ、我々は現在ミッドガンド領にいますのでケリュケイオンが到着するまで、もう少しだけお待ちください。 |
エルレイン | では、その間にここにいる兵たちにも避難指示を出しておきましょう。 |
ローエン | はい、申し訳ありませんが現場の指揮はお任せします。それでは、何かありましたらすぐにご連絡ください。 |
エルレイン | サイモン、話は聞こえていましたね。あなたにも、兵たちの避難指示を手伝って貰います。 |
サイモン | ……ああ、わかった。では、私は周辺を巡回している警備兵たちを連れ戻してくるとしよう。 |
エルレイン | ……随分と素直ですね。 |
サイモン | ……ただの気まぐれだ。 |
エルレイン | ……そうですか。では、頼みましたよ。 |
サイモン | …………我が主 !この世界におられたのか !何故気付くことができなかった…… ! ? |
サイモン | お待ちください、すぐに迎えに上がります ! |
キャラクター | 10話【11-15 グリンウッド領 森3】 |
ミクリオ | ……グリンウッド領に入ったけど特に穢れは感じないな。 |
ライラ | この世界では、穢れの在り方が違いますから……。かの者にかなり近づかなければ感じ取ることはできないでしょうね。 |
エドナ | あのひげネコ、どの辺りにいるのかしら。 |
デゼル | 手がかりといえば、あいつが倒していった帝国兵の死体くらいだからな。 |
ザビーダ | だが、そいつも途中でなくなってた。こりゃ、ヘルの野郎を捜すのは思った以上に時間がかかりそうだぜ。 |
エドナ | あなたたち、風の天族なんだからなんとかしなさいよ。気配を読むのとか得意でしょ ? |
ザビーダ | そりゃあ、俺様だってエドナちゃんの期待には全力で応えたいが、ちと厳しいな。 |
ザビーダ | けど、エドナちゃんがもっと俺様に優しくお願いしてくれたら……。 |
エドナ | お兄ちゃんに言いつけるわよ。 |
ザビーダ | はいはい、おふざけはこれくらいってわけね。 |
アリーシャ | スレイ。やはり、君も天族の方々と同じなのか ? |
スレイ | うん。多分、ヘルダルフの領域に入ればさすがに分かると思うんだけど……。 |
ロゼ | なら、やっぱ地道に捜すしかないか。 |
スレイ | …………。 |
ミクリオ | どうしたんだ、スレイ ? |
スレイ | うん……もし、ヘルダルフを見つけられたとして今のオレが、ちゃんと浄化できるのかなって思ってさ。 |
ロゼ | スレイ……。 |
スレイ | わかってる。たとえ浄化ができなかったとしてもオレはヘルダルフを止めなきゃいけない。 |
ミクリオ | ……大丈夫だ、スレイ。僕たちだって、最初の頃に比べたら随分強くなったはずだ。 |
ライラ | そうですわ、スレイさん。今の私たちならきっと、かの者を浄化することができるはずです。 |
エドナ | こっちはあんな面倒くさい試練まで受けたのよ。負けたら只じゃおかないから。 |
スレイ | ありがとう、みんな。 |
ザビーダ | うしっ、気合も入ったみてえだし導師様ご一行で、ヘルの野郎を退治しに行きますか。 |
? ? ? | ――そのようなことは決してさせぬぞ、導師共。 |
デゼル | なに ! ? 今の声は…… ! |
サイモン | ……久しいな、導師よ。 |
デゼル | ! ! |
アリーシャ | あなたは…… ! |
ミクリオ | 確かサイモン、だったな。すまないが、僕たちは今急いでいるんだ。 |
サイモン | それはこちらの台詞だ。 |
ミクリオ | なんだって ? |
エドナ | ちょっと、どうなってるの ?この不思議ちゃん、ワタシたちとやる気みたいだけど。 |
ロゼ | ミクリオたちの知り合いかなんか知らないけど邪魔するって言うなら……。 |
デゼル | ……てめえもこの世界にいやがったのか ! |
スレイ | デゼル ! ? |
サイモン | ……やはり、お前は私を憎むか。 |
デゼル | 当たり前だ ! まさか、俺の復讐を果たせる日が来るとは思わなかったぜ ! ! |
スレイ | 復讐…… ! まさか、デゼルの復讐の相手って。 |
ライラ | やめてください、デゼルさん !その方は、私たちと同じ天族です ! |
デゼル | 関係あるか ! ダチを憑魔にし風の傭兵団を貶めたこいつは、俺の手で絶対殺す ! |
ロゼ | ……何言ってんの ? デゼル ? |
ザビーダ | くそっ…… ! 厄介な奴が割り込んで来やがった。 |
サイモン | お前は、同じ道を歩むのだな……。 |
スレイ | デゼル ! やめるんだ ! |
デゼル | 黙ってろ、スレイ !俺はこの時のためだけに生きてきた ! |
アリーシャ | あのようなデゼル様の姿は一度も……。一体何が……。 |
ロゼ | ちょっと ! いい加減感じ悪いぞ !スレイ ! デゼル ! 何なわけ ? ! |
サイモン | 娘よ、知りたいか ? ならば、教えてやろう。この男と共に、真実をな。 |
アリーシャ | これは…… ! |
ミクリオ | 幻術か…… ! スレイ、気を付け―― |
ロゼ | スレイ ! みんな ! ! |
サイモン | 安心しろ。私の力で導師共にはしばらく席を外してもらっただけだ。これで、心置きなく目的が果たせるだろう ? |
デゼル | 上等だ ! てめえは絶対殺す !それこそが俺の存在理由 ! |
サイモン | さあ、見せてくれ !果たしてお前の業は、どうしたら救われるのかをな ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【12-1 グリンウッド領 森1】 |
サイモン | 娘よ、知りたいか ? ならば、教えてやろう。この男と共に、真実をな。 |
アリーシャ | これは…… ! |
ミクリオ | 幻術か…… ! スレイ、気をつけろ ! |
スレイ | …… ? ロゼ、デゼル ! ? |
アリーシャ | 二人が消えたぞ ! ? |
エドナ | 不思議ちゃんもいないわ。まんまと分断されたみたいね。 |
ライラ | いけません ! 今のデゼルさんは冷静さを失っています。このままでは本気でサイモンさんを……。 |
ミクリオ | まさか ! だとしても、ロゼがついてるだろう。 |
ザビーダ | いや、あの馬鹿、頭に血がのぼってたからな。早く見つけねえと面倒なことになるぜ。 |
スレイ | けど、どこを探せば―― |
アリーシャ | っ ! ! スレイ、後ろ ! |
スレイ | 憑魔 ! ? いつの間に…… !助かったよ、アリーシャ。 |
エドナ | あの憑魔、不思議ちゃんが残した足止めってとこかしら。 |
アリーシャ | ええ、恐らくは。私もあの方と初めて会った時にスレイの幻で惑わされました。 |
スレイ | 確かにあの時と似てる。だとしたら、あの憑魔を消せば術が解けるはずだ。 |
ザビーダ | なら、さっさと片付けようぜ。こちとら急いでんだ ! |
デゼル | うおおおおおっ ! |
サイモン | やはり怒りに身を任せるか。 |
ロゼ | デゼル、ストップ ! ! |
デゼル | どけ ! お前は引っ込んでろ。 |
ロゼ | できるか ! あたしはまだ何も聞いて―― |
ロゼ | うっ ! |
デゼル | っ ! ! てめえ、ロゼを離せ ! |
サイモン | こうさせたのはお前であろう ?己が業に目を閉じた者よ。 |
デゼル | 何のことだ ! |
サイモン | それは己で確かめるがいい。では約束どおり娘と共にお前の『本当の過去』を見せてやるとしよう。 |
デゼル | 本当もクソもあるか。貴様が俺の仲間を―― |
サイモン | その続きは真実を知った後に聞いてやる。果たして同じ言葉が吐けるかどうか、楽しみだ。 |
ロゼ | (……えっ ? なんで風の傭兵団――あたしたちが ?それに……) |
ラファーガ | あいつらとの旅は本当、楽しい……。 |
ラファーガ | 冥利に尽きるだろ ? |
デゼル | ああ。感謝してる。 |
ロゼ | (デゼルだ ! 隣にいる人は…… ?) |
コナン皇子 | 大陸一の風の傭兵団を是非ともローランスに連ねたいのです。 |
ロゼ | あたしがコナン皇子と婚約 ? 夢みたい ! |
ラファーガ | よかった。旅が終わっちまうのは残念だがな。 |
デゼル | ……イヤだ。 |
デゼル | 終わらないでくれ……。 |
デゼル | (…… !) |
ロゼ | コナン皇子 ! 団長が居ないんです。 |
コナン皇子 | …………。 |
デゼル | その子に近づくんじゃねえ。 |
コナン皇子 | 私に指図する貴様は何者か。 |
ラファーガ | こいつ……すでに憑魔に……。 |
デゼル | (そうだ……すでに憑魔になっていた皇子がロゼたちを嵌めた。そして、あいつが……サイモンが現れた…… !) |
サイモン | (何故これほどの短期間で憑魔と化したのだろうな ?) |
ロゼ | (それって、どういう意味 ?) |
コナン皇子 | 衛兵 ! 逆賊がここに ! |
コナン皇子 | 風の傭兵団、団長ブラドは第一皇子レオンを殺害。身柄をペンドラゴ守警隊によって拘束された。よって貴様ら全員も拘束する。 |
サイモン | (わかるだろう ? コナン皇子が憑魔と化し我欲に従い、邪魔者を除こうと考えたからだ) |
サイモン | (そして……コナン皇子が憑魔になった原因もわかっていよう ?) |
デゼル | (…………) |
サイモン | (『彼』だ) |
ロゼ | (デゼル ! ? まさか……。もしかして、この過去はサイモンの幻術で作って……) |
コナン皇子 | お前は私のものとなるなら特別に赦免しよう。 |
ロゼ | なっ ! |
ロゼ | (……やっぱり、この記憶は間違ってない。この後あたしは思わずコナン皇子に切りかかって……) |
ロゼ | こんのー ! |
ラファーガ | 間に合え ! |
ラファーガ | ぐ、うぅぅああ ! |
ロゼ | (―― ! !あの人、コナン皇子からあふれ出した穢れからあたしを守ってくれたんだ……) |
サイモン | すべて貴様の加護の賜物……人はその力を持つものを何というか知っているか ? |
サイモン | 疫病神だ。 |
デゼル | ……俺のせい……だった ? |
デゼル | 全て……俺の…… ? |
サイモン | ――私への濡れ衣は晴れたようだ。さて、偽りの殻を破った感想はいかがかな ? |
デゼル | ……俺……は……俺が……全部っ……。 |
キャラクター | 3話【12-2 グリンウッド領 森2】 |
サイモン | 導師たちを食い止めるのは難しいか。だがあの男……。 |
デゼル | はあっ、はあっ……、くそっ ! |
ザビーダ | おい、どうした、動きわりぃぞ ! |
アリーシャ | ロゼ ! デゼル様に何かあったのか ! |
ロゼ | ちょっとね。けど今はサイモンが先 ! |
サイモン | ……答えは聞けずじまいか。だがあの様子であれば、しばらくの足止めとなろう。 |
サイモン | すぐに参じます。我が主 ! |
エドナ | なに…… ? 不思議ちゃんたちが消えてくわ。 |
ライラ | これは……、どうやらサイモンさんはこの場を離れたようですね。 |
スレイ | そっか……。ひとまず、みんな無事で良かった。ロゼ、デゼル、怪我はない ? |
ロゼ | 平気。サンキュー、みんな。 |
デゼル | こっちも……何ともねえ。 |
エドナ | 何ともないって顔じゃないでしょ。ちゃんと説明しなさい。 |
エドナ | 仕掛けてきたのはあっちだけどあなた、復讐を優先して突っ走ろうとしたのよ。 |
デゼル | ……悪かった。 |
スレイ | それで、デゼルの復讐相手ってやっぱりサイモンだったのか ? |
デゼル | ………………俺だ。 |
スレイ | 『俺』って ? |
ロゼ | あのさ、その話する前にちょっといい ?デゼルの復讐のこと、今まで知らなかったのってあたしだけ ? |
スレイ | えっ ? あ……えっと、ごめん、黙ってて。 |
ロゼ | 違う違う。謝って欲しいわけじゃないんだ。ただ、知りたいだけだから。 |
ロゼ | 昔のあたし、風の傭兵団にデゼルやその友達も出てきてさ。あんなの突然見せられて、正直戸惑ってるんだ。 |
ザビーダ | なるほどね。あいつの術で記憶を見せられたのか。 |
ロゼ | うん。まあ、その辺の話はきちんと後でする。でさ、デゼルはずっとあたしと一緒にいたってことだよね ? |
デゼル | ……ああ。俺は風の傭兵団と一緒に旅をしてた。それが終わろうとした時、願ってしまったんだ。……まだ、続けばいいってな。 |
デゼル | そのせいで、風の傭兵団は崩壊した。 |
二人 | えっ ! ? |
アリーシャ | デゼル様が願ったのは悪いことではないかと……。 |
デゼル | それが俺の呪われた加護だ。ロゼが不幸になったのも、あいつが死んだのも ! |
デゼル | なのに俺は……その記憶を全部封じ込めて復讐という『嘘』に逃げこんだ…… ! |
デゼル | ロゼのことも、復讐のための器として育てた。スレイたちに俺の目的を口止めさせたのも都合よく使うためだ ! |
デゼル | ……全部俺が発端だ。 |
ロゼ | なるほどね、話はわかった。 |
デゼル | ……本当にわかってんのか ?俺がお前を不幸にした原因だって言ってんだぞ。 |
ロゼ | だから、何 ? |
エドナ | 随分と軽く流すのね。 |
ロゼ | 今さら騒いだって仕方ないでしょ。それに軽く流してるわけじゃない。 |
ロゼ | 何も言ってくれなかったことや利用しようとしてたってのはムカついてる。 |
デゼル | …………。 |
ロゼ | けど、それ以上に、今まで知らないところでずっとデゼルが助けてくれてたってわかったんだ。 |
ロゼ | 事件の後だって、風の骨として旅ができた。だからあたしは、デゼルが一緒にいてくれて感謝してる。 |
ロゼ | デゼルの友達だって命をかけてあたしを助けてくれた。だから……。 |
ロゼ | そういうの、全部わかってよかった。以上 ! |
デゼル | 以上って……それだけかよ !サイモンの言葉を忘れたわけじゃないだろう。 |
デゼル | 俺はあいつと同じ業を背負った天族、疫病神だ !存在することが『悪』になるんだぞ。 |
デゼル | これから先、一緒にいてどうなるかわかんねえ。なのにお前はそれでいいのかよ。 |
ロゼ | いいよ。今までだって、デゼルが側にいて不幸だなんて思ったことないし。昔のことも、ずっと引きずってらんないでしょ。 |
デゼル | けどな……。 |
ザビーダ | なんだよ、煮え切らねえなぁ。このままじゃ全部許されちまったようで納得できねえってか ? |
デゼル | ……うるせぇ。 |
ザビーダ | まあ、手酷く責めてくれた方が楽になるわな。お前の罪悪感が薄れてよ。 |
ザビーダ | けどな、ロゼの言葉をどう受け取るかはお前次第だ。これからの生き方も含めて自分でケジメつけなきゃなんねえことだろ。 |
デゼル | ……っ ! |
スレイ | えっと……あのさデゼル、ロゼの言ってること今はそのまま受け止めていいんじゃないか ? |
スレイ | オレも、デゼルがどうするべきか他人が決めることじゃないと思う。 |
スレイ | けど、決めるのはデゼルでも、その結論を出すまでみんな一緒に悩むことはできるよ。『業』ってやつのことも。 |
デゼル | スレイ……。 |
スレイ | それにさ、このティル・ナ・ノーグには他の世界の人たちが集まってる。色んな知恵が集まってるんだ。 |
スレイ | オレたちの世界ではあり得ない新たな道を見つけられるかもしれない。そういう可能性だって、ゼロじゃないよな ? |
デゼル | 可能性……か。 |
ザビーダ | おっ、ちょっとは腑に落ちたか ?さすがは導師様のお言葉だねぇ。ありがたい、ありがたい ! |
スレイ | ザビーダ、何か馬鹿にしてない ? |
エドナ | まったく、将来のことで悩むとかまだまだ子供の証拠ね。子供デゼル、略して子ゼル。 |
アリーシャ | 子ゼル……それは何とも可愛らし……い、いえ、失礼しました ! |
デゼル | チッ……。 |
ミクリオ | みんな、調子が戻って来たみたいだな。 |
ライラ | ええ。どんな時も希望を見出そうとするスレイさんの言葉が届いたようです。 |
ミクリオ | それにしても……業を背負った天族か。 |
ライラ | アイゼンさんも死神と呼ばれる加護を持っていますがあの方は素晴らしい出会いを経てから割り切れたと聞いています。 |
ライラ | 願わくば、デゼルさんもそうあって欲しいのですが。そしてサイモンさんも……。 |
ザビーダ | サイモンはともかく、あいつは平気じゃないかね。全部知った上で付き合うって言うお人よし共が一緒だからな。 |
スレイ | あーあ、すっかり足止めくらっちゃったよ。 |
アリーシャ | そうだな。すぐにヘルダルフの捜索を再開しよう。またいつ、妨害が入るかわからない。 |
ロゼ | ってかさ、サイモンって、ヘルダルフの仲間なのかな。助けるみたいなこと言ってたし。 |
エドナ | それもひげネコを探し出せばはっきりするでしょ。――で、一応聞くけど、あなたはどうするの ? |
デゼル | 俺はもう一度サイモンに会わなきゃならない。自分自身の落とし前をつけるためにもな。 |
デゼル | お前たちについて行くぜ。 |
スレイ | よし、決まり ! それじゃ、出発しよう。 |
ロゼ | 行こう、デゼル ! |
デゼル | ああ。それとな、ロゼ……。 |
ロゼ | ん ? |
デゼル | ………………。 |
デゼル | ……すまなかった。 |
ロゼ | おう ! |
キャラクター | 6話【12-6 セールンド城内1】 |
フォレスト | ここは…… ? |
アリエッタ | ……この部屋、見覚え、ある……です。カレイドスコープの間…… ? |
カイウス | みんな、来たんだな。わっ、アリエッタの魔物も一緒か ! |
ルビア | カイウスのバカっ ! 勝手に行動して !罠だったらどうする気よ ! ? |
カイウス | なんだよ、いきなり ! |
ティルキス | ルビア、もう少し静かに、な ? |
アーリア | 気持ちはわかるけど落ち着いて。 |
ルビア | ごめんなさい……。でも、一人で飛び込むなんて……。 |
カイウス | わかったわかった。気を付ける。けど、ちゃんと転送されたんだからいいだろ ? |
フォレスト | カイウス、そういうことじゃない。どうしてルビアが怒っていると思う ? |
カイウス | それは……オレが勝手に……。 |
ルビア | …………。 |
カイウス | ……そうだよな。心配かけてごめん。ルビア、みんな。 |
ルビア | いいの。あたしもカッとなっちゃって、ごめんなさい。 |
ルビア | 考えてみれば、カイウスの無茶はいつものことだもの。これくらいで怒ってたら身がもたないわよね。 |
カイウス | いつものことって無茶するのはお前のほうだろ ? |
ルビア | あたしがいつ無茶したっていうのよ ! |
アーリア | はいはい、いつもどおりね。よかったわ。 |
ティルキス | 喧嘩してると安心するっていうのも妙な話だな。 |
フォレスト | さて、では今のうちに状況を整理しましょう。 |
フォレスト | アリエッタ、先ほど言っていたがこの場所がカレイドスコープの間だというのは間違いないか ? |
アリエッタ | 多分……です。でもメルクリアはここにいる。みんな――アリエッタのお友達が言ってる、です。匂いがするって。 |
ティルキス | よし、ではこのままアリエッタの魔物に匂いをたどらせて捜索しよう。 |
アーリア | こんなに上手くいくなんて、少し心配ね。やっぱり罠の可能性も捨てきれないわ。 |
カイウス | 大丈夫だよ、きっと。勘だけど、転送魔法陣が再起動したのはメルクリアがやったんじゃないかって思うんだ。 |
ルビア | どうして ? |
カイウス | メルクリアがつかまってるとき、それまで抵抗してたのにさ、連れ去られる直前に大人しくなって何か唱えてたように見えたんだ。 |
カイウス | だから転送魔法陣が再起動したときにメルクリアかもって。 |
フォレスト | それが本当なら大したものだがな。あの状況でロミーの目を盗むのは簡単ではない。 |
アーリア | ロミー……スポットに乗っ取られたままなのね。可哀そうな子……。元に戻してあげられたらいいのに……。 |
ティルキス | ……メルクリアを探そう。アリエッタ、頼む。 |
アリエッタ | 待ってください。敵が…… ! |
帝国兵βたち | 侵入者発見。これより排除を開始する。 |
メルクリア | (カイウスたち、転送魔法陣の再起動に気づいてくれたであろうか……) |
ロミー | お待たせ、ルキウス。 |
メルクリア | ルキウス ! ? 無事であったか ! |
ルキウスγ | 準備はできています。ロミー様。チトセ様。 |
メルクリア | ルキウス……そなた、また……。 |
ロミー | そう、ご苦労様。では皇女様、こちらへ。 |
メルクリア | 離せ !お前たち、わらわに何をするつもりか ! |
ロミー | あなたは何も知らなくていいわ。さて、始めましょうか。 |
メルクリア | 何を――あああああっ ! |
ロミー | ふふっ、ルキウスとおそろいになれるわよ ?喜んでもらえるかしら。 |
チトセ | リビングドールγ……本当に趣味の悪い術式ね。私はこれで失礼するわ。 |
ロミー | せっかくいいところなのに、最後まで見ていかないの ? |
チトセ | 生憎だけど興味ないの。それより、あなたの部隊が集めたクロノスの分霊を渡してちょうだい。 |
ロミー | ええ、もちろん。――ルキウス、持ってきて。 |
ルキウスγ | はい、こちらです。 |
チトセ | 確かに預かったわ。それじゃ。 |
ロミー | ……つれないわねぇ。この楽しみが分からないなんて、可哀そう。 |
ロミー | さて、と。アルトリウスのほうは準備に手こずっているみたいだしこっちは先にやらせてもらいましょうか。 |
ロミー | さあ、皇女様。その鏡士の力で新たな大地を具現化してちょうだい。 |
キャラクター | 7話【12-8 アジト】 |
イクス | それじゃ、ベルベットさんたちはミッドガンド領でアルトリウスと会ったけど転送魔法陣で逃走された、ってわけか。 |
マーク | ああ。そんで俺たちはベルベットたちを回収してグリンウッド領へ向かってるところだ。 |
カーリャ | グリンウッド領 ? アルトリウスを追ってるのになんでミッドガンド領で探さないんですか ? |
フィリップ | ロゼの報告や、ベルベットたちの話を総合するとヘルダルフを監禁していたのは帝国から離反寸前のアルトリウス一派だ。 |
フィリップ | 彼ら一派は、逃走中のヘルダルフを捕獲するためにグリンウッド領に現れるはず――ベルベットたちはそう考えているようだね。 |
ミリーナ | それなら、目的が同じスレイさんたちと合流したほうがいいわ。 |
イクス | ああ。下手をしたら帝国、アルトリウス、ヘルダルフの三勢力と戦うことになるかもしれないしな。 |
ミリーナ | ネヴァン、スレイさんたちと連絡はとれた ? |
カーリャ・N | いいえ。やはり先ほどから途絶えたままです。何かあったのかもしれません。 |
マーク | そっちもゴタついてんな。とりあえず、合流の話は連絡が取れたらにしようぜ。こっちも動きがあったらすぐに連絡する。 |
マーク | それとイクス、ベルベットたちが言ってたぜ。コーキスがお前のこと話してたってさ。 |
イクス | えっ ? |
マーク | イクスは心配性だから、ちゃんと連絡してから行動してくれって言ってたらしい。 |
カーリャ | はああっ ! ? どの口が言いやがってんですかぁ ! |
マーク | ははっ、だよな ! こじらせすぎなんだよ、あいつ。 |
カーリャ・N | あなたたちも人のこと言えませんよ ? |
二人 | どの口が……。 |
イクス | そうか、コーキス……。 |
カーリャ | うっ ! ! |
ミリーナ | カーリャ、どうしたの ? |
カーリャ | 何かが来ます ! この感覚……気持ち悪い……。 |
マーク | 俺も感じる……こいつは……。 |
フィリップ | マーク、大丈夫か ? 何が起きてるんだ ? |
ガロウズ | ビクエ様 ! 地上に大規模な揺れを観測中 !こいつは相当でかいですよ。 |
フィリップ | 地震 ? マーク、まさか……。 |
マーク | そのまさかだよ。これは地震じゃない。【鏡震】だ。 |
二人 | 鏡震 ! ? |
イクス | 異世界の大陸が具現化されたのか ! ? |
マーク | 多分な。被害がないか、地上軍に連絡取らねえと。お互い浮遊島とケリュケイオンじゃ揺れの度合いもわからねえ。 |
フィリップ | ガロウズ、今の震源地がどのあたりか調べて全ての観測データを過去の鏡震時と照合してくれ。 |
ガロウズ | 了解です。 |
ガロウズ | ――数値、ほぼ全て一致しました。間違いなく大陸具現化によるものです。 |
ミリーナ | そんな……誰が具現化したのかしら。帝国 ? |
フィリップ | だとしても、今さら異世界を具現化する目的がわからない。まずは大陸そのものを調べてみないと。 |
イクス | 俺たちで調査に向かいます。何度も新大陸の確認に行ったことがあるし適任でしょう ? |
イクス | ガロウズに新大陸の位置情報を送るよう伝えてください。 |
ガロウズ | 聞こえてるぜ。今、送った。 |
イクス | ありがとう !それじゃ、ケリュケイオンはそのままベルベットさんたちをお願いします。 |
フィリップ | ああ、そちらは頼んだよ。何かあったらすぐに連絡してくれ。 |
キャラクター | 9話【12-11 セールンド 街道1】 |
フォレスト | 追っ手は来ていません。どうやら振り切ったようですね。 |
ティルキス | そうか。さて、これからどうするか。ルキウスもメルクリアも、まだ目が覚めないしなぁ。 |
アーリア | ビフレスト側との連絡は取れないし……一旦、アジトへ連れていきましょうか。 |
メルクリアγ | うっ……私……は……。 |
カイウス | あっ、目が覚めたぞ ! |
メルクリアγ ? | ……お前たち……何者……いや……違う…………。 |
ティルキス | ―― ? なんだか様子がおかしいぞ ? |
フォレスト | まさか、この皇女もリビングドールなのでは ? |
メルクリア ? | 私……いや、わらわは……一体……。くぅ……。体に力が……入らぬ……。 |
アリエッタ | メルクリア……だよね ?痛いの ? 大丈夫…… ? |
カイウス | ……うん、今はちゃんとメルクリア、だと思う。どういうことなのかよくわからないけどリビングドールではなさそうだ。 |
ルビア | メルクリア、気分はどう ? |
メルクリア | ル、ビア…… ? |
メルクリア | ルビア ! カイウス ! アリエッタ !そなたたちが助けてくれたのか。 |
カイウス | ああ。けど、一番頑張ったのは、こいつだよ。 |
メルクリア | ルキウス…… ! 気を失っておるのか ? |
アーリア | ええ。ロミーを攻撃した後、倒れたの。 |
メルクリア | 何故じゃ……。ルキウスは、リビングドールになっておったはずじゃが。 |
ルビア | 自力で解除したみたい。ロミーも驚いてたわ。 |
ティルキス | 多分、リビングドールγだったんじゃないか ? |
ティルキス | あれは心核の入れ替えがなくてもリビングドール化できるんだろう ?強力な暗示を施すようなものだって聞いてるぜ。 |
メルクリア | うむ、お主の言うとおりじゃ。わらわもリビングドールγにされたが今は我を取り戻しておる。 |
メルクリア | リビングドールγは心核を抜かぬ故暗示が解けてしまえば、どうということはない。 |
アリエッタ | それじゃ、今のルキウスは…… ? |
メルクリア | そうか ! 心核がある筈じゃな ! 調べてみよう。 |
メルクリア | …………うむ、確かにきちんと戻っておるな。 |
ティルキス | やっぱりそうか。ある意味、運が良かったかもしれないな。リビングドールγで。 |
アーリア | メルクリア、あなたが捕まったことが切っ掛けになったのかもしれない。あれは強い刺激を受けると解除に至ると聞いてるわ。 |
アーリア | 捕まったあなたを見てどうしても助けたかったんでしょうね。 |
メルクリア | …………。 |
アリエッタ | メルクリア、嬉しくない、です ? |
メルクリア | ……嬉しいに決まっておる。じゃが、そこまでルキウスを追いつめたのかと思うとな。 |
カイウス | 違うよ。メルクリアがいてくれたからルキウスは元に戻れたんだ。きっとルキウスも安心してると思う。 |
メルクリア | そうであれば、よいのじゃが……。 |
カイウス | なあ、ルキウスが元気になったら会いに来てくれよ。 |
メルクリア | ……いや、その約束をする前に言わねばならぬことがある。 |
メルクリア | カイウス、ルビア、そなたたちにはこれまで酷いことをしたな。そしてティルキスにもじゃ。 |
カイウス | えっ…… ? |
メルクリア | 帝国では、そなたたちの助言も聞き入れずルビアやルキウス、それにティルキスも巻き込んで辛い目にあわせた。 |
メルクリア | すまぬ……。まこと、わらわは愚かであった。この償いは必ずする。 |
カイウス | ま、待ってくれよ。もういいって言っただろ ?魔鏡通信でさ。 |
メルクリア | それでも、きちんと顔を合わせて謝るべきことじゃ。 |
メルクリア | それから、フォレストであったか。そなたのことは……わらわもよく知らぬ。だがリビングドールになっていたことは知っている。 |
メルクリア | わらわの浅慮が、そなたを巻き込む一因であったことは否めない。許してくれとは言わぬが償わせて欲しい。 |
フォレスト | い、いや……。そんなことを言われても……。 |
ルビア | ねえ、メルクリア。あなたがわかってくれたならもういいの。償いなんて言わないで。 |
ルビア | それに元々、この世界で最初に助けてくれたのはメルクリア、様……なんだし。それについては感謝してるの。 |
メルクリア | 様、などいらぬ。ルビアはわらわの家臣ではない。それに……―― |
カイウス | わかった。なら、もう一度、出会い直そう。ここからスタートだ。 |
ルビア | そうね !カイウスにしてはいいアイディアじゃない。 |
メルクリア | それは……どういうことじゃ ? |
ルビア | 友達として出会いましょうってこと。よろしくね、メルクリア。 |
カイウス | これで、気軽に遊びに来られるよな ?そしたら、ルキウスにも会ってやってくれ。 |
メルクリア | ……お主らは……。 |
メルクリア | ありがとう…… !これから……よろしく頼む。 |
アリエッタ | 友達増えて、よかったね。 |
メルクリア | うむ、よき出会いに感謝せねばな。 |
カイウス | それじゃティルキス、フォレストさんメルクリアたちをよろしく。 |
フォレスト | ああ、そちらもな。アジトに帰ったらすぐにルキウスを診てもらうんだぞ。 |
メルクリア | ルキウスの回復を祈っておる。ウィルにも、よろしく伝えてくれ。もし……ウィルが嫌でなかったら、会いたい、と。 |
カイウス | わかった。この浄玻璃鏡を渡してちゃんと伝言も伝えるよ。 |
ルビア | じゃあね。メルクリア、アリエッタ ! |
アリエッタ | 私たちも帰ろう ? メルクリア、歩ける ? |
メルクリア | 歩く程度ならば問題ない。しかし、なぜこんなにも力が入らぬのか……。 |
ロミー | あなたは何も知らなくていいわ。 |
メルクリア | わらわは何をした…… ? |
デミトリアス | そうか……。やはり、新たな大陸の出現はきみの計画ではなかったか。 |
グラスティン | ああ。目下調査中だ。さて、犯人はフィリップか、イクスかそれともビフレストの仕業か。 |
帝国兵 | 申し上げます !調査隊からの報告です。 |
グラスティン | 来たか、どうなってる ? |
帝国兵 | 現在、新大陸への進軍は順調とのことです。それぞれの領からリビングドール兵を―― |
グラスティン | あ ? 何の話だ ? |
帝国兵 | ですから、アレウーラ領、レグヌム領、グリンウッド領ミッドガンド領から、新大陸へ向けてリビングドール兵が進軍しているとの報告です。 |
グラスティン | そんな命令は出していない。デミトリアス、お前か ? |
デミトリアス | いや、私もだ。 |
帝国兵 | それでは、中止命令を出しますか。 |
グラスティン | ……今はいい。調査を続けろ。 |
帝国兵 | 承知しました。失礼します。 |
グラスティン | ……糸を引いているのはアルトリウスに違いない。あいつは以前から妙な動きをしていた。 |
デミトリアス | 信念のある有能な人材だと思ったが裏切りもそれ故ということか。残念だよ……。 |
グラスティン | となると、腐った肉は削ぎ落とさないとな。すぐに蛆が湧いちまう。いいだろう ? |
デミトリアス | ……………………。 |
デミトリアス | 仕方がないね……。アルトリウスへの【贄の紋章】の刻印を許可しよう。 |
キャラクター | 12話【12-15 グリンウッド領 山岳2】 |
ヘルダルフ | ……くっ……。 |
スレイ | これなら――いける ! |
ヘルダルフ | くっ……、くくく、はっはははは ! |
スレイ | ! ? |
ヘルダルフ | この程度か、導師。あの男に比べれば何とも可愛らしいものよ。 |
アリーシャ | 効いてないのか ! ? |
エドナ | 効いてないどころかますます穢れが膨張していくわ ! |
ザビーダ | 領域の影響力も強まってやがる。 |
ヘルダルフ | くくく……魔導器とは素晴らしいな。力が溢れるようだ ! |
ロゼ | あっ、あの時の ! |
ライラ | やはり……穢れの増え方がおかしいと思っていたのです。 |
ライラ | あの魔導器のせいで、かの者の憎悪や野心までもが糧となり、穢れを永続的に増やしているのでしょう。このままでは……。 |
スレイ | うおおおおっ ! |
ヘルダルフ | 来い、導師 ! |
スレイ | 獅子戦吼 ! ! |
ヘルダルフ | それが……獅子戦吼だと ? 笑わせるわ ! |
ヘルダルフ | これが ! ! |
ヘルダルフ | 本当の ! ! |
ヘルダルフ | 獅子戦吼だ ! ! |
全員 | うわああああっ ! ! |
スレイ | こんな……こんなに力の差が……。 |
スレイ | (やっぱり、今のオレじゃ災禍の顕主に匹敵する穢れは浄化できないのか…… ?) |
ヘルダルフ | 貴様ら全員、己が無力を嘆いて死ぬがよい。 |
ザビーダ | くそっ、仕方ねえ。 |
ライラ | ザビーダさん、何を ! |
ザビーダ | 大事にとっておいたが一発はお前のためにくれてやるぜ、ヘルダルフ。 |
ザビーダ | 憑魔は地獄へ連れてってやらねえとな ! |
ヘルダルフ | ! ! |
ライラ | 待ってください、ザビーダさん !かの者の領域が解かれていきます ! |
アリーシャ | どうして…… ! ? |
ヘルダルフ | ここまでだ。今回は見逃してやろう。 |
ザビーダ | へっ、殺されるとわかってビビったか ? |
ヘルダルフ | 貴様ごときに殺せるものかよ。だが、その得体のしれぬ力は避けねばならぬ。 |
エドナ | 勘のいいひげネコね。 |
ヘルダルフ | 万が一この力を損なえば、我が身を呪いにかけたあの男への報復が叶わぬのでな。 |
ヘルダルフ | 導師よ、いずれ貴様とも雌雄を決するときが来よう。 |
デゼル | 満身創痍だな。 |
ロゼ | ……認めるよ。今回はこっちの負け。 |
ミクリオ | スレイ……。 |
スレイ | …………。 |
テレサ | いけません、オスカー !傷が開いたらどうするのですか。 |
オスカー | 大丈夫、もう動けます……。一刻も早く、ヘルダルフを……っ ! |
テレサ | 痛むのですね。さあ、横になって。 |
オスカー | すみません、姉上……。 |
テレサ | なぜ謝るのです。私をかばって負った怪我なのに。 |
テレサ | 謝らなければいけないのは私の方です。あなたに傷を増やしてしまった……。 |
オスカー | 姉上を守った証の傷です。これほど誇らしいものはありません。 |
テレサ | オスカー……。お願いだから、今は回復に専念して。あなたを失いたくないのです。 |
オスカー | ……わかりました。 |
テレサ | ありがとう。言うことを聞いてくれて。ゆっくりお休みなさい。 |
テレサ | オスカー……、本当に無事でよかった。 |
アルトリウス | テレサ、領主の館での騒動は聞いた。その後どうなっている。 |
テレサ | アルトリウス様 !申し訳ございません。ヘルダルフの逃走を許してしまいました。 |
テレサ | 現在捜索を続けていますが未だに行方は掴めておりません。 |
テレサ | 今回の件、全て私の失態です。申し開きのしようもありません。 |
アルトリウス | ヘルダルフの件については咎めん。それよりも、オスカーはすぐに動けそうか ? |
テレサ | しばらくの間はお役に立つのが難しいかと思います。 |
アルトリウス | では、次の計画はお前だけでも動いてもらおう。 |
テレサ | お任せください。それで、計画とはどのようなものでしょうか。 |
アルトリウス | 今回具現化した新大陸のエネルギーを使ってミッドガンド領の地脈を目覚めさせる。そして……。 |
アルトリウス | このティル・ナ・ノーグでカノヌシを復活させるのだ。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【13-1 グリンウッド領 森】 |
アルトリウス | ――これで、計画の全容は以上だ。理解したな ? |
テレサ | は、はい……。 |
アルトリウス | どうした。 |
テレサ | い、いえ ! その……聖主カノヌシの復活が叶うと知って驚いておりました。この世界にも地脈があるとは存じませんでしたので。 |
アルトリウス | 正確に言えば地脈の代用となるものだ。 |
アルトリウス | 鏡士たちがこの世界を具現化する時に使ったという魔鏡術の根源、オリジンの力が大地の奥底に封じられていた。 |
テレサ | オリジン……。それほどの力を持つ存在なのですね。 |
アルトリウス | 『創造』と『想像』を『融合』させてできたこの世界の命の源だ。オリジンの力は地脈のように広がっている。 |
アルトリウス | これを目覚めさせることで地脈に見立てることが可能となるのだ。 |
テレサ | そこに聖主カノヌシは眠っておられるのですか。 |
アルトリウス | ああ。本来、神と同等の力を持つ聖隷カノヌシはこの世界での具現化は叶わぬ。具現化がなったとしても力が矮小化されるだろう。 |
アルトリウス | だが、聖隷――天族は精霊として具現化可能だ。事実、カレイドスコープに残された情報に拠ればカノヌシは具現化されている。 |
アルトリウス | だが、帝国も鏡士たちもカノヌシを観測していない。考えられるのは、カノヌシの心と体が分離しているためこの世界の精霊に取り込まれたという可能性だ。 |
テレサ | 確かに、この世界の多くの精霊は同等の力を有するティル・ナ・ノーグの精霊と統合されて具現化されています……。 |
アルトリウス | ならば、世界の在り方に作用するカノヌシの力はこの世界を構築するオリジンに内包されていると考えた。それはグラスティンの調査からも推測できた。 |
テレサ | ………………。 |
アルトリウス | テレサ、先ほどから心ここにあらずのようだな。 |
テレサ | い、いいえ、そんなことはありません !ただ、先ほどのお話がどうしても気になるのです。この計画では、まるで……。 |
アルトリウス | ……そういうことか。落ち着きなさい、テレサ。そんな有様では、この計画は成し得ない。 |
テレサ | 申し訳ありません……。 |
アルトリウス | いいか、私が話したのはあくまでも邪魔が入った場合を想定しての話だ。 |
アルトリウス | どこまでも冷静に、自分の使命が何かを考えろ。 |
テレサ | 承知しました。必ずや、ご期待に沿う働きをお約束します。 |
アルトリウス | 私は引き続きヘルダルフを探す。後は手筈どおりに。いいな ? |
テレサ | はい。アルトリウス様も、どうかお気をつけて。 |
アルトリウス | さて……。 |
アルトリウス | どうやら探す手間が省けたようだ。待っていたぞ。 |
アルトリウス | ヘルダルフ。 |
ヘルダルフ | その言葉、そのまま返してやろう。ようやく会えたな、導師よ。 |
アルトリウス | ……なるほど。随分と様変わりしたな。魔導器の影響か、力も驚くほど増したようだ。 |
ヘルダルフ | 貴様への怒りと憎しみ故にな。 |
アルトリウス | そうか。やはり人が業によって穢れた姿は愚かで醜い。 |
ヘルダルフ | 醜いか。ククッ……フハハハハハハッ ! |
ヘルダルフ | 呪いをかけた張本人がよくもぬけぬけと言えたものよ ! |
アルトリウス | 謀反人に正統な裁きを与えたまでだ。 |
ヘルダルフ | 裁きだ ? あの掴みどころのない皇帝のためか。嘘も大概にしておけ。 |
ヘルダルフ | 呪いなどかけずともワシをリビングドールとやらにして意思を奪えば済んだであろうが。 |
ヘルダルフ | 貴様、腹の底に何を隠している。 |
アルトリウス | 何も。私が私であるが故に導師としての務めを果たしているだけだ。 |
ヘルダルフ | その務めが、貴様の言う業によって穢れたワシを否定することか。 |
アルトリウス | そうだ。それが理だ。 |
ヘルダルフ | 愚かな。業とは欲、欲は生きる力よ。業を背負って生きることこそ、人が人である所以。貴様とて同じだろう。 |
ヘルダルフ | 理という傲慢な理想の押し付けこそが貴様の欲そのものではないか ! |
アルトリウス | わかっている。だからこそ、私は全てを背負う。 |
ヘルダルフ | ならば死ね。愚かな理想と共に ! |
ヘルダルフ | っ ! ? |
アルトリウス | 戦訓その一、策戦は堅実に。対応は柔軟に。 |
ヘルダルフ | ……体が…… ! |
アルトリウス | 拘束のみに特化させた術式だ。今の貴様でも簡単には解けん。 |
ヘルダルフ | いつの間に……ぐおおおっ ! |
アルトリウス | あれほどの穢れだ。気配を感じる者であれば対策の一つもするさ。 |
アルトリウス | だが、お前は私への警戒を怠った。本来ならば、そこに考えが至らぬ程愚かでもなかっただろうに。 |
アルトリウス | 急激に力を増したことで、己の強さに溺れたあげく私への怒りが目を曇らせたのだ。やはり業とは醜いものだな。 |
ヘルダルフ | おのれぇぇっ ! 導師ーーーーっ !ぐああああああっ ! |
アルトリウス | 大人しくしておけ。苦しむだけだ。 |
アルトリウス | ――事は済んだ。転送魔法陣の準備はできているか ? |
帝国兵β | はい。ミッドガンド領内聖主の御座への転送確認を完了しております。 |
ヘルダルフ | くっ……聖主の御座……だと…… ? |
アルトリウス | グリンウッド領ではセルゲイの手前帝都へ運ぶという話になっていただけだ。 |
アルトリウス | その忌まわしき穢れはカノヌシへの贄とさせてもらう。腐抜けたベルベットの代わりにな。 |
キャラクター | 2話【13-2 ケリュケイオン1】 |
エルレイン | 治療は終わりました。もう痛みはないはずですよ。 |
スレイ | ありがとう、エルレインさん。 |
ザビーダ | いやー聖女様の治癒術はまた格別だな !今度お礼するぜ、個人的に。 |
エルレイン | 俗な見返りなど不要です。 |
ザビーダ | 怖っ……。 |
マーク | ハハッ、冗談が通じる相手じゃねえって。しかしハデにやられたな。 |
フィリップ | ヘルダルフは予想以上の強さだったようだね。 |
ライラ | ええ。かの者の強さは魔導器によって引き上げられていました。あのまま戦っていたら、こちらが危なかったでしょう。 |
スレイ | ……いや、勝てなかったのは魔導器のせいだけじゃないよ。 |
スレイ | あいつを浄化するためにはきっと、知らなきゃいけないことや足りないものがたくさんあるんだ。 |
スレイ | ヘルダルフに何があったのかとかオレ自身の実力とかさ。 |
エルレイン | ………………。 |
ミクリオ | ……そうだな。けど、それはスレイだけじゃない。僕たちみんなに言えることだ。 |
全員 | …………。 |
ビエンフー | く、空気が激重でフー……。 |
エドナ | ミボのせいよ。責任とって何とかしなさい。 |
ミクリオ | 何とかって言っても……。 |
エドナ | 踊りでも踊って場を盛り上げればいいでしょ。協力してあげる。ほら、ほら、ほーら。 |
ミクリオ | ちょっ、くすぐったいだろ !傘はやめろ ! |
ビエンフー | ああっ、エドナさんにあんなツンツン……。うらやましいでフー。ボクも優しくツンツンされ―― |
アイゼン | ビエンフー……、てめえ、後で倉庫に来い。 |
ビエンフー | ビ、ビエ~~~~ン ! 姐さん、お助け~~ ! |
マギルゥ | 自業自得じゃ。しかも益々空気を悪くしおって。ベルベット、こんな時こそお主のアレをブチかましてやれい ! |
ベルベット | は ? アレってなによ。 |
マギルゥ | またまたぁ、出し惜しみせんでいいんじゃよー ?伝説のモノマネを披露する絶好の機会であろうが。 |
マギルゥ | この重っ苦しい空気の中お主が「ポッポ~ ♪ 」と一声鳴けば泣いたカラスも怒って笑い、ドカンドカンの大爆笑 ! |
ベルベット | っ ! ! |
ライフィセット | ベルベット、大丈夫 ? 顔が赤いよ。 |
ロクロウ | なんだ、ハトじゃなくてタコのモノマネか ? |
マギルゥ | そうか !ブルナーク間欠泉から飛び出す茹でダコじゃな ?ニッチな新ネタを仕込んで来るとは、侮れんヤツめ。 |
エレノア | いい加減にしてください、あなたたち !こんな時に何をふざけているのですか。 |
エレノア | ベルベットも、芸を披露するならもっと相応しい場所でやってください。 |
ベルベット | やるわけないでしょ !まったく、疲れるったらないわね……。 |
ライラ | 芸を『披露』するのに『疲労』してしまった……というわけですね ! |
ベルベット | それやめて。ホントおじさん臭い。 |
ライラ | 酷いです、ベルベットさん。ダジャレはおじさんだけのものではありませんわ ! |
アリーシャ | ふふっ、さすがライラ様だな。 |
スレイ | っていうか、怒るとこずれてるし。 |
ロゼ | でさ、結局あたしら何の話してたんだっけ ? |
3人 | っ……あっはははははは ! |
マギルゥ | どうじゃなご一同。泣いてばかりの子ガラスも我らマギルゥ奇術団にかかればあっという間にこのとおり。 |
スレイ | うん、ありがとう。気を遣わせちゃってごめん。落ち込んでる場合じゃなかった。 |
アリーシャ | そうだな。次のことを考えよう。ヘルダルフに勝てるように。 |
デゼル | 賛成だ。それにサイモンのこともな。 |
エルレイン | そのことですが、あなた方には迷惑をかけましたね。 |
デゼル | なんであんたが謝る。 |
エルレイン | 先ほどまでサイモンは私の管轄下にありました。あの者を御することができなかった私の不始末です。 |
マーク | まあ、うちの鏡映点はクセ者揃いだからな。素直に言うこと聞くやつの方が貴重だよ。 |
フィリップ | だからといってヘルダルフと繋がりがあるとわかった以上このままサイモンを放っておくわけにはいかない。 |
ロゼ | うん。あの二人は合流させたらまずいよ。サイモンは、あたしたちが知らない未来のことを知ってるみたいだし、今のうちに何とかしないと。 |
フィリップ | では二人の捜索にはこのままケリュケイオンを使ってくれ。機動力は必要だからね。 |
マーク | 使うのはいいとして、どこを捜すか当てはあるのか ? |
スレイ | 当てはないけど、気になることはある。ケリュケイオンが迎えに来る前にほんの一瞬だけヘルダルフの領域を感じたんだ。 |
ミクリオ | 本当か ! ? 気がつかなかったな。 |
スレイ | 感じた……んだと思う。すぐ消えちゃったし気のせいかもしれないけどいつもの感じとは違うっていうか……。 |
スレイ | とにかく、ヘルダルフに繋がる手掛かりがあるなら何でも知りたいんだ。 |
ミクリオ | そうだな。サイモンの様子じゃ聞いても答えてくれそうにない。自分たちで情報を集めないと。 |
マーク | んじゃ、スレイの言うあたりを探ってみるか。 |
エルレイン | …………。スレイ。サイモンの見てきた世界を知りたいか ? |
スレイ | え ? どういう意味 ? |
エルレイン | 私は以前、クロノスの檻で元の世界の自分が辿るであろう生涯を何度も繰り返し見せつけられた。 |
スレイ | 自分の未来を見たのか !元の世界の……。 |
エルレイン | そうだ。もしもそのような機会があったとしたらお前はそれを望むか ? |
スレイ | う~ん…………。自分の未来が知りたいっていうかそれがヘルダルフを浄化するための手がかりになるなら知りたいって感じかな。 |
エルレイン | 自分のためではなく、敵のためだと ? |
スレイ | うーん、自分の未来は自分で体験したいんだ。まあ、元の世界のことはもう体験できないんだけど。 |
スレイ | それに、あのヘルダルフってアルトリウスの呪いや魔導器のせいであんなに穢れちゃってるんだろ ? |
スレイ | この世界は穢れが存在していても憑魔として具現化された奴以外は本来憑魔になるはずがない世界だし。 |
スレイ | そもそもの条件が違うこの世界でならヘルダルフの穢れをどうにかできるかもしれない――……あれ ? よく考えるとやっぱり自分のためかも。 |
ライラ | ふふっ、本当に、スレイさんらしいですわね。 |
クラトス | フィリップ、マーク、取り込み中すまない。 |
フィリップ | クラトスさん、どうしましたか ? |
クラトス | このデータを見てくれないか。ミッドガント領を中心に妙な数値が―― |
エルレイン | あっ…… ! |
クラトス | 失礼。肩が当たってしまった。怪我はないだろうか ? |
エルレイン | いや、大事ない―― |
二人 | う…………。 |
スレイ | エルレインさん ! ? |
マーク | クラトス ! ? どうした ! |
クラトス | 急に……めまい…………が……………………。 |
フィリップ | 二人とも、意識がない。すぐに医務室へ ! |
ライフィセット | えっ ! ? |
フィリップ | ライフィセット ! きみもか ! ? |
ライフィセット | ううん……大丈夫。けど、今の感覚……。そんなわけないのに……。 |
ベルベット | どうしたの ! ? |
ライフィセット | かすかだけど、今、地脈のようなものを感じた……。 |
全員 | ! ! |
キャラクター | 3話【13-2 ケリュケイオン1】 |
ヘルダルフ | ……ぐっ……。 |
ヘルダルフ | (おかしい……。力が湧き上がるそばから奪われていく……) |
アルトリウス | 苦しいか。力が吸い取られるように感じるはずだ。 |
ヘルダルフ | …………。 |
アルトリウス | ……まあいい。その様子であればお前の穢れは地脈へと注ぎ込まれているだろう。 |
アルトリウス | しかし……やはり念には念を入れるべきか。餌が足りなくては困る。 |
ヘルダルフ | 餌……だと ? |
アルトリウス | お前には、オリジンから分離するに十分な穢れをカノヌシに与えてもらわねばならん。 |
アルトリウス | その力、『神依』によりさらに高めてもらうぞ。 |
ヘルダルフ | 何 ? |
アルトリウス | 今からこのクレーメルケイジに入った聖隷――いや、天族と精霊輪具で神依化してもらう。 |
アルトリウス | お前を『我が主』と呼んでいた天族の娘だ。見知った者であれば、より神依化もしやすいだろう。 |
ヘルダルフ | 知らぬ ! 何が天族だ ! |
アルトリウス | そうか。お前には、あの者の記憶がないのか。 |
アルトリウス | 片割ればかりが記憶と想いを募らせたままか。この天族も哀れだな。 |
アルトリウス | 天族よ、せめて一つとなって、主の力となるがいい。 |
ヘルダルフ | 何をする……やめろ ! ぐああああああっ ! ! |
アルトリウス | (こちらの準備は整った。後は……) |
ロミー | アルトリウス、話があるの。 |
アルトリウス | ロミーか。どうした。 |
ロミー | 知ってると思うけど新たな大陸の具現化は成功したわ。そっちはどう ? |
アルトリウス | こちらも順調だ。おかげで地脈は活性化した。喰魔を介さずにカノヌシへ穢れを送る術式も起動している。 |
ロミー | そう。『穢れの質』っていうのはちゃんと高めてから送りこんでる ?「憎悪」とか「傲慢」とか色々あるって話だったけど。 |
アルトリウス | 魔導器で全ての要素は十分高められているが先ほど念のために手も打った。 |
ロミー | よかったわ。苦労してグラスティンから盗んだ術式の一つだもの。ちゃんと役立ててくれないとね。 |
アルトリウス | 問題ない。全ては順調だ。 |
ロミー | だったら、もういいわね。しばらくは連絡も手助けも出来ないからそのつもりでいて。 |
アルトリウス | 何かあったか ? |
ロミー | ちょっと面倒が起きて怪我をしたの。帝国もこっちを嗅ぎつけてるだろうし回復がてら身を隠すわ。 |
ロミー | それともう一つ。新大陸の調査で面白いものが見つかったわよ。 |
ロミー | 『霊石』と『集霊器』っていうんだけど集霊器を使って、霊石を取り付けた人間からエネルギーを回収できるの。 |
アルトリウス | 人間から……。 |
ロミー | 何か引っかかる ? |
アルトリウス | いや。では新大陸で回収したエネルギーはこちらで預かるぞ。 |
ロミー | いいけど、何に使う気 ? |
アルトリウス | 【ルグの槍】の対抗エネルギーとして使用する。 |
ロミー | そう、お好きにどうぞ。……フフッ。 |
アルトリウス | なんだ ? |
ロミー | 造反したあなたが仕組んだ計画って結局、帝国の連中と同じなんだもの。具現化した世界を利用しつくそうとするところとかね。 |
アルトリウス | 確かに、私は『全』を生かすために『個』への犠牲を強いている。 |
アルトリウス | だが、いずれはこの世界に具現化された人間たち全てを、救われるべき『全』にする。 |
アルトリウス | それが私の『理』だ。 |
ロミー | ご立派な思想だこと。あなたの理想とする世界がどんなものか見るのが楽しみだわ。 |
ロミー | それじゃ、さようならアルトリウス。お互いまた無事に会えるといいわね。フフフッ。 |
ロミー | (その時まで『ここ』にいるかどうかはわからないけど) |
キャラクター | 4話【13-3 ケリュケイオン2】 |
ベルベット | 地脈って……。フィー、どういうことなの ! ? |
アイゼン | もう一度、落ち着いて感じてみろ。 |
ライフィセット | 待って、地脈とは何かが違うんだ。似てるけど、何かもっと特別な力のような……。 |
フィリップ | …………。 |
マーク | どうした、フィル。お前も調子悪いのか。 |
フィリップ | ……いや、大丈夫。ちょっとしたアニマ酔いだよ。でも、ライフィセットの感じているものがわかった。 |
ライフィセット | え ! ? |
フィリップ | ライフィセットが感じている特別な力っていうのは魔鏡術の融合の力だ。とてつもない融合の力が突然、地中で活性化したせいだと思う。 |
ライフィセット | これが魔鏡術の融合の力…… ?だったらなんで地脈みたいに感じるんだろう。それに僕は鏡士じゃないのに……。 |
フィリップ | ごめん、僕宛てに通信だ。 |
フィリップ | ――……えっ、なんで君が ! ? |
ファントム | なんでとは、ご挨拶ですね。フィル。 |
フィリップ | リーパ……、目が覚めていたんだね。良かった。 |
マーク | ファントム…… ! |
三人 | ファントム ! ? |
フィリップ | 意識ははっきりしているんだね。体はどうだい ? |
ファントム | あなたからそう聞かれるのは複雑ですね。こちらとしても、連絡したかった訳ではありませんし。さて……用件を伝えましょうか。 |
ファントム | 今、ティル・ナ・ノーグの具現化に関わった三人の鏡士とオリジンの力が活性化して暴走し始めています。 |
ファントム | ヨーランドたちは、それらを抑えながら『オリジンの存在を保つ』ので精一杯なんです。 |
フィリップ | オリジン ? これは融合の力ではないのか ? |
フィル | 融合の力ですよ。あなたが感じている通りにね。 |
マーク | 相変わらず持って回った言い方しやがって。さっさと詳しいことを説明しやがれ ! |
ファントム | 詳しいことも何も、オリジンの力は融合の力と同義なのですよ。オリジンは、ナーザ・アイフリードがダーナの力を元に造りだした最初の精霊ですから。 |
ファントム | この世界には、世界の具現化を保つための原初の力が蜘蛛の巣のように張り巡らされている。そしてうかつに触れられないよう封じられていた。 |
ファントム | しかし、原初の力を制御する筈のオリジンが『狂った』ようですね。エンコードによって、オリジンに異世界の『何か』が吸収された。それが今になって暴れている。 |
マーク | それだけじゃ、何が何だか見当がつかねえぞ……。 |
ファントム | 仕掛け人はミッドガンド領とやらにいるようです。さっさとこの首謀者を何とかしなさい。 |
マーク | チッ。 |
ベルベット | ……アルトリウスよ。 |
エレノア | ベルベット、あまりに早計じゃありませんか ? |
ベルベット | 地脈――まあ正確には違う物みたいだけどそんなものが関わるような騒ぎを起こす奴なんて他に誰がいるの ? |
エレノア | それは……。 |
マーク | ともかく、ミッドガンド領へ向かうぞ。スレイたちはどうする ? |
スレイ | オレたちも行くよ。ベルベットたちの話だとアルトリウスとヘルダルフは同じ場所にいるかもしれないし。 |
スレイ | それに、一瞬だけ感じたヘルダルフの領域……。なんて言ったらいいかわかんないけど変な感じだったから。 |
ベルベット | そのヘルダルフってのもアルトリウスに呪われてたんでしょ。今回の件に関わっているかもしれないわよ。 |
スレイ | うん……。なあ、ベルベットアルトリウスって人は導師なんだよな ? |
ベルベット | ええ。前にも言ったでしょ。あんたとは似ても似つかない導師であたしの仇。 |
ロクロウ | アルトリウスが糸を引いているなら十中八九カノヌシ絡みだろうな。 |
ザビーダ | ここでその名前が出るかよ。ったく懐かしくて涙が出るぜ。 |
エレノア | だとしたらアルトリウス様の目的は、この世界で……。 |
マーク | ちょっと待て。悪いがその、地脈とかカノヌシのあたり俺たちにもわかるように説明しといてくれるか ? |
アイゼン | そうだな、すまなかった。手短に話すぞ。 |
アイゼン | 俺たちの世界で地脈というのは大地を流れる自然の力だ。その地脈を通じてカノヌシは力を取り入れていた。 |
アイゼン | そしてカノヌシは穢れを、その根源である意思ごと喰らう聖隷で、これによって人間を鎮静化させる。アルトリウスはこの力が狙いだった。 |
マギルゥ | かなりザックリじゃのー。 |
マーク | 十分だ。けど、なんでアルトリウスは鎮静化なんて力が必要だったんだ ? |
マギルゥ | 大量の穢れを生まない世界を造るため、じゃな。 |
スレイ | えっ ! ? できるのか ? そんなこと。 |
アリーシャ | 実現するのなら、理想の世界と言えそうだが……。 |
アイゼン | 俺はごめんだ。反吐が出る。 |
アリーシャ | 何故ですか ? |
アイゼン | お前たちも知ってるだろう。穢れがなぜ生まれるか。 |
マギルゥ | 憎悪、執着、愛欲、絶望……人の感情によって穢れは増える。だからと言って切り離せるものでもなかろう。 |
フィリップ | …………そうだね。それを切り離せたらきっと楽になれるんだろうけれど僕は僕ではなくなってしまうだろうな。 |
二人 | ………………。 |
マギルゥ | そこで人の意思を奪うカノヌシじゃよ。奴の領域ならば、人間がすべてリビングドールβに置き換わったがごとき世界に早変わり。 |
マギルゥ | 決められた理に逆らわない。逆らう意思もない。感情の高ぶりがないから人間味がない。理から外れれば、自死さえ選ぶ。 |
アリーシャ | そんな ! それは人として生きていると言えるのか ! ? |
マギルゥ | じゃが、それが唯一つ世界を救う方法だとしたら、お主はどうする ? |
アリーシャ | そ、それは……。 |
エレノア | マギルゥ ! アリーシャを惑わせないでください。 |
マギルゥ | 儂らの視点だけで話しては偏りが出ると思うての ♪ |
ベルベット | 誰がどう思おうとあたしにはあいつを倒す理由がある。マーク、あんたたちも好きに動けばいいわ。 |
マーク | まあ、ざっくりと事情はわかった。率直に言えば俺はアルトリウスの理想ってのが肌に合わねえ。鏡精はマスターの心――感情から生まれるもんだしな。 |
マーク | フィルはどうだ ? |
フィリップ | さっきも言った通り、僕は今まで散々感情に流され惑わされて、ここまで来た。それを否定されることは僕という存在を否定されるようなものだよ。 |
フィリップ | これまでの在り方を否定するような世界は望まない。 |
スレイ | オレもだよ。それに少なくともここでは、世界を救う方法がアルトリウスの考える手段だけじゃない筈だ。……いや、オレたちの世界だってきっと―― |
ライラ | ………………。 |
ミクリオ | 僕も……いや、みんなも同じだ。 |
ライラ | ……ええ ! そうですわ。 |
フィリップ | では全員一致でいいね。 |
フィリップ | ……今の話の通りなら、カノヌシは世界の在り方に関わる者とも思える。だが聖隷は精霊としてエンコードされるという法則があるから、神として判定されず―― |
ファントム | しかし、神に近い力を持っていたが故に矮小化され最も性質の近い精霊オリジンと同一視されてオリジンの中に取り込まれたのかもしれ―― |
ファントム | ……まあいいでしょう。私はこれで失礼しますよ。 |
フィリップ | あっ、リーパ ! |
マーク | ……ほっとけ。何かあれば連絡が来るだろ。今はミッドガンド領へ急ぐぞ。 |
キャラクター | 5話【13-3 ケリュケイオン2】 |
帝国兵1 | ――以上が、新大陸出現に関する調査報告になります。 |
デミトリアス | そうか。ご苦労だった。 |
グラスティン | 予想どおりだったな。今回の主導はアルトリウスでそこにロミーやチトセが一枚噛んでいるというわけか。 |
デミトリアス | 我々のオリジン覚醒計画を盗んだあげくすでに実行に移しているとはね。 |
グラスティン | しかも勝手に筋書きを変えやがった。オリジンの覚醒には、鏡の精霊の心核を入れたジュニアを器にする予定だったのに……。 |
グラスティン | ――おい、ロミーとチトセの居場所は判ったか ? |
帝国兵1 | それが、お二人とも連絡がつかず目下捜索中であります。 |
デミトリアス | 警戒して姿をくらましたようだね。 |
グラスティン | まあ、あいつらはいい。贄の紋章でどうとでも出来る。問題はアルトリウスだ。 |
グラスティン | あいつは聖主の御座を奪って立てこもっている。まずはあの場を、奴から取り戻すぞ。 |
デミトリアス | わかった。ではすぐに兵を向かわせよう。 |
グラスティン | おい、伝令だ ! すぐにミッドガンド領へ部隊を―― |
帝国兵2 | 申し上げます ! ただいまミッドガンド領よりテレサ・リナレス様がおいでになりました。 |
グラスティン | テレサだと ? アルトリウスの子飼いが見計らったようなタイミングでご登場か。ヒヒヒ……どうする ? |
デミトリアス | 構わん。テレサをここへ。 |
テレサ | テレサ・リナレスにございます。この度は拝謁を賜り―― |
グラスティン | 上辺だけの口上ならその辺にしておくんだなあ。 |
テレサ | っ……。 |
デミトリアス | テレサ、私たちはミッドガンド領の状況を知っている。それを心にとめた上で話すがいい。 |
テレサ | はい……。では包み隠さず申し上げます。まずお尋ねしますが、帝国はアルトリウス様の捕縛、もしくは討伐をお考えでしょうか。 |
デミトリアス | 無論。彼の暴走は止めねばならない。仕えていたきみには酷な話だろうがね。 |
テレサ | …………。 |
グラスティン | ヒヒッ、許しを請うつもりか ?だったらアルトリウス本人を連れて来るんだな。 |
テレサ | いいえ。アルトリウス様をかばうつもりは毛頭ございません。 |
デミトリアス | では、きみの用件とはなんだい ? |
テレサ | 恐れながら……陛下と、取引をしたいのです。 |
デミトリアス | ……聞こうか。 |
テレサ | 恐らくご存じとは思いますが、現在、アルトリウス様は聖主の御座におられます。そしてその周囲には多数の罠が仕掛けられているのです。 |
テレサ | このまま帝国軍が聖主の御座へと攻め込めば相応の被害が出ることは間違いありません。 |
テレサ | ですが、私であれば、アルトリウス様も心を許されるはずです。攻め込む隙を作ることもできましょう。 |
デミトリアス | なるほど。きみはこちらに協力をすると言うのか。それで、見返りは何だ。何か要求があるのだろう ? |
テレサ | ……私の弟、オスカー・ドラゴニアに付けられた贄の紋章の解除です。 |
デミトリアス | そうか。ミッドガンド領の従騎士だったね。 |
グラスティン | ヒッヒッヒッ、弟のために主を裏切るのか。 |
テレサ | ええ。私にとって一番大事なのは弟です。オスカーが自由になれるのならばどんな汚い手でも使います。 |
テレサ | それに、このままアルトリウス様の下にいれば弟は遠からず命を落とすでしょう。……とても耐えられません。 |
テレサ | 私は、オスカーだけでも助けたいのです。 |
デミトリアス | そうか……。きみの気持ちはよくわかった。ではアルトリウスの件は、きみに一任するとしよう。 |
グラスティン | おっと……本気か ? |
デミトリアス | こちらの戦力も随分と削られている。テレサの申し出を無下にすることはない。 |
デミトリアス | それに、きみはフリーセルの捜索を優先するべきだ。違うかい ? |
グラスティン | ……そうだな。 |
テレサ | では、取引は成立ということでしょうか。 |
グラスティン | 皇帝陛下のご意思ならば仕方がないだろう。さっさとアルトリウスを連れてこい。 |
グラスティン | 上手く事が運べばオスカーの贄の紋章を解除してやる。 |
デミトリアス | テレサ、私はきみの言葉を信じよう。きみが弟への愛を忘れなければ任務は間違いなく成功するはずだ。 |
テレサ | はい、必ずや証明してご覧にいれます。 |
テレサ | (やった…… ! 私が襲撃を仕切れるならばミッドガンド領侵攻への時間稼ぎができる) |
テレサ | (アルトリウス様……、全ては計画どおりです。どうか今のうちにカノヌシ復活を成し遂げてください) |
グラスティン | ………あの女は行ったか。 |
グラスティン | ――おい、テレサに監視をつけろ。あの女は信用ならんからな。 |
帝国兵β | 承知しました。 |
グラスティン | 構わないよな ? お優しい皇帝陛下。 |
デミトリアス | ……ああ。やってくれ。 |
グラスティン | ほう、即答か。お前も肝が据わってきたな。 |
デミトリアス | どういう意味かな ? |
グラスティン | 疑うのは心苦しいだの、裏切るとは思いたくないだのひとしきりゴネてから渋々承諾ってのがお前のお決まりだったからな。 |
グラスティン | そういう矛盾したところが面白かったんだが今回ばかりは決断が早くて助かる。 |
デミトリアス | 肝が据わったと言われればそうかもしれない。けれど、私は今だって彼女が裏切らないことを祈っているよ……。 |
グラスティン | まあ、裏切ったら裏切ったで弟に最高の地獄を見せてやればいいだけさ。 |
グラスティン | ああ、その方が面白いかもなあ。何か仕掛けを考えておこう。ヒヒヒヒッ。 |
キャラクター | 6話【13-4 ミッドガンド領 聖主の御座1】 |
スレイ | この気配、やっぱり間違いない。聖主の御座の奥にヘルダルフがいるはずだ。けど……やっぱり変な感じがするよな ? |
ミクリオ | うん……。スレイの言ってた通りだ。なんだろうな、今までと違う。 |
ライラ | 先に入ったベルベットさんたち、大丈夫でしょうか。 |
ロゼ | うちらだって人のこと心配してる場合じゃないかもよ。 |
デゼル | ともかく、一番濃い穢れをたどってきゃヘルダルフのところまで行けるだろう。 |
エドナ | そうね。見当がついたならさっさと進む。 |
ザビーダ | なんだ、ご機嫌斜めだな。お兄ちゃんが先に行っちまって寂しかったか ?だったら俺様が代わりに―― |
エドナ | ゲスの勘ぐりね。あっちはアルトリウス捜索、こっちはヘルダルフ。やるべきことをやってるだけでしょ。 |
ロゼ | ――ねえ、あれ ! あそこにいるのって ! |
スレイ | フィリップさんだ。周辺の警護をするって言ってたのにこんなところにいるなんて何かあったのかな ? |
アリーシャ | 待て、スレイ。罠かもしれない。 |
アリーシャ | フィリップ殿。何故あなたがいらっしゃるのですか ? |
ファントム | それは私がファントムだからですよ。アリーシャ殿下。 |
スレイ | ファントム ! ? なんでここにいるんだ。 |
ファントム | 自分のしたことの落とし前をつけに、ね。 |
スレイ | 落とし前って ? |
ファントム | このミッドガンド領は、私が具現化したものです。私は、ゲフィオンとフィルが生きるための世界を造ろうとした。 |
ファントム | けれど、そうして具現化した中に私の望む世界とは違う、独自の世界を生み出そうとするアルトリウスを呼びこんでしまった。 |
スレイ | じゃあ、アルトリウスを倒すためにここに来たってこと ? |
ファントム | アルトリウスの始末はベルベットたちに任せますよ。それが彼らの望みでしょう。 |
ファントム | ですが、アルトリウスを倒しただけでは、この世界を守ることはできません。ダーナの近くにいたせいで色々と……事情通になってしまいましてね。 |
ファントム | まあ、簡単に言えば、私には私のそして導師には導師の役目がある、ということです。 |
スレイ | オレの役目って ? |
ファントム | これから教えて差し上げますよ。 |
全員 | ! ! |
スレイ | これは……転送魔法陣 ! ? |
? ? ? | 導師スレイ。我が声が聞こえるか。 |
スレイ | (ここは…… ? 誰の声…… ?) |
オリジン | 我が名はオリジン。クロノスの力添えのもと、お前の中にある『あり得た未来』を見せる機会を設けた。 |
スレイ | オリジン ! ?えっと……どうなってるか説明してくれるとありがたいんだけど。 |
オリジン | まずはお前の成すべきことを伝えよう。我の中には、エンコードによって統合された異世界の神に等しい存在がある。 |
オリジン | しかし、この世界の理を変えるために異世界の存在は我から切り離されようとしているのだ。導師には、これを阻止して欲しい。 |
スレイ | それって多分理を変えようとしているのがアルトリウスで異世界の神様みたいなのがカノヌシ、だよな。 |
スレイ | でも、それならベルベットたちが動いてる。アルトリウスを倒せばいいんだろ ? |
オリジン | いや、アルトリウスを討ち果たしたところでティル・ナ・ノーグに僅かでも異世界の存在が確立して残れば、世界の理は変わってしまう。 |
オリジン | 今までのように、我らが安定して統合し続けるためにヘルダルフの穢れを消し去らねばならない。 |
スレイ | ヘルダルフを…… ! |
オリジン | そのためにも、お前の望むとおり災禍の顕主へと至るヘルダルフの過去を見せることにした。 |
スレイ | えっ ! ? なんでそれを……うわあっ ! |
スレイ | あれは……過去のヘルダルフなのか ?大地の記憶を見てる時みたいだな。 |
スレイ | ………………。これって…………。 |
オリジン | 今のがヘルダルフの過去だ。どう思った、導師。 |
スレイ | ……わからない。ううん、違うな。ただ『過去がわかった』って言い方しかできないよ。 |
スレイ | 確かに、将軍だったヘルダルフのやり方に賛成なんかできない。 |
スレイ | 守ると言った村を利用したあげく敵の侵攻を知りながら見捨てて、全滅させた。 |
スレイ | 先代導師に呪われて災禍の顕主になった理由もわかった。けど…………。 |
スレイ | 呪いのせいで、大事な人たちはみんな死んでどんどん孤独になって、自分だけは死ねなくて……。 |
オリジン | それは『元の世界のヘルダルフ』の話。この世界に具現化されたヘルダルフは、ミケルとやらの呪いを受けておらず、災禍の顕主ですらない。 |
オリジン | 全ての事柄を踏まえた上で、お前たちにはこの世界で具現化された『スレイ』と『ヘルダルフ』として対峙して欲しい。 |
オリジン | この前提ならば、お前でも浄化できるだろう。 |
スレイ | オレ『でも』…… ?じゃあ元の世界では……オレは……。…………そっか。 |
ファントム | スレイ、あなたは未だ道半ばの未熟な導師だ。それでも――やりますか ? |
スレイ | ファントム ! ? みんなは ? |
ファントム | 全員が同じ体験をしていますよ。ですが、私はあなたに聞いているのです。それで、あなたの答えは ? |
スレイ | わからない。でも、やってみるしかない。今のオレとして、今のヘルダルフと向き合う。 |
ファントム | 結構。では、行きますよ。 |
スレイ | ……ふぅ。もしかして転送完了 ? |
ファントム | ええ。みなさんも揃っています。 |
ミクリオ | スレイ ! |
スレイ | ミクリオ ! みんなも !ヘルダルフの過去、見たんだよな ? |
アリーシャ | ああ。我が国とヘルダルフの過去にあんな繋がりがあったなんて驚いたよ。スレイもだろう ? |
スレイ | うん。先代導師との因縁とか、色々と。 |
ライラ | …………。 |
ミクリオ | 導師ミケル……か……。 |
スレイ | ミクリオ ? 何かあったのか ? |
ミクリオ | え ? ああ、大丈夫。ちょっと気になることがあったんだ。後でゆっくり考えるよ。 |
エドナ | で、ここはどこよ。 |
ファントム | この先の部屋が、あなた方の目的地です。進みますよ。 |
ヘルダルフ | ……………………。 |
スレイ | ヘルダルフ ! ? |
ミクリオ | この気配……姿こそ変わりがないけどまさか神依…… ? |
ロゼ | うそ……ヘルダルフが神依化してるってこと ! ? |
ミクリオ | ……ああ。そうだと思う。ヘルダルフがはめているあれは精霊輪具だ。恐らく無理やりに神依させられてる。 |
デゼル | チッ、気配が変わるはずだぜ。ってことは、力も増してるってことか。 |
ヘルダルフ | ドウシ……ユルサ……コロ……コロォオオオオオス ! ! |
ザビーダ | うおおっと、正気じゃねえな。 |
ファントム | どこかにあるはず……。あれか ! |
エドナ | 危ないでしょ ! 何してるの ! |
ファントム | ヘルダルフの術式を起動させている装置を止めます !この『場』自体が、奴の穢れをカノヌシに流し込んでいるのです ! |
ファントム | 戦って穢れを増せば、それだけ多くの力をカノヌシに与えてしまうでしょう ! |
アリーシャ | ならば――たああっ ! 逆雲雀 ! ! |
ファントム | ……フ、さすがに荒事はお手の物ですね。ひとまず、装置の動きは止められた。あとは……導師、あなたの役目ですよ。 |
スレイ | わかってる、行くぞ ! |
キャラクター | 7話【13-5 ミッドガンド領 聖主の御座2】 |
ベルベット | 邪霊雷牙 ! |
帝国兵βたち | ぐおっ…… ! |
ライフィセット | すごい、ベルベット。みんな倒しちゃった。 |
エレノア | 気合いが入ってますね。 |
ロクロウ | なあ、ベルベット。一人で全部倒さんでも俺に任せていいんだぞ。これでは恩返しもできん。 |
ベルベット | それって自分が斬りたいだけじゃないの ? |
ロクロウ | はは、バレたか ! |
ベルベット | わかったわよ。次はあんたに任せる。 |
ロクロウ | 応 ! この程度の兵士を倒しても恩返しのおの字にもならんからな。もっとじゃんじゃん出て来て欲しいもんだ。 |
エレノア | 敵が少なくて物足りないと言ってるように聞こえるのですが……。 |
マギルゥ | 仕方なかろうて。ファントムに尻を叩かれ坊の感じるままにミッドガンド領へ来てみれば聖主の御座がどどーんじゃぞ ? |
マギルゥ | うじゃうじゃ敵がおると期待してしまうのが人情というものじゃよ。 |
ビエンフー | 姐さんの人情ってなんなんでフかね……。 |
アイゼン | しかし妙だな。領主の館よりも警備兵が少ない。 |
ロクロウ | アルトリウスも、これほど早く襲撃されるとは思ってなかったんじゃないか ? |
ベルベット | それはどうかしら。あいつはフィーの力を知ってるわ。地脈を利用した時点でフィーが勘付くことはわかってるはずよ。 |
アイゼン | となると、ますます怪しいな。考えてみれば外からして警戒網が薄かった。 |
ライフィセット | もしかして罠 ? |
エレノア | わかりませんが……やはり、スレイたちと一緒に対策を講じてから突入すべきだったかもしれませんね。 |
ベルベット | 獲物が違うんだから、やり方もそれぞれでしょ。ほら、行くわよ。 |
ライフィセット | 待って、ベル―― |
ライフィセット | うわあああっ ! |
全員 | っ ! ! |
ベルベット | っ……何が……。 |
アルトリウス | 敵陣で一瞬でも気を抜くとはな。 |
ベルベット | アルトリウスッ…… ! ! |
ライフィセット | …………。 |
アルトリウス | カノヌシの器は気を失ったか。だが、傷はついていないな。 |
ベルベット | カノヌシ…… ! ? フィー、起きて、フィー ! |
ベルベット | フィーから離れろ、アルトリウスッ ! ! |
アルトリウス | ――転送魔法陣、展開。 |
ベルベット | 待てっ ! フィーを返せ ! |
エレノア | ベルベット ! |
マギルゥ | 無駄じゃよ。魔法陣は消えておる。 |
エレノア | ですが、ライフィセットとベルベットが ! |
ロクロウ | 落ち着け、エレノア。今さら慌てても仕方ない。 |
エレノア | わかってはいますが……。痛っ……。 |
ロクロウ | 無理して動かんほうがいいぞ。さっきの攻撃は強烈だったからな。 |
マギルゥ | とにかく、仕切り直しじゃな。ビエンフー、生きとるかー。 |
ビエンフー | ダメでフ~……せめて最後はエレノア様の腕の中で……。 |
マギルゥ | 元気そうじゃな。治療もいらんじゃろ。 |
ビエンフー | ビエ~~ン ! |
ロクロウ | しかし不思議だ。さっきの攻撃不意打ちには違いないがそれにしたって体がうまく動かなかった。 |
マギルゥ | なんぞ仕掛けておったんじゃろ。 |
エレノア | どういうことですか ? |
マギルゥ | 恐らく、攻撃と同時に簡単な拘束術でも放ったんじゃろうて。 |
マギルゥ | ま、ベルベットはそれをねじ伏せて坊を追ったわけじゃが。 |
アイゼン | 拘束術か。用意周到だな。 |
エレノア | 用意……。もしかして、アルトリウス様はライフィセットを捕らえるためにわざと私たちの侵入を見逃していたのでしょうか。 |
マギルゥ | ああっ ! 言ってしまったなお主 !それはフラグというやつじゃよ~……。 |
エレノア | ふらぐ…… ? |
マギルゥ | わからんか ? お主の話が正解としてあやつが目的のものを手に入れた今邪魔者となった儂らはな……。 |
ロクロウ | なるほど、そういうことか。 |
アイゼン | 来るぞ。 |
エレノア | 帝国兵があんなに !それに……ドラゴン ! ? |
マギルゥ | 邪魔者はここで始末というわけじゃ。くわばらくわばら。 |
ロクロウ | 丁度いい。斬り足りなくてうずいてたところだ。付き合ってもらうぞ、帝国兵ども ! |
キャラクター | 8話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】 |
ライフィセット | う…………。 |
アルトリウス | ……もうしばらく気を失っているといい。苦しまずに済む。 |
アルトリウス | っ ! !カノヌシへの穢れの供給が途絶えた…… ? |
アルトリウス | (ヘルダルフを繋いだ部屋は封じているはずだが……) |
ヘルダルフ | グォオオオオオオオッ ! |
ザビーダ | あいつヤベーぞ !倒すどころか近づくのもやっとだぜ。 |
ライラ | スレイさん ! 神依化したヘルダルフは危険です。こちらも神依化して、まずは精霊輪具を壊しましょう ! |
スレイ | 了解 ! |
デゼル | ロゼ ! 俺たちも――…………っ。 |
? ? ? | 聞こえ……。たの……ど……し。 |
デゼル | 今の声は……。 |
ロゼ | ねえ ! 今なんか聞こえなかった ! ? |
スレイ | オレも聞こえた ! サイモンの声だ ! |
エドナ | あの不思議ちゃんいきなり何なの ?こっちはひげネコで手一杯なのに……――インブレイスエンド ! |
ミクリオ | まさか…… !ヘルダルフと神依しているのはサイモンなのか ! ? |
全員 | ! ! |
スレイ | サイモン ! ヘルダルフの中にいるのか ! ? |
サイモン | ……主が……私と主は……強引な神依化で……自我が失われ……。 |
ヘルダルフ | ドォオシィイイイイイ ! ドォオシィイイイイイ ! |
スレイ | ぐっ……。 |
サイモン | ああ、主……このような姿……本意では……。 |
スレイ | サイモン、しっかりしろ ! オレたちはどうすればいい。 |
サイモン | あの銃で……ジークフリートで主と私を撃て…… !あれは……穢れとの結びつきを防ぐ……。 |
ザビーダ | よく知ってんじゃねえの。穢れたヘルダルフに撃ちこみゃ神依が解除されるかもってか。 |
スレイ | ザビーダ ! やれるか ! ? |
ザビーダ | おうよ、ここが使いどころってな !――うおっと ! |
ヘルダルフ | コロスコロスコロスコロス…… ! |
ザビーダ | ……目も当てらんねえな。絶対に外したくねえ。足止め頼むぜ ! |
スレイ | わかった !ミクリオ、どう行く ? |
ミクリオ | 手数で攻めて攪乱、大きく一発。 |
スレイ | よし。みんな、いい ? |
全員 | 了解 ! |
ライラ | 行きます ! 焼くは赤銅 ! フォトンブレイズ ! |
アリーシャ | 葬炎雅 ! みんな下がれ !――エドナ様 ! |
エドナ | ロックトリガー ! |
ヘルダルフ | ! ! |
スレイ | 今だ ! ルズローシヴ=レレイ ! |
二人 | 蒼の四連 ! 蒼海の八連 ! 蒼穹の十二連 ! |
ヘルダルフ | ウ……ウォオオオッ ! |
サイモン | もう……もたな……。 |
デゼル | ! ! |
ロゼ | なにあいつ、まだ元気 ! ? デゼルあたしらも―― |
デゼル | サイモン ! あきらめてんじゃねえ ! ――まだ終わらねぇぜ ! |
デゼル | リーサル・サウザンド ! ! |
ヘルダルフ | おおおっ…………。 |
スレイ | 脚が止まった、今だ、ザビーダ ! |
ザビーダ | とっておきだ。よく味わえよ ! |
ヘルダルフ | があああああっ ! |
サイモン | うっ…………。 |
スレイ | サイモン ! 神依が解けたんだ ! |
ライラ | スレイさん ! かの者が虚ろなうちに今こそ浄化を ! |
スレイ | ああ !………………。 |
ファントム | どうした、導師。 |
スレイ | 駄目だ……。どうして浄化できないんだ……。 |
ファントム | ……やはりそうですか。では今のうちに奴を虚無へと送り込みましょう。 |
スレイ | なっ ! ? やめてくれ ! |
ファントム | 何故止めるのです。 |
スレイ | そんなことをしたら、この世界でもヘルダルフに永遠の孤独を与えることになる ! |
ヘルダルフ | 孤独……そうか……。 |
スレイ | ヘルダルフ ! ? |
ヘルダルフ | ――サイモン ! |
サイモン | うっ……御意…… ! |
スレイ | ここは……、サイモンの幻術か ?何のつもりだ、サイモン ! ? |
ヘルダルフ | ここにはワシと貴様しかおらぬ。 |
スレイ | ヘルダルフ…… ! |
ヘルダルフ | 導師スレイよ、ワシは貴様を知らぬ。だがワシは『いずれ貴様と相まみえる存在』のようだな。 |
スレイ | ! !お前も『知って』るのか ? |
ヘルダルフ | そうだ。サイモンの幻術で元の世界でワシが歩む未来を見た。 |
スレイ | ……そうか。 |
ヘルダルフ | 先の言葉から察するにお前もワシのことを知ったようだな。して、どう思った ? |
ヘルダルフ | 貴様は、ワシが呪われるべき存在だと確信したのではないか ? |
スレイ | ……それでも、オレは導師として災禍の顕主のお前を救いたいって思った。 |
スレイ | だから、『今のお前』のことはもっと救いたいって思う。 |
ヘルダルフ | 笑止千万 ! |
スレイ | ! ! |
ヘルダルフ | 元の世界のワシを呪ったのが導師ならばこの世界で呪ったのも導師。 |
ヘルダルフ | 貴様もまた導師であるならば決してワシを救えぬ ! |
スレイ | やってみなきゃわからない ! |
ヘルダルフ | いいや、同じだ。貴様はワシの穢れを浄化できなかった ! |
スレイ | ――浄化……。そう、か……。そうだ、ここはティル・ナ・ノーグだ……。 |
ヘルダルフ | 惚けている暇はないぞ。ワシは導師という存在を憎悪する。貴様もここで潰えよ ! |
キャラクター | 9話【13-9 ミッドガンド領 聖主の御座6】 |
スレイ | はあっ……、はあっ……。 |
ロゼ | スレイ ! 幻術が解けたんだ……ってヘルダルフと戦ってたの ! ? |
スレイ | ……ああ。 |
スレイ | 立てるか、ヘルダルフ。 |
ヘルダルフ | ……何だ、その手は。 |
スレイ | オレは戦いたいわけじゃない。それに、決着はついたんじゃないか。 |
ヘルダルフ | ……わかっているのか ?貴様の差し伸べる手がどれほど残酷か。ワシへの侮辱以外の何ものでもない。 |
スレイ | 救いたいって……、元の世界みたいに孤独になって欲しくないって思うのは駄目なのか。 |
ヘルダルフ | 未来がどうであれ、ワシに貴様の救いはいらぬ。それに貴様はワシを浄化できなかった。 |
スレイ | オレは『浄化』したいんじゃない。『救い』たいんだ。 |
ヘルダルフ | 同じことだ ! |
スレイ | 同じじゃない。結果が同じだったとしても違う筈だ。 |
スレイ | 元の世界でお前のしてきたことは理解できないけどだからって元の世界みたいに――いや、それ以上の孤独の中で生き続けるようにはなって欲しくない。 |
スレイ | 生きるにしろ、死ぬにしろ、世界の中であって欲しい。虚無に封じるなんてしたくはない。 |
スレイ | この世界でどうするのか、どうなるのかの選択肢があってもいいだろ ? |
スレイ | だから救いたい。その為に浄化する。ここではお前はまだ災禍の顕主じゃない。ただのヘルダルフとして生きられる。 |
ヘルダルフ | 断絶された世界に独り閉じ込められて生きることが救いになると思うのか。 |
スレイ | 一人かも知れないけど独りじゃ――孤独じゃないだろ。 |
ロゼ | 少なくともサイモンはあんたを救おうと頑張ってた。精霊輪具の影響でボロボロなのに幻術まで使ってさ。 |
サイモン | ………………。 |
ヘルダルフ | ……この娘なら己を道具として使えと言うから使ったまでよ。 |
アリーシャ | なんてことを……。 それではあまりにサイモン様が報われない。 |
ヘルダルフ | 知ったことを抜かすでないわ。貴様にこの娘の何がわかる。 |
ヘルダルフ | ワシも、この娘も、互いの益を求めあったに過ぎん。導師、お前も同じだ。天族を利用し、天族に利用される。 |
ヘルダルフ | いつの世も何ら変わることのない世の理だ。 |
エドナ | それを本気で言ってるなら呪われて災禍の顕主になる前からあなたは孤独だったってことね。 |
ヘルダルフ | だからこそ救いなどいらぬと言っている。 |
スレイ | それ、本気じゃないだろ。 |
ヘルダルフ | まだ言うか。 |
スレイ | 本気でそう思ってたらオレに未来を見てどう思ったかなんて聞いたりしない。 |
ヘルダルフ | ! ! |
スレイ | お前は、自分の未来に僅かでも『後悔』したんじゃないのか ? |
ヘルダルフ | ……あの時のワシの選択は間違っていない。ハイランドが動いた以上あの村を、カムランを放棄するのは妥当な策だ。 |
ヘルダルフ | 人は未来を見通せはせん。なればこそ何度でもワシは同じ選択をするだろう。それが災禍の顕主へと至る道になろうとな。 |
ミクリオ | だったら、お前を呪った導師ミケルも間違ってないということになるな。 |
ヘルダルフ | 小僧……。 |
スレイ | 辿らなかった人生のことより、オレは、今のお前がこの世界でどうしたいか知りたいよ、ヘルダルフ。このままじゃお前は元の世界と同じになる。 |
ヘルダルフ | フフ……そうだろうな。 |
ヘルダルフ | 言っただろう。呪いなどなくてもこの世界に具現化された時点でワシは孤独だ。慈しみ、愛したものは、この世界にいない。 |
スレイ | 家族……か。 |
ミクリオ | ヘルダルフ、お前と同じように、導師ミケルも家族や大切なものを失う悲しみを負ったんだ。いや……それ以上の絶望を。 |
スレイ | うん……。そして憎しみのままにヘルダルフを呪った。 |
スレイ | オレだって、ミクリオやみんな……家族を失ったらどうなるかわからない。相手を憎んで、その憎しみで戦うかもしれない。 |
ヘルダルフ | だが……それでも貴様は、あの選択をした、か。 |
スレイ | えっ ? |
ヘルダルフ | ……ふっ、はははは……。そうか……お前は、堕ちなかった……。家族を失うという絶望に……。 |
ヘルダルフ | ……貴様は……違うのかも知れぬ。 |
スレイ | ………………。 |
ヘルダルフ | 今一度、ワシを―― |
スレイ | な、なんだ ! ? |
サイモン | ――っ ! また装置が起動した……。アルトリウス…… ! |
ヘルダルフ | ぐっ…… ! |
ファントム | ヘルダルフの穢れがカノヌシに…… !残念ですが、これ以上は引き延ばせない。もはや猶予はありません。 |
ヘルダルフ | ………………。 |
サイモン | ……主。 |
ファントム | スレイ、これが最後です。浄化するか、虚無に封じるか――うっ ! ? |
サイモン | 動いているのがやっとのお前など捕まえるのは造作もない。 |
スレイ | サイモン ! ? 何を―― |
ヘルダルフ | サイモン、よくやった。 |
ヘルダルフ | 導師よ。ワシをこの部屋から解放しアルトリウスのもとへ連れていけ。 |
ファントム | スレイ、奴の口車に乗ってはいけない。今の状態のヘルダルフを浄化するのは無理です。ここで虚無に送るしかない ! |
ヘルダルフ | 黙れ。今のワシでもまだ貴様の首ぐらいは簡単に折れるぞ。 |
スレイ | ! |
ファントム | スレイ、あなたにはわからないでしょうがどうあがいても、救われない人間はいる。 |
ファントム | 救われたくない人間も救うべきではない人間もいる。私もこいつもそういう存在だ ! 早くやれ ! |
スレイ | ……どうして、わからないって思うんだ。 |
ミクリオ | ! ? |
スレイ | わかるから――わかるけど、それでも救いたいんだ。 |
三人 | ………………。 |
スレイ | それに―― |
ヘルダルフ | ………………。 |
スレイ | ……それが、お前の望みなんだな。 |
ヘルダルフ | そうだ。 |
スレイ | ――向こうに転送魔法陣がある。そこからなら、出られるはずだ。 |
五人 | スレイ ! |
スレイ | 一緒にアルトリウスのところへ行こう。ヘルダルフ。それが、お前の救いに繋がるのなら……。 |
キャラクター | 11話【13-13 ミッドガンド領 聖主の御座10】 |
ライフィセット | ベルベット……死なないで…… ! |
アルトリウス | ……カノヌシの影響が薄れているな。まさか、また……。 |
ヘルダルフ | ここにおったか、アルトリウス。 |
スレイ | あの人が導師アルトリウス……。 |
ロゼ | ねえ、あれライフィセットだよ !捕まってるってこと ? |
アリーシャ | 倒れてるのは……ベルベットだ ! 早く助けないと ! |
ヘルダルフ | 待て。 |
ヘルダルフ | ――サイモン、その男を解放しろ。再び神依とやらを行うぞ。 |
サイモン | 御意。 |
エドナ | ちょっと、何してるの、ひげネコ ! |
ファントム | そんなことをしたら、またカノヌシに―― |
ヘルダルフ | アルトリウスゥッ ! ! |
アルトリウス | お前はっ ! ? |
アルトリウス | ……くっ………。 |
ヘルダルフ | フハハハハハッ !ようやく見ることができたわ。貴様が膝をつく姿をな ! |
デゼル | あいつ、正気を保ってやがる ! |
ザビーダ | ジークフリートの効果が効いてんのかもな。穢れと結びつきが弱くなった分、制御しやすいのかね。 |
ミクリオ | ああ。それに、本人たちの意思も関係しているかもしれない。 |
ライフィセット | カノヌシ……お前に……僕は渡さないっ…… ! |
ライフィセット | 僕は……、僕だーーーーっ ! ! |
ライフィセット | っ、はぁ……はぁ……解けた……。今の光、浄玻璃鏡…… ? |
ライフィセット | ――そうだ、ベルベット ! |
ライフィセット | ベルベット、すぐに治すから ! しっかりして ! |
ライラ | ライフィセットさん、私もお手伝いしますわ。頑張ってください……ベルベットさん ! |
アルトリウス | ………………。 |
ヘルダルフ | どうした、さすがの導師も不意打ちには泡を食ったか ! |
アルトリウス | …………そうか。お前が逃げ出したからカノヌシの分離が中断されたのか。 |
アルトリウス | まあいい。仕切り直しだ。餌となるお前を捕らえるところから始めるとしよう。ヘルダルフ。 |
ヘルダルフ | くくく、餌か。――導師スレイよ ! |
スレイ | えっ ! ? |
ヘルダルフ | 貴様が、ワシを呪ったあの男と違うと言うならば見事ワシを浄化して見せよ ! |
アルトリウス | 何のつもりだ。 |
スレイ | ――わかってる ! 行くぞ、ヘルダルフ ! |
アルトリウス | 馬鹿なことを。やれるものならやってみろ。魔導器の力で増え続ける穢れを浄化などできはしない。 |
スレイ | ………くっ ! |
ロゼ | ああっ、まずいよあれ。浄化した端からまた穢れが増えてる ! |
ファントム | ……一時的に穢れを虚無へ流し込みます。 |
アリーシャ | それはどういうことだ ? |
ファントム | 私が何度もヘルダルフを虚無に封じると言ったことをお忘れですか ? |
ファントム | 今、虚無はゲフィオンの人体万華鏡と彼女の心を守るカーリャの防御壁で守られている。 |
ロゼ | カーリャ……ネヴァンのことか。 |
ファントム | ですがカーリャの想像の力は創造のバロールには触れられなくても融合の私なら穴をあけられるんですよ。 |
ファントム | 魔導器が増やす穢れを虚無に流せれば少しは浄化の助けになるでしょう。ただし、長くはできません。せいぜい10秒ほどです。 |
スレイ | ファントム ! ? |
ファントム | ……あなたは理解できない。だが、永遠の地獄に誰かを追いやりたくないという気持ちは、私にもわかるのですよ。悔しいですがね。 |
ファントム | そのまま浄化を続けて下さい。やれますね、スレイ。 |
スレイ | ああ、ありがとう、ファントム ! |
アルトリウス | …………。 |
ザビーダ | おっと、妙な気はおこすなよ、導師殿。俺たちの得物は、みーんなあんたを狙ってるぜ。 |
アルトリウス | 邪魔はしない。お前たちの行為は、所詮絶望の再確認だからな。 |
ヘルダルフ | ぐっ……、導師……スレイ…… ! |
スレイ | わかってる。必ずお前の穢れを浄化する。 |
スレイ | 戻ろう。人間、ゲオルク・ヘルダルフに―― |
アルトリウス | まさか…… ! |
ロゼ | ねえ、これってさ……これって…… ! |
ミクリオ | ああ。やったな、スレイ。浄化成功だ。 |
ベルベット | あ……。 |
シアリーズ | 目が覚めましたね、ベルベット。 |
ベルベット | シアリーズ…… ! ?なんであんたがここに ? |
シアリーズ | いてはいけませんか ? |
ベルベット | だって、あんたはもうあたしの中にはいないはずだもの。 |
シアリーズ | そうですね。ですから今の私はあなたが見ている幻影のようなものです。 |
ベルベット | そっか。本当のあんたじゃないのね。でもまた会えて良かった。それに……謝らなきゃいけないことがあったから。 |
シアリーズ | なんでしょう。 |
ベルベット | アルトリウスを止めるっていう約束、果たせなかった。ごめんなさい。 |
シアリーズ | いいえ、終わってはいない。あなたには、まだ待っている人たちがいるでしょう ? |
ベルベット | どこに ? |
シアリーズ | ほら、あの小さな光。 |
ベルベット | あっ……。 |
? ? ? | ベルベット……。 ベルベット ! |
ベルベット | ……本当だ。あたし、まだたくさんやり残してる。 |
ベルベット | 行ってくるね。約束、ちゃんと守るから。 |
シアリーズ | ええ。いってらっしゃい、ベルベット。 |
キャラクター | 12話【13-14 ミッドガンド領 聖主の御座11】 |
ベルベット | …………。 |
ライフィセット | ベルベット…… ? |
ベルベット | フィー……。 |
ライフィセット | ベルベット、良かった ! 気が付いた ! |
ベルベット | ありがとう……、フィー。 |
ライフィセット | ううん、ベルベットの傷を治したのは僕だけじゃない。ライラも一緒だったんだ。 |
ベルベット | そういう意味だけじゃないんだけど……。 |
ライラ | 傷はふさがっていますが、立てますか ? |
ベルベット | ええ。ライラもありがとう。もう大丈夫。 |
ベルベット | フィー、あんたは平気なの ? |
ライフィセット | うん。スレイたちが来てくれたおかげで拘束術が解けたんだ。 |
ベルベット | えっ、今のなに ? |
ライラ | すごい……スレイさんついに、かの者の浄化を果たしましたわ ! |
ベルベット | やったのね、あいつ……。あれが本物の導師、か。 |
ライラ | ええ、そのとおりですわ ! |
スレイ | やったよ、ヘルダルフ ! 浄化成功だ ! |
ヘルダルフ | ワシは……、戻れたのか……。 |
アルトリウス | こんなことが……。 |
ヘルダルフ | ふっ……、ふははははっ !ざまを見ろ、導師アルトリウス ! 餌はもうない !貴様の計画もこれまでよ ! |
ヘルダルフ | はははははっ……はっ…………ごふっ……。 |
スレイ | ヘルダルフ ! |
アルトリウス | 私に一矢報いるために、己が命と交換か。高くついたな。 |
ヘルダルフ | ふっ、こうなることは全てわかっていた。 |
アルトリウス | 呪いによって弱った心核に、魔導器による穢れの増幅。精霊輪具を使った神依と、カノヌシへの力の譲渡。 |
アルトリウス | これほどまでに積み重ねられた負荷は憑魔であったからこそ耐えられたのだ。 |
アルトリウス | それが浄化によって人の身へと返れば当然のごとく死を迎える。それが理だ。 |
スレイ | ………………。 |
アルトリウス | 憑魔にその手でとどめを刺した、それだけのことだ。我が同胞、導師スレイよ。 |
ベルベット | 違うわ ! |
スレイ | ベルベット……。 |
ベルベット | そいつは、あんたとは違う。一緒にしないで。 |
アルトリウス | ……死に損なったか。 |
エレノア | ベルベット、ライフィセット !無事でしたか。 |
マギルゥ | なんじゃ、勢ぞろいではないか。まあ、主役は後から以下略 ! |
ライフィセット | みんな ! |
アルトリウス | もう片付けてきたのか。 |
ロクロウ | ああ、あのドラゴンゾンビか ?少々食い足りなかったな。次はもう少し骨太なのを頼む。 |
アイゼン | ベルベット、ここで片をつけるぞ。 |
ベルベット | ええ。今度こそ決着をつける。 |
アルトリウス | 私を殺すか。だがお前たちもすぐにスレイと同じ絶望を味わうだろう。 |
ヘルダルフ | ふ……ふはははは…… !貴様には……わからないだろうよ……。この導師が、貴様とは違うということを……。 |
ヘルダルフ | そうだろう、導師スレイ。お前はこうなることを知っていた。これが……ワシの望み。ワシの選んだ『救い』よ。 |
ファントム | あなたは……まさか……。 |
ロゼ | スレイ……。 |
スレイ | ――ヘルダルフ、それでもオレはこの世界を生きて欲しかったよ。 |
ヘルダルフ | ……行け、スレイ。 |
スレイ | ああ。 |
スレイ | オレは絶望なんてしていない。戦うよ、ベルベット ! |
ベルベット | 好きにしなさい。 |
スレイ | ああ、好きにする ! |
エドナ | そうね。他人に左右なんてされないわ。自分の舵は、自分で取るんだから。 |
アイゼン | フッ……。そういうことだ ! |
アルトリウス | どこまでいっても理を壊すか。 |
アルトリウス | わかっているのか、ベルベット。不十分とはいえ、カノヌシの力はまだ繋がっている。何度やっても先ほどの二の舞だぞ。 |
ライフィセット | 今度はさせないよ。ベルベットを傷つける奴は絶対に許さない。 |
アルトリウス | やめておけ。お前には器としての価値がある。 |
ベルベット | ……アーサー義兄さん。『なぜ鳥は空を飛ぶのか』答えがわかったわ。 |
アルトリウス | ……。 |
ベルベット | 鳥はね、飛びたいから空を飛ぶの。理由なんてなくても。翼が折れて死ぬかもしれなくても。 |
ベルベット | 他人のためなんかじゃない。誰かに命令されたからでもない。 |
ベルベット | 鳥はただ、自分が飛びたいから空を飛ぶんだ ! |
アルトリウス | 異世界に来てまで得た答えがそれか ? |
ベルベット | どこにいたって、きっと答えは同じ。 |
ベルベット | そう、それが『あたし』よ ! |
アルトリウス | その愚かさが業魔を生むのだ。悲劇は遥か後世まで続きやがて『憑魔』と呼ばれるようになる。 |
スレイ | ………………。 |
アルトリウス | 導師スレイ。貴様の隣に立つ者たちは世界に悲劇をもたらす元凶だ。お前もその一端を担う気か。 |
スレイ | あなたが実現しようとするものもオレには悲劇のように思える。 |
スレイ | 人が生きる限り悲劇は生まれるのかも知れない。変えようのない現実があるのかも知れない。それでもオレは、現実に正面から立ち向かう。 |
スレイ | 人の心が生むのは穢れだけじゃないと思うから。 |
ベルベット | アルトリウス、あんたはあたしたちを止められない。 |
アルトリウス | お前たちも私を止められん。 |
アルトリウス | ベルベット。今度は確実にとどめをさす。 |
ベルベット | 上等よ。殺すなら、しっかり殺せ ! |
ベルベット | さもないと……あたしが、あんたを喰らう ! ! |
キャラクター | 13話【13-15 ミッドガンド領 聖主の御座12】 |
アルトリウス | 成長したな。だが ! |
アルトリウス | 私は、世界の痛みを止めねばならんのだ ! ! |
ベルベット | あたしは、あんたを殺す ! 殺して、止める !――約束だからっ ! ! |
ライフィセット | 浄玻璃鏡が ! |
ベルベット | うおおおおおおっ ! ! |
アルトリウス | っ ! |
アルトリウス | がはっっ ! ! |
ロクロウ | 入った。 |
エレノア | 油断は禁物です。 |
マギルゥ | いや、あれで決まりじゃ。カノヌシは力の供給を絶たれておるでの。……回復も間に合わん。 |
ベルベット | …………。 |
アルトリウス | オーバーレイ、か……。異世界の力に……負けた、な。 |
ベルベット | ……ええ。ついでに聞かせて。 |
ベルベット | この世界では具現化という力があるわ。それでセリカ姉さんを生み出そうとは思わなかったの ? |
アルトリウス | ……たとえ、セリカを具現化しても俺が失った時間は戻らない。何より……。 |
アルトリウス | あのセリカが、そんなことを……望むと思うか ? |
ベルベット | ……そうね。 |
アルトリウス | ベルベット、俺は、ずっと思っていたよ。死んだのがセリカたちではなく……。 |
アルトリウス | 『お前たちだったらよかったのに』……と……。 |
ベルベット | …………。 |
アルトリウス | この世界に来て、思いはもっと、強くなった……。 |
アルトリウス | お前たちが死んでいたなら迷わず……具現化して……幸せな生活を……。 |
ベルベット | ええ……そうだったら良かったのに。 |
アルトリウス | ……ベル、ベット……。 |
ベルベット | なに ? |
アルトリウス | 元の世界……俺は……世界を……救えただろ……か……。 |
ベルベット | いいえ。あたしたちが止めたはずよ。何度倒れて、挫けようとあたしは立ち上がる。 |
ベルベット | あきらめるなって、教えてくれたじゃない。……あの開門の日に。 |
アルトリウス | ……………………。 |
ベルベット | ……もう、聞こえないのね。さよなら……アーサー義兄さん。 |
ヘルダルフ | ……はっ、あの男は、先に逝ったか。これで、心残りも……なくなったわ……。 |
スレイ | ヘルダルフ……。 |
ヘルダルフ | サイモン……どこだ……。 |
サイモン | 我が主……お側におります……。 |
ヘルダルフ | お前は、どこへなりと失せよ……。 |
サイモン | っ ! |
ヘルダルフ | もう、ワシに縛られるな。ワシはお前の主であった『ヘルダルフ』ではない……。 |
サイモン | いいえ ! 私には尊き方に違いありません。僅かばかりのお仕えでしたが御身はすでに我が主なのです ! |
サイモン | どうか、お側に置いてください…… ! |
ヘルダルフ | ならば申し付ける。ワシの代わりにお前が導師たちの行く末を見届けるのだ。 |
スレイ | ! ! |
ヘルダルフ | 己が志を貫くもよし、闇に堕ちるもまたよし……。面白い、見世物と……なる……。……いや、堕ちぬか……。この導師は……。 |
サイモン | ああ、主 ! ! お待ちください !私を置いていかないで ! |
ヘルダルフ | ワシを、楽しませよ……、導師スレイ……。…………。 |
サイモン | 主……。 |
スレイ | ヘルダルフ……。 |
サイモン | ――主に触れるな。 |
スレイ | サイモン……。 |
サイモン | ……主の望みを叶えてくれたことには感謝する。だが、主の最期の言葉を叶えるには……まだ……。 |
アリーシャ | 消えた ! ? |
エドナ | お得意の幻術でしょうね。 |
ライラ | サイモンさん、かの者の遺体をどこに……。 |
ロゼ | 救世軍へ戻っていればいいんだけどそういう感じでもなさそうだよね。 |
スレイ | …………。 |
ミクリオ | 大丈夫か、スレイ。 |
スレイ | え……ああ。 |
ザビーダ | おいおい、胸を張れよ、導師殿。お前はあのヘルダルフを浄化したんだぜ ? |
スレイ | 確かに浄化はできた。けど、オレ……ヘルダルフを救えたのかな。 |
ライラ | かの者にとって何が救いかは誰にもわかりません。本人にすらそれが本当に救いであったのかわからないこともあります。 |
ライラ | ですが、かの者は自ら浄化を望み、受け入れました。それだけは事実ですわ。 |
スレイ | ……オレ、へルダルフとファントムの話を聞いて何となくわかった気がするんだ。オレに欠けていたもの……。オレに必要なもの……。 |
ロゼ | それって―― |
スレイ | ……覚悟、かな。 |
ザビーダ | そう、か。 |
エドナ | ………………。 |
スレイ | 誰かや何かを救いたいと思うなら、救う対象を選別することはできない。あれは救うけどこれは救わないなんて誰にも決められない。 |
スレイ | だからヘルダルフも救いたかった。だけど、本気でそれを貫くためには、オレ自身が理想を貫いた先の結果に目を背けない覚悟を持たなきゃいけないんだ。きっと。 |
テレサ | あなたたち…… ! |
エレノア | テレサ ! ? |
ベルベット | …… !本当に、あんたなのね。 |
テレサ | アルトリウス様はどうしたのです ! |
ベルベット | そこよ。あたしが殺した。 |
テレサ | ――ああ……恐れていたことが…… ! |
テレサ | 業魔ベルベット !よくもアルトリウス様をっ ! |
ベルベット | いいわよ。恨みなら全部買うわ。――さあ、来なさい。 |
テレサ | …………っ。いいえ、今の私では、あなたたちには到底敵わない。 |
ベルベット | そう、なら手間が省けたわ。 |
テレサ | けれど、アルトリウス様のご意志はこのテレサが受け継ぎます。 |
テレサ | ベルベット、あなたは私の仇。必ずうち果たしてみせます ! |
ベルベット | 仇、か。また言われちゃったわね。 |
ライフィセット | ベルベット……。 |
ベルベット | 大丈夫。もう聞きなれてる。 |
ベルベット | あんたたちも、用は済んだんでしょ。 |
スレイ | ああ。終わったよ……。 |
ベルベット | だったらもう帰るわよ。 |
ベルベット | あたしたちは、こんなところで立ち止まっていられないんだから。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【14-1 アセリア領 領都】 |
| アセリア領・領都アルヴァニスタ郊外 |
帝国兵 | お待ちしておりました。グラスティン様。 |
グラスティン | アルヴァニスタの様子はどうだ ? |
帝国兵 | 反乱兵はどんどん数を増やしており勢いは収まる気配がありません。 |
グラスティン | 従騎士のモリスンが心核を取り戻して反乱の先頭に立っているという話だったな。 |
帝国兵 | はい。今、帝国側で動いているのはリビングドールβ兵のみです。 |
帝国兵 | γ兵たちは元々がレプリカで、最低限の刷り込みしか与えておりませんでしたので、機能不全に陥ったところを反乱兵たちが戦力として囲い込み―― |
グラスティン | ――待て。リビングドールγは確かに暗示が解けやすいが、そんなに簡単に大勢の兵の暗示を解くことはできない筈だ。 |
グラスティン | 誰かが意図的にやったんだろう。 |
帝国兵 | モリスンではないのですか ? |
グラスティン | そいつは俺が聞きたいなあ。その為にお前が情報収集役を任されたんだろう ? |
帝国兵 | し、失礼しました ! |
帝国兵 | グラスティン様の求める情報かはわかりませんが妙な男が反乱兵たちと接触していたという情報を掴んでおります。 |
グラスティン | 言い訳はいらない。詳細を話せ。 |
帝国兵 | はっ ! 身長はおよそ2メートル。魔鏡技師風の出で立ちでジェイソンと名乗っていたようです。 |
グラスティン | ……ヒ……ヒヒヒ……――やっぱりそうか。隠すつもりはないってことだな、あのエセ野郎め ! |
帝国兵 | では、やはりお捜しの男でしょうか。本名を名乗るような浅はかな真似をするか疑問だったのですが……。 |
グラスティン | いや、奴は見つけて欲しいんだよ。だから帝国に嫌がらせをしてるって訳だ。 |
グラスティン | ヒヒヒ、嬉しいよ。奴をこの手で捌く機会が訪れるとはなあ。まあ……どうせ二人目だろうが。 |
グラスティン | よし。今すぐ、デミトリアス陛下に連絡を取れ。 |
デミトリアス | ――それは本当なのか、グラスティン。 |
グラスティン | ああ。アセリア領の反乱にはジェイソン・フリーセル様が一枚噛んでいるようだぞ。 |
グラスティン | ヒヒヒ、アルトリウスたちが新大陸に兵を集めたせいで各領地に隙ができたところを狙って来るとはさすがビフレストのスパイは鼻が利くよなあ ? |
デミトリアス | ……やはり、あちこちで情報が上がっていた通りフリーセルが動いていたのか。 |
デミトリアス | しかし、フリーセルはファントムが殺した筈だ。そうなると……。 |
グラスティン | ああ。具現化だろうな。問題は誰が何のためにそれをやったのか、だ。今更、奴を具現化することに何の意味がある ? |
グラスティン | ビフレストの連中か ? それともフィルか ?ミリーナたちは二人目と三人目だ。フリーセルのことは知らないだろう。 |
デミトリアス | ……ジュニアではないのか ? |
グラスティン | 小さいフィリップ ? どうしてジュニアが……―― |
グラスティン | ……まさか……サレの奴か…… !あいつ……どこまで俺の足を引っ張るつもりだ…… !死んでからも亡霊のように、俺の計画を邪魔してくる。 |
デミトリアス | グラスティン、他の領都でも反乱が起きている。これを収めなくては。 |
グラスティン | ……知ったことか。 |
デミトリアス | グラスティン ! ? |
グラスティン | はき違えるなよ、デミトリアス。 |
グラスティン | お前がやろうとしているのはこの世界を正しく治めることじゃない。ニーベルング復活まで持たせることだ。 |
グラスティン | どうせもうすぐこの世界は終わる。お前がやりたい『正しい治世』とやらはニーベルングへ移住した後にするんだな。 |
デミトリアス | しかし、このままでは……。 |
グラスティン | 帝都のあるイ・ラプセル島だけ確保出来ていればいい。無駄なことは考えるな。 |
デミトリアス | だが――ぐぅ……。 |
グラスティン | ……アニマ汚染か。クロノスで時間を巻き戻しても体は恒常性を保とうとするようだな。 |
デミトリアス | これでは……結局私は昔と何も変わらない。 |
グラスティン | ヒヒ、お前は何も変わらないよ。変わらなくていいんだ。その方が面白いからなあ。 |
グラスティン | まあ、大人しく鏡精を喰らうかクロノスを再利用しろ。俺はフリーセルの足取りを追う。 |
デミトリアス | ……ぐぅぅ……。はあ、はあ……。薬を―― |
デミトリアス | 鏡精を喰らう、か……。私は……いつもこうだ。私は……私は……―― |
キャラクター | 2話【14-1 アセリア領 領都】 |
デミトリアス | …………はあ……はあ……。 |
フィリップ | あ……あの、大丈夫…… ? |
デミトリアス | だ、誰だ ! ? |
フィリップ | え……あ、ご、ごめんなさい……。苦しそうにしてたから……。あの……、誰か人を呼んでこようか ? |
デミトリアス | や、やめろ ! |
フィリップ | ! ? |
デミトリアス | ――すまない。いつもの……発作だ。それより……このことは誰にも言うな。誰にもだ。 |
フィリップ | は、はい……。 |
デミトリアス | きみは……見かけない顔……だな。 |
フィリップ | あの……僕、オーデンセから出てきたばかりで……。 |
デミトリアス | オーデンセ……。鏡士の島……。そうか……。だからきみは私のことを知らないんだな。 |
デミトリアス | きみの名前は ? |
フィリップ | フィリップ・レストン。あの、きみは……。 |
デミトリアス | 私はデミトリアス・ダナン・アースガルズだ。 |
フィリップ | デミトリアス……様…… ! ? |
デミトリアス | (フィリップ……。私と同じ病を抱えて生まれた鏡士。きみの意見を聞いていたら何か変わっていたのだろうか……) |
フィリップ | デミトリアス殿下。起きていて大丈夫なんですか ?倒れたと聞いていましたけれど……。 |
デミトリアス | ……ああ。心配を掛けてすまない。単なる過労だ。 |
フィリップ | ……それは、嘘ですね。アニマ汚染が始まっているのでは ? |
デミトリアス | ………………。 |
フィリップ | どうしてそこまで無茶をするんですか。あなたはセールンドの王子なんですよ。まして、僕と同じ先天性アニマ欠乏症なら、余計に―― |
デミトリアス | そのことは口にするなと言った筈だ。初めて出会ったときに。 |
フィリップ | それは……。 |
デミトリアス | 誰に聞かれているかわからない。そのことを知っているのは父ときみ、それから……―― |
グラスティン | デミトリアス。そこまでだ。さっきフリーセルが王宮に入った。下手なことを話せば、ビフレストに筒抜けだあ……。 |
デミトリアス | ……グラスティン。ジェイソンも我々の仲間だ。それに彼は私が呼んだんだ。 |
グラスティン | ヒ……ヒヒ……。お優しい殿下は、あのエセ野郎を切れないって訳か。 |
フィリップ | グラスティン、そういう言い方は止めた方がいい。 |
グラスティン | フィ……フィル……。そんな目で俺を見ないでくれ……。俺たちは……ここにいる三人は……同類だろ…… ? |
デミトリアス | どういう意味だ。 |
グラスティン | ヒヒ……ヒヒヒ……。だってそうだろ。みんな……誰かの魂を喰らった仲間じゃないか……。 |
デミトリアス | フィルは違う。それに私も――そうと知っていた訳ではない。知っていればあんな薬……。 |
グラスティン | だからその罪滅ぼしって訳か ?今度のエネルギー政策は。 |
デミトリアス | ……そうだ。キラル分子を20%減産する。そうすれば……鏡士たちの負担も減る。 |
デミトリアス | 生活に不便な点も出てくるだろうがどこかで今のキラル分子生産体制を止めなければ状況は好転しない。 |
フィリップ | それはその通りでしょう。けれど、王宮の中でも反対論が根強いと聞いています。イジアス陛下もあまり乗り気ではないとか……。 |
デミトリアス | 父上は鏡士を道具としか思っていない。父上を諫めるのも私の役目だ。ジェイソンもそう言ってくれている。 |
グラスティン | ジェイソン・フリーセル、か。デミトリアス……お前は奴に騙されているんだ。 |
フィリップ | ………………。 |
デミトリアス | フィル、きみもグラスティンと同じ考えなのか ? |
フィリップ | フリーセルの言っていることは正しい、とは思います。このままではセールンドのエネルギーシステムは破綻するでしょう。 |
フィリップ | ただ、彼が反戦論者である以上、今の僕はフリーセルとは相容れない。僕は……ミリーナと共にイクスの仇を取ると決めていますから。 |
デミトリアス | 私だって、ビフレストの侵略を黙って見過ごすつもりはない。 |
デミトリアス | だが、間違った政策は正さねばならないし例え思想に違いがあっても良い意見は吸い上げるべきだろう ? |
グラスティン | それがビフレストのスパイの言葉でも……か ? |
フリーセル | どうしたどうした ? 三人ともしけた顔して。 |
フィリップ | フリーセル……。いや、なんでもないんだ。 |
フリーセル | そうか ? まあ、フィルがそう言うならそういうことにしておくが……。 |
フリーセル | それより、デミトリアス。病み上がりなのに大丈夫なのか ?国立養育院の件で俺に聞きたいことがあるって話だが。 |
デミトリアス | ああ。ジェイソンの提案通り、我が国に留まっているビフレストの生活困窮者も国立養育院に収容しようと思ってね。 |
二人 | ! ? |
グラスティン | 正気か ! ? |
フリーセル | 何か問題でもあるのか ? |
グラスティン | 敵国の人間を救うってのか ?ドンパチやってるさなかに ? |
デミトリアス | 人道的には敵も味方もないだろう。 |
フィリップ | それは……そうだとは思います。でも、今、それを国立の施設でやるのは……。 |
デミトリアス | 民間の施設がビフレストの人間に手を差し伸べると思うか ? |
フィリップ | けれど、時期が悪すぎます。ついこの間もハンザ半島をビフレストの魔鏡兵士が襲撃して多数の死者が出たばかりだ。 |
フィリップ | その上キラル分子の減産を強行すれば国民の大多数が殿下をビフレストに利する裏切り者と見なす恐れがあります。もっと段階を踏むべきだ。 |
フリーセル | フィル。お前のその弱腰はいたずらに鏡精の犠牲を増やすだけだ。 |
グラスティン | お前如きがフィルに意見するな。お前こそ、そのやり口はセールンドの国内に不和をまき散らすだけだ。 |
フリーセル | 俺はそんなことをするつもりはない。そもそも戦争が止まればそいつが一番なんだ。 |
グラスティン | 攻めてきてるのは、ビフレストの方なんだがなあ…… ? |
デミトリアス | みんなやめてくれ。父上も私も、ビフレストに対して折れるつもりはない。だが、弱っている民に手を差し伸べることも間違っているとは思わない。 |
デミトリアス | それが敵国の人間であっても、だ。 |
グラスティン | ヒ……ヒヒ……デミトリアス。お前のその考えは、いずれお前を殺しにくるぞ ?正しさは必ずしも救いにはならないんだからなあ ? |
帝国兵 | ――陛下 ! ? どうなさいましたか ! ? |
デミトリアス | ……大事……ない。いつもの発作だ。今、薬を飲んだ……。 |
デミトリアス | (私が選んだのは、フリーセルの手だった) |
デミトリアス | (あの後、私はキメラ結合の研究中に事故に巻き込まれアニマ汚染が一気に進行した。グラスティンがかばってくれなければ、命すら危うかっただろう) |
デミトリアス | (だが、あの事故は――仕組まれたものだった……) |
キャラクター | 3話【14-2 雪原1】 |
リグレット | ……ここが新しく具現化された大陸、か。 |
リグレット | 私も具現化された身だ。元の世界では具現化に似た力を利用していた立場でもあるから技術を疑っていたわけではないが―― |
バルド | 機械の力に頼っているとはいえ、一人の人間が生み出したものだと考えると、鏡士という存在の持つ強大な力を思い知らされますね。 |
コーキス | これ、メルクリアが造ったんだよな。造らされた、だけど。 |
リグレット | ああ。これだけの仕事をさせられたのだ。かなり弱っているように見えたが皇女殿下は大丈夫なのか ? |
バルド | ……弱っておられるのは、リビングドール状態で具現化を行ったためでしょう。心を操られた状態では魔鏡術の力も弱まってしまうそうなので。 |
バルド | メルクリア様の本来のお力ならこの新大陸ももっと広大なものを造れた筈ですよ。 |
リグレット | ……確かに島よりは大きいが、他の大陸に比べると面積は小さいようだな。となると帝国の手に落ちるのも時間の問題か。 |
リグレット | 具現化されたばかりだというのに抵抗勢力がしっかりと力を持っているようなのは驚いたが。 |
バルド | その点は、私も気になっています。 |
バルド | 帝国が具現化したのですから、帝国への帰属意識を植え付けられていてもおかしくない筈ですがそうはなっていない。 |
バルド | とするとこの大陸は一体何のために具現化されたのか。 |
コーキス | マスターたちは、異世界のアニマを補充するために具現化をしてただろ。帝国もそうなんじゃないのか ? |
バルド | いや、コーキス。よく考えてごらん。帝国はニーベルングを甦らせようとしている。この世界を維持する必要はない筈だよ。 |
コーキス | あ……そうか……。壊しちゃうつもりなんだもんな。 |
コーキス | ディスト様なら何かわかるのかな。 |
バルド | そうだね。博士からなら何かしら有益な意見をいただけるかも知れない。 |
バルド | ………………。 |
リグレット | ………………。 |
リグレット | ……その点に異論はないが、あまり頼りすぎるなよ。ディストは敵対すると厄介だが味方にするともっと厄介な存在だ。 |
リグレット | それより―― |
バルド | ――ええ。 |
バルド | そこに隠れている者。出てきなさい。 |
コーキス | え ! ? え ! ? |
? ? ? | …………生きて……おられたのですか…… ? |
バルド | その声は……フリーセル……。ジェイソン・フリーセルか ! ? |
フリーセル | ――ご無沙汰しております。バルド様。 |
コーキス | え ! ? こいつがジュニアが具現化させられたっていう……。 |
フリーセル | 何故それを知っている ! ? |
コーキス | 何故って―― |
バルド | いや、コーキス。私から説明するよ。 |
バルド | ジュニアのことは知っているんだな。今、私とウォーデン殿下はそのジュニアと共に行動しているんだ。 |
フリーセル | ウォーデン殿下がリビングドールで甦ったことは私も存じております。しかしバルド様までとは……。 |
バルド | ここできみに会えるとは思わなかった。きみは何故ここにいる ?そして何をしようとしているんだい ? |
バルド | そもそもきみは何をどこまで知っているのかそれを教えてくれないだろうか。 |
フリーセル | 私が知っているのは、セールンドの鬼畜共が再び世界を滅ぼそうとしていることだけです。 |
フリーセル | 全ては私が……最初の私がデミトリアスと奴の取り巻きを処理しきれなかった手落ち。申し訳ございません。 |
バルド | 処理、とはどういうことだ ?それが暗殺を指しているなら、少なくとも私はきみにそんなことを命じた覚えはない。 |
フリーセル | ウォーデン様が薨御なされた後皇后陛下より勅命を賜りました。 |
バルド | 皇后陛下が……。あの方なら、確かに……。 |
リグレット | バルド。場所を移してはどうだ。こんな雪原では、いつ敵対勢力に発見されるかわからない。 |
バルド | 確かにそうですね。 |
バルド | フリーセル。我々と共に来てくれないか。ウォーデン様にもご挨拶するといい。それに聞きたいことが山のようにある。 |
フリーセル | ……ありがたきお言葉。ですが、私はウォーデン様の下に参じることはできません。 |
バルド | 何故だ。 |
フリーセル | 私は……過去の亡霊です。ですが、やり残した仕事を片付ける機会を得たとも思っています。 |
フリーセル | この命は皇后様のために捧げるつもりです。 |
コーキス | それってデミトリアスを殺すってことか ? |
リグレット | いや、その取り巻きとも言っていたな。デミトリアス、グラスティンの両名だけならナーザ――ウォーデンらにも有益だろうが……。 |
バルド | ……ええ。皇后様のご命令であれば当代ビクエやマークやゲフィオン、それにゲフィオンのカーリャも、ということになりますね。 |
バルド | 二人目三人目まで標的にするつもりかはわかりませんが。 |
コーキス | ミリーナ様も狙われるってことかよ ! ? |
バルド | 考え直してはくれないか、フリーセル。今の状況でビクエたちに手を掛けられるのはウォーデン殿下にとっても不都合だ。 |
フリーセル | それはできません。私を具現化させたサレへの恩義もある。 |
フリーセル | どうしようもなく救いがたい男ではありましたが私が行っていることの醜悪さが奴への手向けとなるでしょう。 |
バルド | 醜悪とわかっているなら、何故止めようとしないんだ。 |
フリーセル | 私はビフレストのスパイでしたが同時にデミトリアスらの学友でもありました。止めるべきだった。デミトリアスが毒に染まる前に。 |
フリーセル | ですから、私は私のやり方で落とし前をつけるつもりです。 |
バルド | フリーセル ! |
フリーセル | ビフレスト皇国とウォーデン殿下に栄光あれ。 |
フリーセル | ――失礼します。 |
コーキス | なあ、行かせていいのか ? |
リグレット | まずいだろうな。 |
リグレット | 仕方がない、こちらで監視をする。 |
コーキス | え ! ? どうやって ! ? |
リグレット | 当面はアリエッタの魔物に協力してもらうほかはないだろうな。 |
リグレット | それに私やコーキスは面が割れてしまったが誰かをフリーセルのところに送り込みたい。 |
バルド | ……となると、救世軍やイクスたちに協力を頼む必要がありそうですね。 |
リグレット | そうなるな。まさか、閣下やディストを送り込むわけにもいかない。 |
コーキス | ヴァン様やディスト様が近づいてきたらフリーセルにめちゃくちゃ疑われるもんな。 |
バルド | ……どうでしょう。ディスト博士はともかくヴァンは……案外上手く懐に潜り込みそうな気もしますが。 |
リグレット | 閣下にそのようなことはさせられない。 |
バルド | もちろんです。あの方の中には精霊ローレライが存在している。 |
バルド | それに……ナーザ様からもヴァンから目を離すなと言われております。 |
リグレット | フ……。それは賢明なことだ。 |
キャラクター | 5話【14-5 アジト2】 |
イクス | ファントムは目が覚めていたんですか ! ? |
ヨーランド | ええ。まだ回復しきってはいないけれどね。私の手が回らない所は彼にお願いしているの。 |
ミリーナ | ファントムが協力してくれるなんて……。 |
ヨーランド | そう驚くことでもないわ。狂化止めで冷静さを取り戻しているし。 |
ミリーナ | ええ……そうですね。 |
ヨーランド | ただ、だからこそ心配だともいえるけれど―― |
イクス | どうしました ? |
ヨーランド | …………やっぱり変ね。少し前からオリジンの力を強く感じる……。 |
イクス | まさか、アルトリウスが何かしたんじゃ…… ! |
ヨーランド | いいえ、違う。これは……。 |
ミラ=マクスウェル | 済まない、邪魔をするぞ。 |
ミリーナ | ミラ、どうしたの ? |
ミラ=マクスウェル | さっきから精霊の気配がおかしい。何というか、妙な感触がするんだ。 |
ヨーランド | あなたも察知していたのね。異世界のマクスウェル。 |
ミラ=マクスウェル | 驚いたな。通信相手はヨウ・ビクエか ? |
ヨーランド | お邪魔しているわ。マクスウェル、あなたが感じ取ったのはきっと私と同じものよ。 |
ヨーランド | あれはオリジンと、そしてクロノスの力。二人がどこかで邂逅し、接触したんだわ。 |
ミラ=マクスウェル | なるほど。この気配は彼らだったのか。 |
イクス | オリジンとクロノスって……、何が起きてるんだ。 |
フィリップ | イクス、聞こえるかい ?ベルベットたちについて報告がある。 |
イクス | フィルさん、ええと、今……。 |
ヨーランド | 丁度いいわ。報告してちょうだい。 |
フィリップ | ヨーランド ! ?魔鏡通信に干渉しているのか ! ? いや、それよりあなたは手が離せない状況だとリーパが―― |
ヨーランド | ええ、今もそうよ。こうして話すのも結構ギリギリ。だからイクスにはオリジンのことも大まかにしか話していないの。 |
ヨーランド | あなたはファントムから説明を受けたでしょ。イクスたちにも聞かせてあげて。 |
フィリップ | わ……わかりました。 |
フィリップ | ――イクス、まずベルベットとスレイたちだが先ほどミッドガンド領へ向かったよ。 |
イクス | ――そうですか。本当にファントムは協力してくれているんですね。 |
フィリップ | ああ。この状況もあってまともに話すことはできなかったけどね。それに、クラトスさんとエルレインも心配だ。 |
ミリーナ | 二人が軽くぶつかっただけで倒れたなんて変よね。何かの影響を受けたのかしら。 |
ミラ=マクスウェル | フィリップが話したとおりなら私が妙な気配を感じ始めたのと同じ頃だな。 |
ミリーナ | 妙な気配……オリジンとクロノスの接触のことね。 |
イクス | クロノス……か。確かエルレインさんは【クロノスの檻】に閉じ込められたことがあるよな。 |
ヨーランド | ……なるほど、そういうことか。彼女はクロノスと会っているのね。もしかしてクラトスもオリジンと関係があるのかしら ? |
ミトス | あるよ。 |
イクス | ミトス ? いつの間に……。 あっ、そうか。ミトスもオリジンと契約していたって言ってたよな。 |
ミラ=マクスウェル | なるほど。それでお前も異変を感じたのだな。今の話も聞いていたのだろう ? |
ミトス | 聞こえちゃったんだよ。天使は耳がいいからね。 |
ミトス | 余計な口出しはしないつもりだったけどクラトスのことなら話は別。 |
ミトス | 元の世界で、ボクはオリジンを封じていた。クラトスの命を使ってね。 |
ミトス | もしその時の状態のまま、この世界に具現化されたならクラトスはオリジンと繋がりを持った者としてこの世界に認識されているんじゃない ? |
ヨーランド | オリジンを封じていた……。それは、このティル・ナ・ノーグと同じ状況ね。ここでもオリジンは封じられている……。 |
ヨーランド | ………………。 |
ヨーランド | ――話してくれてありがとう。これでおおよその予測が付いたわ。 |
ヨーランド | オリジンとクロノスに縁を持った者同士が接触した。つまり彼らを通じて、オリジンとクロノスが接触を果たした……んでしょうね。 |
フィリップ | その衝撃で二人は倒れたのか。まずは原因がわかっただけでも良かったよ。 |
フィリップ | 後は、スレイやベルベットたちがどう動くかでオリジンの状況も変わっていくはずだ。 |
ミラ=マクスウェル | 本当にアルトリウスとやらが原因であれば思いとどまってくれれば済む話だが……。 |
ミトス | 思いとどまる、ね。それは簡単なことじゃないんだよ、マクスウェル。 |
ミトス | ボクは奴を知らないけど、他にどんな選択肢があろうと戻れないし、戻ってはいけない道もあるんだ。世界の仕組みを変えようなんて思い至った段階でね。 |
ミリーナ | …………。 |
イクス | ……やっぱり、俺たちもスレイやベルベットさんの加勢に行った方がいいんじゃないか ? |
ヨーランド | いいえ、彼らに任せた方がいい。それにあなたには、やるべきことがあるのよ、イクス。 |
イクス | 俺に、ですか…… ? |
ヨーランド | ええ。あなたにしかできないことなの。 |
キャラクター | 6話【14-6 アジト3】 |
イクス | 俺が……っていうことはもしかしてバロール絡みですか ? |
ヨーランド | それも含めた面倒事になる予定よ。ただ、まだわからないことが多いからあなたたちからも情報が欲しいの。 |
ミラ=マクスウェル | オリジンで手一杯で情報収集が追い付かないか。 |
ヨーランド | ええ。何しろ新大陸の現状把握さえままならない状態なのよ。 |
イクス | 新大陸ならネヴァンが先行して調査に向かっています。すぐに連絡をとって―― |
ミリーナ | 待って、魔鏡通信が……バルドさんからだわ ! |
バルド | ミリーナさん ? 通じてよかった。イクスさんもそちらにいますか ? |
ミリーナ | ええ。 |
バルド | そうですか。何もないなら良いのですが何故かイクスさんとの魔鏡通信が通じにくくて……心配していたんです。 |
イクス | ああ、多分、魔鏡通信への干渉が―― |
ヨーランド | 待って、私やフィリップの話は込み入ってるから後回しで。まずは彼の用件を聞いてちょうだい。 |
バルド | 失礼、誰かと通信中でしたか ? |
イクス | ええ、まあ……。後で詳しく話します。そちらの用件を先に聞かせてください。 |
バルド | わかりました。まず確認をさせてください。最近、私たちのアジトと魔鏡通信が通じなかった理由はそちらに伝わっていますか ? |
イクス | はい。ヴァンさんの救出の際にリグレットさんたちから事情を聞いたと報告がありました。 |
イクス | サレに暗示をかけられたジュニアを保護するために外界との接触を避けているんですよね ? |
バルド | ええ。ご存知の通り我々のアジトはジュニアの仮想鏡界です。彼に何かあったらひとたまりもありませんからね。 |
イクス | 確かに、サレがどうなったかもわからないしなぁ。 |
ミリーナ | ヴェイグさんたちも気にしているのよね。最後に会った村の周辺も継続して調べているけど消息はわからないって……。 |
バルド | なるほど。ともあれ、こちらの事情が伝わっているようで安心しました。これから話すのは、その件を踏まえてのことです。 |
バルド | サレに暗示をかけられたジュニアがある人物を具現化していたんです。 |
バルド | その人物は、私たちの同胞にして救世軍の初代指導者、フリーセル。 |
二人 | フリーセル ! ? |
フィリップ | ! ! |
バルド | ええ。私は先ほど調査中の新大陸で彼と出会いました。 |
イクス | やっぱりそうだったのか…… ! |
バルド | ということは、彼とはすでに ? |
イクス | はい。この間、テルカ・リュミレース領で戦った盗賊がフリーセルに似ているとネヴァンが言っていました。 |
バルド | ネヴァンが言うのであれば具現化されたフリーセルに間違いないかと思いますよ。 |
ミリーナ | バルドさん……、フリーセルとは何か話を ? |
バルド | ええ。その内容を伝えるために連絡を取りました。 |
バルド | 今の彼は、あなたたちや、ネヴァンそれに当代ビクエやマークにも害を及ぼしかねません。 |
三人 | ! ! |
ミリーナ | フリーセルはそんなことを……。 |
イクス | 事情はわかりました。それなら救世軍には俺たちの方から連絡します。潜入できそうなメンバーも見繕っておきますね。 |
バルド | ええ、お願いします。こちらではアリエッタの魔物たちに監視を頼んでいますので。 |
イクス | 他には何かありますか ? |
バルド | 我々としてはそちらの状況が気になるのですが察するにイクスさんたちの方も色々と慌ただしいご様子ですね。 |
イクス | 実は……そうなんです。 |
バルド | では、後程詳しく伺うことに致しましょう。私たちも新大陸の調査とフリーセルの件がありますからお互いに目途が付き次第、情報をすり合わせればいい。 |
バルド | こちらもなるべく定期的にアジトを離れて魔鏡通信を確認しますね。 |
バルド | では、また――……えっ ? |
イクス | バルドさん ? どうかしたんですか ? |
コーキス | マ、マスター ! ミリーナ様 ! パイセンも !気を付けてくれよなっ ! |
三人 | ! ! |
バルド | ――だそうです。では失礼します。 |
イクス | コーキスの奴……。 |
ミリーナ | ふふ、心配してくれているのね、コーキス。 |
カーリャ | まったく、コーキスは早く帰ってくればいいんです。 |
フィリップ | …………。 |
ミリーナ | フィル、どうしたの ? 顔色が悪いみたいだけど……。 |
フィリップ | ああ、すまない。覚悟はしていたけど、本当にフリーセルが……。 |
ミリーナ | そうね……ビフレストのスパイだったとはいえフィルにとっては友人ですものね。 |
フィリップ | その友人をファントムが殺し、ジュニアが具現化して……僕は再び敵対しようとしている。正直、やりきれないよ。 |
フィリップ | ヨーランド、ファントムには……リーパにはまだこのことを伝えないでもらえますか。 |
ヨーランド | ええ。今の彼を動揺させたくないもの。仕事も任せていることだしね。 |
イクス | フィルさん、ファントムはどうしてフリーセルを殺したんですか ? |
イクス | そもそも、どうして同一人物だったフィルさんとファントムはこんなにも違ってしまったんでしょう。俺と最初のイクスのような感じですか ? |
フィリップ | それは……。 |
イクス | あ ! あの、フィルさんを責めようとかそういうことじゃないんです。すみません。あの……話しにくいことならまた改めてでも……。 |
フィリップ | い、いや、責められて当然なんだ。ただ、その……。 |
ヨーランド | ……オリジンはまだ動かないわね。いいわ。今のうちに私からファントムについて少し話をしましょうか。 |
フィリップ | え ! ? あなたが ? |
ミトス | だったらボクたちは行こう、マクスウェル。どうせ胸が悪くなる話なんだ。聞くことないでしょ。 |
ミラ=マクスウェル | そうだな。私たちはフリーセルを偵察できそうな者に当たりをつけるとしよう。オリジンに変化があったらすぐに呼んでくれ。 |
ヨーランド | ふふっ、いい子たち。気を遣ってくれたのね。 |
フィリップ | ヨーランド、どういうことですか ?リーパはあなたに何か話したんですか ? |
ヨーランド | いいえ。ただ、彼を治療している時に私に流れ込んでしまったのよ。彼の思考――思いがね。 |
ヨーランド | 恐らく、ミリーナの中のゲフィオンの記憶やフィリップの記憶と照らし合わせると彼の狂気への道筋が見えるはずよ。 |
フィリップ | であれば、まずは僕から話をさせて下さい。あなたが感じたリーパの思いはなるべく公開しないであげて欲しい。 |
フィリップ | 彼を自分の付随物としか思っていなかった僕ですが……今は悔いています。リーパにも隠しておきたいことはある筈ですから。 |
ヨーランド | そうね。その通りだわ。じゃあ、最低限、必要と思えたことだけ補足するようにするわね。 |
キャラクター | 7話【14-7 アジト4】 |
ヨーランド | フィリップがファントム――リーパを具現化したのは同一時空に同一存在を具現化する実験のためだった。そうよね ? |
フィリップ | ……ええ。同一存在は記憶を共有してしまう。具現化された二つの存在を別人として確立するためにはその繋がりを断ち切る必要があった。 |
フィリップ | そうしないと、具現体と具現元の双方の心が互いに過干渉して、【狂化】と言われる状態に陥ってしまう。 |
イクス | 【狂化】 ? そういえば具現化の教本の中に、魔鏡術のバックファイアを受けたことによる【狂乏症】という症状について書かれているのを読んだことがあります。 |
イクス | 語感が似ていますけど同じようなものなんでしょうか。 |
ミリーナ | ……ええ。心を扱う技術だからこそ心の調子が狂うような症状も起きることがあるの。 |
ミリーナ | ゲフィオンがイクスを助けようとして心が壊れてしまったのも【狂乏症】の症状の一つよ。 |
フィリップ | 【狂化】というのは、ゲフィオンとミリーナの境界が曖昧になった状態が近いかもしれないね。僕とリーパは鏡精であるマークを共有していた。 |
フィリップ | つまりリーパは僕と心が繋がった状態で具現化された。そのせいで、お互いの存在を食い合う状態になっていたんだ。 |
フィリップ | リーパと僕なら、僕の方が存在の強度が強い。リーパには固有の鏡精がいなかったからね。 |
フィリップ | だからリーパは僕に侵蝕されて、彼の中の願いや希望が先鋭化して歯止めがきかなくなる傾向があった。 |
ヨーランド | リーパを食い殺さないために、フィリップは自分とリーパの心に狂化止めという術式を組み込んだのよね。 |
ヨーランド | でもフィリップは当時すでにアニマ汚染が始まっていたから、心身の老化現象で狂化止めの術式を今までより強力なものに変更する必要があった。 |
ヨーランド | それが、リーパがファントムへと変わるきっかけよ。 |
フィリップ | リーパ。僕たちに仕掛けた狂化止めの術式が弱まってきている。それはきみも感じているよね。 |
ファントム | ……ええ。 |
フィリップ | だから僕は、狂化止めの術式をより強いものに変えられないかやってみるつもりだ。 |
フィリップ | これが上手くいけば、過去から具現化を行っても心を分断し、記憶の共有を断ち切れるかも知れない。 |
ファントム | それはやめて下さい。 |
フィリップ | ……え ? |
ファントム | もし新たな狂化止めで私とあなたの繋がりが断ち切れたら、私はあなたの望みを叶えてあげられなくなってしまう。 |
フィリップ | ……いや、それは駄目だよ。リーパの言いたいことはわかっているけれどそれは容認できない。 |
ファントム | いや、わかっていない ! イクス・ネーヴェは死んだ。あなたがすることは、イクスを過去から具現化することではなくて、ミリーナとの未来を構築することです。 |
フィリップ | ミリーナは……僕なんか眼中にないよ。それに僕だって、イクスのことが好きなんだ。 |
フィリップ | イクスとミリーナが幸せになってくれれば……僕はそれで……。 |
ファントム | 欺瞞だ !私にはあなたの心がわかるのですよ。鏡精であるマーク以上に。 |
フィリップ | リーパに伝わっているのは、【狂化止め】で歪んだ僕の心だ。それに、人には相反する感情や思考が存在しうるものだよ。 |
ファントム | つまり、私が感じているあなたの思いはあなたが隠している欲望というわけだ。 |
ファントム | それの欲望は犯罪ではありませんよ。イクスを過去から甦らせるほうがよっぽど道義に反している。 |
ファントム | あなたはかつてイクスに鏡の欠片を突き刺した事実を消し去りたいだけだ。 |
フィリップ | やめてくれ……。 |
ファントム | カーリャもマークもイクスを具現化することに反対しています。作り出された側の存在は皆同じ結論に辿り着いている。 |
ファントム | フィルがどうしても計画を実行するというのなら、私はフリーセルを利用してあなたとミリーナの計画を止めますよ。 |
フィリップ | まさか……救世軍を動かすつもりか ?あれは休戦後の治安維持のために組織した自警団なんだよ。それを―― |
ファントム | ――それを、なんです ? 私利私欲のために使うな ?冗談ではありませんよ。イクスの具現化も私利私欲だ。 |
ファントム | 救世軍だって、ミリーナに対しておかしな動きを見せているフリーセルをガス抜きして同時に監視するための組織だ。 |
ファントム | 何もかも私利私欲でしょう。 |
フィリップ | ああ、そうさ。きみも僕ならわかって欲しいよ。僕は、やっとミリーナの共犯者になれたんだ。 |
フィリップ | 僕を邪魔するならきみが僕であっても……僕は許さないよ。 |
ファントム | それでも私は諦めない。あなたを救うためには私が救われる世界を構築するべきなんだ。そこにイクス・ネーヴェはいらない ! |
ファントム | 邪魔なものは排除するだけです。それがあなたを守り願いを叶えることになる。私は私のために私の願いを叶えます。 |
フィリップ | ! ? |
フィリップ | その時だったよ。リーパが自分と僕を同一視し始めていることに気付いたのは。 |
フィリップ | その頃から、僕の願いを感じ取ったリーパが願いを自分のものと考えるようになりそれを叶えるために行動するようになっていったんだ。 |
ヨーランド | それはちょっと違うわね、フィル。それはあなたが見た真実。リーパの真実とは違う。 |
フィリップ | え ? |
ヨーランド | リーパは確かに狂化が進んで自分とフィルの境界が曖昧にはなっていた。 |
ヨーランド | けれど彼は自分とフィルをまだ完全には同一視はしていなかったのよ。 |
ヨーランド | いずれはそうなるかも知れなかったけれど、彼は本気で「あなたとミリーナが幸せになる世界」を作ることが自分の願いだと思っていたの。今でもきっと、ね。 |
フィリップ | ………………。 |
キャラクター | 8話【14-8 アジト5】 |
イクス | ……少し気になったんですけど、救世軍はフリーセルのガス抜きをするための組織だったんですよね。 |
イクス | ということは、当時からフリーセルがスパイとして危険な行動を取ろうとしていることはわかっていたんですね。 |
フィリップ | 確たる証拠はなかったけれど、ね。彼は友情をもって僕らと交流してくれていたし弱者に対しての優しさも本心だったと思うよ。 |
フィリップ | ……僕がそう信じたいだけかも知れないけど。 |
マーク | 救世軍を結成してからのフリーセルの話なら俺の方が詳しいかもな。 |
マーク | ゲフィオンは救世軍の結成にフィルが関わっていることを知らなかったしフィルもファントムや俺に任せきりになっちまってた。 |
ミリーナ | そうね……。ゲフィオンは救世軍にマークが関わっていることをイクスから聞いて驚いたぐらいだから……。 |
マーク | 実際、救世軍に関しては失敗だったよ。あ、いや、今の救世軍がどうこうって話じゃないぜ。当時の『フリーセルのガス抜きと監視』って名目がな。 |
マーク | 俺たちの見込みが甘かった。ファントムとフリーセルが化学反応を起こして、まるでテロ組織みたいになりかけてたからな。 |
マーク | 当時のフィルはアニマ汚染でかなりやばい状態だったし俺も……まあ、ファントムの計画に荷担してたしな。 |
イクス | 以前の救世軍はゲフィオンに反抗していたもんな……。 |
マーク | フリーセルはゲフィオンが世界を壊したと思っていたからな。まあ、正確にはゲフィオンとうちのマスターの仕業なんだが―― |
イクス | それはそうかも知れないけど、カレイドスコープを推進したセールンドにも、セールンドに攻め入ったビフレストにも責任はあるんじゃないかな。 |
イクス | 戦争って……どちらか片方だけが悪いなんてことはないと思うし、兵器を作った人間だけが悪いってこともないだろう ? |
ミリーナ | ビフレストにはビフレストの大義がセールンドにはセールンドの大義があった……ということよね。 |
カーリャ | ビフレストの大義って……バロールの血族に鏡精を作らせないってことですよね ? |
イクス | 結局、そこに突き当たるんだな。やっぱり創世神話の写本を見つけないと。 |
イクス | ――いや、ヨーランドさんなら何か知っているんじゃないですか ? |
ヨーランド | 何の話 ? |
イクス | 俺の両親が残していた遺言なんですけど―― |
女性の声 | あなたは知っているかしら。自分がバロールの血を引きバロールの魔眼を受け継ぐ子供だということを。 |
男性の声 | オーデンセという島は、この世界の原初からある島だ。伝承によれば、この地にバロールの血族がいるのは罪人を留め置くためだという。 |
男性の声 | 今ではバロールの力が罪であるかのように言われているが、決してそうではない。そのことを私たちは、セールンドに来て知り得た。 |
男性の声 | だからイクス、お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。 |
イクス | (これがイクスさんが言っていた母さんたちの遺言…… ?) |
女性の声 | この世界は大きく揺らぎ始めているわ。セールンドで作り出されたキラル分子供給のしくみが罪人の揺り籠であるこの世界を滅ぼそうとしているの。 |
女性の声 | 世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。 |
イクス | バロールの力って……いえ、バロールはこの世界にとってどういう存在なんですか ? |
ヨーランド | 女神ダーナやナーザと共にこの世界を創った鏡士。そしてバルドが言っていたように、命を生み出す存在……だという話よ。 |
ヨーランド | ナーザの想像の力がティル・ナ・ノーグという巨大な仮想鏡界を創り、バロールの創造の力がその仮想鏡界を現実に変えた。 |
ヨーランド | それら二つの力を繋いだのがダーナ様の融合の力。バロールの力が失われればこの世界は本当に単なる幻になってしまう。 |
イクス | そうか、ティル・ナ・ノーグそのものがこの浮遊島アジトと同じ成り立ちなんだ……。 |
ヨーランド | ええ、そういうことね。――あら ? でも……。 |
イクス | どうしたんですか ? |
ヨーランド | いえ、そうじゃなくて。おかしいと思わない ? |
ヨーランド | セールンドの王室では創世神話をおとぎ話のように思っていたのよね。でもご両親の遺言は、私が今話した情報を知った上での言葉のように聞こえたわ。 |
ヨーランド | ううん、或いは私以上の情報を知っていたのかも知れない。 |
イクス | え、ええ……。それが創世神話の写本の可能性があると思ったんです。セールンドの王宮にあったらしいんですけど……。 |
ヨーランド | だったらセールンド王家の人間も、その本を読んでいた筈よね。写本が核心に迫る内容だったのだとしたら王家の人間も知っていなければおかしい。 |
ヨーランド | おとぎ話だと思っていたという証言とは矛盾するわ。だとすれば……セールンド王家の人間は『知っていて』世界を壊そうとした…… ? |
ミリーナ | 世界を壊してしまったのはゲフィオンですよね ? |
ヨーランド | けれど、ビフレストとの約束を反故にしてバロールの魔眼を受け継ぐ最初のイクスを鏡士にしたのよね。 |
ミリーナ | それは、最初のイクスがゲフィオンの心の傷を治すために志願したことです。セールンド王家の意向では―― |
ミリーナ | あ、でも、鏡士になるための登録はする筈だわ。王国からの認可証が届いたからイクスとゲフィオンは結婚することになったんだし……。 |
フィリップ | イクスが正式に鏡士になったのなら宮廷鏡士たちに伝わる筈だ。当然僕にも。 |
フィリップ | けどイクスが鏡士になったという話を聞いたのはゲフィオンがセールンドに避難してきた後だ。 |
フィリップ | つまり、王家や先代のビクエは最初のイクス――バロールの魔眼を受け継いだ血族が鏡士になったことを知っていた。 |
フィリップ | それを……恐らくフリーセルは察知してビフレストに報告した……のかもしれない。 |
ヨーランド | 一刻も早くその写本とやらを見つけた方がいいわね。それと、ルグの槍に関してだけれど……。 |
イクス | ルグの槍――ニーベルングを転送するための転送装置ですよね ? |
ヨーランド | 帝国がその目的で使おうとしているだけ。本来はバロールと彼の鏡精ルグを結ぶアニマの通り道と聞いているわ。 |
イクス | バロールの鏡精……。 |
ヨーランド | ――あ ! オリジンの暴走が……止まった ? |
ミリーナ | ベルベットたちだわ ! |
ヨーランド | ――そのようね。私はこの隙に、オリジンの存在を安定させる作業に戻るわ。また連絡します。 |
ヨーランド | イクス、あなたがやるべきこと――あなたにしかできないことを伝えておくわ。 |
イクス | は、はい ! |
ヨーランド | ルグの槍を手に入れて。恐らくご両親もそれを伝えようとしていたのだと思うわ。 |
ヨーランド | さっきも言った通り、ルグの槍はバロールと鏡精を繋ぐアニマの道。あなたとコーキスならその道を奪って、操ることができる筈。 |
ヨーランド | ルグの槍を支配下におければこの世界を守ることができるわ。その為の手段は、きっとあなたの中にある筈よ。 |
キャラクター | 9話【14-9 雪原3】 |
フリーセル | ………………。 |
グラスティン | ………………。 |
フリーセル | どういうつもりだ、グラスティン。さっきから人をつけ回して。 |
グラスティン | ヒヒ……同じ魔鏡技師同士じゃないかあ。仲良くしよう……。 |
フリーセル | 断る。俺はお前が嫌いだ。 |
グラスティン | そんなことは知ってるさ。俺だって同じだよお……。だがお前は、好き嫌いで人を切り捨てるタイプじゃないだろう ? |
フリーセル | ああ。だが、友に害を与える存在なら、俺は容赦はしない。 |
グラスティン | 友、ねえ。そいつはフィルのことかあ ?それともデミトリアスのことかあ ? |
フリーセル | どちらもだ。 |
グラスティン | ヒヒヒ、出たよ、心にもない台詞だ。どうせお前は、祖国のために大切なお友達も切り捨てるんだ。そうだろう ? |
フリーセル | 何のことだ。 |
グラスティン | 俺は知ってるんだ。お前がビフレストのスパイだってなあ。 |
フリーセル | 俺も知っているぞ、グラスティン。お前がフィルに執着する理由を。 |
グラスティン | ! |
フリーセル | 屍蝋化したママの死体はそんなにも魅惑的だったか ?グラスティン坊や。 |
グラスティン | ヒ……ヒヒ……。そうか。見たのか……。やっぱりお前、ビフレストのスパイだったんだな。 |
フリーセル | バロールの巫女が突然行方知れずになったことでビフレスト皇国とセールンド王国の間に大きな溝ができたんだぞ。 |
フリーセル | 何故巫女を……実の母親を殺した ?墓守の街で何があった ? |
グラスティン | 俺が殺したと思ってるならお前はやっぱりマヌケだよ。 |
フリーセル | どういう意味だ。 |
グラスティン | 確かに俺は殺そうとはしたが、『殺せなかった』んだ。鏡精の墓を守りながら、だんだんと壊れていくあの女がただただ恐ろしくてなあ。 |
グラスティン | でも、殺ってくれた奴がいたんだよお。 |
フリーセル | ……デミトリアスか ! ? |
グラスティン | ヒヒ……ヒヒヒ……。だから特別なのさ。デミトリアスとフィリップはなあ ! |
フリーセル | (……感謝するぜ、サレ。俺を具現化してくれて。グラスティンはもっと早くデミトリアスから引き離しておくべきだったんだ) |
フリーセル | (デミトリアスはフィリップとは違う。グラスティンに蝕まれている) |
フリーセル | (最初の俺がやり残した仕事は、必ず遂行する。そして――デミトリアスにも、グラスティンにもフィリップにも、けりをつけさせる) |
セールンド王 | 探せ ! なんとしてもデミトリアスの命を繋ぐ方法を探し出すのだ ! |
魔鏡学者 | 本来、アニマ欠乏症は決して命を奪うほどの病ではありません。 |
魔鏡学者 | ですが近頃では、従来とは明らかに違う様相を示すものが増えております。殿下もそういったⅡ型の欠乏症でありまして―― |
メイド | ねえ、今度呼ばれた魔鏡学者と鏡士の夫婦とても危険な力の持ち主なんですって。ビクエ様が警戒しておられるとか。 |
メイド | それもこれも殿下の為なんでしょうけれど……。 |
騎士団長 | 殿下。どうかご辛抱下さい。この墓守の街ならば、殿下のお命を繋ぐ薬が作れます。ここで静養なさることが肝要なのです。 |
グラスティン | ヒヒ…… ! 残念だよお !お前をかばって死ぬのは悪くないがどう生きてどう死ぬのかは見たかった…… ! |
グラスティン | ああ、それにフィリップ……。フリーセルに殺されると思うと悔しくてたまらない。俺が……俺が綺麗に保存したかったのに…… ! |
デミトリアス | ! |
デミトリアス | (……夢、か) |
デミトリアス | (近頃、過去のことばかり夢に見る。これもクロノスの影響なのかもしれないな……) |
? ? ? | クロノスの影響じゃと ?もっとそなたに影響を与えているものがあるではないか。 |
デミトリアス | メルクリア ! ? |
? ? ? | わらわはメルクリアではない。わからぬか。我らを喰らって生き存えた死人よ。 |
デミトリアス | きょ、鏡精……か…… ? |
? ? ? | わらわはかつてモリアンであったもの。 |
モリアンの影 | オリジンが覚醒した。止まっていた時計の針が動き出したのじゃ。 |
モリアンの影 | これから、お前が喰らい、体に取り込んできた鏡精たちが、時の流れと共にそなたの中で甦る。覚悟せよ。 |
デミトリアス | ……覚悟など、疾うにできている。我が父の過ち。私に費やされた膨大な命とエネルギー。 |
デミトリアス | 奪った物は返す。私にできるのはそれぐらいだ。 |
モリアンの影 | ならば貴様も、バロール様の尖兵となれ ! |
キャラクター | 10話【14-10 アジト6】 |
パスカル | 【贄の紋章】の基礎データを元にしたアニマの放出計算表が出てきたよ~ ! |
ハロルド | 早かったじゃない ! |
リフィル | まだ概算だもの。それでも大筋のところは十分でしょう ? |
ハロルド | もちろん。どれどれ~ ? |
ジェイド | ……なるほど。こう来ましたか。まあ、想定内ではありますが。 |
ハロルド | そうね。予想通りではあるけれど、処理するのは大変よ。 |
ハロルド | 前世って概念をどう処理しているのかはもう少し検証が必要だけど、分史世界の方は確定ね。もう計画は進み始めてるんだわ。 |
ジェイド | そのようですね。手段を講じる必要がありそうです。ルドガーたちの世界と法則が同じならば分史世界に行けるのはルドガーとユリウス、それに―― |
ハロルド | ……まあ、メンバーに関してはイクスたちとも相談した方がいいわね。行けるなら私も行きたいぐらい。 |
ジェイド | 確かに興味深いですね。並行世界というのは。 |
ジェイド | もっとも、今回はティル・ナ・ノーグの前世として仮定されたニーベルングの分史世界……というややこしい代物です。 |
ジェイド | 厳密な分史世界という概念とはいささか趣が異なるのでしょうが。 |
パスカル | あー、疲れたよ~。ちょっと休憩してもいいよね。 |
リフィル | ふふ、そうね、パスカル。あとはお風呂に入ってゆっくりするといいわ。 |
パスカル | ええ~、お風呂は別にいいかな。それより、このままフカフカ布団にダイブして……。 |
リフィル | そう言うと思って既にシェリアには声をかけておきました。 |
パスカル | ええ~。お風呂なんていいよ~。 |
リフィル | いけません。ちゃんとお風呂に入ってから休むこと。いいわね ? |
パスカル | わかったよぉ~。逃げると怖いからなぁ、シェリア。 |
リフィル | さて、私はこの結果をキール研究室のみんなにも共有してくるわ。 |
ハロルド | じゃあ、私はクラースたちに話してくるわね。クロノスのこともあるし。 |
ジェイド | つまり、私がイクスたちへの連絡役、ですか……。 |
リフィル | あら、適任ね。しっかり説明してくるといいわ。 |
パスカル | 頑張れ~ジェイド~ ♪ |
ジェイド | やれやれ……。 |
コーキス | マスターたち……大変そうだったな……。 |
バルド | 戻って、力を貸してあげたらどうだい ? |
コーキス | こっちだって人手が足りないだろ !それに……まだ……俺は……。 |
バルド | コーキス。自分がよくない存在で、イクスさんたちに迷惑を掛けるのではないかと不安に思っていることは想像できるよ。 |
バルド | けれど、自分が『どんな存在なのか』を決めるのは他でもない自分自身なんだ。きみの心一つで決まる。本当はね、とてもシンプルなことなんだよ。 |
コーキス | ……うん。だけど、中途半端にはしたくない。マスターのところを飛び出してボスたちと一緒に行動して……。 |
コーキス | ここまでしたんだから、なんかわかんねーけどこれっていう答えを見つけないといけないと思うんだよ。 |
リグレット | ――待たせたな。 |
リグレット | ヴァン総長宛てに魔鏡通信文を出しておいた。定時確認で見てもらえればアリエッタを派遣してくれるだろう。 |
リグレット | 私は念のため、フリーセルを追跡してみる。雪原なのが幸いだな。消そうとしても痕跡が残る。この後、雪が強くならなければ、だが。 |
バルド | お願いします。私とコーキスはもう少しこの大陸の調査を行ってから仮想鏡界に戻るつもりです。 |
二人 | ! ? |
リグレット | …… ? どうした ? 二人とも、妙な顔をして……。 |
バルド | いえ、何か、悪寒のようなものが……。 |
コーキス | ああ。空気がビリビリして……――いてぇっ ! ? |
リグレット | コーキス ! ? バルド ! ?どうした ! ? しっかりしろ ! |
リグレット | ……まずい……二人とも意識を…………大丈……―― |
バロール | 目を覚ませ、鏡精に尖兵。 |
コーキス | ……ここ……は……。 |
バロール | 気付いたか。 |
コーキス | ボス ! ? |
バルド | ――いえ、これはウォ……ナーザ様ではありません。 |
バロール | ナーザ様、か。自分が甦ったことを否定したいが為にナーザの名前を使うとは。確かナーザは、海神であり死者の世界の神として祭り上げられているのだったか。 |
バロール | あのアイフリードが神とは……。笑えるな。 |
コーキス | それにしても何なんだよ。またなんか面倒なことやらせようとしてるのか ? |
バロール | 死の砂嵐の異物を取り除く。 |
バルド | どういうことですか。死の砂嵐に触れるためのゲフィオンの心の穴は、カーリャ――ネヴァンが守ったはずです。 |
コーキス | そうだよ。パイセンのパイセンがなんかしたから死の砂嵐にアクセスできなくなったんだろ。 |
バロール | ……コーキス。お前は俺の子孫の鏡精にしては頭が悪すぎるな。 |
コーキス | 何だと ! ? た、確かに頭は良くないけどその分マスターはめちゃくちゃ頭いいからな !記憶力とかすげーいいし ! |
バロール | 記憶力……。そうか、鏡士の資質には長けているということか。 |
バロール | ……まあいい。ダーナの子孫がやってくれた。 |
バロール | 人間の感情の澱を虚無へ流すために、融合の力でカーリャとやらが作った防御壁を崩したのだ。これで俺も再び死の砂嵐に手を伸ばすことができる。 |
バルド | 我々に何をさせようというのですか。 |
バロール | すぐにわかる。 |
二人 | …………………………。 |
コーキス | (マスター……。頭が……ぼーっとして…………) |
バルド | ………………ビフレストの民を……救う……。 |
コーキス | ………………マス……ター…………助け……て……。 |
| to be continued |
キャラクター | 3話【15-7 ミッドガンド領 聖主の御座2】 |
帝国兵 | テレサ様、全兵、聖主の御座より撤退完了です ! |
テレサ | ご苦労でした。念のため崩壊に巻き込まれた者がいないか再度確認を。 |
帝国兵 | 承知しました ! |
テレサ | (亡骸の回収さえ間に合わなかった……) |
テレサ | 申し訳ありません、アルトリウス様……。 |
グラスティン | おいおい、相手が違うだろう。謝罪なら皇帝陛下へ捧げるべきだぞ。 |
テレサ | グラスティン ! |
グラスティン | ああ、聖主の御座もボロボロだ。哀れな末路だなぁ、アルトリウス。 |
グラスティン | 結局、裏切者が手に入れたのは己の死だけだ。欲を張るとろくなことがない。そう思うだろう、テレサ。 |
テレサ | …………。 |
グラスティン | まぁ、あいつが死んでくれたおかげで計画をかき回す奴が減った。これで良しとしよう。 |
テレサ | ……では、オスカーの贄の紋章を消してくださいますか ? |
グラスティン | それは無理な話だなぁ。皇帝陛下はアルトリウスを連れて来いと言ったんだぞ。死んじまったんじゃ、取引はパァってことだ。 |
テレサ | それは…… ! |
グラスティン | だが、もう一度チャンスをやる。贄の紋章を消す代わりにフリーセルという男を捕まえて来い。 |
グラスティン | 成功すれば、今度こそ弟の紋章を消してやる。 |
テレサ | ……フリーセルですね。わかりました。ただ、新たな使命を受ける代わりにこちらの質問にも答えて頂きたいのです。 |
グラスティン | 気が向いたらな。言ってみろ。 |
テレサ | あの紋章は本当に消えるのですか ? |
グラスティン | 当然だ。 |
テレサ | それはどのような方法で ?後遺症はないのですか ? |
グラスティン | ……それを聞いてどうする。贄の紋章を消す手段だけを聞き出してオスカーの贄の紋章を除去して逃げるつもりか ? |
テレサ | ……そんなつもりはありません。 |
テレサ | ただ、本当にあなたに除去できるのか確認しておきたかったのです。 |
グラスティン | 傷つくなぁ。ここに来て人をウソつき呼ばわりとは。 |
テレサ | 私はただ、確証が欲しいだけです。 |
グラスティン | はっ、本当に無駄なことばかり考える。聞いたところで、知識も技術も持っていないお前がどうやってそれが真実だと確認するつもりなんだ ? |
グラスティン | 何をしようと、アルトリウスが死んだ今お前は俺の命令に従わざるを得ないんだよ。 |
テレサ | …………。 |
グラスティン | お前が捜すのは『ジェイソン・フリーセル』って男だ。人相と風体はこの資料にまとめてある。 |
テレサ | ……具現化された魔鏡技師 ?何故この男を捕らえる必要があるのですか ? |
グラスティン | ビフレストの亡者だからさぁ。 |
グラスティン | いいか、今度は必ず生かして連れて来いよ ?撤退は部下に任せて、今すぐフリーセルを追うんだ。いいな ? 弟思いの、無能なお姉ちゃん。 |
テレサ | (今はまだ我慢しなければ……。贄の紋章の除去方法さえわかればあの男に従う理由などないのだから) |
テレサ | (そういえば……、何故グラスティンは「アルトリウスが死んだ今」などと言ったのだろう) |
テレサ | (私がアルトリウス様にお仕えしているから ?) |
テレサ | (けれど、アルトリウス様の生死に関わらずオスカーに贄の紋章がある限り私を従わせることはできるはずなのに) |
テレサ | …………もしかして…… ! |
テレサ | (アルトリウス様が生きていたら贄の紋章を無効化できる可能性があったということ ?) |
テレサ | (……アルトリウス様が残された物を調べてみよう。生前に預かった命令も遂行せねばならないのだから) |
帝国兵 | テレサ様、聖主の御座周辺の確認が完了しました。 |
テレサ | ご苦労でした。あなた方はこのまま引き上げなさい。 |
帝国兵 | あっ、テレサ様、どちらへ ! |
テレサ | 先ほど別命を受けました。これ以上の詮索は無用です。 |
テレサ | (まずは、転送魔法陣で領主の館へ戻らなければ――) |
キャラクター | 4話【15-7 ミッドガンド領 聖主の御座2】 |
テレサ | (ミッドガンド領の館はほぼ調べた。他に目ぼしいところといえばこの地下くらいだけれど……) |
テレサ | (ここで何も見つからなければ次はグリンウッドの方へ出向いてみようかしら) |
テレサ | (……アルトリウス様は、ご自分が命を落とした後も事が進むように計画なさっていた) |
テレサ | (必ず何か手掛かりを残しているはず) |
テレサ | っ ! ! ここは ! |
テレサ | (この部屋……全体がエネルギー貯蔵庫のようになっている) |
テレサ | (もしや、新大陸の具現化で得たエネルギーの一部をここに運んで保管していた ?) |
テレサ | (それにこの魔鏡陣……一体何の為かしら。もしかして、これがアルトリウス様の二の矢……) |
テレサ | (あの時おっしゃっていた「邪魔が入った場合」を想定しカノヌシの具現化がならなかった際の次の策――) |
テレサ | (それが、このエネルギーを利用して第二のカノヌシを生む計画だった…… ?) |
グラスティン | ほう、やっぱりアルトリウスはまだ隠し事をしていたか。 |
テレサ | ! ? |
テレサ | ……なっ、何故あなたが ! ? |
グラスティン | さあ、どうしてだろうなあ ? |
グラスティン | それにしても、どうしてこんなところにいるのかな ?俺は『フリーセル』捕縛を命じたはずなんだがなあ ?まさか、ここにフリーセルが現れるのか ? |
テレサ | こちらにも準備というものがあります。フリーセルに関する情報も精査しなければいけません。 |
テレサ | いったん領主の館に戻るだけで何故このように非難されるのですか。 |
グラスティン | 非難 ? 俺はただ確認しただけだ。お前こそ、過剰に反応すると裏があると思われるぞ ? |
テレサ | (グラスティンは私をつけてきたのかしら。それとも……この場所に何か……) |
テレサ | (まさかオスカーを捕まえるつもりでは…… !) |
グラスティン | それにしてもこの貯蔵されたエネルギーと魔鏡陣……なるほどねぇ。 |
グラスティン | お前たちも可哀そうに。アルトリウスに忠誠を尽くしたところで結局はただの駒だったんだなぁ。 |
テレサ | なっ、何を……。どういう意味ですか ! |
グラスティン | やっぱり何も知らされていないんだなあ。 |
グラスティン | アルトリウスはな、お前の大事な弟の心核を『鏡の精霊の心核のレプリカ』と繋いでいるのさぁ。魔導器で結合させてな。 |
テレサ | ………………え ? |
グラスティン | 俺の作った鏡の精霊のレプリカ心核が盗まれた。その中の一つがここにあることはすでに確認している。 |
グラスティン | アルトリウスはオスカーを疑似的な鏡の精霊にしてそれと神依することで、カノヌシ――いや、オリジンを使役しようと考えていたんだろうな。 |
テレサ | う……嘘を吹き込もうとしても無駄です !私は知っていますから ! |
テレサ | 鏡の精霊になるには、アイフリードの血を引いた者でなければならないはず。 |
テレサ | アルトリウス様を貶め、私を騙そうとしてもそうはいきません ! |
グラスティン | それは鏡の精霊へと至る『心核』を作る工程の話だ。出来上がった以上、アイフリードの血など関係ない。 |
グラスティン | お前の弟は、アルトリウスにとって都合のいい生贄だったってわけさ。 |
テレサ | 嘘…………。 |
グラスティン | それでだ。そんな妙な物をくっつけられて弟の容体はちゃんと安定しているのかねぇ。 |
テレサ | ! ! |
グラスティン | いつどうなるか、俺は心配でならないよ。 |
テレサ | そんな……、オスカー、オスカー ! ! |
グラスティン | ヒヒヒ、慌てて転ぶなよ、お姉ちゃん。 |
グラスティン | (さて、アルトリウスの奴がこの場所に異世界のアニマをため込んでいたのは単にカノヌシの代わりを作るってだけじゃないはずだ) |
グラスティン | テレサのいない間に調べさせてもらうか……。クックックッ。 |
キャラクター | 5話【15-8 ケリュケイオン】 |
フィリップ | ……そうか。ではひとまずカノヌシとアルトリウスの融合は避けられたんだね。 |
ベルベット | ……ええ。 |
マーク | あとはヨウ・ビクエがオリジンの存在を安定させてくれれば、カノヌシがオリジンから分離することもなくなるって訳か。 |
フィリップ | 報告ありがとう。ベルベット、ライフィセット、スレイ。 |
ベルベット | あたしとフィーとスレイをブリッジに呼び寄せたのはこの報告を聞くためだけって訳じゃないんでしょう ?用があるならさっさと言いなさい。 |
フィリップ | そうだね。実はさっきイクスたちと連絡を取ったときにこのケリュケイオンに精霊のオリジンとクロノスがいた――いや、いるという可能性に気付いたんだ。 |
スレイ | どういうこと ? |
フィリップ | クラトスさんとエルレインが倒れたことは覚えているよね。クラトスさんはオリジンにエルレインはクロノスに縁があるんだそうだ。 |
フィリップ | 二人が倒れたのは、精霊同士の接触に二人の体が衝撃を受けたからだと思う。 |
フィリップ | 二人はまだ目覚めないんだ。少し荒療治が必要なのかも知れない。 |
スレイ | あ……そうか。カノヌシがオリジンの一部として具現化されたなら、ライフィセットも……。 |
ライフィセット | 僕の存在がクラトスやエルレインに影響を与えられるかも知れないってことだね。 |
フィリップ | ああ。ライフィセットを呼び出すならベルベットにも立ち会ってもらった方がいいかなと思ってね。 |
スレイ | え ? それなら、オレは ? |
フィリップ | ファントムから報告を聞いたんだ。オリジンがきみに接触してきたとね。 |
スレイ | あれ、そういえばファントムは ?ケリュケイオンに戻ってから姿が見えないけど……。 |
フィリップ | 部屋で休ませているよ。相当無理をしたみたいだし。 |
スレイ | そうか……。それならよかった。 |
フィリップ | それじゃあ、三人とも僕と一緒に医務室まで来てもらえるかな。 |
ライフィセット | それで――どうしたらいいの ? |
フィリップ | 二人の体に触れてみてもらえるかな。ライフィセットはクラトスさんに。スレイはエルレインに。 |
ベルベット | 危険はないんでしょうね。 |
フィリップ | 逆なら反動があるかも知れないけれどクラトスさんが内包しているのはオリジンだそうでライフィセットとは親和性があるからね。 |
フィリップ | それに、スレイはティル・ナ・ノーグのオリジンと接触した存在であってオリジンを内包しているわけじゃない。 |
フィリップ | だから、仮にクロノスとの接触による衝撃があったとしてもごく微量だと考えられる。神依よりははるかに負担が少ない筈だよ。 |
スレイ | わかった。 |
スレイ | それじゃあ、ライフィセット。二人で同時にクラトスさんとエルレインさんに触れてみよう。 |
ベルベット | 気を付けなさいよ、フィー。 |
ライフィセット | うん、大丈夫。 |
スレイ | よし、行くよ。 |
二人 | ………………。 |
ベルベット | ……様子がおかしいわね。 |
クラトス ? | ベルベット、そして――ライフィセット。カノヌシの件では世話になった。感謝する。 |
スレイ | クラトスさん……じゃない ? |
ライフィセット | もしかして精霊オリジン ? |
オリジン | そうだ。今はこの者の体を借りている。この者のアニマには異世界の我が溶け込んでいるのでな。 |
スレイ | それじゃあエルレインさんも目覚めたわけじゃなくて―― |
オリジン | これはクロノスだ。どうやらそのエルレインという者は本来人間が体験することができないほどの長い時間をクロノスと共に過ごしたようだな。 |
クロノス | ――元々この者は、時間という概念と親和性がある。故に、分霊となった我をアニマの中に取り込むことができたのだろう。 |
オリジン | さて、導師スレイ。お前には感謝とともに、謝罪もしなければならないな。 |
スレイ | 謝罪 ? どうして ? |
オリジン | 我はお前の力量を見誤っていた。いや……お前の心の在り方を見くびっていたのだろう。 |
オリジン | 我はお前が本当にヘルダルフを浄化できるかどうか危ぶんでいた。だがお前はあの者の穢れを浄化した。 |
スレイ | 浄化……。いや、オレは―― |
オリジン | 導師。我は信じる。この世界に具現化されたお前はこの世界に具現化されたヘルダルフを『救った』のだと。 |
スレイ | ! ! |
オリジン | そして、ライフィセット。我はまたお前も信じる。お前はカノヌシのように我と融合する形ではなくライフィセットとして具現化された。 |
オリジン | 異世界でのお前の在り方が影響したのかエンコードの影響なのかはわからぬがお前は我に限りなく近しい存在だ。 |
オリジン | そのお前たちが鏡士の末裔たちに力を貸しているのなら我もまた鏡士の末裔たちを信じようと思う。 |
スレイ | それはイクスたちに力を貸してくれるってこと ? |
オリジン | 無論、力を貸すことはやぶさかではないが……。 |
クロノス | オリジンは悩んでいたのだ。封印が解かれ久方ぶりに目にしたティル・ナ・ノーグは見るも無惨な姿になっていた。 |
クロノス | しかも我らの主であるナーザとは連絡が取れない状況だ。ナーザとの連絡はマクスウェルの役目であったからな。 |
オリジン | 今の我は……いや、我だけではなく全ての精霊は非力な存在だ。 |
オリジン | 帝国はまがい物のナーザ様を鏡の精霊に仕立て上げた。あの存在がある限り我らはいつ自由を奪われるかわからない。 |
オリジン | 我らはナーザ様には逆らえないように造られている。 |
クロノス | 故に、頼みがある。鏡の精霊を無力化して欲しい。我ら精霊はティル・ナ・ノーグを維持するための安全弁なのだ。 |
クロノス | 鏡の精霊の心核を破壊してくれ。それで我らは自由に動けるようになる。 |
フィリップ | わかりました。やってみます。 |
オリジン | このままでは、我の力はまた帝国に利用されるだろう。 |
オリジン | 目覚めてしまった以上、存在を消すことは叶わぬがそれでも彼奴らによる悪用を防ぐために我は暫しヨウ・ビクエの元に身を寄せる。 |
オリジン | 我の力が必要になったときは異世界の我と縁を持つ者らを通じて語りかけよ。 |
クロノス | 我は引き続きエルレインの中にある。そうせざるを得ない状態だ。 |
クロノス | 魔導砲によって解き放たれた際に身を分かたれてしまったからな。 |
クロノス | できれば我の分霊も集めて欲しい。いくつかはすでに帝国に囚われているようだ。 |
オリジン | 帝国はクロノスの分霊を使って分史世界を造ろうとしている。 |
オリジン | 全ては滅びたニーベルングを甦らせるためだ。計画はすでに進行している。もはや止めることは叶わない。 |
クロノス | この世界にもクルスニクの一族が具現化されているだろう。彼らなら帝国の造る分史世界を破壊できる。 |
オリジン | 頼んだぞ、新たな揺り籠の住人たちよ……。 |
クラトス | …………ここ……は…… ? |
エルレイン | …………この……感覚は……。 |
フィリップ | 今度こそ、クラトスさんとエルレインですね ! ? |
クラトス | 『今度こそ』とはどういうことだ ? |
エルレイン | 何者かが私たちの中にいた……ということでしょう。 |
フィリップ | 詳しいことは後でお話しします。それより―― |
ベルベット | 分史世界のことね。 |
ライフィセット | ルドガーたちに伝えないと。 |
スレイ | 魔鏡通信で連絡しよう。 |
フィリップ | お願いします。僕はケリュケイオンを浮遊島に向かわせます ! |
キャラクター | 6話【15-9 アジト1】 |
ミリーナ | イクス ! ネヴァンに連絡が取れたわ。リグレットさんからの通信が途切れた場所を知らせたら、かなり近くにいるみたい。 |
カーリャ | すぐに向かってくれるそうですよ ! |
イクス | そうか。俺たちは一番近いゲートを使っても数時間はかかってしまうだろうから助かるな。 |
イクス | ……あれ ? ジェイドさん ? |
ジェイド | やあ、イクス。ミリーナ。それに可愛いカーリャじゃありませんか。上手く先回りできたようですね。 |
カーリャ | で、出たー ! 悪メガネ ! やるんですかー ! ? |
ミリーナ | カーリャ。まだ何もされていないでしょう。落ち着いて。 |
カーリャ | 油断しちゃいけませんよ、ミリーナさま。抉るように打つべしッ ! ですッ ! |
ジェイド | ああ、カーリャ。あなたを可愛がりたいのは山々なのですが今は他に優先しなければいけないことがありまして。 |
イクス | どうしたんですか ?もしかしてリグレットさんの救出に関することですか ? |
ジェイド | いえ、別件です。ですが、非常に重要なことですのでここで皆さんをお待ちしていました。 |
イクス | 移動しながらで構いませんか ?リグレットさんを助けに行かないと。それにコーキスだって―― |
ジェイド | その件でしたら、すでに別働隊を向かわせています。 |
三人 | ! ? |
ミリーナ | 相変わらず手回しがいいですね、ジェイドさん。 |
ジェイド | ここで抜かってはハロルドやリフィルから叱られてしまいますからね。 |
ジェイド | イクス、あなたにしてみれば、大事な鏡精の危機です。すぐにも駆けつけたいでしょう。ですが、鏡精はあなたの一存で心に戻すことができる。 |
イクス | それは……そうかも知れませんけどバロールが関与しているなら―― |
ジェイド | それでも、あなたが生きていればコーキスは死なない。今は別働隊に任せてこちらの話を聞いて頂けませんか ? |
ジェイド | ようやく贄の紋章の構造が見えてきたんです。 |
イクス | ……ということは、キール研究室からの報告ですか ? |
ジェイド | ええ。手短に言います。 |
ジェイド | 帝国側が動き出したようです。帝都付近にクロノスの力を帯びたアニマがあふれ出しています。 |
ジェイド | 恐らく帝国は何らかの手段をもって分史世界を生み出そうとしているのでしょう。 |
イクス | 分史世界……。ルドガーさんたちの世界にあったという並行世界のことですね。 |
ミリーナ | 確か帝国はニーベルングの分史世界を創ってニーベルングを甦らせようとしているのよね。 |
イクス | ああ。 |
イクス | ルカたちの世界の前世の概念と分史世界という概念を掛け合わせようとしているんじゃないかっていう見立てでしたよね、ジェイドさん。 |
ジェイド | その通りです。そしてルグの槍は分史世界に創りだしたニーベルングの大地をティル・ナ・ノーグに転送するための装置だ。 |
ジェイド | つまり、ルグの槍の起動も近い。 |
ジェイド | ルグの槍が起動するということは贄の紋章を刻まれた人々が世界を繋ぐエネルギーの柱として消費されるということです。 |
イクス | このままじゃ、贄の紋章を刻まれたみんなが危険だってことですね。くそっ、まだ写本も探せてないのに……。 |
ジェイド | 仕方がありません。どのみちルグの槍の起動は帝国に主導権があるのです。我々にはそれを止める手立てはない。 |
ジェイド | ですが、紋章を無効化する方法を見つけました。 |
三人 | ! ! |
カーリャ | す、すごいじゃないですか !だったら、ルグの槍の起動なんて怖くありませんね ! |
ジェイド | ことはそう簡単ではないのですよ。手段は見つけましたがまだ実用化には至っていません。 |
カーリャ | そんな~ ! ? ぬか喜びさせないで下さい~ ! |
ミリーナ | でもジェイドさんは、何の方策もないのに私たちを引き止めたりはしませんよね。 |
ジェイド | おや、随分信頼されていますねえ。 |
カーリャ | ジェイドさまはともかくキールさまたちは信頼できますからねっ ! |
ジェイド | おや、妬けますねえ。まあ、それはともかく―― |
ジェイド | 今キール研究室で、贄の紋章を無効化するための準備を始めています。少しでも時間を確保したい。そこで、帝都に奇襲を掛けてはどうかと思いまして。 |
イクス | 奇襲、ですか ? でもどうやって……。帝都を攻めるとなるとそれなりの兵力が必要ですよね。 |
イクス | 救世軍の手を借りるにしても兵力を移動させるための時間がかかります。そう簡単にはいかないと思うんですけど……。 |
ジェイド | 救世軍の手は借りません。 |
ミリーナ | それじゃあ、アジトの戦力だけで奇襲ですか ?でも帝都に一番近いゲートを使っても―― |
ジェイド | いえ、この浮遊島をぶつけます。 |
イクス | なるほど……―― |
イクス | ――え ? |
ジェイド | この浮遊島アジトを帝都のイ・ラプセル島にぶつけるんですよ。 |
ジェイド | どちらもオーデンセを元に具現化された島ですから大きさも質量もいい勝負でしょう。 |
三人 | ええっ ! ? |
キャラクター | 7話【15-10 雪原4】 |
カーリャ・N | ――そうですか。では、イクス様たちは浮遊島に残りティア様たちが向かって下さっているのですね。 |
ティア | ええ。急なことでごめんなさい。 |
ガイ | 俺たちも突然ジェイドに声を掛けられてな。ビフレストのアジトへ行ってジュニアに会わなけりゃならないんだよ。 |
カイウス | ネヴァンは今どの辺りにいるんだ ? |
カーリャ・N | そろそろ、リグレット様からの通信が途絶えた地点に着きます。 |
ルキウス | ……ボクたちが追いつくにはまだ少し掛かるね。 |
ティア | ネヴァン、教官をお願い。それにコーキスのことも……。 |
カーリャ・N | はい、心得ています。万事お任せ下さい。 |
テネブラエ | コーキスさんやリグレットさんのこともですが……この辺りの空気も気になりますね。どうも周辺に生息している筈の魔物が少なすぎる。 |
テネブラエ | 強大な力を持った何かがいて、避難しているのでは。 |
カイウス | その何かがリグレットさんを襲ったってことか ? |
テネブラエ | 恐らく……。 |
ガイ | だとしたら気を引き締めていかないとな。 |
ガイ | ところでルキウス。体調はどうだ ? |
ルキウス | 大丈夫。ボクのことは心配しないで。今は一刻も早くネヴァンと合流することを優先しよう。 |
カイウス | ルキウス……。 |
ルキウス | 本当に無理をしている訳じゃないよ、兄さん。 |
カイウス | うーん……。でも、まだ万全な状態って訳じゃないからなあ……。 |
ガイ | 俺たちも気を配るが、くれぐれも無理はするなよ。メルクリアに会いたいんだろ ? |
ルキウス | ……そうだね。ありがとう。 |
ジェイド | ――私からの説明は以上です。 |
イクス | ………………。 |
ミリーナ | ………………。 |
カーリャ | ………………。 |
ジェイド | どうしたんですか、三人とも。おかしな顔をして。 |
イクス | い、いえ……。まだ信じられなくて。 |
カーリャ | そ、そうですよ ! この浮遊島を動かすなんて ! |
ジェイド | 発案者はハロルドとパスカルです。文句は彼女たちにお願いします♪ |
ミリーナ | けど、確かに帝国は驚くでしょうね。ケリュケイオン以外に空を飛べる乗り物はありません。 |
ミリーナ | 上空の守りが甘いことは以前、芙蓉離宮を攻めたときにわかっています。 |
ジェイド | ええ、その通りです。原動機はパスカルが開発しすでに島の各所に取り付けを完了しています。 |
ジェイド | ただし燃料となるキラル分子は、鏡士であるイクスとミリーナに作りだしてもらわなければなりません。ですから、島を操縦できるのは鏡士だけです。 |
イクス | だから俺たちはアジトに残っていなければいけなかったんですね。 |
ジェイド | ええ。あなた方の許可さえ得られればすぐにでも作戦を決行したい。 |
イクス | わかりました。俺とミリーナはパスカルの作ってくれた原動機を動かす準備をします。ジェイドさんは浮遊島のみんなに―― |
ジェイド | ――今作戦について周知せよ、ですね。その辺りは抜かりありません。ハロルドとリフィルがすでに動いています。 |
ミリーナ | さすが、準備は万端ですね。 |
ジェイド | ただ、私たちができるのは、この島を動かし帝国の中枢を一時的に混乱に陥れることだけです。 |
ジェイド | その先――つまり、贄の紋章の無効化にはイクスとミリーナの魔鏡術が不可欠になります。 |
イクス | それが、今キールたちが最終調整してくれているという『逆しまの魔導砲』ですね。 |
ジェイド | はい。魔鏡術で擬似的な魔導砲を放ち贄の紋章と正反対の紋章を打ち込み、力を相殺する。これで、いったんは贄の紋章を無効化できる筈です。 |
ミリーナ | でも完成させるためにはジュニアのもつ情報が不可欠……。 |
ジェイド | 情報がなくても、仕上げられないことはありませんが精度は落ちます。なるべく万全を期したい。 |
ジェイド | それに、この作戦が上手くいけばルドガーやユリウスに負担を掛けなくて済みます。 |
カーリャ | ユリウスさま ? |
ジェイド | 分史世界ですよ。帝国が分史世界を創り、ルグの槍でティル・ナ・ノーグと繋いでしまったら、彼らには分史世界に行ってもらわなければならないでしょう。 |
キャラクター | 8話【15-11 雪原5】 |
カーリャ・N | (リグレット様はどこに……。イクス様から聞いている位置情報ではこの辺りの筈ですが……) |
カーリャ・N | (ティア様たちの到着にはまだ時間がかかるでしょう。早くリグレット様を見つけて安全を確保しなければ……) |
カーリャ・N | っ ! ! |
コーキス ? | ようやく来たか。 |
カーリャ・N | コーキス…… ! |
コーキス ? | 女はそこだ。まだ生きているぞ。 |
カーリャ・N | リグレット様っ ! ? |
リグレット | …………。 |
カーリャ・N | 意識がない。それになんて酷い傷。でも……。 |
カーリャ・N | …………。 |
コーキス ? | なんだ。俺を睨む暇があったら、その女を連れて帰れ。早くしないと間に合わんぞ。 |
カーリャ・N | なぜ、リグレット様にとどめを刺さなかったのです ? |
コーキス ? | ………………。 |
カーリャ・N | 確かにひどい傷ですが、致命傷ではない。それに傷つけておきながら放置はせず、迎えを待った。凍死や魔物の襲撃から守る意図があったのでしょう。 |
カーリャ・N | どういう魂胆なのですか。――バロール。 |
バロールの尖兵 | ……バロール、か。俺はバロール様ではない。バロール様の眷属――尖兵だ。 |
バロールの尖兵 | 鏡精ではなくなったお前には俺の気配を正確には掴めぬのだろうな。 |
カーリャ・N | 何でも構いません。コーキスの体を奪い、リグレット様を傷つけ何をしようとしているのです。 |
カーリャ・N | それに、バルドはどこにいるのですか ? |
バロールの尖兵 | もう一人の尖兵のことか。バロール様の命令を遂行するために先行している。お前たちが知る必要はない。 |
カーリャ・N | 人の意志を……体を奪っておいて何という言い種ですか ! |
カーリャ・N | 二人を解放しなさい !彼らには彼らの意志がありそれぞれ仕えるべき主がいるのですよ ! |
バロールの尖兵 | お前のようにか ? ゲフィオンの元鏡精。 |
カーリャ・N | ! ! |
バロールの尖兵 | この女を迎えに来たのがお前でよかった。話しておきたいことがあったからな。 |
カーリャ・N | な、何です…… ? |
バロールの尖兵 | 何、バロール様に代わって忠告しておこうと思っただけだ。 |
バロールの尖兵 | お前もかつて鏡精であったなら我らを救うために尽力して下さったバロール様の意に背くような真似をするな。 |
カーリャ・N | どういう意味です。 |
バロールの尖兵 | お前がゲフィオンに施した術のせいでバロール様は死の砂嵐にアクセスできなかった。つい先ほどまでだがな。随分と面倒をかけてくれた。 |
カーリャ・N | ついさっき『まで』…… ? |
バロールの尖兵 | いいか、死の砂嵐に関する全てに対してもう余計な手出しはするなよ。後はバロール様が全て終わらせてくれる。 |
カーリャ・N | まさか、すでに死の砂嵐にアクセスを…… ?ゲフィオン様の心の防御壁を壊したのですか ! ? |
バロールの尖兵 | ダーナの子孫が、異世界から持ち込まれた人の感情の澱を虚無へ流し込むためにお前の作った防御壁をこじ開けた。 |
バロールの尖兵 | それをバロール様は見逃さなかったのだ。 |
カーリャ・N | なんてことを !それではゲフィオン様の意識が……。 |
バロールの尖兵 | 諦めろ。人の身でフィンブルヴェトルを引き受けたのだ。もはやどう足掻いても救うことはできない。 |
カーリャ・N | 認めませんっ ! |
バロールの尖兵 | ならば勝手にしろ。俺はもう行くぞ。ルグの槍をバロール様の手に戻さなければならない。 |
カーリャ・N | 待ちなさい、コーキス !――バロールの手の者っ ! |
バロールの尖兵 | 俺に構うより、そのリグレットとかいう女を助けた方がいいのではないか ? |
カーリャ・N | くっ…… ! |
バロールの尖兵 | バロール様に任せておけ。揺り籠の罪人がこの世界を壊そうとしてもバロール様が阻止して下さる。 |
カーリャ・N | ――くっ ! |
カーリャ・N | ……落ち着きなさい、カーリャ。今はリグレット様の治療が先。優先するべきことを間違えては駄目です。 |
カーリャ・N | メディカルシェル ! |
カーリャ・N | (どうかご無事で、ゲフィオン様…… ! ) |
キャラクター | 9話【15-14 雪原8】 |
テネブラエ | あっ、あちらですよ ! |
カイウス | おーい、ネヴァーーン ! |
カーリャ・N | 皆さん、お待ちしていました ! |
ガイ | よかった、無事に合流できたな。 |
ティア | 教官の容体は ! ? |
カーリャ・N | 負傷していますが、命に別状はないようです。 |
ルキウス | でもこれは……かなり深い傷だね。 |
カーリャ・N | ええ。私も先ほどから回復術を試みていたのですがまだここまでしか治癒できていません。 |
ティア | だったら、私も一緒に―― |
リグレット | あ……ティ……ア…… ? |
ティア | 教官 ! 気が付かれたのですね。 |
リグレット | 私は……、そうか……コーキスたちに……うっ……。 |
ティア | 動かないでください。まだ傷がふさがっていません。 |
リグレット | 傷……、あの状況で私は生きていたのか……。 |
カーリャ・N | 命を取るつもりはなかったのだと思います。コーキスは先ほどまでリグレット様の側にいましたから。 |
ガイ | ……バロールの尖兵、か。何にしても、意図的に急所を外したことは間違いないようだな。 |
テネブラエ | 無事にリグレットさんの意識も戻りましたしひとまず安心ということでよさそうですね。 |
ルキウス | ……バロールの尖兵、いやバロールの目的がはっきりしないところは不安要素だけれどね。 |
ガイ | ……そうだな。 |
ガイ | ティア、リグレットを動かせるようになるまであとどのくらいかかりそうかな ? |
ティア | そんなに時間は取らせないわ。もう少し術をかければ、負担も少なくなる筈だから。 |
ガイ | わかった。ティアの処置が終わったらリグレットをビフレストのアジトへ連れていこう。 |
リグレット | ……待て。私はフリーセルという男を追わねばならない。それに、コーキスやバルドのことも……。 |
カイウス | 追うって、その体で ! ? |
ティア | 失礼ながら、教官。それは誤った判断です。ご自分の状態をよく考えて下さい。いつもの教官なら、そんな無茶はしない筈です ! |
リグレット | ……お前に叱られるとは思わなかったな。 |
ティア | す、すみません……。つい……。口が過ぎました。 |
リグレット | いや、どうやら私は、自分で思っていたよりも動揺していたようだ。お陰で頭が冷えた。今の言葉は効いたぞ。 |
リグレット | 泣きそうな顔でなければ、なお良かったがな。 |
ティア | あ……。 |
ガイ | それじゃ、治療が終わったら出発だ。できれば背負ってやりたいが……その……。俺は……ちょっと……。 |
カイウス | いいよ。もしリグレットさんが歩けないようならオレが運ぶって ! |
リグレット | ……ありがたい話だが、私のことであれば心配はない。フリーセルの追跡は諦めるにしても回復すれば一人で戻るつもりだ。 |
ルキウス | こちらに気を遣っているのなら無用です。それとも、不用意に外部の者をアジトに近づけるのは心配ですか ? |
リグレット | フッ、聡いな。それもある。 |
ガイ | なるほどね。けど、こっちもビフレストのアジトに用があるんだ。 |
ガイ | ウチの研究室の依頼でジュニアに会わなきゃならなくてな。ついでに道案内も頼めるとありがたい。 |
ルキウス | それに、これは個人的な理由ですがメルクリアが心配なんです。側にいるつもりだったのに、こんなことになって……。 |
リグレット | そうか。お前がルキウスか。皇女がいつも気にかけていたな。 |
カイウス | こいつ、目が覚めたばっかりでフラフラのくせにリグレットさんやビフレストの件を知ったら一緒に行くって聞かなくて。 |
カイウス | ……でも、気持ちはよくわかるからさオレも一緒に来たんだけど。 |
ルキウス | ごめん……。兄さんまで巻き込んで。 |
カイウス | いいって。けど、絶対に無理はするなよ。ルビアたちを説得するの、大変だったんだからな。 |
ルキウス | うん、感謝してるよ。 |
リグレット | そうか。そういうことならば承知した。 |
テネブラエ | リグレットさんフリーセルの話は我々も聞いています。追跡は私が引き受けましょう。 |
テネブラエ | 私なら周囲の魔物たちから話を聞くこともできますし。 |
テネブラエ | これならば、心置きなくアジトへ向かって頂けるのでは ? |
リグレット | 異世界には不思議な生き物がいるものだな。だが助かる。すまないが頼まれてくれるか ? |
テネブラエ | お任せを。 |
カイウス | それじゃ、テネブラエ以外はビフレストのアジトへ向かうってことでいいよな。 |
カーリャ・N | カイウス様、申し訳ありませんが私はご一緒できません。 |
カーリャ・N | ゲフィオン様に危機が迫っているのです。私はこれからセールンドへ向かいます。 |
カイウス | わかった。でも、必ず連絡だけは取れるようにしておいて欲しいんだ。オレたちじゃなくても、イクスたちには必ず。 |
ガイ | 気をつけろよ。今はあっちこっちで混乱してるからな。 |
カーリャ・N | はい、ありがとうございます。皆様もお気をつけて。 |
バロールの尖兵 | おい、その船を貸せ。 |
船主 | 貸せだ ? 船なら金を払えば出してやるがね。 |
バロールの尖兵 | そうか。着いたら倍額払ってやる。目的地は墓守の街だ。 |
船主 | 墓守 ? 知らないな。 |
バロールの尖兵 | ならばセールンド諸島付近でいい。俺の言う場所へ船を着けろ。 |
シグレ | おおっと、その船待った !――ムルジム、当たりだぜ。良くやった。 |
ムルジム | ありがとう。『あの気配』が濃い方を辿ってみたけどまさか本当に出会えるとは思わなかったわ。 |
ムルジム | 一応、あたしもこの世界の精霊だからこれで面目躍如ね。 |
シグレ | おい、そこの船長さんよ巻き込まれないように逃げときな。 |
シグレ | これからそいつと、一戦交えるんでね。 |
船主 | ひぃーーーっ ! |
バロールの尖兵 | ……逃げられたか。まあ、却って都合がいい。これで自由に船が使える。 |
バロールの尖兵 | おい、お前。俺は戦うつもりはない。『俺』との因縁があるなら、後で相手をしてやる。 |
シグレ | いや、今の『お前』じゃなきゃ駄目だ。その気配と……強い奴と戦いたくてここまで追って来たんだからな。 |
シグレ | それで、何て呼べばいい ?お前は『コーキス』じゃねぇもんなぁ ? |
バロールの尖兵 | なるほど、事情を知ってて挑むか。やめておけ、死ぬぞ。 |
シグレ | 上等。死ぬ気で斬り合わんでどうする。手心なんぞ加えたら面白くねぇだろうが。 |
シグレ | それにコーキスは鏡精だ。死んでもまた具現化されるって聞いてるぜ。 |
シグレ | お前を倒せば、元に戻るかもしれねぇ。 |
バロールの尖兵 | 貴様はそれでいいかもしれん。だが、こいつはどうだ。お前が負けた時己の手で知己を斬ったと知れば、どう思うだろうな。 |
シグレ | さあな。だいたい、これからやり合うのは『コーキス』じゃなくて『お前』だろ。あいつが気にすることじゃねぇよ。 |
バロールの尖兵 | 話が通じない奴だ。正気の沙汰ではないな。 |
シグレ | 百も承知 ! 付き合ってもらうぜ ! |
バロールの尖兵 | っ ! ! |
キャラクター | 10話【15-15 港町】 |
バロール | ……尖兵とのリンクが切れたか。 |
死鏡精 | バロール様、バロール様。帝都にて、デミトリアスを捕まえました。 |
バロール | そうか。しかし、ルグの代わりになる鏡精を失った。 |
バロール | いや…… ? 来るか ? あの男なら。 |
死鏡精 | 始めましょう。バロール様。ルグの槍を手に入れましょう。 |
バロール | ……よかろう。 |
バロール | ルグの槍を起動する ! |
コーキス | (……な……んだ ? 体中がひどく痛い……) |
ムルジム | ちょっと、大丈夫 ? |
コーキス | ムルジム……さ……ま…… ? |
シグレ | おっと……。どうやら本体には逃げられちまったみたいだな。 |
コーキス | …………………………あ ! |
コーキス | そうだ ! 俺、バロールにのっとられたんだ ! |
ムルジム | 思い出したみたいね。どう ? 動ける ? |
コーキス | 大丈夫……っじゃない、かも。ひどいよ、シグレ様 !本気で俺のこと倒そうとしただろ ! |
ムルジム | シグレが最後まで本気だったらそんな口もきけなかったと思うわよ。 |
コーキス | う……そうか……。 |
シグレ | おい、コーキス。お前、バロールにのっとられていたときの記憶はあるのか ? |
コーキス | ……うん。 |
コーキス | どうしよう……。俺、リグレット様に酷いことしちゃった……。 |
シグレ | そんなことはどうでもいい。お前、ここからどこへ行こうとしてたんだ ? |
コーキス | そんなことって言い方はないだろ。 |
シグレ | リグレットなら大丈夫だ。さっき鏡士の仲間たちが回収していったからな。それより俺の質問に答えろ。 |
コーキス | えっと……墓守の街だよ。そこにバロールがいるみたいなんだ。 |
シグレ | だったら話は早え。コーキス、俺をバロールのところへ連れていけ。 |
コーキス | え ! ? だけどバルドを助けないと……。バルドものっとられたみたいだから。 |
ムルジム | さっき感じた、弱い方の気配かしら。 |
コーキス | 気配 ? のことはよくわかんねーけど……。 |
シグレ | バルドがお前みたいにバロールにのっとられたのならバロールのところに行って奴を倒せば全部解決するな。 |
コーキス | は ? |
コーキス | いやいやいや、何言ってんだよ、シグレ様 !バロールは倒しちゃ駄目なんだよ。 |
コーキス | なんか、えっと……この世界を守るためにはバロールを―― |
シグレ | あー、わかったわかった。死なないように殺せばいいんだろ。さあ、早く船に乗れ。墓守の街とやらまで案内しろ。 |
コーキス | 死なないように殺すってどういうことだよ ! ? |
シグレ | 地鳴りか ? |
三人 | ! ? |
コーキス | うわ ! ? 地震 ! ? |
ムルジム | まずいわね。目の前が海よ。津波でも来たらひとたまりもないわ。 |
シグレ | いや、こいつは地震じゃなさそうだ。 |
コーキス | え ? どうしてそんな風に言い切れるんだ ? |
シグレ | 見ろよ。あの真っ赤な火柱を。 |
コーキス | ! ? |
メイドA | きゃあああああああ ! ? |
メイドB | ルーングロム様 ! ? ブルート様 ! ?ウィンガル様 ! ? |
三人 | ! ? |
メイドA | 領主の皆様が……みんな……火の……柱に……。 |
マティウス | ! ! |
チトセ | マティウスさま ! ?どうして……どうしてマティウスさまが炎に包まれて―― |
チトセ | い、いやあぁぁぁぁぁぁ ! ? |
ロミー | (【贄の紋章】が反応した。予想より早いわね。でもこのタイミングを逃せば後がないわ。ルグの槍の力を使ってプリセプツを――) |
ロミー | くっ…… ! ? |
テレサ | オスカー ! オスカー ! ! |
オスカー | 姉……―― |
テレサ | オスカーッッ ! ? |
グラスティン | (オスカーが火柱になった……だと ?早い。早すぎるぞ。まだルグの槍を起動させる時じゃない) |
グラスティン | (どうなってる、デミトリアス ! ?) |
マーク | な……何だ…… ! ?帝都から火柱が噴き上がった ! ? |
シンク | 十柱あるね。それに他の場所からもいくつか火柱が上がってる―― |
シンク | ! ? |
シンク | 鏡士たちのアジトが……飛んでる ! ?な、何なんだよ、アレは ! ? |
アリス | ねえ、なんで浮遊島が動いてるのよ ! ?非常識過ぎじゃない ! ? |
フィリップ | マーク、今のアニマの暴発は一体――ってな、何…… ?一体何が起きてるんだ…… ? |
セシリィ | ……ね、ねえ、マーク !もしかしてあの浮遊島帝都の火柱に向かって飛んでるんじゃ……。 |
マーク | マジかよ ! ? |
マーク | おい、浮遊島 ! ! こちら救世軍 ! 応答しろ !一体何が起きてるんだ ! ? |
ハロルド | あちゃー……。ちょーっと遅かったみたいね。 |
ジェイド | ええ。ですが、まだ取り返せますよ。 |
リフィル | ジュニアと連絡さえ取れれば、だけれど……。 |
フリーセル | ――何なんだ、あの火柱は ! ? |
バロールの尖兵 | バロール様がデミトリアスを取り込みルグの槍を起動させたのだ。もっともあの火柱を仕掛けたのは帝国の連中だがな。 |
フリーセル | バルド様――ではないな。お前は一体……。 |
バロールの尖兵 | 俺はバロール様の尖兵。バロール様の命令でお前が集めているものを受け取りに来た。 |
フリーセル | 何 ? |
バロールの尖兵 | バロール様は命の選別はしない。ビフレストの生き残りだけを救おうなどという卑しい真似はやめろ。 |
イクス | こっちの準備が終わる前にルグの槍が起動するなんて……。 |
カーリャ | どうするんですか ! ?まだカイウスさまたちからの連絡はありませんよ ! ? |
イクス | 見切り発車になるけど、やるしかない。 |
イクス | 行くぞ、ミリーナ。 |
ミリーナ | ええ !ジェイドさんたちの作戦通り【贄の紋章】を無効化して、ルグの槍を鎮めましょう ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【16-1 アジト1】 |
セルゲイ | ……く……。 |
シャーリィ | セルゲイさん、大丈夫ですか ? |
ジュード | 目が覚めたばかりですぐ移動させるのは体に良くないんだけれど……。 |
アニー | 急に贄の紋章を刻まれた人たちを外に集めろだなんて一体何をするつもりなんですか ? |
リフィル | 無茶をお願いしたことは謝るわ。ごめんなさい。けれど、帝国内が混乱している今がチャンスだと考えたの。 |
マオ | チャンスって、何のコト ? |
キール | 贄の紋章を無効化するための千載一遇の好機ってことさ。 |
ワルター | メルネスを助けることができるのか ! ? |
リフィル | そういうことね。 |
アトワイト | 詳細を教えてくれるかしら。 |
キール | その前に、今の状況を振り返っておきたい。目下のところ、ぼくたちに課せられているのは『帝国からティル・ナ・ノーグを守ること』だ。 |
ユリウス | 帝国はティル・ナ・ノーグを滅ぼして滅びた世界ニーベルングを甦らせようとしている。 |
ユリウス | 贄の紋章はニーベルングとティル・ナ・ノーグを繋ぐ橋……魂の橋のようなものだ。 |
ユリウス | 起動したが最後、贄の紋章を刻まれた者のアニマを燃焼し、かつてニーベルングが存在していた空間とこの世界とを繋いでしまう。 |
ルドガー | 魂の橋……。 |
ユリウス | ……少なくとも、計測されているアニマの数値や位置情報から、帝国が分史世界を創るための準備に着手したことが見て取れた。 |
ユリウス | アルトリウスの騒ぎが落ち着いたらすぐにでも奴らはニーベルングを甦らせるだろう。 |
リフィル | これを防ぐために贄の紋章を無効化します。本当は消し去ることができればいいのだけれどそれは難しいの。 |
リフィル | キール研究室では、時間を稼ぐためにも無効化を優先するべきだと考えました。 |
キール | 無効化の手順は極めて簡単だ。 |
キール | そもそも贄の紋章というのは、この世界の人間の中にあるアニマの指向性をキラル分子によって自在に変化させる仕組みを指す。心核の鏡像異性体を体内に作って―― |
ルカ | ま、待ってよ、キール。何を言っているのかその……わからないというか……。 |
リフィル | キール、あなたの話はとても重要なものだけれど今は誰にでも簡潔にわかることを優先しましょう。あなたならそれもできるわ。そうでしょう ? |
キール | も、もちろんだ。 |
キール | ――つまり、お前たちにもわかるように話すなら贄の紋章と逆の作用を持つ紋章を刻むことで贄の紋章の作用を打ち消すんだ。 |
カルセドニー | そんなことができるのか。ならば、すぐにそれを行ってくれ ! |
キール | そ、そうしたいのはやまやまなんだが打ち消すための逆しまの紋章がまだ未完成なんだ。 |
マウリッツ | しかし、我々をこの浮遊島の広場に集めたということはまったくなす術がない、ということでもないのだろう。違うかね ? |
リフィル | その通りです。逆しまの紋章は九割完成しています。残りの一割を埋めるために、今カイウスたちがビフレスト側にいるジュニアに接触しています。 |
フォレスト | カイウスが……。それで、カイウスたちからの連絡はまだなのか ? |
リフィル | ええ。本来は彼らからの連絡を待って、逆しまの紋章を完成させてから、個別に紋章を刻めばいいのだけれどそれとは別に、今好機が訪れつつあるのよ。 |
レイス | 好機、か。それは今地上で帝国内部が混乱していることが関係しているのかな。 |
フォッグ | アレだ。帝国のアレがアレを裏切ってベルベットとスレイがアレしてるやつだな。 |
キール | そうさ。今、帝国の戦力は各地に分散して帝都の守りは手薄になっている。 |
キール | 今なら帝都に集められた鏡映点も救い出せるしニーベルングを甦らせるための装置も止めることができる。 |
キール | それどころかデミトリアスを叩くことだって可能だ。 |
ピオニー | つまり、ベルベットたちをおとりにして帝都を急襲人質の確保を行い、大将の首も取ろうって魂胆か。 |
ユリウス | そう簡単にことが運ぶかはわからないがそれが最善なのは間違いない。加えて逆しまの紋章を完成させ、刻む必要もある。 |
リフィル | ですから、今回は戦力を四分割します。 |
リフィル | 一つ目はスレイとベルベットたちのチーム。彼らはアルトリウスを撃破後救世軍と合流する筈。 |
リフィル | そこで救世軍と共に、今浮遊島を離れているモリスンイエガー、アレクセイの保護に向かってもらいます。 |
キール | 二つ目はカイウス、ルキウス、ガイ、ティアの四人のチーム。 |
キール | 目的はジュニアの体内に残されている、贄の紋章のデータを解析することだ。これが逆しまの紋章の完成に繋がる。 |
ジュード | 少し気になってたんだけど贄の紋章のデータっていうのはジュニアのものでないと駄目なの ? |
リフィル | ハロルドの推測ではそのようね。ビフレスト側の話を聞く限り、ジュニアはグラスティンによってすでに贄の紋章を起動させられていたのだと思うわ。 |
リフィル | ここにいるメンバーの贄の紋章はマオのもの以外まだ起動していない。 |
マオ | ボクはサレに一回利用されてるからネ……。 |
ユリウス | こんな言葉は慰めにはならないかもしれないが一度使われているからこそ他のみんなを救う手助けとなるんだ。 |
ユリウス | マオのデータとジュニアのデータを参照することで逆しまの紋章が完成する。 |
マオ | うん、ありがとう。みんなの役に立つのは大歓迎だヨ。 |
キール | 話を戻すぞ。三つ目のチームはお前たち――つまり浮遊島にいる贄の紋章を刻まれたメンバーだ。 |
キール | 逆しまの紋章はハロルドの開発した【逆しまの魔導砲】を使ってここにいる全員と帝都の鏡映点全員に刻み込む。 |
カルセドニー | 帝都の鏡映点……それはパライバさまたちのことだな ? |
キール | ああ。各領地の領主と従騎士たちのことだ。それぞれ手分けして刻むのでは効率が悪いし時間もかかる。 |
キール | だからぼくたちは、帝国の魔導砲の技術を転用して逆しまの紋章を広範囲に打ち込む方法を思いついた。 |
キール | この浮遊島の地下に逆しまの魔導砲を設置してある。この広場の下辺りだ。 |
リフィル | みんなにはここで待機してもらいます。 |
リフィル | 逆しまの紋章が完成したらすぐに逆しまの魔導砲を起動してみんなの贄の紋章を無効化するわ。 |
リーガル | 先程も言っていたが、浮遊島にもおらず帝都にもいない鏡映点の贄の紋章はどうなるのだ ? |
ユリウス | それは、個別に助けていくしかないな。 |
ルカ | 今の話の流れからすると四つ目のチームが帝都への潜入班ってこと ? |
ユリウス | その通りだ。今帝都には、領主や従騎士と彼らの心核が集まっている状態だ。可能な限り回収したい。 |
リッド | 帝都へは誰が行くんだ ? |
リフィル | 今は浮遊島を離れているメンバーも多いから残っている人員を二分するしかないわね。 |
リフィル | ただ、ルカたちレグヌム領にゆかりのあるメンバーとユリウス、ルドガー、エルは浮遊島に残ってもらいます。 |
ルドガー | ニーベルングの具現化に利用されるかも知れないからだな。 |
アトワイト | 今がチャンスであるという話はわかったわ。まだ療養が必要な人たちがこの場所にいなければならないという理由も。 |
アトワイト | けれど、今から帝都に向かうのならまだ焦る必要はなかったわよね。ゲートを使っても帝都まではかなり時間がかかる筈よ。 |
リフィル | 普通に考えればその通りなんだけれど……。 |
ユリウス | キール研究室は異世界の異能の集まりだからな……。 |
キール | パスカルとハロルドがこの浮遊島に推進装置をつけたんだ。つまり―― |
二人 | 島が動く。 |
アトワイト | ! ? |
キャラクター | 2話【16-2 アジト2】 |
イクス | それにしても、妙な気分です。 |
ジェイド | おや、浮遊島を動かすことがですか ?それとも――まだ何もわかっていないから、ですか ? |
イクス | やっぱりジェイドさんは何でもお見通しなんですね。 |
イクス | 帝国の目的はわかっています。けれどその為に手間暇を掛けている動機――いえ、そもそもデミトリアス陛下の動機がわからない。 |
イクス | 何故ティル・ナ・ノーグを滅ぼしてしまうのか。ニーベルングを甦らせることに固執するのか。 |
イクス | それに、帝国以外の思惑はさらにわかりません。バロールやダーナがどうしたいと思っているのか。フリーセルは何の目的を持って動いているのか。 |
ミリーナ | フリーセルに関しては、想像がつくような気がするわ。 |
イクス | ミリーナ、それは…… ? |
ミリーナ | 復讐よ。以前のメルクリアと同じ。セールンドへの復讐とビフレストの再興。 |
ミリーナ | フリーセルが具現化された存在だとしたらフリーセルの記憶は具現化された時代で止まっている。 |
ミリーナ | そこに今現在のティル・ナ・ノーグの情報を入れたらセールンド王国――ゲフィオンとその仲間がこの世界を玩具にしているようにしか見えないでしょうね。 |
ミリーナ | だからどう動くのか、までは読めないけれど……。 |
ジェイド | ええ、そうですね。とはいえ、私はフリーセルの存在に関しては大勢に影響がないと考えています。 |
ジェイド | ただ、些末な部分では問題になりえるでしょう。だからテネブラエを監視に向かわせました。 |
イクス | そうですか……。 |
ジェイド | おや、久々に心配性の虫が騒ぎ出しましたか ?ではもう少しだけ。デミトリアスの動機などわからなくても構いません。 |
ジェイド | 人間はわからないものに不安や恐怖を感じる。だから動機を知って、理解したつもりになって安心したいのです。 |
ジェイド | わからないものに囚われすぎる必要はない。動機がわかったところで理解できるとも限りません。 |
イクス | つまり、今できることに最善を尽くせってことですか ? |
カーリャ | むむ、ジェイドさまのくせにまともなことを言いますね。 |
ミリーナ | カーリャったらすぐそうやってジェイドさんに突っかかって。本当はジェイドさんが好きなんじゃない ? |
カーリャ | はああああああ ! ? |
ジェイド | おや、それはそれは。光栄ですね。私もカーリャが好きですよ。ええ、もう、解剖したいぐらいに♪ |
カーリャ | いやああああ ! ? ミリーナさま ! ?カーリャ、『鏡精のひらき』にされちゃいますよ ! ? |
アトワイト | この浮遊島を飛空挺のように改造したということ ! ? |
リッド | この島が動くのかよ ! ? |
フォッグ | ぐわははは ! そいつはすげえな ! ? |
アニー | 島が動く……。でも、確かにそれなら地上を移動するより遙かに早いです。 |
リフィル | ええ。だから、すぐ帝都上空へつけることができるわ。もっとも現時点でこの浮遊島を動かせるのは魔鏡術が使える鏡士だけだけれど……。 |
セルゲイ | ――ん…… ? な、何だ…… ? |
シャーリィ | セルゲイさん ? どうしたんですか ? |
ルカ | セルゲイさんの顔色が悪い……。まだ車椅子も負担なのかも……。 |
ジュード | ここに待機しなければいけないならベッドを持ってこよう。テントか何かもあればいいんだけど。 |
リーガル | ベッドは医務室のものを運べばいいだろう。テントはイクスたちに―― ! ? |
リーガル | なん……だ…… ? 胸が…………ッ ! |
マウリッツ | グゥ……。 |
シャーリィ | マウリッツさん ! ? |
レイス | ……っ、リッド……。 |
リッド | おい、レイス、どうした ! ? |
カルセドニー | これは……スピリアが……―― |
フォレスト | 息が……カハッッ ! ? |
アニー | カルセドニーさん ! フォレストさん ! |
アニー | 駄目です ! 脈が速すぎて―― |
ピオニー | まず……い……。ジェイドを……呼べ―― |
フォッグ | ぐっ……。 |
マオ | ピオニーとフォッグまで ! どういうこと ! ? |
ワルター | メルネス……メル……ネス……ッ ! |
シャーリィ | ワルターさん ! ? ワルターさ……―― |
マオ | あ……ボクも……きゅうにねむく……―― |
キール | な、なんだ…… ! ? 人体発火…… ! ? |
リフィル | みんなが炎の柱に…… ! ?いえ、シャーリィとマオは気絶しているだけみたいだわ。 |
リッド | 一体どうなってんだ ! ? |
ジュード | ……この炎は熱くないみたいだ。ただの炎じゃない。 |
イクス | ――な、何ですか ! ? 炎の柱がこんなに沢山 ! ? |
ミリーナ | 熱を感じない……それにこの感覚……。アニマを放出しているんだわ。 |
カーリャ | うう……ぶるるるるるるるるっ ! ? き、きまひた ! ?ひしゃびしゃにブルブル来てましゅよお ! ? |
ジェイド | カーリャのこの反応は、光魔の鏡や鏡映点を発見した時と同じですね。しかもその時より激しく震えています。 |
ジェイド | ……とすると、これがルグの槍なのでしょうね。 |
一同 | ! ? |
ユリウス | 何故そう断言できる ? |
ジェイド | 光魔の鏡は虚無とこの世界を繋ぐゲートでした。鏡映点も元の世界からアニマをこの世界に届ける存在です。 |
ジェイド | つまりどちらも異世界や異次元との繋がりを持ち恐らく鏡精はそういうものに反応するのでしょう。 |
ジェイド | ルグの槍もまた分史世界とティル・ナ・ノーグを繋ぐ存在ですから。 |
ユリウス | 分史世界が創られたのか ? |
ジェイド | それは観測機を見てみないことにはなんとも言えませんが―― |
ジェイド | ルドガー、エルを捜してきて下さい。大至急です。 |
ルドガー | え ? あ、ああ、わかった ! |
ユリウス | 俺も行こう ! |
アニー | あの ! みんなは大丈夫なんですか ! ? |
ジェイド | こちらの計算通りであれば、まだ大丈夫な筈です。 |
ジェイド | アトワイト、ルカ。管制棟へ向かって下さい。ハロルドがいる筈です。ルグの槍が起動したと伝えればあらかじめ準備していた観測器を渡してくれます。 |
ジェイド | それを持ってきて下さい。 |
アトワイト | 了解。――ルカ、行きましょう。 |
ルカ | は、はい ! |
リフィル | それにしても、帝国の動きが予測より遙かに早いわ。計画を前倒しするしかなさそうね。 |
イクス | こっちの準備が終わる前にルグの槍が起動するなんて……。 |
カーリャ | どうするんですか ! ?まだカイウスさまたちからの連絡はありませんよ ! ? |
イクス | 見切り発車になるけど、やるしかない。 |
イクス | 行くぞ、ミリーナ。 |
ミリーナ | ええ !ジェイドさんたちの作戦通り【贄の紋章】を無効化して、ルグの槍を鎮めましょう ! |
アニー | でも、本当にルグの槍が起動したんですか ?だとしたら、どうしてシャーリィさんとマオだけは無事なんでしょうか ? |
ジェイド | ……想像は付きます。ですが、その話は後にしましょう。今は時間が惜しい。 |
ジェイド | イクス。浮遊島を帝都上空へ !やり方は先程教えた通りです。 |
イクス | はい、やってみます ! |
イクス | ミリーナ。俺はしばらく操縦に集中する。何かあったら浮遊島の指示はミリーナに任せるよ。 |
ミリーナ | 了解よ。ジェイドさん、イクスに付いていてあげて下さい。 |
ジェイド | ええ、そのつもりですよ。 |
キャラクター | 3話【16-5 テルカ・リュミレース領 森】 |
アレクセイ | なるほど、あの盗賊……フリーセルは新大陸にいたか。その後の足取りはどうなった。 |
デクス | わからない。救世軍に回ってきたのは奴と遭遇したって話までだ。 |
デクス | で、そっちは何か見つかったか ?イエガーって奴の一件からずっとフリーセルを追ってるんだろ。 |
アレクセイ | 共有できるような情報は特にない。 |
デクス | そりゃないだろ。色々動いているのはわかってるんだ。 |
デクス | いつもオレたちの情報ばっか吸い上げて。お前らは一応救世軍と提携してるんだぞ。その辺、ちゃんとわかってるか ? |
アレクセイ | ああ。きみたちには感謝しているよ。この領土で騒いでいた輩の正体がわかったことで我らが帝国に先手を打つ方法も見えてきたのだからな。 |
アレクセイ | 定時連絡ご苦労だった。お引き取り願おう。 |
デクス | ううっ……なんてことだ。手ぶらで帰ったらアリスちゃんをがっかりさせてしまうじゃないか ! |
デクス | アリスちゃんにあんなことやこんなことをしてもらう計画がああああ ! |
アレクセイ | 私の知ったことではない。せいぜいご機嫌をとってやりたまえ。 |
デクス | 仕方ない。そろそろレイヴンが来るはずだしそっちから何か情報をもらうか……。 |
アレクセイ | レイヴンだと ? |
デクス | はっはっはっ ! 気になるのか騎士団長殿 !実はここで落ち合う約束をしてるんだ。あいつも各地の情報を集めて回ってるからな。 |
アレクセイ | まったく、お前たちは……。私の拠点を勝手に―― |
アレクセイ一派兵士A | 失礼します、アレクセイ様。 |
アレクセイ | どうした。 |
アレクセイ一派兵士A | 捜索中のフリーセルですがアジトと思われる場所を突き止めました。 |
デクス | おおっ ! ? |
アレクセイ | そうか、よくやった。 |
アレクセイ一派兵士A | ついては、周辺の監視を強化したく―― |
アレクセイ | 待て。――デクス、ここからは席を外してもら……。 |
デクス | ……どうした、アレクセイ ?何だか急に顔色が……。 |
アレクセイ | ……っ ! |
レイヴン | だからぁ、ここで救世軍のデクスと待ち合わせしてんの !おたくの大将だって知ってるはずよ ? ……多分。 |
アレクセイ一派兵士B | わかったから、もう少し待て。今は大事な報告を―― |
レイヴン | なんだありゃ ! ? 火…… ! ? |
アレクセイ一派兵士A | アレクセイ様っ ! アレクセイ様ーー ! ! |
アレクセイ一派兵士B | あれは…… ! ? あ、貴様、待てっ ! |
レイヴン | おい、どうした ! 何が起きた ! ? |
レイヴン | ! ? |
デクス | レイヴン ! ア、アレクセイが !アレクセイが突然火柱になった ! |
レイヴン | これが……アレクセイ…… ? |
| 同時刻 アレウーラ領 |
ゴーシュ | いい仕入れができたな。この商品なら高値で取引ができそうだ。 |
ドロワット | でも大量に買いすぎ~。すっごく重いのねん……。イエガー様は大丈夫 ? |
イエガー | イエース。ノープロブレムね。 |
ゴーシュ | ですが、まだお体が辛いでしょう ?ここからは私が預かります。 |
ドロワット | あっ、ゴーシュちゃんずるい !イエガー様の荷物なら私が預かるのよん。 |
ゴーシュ | さっきまで重いと愚痴を言っていたくせに。 |
イエガー | フフフ……ユーたちとこうしているとまるで普通の商人のようですね。 |
イエガー | こんなドリームのような日が――………………。 |
ゴーシュ | イエガー様 ? |
ドロワット | ……止まって、ゴーシュちゃん。あそこにいる人、見覚えあるぬん。鏡映点リストにあった、え~っと……ロミー ? |
ゴーシュ | だとしたら敵だぞ。イエガー様を守れ ! |
ロミー | くっ…… ! ? 間に合わない―― |
二人 | ! ? |
ゴーシュ | イエガー様、見ましたか ! ?あの人、火の柱に ! |
イエガー | っ ! ! |
ゴーシュ | え…… ? あ……あああっ ! ! |
ドロワット | イエガー様あああああっ ! ! |
| 同時刻 アセリア領 |
クレス | モリスンさん ! モリスンさん ! ?ミント、この火は術でどうにかならないのか ! ? |
ミント | 術が効きません !火のようですが、何かが変です……。クレスさん、すぐにアジトへ連絡をお願いします ! |
クレス | わかった ! |
クレア | こちら浮遊島のクレアです。クレスさんですね ? |
クレス | クレア、緊急なんだ。モリスンさんが突然火に包まれた !術ではどうにもならないらしい。 |
クレア | モリスンさんも ! ?さっきから同じ報告をいくつも受けているの。 |
クレス | 他にも火柱になった人がいるのか ! |
クレア | ええ。少しだけ待ってて。――マリアンさん、そっちはどう ? |
マリアン | はい。準備できました ! |
マリアン | クレスさん、今から報告のあった方たちと通信回線を開きます。皆さんと状況の確認をお願いできますか。 |
クレス | わかった。すぐに繋いでくれ ! |
レイヴン | ――突然の発火、本人以外周囲に被害はなし、か。アレクセイと同じだな。 |
ゴーシュ | イエガー様もだ。ロミーと思われる人物とほぼ同時に……っ。 |
ドロワット | ううっ、イエガー様ぁ……。 |
マーク | お前らの話だと、火柱化したのは全員領主か従騎士だった奴らみたいだな。 |
マーク | ケリュケイオンでは帝都から上がる火柱を確認した。あっち側にいる領主たちかもしれねえ。 |
マーク | とはいえ、ウチの聖女様は問題ないんだが……。 |
クレス | エルレインさんか。他の領主との違いはなんだろう。 |
マーク | 違い……そうか、【贄の紋章】だ。エルレインは紋章を入れられてないって話だぜ。 |
キール | その通り。贄の紋章を入れられた者が火柱になっているんだ。 |
マーク | キールか ! どうなってんだか説明しろ。通信は急に途絶えるわ、浮遊島は動いてるわ……。そっちにいる元領主や従騎士はどうした。 |
キール | 同じだよ……。火柱になった。 |
全員 | ! ! |
キャラクター | 4話【16-6 アジト5】 |
ファラ | レイス……フォッグ……。本当にこの火の柱が二人なの…… ? |
メルディ | キールたち、すごく頑張ってるよ。きっと何とかしてくれる ! |
チャット | そうですね……。今はキール研究室の指示を待つしかありません……。 |
リッド | オレたちは何もできないのかよ ! |
? ? ? | ……頼む……助け……。 |
リッド | えっ ! ? |
ファラ | どうしたの ? |
リッド | レイスの声がした。 |
ファラ | レイス ! ? わたしには何も聞こえないよ ? |
メルディ | メルディも。リッドにだけ聞こえてるか ? |
チャット | フォッグさんは ! ?フォッグさんの声は聞こえるんですか ! ? |
リッド | 悪ぃ、ちょっと静かにしててくれ。――おい、レイスだよな。返事してくれ ! |
レイス | リッド……、私の声が届いているのか。 |
リッド | ああ、聞こえてるぜ。オレだけみたいだけどな。 |
レイス | そうか。だとすると極光術……セイファートの試練が関係しているのかもしれない。 |
リッド | なんにしろ無事……じゃねえかもしんねえが意識はしっかりしてんだな。 |
リッド | レイスも含めて、贄の紋章を付けられた奴は火柱になっちまったんだ。覚えてるか ? |
レイス | ああ、朧気に。それに贄の紋章の者たちとは意識で――心の世界で繋がっているようだ。 |
リッド | ってことは、フォッグや他の連中も ? |
レイス | ああ。フォッグは側にいる。他にも何人か。今、姿が見えない者たちともすぐに出会えるだろう。 |
レイス | 私を介せば、心の世界にいる他の者にも状況を伝えられる。そちらではどうなっているのか、教えてくれないか。 |
リッド | わかった。さっきも言ったけどあの時集められた連中は突然火柱になったんだ。 |
リッド | ん ? 違うな。シャーリィとマオは無事だった。 |
レイス | シャーリィとマオ…… ?おかしいな。二人ともこちらにいるぞ。 |
リッド | そんなはずねぇよ。気は失ったけど、火柱にはなってない。……あ、もしかして…… ! |
リッド | レイス、ちょっと待っててくれ。 |
ファラ | ちょ、ちょっと、リッド ! ? |
メルディ | 一人でぶつぶつ言って、どうかしたか ? |
リッド | ミリーナに話があるんだ ! |
リッド | ソーマ使いをここに呼んでくれ !レイスたちを助けられるかもしんねぇ。 |
リフィル | そう……。レイスの声が聞こえたのね。 |
ミリーナ | 確かに、マオやシャーリィにスピルリンクすればその心の中で、火柱になった人たちと会えるかもしれないわ。 |
リッド | まあ、オレの思い付きだから上手くいくかわかんねぇけど……。 |
シング | 大丈夫、まかせて。オレも早くカルを助けたいんだ。 |
シング | けど、いつもと状況が違うからイクスかミリーナも一緒に来てもらえるかな ? |
ミリーナ | もちろんよ。イクスは今浮遊島を動かしているから私だけになるけど、いいかしら。 |
シング | うん。じゃあ、まずはマオからリンクしてみよう。上手くできなかったら次はシャーリィってことで。 |
ミリーナ | そうね、それで行きましょう。イクスと、それにヴェイグさんやセネルさんにも話を通さなくちゃね。 |
カーリャ | それではカーリャはイクスさまに知らせてきますね ! |
ミリーナ | ええ、お願い。 |
ファラ | ミリーナ、わたしも一緒に心の中に行くよ。 |
チャット | あっ、ボクも行きます ! カーリャさんは鏡精だから人数にカウントされないとして、あと二人は心の中に連れてってもらえますね ? |
アニー | それなら、わたしも連れて行って下さい。マオと話ができるかも知れないんですよね。 |
ミリーナ | みんな……ごめんなさい。正直、リスクがないとは言えないの。今回は私とシングだけで入るわ。 |
ファラ | でも、ここでじっとしてるなんて……。 |
チャット | ボクもです……。さっきは待つしかないって言いましたけど本当は、何もできない自分が悔しかったんです……。 |
メルディ | 気持ちわかるよ。メルディも行きたい。 |
チャット | そうですよね ! |
メルディ | でも、ここで無茶して何かあったらレイスやフォッグは悲しむな。 |
ジュード | アニーもだよ。僕たちはシャーリィとマオの体に異変がないか見ていてあげよう。そうすることがみんなの助けになる筈だよ。 |
三人 | …………。 |
アニー | そうですね。ジュードさんの言うとおりです。こういう時こそ、何が大事なのかしっかり見極めないといけませんよね。 |
チャット | すみません……。ボクとしたことが、冷静ではありませんでした。 |
ファラ | わたしも、困らせてごめん。 |
リッド | そう思うんならオレたちはこっちで、やれることをやろうぜ。 |
ファラ | リッドは冷静で凄いね……。 |
リッド | そうでもねぇって。オレは今、レイスと繋がってるからお前らより落ち着いてるってだけだ。 |
リッド | 仲間を……誰かを失うかもって思うとさやっぱ怖ぇよ。 |
ファラ | そうだよね。みんな同じなんだよね。 |
リフィル | あら、私が説得するまでもなかったわね。偉いわ、みんな。今はあらゆる状況に対応できるよう、冷静でいなくてはね。 |
ファラ | はい。 |
ファラ | ミリーナ、シング、気を付けて行ってきて。みんなをお願い。 |
ミリーナ | ええ、ファラたちも浮遊島の方を頼むわね。 |
キャラクター | 5話【16-9 仮想鏡界1】 |
マークⅡ | じゃあ、お前らはこっちで待っててくれ。俺はジュニアの様子を見てくる。 |
ガイ | なんだ、早かったな。メルクリアには会えたのか ? |
ルキウス | うん。だけど、まだ体調がよくないみたいだから少しだけ話をして、あとは横にならせたんだ。また後で様子を見てくるよ。 |
カイウス | なあ、リグレットさんの方はどうなってる ?治療は上手くいってるのかな。 |
ガイ | まあ、心配ないだろ。ティアとヴァンもいるし。――っと、噂をすればだ。 |
ティア | 待たせてごめんなさい。教官の傷はすっかりふさがったわ。 |
ティア | 今、ナーザ将軍たちにバルドやコーキスたちのことを報告しているところよ。 |
カイウス | そうか ! 安心したよ。 |
ガイ | な、心配なかっただろ ? |
ヴァン | ガイラルディア様、ご面倒をおかけしました。リグレットを連れてきて頂き、感謝申し上げる。 |
ガイ | 別に面倒なんて思っちゃいないよ。ついでと言うと語弊はあるがこっちも用があって来てるからな。 |
ジュニア | 皆さん、お待たせしてすみません。 |
マークⅡ | おい、待てってジュニア。本当にもういいのかよ。 |
ジュニア | 大丈夫だってば。さっきはおかしなアニマの動きで一瞬気持ち悪くなっただけ。 |
ディスト | まったく、なんなんですか。忙しい私を呼び出すからには納得いく理由と、その対価が必要ですよ ! |
ガイ | 理由も対価もあると思うぜ ? ま、とりあえずこの手紙を読んでくれ。 |
ジュニア | キール研究室からですね。拝見します。 |
ジュニア | これは……。 |
ジュニア | ――本当に、こんなことが可能なんでしょうか。逆しまの紋章で贄の紋章の作用を相殺するなんて……。 |
ガイ | 俺の知識じゃ可能かどうかを論じることはできないが少なくともジェイドは分の悪い賭けをするような人間じゃないぜ。 |
ガイ | 今日はその計画のための計測装置も持ってきた。 |
ジュニア | でも、扱うには相当の知識が必要ですよね ? |
ガイ | そうなんだよ。そこで、だ。 |
ガイ | ディスト、受け取れ。ジェイドからお前さん宛ての手紙だ。 |
ディスト | ジェイドから……私に ! ? |
ガイ | ああ。是非とも頼むだとさ。今回の件はお前に託したってことだろ。親友の、な。 |
ディスト | 親友の私に……。そうですか ! そうでしょうとも ! ジェイドの思惑を理解し、成し遂げ得る頭脳の持ち主がこの薔薇のディスト様以外にいるものですか ! |
ディスト | 仕方ありません、これほど私を欲するというのなら少しくらいは手伝ってあげましょう。――マーク、まずは手紙を飾る額縁を用意なさい ! |
カイウス | なあ、なんかすげえ嬉しそうだけどあれって利用されてるだけなんじゃ……。 |
ルキウス | 兄さん、しーっ。いいんだよ、これで。 |
ガイ | まあ、今のところ誰も損しちゃいないからな。若干気が引けるが機嫌よくやってくれるなら何よりだ。 |
ティア | そういえば、兄さんも贄の紋章が入っているでしょう ?この作戦の間だけでも、私たちのアジトにいた方がいいんじゃないかしら。 |
ガイ | そうだな。ここじゃ魔鏡通信も繋がらないし。どうだ、ヴァン。 |
ヴァン | 確かにここはジュニアの仮想鏡界――心の中だ。万一のことを考えると、外に出た方がいいのだろうな。だが、鏡士たちの下へ行く必要は―― |
ヴァン | ! ? |
ティア | どうしたの ? |
ヴァン | 今……何かが私の精神に……心に触れてきた。 |
ティア | 心って、ローレライ ? |
ヴァン | いや、これは別の……。誰かが呼んで…………。 |
ティア | 兄さん ! ? |
ガイ | おい、ヴァン ! 目を開けろ、ヴァン ! |
キャラクター | 6話【16-10 心の世界1】 |
? ? ? | こっちだ。私たちのところへ早く―― |
ヴァン | ここは…… ? |
? ? ? | おーい、おーい、やっほー ! |
? ? ? | 聞こえていたら返事をして ! |
ヴァン | この声たちか、呼んでいたのは。――私はここだ。 |
レイス | ああ、来たようだ。ミリーナ、こっちだ。 |
ミリーナ | ヴァンさんだわ !やっぱりここにいたんですね。 |
ヴァン | 鏡士のミリーナか。 |
ミリーナ | そうです。直接お会いしたのは初めてなのによくおわかりですね。 |
ヴァン | それはお前が初対面で私が『ヴァン』だと気付いたのと同じことだ。 |
ヴァン | お前たちが用意した鏡映点リストとやらには一通り目を通してある。無論鏡士の情報にも、な。 |
ヴァン | それで、「ここにいた」とはどういう意味だ。 |
ミリーナ | 火柱になった贄の紋章の人たちはこの心の世界――スピルメイズで繋がっているんです。 |
マオ | ヴァンも、気が付いたらここにいたんでしょ ? |
ヴァン | いや、私はビフレストの拠点にいたのだが心の中で、お前たちの声が聞こえたのでな。その声を辿ってみたらここに着いたというわけだ。 |
マオ | それじゃ、火柱にはならなかったの ? |
ヴァン | 火柱 ? |
ピオニー | そこにいるのは、ヴァン・グランツ……か…… ? |
ヴァン | ピオニー陛下 ?そうか、あなたも領主でしたな。直接お目に掛かるのは何年ぶりか。 |
ピオニー | はは……。これが直接かはわからんが……な……。 |
シャーリィ | ミリーナさん、あっちにカルセドニーさんとセルゲイさんがいました !今、シングさんが連れてきてくれます。 |
シャーリィ | まだ見つからない人もいますしシングさんが戻ったらわたし、もう少し先まで捜してきますね。 |
ワルター | 待て、メルネス……これ以上は危険だ……。俺が……。 |
シャーリィ | わたしは大丈夫ですから。ワルターさんこそ、無理はしないでください。 |
シャーリィ | マウリッツさんも、ワルターさんと一緒にここにいてくださいね。 |
マウリッツ | 力になれず……すまないな……。 |
ヴァン | ……黒衣の鏡士。いや、ミリーナと呼ぶべきか。 |
ヴァン | 一体何が起きている。 |
ミリーナ | はい、わかる範囲で説明しますね。 |
ヴァン | ――なるほど。そのソーマ使いの話どおりならばスピルーン……心核のある場所が、贄の紋章の者たち全員で繋がってしまっているわけだな。 |
ミリーナ | はい。ですから多少のバラつきはあっても全員この付近にいる筈なんです。 |
ヴァン | それで捜して回っていると。――貴公は外への連絡役を担っているのだな。 |
レイス | ああ。だが、他の者よりは動けるもののやはり体の方は思うようではないんだ。そういう意味では、あまり役に立てそうもない。 |
フォッグ | 何言ってんだぁ……。今は、お前がアレなんだぜ……。 |
カーリャ | アレ ? 頼り、ですかね。 |
フォッグ | おぅ……ソレだ……ソレ……。ぐあははっ……はは……。 |
カーリャ | 大丈夫ですか ! ?カラ元気が過ぎますよ、フォッグさま。 |
ヴァン | 事情はわかった。しかし、君たちも紋章付きの筈だが何事もなかったというのは不思議だな。 |
マオ | ないわけじゃないヨ。火柱にはならなかったけどボクとシャーリィは気を失って倒れちゃったんだ。ヴァンは何も感じなかった ? |
ヴァン | リグレットの治療に当たっている時にわずかに眩暈を感じたが……。特に変化はなかった。 |
ヴァン | 私はジュニアの仮想鏡界の中にいたからな。外にいるのとは何か作用が違っているのかも知れない。 |
シャーリィ | 不思議ですね。紋章を付けられたのは同じなのにわたしたち、他の人と何が違うんでしょう。 |
マオ | それに、ヴァンの話だとジュニアの方も特に異変がないみたいだよね。でも、ジュニアにも贄の紋章があるんでしょ ? |
ヴァン | 先程ガイたちが、ジュニアの贄の紋章のデータを求めて訪ねてきた。 |
ヴァン | つまり、アジトの研究者たちは、ジュニアの贄の紋章が他の者とは違う状態だと察していたのだろう。 |
ヴァン | ジュニアがこの場にいないことは不自然ではないのかも知れぬな。 |
カーリャ | 違うといえば、シャーリィさまやマオさまは領主でも従騎士でもありませんよね。確か、グラスティンやサレに―― |
二人 | ……。 |
カーリャ | す、すみません !嫌なことを思い出させちゃって。 |
シャーリィ | ううん、大丈夫。あの時のことはもう……。 |
シャーリィ | ……あっ ! そういえばグラスティンはわたしとウンディーネとの繋がりに気づいて紋章をいれたみたいだった。 |
ミリーナ | そうだったわ。シャーリィはウンディーネと深く繋がっているのよね。確か、ヴァンさんも―― |
ヴァン | ああ。私の中にはローレライがいる。 |
マオ | じゃあ、きっとボクも精霊関係だヨ。こっちの世界でいう精霊がボクのお母さんなんだ。 |
ミリーナ | そうか……そうだったのね。何らかの形で精霊の加護を受けた人が火柱にならなかったのかもしれない……。 |
マオ | あれ、でもレイスは ? 火柱になっちゃったケド他の人よりは元気だし。やっぱり精霊に関係あるの ? |
レイス | いや、ないな。だが、私は元の世界でセイファートの……神の試練を受けている最中だった。そのおかげか、リッドとも通じている。 |
シャーリィ | じゃあ、それ以外の人たちはこのまま……。 |
カーリャ | あっ、シングさまです ! |
シング | カル、しっかり ! ミリーナたちの所までもうすぐだ。 |
カルセドニー | シング……、僕より、セルゲイの様子が……。 |
セルゲイ | …………。 |
シング | セルゲイさん ? |
全員 | ! ? |
マオ | セルゲイの姿が崩れて……消えちゃった ! |
シング | セルゲイさん ! そんな……。 |
カルセドニー | いや……消えた跡を……よく見ろ……。 |
シング | 跡…… ? これ、心核だ ! |
シャーリィ | ミリーナさん、どういうことでしょう……。 |
マウリッツ | …………うう。 |
ワルター | ………。 |
シャーリィ | マウリッツさん、ワルターさん ! |
カーリャ | ミリーナさま、みんなどんどん弱ってます……。 |
レイス | 私も感じる。少しづつだが力が失われているんだ……。 |
シング | それじゃ、みんなセルゲイさんみたいに姿が保てなくなるの ! ? |
カーリャ | どうにかなりませんか、ミリーナさま ! |
ミリーナ | ……隠していても仕方がないからはっきり言うわね。 |
ミリーナ | ルグの槍を起動すると、贄の紋章を持った人は世界を創るエネルギーの柱として消費されるとジェイドさんも言っていたわ。 |
ミリーナ | みんなの体から放たれていたあの炎はアニマの放出現象なの。 |
ミリーナ | アニマは人の魂。精神エネルギーよ。これを放出しているということは徐々に精神的な死を迎えようとしている。 |
ミリーナ | だからまず、心の世界で存在が保てなくなった。 |
カーリャ | セルゲイさまは元々回復しきってなかったから最初に消えちゃったんですね。 |
ミリーナ | ええ。やがてこれは心核に影響を及ぼすと考えられるわ。 |
ヴァン | つまり、心核も消費され、消滅するということだな。 |
ミリーナ | ええ。恐らくは心核が燃え尽きてしまうでしょうね。 |
シャーリィ | そんな…… ! |
レイス | 今の話をリッドに伝えよう。私の意識がはっきりしているうちに……。 |
キャラクター | 7話【16-12 アジト8】 |
リッド | ――さっきレイスから届いた話は、これで全部だ。この通信でアジト全体に話は伝わると思うけど聞いてなさそうな奴には直接教えてやってくれ。 |
ジーニアス | あんな状態だけどリーガルは心の世界の中にいるんだね。 |
プレセア | ですが、弱っていると言ってました。一刻も早く元に戻さないと取り返しのつかないことになるかもしれません。 |
しいな | ……試してみるか。 |
ジーニアス | しいな ? 何する気。 |
しいな | ヴェリウスを呼んでみるのサ。 |
ジーニアス | ヴェリウスって心の精霊の ? |
しいな | ああ。前にあいつと会った時あたしとは繋がりがあるって言ってたんだよ。手を貸してもらえないか頼んでみる。 |
プレセア | お願いします。 |
しいな | ……ヴェリウス、あたしだ、しいなだよ !答えとくれ。仲間が危ないんだ ! |
しいな | ……………………。 |
? ? ? | ……………………。 |
ジーニアス | どう ? ヴェリウスの声、聞こえた ? |
しいな | …………駄目みたいだ。何か気配は感じる気がするんだけどね。ダメ元でもう少し声をかけ続けてみるよ。 |
ジーニアス | うん、頑張ってね、しいな。 |
しいな | ああ。大勢の仲間を目の前で失うのはごめんだからね。 |
しいな | ヴェリウス……頼むよ…… ! |
イクス | 帝都上空、停止します ! |
ジェイド | お見事。ぴったり真上のようですね。 |
ジェイド | ミリーナの補助がなかった分、キラル分子の不足による出力低下の恐れもありましたが問題なかったようで良かったです。 |
リフィル | 浮遊島が停止したから、様子を見に来たわ。イクス、大丈夫 ? |
イクス | はい、俺の方は全然。あの、みんなの様子はどうですか ? |
リフィル | ええ。そのことも伝えなくてはと思って。 |
イクス | そうですか……。早く贄の紋章を無効化しないと。ジュニアの方はどうですか ?何か連絡は来ましたか ? |
リフィル | いいえ、残念ながらまだよ。本来はもう少し余裕のある中で進める計画だったから時間がかかるのは仕方がないわ。 |
ジェイド | そうですね。あちらのアジトは外界を遮断していますし今の状況を知らない可能性も高い。 |
ジェイド | まあ、それでもデータはすぐに来ると思いますよ。念のために手は打ってありますから。 |
リフィル | 手 ? そういえばあなたガイたちに手紙を渡していたけれど、それのこと ? |
ジェイド | ええ。作業が早まるおまじないです♪ |
リフィル | では、ジュニアのデータが届いたらすぐに起動システムを解除できるように準備しておきましょう。 |
イクス | それじゃあ、俺の方も始めますね。 |
リフィル | ごめんなさいね。敵の動きが変わった以上本来は計画を練り直すべきなんでしょうけれど……。 |
イクス | いえ、火柱になったみんなを助けるためにもできることをやらないと。 |
ジェイド | 不本意ながら、やや確度の低い作戦になってしまいますが、これは仕方がありません。ただ、やることは同じです。 |
ジェイド | イクスはバロールの血族ですからね。あなたの中にはバロールの残滓が存在している。今度はこちらがバロールの力を拝借します。 |
イクス | はい。父や母の遺言が本当なら俺にはルグの槍に干渉する力があるはずですから。 |
女性の声 | 世界が崩壊する前に、ルグの槍を解放するのよ。それができるのは、バロールの魔眼を受け継ぐイクスとあなたが生み出す鏡精だけなの。 |
イクス | バロールの力で、ルグの槍を起動する装置が帝都のどこにあるか感知して、装置を解除、破壊する。それでいいんですよね。 |
リフィル | ええ。こちらはギリギリまでジュニアからの連絡を待つわ。 |
リフィル | ルグの槍や分史世界の動向次第では、ジュニアのデータなしで、逆しまの魔導砲を撃つことになる。 |
イクス | その前に、俺が起動装置をなんとかできれば危うい状態で、逆しまの紋章を打ち込む必要はありませんよね。 |
リフィル | それはそうだけれど……無理をしては駄目よ。バロールの力を使うことも帝都へ潜入することも危険なんですからね。 |
イクス | はい。みんなに迷惑は掛けませんし無茶も……なるべくしません。 |
リフィル | 迷惑なんていくらだって掛けていいのよ。だからなるべくではなく、絶対に無茶はしないこと。よくって ? |
イクス | はい、リフィル先生。 |
ジェイド | あなたの生徒は問題児が多いですねぇ。 |
リフィル | 素行で言えば、誰かさんよりは遥かに優秀です。 |
イクス | あはは ! |
イクス | それじゃあ、まず浮遊島周辺のアニマの流れを観測します。 |
ジェイド | 浮遊島には、様々な観測装置が設置してあります。あなたの足下の魔鏡陣は、浮遊島の操縦だけでなく観測装置とも連携していますので、利用して下さい。 |
ジェイド | 鏡士であるあなたなら、特別な装置がなくてもアニマの流れは感じ取れるでしょうが補助的にでも装置を使う方が負担が少ないでしょう。 |
ジェイド | ちなみに少し前まで、リタやパスカルが改良を加えていましたから、性能の方もかなり上がっている筈ですよ。 |
イクス | ありがとうございます。本当に、みんなには感謝だな。――さて、と。 |
イクス | (火柱……アニマ……、浮遊島……帝国……。テルカ・リュミレース……アセリア……アレウーラと――) |
イクス | (……ん ? 周りが発するアニマに比べて火柱から感じるアニマは『歪んで』いるみたいだ) |
イクス | (どういうことだ ? これがルグの槍特有のアニマなのか ? だとしたらこれと同じようなアニマが帝都から出ていないか確認すれば――) |
イクス | (――見えた ! ) |
バロール | (――邪魔だ) |
イクス | (この感じ……バロールか ! ? ) |
バロール | (ルグの槍に手を伸ばしてきたか。これは俺の得物だ。気配を辿ることすら不敬である ! ) |
バロール | (どけ ! ) |
イクス | くっ ! ? |
二人 | イクス ! ? |
キャラクター | 8話【16-13 墓守の街】 |
バロール | ――大人しくなったか。我が末裔にも拘わらず勝手をするからだ。 |
バロール | さて……、聞こえるか、鏡精喰いの王よ。ルグの槍は起動した。 |
バロール | その槍は、俺がルグと共にこの世界を創った時に振るった武器だ。返してもらう。 |
バロール | 起動システムから、『槍の本体』を外せ。 |
デミトリアス | それはできない。本体を外せばこれから創る分史世界とティル・ナ・ノーグを繋ぐ道がなくなってしまう。 |
バロール | なぜ拒む。お前の望みは世界への贖罪ではないのか ? |
デミトリアス | ……その通りだ。この世界は罪人の方舟だ。だからこそ、世界をあるべき姿に戻すしかない。 |
イクス | あれ……、ここはスピルメイズか ?確か声がして……。 |
イクス | そうだ、あの声 ! あれはバロール……。 |
? ? ? | 気が付いたな。 |
イクス | えっ、ナーザ将軍 ? |
? ? ? | 違うよ。俺を覚えてないのか ? |
イクス | っ ! まさかバロール ! ? |
? ? ? | だから違うって。もしかして久しぶり……なのかな ?また会えてうれしいよ、もう一人のイクス。 |
イクス | あ…… ! 最初のイクス……さん ? |
イクス1st | ああ。俺もさっき目が覚めたばっかりでさ。 |
二人 | 一体どうなって―― |
二人 | えっ? |
イクス | もしかして、イクスさんもわからないんですか ? |
イクス1st | ああ。きみの目が覚めたら聞こうと思ってた。俺も突然自我が回復して驚いてたんだ。 |
イクス | イクスさんがいるってことはここは【アニマのるつぼ】ですか ?俺は死にかけてるのか……。 |
イクス1st | いや、ここはきみの心の中だ。【アニマのるつぼ】で溶けていた俺がここにいる方が変なんだよ。 |
イクス1st | 切っ掛けがあった筈だけどそっちでは何があったんだ ? |
イクス | 切っ掛け……。ルグの槍の起動に干渉しようとしたらバロールの声が聞こえて……。 |
イクス1st | やっぱりバロールか。よし、最初からきちんと説明してくれ。 |
イクス1st | ――間違いなくルグの槍が原因だな。ルグの槍が起動したことで俺のいた集合的無意識も外側と繋がったんだ。 |
イクス1st | それで【アニマのるつぼ】にいる筈の俺がきみの心と繋がって目が覚めたんだろう。 |
イクス1st | それにしても、俺たちはバロールの子孫なんだろ ?邪魔だの何だのと……。そういう性格だからバロールもビフレストから疎まれていたのかもなあ。 |
イクス | はは……。 |
イクス | (あ、相変わらずだな……この人……) |
イクス | 何にしろ、イクスさんと会えて良かったですよ。 |
イクス1st | ああ。でも、こうなるとミリーナが心配だな。心の世界――贄たちのスピルメイズにいるんだろう ?きっとあっちも混乱してる筈だ。 |
イクス | そう思います。でも、仲間がついていますから。あっちはミリーナに任せるつもりです。 |
イクス1st | 任せる、か……。 |
イクス | え ? まずかったですか……。 |
イクス1st | いや、そうじゃないんだ。改めてきみたちは、俺とミリーナとは違う別の俺たちなんだなって思ってね。 |
イクス | 別に、見えますか ? |
イクス1st | ああ。俺はミリーナを守ることを第一にしてきた。フィルのこともだ。 |
イクス1st | これ以上傷つけないようにとか危険な目にあわせないようにとか悲しい思いをさせないように……なんてね。 |
イクス1st | でも、今のきみは――きみに絡みついたしがらみを断ち切ったんだなって。 |
イクス | 俺もミリーナも、みんなと出会って、影響を受けて色んなことを教わりましたから。 |
イクス1st | ああ。きみには自分だけの道が見えてきたんだな。 |
イクス | 前にイクスさんも言ってくれましたからね。全部捨てたっていい。俺たちは自由なんだって。 |
イクス1st | そうだったな。俺もきみも違って当然なんだ。だからこそ……。 |
イクス | イクスさん ? |
イクス1st | ……頼みがある。俺たちの『後始末』を手伝ってくれないか。 |
イクス | 後始末 ? |
イクス1st | こうして自我を取り戻しても俺はやっぱり死者なんだ。外界に影響を与えることはできない。 |
イクス1st | でも、イクスに力を貸すことはできる。だから、しばらくここに居候させて欲しいんだ。 |
イクス | ここって、俺の心の中に ? |
イクス1st | ああ。色々と便利になると思う。例えば……、今、きみの鏡精がバロールのところへ向かってる。 |
イクス | コーキスが ! ? 何でわかるんですか ! ? |
イクス1st | 本当はきみもわかってる筈なんだ。バロールと『イクス』は繋がっている。感知していても気づいてないだけだよ。 |
イクス | 俺にも……。本当に俺にもわかるのか……。 |
イクス1st | それで居候の件は ? 家賃分は働くよ ? |
イクス | はは……。もちろん、構いません。 |
イクス1st | よし、決まりだ。となると、まずはきみに目覚めてもらわないとな。 |
イクス1st | そうしたら、バロールの心を手繰ってルグの槍を譲ってもらおう ! |
イクス | 譲って……はあ ! ? |
イクス1st | 驚くことかな ? 父さんたちの遺言でもあるし君がやろうとしている計画にも必要なことだろ ?頑張ってくれよ、イクス ! |
キャラクター | 9話【16-14 心の世界3】 |
カーリャ | モリスンさま ! アレクセイさま !カーリャの声、聞こえますか ? |
モリスン | ……どう……にか……。 |
アレクセイ | …………イエガー、は……。 |
イエガー | …………。 |
カーリャ | イエガーさまの姿さっきより薄れている気がします……。 |
マオ | どんどん精神エネルギーが使われちゃってるんだ……。 |
ミリーナ | とにかく心核の燃焼を防がないと。何か手はないかしら。 |
マオ | 精霊が守ってくれればボクたちみたいに意識や姿を保っていられるのに……。 |
ヴァン | ……精霊の力か。精霊の加護があれば、火柱にならず姿も保てる。 |
ヴァン | ならば、今からでもその力を施せば心核の燃焼を防ぐか、できずとも遅らせる為の防御壁にはなるかもしれない。 |
シャーリィ | それなら、わたしとマオさんとヴァンさんがこの場で精霊の力を使えば、その防御壁というものができるかもしれませんよね。 |
マオ | ナイスアイディア ! やってみようヨ ! |
ヴァン | だが、その効果がどれだけの範囲に及ぶかもわからん。心核がある筈だというこの場所を中心に術を展開するべきだ。 |
カーリャ | では、急いで他の人たちも集めないとですね ! |
シング | おーい、いたよー ! |
ミリーナ | フォレストさん、リーガルさん、会えてよかったです。 |
フォレスト | ミリーナ……これを預かってくれ……。 |
ミリーナ | これは、心核だわ。 |
フォレスト | 途中で……見つけた……。 |
リーガル | 私もだ……。……この二つ……。 |
ミリーナ | ありがとうございます。二人とも、ここで休んでいてください。 |
シャーリィ | 全部で四つ……心核だけになってるということはこの人たちも弱っていたんでしょうね……。誰なんでしょう。 |
カーリャ | ミリーナさま、わかりますか ? |
ミリーナ | ええ。以前は難しかったけど今はゲフィオンの記憶があるから読み取ってみるわね。 |
ミリーナ | これは……オスカーという人。確かミッドガンド領の従騎士ね。 |
ミリーナ | こっちは……ロミーとチトセ。 |
カーリャ | アレウーラ領とレグヌム領の方ですね。 |
ミリーナ | それにこっちは……。何かしら、声が聞こえる。 |
ミルハウスト | 私……は、ミルハウスト……。 |
マオ | ミルハウスト ! ? |
ミリーナ | ミルハウストさん、心核だけどまだ意識があるんだわ ! |
ミルハウスト | ……陛下を……救い……心核を……取り戻して……。 |
マオ | 陛下の心核ってアガーテ様のコト ! ? |
ミルハウスト | ……アガーテ様……守って……どうか…………。…………………………………………………。 |
マオ | ミルハウスト ! ねえ、ミルハウストってば ! |
ミリーナ | マオ。落ち着いて。今ここでは姿を保てず心核になっているだけで彼はまだ生きているわ。 |
マオ | ……わかってる。 |
カーリャ | 心核の状態で伝えてくるなんて驚きました。こんなことができたのは心の中だからですかね。 |
シャーリィ | ……ミルハウストさんのアガーテさんを思う気持ちが強かったからじゃないでしょうか。こんなに必死で訴えて……。 |
マオ | ボクもそう思う。けど、こうなるってことはミルハウストは帝国で弱るような仕打ちを受けてたってコトだよね……。 |
マオ | でも心核が見つかってよかったヨ。ここで守ってあげられるもん ! |
ミリーナ | 後は帝国側にいる筈の領主や従騎士たちね。早く探さないと。 |
シング | ……あのさ、少し気になるんだけどこれだけ集まってるのに、帝国でリビングドールになってる人って、まだ見つかってないよな ? |
マオ | そうだね。アガーテ様は見つかってないし……。 |
シング | オレ、ここにマリンさんがいるかと思ってたんだ……。 |
ヴァン | 疑似心核を入れられたまま火柱となっているのなら本来の心核は体の外に置かれている筈だ。故にここには居ないのだろう。 |
マオ | それじゃ帝国の人は保護できないってコト ! ? |
カーリャ | あーもー、魂と体が別って本当にややこしいです !ちゃっちゃと元に戻せればいいのに ! |
シング | そりゃ、心核さえあれば……あれ ? |
カーリャ | どうしました ? |
シング | ここはさ、スピリアの一番奥で、今は贄の紋章の人たちみんなが繋がってるんだけど……。 |
シング | スピリアの一番奥はスピルーンの――心核の置き場所だ。ってことは……。 |
シング | リビングドールにされた人たちの心核を持ってくれば今なら元に戻せるし保護できるかも……。 |
全員 | ! ! |
シャーリィ | シングさん、すごいです ! |
ミリーナ | 帝国から取り返した心核がいくつかアジトにあるわ。それをソーマ使いの誰かに持ってきてもらいましょう。 |
ヴァン | だが、それ以外は物理的に心核を取り返さない限り救えないということになる。何か策を講じねばならんぞ。 |
ミリーナ | ええ。それもわかっています……。 |
ヴァン | 水を差してすまない。ともあれ、まずは外へ連絡をしてもらおう。レイス、体は問題ないかね ? |
レイス | ああ。いい報せは伝えがいがあるよ。 |
ヴァン | では、シャーリィ、マオ。私たちは精霊エネルギーによる防御壁の構築に取り掛かるとしよう。 |
キャラクター | 10話【16-15 仮想鏡界2】 |
カイウス | ガイさん !ヴァンさんは気が付いた ? |
ガイ | いや、まだだ。今はティアが付いてる。精霊絡みかも知れないからアステルも一緒だ。 |
カイウス | リヒターとナーザは ? |
ガイ | メルクリアの様子を見てから来るってさ。 |
ジュニア | 心配だな……。何が起きてるんだろう……。 |
マークⅡ | 心配もいいが、今はやることがあるだろう。お前はこっちに集中しろって。 |
マークⅡ | ――で、その装置はどうなんだ。 |
カイウス | 運んできてなんだけどさこんなに小さい機械で本当に計れるのか ?掌に収まるサイズだぞ。 |
ディスト | 愚問です。ふむ……この計測装置はハロルドのものですね。 |
ガイ | お、ご名答。さすがだな。 |
ディスト | フン、当たり前でしょう。音機関でも機械でも、作り手の個性というものは案外隠しきれないものです。 |
ガイ | 確かに、それは言えてるな。根性ねじ曲がった奴の音機関なんざ回路の繋がり方すら捻くれてることがあるしなあ。 |
ルキウス | それで、計測装置のセットアップにはどれぐらい掛かりそうなの ? |
ディスト | もう終わりました。始めますよ。 |
カイウス | えっ ! ? いつの間に……。 |
ディスト | ではジュニア、こちらへ。計測を開始しますよ。 |
ディスト | これで、贄の紋章の構造と進行具合、それにルグの槍起動装置への通信信号が計測できました。 |
ディスト | おや…… ? |
マークⅡ | ……おい、どうした。失敗したなんて言うなよ ? |
ディスト | 失礼な ! 私がこの程度の計測に失敗するはずがありませんよ !しかしこれは……。 |
ジュニア | あの……、もしかして時間が掛かりそうとか ? |
ディスト | いいえ、計測は成功です。こちらに情報を出しましょう。 |
ガイ | こんなに早く済むとはな。情報が届いたらジェイドもきっと喜ぶぜ。 |
ディスト | では、もう一つ伝えなさい。ジュニアに刻まれた贄の紋章ですが対になる紋章がもう一つある筈です。 |
ジュニア | えっ ! ? |
ディスト | 本来はもう一人別の人物に刻まれた紋章と共に発動することでルグの槍へと変化するようですね。 |
ジュニア | 対になる紋章…… ? |
ディスト | ええ。何故かあなたの贄の紋章は本来の半分の能力しか有していないようです。 |
ディスト | どこかにもう半分の贄の紋章を刻まれた――あるいは、刻まれようとしている人物がいるということですよ。 |
ジュニア | 半分……。どうして半分なんだ ?もう半分は誰が……。 |
ガイ | もう半分の贄の紋章の持ち主が誰だか目星はつかないのか ? |
ディスト | そんなことを私に聞かれても困りますね。 |
ジュニア | 僕をルグの槍にする意味……。ニーベルングの具現化、かな。やっぱり。いや、でも、それならルグの槍にする必要はないのか。 |
マークⅡ | まあ、言うことを聞かせるだけなら他にも色々と方法はありそうだからな。 |
マークⅡ | わざわざお前をルグの槍にする意味と半分の贄の紋章には関連がありそうだ。 |
ジュニア | ……そうだね。 |
ジュニア | ――皆さん、今から仮想鏡界の封鎖を解除します。そうしたら、すぐにこの計測データを浮遊島へ送信してください。 |
ガイ | いいのか ? これ以上グラスティンにつけ込まれないために外部との通信ができないようにしていたんだろう ? |
ガイ | 俺たちはこの仮想鏡界を出てから通信をしても構わないんだぜ ? |
ジュニア | ううん。こうなってくると、みんなと密に連絡を取れないことの方が問題だと思うから。 |
カイウス | ありがとな、ジュニア。 |
マークⅡ | とはいえ、ある程度の防御はしとかないとな。 |
ジュニア | うん。もちろんそのつもり。それじゃ――行くよ。 |
ガイ | よし、魔鏡通信が繋がった。 |
ガイ | ――ジェイド、聞こえるか !データが取れた。今から送る。 |
ジュニア | ……あれっ ? |
マークⅡ | どうした、フィル。 |
ジュニア | 仮想鏡界の防御を解除したときに、何か違和感が……。 |
マークⅡ | まさか、もう帝国の連中が何かしてきたってのか ! ? |
ジュニア | いや、外からの刺激じゃないよ。内側の方だったような……。 |
ナーザ | (……上手く誤魔化したつもりだったがバレるのは時間の問題か。しかし、少しのあいだ時が稼げればいい) |
ナーザ | ――待っていろ、バルド。 |
ジェイド | ――なるほど。あなたの心の中に、最初のイクスがいる、と。全くこの世界のいびつさときたら、頭が痛いですね。 |
イクス | まあ、そんな訳なのでもう一度あの歪んだアニマを辿ってみます。 |
リフィル | そんなすぐに大丈夫なの ? |
イクス | ええ。問題ありません。 |
リフィル | でも、ほんの数分とはいえ気を失っていたのよ。本当にこのまま続けてよくて ? |
イクス | 本当に大丈夫です。最初のイクスさんもいますし次はバロールが干渉してきても対抗できると思います。 |
ジェイド | そうですね。どのみちこの計画はあなたの存在ありきのものです。よろしくお願いします。 |
イクス | わかりました。 |
ジェイド | まずは、何としてもルグの槍の起動装置の場所を特定する。それから帝都に降下してもらいます。 |
イクス | 起動装置の破壊と、心核の回収ですね。それに可能なら鏡映点を救出する。優先順位もこの順序でいいですよね。 |
ジェイド | ええ、大変結構です。あなたは地頭がいいので、話が早くて助かりますよ。 |
リフィル | イクス、気を付けなさい。あなたの頭の良さと物わかりの良さは悪い大人に利用されてしまうこともあるのだから。 |
イクス | そ、そうですね。あの……それ、ジェイドさんのことじゃないですよね ? |
リフィル | ええ、ジェイドのことです。 |
ジェイド | はっはっはっ。相変わらず手厳しいですねえ。 |
イクス | ――っと、コハクだ。 |
コハク | イクス、こっちの準備はできたよ。今から行ってくるね。ちゃんと保管庫の心核も持ってきたから ! |
イクス | ああ、頼んだ。心核の交換になるだろうから大変だと思うけどよろしくな。 |
コハク | まかせて ! みんなをガンドコ助けてくるね !イクスたちも頑張って ! |
イクス | ……さて、俺たちも始めましょう ! |
バロール | デミトリアス、これが最後の通告だ。起動装置から槍を外せ。 |
デミトリアス | 断る ! 私には私の信念がある ! |
バロール | そうか。お前の意志はそれなりに尊重するつもりだったが、肝心なところで我が意に逆らうのならば自由意志など邪魔なだけだな。 |
バロール | 貴様は山ほど鏡精を喰らった。ならば此度は―― |
デミトリアス | ! ? |
バロール | お前が喰われろ。 |
グラスティン | おい、デミトリアス、どういうことだ !何故ルグの槍が起動している !お前の命令か ! ? |
デミトリアス | ああ、そうだ。 |
グラスティン | 何を考えている ! これでは計画が台無しだろう !今からでも起動装置を止めろ ! |
デミトリアス | できんな。あれは俺の槍だ。 |
グラスティン | …………あ ? |
デミトリアス | お前はこのまま見ていればいい。手出しは無用だ。 |
グラスティン | ……………誰だ、お前。 |
デミトリアス | ……………。 |
グラスティン | ああ、そうか。『俺の槍』か。ヒヒヒ。お前、バロールだな。 |
バロール | わかったか。ならば下がれ。 |
グラスティン | ヒヒヒ…………ヒャハハハハッ !おいおい、それならデミトリアスはどうした、あ ? |
バロール | 俺が喰った。 |
グラスティン | ………………喰った ? |
グラスティン | そうか……ヒヒッ……あいつを……。これはまた、ヒヒッ……。 |
バロール | いらんだろう。あのような邪魔な意識など。 |
グラスティン | …………貴様ァアアアアアア ! ! |
バロール | 無駄なことを。 |
グラスティン | 喰ったなら吐き出せ !デミトリアスを返してもらう ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【17-1 アジト1】 |
コハク | イクス、こっちの準備はできたよ。今から行ってくるね。ちゃんと保管庫の心核も持ってきたから ! |
イクス | ああ、頼んだ。心核の交換になるだろうからミリーナのことをよろしくな。 |
コハク | まかせて ! みんなをガンドコ助けてくるね !イクスたちも頑張って ! |
イクス | ……さて、俺たちも始めましょう ! |
イクス | さっきの歪んだアニマの感覚が残っているうちに起動装置の場所を突き止めます。 |
リフィル | ええ、お願い。それと何度も言うけれど、無理だけはしないこと。あなたの中の、もう一人のイクスもね。 |
イクス | ありがとうございます、リフィル先生。 |
イクス1st | (へえ、先生、か……。優しくて素敵な人だな。俺のことまで気にしてくれるなんて) |
イクス1st | (こんないい先生に指導してもらえてイクスは幸せ者だな) |
イクス | ははっ、確かに。 |
リフィル | どうしたの ? |
イクス | いや、イクスさんがリフィル先生を褒めてたんで。優しくて素敵な、いい先生だって。 |
リフィル | あら、そんな……、ありがとう、もう一人のイクス。 |
ジェイド | ええ。リフィル先生は本当に優しくて素敵な遺跡大好き先生ですからね♪ |
イクス1st | (遺跡って ?) |
イクス | そ、それはまあ置いといて ! |
ジェイド | そうですね。ではイクス、お願いします。 |
イクス | あはは……。じゃあ、始めます。 |
イクス | (あの時に見えた歪んだアニマ。帝都のこのあたりだったっけ。さっきはバロールに邪魔されたけど……) |
イクス | (……変だな。何の干渉もない。さっきの様子なら俺たちを見逃すはずないのに) |
イクス1st | (罠か、もしくはバロールの気が逸れてるか、だな) |
イクス | (気が逸れる……。まさかコーキスか ?確かバロールの所に向かってるんですよね) |
イクス1st | (いや、コーキスが接触した気配は感じない。何にしろ、こっちを見ていないなら絶好の機会だ) |
イクス | (そうですね。罠だとしても、どうせ引き返す余裕はないんだ。このままアニマを辿ります) |
イクス | ――ふぅ……。お待たせしました。 |
リフィル | お疲れ様。今回は無事に戻ってこられたようね。 |
イクス | はい。なぜかバロールの妨害がなくて。 |
ジェイド | それは気になるところですが先に成果の方を伺っておきましょうか ? |
イクス | はい。起動装置の場所は確認できました。芙蓉離宮の地下です。 |
ジェイド | 芙蓉離宮なら潜入経験者がいますね。かつて宮殿にいた鏡映点たちから情報を得て見取り図も作ってあります。かなり大まかですが。 |
イクス | 十分です。すぐに降下に入ります。ゲートじゃ遠回りだから飛べる人を探して頼まないとな。 |
ジェイド | いいえ。その必要はありません。リフィル、例の物は用意できてますか ? |
リフィル | ええ、問題なくてよ。突貫で作ってもらったけれど数もそれなりに揃っているわ。 |
イクス | 例の物 ? |
ジェイド | キール研究室が自動制御付きのパラシュートを作ってくれました。これを使えば浮遊島から狙ったポイントへ降下できます。 |
イクス | いつの間に !魔導砲やら浮遊島の推進装置やら贄の紋章の調査だって抱えてたのに。 |
ジェイド | パスカル曰く「いい気分転換になったよ~」だそうです。 |
リフィル | 気を遣ってくれたんでしょうけど実際、研究室メンバーにとっては息抜きみたいなレベルなんでしょうね。 |
ジェイド | 天才というのは恐ろしいものですねえ。非常識な事を簡単にやってのける。 |
イクス | それ、ジェイドさんが言いますか……。 |
ジェイド | もちろん、自分のことも含めての客観的な意見です。さて、本題に戻りましょう。 |
ジェイド | 降下メンバーの選抜はあなたにお任せしますがクルスニクの関係者や転生者などは外してください。彼らには何が起こるかわかりませんので。 |
ジェイド | それと、口うるさいようですがくれぐれも目標の優先順位を間違えないように。 |
ジェイド | あくまでも第一は、ルグの槍の制御装置の破壊。次いで、領主や従騎士たちの心核の回収。更に可能であれば、彼らの肉体――鏡映点の救出です。 |
イクス | ……そこに釘を刺すのは、降下メンバーに帝国に仲間が囚われている人が手を挙げることを見越してのことですね ? |
ジェイド | ええ。あちらで仲間を目にすれば連れて帰りたくなるでしょう。ですが、二兎を追う者は一兎をも得ずと言いますから。 |
ジェイド | もしもの時は、非情な決断を下す必要があることを忘れないでください。 |
イクス | …………肝に銘じておきます。じゃあ、みんなの所に行ってきますね。 |
ジェイド | ええ。準備ができたら声をかけてください。 |
リフィル | ……辛いわね。目の前の人間を見捨てろという決断は。 |
ジェイド | そうですね。そういう決断をしなくてすむように方針を立てられるのが、本当の意味で優れた人間なのでしょうね。 |
キャラクター | 2話【17-2 アジト2】 |
リフィル | イクスたちは順調 ? |
ジェイド | 観測した限りでは。予定どおり着地できそうですよ。 |
リフィル | 良かったわ。正直なところ気になってたのよ。あの自動制御付きパラシュート。 |
ジェイド | おや、我らが誇る頭脳集団が信用ならないと ? |
リフィル | そうじゃないわ。でも、パスカルが話していたの。いつの間にか、落下軌道の数値設定が変わってたって。 |
リフィル | 修正はすぐに終わったけれど、一緒に話を聞いていたハロルドがため息をついていたから、何か知っている――いえ、何かしたんじゃないかと思って。 |
ジェイド | ……なるほど。カイルたちが言ってた例のアレですか。偶然にもパスカルが未然に防いでしまったとはハロルドもがっかりでしょうねぇ。 |
リフィル | 例の ? |
ジェイド | ご存じありませんでしたか。でしたらお気になさらず。パラシュートがドッタンバッタンしなくて良かった――という程度の話です。 |
ジェイド | ――おっと、来ましたね。 |
ガイ | ジェイド、聞こえるか !データが取れた。今から送る。 |
ジェイド | ありがとうございます。今、確認中です。思ったよりも早くて助かりました。おまじないは効きましたか ? |
ガイ | 効きすぎだ。計測なんてあっという間だったぜ。あとディストの奴、あんたの手紙を飾るために最高級の額縁を探してる。 |
ジェイド | そうですか。あの手紙は開封後一定時間を過ぎると消滅する仕組みなんですよ。無駄な出費をさせて嬉し――心苦しいばかりです。 |
ガイ | 旦那……、ディストにはホント容赦がないな。 |
ジェイド | ところで、私が送った通信文は見て頂けましたか ? |
ガイ | 通信文 ? ああ、悪い。ジュニアの仮想鏡界の防御を解いてすぐ連絡したんだ。今、そっちも確認して……って……。 |
ガイ | なんだこりゃ ! ? ルグの槍が起動してるのか ! ?贄の紋章たちが炎の柱……って、どういうことだよ ! |
ジェイド | 諸々状況が変わりまして。後ほど詳しく説明します。データの他に何か報告はありますか ? |
ガイ | あ、ああ。こっちでも色々と問題が起きてる。まず、ジュニアの贄の紋章だが、ディストの話だと―― |
ジェイド | ――なるほど。ミリーナたちはスピルリンク中ですからネヴァンの件は通信文に入れておきましょう。ヴァンの方は、このまま様子を見てください。 |
ジェイド | それと、ジュニアと対になるという紋章ですがデータから見るに、この値は……。 |
ガイ | 心当たりがあるのか ? |
ジェイド | ……今はまだ、何とも。 |
ハロルド | もったいぶっちゃって。どうせ見当はついてんでしょ ? |
ガイ | ハロルド ! ? |
ジェイド | ハロルド、個人回線の傍受はマナー違反ですよ。 |
ハロルド | 今さら ? 傍受程度は織り込み済みのクセに。だいたい、あんたが言い渋ってなきゃ口出すつもりもなかったわよ。 |
ハロルド | それよりこのデータ、ユリウスに見せて話を聞いた方がいいんじゃない ? |
ジェイド | 勿論、そうしたいのは山々ですが恐らく彼は口を割らないでしょう。 |
ハロルド | ……そう。まあ、わからないでもないけどね。 |
ハロルド | いいわ。こっちは忙しくなるし、面倒なのは任せる。 |
パスカル | ふぁ~……何 ? ハロルド、誰と話してるの ? |
ジェイド | パスカル、お休みのところすみません。立て続けに無茶な注文をこなして頂いたので少しでも休息をとってもらうつもりだったんですが。 |
ガイ | 悪いな。研究室の連中には頭があがらないよ。 |
パスカル | ジェイドにガイ……ってことはデータ取れた ! ? |
ハロルド | ええ。やっと主役が到着したとこ。作業再開するからリタにも声掛けといて。 |
ハロルド | 【逆しまの魔導砲】、超特急で仕上げるわよ。 |
イクス | ――ふぅ、着地成功。 |
セネル | 全員揃ってるか ? |
アスベル | ああ、問題ない。見張りの兵士は……見当たらないな。 |
レイア | みんな炎の柱の方へ集まってるんじゃない ? |
スタン | ……。 |
ソーディアン・ディムロス | どうした、スタン。 |
スタン | あの柱のどれかが、イレーヌさんなんだよな……。 |
ルーティ | でしょうね。けど、そればっかりに気を取られるんじゃないわよ。――そっちもね。 |
マリク | ああ……、もちろんだ。 |
アスベル | 教官……。 |
マリク | ……すまないな。教え子にそんな顔させるようじゃ教官失格だ。 |
アスベル | いいえ、カーツさんを思う気持ちはわかります。それにヴィクトリア教官だって……。 |
マリク | ルーティも言ってるだろう。『それはそれ』だと。大丈夫だ、任務に私情を交える気はない。 |
マリク | さて、イクス。地下への潜入経路だが事前の打ち合わせどおりで問題ないか。 |
イクス | はい。見たところ地図との相違もなさそうです。スタンさんは ? |
スタン | ああ。俺が前に潜入した時と変わってない。今回はあの通用口から宮殿の中に入って地下へ降りればいいんだよな。 |
マリク | よし。だったら目標地点へ急ぐぞ。これだけ派手に降りてきたんだ奴らが見逃すはずがない。 |
帝国兵 | いたぞ ! 中庭にて侵入者を発見 !侵入者を―― |
帝国兵 | ぐあっ ! |
ジェイ | 言ってるうちに、ですね。 |
帝国兵 | くっ ! 総員中庭へ ! |
帝国兵たち | おおおおおおっ ! |
ルーティ | なによ、あっちこっちから !全員相手にしてたらキリがないわ。 |
レイア | 通用口からも敵が出て来てる !これじゃ中に入れないよ。どうする ! ? |
イクス | ……みんな !このまま時間を稼げるか ! ? |
ルーティ | 何する気 ? |
イクス | 歪なアニマを強く感じる所……――あそこだ。あの場所まで行って、創造の魔鏡術で地下への入口を作る。 |
ジェイ | 作ったとしても、入口の先がどうなってるかはわかりませんよ !それに術の途中で敵に囲まれたら―― |
イクス | 一か八かだ。みんな、援護を頼む ! |
ジェイ | あっ、イクスさん !仕方ないな、こうなったら……。 |
ジェイ | スタンさん、アスベルさん !イクスさんの目指す方向へ同時に魔神剣を放てますか ! |
アスベル | イクスの道をひらくんだな。わかった ! |
スタン | ああ、まかせろ。いくぞ、アスベル ! |
二人 | 魔神剣 ! ! |
帝国兵たち | うわあああっ ! ! |
イクス | ありがとう !――いくぞ、魔鏡の力よ…… ! |
帝国兵 | 見ろ、鏡士のイクス・ネーヴェだ ! 鏡士がいるぞ ! |
セネル | 行かせるかよっ ! |
マリク | 全員、イクスを囲んで陣を組め ! |
キャラクター | 3話【17-4 心の世界1】 |
シャーリィ | ――そうですね。心核の燃焼を防ぐにはこの方法が一番確実だと思います。 |
ヴァン | では、防御壁の構築法は決まりだな。各々、手順はいいか ? |
マオ | うん。ヴァンはローレライを呼んでメルネスの力を使ったシャーリィと一緒に精霊力を放出する。 |
マオ | ボクは二人の力に炎のフォルスを纏わせてみんなを囲むように壁を作る――だよネ。バッチリだヨ ! |
カーリャ | マオさまが言うと簡単そうに聞こえちゃいますけどこれって大変なんじゃないですか ? |
レイス | ああ。ヴァンやシャーリィは大きな力を放出し続けることになるだろうしマオはそれを制御しなければならない。 |
ミリーナ | かなりの力を消耗することになるわね。私は何もできなくて……ごめんなさい。 |
シャーリィ | ミリーナさん。わたし、自分にできることがあって嬉しいんです。 |
シャーリィ | マウリッツさんや、ワルターさんや、みんなを……メルネスとしての力を、誰かを傷つけるためじゃなく守るために使えることが嬉しい。 |
シャーリィ | だから、そんな風に思わないでください。 |
マオ | そうそう。下なんか向いてないでボクたちのカッコいいところ、ちゃんと見ててよネ ! |
ミリーナ | シャーリィ、マオ……、ありがとう。三人とも、お願いします。 |
ヴァン | 承知した。では始めよう。――聞こえるか、ローレライよ。その力、我が身が耐えうる限り解き放て。 |
シャーリィ | 滄我……ウンディーネ……あなたたちの声を聞かせて。そしてわたしに力を。 |
シング | シャーリィの髪が輝いてる。きれいだなぁ ! |
マオ | よーし、仕上げはボク !――炎よ……心を護る壁となれ ! |
カーリャ | 炎がカーリャたちの周りを……わっ、上まですっぽり覆われちゃいました ! |
レイス | ドーム状の防御壁か。ああ……僅かだが体が楽になった気がするな。 |
ヴァン | 僅か ? それは妙だな……。かなり負担は軽減されるはずだが……。 |
マオ | とにかく、あとは集中しながらこれを出来るだけ長く維持……あれっ ? |
ミリーナ | どうしたの ? |
マオ | どうしても覆い切れない部分があるんだ。穴があいてるみたいな感じで……多分、あのへん。 |
カーリャ | あ、こっちこっち !ここ、他よりも炎が薄くないですか ? |
ミリーナ | 本当、確かに穴みたい。オスカーさんの心核のすぐ側だわ。 |
シング | これじゃ穴から生命エネルギーが流れ出ちゃうよ。一旦、オスカーの心核を避難させよう。とりあえず、あっちに―― |
ミリーナ | 動かさないで、シング !心核と一緒に穴も移動してるわ ! |
シング | えっ ! ?じゃあ、壁の穴はオスカーの心核が原因 ! ? |
ミリーナ | 私によく見せて。……これかしら。心核に小さな亀裂が入ってる。 |
シング | その傷が防御壁に影響してるのかな。 |
ミリーナ | わからない……。でもこのままだとオスカーさんが危険よ。防御壁だって穴があいたままではきっと十分に機能しないわ。 |
ミリーナ | 穴との関連性も含めて傷の原因を調べて修復しないと……。 |
シング | じゃあ、オスカーのスピルメイズを調べに行こう。みんなのスピリアが繋がって入り組んでるけどこのまま地続きで入れる筈だ。 |
カーリャ | 待ってください。それだと防御壁を維持するマオさまたちや、弱ったみなさんを置いていくことになります。もし何かあったら……。 |
ヴァン | 構わん、行け。この状況が長引く方が危険だ。 |
ミリーナ | …………。 |
コハク | シング、ミリーナ、そこにいる ?アジトに保管されてた心核を持ってきたよ ! |
シング | コハクだ !――コハク、ちょっと待ってて ! |
シング | マオ、コハクたちは入れる ? |
マオ | うん。物理的な通過は制限してないからネ。そのままどうぞ。 |
シング | この火の壁は安全だ ! そのまま入って来て。 |
ベリル | うわ、この火の壁、本当に熱くない ! |
リチア | これがリッドが話していた防御壁なのですね |
ヒスイ | おい ! 贄の紋章の奴ら、大丈夫かよ。全員ぶっ倒れてるぞ。 |
クンツァイト | 生命維持機能の極端な低下を確認。危険な状態だ。 |
シング | みんな、来てくれたんだ。イネスとガラドは ? |
コハク | アジトで待機してる。こっちで何かあっても外から援護してもらえるでしょ ? |
コハク | あと、これが心核。保管してあったのは3つで間違いない ? |
ミリーナ | ええ。ありがとう、すぐに誰のものか確認するわ。 |
ベリル | その心核、劣化防止の封印がしてあるんだよね ?解き方とか大丈夫 ? |
ミリーナ | 今はゲフィオンの記憶のおかげで封印の解除も、心核が誰かもわかるわ。少し待ってて。 |
ミリーナ | ……これはイレーヌさん。スタンさんの知り合いね。こっちは……エフィネア領主のカーツさん。アスベルさんたちの関係者だったかしら。 |
ミリーナ | そしてこれは……レグヌム領主のマティウスさん。ルカたちは敵対していたって言ってたから伝えておかないと。 |
カーリャ | この場所に心核があるんだからその三人はリビングドール状態から解放されたってことでいいんですよね ? |
ベリル | うん。目を覚ませば元通りのはずだよ。心核の封印も解けたしね。 |
ヒスイ | で、俺らはどうすんだ。紋章付きの奴らを守りゃいいのか ? |
三人 | 「そうなんだ !」「そうなの !」「それですよ !」 |
ミリーナ | ――オスカーさんのスピルメイズ進むにつれて荒れてる気がするわね。先行してるシングやヒスイさんたちは大丈夫かしら。 |
リチア | 心配いりません。こういった状況に対応するためにわたくしたちが来たのですから。 |
ミリーナ | ありがとう。本当に助かったわ。おかげで手分けして調査ができるし防御壁にはコハクやベリルがいてくれるから安心―― |
ミリーナ | あっ ! |
ミリーナ | あ、ありがとう、クンツァイトさん。 |
クンツァイト | 警告。このスピルメイズは劣化が激しい。リチアさまも、足元にお気をつけください。 |
リチア | ええ。この方のスピリアは相当弱っていますね。スピルーンが欠けた時のようなスピルメイズの縮小は始まっていないようですが。 |
リチア | 疑似心核を植え付けられた時と同様に外部から心核への接触があったとしか思えません。 |
ミリーナ | 変ね。聞いた限りでは、オスカーさんに疑似心核は入っていなかったようだけど……。 |
シング | おーい、こっちに来てくれ !ヒスイが何か見つけたみたいだ。 |
ヒスイ | ――こいつだ。ここに落ちてた。 |
ミリーナ | これ……ロゼが見たっていう魔導器に似てるけど……。ヘルダルフのものと同じなのかしら。リタがいればすぐにわかるのに。 |
クンツァイト | 自分が確認しよう。ロゼとデゼルによる証言はデータ化してある。キール研究室のデータベースを参考に―― |
ヒスイ | いいから結果だけ教えろって。魔導器か、違うのか ? |
クンツァイト | データ照合。完全ではないが構造的には魔導器との判断が可能だ。 |
ミリーナ | じゃあ、これはオスカーさんの心核に取り付けてあったと見るべきね。なぜこんなスピルメイズの外れに落ちていたのかしら。 |
リチア | ……確か、ルグの槍は生命エネルギーを消費しているのでしたね。 |
リチア | この魔導器は、エネルギーの吸引を妨げる異物としてルグの槍に認識されたのかもしれません。 |
リチア | 本来はスピリア――こちらでいう心の中に異物があっていいはずがないのですから。 |
シング | 魔導器は、オレたちの世界でいうゼロムみたいなものだってこと ? |
リチア | そうですね。ですから、ルグの槍の起動時に心の世界にあるべきではない異物として、心核から強引に外されてしまったのではないでしょうか。 |
ミリーナ | 確かに、それで傷ができたのかもしれないわね。だからスピルメイズもこんなに荒れて……。 |
シング | 防御壁に穴ができるのもこの魔導器がオスカーの心核に影響しているせいかな。 |
リチア | この方の心核を正常に戻すことでそれもわかるはずです。 |
リチア | この振動はまさか……スピルメイズの縮小が始まったのですか ! ? |
ヒスイ | だとしたら、あんま長くは持たねえかもしれねえぞ。こいつのスピリアはもうボロボロだ。 |
ミリーナ | ……シング。ソーマなら、この場所からオスカーさんの体の外へ出られるわよね。私、この魔導器を持って外へ出るわ。 |
シング | わかった。オレが一緒にリンクアウトするよ。 |
シング | ただ、今のオスカーがどんな場所にいるかはわからない。戦う準備だけはしておいて。 |
リチア | でしたらクンツァイト、あなたもミリーナと一緒に行ってください。先ほどのようにあなたの持つ情報が役に立つかもしれません。 |
リチア | わたくしはこちらに残ってコハクのところへ戻ります。 |
クンツァイト | 否。今戻るのは危険です。 |
リチア | わかっています。ですが、誰かがこの状況を伝えないと。一人のスピルメイズの崩壊が他の方にも影響を及ぼすかもしれないのですから。 |
ヒスイ | ごちゃごちゃ言ってねぇで早く行け !リチアには俺がついてる。 |
リチア | ヒスイ…… ! ありがとうございます。 |
ミリーナ | シング、オスカーさんを助けに行きましょう。クンツァイトさんも、それでいいかしら。 |
クンツァイト | ……肯定。ヒスイ、リチアさまを頼む。 |
キャラクター | 4話【17-5 ミッドガンド領 領主の館1】 |
テレサ | オスカー ! お願いだから目を開けて ! |
テレサ | なっ ! ? |
シング | 火が ! この人がオスカーだ。 |
テレサ | 誰 ! ? いつの間に入ったのですか ! |
シング | 驚かせてごめん。オレたち、きみが抱きしめてるその人を助けに―― |
テレサ | 近寄らないでっ ! 弟に何をする気です ! |
ミリーナ | 弟……。やっぱりあなたは……。 |
クンツァイト | 警告。彼女は極度の興奮状態にある。これ以上刺激すると錯乱状態に陥りかねない。 |
ミリーナ | わかったわ。まずは私一人で話させて。 |
ミリーナ | あなたはテレサさんですね。私は鏡士のミリーナです。 |
テレサ | 鏡士 ? 確かにその顔は黒衣の鏡士……。そうよ、あなたたちのせいで……。 |
テレサ | あなたたちがこの世界に呼んだからオスカーはこんな目にあったのです ! |
ミリーナ | ……確かにその通りです。ごめんなさい。恨み事はいくらでも受けます。だけど今は、オスカーさんの命を優先させて下さい。 |
テレサ | ! ! |
ミリーナ | これを見て下さい。何かわかりますか ? |
テレサ | それは……魔導器 ? |
ミリーナ | やっぱりそうなんですね。これはオスカーさんの心の中にあったものです。何か心当たりはありますか ? |
テレサ | グラスティンが……弟の心核には魔導器が取り付けられていた、と……。 |
ミリーナ | そうだったのね……。でも、こうして取り出したから魔導器については、もう心配いりません。 |
テレサ | では、この炎は ! ?熱くもない、けれど消えもしないのですよ ! ? |
ミリーナ | これは贄の紋章のせいです。心のエネルギーを燃焼している状態が炎のように具現化されているの。 |
ミリーナ | このまま放置するとオスカーさんは命を燃やし尽くしてしまう。そうさせないために、私たちは動いています。 |
テレサ | オスカーを、死なせないために……。 |
ミリーナ | そう。だからお願いです、テレサさん。私たちにオスカーさんを助けさせて下さい。 |
テレサ | なぜ、あなたがそこまでするのです。オスカーを気にするのもどうせ自分たちの利益のためなのでしょう ? |
ミリーナ | ……ええ、それはもちろんそうです。オスカーさんを助けるのは私たちのため。何があろうと救わなければならない。 |
テレサ | ! |
ミリーナ | その理由も、今までの経緯も、全て説明します。オスカーさんとテレサさんが納得するまで。 |
ミリーナ | けれど……救いたいという気持ちも本当なの。大切な人を目の前で失う怖さ……私も知ってるから。 |
テレサ | ………………。信じていいのですね。 |
ミリーナ | ええ。オスカーさんに触れてもいいですか ?心核の治療をします。 |
テレサ | ……お願いします。 |
アスベル | 裂空刃 ! |
帝国兵 | ううっ……。 |
アスベル | みんな無事か ! |
セネル | ああ。後ろも追っ手は無しだ。 |
マリク | 中庭の兵もまだ追い付かないだろう。魔鏡術で作った入口はイクスがすぐに閉じたからな。 |
レイア | じゃあ、相手はこの地下通路の警備兵だけだね。っていっても、さっきからかなりの数だけど。 |
ジェイ | しかも進むたびに増えています。この先に何かあるようですね。 |
イクス | ああ。このまま進もう。 |
スタン | うわ、でかいな ! この鉄の扉。 |
マリク | 巨大な鉄扉に、あの警備兵の数だ。どう見ても重要施設だろう。どうだ、イクス。 |
イクス | 俺も歪なアニマを強く感じます。中に入りましょう。ええと……どうやって開けるんだろう。 |
ルーティ | こういうのって、たいがいどこかに凝った仕掛けがあるのが定番なのよね。 |
レイア | じゃあ、みんなで探そう ! |
ルーティ | ……おかしいわね。レンズハンターの勘ではこの辺にあるはずなんだけど。えい、えいっ ! |
ソーディアン・ディムロス | アトワイト、ルーティを止めなくていいのか ?罠がないとも限らんぞ。 |
ソーディアン・アトワイト | そうなったら、またスタンさんに助けてもらえばいいわ。 |
ルーティ | もう、嫌なこと思い出させないで ! |
スタン | しかし見つからないなぁ。 |
アスベル | ……まずいな。いつまでもここにいると中庭の兵士たちが追いつくぞ。 |
イクス | よし、魔鏡術でこの鉄扉に穴を開けよう。 |
アスベル | そんな頻繁に創造の魔鏡術を使ってもいいのか ? |
イクス | 確かに消耗はするけど、今は時間との勝負だしな。みんな、下がっててくれ。 |
イクス | ――えっ ? |
セネル | どうした、失敗したのか ? |
イクス | 術が阻まれたんだ。っていうか、力が抑え込まれたような……。妨害しそうな魔鏡陣も見当たらないのに。 |
ジェイ | 術が阻まれる……ですか。イクスさん、この世界のエネルギー制御って鏡士以外では、魔鏡技師の作る機械が主なんですよね ? |
イクス | え ? ああ、そうだな。ケリュケイオンや、カレイドスコープとかアンチ・ミラージュブレスみたいな器機は……あっ ! |
ジェイ | ええ。まさにアンチ・ミラージュブレスなんて術や力の影響を抑え込むものだと聞いています。 |
ジェイ | だとすると、イクスさんの術をはねのけたのもそういった類のものかもしれません。いっそ専門家に相談してみては ? |
フィリップ | ――そうか。贄の紋章たちは心の世界で繋がっているのか。 |
ゴーシュ | じゃあ、イエガー様もいるんだな ! ? |
ドロワット | 助かるのよねん ! ? |
キール | ……そのためには、みんなの力が必要だ。 |
レイヴン | ……なるほどね。事態は切迫してると。 |
フィリップ | もちろん協力するよ。こちらは何をすればいい ? |
キール | 救世軍には、各地で火柱となった人たちを回収した後浮遊島に連れてきて欲しいんだ。 |
キール | さっき説明した【逆しまの魔導砲】がじきに完成するはずだ。それを打ち込めば贄の紋章を無効化できる。 |
マーク | 目印はあの炎の柱だな。近づくことで計器類への影響はありそうか ? |
キール | いや、あの炎自体は幻のようなものだ。外界には影響しない。 |
ミント | どうりで術が通じないはずですね。 |
クレス | ああ。ミントの言うとおりだったよ。それで、僕たちは何を ? |
キール | みんなは救世軍が到着するまで贄の紋章たちの保護を頼む。きっと帝国側も火柱を目指して駆けつけるはずだからな。 |
マーク | となると、回収作業は荒事になるかもな。丁度いいのがウチに乗り込んでて良かったぜ。 |
フィリップ | よし、すぐに出発する。近場だと―― |
イクス | 応答せよ、ケリュケイオン。こちらイクス。大至急ガロウズに聞きたいことがあるんだ ! |
二人 | イクス ! ? |
ガロウズ | ――なるほど。確かにこれは俺たち技師の分野だ。気付いたヤツ、いい勘してるぜ。 |
イクス | だってさ。ありがとな、ジェイ。ガロウズ、開けるにはどうすればいい ? |
ガロウズ | もう少し引いて、扉を全体的に映してくれ。……よし、そこだ。左右に制御盤が隠れているはずだ。 |
レイア | あれ ? そこ、さっきルーティが触ってた場所じゃない ? |
ルーティ | ふふん、レンズハンターの勘は正しかったってことね。 |
ガロウズ | へえ、勘のいい奴ばっかりで頼もしいねぇ。 |
ガロウズ | さて、その制御盤を出すのが最初の難関だ。俺が言うとおりに操作しろよ。まずは―― |
帝国兵 | 警備兵がやられてるぞ ! 奴らはこの先だ ! |
セネル | 来たぞ、追っ手だ ! |
イクス | 急いでくれ、ガロウズ ! 敵が来た ! |
ガロウズ | 了解。やり直しはねぇぞ。絶対に間違えるな。 |
イクス | ああ。みんなは後を―― |
アスベル | わかってるさ。イクスは解除に集中してくれ。必ず守って見せる ! |
キャラクター | 5話【17-8 芙蓉離宮4】 |
グラスティン | っ ! ゲフッ…………。………………………………。 |
バロール | 今度こそ死んだな ?さすがにもう復活はできぬ―― |
グラスティン | ……ヒ、ヒヒ……ヒャッハハーッ !残念だな。これでまた『ふりだし』だぁ ! |
バロール | まだクロノスの力を使えるか。常人ならば負荷に耐えられずに死ぬかとうの昔に力の制御を失うはずだが。 |
バロール | 貴様のクロノスの力、流れがどうも歪に見える。 |
グラスティン | ヒヒヒ、神相手に研究成果が検証できるとは研究者冥利に尽きるねぇ。 |
バロール | はあ……。いい加減、目障りだっ ! |
グラスティン | ……………………。 |
バロール | しつこくたかる虫ほど不快なものはない。 |
グラスティン | ヒヒッ、いくらでも復活するぜ。お前がデミトリアスを返すまで付きまとってやる。 |
グラスティン | 勝手に人の楽しみを奪いやがって…… ! |
バロール | なるほど、見えたぞ。クロノスの力の負荷が他に流れていくのを。 |
バロール | 貴様、『何人』いる ? |
グラスティン | ほう、流石はバロール様だあ。まあ、バレたところで痛くも痒くもないがな。 |
グラスティン | 『俺』ならレプリカって便利な技術で増やし放題だ。何人だって用意できる。ヒヒヒ ! |
バロール | なるほど。複製した自分の心核を外付けしてダメージを流したと見える。異世界の知識を小賢しく組み合わせたか。 |
グラスティン | ヒヒッ、その通り。異世界が混じったことでここはお前たち古い神が知る世界じゃなくなった。 |
グラスティン | お前たちは大人しく俺に……デミトリアスに使われていればいいんだよぉ ! |
バロール | 勝手に神と祀り上げその力を好きに使おうなどとは浅ましい所業だ。貴様らのような者がいるから、世界は……。 |
バロール | ……よくわかった。貴様は徹底的に殺しきる。 |
バロール | ――コーキス ! 今一度、我が声に応えよ ! |
シグレ | コーキス、こっちは何もねぇぞ。 |
コーキス | う~ん……。けど、バロールの気配を強く感じるのは地面の下からなんだ。絶対に地下があるはずなんだけどなぁ。 |
シグレ | おいおい、こんな廃墟まで連れてきて空振りなんて御免だぜ ? |
コーキス | 墓守の街に連れてけって言ったの、シグレ様じゃん ! |
ムルジム | ごめんなさいね。炎の柱や、バルドのことだって気になるでしょうにシグレのわがままに付き合ってもらって。 |
コーキス | あっ、ごめん ! そんなつもりじゃないよ。ここに来たのも俺の意志だし、シグレ様にはバロールから解放してもらった恩もあるからさ。 |
シグレ | あれはお前への恩返しの一つだ。気にすんな。それに俺の趣味も兼ねてたしな。 |
シグレ | とにかく気合い入れて探せ。ムルジムも気配程度はたどれるがお前ほどじゃない。頼りにしてるぜ。 |
コーキス | そ、そうか ! ? わかった ! よーし、入口、入口っと……。 |
ムルジム | たん――……素直な子ね。 |
シグレ | フッ、単純馬鹿ほど強くなるんだよ。 |
メルクリア | コーキス、わらわじゃ ! 無事なのじゃな ! ? |
コーキス | っと、メルクリアだ。俺の通信文見たのかな。――メルクリア、こちらコーキス。 |
メルクリア | おぬしからの報告、確認したぞ。まずは無事で何よりじゃ ! |
コーキス | 心配させてごめんな。リグレット様は ? |
メルクリア | イクスの使いの者たちが仮想鏡界まで運んでくれた。治療も済ませてある。 |
コーキス | そうか、良かった……。ん ? ってことは、もしかして今は仮想鏡界から ?通信とか遮断してなくていいのかよ。 |
メルクリア | 緊急時にてジュニアが解放した。実はその折に兄上様が何も言わずにお一人で外に出たようでな。連絡がつかぬのじゃ……。 |
コーキス | えっ、何で ! ? |
メルクリア | わからぬ。ただ、姿を消す直前におぬしたちが操られたと報告を受けておった。 |
コーキス | まさか、俺やバルドを追って……。 |
メルクリア | 心当たりはそれしかない。故にバルドにも連絡したが繋がらぬ。おぬしもその様子だと、見かけてはおらぬようだな。 |
コーキス | ああ。もしボスを見かけたらすぐに連絡するよ。きっとここに来るはずだから。 |
メルクリア | こことは、どこにおるのじゃ。 |
コーキス | 墓守の街だよ。ほら、前にメルクリアが一人で出てった時にリヒター様と一緒に迎えに行ったろ ? |
コーキス | あそこからさらに奥に行った潰れた村だよ。バロールに操られている時にここへ呼ばれてたんだ。 |
メルクリア | なっ…… ! その場所は危険じゃぞ !未だ死鏡精の生き残りが潜んでおる。わらわは危ないところをウィルに救われたのじゃ。 |
コーキス | 死鏡精 ! ? |
メルクリア | コーキスも奴らに乗っ取られたことがあったのじゃろう ?何があるかわからぬ。重々気をつけよ。 |
コーキス | う、うん……。いや、でも、もしかしたら…… ! |
コーキス | メルクリア、死鏡精に襲われた場所ってどこだ ? |
コーキス | メルクリアの話じゃ、この辺りなんだけど……。シグレ様、ムルジム様、草むらの中を探してみてくれ。 |
シグレ | 応。けどよなんで死鏡精と入口探しが関係あるんだ。 |
コーキス | バロールは俺たちを操る時に「これで死の砂嵐に手を伸ばせる」って言ってたんだ。死鏡精は死の砂嵐の一部、みたいな感じだったと思う。 |
コーキス | それが現れてた場所ならバロールの力に一番近いんじゃないかって思ってさ。 |
ムルジム | あったわ ! こっちよ。 |
シグレ | さすが猫。茂みを探るのが上手いぜ。 |
ムルジム | どういう褒め方よ。――コーキス、地下への入り口って、これかしら。 |
コーキス | ああ ! ありがとな、ムルジム様。 |
シグレ | へえ、地下水道に繋がってるのか。よし、行くぞ。 |
コーキス | 待ってよ、シグレさ―― |
バロール | ――コーキス ! 今一度、我が声に応えよ ! |
コーキス | ! ? |
コーキス | ……あれ…… ? どうなったんだ ?ここは、スピルメイズ…… ? |
コーキス ? | そうだ。バロール様に呼ばれたんだよ。魔眼の使用をご所望だ。 |
コーキス | 俺 ! ? |
コーキス ? | ああ、俺だよ。さあ、早く行くぞ。 |
コーキス | 嫌だ ! なんでマスターでもないバロールに従わなきゃいけないんだよ !俺のマスターは一人だけだ ! |
コーキス ? | そのマスターだってお前は信じきれてなかったくせに。 |
コーキス | ! ! |
コーキス ? | 思い出せよ、コーキス。 |
コーキス ? | ……俺の魔眼が……バロールの魔眼 ? |
コーキス | ! ! |
コーキス ? | マスターは……俺を作っちゃいけないって知ってた…… ? |
コーキス ? | マスター……俺……生まれちゃいけなかった…… ? |
コーキス | やめろっ ! 今さらそんなもの見たくない !そんな弱い俺…… ! |
コーキス ? | だよな。でも、そういう俺をバロール様は必要としてくれてる。嬉しいよな。 |
コーキス ? | 俺はバロール様に力を貸す。お前も行こう。 |
コーキス | 駄目だっ ! 俺は行かない……。お前も行かせないっ ! |
キャラクター | 6話【17-9 芙蓉離宮5】 |
スタン | 鳳凰天駆 ! ! |
ソーディアン・ディムロス | いいぞ、スタン。敵もだいぶ片付いてきたようだ。 |
スタン | ああ。増援の前に扉が開けば全員逃げ込めるな。イクス、扉はどうなってる ? |
イクス | ああ、これで――……解除だ ! |
ルーティ | やった、扉が開いたわ ! |
マリク | しんがりはオレが務める。――連弾、行かせてもらおうか ! 出でよ、爆炎 ! |
アスベル | 今のうちだ ! みんな駆け込め ! |
ガロウズ | イクス、全員入ったら内側からロックだ。しばらくは外側からの操作を受け付けないから敵の足止めになる。 |
イクス | 了解 ! |
イクス | ロック完了。ありがとうございます、マリクさん。 |
マリク | いや、これで時間が稼げればいいがな。 |
セネル | おい ! みんなこっちに来てくれ ! |
マリク | どうした ! そっちにも警備兵が―― |
イクス | 火柱 ! 贄の紋章の人たちだ ! |
イクス | くそっ、これ以上近づけない。この床の紋様は魔鏡陣か ! ? |
ルーティ | スタン ! あそこに倒れてる人って…… ! |
スタン | イレーヌさんだ ! |
アスベル | あれは……ヴィクトリア教官 ! |
マリク | カーツ……、おい、カーツ ! |
レイア | …………。 |
ジェイ | 大丈夫ですか ?レイアさんのところは、まだ領主も従騎士も判明してませんでしたよね。 |
ジェイ | やっぱり、あの中に知り合いが ? |
レイア | うん……。ここに来たのがわたしで良かった。きっと、二人が見たら動揺すると思うから。 |
レイア | プレザ……、ウィンガル……。アルヴィンとガイアスに伝えないと。 |
ルーティ | イクス、これってどうすれば近づけるのよ。あたしやレイアの仕事ができないわ。 |
レイア | そうだね。せめてみんなが怪我してないかだけでも確認したい。 |
イクス | 近づけないのはこの魔鏡陣のせいだと思うんだけど……。 |
フィリップ | ガロウズ、ちょっとごめん。――イクス、魔鏡でその部屋の様子を映してくれないか。 |
イクス | フィルさん !これです。どうやれば解除できますか ? |
フィリップ | これは……。今は無理だ。ルグの槍の起動を止めないことにはこの魔鏡陣は消せないようになっている。 |
二人 | …………。 |
イクス | だとしても、このままじゃ―― |
ジェイ | イクスさん、歪んだアニマはどうです ? |
イクス | え ? ああ、今のところ、ここが一番強いな。 |
ジェイ | では、この周辺が目標地点ですね。起動装置を探しましょう。それが第一目標のはずです。 |
セネル | そうだな。みんなを助けるにも、それが一番早い。 |
ジェイ | セネルさんはそのために、倒れたシャーリィさんから離れてここにいるんですもんね。一刻も早く、贄の紋章から解放するために。 |
セネル | !おい、ジェイ…… ! |
イクス | そうか。シャーリィだってあっちで頑張ってるんだよな。 |
イクス | ありがとう。危うく優先順位を忘れるところだった。早く起動を止めないと。 |
スタン | イクス、ごめん。俺、驚いて……。でも、もう大丈夫だ。 |
アスベル | この辺りで起動装置を探すんだろう ?俺はあっちを見てくるよ。 |
イクス | ああ、頼んだ。 |
イクス | それらしきものは無いな。ここは本ばっかりだし……別の場所を見てみるか。 |
イクス | ……あれ ? |
イクス | (この本…… ?セールンドの王立図書館のマークが入ってる。しかも相当古いな。なんでこんなところに……) |
イクス | (そういえばゲフィオンは王宮で見つけた創世神話の古い形の書記を解読中だったって言ってたけど) |
イクス | まさか……。 |
イクス1st | (イクス、まずいぞ ! コーキスが危ない !) |
イクス | えっ ! ? |
イクス1st | (今まではどれだけ操られても『イクスの鏡精コーキス』だった) |
イクス1st | (けど今は『バロールの鏡精コーキス』として使おうとしてる !このままじゃコーキスが乗っ取られるぞ ! ) |
イクス | コーキスを守らないと !でも、どうすれば……。 |
イクス1st | (コーキスの心に触れろ。鏡精とマスターは繋がってるんだ。そのまま自分の心から辿ればいい) |
イクス1st | (さっきも言ったはずだ。俺にわかるなら、イクスにだってわかる。必ずコーキスのところへ辿り着ける) |
イクス | そうか。スピルメイズのイメージで行けばいいのか。けど、このままじゃ俺も気を失って倒れちゃうな。 |
イクス | イクスさん、俺の体、お願いできますか ? |
イクス1st | (任せろ。こっちも時間はないからイクスとしてみんなと行動しておくよ) |
イクス | 助かります。それじゃ行ってきます。 |
イクス1st | (ああ。絶対コーキスを渡すなよ ! ) |
コーキス | これで終わりだ ! |
コーキス ? | くっ……俺はバロール様の下へ……俺を本当に必要としてくれる人の側に……。 |
コーキス ? | …… ? なんで……ここに……。 |
コーキス | ……消えた…… ? なんだよこいつ。 |
コーキス | くそっ、本当に必要としてくれるのはマスターだ。俺はマスターを信じてる ! 本当に……。 |
コーキス | …………本当に ? |
イクス | いた ! コーキス、無事だったか ! ? |
コーキス | …… ? なんで……ここに……。ここ、俺の心の中で……。 |
イクス | 良かった……大丈夫か ?バロールの鏡精になってないよな。 |
コーキス | マスター、知ってたのか ?それでここまで来てくれたのか ? |
イクス | ああ。お前を守りたくてさ。ごめんな、操られてた時にも何もしてやれなくて。 |
コーキス | もしかして、さっきの俺が消えたのは……。――……ははっ、そういうことか。 |
コーキス | 俺……マスターやみんなに助けられてばっかりだ。弱い心の自分を鍛えなおすためにマスターから離れたのに……。 |
イクス | コーキスが弱い、か。俺の鏡精なんだから、弱いのは当たり前だろ ? |
コーキス | へ…… ? |
イクス | 俺もみんなに助けられてばっかりだ。けどさ、そういうマスターと鏡精だからこそ一緒に支え合っていくのが一番だと思わないか ? |
コーキス | けど俺は、本当は生み出されちゃいけない鏡精だぞ ! |
イクス | それ、懐かしいなぁ。あの時は二人でナーザ将軍に怒られたっけ。……やっぱり、ずっと気にしてたのか。 |
コーキス | …………。 |
イクス | なぁコーキス、俺にはお前が必要なんだ。弱い者同士、支え合う存在がさ。 |
イクス | だからお前が生み出されちゃいけないなんて世界中の誰にもそんなこと言わせない。 |
イクス | コーキスは望まれて生まれたんだよ。俺に。 |
コーキス | ……マスター ! お、俺―― |
? ? ? | ウオオオオオオオオ ! ? |
イクス | なんだ、今の叫び声は ! ? |
コーキス | あれはバロールだ ! |
イクス | コーキス ! |
コーキス | マスター ! |
コーキス | マスター……。 |
ムルジム | 起きた ? 心配したのよ。 |
コーキス | ムルジム様 ? マスターは ! ? |
ムルジム | マスター ? やだ、頭を打ったかしら。あたしのしっぽ、何本に見える ? |
コーキス | ……ええと、そうか ! ここ、地下水道の入口だ。入った瞬間にバロールに意識を持ってかれたんだ……。シグレ様は ? |
ムルジム | シグレは先にバロールの下へ向かったわ。もう我慢の限界だって。 |
コーキス | マジかよ ! 早く追いかけよう ! |
キャラクター | 7話【17-13 ミッドガンド領 領主の館2】 |
カーリャ | オスカーさまの体の傷、治ってませんね……。治癒術をかけたのに。 |
ミリーナ | ええ……。クンツァイトさんも診てもらえる ? |
クンツァイト | 肯定。細胞レベルでの再生箇所は見られるものの施した治癒術に比例した治療効果は得られていない。 |
テレサ | どういうことです ? |
ミリーナ | 体の傷は心核への負担にもなるのでまずは治癒術を試みました。でも、思ったよりも術の効きが弱いんです。 |
ミリーナ | やはりオスカーさんの心の中に戻って心核の治療を先に試みます。 |
テレサ | でしたら、私も連れていってください。 |
ミリーナ | それは……。 |
テレサ | もう嫌なのです !この子が傷つき、命を削って行くのをただ見ているだけなんて。 |
シング | 連れていくことはできる。けど―― |
クンツァイト | 警告、動体反応 !複数名がこちらへ接近中。 |
シング | 帝国兵か ! ? |
クンツァイト | 肯定。突然現れたことから転送魔法陣による侵入と推測される。さらに外部より数名が侵入。 |
ミリーナ | オスカーさんの確保に来たんだわ ! |
テレサ | グラスティン……。いつの間にか消えたと思ったらこういうことだったのですね ! |
クンツァイト | 全員でスピルリンクすれば脱出は可能。ただし、オスカーの肉体はこの場に置いていかなければならない。 |
テレサ | いいえ、それはできません ! |
ミリーナ | テレサさん ! ? |
テレサ | あなたたちは早くオスカーの心へ。この子は私が守ります ! |
カーリャ | 無茶ですよ ! |
帝国兵β | テレサ・リナレス、オスカー・ドラゴニアを確認。両名の捕縛を―― |
ベルベット | ラファティ・レイヴン ! |
テレサ | あなた…… ! |
ベルベット | ……間に合ったようね。 |
ミリーナ | ベルベット ! ? どうしてここに ! ? |
ベルベット | あんたたちこそ、なんでいるの。 |
ベルベット | ああ、片付いたかしら。 |
ライフィセット | ベルベット、こっちは終わったよ ! |
テレサ | 二号……。 |
ライフィセット | テレサ様、やっぱりここにいたんだ……。 |
エレノア | テレサ、早くしてください。敵の援軍が来ないうちにオスカーを保護―― |
エレノア | そこにいるのはミリーナですか ! ?それにシングたちも。あなた方はスピルリンク中と聞いていましたが。 |
ミリーナ | ええ。オスカーさんの心核が危険だったから一時的に外に出て対処してたの。またすぐに戻るつもりよ。 |
エレノア | そうですか。私たちは、火柱となった外部の贄の紋章たちを保護して、ケリュケイオンでアジトへ連れて来るよう要請を受けているんです。 |
ベルベット | 説明はそのくらいにして。あまり時間がないんだから。 |
ベルベット | それで、あんたはどうするの。 |
テレサ | ベルベット…… ! |
ミリーナ | テレサさん、オスカーさんの心は私が守るから体の方をお願いします。 |
テレサ | 私に、ベルベットたちと一緒に行けと ? |
シング | オレもその方がいいと思う。それにさ、オスカーが目覚めた時にお姉さんが横にいた方が安心するんじゃないかな。 |
テレサ | ! |
エレノア | テレサ、お願いです。ここは一旦収めてください。オスカーのために。 |
テレサ | ……わかっています。ここで争うほど愚かではありません。 |
テレサ | あの子が助かるなら私はどんな憎しみも屈辱も、呑み込んでみせます。 |
ベルベット | そうね……。弟を守るのは、姉の役目だもの。 |
テレサ | でも、それではオスカーの心の中で何かあっても私は助けることができないのですね……。 |
シング | だったらオレ、テレサさんと行くよ。ケリュケイオンにもソーマ使いがいたほうが何かと便利だろうし。 |
テレサ | あなたはそれでいいのですか ? |
シング | ああ。女の子の笑顔を守るのもソーマ使いの役目だからね。 |
ライフィセット | テレサ様が面食らってる……。 |
シング | ミリーナ、クンツァイト、あっちは頼んだ。コハクにもよろしく言っといて。 |
ミリーナ | わかったわ。ありがとうシング。それじゃみんな、お願いします。 |
クンツァイト | では行こう。ミリーナ。 |
ナーザ | (バルドは新大陸で姿を消した。後を追うにも時間も当てもない) |
ナーザ | (やはり奴を救うにはこの場から直接介入するほか手だてはないか……) |
ナーザ | ふっ……。 |
ナーザ | (『これ』を使ったことがバルドに知れたら大目玉だな。しばらくは小言が続くことを覚悟せねば) |
ナーザ | (死人の体でこの奥義を使って果たしてその後があるかは疑問だが……) |
ナーザ | (元より死した身の上だ。このかりそめの命は、生者のためにこそある) |
ナーザ | バルド、すぐに助けてやるぞ。 |
ナーザ | 秘伝魔鏡術【ギエラ・ビフレスト】 ! |
バロールの尖兵 | なるほど。この船の方角はセールンド諸島か。あの辺りには沢山の小島がある。そこが貴様の根城だな。 |
バロールの尖兵 | しかし、ずいぶんと大人しく言うことを聞いたな。もっと暴れるかと思ったぞ ? |
フリーセル | 俺如き腕前で、バルド様に敵う筈もない……。たとえバロールの尖兵と成り果てようとな。 |
フリーセル | ……それより貴様、何故バルド様の体を奪った ? |
バロールの尖兵 | この男は何より生に執着している。故に器として使いやすい。 |
バロールの尖兵 | 我らの作ったこの世界に留まりたいという強い意志があるからこそ、命を生む俺には従順になる。 |
フリーセル | 貴様が何を言っているのかさっぱりわからん。 |
バロールの尖兵 | わからなくていい。俺はお前が集めているものを――この世界で生まれた、ティル・ナ・ノーグの住民を我が手に取り戻すまで。 |
フリーセル | ………………。 |
バロールの尖兵 | しかし、お前は何故ビフレストの生存者だけを集めているのだ ? |
フリーセル | 帝国の歪んだ目的から同胞を解放するためだ。奴らは本来のティル・ナ・ノーグで生まれた人間だけを集めて、この世界から逃げようとしている。 |
バロールの尖兵 | 崩壊しつつある世界を捨てるのはまあ、考えそうなことだ。だが、お前は逃げようと思わないのか ? |
フリーセル | ……咎人の揺り籠から解放されるのは虹の橋が架けられた時だ。 |
フリーセル | その前まで、我々はこのティル・ナ・ノーグで生きねばならない。 |
フリーセル | それが先代の知の乙女であるエルダ皇后陛下の残した遺言―― |
バロールの尖兵 | くっ……、ああああああっ ! ! |
フリーセル | ! ? |
バロールの尖兵 | くっ……、ああああああっ ! !これは……何が…… ! |
ナーザ | 苦しいか。ならば早々に立ち去るがいい。 |
バロールの尖兵 | お前は…… !……俺の、体が、言うことをきかん…… |
ナーザ | 俺のだと ?何をほざくか。痴れ者が。 |
ナーザ | この体の主の名はバルド。我が愛する乳兄弟でありこれより長きに渡りメルクリアの守護を担う者。 |
ナーザ | お前ごときで代えがきくものか ! |
バロールの尖兵 | なぜ、体が動かない…… ! これは心核への直接攻撃か…… ? |
ナーザ | 心と心を虹の橋で繋いだ。どれだけ距離が離れていようとその自由を拘束できる。 |
バロールの尖兵 | 虹の…… ? 想像の魔鏡術【ギエラ・ビフレスト】か !貴様、ナーザ・アイフリードの子孫だな ! ? |
ナーザ | そんなことはどうでもいい。 |
ナーザ | バルドから手を引け ! |
キャラクター | 8話【17-14 心の世界2】 |
ミリーナ | 待たせてごめんなさい ! |
ベリル | ミリーナ !無事に帰ってこられてよかったよ。オスカーの心核の調査は ? |
ミリーナ | ええ。事情はだいたい確認できたわ。 |
コハク | …… ? ミリーナと、クンツァイトだけ ? |
クンツァイト | シングはテレサと一緒にケリュケイオンに行った。彼女の笑顔を守りたいそうだ。 |
二人 | はぁ ! ? |
コハク | シング……。 |
ヒスイ | 野郎、コハクにこんな顔させやがって !ボコボコにしてやる ! |
ベリル | どこの女だよ、そのテレサってのは ! |
カーリャ | 酷い誤解が生じてます ! |
ミリーナ | 誤解はとくけど、まずはオスカーさんの心核よ。早く処置を始めましょう。 |
ミリーナ | ……これで何とかなるかしら。魔鏡術で一時的に心核の傷を覆ってみたんだけど。 |
リチア | そうですね。今はこれで凌ぎましょう。心核の完全治癒には時間を要しますから。 |
ミリーナ | それじゃ、ヴァンさん、シャーリィ、マオお願いします。 |
ヴァン | では、穴をふさぐために全員で出力を一時的に上げよう。成功したら再び今の状態に戻す。いいな ? |
二人 | 「了解 !」「はい !」 |
カーリャ | あっ、穴がふさがってます ! 大成功ですよ ! |
四人 | やったーー ! |
ミリーナ | 良かった…… ! 後は【逆しまの魔導砲】が完成すれば……。 |
マーク | よお、お疲れ。マギルゥたちも戻ってるぜ。 |
ベルベット | そう。ミッドガンド領オスカー、回収完了よ。後はよろしく。 |
テレサ | …………。 |
マーク | おいおい、そう怖い顔しなさんな。さて、オスカーはこっちに運んでくれ。 |
シング | テレサさん、こっちだって。 |
テレサ | あの人たちも、大切な人をオスカーと同じように…… ? |
テレサ | これは ! ? |
クレス | 炎が弱まった…… ? |
ゴーシュ | まさか生命エネルギーが燃え尽きたんじゃ―― |
レイヴン | っ ! ば、バカ言わないでよ。 |
フィリップ | みんな、落ち着いてくれ。浮遊島から連絡が入った。 |
フィリップ | 今起きた現象だが、これは精霊力を使って心核の生命エネルギーを守る作業が行われた結果だそうだ。 |
フィリップ | 浮遊島の贄の紋章たちも炎が抑えられてうっすらと発光する程度らしい。こちらとも一致しているから、安心してくれ。 |
フィリップ | とはいえ、予断は許さない状況だ。何かあったらすぐにブリッジへ連絡を頼むよ。 |
シング | 防御壁が完成したんだ ! |
ミント | そうだったんですね……。驚きました。 |
ドロワット | 心臓に悪いにょ~……。 |
レイヴン | ホント、こっちが余計なエネルギー消費したわ。 |
ライフィセット | みんなも少し休んで。飲み物持ってきたから。 |
ライフィセット | あの……、テレサ様も、どうぞ。 |
テレサ | 二号……。いいえ、あなたたちと慣れ合うつもりは―― |
ライフィセット | もしかして、今のテレサ様はまだ……。 |
テレサ | なんです ? |
ライフィセット | ……ううん、何でもない。 |
ライフィセット | 僕が言いたいのは……。僕の名前はライフィセット。二号じゃありません。 |
テレサ | ……あなたのことはアルトリウス様から聞いていました。 |
テレサ | 聖隷が名を名乗り人のように振る舞う様は奇妙なものですね。 |
ライフィセット | …………。 |
テレサ | けれど、ここは異世界ですしそういうこともあるのでしょう。 |
テレサ | ……飲み物を頂けますか。ライフィセット。 |
ライフィセット | はい ! |
レイア | これだけ探しても見つからないなんて……。 |
セネル | 他の場所を探すにしてもイクスのアンテナに引っかからなきゃ意味ないしな。 |
マリク | イクス、他にアニマの歪みを感じる場所はあるか ? |
イクス(1st) | いや、俺もここ以外は考えられません。 |
ジェイ | となると、上か下ですね。ただ地図上で見ると、この上にある可能性は低い。となると―― |
イクス(1st) | おお、俺と一緒だ ! さすがジェイだな。ここって、構造的に地下がありそうなんだよ !そうだろ ? |
ジェイ | え、ええ。その通りです。 |
イクス(1st) | 贄の紋章の人たちの位置から考えても魔鏡陣まで施しておいて、起動装置だけを遠くに配置する意味はあまりないと思う。 |
ルーティ | けど、下に降りられそうな場所はなかったわよ ? |
イクス(1st) | そこは――俺がなんとかする。 |
イクス(1st) | ………………。 |
アスベル | イクス、大丈夫か ?負担になるなら他の手を考えよう。 |
イクス(1st) | アスベル……。君はいい奴なんだな ! うん、やっぱり仲間っていいよなあ。 |
アスベル | イクス ? |
イクス(1st) | ――よし、やってみよう ! |
イクス(1st) | (俺は以前、オーバーレイで暴走を起こしている。『このイクス』も、スタックオーバーレイで魔鏡結晶を大量に具現化させてしまった) |
イクス(1st) | (この体で俺が制御できるかは未知数だ。でもこの体は今までイクスが鍛えてきた体だからな。俺は一人の鏡士として君を――そして自分を信じる) |
イクス(1st) | ――魔鏡の力よ ! |
イクス(1st) | (よし、成功した――) |
バロールの尖兵 | こんなことが……うおおおおおっ ! ! |
ナーザ | 聞くに堪えんな。疾く失せよ。 |
ナーザ | バルド……。 |
バルド | ウォーデン様…… ! |
ナーザ | お前はまた……、まあ、今はいい。よくぞ戻った。 |
バルド | はい。誠に申し訳ございません。この度の失態には恥じ入るばかりです。尊き御身を私のような者のために―― |
ナーザ | お前が無事ならばそれでいい。それとも、俺のしたことが不満だったか ? |
バルド | ……いや、心の底から嬉しいよ。ありがとう。 |
バルド | けれど、あれだけは頂けないな。 |
ナーザ | ! ! |
バルド | その体で奥義を使うなんてこちらの肝が冷えたよ。こんな注意ができるのは、奥義の存在を知る僕しかいないのに。だいたい昔から自分を大事にしろと―― |
ナーザ | 説教は後で聞く。フリーセルのことは任せるぞ。 |
バルド | あっ、ウォーデン ! |
ナーザ | ……よし、どうやら戻れたようだな。しかし、バルドの奴め……。 |
? ? ? | ――あ、ええと、お帰り。 |
ナーザ | ! ? 誰だ ! |
イクス1st | あ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ? |
ナーザ | なっ、まさかお前は…… ! |
キャラクター | 9話【17-15 墓守の街4】 |
コーキス | …………ふへっ。 |
シグレ | なんだよ気持ち悪ぃ。お前本当に大丈夫か ? |
ムルジム | そうよ。さっきから突然変な笑い声出して。 |
コーキス | え ? へーきへーき。 |
コーキス | (あれは夢じゃないよな……。会いたいよ、マスター……) |
シグレ | まぁ、お前がバロールのところまで連れてってくれりゃどんなニヤけたツラしてたって構わねえけどよ。 |
コーキス | ちゃんと気配は追ってるって。この先から強い力を――あ…… ! |
ムルジム | ここ、何かしら。神殿みたいね。 |
コーキス | あそこ、女の人が倒れてる ! |
シグレ | 待て。ありゃ死人だ。しかもずいぶん前のな。 |
コーキス | え ? 生きてるみたいに見えるけど……。 |
ムルジム | 屍蝋よ。ほら、ぬめっと光ってるように見えるでしょ。気温や湿度とか、特殊な条件を満たした環境に死体があった場合、あんな状態で保存されることがあるの。 |
シグレ | ま、人間蝋燭ってとこだな。で――問題はその死体の奥にいる奴だ。出て来いよ。 |
コーキス | えっ ! ? |
ロクロウ | …………。 |
二人 | ! ! |
シグレ | なんでお前がここにいる。 |
コーキス | びっくりした…… !そりゃ会いたいとは思ってたけどさ。 |
シグレ | そういやコーキスもこいつとは存分に斬り合うって約束だったか。 |
コーキス | え ? 何言ってんだよ、シグレ様 !斬り合うって―― |
コーキス | (マスターと…… ?) |
シグレ | けど、俺が先だ。アルトリウスを倒したこいつを倒す。そういう約束なんでな。 |
コーキス | (そうか、シグレ様にはマスターがロクロウ様に見えてるんだ ! ) |
コーキス | 待ってくれ、シグレ様 !あいつはロクロウ様じゃない ! |
シグレ | あ ? ならなんだってぇんだよ。 |
コーキス | 俺に見えているのはマスターだよ。けど、あれは―― |
イクス | 俺にはお前が必要なんだ。弱い者同士、支え合う存在がさ。 |
イクス | コーキスは望まれて生まれたんだよ。俺に。 |
コーキス | (今なら使いこなせる ! この魔眼を ! ) |
シグレ | コーキス、お前、その眼…… ! |
コーキス | 視える…… ! やっぱりあいつ人じゃない。何かビカビカ光るエネルギー体だ !きっとこいつはバロールだ ! |
シグレ | ……そうか。気配まで擬態してくるとはな。だがありがとよ、コーキス。どうやら俺たちは『目的』にたどり着いたようだ。 |
シグレ | その姿、俺にとっちゃいい余興だ。ロクロウの時も尖兵の時も最後はコーキスに邪魔されたからな。 |
シグレ | ここはきっちり決着つけさせてもらうぜ !バロール ! |
イクス | ………………あれ ? |
スタン | 階段だ ! 下にも空間があるぞ ! |
アスベル | やっぱり地下があったのか。大成功だな、イクス ! |
イクス | あ、ああ…………。 |
イクス | (イクスさん……、イクスさん…… ? ) |
マリク | よし、オレが先に降りよう。後ろは任せたぞ。 |
アスベル | はい ! みんな、行こう。 |
イクス | (イクスさん、どこに行ったんですか ?俺、戻ってきましたよ ! ) |
レイア | ねえ、これ、もしかして ! ! |
イクス | (行かないと……。そうだ、あの王立図書館のマークが入った本は確保しておいたほうがよさそうだな) |
イクス | ごめん、みんな。遅れ……――これは ! |
ジェイ | ええ。本当に当たりのようです。 |
レイア | わたしもそう思う。だって、この装置から繋がってるあれ……心核だよね。 |
イクス | これがルグの槍の起動装置……。いや、ちゃんと確認しないとな。――ガロウズ、これを見てもらえないか。 |
ガロウズ | ――よし、概ねわかったぞ。その装置はエネルギーを引き入れている。で、エネルギーってのが、マクスウェルの残滓だ。 |
イクス | マクスウェル ! ? どうしてルグの槍に ! |
ガロウズ | ルグの槍を固定するエネルギーに利用してるようだな。 |
ガロウズ | しかも、ただ精霊の力ってだけじゃなくマクスウェルの残滓は、死んだマクスウェルの残りかすつまり本体そのものだ。そりゃ強力だろうよ。 |
マリク | ガロウズ、心核を取り外すためにも起動装置はなるべく安全に停止させたい。どうすればいい ? |
? ? ? | ヒヒヒッ ! ヒャーッハハハハ ! |
セネル | 今の声……グラスティンか ! ?奥の方からだ。 |
イクス | 確認してくる。ジェイとルーティは来ない方がいいな。黒髪はまずい。 |
マリク | わかった。オレはジェイたちと一緒に起動装置の停止を進めておく。あっちは頼んだぞ。 |
グラスティン | ヒャーハハハハッ !ほら、また最初から殺してみろよ ! |
バロール | ……やはり、答えぬか。 |
イクス | グラスティンとデミトリアス陛下…… ! ? |
スタン | あいつら、仲間割れか ! ? |
セネル | スタン、声が大きい。気づかれるぞ。 |
バロール | コーキスさえ我が声に答えていれば貴様など魔眼で存在自体を消し去れたものを。 |
グラスティン | なんだ、調子が悪いのか ?デミトリアスを喰ったりするからだ。さっさと吐いてすっきりしろよぉ。ヒヒヒ ! |
イクス | コーキス…… ! ?じゃあ、あの陛下はバロール ! |
アスベル | だとすると、グラスティンはデミトリアスを取り返そうとしてるのか。 |
ラムダ | (滑稽だな。あのグラスティンという男は気づいているのか ? 己が人に与えてきた苦痛を今まさに自分が受けているのだと) |
ラムダ | (悪意も、善意も、巡るものだな) |
アスベル | ラムダ……。 |
グラスティン | デミトリアスさえ戻せば勝手にルグの槍を起動して計画をブチ壊したことは許してやるぜ。 |
バロール | あれは我が槍だ。貴様の愚劣な口から名を呼ばれるだけでも怖気がする。 |
スタン | あれ ? じゃあ贄の紋章の火柱はバロールがやったってことか ? |
レイア | ええっ ! これってどうすればいいの ?バロールが勝っても、グラスティンが勝ってもまずいよね ? |
バロール | 今のは…… !フッ、どうやら決着がついたようだ。貴様の負けだな。 |
グラスティン | なに…… ? |
バロール | たった今、【ギエラ・ビフレスト】が我が尖兵に打ち込まれた。これで虹の橋が架かる。 |
グラスティン | 【ギエラ・ビフレスト】…… ? |
バロール | 小賢しい貴様でもさすがに知らぬか。創世の鏡士がそれぞれ受け継いだ三つの奥義の一つだ。 |
バロール | ティル・ナ・ノーグからニーベルングへ虹の橋が架かれば、我が鏡精ルグとの再会が叶う。 |
バロール | ルグさえいれば、共に死の砂嵐の中の遺物をこの地に降らすことができる。今日までの貴様らが重ねた歴史は消し去ってくれよう。 |
グラスティン | 歴史を…… ? 何を言ってる…… ? |
バロール | わからぬか ? 魔鏡戦争による大陸消滅前と同じ状況を作るのだ。 |
バロール | この世界の時間を巻き戻すでもなく今の世界を壊して、元の世界を甦らせる。そういうことだ。 |
バロール | 貴様らは今の世界を捨てて自分たちは生き延びようとしているようだが、俺はこの揺り籠世界の全てを守る。異世界の異物は消してしまえばいい。 |
グラスティン | ヒヒヒ…… ! 傑作だ !それで事態が変わるとでも思っているのかあ ?またフィリップとあの女が同じことを……―― |
グラスティン | ……あ…… ? |
バロール | 本体にもダメージは蓄積していたようだな。どれだけ複製を作ろうと全てを受け流せるはずもない。お前は世界より先に死ね。 |
バロール | ……く、雑魚に手間取った。これでは……この体の持ち主も持たない、な……。 |
バロール | ……我が末裔か。手を出さぬよう言ったはずだが。 |
イクス | 話は全部聞いた。なおさら俺が止めなきゃならない。 |
バロール | 異世界の仲間とやらを巻き込んでか。 |
スタン | 巻き込まれてなんかない。俺たちも自分の意志でここに立ってる。 |
レイア | 全部無くなるのを知ってて楽しく過ごせるわけないでしょ。 |
アスベル | ああ。ここで終わらせたりしない。あいつに見せてやらなきゃならないんだ。俺たちの『これから』を。 |
バロール | なるほど。だが、お前たちだけでこの世界の終わりが止められるものか。 |
セネル | 俺たちだけじゃないぜ。心の中でも戦ってる奴らがいるからな。 |
イクス | ああ。俺たちが積み重ねた思いで、お前を止める ! |
バロール | 仕方が無い。……光魔よ。俺が虹の橋を架け終わるまで奴らを足止めしろ ! |
キャラクター | 10話【17-15 墓守の街4】 |
パスカル | リタ、そこの丸いのギューンってしたら上へパチンでポチポチドン ! で、お願い。 |
リタ | ったく、いつもそれなんだから。はい、これでいいわ。キール、後はあんたよ。 |
キール | なんであれで通じるんだ……っと、よし、結果が出たぞ。 |
キール | ジュニアの紋章データも含めたパラメータ領域での安定性が確認できた。ハロルド、いけるぞ ! |
ハロルド | 了解。これを組み込めば―― !はい、【逆しまの魔導砲】、完成ーー ! |
リタ | ……なに、今の ? |
キール | おい、浮遊島の計器類全てに異常値が出てるぞ ! |
テレサ | オスカーの炎が七色に…… ! |
レイヴン | おい、ブリッジ !アレクセイたちの様子がおかしい。すぐに来てくれ ! |
ジュード | なんなんだ……。みんなの七色の炎が螺旋を描いて空へ伸びていく……。 |
アニー | どうしたらいいんでしょう……。一時は落ち着いたと思ったのに。 |
リッド | レイスからだ !レイス、なんかこっちのお前らヤバイことになってるぞ ! え……それマジかよ ! |
リッド | おい、あっちの防御壁何かの力で侵食されてるらしい ! |
プレセア | そんな、せっかく作ったのに…… ! |
しいな | その何かの力ってのは、なんなんだい ! ? |
? ? ? | その力、以前感じたものとよく似ています。アイフリード……鏡の精霊の力に。 |
しいな | あんた、ヴェリウスかい ! ? |
ヴェリウス | ええ。あなたの声が聞こえました。 |
しいな | ヴェリウス、心の精霊のあんたならあっちで何が起きてるのかもわかるだろ ?力を貸して欲しいんだ。頼むよ。 |
ヴェリウス | ええ。もちろんそのつもりです。まずは、残念なことを伝えねばなりません。 |
ヴェリウス | 彼らから立ち上る虹のオーラで虹の橋は完成してしまいました。 |
ヴェリウス | このままでは、この世界は消えてなくなります。 |
ヴェリウス | ですが、今、虹の橋を制御しているのは帝国の装置ではなくバロールです。まだ贄の紋章たちの命が使われたわけではありません。 |
しいな | けど、そのアイフリードだか鏡の精霊だかの力ってのに防御壁は破られそうなんだろ ? |
ヴェリウス | 正確には『似た力』です。恐らくはアイフリードの残した奥義をバロールが使っているのでしょう。 |
ヴェリウス | 贄の紋章たちを守る壁は精霊の力。ですからアイフリードの魔鏡術に引きずられてしまう。 |
しいな | つ、つまりどうすればいいのサ ! ? |
ヴェリウス | 私の力で防御壁を補強しましょう。 |
ヴェリウス | ただし、防御壁を構築している者たちも疲弊しています。私の力で支えられるのはわずかな間かもしれない。 |
ヴェリウス | 今のうちに装置を破壊し【逆しまの魔導砲】を放ってください。 |
しいな | わかった。ありがとう、ヴェリウス。あたしの声に応えてくれて。 |
しいな | よかったよ……。少しはあたしでも役に立てたみたいでサ……。 |
? ? ? | しいなはいつだって頑張ってるよ。大丈夫、これからもヴェリウスの中でしいなのこと応援してるから……。 |
しいな | ――いまのは…… ! |
バロール | フ、遅かったな。もはや虹の橋は我が手に―― |
バロール | なんだ……これは…… ! |
? ? ? | 【ギエラ・ビフレスト】、か。すごいな。こうして人の心に侵入できるなんて。 |
バロール | 貴様……貴様は俺の末裔か ! ?何故だ ? 貴様はもう死んだはずだろう ! ?本来のイクス・ネーヴェ ! |
イクス(1st) | 離魂術だよ。ビフレスト皇国が受け継いだ力で俺の体だけが生かされ続けてきた。 |
バロール | 離魂術……ダーナの秘伝魔鏡技か。しかし何故我が血を明け継ぐ貴様が【ギエラ・ビフレスト】を……。 |
イクス(1st) | さっき知り合った友達が親切な人でね。俺とお前の心を繋いで送り込んでくれたんだよ。 |
バロール | そうか、貴様の死体を使っていた奴が……。 |
イクス(1st) | 諦めろ、バロール。ルグの槍を解除するんだ。 |
バロール | 揃いも揃って同じことを…… !ぐっ…… ! |
イクス(1st) | 無駄だよ。【ギエラ・ビフレスト】の拘束はお前の力を使う尖兵も敵わなかったって話だ。 |
バロール | 尖兵か……、我が力の一部を下した程度でつけ上がるなあああっ ! |
イクス(1st) | 拘束がゆるんだ ! ? |
バロール | 貴様はバロールの血族だ。【ギエラ・ビフレスト】を使いこなせると思うなよ ! |
イクス(1st) | くっ…… ! |
バロール | 我が血に連なる者よ。貴様は絶対俺には逆らえないと教えてやる。俺の糧となるがいい ! |
ロクロウの幻 | ……っ ! |
シグレ | つまんねぇな。期待はずれもいいとこだ。お前、本物よりもずっと弱かったぜ。 |
コーキス | あっ、バロールの光が消えた…… ! |
バロール | ふん、さすが同じ一族だ。よくなじむ。イクスよ、このまま俺の中に溶けていけ。 |
バロール | っ ! 今のは……。ぐおおおおおおおっ ! ! |
バロール | 俺の核が…… ! 力が……削がれる…… !そうか……俺の神殿に踏み込んできた奴らか ! |
イクス(1st) | はぁ……はぁ……喰われるとは思わなかった。けど……フフ、いいザマだな、バロール。今のお前、俺より弱ってるじゃないか。 |
バロール | ! ! |
バロール | ……ぐっ……。 |
スタン | バロールが……倒れた ! ? |
イクス | あれ……めまいが………。 |
セネル | おい、どうした ! |
レイア | イクス、大丈夫 ! ? |
イクス | ああ、平気だ。なんだろう……。 |
イクス1st | (やったな、イクス……) |
イクス | (イクスさん !どこに行ってたんですか、心配しましたよ) |
イクス1st | (うん、ナーザ将軍のところに飛ばされてそれからバロールを取り込んできた) |
イクス | (は…… ! ? あの……言っている意味がよくわからないんですけど ! ?) |
イクス1st | (ははっ、俺の記憶を覗いてくれ。それでわかる。家賃分の仕事はできたと思うよ ?) |
イクス1st | (ただ、バロールを掌握するのに時間がかかりそうだ。ちょっと……休む……………………) |
アスベル | イクス、おい、イクス ? |
イクス | ごめん、少しボーッとしてた。 |
アスベル | ……イクス、もしかして『中』に誰かいるんじゃないか ? |
イクス | そうか……、アスベルもラムダが一緒だもんな。後で説明するよ。今はバロール……じゃなくてデミトリアス陛下を……あれ ? |
スタン | バロールがいないぞ ! |
セネル | グラスティンが連れていったのか ! ?あいつ、生きていたとは…… ! |
イクス | くそっ、いつの間に ! |
ヴェリウス | (待ちなさい、イクス。すぐにルグの槍の解除に向かうのです。時間がありません) |
イクス | えっ、ヴェリウス ? |
イクス | マリクさん、ジェイ、ルーティ !起動装置に繋がった心核は ! ? |
マリク | ああ、つい今しがた取り外すことができた。後はこいつを停止させるだけだ。 |
イクス | 急ぎましょう。贄の紋章の人たちの防御壁が壊れそうです。ガロウズ、解除手順は ? |
ガロウズ | ばっちり確認できたぜ。まずは―― |
ジェイド | キール、イクスから連絡が入りました。今すぐ【逆しまの魔導砲】を ! |
キール | 了解 ! よし、それじゃいよいよだl我らキール研究室の英知を結集したこの、逆しまの―― |
ハロルド | ポチっとな。 |
キール | あ。 |
ファラ | ……今のが、逆しまの魔導砲 ? |
チャット | 見てください !贄の紋章のみなさんの炎が消えていきます ! |
メルディ | ほらな、キールたち。ちゃんとやってくれた !みんな助かったよ ! |
ファラ | うん……うん ! |
クロエ | よかった、これでシャーリィたちも戻ってこられるんだな。 |
ルカ | そうだね。それにみんなから出てた虹の橋も――……あれ ? |
グリューネ | まあ、お空がきれいねぇ。ゆらゆら虹色がたなびいて。 |
ルカ | 虹の橋が、消えていない……。みんなの体から出る炎は消えたのに……。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【18-1 アジト1】 |
| 浮遊島アジト 会議室 |
ルーングロム | 遅いぞ、エドワード。 |
モリスン | なんだ、グロム。もう来ていたのか。 |
ルーングロム | 私だけじゃない。もう全員揃っているよ。 |
モリスン | これは申し訳ない。少し寄り道が過ぎたようだ。 |
イクス | アセリア領内の視察でしたっけ。クレスたちはどうしてます ? |
モリスン | 今はアルヴァニスタ領都から離れた街で小競り合いを収めているよ。じきに浮遊島へ戻るはずだ。 |
マウリッツ | もしや、帝国兵たちかね ? |
モリスン | いえ、住民同士のいざこざです。このところ街の雰囲気もピリピリしています。 |
カーツ | 不安を募らせているのだろう。続けざまに異変が起きているからな。 |
マウリッツ | 帝国兵と反帝国組織との争いが激化しているうえにあの『空』だ。仕方あるまい。 |
パライバ | 虹の橋ですか……。事情を知らない方にとってはとても奇妙に映ることでしょう。 |
イレーヌ | あの虹、私たちがイクス君に救出されてからずっと空に漂い続けていますからね。 |
イクス | あれからもう、ひと月以上経つのか……。 |
ミリーナ | ええ。あの時は本当に大変だったわね……。 |
マオ | う……ううっ……。 |
ヴェイグ | マオ ! 目が覚めたのか ! ? |
ヴェイグ | 今のは ! ? |
ガラド | 安心しろ。マオのスピリアからリンクアウトしたんだ。ミリーナたちが出て来るぞ。 |
カーリャ | 浮遊島に戻れましたね……って、何ですかあの空 ! |
ミリーナ | 本当だわ……。とにかく、先にみんなの無事を確認しましょう。マオはどう ? |
イネス | 贄の紋章持ち以外、マオからリンクアウトしてるからこれで目は覚めるはずだけど……。 |
マオ | あれ……みんな…… ? |
アニー | マオ ! 良かった……。意識はしっかりしているわね。 |
ヴェイグ | ユージーンたちにも知らせてこよう。 |
シャーリィ | う……。 |
クロエ | シャーリィ ! 私がわかるか ! ? |
ノーマ | ねえ、こっち ! ワルちんも目が覚めそうだよ。 |
ウィル | マウリッツもだ。 |
ルカ | 医療班のみんな !贄の紋章の人たちの意識が戻ったよ ! |
ジュード | 軽い治癒術だけで動かせそうならどんどん医務室に運んで ! |
アトワイト | 重傷者は私がその場で診ますから申し出てください。 |
エリーゼ | あ、あのっ ! |
ティポ | セルゲイの顔が真っ青だよー ! 手伝ってー ! |
ワルター | う……、メルネスは……。 |
シェリア | 安心して。シャーリィも目が覚めてるわ。――誰か、ワルターを運んでもらえる ? |
モーゼス | よっしゃ、力仕事ならワイに任せい !ヒョォォォォッ ! |
グリューネ | ワルターちゃん手も足もぶーらぶらさせて楽しそうねぇ。 |
ウィル | モーゼス ! 患者を肩に担ぐんじゃない ! |
五人 | (……扱いが雑っ ! ) |
ルビア | フォレストさん、気分はどう ? |
ナタリア | 陛下、ご無理をなさらないで。 |
ガラド | 待て待て、いくら羽の兄さんとはいえそんなヘロヘロじゃ飛べねぇだろ。大人しく運ばれとけって。 |
ミリーナ | みんな、意識が戻ってきているわね。よかった……。 |
しいな | ミリーナ、お疲れさま。うちのリーガルも目が覚めたよ。 |
リッド | フォッグとレイスもだ。 |
ミリーナ | よかったわ。リッドさんも交信ありがとう。 |
リッド | それだけど、防御壁はどうなったんだ ?レイスとの交信は途中で途絶えちまって。 |
ミリーナ | 侵食はされていたけれどヴェリウスが力を貸してくれてどうにか耐えられたの。 |
しいな | そうかい、頑張ってくれたんだね。……あのさ、ヴェリウスはあたしのこと、何か……。 |
ミリーナ | しいな ? |
しいな | ……いや、なんでもないよ。ミリーナもシャーリィもマオも大変だったろ。ゆっくり休んどくれ。 |
シャーリィ | 大丈夫です。これくらい……あっ……。 |
シャーリィ | 力が……入らない……。 |
マオ | 実はボクも……。フォルスの大盤振る舞いだったもんネ……。 |
アニー | 急いで医務室へ運びます ! 誰か手を―― |
モーゼス | 次に運ぶのはどいつじゃ ! そいつか ! |
ノーマ | 来んなモーすけ ! 犠牲者はワルちんで十分だっ ! |
ジェイド | 逆しまの魔導砲は間に合ったようですね。 |
ミリーナ | ジェイドさん、リフィルさんこの空はどうなってるんですか。イクスたちから連絡は―― |
ジェイド | 失礼、ハロルドから連絡です。――ハロルド ? |
ハロルド | 逆しまの魔導砲を発射完了よ。贄の紋章、無効化できたでしょ ? |
ジェイド | ええ、今、その確認中です。贄たちの意識が戻り始めていますよ。今回は多くの無理を聞いて頂いて本当に助かりました。 |
ハロルド | そう ? だったらお礼はあんたの解剖ってことでよ・ろ・し・く・ね☆ |
カーリャ | きゃー ! やっちゃってください、ハロルドさま- ! |
ジェイド | 私の中が見たいなんて、照れますねえ、ハロルド。まあ、贄の紋章が完全に消去できたらその時に改めてお礼をしますよ。 |
ミリーナ | そうだったわ……。今回はあくまで贄の紋章を『無効化』しただけで完全に『消去』できたわけじゃない……。 |
リフィル | ええ。これからもう一仕事必要になるわね。 |
イクス | ――そういえば、イレーヌさんたちの紋章もキール研究室が解析したんですよね。何か聞いていますか ? |
イレーヌ | 特には。贄の紋章は無効化できたけれど紋章自体が消えたわけではないし……。 |
全員 | …………。 |
パライバ | ……この紋章を背負い続ける限りわたくしたちに不安はつきまとったままです。 |
パライバ | ですが、不安に囚われ続けることが何より危険です。それはわたくしが身をもって知っています。 |
パライバ | 贄の紋章の除去については信じて待ちましょう。他にも考えるべきことは山のようにあるのですから。 |
カーツ | そうだな。今回の芙蓉離宮の一件にしても帝国側にとっては予想外だったはずだ。その証拠に、あれから帝国側に大きな動きはない。 |
カーツ | 今のうちに、各大陸の反乱勢力と手を結んで反帝国の志を持つ地域を広めてはどうだろう。アセリア領の領都アルヴァニスタのように。 |
ルーングロム | 確かに、あの都は民と反帝国兵が協力体制にある。反帝国組織を盛り立てて行く上で良い前例となるだろう。 |
カーツ | ああ。だが、戦いが長引くほど国民は疲弊し追いつめられる。今日起こったという住民の小競り合いも、その始まりなのかもしれん。 |
モリスン | なるほど。長期戦は組織の内部崩壊も引き起こしかねん。その前に決着をつけよう、というところか。 |
マウリッツ | もしや、そういった経験がおありかね ? |
カーツ | ……それなりに。 |
モリスン | 結びつきを強くするなら、各地方組織の詳細が必要だ。カロル調査室の情報を元に、更に掘り下げてみよう。 |
ルーングロム | そういえば、新大陸にも反帝国組織が存在したと聞いているが、そちらとは手を組めそうかな ? |
イクス | はい。新大陸で出会った鏡映点のアルフェンさんとシオンさんが仲介してくれました。 |
カーリャ | 新しい鏡映点が増えると心強いですよね !目が覚めない鏡映点の方々も早く元気になるといいんですけど……。 |
ミリーナ | そうね。ミルハウストさんや、ブルートさんウィンガルさんにプレザさんにヴィクトリアさんも……。 |
イレーヌ | 帝国派閥の鏡映点も眠ったままよね。今はともかく、あの人たちが目覚めたらどうするの ? |
ミリーナ | ロミーたちへの対処は……正直な所、悩んでいるんです。話が通じるといいんですけど。 |
カーリャ | 問題の種はつきませんねぇ……。 |
イクス | ああ。他にネヴァンとゲフィオンの件もあるしな。あっちもどうにか―― |
二人 | …………。 |
イクス | ……ごめん、話が逸れた。 |
イクス | 改めて、俺もアセリア領を中心に反帝国の領土を広げることには賛成です。 |
イクス | ここに集まっているのは、元の世界でも指揮を執る立場にあった方々だと聞いています。どうか皆さんの力を貸してください ! |
キャラクター | 2話【18-3 アジト3】 |
| 浮遊島アジト 医務室にて |
アガーテ | ……。 |
セルゲイ | アガーテさん、少し休んだらどうだ。ミルハウスト殿は自分が見ておこう。 |
アガーテ | お気遣いありがとうございます。でも、できる限りそばにいたいのです。 |
セルゲイ | なんと健気な……。 |
アガーテ | この程度、ミルハウストの献身に比べれば大したことではありません。 |
マルタ | 失礼します。あ、やっぱりいた。アガーテさんにセルゲイさん。 |
セルゲイ | 今日もブルート殿の見舞いか。 |
マルタ | うん、相変わらず眠ったままだけどね。いつになったらパパと話せるんだろう……。 |
セルゲイ | 気を落とすことはない。先ほどジュードが回診に来たが皆の容体は安定しているそうだ。 |
マルタ | そっか。教えてくれてありがとう。そういえばセルゲイさんってずっと医務室周辺の警護をしてるけど、体は平気 ? |
マルタ | 奥の部屋はロミーたちもいるし警戒するのもわかるけど……。 |
セルゲイ | 心遣い、痛み入る。贄の紋章の無効化以来十分な休息のおかげか、体調はすこぶる良い。むしろ動かないと体がなまってしまう。 |
セルゲイ | この警護も皆に世話をかけた分少しでも役に立ちたくて自ら申し出たことだ。どうか気にしないで欲しい。 |
マルタ | 真面目だなぁ。でも無理は禁物だよ。アガーテさんもね。 |
マルタ | ミリーナたちから聞いたけどミルハウストさんは心核だけになってもアガーテさんを助けて欲しいって訴えてきたんでしょ ? |
マルタ | なのに、付きっきりで看病して体を壊しちゃったらミルハウストさん、悲しむんじゃないかな。 |
アガーテ | ……以前、同じことを言われました。 |
マルタ | 以前って ? |
アガーテ | イクスさんが、わたくしたちを助けに来てくれた時です。 |
イクス | ――はい。たった今、起動装置の停止を確認しました。逆しまの魔導砲の発射をお願いします。 |
ジェイド | 承知しました。一度切ります。 |
アスベル | イクス、起動装置が停止すれば上の階の魔鏡陣も解除できるんだよな。 |
イクス | ああ、そのはずだ。――ですよね、フィルさん。 |
ガロウズ | ビクエ様は席を外している。ついさっきだが、贄の紋章たちに異常が出たとかで呼び出されたんだ。 |
イクス | 異常…… ! ? わかった。――みんな、急いで上に戻ろう ! |
セネル | 見ろよ ! 贄の紋章のみんな、炎が消えてるぞ。 |
スタン | 逆しまの魔導砲は大成功ってことか。やったぜ !これで近づくことができれば―― |
二人 | ……………っ。 |
アスベル | 今、かすかに、カーツさんが…… ! |
スタン | なあ、ルーティ !イレーヌさん、動いたぞ。今の見たよな ! ? |
ルーティ | 見たってば !けど、起きたところでリビングドールのままなのよ ?心核が戻ってないんだから。 |
マリク | ああ、用心しろ。下手をすれば戦闘になりかねん。そうなったとしても、手は抜くなよ。 |
アスベル | ……わかっています。 |
イクス | それじゃ、魔鏡陣を解除するぞ。 |
イクス | よし、床の紋様が消えた。もう大丈夫だ ! |
マリク | カーツ ! ヴィクトリア ! |
スタン | イレーヌさん ! |
ルーティ | レイア、先に自分の仲間のところに行って。他は、あたしが確認しておくから。 |
レイア | ありがとう、ルーティ。――ウィンガル、プレザ ! |
セネル | 俺たちはこっちだ。鏡映点リストのとおりならこっちはルーングロムでこの女の人はアガーテだよな ? |
ジェイ | ええ、間違いありません。その隣の金髪の男性は、ミルハウストさんです。だいぶ怪我が目立ちますね。 |
イクス | この人はブルートさん、それとパライバさんもいるな。後は……。 |
ガロウズ | ケリュケイオンでも帝国側にいた奴らを保護してるぜ。マティウス、チトセ、オスカー、ロミーだ。 |
スタン | イレーヌさん、しっかり ! |
イレーヌ | …………スタン…………君………… ? |
ルーティ | 今、スタン『君』って言った ! ? |
スタン | 俺のことわかるんですか ! ?イレーヌさんなんですね ! ? |
イレーヌ | わかるわ……。忘れるわけ……ない……。 |
アスベル | だとしたら…… ! |
マリク | カーツ ! しっかりしろ ! 目を覚ませ、カーツ ! |
カーツ | っ…………マリク、か。 |
マリク | カーツ……、お前、生きてるんだな。 |
カーツ | 馬鹿を言え……。勝手に殺すな。 |
マリク | すまん……。本当にすまなかった……カーツ……。オレは……。 |
ジェイ | どういうことですか、イクスさん。あの人たちの心核、まだ戻していませんよね ? |
イクス | ああ。――ヴェリウス、聞こえるか。心の世界で何があったんだ、ヴェリウス。 |
イクス | …………応答なし、か。ざっと見たところ、意識があるのはカーツさんとイレーヌさんだけだな。 |
イクス | ……仕方ない。さっき手に入れた心核を確認してこの場に肉体がある人は元に戻そう。 |
セネル | ここで ? |
ジェイ | あれですか、本人の肉体に近づけて心核の反応や光り具合で誰のものか判断するっていう。 |
イクス | よく調べてるなぁ。さすが不可視のジェイだ。 |
イクス | でも、それだとコハクの時みたいにシングのソーマに反応する例もあるからな。 |
イクス | 今回はミリーナに教わったやり方でやってみるよ。ゲフィオンの知識から修得してるからより確実なはずだ。 |
セネル | わかった。頼むぞ。 |
イクス | ――ふぅ。終わった。全員分当てはまったな。 |
ジェイ | これでわかりました。アジトで保管していた心核はカーツさんとイレーヌさんのものだったんですね。 |
セネル | 何があったか知らないがシャーリィたちの方で心核が戻せたんだろうな。だから先に目が覚めたんだ。 |
アスベル | イクス、ヴィクトリア教官は……今、心核を戻した人たちはいつ目覚めるんだ ? |
イクス | ごめん、そこまでは。その人によるとしか―― |
アガーテ | あ…………。ここは………… ? |
イクス | アガーテさん、気がついたんですね ! |
アガーテ | ……あなたは…… ? |
イクス | 俺は鏡士のイクスです。あなたたちを助けに来ました。 |
ルーティ | イクス、ミルハウストって人の治療、終わったわよ。まだ目は覚めないけどね。 |
アガーテ | ミルハウスト…… ? ミルハウスト ! ! |
ルーティ | ちょ、ちょっと何 ? 落ち着きなさいって。 |
ジェイド | イクス、こちらは無事に逆しまの魔導砲を発射できました。そちらの状況は ? |
イクス | 贄の紋章の鏡映点、十名を保護しました。手に入れた心核も、すでに戻してあります。 |
ジェイド | となると、ケリュケイオンと合わせて全員保護したことになりますね。予想以上の成果ですが、連れ出せそうですか ? |
イクス | これだけの人数ですし、意識のない人がほとんどです。奪還成功時のプランどおりに転送ゲートを使います。 |
ジェイド | ……やはり、そうなりますか。イクス、転送ゲートを使用する前に外で何が起きているか、状況を伝えます。 |
ジェイド | 逆しまの魔導砲の発射前、贄の紋章たちから虹のようなオーラが立ち昇り、空へと照射されました。 |
ジェイド | これはルグの槍が生み出したものと考えています。そして現在、逆しまの魔導砲が発射された後もその虹は空に漂ったままです。 |
イクス | (虹……バロールが言っていた虹の橋か ! でも……) |
イクス | 消えないって、どういうことだろう。装置は停止させたのに。 |
ガロウズ | すまん、割り込むぞ。虹はケリュケイオンでも確認している。 |
ガロウズ | イクス、脱出する前に起動装置からデータを抜き出そう。何かわかるかもしれない。 |
ジェイド | そうですね。出来る範囲でお願いします。 |
ジェイド | 話を戻しますが、転送ゲートでの脱出の際この虹がどう影響するかは不明です。 |
ジェイド | ただでさえ、個人で展開する転送ゲートは術者への負担が大きいうえに、それだけの人数です。失敗すれば二度目は難しいでしょう。 |
ジェイド | その場合はわかっていますね ?行使する際には、万難を排して挑んでください。 |
イクス | ……わかりました。 |
ジェイド | こちらでも救出班を用意しています。ミリーナもつい先ほど戻りましたので、いざとなれば浮遊島を降下させて救出にいきますよ。 |
イクス | それ……ぶつけてどうにかするとか言いませんよね ? |
ジェイド | お望みであれば、物理的にそうしても構いませんが。 |
ガロウズ | イクス、余計なこと言うな。この御仁、本気でやりそうだぞ。 |
ジェイド | まあ、冗談はともかくとして。どうか無事の帰還を。 |
イクス | はい、必ず戻ります。 |
キャラクター | 3話【18-5 芙蓉離宮2】 |
イクス | ガロウズ、他に抜き出すデータは ? |
ガロウズ | いや、いい。これ以上は危険だから脱出だ。それと、できれば転送ゲートは地上に出てから使ったほうがいい。 |
イクス | どうして ? |
ガロウズ | 起動装置のある周辺じゃ、なんのエネルギーが絡むかわからねぇ。ルグの槍の他に、台座にはマクスウェルの残滓も供給されてただろ ? |
イクス | そうは言っても、中庭へ戻るには相当距離があるんだ。敵も多いし、今のみんなを連れてはいけないよ。 |
ジェイ | イクスさん、地上にいけるかもしれませんよ。 |
セネル | ジェイ、どこにいたんだ。ふっと消えちまって。 |
ジェイ | グラスティンが逃走した経路を探っていたんです。そうしたら、奥の突き当りで隠し通路を見つけました。 |
ジェイ | 軽く偵察しましたが上り坂になっていて、空気の流れも違います。外へ繋がっているかもしれません。 |
イクス | わかった。ありがとう、ジェイ。 |
イクス | レイア、みんなの容体は ? |
レイア | ルーングロムさんと、パライバさんの目が覚めたよ。 |
イクス | 意識が戻った人たちは歩けそうかな。 |
レイア | 待ってて、聞いてみる。 |
レイア | ――……みんな、なんとか歩けるって。もしかして移動するの ? |
イクス | ああ。みんなに伝えてくれ。歩ける人には歩いてもらって、まずこの地下を出る。目覚めない五人は、俺たちで背負って運ぼう。 |
レイア | わかった。準備しておくね。 |
ジェイ | いいんですか ? 一か八かの賭けですけど。 |
イクス | ジェイが俺に報告した時点で勝算はあると思ってるよ。 |
セネル | へえ、信用されてるな、ジェイ。 |
ジェイ | べ、別に……。今日のイクスさん、何か変ですよ。この地下への階段を作った時も、妙に明るかったし。 |
イクス | えっ、そうだったか ? |
イクス | (イクスさん、何を言ったんだ……) |
セネル | ほら、いいからみんなの所へ行こうぜ。準備が出来しだい脱出だ。 |
アガーテ | はぁ……はぁ……。 |
アスベル | 大丈夫か ! |
イクス | アスベルたちは先に行って、出口を確認してくれ。ジェイ、先導頼むぞ ! |
レイア | アガーテさん、もう少し治癒術をかけてみるね。 |
イクス | 元の身体に戻ったばかりなのに無理をさせてすみません。 |
アガーテ | ……きっと、こんなことになったのも……わたくしが心と体を弄んだ報い……。 |
レイア | えっ、なに ? |
アガーテ | わたくしは置いていって……。足手まといになります。でも彼は……、ミルハウストだけは救って……。 |
イクス | 俺が背負ってる人は、アガーテさんにとって大事な人なんですね。 |
イクス | だったら、絶対に一緒に脱出しましょう。自分を助けるためにアガーテさんが犠牲になったらミルハウストさんは悲しむんじゃないですか ? |
アガーテ | わからない……。悲しんでくれるのかしら……。 |
レイア | お願い、諦めないで。わたしも頑張って回復させるから ! |
アガーテ | あなたたち……。 |
ジェイ | イクスさん、外へ出られましたよ !ここからほんの少し先です ! |
アガーテ | まぶしい……。 |
レイア | 出られた !けど、あの空なに…… ?オーロラみたいな、変なのが浮かんでる。 |
イクス | あれが虹の橋か…… ! |
アガーテ | ……あの異変の最中にも拘わらず、イクスさんたちはミルハウストが悲しむから諦めるなとずっと励ましてくれました。 |
マルタ | すごいよね、イクス。誰一人残さずに、全員連れ帰ってくれたんだもん。おかげでパパを取り戻せた。 |
マルタ | 後は、目が覚めてくれればなぁ……。 |
ルキウス | 失礼します。アガーテさん、いますよね。 |
アガーテ | ええ。何か ? |
ルキウス | これ、クレアさんから差し入れです。きっと食べる暇も惜しんで付き添っているだろうからって。 |
アガーテ | ピーチパイですね。ありがとうございます。 |
マルタ | ルキウスは、ロミーのところ ?今朝も来てたよね。 |
ルキウス | ロミーは問題を抱えているからなるべく目を離したくないんだ。後からアルヴィンさんやルカたちも来るよ。 |
セルゲイ | そうか。では、ひと悶着始まる前に見舞いが来ると声をかけて来よう。 |
マルタ | チトセとイリア、いっつも言い合いになるもんね。イリアも喧嘩するくせに、どういうわけか必ずルカと一緒にお見舞いに来るし。 |
アガーテ | フフッ。結局、いつもの顔ぶれが揃ってしまいましたね。 |
マルタ | けど、ちょっとほっとする。一人で目が覚めるのを待つのはやっぱり辛いもん……。 |
ルキウス | そうだね……。 |
アガーテ | このパイ、みんなで分けましょう。美味しそうな匂いにつられて目が覚める方がいるかもしれないわ。 |
マルタ | 賛成 ! クレアのピーチパイ、大好き ! |
キャラクター | 4話【18-6 ケリュケイオン1】 |
フィリップ | うん、顔色がいいね。体も心核の傷も、順調に回復しているようだ。食欲はどうだい ? |
オスカー | おかげさまで、全て残さず頂いています。ここの料理人は良い腕をしていますね。特に今日出て来たシチュー、あれは絶品でした。 |
テレサ | そうですね。私も気に入りました。さっぱりして、けれど食べ応えもあって。 |
フィリップ | ああ、あれはね、ベル―― |
マーク | そうかそうか ! そりゃ良かった !どんどん食って、体力つけないとな !フィル、お前もだぞ~ ? |
フィリップ | ちょ、やめてよマーク !髪がグシャグシャ……ああ、もう……。 |
マーク | 後で直してやるから黙ってろ。それにしても、よくここまで回復したもんだ。 |
フィリップ | そうだね。ケリュケイオンに収容した中ではきみが一番危なかったから……。 |
オスカー | あなた方や、鏡士のミリーナたちには感謝しています。 |
テレサ | 本当に……あの時はどうなることかと……。 |
マーク | ――そうか、わかった。連絡ありがとな、キール。 |
マーク | フィル、お前の見立てどおりだったな。 |
フィリップ | うん。――みんな、聞いて欲しい。先ほど逆しまの魔導砲が発射されたそうだ。 |
シング | それじゃ、みんなから炎や虹色の光が消えたのも贄の紋章が無効化されたおかげなんだね ! |
マーク | ああ。浮遊島じゃ目覚める奴も出てきてるって―― |
モリスン | ううっ……。 |
二人 | モリスンさん ! |
モリスン | 君たち……。そうか、私は生きているのか……。 |
クレス | 当たり前です !モリスンさんを死なせたりしません。あんな思いは……。 |
ミント | クレスさん……。 |
ミント | モリスンさん、少しでも楽になるように術で体力を回復させますね。 |
ドロワット | 羨ましいわん……。 |
ゴーシュ | っ ! 見ろ、ドロワット ! |
イエガー | …………ぅう。 |
二人 | イエガー様っ ! ? |
イエガー | ゴーシュ……。ドロワット……。グッ…………モーニン。 |
二人 | イエガー様ぁ~~~~っ ! ! |
レイヴン | やれやれ、どこまでも女泣かせな奴だねぇ。ったくアレクセイの旦那もさっさと起きてくれりゃ……。 |
アレクセイ | ……起きていたら、なんだ ? |
レイヴン | っ !……目が覚めてんなら、それらしい反応してよね。で、気分はどうよ。 |
アレクセイ | 体は思うようではないが……、気分は悪くない。お前の情けない顔を見られて胸がすいた。 |
レイヴン | 性格悪っ! |
テレサ | (どうしよう……オスカーが目を覚まさなかったら……) |
テレサ | オスカー、お願い……。私を置いていかないで……。あなたがいくのなら、一緒に……。 |
オスカー | あね……うえ……。 |
テレサ | ! |
オスカー | 大丈夫……、あなたを一人にはしません……。 |
テレサ | オスカー ! そうよ、一人にしないで……あなたがいない世界では、私は生きていられない……。 |
シング | よかったね、テレサさん。 |
テレサ | シング、でしたね。ありがとうございます。救けてくれたミリーナにもお礼を言わなくては。 |
ベルベット | ちょっといいかしら。あっちの部屋でチトセって子が目を覚ましたんだけど。 |
フィリップ | わかった。行ってくるよ。 |
シング | 見てよ、ベルベット、ライフィセット !オスカーの目が覚めたよ ! |
ライフィセット | 本当だ ! 良かったね、ベルベット。 |
ベルベット | ……そうね。 |
オスカー | ベルベット…… ! ? |
テレサ | ……彼女たちが、あなたの救出にあたったのです。 |
オスカー | 業魔が ? |
テレサ | …………。 |
ベルベット | ……戻るわよ、フィー。 |
ライフィセット | あっ、…………うん。 |
オスカー | 姉上、これはどういう……。うっ ! |
テレサ | オスカー ! ? |
ミント | 失礼します。これは……かなり衰弱していますね。 |
シング | オスカーの心核には傷がついていたんだ。今は、ミリーナが何とかしてくれてるはずだけど。 |
ミント | そうなのですね。だとすると、オスカーさんの治療は他の人よりも時間がかかるかもしれません。 |
テレサ | わかっています。それでも、命さえあれば―― |
テレサ | ……あの頃のオスカーを思うと今は見違えるようです。 |
オスカー | ミントさんの見立てどおり医務室には最後まで居残ってしまいましたけどね。 |
マーク | どん尻ってわけでもないぜ。マティウスとロミーは目が覚めないまんまで浮遊島に移されてるしな。 |
マーク | イエガーやチトセも浮遊島で療養するっていうしアレクセイは回復そこそこで船を降りちまうし。 |
フィリップ | 大丈夫かな、彼。自分の軍を放っておけないのはわかるけど……。 |
マーク | 救世軍で派遣した奴らが様子を見てるし何か異常があるなら連絡くらい来るだろ。 |
マーク | まあ、そういうわけだから、ここでちゃんと回復に努めているのは、元々オスカーくらいのもんだ。 |
テレサ | そのことですけれど、オスカーも随分と動けるようになってきましたし私たちも船を降りようと思います。 |
フィリップ | また急だね。こちらは居てもらっても構わないんだよ ? |
テレサ | ありがたいお言葉ですが……。長居するには思うところもありますので。 |
マーク | そういうことか……。確かに因縁を乗り越えるにしてもこの距離は近すぎるもんな。お互いのためにもいいだろう。 |
フィリップ | それで、今後はどうする。帝国へ戻るつもりかい ? |
テレサ | いいえ。それだけは決して。オスカーが危険にさらされるだけですから。 |
オスカー | アルトリウス様の一件は聞きました。僕に仕掛けていた魔導器のこともです。ですが、あの方のお考えは僕ごときが及ぶべくもない。 |
オスカー | アルトリウス様の崇高な目的の礎となるならばこの命など喜んで差し出す。何より姉……大事な人や人々の為にもなるのだと思っていました。 |
オスカー | けれど、その計画が更なる苦しみを招いてしまった。それに気づいた今、僕たち二人が帝国へ戻ることはありません。 |
マーク | だったら、俺たちと手を組まないか。 |
テレサ | 救世軍とですか ? |
マーク | ああ。あんたらの地上での暮らしを保障する代わりに各地で起き始めている、対帝国への包囲網としてその力を貸して欲しいんだ。 |
テレサ | ……その話については、考えさせてください。 |
マーク | そうか。無理強いはしないさ。まあ、最近まで帝国内部に通じてた奴がいると何かとありがたいってのが本音だけどな。 |
テレサ | 帝国に通じている者……。そういえば、チトセは浮遊島でどうしていますか ? |
フィリップ | チトセなら、目覚めないマティウスに付き添ったまま傍を離れないらしいよ。 |
テレサ | そうですか……。チトセはマティウスを助けるためにアルトリウス様と共に行動していました。ある意味では、私と同じ境遇です。 |
テレサ | 非情な行いにも割り切っているように見えますが根は優しい子だと感じました。ですから……。 |
フィリップ | 大丈夫。あちらで酷い扱いを受けるようなことはないよ。 |
マーク | チトセの出方次第だがな。さてと、こういう話になったならあれを渡しておいた方がいいだろう。フィル。 |
フィリップ | そうだね。テレサ、オスカー。これはミリーナからだよ。魔鏡通信機器と、当面の資金だ。 |
テレサ | え…… ? |
フィリップ | ミリーナから預かっていたんだ。きみたちはきっと救世軍に協力はしないだろうからその時はこれを渡して欲しいって。 |
マーク | あんたらが地上で落ち着けそうな場所もすでに見繕ってあるそうだ。これからは二人で静かに暮らせばいい。 |
テレサ | ミリーナ……。私たちは敵だというのに、どうしてそこまで……。 |
マーク | さあね。あんたにどこか同じものを感じたんじゃないか ?大事なもののために、なりふり構わないところとか。 |
フィリップ | 理由はともかく、こうなったのはきみたちの幸せを心から願う人たちがいたからだよ。ミリーナや、僕たちや、それに他にもね。 |
テレサ | 他…… ? まさか……。 |
オスカー | ……姉上、僕たちは様々な認識を変えなければいけないようです。 |
テレサ | ええ……。私たちに心を砕いてくださった方々に感謝申し上げます。 |
マーク | 伝えとくよ。さて、地上に降りたらここの美味いメシともおさらばだ。今のうちに、たらふく食っておけよな。 |
テレサ | そこは問題ありません。私、料理の腕には少々覚えがあるのです。ここの味にも負けませんよ。 |
オスカー | ええ。姉上のキッシュは絶品です。ずっと食べたいと思っていました。下に降りたら作ってもらえますか ? |
テレサ | ええ、毎日でも。 |
キャラクター | 5話【18-7 セールンド城1】 |
カーリャ・N | ゲフィオン様……。 |
ファントム | まだここに通っているんですか。こりない人ですね。 |
ファントム | あなたはもう鏡精ではないのだから自由に生きればよいものを。いまだにゲフィオンに縛られて。 |
カーリャ・N | それは、あなたも同じでは ? ファントム。 |
ファントム | どういう意味でしょう。 |
カーリャ・N | 私が新大陸の調査を終えてここへ戻ったときあなたがここにいたのには驚きました。 |
カーリャ・N | ケリュケイオンで休んでいるように言われていた筈なのに勝手に抜け出して……。 |
カーリャ・N | まだ体も本調子ではないというのにゲフィオン様の『壁』をどうにかしようとここに残り続けている……。 |
ファントム | それは……私がヘルダルフの穢れを虚無に流し込んだことで、あなたが作ったゲフィオンの心の防御壁が壊れてしまったからです。 |
ファントム | 自分がしでかした『事』の始末をつけている。それだけのことですよ。 |
カーリャ・N | でも―― |
ファントム | 勘違いしないでください。ゲフィオンを守っているのはあなたと同じ理由じゃない。 |
ファントム | 確かに、ミリーナに飲み込まれて消滅しかけているゲフィオンの意識は私の対処によって、まだ多少は保っている。 |
ファントム | けれど、ゲフィオンの意識が消えることはもう防ぎようがない。 |
カーリャ・N | …………。 |
ファントム | 私にとって重要なのは、バロールの干渉によって内側から崩壊しつつある『人体万華鏡であるゲフィオン』の対処です。 |
ファントム | せめて人体万華鏡の崩壊だけでも遅らせなければ、死の砂嵐が再び吹き出してしまう。 |
ファントム | 鏡精でもないあなたが食い止められることではない。いるだけ無駄ですから、さっさと帰りなさい。 |
カーリャ・N | 嫌です。 |
ファントム | では、はっきり言います。邪魔です。 |
カーリャ・N | 切り離されたとはいえ、私はゲフィオン様の元鏡精。ゲフィオン様の心に干渉しやすい力を持っている筈です。 |
カーリャ・N | お願いです、ファントム。ゲフィオン様の崩壊を食い止めるためにも協力させてください。 |
ファントム | ……ここはバロールが付け狙う危険な場所です。しかもゲフィオンが死ねば真っ先に消滅します。 |
ファントム | 鏡精じゃないあなたは、死んだら終わりなんですよ。わかっていますか ? |
カーリャ・N | ええ。危険は元より承知です。 |
カーリャ・N | でも、その危険をわかっていながらあなただってここにいるじゃないですか。 |
カーリャ・N | 恐らく、この世界でまだゲフィオン様のことを本気で生かしたいと思っているのは、私とあなただけ。 |
カーリャ・N | 違いますか ?ファントム……いいえ、『リーパ』。 |
ファントム | …………。 |
ファントム | フィルは……前を向くようになった。 |
カーリャ・N | ええ。最近ではマークとの在り方にも腹を決めたようです。 |
ファントム | もうフィルには……ゲフィオンがいなくてもいいんでしょうね。 |
カーリャ・N | ええ。今のフィル様には必要ないのだと思います。 |
ファントム | 私は生きている人間の過去からの具現化第一号でした。だからあらゆる意味で、他の具現化された存在とは違っていた。 |
ファントム | フィルの記憶や感情を共有し、そこに自我が入り込み自分の考えや想いが、どこまでフィルのものなのかと区別を付けるのが大変だった。 |
カーリャ・N | あなたの在り方は、鏡精に近いものでしたよね。フィル様はあなたの人格を保つために何度も狂化止めを施したと聞いています。 |
ファントム | マークからですか ? 相変わらずお喋りな鏡精だ。 |
ファントム | 私の人格などどうでもよかった。フィルが報われれば私も報われる――そう思っていましたから。 |
ファントム | ですが、今はヨーランドとダーナによって私の人格が補強されている。記憶の共有も、今はいったん止められている。 |
ファントム | こうなってくると……私はまるで抜け殻だ。もう私がフィルを救わなくてもフィルは……。 |
カーリャ・N | 悲しい……のですか ? |
ファントム | どうでしょう。ホッとしている自分もいます。フィルの希望を叶えたかったのは本当です。ただ―― |
ファントム | それが私の望みだったのかフィルの望みだと感じていたのか今はもうわかりません。 |
ファントム | 今の私は『終わり』が見たいと思っています。過去が過去として消え去るのを、見届けたい。その象徴がゲフィオンなのではと思うのです。 |
ファントム | 狡くて卑怯で、フィルのことなど欠片ほども心に留め置かなかった最初のミリーナが消える。その時私の願いも消える……。 |
ファントム | 或いは……私も……。 |
ヨウ・ビクエ | ファントム、やっぱりここにいたのね。あら、ネヴァンも一緒 ? |
カーリャ・N | ヨウ・ビクエ様 ! |
ファントム | どうしました、また何か問題でも ? |
ヨウ・ビクエ | そんな顔しないで。私がいつもトラブルしか伝えないみたいじゃない。 |
ヨウ・ビクエ | 今回は朗報よ。ダーナ様の心核の修復が終わったわ。 |
キャラクター | 6話【18-9 ケリュケイオン2】 |
ガロウズ | ユリウス、観測は一旦休止だ。ちょいとヤボ用でケリュケイオンを下へ降ろすことになった。 |
ユリウス | わかった。すまないな。ブリッジを占拠してしまって。 |
ガロウズ | こっちこそ悪い。調査に集中するためにここの鏡映点たちが出払うのを待って乗り込んだんだろ ? なのに結局中断させちまって。 |
ユリウス | いや、それは……気にしないでくれ。 |
ガロウズ | しかし、ケリュケイオンまで出張とはご苦労さんだな。虹の橋の観測なんて、浮遊島からでも十分なのに。 |
ガロウズ | ま、あのジェイドの依頼だから何か考えがあるんだろうが。 |
ユリウス | …………。 |
ユリウス | 俺がケリュケイオンへ ? |
ジェイド | ええ。あちらからも報告は入りますがあなたに実際に赴いてもらってあらゆる方面から調べて欲しいんですよ。 |
ジェイド | これまでの観測で、あの虹の橋の幻影の向こうには何らかの空間があると予測されています。 |
ジェイド | それがニーベルングの分史世界ではないかとの推論もされていますが今一歩、『決め手』に欠けて真実に近づけない。 |
ジェイド | 私もほとほと困り果ててましてね。ユリウス。 |
ユリウス | …………。 |
ジェイド | そこで、分史世界に詳しいあなたに、機動力のあるケリュケイオンでの観測をと思ったのですがお忙しいようならルドガーにお願いしても―― |
ユリウス | わかった。行って来よう。 |
ユリウス | (奴の言うこともわかる。俺がクルスニク一族の全てを話さない限り推論で動くことはできない) |
ユリウス | (だが、ルドガーやエルには……) |
ガロウズ | どうした ?ジェイドのこと、聞いちゃまずかったか。 |
ユリウス | いや、そんなことはないさ。あいつの魂胆もわかってるしな。 |
ユリウス | (俺をここでヴィクトルと会わせて、揺さぶりをかけようとしているんだろうが、生憎とお見通しだ。ヴィクトルがいない事は確認している) |
ユリウス | (あいつらを巻き込まない形で解決できる手掛かりをつかむまで、今はまだ……) |
ガロウズ | お、いたいた。マークだ。下へ降りてあいつを回収したら調査を再開しても―― |
ユリウス | すまない。通信が入った。――どうした、ルドガー。 |
ルドガー | 兄さん ! 今、虹の橋の観測は ! ? |
ユリウス | それなら一時中断している。何かあったか ? |
ルドガー | 虹の橋が実体化し始めてるんだ ! |
ユリウス | なんだって ! ?『橋』が実体化……まさか……。 |
ルドガー | 何か知ってるのか ? |
ユリウス | …………。 |
マーク | ただいま。テレサとオスカー、送ってきたぜ。 |
ヴィクトル | ! |
ユリウス | ヴィクトル…… ! ? |
マーク | ああ、途中で合流したんだ。ユリウスは虹の橋の調査だっけ ?……っておい、空気悪いぞ。どうした。 |
ガロウズ | それが……。 |
ハロルド | ユリウス、時間切れよ。 |
ルドガー | ハロルド ! ? |
ハロルド | クルスニク一族のことあんたから話してくれるの、ずっと待ってたわ。 |
ハロルド | けどもう、そうも言ってられない状況なの。わかるでしょ。 |
ユリウス | …………。 |
ハロルド | ……そう。だったら、私の推論で語るわ。あんたが黙ってる理由って―― |
ユリウス | 待ってくれ !……すまない……今だけは……。 |
ルドガー | 兄さん ! |
ヴィクトル | また黙るつもりか、兄さん ! |
ユリウス | ! ! |
ルドガー | 兄さん……って…… ? |
ヴィクトル | そうやって……また『俺』には何も知らないでいろっていうのか ! |
ヴィクトル | あんたはずっとそうだ。正史でも分史でも、この世界でも、何も変わらない ! |
ヴィクトル | 以前、俺に聞いたよな。この世界で「どう生きるつもりだ」と。だったら兄さんはどうなんだ。 |
ユリウス | ……ルドガー、俺は……。 |
ルドガー | まさかヴィクトルさんは……。 |
ヴィクトル | そうだ。私はルドガー・ウィル・クルスニク。分史世界の君だよ。数年ほど先の、だがね。 |
ルドガー | ! |
ヴィクトル | 退路は断たれたぞ。どうする、兄さん。 |
ルドガー | 兄さん……。 |
ユリウス | ……話すよ。元の世界で、俺たちに課せられていた呪いの全てを。 |
ユリウス | ――これで、俺が知っていることは全部だ。 |
マーク | ……ちょっと整理していいか ? 正史世界から分かれた【可能性の世界】が分史世界。で、それが存在すると正史世界のエネルギーが拡散して世界は死に絶える。 |
マーク | あんたたちの骸殻能力で分史世界に入って、その世界が生まれた原因、【時歪の因子】(タイムファクター)ってのを壊せば、世界を消すことができるわけだな。 |
ユリウス | ああ。そして増えすぎた分史世界を消滅させるためになんでも願いが叶う『カナンの地』にたどり着くのが元の世界での目的だった。 |
マーク | けど、その骸殻の力を使い続けると【時歪の因子】(タイムファクター)になってまた新たな分史世界が作り出されると。 |
ユリウス | そうだ。だがこの世界ではエルが特異鏡映点だったせいで、骸殻による負荷は虚無へと吸い込まれていたらしい。 |
ユリウス | だから問題はないと、セシリィが……いや、シドニーが教えてくれた。 |
ガロウズ | そうか、あいつが……。 |
ルドガー | 【時歪の因子】化なんてそんな話……俺は全然……。 |
ヴィクトル | だが、ルドガー君も気づいていることはあった筈だ。私のことや、エルのことで。 |
ルドガー | ……ヴィクトルさんが分史世界の人間だろうってことは何となく。自分自身だとは思わなかったけど。 |
ルドガー | それで、あなたの娘であるエルももしかしたらとは……思ってた。 |
ガロウズ | そうか、ヴィクトルがそうならエルも分史世界の存在だよな。じゃあエルはルドガーの未来の娘でもあって―― |
ヴィクトル | エルは私の娘だ ! |
ガロウズ | わ、悪い ! つい考えなしに……。 |
マーク | この世界にいる以上、ヴィクトルはヴィクトルルドガーはルドガーだ。そこはもう揺らがねえから安心しろ。 |
マーク | っと、あんたら鏡映点にしてみれば勝手に具現化されて安心しろもねえか。俺も考えなしだったな。 |
ヴィクトル | ……いや、むしろもっと早くにこうなっていれば……。 |
ユリウス | …… ? |
ヴィクトル | すまない……話を逸らしてしまった。 |
マーク | そういや、エルがクルスニクの鍵なら分史世界から正史世界へ物質を持ち出せるんだろ。グラスティンたちは、それに気づいてるんだよな ? |
ハロルド | ……なるほど。何を企んでるか見えてきたわ。 |
ハロルド | あと気になるのは、ユリウスの世界でいう『魂の橋』ってやつね。カナンの地に渡るためのものらしいけど、どことなく虹の橋と似てて嫌な感じ。 |
ヴィクトル | ああ。あれを架けるには、強い力を持つクルスニク一族の命が必要だ。それと似た物が今実体化しようとしている。 |
ハロルド | ……クルスニクの鍵、魂の橋ジュニアの贄の紋章の数値……。 |
ルドガー | ハロルド、何かわかったことでも――……ん ? |
ユリウス | どうした。 |
ルドガー | 物音がしたけど、気のせいかな。 |
エル | (どうしよう……どうしよう……。エルもパパもニセ物で……、ルドガーとパパは……) |
二人 | きゃっ ! |
チトセ | びっくりした……。前を見ないと危ないわよ ? |
エル | ご、ごめんなさい……。エル、わかんなくて……。あたまの中、グチャグチャで……。 |
チトセ | 大丈夫、落ち着いて。怪我はない ? |
エル | うん……。 |
チトセ | 何かあったのかしら ? |
エル | エルは……………………。 |
チトセ | ……ねえ、エルはきれいな物は好き ? |
エル | きれいな……。貝とか、石とか、好きだけど。 |
チトセ | 花はどう ? 私、これからマティウスさまの……大切な人のために花を探しに行くところだったの。 |
エル | 花……。 |
チトセ | ええ。美しい花がわずかでもマティウスさまの癒しになればと思って。 |
チトセ | エルも見たらきっと元気になるわ。一緒に探しに行きましょう ? |
キャラクター | 7話【18-11 仮想鏡界】 |
ナーザ | バルドか。首尾はどうだ。 |
バルド | 本日をもって、フリーセルの拠点にいたビフレスト皇国の住民たちの移送が完了しました。 |
バルド | 中には私の姿を見て驚かれる方もおられましたが……。 |
ナーザ | だろうな。生前のバルドを知る者なら魔鏡戦争で戦死したことも知っているだろう。 |
ナーザ | いや、知らなかったとしても微塵も歳を取っていないのではな……。 |
バルド | ええ……そうですね。 |
ナーザ | フリーセルはどうした ? |
バルド | あれから動きがありません。 |
ナーザ | 見失ってはいないのだな。 |
バルド | アリエッタとテネブラエの監視網の中にいますので。 |
ナーザ | そうか……。 |
バルド | フリーセルも連れて来られればよかったのですが……。 |
バロールの尖兵 | くっ……、ああああああっ ! ! |
フリーセル | ! ? |
バルド | …………くっ。……フリーセル、か…… ? |
フリーセル | バルド様か ! ?バロールの尖兵とやらは消えたのですか ! ? |
バルド | ……ああ……。ウォーデン様が……助けて下さったようだ。きみは……無事のようだね。 |
フリーセル | よかった……。私を追ってきたせいでバルド様がバロールに乗っ取られたのではウォーデン殿下に顔向けができません。 |
バルド | いや……。バロールが私を狙うのはきみを追ったせいではないよ。この体はバロールが作ったものだからね。 |
バルド | 彼の者にとっては、私も作品の一つなんだろう。 |
フリーセル | バルド様。お望みの港に船を着けます。どちらに向かえばよろしいですか ? |
バルド | それは、私をきみの拠点に連れて行くことはできない……ということかな ? |
フリーセル | ………………。 |
バルド | バロールに体を奪われていたおかげできみがやろうとしていることにも気付くことができた。 |
バルド | ビフレスト皇国の生き残りの民を帝国から匿っているんだね。 |
フリーセル | ……はい。帝国は異世界から具現化された人間ではなくこのティル・ナ・ノーグで生まれた人々を集めています。共にニーベルングへと移り住むために。 |
フリーセル | まだ虹の橋は架かっていないというのに……。 |
バルド | どうしてそのことを私たちに話してくれなかったんだい ? |
フリーセル | ウォーデン殿下の下には帝国の眼が入り込んでおります。 |
フリーセル | ですから、そこにビフレストの民を連れて行くわけにはいきませんでした。 |
バルド | それは間者がいるということかな ? |
フリーセル | 間者……とは違うかも知れません。世界を壊すための鍵となる存在がそちらにいるようです。 |
バルド | それは誰だ ? 情報の出所は ? |
フリーセル | 私を具現化させた男――サレの残した情報です。鍵というのは三人目のフィリップのことを指しています。 |
バルド | ジュニアか……。 |
バルド | ――ならばこういうのはどうかな。ビフレストの生き残りに関しては、ジュニア――三人目のフィリップの耳には入らないように処理しよう。 |
バルド | だからフリーセル。きみの持つ情報を私に共有して欲しい。ウォーデン様のためにも。 |
フリーセル | ……わかりました。ですが、やはり合流することだけはできません。私は滅びたビフレスト皇国の亡霊のようなものです。 |
フリーセル | 一人目の私ができなかったことを成すためだけに生み出された存在だ。 |
バルド | それはフリーセルの考え方一つで変えられる筈だよ。私の周りには具現化によって生まれた存在が数多くいる。 |
バルド | 彼らは一人目とは違う道を進もうとしているんだ。フリーセルだってそうできるんじゃないかな ? |
ナーザ | ――それでも合流を拒み一人目の意志を継ぐと言うのなら奴の好きにさせるほかはあるまい。 |
バルド | ……はい。 |
ナーザ | しかも虹の橋は架かってしまったからな。俺の責任だが……。 |
バルド | 誰も知らなかったことです。バロールが想像の魔鏡術の奥義を使いこなせるなどとは―― |
ナーザ | 何であれ、俺は私情を優先した。その結果バロールは虹の橋の架け方を知ってしまった。 |
ナーザ | たった一度、尖兵となったお前の心に虹の橋を架けただけで、奥義の全てを見切るなどと……俺がうかつであった。 |
バルド | ……そうだね。きみは僕を切り捨てるべきだった。それが正解だったんだと思う。 |
バルド | けれど虹の橋はまだ実体化していない。まだ橋が架かったとは言えないよ。 |
ナーザ | イクス・ネーヴェに救われた。俺が殺した男にな。 |
? ? ? | ――あ、ええと、お帰り。 |
ナーザ | ! ? 誰だ ! |
イクス1st | あ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ? |
ナーザ | なっ、まさかお前は…… ! |
イクス1st | 俺はイクス・ネーヴェ。この体の本当の持ち主だ。初めましてだな。ナーザ将軍――ウォーデン・ロート・ニーベルング。 |
ナーザ | 体を取り戻しに来たか。 |
イクス1st | いや、もう戻れないのは知っているだろ。俺を殺して、体だけを残しておいたんだから。 |
ナーザ | ならば何故ここにいる。 |
イクス1st | やっぱり元々いた体だからなのかな。何故か引き寄せられちゃって。 |
ナーザ | 【ギエラ・ビフレスト】のせいでアニマが引き寄せられたか……。 |
イクス1st | けど、丁度よかったよ。きみと話がしたいと思ってたんだよね。 |
ナーザ | 何を話すというのだ。 |
イクス1st | 俺を殺した理由だよ、皇太子殿。 |
ナーザ | ――まあいい。 |
ナーザ | ビフレストの生き残りを匿っている村だが守りの方は万全なのか ? |
バルド | ヴァンに任せています。手段は問わない、と。浮遊島で組織されたセキレイの羽に協力を仰いでいるようです。 |
バルド | あそこのロゼという可愛らしいお嬢さんがアリエッタを気に掛けてくれていましたからその縁もあるのかも知れません。 |
ナーザ | そうか。くれぐれもジュニアとマークには気取られるな。それと、不用意に異性に近寄る真似も慎め。 |
バルド | フフ、承知しております。それでは失礼致します。 |
バルド | (……いけないな、私は。また話を切り出せなかった) |
バルド | 彼らは一人目とは違う道を進もうとしているんだ。フリーセルだってそうできるんじゃないかな ? |
フリーセル | ですがバルド様、あなたも死ぬ前のご自身に囚われておいでなのではありませんか ? |
バルド | ――それはどういう意味だい ? |
フリーセル | 記憶を引き継いだ具現化と甦りにどれほどの差があるのでしょう。 |
フリーセル | 私が二人目なら、一度亡くなったあなたも二人目のようなものではありませんか ? |
バルド | (フリーセルの言う通りだ。私もまた、過去に縛られている) |
バルド | (切り替えるべきなのか……。ビフレストの民として犯した過ちを受け止めるためにも) |
アリエッタ | バルド。お友達から連絡……来た、です。 |
バルド | アリエッタ。まさか、フリーセルが動き出したのですか? |
アリエッタ | そう。あの人……また墓守の街に向かった、です ! |
キャラクター | 8話【18-12 墓守の街1】 |
グラスティン | どうだ、バロールの影響は。 |
デミトリアス | ありがとう。だいぶ回復したようだ。ほとんど影響はないと思う。 |
グラスティン | 体は、だろう ?俺が言ってるのは『中身』の方だ。意識を喰われて廃人同然だったんだぞ。 |
デミトリアス | この通り、きみとも会話できている。問題はないよ。 |
グラスティン | どうだかなあ ? 俺としては、お前のフリをしたバロールって可能性もまだ捨てちゃいないぜえ。 |
デミトリアス | 困ったね。どうすれば信用してもらえるのか。 |
グラスティン | そうだなぁ。俺がフィリップに何をしようが口を出さないって言うなら信じてやってもいい。 |
デミトリアス | それは、友であるフィリップときみを天秤にかけろということかい ? |
グラスティン | ここまでやっておいて、まだフィリップの友人面か。なるほど、間違いなくお前はデミトリアスだよ。ヒヒヒッ ! |
デミトリアス | だったらもういいだろう。分史世界の創造計画は後れを取ってるんだ。急いで進めよう。 |
ハスタ | デミトリアスとグラスティンが話し始めたその時エルとチトセを捕らえたハスタがあらわれる。 |
ハスタ | ト書きに呼ばれてジャジャジャジャーン !えんやっとっと、お届けものでごじゃるよ。 |
二人 | …………。 |
デミトリアス | 彼女たちは ! |
グラスティン | クルスニクの鍵 ! それに裏切者まで捕まえたか。ご苦労だったな。 |
ハスタ | さて、ここでクイズです。ヒントは『窓辺のマーガレット』だぴょん。正解は……イッチバーン ! |
グラスティン | 相変わらず何のことかわからんがこいつらの捕獲は丁度よかった。 |
ハスタ | けどさぁ……足りねえんだよ……生鮮食品が。あんたもわかるだろ ?グラ……グラなんとか……グラたん ? |
ハスタ | ワンパターンな仕事と食事は健康に悪いんだポン。体にはもっとビタミンや殺人が必要でありんす。わっちの欲望は、すくすく成長期でありんすゆえ~。 |
グラスティン | そうだなぁ。だったらお前に丁度いい任務があるんだが……。いいか、デミトリアス。 |
デミトリアス | ああ。遅れを取り戻すためにもすぐに分史世界の構築を始めよう。 |
ハスタ | っ ! ?三十六計ホニャラララ ! |
ハスタ | クソッ ! 体が動かねぇ…… ! |
グラスティン | ヒヒヒ、逃げようとするとは勘がいいな。本能で悟ったか ? |
グラスティン | まあ、聞けよ。お望みどおり新たな任務をくれてやる。お前はこれから【時歪の因子】化して世界を創るんだ。 |
ハスタ | ……タイムなんだって ? |
グラスティン | そうか、わからないか。俺もお前の話は大概わからなかったなぁ。話が通じてりゃ、肉のすばらしさを語り合えたのに。 |
グラスティン | じゃあ、頑張って俺たちのために死んでくれ。ヒヒヒッ。 |
ハスタ | 誰かのために死ぬ…… ? ありえねぇ……。 |
ハスタ | でも、ボクは死にましぇん ! なぜならボクが、皆殺しにするからぁ !ハハハ ! ハハハハハ ! |
エル | うっ……、あ……あれ ? |
ハスタ | くそぉおおおおっ ! 動け、動けよ~~~ !お前ら殺すっ ! ガチ殺すっ ! コロス ! コロ……。 |
グラスティン | ヒヒッ。 |
チトセ | あ……。 |
エル | チトセ ! おきた ! |
チトセ | エル……大丈夫 ?あれってハスタなの…… ? |
エル | うん……けどあの人目が赤くなって、体が黒くなってる……。エルの世界で見た、怖いのと同じ……。 |
ハスタ | マタ……次……生マレ……。 |
デミトリアス | ……グラスティン、どうだ ? |
グラスティン | ああ、上手くいった。ハスタを中心に分史世界が誕生している。これで舞台は整った。 |
エル | ブンシセカイ…… ! |
デミトリアス | すまない、ハスタ……。 |
グラスティン | 何を言ってるんだ。お前は相変わらずだな。いずれ特異点亜種を【時歪の因子】にする必要があった。 |
グラスティン | 01たちが捕まらなかったときにはこいつを使うのが、最初からの取り決めだろう ? |
デミトリアス | ……そうだな。 |
グラスティン | ああ、それでいい。さて、本番はここからだ。 |
デミトリアス | きみがエルだね。 |
チトセ | エル、下がって ! |
デミトリアス | エル、チトセも、怯えなくていいんだよ。私はエルに協力をお願いしたいだけなんだ。 |
エル | エルに…… ? |
デミトリアス | ああ。きみのクルスニクの力を使って私たちを分史世界へ連れて行って欲しい。 |
エル | そんなの、エルには―― |
フリーセル | 待て ! |
デミトリアス | きみは…… ! ? |
グラスティン | フリーセル…… ! |
フリーセル | ……お前たち、どういうつもりだ。 |
グラスティン | ヒヒヒヒッ、いいぞいいぞ !そっちから出向いてくれるとはなぁ ! |
フリーセル | やはり、あの時きちんと始末しておけばよかった。 |
グラスティン | ヒヒヒヒ、やっぱりあの事故はお前の仕組んだものだったか。 |
グラスティン | あの時の恨み、今晴らしてやるぜえ ! |
キャラクター | 9話【18-14 アジト4】 |
ルドガー | ――これが、俺たちの世界でいう分史世界の仕組みだ。 |
全員 | …………。 |
イクス | 何て言っていいか……。 |
イリア | け、けどアレでしょ ! ? 【時歪の因子】(タイムファクター)っての ? |
イリア | ルドガーもユリウスも、そうなる前にこっちに具現化されてるし、問題ないわよね ! ね ? |
ルドガー | ああ、俺も兄さんも何ともないよ。心配してくれてありがとう。 |
コンウェイ | …………。 |
スパーダ | へえ、お前、ちゃんと話についてきてたんだな。 |
イリア | ふふん、当たり前よ。あんたこそ、わかってんでしょうね ? |
コーダ | コーダもわかってるぞ。腹が減ってるということがな、しかし。 |
ルドガー | じゃあ、後で何か作ろうか。 |
コーダ | ルドガーはいい奴なんだな ! しかし ! |
ミリーナ | ルドガーさん、大丈夫ですか ?その……ヴィクトルさんのこととか……。 |
ルドガー | 正直、混乱はしてる。けど大丈夫だ。動揺してる暇もないしな。 |
ルカ | 僕たちが呼ばれたのは、その分史世界の成り立ちに関係しているからですか ? |
ルドガー | ああ。これで、兄さんやジェイドたちが前世のあるルカたちのことをずっと気にしていた理由がわかったよ。 |
アンジュ | ティル・ナ・ノーグでの私たちはこの世界の前世ともいえるニーベルングの人間として定義されている。 |
アンジュ | その私たちを核に――【時歪の因子】化させて分史世界を生み出すつもりなんでしょうね。 |
キュキュ | でも、キュキュ不思議。あいつら、どやてルカたち【時歪の因子】にするか ? |
エルマーナ | そうやで。骸殻はルドガー兄ちゃんたちしか使われへんのやろ ? |
リカルド | 骸殻の代償、【時歪の因子】化の原因をどこから持ってくるかってことか。 |
イクス | それなんですけど、グラスティンは骸殻の力の元であるクロノスの力を操ることができます。 |
イクス | となると、グラスティンにも骸殻に似た負荷や制限があるはずなんです。そのマイナス面を利用してるとしたら……。 |
コンウェイ | 自分への負荷を溜めておいて一気に対象にぶつけ【時歪の因子】化させることも可能かもね。 |
イリア | それなら、あたしらが捕まらなきゃいいってだけの話よ。 |
スパーダ | そうそう ! そんなヘマは……。……いや、帝国にいるじゃねえか、前世持ちが ! |
ルカ | あ、ハスタ ! |
イリア | そうだったわ ! キモすぎて記憶から消してた ! |
アンジュ | そうね。ハスタを使えばいつでも分史世界のニーベルングを具現化できる。 |
アンジュ | そして次に彼らが必要とするのはきっとクルスニクの鍵よ。 |
ルカ | 本来持ち込めないはずの分史世界の物質を正史世界に持ってこられる存在、だよね ? |
ルドガー | ああ。そうだ。 |
アンジュ | きっと、分史世界のニーベルングから正史世界のティル・ナ・ノーグに持ち込みたいものがあるのね。 |
リカルド | そうなると、むしろ危ないのは俺たちよりもお前たちクルスニク一族だろう。 |
リカルド | 特にクルスニクの鍵だと断定されているエルは厳重に保護しておくべきだ。 |
コンウェイ | ん ? 外に……ちょっと待ってくれ。 |
コンウェイ | ――やあ、キミか。どうしたんだい ? |
ルル | ナァ~……。 |
ルドガー | ルル ? どうした、お腹がすいたのか ? |
コーダ | コーダと同じなんだな ! しかし ! |
ルル | ナァ ! ナァ~……。 |
コンウェイ | ……ルドガーくん、エルは今どこ ? |
ルドガー | どこって、ルルがいるなら一緒にその辺にいるはずだけど。エル。……エル ? |
ルドガー | ――エル ! エル、そこにいるんだろ ! ? |
ルル | ナァ~、ナァ~。 |
コンウェイ | あそこ ? うん、確かに何か落ちてるね。これは……貝殻かな ? |
エルマーナ | あーっ ! それ、変なキレイな貝殻やん ! |
イリア | 何それ。変なのかキレイなのかはっきりしないわね。 |
エルマーナ | 言うたのはエルやで ?あ、ウチやのうて、ルドガー兄ちゃんとこのエルな。 |
リカルド | ややこしいな……。それで、その貝が何なんだ。 |
エルマーナ | これな、前にエルと一緒に海辺で拾ってん。宝物にするいうて大事にしとったのに……。 |
リカルド | 落としたことに気づかないほど動揺していたのかもしれん。 |
イクス | まさか……ここでこっそりユリウスさんたちの話を聞いてたんじゃ……。 |
ルドガー | ごめん、ちょっと探してくる ! |
ルカ | 待ってください、ルドガーさん。僕たちも行きます。 |
ミリーナ | そうね。浮遊島のみんなにも手分けして聞いて回りましょう。 |
ジュード | ――それじゃ、目撃情報だとチトセさんも一緒なんだね。わかった。帰ってきたらすぐに連絡するよ。他の病室のみんなにも伝えてくるね。 |
ルドガー | ああ、頼む ! |
マティウス | ………チトセ。 |
ルカ | ここだね。チトセさんがエルを連れて向かったって場所。 |
カーリャ | きれいな花畑ですね。チトセさまが来たがるのもわかります。 |
ミリーナ | ええ。でも、誰もいないわね。 |
ルドガー | エル ! いたら返事をしてくれ ! 俺だ ! |
ルドガー | くそっ、ここで見つからなきゃどこを探せば……。 |
イリア | もう、なんなのよ、あの性悪女 !こんな所までエルを連れ出してやっぱり何か魂胆があるとしか思えないわ。 |
エルマーナ | 魂胆いうても、チトセは浮遊島を出る時に出会った人らには行き先言うてたんやろ ?ホンマに花を探しに来ただけとちゃう ? |
アンジュ | ……私も、そんな気がするのよね。マティウスのために花を探すと言ってたって話も本当なんじゃないかしら。 |
イリア | 浮遊島にだって花はたくさん咲いてるじゃない。なのに、わざわざ地上にまで降りてさ。怪しいわよ ! |
ルカ | い、言われてみればそうだけどでも、マティウスが目覚めるまでは敵対しないって言ってたし。 |
スパーダ | 相変わらず甘いな、ルカは。あいつのイカれっぷりが直ったわけじゃねえんだぞ ? |
イリア | そうそう ! あんた、たまにイイこと言うじゃない。 |
アンジュ | でも、あれだけ執着してるルカくんやマティウスを使ってまで嘘はつかないと思うんだけどな。 |
コンウェイ | ……一途だからね。不遇の花姫は。 |
コーダ | フグがなんだ ?コーダもフグは好きだぞ。刺身も鍋も最高なんだな、しかし ! |
カーリャ | そんなこと言ってる場合じゃないですよ、コーダさま !……じゅる。 |
リカルド | おい、こっちに来てみろ ! |
ルドガー | っ ! これは…… ! |
リカルド | ああ。明らかに戦った跡だ。 |
キュキュ | 足跡みる。男、女、子供。三人いた。 |
イクス | それと、これが落ちてたんだ。 |
ルドガー | 折り紙 ? 何か書いてあるけど……読みにくいな。 |
アンジュ | 走り書きね。ええと……、ハスタ、墓守の街……、エル、チトセ。 |
ルドガー | エルとチトセはハスタに襲われたのか ! ? |
イクス | 墓守の街へ行こう。エルたちはそこに連れて行かれたかもしれない ! |
マティウス | …………。 |
キャラクター | 10話【18-15 墓守の街3】 |
イクス | こっちだ ! この森を抜ければ墓守の―― |
ルドガー | 今のは ! ? |
リカルド | 誰か戦っているようだな。もし『ヤツ』だとしても闇雲に飛び出したりするなよ。 |
ルドガー | ……わかってる。 |
グラスティン | 目障りな肉がぁっ !さっさとくたばれ ! ! |
フリーセル | 俺は俺に課した役目を全うする ! それだけだ ! |
グラスティン | デミトリアス ! こいつは俺が殺す !お前はさっさとそのガキに力を使わせろ !ジュニアとの連結はあとからやる ! |
デミトリアス | ――わかった。やむを得まい。 |
チトセ | エル、逃げて―― |
デミトリアス | 邪魔だよ、お嬢さん ! |
チトセ | きゃああっ ! |
エル | チトセ ! やだーーーーっ ! ! |
デミトリアス | うっ…… ! |
イリア | ちっ、外した ! |
ルドガー | エルーーーーッ ! |
デミトリアス | ぐああっ ! |
二人 | ! ? |
エル | え、ルドガー…… ? |
ルドガー | エル、怪我はないか ! ? |
アンジュ | もう、二人とも !リカルドさんが様子を見ろって言ってたのに。 |
スパーダ | 突っ込んじまったもんは仕方ねえって !行くぞ、ルカ ! |
ルカ | うん !アンジュ、チトセさんの怪我を頼むね。チトセさんは動けるまで後ろに下がってて。 |
チトセ | ルカくん…… ! それに……。 |
イリア | あーあ、外しちゃった。ま、エルやあんたに当たんなかっただけよしとしましょ。 |
チトセ | なんで……、あなたになんか助けられたくなかった。 |
イリア | こっちだってそうよ !けど、あんたがエルをかばったから……。 |
チトセ | …………。 |
グラスティン | くそっ、あいつら、デミトリアスから引き離さ―― |
キュキュ | はーーーっ ! |
フリーセル | なっ ! ? |
グラスティン | どこまでも邪魔しやがって…… ! |
イクス | やっぱりグラスティンもデミトリアス陛下も無事だったんだな。それにあの人は―― |
ミリーナ | ええ、フリーセルだわ。 |
フリーセル | イクス・ネーヴェと魔女ミリーナか…… ! |
イクス | ま、待って下さい !俺たちとあなたが戦うことに意味があるんですか ! ? |
バルド | 彼らは一人目とは違う道を進もうとしているんだ。フリーセルだってそうできるんじゃないかな ? |
フリーセル | ………………ッ ! |
エルマーナ | なあ、これどっちと戦えばええの ! ?ハスタはおらんし、わけわからん ! |
コンウェイ | ボクたちの目的は最初から一つだよ。エルを連れ帰ることだけだ。 |
リカルド | その通り。――ルドガー ! エルが無事なら速やかに撤退だ ! |
グラスティン | あーあ、黒髪が二人もいるっていうのに。こんな時でなけりゃあなあ…… ! |
フリーセル | 哀れだな。執着もそこまでになると呪いだ。 |
グラスティン | 黙れよ、ビフレストの犬が。 |
デミトリアス | ――グラスティン。立て直そう。残念だが、エルに配慮する時間も余力もない。少し強引だが、ジュニアは遠隔操作すればいい。 |
グラスティン | ヒヒヒ、決心したか。なら、まかせろぉっ ! |
グラスティン | 恨むなよお、クルスニクの鍵 !ヒャハハハ ! ! |
ルドガー | 危ない、エルッ ! |
エル | ルドガーーーーッ ! ! |
イクス | …………あれ ? ここは ? |
ルカ | 今の、なに ?景色が歪むような、変な感じだった。 |
リカルド | ! !おい、デミトリアスは……、奴らはどこへ行った。 |
エルマーナ | ホンマや。黒髪~言うてたヤバいのやムキムキも消えてしもた。 |
イリア | キュキュやコンウェイ、コーダもいない。どうなってんの ? |
アンジュ | ねえ、みんなよく見て。ここって……。 |
スパーダ | おい……天上界じゃねえか ! どうなってんだよ ! |
イクス | ルドガー、まさか……。 |
ルドガー | ……ああ。さっき攻撃を受けて無意識に分史世界へ入ってしまったんだと思う。 |
エル | うん。エルもさっきのヘンな感じ知ってるからわかるよ。 |
アンジュ | ……だとしたら、帝国が創った分史世界ね。そして分史世界が天上界に似ているということは中心人物は一人しかいない。 |
ルカ | じゃあ、この世界はハスタの分史世界なんだね。 |
スパーダ | ってことは、ハスタの野郎は……。 |
リカルド | おそらく、そういうことだろう。自業自得だ。 |
エルマーナ | しかし、懐かしいなぁ !分史世界ゆうても本物とそっくりやん。あっちに行くとな、お気に入りの昼寝場所があるんよ。 |
チトセ | 天上界……。アスラさま……。 |
サクヤ | 私のこの想いは深く沈めねば……。 |
サクヤ | 深く……。海よりも……奈落よりも……。この世のどこよりも……深く……。決して浮かばぬように……。 |
エル | チトセ……。大丈夫 ? |
チトセ | あ……。ええ、大丈夫よ。怪我はもう心配ないわ。 |
エル | ケガも心配だけど、なんか……泣きそうだったから。 |
チトセ | ありがとう……。エル。 |
エル | エルも、助けてくれてありがとう ! |
エル | ねえ、ルカー ! チトセのケガ、平気だって ! |
チトセ | ルカくん……。 |
ルカ | チトセさん、よかった……動けるみたいだね。けど、無理はしちゃだめだよ。 |
チトセ | ありがとう。ルカくんはいつだって優しいね。 |
ルカ | そんな……。 |
イリア | はー ! ? なにイチャイチャしてんのよ !よくこの状況で、こっぱずかしい空気つくれるわね !ホント、どうかしてるわ ! |
チトセ | 優しい人に、優しいって言うのはそんなに恥ずかしいことかしら。あなたの方がおかしいんじゃない ? |
イリア | うっ…… !だ、だいたいね、あんたがエルを連れ出したりするからこんな面倒なことに―― |
ミリーナ | 今の音は ! ? |
イクス | 行こう、あっちだ ! |
? ? ? | ぐあああああっ ! |
スパーダ | 悲鳴だ ! |
リカルド | 気を付けろ。血の臭いが濃いぞ。 |
ルカ | 見て、あの坂の上 !誰か戦って――え…… ? |
ルドガー | エル ! 俺の後ろに ! 目をつぶってろ ! |
イリア | あれ、坂じゃない……。この山みたいに積み上げられてるのって、人……。 |
リカルド | ああ。全部死体だ。なりたてのな。 |
? ? ? | ぐはっ…… !やめ……そいつ……だけ……は…………。 |
? ? ? | さすが ! しぶとい !そんなアナタに、今ならもう一突きプレゼント !ご連絡は今すぐ ! テロリロリン ! |
分史スパーダ | にげ………ろ…………。ル…………カ…………。……………………。 |
スパーダ | オレ…… ? |
イクス | なあ……あっちのスパーダの足元 ! |
イリア | ウソ、あたしがいる……死んでる……。 |
エルマーナ | ウチもおる……。アンジュ姉ちゃんも……リカルドのおっちゃんも ! |
アンジュ | ルカくんは ! ? |
スパーダ | ルカ……、そうだよさっきのオレは「ルカ」って……。 |
スパーダ | 助けねえと ! あの野郎はこれからルカを―― ! |
? ? ? | うああああああああっ ! |
分史ハスタ | ん~~~~素敵なホタルの断末魔 !閉店告知は数あれど、今日でホントに店じまい !ありやっとござました~~~~ ! |
分史ハスタ | ハーッハハハハッ ! ヒーッヒヒヒヒ ! |
分史ルカ | ごふっ…………。……………………。 |
ルカ | 僕が、殺された……。 |
イクス | あれが、【時歪の因子】化したハスタ…… ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【19-1 分史世界1】 |
分史ハスタ | ハーッハハハハッ ! ヒーッヒヒヒヒ ! |
分史ルカ | ごふっ…………。……………………。 |
ルカ | 僕が、殺された……。 |
イクス | あれが、【時歪の因子】化したハスタ…… ! |
エル | ルドガー……。エル、気持ち悪い……。 |
カーリャ | エ……エルさま、大丈夫ですか ?カーリャもお側についてますからね。 |
ルドガー | ……ミリーナ、カーリャ、聞いてくれ。分史世界を破壊するには、俺がハスタにとどめを刺さないといけない。戦っている間、エルを頼めるか。 |
ミリーナ | ――ええ、任せて。 |
スパーダ | あの野郎…… ! |
スパーダ | ルカーーーー ! |
分史ハスタ | おっと ! |
分史ハスタ | ……おや ? さっき「そいつだけは~」とか命乞いしてた……ええと、みっともなし太郎くん ?おかしいな、息の根止めたはずだよなぁ。 |
スパーダ | うるせえ !よくも…… ! よくもオレの前でルカを ! |
分史ハスタ | ああ、このかば焼きくんね。串打ち三年、裂き八年。どうだい、この見事な刺しっぷり。 |
分史ハスタ | でも、素材がこんなゴミじゃハスタくんの腕が号泣ですよ。というわけで、この雑魚ウナギは廃棄だポイ ! |
スパーダ | ! ! てめぇッ ! |
カーリャ | ひっ ! こっちに投げて―― |
二人 | きゃあああっ ! |
三人 | 「ルカ ! 」「ルカくん ! 」「ルカ兄ちゃん ! 」 |
スパーダ | おい、ルカ ! しっかりしろ ! |
イリア | どいて、スパーダ ! 手当てするから ! |
チトセ | 傷口を押さえるわ。止血してる間に術を ! |
イリア | わかってる ! |
ルカ | 待って、みんな !……もういいよ。力は温存して。 |
イリア | 馬鹿言わないで !ルカが……もう一人のあんたが死んじゃう ! |
エルマーナ | せやで !別の世界のルカ兄ちゃんでも見捨てることなんてできへん ! |
アンジュ | そうじゃないわ。わかってるでしょう ?分史のルカくんは、もう……。 |
四人 | ……………………。 |
リカルド | ! !切り替えろ。奴が来るぞ。 |
分史ハスタ | あれれ~ ? 飛んだ死体を追っかけたらブッコロリンしたリカルド先生がいるよ~。おかしいなぁ~。どうやって生き返ったのかなぁ~ ? |
リカルド | 貴様……、輪をかけてイカレてるようだな。この死体の山、目に入った奴らを片っ端から殺したか。 |
分史ハスタ | おい、聞いてるのはオレだぜ ?質問に答えられない先生なんて、先生じゃないやい !クビですよ、クビ ! 首チョンパ ! |
分史ハスタ | ぎゃひん ! |
エルマーナ | ……ええ加減にしや、自分。 |
アンジュ | エル ! |
エルマーナ | 止めんといて !子どもが目の前で殺されて、腹煮えくり返っとんねん。ウチも、ウチの中のヴリトラもな ! |
アンジュ | 誰が止めるなんて言った ?エル、やるなら徹底的によ。 |
リカルド | さすが俺の元雇い主だ。こいつは一気に殺らんと逃げられるからな。 |
イリア | 言われなくても、最初から全力でやってやるわ ! |
ルカ | はーーーっ ! ! |
分史ハスタ | うわ、かば焼きくん、もう復活 ! ? さっきのあんまり痛くなかった ? |
ルカ | 痛かったよ。みんなが悲しむ姿も、みんなが死んでいた姿も。 |
ルカ | あんな光景、二度と繰り返すもんか ! |
スパーダ | ルカ…… ! |
分史ハスタ | 次から次へと蘇る、これぞわんこ敵 !最高のおもてなしに、ハスタ、感謝。 |
分史ハスタ | ではでは~楽しい殺戮タイムセールの再開だー ! |
コンウェイ | ……ここは ? |
キュキュ | 景色、変わた ! ……みんな、いない。 |
コーダ | うう……突然周りがぐんにゃりしたぞ。コンニャクみたいで増々ハラが減ったんだな、しかし。 |
コンウェイ | この現象……もしかするとここは分史世界かもしれないな。 |
キュキュ | ブンシ……。ルカたち、はぐれたか ? |
コンウェイ | ルドガーくんたちもいないのを見るにはぐれたのはボクたちのほうだろうね。 |
コンウェイ | ボクたちとルドガーくんとの位置関係によるものかそれとも他に違いが……。 |
コンウェイ | とにかく、まずはみんなを捜さないと。ここを中心に、少しづつ捜索範囲を広げていこう。 |
キュキュ | ……わかた。 |
コンウェイ | なんだい ? なにか言いたそうだけど。 |
キュキュ | イヌテブ。アゴヌル シエリエ マゲアモエ カディアナリ イニク。 |
コンウェイ | イイ エツカノケチ ウタラナイ。 |
二人 | …………。 |
コーダ | なに言ってるのかわからんぞ、しかし。メシの相談ならもっと楽しくしろ。しかし。 |
キュキュ | ……はい、ごめん。 |
コンウェイ | ボクも、少し大人気なかったかな。 |
キュキュ | 誰 ! そこいるのわかる。出ろ ! |
コンウェイ | それじゃ脅迫だよ。――そこの人、出てきてもらえるかな。ボクたちも話がしたいんだ。 |
マティウス | ……。 |
コンウェイ | あなたは……。 |
キャラクター | 2話【19-2 分史世界2】 |
マティウス | ……。 |
キュキュ | マティウス ! |
コーダ | ギャー ! こいつはマズイんだな、しかし ! |
キュキュ | 止まれ ! そこから動く。キュキュ、攻撃する ! |
コンウェイ | 待つんだ。彼女に確認したいことがある。――あなたは、ボクたちを追ってきたの ? |
マティウス | ……そうだ。 |
コンウェイ | ということは、分史世界のマティウスじゃないのか。ここまでついてきたからには何か目的があるはずだけど、聞かせてもらえないかな。 |
マティウス | ……。チトセはどこにいる。 |
コンウェイ | さあね。ここにいるのかもわからないよ。 |
マティウス | ならばお前たちに用はない。 |
キュキュ | 待て ! お前、ルカたちに悪いことする気か ?それならキュキュ、ぜたい許さない ! |
マティウス | 奴らが私の邪魔をするのならあるいはそうなるかもしれんな。 |
キュキュ | そうか。ならお前、行かすことできない。 |
コンウェイ | やれやれ……本当に血の気が多いね、キミは。けれどキュキュの言うことにも一理ある。 |
コンウェイ | あなたが目的を話さない以上野放しにするのは危険すぎる。一緒にいてくれないかな。 |
マティウス | 断る。邪魔するのなら、お前たちから―― |
死鏡精 | 死ヲ……、カガミ……シ……。 |
コンウェイ | 死鏡精 ! ? |
マティウス | なんだこいつらは ! なぜ、天上界にこんなものが ! ? |
コンウェイ | 天上界 ? やっぱりそうか !この分史世界が天上界なら、なぜ死鏡精が……。 |
コーダ | わー ! コーダ、食うのはいいけど喰われるのは嫌なんだな、しかしー ! |
死鏡精 | ……ミツケタ。カガミシ……。イル…… ! |
死鏡精 | アッチ……。イル……。カガミシニ……死ヲ……。 |
二人 | ! ! |
キュキュ | コンウェイ、考える、後 !こいつら排除する ! |
コーダ | あっ、あいつ逃げるぞ、しかし ! |
キュキュ | コンウェイ、コーダ連れてマティウス追え !キュキュ、死鏡精倒しながらついてく ! |
コンウェイ | わかった、そうしよう。 |
キュキュ | アウォヌリ ケディエリ エミン コンウェイエンヌビ キイ ! |
コンウェイ | アソ ムコブ。 |
キュキュ | ……ホントか ? |
コンウェイ | ああ。さあ、行こう。 |
分史ハスタ | ぎゃひいいん ! |
スパーダ | オラオラオラオラァ !どうしたよ、さっきの勢いは ! |
分史ハスタ | 寄ってたかって攻撃だなんて恥ずかしくないのか、君たちは ! |
リカルド | 貴様が言うか、この外道が ! |
分史ハスタ | ぎゃあっ !おいおい……いつも冷静なリカルド先生らしくないでおじゃるよ ? |
リカルド | ああ、そうかもしれん。守ると誓ったガキどもの死体がしっかり目に焼き付いちまったんでな。 |
リカルド | 己の不甲斐なさに嫌気が差す ! |
分史ハスタ | なるほど八つ当た――ぐはっ…… ! |
イリア | 怯んだ ! 今よ、ルカ ! |
ルカ | 行くよ、スパーダ ! |
スパーダ | おう ! |
二人 | 爆嵐業刹衝 ! ! |
分史ハスタ | まだ……、足りな…………殺した…………。……………………。 |
エルマーナ | よっしゃ ! 倒したで ! |
ルカ | ルドガーさん ! |
ルドガー | ああ ! とどめを―― |
ルドガー | うわあっ ! ! |
エル | ルドガー ! ! |
チトセ | ダメ、危ないわ ! |
ミリーナ | 落ち着いて、エル。ほら、ルドガーさんは無事よ。 |
ルドガー | くっ……。邪魔をされた…… ?今のはいったい……。 |
ルカ | お前は ! |
チトセ | マティウス……さま ? |
マティウス | まだ、こやつを殺すわけにはいかぬ。 |
コーダ | そいつ、ルカたちを追ってきたんだな ! しかし ! |
コンウェイ | 正確にはチトセさんを追っていたらしいけどね。 |
ルカ | コンウェイ、コーダ !やっぱりこっちに来てたんだ。キュキュさんは ? |
コンウェイ | すぐに追いつくはずだよ。見たところ、あれが【時歪の因子】化したハスタのようだね。 |
ルドガー | ああ。あいつを倒さないと俺たちも帰れない。 |
イリア | 聞いたでしょ、マティウス ! そいつを渡しなさい ! |
マティウス | ……チトセ、ここにいたのか。 |
チトセ | マティウスさま !お目覚めになったのですね。この日をどれだけ待ち焦がれたか。 |
イリア | ちょっと、あんたたち、無視すんじゃないわよ ! |
イクス | マティウスさん ! 俺たちの話を聞いてください。 |
キュキュ | コンウェイ ! 死鏡精、倒しきれなかた !みんな ! 逃げる ! |
三人 | 死鏡精 ! ? |
死鏡精 | カガミシ、イタ ! |
キュキュ | バニシングストーム ! |
イクス | あ、ありがとう ! キュキュさん ! |
キュキュ | 死鏡精、イクスたち、狙てる。 |
ミリーナ | エル、一旦私から離れていて。チトセさん、エルをお願い ! |
チトセ | えっ ? ……わかったわ。だったらお願い、マティウスさまを――きゃあっ ! |
死鏡精 | カガミシ、ナカマ ! ジャマ ! ジャマ ! |
エルマーナ | あかん、こいつら何とかせんと ! |
マティウス | ハスタは確保した。行くぞ、チトセ。 |
チトセ | 行くって……マティウスさま ? |
スパーダ | ! !マティウス、てめぇ ! ハスタを置いてきやが―― |
スパーダ | くそっ、死鏡精が…… ! 邪魔すんな ! |
マティウス | チトセ、早くしろ ! ここから離れるぞ。 |
チトセ | でも、私はこの子を……。 |
マティウス | ……チトセ、まさか、お前まで私を裏切るのか ? |
チトセ | ! ! |
チトセ | いいえ ! 私はイナンナとは違う !決して、アスラさまを失望させるようなことはしません ! |
チトセ | そうよ、私だけは絶対に…… ! |
エル | チトセ…… ? |
チトセ | ……エル。周りの死鏡精だけは倒すからその間にみんなのところに行って。 |
エル | チトセ、待って ! |
チトセ | マティウスさま。今、お傍に参ります ! |
エル | 行っちゃダメだってば、チトセ ! |
チトセ | 来ないで、邪魔よ ! |
エル | ! ! |
ルドガー | エル、大丈夫か ! |
マティウス | よく来た。さあ、行くぞ、チトセ。 |
チトセ | はい……、マティウスさま。 |
エル | チトセーーーーッ ! |
イクス | チトセさん ! くそっ、ハスタも取り戻さないと―― |
リカルド | 死鏡精に集中しろ !今ここで奴らを倒さないとこの先ずっと付きまとわれるぞ。 |
イクス | ……はい ! |
キャラクター | 3話【19-4 仮想鏡界1】 |
ナーザ | ――それで、イクスたちが消えた後フリーセルはどうなった。 |
アリエッタ | デミトリアスたちに、捕まった……です。今、アリエッタのお友達が……後を追ってます。 |
ナーザ | わかった。ご苦労だったな、アリエッタ。引き続き動向を探ってくれ。 |
アリエッタ | わかった……、です ! |
ナーザ | ……ここまで急激に事が動くとはな。 |
ジュニア | はい……。心構えはしていましたけど……。 |
バルド | フリーセルとデミトリアスが交戦との一報を受けたので皆さんには情報共有のために集まって頂きましたがそれだけでは済まなくなりましたね。 |
リヒター | ああ。フリーセルだけじゃなく、イクスたちも本当に分史世界へ行ったのか確かめようもない。さて、どうするか。 |
アステル | う~ん、分史世界に関しては下手に手を出すより浮遊島に任せるのがいいんじゃない ?あっちはクルスニクの一族もいるし。 |
コーキス | …………。 |
メルクリア | コーキス、やはりイクスが心配か ? |
コーキス | そりゃ当たり前だろ。けど……マスターなら大丈夫だから。 |
メルクリア | なんと、自信満々じゃな。 |
コーキス | まあな。今も確かめてたんだけど俺の身体には何の変化もない。感覚も正常だ。だったら、マスターだって無事ってことだよ。 |
マークⅡ | へえ。なんだよ、鏡精っぽいこと言いやがって。 |
コーキス | 鏡精だっての !っていうか、マークより俺のが先輩だからな ? |
メルクリア | ……コーキス、おぬし何やら変わったな。 |
コーキス | えっ、マジで ! ? どこが ! ?まさかマスターに何かあったのか…… ! |
メルクリア | 違うわ ! 見た目は変わっておらぬから安心せい。まったく……、一瞬、頼もしく見えたがわらわの気のせいであったか。 |
バルド | いいえ、メルクリア様。素晴らしい観察眼かと。やはりあなたはナーザ様と同じように上に立つ素質をお持ちです。 |
バルド | あなたにお仕えする者は、きっと……。 |
メルクリア | バルド ? |
バルド | ……いえ、話を戻しましょう。 |
バルド | アリエッタの報告から鑑みるにフリーセルが墓守の街に向かった理由は分史世界の誕生を阻止するためだったのでしょうね。 |
ナーザ | ああ。しかもそれは、フリーセルにとっても単身で挑まねばならぬほど急ぐ必要がありにも関わらず、阻止はできなかった。 |
ナーザ | そう考えると、今の状況はこちらにとって相当まずい方向へ動いているということだ。 |
メルクリア | ならば、わらわたちは、まず何をすべきでしょうか。 |
ナーザ | それはもう決まっている。だが、これは俺の勝手ですることだ。 |
ナーザ | 俺はフリーセルを救出する。 |
リヒター | こちらは構わんが奴はジュニアも敵視する可能性があると聞いているぞ。 |
マークⅡ | ああ。俺としちゃ危険人物はなるべく遠ざけておきたいぜ。 |
ジュニア | マーク、僕なら大丈夫だよ。 |
マークⅡ | ったく、お前は……。そう来ると思ったよ。けど一応、言うべきことは言っとかねえとな。 |
マークⅡ | それに、あいつは二人目だろ。俺らにとっちゃ、一人目のフリーセルだってよくわからねえ奴なのに、二人目ともなるとな。 |
マークⅡ | ビクエの方のフィルから聞いたフリーセルの話をベースにして、二人目のフリーセルの動きを予測しても同じように動くとは限らねえ。 |
マークⅡ | 警戒ぐらいさせて欲しいぜ。 |
バルド | 二人目が同じとは限らない……ですか。 |
ナーザ | 一人目か二人目かなど関係ない。フリーセルは我がビフレストの民だ。 |
ナーザ | 俺たちと手段は違えど今も祖国のために戦い続ける忠臣を見捨てるのは俺の望むところではない。 |
ナーザ | マークの懸念は承知している。故にフリーセルを助け出した暁には膝を突き合わせて話すつもりだ。 |
ナーザ | それでも変わらぬとあれば……俺が責任を取る。 |
マークⅡ | わかった、わかった。まあ、フィル……ジュニアも了承してるしな。 |
バルド | では、すぐにでも向かいましょう。メンバーはどうします ? |
ナーザ | こうなった今、デミトリアスとグラスティンの狙いはジュニアだろうな。 |
ナーザ | 虹の橋が実体化し、奴らはニーベルングへの移住とティル・ナ・ノーグの破壊を試みるはずだ。 |
バルド | はい。そしてその鍵はジュニアだという話です。 |
ジュニア | ………………。 |
ナーザ | 贄の紋章は無効化された。しかし消えたわけではない。 |
リヒター | そもそもジュニアの贄の紋章は前回、他の紋章持ちとは違って発動しなかった。つまり性質が違うと考えられる。 |
リヒター | であれば、ジュニアの紋章はまだ生きている可能性が高い。 |
ナーザ | ああ。なればこそ、お前は今一度仮想鏡界にこもり外部との接触を断つのだ。 |
ナーザ | フリーセルの救出は俺の独断だ。救出には最小限――俺とバルドで向かうとしよう。 |
ジュニア | ……………。 |
キャラクター | 4話【19-5 仮想鏡界2】 |
メルクリア | ――な ! ?兄上様、それはあまりにも危険ではありませぬか ! ? |
ナーザ | 案ずるな。バルドもいる。 |
ジュニア | ……ま、待って……。 |
ジュニア | 待ってください、ナーザ将軍 !僕も……僕もお二人に同行させてください ! |
マークⅡ | お、お前、何言ってんだ ! ? |
ナーザ | どういうつもりだ、ジュニア。 |
ジュニア | 虹の橋が架かって、分史世界も創られてしまいました。みんなが言うとおり、これから帝国は僕の捜索に全勢力を傾けるはずです。 |
ジュニア | 魔の空域にまで干渉したグラスティンだ。このまま仮想鏡界に隠れていても見つかる可能性だってある。 |
ジュニア | だったら僕を交渉材料にしてください。僕がおとりになって隙を作る計画を立てた方が相手の意表を突けると思います。 |
マークⅡ | 駄目だ、危険すぎる !何されるかわかんねえぞ ! |
ジュニア | 嫌なんだ ! そうやって怯え続けるのは ! |
ジュニア | マーク、僕はもう利用されるためだけに生まれた僕のままでいたくない。 |
マークⅡ | ! ! |
メルクリア | よう言うた。ジュニア。 |
マークⅡ | ……参ったな。俺のご主人様、意外にカッコいいわ。 |
アステル | ふふっ、だったら僕たちも協力しないと。 |
バルド | レイカー博士、何か良い策でも ? |
アステル | 策はないよ。でもジュニアの贄の紋章の抑制コードみたいなものはできそうかなって。 |
アステル | 確かジュニアの贄の紋章には対になる紋章があるんだったね。 |
アステル | 帝国がジュニアを捕まえたならきっと対になる贄の紋章とセットで起動させる筈だ。 |
アステル | だから、ジュニアの贄の紋章に相手の贄の紋章の発動を抑えるコードを上書きしてみようかと思うんだ。 |
コーキス | え~と……、つまり ? |
リヒター | アステル、わかりやすく説明してやれ。 |
アステル | わかりやすく ? う~ん……、例えるならディスト博士がジェイドさんと遭遇しても何もできずに指をくわえて見てるだけになるコード。 |
コーキス | ますますわかんねえ ! |
ディスト | 心外ですよ、レイカー博士 !私とジェイドの部分を逆にしなさい ! |
コーキス | いたのか、ディスト様 ! |
ディスト | 最初からいましたよ。救出だの何だのと興味がなかったので黙っていただけです。 |
アステル | あはは、ごめんなさい。とにかく、そういう対策はできると思うんだ。 |
アステル | 浮遊島で所持しているデータやリヒターとディスト博士の力があればすぐにでもジュニアの贄の紋章に上書きできると思う。 |
アステル | でも、そもそも対の紋章の性質まではわかってないから相手の贄の紋章が効果を発動させるのを遅らせることしかできないけどね。 |
ジュニア | 対になる贄の紋章……、元々贄の紋章はルグの槍の力を利用して虹の橋を架けるものだった。 |
ジュニア | なら、僕と誰かの持つ『対の贄の紋章』もルグの槍の力を利用していて虹の橋に似た効果を持っているのかな……。 |
アステル | 基本的には贄の紋章なんだからそうだろうね。 |
ディスト | 簡単なことですよ。わざわざ二人の人間を対にする――つまり二人の人間の力を寄り合わせる必要があるのでしょうね。 |
リヒター | ジュニアをわざわざ使うのなら当然鏡士としての力か。 |
ジュニア | ……少し見えてきた気がします。帝国は何かを具現化したいんだ。 |
ジュニア | アステルさん。対の紋章が誰に施されているのか突き止めるためにも是非その上書きをお願いします。 |
バルド | ナーザ様、いかがなさいますか ?だいぶ盛り上がっているようですが。 |
ナーザ | ……わかっている。歩みを進めんとする者たちに水を差すほど無粋ではない。 |
ナーザ | レイカー博士、ジュニアへの処置を急いでくれ。 |
アステル | 了解です。 |
ジュニア | ナーザ将軍、ありがとうございます ! |
ナーザ | 何を言う。感謝するのはこちらの方だ。 |
アステル | ディスト博士、力を貸して貰えませんか ?僕だけじゃ難しい作業ですしどちらかといえばディスト博士の得意分野ですよね。 |
ディスト | いいでしょう。対の紋章には私も興味があります。浮遊島でも研究をしているはずですよ。 |
ディスト | さあ、早く連絡しなさい。我が友ジェイドなら快く情報を共有してくれるでしょう。 |
ナーザ | メルクリア、コーキス、俺たちに同行しろ。いざとなれば、お前たちがジュニアを連れて逃げるのだ。わかったな。 |
コーキス | 了解 !へへっ、ボスも結構優しくなったよな。 |
メルクリア | 馬鹿者 ! 兄上様は元からお優しい方じゃ。――よし、わらわも準備をせねばのぅ ! |
リヒター | 気負いすぎるな。足を掬われるぞ。 |
メルクリア | わかっておる。リヒターは本当に心配性じゃの。 |
ナーザ | リヒター、お前もついてきてもらえるか。ジュニアの処置後に対処できる者が欲しい。 |
リヒター | わかった。だが、ここの守りはどうする。仮想鏡界はほぼ安全だとは思うが……。 |
ナーザ | マークとディストならアステルを守ってそれなりに立ち回れるだろう。外に出ている者も、じき戻るしな。 |
ナーザ | 紋章の上書きが終わり次第、墓守の街に出発する。それぞれ備えを進めておけ。 |
キャラクター | 5話【19-6 分史世界4】 |
イクス | 洸牙衝 ! |
イクス | ……よし、これで全部かな。 |
リカルド | ああ。見た限りではな。しばらくは邪魔されずに済むだろう。 |
イクス | ミリーナ、カーリャも無事か ? |
ミリーナ | ええ ! |
ミリーナ | カーリャ、大丈夫よね ? |
カーリャ | はい、このとおり !乗っ取られたりしてませんよ。 |
イクス | よかった。コーキスの例もあるからさ。心配したよ。 |
カーリャ | それにしてもなぜ分史世界に死鏡精が現れたんでしょう。もしかして、天上界にもいたんですか ? |
アンジュ | いないはずよ。天上界に鏡士みたいな存在がいたら嫌でも戦争に引きずり出されてるはずだもの。 |
イクス | う~ん……。この分史世界はハスタの記憶の中にある前世の天上界を再現しているはずだ。 |
イクス | でも、エンコードのせいでティル・ナ・ノーグでの『前世』の概念はニーベルングへと置き換わっている。 |
イクス | そのせいで、二つの世界が歪に混ざり合った分史世界が生まれたのかもしれない。 |
カーリャ | それなら死鏡精が現れても不思議じゃないですね。 |
ミリーナ | これからも何が起きるかわからないわ。早く脱出しないと。 |
スパーダ | ああ。ルドガーにハスタのとどめを刺してもらってこんな世界とはおさらばだ。さあ、マティウスを追おうぜ ! |
ルドガー | ああ、でも……。 |
エル | …………どうしたの ? エルなら平気だよ。早くチトセを迎えにいこう。 |
ルドガー | 本当に大丈夫か ?何か気になることがあるなら―― |
エル | なにもないよ ! 本当に大丈夫だから……。 |
アンジュ | ねえ、みんな。立ち話程度でいいからマティウスを追う前に今の状況を整理しておかない ? |
ミリーナ | そうね ! その間、エルとルドガーさんは休んだらどうかしら。 |
ルドガー | ありがとう、そうさせてもらうよ。 |
エルマーナ | せや、忘れるとこやった !エル、これ返しとくな。 |
エル | あ、これ……エルがエルと拾った貝殻 ! |
エルマーナ | これな、あの部屋の……管制室の前で拾ってん。ルドガー兄ちゃんから話を聞いたあとに。 |
エル | ! !あ、それじゃ……。 |
エルマーナ | 一人で抱えるんがしんどいなら相談してみるのもええんちゃう ?エルには何でも話せる相棒がおるんやろ ? |
エル | アイボー……。そうだよね。ルドガーは、エルの相棒。 |
エルマーナ | せやで ! そんで、それでもしんどい時にはアンジュ姉ちゃんに抱っこしてもらい。ルドガー兄ちゃんと違ってフッカフカやで ? |
エル | うん、わかった。ルルとどっちがフカフカか、比べてみる ! |
アンジュ | うっ、そこはルルに勝って欲しいかな……。 |
イクス | それにしても、マティウスがいたのは予想外だったな。 |
コンウェイ | ボクも最初は分史世界のマティウスかと疑ったよ。 |
リカルド | しかし、何故あいつはハスタをかばったんだ。 |
コンウェイ | 彼女にとって、この分史世界の中に都合のいい何かがあるんじゃないかな。それが何かといわれても、ボクにはわからないけどね。 |
イリア | そんな小難しいこと、どうでもいいわよ。とにかくマティウスを止めないとあいつ、また都合のいいように利用されるだけよ。 |
ルカ | あいつって、チトセさんだよね ? |
イリア | 当たり前でしょ。他に誰がいるのよ。 |
ルカ | ……それって利用されるチトセさんが心配ってこと ? |
イリア | はぁ ? どこをどう聞いたらそうなんのよ !あんたほんっと、おたんこルカね ! |
コーダ | コーダもそう聞こえたぞ、しかし。 |
イリア | 違うって言ってるでしょ !……けどさ、あたしたちはみんなあいつの最期を見てるじゃない。 |
イリア | もうあんな想いをさせるわけにはいかないでしょ。こっちも後味悪いしね。 |
イリア | そういうわけだからくれぐれも勘違いするんじゃないわよ ! ? |
ルカ | イリア、顔が赤―― |
スパーダ | おい、ルカ ! やめとけって ! |
ルカ | え ? |
エルマーナ | アスラもそうやったけど、ルカ兄ちゃんてたまにおっそろしく空気読めん時あるなぁ。そう思わん ? アンジュ姉ちゃん。 |
アンジュ | …………。 |
エルマーナ | アンジュ姉ちゃん ? なに考えとるん ? |
アンジュ | えっ ? ああ、ごめんね、エル。さっきコンウェイさんが言ってたことが気になって。 |
アンジュ | マティウスに都合のいいことは何なのかって考えてたの。 |
エルマーナ | ふうん。で、わかったん ? |
アンジュ | それが全然。やっぱり、まずはマティウスの目的をはっきりさせないといけないのよね。でも、それも全く思い浮かばないの。 |
アンジュ | だって、今のマティウスの行動って帝国側に都合のいいことばかりでしょ ? |
アンジュ | 自我を取り戻したマティウスが自分をリビングドールにした人たちの利益になることなんてするかしら。 |
エルマーナ | まあそうやな。帝国に味方してないならそうに見える行動をするんはなんでかを突き止めて……、ええと……。 |
エルマーナ | あーー、なんや頭痛なってきたわ ! |
アンジュ | ごめんね。私だって考えがまとまってないのに混乱させるだけよね。 |
リカルド | おい、そろそろ行くぞ。さすがにこれ以上は奴らから離れ過ぎる。 |
アンジュ | わかりました。さ、行きましょうか、エル。 |
エルマーナ | 全然わからんままやけど、ええの ? |
アンジュ | ええ。立ち止まって考えるよりもエルの言うとおり今は彼女たちを止めるのが先決よね。 |
キャラクター | 6話【19-9 分史世界7】 |
チトセ | ――そうして帝国から連れ出された後鏡士のもとに身を寄せ、マティウスさまが回復されるのをお待ちしていたのです。 |
マティウス | そうであったか。……帝国め、よくもここまで愚弄してくれたものよ。 |
マティウス | それで、ロミーと行動を共にしている間奴は何か言っていたか ? |
チトセ | はい。ルグの槍が発動したときこそ自分が世界を超える機会だと。 |
チトセ | 帝国とも、アルトリウスとも違う発言をしたのはそれだけです。 |
マティウス | そうか。これで確信できた。フフフ、あのロミーという女はしたたかだな。 |
チトセ | マティウスさまは、何かご存じなのですか ? |
マティウス | あの者は、ティル・ナ・ノーグという世界から脱出しようと目論んでいたのだ。 |
チトセ | 脱出…… ?それは、自分の世界に戻るという意味ですか ? |
マティウス | そうだ。私もリビングドールにされる直前に知った話だがな。奴は今もその計画のために動いているとみえる。 |
チトセ | 『今も』とおっしゃいましたがロミーはまだ目覚めてはおりません。 |
マティウス | よい。それで構わぬ。 |
チトセ | そう、ですか……。 |
マティウス | ともあれ、ティル・ナ・ノーグから抜け出せるか否かはルグの槍の力の発現である虹の橋にかかっている。 |
マティウス | 分史世界に虹の橋が架かっている限り閉じた世界に風穴が空いた状態になるのだ。 |
マティウス | チトセ、この分史世界という場所を消させてはならぬ。 |
チトセ | はい !それで、あの……、差し出がましいようですがお体はいかがでしょうか。 |
マティウス | 問題はない。このとおり、目覚めてすぐに動くこともできた。 |
チトセ | そうですか。本当に……本当によかった…… !必ずお元気になられると信じていました。 |
マティウス | 行くぞ、チトセ。私にはやることがある。 |
チトセ | はい、マティウスさま ! |
チトセ | (ああ、マティウスさまについて来てよかった。これで私の思いは報われるわ。もう、何も憂いはない) |
チトセ | (…………何も ?) |
分史ルカ | ごふっ…………。……………………。 |
ルカ | 僕が、殺された……。 |
チトセ | (大丈夫、アスラさまは……、ルカくんは強いわ。分史世界のようにはならないはず……) |
エル | 行っちゃダメだってば、チトセ ! |
チトセ | (でも、あの子は……) |
マティウス | ……どうした、チトセ。顔色がすぐれぬようだが、何を気にしている。 |
チトセ | い、いいえ、何も !マティウスさまが気にされるようなことではございません ! |
マティウス | 私には話せぬと ? |
チトセ | それは……。 |
マティウス | 話せ。 |
チトセ | ……先ほどの死鏡精の襲撃がどうなったか考えておりました。 |
マティウス | ああ、そのようなことか。そうだな、ヤツらがあそこで倒れてくれればこちらには都合がよいのだがな。 |
チトセ | えっ…… ? |
マティウス | 私の思惑どおりに事が運べばルカたちは恐らく邪魔をしてくるだろう。 |
マティウス | 共にいた鏡士は、我らをここに閉じ込めた元凶だ。直接恨みを晴らすことはできぬが死鏡精とやらと相打ちになれば手間が省ける。 |
チトセ | おっしゃる通りですがそれでも、あの人たちはマティウスさまの御身を救い保護いたしました。 |
チトセ | ルカくんや、他の者も毎日のようにマティウスさまの容体を気にして訪れてくれたのです。 |
チトセ | それに、エル……、私と共にいた子は先ほどまで、マティウスさまのために一緒にお見舞いの花を探していました。 |
チトセ | あの子、それは懸命に選んでくれて―― |
マティウス | それが一体なんだ。 |
チトセ | ! |
マティウス | 奴らが私を救出し保護したのは自らの目的を果たすためであろう ? |
マティウス | そして、お前を懐柔するために献身と愛情を見せつけているのだ。 |
マティウス | あのイナンナのようにな。 |
マティウス | 優しさや愛など偽りにすぎない。奴らの示す偽善に満ちた感情に惑わされるな。早く忘れろ。 |
チトセ | ……はい。 |
チトセ | (……だけど) |
サクヤ | アスラさまが正しいのよ。 |
チトセ | ! ! |
サクヤ | イナンナのせいで天上界は崩壊しアスラさまも全てを失ってしまった。 |
サクヤ | あの女の偽りの愛のせいで ! |
サクヤ | だから今度は『私』がアスラさまの傍にいなければ。 |
チトセ | そうよ、私が……。私がマティウスさまの傍にいなくちゃいけない ! |
マティウス | チトセ、ハスタを匿える場所を探すぞ。 |
チトセ | はい ! |
チトセ | (ハスタ……、この人が来なければ今頃私はエルと花を摘んで――) |
チトセ | ……忘れなきゃ。 |
キャラクター | 7話【19-10 墓守の街1】 |
コーキス | 驚いたな。ここまでめちゃくちゃスムーズだぜ。 |
メルクリア | うむ。墓守の街に近づくほど帝国兵か死鏡精あたりに出くわすかと思ったのじゃが。 |
ナーザ | アリエッタの魔物たちのおかげだ。いざという時の脱出経路も確保するよう頼んである。 |
コーキス | すげえ ! あ、いいこと思いついた。アリエッタ様がこの世界の魔物を全部仲間にできたら他の魔物とも戦わなくて済むよな ! |
リヒター | アリエッタの魔物は、あくまで『友人』だろう。お前、心を通わせるほどの友をそう簡単に手に入れられるとでも思っているのか ? |
コーキス | う……。 |
メルクリア | リヒター、話はもっともじゃがもそっと優しく言えぬか ? コーキスがしょぼくれておる。 |
リヒター | そんなつもりはなかったんだが……。すまなかったな。 |
コーキス | いや、リヒター様の話は勉強になるからさ、うん。 |
ナーザ | お前たち、じきに目的地だぞ。気を引き締めろ。 |
バルド | ふふっ、多少は敵が出たほうが緊張感があったでしょうか。 |
ジュニア | でも、おかげで少し落ち着きました。 |
ジュニア | ……この作戦、必ず成功させます。フリーセルを取り戻して、みんな無事で帰りましょう。 |
グラスティン | まったく、どこまでも邪魔しやがって。貴様のせいで、奴らだけが分史世界に行っちまっただろうが ! |
フリーセル | ぐっ ! |
デミトリアス | やめるんだ、グラスティン。 |
フリーセル | デミトリアス……。 |
グラスティン | 絆されるなよ、デミトリアス。復讐するチャンスだぞ。 |
グラスティン | 友人面して近づいて、お前を殺そうとした男だ。生かしておく必要があるか ? |
フリーセル | ゲホッ……。俺を殺したいのは……誰よりお前なんじゃないか ?グラスティン。 |
グラスティン | 貴様―― |
ナーザ | そこまでにしてもらおう。 |
デミトリアス | 貴殿は…… ! |
ナーザ | 久しぶりだな、デミトリアス帝。 |
デミトリアス | ウォーデン殿…… !それにメルクリアも。 |
フリーセル | ! ! |
デミトリアス | 懐かしいよ……、変わらず元気なようだね。 |
メルクリア | ……お久しゅうございます。 |
グラスティン | おいおい、これはどういうことだぁ ?ビフレストの皇族方がおそろいで。しかも……。 |
ジュニア | …………。 |
グラスティン | ヒヒヒッ、小さいフィリップまでいるじゃないか。かくれんぼは終わりか ? |
ジュニア | そうだね。いい加減飽きたんだ。 |
グラスティン | もう少し遊んでいてもよかったんだぞ ?お前の大事なものを順番に痛めつけたところで許しを請いながら俺に下るのも一興と思っていたのに。 |
リヒター | 下衆が……。 |
グラスティン | まあ、手間は省けたんだ。文句は言わんさ、ヒヒヒッ。それで、用件はなんだ。 |
ナーザ | 我が臣下を迎えに来た。 |
フリーセル | ウォーデン様 !御自らがお出ましになることではございません !どうかお捨て置き下さい ! |
バルド | 捨て置けと言われて帰るような御方であれば最初からここには来ないよ、フリーセル。 |
メルクリア | そうじゃな。兄上様をみくびるでないわ。 |
フリーセル | バルド様、メルクリア様……。 |
フリーセル | 申し訳ありません。私の失態ゆえに尊き方々を巻き込んでしまった……。 |
グラスティン | いやぁ、価値ある失態だぞ ?その尊き方々が大事に隠しておいた小さいフィリップまで引きずり出したんだからなぁ ! |
フリーセル | くっ……。 |
ナーザ | フリーセル、お前は思い違いをしている。 |
ナーザ | むしろ、最初に巻き込んだのは俺たち皇族の人間だ。お前はただ、その渦中でひたすらに責を果たそうと奔走した。 |
ナーザ | その忠義に報いるためにここへ来た。全ては俺の身勝手な思い故。お前が悔いることなど何ひとつない。 |
フリーセル | ……殿下……。 |
グラスティン | よかったなぁ。お前みたいな駄犬でもご主人様はまだ飼う気でいるらしい。 |
グラスティン | だが、俺はどうしてもこいつを殺したいんだよなぁ。 |
デミトリアス | グラスティン、待て。――ウォーデン殿、ならば取引をしようではないか。 |
グラスティン | ヒヒッ、そういうことだ。こいつの命と、ジュニアの身柄を交換といこう。 |
リヒター | そうまでしてジュニアを手に入れたい理由は特殊な贄の紋章のせいか ? |
グラスティン | ……なるほど。お前やアステル、ディストにハロルドもいる。その程度の調べはついて当然か。 |
リヒター | やはりな。だが、対になるもうひとつの紋章はまだ誰にも刻めていないはずだ。 |
リヒター | 鏡映点は、ほぼイクスたちの手中にある。その全員を調べたからな。しかもすでに刻まれた紋章は全て無効化してある。 |
リヒター | 今さらジュニアを手に入れたところで無駄な話だ。ここからどうする気か見物だな。 |
コーキス | ……リヒター様、探りを入れてるのか。 |
メルクリア | うむ。少しでも対の相手がわかればよいが。 |
グラスティン | くっくっくっ……ご忠告どうも。そうか、対の紋章が刻まれてないこともバレてると。 |
グラスティン | だがな、なくて当たり前なんだよ。紋章を刻んだのは、ついさっきだ。 |
グラスティン | あれは本人も気づいてないだろうなぁ。 |
ジュニア | さっきだって ! ? |
リカルド | いいか、よく探せよ。あいつらは気絶したハスタを抱えてる。不自然な足跡があるはずだ。 |
キュキュ | 足跡、見つけた ! こっち ! |
ルドガー | よし、行こう、エル。 |
エル | うん。……ねえ、ルドガー、エルってジャマかな。 |
ルドガー | 邪魔なわけないだろう ? |
ルドガー | ……あ、そうか。あの時の―― |
エル | 行っちゃダメだってば、チトセ ! |
チトセ | 来ないで、邪魔よ ! |
ルドガー | ……エルは、チトセのことどう思う ? |
エル | チトセは優しいよ。マティウスのために花を摘んだりエルにも折り紙見せてくれたり、色々話してくれたしさっきもエルのこと守ってくれた。 |
エル | 花もね、本当は摘むよりも自然に咲いてるのを見るのが好きなんだって。動物も好きって言ってて……。 |
エル | ……だからね、ジャマって言われて悲しかったけど本当は、エルが危ないから来ないようにするためかもって……。 |
エル | けど、すごく怖い顔してたし……、よくわかんない。 |
ルドガー | そうか。だったら、ちゃんと会って話さないとな。みんなでチトセを迎えに行こう。 |
エル | うん !戻れたら、またチトセとあの花畑に行きたい。今度はミラもいっしょに。 |
エル | ……エルね、今すごく、エルのミラと話がしたいんだ。 |
ルドガー | そうだな……。チトセを助けて、早く帰ろう。ミラや、兄さんや、エルのパパのところに。 |
キャラクター | 8話【19-11 分史世界8】 |
マティウス | 崖か……。一度戻らねばならんな。 |
チトセ | 申し訳ありません。私が不案内なばかりに。 |
マティウス | 天上界と似ているとはいえ場所によって地形がだいぶ違っているな。 |
チトセ | ここまでの道沿いに廃屋らしきものがありました。とりあえずハスタは、そこにでも閉じ込めて―― |
エルマーナ | あっ、おったで ! マティウスや ! |
ルカ | チトセさん、探したよ ! |
チトセ | ルカくん……。 |
マティウス | やはり生きていたか。 |
イリア | 当たり前でしょ。あのくらいで死んでたらティル・ナ・ノーグじゃ生きていけないっての ! |
チトセ | また私の邪魔をするのね、裏切者のイナンナ。アスラさまは渡さないわ。 |
イリア | 頼まれたっていらないわよ。それとイナンナは前世。あたしはイリア。ごっちゃにしないで。 |
イリア | で ? あんたはどっちよ。イナンナに負けたほう ?それとも―― |
チトセ | っ !この―― ! |
アンジュ | 待って !マティウス、あなたに聞きたいことがあります。 |
アンジュ | あなたがハスタを庇うことで、帝国は有利になるわ。それを知っての行動かしら。 |
マティウス | そうだ。 |
アンジュ | あなたを利用しようとした帝国に協力するというの ? |
マティウス | 協力などしていない。ただ、今は手段を同じくしているだけのこと。 |
マティウス | 私はヤツらを利用しているにすぎない。 |
イリア | あーーもったいぶった会話ってイライラする !さっさと話しなさいよ ! |
マティウス | ふっ、いいだろう。どちらにせよ、お前たちには手出しのできぬことだからな。 |
マティウス | 私はティル・ナ・ノーグを脱しあの忌まわしい世界へと帰還を果たした後――破滅させる。 |
スパーダ | ……やめとけよ。それ、絶対に上手くいかねえぜ。 |
コンウェイ | この鏡に護られし創造の世界でなら違う可能性を見つけられるはずなのにそれでもキミは繰り返すというのか。 |
マティウス | どこにいようと我が願いは変わらぬ。腐った世界の破壊のみ。 |
コンウェイ | そう……。これも魂に刻まれた因果ゆえか……。 |
マティウス | ふっ、何とでも言うがいい。 |
ルカ | でも、それは本当に叶わない願いなんだ、マティウス。――そうだよね、イクス。 |
イクス | ああ。ティル・ナ・ノーグは閉ざされた世界だ。あなたはもう二度と、元の世界には戻れない。 |
マティウス | そのようなことは百も承知よ。知ったうえで私は計画を進めているのだ。 |
マティウス | こうしている今もロミーは私の目的を達するために動いている。本人が自覚しているかは知らぬがな。 |
イクス | 何を言っているんだ。ロミーはまだ眠っているのに。 |
マティウス | あの者の魂はすでに肉体から離れている。お前たちは気づいていないようだがな。 |
ミリーナ | 離れているですって ! ?ロミーの身体にはアニマがない…… ? |
カーリャ | まさか、ロミーさまはもう亡くなって……。 |
マティウス | 正確には、ロミーとやらの体を奪っていたものが離れていったのだろうな。 |
イクス | そうか……。確かロミーは本来のロミーではないってルキウスが言っていた。 |
イクス | でもロミーの中にいた魂はどうして急にロミーから離れたんだ…… ? |
マティウス | もちろん、ティル・ナ・ノーグを脱出するためだ。 |
ルカ | まさか、本当に……。 |
マティウス | 興味が沸いたか? ルカ、私に協力するのなら共に来い。 |
ルカ | そんなの……。 |
マティウス | もっと詳しく話してやろう。 |
マティウス | 帝国にいた頃だ。私はロミーが『故郷』と呼ぶ場所に戻ろうと動き出したことを知った。 |
マティウス | しかし、探りを入れようとしたところでグラスティンという男にリビングドールにされたのだ。だが、チトセが動いてくれた。 |
チトセ | ええ。前もってのご指示どおりに万が一、マティウスさまに何かあればまずはデミトリアスにつく。 |
チトセ | そして、デミトリアスの様子をうかがいつつロミーが帝国軍の意図に反して動いているようであればそちらへつくようにと。 |
チトセ | ロミーがアルトリウスについたからこちらもアルトリウスに協力することにした。 |
マティウス | これまでの帝国の動き、そしてチトセからの情報加えて、アジトからお前たちをつけて来た際に聞いたデミトリアスとの話。 |
マティウス | それら全てを合わせて私は理解した。 |
マティウス | ルグの槍は隔てられた二つの世界――この分史世界とティル・ナ・ノーグとを虹の橋を作ることで繋いでいる。 |
マティウス | つまり、ルグの槍には世界を越える力がある。ロミーはこの力を利用して奴の故郷へ戻ろうとしているのだ。 |
マティウス | 虹の橋の実体化はこの分史世界の誕生と連動している。ロミーの脱出が成功し、私が脱出するまで分史世界を守り、虹の橋を保たなければならない。 |
マティウス | さぁ、行こう。我が半身よ。元の世界に戻り、我々に与えられた責務を果たすのだ。 |
エルマーナ | 待ちぃ ! さっきから黙って聞いてれば勝手なことばっか言うて ! |
アンジュ | 帝国はこの分史世界から何かを持ち込むことでティル・ナ・ノーグを消滅させようとしている。分史世界をこのままにはしておけないわ。 |
マティウス | この世界のことなどどうでもいい。聞けば元より具現化を繰り返した継ぎはぎの世界だ。歪さは私たちの世界の比ではない。消えて当然だ。 |
マティウス | しかも、お前たちは勝手に具現化されたのだぞ ?守ってやる価値がどこにある。 |
リカルド | それはお前が決めることじゃない。価値など自分で決める。 |
キュキュ | そう ! キュキュの大事、キュキュが決める ! |
マティウス | お前はどうなのだ、ルカ。 |
ルカ | 僕もみんなと同じだよ。 |
ルカ | この世界で結んだ絆を……ティル・ナ・ノーグで出会ったみんなを犠牲にしてまで帰ろうなんて思わない。 |
マティウス | そうか。ならば私を止めてみることだな。 |
スパーダ | ああ、やってやるよ !ルドガー、こっちはオレらが抑える。スキ見てハスタのほう頼むぜ。 |
ルドガー | わかった ! |
チトセ | させないわ ! |
ルドガー | チトセ…… ! |
エル | お願いチトセ、ルドガーと戦わな―― |
エル | ……あれ…… ?なんで……胸……くるし……。 |
二人 | エル ! ? |
キャラクター | 9話【19-14 墓守の街4】 |
ジュニア | 紋章を刻んだのがさっきって、どういうこと ! ? |
フリーセル | まさか……あの鏡士たちとの戦いの時か ! ? |
グラスティン | ヒヒヒ、今頃気付くなんてのろまだなあ。だからお前は駄犬なんだよぉ。 |
デミトリアス | グラスティン、仕掛けをペラペラと話すのはいささか危険なのでは ? |
グラスティン | そうだなぁ。ジュニアを前にして昂ぶったのかもしれないな。ヒヒヒヒ、この辺にしておくかぁ。 |
デミトリアス | それで、ウォーデン殿。返答はいかに。 |
グラスティン | どうするんだ ? あんまり長く待たせると手が滑ってうっかり刺しちまうぞ ? |
ナーザ | ――ジュニア、行ってもらえるか。 |
ジュニア | ……わかりました。 |
デミトリアス | 交渉成立だな。 |
ナーザ | では、フリーセルの解放を確認した後に同時に互いのほうへ歩かせる。それでいいな。 |
デミトリアス | 承知した。グラスティンフリーセルの足の拘束を解いて放してやれ。 |
グラスティン | ……わかった。ただし―― |
フリーセル | ぐあっ ! ! |
グラスティン | 大げさだな。片足刺したくらいで。さて、これで派手な動きはできないだろう。――行け。 |
バルド | ジュニア、くれぐれも気を付けて。 |
フリーセル | ……すまない。 |
ジュニア | 大丈夫。任せてください。 |
ナーザ | よくぞ戻った。大儀であった。 |
バルド | 出血が酷い。応急手当だけでもしておかないと。 |
フリーセル | 申し訳ありません……。 |
ナーザ | 手当が済んだら下がっていろ。ことはすぐに起きるかもしれん。 |
フリーセル | こと…… ? |
グラスティン | ああ、よく帰ってきたなぁ、小さいフィリップ。――それで、何を企んでいる ? |
ジュニア | ! ! |
グラスティン | 隠れてた奴がノコノコ出てきてしかも素直にこっちに来た。上手く運びすぎて疑いたくもなるだろう ? |
ジュニア | ……そうだね、企んでるよ。僕はもう、あなたの思い通りになんかならないってね。何をされたって、全力で抗ってみせる。 |
グラスティン | ヒヒヒッ、可愛いことを言うじゃないか。ならやってみせてくれよ !お前に刻んだ贄の紋章は特別だとわかってるんだろう ? |
ジュニア | うあああっ ! ! |
グラスティン | 決意だけでその紋章の発動は止められないぞ ?さあ、次元を越えるルグの槍――いや、クルスニクの槍が生まれるぞおっ ! |
グラスティン | …………あ ? |
グラスティン | 何だこれは……対の紋章が同期しない ! ? |
リヒター | 始まったぞ ! 今だ ! |
ナーザ | 行け ! ジュニアを奪還しろ ! |
二人 | 「了解 ! 」「承知 !」 |
デミトリアス | 邪魔はさせない ! |
デミトリアス | 衛兵 ! ! |
デミトリアス | 兵たちが来ない…… ? |
デミトリアス | そうか……。貴殿らの仕業か。ウォーデン殿、メルクリア。ならば――私が貴殿らを食い止める ! |
グラスティン | クソッ、紋章に変なコードを上書きしてやがる !こいつの解除は……チッ、面倒なロックかけやがって !このやり方じゃ時間がかかりすぎる ! |
ジュニア | 言っただろ……。思い通りになんて……させ……ない……。 |
グラスティン | 馬鹿が。対の紋章との結合は終わってるんだ。対の方に負担はかかるが、強引にでも―― |
ジュニア | うっ ! |
グラスティン | 俺が直接上書きして強制的に紋章の効果を発動させてやる ! |
ジュニア | うわああああ ! ? |
コーキス | ジュニアが炎に包まれた ! ? |
エル | 痛っ ! ! はあっ……はあっ……。 |
ルドガー | エル ! ? エル、どうしたんだ ! !体が異常に熱い ! ? |
ミリーナ | え ! ? 今、一瞬エルの体が炎に包まれたような…… ! ? |
イクス | 炎…… ! ?まさか……贄の紋章 ! ?でも、エルに紋章が刻まれた筈は……。 |
イクス | いや、そうか。エルとチトセは帝国にさらわれたんだ。まさかその時に―― |
マティウス | そうか。【クルスニクの鍵】に贄の紋章を仕込んでこの分史世界を丸ごとティル・ナ・ノーグに運び込むつもりか。 |
三人 | ! ? |
マティウス | ならばルグの槍の再起動も近いな。これでティル・ナ・ノーグを抜け出せる ! |
イクス | エルの贄の紋章が完全に発動したらエルもティル・ナ・ノーグも危険だ !ルドガーさん、早くハスタを ! |
マティウス | させぬ ! クルスニクの一族、貴様さえ倒せば―― |
ルドガー | ! ! |
マティウス | うっ…… ! 死神め……。 |
チトセ | マティウスさま ! |
リカルド | 動くなよ。次は頭をぶち抜く。 |
キュキュ | キュキュも、容赦しない。 |
マティウス | チトセ、起動するまで分史世界を守るのだ !そいつらを……ルドガーを殺せ ! |
チトセ | は、はい ! |
エル | ルド……ガー……、だめ、チトセを、助け……。 |
ルドガー | わかってる。無理にしゃべるな。 |
チトセ | っ……。 |
ルカ | ……チトセさん、手が震えてるよ。それじゃ戦えない。 |
チトセ | (どうして体が動かないの…… ?マティウスさまの命令ならあの子が苦しんでようが構わないはずのに……) |
チトセ | (そうよ、私は元の世界でだって他人を犠牲にしながらルカくんを――アスラさまを手に入れようとしてたじゃない。なのに……) |
マティウス | やれ、チトセ ! |
エル | チト……セ……。 |
チトセ | (これは……本当に正しいことなの ?) |
サクヤ | (そうよ。正しいに決まってる。私は、アスラさまの期待に応えなければ) |
チトセ | 私は……アスラさまの……期待に……。 |
イリア | あんた、それでいいわけ ! ? |
チトセ | ! ! |
イリア | あいつの願いは知ってるでしょ。世界の破滅よ ?あんたもそれを望んでるっての ? |
チトセ | アスラさまが……望むなら……。 |
イリア | アスラじゃなくて、あんたの望みを聞いてんの !自分の気持ちにくらいちゃんと正直になりなさいよ ! |
サクヤ | あんな女の言葉なんて聞いては駄目。あの女さえいなければ、アスラさまは滅びを望むほどの絶望に苛まれることなどなかったのだから。 |
サクヤ | 今度こそ私がアスラさまを支えるのよ。 |
チトセ | そう、サクヤが支える、アスラさまを……。マティウスさまを支えるのは……。 |
チトセ | 私は、誰のために…… ? |
サクヤ | まず、あの女を裁きましょう。さあ、早く ! |
マティウス | 早く ! やれ、チトセ ! |
チトセ | ……る……い。 |
チトセ | うるさい ! 私はあなたじゃない ! |
サクヤ | 何をしているの ! あなたは私、私は―― |
チトセ | 私は……サクヤ……。私は……アスラさまを……支えて……。 |
チトセ | アスラ……さま……じゃない。あの人は……マティウスさま…… ? |
サクヤ | アスラさまよ。アスラさまを支えるの。私は―― |
チトセ | 違う……違う…… !あの方はマティウスさま…… ! |
チトセ | 私の……チトセの大切なマティウスさまなの !あなたの気持ちを私に押し付けないで ! |
イリア | あんた……。 |
マティウス | 何をしている、チトセ !ルドガーを殺せ ! |
チトセ | ――……私には、できません……。 |
マティウス | チトセ……。 |
チトセ | マティウスさまの願いはマティウスさま自身も失ってしまいます……。だから……。 |
マティウス | やはりお前も……、お前までも裏切るのか ! ! |
二人 | ! ! |
チトセ | きゃあっ ! ! |
マティウス | 私を裏切る者など不要だ ! |
チトセ | ! ! |
スパーダ | お前、何もわかっちゃいねェ。 |
イリア | 今のチトセの気持ちがわかんないならあんたは一生独りよ。 |
アンジュ | マティウス、あなたは彼女を裏切者と言ったけれど私にはむしろ『あなた』を選んだように見えたわ。 |
マティウス | 知った口を叩くな !全てを失うこの絶望を、お前たちは知りはしまい ! |
エルマーナ | 全部なくした言うんなら、また集めればええやん !ウチらみんな、そうしてきてんで ? |
マティウス | 戯言を…… ! |
リカルド | ガキの戯言ってのは案外当たってるもんだ。侮ると痛い目を見るぞ。 |
キュキュ | キュキュ、帰れないは辛い。でも、この世界好きになた。とても大事 ! |
コンウェイ | ああ。せっかく未知の世界の物語を楽しんでるんだ。結末は先延ばしにさせてもらうよ。 |
ルカ | マティウス僕は君の未来を知っている。でも、今ならまだ変えられるんだ。 |
ルカ | 止めてみせるよ、絶対に ! |
マティウス | ほざけ !天上界も、地上界も、ティル・ナ・ノーグもすべて消し去ってくれるわ ! |
キャラクター | 10話【19-15 分史世界9】 |
マティウス | こんなことが……なぜ、私が……お前たちなどに…… ! |
ルカ | 僕たちには仲間がいるからだよ。 |
ルカ | どんな時でも信じあって、助け合える仲間の存在が僕たちの強さなんだ。 |
マティウス | 認めん……。そんなものが強さだなどと…… ! |
イクス | 何にしろ、あなたの負けです。マティウスさん。 |
マティウス | くっ…………。 |
チトセ | マティウスさま……。 |
エル | ううっ ! |
イクス | !ルドガーさん、ミリーナ、エルは ? |
ミリーナ | 苦しそうよ。治癒術じゃどうにもならないわ。早く逆しまの紋章を打ち込まないと…… ! |
ルドガー | ミリーナ、エルを頼んだ。すぐに【時歪の因子】を破壊する。 |
ルドガー | ……ハスタはどこだ ? |
イクス | いない ! ? さっきまでそこにいたのに―― |
チトセ | マティウスさまっ ! |
チトセ | きゃあああああっ ! |
マティウス | チトセ ! ? |
ハスタ | バッキャロ~イ !ハスタは急に止まれないって常識でしょうが ! |
チトセ | マティウス……さま、ご無事……で……。 |
マティウス | 何を…… ! |
ハスタ | まったくこのバカちんが !オレ様の復活記念の獲物はマティウスって相場が決まってんですよ~おい ! |
ハスタ | ってわけで、いただきまーゲボッ ! ? |
スパーダ | お前にはやらせねぇよ ! |
マティウス | なぜ……なぜ助ける ! |
スパーダ | 今のオレは剣じゃねェ。守りたいと思えば、自分で動いて守れるんだよ。 |
スパーダ | デュランダルもそうしたかったんじゃねえの。アスラは最高の相棒だからな。 |
マティウス | ……。 |
ハスタ | 病み上がりにきつい迎え傷……。さすがご同輩、ざっくりいってくれますなぁ。 |
ハスタ | いいぜいいぜ、殺戮ショーの再々演、はっじまっる―― |
ハスタ | ギャッ ! |
キュキュ | 始まる、ない。もう終わり。――イクス、ミリーナ、今 ! |
ミリーナ | 魔鏡の霧よ ! |
イクス | よし、今のうちに魔鏡結晶でハスタの足下を !はーーっ ! ! |
コーダ | ハスタの足下が固まったんだな、しかし! |
ハスタ | くっ……こんなシナリオはボツでリテイク !次だ次 ! 次行ってみよー ! |
コンウェイ | 悪いけど……キミに次はもうないんだ。解放しよう、永劫の苦しみから ! |
ハスタ | ! |
コンウェイ | 頼むよ、ルドガーくん ! |
ルドガー | ああ、これで……終わりだ ! |
ハスタ | 槍 ! 槍はいいぞ ! 懐か―― |
ルカ | ……あれ ? 真っ暗だ。僕、何してたっけ……。 |
マティウス | ……お前は、ルカか ? |
ルカ | マティウス ! ?……そうだ、ハスタを倒して分史世界が破壊されて……。 |
ルカ | どうして、僕たちだけここに……。 |
マティウス | ……分史世界の破壊を切っ掛けにお前と私、同じアスラの魂を持つ者同士が共鳴したのかもしれん。 |
? ? ? | そこにいるな、分かたれし我が魂たちよ。 |
二人 | アスラ ! ? |
マティウス | ……そうか。私はまた、絶望を抱えたまま生まれ変わるのだな。 |
マティウス | そして『私』は消滅する……。 |
アスラ | それは違う。 |
アスラ | お前は絶望という輪廻からは解放されている。 |
アスラ | よく考えろ。心当たりがあるはずだ。今のお前の魂は絶望に染まってはいない。 |
マティウス | …………。 |
アスラ | お前はルカと同じように前世に縛られることなく生きられるだろう。 |
ルカ | マティウス、君は絶望から生まれてしまったけどこの世界で――ううん、本当は元の世界でも君を慕っている人はいたんだ。 |
ルカ | だから、僕たちといっしょに新しい世界で一から始めようよ。 |
マティウス | 黙れ ! |
ルカ | あっ……。 |
マティウス | 私に新しい生き方など、できるはずがない。 |
ルカ | マティウス…… ? 姿が薄れてる…… ! |
マティウス | これは……。 |
アスラ | 心配するな。お前たちが元の世界に戻る兆しだろう。 |
ルカ | マティウス、消えちゃった。 |
アスラ | お前もじきに消える。目覚めればな。 |
ルカ | ごめん、アスラ……。マティウスを説得できなくて。 |
アスラ | それだけあの者に刻まれた絶望が深いということだ。 |
アスラ | だが、お前たちならあの者の魂を救うことができるだろう。 |
ルカ | うん。やってみるよ。 |
アスラ | ……また前世の因縁を背負わせてしまったな。 |
アスラ | お前もまた、もうひとりのマティウスの痛みをその身に宿しているというのに。 |
ルカ | 平気だよ。辛くたって僕には支えてくれる仲間がたくさんいるから。 |
アスラ | そうか。ならば、これ以上は何も言うまい。 |
ルカ | あれ……アスラの姿が透けてる……。 |
アスラ | お前が透けているのだ。目覚めるようだな。 |
ルカ | うん。じゃあね、アスラ。 |
アスラ | ああ。頼むぞ、ルカ。 |
ルカ | …………あ、戻った ? |
スパーダ | ルカー ! なんだよ、心配したぜ !お前だけ目が覚めなくてよぉ ! |
ルカ | 痛い、痛いって、スパーダ。 |
エルマーナ | スパーダ兄ちゃんは熱烈すぎて乱暴やねん。ウチが可愛がり方、教えたるわ。こうやで、こう ! |
アンジュ | もう、エルもスパーダくんも、一旦離れてくれる ?ルカくん、異常はない ? |
キュキュ | ルカ、起きた !キュキュ、嬉しい ! ルカのため踊る ! |
コーダ | コーダも踊るんだな、しかし。 |
リカルド | それどころじゃないんだがな……。まあ、今だけはよしとしよう。 |
コンウェイ | イリアさん、こっちに来たら ?もう乾いたでしょ ? |
イリア | ……ぐすっ、ったく、なんの話だか。 |
ルカ | イリア……。 |
イリア | ……お帰り、おたんこルカ。 |
ルカ | うん、ただいま、みんな ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【20-1 墓守の街1】 |
ジュニア | うっ、あああああああっ ! |
グラスティン | もっと鳴いてくれよ、小さいフィリップ。分史世界の対の紋章に届くようになぁ ! ヒヒヒ ! |
メルクリア | あやつ、ジュニアと共に炎に包まれて笑っておる ! |
コーキス | あの火、シグレ様と見た炎の柱と同じだ ! |
ナーザ | 怯むな ! あれは幻影のようなものだとイクスたちから聞いただろう。 |
リヒター | あの炎は対の紋章と繋がり始めている証拠だ。ジュニアをグラスティンから引き離すぞ ! |
コーキス | わかってる ! |
デミトリアス | させぬと言っているだろう。 |
グラスティン | いいぞ、デミトリアス。そのまま時間を稼げ。このまま対の紋章と呼応させ続けてクルスニクの槍を―― |
ジュニア | はあっ、はぁ……。 |
コーキス | 炎が ! |
グラスティン | 消えた ! ? |
デミトリアス | なんだと ! ?ルグの……、クルスニクの槍はどうなった ! |
グラスティン | ……そいつも消えちまったな。おそらく原因は『あっち』だ。 |
ジュニア | そうだよ……、分史世界は……消えた……。 |
コーキス | マスターだ !やっぱりマスターたちが分史世界に行ってたんだよ。 |
グラスティン | くそっ、面倒なことに……。 |
ナーザ | お前たちの計画も終わりだな。 |
メルクリア | ジュニアッ ! |
グラスティン | 目障りな小娘が―― |
デミトリアス | 駄目だ、グラスティン ! |
メルクリア | ジュニアは返してもらった !――リヒター、ジュニアを頼む ! |
グラスティン | はぁ、お前が止めるから……。まだ『娘』に未練があるのか ? |
デミトリアス | ……槍は消えた。すぐに奥の手を使う。行くぞ。 |
グラスティン | わかったよ。 |
コーキス | 転送魔法陣だ ! どうする、ボス。 |
ナーザ | 俺たちが追えるような痕跡など残すまい。ここまでだ。 |
コーキス | けど、あいつら奥の手とか言ってたぞ。 |
ナーザ | ああ。まだ次の手があるのか、それとも撤退するためのはったりか……。 |
バルド | 何にしろ、我々の目的は達成です。フリーセルも無事でしたしジュニアも奪還できましたからね。 |
フリーセル | ……ウォーデン殿下。 |
ナーザ | やっと会えたな、フリーセル。長の務め、大儀であった。辛い役目を背負わせたな。 |
フリーセル | おやめください !殿下こそ、かような器に閉じ込められどれほどの屈辱であったことか。 |
メルクリア | やめよ ! それは、わらわのせいなのじゃ ! |
フリーセル | メルクリア様。お目通りが叶い嬉しゅうございます。エルダ皇后のご逝去以降、御身の行方は宮殿の奥深くへと隠されておりました故。 |
フリーセル | これも全て、私の不徳と致すところです。あの者たちを仕留めていれば……。 |
ナーザ | ……フリーセル、今ここで我らに下れとは言わん。ただ少しの間、俺の話に付き合え。 |
メルクリア | わらわからも頼む。わらわには、そなたの話が必要なのじゃ、フリーセル。 |
フリーセル | なぜ、私の話などを。 |
メルクリア | わらわは何も知らぬが故に過ちを犯した。リビングドールもその一つじゃ。 |
メルクリア | 無知は罪だと知ったからには、知らねばならぬ。そなたは母上を知り、かつては義父上とも友だったと聞いておる。 |
メルクリア | 聞けば理解できるやもしれぬ。わらわを置いて死んだ母上のことや先ほどわらわを助けた義父上の心のうちもな。 |
メルクリア | もちろん、フリーセルのこともじゃぞ。わらわにそなたのことを教えて欲しい。聞いて、知って、理解したい。 |
フリーセル | メルクリア様……。 |
ナーザ | まずはその傷を治さねばならん。今だけは同行しろ。 |
ナーザ | それと、これだけは言っておく。この体の主を悪く言うことは許さぬ。これは我が友の体だ。 |
フリーセル | あなた方は……。 |
バルド | 驚いたかい ? |
フリーセル | ええ。もしや幼いフィリップも……。 |
バルド | ああ。きみの知る彼とは違うかもしれないね。誰しも新たな可能性を秘めているのだろう。 |
バルド | きみも、そして僕も。 |
エル | (ここ、どこだろう。ルドガーは ?) |
? ? ? | 見つけた ! きみはエル、だったよね。 |
エル | エルもあなたのこと知ってる。ジュニアでしょ ? |
ジュニア | うん。エルはどこか痛いところはある ?火柱……火に焼かれたみたいにならなかった ? |
エル | うん。さっきまですごく苦しかったけど、今は平気。ここってどこ ? |
ジュニア | きみと僕の心の中。僕たちは贄の紋章で繋がっていたから心の中も繋がっていたんだ。 |
ジュニア | でも、安心して。僕たちを繋ぐ贄の紋章は消えた。もう苦しいことはないから。 |
エル | よかった ! ジュニアは大丈夫 ? |
ジュニア | うん。優しいね、エルは。 |
エル | どういたしまして。あと、エル、ルドガーのところに戻りたいんだけど。 |
ジュニア | 僕たちのリンクはもうすぐ切れる。そうしたらエルの目が覚めるからきっと、すぐそばに――…………。 |
ルドガー | エル、エル ! |
エル | 本当だ……。ルドガー、いた。 |
ルドガー | エル ! よかった……。どうだ、痛いところはないか ? |
エル | うん、何ともないよ。ふふっ、ルドガー、ジュニアと同じこと言ってる。 |
ルドガー | ジュニア ? |
エル | 夢の中で会ったんだ。ニエのモンショーは消えたからもう大丈夫って言ってた。 |
イクス | 消えた ? 贄の紋章が ? |
ミリーナ | そういえば、逆しまの紋章は打ち込んでいないのに症状が治まっているわ。どういうことかしら。 |
エル | あれ ? ここってティル・ナ・ノーグ ?じゃあチトセは ? ルドガー、チトセと戦ったの ! ? |
ルドガー | 安心しろ。ほら、あそこだ。マティウスに付き添ってる。 |
エル | チトセ ! |
チトセ | エル…… ? |
エル | チトセ ! 大丈夫だったんだ ! |
チトセ | エル ! 気が付いたのね。よかっ……うっ……。 |
エル | チトセ ! ? どうしたの ? |
ミリーナ | マティウスさんをかばって怪我をしたの。治癒術で傷は塞がったけど傷が深かったからまだ痛むはずよ。 |
エル | チトセ……。 |
チトセ | 私は大丈夫。でも、まだマティウスさまが目を覚まさないの。 |
カーリャ | ルカさまもです……。 |
チトセ | マティウスさまとルカくん二人だけが気を失ったまま……。 |
エル | もしかしたら、エルとジュニアみたいに夢の中で話してるのかも。 |
チトセ | 二人が ?……そうね。そうかもしれないわ。 |
エル | ねえチトセ、エルもマティウスが起きるの一緒に待ってもいい ? |
チトセ | ええ、お願い。 |
キャラクター | 2話【20-2 墓守の街2】 |
マティウス | 私に新しい生き方など、できるはずがない。 |
ルカ | マティウス…… ? 姿が薄れてる…… ! |
マティウス | これは……。 |
アスラ | 心配するな。お前たちが元の世界に戻る兆しだろう。 |
マティウス | ……私に……できるはずが……。 |
チトセ | マティウスさま ! |
マティウス | チトセ……。 |
チトセ | 本当に……ご無事で何よりです。 |
マティウス | ……なぜ泣いている。 |
エル | そんなの、うれしいからだよ。ね、チトセ。 |
チトセ | ええ。もしもマティウスさまの目が覚めなかったら……私……。 |
スパーダ | ルカー ! なんだよ、心配したぜ !お前だけ目が覚めなくてよぉ ! |
ルドガー | ルカも無事みたいだな。 |
エル | ルドガー、これでみんな分史世界から戻ったんだよね ? |
ルドガー | ああ。全員無事で安心したよ。ティル・ナ・ノーグと俺たちの世界じゃ状況が違うからな。 |
マティウス | 分史世界は消えた、か。 |
イクス | マティウスさん……。 |
マティウス | さぞや私は滑稽に見えているだろうな。お前たちからも、ルカたちからも。 |
イクス | そう見えていたなら、みんなあんな必死にあなたを救おうとしていませんよ。 |
ミリーナ | ええ。チトセさんは命まで投げだして。 |
エル | そうだよ ! だからもう心配かけちゃだめだよ ?マティウスはチトセのアイボーなんだから。 |
マティウス | 相棒…… ? |
ミリーナ | ふふっ、エルったら。 |
ルカ | マティウス、君も目が覚めたんだね。 |
マティウス | …………。 |
ルカ | あのさ、『さっき』の話だけど―― |
マティウス | あれが全てだ。他に語ることはない。 |
ルカ | あっ、マティウス、待って ! |
カーリャ | マティウスさま、行っちゃいました……。 |
チトセ | ……私も―― |
イリア | あんた、まだあいつに拘るわけ ? |
チトセ | あなたには関係ないわ。指図しないで。 |
イリア | はぁ ? なんなのよ、その態度 ! |
ルカ | チトセさん、マティウスのこと、お願い。 |
チトセ | ルカくん……。 |
エル | チトセ……行くの ? |
チトセ | ええ。私もエルたちみたいな素敵な関係になれるように頑張りたいから。 |
エル | なれるよ ! エルも応援してるし ! |
チトセ | ありがとう。元気でね。 |
エルマーナ | ……結局、マティウスと行ってしもたなぁ。 |
イリア | せいせいするわ !ホント気が合わないったら。 |
イリア | ……まぁ、その方があいつらしいけど。 |
アンジュ | そうそう。いがみ合っているならまだ平和よ。あなたたちの気が合う時なんてよほどの緊急事態なんだから。 |
イリア | げ~、緊急事態でもそんなのありえな~い。 |
アンジュ | あら、でもあの時……。 |
リカルド | やめておけ。忘れているなら、その方がいい。 |
アンジュ | 意外と繊細ですね、リカルドさん。 |
キュキュ | でもあの二人、このまま行かせていいか ? |
ルカ | 『今の』チトセさんが一緒ならきっと大丈夫じゃないかな。 |
ルカ | それにさ、何か悪いことを考えるようならまた僕たちで止めればいいよ。 |
イリア | ルカ……。 |
エルマーナ | ルカ兄ちゃん、カッコいいで ! |
スパーダ | 言うようになったじゃねぇか。で ? 誰へのアピールだよ。 |
ルカ | そんなんじゃないってば……。 |
イリア | そ、そうね。その程度じゃカッコつけにもならないわ。 |
コンウェイ | ふうん。 |
イリア | ……なによ、言いたいことがあるならはっきりしなさいよ ! |
コーダ | じゃあ言うぞ ! 腹がへったんだな、しかし ! |
カーリャ | コーダさまはたくましいですねぇ。色々ありすぎてカーリャはお腹空くのも忘れてました。 |
ミリーナ | そうよね。でも、まだ気は抜けないわ。 |
イクス | ああ。分史世界からは戻ってこられたけどデミトリアス陛下たちも、フリーセルもいない。あれからどうなったのか―― |
イクス | 通信 ? ナーザ将軍からだ。――イクスです。 |
ナーザ | お前たち、ティル・ナ・ノーグにいるんだな ?分史世界に行っていたのか。 |
イクス | はい。分史世界は消滅させました。 |
ナーザ | そうか。ジュニアの言ったとおりだな。 |
イクス | その話なんですけど俺たち分史世界から戻ったばかりでこっちの世界で何が起きたのかわかっていないんです。 |
ナーザ | 承知している。こちらもその件で連絡した。まず現在の状況を伝える。 |
ナーザ | グラスティンたちだが分史世界の消滅を知って撤退した。 |
イクス | やっぱり、分史世界がなければニーベルングの具現化ができないからか。 |
ミリーナ | だとしたら、これで帝国の計画は頓挫したことになるわね。 |
ナーザ | いや、奴らは諦めていない。まだ手があるような口ぶりだった。 |
イクス | まだ ! ? 帝国は何を考えているんですか ? |
ナーザ | それを知るための情報交換だ。互いにこれまで起こった事を整理するぞ。 |
キャラクター | 4話【20-7 アジト1】 |
ジェイド | では、あなた方とビフレスト側の話を総合すると対の紋章は発動しかけたものの分史世界を消滅させたことにより阻止した、と。 |
三人 | 「でもあの虹は――」「けどよ、あの空――」「虹の橋がまだ――」 |
リフィル | 言いたいことはわかるけど全回線を繋げてみんなに聞いてもらっているのだからいっぺんに話さないでちょうだい。 |
イクス | カイルたちが言ったとおり、虹の橋は消えていない。分史世界が消滅したなら消えていいはずなのにな。 |
イクス | もしかしたら、帝国が打つ『次の手』ってやつに関係していて消えないのかもしれないし別の理由があるのかもしれない。 |
カーリャ | わからないことだらけですねぇ……。 |
ミラ=マクスウェル | 少し気になることがある。あの虹の橋の方からマクスウェルの残滓を感じるのだ。 |
ミラ=マクスウェル | 確か、この世界のマクスウェルは虹の橋の守護者だったのだろう ?そこから何か探れないか ? |
クラース | なるほど。では、精霊研究室のメンバーと精霊諸君で調査を進めるとしよう。天族のみんなも準備を頼む。 |
エドナ | わかったわ。次回のお茶会の差し入れと余興が楽しみね。 |
ミクリオ | おい、クラースに何をさせる気だ。 |
エドナ | あら、それじゃミボが代わりになるのね。余興、期待しているわ。 |
クラース | ミクリオが余興なら私は差し入れを考えておこう。 |
ミクリオ | クラース ! ? |
セルシウス | うまく逃げたわね、クラース。 |
シャーリィ | あの……その調査ですけどお邪魔でなければ、わたしも同行させてください。 |
セネル | シャーリィ ? |
マオ | あ、ボクもボクも !シャーリィに先越されちゃったヨ。 |
ヴェイグ | マオもか。どうしてだ ? |
マオ | 虹の橋を架けるのに必要な贄の紋章の人たちってみんな領主だったよね。けど、ボクとシャーリィだけ例外。 |
マオ | しかもルグの槍が起動した時ボクたちだけは精霊の力で守られていた。これって関係ありそうじゃない ? |
シャーリィ | そう思います。グラスティンもウンディーネと近しいわたしには、意味があって贄の紋章を入れたようですから。 |
シャーリィ | もしかすると、精霊の力を利用しようと考えていたのかもしれません。 |
クラース | 確かに。だがそうなると……。 |
セネル | 今度は俺も一緒に行く。 |
ヴェイグ | オレもだ。 |
クラース | やはりそうなるか。では、君たちにも加わってもらおう。大所帯になりそうだ。 |
クラース | おっと、こちらで勝手に進めてしまったが構わないかね ? |
イクス | もちろんです。助かります ! |
ジェイド | 私からもいいでしょうか。贄の紋章を持つ方々はすでに検査を受けて承知のことと思いますが念のためこの会議で報告をさせてください。 |
ジェイド | ジュニアと対になっていたエルの贄の紋章ですが逆しまの紋章で封じるまでもなく完全に消去されていたことが判明しました。 |
ジェイド | それに伴い、他の方々の検査も行ったところ全ての贄の紋章が消滅していました。相違ありませんね、ハロルド。 |
ハロルド | ええ。きれいさっぱり消えてたわ。 |
リフィル | どうしたの ? 不機嫌ね。 |
キール | ハロルドは自分で紋章を消したかったんだ。 |
カーリャ | ハロルドさま…… !そこまで皆さんのことを思って研究していたんですね。感動です ! |
ハロルド | っていうか、ルドガーが分史世界を消滅させたことで連動して消えたじゃない ? |
ハロルド | 消える瞬間とか、データとして残したかったのよねぇ。こんなことなら一人くらい隔離して装置に繋いで常時データ収集でもしとけばよかった。 |
カーリャ | もうしゃべらないでください、ハロルドさま……。感動がモリモリ減っていきます……。 |
ジェイド | もはや言動が悪役ですねぇ。 |
カーリャ | ジェイドさまだけには言われたくないと思います。 |
カーリャ・N | イクス様、ミリーナ様、会議中失礼します。 |
イクス | ネヴァン、お帰り……え、ヨウ・ビクエも ! ? |
ヨウ・ビクエ | お邪魔するわね ! イクス。 |
リフィル | ヨウ・ビクエが来たということは込み入った話がありそうね。会議は一旦休憩にしましょうか。 |
カーリャ・N | すみません。みなさんもお忙しいでしょうに。 |
ミリーナ | いいのよ。ゲフィオンに何かあった ? |
カーリャ・N | ゲフィオン様は……人体万華鏡は内側から崩壊し始めています。 |
カーリャ | 先輩……。 |
カーリャ・N | 今は外からの封印を強化していますが崩壊は時間の問題かと思われます。 |
ミリーナ | まずいわね。ゲフィオンの人体万華鏡が崩壊したら虚無から死の砂嵐が流れ込んでしまう。 |
イクス | 死の砂嵐、か……。 |
ミリーナ | イクス、まさかまたスタックオーバーレイで塞ごうなんて考えていないわよね。 |
イクス | いや、それは大丈夫だから安心してくれ。 |
ヨウ・ビクエ | 一応、いい話もあるのよ ?ダーナ様の心核の修復が終わったの。 |
ヨウ・ビクエ | これまでは不安定だったティル・ナ・ノーグも世界の要であるダーナ様の心核が強固であれば今すぐに崩壊するということはないわ。 |
カーリャ | それは確かにいい話ですね ! |
ヨウ・ビクエ | それでね、今日ここに来たのはダーナ様からイクスに話があるからなの。 |
イクス | ダーナ ! ? |
ヨウ・ビクエ | それとイクスの中のバロールも一緒に話を聞いてもらわないと。 |
イクス | やはり知っているんですね。確かにバロールはいますがなんていうか、今はちょっと複雑な状態で……。 |
ヨウ・ビクエ | 大丈夫よ。さ、私と手を合わせて。私とあなたの心を連結させるわ。 |
イクス | こうですか ? |
ヨウ・ビクエ | ええ。では、行ってらっしゃい、イクス。 |
キャラクター | 5話【20-8 イクスの心1】 |
イクス | さて、心の中に入ったはいいけどダーナはどこにいるんだろう。 |
ヨウ・ビクエ ? | 待たせましたね、イクス。 |
イクス | ヨウ・ビクエ。ダーナから話があるって言ってましたけどどうしたらいいんですか ? |
ダーナ | 私がダーナです。今はヨーランドの姿を借りています。 |
イクス | あなたが、ダーナ……様。 |
ダーナ | そんなに畏まらなくてよいのですよ。 |
イクス(1st) | イクス、何があったんだ ? |
イクス | イクスさん ! 目が覚めたんですね。 |
イクス(1st) | 起きるよ、そりゃ。そこにいるの女神ダーナ……だよな ? |
ダーナ | イクスの中の、さらに奥深く……あなたの中にいるのですね、バロールは。 |
イクス | ダーナ様から俺やバロールに話があるそうです。それで心の中に来てもらいました。 |
イクス(1st) | そうだったのか。じゃあ俺、バロールに代わった方がいいんだよな ? |
イクス | 代わるって、大丈夫ですか ?そのまま乗っ取られたりとか……。 |
イクス(1st) | 今は俺の力が勝ってるから何かあっても抑え込めると思うよ。 |
イクス | 神であった人に勝ってるなんてすごいですよね……。 |
イクス(1st) | それ、本気で言ってるのかい ? |
イクス | え…… ? |
ダーナ | 二人とも。少しお待ちなさい。私の話には、あと二人必要なのです。もうすぐ現れます。 |
フィリップ | えっ ! ? あれ ! ? ここって…… ? |
イクス | フィルさん ! |
フィリップ | イクス ! じゃあここは……。 |
イクス | 俺の心の中です。もしかして予告なしで飛ばされました ? |
フィリップ | うん。分史世界の件で浮遊島に向かっている途中だったんだ。 |
フィリップ | そうしたら、何か声が聞こえて気が付いたらここに……。 |
フィリップ | ヨーランド ? いや、あなたは……ダーナ、ですか ? |
ダーナ | ええ。察しがいいですね、フィリップ。久し振りです。魔の空域で話をして以来ですね。アイフリード……ナーザの件ではありがとう。 |
フィリップ | いえ、あれは僕だけではなくてイクスや異世界の皆が力を合わせたおかげで……。それに結局ナーザの心核を利用されてしまいましたし。 |
ダーナ | ……それについては、あとで話しましょう。 |
フィリップ | わかりました。あの……そっちにいるのはナーザ将軍――いや、違うような気がするな。きみは…… ? |
イクス(1st) | …………。 |
イクス | あ……ええと、あの……。フィルさん、こちらは―― |
イクス(1st) | 待て、イクス。 |
バロール | ……ダーナ、久しいな。 |
イクス | (イクスさん、バロールに代わったのか) |
ダーナ | バロール。もう一人、ここへ来ます。ナーザの血を引く子供が。 |
ウォーデン | ここは…… ? |
フィリップ | ! あなたは、まさか……。 |
ウォーデン | イクスか。これはどういうことだ ? |
イクス | …… ?あの、どちら様でしたっけ…… ? |
ウォーデン | 何を言っている。俺はナーザ……。 |
ウォーデン | この髪……、この姿は……。 |
イクス | ナーザって……あなたはナーザ将軍ですか ! ? |
フィリップ | うん、間違いない。ビフレスト皇太子ウォーデン・ロート・ニーベルング。ナーザ将軍の本来の姿だよ。 |
ウォーデン | どういうことだ。イクス、いやビクエでもいい。説明しろ。 |
イクス | ここは俺の心の中です。ナーザ将軍を呼んだのはこちらにいる……今はヨウ・ビクエの姿ですけど女神ダーナが、俺たちを呼び出したんです。 |
ダーナ | ようこそ、ウォーデン。此度は本来のあなたとして向き合ってもらえるようその姿で招きました。 |
ウォーデン | ダーナ……、では先ほどのお声が ! |
ウォーデン | ご無礼仕りました。太陽神ダーナよ。御身を祀る一族でありながら、かような不甲斐なき顛末を迎えたこと、伏してお詫び申し上げます。 |
イクス | お詫びって、ナーザ将軍……。 |
ウォーデン | ビフレスト皇族は女神ダーナの祭司の末裔。ダーナの教えを守り、伝えるのが使命だ。だが力及ばず、世界は破滅へと踏み出してしまった。 |
バロール | 貴様らは真理を理解せず愚直に守るばかりだったからな。 |
ウォーデン | ……貴様、バロールか。 |
イクス | あの……。 |
ウォーデン | わかっている。今はダーナ様の御前。見苦しい真似はすまい。 |
ダーナ | では、始めましょうか。今世の『約束の子供たち』よ。希望の灯火を絶やさぬ為に。 |
ダーナ | あなたたちはすでに私やバロールから伝えられていますね。何故、このティル・ナ・ノーグが作られたのか。 |
ダーナ | ここはかつて自らの星を滅ぼした罪人たちの揺り籠。ですが、単なる星ではありません。ティル・ナ・ノーグは私の仮想鏡界の中の星です。 |
ウォーデン | この世界そのものがダーナの仮想鏡界……。だから『ダーナの』揺り籠、か。 |
ダーナ | 私はまず、できうる限り広大な仮想鏡界を作り出しました。 |
ダーナ | その中で、私は自らの体を大地に変え心は心核として残すことでティル・ナ・ノーグを生み出したのです。 |
ダーナ | この計画には、想像を創造に変え命を生み出すバロールの力が必要不可欠でした。 |
ダーナ | そしてバロールは、仮想鏡界の中の想像に過ぎなかったティル・ナ・ノーグを仮想鏡界ごと星として具現化してくれました。 |
ダーナ | 星という巨大なものを創るためには、仮想鏡界――心の壁すらも具現化する必要があったのです。 |
ダーナ | そして最後に、ナーザが虹の橋をかけて人々を移住させ精霊たちを新たな地の守護者にしました。 |
ダーナ | こうして、ティル・ナ・ノーグは完成に至ったのです。 |
イクス | 浮遊島と同じ……いや、仮想鏡界そのものを具現化しているんだから、それ以上か……。 |
イクス | では、ティル・ナ・ノーグという世界はあなたそのもの、ということですか ? |
ダーナ | ええ。鏡士である私の仮想鏡界の中だからこそ鏡士が神のごとき力を使うことができるのです。 |
ダーナ | ですが、私の心の中だからこそいくつか危険なこともありました。その一つが鏡精の存在です。 |
イクス | そうか。人の心の中で、別の人の心を具現化している……ってことだから鏡写しの繰り返しみたいになるのか。 |
ウォーデン | 鏡精を作る度、異常なエネルギーが発生しスタックされ続ける……。 |
ダーナ | ええ。この環境の中で鏡精を生み出し続けると何が起こるかわかりませんでした。 |
ダーナ | そのために、この地に移住した者たちには決して鏡精を生み出さないよう告げました。 |
フィリップ | …………。 |
ダーナ | もちろん、私もナーザも自らの鏡精を切り離し今後は人間としてこの世界を見守ってくれるよう頼みました。 |
ダーナ | こうしてティル・ナ・ノーグを鏡精がいない世界としたのです。 |
ウォーデン | 鏡精を禁じた世界ならばなぜ『バロールの鏡精』だけ名指しで伝承が伝わっているのでしょう。 |
ダーナ | バロールだけは特別だったのです。 |
バロール | ……俺はルグを自分の鏡精をニーベルングに残していた。 |
バロール | ニーベルングの文明は滅びたが星そのものは、まだかろうじて生きている。 |
バロール | ニーベルングが再び人の住める星となった時にそれを伝えに来る役目を我が鏡精が請け負っているのだ。 |
ダーナ | ナーザの虹の橋を正しく機能させるためには精霊と鏡精の力が必要です。 |
ダーナ | それ故に、バロールの血族には限定的に鏡精を作ることが許されていました。 |
ダーナ | ですが、この決まり事は時を経て拡大解釈され世界の危機であると感じたのなら鏡士は鏡精を作ってもよいと思われたようです。 |
フィリップ | それが……今に至ると。 |
ダーナ | ええ。私たちが神にされてしまったようにあらゆる事が歪んで伝わってしまった。 |
ウォーデン | 我らの祈りが間違っていたと仰せか ? |
ダーナ | いいえ。私たちの配慮が足らなかったのです。世界を創造するということが、どのように人々に伝わっていくのかを。 |
バロール | ダーナもナーザも、世界の成り立ちやニーベルングへの回帰を、後の世に伝えることを放棄していたわけではない。 |
ダーナ | ティル・ナ・ノーグは仮想鏡界の具現化。どれだけ補強しても脆い存在なのです。 |
ダーナ | 世界に綻びが出るかも知れない。その時には鏡士たちに修復の協力を依頼しなければならない。 |
ダーナ | その時に力を貸してくれる存在こそが私たちの力を受け継ぐ子供――『約束の子供たち』だったのです。 |
ダーナ | 私はこの世界の創った目的や想いをそして『約束の子供たち』の役割を伝えるべく何百年かに一度顕現できるように務めました。 |
ダーナ | 世界が滅びに瀕したときに、力を貸してもらえるよう。いつかニーベルングへ戻る日までこの世界を受け継いでもらうために。 |
フィリップ | そして僕たちがこの時代の『約束の子供たち』なのですね。 |
ダーナ | ええ。バロールの子孫、イクス。ナーザ・アイフリードの子孫、ウォーデン。そして私の子孫、フィリップ。 |
ダーナ | 私の顕現の時は、すぐそこまで近づいていました。ですが、その前に、本来予測していた仮想鏡界の異常とは違う滅びの予兆を感じ取りました。 |
ダーナ | 鏡精の増殖と死滅です。 |
イクス | セールンドのエネルギー政策か……。 |
ダーナ | 私は少しでも早く顕現しようとオーデンセにいる私の子孫に接触しようとしたのです。 |
フィリップ | それが、あの水鏡の森で僕が見たあなたですか。 |
ダーナ | ええ。私と近しいあなたでもわずかに声を聞き取るのが精いっぱいだったでしょう ?やはりあの時では力が足りなかったのです。 |
ダーナ | 私からは縁が遠いナーザの子孫に言葉を伝えるのはもっと時間がかかりました。 |
ウォーデン | 知の乙女たる我が母エルダが受けた託宣か。我が国はダーナの言葉に従い脅威を取り除こうと考えた。 |
ウォーデン | 鏡精を生み続けるセールンドを何としても止めねばならぬ、と。しかしそれが―― |
ダーナ | ……ええ。本来は手を取り合って進むべき者たちが剣を突きつけ、破滅へと向かってしまった。 |
ダーナ | この顛末は、何よりあなたこそが不本意であったでしょう、バロール。 |
バロール | …………。 |
ダーナ | あなたは、私との約束どおりあるべき世界の形を守ろうとしていた。 |
バロール | ……ルグを一人ニーベルングへと置き去りにしながら己はおめおめと生き延びそしてお前を犠牲にし……そうまでして創った世界だ。 |
バロール | 俺が守りたかった世界はお前やナーザと創ったティル・ナ・ノーグのみ。 |
バロール | このようにいびつな継ぎはぎのティル・ナ・ノーグではない。 |
ダーナ | ええ。あなたが私たちのティル・ナ・ノーグを大事に思ってくれていること、嬉しく思います。 |
キャラクター | 6話【20-9 イクスの心2】 |
イクス | 待ってください !女神ダーナ、あなたもバロールと同じ考えなのですか ? |
ダーナ | …………。 |
イクス | もしそうなら、俺はあなたたちとも対立することになります。 |
イクス | 俺は、継ぎはぎだらけでも、この世界を存続させたい。そのために戦っています。 |
バロール | ダーナは世界そのものだ。お前は世界に弓引くつもりか ? |
イクス | さっきの話で、俺たちは世界の在り方を知った。鏡士である俺も、この世界の内側でならあなたたちと同等の力を使うことができる筈だ。 |
フィリップ | イクス、落ち着いて。ダーナはまだ何も言ってないだろう ? |
イクス | …………。 |
フィリップ | 大丈夫。僕たちを滅ぼすつもりならもうとっくにしているはずだ。 |
フィリップ | それに、鏡士を三人も呼んでおいて『自分が不利になる話』はしないはずだよ。 |
イクス | えっ、それって……フィルさん。 |
バロール | つまり、お前もイクスの肩を持つということか。当代のビクエよ。 |
フィリップ | ダーナの話を聞こうと言っているだけです。 |
ウォーデン | …………。 |
ダーナ | フィリップの言うとおりです。皆、私の話を聞いてください。 |
ダーナ | 私は、今あるティル・ナ・ノーグを見捨てはしません。安心してください、イクス。 |
ダーナ | 私は今のこの世界も過去の世界も救いたいと思っています。そのためにここにいる約束の子供たちやバロールやイクスの力を貸して欲しいのです。 |
ダーナ | 今のティル・ナ・ノーグが本当に目指すべき未来へ進むために。 |
イクス | よかった……。そういうことならもちろん協力させてください。 |
フィリップ | ああ。僕たちにできることなら。 |
ウォーデン | あなたが神であることを否定しても、我らにとっては国の礎たる太陽神であることに変わりはない。 |
ウォーデン | あなたの意向を正しく汲み取れなかったは祭司として未熟でありました。太陽神ダーナ。あなたの望みのままに。 |
ダーナ | ありがとう。今、世界には二つの危機が迫っています。一つはアスガルド帝国による新たなニーベルングの創造と移住です。 |
バロール | まだルグ――俺の鏡精からニーベルングに戻れるという報告は来ていない。戻れる状態ではないのだろう。 |
バロール | それを知っているから、帝国とやらも、ニーベルングを新たに創ろうとしているのだろうな。 |
ダーナ | 彼らが何のために、ニーベルングへの回帰を早めようとしているのかはわかりません。 |
ダーナ | ですが彼らがやろうとしていることは私の仮想鏡界を破壊することに他なりません。それは何としても食い止めなければ。 |
ウォーデン | もう一つの危機というのは死の砂嵐のことでしょうか。 |
ダーナ | ええ、そうです。かつてバロールが生み出したフィンブルヴェトル。これはバロールあなたにお任せしても構いませんね。 |
バロール | 今の俺には無理だ。ルグと同じ魔眼を持つ鏡精が俺のコントロールをはねのけた。 |
バロール | フィンブルヴェトルの中にある邪魔な異物を消さない限り、どうすることもできぬ。 |
イクス | え ! ? ルグと同じ魔眼を持つ鏡精ってコーキスのことですか ! ? |
ウォーデン | そういえば、バルドが肉体を取り戻したときコーキスはバロールの力を使ったな。 |
バロール | そうだ。しかし今の奴には俺の声が届かない。知らぬ間に、鏡士との絆が強固になった。何かが奴の心持ちを変えた。 |
イクス | え…… ? |
ウォーデン | コーキスをコントロールすれば死の砂嵐が消せるというならイクス・ネーヴェがバロールの力を使えばいい。 |
ウォーデン | この者も『約束の子供たち』であるならできるのではないか ? |
ダーナ | それは……―― |
イクス | 俺、やります。俺にできるというならやらせてください !ゲフィオンもそれを望んでいる筈です ! |
バロール | いいだろう。お前がやるというなら力を貸してもいい。どれだけの負担がお前に掛かるかわからないがそれでもいいと言うのならな。 |
イクス | それは……正直不安ですけど……。具体的な方法や結果について事前に共有してもらえるんですよね ? |
バロール | ……お前は本当に俺の血を引いているのか ? |
イクス | な、何ですか ? 詳しい話を聞いて準備をするのは当然のことじゃないですか。 |
ダーナ | バロール……。その子を苦しめないで。 |
バロール | わかっている。だが、このいびつな世界を守る役目はいびつな存在にこそふさわしかろう。 |
バロール | イクス。俺は今のティル・ナ・ノーグは好かん。だが、元のティル・ナ・ノーグを取り返すためならば力を貸してもいい。 |
バロール | まずはフィンブルヴェトルから異物を取り除け。その為の尖兵がお前の鏡精コーキスと俺の力を分け与えたバルドだ。 |
ウォーデン | まだバルドを勝手に使うつもりか ! ? |
バロール | あの者が望んだことだ。あの者は生きたい――生きて故国を取り戻したいという感情に蓋をしていた。 |
バロール | 奴を使わねば、フィンブルヴェトルの異物を取り除くことはできない。 |
イクス | ウォーデンさん、まずは俺にやらせてみてください。バロールから詳しい話を聞いて、問題のない計画だとわかれば、あなたやバルドさんから許可を取ります。 |
ウォーデン | ………………わかった。 |
ダーナ | 死の砂嵐はイクスとバロールに任せます。また、帝国の計画を止めるには精霊たちの力を借りる必要があるでしょう。 |
フィリップ | 精霊、ですか ? |
ダーナ | この世界を守る最終防衛圏が精霊なのです。ですが、クロノスの力は帝国に抑えられマクスウェルは死にました。 |
ダーナ | マクスウェルを甦らせるのです。その為にはオリジンの助けが必要になる。帝国にオリジンを奪われてはなりません。 |
ダーナ | こちらはウォーデンあなたにお願いしたいと思います。 |
ウォーデン | それは私がナーザ神の血を受け継いでいるからでしょうか。 |
ダーナ | その通りです。ナーザは精霊の生みの親。 |
ダーナ | 鏡の精霊にナーザが――ナーザ・アイフリードが取り込まれている今、対抗し得るとすればあなたの存在しかあり得ない。 |
ダーナ | マクスウェルを甦らせれば、鏡の精霊の前世として取り込まれた彼を呼び戻せるはずです。 |
ダーナ | 精霊たちと彼が揃えばこの世界の防衛圏が本来の力を取り戻しニーベルングの創造を阻止できる筈。 |
フィリップ | 僕は何をすればいいでしょうか。 |
ダーナ | あなたにはもう一つのティル・ナ・ノーグを創造してもらいます。 |
三人 | ! ? |
ダーナ | 詳しくはヨーランドが知っています。ヨーランドはその為にダーナの巫女として今まで眠りについていたのですから。 |
フィリップ | そういえばヨウ・ビクエはあなたの鏡精の子孫だと聞きましたが、人間である彼女がどうしてこんなにも長命なのでしょうか。 |
ダーナ | 彼女は私の鏡精ビクトリエにかなり近い存在でした。そして魔鏡術に長けていた。故に顕現していない私の心の声を感じ取ることができたのです。 |
ダーナ | 私はいつか訪れる危機に備え、ヨーランドを擬似的な鏡精として取り込みました。彼女は人間ですが、私の心と繋がっています。 |
イクス | そんなことができるなんて……。 |
ダーナ | この世界は私の仮想鏡界ですからね。 |
ダーナ | けれど、ヨーランドはまだ目覚める時ではなかった。私が予測した滅びの時は――私の心が限界を迎えるのはもっとずっと後になる筈でした……。 |
バロール | まさか、この世界に住む人間がお前の体を消滅させてフィンブルヴェトルを生み出すとは思わなかった。つくづく業が深い。 |
イクス | ………………。 |
キャラクター | 7話【20-10 イクスの心3】 |
ダーナ | 私は自分の体を――この世界を維持することを優先しなければなりません。あなたたちへの助力は僅かなものになってしまいます。 |
ダーナ | ですが、ヨーランドを通じてできる限りのことはするつもりです。 |
フィリップ | あなたの心核は大丈夫でしょうか。意識をヨウ・ビクエに飛ばしておくと無防備になってしまうのでは……。 |
ダーナ | 心の精霊ヴェリウスに管理を任せていますから何かあればすぐに知らせてくれる筈です。 |
バロール | そうやって、また己をないがしろにするか。 |
ダーナ | バロール、勝手を許してください。できればあなたも、もう少しだけこの子たちに心を開いてくれるとよいのだけれど。 |
バロール | ……俺が守るティル・ナ・ノーグは、もう滅びた。今世を生きる愚か者たちによってな。 |
イクス | バロール……。 |
ダーナ | イクス、そして約束の子供たちよ。あなたたちには辛い役目を背負わせました。本当に申し訳なく思います。 |
ダーナ | それでも私はあなた方に願います。どうか一緒にこの世界を救ってください。 |
イクス | はい ! |
ウォーデン | 御意。 |
フィリップ | 承知しました。 |
バロール ? | …………。 |
ダーナ | では、私はこれで。あなた方もすぐに自分の体に戻るでしょうから心配はいりませんよ。 |
イクス | ……はぁ。何だか色々あったなぁ……。フィルさん、さっきはありがとうございました。 |
フィリップ | …………。 |
イクス | フィルさん ? |
フィリップ | ……君は……イクス、だよね。 |
イクス | ! ?フィ、フィルさん、何を―― |
イクス1st | ははっ、バレてたか。せっかくバロールっぽくしてたのにな。 |
イクス1st | 久しぶり、フィル。 |
フィリップ | イクス……、本当にイクスなんだね。 |
イクス1st | ああ。けど、なんで俺だってわかった ? |
フィリップ | ダーナが、約束の子供たちと三人目のイクスを分けて話していたように感じたんだ。 |
フィリップ | それでここにバロールの血族がもう一人いると思った。となると、最初のイクスしかいない。 |
イクス1st | さすがフィルだ !さっきもバロールの中から見てたけどさビクエになって頼もしくなったよな。 |
イクス1st | 特にイクスの味方したところとか、格好よかったよ。 |
フィリップ | 今どういう状態なの ? 生きてるの ? |
イクス1st | いや、ちゃんと死んでるよ。今の俺は幽霊みたいなものなんだ。いずれ消える。 |
フィリップ | 消える……。………………イクス、ごめん。 |
イクス1st | フィル ? 消えるのは別にお前のせいじゃ―― |
フィリップ | 僕はイクスを刺した ! 殺そうとした……。それでもかばってくれたのに僕はイクスと向き合わずに逃げた。 |
フィリップ | 手紙も、勇気がなくて読んだのは最近だ。僕はずっと逃げ続けてたんだ。 |
フィリップ | 今さら遅いのはわかっている。でも、ちゃんと言わなきゃ駄目だ。だから聞いてほしい。 |
フィリップ | 僕はイクスにもミリーナにも好かれたくて自分のことしか考えられなかった。 |
フィリップ | 傷つけてごめんなさい、イクス。 |
イクス1st | フィル……。 |
イクス1st | やっと、俺の目を見て言ってくれたな。 |
フィリップ | イ、イクス ? 痛いよ……。 |
イクス1st | はははっ、だって嬉しくてさ !つい力が入っちゃったよ。 |
イクス1st | あのさ、フィル。さっきから自分のこと逃げたって言ってるけど結局こうして俺の前にいるじゃないか。 |
イクス1st | 誰だって間違えることはあるよ。その間違いを悔やんでいると、ちゃんと伝えてくれた。逃げ出さなかったフィルは、やっぱり格好いいんだよ。 |
フィリップ | イクス……僕……。 |
イクス | あっ、フィルさんが ! |
イクス1st | 身体の方が目覚めたのかもな。もう少し話したかったけど。 |
ウォーデン | ならば俺もそろそろ消えるだろう。……しかし、お前の寛容さには調子を狂わされるな。お前のような者が側にいてはビクエも苦労したろうよ。 |
イクス1st | 俺が寛容 ? 言うべきことは言ってるよ。『この前』みたいにね。皇太子殿。 |
ウォーデン | なるほど。確かにな。 |
イクス | (珍しい……。ナーザ将軍が笑ってる) |
ウォーデン | ああ、そうだ。イクス、コーキスのことだがそろそろ戻るかもしれないぞ。 |
イクス | 本当ですか ! ? いつ戻るって言ってました ? |
ウォーデン | さあな。あれを見ていてそう感じただけだ。それに死の砂嵐を消すためにはコーキスとバルドはお前の下に向かう必要があるだろう―― |
イクス1st | ナーザ将軍も戻ったか。それじゃあイクス、また後で―― |
イクス | …………あれ、俺も戻ったのか。 |
ミリーナ | お帰りなさい。気分はどう ? |
イクス | うん、問題ないよ。ここ、医務室か。 |
ミリーナ | ええ。みんなが気絶したイクスを運んでくれたの。 |
イクス | そうか、お礼言わないと。しかし色々びっくりしたなぁ……。 |
ミリーナ | ダーナ様の話よね ? 聞いてもいい ? |
イクス | ああ、もちろん。心の中でダーナと会ったんだけどさそこにはフィルさんや、ナーザ将軍も呼ばれていて―― |
ミリーナ | そう。最初のイクスとフィルがそんな形で出会えるなんて……。 |
ミリーナ | 最初のイクスのことはフィルにとっての心残りだったはずよ。これで一つ、解消されたのよね。よかった……。 |
イクス | ところで、俺が寝てる間に何か変わったことは ? |
ミリーナ | あの後、各班の代表者と元領主たちの会議になって帝国への反転攻勢を試みることになったの。まだ今も話し合ってるところよ。 |
ミリーナ | 今までは帝国の目的がわからなくて手をこまねいていたでしょう ? |
ミリーナ | でも分史世界を破壊したことで、前世を持った人たちやクルスニクの鍵であるエルを使った帝国の計画は暗礁に乗り上げたと見ていいわ。 |
イクス | ああ。けど、次の手が来る可能性もあるってナーザ将軍たちは言ってたよな。 |
ミリーナ | ええ。だからこそ、このわずかな隙に帝国を足元から崩してしまおうというわけ。 |
ミリーナ | 以前の会議で出たとおり、アセリア領を中心に反乱作戦を実行する手筈よ。 |
イクス | わかった。俺たちも準備しないとな。 |
マルタ | イクス、起きてたらこっちの病室に来てもらえないかな。 |
イクス | マルタ、どうしたんだ ? |
ミリーナ | ブルートさんに何かあったの ? |
マルタ | ううん、パパは大丈夫。いつかちゃんと目を覚ますってヨウ・ビクエが言ってくれたし。 |
ミリーナ | ヨウ・ビクエ様も目を覚ましていたのね。 |
マルタ | ついさっきね。ついでにって言って、眠ってるみんなを診てくれたんだけど、ロミーが……。 |
ルキウス | ロミー……。 |
イクス | ルキウス、ロミーの容体はどうだ ? |
ヨウ・ビクエ | あら、イクス。起きたのね。 |
イクス | ヨウ・ビクエ。ロミーがかなり衰弱していると聞きました。 |
ヨウ・ビクエ | ええ。この子、ファントムのように心核が崩壊寸前なのよ。 |
ルキウス | ……このままだと、ロミーはどうなるんですか。 |
ヨウ・ビクエ | 確実に命を落とすわ。 |
ルキウス | ……そうですか。覚悟はしておきます。 |
マルタ | ルキウス ! 諦めちゃうの ! ? |
ルキウス | 元々ロミーは『スポット』という怪物に乗っ取られていた。元の世界でも戻すことはできなかったんだよ。 |
ルキウス | だから、もし目を覚ましてみんなを襲うようならボクが何とかしようと思っていた。 |
マルタ | それってロミーを……。 |
イクス | ルキウス、今のロミーからはその『スポット』って怪物が離れているかもしれないんだ。 |
ルキウス | えっ ! ? |
ミリーナ | 私たちも、さっき知ったばかりなの。もしもロミーを助けることができたら、あるいは……。 |
ヨウ・ビクエ | そうね。幸い私の中にはダーナ様もいらっしゃることだしお力を借りて治療してみましょうか。 |
ルキウス | お願いします ! |
ヨウ・ビクエ | そういうわけだから、こっちは任せて。あなたたちは自分の仕事をしてらっしゃい。 |
イクス | はい ! |
キャラクター | 8話【20-12 海上1】 |
ナーザ | ……戻ったか。 |
メルクリア | 兄上様 ! 気がつかれましたか ! |
ナーザ | ……どうした、メルクリア。何を泣いている。 |
メルクリア | あ、兄上様が突然、お、お倒れになったので……。 |
ナーザ | だからと言って……。いや、それほどまでに心配させたのだな。すまなかった。 |
メルクリア | いいえ、わらわこそ見苦しいところをお見せして恥ずかしい限りです。 |
バルド | 見苦しいなどとんでもない。その美しい涙はビフレストの至宝です。故に、あまり流されてはもったいのうございますよ。 |
メルクリア | 言われるまでもないわ。今ので涙が引っ込んでしもうた。 |
バルド | フフフ、それは何よりです。 |
ナーザ | バルド、船は予定通りに進んでいるか ? |
バルド | ええ。救世軍の地上基地へ身を寄せるべく向かっております。 |
バルド | 先ほどヴァンからも、地上基地で合流するとの通信文が入りました。 |
バルド | それで、誰に『呼ばれた』のですか ? |
ナーザ | 気づいていたのか。 |
バルド | ええ。倒れる直前に「声が」と呟いておられましたので。 |
バルド | 私やコーキスがバロールに呼ばれたように何者かがナーザ様に接触してきたのではないかと。 |
コーキス | そうか。それでバルドは冷静だったんだな。 |
バルド | フフ、そう見えていたなら何よりです。まあ、事と次第によってはぶしつけに接触してきた者を許しはしませんが。 |
ナーザ | その言葉、後悔するぞ ?俺を呼んだのは、女神ダーナだ。 |
フリーセル | ダーナ ! ? |
バルド | 驚きました。直接お言葉を賜ったのですか。 |
ナーザ | ああ。イクスの心の中に呼ばれてな。ビクエやバロールも一緒であった。 |
コーキス | ええっ、マスターの ! ? ずるいよボスだけ……。 |
ジュニア | 今の話、本当ですか ? |
ナーザ | ジュニア、もう動いていいのか ? |
ジュニア | はい。リヒターさんにも確認してもらいました。 |
リヒター | グラスティンに上書きされた際のダメージはあるが今のところ問題はないようだ。 |
ジュニア | ナーザ将軍、大きいフィリップとイクスがダーナに会ったという話、聞かせてください。 |
ナーザ | 無論、皆に聞いてもらう。我が神から託されたお言葉だ。心して聞け。 |
コーキス | ええと……何か途方もない話だったな。俺たちの住むティル・ナ・ノーグが女神ダーナの体で……ええと……。 |
リヒター | 何にせよ、今の話は帝国も知っているだろうな。奴らはルグの槍を切り札にしていた。 |
リヒター | あればかりはティル・ナ・ノーグの成り立ちを知らねば使い道さえわからないものだ。 |
バルド | ええ。問題は、どこから情報を得ていたかです。ビフレストでさえおぼろげな神代の話がセールンドに伝わっていたとは思えない。 |
メルクリア | 精霊はどうじゃ ?帝国はマクスウェルを捕らえていた。そこから情報は得ていたとは考えられぬか ? |
リヒター | あり得なくもないが、少なくとも俺はそういった記録を見た覚えはない。 |
ジュニア | ティル・ナ・ノーグの古い話を仕入れるとしたら王立図書館とかになるけど、僕の中の大きいフィリップの記憶では見た覚えもないし……。 |
フリーセル | バロールの巫女であればどうだろう。 |
コーキス | なんだそれ ? |
フリーセル | バロールに連なる鏡精でも知らないのか。 |
コーキス | 全然知らない。教えてくれ。 |
フリーセル | ……素直だな。当代のバロールの巫女は、グラスティンの母親だ。 |
メルクリア | なんと……。母親とな ? |
フリーセル | はい。そのような家系であれば何かしらの情報が伝えられている可能性があります。 |
バルド | しかし巫女の知る情報であればビフレストの情報網にも掛かっていておかしくないのでは。 |
バルド | それとも一子相伝の口伝のようなものなのでしょうか。 |
ジュニア | それにデミトリアス陛下は、ニーベルングが今もまだ人の住めない環境であることを知っているんですよね? |
ジュニア | いつ、どうやって知ったんだろう……。 |
メルクリア | 本当に、義父上はどこまで知っておいでなのか。そのお考えが見えぬがゆえに、わらわは……。 |
フリーセル | …………。 |
ジュニア | 少しづつ『何か』が足りないのがもどかしいですね。こうしている間にも帝国は次の一手を打つかもしれないのに。 |
ナーザ | こうなっては、我々が優先すべきはその一手を止めることだ。そして帝国そのものを瓦解させねばならん。 |
ナーザ | まずはオリジンに接触する必要がある。確かイクスたちとの情報共有によればオリジンは―― |
バルド | ナーザ様、通信が。 |
ナーザ | ヴァンからだ。――こちらナーザ。どうした。 |
ヴァン | 少々立て込んでいるので手短に説明する。 |
ヴァン | 先ほど連絡を受けた『帝国の次の一手』とやらの話だが何を目論んでいるか見当がついた。ゆえに合流地点とは別の場所にいる。 |
ナーザ | なんだと ? 今はどこだ。 |
ヴァン | 帝都内に隠されているカレイドスコープの傍だ。 |
一同 | なっ ! ? |
コーキス | ヴァン様、いつの間に !どうやってそんなところ入ったんだよ ! |
ヴァン | ローレライの力を使えば造作もない。 |
コーキス | 怖っ……。敵じゃなくてよかったぜ……。 |
ナーザ | それで、何がわかった。 |
ヴァン | カレイドスコープの構造を確認したのだが帝国はレプリカ情報を抜き取るための装置として使った形跡がある。それも膨大なデータ量だ。 |
ヴァン | これは一つの世界に匹敵する。帝国は虹の橋を利用して、分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取っていたのかもしれん。 |
コーキス | レプリカ情報ってそっくり同じ物をつくるためのものだよな ? |
ナーザ | ……まずいぞ。ヴァン、これより俺たちも帝都に―― |
ヴァン | !誰か来る。切るぞ。 |
メルクリア | ヴァン……。無事であろうか。 |
ナーザ | バルド、今の話を救世軍に伝えろ。俺はイクスに連絡する。精霊の話もそこでしておこう。 |
ナーザ | 針路変更だ。これよりヴァンのもとへ向かう ! |
キャラクター | 9話【20-15 アジト2】 |
リーガル | ――本当に大丈夫なのか ?まだ休んでいてもいいんだぞ。 |
イクス | ありがとうございます。でも体調は万全ですから。俺の方こそ、大事な計画の立案を皆さんに任せてしまってすみません。 |
ピオニー | 気にするな。ここにいる連中はそういうのを仕事にしていた奴らばかりなんだろう ?使えるものは使っておけ。 |
パライバ | ええ、そのとおりです。贄の紋章が消えたことで目下の不安も解消されました。もはや縛られるものもありません。 |
カルセドニー | とはいえ、あまりご無理をなさいませんよう。パライバさまの足も、まだ本調子ではないはずです。 |
パライバ | ありがとう、カル。でも、やれることがあるなら全力で成し遂げたいの。そう思えるのも、あなたが傍にいるからなのですよ。 |
カルセドニー | パライバさま……。 |
カーリャ | むむ、これは……。 |
フォッグ | おぅ、こりゃアレだな、アレ ! |
カーリャ | あれっ ?そこにいるのはフィルさまじゃありませんか ? |
イクス | 到着してたんですね。声をかけてくれればよかったのに。 |
フィリップ | 会議中のようだったからね。それに、その……、少し個人的な話もしたかったし。 |
ミリーナ | ふふっ。今ね、各大陸の領主や騎士のみんなと帝国への反乱計画をまとめているところなの。よければフィルも一緒に聞いてちょうだい。 |
キール | イクス、例の王立図書館の本なんだが――あ、フィリップも来てるのか。いいタイミングだ ! |
イクス | キール、何かわかったのか ? |
キール | 内容としては、一般の歴史書でも見かけるような大昔の歴史が記されているだけだ。めぼしいことは書かれていなかった。 |
キール | だが、様々な形で解析した結果何らかの魔鏡術による封印が施されているとわかった。これを解くことで本当の内容がわかるかもしれない。 |
イクス | 魔鏡術 ! |
フィリップ | なるほど、それで僕というわけか。 |
キール | ああ。術式体系に造詣が深い鏡士がいるとありがたい。 |
フィリップ | イクス、僕はキールに協力した方が役に立てそうだ。ちょっと行ってくるよ。 |
イクス | ありがとうございます。よろしくお願いします。 |
イクス | それじゃ、こちらも続きを始めましょうか。 |
ルーングロム | では、反撃への流れを説明しよう。まずアセリア領だが、以前話があったように蜂起の土台はできている。 |
ルーングロム | それを踏まえ、まずはアセリア領と、その両隣にあたるオールドラント領、カレギア領を中心に大規模な反乱を起こし、領主たちが一時的に実効支配する。 |
ミリーナ | ということは、一時的とはいえ領主は浮遊島を離れることになりますが……。アガーテさん、大丈夫ですか ? |
アガーテ | ええ。ミルハウストのことは浮遊島の方々を信じて託します。 |
ルーングロム | 我々三領と同時に蜂起する大陸はファンダリア領だったな。 |
イレーヌ | ええ。ディムロスたちが所属するファンダリア領の対帝国部隊やケリュケイオンとも協力する手筈です。 |
パライバ | ファンダリア領と隣接する原界(セルランド)領も共に蜂起します。 |
イクス | 最初にアセリア、カレギア、オールドラントファンダリアと原界(セルランド)が動くんですね。何か狙いがあるんですか ? |
カーツ | この五領は帝都からの距離やアセリア領との関係もあって、すでに半数以上の帝国兵が反帝国派に転じている。落とすのは難しくない。 |
カーツ | そしてこの反乱を鎮圧するために帝国が兵を動かせば帝国側は手薄となり、他の地域も蜂起しやすくなる。 |
フォレスト | 言葉は悪いが、彼らがおとりとなることで他領は蜂起のための力をつけることもできるだろう。 |
マウリッツ | そうやって帝国の兵力を削ぎながら帝都への侵攻準備を進めるというわけだ。 |
イクス | なるほど、それなら――っと、通信が入ってる。ちょっとすみません。 |
ナーザ | イクス、差し迫った事態ゆえ用件だけ伝える。帝国はカレイドスコープを使って分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取っている。 |
イクス | 本当ですか ! ? |
ナーザ | ああ。ヴァンが帝都に潜入して確認した。俺たちも今、向かっているところだ。帝国がレプリカ作成を実行に移す前に阻止する。 |
ナーザ | オリジンとの接触も急がねばならない。オリジンの関係者に話を通しておいてくれぬか。 |
ナーザ | 俺もバルドとコーキスにはいずれお前から声がかかることは伝えてある。以上だ。 |
ミリーナ | イクス、今の話って……。 |
イクス | うん。同時蜂起の計画はこのまま任せて俺たちも帝都に向かった方がよさそうだな。 |
| ――帝国内 イ・ラプセル城 カレイドスコープの間 |
デミトリアス | 分史ニーベルングのレプリカを作るのにどれくらいかかる。 |
グラスティン | 膨大な量のキラル分子が必要だ。鏡精を何匹殺しても間に合わん。そもそも鏡士がいなけりゃ鏡精は生み出せん。 |
デミトリアス | ならばどうやってキラル分子を手に入れればいい。 |
グラスティン | 腹は立つがあの魔女がかつてやった悪行に倣うとするさ。 |
デミトリアス | ゲフィオンのことか。 |
グラスティン | ああ。ティル・ナ・ノーグそのものを分解してそこからキラル分子を抽出すればエネルギーは何とかなる。 |
グラスティン | あとはキラル分子にローレライの属性を付与すればいいんだが、今は手元にないからなぁ。ローレライの精霊片を集める必要がある。 |
ヴァン | 安心するといい。ローレライならば私の中にいる。 |
デミトリアス | ヴァン ! ? |
グラスティン | どこから入りこんだ――と言いたいところだがヒヒヒッ、歓迎するぜ ? |
デミトリアス | ヴァン、先ほどの言葉はどういう意味だ。私たちに協力すると ? |
ヴァン | 利害が一致する間は。 |
デミトリアス | 利害 ? きみにとっての利とはなんだ。 |
ヴァン | 預言に縛られぬ【被験者】たちを守ること。 |
グラスティン | つまり具現化されたわけじゃない人間の世界を守るってことだな ?確かにデミトリアスの目的とは合致しているが……。 |
ヴァン | (この世界に【星の記憶】はない。だが、この先もそうであるとは限らぬ。ならば――見極めねばなるまい) |
ヴァン | このまま計画を進めるならば、ティル・ナ・ノーグが消えた後、ニーベルングのレプリカが出来上がるまで他の人間たちはどうする。 |
ヴァン | 生かそうとする者たちを集めているのだろう ?その者たちを守る場所が必要だ。 |
グラスティン | ヒヒヒッ、それならば準備はできているさ。 |
キャラクター | 10話【20-15 アジト2】 |
ロミー | ヤクタタズドモガ……。ハヤク、ルグノヤリヲ……。 |
ロミー | ! !ハスタ、ダト…… ! ?タイムファクターニナッタハズダ…… ! |
デミトリアス | 贈り物は届いたかな ? |
ロミー | ソノコエ、デミトリアスカ !ドウイウコトダ ! |
デミトリアス | 私はロミーが……、いや、今はロミーではないのかな。『きみ』が自分の世界に戻ろうとしていたことを知っている。 |
デミトリアス | それほどまでに願うなら、叶えてあげたかった。 |
デミトリアス | それに、もしも閉じた世界の外へ行けるのなら鏡映点を戻し、この世界を救う切っ掛けになるかもしれないと考えていた。 |
デミトリアス | だが、『きみ』は結局抜け出せていない。ルグの槍の力でも、それをクルスニクの槍に変化させても。 |
デミトリアス | ティル・ナ・ノーグの外に広がる虚無は飛び越えることができないと『きみ』のおかげで判明した。 |
デミトリアス | 虚無はまだティル・ナ・ノーグの理に支配された場所だ。ロミーの心の一部として定義されて具現化した『きみ』は、このまま体を失えば消滅するしかない。 |
ロミー | ナンダト…… ! ? |
デミトリアス | だが、ロミーが死んでも『きみ』が残る方法はある。スポットとしての能力で誰かに寄生すればいいんだ。――たとえば、そこにいるハスタとか。 |
ロミー | ! !……コイツハ、イキテイルノカ ? |
デミトリアス | 彼が前世持ちなのは知っているだろう。生まれ変わりを繰り返す前世の魂と今のハスタの魂、二つを持っているようなものだ。 |
デミトリアス | 分史世界の消滅と共に、ハスタの魂の一部である生まれ変わりの力は消滅した。だが、『ハスタ』はまだかろうじて生きている。 |
ロミー | ……ナゼ、イキタニンゲンガキョムニイルノダ。 |
デミトリアス | クルスニクの娘、エルの力だよ。特異鏡映点だからね。 |
デミトリアス | 彼女は骸殻の反動だけでなく分史世界消滅の際に【時歪の因子】となったハスタそのものを虚無へと追いやったんだ。 |
デミトリアス | だが、このまま放置すれば死んでしまう。 |
デミトリアス | ロミーの身体にとりついたようにスポットである『きみ』が寄生して体を動かせば『きみ』は助かるかもしれない。ハスタもだ。 |
デミトリアス | それに寄生すればハスタを侵食することになる。いずれは『きみ』の体になるだろう。 |
ロミー | キサマノハナシナド、シンジラレルカ !ダガ……。 |
ロミー | シヌヨリハ、マシダ ! |
ロミー | ナンダコレハ ! ?ハスタノカラダニ、モンショウガ ! |
ロミー | マキョウジンダト ! ? デミトリアス、キサマ ! |
デミトリアス | …………。 |
| セールンド カレイドスコープの間 |
デクス | おーい、ファントム。救世軍からの差し入れだ。ちゃんと食べてくれよ。 |
ファントム | 必要ないと言っているでしょう。早く帰りなさい。 |
デクス | それじゃ連絡役であるオレの面子が立たないんだ。そんなオレを見たらアリスちゃんがどんなに悲しむか―― |
デクス | なんだ、今の音は ! ? |
ファントム | ゲフィオン ! |
デクス | うわ、ゲフィオンにでかいヒビが ! ? 砕けるぞ ! |
ファントム | くっ……駄目だっ…… ! まだ……砕けるな ! |
デクス | ファントム ! |
ファントム | 今すぐ……私が食い止めている間に部屋を出なさい……。そしてイクスに伝えるのです……早く ! |
デクス | わ、わかった ! 無理するなよ !オレが怒られるんだからな ! ? |
デクス | よし、部屋は出た ! イクスに連絡を―― |
デクス | ! ? 今の光は…… ?おいファントム、無事か ! ? おい ! |
デクス | 部屋に近づけない…… ?ファントムのやつカレイドスコープの間を封じたのか ? |
バルド | 帝都が見えてきましたね。みなさん準備をしてくさい。 |
リヒター | …… ?あれは何の光だ ? |
コーキス | 本当だ、何か気持ち悪い色してるぜ。こういうの、マスターならなんて言うだろう……。禍々しい…… ? |
フリーセル | あの場所は帝都の中心だ。イ・ラプセル城のあたりになるはずだが。 |
ナーザ | あれは…… ! |
メルクリア | はい、わらわも感じました。 |
ジュニア | あの光の場所に、具現化の力が集中している…… ! |
ミリーナ | ねえイクス、今、感じたわよね ?おかしな気配。 |
イクス | ああ。何かが具現化される時の空気に似ている。力がどこかに集中してるんだ。 |
クレア | こちら管制室です。緊急連絡につき、全回線に通知します。 |
クレア | 帝都上空に島の具現化を確認。詳細は不明。現在観測データを収集し―― |
イクス | 本当に具現化だったのか !それに帝都の『上空』に『島』って……。 |
ミリーナ | 誰なのかしら。フィルはここにいるしナーザ将軍もメルクリアもジュニアも一緒にいるって、ついさっき確認が取れているわ。 |
イクス | そうなると、他に鏡士は……。 |
二人 | ファントム…… ? |
| to be continued |
キャラクター | 1話【21-1 セールンド城1】 |
ファントム | (くっ……、ゲフィオンの崩壊が止まらない……) |
ファントム | (私の作った防御壁も崩れた。このままでは死の砂嵐が溢れてしまう) |
ゲフィオン | わ……たし……の……。 |
ファントム | ゲフィオン ! ? |
ゲフィオン | 私の力が……使われる…… ! |
ファントム | 力だと ? |
ゲフィオン | あああああああああっ ! ! |
ファントム | (誰かがゲフィオンの力を使っている ?いや、それよりもゲフィオンを守るには――) |
ファントム | ゲフィオン ! これからこの部屋ごとあなたを私の仮想鏡界に取り込みます ! |
ゲフィオン | だめ、あなたが―― |
ファントム | 黙って ! 行きますよ ! |
| デミトリアス。 |
デミトリアス | その声は……。 |
幼いグラスティン | デミトリアス、来たぞ。 |
幼いデミトリアス | グラスティン、その傷 !前より随分痩せてるし……。 |
幼いグラスティン | 騒ぐなよ。怪我なんていつものことだろ。 |
幼いデミトリアス | また、きみの母君の仕業か。しばらく会えなかったから心配してたんだよ。もしかして、今日は抜け出してきた ? そのせいで……。 |
幼いグラスティン | ……あいつが、簡単に俺を外に出すと思うか ? |
幼いデミトリアス | 無理しないでくれ。私だって、体調のせいで外に出られない時もある。 |
幼いデミトリアス | きみに会いたいのは、私のわがままだから。だから……。 |
幼いグラスティン | 違う。あのままだと……俺も変に……なりそうで……。 |
幼いデミトリアス | グラスティン、しっかりするんだ。どうにかならないのか……。 |
幼いグラスティン | 無理だろ。バロールの声か俺の声か、もうわからないくらいだし。 |
幼いデミトリアス | ……最近の巫女殿は、以前よりもバロールの声が聞こえるそうだね。そのせいか言動が怪しいと父上が言っていたよ。 |
幼いグラスティン | 最近? お前ら、今頃そんな話してるのか。もうずっと前から頭おかしいだろ、あいつ。 |
幼いグラスティン | 俺と勘違いして黒髪の子供追いかけたりさ。 |
幼いデミトリアス | でも、心が落ち着いている時は優しい母君なんだろう ?いつかきっと元に戻るはずだよ。そうすれば、きみが酷い扱いを受けることも―― |
幼いグラスティン | いつかって、いつ ? |
幼いデミトリアス | それは……。 |
幼いグラスティン | お前って口先だけで慰めて、いいこと言ってけどその場限りだよな。目の前のことしか見えてない。 |
幼いグラスティン | どうせ何もしないなら希望を持たせること言うなよ。 |
幼いデミトリアス | グラスティン、私は本当にきみが心配で……。 |
幼いグラスティン | くそっ……なんで俺の親がバロールの巫女なんだよ……。なんで……。 |
デミトリアス | (――ああ。これは『過去の私たち』だ) |
幼いデミトリアス | これで自由だ。グラスティン。 |
幼いグラスティン | お前…………。 |
幼いグラスティン | こいつは……国にとって必要な巫女なんじゃないのか ?なのに……。 |
幼いデミトリアス | きみを助けたかったんだ。そして巫女殿も。 |
幼いデミトリアス | これでバロールの声を聞くこともない。 |
幼いグラスティン | ……本当に目先のことしか見ていないな。でも……。 |
幼いグラスティン。 | 死んだんだ。こいつ。やっと。 |
幼いグラスティン | ……ハハッ。ハハハハッ。確かにお前の言うとおりだなぁ。これならバロールの声に苦しむこともない。 |
幼いグラスティン | もう怒鳴らないし殴らない !静かで優しい、きれいな『ママ』だ ! |
幼いグラスティン | いいなぁ、死体って ! ヒヒヒヒッ ! |
幼いデミトリアス | ……早くどこかに隠さないと。 |
幼いグラスティン | いいところがある。バロールの巫女以外、誰も寄り付かない洞窟だ。 |
幼いデミトリアス | わかった。一緒に運ぼう。 |
幼いグラスティン | 俺は頭の方を持つから、お前は足を頼む。それから……。 |
幼いグラスティン | ありがとう、デミトリアス。 |
デミトリアス | (グラスティンの言うとおり、死体は誰にも見つからずバロールの巫女は行方不明とされた) |
デミトリアス | (鏡精エネルギー推進派だった父上は、反対していた巫女の失踪をこれ幸いと、エネルギー変換用の鏡精を大量に生み出させ、多くの鏡精が犠牲となった) |
デミトリアス | (セールンドの動きを察知したビフレストから質問状が来ても、抗議が来ても、そして……) |
幼いデミトリアス | グラスティン ! バロールの巫女の行方についてビフレストからまた問い合わせが来たんだ。 |
幼いデミトリアス | どうしよう……私があんなことをしたから……。あれが見つかったら戦争に……。 |
幼いグラスティン | ヒヒッ、大丈夫。問題ないって。お前はそのまま――……。 |
デミトリアス | ……またか。なぜこうも昔の夢ばかり……。 |
デミトリアス | (父上は私を生かすためにさらに鏡精エネルギーを必要とした) |
デミトリアス | (独善的ともいえる国策に歯止めをかけていたのがバロールの巫女であったのに、私は……) |
デミトリアス | (思えば、この世界の惨状はバロールの巫女を殺したことから始まったのかもしれない) |
デミトリアス | (いや、私の存在こそが……) |
グラスティン | デミトリアス、例のスポットだが――……どうした、疲れた顔して。例の発作か ? |
デミトリアス | いや。考え事をしていただけだよ。それで、上手くいったかい ? |
グラスティン | ああ。【ゲイボルグの島】とアイフリードの墓への道が完成した。 |
グラスティン | ロミーに寄生していたスポットのお陰だ。尊い犠牲だったなぁ。ヒヒヒッ。 |
デミトリアス | そうか。『本来のティル・ナ・ノーグ』の民たちも移動を開始している。こちらも滞りなく進んでいるよ。 |
グラスティン | もっと住民たちを急がせろ。【ゲイボルグの島】は、ゲフィオンの力で作ったんだからな。時間がない。 |
グラスティン | 人体万華鏡は間もなく崩壊する。死の砂嵐が現れるぞ。 |
キャラクター | 2話【21-2 アジト1】 |
キール | その本の封印はどうだ ?フィリップの魔鏡術で解除できそうか ? |
フィリップ | これは…… ! でも間違いない……。 |
パスカル | 見覚えあるの ? |
フィリップ | この封印、旧型カレイドスコープに施されていたものと同じ種類だ。 |
キール | 旧型 ? 兵器の方のカレイドスコープか ? |
フィリップ | いや、さらにその前だよ。キラル分子を鏡写しにして増やす装置でイクスの両親が研究していたものだ。 |
リタ | ツインミラーシステムね。修理したことあるけどあの辺のシステム周りを開発してたんだ。 |
フィリップ | ああ。僕とゲフィオンは旧型カレイドスコープを魔鏡兵器に転用するためにイクスの両親がかけた封印を解いたんだ。 |
キール | じゃあ、手順はわかるんだな ! 早速始めよう。 |
フィリップ | それが……封印の解除にはイクスの魔鏡が必要なんだ。旧型カレイドスコープは、最初のイクスの形見の魔鏡で封印を解いたけど、これは……。 |
ハロルド | ええ、変ね。ゲフィオンもその本を調べてたんでしょ ?なのに解除できてない。 |
フィリップ | そのとおり。ゲフィオンだって気づくはずなのに。となると、イクスの形見の魔鏡だけでは本の封印は解けなかったことになる。 |
フィリップ | とにかく、イクスのところに行こう。実際に魔鏡を…………あれ ? |
キール | フィリップ ? |
フィリップ | くっ……胸が……痛っ…………。 |
四人 | フィリップ ! ? |
クレア | こちら管制室です。緊急連絡につき、全回線に通知します。帝都上空に島の具現化を―― |
カーリャ・N | こちらでしたか !あの帝都の上に浮かんだ島はなんなのですか ? |
イクス | まだ確認中なんだ。でもあの地形、セールンド城の周辺によく似てる。 |
カーリャ・N | セールンド……。誰が具現化したのでしょう。 |
ミリーナ | タイミング的にはファントムしかいないんだけど……。 |
カーリャ・N | そんなはずは―― |
マーク | イクス ! あの島見てるな ?すぐにケリュケイオンからの観測データを送る。 |
マーク | それと、デクスから通信がきている。お前にも一緒に聞いて欲しいそうだ。――デクス、繫いだぞ。 |
デクス | 人体万華鏡が崩壊した ! でっかいヒビが入ったんだ ! |
カーリャ・N | そんな ! 崩壊はまだ内部に留めていたはずです ! |
デクス | 知らん ! でもそのヒビの段階で留めるためにファントムが対処してる。 |
イクス | ファントム ! ? まだゲフィオンの傍にいるのか ! ? |
デクス | ああ。でもオレがカレイドスコープの間から出た後は部屋に近づけなくなった。今どうなってるかはわからない。 |
デクス | 何とか助けたいんだが、どうにかならないか ?オレの名誉、ひいてはアリスちゃんのためにも ! |
マーク | ファントム、何を考えて………………。 |
カーリャ | マーク ? どうしたんです ? |
マーク | っ…… ! 嘘だろ……フィル……。 |
カーリャ・N | フィリップ様に何かあったのですか ! ? |
マーク | ……俺の存在が一瞬消えかけた。今も少しづつ薄れている。フィルはどこだ。 |
イクス | キール研究室だ !ミリーナ、俺たちもすぐにフィルさんのところへ―― |
マーク | いい。お前らはやることがあるだろう。――ガロウズ、俺は浮遊島に降りる。ここは任せるぞ。 |
ガロウズ | ああ。ビクエ様を頼む。お前も消えんじゃねえぞ。 |
カーリャ | マーク……。 |
イクス | ……話を進めよう。その方がマークもフィルさんに集中できる。 |
ガロウズ | 了解。で、具現化されたあの島だが観測データを見ると数分前に異常値が出ている。 |
デクス | 人体万華鏡が壊れたのも、そのくらいだった。 |
ミリーナ | ほぼ同時ってことかしら。それなら具現化はファントムじゃないわ。 |
イクス | ……もしかすると、具現化にはゲフィオンの力が使われているのかもしれない。 |
イクス | ギリギリで耐えていたところを外部の干渉で力を使われたとしたら崩壊が早まったのも頷ける。 |
カーリャ | だったらミリーナさまは ! ?ミリーナさまは大丈夫なんですか ! ? |
ミリーナ | ええ、何ともないわ。私にはカーリャの防御壁があるもの。 |
ミリーナ | それに、ゲフィオンは防御壁も壊れて意識も私に侵食されているから……。きっと私に影響を及ぼすほどの力が、もう……。 |
カーリャ・N | セールンドへ降りて確認します。私がゲフィオン様とファントムの救出にあたります ! |
アッシュ | おい、待て、ルーク ! |
ルーク | 急げよ、アッシュ !――イクス、緊急連絡だ ! |
イクス | 二人とも、丁度よかった。さっきナーザ将軍から、ヴァンさんが帝都に乗り込んでるって連絡が来たんだ。 |
ルーク | それだよ ! 俺たちにもローレライが伝えてきたんだ。 |
ルーク | ええと、ヴァン師匠からの伝言でレプリカを作るのに必要なのがキラル分子で世界を分解して手に入れてニーベルングを―― |
カーリャ | すみませんルークさま、ものすごくわかりにくいです ! |
アッシュ | 俺がついて来て正解だったな。イクス、ナーザからはどこまで聞いている ? |
イクス | 帝国がカレイドスコープを使って分史ニーベルングのレプリカ情報を抜き取ったって話までだ。 |
アッシュ | そうか。ヴァンからの伝言によるとニーベルングのレプリカ作成には大量のキラル分子が必要だそうだ。 |
アッシュ | 奴らはそれを、ティル・ナ・ノーグを分解して調達する計画らしい。 |
イクス | この世界を素材にする気か !そんなことをしたら自分たちだって無事じゃすまないのに。 |
アッシュ | だろうな。そのための避難先として作られたのがさっき具現化された島というわけだ。 |
アッシュ | あの浮島は、セールンド島とアイギスシステムを具現化している。死の砂嵐からの守りも兼ねているそうだぞ。 |
ルーク | そう、そういうわけだ !ありがとな、アッシュ。やっぱついて来てもらってよかったぜ。 |
アッシュ | ふん、ローレライから連絡受けた途端一人で駆け出しやがって。ヴァンのことだからといって焦りすぎだ、馬鹿が。 |
ルーク | そういうお前だって―― |
イクス | わかった。ありがとう、二人とも。今の話、すぐにみんなに知らせるよ。 |
キャラクター | 3話【21-3 アジト2】 |
イクス | ――以上が、今の俺たちが置かれている状況だ。これを踏まえて今後の方針を聞いてもらいたい。 |
イクス | まず、ゲフィオンのところにはケリュケイオンとネヴァンで向かってもらう。 |
イクス | 精霊研究室のメンバーはマクスウェルの残滓の調査を続行。 |
イクス | 同時蜂起作戦の領主たちは地上に降りて反乱計画を進めて欲しい。 |
イクス | 他のみんなはそれぞれ、どの持ち場につくか申告してくれ。 |
イクス | その上でだけど、俺たちと一緒に浮遊セールンド島へ向かう人員が欲しい。 |
イクス | 目的は大きく二つある。分史ニーベルングのレプリカ作成の阻止と具現化されたアイギスシステムだ。 |
イクス | あれをティル・ナ・ノーグ全体に利用できればゲフィオンの人体万華鏡が完全に崩壊しても死の砂嵐から守ることができるかもしれない。 |
ジェイド | かもしれない、ですか ? |
イクス | ……言いたいことはわかります。でももう、それに賭けるしかありません。 |
イクス | こんな計画では、みんなが不安に思うのもわかります。それでも俺は―― |
クレス | 了解だよ、イクス ! |
イクス | クレス……。 |
チェスター | よし ! となるとオレたちは反乱計画の協力だな。 |
ミント | ええ。アセリア領は蜂起の要ですからね。 |
スタン | じゃあ、俺たちも反乱組だな !カイルはどうする ? |
カイル | ディムロスさんたちもいるしオレたちも反乱組で !みんな、とりあえず同じでいいよね ? |
リオン | お前たち、食事の注文じゃないんだぞ。気軽に決めすぎだ ! |
ルーティ | いいじゃない。あたしも反乱組一丁 ! |
リアラ | わたしも、カイルと同じで ! |
メルディ | イクスの方、まだ誰もいないな。なぁ、リッド ? |
リッド | わかってるよ。オレたちはイクスと一緒に行く。アイギスシステムに関しちゃ確かに不安もあるけどまあ……。おいファラ、いつもの頼むぜ。 |
ファラ | うん ! ――イクス、ミリーナ。イケる、イケる ! |
ミリーナ | ファラ……、ありがとう。 |
コレット | ねえロイド、イクスたちにも機動力が必要だよね ?私、飛べるし、力持ちだし。ね、カーリャ ? |
カーリャ | はい。その節はお世話になりました ! |
ロイド | こんな時こそ『ドワーフの誓い第1番』ってわけか。よし、俺たちも浮遊セールンド島にしよう。 |
ジーニアス | 『平和な世界が生まれるようにみんなで努力しよう』だね。ボクも賛成 ! |
マルタ | ええと、私たちはどっち ? |
ラタトスク | 俺は精霊だからな。マクスウェルの残滓の調査に決まってる。お前たちもだったな ? |
ヴェイグ | ああ。今度マオに何かあったら全員で立ち向かえるようにしたい。 |
ティトレイ | そうだな。クレアもサポートで頑張ってるしおれたちだって――って、何笑ってんだよ、ヒルダ。 |
ヒルダ | ふふっ、この状況で出来すぎだと思って。占い、『死の使い』の逆位置のカードが出たの。これ、覚えてる ? |
ティトレイ | 縁起悪っ……くないんだよな。『大いなる転機、再生』――あの時のカードだ。忘れねぇよ。 |
エミル | 再生か……。いい意味のカードなんだね。マルタ、お父さんのことも含まれてるかもしれないよ。 |
マルタ | エミル……、ありがとう ! 大好き ! |
二人 | いいなぁ……。 |
シャーリィ | わ、わたしたちもマクスウェルの調査頑張らないとね。 |
クロエ | そ、そうだな !いいかクーリッジ、私たちも気を引き締めて任務にあたるぞ。 |
セネル | あ、ああ……。やけに気合い入ってるな。他に精霊調査に行くのはどのチームだ ? |
シング | セネル、オレたちもそっちに行くよ。ミラの時みたいに、マクスウェルの残滓がスピリアに影響するかもしれない。 |
コハク | そういえば、マクスウェルの残滓が心の世界に広がるかもってヴェリウスが言ってたよね。 |
ヒスイ | よし、今回できっちりケリつけてやろうぜ。 |
ミクリオ | 僕たちは天族だから精霊調査だけどスレイはどうする ? |
スレイ | もちろん、みんなと一緒に行くに決まってるだろ ! |
ライラ | そうですね。スレイさんも『一緒』に『一所』懸命頑張りましょう ! |
ルーク | ダジャレとか余裕あるよなぁ。俺なんかヴァン師匠のこと聞いただけで慌てちまったのに。 |
ティア | ルーク、兄さんのことを気にしているのね。それなら私たちは浮遊セールンド島にしましょうか。 |
ガイ | だな。ついでだからまとめて浮遊セールンド島希望者を確認しとこうぜ。何があるかわからないから、荒事覚悟の奴らで―― |
二人 | はい ! |
フレン | 君たち……、魂胆が丸見えだよ。 |
エステル | 大丈夫です。ユーリたちが無茶をしないようにわたしが頑張りますから。 |
イリア | ねえ、見た ? ユーリたち。「お前が言うな」って顔してた。 |
ルカ | あはは……そうだね。とにかく、僕たちも浮遊セールンド島で ! |
スパーダ | お前、勢いで決めたろ。けどまあ、アイギスシステムっての逆手にとって帝国の奴らに吠え面かかせるのも面白そうだ ! |
ルキウス | そうか……。浮遊セールンド島にはグラスティンたちがいるかもしれないんだ。ロミーを目覚めさせる手掛かりが掴めるかも……。 |
カイウス | だったら、オレたちも浮遊セールンド島に行こう。ロミーのこと、ルキウスだけが背負うことないさ。 |
ルビア | カイウスったら、お兄さんぶっちゃって。でも、あたしも同じ気持ちよ。やれるだけやりましょう ! |
ルドガー | 兄さんも、ひとりで背負うことないからな。もう全部バレてるんだから。 |
ユリウス | わかってる。『お前たち』には敵わないと思い知らされたしな。ところで俺たちはどうする。エルもいるが……。 |
ミラ | 何度も帝国から狙われてるし下手に置いていくより一緒にいる方が安心じゃない ? |
ルドガー | 決まりだ。俺たちも浮遊セールンド島に行く。 |
マギルゥ | なるほど。もう人員は十分のようじゃな !ならば儂らは待機ということで―― |
ライフィセット | 僕も浮遊セールンド島に行きたい。全勢力でしかけなきゃ、きっと手遅れになると思う。 |
ベルベット | そうね。あたしたちは浮遊セールンド島で。そういうわけだから、よろしく、マギルゥ。 |
ソフィ | あれ ? ビエンフーの声が聞こえるけど……気のせいかな ?それで、わたしたちはどうするの ? |
ヒューバート | ここまでの勢力配分を見ると、反乱軍への参加が少ないように思えます。市民兵も多いでしょうし指揮を取れる者が必要でしょうね。 |
アスベル | そうだな。お前も、マリク教官も、リチャードもいる。イクス、俺たちは地上反乱軍に加わるよ。残りのみんなもそうしてもらえると助かるんだが。 |
ジュード | そうだね。僕たちも反乱軍に加わった方が勢力的にバランスが取れると思う。みんなも、それでいい ? |
アルヴィン | ああ。あいつの目が覚める前に掃除は終わらせておきたいしな。けど、おたくは ? 精霊調査だから離ればなれだろう。 |
ミラ=マクスウェル | 離れていても、ちゃんと繋がっている。たとえ触れ合えなくてもな。 |
アルフェン | ……触れ合えなくても、か。なんだか、わかる気がする。 |
シオン | 私は……まだよくわからないわ。それより、この流れだと最後の私たちも反乱軍に加わることになりそうね。 |
アルフェン | そうだな。初めて顔を合わせる人も多いだろうけどみんな、よろしく頼む ! |
カーリャ | 配置、難航するかと思いましたけどあっさり決まっちゃいましたね。さすが鏡映点たちです。 |
ミリーナ | ええ。どんな困難があっても思いを力に変えて立ち向かえる人たち。それが鏡映点――世界を動かす人たちなのよ。 |
イクス | ……だからこそ具現化対象として選ばれてしまったんだよな。 |
イクス | ティル・ナ・ノーグに呼んでしまった俺たちは絶対にみんなの気持ちを無駄にしちゃいけない。 |
イクス | みんな ! 聞いてのとおり、配置は決まった。これからすぐに持ち場へ向かって欲しい。 |
イクス | その前に、一言だけ言わせて欲しいんだ。みんな……。 |
イクス | この世界に来てくれて、本当にありがとう。 |
イクス | それじゃ、作戦開始だ ! |
キャラクター | 4話【21-4 セールンド 浜辺】 |
ナーザ | そうか。それでお前たちは具現化された浮遊セールンド島のアイギスシステムを目指しているんだな。 |
イクス | はい、今は浮遊島を動かして接岸させるべく向かっているところです。 |
ナーザ | わかった。俺たちはすでに帝都に上陸している。このまま先行して、ヴァンとの合流を目指すつもりだ。少しでも時間が惜しい。切るぞ。 |
イクス | わかりました。気を付けて。 |
バルド | 浮遊島を動かせるようになったとは聞いていましたが今回もまた大胆な作戦に出ましたね。 |
コーキス | ふふん、鏡映点のみんなにかかれば朝飯前だぜ !マスターたちも来てくれるし俺たちも動きやすくなるな。 |
ジュニア | うん。でも絶対に油断しないで。ゲフィオン……人体万華鏡にまで手を出したんだ。 |
ジュニア | デミトリアス陛下やグラスティンはもう後戻りはできない。どんな手でも使ってくるよ。 |
フリーセル | グラスティン……。 |
フリーセル | (……微かに松明が燃える匂いがする。……やはりこのバロールの洞窟に誰かが出入りしているな) |
フリーセル | (松明だけじゃない。なんだ、この……腐った脂のような匂いは……。奥の方から漂ってくる……) |
グラスティン | ……やあ、ママ。今日も綺麗だね。 |
フリーセル | (この声は……グラスティンか) |
グラスティン | 昨日もまた俺を連れ去って閉じ込めようとしただろう ?俺にはわかるんだあ。俺の代わりに沢山家族を作ってやったじゃないか。それともまだ足りないのか ? |
グラスティン | さあ、お引っ越しだよ。ママのことを知られた。それにあいつがママを殺したことに怯えてるんだ。 |
フリーセル | (そうか……奴はバロールの巫女の息子だったな。前の調査の時、ここに奴の母親の遺体が隠されていた。やはり母親がここで死んでいるのを知っていたんだな) |
フリーセル | ! ? |
フリーセル | (何だ ! ? 死体の山が…… ! ?前に来た時はこんなものはなかったぞ ! ?) |
グラスティン | ――誰だ。 |
グラスティン | フリーセル…… ! やっぱりここを嗅ぎ回っていたか。 |
フリーセル | グラスティン……。何だその死体の山は……。ここは一体……。 |
グラスティン | ヒヒ……立ち聞きしていたんだろう ?しつけのなっていない鼠だな。さすがビフレストのスパイだ。 |
フリーセル | 何の話だ。それよりここの死体はお前が集めたものか ?それともお前が手をかけたものか ? |
フリーセル | くっ ! ? いきなり刃物を出してくるとはな ! ? |
グラスティン | ヒヒヒ、安心しろ。お前の髪は黒くない。ママは黒髪がお気に入りなんだ。昔の俺みたいな黒髪がなあ。 |
グラスティン | だからちゃーんとお前の死体は海に捨ててやるよお ! |
グラスティン | 死ね ! 死ね ! |
フリーセル | (こいつは、バロールの巫女がああなった経緯を知っている筈だ。何とか生け捕りに――) |
グラスティン | な、何だ…… ! ? 何を打ち込んだ ! ? 魔鏡陣か ! ?貴様は……くっ……。 |
フリーセル | 逃げても無駄だ ! |
フリーセル | ――消えた ? いや、転送魔鏡陣か。だがあの刻印があれば居場所はすぐに突き止められる。 |
フリーセル | (これは俺の記憶ではない。一人目の俺の記憶だ。そしてこの記憶に、グラスティン――お前は殺される) |
バルド | フリーセル、どうしました ? |
フリーセル | ……いいえ。 |
メルクリア | して兄上、いかにしてヴァンを見つけるおつもりですか ? |
ナーザ | 問題ない。手は打ってある。 |
アステル | ナーザ将軍 ? どうです、帝都には着きましたか ? |
ナーザ | ああ。それで、ヴァンにつけていた発信機はどうだ。 |
リグレット | 閣下に発信機だと ? |
ナーザ | リグレット、戻っていたか。 |
リグレット | ついさっきな。私のあずかり知らぬところでそんなものをつけていたのか。 |
ナーザ | ヴァンの目的が明確でなかった以上何かしらの保険は必要だったからな。 |
バルド | ええ。それにあなたたち六神将は彼に与する可能性がありましたので。 |
リグレット | ……確かに否定はできない。 |
バルド | 互いに、想う主を持つゆえのこと。どうか悪しからず。 |
リヒター | ……俺は六神将ではないが、知らなかったぞ。 |
アステル | あれ ? リヒターに言ってなかったっけ。ごめんね ? |
ディスト | 総長に発信器など無駄ではありませんかねえ。 |
バルド | フフ、そうかもしれませんね……。 |
アステル | っと、よし、拾えた !ここは……帝都……イ・ラプセル城の真上…… ?さっき具現化された島にいますね。 |
ナーザ | 奴らに飛空艇はない。浮遊セールンド島に移動する入口のようなものが城内にあるはずだ。行くぞ。 |
マークⅡ | 悪ぃ、ちょっとだけ待ってくれ。――ジュニア、お前も一緒に潜入するんだな ? |
ジュニア | 帰って来いなんて、言わないよね。 |
マークⅡ | ……だよな。逃げないって決めたんだもんな。 |
マークⅡ | 引き留めて悪かった。仮想鏡界の維持は任せとけ。お前は、お前の思うとおり、好きにやって来い ! |
ジュニア | うん ! 行ってきます ! |
マークⅡ | ちょっと目を離すとすぐに逞しくなっちまうんだよなぁ。 |
マークⅡ | ……死ぬなよ、フィル。 |
マーク | フィル……。 |
フィリップ | マ……ク…… ? |
マーク | ここにいる。そのまま寝てていいぞ。 |
フィリップ | 意識……保たないと……、マークが、消え……。 |
マーク | 俺のことはいい !頼むから、もう自分のことだけ考えろよ ! |
フィリップ | ごめ……マーク……。 |
マーク | (おかしい……。なんなんだ、この焦燥感と不安。俺でもフィルでもない感情に気持ちが影響される……) |
キール | おい、来たぞ ! |
ヨーランド | フィリップ !マークもいるわね。話は聞いたわ。 |
マーク | ヨウ・ビクエ ! 頼む ! |
アトワイト | 呼吸が浅い……。まずいわ……。 |
ヨーランド | これは……。マーク、あなたに変化はあった ? |
マーク | 存在の希薄化はあった。それと、今も俺の中に不安と焦燥感が溢れている。けど、こいつがフィルのものとは思えないんだ。 |
ヨーランド | やっぱり……。さすが鏡精ね。それはファントムの感情よ。 |
マーク | ファントムだと ! ? |
ヨーランド | 狂化止めを施して切り離した筈だけど彼の心に何らかの負荷が掛かってまたフィリップと繋がりかけているわ。 |
マーク | じゃあ、どうすればいい ! |
ヨーランド | いったんフィリップの心に防御を施すわ。――アトワイト、私が防御壁を作っている間フィリップの様子を見ておいて。 |
アトワイト | ええ。準備できてるわ。いつでもどうぞ。 |
フィリップ | ……あ……あれ ? 治った……。 |
ヨーランド | 成功ね。これで動けるはずよ。 |
フィリップ | なんか大げさになって、すみません……。 |
マーク | 馬鹿野郎 ! いいんだよ大げさで !マジで一瞬覚悟しちまったくらいだぞ ! |
ヨーランド | そうよ。あなた、本当に危険だったわ。それは今も変わらない。 |
フィリップ | え…… ? |
ヨーランド | 私が施した心の防御は長くはもたないわ。こうして動けているうちにゲフィオンとファントムのところへ行きましょう。 |
フィリップ | ……わかりました。 |
リタ | ゲフィオンのところへはネヴァンたちが行くって話よ。急げば一緒に行けるんじゃない ? |
パスカル | でも、無茶しちゃダメだよ ? マークが泣いちゃうから。 |
フィリップ | ふふっ、ありがとう。きみたちにも迷惑かけたね。本の封印も、解除に至らなくてすまない。 |
フィリップ | それと、アトワイトにお願いしたいことがあるんだ。ええと……、これでよし。 |
フィリップ | アトワイト、この本をイクスに。お願いします。 |
アトワイト | わかりました。お預かりします。 |
ハロルド | ってことは、本の封印に関してはお役御免ね。となると……。 |
キール | ああ。しばらくは自分たちが所属しているチームで役目を果たすとしよう。 |
ハロルド | 私は地上行きかぁ。久しぶりにディムロスたちでもおちょくろうかしら。 |
パスカル | あ、あたしも地上組だよ。リタのとこは確か……。 |
リタ | 浮遊セールンド島。アイギスシステムとかね。 |
二人 | うらやましいー ! |
キール | ……この研究室も、少し静かになるな。 |
キャラクター | 5話【21-5 ケリュケイオン】 |
ガロウズ | セールンド上空だ。準備してくれ。 |
マーク | よし。みんな、よろしく頼む。目標は人体万華鏡があるカレイドスコープの間だ。――デクス、待機してるか ? |
デクス | ちょっと待ってくれ。ケリュケイオンの着陸ポイントに移動中だ。 |
アリス | 早くしなさい。デクスのくせに、アリスちゃんを待たせる気 ? |
デクス | アリスちゃん ! ? アリスちゃんもいるのか !もしかして、頑張っているオレを応援に ! ? |
アリス | 逆よ。文句言いに来たの。あんた「自分の命はアリスちゃんのものだ」って言ったくせに勝手に無駄遣いしそうだから。 |
デクス | 大丈夫。オレはアリスちゃんのものだよ。アリスちゃんのためにしか死なないから ! |
アリス | 本当に話の通じない奴ね。バカじゃない ? |
アイゼン | ふっ、確かにバカだが芯の通ったバカは嫌いじゃない。 |
カーリャ・N | ええ。アリス様は幸せな方です。 |
クラトス | マーク、潜入メンバーにはローエンもいるのだろう ?姿が見えないようだが。 |
マーク | さっき預かった奴らの様子を見てくるって言ってた。すぐに戻るはずだ。 |
アイゼン | 浮遊島から受け入れた負傷者と、非戦闘員か。 |
フィリップ | これから浮遊島のアジトを横付けして浮遊セールンド島に乗り込む手筈だからね。下手をすると戦場になる。 |
フィリップ | そうなった場合、鏡士しか動かせない浮遊島よりはケリュケイオンの方が安全だろう ? |
ローエン | 遅れて申し訳ありません。 |
マーク | ローエン !……と、クレアにマリアンに、アミィもか ?どうしたんだ。 |
ローエン | 少々……とは言えない問題が起きております。みなさん、まずは状況の説明をお願いします。 |
マリアン | はい。ブルートさんとウィンガルさんとプレザさんヴィクトリアさん、ミルハウストさんの姿がどこにも見当たらないんです。 |
フィリップ | そんなはずは……彼らは眠ったままなんだろう ? |
クレア | ええ。浮遊島から運び出す際に確認をしています。 |
フィリップ | まさか、このタイミングで目覚めたのか ?ありえないことじゃないけど……。 |
アミィ | そう思って、艦内を捜しましたがどこにもいないんです。今も、セシリィとリベラが見回ってくれてるんですけど……。 |
ヨーランド | もしかして、さっき私が診たせいで劇的に回復したのかしら。な~んて……。 |
マーク | それ !ありえるんだよ、あんたの場合 ! |
セシリィ | ボス ! ボス、大変 ! |
ガロウズ | お前たち、誰か見つかったか ! ? |
リベラ | ううん。見つからなかった……。それとバルバトスも見つからない。シンクも一緒に捜してくれたけど……。 |
シンク | こっちのせいにされても困るからね。 |
マーク | バルバトス ! ? あいつ、艦内にいないのか ! ? |
セシリィ | ごめんなさい。バルバトスさんが船に居る時には行動に気をつけろってボスにもマークさんにも言われてたのに。 |
マーク | いや、謝るのはこっちだ。エルレインと分けちまった俺の配置ミスだ。まさか、あいつが負傷者たちを……。 |
ローエン | いえ、バルバトスさんが彼らを連れ出す理由がありません。この件は分けて考えるべきでしょう。 |
クラトス | バルバトスが出て行ったのは先ほど浮遊島に停泊していた時だろう。 |
アイゼン | ああ。それに負傷者たちが回復して出て行ったとすれば収容した後に船が発つまでのわずかな間だな。 |
デクス | 着陸ポイントに到着したぞ ! アリスちゃーん ! |
マーク | ……時間がない。イクスに伝えて、こっちは潜入を開始する。 |
フィリップ | クレア、マリアン、アミィ、セシリィ、リベラ君たちは引き続き彼らの足取りを追って欲しい。ガロウズ、何かあればすぐに連絡を入れてくれ。 |
フィリップ | それとシンク、艦内の守りは頼んだよ。 |
シンク | いいから、死にたくないならさっさと行きなよ。 |
フィリップ | では行こう。ゲフィオンとリーパのところへ。 |
キール | そろそろ、浮遊セールンド島に接岸するぞ。 |
フォッグ | おぅ。イクスの腕の見せ所だな。 |
チャット | そうですね、ぶつからないようにでもボクたちが渡れるくらい近くに寄せてもらわないと―― |
クィッキー | ! クィッキー ! |
メルディ | バイバ ! どした、クィッキー ! |
ファラ | しっ ! チャット。悲鳴だけはダメ。 |
リッド | こらえろ。他の奴らも突入のタイミングを計って隠れてるんだ。ここで台無しにはできねぇ。 |
メルディ | でも、クィッキー、へん。なに感じたか ? |
ラピード、ノイシュ、ルル、ミュウ | ! ! |
コーダ | ヘソがピリピリするんだな、しかし ! |
バルバトス | ここだな ! なるほど、だいぶ近い。 |
ルック | バルバトスさん、なんでこんなことを……。 |
バルバトス | メルクリアはあの島へ来るんだろう ?復讐の機会がやっと訪れたというのに逃すわけないだろうが ! |
ルック | なんでそれを…… ! |
ルキウス | あいつ、またメルクリアを狙ってるのか ! |
カイウス | ルキウス、今はだめだ ! |
バルバトス | これまで小娘の情報を上手く隠していたんだろうが今回ばかりは、わきが甘かったようだな。 |
バルバトス | マークめ、俺を飼いならせたと思ったら大間違いだ !腰ぎんちゃくも案内ご苦労。どこへでも失せろ。 |
ルック | くそっ……行かせるか ! |
バルバトス | 触るなウジ虫が !俺の誇りを汚したあの小娘は殺す !貴様はそこで、一生地べたを這っていろ ! |
ロイド | あいつ ! |
ジーニアス | まずいよ、バルバトスの奴浮遊セールンド島に飛び移っちゃった ! |
ヴィクトル | しまった ! 遅かったか !ルック、大丈夫か ? |
ルック | ヴィクトルさん……すみません。接岸場所まで連れていかないとケリュケイオンの連中を殺すと言われて……。 |
エル | パパ ! ? |
ユリウス | ル……ヴィクトル、どうなってる ! ? |
ヴィクトル | 今回の作戦を進めるなかで、メルクリアたちの情報がバルバトスに漏れたのだ。奴は復讐を果たすために勝手にケリュケイオンを降りた。ルックを脅してな。 |
ティア | 骨が折れてるみたい。すぐに治療するわ。 |
ルビア | あたしも一緒に ! |
ゼロス | ルック、ルビアちゃんとティアちゃんの二人がかりで治療してもらえるなんて幸せな奴め。 |
ルーク | なあ、つい勢いで俺たちも飛び出しちまったけどこれ、どうすんだ ? |
ユーリ | おい、先に突入するぞ ! |
ガイ | ユーリ ! ? |
ルカ | え ! ? タイミングを見てこっそり潜入って作戦は ! ? |
ベルベット | さっきの見たでしょ。あいつが乗り込んで大人しくメルクリアを捜すと思う ? |
ジュディス | そうよ。どうせバルバトスに大暴れされるんだもの。タイミングも何もないでしょう。 |
ライフィセット | こういうの何て言うんだっけ。乗りかかった船 ? |
パティ | なのじゃ ! さあ、みな続け !これだけの面子じゃぞ ?大船に乗った気で突入なのじゃーー ! |
マギルゥ | ええい、もうどーでもいいわい ! マギンプイ ! |
ビエンフー | ビエ~~~ン !姐さーん、置いてかないで欲しいでフー ! |
カロル | あはは……もうめちゃくちゃだけど、そっちは大丈夫 ? |
ロクロウ | 応 !できればバルバトスと斬り合いたいもんだ ! |
エレノア | ロクロウ……、またそれですか。あなたは本当にぶれませんね。 |
エステル | エレノア、みんなのブレーキ役、頑張りましょう ! |
リタ | 言っとくけど、あんたもブレーキかけられる側よ ? |
エステル | そうなんです ! ? |
プレセア | ……行ってしまいました。 |
エルマーナ | なんや、止めるヒマもあらへん。 |
ヴィクトル | 私も引き続きバルバトスを追う。 |
エル | パパ、エルも一緒に行く ! |
ルドガー | 俺も行きます。俺たち全員でエルを守る ! |
ユリウス | ああ。家族でこの子を守ることが何より安心だと思わないか ? |
ヴィクトル | ……行こう。 |
リーガル | こうなっては仕方あるまい。まずは指令室に連絡だな。 |
リカルド | ああ。――こちら浮遊セールンド島潜入チーム。潜入直前にトラブルが起きた。 |
ジェイド | 状況はわかりました。すでに突入したチームにはそのまま先行してもらいます。リフィル、そちらはどうです ? |
リフィル | 目標への接岸を確認したわ。アンジュ、行ける ? |
アンジュ | はい、すぐに。――コンウェイさん、キュキュさん。始めてください。 |
コンウェイ | 了解。 |
キュキュ | はい、わかた ! |
アンジュ | みなさん、コンウェイさんとキュキュさんがアジトの防衛機構を起動しています。 |
アンジュ | 現在待機しているチームは、起動が完了してから行動開始。独自の行動を控えてください。特にイリアとスパーダくん。 |
イリア | スパーダはともかく、なんであたしなのよ。 |
スパーダ | お前、自分のこと棚に上げすぎだろ……。 |
アンジュ | この前の墓守の街ではどうだったかしら ?最初の一発、あなたが放った気がするんだけど。 |
イリア | ……自重します。 |
ジェイド | さすがアンジュ。この調子で、彼らの指揮をお願いしますよ。 |
ミリーナ | さすがね、イクス !目標地点にぴったり横付けできてるわよ。 |
イクス | はぁ……。船とは勝手が違うけどとりあえず漁師の面目躍如だな。 |
アトワイト | イクスさん、フィリップさんからこの本を渡すよう言付かったわ。どうぞ。 |
イクス | ありがとうございます。フィルさん、自分が大変な時に、こっちまで……。 |
ミリーナ | 経過は聞いているけど、本当に大丈夫かしら。 |
アトワイト | ヨーランドさんたちが動いているし何かあればすぐに連絡が来るはずよ。それと、フィリップさんが何かメモを挟んでいたわ。 |
イクス | 本当だ。ええと……。「この本の封印が解けるのはイクスだけだろう。方法を以下に記す」か。 |
アトワイト | それじゃ、何かあったら呼んでちょうだい。 |
ミリーナ | ありがとうございました。――イクス、やってみましょうか。 |
イクス | いや……ちょっと待ってくれ。腕の魔鏡を押し当てると反応……その後に解呪の文言を唱える…… ? |
イクス | それなら、これまで俺が調べている最中に俺の魔鏡に反応してもいいはずだ……。 |
イクス | ……そうか。そういうことか。だったら……。 |
イクス1st | わかったよ、イクス。やってみる。 |
ミリーナ | え ? イクス…… ? |
イクス1st | やあ、ミリーナ。久しぶり……じゃないな。始めまして、最初のイクスだ。 |
ミリーナ | あなたが……イクスさん。 |
イクス1st | 本当はミリーナやカーリャともたくさん話したいよ。でも、今はフィルが届けてくれたこの本を優先させる。――イクス、始めるぞ。 |
イクス1st | 本に、腕の魔鏡を近づける、と。 |
カーリャ | あ、本がうっすら光ってます ! |
イクス1st | よし。そして解呪の呪文……。『――――――』 |
ミリーナ | 本が……書き代わっていくわ ! |
イクス1st | 「本日、バロールとの交信にて、鏡士の……」これ、バロールの巫女の手記だ ! |
ミリーナ | 大成功よ、イクス ! ……さん。 |
リフィル | イクス ? いいかしら。作戦変更になりそうなの。 |
イクス1st | これ、魔鏡通信だよな ? |
ミリーナ | 私が話します。――こちら、ミリーナです。作戦変更って、何があったんですか ? |
ミリーナ | ……わかりました。では計画はその方向で先に進めてください。お願いします。 |
イクス | (バルバトスさん…… ! こんな時に) |
イクス1st | イクスに代わるか ? |
ミリーナ | いいえ。イクスさんのままじゃないとまた封印が復活するかもしれませんから。今はそのまま、手記を読み進めてください。 |
キャラクター | 6話【21-6 アジト3】 |
カーリャ | どうですか ? なにが書いてあるんです ? |
ミリーナ | しっ、今はイクスさんに集中させてあげて。 |
イクス1st | ……いいよ。一通り目は通した。 |
イクス1st | 書かれていたのはバロールとの交信記録だ。俺の一族と、俺が生まれた時のことも書いてある。 |
ミリーナ | イクスの……。 |
イクス1st | 順を追って話そう。 |
イクス1st | 手記によると、俺たちの一族に子供ができるとその子がバロールの因子を受け継いでいるかどうかバロールの巫女に伺いを立てるんだ。 |
ミリーナ | イクスの一族全員がバロールの因子を持つとは限らないんですね。 |
イクス1st | ああ。その因子を調べる方法だけど、バロールの巫女が遠く離れた地にいる『鏡精ルグ』と交信して因子の有無を尋ねていたそうだ。 |
イクス1st | 因子を継いだ子供だと確認できた場合その子供は鏡士になることを禁じられる。 |
イクス1st | そして、その子は年に一度、バロールの巫女の元へ赴くことになっていた。 |
イクス1st | 俺の両親も慣例に従い、俺を身ごもった時にバロールの巫女に会いにいってそこでルグに告げられた。 |
イクス1st | 俺が、祖父以来のバロールの因子を受け継ぐ『バロールの血族』だって。 |
ミリーナ | だからお祖父様は鏡士ではなく、漁師になっていたんですね。 |
イクス1st | うん。けど俺は、何百年かぶりの極めてバロールに近い存在だったらしい。それを聞いた俺の両親はひどく怯えていたって書いてある。 |
イクス1st | でも、ルグはこうも言ってくれている。 |
イクス1st | 「極めてバロールに近いからこそ、鏡精をエネルギーとして使う今の状況に変革をもたらして、かつてのバロールのように鏡精を救ってくれるかもしれない」 |
イクス1st | ルグからティル・ナ・ノーグの創世の経緯を聞かされたことで、不安がっていた両親も落ち着いたそうだ。 |
イクス1st | それどころか、むしろバロールの力を使うことで鏡精を使わずにエネルギーを生み出せるのではと考えるようになった。 |
ミリーナ | それが、イクスのご両親の研究……。 |
イクス1st | ――で、この辺りまでは普通に読めた。 |
カーリャ | 普通って、どういうことです ? |
イクス1st | バロールの巫女の交信頻度がものすごく上がってるんだ。それに伴うように、内容が不明瞭になっている。 |
イクス1st | どうやら、ルグとの交信のせいで鏡精との交信感受性が高まりすぎたらしいな。 |
イクス1st | そのせいで、セールンドの凄まじい鏡精殺しで生まれた死鏡精に、度々心を奪われるようになった。 |
イクス1st | 当初は本人も自覚はあったみたいだ。まともに交信できているか悩んでいると書いてある。でも、最後の方は何を書いているかも意味不明で……。 |
ミリーナ | ……。 |
イクス1st | けど、その辺りの状況は父さんたちが補足として書いている。 |
ミリーナ | なぜイクスのご両親が…… ?あっ、ごめんなさい、続けてください。 |
イクス1st | 俺が生まれて、慣例だった年に一度の訪問に行く頃にはバロールの巫女の精神状態は更に悪くなっていた。 |
イクス1st | 幻聴、幻視、妄想に妄言。しまいには鏡精の子を孕んだとか言いふらしたりまともに話も通じなくなっていたらしい。 |
イクス1st | でも、巫女がかろうじて正気を戻した時にルグとの最後の交信を記録したこの手記を父さんたちに託したそうだ。 |
イクス1st | 父さんと母さんは手記を持ってセールンドに戻りルグから受けた言葉を信じて研究を続けていた。 |
イクス1st | でも、いつも危機感を抱いていたらしい。バロールの因子を持つ俺は、王宮やビフレストから監視されるだろうって。 |
イクス1st | それに、父さんたちは鏡精エネルギー反対派でセールンド王とは対立する立場だった。 |
イクス1st | いつ命を狙われるかわからないし、そうでなくてもカレイドスコープ開発は危険な実験の繰り返しでこの先も無事でいられる保証がない。 |
イクス1st | 俺を守れないかもしれないって……。 |
イクス1st | それでも、カレイドスコープの最終起動には俺の力が必要になる。それで、遺言を残すことにしたそうだ。 |
ミリーナ | それが、イクスの魔鏡に込められたメッセージ……。 |
イクスの父 | お前に伝えなければならない。お前は鏡士になれ、と。 |
イクスの母 | 私たちはいつも祈っているわ。あなたが健やかであることを。イクス、どうか、いつまでも元気で……。 |
イクス、イクス1st | 父さん、母さん……。 |
ミリーナ | この手記は、命の危険を感じていたご両親がイクスさんだけが読めるように封印をかけていたんですね。 |
イクス1st | ああ。手記の内容は大体こんな感じだけど……。――イクスも一緒に読めてるよな ?……なあ、イクス ? |
イクス | (俺とバロール……ルグの言葉を元に目指した形がカレイドスコープなら……ってことは……) |
イクス1st | !イクス、代わろう。 |
イクス | ……あれ、イクスさん ? どうして ? |
イクス1st | (なにか考えついたんだろう ?ミリーナも一緒に聞かせてやりたいからさ) |
ミリーナ | イクス……なのね ? |
イクス | ああ。考え事してたらミリーナにも聞かせてやれって、代わられた。 |
ミリーナ | そうだったの。ありがとう、イクスさん。 |
ミリーナ | それで、イクスは何を考えていたの ? |
イクス | 俺とバロールは近い存在なんだよな。死の砂嵐――フィンブルヴェトルに干渉できる。魔眼の鏡精を持ち、炎を燃やして命を生む……。 |
イクス | それを知った父さんたちは俺の力を利用する装置――カレイドスコープを作っていた。 |
イクス | 多分、命を生むってところをヒントにエネルギー問題と結びつけたのかもしれない。 |
イクス | とすると、同時にセールンドに蔓延していた死鏡精の問題だって解決できる。バロールの力なら、死の砂嵐に対抗できるだろう。 |
イクス | ってことはだ。父さんたちの理論がベースならカレイドスコープという装置にはバロールの力を使う『力』があるんじゃないか ? |
カーリャ | ややこしいけど、言いたいことはわかります ! |
ミリーナ | カレイドスコープで死の砂嵐に対抗……そうね、可能性は高いわ ! |
イクス | バロールの力を持つ俺と、カレイドスコープを改造したゲフィオンの記憶を持つミリーナがいればカレイドスコープを本来の形に戻せるかもしれない。 |
イクス | どうかな、バロール。これならあなたが力を貸してくれなくても俺たちの手で俺たちの世界を守れるんじゃないかな。 |
バロール | (…………) |
イクス1st | (否定しないってことは ?) |
イクス | 肯定、ですね ! |
ミリーナ | それなら、ニーベルングのレプリカ作成阻止と並行して帝国のカレイドスコープへ向かいましょう。それでも駄目だったときはアイギスを頼りましょう。 |
カーリャ | でも、帝国のカレイドスコープはゲフィオンさまが改造したものとは違います。大丈夫でしょうか……。 |
イクス | ファントムやグラスティンの手が入っていても基本設計と思想は本来のカレイドスコープと変わらない筈だ。 |
イクス | 父さんと母さんは、きっと応えてくれるよ。 |
キャラクター | 7話【21-7 ゲイボルグの島1】 |
デミトリアス | いよいよだ。ここから虹の橋を延ばしこのゲイボルグの島をアイフリードの墓と連結する。 |
グラスティン | アイフリードの墓は惑星ニーベルングのある次元と繋がる唯一無二の場所だ。あの場所と繋がることで存在が安定する。 |
グラスティン | ティル・ナ・ノーグが消えてもこのゲイボルグの島だけは存在が保たれるって訳だ。 |
グラスティン | スポットもここまで待てばティル・ナ・ノーグを脱出できたのになあ。 |
デミトリアス | ああ。あとは死の砂嵐が、アイギスで守られたこの島以外の全てを消してくれるのを待つだけでいい。 |
グラスティン | やっと消えるなあ ?お前の望み通りに、偽物の世界が。 |
デミトリアス | 長かった……。私がバロールの監視の目を解き放ってしまってから世界はあっという間に崩壊した。 |
デミトリアス | 今思えば、崩壊してしまえばよかったのだ。偽りの世界を生み出すぐらいなら。 |
グラスティン | だがお前はこのつぎはぎの世界を一度は許容したんだろう ? |
デミトリアス | ……この世界が滅ぶ原因になった魔鏡戦争はイクス・ネーヴェが鏡士になろうとしたことがきっかけで始まった。 |
デミトリアス | そしてイクス・ネーヴェが鏡士になるのを止められなかったのは、それを止めるはずのバロールの巫女が殺されたからだ。 |
デミトリアス | その因果を、ウォーデン殿ときみからそれぞれ話を聞いて、私はやっと知ることができた。 |
デミトリアス | 父の犯した過ち、そして自らの罪を贖うためには世界をあるべき形に戻すしかない。 |
デミトリアス | 壊れた世界を延命するために偽りの存在を生み出しては、歪みが広がるばかりだ。 |
グラスティン | ヒヒ……鏡映点共も可哀想になあ。 |
デミトリアス | 彼らの元の世界には鏡士の力が関与しない『本物』がいて、唯一無二の歴史を生み出している。 |
デミトリアス | 彼らこそが真なる存在であり、この世界の鏡映点などまやかしに過ぎない。本物を守るためにはまやかしの存在など消し去るしかないさ。 |
グラスティン | 本物……本物かあ……ヒヒヒヒ。まあいいさ。デミトリアス、お前のいう本物の世界を守るためにハスタの魂を使ってやれ。 |
デミトリアス | そうだな。ルグの槍の代わりにゲイボルグの槍を使って虹の橋を操る ! マクスウェルの精霊装の力でな ! |
| 浮遊島アジト 観測室 |
クラース | 虹の橋が動き出したぞ ! ? |
スレイ | あれは……帝国の作った浮遊島に向かって延びている ? |
ウィル | そのせいか。マクスウェルの残滓がものすごい勢いで増え始めているようだ。 |
テネブラエ | はい。どうやらダーナの心核が隠されているアイフリードの墓へと延びているようです。虹の橋を動かすにはマクスウェルの力が必要です。 |
ラタトスク | テネブラエ ! ? |
テネブラエ | フリーセルさんの監視が終わりましたのでこちらに戻ってきました。 |
しいな | ――そうか。今あたしにも声が届いたよ、テネブラエ。ヴェリウスが伝えてきた。虹の橋が延びてきたって。 |
ロゼ | ごめん、遅くなった !あたしたちは、こっちでいいんだよね ? |
スレイ | ロゼ、デゼル、待ってたよ ! |
イネス | セキレイの羽のほうは大丈夫 ?地上はだいぶ混乱してるでしょ。 |
ロゼ | まあね。けど、そのへんはアスターに頼んであるから。ヒルダにもよろしくってさ。 |
ヒルダ | そう。さすがアスター様、頼りになるわ。 |
ティトレイ | ヒルダが『様』づけで呼ぶとはねぇ……。そいつ、かなり怪しいって聞いてるけど本当に大丈夫かよ。 |
ヴェイグ | ああ。いい奴だったぞ。ヒルダを大事にしてくれた。 |
ティトレイ | 大事ねぇ。 |
マオ | なになに ? ティトレイってばやきもち ? |
ティトレイ | 焼くかそんなもん ! ただちょっと心配なだけで……。 |
デゼル | 気持ちはわかる。 |
ザビーダ | なになに ? デゼルくんもやきもち ? |
デゼル | うるせぇ ! ロゼの警戒心がなさすぎるからだ。それより、マクスウェルの残滓調査はどうなってる。 |
しいな | リチアたちの見立てだと、マクスウェルの残滓はマクスウェルの精霊片になって集合的無意識に広がってるそうだよ。 |
ウィル | ちょうど君たちがこちらに到着する直前に虹の橋が動いた。 |
セルシウス | それ以降、精霊片がさらに増えているの。誰かがマクスウェルの精霊装を使っているようね。 |
ロゼ | 精霊装か……。その話って、ミラがマクスウェルの残滓に取り付かれそうになった時にヴェリウスが教えてくれたやつだっけ ? |
ミラ=マクスウェル | ああ。帝国がマクスウェルの精霊装を使うたびにその残滓が心の世界に広がっていく。 |
ミラ=マクスウェル | だが、その残滓が精霊輪具に帰る前に回収できれば帝国の精霊装の力を削ぐことができると言っていた。 |
クンツァイト | ここまでの観測でも、残滓の増量と虹の橋の動きは連動している。マクスウェルの精霊装が作用していると見て、ほぼ間違いないだろう。 |
ベリル | でね、精霊装の力を削げばあの虹の橋も存在を保てなくなるかもしれないってみんなで話してたとこなんだ。 |
ロゼ | それで今は精霊片吸引器で精霊片を集めてるってわけか。収集率は ? |
ミクリオ | 順調だよ。だけどこの程度で本当に帝国の精霊装の力を削れているかは疑問だな。 |
スレイ | う~ん……もっと積極的に集めに行ったほうがいいかもしれない。 |
セネル | 精霊装を作る時みたいに精霊片の多い場所まで行くってことか ? |
モーゼス | なるほど、攻めに転じるっちゅうわけじゃな !スの字のアイディア、ワイも乗っちゃる ! |
グリューネ | まあ、お出かけ ?それなら、お弁当と~、お茶と~デザートも欲しいわね~。 |
ノーマ | グー姉さん、ストップ !話の腰がボッキボキに折れてる ! |
エドナ | そのボキボキ、戻してあげるから一生恩に着なさい。 |
エドナ | それで、集めに行くという話だけど精霊片が多い場所に当てはあるの ? |
リチア | 心当たりはあります。わたくしたちであれば『そこ』に入れるはずです。 |
三人 | あっ ! ! |
リチア | ええ、そうです。ヴェリウスの言葉どおりなら残滓が広がる集合的無意識はスピリア――心の世界と通じています。 |
シング | そうだよ ! あの時は、ミラが戦った場所で傷ついたダーナの心核からマクスウェルの残滓が流れ込んでファントムを通じてミラさんに集まっちゃって…… ! |
ミラ | わ、私が何 ! ?何言ってるのか全然わからないんだけど ! ? |
ガラド | 簡単にいやぁ、スピリアの中にはマクスウェルの残滓がたんまり漂っている場所があるってことさ。 |
ガラド | ただし、誰にスピルリンクするかが問題だ。もちろん帝国でマクスウェルの精霊装を使っている奴が一番なんだが……。 |
コハク | 今、シングが言ってたよね。前は、ダーナの心核の傷からマクスウェルの残滓が流れ込んでミラに影響したって。つまり、ええと…… |
ユージーン | つまりダーナの心核は、残滓が広がっている集合的無意識とも通じやすいということか。この世界自体も、ダーナの仮想鏡界だからな。 |
アニー | ダーナの心核なら浮遊島にあります。以前、スレイさんたちが持ち帰った、鏡の精霊の心核のレプリカにはダーナの心核の一部が使われているんですよね ? |
クラース | よし、それで行こう !ソーマを持っているメンバーはスピルリンクを頼む。残滓を探るのは……。 |
クラース | ……君たちはやめた方がいいな。残滓の『おとり』としては持ってこいだが危険すぎる。 |
ミラ=マクスウェル | 確かに、マクスウェルの残滓に囚われる可能性は否定できない。私も以前は自我を失いかけた。だが、やらせてもらえないだろうか。 |
ミラ | そうよ、危険は承知の上。それに、マクスウェルの残滓が何をしようと私は『私』を手放さないわ。 |
ミラ | あの子が待ってるって思えば……。 |
ラタトスク | 同じ精霊として忠告するぜ。そいつは無謀だ。 |
ミュゼ | そうよ、行っちゃダメよ !私の可愛いミラたちを危険な目に遭わせるわけにはいかないわ ! |
キュッポ | 観測室はここだキュ ? 間に合ったキュ ! |
ピッポ | ジェイ、皆さん、お届け物だキュ。 |
ジェイ | キュッポにピッポにポッポ !地上の情報を集めに行ったんじゃなかった ? |
キュッポ | その途中でハロルドさんから預かったキュ。 |
ポッポ | これはクレーメルケイジを転用したミラさんたち専用の防御シールドだキュ。 |
ポッポ | 何かあったときには、一時的にミラさんたちをマクスウェルの残滓から守ってくれるんだキュ。これで囚われずに済むらしいキュ ! |
ライラ | さすがハロルドさんですわ !いつの間にか、こんな物を作っていたなんて。 |
ピッポ | でも、精霊調査の話を聞いてチャチャッと作ったから効果が短時間なのが不本意らしいキュ。 |
エミル | チャチャッと……。 |
マルタ | あれで不本意なんだ……。 |
ミラ=マクスウェル | ありがとう、モフモフたち。――さて、これでどうだ ? |
クラース | まったく、なんてタイミングだ……。わかったよ。行ってもらえるか ? |
ミラ | ええ、任せなさい。 |
クラース | ただし、シールドは一時的なものという話だ。守りはいつも以上に、しっかり固めてくれよ。ちなみに、マオやシャーリィも……。 |
二人 | 「行きます ! 」「行くヨ !」 |
ベリル | となると、かなりの人数だね。鏡士の協力もないし。 |
ヒスイ | ヴェイグやセネルのとこはまるっと全員だろ ?スレイのとこも精霊関係ばっかだしな。よっし、今回はソーマ使い総出でやるか ! |
クロエ | だが、そうなると外からの観測が手薄になってしまうな。 |
クラース | 私がこちらに残ろう。それと、しいな、セルシウス、エミルたちにも手伝ってもらおうか。 |
三人 | 了解 ! |
ジェイド | なるほど。では、死の砂嵐対抗策としてカレイドスコープを優先すべきだと。 |
イクス | はい。具現化アイギスシステムを一から調べるより成功する可能性が高いと思います。 |
ジェイド | わかりました。では、バルバトスについては先行して乗り込んだチームでそのまま追跡してください。 |
リフィル | 現在待機中のロイド、ルークたちのチームはレプリカ装置の捜索リッドたちは虹の橋へ向かってちょうだい。 |
アンジュ | ルカくん、カイウスくんたちはイクスさんと一緒にカレイドスコープに向かってね。 |
イクス | ありがとうございます。それじゃ俺たちはルカやカイウスと合流でき次第、突入しますね。 |
ジェイド | ああ、待ってください。こちらからも報告があります。先ほど、私たちをどうしても手伝いたいという方々がやってきましてね。 |
ジェイド | 相手は回復しきっていない病人も同然でしたがかといって無下に断ると問題を起こしかねないので一部、仕事をお任せしておきました。 |
イクス | はあ。それはつまり……どういうことですか ? |
カーリャ | 鬼畜の臭いがします ! |
ジェイド | 今、その件について関係者に連絡を入れています。ですが、この混乱です。報せを受け取れないチームは彼らが現れたら驚くでしょうねぇ……。 |
キャラクター | 8話【21-8 アセリア領】 |
| ――アセリア領、A地点 |
ナタリア | ……侵攻してくる兵の数が尋常ではありませんわ。このままでは、こちらの地上反乱軍の兵たちが危険です。 |
アニス | あーもう ! なんで倒しても倒しても帝国兵が減らないわけ ! ? |
イオン | おそらく、敵兵の殆どは人工心核を使ったレプリカリビングドールなのでしょう。 |
ピオニー | どおりでこんな無茶苦茶な戦い方をするわけだ。奴らは全く怯むことなくこちらを攻撃してくる。自分たちの意思がない分、厄介だな。 |
アッシュ | ちっ。どうせこの世界を捨てると決めてレプリカも大量製造しているんだろう。あいつらにとっては使い捨ての駒同然だ。 |
イオン | こちらも、何か打開策を打ちたいところですが……。 |
ピオニー | 状況はどこの部隊も同じだろう。増援を呼ぶとしても時間がかかる。今は俺たちだけでなんとかするしか―― |
? ? ? | ――いえ、すでに手は打っています。 |
ピオニー | あんたは…… ! |
アガーテ | 到着が遅くなって申し訳ありません。先ほど、救世軍の方々に送っていただきここまで来ました。 |
アニス | えっ、救世軍の兵もこっちに来たの ? |
アガーテ | はい。皆さんの戦況を知り、他の地点にいた兵たちをこちらに回すように手配いたしました。 |
アガーテ | それに、敵の兵力の要であるフォミクリー装置の場所も特定できました。それを破壊さえできればこの状況を打破できるはずです。 |
ピオニー | そいつは助かる。だが、いつの間にそんなことまで……。まさか、あんたが全部一人でやったわけじゃないよな ? |
アガーテ | ええ、わたくしがここに来るまでにも多くの方々が手を貸してくださいました。 |
アガーテ | そして、フォミクリー装置の捜索はわたくしが最も信頼している人物が担ってくれています。 |
アガーテ | 彼ならば必ず、その責務を果たしてくれるはずです。 |
| ――アセリア領、別地点。 |
帝国兵レプリカリビングドール | ――敵、発見。排除する。 |
モリスン | しまった ! まだ兵が潜んでいたか ! |
チェスター | どうする ? 囲まれちまったぞ ! ? |
クレス | はぁはぁ…… ! みんな、怯んじゃ駄目だ !僕が先陣を切って……くっ ! |
ミント | クレスさんっ ! |
チェスター | おい、クレス ! お前、やっぱり無理してたのを隠してやがったな…… ! |
ルーングロム | 君だけでも、倒した敵の兵は百人を超えている。それだけ戦い続けて立っていられるほうが不思議なくらいだ……。 |
すず | 今度は私が前へ出ます !その間にクレスさんは体力の回復を―― |
帝国兵レプリカリビングドール | ――目標、殲滅開始。 |
チェスター | 来るぞ ! ! |
? ? ? | ――ダオスレーザー ! ! |
チェスター | なっ ! ? |
モリスン | そんな…… ! この技は…… ! |
ダオス | ……所詮、意思を持たぬ人形か。 |
クレス | ダオス ! ? どうしてお前が ! ? |
アーチェ | ……もしかして、あたしたちを助けてくれたの ? |
チェスター | 馬鹿言うな。こいつがそんなことするはずねぇ ! |
ミント | では、一体何故……。 |
ミルハウスト | みんな ! 無事か ! ? |
クレス | ミルハウストさん ! ? |
ミルハウスト | よかった……どうやら間に合ったみたいだな。 |
チェスター | なんであんたがここに……。いや、それよりも身体は大丈夫なのかよ ?心核がボロボロで動くのもやっとなんだろ ? |
ミルハウスト | ……ああ、正直、まだ私自身は戦えない。だが、この状況でそんなことを言っている余裕がないのは、君たちも十分理解しているはずだ。 |
ミント | では、ミルハウストさんは私たちを助けにこちらへ来たのですか ? |
ミルハウスト | それもあるが、救世軍が掴んだフォミクリー装置の場所を特定し、その破壊の任務を担っていたんだ。 |
ミルハウスト | ダオスと出会ったのもその道中だ。彼は私と共に、フォミクリー装置の破壊を手伝ってくれたのだ。 |
ダオス | 勘違いするな。私はただ、あの下劣な装置を野放しに出来ぬだけだ。 |
ダオス | そして、この星を破滅させようとしている帝国の連中も同じこと。 |
ミルハウスト | 理由はどうであれ、私が助けてもらったのは事実だ。他にもファンダリア領にあるフォミクリー装置の場所も特定して、ディムロスたちに伝えることができた。 |
モリスン | ……わかった。今はそれで納得しよう。他の領の状況はわかるかね ? |
ミルハウスト | ああ、私が知っている限りだとウェルテス領、テルカ・リュミレース領エフィネア領、グリンウッド領に増援が送られた。 |
ミルハウスト | 皆、この世界を守るために戦ってくれている。これ以上、帝国の思い通りにさせてなるものか。 |
| ――ウェルテス領 |
水の民 | ここは俺たちが生きていく場所だ ! |
陸の民 | ああ ! 共に戦おう !我らが居場所を守るために ! |
マウリッツ | 見えるか、ワルター。水の民と陸の民が、共に手を取り合う姿を……。 |
ワルター | ……奴らは、俺たちの知る水の民と陸の民ではない。 |
マウリッツ | わかっている。だが、我々が見ているのは可能性だと思わないか ? このような未来があったのかもしれないという可能性なのだ。 |
レイア | ワルター、マウリッツさん !あの人たちが戦ってくれている間にわたしたちも早く怪我の治療をしなきゃ ! |
エリーゼ | レイア、こっちはわたしたちに任せてください !悪い敵は全部やっつけちゃいます ! |
ティポ | ぼくも本気出しちゃうぞー ! |
アルヴィン | 助かったぜ。ここを抜けられるとファンダリア領まで侵攻されちまうからな。まさかお前たちに礼を言う日が来るとは思わなかった。 |
プレザ | なに ? 文句なら受け付けないわよ、アル。 |
アグリア | あははっ ! ババアたちにしちゃあ上出来だぜ !助けられたなんてこれっぽっちも思ってねえけどな ! |
ウィンガル | お待たせしました、陛下。既に敵軍はこちらで包囲しております。なんなりとご命令を。 |
ガイアス | お前たち……。いや、今は何も言うまい。よくやった。 |
ジュード | ……うん、二人がこの領に住む人たちを説得して連れて来てくれたおかげで、状況は一変した。ここからは僕たちの役目だ。 |
ガイアス | いくぞ !我らが道を阻む者は、何人たりとも容赦はせん ! |
| ――テルカ・リュミレース領 |
アレクセイ | この辺りのレプリカリビングドールは一掃した。我が兵がこの領を制圧するのも時間の問題だな。 |
レイヴン | おたくがそんな台詞を言っちゃうとどうにも悪役感が拭えないわ。 |
フレン | ……ですが、僕たちがこうして無事でいられるのも彼らの働きのお陰です。 |
レイヴン | わかってるよ。一応、礼は言っとくわ。そちらさんにもね。 |
デューク | 私は世界を乱す者を討つだけだ。 |
シゼル | だが、まだ油断はできぬ。今の内に他の領の情報も入手しておくべきだろう。 |
アーリア | ええ、シゼルさんの言う通りだと思うわ。気を緩めないようにしましょう。 |
レイス | ところで、あなたはメルディと行動を共にしていると聞いていたんだが ? |
シゼル | メルディにはあの者たちが付いている。心配は無用だろう。ならば、私も戦況を見て動くべきだと判断したのだ。 |
ティルキス | 何はともあれ、心強い味方だ。 |
フォレスト | はい、我々も後れを取らないようにしましょう。 |
| ――エフィネア領 |
ヴィクトリア | アスベル、ここは私たちが帝国軍の相手をするわ。その間にあなたたちはフォミクリー装置の破壊に向かいなさい。 |
アスベル | ヴィクトリア教官、どうしてここに ! ? |
ヴィクトリア | 救世軍の地上部隊を連れて来るためよ。私自身はまだ全力で戦えるまでの身体に戻っていないから、出来ることはこれが限界だけど。 |
シェリア | そんな…… ! だったら尚更危険です ! |
カーツ | では、私が残って彼女のサポートに回ろう。それで問題はないはずだ。 |
リトルクイーン | だったら、まずはわたしたちが道を開く ! |
ソフィ | うん ! いくよ ! |
二人 | ――ツイン・ディゾルヴァー ! ! |
パスカル | おお~ ! ! 今のかっこいいー ! !いいなぁ~あたしも一緒にやりたいよ~ ! |
ヒューバート | パスカルさん !今はふざけている場合じゃないですよ ! |
リチャード | ……アスベル。ここは彼女たちのことを信じるんだ。 |
アスベル | 教官……俺たちは行きます!どうか、ご無事で。 |
ヴィクトリア | ええ、心配してもらわなくていいわ。それより、マリク。あなたがちゃんと、私たちの教え子を守ってね。 |
マリク | ……ああ、任せておけ。 |
| ――グリンウッド領 |
セルゲイ | 獅子戦吼 ! ! |
アリーシャ | ……なんという気迫だ。さすがはスレイに技を伝授した者の腕前だな。 |
セルゲイ | まだ本調子ではないのが悔やまれるな。それに、頼りになるという賛辞ならばあの者たちに向けて送るべきだろう。 |
オスカー | 姉上 ! こちらは任せてください ! |
テレサ | ええ、お願いします ! オスカー ! |
マティウス | いくぞ、チトセ。これ以上、奴らの好きにさせるのは癪だ。 |
チトセ | はい、マティウスさま。私たちを利用した借りは今ここで返しましょう。 |
セルゲイ | それぞれの思いがあるのだろうが今はこうして共に戦うことができている。自分はそれを嬉しく思う。 |
アリーシャ | ああ、だからこそ、決して負けるわけにはいかない !私の全てをかけて、帝国の野望を止めてみせる ! |
ディムロス | こちらディムロス。ファンダリア領A地区の制圧に成功した。 |
シャルティエ | それと、ミルハウストさんの情報のお陰でフォミクリー装置の破壊も無事に完了しましたよ。 |
エルレイン | 同じく、B地区の制圧、及び住民たちの安全は確保しています。 |
イレーヌ | C地区も問題ありません。今は負傷した反乱軍の人たちの治療に当たっているところよ。 |
シグレ | ったく、つまんねぇな。こっちに来りゃあ少しは面白れぇと思ったんだががっかりだぜ。 |
ムルジム | ごめんなさい、血の気が多い子なの。だけど、あなたたちが望む結果にはなっていると思うわよ。 |
リフィル | 報告ありがとう。他の部隊の状況はどうかしら ? |
パライバ | はい、こちらももうじき制圧が完了するかと思います。 |
カルセドニー | しかし、まさか物資の手配までしていたとはな。この戦禍の中で、よくここまで手を回せたものだ。 |
イエガー | イエース。ミーたちはプロフェッショナル。どんなミッションも完璧にこなしてみせます。 |
ゴーシュ | お前たちも、イエガー様にもっと感謝しろ。この戦果は、イエガー様の活躍なしでは成し遂げられなかったものだ。 |
ドロワット | 私たちもしっかりお手伝いしたんだワン。 |
ジェイド | ええ、助かりましたよ。皆さんには、引き続き持ち場をお任せします。 |
リオン | 先ほど、アセリア領にオールドラント領それにカレギア領の制圧も無事に終わったと言っていたな ? |
アンジュ | ええ、みんな順調に作戦を進めてくれているわ。 |
コングマン | おう ! この俺様がいれば百人力よ !なんたって、チャンピオンだからな ! |
チェルシー | いえいえ、確かにコングマンさんのご活躍もお見事でしたが、一番はなんといってもウッドロウさまです ! |
ウッドロウ | チェルシーも見事な弓の腕前だったよ。先生が見たら、きっと褒めてくださることだろう。 |
ジョニー | だが、勝利の歌を奏でるにはちょいと早いんじゃないか ? |
フィリア | はい、イクスさんたち潜入組……それに、マクスウェルについて調べている方々の状況も気になりますね。 |
ハロルド | そっちは専門にしてる奴らに任せましょう。私もちょ~~っとお邪魔したかったけど。 |
ジューダス | お前がいたら場を乱すだけだ。何かを解剖したいのならロニだけにしておけ。 |
ロニ | そうだそうだ ! ……って !なんで俺が解剖される前提になってんだよ ! ? |
ナナリー | ちょっと、こんな時くらい静かに出来ないのかい ?馬鹿は死んでも直らないっていうけど限度ってものがあるよ。 |
マリー | ははっ。だが、こっちのほうがわたしたちらしくていいと思うぞ。 |
ルーティ | そうね、難しい顔して湿っぽくなるよりスタンの暢気な顔を見てるほうが落ち着くわ。 |
スタン | ええ~、酷いなルーティ。けど、そうだな……全部終わったら俺腹いっぱいご飯食べて、ぐっすり寝たいよ。 |
リリス | もう、お兄ちゃんてば……。でも、仕方ないから全部片付いたときにはエルロン家直伝のマーボーカレーを作ってあげる。 |
カイル | あっ、それオレも食べたいです !リリスさんのマーボーカレーって何杯でも食べられますから ! |
リムル | よくわかっているわね、カイル。かあさ……リリスさんの作るマーボーカレーはいつだって最高なんだから。 |
リアラ | ふふっ、楽しみが増えてよかったわね、カイル。 |
S・ディムロス | ……全く、緊張感のない奴らだ。 |
S・クレメンテ | ディムロスよ、小言ばかり口にしておると年寄り扱いされてしまうぞ。 |
S・シャルティエ | あはは、言われてますよ、ディムロス。 |
S・アトワイト | もう……これじゃあ、私たちも似たり寄ったりね。 |
S・イクティノス | だが、いざとなれば頼りになる者たちばかりさ。この世界の運命を託すには、十分なほどにな。 |
キャラクター | 9話【21-11 セールンド城2】 |
ファントム | (……限界……かっ……) |
ヨウ・ビクエ | 聞こえるかしら、ファントム。 |
ファントム | お前は…………。 |
ヨウ・ビクエ | 間に合ったみたいね。全く、仮想鏡界の中にゲフィオンを取り込むなんて……あなたの心が死の砂嵐によって崩壊するわよ。 |
フィリップ | ファントム。これからきみの狂化止めを一時的に外す。 |
ファントム | そんなことをすれば私とあなたの心が一つに―― |
マーク | 俺がフィルの心に戻って防御壁を作る。死の砂嵐相手じゃそう長くは持たせられないがギリギリまでフィルの自我は俺が守る。 |
カーリャ・N | フィリップ様の中にマークが戻りました。これで少し時間は稼げましたが……。 |
デクス | この後はどうするんだ ? |
ヨウ・ビクエ | 私とネヴァンもファントムの仮想鏡界に入るわ。そこで内側から死の砂嵐を食い止める。ギリギリまでね。 |
帝国兵 | 貴様たち。そこで何をしている。 |
カーリャ・N | 帝国兵 ! |
ヨウ・ビクエ | 時間がないわ。私とネヴァンはファントムの仮想鏡界に入るからここはよろしくね。 |
アリス | ちょっと ! ? 二人で対処しろって言うの ! ?冗談でしょ ! ? |
アリス | デクス ! ケリュケイオンの連中を呼んでちょうだい。アリスちゃんだけが働くなんておかしいでしょ ! |
デクス | 了解だよ、アリスちゃん ! |
コーキス | ……おかしいな。さっきから城内に兵士の姿がない。 |
バルド | ナーザ様 ! これをご覧ください ! |
メルクリア | これは……発信器の信号が壁の向こうから出ているようじゃが……。そこの壁の奥にヴァンがいるというのか ? |
リヒター | いや、奴はこの城の上空に具現化された島にいる筈だ。発信器の最初の信号もそれを示していた。 |
ジュニア | どういうことなんでしょうか。ここに移動してきた、とか ? |
ナーザ | そういうことになるな。いや、正確に言えばヴァンはここへ来て、壁の向こう側に発信器を置いていった……のだろう。 |
ナーザ | 壁の向こうに留まっているとは思えないからな。 |
メルクリア | もしや、あの者は発信器に気付いていたのでしょうか ? |
ナーザ | だろうな。しかもわざわざこの場所に置いていったということには意味があるはずだ。単に捨てるのならば『壁の向こう』などという妙な場所には置くまい。 |
フリーセル | ……殿下。この壁、動きます。 |
5人 | ! |
フリーセル | 装置を動かしてみます。 |
メルクリア | 壁が……開いた ! ? |
ジュニア | 魔鏡陣がある ! |
リヒター | ヴァンに付けた発信器も見つけたぞ。この魔鏡陣へ案内したかったということか ? |
バルド | 私が先に潜入して様子を見て参ります。 |
| ゲイボルグの島 |
ジーニアス | この辺りだよね。ジェイドさんと姉さんが調べろって言ってた場所は。 |
ティア | ええ……。でも建物らしいものは何もないしフォミクリーの装置もないわ。 |
コレット | 空を飛んで見てこようか ? |
ガイ | いや、もしかして……地下、にあるんじゃないか ? |
ヴァン | その通りです。ガイラルディア様。 |
ティア | 兄さん ! ? どうしてここに ! ? |
ヴァン | 死霊使い殿はいないようだな。直接島を見なくてもどこがフォミクリーの設置場所としてふさわしいかわかるのは、さすが生みの親と言うべきか。 |
ルーク | 師匠 ! フォミクリー装置を無効化したいんです。入り口は何処にあるんですか ? |
ヴァン | 無邪気なものだな、ルーク。私が味方だと思って疑いもしないとは。 |
ガイ | ――おい、ヴァンデスデルカ。まさかお前……。 |
ティア | 帝国に味方するつもりなの ? |
ヴァン | いや、違う。私はこの世界に私とローレライが具現化された事による変化を調べていた。ずっとな。 |
ルーク | ローレライの具現化……。もしかして第七音素の具現化を…… ? |
ヴァン | 第七音素が本来の形で具現化された場合預言もまたこの世界に生まれることになる。この世界に預言が誕生したのなら―― |
ティア | この世界も滅ぼすつもりなの ! ? |
リーガル | ティアもルークも落ち着け。まずはヴァンの話を最後まで聞こう。 |
プレセア | はい。この人から敵意は感じません。敵対するつもりなら接触してこないはず、です。 |
ガイ | ああ、確かにそうだ。――ヴァン、どうなんだ ? |
ヴァン | ローレライが未来を見せてきた。もうすぐこの世界は滅びニーベルングに書き換えられるとな。 |
全員 | ! ? |
ロイド | そんなこと……あるはずがない !イクスも俺たちも負けない ! |
ヴァン | ……もしもお前たちの敗北が確定したときは私を殺せ。 |
ティア | 兄さん ! ? 何を言っているの ! ? |
ヴァン | いざというときには私ごとローレライを消滅させるように、ディストに命じてある。 |
ヴァン | だが――あれが中々素直に言うことを聞くとも限らない。だからお前たちにも頼んでおくのだ。 |
ルーク | だからって、ティアに……実の妹にそんなことさせようとするな ! |
ヴァン | ――この先の魔鏡陣から地下施設に辿り着く。封印は解いておいた。ローレライの見た未来を覆すために……頼んだぞ、ルーク。 |
バルド | ――ナーザ様。妙な仕掛けはありません。こちらにお越しください。 |
ナーザ | ご苦労だったな、バルド。ここは何処だ ? |
バルド | はい。ここは帝国の上空に具現化された島のようです。 |
リヒター | ここは居住区画か ? |
コーキス | 沢山人がいるけど……兵士じゃないよな。みんな普通の人みたいだけど……。 |
フリーセル | もしや、デミトリアスたちが集めていた『本来の』ティル・ナ・ノーグの住民ですか ? |
バルド | ああ。そうみたいだ。 |
バルバトス | うおおおおおおおおっ ! |
メルクリア | ああっ ! ? |
ナーザ | メルクリア ! ? |
バルバトス | ――ククク……ハーッハッハッハッ ! 喜べ小娘 !この俺の手ずから命を刈り取られることをな ! |
バルド | 貴様 ! ! |
バルバトス | 邪魔だ ! そいつの首をねじ切るまで俺の復讐は終わらんぞ ! |
リヒター | ちぃっ ! |
リヒター | コーキス ! 俺とバルドがこいつを止める ! |
コーキス | わ、わかった ! |
ジュニア | 今、止血しました ! ナーザ将軍 ! |
ナーザ | しかし逃げると言っても―― |
フリーセル | ウォーデン様! あちらをご覧ください ! |
ユーリ | 峻円翔華斬 ! ! |
バルバトス | ぐぁっ ! ! ……貴様らっ ! ? |
エステル | ナーザ将軍、こちらへ ! |
ヴィクトル | 兄さん、ルドガー君、バルバトスを囲むぞ ! |
ユリウス | 任せろ ! |
ルドガー | エル ! リタとエステルの所に ! |
エル | わかった ! パパもルドガーもユリウスも頑張って ! |
ユーリ | おっと、オレのことも頭数に入れといてくれよ。 |
ジュディス | あら、抜け駆けなんてずるいわ。私も暴れさせてもらうわよ。 |
ロクロウ | 面白いじゃねぇか ! 俺も混ぜろ ! |
リタ | あいつらが本気でやり合うと、周りが危ないわ ! |
ベルベット | 仕方ないわね。フィー、マギルゥ、カロル。あたしたちは周りの人間を戦闘狂の連中から守りながら避難させるわよ。 |
マギルゥ | ええい、次から次にやることを増やしおって !カロル ! 避難指示はお主に任せたぞ ! |
カロル | わかった !みんな !ボクたちと一緒に、ここから離れて ! |
| ゲイボルグの島 |
イクス | ――結構、敵の兵士がいるな。皆が先に上陸して、進路を確保してくれたはずなのにそれでもまだいるのか……。 |
カーリャ | お二人とも、コーキスたちです ! |
コーキス | マスター ! みんな ! 助けてくれ !メルクリアが―― |
ミリーナ | メルクリア ! ? ひどい傷だわ ! 今治療するわね ! |
イクス | どうしたんですか ! ? |
ナーザ | バルバトスに襲われた。鏡映点たちが助けてくれて事なきを得たが……。 |
メルクリア | すみ……ません……兄上様……。 |
ナーザ | 謝るのは俺の方だ。お前を守れなかった……。 |
ミリーナ | 大丈夫。急所は外れているしすぐに止血したみたいだから……治癒術も効きがいいわ。 |
ジュニア | よかった…… ! |
バルド | イクスさんたちは―― |
イクス | カレイドスコープを探しています。キラル分子の反応を見る限りこの島まで運び込まれたことは間違いないんですけど、反応が途切れてしまって。 |
ヨウ・ビクエ | イクス、ミリーナ。聞こえてる ?あら、バルドもそこにいるのね。助かるわ。 |
バルド | どういうことでしょうか ? |
ヨウ・ビクエ | 単刀直入に伝えるわね。死の砂嵐が危険な状態なの。このままだとファントムの心を食い破ってこの世界を飲み込むわ。 |
フィリップ | 今は僕らがファントムの仮想鏡界を何とかフォローしているが、それほど長くは持たない。 |
カーリャ・N | 今のままではバロールであってもカレイドスコープであっても死の砂嵐を消せない可能性が高いそうです。 |
バルド | ――そうか。『異物』か……。 |
ヨウ・ビクエ | そうよ。かつてゲフィオンとフィルのカレイドスコープが消滅させた人々や世界の欠片が死の砂嵐に紛れ込んでいる。 |
ヨウ・ビクエ | それらを全て集めてどかさなければならないの。その為に、バルドの力を――命を貸してちょうだい。 |
ナーザ | バルドに何をさせようというのだ。 |
フィリップ | 死の砂嵐の中に入ってもらいたい。それができるのはバロールの尖兵であり、死の砂嵐の中にいたことのあるきみだけだ。 |
メルクリア | ならぬ ! そ、そんなことをしたらせっかく甦ったバルドがまた死んでしまうではないか ! |
カーリャ・N | コーキスがあなたを守ります。そしてナーザ将軍も。 |
ヨウ・ビクエ | あなたが知っている二つの秘伝魔鏡技がこの作戦には必要不可欠なのです。 |
ヨウ・ビクエ | 【ギエラ・ビフレスト】であちらにいるシドニーと心を繋ぎ、そこからバルドとコーキスが死の砂嵐の中に飛び込みます。 |
ヨウ・ビクエ | 【ギエラ・ビフレスト】による虹の橋が繋がっている間はバルドもコーキスも存在を保てる筈です。 |
バルド | でもそこからどうやって世界の欠片を集めるというのです ? |
ナーザ | 【アナム・セパレート】。最初のイクス・ネーヴェの体を保存するために使った術だな。 |
ナーザ | あれはアニムスとアニマを切り分ける術。いわば魔鏡技版のカレイドスコープのようなものだ。 |
ヨウ・ビクエ | そう。それでバルドの元に世界の欠片を集めるの。同じカレイドスコープによって破壊されたバルドには世界の欠片と同じ傷痕がある。 |
ヨウ・ビクエ | 傷跡を辿って欠片たちが集まってくるはずよ。 |
イクス | でも、その後は ? 世界の欠片ってとてつもなく膨大なんじゃありませんか ?それをどうやって死の砂嵐からどかすんですか ? |
バロール | 俺にやらせようというのだろうヨーランド。いや、ダーナ。 |
バルド | この声は…… ! ? バロールですか ! ? |
バロール | ――お前たちが、それ相応の犠牲を覚悟するというのなら、集めた世界の欠片は俺の方で処理してやってもいい。 |
バロール | だがそうなると、死の砂嵐を消すことはできないぞ。それはお前たちがカレイドスコープで行うんだ。 |
バルド | わかりました。やりましょう。 |
ナーザ | バルド ! ? 貴様、正気か ! ? |
バルド | ナーザ様。私はずっと考えていたのです。私という存在が甦った意味を。 |
バルド | 本来人間が死を超越するなどあり得ないこと。それがこの身に起きたのは生前の贖罪をせよということなのでは、と。 |
フリーセル | ! ! |
ナーザ | 贖罪、だと ? |
バルド | セールンド王国の行為は正しいものではなかった。ですが、オーデンセに攻め入ったこともまた正しい行為ではなかった。 |
バルド | 我らもまた、失われた世界と命に向き合わねばならないのでしょう。私はビフレスト皇室の為に生きると誓いました。でもそれだけでは駄目なのです。 |
バルド | ウォーデン様やメルクリア様を正しく守るためにはそれ以外のものも守らねばならない。 |
ナーザ | ……そんなこと、お前は受肉する前から行っていたではないか。俺を裏切って黒衣の鏡士に与した。 |
ナーザ | お前はそれでいい。そのような部下を持ったことを誇りに思うぞ。 |
バルド | ウォーデン様…… ! |
ダーナ | イクス、ミリーナ。あなたたちはこの先へ進みなさい。目指すカレイドスコープは虹の橋を越えたところ――私の心核を封じたアイフリードの墓の中にあります。 |
ダーナ | デミトリアスがそこでニーベルングのレプリカを作ろうとしています。 |
三人 | ! |
コーキス | 行ってくれ、マスター。俺、マスターが死の砂嵐を消せるようちゃんと準備するから。 |
イクス | ああ、わかった。頼んだぞ、コーキス !行こう、ミリーナ ! カーリャ ! |
ナーザ | では、こちらも始めよう。ジュニア、フリーセル。メルクリアを頼むぞ。 |
ジュニア | はい ! |
フリーセル | 承知しました。 |
ナーザ | コーキス。お前には【アナム・セパレート】のやり方を伝授する。練習する時間はない。なんとしても成功させよ。 |
コーキス | わかってる。やってみせる ! |
デミトリアス | ……遅いな。 |
グラスティン | ああ。死の砂嵐が動かない。ゲフィオンはゲイボルグの島を作ったことで致命的一撃を食らったはずだが……。 |
グラスティン | 様子を見てこよう。まだ人体万華鏡が壊れていないなら魔導砲で奴の体を破壊する。 |
デミトリアス | そうか……。任せるよ、グラスティン。 |
グラスティン | ああ、全て俺に任せておけ。お前の願いはなんでも叶えてやるさあ。 |
キャラクター | 10話【21-12 ???】 |
シング | スピルリンクは無事成功したね。でも、ここって……。 |
シャーリィ | はい……。ルグの槍を止めるために入った皆さんのスピルメイズとは少し感覚が違いますね。 |
マオ | うん、ボクもそう思う。この広い空間が、ずっとずっと続いていくような……。 |
リチア | はい、いわばここはティル・ナ・ノーグ全体のスピルメイズですから、どこまで続いているのかわたくしも完全には把握できません。 |
ジェイ | なるほど。聞きましたか、モーゼスさん ?走り回って迷子にならないでくださいよ。 |
モーゼス | なんでワイが迷子になる前提なんじゃ ! ?そがあなことするわけないじゃろ ! ? |
クンツァイト | 測定。モーゼスの脈拍、体温が共に上昇。安全のためにも、すぐに正常に戻すことを推奨する。 |
ノーマ | ちょっとモーすけ、みんな真剣なんだから真面目にやってよね ! |
モーゼス | ワイが悪いんか ! ? |
ウィル | いい加減にしろ ! !全く、こんなときまでお前たちは……。 |
クロエ | だが、いつも通りだと不思議と落ち着くな。正直、現状に不安がないとは言えないからな。 |
セネル | ああ。だが、その不安を取り除くためにもまずはマクスウェルの力が集まっている場所を探そう。 |
ミラ=マクスウェル | そのことだが、予想通りこのスピルメイズにはマクスウェルの残滓が大量に溢れている。 |
ミラ | ええ、私でも感じとれる程の量ね。 |
ヒスイ | おい、それってお前らに問題はねえのか ?さっきのモフモフ三兄弟も防御がどうとか言ってただろ ? |
ミラ=マクスウェル | ああ、その点は何も異常ない。彼らの装置が正常に作動してくれている証拠だな。 |
ロゼ | けど、長居してると影響は出るだろうし仕事はささっと終わらせたほうがいいでしょ。 |
デゼル | お前の口振りくらい、簡単なことならいいんだがな。 |
ミラ=マクスウェル | 私からは何とも言えないが、マクスウェルの残滓がある一定の方向へ流れているのは確認できた。間違いなく、人為的なものだ。 |
ユージーン | となると、その流れを追えばマクスウェルの精霊装を扱っている人物のところへ辿り着けるのだな。 |
ザビーダ | オーケイ。んじゃ、気合い入れていこうぜ ! |
| ゲイボルグの島 アジト接岸地点 |
ラタトスク | おい、こっちの帝国兵たちは全員倒したぞ。浮遊島の防衛機能はまだ回復しねえのか ? |
コンウェイ | 残念だけど、まだ原因は判明していないんだ。もしかしたら、帝国側から何か仕掛けられた可能性があるね。 |
ユアン | こちらでも防衛に回っているが正直、あまり長くは持ちそうにない。 |
ミトス | ……いいよ、ボクが全員倒してあげるから。雑魚がいくら集まっても無駄だってことを教えてあげる。 |
マーテル | いけません、ミトス。あなたも相当疲弊しているはずです。これ以上の無茶は……。 |
マルタ | ! ? ラタトスク ! ! 前 ! ? |
ラタトスク | ……ちっ。また出やがったか。一旦通信を切るぞ。まずはこいつらを片付ける ! |
帝国兵レプリカリビングドールA | ――排除、開始。 |
ラタトスク | やれるもんなら、やってみやがれ ! |
マルタ | ラタトスク ! 私も ! |
帝国兵レプリカリビングドールB | ―――― ! ! |
マルタ | これ以上、勝手なことはさせないんだから ! |
ラタトスク | ……無理はすんじゃねえぞ、マルタ。 |
マルタ | はぁはぁ……。ううん、平気。みんなも戦ってるんだから、私だって…… ! |
帝国兵レプリカリビングドールたち | ――増員、確認。殲滅対象二名を排除せよ。 |
マルタ | そんな ! ? まだこんなにいたの ! ? |
エミル | マルタ ! 逃げて !ここは僕たちが食い止めるからマルタだけでも…… ! |
マルタ | 駄目 ! エミルたちを置いていくなんてできないよ ! |
ラタトスク | 俺たちのことは気にするな !いいから逃げろ ! |
帝国兵レプリカリビングドールたち | 攻撃、開始 ! |
? ? ? | ……うるさい蠅どもが。消え失せろ ! ! |
二人 | ! ? |
ロンドリーネ | ふぅ~、間一髪 !二人とも、平気 ? |
マルタ | ロディ ! ?じゃあ、今の魔術って……。 |
ロンドリーネ | あー、違う違う。君たちを助けてくれたのは、この人ね。 |
クリード | ……助けたわけではない。邪魔な連中を消し飛ばしただけだ。 |
エミル | あなたは……クリードさん ? |
ディオ | くそ~ ! また先越されちまったぜ !今度こそオレがかっこよく登場できると思ったのに ! |
メル | もう、ディオ ! そんなこと言ってる場合じゃないでしょ !でも、無事でよかったです。 |
クルール | クルール ! クルール ! |
ラタトスク | お前ら、どうしてここに……。地上軍に合流してたんじゃなかったのか ? |
ディオ | そうなんだけどさ、なんかこっちもヤバイって聞いて急いで戻ってきたんだよ。あと、それから―― |
メル | 待って。詳しいことはわたしたちよりあの人に説明してもらったほうがいいかも。クリードさん、魔鏡通信はまだ繋がっていますよね ? |
クリード | ……勝手に使え。通信はそのままだ。 |
ブルート | ――マルタ、そこにいるのか ? |
マルタ | パパ ! ? ねえ、今どこにいるの ! ?ローエンたちの話だと、ケリュケイオンからいなくなったって……。 |
ブルート | すまない……。だが、こんな身体でもお前たちに手を貸したかったのだ。幸い、兵を動かすことには慣れているからな。 |
ブルート | だが、地上軍と合流した時にお前たちの浮遊島の防衛機能をジャミングする装置を帝国の地上基地で見つけたのだ。 |
ロンドリーネ | 私と双子ちゃんたちも、その装置に気付いて動いていた時にブルートやクリードと合流できたってわけ。 |
ブルート | だが、地上の装置を停止させても防衛機能が受けたダメージが戻るわけではない。機能の再起動にはそちら側で技術的な手を加える必要があった。 |
フローラ | それなら、私たちが直せるんじゃないかと思って浮遊島に行くことにしたの。 |
クリード | ……いいか。フローラのために私は動いているだけだ。わかったら、さっさと防衛機能がある場所まで案内しろ。 |
ディオ | そんな偉そうにしなくても、ちゃんと案内するって。けど、あれはどうすんだ ? 防衛機能を戻すためにキラル分子ってヤツが必要なんだろ。 |
P・カノンノ | それも問題ないよ。今から、私たちも戻ってすぐに届けるから。 |
カノンノ・E | ジェイドさんが言ってた通り帝国軍の基地に少しだけキラル分子が残ってたの。それを使えば、多分大丈夫だと思う。 |
カノンノ・G | だから心配しないで。それじゃあ、浮遊島に戻ったらまた連絡を入れるね。 |
ブルート | マルタ、私が出来るのはここまでだ。他の者たちの手を借りることになってしまったがお前たちの無事を祈る。 |
マルタ | ……うん、ありがとう、パパ。 |
| ゲイボルグの島 虹の橋前 |
イクス | ……くそっ、虹の橋はもうすぐそこなのに敵の数が全然減らない ! |
リッド | このまま固まって戦っててもジリ貧か……。 |
ファラ | ねえ、リッド―― |
リッド | ああ、多分考えてることは一緒だぜ。 |
イクス | リッド ? ファラ ? |
リッド | なあ、イクス。このまま全員で戦ってても虹の橋まで辿り着くには時間がかかりすぎる。 |
ファラ | 敵は全部わたしたちのほうに引き付けるよ。だから、その隙にイクスとミリーナは先に行って ! |
メルディ | バイバ ! メルディも賛成 ! |
キール | ああ、それがもっとも効率的で可能性が高い。ぼくたちの負担は大きくなるが、その分はリッドに働いてもらうさ。 |
リッド | お前もやるんだよ、ったく。けど、ここまで来たら退けねぇよな。 |
ミリーナ | みんな……。 |
チャット | ご安心ください、ミリーナさん。キャプテンのボクがついていますからね ! |
フォッグ | がははははっ ! よく言った、坊主 !ここはひとつ、景気づけに俺さまが派手に吹き飛ばしてやるぜ ! |
フォッグ | ――くらいな ! エレメンタルマスター ! ! |
リッド | 行け、イクス、ミリーナ !あとはオレたちに任せろ ! |
イクス | リッド…… !ああ ! みんなの想いは決して無駄にはしない !行こう、ミリーナ ! |
ミリーナ | ……ええ ! |
グラスティン | おっと……。ゲフィオンの様子を見る前にお前らに鉢合わせするとはなあ……。 |
イクス | ……グラスティン ! ? |
グラスティン | ああ ? 何驚いた顔してんだよ ?俺がデミトリアスのところにいると思ったか ? |
グラスティン | どうせお前らが余計なことをしたせいで死の砂嵐が動かないんだろうなあ。 |
グラスティン | それにしても、ここに来たのはお前らだけか ?それなりにレプリカを配置しといた筈なんだがなあ。 |
グラスティン | なぁ ? 一体どれだけの鏡映点たちを犠牲にしてここまで来たんだ ? |
イクス | 犠牲になんてしていない…… !皆それぞれの場所で戦ってるんだ ! |
グラスティン | ヒヒヒッ ! ものは言い様だなあ、イクス・ネーヴェ ! |
カーリャ | そっちこそ、どれだけの命を犠牲にしているんですか ! ? |
ミリーナ | あなたは、どうして非道なことをしてまで陛下のやろうとすることに協力しているの ?この世界を滅ぼしてまで。 |
グラスティン | どうして ? ヒヒヒッ ! 面白いことを聞くな !そんなの、決まってるじゃねえか。 |
グラスティン | デミトリアスがそれを望んでいるからだよ。だから俺は、あいつの願いを叶えてやってるのさ。 |
グラスティン | 俺はな、あいつが望むならお前たちを殺すことや世界を壊すことだって手を貸してやる。 |
グラスティン | あいつは俺を地獄から解放してくれた唯一の人間なんだからな。 |
イクス | 地獄…… ? |
グラスティン | ああ、そうだ。俺にとって、それ以上の理由はいらないんだよ。そして、お前たちは俺たちにとっては邪魔者だ。 |
グラスティン | だから、さっさと死んでくれ。 |
ミリーナ | イクス ! ? |
イクス | ああ、凄い殺気だ…… !気を付けろ、ミリーナ。もしかしたら、まだ後ろに兵士たちがいるかもしれない ! |
グラスティン | ヒヒヒッ ! 安心しろよ !ここにいるのは俺だけだ !だが―― |
グラスティンレプリカ | 「『俺』が一人とは限らねえけどな ! 」「『俺』が一人とは限らねえけどな ! 」「『俺』が一人とは限らねえけどな ! 」 |
カーリャ | な、なんですか ! ? |
イクス | グラスティンのレプリカか ! ? |
グラスティン | ヒヒヒッ ! ! さあ、来いよ鏡士共 ! !その身体を、ズタズタに切り裂いてやるからよぉ ! ! |
キャラクター | 11話【21-13 ゲイボルグの島2】 |
イクス | はああああっっ ! ! |
グラスティン | ヒヒヒッ ! 楽しませてくれるなぁ !だが、その程度のダメージじゃあ俺を殺すことはできねえぞ ! |
カーリャ | そんな……あんなにイクスさまとミリーナさまの攻撃を受けているのに…… ! |
ミリーナ | クロノスの力のせいよ……。それで私たちから受けたダメージを無効化してるんだわ。 |
グラスティン | そういうことさ。だから、いくら俺を倒したって無駄なんだよ。わかったら、大人しく肉の塊になりな。 |
イクス | ……いや、違う。無駄なんかじゃない。 |
グラスティン | あぁ ? お前、今なんて言った ? |
イクス | グラスティン……。本当に俺たちの攻撃が無駄ならどうして回復時間が遅くなっているんだ ? |
グラスティン | ヒヒ…… ! |
イクス | 図星か……。お前の力のことはルドガーさんやヴィクトルさんたちから聞いていた。 |
イクス | けど、どんなエネルギーでも使えば必ず消耗する。回復が遅くなっているのは、クロノスの力が弱まっているからじゃないのか ? |
グラスティン | 半分正解ってとこだな。だがな、俺がクロノスの力を完全に使えないのはその力をデミトリアスへ回しているからさ。 |
イクス | なんだって ? |
グラスティン | あいつ自身がオリジンの力を手に入れるために必要なことなんだよ。だが、もう一つ準備することがあってなあ。 |
グラスティン | お前たちとの遊びも、ここまでだ ! |
イクス1st | ! ? マズい ! イクス ! !すぐにここから離れろ !魔鏡陣が仕掛けられてる ! ! |
イクス | そんな ! ? 動け……ない ! |
グラスティン | ようやく捕まえたぞ !本当はもっと痛ぶってから始めようと思ったんだがこれ以上長引くと厄介だからなあ ! |
ミリーナ | やめて ! イクスに近づかないで ! |
グラスティン | 邪魔するな ! 今は貴様に 用はないんだよ ! ! |
ミリーナ | きゃあああああ ! |
イクス | ミリーナ ! ! |
グラスティン | ああ、そうか。大事な幼なじみだったなあ。いや、お前たちは揃ってあの魔女に作られた可哀想な偽物かぁ。 |
イクス | だま……れ ! |
グラスティン | ヒヒヒッ、聞こえないなあ。さて、お前があのジュニアの代わりなのは不服だがより優秀な鏡士が必要なんだから仕方ない。 |
イクス1st | ジュニアの代わり…… ! ? |
グラスティン | お前に鏡の精霊の心核を埋め込めば新しい精霊王オリジンが誕生する。そうすれば、俺たちはニーベルングに辿り着く ! |
カーリャ | イクスさま ! ? |
グラスティン | じゃあな、イクス・ネーヴェ !俺たちのために死んでくれ ! |
グラスティン | な、なんだ ! ? この揺れは ! ? |
カーリャ | はっ…… ! イクスさまたちの頭上の空間に亀裂が入ってますよ ! ? |
グラスティン | 死の砂嵐か ! ?しかし、ここに影響が出るわけが…… ! |
コーキス | マスターから離れろ ! !グラスティン ! ! ! ! |
二人 | コーキス ! ? |
イクス | コーキス……どうして…… ! ? |
コーキス | 今は説明してる状況じゃないだろ ! ?とにかく、まずは魔眼の力で魔鏡陣を無力化する ! |
コーキス | どうだ、マスター ? ちゃんと動けるか ! ? |
イクス | あ、ああ……。けど……。 |
バロール | イクス。コーキスの死の砂嵐での作業は終わった。故に、お前のために呼び寄せてやったのだ。感謝するのだな。 |
グラスティン | ……鏡精の分際で俺の邪魔しやがって。そんなに死にたいなら、お前もまとめて殺してやるよ ! |
イクス | コーキス ! |
コーキス | 平気だ、マスター !こいつは俺が倒す ! |
グラスティン | なんだ ? バロールの魔眼でも使うつもりか ?言っておくが、そんなものは俺には通用しないぞ ? |
バロール | コーキス。この者の言う通りだ。魔眼だけではクロノスの力で無効化されるぞ。 |
コーキス | わかってるよ。だから、ボスに教えてもらった『あの術』でクロノスの力を取り除く ! |
カーリャ | こ、今度はなんですか ! ? |
死鏡精 | カガミシニシヲ ! カガミシニシヲ ! |
グラスティン | チッ ! ? 死鏡精の群れ共か !死の砂嵐の亀裂からこっちへ来やがったな ! ! |
コーキス | マスター、ミリーナ様 !パイセンも早く俺の後ろに ! |
カーリャ | コ、コーキス ! 平気なんですか ! ? |
コーキス | ああ ! 俺の魔眼の炎で防御壁を作る !はああああっっ ! ! |
イクス | 凄い……これが本来のコーキスの力、なのか……。 |
死鏡精 | カガミシニシヲ ! カガミシニシヲ ! |
グラスティン | ウザい羽虫共が…… ! !そんなに死にたきゃ、クロノスの檻の中にでも飼ってや………… ! ! ! ! |
グラスティン | な、なんだ……これは…… ! !お、おい…… ! ! 一体どうなってやがる…… ! ! |
イクス | グラスティンの身体が燃えてる!?いや、違う……あの炎は……。 |
ミリーナ | ええ……贄の紋章を付けられた人たちが火柱になってしまったときと同じだわ……。でも、どうして……。 |
グラスティン | 贄の紋章 ! ? 馬鹿な ! ? 俺の体に刻印されたのはビフレストが開発した追跡用の発信器の筈 ! ? |
グラスティン | それにフリーセルに付けられた刻印は解除した筈だ。それが、何故今になって発動する…… ! ? |
グラスティン | (これは……何だ。俺にこんな記憶はないぞ ! ?) |
サレ | ……なるほどね。贄の紋章はビフレストの刻印が元になってたのか。やっぱりキミはグラスティンのアキレス腱だったんだね。 |
サレ | キミを具現化して正解だったよ、フリーセル。 |
サレ | じゃあ、この刻印をグラスティンのレプリカの一人に付けてこよう。そうすれば、ほかのレプリカに呪いの力は分散されて、奴は気付かない。 |
フリーセル | だが、本当にいいのか ? もし、それがバレたらお前も帝国にはいられなくなるぞ。 |
サレ | 平気だよ。刻印は殺したあとに付けてもいいんだろ ?だったら、僕が帝国を出て行くついでに一体くらいはあいつのレプリカを殺しておくさ。 |
サレ | あとは、レプリカ同士で共有している力が分散するから呪いの力も他のレプリカに分散する。そのせいであいつはクロノスの力を使い続ける限り―― |
フリーセル | ……いずれは本体の身体に刻印の力が蓄積されていく、というわけか。 |
サレ | そう、少しずつ毒を盛られていると知らずに、ね。 |
フリーセル | 確かに、理論上は可能だ。俺があいつを殺すのに失敗したときの保険にもなるだろう。 |
サレ | そうさ、何事も準備を怠らないほうがいい。ああ、それと、この会話を呪いが発動したときに奴に見せられるようにできるかい ? |
フリーセル | ……構わないが、それに何の意味がある ? |
サレ | 意味なんてないさ。ただ、そうだね……意味があるんだとすれば……。 |
サレ | ――僕はあいつのことが、大っ嫌いなんだよ。 |
グラスティン | あのクソ野郎どもがああああああああああああああああああああああああああっっっっっっっ ! ! ! ! ! ! |
死鏡精 | カガミシニシヲ ! カガミシニシヲ ! |
コーキス | グラスティンの周りに死鏡精が…… ! |
バロール | ……もう遅い。奴は死鏡精にアニマごと憑りつかれて終わりだ。 |
グラスティン | ふざけるなあああああああああっ ! ! ! ! !オレハ……オレハ…… ! ! ! ! ! ! ! |
カーリャ | な、なんですか ! ?今度は真っ黒な球体みたいなものになっちゃいましたけど ! ? |
バロール | 自らクロノスの檻の中に閉じ籠ったか。血迷った真似を……。 |
死鏡精 | カガミシ、ニ、シヲ。カガミ、シニ、シヲ――。 |
ミリーナ | ……死鏡精たちが球体ごと虚無に戻っていったわ。 |
イクス | ……なあ、バロール。グラスティンは、いったいどうなったんだ ? |
バロール | クロノスの檻ごと、虚無へと連れていかれた。もう戻ってくることはないだろう。 |
バロール | クロノスの檻の中で流れる時間は『永遠』だ。たとえ檻の力が解除されても、もうその時にはアニマも形を保つことなく、虚無へと消えていく。 |
バロール | 奴は死鏡精に精神を侵され肉体的にも刻印の激痛から逃れられず永遠に『死に続ける』ことになる。 |
イクス | そんな……。 |
バロール | 奴が本能的に生きようとした結果だ。たとえ、その意思が歪んだものへと変わってしまったとしてもな。 |
ミリーナ | 行きましょう、イクス。私たちに立ち止まっている時間はないわ。 |
イクス | ……ああ。まだ何も解決していないからな。 |
イクス | ……そうか。じゃあ、コーキスは死の砂嵐を辿って俺たちのところまで駆けつけてくれたわけなんだな。 |
コーキス | ああ、バロールに道案内されながらだったけどなんとか間に合ってよかったよ。 |
カーリャ | ホントですよ ! あんなにギリギリに出て来るなんてカーリャはびっくりしましたよ ! |
コーキス | わ、悪かったって ! けど、グラスティンが持ってた鏡の精霊の心核は、ちゃんと回収できてよかったよ。 |
コーキス | ぶっちゃけ、死鏡精に虚無の中まで持っていかれてたら、また戻らないといけなくなっちまうからな。 |
カーリャ | それじゃあ、コーキスはその鏡の精霊の心核を取り戻すためにこっちへ来たんですか ? |
コーキス | いや、それは偶然でさ。マスターたちがデミトリアスを倒すために必要な術をボスから教えてもらって……。 |
バロール | 待て、コーキス。その話は後だ。この先、誰かいるぞ。 |
コーキス | 誰かって…… !あ、あれは…… ! |
ヴァン | 来たか、鏡士諸君。 |
コーキス | ヴァン様 ! ? こんなところにいたのかよ !ボスもみんなも心配してたんだぜ ! ? |
ヴァン | ……そうか。だが、そのような気遣いは無用だ。 |
イクス | ヴァンさん ! どうして剣を…… ! |
カーリャ | も、もしかして、ヴァンさまはあっちに寝返っちゃったんですか ! ? |
ヴァン | ……それが私の中にいるローレライが見せた未来だ。 |
コーキス | な、なに言ってんだよヴァン様 ! ?ローレライってなんのことだ ! ? |
ヴァン | お前たちも聞いているだろう。我々の世界では、預言と呼ばれる絶対的な未来が存在していた。 |
ヴァン | そして、この世界にもローレライが存在し私に一つの星の結末を見せた。それが、新たなる星の誕生だ。 |
イクス | それって……今のティル・ナ・ノーグが滅びて新生ニーベルングが誕生する未来ということですか ? |
ヴァン | その通りだ。そして、お前たちはここで私に倒されデミトリアス帝の悲願は成就される。それが、この星の辿る未来だ。 |
ヴァン | もし、それがこの星の惑星預言なのだとしたら覆すことは出来ない。我々人間が、どれだけ足掻こうともな。 |
ミリーナ | そんな……。私たちは、本当に戦わないといけないんですか ? |
ヴァン | それが預言ならば、避けられないことだ。 |
ヴァン | ――だが、もしここで私がお前たちを通しデミトリアス帝を倒すことができれば、ローレライの未来予知は完全なものではないと証明できる。 |
カーリャ | ……は、はい ?えっと……すみません、カーリャ、なんだか話がこんがらがってきちゃったんですけど……。 |
イクス | ……つまり、俺たちがデミトリアス陛下を倒してニーベルングの誕生を阻止できればヴァンさんの望む結果が得られるんですね。 |
ヴァン | そうだ。私が見た未来の結末は惑星預言に該当するものだろう。本来ならば、その預言を覆すことは不可能だ。 |
イクス | だったら、俺たちは絶対にティル・ナ・ノーグを守ります。一緒に戦ってくれている、みんなの為にも。 |
ヴァン | ああ、私もそう願いたいものだ。 |
ミリーナ | ……ヴァンさん。もし、私たちが負けてしまってデミトリアス陛下を止められなかった場合はどうするつもりだったんですか ? |
ヴァン | その時はローレライごと私を殺してもらう手筈を整えてある。 |
コーキス | な、何言ってんだよ ! ? |
ヴァン | とにかく、私が望む世界は預言のない世界。ただ、それだけだ。 |
イクス | ……その理由を聞いてよかったです。尚更、俺たちは負けられなくなりましたから。 |
コーキス | ああ、ヴァン様が死ぬなんて知ったらリグレット様やアリエッタ様が悲しむからな。 |
ミリーナ | それにティアは絶対にそんなことを許さないと思うわ。ルークさんやアッシュさんだって……。 |
ヴァン | ならば、私の望む結果を示してくれ。ここが、守るべき価値がある世界ということをな。 |
イクス | ここは、アイフリードの墓なのか ? |
バロール | ああ。元々はニーベルングが甦ったときに揺り籠から戻るため、虹の橋を架けるための島だったがこれを帝国の奴らが利用しているのだろう。 |
ミリーナ | じゃあ、やっぱりここにデミトリアス陛下が―― |
カーリャ | ミリーナさま ! あれ !あの中心に置いてあるものって…… ! |
イクス | カレイドスコープ !こんな場所に運び出していたのか。 |
デミトリアス | そうだよ。久々だね、ミリーナ。そして、イクスとその鏡精、コーキス。 |
イクス | デミトリアス……陛下。 |
デミトリアス | ここからティル・ナ・ノーグを分離させ新生ニーベルングを作るためのキラル分子を調達するつもりだからね。 |
デミトリアス | そして、本来ならばここに君たちを通すつもりはなかったのだが、やはりヴァンは私の味方をしてくれなかったようだ。 |
デミトリアス | 一つ、念のために君たちに聞いておこう。グラスティンは……死んだのか ? |
イクス | ……死んだ、とは言えないけれど多分、もうここには戻って来られない。残っているのは、あなただけだ。 |
デミトリアス | ……そうか。私は多くの友を失ってきたつもりだが本当に友と呼ぶべき相手は、あの男だったのかもしれない。 |
デミトリアス | 思えば……ただ生きることしかできなかった私を『何者』かにしてくれたのも彼だったよ。 |
イクス | デミトリアス陛下。だったら俺たちにも教えてください。そんな人を失ってまであなたは、この世界を滅ぼすつもりなのか ! ? |
デミトリアス | そうだ。これは、私がやらなければならないことだ。 |
ミリーナ | 待ってください ! もし、滅びから逃れる方法がないと思っているのなら、それは違います ! |
イクス | そうです ! そのカレイドスコープにも本来のバロールの力が使える機能があるはずなんです ! それを俺とミリーナが使えば―― |
デミトリアス | 使えば……フィンブルヴェトルを止められるのか ? |
イクス | はい、だから―― |
デミトリアス | ……イクス。それでは意味がないんだよ。私の望む結果ではない。 |
イクス | どうしてですか ! ? 世界も守れて全員が助かる道があるのに……。 |
デミトリアス | ならば教えてやろう、イクス。私が望んでいるのは、世界の救済などではない。 |
デミトリアス | 君たちのような偽りの存在を私の手で終わらせてあげたいんだ。 |
キャラクター | 12話【21-14 ゲイボルグの島3】 |
イクス | 偽りの存在を終わらせるって……。 |
デミトリアス | そのままの意味だよ。君やミリーナ、そして鏡映点たちもそうだが本来、君たちは存在していない人間のはずだ。 |
デミトリアス | それなのに、他人の都合で生まれてしまった君たちに世界の行く末までをも託す結果となった。果たして、これが健全な世界だと言えるのだろうか ? |
デミトリアス | ――いや、それは本来のあるべき姿ではない。本当の彼らには、その者たちだけが持つ使命や人生そして最後があったはずなのに、歪められたのだ。 |
デミトリアス | それは、本来の彼らの存在に対する冒とくだ。そして、このティル・ナ・ノーグという世界がある限り偽りの世界が続いてしまう。 |
デミトリアス | だからこそ、この虚言にまみれた世界を誰かが終わらせなければならないのだ。 |
コーキス | ふざけるなっ ! !だったら……その為ならマスターたちが死んだっていいって言うのかよ ! ? |
デミトリアス | ……イクス・ネーヴェという男はもう死んでいる。そこにいるのは、ゲフィオンたちが生み出した幻影だ。 |
コーキス | マスターを……俺の大事なマスターを侮辱するな ! ! |
イクス | やめろ、コーキス ! ?むやみに突っ込むな ! ! |
デミトリアス | ……理解してもらおうとは思っていない。だから、私が責任を持って終わらせるのだ。 |
コーキス | うわああああああっ ! ! |
カーリャ | コーキス ! ? |
デミトリアス | よく見ておけ。私は、そのためにマクスウェルたちの力を手に入れたのだ ! ! |
デミトリアス | ……流石はグラスティンだ。お前が残したクロノスの力のお陰でマクスウェルの力も最大限に引き出せる。 |
カーリャ | ミリーナさま……カーリャでもわかります…… ! |
ミリーナ | ……ええ。今まで感じたことのない力だわ。 |
イクス | それでも、俺たちはあなたを止める !コーキス ! |
コーキス | ああ ! 俺は大丈夫だ !さっきやられた分は、ここできっちり返す ! ! |
二人 | うおおおおおおおおおおおっっ ! ! |
デミトリアス | ……無駄だよ。 |
コーキス | ダメージがない ! ?もしかして、グラスティンの奴と一緒か ! ? |
イクス | 違う…… !そもそも俺たちの攻撃が効いてない ! ? |
ミリーナ | だったら、私の魔鏡術と精霊装の力で…… !――月鏡・継黒陣 ! ! |
デミトリアス | ……同じ精霊装でも、力の差は歴然だよ。 |
ミリーナ | そんな……。 |
バロール | あの者の言う通りだ。イクス、コーキス、奴の纏う力はマクスウェル……いや、オリジンをも凌駕する力となっている。 |
バロール | たとえ、我が魔眼を解放したところで奴の力を消すことはできない。秘伝魔鏡術でも打ち消されてしまう。 |
イクス | ……そんな、だったらどうやって。 |
デミトリアス | さあ、グラスティンから奪った鏡の精霊の心核は返してもらうぞ。イクス、君がオリジンとなり新生ニーベルングを誕生させるためにもな。 |
ミラ=マクスウェル | 見つけたぞ ! ここがマクスウェルの残滓が集まっている場所だ。 |
? ? ? | ……お前は……そうか、別の世界に生きるマクスウェルなのだな。 |
ロゼ | ひぃぃ ! な、なに ! ? 今の声 ! ?あたしの聞き間違い……じゃないよね ? |
アニー | は、はい。わたしにも、はっきりと聞こえました…… ! |
グリューネ | あらあら~、どこかに新しいお友達がいるのかしら ? |
ミラ=マクスウェル | ……そこにいるのだな。マクスウェル。 |
マクスウェル | ああ、よくここまで来れたものだ。そして、お前たちがここに来た理由もすでにわかっておる。 |
ミラ=マクスウェル | ならば、単刀直入に用件を伝える。今、お前の力は帝国側で使われる精霊装に流れている筈だ。 |
ミュゼ | ここに集まっているあなたの残滓を集めればその精霊装の力も解除される。違うかしら ? |
マクスウェル | ……その通りだ。 |
ティトレイ | よっしゃあ ! んじゃ、持ってきた精霊片吸引器で集めようぜ ! |
マクスウェル | いや、その必要はない。既にここには私を新たに実体化させるほどの残滓が集まっている。そうすれば、力の流れも止めることができる。 |
ヒルダ | だったら、それを早くやればよかったんじゃないの ? |
マクスウェル | ……いや、私だけでは実体化は不可能だった。だからこそ、必要な物をお前たちから借りたい。 |
ベリル | な、なんだって ! ?ここまで来て変なものを要求したら承知しないからな ! ? |
イネス | そうね、できれば今の私たちで用意できるものだとありがたいんだけど。 |
マクスウェル | 私が実体化するためには、ここにある残滓を繋ぎ合わせなくてはならない。そのために、お前たちの力を貸してほしい。 |
ライラ | 具体的には、何をすればよいのですか ? |
マクスウェル | お前たちが纏った精霊片そして、精霊自身の力が必要だ。 |
スレイ | それって、つまり……。 |
ミクリオ | 僕たちの力を、マクスウェルの残滓に取り込ませるということか。 |
ウィル | 待ってくれ。纏っている精霊片はともかく精霊の力を持つ者たちに害はないのか ? |
マクスウェル | ああ、少しずつお前たちの力を分けてもらうだけだ。問題はない。 |
エドナ | じゃあ、ワタシの分はミボから取っておいて。 |
ミクリオ | ちょっと待て ! 僕は納得しないぞ ! |
ザビーダ | なんなら、このザビーダ様がエドナちゃんの分も引き受けるぜ ? |
フェニックス | その必要はない !何故なら、エドナには我がいるからだ ! |
フェニックス | そう ! 我は不死鳥 !我が名はフェニ―― |
マクスウェル | では、始めるぞ。 |
コハク | なに……下から光が……。 |
シング | なんだろう……凄く温かくて、安心する。 |
ガラド | まるでスピリア同士が繋がったときみたいだ。 |
ミラ=マクスウェル | これが人間や精霊たちの想いなのだろう。さあ……応えてくれ。マクスウェル。 |
マクスウェル | ――――無事、実体化に成功したようだな。 |
スレイ | それじゃあ、帝国の精霊装の力も…… ! |
マクスウェル | いずれ、私の力が費える時が来よう。だが、奪われた力まで取り戻すことはできん。 |
マクスウェル | この世界の行く末は、やはり最後は人間たちの手に委ねられたのだ。 |
コーキス | ――駄目だ ! 何度やっても攻撃が無効化される ! |
デミトリアス | いや、よくここまで耐えたものだ。これだから、鏡士や鏡精は侮れない。 |
イクス | うおおおおおっっ ! ! |
デミトリアス | ……無駄だと言っているのが――ん ? |
デミトリアス | くっ…… ! |
ミリーナ | イクスの攻撃が……通じた ? |
デミトリアス | 馬鹿な……何故マクスウェルの力が弱まっている。こんなことが起こるはずが…… ! |
デミトリアス | いや、そうか……。君たちは鏡の精霊の心核のレプリカを所持していたね。そこからアプローチをかけてきたのか。見事だよ。 |
コーキス | なんかよくわかんねえけどこれなら勝てる !それに、こっちにはまだ切り札があるんだ ! |
デミトリアス | ……ふっ。この程度で形勢が逆転したつもりかね ?だったら少し、本気を出させてもらおう ! |
ミリーナ | 嘘…… ! まだこんなに力が…… ! |
デミトリアス | 私も出し渋っている訳ではなかったさ。強すぎる力は、時にコントロールが難しくてね。だが、もう充分身体は馴染んだ。 |
デミトリアス | ――さて、一人くらいは、この辺りで退場してもらうとしようか。 |
イクス | 消えた ! ? |
デミトリアス | ……まずは君からだ、鏡精コーキス。 |
コーキス | うわあああああああああああああああっっっっ ! ! |
イクス | コーキスーーーーーーー ! ! ! ! |
デミトリアス | 即死は避けたか。だが、致命傷であることには違いない。 |
イクス | デミトリアスーーーーーーーー ! ! ! ! ! ! ! ! |
イクス1st | 駄目だ、イクス ! ? 冷静になれ !このままじゃあ、相手の思うつぼだ ! |
イクス | よくも……よくもコーキスを ! ! ! ! |
デミトリアス | ……哀れだな。我を失う程の怒りに支配されるとは。やはり、お前はただの幻影だ。 |
イクス | うおおおおおおおおおおっっっっ ! ! |
イクス1st | (いや……違う ! イクスは咄嗟にデミトリアスをコーキスから遠ざけたんだ ! 何故なら――) |
カーリャ | ミリーナさま !コーキスが…… ! コーキスが…… ! |
ミリーナ | しっかりして、コーキス !お願い、目を覚まして…… ! |
ミリーナ | (イクスは、私がコーキスに治癒術をかけられるようにしてくれたのに……それなのに、私はイクスのために何の力にもなれていない…… !) |
ミリーナ | (私に力があれば、コーキスだって守れたかもしれないのに…… !) |
ミリーナ | 結局……私はイクスに守られてばかり…… !どうして…… ! |
? ? ? | (泣くな、ミリーナ。お前には、イクスを守るための力があるはずだ) |
ミリーナ | ……えっ、誰……なの ? |
? ? ? | (私の声に耳を傾けろ。そうすれば、私の力をお前も引き出せるようになる) |
ミリーナ | まさか……あなたは…… ! |
ヨーランド | 死の砂嵐の勢いが弱まったわ。バルドとコーキスが世界の欠片を集めてくれたおかげで死の砂嵐も凪いで、ゲフィオンも意識を取り戻せた。 |
カーリャ・N | ミリーナ様……。 |
ゲフィオン | 大丈夫よ。あと少し……あと少しだから……。なんとかこの仮想鏡界を守っていて……。 |
ゲフィオン | それから……ありがとうフィル。上手くミリーナとの意識を繋げることができたわ。 |
フィリップ | 本当によかったのかい ?こんなことをすれば、きみは……。 |
ゲフィオン | ええ……私の意識ごとミリーナに取り込まれる。そうなれば、私のアニマは消滅するでしょうね。 |
ゲフィオン | だけど、どの道、防御壁が壊れてしまえば私の存在は消滅するわ。だったら最後くらい責任を果たさないと。 |
フィリップ | 責任……か。それは僕も背負わなければいけないことだよ。 |
ゲフィオン | ……いいえ。あなたはもう充分よ、フィル。最後まで、あなたを巻き込んでごめんなさい。 |
フィリップ | ……ずるいよ、ミリーナ。きみからそんな風に言われたら……僕は自分のことを許してしまうかもしれない。 |
ゲフィオン | ……それでいいのよ。だって、それは私が望んでいることなのだから。 |
フィリップ | いや、それじゃあ駄目なんだ。僕はこれからも自分を許すことはない。そうやって……生きていくって約束したんだ。 |
ゲフィオン | ……ごめんなさい。何もかもあなたに押しつけてしまって。それから、ありがとう。 |
ゲフィオン | それじゃあ、始めて……。 |
カーリャ・N | ――待ってください、ミリーナ様 ! |
ゲフィオン | ……ごめんなさい、カーリャ。だけど、私は……。 |
カーリャ・N | ……わかっています。もう、今のカーリャにミリーナ様たちを止める術はありません。 |
カーリャ・N | そして、それがミリーナ様の望んでいることだということもです…… ! |
ゲフィオン | ……ありがとう、カーリャ。それじゃあ、最後にもう一度だけ私のわがままを聞いてくれるかしら ? |
カーリャ・N | ……なんでしょうか ? |
ゲフィオン | ミリーナを……彼女たちを助けてあげて。それが私の……最後のお願いよ。 |
カーリャ・N | ……ええ、畏まりました。 |
ゲフィオン | それじゃあ、フィル。今度こそ、お願い…… ! |
フィリップ | ああ……さようなら、ミリーナ。 |
カーリャ・N | ミリーナ様 ! カーリャは…… !カーリャはミリーナ様のことが大好きです ! !ずっとずっと…… ! カーリャは大好きです ! ! |
ゲフィオン | ええ、私もよ。私の鏡精として生まれてきてくれて本当にありがとう、カーリャ。 |
ゲフィオン | (ミリーナ。私の力は全てお前に託した。あとは、お前自身がこの力をどう使うかだ) |
ゲフィオン | (お前たちは一人ではない。お前たち自身で繋ぎ育んできた時間があるのだ) |
ミリーナ | ……ええ。私たちには仲間がいる。この世界で出会って、一緒に過ごしてきた仲間が。 |
ミリーナ | ……お願い、みんな !私たちを、助けて ! ! |
デミトリアス | 複数の巨大な鏡を具現化したのか ?だが、あれはいったいなんだ ? |
ミリーナ | これが、私の望んだ力…… !みんなを守るための力よ ! |
全員 | イクス ! ミリーナ ! |
イクス | みんな…… !どうして鏡の中から…… ! ? |
カーリャ・N | ミリーナ様が具現化した鏡が鏡映点の皆様をここに呼んだのです。 |
カーリャ・N | あの鏡は、鏡士だけが使える転送ゲートの力を具現化したものでした。お陰で、私たちはこうしてイクス様たちのところへ駆けつけることができました。 |
スタン | いきなり目の前に鏡が出てきたときは正直、驚いたけど。 |
リッド | けど、敵の罠って感じでもなかったしな。それに、イクスたちが戦ってる姿も写ってたぜ ? |
カイル | あっ、それオレも見たよ !だから急いで鏡の中に入ったんだ。 |
ロイド | なんだ、やっぱみんな考えることは一緒だったんだな。 |
エミル | でも、他のみんなは来られなかったみたいだね。 |
ミリーナ | それは……多分、私の力だと一つの鏡で一人を呼ぶのが精一杯だったからだと思うわ。 |
スレイ | そっか。けど、オレたちだけでもこうして駆けつけられたんだからミリーナは凄いよ ! |
ユーリ | ああ、これだけ集まれば十分だ。仲間を傷つけられた借りはきっちり返させてもらうぜ。 |
デミトリアス | 仲間か……君たちは哀れな被害者だ。その者たちを助ける義理などない。 |
セネル | おい、あんた。何か勘違いしてないか。俺たちは別に、被害者なんかじゃない。 |
ヴェイグ | オレたちはイクスたちを助けたいと思ったからここに来た。 |
ルカ | その絆が、僕たちの力になっているんだ。 |
ルーク | ああ、それをお前に否定される理由はねえ ! |
ベルベット | そうね、あと、散々迷惑をかけたのはあんたたちの方なんだけど。 |
ミラ=マクスウェル | お前のやっていることが正しいというのなら私はそれを認めるわけにはいかないな。 |
ジュード | 僕たちは、自分の為すべきことを為すだけだよ。 |
ルドガー | それが、俺たちの選択だからな。 |
デミトリアス | そうであったとしても、ここにいるのは本来の君たちではない。ただの偽物だ。 |
カイウス | それでも、オレはイクスたちに出会えてよかったと思ってる。 |
アルフェン | あんたの言っていることは、ただ自分の理解を相手に押し付けようとしているだけじゃないのか ? |
シング | オレたちのスピリアは偽物なんかじゃない。それはオレたち自身がよくわかっている。 |
アスベル | だからこそ、俺たちは一緒に戦ってこられたんだ。 |
デミトリアス | ……私は、君たちのことを思って言っていたつもりだがそこまで偽物の世界が望ましいのか ? |
クレス | そんなことは問題じゃない。このティル・ナ・ノーグは僕たちが守るべき場所なんだ ! |
コーキス | ……へへっ、俺もクレス様たちに負けてられないや。 |
カーリャ | コーキス ! ? 動いて平気なんですか ! ? |
コーキス | ああ、ミリーナ様のおかげでバッチリだぜ ! |
イクス | デミトリアス陛下。たとえ、あなたが俺たちの存在を否定したとしても俺たちはこうして生きているんだ。 |
イクス | だから、俺は全てが嘘でもその真実と共に生きると決めた ! |
イクス | それが――俺たちの答えだ ! |
キャラクター | 13話【21-15 ゲイボルグの島4】 |
デミトリアス | ……まだだ ! まだ私は…… ! |
イクス | くそっ……。これだけ押しててもデミトリアスが倒れない…… ! |
バロール | マクスウェルの力がまだ残っているからだ。だが、勝機は見えた。お前たちの持つ秘伝魔鏡術があれば、奴を倒すことができる。 |
イクス | 秘伝魔鏡術 ! ?でも『お前たち』って、秘伝魔鏡術は俺のスタック・オーバーレイしか……。 |
コーキス | 大丈夫だ、マスター !俺も秘伝魔鏡術をボスから教えてもらってるだろ !そいつを叩き込んで、マクスウェルの力を切り離す ! |
デミトリアス | そうか。ならば……またお前から倒すだけだ ! |
イクス | コーキス ! ? |
デミトリアス | なに ! ? これは…… ! |
ミリーナ | あなたが攻撃をしたのは、私が作ったコーキスの幻よ。 |
コーキス | サンキュー、ミリーナ様 !ようやく隙ができたぜ ! |
デミトリアス | しまっ―― ! |
コーキス | 秘伝魔鏡術 !【アナム・セパレート】 ! ! |
デミトリアス | ば、馬鹿な…… ! マクスウェルの力が…… ! |
イクス ? | 【アナム・セパレート】ビフレストに伝承される離魂術だ。まさか、お前にも使うことになるとはな。 |
デミトリアス | お前は……イクスではないな ?まさか、ナーザ将軍なのか ! ? |
ナーザ | ああ、最初のイクスのアニマを通して俺の意識を一時的に反映させた。そして、これが我が王家に伝わる秘伝魔鏡術―― ! |
ナーザ | 【ギエラ・ビフレスト】 ! ! |
デミトリアス | があああああああっっっっ ! ! |
イクス1st | (イクス ! あとはお前の秘伝魔鏡術をデミトリアスにぶつけろ !) |
イクス | はいっ ! |
イクス | 秘伝魔鏡術――【スタック・オーバーレイ】 ! |
デミトリアス | こんなところで…… ! !私は…… ! ! ! ! |
イクス | うおおおおおおっ ! これで、終わりだぁぁぁっ ! |
デミトリアス | ぐぁっ…… ! |
コーキス | デミトリアスが、膝をついた…… !マスター ! |
デミトリアス | どういう、ことだ…… ?体に、力が入らない……ゴホッ ! まさか……。 |
ミリーナ | マクスウェルの力が完全に失われてその反動が体に返ってきたんだわ。 |
デミトリアス | ……そうか。道理で、急に……手足が萎びるようだ。ここまで、なのか……。 |
デミトリアス | これで……終わりか。何もかも……。 |
イクス | ……デミトリアス。俺たちの勝ちだ。 |
デミトリアス | どうやら、そのようだね……。偽りの、歪んだ世界が残り……真実の世界は戻らぬまま……か。 |
デミトリアス | いや……こうして私が敗れたということはきみたちもまた、真実だということなのかな……。 |
デミトリアス | ふ、ふふ……。私は、きみたちが羨ましいよ。 |
イクス | ……羨ましい ? |
デミトリアス | 結局、私には……自分の生まれや運命を受け入れられる強さが、なかったのだな……。 |
デミトリアス | そうして、全てに否定を続け……目の前のものだけを救うことで自分を正当化しようとして……。 |
デミトリアス | それが……私の『毒』だったということか。ナーザ将軍やメルクリアの言ったこと……理解を拒んでいたが、今はわかるような気がする。 |
デミトリアス | ……イクス、ミリーナ。カレイドスコープを使うといい。 |
ミリーナ | じゃあ、やっぱりこのカレイドスコープで死の砂嵐は消せるのね ! ? |
デミトリアス | ……やってみなければ……わからないがな。だが……やらねばならないのだろう ?歪みから生み出された偽物が真実になるためには。 |
イクス | ええ。俺はこの世界を、自分を、全ての嘘を真実に変える。それが歪んでいてもこの歪みが俺たちなんです。 |
イクス | ……こんな終わり方になってしまって、残念です。デミトリアス陛下。 |
デミトリアス | ……フフ……私にふさわしい末路だよ。私が良かれと思ってしてきたことは……いつも……誰かを、何かを、歪ませてしまった。 |
デミトリアス | でも、今度だけは……違った……或いは君たちが……歪みから生み出されたものだからなのかもしれないな……フフ……。 |
デミトリアス | ……私にも自分の歪みを真実だと言い抜けるふてぶてしさが……欲しかったものだ……。 |
デミトリアス | グラスティン……私……も……。…………。 |
ヴェイグ | ……逝ったか。 |
ミリーナ | この人のこと、理解できたとは言い難いけど……この人なりに壊してしまった世界に向き合おうとしていたのかもしれないわね。 |
イクス | ……急ごう。まだ死の砂嵐は残ってるんだ。 |
スタン | うわ……っ ! なんだ ! ? |
スレイ | アイフリードの墓が揺れている…… ?嫌な感じがするよ。 |
フィリップ | イクス ! もう限界だ !ゲフィオンの意識は消えた。もう人体万華鏡が崩壊するのを止められない ! |
イクス | フィルさん ! こちらのカレイドスコープが使えることはわかりました。 |
イクス | あとはカレイドスコープを起動させて父さんたちが残した機能を使えば死の砂嵐は消せるはずです。 |
ナーザ | まだだ、イクス ! バルドがまだ戻らない !【ギエラ・ビフレスト】はまだ維持しているのだが奴からの返事がない ! |
コーキス | マスター ! だったら、俺が行くよ。俺が向こうに行って、バルドを助けてくる ! |
ミリーナ | 駄目よ ! あなたはデミトリアスの槍で受けた傷がまだ治り切っていないのよ。そんな状態で入れば、身体が持たないわ。 |
バロール | それに、お前の身体は秘伝魔鏡術を使ったことで体力が著しく低下しているはずだ。 |
コーキス | バロール ! ? じゃあどうしろって言うんだよ ! |
ルーク | また揺れた ! ? このままここにいるとまずいんじゃないか ? |
ロイド | けど、カレイドスコープはここにあるんだろ ! ?逃げ出したら、死の砂嵐を消せなくなる ! |
カーリャ | ! ? あれ…… ?ぶるぶるぶるぶるぶるぶる ! |
カーリャ・N | どうしました、小さいカーリャ ?震えていますよ ? |
カーリャ | な、なんだかおかしいんです。絶対あり得ないんですけど、でも、でも…… ! |
ミリーナ | カーリャ、落ち着いて説明して。 |
カーリャ | ミリーナさまの中から、ちょこっとだけですけど……光魔の鏡の……死の砂嵐の気配を感じるんです ! |
イクス | そんな馬鹿な ! ? |
フィリップ | ……おそらく、ゲフィオンがミリーナに吸収されてミリーナの心がゲフィオンの人体万華鏡に近いところにあるからじゃないかな。 |
フィリップ | ミリーナの鏡精であるカーリャはそれを感じたんだ。鏡精は幼体の方が感受性が強いから――……ああ、そうか ! いや、でも……。 |
ミリーナ | フィル、どういうことなの ? |
フィリップ | ……今ならカーリャも、ミリーナの心から死の砂嵐の中に入れるかもしれない。 |
フィリップ | ミリーナは今、ゲフィオンの助力を受けて力が強まっている。虚無の中でも加護を受けて身体を保てるはずだ。 |
ミリーナ | カーリャが…… ! ? でも……。 |
カーリャ | ミリーナさま ! 迷ってる時間はありません。カーリャはやりますよ ! |
カーリャ | 私を信じてください、ミリーナさま。カーリャにしかできないことならカーリャがやらなきゃ駄目なんです ! |
ミリーナ | ……わかったわ。私たち、待ってるから。 |
カーリャ | ええ、どーんとお任せください !いざとなればミリーナさまの心に戻ればいいんですから ! |
バロール | あの尖兵がそこまで大事か。俺は犠牲も覚悟しろと言った筈だ。 |
カーリャ | 犠牲なんて出していい訳ありませんよ ! |
バロール | ……面白い。では虚無へと向かうがいい。【ギエラ・ビフレスト】の虹色の輝きを辿れば死の砂嵐に取り込まれずにすむだろう。 |
カーリャ | わかりました !では、行ってきます ! |
カーリャ | (うう……ここが虚無……。すぐ手前までは、イクスさまと来たことがありますが中に入るのは初めてですね……) |
バルド | …… ! ?そこにいるのは―― |
カーリャ | バルドさま、見つけました !カーリャが助けに来ましたよ ! |
バルド | これは……可愛らしい救援ですね。しかし、ご覧の通り私は、身動きがとれなくて―― |
カーリャ | バルドさま ! ? |
バルド | どうやら、何かの力に巻き込まれてしまったようなのです。このままでは、私も虚無に逆戻りかもしれません。 |
カーリャ | そんな…… ! |
バルド | 私の近くにある、重なった二つのアニマ……何があったか知りませんが、彼らには贄の紋章が刻まれているようです。 |
バルド | おそらく、ぶつかり合う二つの紋章の力が周りに悪影響を及ぼしているのではないでしょうか。 |
カーリャ | これは……。アニマが燃えているせいでわかりにくいですけど、これは心核です。 |
カーリャ | 待ってください。今、これを【ギエラ・ビフレスト】の虹の橋に乗せて、ティル・ナ・ノーグに移します ! |
バルド | ――ありがとうカーリャ。おかげで動けるようになりました。 |
カーリャ | よかった……。これで、後は脱出するだけですね ! |
バロール | ……待て。 |
バロール | ミリーナの鏡精よ。お前はそこに留まらなければならん。 |
カーリャ | ――え ! ? |
カーリャ | ミリーナさま ! 聞こえますか ?今、バルドさまを【ギエラ・ビフレスト】の虹に乗せて救出しました。 |
ミリーナ | よかった ! じゃあ、カーリャも早く戻っていらっしゃい。 |
カーリャ | それが、駄目なんです。バロールに言われました。カレイドスコープの照準点を死の砂嵐の中に設ける必要があるって。 |
カーリャ | 本当はコーキスの魔眼を目印にさせるつもりだったみたいですけど、イクスさまたちを助けるために外に出してしまったから、新しい目標が必要だって。 |
カーリャ | だから、カーリャが目標になります。 |
ミリーナ | 何を言っているの ! ? |
カーリャ | 大丈夫です。カーリャは鏡精ですから……存在が消えてもちゃんとミリーナさまの元に戻れます。 |
イクス | どうした、ミリーナ ! 顔が真っ青だぞ ! |
ミリーナ | カーリャが……死の砂嵐の中に残るって。 |
ミリーナ | カレイドスコープで死の砂嵐を消すためには照準となる的が必要だからカーリャがそれになるって言うのよ ! |
ミリーナ | 鏡精だから、消えても大丈夫だって言って…… ! |
バルド | いけません ! ミリーナさん !バロールは言っていました ! |
バルド | 確かにミリーナさんの元には戻れるかもしれません。ですが、バロールの鏡精ではないカーリャでは本来残るはずの記憶すらも奪いかねないと ! |
コーキス | それって……結局カーリャパイセンが消えちまうのと変わらねーじゃん ! ?だったら俺が行く ! 俺なら―― |
バロール | 無理だ。今のお前では、虚無に入ったところですぐ死の砂嵐に取り込まれて死鏡精になるだろう。 |
カーリャ | 時間がありません ! カーリャを目標にしてカレイドスコープを発動させてください !カーリャなら大丈夫ですから ! |
ミリーナ | 大丈夫じゃないわよ !世界を救っても、あなたが消えてしまったら―― |
カーリャ | でも、ミリーナさま。ここでカーリャが踏ん張らないとミリーナさまもみんなも消えちゃって……カーリャが帰る場所、なくなっちゃうじゃないですか。 |
ミリーナ | …………。 |
カーリャ | ……だから、今だけは戻れません。でも、その後はぜ~ったい、ミリーナさまのところへ戻ってきますから ! |
カーリャ | えへへ……カーリャがいないと、コーキスやマークのことも心配ですからね ! |
ミリーナ | カーリャ……。 |
イクス | バロール ! 本当に、他に方法はないのか ! ?命を生み出せるほどの力を持つならカーリャの記憶も守れないなんてことがあるか ! ? |
バロール | 俺とて万能ではない。だが、お前がミリーナと心を繋ぎカーリャを一時的に自分の鏡精にできるならカーリャの記憶は守れるだろう。 |
ミリーナ | ! |
イクス | それはどうすればいいんだ ! |
バロール | 全てを――お前とミリーナの心の全てを深層まで一つにする。知られたくないことも知られるし知りたくないことも知るだろう。 |
ミリーナ | イクス。私は構わないわ。カーリャを守るためなら ! |
イクス | ――……わかった。やろう ! |
バロール | イクス。お前は体験したはずだ。ナーザ――ウォーデンの意識がお前の体をもって発動した【ギエラ・ビフレスト】を。 |
バロール | 【ギエラ・ビフレスト】でお前の心とミリーナの心を重ね、【スタック・オーバーレイ】で力を増幅しカレイドスコープを起動する。 |
バロール | 全てが終わってから【アナム・セパレート】で重ねた心をまた二つに分ける。これはコーキスに頼むといいだろう。 |
コーキス | わかった。全てが終わったら俺がマスターとミリーナ様の心を二つに分ける。 |
イクス | うん、頼むぞ、コーキス。 |
イクス | 行くぞミリーナ。俺の心をミリーナに預ける ! |
ミリーナ | 受け止めるわ。イクス、お願い ! |
2人 | この世界を……守るために ! |
キャラクター | 13話【21-15 ゲイボルグの島4】 |
リオン | ……各大陸、ほぼ全ての制圧が完了か。終わってみれば他愛もないな。 |
ディムロス | まだ気を抜くには早いぞ。浮遊島の状況がわからない。 |
シオン | ……待って。空を見て !光が―― |
チェスター | うわっ ! ?なんだ、あの光…… ? |
レイア | 空から落ちてくる…… ?流れ星……じゃないよね。 |
ヒューバート | これは……少なくとも、帝国の仕業ではなさそうですね。ということは―― ! |
カナタ | ミゼラ、見てよあの空 !あれってきっと、イクスたちが上手くやったんだよね ! |
ミゼラ | うん、きっとそうだね。青空に銀色の月が現れるなんて……。でも……綺麗。 |
サイモン | ……導師は、鏡士と共に帝国を滅したか。我が主よ、私は必ず見届けます。かの導師の行く末を……。 |
フィリップ | ……なんとか、無事に脱出できたね。 |
ナーザ | 礼を言わねばならんな。ケリュケイオンで脱出できなければ島の崩壊に巻き込まれるところだった。 |
フィリップ | それは機転を利かせて皆を助けにいったガロウズたちに言ってあげて欲しい。 |
マーク | ……フィル。ゲフィオンのこと……残念だったな。 |
フィリップ | ああ……彼女を救うことはできなかった。おそらく、彼女のアニマはもう完全に消滅しただろう。跡形もなく……。 |
マーク | 大丈夫か ? |
フィリップ | ああ、うん……大丈夫だよ。心配いらない。ちゃんと別れは済ませたからね。大丈夫だって……。 |
マーク | 大丈夫なら、泣くんじゃねえぞ。 |
フィリップ | んっ……泣かないよ。今は、堪えてみせる。 |
メルクリア | 浮遊島は、完全に崩壊してしもうたな……イクスたちは無事なのじゃろうか ?死の砂嵐はどうなったのじゃ…… ? |
ナーザ | ……ここからは何もわからんな。だが、少なくともまだ世界は存続したようだ。それに、先ほどの光…… ? |
バルド | 魔鏡通信で、イクスたちと連絡を取ってみま――! ? ナーザ様 ! |
? ? ? | 何だ…… ! ? これは―― |
メルクリア | あ、兄上様 ! ?そのお姿…… ! ! |
フリーセル | ウォーデン様 ! ? |
ウォーデン | 俺の肉体が、戻ったのか…… ! ?これは……どういうことだ。 |
バルド | お二人とも、周囲を見てください…… !光が…… ! ? |
ガロウズ | …… ! おい、そこにいるのは……。まさか…… ! ! |
? ? ? | ガロウズ…… ? なの ? |
ガロウズ | ……シドニー ! |
シドニー | ガロウズ ! ! |
ガロウズ | シドニー ! ああ、シドニー。こんな奇跡が起きるなんて……。 |
バルド ? | 約束は果たしたぞ。世界の欠片――死の砂嵐の中の異物はまとめてティル・ナ・ノーグの隣に再具現化しておいた。 |
ウォーデン | 貴様、バロールか ! ?再……具現化だと ! ? |
メルクリア | こ、今度はなんじゃ…… ! !わらわが光っておる ! ? |
ウォーデン | いや、違う。光っているのはお前の持っている人工心核だ。 |
メルクリア | チーグルとローゲの…… ! ?あっ ! |
メルクリア | 光が……空に消えた ?どういうことじゃ ! あの二人はどこへ―― |
バロール | 慌てるな。あいつらは、自ら別の場所への具現化を望んでここを離れただけだ。 |
バロール | 今起きていることを察知し、新たな大地に具現化した同胞たちに状況を説明するのだそうだ。 |
メルクリア | いったい何が起こっているのじゃ……。 |
ユリウス | ――どういうことだ ! ? 新しい衛星が発見された ! ? |
ローエン | これは……確かに、ティル・ナ・ノーグに二つ目の月が出来ています ! |
ウォーデン | まさか……バロール、貴様の仕業か ! ? |
バロール | 集めた異物を虚無に捨て置くわけにもいかぬだろう。 |
バロール | 死の砂嵐を消すためには、一時的にでもゲフィオンのカレイドスコープで命を絶たれた存在を再具現化せねばならなかった。 |
バロール | アイフリードの墓を基礎として、もう一つのティル・ナ・ノーグを具現化した。ダーナも二つ目の大地を維持するため、再び眠りにつくことになる。 |
ウォーデン | バロール。俺がこの肉体に戻ったということは――今まで借りていた一人目のイクスの体はどうなった ? |
バロール | それなら、俺が処分しておいた。他ならぬ本人の望みだったのでな。 |
ウォーデン | ……そうか。それで、俺の命はどれほど持つのだ ? |
バロール | 聡い奴だな。貴様は人工心核に長く留まりすぎた。まあそれでも十年ほどは生きるだろう。精々後始末を付けておくのだな。 |
メルクリア | ! ? |
バロール | これが命を弄んだ代償だ、皇女よ。 |
フリーセル | 命を弄んだ代償だというのならグラスティンはどうなった ! ?デミトリアスは―― |
バロール | デミトリアスは時の力に飲み込まれ存在を消失することになった。 |
バロール | グラスティンは、貴様が望んだようになったと言えばわかる筈だろう。 |
フリーセル | そう……か……。サレの仕掛けは発動したんだな……。 |
バロール | ……ダーナが呼んでいる。さらばだ、揺り籠の命たちよ。 |
バルド | …………。 |
ウォーデン | バルド、お前か ? |
バルド | ……はい。バロールの意識はもう感じられません。彼の言った通り、本当に最後だったようですね。 |
ウォーデン | そうか……。 |
バルド | ウォーデン様……。 |
メルクリア | 兄上様…… ! |
ウォーデン | まだ時間は残されている。せめてその間に、俺は俺の為すべき事をせねばな。 |
ウォーデン | バロールの言うことが事実ならゲフィオンの死の砂嵐によって滅びた世界が新しい月となって具現化したことになる。 |
ウォーデン | 今度こそ……あの世界を滅ぼさぬよう俺は全ての命を使うつもりだ。 |
イクス1st | ……ん ? ここは、どこだ ? |
イクス1st | おーい、バロール ?てっきり死んだつもりだったんだけどな。 |
? ? ? | その声……イクス ?イクスなの…… ! ? |
イクス1st | …………ミリーナ !これは……どういうことだ ? |
ダーナ | 私たちからの、せめてもの餞別です。イクス・ネーヴェ。そして、ミリーナ・ヴァイス。 |
ダーナ | 最期の時くらいは……あなたたちに話す時間を与えても許されるでしょう。 |
イクス1st | 女神ダーナ……ありがとう。この上ない贈り物だよ。 |
イクス1st | ……久しぶり、ミリーナ。 |
ゲフィオン | ……イクス。やっと、また会えたのね。 |
イクス1st | ああ。最期にこうして会えてよかった。……これで、俺たちの役目も終わりだな。 |
ゲフィオン | ええ……そうね。ごめんなさい、イクス……何もかも。 |
イクス1st | はは……驚いたよ。ミリーナがこんなに情熱的だったなんて。 |
イクス1st | 確かに……許されないことだったと思う。世界中がミリーナを非難するだろう。でも―― |
イクス1st | 俺のミリーナへの気持ちは変わらないよ。先に逝ってしまってごめんな。今度は……一緒だ。 |
ゲフィオン | ええ、そうね……。行きましょう、イクス。 |
イクス1st | ああ、ミリーナ。ありがとう―― |
アルフェン | ふぅ……危なかったな。全員、無事か ? |
カイル | あいたたた……うん。勢いで足をぶつけちゃったけど、なんとか。 |
シング | みんなも大丈夫そうだね。さっきはびっくりしたよ。 |
セネル | いつの間にか、マクスウェルが俺たちをここに転送してくれたんだな。ここは―― |
ルドガー | 精霊の封印地、かな ?見たところ、世界の崩壊も起こってはいないし……ちゃんと世界は守れたわけだな。 |
イクス | ああ。これで、全部終わった……んだよな。まだ、実感が湧かないな……。 |
ユーリ | そりゃ、何も終わっちゃいねえからだろ。世界の復興、これからの生き方――まだまだ考えることは山ほどあるぜ。 |
イクス | ……確かに、そうだな。何もかも、これからだ。むしろ、やっと始められるんだよな。 |
ジュード | でも、今日ぐらいは休んでいいんじゃない ?ずっと辛い戦い続きだったんだから。 |
ミラ=マクスウェル | ああ。休息を取ってから、また始めればいい。焦ることは何もない。 |
クレス | その時は、僕たちもまたいくらでも手を貸すよ。 |
イクス | ありがとう、みんな。…………。 |
カイウス | ん ? どうしたんだよ、イクス ? |
イクス | ……カーリャは、まだ戻って来ないんだな。 |
エミル | そうだね……。周りを捜してみたけどやっぱり、見つからなかったよ。ごめん……。 |
コーキス | パイセン……。 |
ミリーナ | ……大丈夫。約束したもの。絶対に、帰ってくるって。 |
ミリーナ | だから、だから……。 |
イクス | ……ミリーナ。 |
ミリーナ | 慰めてくれなくても大丈夫よ、イクス。私……。 |
イクス | 違う、ミリーナ。あそこを見るんだ !湖の中心に―― |
ミリーナ | ……え ? |
? ? ? | ミリーーーナさまぁぁぁぁぁっ ! ! |
ミリーナ | カーリャ ! ! |
カーリャ | うわぁぁーん ! ミリーナさま !ミリーナさまぁ ! カーリャ、帰ってきましたよぅ~ ! |
ミリーナ | よかった……ぐすっ。おかえりなさい ! カーリャ ! |
コーキス | パイセン…… !もうっ、心配させるなよな ! |
イクス | カーリャ、言葉通りに戻ってきてくれたんだな。 |
カーリャ | えへへ……。 |
アスベル | イクスとミリーナが心を重ねたおかげだな。 |
カーリャ | ですね。イクスさまって、なんか冴えない人だなーって思ってましたけど、カーリャの見る目がなかっただけみたいです。 |
イクス | ひ、酷いなあ……。 |
コーキス | やっとマスターの良さがわかるなんてパイセンもまだまだだな。 |
カーリャ | むっ ! その言い方、カーリャを馬鹿にしてますね ! ?偉大な先輩に対して失礼ですよ ! |
カーリャ・N | ふふ……。何事もなく戻ってきてくれて本当によかったです。 |
コーキス | ――あっ ! そうだ、パイセンを危ない目に遭わせたこと、バロールの奴に文句言ってやる ! |
ミリーナ | いいわね。私の分も伝えて欲しいわ。 |
コーキス | ……あれ ? おかしいな。全然返事がない……。 |
イクス | ……そういえば、俺もさっきからずっと最初のイクスさんの声が聞こえないんだ。 |
イクス | いや、この感じ……もう、どこにも気配がない。俺の中から、完全に消えてしまったみたいだ。 |
コーキス | ……バロールも、最初のマスターもこの世界にはもういないってことなのかな ? |
イクス | ……かもしれないな。きっと、もう俺たちを手伝う必要がなくなったと思ってくれたんだろう。 |
イクス | あとは俺たちの力だけで何とかしろって――そういうメッセージなんだと思う。 |
コーキス | そっか……うん、なんかやる気湧いてきた !一緒に頑張ろうぜ、マスター ! |
イクス | ……ああ。 |
コーキス | ん ? どうしたんだよ、マスター ?俺の顔じっと見て。 |
イクス | いや、今更だけど……そういえば、まだちゃんと言ってなかったな、と思ってさ。 |
コーキス | …… ? |
イクス | おかえり、コーキス。 |
コーキス | ! ……ああ ! |
コーキス | ただいま、マスター。 |
カーリャ | ふふっ、長い反抗期でしたねぇ。 |
イクス | ……そうだ。ミリーナ、ちょっといいかな。その……話したいことがあるんだ。 |
ミリーナ | 私 ? ええ、いいけど―― |
リッド | あー、オレたちはこの辺で行くとするか。 |
ベルベット | そうみたいね。行きましょう。邪魔する気はないから。 |
ルカ | あ、僕もイリアたちと連絡を取らなきゃ…… !イクス、また後でね。 |
コーキス | ? なんで、みんな急に帰るんだ ? |
カーリャ | いいから、コーキスもこっちに ! |
カーリャ・N | ええ、私たちと一緒に来てください。 |
コーキス | わ、わかったから引っ張るなよ…… !なんだ、なんだ ? |
イクス | ……みんなに、変な気を遣わせちゃったかな。 |
ミリーナ | それで、イクス――私に話、って ? |
イクス | うん。今までのことと、これからのこと。俺の気持ちをミリーナに伝えたいんだ。 |
イクス | 心を重ね合わせたとき、色んな感情が伝わってきたよ。ミリーナの喜びや悲しみ……怒りも。 |
ミリーナ | ……私もよ、イクス。あなたの絶望や希望、それに私への……感情も。 |
イクス | 俺……ミリーナを信頼してるよ。支えていきたいと思ってる。嘘偽りのない感情だよ。 |
ミリーナ | ええ、知ってるわ。ちゃんと感じたもの。それがイクスの私に対する気持ちなんだって。 |
イクス | 俺は……やっぱり、イクスさんとは違う人間だ。ミリーナも、ゲフィオンじゃない。 |
イクス | 今の気持ちだって、永遠じゃない。きっと変わっていく。もっと俺たちらしく。心を重ねなくても重なっていけるよ。 |
ミリーナ | イクス……。 |
イクス | ……もう過去の俺たちに囚われたりしない。だから―― |
イクス | 過去の自分たちとは違う関係をこれから新しく築いていきませんか。 |
ミリーナ | ――ええ、イクス。喜んで。 |
キャラクター | 1話【Ep1-1 アジト】 |
イクス | デミトリアス帝との戦いから一週間。俺たちは帝国の崩壊という現実に立ち向かうため必死に動き続けていた。 |
クレス | ――こんなところかな。アセリア領に関する報告は以上だ。 |
イクス | ありがとう、クレス。また何かあったら教えてくれ。 |
ミリーナ | まだ帝国の兵士たちは動きを止めていないのね。 |
イクス | ああ。ハロルドさんも言ってたけど、今の帝国兵の殆どはレプリカ兵で、帝国を守るという刷り込みだけが行われている状態だから、降伏って考えがないんだよ。 |
ミリーナ | なんとか刷り込みから解放してあげて一人の人間として生きていけるようにしないとね。 |
カーリャ | ただいま戻りましたー ! |
コーキス | マスター、ミリーナ様 !今のところ浮遊島には異常なかったぞ。 |
ミリーナ | お疲れ様、カーリャ、コーキス。みんな、疲れたでしょう ?少し休憩しましょうよ。 |
イクス | ありがとう。確かにちょっと疲れたかな。けど、俺はもう少しだけ……。 |
コーキス | 無理すんなって。一息入れようぜ。 |
イクス | ……わかったよ。けど、すぐに仕事に戻るぞ ?やりたいことが山積みなんだ。 |
イクス | 各領地の戦況も知りたいし浮遊島の警備体制も見直さないといけないし……。 |
カーリャ | 鏡映点のほとんどが地上に降りちゃってますからね。みなさん、お忙しいようでなかなか戻ってこられないですし。 |
ミリーナ | いずれ、この浮遊島を離れてそれぞれの土地に移る人も多くなると思うわ。このアジトも、どうするか決めないといけないわね。 |
カーリャ | 寂しくなりますねぇ……。 |
コーキス | パイセン、元気出せよ。前に話したヴァン様のたまご丼作ってもらえるように、俺が話つけてやるからさ ! |
カーリャ | 噂に聞くあの…… !いやいや、食欲で寂しさを誤魔化せると思ったら大間違いです ! でもお願いします ! |
イクス | それは、戦況が落ち着いてからにしてくれよ ?今はたまご丼作ってくれなんて連絡しづらいからさ……。 |
コーキス | わ、わかってるって。今だって、みんな大変なんだろ ? |
イクス | ああ。さっきもクレスから連絡が来たところだ。残党の兵士はまだ多いけど領内の鎮圧は計画通り進んでるってさ。 |
カーリャ | さすがクレスさまたちです。他の領地はどうなってるんでしょうね。 |
イクス | そっちも報告が来てるよ。各領とも、帝国の影響下から脱しつつあるそうだ。 |
イクス | やっぱりアセリア領を筆頭にした五領の蜂起がいい切っ掛けになったみたいだな。 |
イクス | とはいえ、解放した各領地をこれからどんな風にまとめていくか……。まだまだ問題は山積みだよ。時間がいくらあっても足りない。 |
コーキス | 時間、か……。 |
二人 | …………。 |
カーリャ | やっぱり、このまま『時間』は止まっていた方が……。 |
ミリーナ | カーリャ。 |
カーリャ | わかってます ! けど……。 |
イクス | なあ、カーリャ。帝国を倒したことでクロノスの力で停止していた時間がやっと動かせるようになったんだぞ ? |
イクス | これで鏡映点のみんなも『俺』もこの世界の人と同じ時の中で年を重ねることができるんだ。 |
イクス | どれだけ月日が経っても、何一つ変わらないままなんてやっぱり歪じゃないか。時間は動かさないと。 |
カーリャ | それでも、イクスさまだけは鏡映点のみなさんと条件が違うじゃないですか。 |
カーリャ | ゲフィオンさまと魔鏡結晶の中にいた時にイクスさまは時間が操作されたって聞きましたよ。 |
イクス | ああ。ゲフィオンは俺とイクスさんの年齢のズレを無意識に修正しようとしたらしいな。それだけ、イクスさんへの思いが強かったんだ……。 |
ミリーナ | ええ。私とイクスの記憶を重ねたことで状況がよくわかったわ。 |
ミリーナ | それが……どれだけイクスの『時間』に負荷をかけてしまったかということも。 |
カーリャ | そうですよ ! このままじゃイクスさまの体は無理やり進められた時間経過と、正常に戻ろうとする時の流れに耐え切れなくなって……。 |
イクス | 崩壊するかもしれない、だろ ? |
イクス | わかってるよ。止まっていた時間を一気に戻さずに数年かけて少しづつ進めたほうがいいってフィルさんも言ってた。 |
ミリーナ | 私も、負荷の緩和策がないかゲフィオンの記憶から情報を集めているわ。それはカーリャも知ってるでしょう ? |
カーリャ | はい……。でも、考え出すと不安になっちゃうんです。ミリーナさまや、イクスさまや、コーキスがいてそれが普通になればなるほど……。 |
イクス | ありがとな、カーリャ。でも昔と逆だな。心配するのは俺の仕事みたいなものだったのにさ。 |
コーキス | ――あー、もう、ほら !また仕事の話になってるぞ ! |
イクス | あっ、悪い。そういえば一息入れようって言ってたんだったな。 |
コーキス | 俺がお茶淹れるよ ! あっちにいる時はバルドやメルクリアと淹れてたんだ。期待していいぜ、マスター ! |
イクス | 嬉しいな。コーキスのお茶、楽しみだ。 |
コーキス | (マスター、顔色悪いな……。最近疲れ気味だし……) |
イクス | どうした ? |
コーキス | いや、なんでもない。ほら、ミリーナ様もパイセンも、休憩、休憩 ! |
キャラクター | 2話【Ep1-2 ケリュケイオン1】 |
カーリャ・N | 失礼します。 |
ファントム | ……また、あなたですか。 |
カーリャ・N | 起きていましたか。調子はどうです ? |
ファントム | まあまあですよ。 |
カーリャ・N | ふふっ。「問題ない」と言わなくなっただけ素直になりましたね。その調子なら、今日はゆっくり話せそうです。 |
ファントム | 聞きますよ。逃げられそうにありませんし。 |
カーリャ・N | あなたに改めて伝えたかったんです。 |
カーリャ・N | ゲフィオン様を守ってくださりありがとうございました。 |
ファントム | …………。 |
カーリャ・N | あなたは命がけで、ゲフィオン様を自分の仮想鏡界に取り込んでくれました。 |
カーリャ・N | そのお陰で、私もフィリップ様も最後に言葉を交わすことができたんです。 |
ファントム | ……全部、終わりましたね。 |
カーリャ・N | ええ。終わりを見届けたいというあなたの願いは叶いましたか ? |
ファントム | どうでしょう。ただ、すっきりはしました。これで私には何もなくなった。 |
ファントム | 何も……。 |
カーリャ・N | ……一つ、提案があります。 |
カーリャ・N | 私と一緒に、新しい月に――もう一つのティル・ナ・ノーグに行きませんか ? |
ファントム | ! |
カーリャ・N | あの場所には、私たちと同じ時代を生き私たちが関わった罪に苦しめられた当時の人々がいる筈です。 |
カーリャ・N | バロールの命の炎によって甦った人々が。 |
カーリャ・N | 私は向こうのセールンドでその人々を助けたいと思っています。力を貸してくれませんか ? |
ファントム | 月とは……。あなたには、こちらの世界に帰る場所があるでしょう。 |
カーリャ・N | ええ。ですがそこにはちゃんと『カーリャ』がいます。 |
ファントム | ……フィルにマークがいるように ? |
カーリャ・N | ええ。あの方たちに任せればこの世界はきっと良い方向へ歩み出すでしょう。 |
カーリャ・N | ならば私は、ゲフィオン様への怨嗟が残るあの月でその後始末をしたい。 |
カーリャ・N | それが、憎しみや悲しみに包まれた戦乱の時代を知りなおかつ歩むべき未来を垣間見た者の役目ではないかと思うのです。 |
ファントム | 憎しみと悲しみを知る者ですか。では、私たちなら適任だ。 |
カーリャ・N | ええ。ですから誘っています。 |
ファントム | 嫌だと言ったら ? |
カーリャ・N | そうですね。いっそ、さらってしまいましょうか。フィリップ様の許可が下りればですが。 |
ファントム | では、さらわれてしまいましょう。 |
カーリャ・N | ……いいのですか ? |
ファントム | 望むところです。 |
カーリャ・N | ありがとう、リーパ。 |
マーク | ……パイセン。リーパと随分話し込んでるな。 |
フィリップ | フフ、気になるのかい ? |
マーク | 別にそういうわけじゃねーよ。パイセンなら、後でちゃんと俺に話してくれる筈だし。 |
フィリップ | そうだった。二人とも、秘密の話まで共有するぐらい仲良しだったよね。 |
マーク | ……まあな。そういや、フリーセルはどうした ?何か話があったんだろう ? |
フィリップ | さっきケリュケイオンを降りたよ。ナーザ将軍……いや、ウォーデン殿下への伝言を預けたんだ。 |
マーク | ああ……。アスガルド帝国崩壊後の世界についてってやつか。 |
フィリップ | そうさ。本当はウォーデン殿下本人と話したかったんだけど、彼らもすぐに船を降りてしまっただろう ? |
フィリップ | だからフリーセルに託したんだ。 |
マーク | 構想はあるのか ? |
フィリップ | まあね。独裁的な一国家として全体をまとめるよりそれぞれの領地が国として機能できればそれが一番じゃないかと思ってるんだ。 |
マーク | なるほどね。色んな世界から具現化されてるしエンコード済みとはいえ人種も文化もバラバラだ。その辺は出身の鏡映点に任せるのがベストなのかもな。 |
フィリップ | その上で、これまでの統一感を失わないようにアスガルド連邦国――なんてどうかなって思ってるんだけど。 |
マーク | いいじゃねえか !言い出したからには投げ出させねえぞ。ちゃんと樹立まで働いてもらうからな。 |
フィリップ | わ、わかってるよ。救世軍のことも何とかしないといけないし。ゆくゆくは解散することになるけれど……。 |
マーク | ああ。それでもまだ数年、この組織は維持しねえとな。紛争はしばらく続くはずだ。各領をまたいで対処できる組織は必要だろう。 |
マーク | ……ん ? コーキスから ? |
コーキス | マーク、フィル様に相談があるんだ。そっち行っていいか ? |
マーク | よお、どうしたコーキス。また家出か ? |
コーキス | んな訳ねーだろ ! 俺はもう決めてるんだ。マスターを丸ごと全部抱え込んで守るってな。 |
フィリップ | 頼もしいね。それで、僕に相談があるんだって ? |
コーキス | あ、うん。ええと……フィル様はマスターの『時間』の話、聞いてるよな ? |
フィリップ | ああ。こちらでもミリーナと情報共有しながら今後の時間の進め方を研究している。何かあったかい ? |
コーキス | 最近マスターの顔色が悪くてさ。ここ数日は特に疲れやすくなってる気がする。 |
コーキス | ミリーナ様も気づいているみたいだけど何も言わないんだ。きっと下手に騒いで俺たちの不安をあおりたくないんだと思う。 |
コーキス | 俺もなるべく普通にしようとは思うんだけど何かマスターの体に影響が出てるんじゃないかと思って心配でさ。 |
フィリップ | イクスの時間……か。だったら、エルレインに会ってみるかい ? |
コーキス | エルレイン様 ? なんで ? |
フィリップ | 彼女の中には時の精霊クロノスがいる。そう簡単に精霊と話せるわけじゃないけれど試してみる価値はあるはずだ。 |
コーキス | やるよ ! エルレイン様はどこだ ! ? |
フィリップ | ちょうどケリュケイオンに乗ってるよ。救世軍の地上部隊について話をしたばかりだ。 |
マーク | よし、待ってろ。今、呼び出してみる。 |
キャラクター | 3話【Ep1-3 ケリュケイオン2】 |
エルレイン | ――わかりました。では、私の意識を深く沈めてクロノスに届きやすくしてみましょう。 |
マーク | 助かるぜ。さすが聖女様だ。 |
エルレイン | これも救済と思えばこそ。ただし、成功するか否かは保証しかねます。あなたの呼びかけ次第と思いなさい。 |
コーキス | はい、お願いします ! |
エルレイン | 始めます。……………………。 |
コーキス | ええと……、クロノス、出てきて欲しい。クロノス、聞こえるか ? |
クロノス | ……聞こえている。 |
コーキス | 早っ ! こんな簡単に ! ? |
クロノス | 簡単ではない。この体の主が、我の出現を強く願った故。負担もあるだろうから、手短にしてやりたい。 |
コーキス | エルレイン様……。 |
クロノス | 鏡精よ、事情は察している。イクスの時間のことであろう。 |
コーキス | ああ。実際、今はどんな状況なんだ ? |
クロノス | 魔導砲によって分かたれた我の分霊を鏡映点たちが集めているのは知っているな。 |
クロノス | その分霊が全て戻った時に、再び時の流れを緩やかに動かす。鏡士たちもそのように事を運ぶ算段をつけているはずだ。 |
フィリップ | ええ。あなたが力を取り戻しエルレインから離れることができたらそう願うつもりでした。 |
コーキス | それで、マスターはどうなる ? 大丈夫なのか ? |
クロノス | 我にもわからぬ。 |
コーキス | わからないって、そりゃねえよ !マスター、調子悪そうなんだ。今も何か影響してるんじゃないのか ! ? |
クロノス | あの者の不調は、数多の理由が重なった故だ。 |
クロノス | ゲフィオンの干渉で時を急激に早められ心核にはバロール、そしてもう一人の己を宿していた。本人の思う以上に、体も心も疲弊している。 |
コーキス | マスター……。 |
クロノス | 時間経過による崩壊はともかくとしてまずはオリジンの元で治療するといいだろう。 |
フィリップ | となると、オリジンを呼び出さないといけないのか。クラトスさんに連絡してみよう。 |
クロノス | いや、オリジンを呼び出したいのならスレイの方が適任かもしれぬ。 |
コーキス | スレイ様 ? |
クロノス | この世界のオリジンは、ヘルダルフの一件以降スレイに一目置いている。故に声も届きやすい。 |
クロノス | あの者が使う【神依】を利用すればエルレインのように苦しませることもないだろう。 |
クロノス | クラトスは存在そのものがオリジンを封じる檻でもある。檻を解き放つ時までいたずらに刺激せぬ方がよかろう。 |
エルレイン | …………っ。 |
クロノス | そろそろ体を返す頃合いだ。 |
コーキス | ありがとう、クロノス ! オリジンに会ってみるよ。 |
エルレイン | ……話は、できたようですね。 |
コーキス | ありがとう、エルレイン様 !無理させてごめん。 |
エルレイン | 為すべきことを為したまで。……っ。 |
マーク | っと、危ねぇ。 |
フィリップ | エルレイン、少し休んでいるといい。 |
カーリャ・N | では、私が部屋へお連れします。 |
コーキス | パイセンのパイセン ! |
カーリャ・N | あなたたち、スレイ様をお迎えに行くのでしょう ?その後はイクス様のところへ ? |
マーク | 聞いてたのか。 |
カーリャ・N | ええ。エルレイン様を部屋へお連れしたら私もあなたたちと一緒に行きます。 |
コーキス | ケリュケイオンでの用事はもういいのか ? |
カーリャ・N | はい。話はつきましたので。それに、気になることはきちんと解消しておきたいんです。 |
マーク | わかった。フィル、後を頼むな。パイセンもコーキスも、降りる準備しとけよ。 |
スレイ | ――っていうわけで来たんだ。 |
イクス | ……コーキス、お前それで出かけてたのか。 |
コーキス | うん。ちょっとフィル様に相談したらトントン拍子にこうなった。 |
イクス | 心配させてたんだな……。ごめん。 |
マーク | 鏡精としては「ありがとう」って言って欲しいところだぜ ? |
カーリャ・N | ええ。申し訳なさそうにされると心苦しいです。マスターの笑顔が見たくてやっているのですから。 |
カーリャ | 鏡精の心、マスター知らずですねぇ。 |
コーキス | おおっ ! 言いたいこと全部言ってくれた ! |
イクス | そうか……。ありがとう、コーキス。 |
ミリーナ | イクス、オリジンに会ってみましょうよ。 |
イクス | ああ。スレイ、頼む。でも、何かあったらすぐやめてくれよ ? |
スレイ | 大丈夫。神依のような感覚でやればきっと………………。 |
オリジン | ……イクス、バロールの子孫よ。 |
イクス | オリジン ! |
オリジン | その気配……、随分とバロールに近づいたな。 |
イクス | ! ! |
オリジン | 案ずるな。悪いことではない。それだけお前の力が強まったということだ。 |
オリジン | 時の流れの負荷も懸念しているようだが心核の力さえ回復すれば体の負担は耐えられるだろう。 |
コーキス | 本当か ! ? やったな、マスター ! |
オリジン | だが、憂慮すべき点もある。イクスの力の強さに、鏡精が追い付いていない。 |
コーキス | 俺が…… ? |
オリジン | マスターと鏡精の強い繋がりにおいての僅かな相違と言うべきか。 |
オリジン | イクスに告げていないことがあるのではないか ? |
コーキス | …………。 |
イクス | コーキス…… ? |
コーキス | ……うん、考えていることはある。もっとゆっくり話して、それからって思ってたけどそれが原因なら……言うよ。 |
コーキス | マスター、俺を切り離して欲しい。 |
イクス | え……なんで……。 |
コーキス | 俺だって、ずっとマスターと繋がっていたいよ。繋がっていると嬉しいし安心する。助けられることだって沢山ある。 |
コーキス | けどさ、マスターに何か起きた時に……たとえば俺を具現化している力もなくなったら俺に何ができる ? |
マーク | …………。 |
コーキス | 消えてしまったら、俺は何もできない。マスターを助けられない。 |
コーキス | もし、ネヴァンパイセンみたいに切り離されていればマスターに何かあっても動けるんじゃないか ? |
カーリャ・N | …………。 |
コーキス | 俺はさ、一人の人間としてマスターをずっと守りたい。 |
コーキス | ……そう、思うようになった。 |
イクス | ……ごめん。何て言っていいかわからない……。 |
コーキス | だよな。俺もこんな風に打ち明けるとは思わなかった。でも、マスターの命に関わる話になったからさ。 |
コーキス | これが今の俺の、正直な気持ちなんだ。マスター。 |
イクス | コーキス……俺は………。 |
| to be continued |
キャラクター | 1話【Ep2-1 セールンド城1】 |
ウォーデン | ……母上に祈っていたのか。 |
メルクリア | 兄上様 ! |
メルクリア | はい。せっかくセールンド城に戻って参りました故……。 |
ウォーデン | そうか……。母上も喜ぶだろう。 |
メルクリア | 兄上様は何故こちらに ? |
ウォーデン | この者が母上に挨拶をしたいと申してな。 |
フリーセル | メルクリア様。祈りを妨げてしまいまして申し訳ございません。 |
メルクリア | そなたは……フリーセルであったな。 |
ウォーデン | この者はビフレストがセールンドに送り込んだ間者だ。戦後は母上の手足となって動いていたらしい。 |
フリーセル | 正確には……一人目の私が、ということになります。私はサレの命令によって具現化された存在ですから。 |
メルクリア | 過去からの具現化……。そなたもジュニアたちと同じ立場なのじゃな。 |
フリーセル | 私はグラスティンへの嫌がらせのために作り出された存在です。彼らよりもっと空虚だ。 |
ウォーデン | だから、母上の言葉を実行しようとしたのか ? |
フリーセル | ……そうですね。そうだったのかも知れません。 |
フリーセル | 私は自分の無意味さを埋めるために一人目が果たせなかった皇后陛下の遺言を果たしたかったのでしょう。 |
メルクリア | 今もそうなのか ?あのミリーナ・ヴァイスを討つつもりか ? |
フリーセル | ……本日は、皇后陛下に謝罪するために参りました。ビフレストを滅ぼした魔女を討ち取れなかったこととこの先も本懐を遂げることは叶わぬことを。 |
メルクリア | ! |
ウォーデン | この者はビクエから俺への伝言を持ってきた。帝国が崩壊したこの地をまとめるための草案と共にな。 |
メルクリア | 伝言……でございますか ? |
ウォーデン | ビフレスト皇国と和平交渉を持ちたいそうだ。 |
メルクリア | 和平交渉…… ? |
ウォーデン | あの月にあるビフレスト皇国だ。あそこにはカレイドスコープで滅ぶ前のビフレスト皇国がまだ存在している。 |
ウォーデン | いや、ビフレストだけではない。他の小国もセールンドも存在している。その全てと和平を結ぶつもりなのだろう。 |
ウォーデン | ビクエは俺が新しい月へ移住することを確信しているようだな。 |
メルクリア | 新しい月……。あの空に浮かぶもう一つのティル・ナ・ノーグですね。 |
ウォーデン | そうだ。俺に残された時間は多くはない。 |
ウォーデン | 未来を生きるもののためになるべく早く道筋を付けたいと考えていたがビクエも同じであったようだ。 |
フリーセル | 恐れながら、私もウォーデン殿下にお力添えしたいと考えております。 |
フリーセル | 先程、ドンナー卿からの魔鏡通信が届きました。彼の地では、カレイドスコープで命を落とした者たちが甦りを果たし、混乱に陥っているそうです。 |
フリーセル | ドンナー卿らが事態を収めようとしておられるそうですが、セールンドのものはビフレストの民の言葉に中々耳を貸そうとはしないとか。 |
フリーセル | 私もセールンドで長く暮らした身。 |
フリーセル | ――いえ、それも一人目の記憶ではありますが。しかし他のビフレストの方々よりは、セールンドの民の気持ちがわかるのではないかと思うのです。 |
メルクリア | そなた……まさかセールンドの民として月に渡ると言うのか ! ? |
フリーセル | 私が真実セールンドの民であるかといえば……それは違いますが……。 |
フリーセル | 彼の地で再びセールンドとビフレストが――いえその他の国々も、皆、争いを起こさぬよう尽力したいのです。 |
メルクリア | そうか……。そなたは母上様の呪いから解き放たれたのじゃな……。 |
ウォーデン | メルクリア。先程、ジュニアたちが城に入った。会ってくるといい。 |
メルクリア | ジュニアが ! ?では、行って参りまする ! |
ウォーデン | フリーセル。本当にいいのか ?王を失った彼の地のセールンドはますます荒れる。 |
ウォーデン | 貴様の正体が発覚すれば命を落とすことにもなりかねない。 |
フリーセル | 命を落とすつもりはございませんが覚悟はしています。それにあちらにも、腕のいい魔鏡技師は必要でしょう。 |
ウォーデン | そうか。ならば力を貸してくれ。『友』との誓いを果たすためにも彼の地を平和に導かねばならぬからな。 |
フリーセル | 友……ですか ? |
ウォーデン | フッ……。勝手に友を名乗る面倒な男がいてな。色々と面倒事を押しつけられたのだ。 |
キャラクター | 2話【Ep2-2 セールンド城2】 |
ナーザ | ! ? 誰だ ! |
イクス1st | あ、そうか。今はそっちがこの体を使ってるんだもんな。となると……、お邪魔してます、かな ? |
ナーザ | なっ、まさかお前は…… ! |
イクス1st | 俺はイクス・ネーヴェ。この体の本当の持ち主だ。初めましてだな。ナーザ将軍――ウォーデン・ロート・ニーベルング。 |
ナーザ | 体を取り戻しに来たか。 |
イクス1st | いや、もう戻れないのは知っているだろ。俺を殺して、体だけを残しておいたんだから。 |
ナーザ | ならば何故ここにいる。 |
イクス1st | やっぱり元々いた体だからなのかな。何故か引き寄せられちゃって。 |
ナーザ | 【ギエラ・ビフレスト】のせいでアニマが引き寄せられたか……。 |
イクス1st | けど、丁度よかったよ。きみと話がしたいと思ってたんだよね。 |
ナーザ | 何を話すというのだ。 |
イクス1st | 俺を殺した理由だよ、皇太子殿。 |
ナーザ | 死者から自らの死の理由を尋ねられるとはな。今更それを知ったところで何が変わる訳でもなかろう。 |
イクス1st | 驚いたな。恥じてるのか。 |
ナーザ | 何 ? |
イクス1st | 言葉通りだよ。俺を殺したことを恥じている――もしくは悔いているのかな ? |
ナーザ | 恥などとは思わぬ。バロールの血族を鏡士にしてはならぬというのが古からの取り決めだ。 |
イクス1st | ああ……そうか。『戦争になることを承知で』俺を殺したことを悔いているのか。 |
ナーザ | ………… ! |
イクス1st | それは悔いるべきだな。 |
イクス1st | というか、殺す前にこっそり話してみようとか思わなかったのか ? どうして禁忌を破ってまで鏡士になろうとしたのかって。 |
ナーザ | そんな必要はない。理由が何であれバロールの血族が鏡精を作る可能性のある鏡士になることは認められぬ。 |
ナーザ | かつてオーデンセが我が国の領土であった頃からそれは変わらない。 |
ナーザ | 人が定めた法ならば見直すこともできようがこれは神の定めた法だ。 |
イクス1st | その神様も、元は人間だったけどね。 |
ナーザ | 何が言いたい。 |
イクス1st | 俺たちは似たもの同士だってことかな。 |
イクス1st | 俺は俺の力でセールンドの鏡士の在り方を変えられると思っていた。きみはきみのやり方でセールンドの鏡士の在り方を変えられると思っていた。 |
イクス1st | 独善的だったんだろうね。少し立ち止まってみればよかったんだ。俺たちは自分を過信し過ぎたんだよ。 |
ナーザ | ……それで ? 俺に謝罪しろとでも言うのか ? |
イクス1st | 謝罪なんていらないけど、そうだなあ……。 |
イクス1st | とりあえず、友達になるってのはどうかな ? |
ナーザ | な……何…… ? |
イクス1st | 俺を殺したんだ。憐れな死者の願い事ぐらい叶えてくれてもいいだろう ? |
ナーザ | 馬鹿なことを……。 |
イクス1st | そうかな。まあ、順序は逆になるけど、きみは『友達』を大義のために殺したことになる。 |
イクス1st | その大義が本当に正しかったのかどうかきみはこれから『この顔』を見る度に自問自答する。 |
イクス1st | そしてこう思う。『この顔』の持ち主のように広く仲間の知恵を借りる人間でありたい……ってね。 |
ナーザ | それは三人目のことか。 |
イクス1st | ああ。俺はあいつを買ってるんだ。 |
イクス1st | 体を貸してるよしみで、イクスのことを頼むよ。あいつは俺たちとは違う。違う道を切り開ける思慮深い男だ。 |
ナーザ | ……そう、かもしれぬな。 |
イクス1st | さすが皇太子殿、話がわかるな。 |
イクス1st | じゃあ、これから俺たちは『友達』だ。友達なら、体を使われても仕方ない。そこは目を瞑っておくよ。 |
ナーザ | 待て。三人目のイクス・ネーヴェが本当に世界の為になるのならば協力は惜しまぬと約束してもいい。 |
ナーザ | だが、少しでも毒になるのであれば、俺は―― |
イクス1st | ――おっと、その前に鏡を見てくれよ。誰よりも自分が自分の大義を疑うんだ。これは友達としての忠告だよ。 |
ウォーデン | (イクス・ネーヴェはこの記憶を見たのだろうか。それとも――) |
キャラクター | 3話【Ep2-3 セールンド城3】 |
マークⅡ | どうした、フィル。疲れたか ? |
ジュニア | うん……少しね。 |
バルド | それはそうでしょう。ようやく仮想鏡界の整理が終わりセールンド城へ着いたところで月からの魔鏡通信らしき反応を感知したのですから。 |
マークⅡ | 宇宙からの通信を何とか聞こえるような形に安定させるのに、結構な力を使っちまったからな。 |
バルド | しかし……バロールは本当にカレイドスコープで命を落とした人々を甦らせたのですね。 |
マークⅡ | 暗い顔だな。故郷が甦ったってのに。 |
バルド | これからが大変です。 |
バルド | カレイドスコープで命を落とした者が甦ったということは、それ以外の死因の者は存在していないのでしょう。 |
バルド | となれば、あちらのセールンドには王族がいない筈ですし、政変が起きる可能性もあります。各国の対立感情も頭の痛いところだ。 |
バルド | この状態でウォーデン様が月へ向かうのは危険でしょうしね。 |
ジュニア | でもナーザ……じゃなかった、ウォーデン様は一刻も早く月に行きたいって言ってましたよね。 |
バルド | ご自身の命の期限を気にしておいでなのでしょう。せめて、最初は私が彼の地の様子をこの目で見てから―― |
メルクリア | ジュニアが帰ったとはまことか ! ? |
ジュニア | メルクリア ! うん、ただいま ! |
メルクリア | うむ。仮想鏡界の始末、ご苦労であったな。マークもよくジュニアを支えてくれた。 |
メルクリア | ……ん ? ヴァンたちはどうした ? |
ジュニア | オールドラント領に向かったよ。落ち着く場所を見つけたら連絡をくれるって。 |
メルクリア | そう……か……。そうじゃな。もう帝国は事実上崩壊した。あの者たちも我らと共に来る必要などないしな……。 |
マークⅡ | 何だよ、姫さん。そんな悲しい顔するなって。俺とフィルだけじゃ不服か ? |
メルクリア | さようなことはないが、おぬしらともいずれは離ればなれになるではないか……。 |
ジュニア | え ? どうして ? |
メルクリア | わらわたちは、いずれ新しき月へ向かうことになる。そうなればそなたたちともお別れじゃ。 |
ジュニア | 僕たち、一緒に行ったら駄目なの ? |
メルクリア | ! ? |
バルド | メルクリア様、ジュニアとマークも共に月へ行きたいと申し出てくれているのですよ。 |
メルクリア | な……何故じゃ…… ?ここにはそなたたちの知己もおろうが……。 |
ジュニア | それはもちろんそうだけど、僕にとってはメルクリアたちも大事な仲間だよ。 |
マークⅡ | うちのご主人様はさ、新しい月とここを繋ぐゲートを作りたいって考えてるんだよ。 |
メルクリア | ゲート……とな ? |
ジュニア | うん。転送魔鏡陣のようなものを魔鏡機器として設置出来れば、向こうとの行き来が楽になるでしょう ? |
ジュニア | その為には向こうの状況も確認する必要があるからね。リヒターさんとアステルさんも協力してくれるって。 |
メルクリア | リヒターたちが !なんと……それは心強い……。 |
ジュニア | それよりメルクリアバルバトスにやられた傷は大丈夫 ? |
メルクリア | うむ……。傷は治癒術でふさがっておるがまだ奥がじくじくと痛むのじゃ。 |
メルクリア | 自業自得ではあるのじゃが、わらわも殺される訳にはいかぬからな。早く傷を癒やしていつでも動けるようにしておかねば。 |
バルド | 大丈夫ですよ、メルクリア様。御身はこのバルドが必ずお守り致します。 |
マークⅡ | まあ、いざとなれば色々逃げようもあるしな。ところで勝手にこの城を占拠していいのか ? |
バルド | いえ、いつまでもという訳にはいかないでしょうね。いずれはどこかの街に屋敷を構えるかあるいは浮遊島をお借りするという手も……。 |
メルクリア | 浮遊島か……。 |
ジュニア | やっぱりいや ? |
メルクリア | ……いや、そうではない。いずれはミリーナ・ヴァイスとしっかり向き合わねばならないと……そう思うておるだけじゃ。 |
ミリーナ | ……イクス、大丈夫かしら。 |
カーリャ・N | 随分とショックを受けておられましたからね。 |
マーク | おかしなもんだな。鏡精の方が切り離されるって聞いてショックを受けるのならまだわかるんだが。 |
ミリーナ | そうね……。イクスはコーキスを独立した存在として扱っているように感じていたからあんな風に不安そうな顔になるとは思わなかったわ。 |
カーリャ | 私たち鏡精にはよくわからないんですけど鏡精の切り離しって鏡士的にはどれぐらい負担になるんですか ? |
ミリーナ | そうね……。鏡精の切り離し自体は難しいことじゃないのよ。 |
ミリーナ | 以前のセールンドでは、鏡精をエネルギーに変換するため、たくさんの鏡精を作る必要があったから鏡士が鏡精を忘れる術式を組み込んでいたけれど。 |
ミリーナ | それは自ら生み出した命を殺すという心理的な負担を軽減するための措置だからコーキスの場合はそんなことをする必要もないし。 |
ミリーナ | でも――今のイクスの状態だと術式を組み込まなくても……コーキスのことを忘れてしまう可能性はゼロではないわね。 |
ミリーナ | 切り離すにしても心核が回復するのを待った方がいいと思う。 |
カーリャ | むむ……。中々大変なんですね。 |
カーリャ・N | ……ミリーナ様。よろしければミリーナ様もカーリャと一緒にお休み下さい。私とマークがコーキスの帰りを待ちますので。 |
ミリーナ | ……そうね。そうさせてもらおうかしら。 |
ミリーナ | スレイさんを送り届けるとなると帰りはかなり遅くなる筈だから二人も隙を見て休んでちょうだいね。 |
マーク | パイセン。何か話でもあるのか ?二人きりになろうとするなんて。 |
カーリャ・N | ……ええ。マークには話しておかなければいけないと思って。 |
マーク | はいはい。聞きましょう ? |
カーリャ・N | 私は新しい月へ行きます。 |
マーク | ………………え ? |
カーリャ・N | あちらはきっと混乱しているでしょう。彼らに何が起きたのか説明できる人間が必要です。私は―― |
マーク | ――嫌だっ ! |
カーリャ・N | ……マーク ? |
マーク | ファントムと何か話してやがるなと思ったらそういうことかよ。そんなの、絶対認めねえからな ! |
| to be continued |
キャラクター | 1話【Ep3-1 アジト1】 |
カーリャ・N | ……マーク、落ち着いてください。 |
マーク | 落ち着く ? そりゃあ、パイセンは落ち着いていられるだろうさ。いつだってそうだった。一人で何でも決めて、さっさと実行しちまう。 |
マーク | セールンド軍に入るって決めた時もゲフィオンの前から姿を消すって決めた時もイクスたちと合流するって決めた時も。 |
マーク | 今回だって ! |
マーク | 俺はいつも置いてけぼりだ。俺は世間には『作られていないことになっている』鏡精だったからな。 |
カーリャ・N | でもマーク、私はマークを忘れたことは一度もありませんよ。 |
マーク | 俺だってそうだよ ! |
カーリャ・N | もう、そんな幼体のように駄々をこねないでください。でも……あなたがそんな風に接してくるのはカーリャにだけですものね。 |
マーク | ……なあ、行くなよ、パイセン。こっちのティル・ナ・ノーグで一緒に暮らそう。 |
カーリャ・N | フィル様の面倒を見るのはマークの仕事でしょう。 |
マーク | 同じ家で暮らそうなんて言ってねえよ。わかってるだろ。 |
カーリャ・N | ……すぐに月に行くわけじゃありませんし戻ろうと思えばいつだって戻って来られます。マークにだっていつでも会えます。 |
マーク | 会えねえよ。俺は死ぬ。フィルの寿命が尽きたときに消えちまう。 |
マーク | パイセンと会える時間はもうほんの少ししか残ってないんだよ。 |
カーリャ・N | 鏡精は……死んだらどうなるのでしょうね。普通の人と同じように消えるのでしょうか。それとも……。 |
マーク | パイセン……――カーリャ ! |
カーリャ・N | ねえ、マーク。カーリャはマークのことが大好きです。一番はミリーナ様ですけれどマスターを除けば一番好きなのはマークですよ。 |
マーク | 『イクス』に似てるからか ? |
カーリャ・N | それを言うなら、あなただってミリーナ様が好きでしょう ? でもそれはカーリャたちがマスターから受け継いでいるマスターの感情に過ぎません。 |
カーリャ・N | それに、あなたは自分が気にしているほど最初のイクス様には似ていませんよ。 |
カーリャ・N | 似ていないから、きっとカーリャはマークのことが可愛いんです。 |
カーリャ・N | 約束しますよ、マーク。あなたが消えるときはすぐにあなたの傍へ駆けつけます。だから、あなたもカーリャが来るまで頑張りなさい。 |
カーリャ・N | カーリャがきっとフィル様もマークも看取ってあげますから。 |
マーク | 結局行くのかよ……。俺がこんなにかっこわりい姿を見せて頼んだのに……。 |
カーリャ・N | ここでほだされて残るようなカーリャはマークの先輩として失格ですからね。 |
マーク | ……そうだよな。勝手じゃないカーリャは俺のパイセンじゃねえ、か。 |
カーリャ・N | マ、マーク ! ?どうしたんですか、急にしがみついてきて。 |
マーク | 抱きついてんだよ、馬鹿。 |
マーク | ……ちゃんと連絡くれよ ?困ったことが起きたら呼んでくれ。フィルを引きずってそっちに行くから。 |
マーク | あと、変な虫に気を付けろよ。特にビフレスト産のタチの悪い奴にはな。 |
カーリャ・N | ビフレストにそんな怖い虫がいたでしょうか…… ?まあ、マークがそこまで言うのなら虫除けスプレーを持ち歩くようにします。 |
カーリャ | ……あれ ? ミリーナさま。休むんじゃないんですか ? |
ミリーナ | ええ……ちょっと。フィルと話がしておきたくて。まだイクスには知られたくないから今が丁度いいと思うの。 |
フィリップ | ど、どうしたんだい ?ミリーナが僕を訪ねて来てくれるなんて。 |
フィリップ | あ、いや、変な意味じゃないよ。ごめん……気持ち悪いおじさんで……。 |
ミリーナ | だ、大丈夫よ、フィル。あ……私の方こそ、やっぱり節度を持ってフィリップさんって呼んだ方がいいのかしら……。 |
フィリップ | い、いいよ ! えっと……ミリーナの好きなように呼んでくれていい。それで、どうしたんだい ? |
ミリーナ | あの……私、ゲフィオンの記憶を完全に受け継いだでしょう ? |
フィリップ | ああ……そうだね。何か気になることがあったのかな。 |
ミリーナ | ええ……。あの……イクスのことなの。 |
ミリーナ | ……本当なら二人目の私が愛して守るようにゲフィオンに仕組まれていた、二人目のイクスのこと。 |
フィリップ | それは……。 |
カーリャ | ああ……そ、そうでした……。カーリャが港で挨拶したあのイクスさまは本当は二人目……。 |
ミリーナ | あのイクスが、私をアイギスの崩壊による火球から助けてくれたから、私は生きている。 |
ミリーナ | 全てが終わった今だから改めてあのイクスにお礼が言いたいの。 |
フィリップ | でも、彼はもう亡くなっているよ。 |
ミリーナ | ええ。でもゲフィオンは彼の遺体を回収して荼毘に付した。セールンドに彼のお墓があるの。 |
二人 | ! ? |
ミリーナ | フィル、今度一緒にお墓参りに行って欲しいの。私の記憶が確かなら二人目はあなたが最初に具現化したイクスよね。 |
ミリーナ | 三人目のイクスは、アイギスの事故の後に急遽具現化して、海から引き上げたことにした。 |
ミリーナ | 私たち……二人目のイクスにもちゃんと謝罪して向き合わないと。 |
フィリップ | そうだね……。ああ、そうしよう。このことをイクスは……。 |
ミリーナ | 今はコーキスのことがあるから……。でもきちんと話すつもりよ。そうしたら三人で……いいえ、カーリャとコーキスとマークも一緒に。 |
ミリーナ | それまでは私とフィルでお墓を守ってあげられたらって思うの。 |
フィリップ | ……話してくれてありがとう。そうだね、是非そうしよう。 |
コーキス | ――よし。スレイ様も送り届けたし急いで浮遊島に戻らなきゃな。 |
コーキス | ん、魔鏡通信だ。 |
コーキス | はい――って……え ! ? 誰 ! ? |
ウォーデン | たわけが。ウォーデンだ。 |
コーキス | あ、そうか、ボスか。顔が違うからうっかりしてた……。 |
ウォーデン | 少し話がある。こちらに来てもらえぬか。 |
コーキス | えー ! ?俺、早くマスターのところに帰りたいんだけど。 |
ウォーデン | 俺もイクス・ネーヴェに用がある。 |
ウォーデン | 浮遊島に繋がる転送ゲートの位置さえ共有してもらえれば、別に貴様が来ずとも構わぬがそれでは失礼にあたろうと思ってな。 |
コーキス | え……。まさかボス、マスターと喧嘩するつもりじゃ……。 |
ウォーデン | ……もういい。こちらで勝手に調べて勝手に向かわせてもらおう。 |
コーキス | わー ! ? わかったよ、迎えに行くよ ! |
キャラクター | 2話【Ep3-2 アジト2】 |
イクス | ……ん……もう朝か……。 |
イクス | (コーキスのベッド、綺麗なままだ。まだ帰ってないのか……) |
イクス | はあ……。やらなきゃいけないことは山盛りなのに……。何だか力が出ないや。 |
イクス | 何なんだろう……。なんでこんなに気持ちが沈むんだ……。 |
イクス | ……ん ? 庭の方からミリーナの声がする…… ? |
ミリーナ | ……ここのお花はね、クレアさんやマリアンさんやアミィちゃんや、主に後方支援を請け負ってくれていた皆が育てていたの。 |
ミリーナ | 小さい子たちはここに来るのが好きでね。何故かいつも一緒にアルヴィンさんまでいたけれどアルヴィンさんは心が少年だからかも知れないわね。 |
メルクリア | ……う、うむ。 |
カーリャ | いいんじゃないですかあ ?お花は大人にも子供にも平等に綺麗ですし食べられるお花は美味しいです。 |
イクス | (どうしてメルクリアがここに…… ?) |
イクス | とにかく着替えてから、状況を聞かないと……。 |
イクス | おはよう ! |
ウォーデン | 邪魔しているぞ、イクス。 |
イクス | ええ ! ? ウォーデンさん ! ?あ、いや、様 ? 殿下 ? |
バルド | フフ、イクスさん。落ち着いてください。こちらが勝手にお邪魔しているのです。 |
ウォーデン | コーキスに連れて来てもらった。 |
イクス | あ、そういえばコーキスは……。 |
バルド | シャワーを浴びて来るそうですよ。 |
マーク | で、何故か俺が茶を出してるって訳だ。 |
イクス | わあ ! ? ごめん、マーク ! |
ウォーデン | こちらのマークの茶もなかなか美味い。まあ、ジュニアのマークの方がより繊細な味を出すが……。 |
マーク | 大味で悪かったな。 |
バルド | イクスさんも目を覚まされましたしメルクリア様とミリーナさんを呼びに行きましょうか。 |
バルド | じきにカーリャ――ネヴァンがフィリップさんを連れて来るでしょうし。 |
マーク | 悪いな。うちのご主人様は朝が苦手でね……。 |
バルド | でしたらあなたが起こしに行けばよかったのでは……。 |
マーク | いやいや。ここにパイセンを一人残す訳にはいかないからな。 |
イクス | な、なんか、微妙に空気が尖っているような……。 |
ウォーデン | バルドのくだらん悪癖のせいだろう。放っておけ。 |
イクス | そ、そうですか…… ? |
イクス | ところでミリーナたちなら俺の部屋の近くの庭にいたんで呼んできますよ。 |
ミリーナ | ……ごめんなさい、メルクリア。 |
メルクリア | な……っ。 |
ミリーナ | 私はゲフィオンではないわ。二人目のミリーナ・ヴァイス。 |
ミリーナ | でも……ゲフィオンの記憶は私の中にある。私のあり得た未来がゲフィオンでもある。 |
ミリーナ | 別人だと罪を切り捨てるには近すぎてでも彼女の罪は私の罪だと言い切るには遠すぎる。 |
メルクリア | ならば……何故謝るのじゃ。 |
ミリーナ | 近くて遠い私がそう望んでいて、私もそうしたいから。それから……あなたと友達になりたいから、かしら。 |
メルクリア | わ、わらわはそんなことは望んでおらぬ ! |
ミリーナ | なら、メルクリアの気が変わるまで待つわ。いつまでも。 |
メルクリア | ………………。 |
メルクリア | ……黒衣の鏡士よ。おぬしの記憶の中には義父上のことも残っているのか。 |
ミリーナ | もちろん。 |
メルクリア | あの者は……わらわをどう思っていたのじゃろうか。 |
ミリーナ | 魔鏡戦争の終戦を迎えて、エルダ皇后とあなたを人質として預かることになったとき、デミトリアス陛下の側近は、あなたたちを監獄に幽閉するよう進言した。 |
ミリーナ | けれど陛下は、まだ小さなあなたをそのように扱うのは不憫だと、離宮を与えるよう命じられたわ。そして成人まではご自身の娘として育てるとおっしゃった。 |
ミリーナ | もしも死の砂嵐が発生しなかったら……いいえせめてアイギスの崩壊がなければ、成人したあなたにビフレストを返還するつもりだったんじゃないかしら。 |
ミリーナ | だって……そういう方だったもの。その優しさが為政者として正しかったかはまた別の話なのでしょうけれど。 |
メルクリア | そうか……。わらわに向けられていた優しさも……偽りではなかったのじゃな。 |
メルクリア | ……わらわには実の父の記憶がない。二つの頃にはもうセールンドにいた故、わらわにとってはデミトリアスが父親であった。 |
メルクリア | 母上様を失ってからは……世界の全てであったとも言える。故に、デミトリアスが理解できなくなったときわらわは世界を失ったように感じた。 |
メルクリア | あれが……孤独というものだったのであろうな。 |
イクス | (孤独……。そうだよな……。俺にもわかる気がする) |
イクス | (俺は三人目で、イクスさんの両親は俺の両親とは言えなくて……。俺に繋がるものはこの世界には何一つ無くて……) |
イクス | ……繋がり……。 |
メルクリア | ミリーナよ。わらわは……――わらわもまた罪人じゃ。それに子供でもある。何故なら……わらわはまだ心からおぬしを受け入れられるとは思えぬからじゃ。 |
メルクリア | なれど、それは他の鏡映点たちも同じであろう。リチャード、バルバトス、フレン……他にも大勢の者たちを苦しめてきた。 |
メルクリア | 故に、わらわはここで区切りを付けようと思う。我、メルクリアはこの世界に生きる者たちの良き友良き隣人となれるよう努力する。 |
メルクリア | まずはおぬしに謝りたい。 |
メルクリア | ……今までの数々の無礼、そして非道大変申し訳ございませぬ。 |
ミリーナ | もう二度と争いにならないよう一緒に手を取り合っていきましょう、メルクリア。 |
イクス | ……あの……。そろそろいいかな。 |
メルクリア | あ、兄上様――ではなかった……。イクスか……。 |
メルクリア | ええい、どうもその顔を見ると兄上様と呼ぶ癖がついてしまった……。 |
メルクリア | それにしても人が悪いの。ずっと見ておったのか。 |
イクス | はは……。ご、ごめん……。えっと、ウォーデンさんが呼んでるよ。 |
メルクリア | そ、そうか。 |
ミリーナ | イクス、おはよう。呼びに来てくれてありがとうね。ふふ、驚いたでしょう ?起きたらウォーデンさんたちがいて。 |
イクス | ああ。何が起きたのかと思った。 |
ミリーナ | ウォーデンさんから、まだお話は聞いていないの ? |
イクス | え ? 何が ? |
ミリーナ | ウォーデンさん、あなたに話があるんですってよ ? |
イクス | 俺に…… ? |
キャラクター | 3話【Ep3-3 アジト3】 |
イクス | ただいま帰りました。 |
メルクリア | 兄上様、お待たせ致しました。 |
ミリーナ | ……あら ? フィルはまだなの ? |
マーク | あいつ……。起きないときはとことん起きないからな。ちょっと見てくるわ。 |
コーキス | ふー、さっぱりした ! |
コーキス | ――あ、マスター。ただいま ! おはよう ! |
イクス | コーキス……。 |
コーキス | ……マスター。やっぱ、俺の言ったこと、まだ……。 |
ウォーデン | コーキス。先に俺の方から話をさせてもらう。 |
ウォーデン | イクス・ネーヴェ。今日は貴公に頼みがあって来た。しかし、その前に一つ確認したい。 |
ウォーデン | 貴公は最初のイクス・ネーヴェがこの俺と共にお前について話した会話を知っているか ? |
イクス | え ? ウォーデンさんいつの間にイクスさんと話をしたんですか ? |
ウォーデン | なるほど……。あの者はあの場で話したことをイクスにも共有すると言っていたが……。 |
イクス | あ……。もしかして帝都に潜入したあの時のことかな…… ?詳しいことは記憶を見てくれって言われたような……。 |
ウォーデン | うん ? ならば何故見ていないのだ ? |
イクス | いや、それは……人の記憶をのぞき見しちゃいけないと思って……。 |
ウォーデン | この愚か者 !何か重要な伝達事項があったかも知れないではないか ! |
イクス | え ! ? 何かあったんですか ! ?も、もしかしてそれで致命的な問題が発生してこの世界の存続に影響が出たとか…… ? |
イクス | まさか、また死の砂嵐が―― |
ミリーナ | イクス、落ち着いて。そんな騒ぎだったらウォーデンさんたちもこんなにのんびりしていないと思うわ。 |
コーキス | ボス ! マスターは繊細なんだから脅すなよ ! |
ウォーデン | ……む……まさかここまで先回りして心配するタイプとは思わなかった。貴様……いや貴公は一人目とは全く違うな。 |
イクス | (……はは、あの人に似た人がゴロゴロいたら大変だよ……。俺の一人目だけど……) |
ウォーデン | ……だが、わかった気がする。仲間を尊重するというお前の心の在り方が。 |
イクス | な、何を話したんですか…… ? |
ウォーデン | 気になるなら自分であの者の記憶を見るといい。だが、そんな貴公が、何故コーキスの気持ちを察することができないのだ。 |
ウォーデン | コーキスは貴公の鏡精――心の具現化であろう。 |
コーキス | ボス ! ? |
ウォーデン | 余計な口出しとはわかっている。しかしコーキスの決心はそこまで貴公の心を揺らすものだったのか ? |
イクス | ……ウォーデンさん。コーキスと話をしてもいいですか。 |
ウォーデン | 当然だ。むしろせよ。 |
イクス | コーキス……ごめん。 |
コーキス | え ? それはどういう意味だ ?嫌な意味……じゃないよな。マスターから感じる感情がなんか複雑で……。 |
イクス | 俺が切り離すと、そういう俺の感情もコーキスには届かなくなる。 |
コーキス | ! |
イクス | ……でも、それが人間同士なんだよな。他人の気持ちなんて誰もわからない。わからないから、大切にしたいと思う。 |
イクス | 俺は……怖かったんだ。きっと。 |
ファントム | な、何故私まで連れて来るのだ。 |
カーリャ・N | 当事者意識を持ってもらうためです。 |
フィリップ | み、みんな、おまたせ……って―― |
マーク | しっ。フィル、ここは控えたほうがよさそうだぜ。 |
イクス | 俺は具現化された存在で自分であることも何度も疑い続けた……。 |
イクス | そんな中で俺を三人目の俺だから特別だと言ってくれたミリーナがいて |
イクス | 何人目かなんて気にしないいつも明るいカーリャがいて |
イクス | 敵だなんて言いながらたくさん助けてくれたマークがいて |
イクス | 俺たちの知らないゲフィオンのことを伝えてくれたネヴァンがいて |
イクス | 俺をこの世に生み出してくれたフィルさんがいて |
イクス | 俺はこの仲間たちがいる世界でなら俺という嘘が生きていてもいいんだって思えた。 |
イクス | けどコーキスは違うんだ。コーキスは俺の心の具現化で嘘の存在の俺にとって唯一の真実だった。 |
イクス | 俺の家族で友達で、俺が俺である証だったから……それが失われるのが怖いと思ってしまった。 |
コーキス | 俺は消えるんじゃないぞ !ずっとずっとマスターを守るために―― |
イクス | わかってるよ。大丈夫。これは俺の心の問題なんだ。確かに俺は自分の存在を疑ってきた。でもいつまでもその存在証明をコーキスに求めていちゃ駄目なんだ。 |
イクス | それを突きつけられた。 |
イクス | だから――コーキスを切り離すよ。コーキスと生きるために。 |
コーキス | マスター ! ! ! |
コーキス | ああ、ああ ! 俺、マスターを守る !マスターが守りたいって思ってるミリーナ様のこともカーリャパイセンのことも ! |
コーキス | 独立しても、俺はマスターの鏡精だ ! |
ミリーナ | よかった……。イクス、さすがだわ。やっぱり格好いい。 |
カーリャ | まあ、今のは中々よかったと思います。 |
フィリップ | うう……うううう……。イクス……凄いよ……なんて立派になって…… ! |
マーク | おいおい、何でお前が泣くんだよ。しかもなんで子供の成長を見守る親目線なんだよ……。 |
カーリャ・N | ふふ、コーキスは私と同じ道を進むのですね。後輩として厳しく指導してあげますよ。 |
バルド | イクスさん、やはりあなたは強い人ですね。私はあなたを尊敬します。私もあなたのようにありたいものです。 |
メルクリア | かくも鏡精とマスターの繋がりは強いのじゃな……。わらわにはもう鏡精はおらぬがわらわの中のモリアンを決して忘れまいぞ。 |
ウォーデン | ……切り離しはいつ行うのだ ? |
イクス | 俺の心の修復を待ってからになるので一ヶ月ぐらい先かなと思います。 |
ウォーデン | ならば、まだ我らはこの星にいるな。切り離しの際は立ち会わせて欲しい。 |
イクス | はい ! |
コーキス | その時はパーッと派手にお祝いしようぜ、マスター ! |
イクス | ええ…… ?なんか泣いちゃいそうだからやだなあ……。 |
フィリップ | うう……そうだよね……泣いてしまうよね……。 |
ウォーデン | ビクエよ……。俺は貴公にも用があったのだが……。 |
フィリップ | うう……。ご、ごめん。 |
フィリップ | ――ええっと……もう大丈夫。あの……何かな ?もしかしてフリーセルに託した手紙の件かな。 |
ウォーデン | まあ、広義の意味ではそうなるな。ビクエ殿の提案は興味深い。同時に我らは月へ行くため様々な準備が必要だ。ビクエ殿の知識も必要になろう。 |
ウォーデン | ついては……イクスよ、月に行くまでこの浮遊島に我らビフレスト聖騎士団を受け入れてもらいたい。 |
ウォーデン | そしてこの場を月へ向かうための拠点としてはどうかと思っているのだ。どうだろう、イクス、そしてビクエ殿。 |
フィリップ | 僕が協力できることなら何でもしますよ。ただこの場所はイクスたちの場所だから―― |
イクス | いえ、いいと思います。鏡映点のみんなはいずれはそれぞれの大陸へ降りていくだろうからこの場所は空いてしまいますし。 |
イクス | それに、俺たちもきっとセールンドへ降りると思うから……だからむしろ月への拠点になるのは大歓迎です。 |
ウォーデン | 心より感謝する。バロールの血を引きし鏡士、イクス・ネーヴェよ。 |
バルド | ジュニア、マーク。交渉は上手く行きましたよ。 |
ジュニア | わ、よかった !大きいフィルの力も借りられれば助かるよ ! |
マークⅡ | じゃあ、荷物をまとめて移動の準備をしておくわ。フリーセル、あんたも手伝ってくれ。 |
フリーセル | 承知した。 |
ヨウ・ビクエ | ……あら、皆楽しそう。私も仲間に入れて欲しいわ。 |
ミリーナ | あなたは…… ! |
ヨウ・ビクエ | ごめんなさいね。フィリップに提案があって来たんだけれど凄くワクワクすることを話していたから。 |
ヨウ・ビクエ | ねえ、あなたたちのこれからの悪巧み私も混ぜてもらえないかしら。 |
イクス | 相変わらずですね……。でも、もちろんかまいません。鏡士の始祖であるヨウ・ビクエが俺たちに力を貸してくれるなら、心強いですから。 |
コーキス | なんかさ、みんなマスターのところに集まってくるな。鏡映点のみんなだって、ここを離れてもきっとまたふらっと連絡くれそうな気がするし。 |
ミリーナ | だって、イクスが最高だから当然だわ。 |
カーリャ | でた、ミリーナさまのイクスさま上げ……。 |
イクス | はは……。これからも皆と手を取り合っていけるように俺、頑張るよ。 |
イクス | (これからも世界には色々なことが起こるだろうけど……俺は俺という嘘を真実にすると決めたから) |
ミリーナ | ……クス。……イクス ? |
ミリーナ | イクス聞こえてる ? |
イクス | ……あ、ああ。聞こえてるよ。ごめん、ちょっと考え事してた。 |
ミリーナ | 考え事 ? |
イクス | 真実ってとても揺らぎやすいものなんだなって。あらゆるものにいくつもの真実がある。誰かの真実は誰かの嘘なのかも知れない。 |
イクス | でも俺は自分を信じる。俺っていう嘘を真実に変えてその真実を信じてみんなと繋がっていければきっとこの先も大丈夫だって思えるんだ。 |
イクス | みんな、これからもよろしく ! |