キャラクター | 1話【プラン1 ホワイトデー前日】 |
キール | 考えろ。考えろ。考えろ。ぼくなら必ず論理的結論にたどり着けるはずだ。できる。ぼくならできる。落ち着いて考えるんだ。 |
アッシュ | ……あいつは何をそんなに悩んでいるんだ。目が血走ってるぞ。 |
イクス | ホワイトデーのお返しが決まらないみたいなんだ。 |
ローエン | いやぁ。青春ですね。私も若い頃は意中の女性に喜んでもらおうとどんなプレゼントを贈るか徹夜で悩んだものですよ。 |
アッシュ | 悩むにしたってホワイトデーはもう明日だぞ。 |
リッド | キール、難しく考えすぎなんじゃねぇか。クッキーでもケーキでも別に何だってそこまで変わらないだろ。 |
キール | 腹に入ればどれも同じだと言うお前と一緒にしないでくれ。そんな簡単に決められるか。 |
キール | それに……メルディはわざわざ手作りのチョコをプレゼントしてくれたんだぞ。ちゃんとお返しがしたい。 |
リッド | そうかよ。ま、そんなにメルディからチョコもらえたのが嬉しかったってのはよく分かったよ。 |
キール | ち、ちがっ………………。 |
イクス | ……キール ? |
キール | ああ ! そうだよ !だから絶対に失敗したくないんだ !何か文句があるなら言ってみろ ! |
リッド | ちょ、ちょっと落ち着けよ !茶化したオレが悪かった ! |
イクス | ……相談に乗れたらいいんだけど俺はほぼ毎年決まったプレゼントだからな。 |
アッシュ | 俺も参考にはならんだろうからな。失礼させてもらうぞ。 |
ローエン | アッシュさん、どちらに行かれるのですか ? |
アッシュ | ちょっとした用事だ。 |
イクス | アッシュ、このところよく外出するよな。どこ行ってるんだろう。 |
リッド | さあな。それよりもキールのことを……って、あいつどこに行ったんだ ? |
キール | はぁ……あいつらと一緒だと気が散って考えがまとまらない。はやく計画をたてないと……。 |
キール | って、ん ? あの三人は……。 |
アルヴィン | おい。ゼロス。そろそろケリュケイオンに帰らなくていいのか ?もう用事は済んだだろ。 |
ゼロス | うっせぇ。ちょっとくらい長居したっていいだろうが。あっちはむさ苦しくてしょーがないのよ。俺さまもアジト島で可愛い子ちゃんたちに癒されたいわけ。 |
レイヴン | けんども明日はホワイトデーよ。仲良しカップル共のイチャイチャをみせつけられておっさん、むしろダメージくらっちゃいそう。 |
キール | …………関わらないでおくか。 |
レイヴン | おや。キール君じゃないのほらほら。こっち来なさいって。 |
キール | な、なんだよ。いきなり肩を組んできて。 |
レイヴン | おっさん、知ってるわよ。青春してるみたいじゃないの ?メルディちゃんとは……最近どうなの ? |
キール | はぁ ! ? |
アルヴィン | おっさん。去年のホワイトデーからちっとも変わってないのな。そういうダルい絡みやめろって。 |
キール | そ、そうだ。それにメルディとは……って、ぼくはこんなことしてる場合じゃないんだ。いいから放してくれ。 |
ゼロス | ずいぶん切羽詰まってるみたいだな。ま、ホワイトデーの前日に未だお返しが決まってなけりゃあそうなるのも無理ないか。 |
キール | な、なぜそれを ! ? |
ゼロス | 普段は野郎のことなんてどーでもいいけど最近、ジーニアスの相談にも乗ってなかったからな。暇つぶしがてら、代わりに話を聞いてやるよ。 |
ゼロス | てことで、この愛の伝道師ゼロスさまを頼るといいぜ。モテのテクから口説き方まで何でも教えてやるよ。でひゃひゃひゃひゃっ。 |
キール | モ、モテのテク ! ?そそ、そんな軽薄で破廉恥そうなものにぼくは興味などないぞ ! |
ゼロス | なに想像してんだよ。ちゃんとお前みたいなウブな奴のためのテクもあるぜ。 |
ゼロス | たとえば女の子に何を贈るかやデートのエスコートの仕方、とかな。 |
レイヴン | ふっ……。アルヴィン君はどうなのよ ? |
アルヴィン | まぁ、俺もないってわけじゃあないぜ。仕事柄、女心を利用させてもらうことがあるからな。 |
キール | ……す、住む世界が違いすぎる。 |
ゼロス | まぁ話だけでも聞いていけって。メルディちゃんに格好いいとこみせたいだろ ? |
キール | ………。 |
キール | き、聞くだけだぞ……。 |
キャラクター | 2話【プラン1 ホワイトデー前日】 |
カイウス | ガイアスさん。このクッキーはどうだった ?オレ、甘い物苦手だから美味しいか自信なくてさ。正直に感想を言ってくれ。 |
ガイアス | 焼き加減や風味はなかなかのものだった。しかし甘みが足りない。まだ改善の余地がある、と言ったところだな。 |
カイウス | えぇ……あれでもかなり甘いと思ったんだけどな。 |
ガイアス | 人は苦手なものに対して過敏に反応してしまうものだ。その気持ちはわからんでもないがな。 |
カイウス | それは確かにそうかもしれない。はぁ……なかなか上手くいかないもんだな。もうホワイトデーの前日だっていうのに。 |
ガイアス | 「まだ」ホワイトデーの前日だ。諦めるのは早計だぞ。俺も引き続き味見役として付き合おう。 |
カイウス | ガイアスさん……。ああ、そうだよな !ありがとう !オレ、絶対に美味しいクッキー作ってやる ! |
ルビア | あら。カイウスじゃない。こんなところで何してるのよ。 |
カイウス | なんでもねぇよ。目に物見せてやるから覚悟しとけよ。行こうぜ、ガイアスさん。 |
ルビア | あっ ! ちょっと……。もう、一体何なのよ。 |
ミリーナ | きっとホワイトデーのことよ。みんな明日のために準備しているもの。カイウスも同じだと思うわ。 |
ルビア | ……ちゃんとホワイトデーのこと覚えてたってことね。なら、走って行っちゃったのは許すことにするわ。 |
メルディ | ホワイトデーたのしみだな !キール、なにくれるかワクワクするよ ! |
ナタリア | それは当日のお楽しみですわね。 |
マギルゥ | はやく明日にならんかのう。儂もいまから待ちきれんわ。 |
ビエンフー | 姐さん。バレンタインデーのときとは打って変わってずいぶんご機嫌でフね。 |
マギルゥ | 当然じゃ。お主と過ごすホワイトデーが今から楽しみで仕方ないからのう。 |
ビエンフー | ……ね、姐さん。 |
ビエンフー | 任せてくださいでフ。姐さんのほっぺたが落ちるような最高のお菓子をプレゼントするでフよ。 |
マギルゥ | うむ。では甘味作りも加えておくとするかのう。 |
ビエンフー | 加えておく ? どういう意味でフか ? |
マギルゥ | 明日はお主がホワイトに燃え尽きるまで働くデーじゃ。掃除、洗濯、魔道導の写本から魔法薬の治験までた~~っぷり可愛がってやるからの。 |
ビエンフー | そ、そんなのあんまりでフよ ! !ビエーーーン ! ! |
マギルゥ | 今日は逃がしても明日は逃がさんからな。覚悟しておくのじゃぞ。 |
ミリーナ | ふふっ。マギルゥったら。本当にビエンフーが大好きなのね。 |
ナタリア | やっていることと想っていることがここまで違う方も珍しいですわね……。 |
ジュード | よし。あとはここにあるカルテを運べば今日の仕事はおしまい―― |
ビエンフー | ビエーン ! ! |
ルビア | ジュード ! 危ないわ !ビエンフーとぶつかっちゃう ! |
ジュード | ―― ! |
ジュード | よっと。 |
ミリーナ | すごい身のこなし。さすがジュードさんね。 |
ジュード | それほどでも……って、カルテが散乱しちゃった。 |
ルビア | 拾うの手伝うわ。 |
ナタリア | 私も………。 |
ナタリア | これはアッシュのカルテ……。 |
ナタリア | ! ? |
ジュード | ナタリア ? どうかしたの ? |
ナタリア | い、いえ。何でもありませんわ。 |
キャラクター | 3話【プラン2 イクスのお返し】 |
マギルゥ | 今日は待ちに待ったホワイトデーじゃ !ビエンフー、準備はよいな ?まずは儂にお菓子を献上するがよい。 |
ビエンフー | そう言うと思ってマシュマロを持ってきたでフよ。ボクからの気持ち、受け取ってでフ。 |
マギルゥ | 良い心構えじゃ。さすが儂の使役聖隷じゃの。 |
イクス | ……あれ ?マシュマロって確か「あなたが嫌い」って意味だったような……。 |
イクス | まぁいいか。お返しのお菓子の意味もお菓子業界が勝手に言い出したことだしな。 |
ミリーナ | イクス ! お待たせ !約束の時間よりまだ早いけど待ちきれずに来ちゃった ! |
イクス | ミリーナ。俺も遅れたらまずいと思って今来たところだったんだ。ちょうどよかった。 |
イクス | えっと、バレンタインのチョコありがとう。とっても美味しかったよ。俺からのプレゼント、受け取ってくれ。 |
ミリーナ | ありがとう ! さっそく開けてもいいかしら ? |
イクス | もちろん。喜んでくれるかわからないけど。 |
ミリーナ | ふふっ。今年は大きめのカステラね。それと……歯磨きセット ? |
イクス | ホワイトデーには甘いお菓子を渡すのが一般的だろ。けど、もし俺のプレゼントしたお菓子でミリーナが虫歯になったら悪いなと思ってさ。 |
ミリーナ | …………イクス。 |
ミリーナ | お菓子も歯磨きセットもどっちもすごく嬉しいわ !こんなに素敵な贈り物、人生で初めてよ !カステラを食べた後、ずっと歯磨きしてたいくらい ! ! |
イクス | 磨きすぎも歯のエナメル質が剥がれたりしてよくないからほどほどにな。 |
ローエン | 相変わらず仲がよろしいですね。羨ましい限りです。 |
イクス | ローエンさんにメルディ。なんか見られちゃって恥ずかしいな。 |
メルディ | ミリーナ、プレゼントよかったな。 |
ミリーナ | ありがとう。メルディはキールからもうもらった ? |
メルディ | ううん。キールいない。 |
ローエン | そういえば昨日から姿がみえませんね。 |
ゼロス | いいか。俺さまの言った通りにやればバッチリだ。ドーンっと行って派手に砕け散ってこい。 |
キール | あ、ああ。わかってる……って、砕け散ったらダメだろうが ! |
ゼロス | 細かいこと気にすんなって。 |
アルヴィン | まあ骨は拾ってやるよ。 |
レイヴン | いってらっしゃい……っと ! |
キール | ちょ、いきなり押すな―― ! |
キール | ぐはっ……いたた………。 |
メルディ | あっ ! キールいたよぅ ! |
キール | よ、よう……メルディ。きょきょ、今日は一段と……。 |
キール | かわいい、な。 |
メルディ | えっ。 |
四人 | ! ? |
ゼロス | よしよし。まずは戦訓その1「褒めろ」だ。褒められて嬉しくない人間はいない。一部のひねくれ者を除いてな。 |
アルヴィン | やっすい戦訓だな。お前の軽薄さが滲み出てるぜ。 |
レイヴン | でも効果はあるみたいよ。あの二人、見てみ。 |
メルディ | キール、なんかいつもと雰囲気ちがうよ ? |
キール | べっ、別にぼくはいつも通りだ ! |
メルディ | そうか ? でも褒められるのは嬉しいよ。ありがとな。 |
メルディ | それにキールもかっこいいよぅ。その服、とっても似合ってるな。 |
キール | ぼ、ぼくがかっこいい……って、そんなわけあるか !あまりからかわないでくれ ! |
ゼロス | 人がいちゃついてるのを観察するのも馬鹿馬鹿しい話だが……お前ら、みたか ?俺さまの戦訓、そのすさまじさを。 |
レイヴン | おっさんの見立てだとそれだけじゃないわね。メルディちゃん……スーツフェチと見た。 |
アルヴィン | おっさんじゃないんだからそんなマニアックな趣味あるかよ。 |
レイヴン | まあ、戦訓も服装も効果はバッチリだったってことで。 |
アルヴィン | だがキールの奴、カウンターをくらっちまってるぜ。逆にツンデレちまった。まだまだ油断はできないぞ。 |
ゼロス | まだ余裕で巻き返せるっての。ここから流れを戻してリード、デートに誘うんだよ。 |
キール | と、とにかく……バレンタインデーのお返しがしたいからその……これから出かけないか ? |
メルディ | ワイール ! キールとお出かけ !いくいくぅ ! はよぅ出発 ! |
キール | ま、待て ! 袖を引っ張るな ! |
二人 | ……い、いってらっしゃい。 |
ローエン | 少々伺いたいのですがキールさん、ああいう人でしたか ? |
カーリャ | 全然違いますよ。イクスさまが傍にいるときのミリーナさまといないときのミリーナさまぐらい違います。 |
ローエン | それは相当ですね。 |
イクス | 何か悪いものでも食べたのかな……。 |
リッド | よくわからねぇけど誰かに変なこと吹きこまれたんだろ。キールの奴、大丈夫なのか……。 |
イクス | リッド ! |
ミリーナ | リッドさんもキールのこと心配よね。 |
リッド | まあな。けど、いまのあいつはオレの話を聞きゃしないだろうしファラだと余計酷い展開になりかねない。 |
リッド | だから悪いけどキールたちのこと頼めねぇかな。オレが後をつけて万が一見つかったらあいつ、また意地になりそうだからな。 |
ローエン | そういうことでしたら私に任せてください。 |
イクス | 俺にも出来ることがあれば手伝わせてくれ。 |
ミリーナ | 私も協力するわ。 |
カーリャ | カーリャはアジト島でお留守番していますね。いつバレンタインのお返しがもらえるかわかりませんから。 |
カーリャ | 遠出するときは呼びだして下さい ! |
ローエン | ではさっそく二人の後を追ってしばらくは様子を見守るとしましょう。 |
リッド | よろしく頼むわ。 |
キャラクター | 4話【プラン3 カイウスのお返し】 |
カイウス | やべっ。もうこんな時間だ。ルビアとの待ち合わせに遅れないよう急がないと……って、アッシュじゃないか。 |
アッシュ | うん ? カイウス……ふっ。 |
カイウス | な、なんだよ。人の顔を見るなり笑い出して。 |
アッシュ | 何でもない。悪いが俺も急いでいるので失礼する。プレゼントのクッキー、気に入ってもらえるよう祈っているぞ。 |
カイウス | お、おう。ありがとう……。あれ ? どうしてオレのプレゼントがクッキーってアッシュは知ってるんだ。 |
カイウス | いやいや。それよりも急がないと。遅刻したらルビア、絶対怒るもんな。 |
ルビア | ……も、もうすぐね。 |
ルビア | すぅ…………はぁ…………。 |
カイウス | ルビア ! |
ルビア | カイウス……ふふっ。 |
カイウス | な、なんだよ。いきなり笑い出して。 |
ルビア | 何でもないわよ。それよりホワイトデーがいつかはちゃんと覚えていたみたいね。 |
カイウス | 当たり前だろ。だって……ルビアがくれたチョコのお返しを、うっかり忘れるわけない。 |
ルビア | あたしがあげたんじゃないわよ。あたしはカイウスがどうしても欲しいっていうからプレゼントしてあげただけ。 |
カイウス | わかったわかった。そうだったよ。とにかく、お返しにクッキーを作ったんだ。受け取ってくれ。 |
ルビア | このクッキー、カイウスが作ってくれたのよね ? |
カイウス | オレだけの力じゃないけどな。ガイアスさんに手伝ってもらったんだ。だから美味しさは保証する。 |
ルビア | そうなんだ。でも、カイウスもちゃんと味見してくれたのよね。 |
カイウス | そりゃあ当然だろ。オレのプレゼントなわけだし最後は確認して責任を取らないとだし―― |
カイウス | ……あれ ? どうしてそのこと知ってるんだ ? |
ルビア | 口元。クッキーの食べかすがついてる。 |
カイウス | えっ ! ? |
ルビア | もう。責任とか男らしいこと言ってもこういうところはまだまだね。とってあげるからジッとしてて。 |
カイウス | 悪かったな――ん、んんっ。 |
ルビア | …………ありがとう、カイウス。 |
ゼロス | く~~っ。カイウスの野郎め。ルビアちゃんの母性本能くすぐりまくりじゃんか。あんなのってありかよ。 |
レイヴン | ……羨ましい。ああいうホワイトデーを過ごしたかった。おっさんもクッキーのカス、口元につけておこうかな。 |
アルヴィン | ファイアボールくらってヒゲごと燃えカスにされるのがオチだろ。 |
レイヴン | そういうこと言わないでよ ! |
アルヴィン | 静かに。二人が来たぜ。いよいよデート開始、こっからが本番だ。うまくエスコートしてけよ、キール君。 |
キール | ……落ち着け、落ち着け。まずはお洒落なカフェでお茶をしそのあとは公園、そしたらディナーで……。 |
キール | ………よ、よし、大丈夫だ。そもそもぼくが考えた完璧なプランに狂いがあるわけないじゃないか。 |
メルディ | キール ?さっきから何ブツブツいってるか ? |
キール | な、なんでもないぞ !なんでも……あ、あははっ。 |
メルディ | そうか。キール笑顔なら問題ないな。 |
メルディ | それよりこの街すごいな ! 人いっぱい !みんな楽しそう !あっちにお店もたくさんあるよぅ ! |
キール | あっ…………。い、いまか…………っ ! |
キール | メルディ ! |
レイヴン | キール君、自分からメルディちゃんの手を取るとは。なかなかやるじゃないの。これ、誰の入れ知恵 ? |
アルヴィン | 俺だ。戦訓その2「ボディタッチ」。言葉のコミュニケーションと同じくらい身体のコミュニケーションも大切だからな。 |
ゼロス | 心理的距離が近づいたように相手を錯覚させられるもんな。そうやって女から情報を仕入れてきたんだろ。 |
アルヴィン | ちょっとおたく。自分の戦訓を俺が否定したからって痛いとこついてくるのやめてくれる ?そういうところシンくんに似てきたんじゃないの。 |
ゼロス | なんだと三重ヴィン。言っておくけどシンくんの切れ味はこんなレベルじゃねぇんだぞ。 |
レイヴン | うっさい ! いまいいとこなの !黙ってろって ! |
メルディ | ……キール ? |
キール | こ、これで……はぐれることはないだろう。 |
メルディ | うん。そうだな。 |
メルディ | けどキール、手冷たいよ。メルディがあったかプレゼント ! |
キール | バ、バカァ !いきなり両手で握ってくるやつがあるか ! |
メルディ | 手を握ってきたはキールだよ。 |
キール | ぼ、ぼくは片手だしそもそもお前がはぐれかねないと思って……いやいや、そういう話がしたいんじゃなくて―― |
メルディ | あっ ! パティスリーあるよ !キール、いってみよぉ ! |
キール | ちょ、ちょっと !袖……じゃなくて手を引っ張るなぁ ! ! |
イクス | あの二人、お店に入って行ったぞ。どうする ? |
ローエン | ……あの店は。 |
ミリーナ | ローエンさん。知っているお店ですか ? |
ローエン | ええ。ここは私にお任せください。 |
キール | ……はぁ。本当はカフェでお茶する予定だったのに。どうしてこうなるんだ。 |
メルディ | キール、見てよ !おまんじゅう、いっぱい ! |
キール | おまんじゅう ?ってこれ……。 |
ガイアス | いらっしゃいませ。ガイアスまんじゅうはいかがでしょう ? |
キール | ガイアス ! ? |
キャラクター | 5話【プラン4 ガイアスのお返し】 |
キール | ガイアス ! ?こんな場所で何をしてるんだ ! ? |
ガイアス | 否。今の俺はガイアスではない。パティシエのアーストだ。 |
メルディ | パティシエ ? |
ガイアス | このパティスリーの店長と知り合いでな。重度の虫歯で倒れてしまった店長の代わりに1日代理店長を務めることになったのだ。 |
ローエン | 無事一段落したようですね。代理店長を務めてみて何かご感想は ? |
キール | ローエン ! |
ガイアス | さすがは繁忙期だな。想像以上の忙しさだ。ミュゼとミラにも手伝ってもらっているがそれでも人手が足りない。 |
ガイアス | しかしながらこの世界の民の生活を直に感じることが出来るいい機会だ。やはり市井の現状は肌で感じてこそだと痛感している。 |
キール | その意見にはぼくも同意だ。書物や伝聞ではわからないことがこの世にはたくさんあるからな。 |
ミュゼ | キール、騙されちゃだめよ。ガイアスったら最もらしいこと言ってるけど本当はただの道楽なんだから。 |
ガイアス | アーストだ。 |
ミュゼ | ええ、そうだったわね。アースト。 |
ミラ=マクスウェル | しかし店長の頼みを引き受けたのもまた事実。案外、人が良いところもあるのだな。 |
ガイアス | 何を言う。店長の友人としては当然のことだ。 |
メルディ | ミラとミュゼも優しいな。お手伝い偉いよ。 |
ミラ=マクスウェル | ガイアスまんじゅうをご馳走してもらえるとあっては断る理由がない。 |
ミラ=マクスウェル | それにミュゼのためにもなるというなら私としても喜ばしいことだからな。 |
ミュゼ | 私の ? |
ミラ=マクスウェル | ミュゼが私と姉妹のような一日を経験したがっている……と、ガイアスから聞いていたのだが。 |
ガイアス | …………。 |
ローエン | ミラさんにはちゃんと口止めも含めて伝えておかないといけませんでしたね。 |
ガイアス | …………そのようだな。 |
ミュゼ | ……ガイアス。 |
ミュゼ | ええ。今日はミラと一緒にお菓子作りができて本当に嬉しいわ。なんだか仲良し姉妹っぽいわよね。 |
ミュゼ | ミラ。そしてガイアスも。素敵なホワイトデーのお返し、ありがとう。 |
ガイアス | いいや。ちゃんとお菓子も贈らせてもらう。ガイアスまんじゅうだ。食べてくれ。 |
ミラ=マクスウェル | 私もマクスウェルまんじゅうを作ってみた。まだ試作品だが、よければ食べてくれ。 |
ミュゼ | ミラ ! ガイアス !私のために…… ! |
ローエン | よかったですね、ミュゼさん。 |
ガイアス | キールとメルディ。お前たちももらってくれ。 |
メルディ | ワイール ! ありがとな !キール、外で食べよう ! |
キール | あ、ああ。そうだな。食べ終わったら……えっと、次は……そう ! ショッピングだ ! |
ミラ=マクスウェル | うん ? 外を見てみろ。また客が集まってきたな。 |
ガイアス | 休憩は終わりだ。 |
ミュゼ | ええ。どんどんお菓子を作りましょう。 |
ガイアス | ローエン。時間があるようなら手伝ってはくれないか ? |
ローエン | そう言われると思っていましたよ。待たせている人たちがいるのであまり長居はできませんが。 |
ガイアス | 構わん。よろしく頼む。 |
キール | それじゃあぼくたちは行くよ。 |
ローエン | ええ。ファイトですよ、キールさん。 |
キール | よし。そ、それじゃあ二人で買い物に―― |
メルディ | キール ! イクスとミリーナだよぉ ! |
イクス | あっ ! ふ、二人とも……。 |
メルディ | 二人、ここで何してるか ? |
ミリーナ | えっと……これから買い物に行くところなのよ。 |
メルディ | ならみんなで行こうよ !みんな一緒の方が楽しい ! |
イクス | えっ……けど……。 |
メルディ | キールもそうだな ? |
キール | ぼ、ぼくは……。 |
メルディ | ……キール ? |
キール | ……ああ。そうだな。みんなで一緒に行こう。 |
キャラクター | 6話【プラン5 アッシュのお返し】 |
キール | 待たせた。無事買い物も終わったぞ。 |
メルディ | キール。何買ってきたか ? |
キール | 食べ物……とだけ言っておこう。詳細は秘密だ。 |
ミリーナ | それじゃあ私たちはここまでね。イクス、二人で食事でもしましょう。 |
イクス | あ、ああ。そうだな。またな、キール。メルディ。 |
メルディ | はいな !キール。メルディもお腹空いたよ。食事するか ? |
キール | いいや。食事の予定は当然、考えているがその前に―― |
キール | 山に登るぞ ! |
レイヴン | 戦訓その3「ロマンチックなシチュエーション」。山を登る過程で、疲れた女の子を格好良くエスコートすることも狙える合わせ技よ。 |
アルヴィン | 馬鹿野郎。キールはもやしなんだぞ。メルディより先にへばっちまったらどうすんだよ。 |
レイヴン | そのときは、おっさんが華麗に参上。主役交代。ダンディにエスコートしてみせるわよ。未来への投資もかねて、ね。 |
アルヴィン | 子どもには興味ねぇとか言ってたけどそういうとこは、ぬかりないのな。 |
ゼロス | 大人になったメルディちゃんとの、大人の恋か。俺さまロマンチッカーだからそういうの嫌いじゃないぜ、おっさん ! |
アルヴィン | …………。 |
ゼロス | おい。アルヴィン、どうした。そこはお前もノッてくる流れだろうが。 |
アルヴィン | ……どうやら俺たちはここまでのようだぜ。 |
二人 | ? |
イクス | キールとメルディと別れてから少し時間が経ったけどローエンさん、なかなか来ないな。迎えに行った方がいいか ? |
ミリーナ | ! 待って。今出て行ったら邪魔になっちゃうわ。 |
イクス | 邪魔って……うん ?あそこにいるのって―― |
アッシュ | バレンタインのお返しだ。受け取って欲しい。 |
ナタリア | …………。 |
アッシュ | ナタリア、どうした ?具合でも悪いのか ? |
ナタリア | アッシュ。プレゼントを受け取る前に聞きたいことがありますの。正直に答えると約束してくれます ? |
アッシュ | ……ああ。 |
ナタリア | 私のチョコレートは本当に美味しかった…… ? |
二人 | ! |
アッシュ | ……いきなりどうしたんだ。 |
ナタリア | 偶然、あなたのカルテを見てしまいましたの。バレンタインデーの日に急患で運び込まれたとありましたわ。 |
ナタリア | アッシュ。カルテの内容は……。 |
アッシュ | ……事実だ。 |
ナタリア | やっぱり……。ということはあのカカオも……。 |
アッシュ | あいつらを責めるな。すべて俺が望んだことだ。 |
ナタリア | ええ。それはわかっています。私のためを想っての優しい嘘だったと。 |
ナタリア | ですがそれとこれとは話は別。やはり私はあなたからプレゼントをもらう資格はありませんわ。 |
アッシュ | 待て。そんなことはない。 |
アッシュ | 確かに俺はお前のチョコで……倒れた。だが嬉しかったのも偽りのない事実だ。それが一番大切なことじゃないか ? |
ナタリア | ……アッシュ。 |
アッシュ | 俺の感謝の気持ちを込めたプレゼントだ。受け取ってくれ。 |
ナタリア | ……これは指輪 ?しかもこれは手作りですわよね ? |
アッシュ | 街の教室に通って仕上げた。世界に一つしかない指輪だ。 |
アッシュ | 周りにあわせて菓子など贈りあわなくたっていい。俺たちはこれからも互いに贈りたいものを贈り合おう。 |
ナタリア | ……わかりましたわ。私たちだけの約束ですわね。 |
アッシュ | 約束で縛るつもりはない。これは……誓いだ。 |
ナタリア | でしたら……私も誓いますわ。今日の日のことを決して忘れないと。 |
ミリーナ | 二人ともいい雰囲気ね。 |
イクス | 結局、カカオの嘘はバレちゃったけどな。いや……もしかしてローエンさん、ここまで予想してたんじゃ……。 |
ローエン | さすがに買いかぶりすぎですよ、イクスさん。あれは紛れもなくアッシュさんのお手柄です。 |
イクス | ローエンさん ! 戻られてたんですね。 |
ローエン | さあ。いたずらっ子たちの処遇についてもしかるべき方々にお願いしましたから私たちは引き続きキールさんたちを追いましょう。 |
イクス | いたずらっ子 ? |
ローエン | 気にすることはありませんよ。 |
ゼロス | ちょ、ちょっと。落ち着けって。俺さまたちはよかれと思って―― |
しいな | 何言ってんだい ! このアホ神子 !キールのためにもメルディのためにも全くなってないじゃないか ! |
エリーゼ | アルヴィン。大人なんですから言い訳したりはしませんよね ? |
アルヴィン | ああ。潔くお縄につくよ。 |
リタ | …………。 |
レイヴン | リタっち ? 一人だけ無言なのが怖すぎるんだけど。ほらほら。何か話そうよ。 |
リタ | ファイアーボール ! ! |
レイヴン | やっぱりこうなるのね~~っ ! ! |
キャラクター | 7話【プラン9 キャリー】 |
キール | はぁ……はぁ……。そ、そこそこ険しい山道だな……。……メルディ、大丈夫か ? |
メルディ | はいな。メルディ元気。それよりキール、息切れすごいよ。休むがいいな。 |
キール | ダ、ダメだ。急がないと夜景が……うわっ ! |
メルディ | キール、足元ふらふら。ここ魔物も多い。油断たいてき。強がりよくないよ。 |
キール | そ、そんなこと……。 |
メルディ | メルディ、お水くんでくる。待っててな。いこ、クィッキー。 |
クィッキー | クィッキー ! |
キール | ……はぁ。どうしてこんなにうまくいかないんだろうな……。 |
キール | ……茂みに隠れているお前たちもそう思うだろう。 |
ローエン | おや、バレていましたか。 |
キール | 少し前から気配を感じていた。ファラ……いや、リッドの差し金といったところか ? |
イクス | そ、そこまで気付いてるなんて。さすが幼馴染みだな。 |
キール | 腐れ縁さ。リッドがぼくに差し金を向けた理由がお前たちにもよく分かっただろ ?散々やってこの結果、とんだ笑いの種だよ。 |
ローエン | まさかそんなこと。少しばかり迷走しているようでしたがあなたの努力を笑ったりなどしませんよ。 |
ローエン | 何かお困りのようならお手伝いしたいと思っています。 |
キール | ……いや。結構だ。放っておいてくれ。ぼくにそういった気遣いは不要だ。 |
キール | ゼロスたちからも色々とアドバイスをもらったが結局ぼくはダメだったんだからな……。お前たちとは違うんだ。 |
ローエン | ……キールさん。 |
クィッキー | クィッキ ! ククク、クィッキー ! |
ミリーナ | クィッキー ? どうかしたの ? |
キール | たぶん付いてこいって言ってるんだ !もしかしてメルディに何か……行くぞ ! |
クィッキー | クィッキー ! |
キール | メルディ ! 大丈夫か ! ? |
メルディ | キール ! クィッキー !それに……みんなも一緒なのか ! ? |
イクス | 事情は後で話す。いまは魔物を倒そう。 |
メルディ | あっち ! 女の人、倒れてる !助けるよ ! |
ローエン | あ、あの人は……。 |
ローエン | キャリー ! ? キャリーではないですか ! ? |
ミリーナ | ローエンさんの知り合いですか ! ? |
ローエン | え、えぇ……とにかく私も加勢します。だいぶ回復したので精霊術も使えるはず。皆さん、いきますよ。 |
キャラクター | 8話【プラン9 キャリー】 |
イクス | ジュード。駆けつけてくれてありがとう。キャリーさんは大丈夫か ? |
ジュード | うん。怪我の治療も終わって意識もちゃんと取り戻したよ。けど、もうしばらくは宿で休んでもらう必要があるね。 |
ミリーナ | 他に何か問題があるのね ? |
ジュード | 魔物に襲われたときのショックが原因で記憶が少し曖昧みたいなんだ。安静にしていればじきに思い出すはずだけど。 |
メルディ | ローエン。悲しそうにしてたよ。 |
ジュード | キャリーさんはローエンを忘れてしまっている……。いや、そもそも知らない可能性だってあるかも。現状、鏡映点かどうか判断できないからね。 |
キール | 非鏡映点として具現化された存在はこの世界の住人としてエンコードされるからな。 |
ジュード | うん。ロイドがこの世界で出会ったイセリアのポールのように。 |
イクス | 確かにキャリーさんが鏡映点かどうか不明な以上今の状態では、元世界の記憶の欠落が記憶障害のせいか、エンコードのせいなのか分からないのか……。 |
ミリーナ | カーリャがこの場にいればキャリーさんが鏡映点かどうかわかるけど呼び出しましょうか ? |
ジュード | それは……ちょっと無理かな。カーリャは今、虫歯がひどくて鎮静剤と痛み止めを飲んで眠ってるんだ。 |
ジュード | 今はルカとコーキスが付き添ってくれてるよ。 |
ミリーナ | 今朝までは元気にしてたのに ! ? |
イクス | そういえばカーリャ、バレンタインデーのときチョコレート食べまくってたからな……。 |
キール | ……それじゃあ、キャリーさんが鏡映点かどうかを調べるのには、今のところ記憶障害が回復するのを待つしかないということか。 |
ジュード | ……ローエン。 |
イクス | ローエンさんとキャリーさんってどういう関係なんだ ?ただの知り合いではなさそうだったけど。 |
ジュード | ……キャリーさんはローエンと恋仲だった人なんだ。 |
キール | 恋仲 ! ? |
ミリーナ | 待って。過去形なのは、もしかして……。 |
ジュード | そうだね……。厳密に説明すると複雑だからかいつまんで簡単に説明すると―― |
ジュード | キャリーさんは元々暮らしていたリーゼ・マクシアとは違う別の世界、エレンピオスに飛ばされてしまったんだ。 |
ジュード | ローエンはそれを知らずキャリーさんは死んだとずっと思っていた。 |
ジュード | そして二つの世界を行き来することが可能になって僕たちがエレンピオスに行った時、キャリーさんと再会したんだ。 |
ジュード | けどキャリーさんは飛ばされたときのショックで記憶を失っていた。おまけにエレンピオスの男性と結婚して、仲の良い娘さんまでいて……。 |
キール | そんなことがあったのか…………離ればなれになったうえ、自分のことを忘れてしまっていたなんて……。 |
メルディ | メルディたちの世界もインフェリアとセレスティア、二つの世界ある。似たような話も知ってるよ。 |
キール | ……他人事とは思えないな。 |
イクス | 結局、元の世界でローエンさんとキャリーさんはどうなったんだ ? |
ジュード | ローエンからは特になにも言われなかったよ。たわいのない雑談をしただけで、二人は別れたんだ。 |
ジュード | きっと、キャリーさんが幸せに暮らしているのならそれでいい……ってローエンは思ったんだろうね。 |
メルディ | ……切ないな。 |
キール | なぁ……もし仮にキャリーさんが鏡映点でなかったとしたら……ローエンは……。 |
キール | ローエンは2回も大切な人に自分のことを忘れ去られたことになるよな……。非鏡映点は、元の世界の人間とは別人とは言え、さ。 |
五人 | …………。 |
ジュード | まだ鏡映点ではないと確定したわけじゃないよ。それにローエンならきっと大丈夫。 |
イクス | 今はとにかく二人だけにしてあげた方がいいよな……。 |
ローエン | ……キャリー。 |
キャラクター | 9話【プラン10 キールのお返し】 |
ローエン | 入ってもよろしいですか ? |
キャリー | ええ。もちろん。 |
ローエン | 具合の方はどうですか ? |
キャリー | おかげさまで、だいぶよくなったわ。魔物から助けてもらったうえに看病までしてくださってなんとお礼を言ったらいいか。 |
キャリー | ただ……まだ記憶がちょっと曖昧で……。 |
ローエン | 焦る必要はありませんよ。気楽にたわいのない話でもしていればふとした拍子に思い出したりするものです。 |
キャリー | そうね。それじゃあせっかくですしお話を再開しましょうよ。貴方がする話はどれも、とても面白いわ。 |
ローエン | ジジイの昔話をここまで楽しそうに聞いてくれるのは貴女ぐらいなもの。楽しんでいただけているようで何よりです。 |
キャリー | 特に詩を書いていたなんて素敵だわ。貴方の詩集『くるおしき愛の叫び』についてもっと聞かせてくれない ? |
ローエン | そ、それは秘密です。さっきはつい口を滑らせてしまいましたが。 |
キャリー | そう ? 残念だわ。 |
ローエン | ではお詫びにこれを。焼きたてのバームクーヘンです。 |
キャリー | まぁ。ありがとう。ちょうど少しお腹がすいていたの。よいしょっと―― |
ローエン | まぁまぁ。どうか楽にしてください。無理にベッドから起き上がらなくても大丈夫です。 |
キャリー | それじゃあお言葉に甘えて。ふふっ、ちょっとお行儀が悪くて恥ずかしいわ。 |
ローエン | ……懐かしいですね。 |
キャリー | えっ ? |
ローエン | いいえ。何でもありません。 |
ローエン | おっと。飲み物を忘れていました。アールグレイをご用意しますね。 |
キャリー | あっ…………。 |
ローエン | どうかされましたか ? |
キャリー | ……思い出した。 |
ジュード | キャリーさん。無事記憶が戻ってよかったですね。 |
キャリー | ええ。おかげさまで。見ず知らずの他人にも関わらず助けてくれて本当にありがとう。 |
キャリー | そうだ。この近くの街で夫と娘の三人で暮らしているの。お礼がしたいから今度よければ遊びにきてね。 |
四人 | …………。 |
ローエン | ジュードさん。このあたりは魔物が多い。キャリーさんを街まで送っていってもらえますか ? |
ジュード | ……うん。けど、ローエンは ? |
ローエン | ……私はここで。 |
キャリー | ローエン ? 貴方、ローエンって言うの ! ?この指輪に刻まれてる名前と同じよ。ほら、みて ! |
ローエン | ……その指輪は ! |
ジュード | ! |
ミリーナ | ……結婚指輪、かしら。 |
キャリー | わからない……けど、ずっと前からつけているの。とても大切なもののはずなのに誰に、いつもらったかも全然覚えていなくて……。 |
キャリー | もしかして……これは貴方が……。 |
ローエン | …………。 |
ジュード | ローエン……。 |
キャリー | 貴方がくれたものなの ? |
ローエン | …………違います。 |
ジュード | えっ…………。 |
キャリー | 貴方がくれた指輪じゃ……ないの ? |
ローエン | はい。確かに私はローエンですがおそらく別人でしょう。 |
キャリー | ……そう、なのね。 |
ローエン | ローエンなんてきっとよくいる名前なのでしょうね。 |
キャリー | …………ええ。どうやらそうみたいですね。 |
ローエン | お元気で。 |
キャリー | 貴方も元気で。 |
ジュード | ……送りますね。 |
キャリー | ありがとう。お願いするわ。 |
キャリー | それじゃあ……ローエンさん、さようなら。 |
ローエン | さようなら。…………キャリーさん。 |
五人 | …………。 |
キール | ジュードから話は聞いた。……あの結婚指輪、本当はローエンが贈ったんだろ。 |
ローエン | …………ええ。具現化とは、ここまで再現されてしまうものなんですね。 |
イクス | ……つらいですよね。 |
ローエン | どうでしょう。以前再会したときと同じようにやはり嬉しいか悲しいか……自分の気持ちがよくわからないのです。 |
キール | ……また一からやり直したいと思わないのか ? |
ローエン | ご安心を。いまの選択に後悔はしていませんから。 |
キール | ……そうなのか ? |
ローエン | 人生、上手くいかないときもあります。自分なりに最善を尽くし生きていても辛い出来事に巻き込まれることもある。 |
ローエン | ですが辛いことも悲しいことも時間が癒してくれます。当然です。人生は良いこともたくさんありますから。 |
ローエン | ですが後悔だけは……ずっと胸の中に残り続ける。消えてくれないものが後悔なのです。だから大切なのは最善を尽くして生きていくこと。 |
キール | 最善を尽くして……。 |
ローエン | さっきジジイは最善を尽くしましたよ。頑張ったと褒めていただけると嬉しいですね。 |
メルディ | うん ! ローエンすごいよ !がんばったな ! |
ミリーナ | ローエンさん ! 格好良かったですよ ! |
ローエン | ありがとうございます。美女二人にチヤホヤされると年甲斐もなく浮かれてしまいますね。 |
イクス | もうローエンさんってば。けど、本当に……そういう生き方、格好いいなって尊敬します。 |
キール | …………そうだな。 |
ローエン | さてジジイの話はこれくらいにしましょう。皆さんは青春真っ只中の男女。楽しいホワイトデーが終わってしまいますよ。 |
メルディ | キール ! また山登るか ? |
キール | いや。山登りは中止だ。 |
キール | 本当は夜景をみながらさっき買ってきた高級スイーツを食べようと思っていたが……こんな王道のような選択、ぼくたちにとっては最悪だ。 |
キール | よし、メルディ ! アジトに戻るぞ ! |
キャラクター | 10話【プラン10 キールのお返し】 |
キール | 急げ……ホワイトデーが終わるまえに完成させるぞ……。あと少し、あともう少しで……。 |
キール | よしっ ! できた ! ! |
メルディ | キール。何やってるか~ ?もう深夜。眠いよぅ。 |
キール | な、なに勝手に入ってきてるんだ !部屋で待ってろっていっただろ ! |
メルディ | わぁ ! それクッキーだな !クィッキーが形してるよ !かわいいなっ ! |
キール | お、おい ! 勝手に見るなよ ! |
メルディ | クィッキークッキー、キールが作ってくれたんだな。 |
キール | いや……。そこらへんで売っていたから買っただけだ。なんでぼくがわざわざお前のために―― |
メルディ | じーーーー。 |
キール | ……わ、わかったよ。正直に言えばいいんだろ。見ての通り、手作りだ。 |
キール | ……ホワイトデーのプレゼントだ。味わって食べろよ。 |
メルディ | ワイール ! ありがとな !キールがクィッキークッキー嬉しいよ ! |
メルディ | いただきまーす♪ ぱくっ……。 |
メルディ | うーんっ ! とっても美味しいな ! |
キール | 当然だ。美味しくないわけがない。ガイアスまんじゅうのデコレーション技術を応用しソディを使ったぼくの特別製クッキーだからな。 |
キール | というより一口で食べるな。もっと味わって食べろ。どれだけ苦労して作ったと思ってるんだ。 |
キール | それに喉につかえたらどうするんだ。いまお茶を用意してやるから待ってろ。 |
メルディ | やっぱりいつものキールがいちばん好きだな。 |
クィッキー | クィッキー ! |
イクス | キールとメルディはなんとか楽しいホワイトデーを過ごせたみたいだな。 |
リッド | 一時はどうなるかと思ったけどな。まぁなんとかなってよかったわ。これもイクスたちのおかげだ。 |
ミリーナ | 私たちというよりローエンさんのおかげだと思うわよ。 |
イクス | やっぱりローエンさんって美味しいところをもっていくよな。キールへの最後の一押しとかさ。 |
ローエン | それほどでもありませんよ。 |
ローエン | おっと。もうそろそろ時間です。私はゼロスさんと一緒にケリュケイオンに戻りますね。 |
イクス | またこっちにも来てくださいね。 |
ローエン | はい。せっかくこうして体を動かすことができるようになりましたから色々とご協力できることも増えるでしょう。 |
ローエン | 問題児ばかりなのでしばらく残って欲しいとクラトスさんに頼まれていますがお呼び頂ければはせ参じます。 |
ローエン | それではまた。今度会うときは皆さんの仲がどう進展しているか楽しみにしていますよ。 |