キャラクター | 1話【挙式1 サイン会】 |
シング | ニーア・バース先生、凄い人気だね !こんなにたくさんの人がサイン会に集まるなんてさすがベストセラー作家だよ ! |
コハク | どうしよう、シング……。わたし、先生に会えるって思ったらなんだか緊張してきちゃった……。 |
シング | 大丈夫だよコハク !コハクみたいな可愛い子が会いに来てくれたら先生も絶対喜んでくれるさ ! |
コハク | ちょ、ちょっとシング…… !ミリーナたちも一緒なのに、そんな大声で…… ! |
ミリーナ | ふふっ、照れた顔のコハクも可愛いわ♪ |
イクス | でも、コハクが緊張するのもよくわかるよ。大ベストセラーになった『雨と共に去りぬ』の作者ニーア・バース先生のサイン会だもんな。 |
ミリーナ | イクスもすっかり『雨去り』のファンになってくれて嬉しいわ。 |
イクス | ああ、ミリーナが薦めてくれる本ってどれも面白いけど『雨去り』はその中でも特にハマっちゃってさ。 |
イクス | 夢中になって夜更かしした日はコーキスに怒られたりもしたなぁ。 |
シング | オレも、普段はあまり本って読まないけどコハクが薦めてくれたおかげで『雨去り』を好きになったんだ。 |
コハク | シングがいっぱい感想を言ってくれたときはわたしも嬉しかったなぁ。 |
ミリーナ | 今日のサイン会は、ニーア・バース先生の新作の情報も発表されるみたいだしまたみんなで感想を語り合いましょう。 |
イベントアナウンス | お待たせしました。では、今からニーア・バース先生のサイン会を始めさせて頂きます。 |
ニーア・バース | はっ、はい !えっと、本日はよろしくお願いします ! |
シング | あれが、ニーア・バース先生 ?まだオレたちと同い年くらいじゃない ? |
ミリーナ | あんなに可愛い女の子だったのね !どうしよう、イクス。先生の頭をナデナデしたくなってきちゃった…… ! |
イクス | ……いや、握手までにしといたほうがいいと思うぞ。 |
イクス | ……あれ ?でも、先生の顔ってどこかで見たことがあるような……。 |
ヴェイグ | ここか ! ? |
イクス | ヴェイグ ? それにヒルダさんにクレアまでそんなに慌てて、何かあったんですか ? |
ヴェイグ | イクス ? どうしてここに…… ?いや、好都合だ。ニーア・バースという人物はどこにいる ? |
ヒルダ | ……ヴェイグ、わざわざ聞く必要はないみたいよ。 |
読者の女性 | サインありがとうございます !次も楽しみにしてます ! 頑張ってください ! |
ニーア・バース | ——はっ、はい ! ありがとうございます !これからも『雨去り』をよろしくお願いしますね。 |
ヴェイグ | ……やはりお前だったのか、アニー ! |
イクス | アニー……。そ、そうか ! ? どこかで見たと思ってたけど鏡映点リストの人だ ! |
恰幅のいい男 | ……どうした ? 後ろが騒がしいようだが ? |
アニー | 後ろ…… ?えっ ? そんな ! ! ヴェイグさん ! ? |
クレア | やっぱり、ニーア・バースの正体はあなただったのね、アニー。 |
アニー | ヒルダさんにクレアさんまで…… !もしかして、皆さんもわたしと同じようにこの世界に……。 |
ヴェイグ | すまない、通してくれ。オレたちはあいつと話を……。 |
シング | ああ、駄目だよヴェイグ !いま列に割り込んじゃったら…… ! ? |
恰幅のいい男 | 困りますね。先生のサイン会で問題を起こさないで頂きたい。 |
ヴェイグ | 誰だ、おまえは……。 |
編集者 | 私は、ニーア・バース先生の担当編集です。先生に迷惑をかける行為はご遠慮ください。 |
アニー | ま、待ってください !その人たちはわたしの知人です ! |
編集者 | 先生のお知り合い ? |
ヒルダ | こっちは、さっきからそう言ってるんだけど ? |
アニー | ヒルダさん……。 |
ヒルダ | 久しぶりね、アニー。少し痩せたんじゃない ? |
クレア | でも、元気そうでよかったわ。小説家になってることには、ちょっとビックリしちゃったけど。 |
アニー | それは、色々と事情があって……。詳しいことも話したいのですが……。 |
編集者 | 生憎ですが、先生。サイン会は最後まで行って頂きます。お待ちになっているファンの方々もいるのですから。 |
アニー | それは……。 |
クレア | いいのよ、アニー。あなたの姿を一目見られただけでも私たちはすごく安心したわ。 |
ヴェイグ | ……そうだな。話はお前の仕事が終わってからにしよう。 |
ヴェイグ | アニー、どこかで落ち合える場所はないか ?できれば、あまり目立たない場所がいいんだが……。 |
アニー | ……わかりました。では、わたしの診療所で待っていてくれますか ?そこで、改めてお話をさせて下さい。 |
イクス | えっと……まだ驚いてるんだけど先生には鏡映点の説明も必要だろうし俺たちも一緒に行くよ。 |
ヴェイグ | ああ、頼む。 |
キャラクター | 2話【挙式3 次回作】 |
ヒルダ | あの子、こっちでも医者として働いていたのね。 |
ルーティ | バース先生っていったら、この町では有名人よ。あたしたちが顔を出してる孤児院のチビたちもよくお世話になってるの。 |
エレノア | 一人で診療所を運営してるなんて何か事情があると思ってはいたのですが……。 |
アニー | 皆さん、お待たせしました。すみません、話の途中だったのに……。 |
ミリーナ | ううん、気にしないで。待ってる間にアニーのことをいっぱい教えてもらったわ。 |
シング | 小説家だけじゃなくて、お医者さんでもあったなんて凄いよ、アニー ! |
コハク | ねえ、アニー。あとでサインを貰ってもいいかな ! ?わたし、『雨去り』の大ファンなの !感想もいっぱい伝えたくて ! |
アニー | か、感想ですか ! ?あっ、あの……嬉しいのですがヴェイグさんたちの前では……。 |
ヒルダ | もう知ってるわ。あの小説に私たちそっくりの人たちが出てきていたのをクレアが気づいたのよ。 |
ヒルダ | そのおかげで、あんたを見つけることができたってわけ。 |
クレア | ねえ、アニー。どうして小説を書き始めたの ? |
アニー | それは……この診療所の資金を集めるためです。この町には医者がいなかったので、怪我や病気をしても隣町までいかなくてはいけない環境だったから。 |
アニー | それで、診療所を開くための資金を集めようとたまたま見つけた小説コンテストに応募したら、受賞して出版もすることになって……。 |
ヒルダ | あんた、日記もまめに付けてたし文才があったのかもしれないわね。 |
コハク | うん、わたし、今まで読んできた恋愛小説の中でも『雨去り』が一番好きだよ。 |
アニー | あ、ありがとうございます……。やっぱり、恋愛小説……なんですよね。 |
ヴェイグ | どうしたんだ、アニー ? |
アニー | えっと……『雨去り』は青春医療ドラマとして書いたつもりだったから……。でもやっぱり恋愛ドラマだと受け取られているのだと思って…。 |
コハク | そうだったの ! ?わたし、てっきり『雨去り』は恋愛がテーマだと思ってた。 |
ミリーナ | 私も、展開が進むにつれてどの登場人物たちの恋愛模様が描かれるのか気になって読んでいたわ。 |
アニー | どうしてなんでしょう。読者の方々には恋愛作品として好評なのは知っていますし、嬉しくはありますけど意図したことではないので戸惑っていて……。 |
アニー | その上、担当さんから、『雨去り』のクライマックスはファンが期待するようなヒロインの大恋愛で締めくくって欲しいとも言われてしまい……はぁ。 |
コハク | それは大変だね……って、えっ ! ?『雨去り』ってもう終わっちゃうの ? |
アニー | ここだけの話ですが……。少しお話がダレてきましたし惰性で続けるのもよくないという判断です。 |
アニー | ただ終えるにしても、ラストが固まらなくて。「ヒロインたちの恋愛が成就して終わり」といってもわたしはそもそも恋愛として書いていないですし……。 |
ヒルダ | けど恋愛路線でいけって言ってくるんでしょ。売上のためとはいえ、あの編集にも困ったものね。 |
アニー | とにかくいまは新作の作業を優先して、『雨去り』の今後の展開はじっくり考えていきたいと思ってます。 |
ヒルダ | ちょっと待ちなさい。いま、新作って言った ?『雨去り』もあるのに他の作品もやらなくちゃいけないの ? |
アニー | はい。実は新作も頼まれていて……。 |
ヴェイグ | アニー、正直に相談してくれ。『雨去り』だけじゃなくその新作にも行き詰まっている、違うか ? |
アニー | ……ヴェイグさんたちにはお見通しですね。 |
アニー | そのとおりです。『雨去り』は実体験ベースなので書きやすかったのですが、新作は一から作っていくので色々と悩んでいるうちに、手が止まってしまって……。 |
ルーティ | ねぇ、その新作っていうのができないとこの診療所の運営もマズくなったりするの ? |
アニー | そうですね……『雨去り』の売上もいつまで持つのか分からない状況で……。 |
ヒルダ | はぁ……。運営資金まで自分で賄っているのね。そんなんじゃ運営が成り立たなくて当たり前だわ。 |
エレノア | それは ! アニーが孤児院の子どもたちのようにお金が払えない子の治療も請け負っているからで……。 |
ヒルダ | わかってるわよ。……この子がとっても真面目なのはよく知ってるから。 |
シング | ねえねえ、だったらオレたちもアニーの小説作りを手伝おうよ ! |
アニー | いいんですか ? |
シング | もちろん ! 困った人を助けるのがオレたちソーマ使いの役目だからさ。 |
コハク | わたしもシングに賛成だよ。それに、大好きな先生のお手伝いをできるなんてとっても光栄なことだもんね。 |
ヴェイグ | アニー、さっきは自分の体験談を小説の参考にしているといったな ? |
アニー | はい、実際に体験したことなら書きやすいですから……。 |
ヴェイグ | ならば、シングたちをモデルにしてみたらどうだ ?みんな別の世界から来たやつらだ。小説の題材としては、うってつけのはずだ。 |
ミリーナ | いい考えだと思うわ。それに、アニーの作風ならシングやコハクのお話はピッタリだし。 |
アニー | ですが、話を聞くだけだとイメージを掴むのに少し時間が掛かってしまうかもしれません……。 |
ヴェイグ | ……オレに考えがある。アニーがある程度のシチュエーションを考えてそれをシングたちに演じてもらうというのはどうだ ? |
アニー | 実際の場面を見るということですか……。たしかに、それなら実体験に近い感覚が得られるかもしれません。 |
ミリーナ | それなら、イメージを膨らませるために小道具やロケーション場所の確保も必要になるんじゃない ? |
ルーティ | まぁ、今回は孤児院のこともあるしね。人手が必要なら、あたしも協力するわよ。 |
ルーティ | それに……気分転換もしたいところだったから。 |
二人 | …………。 |
ルーティ | あっ、でも、ど~してもお礼がしたいっていうなら完成した本の印税を何割か……。 |
エレノア | ルーティ ? |
ルーティ | じょ、冗談よ、冗談 !もう、そんな怖い顔しないでよ。 |
エレノア | 全く、油断も隙もないんですから……。 |
エレノア | アニー、私も協力させてください。もちろん報酬は必要ありませんよ。子どもたちの為ですから。 |
アニー | 皆さん、ありがとうございます。 |
ヴェイグ | 早速だが、お前たちの出会いを聞かせてくれないか、シング ? |
シング | そうだね、オレが最初にコハクと出会ったのは——。 |
キャラクター | 3話【挙式5 宣誓 】 |
ルーティ | アニー、コハクたちの準備はオッケーよ。いつでもいけるわ。 |
アニー | はい、では、宜しくお願いします。 |
イクス | いよいよ、シングとコハクたちの話もクライマックスだな。 |
ミリーナ | 演技とはいえ、今まで頑張ってきた二人の愛が結ばれる瞬間よ。私たちも、しっかりと見届けましょう。 |
ヴェイグ | よし、それじゃあ始めてくれ。 |
コハク | ——シング、やっぱりここに来てたのね。わたしたちが出会った、この海に……。 |
シング | コハク……その姿……。 |
コハク | ……どう、かな ? |
シング | うん ! とっても、とっても綺麗だよコハクッ……。 |
コハク | ちょっと、シング !どうして……泣いてるの ? |
シング | だってオレ……もうコハクがそんな風に笑ってくれないと思ってたから…… ! |
コハク | ……わたしが、こうして笑えるのはシングのおかげだよ。わたしが失くした『愛のスピリア』を取り戻してくれたから……。 |
コハク | シングが諦めなかったからこうしてわたしは、シングの隣にいられるの。 |
シング | 諦めるわけないじゃないか !だって……オレはコハクのことが…… ! ! |
コハク | シング……。その言葉は最後に聞かせて。もうすぐ、式が始まっちゃうわ。 |
シング | うん……そうだね。行こう、コハク——。 |
ミリーナ | 凄いわ、コハクたち。本当にこれから結婚式を迎えるみたい。 |
イクス | ミリーナが用意したウェディングドレスもよく似合ってたよな。 |
クレア | ええ、お化粧やドレスの準備も私たちで頑張った甲斐があったわね。 |
ヒルダ | コハクは肌も白くて綺麗だからあまり手は加えていないけど。 |
ヴェイグ | どうだ、アニー。なにか掴めそうか ? |
アニー | はい。かなりイメージが膨らんできました…… ! |
クレア | でも、意外だったわ。ヴェイグがこんな提案をするなんて。 |
ヴェイグ | 前に暇つぶしで読んだ創作の本を思い出してな。アニーには、この方法があうんじゃないかと思ったんだ。 |
イクス | ヴェイグの作戦は大成功だな。俺も、いざという時のためにもっと読書の幅を広げるよ。 |
ルーティ | さあ、あとは教会で式を挙げるシーンだけね。ヴェイグ、神父役はあんたでしょ ? |
クレア | 頑張ってね、ヴェイグ。 |
ヴェイグ | ああ、わかってるさ。 |
神父 | お待たせしました。では、この神父が二人の誓いの儀式を見届けましょう。 |
神父 | シング・メテオライト。汝はいかなる時も、コハク・ハーツを愛し続けると誓うか ? |
シング | はい ! オレのスピリアに誓ってコハクを幸せにしてみせます ! |
神父 | コハク・ハーツ。汝はいかなる時も、シング・メテオライトを愛し続けると誓うか ? |
コハク | はい、わたしのスピリアに誓って。 |
コハク | これからもずっと一緒だよ。 |
ルーティ | ううっ……演技と知っててもなんだかムズムズしてきたわ……。 |
ソーディアン・アトワイト | あなたも女の子なんだから、ドレスを着てみたいなんて思ったりしないの ? |
ルーティ | ないわね。あんな動きにくそうな服装あたしがするわけないじゃない。 |
ソーディアン・アトワイト | やれやれ。道は遠いわね……。 |
神父 | ……こほん。では、誓いの口づけを。 |
コハク | ……シング。 |
シング | コハク、オレ、コハクのことがずっと……。 |
??? | うおおおおおおおおおおおっ ! ! ! !待ちやがれえええええええっっっっ ! ! ! ! |
コハク | えっ ! ? お兄ちゃん ! ? |
ヒスイ | シング……てめぇ、俺に黙ってこんなことしやがってタダで済むと思ってねーだろうなッ ! ? |
イクス | ちょ、ちょっと待ってくださいヒスイさん !これにはその……事情がありまして……。 |
アイゼン | ヒスイ、「兄」としてのけじめは自分でつけろ。俺が手を貸すのはここまでだ。 |
エレノア | アイゼン ! ?どうしてあなたがここに ? |
アイゼン | 俺は運び役としての務めを果たしただけだ。こいつの気持ちは痛いほどよくわかるからな。 |
ヒスイ | アイゼンが教えてくれたんだ。コハクがウェディングドレスを着てるのを見たってな。 |
ヒスイ | ケリュケイオンをぶっ飛ばさせたかいがあったぜ…… !シング ! 俺が知らねえ間にコハクと結婚なんて許さねえぞ ! |
イクス | と、とにかく !早くヒスイさんには誤解を解いてもらわないと……。 |
ヒスイ | 覚悟はできてんだろうな ! ? ああんっ ! ! |
シング | そっか……。ヒスイには、ちゃんと言っておかないといけないよね。 |
ルーティ | ちょっと、シングってばなにブツブツ言ってんのよ ? |
ソーディアン・アトワイト | もしかしてあの子役に入り込みすぎてるんじゃないかしら ? |
イクス | それってつまり……シングは本当に結婚式をやってると思ってるのか ! ? |
シング | オレ、ヒスイにもちゃんと認めてほしいんだ !だから…… ! |
シング | 兄さん ! コハクを……妹さんをオレに下さい ! ! |
ヒスイ | な、なんて言いやがった、てめぇ……。 |
シング | あれ、他の呼び方のほうがいいかな ?ヒスイ兄さん ! ヒスイ兄~ちゃん♪それとも、ヒスイの兄貴ぃ ! とか ? |
ヒスイ | やめろおおおお ! ! ! !てめぇが俺を兄なんて呼ぶんじゃねええええっ ! ! |
キャラクター | 4話【挙式5 宣誓 】 |
アニー | ——ということで、お二人にはわたしの小説のモデルになって頂いていたんです。 |
ヒスイ | な、なんだよ……。俺はてっきりコハクが本当に嫁に行っちまうのかと……。 |
コハク | ……わたし、結婚式があってもお兄ちゃんは呼ばないことにする。 |
ヒスイ | ま、待てよコハク !俺だってちゃんと事前に聞いてりゃあな……。 |
シング | オレは絶対ヒスイには来てほしいよ !それに、いつか本当のお兄さんになるかも知れないしね。 |
ヒスイ | ……いい度胸じゃねぇか !その妄想、一回ごとに「にー、さん」発 !ぶん殴ってやるからな ! |
シング | あうう、身……身の程しらずでした……。 |
コハク | ……お兄ちゃん。そんなにわたしにボコメキョにされたい ? |
ヒスイ | ま、待て、コハク ! ?俺はコハクのためを思って―― |
アイゼン | 妹に手を出したら殺す。ヒスイも俺と同じ流儀を持ってやがったか。ふっ……さすが、俺の見込んだ兄バカだ。 |
エレノア | アイゼンは話がややこしくなるので黙っていてくださいね。 |
イクス | な、なんか最後は色々あったけど一応は無事成功ってことでいいのかな…… ? |
アニー | はい ! 皆さんのおかげです !早速、帰って原稿に取り掛かりますね ! |
イクス | よし、これで一段落だな。 |
ヒルダ | …………これは。 |
ヴェイグ | ヒルダ。どうかしたのか ? |
ヒルダ | ちょっと今後を占ってみたの。結果は、月のカードの正位置。不安や疑惑の暗示あり……。 |
クレア | 何もないといいのだけど……。 |
全員 | あと二つプロットが必要 ! ? |
アニー | はい。新作は短編集で刊行することになりました。なんでも、売上不振の雑誌にわたしの短編作品を先行掲載したいみたいなんです。 |
ヒルダ | 人気のニーア・バース先生の原稿で話題を集めて売上に貢献させようって魂胆かしら。 |
ルーティ | おまけに短編集と『雨去り』を同時に出したいって……そりゃあそっちの方が売上はよくなると思うけど……。 |
クレア | これ以上アニーの負担が大きくなるのが心配だわ。 |
ルーティ | こうなったら原稿料を二倍……いいえ、三倍にしてもらいましょう ! |
アニー | さすがにそこまでは……。ただ……締切が近くなってしまったので他の二つのお話も早急に取り掛からないと。 |
シング | よし、それならまたオレたちが役を演じてみるよ ! |
アニー | それが、担当さんに以前の制作方法を伝えたら別の人でもやってみてはどうか ? と提案されて……。 |
シング | そっか……。オレ、またコハクと一緒にやってみたかったんだけどな……。 |
アニー | あと、シングさんたちのお話が「王道」になったので次はそのアンチテーゼとしてドロドロな話が欲しいと言われました。 |
ヒルダ | はぁ……随分と注文が多いわね。 |
アニー | はい……普通の恋愛でも苦労したのにそういう複雑な話となると何を書いていいのかもわからなくて……。 |
エレノア | 難しいですね……別れたくても離れられない奥方とかもしくは清算不可能な愛人……とかはありきたりですし……。 |
全員 | ! ! |
エレノア | えっ ! ?あの~、私、何か変なことを言ってしまいましたか ? |
アニー | エレノアさん !その話、詳しく教えてください ! ? |
キャラクター | 5話【挙式6 重すぎる話】 |
エレノア | いいじゃないですか ! 私はその展開、好きですよ ! |
ベルベット | 浮気なんてありきたりだけど鉄板と言えば鉄板よね。 |
イクス | エレノアたち盛り上がっているな……。 |
ヒルダ | あれで本人たちは「普通の恋愛」について話しているつもりなんだから凄いわね……。 |
マギルゥ | エレノアよ。他には何かあるか ? |
エレノア | そうですね……たとえば、お互い別の人と結婚した後に真の恋心に気づいてしまった幼馴染み……とか ! |
ベルベット | そうね……相手が結婚しているけど諦められない恋っていうのもいいかも。 |
マギルゥ | 他には……今までさ~んざん可愛がっておったのに別の女のところに行った男を粛正する話とかかのう ? |
ビエンフー | 姐さん……どうしてボクのほうを見ながら言うんでフか……。 |
マギルゥ | 気のせいじゃよ~。お主のこととは一言も言っておらん。それとも、心当たりでもあるのかえ ? |
ビエンフー | そ、そんなことないでフ。ボクはいつだって姐さん一筋でフよ ! ! |
マギルゥ | ほう、ならば試してみるかえ ?儂に対するお主の愛が本物ならどんな仕打ちも耐えられるはずじゃよな ? |
ビエンフー | ビ、ビエーーーーーン ! !こんな展開、ソーーバッット ! ! ! ! |
ベルベット | そう ? お話としては少し面白そうだと思ったけど。 |
エレノア | ええ。気が合いますね、ベルベット。 |
ロクロウ | 駄目だ……。俺にはお前たちの恋愛観は理解できそうにない |
ベルベット | 違うわよ、ロクロウ。あくまでも小説の題材としてはって話。 |
エレノア | そうですよ。 |
イクス | これがドロドロの恋愛話か……。どんな小説になるのか楽しみだよ。 |
ライフィセット | そ、そうだね……。でも、僕はもう少し、冒険とかそういうのがテーマの話のほうが好きかも。 |
アイゼン | 同感だ。冒険こそ男のロマン。荒れ狂う海で海上戦を繰り広げるくらいでなくてはな。 |
ルーティ | しっかし、よくもまあそんなに次から次にあんな話が出てくるもんね。 |
アニー | 皆さん、恋愛経験が豊富なんですね…… ! |
ミリーナ | そうね、ベルベットたちはみんな魅力的だから色んな恋愛を経験してきたんだと思うわ。 |
三人 | ……………………。 |
アイゼン | そうでもないようだな。 |
マギルゥ | かぁー ! ! なんじゃ、この空気 ! ?ほれ、ベルベット ! ! こやつらがギャフンと驚く恋バナを披露せいっ ! ! |
ベルベット | ちょ、ちょっと ! なんであたしに振るのよ ! ?そういうのはエレノアに聞きなさいよ ! ! |
エレノア | どうして私なんですか ! ?私だって、その……お恥ずかしながら恋愛経験は……。 |
ロクロウ | そんなことないだろ。この前も街で出会った男に食事を誘われていたじゃないか。 |
エレノア | ええ、覚えていますが……それがどうかしたのですか ?お礼を頂くほどではありませんと丁重にお断りをしましたけど。 |
マギルゥ | なるほどのう。そうやって、男どもをバッサバッサと切り捨ててきたと、お主も罪な女よのう。相手はお主に結婚を望むほど恋い焦がれていたやもしれんのに。 |
エレノア | 変な言い方しないでください !それに……自分が結婚だなんて想像もできませんよ。 |
ベルベット | そういえば、前にも同じこと言ってたわね。 |
ヒルダ | 勿体ないわね。あんたならきっとウェディングドレスも似合うわよ。 |
ベルベット | だったら、あんたもシングやコハクたちみたいに結婚式をやってみたらいいんじゃない ? |
エレノア | ええ ! ? それってつまり……私が花嫁役ということですよね ? |
ベルベット | そうすればせめて結婚のイメージは多少できるでしょ。あの元山賊も少しは浮かばれるだろうしね。 |
ロクロウ | それに、ちょうど演技をするための人材も必要だったんだろ ? |
ヴェイグ | ああ。だが、今回もウェディングのシーンを入れるかは決まってないんだが……。 |
アニー | そうですね……シングさんたちの話も好評でしたし希望があれば、結婚式のシーンを入れることも考えてみます。 |
ベルベット | エレノア。いい機会なんだし、やってみなさいよ。 |
アニー | あの、エレノアさん。お願いできないでしょうか ? |
エレノア | ……分かりました。孤児院の子どもたちのこともありますし、このエレノア・ヒューム全力で花嫁役を務めさせて頂きます。 |
ミリーナ | それじゃあ、一緒に採寸に行きましょう。 |
マギルゥ | さて、小説家の娘よ。儂にすこ~しばかり演出を任せてほしいのじゃが構わんかえ ? |
アニー | えっ ? はい……。それは構いませんが……。 |
ビエンフー | 姐さんがいつになく協力的でフ。一体どうしちゃったんでフかね ? |
ベルベット | どうせまた何か企んでるんでしょ ? |
マギルゥ | なに、ドッロドロの恋愛模様を描くというなら「ずるい、こすい、黒い」という魔女のキャッチフレーズに相応しい演出をしなくてはと思ってのう~。 |
マギルゥ | というわけで、お主たちにもちょこっ~と、協力してもらうぞ。 |
ベルベット | 嫌よ。あんたと絡むとろくな事がないんだから。 |
マギルゥ | いいのかえ ? 坊一人に負担をかけさせることになるぞ ? |
ベルベット | なっ ! ? どうしてフィーが関係あるのよ ? |
マギルゥ | そりゃあ、坊が儂の演出に参加してくれるからじゃ。 |
ライフィセット | えっと、初耳だけど……。うん、エレノアも協力するなら僕に出来ることがあるなら手伝いたい、かな……。 |
マギルゥ | 坊はいい子じゃのう~。さて、どうする ? ベルベット。 |
ベルベット | ……ッ ! わかったわよ !やればいいんでしょ、やれば ! |
マギルゥ | 決まりじゃな♪我がマギルゥ奇術団の特別公演を見せてやるぞ。 |
ロクロウ | ははっ、懐かしいな、こういう感じも。 |
アイゼン | 全く、別の世界まで来ても喧しい連中だ。 |
ロクロウ | だが、嫌いじゃないだろ ? |
アイゼン | …………ふっ、どうだかな。 |
キャラクター | 6話【挙式8 当て馬たち】 |
ミリーナ | みんな、お待たせ。エレノアを連れてきたわよ。 |
エレノア | どうでしょうか ? |
ベルベット | へぇ。なかなか似合ってるじゃない。 |
エレノア | そ、そうですか……。少し恥ずかしい気もしますが。 |
エレノア | ところで、他の皆さんはどこにいるんですか ? |
ロクロウ | 他の奴らも色々と役割を与えられているんだとさ。それより、俺たちもそろそろ始めていいのか ? |
イクス | えっと……あと少しだけ待ってください。もうすぐ準備が整いますから。 |
ミリーナ | こっちの準備が終わったら二人に声を掛けるわね。 |
エレノア | ロクロウ、まだ時間がありそうですしよければ練習をしませんか ? |
ロクロウ | 応。俺もマギルゥに、業魔じゃなければこの役は駄目だとかで、いきなり台本を押し付けられたからな。もう少し練習をしておきたかったんだ。 |
エレノア | ならよかったです。ロクロウは確認しておきたい場所はありますか ? |
ロクロウ | そうだな……この場面はどうだ ?お前も苦手そうにしていただろ。 |
エレノア | はい……ですがハトマネのときのように恥ずかしい思いはしないようそのあと、しっかり練習してきました。 |
ロクロウ | じゃあ本番前に、お前の鍛錬の成果もみせてもらうとするか。 |
エレノア | いいですよ。では―― |
エレノア | この手をとって連れて行ってくれますか ? |
ロクロウ | 業魔と手を取ろうとは。ずいぶん変わった対魔士だな。 |
エレノア | あなたのような変わった業魔に言われたくありません。 |
ロクロウ | おお ! だいぶいいじゃないか ! |
エレノア | ありがとうございます。ロクロウもやりますね。 |
ミリーナ | あっ……今のエレノアの演技、凄くよかったわよね。練習なのに先が気になって見入っちゃったわ。 |
イクス | ああ。だけど、マギルゥの台本だとこの後の展開は―― |
マギルゥ | ゆけい ! 皆のもの !この流れに乗るのじゃ ! |
? ? ? | そんな…… ! 本当に……二人は結婚してしまうんですね……。 |
エレノア | アニー ! ? その恰好……もしかしていつの間にか芝居が始まっている ! ? |
アニー | ロクロウ様 !わたしと一生添い遂げるという約束は忘れてしまったのですか…… ! |
ロクロウ | おっと、それは人間のときの約束だ。俺はもう業魔になっちまったからな。 |
エレノア | あ、えっと……その……。 |
ロクロウ | おい、次は、お前の台詞だぞ。 |
エレノア | そ、そ……そんなこといきなり言われても ! |
一国の姫 | えっと……こほん。 |
一国の姫 | そんな……あの、誰よりも優しく義理堅かったロクロウ様は……変わってしまったのですね。 |
近衛兵 | 姫様……。あの男はもう姫様が知っている男ではありません。諦めましょう。 |
一国の姫 | いえ、それでもわたしはあの人のことを……。 |
クレア | アニーたち、上手くやってるみたいね。エレノアさんはずっと固まっているけど。 |
ミリーナ | お疲れ様、ヒルダさん、クレアさん。アニーのウェディングドレスもとっても綺麗だわ。 |
ヒルダ | そうね……。あの子にはまだ早いと思ってたけどすぐに大人になっていくものだって実感したわ。 |
クレア | 他の皆にも、アニーのドレス姿を見て欲しかったわ。特に、ユージーンさんは喜ぶんじゃないかしら。 |
ヒルダ | ええ、自分の娘のようにあの子を見守ってきたからね。 |
ヒルダ | 案外、アニーの結婚式に参加したら泣いたりするかもしれないわよ ? |
クレア | ふふっ、娘の門出を祝うお父さんみたいね。 |
クレア | それに本当にアニーの結婚式があったらマオくんやティトレイさんが場を盛り上げて楽しませてくれそう。 |
ヒルダ | マオは歌を歌ってくれるからいいけどあのバカはいても暑苦しいだけよ。 |
ヒルダ | どうせ姉貴のドレスのほうがいいとか言い出すんだから。 |
マギルゥ | これこれ、妄想に耽るのは結構じゃが今のあやつは結婚式も挙げられん役柄じゃよ ? |
イクス | 『婚約者に逃げられる一国の姫』っていう設定だからな……。 |
クレア | 「失恋の気持ちも知るため」って言ってたけど私としては、まずは幸せになる役を演じてほしかったわ。 |
マギルゥ | なに、結婚というイベントが必ずしも皆を幸せにするとは限らんよ。誰かが結ばれるということは、その逆も然りじゃ。 |
? ? ? | エッ、エレノアお姉ちゃん ! ! |
エレノア | ラ、ライフィセット……ど、どうしましたか ? |
近所の男の子 | ひ……酷いよ ! ! 将来は僕と結婚してくれるって約束してたのに ! ! |
エレノア | そ、それは……って、ちょっと待ってください !その台詞は過激すぎるからと修正をお願いしたはず !マギルゥ、どういうことですか ! ? |
マギルゥ | 何のことかのう~。ほれ次の台詞はベルベット―― |
マギルゥ | うわっ ! |
ベルベット | フィーになんてこと言わせるの !それにあたしは芝居なんて絶対しないわよ ! |
アイゼン | おい。俺の出番はいつになったら回ってくるんだ。それから台本についてだが……チッ。どうして俺がロクロウに倒されなければならん。 |
ロクロウ | 花嫁を奪い去った海賊を俺が太刀で成敗する。当然の結末だと思うぞ。 |
アイゼン | リアリティが足らん。海賊を舐めるなよ ? |
ロクロウ | ほう、ならここは台本無視の真剣勝負で勝敗を決めるのはどうだ ?無論、筋書きに変更はないと思うが。 |
アイゼン | 試してみるか ? |
ロクロウ | 望むところだ ! |
イクス | えっ、ロクロウさん !ここで戦ったら、ただでさえめちゃくちゃになった芝居がさらに混乱して―― |
ロクロウ | うるさい ! ! 邪魔をするな ! ? |
エレノア | ベルベット。止めてくださいよ。もう全て台無しになりそうです。 |
ベルベット | あれで加減はわきまえてるし大丈夫でしょ。というかあたしは関係ない。マギルゥに言いなさいよ。 |
マギルゥ | ええい ! ! こうなったら全てアドリブじゃ !儂らもいくぞ、ベルベット ! |
ベルベット | ちょっと、なんであたしを巻き込もうとするの !芝居はしないって言ったでしょ ! |
マギルゥ | ハトマネすらできぬお主に期待などしておらぬ。ただし、その身に染み付いた素の極悪人っぷりは存分に披露してもらおうと思うがのう♪ |
マギルゥ | さあさあ、お立ち合い !マギルゥ一座の卒倒必須の即興劇がはじまるぞ !いざ、とくとご覧あれ~ ! |
キャラクター | 7話【挙式8 当て馬たち】 |
ルーティ | ——で、怪我人を増やして帰ってきた、と。何やってんのよ、あんたたちは。 |
エレノア | お恥ずかしい限りです……。アニーにはロクロウたちの手当てまでしてもらって。あとで私からきつく言っておきます。 |
アニー | いえ、エレノアさんたちのおかげで今回のプロットもオッケーを頂きました。 |
アニー | ニーア・バース作品としては、狙い通り異色作になっていると褒めてくれたんです。 |
エレノア | あの内容が小説になるんですか ! ?さ、さすがに異色作すぎるのでは……。 |
アニー | あっ、いえ。担当さんが異色作だと思ってくれたのはエレノアさんたちの世界を参考にしたからだと思います。 |
エレノア | 私たちの世界、ですか ? |
アニー | はい。人間、聖隷、業魔。種族の違いはあっても、同じ命であることに変わりはない。 |
アニー | そんな世界で、種族を越えて互いを愛し合うことができるお話を書いてみたんです。 |
ヒルダ | ……どこかで聞いたことがある話ね。 |
アニー | はい、だからこそ、わたしが書いてみたいって思ったのかもしれません。 |
ヴェイグ | 種族の壁を超える話か。悪くないんじゃないか ? |
エレノア | ……ええ、素敵なお話だと思います。私たちの世界も、いつか人間が聖隷や業魔と共に歩んでいく日が来るのかもしれません。 |
ヒルダ | 現実は厳しいことも多いけどね。 |
エレノア | ええ、だからこそ少しずつ変わっていけばいつかは誰もが笑って過ごせる世界にもなれるはずです。 |
ヒルダ | ……そうね、あんたみたいな子がいればいつか世界も生まれ変わるかもしれないわ。 |
エレノア | はい。それが私の意志ですから。 |
ヴェイグ | 強いんだな、エレノアは。 |
エレノア | ベルベットたちからは頑固者と言われますけどね。 |
アニー | きっと褒め言葉ですよ。 |
エレノア | ええ、そのように受け取っておきます。 |
ルーティ | まぁ、トラブルも多いみたいだけど小説の執筆は上手くいってるみたいね。残りもこの調子で行きましょう。 |
アニー | ルーティさんにもお世話になりっぱなしですね。わたしが留守の間、診療所を任せきりにしてしまって……すいません。 |
ルーティ | いいの、いいの。診療所はこっちでなんとかしとくから残りの一つもササっと書き上げなさい。 |
アニー | それが、イクスさんたちもアジトで色々と取材をしてくれているのですが……。 |
クレア | また違うパターンの恋愛ってなったらなかなか見つけられなくて苦労してるみたいなの。 |
アニー | 最後の話も結婚式のシーンまで書いて締めてほしいと言われてしまいましたから……。 |
ルーティ | ……結婚式か。 |
アニー | もしかしてルーティさんも興味が湧いてきましたか ? |
ルーティ | ま、まさか。なんであたしが。 |
スタン | おーい。ルーティ。荷物を届けに来たぞ。 |
ルーティ | スタン ! ? どうしてあんたが……。 |
スタン | ロゼに頼まれたんだよ。買い物にいくならついでに届けてくれって。 |
ルーティ | あ、ああ。そういうことね。まったく、いきなり声をかけないでよ。心臓が止まるかと思ったわ。 |
スタン | ごめんごめん。けどルーティが元気そうでよかったよ。最近はずっと孤児院の手伝いとかで外泊だっただろ。ちょっと心配してたんだ。 |
ルーティ | そ、それはどうも。あんたも元気そうでよかったわ。じゃあ、またあとでね。 |
スタン | ……ルーティ。 |
ルーティ | な、なによ……。 |
スタン | いつもよりやたらと愛想がいいけど……。もしかして…………悪いものでも食べたか ? |
ルーティ | なんでそうなるのよ !ったくもう……あんたといると本当に調子狂うわ。 |
アニー | それも仲がいい証拠ですよ。あっ……もしかしてスタンさんとルーティさんも―― |
ルーティ | 違うからっ ! ! |
アニー | ご、ごめんなさい。小説のネタ探しに頭がいっぱいで……。デリカシーに欠けていましたね。 |
ルーティ | そ、そうじゃなくて……あたしの方こそ、悪かったわ。ちょっと強く言い過ぎた。あんたが頑張っているのはよくわかってるし……。 |
ルーティ | ああもう ! こうなりゃヤケよ !スタン ! あんた、あたしの恋人役をやりなさい ! |
スタン | 恋人役 ! ? |
ルーティ | アニーの小説がかかってるのよ ! !それに……とにかくやりなさい !言っておくけど、拒否権はないから ! |
ソーディアン・アトワイト | ……ルーティ。 |
スタン | わかったよ、ルーティ。俺でよければその役、喜んで引き受けたい。 |
ルーティ | いいこと ? やるからには徹底的にやるわよ。あたしも全力でやってやる。だからあんたも手加減するんじゃないわよ ? |
スタン | ああ ! 望むところだ ! |
ソーディアン・ディムロス | なぜ決闘のようになっているんだ……。 |
アニー | スタンさんもルーティさんも、ありがとうございます。じゃあ、わたしもさっそくプロットの準備を―― |
ヴェイグ | おっと……アニー、怪我でもしたのか ? |
アニー | あ、ありがとうございます。ちょっとよろけただけなので大丈夫ですよ。 |
アニー | あともうちょっとなんです。これも自分がやると決めたこと……まだまだ頑張らないと。 |
ヴェイグ | …………。 |
キャラクター | 8話【挙式9 英雄として】 |
カイル | や、やばい……。すごいドキドキしてきたよ……。お芝居とはいえ二人の結婚式に立ち合えるなんて……。 |
リアラ | 世界の危機を救った二人が結ばれる物語のラスト……。どんなシーンに仕上がるんだろうね。 |
カイル | やっぱり歴史に名を刻むくらい豪華にいきたいよね !これぞ英雄の英雄による英雄のためのウェディングみたいな感じでさ ! |
リアラ | じゃあ、わたしたちだったら ? |
カイル | オレたち ? |
リアラ | どんな結婚式にしたい ? |
カイル | リアラさえいてくれれば何もいらないよ !何なら今ここで結婚式をやったっていい ! |
リアラ | もうっ、カイルったら。この物語でわたしたちが主人公だったらの話よ。 |
リアラ | けどわたしもカイルさえいてくれればいいかな。 |
カイル | ……リアラ ! |
ミリーナ | ふふっ。二人は相変わらず仲がいいわね。 |
クレア | みんな、ルーティさんの着替えが終わったわよ。 |
ルーティ | ……お待たせ。 |
リアラ | ルーティさん……綺麗。 |
カイル | うん……それに、すごく似合ってる。 |
ミリーナ | ルーティ、記念に一枚♪ |
ルーティ | い、いいわよ。別に撮影しなくても。 |
カイル | いや ! せっかくなんで撮っておきましょう ! |
ヴェイグ | そっちの準備のほうが早かったみたいだな。 |
スタン | ルーティ……。 |
ルーティ | な、なによ。そんなにジロジロみて……。い、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよね ! |
スタン | いや、ルーティってドレス姿も似合うんだなって思ってさ ! |
ルーティ | は、はぁ ! ?なんてこと言うのよ、あんた ! ? |
スタン | ルーティがはっきり言えって言ったんじゃないか ? |
ルーティ | もういいわよ ! さっさと始めるわよ ! |
アニー | …………。 |
ヒルダ | あんた、やっぱり顔色悪いわよ ?少し休憩を挟んだほうがいいんじゃない ? |
アニー | わたしなら平気です。それに、皆さんにも協力してもらってますしわたしの都合で止めるわけにはいきませんから。 |
ヒルダ | ……はあ、もう…… |
ルーティ | さあ、スタン。どっからでもかかってらっしゃい。 |
スタン | いいんだな ? |
ルーティ | 当然。まあ、あんたみたいな田舎者タキシードを着ようが所詮は―― |
スタン | ディムロス。男らしくいけばいいんだよな ? |
ソーディアン・ディムロス | ああ。我からのアドバイスはそれのみ。ゆけ、スタン。 |
スタン | おう ! |
ルーティ | えっ……ちょっ―― |
ルーティ | ス、スタン ! ? なにしてんのよ ! ! |
スタン | 言っただろ。手加減はなしだって。俺も全力でエスコートするからさルーティも全力でエスコートされてくれよ。 |
ルーティ | わ、わかってるけど……近いっ ! 顔が近すぎる ! ! |
スタン | そりゃあこの体勢なんだから仕方ないだろ。 |
ルーティ | そ、そうだけど……というよりなんであんたはそこまで落ち着いていられるのよ ! |
スタン | えっ……俺、けっこうドキドキしてるんだけどな。ルーティも同じだろ ?俺の心臓の音、聞こえないか ? |
ルーティ | えっ…………う、うん。聞こえる……。 |
スタン | 結婚式ってさ……なんか、いいな。 |
ルーティ | ―― ! |
スタン | ちょっと ! ルーティ !暴れるなって ! |
ルーティ | も、もう終わり ! いいから降ろして ! |
スタン | わかったから、ちょっと待ってくれ !いますぐ降ろすよ ! |
ルーティ | はぁ……はぁ……。心臓がとまるところだったわ。 |
スタン | そうか ? むしろすごく脈打ってたけど……。 |
ルーティ | あああああっ ! あんたはうるさい !はい ! 解散 !アニー、あとは任せたわよ ! |
スタン | あっ、ちょ、ルーティ ! ?どこ行くんだよ~、おーい ! |
ヒルダ | ……慣れないことをされた反動ね。 |
アニー | ですが、参考になるところまでは演じてくれたのであとは、診察が終わったあとに短編と……雨去りを…………。 |
クレア | アニー ! ? |
ヴェイグ | おいアニー、しっかりするんだ ! ! アニー ! ! |
キャラクター | 9話【挙式10 制作秘話】 |
アニー | …………ヒルダ、さん ? |
ヒルダ | 気が付いた ?ゆっくり眠れたみたいね。 |
アニー | えっと……ここは、診療所 ?でも……どうして……。 |
クレア | 疲労で倒れたのよ。覚えてない ? |
アニー | 倒れた…… ?いけない ! 原稿がまだ残って…… ! |
ヴェイグ | 落ち着け、アニー。熱もあるんだ。すぐに動ける状態じゃない。 |
アニー | ですが ! |
クレア | 聞いて、アニー。まずは原稿のことだけど少し締切を伸ばしてもらったの。 |
アニー | ……えっ ? 締切を…… ? |
ヴェイグ | 診療所の患者たちも今はミリーナたちが看てくれている。しばらくは、それで手が回るはずだ。 |
ヴェイグ | ……すまなかった。無理をしていたことを知っていながらオレはお前を止めようとしなかった。 |
アニー | そんな ! ヴェイグさんたちは悪くありません。わたしが倒れてしまったのが駄目なんです。そう……わたしがもっとしっかりしていれば……。 |
ヒルダ | アニー…………それ以上は、ぶつよ。 |
アニー | ヒルダ……さん……。 |
クレア | アニー、ごめんなさい。私たち、あなたをちゃんと止めるべきだったわ。 |
アニー | いえ……。わたしの方こそ……。お父さんみたいな医者になりたくて……だからお父さんに負けないくらい頑張らなくちゃと思って……必死になり過ぎて……。 |
ヒルダ | 頑張るなとは言わない。けど、それであんた自身が倒れたら元も子もないわ。 |
ヴェイグ | アニー、お前にはオレたちもいるんだ。もっと頼ってくれてもいいんじゃないか ? |
アニー | もっと……ですか ? |
クレア | そうよ、アニーのためなら私たちはどんなことでも力を貸すんだから。 |
ヒルダ | 少なくとも、あのヴェイグが自分から演技に参加するくらいにはね。 |
ヴェイグ | ……その話は今しなくてもいいだろ。 |
アニー | ヴェイグさん……。 |
ヴェイグ | アニー、お前が父親のような立派な医者を目指すならオレたちにもそれを支える手伝いをさせてくれ。 |
ヒルダ | 私たちだけじゃないわ。あんたに協力した皆も、同じ気持ちよ。 |
ヒルダ | それに、ユージーンがあんたに言ってたでしょ ?ドクター・バースは全ての命を等しく愛し、守ろうとした医者だって。 |
クレア | お父さんみたいな医者を目指すならその中にアニー自身も含めないとね。 |
ヴェイグ | 今のオレたちにできることはこれくらいかもしれないがな。 |
アニー | いえ……十分すぎるくらいです。皆さん……わたしのために……。 |
アニー | そっか、もしかしたら、わたしはこの気持ちをずっと伝えたくて……。 |
アニー | 皆さん。わたし、決めました。短編集に『雨去り』の最終話もいれます。 |
クレア | えっ……どういうこと ! ? |
アニー | わたし、気づいたんです。なんで『雨去り』が恋愛小説として受け取られているのかって。 |
アニー | そして……わたしが『雨去り』で描きたかったことも。今思うと笑ってしまうくらいとてもシンプルなことでした。 |
アニー | 『雨去り』は恋愛ではない「愛」の物語。だから色々な「愛」を描いてきた短編集に入れて読者の方々に届けたい。 |
アニー | 短編1冊分ならいまのわたしでも何とかできますし今度は、皆さんにもちゃんと頼ります。 |
アニー | これでもう最後にしますから……だから、この作品だけは―― ! ! |
ヒルダ | ――わかったわよ。こうなったら、とことん付き合ってあげるわ。 |
クレア | 私たちって、妹には甘いタイプよね、きっと。 |
ヴェイグ | ふっ……。 |
アニー | 皆さん、ありがとうございます ! |
ミリーナ | 前のサイン会以上にファンの人たちが集まってるわ。それだけ、この新刊発売イベントに注目が集まってるってことよね。 |
イクス | でも、場の空気は全然違うのが伝わってくる……。なにも問題が起こらなければいいけど……。 |
アニー | 皆さん、本日はわたしの新刊発売イベントに来ていただき、ありがとうございます。 |
イベント司会者 | では、これより先生から皆さんに向けてメッセージを―― |
読者の男性 | それより聞きたいことがある !『雨去り』の最終話がこの短編集に収録されているっていう噂は本当なのか ! ? |
イベント司会者 | お、落ち着いてください。ご質問はまた後で―― |
アニー | わたしは構いません。 |
イベント司会者 | ……わ、わかりました |
アニー | 先程の質問ですが……本当です。『雨去り』最終話はこの短編集に収録しました。 |
読者の男性 | どうして『雨去り』のラストが短編なんだ ! ? |
読者の女性 | 短編なのは……先生も本意じゃないんですよね ?ラストが恋愛ではないという噂もありますけどこれも……無理やり書かされたからですよね ? |
アニー | いいえ。短編であることもそして、その内容についてもすべてわたしの意志で決めました。 |
読者の男性 | そんなのあんまりだ ! !なら続編は書いてくれるんですか ! ? |
アニー | 続編はありません。わたしはこの短編集を最後に作家活動を引退しますので。 |
読者の女性 | な、なんですって ! ? |
ヒルダ | ……だいぶざわついているわね。 |
イクス | やっぱり、スタッフの人に頼んでイベントは中止にしたほうが…… ! |
ヴェイグ | イクス、落ち着け。オレたちが騒いでも、場を混乱させるだけだ。 |
クレア | 信じましょう、アニーならきっと……。 |
読者の男性 | あんまりだ ! 無責任過ぎる !それで物語が完結したって言えるのかよ ! ! |
アニー | そう言われるのも仕方ないと自覚しています。ですがその通り、『雨と共に去りぬ』の物語はこれで完結です。 |
アニー | 読者の皆さんに伝えたかったわたしの想いをきちんと書き上げることがができましたから。 |
読者の女性 | 私たちに、伝えたかったこと ? |
アニー | ……少しだけ、わたしの話をさせてください。 |
アニー | わたしにも、『雨去り』に出てくる人たちのように大切な仲間がいます。楽しい時も、苦しい時も一緒にいてくれた仲間が。 |
アニー | その仲間たちがいてくれたから今のわたしがあるんです。全員が、わたしにとってかけがえのない存在なんです。 |
会場 | …………。 |
アニー | そしてわたしも、この小説の主人公のように一人でも多くの“ヒト”を助けたくて医者の道を歩んでいます。 |
アニー | お父さんが教えてくれた『命に色はない』という言葉を信じて——。 |
読者の女性 | 『命に色はない』…… ? |
読者の男性 | 『雨去り』最終話のタイトル……どういう意味なんだ ? |
アニー | あとは、この短編集を読んで欲しいです。『雨去り』を愛してくれた皆さんならきっと納得してもらえると思うから。 |
読者の女性 | その『雨去り』を愛していた私たちにとってこの短編が納得できる内容じゃなかったら ? |
アニー | そのときはわたしを憎んでください。どのような想いもわたしは受け止める覚悟でいます。 |
アニー | わたしの仲間が……ユージーンがそうしてくれたように。 |
三人 | …………。 |
アニー | 他に質問はありますか ? |
会場 | …………。 |
アニー | では、わたしからも以上です。“ニーア・バース”が綴る『愛』の物語。どうか、よろしくお願いします。 |
キャラクター | 10話【挙式10 制作秘話】 |
イクス | ミリーナ、アジトの書庫にもう少しアニーの本を置いてもいいかな ? |
ミリーナ | 貸出が間に合わないなんてアジトでもすっかりニーア・バース作品が大人気ね。 |
イクス | ああ、短編集もティル・ナ・ノーグ中の本屋で売り切れが続いてて、なかなか手に入らない状況なんだってさ。 |
イクス | 内容も絶賛の嵐みたいだしさ。アニーの想いが届いたみたいでよかったよ。アジトのみんなにも早く読んで欲しいな。 |
ヒルダ | こんなことなら、出版社から何冊か貰ってくればよかったわね。 |
ミリーナ | おかえりなさい。診療所はどうでしたか ? |
クレア | みんなとってもいい子たちだったわよ。あのニーア・バース先生がいた診療所で働くことが嬉しいんですって。 |
ヴェイグ | パトロンも何人か見つかった。これで今まで通り、孤児院の子どもたちの診療も続けられるはずだ。 |
イクス | あの新刊発売イベントで話したことが記事になったのが影響してるのかな ? |
ヴェイグ | ああ、アニーの想いが読者の心を動かした結果だ。 |
ヒルダ | それで、アニーに色々と報告したいんだけどあの子は今どこにいるの ? |
ミリーナ | ふふっ、それがですね——。 |
アニー | ——すぅ、すぅ。 |
ミリーナ | 勉強してたら、いつの間にか寝ちゃったみたいなの。 |
イクス | 起こすのも悪いと思ってそっとしてるんです。 |
クレア | とっても幸せそうな寝顔ね。 |
ヴェイグ | そうだな。ずっと多忙だったんだ。今はゆっくり休ませてやろう。 |
アニー | ん……あれ……、わたし……。 |
ヒルダ | おはよう、アニー。いい夢は見れたかしら ? |
アニー | ヒルダさん ? いけない…… !つい、ウトウトしてしまって……。 |
クレア | 頑張り屋さんね、アニーは。 |
ヴェイグ | ああ、お前なら必ずなれるさ。父親のような、立派な医者にな。 |
アニー | ど、どうしたんですか急に ? |
クレア | ううん、なんでもないの。そうだ、私たちも帰ってきたところだしみんなでおやつにしましょう。 |
ミリーナ | 私も手伝うわ。クレアさんのお菓子作りってとっても勉強になるの。 |
イクス | ああ、ミリーナが作ってくれるお菓子がますます美味しくなっていくから俺も楽しみなんだ。 |
ミリーナ | 私、イクスに喜んで貰えるようにもっともっと美味しいお菓子を作るからね。 |
クレア | それじゃあ、今日はみんなでピーチパイを焼きましょう。 |
アニー | ピーチパイですか。なんだか凄く懐かしい感じがします。 |
クレア | これからはいっぱい作ってあげるわ。医学の勉強の合間にもピッタリでしょ ? |
ヴェイグ | そうだな、甘いものは疲労回復の効果もあるし、勉強も捗るはずだ。 |
ヒルダ | そんなこといってあんたが食べたいだけじゃないでしょうね ? |
ヴェイグ | いや、オレはそんなつもりで言ったんじゃ……。 |
アニー | ふふっ、本当に懐かしいですね。こうやって、また皆さんと行動を共にできるなんて。 |
ヴェイグ | ……ああ、これからも宜しく頼む、アニー。 |
クレア | 頼りにしてるわね。 |
アニー | はい、こちらこそ宜しくお願いします ! |