キャラクター | 1話【音楽祭1 港町ミナール】 |
ヴェイグ | ここがカレギア領の港町ミナール……。オレたちの世界のミナールよりも発展しているようだな。 |
イクス | カレギア領の貿易拠点となっているからかな。そのうえ音楽祭の開催も近づいているからか街の人たちにも活気があるよ。 |
ヒルダ | ミナール初の音楽祭を、特等席で楽しめる。これもニーア・バース先生のおかげね。お供させてくれたことに感謝しないと。 |
ミリーナ | それにしても、街の市長さんから直々に招待をされるなんて。さすがベストセラー作家よね。 |
アニー | も、もう。ヒルダさんもミリーナさんも……わたし、作家としてはもう引退しているんですからね。 |
アニー | 本当は招待も断ろうと思っていたのに……まさか担当編集さん、勝手に出席するって返事しちゃうなんて…………はぁ。 |
カーリャ | ドンマイ、アニーさま !これも有名税ってやつですよ ! |
コーキス | パイセン。それはなんか違くねぇか……。 |
ヒルダ | けど、医療班の仕事で最近ずっと忙しそうだったじゃない。息抜きだと思って楽しんだ方が得だと思うわよ。 |
アニー | せっかくですからね、わたしもそのつもりです。それに……もう今の時点でもこの素敵な演奏で、楽しませてもらってますよ。 |
ヴェイグ | ……軽快で陽気なメロディが聞こえるな。酒場の方からか。 |
クレア | ふふっ。ヒューマたち……この世界で言う人間たちとガジュマたちがセッションしているわね。演奏だけじゃなく、本人たちもとっても楽しそうだわ。 |
ヴェイグ | ……。 |
カーリャ | おぉ、ヴェイグさままで笑顔にするなんてやっぱり音楽の力は偉大ですね ! |
ヴェイグ | ……それはどういう意味だ。 |
クレア | けど、その笑顔は、いい演奏を聴けたからという理由だけじゃないわよね、ヴェイグ ? |
ヴェイグ | ああ……少し安心したのもある。ガジュマたちがこの世界でどう扱われているのか、気がかりだったからな。 |
イクス | 確かにこの世界には存在しなかった種族だから受け入れられているのか心配する気持ちはわかるよ。でも、カレイドスコープの具現化は―― |
ヴェイグ | ……ああ。オレたちの世界が具現化された際にガジュマもティル・ナ・ノーグで生まれるヒトとして定義されたとは聞いていた。 |
ヴェイグ | だがこうして実際に、ガジュマが当たり前のようにこの世界で生きて、受け入れられているのをこの目で見られたことが嬉しい。 |
クレア | ガジュマはもちろんのこと、具現化によってこの世界には、本当に多くの種族のみんなが共に暮らすようになったのよね。 |
ミリーナ | ええ。エルフやハーフエルフやドワーフ。水の民にレイモーンの民。他にも様々な種族がこの世界に生まれるようになったわ。 |
アニー | この街は、世界中のあらゆる種族の移民を受け入れているそうです。だから、こんなに多くの種族が集まっているんですね。 |
ヒルダ | ハーフエルフがいるなら他のハーフもいるかもしれないわね。……私と同じように。 |
アニー | ……ヒルダさん。 |
クレア | 私、この街がとても好きよ。 |
ヴェイグ | ああ。オレもだ、クレア。 |
コーキス | ミトス様やカイウス様たちにも見せてやりたいな。この街をさ。 |
アニー | きっとこのミナールもたくさんの困難を乗り越えて今のような街になれたんでしょうね。わたしたちの旅と同じように。 |
ヒルダ | 何でも、始めは大変だったみたいよ。けど、街の市長が指揮を執り、差別や偏見による問題を少しずつ解決していったらしいわ。 |
アニー | ……この街の市長さんが ? |
クレア | 音楽祭だけじゃなく市長さんに会えるのも楽しみね。どんなヒトなのかしら。 |
アニー | もうそろそろ市長さんとの待ち合わせ場所ですけど―― |
? ? ? | これは困ったことになったな。それでは音楽祭の目玉が……。 |
アニー | えっ……ユージーン ! ? |
ユージーン | そこにいるのは……アニーか ! ? |
ヒルダ | アニーだけじゃないわよ。 |
クレア | お久しぶりです。ユージーンさん。まさかこんなところで会うことになるなんて。 |
ユージーン | ヒルダにクレアさん、そしてヴェイグも。なるほど、ということはやはり……。 |
ヴェイグ | ここで会ったのは偶然ではなさそうだな。 |
ユージーン | そうだ。なにせ作家ニーア・バースを音楽祭に招待をしたのはこの俺だからな。 |
アニー | ということは……ミナールの市長さんはユージーンなの ! ? |
ユージーン | ああ。『雨と共に去りぬ』を読んでまさかと思ったが……本当にアニーだったとは。編集者に無理を言って、来てもらった甲斐があった。 |
アニー | そういうことだったのね……。それにしてもまさかユージーンにも小説を読まれていたなんて……。 |
ミリーナ | 恥ずかしがることないわよ。あんなに素敵な小説なんだから。もちろん、恥ずかしがるアニーも可愛いけどね。 |
ユージーン | おっと。そこにいる四人とは初対面だな。挨拶が遅れた。俺はユージーン・ガラルド。ヴェイグたちと共に旅をしていた者だ。 |
ヴェイグ | 紹介する。二人は鏡士のイクスとミリーナ。その隣にいるのが鏡精のコーキスとカーリャ。この世界で出会った、オレたちの新しい仲間だ。 |
イクス | 初めまして。よろしくお願いします。 |
ユージーン | こちらこそよろしく頼む。だが、鏡精というのは…… ?初めて聞く種族だが……。 |
イクス | ……ユージーンさん。もしかしたらここがユージーンさんがいた世界でないことに気付いていらっしゃるんですか ? |
ユージーン | なるほど……。やはりそういうことか。――詳しい話を聞かせてもらえるか ? |
ヴェイグ | ユージーン、ひとまず落ち着いて話をできる場所に移動しないか ? |
ユージーン | それもそうだな。では俺の執務室まで案内する。そこでゆっくりと雨去りの感想も伝えさせてもらうとしよう。 |
アニー | も、もう。ユージーンったら。 |
ユージーン | ははっ、冗談だ。では、ついて来てくれ。 |
キャラクター | 2話【音楽祭2 トラブル】 |
ユージーン | ……滅びを食い止めるための具現化、か。見たことのない種族のヒトたちがいたのは複数の異世界を具現化したからという訳だったのだな。 |
ユージーン | これでようやく世界の有り様に合点がいった。何らかの幻覚ではと疑ったこともあったが……。 |
イクス | すみません……。俺たちの世界の事情に巻き込む形になってしまって……。 |
ヴェイグ | ……ユージーン。無理にとは言わないがこの世界でも力を貸してくれないか ? |
ユージーン | ああ。もちろんだ。だが少なくとも音楽祭が終わるまではこの街から離れられんだろう。 |
アニー | まさかユージーンが街の市長だけでなく音楽祭の実行委員も務めていたなんて。あまり無理をしすぎないでくださいね。 |
ユージーン | これくらいは王の盾に所属したばかりの頃と比べればどうということはない。心配してくれてありがとう、アニー。 |
アニー | わ、わたしはその……医者として忠告をしたまでですから。もちろんユージーンなら大丈夫でしょうけど。 |
ユージーン | とはいえ、この仕事をやり終えたら俺もしばらくゆっくり休むつもりだ。なにせずっと働き詰めだったからな。 |
ヒルダ | 各大陸同士で交易がはじまってから種族の違いによるトラブルも少なくなかったと聞いているわ。 |
ユージーン | ああ。特にガジュマの獣人という外見的特徴――これは他の地方のヒトにとっては珍しいようでそれが原因となり、誤解される事件もあった。 |
ユージーン | ガジュマは主にカレギア領に住んでいる。他の地方に暮らす者にとって、あまりガジュマが身近な存在ではないから、ということだろう。 |
ユージーン | 知識としてガジュマを知っていても実際に見ると驚くようだ。 |
ヒルダ | カレギア領に来るまでガジュマを見たことすらなければ、誤解してしまうのも悲しいけれど仕方のないことかもしれないわ。 |
ユージーン | だがこの街では、ガジュマと各大陸のヒトたちとも良好な関係が取れるようになってきている。 |
ユージーン | それだけじゃない。種族の違いなど関係ないという考えに賛同し、他の種族からも協力してくれる者たちが集まるようになってきた。 |
アニー | ……ユージーン。もしかして、忙しい中で音楽祭の企画をしたのも……。 |
ユージーン | ……種族の違いで苦しんでいる者たちはヒューマとガジュマだけではないとこの世界に来て、俺は知った。 |
ユージーン | まぁ、ここが異世界であることに確信が得られたのはつい先程であるが……。それでも様々な種族が生きにくさを抱えていたのは確かだ。 |
ユージーン | だからこそ、このミナールで大陸……いや、種族を越えた更なる親睦のため音楽祭を開催しようと思ったんだ。 |
クレア | 音楽はその場にいるだけで大勢のヒトが楽しめる。そして聴くだけじゃなく、共に奏でることもできる。種族を越えた音楽祭……とても素敵だわ。 |
ヒルダ | けど、大丈夫なの ?音楽祭に関して何か困った様子だったけど。 |
ユージーン | ……聞かれていたか。 |
アニー | 何かあったの ? |
ユージーン | そこまで大したことではないが……音楽祭のメインとして企画しているマーチングに関して少々トラブルがあってな。 |
コーキス | マーチングって何だ ? |
ミリーナ | 大勢で、楽器を演奏しながら行進したりするの。パレードみたいな感じを想像してみて。 |
イクス | しかも、ただ行進するだけじゃないんだぞ。曲に合わせてステップとかターンをして耳だけじゃなく視覚でも楽しめる音楽なんだ。 |
ヒルダ | マーチングは華やかさもある。音楽祭のメインとしてはうってつけね。 |
ユージーン | それだけじゃないぞ。マーチング・バンドのメンバーもこの音楽祭のコンセプトに合わせて多種族からなるバンドを企画している。 |
クレア | ヒューマ、ガジュマ、ハーフエルフやレイモーンの民色んな種族のヒトたちによって結成されたマーチング・バンドということね ! |
ヴェイグ | さすがユージーンだな。この話を聞いているだけでも胸が熱くなってきた。 |
ヒルダ | それで、そのトラブルっていうのは ?些細な問題が大事に発展することもある。共有しておいて損はないと思うわよ。 |
ユージーン | いや……バンドのリーダーとここ最近、何故か連絡が取れなくてな。 |
ヴェイグ | ……何かあったということか。 |
ユージーン | 今、部下が直接尋ねに向かっているところだ。ついでにバンドの状況も確認してもらうことになっている。 |
アニー | ……何かあったんでしょうか。他のバンドメンバーの方々も無事だといいですけど。 |
ユージーン | そしてもう1つ。マーチング用に依頼した曲がなかなか完成しなくてな……。作曲家からは「もう少しで完成する」と言われてはいるが……。 |
ヒルダ | アニー、どう思う ? |
アニー | 多分終わってませんね。編集さんによると大抵の作家が言う「もう少しで完成する」は「今から着手する」って意味らしいですから。 |
ユージーン | や、やはりか……。実は俺もそんな気がしていてな。打ち合わせをいれておいて正解だったか。 |
ヴェイグ | 打ち合わせ ? |
ユージーン | ああ。何か悩んでいることがあればその場で聞こうと思っていてな。もう少ししたらその作曲家もやって来るはずだ。 |
イクス | なるほど。けどさすがユージーンさんですね。トラブルはあるみたいですけどもうどっちも対策を打っているなんて。 |
ユージーン | 対策は早く立てた方がいいからな。だがどちらの問題も、その原因がハッキリしないという点がどうも気がかりだ。 |
ヒルダ | …………。 |
アニー | あっ、ヒルダさん……タロットを……。 |
ヒルダ | ……「塔」の正位置。災難や滅亡の暗示。人間関係による争いの予兆……。 |
カーリャ | ひぇぇ ! ! なんですそれ !めっちゃ不吉じゃないですか ! ! |
アニー | ま、まあ……占いの結果は生きる上での道しるべでしかない……ですから、ね ? |
ユージーン | ひ、ひとまず作曲家との打ち合わせに備えるとしよう。 |
カーリャ | ……変な人じゃないといいですけど。 |
? ? ? | じゃりっじゃり~……がりっがり~……。う~~ん、ダメだ。やっぱりしっくりこないや。 |
ヒルダ | 待って。この声は―― |
マオ | あれ ! ? みんな ! !どうしてここにいるの ! ? |
一同 | マオ ! ? |
マオ | わーい ! ユージーンもいる !ひっさしぶり ! !ボクがいなくて寂しくなかった ? |
ユージーン | マオ、一度落ち着いてくれ。どうしてお前がここにいるんだ。 |
マオ | どうしてって決まってるでしょ。打ち合わせに来たんだヨ。 |
アニー | 打ち合わせってことは……マオが作曲家なの ! ? |
マオ | そのとおり ! ……って、厳密に言うとアシスタントなんだけどネ。ところでみんなは何してるの ? |
ヴェイグ | ……打ち合わせの前にまず色々話すことがありそうだな。 |
マオ | けど、その色々話すのも後にしてまずは何か食べさせてよ。ボク、もうお腹ぺこぺこでこれじゃあ話すに話せないヨ。 |
ユージーン | あいにく今は食材を切らしている。しばらく我慢できないか ? |
マオ | え~、そんなの無理だよ !ユージーンってばボクを餓死させる気なの ! ?何か食べないと、これ以上話したくても話せないヨ ! |
コーキス | ……いや、すでにめっちゃ話してるけど。 |
ヒルダ | まったく、うるさいわね。これだからお子様は。仕方ないから、外に行って何か食べながら話すとしましょう。 |
マオ | わーい、やったやった !ヒルダにしては気が利くネ。 |
ヒルダ | ぶつよ。 |
イクス | な、なんだか一気に賑やかになったな……。 |
マオ | それじゃあ街にしゅっぱーつ ! ! |
キャラクター | 3話【音楽祭3 曲のアイデア】 |
マオ | 色々屋台が出てるネ。どれも美味しそうで気になっちゃうヨ !次は何を食べよっかな。 |
アニー | マオ。お腹が減っていたのはわかるけどあまり食べ過ぎると、クレアさんが作ってくれているおやつが入らなくなるわよ。 |
マオ | 大丈夫。おやつは別腹だもん。クレアさんのピーチパイ楽しみだな~! |
ユージーン | ……食べ物のこともいいがイクスたちの説明はちゃんと理解できたのか ? |
マオ | もちろんだよ……ボクが鏡映点ってことでしょ。あ、すみません。ホットドッグ1つくださーい。 |
ヒルダ | まったく……。 |
ヴェイグ | それにしても、まさかマオが有名作曲家のアシスタントになっているとはな。 |
ミリーナ | 作曲のお手伝いまでしてるのよね ? |
マオ | うん。ボクの歌を元に作曲するのがその先生のマイブームなんだって。インスピレーションが掻き立てられるって言ってたヨ ! |
マオ | 有名作曲家の先生にも見込まれるボクの歌の才能、すごいでしょう ? |
アニー | マオの歌の才能というよりマオの歌をちゃんとした曲に仕上げる作曲家の先生の方がすごいと思うけど……。 |
ヴェイグ | それは同意だ。やはりプロの作曲家は違うな。 |
マオ | ちょっと ! ボクのことも褒めてヨ ! ! |
ユージーン | とにかく、マオが曲の原案となるメロディを考えてくれない限りは、マーチングの曲も仕上がらないということか。 |
マオ | そういうこと。けど最近なんだか調子が悪くてさ。 |
ヒルダ | 全然出来上がってないんでしょう。締切があるにもかかわらずこんなところでブラブラして、いい身分ね。 |
マオ | ボクだってサボっているわけじゃないんだヨ !それに、部屋の中に閉じこもっていたって良いアイデアはでてこないんだから。 |
ユージーン | 確かに気分転換も大切なことではあるな。 |
マオ | そうそう、気分転換だヨ !楽しい気分になれば何か閃くかもだしさ ! |
アニー | それは一理あるわね。実際にマーチングを披露するこの街を巡りながらみんなで話していれば良い考えもでてくるかも。 |
マオ | そのとおり ! さあ、久しぶりの再会だし明るく楽しく元気よく、みんな盛り上がって行こう ! ! |
四人 | おーっ ! ! |
四人 | …………。 |
マオ | って、なんで一番話すことがあるはずのヴェイグたちの方が黙っちゃうかな ! ! |
ユージーン | いや……いざ盛り上がれと言われてもな……。 |
ヴェイグ | オレはいつもどおりにしているだけだ。 |
コーキス | ……なぁ。一緒に盛り上がってあげなくていいのか ? |
ヒルダ | 無理して付き合うこともないわ。疲れるだけよ。 |
マオ | あぁ……やだやだ。みんな、暗すぎるよ。これじゃあヴェイグに囲まれているみたい。みんなにも根暗が移っちゃったの ? |
ヴェイグ | …………。 |
アニー | ……マオ。考えてみたんだけど、わたしたちだけで盛り上がるのは厳しいんじゃないかしら。ほら、わたしたちそういうタイプじゃないし。 |
マオ | ……うん。ボクも冷静になってそんな気がしてきた。 |
ヴェイグ | ティトレイがいたら違ったかもしれないがな。 |
ヒルダ | あの男、こういう時に限っていないんだから。 |
マオ | あーあ。誰かもっと話してくれるヒトがいたらな……。 |
ヴェイグ | そういえば、旅の時も同じようなことを言っていたな。 |
ユージーン | 俺もよく覚えている。まあ、話し相手がいなくてもマオは勝手に歌ったりと楽しそうにしていたが。 |
マオ | そう言われてみれば…………あっ ! |
アニー | マオ、どうかしたの ? |
マオ | ちょっと待って !イメージが浮かんできたかも !そう……これは、冒険の曲 ! ! |
コーキス | おっ、なんかよくわからないけどマオ様が閃いたみたいだぞ ! |
アニー | よかった。占いの結果が悪かったからちょっと心配だったけど案外早く解決できたわね。 |
マオ | うん。これもみんなのおかげだヨ ! |
ヴェイグ | オレたちは何もしていないが ? |
マオ | ボク、気がついたんだ。なんだか調子が悪いと思ってたけどこの暗くてどんよりした感じが足りなかったんだって。 |
マオ | あ~、ヴェイグの無口さが懐かしいよ ! おかげで冒険中で歌っていた時の感覚が思い出せてきた !みんな、ありがとうね ! |
四人 | …………。 |
イクス | なんか、ヒルダさんの占いの結果通りだ。この場の空気がピリピリしてきた……。 |
マオ | この空気がボクたちなんだヨ。だから気にしない、気にしない♪ |
ミリーナ | ええっと……。これで、一件落着、かしら ? |
ユージーン | ああ。曲の問題はひとまず解決としてあとは連絡が取れなくなっているバンドリーダーだが―― |
クレア | みんな。ちょっといいかしら ?報告したいことがあるの。 |
マオ | クレアさん ! もしかしてピーチパイが完成したっていう報告 ? |
クレア | ええ。けどそっちは良い報告。残念だけど悪い報告もあるの。 |
ヴェイグ | ゆっくりピーチパイを食べている状況ではなさそうだな。何かあったのか ? |
クレア | それが……今、ユージーンさんの部下の方たちが来てバンドリーダーについて報せてくれたのだけど……。 |
クレア | ……実は数日前にバンドを辞めていたみたい。後任も決まっていないんですって。 |
ユージーン | バンドを辞めただと ? |
クレア | ええ……その他にも数名、辞退したそうです。このままではメンバーが足りないみたいで……。 |
ヴェイグ | ……何故そんなことに。 |
ユージーン | すぐに市長室に戻ろう。そこで詳しく話を聞かせて欲しい。 |
クレア | ええ。わかりました。 |
イクス | よし。向かいましょう。 |
キャラクター | 4話【音楽祭4 一難去って……】 |
ユージーン | ……なるほど。マーチング・バンドのリーダーやメンバー数名が脱退したのはガジュマに対しての恐怖心が原因というわけか。 |
クレア | 脱退したヒトの中には、過去にガジュマの盗賊に襲われたことがあったみたいです。だからか「野蛮なガジュマなんかと演奏はできない」と……。 |
イクス | 野蛮なガジュマって……随分ひどいな……。 |
コーキス | それに、その盗賊とバンドメンバーは同じガジュマでも別人なんだろ ?だったら恨むのはおかしいよ。 |
アニー | ……きっと過去のことが原因で、ガジュマだからと一括に決めつけて見てしまうんですよ。そんなこと、間違ってるのに……。 |
ユージーン | ……アニー。 |
マオ | あーぁ。せっかくボクの歌が閃いて曲作りも動き出したところだったのになぁ。メンバーが足りなきゃマーチングもできないよネ。 |
ユージーン | この人数を集めるだけでもかなりの時間がかかった。今から再募集をかけても間に合うかどうか……。 |
ヴェイグ | 諦めるのはまだ早い。まずは一人でも新しいメンバーを集めるべきだろう。 |
カーリャ | あっ ! アジトに楽器を演奏できる人たちがいるじゃないですか !たとえばジョニーさまとか ! |
ヒルダ | マーチング・バンドは管楽器と打楽器で構成されているのよ。ジョニーが得意なのは弦楽器でしょう。 |
ミリーナ | それにマーチングは体力を消耗するわよね。まだ体調が万全ではないジョニーさんには厳しいんじゃないかしら……。 |
イクス | アークで一緒にバンドを組んだアスベルならドラムの経験があるし打楽器なら頼めるんじゃないか ? |
カーリャ | 今は無理じゃないですかね。アスベルさまはマリクさまと一緒に修行で山に行っていますし。 |
コーキス | リオン様はベースとピアノはできるけど……これもマーチングの楽器じゃないんだよな。 |
イクス | まあ、リオンなら何でもできると思うけど…………うん、断られる未来しか見えない。 |
ユージーン | 楽器の種類は問わん。他に楽器経験者はいないのか ? |
コーキス | ならマスターがいるじゃん !バンドでギターを弾いていたよな ? |
ユージーン | つまり音楽の素養はあるということか。マーチング・バンドには他の楽器で参加することになってしまうが、イクス、頼めるか ? |
イクス | ……俺は、ギターですらかなり頑張って何とかって感じだったから。今から他の楽器を覚えるのは難しいと思う。 |
イクス | それに行進しながら楽器を弾くなんて絶対間違えそうだし……転んで楽器を壊して隊列を崩しちゃうかも知れないし……。 |
イクス | 俺が転んだせいで、前の人も倒れて結局隊列全員が倒れて怪我人が大勢出ることになったら―― |
ヒルダ | これが噂に聞いてた無駄に心配性な部分って訳ね……。 |
ミリーナ | 久々に心配性なイクスも可愛い…… ! |
カーリャ | ――という、いつものミリーナさまはおいといて。 |
クレア | 他には……カノンノさんたちも楽器経験者だったわよね ? |
ミリーナ | ええ、カノンノたちは秋祭りで演奏をしていたものね。もしかしたら頼めるかもしれない。ちょっと後で声をかけてみるわね。 |
アニー | そういえば……ヒルダさん、音楽がお好きでしたよね ?それに、チェロの腕にも自信があると言っていたような……。 |
ヒルダ | ……まあ、そうだけど。よく覚えていたわね。 |
ユージーン | ならヒルダ。やはり別の楽器になってしまうがここはひとつ、バンドに加わってもらえないか ? |
ヒルダ | 私が ! ? |
マオ | ヒルダがやるんだったらボクもやってみようかな ! |
ヒルダ | ちょっと誰もやるとは言っていないでしょ。 |
マオ | ボク、ラッパを吹いてみたいんだ。クレアさんも一緒にやってみない ? |
クレア | そうね。私も楽器には興味があるし何より、この音楽祭を成功させたいもの。 |
クレア | 役に立てるかわからないけど……私にできることは何でもやりたい。 |
ヴェイグ | ……クレア。 |
クレア | そうだ。ヴェイグも一緒にどうかしら ? |
ヴェイグ | ああ。オレもクレアと同じ想いだ。一緒に参加しよう。 |
マオ | えっと……あと必要な人数は……あれ ?アニーとユージーンが加わればもう最低限の人数は揃うんじゃないかな ? |
アニー | わたしもやることは決定なの ! ? |
ユージーン | 待て。俺も参加はしてもいいが市長や実行委員としての職務が―― |
コーキス | だったらそっちこそマスターがやればいいじゃん。そういう机に向かってごちゃごちゃやったり頭使うことならできるだろ ? |
ミリーナ | ええ。それに裏方も必要だものね。 |
イクス | う、うん。人に見られない方の仕事なら大丈夫かな。 |
マオ | はい ! これで問題解決 ! |
ヒルダ | ただ人数が揃ったところでちゃんと演奏ができなきゃ意味ないでしょう。根本的な問題は解決していないわ。 |
マオ | そこでヒルダの出番だよ。ボクたちに演奏の仕方や音楽の基礎を教えてくれない ?ヒルダが楽器の練習をするついでにさ。 |
ヒルダ | ……はぁ。そうくるのね。というか私も参加確定になってるし。 |
マオ | いいじゃん。一緒にやろうヨ ! |
ヒルダ | はいはい。わかったわよ。けど、指導は私なんかじゃなくもっと上手い人に頼んだら ? |
アニー | わたし、ヒルダさんがいいです。タロットの占いもすごくわかりやすく教えてくれましたし。 |
ヒルダ | ……そんなことは。 |
マオ | ほら。アニーもこういっていることだしさ。 |
ユージーン | ヒルダ。頼めるか ? |
ヒルダ | ……わかったわ。ただし、私の演奏指導はカレギア語の指導と同じくらい……いやそれ以上に厳しいわよ。 |
ヒルダ | やるからには徹底的にやる。覚悟はあるかしら ? |
ヴェイグ | ああ。望むところだ。本番までに演奏できるようになってみせる。 |
クレア | ええ。私も頑張るわ。 |
ヒルダ | ならまずは楽器を決めましょう。そうしたらすぐに練習開始よ。 |
マオ | おーっ ! ! |
キャラクター | 5話【音楽祭5 特訓開始!】 |
ヒルダ | それじゃあ一度休憩にしましょう。終わったらまた基礎合奏よ。 |
イクス | みんな、お疲れ様。飲み物をここに置くよ。 |
ミリーナ | ユージーンさん。書類の記入は私たちで終わらせておきました。 |
ユージーン | ありがとう、ミリーナ。なにせずっとバスドラを叩いていたせいで、腕がバテてしまってな。ペンを持てるかも怪しいと思っていたんだ。 |
マオ | ぶっ続けで練習だったもんね。ボクもラッパの吹きすぎで唇がヒリヒリするヨ……。 |
マオ | アニーが調合してくれたリップクリームを塗ろっと。ヴェイグも使ってる ? これよく効くんだよ。ぬりぬり……っと。 |
ヴェイグ | ……はぁ、はぁ。オレは……それより、息が切れて……。 |
マオ | あらら。まあ、ヴェイグが担当しているチューバは金管楽器の中でも一番大きい楽器だもんね。そりゃあ肺活量も必要か。 |
ヴェイグ | そのうえ、重い。 |
ヒルダ | 本番ではスーザというマーチング用の軽いチューバみたいな楽器で演奏してもらうことになっているわ。 |
ヒルダ | まあ、重さは軽減されるとはいえ肺活量が必要なのには変わりないけど。 |
クレア | 私の担当しているフルートも、直接楽器の中に息を吹き込むわけじゃないから、肺活量が必要みたい。ヴェイグ、私と一緒にマラソンで体力づくりよ。 |
ヴェイグ | ああ、クレア。一緒にがんばろうな。 |
マオ | トランペットも肺活量必要かな ? |
ヒルダ | あんたは肺活量より演奏の練習を優先しなさい。 |
マオ | ……はーい。けどまさかラッパってこんなに難しいと思わなかったヨ。指のボタン3つだけだし楽勝だと思ってた。 |
ヒルダ | だからこそ唇の形や、息のスピードで音をコントロールしなくちゃいけない。単純な構造の楽器ほど難しいものよ。 |
マオ | えっ、ということはボクのラッパよりヒルダの担当しているサックスの方が実は簡単だったりするの ! ? |
ヒルダ | まあ、アルトサックスの方が音は出しやすいと言われているわね。 |
ヒルダ | けど、その代わり、複雑な連符があったりはじめは指使いを覚えるのが大変だったりするからどの楽器がラクとは一概には言えないものよ。 |
マオ | そっか……じゃあボクはやっぱりラッパがいいや。なんだかしっくり来るんだよね。 |
ユージーン | トランペット……形は小さいが音は大きくメロディを担当することも多いブラスバンドでの花形。確かに、マオにぴったりの楽器かもしれないな。 |
マオ | えへへ……そうかなぁ。でも、そう言われてみるとみんなも今の楽器がなんだかハマってるよね。 |
ヴェイグ | 皆を導くユージーンがリズム楽器のバスドラ……。マオの言う通りかもしれないな。 |
マオ | ヴェイグはまさにチューバだよね。なんか地味なところとかさ。 |
ヒルダ | けど低音楽器がないと演奏も厚みがなくなってしまう。地味な役とはいえ大切な存在よ。 |
マオ | そっか。確かにヴェイグがいないとなんかしっくりこないし……うん、やっぱりヴェイグはチューバだネ ! |
ヴェイグ | ……褒め言葉として受け取っておく。 |
ヒルダ | クレアのフルートもいいわよね。まさに上品で優雅なお嬢様って感じで。 |
クレア | そんな……お嬢様だなんて。私はただの村娘よ。それに、ヒルダさんの大人っぽさには敵わないわ。 |
アニー | アルトサックスを吹いているヒルダさんなんだか大人の色気がありますもんね。チェロを弾く姿も素敵なんだろうなぁ。 |
ヒルダ | わ、私なんかを褒めても何もでないわよ……。 |
カーリャ | あれ ? ところでアニーさまの楽器はなんですか ? |
アニー | ……わたしは、ドラムメジャーになりました。 |
イクス | ドラムメジャーってことは……アニーがマーチングの指揮者なのか ! ? |
ミリーナ | バンドの先頭でみんなに合図を送ったりするマーチングの中でもすごく重要な役よね ! ? |
アニー | はい……ドラムメジャーはバトントワリングをするんですけど今のバンドには誰もできるヒトがいなくて……。 |
マオ | それで武器が杖のアニーならバトントワリングもできるよねってことで見事、ドラムメジャーに就任したのさ ! |
アニー | はぁ……マオが余計なことを言うから。バトントワリングも簡単じゃないんだからね。 |
ユージーン | だが、俺はお前が適任だと思っている。 |
アニー | そ、そう…… ? |
ユージーン | いや……すまない。プレッシャーをかけてしまったか ? |
アニー | もう、ユージーンったら。さすがにわたしに対して気を使いすぎよ。そんなことはないから安心して。 |
ユージーン | そ、そうか……いや、すまない。 |
マオ | ユージーンってば、また言ってる。 |
ヒルダ | けど、また無茶して倒れないようにね。あんたの頑張り屋なところは良いところだけどたまに心配になるわ。 |
ヒルダ | 練習も大切だけどちゃんと休憩も忘れずに。わかってるわね ? |
アニー | はい。雨去り最終巻を書いていた時のような失敗はしません。心配してくれてありがとう、ヒルダさん。 |
マオ | 休憩も忘れずに……か。やっぱりヒルダってアニーにはちょっと甘いよネ。ボクたちにはすっっごく厳しかったのに。 |
ヒルダ | そ、そんなこと……。 |
クレア | ふふっ……それはアニーがヒルダさんにとって\"妹\"だからじゃないかしら。 |
ヴェイグ | オレたちの仲間には妹に甘い奴が多い。ヒルダもその一人ということか。 |
ヒルダ | さ、さあ。もう休憩時間は終わり。いつまでお喋りしている気かしら。はやく練習に戻るわよ。 |
マオ | ちぇっ。特別扱いがバレて照れてるヒルダをまだからかいたかったのになぁ。 |
ヒルダ | マオ。あんた、体力づくりとして街の周り5周させるよ。さっき一言多かったヴェイグたちもまとめてね。 |
ユージーン | 俺は黙っていたはずだが……。 |
ヒルダ | 連帯責任よ。 |
マオ | ほらー ! やっぱりボクたちには厳しいじゃないか ! ! |
ユージーン | マオ。余計なことを言うな。本当に走らされることになるぞ。 |
マオ | そ、そっか。この後の基礎練習の後にはバンド全員での行進練習があるんだし体力は温存しておかないと。 |
アニー | それじゃあわたしはバトントワリングの個人練習に戻りますね。 |
ユージーン | ああ、頑張れ、アニー。俺たちも気を引き締めて行くぞ。 |
キャラクター | 6話【音楽祭5 特訓開始!】 |
ユージーン | 全体、止まれ ! ! |
一同 | …………っ。 |
ユージーン | よしっ。ようやく行進にもまとまりがでてきた。一度休憩にするとしよう。 |
バンドメンバー達 | ……は、はい。 |
ユージーン | どうした、声が小さいうえ全然揃っていないじゃないか。そんなことでマーチングができるのか ? |
バンドメンバー達 | はいっ ! ! |
ユージーン | ああ、いい返事だ。それでは次の練習時間まで、解散 ! |
ヴェイグ | ユージーンの行進指導は気が引き締まるな。さすがは元王の盾隊長と言ったところか。 |
クレア | 皆からも信頼されているみたいね。練習が終わってからもアドバイスや指導を求められているわ。 |
アニー | ユージーンは面倒見がいいですからね。おかげでバンド内での会話や交流も増えてきた気がします。 |
ヒルダ | まあ、演奏も行進もまだまだ改善の余地があるからこれからが正念場だと思うけれどね。 |
ヴェイグ | ああ。はじめの頃に比べると、行進も揃ってはきたが先程の返事のように気を抜くとすぐ歩幅や速さがズレてしまう。 |
アニー | みんなやる気はあるんですけどね……。ヒューマとガジュマのことで少しトラブルもあったからでしょうか……。 |
マオ | ちょっと、また暗くなってる !もう、結束感だけじゃなく明るさも欲しいよ !助けて、クレアさ~ん ! |
クレア | わ、私 ! ? えっと……一緒に歌でも歌えば明るくなるかしら ? |
ヴェイグ | ……マオ。クレアを巻き込むな。 |
マオ | だってさすがにボク一人じゃ限界なんだもん。この中で一番、根暗度が低いクレアさんに助けを求めるのは当たり前じゃないか。 |
ヒルダ | 根暗度って……。 |
ユージーン | 笑う門には福来る。確かに笑顔は大切だ。 |
マオ | ユージーン ! やっぱりそう思うよね !今こそ笑顔で、ヒルダの占い結果もひっくり返してやるときだよ ! |
ヴェイグ | ……そう言われてもだな。 |
イクス | みんな ! お待たせ !マオがお世話になっていた作曲家の先生からマーチング用の曲が完成したって連絡があったぞ ! |
ユージーン | おぉ、とうとう完成したか ! |
ミリーナ | ええ ! これがその総譜です。 |
ヒルダ | 見せてちょうだい。 |
マオ | うわぁ。おたまじゃくしがいっぱい。ボクにはさっぱりわからないヨ。ヒルダ、どんな感じなの ? |
ヒルダ | ちょっと静かにして……。 |
マオ | う、うん。ごめん。 |
ヒルダ | …………これは。 |
一同 | ……………………。 |
ヒルダ | ……すごくいいわ。この大地や空がどこまでも広がっているように、この曲もとても壮大。 |
ヒルダ | そしてその壮大さに胸が高まる。あんたたちにも早く聞かせてあげたいわ。 |
クレア | そんなに素敵な曲なのね。早く演奏してみたいわ。 |
ユージーン | 音楽好きのヒルダが絶賛するくらいだ。今の俺たちにはわからんが本当に素晴らしい曲なんだろう。 |
マオ | ま、まさかそんなにすごい仕上がりになってるなんて……。ボク、自分の才能が恐ろしいヨ。 |
ヒルダ | あんた、曲の原案を担当したとはいえまだどんな仕上がりかちゃんとわかってないくせに。 |
マオ | まあ、そうなんだけどさ。 |
アニー | もう。マオったらおかしいんだから。 |
クレア | ふふっ……。 |
バンドメンバー | あの。何を話してるんですか ?なんだか随分と楽しそうですけど。 |
ヒルダ | マーチング用の曲が完成したのよ。あんたたちも総譜を見てみて。 |
バンドメンバー | …………こ、これは。すごくいい曲ですね ! |
バンドメンバー | そうなのか ! ? 俺にも見せてくれ ! |
ガジュマのバンドメンバー達 | …………。 |
ユージーン | お前たちも、気になっているなら一緒に見たらどうだ ? |
ガジュマのバンドメンバー | いや……俺たちは後でいいですよ……。なんだか悪いですし。 |
ユージーン | 本当にそう思っているようには思えんな。もちろん、お前たちが気後れしてしまうのはよくわかる。 |
ユージーン | だが遠慮なんて必要ないんだ。相手側も……きっとそれを待ち望んでいるはずだ。 |
ヒルダ | 少なくともここに残ったメンバーは信頼してもいいんじゃないかしら。 |
ユージーン | 俺たちは、同じバンドの仲間なのだからな。 |
ガジュマのバンドメンバー達 | …………仲間、か。 |
ガジュマのバンドメンバー | えっと……みんな。俺たちにも総譜を見せてもらっていいか ? |
バンドメンバー | 当たり前だろ ! 突っ立ってないではやく見てくれよ ! これ、本当にいい曲なんだ ! |
バンドメンバー | って、おい。ちょっと押し付けがましいぞ。 |
ガジュマのバンドメンバー | ……ふふっ。そんなこと気にしてないわよ。 |
マオ | ね、言ったでしょ。「笑う門には福来る」だって。 |
ヴェイグ | それを言ったのはユージーンだ。……だが、マオの言っていた笑顔の力は本当に未来を変えるのかもしれないな。 |
マオ | だからみんなもポジティブに、だヨ。 |
アニー | そうね。きっとそう過ごしていれば案外すぐに結束感や明るさもでてくるかも。 |
ヒルダ | とはいえ、そう簡単ではないと思うけど。あの微妙に探り合っている様子だとね。 |
ユージーン | 少しずつ、互いに歩きやすい歩幅を見つけていけばいいんだ。マーチングと同じな。 |
クレア | あら。もう休憩時間が終わりだわ。本当に、楽しい時間はすぐ過ぎるのね。 |
ユージーン | さあ、みんな。いい気分転換になっただろう。そろそろ練習を再開するぞ。 |
ユージーン | 行進の基礎練習が終わったらいよいよ合奏練習だ。そしてマーチングの衣装もそろそろ届く頃だろう。 |
ミリーナ | はい。今、カノンノたちが練習の合間を縫ってデザインを考えてくれてます。 |
ユージーン | それらを楽しみに行進練習ももう一踏ん張りだ。全員、いいな ? |
一同 | はいっ ! ! |
ユージーン | では練習再開だ ! |
キャラクター | 7話【音楽祭8 不協和音】 |
マオ | 本番も近づいてきたことだしユージーンの三つ編みもボクがチョキチョキして整えてあげるヨ ! |
ユージーン | ああ。久しぶりに頼む。演奏やパフォーマンスだけじゃなく身だしなみも大切だからな。 |
ユージーン | 本番には他の大陸からも取材が来ると聞いている。 |
クレア | 「種族を越えたマーチング・バンド」として音楽の評論家たちに注目されているのよね。いつの間にか、有名になったものだわ。 |
ヒルダ | けど期待され過ぎな気もするわね。期待が高ければ少しのミスであっても酷評されてしまう。 |
ヒルダ | それにバンドの雰囲気はだいぶ良くなったけど一部のメンバーは本調子じゃないみたいよ。 |
アニー | あっ、バトンが……。よし……もう一度。 |
ヒルダ | あの子も含めてね。 |
アニー | えっ ? 何の話ですか ? |
ヒルダ | アニー。ちょっとこっちに来なさい。よく顔をみせて。 |
アニー | ど、どうしたんですか ?さすがにそこまでジロジロ見られると恥ずかしいですよ……。 |
ヒルダ | ……顔色や肌は問題ない。むしろ羨ましいくらい健康。また頑張りすぎて、寝不足とかではないみたいね。 |
アニー | 医者の不養生のようなことはしませんよ。無理はしないってヒルダさんとも約束しましたから。 |
アニー | さっきも別のことを考えてしまってちょっと集中が途切れただけですよ。 |
マオ | 別のことって、今日の晩ごはんとか ? |
ヒルダ | あんたじゃないんだから……。 |
アニー | えっと……皆さんになら話しても大丈夫だと思うので、伝えておきますね。 |
アニー | 実は……先日、街中で「ガジュマに音楽という繊細な芸術ができるはずがない」と小馬鹿にして笑っているヒトたちがいたんです。 |
マオ | まーたガジュマがなんだって話かぁ。もうホント、嫌になっちゃうよネ。 |
ヒルダ | 冗談のつもりなのかもしれないけど全く面白くないわね。いったいどんな奴らだったの ? |
アニー | たぶん、脱退した元メンバーです。話の内容から明らかにわたしたちのバンドのことを揶揄していましたし、楽器ケースも持っていたから。 |
ユージーン | つまりは、自分たちの去ったバンドが注目を集めたゆえの嫉妬みたいなものか。 |
ヴェイグ | 呆れてものも言えんな。 |
ユージーン | ……待て。ということは他のバンドメンバーも……。 |
ヒルダ | 本調子じゃない原因がわかったわね。 |
クレア | ……アニーも嫌な思いをしたわね。なかなか忘れられないのも無理はないわ。 |
アニー | ……はい。なんだかすごく悔しくてもうその場で言い返してやりたかったぐらいです。 |
マオ | ガツンと言い返してやればよかったじゃん。 |
アニー | 些細な言い争いからまた大事に発展しかねないと思ったの。 |
アニー | それに、そんな悪意のあるヒトたちに心を乱されるのもなんだか負けた気がして。 |
ヴェイグ | ……それも一理あるな。アニー、辛かっただろうがよく我慢した。 |
アニー | はい。せっかくバンドもいい雰囲気になってきましたから。 |
アニー | ……「笑う門には福来る」皆さんとは楽しく過ごした方がいいと思うんです。 |
ユージーン | …………アニー。 |
マオ | それもそうだネ。きっとこの前みたいに笑顔の力で乗り越えられるヨ ! |
クレア | ええ。まだ本番まで練習時間もあるもの。行進やパフォーマンスのときのようにきっと演奏もどんどんよくなっていくわ。 |
ヒルダ | ……ユージーン。ひとまず様子を見るとしましょう。 |
ユージーン | ああ。そうだな。 |
マオ | それじゃあ練習はちょっとお休みして次はレクリエーションだネ !イクスたちも手伝ってくれる ? |
イクス | もちろん。何かやりたいことがあるならなんでも言ってくれ。 |
マオ | よーし、それじゃあ思いっきり楽しむぞ ! |
キャラクター | 8話【音楽祭8 不協和音】 |
ヒルダ | …………ハッキリと言っていいのね ? |
ユージーン | ああ。先程の合奏……ヒルダはどう思ったかを聞かせてくれ。 |
ヒルダ | 微妙ね。悪くはないけど良いとも思えない。今のバンドの実力ならもっといい演奏ができるはずなのに。 |
ヴェイグ | つまり……依然として本調子ではないということか。 |
マオ | そんな ! ボクたちの笑顔の力はどうしちゃったの ! ?これじゃあヒルダの占い結果の通りになっちゃうヨ ! |
アニー | さすがは塔のカード……。一筋縄ではいかないようですね。 |
マオ | こうなったら練習は置いておいて気分転換にみんなで遊びにでも行こうよ。ピクニックとかキャンプとかさ。 |
ヴェイグ | 確かに、気分転換も大切だが……。 |
ユージーン | …………。 |
クレア | どうする ? 早く呼びかけないとみんな帰ってしまうわ。 |
ユージーン | …………わかった。ここは俺に任せてくれ。 |
アニー | ……ユージーン ? |
ユージーン | みんな ! そのまま聞いてくれ !話しておきたいことがある ! |
バンドメンバー | ははっ。またマオのレクリエーションですか ? |
マオ | ビンゴ ! ! |
ユージーン | いや。そうではない。 |
マオ | えっ、違うの ! ? |
ユージーン | この中にも街で耳にした者はいるだろう。元メンバーらしき人物が、ガジュマの演奏家を俺たちの仲間を、揶揄し、嘲笑っている件についてだ。 |
ヴェイグ | ユージーン ! ? |
バンドメンバー | ちょっと待ってくれ !そんなことがあったのか ! ? |
ガジュマのバンドメンバー | ユージーンさん。そんな大事のように話さなくても―― |
ユージーン | いいや。これは大問題だ。このせいでお前たちの演奏が本調子じゃないと俺たちが気づいていないと思ったか。 |
バンドメンバー | 元メンバーってことは辞めていったあいつらか……。ユージーンさん、何があったんだ ? |
ユージーン | 彼らはこう語っていたという。「ガジュマに音楽という繊細な芸術ができるはずがない」と。 |
バンドメンバー達 | ! ! |
ガジュマのバンドメンバー | 気にしてませんよ。それに陰口叩かれているのは俺たちだけじゃないですから。 |
ドワーフのバンドメンバー | ドワーフは職人気質だからか演奏がみみっちくていけないとかみみっちいこと言われてますからね。 |
レイモーンの民のバンドメンバー | レイモーンの民の演奏は、突然自己主張が激しくなる、とかも聞いたぜ。 |
ガジュマのバンドメンバー | ……けど。そんなことも笑い飛ばして俺たちはこのバンドで音楽をやっていこうと決めたんです。 |
ガジュマのバンドメンバー | 繊細な演奏ができないって言われても繊細じゃない俺たちは傷つきませんよ……なんてな ! |
クレア | それは違うわ。あなたたちは繊細な感性を持っている。それだけは否定しちゃいけないわ。 |
クレア | 繊細な演奏が苦手であってもあなたたちは、力強く壮大な演奏で大勢のヒトを魅了することができるわ。 |
クレア | そんな魅力的な演奏がヒトの心を動かす演奏ができるのは紛れもなく、繊細な感性を持っている証拠じゃない。 |
クレア | ガジュマのヒトたちだけじゃない。ドワーフもレイモーンの民もハーフエルフや天族も……種族なんて関係なく、みんな同じよ。 |
クレア | だって音楽は、心で心を響かせるものだから。 |
ユージーン | お前たちは困難を笑い飛ばすことができる。これは間違いなく、お前たちの強さだ。 |
ユージーン | だが、時には真っ向から受け止め蹴散らしてやることも大切だと俺は考えている。 |
ユージーン | 何故なら、お前たちが心の奥で抱えている怒りや憎しみ……その感情もお前たち自身だ。自分の心を、蔑ろにするのは違うと思うぞ。 |
ガジュマのバンドメンバー | …………。 |
ユージーン | 俺は悔しい。こんなことを言われて心のそこから悔しいと思っている。 |
ヒルダ | それは同意ね。 |
アニー | はい ! わたしも同じです ! |
バンドメンバー | 俺たちも同じだ !仲間を馬鹿にされるのは……やっぱり許せないよ ! |
ガジュマのバンドメンバー | みんな……ありがとう。俺たちのために、怒ってくれて。 |
ヴェイグ | もう足並みは揃っている。あとは共に奏でるだけだ。 |
ユージーン | 楽しいだけが音楽じゃない !見返してやろうじゃないか ! ! |
ユージーン | 俺たちのできる最高の演奏で ! |
一同 | はいっ ! ! |
マオ | ……楽しいだけが音楽じゃない、か。確かにそれもボクたちらしいかも。 |
ユージーン | 本番までラストスパートだ !気合をいれていくぞ ! ! |
キャラクター | 9話【音楽祭9 ミナール・マーチング・バンド】 |
イクス | もうすぐ本番か。なんだか俺まで緊張してきたよ。 |
ミリーナ | カレギア音楽祭は好評みたいだしラストのマーチングも期待が高まってるみたいね。 |
カーリャ | カーリャも楽しみですよ ! |
コーキス | あっ、マスター !みんな衣装に着替えてきたみたいだぞ ! |
マオ | どう ! ? カッコいいでしょ ? |
クレア | そうね。みんなよく似合っているわ。 |
ヴェイグ | ああ。それに身が引き締まる。 |
ヒルダ | カノンノたちが練習の合間を縫ってデザインしてくれたのよね ? |
P・カノンノ | うん。けど私たちだけで考えたわけじゃないんだ。 |
カノンノ・G | なかなかデザインが決まらなくて困っていたんだけどそうしたらユージーンさんが相談に乗ってくれたの。 |
カノンノ・E | そうしたらすごくいい意見をもらえてあっという間に、決まったんだよね。 |
マオ | そうだったんだ !さすがオシャレさんなユージーンだネ ! |
ユージーン | 俺は少しアドバイスをしただけだ。素敵な衣装をありがとう、三人とも。 |
三人 | こちらこそ ! |
アニー | ………………。 |
ヒルダ | アニー。さっきからずっと黙っているけど……大丈夫 ? |
アニー | はい。ちょっと緊張をしてきたので練習の日々を思い出しながら深呼吸していただけですから。 |
クレア | 私たちだって緊張するもの。ドラムメジャーのアニーならなおさらよね。 |
アニー | けど、それと同じぐらいワクワクします。 |
マオ | あれからたくさん練習してみんなすごく上達したもんネ。 |
アニー | うん。それをこれから見せつけることができる。そう考えると、緊張もするけどワクワクもしてくるんです。 |
クレア | ええ。そうね。むしろこの緊張も心地良いくらいに思えてくる。なんだか燃えてくるわ。 |
ヒルダ | ふっ。クレア、あんたってやっぱりタフよね。 |
アニー | よし。まだ少しだけ時間ありますよね。わたし、最後にバトントスの確認がしたいのでちょっと練習場に行ってきます。 |
ユージーン | 待て、アニー。 |
アニー | ……ユージーン ? |
ユージーン | 不安や緊張と真っ向から戦う強さ。その強さをくれるものは色々ある。練習ももちろんその1つだ。 |
ユージーン | だがお前に……いや、俺たちに今、最もその強さをくれるものは練習場にはない。 |
アニー | 最もその強さをくれるもの……。 |
ユージーン | それは何か。元の世界で俺たちと旅をしてきたアニーなら、わかるはずだが ? |
アニー | もしかして…………絆 ? |
ユージーン | 質問に質問で返すのは感心せんな。 |
ユージーン | だが、そのとおりだ、アニー。 |
ヴェイグ | 今はオレたちだけじゃない。このバンドのメンバー全員の絆がある。 |
マオ | よーし ! なら、もう練習はここまで !最後にみんなで円陣を組もう ! |
クレア | みんな、集まって ! |
マオ | ほらほら。ヴェイグもヒルダもそんな端っこで恥ずかしがってないでこっちに来てよ。みんな待ってるんだから。 |
ヒルダ | 別に恥ずかしがってるわけじゃ……。 |
ヴェイグ | たまにはいいんじゃないか? |
ユージーン | では全員揃ったところで、アニー。掛け声を頼む。 |
アニー | わ、わかりました。えっと…………こほんっ。 |
アニー | ミナール・マーチング・バンド、いきますよっ ! ! |
一同 | オーッ ! ! |
キャラクター | 10話【音楽祭10 共に生きるということ】 |
ユージーン | 細かい話は抜きだ !ミナール・マーチング・バンドそしてカレギア音楽祭の大盛況を祝して―― |
一同 | 乾杯ッ ! |
マオ | うわぁ ! 豪華な料理がこんなにたくさん !これって夢じゃないよネ ! ?いきなりなくなったりしないよネ ! ? |
ミリーナ | 安心して。夢じゃないわよ、マオ。たくさんあるから焦らないでね。 |
イクス | カイウスやジーニアス……他にも色んな人たちから差し入れが届いてる。こんなに食べ切れるかな。 |
コーキス | マスター。その心配はないと思うぞ。 |
カーリャ | マオさまとカーリャも甘くみられたものですね。 |
マオ | そうそう。それにティトレイの分もボクが食べておいてあげる予定だからネ。これくらいは楽勝さ。 |
ヒルダ | ……はぁ、おいしいわ。 |
アニー | ヒルダさん、ちょっと頬が赤いですね。もしかして、今飲んでいるのもお酒ですか ? |
ヒルダ | 差し入れにあった琥珀心水よ。それも年代ものの名柄。滅多にお目にかかれない一品よ。 |
アニー | つまり高級品ってことですか。まさかそんなものまで届いているなんて。 |
クレア | それだけ多くのヒトたちがこの音楽祭を楽しんでくれたのね。 |
ヴェイグ | アジトの仲間、音楽評論家だけじゃなく大陸や種族を越え、この音楽祭に来てくれた皆にオレたちの演奏が届いたというわけか。 |
クレア | ピーチパイを美味しいと思う心と同じ。素晴らしい演奏に感動する心にも違いはないのよ。 |
ヴェイグ | ああ。そういうことだろうな。 |
アニー | ユージーンが企画してくれた種族を越えた音楽祭。無事に成功させることができてよかったです。 |
マオ | ユージーンの仕事もこれで一段落だネ、お疲れ様 ! |
ユージーン | いや、そのことなんだが……新しい市長に今までの仕事は引き継いだもののアドバイザーを頼まれていてな。 |
ヴェイグ | 引き受けたのか ? |
ユージーン | ああ。どうしてもと言われてな。 |
ユージーン | それに……俺はこの街の行く末を見届けたいと思っている。多くの種族が集まる、このミナールの。 |
ヒルダ | そうね。私も興味があるもの。 |
アニー | きっと、ユージーンやヒルダさん……ううん、わたしたち全員が思い描いている街にきっとなれますよ。 |
ヴェイグ | この世界に来て、種族の問題の根深さを知った。 |
クレア | けど、同時に、種族に違いはないこと皆、心は同じだというのもよくわかったわ。 |
ユージーン | ああ。だからこそ、まずはこのミナールから皆が共に生きることができると証明していきたい。 |
ユージーン | 種族の問題に苦しむ全てのヒトが、救われるように。 |