キャラクター | 1話【大樹の精霊1 アセリア領の樹】 |
ラタトスク | ここは……どこだ…… ? 寒気がする……。 |
? ? ? | ユアン……どこ…… ? |
ラタトスク | 誰だ ! ? |
? ? ? | ……あなたは……ラタトスク…… ? |
ラタトスク | 何だ、お前は…… ? |
? ? ? | 私…… ? 私は……何…… ? |
ラタトスク | 俺が聞いてるんだ ! お前は―― |
ラタトスク | うわぁっ ! ? |
? ? ? | また失敗か……。今度こそ上手くいくと思ったのに……。 |
ラタトスク | 何だ……この声は…… ? |
? ? ? | いや……いや……死にたくない…… !死にたくな―― |
ラタトスク | うわああああああああっ ! ? |
ユアン | これが世界樹……ユグドラシル…… ? |
ダオス | ……貴様は、アスガルド帝国の者……ではないようだな。ならば立ち去るがいい。 |
ユアン | 何者だ ? |
ダオス | ………………。 |
ユアン | 失礼した。私はユアン・カーフェイ。この大陸にもう一つの大樹があると聞いてここへ来た。貴公はこの樹に詳しいのだろうか。 |
ダオス | もう一つの大樹……。カーラーンと呼ばれている方の大樹か。 |
ユアン | そうだ。その……私の故郷にも同じような大樹があった。私は故郷に帰るための手がかりを探している。 |
ダオス | ――この樹はユグドラシルでありカーラーンだ。私はこの樹をカーラーンと呼んでいる。もう一つの大樹のことは知らぬ。 |
ユアン | それは、この樹に二つの名前があるという意味だろうか。ユグドラシルとカーラーンと……。 |
ダオス | ユアンとやら。貴様が求める答えは黒衣の鏡士とその郎等共が知っているだろう。 |
ユアン | 黒衣の……鏡士…… ?この世界――国を混乱に陥れている魔女か。 |
ダオス | 我が名はダオス。あの者たちに出会ったら、私の名を告げるといい。 |
ユアン | 貴公は黒衣の鏡士の仲間か ? |
ダオス | 違う。しかしまるで知らぬと言うこともない。 |
ユアン | ? |
ダオス | 大樹カーラーン――ユグドラシルがざわめいた。故にここへ来た。 |
ダオス | しかし大樹に変わりはないようだ。であれば……もしや……。 |
ユアン | な、何だ ? 何を言っている ? |
ユアン | ―― ! ? |
ユアン | ……どうやら招かれざる客のようだ。貴公、心当たりはあるか ? |
ダオス | ……アスガルド帝国の愚か者共だろう。このところ大樹の周りをうろついていた。 |
帝国兵A | そこをどけ !ただいまより、この樹の周辺一帯の土地はアスガルド帝国軍が接収する ! |
ダオス | この世界でも大樹を枯らそうとするつもりか醜い人間共 ! |
ユアン | ! ! |
帝国兵A | 邪魔立てするなら捕らえるまでだ ! |
ダオス | フ、愚かな……。 |
ユアン | 話は見えぬが、大樹を枯らすというならば見過ごすわけにはいかない。助太刀しよう ! |
帝国兵A | たかだか二人で帝国軍に逆らうか !後悔することになるぞ ! |
キャラクター | 2話【大樹の精霊3 大樹の元へ】 |
? ? ? | お前なんか……生まなければ……よかった……。 |
ゼロス | ―― ! ? |
マーク | ……お ? 起こす前に起きたな。うなされてたから心配したぞ。 |
ゼロス | ……あー。可愛いハニーたちに襲われる夢を見ちまってな。そうか、通信当番だったのに寝ちまったのか。 |
マーク | 昼飯食いすぎたんじゃないか ? |
ゼロス | 毎度のことながらヴィクトルのメシは美味いからな。ちっと食べ過ぎて胸焼けしちまったのかも……。 |
マーク | ……ということにしておくから、悩みがあるなら解決した方がいいんじゃねぇの ?バレンタインの辺りから、考え込むことが増えてるぜ。 |
ゼロス | ドキ☆ マーくん鋭い ! |
マーク | あー、はいはい。踏み込まれたくねぇのな。わかったわかった。 |
ダオス | 鏡精、いるか。 |
マーク | おっと、ダオス陛下から連絡とは珍しいな。どうされたんです ? |
ダオス | 鏡映点らしき男を見つけた。拾いに来るがいい。 |
二人 | ! ? |
フィリップ | この奥だったよね。世界樹ユグドラシルがあるのは。 |
マーク | ああ。しかし帝国の連中が世界樹に手を伸ばしてくるとはな。どういうつもりなんだ。 |
クラトス | クレスたちの世界でも、大樹――世界樹はマナを生む樹だという話であった。 |
クラトス | この世界ではエンコードによってキラル分子を生み出しているのだろう。だとすればそれが狙いではないか ? |
フィリップ | 帝国がその気なら、キラル分子の獲得方法は他にいくらでもある。世界樹を狙うとしたら別の理由じゃないかな……。 |
ゼロス | なあ、マジでこの先にいるのって『あの』ユアンなのか ? |
クラトス | わからぬが、世界樹に興味を持つユアンという名の鏡映点と聞けば『あの』ユアンだと思うのは当然ではないか ? |
マーク | 少なくともダオスがユアンって名前を出したのはゼロスも聞いてただろ ? それとも何か ?クラトスだけじゃなくてユアンって奴も苦手なのか ? |
マーク | 確か砂漠で干からびた電気クラゲとか言ってたよな ? |
ゼロス | そう呼んでたのはミトスの方でしょーよ。まあ、苦手って言うか……。 |
クラトス | バツが悪いか。 |
ゼロス | ……あんたに言われたくねぇな。 |
クラトス | この際、はっきりさせてはどうだ。 |
ゼロス | うるせーな。ほっといてくれ。 |
フィリップ | あ、あの、クラトスさんもゼロスさんも仲良くとは言いませんがその……争うことはないのではと……。 |
クラトス | ……すまない。気を遣わせてしまった。 |
ゼロス | あー……。悪かったよ。俺さまも色々とナーバスなんでな。 |
マーク | ――おっと、そろそろ世界樹ユグドラシルに着くぞ。 |
マーク | しかし不思議な偶然だよな。ミトスやマーテルのファミリーネームと同じ名前の樹だなんてよ。 |
クラトス | クレスたちの世界と我々の世界は極めて近しい距離にある並行宇宙なのではないかとリフィルは推測していたな。 |
ゼロス | クレスの世界には、マーテルって名前の精霊もいたんだろ ? 妙な符合もあるもんだよな。 |
ゼロス | つーか、だとしたら、マーテルって精霊も具現化されてるんじゃねぇのか ? |
フィリップ | ……もしかしたら、それが帝国の狙いなのかな。 |
クラトス | 精霊マーテルの捜索……或いは確保、か。 |
マーク | ……なあ、木の根元に倒れ込んでる男がいるけどあれがユアン、か ? |
クラトス | ……どうやらそのようだ。 |
ゼロス | つーか、あいつ、何であんなところで倒れてんの ? |
クラトス | 怪我をしているようだ。それで気を失っているのかも知れぬ。 |
マーク | ダオスの奴、「ユアンという鏡映点を回収しろ」としか言わなかったからな……。 |
マーク | とりあえずあいつはクラトスとゼロスに任せる。ケリュケイオンに運んでくれ。 |
マーク | 俺とフィルは、救世軍を派遣するための手筈を整える。帝国が精霊を狙ってるなら放置するわけにはいかねぇからな。 |
クラトス | 了解した。 |
ゼロス | やれやれ、眠れる森のユアン様ってか。 |
キャラクター | 3話【大樹の精霊4 テセアラ領の樹】 |
ミトス | ねぇ……。やっぱり姉さまは帰らない ?これだけ人数がいれば、戦力は十分だよ。 |
マーテル | 確かに戦力という考え方をすればその通りだけれど私はラタトスクの役に立ちたいの。彼には元の世界で助けてもらったわ。その恩返しがしたいのよ。 |
ミトス | ……その上、弟が手ひどく裏切ったしね。 |
マーテル | ……ミトス。私はあなたを今でも愛しているし何があっても守ると決めているわ。でも、あなたの過ちはあなたにしか償えない。 |
マーテル | 私がラタトスクを助けたいのはあくまで私個人の思いからよ。 |
ミトス | 姉さま……。 |
ロイド | マーテルさんって厳しいなあ。リフィル先生みたいだ。 |
リフィル | あら、どういう意味かしら。 |
ロイド | 別に悪い意味じゃないぞ。ちょっと怖いけど……。 |
マーテル | まあ……。 |
ロイド | でも、よかったな、ミトス。悪くないなんて言われるよりずっといいって俺は思うぜ。 |
ミトス | ………………。 |
しいな | 話は変わるけど……ラタトスクの奴どうしちまったんだろうね。眠ったまま目覚めないなんて……。 |
コレット | うん……。それにすごく苦しそうな息づかいだった。アニーたちは身体に異常はないって言ってたけど……。 |
プレセア | ……やはり精霊、だからでしょうか。でもミラさんもセルシウスさんも、天族や聖隷の皆さんも何も……変わったところはないようでした。 |
リフィル | そうね。だからこそ、クラースが指摘した通り大樹カーラーンとの繋がりが関係していると考えるのが自然だわ。 |
リフィル | 大樹カーラーンは死鏡精に巣くわれていたりエンコードでカノンノたちの世界の世界樹の要素が加えられたりして、元の樹からは変質している。 |
リフィル | もしかしたらそういったことが関係しているのかも知れないわね…… |
ジーニアス | マルタも心配してたからボクたちで何とかしてあげないとね。そうでしょ、ミトス ? |
ミトス | あ……うん……。そうだね。 |
しいな | なあ、ミトスって……ジーニアスとあたしたちとじゃ全然態度が違わないかい ? |
ミトス | ……しいなだってロイドとゼロスとでは全然態度が違うでしょ。 |
しいな | ! ? |
プレセア | 人には……受け入れられること受け入れられないこと……。許せることと……許せないことがあります。 |
プレセア | 私もそうだし、ミトス……さんもそう。だからみんなに同じ態度をとるなんて……きっと無理なんです。 |
プレセア | それでも……同じ世界で生きられる……。そうですよね、ロイドさん。 |
ロイド | うん。俺は、世界ってそういうものなんじゃないかって思ってるよ。嫌いな奴もむかつく奴も、お互いに共存するっていうか……。 |
ロイド | だって俺が嫌いだからって、嫌いな奴を追い出すなんてなんか気持ち悪いだろ。俺が嫌いな奴のことを好きだって思う奴だっているかも知れないんだし。 |
マーテル | ふふ……。ロイド。あなたは不思議な子ね。それは当たり前のことで、でも人はその当たり前を自分の都合で簡単に曲げてしまえる。 |
マーテル | やっぱりあなたはどことなくミトスに似ているわ。 |
ミトス | 似てないよ。ボクはそんな偽善ぶった考えは捨てたんだから。 |
マーテル | 捨てたということは持っていたという事よ。それに捨てたものはまた拾えるんじゃないかしら。 |
ミトス | ………………。 |
ロイド | ………………。 |
リフィル | ……みんな、そろそろ大樹カーラーンにつくわよ。まずは何をするんだったかしら ? |
ジーニアス | 二人一組で、樹の周辺を調査するんだよね。 |
リフィル | ええ。それぞれの視点で気になったことを調べて持ち寄るのよ。ラタトスクとエミルのために頑張りましょう。 |
ロイド | ……なあ、ミトスもやっぱり姉さんには甘えるんだな。 |
ミトス | ……何 ? |
ロイド | だって、マーテルさんの言うことに一々反抗したりありがとうって言えなくて、文句言ったりさ。 |
ミトス | いつ、ボクが姉さまに文句を言ったんだよ。 |
ロイド | えーと、弟が手ひどく裏切った……とか何とか。あれって結局、マーテルさんに迷惑かけてごめんありがとうって言いたかったんだろ。 |
ロイド | ジーニアスもそういうところがあるから弟ってそんな感じなのかなって。 |
ミトス | ……ボク、本当にお前が嫌いだ。 |
ロイド | 俺だってそうだぞ。元の世界でお前がやったことは絶対に許せないからな。でも……許せないけど……いつか同じ方向を見られればいいなとは思うよ。 |
リフィル | ロイド、ミトス !すぐに戻ってきて。マーテルが倒れたの ! |
二人 | ! ! |
キャラクター | 4話【大樹の精霊5 合流】 |
ユアン | …………ここ……は……。 |
クラトス | ……目が覚めたか。 |
ユアン | ――ク、クラトス ! ? 貴様、何故ここにいる ! ?いや、待て。ここはどこだ ?まさかここはデリス・カーラーンなのか ? |
クラトス | ここはケリュケイオンという、空を飛ぶ乗り物の中だ。少し長い話になるが、我々の状況を説明しよう。 |
ユアン | ………………何を……言っている ? |
クラトス | ……ありのままを話したつもりだが。 |
ユアン | ここが異世界で、我々が具現化なる技術で写し身として存在していることはわかった。 |
ユアン | しかし……ここにはマーテルもミトスもいるというのか ? |
クラトス | ……その口ぶり。お前はどうやら我々より未来の時間軸――恐らくミトスが死んだ後から来たようだな。 |
ユアン | ! ! |
クラトス | いや、ミトスだけではない。その時間軸には私もいないのだろう。私は……死んだか。オリジンの封印を解いて。 |
ユアン | ……そうではない。お前は死ななかった。 |
ユアン | ――いや、この話はやめよう。写し身が元の世界の未来を話して何になる。だが……。 |
ゼロス | ――おっさん二人で深刻そうな顔して話してるとこ悪ぃけどミトスからヘルプが来てるぜ。クラトス宛に。 |
二人 | ! ! |
ゼロス | マークたちを置いたままケリュケイオンを動かすわけにはいかねぇし自力で飛んでいくしかねぇかもな。 |
ユアン | どこへ行くというのだ。ミトスは……何故助けを求めている ? |
ゼロス | マーテル様が倒れたらしくてな。その前にはラタトスクも倒れたとかで、樹の精霊に何か問題が起きてるんじゃないかって言うんだよ。 |
ユアン | ! ! |
クラトス | ミトスたちはどこにいる。 |
ゼロス | テセアラ領の大樹カーラーンにいるらしい。行くなら、俺さまも同行させてもらうわ。ロイドくんたちも一緒にいるらしいんでな。 |
クラトス | ユアン、お前はどうする。 |
ユアン | もちろん共に行く。……そうするしかあるまい。 |
ミトス | 姉さま……大丈夫 ? |
マーテル | ええ、大丈夫。みんなもごめんなさいね。急に倒れてしまって、驚いたでしょう ? |
ロイド | そんなのいいけど、どうしたんだ ?どこか具合でも悪いんじゃ……。 |
マーテル | いいえ、そうじゃないの……。でも、不思議な体験をしたのよ。私……精霊の声を聞いたの。 |
一同 | ! ? |
リフィル | 精霊の声 ? どんな精霊 ?なんて言っていたのかしら。 |
リフィル | 矢継ぎ早にごめんなさい。でも、なんだか気になるわ。 |
マーテル | はっきりとはわからないけれど、私と同じ名前だと言っていたから、精霊マーテルじゃないかしら。確か、ミントの世界の精霊よね。 |
ユアン | ……それは、本当か ? |
二人 | ! ? |
マーテル | ユア……ン…… ? ユアンなの…… ? |
ユアン | ……マーテル……。本当に……君なのか……。 |
ミトス | ……どういうこと、クラトス。いつユアンを見つけたの ? |
クラトス | お前から連絡をもらう直前だ。世界樹ユグドラシルの前で見つかった。 |
ユアン | マーテル……。再会してすぐにこんな話をするのは気が引けるが、聞かせて欲しい。君は、精霊マーテルの声を聞いたんだな ? |
マーテル | え ? ええ……。私と同じ名前を持つ者と呼びかけられたから、そうだと思ったの。だから正確には精霊かどうかはっきりとはしないわ。 |
ユアン | ………………。 |
しいな | なあ、その精霊だかなんだかは他に何か言ってなかったのかい ? |
マーテル | 助けて欲しい、と言っていたわ。宿り木を失ってさまよっていると。 |
ミトス | ……少なくとも以前の帝国では、精霊マーテルの存在を感知できていなかった。具現化されているのかいないのか定かじゃなかったんだ。 |
ミトス | それに、仮に精霊マーテルが具現化されていたとしてもマーテルの宿り木はアセリア領にあるのに……。 |
ジーニアス | ねぇ、ラタトスクも本来は樹の精霊なんでしょ ?ラタトスクの不調と、精霊マーテルが助けを求めてきたことって、関わりがあるんじゃない ? |
マーテル | ……わからない。でも私、精霊マーテルに会ってみたいわ。 |
マーテル | なんだか……不思議な感覚なの。懐かしいような苦しいような……。会わなければいけない……そんな気がするのよ。 |
クラトス | マーテル。あてはあるのか ?精霊マーテル……らしき者がいる場所に。 |
マーテル | ええ。 |
クラトス | ならば行こう。 |
ミトス | クラトス ! ? |
クラトス | 実はアスガルド帝国が、精霊マーテルを捕らえようと動いている気配がある。このまま手をこまねいていては何か良からぬことが起きるかも知れぬ。 |
コレット | ――待って。何か聞こえる。 |
ミトス | ああ、コレットが今聞いているのは帝国軍の近づいてくる足音だよ。天使の聴覚でしか捉えられないぐらいの距離だけど。 |
ユアン | あの連中か……。アセリア領と同じようにこの大樹も押さえようというのか。 |
ゼロス | 救世軍に連絡をつけて、こっちも守ってもらうか ?つっても、今こっちに近づいてる帝国兵は片付けなきゃいけないけどな。 |
二人 | 二手に分かれよう ! |
二人 | ! ? |
ミトス | ……同じことを思いついたなら、片方はお前に任せる。 |
ロイド | ってことは、俺の方が帝国兵を引きつけてミトスの方がマーテルさんを連れて精霊マーテルに会いに行くってことだな。 |
クラトス | よかろう。戦力の振り分けはどうする ? |
ミトス | 神子以外の天使はこっち。天使だけでまとまればいざというときに飛んで逃げられる。 |
ミトス | 神子二人を引き取ってもいいけど天使の能力は便利だから一人はロイドの方に残しておいた方がいい。 |
ロイド | 了解だ。 |
ゼロス | え ! ? てことは、俺さまもロイドくん側 ! ? |
ロイド | 何だよ、嫌なのか ? |
ゼロス | あ……いや……。そういう訳じゃねぇんだけどよ……。 |
ミトス | クラトス、ユアン、姉さま。一旦ここを離れるよ。 |
ミトス | 帝国の連中は、ロイドたちに任せる。精霊マーテルを捜すのに、帝国の連中を引き連れていくわけにはいかないからね。 |
ユアン | ……仕方あるまい。ロイド、後は頼むぞ。 |
ロイド | おう、任せとけ ! |
キャラクター | 5話【大樹の精霊6 大樹防衛】 |
ジーニアス | ……これで、帝国軍の尖兵は蹴散らしたかな。 |
プレセア | 次は救世軍が来るまで帝国からこの辺りを守りながら待つ……のでしょうか。 |
ゼロス | ……あー、じゃあ、俺さまが救世軍に連絡しといてやるわ。 |
ロイド | ゼロスの奴、どうしたんだ ?なんか、あんまり元気が無いような……。 |
しいな | ………………。 |
コレット | 色んなことがあったから驚いてるのかな。マーテルさんが倒れたり、ユアンが現れたり。 |
ジーニアス | ユアンも具現化されてたんだね。……ミトスと一緒にいて大丈夫なのかな。 |
プレセア | ユアンはレネゲードでミトスはクルシスなんですよね。 |
しいな | ユアンはミトスと対立してたからね。でも、そもそもは昔の仲間なんだろ ? |
しいな | それにユアンにしてみれば、マーテルが生きてるってこともショックなんじゃないかねぇ……。 |
しいな | 状況こそ違うけど、生き返らせないようにって色々動いてた訳だろ ? |
リフィル | ――あ、ちょっと待って。マルタから魔鏡通信だわ。 |
マルタ | リフィルさん ! エミルが目を覚ましたの。 |
ロイド | よかった ! 今はどんな状態なんだ ? |
エミル | ……みんな、心配かけてごめん。今は僕だけが目覚めてる状態でラタトスクは僕の中で戦ってるって感じなんだ。 |
リフィル | どういうこと ?何か精神的な攻撃を受けているということかしら ? |
エミル | 僕らも上手く表現できないんだけど大樹カーラーンから何かが忍び込もうとしている……っていう感じなんだ。 |
エミル | ラタトスクは今まで、大樹カーラーンを自分の住処だと思っていたのに、突然そこに何か得体の知れないものが取り憑いて、ラインを切られた……というか。 |
リフィル | 死鏡精…… ?それともカノンノたちの世界の何かが関係している…… ? |
エミル | 僕もラタトスクに加勢してくるからまた少し眠ってしまうけどもし何かあったらマルタに伝えて下さい。 |
ローエン | 状況はわかりました。それではそちらの樹にはアルタミラ地上部隊を派遣しましょう。 |
ローエン | それまでにも敵の増援があるかも知れませんからくれぐれも油断なさらないで下さい。 |
ゼロス | おーけーおーけー ! 任されちゃって ! |
ローエン | それからこれは爺の戯言ですが……戦いは時宜を掴むことが肝要です。人生もまた、同じかと。 |
ゼロス | あー……シンくんの気持ちがわかってきた。かまわれるのがつらい時もあるんだよなあ……。 |
ローエン | ホッホッホッ。それを口にできるぐらいにはゼロスさんは大人ということですね。それでは失礼致します。 |
ゼロス | (時宜ね……。わかっちゃいるんだが切り出し方がわからねぇんだよな) |
ゼロス | あ ? クラトス ? 何だよ、俺さまに何の用 ? |
ユアン | クラトスでなくて悪かったな。魔鏡通信機とやらを借りたのだ。 |
ゼロス | ……おっと、あんたか。何だよ。そっちでなんかあったのか ? |
ユアン | いや……。少し気になることがあってな。 |
ユアン | とはいえ、私はこの世界のこともここで具現化されたマーテルやミトスたちがどのように生きてきたのかもわからぬ。 |
ユアン | だが……あのマーテルたちが知らないことを私は知っている。 |
ゼロス | ああ……。あんた具現化されたタイミングが俺さまたちと違うんだったな。 |
ユアン | 神子。指輪を捜してくれ。 |
ゼロス | ……は ? あんた、また指輪を無くしたのか ! ? |
ユアン | ま、またとは何だ ! ?私のものではないっ !マーテルが持っていた指輪だ。 |
ユアン | 彼女が無くしたと落ち込んでいる。恐らく気を失った時の騒ぎで……落としたのだろう。頼んだぞ。 |
ゼロス | 単なる彼女のフォローかよ ! ?あいつ何考えてるんだっつーの ! ? |
ミトス | 神子。ユアンと何か妙な話をしてないだろうね。 |
ゼロス | ……は ? なんでお前まで連絡してくる訳 ? |
ミトス | ……ユアンは、ボクや姉さまとは具現化されたタイミングが違う。それに、ユアンは姉さまを……助けることに反対していた。 |
ミトス | ここに具現化された姉さまをどうこうするとは思えないけど姉さまを傷つけるかも知れない。 |
ミトス | いい ? これからユアンが連絡してきたらその内容を包み隠さずボクに伝えて。 |
ゼロス | 何で俺さまがそんな真似を―― |
ミトス | そういうの得意でしょ ?それとも三重スパイだったことロイドにばらされたいの ? |
ゼロス | お前 ! ? 性根が全然変わらないな ! ? |
ミトス | 変わるわけないでしょ。いいね。 |
ゼロス | あのクソ天使共―― |
クラトス | 神子、相談なのだが―― |
ゼロス | は ! ? うるせえな ! ?そっちの問題はそっちで何とかしやがれ ! ? |
クラトス | ……何を怒っている ? |
ゼロス | はー ! ? 全然怒ってねえけどな ! ?ロイドくんが来るから切るぞ ! ? |
クラトス | 神子―― |
ロイド | ゼロス ! 救世軍の方、どうだった ? |
ゼロス | ――え ? ああ。その辺りはばっちりOKよ ! |
ロイド | ………………。 |
ゼロス | さーて、救世軍が来るまで、大樹を守り切らないとな ! |
キャラクター | 6話【大樹の精霊7 精霊を探して】 |
ユアン | ……マーテル。身体は大丈夫なのか ? |
マーテル | ユアン……。心配してくれてありがとう。でも本当に大丈夫なのよ。 |
マーテル | 確かに突然気を失ってしまったけれどどこも痛くないし……。 |
ユアン | 君が永続天使性無機結晶症を発症した時のことを思い出した。あの時も、君は私の見ていないところで倒れて……。 |
マーテル | でも、あなたやみんなが私を助けてくれたわ。 |
マーテル | それより……ごめんなさい。あなたからもらった婚約指輪を無くしてしまって……。 |
ユアン | いや、それは別に……。君が無事なら……。 |
マーテル | この世界に来てからも肌身離さず大切にしてきたのに……。どうして指から抜け落ちてしまったのかしら……。 |
ユアン | ………………。 |
マーテル | ……ユアン。私と再会しない方がよかった…… ? |
ユアン | な……何を言っている ? |
マーテル | あなた、再会してから一度もちゃんと私の目を見ていないわ。 |
マーテル | ……私が……亡くなった後のことはミトスやクラトスから聞いているの。あなたが私の意志を守ろうとしてくれたことも。 |
マーテル | けれどあなた自身が何を思って生きてきたのか私は知らない。四千年ですものね……。あなたに他に好きな人ができたとしても―― |
ユアン | な ! ? |
ミトス | ――ユアン……どういうこと。 |
ユアン | ミ、ミトス ! ? |
ミトス | レネゲードのネズミとして動いていたことは――それはすごく腹が立ったけど、ユアンなりに姉さまを想ってのことだろうと我慢してきたのに……。 |
ミトス | お前、姉さまを裏切っていたのか ! ? |
マーテル | ミトス ! それは自然なことよ。それにあなたがユアンを責めるのは筋違いでしょう ? |
ミトス | わかってるよ ! ボクが……ボクがしてきたことを考えれば、ユアンにどうこう言える立場じゃないって。 |
ミトス | 姉さまこそどうしてそうやってボクを責めるの ! ?ボクは……ボクは…… ! |
マーテル | 待って。私はあなたを責めてなんていないわ。 |
ミトス | 責めてるよ !姉さまはボクがやってきたことを責めてる !ボクは……ボクだって…… ! |
クラトス | ……こちらも荒れているのか。 |
ミトス | こちらもって、何 ! ? |
クラトス | ミトス、落ち着きなさい。よく状況がわからぬが、少なくともここにいる者は誰もお前を責めてなどいない。 |
クラトス | お前を責めているとすれば、それはお前自身だ。 |
ミトス | ! ! |
クラトス | ……お前が我らの故郷でやってきたことは確かに責められても仕方のないことだろう。それをお前もわかっている。 |
クラトス | だから、誰もがお前を責めていると思うしお前はそれでいいと考えているのだろう。 |
ミトス | そうさ。ボクはどんな手段を使っても姉さまを――姉さまも世界も助けたかった ! |
クラトス | それは、私も同じなのだ、ミトス。 |
ミトス | ! ! |
クラトス | 私もユアンも、お前と同じ思いだったからこそ修羅の道に足を踏み入れた。そのことの是非をここで問うつもりはない。 |
クラトス | ただ、皆、お前と同じ気持ちだった。その後、道を違えたとしても、同じであった我らがこの異世界でお前を責めるわけがない。 |
クラトス | そんなことは無意味だ。 |
ミトス | 無意味…… ? |
クラトス | ここでやるべきことは、同じ轍を踏まぬこと。少なくとも私はそう思っている。 |
マーテル | ミトス……。私は自分が死ぬ未来のことを知らないわ。けれど、あなたが私を救おうとしてくれたこと自体はとても嬉しいのよ。 |
マーテル | 私だって……死にたいわけではないもの。きっとその瞬間には、後悔や絶望や……生き続けたいという気持ちを抱いていたと思うの。 |
マーテル | 確かに……あなたがやってきたこと全てを受け入れることはできないわ。 |
マーテル | それを責めていると言われれば返す言葉はないけれどあなたが私を救いたいと思ってくれたことには感謝しているのよ。 |
マーテル | 逆の立場なら、私もミトスを救おうとしたはずだもの。 |
ミトス | …………ボクが……人間に殺されたら……姉さまは……ボクを助けようとしてくれた ? |
マーテル | あなたの命を奪おうとする全てに、きっと抗ったわ。あなたは私の大切な弟ですもの。 |
? ? ? | (――いいえ。そんなことは許さない。私は……私たちはミトスを許さない……) |
マーテル | ? |
マーテル | (何…… ? 今、私の中から聞こえた声は…… ?) |
ミトス | ……ごめんなさい、姉さま。それから……クラトスも。 |
クラトス | ミトス。お前の中に生まれたその感情はお前の持つ闇――深淵なのだ。この世で一番恐ろしく、制御の難しい敵といえる。 |
クラトス | 私もユアンもそれに抗えず、過ちを犯した。私たちは今一度共に手を取り合いそれを制御せねばならない。 |
クラトス | 一人ではないのだ、ミトス。お前にはマーテルがいて私がいて、この世界で出会った大勢の仲間がいて……今はユアンもいる。 |
ミトス | ……ユアン。 |
ユアン | ……ミトス。私も、お前がこの世界でやり直すというなら―― |
ミトス | ボクは許さないからな。姉さまを弄んで捨てるなんて ! |
ユアン | ! ? |
クラトス | ……どういうことだ、ユアン。お前はそのような不埒な男だったのか ! ? |
ユアン | だから、なんでそうなるのだ ! ?少しは人の話を聞け ! ? |
キャラクター | 7話【大樹の精霊8 違和感】 |
マーテル | あの……ごめんなさい。私が変な話をしたせいで……。 |
ユアン | いや……私が悪かったのだ。マーテルが……生きて私の目の前にいるという事実が、まだ消化できていない。どう捉えていいのか……わからないのだ。本当に。 |
ユアン | だが私は、他の女にうつつを抜かしたことなどない。それだけは信じて欲しい。 |
クラトス | なるほど……。そういう行き違いであったか。悪かったな、ユアン。 |
ユアン | いや……。私もマーテルに要らぬ心配をさせてしまった。すまない。 |
マーテル | そんな……。いいのよ。私が余計な気を回してしまったから。 |
マーテル | ――それより早く行きましょう。待っているわ。 |
ミトス | 待ってる ? 精霊マーテルが ? |
マーテル | え ? ええ……。精霊マーテル……。多分そう……。声が聞こえるの。助けを求めているの。だから早く行かないと……。 |
? ? ? | (……そう……。早く来て……。私たちを……助けて……。私を取り戻させて……) |
マーテル | (また……聞こえたわ。これは精霊マーテルの声なの ? だとしたら……どうして私の内側から聞こえるような気がするの…… ? ) |
三人 | ………………。 |
クラトス | ――わかった。では、その場所へ案内してもらえるだろうか ? |
マーテル | ええ……。 |
ミトス | ……ユアン。どう思う ? 姉さまの様子。 |
ユアン | マーテルが、私の知っている四千年前から変わっていないのならば……何かがおかしい。それは間違いない。だが、確定的なことはまだ……。 |
ミトス | そう……。ユアンでもそうなのか。何だかんだいって、ユアンは姉さまのことをよく見てるから、何かわかるかと思ったけど……。 |
ユアン | ………………。 |
ミトス | ……何 ? 変な顔して。 |
ユアン | お前は……ミトスなのだな。 |
ミトス | 当たり前でしょ ? まさか具現化された時に脳みそまで電気クラゲにでもされたの ? |
ユアン | で、電気クラゲ ! ? 人を変なものに例えるな。私は……―― |
ユアン | いや、何でもない。ただ、こんな風にお前と話せるのも悪くないと思っただけだ。もう二度とこんな時が訪れるとは思わなかったからな。 |
ミトス | ……これは夢だよ。幻想と言ってもいい。 |
ユアン | どちらが夢でどちらが現なのかを判別するのは理の外にいる観測者だけだ。ならば、理の中にいる私たちがどちらを現と定めようが問題はなかろう。 |
ミトス | そう……なのかもね。 |
しいな | マーテルが指輪を落とした ! ? |
ジーニアス | なんか……前にもそんなことあったよね。ユアンが指輪を失くしたとかで……。 |
プレセア | マーテルさん……ドジです……。 |
コレット | 探してあげようよ。だって、マーテルさんにとっては大切な指輪でしょ ? |
リフィル | まあ……見回りの時に気を付けて見るぐらいなら問題ないと思うわ。ただ、それで帝国兵の接近に気付くのが遅れたなんてことはないようにしないとね。 |
ゼロス | はー、みんなお人好しだねえ。それじゃあ、てけとーに探してみますか。 |
ロイド | そしたら、ジーニアスとプレセア、先生としいなゼロスとコレットでコンビを組んで周りを探してみてくれ。 |
コレット | え ? ロイドは ? |
ロイド | ちょっと……ラタトスクのこととか気になることがあるから、ここに残って樹を調べながらみんなの連絡を待つ係をやるよ。 |
リフィル | ……そう。たまには頭を使うことも大事よね。 |
ロイド | たまにってことはないだろ。俺だって、一応色々考えて生きてるんだぞ ! |
リフィル | フフ……。そうよね、ごめんなさい。それじゃあみんな、二十分ごとにロイドに連絡を入れること。いいわね。 |
コレット | マーテルさんの指輪って、多分前に拾ったユアンと同じデザインだよね。 |
ゼロス | ……まあ、そうだろうな。つーか、コレットちゃん。俺さまと一緒でいいのか ? |
コレット | 何が ? |
ゼロス | いや……ロイドくんと一緒の方が安心するんじゃないのかと思ってよ。 |
コレット | ゼロスといても安心だよ。だって、同じ神子同士だもん。 |
ゼロス | ……元の世界で、俺がコレットちゃんのことを酷い目にあわせようとしてたとしても ? |
コレット | え ? |
ゼロス | ……悪い。何でもないわ。 |
コレット | ゼロス、そんなことしないよね ? |
ゼロス | ………………。 |
コレット | もしかしたら……私が何か迷惑をかけてた、とか ? |
ゼロス | ――は ? |
コレット | だって、いっぱい思い当たる節があるもん……。ゼロスに頼まれた買い物間違えちゃったり人にぶつかりそうになったのを助けてくれたり……。 |
ゼロス | はは……。そんなの迷惑に入らないでしょーよ。 |
コレット | でも、ゼロスが本当に私を酷い目にあわせたいって思ってたんだとしたら、きっと理由がある筈でしょ ? |
コレット | ゼロスは何の理由もなしに酷いことする人じゃないから―― |
ゼロス | あー……ごめんごめん。俺さまが悪かった。たとえ話みたいなもんだったんだわ。忘れてくれ。 |
コレット | ……嘘。 |
ゼロス | え…… ? |
コレット | さっきゼロス、『俺さま』って言わなかったよ。何か、私のことで悩ませてることがあるんでしょ ? |
コレット | 話して。力になるよ。私だけで解決できなさそうならロイドや先生だって、きっと助けてくれるから ! |
ゼロス | あー…………。マジかよ……。 |
コレット | ゼロス ? |
ゼロス | 俺さま……あのタイミングで具現化されてよかった……。その先のこと想像したらぞっとしちまう……。 |
コレット | 何 ? どういうこと ? |
ゼロス | コレットちゃん、一つ頼みを聞いてくれる ? |
コレット | う、うん。 |
ゼロス | 俺さまに力を分けて欲しいんだわ。 |
ゼロス | コレットちゃんが勇気を分けてくれたら、俺さまが隠してきたことを、ロイドやコレットちゃんやみんなに話せると思うんだよ。 |
コレット | もちろんだよ。ゼロス、手を出して。 |
ゼロス | こうか ? |
コレット | えーと……。女神マーテル様、ゼロスにマーテル様のご加護をお与え下さい。 |
コレット | そして、私とロイドとしいなとリフィル先生とジーニアスとプレセアとリーガルさんとクラトスさんの勇気が分け与えられますように。 |
コレット | ――はい ! これで、少しは勇気の足しになる ? |
ゼロス | ……ああ。ありがとな、コレットちゃん。 |
キャラクター | 8話【大樹の精霊9 大樹の守人】 |
クラトス | ――マーテル。この先は海だが、どこか別の大陸へ行くつもりか ? |
マーテル | ……何もない土地があるの。私たち……が、生み出した島が……。 |
ユアン | マーテルが生み出した ? どういう意味だ ?そのようなことがあったのか ? ミトス、クラトス。 |
ミトス | 大陸を生み出すなんて真似は鏡士でもないとできないよ。ここではエターナルソードの力も限定的だし―― |
マーテル | エターナルソード…… ! ? いやよ……。それは……。 |
ミトス | どうしたの、姉さま ? |
マーテル | ――こないで ! 助けて、ユアン ! |
ミトス | ! ? |
ユアン | あ、ああ……。 |
クラトス | ……ミトス。あれはマーテルではない。落ち着け。様子を見るぞ。 |
クラトス | マーテル。ミトスは私が引き受けよう。先にユアンと共に、精霊マーテルのいる場所へ向かってくれ。 |
ユアン | ……行こう、マーテル。 |
マーテル | ええ、行きましょう。……私の守人よ。 |
クラトス | ミトス。ロイドたちに連絡を取ろう。 |
ミトス | ――いや、アジトに連絡を取る。 |
ミトス | ラタトスクかテネブラエかマルタ……。とにかくボクらより未来の時間軸を知っている奴の話が聞きたい。 |
クラトス | 何か心当たりがあるのか ? マーテルの症状に。 |
ミトス | 姉さまがいつも一番信頼していたのはクラトスだ。こんな時にクラトスを頼らないでユアンを頼るなんておかしい。 |
クラトス | マーテルはユアンの婚約者なのだぞ。別におかしなことは―― |
ミトス | ユアンへの差し入れの相談までクラトスにしてたのに ? |
クラトス | いや、それはユアンに相談するわけにはいかぬものだろう。私に相談された時は面食らったが……。 |
ミトス | ボクの知ってる姉さまなら、いつだって「クラトスはどう思う ?」って聞いてた。 |
ミトス | なのに、姉さまは途中から、クラトスやボクから無意識に距離をとって歩いてたんだよ。あれは……姉さまにそっくりの何か。恐らく―― |
テネブラエ | ――精霊マーテルですか ?クレスさんたちの世界ではなく、私たちの世界の ? |
ロイド | ああ。エミルたちならどんな奴なのか知らないかと思って。 |
ミトス | ねぇ、ラタトスクが倒れたままならテネブラエでもいいから精霊マーテルの話を聞かせてくれない ? |
マルタ | え ! ? ロイドもミトスもどうしたの ! ?二人そろって精霊マーテルの話を聞かせろだなんて。 |
二人 | ! ? |
ミトス | ロイド、どういうつもり ? |
ロイド | どういうつもりって……。精霊マーテルってマーテルさんと関係あるのかなって思ったんだよ。 |
ミトス | 名前が同じだから ? |
ロイド | それもあるけどマーテルさん、婚約指輪落としたんだろ ? |
ミトス | ああ。ユアンがお前たちに知らせた筈だけど。 |
ロイド | マーテルさん、具現化されてから、特に痩せた感じもしないのに、ぴったりだった指輪が落ちるなんて考えられないからさ。 |
ロイド | 何か理由があって外したとしか思えないんだ。でもそれなら「指輪を忘れた」って言うだろ?もしかして指輪を捨てたのかな……って。 |
ミトス | ロイド ! ! |
ロイド | な、何だよ ? |
ミトス | お前、普段からそれぐらい頭を使えばクラトスもリフィル先生からテストの点数を聞いて落ち込まないんだからな ! |
ロイド | は ! ?クラトス、俺のテストの点数知ってるのか ! ? |
クラトス | ……今はダイク殿の分まで私がお前の保護者としてしっかり監督せねばと。 |
ミトス | だったら、息子と一緒に暮らせばいいでしょ ?あー、もう、それは後にする ! |
ミトス | でもロイド、お前の言う通りだ。姉さまは指輪を捨てた。一つ腑に落ちないことはあるけど、やっぱりあれは姉さまじゃない。 |
ロイド | じゃあ何なんだ ? |
ミトス | 歴代の神子の魂、だよ。 |
ユアン | ここはどこだ ? |
マーテル | ここは……私たちが私であったときに宿っていた宿り木が、狭間の者の望みを叶えて生み出した島。 |
ユアン | ……ジルディア、か。こことはまた異なる世界の世界樹が生み出した、無機生命体のための島。 |
マーテル | 知っていたの ? やっぱりあなたは守人なのね。待っていたわ。私たちを助けて欲しいの。 |
ユアン | お前はマーテルではないな ? 何者なのだ ? |
マーテル | 私はマーテル。そして大いなる実りに吸い込まれ命を落とした神子たちの残滓。 |
ユアン | ! ! |
神子たちの魂 | 私たちは宿り木からはじかれてしまった……。突然……何の前触れもなく……。このままでは消えてしまう……。 |
神子たちの魂 | 消えるのは怖い……。私たちは世界を救うために、樹を守るために姿無き存在となって樹と共にあったのに……。 |
神子たちの魂 | でも、もう大丈夫。私たちを私たちたらしめる大いなる器が来たから。 |
ユアン | マーテルのことか ! ?貴様ら、マーテルの身体を奪おうというのか ! ? |
神子たちの魂 | それは違う。私たちと彼女は一つの存在だった。それなのに……少しずつ私たちの樹が変質していって私たちの居場所は失われてしまった。 |
神子たちの魂 | 後は消えるしかない。その時……あなたが現れた…… ! |
神子たちの魂 | ……マーテル……いない……。もう一人の精霊マーテルなら……。私たちをこの樹の中に受け入れてくれると思ったのに。 |
神子たちの魂 | ……気を付けないと……また来るわ……。精霊の檻をもった恐ろしい兵士たちが……。助けて……誰か……。 |
ユアン | ……ようやく辿り着いたか。 |
ユアン | これが世界樹……ユグドラシル…… ? |
神子たちの魂 | 守人…… ! 私たちを見守り助けてくれる人……。こんな所にいた…… ! |
ユアン | 守人……私が ? |
神子たちの魂 | あなたは私たちを守ると誓ってくれた……。ここに私たちの樹を造りましょう。そして二人で樹を守りましょう ! |
キャラクター | 9話【大樹の精霊10 精霊マーテル】 |
ユアン | マーテル…… ! ? マーテル ! ! 正気を取り戻せ ! ! |
ゼロス | ――おっと、こいつはまずいな。俺が飛んでいってフォローできるか…… ? |
ロイド | ゼロス、ちょっといいか ? |
ゼロス | ――おっと、どうした ?ロイドくん。そんな難しい顔しちゃって。 |
ロイド | ………………。 |
ゼロス | ……ロイド ? |
ロイド | ゼロス、もう隠し事はやめようぜ。 |
ゼロス | はあ ? 何を言い出すかと思えば……。俺さまがいつロイドくんに隠し事をしたっつーのよ。あ、してるか。秘密のある男は魅惑的だしな。 |
ロイド | じゃあ、今回、何をしにここへ来てどうしてここに残ったんだ ? |
ゼロス | ! ? |
ロイド | この世界に来てからのゼロスは、なんやかんや理由つけて、クラトスと一緒に行動してたろ。それが、すんなり俺たちと行動するのを納得してた。 |
ロイド | 俺たちに……何か話があるんじゃないのか ? |
ゼロス | お前、ほんっとよく見てるなあ……。さすがだわ。 |
ゼロス | けど、今、ユアンとマーテル様がマジでヤバそうなんだわ。だから俺さまの話は後回しにして―― |
ロイド | 後回しにはしない。ユアンたちを助けたかったらゼロスが隠してることを打ち明けてくれ。 |
ゼロス | おい ! ? ユアンたちがヤバいのはマジなんだぞ ! ? |
ロイド | だったら早くしないといけないよな。 |
ゼロス | ……マジかよ。ロイドくんがこういう手を使ってくるとは思わなかったぜ。俺さまも甘いというかなんというか。 |
ゼロス | ………………。 |
ゼロス | ――ええい、くそっ !俺は裏切り者なんだよ ! お前らの動きをクルシスやレネゲードに流してたスパイなんだ ! |
しいな | ……そういうことかい。言い出しにくいわけだよ。 |
ゼロス | しいな ! ? みんなも…… ? |
リフィル | ユアンたちなら、今ミトスとクラトスとラタトスクたちが救出に向かっているわ。 |
ゼロス | ――騙された……。 |
ロイド | おあいこだろ ? ゼロスの話が本当なら。 |
ゼロス | それにしたって人が悪いだろうが ! |
ロイド | 悪い。けど、こうでもしないと話してくれないかなって。それに……何となくそうなんじゃないかなと思ってたから。 |
ゼロス | は ! ? |
ロイド | だって、ゼロス、天使化してただろ。繁栄世界の神子が天使化してるなんて、おかしいなって思ってたんだよ。 |
ロイド | 何度も問い詰めようかと思ったけど、リフィル先生がゼロスから話してくれるまで待ってろって。 |
リフィル | ロイドがしびれを切らして、私に相談してきたの。ほら、みんなで分担して指輪を探していたときよ。 |
ロイド | なあ、先生。やっぱり俺、ゼロスからちゃんと話を聞きたい。あいつ、魔鏡通信で誰かと連絡とってるみたいなんだ。 |
ロイド | でもそのことを俺には話してくれないし……。俺、心配なんだよ。俺たちはゼロスのことを仲間だと思ってるって言ってやらないと。 |
ロイド | あいつ、自分は裏切り者だからって離れて行くんじゃないかって。 |
しいな | 何やってんだい、あの馬鹿は……。 |
リフィル | ……そうね。そろそろきっかけを作ってあげる方がいいかもしれないわね。 |
ゼロス | はは……俺さま一人空回りって訳か……。 |
コレット | そんなことないよ。私、ゼロスがそうだったなんて全然気がついてなかったから、さっきロイドたちに話を聞いて驚いたの。 |
コレット | でもだから勇気が欲しかったんだって気付いて……。ゼロス、すごいよ。自分からちゃんと言おうとしてたんだもん。すごく格好いいよ。 |
プレセア | ゼロスくんは……いつでも私たちを助けてくれました。私たちの大切な仲間……です。 |
ジーニアス | いつもみたいにもっとふてぶてしくしてた方がいいよ。その方がゼロスらしいからさ。 |
ロイド | 一つ聞いていいか ? 何か理由があってそういうことをさせられてたんだろ ? |
ゼロス | ……まあ、それはいいじゃねえの。それを言うとそのことに責任を全て押しつけるみたいであんまりいい気分じゃねーしな。 |
ゼロス | とにかく、俺は俺自身のために、お前らを裏切ってた。だから……気まずくてな。 |
ゼロス | こっちの世界でたまたまクラトスと出会ったから何となくそっちに居着いたって言うか……。ま、そういうことだ。悪かったよ。マジでさ。 |
ロイド | ……わかった。じゃあ、それ以上は聞かないよ。 |
プレセア | そういえば、指輪……見つかりませんでしたね。 |
ロイド | それなら大丈夫。もう見つかったんだ。 |
四人 | ? |
ユアン | マーテル…… ! ? マーテル ! ! 正気を取り戻せ ! ! |
神子たちの魂 | 何を言っているの、ユアン。私たちはマーテル。精霊マーテル……。 |
ラタトスク | お前らは、まだ精霊なんかじゃない !偉そうに樹の精霊を名乗るな ! |
ユアン | お前たち ! ? |
クラトス | ゼロスから逐一報告は受けていた。 |
ミトス | ボクも。ユアンがどのタイミングで具現化されたユアンかわからなかったから、念のため神子にユアンの行動を知らせてもらおうと思ってね。 |
ユアン | 元の世界と同じではないか、お前たちは……。 |
ミトス | でもそのおかげで謎は全て解けたよ。どうして姉さまがこんな……神子たちの魂に意識をのっとられてしまったか。 |
神子たちの魂 | 近寄らないで…… !ユグドラシル……。私たちを呼び寄せ、捨て去った天使……。 |
ミトス | ユアンもボクの仲間の天使だよ。お前たちを殺してきた天使だ。でもユアンは特別なんだよね。ラタトスクから聞いたよ。ユアンは世界樹の守人になったって。 |
神子たちの魂 | ………………。 |
クラトス | マーテル。思い出せ。お前は神子たちの悲しみに取り込まれている。我々はお前をお前たらしめる物を見つけてきた。 |
神子たちの魂 | その指輪は……私たちが生命の場に捨てたもの…… !私たちに、精霊ではないマーテルを呼び起こさせようとするもの……! |
ラタトスク | ああ。俺がこいつを拾って持ち帰ってきてやった。俺もお前と同じように大樹から切り離されちまったがこっちは正真正銘精霊だったんでな。 |
ラタトスク | もう一度大樹と縁を結び直したんだよ。 |
テネブラエ | あなたにはそれができなかった。何故なら、帝国が精霊マーテルを具現化しようとしたからです。 |
ミトス | 帝国は今回ユアンを具現化したんじゃなくて精霊マーテルを具現化した。 |
ミトス | ボクたちの世界は、ボクたちの時代とラタトスクたちの時代がキメラ結合して具現化されたから、他の大陸とは状況が違う。 |
ミトス | そのせいで、本来ならラタトスクの時代には誕生していた精霊マーテルも、正しい形で具現化されなかったんだ。 |
ミトス | それがお前たち神子の魂の残滓の正体だよ。精霊マーテルになれなかったなれの果て。 |
クラトス | 帝国は精霊を求めていた。アセリア大陸の精霊マーテルはいずこかに消えており、テセアラ大陸の精霊マーテルは精霊になる前の魂の群れであった。 |
クラトス | だから改めて我らの世界の精霊マーテルを具現化しようとしたのだ。そしてその時に側にいた世界樹の守人ユアンも具現化されてしまった。 |
ラタトスク | だが、そのことで大樹カーラーンの条件が書き換わっちまった。大樹カーラーンの樹の精霊は精霊マーテルのみだと。 |
ラタトスク | それで俺は昏睡状態に陥った。大樹との繋がりを取り戻すまでな。そしてお前らも大樹との繋がりを失い、さまようことになった。 |
神子たちの魂 | ……いいえ……精霊マーテルは生まれた……。私がそう……。この器と私たちが和合すれば……精霊マーテルになる。 |
ユアン | ……そうか……彼女の中に巣くっているのは……私たちによる四千年の過ちと犠牲そのものか……。 |
クラトス | ユアン。まずはマーテルを取り戻す。あの指輪があれば、神子たちの魂は力を失う。嘆く魂たちをどうするかはその後だ。 |
神子たちの魂 | やらせない―― |
ユアン | ――くっ ! ? |
ミトス | 気を付けて ! 精霊になりかけた魂だ。それに姉さまの力が加わっているから―― |
神子たちの魂 | ミトス……私はずっとあなたを見てきました。動かぬ体で、ただなすすべなくあなたがしてきた愚かな行為を……。 |
ミトス | ! ? |
神子たちの魂 | ミトス。お願いです。私の言葉を聞いて。あなたのしてきたことは間違っている。 |
ミトス | ……間違っているって ?姉さまが……ボクを否定するの ? |
神子たちの魂 | そうよ……。あなたは間違っている……。 |
ロイド | ミトス ! そいつはマーテルさんじゃない ! ! |
ゼロス | よっしゃ、間に合ったな。そっちのやりとりは魔鏡通信でばっちり聞いてたぜ。 |
コレット | マーテルさんの中にいる皆さん、どうか聞いて下さい。あなたたちがやろうとしていることは、あなたたちが世界を救うためと信じてやられたことと同じです。 |
コレット | 自分を失うことはつらかったでしょう ?それをマーテルさんにも強いるのはやめて ! |
神子たちの魂 | ……自分を失う……。 |
ロイド | ミトス ! お前は俺に変わらないって言ったよな。俺は変わらなくてもやり直せるって言った筈だ。 |
ロイド | 変わらなくたっていい !ミトスとして、クルシスのユグドラシルとして今起きてるこの現象に落とし前をつけて見せろ ! |
ミトス | ! ? |
ロイド | クラトス ! クラトスならできる筈だ !ミトスを前に進ませることが !クラトスは――父さんはミトスの師匠なんだから ! |
クラトス | ――わかっている。 |
クラトス | ミトス ! 思い出せ ! マーテルが何と言っていたか ! |
マーテル | 確かに……あなたがやってきたこと全てを受け入れることはできないわ。 |
マーテル | それを責めていると言われれば返す言葉はないけれどあなたが私を救いたいと思ってくれたことには感謝しているのよ。 |
マーテル | 逆の立場なら、私もミトスを救おうとしたはずだもの。 |
ミトス | ……そうだ。確かにボクのしたことを姉さまは受け入れてくれないかも知れない。 |
ミトス | それでもボクが姉さまを助けたいと思った気持ちだけは姉さまもわかってくれていたから……。 |
クラトス | そうだ、ミトス。マーテルもユアンも私もお前のマーテルを救いたいという優しさを否定しようと思ったことはない。 |
クラトス | その優しさはお前の強さでもあるのだ ! |
ユアン | な、何だ ? この光は ! ? |
ミトス | ……そう……忘れてたよ。こういう気持ち。 |
ミトス | ……ボクはボクであることをやめない。それでいいね、クラトス。 |
クラトス | それでいい。変わらずとも違う道は選べるのだ。それを成長という。 |
ミトス | いくよ、クラトス、ユアン、ラタトスク。それにロイドと神子二人も。力を貸して。姉さまを取り戻す ! |
キャラクター | 10話【大樹の精霊10 精霊マーテル】 |
マーテル | うぅ……。 |
ユアン | マーテル ! ! |
ミトス | ……ユアン ! |
ユアン | な、何だ ! ? |
ミトス | 何だじゃないよ ! 姉さまを助けるのは姉さまと結婚の約束をしたお前の役目だ ! |
ユアン | ! ? |
ミトス | 今度こそ、姉さまを助けてよ ! ユアンのやり方で ! |
ユアン | マーテル ! |
マーテル | ユア……ン……。離れて……。私……また……正気を失ってしまう……。 |
ユアン | 失わせなどしない ! 私はもう二度と君を失わない ! |
ユアン | 覚えているか、マーテル。君が無機結晶症で苦しみ死を覚悟した時に、私は君を守ると誓った。そして……この指輪を君に贈った。 |
マーテル | その指輪……。どうして……あなたが…… ? |
ユアン | マーテル。君が何に蝕まれようとその美しい心は誰にも侵されない。いや、侵させまいといつも張り詰めている。 |
ユアン | そんな君を、私は守りたい。この世界でも――君だけを愛すると誓う。 |
マーテル | ユアン……その言葉……まさか……。 |
ユアン | ずっと伝えられなかった誓いの言葉だ。私はあの時、愛を誓うこの言葉を伝えられなかった。 |
ユアン | そしてそのまま……あまりに長い月日が過ぎ去っていってしまった。やっと……やっと言えた。やっと……。 |
マーテル | ありがとうユアン……。私もあなたを愛しているわ。 |
クラトス | な、何だ……この光は―― |
マーテル | (…………離れていく……。悲鳴……怨嗟……悲しみ……苦しみ……。感情の嵐が……) |
神子たちの魂 | それは……あなたが満たされたから……。あなたは私たちを統合する器となるべき存在だった。 |
神子たちの魂 | けれど……あなたは、実ることの無かった愛を受け入れてしまったから……。 |
神子たちの魂 | 私たちは……あなたの中にとどまる糸を見失ってしまった……。 |
マーテル | ごめんなさい……。私たち姉弟があなたたちの人生を狂わせてしまった……。こうして、異世界ですら、あなたたちを苦しめている。 |
神子たちの魂 | わからない……。そうではない……。私たちは……救いたかった。愛する人を……世界を。けれど救えなかった……。 |
神子たちの魂 | 救いたいと願った気持ちが……私たちを導いたの。憎しみも恨みもないと言えば嘘になる……。それでも私たちは……何かを救いたくて旅に出た。 |
マーテル | ええ……わかるわ。愛しているのよね。つらいと思う気持ちと同じくらいそれでも生まれた世界を愛している。 |
マーテル | 私もそう。裏切られても、失望しても世界が滅べばいいとすら思っても……私は世界を憎みきれなかった。 |
マーテル | 私を生んでくれた世界……私に愛する人々を与えてくれた世界……。 |
神子たちの魂 | もう宿る樹はない……この世界にいるはずのもう一人のマーテルもどこかで眠りについたまま……。せめて彼女が目覚めれば私たちは……一つになれる。 |
神子たちの魂 | けれど……私たちはそこまで……存在できない……。消えていくだけ……。 |
マーテル | アセリアの精霊マーテルが目覚めるまで時を稼げればいずれは融合できるということね。だったら……私の心の中で時を待ちましょう。 |
神子たちの魂 | あなたは、もう私たちの器じゃない……。とどまることはできない。 |
マーテル | そんなことはないわ。私は世界を憎み……愛している。その気持ちはあなたたちと同じ筈よ。 |
神子たちの魂 | ……私たちの苦しみを飲み込むことになっても…… ? |
マーテル | かまわないわ。ただお願いよ。どうか、私の愛する者を傷つけようとはしないで。 |
神子たちの魂 | マーテル……ありが……と……う……―― |
ロイド | ……マーテルさん歴代の神子の魂を受け入れたんだな。 |
クラトス | ……ああ。彼女は情の深い女性だ。神子たちの味わってきた苦しみを放ってはおけなかったんだろう。 |
ロイド | ……ミトス、大丈夫かな。 |
クラトス | ロイド…… ? |
ロイド | 世界を変えてまで守りたかった姉さんを異世界で苦しめることになった原因はミトス自身が作ったものじゃないか。 |
クラトス | ミトスだけではない。私もユアンも同じだ。……ミトスはそのことを一生背負っていかねばならぬ。無論、我々もな。 |
ロイド | ……じゃあ、大丈夫だな。 |
クラトス | どういうことだ ? |
ロイド | ミトスの苦しみを、クラトスもユアンも……多分マーテルさんも一緒に背負ってくれるってことだろ ? |
ロイド | 一人じゃ耐えられないことでも仲間がいれば耐えられると思うからさ。 |
クラトス | そうだな。私はミトスの仲間だ。今度こそミトスの苦しみを共に背負い贖罪と祈りの道へ導くつもりだ。 |
クラトス | ユアンやマーテルと共にな。 |
クラトス | それにこの世界では、ミトスにも友ができた。それがミトスを変えてくれる……。 |
ロイド | ……けどさ。クラトスは俺たちの仲間でもあるってこと忘れないでくれよな。 |
クラトス | 忘れる筈がない。以前なら……そうは言い切れなかったかも知れぬがな。 |
ロイド | ならいいんだ……父さん。 |
クラトス | ………… ! |
ロイド | そんな顔するなよ。父さんは父さんだろ。 |
ロイド | なんか……クラトスが俺の親父だって言うのが中々ピンとこなくて、どう接すればいいのか悩んだりしたこともあったけど。 |
ロイド | 昔コレットに言ったことを思いだしたんだ。父親が二人いて得したと思っとけばいいって。 |
ロイド | 俺にもさ、ダイク親父がいて……父さんがいる。すげえよな。最高の親父が二人もいるんだからさ。 |
クラトス | ……私も、最高の息子を持てたことを誇りに思う。 |
ミトス | ……クラトス。ちゃんとロイドと話せてるかな。父親として。 |
ユアン | 無理だろう。奴は不器用な男だからな。しかし偉いではないか、ミトス。クラトスとロイドに時間を作ってやるとは。 |
ミトス | ……子供扱いしないでくれる ? |
ユアン | ……フ。マーテル、身体はもう大丈夫か ? |
マーテル | ええ。ごめんなさいね。自分が自分でなくなっている感覚にもっと早く気付いてみんなに相談できていれば……。 |
ミトス | ……ボクこそ、ごめんなさい。ボクが元の世界でやったことの不始末が、姉さまにも降りかかって……。 |
ミトス | ボク、姉さまを守りたかったのに姉さまを傷つけてばかりだ。 |
ユアン | それは私とて同じだ。私たちは皆過ちを犯しそしてそれでも自分の道が正しいと信じて……またこの異世界で顔を揃えることになった。 |
ユアン | せめてこの世界では手を取り合って元の世界とは違う別の道を切り開こう。 |
ミトス | ……その言い方。ユアンは元の世界での顛末をすべて見てきたんだね。 |
ユアン | ……独り残されるというのも中々つまらぬものだぞ。 |
マーテル | ええ……。そうよね、ユアン。 |
ミトス | ……けど、今はこうして姉さまに再会できたんだから嬉しいでしょう ? 昔、姉さまに言おうとして言えなかったプロポーズの言葉もちゃんと言えたし。 |
ユアン | あ、あれは貴様が―― |
ミトス | だから――この世界では、姉さまを守る役目はユアンに譲ってあげる。 |
ユアン | ! ? |
ミトス | 姉さまを幸せにしてあげて――ううん。二人で幸せになってよね。 |
マーテル | ミトス…… ! ありがとう……。 |
ユアン | ――任せておけ。 |